特表2020-533978(P2020-533978A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-533978グルコース依存性の生存率を介して、細菌が固形腫瘍を特異的に標的とすることを可能にする核酸システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-533978(P2020-533978A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】グルコース依存性の生存率を介して、細菌が固形腫瘍を特異的に標的とすることを可能にする核酸システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/72 20060101AFI20201030BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20201030BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201030BHJP
【FI】
   C12N15/72 Z
   C12N15/31ZNA
   C12N1/21
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2020-513887(P2020-513887)
(86)(22)【出願日】2017年9月8日
(85)【翻訳文提出日】2020年3月3日
(86)【国際出願番号】CN2017101069
(87)【国際公開番号】WO2019047166
(87)【国際公開日】20190314
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520074631
【氏名又は名称】ニュー ポータル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEW PORTAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジン, イェ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA46X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、細菌株に導入されて、固形腫瘍において増殖するが非腫瘍組織においては増殖しない遺伝子操作された細菌株を生成する核酸システムを提供し、前記核酸システムは、前記遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、前記毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、グルコースが前記解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、前記解毒剤遺伝子の前記転写を制御する第1のプロモーターと、前記毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす第1の構成的プロモーターと、を含み、前記第2のDNA断片は、前記固形腫瘍において転写されるが、前記非腫瘍組織においては転写されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌株に導入されて、固形腫瘍において増殖するが非腫瘍組織においては増殖しない遺伝子操作された細菌株を生成する核酸システムであって、
前記遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、
グルコースが前記解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、前記解毒剤遺伝子の前記転写を制御する第1のプロモーターと、
前記毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす第1の構成的プロモーターと、を含み、
前記第2のDNA断片は、前記固形腫瘍において転写されるが、前記非腫瘍組織においては転写されない、核酸システム。
【請求項2】
前記固形腫瘍は、0.424mMよりも低いグルコース濃度で特徴付けられる、請求項1に記載の核酸システム。
【請求項3】
前記非腫瘍組織は、1.22mMよりも高いグルコース濃度で特徴付けられる、請求項1〜2のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項4】
前記第1のプロモーターは、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項5】
前記第1の構成的プロモーターは、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項6】
前記第1のプロモーターは、lacプロモーター、gltAプロモーター、sdhADCプロモーター及びtnaBプロモーターからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項7】
一対の前記毒素と前記解毒剤は、CcdB−CcdA対、AvrRxo1−Arc1対、Hha−TomB対、及びPaaA2−ParE2対からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項8】
前記第1のDNA断片は、配列番号1に示され、前記第2のDNA断片は、配列番号2に示される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項9】
前記第1のプロモーターは、配列番号3に示される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項10】
5〜6個のヌクレオチドからなり、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する前記遺伝子操作された細菌株の元の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項11】
前記ランダム配列は、GCCTT又はTGTCTである、請求項10に記載の核酸システム。
【請求項12】
クロラムフェニコール耐性カセットをコードする第3のDNA断片をさらに含み、
前記第3のDNA断片は、配列番号4に示される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項13】
前記細菌株は、大腸菌、サルモネラ菌及び赤痢菌からなる群から選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項14】
前記細菌株は、大腸菌MG1655である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項15】
配列番号7又は配列番号8に示される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項16】
細菌株に導入されて、固形腫瘍において増殖するが非腫瘍組織においては増殖しない遺伝子操作された細菌株を生成する核酸システムであって、
前記遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、
グルコースが前記毒素遺伝子の転写を誘導するように、前記毒素遺伝子の前記転写を制御する第2のプロモーターと、
前記解毒剤遺伝子の構成的発現を引き起こす第2の構成的プロモーターと、を含み、
前記第1のDNA断片は、前記非腫瘍組織において転写されるが、前記固形腫瘍においては転写されない、核酸システム。
【請求項17】
前記固形腫瘍は、0.424mMよりも低いグルコース濃度で特徴付けられる、請求項16に記載の核酸システム。
【請求項18】
前記非腫瘍組織は、1.22mMよりも高いグルコース濃度で特徴付けられる、請求項16〜17のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項19】
前記第2のプロモーターは、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項16〜18のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項20】
