(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-526536(P2020-526536A)
(43)【公表日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】サポニンの新規な使用およびその分離のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20200803BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20200803BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20200803BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20200803BHJP
C07J 63/00 20060101ALI20200803BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20200803BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20200803BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20200803BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20200803BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K9/127
A61K48/00
A61K38/02
C07J63/00
A61K31/7105
A61K31/711
A61K31/713
A61K9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2020-501113(P2020-501113)
(86)(22)【出願日】2018年7月10日
(85)【翻訳文提出日】2020年2月27日
(86)【国際出願番号】EP2018068663
(87)【国際公開番号】WO2019011914
(87)【国際公開日】20190117
(31)【優先権主張番号】17180730.8
(32)【優先日】2017年7月11日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】18152304.4
(32)【優先日】2018年1月18日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518294476
【氏名又は名称】フライエ ウニヴェルジテート ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンク,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】メルツィヒ,マティアス エフ.
(72)【発明者】
【氏名】サマ,シムコ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA29
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4C084NA11
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4C086ZC02
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4C091GG03
4C091GG05
4C091HH01
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4C091MM01
4C091NN02
4C091NN12
4C091QQ05
4C091QQ15
(57)【要約】
本発明は、その糖残基の1つにアセチル残基を含むサポニンの、新規な使用に関する。これらのサポニンは、既知のサポニンよりも、またさらにリポフェクタミンよりも、驚くべき高程度までトランスフェクション効率を増強することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞への核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質のインビトロ送達における、式(I)のサポニンの使用。
【化1】
[式中、
R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつ
R
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。]
【請求項2】
前記細胞が真核細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ヒトまたは動物への核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質のインビボ送達による、治療または診断における使用のための、式(I)のサポニン。
【化2】
[式中、
R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつ
R
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。]
【請求項4】
R1がキシロース残基であること、および/または前記サポニンがちょうど2つのアセチル基をもつことを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の使用、または請求項3に記載の使用のためのサポニン。
【請求項5】
前記アセチル基が、対応するキノボース残基のC3およびC4位の酸素原子に結合されることを特徴とする、請求項4に記載の使用、または請求項4に記載の使用のためのサポニン。
【請求項6】
前記サポニンが、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群より選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組合せて適用されることを特徴とする、請求項1、2、4、もしくは5のいずれか1項に記載の使用、または請求項3から5のいずれか1項に記載の使用のためのサポニン。
【請求項7】
リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群より選択される、少なくとも1つのトランスフェクション試薬、ならびに、式(I)のサポニンを含む、トランスフェクション組成物。
【化3】
[式中、
R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつ
R
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。]
【請求項8】
R1がキシロース残基であること、および/または前記サポニンがちょうど2つのアセチル基をもつことを特徴とする、請求項7に記載のトランスフェクション組成物。
【請求項9】
前記アセチル基が、対応するキノボース残基のC3およびC4位の酸素原子に結合されることを特徴とする、請求項8に記載のトランスフェクション組成物。
【請求項10】
式(I)のサポニンの存在下に、細胞を核酸とインキュベートする工程を含む、インビトロのトランスフェクションのための方法。
【化4】
[式中、
R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつ
R
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。]
【請求項11】
前記細胞が真核細胞であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸がナノ粒子の一部を形成することを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記サポニンが、1μg/mLから25μg/mLの範囲にある濃度において使用されることを特徴とする、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記サポニンが、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群より選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組合せて適用されることを特徴とする、請求項10から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
以下の工程:
・Gypsophila elegans M.Biebの根を切断すること、
・切断された前記根を凍結乾燥および粉砕して、根粉末を得ること、
・前記根粉末を、高濃度の有機溶媒を用いて抽出して、根抽出物を得ること、
・前記根抽出物から前記高濃度の有機溶媒を除去して、乾燥抽出物を得ること、
・前記乾燥抽出物を、低濃度の有機溶媒中に溶解して、抽出物溶液を得ること、
・前記抽出物溶液を、少なくとも1つのクロマトグラフ分離工程に供して、精製されたサポニン溶液を得ること、および
・前記精製されたサポニン溶液から、いかなる溶媒も除去して、精製されたサポニン粉末を得ること、
を含む、式(I)のサポニンを、Gypsophila elegans M.Biebから単離するための方法。
【化5】
[式中、
R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつ
R
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文によるサポニンのインビトロの使用と、請求項3の前文によるかかるサポニンのインビボの使用と、請求項7の前文によるトランスフェクション組成物と、請求項10の前文によるインビトロのトランスフェクションのための方法と、および請求項15の前文による、かかるサポニンを単離するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
多くのサポニンが過去において記載されてきた。代表的には、[非特許文献1];[非特許文献2];[非特許文献3];および[非特許文献4]が参照される。
【0003】
さらなるサポニンは、以下の刊行物に記載されている:[非特許文献5];[非特許文献6];[非特許文献7];[非特許文献8];[非特許文献9];[非特許文献10]。
【0004】
特定のサポニン(SO1861)が、ペプチドおよび脂質ナノ粒子の改善された細胞内送達を媒介し得ることも記載されている[非特許文献11].
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Weng Alexanderら著、A simple method for isolation of Gypsophila saponins for the combined application of targeted toxins and saponins in tumor therapy(腫瘍療法における標的化トキシンおよびサポニンの併用用途のための、Gypsophilaサポニンの単離のための簡単な方法),「Planta medica」、2009年、第75巻、第13号、P.1421−1422.
【非特許文献2】Weng,Alexanderら著、A convenient method for saponin isolation in tumour therapy(腫瘍療法におけるサポニン単離のための便利な方法)、「Journal of Chromatography B」、2010年、第878巻、第7号、P.713−718.
【非特許文献3】Weng Alexanderら著、The toxin component of targeted anti−tumor toxins determines their efficacy increase by saponins(標的化抗腫瘍トキシンの毒素成分は、サポニンによるその効能増強を決定する)、「Molecular oncology」、2012年、第6巻、第3号、P.323−332.
【非特許文献4】Weng Alexanderら著、Saponins modulate the intracellular trafficking of protein toxins(サポニンはタンパク質トキシンの細胞内トラフィッキングを調節する)、「Journal of controlled release」、2012年、第164巻、第1号、P.74−86.
【非特許文献5】Thakur,Mayankら著、High−speed countercurrent chromatographic recovery and off−line electrospray ionization mass spectormetry profiling of bisdesmodic saponins from Saponaria officinalis possessing synergistic toxicity enhancing properties on targeted antitumor toxins(標的化抗腫瘍トキシンに対し相乗的な毒性増強特性を有する、サポナリア・オフィキナリス由来のビスデスモディックサポニンの、高速向流クロマトグラフィー回収率およびオフラインエレクトロスプレーイオン化質量分析プロファイリング)、「Journal of Chromatography B」、2014年、第955巻、P.1−9.
【非特許文献6】Jia,Zhonghua,Kazuo Koike,およびTamotsu Nikaido著、Major triterpenoid saponins from Saponaria officinalis(サポナリア・オフィキナリス由来の主要なトリテルペノイドサポニン)、「Journal of natural products」、1998年、第61巻、第11号、P.1368−1373.
【非特許文献7】Haddad,Mohamedら著、New triterpene saponins from Acanthophyllum pachystegium(アカントフィルム・パキステギウム由来の新規トリテルペンサポニン)、「Helvetica chimica acta」、2004年、第87巻、第1号、P.73−81.
【非特許文献8】Fu,Hongzhengら著、Silenorubicosides A−D,Triterpenoid Saponins from Silene rubicunda(シレネ・ルビクンダ由来のトリテルペノイドサポニン、シレノルビコシドA−D)、「Journal of Natural Products」、2005年、第68巻、第5号、P.754−758.
【非特許文献9】Moniuszko−Szajwaj,Barbaraら著、Highly Polar Triterpenoid Saponins from the Roots of Saponaria officinalis L(サポナリア・オフィキナリスL.の根由来の高極性トリテルペノイドサポニン)、「Helvetica Chimica Acta」、2016年、第99巻、第5号、P.347−354.
