(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-532827(P2020-532827A)
(43)【公表日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】ガス混合物を使用してイオンを選択するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20201016BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20201016BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20201016BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20201016BHJP
【FI】
H01J49/42 250
H01J49/00 500
H01J49/02 200
H01J49/42 600
G01N27/62 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2020-512434(P2020-512434)
(86)(22)【出願日】2018年8月31日
(85)【翻訳文提出日】2020年4月27日
(86)【国際出願番号】IB2018056682
(87)【国際公開番号】WO2019043647
(87)【国際公開日】20190307
(31)【優先権主張番号】62/553,456
(32)【優先日】2017年9月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/569,513
(32)【優先日】2017年10月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.SMALLTALK
2.JAVASCRIPT
3.SWIFT
(71)【出願人】
【識別番号】518410032
【氏名又は名称】パーキンエルマー・ヘルス・サイエンシーズ・カナダ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PERKINELMER HEALTH SCIENCES CANADA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パテル,プリテッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン,チャディー
(72)【発明者】
【氏名】アブー−シャクラ,ファディ
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA04
2G041GA03
2G041GA08
2G041GA14
2G041GA16
(57)【要約】
本明細書に記載される特定の構成は、イオンを選択および/または検出するためにガス混合物を使用することができる質量分析計システムを対象とする。場合によっては、ガス混合物を衝突モードおよび反応モードの両方で使用して、同じガス混合物を使用して改善された検出限界を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突モードおよび反応モードを含む少なくとも2つのモード間でセルを切り替えて、前記セルによって受け取られるイオンを選択できるように構成されたシステムであって、前記システムが、
前記衝突モードで二成分ガス混合物を含むガス混合物を受け取り、前記セルを加圧するように構成され、前記反応モードで前記二成分ガス混合物を含む同じガス混合物を受け取り、前記セルを加圧するように構成されたセルと、
前記セルに電気的に結合されたプロセッサであって、前記衝突モードで前記ガス混合物を含む前記加圧セルに電圧を提供し、提供された前記第1の電圧によって誘導されたエネルギー障壁よりも大きいエネルギーを有する選択イオンの伝達を促進するように構成された、プロセッサと、を備え、前記プロセッサが、前記反応モードで前記ガス混合物を含む前記加圧セルに第2の電圧を提供し、選択イオンを前記セルに流体的に結合された質量フィルタに導くようにさらに構成される、システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記セルの通気モードへの切り替えを可能にするようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記システムが、前記二成分ガス混合物を含む前記ガス混合物を提供するために前記セルに流体的に結合された単一のガス入口をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記セルが、2、4、6、8、または10本のロッドを備える多極ロッドセットを備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記セルが、前記セルの出口開口部に近接して配置され、電源に電気的に結合された出口部材をさらに備え、前記出口部材が、前記加圧セル中の検体イオンを前記セルの前記出口開口部に向かって導くように構成される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記出口部材が、前記加圧セルの前記衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記出口部材が、前記加圧セルの前記反応モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記セルが、前記セルの入口開口部に近接して配置され、電源に電気的に結合された入口部材をさらに備え、前記入口部材が、前記セルの前記入口開口部に向かって前記加圧セルに検体イオンを導くように構成される、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記入口部材が、前記加圧セルの前記衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記入口部材が、前記加圧セルが前記反応モードにあるときに前記出口部材に提供される電圧と実質的に同様の電圧に設定することができる、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記セルが、前記入口部材および出口部材の電圧を切り替えて、任意で、前記セルと前記質量分析器との間の前記エネルギー障壁を変えることにより、同じガス流量を維持しながら、または異なる流量レベルに変えながら、前記衝突モードから前記反応モードに切り替えるように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記セルが、前記入口部材および前記出口部材の電圧を切り替えて、任意で、前記セルと前記質量分析器との間の前記エネルギー障壁を変えることにより、同じガス流量を維持しながら、または異なる流量レベルに変えながら、前記反応モードから前記衝突モードに切り替えるように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
電源に電気的に結合され、前記加圧セルの出口開口部に向けてイオンを導くために軸方向電場を提供するように構成された軸方向電極をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記軸方向電場が、−500V/cm〜500V/cmの電場勾配を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッサが、前記加圧セルにオフセット電圧を提供するようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記オフセット電圧を含む前記セルに流体的に結合された質量分析器をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記流体的に結合された質量分析器のオフセット電圧が、前記セルが前記衝突モードにあるときの前記セルの前記オフセット電圧よりも正である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記流体的に結合された質量分析器のオフセット電圧が、前記セルが前記反応モードにあるときの前記セルの前記オフセット電圧よりも負である、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記セルに流体的に結合されたイオン化源をさらに備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記セルが、前記衝突モードおよび前記反応モードでヘリウムガスと水素ガスとの二成分混合物を使用するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
質量分析計システムであって、
イオン源と、
前記イオン源に流体的に結合され、衝突モード、反応モード、および標準モードを含む少なくとも3つの異なるモードで動作するように構成される、セルであって、前記3つの異なるモードがそれぞれ、前記イオン源から前記セルに受け取られた複数のイオンから検体イオンを選択するように構成され、前記セルが、入口開口部で前記イオン源に結合して、前記イオン源から前記複数のイオンを受け取ることができるように構成され、前記セルが、前記衝突モードで前記二成分ガス混合物を含むガス混合物を受け取り、前記衝突モードで前記セルを加圧するように構成されたガス入口を備え、前記セルが、前記反応モードで前記二成分ガス混合物を含む前記ガス混合物を受け取り、前記反応モードで前記セルを加圧するように構成され、前記セルが、前記セルから前記検体イオンを提供するように構成された出口開口部をさらに備える、セルと、
前記セルに流体的に結合された質量分析器と、
前記セルに電気的に結合されたプロセッサであって、前記衝突モードおよび前記反応モードのそれぞれで前記セルに前記ガス混合物を提供し、前記標準モードで前記セルを真空下に維持するように構成されている、プロセッサと、を備える、質量分析計システム。
【請求項22】
前記セルが、2、4、6、8、または10本のロッドを備える多極ロッドセットを備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記プロセッサが、前記衝突モードで前記ガス混合物を含む前記加圧セルに第1の電圧を提供して、前記選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択するように構成される、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記プロセッサが、前記反応モードで前記ガス混合物を含む前記加圧セルに第2の電圧を提供して、質量フィルタリングを使用してイオンを選択するように構成される、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
軸方向電場を提供して前記検体イオンを前記加圧セルの入口開口部から出口開口部に向けて導くように構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記軸方向電場強度が、−500V/cm〜+500V/cmの軸方向電場勾配を含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記加圧セルの出口開口部に近接して配置された出口部材をさらに備え、前記出口部材が、前記加圧セルの前記出口開口部に向けて検体イオンを引き付ける出口電位を含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記出口部材が、前記加圧セルの前記衝突モードで−26ボルト〜+26ボルトの電圧を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記出口部材が、前記加圧セルの前記反応モードで−26ボルト〜+26ボルトの電圧を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記加圧セルの入口開口部に近接して配置された入口部材をさらに備え、前記入口部材が、前記衝突モードで出口電位よりも正の入口電位を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項31】
