特表2020-534353(P2020-534353A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-5343531,1−二置換アルケンの製造のための触媒サイクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-534353(P2020-534353A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】1,1−二置換アルケンの製造のための触媒サイクル
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/343 20060101AFI20201030BHJP
   C07C 69/593 20060101ALI20201030BHJP
   C07C 49/794 20060101ALI20201030BHJP
   C07C 49/796 20060101ALI20201030BHJP
   C07C 45/75 20060101ALI20201030BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20201030BHJP
   B01J 31/04 20060101ALI20201030BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201030BHJP
【FI】
   C07C67/343
   C07C69/593
   C07C49/794
   C07C49/796
   C07C45/75
   B01J37/04 102
   B01J31/04 Z
   C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2020-536913(P2020-536913)
(86)(22)【出願日】2018年9月12日
(85)【翻訳文提出日】2020年5月14日
(86)【国際出願番号】US2018050540
(87)【国際公開番号】WO2019060188
(87)【国際公開日】20190328
(31)【優先権主張番号】62/560,280
(32)【優先日】2017年9月19日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】513099186
【氏名又は名称】シラス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ジェフリー・エム
(72)【発明者】
【氏名】ドッシ,アミ
(72)【発明者】
【氏名】パラブ,クシュティジ・ケイ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA36A
4G169BA43A
4G169BB10A
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE08A
4G169BE08B
4G169BE09A
4G169BE09B
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169BE22A
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169CB25
4G169CB59
4G169CB65
4G169CB66
4G169CB71
4G169DA05
4G169FA01
4G169FB04
4G169FC07
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC25
4H006BA51
4H006BC10
4H006BC19
4H006BC34
4H006KA31
4H006KC14
4H039CA29
4H039CL25
(57)【要約】
本教示は、アミン塩触媒を、カルボニル基の間にアルキレン基を有するジカルボニル化合物と接触させること、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はホルマリンを、約2:1〜約3:1モルのホルムアルデヒドの量でこのジカルボニル化合物のモルに添加して混合物を形成すること及びこの混合物を還流することを開示する。この方法は、カルボニル置換アルケンを形成する。この方法は、溶媒の不存在下で行ってもよい。この方法は、メチレンマロネート、メチレンジマロネート、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどを形成し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)酸性アミン塩触媒を、カルボニル基の間にアルキレン基を有するジカルボニル化合物と接触させること、
b)ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンを、約2:1〜約3:1のホルムアルデヒドのモルと前記ジカルボニル化合物のモルとの量で添加して混合物を形成すること、及び
c)前記混合物を還流すること
を含む方法であって、
前記方法により、カルボニル置換アルケンが形成される、方法。
【請求項2】
前記方法が、マンニッヒ型反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンが、約2.0〜約2.1当量の量で添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジカルボニル化合物が、ジエステル、ジケトン、ジアミド、ケトエステル、ケトアミド又はエステルアミドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ジカルボニル化合物が、ヒドロカルビルマロネートであり、前記ヒドロカルビルマロネートにおけるヒドロカルビル基が、アルキル、シクロアルキル、ポリエーテル基;、又は1つ以上のアリール置換アルキル基を有するジケトンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ジカルボニル化合物が、1−フェニルブタン−1,3−ジオン、1,3−ジフェニルプロパン−1,3−ジオン、ジエチルマロネート、ジシクロヘキシルマロネート又はエチルシクロヘキシルマロネートから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アミン塩触媒が、酸を塩基と反応させることにより調製され、前記酸が、約2〜約−6のブレンステッド酸性度を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、立体障害のあるアンモニウムカチオンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、第二級アンモニウムカチオンである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸が、約2〜約−6のpKaを有する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸が、トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸又は酢酸から選択される、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アミン塩触媒が、ジイソプロピルアンモニウムトリフルオロアセテート、ジイソプロピルアンモニウムアセテート又はジイソプロピルアンモニウムメタンスルホネートである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アミン塩触媒が、触媒量で供給される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アミン塩触媒が、前記ジカルボニル化合物に対して約25モル%以下の量で供給される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アミン塩触媒が、前記ジカルボニル化合物に対して約7モル%以下の量で供給される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、溶媒の不存在下で行われる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アミン塩触媒が、化学量論量で供給される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、ジカルボニル化合物を溶媒に溶解させることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒が、極性非プロトン性溶媒である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、メチルTHF、ジメトキシエタン又はジエトキシエタンから選択される、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物が、約80℃以上の温度に加熱される、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記混合物が、約120℃以下の温度に加熱される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が、約5時間以下の反応時間を有する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、約3時間以下の反応時間を有する、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が、約85%以上の限定試薬の転化率を達成する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記カルボニル置換アルケンが、式1に示され:
