特表2020-533491(P2020-533491A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-533491遷移金属酸化物触媒を用いる電解アンモニア製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-533491(P2020-533491A)
(43)【公表日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】遷移金属酸化物触媒を用いる電解アンモニア製造
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/00 20060101AFI20201023BHJP
   B01J 23/20 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 23/36 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 23/26 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20201023BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20201023BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20201023BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20201023BHJP
【FI】
   C25B1/00 Z
   B01J23/20 M
   B01J23/46 M
   B01J23/36 M
   B01J23/46 301M
   B01J23/42 M
   B01J23/46 311M
   B01J23/26 M
   B01J21/06 M
   B01J23/34 M
   C25B11/08 Z
   C25B11/08 A
   C25B9/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2020-535335(P2020-535335)
(86)(22)【出願日】2018年9月10日
(85)【翻訳文提出日】2020年4月30日
(86)【国際出願番号】IS2018050008
(87)【国際公開番号】WO2019053749
(87)【国際公開日】20190321
(31)【優先権主張番号】50188
(32)【優先日】2017年9月8日
(33)【優先権主張国】IS
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520078927
【氏名又は名称】ハスコリ・アイランズ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】スクーラソン,エギル
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC29A
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC64A
4G169BC64B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC73A
4G169BC73B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB82
4G169EC22X
4G169EC22Y
4K011AA29
4K011AA32
4K011AA33
4K011DA11
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BA06
4K021BA17
4K021BB03
4K021BB04
4K021BB05
(57)【要約】
本発明は、アンモニアを電解製造するための方法及びシステムに関する。該方法は、窒素を電解槽に供給し、そこで窒素はカソード電極表面と接触し、前記表面は少なくとも一つの遷移金属酸化物を含む触媒表面を有し、前記電解槽はさらにプロトン供与体を含み、そして電流を前記電解槽に流すことによって窒素をプロトンと反応させてアンモニアを形成させることを含む。本発明の方法及びシステムは、好ましくは酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブの一つ又は複数を担持した触媒表面を有するカソード表面を有する電気化学槽を使用する。
【選択図】図37
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの製造法であって、
少なくとも一つのプロトン源を含む電解槽にNを供給し;
そのNを電解槽内のカソード電極表面と接触させ、ここで該カソード電極表面は少なくとも一つの遷移金属酸化物を含む触媒表面を含み;そして
前記電解槽に電流を流すことによって窒素をプロトンと反応させてアンモニアを形成させることを含む方法。
【請求項2】
触媒が、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ばれる一つ又は複数の遷移金属酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒が、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選ばれる一つ又は複数の酸化物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
触媒表面が、ルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
触媒表面が、(110)面を有する少なくとも一つの表面を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アンモニアが、電解槽中で、約−1.0V未満、さらに好ましくは約−0.8V未満、なおさらに好ましくは約−0.5V未満の電極電位で形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
触媒が酸化ニオブを含み、そしてアンモニアが電解槽中で約−0.5V未満、好ましくは約−0.4V〜約−0.5Vの範囲の電極電位で形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
触媒が酸化レニウムを含み、そしてアンモニアが電解槽中で約−0.9V未満、好ましくは約−0.8V〜約−0.9Vの範囲の電極電位で形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
触媒が酸化タンタルを含み、そしてアンモニアが電解槽中で約−1.1V未満、好ましくは約−1.0V〜約−1.1Vの範囲の電極電位で形成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
形成されたNHのモル数に比べて、50%モル未満、好ましくは20%未満、なおさらに好ましくは10%未満のHしか形成されない、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解槽が一つ又は複数の水性電解液を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解槽が、有機プロトン性又は非プロトン性溶媒、又はその混和性混合物、好ましくは水混和性有機溶媒を含む電解液を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記窒素が、前記カソード電極表面に接触した電解液に窒素ガスをバブリングすることによって電解槽に供給される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
アンモニアの形成におけるプロトン源が、アノードでの水分解又はアノードでのH酸化反応由来である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
約−10℃〜約40℃の範囲、好ましくは約0℃〜40℃の範囲の温度で運転される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
周囲室温及び大気圧で運転される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
アンモニア生成のためのシステムであって、該システムは、少なくとも一つの電気化学槽を含み、該電解槽は触媒表面を有する少なくとも一つのカソード電極を含み、その触媒表面は一つ又は複数の遷移金属酸化物を含む少なくとも一つの触媒を担持しているシステム。
【請求項18】
前記一つ又は複数の遷移金属酸化物が、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ばれる、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
