(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-529380(P2020-529380A)
(43)【公表日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】粒子混合物
(51)【国際特許分類】
C03C 8/04 20060101AFI20200911BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20200911BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
C03C8/04
C03C8/16
B60J1/02 101H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2020-504700(P2020-504700)
(86)(22)【出願日】2018年7月16日
(85)【翻訳文提出日】2020年1月29日
(86)【国際出願番号】GB2018052011
(87)【国際公開番号】WO2019030469
(87)【国際公開日】20190214
(31)【優先権主張番号】1712762.2
(32)【優先日】2017年8月9日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ミリア・メデイロス・パチェーコ・デ・アンドラーデ
(72)【発明者】
【氏名】エドウィン・ピーター・ケネディー・キューリ
(72)【発明者】
【氏名】シャリフ・リヤディ
(72)【発明者】
【氏名】パトリシア・アン・サットン
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA10
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(57)【要約】
本発明は、ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、粒子混合物であって、ガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、粒子混合物のD90粒径は、5μm未満である、粒子混合物に関する。粒子混合物を使用して、エナメルを基材に塗布することができる。本発明は更に、エナメルを基材上に、ガラスシートに、及び自動車用の窓ガラスに形成するための、粒子混合物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、粒子混合物であって、前記ガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、前記粒子混合物のD90粒径は、5μm未満である、粒子混合物。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、
a)25〜65重量%のSiO2と、
b)19〜59重量%のZnOと、
c)>0〜6重量%のSと、
を含む、請求項1に記載の粒子混合物。
【請求項3】
前記ガラスフリットが、
d)0〜40重量%のBi2O3と、
e)7〜14重量%のB2O3と、
f)0〜3重量%のLi2Oと、
g)0〜7重量%のTiO2と、
h)4〜12重量%のNa2Oと、
i)0〜3重量%のK2Oと、
j)0〜1重量%のFと、
k)0〜2重量%のBaOと、
l)0〜1重量%のV2O5と、
m)0〜1重量%のCe2O3と、
n)0〜1重量%のNb2O5と、
を更に含む、請求項2に記載の粒子混合物。
【請求項4】
前記ガラスフリットが、0.1重量%未満のPbO、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.005重量%未満のPbOを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項5】
前記ガラスフリットが、0.1重量%未満のBi2O3、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.005重量%未満のBi2O3を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項6】
前記ガラスフリットの粒子のD90粒径が、4μm未満、好ましくは3μm未満、より好ましくは2μm未満、最も好ましくは1.5μm未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項7】
前記結晶質酸化物材料が、酸化ケイ素、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ジルコン酸ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項8】
前記結晶質酸化物材料が、SiO2、Zn2SiO4、ZnO.B2O3、3ZnO.B2O3、5ZnO.2B2O3、Al2SiO5、及びこれらの混合物から選択される、請求項7に記載の粒子混合物。
【請求項9】
前記結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径が、4μm未満、好ましくは3μm未満、より好ましくは2μm未満、最も好ましくは1.5μm未満である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項10】
前記結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径が、前記ガラスフリットの粒子のD90粒径未満である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項11】
ガラスフリットの結晶質酸化物材料に対する重量比が、90.00:10.00〜99.90:0.10の範囲、好ましくは99.00:1.00〜99.90:0.10の範囲、より好ましくは99.50:0.50〜99.85:0.15の範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項12】
顔料の粒子を更に含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項13】
前記顔料が、黒色顔料である、請求項12に記載の粒子混合物。
【請求項14】
前記顔料が、スピネル構造を有する遷移金属酸化物である、請求項12に記載の粒子混合物。
【請求項15】
前記顔料が、銅、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、又はこれらの混合物のスピネル構造酸化物から選択される、請求項12に記載の粒子混合物。
【請求項16】
前記顔料が、CuCr2O4、(Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、(NiMnCrFe)、及びこれらの混合物から選択される、請求項12に記載の粒子混合物。
【請求項17】
・40〜85重量%のガラスフリットと、
・0.1〜15重量%の結晶質酸化物材料と、
・0〜55重量%の顔料と、
を含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項18】
10〜55重量%の顔料を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項19】
・75〜85重量%のガラスフリットと、
・0.1〜5重量%の結晶質酸化物材料と、
・10〜25重量%の顔料と、
を含む、請求項17又は18に記載の粒子混合物。
【請求項20】
エナメルを基材上に形成するための、請求項1〜19のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【請求項21】
自動車用ガラスのシートの縁部の周囲に不透明化された黒色帯部を形成するための、請求項1〜19のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【請求項22】
エナメルを器具のガラス上に形成するための、請求項1〜19のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【請求項23】
ガラスシートであって、前記シートの表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、前記エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシート。
【請求項24】
ガラスシートであって、湾曲部位を有し、及び前記シートの前記湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、前記エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシート。
【請求項25】