【化1】

式中、各Rは、独立して、1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であり、各Xは、独立して、酸素、窒素又は直接結合である、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記カルボニル置換アルケンが、式2に示され:
【化2】

式中、R1及びR2は、独立して、水素又は1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基である、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記カルボニル置換アルケンが、以下から選択される:
【化3】
請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法により形成されたカルボニル置換アルケン。
【請求項30】
請求項29に記載のカルボニル置換アルケンから調製されたポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年9月19日出願の米国仮出願第62/560,280号に対する米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張し、この仮出願は、本出願においてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
1,1−二置換アルケンなどのカルボニル置換アルケンの調製方法を開示する。開示されている方法は、中間体ジオール及びジオールクラッキング工程を排除する。
【背景技術】
【0003】
1,1−二置換アルケンは、周囲温度で塩基性物質と接触して重合することが可能であるため、興味深い。さらに、それらの官能基は、種々の化合物及び重合性組成物の形成において大きな柔軟性をもたらす。1,1−二置換アルケンとしては、メチレンマロネート、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどが挙げられる。このような化合物は、ジエチルメチレンマロネートの形成がW.H.Perkin,Jr.によって最初に実証された1886年以来知られている(Perkin,Ber.19,1053(1886))。メチレンマロネートを製造するための初期の方法は、数ある問題の中でも特に、合成中のモノマーの不要な重合(例えば、ポリマー若しくはオリゴマー又は別の複合体の形成)、望ましくない副生成物(例えば、迅速な重合を妨げるケタール又は他の潜在的な酸形成種)の形成、生成物の分解、不十分な及び/又は低い収率並びに有効でない及び/又は機能性が不十分なモノマー生成物(例えば、乏しい接着特性、安定性又は他の機能特性)を含む、商業的に実現可能なモノマーを得るためにそれらを使用することを妨げる重大な欠陥を抱えている。従来の方法で形成されたモノマー生成物の全体的に不十分な収率、品質及び化学的性能は、上記の生成物の製造における従来法の実用に影響を及ぼしている。
【0004】
近年、メチレンマロネート及びその類似体の合成に関連する多くの問題を解決した多くの所有者共通の特許出願、例えば、米国特許第8,609,885号(Malofskyら)、米国特許第8,884,051号(Malofsky)、米国特許第9,108,914号(Malofskyら)及び米国特許第9,518,001号(Sullivanら)が出願されている。これらに示される合成手順は、これまで解決されなかった、高品質のメチレンマロネート及び他の重合性組成物の収率を改善する。
【0005】
米国特許第9,108,914号(Malofskyら)は、2段階工程のメチレンマロネートの調製を開示しており、この工程の第1段階は、反応触媒の存在下でホルムアルデヒド源をジアルキルマロネートエステルと反応させて、ジアルキルビス(ヒドロキシメチル)マロネート組成物を含むジオール反応生成物を形成すること及び好適な触媒の存在下でジアルキルビス(ヒドロキシル−メチル)マロネート組成物を反応させて、メチレンマロネートモノマーを形成し、このメチレンマロネートモノマーを単離することを含む。開示されている触媒は、例示された水酸化カルシウムなどの塩基であり、1,1−ジカルボニル置換−1−エチレンとメチレンマロネートとの不要な重合を回避するために、第2段階の前に除去される必要がある。
【0006】
米国特許第9,518,001号(Sullivanら)もまた、中間反応生成物及び1,1−ジカルボニル置換−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)メタンのホルムアルデヒド及び水の放出を伴うモノマー種への熱分解を指す「クラッキング反応」を受けるヒドロキシルメチル基の形成によるメチレンマロネートの調製を開示している。
【0007】
業界は、カルボニル置換アルケンを製造する新規な又はより簡単な方法を常に求めている。メチレンマロネート、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどの種々の1,1−二置換アルケンへの一般的な合成経路を提供することが望ましい。また、これらの1,1−二置換アルケン(1,1−disubstited alkenes)への直接経路を提供し、それにより中間反応生成物(例えば、中間体ジオール)及びクラッキング反応又はクラッキング工程の必要性を排除することも望まれている。
【0008】
カルボニルの直接的なメチレン化を提供する取り組みは、「Efficient,direct α−methylenation of carbonyls mediated by diisopropylammonium trifluoroacetate」(46 Chem.Commun.2010,1715−17)と題する論文に記載されている。しかしながら、そこに開示されている反応は、大過剰のパラホルムアルデヒドを必要とし、反応時間は長い(すなわち、8時間超)。また、この論文は、触媒量の触媒を使用した場合、反応が著しく遅くなったことにも注目している。化学量論量で使用される触媒には溶媒が必要である。反応に必要なホルムアルデヒドの量を低減すること、反応時間を低減すること、必要な触媒の量を低減すること、溶媒の不存在下で触媒を触媒量で使用して反応を行うこと又はその組み合わせが望ましい。
【0009】
したがって、1,1−二置換アルケンなどのカルボニル置換アルケンを調製することができる改善又は簡略化された方法が必要とされている。必要とされるのは、メチレンマロネート、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステル(methylene keto testers)などのすべての1,1−二置換アルケンへの一般的な合成経路である。また、1,1−二置換アルケンへの直接経路も必要とされ、それにより中間体ジオールを排除して、このジオールのクラッキング工程を排除する。さらに、これらの1,1−二置換アルケンの調製工程を最小限に抑え、廃棄物を低減し、構成成分の数若しくは成分の量を低減し、無溶媒の方法を可能にし、反応時間を短縮する又はその組み合わせである方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第8,609,885号明細書
【特許文献2】米国特許第8,884,051号明細書
【特許文献3】米国特許第9,108,914号明細書
【特許文献4】米国特許第9,518,001号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W.H.Perkin,Jr.(Perkin,Ber.19,1053(1886))
【非特許文献2】「Efficient,direct α−methylenation of carbonyls mediated by diisopropylammonium trifluoroacetate」(Chem.Commun.,2010,46,1715−1717)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
アミン塩触媒を、カルボニル基の間にアルキレン基を有するジカルボニル化合物と接触させること、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はホルマリンを、約2:1〜約3:1モルのホルムアルデヒドの量でこのジカルボニル化合物のモルに添加して混合物を形成すること及びこの混合物を還流することを含む方法を開示する。ここで、この方法は、カルボニル置換アルケンを形成する。この方法は、マンニッヒ型反応であり得る。この方法は、メチレンマロネート、メチレンジマロネート、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどを形成し得る。
【0013】