前記入口電位が、−40ボルト〜+10ボルトである、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記加圧セルの入口開口部に近接して配置された入口部材をさらに備え、前記入口部材が、前記反応モードで前記出口電位と実質的に同様の入口電位を含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項33】
前記出口電位が、前記衝突モードで−40ボルト〜+10ボルトである、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記出口電位が、前記反応モードで−40ボルト〜+10ボルトである、請求項32に記載のシステム。
【請求項35】
前記イオン源と前記セルとの間に配置されたイオン偏向器をさらに備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項36】
前記セルに流体的に結合された偏向器をさらに備える、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記検出器が電子増倍器を備える、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記イオン源が、誘導結合プラズマとして構成される、請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記誘導結合プラズマと前記質量分析器との間に配置されたインターフェースをさらに備える、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記二成分ガス混合物を含む前記ガス混合物を前記インターフェースに導入するように構成された流体ラインをさらに備える、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
質量分析計を使用してイオンを選択する方法であって、
イオン源からの複数のイオンを含むイオン流を、二元ガス混合物を含むガス混合物を使用して反応モードおよび衝突モードで動作するように構成された加圧セルに提供することであって、前記ガス混合物が、前記セルの前記反応モードおよび前記衝突モードのそれぞれにおいて、前記ガス混合物を前記セルに導入して前記セルを加圧する、提供することと、
前記ガス混合物を含む前記加圧セル中の前記複数のイオンから、前記セルが前記衝突モードにあるときに、選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択することと、前記ガス混合物を含む前記加圧セルに提供される前記イオン流中の前記複数のイオンから、前記セルが前記反応モードにあるときに、質量フィルタリングを使用して、イオンを選択することと、を含む、方法。
【請求項42】
多極ロッドセルとして前記セルを構成することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
出口開口部に近接して配置された出口部材に電位を提供することにより、前記加圧セルの前記出口開口部に出口障壁を提供することをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記セルの入口開口部に近接して配置された入口部材に電位を提供することをさらに含み、前記電位が、前記セルのロッドセットの上流の前記イオン源から前記セルによって受け取られた前記複数のイオンを集束するように構成された前記入口部材に提供される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
水素およびヘリウムを含むように前記ガス混合物を構成することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
少なくとも1つの追加の不活性ガスを含むように前記ガス混合物を構成することをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記セルの上流で第1のガスと第2のガスとを組み合わせて、前記ガス混合物を提供することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記セルが前記衝突モードから前記反応モードに切り替えられたときに、前記セルに提供される前記ガス混合物の流量を変更することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項49】
単一のガス入口が前記ガス混合物を受け取るように構成された前記セルを構成することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項50】
前記ガス混合物の最大約15体積%を占めるように第1のガスを構成することをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
複数のイオンを含むイオン流からイオンを選択するために、衝突モードおよび反応モードのそれぞれで動作するように構成された四重極ロッドセットを備えるセルを使用して、イオンを選択する方法であって、前記衝突モードで前記セルに二成分ガス混合物を提供して、選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択することと、前記反応モードで前記セルに前記二成分ガス混合物を提供して、質量フィルタリングを使用してイオンを選択することとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先出願
本出願は、2017年9月1日に出願された米国仮出願第62/553,456号および2017年10月7日に出願された米国仮出願第62/569,513号のそれぞれに関連し、それぞれの優先権および利益を主張するものであり、これらのそれぞれの全開示は、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載される特定の実施形態は、ガス混合物を使用してイオンを選択するシステムおよび方法に関する。より詳細には、本明細書に記載される特定の構成は、イオンビームから検体イオンを選択するためのマルチモードセルとの二成分ガス混合物の使用を対象とする。
【背景技術】
【0003】
質量分析(MS)は、未知の試料物質の元素組成を決定できる分析技術である。例えば、MSは、未知の化合物の識別、分子中の元素の同位体組成の決定、およびその断片化の観察による特定の化合物の構造の決定に有用であり得、ならびに試料中の特定の化合物の量の定量化に有用であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
共通のガス混合物を使用して検体イオンを選択および/または干渉イオンを抑制できるシステムおよび方法の特定の態様、実施形態、実施例、構成、および例示を以下に記載する。
【0005】
一態様では、衝突モードおよび反応モードを含む少なくとも2つのモード間でセルを切り替えて、セルによって受け取られたイオンを選択できるように構成されたシステムについて記載する。特定の例では、システムは、衝突モードで二成分ガス混合物(または少なくとも2つのガスを含むガス混合物)を含むガス混合物を受け取り、セルを加圧するように構成され、反応モードで二成分ガス混合物(または少なくとも2つのガスを含むガス混合物)を含む同じガス混合物を受け取り、セルを加圧するように構成されたセルを備える。いくつかの例では、システムは、セルに電気的に結合されたプロセッサを備え、このプロセッサは、衝突モードでガス混合物を含む加圧セルに電圧を提供し、提供された第1の電圧によって誘導されたエネルギー障壁よりも大きいエネルギーを有する選択イオンの伝達を促進するように構成される。他の例では、プロセッサは、反応モードでガス混合物を含む加圧セルに第2の電圧を提供し、選択イオンをセルに流体的に結合された質量フィルタに導くようにさらに構成される。
【0006】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、セルを通気モードに切り替えることができるようにさらに構成される。他の実施形態では、システムは、二成分ガス混合物を含むガス混合物を提供するためにセルに流体的に結合された単一のガス入口をさらに備える。特定の例では、セルは、2、4、6、8、または10本のロッドを備える多極ロッドセットを備える。
【0007】
他の例では、セルは、セルの出口開口部に近接して配置され、電源に電気的に結合された出口部材をさらに備え、出口部材は、加圧セル中の検体イオンをセルの出口開口部に向かって導くように構成される。特定の例では、出口部材は、加圧セルの衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる。いくつかの例では、出口部材は、加圧セルの反応モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる。
【0008】
いくつかの構成では、セルは、セルの入口開口部に近接して配置され、電源に電気的に結合された入口部材をさらに備え、入口部材は、検体イオンをセルの入口開口部に向かって加圧セルに導くように構成される。特定の場合では、入口部材は、加圧セルの衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる。他の例では、入口部材は、加圧セルが反応モードにあるときに出口部材に提供される電圧と実質的に同様の電圧に設定することができる。
【0009】
他の例では、セルは同じガス流量で動作しながら衝突モードから反応モードに切り替わるように構成される。他の場合では、セルは衝突モードから反応モードに切り替わるように構成されており、異なるガス流量レベルを異なるモードで使用することができる。いくつかの例では、入口部材および出口部材の電圧を変更でき、任意で、セルと質量分析器との間のエネルギー障壁も変えることができる。
【0010】
いくつかの例では、セルは、入口部材および出口部材の電圧を切り替えて、任意で、セルと質量分析計との間のエネルギー障壁を変えることにより、同じガス流量を維持しながら、または異なる流量レベルに変えながら、反応モードから衝突モードに切り替わるように構成される。
【0011】
他の構成では、システムは、電源に電気的に結合され、軸方向電場を提供し、イオンを加圧セルの出口開口部に向けて導くように構成された軸方向電極を備えてもよい。例えば、軸方向電場は、−500V/cm〜500V/cmの電場勾配を含む。
【0012】
特定の例では、プロセッサは、加圧セルにオフセット電圧を提供するようにさらに構成される。他の例では、システムは、オフセット電圧を含むセルに流体的に結合された質量分析器を備えてもよい。いくつかの例では、流体的に結合された質量分析器のオフセット電圧は、セルが衝突モードにあるときのセルのオフセット電圧よりも正である。特定の例では、流体的に結合された質量分析器のオフセット電圧は、セルが反応モードにあるときのセルのオフセット電圧よりも負である。
【0013】
場合によっては、システムは、セルに流体的に結合されたイオン化源を備える。
他の場合では、セルは、衝突モードおよび反応モードでヘリウムガスと水素ガスとの二成分混合物を使用するように構成される。
【0014】
別の態様では、質量分析計システムは、イオン源、イオン源に流体的に結合されたセル、セルに流体的に結合された質量分析器、およびセルに電気的に結合されたプロセッサを備える。
【0015】
特定の場合では、セルは、衝突モード、反応モード、および標準モードを含む少なくとも3つの異なるモードで動作するように構成される。例えば、3つの異なるモードはそれぞれ、イオン源からセルに受け取られた複数のイオンから検体イオンを選択するように構成することができる。場合によっては、セルは、入口開口部でイオン源に結合して、イオン源から複数のイオンを受け取ることができるように構成される。特定の構成では、セルは、衝突モードで二成分ガス混合物(または少なくとも2つのガスを含むガス混合物)を含むガス混合物を受け取り、衝突モードでセルを加圧するように構成されたガス入口を備える。他の場合では、セルは、反応モードでセル二成分ガス混合物(または少なくとも2つのガスを含むガス混合物)を含むガス混合物を受け取り、反応モードでセルを加圧するように構成される。いくつかの例では、セルは、セルから検体イオンを提供するように構成された出口開口部をさらに備える。