自動車用の窓ガラスであって、ガラスシートであって、湾曲部位を有し、及び前記シートの前記湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有する、ガラスシートを含み、前記エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、自動車用の窓ガラス。
【請求項26】
前記エナメルが、11μm以下、好ましくは10μm以下の厚さを有する、請求項23若しくは24に記載のガラスシート、又は請求項25に記載の自動車用の窓ガラス。
【請求項27】
前記エナメルが、2.5以上、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上の光学濃度を有する、請求項23若しくは24に記載のガラスシート、又は請求項25に記載の自動車用の窓ガラス。
【請求項28】
ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、キットであって、前記ガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、前記ガラスフリットのD90粒径は、5μm未満であり、前記結晶質酸化物材料のD90粒径は、5μm未満である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、エナメルを基材に塗布するのに好適な粒子混合物に関する。粒子混合物は、エナメルを基材上に形成する方法に使用するのに好適なインクに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
エナメルは、食卓用食器、看板、タイル、建築用ガラスなどの、ガラス及びセラミック基材上に、コーティングを装飾又は製造するために広く使用されている。エナメルは、自動車のフロントガラス、両側部の窓(横の窓)、後部の窓(後ろの窓)に使用されるガラスシートの周囲に、着色された縁を形成するのに特に有用である。着色された縁により、外観が向上するとともに、紫外線による下層の接着剤の劣化が防止される。更に、着色された縁により、バスバー及びガラス製霜取りシステムの配線接続を隠すことができる。
【0003】
エナメルは、典型的には、顔料及びガラスフリットを含む。一般に、それらは、例えばスクリーン印刷によって、インクとして基材(例えば、フロントガラス表面)に塗布される。インクは、液体分散媒体中に分散された顔料及びガラスフリットの粒子を含んでもよい。インクのコーティングを基材に塗布した後、インクを、典型的には乾燥させ、塗布されたコーティングを焼成することにより、すなわち熱処理に供することにより、フリットを溶融し基材に融着させ、それによってエナメルを基材に付着させる。焼成中、顔料自体は、典型的には溶融しないが、フリットによって又はフリットとともに、基材に固着される。
【0004】
自動車に使用するためのガラスシートでは、多くの場合、圧力成形プロセスを行い、ガラスを所望の最終形状に曲げる。典型的には、このようなガラスシートは、スクリーン印刷により所望の領域にインクでコーティングされた後、高温で圧力成形プロセスに供される。このプロセス中に用いられる高温により、ガラスシートを軟化させながらコーティングに焼成を行い、次いで、成形ダイ又は型を使用して所望の最終形状に形成することができる。しかし、このような圧力成形プロセス中には、エナメルが、用いられるダイ又は型に粘着(固着)してしまうという問題に遭遇する場合がある。
【0005】
圧力成形はまた、例えば、ガラス瓶、建築用ガラス、及び器具のガラスの製造にも使用される。これらの例では、エナメルを塗布することもまた、装飾的及び/又は機能的理由のために望ましい場合がある。
【0006】
エナメルがダイ又は型に付着するのを避けるために、ガラスの圧力成形を促進し、上にエナメル組成物を塗布する様々なアプローチが提案されている。1つのアプローチは、焼成時に結晶化することができる化合物の前駆体、例えばZn
2SiO
4の前駆体を含む、結晶性ガラスフリットの使用による。このような結晶性フリットは、焼成中、フリット中に存在する前駆体の少なくとも一部分の結晶化を促進する結晶化促進剤(crystalline seed additive)と組み合わせて使用することができる。このような結晶化促進剤は、例えば、結晶質Zn
2SiO
4を含んでもよい。
【0007】
更に、自動車に使用するための不透明化エナメル(obscuration enamel)は、典型的には、10〜15マイクロメートル(μm)の範囲の厚さを有する。これにより、太陽光の透過を適切に遮断するのに十分な不透明度がもたらされ、その結果、紫外線への曝露による下層の接着剤の劣化が防止される。ガラス脆弱化の危険性は、塗布されたエナメルの厚さに比例して増大し得ることが知られている。したがって、厚さが薄く、必要な不透明度がなおも得られるエナメルを提供することが望ましい。
【0008】
ここで、硫黄含有ケイ酸亜鉛ガラスフリット及び結晶質酸化物材料を含み、そのフリット及び結晶質酸化物材料の両方が、5μm未満のD90粒径を有する、粒子混合物の使用により、改善された粘着防止性能及びエナメルの厚さ低減を達成可能にできることが、判明した。
【発明の概要】
【0009】
本発明により、ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、エナメルを形成するための粒子混合物であって、このガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、粒子混合物のD90粒径は、5μm未満である、粒子混合物が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様により、エナメルを形成するためのインクであって、
ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、粒子混合物と、
液体分散媒体と、を含み、
このガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、粒子混合物のD90粒径は、5μm未満である、インクが提供される。
【0011】
本発明の更なる態様により、インクを調製する方法であって、
a)ガラスフリットの粒子であって、ガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含む、ガラスフリットの粒子と、
b)結晶質酸化物材料の粒子と、
c)液体分散媒体と、を混合すること、を含み、
成分a)及びb)の各々が、5μm未満のD90粒径を有する、調製する方法が提供される。
【0012】
本発明のなおも更なる態様により、エナメルを基材上に形成する方法であって、上記のインクのコーティングを基材上に塗布することと、塗布されたコーティングを焼成することと、を含む、形成する方法が提供される。
【0013】
なおも別の態様により、上に形成されたエナメルを有する基材であって、エナメルが、上記の方法によって得られた、又は得ることのできる、基材が提供される。
【0014】
なおも別の態様により、エナメルを基材上に形成するための、上記の粒子混合物又はインクの使用が提供される。
【0015】
なおも別の態様により、自動車用ガラスのシートの縁部の周囲、特に圧力成形プロセスに供される自動車用ガラスのシートの縁部の周囲に着色された不透明化された帯部(obscuration band)を形成するための、上記の粒子混合物又はインクの使用が提供される。
【0016】
なおも別の態様により、器具のガラス、例えば、冷蔵庫のガラス、オーブンのガラスなどの上にエナメルを形成するための、上記の粒子混合物又はインクの使用が提供される。
【0017】
本発明のなおも別の態様により、ガラスシートであって、シートの表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシートが提供される。
【0018】
本発明のなおも別の態様により、ガラスシートであって、湾曲部位と、シートの湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルとを有し、エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシートが提供される。
【0019】
本発明のなおも別の態様により、自動車用の窓ガラスであって、湾曲部位と、シートの湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルとを有するガラスシートを含み、エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、自動車用の窓ガラスが提供される。
【0020】
本発明のなおも別の態様により、ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、キットであって、このガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含み、ガラスフリットのD90粒径は、5μm未満であり、結晶質酸化物材料のD90粒径は、5μm未満である、キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、表面輪郭走査結果を示す。
