【実施例】
【0058】
1°,2°−アルキルエチレンジアミンの合成およびMg
2(dobpdc)へのグラフト化。Mg
2(dobpdc)のジアミン付加変異体の本発明者による最初の研究により、1°,2°−アルキルエチレンジアミン(
図1d)は、2°,2°−アルキルエチレンジアミンと比較して、向上した熱安定性、1°,3°−アルキルエチレンジアミンと比較して、低いステップ圧力、およびCO
2脱着時の最小のヒステリシスに起因して、CCS用途に関してさらに研究する価値がある、ことが示唆された。これらの好ましい特性は、アミン相における強い1°アミン−金属結合と、骨格への広範な水素結合によって密接に結合されたカルバミン酸アンモニウム鎖の形成と、の両方から生じる(
図1c)。これらの結果に基づいて、本発明者は、2°アミン上のアルキル基のサイズを大きくすると、協同的なCO
2吸着メカニズムに干渉することなく、長期の吸着/脱着サイクル時のジアミン損失がさらに減少する可能性があると推論した。
【0059】
2°アミン上のアルキル基のサイズを大きくする効果を調べるために、Mg
2(dobpdc)を、直鎖アルキル基、例えばエチル(e−2)、n−プロピル(nPr−2)、n−ブチル(nBu−2)、n−ペンチル(nPent−2)、n−ヘキシル(nHex−2)、およびn−ヘプチル(nHept−2)基、ならびに分枝鎖アルキル基、例えばイソプロピル(i−2)、シクロペンチル(cPent−2)、および3−ペンチル基(3−Pent−2)で置換された一連の1°,2°−アルキルエチレンジアミンで官能化した(
図1d)。以前にこの骨格にe−2およびi−2を付加させ、40℃において低い分圧(≦1mbar)でCO
2ステップ状吸着を示す吸着剤を生成させた。nPr−2およびnBu−2は市販されているが、
図1dに示した他の1°,2°−アルキルエチレンジアミンは市販されていない。nPent、nHex、nHept、cPent、および3−Pent基で置換されたジアミンを調製するための単純な合成プロトコルが開発された。参照により本明細書に組み込まれるLee and Klajn,2015,Chem.Commun.51,p.2036を参照されたい。
【0060】
新たに調製したトルエン中の標的ジアミンの20v/v%溶液を、メタノール溶媒和Mg
2(dobpdc)に加えることによってジアミンをグラフトするためのプロトコル後には、DMSO−d
6中のDClで消化後に
1H NMRにより判定すると、
図2の嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミンのほぼすべてが、高いジアミン充填率(Mg
2+部位の>90%を占有)でMg
2(dobpdc)にグラフトされた。残念ながら、この系列で最大のジアミンであるnHept−2をグラフトしようとするすべての試みは、低いジアミン充填率(〜69%)、また、おそらく、細孔が大きなn−ヘプチル基を容易に収容することができないためと考えられるCO
2吸着ステップの欠如が見られた。予想通り、Mg
2(dobpdc)へ増々大きなジアミンをグラフトすることにより、77K N
2吸着等温線から判定されたラングミュア表面積は、活性化Mg
2(dobpdc)の3934m
2/gから、1374m
2/g(e−2)、1091m
2/g(nPr−2)、892m
2/g(nBu−2)、698m
2/g(nPent−2)、および503m
2/g(nHex−2)に次第に減少した。ジアミンの分子量を増加させると、乾燥N
2下での分解時にジアミン損失の最大速度が発生する温度は、N−メチルエチレンジアミン(m−2)の280℃からnHex−2の344℃へと同時発生的に増加した。したがって、この系列における最大のジアミンで官能化された吸着剤は、吸着/脱着サイクル中のジアミン揮発に対して最大の安定性を保持するはずである。
【0061】
Mg
2(dobpdc)変異体に関する2ステップCO
2吸着の観察。手元にある一連の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加Mg
2(dobpdc)変異体によって、CO
2吸着/脱着プロファイルを調べた。流れているCO
2下で行った熱重量分析(TGA)測定により、一連の吸着剤に関するハイスループット分析が可能になった。これらの測定において、高いCO
2吸着ステップ温度は、等温測定における低いCO
2ステップ圧力に対応している。これらの測定結果を
図2にまとめる。
【0062】
化合物EMM−50(e−2)(e−2−Mg
2(dobpdc))は、比較的高い温度(125℃)において単一のCO
2吸着ステップを示し、40℃等温線の0.5mbarにおける吸着ステップに対応している。しかしながら、2°アミン上のアルキル基のサイズをさらに大きくすると、CO
2吸着および脱着の両方において2つの急激なステップが生じ、各々、ジアミン1つあたり1つのCO
2の化学吸着を仮定している予想CO
2容量の約50%に対応している(
図2)。EMM−50(e−2)の純粋なCO
2脱着等圧線を注意深く分析すると、2つの微妙なCO
2脱着ステップが存在する可能性があることが明らかになった。一貫して、本発明者は、CO
2挿入されたe−2−Zn
2(dobpdc)の単結晶X線回折構造は、2つの異なるカルバミン酸アンモニウム鎖コンフォメーションを有することを観察した。ジアミンの分子量を増加させると、ジアミンの分子量がより大きくなるため、重量容量が徐々に低下する。本発明者は、EMM−50(i−2)(i−2−Mg
2(dobpdc))に関する2ステップCO
2吸着プロファイルを観察したが、この挙動は、一般に、大きなアルキル置換基を有する1°,2°−アルキルエチレンジアミンで発生するように考えられる。e−2を除き、
図2に示した吸着剤の40℃におけるCO
2等温線でも2つの吸着ステップが観察され、この挙動は動的効果ではないことを確認した。さらに、2ステップCO
