(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-534010(P2020-534010A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】細胞培養実験のためのマイクロ流体デバイス及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20201030BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20201030BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20201030BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20201030BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M3/00 A
C12Q1/02
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-516556(P2020-516556)
(86)(22)【出願日】2018年9月17日
(85)【翻訳文提出日】2020年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2018075090
(87)【国際公開番号】WO2019057671
(87)【国際公開日】20190328
(31)【優先権主張番号】102017216581.2
(32)【優先日】2017年9月19日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(71)【出願人】
【識別番号】516386144
【氏名又は名称】テヒニシュ ウニヴェルズィテート ドレスデン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ロスキル ペーター
(72)【発明者】
【氏名】プロブスト クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ブゼク マティアス
(72)【発明者】
【氏名】グリュンツナー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ フランク
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB01
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2G045FA11
2G045FA34
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4B063QX04
(57)【要約】
本発明によれば、心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーと少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと少なくとも1つのポンプ(例えば、マイクロポンプ)と少なくとも1つの検出器とを備え、前記検出器は、前記培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性を検出するように構成されたマイクロ流体デバイスが提示される。前記マイクロ流体デバイスは、さらに、前記少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成された制御デバイスを備える。マイクロ流体デバイスの使用もまた提案されている。
【選択図】
図1【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイスであって、
a)心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーと;
b)少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと;
c)少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及び少なくとも1つの培養チャンバーを通して溶液をポンピングするための少なくとも1つのポンプと;
d)前記培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性を検出するように構成された少なくとも1つの検出器と;を備え、
さらに、前記少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成された制御デバイスを備える、
マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つの制御デバイスは、
i)前記心筋細胞の強い活性がある場合、前記少なくとも1つのポンプのポンピング能力を増加させ、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを増加することによって増加させ;及び/又は、
ii)前記心筋細胞の弱い活性がある場合、前記少なくとも1つのポンプのポンピング能力を減らし、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを減らすことによって減らす、
ように構成される、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの制御デバイスは、
i)心筋細胞を含む前記少なくとも1つの第1培養チャンバーの灌流を減少又は増加させ、好ましくは前記少なくとも1つの第1培養チャンバーに流体的に平行に接続されたバイパスチャネルを開く又は閉じることによって減少又は増加させ;及び/又は、
ii)心筋細胞を含む前記マイクロ流体デバイス内の少なくとも1つの第2培養チャンバーの灌流を減少又は増加させ、好ましくは前記少なくとも1つの第2培養チャンバーに流体的に平行に接続されたバイパスチャネルを開く又は閉じることによって減少又は増加させる、
ように構成される、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1培養チャンバーは、
少なくとも1つの心筋繊維を形成する心筋細胞を含み、
前記少なくとも1つの心筋繊維の前記心筋細胞は、好ましくは、
i)異方的に配向され、及び/又は、
ii)心筋細胞とは異なる生体細胞、好ましくは繊維芽細胞、内皮細胞及びこれらの組合せから成る群から選択される細胞を含み、及び/又は、
