【実施例】
【0249】
(6.実施例)
(6.1 コンストラクト)
(6.1.1 実施例1:ベバシズマブFab cDNAベースのベクター)
ベバシズマブの軽鎖及び重鎖Fab部分のcDNA配列(それぞれ、配列番号10及び11)を含む導入遺伝子を含む、ベバシズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。導入遺伝子は、表1に掲載されている群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸も含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作るためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターは、低酸素誘導性プロモーターをさらに含む。
【0250】
(6.1.2 実施例2:ラニビズマブcDNAベースのベクター)
ラニビズマブFab軽鎖及び重鎖cDNA(それぞれ、配列番号12及び13の一部、シグナルペプチドはコードしていない)を含む導入遺伝子を含む、ラニビズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。導入遺伝子は、表1に掲載されている群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸も含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作るためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターは、低酸素誘導性プロモーターをさらに含む。
【0251】
(6.1.3 実施例3:高グリコシル化ベバシズマブFab cDNAベースのベクター)
以下の突然変異: L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160NもしくはQ160S(軽鎖)のうちの1つ又は複数をコードする配列への突然変異を有するベバシズマブ軽鎖及び重鎖のFab部分のcDNA配列(それぞれ、配列番号10及び11)を含む導入遺伝子を含む高グリコシル化ベバシズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。導入遺伝子は、表1に掲載されている群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸も含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作るためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターは、低酸素誘導性プロモーターをさらに含む。
【0252】
(6.1.4 実施例4:高グリコシル化ラニビズマブcDNAベースのベクター)
以下の突然変異: L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160NもしくはQ160S(軽鎖)のうちの1つ又は複数をコードする配列への突然変異を有するラニビズマブFab軽鎖及び重鎖cDNA(それぞれ、シグナルペプチドはコードしていない、配列番号12及び13の一部)を含む導入遺伝子を含む高グリコシル化ラニビズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。導入遺伝子は、表1に掲載されている群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸も含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作るためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターは、低酸素誘導性プロモーターをさらに含む。
【0253】
(6.1.5 実施例5:ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFi)
ラニビズマブFab cDNAベースのベクター(実施例2を参照)をAAV8バックグラウンドのPER.C6(登録商標)細胞株(Lonza)で発現させる。結果として得られる産物であるラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiが安定に産生されていることを決定する。HuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化を、ヒドラジン分解及びMS/MS解析によって確認する。例えば、Bondtらの文献、Mol. & Cell. Proteomics 13.11:3029-3039を参照されたい。グリカン解析に基づき、HuGlyFabVEGFiがN-グリコシル化されており、2,6シアル酸が主要な修飾であることを確認する。N-グリコシル化されたHuGlyFabVEGFiの有利な特性を、当技術分野で公知の方法を用いて決定する。HuGlyFabVEGFiが高い安定性及びその抗原(VEGF)に対する高い親和性を有することを見出すことができる。安定性を評価する方法については、Sola及びGriebenowの文献、2009, J Pharm Sci., 98(4): 1223-1245を、親和性を評価する方法については、Wrightらの文献、1991, EMBO J. 10:2717-2723及びLeibigerらの文献、1999, Biochem. J. 338:529-538を参照されたい。
【0254】
(6.2 コンストラクトによる治療)
(6.2.1 実施例6:ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiによる滲出型AMDの治療)
ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiの有利な特性の決定(実施例5を参照)に基づいて、ラニビズマブFab cDNAベースのベクターは、導入遺伝子として発現された場合、滲出型AMDの治療に有用であると考えられる。滲出型AMDを呈する対象に、3カ月間、硝子体液中で少なくとも0.330μg/mLのCminの導入遺伝子産物の濃度に十分な用量で、ラニビズマブFabをコードするAAV8を投与する。治療後、対象を滲出型AMDの症状の改善について評価する。
【0255】
(6.3 マウス試験)
(6.3.1 実施例7:単一用量の網膜下投与はトランスジェニックRho/VEGFマウスにおける網膜新生血管形成を低下させる)