ジカルボニル化合物は、ジエステル、ジケトン、ジアミド、ケトエステル、ケトアミド又はエステルアミドであり得る。ジカルボニル化合物は、ヒドロカルビル基がアルキル基、シクロアルキル基又はポリエーテル基であるヒドロカルビルマロネートであり得る。ジカルボニル化合物は、1つ以上のアリール置換アルキル基を有するジケトンであってもよい。アミン塩触媒は、酸を塩基と反応させることにより調製してもよい。酸は、約2〜約−5のブレンステッド酸性度を有し得る。酸は、約2〜約−5のpKaを有し得る。例示的な酸は、トリフルオロ酢酸、硫酸又はメタンスルホン酸から選択され得る。塩基は、立体障害のあるアンモニウムカチオンであってもよい。塩基は、第二級アンモニウムカチオンであってもよい。アミン塩触媒は、ジイソプロピルアンモニウムトリフルオロアセテートであってもよい。この方法の混合物は、約80℃以上の温度に加熱されてもよい。この方法の混合物は、約120℃以下の温度に加熱されてもよい。この方法は、約5時間以下又は約3時間以下の反応時間を有し得る。この方法は、約90%以上の収率を達成し得る。
【0014】
この方法は、溶媒の不存在下で行ってもよい。アミン塩触媒は、触媒量で供給されてもよい。例えば、アミン塩触媒は、ジカルボニル化合物に対して約25モル%以下、約10モル%以下又は約7モル%以下の量で供給されてもよい。
【0015】
この方法は、溶媒を使用して行ってもよい。この方法は、ジカルボニル化合物を極性非プロトン性溶媒などの溶媒に溶解させることを含んでもよい。アミン塩触媒は、化学量論量で供給されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に提示されている説明及び例示は、本発明、その原理及びその実用的な応用を当業者に知らせることを意図している。記載されている本開示の特定の実施形態は、本開示の範囲を網羅又は限定することを意図するものではない。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲及びかかる特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲を参照して決定されるべきである。特許出願及び刊行物を含むすべての論文及び参考文献の開示は、本出願において参照により組み込まれる。以下の特許請求の範囲から得られるように、他の組み合わせも可能であり、これらもまた、本明細書に参照により組み込まれる。
【0017】
1,1−二置換アルケンへの直接経路の方法を開示する。この方法は、アミン塩触媒を、カルボニル基の間にアルキレン基を有するジカルボニル化合物と接触させること、ホルムアルデヒド源を、約2:1〜約3:1モルのホルムアルデヒドの量でこのジカルボニル化合物のモルに添加して混合物を形成すること及びこの混合物を還流することを含み得る。ここで、この方法は、カルボニル置換アルケンを形成する。この方法は、中間体ジオール生成物又はジオールクラッキング工程を必要とせずに、メチレンマロネート、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどの形成をもたらす可能性があるマンニッヒ型反応であり得る。マンニッヒ反応は、エノール化可能なカルボニル化合物とエノール化が可能でないアルデヒド及び第一級アミン又は第二級アミンとの縮合を伴うアミノアルキル化反応であり、β−アミノカルボニル化合物を形成する。
【0018】
本明細書で使用される場合、1つ以上は、列挙された構成要素の少なくとも1つ又は複数が開示されているように使用され得ることを意味する。官能性に関して使用される基準は、理論的な官能性を意味し、これは、一般的に、使用される成分の化学量論から算出され得る。一般的に、実際の官能性は、原料の不完全性、反応物の不完全な変換及び副生成物の形成により異なる。構成成分の残留物含有量は、遊離形態で存在するか又はオリゴマー若しくはポリマーなどの別の物質と反応した構成成分の量を指す。通常、構成成分の残留物含有量は、構成成分又は組成物を調製するために利用される成分から算出され得る。又は、上記含有量は、既知の分析技術を利用して決定され得る。ヘテロ原子は、窒素、酸素、硫黄及びリンを意味する。いくつかの実施形態では、ヘテロ原子は、窒素及び酸素である。本明細書で使用される場合、ヒドロカルビルは、1つ以上の炭素原子主鎖及び水素原子を含有する基を指し、この基は、1つ以上のヘテロ原子を任意に含有してもよい。ヒドロカルビル基がヘテロ原子を含有する場合、ヘテロ原子は、当業者に周知の1つ以上の官能基を形成し得る。ヒドロカルビル基は、脂環式、脂肪族、芳香族又はそのようなセグメントの任意の組み合わせを含有してもよい。脂肪族セグメントは、直鎖又は分枝鎖であってもよい。脂肪族及び脂環式セグメントは、1つ以上の二重結合及び/又は三重結合を含んでもよい。ヒドロカルビル基には、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルカリール及びアラルキル基が含まれる。脂環式基は、環状部分及び非環状部分の両方を含有してもよい。ヒドロカルビレンは、ヒドロカルビル基又はアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、アルカリレン及びアラルキレンなどの複数の価数を有する記載のサブセットのいずれかを意味する。本明細書で使用される場合、重量パーセント又は重量部は、特に明記しない限り、重量若しくは組成物を指すか又はそれらに基づいている。
【0019】
用語「単官能性」は、1つのコア単位のみを有する1,1−二置換アルケン化合物を指す。このコア単位は、カルボニル基及び1つの炭素原子に結合したアルキレン基の組み合わせで表される。
【0020】
用語「二官能性」は、2つのコア式の各々における1つの酸素原子間のヒドロカルビレン連結を介して結合した2つのコア式(反応性アルケン官能基を含有する)を有する1,1−二置換アルケン化合物を指す。
【0021】
用語「多官能性」は、2つの隣接したコア式の各々における1つのヘテロ原子(酸素原子)又は直接結合の間のヒドロカルビレン連結を介して鎖を形成し得る2つ以上のコア単位(反応性アルケン官能性など)を有する1,1−二置換アルケン化合物を指す。
【0022】
用語「ケタール」は、ケタール官能性を有する分子、すなわち、2つの−OR基に結合した炭素を含有する分子を指す。ここで、Oは酸素であり、Rは任意のアルキル基又は水素を表す。
【0023】
用語「揮発性」は、化合物が常温常圧で容易に蒸発することが可能であることを指す。
【0024】
用語「不揮発性」は、化合物が常温常圧で容易に蒸発することが可能でないことを指す。
【0025】
用語「安定化された」(例えば、「安定化された」1,1−二置換アルケン化合物又はそれを含む組成物の文脈において)は、化合物(又はそれらの組成物)が時間とともに実質的に重合しない、時間とともに実質的に硬化しない、ゲルを形成しない、増粘しない若しくはそうでなければ粘度を増加させない及び/又は時間とともに硬化速度の最小限の損失を実質的に示す(すなわち、硬化速度が維持される))傾向を指す。
【0026】
別途定義しない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味を有する。以下の参照文献は、本開示で使用されている用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991);及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。
【0027】
本教示は、カルボニル置換アルケンを製造するための一般的な合成経路に関する。この方法は、出発カルボニル化合物のメチレン化に関し得る。この方法は、1,1−二置換アルケン(1,1−disubstited alkenes)への直接経路であり得、それにより中間体ジオール及び/又はジオールクラッキング工程を排除する。この方法は、触媒を、ホルムアルデヒドを添加する出発カルボニル化合物と接触させ、この混合物を還流させてカルボニル置換アルケンを形成することを含み得る。この方法は、マンニッヒ型反応であり得る。この方法から得られるカルボニル置換アルケンには、メチレンマロネート、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミド、メチレンジケトン、メチレンケトエステルなどが含まれ得る。
【0028】
この方法のための出発カルボニル化合物は、1つ以上のエステル基、1つ以上のケト基、1つ以上のアミド基又はその組み合わせを含有するジカルボニル化合物であり得る。出発カルボニル化合物は、液体であってもよい。出発カルボニル化合物は、溶媒に溶解又は懸濁させることができる固体であってもよい。出発カルボニル化合物は、反応が行われる温度以下の融点を有し得る。例えば、出発カルボニル化合物の融点は、約80℃以下であり得る。出発カルボニル化合物は、例えば、ジエステル、ジケトン、ジアミド、ケトエステル、ケトアミド又はエステルアミドであり得る。出発カルボニル化合物は、ヒドロカルビルマロネートであってもよい。ヒドロカルビル基は、アルキル基、シクロアルキル基又はポリエーテル基であってもよい。ジカルボニル化合物は、1つ以上のアリール置換アルキル基を有するジケトンであってもよい。出発カルボニル化合物は、次式に相当し得る:
【0029】
【化1】
【0030】
式中、X及びXは、出現毎に別々に、酸素原子又は直接結合であり、R及びRは、出現毎に別々に、同一の又は異なるヒドロカルビル基である。出発カルボニル化合物は、次式に相当するエステル基を含んでもよく:
【0031】