前記第2の構成的プロモーターは、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項16〜19のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項21】
前記第2のプロモーターは、ptsGのプロモーター、fruBのプロモーター、及びackAのプロモーターからなる群から選択される、請求項16〜20のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項22】
一対の前記毒素と前記解毒剤は、CcdB−CcdA対、AvrRxo1−Arc1対、Hha−TomB対、及びPaaA2−ParE2対からなる群から選択される、請求項16〜21のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項23】
前記第1のDNA断片は、配列番号1に示され、前記第2のDNA断片は、配列番号2に示される、請求項16〜22のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項24】
5〜6個のヌクレオチドからなり、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する前記遺伝子操作された細菌株の元の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列をさらに含む、請求項16〜23のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項25】
クロラムフェニコール耐性カセットをコードする第3のDNA断片をさらに含み、
前記第3のDNA断片は、配列番号4に示される、請求項16〜24のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項26】
前記細菌株は、大腸菌、サルモネラ菌及び赤痢菌からなる群から選択される、請求項16〜25のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項27】
前記細菌株は、大腸菌MG1655である、請求項16〜26のいずれか1項に記載の核酸システム。
【請求項28】
腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法であって、
前記遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、
グルコースが前記解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、前記解毒剤遺伝子の前記転写を制御する第1のプロモーターと、
前記毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす第1の構成的プロモーターと、
を含む核酸システムを、細菌株に挿入することと、
前記核酸システムを含む前記遺伝子操作された細菌株のクローンを培養することと、
グルコースの非存在下で増殖するがグルコースの存在下では増殖しない前記クローンを選択することにより、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株を取得することと、を含み、
前記第2のDNA断片は、前記固形腫瘍において転写されるが、前記非腫瘍組織においては転写されない、方法。
【請求項29】
5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、前記核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
0mMのグルコース濃度で増殖するが、5mMのグルコース濃度では増殖しない前記クローンは、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株として選択される、請求項28〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記核酸システムは、請求項1〜15のいずれか1項に記載の核酸システムである、請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法であって、
前記遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、
グルコースが前記毒素遺伝子の転写を誘導するように、前記毒素遺伝子の前記転写を制御する第2のプロモーターと、
前記解毒剤遺伝子の構成的発現を引き起こす第2の構成的プロモーターと、
を含む核酸システムを、細菌株に挿入することと、
前記核酸システムを含む前記遺伝子操作された細菌株のクローンを培養することと、
グルコースの非存在下で増殖するがグルコースの存在下では増殖しない前記クローンを選択することにより、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株を取得することと、を含み、
前記第1のDNA断片は、前記非腫瘍組織において転写されるが、前記固形腫瘍においては転写されない、方法。
【請求項33】
5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、前記核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
0mMのグルコース濃度で増殖するが、5mMのグルコース濃度では増殖しない前記クローンは、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株として選択される、請求項32〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記核酸システムは、請求項16〜27のいずれか1項に記載の核酸システムである、請求項32〜34のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸システムに関する。特に、本発明は、固形腫瘍を標的とする能力を細菌に与える核酸システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの抗腫瘍薬は、活発に分裂するすべての細胞に対して作用し、深刻な、ひいては致死的な副作用さえもたらす。原発性腫瘍と播種性腫瘍の両方を治療するために、標的療法は、全身投与時に腫瘍と非腫瘍組織とを識別することができなければならない。
【0003】
以前の標的療法は、非生物学的薬物に依存してきた。全身的に送達されるとき、非生物学的薬物は血流中で激しく希釈され、腫瘍に利用できるのはわずかな部分のみである。さらに、非生物学的薬物は、送達が腫瘍血管系に依存するため、血管新生が不十分な低酸素腫瘍組織に効果的に拡散することができない。したがって、伝達後の繁殖が可能であり、血管新生が不十分な腫瘍組織を好む様々な偏性又は通気性嫌気性菌が、過去数十年間にわたって、腫瘍の標的化における安全性及び有効性について評価されてきた。クロストリジウム及びサルモネラなどのこれらの腫瘍標的化嫌気性菌は、腫瘍殺傷剤の担体として機能し、標的腫瘍治療を達成することができる。いくつかの場合、操作された偏性嫌気性菌は、腫瘍選択性の向上を示すことが明らかになった。これらの進歩にもかかわらず、腫瘍標的化細菌の臨床使用は、腫瘍特異性が不十分であるため、依然として実現には程遠い。
【0004】
腫瘍特異性の改善を伴う標的療法に対する需要を考慮すると、腫瘍を破壊するが正常組織を無傷のままにする腫瘍標的化システム、薬剤、及び方法が、非常に望まれている。
【発明の概要】
【0005】
1つの例示的な実施形態は、細菌株に導入されて、遺伝子操作された細菌株を生成する核酸システムである。得られた遺伝子操作された細菌株は、固形腫瘍において増殖するが、非腫瘍組織においては増殖しない。核酸システムは、第1のDNA断片と、第2のDNA断片と、第1のプロモーターと、第1の構成的プロモーターとを含む。第1のDNA断片は、遺伝子操作された細菌株を死滅させる毒素を発現する毒素遺伝子をコードする。第2のDNA断片は、毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする。第1のプロモーターは、グルコースが解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、解毒剤遺伝子の転写を制御する。第1の構成的プロモーターは、毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす。第2のDNA断片は、固形腫瘍において転写されるが、非腫瘍組織においては転写されない。