本試験は、nAMDを有するヒトの網膜における新生血管変化のモデルである幼若トランスジェニックRho/VEGFマウス(Tobeの文献、1998, IOVS 39(1):180-188)における、第5.2節に記載されている、単一用量のHuPTMFabVEGFiベクターのインビボ効力を示している。Rho/VEGFマウスは、ロドプシンプロモーターが生後10日から視細胞におけるヒトVEGF165の発現を構成的に駆動し、それにより、新しい血管が網膜の深部毛細血管床から出芽し、網膜下腔へと成長するトランスジェニックマウスである。VEGFの産生は持続され、したがって、新しい血管は成長及び拡大し続け、新生血管加齢黄斑変性症を有するヒトにおいて見られるものと同様の巨大な網を網膜下腔に形成する(Tobeの文献、1998, 前掲)。
【0256】
本試験で使用されるベクター(本明細書において「ベクター1」と呼ばれる)は、AAV2逆向き末端反復(ITR)に隣接した、ヒトVEGFに結合し、これを阻害するヒト化mAb抗原結合断片をコードする遺伝子カセットを含む非複製型AAV8ベクターである。ベクター1中の重鎖及び軽鎖の発現は、ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサーからなるCB7プロモーターによって制御され、このベクターは、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナルも含む。ベクター1において、抗VEGF Fabの重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列は、自己切断性フーリン(F)/F2Aリンカーによって隔てられている。Rho/VEGFマウスに、ベクター1又は対照のいずれか(群当たりn=10〜17)を網膜下注射し、1週間後、網膜新生血管形成の量を定量した。
【0257】
網膜新生血管形成の総面積は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はヌルAAV8ベクターのいずれかが投与されたマウスと比較して、ベクター1が投与されたRho/VEGFマウスにおいて、用量依存的な様式で有意に低下した(p<0.05)。有効性の基準は、網膜新生血管形成の面積の統計的に有意な低下として設定した。この基準により、ベクター1の1×10
7GC/眼の最低用量がヒト対象におけるnAMDのマウストランスジェニックRho/VEGFモデルにおける網膜新生血管形成の低下に有効であると決定された(
図4)。
【0258】
(6.3.2 実施例8:単一用量の網膜下投与は二重トランスジェニックTet/オプシン/VEGFマウスにおける網膜剥離を低下させる)
本試験は、VEGFの誘導性発現が重度の網膜症及び網膜剥離を引き起こす、ヒト対象における眼内新生血管疾患のトランスジェニックマウスモデル−Tet/オプシン/VEGFマウス−(Ohno-Matsuiの文献、2002 Am. J. Pathol. 160(2):711-719)において網膜剥離を予防する単一用量のベクター1のインビボ効力を示している。Tet/オプシン/VEGFマウスは、視細胞におけるヒトVEGF
165のドキシサイクリン誘導性発現を有するトランスジェニックマウスである。これらのトランスジェニックマウスは、ドキシサイクリンが飲用水中に投与されるまで、表現型が正常である。ドキシサイクリンは、VEGFの非常に高い視細胞発現を誘導し、多量の血管漏出をもたらし、その結果、誘導から4日以内に、80〜90%のマウスで完全な滲出性網膜剥離となる。
【0259】
Tet/オプシン/VEGFマウス(群当たり10匹)に、ベクター1又は対照を網膜下注射した。注射から10日後、ドキシサイクリンを飲用水に添加して、VEGF発現を誘導した。4日後、各々の眼底をイメージングし、各々の網膜を、治療群について知らされていない人の手で、無傷、部分剥離、又は完全剥離のいずれかとしてスコア化した。
【0260】
これらのデータ(
図5に示す)は、ベクター1による治療がTet/オプシン/VEGFマウス−ヒト対象における眼内新生血管疾患の動物モデルにおける網膜剥離の発生率及び程度を低下させたことを示している。
【0261】
(6.3.3 実施例9:抗VEGFタンパク質を発現するAAV8遺伝子療法はマウスモデルにおける網膜下新生血管形成及び血管漏出を強く抑制する)
本実施例では、実施例7及び8に記載されている実験の方法、結果、及び結論を要約する。
【0262】
方法。ロドプシンプロモーターによって視細胞におけるVEGF
165の発現が駆動されるトランスジェニックマウス(rho/VEGFマウス)の一方の眼に、生後14日(P14)で、3×10
6〜1×10
10ゲノムコピー(GC)の範囲の用量のベクター1、1×10
10GCのヌルベクター、又はPBSの網膜下注射を行った(群当たりn=10)。P21で、眼当たりの網膜下新生血管形成(SNV)の面積を測定した。視細胞におけるVEGF
165のドキシサイクリン(DOX)誘導性発現を有する二重トランスジェニックマウス(Tet/オプシン/VEGFマウス)の一方の眼に、1×10
8〜1×10
10GCのベクター1の網膜下注射を行い、他眼には注射をしないか、又は一方の眼に1×10
10GCのヌルベクターの網膜下注射を行い、他眼にはPBSの網膜下注射を行った。注射から10日後、2mg/mlのDOXを飲用水に添加し、4日後、眼底の写真を、完全網膜剥離(RD)、部分網膜剥離の存在、又は網膜剥離の不在について等級付けた。ベクター1導入遺伝子産物のレベルを、成熟マウスにおける1×10
8〜1×10
10GCのベクター1の網膜下注射から1週間後に、眼ホモジネートのELISA解析により測定した。
【0263】
結果。ヌルベクターが注射されたrho/VEGFマウスの眼と比較して、≧1×10
7GCのベクター1が注射されたマウスは、SNVの平均面積の有意な低下を経験し、≦3×10
7が注射された眼では、中程度の低下を経験し、≧1×10
8GCが注射された眼では、>50%の低下を経験した。3×10
9又は1×10
10GCが注射された眼は、ほぼ完全なSNVの消失を経験した。Tet/オプシン/VEGFマウスでは、100%の眼が完全RDを有していたヌルベクター群と比較して、≧3×10
8GCのベクター1が注射された眼では、滲出性RDが有意に低下し、3×10
9又は1×10
10GCが注射された眼では、完全剥離が70〜80%低下した。≦1×10
9GCのベクター1が注射された大多数の眼は、検出限界未満のタンパク質レベルを有していたが、3×10
9又は1×10
10GCが注射された眼は全て、検出可能なレベルを有し、眼当たりの平均レベルは、342.7ng及び286.2ngであった。
【0264】