少なくとも一つの遷移金属酸化物が、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選ばれる、請求項17又は18に記載のシステム。
【請求項20】
触媒表面が、ルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含む、前記請求項17〜19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
触媒表面が、(110)面を有する少なくとも一つの表面を含む、前記請求項17〜20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記電解槽が一つ又は複数の電解液をさらに含む、請求項17〜21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記電解槽が、酸性、中性又はアルカリ性の水溶液を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記電解槽が、有機プロトン性又は非プロトン性溶媒、又はその混和性混合物、好ましくは水混和性有機溶媒を含む電解液を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
電解槽中で、約−1.0V未満、さらに好ましくは約−0.8V未満、なおさらに好ましくは約−0.5V未満の電極電位でアンモニアを製造するように構成されている、請求項17〜24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
触媒が酸化ニオブを含み、そしてシステムが電解槽中で約−0.5V未満、好ましくは約−0.4V〜約−0.5Vの範囲の電極電位でアンモニアを製造するように構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
触媒が酸化レニウムを含み、そしてシステムが電解槽中で約−0.9V未満、好ましくは約−0.8V〜約−0.9Vの範囲の電極電位でアンモニアを製造するように構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
触媒が酸化タンタルを含み、そしてシステムが電解槽中で約−1.1V未満、好ましくは約−1.0V〜約−1.1Vの範囲の電極電位でアンモニアを製造するように構成されている、請求項17〜24のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス化学の分野に含まれ、具体的には、電解法を用いたアンモニアの製造とそのための新規触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは世界中で最も多く生産されている化学物質の一つである。現在、ハーバー・ボッシュ法として認知されている工業的アンモニア合成は、最初の不均一触媒系で、窒素肥料の世界的工業生産の重要な要素となっている。今日、アンモニアは、可能性あるエネルギー担体及びエネルギー密度は高いがCOを排出しない有望な輸送用燃料としても注目を集めている。集約的でエネルギー要求的なハーバー・ボッシュ法は、下記反応:
【0003】
【化1】
によって、ルテニウム又は鉄系触媒上で窒素及び水素ガス分子を直接解離及び結合させてアンモニアを形成させるために、高圧(150〜350atm)及び高温(350〜550℃)を必要とする。
【0004】
この工業的手法の欠点は、動力学的及び熱力学的理由のために必要な高温及び高圧である。もう一つのさらに深刻な欠点は、水素ガスが天然ガスから製造されることである。その多段階プロセスは、化学プラント全体の最大部分を占め、最もコストがかかり、環境にも優しくない。天然ガスはいつか枯渇するであろうから、それが持続可能な方法が求められている最大の理由である。そこで、少ないエネルギーと周囲条件を使用する脱集約的アンモニア製造のための小規模システムが非常に意義深いであろう。さらに、アンモニア合成の効率を最適化するために、合理的な速度であるがより穏やかな条件で二窒素を水素化することができる新規触媒は高く評価されるであろう。
【0005】
分子窒素Nの三重結合は非常に強く、その結果として窒素は非常に不活性であり、しばしば不活性ガスとして使用されている。それはハーバー・ボッシュ法では過酷な条件によって分解されるが、自然のプロセスでは微生物によってニトロゲナーゼ酵素を通じて周囲条件でも分解される。ニトロゲナーゼの活性部位は、電気化学反応:
+8H+8e → 2NH+H
を通じて、溶媒和プロトン、電子及び大気窒素からアンモニア形成を触媒するMoFeNクラスターである。
【0006】
自然から着想を得て、ハーバー・ボッシュ法に代わる周囲条件下でのアンモニア合成のための方法として、生物窒素固定が大いに注目を集めている。類似の電気化学プロセスを開発しようとする研究に多くの努力が傾注されてきた。周囲条件での様々なアンモニア合成法が過去数十年の間に模索されてきた(Giddey S,Int J Hydrogen Energy 2013,38,14576−14594;Amar A,J Solid State Electrochem 2011,15,1845−60;Shipman MA,Catalysis Today 2017,286,57−68)。そのような研究はアンモニア形成法への洞察を提供するものであったが、動力学(反応速度論)が実用には遅すぎ、ほとんどの場合で水素ガスのほうが窒素のプロトン化よりも容易に支配的に形成される。プロトンと電子によって二窒素を還元し、室内の温度及び圧力で選択的にアンモニアを形成させることは、予想よりはるかに困難(challenging)であることが分かった。
【0007】
発明者らは以前、アンモニアの電気化学的製造法にある種の窒化金属触媒が使用できることを確立している(WO2015/189865)。しかしながら、その他の又は追加の金属化合物がアンモニアの製造に有用でありうるかどうかは未確立のままである。電気化学法を用いた人工的アンモニア合成に対するその他の努力でも比較的低い電流効率(CE)しか得られていない。これらの多くの場合、活性窒素固定複合体(active nitrogen-fixing complex)の再生は問題が多いことが分かり、製造速度(生産率)は商業的実現可能性に遠く及ばない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許公開第2015/189865号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Giddey S,Int J Hydrogen Energy 2013,38,14576−14594
【非特許文献2】Amar A,J Solid State Electrochem 2011,15,1845−60
【非特許文献3】Shipman MA,Catalysis Today 2017,286,57−68
【発明の概要】
【0010】
上記特徴は、本発明の追加の詳細と併せて、以下の実施例でさらに説明される。それらは、本発明をさらに説明することを目的としたものであり、その範囲を限定しようとするものでは決してない。
【0011】
本発明者らは、ある種の遷移金属酸化物触媒がアンモニアの電気化学的製造法に使用できることを見出した。これを基に、周囲室温及び大気圧でアンモニアの製造を可能にする本発明に至った。
【0012】
本発明はアンモニアの製造法を提供し、該方法は、少なくとも一つのプロトン源を含む電解槽にNを供給し;そのNを電解槽内のカソード電極表面と接触させ、ここで該カソード電極表面は少なくとも一つの遷移金属酸化物を含む触媒表面を含み;そして前記電解槽に電流を流すことによって窒素をプロトンと反応させてアンモニアを形成させることを含む。
【0013】
本発明はまた、アンモニアの生成システム、特に本明細書中に開示されているようなアンモニア生成法を実施するシステムも提供する。従って、本発明は、アンモニアの生成システムを提供し、該システムは、少なくとも一つの電解槽を含み、その少なくとも一つの電解槽は触媒表面を有する少なくとも一つのカソード電極を含み、その触媒表面は一つ又は複数の遷移金属酸化物を含む少なくとも一つの触媒を担持している。
【0014】
本発明による方法及びシステムにおいて、遷移金属酸化物は、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ぶことができる。一部の好適な態様において、酸化物は、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選ばれる。
【0015】
触媒表面は、ルチル構造、特に、その上で触媒反応が起こる(110)面を有するルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含みうる。一部の態様において、触媒は、水素原子に被覆された6配位遷移金属原子間に架橋サイトを有する表面を含む。
【0016】
