特表2020-533318(P2020-533318A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-533318ドセタキセル結合体の医薬組成物及び調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-533318(P2020-533318A)
(43)【公表日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】ドセタキセル結合体の医薬組成物及び調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/337 20060101AFI20201023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201023BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20201023BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201023BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20201023BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20201023BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201023BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20201023BHJP
【FI】
   A61K31/337
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61K9/08
   A61K9/19
   A61K47/54
   A61K47/10
   A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-513869(P2020-513869)
(86)(22)【出願日】2018年9月4日
(85)【翻訳文提出日】2020年4月23日
(86)【国際出願番号】CN2018103887
(87)【国際公開番号】WO2019047812
(87)【国際公開日】20190314
(31)【優先権主張番号】201710798308.9
(32)【優先日】2017年9月7日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】512301868
【氏名又は名称】シェンヅェン サルブリス ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN SALUBRIS PHARMACEUTICALS CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ガン
(72)【発明者】
【氏名】チャン シュアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ウェンミン
(72)【発明者】
【氏名】リー シュオ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チアンリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA12
4C076BB11
4C076DD09E
4C076DD09F
4C076DD26Z
4C076DD37
4C076EE59
4C076FF02
4C076FF12
4C076FF15
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF61
4C076FF63
4C076FF68
4C076GG06
4C076GG43
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086GA20
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA44
4C086MA66
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、医薬品製造技術の分野に属する。本発明は、結合体の医薬組成物及びその調製方法を提供する。当該医薬組成物は、好ましくは、注射により投与される。このドセタキセル結合体は、下記式(I)に示される構造式を有する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ドセタキセル結合体組成物及び1以上の薬学的に許容できる担体であって、前記1以上の薬学的に許容できる担体は界面活性剤を有さず、前記組成物のpH値は3.0〜7.0の範囲にあるドセタキセル結合体組成物及び1以上の薬学的に許容できる担体と、(2)異なるチャンバに分離された別の再構成溶媒であって、前記ドセタキセル結合体の1重量部に対して0.1〜15重量部の1以上の界面活性剤を含有する別の再構成溶媒とを含むドセタキセル結合体組成物であって、前記結合体が下記構造を有し、
【化1】
前記式中、Rは、フェニル又は1以上のハロゲン置換フェニルから選択され、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素から選択され、nは2〜5の自然数であり、2、3、4又は5から選択されるドセタキセル結合体組成物。
【請求項2】
前記薬学的に許容できる担体が1以上の充填剤から選択され、前記充填剤の重量が、前記ドセタキセル結合体の1重量部に対して1〜100重量部、好ましくは3〜20重量部であり、前記充填剤が、マンニトール、スクロース、グルコース、トレハロース、デキストロース、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、スルホブチル−β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒスチジン、バリン、トレオニン、グリシン、アルギニン、キシリトール、ソルビトール、フルクトース、ポロキサマー、ゼラチン、キトサン、塩化ナトリウム及びアルブミンからなる群から選択される1以上である請求項1に記載のドセタキセル結合体組成物。
【請求項3】