【0016】
いくつかの例では、セルに電気的に結合されたプロセッサは、衝突モードおよび反応モードのそれぞれでセルにガス混合物を提供し、標準モードにおいてセルを真空下で維持するように構成される。
【0017】
いくつかの実施形態では、セルは、2、4、6、8または10本のロッドを備える多極ロッドセットを備える。
【0018】
特定の例では、プロセッサは、衝突モードでガス混合物を含む加圧セルに第1の電圧を提供して、選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択するように構成される。他の例では、プロセッサは、反応モードでガス混合物を含む加圧セルに第2の電圧を提供して、質量フィルタリングを使用してイオンを選択するように構成される。
【0019】
いくつかの例では、システムは、軸方向電場を提供して検体イオンを加圧セルの入口開口部から出口開口部に向けて導くように構成された軸方向電極を備える。特定の場合では、軸方向電場強度は、−500V/cm〜+500V/cmの軸方向電場勾配を含む。
【0020】
いくつかの構成では、システムは、加圧セルの出口開口部に近接して配置された出口部材、例えば出口レンズを備える。例えば、出口部材は、検体イオンを加圧セルの出口開口部に向けて引き付ける出口電位を含む。場合によっては、出口部材は、加圧セルの衝突モードで−26ボルト〜+26ボルトの電圧を含む。他の場合では、出口部材は、加圧セルの反応モードで−26ボルト〜+26ボルトの電圧を含む。
【0021】
いくつかの構成では、システムは、加圧セルの入口開口部に近接して配置された入口部材、例えば入口レンズを備え、入口部材は衝突モードで出口電位よりも正の入口電位を含む。いくつかの例では、入口電位は、−40ボルト〜+10ボルトである。他の例では、入口部材は、反応モードで出口電位と実質的に同様の入口電位を含む。例えば、出口電位は、衝突モードで−40ボルト〜+10ボルト、および/または反応モードで−40ボルト〜+10ボルトであり得る。
【0022】
いくつかの例では、システムは、イオン源とセルとの間に配置されたイオン偏向器を備えてもよい。特定の実施形態では、システムは、セルに流体的に結合された検出器を備えてもよい。他の実施形態では、検出器は、電子増倍器を備える。いくつかの例では、イオン源は、誘導結合プラズマとして構成される。特定の場合では、システムは、誘導結合プラズマと質量分析器との間に配置されたインターフェースを備えてもよい。
【0023】
いくつかの構成では、システムは、二成分ガス混合物を含むガス混合物をシステムのインターフェースまたはセルの上流のシステムの別の構成要素に導入するように構成された流体ラインを備えてもよい。
【0024】
別の態様では、質量分析計を使用してイオンを選択する方法は、複数のイオンを含むイオン流を、イオン源から二成分ガス混合物を含むガス混合物(または少なくとも2つのガスを含むガス混合物)を使用して反応モードおよび衝突モードで動作するように構成された加圧セルに提供することを含む。場合によっては、ガス混合物は、セルを加圧するために、セルの反応モードおよび衝突モードのそれぞれでセルに導入される。この方法はまた、ガス混合物を含む加圧セルの複数のイオンの中から、セルが衝突モードにあるときに、選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択することと、ガス混合物を含む加圧セルに提供されるイオン流中の複数のイオンから、セルが反応モードにあるときに、質量フィルタリングを使用して、イオンを選択することと、を含む。
【0025】
いくつかの例では、この方法は、セルを多極ロッドセル、例えば、2、4、6、8、または10本のロッドを備えるものとして構成することを含む。
【0026】
場合によっては、この方法は、出口開口部に近接して配置された出口部材に電位を提供することにより、加圧セルの出口開口部に出口障壁を提供することを含む。
【0027】
他の場合では、この方法は、セルの入口開口部に近接して配置された入口部材に電位を提供することを含み、入口部材に提供された電位は、セルのロッドセットの上流のイオン源からセルによって受け取られた複数のイオンを集束するように構成される。
【0028】
いくつかの例では、この方法は、水素およびヘリウムを含むようにガス混合物を構成することを含む。
【0029】
特定の例では、この方法は、少なくとも1つの追加の不活性ガスを含むようにガス混合物を構成することを含む。
【0030】
他の例では、この方法は、セルの上流で第1のガスと第2のガスとを組み合わせて、ガス混合物を提供することを含む。
【0031】
特定の例では、この方法は、セルが衝突モードから反応モードに(またはその逆に)切り替えられたときに、セルに提供されるガス混合物の流量を変更することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、この方法は、ガス混合物を受け取るように構成された単一のガス入口でセルを構成することを含む。
【0033】
他の例では、この方法は、ガス混合物の最大約15体積%を占めるように第1のガスを構成することを含む。
【0034】
別の態様では、衝突モードおよび反応モードのそれぞれで動作して、複数のイオンを含むイオン流からイオンを選択するように構成された、多極ロッドセット、例えば、2、4、6、8、または10本のロッドを備えるセルを使用してイオンを選択する方法が提供される。いくつかの例では、この方法は、衝突モードでセルに二成分ガス混合物を提供して、選択された障壁エネルギーよりも大きいエネルギーを含むイオンを選択し、反応モードでセルに二成分ガス混合物を提供して、質量フィルタリングを使用してイオンを選択することを含む。
【0035】
共通のガス混合物を使用して検体イオンを選択し、かつ/または干渉イオンを抑制することができるシステムおよび方法の追加の態様、実施形態、実施例、構成、および例示は、本開示の恩恵を受ける当業者によって認識されるであろう。
【0036】
添付の図面を参照して、特定の構成を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、特定の構成による、ガス入口を備えるマルチモードセルの図である。
【
図2】
図2は、特定の例による、ガス混合物とともに使用するように構成されたマルチモードセルを備えるシステムの図である。
【
図3A】
図3Aは、特定の実施形態による、軸方向電極を示すマルチモードセルの図である。
【
図3B】
図3Bは、特定の実施形態による、軸方向電極を示すマルチモードセルの図である。
【
図4】
図4は、特定の例による、入口部材、出口部材、および四重極ロッドセットを備えるセルの図である。
【
図5】
図5は、特定の実施形態による、ガス混合物をマルチモードセルに導入するように構成されたシステムの図である。
【
図6】
図6は、特定の例による、ガス混合物をマルチモードセルに導入し、マルチモードセルの上流にガス混合物を導入するように構成されたシステムの図である。
【
図7】
図7は、特定の例による、共通のガス源からマルチモードセルにガス混合物を導入し、マルチモードセルの上流にガス混合物を導入するように構成されたシステムの図である。
【
図8】
図8は、特定の例による、共通のガス源からマルチモードセルにガス混合物を導入し、マルチモードセルの上流にガス混合物を導入するように構成されたシステムの別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示の利点を考慮すると、追加の構成要素が図に存在し得ることは、当業者によって認識されるであろう。さらに、特定の構成要素を省略しても、目的の検体イオンの分析に好適なシステムを提供する。
【0039】
本明細書に記載される特定の構成は、ガス混合物をマルチモードセルと組み合わせて使用して、入射イオンビームからイオンを選択し、かつ/または入射イオンビーム中に存在する干渉イオンを抑制もしくは除去する。マルチモードセルを含む正確なシステムは変化し得るが、マルチモードセルは、典型的には、イオン化源および任意で、他の構成要素またはステージを含むより大きなシステムの一部である。
【0040】
特定の例では、イオン化源は、典型的には、多数の異なるタイプのイオンを提供する。これらのイオンの一部は、目的のイオンの検体であり得、これらのイオンの一部は、干渉イオンであり得る。例えば、イオン化源がアルゴンベースのプラズマを含む場合、イオン流は、検体イオンおよびAr、Ar
+、ArO
+、Ar
2+、ArCl
+、ArH
+、およびMAr
+を含む多数の異なるタイプのアルゴン種を含み得、Mは金属種を表す。追加の非アルゴンベースの干渉には、ClO
+、MO
+、および他の干渉も含まれ得る。干渉イオンは、システムの他の部分、例えば、システムのインターフェースまたは他の領域でも生成することができる。多くのシステムでは、干渉または不要なイオンを(少なくともある程度まで)排除するまたは除去することが望ましい。
【0041】
特定の実施形態では、
図1を参照すると、入口112、出口114、ロッドセット120、およびガス入口130を備えるマルチモードセル110の図が示されている。ガス入口130は、典型的には、1つ以上のガス源またはガス混合物を含むガス源に流体的に結合される。以下により詳細に記載されるように、ガス入口130は、セル110に存在する唯一のガス入口であり得る。ガス入口130を使用して、セルの少なくとも2つのモードでガス混合物をセルに提供することができ、例えば、実質的に同じまたは同じガス混合物を反応モード(DRCモード)および衝突モード(KEDモード)でセルに提供することができる。以下により詳細に記載されるように、マルチモードセル110は、同じセル中に反応モードおよび衝突モードを備えてもよい。特定の理論に束縛されることを望まないが、反応モードでは、セル110は、検体イオンに対して多少不活性のままでありながら、望ましくない干渉イオンのうちの1つ以上と反応するガス混合物で満たすことができる。イオン流がセル110中の反応性ガス混合物と衝突すると、干渉イオンは、検体イオンと実質的に同じまたは同様の質量電荷(m/z)比をもはや有しない製品イオンを形成することができる。製品イオンのm/z比が検体イオンのm/z比と実質的に異なる場合、そのとき従来の質量フィルタリングを使用して、検体イオンの流れを大幅に中断することなく、製品干渉イオンを排除できる。例えば、イオン流をバンドパス質量フィルタに供して、かなりの割合で検体イオンのみを質量分析器ステージに提供または伝達することができる。以下により詳細に記載されるように、細長いロッドセット120内に放射状RF電場を形成することにより、セル110内にイオンの放射状閉じ込めを提供することができる。この性質の閉じ込め電場は、一般に、次数が異なる場合があるが、一般的に、四重極電場、または六重極または八重極電場などの高次電場である。例えば、四重極ロッドセットに小さなDC電圧を印加すると、印加された四重極RFとともに、狭い調節可能な範囲外にあるm/z比のイオンを不安定にし、それによってイオンの質量フィルタの形式を作ることができる。
【0042】
特定の構成では、セル110は、衝突モアまたは運動エネルギー弁別(KED)モードでも使用することができる。衝突モードでは、セル110は、反応モードと同じ混合ガスを使用できる。例えば、ガス混合物は、入口130を通してセル110に導入することができ、ガス混合物は、セル110の内部のイオン流と衝突する。検体イオンおよび干渉イオンの両方が、混合ガスのガス分子と衝突して、イオンの運動エネルギーの平均損失を引き起こす可能性がある。衝突により損失する運動エネルギーの量は、一般にイオンの衝突断面積に関連し得、イオンの元素組成に関連し得る。2つ以上の結合原子で構成される多原子イオン(分子イオンとも呼ばれる)は、単一の荷電原子のみで構成される単原子イオンよりも衝突断面積が大きくなる傾向がある。特定の理論に縛られることは望まないが、ガス混合物のガス分子は、同じm/z比の単原子で見られるよりも多原子と衝突して、平均して運動エネルギーのより大きな損失を引き起こす可能性が高くなる。次いで、セル110の下流端に確立された好適なエネルギー障壁は、多原子干渉イオンのかなりの部分を捕捉し、下流の質量分析器への伝達を防ぐことができる。衝突モードは、反応モードよりも汎用性が高く、動作が簡単であり得るが、反応モードよりも低いイオン感度を有する場合があり、これは、エネルギーが低下した検体イオンの一部は、干渉イオンとともに捕捉され、システムの下流の構成要素、例えば、質量分析器ステージへの到達を防ぐことができるためである。そのため、同じ低レベルのイオン(例えば、1兆あたりの部品および副部品)は、衝突モードを使用して検出できない場合がある。例えば、対象の検体イオンに応じて、反応モードを使用した検出限界に対して、衝突モードを使用した場合の検出限界は10〜1100倍悪化する可能性がある。さらに、不活性ガス混合物との衝突により、ロッドセット内でイオンの放射状の散乱を引き起こす。場合によっては、四重極電場または六重極電場および八重極電場を含む高次の閉じ込め電場を使用して、深い放射状の電位井戸および放射状閉じ込めを提供できる。KEDモードでは、下流のエネルギー障壁は、検体イオンの平均運動エネルギーに対するその平均運動エネルギーの観点から、干渉イオンを区別する。使用される極の正確な数の選択は、ビームの幅およびビーム中のそれぞれのイオン集団のエネルギー分布などのイオン流の品質に関する要件を緩和することに少なくとも部分的に基づくことができ、これにより、質量分析計中の他のイオン光学素子への要求を緩和し、全体的により汎用性を提供することができる。