当業者であれば、以下に記載の図面は説明を目的としたものに過ぎないことは理解されるであろう。これらの図面は、本教示の範囲を限定することを意図したものでは決してない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、(110)面における三つの異なる表面を示す。(a)左側は還元表面で、そこでは6配位金属原子間の架橋サイトが空のままである。架橋サイトとcusサイトが還元表面の描画上にマークされている。(b)中央の構造は0.5ML水素終端表面で、そこでは水素原子がbr−サイトを占有している。(c)次に、右側に描かれているのは0.5ML酸素終端表面で、そこでは水素の代わりに酸素がbr−サイトを占有している。
図2図2は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、NbOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図3図3は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、TiOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図4図4は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、TaOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図5図5は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、ReOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図6図6は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、IrOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図7図7は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、OsOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図8図8は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、CrOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図9図9は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、MnOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図10図10は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、RuOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図11図11は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、RhOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図12図12は、ルチル構造の様々な遷移金属酸化物(110)表面でのプロトン還元及び水酸化によって形成された吸着物の相対的安定性を示す。各ダイアグラム上の(平坦な)ラインは、基準として使用される還元表面を示す。そこでは、すべての架橋酸素原子が還元されてHOになっている。示されているのは、PtOの(110)面の吸着物の相対的安定性である。
図13図13は、NbOルチルの(110)面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。水素終端表面の電位決定段階(PDS)は最初のプロトン化段階であるが、酸素終端表面及び還元表面のPDSは、NHからNHへの最後のプロトン化段階である。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。気体アンモニアの脱着は矢印によって示されている。黒色の中間体は他の中間体が特定されていない表面に適用されるが、黒以外の色の中間体はその特定表面だけに適用される。
図14図14は、ルチル構造のTiOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図15図15は、ルチル構造のTaOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図16図16は、ルチル構造のReOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図17図17は、ルチル構造のIrOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図18図18は、ルチル構造のOsOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図19図19は、ルチル構造のCrOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図20図20は、ルチル構造のMnOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図21図21は、ルチル構造のRuOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図22図22は、ルチル構造のRhOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図23図23は、ルチル構造のPtOの(110)面での電気化学的アンモニア形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。
図24図24は、様々に終端された酸化物表面、すなわち水素終端、酸素終端及び還元表面それぞれの予測開始電位(ΔG=−U)を示す。幅広のカラム(各酸化物の開始電位の左側)は、印加電位(電位はy軸に示されている)が変動する際の好適な表面終端(surface termination,ST)を示す。酸化物は左から右に、水素終端表面での電位決定段階(PDS)の大きさが増加する順に並べられている。
図25図25は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図26図26は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図27図27は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図28図28は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図29図29は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図30図30は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図31図31は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図32図32は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図33図33は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図34図34は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図35図35は、11の異なるルチル酸化物のH−term表面でのNH形成の自由エネルギーダイアグラムを示す。すべての反応段階は、清浄表面と気相のN及びHを基準にしている。各反応段階について、すべての安定中間体が示されている。
図36図36は、金属上のNHの結合エネルギーに対してプロットされた、各金属酸化物上での電気化学的アンモニア形成の電位決定段階を示す。ラインは図26〜28に示されているスケーリング関係式を用いて計算される。
図37図37は、各金属酸化物上の電気化学的アンモニア形成の電位決定段階が金属上のNHの結合エネルギーに対してプロットされて示されている。ラインは図38〜43に描かれているスケーリング関係式を用いて計算される。図は、図36と類似した火山型ダイアグラムであるが、図37にはすべての反応段階が示されている。