前記薬学的に許容できる担体がpH調整剤から選択され、前記pH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、塩酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、リンゴ酸、リン酸、硝酸、及び硫酸からなる群から選択される1以上であり、好ましい実施形態では、前記pH調整剤がリン酸二水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムであり、前記組成物のpHが、好ましくは4.5〜5.5の範囲にある請求項1又は請求項2に記載のドセタキセル結合体組成物。
【請求項4】
前記組成物が、前記ドセタキセル結合体の1重量部に対して3〜10重量部の前記界面活性剤を含有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のドセタキセル結合体組成物。
【請求項5】
前記再構成溶媒中の前記界面活性剤が、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1以上であり、前記両性界面活性剤が、大豆リン脂質、卵黄リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、セリンリン脂質、イノシトールリン脂質、ホスファチジン酸、脳脂質及び水素添加リン脂質からなる群から選択される1以上であり、前記非イオン性界面活性剤が、Tween、Span、スクロース脂肪酸エステル(スクロースエステル等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、及びポロキサマーからなる群から選択される1以上であり、特に好ましくはTween(ポリソルベート−80)、ポリオキシエチレンヒマシ油EL35、ポリエチレングリコールステアレート15、及びポロキサマー188である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のドセタキセル結合体組成物。
【請求項6】
前記ドセタキセル結合体が下記から選択される請求項1に記載のドセタキセル結合体組成物。
【化2】
【化3】
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のドセタキセル結合体組成物の調製方法であって、前記調製方法は、溶媒を使用して前記組成物(1)の原材料及び補助材料を溶解する工程と、前記pH値を所望の範囲に調整する工程と、凍結乾燥により調製する工程とを備え、前記再構成溶媒(2)の調製方法が、規定量の界面活性剤を秤量する工程と、規定量の水を添加する工程と、溶解するまで撹拌する工程と、窒素を充填してヘッドスペース中の酸素含有量を7%以下にする工程と、栓をする工程と、蓋をする工程と、滅菌する工程とを備える方法。
【請求項8】
前記溶媒が、水、tert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びシクロヘキサン、好ましくはtert−ブタノールからなる群から選択される1以上である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が、さらに好ましくは、水とtert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールのうちの1以上との所定の比の組み合わせであり、水性溶媒において、tert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールのうちの1以上の重量が、好ましくは、水1重量部に対して0.1〜98重量部である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
重量比が1:0.2〜1:5、特に好ましくは1:0.5の水及びtert−ブタノールの混合溶媒が好ましい請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製造技術の分野に属し、特に、ドセタキセル結合体の医薬組成物及び調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、現在、人の健康に対する主要な脅威である。腫瘍転移は、悪性腫瘍の本質的な特徴の1つでありかつ治療不成功の最も根本的な理由であり、臨床腫瘍患者の約80%以上が悪性腫瘍の転移により死亡している。タキソール及びドセタキセルを含めたタキサン類は、低い経口バイオアベイラビリティーを呈し、これは、腸上皮細胞にあるp糖タンパク質によって介在される排出、CYP450介在性代謝への傾向及び低い水溶性から主に生じる。タキサン類は、その治療分野においていまだ第一選択薬物であるため、タキサン類に関する様々な研究は、医薬品化学者にとってホットスポットである。天然の抗腫瘍薬分子を免疫刺激剤と結合するというアイデアが提唱されて以来、化学療法及び免疫療法を組み合わせることにより抗転移薬物分子を探索することにおける新しい進展が成し遂げられてきた。
【0003】
医薬組成物は、臨床使用のための種々の剤形へと調製されうる。それらの中でも、非経口投与のための新しい形態には、注射剤及び粉末注射剤が含まれる。市販のタキサン抗腫瘍薬において溶解性を高めるために、界面活性剤が使用される。そのタキサン抗腫瘍薬の中でも、パクリタキセル注射剤は、多くは、薬物及びポリオキシエチレンヒマシ油を無水エタノール溶液に溶解することにより調製される。臨床使用の前に、それらは、輸液に溶解され希釈される。パクリタキセル注射剤中の薬物に対するポリオキシエチレンヒマシ油の比は約88:1である。ドセタキセル注射剤は、多くは、ドセタキセルをTweenに溶解することにより調製される。臨床使用では、ドセタキセル注射剤は、エタノール含有水溶液に溶解される。ドセタキセル注射剤中の薬物に対するTweenの比は27:1である。安全性研究により、非イオン性界面活性剤は、注射によって使用されるときには、ある程度のアレルギー特性及び溶血特性を有するということが示されている。大量の界面活性剤は、重篤な副作用を引き起こす可能性があり、このことは、これらの薬物の臨床使用を制限する。タキサン類及び非イオン性界面活性剤の副作用に起因して、患者は、パクリタキセル及びドセタキセル注射剤を使用する前に、副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)及び抗ヒスタミン薬で除感作される必要がある。加えて、輸液中に高濃度の界面活性剤が存在すると、プラスチックの輸液瓶(とりわけPVC輸液瓶)の中の可塑剤に対する溶解効果があることになり、これは、可塑剤が輸液に入り込んで輸液中の粒子を増やすことを引き起こす。加えて、薬物再構成を促進するためにエタノールが市販のドセタキセル注射剤及びパクリタキセル注射剤に加えられており、これは、注射後に有機溶媒の毒性を高めることになる。異なる特定の薬物については、貯蔵安定性を確保することは、臨床での薬物安全性を達成するための基本的保証事項である。