【非特許文献10】Fuchs,Hendrikら著、Glycosylated Triterpenoids as Endosomal Escape Enhancers in Targeted Tumor Therapies(標的化腫瘍療法におけるエンドソーム脱出促進剤としてのグリコシル化トリテルペノイド)、「Biomedicines」、2017年、第5巻、第2号、P.14.
【非特許文献11】Weng,Alexanderら著、Improved intracellular delivery of peptide− and lipid−nanoplexes by natural glycosides(天然グリコシドによる、ペプチド−および脂質−ナノプレックスの改良された細胞内送達)、「Journal of Controlled Release」、2015年、第206巻、P.75−90.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ペプチドおよび核酸などの低分子化合物の細胞内送達に関して、サポニンSO1861よりもさらに良好な特性を有する化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚いたことに、Gypsophila elegans M.Bieb(カスミソウ)から単離可能なサポニンは、細胞への低分子の送達、特に核酸の送達に関し、優れた効果を有する。かかるサポニンは、式(I)に対応する:
【0008】
【化1】
【0009】
これによれば、R
1は、そのC1原子によって、式(I)の対応するキシロース残基に結合された、キシロース残基またはアラビノース残基であり;かつR
2は、同じ分子内の他のR
2残基とは独立して、Hまたはアセチル残基であるが、但し、少なくとも2つのアセチル残基がサポニン中に存在するという条件付きである。
【0010】
このサポニンは、共通したサポニンコア構造をもち、何ら異常な結合を含まない。むしろそれは、その糖残基および/またはそのアセチル残基のみにおいて、他のサポニンと異なっている。
【0011】
式(I)における個々の糖残基のよりよい同定のため、それらは上記の式(I)の描写において対応する略号で示される。それによれば、略号は以下の意味を有する:
【0012】
【表1】
【0013】
アラビノース(Ara)の構造は、式(II)に対応する:
【0014】
【化2】
【0015】
式(I)による化合物は、SO1861のトランスフェクション効率のおよそ2倍高いトランスフェクション効率を示した。SO1861についてはトランスフェクション効率のわずかな上昇しか予想されなかったことから、このことは完全に予想外であり、驚くべき結果である。既存のサポニンの数が多いことから、本発明者らは、その使用が本明細書にクレームされている化合物が、たとえそれらの化合物がそれ自体公知である場合でも、かかる高いトランスフェクション効率を示すことは予想できなかった。サポニンは合成することができず、また一般的に化学薬品の供給元から簡単に購入することはできない。むしろ、それらは植物または植物の部分から単離される必要がある。このことは、サポニンの特性を研究することを特に難しくする。
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、一般式(I)によるサポニンがGypsophila elegans M.Biebから単離可能であること、それが予想外の高いトランスフェクション効率を示すことを見出した。かかるサポニンがGypsophila elegans M.Biebから抽出可能であることは、以前には記載されていなかった。むしろ、一般式(I)に該当するサポニンが全く別の植物(Achathophyllum pachystegium(アカントフィルム・パキステギウム))から単離されたことがHaddadら(詳細は上記参照)によって記載され、しかしながらこのサポニンがトランスフェクション効率を上昇させ得たことを指示するものは何ら示していない。
【0017】
したがって、本発明は、細胞への核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質のインビトロ送達における、一般式(I)によるサポニンの使用に関する。それによれば、核酸のインビトロ送達は、サポニンの特に適切な用途である。送達されるべき適切な核酸は、DNA、例えばプラスミドDNAまたはミニサークルDNA、およびRNA、例えば低分子干渉RNA(siRNA)である。送達されるべき核酸または他の分子は、ナノプレックスの形態で存在していていもよい。ナノプレックスは典型的には、送達されるべき低分子を結合することができるペプチドまたは脂質により生成される。したがって、核酸送達性ナノプレックスは、核酸がそれに結合される脂質または非脂質担体を含む。ナノプレックスはまたナノ粒子とも称され得る。一実施形態においては、送達されるべき核酸は、ミニサークルDNAである。一実施形態では、送達されるべき分子は、ペプチドミニサークルDNA粒子である。
【0018】
一実施形態においては、核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質が送達されるべき細胞は、真核細胞である。ヒト細胞、動物細胞(例えばげっ歯類細胞)、または植物細胞が、細胞として使用されるために特に適切である。酵母細胞もまた使用可能である。
【0019】
一態様においては、本発明は、治療または診断における一般式(I)のサポニンの使用に関する。それによれば、サポニンはヒトまたは動物への核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質のインビボ送達に使用される。
【0020】
一実施形態においては、動物は哺乳類、特にげっ歯類である。
【0021】
一態様においては、少なくとも2つのサポニン、とりわけ、ちょうど2つのサポニンの混合物が使用され、これにおいて前記R
1は、第1のサポニンではキシロースを、そして第2のサポニンではアラビノースを示す。
【0022】
一実施形態においては、全ての糖はそのD立体異性型で存在する。
【0023】
一実施形態においては、R
1は、キシロース残基である。それ故、サポニンは以下の式(III)に対応する:
【0024】
【化3】
【0025】
一実施形態においては、R
1は、アラビノース残基である。それ故、サポニンは以下の式(IV)に対応する:
【0026】
【化4】
【0027】
一実施形態においては、サポニンは、一般式(V)の立体異性体型で存在する。同様に、一実施形態では、キシロース残基およびアラビノース残基が、式(VI)または(VII)の立体異性型で存在する:
【0028】
【化5】
【0029】
一実施形態においては、サポニンは、ちょうど2つのアセチル基をもち、すなわち、R
2残基のうち2つはアセチル残基であり、残りのR
2残基は水素である。
【0030】
一実施形態においては、アセチル基は対応するキノボース残基のC3およびC4位の酸素原子に結合されており、結果として式(VIII)のサポニンを生じる:
【0031】
【化6】
【0032】
一実施形態においては、3つのR
2残基全てがアセチル残基であり、結果として式(IX)のサポニンを生じる:
【0033】
【化7】
【0034】
本発明者らは驚くべきことに、一般式(I)のサポニンが、単独で用いた場合にトランスフェクション効率を上昇させるばかりでなく、古典的なトランスフェクション試薬のトランスフェクション効率を増強するためにも特に適することも見出した。したがってそれは、かかるトランスフェクション試薬のブースターとして使用可能である。上記記載の使用は、古典的なトランスフェクション試薬のためのブースターとしての、かかるサポニンの使用を包含する。一実施形態においては、サポニンは、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群より選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組合せて、インビボまたはインビトロにおいて使用される。かかるトランスフェクション試薬の例は、以下に列記される。
【0035】
独立した請求項間での全体的な発明の概念は、一般式(I)によるサポニンのトランスフェクション効率の有意な増強において確かめられるべきであり、そのことは本発明者らにより初めて明らかにされた。
【0036】
一態様においては、本発明は、古典的なトランスフェクション試薬と式(I)による少なくとも1つのサポニンとを含むトランスフェクション組成物であって、これにおいて、残基R
1およびR