図38図38は、NHNH及びNNHの吸着エネルギーをNNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図39図39は、NHNH及びNHNHの吸着エネルギーをNNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図40図40は、NH+NH及びNH+NHの吸着エネルギーをNNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図41図41は、NHの吸着エネルギーをNNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図42図42は、Nの吸着エネルギーをNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図43図43は、NH及びNHの吸着エネルギーをNHの化学吸着エネルギーの関数として示す。データセットを通じて最良のラインの等式が各吸着物について与えられている。
図44図44は、金属上のNHの結合エネルギーに対してプロットされた、金属酸化物上での電気化学的アンモニア形成における各反応段階の電位決定段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において本発明の例示的態様を図面を参照しながら説明する。これらの実施例は、本発明の更なる理解を提供するために提供されるのであって、その範囲を制限するものではない。
【0019】
以下の記載において、一連の段階が記載される。当業者であれば、文脈によって要求されない限り、段階の順序は得られた構成及びその効果にとって重要でないことは理解されるであろう。さらに、段階の順序に関わりなく、段階間の時間遅延の有無は、記載された段階の一部又はすべての間に存在しうることは当業者には明白であろう。
【0020】
特許請求の範囲を含め、本明細書中で使用されている用語の単数形は、文脈が他の場合を指示していない限り、複数形も含むと解釈されるものとし、またその逆も然りである。従って、本明細書においては、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他の場合を指示していない限り、複数形の指示対象も含むことに注意すべきである。
【0021】
説明及び特許請求の範囲を通じて、用語「含む(comprise)」、「含み(including)」、「有し(having)」、及び「含有する(contain)」ならびにそれらの変形は、「含むが、限定されない」という意味として理解されるべきであり、他の要素を除外することを意図していない。
【0022】
本発明はまた、用語、特徴、値及び範囲などが、約、およそ、一般的に、実質的に、本質的に、少なくともなどのような用語と共に使用されている場合、それらの正確な用語、特徴、値及び範囲などもカバーする(すなわち、「約3」は正確に(ちょうど)3もカバーし、「実質的に一定」は正確に一定もカバーするものとする)。
【0023】
用語「少なくとも一つ」は、「一つ又は複数」の意味として理解されるべきであり、従って、一つの要素又は複数の要素を含む両方の態様を含む。さらに、「少なくとも一つ」(という用語)を用いて特徴を記載している独立クレームを参照している従属クレームは、その特徴が「その(the)」と呼ばれている場合及び「その少なくとも一つ」と呼ばれている場合の両方で同じ意味を有する。
【0024】
前述の本発明の態様に対する変形は、依然として本発明の範囲内でなされうることは理解されるであろう。本明細書中に開示されている特徴は、別途記載のない限り、同じ、等価の、又は類似の目的を果たす代替の特徴によって置換することができる。従って、別途記載のない限り、開示されているそれぞれの特徴は、一般的な一連の等価又は類似の特徴の一例を表す。
【0025】
「例えば(for instance)」、「〜のような(such as)」、「例えば(for examplle)」などの例示言語の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図したものであり、そのように特許請求されていない限り、本発明の範囲に対する制限を示すものではない。本明細書中に記載されているいずれの段階も、文脈が明らかに他の場合を示していない限り、任意の順序で又は同時に実施できる。
【0026】
本明細書中に開示されているすべての特徴及び/又は段階は、少なくとも一部の特徴及び/又は段階が相互排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせることができる。特に、本発明の好適な特徴は、本発明のすべての側面に適用可能であり、任意の組合せで使用できる。
【0027】
本発明は、ある種の遷移金属酸化物触媒の表面上で、周囲温度及び圧力で低い印加電位を用いてアンモニアの形成が可能であるという驚くべき発見に基づいている。特に肥料の製造におけるアンモニアの重要性、そしてその製造中に典型的に使用されるエネルギー集約的で環境に優しくない条件を考えると、本発明は様々な産業において重要な適用可能性を見出す。
【0028】
そこで、本発明は、周囲温度及び圧力でアンモニアを生成するための方法及びシステムを提供する。周囲温度は、一般的に典型的な室内及び屋外両方の温度を指すことができる。従って、一部の態様において、本発明の方法及びシステムは、約−10℃〜約40℃の範囲、例えば約0℃〜約40℃の範囲、例えば、約−10℃から、又は約−5℃から、又は約0℃から、又は約4℃から、又は約5℃から、又は約8℃から、又は約10℃から、約40℃まで、又は約30℃までの範囲、例えば約20〜30℃の範囲又は約20〜25℃の範囲の温度で運転される。周囲圧力は一般的に大気圧を指す。本発明の方法及びシステムにおいて電解槽が使用されるが、それは、本発明に従って特殊目的のカソードに対応できる一連の従来型の商業的に適切で実行可能な電解槽設計のいずれでもよい。従って、槽及びシステムは、一部の態様においては、一つ又は複数のカソード槽及び一つ又は複数のアノード槽を有することもある。
【0029】
この文脈における電解槽とは、電気エネルギーが槽に印加されたときに酸化還元反応を受ける電気化学槽である。
【0030】
当業者であれば、本明細書中に記載されている化合物は、それらの相又は状態に関係なく、それらの化学式によって提供されることは理解されるであろう。特に、室温で純粋かつ単離された形態で存在する場合に気体状態で存在する化合物(例えば、N、H及びNH)は、本明細書においてはそれらの化学式によって記載される。例えば、二窒素は、窒素ガスとして存在するか、個別の分子として存在するか、クラスターで存在するか、表面に結合されて存在するか又は溶質として存在するかを問わず、本明細書においてはNと記載され、同じことが本明細書中に記載の他の分子種にも適用される。
【0031】
プロトン供与体は、電解槽でプロトンを供与できる任意の適切な物質でありうる。プロトン供与体は、例えば、任意の適切な有機又は無機酸などの酸でありうる。プロトン供与体は、酸性、中性又はアルカリ性の水溶液で提供できる。プロトン供与体はまた、あるいはその代わりに、アノードでのH酸化によって提供することもできる。すなわち、水素をプロトンの供給源と見なすことができる:H⇔ 2(H+e)。
【0032】
電解槽は、少なくとも3つの一般的部品又は構成要素、カソード電極、アノード電極及び電解質を含む。全体的なカソード反応は、
+6(H+e) ⇔ 2NH
と表すことができる。
【0033】
触媒表面は、溶液からのプロトンと電極表面からの電子を表す1個の水素原子を一度に添加することにより水素化できる。反応機構は、以下の等式で示すことができる。式中、アスタリスクは表面サイトを示す。
【0034】
【化2】
3(H+e)の添加後、1個のアンモニア分子が形成され、2個目は6(H+e)の添加後に形成される。
【0035】
様々な部品又は構成要素は、別の容器に提供されても、又は単一の容器に提供されてもよい。本発明の利点は、方法及びシステムが、好ましくは溶解電解質(塩)を含む水溶液などの水性電解質を用いて適切に運転できることである。従って、方法及びシステムの好適な態様において、電解槽は、一つ又は複数の槽室(cell compartment)に一つ又は複数の水性電解液を含む。電解液は、様々な典型的無機塩又は有機塩、例えばこれらに限定されないが、塩化物、硝酸塩、塩素酸塩、臭化物などの可溶性塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、及びその他の適切な塩のいずれかを含みうる。水性電解質溶液は、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウムのいずれか一つ又は組合せも含みうる。水性電解質溶液はさらに、又はその代わりに、一つ又は複数の有機又は無機酸も含みうる。無機酸は、鉱酸、例えばこれらに限定されないが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、テトラフルオロ酢酸、酢酸及び過塩素酸などでありうる。従って、水溶液は、中性、アルカリ性又は酸性溶液でありうる。一部の態様において、水溶液は酸性溶液である。電解質は、溶融塩、例えば塩化ナトリウム塩でもよい。一部の態様において、電解槽は、有機プロトン性又は非プロトン性溶媒、又はその混和性混合物、好ましくは水混和性有機溶媒、例えばこれらに限定されないが、エタノール、エチレングリコール、ブタンジオール、グリセロール、ジエタノールアミン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、及びそれらの混合物を含む電解液を含む。電解液は、水と一つ又は複数の水混和性有機溶媒、例えばこれらに限定されないが、上記溶媒の一つ又は複数を含む溶液でありうる。