【0004】
ドセタキセルは、現在、臨床応用においてより良好な効果を有するタキサン薬物であり、French Rhone−Poulenc Rorer Co.,Ltd.(フランス・ローヌ・プーラン・ローラー)によって開発され、1995年に最初に上市された半合成の抗腫瘍薬である。ドセタキセルは水に不溶であるため、界面活性剤及び有機溶媒を添加する方法は、ドセタキセルの溶解性を改善するために適している。
【0005】
中国特許出願第02147245.9号、同第93119653.1号、及び仏国特許出願第9108527号は、ドセタキセル等のタキサン化合物、エタノール等の希釈剤、及び界面活性剤をブレンドし、真空下でそのエタノールを除去して、安定な薬物含有溶液を得ることにより調製される注射剤組成物を記載した。この溶液は、水、又はソルビトール、グルコース、プロピレングリコール、塩化ナトリウム等を含有する水溶液で希釈され、この混合液は、臨床用輸液を調製するための薬物溶液として使用された。
【0006】
米国特許第5698582号明細書及び米国特許第5714512号明細書は、ドセタキセルを無水エタノールに溶解し、Tween80を添加し、そのエタノールをロータリーエバポレーションにより減圧下で除去することによって安定な原液を得ることによるドセタキセル原液の調製方法を開示した。この原液が5%グルコース輸液で0.1mg/ml、0.3mg/ml及び0.5mg/mlの濃度に希釈された場合、得られた希釈液も安定であった。
【0007】
中国特許第200610032942号明細書は、酸化防止剤を上記処方に添加することで、上記調製物の安定性を向上させることができるということを開示した。クエン酸、ポリソルベート80及び規定量のドセタキセルが適量の無水エタノールの中で混合され、透明で均一な溶液が得られるまで撹拌された。エタノールを減圧下で排除した後、残渣が、ペニシリン瓶に小分けされた。安定性保持試験は、上記調製物が良好な安定性を有し、有効期間は劣化なしで1.5年まで延びることを示した。中国特許第200710162304.8号明細書は、タキサン化合物が溶解している界面活性剤溶液である液体組成物を提供した。この溶液のpH値は、5以下、好ましくは3〜5であった。この液体組成物は、注射用調製物としての使用に特に好適であり、保存の間安定であり、より安全でより有効であった。
【0008】
上記タキサン薬物及びTween80は、すべての上記調製方法で混合された。この薬物は、溶解した状態で存在するため、この薬物の不安定性は増している。加えて、使用される大量の界面活性剤、及び薬物含有溶液又はその再構成溶媒において使用されるエタノール水溶液は、この薬物の臨床安全性を低下させる。
【0009】
先行技術における安定性及び溶解性に対する解決策は、本発明のポリペプチド結合薬物についての対応する課題を解決できなかった。大量に存在する界面活性剤が安全性の問題を引き起こすという困難な課題がある。
【0010】
本発明が解決しようとする技術的課題は、より高い安定性を有するタキサン薬物組成物を提供すること、この薬物の安定性を改善すること、界面活性剤及び有機溶媒の使用を減らすこと、並びに安全性を顕著に改善することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5698582号明細書
【特許文献2】米国特許第5714512号明細書
【特許文献3】中国特許第200610032942号明細書
【特許文献4】中国特許第200710162304.8号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする技術的課題は、より高い安定性を有するタキサン薬物組成物を提供すること、この薬物の安定性を改善すること、界面活性剤及び有機溶媒の使用を減らすこと、並びに安全性を顕著に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、ドセタキセル結合体(ポリペプチド誘導体)及び界面活性剤含有の再構成溶媒が別個に調製される。ドセタキセル結合体の凍結乾燥された粉末注射剤は、界面活性剤を含有する溶液ではなく、固体形態で存在し、従ってこの薬物の安定性は顕著に改善される。ドセタキセル結合体は、弱酸性条件下では安定であるが溶解性に乏しく、他方で、ドセタキセル結合体は、中性又は弱アルカリ性の条件下で容易に分解されるが高い溶解性を有するため、本発明は、この薬物の安定性及び溶解性を同時に考慮する。pH値が弱酸性である(3.0〜7.0、特に好ましくは4.5〜5.5)ように調整するために、緩衝溶液が上記凍結乾燥された粉末注射剤に添加され、その結果、上記薬物の安定性が向上する。一方、少量の界面活性剤を含有する水溶液が再構成溶媒として使用される。この再構成溶媒は、臨床使用の前に凍結乾燥された粉末注射剤に添加され、上記薬物は、素早く再構成されることが可能である。再構成された溶液は、輸液が実施される前に、5%グルコース輸液、0.9%塩化ナトリウム輸液又は乳酸ナトリウムリンゲル液で、臨床で使用される濃度までさらに希釈される。
【0014】
本発明では、有機溶媒は添加されず、上記薬物を溶解するために薬物量のわずか5倍以内の界面活性剤しか添加されない。このことは、上市されているドセタキセル注射剤において添加されている、薬物重量の27倍のTween80及び上市されているパクリタキセル注射剤において添加されている、薬物重量の88倍のポリオキシエチレンヒマシ油と比較され、他方で、エタノールは、市販のドセタキセル注射剤及びパクリタキセル注射剤の両方において溶解するために添加されている。本研究で使用される界面活性剤の量ははるかに低く、これは、臨床投与における安全性を大きく改善する。
【0015】
上記ドセタキセル結合体は、ドセタキセルを好ましい強力な免疫賦活薬、ムラミルジペプチド、と連結することにより得られ、化学療法及び免疫療法を組み合わせることにより抗腫瘍性及び抗腫瘍転移性の二重機能が成し遂げられる。上記ドセタキセル結合体は、ドセタキセルよりも強い抗腫瘍活性を有する。
【0016】
このドセタキセル結合体は、細胞の有糸分裂、及び分裂の間の細胞機能のために必要な微小管ネットワークを妨げることにより、抗腫瘍性の役割を果たしうる。その分子構造に起因して、この誘導体は、タキサン化合物の特性及び小分子免疫エンハンサー(免疫賦活成分)の所定の特徴の両方を有し、水にほとんど不溶である。