2が上記記載の意味をもつ、該トランスフェクション組成物に関する。古典的なトランスフェクション試薬は、2つのサブグループ、すなわちリポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬に分けることができる。リポソームベースのトランスフェクション試薬は、トリメチルアンモニウムプロパンなどの極性頭部基に結合した疎水性脂肪酸鎖をもつ、ほとんどがカチオン性に帯電した脂質からなる。ポリマーベースのトランスフェクション試薬は、ポリエチレンイミン(PEI)などの帯電した頭部基を含有する有機ポリマーからなる。
【0037】
市販の古典的なリポソームベースのトランスフェクション試薬の例は、METAFECTENE;TransFast;Stemfect;およびTransFectinである。
【0038】
市販の古典的なポリマーベースのトランスフェクション試薬の例は、GeneCellin;X−tremeGeneトランスフェクション試薬、例えばX−tremeGene 9 DNAトランスフェクション試薬、X−tremeGene HP DNAトランスフェクション試薬、およびX−tremeGene siRNAトランスフェクション試薬;TransITトランスフェクション試薬、例えばTransIT−X2ダイナミック・デリバリー・システム(Dynamic Delivery System)、TransIT−LT1試薬、TransIT−2020試薬、TransIT−PRO試薬、TransIT−VirusGEN試薬、TransIT−Lenti試薬、TransIT−Insect試薬、TransIT−293試薬、TransIT−BrCa試薬、TransIT−CHOトランスフェクション試薬、TransIT−HeLaMONSTERトランスフェクション試薬、TransIT−Jurkat試薬、TransIT−Keratinocyte試薬、TransIT−mRNAトランスフェクション試薬、TransIT−TKO試薬、TransIT−siQUEST試薬、およびTransIT−Oligo試薬;Viafect;FuGENE;Xfect;TurboFect;およびGenJetである。
【0039】
一実施形態においては、トランスフェクション組成物中のサポニンのR
1は、キシロース残基である。
【0040】
一実施形態では、トランスフェクション組成物中のサポニンは、ちょうど2つのアセチル基をもつ。
【0041】
一実施形態では、アセチル基は、対応するキノボース残基のC3およびC4位の酸素原子に結合される。
【0042】
一実施形態では、トランスフェクション試薬は、リポソームベースのトランスフェクション試薬である。
【0043】
一実施形態では、トランスフェクション試薬は、ポリマーベースのトランスフェクション試薬である。
【0044】
一実施形態では、トランスフェクション試薬は、TransITトランスフェクション試薬、X−tremeGeneトランスフェクション試薬、およびGeneCellinからなる群より選択される。
【0045】
一実施形態では、トランスフェクション試薬は、GeneCellinである。
【0046】
一態様においては、前述の説明によるサポニンまたは少なくとも2つのサポニンの混合物を使用することにより、核酸、脂質、ペプチド、および/またはタンパク質を、それを必要とするヒトまたは動物へ送達するための方法に関する。
【0047】
一態様においては、本発明は、細胞のインビトロのトランスフェクションのための方法に関する。この方法は、前述の説明によるサポニンまたは少なくとも2つのサポニンの混合物の存在下に、細胞を核酸とインキュベートする工程を含む。トランスフェクションは、一過性トランスフェクションまたは安定トランスフェクションであってよい。DNAおよびRNAは適切な核酸であり、ここではDNAが特に適している。一実施形態においては、送達されるべき核酸はミニサークルDNAである。
【0048】
一実施形態においては、細胞は真核細胞である。ヒト細胞、動物細胞(げっ歯類細胞など)、または植物細胞が、細胞として使用されるのに特に適している。酵母細胞もまた使用可能である。
【0049】
一実施形態では、核酸はナノ粒子の一部を形成する。一例を挙げれば、DNAナノ粒子が使用され得る。ペプチドミニサークルDNA粒子、またはDNAへ結合されたペプチドを含んでいる粒子は、さらに適切な例である。同様に、RNAナノ粒子は、トランスフェクションを実施するための適切な実体である。
【0050】
一実施形態においては、サポニンは、1μg/mLと25μg/mLの間、特に1.5μg/mLと20μg/mLの間、特に2μg/mLと15μg/mLの間、特に2.5μg/mLと12.5μg/mLの間、特に3μg/mLと10μg/mLの間、特に4μg/mLと9μg/mLの間、特に5μg/mLと8μg/mLの間、特に6μg/mLと7μg/mLの間の範囲にある濃度で使用される。
【0051】
一実施形態では、サポニンは、クレームされた方法の範囲内で、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群より選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組合せて使用される。かかるトランスフェクション試薬の例は、上記に列記されている。
【0052】
一態様においては、本発明は、前述の説明によるサポニンまたは少なくとも2つのサポニンの混合物を、Gypsophila elegans M.Biebから単離するための方法に関する。この方法は、以下に説明される工程を含む。それによれば、工程は必ずしも示された順序で実施される必要はない。むしろ、任意の他の賢明な方法工程の順序もまた適用可能である。
【0053】
第1の工程においては、Gypsophila elegans M.Biebの根が切断される。任意で、切断された根は洗浄される。続いて、切断された根は凍結乾燥され、そして粉砕される。そのようにして、根粉末が得られる。
【0054】
根粉末は、高濃度の有機溶媒を用いて抽出され、根抽出物が得られる。用語「高濃度の有機溶媒」は、50%(v/v)を超える濃度をもつ有機溶媒に関係する。メタノールまたは任意の他の短鎖有機アルコールは、適した有機溶媒である。例を示せば、70から100%、特に75から95%、特に80から90%の溶媒濃度が、適切な高濃度である。有機溶媒が水と混和性である場合、水が共溶媒として使用され得る。
【0055】
その後、高濃度の有機溶媒が根抽出物から除去され、乾燥抽出物が得られる。この除去は、例えば減圧蒸留により実施可能である。
【0056】
乾燥抽出物は次に、低濃度の有機溶媒中に溶解されて、抽出物溶液が得られる。用語「低濃度の有機溶媒」は、50%(v/v)未満の濃度をもつ有機溶媒に関係する。例を示せば、10%から50%、特に15%から45%、特に20%から40%、とりわけ25%から30%の濃度が、低濃度の有機溶媒のための適切な濃度範囲である。再度、メタノールまたは任意の他の短鎖有機アルコールが、適した有機溶媒である。同様に、低濃度の有機溶媒が水と混和性である場合、水が共溶媒として使用され得る。
【0057】
抽出物溶液は次に、少なくとも1つのクロマトグラフ分離工程に供される。それにより、精製されたサポニン溶液が得られる。クロマトグラフ分離は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実現される。典型的には、精製されたサポニン溶液の純度を高める目的で、1つ超のクロマトグラフ分離を実施することが望ましい。したがって、第1のクロマトグラフ分離工程後に得られた精製されたサポニン溶液を、それに続く少なくとも1つのクロマトグラフ分離工程に供することが可能である。それによれば、様々なカラムが個々のクロマトグラフ分離工程において使用可能である。
【0058】
個々のクロマトグラフ分離工程は(1つ超のクロマトグラフ分離工程が実施される場合に)、様々な固定相および/または移動相において実施することが可能である。したがって、個々のクロマトグラフ分離工程において使用される溶媒を、これらの工程間で変えることが可能である。
【0059】
最後に、溶媒は、少なくとも1つのクロマトグラフ分離工程の後に、精製されたサポニン溶液から除去される。これは、例えば、減圧蒸留によるか、または凍結乾燥によって行われ得る。結果として、精製されたサポニン粉末を生じる。
【0060】
本明細書に開示された全ての実施形態は、任意の所望の方法で組合わされてもよい。さらに、説明された使用および方法の実施形態は、任意の所望の方法で、記載された別の方法および使用へ転用されてもよい。記載されたトランスフェクション組成物はまた、任意の記載された実施形態を利用することも可能である。
【0061】
本発明の態様のさらなる詳細は、代表的な実施例および添付の図面について説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】Gypsophila elegans M.Biebの根からの乾燥された原抽出物のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図2】セミ分取HPLCによりさらに精製された後の、