【
図2】比較用の粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、表面輪郭走査結果を示す。
【
図3】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、表面輪郭走査結果を示す。
【
図4】市販のインクを使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、表面輪郭走査結果を示す。
【
図5】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、表面輪郭走査結果を示す。
【
図6】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、光学顕微鏡画像を示す。
【
図7】比較用の粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、光学顕微鏡画像を示す。
【
図8】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、光学顕微鏡画像を示す。
【
図9】市販のインクを使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、光学顕微鏡画像を示す。
【
図10】本発明による粒子混合物を使用してガラス物品上に形成されたエナメルの、光学顕微鏡画像を示す。
【
図11】市販の結晶質酸化物材料のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで、本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0023】
本発明の粒子混合物は、ガラスフリットの粒子を含み、このガラスフリットの粒子は、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含む。ガラスフリットは、好ましくは結晶性であり、すなわちガラスフリットは、焼成時に結晶化することができる化合物の前駆体を含む。例えば、ガラスフリットは、焼成時にZn
2SiO
4を結晶化することのできる、前駆体を含んでもよい。
【0024】
本発明の粒子混合物に用いられるガラスフリットは、少なくとも25重量%、少なくとも28重量%、少なくとも30重量%、少なくとも33重量%、又は少なくとも35重量%のSiO
2を含んでもよい。ガラスフリットは、65重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、又は37重量%以下のSiO
2を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、25〜65重量%、好ましくは30〜50重量%のSiO
2を含んでもよい。
【0025】
ガラスフリットは、少なくとも19重量%、少なくとも20重量%、少なくとも22重量%、又は少なくとも25重量%のZnOを含んでもよい。ガラスフリットは、59重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、又は30重量%以下のZnOを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、19〜59重量%、好ましくは20〜40重量%のZnOを含んでもよい。
【0026】
ガラスフリットは、0重量%より多い、少なくとも0.1重量%、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、又は少なくとも4重量%のSを含んでもよい。ガラスフリットは、6重量%以下、5重量%以下、又は4重量%以下のSを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、好ましくは0.1〜5重量%のSを含んでもよい。
【0027】
本明細書に記載のガラスフリットの組成は、重量%(重量百分率)として示される。これらの重量%は、ガラスフリット組成物の総重量に対するものである。重量%は、ガラスフリット組成物の調製において出発物質として使用される成分の百分率であり、酸化物又は単体基準である。当業者であれば理解するように、特定の元素の酸化物又は単体形態以外の出発物質を、本発明のガラスフリットの調製に使用することができる。非酸化物出発物質を使用して、特定の元素の酸化物をガラスフリット組成物に供給するとき、その元素の酸化物を記載の重量%で供給した場合に等モル量の元素を供給するのに適切な量の出発物質が使用される。重量%が単体基準で示される場合、及び単体ではない出発物質が使用される場合の成分については、元素の単体形態が記載の重量%で供給される場合には、供給される元素と等モル量の元素を供給するのに適切な量の出発物質が使用される。ガラスフリット組成物を特定するためのこのアプローチは、当該技術分野において典型的なものである。当業者であれば容易に理解するように、ガラスフリットの製造プロセス中に揮発性化学種(酸素など)が失われることがあるため、得られたガラスフリットの組成は、本明細書で酸化物又は元素基準で示される、出発物質の重量%に正確に一致しない場合がある。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−ES)などの当業者に公知のプロセスによる、焼成ガラスフリットの分析を用いて、対象とするガラスフリット組成物の出発成分を計算することができる。
【0028】
本発明の粒子混合物に用いられるガラスフリットは、B
2O
3を更に含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、少なくとも5重量%、少なくとも6重量%、又は少なくとも7重量%のB
2O
3を含んでもよい。ガラスフリットは、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、又は8重量%以下のB
2O
3を含んでもよい。ガラスフリットは、好ましくは7〜14重量%のB
2O
3を含んでもよい。
【0029】
ガラスフリットは、アルカリ金属酸化物、例えば、Li
2O、Na
2O、K
2O、及びRb
2Oから選択される1つ以上、好ましくはLi
2O、Na
2O、及びK
2Oから選択される1つ以上を更に含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、2重量%以上、4重量%以上、6重量%以上、6.5重量%以上、7重量%以上、又は7.5重量%以上のアルカリ金属酸化物を含んでもよい。ガラスフリットは、18重量%以下、15重量%以下、14重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、又は8重量%以下のアルカリ金属酸化物を含んでもよい。
【0030】
ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、又は2.5重量%以上のLi
2Oを含んでもよい。ガラスフリットは、4重量%以下、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下のLi
2Oを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、1〜3重量%のLi
2Oを含んでもよい。
【0031】
ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、又は5重量%以上のNa
2Oを含んでもよい。ガラスフリットは、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下、又は5重量%以下のNa
2Oを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、2〜6重量%のNa
2Oを含んでもよい。
【0032】
ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、1.5重量%以上、又は2重量%以上のK
2Oを含んでもよい。ガラスフリットは、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下のK
2Oを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、1.5〜3重量%のK
2Oを含んでもよい。
【0033】
ガラスフリットは、TiO
2を更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、2.75重量%以上、3.5重量%以上、4重量%以上、5重量%以上、5.5重量%以上、又は6重量%以上のTiO
2を含んでもよい。ガラスフリットは、10重量%以下、8重量%以下、6重量%以下のTiO
2を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0〜10重量%のTiO