【0043】
本明細書に記載される特定の構成により、衝突モードおよび反応モードの両方で同じセルおよび同じガス混合物を使用することができる。セルとガスとの混合物を質量分析計で使用して、試料中の検体イオンを選択および検出し、かつ/または干渉イオンを除去または抑制することができる。セル/システムは、反応モードおよび衝突モードの両方、および任意で他のモードで構成して、不要な干渉イオンを抑制することができる。セルの上流に位置するイオン源および他のイオン光学素子を制御することにより、ならびに質量分析器などの下流の構成要素を制御して好適なエネルギー障壁を確立することにより、多極セルは、同じまたは実質的に同様のガス混合物を使用して、複数の異なるモードで動作可能にすることができる。したがって、質量分析計システム中の単一のマルチモードセルは、異なるモード中にセルに導入された共通のガス混合物を使用して、反応モードおよび衝突モードの両方で動作できる。プロセッサまたは制御器を使用して、セルおよび下流の質量分析器に結合されたガス流量および電源を制御し、2つ以上のモードで質量分析計の選択可能な代替動作を可能にすることができる。
【0044】
特定の実施形態では、
図2を参照すると、質量分析計システム200の特定の構成要素のブロック図が示されている。システム200は、イオン化源210、インターフェース220、偏向器230、セル240、質量分析器250、および検出器260を備える。正確なイオン化源210は変化し得、多数のタイプが以下で言及されるが、イオン化源210は、典型的に、目的の検体のイオン化中に様々な既知の無機スペクトル干渉を含むスペクトル干渉を発生する。イオン化源210は、例えば、プラズマトーチで検体試料を気化させてイオンを発生することができる。イオン化源210を出ると、インターフェース220、例えば、サンプラープレートおよび/またはスキマーを備え得るものを使用してイオンを抽出することができる(以下を参照)。インターフェース220によって提供されるイオン抽出は、システム200の1つ以上の下流の構成要素に提供することができる狭く高度に集束したイオン流をもたらすことができる。インターフェース220は、典型的には、1つ以上のポンプにより約3トールの大気圧まで排気された真空チャンバ中に存在する。必要に応じて、インターフェース220は、イオン抽出をさらに強化するために、複数の異なるステージ、領域、またはチャンバを備えてもよい。例えば、インターフェース220の第1のスキマーを通過すると、イオンは、第2のスキマーを備える第2の真空領域に入ることができる。第2の機械的ポンプ(または第1の真空領域および第2の真空領域に流体的に結合された共通の機械的ポンプ)は、第2の真空領域を第1の真空領域よりも低い大気圧まで排気できる。例えば、第2の真空領域は、約1〜110ミリトールに維持することができる。
【0045】
特定の構成では、イオンが界面220を出ると、それらは偏向器230に提供され得る。偏向器230は、典型的には、偏向器230に入るイオンを選択し、それらを下流の構成要素に提供するように動作する。例えば、イオン偏向器230は、縦軸がイオン流の入口および出口軌道にほぼ垂直な方向に延在する四重極ロッドセットを備える四重極イオン偏向器として構成することができる。偏向器230中の四重極ロッドには、電源から好適な電圧を提供して、イオン偏向器四重極中に偏向電場を提供することができる。四重極ロッドの構成および印加電圧により、結果として生じる偏向電場は、入射イオン流中の荷電粒子を約90度の角度(または他の選択された角度)で偏向させるのに効果的であり得る。したがって、イオン流の出口軌道は、入口軌道(および四重極の縦軸)にほぼ直交することができる。しかしながら、必要に応じて、偏向器またはガイドは、例えば、米国特許公開第20170011900号および同第20140117248号に記載されているように、異なる構成にすることができる。イオン偏向器230は、イオン流中の様々なイオン集団(検体イオンおよび干渉イオンの両方)を出口まで選択的に偏向させることができ、一方他の中性電荷の非スペクトル干渉は区別される。例えば、偏向器230は、光光子、中性粒子(中性子または他の中性原子もしくは分子など)、ならびに他のガス分子をイオン流から選択的に除去することができ、これらは、その中立的な変化のために、多極に形成される偏向電場との相互作用は、ほとんどまたはまったくない。偏向器230は、非スペクトル干渉物をイオン流から排除する1つの可能な手段として質量分析計システム200に含めることができるが、他の手段も使用することができる。
【0046】
特定の構成では、一旦、出口軌道に沿って偏向器230を出たイオン流は、反応モードまたは衝突モードを含むマルチモードセルとして構成できるマルチモードセル240の入口端に伝達することができる。以下により詳細に記載されるように、入口部材またはレンズは、セル240中に存在できる。入口部材またはレンズは、加圧セル240へのイオン流を受け取るためのイオン入口を提供することができる。偏向器230が質量分析計システム200から省略される場合、イオン流は、入口部材またはレンズを通して、インターフェース220からセル240に直接伝達され得る。加圧セル240の出口端には、出口レンズなどの好適な出口部材があり得る。出口レンズは、加圧セル240を通過するイオンが質量分析器250および検出器260などの質量分析計システム200の下流の分析構成要素に放出され得る開口部を提供し得る。
【0047】
特定の例では、セル240は、多極加圧セル、例えば2、4、6、8、または10本のロッドを備えるものとして構成することができる。例えば、セル240は、その内部空間内で四重極ロッドセットを囲む四重極加圧セルとして構成することができる。従来のように、四重極ロッドセットは、入ってくるイオン流の経路と同一直線上にある共通の縦軸の周りに均等に配列された4本の円柱ロッドを備えることができる。四重極ロッドセットは、電源(図示せず)に電気的に結合され、そこから四重極ロッドセット内に四重極電場を作るのに好適なRF電圧を受け取ることができる。例えば、四重極ロッドセットに形成された電場は、セル240の入口端から出口端に向かってその長さに沿って伝達されるイオンに半径方向の閉じ込めを提供することができる。
図3A〜3Bによりよく図示されているように、四重極ロッドセット340a、340bにおける対角線上の反対側のロッドは、電源342からそれぞれ位相がずれたRF電圧を受け取るために一緒に結合することができる。場合によっては、DCバイアス電圧はまた、四重極ロッドセット340a、340bに提供されてもよい。電源342は、セルオフセット(DCバイアス)電圧をセル240に供給することもできる。いくつかの例では、四重極ロッドセット340a、340bは、その縦軸に沿って入口レンズおよび出口レンズと同一直線上に整列することができ、それによって、イオン流中のイオンのための加圧セル240を通る完全な横断経路を提供する。いくつかの例では、入射レンズは、適切にサイズ設定され(例えば4.2mm)、イオン流を完全に、または少なくとも実質的に入口楕円内に導き、例えば、限定されないが、2mm〜3mmの範囲で選択された最大空間幅を有するイオン流を提供する。入射レンズは、イオン流の大部分またはすべてが、最低でも実質的な部分が四重極ロッドセットの受け入れ楕円に導かれるようにサイズ設定できる。インターフェース220の構成要素、例えばスキマーはまた、イオン流の空間的幅に影響を与えるようにサイズ設定されてもよい。このようにして、イオン流は、セル240の上流に(少なくともある程度まで)集束されて、イオンの損失を低減し、セル240を通る効率的な透過を提供し得る。
【0048】
特定の構成では、
図4により詳細に示されるように、マルチモードセル400は、セル400に流体的に結合されたガス入口430を備えてもよい。入口部材420は、セル400の入口422に存在することができ、出口部材430は、セル400の出口432に存在することができる。ガス入口412は、1つ以上のガス源に流体的に結合されて、ガス混合物をセル400に導入してセルを加圧する。いくつかの例では、予混合されたガスがガス源中に存在して、セルに導入されてもよいが、他の場合では、ガス混合物をセル400に導入する前に、2つ以上のガスをセル400の上流で混合することができる。ガス源は、ある量の選択されたガス混合物を加圧セル400に注入して、イオン流中のイオンと衝突するように動作可能であり得る。ガス混合物は、典型的には、2つ以上の異なるガス、例えば、2つのガス、3つのガス、4つのガスなどを含む。混合ガス中の例示となるガスは、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素などが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、ガスのうちの1つ以上は、一般に、イオン流中の検体イオンおよび干渉イオンの両方に対して不活性であり得る。例えば、第1の多原子干渉イオンのイオン流中の第1のイオン群、および第2単原子検体イオンのイオン流中の第2のイオン群を想定すると、ガス混合物の不活性ガスは、第2のイオン群よりも第1のイオン群の実質的に大きな割合で衝突し、第1の群中の個々のイオンのエネルギーを第2の群中の個々のイオンよりも平均して大幅に低減することができる。したがって、ガス混合物の不活性ガスは、衝突モードまたはKEDモードで加圧セル400を動作させるのに好適なタイプのものであり得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、ガス混合物中のガスのうちの1つ以上は、セルが反応モードで動作しているときにセル400中の特定のイオンと反応するのに効果的であり得る。ガス混合物の反応性ガスは、例えば、干渉イオンと反応すると同時に、1つ以上の検体イオンに対して不活性であるように選択することができる。あるいは、ガス混合物の選択された反応性ガスは、干渉イオンに対して不活性であり、検体イオンのうちの1つ以上と反応することができる。例えば、ガス混合物の反応性ガスが干渉イオンと反応するように選択される場合、そのとき、質量フィルタリングを加圧セル400で実施して、セルから検体イオンのみを伝達または提供してもよい。衝突モードおよび反応モードの両方で同じガス混合物を使用できるにもかかわらず、反応ガスは、ガス混合物と同じ所定の圧力とすることができる所定の圧力まで加圧セル400内に提供することができ、セルが反応モードまたは衝突モードで動作するかに応じて、同じまたは異なり得る。いくつかの実施形態では、ガス混合物は、セルがKEDモードで動作するとき、約0.02ミリトール〜約0.065ミリトールの範囲内およびセルがDRCモードで動作するとき、約0.04ミリトール〜約0.065ミリトールの範囲内の所定の圧力まで加圧セル410内に提供することができる。しかしながら、使用される正確な圧力は、機器、セルの寸法、および他の要因によって変化し得る。例えば、好適なセル圧を決定するために、1つ以上の標準を使用してセル圧を較正し、システム中の様々なガス流量および圧力を最適化できる。場合によっては、バックグラウンド等価濃度の最小化に基づいて、好適なセル圧力および流量が選択される。特定の例では、圧力/流量の較正を定期的に実施して、特定の分析に適切な圧力および流量が使用されていることを確認できる。
【0050】