【0006】
他の例示的な実施形態は、本明細書で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】例示的な実施形態に係る、細菌に低グルコース環境を標的とさせる毒素−解毒剤遺伝システムを示す。
図1B】例示的な実施形態に係る、毒素としてCcdBを用いて、解毒剤としてCcdAを用いて、大腸菌に低グルコース環境を標的とさせる核酸システムを構築する概略図を示す。
図1C】例示的な実施形態に係る、抗癌薬を固形腫瘍に送達する遺伝子操作された細菌を含む薬物送達システムを示す。抗癌薬は、操作された細菌によって生成される抗癌分子又は化合物、又は細菌によって発現され抗癌免疫応答を誘発できる抗原を含むが、これらに限定されない。
図1D】例示的な実施形態に係る、グルコースの存在下で増殖しないがグルコースの非存在下では増殖するクローンを検索するために、0mM〜4mMの異なる濃度のグルコースを含むM63寒天培地上にストリークされたクローンを示す。
図2A】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から15日後の、Bagg albino/c(BALB/c)マウスのCT26(マウス結腸直腸癌細胞株)腫瘍における、遺伝子操作された細菌株JY1及びJY6、ならびにMG1655と命名された未修飾野生型大腸菌株のコロニー形成を示す。
図2B】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から15日後の、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓における細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
図2C】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から15日後の、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスにおける、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655によってコロニー形成された肝臓の割合を示す。
図2D】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を有するヌードマウスの腫瘍における、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
図2E】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓における、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
図2F】例示的な実施形態に係る、細菌(10/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116腫瘍を有するヌードマウスにおける、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655によってコロニー形成された肝臓の割合を示す。
図3A】例示的な実施形態に係る、皮下SW480(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有するヌードマウスの肝臓及び脾臓における細菌株JYH1及びSH1 hlyのコロニー形成を示す。
図3B】例示的な実施形態に係る、皮下SW480腫瘍を保有するヌードマウスにおける細菌株JYH1及びSH1 hlyに感染した肝臓及び脾臓の割合を示す。
図3C】例示的な実施形態に係る、細菌株SH1 hlyで処置されたマウスにおいて発現された肝膿瘍を示す。
図3D】例示的な実施形態に係る、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、SH1 hly株、及びJYH1株で処置された皮下SW480腫瘍を保有するヌードマウスからのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色肝臓切片の顕微鏡画像を示す。
図4】例示的な実施形態に係る、免疫適格性BALB/cマウスのCT26腫瘍に対する静脈内注射株JYH1の標的効力を示す。
図5】例示的な実施形態に係る、グルコース欠乏領域において選択的に生存し増殖することによって固形腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法を示す。
図6A】例示的な実施形態に係る、SW480及びHCT116細胞に対する大腸菌SH1及び大腸菌MG1655のインビトロ細胞毒性効果を示す。
図6B】例示的な実施形態に係る、ASPC−1、Mia−capa−2、及びpanc−1細胞に対する大腸菌SH1及び大腸菌MG1655のインビトロ細胞毒性効果を示す。
図7A】例示的な実施形態に係る、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果を示す。
図7B】例示的な実施形態に係る、ヌードマウスのSW480腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果を示す。
図7C】例示的な実施形態に係る、0〜55日齢のマウスにPBSを静脈内注射して処置されたSW480腫瘍の代表的な写真を示す。
図7D】例示的な実施形態に係る、0〜90日齢のマウスにJYH1を静脈内注射して処置されたSW480腫瘍の代表的な写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例示的な実施形態は、核酸システムに関する。核酸システムは、遺伝子操作された細菌株が固形腫瘍を標的とするが正常組織を無傷のままにするように、細菌株に導入される。
【0009】
低酸素は、細菌を固形腫瘍に標的化する腫瘍微小環境の最も一般的に利用される特徴である。しかし、厳密に低酸素を標的とする偏性嫌気性菌は、固形腫瘍の壊死領域に限定され、一方、通気性嫌気性菌は、固形腫瘍全体にコロニーを形成するが、低酸素標的化の制御が緩やかであるため、正常組織に感染する。本発明に係る例示的な実施形態は、細菌のグルコース依存性の生存率を調節することによって細菌の腫瘍特異性を改善する核酸システムを細菌に導入することにより、これらの技術的課題を解決する。
【0010】
図1Aは、構成的に発現される毒素コード遺伝子と、グルコースに抑制されるプロモーターの制御下での解毒剤コード遺伝子とを含む核酸システム100を示す。例示的な実施形態に従って、核酸システムは、低グルコース環境を標的とする能力を細菌に与える。
【0011】
毒素−解毒剤遺伝システムは、細菌がグルコース欠乏環境で選択的に増殖するが、グルコースの存在下で死滅することを可能にする。グルコース欠乏は固形腫瘍微小環境の特徴であるため、核酸システムを備えた細菌は、全身に適用されるときに固形腫瘍を特異的に標的とすることができる。腫瘍細胞は、一般に、急速な細胞増殖、過剰なグルコース消費、及び不十分な血液供給のために、グルコースを奪われる。腫瘍組織のグルコース濃度は0.123〜0.424mMであり、正常組織のグルコース濃度は1.22〜1.29mMであり、1gの組織が1mlであると仮定する。毒素−解毒剤核酸システムは、細菌が低グルコース環境下で選択的に増殖することを可能にする。
【0012】
核酸システムは、腫瘍微小環境の特徴である低グルコース条件下で選択的に増殖する能力を細菌に与える。大腸菌などの細菌は、腫瘍の微小環境において免疫が強く抑制されるため、固形腫瘍に優先的に増殖し、正常組織にあまりコロニーを形成しない固有の能力を有する。低グルコース環境を標的とする核酸システムは、腫瘍特異性が単独で使用するのに不十分な大腸菌などの細菌に高い腫瘍選択性を与え、細菌媒介腫瘍治療の安全性を改善する。