結論。ベクター1の網膜下注射による遺伝子療法により、rho/VEGFマウスにおけるSNVが用量依存的に抑制され、3×10
9又は1×10
10GCの用量で、ほぼ完全に抑制された。これらの同じ用量は、強力なタンパク質産物の発現を示し、Tet/オプシン/VEGFマウスにおける完全滲出性RDを顕著に低下させた。
【0265】
(6.4 ヒト試験)
(6.4.1 実施例10:新生血管AMDのための遺伝子療法:新生血管AMD(nAMD)を有する対象におけるベクター1による遺伝子療法の安全性及び忍容性を評価するための用量漸増試験)
試験の簡単な要約。過剰な血管内皮増殖因子(VEGF)は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)における新生血管形成及び浮腫の促進において重要な役割を果たしている。ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標)、Genentech)及びアフリベルセプト(EYLEA(登録商標)、Regeneron)を含む、VEGF阻害剤(抗VEGF)は、nAMDの治療に安全かつ有効であることが示されており、視力を改善することが示されている。しかしながら、抗VEGF療法は、硝子体内注射によって頻回投与され、患者にとって重大な負担となり得る。ベクター1は、可溶性抗VEGFタンパク質のコード配列を保有する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子療法ベクターである。nAMDの1回限りの遺伝子療法治療後のこの治療タンパク質の長期安定送達は、有利なベネフィット:リスクプロファイルで視力を維持しながら、現在利用可能な療法の治療的負担を軽減することができる。
【0266】
試験の詳細な説明。この用量漸増試験は、過去にnAMDの治療を受けた対象におけるベクター1遺伝子療法の安全性及び忍容性を評価するために設計される。3つの用量を約18名の対象で試験する。選択/除外基準を満たし、かつ初回の抗VEGF注射に対する解剖学的応答を有する対象に、網膜下送達によって投与される単一用量のベクター1を投与する。ベクター1は、VEGFに結合し、その活性を中和するモノクローナル抗体断片をコードする遺伝子を含むAAV8ベクターを使用する。安全性は、ベクター1の投与後の最初の24週間(主要試験期間)の主要な焦点である。主要試験期間の終了後、対象は、ベクター1による治療後104週まで評価され続ける。
【0267】
投薬。3つの用量:3×10
9GCのベクター1、1×10
10GCのベクター1、及び6×10
10GCのベクター1を使用する。
【0268】
転帰尺度。主要転帰尺度は、26週の時間枠にわたる安全性−眼及び眼以外の有害事象(AE)及び重大な有害事象(SAE)の発生率−である。
【0269】
二次転帰尺度には、以下のものが含まれる:
【0270】
106週の時間枠にわたる安全性−眼及び眼以外のAE及びSAEの発生率。
【0271】
106週の時間枠にわたる−最高矯正視力(BCVA)の変化。
【0272】
106週の時間枠にわたる−SD-OCTによって測定される中心網膜厚(CRT)の変化。
【0273】
106週の時間枠にわたるレスキュー注射−レスキュー注射の平均の回数。
【0274】
106週の時間枠にわたる−フルオレセイン血管造影法(FA)によって測定される脈絡膜新生血管形成(CNV)の変化並びに病変サイズ及び漏出面積CNV変化。
【0275】
適格性基準。以下の適格性基準が本試験に適用される:
【0276】
最低年齢:50歳
【0277】
最高年齢:(なし)
【0278】
性別:全て
【0279】
ジェンダーに基づくこと:なし
【0280】
健常ボランティアの受け入れ:なし
【0281】
選択基準:
・試験眼にAMDに続発する中心窩下CNVがあると診断を受けた50歳以上の患者であり、過去に硝子体内への抗VEGF療法を受けている。
・各々のコホートの最初の患者について、≦20/63〜≧20/400のBCVA(≦63かつ≧19の糖尿病網膜症早期治療研究[ETDRS]文字数)であり、次に、残りのコホートについて、≦20/20〜≧20/400のBCVA(≦73かつ≧19のETDRS文字数)である。
・抗VEGF療法を必要とし、かつそれに応答した既往がある。
・治験参加時に(1週目にSD-OCTにより評価して)、抗VEGFに応答した。
・試験眼が偽水晶体眼(白内障手術後の状態)でなければならない。
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ(AST/ALT)<2.5×正常値上限(ULN);総ビリルビン(TB)<1.5×ULN;プロトロンビン時間(PT)<1.5×ULN;ヘモグロビン(Hb)>10g/dL(男性)及び>9g/dL(女性);血小板>100×10
3/μL;推定糸球体濾過量(eGFR)>30mL/分/1.73m
2である。
・書面による署名付きインフォームドコンセントを提供する意思があり、かつそれが可能でなければならない。
【0282】
除外基準:
・試験眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫がある。
・試験眼における視力改善を妨げる任意の状態、例えば、線維症、萎縮、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔がある。
・試験眼に進行中の網膜剥離、又はその既往がある。
・試験眼に進行した緑内障がある。
・スクリーニングの6カ月前に、試験眼に、抗VEGF療法以外の硝子体内療法、例えば、硝子体内ステロイド注射又は治験薬を受けた履歴がある。
・スクリーニング時に試験眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する。
・過去6カ月以内に心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性虚血発作を起こしている。
・最大限の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する。
【0283】
(6.4.2 実施例11:ヒト対象を治療するためのプロトコル)
本実施例は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を有する患者の遺伝子療法治療に関する。本実施例は、実施例10の更新版である。本実施例では、可溶性抗VEGF Fabタンパク質(実施例7に記載)のコード配列を保有する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)であるベクター1を、nAMDを有する患者に投与する。遺伝子療法治療の目的は、網膜変性症の進行を減速又は停止させ、かつ最小限の介入/侵襲的処置により視力喪失を減速させ又は予防することである。