【0017】
具体的には、上記ドセタキセル結合体の分子式は以下のとおりである。
【化1】
上記式中、Rは、フェニル又は1以上のハロゲン置換フェニルから選択され、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素から選択され、nは2〜5の自然数であり、2、3、4又は5から選択される。
【0018】
上記ドセタキセル結合体は、以下からなる群から選択される。
【化2】
【化3】
【化4】
【0019】
具体的には、本発明に記載されるドセタキセル結合体組成物は、(1)ドセタキセル結合体組成物及び1以上の薬学的に許容できる担体であって、この1以上の薬学的に許容できる担体は界面活性剤を有さず、この組成物のpH値は3.0〜7.0の範囲にあるドセタキセル結合体組成物及び1以上の薬学的に許容できる担体と、(2)異なるチャンバに分離された別の再構成溶媒であって、上記ドセタキセル結合体の1重量部に対して0.1〜15重量部の1以上の界面活性剤を含有する別の再構成溶媒とを含む。上記異なるチャンバは、同じ容器の2つの分離された部分であってもよいし、2つの異なる容器の分離された部分などであってもよい。
【0020】
上記薬学的に許容できる担体は、充填剤及びpH調整剤からなる群から選択される1以上である。
【0021】
好ましい実施形態のうちの1つは、上記薬学的に許容できる担体が1以上の充填剤から選択され、この充填剤の重量がドセタキセル結合体の1重量部に対して1〜100重量部、好ましくは3〜20重量部であることである。
【0022】
上記充填剤は、マンニトール、スクロース(ショ糖)、グルコース、トレハロース、デキストロース、ラクトース(乳糖)、ヒドロキシエチルデンプン、スルホブチル−β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒスチジン、バリン、トレオニン、グリシン、アルギニン、キシリトール、ソルビトール、フルクトース、ポロキサマー、ゼラチン、キトサン、塩化ナトリウム及びアルブミン、好ましくはマンニトールからなる群から選択される1以上である。
【0023】
好ましい実施形態の別の1つは、上記薬学的に許容できる担体が、1種以上のpH調整剤から選択され、このpH調整剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、塩酸(塩化水素酸)、クエン酸、酒石酸、酢酸、リンゴ酸、リン酸、硝酸及び硫酸からなる群から選択される1以上であることである。好ましい実施形態では、上述のアルカリ性pH調整剤及び酸性pH調整剤から構成される緩衝液組成物、例えば酸−塩基調整剤、はリン酸二水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムである。上記組成物のpH値は、好ましくは4.5〜5.5の範囲にある。
【0024】
上記の原材料及び補助材料の選択を通して、当該医薬組成物の溶解性及び安定性が、可能な限り界面活性剤の不存在下で確保される。中でも、組成物のpHが7.0超であるとき、その安定性は著しく悪化し、これにより、薬物の長期保存のための必要条件を満たすことが困難になり、組成物のpHが3.0未満であるとき、pH5.0の上記医薬組成物の溶解度に対するその医薬組成物の溶解度の比は、1/20未満まで低下する。この低下した溶解性は、再構成のために必要とされる時間を大きく増やし、再構成効果は乏しい。好ましくは、当該医薬組成物のpH値は4.5〜5.5であり、これは再構成及び貯蔵安定性に対してより優れた効果をもたらす。
【0025】
本発明では、薬物が、その薬物を界面活性剤等の溶解補助剤と混合することにより調製される場合、その溶解補助剤は調製物中で液体状態又は半液体状態のドセタキセル結合体を作製することになり、この調製物から水を除去することは困難であるということが、非常に多くの実験研究において見いだされた。保存中、上記薬物は加水分解等の分解反応を起こしやすく、安定性は顕著に悪化している。
【0026】
臨床上の必要性のために、上記再構成溶媒と、界面活性剤なしの担体を有するドセタキセル結合体組成物とは、注射前に混合され、上記組成物が、当該医薬組成物の保存に対する再構成溶媒の影響を回避しながらより好適な溶解効果を有するようにされる。再構成溶媒は、注射のための1以上のより少ない量の界面活性剤及び水を含有し、使用される界面活性剤の量は非常に小さい。
【0027】
上記の再構成溶媒は、ドセタキセル結合体の1重量部に対して好ましくは3〜10重量部の1以上の界面活性剤を含有し、これは、界面活性剤の使用によって引き起こされるアレルギー及び溶血等の有害反応を可能な限り低減し、上記薬物に対する患者の耐容性を改善し、臨床投与用量を増加することができる。上記薬物の毒性効果及び副作用を予防するための薬物投与前の前処置も低減できる。上記の組成物の原材料及び補助材料の組成並びに再構成溶媒の選択に起因して、エタノール等の有機溶媒の使用は回避され、エタノールによって引き起こされる毒性効果及び副反応は最少にされる。
【0028】
再構成溶媒の中の界面活性剤は、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1以上である。この両性界面活性剤は、大豆リン脂質、卵黄リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、セリンリン脂質、イノシトールリン脂質、ホスファチジン酸、脳脂質(cerebrolipid)及び水素添加リン脂質からなる群から選択される1以上であり、非イオン性界面活性剤は、Tween、Span、スクロース脂肪酸エステル(スクロースエステル等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Myrij等)、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル(Brij等)、及びポロキサマーからなる群から選択される1以上である。
【0029】
非常に多くの実験に基づいて、Tween(ポリソルベート−80)、ポリオキシエチレンヒマシ油EL35、ポリエチレングリコールステアレート15、及びポロキサマー188が好ましい。当該組成物は、注射溶媒に対する上記薬物の溶解性を改善するための再構成された溶液を得るための上記の再構成溶媒を使用することにより再構成される。この再構成された溶液は、従来の輸液媒体、例えば5%グルコース水溶液、0.9%塩化ナトリウム輸液又は点滴静注用の乳酸ナトリウムリンゲル液に溶解させることができる。