図1のクロマトグラムのピークP2に存在する物質のLC−ESI−MSクロマトグラムを示す図である。
【
図3】単離されたサポニンGE1741のLC−ESI−MSクロマトグラムを示す図である。
【
図4】単離されたサポニンGE1741のMS/MSスペクトルを示す図である。
【
図5】フローサイトメトリー法の結果を示す図である。
【
図6】Neuro2a細胞における、ナノプレックス±トリテルペンサポニンのトランスフェクション効率を示す図である。
【
図7】質量分析およびNMR分光法により解明された、GE1741の化学構造を示す図である。
【
図8】種々のトランスフェクションエンハンサーのトランスフェクション効率のプロットを示す図である。
【
図9】様々な市販のトランスフェクション法のトランスフェクション効率に対する、GE1741の影響を示す図である。
【
図10】Neuro2a細胞に対するGE1741の毒性を調べるための、第1の実験の結果を示す図である。
【
図11】Neuro2a細胞に対するGE1741の毒性を調べるための、第2の実験の結果を示す図である。
【
図12】標的化自殺遺伝子治療の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
代表的な実施形態:Gypsophila elegans M.BiebからのサポニンGE1741の単離
Gypsophila elegans M.Biebからの種子を、独国ブランデンブルク州のフィールドに播種した。成熟植物を収穫し、根を切断した。根を洗浄し、凍結乾燥し、そして粉砕して粉末とした。粉末を、水中90%メタノールにより抽出した。濾過の後、減圧蒸留によりメタノールを除去した。残留する水性抽出物を最後に凍結乾燥させた(乾燥抽出物)。乾燥抽出物を、30%メタノール中で60mg/mLの濃度に溶解した。
【0064】
溶液(各0.5mL)を、Kinetex(キネテクス、登録商標)5μm C18 100Å、LCカラム250x10.0mmを用いたセミ分取HPLCに供した。メタノール(A)/水、0.01%TFA(B)勾配を、30%から90%(A)まで20分間にわたり、そして次に30%(A)まで10分間にわたり使用した。流量は、4mL/分であった。検出波長は、210および300nmであった。対応するクロマトグラムは
図1に図示され、これにおいて、上部の曲線は210nmにおける検出器シグナルを、下部の曲線は300nmにおける検出器シグナルを示す。保持時間(RT)およそ18から20(およそ19)分におけるピーク(P2として示される)を収集した。多数の単離サイクルを繰り返して、収集したピークを最終的にプールした。メタノールを真空遠心分離により蒸発させ、残留する水を凍結乾燥により除去した。
【0065】
乾燥した材料を、50%アセトニトリル中で4mg/mLの濃度に溶解した。溶液(各0.5mL)を、Kinetex(登録商標)5μm C18 100Å、LCカラム250×10.0mmを用いたセミ分取HPLCに供した。アセトニトリル(A)/水、0.01%TFA(B)勾配を、30%から50%(A)まで24分間にわたり、そして次に30%(A)まで1分間にわたり使用した。検出波長は、210nmであった。流量は、4mL/分であった。RTおよそ18分のピークを収集した。数サイクルを繰り返した。アセトニトリルを真空遠心分離により蒸発させ、残留する水を凍結乾燥により除去した。
【0066】
サンプルは、Agilent(アジレント)6200シリーズQ−TOF LC−ESI−MS/MSシステムを用いることにより分析した。回収された分画のLC−ESI−MS分析には、Kinetex(登録商標)C18 HPLCカラム(2.6μm、100Å、(150×4.6mm)、アセトニトリル(A)/水(B)勾配、0.01%ギ酸を使用し、30%から開始して70%(A)まで30分間にわたり、0.7mL/分の流量を使用した。対応するクロマトグラムを
図2に図示する。2つの顕著なピークが検出された。第1のピークの物質には質量1538.67が、そして第2のピークの物質には質量1741.73が帰属された。第2のピークをさらなる精製用に選んだ。
【0067】
第2のピークの乾燥した材料を、50%アセトニトリル中で4mg/mLの濃度に溶解した。溶液(各0.5mL)を、セミ分取Kinetex(登録商標)C−18カラムを用いたセミ分取HPLC(上記参照)に供した。アセトニトリル(A)/水、0.01%TFA(B)勾配を30%から50%(A)まで24分間にわたり、そして次に30%(A)まで1分間にわたり、流量4.0mL/分を用いて使用した。検出波長は210nmであった。RTおよそ18分のピークを、数回の反復サイクルにおいて収集した。アセトニトリルを真空遠心分離により除去し、残留する水を凍結乾燥により除去した。
【0068】
乾燥した材料を、50%アセトニトリル中に溶解し、そして(ラン当たり0.5mLを)Ultrasep(ウルトラセップ)ES PEO、LCカラム、250×4mm、5μmを用いたHPLCに供した。カラムを、5%アセトニトリルによりコンディショニングした。溶媒の極性は、アセトニトリル(A)/水、0.01%TFA(B)勾配を、100%で開始して5%まで(A)、1.25から21分まで適用することにより急激に変化した。検出波長は210nmであり、流量は1ml/分であった。生成物(GE1741;ジプソフィロシドAとも称される)を、RT4−6分において収集した。アセトニトリルを、真空遠心分離により除去した。凍結乾燥後、GE1741を白色粉末として得た。
【0069】
生成物を再び、LC−ESI−MSにより上記に概説したように分析した。対応するクロマトグラムを
図3に図示する。ただ1つの顕著なピークが検出され、精製が成功したことが示された。質量1741.73は、このピークの物質に帰属された。この質量が生成物にその名称、GE1741を与えた。
【0070】
GE1741の化学構造を解明するため、LC−ESI−MS/MS測定を実施した。対応するスペクトルを
図4に図示する。
【0071】
この質量分析データおよびNMR分光法によって得られたさらなるデータ(詳細は以下を参照)に基づき、このサポニンの構造が式(VIII)[式中、R
1はキシロース残基である]に対応することを確認することができた。しかしながら、GE1741の生物学的機能はおそらくは残基R
1の具体的な構造によるものではないことが推定される。むしろ、GE1741のキノボース残基上の少なくとも1つのアセチル残基の存在が、GE1741の特性の関連因子であると考えられ、このことは以下にさらに詳細に説明される。GE1741は2つのアセチル残基(C3位に1つ、そしてC4位に1つ)を含んでいるが、予備データはアセチル残基の量および位置が、個々のサポニンの特性を有意に変えることなく、示された範囲内で可変であることを示唆している。
【0072】
GE1741の特性試験
細胞培養
ネズミ神経芽細胞腫細胞(Neuro2a細胞、ATTC CCL−131(商標))およびヒト結腸直腸癌細胞(HTC−116、(ATCC(登録商標)CCL−247(商標))を、1g/LのD−グルコース、10%FBS、および安定化グルタミンを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で培養した。Neuro−2A−細胞は、37℃および5%CO
2においてインキュベートされた。これらの細胞を、次にDNAナノ粒子(YD)とともに、新規サポニンGE1741の有無しで、インキュベートした。
【0073】
トランスフェクション実験に用いたDNAナノ粒子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするDNAを含有していた。それにより、対応するDNAナノ粒子とともにインキュベートされた細胞の蛍光を検出することで、トランスフェクション効率を非常に容易にモニターすることができた。対応するインキュベーション時間は、この場合には、48時間となるべく選択された。
【0074】
ネガティブコントロールとして(
図5の左パネル)、Neuro2a細胞には何らDNAナノ粒子を全く添加しなかった。0.37%の見かけ上のトランスフェクション効率を示す蛍光が観察できた。この値は測定エラーを意味する。
【0075】
ペプチドミニサークルDNA粒子(PM)が、何らトランスフェクションエンハンサーを用いずにNeuro2a細胞へ添加された場合では、わずか1.35%のトランスフェクション効率が、検出された蛍光に基づき観察できたにすぎない(
図5の中央パネル)。しかしながら、同じペプチドミニサークルDNA粒子がGE1741(新規サポニン)と一緒に添加された場合、98.65%のトランスフェクション効率を、検出された蛍光に基づき観察することができた(
図5の右パネル)。蛍光性細胞を検出するこれらのフローサイトメトリー法は、既に、GE1741による高いトランスフェクション効率の増強を示している。
【0076】
PD/YD−ナノ粒子の生成