【0284】
投薬及び投与経路。250μLの容量のベクター1を、治療を必要とする対象の眼に網膜下送達によって単一用量として投与する。対象に、3×10
9GC/眼、1×10
10GC/眼、又は6×10
10GC/眼の用量を投与する。
【0285】
網膜下送達は、網膜外科医により、局所麻酔下の対象を用いて行われる。この処置は、中心部硝子体切除を伴う標準的な3ポート経扁平部硝子体切除と、それに続く、網膜下カニューレ(38ゲージ)による網膜下腔へのベクター1の網膜下送達を伴う。送達は、網膜下腔に250μLを送達するように、硝子体切除機械によって自動化される。注射及び結果として生じるブレブは、ビデオ録画によって及び外科医による描画表示によって記録される。
【0286】
遺伝子療法は、滲出型AMDの治療のための1以上の療法と組み合わせて投与することができる。例えば、遺伝子療法は、レーザー光凝固法、ベルテポルフィンによる光線力学療法、及び限定されないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF剤の硝子体内と組み合わせて投与される。
【0287】
ベクター1の投与の約4週間後から、患者は、治療医師の判断で、罹患した眼への硝子体内ラニビズマブレスキュー療法を受けることができる。
【0288】
患者亜集団。好適な患者としては:
・nAMDの診断を受けている;
・抗VEGF療法に応答する;
・抗VEGF療法の頻回注射を必要とする;
・50歳以上の年齢の男性もしくは女性である;
・罹患した眼において、≦20/63かつ≧20/400のBCVA(≦63及び≧19のETDRS文字数)を有する;
・≦20/20〜≧20/400のBCVA(≦73〜≧19のETDRS文字数)を有する;
・罹患した眼にAMDに続発する中心窩下CNVの文書化された診断を受けている;
・次のようなCNV病変特徴: 10ディスク面積(disc areas)未満の病変サイズ(典型的なディスク面積は2.54mm
2である)、該病変サイズの<50%の血液を有する;
・治療の約8カ月前(もしくはそれ以内)に、罹患した眼におけるnAMDの治療用の抗VEGF剤の少なくとも4回の硝子体内注射を受けており、解剖学的応答がSD-OCTで記録されている;並びに/又は
・罹患した眼に網膜下もしくは網膜内液が存在することがSD-OCTで証明されている
患者を挙げることができる。
【0289】
治療前に、患者をスクリーニングし、以下の基準のうちの1つ又は複数によって、この療法が患者に適さないことが示され得る:
・罹患した眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫がある;
・罹患した眼において血液がAMD病変の≧50%を占めるか又は>1.0mm2の血液が中心窩下部に存在する;
・罹患した眼におけるVA改善を妨げる任意の状態、例えば、線維症、萎縮、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔がある;
・罹患した眼に進行中の網膜剥離、又はその既往がある;
・罹患した眼に進行した緑内障がある;
・対象へのリスクを増大させ得る罹患した眼における任意の状態が視力喪失を予防もしくは治療する又は試験手順もしくは評価を妨害する医学的介入又は外科的介入のいずれかを必要とする;
・スクリーニング前の12週間以内に罹患した眼に眼内外科手術を受けた履歴がある(イットリウム・アルミニウム・ガーネット嚢切開はスクリーニング通院の10週間よりも前に実施されたのであれば許容され得る);
・スクリーニングの6カ月前に、罹患した眼に、抗VEGF療法以外の硝子体内療法、例えば、硝子体内ステロイド注射又は治験薬を受けた履歴がある;
・スクリーニング時に罹患した眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する;
・スクリーニング前の5年間に化学療法及び/又は放射線を必要とする悪性腫瘍の既往がある(局所基底細胞癌は許容され得る);
・網膜毒性を引き起こしたことが知られている療法、又は視力に影響を及ぼし得るもしくは既知の網膜毒性を有する任意の薬物、例えば、クロロキンもしくはヒドロキシクロロキンによる同時療法の履歴がある;
・外科的処置を妨げる可能性がある罹患した眼における眼内又は眼周囲感染症を有する;
・治療から過去6月以内に心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性虚血発作を起こしている;
・最大限の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する
・眼の外科的処置又は治癒過程を妨げる可能性がある任意の同時治療を受けている;
・ラニビズマブもしくはその成分のいずれかに対する既知の過敏症又はベクター1のような薬剤に対する過去の過敏症を有する;
・治験責任医師の意見において、対象の安全又は試験への参加の成功を損ねることになる任意の深刻な又は不安定な医学的又は心理学状態
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)>2.5×正常値上限(ULN)である
・総ビリルビン>1.5×ULNである。ただし、対象がジルベール症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンの既知の既往を過去に有しない場合に限る
・プロトロンビン時間(PT)>1.5×ULNである
・ヘモグロビンが男性対象について<10g/dL及び女性対象について<9g/dLである
・血小板<100×10
3/μLである
・推定糸球体濾過量(GFR)<30mL/分/1.73m
2である。
【0290】
以下のレスキュー基準:
・スペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)での網膜液の蓄積と関連付けられる≧5文字の視力喪失(最高矯正視力[BCVA]による)
・SD-OCTでの脈絡膜新生血管形成(CNV)に関連する、増加した、新たな、又は持続性の網膜下又は網膜内液
・新たな眼出血
のうちの1つ又は複数に該当する場合、遺伝子療法を投与した約4週間後から、患者は、治療医師の判断で、疾患活動性に対する罹患した眼への硝子体内ラニビズマブレスキュー療法を受けることができる。以下の調査結果のセット:
・視力が20/20もしくはそれより良好であり、かつSD-OCTにより評価したとき、中心網膜厚が「正常」であること、又は