【化2】
【0032】
式中、R及びRは、出現毎に別々に、同一の又は異なるヒドロカルビル基である。出発カルボニル化合物は、次式に相当するケト基を含んでもよく:
【0033】
【化3】
【0034】
式中、R及びRは、出現毎に別々に、同一の又は異なるヒドロカルビル基である。出発カルボニル化合物は、次式に相当する1つ以上のエステル基及び1つ以上のケト基を含んでもよく:
【0035】
【化4】
【0036】
式中、R及びRは、出現毎に別々に、同一の又は異なるヒドロカルビル基である。出発カルボニル化合物は、次式に相当する1つ以上のアミド基を含んでもよく:
【0037】
【化5】
【0038】
式中、R1及びR2は、出現毎に別々に、水素又は1つ以上のヘテロ原子で任意に置換されたヒドロカルビル基である。エステル基、ケト基及びアミド基の他の組み合わせもまた考えられる。出発カルボニル化合物は、1−フェニルブタン−1,3−ジオン、1,3−ジフェニルプロパン−1,3−ジオン、ジエチルマロネート、ジシクロヘキシルマロネート、エチルシクロヘキシルマロネート又は任意の他のマロネートから選択されてもよい。
【0039】
この方法は、出発カルボニル化合物を触媒と接触させることを含む。触媒は、不均一系触媒であってもよい。触媒は、低温での結晶化、水での抽出による分離(例えば、液液抽出)などの方法により容易に分離される能力に基づいて選択される場合がある。例えば、触媒は、その官能性に基づいて選択される場合があり、その官能性は、反応混合物において触媒を不溶性にさせ得る。触媒は、酸を塩基と反応させることにより調製してもよい。触媒は、アミン塩触媒であってもよい。アミン触媒は、酸と結合した立体障害のあるアンモニウムカチオンであってもよい。したがって、塩基は、立体障害のあるアンモニウムカチオンであってもよい。塩基は、第二級アンモニウムカチオンであってもよい。酸は、中間体のブレンステッド酸であってもよい。酸は、約2以下、約1以下又は約0以下のブレンステッド酸性度を有し得る。酸は、約−6以上、約−4以上又は約−2以上のブレンステッド酸性度を有し得る。酸は、約2以下、約1以下又は約0以下のpKaを有し得る。酸は、約−6以上、約−4以上又は約−2以上のpKaを有し得る。例えば、酸は、トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸又は酢酸から選択され得る。アミン塩触媒は、例えば、ジイソプロピルアンモニウムトリフルオロアセテート、ジイソプロピルアンモニウムアセテート又はジイソプロピルアンモニウムメタンスルホネートから選択され得る。
【0040】
触媒は、予め単離された塩として供給されてもよい。塩は、酸を塩基と反応させて固体を得て、この固体をメタノール中での結晶化により精製することにより調製してよい。例えば、マンニッヒ塩は、トリフルオロ酢酸(trifluoroacteic acid)をジイソプロピルアミンと反応させて白色から黄色の固体を得て、この固体を次に、メタノール中での結晶化により精製して白色結晶を得ることにより調製してよい。予め単離された塩を出発カルボニル化合物に添加し、続いてホルムアルデヒドを添加し、反応が起こるように加熱してもよい。触媒は、触媒量で供給されてもよい。触媒は、出発ジカルボニル化合物に対して約25モル%以下、約20モル%以下、約10モル%以下、約8モル%以下又は約7モル%以下の量で供給されてもよい。
【0041】
触媒は、インサイチュで調製されてもよい。出発カルボニル化合物は、溶媒に溶解又は懸濁させてもよい。塩の塩基を、溶媒及び出発カルボニル化合物に添加してもよい。塩の酸を、溶媒及び出発カルボニル化合物に添加してもよい。塩基及び酸を添加すると、インサイチュで塩が形成される場合がある。触媒の構成成分の添加及び/又は触媒のインサイチュでの形成により発熱が観察される場合がある。出発カルボニル化合物が懸濁又は溶解される溶媒は、極性非プロトン性溶媒であってもよい。溶媒は、約80℃以上、約90℃以上又は約95℃以上の沸点を有し得る。溶媒は、約120℃以下、約110℃以下又は約105℃以下の沸点を有し得る。溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン又はジエトキシエタンから選択されてもよい。触媒は、化学量論量で供給されてもよい。酸は、わずかに過剰に供給されてもよい。
【0042】
この方法はさらに、ホルムアルデヒド又はその供給源を触媒及び出発カルボニル化合物に添加して混合物を形成することを含む。例示的なホルムアルデヒド供給源としては、ホルムアルデヒド、トリオキサン、ホルマリン又はパラホルムアルデヒドが挙げられる。ホルムアルデヒド源は、メタノール、水又はその両方を実質的に含まない場合がある。ホルムアルデヒドは、出発ジカルボニル化合物のモルに対して約2:1以上、約2.15:1以上又は約2.25:1以上のホルムアルデヒドのモルの量で添加してもよい。ホルムアルデヒドは、出発ジカルボニル化合物のモルに対して約3:1以下、約2.85:1以下又は約2.75:1以下のホルムアルデヒドのモルの量で添加してもよい。ホルムアルデヒドは、約0.75当量以上、約1当量以上又は約2.0当量以上の量で添加してもよい。ホルムアルデヒドは、約4当量以下、約3当量以下又は約2.1当量以下の量で添加してもよい。
【0043】
この方法は、連続法で達成され得る。この反応は、溶媒の添加なしで達成され得る。この反応工程は、大気圧で達成され得る。次に、出発ジカルボニル化合物、触媒及びホルムアルデヒド源の混合物を加熱してもよい。この反応物は、約65℃以上、約70℃以上又は約80℃以上に加熱されてもよい。この反応物は、約120℃以下、約110℃以下又は約100℃以下に加熱されてもよい。反応に加えられる熱は、触媒がどのように供給されるかに依存し得る。例えば、触媒が予め単離された塩として供給される場合、より高い温度が用いられ得る。そのような温度は、約80℃以上又は約100℃以下であり得る。触媒が溶媒の存在下で、インサイチュで塩として供給される場合、より低い温度が用いられ得る。例えば、この反応は約68℃で起こる場合がある。この加熱工程で、反応物を、約8時間以下、約6時間以下又は約5時間以下にわたって還流してもよい。この加熱工程で、反応物を、約0.5時間以上、約1時間以上又は約2時間以上にわたって還流してもよい。所望の生成物への変換を確認するために、反応を1H NMR及び/又はGC−MSでモニタしてもよい。この方法は、約40%以上、約45%以上又は約50%以上のモル収率を達成し得る。この方法は、約80%以下、約75%以下又は約70%以下のモル収率を達成し得る。限定試薬(例えば、マロネート)の転化率は、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上又は約99%以上であり得る。
【0044】
反応の最後に、任意の溶媒を除去してもよい。溶媒の除去は、ロータリーエバポレータなどにより減圧下で行われてもよい。混合物から所望の生成物を分離するために蒸留を行ってもよい。単離した生成物又は粗製混合物をエーテル又はエチルアセテートに溶解し、水、ブライン又はその両方で抽出してもよい。得られた有機溶液は、硫酸ナトリウムなどで脱水させてもよい。
【0045】
この方法は、以下の反応サイクルにより例示され得る:
【0046】
【化6】
【0047】
式中、Rは、出現毎に別々に、アルキル基、アルコキシ基、アミン基又はその組み合わせであってもよい。
【0048】
開示されている方法から得られる組成物は、任意のカルボニル置換アルケンを含有してもよい。この方法は、単官能性及び/又は多官能性モノマーをもたらし得る。これらのモノマーは、マイケル付加なしで製造され得る。例えば、この方法から得られる組成物は、1,1−ジカルボニル置換エチレン化合物を含有してもよい。1,1−ジカルボニル置換エチレン化合物は、二重結合で結合した炭素を有し、2つのカルボニル炭素原子にさらに結合している化合物を指す。例示的な化合物を式1に示す:
【0049】
【化7】
【0050】
式中、Rは1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり、Xは酸素又は直接結合である(メチレンβ−ケトエステルなど)。1,1−ジカルボニル置換エチレンの例示的な部類は、メチレンマロネート、メチレンβ−ケトエステル又はジケトンである。メチレンマロネートを式2により例示する:
【0051】
【化8】
【0052】
Rは、独立して、アルキル、アルケニル、C−Cシクロアルキル、ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、アリール、アラルキル、アルカリール、ヘテロアリール若しくはアルクヘテロアリール(alkheteroaryl)又はポリオキシアキレン(polyoxyakylene)又は5〜7員環若しくは複素環であり得る。Rは、独立して、C−C15アルキル、C−C15アルケニル、C−Cシクロアルキル、C2−20ヘテロシクリル、C3−20アルクヘテロシクリル(alkheterocyclyl)、C6−18アリール、C7−25アルカリール、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリール若しくはC6−25アルキルヘテロアリール又はポリオキシアルキレン又は5〜7員環若しくは複素環であり得る。列挙されている基は、本明細書に開示されている反応を阻害しない1つ以上の置換基で置換されてもよい。例示的な置換基としては、ハロアルキルチオ、アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシ又はエステルが挙げられる。Rは、独立して、C−C15アルキル、C−Cシクロアルキル、C4−18ヘテロシクリル、C4−18アルクヘテロシクリル、C6−18アリール、C7−25アルカリール、C7−25アラルキル、C5−18ヘテロアリール若しくはC6−25アルキルヘテロアリール又はポリオキシアルキレンであり得る。Rは、独立して、C1−4アルキルであってもよい。Rは、独立して、メチル又はエチルであり得る。Rは、1,1−ジカルボニル置換エチレンの各エステル基で同一であってもよい。例示的な化合物は、ジメチル、ジエチル、エチルメチル、ジプロピル、ジブチル、ジフェニル及びエチル−エチルグルコネートマロネート又はジメチル及びジエチルメチレンマロネート(Rは、メチル又はエチルのいずれかである)である。