2を含んでもよい。
【0034】
ガラスフリットは、Fを更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、又は0.4重量%以上のFを含んでもよい。ガラスフリットは、1重量%、0.75重量%以下、0.6重量%以下、又は0.5重量%以下のFを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0〜1重量%のFを含んでもよい。
【0035】
ガラスフリットは、BaOを更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上のBaOを含んでもよい。ガラスフリットは、2重量%以下、1.8重量%以下、又は1.5重量%以下のBaOを含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0.1〜2重量%のBaOを含んでもよい。
【0036】
ガラスフリットは、V
2O
5を更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、又は1重量%以上のV
2O
5を含んでもよい。ガラスフリットは、2重量%以下、1.5重量%以下、又は1重量%以下のV
2O
5を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0.5〜1.5重量%のV
2O
5を含んでもよい。
【0037】
ガラスフリットは、Ce
2O
3を更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、又は0.3重量%以上のCe
2O
3を含んでもよい。ガラスフリットは、1重量%以下、0.6重量%以下、又は0.5重量%以下のCe
2O
3を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0.1〜0.5重量%のCe
2O
3を含んでもよい。
【0038】
ガラスフリットは、Nb
2O
5を更に含んでもよい。ガラスフリットは、0重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、又は0.3重量%以上のNb
2O
5を含んでもよい。ガラスフリットは、1重量%以下、0.6重量%以下、又は0.5重量%以下のNb
2O
5を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0.1〜0.5重量%のNb
2O
5を含んでもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、ガラスフリットは、実質的に鉛を含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的に鉛を含まない」により、意図的に添加された鉛を含有しない、ガラスフリットを包含することを意図する。例えば、ガラスフリットは、0.1重量%未満のPbO、例えば0.05重量%未満、0.01重量%未満、又は0.005重量%未満のPbOを含んでもよい。
【0040】
ガラスフリットは、Bi
2O
3を更に含んでもよい。ガラスフリットは、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、又は25重量%以上のBi
2O
3を含んでもよい。ガラスフリットは、50重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下のBi
2O
3を含んでもよい。例えば、ガラスフリットは、0〜25重量%のBi
2O
3を含んでもよい。
【0041】
代替的な実施形態では、ガラスフリットは、実質的にビスマスを含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的にビスマスを含まない」により、意図的に添加されたビスマスを含有しない、ガラスフリットを包含することを意図する。例えば、ガラスフリットは、0.1重量%未満のBi
2O
3、例えば0.05重量%未満、0.01重量%未満、又は0.005重量%未満のBi
2O
3を含んでもよい。
【0042】
ガラスフリットは、更なる酸化物成分などの、更なる成分を含んでもよい。典型的には、ガラスフリットは、合計で、20重量%以下、10重量%以下、7重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は1重量%以下の更なる成分を含んでもよい。ガラスフリットは、少なくとも0.1重量%の更なる成分を含んでもよい。更なる成分は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、及び/又は酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0043】
本発明の一実施形態では、ガラスフリットは、
a)25〜65重量%のSiO
2と、
b)19〜50重量%のZnOと、
c)>0〜6重量%のSと、
d)0〜40重量%のBi
2O
3と、
e)7〜14重量%のB
2O
3と、
f)0〜3重量%のLi
2Oと、
g)0〜7重量%のTiO
2と、
h)4〜12重量%のNa
2Oと、
i)0〜3重量%のK
2Oと、
j)0〜1重量%のFと、
k)0〜2重量%のBaOと、
l)0〜1重量%のV
2O
5と、
m)0〜1重量%のCe
2O
3と、
n)0〜1重量%のNb
2O
5と、を含んでもよい。
【0044】
ガラスフリットは、本明細書に記載される組成物、及び付随する不純物から本質的になってもよい。その場合、当業者であれば、列挙された構成成分の総重量%が100重量%であること、その他の残部は持ち込まれた不純物であることを、容易に理解する。典型的には、いずれの付随する不純物も、0.1重量%以下、0.05重量%以下、0.01重量%以下、0.05重量%以下、0.001重量%以下、又は0.0001重量%以下で存在する。
【0045】
一実施形態では、ガラスフリットは、
a)25〜65重量%のSiO
2と、
b)19〜50重量%のZnOと、
c)>0〜6重量%のSと、
d)0〜40重量%のBi
2O
3と、
e)7〜14重量%のB
2O
3と、
f)0〜3重量%のLi
2Oと、
g)0〜7重量%のTiO
2と、
h)4〜12重量%のNa
2Oと、
i)0〜3重量%のK
2Oと、
j)0〜1重量%のFと、
k)0〜2重量%のBaOと、
l)0〜1重量%のV
2O
5と、
m)0〜1重量%のCe
2O
3と、
n)0〜1重量%のNb
2O
5と、
o)0〜10重量%の更なる構成成分であって、MgO、Al
2O
3、及び/又はZrO
2からなる群から選択されてもよい、更なる構成成分と、
p)付随する不純物と、から本質的になってもよい。
【0046】
本発明の粒子混合物において、ガラスフリットの粒子のD90粒径は、5μm未満である。ガラスフリットの粒子のD90粒径は、4.8μm未満、4μm未満、3.5μm未満、3μm未満、2.5μm未満、2μm未満、又は1.5μm未満であってもよい。
【0047】
本明細書における用語「D90粒径」は、粒径分布を指し、D90粒径の値は、特定の試料中、全粒子の90体積%がその粒径値未満にある値に相当する。D90粒径は、レーザー回折法を使用して(例えば、Malvern Mastersizer 2000を使用して)、決定することができる。
【0048】
本発明の粒子混合物において、ガラスフリットの粒子のD50粒径は、1μm未満、0.9μm未満、又は0.75μm未満であってもよい。
【0049】
本明細書における用語「D50粒径」は、粒径分布を指し、D50粒径の値は、特定の試料中、全粒子の50体積%がその粒径値未満にある値に相当する。D50粒径は、レーザー回折法を使用して(例えば、Malvern Mastersizer 2000を使用して)、決定することができる。
【0050】
加えて、(D90粒径が常にD50粒径よりも大きいことに注意して)、ガラスフリットの粒子のD90粒径は、少なくとも1μm、少なくとも1.2μm、又は少なくとも1.4μmであってもよい。
【0051】
本発明の粒子混合物は、2種類以上のガラスフリットの粒子の混合物を含んでもよい。しかし、本発明では単一のフリット系を用いることが好ましく、すなわち、本発明の粒子混合物は、1種類のみのガラスフリットの粒子を含むことが好ましい。特に、本発明で単一のフリット系を含む場合、ガラスフリットは実質的に鉛を含まないことが好ましく、より好ましくは、ガラスフリットは実質的にビスマス及び鉛を含まない。
【0052】
ガラスフリットの粒子は、原料を一緒に混合し、それらを溶融して、溶融ガラス混合物を形成し、次いで急冷してガラスを形成することによって、調製することができる。プロセスは、得られたガラスをミリング加工して、所望の粒径のガラスフリット粒子を提供すること、を更に含んでもよい。例えば、アルコール系又は水系溶媒中での湿式ビーズミリング加工などのビーズミリング加工プロセスを使用して、ガラスをミリング加工してもよい。当業者であれば、ガラスフリットを調製するための好適な代替方法を認識している。好適な代替方法としては、水急冷、ゾルゲルプロセス、及び噴霧熱分解が挙げられる。