【0013】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化システムである核酸システムが細菌の染色体に組み込まれ、それによって細菌は腫瘍を標的とする固有の能力だけに依存せず、その結果、細菌の安全性が改善される。例示的な実施形態では、核酸システムは、プラスミドに挿入される。例示的な実施形態では、核酸システムは、グルコース感知システム又はモジュールである。
【0014】
例示的な実施形態では、核酸システムを保有する細菌は、低グルコース環境を標的とすることによって厳密に固形腫瘍においてコロニー形成する。
【0015】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子の転写を制御するグルコースに抑制されるプロモーターと、毒素コード遺伝子の構成的発現を引き起こす構成的プロモーターとを含む。
【0016】
例示的な実施形態では、生理学的レベルのグルコースを有する環境では、毒素は構成的に発現され、一方、解毒剤の発現はグルコースに抑制されるプロモーターの制御下でグルコースによって抑制される。解毒剤が毒素を無効にするように発現されないため、核酸システムを保有する細菌は、生理学的レベルのグルコースを有する環境で増殖しない。低グルコース環境では、毒素と解毒剤の両方が発現される。解毒剤が毒素を無効にするため、核酸システムを保有する細菌は、低グルコース環境で増殖する。
【0017】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子と、毒素コード遺伝子の転写を制御するグルコース誘導プロモーターと、解毒剤コード遺伝子の構成的発現を引き起こす構成的プロモーターとを含む。
【0018】
例示的な実施形態では、生理学的レベルのグルコースを有する環境では、解毒剤は構成的に発現され、一方、毒素の発現はグルコース誘導プロモーターの制御下でグルコースによって誘導される。毒素が解毒剤の発現よりも高いレベルで発現されることによって細菌を死滅させるため、核酸システムを保有する細菌は、生理学的レベルのグルコースを有する環境で増殖しない。低グルコース環境では、細菌が生存し増殖するように、毒素は発現されない。
【0019】
例示的な実施形態では、低グルコース環境は、0.424mMよりも低い濃度のグルコースを含む。例示的な実施形態では、高グルコース環境は、1.22mMよりも高い濃度のグルコースを含む。例示的な実施形態では、低グルコース環境は、0.123〜0.424mMの濃度のグルコースを有する。例示的な実施形態では、高グルコース環境は、1.22〜1.29mMの濃度のグルコースを有する。
【0020】
例示的な実施形態では、固形腫瘍において、毒素の毒性が解毒剤によって拮抗されるように、発現された解毒剤のレベルは、発現された毒素のレベル以上である。
【0021】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、第1のプロモーターと、第1の構成的プロモーターとを含む核酸システムである。第1の構成的プロモーターは、毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす。第1のプロモーターは、第2のDNA断片が低グルコース環境下又はグルコースの非存在下で転写されるが、グルコースの存在下又は高グルコース環境下では転写されないように、グルコース濃度の制御下で第2のDNA断片の転写を調節する。例示的な実施形態では、第2のDNA断片は、グルコースの非存在下で転写されるが、M63培地中で濃度が1mM以上の高グルコース環境下では転写されない。
【0022】
例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、グルコースが解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、解毒剤遺伝子の転写を制御する。第2のDNA断片は、固形腫瘍において転写されるが、非腫瘍組織においては転写されない。
【0023】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、第2のプロモーターと、第2の構成的プロモーターとを含む核酸システムである。第2の構成的プロモーターは、解毒剤遺伝子の構成的発現を引き起こす。第2のプロモーターは、第1のDNA断片が高グルコース環境下又は生理学的レベルのグルコースの存在下で転写されるが、グルコースの非存在下又は低グルコース環境下では転写されないように、グルコース濃度の制御下で第1のDNA断片の転写を調節する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、グルコースの非存在下で転写されないが、M63培地中で濃度が1mM以上の高グルコース環境下では転写される。
【0024】
例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、グルコースが毒素遺伝子の転写を誘導するように、毒素遺伝子の転写を制御する。第1のDNA断片は、非腫瘍組織において転写されるが、固形腫瘍においては転写されない。
【0025】
例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、配列番号1に示される。例示的な実施形態では、第2のDNA断片は、配列番号2に示される。
【0026】
例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第2のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第1のプロモーターの上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第2のDNA断片の下流に位置する。例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、第1のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1の構成的プロモーターは、第1のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第2の構成的プロモーターは、第2のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、配列番号3に示される。
【0027】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第2のDNA断片のすぐ上流かつ第1のプロモーターの下流に位置するランダム配列を含む。例示的な実施形態では、ランダム配列は、GCCTT又はTGTCTである。
【0028】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第1のDNA断片のすぐ上流かつ第2のプロモーターの下流に位置するランダム配列を含む。
【0029】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する細菌の元の又は天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0030】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する細菌の元の又は天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0031】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第1のプロモーターの元の又は天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、5〜6個のヌクレオチドからなり、第2のプロモーターの元の又は天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0032】
例示的な実施形態では、ランダム配列は、第1のプロモーターの下流に位置する。例示的な実施形態では、ランダム配列は、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する。
【0033】
例示的な実施形態では、ランダム配列は、第2のプロモーターの下流に位置する。例示的な実施形態では、ランダム配列は、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する。
【0034】