2吸着/脱着プロファイルは、メチル基よりも大きいN置換基を有する1°,3°−アルキルエチレンジアミン、2°,2°−アルキルエチレンジアミンで官能化されたMg
2(dobpdc)についても観察され、この挙動は、立体障害のあるアルキルエチレンジアミンを付加させたMg
2(dobpdc)の変異体に共通であることを示唆している。本発明者はまた、1°,2°−アルキルプロピレンジアミンが、おそらく同じメカニズムによって同じ挙動を示すことも観察した。
【0063】
これらの材料で2つの異なる吸着/脱着ステップが発生することは、材料が、ある特定の柔軟な金属有機骨格について以前に報告されたように、CO
2の吸着および脱着時に、2つの相転移を経験することを示唆している。例えば、CO
2に関しては、Ichikawa et al.,2016,Langmuir 32,p.9722、Wu et al.,2015,Dalton Trans.44,p.10141、Sanda et al.,2013,Inorg.Chem.52,p.12866、Park and Suh,2010,Chem.Commun.46,610、およびBourrelly et al.,2005,J.Am.Chem.Soc.127,p.13519を参照されたい。例えば、N
2に関しては、Taylor et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.15019、Salles et al.,2010,J.Am.Chem.Soc.132,p.13782、およびKondo et al.,2007,J.Am.Chem.Soc.129,p.12362を参照されたい。この挙動は、ターゲットの煙道ガス流に対して高すぎる圧力で第2のステップが起こる場合、作業容量が低下する可能性があるため、CCS用途には望ましくない。例えば、乾燥模擬石炭煙道ガス(N
2中15%CO
2)流の下でEMM−50(3−Pent−2)(3−Pent−2−Mg
2(dobpdc))を冷却すると、第2の吸着ステップは、30℃を超える温度では作動しなかったため、40℃において予想されるCO
2容量の半分となった。
【0064】
1°,2°−アルキルエチレンジアミンのファミリーに関する吸着および脱着ステップの温度を比較すると、2つのステップの位置に関するアルキル基サイズの影響についての洞察が得られる(
図2)。高温の吸着ステップは、直鎖アルキル基を有する一連のジアミンと同様の温度で起こる(変曲点:Et=119℃;nPr=117℃;nBu=119℃;nPent=121℃;nHex=114℃)(
図2a)。この発見と一致して、これらの吸着剤の40℃におけるCO
2等温線における第1のCO
2吸着ステップはすべて約0.5mbarで起こる。同様に、高温のCO
2脱着ステップも同様の温度である(変曲点:e−2=131℃;nPr−2=126℃;nBu−2=127℃;nPent−2=133℃;nHex−2=131℃)。対照的に、第2のCO
2吸着ステップの温度は、アルキル基のサイズが大きくなるにつれて着実に低下し(変曲点:nPr=81℃;nBu=70℃;nPent=56℃;nHex=48℃)(
図2a)、CO
2脱着ステップ温度(nPr=88;nBu=78;nPent=65℃;nHex=65℃)も同様である。したがって、2°アミンの立体障害は、高温ステップ中のCO
2吸着/脱着の熱力学に大きな影響を及ぼさないが、低温吸着ステップには大きな影響を及ぼす。1°,2°−アルキルプロピレンジアミンでも同様の傾向が観察された。
【0065】
関連する傾向は、対応する一連の分枝鎖1°,2°−アルキルエチレンジアミンで観察することができる(
図2b)。第1の吸着ステップの変曲点は、EMM−50(i−2)(i−2−Mg
2(dobpdc))(114℃)およびEMM−50(3−Pent−2)(3−Pent−2−Mg
2(dobpdc)(111℃)では同様の温度で起こり、一方、第2のCO
2吸着ステップは、i−2(91℃)よりも、嵩高い3−Pent−2(42℃)の方が低い温度で起こる。特に、EMM−50(cPent−2)(cPent−2−Mg
2(dobpdc))は、他の1°,2°−アルキルエチレンジアミンよりもかなり高い吸着ステップ温度(129℃で変曲点)を有し、この材料におけるCO
2のより熱力学的に好ましい吸着を反映している(
図2b)。これは、おそらく、他のアルキル置換基と比較して、カルバミン酸アンモニウム鎖内のシクロペンチル基のより効率的な充填によるものである。にもかかわらず、この材料に関する第2のCO
2吸着ステップの変曲点は、66℃で起こり、それは、より小さいi−2(91℃)と、より大きい3−Pent−2(42℃)の間である。したがって、これらの3つのジアミンはまた、ジアミン上のアルキル置換基の立体的嵩高さが増加すると共に、第2のCO
2吸着ステップのための温度が低下する傾向にも従う。
【0066】
2つのCO
2吸着ステップを示す吸着剤による増加した水の共吸着。Mg
2(dobpdc)の嵩高いジアミン付加変異体の望ましくない2ステップのCO
2吸着/脱着プロファイルにもかかわらず、それらの高い熱安定性により、本発明者は、湿潤条件下でのCO
2回収へのそれらの適用性を評価した。ジアミン付加金属有機骨格における協同的CO
2吸着時の水の共吸着は、湿潤TGA等圧実験によって迅速に評価することができ、入射ガス流は、吸着剤に到達する前に、水に通して泡立てられる。これらの測定の欠点の1つは、吸着された種の同定を明確に確立できないことである。にもかかわらず、湿潤および乾燥N
2およびCO
2吸着等圧線の直接比較により、湿潤条件下でCO
2を回収するこれらの吸着剤の能力についての洞察を提供する。これらの研究の結果を
図3〜4にまとめる。
【0067】
すべての1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加Mg