【0053】
粒子混合物は、粒子混合物の総重量に基づいて、40〜85重量%のガラスフリット、好ましくは75〜85重量%のガラスフリットを含んでもよい。
【0054】
本発明の粒子混合物は、結晶質酸化物材料の粒子を更に含む。本明細書で使用するとき、用語「結晶質酸化物材料」は、X線回折(XRD)を用いて決定したときに、最低限で30%の結晶化度を有する、酸化物材料を意味する。例えば、結晶質酸化物材料は、XRDを用いて決定したときに、30〜100%の範囲の結晶化度を有する、酸化物化合物であってもよい。結晶質酸化物材料は、典型的には、多結晶質酸化物材料である。
【0055】
結晶質酸化物材料は、酸化ケイ素、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ジルコン酸ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びこれらの混合物から選択されてもよい。例えば、結晶質酸化物材料は、SiO
2、Zn
2SiO
4、ZnO.B
2O
3、3ZnO.B
2O
3、5ZnO.2B
2O
3、Al
2SiO
5、及びこれらの混合物から選択されてもよい。好ましくは、結晶質酸化物材料は、Zn
2SiO
4を含むものであり、例えば、結晶質酸化物材料は、マンガンドープZn
2SiO
4を含んでもよい。
【0056】
所望の粒径の結晶質酸化物材料の粒子を提供するために、結晶質酸化物材料をミリング加工に供してもよい。例えば、湿式又は乾式ビーズミリング加工などのビーズミリング加工プロセスを用いて、結晶質酸化物材料をミリング加工してもよい。湿式ビーズミリング加工を、アルコール系溶媒、例えば、ブチルジグリコールを使用して行ってもよい。
【0057】
粒子混合物は、粒子混合物の総重量に基づいて、0.1〜15重量%の結晶質酸化物材料、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の結晶質酸化物材料を含んでもよい。
【0058】
本発明の粒子混合物において、結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径は、5μm未満である。結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径は、4.8μm未満、4μm未満、3.5μm未満、3μm未満、2.5μm未満、2μm未満、又は1.5μm未満であってもよい。
【0059】
好ましくは、結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径は、ガラスフリットの粒子のD90粒径以下である。より好ましくは、結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径は、ガラスフリットの粒子のD90粒径未満である。
【0060】
好ましくは、本発明の粒子混合物において、結晶質酸化物材料の粒子のD50粒径は、1μm未満、好ましくは0.9μm未満、より好ましくは0.75μm未満である。
【0061】
加えて、(D90粒径が常にD50粒径よりも大きいことに注意して)、結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径は、少なくとも1μm、少なくとも1.2μm、又は少なくとも1.4μmであってもよい。
【0062】
本発明の粒子混合物中、ガラスフリットの結晶質酸化物材料に対する重量比は、90.00:10.00〜99.90:0.10の範囲であってもよい。好ましくは、本発明において、ガラスフリットの結晶質酸化物材料に対する重量比は、99.00:1.00〜99.90:0.10、より好ましくは99.50:0.50〜99.85:0.15の範囲である。
【0063】
粒子混合物は、混合金属酸化物顔料又はカーボンブラック顔料などの、顔料の粒子を更に含んでもよい。使用される場合、このような顔料は、エナメルにおいて望まれる、色、光沢、及び不透明度の範囲に応じて、粒子混合物の約55重量%以下、好ましくは10〜25重量%を構成してもよい。
【0064】
好適な顔料は、コランダム−ヘマタイト、かんらん石、プリデライト、パイロクロア、ルチル、及びスピネルなどの、複合金属酸化物顔料を含んでもよい。バデレイ石、ホウ酸塩、ガーネット、ペリクレース、フェナサイト、リン酸塩、スフェーン、及びジルコンなどの、他の種類のものは、特定の用途に好適である場合がある。
【0065】
自動車産業において黒色を得るために使用することができる典型的な複合金属酸化物顔料としては、銅、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンなどのスピネル構造酸化物などの、スピネル構造を有する遷移金属酸化物が挙げられる。これらの黒色スピネル顔料は、自動車産業における使用に好ましいが、他の様々な色を得るための他の金属酸化物顔料を本発明において用いてもよい。他の最終用途の例としては、建築、器具、及び飲料産業が挙げられる。
【0066】
本発明における使用に好適な市販の顔料の例としては、CuCr
2O
4、(Co,Fe)(Fe,Cr)
2O
4、(NiMnCrFe)などが挙げられる。
【0067】
2つ以上の顔料の混合物もまた、本発明の粒子混合物に用いてもよい。
【0068】
好ましくは、顔料の粒子のD90粒径は、ガラスフリットの粒子のD90粒径以下である。より好ましくは、顔料の粒子のD90粒径は、ガラスフリットの粒子のD90粒径未満である。
【0069】
顔料の粒子のD90粒径は、5μm未満、4μm未満、又は2μm未満であってもよい。好ましくは、顔料の粒子のD90粒径は、1.2μm未満である。
【0070】
本発明の粒子混合物は、ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を混合することによって、調製することができる。顔料を用いる場合、粒子混合物は、ガラスフリットの粒子、結晶質酸化物材料の粒子、及び顔料の粒子を混合することによって、調製することができる。
【0071】
本発明の粒子混合物を、液体分散媒体と組み合わせて、本発明の第2の態様によるインクを形成することができる。本明細書で使用するとき、用語「液体分散媒体」は、基材へのインクの塗布(すなわち印刷)を意図した条件で、液相中にある物質を指す。したがって、周囲条件では、液体分散媒体は固体であってもよく、又は印刷には粘稠すぎる液体であってもよい。当業者であれば容易に理解するように、粒子混合物と液体分散媒体との組み合わせは、必要に応じて高温で行ってもよい。
【0072】
本発明のインクに用いられる液体分散媒体は、用いられる塗布方法(例えば、スクリーン印刷、ローラーコーティング、又はインクジェット印刷)、及びエナメルの意図される最終用途に基づいて選択されてもよい。典型的には、液体分散媒体は、有機液体を含む。
【0073】
一実施形態では、液体分散媒体は、塗布条件で粒子混合物を十分に懸濁させ、塗布されたコーティングの乾燥及び/又は焼成若しくは予備焼成中に完全に除去される。媒体の選択に影響する因子としては、溶媒粘度、蒸発速度、表面張力、臭気及び毒性が挙げられる。好適な媒体は、好ましくは印刷条件において非ニュートン挙動を示す。好適な媒体は、典型的には有機物である。好適には、媒体は、水、アルコール、グリコールエーテル、ラクテート、グリコールエーテルアセテート、アルデヒド、ケトン、芳香族炭化水素、及び油のうちの1つ以上を含む。2つ以上の溶媒の混合物も、好適である。
【0074】
代替的な実施形態では、液体分散媒体は、熱線又は化学線(例えば、紫外線)への曝露により硬化可能なものである。この実施形態では、液体分散媒体は、塗布条件で粒子混合物を十分に懸濁し、次いで、塗布されたコーティングを熱線又は化学線に曝露することによって、硬化される。続いて、塗布されたコーティングの焼成又は予備焼成中に、硬化した液体分散媒体の成分を除去する。好適な硬化性液体分散媒体としては、例えば、架橋性アクリレート及び/又はメトアクリレート(methoacrylate)を挙げてもよい。
【0075】
好ましい液体分散媒体としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、二塩基性エステル、及び1−メトキシ2−プロパノールが挙げられる。特に好ましい媒体は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む。
【0076】
インクは、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。これらには、BYKJET、disperBYK、Solsperse、若しくはDispexの範囲の分散剤、特にBYKJET 9151などの分散剤、及び/又はレオロジー変性剤を挙げてもよいが、これらに限定されない。
【0077】