例示的な実施形態では、核酸システムは、選択可能なマーカーをコードする第3のDNA断片を含む。例示的な実施形態では、マーカーは、クロラムフェニコール選択マーカー(Cm)である。例示的な実施形態では、選択可能なマーカーは、クロラムフェニコール耐性カセットである。例示的な実施形態では、第3のDNA断片は、配列番号4に示される。
【0035】
例示的な実施形態では、第3のDNA断片は、第1のDNA断片の下流かつ第1のプロモーターの上流に位置する。例示的な実施形態では、第3の断片は、第2のDNA断片の下流かつ第2のプロモーターの上流に位置する。
【0036】
例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号5に示される、ccdBの発現を駆動する構成的プロモーターを含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号6に示されるrrnB転写終結領域を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号7に示される。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号8に示される。
【0037】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素遺伝子と、解毒剤遺伝子と、解毒剤遺伝子の転写を制御する第1のプロモーターと、毒素遺伝子の構成的プロモーターとを含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素遺伝子と、解毒剤遺伝子と、毒素遺伝子の転写を制御する第2のプロモーターと、解毒剤遺伝子の構成的プロモーターとを含む。
【0038】
例示的な実施形態では、細菌株は、グラム陽性細菌株である。例示的な実施形態では、細菌株は、グラム陰性細菌株である。
【0039】
例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌である。例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌MG1655及び大腸菌SH1からなる群から選択される。
【0040】
図1Bは、例示的な実施形態に係る、大腸菌を低グルコース環境に標的化する核酸システムを構築する概略図110を示す。図1Bは、ランダム化されたグルコースに抑制されるラクトースプロモーター(Plac)及びCcdA/CcdB毒素−解毒剤対を使用して、大腸菌を低グルコース環境に標的とする核酸システムを構築することを示す。
【0041】
CcdBは、宿主細菌を死滅させる毒素であり、CcdAは、CcdBに対抗する解毒剤である。腫瘍標的化核酸システムでは、CcdBは、構成的に発現され、一方、CcdAの発現は、グルコースに抑制されるラクトース(lac)プロモーターの制御下でグルコースによって抑制される。低グルコース環境では、解毒剤CcdAの抑制が解除され、CcdBを無効にするため、この核酸システムを保有する細菌は良好に増殖する。生理学的レベルのグルコースの存在下で、細菌を死滅させるために、CcdAの発現が停止し、CcdBは解放される。
【0042】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムにおいて、CcdAは、構成的に発現され、一方、CcdBの発現は、グルコース誘導プロモーターの制御下でグルコースによって誘導される。低グルコース環境では、毒素CcdBが抑制されるため、この核酸システムを保有する細菌は良好に増殖する。生理学的レベルのグルコースの存在下で、細菌を死滅させるために、CcdBの発現が開始される。
【0043】
図1Bに示すように、5〜6個のヌクレオチド(nnnnn)からなるランダム化断片は、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流に位置する元の又は天然の5〜6個のヌクレオチド(第2のDNA断片の一例)を置き換える。このランダム化断片内の異なる配列は、異なるレベルのccdAの発現をもたらす。いくつかの配列では、腫瘍におけるグルコースレベルは、CcdAの発現を活性化してCcdBの毒性に拮抗するのに十分に低く、正常組織におけるグルコースレベルは、lacプロモーターの制御下でCcdAの発現を遮断するのに十分に高い。クロラムフェニコール選択マーカー(Cm)などの選択可能なマーカーも、図1Bの核酸システムに使用される。
【0044】
ランダム化断片内の異なる配列(核酸システム又はDNAプールのランダムライブラリ)を有する核酸システムは、大腸菌の染色体に挿入され、そして、グルコースの存在下で増殖しないがグルコースの非存在下で増殖する細菌をスクリーニングするために、細菌は、グルコースを含む(Glc(+))か、又はグルコースを含まない(Glu(−))溶原培地(LB)寒天プレート上にストリークされる。矢印112は、グルコース陰性培地で増殖するがグルコースを含む培地で増殖しないクローンを示す。例示的な実施形態では、LB寒天プレート上のグルコースの濃度は、0mM又は5mMである。
【0045】
図1Cは、固形腫瘍を特異的に標的とするだけでなく、抗癌分子又は化合物を生成し及び/又は抗癌免疫応答を誘発する抗原を発現することによって抗癌薬124を固形腫瘍に送達する遺伝子操作された細菌122を含む薬物送達システム120を示す。
【0046】
遺伝子操作された細菌122は、薬物124を固形腫瘍に送達し、腫瘍細胞を死滅させる。遺伝子操作された細菌122は、細菌が固形腫瘍において増殖するが非腫瘍組織においては増殖しないように、本明細書に記載の核酸システムを含む。
【0047】
以下の実施例は、様々な実施形態を示すように提供される。
【実施例1】
【0048】
材料及び方法
【0049】
低グルコース環境を標的とする操作された大腸菌のランダムライブラリの構築
【0050】
本実施例で設計された腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdB遺伝子と、lacプロモーターの制御下でグルコースに抑制されるccdA遺伝子とから構成された。解毒剤CcdAは、生理学的レベルのグルコースの存在下で抑制され、その結果、毒素CcdBが細菌を死滅させる。対照的に、CcdAの発現の抑制が解除され、CcdBの作用に対抗するため、細菌は低グルコース増殖条件下で生存している。低グルコース条件下でlacプロモーターの制御下でCcdBに拮抗するCcdAの能力を改善するため、又はグルコースの存在下で細菌を死滅させるCcdBの能力を高めるために、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流に位置する5個のヌクレオチドをランダム化することによって、腫瘍標的化核酸システムのランダムライブラリを構築した。λ−Red組換え技術により染色体の遺伝子操作を容易にするために、図1Bに示すように、選択可能なマーカー、すなわちクロラムフェニコール選択マーカー(Cm)を腫瘍標的化核酸システムに含めた。
【0051】
具体的には、図1Bに示すように、構成的プロモーターの制御下でのccdB遺伝子と、選択可能なマーカー(loxP−cat−loxPカセットなど)と、5個のヌクレオチド(5nt)−ランダム化領域と、グルコースに抑制されるプロモーター(lacプロモーターなど)の制御下でのccdA遺伝子とを含む一組のDNA断片(つまり、腫瘍を標的とする核酸システム)を、オーバーラップポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成した。5nt−ランダム化領域は、核酸システムのランダムライブラリを生成することを可能にする。選択マーカーは、組み換えにより、細菌の染色体に核酸システムを挿入することを可能にする。そして、λ−Red組換え技術を用いて、大腸菌の染色体に核酸システムのライブラリを挿入した。グルコース欠乏LBで1時間回復した後、細菌培養物を、抗生物質(loxP−cat−loxPカセットを選択マーカーとして使用した場合、12.5μg/mlのクロラムフェニコールである)を補充したグルコース欠乏LB寒天に広げた。32℃で一晩培養した後、寒天上に個々のコロニーを形成した。各コロニーは、低グルコース条件下で選択的に増殖する可能性を有する単一の大腸菌の複製に由来する。これらのコロニーは、推定腫瘍標的化細菌のランダムライブラリを形成した。ここで、CcdB−CcdA対を他の毒素−解毒剤対で置き換えることができる。