【0036】
一般論として、電極表面上の触媒は、理想的には下記特徴を有すべきである。(a)化学的に安定であるべき、(b)電解プロセス中に酸化又は別の方法で消費されるべきでなく、アンモニアの形成を促進すべき、そして(d)触媒の使用により水素ガスの発生を最小限の量にすべきである。さらに説明するように、本発明による触媒酸化物はこれらの特徴を満たしている。
【0037】
本発明の利点は、方法が好ましくは溶解した電解質(塩)を含む水溶液などの水性電解質を用いて適切に運転できることである。従って、方法及びシステムの好適な態様において、電解槽は、一つ又は複数の槽室に一つ又は複数の水性電解液を含む。水性電解質溶液は、様々な典型的無機塩又は有機塩、例えばこれらに限定されないが、塩化物、硝酸塩、塩素酸塩、臭化物などの可溶性塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、及びその他の適切な塩のいずれかを含みうる。水性電解質溶液は、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウムのいずれか一つ又は組合せも含みうる。水性電解質溶液はさらに、又はその代わりに、一つ又は複数の有機又は無機酸も含みうる。無機酸は、鉱酸、例えばこれらに限定されないが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、及び過塩素酸などでありうる。
【0038】
本明細書から明らかなように、本発明の本質的特徴は、カソード電極の組成及び構造に関する。遷移金属酸化物は、これらの化合物の表面エネルギーに影響を及ぼし、それらの化学的性質に影響を与える様々な表面構造を有する。金属酸化物の表面上に存在する原子の相対酸性度及び塩基性度も、金属カチオン及び酸素アニオンの配位によって影響を受け、それがこれらの化合物の触媒特性を変更する。
【0039】
一定の態様において、カソード電極表面上の遷移金属酸化物触媒は、下記の一つ又は複数から選ばれる。すなわち、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムである。好ましくは、触媒は、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブの一つ又は複数を含む。
【0040】
触媒の物質組成に応じて、適切な表面結晶構造が好適であろう。遷移金属酸化物には様々に異なる結晶構造が存在し、異なる構造は異なる成長条件で得ることができる。適切な表面結晶構造の選択は当業者の範囲内である。
【0041】
触媒はルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含むのが好適であろう。当該技術分野で公知のその他の結晶構造(例えば、岩塩構造、閃亜鉛鉱構造、アナターゼ構造、ペロブスカイト構造)も可能である(International Tables for Crystallography; http://it.iucr.org参照)。
【0042】
所与の結晶構造に対して、いくつかの異なる表面ファセットが存在しうる(多結晶表面)。ルチルの(110)面(ファセット)は表面自由エネルギーが最も低いので、一般的に熱力学的に最も安定である。従って、一部の態様において、遷移金属酸化物は、触媒表面を提供する(110)面を有するルチル構造のものでありうる。あるいは、岩塩構造の(100)及び/又は(111)面も選ぶことができる。
【0043】
従って、一部の態様において、触媒表面は遷移金属ルチル表面である。表面は、(110)面(これに限定されない)を含む任意の適切な面を有しうる。一部の態様において、表面ファセットは、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ばれる遷移金属酸化物の(110)面を含む、又はそれからなる。
【0044】
一部の好適な態様において、触媒は、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブから選ばれる一つ又は複数の酸化物のルチル構造の(110)面を含む。
【0045】
(110)面を有するルチル金属酸化物表面は、6配位金属原子の列と5配位金属原子の列が[001]方向に沿って交互に並ぶ二つの異なる配位環境の金属原子を含有している。6配位金属原子はバルクとほぼ同じ幾何学を有するが、5配位金属原子は、表面に垂直な飽和されていない結合を有する。従って、二つの異なる表面サイト、すなわち、5配位金属原子の上に配位不飽和サイト(cus−サイト)と、2個の6配位金属原子間に架橋サイト(br−サイト)が見出される。br−サイトは、一般的に、cus−サイトより吸着物を強く結合することが見出されている。化学量論的(110)表面では、br−サイトは酸素に占有されているが、cus−サイトは空である。(110)表面は酸素終端(O−term)と呼ぶことができる。架橋酸素原子は配位不足(under-coordinated)であるので、表面で還元され:
+(H+e)⇔ OH
OH+(H+e)⇔ HO+
br−サイトを空のままにできる。これらの空のbr−サイトはその後さらにプロトン化されうる。
【0046】
+(H+e)⇔
この結果、110表面は還元され、6配位金属原子間の架橋サイトを空のままにできる。架橋サイトは、本明細書の図1に示されているように、部分的に又は完全に、酸素又は水素原子のような他の原子に占有されることもある。
【0047】
(110)表面の触媒活性は、br−サイトの占有率にも依存しうることが見出されている。従って、熱力学的には遷移金属酸化物上の架橋酸素原子をHOに還元し、さらにbr−サイトを水素原子で被覆するのが好適でありうる。
【0048】
従って、一部の態様において、遷移金属酸化物表面上の6配位遷移金属原子間の架橋サイトは水素原子で被覆される。
【0049】
当業者には明らかなように、本発明による触媒は単一の遷移金属酸化物を含みうる。触媒は、二つ以上のそのような酸化物を含む、又はそれらからなることもできる。そのような混合酸化物は、例えばルチル構造のような単一構造を含みうる。混合金属酸化物は、異なる結晶構造の酸化物及び/又は異なる触媒面を有する酸化物の混合物を含むこともできる。従って、そのような混合酸化物はさらに、単一面又は面の混合を含みうる。混合酸化物触媒は別々に成長又は製造した後、異なる金属酸化物を含む混合触媒に組み立てることができる。この場合、混合物中の酸化物は同じ又は異なる結晶構造を有する。
【0050】
本明細書中により詳細に記載されているように、電解槽に電流を流すと、窒素がプロトンと反応してアンモニアを形成する化学反応がもたらされる。電流を流すのは、槽に電圧を印加することによって達成される。本発明は、低電極電位でのアンモニアの電解製造を可能にする。このことは、エネルギー効率及び装置要求の点で有益である。
【0051】
理論に束縛されるつもりはないが、酸化物触媒は、アンモニア合成の障壁をN開裂からその後の窒素−水素種(NH、NH、又はNH)形成へとシフトできるため、より簡素でありながらなお高率(高速)のアンモニア形成が見込まれると考えられている。
【0052】
本発明の一定の有用な態様において、アンモニアは、電極電位が約−1.1V未満、約−1.0V未満、約−0.9V未満、約−0.8V未満、約−0.7V未満、約−0.6V未満、約−0.5V未満、又は約−0.4V未満で形成できる。一部の態様において、アンモニアは、電極電位が約−0.2V〜約−1.0Vの範囲、例えば約−0.3V〜約−0.8Vの範囲、例えば約−0.4V〜約−1.0Vの範囲、又は約−0.5V〜約−1.0Vの範囲で形成できる。範囲の上限は、約−0.6V、約−0.7V、約−0.8V、約−1.0V、又は約−1.1Vでありうる。範囲の下限は、約−0.2V、約−0.3V、約−0.4V、約−0.5V、又は約−0.6Vでありうる。
【0053】
一部の態様において、アンモニアは、酸化ニオブ触媒を用い、約−0.4V〜約−0.5Vの範囲の電極電位で形成できる。一部の態様において、アンモニアは、酸化レニウム触媒を用い、約−0.8V〜約−0.9Vの電極電位で形成できる。一部の態様において、アンモニアは、酸化タンタル触媒を用い、約−1.0V〜約−1.1Vの電極電位で形成できる。
【0054】
本発明の利点は、先行技術調査や試行で課題であった、H形成に優るNH形成の効率である。本発明の一定の態様において、形成されたNHのモル数に比べて約50%モル未満のH、好ましくは約40%モル未満のH、約30%モル未満のH、約20%モル未満のH、約10%モル未満のH、約5%モル未満のH、約2%モル未満のH、又は約1%モル未満のHしか形成されない。
【0055】