iii)ヒドロゲルを含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記マイクロ流体デバイスは、心筋細胞の栄養のための栄養溶液を含む少なくとも1つのリザーバーを有し、前記リザーバーは、好ましくは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及び前記少なくとも1つの培養チャンバーに流体的に接続され、特に好ましくは前記少なくとも1つのポンプは、特に前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを介して、前記少なくとも1つの培養チャンバーに前記栄養溶液を運ぶように構成されている、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記マイクロ流体デバイスは、
i)好ましくはポンピング頻度、ポンプリフトを増加することによって、及び/又はリザーバーを加圧することによって、心筋細胞の活性が強い場合、リザーバーからの栄養溶液の流出を増加し、
ii)好ましくはポンピング頻度、ポンプリフトを減少することによって、及び/又はリザーバーを減圧することによって、心筋細胞の活性が弱い場合、リザーバーからの栄養溶液の流出を減少する、
ように構成されている請求項5に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記マイクロ流体チャネルは、少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットルを含み、前記少なくとも1つのバルブ及び/又は前記少なくとも1つのスロットルは、好ましくは、
i)好ましくは前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルの少なくとも1つの壁に配置された弾性膜を含み、特に好ましくはプラスチックを含む又はプラスチックから成り、極めて特に好ましくは熱可塑性プラスチック、エラストマー及びそれらの組合せから成る群から選択されるプラスチックであり、特にPC,PET,COC,PDMS,TPE及びこれらの組合せから成る群から選択されるプラスチックであり、及び/又は、
ii)空気圧、熱空気圧、電磁力、静電力、磁気力、化学力及び/又は圧電力によって制御されるのに適しており、前記バルブ及び/又は前記スロットルは、好ましくは少なくとも1つの作動チャネル及び/又は少なくとも1つの電源に接続されている、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記少なくとも1つの制御デバイスは、さらに、前記少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて前記少なくとも1つのバルブ及び/又は前記少なくとも1つのスロットルを制御するように構成され、前記少なくとも1つの制御デバイスは、好ましくは、
i)心筋細胞の活性が強い場合、前記少なくとも1つのバルブ及び/又は前記少なくとも1つのスロットルを少なくとも部分的に開き、及び/又は、
ii)心筋細胞の活性が弱い場合、前記少なくとも1つのバルブ及び/又は前記少なくとも1つのスロットルを少なくとも部分的に閉じる、
請求項7に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記マイクロ流体デバイスは、少なくとも、
i)前記マイクロ流体デバイス内の溶液の酸素化又は脱酸素化のための酸素供給器、好ましくはガス透過性膜及び/又は中空繊維;及び/又は、
ii)前記マイクロ流体デバイス内の溶液のO2含有量を測定するO2センサー、好ましくは光学O2センサー、電気化学O2センサー及びこれらの組合せから成る群から選択されるO2センサー、
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つの制御デバイスは、さらに、O2センサーによって測定された前記O2含有量の関数及び/又は前記検出器によって検出された心筋細胞の活性の関数として、前記酸素供給器を制御するように構成される、請求項9に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記検出器は、
i)光検出器、好ましくはカルシウム濃度を測定するように構成された光検出器;及び/又は、
ii)電気検出器、好ましくは多電極アレイ;及び/又は、
iii)機械的検出器、好ましくは歪みゲージ、追跡力顕微鏡、ばねビーム及びこれらの組合せから成る群から選択される検出器、
を含む、又は、から成る、請求項1〜10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記検出器は、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーに含まれる前記心筋細胞の活性に関するシグナルをデータ取得ユニットに送るように構成されており、前記データ取得ユニットは、好ましくは前記シグナルを時間の関数として記録及び評価するように構成される、請求項1〜11のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記マイクロ流体デバイスは、前記培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性に影響を与えるための少なくとも1つのデバイスを含み、前記デバイスは、好ましくは、
i)電極、特に好ましくは、浸液電極、平面電極又はこれらの組合せから成る群から選択される少なくとも1つの電極、前記デバイスは、特に多電極アレイであり;及び/又は、
ii)アクチュエーター、特に好ましくは、圧電アクチュエーター、電気機械的アクチュエーター、空気圧式アクチュエーター、油圧アクチュエーター、表面張力アクチュエーター及びこれらの組合せから成る群から選択されるアクチュエーター;及び/又は、
iii)ガスの供給又は除去のためのデバイス、好ましくはガス交換膜、前記ガスの供給又は除去のためのデバイスは、好ましくは、(純粋な)酸素、空気(例えば圧縮空気)、窒素、二酸化炭素及びこれらの組合せから成る群から選択されるガス源を有する、