【0030】
本発明の目的は、低毒性、良好な水溶性、及び向上した安定性を有するドセタキセル結合体組成物の工業的に実行可能な調製方法を提供することでもある。当該組成物は、好ましくは凍結乾燥された粉末調製物又は注射液である。
【0031】
具体的には、当該調製方法は、溶媒を使用することにより上記の組成物(1)の原材料及び補助材料を溶解する工程と、pH値を所望の範囲に調整する工程と、凍結乾燥により調製する工程とを備える。
【0032】
上記再構成溶媒(2)の好ましい調製方法は、規定量の界面活性剤を秤量する工程と、規定量の水を添加する工程と、溶解するまで撹拌する工程と、窒素を充填してヘッドスペース中の酸素含有量を7%以下にする工程と、栓をする工程と、蓋をする工程と、滅菌する工程とを備える。
【0033】
当該組成物中の再構成溶媒は、別個に調製され、これは、当該組成物で使用される界面活性剤の量を最少にするだけではなく、上記薬物の安定性も改善する。加えて、原材料及び補助材料の溶解を速めるために、並びに色及び外観等の当該組成物の凍結乾燥された状態を確保するために、当該組成物の安定性に対する残留水分の影響は、可能な限り低減される。
【0034】
本発明は、上記の組成物の調製方法をさらに提供する。組成物(1)の調製方法は、充填剤を所定量の溶媒に添加する工程と、撹拌して溶解する工程と、ドセタキセル結合体を添加する工程と、撹拌する工程と、ドセタキセル結合体が均一に分散された後に、上記薬物を完全に溶解するために、上述の溶媒と同じであるか又は上述の溶媒とは異なる好適な溶媒をさらに添加するか又は添加しない工程と、冷凍乾燥して上記溶媒を除去する工程とを備える。
【0035】
上記溶媒は、水、tert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びシクロヘキサン、好ましくはtert−ブタノールからなる群から選択される1以上である。
【0036】
上記溶媒は、さらに好ましくは、水とtert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールのうちの1以上との所定の比の組み合わせである。この溶媒の量は、凍結乾燥プロセスに応じて適宜調整することができる。上記水性溶媒において、tert−ブタノール、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールのうちの1以上の重量は、好ましくは、水1重量部に対して0.1〜98重量部であり、重量比が1:0.1〜1:5、特に好ましくは1:0.5の水及びtert−ブタノールの混合溶媒が好ましい。この好適な溶媒は、凍結乾燥後に実質的に残渣を有さず、このことは、臨床使用の安全性に対する溶媒の影響を可能な限り低減する。
【0037】
非常に多くの実験研究により、上記薬物は、ドセタキセル結合体及び充填剤から構成される上記凍結乾燥された粉末組成物並びに上記別個に調製される再構成溶媒を臨床使用の前に混合することにより溶解されることが見いだされた。凍結乾燥された粉末組成物は、薬物を保存するための有効な方法である。冷凍乾燥プロセスでは、乾燥対象の生成物は低温で冷凍され、次いで真空環境で乾燥され、そこで上記有機溶媒及び/又は水分は、固体状態から流れ(ストリーム)の中へと直接持ち上げられて生成物から除去され、その生成物は乾燥された状態になる。この方法は、生成物の物理化学的特性及び生物学的特性の変化を防ぎ、熱の影響を受けやすい薬物の安定性を有効に保護する。生成物は、乾燥後もばらばらの(固まっていない)形状を有し、ほとんど色の変化はなく、しかも上記溶媒を添加した後に、素早く溶解してもとの水溶液の物理化学的特性及び生物活性を回復することができる。冷凍乾燥プロセスは、凍結乾燥された粉末中の溶媒残渣を非常に低いレベルに制御することができ、これは、加水分解性しやすい薬物に対して安定性を改善することができ、微生物汚染の可能性を低減することができる。乾燥は、真空条件下で行われる。冷凍乾燥プロセスの後、製品には不活性ガスが充填されてもよく、この不活性ガスは易酸化性の薬物を保護する。上記薬物の凍結乾燥された粉末注射剤への調製は、生成物の貯蔵寿命を延ばすか、又は保存条件を緩和することができ、生成物をより輸送しやすくする。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、水及びtert−ブタノール等の好適な溶媒は、上記薬物の溶解性を向上する、凍結乾燥前の溶液の調製のための水性溶媒を形成するために使用される。選択される好適な溶媒は、水との混和性及び低毒性という特徴を有する、良好な凍結乾燥される溶媒である。
【0039】
本発明の有益な効果は、主に、以下の事項に反映される。
(1)本発明の組成物では、投与によって引き起こされる有害な反応は、界面活性剤の使用を可能な限り減らし、有機溶媒の使用を減らすことにより、低減されている。
【0040】
(2)ドセタキセル結合体の凍結乾燥された粉末組成物及び再構成溶媒は、別個に調製される。薬物は、臨床使用の前に両者を混合することにより溶解される。上記薬物、及び可溶化剤を含有する上記再構成溶媒が別個に調製され保存されるため、その薬物の安定性は向上しており、臨床使用はより安全である。
【0041】
(3)本発明の凍結乾燥された粉末組成物の調製では、水及びtert−ブタノール等の有機溶媒の混合溶媒が、冷凍乾燥の前に上記薬物を可溶化するために使用される。この混合溶媒の使用は、凍結乾燥の間の溶解性が低い薬物の溶解という課題を解決することができる。tert−ブタノール等の溶媒は、良好な冷凍乾燥特性及び低毒性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、は、マウスにおけるMDA−MB−231ヒト乳癌に対するドセタキセル結合体IA1の抗腫瘍効果を示すグラフである。
図2図2は、BALB/cマウスにおける4T1乳癌の肺転移に対するドセタキセル結合体IA1の凍結乾燥された粉末注射剤の阻害効果を示すグラフである。
図3図3は、本特許のIA1、MDC−405及びドセタキセルで処置されたマウスモデルにおける4T1乳癌の肺転移の比較結果を示す。これらの中で、3Aは乳房腫瘍重量の比較結果であり、3Bは肺表面上の転移性小結節の数の比較結果である。10mgのIA1及び10mgのMDC−405は、5.7mgのドセタキセルと等モル量である。
図4図4は、本特許のIA1、ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカーで処置されたマウスモデルにおける4A1乳癌の肺転移の比較結果を示す。これらの中で、4Aは乳房腫瘍重量の比較結果であり、4Bは肺表面上の転移性小結節の数の比較結果である。10mgのIA1は5.7mgのドセタキセルと等モル量である。