いくつかの例では、1つ以上のポンプ、バルブ、出口など(図示せず)も加圧セル400に流体的に結合することができ、加圧セル400内に収容されているガスを排出するように動作可能であり得る。ポンプおよびガス源の同期動作により、質量分析計システムの動作中に、加圧セル400は、好適なガス混合物を繰り返しかつ選択的に充填され、次いで空にされ得る。例えば、加圧セル400は、第1のガス混合物とは異なる量の選択された第2のガス混合物の充填および排出と交互に、ある量の第1のガス混合物で充填され、次いで空にされ得る。このようにして、加圧セル400は、異なるガス混合物を使用する衝突モードおよび反応モードでの交互かつ選択的な動作に好適なものになり得る。必要に応じて、同じガス混合物を2つのモードで使用できるとしても、衝突モードから反応モードに切り替える前に、加圧セル400を排気することができる。
【0051】
特定の実施形態では、セル400は、入口レンズ420および出口レンズ430に加えて、四重極ロッドセット410(または六重極、八重極などを提供する他のロッドセット)を備えてもよい。図示されていないが、セル400はまた、セル400の内容物を排出するための流体出口または通気口を備えてもよい。四重極ロッドセット410の上流に位置するイオン光学素子はまた、例えば、対応する範囲に関して、イオン流中の様々なイオン集団のそれぞれの各エネルギー分布を制御し、イオン化源から四重極ロッドセット410への伝達中のエネルギー分離を最小限に抑えるように構成することができる。この制御の一態様は、入射レンズ420を接地電位またはそれよりわずかに低く維持することを伴い、それにより、他の点ではイオン集団のエネルギー分離を引き起こす可能性のある入射レンズ420でのあらゆるイオン電場相互作用を最小限に抑えることができる。例えば、入口レンズ420は、セル400の衝突モードで入口電位が−60ボルト〜+20ボルトの範囲に降下する電源によって供給することができる。あるいは、入口レンズ420に供給される入口電位は、−3V〜0(接地電位)の範囲であり得る。必須ではないが、入口電位の大きさを比較的低いレベルに維持することは、イオン流中の異なるイオングループの対応するエネルギー分布を比較的小さな範囲内に保つのに役立ち得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、イオン流中のそれぞれのイオン集団ごとの対応するエネルギー分布の範囲は、イオン化源からセル400への伝達中に、対応する初期範囲の5パーセント以内となるように制御して、維持することができる。あるいは、各イオン集団のそれぞれのエネルギー分布は、その中のガス混合物との衝突を通して加圧セル400中で良好な運動エネルギー弁別を提供するように選択された最大範囲内に制御して、維持することができる。対応するエネルギー分布のこの最大範囲は、例えば、半値全幅で測定された約2eVに等しくなり得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、出口レンズ430はまた、選択された出口電位に維持されるように、電源によってDC電圧を供給できる。いくつかの実施形態では、出口レンズ430は、加圧セル400中の正に荷電したイオンを加圧セル400の出口端に向かって引き寄せるために、入口レンズ420に提供される入口電位よりも低い(すなわち、より負の)出口電位を受け取ることができる。さらに、出口電位の絶対的な大きさは、供給された入口電位よりも大きく、おそらくは有意に大きくなり得る。出口レンズ430を維持できる出口電位は、いくつかの実施形態では、−40V〜−18Vで定義される範囲内であり得る。他の構成では、出口レンズ430は、加圧セル400の衝突モードで−26ボルト〜+26ボルトの電圧で維持することができる。所望であれば、出口レンズ430は、加圧セル400の反応モードで−26ボルト〜+26ボルトとの電圧で維持することができる。いくつかの場合では、加圧セル400が反応モードにあるときに出口部材430に提供される電圧と実質的に同様の電圧で入口部材420を維持することが好ましい場合がある。いくつかの例では、単一の電源は、両方のレンズ420、430に電力を提供し得るが、これに対して他の構成では、レンズ420、430の各々は、それぞれのそれら自体の電源(図示せず)に電気的に結合することができる。1つの例示では、入口レンズ420は、約4mm〜約5mmの入口レンズオリフィスを備えてもよい。出口レンズオリフィスは、入口レンズオリフィスより小さくても、大きくてもよく、場合によっては、約2.5mm〜約3.5mmのオリフィスを備える。加圧セルからイオン流を受け取り、排出するために、他のサイズのオリフィスも同様に実行可能であり得る。また、加圧セル400は、一般に、真空チャンバから密封されて、ある量のガス混合物を収容するのに好適な内部空間を画定することができる。
【0054】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるシステム中に存在する質量分析器250は、一般に、分解四重極質量分析器、二重四重極質量分析器、三重四重極質量分析器、セグメント化質量分析器、六重極質量分析器、飛行時間(TOF)質量分析器、リニアイオントラップ分析器、またはそれらの要素のいくつかの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない、任意の好適なタイプの質量分析器であり得る。図示されていないが、質量分析器250は、典型的には、質量分析器250の構成要素に提供される電圧を制御するための好適な電源およびプロセッサに電気的に結合されている。質量分析器250は、システムのレンズおよび/またはマルチモードセルと共通の電源を共有することができ、またはそれ自体のそれぞれの電源を備えてもよい。質量分析器250に提供されるイオンは、(質量選択的軸方向放出の場合、時間ではなく空間で)質量分化され、検出のために検出器260に伝達され得るが、これは、理解されるように、任意の好適な検出器であり得る。例示となる検出器には、電子増倍器、マルチチャネルプレート、シェブロンなどが含まれるが、これらに限定されない。例えば、例証となる検出器は、共通の出願人による米国特許公開第20160379809号および同第20160223494号に記載されており、それぞれの開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。所望であれば、電源はまた、下流のオフセット(DC)バイアス電圧を質量分析器250に提供することができる。質量分析器250は、機械式ポンプまたは他のポンプによって排気された真空チャンバ中に収容することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、追加の構成要素は、
図2に示す構成要素またはステージ210〜260のいずれかの間に存在してもよい。例えば、プレフィルタは、これら2つの構成要素間の転送要素として使用するために、セル240と下流の質量分析器250との間に存在し得る。プレフィルタは、加圧セル240と下流の質量分析器250との間のイオン流の半径方向の閉じ込めを提供するために、かつ/またはそうでなければ発生する可能性のある電場フリンジングの影響を低減するために、RFのみのモードで動作することができる。他の実施形態では、プレフィルタはまた、質量分析器250への伝達前にイオンの追加的な質量フィルタリングを提供するために、例えば、空間荷電の問題などに対処するために、DC電圧を受け取ってもよい。
【0056】
特定の実施形態では、加圧セル240にセルオフセット電圧を提供することができ、質量分析器250に下流のオフセット電圧を提供することができ、これは対応する構成要素に電気的に結合された単一または複数の異なる電源によって供給されるDC電圧であり得る。各印加されるオフセット電圧の振幅は、完全に制御可能であり得る。1つの場合では、下流のオフセット電圧は、セルのオフセット電圧よりも正の電圧であり得、それによって質量分析器250を加圧セル240よりも上の電位に維持することができる。加圧セル240から質量分析器250に伝達する正イオンについては、この電位差は、イオンが克服する正の電位障壁を提示することができる。相対的な正の差は、イオンが貫通するための加圧セル240の下流端に出口障壁を提供することができる。少なくとも特定の最小運動エネルギーを有するイオンは、出口障壁に貫通することができ、一方、十分な運動エネルギーを有しない遅いイオンは、加圧セル240内に捕捉された状態になることができる。出口障壁の強度が、例えば、質量分析器250と加圧セル240との間の電位差の大きさの制御によって、適切に選択される場合、そのとき出口障壁は、他のものに相対するイオンの一方の群のより大きな割合が障壁によって捕捉され、加圧セル240から出るのを防止し得るように、別のものに相対するイオンの一方の集団または群に対して選択的に識別することができる。下流のオフセット電圧をセルオフセット電圧よりも正の値に制御することで、質量分析計システム200を衝突モード(KEDモード)での動作に好適なものにすることができる。本明細書に記載されるように、衝突モードでセル240を加圧するために、ガス混合物をセル240(または質量分析器250の上流の他の構成要素)に提供することができる。
【0057】
別の構成では、下流のオフセット電圧およびセルオフセット電圧(したがって、それらの間の差も)は、セルオフセット電圧が下流オフセット電圧よりも正の値になるように制御することができる。オフセット電圧が制御された状態で、質量分析計200は、反応モードでの動作に好適であり得る。上述のように出口障壁を提供するのではなく、質量分析器250を加圧セル240よりも低い電位に維持することは、加圧セル240から質量分析器250へのイオンを加速し、これらの2つのステージ間での検体イオンのより効率的な伝達を提供することができる。上述したように、干渉イオンは、ガス混合物の反応性ガスと反応して製品イオンを形成することができ、次いで、これは、検体イオンのm/zの周りに狭いバンドパスフィルタを適用するために加圧セル240を調節することによって、不安定化され、排出することができる。この構成では、検体イオンのみを質量分析器250に加速させなければならない。捕捉要素が加圧セル240の下流に提供される場合、電位降下によって提供される加速力は、例えば、断片化が望まれる場合、検体イオンのイントラップイオン断片化を誘導するための有効な方法である場合もある。
【0058】
いくつかの実施形態では、ガス混合物を使用した様々な動作モードのための質量分析計200の動作を制御および調和するために、例えば、制御器中に、またはスタンドアロンプロセッサとして、プロセッサが存在する。この目的のために、プロセッサは、加圧セル240および/または下流の質量分析器250のためのガス源、1つ以上のポンプ、1つ以上の電源、ならびに
図2に示されていない質量分析器200に含まれる任意の他の電源またはガス源のそれぞれに電気的に結合することができる。例えば、プロセッサは、質量分析計200を動作の衝突モードから反応モードに切り替え、さらに動作の反応モードから衝突モードに戻すように動作可能であり得る。より一般的には、プロセッサは、これらの2つの動作モードの間で、または2つを超える動作モードの間で選択的に切り替えることができる。より詳細に記載されるように、一方の動作モードから他方の動作モードへの切り替えを行うために、プロセッサは、必要に応じて、1つ以上の他の設定またはパラメータに基づいて、質量分析計システム200のうちの1つ以上の設定またはパラメータを設定、調整、リセット、またはその他の方法で制御することができる。
【0059】