を含む、又は、から成る、請求項1〜12のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記マイクロ流体デバイスは、化学的、生化学的又は生物学的物質を供給するための少なくとも1つのアクセスを含み、前記アクセスは、任意に、前記マイクロ流体チャネルに直接、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーに直接、及び/又は、前記少なくとも1つのリザーバーに直接開く、請求項1〜13のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルを含み、前記少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルは、好ましくは、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーの上流の前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルから分岐し、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーの下流の前記少なくとも1つの第1マイクロ流体チャネルに通じる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
前記マイクロ流体デバイスは、心筋細胞とは異なる生体細胞、好ましくは、肝細胞、腎細胞、神経細胞、脂肪組織及びこれらの組合せから成る群から選択される細胞を含み、前記少なくとも1つの第2培養チャンバーは、特に好ましくは、任意に、前記少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルを介して、前記少なくとも1つの培養チャンバーに流体的に接続される、請求項1〜15のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
前記マイクロ流体デバイスは、前記第2培養チャンバーに含まれる生体細胞の活性を検出するように構成された少なくとも1つの第2検出器を含み、前記少なくとも1つの第2検出器は、好ましくは、光検出器を含み又はから成り、特に好ましくは、前記少なくとも1つの第2培養チャンバーに含まれる前記生体細胞の活性に関するシグナルをデータ取得ユニットに送るように構成されており、前記データ取得ユニットは、好ましくは前記シグナルを時間の関数として記録及び評価するように構成される、請求項16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
前記マイクロ流体デバイス、好ましくは前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネル、前記少なくとも1つの第1培養チャンバー及び/又は少なくとも1つのリザーバーは、血液又は血液成分、好ましくは血液細胞、特に好ましくはがん細胞及び/又は免疫細胞、特に転移性がん細胞及び/又は単球を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つの制御デバイスは、流速測定デバイス、好ましくは粒子画像速度測定装置を含み、前記マイクロ流体デバイスは、特に好ましくは前記流速測定デバイスによって測定された流速に基づいて、
i)前記マイクロ流体デバイスの少なくとも1つのポンプ、好ましくは全てのポンプを制御し、及び/又は、
ii)前記マイクロ流体デバイスの少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットル、好ましくは全てのバルブ及び/又は全てのスロットルを制御する、
請求項1〜18のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
前記マイクロ流体デバイスは、プラスチックを含み又はから成り、前記プラスチックは、好ましくは、
i)任意に構造化されていないプラスチックフィルムがさらに少なくとも1つラミネートされている、少なくとも1つの構造化プラスチックフィルムを含む又はから成り;及び/又は、
ii)熱硬化性プラスチック、熱可塑性プラスチック、エラストマー及びこれらの組合せから成る群から選択され、特に好ましくはPC,PET,COC,PDMS,TPE及びこれらの組合せから成る群から選択され;及び/又は、
iii)少なくとも部分的に、レーザー構造化、カッティングプロット、ホットエンボス加工、フライス加工、熱成形、射出成型、ソフトリソグラフィー、3D印刷及びこれらの組合せから成る群から選択される、
請求項1〜19のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
前記制御デバイスは、前記マイクロ流体デバイス内の液体、固体及び気体物質の分布を、前記マイクロ流体デバイス内の細胞又は細胞群の具体的な要件に適合させるように構成され、好ましくは、前記ポンプ、少なくとも1つのバルブ、少なくとも1つのスロットル及び酸素供給器の選択的制御によって適合され、前記選択的制御は、特に好ましくは、特に前記マイクロ流体デバイス内に格納される数学的モデルを介して行われる、請求項1〜20のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
前記マイクロ流体デバイスは、好ましくは少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を介して、前記マイクロ流体デバイスと並列又は直列に流体連絡する少なくとも1つのさらなるマイクロ流体デバイスを有し、前記マイクロ流体デバイス又はその一部は、特に好ましくは一次マイクロ流体デバイスであり、前記少なくとも1つのさらなるマイクロ流体デバイス又はその一部は、従属マイクロ流体デバイスであり、極めて特に好ましくは、前記マイクロ流体デバイスの従属部分は、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーを有し、前記デバイスの主要部分は、前記少なくとも1つのポンプ及び/又は前記少なくとも1つの検出器を有する、請求項1〜21のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
i)特定の物質又はその代謝産物は、好ましくは、前記特定の物質が前記心筋細胞の頻脈又は徐脈を誘発する又は前記心筋細胞の不整脈を引き起こすかどうかを検証するために前記心筋細胞の活性に影響を与え;及び/又は、
ii)前記心筋細胞の活性の機械的、電気的及び/又はガス誘導の影響は、好ましくは、この影響は、前記生体細胞の活性に負の影響又は正の影響を持っているかどうか及びその程度を検証するために、心筋細胞とは異なる生体細胞の活性に影響を及ぼす、
請求項1〜22のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明によれば、心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーと少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと少なくとも1つのポンプ(例えば、マイクロポンプ)と少なくとも1つの検出器とを備え、前記検出器は、前記培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性を検出するように構成されたマイクロ流体デバイスが提示される。前記マイクロ流体デバイスは、さらに、前記少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成された制御デバイスを備える。さらに、マイクロ流体デバイスの使用のまた提案されている。