本発明のシステムは、上記プロセス特徴の一つ又は複数に対応するために適切に設計される。肥料の製造のために意図する使用場所の近くで局所的に使用するなどのために、システムを小さく、堅牢に、そして安価に製造できることが本発明の利点である。
【0056】
アンモニアは、ガスとして土壌に注入することにより、それ自体で肥料として使用することができる。ただし、これには農業従事者が加圧貯蔵タンク及び注入装置に投資することが必要となる。アンモニアは、典型的には二酸化炭素と反応させて、尿素の形成に使用することもできる。アンモニアを反応させれば硝酸を形成でき、次に硝酸は容易に反応して硝酸アンモニウムを形成する。従って、本発明のシステム及び方法は、製造されたアンモニアを反応させて、これらに限定されないが上記のような他の所望生成物にするための現在の解決策と容易に組み合わせることができる。
【0057】
NO及びSOは、NO、NO、SO、SO及びSOなどの一窒素及び一硫黄酸化物の総称である。これらのガスは、特に高温での燃焼中に発生する。自動車の交通量の多い地域では、これらの汚染物質の量は相当なものであろう。
【0058】
そこで、本発明の有用な側面は、ガスストリームからNO及び/又はSOを、ストリーム中の現場で生成させたアンモニアとガスストリームを反応させることによって、又はガスストリームに流体接続できるシステムで除去するためのシステムに関する。システムは、本明細書中に記載されているようなアンモニア生成システム、特に本明細書中に記載されているような遷移金属酸化物触媒を含有する電解槽を含むシステムを含みうる。この文脈において、現場とは、アンモニアが、システム内、例えばガスストリーム内、又はガスストリームに流体接続されているシステム内のコンパートメントで生成することを意味すると理解されるべきである。このようにして生成したアンモニアは、ガスストリームと接触すると、ガスストリーム中のNO及び/又はSOと反応して、これらの有毒種を、N、HO及び(NHSOなどのその他の分子種に変換する。一部の態様において、システムは、自動車のエンジン排気又は他のエンジンに使用でき、そこではアンモニアが本発明による方法によって現場生成でき、それがエンジンからSO及び/又はNO排気ガスを削減するために使用される。そのようなシステムは、車のエンジンからの変換によって生じた電流を適切に使用することができる。従って、車のエンジンからの電流を使用することによってアンモニアを現場生成でき、そのようにして生成したアンモニアを自動車のガス排気からのSO及び/又はNOと反応させることができる。アンモニアは、自動車で生成でき、その後、車の排気ガスに供給される。アンモニアは、自動車の排気システム内で現場生成させることもできる。これによって、NO及び/又はSOが車の排気ガスから除去され、排気ガス中の汚染物質の量が削減される。
【0059】
本発明の態様は以下の非制限的な態様を含む。
【0060】
1.アンモニアの製造法であって、
少なくとも一つのプロトン源を含む電解槽にNを供給し;
そのNを電解槽内のカソード電極表面と接触させ、ここで該カソード電極表面は少なくとも一つの遷移金属酸化物を含む触媒表面を含み;そして
前記電解槽に電流を流すことによって窒素をプロトンと反応させてアンモニアを形成させることを含む方法。
【0061】
2.触媒が、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ばれる一つ又は複数の遷移金属酸化物を含む、1に記載の方法。
【0062】
3.触媒が、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選ばれる一つ又は複数の酸化物を含む、1又は2に記載の方法。
【0063】
4.触媒表面が、ルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含む、1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【0064】
5.触媒表面が、(110)面を有する少なくとも一つの表面を含む、1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【0065】
6.アンモニアが、電解槽中で、約−1.0V未満、さらに好ましくは約−0.8V未満、なおさらに好ましくは約−0.5V未満の電極電位で形成される、1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【0066】
7.触媒が酸化ニオブ触媒を含み、そこではアンモニアが電解槽中で約−0.5V未満の電極電位で形成される、1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【0067】
8.触媒が酸化レニウムを含み、そこではアンモニアが電解槽中で約−0.9V未満の電極電位で形成される、1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【0068】
9.触媒が酸化タンタルを含み、そこではアンモニアが電解槽中で約−1.0V未満の電極電位で形成される、1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【0069】
10.形成されたNHのモル数に比べて、50%モル未満、好ましくは20%未満、なおさらに好ましくは10%未満のHしか形成されない、1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【0070】
11.前記電解槽が一つ又は複数の水性電解液を含む、1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0071】
12.アンモニアの形成におけるプロトン源が、電極での水分解又はアノードでのH酸化反応由来である、1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【0072】
13.アンモニアの生成システムであって、該システムは、少なくとも一つの電解槽を含み、その少なくとも一つの電解槽は触媒表面を有する少なくとも一つのカソード電極を含み、その触媒表面は一つ又は複数の遷移金属酸化物を含む少なくとも一つの触媒を担持しているシステム。
【0073】
14.少なくとも一つの遷移金属酸化物が、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化白金、酸化オスミウム、酸化レニウム及び酸化イリジウムからなる群から選ばれる、13に記載のシステム。
【0074】
15.少なくとも一つの遷移金属酸化物が、酸化レニウム、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選ばれる、13又は14に記載のシステム。
【0075】
16.触媒表面が、ルチル構造を有する少なくとも一つの表面を含む、14〜15のいずれか1項に記載のシステム。
【0076】
17.触媒表面が、(110)面を有する少なくとも一つの表面を含む、14〜16のいずれか1項に記載のシステム。
【0077】
18.前記電解槽が一つ又は複数の電解液をさらに含む、14〜17のいずれか1項に記載のシステム。
【0078】
19.電解液が酸性水溶液である、18に記載のシステム。
【0079】
次に、本発明を、本発明の特別の利点及び態様をさらに記載する以下の非制限的実施例によって説明する。
【実施例】
【0080】
実施例1
吸着された種と気体分子の間のゼロ点エネルギー補正とエントロピー差をすべての反応中間体について調和近似(harmonic approximation)内で計算する。これらの値を表1に示す。
【0081】
表1.ルチル酸化物の300Kにおける気相分子及び吸着された分子の自由エネルギーに対するゼロ点エネルギーとエントロピーの寄与(eV)
【0082】
【表1】
気相分子の値はWeast(Handbook of Chemistry and Physics,第49版,p.D109,The Chemical Rubber Company,Cleveland 1968−1969)及びAtkins(Physical Chemistry,Oxford University Press,第6版,1998)から取り、吸着された分子の値は振動ノーマルモードのDFT計算から得た。
【0083】
実施例2
序文
様々な電解質及び電極材料が、熱力学的要件を緩和し、不均一触媒反応を用いるアンモニア形成速度を最適化するために試されてきた(Amar 2011;Denvir 2008(US7314544 B2);Ouzoounidou 2007;Pappenfus 2009;Amar 2011;Song 2004)。固体電解質及びポリマー電解質膜(PEM)を基にした電解槽が、水素供給ガスと生成したアンモニアの分離を簡易にする構成(セットアップ)であるため、この研究の多くの主題であった。Nafion膜で報告された最も高いアンモニア形成速度は1.13×10−8 mol s−1 cm−2で、ファラデー効率はおよそ90%である。ここでは湿潤Hが供給ガスとして使用された(Xu 2009)。空気と水を供給ガスとして使用することは面白い可能性であるが、そのようにして得られた最も高いアンモニア形成速度はかなり低く、1.14×10−9 mol s−1 cm−2であった(Lan 2013)。わずか1%のCEしか得られず、−1.6Vの過電位を必要とした。これらの結果は有望ではあるが、依然として商業的に実現可能な製造速度(4.3〜8.7×10−7 mol s−1 cm−2)にはほど遠い(Giddey,Badwal,2013)。