2(dobpdc)変異体は、高温(130〜150℃)の湿潤N
2下での活性化時に、最小のジアミン損失を示した。高温(130〜150℃)で長時間、湿潤N
2を流しながら、N,N’−ジメチルエチレンジアミンおよびN,N’−ジエチルエチレンジアミンなどの2°,2°ジアミンが付加されたMg
2(dobpdc)変異体の活性化により、Mg
2+部位から実質的にジアミンが揮発した。これは、おそらく、金属部位に結合された1°アミンを有する吸着剤と比較して、これらの吸着剤のMN結合が弱いためである。湿潤N
2流の下で吸着剤を冷却すると(
図3)、これらの材料のN
2吸着が最小であるため、水の吸着量を見積もることが可能になった。Drisdell et al.,2015,Phys Chem Chem Phys 17,p.2144;Lee et al.,2015,Chem.Sci.6,p.3697、およびLee et al.,2014,Energy Environ.Sci.7,p.744を参照されたい。水の吸着は、アルキル基のサイズが大きくなるにつれて減少し、e−2(約8.3g/100g=4.6mmol/gの水が40℃で吸着された)から、3−Pent−2(約2.2g/100g=1.2mmol/gの水が40℃で吸着された)へと移動した(
図4)。この効果は、おそらく、単一成分のH
2O吸着等温線ですでに観察されたように、疎水性置換基が大きくなるにつれて、水と水素結合する非結合アミンの能力が低下したためである。
14b
【0068】
CCS用途にとって最も重要なことには、すべての1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加Mg
2(dobpdc)変異体が、水の存在下でCO
2のステップ状吸着を示した(湿潤CO
2曲線、
図3)。すべての場合において、高温ステップは、同様の温度またはわずかに低い温度(<10℃の差)で起こり、乾燥CO
2と比較して湿潤CO
2下で高さは同様であった。対照的に、2ステップCO
2吸着プロファイルを示す1°,2°−アルキルエチレンジアミンの場合、低温ステップは、典型的には、湿潤条件下、より高い温度で起こった、(
図3)。これは、おそらく、より高温のCO
2吸着ステップから生じるカルバミン酸アンモニウム鎖よりも熱力学的に安定性が低いはずのカルバミン酸アンモニウム鎖の第2のセット上における水の安定化効果(Unveren et al.,2017,Petroleum 3,p.37、Didas et al.,2014,Phys.Chem.Lett.5,p.4194、Bacsik et al.,2011,Langmuir 27,p.11118、およびSayari and Belmabkhout,2010,J.Am.Chem.Soc.132,p.6312、Serna−Guerrero et al.,2008,Ind.Eng.Chem.Res.47,p.9406)によるものである。この仮説と一致するように、EMM−50(ee−2)(ee−2−Mg
2(dobpdc))(
図3)およびEMM−50(pyrr−2)(pyrr−2−Mg
2(dobpdc))は、1°,2°−アルキルエチレンジアミンよりも熱力学的に安定ではないカルバミン酸アンモニウム鎖を形成し、また、乾燥状態と比較して湿潤状態下で、より高いCO
2吸着ステップ温度も示す。
【0069】
乾燥CO
2流および湿潤CO
2流の下での総質量取り込みの差は、主として、水の共吸着に起因している可能性がある(
図4)。アルキル置換基のサイズを大きくすると水の共吸着が減少する可能性があると仮定したが、この系列における最小のジアミン(e−2)は、これら2つの曲線間の差が最小であり、湿潤条件下での追加の質量取り込みは約1.5g/100g(ジアミン1つあたり水0.2分子)であった(
図4)。対照的に、2つのCO
2吸着ステップを示すより嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミンのすべてが、40℃においてジアミン1つあたりより多くの水を共吸着する(
図4)。例えば、水の共吸着のこの増加の程度は、より小さいEMM−50(e−2)(e−2−Mg
2(dobpdc))(1.5g/100g、ジアミン1つあたり水0.2分子)と比較すると、EMM−50(N−Hex−2−Mg
2(dobpdc))(2.8g/100g、ジアミン1つあたり水0.5分子)に関する湿潤および乾燥CO
2等圧線間の重量不一致はより大きくなった。特に、Mg
2(dobpdc)の1°,3°−アルキルエチレンジアミン置換変異体は、湿潤CO
2下で冷却するとさらに劇的な水の共吸着(>4g/100g、すべて水の場合)を示し、安定性の低いカルバミン酸アンモニウム鎖は、水と有利に相互作用する傾向が増大することを確認した(
図3)。したがって、Mg
2(dobpdc)の嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体によって示された水の共吸着の増加は、おそらく低温CO
2吸着ステップに対応している安定性の低いカルバミン酸アンモニウム鎖の直接的な結果である可能性が高い。対照的に、EMM−50(e−2)(e−2−Mg
2(dobpdc))は、おそらく、水との水素結合またはイオン双極子相互作用のための最小の表面を提示する、安定で、密に充填された鎖を形成する。にもかかわらず、すべての場合において、>60℃を超える温度で最小の水の共吸着が観察され、一般に、より高い温度で湿潤流からCO
2を吸着することによって、水の共吸着を最小化できることを示唆している。
【0070】
湿潤条件下での吸着/脱着サイクル。ジアミン上のアルキル基のサイズを大きくすると、温度スイング吸着プロセスにおけるジアミン損失に対して安定性が向上するかどうかを評価するために、Mg
2(dopbdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体を、湿潤条件下で吸着/脱着サイクルにかけた(