【0002】
世界中で、多くのチームが、人口心臓組織の開発に従事している。特に、実験動物を用いない物質の試験では、細胞ベースのシステムにおいて患者指向で個別化されたアクティブな物質の探索が可能であるため、新たな刺激が期待される。既存のインビトロ(in-vitro)プラットフォームは、一般に、心臓組織の適切な生理学的動作を再現するには、構造が単純すぎる(2次元、灌流なし、マイクロ環境の不存在)。したがって、マイクロ環境を再現し、ヒトの組織に近い3次元組織空間を提供する、マイクロ生理学システム(microphysiological systems、略称:MPSs)と称されるマイクロ流体デバイスが必要とされる。目的は、一方では、インビボ(in-vivo)状況に可能な限り近い臓器モデルを構築することであり、もう一方では、アクティブ物質の全身試験(いわゆる「多臓器チップ」)を行うことを可能にするための閉じられた循環システム内でいくつかのそのようなモデルを培養することである。
【0003】
生理学的条件下において、心筋細胞は、自発的に又は(電気的に)刺激された動きで始まり、一般的なマイクロ環境(低酸素症、栄養欠乏症)、代謝産物又は物質の添加によって影響を受ける可能性がある。ビート周波数、収縮速度(又は緩和速度)、収縮力、収縮時間、律動性及び最大変形は、薬理学的に関連するパラメーターであり、例えば顕微鏡観察、例えばその後のビデオ分析によって決定可能である。人体は、これらのパラメーターから始まる、既存のMPSsでは欠けている複雑な制御メカニズムを持っている。例えば、既存のマイクロ流体デバイスは、心臓がそれ自体を供給するため、ポンプ能力が低下するとそれ自体が供給不足になる(その結果、さらにポンプ能力が低下する虞がある)ことを示すことができない。
【0004】
サイズ(個々の細胞から巨視的3D組織)、起源(例えば、一次げっ歯類細胞、肝細胞に基づく細胞株)、構造(等方性又は異方性)や灌流の実施が異なる、多くの異なる心筋インビトロシステムが既に先行技術として知られている。多くの場合、心筋の再現は、組織に対する薬物又は刺激の影響を直接決定するための“電気機械センサー”としての使用に焦点が当てられている。いくつかの研究では、再現された心筋組織は、灌流の生成に使用された。マイクロ心筋によって生成される小さな力のために、灌流(心筋細胞ポンプ)の直接的な生産は、マイクロチャネルの高い流体抵抗のために実行不可能である。
【0005】
収縮運動又は収縮力の読み出しは、先行技術の心筋インビトロシステムにおいて様々な方法で達成される。例えば、柔軟なスプリングビーム、3D印刷された歪みゲージ及び光学分析法がこれに使用される。例えばマイクロ電極アレイ(microelectrode arrays,MEAs)、パッチクランプ、“鋭い電極”及びカルシウムイメージング等の電気生理学センサーも使用される。
【0006】
循環システムは、DE102013011768A1から知られており、マイクロ流体ネットワークにおける細胞培養の重要な供給のための方法が提示されている。このマイクロ流体ネットワークでは、スロットル及び/又はバルブを介したいくつかの細胞培養区画の供給が定義されている。これらのスロットル及び/又はバルブにより、例えば、pH、酸素分圧、二酸化炭素分圧及び/又はグルコース濃度を設定及び制御可能である。
【0007】
心筋細胞を直接培養するための統合されたアクティブなコンポーネント(例えば、ポンプや酸素供給器)を備える多層マイクロ流体デバイスは、既に製造されている。
【0008】
さらに、定義されたガス組成を制御及び設定するためのフィードバックループを備えたモジュールは、従来技術において知られている。
【0009】
これまで、先行技術において知られている心筋細胞を有するMPSsは、マイクロ流体デバイス内における流体ストリームに対する心筋細胞の活性の影響があったとしても不十分であるという欠点を特徴とする。換言すると、既知のシステム又はデバイスは、心血管系の制御メカニズムによってインビボで完全に良く媒介されるように、定義された時点において存在する心筋細胞の定義された活性を、対応するシステム内の現在の活性に実際すぐに(例えば、時間的な遅延なしに)変換することを許さない。この欠点の結果、生きている患者では、心筋細胞の活性の変化が血液循環の流体ストリーム及び個々の細胞や臓器の血液と酸素の供給に対して非常に大きな影響を与える場合があるため、現在知られている心臓細胞を備えるマイクロ流体デバイスでは、生きている患者の本当のインビボの状態を不十分にしかシミュレーションすることができない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、心筋細胞を備えるマイクロ流体デバイスを提供することであり、これによって心筋細胞の活性に対する特定の要因の影響のより正確で現実的な調査が可能になり、さらに他の生体細胞(例えば、肝細胞又は神経細胞)の活性を、可能な限り現実的に変化した心筋細胞の活性(例えば、不整脈又は心原性ショックの条件下)の関数として、検出することが可能になる。
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有するマイクロ流体デバイス及び請求項23に請求される使用によって達成される。従属請求項は、有利な変形を提示する。
【0012】
本発明によれば、
a)心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーと;
b)少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと;
c)少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及び少なくとも1つの培養チャンバーを通して溶液をポンピングするための少なくとも1つのポンプ(例えば、マイクロポンプ)と;
d)前記培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性を検出するように構成された少なくとも1つの検出器と;を備え、
さらに、前記少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて前記少なくとも1つのポンプを制御するように構成された制御デバイスを備える、
マイクロ流体デバイスが提供される。
【0013】
