(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-527176(P2020-527176A)
(43)【公表日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】メチレンマロネートの紫外線硬化方法
(51)【国際特許分類】
C08F 22/14 20060101AFI20200807BHJP
C08F 16/36 20060101ALI20200807BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20200807BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20200807BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20200807BHJP
【FI】
C08F22/14
C08F16/36
C08F2/50
C09D4/00
C09D7/63
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2019-567338(P2019-567338)
(86)(22)【出願日】2018年7月13日
(85)【翻訳文提出日】2020年1月31日
(86)【国際出願番号】US2018041975
(87)【国際公開番号】WO2019014528
(87)【国際公開日】20190117
(31)【優先権主張番号】62/532,408
(32)【優先日】2017年7月14日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】513099186
【氏名又は名称】シラス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホルツァー,アレクサンダー・アール
(72)【発明者】
【氏名】デシュパンデ,アヌシュリー
(72)【発明者】
【氏名】パルスル,アニルッダ・エス
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ジェフリー・エム
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J011QA07
4J011QA08
4J011QA18
4J011QA19
4J011SA21
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4J038FA111
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4J038PC08
4J100AF10P
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4J100AL79P
4J100AL79Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA01
(57)【要約】
1種以上の光開始剤を、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて約85モルパーセント以上の純度を有する1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物と接触させることにより製剤を形成し、フリーラジカル重合、アニオン重合、又はその両方を開始するために該製剤を紫外線に曝露させ、製剤を硬化させて非粘着性表面を形成することを含む方法。この教示はまた、開示された方法に従って調製されたポリマーを企図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の光開始剤と、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づき、約85モル%以上の純度を有する1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させることにより製剤を形成すること、及びフリーラジカル重合、アニオン重合、又はその両方を開始するために該製剤を紫外線に曝露させて、該製剤を硬化させて非粘着性表面を形成することを含む、方法。
【請求項2】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が式1に対応する、請求項1に記載の方法。
【化1】
[式中、X
1及びX
2は、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項3】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Aに対応するエステル基を含む、請求項2に記載の方法。
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項4】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Bに対応するケト基を含む、請求項2に記載の方法。
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項5】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Cに対応する1つ以上のエステル基及び1つ以上のケト基を含む、請求項2に記載の方法。
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項6】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Dに対応する多官能性モノマーである、請求項2に記載の方法。
【化5】
[式中、Xは、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基であり、nは1以上の整数である。]
【請求項7】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、メチレンマロネートモノマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上の光開始剤が、αアミノケトン、αヒドロキシケトン、ホスフィンオキシド、フェニルグリオキサレート、チオキサントン、ベンゾフェノン、ベンゾインエーテル、オキシムエステル、アミン相乗剤、マレイミド、又はそれらの混合物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1種以上の光開始剤が、1,1−ジベンゾイルフェロセン、2−メチル−4’−(メチルチオ)―2−モルフィリノプロピオフェノン、トリブチルアミン及びテトラフェニルボレートの塩、イソプロピルチオキサントン、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光開始剤が、1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物に、約0.1重量%〜約6重量%の量で添加される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、2つ以上のコア式の各々上の1つの酸素原子間のヒドロカルビレン結合により結合した2つ以上のコアユニットを有する1,1−二置換アルケン化合物を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、1種以上の(メタ)アクリレート、又はフリーラジカルによって重合することができる不飽和分子を含む任意の他のアルケンを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
周囲温度で実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記紫外線が、約1ワット/cm2から約5ワット/cm2の間の放射照度、及び約250ナノメートル〜約400ナノメートルの波長を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記紫外線が、約325ナノメートル〜約375ナノメートルで放出される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記製剤が、フィルム又はコーティングの形態で硬化される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記フィルム又はコーティングが、紫外線に曝露された際に粘着性のないフィルムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記製剤が、約3分以下の間紫外線に曝露される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記製剤が、約60秒以下の間紫外線に曝露される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の製剤を、少なくとも弱い求核性である基材の表面と接触させること、及び該製剤を紫外線に曝露させることを含み、該製剤がその厚さ全体を通して硬化される、方法。
【請求項21】
前記製剤が、フリーラジカル硬化及びアニオン硬化の組合せによって硬化される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記基材が、その表面に堆積した着色コーティングを有し、着色コーティングが弱い塩基性又は求核性である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
純度が、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて、約90モル%以上である、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
純度が、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて、約97モル%以上である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法によって調製されたポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に援用される、2017年7月14日に出願された米国仮出願第62/532,408号に対する35U.S.C.119(e)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本明細書中の教示は、1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む製剤を対象にする。さらに開示されるのは、1種以上の開始剤を含む製剤を形成し、該製剤を硬化する方法であって、紫外線放射を使用することを含む方法である。
【背景技術】
【0003】
メチレンマロネートのような1,1−二置換アルケン化合物は、2つのエステル基及び2つのエステル基の間に配置されたアルキレン基を含む。最近の開発は、これらの化合物の合成及び様々用途におけるそれらの使用を促進する。Malofskyの米国特許第8,609,885号、同第8,884,051号、及び同第9,108,914号(これらは、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。)を参照されたい。これらの化合物をエステル交換するための方法も最近開発された。MalofskyらWO2013/059473号、米国特許第2014/0329980号及び同第9,512,058号(これらは、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。)は、複数の合成スキームによる多官能性メチレンマロネートの調製を開示している。開示された方法の1つは、メチレンマロネートを触媒の存在下でポリオールと反応させて化合物を調製することを含み、ここで、メチレンマロネート上のエステル基の1つはエステル交換してポリオールと反応し、多官能性化合物を形成する(多官能性とは、2つ以上のメチレンマロネートコアユニットの存在を意味する)。酵素触媒の使用が開示される。Sullivanの米国特許第9,416,091号(これは、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される。)は、特定の酸触媒を用いた1,1−二置換−1−アルケンのエステル交換を開示する。