図5)。EMM−50(e−2)(e−2−Mg
2(dobpdc))は、湿潤条件下で、急激なCO
2吸着ステップおよび最小の水の共吸着を示すが、吸着/脱着サイクル中のジアミン損失に対するその傾向により、CCS用途にとっては有用ではない(
図5)。例えば、この材料を、模擬石炭煙道ガス流下での吸着(N
2中湿潤15%CO
2、40℃、5分)から、湿潤純粋CO
2(140℃、5分)下での脱着までサイクルさせると、60サイクル後には約13%のジアミンが損失する(1サイクルあたり0.2%の損失)。上記のように、ジアミンの分子量を増加させると、ジアミンの損失に対するその熱安定性が増加する。nPr−2(60サイクルで23%の損失)を除いて、ジアミンの損失は、e−2のより大きな同族体で、すなわち、nBu−2(11%)、nPent−2(3%)、およびnHex−2(1%)で官能化されたMg
2(dobpdc)をサイクルする際には、減少した。さらに、EMM−50(nPent−2)(nPent−2−Mg
2(dobpdc))およびEMM−50(nHex−2−Mg
2(dobpdc))のCO
2/H
2Oサイクル容量は、60の吸着/脱着サイクルにわたって非常に安定したままであった。同様の傾向が、分枝鎖アルキル基で観察された(i−2:24%;cPent−2:8%;3−Pent−2:5%の60サイクルにわたるジアミン損失)。結果として、この研究におけるより大きなジアミンで、例えば、nPent−2およびn−Hex−2で官能化されたMg
2(dobpdc)変異体は、最も安定な吸着/脱着サイクルを示し、したがってCCSプロセスにおける長期適用に最も好適である。
【0071】
より嵩高いジアミンを用いた2つのCO
2吸着ステップの原因。骨格Zn
2(dobpdc)およびそのジアミン付加変異体(Mg類似体と同構造である)に関する先に報告された単結晶X線回折構造は、嵩高いアルキルエチレンジアミンで観察される2ステップ吸着挙動の原因に関する可能性の高い説明を提供する(
図6)。Zn
2(dobpdc)の六角形チャネルは、均一ではなく、その代わりに、互いに向き合った3セットのペアのZn
2+中心を有する。結果として、近位ジアミンのペアは、c軸に沿って走り、2°アミン上のより大きなアルキル基は、ジアミンの隣接しているセットの間で増々不利な立体相互作用をもたらす。これらの不利な相互作用は、カルバミン酸アンモニウム相おいて悪化し、MN結合へのCO
2−挿入により、アルキル置換アミンは互いにより接近する。したがって、本発明者は、
図6に示すように、2つのCO
2吸着ステップを示す吸着剤の場合、高温ステップは、金属部位の半分におけるカルバミン酸アンモニウム鎖の形成に対応していると仮定する。ある部位でのカルバミン酸アンモニウム鎖の形成は、その隣接部位へのCO
2の挿入には不利となり、ヒンダードカルバミン酸アンモニウム鎖の形成を促進するためには、吸着のための推進力の増加(例えば、等圧測定での温度の低下または等温測定での圧力の増加)が必要である。非結合アミン上の置換基のサイズを大きくすると、第2の吸着ステップの熱力学的有利性が着実に低下することになる。したがって、ジアミン上のアルキル置換基のサイズを大きくすることの予想外の結果は、骨格のa−b平面における好ましくない相互作用に起因する2つの異なるCO
2吸着ステップの発生である。特に、カルバミン酸アンモニウム鎖の第2に形成されたセットは、熱力学的に安定性が低いため、増加する水の共吸着のための最も可能性の高い結合部位である(
図3〜4)。
【0072】
これまでに提示した発見は、CCSのためのMg
2(dobpdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体の適用性における2つの競合する傾向を示唆している:すなわち、2°アミン上のアルキル基のサイズが大きくなると、吸着/脱着サイクル時のジアミン損失の安定性が増すが、a−b平面におけるジアミンの隣接セット間の立体相互作用に起因して2つのCO
2吸着ステップももたらす。これらの不安定化相互作用は、煙道ガス条件下での材料の潜在的な吸着容量を低下させ、安定性の低いカルバミン酸アンモニウム鎖の形成に起因してCO
2とのH
2O共吸着の増加をもたらす。これらの結果に基づいて、本発明者は、隣接するジアミン間の立体相互作用を低減することで、これらの2ステップのCO
2吸着/脱着プロファイルを緩和し、上記吸着剤の最適な特徴、すなわち、吸着/脱着サイクルに対する安定性、1つの急激なCO
2吸着ステップ、および最小の水の共吸着を兼ね備える材料をもたらすはずである、と仮定した。
【0073】
拡張骨格Mg
2(dotpdc)の合成。隣接するジアミン間の好ましくない相互作用を最小限に抑えるための1つの戦略は、ベース骨格を、a−b平面内の金属部位間の間隔が大きい等網状構造に変更することである。具体的には、配位子をdobpdc
4−から、テルフェニル配位子dotpdc
4−(4,4”−オキシド−[1,1’:4’,1”−テルフェニル]−3,3”−ジカルボキシレート)に変更は、金属中心が、Mg
2(dotpdc)と比較して、Mg
2(dobpdc)におけるa−b平面において約5Åさらに離れるように、カルバミン酸アンモニウム鎖を互いからより良好に分離すべきである(
図7)。Xiao et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.14371を参照されたい。しかしながら、Mg
2(dotpdc)におけるMg
2+中心は、対応するFe
2+骨格の場合のように、Mg
2(dobpdc)におけるようなc軸に沿って同様の距離にあるべきであり(Xiao et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.14371を参照されたい)、カルバミン酸アンモニウム鎖の協同形成を潜在的に可能にする。Mg