図5図5は、IA1、ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカーで処置されたマウスモデルにおける4T1乳癌の肺転移の結果を示す。これらの中で、5Aは腫瘍体積の比較結果であり、5Bは腫瘍重量の比較結果である。DTXはドセタキセルを表す。5mgのIA1は、2.85mgのドセタキセルと等モル量である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下のパートでは、本発明は、好ましい実施形態及び図面を通してさらに説明されるが、本発明は以下の保護範囲に限定されない。以下の例では、特段の記載がない限り、ドセタキセル結合体は、代表としての上述の化合物IA1から選択される。
【0044】
以下の例における不純物含有量の測定方法は、「中国薬局方」、2015年版、第IV巻の中の0512液体クロマトグラフィー法を参照した、以下のとおりである。20μlのシステム適合溶液、基準溶液、及び試験溶液をそれぞれ液体クロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録する。算出式:
【数1】
【0045】
は試験溶液中の各不純物のピーク面積であり、Aは基準溶液におけるメインピークの平均ピーク面積であり、Cは試験溶液の濃度(mg/ml)であり、Cは基準溶液中のドセタキセル結合体濃度(mg/ml)であり、Fは各不純物についての補正係数である。
【0046】
HPLC条件:オクタデシル結合シリカゲルカラム(C18、4.6×150mm、3.5μm);グラジエント溶出、相A:アセトニトリル:0.1%リン酸=45:55、相B:アセトニトリル;検出波長:225nm;流量:1.0ml/分;カラム温度:40℃。
【実施例】
【0047】
実施例1
異なるpH環境におけるIA1の安定性及び異なるpHの溶媒中でのその溶解度を表1及び表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
上記の結果から、pH値が7.0超であると、上記薬物の不純物は極度に増加し、これは、活性成分の薬用含有量についての要求を満たすことができなかったということが理解できる。pHが6.0未満であると、上記薬物の不純物は顕著に減少する。
【0050】
【表2】
【0051】
しかしながら、当該組成物のpHが3.0未満であると、溶解性は顕著により低くなり、これは、この物質自体の溶解性とほとんど同じである。上記の結果から、IA1がpH4.5〜5.5で優れた溶解性及び安定性を有するということが理解できる。
【0052】
実施例2
実施例1の実験結果を参照して、下記表3に示すように、ポリソルベート80、マンニトール、グルコース、ラクトース、スクロース、及びスルホブチル−β−シクロデキストリンを、凍結乾燥される充填剤として選択した。
【0053】
調製したドセタキセル結合体IA1(25mg仕様)の充填剤の種類のスクリーニング処方(単位:mg/ブランチ)
【表3】
【0054】
対応する充填剤を、上記の量の注射用の水に加え、撹拌して溶解した。ドセタキセル結合体IA1を添加し、撹拌して均一に分散させた。次いで、IA1が溶解できるようにtert−ブタノールを加えた。0.22μmフィルター膜を通す濾過の後、濾液を15mlバイアルに分割し、凍結乾燥し、蓋をした。
【0055】
総不純物変化%は、処方組成物の冷凍乾燥の後の、上記薬物物質に対する総不純物変化の量を指す。総不純物は、界面活性剤ポリソルベート80を充填剤として用いる処方において顕著に増加することが理解でき、この増加は、この後の安定性に大きな影響を及ぼす。処方1において添加された充填剤がない場合、再構成速度は非常に遅く、この再構成速度は、期待される理想的な臨床上の必要条件を満たすことはできない。
【0056】
実施例3
実施例2の処方3に基づいて、エタノール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールを、tert−ブタノールの代わりに溶解溶媒として選択した。
【0057】
【表4】
【0058】
調製方法は、実施例2と同じである。tert−ブタノールを単一溶媒として使用する再構成及び安定性は、他の再構成溶媒よりも良好であるということが見出された。上記溶媒のうちのいくつかは、不均一性を生じたか、又は凍結乾燥後に完全に除去することが困難であった。
【0059】
注釈:溶解溶媒は、凍結乾燥後に基本的に蒸発しており、溶解溶媒は、上記薬物のその後の使用の安全性に影響を及ぼさない。
【0060】
実施例4
実施例3の結果及び溶媒のコストに従って、異なる割合の水及びtert−ブタノールを用いた調製に対する効果を検討した。
【0061】
ドセタキセル結合体IA1の注射用の中間体溶液(25mg仕様)における水に対するtert−ブタノールの比。
【0062】
【表5】
【0063】
上記処方によれば、形状、再構成、水分、溶媒残渣及び安定性を考慮すると、処方11に記載されているように、1:2が、水に対するtert−ブタノールの好ましい体積比である。総合的な考慮の後で、処方11を選択し、つまり25mg仕様の中間体溶液の全量は3mlであった。
【0064】
実施例5
上記の実験を通して、pHを調整するための緩衝物質を選択した。再構成に対するリン酸二水素ナトリウム/水酸化ナトリウム、酢酸/水酸化ナトリウム等の緩衝液対の効果を調べた。下記表6に示すように、pH4.0、4.5、5.0及び5.5での組成物溶液の特性をさらに検討した。
【0065】
【表6】
【0066】
処方14〜20についての調製方法:マンニトールを撹拌下で上記の量の注射用の水に溶解させた。ドセタキセル結合体を、上記の溶液に加え、撹拌して均一に分散させた。次いで、tert−ブタノールを加えて、上記薬物を完全に溶解させた。pH値を、所定量の緩衝物質を添加して又は添加せずに測定した。このpHは、所望のpH値と一致している必要がある。0.22μmのフィルター膜を通す濾過滅菌の後、濾液を15mlバイアルに分割し、凍結乾燥し、蓋をした。
【0067】
上記の結果から、充填剤及び好適な酸−塩基制御剤の添加により、再構成時間を顕著に短縮することができるということが理解できる。酸−塩基制御剤としてのリン酸二水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムの使用は、4.5〜5.5で、安定性及び再構成に対して有意に良好な効果を有する。それゆえ、安定性及び溶解性を考慮すると、当該医薬組成物のpH調整剤は、好ましくは、リン酸二水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムであり、pHは4.5〜5.5の範囲にある。