【0004】
1,1−二置換アルケン化合物の重合は塊状態で行うことができる。得られた重合方法は制御が困難であり、結果として、様々な性能又は機械的特性を生じ、又は不完全又は不均等な硬化を生じることがある。典型的には、得られたポリマーは、一般的に高いレベルの分枝、高い多分散性指数、高濃度の非ポリマー反応生成物、高濃度のモノマー及び/若しくはオリゴマー、又は一般的に高い粘度の1つ以上を特徴とし得る。
【0005】
本明細書で使用する場合、塊状重合とは、室温で液体である重合性組成物中の化合物の総重量に基づき、1つ以上のモノマーの濃度が約80重量%以上、好ましくは約90重量%以上(例えば、約100重量%)である1つ以上のモノマーを含む重合性組成物の重合を指す。これらの重合は、典型的には、重合を開始するために熱又は放射線のいずれかの形でエネルギーの投入も必要とする。
【0006】
加熱、紫外線及び過酸化物を用いたジアルキルメチレンマロネートモノマーのフリーラジカル重合については、米国特許第2,330,033号及び同第2,403,791号(いずれも参照により本明細書に援用される)に記載されている。これらの特許において、モノマーは、低純度モノマーをもたらす従来の方法を用いて調製された。これらの特許におけるポリマー例は全て塊状重合により調製される。したがって、分子量及び分子量分布等のポリマーの特性を制御することは期待できないであろう。
【0007】
市販の紫外線硬化系は、主としてウレタン及びエポキシアクリレートのフリーラジカル化学に基づいている。しかし、これらのタイプの技術の限界は、フリーラジカルが酸素阻害を受けやすいことであり、これは、いくつかの埋め込みタイプ及びカプセル封入タイプの用途において粘着性の露出表面をもたらす。
【0008】
アニオン重合方法を用いた1,1−二置換アルケン化合物の重合は、1,1−二置換アルケン化合物の塊状重合において有用であり、周囲条件(出発条件)又はその近傍で作動可能な方法が開示されている。このようなアニオン塊状重合は、広範囲の開始剤を用いて開始することができ、特定の基材との接触によって開始することさえできる。しかし、紫外線放射に曝露されたときに塩基性類似体にフラグメント化する化合物は、商業的な魅力に乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,609,885号明細書
【特許文献2】米国特許第8,884,051号明細書
【特許文献3】米国特許第9,108,914号明細書
【特許文献4】国際公開第2013/059473号
【特許文献5】米国特許出願公開第2014/0329980号明細書
【特許文献6】米国特許第9,512,058号明細書
【特許文献7】米国特許第9,416,091号明細書
【特許文献8】米国特許第2,330,033号明細書
【特許文献9】米国特許第2,403,791号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
必要とされるものは、紫外線光源への曝露時に硬化させることができる組成物、及び該組成物を配合し、該組成物を硬化させる関連方法である。必要なのは、柔軟性、基材への接着性、鉛筆硬度、耐溶剤性、耐摩耗性、耐紫外線性、高温の酸及び塩基への耐性等の強化された特性を示す、コーティングであり得る組成物である。このようなコーティングのための成分及びコーティングを調製する方法も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、1種以上の光開始剤と1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させることによって製剤を形成する工程、及びフリーラジカル重合、アニオン重合、又はその両方を開始するために製剤を紫外線に曝露させ、製剤を硬化させて非粘着性表面を形成する工程を含む方法を対象にする。1,1−二置換アルケン化合物は、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づき、約85モル%以上、約90モル%以上、約93モル%以上、約97モル%以上、又は約99モル%以上の純度を有し得る。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は式1に対応し得る。
【0012】
【化1】
式中、X
1及びX
2は、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、かつ、式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は、式1Aに対応するエステル基を含み得る。
【0013】
【化2】
式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は、式1Bに対応するケト基を含み得る。
【0014】
【化3】
式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は、式1Cに対応する1つ以上のエステル基及び1つ以上のケト基を含み得る。
【0015】
【化4】
式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基である。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は、式1Dに対応する多官能性モノマーであり得る。
【0016】
【化5】
式中、Xは、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか、又は異なるヒドロカルビル基であり、nは1以上の整数である。
【0017】
1種以上の1,1−二置換アルケン化合物は、メチレンマロネートモノマーであってよい。組成物は、2つ以上のコア式の各々上の1つの酸素原子間のヒドロカルビレン結合によって一緒に結合した2つ以上のコアユニットを有する1,1−二置換アルケン化合物を含むことができる。組成物は、1つ以上の(メタ)アクリレート又はフリーラジカルによって重合することができる不飽和分子を含む任意の他のアルケンを含むことができる。
【0018】
1種以上の光開始剤は、αアミノケトン、αヒドロキシケトン、ホスフィンオキシド、フェニルグリオキサレート、チオキサントン、ベンゾフェノン、ベンゾインエーテル、オキシムエステル、アミン相乗剤、マレイミド、又はそれらの混合物を含み得る。1種以上の光開始剤は、1,1−ジベンゾイルフェロセン、2−メチル−4’−(メチルチオ)―2−モルホリノ(morphlino)プロピオフェノン、トリブチルアミン及びテトラフェニルボレートの塩、イソプロピルチオキサントン、又はそれらの組み合わせから選択され得る。光開始剤を、1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物に、約0.1重量%〜約6重量%の量で添加することができる。
【0019】
本明細書に開示する方法は、周囲温度で実施することができる。紫外線は、約1ワット/cm
2から約5ワット/cm
2の間の放射照度を有することができる。紫外線は、約250ナノメートル〜約400ナノメートルの波長を有することができる。例えば、波長は約325ナノメートル〜約375ナノメートルであってよい。製剤は、フィルム又はコーティングの形で塗布され、硬化され得る。フィルム又はコーティングは、紫外線に曝露された際に粘着性のないフィルムであってよい。製剤は、約3分以下の間紫外線に曝露させることができる。製剤は、約60秒以下の間紫外線に曝露させることができる。
【0020】
本明細書の教示による方法は、開示された製剤を基材の表面と接触させることを含むことができる。基材は、少なくとも軽度に求核性であり得る。この方法は、製剤を紫外線に曝露させることを含むことができる。製剤は、その全体の厚さの少なくとも一部を通して、又はその全体の厚さを通して硬化され得る。この製剤は、フリーラジカルとアニオン硬化の組合せによって硬化させることができる。基材は、その表面に堆積された着色コーティングを有することができ、着色されたコーティングは、弱塩基性又は求核性であり得る。
【0021】
本明細書中の教示に従う方法は、1種以上の1,1−二置換アルケンモノマーを含むポリマーを製造するために使用され得る。
【0022】
したがって、本教示は、方法、及びフリーラジカル光開始剤化学及び/又はアニオン性光潜在性塩基化学によって硬化させることができる該方法から生じたポリマーを意図する。本教示は、フリーラジカル及びアニオン化学の組合せが、現行のフリーラジカル化学の限界を克服するのに役立ち得、その結果、硬化材料の表面に対する酸素阻害効果を減少又は消失させながら、硬化の深さが改善されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に提示される説明及び図は、本発明、その原理及びその実用化について当業者に知らせることを意図したものである。示された本発明の具体的な実施形態は、本発明を網羅するもの又は本発明を限定するものであることを意図したものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と共に、添付の特許請求の範囲に基づき決定されるべきである。特許出願及び公表文献をはじめとする全ての論文及び参照文献の開示は、あらゆる目的のために参照により援用される。他の組合せもまた、以下の請求項から得られるように可能であり、請求項は、参照によって本明細書に援用される。
【0024】
開示されるのは、光開始剤及び/又は光塩基発生剤等の1種以上の開始剤と、1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させることによって形成される組成物である。驚くべきことに、1,1−二置換アルケンを含むモノマーは、紫外線放射に曝露されると、フリーラジカルで、アニオン性で、又はその両方で重合し、ポリマーの非粘着性表面を形成し得ることが見出された。組成物は、紫外線放射及びアニオン表面開始の両方によって硬化され得、ここで、組成物は、基板の基礎面に塗布される。
【0025】
本明細書に開示される製剤は、1種以上のモノマーを含有することができる。モノマーは、典型的には、1種以上の1,1−二置換アルケン化合物(例えば、1種以上の1,1−二置換エチレン化合物)を含む。1,1−二置換アルケンは、主要なモノマー(すなわち、ポリマーブロック又はポリマー全体の50重量%以上で存在するモノマー)であることができ、1,1−二置換アルケン化合物は、中心の炭素原子が他の炭素原子に二重に結合してエチレン基を形成する化合物(例えば、モノマー)である。中心の炭素原子はさらに2つのカルボニル基に結合する。各カルボニル基は、直接結合又は酸素原子によりヒドロカルビル基に結合する。ヒドロカルビル基が直接結合によりカルボニル基に結合すると、ケト基が形成される。ヒドロカルビル基が酸素原子によりカルボニル基に結合すると、エステル基が形成される。1,1−二置換アルケンは、以下の式Iに示されるような構造を有することができ、式中、X
1及びX
2は酸素原子又は直接結合であり、R
1及びR
2は、同じであるか、又は異なり得る各ヒドロカルビル基である。X
1及びX
2の両方が、式IIAに例示されているように酸素原子であってもよく、式IIBに示されているように、X
1及びX
2の一方は酸素原子であってもよく、他方は直接結合であってもよく、又は式IICに例示されているように、X
1及びX