2(dotpdc)は、この論文の前には調製されていなかったが、関連するFe骨格(Xiao et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.14371を参照されたい)は、Co系骨格として、および官能化テルフェニル配位子を組み込んでいる関連骨格として、先に報告されている(Park and,2010,Chem.Commun.46,p.610,Deng et al.,2012,Science 336,p.1018;Lim et al.,2017,Inorg.Chem.、Fracaroli et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.8352を参照されたい)。幸いなことに、H
4dobpdcおよびMg(NO
3)
2・6H
2O
14c(0.55:0.45 MeOH:DMF、120℃、14時間)から、Mg
2(dobpdc)を調製するために使用したのと同じソルボサーマル条件により、Mg
2(dotpdc)を、オフホワイトの結晶性固体として高収率で得た。残念なことに、本発明者は、Mg
2(dotpdc)またはその金属類似体を、粉末または単結晶X線回折によってそれらの構造を確認するのに十分な結晶化度で調製することができなかった。にもかかわらず、この材料の粉末X線回折パターンは、Mg
2(dobpdc)と同じ等網状構造の細孔拡張骨格と一致している。細孔径の大きい多くの金属有機骨格とは対照的に、Mg
2(dotpdc)は、細孔から溶媒を排出した後の細孔崩壊の証拠を示さず(Zhou et al.,2012,Chem.Rev.112,p.673、Furukawa et al.,2013,Science 341,p.123044、Eddaoudi et al.,2002,Science 295,p.469.Bae et al.,2009,Chem.Mater.21,p.4768、およびNelson et al.,2009,J.Am.Chem.Soc.131,p.458を参照されたい)、相互浸透構造を形成することはできず
16(Deng et al.,2012,Science 336,p.1018)、3103±29m
2/gの高い77K N
2ブルナウアー・エメット・テラー(BET)表面積(ラングミュア表面積:5842±27m
2/g)をもたらす。さらに、25、35、および45℃の吸着等温線における低圧でのCO
2の急激な取り込みによって、Mg
2(dotpdc)におけるアクセス可能なMg
2+部位の存在が確認された。クラウジウス−クラペイロンの関係(方程式2)から判定すると、低充填での吸着のCO
2示差熱(Δh
ads)は、−40kJ/molであった。このΔh
adsは、開放Mg
2+部位を有する関連する金属有機骨格のそれと同様であり、例えば、Mg
2(dobpdc)(−44kJ/mol)
14d(Drisdell et al.,2015,Phys Chem Chem Phys 17,p.2144;)およびMg
2(dobdc)(dobdc
4−=2,5−ジオキシド−1,4−ベンゼンジカルボキシレート)(−42kJ/mol)(Mason et al.,2011,Energy Environ.Sci.4,p.3030)。
【0074】
Mg
2(dotpdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体におけるCO
2吸着、水の共吸着、および吸着/脱着サイクル。単一のCO
2吸着ステップが達成できるかどうかを判定するために、Mg
2(dobpdc)で2つのCO
2吸着ステップを示す嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミンをMg
2(dotpdc)にグラフトした。標準的なグラフト化手順では、Mg
2(dotpdc)の大きな細孔において過剰なジアミンが存在するため、ほとんどの場合、>100%のジアミン充填率が生じた。したがって、Mg
2(dotpdc)のジアミン付加変異体の活性化温度を、N
2分解曲線に基づいて慎重に最適化して、金属結合ジアミンを失うことなく、細孔からの過剰なジアミンの完全な除去を容易にした。この戦略を使用して、
図2に示した嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミン(nHept−2を含む)で官能化されたMg
2(dotpdc)変異体を調製し、活性化後に高いジアミン充填率(>90%)のままであった。しかしながら、現在まで、EMM−51(e−2)(e−2−Mg
2(dotpdc))の高品質なサンプルを再現性よく調製することはできなかった。おそらく、このジアミンに曝露されると骨格が劣化するためである。
【0075】
Mg
2(dobpdc)における2ステップCO
2吸着/脱着挙動の原因に関する本発明者の仮説と一致して、Mg
2(dotpdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体のすべては、等圧測定において単一のCO
2吸着ステップを示す。さらに、EMM−51(nHept−2−Mg
2(dotpdc))の40℃のCO
2等温線は、CO
2吸着時に単一ステップを示し、平衡測定では、2つのCO
2吸着ステップも観察されなかったことを確認している。多くの場合、CO
2吸着ステップは、予想よりも短かったが、これは、おそらく、結晶性の低さ、および/または、カルバミン酸アンモニウム鎖の完全な形成を妨げるこの骨格における欠陥の存在のためである。Mg
2(dobpdc)で観測される高温ステップと同様に、直鎖アルキル基で置換された1°,2°−アルキルエチレンジアミンのためのMg
2(dotpdc)におけるCO
2吸着ステップは、ほぼ同じ温度で起こる(ステップの変曲点:nPr−2=123℃;nBu=126℃;nPent=126℃;nHex=127℃;nHept=127℃)(