本発明のインクは、インクの総重量に基づいて、約40〜約80重量%の上記粒子混合物、及び約20〜約60重量%の液体分散媒体を含んでもよい。当業者であれば、インクの基材への塗布に関し所望する方法に応じて、粒子混合物及び液体分散媒体の適切な量を選択することが可能である。例えば、インクが、スクリーン印刷によって基材に塗布されるものである場合、インクは、約50〜約80重量%の粒子混合物を含んでもよい。インクが、ローラーコーティング又はインクジェット印刷によって基材に塗布されるものである場合、インクは、約40〜約60重量%の粒子混合物を含んでもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、インクは好ましくは実質的に鉛を含まず、すなわち、いずれの鉛含有成分もインクに実質的に存在しない。例えば、インクは、0.1重量%未満の鉛を含んでもよい。
【0079】
いくつかの実施形態では、インクは好ましくは実質的にビスマスを含まず、すなわち、いずれのビスマス含有成分もインクに実質的に存在しない。例えば、インクは、0.1重量%未満のビスマスを含んでもよい。
【0080】
インクのレオロジーは、インクを基材上に塗布するために使用される技術に応じて調節することができる。インクの粘度は、ビニル樹脂、溶媒、セルロース系材料などのフィルム形成剤といった粘性樹脂の使用、又は少量のアンモニア溶液の添加によって、改変することができる。一実施形態では、インクが、例えば、ローラーコーティング又はインクジェット印刷によって基材に塗布されるものである場合、インクは、1000s
−1の剪断速度及び25℃の温度で50mPa.s未満の粘度、好ましくは1000s
−1の剪断速度及び25℃の温度で20mPa.s未満の粘度を有してもよい。別の実施形態では、インクが、例えば、スクリーン印刷によって基材に塗布されるものである場合、当該インクは、10s
−1の剪断速度及び25℃の温度で8〜20Pa.sの範囲の粘度を有してもよい。
【0081】
本発明のインクは、
a)ガラスフリットの粒子であって、ガラスフリットが、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、及び硫黄(S)を含む、ガラスフリットの粒子と、
b)結晶質酸化物材料の粒子と、
c)液体分散媒体と、を混合することによって、調製することができ、
成分a)及びb)の各々が、5μm未満のD90粒径を有する、インクである。
【0082】
成分を、例えば、プロペラミキサー、高剪断ミキサー、又はビーズミルを使用して、混合してもよい。いくつかの実施形態では、液体分散媒体及び/又は組み合わせた成分を、混合前及び/又は混合中に加熱してもよい。
【0083】
本発明のインクを、エナメルを基材上に形成する方法に用いてもよい。このような方法は、上記のインクのコーティングを基材上に塗布することと、塗布されたコーティングを焼成することと、を含んでもよい。
【0084】
インクのコーティングを、好適な印刷方法によって基材に塗布してもよい。一実施形態では、インクのコーティングを、スクリーン印刷によって、例えば、好適なスクリーン及びスキージを使用して基材に塗布してもよい。別の実施形態では、インクのコーティングを、ローラーコーティングによって基材に塗布してもよい。更なる実施形態では、インクをインクジェット印刷によって基材に塗布し、インク液滴が、デジタル制御されたプリントヘッドによって基材上に直接吐出される。例えば、熱ドロップオンデマンドインクジェット印刷及び圧電ドロップオンデマンドインクジェット印刷技術が、好適である場合がある。
【0085】
インクコーティングを基材に塗布した後、かつ焼成する前に、液体分散媒体中に存在する溶媒を除去又は部分的に除去するため、塗布されたコーティングに乾燥工程を行ってもよい。乾燥は、最高200℃の温度で行うことができる。乾燥は、例えば、塗布されたコーティングを周囲温度で空気乾燥させることによって、好適なオーブン内でインクコーティングされた基材を加熱することによって、又はインクコーティングされた基材を赤外線に曝露することによって、行うことができる。
【0086】
あるいは、適切な液体分散媒体を用いる場合、例えば、塗布されたコーティングを、硬化を開始することが可能な放射線に曝露することによって、塗布されたコーティングに硬化工程を行ってもよい。
【0087】
塗布されたコーティングは、コーティングされた基材を十分高い温度まで加熱することにより、ガラスフリットを溶融及び基材に融着させること、並びに液体分散媒体に由来するいずれの残りの成分も焼き尽くすことによって、焼成することができる。例えば、焼成は、コーティングされた基材を500〜1000℃、例えば540〜840℃の範囲の温度に加熱することによって、行うことができる。コーティングされた基材を加熱することは、連続ライン炉などの好適な炉を使用して、行うことができる。
【0088】
任意の乾燥又は硬化工程の後、かつ塗布されたコーティングの焼成の前に、コーティングに、予備焼成工程を行ってもよい。本明細書で使用するとき、「予備焼成」は、液体分散媒体、例えば、不揮発性有機物に由来する、不揮発性成分の除去のために、コーティングされた基材を>200℃〜600℃の範囲の温度まで加熱することを指す。予備焼成は、連続ライン炉などの好適な炉を使用して、行ってもよい。
【0089】
本発明のエナメルの形成方法において、インクを塗布する基材は、ガラス基材、セラミック基材、又は金属基材であってもよい。好ましい実施形態では、基材は、ガラス基材である。
【0090】
任意の乾燥工程、焼成工程、又は予備焼成工程の前に、基材に塗布されるインクのコーティングは、10〜60μmの範囲の厚さ(湿潤時フィルム厚さ)を有してもよい。インクが、ローラーコーティング又はインクジェット印刷によって基材に塗布されるものである場合、インクのコーティングは、好ましくは、20〜40μmの範囲の湿潤時フィルム厚さを有する。インクが、スクリーン印刷によって基材に塗布されるものである場合、インクのコーティングは、好ましくは、10〜25μmの範囲の湿潤時フィルム厚さを有する。
【0091】
得られたエナメルの厚さ(焼成後)は、12μm以下、好ましくは11μm以下、より好ましくは10μm以下であってもよい。
【0092】
本発明の具体的な利点は、小さくした粒径の使用により、粒子混合物内の粒子充填を強化することが可能となり、これにより、薄くしたエナメルの厚さで高い光学濃度を得ることが可能となることである。
【0093】
光学濃度は、エナメルの不透明度の指標である。物質の光学濃度は、物質を通過する透過光の強度の、入射光の強度に対する対数比である。光学濃度(OD)は、透過率(T)の負の対数として数式化され、すなわちOD=−log
10Tであり、透過率は、試料を透過する光の強度の、入射光の強度に対する比である。自動車用の不透明化エナメルについては、概して、最低限で2〜4の光学濃度が必要とされる。エナメルの光学濃度は、好適な濃度計、例えば、Tobias TQ濃度計Densitometer(Tobias Associates,Incから入手可能)を使用して測定することができる。
【0094】
エナメルを基材上に形成する方法の好ましい実施形態では、基材はガラスシートであり、塗布されたコーティングの焼成は、ガラスシートをシェイピングするための圧力成形プロセスの直前又はそのプロセス中に行われる。例えば、インクのコーティングを、所望の領域内のガラスのシートに塗布してもよく、次いでコーティングされたガラスを高温にさらすことにより、コーティングの焼成を生じさせ、ガラスシートの軟化を生じさせてもよい。次いで、軟化したガラスシートを、ダイ又は型を使用する圧力成形に供して、ガラスをその最終的な所望の形状に曲げてもよい。このようなプロセスにおいて、本発明により、改善された粘着防止特性がもたらされること、すなわち、エナメルが、圧力成形に用いられる型又はダイに粘着する可能性は低いことが、判明した。
【0095】
特に好ましい実施形態では、このような方法を用いて、窓の縁部に位置する着色された(典型的には黒色の)不透明化エナメルを有する、自動車用の窓を製造することができる。例えば、この方法を用いて、自動車の側部又は後部の窓として使用するためのガラスのシートの縁部に不透明化エナメルを塗布することができる。エナメルの塗布及び任意の圧力成形工程の前又は後に、ガラスのシートに強化又は強靭化プロセスを行ってもよい。
【0096】
あるいは、この方法を用いて、不透明化エナメルを自動車のフロントガラスに塗布することができる。自動車のフロントガラスは、典型的には、合わせガラスのウインドウである。合わせガラスのウインドウは、ガラスの内側層と外側層との間に配置された可撓性プラスチック材料の中間層を含んでもよい。中間層は、例えば、ポリビニルブチラール(「PVB」)、ポリビニルクロライド(「PVC」)、ポリウレタン(「PU」)、又はエチルビニルアセテート(「EVA」)を含んでもよい。このような合わせガラスの使用により、フロントガラスの耐貫通性を高めること、及び衝撃の際のガラスの破片による裂傷の危険性を低減することができる。合わせガラスから構成される自動車用のフロントガラスは、典型的には、ガラス層のうちの1つの一方の面、好ましくはガラスの外側層の内側面に配置された着色された(例えば黒色の)不透明化エナメルを有する。あるいは、不透明化エナメルは、ガラス層の各々の一方の面の縁部、例えば、ガラスの各々の層の内側面に配置されてもよい。本発明の方法において、インクのコーティングを、ガラス層の一方又は両方の面の縁部に塗布して、ガラス層と中間層との組み立ての前に焼成してもよい。