【0053】
カルボニル置換アルケンの別の例示的な部類には、1つ以上のアミン基が含まれ得る。上記の式1の−XR基の一方又は両方は、その代わりに下記であってよい、
【0054】
【化9】
【0055】
次に、カルボニル置換アルケンは、メチレンジマロンアミド、メチレンケトマロンアミドなどを形成し得る。例えば、2つ以上のアミン基を有するカルボニル置換アルケンは、式3に相当し得る:
【0056】
【化10】
式中、R1及びR2は、出現毎に別々に、水素又は1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であってもよい。1つ以上のアミン基を有する混合官能性モノマロンアミドなどのカルボニル置換アルケンは、式4に相当し得る:
【0057】
【化11】
【0058】
式中、Rは1つ以上のヘテロ原子を含有し得るヒドロカルビル基であり、Xは酸素又は直接結合であり、R1及びR2は、独立して、水素又は1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であってもよい。得られるカルボニル置換アルケンは、例えば、以下から選択されてもよい:
【0059】
【化12】
【0060】
本明細書に開示されているカルボニル置換アルケン化合物は、それらが重合され得るのに十分に高い純度を示し得る。カルボニル置換アルケンの純度は、カルボニル置換アルケンの約70モルパーセント以上、約80モルパーセント以上、約90モルパーセント以上、約95モルパーセント以上又は約99モルパーセント以上が、重合工程中にポリマーへ変換されるように十分に高くてよい。カルボニル置換アルケンの純度は、カルボニル置換アルケンの総重量を基準として、約96モルパーセント以上、約97モルパーセント以上、約98モルパーセント以上、約99モルパーセント以上又は約99.5モルパーセント以上である。ジオキサン基を含有する任意の不純物の濃度は、カルボニル置換アルケンの総重量を基準として、約2モルパーセント以下、約1モルパーセント以下、約0.2モルパーセント以下又は約0.05モルパーセント以下であってもよい。(例えば、水を用いたアルケンのマイケル付加により)類似のヒドロキシアルキル基で置換されたアルケン基を有する任意の不純物の総濃度は、カルボニル置換アルケンにおける総モルを基準として、約3モルパーセント以下、約1モルパーセント以下、約0.1モルパーセント以下又は約0.01モルパーセント以下であってもよい。
【0061】
調製された1つ以上の1,1−ジカルボニル置換−1−エチレンは、かかる生成物を回収するための任意の既知の方法を使用して単離されてもよく、例えば、米国特許第8,6098985号(Malofskyら)、米国特許第8,884,051号(Mardirossian)及び米国特許第9,108,914号(Malofskyら)を参照されたい。所望の生成物は、種々の副生成物、副反応生成物及び不純物から分離される。種々の分離方法又は操作を利用してもよい。例示的な分離方法には、一連の凝縮及び蒸留工程が含まれる。例示的な分離ユニットとしては、熱凝縮器、凝縮器、真空蒸留装置、簡易蒸留装置及び/又は分別蒸留装置が挙げられる。液−液抽出法を用いてもよい。このような方法は、例えば、塩不純物の除去に有用であり得る。いくつかの例示的な実施形態では、分離技術は、確実な工学原理に従って、大気圧下、真空下又は加圧下で用いられてもよい。
【0062】
開示されている組成物は、ホモポリマー及びコポリマーを調製するために利用され得る。組成物の純度が高いほど、ホモポリマー及びコポリマーの制御が向上し、所望の分子量及び多分散度を調製することができる。ポリマー中の多量の1,1−二置換アルケンは、ポリマーを可塑化するように機能するため、多くの用途において望ましくない場合がある。したがって、1,1−二置換アルケンの量が少ないほど、ポリマーの特性をより適切に制御できる可能性がある。このポリマーは、約3重量パーセント以下の1,1−二置換アルケン、約2重量パーセント以下の1,1−二置換アルケン又は約1重量パーセント以下の1,1−二置換アルケンを含有する。調製されたポリマーは、約5,000ダルトン以上の分子量、約10,000ダルトン以上の分子量又は約500,000ダルトン以上の分子量を有し得る。このポリマーは、約1,000,000ダルトン以下又は約100,000以下の分子量を有し得る。調製されたポリマーは、約1以上の多分散度を有し得る。ポリマーは、約3以下、約2以下又は約1.1以下の多分散度を有し得る。
【0063】
本明細書に開示されている重合性組成物は、組成物をフリーラジカル重合条件又はアニオン重合条件にさらすことにより重合させることができる。米国特許第6,458,956号(Sutorisら)に開示されているように、フリーラジカル重合条件は当業者に周知である。特定の実施形態では、重合性組成物は、アニオン重合条件にさらされる。重合性組成物は、任意のアニオン重合開始剤又は任意の求核物質と接触する。求電子性の高い1,1−二置換アルケンが任意の求核物質と接触すると、アニオン重合を開始される。アニオン重合は、ポリマー鎖の末端部分が求核性であり、任意の未反応の1,1−二置換アルケンと反応するため、リビング重合と一般に称される。したがって、重合性組成物は、すべての利用可能な未反応の1,1−二置換アルケンが重合するまで又は重合混合物が急冷工程に供されるまで継続する。急冷工程で、混合物を酸と接触させて、ポリマー鎖の末端を停止させ、さらなる重合を停止させる。重合は、周囲条件に応じて、約20℃〜約35℃の周囲温度を含む任意の合理的な温度で進行することができる。重合は、溶媒若しくは分散剤を用いずにバルクで又は溶媒若しくは分散剤中で行うことができる。
【0064】
特定の実施形態によると、好適な重合開始剤は、選択された重合性組成物との接触の際に重合を実質的に開始させることができる任意の薬剤から概して選択され得る。特定の実施形態では、周囲条件下で、熱又は放射線からの外部エネルギーを必要とせずに重合を誘導することができる重合開始剤を選択することが有利であり得る。重合性組成物が1つ以上の1,1−二置換アルケン化合物を含む実施形態では、アニオン重合を開始させることができる大抵の求核性反応開始剤を含む多種多様な重合開始剤を利用することができる。例示的な反応開始剤としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸アルカリ土類金属塩、アミン、ハロゲン化物(ハロゲン含有塩)、金属酸化物及びかかる塩又は酸化物を含有する混合物が挙げられる。かかる塩の例示的なアニオンとしては、ハロゲン、アセテート、ベンゾエート、硫黄、カーボネート、シリケートなどをベースとするアニオンが挙げられる。かかる化合物を含有する混合物は、天然のものでも合成のものでもよい。1,1−二置換アルケン化合物の例示的な重合開始剤の具体例としては、ガラスビーズ(二酸化ケイ素、酸化ナトリウム及び酸化カルシウムを含む種々の酸化物のアマルガムである)、セラミックビーズ(種々の金属、非金属及び半金属材料からなる)、粘土鉱物(ヘクトライト粘土及びベントナイト粘土を含む)並びにケイ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム及び炭酸カルシウムなどのイオン性化合物が挙げられる。特定のプラスチック(例えば、ABS、アクリル及びポリカーボネートプラスチック)並びにガラス繊維含浸プラスチックを含む他の重合開始剤もまた好適であり得る。かかる重合性組成物のための追加の好適な重合開始剤は、米国特許出願公開第2015/0073110号(Malofskyら)にも開示されている。いくつかの実施形態では、重合開始剤は、1,1−二置換アルケンの重合に適合する任意のカプセル化方法を使用してカプセル化され得る。いくつかの実施形態では、カプセル化された反応開始剤(活性化剤)は、米国特許第9,334,430号(Stevensonら)に開示されているものであってもよい。
【0065】
重合は、重合混合物をアニオン重合停止剤と接触させることにより停止され得る。いくつかの実施形態では、アニオン重合停止剤は酸である。いくつかの実施形態では、重合混合物を弱酸性にし、約7以下又は約6以下のpHを有するのに十分な量の酸を利用することが望ましい。例示的なアニオン重合停止剤としては、例えば、メタンスルホン酸、硫酸及びリン酸などの鉱酸並びに酢酸及びトリフルオロ酢酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0066】