用語“心筋細胞の活性”は、特に心筋細胞の電気的活性及び/又は運動活性(好ましくは両方)を意味し、該用語はまた、ゼロ電気的活性(活動電位なし)及びゼロ運動活性(運動なし)を含む。“心筋細胞の活動活性”は、特に心筋細胞の収縮及び/又は頻度(好ましくは両方)を意味する。
【0014】
本発明に係る装置では、心筋細胞の活性を検出可能であり、ポンプへのフィードバックループを介して、送られる(灌流)流体の量を心筋細胞の活性に対応するように適合可能である。この措置によって、心筋細胞自体に対する変化した灌流の影響がより現実的に研究されるだけでなく、マイクロ流体デバイス内のさらなる培養チャンバーに存在する他の生体細胞に対する変化した灌流の影響も同様に研究される。
【0015】
フィードバックループによって、先行技術の既存のシステム又はデバイスよりも、生物の循環器系の複雑な制御メカニズムをよりよく再現可能である。換言すると、本発明に係る装置を用いると、特定の要因が循環器系に対して与える影響に関し、より現実的で実際のインビボ状況により関連する陳述(statement)を行うことが可能である。特定の物質又は代謝産物が長期間にわたって影響を与える可能性があるため、マイクロ流体デバイス内の液体を循環させる基本的な可能性によって、時間遅延のリスクをより適切に予測することが可能である。
【0016】
さらに、本発明に係る装置を用いて、さらなる組織タイプ(例えば、肝細胞、神経細胞等)に対する心筋細胞の変化した活性の影響を現実的に再現可能であり、特に(例えば、化学的、生化学的又は生物学的)物質の全身試験にとって決定的に重要である。
【0017】
マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの制御デバイスが、心筋細胞の強い活性がある場合、少なくとも1つのポンプのポンピング能力を増加させ、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを増加することによって増加させるように構成されることによって特徴付けられる。さらに、少なくとも1つの制御デバイスは、心筋細胞の弱い活性がある場合、少なくとも1つのポンプのポンピング能力を減らし、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを減らすことによって減らすように構成される。
【0018】
少なくとも1つの制御デバイスは、さらに、心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーの灌流を減少又は増加させ、好ましくは少なくとも1つの第1培養チャンバーに流体的に平行に接続されたバイパスチャネルを開く又は閉じることによって減少又は増加させるように構成される。さらに、少なくとも1つの制御デバイスは、心筋細胞を含むマイクロ流体デバイス内の少なくとも1つの第2培養チャンバーの灌流を減少又は増加させ、好ましくは少なくとも1つの第2培養チャンバーに流体的に平行に接続されたバイパスチャネルを開く又は閉じることによって減少又は増加させるように構成される。
【0019】
少なくとも1つの第1培養チャンバーは、少なくとも1つの心筋繊維を形成する心筋細胞を含んでいてもよく、少なくとも1つの心筋繊維の心筋細胞は、好ましくは、異方的に配向される。さらに、少なくとも1つの第1培養チャンバーは、心筋細胞とは異なる生体細胞、好ましくは繊維芽細胞、内皮細胞及びこれらの組合せから成る群から選択される細胞を含んでいてもよい。さらに、心筋細胞は、ヒドロゲルを含んでいてもよく、又はその中に埋め込まれていてもよい。
【0020】
好ましい実施形態において、マイクロ流体デバイスは、心筋細胞の栄養のための栄養溶液を含む少なくとも1つのリザーバーを有し、リザーバーは、好ましくは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル及び少なくとも1つの培養チャンバーに流体的に接続され、特に好ましくは少なくとも1つのポンプは、特に少なくとも1つのマイクロ流体チャネルを介して、少なくとも1つの培養チャンバーに栄養溶液を運ぶように構成されている。
【0021】
マイクロ流体デバイスは、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを増加することによって、及び/又はリザーバーの加圧によって、心筋細胞の活性が強い場合、リザーバーからの栄養溶液の流出を増加するように構成されてもよい。さらに、マイクロ流体デバイスは、好ましくはポンピング頻度及び/又はポンプリフトを減少することによって、及び/又はリザーバーの減圧によって、心筋細胞の活性が弱い場合、リザーバーからの栄養溶液の流出を減少するように構成されていてもよい。
【0022】
マイクロ流体チャネルは、少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットルを含んでいてもよい。少なくとも1つのバルブ及び/又は前記少なくとも1つのスロットルは、好ましくは、好ましくは少なくとも1つのマイクロ流体チャネルの少なくとも1つの壁に配置された弾性膜を含み、特に好ましくはプラスチックを含む又はプラスチックから成り、極めて特に好ましくは熱硬化性プラスチック、熱可塑性プラスチック、エラストマー及びそれらの組合せから成る群から選択されるプラスチックであり、特にPC,PET,COC,PDMS,TPE及びこれらの組合せから成る群から選択されるプラスチックである。さらに、弾性膜は、空気圧、熱空気圧、電磁力、静電力、磁気力、化学力及び/又は圧電力によって制御されるのに適しており、前記バルブ及び/又は前記スロットルは、好ましくは少なくとも1つの作動チャネル(例えば、空気圧チャネルおよび/または油圧チャネル)及び/又は少なくとも1つの電源に接続されている。
【0023】
少なくとも1つの制御デバイスは、少なくとも1つの検出器によって検出された心筋細胞の活性に基づいて少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットルを制御するように構成されてもよい。この場合、少なくとも1つの制御デバイスは、好ましくは、心筋細胞の活性が強い場合、少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットルを少なくとも部分的に開くように構成される。さらに、少なくとも1つの制御デバイスは、心筋細胞の活性が弱い場合、少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットルを少なくとも部分的に閉じるように構成されてもよい。
【0024】
マイクロ流体デバイスは、少なくとも、マイクロ流体デバイス内の溶液の酸素化又は脱酸素化のための1つの酸素供給器、好ましくはガス透過性膜及び/又は中空繊維を備えていてもよい。さらに、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイス内の溶液のO