【0097】
本明細書に記載される自動車用途に加えて、本発明の粒子混合物及び/又はインクは、建築用ガラス、器具のガラス、ガラス瓶などの他の目的のために、ガラス上の装飾的及び/又は機能的なエナメルの形成に用いてもよい。
【0098】
本発明ではまた、上に形成されたエナメルを有する基材であって、エナメルが、上記のインクのコーティングを基材上に塗布することと、塗布されたコーティングを焼成することとによって、得られた、又は得ることのできる、基材が提供される。
【0099】
本発明ではまた、ガラスシートであって、シートの表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシートが提供される。
【0100】
本発明ではまた、ガラスシートであって、湾曲部位を有し、及びシートの湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、エナメルが、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する、ガラスシートが提供される。
【0101】
本発明ではまた、ガラスシートを含む自動車用の窓ガラスが提供され、当該ガラスシートは、湾曲部位を有し、及びシートの湾曲部位の表面の少なくとも一部分の上に形成されたエナメルを有し、エナメルは、少なくとも2.5の光学濃度及び12μm以下の厚さを有する。
【0102】
本発明のこれらの態様では、エナメルは、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下の厚さを有してもよい。
【0103】
更に、本発明のこれらの態様では、エナメルは、2.5以上、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上の光学濃度を有してもよい。
【実施例】
【0104】
以下の実施例を参照して、本発明を更に説明する。これは例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0105】
ガラスフリット粒子
以下の表1に示す組成を有するガラスフリット(a)及び(b)の粒子を、以下のように調製した。市販の原料を、実験室用ミキサーを使用して混合した。原料の混合物を、ガス炉内にてアルミナるつぼ内で溶融させた。溶融を、1350℃で55分間行った。得られた溶融ガラスを水で急冷して、ガラスフリットを得た。
【0106】
次いで、ガラスにジェットミリング加工を行い、約6μmのD90粒径を有する、粗くミリング加工されたガラスフリット粒子を得た。次いで、粗くミリング加工されたガラスフリット粒子を、湿式ビーズミリング加工に供した。湿式ミリング加工された混合物は、50重量%のガラスフリットと、49.2重量%のDowanol(商標)DPM(Dowから入手可能)と、0.8重量%のBykJet−9151分散剤(Bykから入手可能)と、を含んでいた。この混合物を、ガラスフリット粒子が約1.4μmのD90粒径を有するまで、ビーズミリング加工した。Malvern Mastersizer 2000を使用して、レーザー回折法を用いてガラスフリットの粒径を決定した。
【0107】
【表1】
【0108】
結晶質酸化物材料の粒子
結晶質酸化物材料(i)の粒子を、好適な結晶質酸化物材料を合成することと、次いで、合成された材料を湿式ビーズミリング加工に供することとによって、調製した。湿式ミリング加工された混合物は、50重量%の結晶質酸化物材料と、50重量%のDowanol(商標)DPMと、を含んでいた。この混合物を、結晶質酸化物材料が約1.4μmのD90粒径を有するまで、ビーズミリング加工した。結晶質酸化物材料(i)の粒径を、Malvern Mastersizer 2000を使用して、レーザー回折法を用いて決定した。
【0109】
結晶質酸化物材料(ii)は、254nmのD50粒径を有する、市販の単相結晶質マンガンドープZn
2SiO
4(Sigma−Aldrichから購入(CAS番号:68611−47−2))である。この粒子をDowanol(商標)DPM溶媒と混合することにより、結晶質酸化物材料(ii)の粒子の懸濁液を調製した。懸濁液は、50重量%のMnドープZn
2SiO
4粒子と、50重量%のDowanol(商標)DPMと、を含んでいた。
図11は、結晶質酸化物材料(ii)のX線回折スペクトルである。
【0110】
顔料の粒子
市販の黒色顔料Black 1G(Shepherd Color Companyから入手可能)を、湿式ビーズミリング加工に供した。湿式ミリング加工された混合物は、50重量%の顔料と、48.5重量%のDowanol(商標)DPMと、1.5重量%のBykJet−9151分散剤と、を含んでいた。顔料を、約0.6μmのD90粒径が得られるまで、ビーズミリング加工した。顔料の粒径を、Malvern Mastersizer 2000を使用して、レーザー回折法を用いて決定した。
【0111】
樹脂
20重量%のKlucel E3042(Ashland Industriesから入手可能)と80重量%のDowanol(商標)DPMとを含む、混合物を、撹拌しながら90℃まで加熱することによって、樹脂の溶液を調製した。均質で透明な粘度の高い溶液が得られるまで、混合物の加熱及び撹拌を続けた。
【0112】
インクの調製
インク1及び2を調製するために、ガラスフリット粒子の懸濁液、結晶質酸化物材料(i)の粒子の懸濁液と、顔料粒子の懸濁液と(各々は、それぞれのミリング加工液中に懸濁)を組み合わせ、次いで上記のように調製した樹脂溶液、並びにイソプロピルアルコール溶媒及びBykJet−9151界面活性剤と混合して、インクを形成した。混合を、高速ミキサーを使用して、3000rpmで2分間行った。他の成分と組み合わせる前に、ガラスフリット粒子の懸濁液と、結晶質酸化物材料(i)の粒子との懸濁液を、83重量%のガラスフリット懸濁液と17重量%の結晶質酸化物懸濁液との相対割合で組み合わせ、遊星型ミルを使用して350rpmで2時間ミリング加工した。
【0113】
インク3を調製するために、ガラスフリット粒子の懸濁液(ミリング加工液中に懸濁)と、結晶質酸化物材料(ii)の粒子の懸濁液(上記のように調製した懸濁液)と、顔料粒子の懸濁液(ミリング加工液中に懸濁)とを組み合わせ、次いで上記のように調製した樹脂溶液、並びにイソプロピルアルコール溶媒及びBykJet−9151界面活性剤と混合して、インクを形成した。混合を、高速ミキサーを使用して、3000rpmで2分間行った。他の成分と組み合わせる前に、ガラスフリット粒子の懸濁液と、結晶質酸化物材料(ii)の粒子の懸濁液とを、83重量%のガラスフリット懸濁液と17重量%の結晶質酸化物懸濁液との相対割合で組み合わせ、遊星型ミルを使用して350rpmで2時間ミリング加工した。
【0114】
インク1、2、及び3の組成を、以下の表2に記載する。
【0115】
【表2】
【0116】
インク4は、市販の黒色不透明化インク、1T3030−IR815A(Johnson Mattheyから入手可能)であり、D90粒径8μm〜12μmの範囲で固形分有する。
【0117】
インク3をアンモニア溶液と、96重量%のインク3と4重量%のアンモニア溶液との相対割合で組み合わせることによって、インク5を調製した。アンモニア溶液は、25重量%のアンモニアを含むものであり、Hees B.V.から購入した(CAS番号:1336−21−6)。
【0118】
エナメルを施したガラス物品の調製
上に形成されたエナメルを有するガラス物品A〜Dを、以下の手順によって調製した。Xaarの1002GS6プリントヘッドを使用して、7dpd(1ドット当たりの液滴数)、360×360dpi(1インチ当たりの液滴数)、及び6ピコリットルの液滴体積で、3kHzのジェット周波数により、インク1及び2をガラス基材上にインクジェット印刷した。次いで、塗布されたインクコーティングを、120℃で約10分間乾燥させた。塗布された各コーティングの乾燥後の厚さを、表3に示す。
【0119】
上に形成されたエナメルを有するガラス物品Eを、以下の手順によって調製した。Elcometer 3520 Baker Film Applicatorを使用して、ローラーコーティングにより、インク3をガラス基材に塗布した。インク3を、30μmの湿潤時層厚さで基材上にコーティングした。次いで、塗布されたインクコーティングを、120℃で約10分間乾燥させた。乾燥後の塗布されたコーティングの厚さを、表3に示す。
【0120】
インク4を使用して、ガラス物品F及びGを調製した。90Tメッシュスクリーン及びスキージを使用して、市販のインクをガラス基材上にスクリーン印刷した。次いで、塗布されたインクコーティングを、120℃で約10分間乾燥させた。乾燥後の塗布されたコーティングの厚さを、表3に示す。