【0084】
アンモニア合成の新規ルートに関する研究は、これまで実験主義者がリードしてきた。しかしながら、近年、電極触媒N還元が理論的研究の主題になっており、そこではN還元に都合が良く、水素発生を抑制する材料が、密度汎関数理論(density functional theory,DFT)計算の助けを借りて示唆されている(Skulason 2012,Abghoui 2015 enabling,2016 ACS Catalysis,2016 Catalysis Today,2016 Catalysis Today,2017 Phys.Chem.C,J Howalt 2013,J Howalt 2014,Hargreaves 2014,Zelinapour−Yazdi 2016)。計算法を使用することで、可能性ある触媒の大群を実験室でそれらを製造する必要なしにスキャンすることが可能になるので、時間も費用も節約できる。2012年にSkulasonらは、純遷移金属の平坦表面及び段差表面の触媒活性について詳細なDFT分析を実施し、そこで窒素還元についての傾向を特定し、自由エネルギープロフィールを計算した。いわゆる火山型プロット(volcano plots)が触媒反応性の傾向を推定するときに有用で、Skulasonらは、前周期遷移金属は後期遷移金属よりN還元に対してより活性であるだけでなく、水素も発生しにくいことを見出した(Skulason 2012)。Abghouiらも、遷移金属一窒化物に対して同様の研究を実施し、前周期遷移金属窒化物がN還元に対して有望な候補であることを見出した。そこではZrN及びVNがアンモニアをそれぞれ−0.76V及び−0.51V(対SHE)の電位で形成することが予測された(2015 PCCP,2015 Proceedia computer science,2016 ACS Catalysis)。後に、彼らはNbN及びCrNも同様に挙動できることを示唆した(Abghoui Skulason,2017,MVK)。更なる研究によって有望な結果が示され、そこではRuNの閃亜鉛鉱構造の(110)面がアンモニア形成をおよそ−0.23V(対SHE)という非常に小さい開始電位で触媒することが報告された(Abghoui 2017)。Mars−van Krevelen機構(MvK)と従来の会合及び解離機構との比較から、これらの窒化物の表面ではMvKの方がより好適な反応機構のはずであることが明らかになった(Abghoui及びSkulason 2017)。
【0085】
本研究では、ルチル構造の遷移金属酸化物を、周囲条件での電気化学的アンモニア形成を触媒するための可能性ある候補として調べた。DFT計算を使用して各金属酸化物についての安定性ダイアグラムを構築した。そこでは様々な吸着種で被覆された(110)面の安定性を電位の関数として計算し、各電位で最も安定な面を特定した。次に、我々は、カソード反応の熱力学を研究し、吸着された窒素種の電気化学的プロトン化の自由エネルギーダイアグラムを構築した。プロトンとNH種の吸着間のエネルギー論をすべての可能性ある触媒について調査し、競合する水素発生反応(hydrogen evolution reaction,HER)と比較してN還元への傾向を調べた。次に、我々は、これらの酸化物表面でのアンモニア形成に必要な開始電位を推定した。外部電位の影響は計算標準水素電極(SHE)を使用することによって含め(Norskov,Jonsson 2004)、Nをアンモニアに還元するために必要な最低開始電位を各金属酸化物について推定した。最後に、様々な酸化物の触媒活性を、NHの結合エネルギーを共通記述子(common descriptor)として用いてプロットした火山型ダイアグラムを得た(Rossmeisl 2007、Skulason 2012)。
【0086】
方法論
DFT計算:本研究では、天然に存在するルチル構造の11の遷移金属酸化物の(110)面を、電気化学的アンモニア形成に焦点を絞って考察する。なぜならば、(110)表面は、ルチル構造の最も安定な低指数面だからである。周囲条件でルチル構造で安定な酸化物は、TiO、NbO、TaO、ReO、IrO、OsO、CrO、MnO、RuO、RhO及びPtOである(Harold Kung)。酸化物表面は、4層になった48個の原子によってモデル化される。各層は4個の金属原子と8個の酸素原子からなる。下の2層は固定されているが、上の2層と吸着種は十分に緩和(relax)可能である。境界条件はx及びy方向に周期的であり、表面はz方向に12Åの真空によって分離されている。構造最適化は、すべての可動原子に対する任意の方向の力が0.01ev/Å未満のときに収束したと見なされる。RPBE格子定数が各酸化物について最適化され、スピン偏極が説明された。本研究で酸化物について最適化されたRPBE格子定数は次の通りである。TiO:a=4.65Å、c=2.98Å;NbO:a=5.11Å、c=3.00Å;TaO:a=4.98Å、c=3.02Å;ReO:a=4.77Å、c=3.14Å;IrO:a=4.58Å、c=3.13Å;OsO:a=4.58Å、c=3.18Å;CrO:a=4.50Å、c=2.96Å;MnO:a=4.86Å、c=2.85Å;RuO:a=4.58Å、c=3.2Å;RhO2:a=4.55Å、c=3.06Å及びPtO:a=4.65Å、c=3.19Å。
【0087】
計算は、RPBE交換相関汎関数を用い、DFTで実施される。VASPコード(VASP1−VASP4)で実施されるように、エネルギーカットオフ350eVで平面波基底系(plane wave basis set)を使用し、コア電子のPAW表示を用いて価電子を表す。自己無撞着電子密度(self-consistent electron density)は、Kohn−Sham Hamiltonianの反復対角化(iterative diagonalization)によって決定され、Kohn−Sham状態の占有は、Fermi−Dirac分布により、スメアリングパラメータ(smearing parameter) kBT=0.1eVでスメアされる。4×4×1のMonkhorst−Pack k点サンプリングを全表面に対して使用し、計算におけるk点数を減少させるために最大対称を適用する
電気化学反応とモデリング:反応におけるプロトン源は、水分解か又はアノードでのH酸化反応のいずれかでありうる。我々の絶対電位をSHEに関連付けるために、我々はここではHをプロトン及び電子の便利な供給源としてのみ参照する。
【0088】
⇔ 2(H+e) (2)
ここでは、プロトンは電解質中に溶媒和され、電子はワイヤを通じてカソードに移動する。N還元の全体的反応は、
+6(H+e)⇔ 2NH (3)
である。
【0089】
表面は、溶液からのプロトンと電極表面からの電子を表す1個の水素原子を一度に添加することにより水素化される。研究された反応機構(会合的)を以下の等式で示す。式中、アスタリスクは表面サイトを示す。
【0090】
【化3】
最初のアンモニア分子は、好適な反応経路に応じて3〜5個のプロトンの添加後に形成される。次に、第二のアンモニアが6個のプロトンの添加後に形成される。NH吸着の自由エネルギーをプロトン吸着のそれと比較し、表面がアンモニア形成又は水素発生のいずれに対して選択的であるかを探る。
【0091】
第一の近似として、安定極小の間の活性化障壁は、低いか又はBronsted−Evans−Polanyi関係に従うので本発明の文脈での電気化学反応中は無視できると仮定する。各素過程(elementary step)の自由エネルギーは、pH=0及びT=298Kで、
ΔG=ΔE+ΔEZPE−TΔS (10)
に従って推定される。式中、ΔEはDFTを用いて計算されたエネルギーである。ΔEZPEとΔSは、それぞれ吸着種と気相分子間のゼロ点エネルギーとエントロピーの差である。それらは調和近似内で計算され、値はESIに示される。印加バイアスUの影響は、すべての電気化学反応段階について、n個の電子が関与する反応の自由エネルギーを−neUによってシフトさせることによって含められるので、各素過程の自由エネルギーは、
ΔG=ΔE+ΔEZPE−TΔS−neU (11)
によって与えられる。
【0092】
シミュレーションへの水の明白な包含は計算量を非常に増加させることになるので、本研究では含めなかった。水の存在は、水素結合によって一部の種を安定化させることが知られている。例えば、NHは水の近傍でわずかにより安定になると予想されるが、Nは水の層に影響されない。以前の出版物で水の安定化効果は水素結合あたり0.1eVより小さいと推定されている(Montoya 2015)。従って、水素結合を含めると、本研究で計算された開始電位が0.1eV未満変化することになると我々は推定している(ここでは含まれていない補正)。