2の両方が直接結合であってもよい。本明細書に用いられる1,1−二置換アルケン化合物は、全てのエステル基(式IIAに例示されるように)、全てのケト基(式IICに例示されるように)又はそれらの混合物(式IIBに例示されるように)を有し得る。全てのエステル基を有する化合物は、様々なそのような化合物の合成についての自由度のため、幾つかの用途において好ましい場合がある。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参照文献は、本開示で使用される用語の多くについての一般的な定義を含む技術の1つを提供している:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994年);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker版、1988年);The Glossary of Genetics、第5版、R. Riegerら(編集)、Springer Verlag (1991年);及びHale & Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991年)。本明細書中で使用される場合、以下の用語は、特に明記しない限り、以下に起因する意味を有する。
【0031】
本明細書中で使用される1種以上は、記載された成分の少なくとも1つ、又は複数を開示されているように使用することができることを意味する。官能性に関して用いられる公称値は、理論的官能性を意味し、一般にこれは使用される構成成分の化学量論から計算できる。一般的に、実際の官能性は、原料の不完全さ、反応物の不完全な変換及び副生成物の形成のために異なる。この文脈における耐久性は、一旦硬化された組成物が、その設計された機能を遂行するために十分に強く残存することを意味し、硬化組成物が接着剤である実施形態において、接着剤は、硬化された組成物を含む構造物の寿命又は寿命の大部分の期間、基材を一緒に保持する。硬化された組成物がフィルム、コーティング、又はシーラントである場合、フィルム又はシーラントは、硬化された組成物を含む構造の寿命又は寿命の大部分の期間、1つ以上の基材に接着する。この耐久性の指標として、硬化性組成物(例えば、接着剤、フィルム、コーティング、又はシーラント)は、促進劣化中に優れた結果を示すことができる。成分の残留量とは、遊離型で存在するか、又はポリマーのような他の材料と反応した成分の量を指す。典型的には、成分又は組成物を調製するために利用される構成成分から成分の残留量を計算することができる。あるいは、成分の残留量は既知の分析技術を利用して決定することもできる。ヘテロ原子は窒素、酸素、硫黄及びリンを意味し、より好ましいヘテロ原子は窒素及び酸素を含む。本明細書中で使用されるヒドロカルビルとは、1つ以上の炭素原子骨格及び水素原子を含む基を指し、任意に1個以上のヘテロ原子を含むことができる。ヒドロカルビル基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は当業者に周知の1つ以上の官能基を形成することができる。ヒドロカルビル基は、脂環式、脂肪族、芳香族又はそのような部分の任意の組合せを含むことができる。脂肪族部分は直鎖状又は分枝状であってよい。脂肪族及び脂環式部分は、1つ以上の二重結合及び/又は三重結合を含み得る。ヒドロカルビル基には、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルカリル及びアラルキル基が含まれる。脂環式基は環状部分と非環状部分の両方を含むことができる。ヒドロカルビレンとは、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、アルカリレン及びアラルキレンのような、複数の原子価を有するヒドロカルビル基又は記載されたサブセットのいずれかを意味する。1つ又は両方のヒドロカルビル基は、1個以上の炭素原子と1個以上の水素原子からなることができる。本明細書で使用されるように、重量パーセント又は重量部は、特に明記しない限り、溶液組成物の重量を指すか、又はそれに基づく。
【0032】
1,1−二置換アルケン化合物とは、二重結合が結合した炭素を有し、さらにカルボニル基の二つの炭素原子に結合した化合物を意味する。1,1−二置換アルケン化合物の好ましいクラスは、以下のコア式を有する化合物を指すメチレンマロネートである。
【0034】
「単官能性」という用語は、1つのコア式のみを有する1,1−二置換アルケン化合物又はメチレンマロネートを指す。「二官能性」という用語は、2つのコア式の各々上にある1つの酸素の間のヒドロカルビル結合を介して結合された2つのコア式を有する1,1−二置換アルケン化合物又はメチレンマロネートを指す。「多単官能性」という用語は、隣接する2つのコア式の各々上の1つの酸素原子間のヒドロカルビル結合を介して鎖を形成する複数のコア式を有する1,1−二置換アルケン化合物又はメチレンマロネートを指す。1,1−二置換アルケン化合物は、1,1−ジエステル−1−アルケンであってよい。本明細書中で使用される場合、ジエステルとは、2つのエステル基を有する任意の化合物を指す。1,1−ジエステル−1−アルケンは、2つのエステル基と1つの炭素原子と呼ばれる単一つの炭素原子に結合した二重結合を含む化合物である。ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、エステル基間にヒドロカルビレン基を有し、ジエステルの2つのカルボニル基に結合している炭素原子に二重結合が結合していないジエステルである。「ケタール」という用語は、ケタール官能基を有する分子、すなわち、2つの−OR基に結合した炭素を含む分子を指し、式中、Oは酸素であり、Rは任意のアルキル基を表す。「揮発性」及び「不揮発性」という用語は、揮発性の場合は常温及び常圧で容易に蒸発することができる化合物、不揮発性の場合は常温及び常圧で容易に蒸発することができない化合物を指す。本明細書中で使用される、「安定化」(例えば、「安定化」1,1−二置換アルケン化合物又は該化合物を含むモノマー組成物という文脈において)という用語は、活性化剤による活性化の前に、実質的に時間と共に重合しない、実質的に硬化しない、ゲルを形成しない、増粘しない、又は時間と共に粘度が上昇しない、及び/又は時間と共に硬化速度における最小損失を実質的に示す(すなわち、硬化速度が維持される)化合物(又はモノマー組成物)の傾向を指す。本明細書中で使用される場合、「保存可能期間」(例えば、1,1−二置換アルケン化合物が改良された「保存可能期間」を有するという文脈において)という用語は、所定の期間、例えば、1か月、6か月、又はさらには1年以上安定化される1,1−二置換アルケン化合物を指す。
【0035】
ヒドロカルビル基(例えば、R
1及びR
2)は、それぞれ、直鎖若しくは分枝鎖アルキル、直鎖若しくは分枝鎖アルキルアルケニル、直鎖若しくは分枝鎖アルキニル、シクロアルキル、アルキル置換シクロアルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリルを含むことができる。ヒドロカルビル基は、任意選択的に、ヒドロカルビル基の骨格中に1個以上のヘテロ原子を含むことができる。ヒドロカルビル基は、モノマー又は該モノマーから調製されたポリマーの最終的な機能に悪影響を与えない置換基で置換してもよい。好ましい置換基には、アルキル、ハロ、アルコキシ、アルキルチオ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、アジド、カルボキシ、アシルオキシ、及びスルホニル基が挙げられる。より好ましい置換基には、アルキル、ハロ、アルコキシ、アルキルチオ(alylthio)、及びヒドロキシ基が挙げられる。最も好ましい置換基には、ハロ、アルキル、及びアルコキシ基が挙げられる。
【0036】
本明細書で使用する場合、アルカリルとは、アリール基が結合したアルキル基を意味する。本明細書中で使用される場合、アラルキルは、アルキル基が結合したアリール基を意味し、ジフェニルメチル基又はジフェニルプロピル基のようなアルキレン架橋アリール基を含む。本明細書中で使用する場合、アリール基は、1つ以上の芳香環を含むことができる。シクロアルキル基には、任意選択的に架橋環を含む1つ以上の環を含む基が挙げられる。本明細書中で使用する場合、アルキル置換シクロアルキルとは、シクロアルキル環に結合した1つ以上のアルキル基を有するシクロアルキル基を意味する。
【0037】
ヒドロカルビル基は、1〜30個の炭素原子、1〜20個の炭素原子、又は1〜12個の炭素原子を含むことができる。骨格中にヘテロ原子を有するヒドロカルビル基は、1つ以上のアルキルエーテル基又は1つ以上のアルキレンオキシ基を有するアルキルエーテルであってよい。アルキルエーテル基は、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシであり得る。そのような化合物は、約1〜約100のアルキレンオキシ基、約1〜約40のアルキレンオキシ基、約1〜約12のアルキレンオキシ基、又は約1〜約6のアルキレンオキシ基を含むことができる。
【0038】
ヒドロカルビル基(例えば、R
1、R
2、又はその両方)の1つ以上は、C
1−15直鎖若しくは分枝鎖アルキル、C
1−15直鎖若しくは分枝鎖アルケニル、C
5−18シクロアルキル、C
6―24アルキル置換シクロアルキル、C
4−18アリール、C
4−20アラルキル、又はC
4−20アラルキルを含み得る。ヒドロカルビル基は、C
1−8直鎖若しくは分枝鎖アルキル、C
5−12シクロアルキル、C
6―12アルキル置換シクロアルキル、C
4−18アリール、C
4−20アラルキル、又はC
4−20アラルキルを含み得る。
【0039】
アルキル基は、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第3級ブチル、ヘキシル、エチルペンチル、及びヘキシル基を含み得る。より好ましいアルキル基は、メチル及びエチルを含む。シクロアルキル基には、シクロヘキシル及びフェンシルが含まれ得る。アルキル置換基は、メンチル及びイソボルニルを含み得る。
【0040】
カルボニル基に結合したヒドロカルビル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第3級、ペンチル、ヘキシル、オクチル、フェンシル、メンチル、及びイソボルニルが含まれ得る。
【0041】
モノマーには、メチルプロピルメチレンマロネート、ジヘキシルメチレンマロネート、ジイソプロピルメチレンマロネート、ブチルメチルメチレンマロネート、エトキシエチルエチルメチレンマロネート、メトキシエチルメチルメチレンマロネート、ヘキシルメチルメチレンマロネート、ジペンチルメチレンマロネート、エチルペンチルメチレンマロネート、メチルペンチルメチレンマロネート、エチルエチルメトキシメチレンマロネート、エトキシエチルメチルメチレンマロネート、ブチルエチルメチレンマロネート、ジブチルメチレンマロネート、ジエチルメチレンマロネート(DEMM)、ジエトキシエチルメチレンマロネート、ジメチルメチレンマロネート、ジ−N−プロピルメチレンマロネート、エチルヘキシルメチレンマロネート、メチルフェンシルメチレンマロネート、エチルフェンシルメチレンマロネート、2−フェニルプロピルエチルメチレンマロネート、3−フェニルプロピルエチルメチレンマロネート及びジメトキシエチルメチレンマロネートを挙げることができる。
【0042】
1,1−二置換アルケンの一部又は全部は多官能性であってもよく、複数のコアユニット、ひいては複数のアルケン基を有する。例示的な多官能性1,1−二置換アルケンは、次式によって図示される。
【0043】
【化11】
式中、R
1及びR
2は先に定義されたとおりであり、Xは、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、nは1以上の整数であり、Rはヒドロカルビル基であり、1,1−二置換アルケンはn+1個のアルケンである。式において、nは1〜約7、1〜約3、又は1であり得る。例示的な実施形態において、R
2は、各場合で別々に、直鎖若しくは分岐鎖アルキル、直鎖若しくは分岐鎖アルケニル、直鎖若しくは分岐鎖アルキニル、シクロアルキル、アルキル置換シクロアルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリルであることができ、ここで、ヒドロカルビル基は、ヒドロカルビル基の骨格中に1個以上のヘテロ原子を含むことができ、化合物又は該化合物から調製されたポリマーの最終的な機能に悪影響を与えない置換基で置換され得る。例示的置換基は、R