2含有量を測定するO
2センサー、好ましくは光学O
2センサー、電気化学O
2センサー及びこれらの組合せから成る群から選択されるO
2センサーを含んでいてもよい。
【0025】
少なくとも1つの制御デバイスは、さらに、O
2センサーを介して測定されたO
2含有量の関数及び/又は検出器によって検出された心筋細胞の活性の関数として、前記酸素供給器を制御するように構成されてもよい。
【0026】
好ましい実施形態では、検出器は、光検出器、好ましくはカルシウム濃度を測定するように構成される。光検出器の場合、マイクロ流体デバイ巣の培養チャンバーは、少なくともいくつかのゾーンにおいて、光検出器の波長(好ましくはVISスペクトル)の光に対して透明である。例えば、光検出器は、特にリアルタイム対応の評価ユニットに結合された顕微鏡カメラを含んでいてもよく、評価ユニットは、好ましくは、薬理学的に関連するパラメーターを決定するように構成される。
【0027】
さらに、検出器は、電気検出器、好ましくは多電極アレイ(MEA)を含む又はから成る。電気センサーは、ランタイム測定を実行可能である。非光学的検出の利点は、画像評価のハードウェアコストが低いことである。加えて、検出器は、機械的検出器、好ましくは歪みゲージ、追跡力顕微鏡(tracking force microscope)、ばねビーム及びこれらの組合せから成る群から選択される検出器を含む、又は、から成っていてもよい。いくつかの点で、マイクロ流体デバイスは、これらの検出器の場合、マイクロ環境の変化、代謝産物又は物質の適用に反応する、細胞ベースの(化学的)(電気的)(光学的)機械変換器と見なしてもよい。
【0028】
検出器は、少なくとも1つの第1培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性に関するシグナルをデータ取得ユニットに送るように構成されていてもよく、データ取得ユニットは、好ましくはシグナルを時間の関数として記録及び評価するように構成される。
【0029】
好ましい実施形態では、マイクロ流体デバイスは、培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性に影響を与えるための少なくとも1つのデバイスを含んでいてもよい。このようにして、例えば、心不全、心リズム障害等の循環器系の疾患を人工的に作り出すことを可能にする。
【0030】
心筋細胞の活性に影響を与えるためのデバイスは、好ましくは、電極、特に好ましくは、浸液電極、平面電極又はこれらの組合せから成る群から選択される少なくとも1つの電極を含む又はから成る。特に、デバイスは、多電極アレイを含む又はから成る。このデバイスを介した心筋細胞の電気的接触は、例えば、物理的な歪み等の特定の状態をシミュレートすること等、心臓組織を電気的に刺激する可能性を提供する。多電極アレイ(MEA)の利点は、電気センサーとしても機能可能であるため、心筋細胞の刺激及びその活動の検出の両方を実行できることである。
【0031】
さらに、少なくとも1つの第1の培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活動に影響を与えるためのデバイスは、アクチュエーター、特に好ましくは、圧電アクチュエーター、電気機械的アクチュエーター、空気圧式アクチュエーター、油圧アクチュエーター、表面張力アクチュエーター及びこれらの組合せから成る群から選択される少なくとも1つのアクチュエーターを含む、又は、から成ってもよい。
【0032】
さらに、培養チャンバーに含まれる心筋細胞の活性に影響を与えるためのデバイスは、ガスの供給又は除去のためのデバイス、好ましくはガス交換膜を含む又はから成ってもよく、ガスの供給又は除去のためのデバイスは、好ましくは、(純粋な)酸素、空気(例えば圧縮空気)、窒素、二酸化炭素及びこれらの組合せから成る群から選択されるガス源、特に、空気(例えば、圧縮空気)、窒素、二酸化炭素およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるガス源を有する。
【0033】
特に好ましい実施形態では、マイクロ流体デバイスは、(例えば、化学的及び/又は生物学的及び/又は生化学的)物質を供給するための少なくとも1つのアクセスを含む。この実施形態は、アクティブな医薬成分を試験するのに有利である。任意に、このアクセスは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルに直接、少なくとも1つの第1培養チャンバーに直接、及び/又は、少なくとも1つのリザーバーに直接開く。したがって、1つまたは複数の化学的、生化学的、または生物学的物質の供給は、組織上で直接、または流れる媒体を介して間接的に(例えば、マイクロ流体デバイスの入口および出口を介して)行われてもよい。
【0034】
マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルを含み、前記少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルは、好ましくは、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーの上流の前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルから分岐し、前記少なくとも1つの第1培養チャンバーの下流の前記少なくとも1つの第1マイクロ流体チャネルに通じていてもよい。
【0035】
さらに、マイクロ流体デバイスは、心筋細胞とは異なる生体細胞を含む少なくとも1つの第2培養チャンバーを有していてもよい。これらの細胞は、好ましくは、肝細胞、腎細胞、神経細胞、脂肪組織及びこれらの組合せから成る群から選択され、少なくとも1つの第2培養チャンバーは、特に好ましくは、任意に、少なくとも1つの第2マイクロ流体チャネルを介して、少なくとも1つの培養チャンバーに流体的に接続される。流れに影響を与えるためのスロットルまたはバルブは、第2の培養チャンバーの上流に含まれていてもよい。マイクロ流体デバイスは、さらに、この種類の2つより多い培養チャンバーを有していてもよく、培養チャンバーの各々はこれらの特性を有していてもよい。培養チャンバーはまた、いずれの場合にも、例えば、プラグアンドソケット接続を介して、一次マイクロ流体デバイスのマイクロ流体チャネルに接続されている別個の従属マイクロ流体デバイスとして構成されてもよい。
【0036】