【0052】
グルコース欠乏環境を標的とする細菌のライブラリスクリーニング:グルコース欠乏LB培地を、低グルコース条件下で選択的に増殖する細菌のライブラリスクリーニングに使用した。ランダムライブラリをスクリーニングするために、各クローンをグルコース欠乏LB寒天及び5mMグルコース添加LB寒天の両方にストリークした。37℃で一晩培養した後、グルコース欠乏LB寒天上で容易に増殖するがグルコース陽性LB寒天上では増殖しないことが判明したクローンを、最小M63培地寒天を用いてさらに評価した。M63寒天には、30mMグリセロールに加えて、増加する濃度のグルコースを補充した。ここで、大腸菌MG1655以外の細菌株は、同じストラテジーを使用して腫瘍標的化細菌のスクリーニングに使用することができる。
【0053】
操作された細菌の腫瘍標的効力のインビボ評価:6〜8週齢のヌードマウスをヒト癌細胞株の腫瘍移植に使用し、6〜8週齢の免疫適格性BALB/cマウスをマウス由来細胞株の腫瘍移植に使用した。1×10の細菌を各マウスの尾静脈に注射した。細菌注射後3日ごとに、デジタルキャリパーを用いて腫瘍サイズを測定した。実験の終わりに、コロニー形成単位の決定のために、マウスを安楽死させ、それらの腫瘍及び臓器を除去した。具体的には、1グラムの組織を1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液中で均質化した。得られた組織懸濁液を連続的に希釈し、平板培養し、希釈懸濁液のコロニー形成単位を計数した。希釈率に応じて各組織の細菌数を算出した。細菌は、腫瘍に存在するが臓器には存在しない場合、腫瘍を特異的に標的とすることができると見なされた。
【0054】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdB遺伝子、Cmカセット、及び開始コドンのすぐ上流に位置する5nt−ランダム配列を有するlacプロモーター制御ccdAからなる。これらの要素は、必ずしも図1Bに示す順序で配置されるわけではない。例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdA遺伝子、Cmカセット、及び開始コドンのすぐ上流に位置する5nt−ランダム配列を備えたグルコース誘導プロモーター制御ccdBからなる。ccdB−ccdA対は、他の毒素−解毒剤対で置き換えることができる。Cmは、他の選択可能なマーカーで置き換えることができる。ランダム配列中のヌクレオチドの数は5に限定されない。
【実施例2】
【0055】
この実施例では、大腸菌MG1655を使用した。構成的に発現されるCcdB、lacプロモーター制御CcdA、lacプロモーター、及びCmを用いて、腫瘍標的化核酸システムを構築した。ccdB遺伝子は、lacプロモーターの上流に位置するCmカセットの上流に位置した。ccdA遺伝子のすぐ上流のlacプロモーターにランダム化断片(この例では5個のヌクレオチド)を挿入することによって、推定腫瘍標的化細菌のランダムライブラリを生成した。ランダムライブラリを大腸菌株MG1655で染色体内に確立した。このランダムライブラリでは、各大腸菌MG1655変異体は、ランダム化されたドメインにおいて独特の5個のヌクレオチド配列を有するlacプロモーター変異体を染色体内に保有していた。ランダムライブラリをスクリーニングして、低グルコース条件下で選択的に増殖する細菌クローンを検索した。具体的には、グルコースが枯渇したLB寒天上にライブラリを構築した。次に、得られた大腸菌クローンを、5mMのグルコースを含むLB寒天とグルコースを含まないLB寒天の両方に個々にストリークして、グルコースの存在下で増殖しなかったがグルコースの非存在下では増殖した大腸菌クローンをスクリーニングした。約1500個のクローンがスクリーニングされ、6個のクローンがグルコース陰性培地で優先的に増殖することが判明した。
【0056】
図1Dは、最小培地M63寒天上のグルコースに対する6個の大腸菌クローンの感受性についての図面130を示す。6個のクローンを精製し、一晩インキュベートし、連続希釈した。10μlの各希釈懸濁液を、0mMのグルコース(Glu)から4mMのGluに増加する濃度のGluを補充した最小培地M63に滴下して、その表現型を確認した。6個のクローンのうち、1番目及び6番目のクローンは、グルコース陰性培地寒天上でよく増殖したが、グルコースの存在下ではあまり増殖しなかった。対照的に、2番目、3番目、4番目及び5番目のクローンは、グルコース陰性及びグルコース陽性培地寒天の両方でかなりの増殖を示した。これを考慮すると、1番目及び6番目のクローン(図1Dの枠内)は、腫瘍標的化細菌の候補であり、それぞれJY1及びJY6(JY8とも命名される)と命名された。より多くのライブラリスクリーニングを実施した場合、より多くのグルコース感知クローンを特定することができる。
【0057】
クローンJY1の染色体におけるccdA遺伝子の上流のランダム配列は、GCCTTである。JY1のヌクレオチド配列は、配列番号5に示される配列を含む。クローンJY6の染色体におけるccdA遺伝子の上流のランダム配列は、TGTCTである。
【0058】
株JY1は、寄託番号No.14577で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(CGMCC)に寄託された。株JY6は、寄託番号No.14578でCGMCCに寄託された。
【実施例3】
【0059】
操作された大腸菌変異体JY1及びJY6は、グルコースに敏感であり、インビトロでグルコースの存在下で増殖しなかった。この実施例は、腫瘍内のグルコースレベルがJY1及びJY6が生存し増殖するのに十分に低いことを示すインビボ実験及びデータを提供する。JY1及びJY6を、CT26(マウス結腸直腸癌細胞株)腫瘍(10cfu/マウス)を有する免疫適格性BALB/cマウスの尾静脈に別々に注射した。親株MG1655を対照として使用した。尾静脈注射の15日後、腫瘍及び肝臓における細菌の分布について分析した。肝臓は、他の臓器よりも細菌感染に対して脆弱であるため、分析のために選択された。
【0060】
図2A〜2Fは、マウスの腫瘍を特異的に標的とした大腸菌JY1及びJY6を示す。エラーバー、SEM.*P<0.05、**P<0.01。
【0061】
図2Aは、BALB/cマウスのCT26腫瘍1グラム当たりのコロニー形成単位(CFU)200を示す。図2Aに示すように、JY1、JY6、及びMG1655は、BALB/cマウスのCT26腫瘍に同等にコロニーを形成し、腫瘍におけるそれらのレベルは、10cfu/gを超えていた。これらのデータは、JY1及びJY6の両方が、免疫適格性BALB/cマウスによって保有されるCT26腫瘍内の良好なコロニー形成因子であることを示した。
【0062】
図2Bは、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓1グラム当たりのCFU210を示す。図2Bに示すように、JY1は、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓にコロニーを形成しなかった。JY6は、MG1655より少ない程度に、CT26を有するBALB/cマウスの肝臓にコロニーを形成した。図2Cは、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスにおける、JY1、JY6及びMG1655がコロニー形成された肝臓の割合220を示す。図2Cに示すように、JY6はCT26腫瘍を有するBALB/cマウスの20%(5匹中1匹)の肝臓で検出され、JY1はどのマウスの肝臓でも検出されなかったが、MG1655のコロニー形成はマウスの60%(5匹中3匹)の肝臓で発生した。これらは、JY1及びJY6がMG1655よりも腫瘍に特異的であり、JY1がJY6よりも腫瘍に特異的であることを示した。
【0063】
さらなるプレーティング分析は、JY1が免疫適格性マウスの血液、及び脾臓、心臓、肺、腎臓などを含む臓器にも存在しなかったことを示した。JY1及びJY6はCT26腫瘍にコロニーを形成する能力を示したが、JY1は、免疫適格性マウスにおいてJY6よりも腫瘍の特異的標的化において優れていた。
【0064】