1に関して有用であると開示されたものであってよい。特定の実施形態において、R
2は、各場合で別々に、C
1−15直鎖若しくは分枝鎖アルキル、C
2−15直鎖若しくは分枝鎖アルケニル、C
5−18シクロアルキル、C
6―24アルキル置換シクロアルキル、C
4−18アリール、C
4−20アラルキル、又はC
4−20アラルキル基であってよい。特定の実施形態において、R
2は、各場合で別々に、C
1−8直鎖若しくは分枝鎖アルキル、C
5−12シクロアルキル、C
6―12アルキル置換シクロアルキル、C
4−18アリール、C
4−20アラルキル、又はC
4−20アルカリル基であってよい。
【0044】
本明細書中の教示によれば、1種以上のモノマーは、直接結合(例えば、炭素−炭素結合)又は酸素原子によりカルボニル基の各々に結合したヒドロカルビル基を有する1,1−二置換アルケン化合物であるコモノマー、例えば、上述の1つ以上の特徴を有するモノマーを含むことができる。もし含まれていれば、コモノマーは任意選択的に1,1−二置換アルケン化合物でないモノマーであってよい。アニオン重合又はフリーラジカル重合が可能な任意のコモノマーを用いることができる。例えば、コモノマーは、1,1−二置換アルケン化合物と共にランダムコポリマーを形成することができ、1,1−二置換アルケン化合物と共にブロックコポリマーを形成することができ、又はその両方である。
【0045】
1,1−二置換アルケン化合物は、重合できるように十分に高い純度をもたらす方法を用いて調製することができる。1,1−二置換アルケン化合物の純度は、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は99モル%以上の1,1−二置換アルケン化合物が重合過程でポリマーに変換されるように、十分に高くてよい。1,1−二置換アルケン化合物の純度は、1、1−二置換アルケン化合物の総重量に基づき、約85モル%以上、約90モル%以上、約93モル%以上、約95モル%以上、約97モル%以上、又は約99モル%以上であり得る。1,1−二置換アルケン化合物が不純物を含む場合、約40モル%以上、又は約50モル%以上の不純物分子が類似の1,1−二置換アルカン化合物である。ジオキサン基を有するあらゆる不純物の濃度は、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて、約2モル%以下、約1モル%以下、約0.2モル%以下、又は約0.05モル%以下であり得る。(例えば、アルケンと水とのマイケル付加による)類似のヒドロキシアルキル基で置換されたアルケン基を有するあらゆる不純物の総濃度は、1,1−二置換アルケン化合物中の全モルに基づいて、約3モル%以下、約1モル%以下、約0.1モル%以下、又は約0.01モル%以下であり得る。1,1−二置換アルケン化合物は、反応生成物又は中間反応生成物(例えば、ホルムアルデヒド及びマロン酸エステルの供給源の反応生成物又は中間反応生成物)を蒸留する1つ以上の工程(例えば、2つ以上の工程)を含む方法によって調製することができる。
【0046】
1,1−二置換アルケン化合物は、その全体が参照により本明細書に援用される米国特許第8,609,885号(Malofskyら)の教示に従って製造されたモノマーを含むことができる。使用することができるモノマーの他の例としては、国際特許出願公開第WO2013/066629号及びWO2013/059473号、並びに米国特許第9,221,739号、同第9,512,058号及び同第9,527,795号(これらは全て参照により本明細書に援用される。)に教示されているモノマーが挙げられる。
【0047】
開示された組成物は、ポリエステルマクロマーを含む1,1−二置換アルケン含有構造を含むことができ、これは、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基を含む1本以上の鎖を含むことができ、ジエステルの一部は、1,1−ジエステル−1−アルケンを含むことができる。ジオールとジエステルの残基は鎖に沿って交互に配置されたり、鎖に沿ってランダムに配置されたりすることができる。ジエステルは、ポリオール又はジオールでエステル交換される任意のジエステル化合物をさらに含むことができる。ジエステル化合物の中にはジヒドロカルビルジカルボキシレートがある。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、記載のように3本以上の鎖を有することができる。3本以上の鎖を有する、ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、元来3つ以上のヒドロキシ基を有するポリオールの残基を含む。3本以上の鎖は、3つ以上のヒドロキシ基のそれぞれから伝播することができる。3本以上の鎖を有するポリオールは、1,1−二置換アルケン含有化合物、例えば、ポリエステルマクロマーの鎖の各々がそこから伝播する開始剤として機能し得る。ポリオールがジオールの場合には、形成されるマクロマーが直鎖状であるため、単一鎖が生成される。3つ以上のヒドロキシ基を有するポリオールを用いてマクロマーを調製する場合、ヒドロキシ基の全てが鎖を伝播するわけではないので、ポリオールは2本以上の鎖を有することができる。マクロマーは、1本以上の鎖を含むことができ、2本以上の鎖を含むことができ、又は3本以上の鎖を含むことができる。マクロマーは、8本以下の鎖、6本以下の鎖、4本以下の鎖、又は3本以下の鎖を含むことができる。鎖は、1つ以上のポリオール、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基を含むことができ、1種以上の1,1−ジエステル−1−アルケン及び任意選択的に1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含んでいてもよい。鎖は、1つ以上のジオール及び1つ以上のジエステルの残基を含むことができ、1,1−ジエステル−1−アルケン及び任意選択的に1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートを含んでいてもよい。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、1本の鎖の端末に少なくとも1つの1,1−ジエステル−1−アルケンの残基を含む。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、さらに、1つ以上のジオール又はジヒドロカルボキシルジカルボキシレートを、1本以上の鎖の末端に含むことができる。鎖の末端の実質的に全てが、1,1−ジエステル置換アルケンであってもよい。
【0048】
1,1−二置換アルケン化合物、及びこれらの1,1−二置換アルケン化合物を含んで形成された製剤は、それらの骨格中に、少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む繰り返し単位を含有することができる。ジエステルのかなりの部分は、1,1−ジエステル−置換−1−アルケンであってよい。ジエステルの一部は、1,1−ジヒドロカルビルジカルボキシレートであってよい。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物の骨格は、コーティング、フィルム、繊維、粒子等において本明細書に開示されているようなポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物の使用を容易にするために、少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む十分な数の反復単位を含む。1、1−二置換アルケン含有化合物中の少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む反復単位の数は、2以上、4以上、又は6以上であってよい。1,1−二置換アルケン含有化合物中の少なくとも1つのジエステル及び1つのジオールの残基を含む反復単位の数は、10以下、8以下、又は6以下であってよい。いくつかの1,1−二置換アルケン含有化合物中のジエステルは、全て1,1−ジエステル−1−アルケンであってよい。いくつかの1,1−二置換アルケン含有化合物中のジエステルは、1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートであってよい。いくつかの1,1−二置換アルケン含有化合物中の1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルボキシルジカルボキシレートの比率を選択して、1,1−二置換アルケン含有化合物から調製した構造中で所望の架橋度を与える。いくつかの1,1−二置換アルケン含有化合物中の1,1−ジエステル−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートの比は、1:1以上、6:1以上又は10:1以上であってよい。いくつかの1,1−二置換アルケン含有化合物中の1,1−ジエステル置換−1−アルケン及びジヒドロカルビルジカルボキシレートの比率は、15:1以下、10:1以下、6:1以下又は4:1以下であってよい。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、約600以上、約900以上、約1000以上又は約1200以上の数平均分子量を示すことができる。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、約3000以下、約2000以下又は約1600以下の数平均分子量を示すことができる。本明細書で使用される数平均分子量は、試料中の全ポリマー分子の総重量を、試料中のポリマー分子の総数で除して決定される。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物の多分散性は、約1.05以上又は約1.5以上であってよい。ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物の多分散性は、約5以下又は約3.5以下であってよい。多分散性を計算するために、重量平均分子量が、ポリメチルメタクリレート標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィーを使用して決定される。
【0049】
ポリエステルマクロマーのような開示されている1,1−二置換アルケン含有化合物は、1,1−ジエステル−1−アルケン、ジオール、ポリオール及び/又はジヒドロカルビルジカルボキシレートから調製することができる。特定の構成成分の選択、構成成分の比率及び処理工程の順序は、1,1−二置換アルケン含有化合物の最終構造及び含有量に影響を及ぼす。3つ以上のヒドロキシ基を有するポリオールの存在が鎖を開始するように機能すると、3本以上の鎖を有するポリエステルマクロマーが形成される。すなわち、マクロマーは分岐を示し、ポリマーは直鎖状ではない。1,1−ジエステル−1−アルケンは鎖を形成し、アニオン重合及び/又はフリーラジカル重合により架橋可能なペンダントアルケン基を導入することを助ける。ジオールは単一鎖を開始し、1,1−二置換アルケン含有化合物の鎖を伸長することができる。ジヒドロカルビルジカルボキシレートは、該鎖を形成するのを助け、ペンダントアルケン基を互いに間隔を空けるように機能し、それによって架橋間の距離と架橋当たりの平均分子量を増加させる。
【0050】
ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物は、十分な量の1つ以上のポリオールの残基を含むことができ、これに関連してポリオールは、所望の数の鎖を開始するために3つ以上のヒドロキシ基を有する。ポリエステルマクロマー中のポリオールの残基は、マクロマーの約20モル%以上、30モル%以上又は約40モル%以上であってよい。ポリエステルマクロマー中のポリオールの残基は、約50モル%以下、又は約40モル%以下であり得る。ポリエステルマクロマーは、所望の鎖長及び数平均分子量を有するポリエステルマクロマーを調製するために、十分な量の1つ以上のジオールの残基を含むことができ、これとの関連でポリオールは2つのヒドロキシ基を有する。ポリエステルマクロマー中のジオールの残基は、マクロマーの約20モル%以上、40モル%以上又は約50モル%以上であってよい。ポリエステルマクロマー中のジオールの残基は、約50モル%以下、40モル%以下又は約30モル%以下であってよい。ポリエステルマクロマーは、ポリエステルマクロマーを含む組成物に所望の架橋密度を与えるために、十分な量の1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの残基を含むことができる。ポリエステルマクロマー中の1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの残基は、マクロマーの約20モル%以上、30モル%以上又は約40モル%以上であってよい。ポリエステルマクロマー中の1,1−ジエステル−置換−1−アルケンの残基は、マクロマーの約60モル%以下、マクロマーの約50モル%以下、約40モル%以下又は約30モル%以下であってよい。ポリエステルマクロマーは、ポリエステルマクロマーを含む組成物に架橋間の所望の空間を提供して、ポリエステルマクロマーを含む構造物に所望の可撓性及び/又は弾力性を提供するために、十分な量のジヒドロカルビルジカルボキシレートの残基を含むことができる。ポリエステルマクロマー中のジヒドロカルボキシルジカルボキシレートの残基は、ポリエステルマクロマーの約10モル%以上、20モル%以上又は約30モル%以上であってよい。ポリエステルマクロマー中のジヒドロカルボキシルジカルボキシレートの残基は、ポリエステルマクロマーの約30モル%以下、20モル%以下又は約10モル%以下であってよい。
【0051】
有用なポリオールは、ヒドロカルビレン骨格に結合した2つ以上のヒドロキシ基を有するヒドロカルビレン骨格を有し、本明細書に開示するエステル交換条件下でエステル化合物をエステル交換することができる化合物である。本明細書で有用なポリオールは2つの群に分類される。第1の群は、ヒドロカルビレン骨格に結合した2つのヒドロキシ基を有し、ポリエステルマクロマーの鎖を開始及び伸長させるために機能するジオールである。ヒドロカルビレン骨格に結合した3つ以上のヒドロキシ基をもつポリオールは、3本以上の鎖を開始するように機能する。ジオールはまた、3本以上の鎖を伸ばす機能をもつこともある。ポリオールは、2〜10のヒドロキシ基、2〜4のヒドロキシ基、又は2〜3のヒドロキシ基を有することができる。ジオールをはじめとするポリオールの骨格は、アルキレン、アルケニレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、アルキルヘテロシクリレン、アリーレン、アラルキレン、アルカリレン、ヘテロアリーレン、アルクへテロアリーレン(alkheteroarylene)、又はポリオキシアルキレンであってよい。骨格は、C
1−C
15アルキレン、C
2−C
15アルケニレン、C
3−C
9シクロアルキレン、C
2−C
20ヘテロシクリレン、C
3−C
20アルクヘテロシクリレン、C
6−C
18アリーレン、C
7−C
25アルカリレン、C
7−C
25アラルキレン、C
5−C
18ヘテロアリーレン、C
6−C
25アルキルヘテロアリーレン又はポリオキシアルキレンであってよい。アルキレン部分は、直線状であっても、分枝状であってもよい。記載された基はエステル交換反応を妨げない1つ以上の置換基で置換されてもよい。例示的置換基には、ハロアルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシ、又はエステルが挙げられる。骨格はC
2−C
10アルキレン基であってよい。骨格は、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、2−エチルヘキシレン、ヘプチレン、2−メチル−1,3−プロピレン又はオクチレンのような、直鎖状又は分枝状であってよい、C
2−C
8アルキレン基であってよい。アルキレン鎖の2位にメチル基を有するジオールを用いることができる。例示的なジオールとしては、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2−エチルヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール及び1,4−シクロヘキサノールが挙げられる。ポリオールは次式に対応することができる。
【0052】
【化12】
ジオールは次式、すなわちHO−R
2−OHに対応し、式中、R
2は、各場合で別々にポリオールのヒドロキシ基に2つ以上の結合を有するヒドロカルビレン基である。R
2は、各場合で別々に、アルキレン、アルケニレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、アルキルヘテロシクリレン、アリーレン、アラルキレン、アルカリレン、ヘテロアリーレン、アルクへテロアリーレン、又はポリオキシアルキレンであってよい。R
2は、各場合で別々に、C
1−C
15アルキレン、C
2−C
15アルケニレン、C
3−C
9シクロアルキレン、C
2−C
20ヘテロシクリレン、C
3−C
20アルクヘテロシクリレン、C
6−C
18アリーレン、C
7−C
25アルカリレン、C
7−C
25アラルキレン、C
5−C
18ヘテロアリーレン、C
6−C
25アルキルヘテロアリーレン又はポリオキシアルキレンであってよい。記載された基はエステル交換反応を妨げない1つ以上の置換基で置換されてもよい。例示的な置換基には、ハロ、アルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシ、又はエステルが挙げられる。R
2は、各場合で別々に、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、2−エチルヘキシレン、ヘプチレン、2−メチル−1、3−プロピレン又はオクチレンのようなC
2−C
8アルキレン基であってよい。例示的なC
3−C
9シクロアルキレンには、シクロヘキシレンが挙げられる。アルキレン基は、分岐状又は直線状であってよく、2位の炭素上にメチル基を有していてもよい。好ましいアルカリレンポリオールの中には、−アリール−アルキル−アリール−(−フェニル−メチル−フェニル−又は−フェニル−プロピル−フェニル−等)等の構造を有するポリオールがある。好ましいアルキルシクロアルキレンポリイル(poly−yls)の中には−シクロアルキル−アルキル−シクロアルキル(−シクロヘキシル−メチル−シクロヘキシル−又は−シクロヘキシル−プロピル−シクロヘキシル−等)等の構造を有するものがある。cは8以下、6以下、4以下、又は3以下の整数であることができ、cは1以上、2以上又は3以上の整数であってよい。
【0053】
1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、エステル基の間に配置されたヒドロカルビレン基を有する2つのエステル基をもつ化合物である。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、芳香族ジカルボキシレート、脂肪族ジカルボキシレート及び脂環式ジカルボキシレートの1つ以上を含むか、又はヒドロカルビル基の1つ以上が脂肪族、脂環式又は芳香族であり、他方が脂肪族、脂環式又は芳香族の別の種類から選択される1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートであってよい。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、骨格中に8〜14個の炭素原子を有する芳香族ジカルボキシレート、骨格中に1〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボキシレート、及び骨格中に8〜12個の炭素原子を有する脂環式ジカルボキシレートの1つ以上を含む。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、1つ以上のマロネート、テレフタレート、フタレート、イソフタレート、ナフタレン−2,6−ジカルボキシレート、1,3−フェニレンジオキシジアセテート、シクロヘキサン−ジカルボキシレート、シクロヘキサンジアセテート、ジフェニル−4,4’−ジカルボキシレート、スクシネート、グルタレート、アジペート、アゼレート、セバケート、又はそれらの混合物を含む。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、1つ以上のマロネートを含むことができる。1つ以上のジヒドロカルビルジカルボキシレートは、次式に対応する。
【0054】
【化13】
式中、R
1は前述のとおりであり、
R
3は、各場合で別々に、ジエステルのカルボニル基に2つの結合を有するヒドロカルビレン基であり、ヒドロカルビレン基は、1個以上のヘテロ原子を含むことができる。R
3は、各場合で別々に、アリーレン、シクロアルキレン、アルキレン又はアルケニレンであってよい。R
3は、各場合で別々に、C
8−14アリーレン、C
8−12シクロアルキレン、C
1−12アルキレン又はC
2−12アルケニレンであってよい。R
3はメチレンであってよい。
【0055】
ポリエステルマクロマーの調製方法には、中間体化合物の調製を含むものがある。中間体化合物の1つの種類は多官能性モノマーである。多官能性モノマーは、1,1−ジエステル−1−アルケン及びジオールをはじめとするポリオールから調製することができる。ポリオールが3つ以上のヒドロキシ基を有する場合、鎖伸長の前に多官能性モノマーを調製することが望まれる。多官能性モノマーは、少なくとも2つのヒドロキシ基が1,1−ジエステル−1−アルケンの残基で置換されたポリオールを含む。ポリオール上に3つ以上のヒドロキシ基がある場合には、全てのヒドロキシ基が1,1−ジエステル−1−アルケンと反応するわけではない可能性がある。
【0056】
ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有構造は、ポリマー及びポリマーからできた構造を調製するのに有用な組成物に使用することができる。組成物は、ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有構造を所望の成分と混合することによって作ることができる。組成物は、1,1−二置換アルケン含有構造又はポリエステルマクロマーの調製において形成される化合物の混合物を含むか又は含有することができる。1,1−二置換アルケン含有構造体又はポリエステルマクロマーの調製において形成される化合物の混合物に他の構成成分を加えて、1、1−二置換アルケン含有化合物を含むポリマー、ポリエステルマクロマー又は該ポリマー若しくはポリエステルマクロマーから形成される構造の調製において使用されるように設計された組成物を形成することができる。
【0057】