・視力及びSD-OCTが2回の連続した注射の後に安定していること
のうちの1つが生じる場合、治療医師の判断によって、さらなるレスキュー注射を延期することができる。
【0291】
注射を延期する場合、視力又はSD-OCTが上記の基準に従って悪化するならば、注射を再開する。
【0292】
臨床目標の測定。主要な臨床目標には、網膜変性の進行を減速又は停止させること、及び視力喪失を減速させ又は予防することが含まれる。臨床目標は、標準治療、例えば、限定されないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む、抗VEGF剤の硝子体内注射を用いるレスキュー治療の中止又はその回数の低下によって示される。臨床目標は、視力喪失の減少もしくは予防、及び/又は網膜剥離の減少もしくは予防によっても示される。
【0293】
臨床目標は、BCVA(最高矯正視力)の測定、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、間接的検眼鏡検査、及び/又はSD-OCT(SD-光干渉断層撮影)によって決定される。特に、臨床目標は、経時的なBCVAのベースラインからの平均変化の測定、BCVAによるベースラインと比較した≧15文字の増加又は減少の測定、経時的なSD-OCTによって測定されるCRTのベースラインからの平均変化の測定、経時的なラニビズマブのレスキュー注射の平均回数の測定、初回のレスキューラニビズマブ注射までの時間の測定、経時的なFAに基づくCNV並びに病変サイズ及び漏出面積のベースラインからの平均変化の測定、経時的な眼房aVEGFタンパク質のベースラインからの平均変化の測定、血清及び尿中のベクター排出解析の実施、並びに/又はベクター1に対する免疫原性の測定、すなわち、AAVに対するNabの測定、AAVに対する結合抗体の測定、aVEGFに対する抗体の測定、並びに/又はELISpotの実施によって決定される。
【0294】
臨床目標は、眼底の自己蛍光(FAF)による地図状萎縮の面積の経時的なベースラインからの平均変化の測定、FAFによる地図状萎縮の新たな領域の発生の測定(ベースライン時に地図状萎縮を有さない対象において)、BCVAによるベースラインと比較して、それぞれ≧5及び≧10文字増加又は減少する対象の比率の測定、前年と比較してレスキュー注射が50%低下している対象の比率の測定、SD-OCTで流体を有さない対象の比率の測定によっても決定される。
【0295】
ベクター1の投与によって得られる改善/効力は、約4週、12週、6カ月、12カ月、24カ月、36カ月での又は他の望ましい時点での視力のベースラインにおける規定の平均変化として評価することができる。ベクター1による治療により、視力をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれよりも大きく増加させることができる。改善/効力は、4週、12週、6カ月、12カ月、24カ月、及び36カ月でのスペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)によって測定される中心網膜厚(CRT)のベースラインからの平均変化として評価することができる。ベクター1による治療により、中心網膜厚をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれよりも大きく増加させることができる。
【0296】
(6.4.3 実施例12:新生血管AMDの遺伝子療法:新生血管AMD(nAMD)を有する対象におけるベクター1による遺伝子療法の安全性及び忍容性を評価するための用量漸増試験)
試験の簡単な要約。過剰な血管内皮増殖因子(VEGF)は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)における新生血管形成及び浮腫の促進において重要な役割を果たしている。ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標)、Genentech)及びアフリベルセプト(EYLEA(登録商標)、Regeneron)を含む、VEGF阻害剤(抗VEGF)は、nAMDの治療に安全かつ有効であることが示されており、視力を改善することが示されている。しかしながら、抗VEGF療法は、硝子体内注射によって頻回投与され、患者にとって重大な負担となり得る。ベクター1は、可溶性抗VEGFタンパク質のコード配列を保有する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子療法ベクターである。nAMDの1回限りの遺伝子療法治療後のこの治療タンパク質の長期安定送達は、有利なベネフィット:リスクプロファイルで視力を維持しながら、現在利用可能な療法の治療的負担を軽減することができる。
【0297】
試験の詳細な説明。この用量漸増試験は、過去にnAMDの治療を受けた対象におけるベクター1遺伝子療法の安全性及び忍容性を評価するために設計される。5つの用量を約30名の対象で試験する。対象が網膜下腔に250μLの完全用量を受け入れない場合、追加の対象を登録することができる。選択/除外基準を満たし、かつ初回の抗VEGF注射に対する解剖学的応答を有する対象に、網膜下送達によって投与される単一用量のベクター1を投与する。本試験における網膜下送達は、血管アーケード内の中心窩よりも上位にある領域に標的化され、これにより、黄斑が回避される。ベクター1は、VEGFに結合し、その活性を中和するモノクローナル抗体断片をコードする遺伝子を含むAAV8ベクターを使用する。安全性は、ベクター1の投与後の最初の24週間(主要試験期間)の主要な焦点である。主要試験期間の終了後、対象は、ベクター1による治療後104週まで評価され続ける。
【0298】
投薬。5つの用量: 3×10
9GCのベクター1(1.2×10
10GC/mL)、1×10
10GCのベクター1(4×10
10GC/mL)、6×10
10GCのベクター1(2.4×10
11GC/mL)、1.6×10
11GCのベクター1(6.2×10
11GC/mL)、及び2.5×10
11GCのベクター1(1×10
12GC/mL)を250μLのベクター1の容量で使用する。
【0299】
転帰尺度。主要転帰尺度は、26週の時間枠にわたる安全性−眼及び眼以外の有害事象(AE)及び重大な有害事象(SAE)の発生率−である。
【0300】
二次転帰尺度には、以下のものが含まれる:
【0301】
106週の時間枠にわたる安全性−眼及び眼以外のAE及びSAEの発生率。
【0302】
106週の時間枠にわたる−最高矯正視力(BCVA)の変化。
【0303】
106週の時間枠にわたる−SD-OCTによって測定される中心網膜厚(CRT)の変化。