図8a)。特に、CO
2吸着ステップ温度は、Mg
2(dobpdc)におけるものに比べて、Mg
2(dotpdc)におけるものは約10℃高い。Mg
2(dobpdc)およびMg
2(dotpdc)におけるMg
2+中心の類似性を考えると、Mg
2(dobpdc)と比較した場合に、Mg
2(dotpdc)におけるCO
2吸着の熱力学的有利性がわずかに増加するのは、おそらく、元の骨格のCO
2吸着相において不利な立体相互作用が排除されるためである。対照的に、アルキル基上の分枝は、CO
2吸着ステップに対してより実質的な効果を有する。骨格をMg
2(dobpdc)からMg
2(dotpdc)に変更すると、嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミンと一緒に、問題のある2ステップ吸着プロファイルが排除されることを見出したことから、本発明者は、湿潤条件下でのCO
2吸着のそれらの可能性を検討した。これらの実験の結果を
図9にまとめる。これらの材料は、強力に結合したカルバミン酸アンモニウム鎖の単一セットを形成するはずであるため、本発明者は、疎水性アルキル基で官能化されたジアミンは、湿潤条件下でCO
2吸着時に最小の水の共吸着を示すはずであると予測した。幸いなことに、40℃での乾燥状態と湿潤状態との間の最小過剰質量取り込みを有するステップ状吸着は、Mg
2(dotpdc)のジアミン付加変異体のすべてで観察された(緑のカラムと青のカラムの違い、
図9)。例えば、EMM−51(nHept−2−Mg
2(dotpdc))は、わずか約0.8g/100gのH
2Oの共吸着を示し、それはジアミン1つあたり0.2分子に対応している。興味深いことに、これは、EMM−50(e−2)(e−2−Mg
2(dobpdc))におけるジアミン1つあたりに共吸着された水とほぼ同じ量であり、単一のCO
2吸着ステップも示す。特に、これらの材料の湿潤N
2等圧線(紫色のカラム、
図9)により、CO
2の非存在下で、おそらく未結合アミンへの水素結合を介して水の吸着が容易に起こることが確認される。したがって、これらの材料における最小の水の共吸着は、H
2Oを排除する疎水性アルキル基で裏打ちされた高度に安定化されたカルバミン酸アンモニウム鎖の形成に起因している可能性がある。重要なことに、Mg
2(dotpdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体で観察された水の共吸着の最小量は、CCSプロセスでのH
2O脱着と関連した寄生エネルギーコストを削減するはずである。
【0076】
また、Mg
2(dotpdc)のいくつかのジアミン付加変異体のサイクル安定性も評価した(
図10)。Mg
2(dobpdc)(
図5)と同様に、より高分子量のジアミンで官能化されたMg
2(dotpdc)変異体は、ジアミン損失に対してより大きな熱安定性を示した。さらに、EMM−51(nHept−2−Mg
2(dotpdc))およびEMM−51(nPent−2)(nPent−2−Mg
2(dotpdc))は、60サイクルにわたってジアミン損失が最小(〜3%)の安定した吸着/脱着サイクルを示した。これらのサイクル実験では、対応するMg
2(dobpdc)変異体(140℃)と比較して、わずかに高い脱着温度(150℃)が必要であったことに留意すべきである。これらの材料における水の共吸着の程度が低いことを考えると、これらの実験におけるサイクル容量はほぼ完全にCO
2吸着/脱着によるものであり、したがって、湿潤条件下でのサイクルのための合理的に高いCO
2作業容量(>8g/100g、>1.8mmol/g)を実証している。
【0077】
Zn
2(pc−dobpdc)の単結晶X線回折構造およびMg
2(pc−dobpdc)の合成。親骨格をMg
2(dobpdc)からMg
2(dotpdc)に変更すると、嵩高い1°,2°−アルキルエチレンジアミンによる望ましくない2ステップCO
2吸着プロファイルが除かれるが、この骨格の使用には、Mg
2(dobpdc)と比較して、いくつかの欠点がある。これらの欠点には、a)有機リンカーの分子量が大きいため約20%低い重量容量、およびb)Mg
2(dotpdc)の結晶学的密度が約30%低いため約40%低い体積容量が含まれる。Gygi et al.,2016,Chem.Mater.28,p.1128を参照されたい。Mg
2(dotpdc)の結晶学的密度の測定は、その結晶性が低いため困難であることが分かっている。Mg
2(dotpdc)およびMg
2(dobpdc)の結晶学的密度の比は、同構造のFe骨格の比から推定した。活性化されたFe
2(dotpdc)の結晶学的密度は、粉末X線回折によって、約0.462g/cm
3と測定された(Xiao et al.,2016,J.Am.Chem.Soc.138,p.14371を参照されたい)。活性化されたFe
2(dobpdc)の結晶学的密度は、粉末X線回折によって、0.6750g/cm
3であると以前に測定されていた(Gygi et al.,Chem.Mater.28,p.1128を参照されたい)。したがって、Fe
2(dotpdc)の結晶学的密度は、Fe
2(dobpdc)のそれより31%低い。Fe
2(dobpdc)(Fe
2+部位1つあたり1CO
2=5.46mmol/g)と比較して17%低いFe
2(dotpdc)の重量容量(Fe
2+部位1つあたり1CO
2=4.52mmol/g)は、Fe
2(dobpdc)の体積容量(Fe
2+部位1つあたり1CO
2=3.69mmol/cm
3)と比較して、約43%低いFe
2(dotpdc)の体積容量(Fe
2+部位1つあたり1CO
2=2.09mmol/cm
3)をもたらす。ジアミン付加金属有機骨格におけるCO
2の吸着は、金属部位1つあたり1つのCO