形成された組成物は、基材へこのような組成物を塗布することを容易にする1種以上の湿潤剤又はレベリング剤をさらに含むことができる。基材への組成物の塗布を向上させる任意の湿潤剤及びレベリング剤を使用することができる。例示的な種類の湿潤剤又はレベリング剤は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、フッ化炭化水素等を含む。湿潤剤はポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンであってよい。湿潤剤及び/又はレベリング剤は、基板表面へ組成物を塗布することを容易にするのに十分な量で存在する。湿潤剤は、組成物の約0.01重量%以上、約0.5重量%以上又は約5重量%以上の量で存在し得る。湿潤剤は、組成物の約5重量%以下、約2重量%以下又は約1重量%以下の量で存在し得る。形成された組成物は、さらに、ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物を含む構造の劣化を阻害する1種以上の紫外線安定剤を含有していてもよい。紫外線への曝露による劣化を阻害する任意の紫外線安定剤を使用することができる。例示的な種類の紫外線安定剤には、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール及びヒンダードアミン(一般にヒンダードアミン光安定剤(HALS)として知られる)が挙げられる。例示的な紫外線安定剤には、Cyasorb UV−531 2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、Tinuvin 571 2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−ドデシル−4−メチルフェノール、分枝状及び線状のTinuvin 1,2,3 ビス−(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート及びTinuvin 765、ビス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートが挙げられる。紫外線安定剤は、ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物の耐久性を高めるのに十分な量で存在する。紫外線安定剤は、組成物の約0.01重量%以上、約0.1重量%以上又は約0.2重量%以上の量で存在し得る。紫外線安定剤は、組成物の約5重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下又は約1重量%以下の量で存在し得る。組成物は、消泡剤及び/又は脱気剤をさらに含むことができる。1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物は、加工中に発泡するおそれがあり、コーティングの表面及び外観に関して問題を引き起こすおそれがある。発泡又は気泡の形成を防止し、組成物の特性に悪影響を与えない任意の消泡剤及び/又は脱気剤を使用することができる。例示的な消泡剤は、シリコーン消泡剤、シリコーンフリー消泡剤、ポリアクリレート消泡剤、それらの混合物等である。例示的な消泡剤には、Emerald社から入手可能なFOAM BLAST(商標) 20F、FOAM BLAST(商標) 30シリコーン消泡化合物及びFOAM BLAST(商標) 550ポリアクリレート消泡剤、Degussa社製のTEGO AIREX(商標) 920ポリアクリレート消泡剤及びTEGO AIREX(商標) 980、Siltech Corporation製のSILMER ACR(商標) Di−10及びACR(商標) Mo−8ポリジメチルシロキサンアクリレートコポリマー、Degussa社から入手可能なFOAMEX N(商標)又はTEGO AIREX(商標) 900シリコーン系消泡剤又はBYK Chemieから入手可能なBYK(商標) 1790 シリコーンフリー消泡剤が挙げられる。消泡剤/脱気剤は、1,1−二置換アルケン含有化合物又はポリエステルマクロマー組成物中に、気泡及び/又は泡の形成を防止するのに十分な量で存在し得る。使用量が多すぎると、所望の表面及び接着剤への接着が悪影響を受ける可能性がある。消泡剤及び/又は脱気剤は、組成物の重量に基づいて、約0.05重量%以上、より好ましくは約0.1重量%以上の量で存在し得る。消泡剤/脱気剤は、組成物の重量に基づいて、約2.0重量%以下又は約1.0重量%以下の量で存在し得る。
【0058】
これらの組成物は、耐擦傷性を改善するための添加剤を含有してもよい。耐擦傷性を改善する任意の添加剤を使用することができる。例示的な耐擦傷性改良剤には、ケイ酸塩、アルミナ、ジルコニア、炭化物、酸化物、窒化物、又は高い硬度を有する任意の他の充填剤を挙げることができる。耐擦傷性改良剤の種類には、アルミナ(例えば、αアルミナ)、シリカ、ジルコニア、炭化ホウ素、炭化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化イットリウム、二ホウ化チタン、アルミノケイ酸塩(すなわち、3M製の「Zeeosphere」)、炭化チタン、これらの組み合わせ等が挙げられる。耐擦傷性改良剤の種類はケイ酸塩及びアルミナである。例示的な耐擦傷性改良剤は、ナノメートルサイズのシリカ充填剤を含むことができる。耐擦傷性改良剤は、約10マイクロメートル以下又は約5マイクロメートル以下の粒径を有することができる。耐擦傷性改良剤は、コーティングの表面硬度及び摩耗抵抗を高めるのに十分な量、並びに均質分散剤を調製できる量で存在し得る。耐擦傷性改良剤は、組成物の約0.1重量%以上、又は約0.5重量%以上の量で存在し得る。耐擦傷性改良剤は、組成物の約5重量%以下、約2重量%以下又は約1重量%以下の量で存在し得る。
【0059】
ポリマー組成物は、充填剤粒子(例えば、繊維、粉末、ビーズ、フレーク、顆粒等)等の1種以上の他の充填剤を含むことができる。充填剤粒子は繊維(例えば、10より大きい各垂直方向に対する最長方向のアスペクト比を有する)であってもよい。充填剤粒子は、繊維ではない粒子であってもよい(例えば、10未満、8未満、又は5未満である垂直方向に対する最長方向のアスペクト比を有する)。充填剤は、有機材料及び/又は無機材料で形成することができる。有機充填剤の例としては、バイオマス由来の充填剤及びポリマー由来の充填剤が挙げられる。無機充填剤には、非金属材料、金属材料及び半導体材料が挙げられる。例えば、充填剤粒子には、ケイ酸アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナ、酸化ケイ素、硫酸バリウム、ベントナイト、窒化ホウ素、炭酸ホウ素(例えば、活性炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、又は重質炭酸カルシウム)、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、カーボンブラック、クレー、綿フロック、コルク粉末、珪藻土、ドロマイト、エボナイト粉末、ガラス、グラファイト、ヒドロタルサイト、酸化鉄、鉄金属粒子、カオリン、マイカ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、リン化物、軽石、パイロフィライト、セリサイト、シリカ、炭化ケイ素、タルク、酸化チタン、ワラストナイト、ゼオライト、酸化ジルコニウム、又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。充填剤粒子は、約0.1重量%以上、約1重量%以上、約5重量%以上、又は約10重量%以上の濃度で存在し得る。充填剤粒子は、約70重量%以下、約50重量%以下、約35重量%以下、又は約25重量%以下の濃度で存在し得る。充填剤粒子は、好ましくは、約1mm以下、約0.3mm以下、約0.1mm、約50μm以下、約10μm以下の1次元、2次元又は3次元を有する。充填剤粒子は、好ましくは約0.1μm以上、約0.3μm以上、又は約1μm以上の1次元、2次元又は3次元を有する。
【0060】
本明細書の教示によるポリマー組成物は、所望の用途のための最終ポリマーの特性を調整するための可塑剤を含むことができる。可塑剤は、重合前、重合中、又は重合後に添加することができる。例えば、ある実施形態では、適切な可塑剤は1,1−二置換アルケンモノマーと共に含めることができる。一般に、適切な可塑剤には、例えば、ジイソノニルフタレート、ジオクチルフタレート、及びジブチルフタレート等の直鎖及び分枝鎖アルキルフタレート、並びに部分的に水素化されたテルペン、リン酸トリオクチル、エポキシ可塑剤、トルエン−スルファミド、クロロパラフィン、アジピン酸エステル、ジメチルセバケート等のセバケート、ヒマシ油、キシレン、1−メチル−2−ピロリジオン及びトルエンをはじめとする、接着系のレオロジー特性を改変するために使用される可塑剤を挙げることができる。Solutia Inc.(ミズーリ州セントルイス)によって製造されたHB−40のような市販の可塑剤も適している。
【0061】
これらの組成物は、表面滑り特性を改善するための添加剤を含むことができる。表面滑り特性を改善する任意の既知の組成物を使用することができる。例示的な表面滑り添加剤は、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ワックス等であってよい。例示的なワックスには、アクリレートモノマー中のポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン又はポリプロピレンワックス分散物、例えば、Shamrock Technologies社製のEVERGLIDE(商標)若しくはS−395若しくはSSTシリーズの製品、又はポリアミド粒子、例えば、Arkema社製のORGASOL(商標)、又は反応性アクリレート基を有するモンタンワックス、例えば、クラリアント社製のCERIDUST(商標) TP 5091、又はByk−Chemie製のCERAFLOUR(商標)ワックス粉末が挙げられる。ワックスは、組成物から調製したコーティングの所望の厚さよりも小さい粒径を有する粉末形態であってよい。最大粒径は、約30ミクロン以下、約25ミクロン以下、約20ミクロン以下又は約15ミクロン以下であってよい。ワックスは結晶性が高くてもよい。例示的なワックスには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、又はそれらのブレンド及び/若しくはコポリマーが挙げられる。ワックスは結晶性ポリエチレン若しくはポリテトラフルオロエチレン又はポリエチレンとポリテトラフルオロエチレンとのブレンドであってよい。表面滑り添加剤は、組成物の約0.1重量%以上又は約0.5重量%以上の量で存在し得る。表面滑り添加剤は、組成物の約5重量%以下、約2重量%以下又は約1重量%以下の量で存在し得る。
【0062】
本明細書に開示される組成物は、硬化条件下で重合及び/又は硬化を開始するための1種以上の開始剤を含むことができる。硬化条件によりフリーラジカルの生成を引き起こすこと場合がある。照射に曝露されると、開始剤は組成物のフリーラジカル重合、アニオン重合、架橋、又はそれらの組み合わせを開始することができる。したがって、組成物は、1種以上の光開始剤を含むことができる。組成物は、1種以上の光塩基発生剤を含むことができる。光開始剤は不飽和を含む分子又は光によって伝達されるエネルギーの開始部位に供給する。開始剤の例としては、αアミノケトン、αヒドロキシケトン、ホスフィンオキシド、フェニルグリオキサレート、チオキサントン、ベンゾフェノン、ベンゾインエーテル、オキシムエステル、アミン相乗剤、マレイミド、これらの混合物等が挙げられる。開始剤は、次のカテゴリー、すなわちホスフィンオキシド、ケトン及びその誘導体、ベンゾフェノン、カルボシアニン、並びにメチン、アントラセン等の多環芳香族炭化水素、並びにキサンテン、サフラニン及びアクリジン等の染料の化合物を含むことができる。これらの開始剤は、以下の主要なカテゴリー、すなわちペンタンジオン、ベンジル、ピペロナール、ベンゾイン及びそのハロゲン化誘導体、ベンゾインエーテル、アントラキノン及びその誘導体、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェン、ベンゾフェノン等のカルボニル基を含む化合物、ジ−及びポリスルフィド、キサントゲネート、メルカプタン、ジチオカルバメート、チオケトン、β−ナフトセレナゾリン等の硫黄又はセレンを含む化合物、アゾニトリル、ジアゾ化合物、ジアジド、アクリジン誘導体、フェナジン、キノキサリン、キナゾリン及びオキシムエステル、例えば、1−フェニル−1,2−プロパンジオン 2−[0(ベンゾイル)オキシム]等の窒素を含む化合物、ハロゲン化ケトン又はアルデヒド、ハロゲン化メチルアリール、ハロゲン化又はジハロゲン化スルホニル等のハロゲン化化合物、ジアゾニウム塩、アゾキシベンゼン及び誘導体、ローダミン、エオシン、フルオレセイン、アクリフラビン等のホスフィンオキシド及び光開始染料の1つに属する化学物質であってよい。開始剤には、1,1−ジベンゾイルフェロセン、2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、トリブチルアミン及びテトラフェニルボレート(TBA.BPh