【0068】
実施例6
上記の処方を具体的な臨床使用においてより簡便にするために、上記の例の組成物は、迅速な再構成及び優れた溶解効果を成し遂げることができる再構成溶媒をさらに含む。好ましくは、ポリソルベート80(TW80)、ポリエチレングリコール15ヒドロキシステアレート(HS15)及びポリオキシエチレンヒマシ油(EL35)は、すべて、上述の調製物に対して良好な可溶化効果を有するということが見出された。
【0069】
好ましい再構成溶媒の調製方法は、規定量の界面活性剤、例えばポリソルベート80、をビーカーに秤量する工程と、規定量の水を添加する工程と、溶解するまで磁石により撹拌する工程と、上記規定量に従って窒素をバイアルの中へ充填して、ヘッドスペース中の酸素含有量を7%以下にする工程と、栓をする工程と、蓋をする工程と、121℃で湿熱滅菌する工程とを備える。
【0070】
非常に多くの実験を通して、1.5mg/mL〜15mg/mLの薬物濃度を作製するために、わずか1.5〜5倍の重量の可溶化溶媒しか必要ではないことが見いだされた。界面活性剤は可溶化のために使用されるが、使用される界面活性剤の量は、上記の処方の適正な選択により、大きく減少しているということが理解できる。
【0071】
例えば、薬物濃度が1.7mg/mLであるとき、使用したポリソルベート80(TW80)、ポリエチレングリコール15ヒドロキシステアレート(HS15)、及びポリオキシエチレンヒマシ油(EL35)の倍数は、それぞれ3.9、4.2及び4.4であった。これは、ポリソルベート80の再構成効果が他の再構成溶媒よりもわずかに良好であることを示す。それゆえ、ポリソルベート80は、好ましくは、本発明における注射用のドセタキセル結合体の再構成溶媒である。
【0072】
実施例7
実施例5の処方17の安定性保持試験(加速保持試験)の結果を表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
仕様:25mg;パッケージング:中性のホウケイ酸ガラスチューブ状物製の注射用バイアルについての設置条件:25℃±2℃、60%RH±5%RH。
【0075】
上記の結果から、上記薬物が加速保持試験条件下で6ヶ月間比較的安定であり、不純物は限界範囲内であることが理解できる。有効期間は、2〜8℃で2年間保存されるように計画される。
【0076】
実施例8 薬力学的実験(MDA−MB−231乳癌細胞モデル)
MDA−MB−231乳癌細胞モデルを使用した。ドセタキセル結合体IA1の1つの凍結乾燥された粉末注射剤(実施例5の処方17、25mg仕様)を使用した。実施例6のポリソルベート80を再構成溶媒として使用した。この薬物を5%グルコース輸液で0.5mg/mlに希釈した。実験結果を下記表に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
図3に示すように、MDA−MB−231乳癌細胞モデルでは、上記調製物は対照と比べて有意な治療効果を有している。
【0079】
実施例9 薬力学的実験(4T1乳癌細胞モデル)
BALB/cマウスの4T1乳癌細胞転移モデルを使用した。ドセタキセル結合体IA1の1つの凍結乾燥された粉末注射剤(実施例5の処方17、25mg仕様)を使用した。実施例6のポリソルベート80を再構成溶媒として使用した。この薬物を5%グルコース輸液で0.5mg/mlに希釈した。実験結果を下記表に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
上記結果は、マウスにおける4T1乳癌細胞モデルでは、注射用のドセタキセル結合体IA1で処置したマウスにおける乳癌の腫瘍重量は、対照群の腫瘍重量よりも有意に小さいということを示した。上記調製物は、対照と比べて有意な治療効果を有する。
【0082】
実施例10 薬力学的実験(BALB/cマウスにおける4T1乳癌の肺転移)
BALB/cマウスにおける4T1乳癌細胞転移モデルを使用した。ドセタキセル結合体IA1の1つの凍結乾燥された粉末注射剤(実施例5の処方17、25mg仕様)を使用した。実施例6のポリソルベート80を再構成溶媒として使用した。この薬物を5%グルコース輸液で0.5mg/mlに希釈した。肺組織を採取して、肺上の小結節の数を数えた。
【0083】
【表10】
【0084】
【表11】
【0085】
上記結果は、ドセタキセル結合体IA1の凍結乾燥された粉末注射剤はBALB/cマウスにおける4T1乳癌の肺転移を有意に阻害することを示した。
【0086】
インビボ活性試験の部
実施例11 マウスの4T1乳癌肺転移モデルの使用
(1)細胞培養及び腫瘍接種:4T1細胞を10%ウシ胎仔血清(Hyclone Corp、米国)、1%グルタミン及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有する1640培地(Gibco)中で培養した。対数増殖期にある4T1細胞を採取し、細胞濃度を1.5×10/mLに調整した。0.1mL 4T1細胞(1.5×10/マウスあたり)を雌のBALB/cマウスの4番目の乳腺脂肪織に接種した。
【0087】
グループ分け及び投与:BALB/cマウスを、乳腺脂肪織に4T1乳癌細胞を接種した。接種の日がD0であった。マウスに、接種後4日目に群ごとに投与した。この実験は4つの群からなっていた。
(1)溶媒対照群(ブランク対照群)、
(2)IA1 10mg/kg群、
(3)DTX(ドセタキセル) 5.7mg/kg群、
(4)MDC 10mg/kg群。
【0088】
(3)及び(4)は陽性対照群である。
【0089】
各群は10匹の動物を有していた。マウスに、週1回で4週間、尾静脈注射により投与した。投与の間、動物の体重及び腫瘍体積をモニタリングした。動物を2〜3日おきに秤量し、乳房腫瘍の長径及び短径を、ノギスを用いて測定した。腫瘍サイズを式:(1/2)×長径×(短径)によって算出した。この実験を28日目(D28)に終了した。このマウスを、眼球採血後に頸椎脱臼により屠殺した。乳房腫瘍及び肺を秤量した。肺表面上の転移性小結節の数を数えた。腫瘍重量の結果を図3Aに示し、肺表面上の転移性小結節の数の結果を図3Bに示す。
【0090】