インテグリン受容体標的化アミノ配列の有る(Y)および無し(P)の、正に帯電したポリリジンポリペプチド20mgを、Genecustから購入した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするベクター、p−EGFP−N3は、DH5α−E.Coli細胞を用いて取得され、かつ伝播された(1.645mg/mL)。StemMACS(商標)eGFPmRNA(20μg)およびGFPをコードするミニサークルDNA(ジェンバンク寄託(Gene Bank Accession):U55761)を、さらなる核酸として使用した。トランスフェクションを行うため、ナノプレクスを以下のように生成した:ポリ−リジンペプチド(PまたはY)およびp−EGFP−N3(D)、mRNA(m)またはミニサークル(M)ベクターを、4:1の割合で、水(各50μL)中に希釈して、素早くピペッティングすることにより完全に混合した。ナノプレックスは30分間のインキュベーション工程において生成させた。その後、ナノプレックス懸濁液をOptiMEMで希釈して、全体積を1mLとした。市販のトランスフェクション試薬、TransIT−X2(登録商標)ダイナミック・デリバリー・システム、X−tremeGENE(商標)HPトランスフェクション試薬、GeneCellin、およびリポフェクタミン(Lipofectamin(登録商標))は、製造業者により記載されたように配合した。
【0077】
サポフェクション(トリテルペンサポニンを用いたトランスフェクション)
Neuro2a細胞またはHTC−116細胞(15,000細胞/ウェル)を、培地400μLのウェル体積をもつ24ウェルプレートに播種し、24時間培養した。トランスフェクション試薬は、上記記載のように配合し、必要に応じてサポニン溶液と混合した。培地を、最終量500ngのDNA/RNAを用いたトランスフェクション培地で置き換えた。48時間(DNAトランスフェクション)または24時間(RNAトランスフェクション)のインキュベーション時間の後、トランスフェクション培地を除去し、細胞をトリプシン処理して、フローサイトメトリー用(Cytoflex)のポリスチレンチューブに移した。各測定には10,000個の細胞が取得された。トランスフェクション効率は、解析ソフトウェア、Cyflogicにより測定された(サンプルプロットを蛍光についてネガティブコントロールと比較することによる)。
【0078】
細胞インピーダンス測定
リアルタイム毒性試験のために、インピーダンス測定装置、iCELLigene(登録商標)を配備した。ウェル当たり8000個のNeuro2a細胞を、2つの8ウェルE−プレート、L8に播種し、800μLの体積において24時間インキュベートした。トランスフェクション毒性研究には、50μLの試薬を、それぞれ対応する体積の培地を除去した後に添加した。非毒性濃度である2μg/mLのGE1741を適用した。透過性試験には、2.5μg/mLから60μg/mLまで濃度を増していくGE1741を細胞に適用した。10分ごとに、インピーダンス/生存率を測定した。結果は、RTCAデータ分析ソフトウェアにより分析し表示した。
【0079】
NMR分光法
NMR−分光法用のサンプルは、2mgのGE1741を600μlのd
4−メタノール(重水素含量99,95%、デューテロ(Deutero)、独国、カステウラン)中に溶解すること、および4mgのGE1741を600μlのd
5−ピリジン(重水素含量99,9%、デューテロ、独国、カステラウン)中に溶解することにより調製し、それぞれ1.9および3.8mM/lの濃度を生じた。溶液を5mmのサンプルチューブに移し、これを密封して溶媒の蒸発または水の凝集を防止した。
【0080】
NMRスペクトルは、単軸自己遮蔽勾配を備えた、低温冷却された5mmのTCl−三重共鳴プローブを用いるブルカー(Bruker)AV−III分光計(ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)、独国、ラインシュテッテン)において、600(
1H周波数)において300Kで記録した。分光計を制御するために用いたソフトウェアは、topspin 3.5 pl6であった。温度は、d
4−メタノールおよびフィンダイセンら(Findeisen et al.)の式(Findeisen 2007年)を用いて較正した。
【0081】
メタノール中のサンプルを用いた実験:一次元
1H−および
13C−スペクトルは、600MHzにおいて、それぞれ32および18432スキャンを用いて記録した。炭素スペクトルの場合、プロトンブロードバンドデカップリングを適用した。同種核スペクトル:DQF−COSY(Piantiniら、1982年)、TOCSY(BraunschweilerおよびErnst、1983年;BaxおよびDavis、1985年a)、およびNOESY(Jeenerら、1979年)は、2048×512の複素数データポイントと、F2およびF1でそれぞれ204および61ミリ秒の取込み時間とを用いて記録した。DQF−COSYおよびTOCSY(混合時間80ミリ秒)は、8スキャンを用いて、NEOSYは、80ミリ秒の混合時間で64スキャンを用いて記録した。
【0082】
異種核スペクトルは、以下のように記録した:
13C−HSQC(BodenhausenおよびRuben、1980年)、
13C−HSQC−TOCSY、
13C−HSQC−CLIP−COSY、および
13C−HSQC−NOESYは、512×1024の複素数データポイント、F2およびF1でそれぞれ51および45ミリ秒の取込み時間、およびそれぞれ48、96、96、および288スキャンを用いて記録した。
13C−DEPT−HMQC(Kesslerら、1989年)および
13C−HQQC(Kesslerら、1991年)は、512×512の複素数データポイント、F2およびF1でそれぞれ51および23ミリ秒の取込み時間、およびそれぞれ64および60スキャンを用いて記録した。
1J HCおよび
3J HHの測定には、
13C−HSQCは、リフォーカシングおよび炭素デカップリング無しに、16384×512の複素数データポイント、F2およびF1でそれぞれ1683および73ミリ秒の取込み時間を使用し、32スキャンを用いて記録した。上記の全ての異種核スペクトルは、
12Cに結合したプロトンの抑制のため、BIRDパルスを用いて記録した(BaxおよびSubramanian、1986年)。勾配増強
13C−HMBC(BaxおよびSummers、1986年;Ciceroら、2001年)は、2048×1024の複素数データポイント、F2およびF1でそれぞれ204および33ミリ秒の取込み時間、および128スキャンを用いて記録した。
【0083】
ピリジン中のサンプルを用いた実験:一次元
1H−および
13C−スペクトルは、600MHzにおいて、それぞれ32および14349スキャンを用いて記録した。炭素スペクトルの場合、プロトンブロードバンドデカップリングを適用した。DQF−COSY(Piantiniら、1982年)は、2048×512の複素数データポイントと、8スキャンと、F2およびF1でそれぞれ204および61ミリ秒の取込み時間とを用いて記録した。
13C−HSQC(BodenhausenおよびRuben、1980年)は、512×1024の複素数データポイント、32スキャン、およびF2およびF1でそれぞれ51および45ミリ秒の取込み時間を用いて記録した。勾配増強
13C−HMBC(BaxおよびSummers、1986年;Ciceroら、2001年)は、2048×1024の複素数データポイント、F2およびF1でそれぞれ204および33ミリ秒の取込み時間、および64スキャンを用いて記録した。
【0084】
データは、topspin3.2を使用して加工し、典型的には90℃までシフトされたサインベル2乗を双方の次元に用い、HMBCの場合には、サインベルをF2において使用した。データセットを加工して、4096×2048ポイントのデータマトリックスを生じた。
【0085】
GE1741の分離および特性評価
最初に、種子および根の抽出物を、トランスフェクション増強活性について試験した。結果を
図6に示す。乾燥された根の抽出物のHPLCクロマトグラム(
図1参照)を分析し、ピークP2、P3、およびP4を収集して、それらの生物学的活性をそれらの生物学的活性について試験した。これらの結果もまた
図6に示されている。続いてP2を、上記に説明したように、さらなるHPLC精製に供した。続くLC−ESI−MS誘導性のセミ分取精製工程(
図2および
図3参照)は、ピークの単離をもたらし、その活性が繰返し試験された。LC−ESI−MS/MS測定は、負のイオン化モードにおいて、脱プロトン化分子イオンシグナル[M−H]
−を、m/z 1741において検出した(