特定の構成では、プロセッサは、例えば、電圧、ポンプ、質量分析器、検出器などを制御するために、例えば、マイクロプロセッサおよび/またはシステムを動作するための好適なソフトウェアを含む1つ以上のコンピュータシステムおよび/または一般的なハードウェア回路に存在してもよい。いくつかの例では、システム自体は、それ自体のそれぞれのプロセッサ、オペレーティングシステム、および他の機能を備えて、ガス混合物を使用する衝突モードおよび反応モードでシステムを動作させることができ得る。プロセッサは、システムに統合することができ、またはシステムの構成要素に電気的に結合された1つ以上のアクセサリボード、プリント回路基板、またはコンピュータ上に存在し得る。プロセッサは、典型的には、システムの他の構成要素からデータを受信し、必要または所望に応じて様々なシステムパラメータを調整できるように、1つ以上のメモリユニットに電気的に結合される。プロセッサは、Unix(登録商標)、Intel PENTIUM(登録商標)タイプのプロセッサ、Motorola PowerPC、Sun UltraSPARC、Hewlett−Packard PA−RISCプロセッサ、または任意の他のタイプのプロセッサに基づくものなどの汎用コンピュータの一部であり得る。技術の様々な実施形態に従って、任意のタイプのコンピュータシステムのうちの1つ以上を使用し得る。さらに、システムは、単一のコンピュータに接続されてもよく、または通信ネットワークによって取り付けられた複数のコンピュータ間で分散されてもよい。ネットワーク通信を含む他の機能を実施することができ、この技術が、いかなる特定の機能または一連の機能を有することに限定されないことを理解すべきである。様々な態様が、汎用コンピュータシステムで実行される専用ソフトウェアとして実装され得る。コンピュータシステムは、ディスクドライブ、メモリ、またはデータを記憶するための他のデバイスなどの1つ以上のメモリデバイスに接続されたプロセッサを含み得る。メモリは、典型的には、ガス混合物を使用する様々なモードでのシステムの動作中に、プログラム、キャリブレーション、およびデータを記憶するために使用される。コンピュータシステムの構成要素は、1つ以上のバス(例えば、同じ機械内に統合されている構成要素間)および/またはネットワーク(例えば、別個の不連続の機械にある構成要素間)を含み得る相互接続デバイスによって結合され得る。相互接続デバイスは、システムの構成要素間で交換される通信(例えば、信号、データ、命令)を提供する。コンピュータシステムは、典型的には、例えば、数ミリ秒、数マイクロ秒以下の処理時間内にコマンドを受信および/または発行して、システムを迅速に制御して異なるモード間で切り替え、かつ/または異なるガス混合物間で切り替えることができる。例えば、コンピュータ制御は、セル内の圧力、セルおよび/またはレンズ要素に提供される電圧などを制御するために実装することができる。プロセッサは、典型的には、例えば、直流電源、交流電源、バッテリ、燃料電池、もしくは他の電源、または電源の組み合わせであり得る電源に電気的に結合される。電源は、システムの他の構成要素によって共有することができる。システムはまた、1つ以上の入力デバイス、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、マイクロフォン、タッチスクリーン、手動スイッチ(例えば、オーバーライドスイッチ)、および1つ以上の出力デバイス、例えば、印刷デバイス、表示画面、スピーカを含んでもよい。さらに、システムは、コンピュータシステムを通信ネットワークに接続する1つ以上の通信インターフェースを含有してもよい(相互接続デバイスに加えて、またはその代替として)。システムはまた、システム中に存在する様々な電気デバイスから受信した信号を変換するための好適な回路を含んでもよい。そのような回路は、プリント回路基板上に存在することができ、または例えば、シリアルATAインターフェース、ISAインターフェース、PCIインターフェースなどの好適なインターフェースを通じて、または1つ以上の無線インターフェース、例えば、Bluetooth(登録商標)、Wi−Fi、Near Field Communication、または他の無線プロトコルおよび/もしくはインターフェースを通じて、プリント回路基板に電気的に結合された別個の基板またはデバイス上に存在してもよい。
【0060】
特定の実施形態では、本明細書に記載のシステムで使用される格納システムは、典型的には、プロセッサによって実行されるプログラムによって使用できるコード、またはプログラムが処理する媒体上もしくは媒体中に格納された情報を格納できる、コンピュータで読み取りおよび書き込み可能な不揮発性記録媒体を含む。媒体は、例えば、ハードディスク、ソリッドステートドライブ、またはフラッシュメモリであってもよい。典型的には、動作において、プロセッサは、不揮発性記録媒体から、媒体よりもプロセッサによる情報への高速アクセスを可能にする別のメモリにデータを読み込ませる。このメモリは、典型的には、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)またはスタティック・メモリ(SRAM)などの揮発性のランダム・アクセス・メモリである。記憶システム中またはメモリシステム中に位置してもよい。プロセッサは、一般に、集積回路メモリ内でデータを操作し、処理が完了した後に媒体にデータをコピーする。媒体と集積回路メモリ素子との間のデータ移動を管理するための種々の機構が知られており、本技術はこれに限定されるものではない。技術はまた、特定のメモリシステムまたは記憶システムに限定されない。特定の実施形態では、システムはまた、特別にプログラムされた専用ハードウェア、例えば、アプリケーション固有の集積回路(ASIC)、または電場プログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含んでもよい。技術の態様は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、または任意のそれらの組み合わせで実装されてもよい。さらに、そのような方法、行為、システム、システム要素、およびそれらの構成要素は、上述のシステムの一部として、または独立した構成要素として実装されてもよい。特定のシステムは、本技術の様々な態様が実践され得るシステムの1つのタイプとしての例として記載されているが、態様が記載されたシステム上で実装されることに限定されないことが理解されるべきである。様々な態様は、異なるアーキテクチャまたは構成要素を有する1つ以上のシステム上で実践されてもよい。システムは、高レベルのコンピュータプログラミング言語を使用してプログラム可能な汎用コンピュータシステムを備えてもよい。システムはまた、特別にプログラムされた専用ハードウェアを使用して実装されてもよい。システムでは、プロセッサは、典型的には、Intel Corporationから入手可能な周知のPentiumクラスのプロセッサなどの市販のプロセッサである。他の多くのプロセッサも市販されている。そのようなプロセッサは、通常、例えば、Microsoft Corporationから入手可能なWindows(登録商標) 95、Windows 98、Windows NT、Windows 2000(Windows ME)、Windows XP、Windows Vista、Windows 7、Windows 8またはWindows 10オペレーティングシステム、Appleから入手可能なMAC OS X、例えば、Snow Leopard、Lion、Mountain Lion、または他のバージョン、Sun Microsystemsから入手可能なSolarisオペレーティングシステム、または様々な供給元から入手可能なUNIXもしくはLinux(登録商標)オペレーティングシステムであり得るオペレーティングシステムを実行する。他の多くのオペレーティングシステムが使用されてもよく、特定の実施形態では、単純な一連のコマンドまたは命令がオペレーティングシステムとして機能し得る。
【0061】
特定の例では、プロセッサおよびオペレーティングシステムは、高レベルプログラミング言語でのアプリケーションプログラムが記述されるプラットフォームを一緒に定義してもよい。技術は、特定のシステムプラットフォーム、プロセッサ、オペレーティングシステム、またはネットワークに限定されないことが理解されるべきである。また、本開示の利点を考慮すると、本技術が特定のプログラミング言語またはコンピュータシステムに限定されないことは、当業者には明らかであるべきである。さらに、他の適切なプログラミング言語および他の適切なシステムも使用され得ることが理解されるべきである。特定の例では、ハードウェアまたはソフトウェアは、認知アーキテクチャ、ニューラルネットワーク、または他の好適な実装形態を実装するように構成され得る。所望により、コンピュータシステムのうちの1つ以上の部分は、通信ネットワークに結合された1つ以上のコンピュータシステムに分散されてもよい。これらのコンピュータシステムはまた、汎用コンピュータシステムであってもよい。例えば、様々な態様は、1つ以上のクライアントコンピュータにサービス(例えば、サーバ)を提供し、または分散システムの一部として全体的なタスクを実施するように構成された1つ以上のコンピュータシステムの間で分散されてもよい。例えば、様々な態様は、様々な実施形態に従って様々な機能を実施する1つ以上のサーバシステムの間で分散された構成要素を含むクライアント-サーバまたは多階層システム上で実施されてもよい。これらの構成要素は、通信プロトコル(例えば、TCP/IP)を使用して通信ネットワーク(例えば、インターネット)で通信する実行可能なコード、中間コード(例えば、IL)、または解釈可能なコード(例えば、Java(登録商標))であってもよい。また、技術は、任意の特定のシステムまたはシステムの群上で実行することに限定されないことを理解すべきである。また、技術が特定の分散アーキテクチャ、ネットワーク、または通信プロトコルに限定されないことも理解すべきである。
【0062】
場合によっては、様々な実施形態は、例えば、SQL、SmallTalk、Basic、Java、Javascript、PHP、C++、Ada、Python、iOS/Swift、Ruby on Rails、またはC#(C−Sharp)などのオブジェクト指向プログラミング言語を使用してプログラムされてもよい。また、他のオブジェクト指向プログラミング言語を使用してもよい。あるいは、関数型、スクリプト型、および/または論理型のプログラミング言語が使用されてもよい。様々な構成は、非プログラミング環境(例えば、ブラウザプログラムのウィンドウ内で見たときに、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)の態様をレンダリングするか、または他の機能を実施する、HTML、XML、または他のフォーマットで作成された文書)で実装されてもよい。特定の構成は、プログラムされた要素もしくは非プログラムされた要素、または任意のそれらの組み合わせとして実装されてもよい。場合によっては、システムは、モバイルデバイス、タブレット、ラップトップコンピュータ、または他のポータブルデバイスに存在するものなどのリモートインターフェースを備えてもよく、これは、有線または無線インターフェースによって通信することができ、所望のようにシステムの動作を遠隔で可能にすることができる。
【0063】
特定の例では、プロセッサはまた、原子、分子、イオンなどに関する情報のデータベースを含んでもよく、またはこれらにアクセスしてもよく、これらは、これらの異なる化合物のm/z比、イオン化エネルギー、および他の一般的な情報を含むことができる。データベースは、2つの化合物が分子を形成するかどうか、または他の化合物が互いに対して不活性であるかどうかなど、他の化合物との異なる化合物の反応性に関連するデータをさらに含むことができる。メモリに記憶された命令は、システムのためのソフトウェアモジュールまたは制御ルーチンを実行することができ、これは、実質的にシステムの制御可能なモデルを提供することができる。プロセッサは、データベースからアクセスされた情報を、プロセッサで実行される1つまたはソフトウェアモジュールと一緒に使用して、動作の衝突モードおよび反応モードを含む質量分析計の異なる動作モードの制御パラメータまたは値を決定することができる。制御命令を受信するための入力インターフェースおよび質量分析計システムでの異なるシステム構成要素にリンクされた出力インターフェースを使用して、プロセッサは、システムに対する能動的な制御を実施することができる。例えば、動作のKEDまたは衝突モードでは、プロセッサは、ヘリウムガスと水素ガスとの混合物などのガス混合物源を有効にして、次いでガス源を駆動して、加圧セルに所定の圧力までの量のガス混合物を充填することができる。プロセッサはまた、下流のオフセット電圧をセルのオフセット電圧よりも正の値に設定することができ、それによって加圧セルの出口端に出口障壁を形成することができる。加圧されたセルに進入したイオンは、ガス混合物の1つ以上の成分と衝突し、それぞれのそれらの運動エネルギーの低減を受けることができる。運動エネルギーにおける平均減少は、イオンの種類の平均衝突断面積に依存することができ、2種類のイオンが実質的に同じまたは同様のm/z比を有する場合でも、衝突断面積が大きいイオンは、断面積が小さいイオンに対して、運動エネルギーにおける減少が大きくなる傾向がある。したがって、不活性ガスとの衝突により、多原子干渉イオン群は、単原子検体イオン群よりも大きく減少したその平均運動エネルギーを有することができる。これらの2つのイオン群の対応するエネルギー分布が、イオン源から加圧セルへの伝送中に、質量分析計システムのために選択された最大範囲内になるように制御される場合、そのときガス混合物との衝突は、2つの群の間にエネルギー分離を導入することができる。したがって、干渉イオンのより大きな割合は、出口障壁のサイズを制御するプロセッサによって、干渉イオンのより大きな割合が検体イオンよりも出口障壁を貫通できないという効果を伴う検体イオン群に対して低減されたエネルギーを経験することができる。本明細書に記載されているように、出口障壁の正確な振幅は、一般に、干渉イオンおよび検体イオンに依存することができ、プロセッサは、干渉イオンおよび検体イオンの種類の1つまたは両方に基づいて、下流のオフセット電圧とセルオフセット電圧との間の差を制御してもよい。