【0121】
上に形成されたエナメルを有するガラス物品Hを、以下の手順によって調製した。77Tメッシュスクリーン及びスキージを使用して、スクリーン印刷によって、インク5をガラス基材に塗布した。次いで、塗布されたインクコーティングを、120℃で約10分間乾燥させた。乾燥後の塗布されたコーティングの厚さを、表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
コーティングされたガラス物品A〜Hの各々を十分な高温まで加熱することにより、ガラスを軟化させ、及び印刷されたコーティングを焼成し、同時に、シェイピングされたダイを9.5Nの加重により適用することによるプレス曲げプロセスに供した。加熱及びプレス曲げの条件を、以下の表4に記載する。プレス曲げに用いたダイを、金属布で覆った。
【0124】
【表4】
【0125】
エナメルを施したガラス物品A
i〜H
iは、エナメルを施したガラス物品A〜Hに対応し、正確に同じ方法で調製し、ただし、異なる点として、コーティングされたガラス物品を、同時にプレス曲げに供することなく焼成した。
【0126】
粘着防止試験
プレス曲げダイの金属布カバーにより残されたエナメル中のメッシュマークの存在に関してエナメルを施したガラス物品A〜Hについて目視確認することによって、及び各々のエナメルの表面粗さを測定することによって、プレス曲げ中に生じた粘着の程度を評価した。NanoFocus μscan光学粗面計(NanoFocus AGから入手可能)を使用して、エナメルを施したガラス物品の1cmの部位上で表面輪郭走査を行うことによって、表面粗さを測定する。平均表面粗さ(Ra)は、表面輪郭走査にわたってのピーク高さと深さとの平均である。
【0127】
比較のために、エナメルを施したガラス物品A
i〜H
iの表面粗さ(Ra)を、同じ方法で測定した。ガラス物品A〜Hについては、対応する曲げなしの、エナメルを施したガラス物品と比較しての表面粗さの増大、及び/又はメッシュマークの存在により、プレス曲げ加工プロセス中に粘着が起こったことが示されている。
【0128】
粘着防止試験の結果を、以下の表5に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
焼成後、ガラス物品B、D、E、F、及びHの上に形成されたエナメルの表面輪郭走査結果を、それぞれ
図1〜
図5に示す。エナメルを施したガラス物品B、D、E、G、及びHの光学顕微鏡画像(Nikon SMZ800を使用して10倍の倍率で撮影)を、それぞれ
図6〜
図10に示す。
【0131】
表5及び
図1〜
図10に示した結果によると、圧力成形プロセスに供されるガラス基材上でのエナメルの形成に用いる場合に、本発明の粒子混合物によって、良好な粘着防止特性を得ることが可能となることについて実証されている。
【0132】
光学濃度測定
ガラス物品A、B、E、F、及びGの各々の上に形成されたエナメルの光学濃度を、Tobias TQ濃度計(Tobias Associates,Incから入手可能)を使用して測定した。プレス曲げ中に生じた厄介な粘着により、ガラス物品C及びDの上に形成されたエナメルの光学濃度を測定することはできなかった。
【0133】
焼成後に測定された光学濃度及びエナメルの厚さを、以下の表6に示す。
【0134】
【表6】
【0135】
表6に示す結果によると、本発明の粒子混合物によって、薄くしたエナメルの厚さで、高い光学濃度を得ることが可能になることについて実証されている。
【手続補正書】
【提出日】2020年2月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリットの粒子及び結晶質酸化物材料の粒子を含む、粒子混合物であって、前記ガラスフリットが、25〜65重量%の酸化ケイ素(SiO2)と、19〜59重量%の酸化亜鉛(ZnO)と、c)>0〜6重量%の硫黄(S)と、を含み、前記粒子混合物のD90粒径は、5μm未満である、粒子混合物。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、
0〜40重量%のBi2O3と、
7〜14重量%のB2O3と、
0〜3重量%のLi2Oと、
0〜7重量%のTiO2と、
4〜12重量%のNa2Oと、
0〜3重量%のK2Oと、
0〜1重量%のFと、
0〜2重量%のBaOと、
0〜1重量%のV2O5と、
0〜1重量%のCe2O3と、
0〜1重量%のNb2O5と、
を更に含む、請求項1に記載の粒子混合物。
【請求項3】
前記ガラスフリットが、0.1重量%未満のPbO、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.005重量%未満のPbOを含む、請求項1又は2に記載の粒子混合物。
【請求項4】
前記ガラスフリットが、0.1重量%未満のBi2O3、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.005重量%未満のBi2O3を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項5】
前記ガラスフリットの粒子のD90粒径が、4μm未満、好ましくは3μm未満、より好ましくは2μm未満、最も好ましくは1.5μm未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項6】
前記結晶質酸化物材料が、酸化ケイ素、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ジルコン酸ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項7】
前記結晶質酸化物材料が、SiO2、Zn2SiO4、ZnO.B2O3、3ZnO.B2O3、5ZnO.2B2O3、Al2SiO5、及びこれらの混合物から選択される、請求項6に記載の粒子混合物。
【請求項8】
前記結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径が、4μm未満、好ましくは3μm未満、より好ましくは2μm未満、最も好ましくは1.5μm未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項9】
前記結晶質酸化物材料の粒子のD90粒径が、前記ガラスフリットの粒子のD90粒径未満である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項10】
ガラスフリットの結晶質酸化物材料に対する重量比が、90.00:10.00〜99.90:0.10の範囲、好ましくは99.00:1.00〜99.90:0.10の範囲、より好ましくは99.50:0.50〜99.85:0.15の範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項11】
顔料の粒子を更に含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項12】
前記顔料が、黒色顔料である、請求項11に記載の粒子混合物。
【請求項13】
前記顔料が、スピネル構造を有する遷移金属酸化物である、請求項11に記載の粒子混合物。
【請求項14】
前記顔料が、銅、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、又はこれらの混合物のスピネル構造酸化物から選択される、請求項12に記載の粒子混合物。
【請求項15】
前記顔料が、CuCr2O4、(Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、(NiMnCrFe)、及びこれらの混合物から選択される、請求項11に記載の粒子混合物。
【請求項16】
・40〜85重量%のガラスフリットと、
・0.1〜15重量%の結晶質酸化物材料と、
・0〜55重量%の顔料と、
を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項17】
10〜55重量%の顔料を含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の粒子混合物。
【請求項18】
・75〜85重量%のガラスフリットと、
・0.1〜5重量%の結晶質酸化物材料と、
・10〜25重量%の顔料と、
を含む、請求項16又は17に記載の粒子混合物。
【請求項19】
エナメルを基材上に形成するための、請求項1〜18のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【請求項20】
自動車用ガラスのシートの縁部の周囲に不透明化された黒色帯部を形成するための、請求項1〜18のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【請求項21】
エナメルを器具のガラス上に形成するための、請求項1〜18のいずれか一項に記載の粒子混合物の使用。
【国際調査報告】