4)の塩、イソプロピルチオキサントン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
開始剤は、後述するような適切な重合条件に曝露された場合に、重合を触媒するのに十分な量で存在し得る。開始剤は、組成物の重量に基づいて、約0.05重量%以上、約0.1重量%以上、又は約1重量%以上の量で存在し得る。開始剤は、組成物の重量に基づいて、約20重量%以下、約10重量%以下、又は約6重量%以下の量で存在し得る。
【0064】
本明細書の教示によるポリマーは、好ましくは、以下の基材、すなわちアルミニウム、スチール、ガラス、シリコン、又は木材の1種以上に接着する。例えば、ポリマーを基材間に配置した2つの基材を分離する場合、基材の分離は、ポリマーの凝集性不足をもたらし得、そこでは一部のポリマーが基材の表面上に残存する。
【0065】
本明細書の教示によるポリマーは、押出品、ブロー成形品、射出成形品、熱成形品、又は圧縮成形品に使用することができる。ポリマーは接着剤として使用することができる。例えば、ポリマーを感圧接着剤組成物に使用することができる。ポリマーは、保護コーティング等のコーティングとして使用することができる。ポリマーは、基材上のプライマー層として使用することができる。
【0066】
ポリエステルマクロマーであり得る1,1−二置換アルケン含有化合物、及びそれらを含有する組成物は、基材上のコーティング、フィルム、繊維、接着剤等のポリエステルをベースとする構造の製造に使用することができる。ポリエステルマクロマーが開示されているが、任意の1,1−二置換(disubsituted)アルケン含有化合物が教示の範囲内にあることは理解される。1、1−二置換アルケン含有化合物、ポリエステルマクロマー、及び/又はポリエステルマクロマーの残基を含むコーティングは、基材の1つ以上の表面又はその一部上に配置することができる。フィルム、コーティング、又は他の構造は、硬化及び/又は架橋されてもよい。架橋された組成物は、マクロマー鎖からぶら下がったアルケン基により架橋され得る。架橋は隣り合うマクロマー鎖のアルケン基間の直接結合であってよい。マクロマー鎖はプレポリマー又はポリマー鎖に含まれてもよい。マクロマー鎖は、アニオン重合又はフリーラジカル重合により重合する不飽和を有する任意の化合物により架橋され得る。1,1−二置換アルケン含有化合物又はポリエステルマクロマー鎖は1,1−ジエステルアルケンにより架橋され得、架橋が1、1−ジエステルアルケンの残基を含む。1,1−二置換アルケン含有化合物又はポリエステルマクロマー鎖は多官能性モノマーにより架橋され得、架橋が多官能性モノマーの残基を含む。鎖間の架橋は、以下の式で図示することができる。
【0067】
【化14】
式中、Fは、各場合で別々に、直接結合、アニオン重合又はフリーラジカル重合により不飽和基と重合する化合物の残基である。Fは、各場合で別々に、直接結合、1,1−ジエステル−1−アルケン又は多官能性モノマーの残基である。1、1−二置換アルケン含有化合物又はポリエステルマクロマーを含む架橋された組成物の架橋密度は、組成物の所望の特性を提供する任意のそのような密度であってよい。
【0068】
フィルム又はコーティングは、約0.01マイクロメートル以上、約0.04マイクロメートル以上、約0.1マイクロメートル以上、約0.5マイクロメートル以上、又は約1マイクロメートル以上の厚さを有することができる。フィルム又はコーティングは、硬化及び/又は架橋されてもよい。フィルム又はコーティングは、約500マイクロメートル以下、約350マイクロメートル以下、約160マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、約80マイクロメートル以下又は約60マイクロメートル以下、約20マイクロメートル以下、又は約1マイクロメートル以下の厚さを有することができる。開示されるのは、ポリエステルマクロマーであり得る1種以上の1,1−二置換アルケン化合物又は1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物が1つ以上の表面に塗布されたコーティングを有する物品である。
【0069】
1,1−二置換アルケン含有化合物及びそれらを含む組成物は、塩基性硬化開始剤に曝露されると重合することができる。塩基性である基材の表面に塗布した場合には、1,1−二置換アルケン含有化合物はアニオン重合により硬化する。したがって、開示されるのは、本明細書に開示されているように、1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物を基材の表面と接触させ(表面は少なくとも弱塩基性である)、組成物を含む基材の表面にコーティングを形成することを含む方法である。基材は、少なくとも弱塩基性である物質を含むことができる。基材自体は少なくとも弱塩基性であってよい。基材は、少なくとも弱塩基性である前処理を含むことができる。1,1−二置換アルケン又はポリエステルマクロマーについてアニオン重合を開始する塩基性化合物を含む組成物は、1種以上の1,1−二置換アルケン化合物又はポリエステルマクロマーを含む組成物を塗布する前に、基材の表面に塗布してもよい。例示的な塩基性化合物は、1種以上のアミン、ポリアミン塩基性色素、ポリアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、及びカルボン酸塩を含む。アニオン重合は、コーティング又は組成物と少なくとも弱塩基性基材とが接触して開始され得る。このアニオン重合は、コーティング又は組成物をさらなる条件に曝露させることなく開始することができる。このアニオン重合は周囲温度で行うことができる。コーティングは、紫外線照射等を用いて周囲温度で、熱を加えないで硬化させることもできる。
【0070】
開示されるのはまた、基材上にベースコートを含む基材を含み、本明細書に開示された1,1−二置換アルケン含有化合物を含有するコーティングがベースコート上に配置された物品である。ベースコートは、ポリエステルマクロマーのような1,1−二置換アルケン含有化合物を硬化及び/又は架橋するのに十分な塩基性を有することができる。1,1−二置換アルケン含有化合物を含むコーティングは透明であり、クリアコートとして機能することができる。
【0071】
開示されるのはまた、1種以上の、1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物と基材の表面とを接触させ(表面は少なくとも弱塩基性である)、ポリエステルマクロマーを含み得る1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物を含む基材の表面にコーティングを形成することを含む方法である。基材は、塩基性の物質を含むことができる。塩基性化合物を含有する組成物は、1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含有する組成物を塗布する前に、基材の表面に塗布してもよい。塩基性化合物を含有する組成物は、1,1−ジエステル−1−アルケンと共に、有用なアニオン重合阻害剤として本明細書に開示される任意の化合物を含むことができる。例示的な塩基性化合物には、アミン、ポリアミン塩基性色素又はカルボン酸塩が挙げられる。塩基性化合物を含む組成物は、ポリアルキレンイミンを含むことができる。この方法はさらに、1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物を含む基材を約20℃以上又は約50℃以上の温度に曝露することを含むことができる。この方法はさらに、1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含む組成物を含む基材を約150℃以下又は約120℃以下の温度に曝露することを含むことができる。このような曝露のための時間は、約10分以上又は20分以上であってよい。このような曝露の時間は、120分以下、約60分以下、又は約30分以下であってよい。曝露は、基材の表面に配置された1種以上の1,1−二置換アルケン含有化合物を含むコーティングが硬化及び/又は架橋されるような条件下で行われる。したがって、組成物と塩基性基材の表面との接触は、特に基材の表面と組成物との間の界面において、アニオン重合又は硬化を開始することができる。コーティング又はフィルムは、特定の条件に曝露されると硬化及び/又は架橋することができる。コーティング又はフィルムが比較的強い塩基、高温、又はその両方に曝露されると、硬化と架橋を同時に起こすことができる。
【0072】
本明細書に開示される製剤は、光開始剤及び/又は光塩基発生剤のような1種以上の開始剤と、1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させることを含むことができる。1種以上の光開始剤及び/又は光塩基発生剤は、紫外線照射に曝露されると、フリーラジカル重合、アニオン重合、又はその両方を誘発することができる。この重合は、コーティング又はフィルムと基材の表面との界面でアニオン重合又は硬化の代わりに、又はそれに追加されてもよい。例えば、アニオン重合は、コーティング又はフィルムと基材の表面との間の界面で起こり得、コーティング又はフィルムの反対側の表面は、紫外線照射に曝露されると、フリーラジカル重合又はアニオン重合を起こし得る。これは、コーティング又はフィルムの両面での表面硬化、コーティング又はフィルムの全厚を通しての硬化、又はその両方を提供し得る。
【0073】
開示されるのは、光開始剤又は光塩基発生剤等の1種以上の開始剤と、本明細書に記載された1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させ、製剤を紫外線に曝露する方法である。1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物は、約0.5ワット/cm
2以上、約1ワット/cm
2以上、又は約1.5ワット/cm
2以上の放射照度を有する紫外線に曝露され得る。紫外線は、約5ワット/cm
2以下、約4.5ワット/cm
2以下、又は約4ワット/cm
2以下の放射照度を有することができる。紫外線は、約250ナノメートル以上、約300ナノメートル以上、又は約325ナノメートル以上の波長を有することができる。紫外線は、約400ナノメートル以下、約390ナノメートル以下、又は約375ナノメートル以下の波長を有することができる。例えば、紫外線は、約325ナノメートル〜約375ナノメートルの間で放出され得る。製剤は、約240秒以下、約180秒以下、約120秒以下、約90秒以下、約60秒以下、又は約30秒以下の間紫外線に曝露されることができる。紫外線源に曝露されると、製剤の表面硬化、又は製剤の完全な硬化が観察され得る。硬化された製剤の表面は粘着性がない場合がある。フリーラジカル光開始剤化学及び/又はアニオン性光潜在塩基化学によって1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物を硬化する能力は、特に薄いコーティングにおいて利点を提供し得、ここでは表面は紫外線照射によって硬化することができ、コーティングの残りの部分はアニオン性表面開始によって硬化することができる。フリーラジカルとアニオン性化学の組み合わせは、現在のフリーラジカル化学の限界を克服するのに役立つことができる。
【0074】
組成物又はフィルムは、複数の方法で硬化することができる。組成物は二重硬化することができる。例えば、組成物はアニオン重合とフリーラジカル重合の両方を受けることができる。この組成物は、(例えば、基材の特性として、又は塩基性コーティングの塗布により)少なくとも弱塩基性の表面を有する基材に塗布して、塩基性表面又は基材と接触する領域でアニオン重合を開始することができる。フリーラジカル重合は、組成物又はフィルムの反対側で開始することができる。組成物が塗布される基材から離れた組成物又はフィルムの表面は、紫外線等の放射線に曝露させることができる。放射線に曝露されると、フリーラジカル重合を開始することができる。組成物又はフィルムの二重硬化は、組成物の厚さの少なくとも一部を硬化することを可能にし得る。二重硬化は、完全な、粘着のない硬化のために、組成物又はフィルムの全厚を硬化することを可能にし得る。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本明細書中の教示を例示するために提供されるが、その範囲を限定することを意図したものではない。全ての部及びパーセントは、特に明記しない限り全て重量による。