【0093】
結果と考察
安定性:ルチル(110)表面は、二つの異なる配位環境の金属原子を含有している(図1参照)。6配位金属原子の列と5配位金属原子の列が[001]方向に沿って交互に並んでいる。6配位金属原子はバルクとほぼ同じ幾何学を有するが、5配位金属原子は、表面に垂直な飽和されていない結合を有する(Morgan 2007)。従って、二つの異なる表面サイト、すなわち、5配位金属原子上に配位不飽和サイト(cus−サイト)と、2個の6配位金属原子間に架橋サイト(br−サイト)が見出される。我々は、br−サイトは一般的にcus−サイトより吸着物を強く結合し、表面の触媒活性はbr−サイトの占有率に依存することを見出した。そこで、br−サイトへの酸素及び水素の様々な被覆率の系統的研究を各ルチル酸化物について実施し、様々な被覆率を有する(110)面の相対的安定性を安定性ダイアグラムに示す。一例として図2参照(しかしその他すべてはESIに示される)。化学量論的(110)表面では、br−サイトは酸素に占有されているが、cus−サイトは空である。我々は、化学量論的(110)表面を酸素終端(O−term)と呼ぶ。図1c参照。O−term表面の架橋酸素原子は配位不足であるので、実験及び運転条件下で表面から還元できる。O−term表面の還元の自由エネルギーを計算するために、我々はNorskovらが開発した方法論に従う。そこでは、表面の還元は電解質との水とプロトンの交換を通じて起こり、
+(H+e)⇔ OH (12)
OH+(H+e)⇔ HO+ (13)
br−サイトを空のままにする。我々はその表面を還元表面(還元された表面)と呼ぶ。図1a参照。空のbr−サイトはその後さらにプロトン化されうる。
【0094】
+(H+e)⇔ H (14)
我々はその表面を水素終端(H−term)と呼ぶ。図1b参照。我々はまた、br−サイトの半分が水素又は酸素のいずれかで被覆され、サイトの半分が空の表面構成にも注目する。これらの表面は0.25単層(ML)表面と呼ばれる。
【0095】
図2に、NbOについて構築された安定性ダイアグラムの一例を示す。x軸は還元表面の自由エネルギーを表す。これは、他の表面がそれに対して正規化される基準として使用される。図2の安定性プロットは、対SHEで−0.5V未満の電位で、NbO上の架橋酸素原子をHOに還元し、br−サイトを0.5ML H被覆率にさらにプロトン化するのが熱力学的に好適であることを示している。他の金属の安定性ダイアグラムを図3〜12に示す。すべての酸化物について、0.25ML H又はO被覆率はいずれの関連電位でも好適でないので、以後すべての計算から除外される。この分析は熱力学に基づくものであって、活性化エネルギーを含めていないことに注意すべきである。
【0096】
触媒活性:電気化学的アンモニア形成に対する全ルチル酸化物の触媒活性をDFTを用いて計算する。各ルチルに対し、自由エネルギー地形(landscape)を、三つの異なる表面、すなわち還元表面、H−term表面及びO−term表面について計算する。各中間体の自由エネルギーは、気相のN及びHを基準として、等式(10)を用いて求められる。安定性ダイアグラムから分かるように、0.25ML表面は、どの重要な電位範囲でも好適でないので、以後すべての計算から除外される。
【0097】
図13に示されているのは、NbO上でのアンモニア形成の自由エネルギー地形で、それぞれの表面についての対応する電位決定段階(PDS)、すなわち自由エネルギーが最も大きく変化する段階が特定されるので、すべての反応段階の自由エネルギーを下降させるのに必要な開始電位が決定される。我々は、この段階を、アンモニア形成に対する酸化物の活性の指標と見なしている。他のルチル酸化物の自由エネルギーダイアグラムは図14〜23に示す。図13から分かるように、O−term表面及び還元表面でのアンモニア形成を予測するPDSの自由エネルギー変化は、それぞれ−0.53eV及び−2.01eVである。
【0098】
NbOに関して図2に示されている安定性ダイアグラムを考察すると、アンモニア形成に必要な開始電位で好適な表面は、どちらの場合もH−termである。これにより、NbOの場合、O−term及び還元表面上でのアンモニア形成の可能性は排除される。すべての酸化物について同様の分析がなされ、結果が図24に示されている。すべてのルチル酸化物について、所要印加電位は、H−term表面が好適で酸素終端表面及び還元表面でのアンモニア形成の可能性を排除するように見える電位範囲にある。IrO、NbO、OsO、ReO、RuO、TaO、PtO、RhO、CrO、TiO及びMnOの水素終端表面のPDSの自由エネルギー変化は、それぞれ、0.36eV、0.57eV、0.60eV、1.07V、1.14eV、1.21eV、1.29eV、1.61eV、2.04eV、2.07eV及び2.35eVである。これらの表面のうちの三つ、IrO、NbO及びOsOは、ニトロゲナーゼによる窒素還元に必要な過電位と類似した、又はそれより低い所要過電位を有するが、それはおよそ0.63Vと考えられている。全候補のH−term表面について、すべての可能性ある中間体を示す自由エネルギーダイアグラムを図25〜35に示す。
【0099】
スケーリング関係式と火山型ダイアグラム:N還元機構の様々な中間体の結合エネルギー間のスケーリング関係式を用いて、図36に示されているような火山型プロットが構築された。このプロットは、アンモニア形成機構の6つの電気化学的反応段階の3つだけを示したものである。含まれていない3つの段階は、y切片がゼロより大きいので、プロットから引き出される結論に影響しない。
【0100】
図36〜37のラインを計算するために使用されたスケーリング関係式を図38〜43に示し、アンモニア形成機構の全反応段階を示すプロットを図37に示す。
【0101】
類似のダイアグラムは以前、純遷移金属について構築されており、そこではNHの結合エネルギーではなく、Nの表面への結合エネルギーが使用されていた(Skulason 2012、Montoya 2015)。
【0102】
Nの結合エネルギーは本研究のすべての候補で吸熱であるので(ReO及びTaOを除く)、Nの解離は吸熱であると同時に高い活性エネルギーを有する。しかしながら、NのReO及びTaOでの結合エネルギーはおよそ−1eVであるので、Nの解離は、それらの候補では、反応エネルギーがおよそ−2eVであるため、低い障壁しか関与しないであろう。しかしながら、解離経路を含めても、どの候補についても報告されたPDSを変化させることはないであろう。なぜならば、NH→NHは、ReO及びTaOが位置している火山型(ダイアグラム)の左脚上のPDSだからである。反応段階のN→NH及びNH→NHも我々の経路に含まれており、これらの段階がPDSになることは決してない(図43参照)。
【0103】
第一のプロトン化:この時点まで我々は水素発生反応などの競合反応を考慮してこなかった。競合反応を含める第一段階として、我々は、アンモニア形成の第一の反応段階(NHの吸着を含む)の自由エネルギーを計算し、それを表面への水素吸着の自由エネルギーと比較した。水素原子はその最も好適な表面上の結合サイトを見出すことができる。これはH−term表面に対してだけ行われる。というのも、他の表面終端は、運転条件下での不安定性のために既に排除されているからである。この分析結果は図6に見ることができる。二つの酸化物ReO及びTaOは、プロトンの吸着よりもNHの吸着を好むように見えるので、高収率での電気化学的アンモニア形成にとって有望である。NbOは同じような強さでNH及びHを結合するので、両種ともその表面上にあると思われ、従って我々はNbO上ではアンモニアも水素ガスも形成されることを予想できる。IrOは、NNHよりも強くプロトン吸着を好む。このことは、IrOが本研究で考慮された11の酸化物のうちで実際最も低い予測開始電位を有していたので、残念である。しかしながら、ReO及びTaOは、N電解還元に対して活性かつ選択的でありうるが、過電位がわずかに大きい。
【0104】
結論
DFT計算を使用して、NbO、RuO、RhO、TaO、ReO、TiO、OsO、MnO、CrO、IrO及びPtOのルチル構造の(110)面での周囲条件での電気化学的アンモニアのための窒素活性化の可能性を探った。様々な吸着物を有する面の相対的安定性を印加電位の関数として計算した。各表面の触媒活性を調べ、電位決定段階を見つけた。すべての電気化学的段階の自由エネルギーを下降させるのに必要な印加電位で、すべての酸化物はサイト上に吸着された水素を有すると最も安定であることが見出された。これらの酸化物のうち、ReO及びTaOはNH吸着を好む。
【0105】
参考文献:
【0106】
【表2-1】
【0107】
【表2-2】
【0108】
【表2-3】
図1
図2
図3
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図5
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図44
【国際調査報告】