マイクロ流体デバイスは、第2培養チャンバーに含まれる生体細胞の活性を検出するように構成された少なくとも1つの第2検出器を含んでいてもよい。少なくとも1つの第2検出器は、好ましくは、光検出器を含み又はから成り、特に好ましくは、少なくとも1つの第2培養チャンバーに含まれる生体細胞の活性に関するシグナルをデータ取得ユニットに送るように構成されており、データ取得ユニットは、好ましくはシグナルを時間の関数として記録及び評価するように構成される。
【0037】
好ましい実施形態では、マイクロ流体デバイス、好ましくは少なくとも1つのマイクロ流体チャネル、少なくとも1つの第1培養チャンバー及び/又は少なくとも1つのリザーバーは、血液又は血液成分、好ましくは血液細胞、特に好ましくはがん細胞及び/又は免疫細胞、特に転移性がん細胞及び/又は単球を含む。
【0038】
少なくとも1つの制御デバイスは、流速測定デバイス、好ましくは粒子画像速度測定装置を含み、前記マイクロ流体デバイスは、特に好ましくは流速測定デバイスによって測定された流速に基づいて、マイクロ流体デバイスの少なくとも1つのポンプ、好ましくは全てのポンプを制御するように構成されていてもよい。さらに、マイクロ流体デバイスは、特に好ましくは、流速測定デバイスによって測定された流速に基づいて、マイクロ流体の少なくとも1つのバルブ及び/又は少なくとも1つのスロットル、好ましくは全てのバルブ及び/又は全てのスロットルを制御するように構成されていてもよい。
【0039】
マイクロ流体デバイスは、プラスチックを含み又はから成っていてもよい。プラスチックは、好ましくは、任意に構造化されていないプラスチックフィルムがさらに少なくとも1つラミネートされている、少なくとも1つの構造化プラスチックフィルムを含む又はから成る。さらに、プラスチックは、熱硬化性プラスチック、熱可塑性プラスチック、エラストマー及びこれらの組合せから成る群から選択され、特に好ましくはPC,PET,COC,PDMS,TPE及びこれらの組合せから成る群から選択される。加えて、プラスチックは、少なくとも部分的に、レーザー構造化、カッティングプロット、ホットエンボス加工、フライス加工、熱成形、射出成型、ソフトリソグラフィー、3D印刷及びこれらの組合せから成る群から選択される。
【0040】
制御デバイスは、マイクロ流体デバイス内の液体、固体及び気体物質の分布を、マイクロ流体デバイス内の細胞又は細胞群の具体的な要件に適合させるように構成され、好ましくは、ポンプ、少なくとも1つのバルブ、少なくとも1つのスロットル及び酸素供給器の選択的制御によって適合され、選択的制御は、特に好ましくは、特にマイクロ流体デバイス、好ましくは制御デバイス内に格納される数学的モデルを介して行われる。数学的モデルは、従属または一次マイクロ流体デバイス又は完全なマイクロ流体デバイスにおける流れ及び物質移動の物理的記述を含む。
【0041】
マイクロ流体デバイスは、流体の流速を検出するためのデバイスをさらに含んでいてもよい。したがって、流体の実際の流速を監視することができる。流速は、適応したモーショントラッキングモジュールを備えたPIVにより、流れる粒子又は細胞(例えば、血液成分)から非侵襲的に検出可能である。但し、侵襲的な測定(例えば、熱風速計)も可能である。
【0042】
マイクロ流体デバイスは、流体中のO
2含有量を検出するためのデバイスと、流体中のO
2含有量を制御するためのガス源とをさらに含んでいてもよい。したがって、必要に応じて、酸素によるマイクロ流体デバイス内の液体の濃縮を行うことができる。
【0043】
マイクロ流体デバイスは、(第1の)マイクロ流体デバイスへの並列または直列の流体接続(例えば、ただ1つの個別の流体接続、すなわち単一のマイクロ流体チャネルを介して)を有する、少なくとも1つのさらなるマイクロ流体デバイスを有していてもよい。流体接続は、好ましくは、少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を有する(例えば、いずれの場合も、マイクロ流体チャネルの形態で)。したがって、(第1の)マイクロ流体デバイスとさらなるマイクロ流体デバイスとの間に流体回路が形成されてもよい。この場合、(第1の)マイクロ流体デバイスは、一次マイクロ流体デバイスであってもよく、少なくとも1つのさらなる流体デバイスは、従属マイクロ流体デバイスであってもよい(逆もまた同様)。さらに、本発明に係るマイクロ流体デバイスは、それ自体、例えば、従属部分と主要部分に分割されてもよい。次に、心筋細胞を含む少なくとも1つの第1培養チャンバーは、マイクロ流体デバイスの従属部分、例えば、マイクロ流体デバイスの主要部分の少なくとも1つのポンプ及び/又は少なくとも1つの検出器に含まれていてもよい。少なくとも1つの検出器が一次部品に配置されている場合、それは従属部品と流体連絡していることがある。しかしながら、光検出器の場合、この流体連絡は必要ではない。マイクロ流体デバイスの主要部分又は主要なさらなるマイクロ流体デバイスのは、マイクロ流体デバイスの従属部分又は下位のさらなるマイクロ流体デバイスに接触する(およびその逆)層の形態で構成されてもよい。
【0044】
さらに、マイクロ流体デバイスは、(第1の)マイクロ流体デバイスと、及び/又は互いに(例えば、それぞれの場合、ただ1つの個別の流体接続、すなわち単一のマイクロ流体チャネルを介して)並列または直列の流体連絡を伴う、少なくとも2つのさらなるマイクロ流体デバイスを有していてもよい。流体接続は、好ましくは、少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を有する(例えば、いずれの場合も、マイクロ流体チャネルの形態で)。したがって、(第1の)マイクロ流体デバイスと少なくとも2つのさらなるマイクロ流体デバイスとの間に流体回路を形成することができる。この場合、(第1の)マイクロ流体デバイスは、一次マイクロ流体デバイスであってもよく、少なくとも2つのさらなる流体デバイスは、いずれの場合にも従属マイクロ流体デバイスであってもよい(逆もまた同様)。さらに、本発明に係る少なくとも2つのさらなるマイクロ流体デバイスの少なくとも1つ、任意に両方は、それ自体、例えば、従属部分と主要部分とに分割されてもよい。この場合、少なくとも1つのさらなる培養チャンバーには、心筋細胞ではない細胞(たとえば、肝細胞、腎細胞、神経細胞、脂肪組織及びこれらの組合せから成る群から選択された細胞)が含まれ、これらは、さらなるマイクロ流体デバイス及び、例えば、さらなるマイクロ流体デバイスの主要部分におけるさらなる培養チャンバーとは異なる少なくとも一部である。マイクロ流体デバイスの主要部分又は主要なさらなるマイクロ流体デバイスは、それぞれの場合に、マイクロ流体デバイスの下位部分又は下位のさらなるマイクロ流体デバイスに接触する(およびその逆)層の形態で構成されてもよい。
【0045】