図4参照)。m/z 955におけるMS/MSフラグメントイオンシグナルは、キラ酸のC28に結合したジアセチルペンタサッカライド鎖の離脱後のサポニンに帰属され、m/z 460は、C3におけるトリサッカライド単位のさらなる切断後に生じた。分子式は、負に帯電したイオンについて測定された質量(HR−ESI−MS m/z 1741.7336)から、C
79H
122O
42(計算値:1741.73325)と決定された。これは、わずか0.2ppmの質量差に相当するに過ぎない。
【0086】
GE1741の1D−および2D−NMR分光法
バイデスモシック(bidesmosic)キラ酸型サポニン、GE1741の構造は、
1H、
13C、およびHSQC、HMBC、HQQC、DQF−COSY、TOCSY、HSQC−TOCSY、およびNOESYを含む、d4−メタノールを用いた1Dおよび2D−NMR分光実験により完全に解明された。GE174の
13C NMRスペクトルのシグナルの中で、2つの2倍強度の共鳴(δC 75.33、71.43ppm)は、C原子の完全な重なりを示した。部分的な構造単位として、トリテルペン成分と、2つのアセチル化の点をもつ8つの糖の存在が確かめられた。HSQCおよびHQQC実験を用いて、トリテルペン成分にはメチル基として6つのsp3−混成共鳴(δC 10.9、16.4、17.7、24.8、27.1、33.3ppm)が認識され、さらに3つのメチル基がデオキシ糖に帰属された(δC 17.0、17.6、18.3)。
1HNMRは、トリテルペンメチル官能基についてシングレット共鳴(δH 0.74、0.87、0.94、1.00、1.16、1.38ppm)、デオキシ官能基についてはダブレット(δH 1.16、1.23、1.31)を示した
【0087】
C30の実体は、予想より少ない2つのメチル基を示したが、そのことは、アルデヒド官能基(δC 211.5ppm、δH 9.47ppm)および酸性官能基(δC 175.9ppm)の存在によって説明された。δC 123.2(CH)における二重結合、144.8ppm(第4級炭素)、幅広いトリプレットシグナル(δH 5.31ppm)の共鳴と一緒に、HMBC相関データと組合せされたC−3における置換オキシメチン官能基(δC 86.4、δH dd 3.86)が、ヒドロキシ−オレアナン−12−エン型の主鎖を解明した。対応する結果を
図7に示し、さらなる詳細を以下に説明する。
【0088】
アルデヒドプロトンδ9.47ppmから、C−4(56.3ppm)、CH3−24(δ10.9)、およびC−5までの
2,3J CH相関。H−3(δ3.86)の、第四級の位置C−4およびC−24に対するロングレンジ相関は、CHO−官能基がC−23にあることを示唆した。C−16(δC74.5)における第2のヒドロキシル化は、H−18(δ2.94),CH2−22(δ1.93、1.16)のプロトンからの
2,3J−CHシグナルによって確かめられた。合計数8個の単糖が、アノマー共鳴の特徴的な化学シフトの観察による
1H−および
13CNMR分光法により、GE1741の構造において検出された。GE1741の命名は、以下の通りである:3−O−(β−D−ガラクトピラノシル−(1→2)−[β−D−キシロピラノシル−(1→3)]−β−D−グルクロノピラノシル)−28−O−(β−D−キシロピラノシル−(1→3)−[β−D−キシロピラノシル−(1→4)]−α−L−ラムノピラノシル−(1→2)−[3,4−ジ−(O−アセチル)−β−D−キノボピラノシル]−(1→4)−β−D−フコピラノシル)−キラ酸
【0089】
このビスデスモシディック(bisdesmosidic)なキラ酸型サポニンにおいては、三糖単位はC−3に、そして六糖はC−28に結合される。糖の識別、および個々の1H/13C結合性による結合は、HMBC(
図7参照)、HSQC(高分解能)、HSQC−DEPT、HQQC、HSQC−TOCSY、およびDQF−COSY、
1H/
1H−TOCSY、
1H/
1H−NOESY、および非デカップルHSQCの組合せにより、明確に同定された。全ての糖のメチン原子の
1JCH−結合性は、間接次元における高い分解能を用いて記録されたHSQCにより明確に導かれた(TD:F2 1024、F1 2048)。
【0090】
C−3に結合した三糖は、グルクロン酸(これにおいて、C6における遊離のカルボン酸官能基は、
13CによってもHMBCによっても検出されなかった)、ガラクトース、およびキシロースからなり、δH/δC[ppm]および
3JHH/
1JCH[Hz]におけるアノメリックな共鳴をもつ:β−GlcA(δ4.42、104.6;d、7.4、161)、β−Gal−1(δ4.80、103.7;d、7.8、163)、β−Xyl−1(δ4.57、104.9;d、7.8、162)。C28における五糖単位は、β−Fuc−1(δ5.29,94.8;d、7.8、166)、α−Rha−1(δ5.36、101.5;d、1.4、171)、β−Xyl’−1(δ4.49、107.0;d、7.2、159)、β−Qui−1(δ4.61、105.8;d、8.2、161)、β−Xyl”−1(δ4.51、105.6;d、7.0、162)からなる。
【0091】
グリコシド結合の立体化学的特性は、それぞれ
3J HHおよび
1J CHカップリング定数J(Hz)の特徴的な値によって測定された。グルコースおよびガラクトース型の糖の場合には、H−1/H−2についての大きなトランスジアキシャルカップリング(
3JHH:7−8Hz)がβ−構造を規定する。特徴的な
1JCHカップリング値は、α構造については〜170Hzにより、かつβ構造については〜160Hzにより、ヘキソピラノースのアノマー配置を示す。検出された値は、これらの文献データと絶対的に一致しており、またキノボース(6−デオキシ−glc)、フコース(6−デオキシgal)、およびラムノース(6−デオキシ−マンノース)にも適用可能である。
【0092】
アノマーについての
1JCHカップリング値J[Hz]は、HMBCから直接導かれた。GE1741の
1H NMRでは、非アノメリックプロトンをもついわゆる「バルク領域」が3.15−3.95ppmの範囲に生じ、部分的に4から5個の糖プロトンシグナルが重複していた。異なる糖環系における
3JHHメチンプロトンカップリングパターンが検出され、高度に混みあったシグナル範囲(
1H:δ3.15−3.95ppm、および
13C:δ60−90ppm において測定された非デカップルHSQC実験により抽出され、ここで、
1JCHおよびほぼ全ての
3JHHカップリング定数が可視化され、かつ正確に測定された。非デカップルHSQCは、GlcA−H−4(δ3.55ppm)のH−3およびH−5に対するJ8.0Hz(トリプレット)の大きなトランスジアキシャルカップリングパターンによって確かめられた、C−3に結合した、可能性のあるGalAから、GlcAを明らかに区別し解明した。また、TOCSYシグナル GlcA−H−1(4.42ppm)(スピンロック時間:50ミリ秒)、およびHSQC−TOCSYは、このスピン系において大きなカップリング定数を示す、位置GlcA−5を検出した。
【0093】
同定されたアノマー1H シグナルを、「構造リポーター基」(Vliegenthart、2006年)(Bubb、2003年)、(Duusら、2000年)として使用した。GE1741のオリゴサッカライド鎖において存在する「バルク領域」(δH:3.15−4.7ppm)にスカラーカップリングをもつ、全ての独立したスピン系が、DQF−COSY、
1H/
1H−TOCSYの組合せにより解明され、HSQC−TOCSY実験により確認された。ロングレンジHMBC相関シグナル(
図7参照)は、グリコシド間結合点、例えば、Fuc−H−1(δ5.29)によって確かめられるC−28への結合(δ177.1)、および中央の糖単位であるフコースをもつ、分枝した五糖単位の配列および結合を明確に同定した:Qui−C−1(δ105.8)へのFuc− H−4(δ3.76)、Rha−C−1(δ101.5)へのFuc−H−2(δ3.79)、Xyl’−C−1(δ107.0)へのRha−H−4(δ3.51)、およびXyl”−C−1(δ105.6)へのXyl’−H−4(δ3.52)。
【0094】
QUi−H−3(δ5.01)およびQui−H−4(δ4.63)について観察された2つの有意なアセチル化シフトは、キノボースにおけるアセチル化を明らかに示し、かつ糖メチンの共鳴を「プロトンバルク領域」の外へ移動させた。アセチル化の2つの点は、Qui−H−3およびQui−H−4からアセタートカルボニル官能基までの(δ172.1、171.6)、HMBCにおける
2,3JCHロングレンジクロスシグナルにより明確に解明された(
図7参照。GE1741のキノボース単位における、このダブルのアセチル化は予想外であり、かつ関連性のある構造特性として、また恐らくは行われたアッセイにおけるこのサポニンの高い活性のための重要な要因として見なすことができる。
【0095】