図3A及び図3Bに示すように、IA1、MDC−405及びドセタキセルは、ブランク対照群と比べて、乳房腫瘍重量及び肺表面上の転移性小結節の数を有意に阻害した。より重要なことに、IA1と陽性対照群のうちのドセタキセルとの間で阻害効果に有意差があるのに対し、MDC−405とドセタキセルとの間で阻害効果に有意差は認められなかった。これは、IA1が、MDC−405及びドセタキセルよりも、腫瘍重量及び癌転移に対して良好な阻害効果を有するということを示唆する。
【0091】
(2)細胞培養及び腫瘍接種:4T1細胞を10%ウシ胎仔血清(Hyclone Corp、米国)、1%グルタミン及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有する1640培地(Gibco)中で培養した。対数増殖期にある4T1細胞を採取し、細胞濃度を1.5×10/mLに調整した。0.1mL 4T1細胞(1.5×10/マウスあたり)を雌のBALB/cマウスの4番目の乳腺脂肪織に接種した。
【0092】
グループ分け及び投与:BALB/cマウスを、乳腺脂肪織に4T1乳癌細胞を接種した。接種の日がD0であり、マウスに、接種後4日目に群ごとに投与した。この実験は5つの群からなっていた。
(1)溶媒対照群(ブランク対照群)、
(2)IA1 10mg/kg群、
(3)DTX(ドセタキセル) 5.7mg/kg群、
(4)DTX(5.7mg/kg)+MDA−1(4.53mg/kg)群、
(5)DTX(5.7mg/kg)+MDA−1−リンカー(4.43mg/kg)群。
【0093】
(3)、(4)及び(5)は陽性対照群である。
【0094】
各群は10匹の動物を有していた。マウスに、週1回で4週間、尾静脈注射により投与した。投与の間、動物の体重及び腫瘍体積をモニタリングした。動物を2〜3日おきに秤量し、乳房腫瘍の長径及び短径を、ノギスを用いて測定した。腫瘍サイズを式:(1/2)×長径×(短径)によって算出した。この実験を28日目(D28)に終了した。このマウスを、眼球採血後に頸椎脱臼により屠殺した。乳房腫瘍及び肺を秤量した。肺表面上の転移性小結節の数を数えた。腫瘍重量の結果を図4Aに示し、肺表面上の転移性小結節の数の結果を図4Bに示す。
【0095】
図4Aに示すように、IA1、ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカーは、ブランク対照群と比べて、乳房腫瘍重量の増加を有意に阻害した。より重要なことに、IA1と陽性対照群(ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1及びドセタキセル+MDA−1−リンカー)との間で阻害効果に有意差があり、これは、IA1が、陽性対照群よりも、腫瘍に対するより良好な阻害効果を有するということを示す。
【0096】
図4Bに示すように、IA1、ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカーは、ブランク対照群と比べて、肺表面上の転移性小結節の数の増加を有意に阻害した。より重要なことに、IA1と陽性対照群との間で阻害効果に有意差がある。ドセタキセル+MDA−1及びドセタキセル+MDA−1+リンカーと比べて、IA1の阻害効果は、それぞれ27.9%及び18.6%増加した。これは、IA1が、陽性対照群よりも、癌転移に対してより良好な阻害効果を有するということを示唆する。
【0097】
(3)細胞培養及び腫瘍接種:4T1細胞を10%ウシ胎仔血清(Hyclone Corp、米国)、1%グルタミン及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有する1640培地(Gibco)中で培養した。対数増殖期にある4T1細胞を採取し、細胞濃度を1.5×10/mLに調整した。0.1mL 4T1細胞(1.5×10/マウスあたり)を雌のBALB/cマウスの4番目の乳腺脂肪織に接種した。
【0098】
グループ分け及び投与:BALB/cマウスを、乳腺脂肪織に4T1乳癌細胞を接種した。接種の日がD0であり、マウスに、接種後4日目に群ごとに投与した。この実験は6つの群からなっていた。
(1)溶媒対照群(ブランク対照群)、
(2)IA1 5mg/kg群、
(3)IA1 10mg/kg群、
(4)DTX(ドセタキセル) 2.85mg/kg群、
(5)DTX(2.85mg/kg)+MDA−1(2.26mg/kg)群、
(6)DTX(2.85mg/kg)+MDA−1−リンカー(2.21mg/kg)群。
【0099】
(4)、(5)及び(6)は陽性対照群である。
【0100】
各群は10匹の動物を有していた。マウスに、週1回で4週間、尾静脈注射により投与した。投与の間、動物の体重及び腫瘍体積をモニタリングした。動物を2〜3日おきに秤量し、乳房腫瘍の長径及び短径を、ノギスを用いて測定した。腫瘍サイズを式:(1/2)×長径×(短径)によって算出した。この実験を28日目(D28)に終了した。このマウスを、眼球採血後に頸椎脱臼により屠殺した。乳房腫瘍及び肺を秤量した。肺表面上の転移性小結節の数を数えた。腫瘍体積の結果を図5Aに示し、腫瘍重量の結果を図5Bに示す。
【0101】
図5A及び図5Bに示すように、IA1、ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカーは、ブランク対照群と比べて、腫瘍体積及び腫瘍重量の増加を有意に阻害した。より重要なことに、IA1と陽性対照群(ドセタキセル、ドセタキセル+MDA−1、及びドセタキセル+MDA−1−リンカー)との間で阻害効果に有意差があり、これは、IA1が、陽性対照群よりも、腫瘍に対するより良好な阻害効果を有するということを示す。
【0102】
同じ実験を通して、本発明の他の好ましい化合物が、腫瘍及び癌転移に対してIA1と同様の阻害効果を有するが、IA1が最も優れているということが見出された。そこで、本発明の好ましい化合物は、MDC−405及びドセタキセルよりも、腫瘍及び腫瘍転移に対してより良好な阻害効果を有すると推定することができる。
【0103】
注釈:上記の実験では、MDA−1−リンカーの構造は以下のとおりである。
【化5】
【0104】
上記の実施形態は、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態は、上記の実施形態によって限定されない。あらゆる他の変更物、改変物、置換物、組み合わせ及び簡略化したものは、すべて、本発明の趣旨及び原理から逸脱しない均等な置き換え実施形態であり、すべて、本発明の保護範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】