【0304】
106週の時間枠にわたるレスキュー注射−レスキュー注射の平均の回数。
【0305】
106週の時間枠にわたる−フルオレセイン血管造影法(FA)によって測定される脈絡膜新生血管形成(CNV)の変化並びに病変サイズ及び漏出面積CNV変化。
【0306】
適格性基準。以下の適格性基準が本試験に適用される:
【0307】
最低年齢:50歳
【0308】
最高年齢:89歳
【0309】
性別:全て
【0310】
ジェンダーに基づくこと:なし
【0311】
健常ボランティアの受け入れ:なし
【0312】
選択基準:
・試験眼にAMDに続発する中心窩下CNVがあると診断を受けた50歳以上かつ89歳以下の患者であり、過去に硝子体内への抗VEGF療法を受けている。
・各々のコホートの最初の患者について、≦20/63〜≧20/400のBCVA(≦63かつ≧19の糖尿病網膜症早期治療研究[ETDRS]文字数)であり、次に、残りのコホートについて、≦20/20〜≧20/400のBCVA(≦73かつ≧19のETDRS文字数)である。
・抗VEGF療法を必要とし、かつそれに応答した既往がある。
・治験参加時に(1週目にSD-OCTにより評価して)、抗VEGFに応答した。
・試験眼が偽水晶体眼(白内障手術後の状態)でなければならない。
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ(AST/ALT)<2.5×正常値上限(ULN);総ビリルビン(TB)<1.5×ULN;プロトロンビン時間(PT)<1.5×ULN;ヘモグロビン(Hb)>10g/dL(男性)及び>9g/dL(女性);血小板>100×10
3/μL;推定糸球体濾過量(eGFR)>30mL/分/1.73m
2である。
・書面による署名付きインフォームドコンセントを提供する意思があり、かつそれが可能でなければならない。
【0313】
除外基準:
・試験眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫がある。
・試験眼における視力改善を妨げる任意の状態、例えば、線維症、萎縮、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔がある。
・試験眼に進行中の網膜剥離、又はその既往がある。
・試験眼に進行した緑内障がある。
・スクリーニングの6カ月前に、試験眼に、抗VEGF療法以外の硝子体内療法、例えば、硝子体内ステロイド注射又は治験薬を受けた履歴がある。
・スクリーニング時に試験眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する。
・過去6カ月以内に心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性虚血発作を起こしている。
・最大限の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する。
【0314】
(6.4.4 実施例13:ヒト対象を治療するためのプロトコル)
本実施例は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を有する患者の遺伝子療法治療に関する。本実施例は、実施例12の更新版である。本実施例では、可溶性抗VEGF Fabタンパク質(実施例7に記載)のコード配列を保有する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)であるベクター1を、nAMDを有する患者に投与する。遺伝子療法治療の目的は、網膜変性症の進行を減速又は停止させ、かつ最小限の介入/侵襲的処置により視力喪失を減速させ又は予防することである。
【0315】
投薬及び投与経路。250μLの容量のベクター1を、治療を必要とする対象の眼に網膜下送達によって単一用量として投与する。対象に、3×10
9GC(1.2×10
10GC/mL)、1×10
10GC(4×10
10GC/mL)、6×10
10GC(2.4×10
11GC/mL)、1.6×10
11GC(6.2×10
11GC/mL)、又は2.5×10
11GC(1×10
12GC/mL)の用量を投与する。
【0316】
網膜下送達は、網膜外科医により、局所麻酔下の対象を用いて行われる。この処置は、中心部硝子体切除を伴う標準的な3ポート経扁平部硝子体切除と、それに続く、網膜下カニューレ(38ゲージ)による網膜下腔へのベクター1の網膜下送達を伴う。送達は、網膜下腔に250μLを送達するように、硝子体切除機械によって自動化される。注射及び結果として生じるブレブは、ビデオ録画によって及び外科医による描画表示によって記録される。網膜下送達は、血管アーケード内の中心窩よりも上位にある領域に標的化され、これにより、黄斑が回避される。
【0317】
遺伝子療法は、滲出型AMDの治療のための1以上の療法と組み合わせて投与することができる。例えば、遺伝子療法は、レーザー光凝固法、ベルテポルフィンによる光線力学療法、及び限定されないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF剤の硝子体内と組み合わせて投与される。
【0318】
ベクター1の投与の約4週間後から、患者は、治療医師の判断で、罹患した眼への硝子体内ラニビズマブレスキュー療法を受けることができる。このレスキュー療法は、治療医師の判断で、ラニビズマブからアフリベルセプトに変更することができる。
【0319】
患者亜集団。好適な患者としては:
・nAMDの診断を受けている;
・抗VEGF療法に応答する;
・抗VEGF療法の頻回注射を必要とする;
・50歳以上かつ89歳以下の年齢の男性又は女性である;
・罹患した眼において、≦20/63かつ≧20/400のBCVA(≦63及び≧19のETDRS文字数)を有する;
・≦20/20〜≧20/400のBCVA(≦73〜≧19のETDRS文字数)を有する;
・罹患した眼にAMDに続発する中心窩下CNVの文書化された診断を受けている;
・次のようなCNV病変特徴: 10ディスク面積未満の病変サイズ(典型的なディスク面積は2.54mm
2である)、該病変サイズの<50%の血液を有する;
・治療の約8カ月前(もしくはそれ以内)に、罹患した眼におけるnAMDの治療用の抗VEGF剤の少なくとも4回の硝子体内注射を受けており、解剖学的応答がSD-OCTで記録されている;並びに/又は
・罹患した眼に網膜下もしくは網膜内液が存在することがSD-OCTで証明されている
患者を挙げることができる。
【0320】
治療前に、患者をスクリーニングし、以下の基準のうちの1つ又は複数によって、この療法が患者に適さないことが示され得る:
・罹患した眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫がある;
・罹患した眼において血液がAMD病変の≧50%を占めるか又は>1.0mm2の血液が中心窩下部に存在する;
・罹患した眼におけるVA改善を妨げる任意の状態、例えば、線維症、萎縮、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔がある;
・罹患した眼に進行中の網膜剥離、又はその既往がある;
・罹患した眼に進行した緑内障がある;
・対象へのリスクを増大させ得る罹患した眼における任意の状態が視力喪失を予防もしくは治療する又は試験手順もしくは評価を妨害する医学的介入又は外科的介入のいずれかを必要とする;
・スクリーニング前の12週間以内に罹患した眼に眼内外科手術を受けた履歴がある(イットリウム・アルミニウム・ガーネット嚢切開はスクリーニング通院の10週間よりも前に実施されたのであれば許容され得る);
・スクリーニングの6カ月前に、罹患した眼に、抗VEGF療法以外の硝子体内療法、例えば、硝子体内ステロイド注射又は治験薬を受けた履歴がある;
・スクリーニング時に罹患した眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する;
・スクリーニング前の5年間に化学療法及び/又は放射線を必要とする悪性腫瘍の既往がある(局所基底細胞癌は許容され得る);
・網膜毒性を引き起こしたことが知られている療法、又は視力に影響を及ぼし得るもしくは既知の網膜毒性を有する任意の薬物、例えば、クロロキンもしくはヒドロキシクロロキンによる同時療法の履歴がある;
・外科的処置を妨げる可能性がある罹患した眼における眼内又は眼周囲感染症を有する;
・治療から過去6月以内に心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性虚血発作を起こしている;
・最大限の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する
・眼の外科的処置又は治癒過程を妨げる可能性がある任意の同時治療を受けている;
・ラニビズマブもしくはその成分のいずれかに対する既知の過敏症又はベクター1のような薬剤に対する過去の過敏症を有する;
・治験責任医師の意見において、試験における対象の安全又は全ての評価及び追跡調査の遂行能力を損ねる可能性がある任意の深刻な、慢性の、又は不安定な医学的又は心理学状態
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)>2.5×正常値上限(ULN)である
・総ビリルビン>1.5×ULNである。ただし、対象がジルベール症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンの既知の既往を過去に有しない場合に限る
・プロトロンビン時間(PT)>1.5×ULNである
・ヘモグロビンが男性対象について<10g/dL及び女性対象について<9g/dLである
・血小板<100×10
3/μLである
・推定糸球体濾過量(GFR)<30mL/分/1.73m
2である。
【0321】
以下のレスキュー基準:
・スペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)での網膜液の蓄積と関連付けられる≧5文字の視力喪失(最高矯正視力[BCVA]による)
・SD-OCTでの脈絡膜新生血管形成(CNV)に関連する増加した、新たな、又は持続性の網膜下又は網膜内液
・新たな眼出血
のうちの1つ又は複数に該当する場合、遺伝子療法を投与した約4週間後から、患者は、治療医師の判断で、疾患活動性に対する罹患した眼への硝子体内ラニビズマブレスキュー療法を受けることができる。以下の調査結果のセット:
・視力が20/20もしくはそれより良好であり、かつSD-OCTにより評価したとき、中心網膜厚が「正常」であること、又は
・視力及びSD-OCTが2回の連続した注射の後に安定していること
のうちの1つが生じる場合、治療医師の判断によって、さらなるレスキュー注射を延期することができる。
【0322】
注射を延期する場合、視力又はSD-OCTが上記の基準に従って悪化するならば、注射を再開する。このレスキュー療法は、治療医師の判断で、ラニビズマブからアフリベルセプトに変更することができる。
【0323】
臨床目標の測定。主要な臨床目標には、網膜変性の進行を減速又は停止させること、及び視力喪失を減速させ又は予防することが含まれる。臨床目標は、標準治療、例えば、限定されないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む、抗VEGF剤の硝子体内注射を用いるレスキュー治療の中止又はその回数の低下によって示される。臨床目標は、視力喪失の減少もしくは予防、及び/又は網膜剥離の減少もしくは予防によっても示される。
【0324】
臨床目標は、BCVA(最高矯正視力)の測定、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、間接的検眼鏡検査、及び/又はSD-OCT(SD-光干渉断層撮影)によって決定される。特に、臨床目標は、経時的なBCVAのベースラインからの平均変化の測定、BCVAによるベースラインと比較した≧15文字の増加又は減少の測定、経時的なSD-OCTによって測定されるCRTのベースラインからの平均変化の測定、経時的なラニビズマブのレスキュー注射の平均回数の測定、初回のレスキューラニビズマブ注射までの時間の測定、経時的なFAに基づくCNV並びに病変サイズ及び漏出面積のベースラインからの平均変化の測定、経時的な眼房aVEGFタンパク質のベースラインからの平均変化の測定、血清及び尿中のベクター排出解析の実施、並びに/又はベクター1に対する免疫原性の測定、すなわち、AAVに対するNabの測定、AAVに対する結合抗体の測定、aVEGFに対する抗体の測定、並びに/又はELISpotの実施によって決定される。
【0325】
臨床目標は、眼底の自己蛍光(FAF)による地図状萎縮の面積の経時的なベースラインからの平均変化の測定、FAFによる地図状萎縮の新たな領域の発生の測定(ベースライン時に地図状萎縮を有さない対象において)、BCVAによるベースラインと比較して、それぞれ≧5及び≧10文字増加又は減少する対象の比率の測定、前年と比較してレスキュー注射が50%低下している対象の比率の測定、SD-OCTで流体を有さない対象の比率の測定によっても決定される。
【0326】