重合性組成物は、溶液中又はエマルション中で、溶媒又は分散剤の不存在下であるバルクで重合されてもよい。バルクでの重合は、本明細書に開示されている他の成分のいずれかを含む重合性組成物を、好適な基材及び活性剤と接触させ、組成物を重合させることにより行うことができる。
【0067】
重合性組成物は、乳化重合により調製されてもよい。例えば、重合性組成物は、米国特許第9,249,265号(Stevensonら)に開示されている方法により調製されてもよい。米国特許第9,249,265号(Stevensonら)では、約25重量パーセント以上のキャリア液体、界面活性剤(例えば、乳化剤)及び1つ以上のモノマーを含む混合物を撹拌して、キャリア液体中で1つ以上のモノマーのミセルを形成する工程(ここで、1つ以上のモノマーは、1つ以上の1,1−二置換アルケンを含む)と、活性剤をミセル中の少なくとも1つのモノマーと反応させて、1つ以上のモノマーのアニオン重合を開始させる工程と、1つ以上のモノマーをアニオン重合する工程とを含む方法が開示されている。重合工程は、ミセル又は連続相(例えば、キャリア液体を含む連続相)全体にわたって分布しているモノマー(例えば、1,1−二置換アルケン化合物)を含む不連続相を有するエマルションを形成するために1つ以上の界面活性剤を含む。界面活性剤は、乳化剤、消泡剤又は湿潤剤であってもよい。いくつかの実施形態における界面活性剤は、モノマー及びキャリア液体を含む系を、混合又は別の方法で撹拌することにより安定なエマルションが形成されるように十分な量で存在する。本明細書の教示による界面活性剤には、エマルションの安定性を改善するための(すなわち、キャリア液相中の分散相の安定性を改善するための)1つ以上の界面活性剤が含まれる。界面活性剤及び/又は界面活性剤の量は、モノマーミセルのすべてが界面活性剤の層で覆われるように選択される。界面活性剤は、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤又はその任意の組み合わせを含み得る。界面活性剤は、重合工程中にアニオン性界面活性剤を含まない。界面活性剤(例えば、乳化剤)の一例は、エトキシ化ジオールなどのエトキシレートである。例えば、界面活性剤は、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールエトキシレートを含んでもよい。界面活性剤は、ポリ(アルケングリコール)を含んでもよい。界面活性剤の別の例は、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)コポリマーである。界面活性剤の別の例は、アルコール、エトキシ化アルコール又はその両方を含む界面活性剤である。例えば、界面活性剤は、CARBOWET(R)138非イオン性界面活性剤(アルキルアルコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化C−C11アルコールを含む)を含み得る。界面活性剤の別の例は、ソルビタン、ソルビトール又はポリオキシアルケンを含む界面活性剤である。例えば、界面活性剤は、ソルビタンモノパルミテート(非イオン性界面活性剤)を含み得る。界面活性剤の他の例としては、分枝ポリオキシエチレン(12)ノニルフィニルエーテル(nonylphynyl ether)(IGEPAL(R)CO−720)及びポリ(エチレングリコール)ソルビトールヘキサオレエート(PEGSH)が挙げられる。いくつかの実施形態における界面活性剤の量(例えば、乳化剤の量)は、モノマー及び後続のポリマー粒子を実質的にカプセル化する層を形成するのに十分なものである。界面活性剤の量は、不連続相が約10mm以下、約1mm以下、約300μm以下又は約100μm以下の直径を有するのに十分なものである。界面活性剤の量は、不連続相が約0.01μm以上、約0.1μm以上、約1μm以上、約10μm以上又は約50μm以上の直径を有するのに十分なものである。界面活性剤の濃度は、エマルションの総重量を基準として、約0.001重量パーセント以上、約0.01重量パーセント以上、約0.1重量パーセント以上又は約0.5重量パーセント以上であり得る。界面活性剤の濃度は、エマルションの総重量を基準として、約15重量パーセント以下、約10重量パーセント以下及び約6重量パーセント以下又は約3重量パーセント以下であり得る。エマルション中のモノマー及びポリマーの合計重量に対する界面活性剤の重量比(例えば、重合工程の終了時)は、約0.0001以上、約0.002以上、約0.005以上又は約0.01以上である。エマルション中のモノマー及びポリマーの合計重量に対する界面活性剤の重量比(例えば、重合工程の終了時)は、約5以下(すなわち、約5:1以下)、約1以下、約0.5以下又は約0.1以下である。キャリア液体は、いくつかの実施形態では水である。重合工程は、エマルションを形成するために、少なくとも界面活性剤及びキャリア液体を含む混合物にせん断力又は超音波処理を加える工程を含んでもよい。例えば、この工程は、エマルションを形成するために混合物を撹拌又は別の方法でかき混ぜることを含んでもよい。
【0068】
本明細書に開示されている重合性組成物は、アニオン重合法により溶液中で重合され得る。いくつかの実施形態では、重合性組成物は、米国特許第9,279,022号(Palsuleら)に開示されている方法を利用して重合されてもよい。米国特許第9,279,022号(Palsuleら)に開示されている方法によると、この方法は、1つ以上の1,1−二置換アルケン及び溶媒を混合する工程、活性剤を添加する工程、活性剤を1つ以上の1,1−二置換アルケンと反応させて、1つ以上の1,1−二置換アルケンのアニオン重合を開始させる工程、1つ以上の1,1−二置換アルケンをアニオン重合してポリマーを形成する工程を含む。溶液重合法におけるモノマーの濃度は、重合後、溶液が流動することができるように十分に低くてもよい。モノマーの濃度が高すぎる場合、溶液が、重合工程の終了時に過度に粘稠になり、溶液の取り扱いが困難になる場合がある。溶液重合法におけるモノマーの濃度は、重合工程が経済的であるように十分に高くてもよい。1つ以上のモノマーは、溶媒とモノマーとの合計重量を基準として、約0.5重量パーセント以上、約2重量パーセント以上、約5重量パーセント以上又は約8重量パーセント以上の濃度で存在する。1つ以上のモノマーは、約90重量パーセント以下、約75重量パーセント以下、約50重量パーセント以下、約30重量パーセント以下又は約20重量パーセント以下の濃度で存在してもよい。モノマーが複数回で添加される場合(連続的及び/又は逐次的なモノマー添加など)、1つ以上のモノマーの量は、モノマーの添加が完了したときに存在するモノマー並びにこのモノマーのポリマー及び副生成物の合計量を指すことが理解されよう。この重合法には、モノマー及び溶媒が単相を形成するように選択された1つ以上の溶媒が含まれる。溶媒は通常、重合工程中に溶液重合系の他の構成成分と化学的に反応しない。例えば、溶媒はモノマーと反応しない。別の例として、溶媒は活性剤と反応しない。例示的な溶媒は、有機溶媒又は有機溶媒混合物である。かかる溶媒又は溶媒混合物は通常、反応温度(複数可)で液体状態である(例えば、活性化中及び/又は重合中。重合温度における溶媒(例えば、有機溶媒)及びモノマーの圧力は、反応器が過度の圧力によって破壊される危険性が低減又は排除されるように十分に低くあるべきである。例えば、重合温度における溶媒、モノマー又はその両方の分圧は、約500トール以下、約200トール以下、約50トール以下又は約5トール以下であり得る。溶媒は、マイケル付加によりモノマーと反応し得るいずれの溶媒も実質的に又は完全に含まないものであることが望ましい場合がある。しかしながら、重合反応が十分に速くなるように反応条件を選択することにより、かかるモノマーを溶媒重合法において用いることが可能になる場合がある。例えば、モノマー供給速度、反応温度、モノマーの種類及びpHなどのパラメータを選択することにより、アルコールなどのプロトン性溶媒を含む又はそれからなる溶媒を用いることが可能になる場合がある。溶液重合は、1,1−二置換アルケン含有化合物のアニオン重合を開始させることができる活性剤を使用して開始することができる。溶媒及び/又はモノマーの1つ以上(例えば、1,1−二置換アルケン化合物)は、重合条件への暴露前にモノマーを安定させるため又は所望の用途のために最終的なポリマーの特性を調整するために、他の構成成分をさらに含有してもよい。重合反応の前に、モノマーの反応を低減又は防止するために、1つ以上の阻害剤を添加してもよい。かかる阻害剤は、モノマーのアニオン重合、モノマーのフリーラジカル重合、モノマーと他の分子(例えば水)との間の反応又はその任意の組み合わせを防止するのに効果的であり得る。
【0069】
開示されている重合方法は、少なくともモノマー及び溶媒又はキャリアを含む混合物にせん断力を加える工程を含んでもよい。例えば、この方法は、溶液若しくはエマルションを形成するため、沈殿したポリマーを分散若しくは除去するため、温度勾配を制御するため又はその任意の組み合わせのため、混合物を撹拌又は別の方法でかき混ぜることを含み得る。重合方法は、溶媒の分圧が一般的に低い反応温度を含んでもよい。例えば、溶媒及び/又はモノマーの分圧は、約400トール以下、約200トール以下、約100トール以下、約55トール以下又は約10トール以下であってもよい。反応温度は、約80℃以下、約70℃以下、約60℃以下、約55℃以下、約45℃以下、約40℃以下又は約30℃以下である。反応温度は通常、溶媒又はキャリア液体及びモノマーが液体状態であるのに十分に高い。例えば、反応温度は、約−100℃以上、約−80℃以上、約−30℃以上又は約10℃以上であってもよい。1,1−二置換アルケン化合物を重合する場合、溶液の初期pHが、約7以下、約6.8以下、約6.6以下又は約6.4以下になるように、1つ以上の酸化合物を溶液に、モノマーに又はその両方に添加することが望ましい場合がある。重合工程は、重合反応の完了前に停止されてもよく又は重合反応の完了まで継続されてもよい。いくつかの実施形態では、反応速度は十分に速く及び/又は反応時間は重合反応が実質的に完了するように十分に長い。