皮下HCT116(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有する免疫不全ヌードマウスにおいて同様の実験を実施した。細菌(10cfu/マウス)の尾静脈注射後の7日後、腫瘍及び肝臓における細菌の分布について分析した。図2Dは、ヌードマウスのHCT116腫瘍1グラム当たりのCFU230を示す。図2Dに示すように、JY1、JY6、及びMG1655は、ヌードマウスのHCT116腫瘍にコロニーを形成した。図2Eは、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓1グラム当たりのCFU240を示す。図2Eに示すように、JY1は、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓にコロニーを形成しなかった。JY6は、MG1655よりも少ない程度にHCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓にコロニーを形成した。図2Fは、HCT116を有するヌードマウスにおける、JY1、JY6及びMG1655がコロニー形成された肝臓の割合250を示す。図2Fに示すように、JY6及びMG1655は、それぞれヌードマウスの28.57%(7匹中2匹)及び85.71%(7匹中6匹)の肝臓で検出された。再び、JY1はどのマウスの肝臓にも存在しなかった(n=6)。これらは、JY1及びJY6がMG1655よりも免疫不全マウスの腫瘍に特異的であり、JY1がJY6よりも免疫不全マウスの腫瘍に特異的であることを示した。
【0065】
JY1が正常組織に感染しなかったことを確認するために、細菌処理群の各マウスの血液と脾臓、心臓、肺、腎臓の均質化懸濁液をさらに検査した。これらの全ては、JY1が除去された。JY1は、臓器への感染を回避したが、HCT116腫瘍に容易にコロニーを形成し、腫瘍におけるそのレベルは3.79×10cfu/gに達した(図2D)。まとめると、インビボデータは、細菌JY1及びJY6によって保有される腫瘍標的化核酸システムが、免疫適格性マウスと免疫不全マウスの両方の固形腫瘍を特異的に標的とすることを可能にし、JY1が固形腫瘍を標的とする能力においてJY6よりも優れていることを実証する。
【実施例4】
【0066】
次に、JY1によって保有されるグルコース標的化核酸システムを大腸菌SH1の染色体に移植し、この核酸システムが特定の細菌株に限定されないことを示した。
【0067】
健康な女性ボランティアによって提供された糞便試料から大腸菌SH1を分離した。糞便試料をPBS緩衝液に再懸濁し、1mMのイソプロピルβ−D−チオガラクトシド(IPTG)及びX−gal(0.06mg/ml)を補充したLB寒天上に広げた。大腸菌は、青色コロニーを形成し、他の細菌種とは区別された。SH1は、糞便大腸菌分離株の1つである。株SH1は、寄託番号No.14580でCGMCCに寄託された。
【0068】
得られた組換え大腸菌株をJYH1と称した。株JYH1は、寄託番号No.14579でCGMCCに寄託された。
【0069】
その後、皮下SW480(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有するヌードマウスにJYH1を静脈内注射した。細菌の静脈内注射の90日後に、腫瘍及び臓器における細菌のコロニー形成についてマウスを分析した。4匹のJYH1処置マウスの腫瘍が完全に治癒したため、この群では2つの腫瘍のみが分析に利用できた。JYH1は、2つの腫瘍のうち1つから検出され、1グラム当たり1.8×10cfuに達した。
【0070】
それは、モジュール又はヌクレオチドシステムが大腸菌SH1に導入されると、得られる株は腫瘍を標的とするだけでなく、腫瘍を治療できることを示している。
【0071】
図3A及び3Bは、大腸菌JYH1がSW480腫瘍を特異的に標的とし、ヌードマウスの正常組織にコロニーを形成しなかったが、腫瘍標的化ヌクレオチドシステムによって操作されていなかった同系株SH1 hlyは、腫瘍と正常組織の両方にコロニーを形成したことを示す。*P<0.05。エラーバー、SEM。
【0072】
図3Aは、SW480を有するヌードマウスの肝臓及び脾臓組織1グラム当たりのCFU300を示す。図3Bは、JH1及びSH1 hlyに感染した肝臓及び脾臓の割合310を示す。図3A及び3Bに示すように、JYH1は、肝臓又は脾臓にコロニーを形成しなかった。すべてのJYH1処置ヌードマウスの肝臓、脾臓、心臓、肺、腎臓は、JYH1が除去されたが、これは、グルコース感知モジュールがJYH1を腫瘍に限定することができ、それが離れた臓器に拡散するのを長時間防ぐことができることを示した。JYH1とは対照的に、グルコース感知モジュールを備えていないその同系株SH1 hlyは、腫瘍(9.35×10±5.97×10cfu/g、平均±SEM)だけでなく臓器にもコロニーを形成した。SH1 hly処置マウス4匹(80%、5匹中4匹)の肝臓(6.0×1010±6.0×1010cfu/g、平均±SEM)及び脾臓(1.85×10±9.74×10cfu/g、平均±SEM)は、82日目に分析したときにSH1 hlyに感染していた。
【0073】
図3Cに示すように、感染したマウスのうち、1匹のマウスが肝膿瘍を発症した。分析のためにマウスを安楽死させた82日目に、写真320を撮影した。
【0074】
JYH1の腫瘍特異性及びグルコース感知、腫瘍標的化核酸システムの要件も、肝臓切片330のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色によって確認され、肝臓切片330は、図3D(スケールバー、200μm)に示すように、JYH1処置マウスの肝臓が正常であったが、SH1 hly処置マウスの肝臓で大量の炎症性浸潤と膿瘍が発生したことを示した。まとめると、これらのデータは、グルコース感知腫瘍標的化核酸システムがヌードマウスにおいてJYH1の腫瘍特異性を最適化することを実証している。
【実施例5】
【0075】
免疫適格性マウスの腫瘍に特異的にコロニーを形成するJYH1の能力を試験した。CT26腫瘍を保有する免疫適格性BALB/cマウスにJYH1を静脈内投与した。細菌注射の14日後、過剰な腫瘍増殖により全てのマウスを安楽死させた。図4は、BALB/cマウスの正常組織及びCT26腫瘍1グラム当たりのCFU400を示す。均質化組織のプレーティング分析は、静脈内注射されたJYH1が、14日齢の免疫適格性マウスの、肝臓、脾臓、心臓、肺、及び腎臓を含む試験された任意の臓器にコロニーを形成しなかったことを示した。対照的に、図4に示すように、腫瘍におけるJYH1のレベルは1グラム当たり4.67×10cfu(±1.62×10cfu/g)に達した。これらは、ヌードマウスからのデータと一緒に、JYH1が免疫システムの完全性にかかわらず固形腫瘍を特異的に標的とすることを実証している。
【0076】
図5は、グルコース欠乏環境において選択的に増殖することによって固形腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法500を示す。
【0077】
ブロック510は、核酸システムを細菌株に挿入することを示す。
【0078】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片とを含む。核酸システムはさらに、第2のDNA断片の転写を制御する第1のプロモーターを含む。核酸システムはさらに、第1のDNA断片の構成的発現を引き起こす第1の構成的プロモーターを含む。
【0079】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片とを含む。核酸システムはさらに、第1のDNA断片の転写を制御する第2のプロモーターを含む。核酸システムはさらに、第2のDNA断片の構成的発現を引き起こす第2の構成的プロモーターを含む。
【0080】
例示的な実施形態では、毒素−解毒剤対は、CcdB−CcdA対を含むが、これに限定されない。AvrRxo1−Arc1、Hha−TomB、PaaA2−ParE2のような他の毒素−解毒剤対を使用して、CcdB−CcdA対を置き換えることができる。例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、lacプロモーターを含むが、これに限定されない。lacプロモーターは、gltA、sdhADC、又はtnaBのプロモーターのような他のグルコースに抑制されるプロモーターに置き換えることができる。例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、pstGのプロモーター、fruBのプロモーター、及びackAのプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0081】