【0076】
[実施例1]
表1に示すように、ジエチルメチレンマロネートモノマー(DEMM)を含む製剤を1種以上の開始剤と接触させる。1,6−ペンタンジオールDEMM架橋剤を加えて二官能性を導入する。約2gの各製剤をプラスチックピペットでアルミニウム皿に分注し、365nmで又は30秒未満の期間で発光するUV LED光源に曝露させる。硬化されたフィルムの厚さは、完全な硬化を観察した後に測定する。
【0077】
【表1】
【0078】
紫外線放射に曝露されると、各製剤とも経時的な粘度の上昇が認められた。2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノンを開始剤として用いると、フリーラジカル重合が観察される。表1の結果は、メチレンマロネートがフリーラジカル光開始剤化学、アニオン性光潜在性塩基化学、又はその両方によって硬化され得ることを示している。フリーラジカル硬化は硬化の深さがより良好であることが実証した。アニオン硬化は、硬化した材料の表面に対する酸素阻害効果を排除するために使用することができる。
【0079】
[実施例2]
以下の製剤を混合し、アルミ皿に注いだ。製剤は、相対強度5000mJ/cm
2の水銀ランプを用いて、紫外線ランプ下で、5ft/分の供給速度で重合させた。得られた硬化した材料について、ショアD硬度計による硬度分析を行った。硬化深度も測定した。
【0080】
【表2】
【0081】
いずれの場合も、試料は5mmを超える深さまで硬化した。FM1のショアD硬度は65であり、FM2の硬度は52であった。
【0082】
硬化した試料の架橋密度を室温で24時間ジクロロメタンに曝露させて鎖を溶媒和し、全ての非架橋画分を浸出させることにより試験した。ポリマーを濾過し、減圧オーブンで3時間乾燥した後、架橋画分を重量測定した。抽出可能な材料をGCMSで特性評価を行い、溶媒をフラッシュオフした後の組成を決定した。膨潤試験、MEK抵抗性及び抽出可能なデータを下表にまとめた。
【0083】
【表3】
【0084】
上記は、DCHMMがラジカル開始剤及び紫外線の存在下でフリーラジカル共重合して、対応する高Tgのアクリレートモノマー(IBOA)を用いて得られるものと同等の性能を有するハイブリッドポリマーを得ることができることを示す。2つ組成物の硬化した材料の性能の間の相対的差異はDCHMM中に存在するラジカル安定化剤BHTの量に関係し得る。このことはフリーラジカル硬化効率に悪影響を与え、わずかに性能の低下をもたらした。
【0085】
[実施例3]
0.1重量%のジベンゾイルフェロセンを、光塩基発生剤としてForza P1000(DEMM溶液中で酵素により合成されたペンタンジオールをベースとする架橋剤)の試料に添加した。フェロセンベースの光塩基発生剤は、二重硬化シアノアクリレートベースの系(米国特許第6,867,241号、これは全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に援用される)において使用されてきた。DEMMベースの系を用いて、ジベンゾイルフェロセンをより良好に溶解し、光塩基が求核種を生成した後のアニオン重合の可能性を最大化した。
【0086】
得られた製剤を5フィート/分の供給速度で5回のパス(1回のパスの強度は5000mJ/cm
2)で水銀灯による紫外線放射に曝露させた。アニオン重合が開始され、ポリマーの塊が形成されたが、断面全体の完全な硬化は観察されなかった。ジベンゾイルフェロセンの光分解によって生成した塩基の求核性が低いため、明らかに不十分な伝播が生じた。以上のことから、メチレンマロネートは紫外線に曝露されると光塩基発生剤の存在下でアニオン重合を起こすことができることが実証された。
【0087】
列挙されたあらゆる数値は、任意の低値と任意の高値との間に少なくとも2つの単位の分離がある場合には、1単位ずつ、低値から高値までの全ての値を含む。1未満の値については、必要に応じて1単位を0.0001、0.001、0.01又は0.1とする。これらは、具体的に意図されたものの例であり、列挙された最低値と最高値の間の数値の全ての可能な組み合わせが、同様の方法で本出願において明示的に記載されていると考えるべきである。特に記載のない限り、全ての範囲には両終点及び両終点間の全ての数値が含まれる。範囲に関連した「約」又は「ほぼ」の使用は、範囲の両端に適用される。したがって、「約20〜30」は、少なくとも特定の終点を含む「約20〜約30」を包含することを意図している。組合せを記述するための「〜から本質的になる」という用語は、特定された要素、構成成分、成分又は工程、並びにその組合せの基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない他の要素、構成成分、成分又は工程を含むものである。要素、構成成分、成分又は工程の組み合わせを記述するための「含む(comprising)」又は「含む(including)」という用語の使用は、本質的にその要素、構成成分、成分又は工程からなる実施形態も意図する。複数の要素、構成成分、成分又は工程は、単一の一体化された要素、構成成分、成分又は工程によって提供することができる。あるいは、単一の一体化された要素、構成成分、成分又は工程を、別々の複数の要素、構成成分、成分又は工程に分割することができる。要素、構成成分、成分又は工程を記述するための「1つの(a)」又は「1」の開示は、追加の要素、構成成分、成分又は工程を除外することを意図したものではない。
【手続補正書】
【提出日】2019年5月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
αアミノケトン、ホスフィンオキシド、フェニルグリオキサレート、チオキサントン、ベンゾフェノン、ベンゾインエーテル、オキシムエステル、アミン相乗剤、マレイミド、及びそれらの混合物から選択される1種以上の光開始剤と、
1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づき、約85モル%以上の純度を有する
式1:
【化1】
[式中、X1及びX2は、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、R1及びR2は、各場合で別々に、同一であるか又は異なるヒドロカルビル基である。]
に対応する1種以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物とを接触させることにより製剤を形成すること、
及び
フリーラジカル重合、アニオン重合、又はその両方を開始するために該製剤を紫外線に曝露させて、該製剤を硬化させて非粘着性表面を形成することを含む、方法。
【請求項2】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Aに対応するエステル基を含む、請求項
1に記載の方法。
【化2】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項3】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Bに対応するケト基を含む、請求項
1に記載の方法。
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項4】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Cに対応する1つ以上のエステル基及び1つ以上のケト基を含む、請求項
1に記載の方法。
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか又は異なるヒドロカルビル基である。]
【請求項5】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、式1Dに対応する多官能性モノマーである、請求項
1に記載の方法。
【化5】
[式中、Xは、各場合で別々に、酸素原子又は直接結合であり、R
1及びR
2は、各場合で別々に、同一であるか又は異なるヒドロカルビル基であり、nは1以上の整数である。]
【請求項6】
前記1種以上の1,1−二置換アルケン化合物が、メチレンマロネートモノマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上の光開始剤が、1,1−ジベンゾイルフェロセン、2−メチル−4’−(メチルチオ)―2−モルフィリノプロピオフェノン、トリブチルアミン及びテトラフェニルボレートの塩、イソプロピルチオキサントン、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記光開始剤が、1,1−二置換アルケン化合物を含む組成物に、0.1重量%〜約6重量%の量で添加される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、2つ以上のコア式の各々上の1つの酸素原子間のヒドロカルビレン結合により結合した2つ以上のコアユニットを有する1,1−二置換アルケン化合物を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、1種以上の(メタ)アクリレート、又はフリーラジカルによって重合することができる不飽和分子を含む任意の他のアルケンを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
周囲温度で実施される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記紫外線が、約1ワット/cm2から約5ワット/cm2の間の放射照度、及び約250ナノメートル〜約400ナノメートルの波長を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記紫外線が、約325ナノメートル〜約375ナノメートルで放出される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が、フィルム又はコーティングの形態で硬化される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記フィルム又はコーティングが、紫外線に曝露された際に粘着性のないフィルムである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記製剤が、約3分以下の間紫外線に曝露される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記製剤が、約60秒以下の間紫外線に曝露される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の製剤を、少なくとも求核性である基材の表面と接触させること、及び該製剤を紫外線に曝露することを含み、該製剤がその厚さ全体を通して硬化される、方法。
【請求項19】
前記製剤が、フリーラジカル硬化及びアニオン硬化の組合せによって硬化される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記基材が、その表面に堆積した着色コーティングを有し、着色コーティングが塩基性又は求核性である、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
純度が、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて、約90モル%以上である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
純度が、1,1−二置換アルケン化合物の総重量に基づいて、約97モル%以上である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法によって調製されたポリマー。
【国際調査報告】