グルクロン酸において始まる分枝した三糖の結合は、GlcA−H−1(δ4.42)からC−3(δ86.4)へ、および逆にH−3(δ3.86)からGlcA−H−1への、
2,3JCHによって確かめられた。ガラクトースはGlcAに結合されており、GlcA−H2(δ3.64)からGal−C−1(δ103.7)へ、および逆にGal−H−1(δ4.80)からFuc−C−2(δ75.1)への
2,3JCHによって確かめられた。キシロースは、GlcA−C−3に結合され、Xyl−H−1(δ4.57)のGlcA−C−3(δ86.6)への、および逆方向のGlc−H−3からXyl−C−1への
2,3JCHによって確かめられた。グリコシド間結合はまた、グリコシド結合を超えるスルースペース相互作用を示すNOESYにおいても、部分的に確かめられた。糖単位における
2,3JCHロングレンジシグナルに関連する全ての構造が、
図7に提示される。
【0096】
Gypsophila elegans M.bieb.サポニンのトランスフェクション効率
粗抽出物から、いくつかの精製工程を経て単離されたサポニンGE1741までの、トランスフェクション効率を測定した。全ての試験されたサポニンは、PDナノプレックスの単独の適用に比較して、トランスフェクション効率を有意に上昇させた。種子および根の抽出物は、匹敵するトランスフェクション効率を生じた(〜40%)。しかしながら、より低い濃度が根の抽出物には使用された(5μg/mL)。P2は、P3(29%)およびP4(27%)に比較して有意に高いトランスフェクション増強ポテンシャル(72%)を示した。P2から単離されたGE1741は、60%トランスフェクト細胞を以て著しい効率を達成した。
【0097】
これらの結果は、Neuro2a細胞におけるナノプレックス±トリテルペンサポニンのトランスフェクション効率を図示する
図6に示されている。異なる精製工程の生物学的活性を、GE1741の最終的な単離まで調べた。原抽出物のHPLC精製後に得られたP2は、単離されたGE1741をも上回る、最も高い効率を達成した。星印(
*)は、t検定により、p<0.05およびn
>3で決定されるような、GE1741の同時投与無しのトランスフェクション法に対して結果が有意であることを述べている。
【0098】
核酸の送達
図8は、GE1741(「新規サポニン」)によるトランスフェクション効率の増強を、先行技術のサポニン(SO1861)ならびに現在の「ゴールドスタンダード」であるリポフェクタミンによるトランスフェクション効率の増強と比較する。
【0099】
ネガティブコントロールとして、Neuro2a細胞を、核酸を含む粒子を添加せずにインキュベートした。
【0100】
mRNAに結合したペプチド(PmRNA)を含む粒子を添加すると、一桁台の範囲のトランスフェクション効率が見られた。個々の細胞懸濁液に増強剤としてサポニンを添加した後、トランスフェクション効率は、SO1861を用いた場合は約15%まで、しかしGE1741を用いた場合にはさらに35%まで上昇できた。
【0101】
Neuro2a細胞を、DNAに結合されたペプチドを含む粒子(PD)とインキュベートした場合、再び一桁台の範囲のトランスフェクション効率が見られた。準拠する細胞懸濁液にSO1861が添加された場合、トランスフェクション効率は約35%に上昇した。SO1861の代わりにGE1741を使用した場合、ほぼ60%のトランスフェクション効率が見られた。
【0102】
Neuro2a細胞を、ミニサークルDNAに結合されたペプチドを含むナノ粒子(PM)とインキュベートした場合、再び一桁台の範囲のトランスフェクション効率が見られた。SO1861を、準拠する細胞懸濁液に添加した後、トランスフェクション効率は40%よりも多く上昇することができた。一方、GE1741を細胞懸濁液に添加した場合、トランスフェクション効率はほぼ80%まで上昇した。
【0103】
ペプチドミニサークルDNAナノ粒子を用いた場合のほぼ80%のトランスフェクション効率は、「ゴールドスタンダード」であるリポフェクタミンについて観察された約70%のトランスフェクション効率よりもさらに良好である。したがってGE1741は、既に単離されたサポニンよりも良好であるばかりでなく、現在市販されているゴールドスタンダードよりもさらに高いトランスフェクション効率の上昇を示す。
【0104】
図8の星印は、t−検定(p<0.05、n
>3)を適用することにより、サポニンの同時投与無しのトランスフェクション法に対する有意差を示す。
【0105】
市販のトランスフェクション法とのGE1741の併用
トランスフェクション効率に対するGE1741の影響を調べる目的で、HCT−116細胞を市販のトランスフェクション試薬でトランスフェクトした。結果を
図9に示す。GE1741の添加は、それぞれのトランスフェクション法のトランスフェクション効率に上昇をもたらした。TansITによるトランスフェクション効率は、3パーセントポイントのわずかな上昇に過ぎず、またXtreme Geneのそれは8パーセントポイントであったのに対し、GE1741は、Genecellinのトランスフェクション効率を12%(GE1741無し)から42%(GE1741有り)までの、30パーセントポイント押し上げた。
【0106】
GE1741の細胞毒性および透過性
GE1741の毒性および透過化特性を測定する目的で、細胞生存率との直接的な関係を示すインピーダンスを調べた。
【0107】
GE1741は、トランスフェクション効率を増強するのに完全に充分である濃度において用いた場合、何ら細胞毒性効果を示さない。GE1741の毒性を試験するため、このサポニンを種々の濃度でNeuro2a細胞に適用し、50時間にわたりインキュベートした。2.5μg/mLおよび6.25μg/mLの濃度では、正規化細胞指数は(測定誤差以内で)、GE1741の添加無しのトランスフェクションプロセスに供されたネガティブコントロールについて観察された正規化細胞指数と同じである。このことは、
図10において、別の3つが重なった曲線1によって示される。GE1741濃度が12.5μg/mLに上昇すると、わずかに減少した正規化細胞指数が見られた(曲線2)。GE1741濃度を25μg/mLまで増加させると、正規化細胞指数はさらにわずかに減少した(曲線3)。
【0108】
細胞生存率に対する有意な影響は、50μg/mLのGE1741濃度においてのみ観察できた(曲線4)。この場合、正規化細胞指数はトランスフェクションの約12時間後に著しく減少した。
【0109】
トランスフェクション効率の増強は、2μg/mLのGE1741濃度(この濃度は、その結果が例えば
図5および8に示されている実験において使用された)において既に観察され得たことから、GE1741は適切な濃度範囲においては何ら細胞毒性を示さないと結論づけることができる。
【0110】
別の毒性試験では、DNAナノ粒子(曲線9)、2μg/mLのGE1741を加えたDNAナノ粒子(GE1741;曲線10)、または2μg/mLのGE1741のみ(曲線11)がNeuro2a細胞に添加された。これに関し、DNAナノ粒子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするDNAを含んでいた。緩衝液をネガティブコントロールとして使用した(曲線12)。矢印および単語「トランスフェクション」を付した時点において個々の物質を細胞に添加した後、細胞生存率には何ら有意差が見られなかった。したがって、試験したいかなる物質にも何ら毒性効果は示されなかった。
【0111】
トランスフェクション効率
GE1741のトランスフェクション効率はまた、サポリンをコードするDNAを用いて細胞をトランスフェクトすることによっても調べられた。サポリンは細胞毒性タンパク質である。トランスフェクションが成功すれば、トランスフェクトされた細胞は死ぬ。対応する結果は、
図12に示される。ネガティブコントロール(曲線5)は、何らペプチドDNAナノ粒子を用いずにインキュベートされたNeuro2a細胞を意味する。曲線6は、サポリンをコードするDNAを含むナノ粒子を用いた、Neuro2a細胞のトランスフェクション実験を意味する。この設定での正規化細胞指数は、ネガティブコントロールの正規化細胞指数にほぼ一致しており、非常に低いトランスフェクション効率が示唆される。緑色蛍光タンパク質をコードするDNAを含む、ペプチドDNAナノ粒子が、2μg/mLのGE1741と一緒に細胞に添加された場合、同様に高い正規化細胞指数を観察することができた。先の図面に示したように、ペプチドDNAナノ粒子とGE1741とのかかる組合せは、高いトランスフェクション効率に役立つ。GFPはNeuro2a細胞にとって無毒性であることから、この実験の設定での正規化細胞指数(曲線7)は、ネガティブコントロールの正規化細胞指数(曲線5)にだいたい一致する。
【0112】