【0064】
特定の構成では、プロセッサは、下流の電圧とセルオフセットの電圧との間の差を、入り口レンズおよび出口レンズにそれぞれ印加される入り口電位または出口電位などの他のシステムパラメータに基づいて制御してもよい。
【0065】
他の構成では、プロセッサはまた、干渉イオンと検体イオンとの間の運動エネルギー弁別を改善するために、出口障壁を形成する下流の電圧およびセルオフセットの電圧を調整または調節するように構成することができる。
【0066】
追加の構成では、プロセッサはまた、加圧セルに入る構成イオン集団のエネルギー分布の範囲を制御するために、入口レンズに印加される入口電位を調整するように構成することができる。
【0067】
さらなる構成では、プロセッサはまた、閉じ込め電場の強度を設定または調整するために、電源によってセルのロッドセットに提供されるRF電圧を制御してもよい。このようにして、プロセッサは、ロッドセット内の閉じ込め電場を、セルのロッドセット内に検体イオンの少なくとも相当部分を閉じ込めるのに十分な強度に設定することができる。
【0068】
特定の例では、KEDまたは衝突モードからDRCまたは反応モードの動作に切り替えるために、プロセッサは、加圧セルからのガス混合物の退避を可能にするようにポンプを制御することができ、ガス源が、例えば所定の圧力まで加圧セルにポンプで送られる追加のガス混合物(衝突モードで使用されるのと同じまたは異なるガス混合物であり得る)を提供することを可能にすることができる。衝突モードおよび反応モードでガス混合物が同じであっても、衝突モードおよび反応モードでは、ガス混合物中の各ガスの相対的な割合が異なり得る。例えば、ガス混合物が水素とヘリウムとのガス混合物を含む場合、システムが反応モードで動作するときのガス混合物中に存在する水素ガスの量よりも、衝突モードでのガス混合物中に存在する水素ガスの量が多くなり得る。あるいは、ガス混合物が水素とヘリウムとのガス混合物を含む場合、システムが反応モードで動作するときのガス混合物中に存在する水素ガスの量よりも、衝突モードでのガス混合物中に存在する水素ガスの量が少なくなり得る。反応モードで動作される場合、ガス混合物のうちの1つ以上の成分は、一般に検体イオンに対して不活性であるが、干渉イオンに対して反応性(またはその逆)であり得る。プロセッサはまた、例えば、リンクされたデータベースにアクセスすることによって、目的の1つ以上の識別された検体イオンに基づいて、1つ以上のタイプの潜在的な干渉イオンを決定することができる。プロセッサによって決定された干渉イオンは、検体イオンと実質的に同じまたは同様のm/z比を有していてもよい。プロセッサはまた、同様の方法で好適なガス混合物を選択することができる。ガス混合物が選択されると、プロセッサは、ガス源を制御して、反応モードでの動作のために、ガス混合物の量を加圧セルに提供することができる。
【0069】
特定の例では、システムが反応モードで動作するとき、プロセッサは、米国特許第6,140,638号および同第6,627,912号に実質的に記載されているように、質量分析計の動作を制御してもよい。さらに、プロセッサは、セルオフセット電圧よりも負の電圧である下流のオフセット電圧を提供するように電源に指示するように構成することができる。差の決定は、再び、干渉イオンおよび/または検体イオンに基づいて行われてもよい。プロセッサはまた、オフセット電圧差を調整または調節するように構成されてもよい。
【0070】
特定の実施形態では、反応モードの動作から衝突モードの動作に戻って切り替えるために、プロセッサは、選択されたガス混合物を加圧セルから退避させるようにポンプに指示することができ、その後、ガス源を制御してガス混合物の量を加圧セルに提供する。下流の電圧およびセルオフセットの電圧、ならびに他のシステムパラメータはまた、衝突モードでの動作に好適となるように上述したようなプロセッサによって調整されてもよい。このガス混合物を使用したモード間の切り替えは、所望の頻度で行うことができる。さらに、セルは、衝突モードおよび反応モードでの運転の間、標準モードまたは通気モードで保持することができる。必要に応じて、セルが通気モードまたは標準モードで保持されている間、例えば、セル中にガス混合物が存在しない場合に分析を行うことができる。
【0071】
特定の実施形態では、再び
図3Aおよび3Bを参照して、正面断面図および背面断面図では、それぞれ、代替的な実施形態に含まれ得る補助電極362である。
図3Aおよび3Bは、四重極ロッドセット340a、340b、および電源342、ならびにそれらの間の接続を示しているが、代わりに六極もしくは八極ロッドセット(または他のロッドセット)を使用することもできる。一対のロッド340aは、四重極閉じ込め電場を提供するために、一対のロッド340b(
図3B)と同様に一緒に結合することができる(
図3A)。例えば、一対のロッド340aは、米国特許第8,426,804号に記載されているような電圧で提供することができる。補助電極362は、四重極閉じ込め電場を軸方向電場、すなわち、四重極ロッドセット内の軸方向位置に依存する電場で補完するために、加圧セルに含めることができる。
図3Aおよび3Bに図示されているように、補助電極は、一般に上部部分および四重のロッドセットの縦方向軸に向かって半径方向内向きに延在する船尾部分を含むT字形の断面を有することができる。ステムブレード部の半径方向の深さは、補助電極362の長さに沿ったテーパ状のプロファイルを提供するために、縦軸に沿って変化させることができる。
図3Aは、加圧セルの下流端から入口端に対して上流を向く補助電極を示し、
図3Bは、入口端から出口端に対して下流を向く逆透視図を示している。ステム部分の半径方向内向きの延長は、補助電極362に沿った下流への移動を減少させる。個々の各電極は、DC電圧を受け取るために電源342に一緒に結合され得る。理解されるように、補助電極362のこの幾何形状および正のDC電圧の印加は、正に荷電したイオンを加圧セルの出口端に向かって押し出すような極性の軸方向電場を提供することができる。また、セグメント化された補助電極、発散ロッド、傾斜ロッド、ならびに先細りロッドおよび縮小された長さのロッドの他の幾何形状を含むが、これらに限定されない、補助電極のための他の幾何形状が同等の効果を得るために使用できることも理解されるべきである。ロッドの端部におけるフリンジ効果および他の実用的な制限を無視して、補助電極によって作られる軸方向電場は、実質的に直線的なプロファイルを有することができる。線形電場の勾配はまた、印加されるDC電圧および電極の構成に基づいて制御可能であり得る。例えば、印加されるDC電圧は、−500V/cm〜+500V/cmの範囲の軸方向電場勾配を提供するように選択することができる。プロセッサはまた、補助電極362に供給されるDC電圧が、例えばその軸方向勾配の観点から定義される選択された電場強度の軸方向電場を形成するように、電源342を制御することができる。補助電極362は、異なる電場強度ではあるが、KEDモードおよびDRCモードの動作ごとに通電されてもよい。プロセッサはまた、動作モードごとの相対的な電場強度を制御してもよい。いずれの動作モードにおいても、補助電極362は、イオンを加圧セルの出口端に向かって押し出すことにより、減少したエネルギーイオンを四重極から掃き出すのに効果的であり得る。印加される軸方向電場強度の大きさは、本明細書に記載されるような他のシステムパラメータと同様に、イオン流中の干渉イオンおよび検体イオンに基づいてプロセッサによって決定することができる。
【0072】
特定の実施形態では、本明細書に記載されたセルおよびシステムで使用される正確なイオン化源は、変化し得る。典型的な構成では、イオン化源は、イオン化源に導入されたエアロゾル化された試料からイオンを発生するために動作する。特定の質量分析用途、例えば金属および他の無機検体の分析を伴うものでは、ICP−MSで達成できる比較的高いイオン感度のために、質量分析計中の誘導結合プラズマ(ICP)イオン源を使用して分析を望ましく実施することができる。例えば、ICPイオン源では、10億分の1未満のイオン濃度を達成可能である。従来の誘導結合プラズマイオン源では、3本の同心管、典型的には、石英管からなるトーチの端部を、高周波電流が供給される誘導コイルに入れることができる。次いで、アルゴンガスの流れをトーチの2つの最外管の間に導入することができ、アルゴン原子は、誘導コイルの高周波磁場と相互作用してアルゴン原子から電子を遊離させることができる。この作用により、非常に高温のプラズマ、例えば、10,000ケルビンを生成することができ、これは、大部分がアルゴン原子を含み、ごく一部がアルゴンイオンおよび自由電子を有する。次いで、検体試料は、例えば、液体の霧状ミストとして、アルゴンプラズマを通過させることができる。霧状試料の液滴は蒸発することができ、液体中に溶解した任意の固体は原子に分解され、プラズマでの非常に高い温度により、その最も緩く結合した電子が取り除かれて一価イオンが形成される。本明細書に記載されたセルおよびシステムでは、従来のICP源を使用することができるが、低流量プラズマ、容量性結合プラズマなども本明細書に記載されたセルおよびシステムで使用され得る。それらを生成するために使用される様々なプラズマおよびデバイスは、例えば、米国特許第7,106,438号、同第7,511,246号、同第7,737,397号、同第8,633,416号、同第8,786,394号、同第8,829,386号、同第9,259,798号、同第9,504,137号、および同第9,433,073号に記載されている。
【0073】
特定の例では、および本明細書に記載されているように、ICPの使用は、目的の検体イオンをイオン化するプロセスにおいて、干渉イオンを発生させることができる。例えば、上述した無機スペクトル干渉、例えば、Ar
+、ArO
+、Ar
2+、ArCl
+、ArH
+、およびMAr
+は、イオン流中に特に存在してもよい。異なる種類のイオンの様々な異なる集団は、他の潜在的な干渉と一緒に、イオン化源から提供されるイオン流を構成することができる。イオン流中に存在する各特定のイオンは、対応するm/z比を有するが、干渉イオンは検体イオンと同じまたは同様のm/zを有し得るため、必ずしもイオン流内で固有であるとは限らない。例えば、イオン流は、ICPによって発生させた
40Ar
16O+干渉イオンの集団と一緒に、
56Fe
+検体イオンの集団を含むことができる。これら2つのイオンのそれぞれは、56のm/z比を有する。別の非限定的な例として、検体イオンの種類は、
80Se
+とすることができ、この場合、目的の検体イオンおよび干渉イオンのそれぞれが80のm/zを有するため、
40Ar
2+は、干渉イオンを構成する。本明細書に上述するように、イオン化源から放出されるイオン流中のそれぞれのイオン集団はまた、集団を構成する個々のイオンのエネルギーに関して対応するエネルギー分布を定義することもできる。それぞれの集団での個々の各イオンは、特定の運動エネルギーを有するイオン化源から放出することができる。イオン集団を占領する個々のイオンエネルギーは、その集団のエネルギー分布を提供することができる。これらのエネルギー分布は、任意の数の方法、例えば、平均イオンエネルギーおよび平均イオンエネルギーからのエネルギー偏差の測定値を提供する好適なメトリックの観点から定義することができる。
【0074】