【0070】
モノマーのポリマーへの転化率は、約30重量パーセント以上、約60重量パーセント以上、約90重量パーセント以上、約95重量パーセント以上又は約99重量パーセント以上であり得る。モノマーのポリマーへの転化率は、約100重量パーセント以下であり得る。
【0071】
重合性組成物は、重合条件への暴露前に組成物を安定させるため又は所望の用途のために最終的なポリマーの特性を調整するために、他の構成成分をさらに含有してもよい。例えば、特定の実施形態では、好適な可塑剤を反応性組成物に含めることができる。例示的な可塑剤は、接着剤系のレオロジー特性を改質するのに使用される可塑剤であり、例えば、ジイソノニルフタレート、ジオクチルフタレート及びジブチルフタレートなどの直鎖及び分枝鎖アルキルフタレート、トリオクチルホスファート、エポキシ可塑剤、トルエンスルファミド、クロロパラフィン、アジピン酸エステル、ジメチルセバケートなどのセバケート、ヒマシ油、キシレン、1−メチル−2−ピロリドン並びにトルエンを含む。Solutia Inc.(ミズーリ州セントルイス)製のHB−40部分水添テルペンなどの市販の可塑剤もまた好適であり得る。
【0072】
1つ以上の染料、顔料、強化剤、耐衝撃性改良剤、レオロジー調整剤、天然若しくは合成ゴム、充填剤、補強剤、増粘剤、乳白剤、阻害剤、蛍光マーカ、熱劣化抑制剤、耐熱性付与剤、界面活性剤、湿潤剤又は安定剤が、重合系に含まれ得る。例えば、ビニルクロライドターポリマー(ビニルクロライド、ビニルアセテート及びジカルボン酸を様々な重量パーセントで含む)並びにジメチルセバケートなどの増粘剤及び可塑剤は、それぞれ、系の粘度、弾性及び堅牢性を修正するのに使用され得る。特定の実施形態では、かかる増粘剤及び他の化合物を使用して、重合系の粘度を約1〜3cPから約30,000cP以上に増加させることができる。
【0073】
特定の実施形態によると、安定剤は、保存期間を延長及び改善するため並びに自然重合を防止するために重合性組成物に含まれ得る。一般に、1つ以上のアニオン重合安定剤及び又はフリーラジカル安定剤を組成物に添加してもよい。アニオン重合安定剤は一般に、組成物又は成長中のポリマー鎖から塩基及び求核試薬を捕捉する求電子性化合物である。アニオン重合安定剤を使用すると、さらなるポリマーの連鎖成長を停止することができる。例示的なアニオン重合安定剤は酸であり、例示的な酸はカルボン酸、スルホン酸、リン酸などである。例示的な安定剤には、液相安定剤(例えば、メタンスルホン酸(「MSA」))及び気相安定剤(例えば、トリフルオロ酢酸(「TFA」))が含まれる。フリーラジカル安定剤には、例えば、フェノール化合物(例えば、4−メトキシフェノール又はヒドロキノンのモノメチルエーテル(「MeHQ」)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT))が含まれる。1,1−二置換アルケンの安定剤パッケージは、米国特許第8,609,885号(Malofskyら)及び米国特許第8,884,051号(Malofsky)に開示されている。追加のフリーラジカル重合阻害剤は、米国特許第6,458,956号(Sutorisら)に開示されている。一般に、最小限の量の安定剤のみが必要とされ、特定の実施形態では、約150ppm以下しか含めることができない。特定の実施形態では、例えば、アニオン安定剤(MSA)及びフリーラジカル安定剤(MeHQ)のブレンドなど、複数の安定剤のブレンドが含まれ得る。1つ以上のアニオン重合安定剤は、早期重合を防止するのに十分な量で存在する。アニオン重合安定剤は、組成物の重量を基準にして、約0.1ppm以上、約1ppmw以上又は約5ppmw以上の量で存在する。アニオン重合安定剤は、組成物の重量を基準にして、約1000ppmw以下、約500ppmw以下又は約100ppmw以下の量で存在する。1つ以上のフリーラジカル安定剤は、早期重合を防止するのに十分な量で存在する。フリーラジカル重合安定剤は、組成物の重量を基準にして、約1ppm以上、約5ppmw以上又は約10ppmw以上の量で存在する。フリーラジカル重合安定剤は、組成物の重量を基準にして、約5000ppmw以下、約1000ppmw以下又は約500ppmw以下の量で存在する。
【0074】
本明細書に開示されている重合性組成物及びポリマーは、多くの用途に利用され得る。例示的な用途としては、接着剤、シーラント、コーティング、光ファイバ用の部品、電子機器用の埋め込み及び封入材料、他のシステムの原材料としての樹脂及びプレポリマーなどが挙げられる。
【0075】
重合性組成物は、迅速な反応性、室温又は低温反応性、調製可能なレオロジー特性などを含む多くの有利な特性を示す。重合性組成物から製造されるポリマーは、例えば、高いガラス転移温度、高い分解温度、高い耐熱性、高い剛性及び弾性率、良好な剛性率などを含む多くの有利な特性を示す。
【0076】
硬化性組成物に一般的に使用される他の構成成分を、本発明の組成物に使用してもよい。かかる材料は、当業者に周知であり、例えば、紫外線安定剤及び酸化防止剤などを含み得る。本明細書に記載の組成物はまた、当該技術分野において既知の耐久性安定剤も含有してもよい。いくつかの実施形態では、耐久性安定剤は、アルキル置換フェノール、ホスファイト、セバケート及びシンナメートである。
【0077】
開示されている方法は、以前に可能であったよりも高い収率で1,1−二置換アルケンの調製を可能にする。生成物の収率は、約90パーセント以上、約93パーセント以上又は約95パーセント以上であってもよい。
【0078】
本明細書に記載されている分子量は、ポリメチルメタクリレート標準を使用してゲル透過クロマトグラフィ(GPCとも称される)によって求められ得る数平均分子量である。
【0079】
開示されている方法は、本明細書で提供される実施形態及び例を含む、本明細書に記載されている特徴のいずれか1つ以上を、任意の組み合わせでさらに含んでもよく、以下の特徴を含む:この方法はマンニッヒ型反応であり得る;ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はホルマリンは、約2.0〜約2.1当量の量で添加されてもよい;ジカルボニル化合物は、ジエステル、ジケトン、ジアミド、ケトエステル、ケトアミド又はエステルアミドであってもよい;ジカルボニル化合物は、ヒドロカルビル基がアルキル基、シクロアルキル基、ポリエーテル基であるヒドロカルビルマロネート又は1つ以上のアリール置換アルキル基を有するジケトンであってもよい;ジカルボニル化合物は、1−フェニルブタン−1,3−ジオン、1,3−ジフェニルプロパン−1,3−ジオン、ジエチルマロネート、ジシクロヘキシルマロネート若しくはエチルシクロヘキシルマロネート又は任意の他のマロネートから選択されてもよい;アミン塩触媒は、酸を塩基と反応させることにより調製してよい;酸は、約2〜約−6のブレンステッド酸性度を有し得る;塩基は、立体障害のあるアンモニウムカチオンであってもよい;塩基は、第二級アンモニウムカチオンであってもよい;酸は、約2〜約−6のpKaを有し得る;酸は、トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸又は酢酸から選択され得る;アミン塩触媒は、ジイソプロピルアンモニウムトリフルオロアセテート、ジイソプロピルアンモニウムアセテート又はジイソプロピルアンモニウムメタンスルホネートであってもよい;アミン塩触媒は、触媒量で供給されてもよい;アミン塩触媒は、ジカルボニル化合物に対して約25モル%以下の量で供給されてもよい;アミン塩触媒は、ジカルボニル化合物に対して約7モル%以下の量で供給されてもよい;この方法は、溶媒の不存在下で行ってもよい;アミン塩触媒は、化学量論量で供給されてもよい;この方法は、ジカルボニル化合物を溶媒に溶解させることを含んでもよい;溶媒は、極性非プロトン性溶媒であってもよい;溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、メチルTHF、ジメトキシエタン又はジエトキシエタンから選択されてもよい;混合物は、約50℃以上又は約80℃以上の温度に加熱されてもよい;混合物は、約120℃以下の温度に加熱されてもよい;この方法は、約5時間以下の反応時間を有し得る;この方法は、約3時間以下の反応時間を有し得る;この方法は、約45%以上のモル収率を達成し得る;この方法は、約75%以上のモル収率を達成し得る;限定試薬(例えば、マロネート)の転化率は、約85%超であり得る;カルボニル置換アルケンは、次式に示され:
【0080】
【化13】
【0081】
ここで、Rは、出現毎に別々に、1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であってもよく、Xは、出現毎に別々に、酸素又は直接結合であってもよい;カルボニル置換アルケンは、次式に示され:
【0082】
【化14】
【0083】