例示的な実施形態では、5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流かつ第1のプロモーターの下流に位置する天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換える。
【0082】
例示的な実施形態では、5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、ccdB遺伝子の開始コドンのすぐ上流かつ第2のプロモーターの下流に位置する天然の5〜6個のヌクレオチドを置き換える。
【0083】
ブロック512は、遺伝子操作された細菌株のクローンを培養することを示す。
【0084】
例示的な実施形態では、核酸システムは、細菌株の染色体に移植される。例示的な実施形態では、核酸システムはプラスミドに移植され、プラスミドは細菌株に挿入される。例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌MG1655を含むが、これに限定されない。DH5αやCFT073などの他の大腸菌株、及びサルモネラ菌や赤痢菌などの他のグラム陰性細菌種を使用して、MG1655を置き換えることができる。例示的な実施形態では、核酸システムを含む細菌株のクローンは、グルコースを含むか又は含まないLB寒天上で培養される。
【0085】
ブロック514は、グルコースの非存在下で増殖するがグルコースの存在下では増殖しない前記クローンを選択することにより、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株を取得することを示す。
【0086】
例示的な実施形態では、グルコースを含まないLB寒天で増殖するが5mMのグルコースを含むLB寒天では増殖しないクローンは、腫瘍標的化細菌の潜在的候補として選択され特定される。
【0087】
例示的な実施形態では、グルコースを含まないM63寒天で増殖するが1〜4mMのグルコース濃度では増殖しないクローンは、腫瘍標的化細菌の潜在的候補として確認される。
【0088】
例示的な実施形態では、この方法は、核酸システムが第1のプロモーターを含む場合、5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む。
【0089】
例示的な実施形態では、この方法は、核酸システムが第2のプロモーターを含む場合、5〜6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む。
【実施例6】
【0090】
この実施例は、大腸菌SH1が癌細胞株に対して細胞毒性があることを示す。SW480及びHCT116は結腸直腸癌細胞株である。ASPC−1、Mia−capa−2、及びpanc−1は膵臓癌細胞株である。各細胞株を、100のmoiで大腸菌株SH1又はMG1655と共培養した。対照として、細胞株もPBS単独で共培養した。4時間後、細胞をPBSで洗浄し、1%クリスタルバイオレットで5分間染色した。染色した細胞を再び洗浄し、95%エタノールで脱染色し、570nmで測定した。共培養された細菌によって死滅させた細胞の割合を、式:(対照−処置)/対照×100を用いて算出した。エラーバー、SEM。***P<0.001。
【0091】
ヒト癌細胞株に対する大腸菌SH1のインビトロ細胞毒性効果600及び602は、図6A及び6Bに示される。図6Aは、大腸菌SH1がSW480及びHCT116細胞に対して細胞毒性効果を有し、大腸菌MG1655がこれらの細胞に対して著しい細胞毒性効果を有さないことを示す。図6Bは、大腸菌SH1がASPC−1、Mia−capa−2、及びpanc−1細胞に対して細胞毒性効果を有し、大腸菌MG1655がこれらの細胞に対して著しい細胞毒性効果を有さないことを示す。
【実施例7】
【0092】
本実施例では、インビボでの腫瘍増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果が評価された。
【0093】
図7Aは、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果700を示す。JYH1の静脈内注射は、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖を抑制した。対照的に、JY1は、PBS対照と比較して、腫瘍増殖にほとんど影響を及ぼさなかった。JY1処置マウスのHCT116腫瘍はPBS処置対照の腫瘍と同様に増殖し、一方、JYH1処置マウスのHCT116腫瘍は比較的ゆっくりと増殖し、かつそれらの50%(10匹中5匹)は細菌の静脈注射(10/マウス)の18−26日後に退縮し始めた。JYH1は、100%の試験されたマウス(n=10)のHCT116腫瘍増殖に阻害効果を示し、JY1よりも著しく優れた抗腫瘍効果を示した(フィッシャーの正確確率検定、p<0.0001)。
【0094】
図7Bは、ヌードマウスのSW480腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果の分析702を示す。図7Cは、0〜55日齢のPBS処置マウスのSW480腫瘍の代表的な写真704を示す。図7Dは、0〜90日齢のJYH1処置マウスのSW480腫瘍の代表的な写真706を示す。SW480腫瘍の増殖を90日間にわたって監視した。JYH1処置マウス(n=6)の腫瘍は、JYH1の静脈内注射の26〜52日後に退縮し、有効率は100%であった。これらのうち、66.7%のマウス(6匹中4匹)の腫瘍は消失し、実験の終わりまで再発しなかった。残りの2匹のマウスのうち、1匹のマウスの腫瘍は治癒しなかったが、静止状態を維持した。1匹のマウスの腫瘍のみが再発した(16.67%、6匹中1匹)。対照的に、PBS処置腫瘍はいずれも退縮も消失もしなかった。これらのデータは、JYH1がインビボでの腫瘍増殖に著しい抑制効果を有することをさらに示した。
【0095】
したがって、例示的な実施形態では、腫瘍細胞及び正常組織細胞の両方に対して毒性がある細菌は、腫瘍標的化核酸システムを備える場合、腫瘍に特異的になり、正常組織に影響を及ぼすことなく腫瘍増殖を抑制することができる。
【0096】
本明細書で使用する場合、「処置」、「処理」又は「治療」という用語は、疾患又は疾病の症状を緩和、軽減又は改善する方法、さらなる症状を予防する方法、症状の原因となる代謝を改善又は予防する方法、疾患又は疾病を阻害する方法、疾患又は疾病の発症を阻止する方法、疾患又は疾病を緩和する方法、疾患又は疾病の退縮を引き起こす方法、疾患又は疾病によって起きる状態を緩和する方法、又は、疾患又は疾病の症状を予防的及び/又は治療的に停止する方法を指す。
【0097】
本明細書で使用する場合、「すぐ」、「すぐ上流」、又は「すぐ下流」は、あるDNA断片と別のDNA断片との間に他のヌクレオチドがないことを意味する。
【0098】
本明細書で使用する場合、「システム」は、毒素遺伝子、解毒剤遺伝子、及びそれらのそれぞれのプロモーターを含む組み合わせ又は遺伝子回路を指す。システムの毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子は、任意の順序で配置することができる。システムの毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子は、同じ分子内に、又は異なる分子内に位置することができる。例示的な実施形態では、毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子の一方は細菌の染色体中にあってよく、他方の遺伝子は同じ細菌のプラスミド中にあってよい。
【符号の説明】
【0099】
100:核酸システム
112:矢印
120:薬物送達システム
122:細菌
124:抗癌薬
330:肝臓切片
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
【配列表】
2020533978000001.app
【国際調査報告】