しかしながら、サポリンをコードするDNAを含むペプチドDNAナノ粒子が、2μg/mLのGE1741と一緒にNeuro2a細胞に添加された場合、トランスフェクションの約15時間後には、さらなる細胞増殖を見ることはできなかった(曲線8)。むしろ、正規化細胞指数は3未満の値にとどまっており、それはネガティブコントロールの場合におけるよりもかなり低い。このことは、細胞毒性タンパク質サポリンをコードするDNAによる、Neuro2細胞の高効率のトランスフェクションを明確に示している。
【0113】
要約すれば、新規なトランスフェクション増強性の化合物が、ほぼ未調査の植物、Gypsophila elegans M.Biebに対しバイオアッセイ誘導分離戦略を用いることにより同定できた。この戦略により、精製および活性試験という交互のアプローチを行って、高度な生化学試験のための最も活性の高い化合物が見いだされた。生の根の抽出物のHPLCクロマトグラムは、注目すべき保持時間において多数のピークを示し、これらを直接的に、ペプチドベースのトランスフェクション法で試験した。低いレベルのP3およびP4に比較して、P2の明らかなトランスフェクション増強効果が、特定の分画中の高活性化合物の推定をもたらした。LC/MSによるさらなる精製および単離、ならびにMS/MSによるGE1741の同定により、1つの化合物が提供され、その強い活性が確認された。P2に対して低いGE1741の効率は、GE1741の他にその末端キシロース残基がアラビノースで置換されているサポニンを含む、P2におけるサポニン混合物の存在によって説明可能であった。
【0114】
トランスフェクション実験におけるGE1741の普遍的な適用可能性が調べられた。ナノプレックス内に取込まれた様々な核酸の送達を、かなり増大することが可能であった。mRNAトランスフェクションは、細胞の酵素による迅速な分解のため、DNAトランスフェクションよりも低い効率であった。しかしながら、転写工程をなくすことにより、24時間のインキュベーション時間後でも最高の効率が可能となり、それ故迅速なトランスフェクション法が示された。ミニサークルトランスフェクションは、おそらくはプラスミドDNAに比べてよりサイズの小さいミニサークルDNAによって引き起こされる、最高の効率をもたらした。
【0115】
普遍的で簡単な適用性を明らかに示すため、市販のトランスフェクション法に対するGE1741の影響を評価した。トランスフェクション効率の上昇を、各方法について達成することができた。特に有意な上昇は、Genecellinトランスフェクションについて達成できた。
【0116】
特定のインビトロおよびインビボ試験における、トランスフェクション試薬の使用に関する共通した問題および制限は、毒性効果であり、それはしばしば高い効率を伴ってくる。細胞生存率を表すインピーダンス測定を行うことにより、GE1741介在性のトランスフェクションを毒性の面で分析した。結果は、ナノプレックスとGE1741の組合せを用いてトランスフェクトされた細胞が、未処理のネガティブコントロールと同様に生存可能であったことを示した。種々のGE1741濃度の適用は、6.25μg/mLを超える濃度で始まる毒性と、50μg/mLの濃度における、かなりのインピーダンス低下によって示される最初の溶解性の効果とを示した。トランスフェクション効率の測定は、2μg/mLの濃度において行われたことから、最終的には、何ら毒性のない高い活性をGE1741について確認することができた。
【0117】
GE1741は、サポニン介在性のトランスフェクション、いわゆるサポフェクションのプロセスのための、新規で価値ある化合物である。
【0118】
先のセクションにおいて引用された刊行物のリスト:
Findeisen,M.;Brand,T.;Berger,S.著、A 1H−NMR thermometer suitable for cryoprobes(クライオプローブに適した1H−NMR温度計),「Magn Reson Chem」,2007年、第45巻、第2号、P.175−8.
Piantini,U;Sorensen,O.W.;Ernst,R.R著、Multiple quantum filters for elucidating NMR coupling networks(NMRカップリングネットワークを解明するための多量子フィルタ)、「Journal of the American Chemical Society」、1982年、第104巻、P.6800−6801.
Bax,A.;Davis,D.G.著、Practical aspects of two−dimentional transverse NOE spectroscopy(2次元トランスバースNOE分光法の実用面)、「Journal of Magnetic Resonance(1969)」、1985年、第63巻、P.207−213.
Braumschweiler,L.;Ernst R.R.著、Coherence transfer by isotropic mixing:Application to proton correlation spectroscopy(等方性の混合によるコヒーレンス移動:プロトン相関分光法への適用)、「Journal of Magnetic Resonance(1969)」、1983年、第53巻、P.521−528.
Jeener,J.;Meier,B.H.;Bachmann,P.;Ernst,R.R.著、Investigation of exchange processes by two−dimentional NMR spectroscopy(2次元NMR分光法による交換プロセスの研究)、「The Journal of Chemical Physics」、1979年、第71巻、P.4546−4553.
Bodenhausen,G.;Ruben,D.J.著、Natural abundance nitrogen−15 NMR by enhanced heteronuclear spectroscopy(強化された異種核分光法による窒素―15の天然存在率)、「Chemical Physics Letters」、1980年、第69巻、P.185−189.
Kessler,H.;Schmieder,P.;Kock,M.;Reggelin,M.著、Selection of methyl resonances in proton−detected heteronuclear shift correlation,the HQQC experiment(プロトン検出異種核シフト相関におけるメチル共鳴の選択、HQQC実験)、「Journal of Magnetic Resonance(1969)」、1991年、第91巻、P.375−379.
Kessler,H.;Schmieder,P.;Kurz,M.著、Implementation of the DEPT sequence in inverse shift correlaton;the DEPT−HMQC(逆シフト相関におけるDEPTシーケンスの実現:DEPT−HMQC)、「Journal of Magnetic Resonance(1969)」、1989年、第85巻、P.400−405.
Bax,A.;Subramanian,S.著、Sensitivity−enhanced two−dimesional heteronuclear shift correlation NMR spectroscopy(高感度化された2次元異種核シフト相関NMR分光法)、「Journal of Magnetic Resonance(1969)」、1986年、第67巻、P.565−569.
Cicero,D.O.;Barbato,G.;Bazzo,R.著、Sensitivity enhancement of two−dimensional experiment for the measurement of heteronuclear long−range coupling constants,by a new scheme of coherence selection by gradients(勾配によるコヒーレンス選択の新規スキームによる、異種核ロングレンジカップリング定数測定のための2次元実験の高感度化)、「Journal of Magnetic Resonance(カリフォルニア州、サンディエゴ:1997)」、2001年、第148巻、P.209−213.
Bax,A.;Summers,M.F.著、Proton and carbon−13 assignments from sensitivity−enhanced detection of heteronuclear multiple−bond connectivity by 2D multiple quantum NMR(2次元多量子NMRによる異種核多結合結合性の高感度化検出からのプロトンおよび炭素−13の帰属)、「Journal of the American Chemical Society」、1986年、第108巻、P.2093−2094.
【国際調査報告】