2の比率で起こり、骨格の官能化は、単位セルに関して最小限の影響しか与えないため、これらの比率は、ジアミン付加変異体にもおおよそ変換されるはずである。したがって、隣接するカルバミン酸アンモニウム鎖間の不利な立体相互作用を克服することができるMg
2(dobpdc)と同様の結晶学的密度を有する骨格が求められていた。上記のように、Mg
2(dobpdc)の歪んだ六角形の細孔は、互いに向き合っている、隣接しているカルバミン酸アンモニウム鎖の対をなすセットをもたらす。この歪んだ細孔構造は、同構造のZn
2(dobpdc)(DMA)
2の単結晶X線回折構造におけるN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)溶媒分子によって図示され(
図11)、観察された2ステップCO
2吸着/脱着プロファイルの原因である。対照的に、均一な六角形のチャネルを有する骨格は、a−b平面におけるこれらの対をなす金属部位のセットを有していないため、隣接するジアミン部位間の立体相互作用は減少することになる。
【0078】
本発明者は、異性体配位子dobdc
4−(2,5−ジオキシド−1,4−ベンゼンジカルボキシレート)およびm−dobdc
4−(2,4−ジオキシド−1,5−ベンゼンジカルボキシレート)を組み込んでいる骨格は、わずかに異なる細孔構造およびガス吸着特性を有することを以前に報告した。Kapelewski et al.,2014,J.Am.Chem.Soc.,136,p.12119を参照されたい。本発明者は、Zn
2(dobpdc)とは異なる細孔構造を有するかどうかを判定するために、Zn−IRMOF−74−IIの単結晶、またはZn
2(pc−dobpdc)(pc−dobpdc
4−=3,3’−ジオキシビフェニル−4,4’−ジカルボキシレート、pc=パラ−カルボキシレート)、dobpdc
4−、
16に対して構造が異性体である配位子で調製された、最近報告された骨格を調製した。実際に、Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2の単結晶X線回折構造は、均一な六角形のチャネルを示す(
図11)。骨格構造のこの微妙な変化には、キラル空間群P3
221からアキラル空間群
【化5】
への変更が伴い、それは、Zn
2(dobpdc)(DMA)
2におけるこれらの芳香環の間の38.3(2)°のねじれとは対照的に、Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2における2つの芳香環の共平面性によって維持される。Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2におけるZn
2+中心の均一な配向とは別に、Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2およびZn
2(dobpdc)(DMA)
2の構造は、非常に似ており、c軸に沿った単位セルの長さはほぼ同じである(Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2の場合6.719Å、Zn
2(dobpdc)(DMA)
2の場合6.694Å)。特に、Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2(1.103g/cm
3)の結晶学的密度は、Zn
2(dobpdc)(DMA)
2(1.066g/cm
3)の結晶学的密度とほぼ同じである。したがって、これらの骨格のジアミン付加変異体の体積容量は、類似しているべきである。
【0079】
本発明者は、Zn
2(pc−dobpdc)(DMA)
2の単結晶X線回折構造に基づいて、Mg
2(pc−dobpdc)のジアミン付加変異体は、対応するMg
2(dobpdc)類似体よりもa−b平面においてより規則的に間隔を空けたジアミン有し、したがって、単一のCO
2吸着ステップを示すはずである、と推測した。Zn
2(pc−dobpdc)のMg類似体は、以前に調製されているが(Deng et al.,2012,Science,2012,336,p.1018)、報告されている77K N
2BET表面積(2510m
2/g)は、Mg
2(dobpdc)のそれ(3326m
2/g)よりも有意に低く(McDonald et al.,2015,Nature,519,p.303)、それは、それらのZn類似体の同様な単結晶X線回折構造を考えると、予想されないことである(
図11)。公開された手順に従うが、N,N−ジメチルホルムアミドおよびMeOHでより徹底的に洗浄すると、増加した77K N
2BET表面積(2998±88m
2/g)を有するMg
2(pc−dobpdc)が得られた。Mg
2(pc−dobpdc)の予想BET表面積は、以前に報告された計算方法を使用すると、2299m
2/gとシミュレートされた(Frost et al.,2006,J.Phys.Chem.B 110,p.9565を参照されたい)。この値は、測定された表面積(2998±88m
2/g)より低いが、Mg
2(dobpdc)のシミュレートされた表面積(3037m
2/g)よりも低くい。したがって、Mg
2(dobpdc)と比較したMg
2(pc−dobpdc)の低い表面積は、Mg
2(pc−dobpdc)のそれらの異なる細孔構造および不完全な活性化に起因している可能性が高い。このより高い表面積の材料を使用して、この骨格におけるCO
2吸着のΔh
adsは、開放Mg
2+部位を有する他の吸着剤のそれと同様(−38kJ/mol)であることが測定された。Drisdell et al.,2015,Phys Chem Chem Phys 17,p.2144、およびMason et al.,2011,Energy Environ.Sci.,4,p.3030を参照されたい。したがって、Mg
2(dobpdc)とMg