ここで、R1及びR2は、出現毎に別々に、水素又は1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であってもよい;カルボニル置換アルケンは、以下から選択されてもよい:
【0084】
【化15】
【0085】
本明細書に記載されている方法によって形成されたカルボニル置換アルケン;又は本明細書に記載されているカルボニル置換アルケンから製造されたポリマー。
【0086】
本願明細書に引用されているすべての刊行物及び特許は、本出願において参照によりその全体が組み込まれる。
【実施例】
【0087】
以下の実施例は、開示されている組成物を例示するために提供されるが、その範囲を限定することを意図するものではない。特に指示しない限り、すべての部及び百分率は、重量基準である。
【0088】
[実施例1]
1.0当量の量の出発ジカルボニル化合物を、熱電対及び還流冷却器を装着した三つ口丸底フラスコに入れる。3000ppmのブチル化ヒドロキシトルエンを添加する。酸(トリフルオロ酢酸)と塩基(ジイソプロピルアミン)を反応させて白色から黄色の固体を得て、この固体をメタノール中での結晶化により精製して白色結晶を得ることにより調製した、予め単離したマンニッヒ塩を、出発ジカルボニル化合物に対して7.0モル%の量で溶液に添加する。次に、2.0〜2.1当量のホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はホルマリンを添加する。反応物を、約85℃〜約90℃で約2〜約5時間にわたって加熱する。反応をH NMR及びGC−MSでモニタして、所望の生成物への変換を確認する。反応の最後に蒸留を行い、混合物から所望の生成物を単離する。次に、単離した生成物をエチルアセテートに溶解し、水で3回、次にブラインで1回抽出する。次に、得られた有機溶液を硫酸ナトリウムで脱水させる。溶媒を減圧下で除去する。
【0089】
この方法により、触媒量のマンニッヒ塩の使用が可能になる。この反応は、無溶媒である。この方法は、特に以下の物質の合成を可能にする。
【0090】
【化16】
【0091】
[実施例2]
1.0当量の量の出発ジカルボニル化合物を、熱電対及び還流冷却器を装着した三つ口丸底フラスコに入れる。テトラヒドロフラン(THF)をフラスコに添加し、基材を溶解又は懸濁させる。この溶液に、1.0当量の塩基を添加し、続いて1.1当量の酸を添加して、インサイチュ塩を調製する。発熱が観察され、フラスコが周囲温度に戻るまで反応物を撹拌する。次に、2.0〜2.1当量の量でパラホルムを反応混合物に添加する。混合物を68℃に加熱する。次に、反応物を、約68℃の高温で約2〜約5時間にわたって還流する。反応をH NMR及びGC−MSでモニタして、所望の生成物への変換を確認する。反応の最後に、THFを減圧下で除去する。粗製混合物をエーテル又はエチルアセテートに溶解し、水で3回、次にブラインで1回抽出する。次に、得られた有機溶液を硫酸ナトリウムで脱水させる。溶媒を、ロータリーエバポレータを使用して減圧下で除去し、得られた生成物を蒸留又は溶媒としてエチルアセテートを使用して結晶化する。
【0092】
この方法は、THFを溶媒として使用し、化学量論量のマンニッヒ塩の使用を可能にする。この方法は、特に以下の物質の合成を可能にする。
【0093】
【化17】
【0094】
本明細書で使用される場合、重量部は、具体的に言及される組成物の100重量部を指す。上記出願に記載されている任意の数値には、任意の低い方の値と任意の高い方の値との間に少なくとも2単位の分離があることを条件として、1単位ずつ、低い方の値から高い方の値までのすべての値が含まれる。一例として、構成要素の量又は方法の変数の値、例えば、温度、圧力、時間などが、例えば、1〜90、20〜80、30〜70であると記載されている場合、15〜85、22〜68、43〜51、30〜32などの値が、本明細書において明確に列挙されていることが意図される。1未満の値では、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01又は0.1であると見なされる。これらは、具体的に意図されているものの例にすぎず、列挙されている最低値と最高値との間の数値のすべての可能な組み合わせが、類似の方法で本出願において明確に記載されていると見なされるべきである。特に指示しない限り、すべての範囲には、両方の端点及びこれら端点間のすべての数が含まれる。範囲に関連する「約」又は「およそ」の使用は、範囲の両端に適用される。したがって、「約20〜30」は、少なくとも特定されている端点を含めて、「約20〜約30」を含めることを意図している。組み合わせを説明するための「consisting essentially of(から本質的になる)」という用語は、特定されている要素、成分、構成要素又は工程並びに組み合わせの基本的及び新規特性に実質的に影響しないかかる他の要素、成分、構成要素又は工程を含むものとする。本明細書における要素、成分、構成要素又は工程の組み合わせを説明するための「comprising(含む)」又は「including(含む)」という用語の使用はまた、要素、成分、構成要素又は工程から本質的になる実施形態も企図している。複数の要素、成分、構成要素又は工程は、単一の統合された要素、成分、構成要素又は工程によって与えられる場合がある。又は、単一の統合された要素、成分、構成要素又は工程は、別個の複数の要素、成分、構成要素又は工程に分割される場合がある。要素、成分、構成要素又は工程を説明するための「a(一つの)」又は「one(一つの)」の開示は、追加の要素、成分、構成要素又は工程を除外することを意図するものではない。
【手続補正書】
【提出日】2020年5月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)酸性アミン塩触媒を、カルボニル基の間にアルキレン基を有するジエステル又はケトエステル化合物と接触させること、
b)ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンを、2:1〜3:1のホルムアルデヒドのモルと前記化合物のモルとの量で添加して混合物を形成すること、及び
c)溶媒の不存在下で前記混合物を加熱すること
を含む方法であって、
前記方法により、ジエステル又はケトエステル置換アルケンが形成される、方法。
【請求項2】
前記ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンが、2.0〜2.1当量の量で添加される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ジエステル又はケトエステル化合物が、ヒドロカルビルマロネートであり、前記ヒドロカルビル基が、アルキル、シクロアルキル、ポリエーテル基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジエステル又はケトエステル化合物が、ジエチルマロネート、ジシクロヘキシルマロネート、又はエチルシクロヘキシルマロネートから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アミン塩触媒が、酸を塩基と反応させることにより調製され、前記酸が、26のブレンステッド酸性度を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基が、立体障害のあるアンモニウムカチオンである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基が、第二級アンモニウムカチオンである、請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
前記酸が、トリフルオロ酢酸、硫酸、メタンスルホン酸又は酢酸から選択される、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アミン塩触媒が、ジイソプロピルアンモニウムトリフルオロアセテート、ジイソプロピルアンモニウムアセテート又はジイソプロピルアンモニウムメタンスルホネートである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アミン塩触媒が、前記化合物に対して約25モル%以下の量で供給される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アミン塩触媒が、前記化合物に対して約7モル%以下の量で供給される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物が、約80℃以上の温度〜約120℃以下の温度に加熱される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、約5時間以下の反応時間を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ジエステル又はケトエステルアルケンが、式1に示され:
【化1】
式中、各Rは、独立して、1つ以上のヘテロ原子を有するヒドロカルビル基であり、各Xは、独立して、酸素又は直接結合であり、但し、1つのXのみが、直接結合である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ジエステル又はケトエステルアルケンが、以下から選択される:
【化2】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】