特定の例では、1つの好適なメトリックは、半値全幅(FWHM)で測定されるエネルギー分布の範囲であり得る。イオン流がイオン化源から放出されるとき、流中のイオンの各集団は、対応する初期範囲によって部分的に定義されるそれぞれの初期エネルギー分布を有することができる。これらの初期エネルギー分布は、イオン化源から質量分析計中に含まれる下流の構成要素にイオン流が伝達されるため、保存される必要はない。例えば、他の粒子との衝突、電場の相互作用などにより、イオン集団での一部のエネルギー分離が予想され得る。イオン流を、質量分析計全体の異なる場所でのその構成イオン集団のそれぞれのエネルギー分布の観点から記述すると便利であり得る。いくつかの実施形態では、各イオン集団は、イオン化源から放出されたときの実質的に同じ初期範囲のエネルギー分布を有する。本明細書に上述するように、イオンビーム中の検体イオンから干渉イオンを除去するためにガス混合物を使用して、衝突モードおよび反応モードの両方での検体イオンの検出を可能にすることができる。
【0075】
特定の例では、および
図5を参照すると、ICPおよびガス混合物との使用に好適なマルチモードセルを備える質量分析計システムが示されている。システム500は、ICPイオン化源またはICPイオン源512、サンプラープレート514、スキマー516、第1の真空チャンバ520、第2のスキマー518を備える第2の真空チャンバ524、インターフェースゲート528、イオン偏向器532を備える第3の真空チャンバ530、入口部材538、出口部材546、およびロッドセット540、例えば2、4、6、8、または10本のロッドを備えるマルチモードセル536、プレフィルタ552、質量分析器550、ならびに検出器554を備える。質量分析器550は、相互接続555を通して電源556に電気的に結合される。電源556は、相互接続557を通してプロセッサ560に電気的に結合される。プロセッサ560はまた、相互接続541を通して別の電源542に電気的に結合される。電源542は、インターコネクト544を通して加圧セル536のロッドセット540に電気的に結合される。プロセッサ560はまた、相互接続561を通して、ガス混合物を含むガス源548(ただし、本明細書に上述するように、2つ以上の別個のガス源が、代わりに、ガス混合物をセル536に導入するために使用され得る)に電気的に結合される。単一のガス入口547は、ガス源548とセル536との間に流体的な結合を提供する。機械的ポンプ(図示せず)は、真空チャンバ520を矢印522の一般的な方向に退避させることができる。例えば、チャンバ520は、システム500の動作中に約3トールの圧力であってもよい。別の機械的ポンプ(図示せず)は、第2の真空チャンバ524を矢印526の一般的な方向に退避させることができる。例えば、チャンバ524は、システム500の動作中に、約1〜110ミリトールの圧力であってもよい。追加の機械的ポンプ(図示せず)は、第3の真空チャンバ530に流体的に結合されて、矢印534の一般的な方向にガスを除去することができる。第3の真空チャンバ530は、典型的には、第2の真空チャンバ524よりも低い圧力である。別のポンプは、質量分析器550の真空チャンバに流体的に結合されて、矢印558の一般的な方向にガスを除去することができる。本明細書に上述するように、プロセッサ560は、衝突モードおよび反応モードの両方での動作中に、ガス混合物のセル536への導入を可能にするように、システム500を制御することができる。例えば、プロセッサ560は、セル536の通気モード、KEDモードおよび/または衝突モードへの切り替えが可能なように構成することができる。本明細書に上述するように、ガス混合物、例えば二成分ガス混合物を導入するためのセル536とガス源548との間には、単一のガス入口547のみが存在してもよい。ロッドセット540の正確な数は、2、4、6、8、または10本のロッドから変化してもよく、多くの例では四重極ロッドセットが使用されている。いくつかの実施形態では、出口部材546は、加圧セル536の衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧を含んでもよい。他の例では、出口部材546は、加圧セル536の反応モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧を含んでもよい。さらなる構成では、入口部材538は、加圧セル536の衝突モードで−60ボルト〜+20ボルトの電圧に設定することができる。いくつかの例では、入口部材538は、加圧セル536が反応モードにあるときに出口部材546に提供される電圧と実質的に同様の電圧に設定することができる。
【0076】
場合によっては、セル536は、セル536と下流の質量分析器550との間のエネルギー電位を変化させるだけでなく、入口部材538および/または出口部材546の電圧を切り替えることによって、同じガス流量を維持しながら、または異なる流量レベルに変えながら、衝突モードから反応モードに切り替えるように構成される。
【0077】
他の場合では、セル536は、セル536と下流の質量分析器550との間のエネルギー電位を変化させるだけでなく、入口部材538および/または出口部材546の電圧を切り替えることによって、同じガス流量を維持しながら、または異なる流量レベルに変えながら、反応モードから衝突モードに切り替えるように構成される。
【0078】
特定の構成では、システム500はまた、例えば、セル536内に、電源に電気的に結合され、イオンを加圧セル536の出口開口部に向けて誘く軸方向電場を提供するように構成された、軸方向電極(図示せず)を備えてもよい。例えば、軸方向電場は、−500V/cm〜500V/cmの電場勾配を含んでもよい。
【0079】
いくつかの構成では、プロセッサ560は、加圧セル536にオフセット電圧を提供するように構成することができる。本明細書に上述するように、提供される正確なオフセット電圧は、セルのモードおよび検体イオン、ならびに任意の干渉イオンに依存し得る。特定の場合では、セル536に流体的に結合された質量分析器550は、オフセット電圧を含んでもよい。例えば、いくつかの構成では、流体的に結合された質量分析器550のオフセット電圧は、セル536が衝突モードにあるときに、セル536のオフセット電圧よりも正である。他の構成では、流体的に結合された質量分析器550のオフセット電圧は、セル536が反応モードにあるときに、セル536のオフセット電圧よりも負である。いくつかの例では、ガス源548からセル536に導入されるガス混合物は、2つ、3つ、4つ以上の異なるガスを含んでもよい。例えば、ガス混合物は、ヘリウムガスおよび水素ガスを含む二成分ガス混合物を含んでもよい。混合物中に存在する各ガスの正確なレベルは、変化し得、システム500のモードに応じて変化してもよい。例えば、混合物中に存在するガスのうちの1つは、ガス混合物の残りの部分が他のガス(またはガス)から本質的になる状態で、最大約15%の体積比で存在してもよい。二成分ガス混合物が水素およびヘリウムを含む例では、水素は、例えば、最大約15体積%、または最大約11体積%、または最大約8体積%もしくは6%で存在することができ、残り(体積基準)は実質的にヘリウムガスである。
【0080】
特定の例では、システム500は、セル536に導入されたガス混合物に加えて、またはその代わりに、セル536の上流にガス混合物を導入するように改質されてもよい。セル536の上流にガス混合物を導入するシステムの様々な構成が、
図6〜8に示されている。同じ番号を有する構成要素は、異なる図において同じ構成要素を表す。
図6を参照すると、システム600は、二次スキマー518に隣接する空間にガス混合物を導入するように構成されたガス源610を備える。二次スキマー518にガス混合物を提供するための流体ライン612が存在する。相互接続621は、ガス源610をプロセッサ560に電気的に結合する。プロセッサ560は、ガス源610を制御して、二次スキマー518への所望の量のガス混合物の導入を可能にすることができる。所望であれば、ガス源548および610は、独立して制御され、システム600のそれぞれの部分に異なるガス流量、圧力、および/または異なるガス混合物を提供してもよい。
【0081】
特定の例に従って、
図7は、共通のガス源が存在し、セル536および二次スキマー518のそれぞれにガス混合物を導入するために使用されることを除いて、
図6と同様の構成を示している。ガス源548と二次スキマー518との間に流体的な結合を提供するための流体ライン712がシステム700中に存在する。プロセッサ560は、ガス源548中のバルブに電気的に結合され、バルブを独立して動作させ、流体入口547および流体ライン712中のガス混合物の流れを独立して可能にまたは停止することができる。所望であれば、異なるガス流量、圧力などを、異なる流体ライン547、712を通して提供することができる。
【0082】
いくつかの構成に従って、ガス混合物は、第2のスキマー518以外の場所でセル536の上流に導入することができる。例えば、ガス混合物は、スキマー516、ICP源512のトーチの端部、または他の領域で導入することができる。ガス混合物が、システム800中の流体ライン812を通して偏向器532の上流に導入される一構成は、
図8に示されている。流体ライン812は、二次スキマー518と偏向器532との間の空間に、ガス源548からの混合ガスを導入する。共通のガス源548が
図8に示されているが、
図6に示されているのと同様の2つの別個のガス源であり得る。本開示の利点を考慮すると、ガス混合物は、偏向器532とセル536との間の空間において、偏向器532の下流にも導入することができることが、当業者によって認識されるであろう。所望であれば、異なるガス流量、圧力などを、異なる流体ライン547、812を通して提供することができる。
【0083】
特定の例では、本明細書に記載されたシステムは、特定の金属種が迅速な方法で十分に検出できない無機分析で使用するために特に好ましくなり得る。例えば、現在のICP−MS法およびシステムを使用して低レベルでセレンを検出することは困難な可能性がある。2つ以上のガス、例えば、水素とヘリウムとの混合ガスを含むガス混合物を使用することで、ユニバーサル干渉を除去することができ、低レベルのセレンを検出することができる。いくつかの例では、干渉は、ガス混合物を使用した衝突モードで除去することができ、反応能力は、ガス混合物を使用した反応モードでも存在する。多くのMSシステムが単一のガス入口を含み、第1の衝突ガスから第2の異なる反応ガスへのガスの切り替えを必要とするので、同じガス混合物の使用は、実質的な属性である。この切り替えは、分析時間を遅くする傾向がある。
【0084】
特定の具体例は、本明細書に記載された技術の新規な態様および特徴の一部をさらに例示するために、以下に記載される。
【0085】
実施例1
セレンレベルは、単一の衝突ガス(ヘリウム)ならびにガスの混合物(ヘリウムおよび水素、水素は約7体積%で存在し、残りはヘリウムガスおよびヘリウムガス/水素混合物中に存在し得る任意の微量の不純物である)を使用して、様々なモードで検出した。同じガスの混合物(ヘリウムおよび水素)を使用して、反応モードでセレン分析物の検出限界(DL)も測定した。それらの結果を以下の表Iに示す。
【0087】
ヘリウムを使用した衝突モード(KED)での検出限界と、ヘリウム/水素ガス混合物を使用した衝突モード(KED)での検出限界とを比較すると、セレンの検出限界は、ガス混合物を使用すると低くなる。以下の表2は、2つのモードおよびヘリウム/水素ガス混合物を使用したセレンの最小検出限界(MDL)を記載する。
【0089】
本明細書に開示された実施例の要素を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、要素のうちの1つ以上で存在することを意味すると意図されている。用語「comprising」、「including」、および「having」は、オープンエンドであることが意図されており、記載された要素以外の追加要素が存在してもよいことを意味する。本開示の利点を考慮すると、実施例の様々な構成要素が、他の実施例での様々な構成要素と交換または置換され得ることは、当業者によって認識されるであろう。特定の態様、実施例、および実施形態を上述してきたが、本開示の利点を考慮すると、開示された例示的な態様、実施例、および実施形態の追加、置換、修正、および変更が可能であることは、当業者によって認識されるであろう。
【国際調査報告】