本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用して、特定の物質又はその代謝産物が心筋細胞の活性に影響を与えるかどうかを検証すること、好ましくは、特定の物質が心筋細胞の頻脈又は徐脈を誘発する、又は心筋細胞の不整脈を引き起こすかどうかを検証することがさらに提案される。
【0046】
さらに、本発明に係るマイクロ流体デバイスを使用して、心筋細胞の活性の機械的、電気的及び/又はガス誘導の影響(例えば、酸素供給器を介して)が心筋細胞とは異なる生体細胞の活性に影響を与えるかどうかを検証することが提案される。好ましくは、この影響が生物細胞のアクティビティ(生存能力)に対して負の影響または正の影響を有するかどうか、およびその程度が検証される。
【0047】
本発明の主題は、以下の図に基づいてより詳細に説明され、ここに示す特定の実施形態に限定することを望まない。
【0048】
参照番号のリスト。
1.1: 心筋細胞;
1.2: 他の臓器の細胞(例えば、肝細胞);
2: マイクロ流体チャネル;
3: ポンプ(例えば、マイクロポンプ);
4.X: 検出器(例えば、多電極アレイ);
4.1: 光検出器(例えば、顕微鏡);
4.2: 電気検出器(例えば、多電極アレイ(“MEA”));
4.3: 機械式検出器(例えば、歪みゲージ);
5: 制御デバイス;
6.X: データ取得ユニット(例えば、心筋細胞活性を検出するため);
6.1: 徐脈;
6.2: 頻脈;
7.1: フローに影響を与えるためのポンプパラメータ(フィードバックループのシグナルとして);
7.2: フローに影響を与えるためのフローパラメーター(フィードバックループのシグナルとして);
7.3: 酸素供給器のガス組成(フィードバックループのシグナルとして);
8: 物質の供給;
9: 貯水池;
10: バルブ;
11: スロットル;
12: 弾性膜;
13: 心筋細胞の活性に影響を与えるための電気デバイス;
14: 心筋細胞の活動に影響を与えるための機械的デバイス;
15: 一次マイクロ流体デバイス;
16.1: 第1の下位のマイクロ流体デバイス;
16.2: 第2の下位のマイクロ流体デバイス;
17: 粒子(例えば、血液成分);
18.X: 構造化プラスチックフィルム;
19: 流体の流速を検出するためのデバイス;
20: O
2含有量を検出するためのデバイス(例えば、O
2センサー);
21: 酸素供給器;
22: 流体界面;
23: 作動チャネル(例えば、ガス源へのチャネル)。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、請求項1に記載の細胞培養実験のためのマイクロ流体デバイスの構成を示す。この実施形態では、心筋細胞1.1を有する細胞培養チャンバー、マイクロ流体チャネル2及び流体アクチュエーターとしてポンプ3を含むマイクロ流体デバイスが示される。心筋細胞の活性の読み出しのために、この構成では、光検出器4.1及び/又は多電極アレイ4.2が細胞培養チャンバーの下に配置される。検出器4.xによってピックアップされた信号は、データ取得ユニット6.xによって取得され、制御デバイス5に中継される。本発明によれば、制御システム5において、受信された信号が処理され、ポンプパラメータ7.1が流れに影響を与えるために適合される。
【
図2】
図2は、請求項1及び22に記載の細胞培養実験用のマイクロ流体デバイスの構成を示す。この実施形態では、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル2及び流体アクチュエーターとしてのポンプ3を含むマイクロ流体デバイスが示される。さらに、様々な種類の細胞(心筋細胞1.1、腎細胞1.2等)を含む細胞培養チャンバー1.xを備えたいくつかの従属マイクロ流体デバイスが存在する。少なくとも2つの従属マイクロ流体デバイスは、互いに、及び規定された流体インターフェース22を介して一次マイクロ流体デバイスに接続される。さらに、体積流量制御のための流体スロットル11は、各チャネル分岐の前に配置されてもよい。心筋細胞活性又は他の細胞タイプの生理学的パラメーターの読み出しのために、この構成では、光検出器4.1及び/又は多電極アレイ4.2及び/又は歪みゲージ4.3は、それぞれの場合において、細胞培養チャンバーの下に配置されてもよい。さらに、O
2センサー20および酸素供給器21は、マイクロ流体デバイス内に配置されてもよい。流速を測定するために、循環する粒子または細胞17の動きを検出するための光検出器19をマイクロ流体デバイスに配置されてもよい。検出器4.x、19および20によってピックアップされた信号は、データ取得ユニット6.xによって取得され、制御デバイス5に中継される。本発明によれば、制御システム5では、受信された信号が処理され、ポンプパラメータ7.1は、酸素供給器7.3の流量とガス組成に影響を与えるように適合される。 この構成では、細胞培養チャンバー1.1は、心筋細胞の活性に影響を与えるための電極13及び/又はアクチュエーター14をさらに備える。 提示されたマイクロ流体デバイスは、特定の物質8又はその代謝産物が心筋細胞の活性に影響を与えるかどうかを検証するために、好ましくは特定の物質が心筋細胞の徐脈6.1又は頻脈(
図3)6.2を誘発する、又は心筋細胞の不整脈を引き起こすかどうかを検証するために、本発明に従って使用されてもよい。
【
図3】
図3は、物質8を添加した後の
図2のマイクロ流体デバイスを示す。流量パラメーター7.2及びガス組成7.3は、物質を添加したときの心筋細胞の変化した活性6.2に基づいて適切に適合される。
【
図4】
図4は、請求項1及び22に記載のマイクロ流体デバイスを示す。この実施形態では、一次マイクロ流体デバイス15は、ポンプ3、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル2、2つのリザーバー9、バルブ10、流体スロットル11及び酸素供給器21を含み、規定された流体インターフェース22を介して、少なくとも1つの第1従属マイクロ流体デバイス16.1に接続され、この場合、少なくとも1つの第2従属マイクロ流体デバイス16.2と接続される。
【
図5】
図5は、いくつかの積層プラスチックフィルム18.xから成る一次マイクロ流体デバイス15と、いくつかの従属マイクロ流体デバイス16.1,16.2と、を含む、
図4に係るマイクロ流体デバイスの構造を示す。この実施形態では、マイクロ流体デバイスは、いくつかの多電極アレイ4.xを含む。
【
図6】
図6は、少なくとも3つ(ここでは4つ)の積層プラスチックフィルム18.x、マイクロ流体チャネル2及び弾性膜12から成る流体スロットルの実施形態を示す。この実施形態では、弾性膜は、チャネル23の作動によって歪んでもよい。
図6は、流体スロットルの作動(偏向)及び非作動(非偏向)状態を示す。
【国際調査報告】