2(pc−dobpdc)との主な構造上の違いは、後者の骨格の六角形チャネル内のMg
2+部位の均一な分布である。
【0080】
Mg
2(pc−dobpdc)の1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体におけるCO
2吸着、水の共吸着、および吸着/脱着サイクル。Mg
2(pc−dobpdc)のMg
2+部位上の結合されたメタノールを、1°,2°−アルキルエチレンジアミンと交換する標準的な手順を用いて、対応するジアミン付加骨格を調製した。ほとんどの場合、高いジアミン充填率(≧90%)を得ることができ、大きなジアミンnHept−2を使用しても、79%というかなり高いジアミン充填率が確実に得られた。驚くべきことに、すべての直鎖1°,2°−アルキルエチレンジアミンは、nHept−2でさえも、ほぼ同じ温度において、Mg
2(pc−dobpdc)(
図12a)にグラフトさせると、単一の急激なCO
2吸着ステップを示す(ステップの変曲点:e−2:117℃;nPr−2=116℃;nBu=117℃;nPent=116℃;nHex=112℃;nHept=112℃)。さらに、EMM−52(nHept−2−Mg
2(pc−dobpdc))の40℃におけるCO
2吸着等温線により、0.7mbarにおいて単一のCO
2吸着ステップの存在が確認された。同様に、分枝鎖1°,2°−アルキルエチレンジアミン(
図12b)および嵩高い1°,3°−アルキルエチレンジアミンは、この骨格において、単一のCO
2吸着ステップを示し、ステップ温度はMg
2(dotpdc)で観察された温度と同等である。したがって、骨格をMg
2(pc−dobpdc)に変更すると、金属部位の配向がわずかに変化し、Mg
2(dobpdc)においてこれらのジアミンで観察された2ステップCO
2吸着/脱着プロファイルが完全に防止される。さらに、CO
2脱着の際に観察された最小のヒステリシスに起因して、これらの吸着剤は、EMM−52(cPent−2)(cPent−2−Mg
2(pc−dobpdc))を除いて、≦140℃の温度で、純粋なCO
2の下で、再生させることができた。対応するMg
2(dotpdc)系吸着剤と比較して、CO
2ステップ圧力が低く、かつ重量容量および体積容量が大きいため、Mg
2(pc−dobpdc)のこれらの1°,2°−アルキルエチレンジアミン付加変異体は、CCSにとってより有望な吸着剤である。
【0081】
煙道ガスからのCO
2除去のための吸着剤のこのファミリーの適用性をさらに評価するために、湿潤条件下でのそれらの性能をTGAによって評価した。これらの研究結果を
図13にまとめる。Mg
2(dobpdc)およびMg
2(dotpdc)と同様に、Mg
2(pc−dobpdc)のジアミン付加変異体は、乾燥CO
2下と同様な温度の湿潤条件下で、CO
2のステップ状吸着を示す。
図3−4に示した結果とは対照的に、最小のジアミンで官能化された変異体、EMM−52(e−2)(e−2−Mg
2(pc−dobpdc))は、重量(約5.6g/100g)およびモル(ジアミン1つあたり水0.8分子)の両方に関して、この系列において、湿潤条件下で、最も高い水の共吸着を示した(
図13)。さらに、ジアミンの直鎖アルキル基が大きくなるにつれて、水の共吸着量が着実に減少することがMg
2(pc−dobpdc)において観察され、EMM−52(nHept−2−Mg
2(pc−dobpdc))では、水の共吸着は、わずか1.7g/100g(ジアミン1つあたり水0.3分子)となる。分枝鎖アルキル基でも同じ傾向が観察された(
図13)。この水の共吸着度の着実な減少は、Mg
2(dobpdc)およびMg
2(dotpdc)の両方で観察された結果とは対照的であり、前者の場合では、第2のCO
2吸着ステップの存在により、より多くの水の共吸着が、より大きなジアミンで観察され(
図4)、一方、後者の場合では、ほぼ同じモル量の水の共吸着(ジアミン1つあたり水0.2〜0.3分子)が、すべてのジアミンで観察され、それは、おそらくテルフェニル骨格の疎水性の増加によるものである。
【0082】
大きなアルキル基を有するジアミンを使用する別の潜在的な利点は、それらのより低い分子量の類似体と比較して、サイクル安定性が一貫して改善されている点である(
図5,10)。この傾向と一致して、EMM−52(nHept−2−Mg
2(pc−dobpdc))は、優れた熱安定性を示し、60サイクルにわたるジアミン損失(<1%)は無視できるが、EMM−52(nPent−2)(nPent−2−Mg
2(pc−dobpdc))は、サイクル時に緩やかなジアミン損失(〜5%)を示した(
図14)。さらに、EMM−52のサイクル容量は高く(〜13g/100g)、それは、湿潤等圧測定で共吸着された水の最小量を考慮すると(〜1.7g/100g、
図13)、主としてCO
2に相当する(〜11.3g/100g=2.6mmol/g)。予想したように、このサイクリング容量は、EMM−51(nHept−2−Mg
2(dotpdc))に関して観察されたもの(〜8.1g/100g=1.8mmol/g、
図10)よりも高い、後者の場合、親骨格の分子量がより大きいためである。したがって、EMM−52は、その急激なCO
2吸着/脱着ステップ、湿潤条件下での最小の水の共吸着、高い熱安定性、および低いCO
2吸着ステップ圧力により、CCS用途のためにさらに研究する価値がある。
【0083】
結論
本明細書に記載した実施例および実施形態は、単に例示を目的とし、それを踏まえた様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および権限ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書で引用したすべての刊行物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。