ベクター1の投与によって得られる改善/効力は、約4週、12週、6カ月、12カ月、24カ月、36カ月での又は他の望ましい時点での視力のベースラインにおける規定の平均変化として評価することができる。ベクター1による治療により、視力をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれよりも大きく増加させることができる。改善/効力は、4週、12週、6カ月、12カ月、24カ月、及び36カ月でのスペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)によって測定される中心網膜厚(CRT)のベースラインからの平均変化として評価することができる。ベクター1による治療により、中心網膜厚をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれよりも大きく増加させることができる。
【0327】
(6.5 実施例14:新生血管AMDのためのAAV8-抗VEGFfab)
(6.5.1 試験の簡単な概要)
本試験では、AAV8-抗VEGFfabの網膜下注射後の抗ヒトVEGF抗体断片(抗VEGFfab)の発現が示されている。ヒトにおける3型脈絡膜新生血管形成(NV)のモデルである、網膜でヒトVEGFを発現するトランスジェニックマウス(rho/VEGFマウス)において、ヌルベクターが注射された眼と比較して、≧1×10
7遺伝子コピー(GC)のAAV8-抗VEGFfabが注射された眼は、NVの平均面積が有意に低下していた。用量依存的応答が観察され、≦3×10
7でNVの中等度の低下、≧1×10
8GCで>50%の低下、及び3×10
9又は1×10
10GCでNVのほぼ完全な消失が見られた。ドキシサイクリン誘導性のVEGF高発現によって、重度の血管漏出及び滲出性網膜剥離(RD)が生じるTet/オプシン/VEGFマウスでは、全RDの70〜80%の低下が3×10
9又は1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfabで生じた。これらのデータは、NVAMDを有する患者においてAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射を検討する臨床試験を開始することを強く支持している。
【0328】
(6.5.2 序論)
加齢黄斑変性症(AMD)は、視細胞及び網膜色素上皮(RPE)細胞の死によって中心視の漸進的な喪失がもたらされる、高度に蔓延している神経変性疾患である。AMDを有する患者の10〜15%の亜群は、網膜下新生血管形成(NV)を発症し、機能不全新生血管からの血漿の漏出並びに網膜機能を損なう網膜内及び網膜下での流体貯留が原因で比較的速やかに視力の低下が生じる。この亜群は、新生血管AMD(NVAMD)を有すると言われる。
【0329】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、網膜下NVの発症及びNVによる過剰漏出において中心的な役割を果たし、視力を低下させる網膜下及び/又は網膜内液を黄斑に生じさせる。VEGF中和タンパク質の眼内注射は、漏出を可能にして、流体の再吸収及び視力の改善を可能にする(例えば、Rosenfeldらの文献、2006, 新生血管加齢黄斑変性症のためのラニビズマブ(Ranibizumab for Neovascular Age-Related Macular Degeneration)、N Eng J Med 355: 1419-31; Brownらの文献、2006, 新生血管加齢黄斑変性症のためのラニビズマブとベルテポルフィンの比較(Ranibizumab Versus Verteporfin for Neovascular Age-Related Macular Degeneration)、N Eng J Med 355: 1432-44を参照されたく;これらは各々、引用により完全に本明細書中に組み込まれる);しかしながら、VEGFの産生は慢性的であるため、VEGF中和タンパク質の硝子体レベルが治療レベルを下回ったときに、漏出及びNV成長が再発する。初期の臨床試験では、最近NVAMDを発症した治療を受けたことがない対象に、VEGF中和タンパク質の硝子体内注射を月1回投与し、34〜40%の対象が、大きくかつ臨床的に意義のある利益である、少なくとも15文字の最高矯正視力(BCVA)の改善を経験し、これは、2年間維持された。対象を3カ月に1回ほどの頻度で診察及び治療する延長試験では、視覚的利益のほとんど全てが失われた(例えば、Singerらの文献、2012, 展望:加齢黄斑変性症に続発する脈絡膜新生血管形成のためのラニビズマブの非盲検延長試験(Horizon: An Open-Label Extension Trial of Ranibizumab for Choroidal Neovascularization Secondary to Age-Related Macular Degeneration)、Ophthalmology 119: 1175-83を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。NVAMDを有する対象における後続試験では、月一回通院して、網膜内又は網膜下液が黄斑内に存在する場合にのみ注射を受けた対象と比較して、月1回のVEGF中和タンパク質の注射を投与された対象において、ベースラインBCVAからの平均の改善が有意により大きかった(例えば、Martinらの文献、2011, 新生血管加齢黄斑変性症のためのラニビズマブ及びベバシズマブ(Ranibizumab and Bevacizumab for Neovascular Age-Related Macular Degeneration)、N Eng J Med 364: 1897-908を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。視覚的利益は、これらの治療レジメンで2年間維持され、その後、対象は、その医師の判断で治療を受け、3年後、視覚的利益は失われ、全ての群の平均BCVAはベースラインよりも悪かった(例えば、Maguireらの文献、2016, 新生血管加齢黄斑変性症の抗血管内皮増殖因子治療による5年転帰:加齢黄斑変性症治療試験の比較(The Comparison of Age-Related Macular Degeneration Treatment Trials)、Ophthalmology 123: 1751-61を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。したがって、VEGFの持続的抑制を伴う頻回注射が、視覚的利益を最大化し、それを維持するために、NVAMDを有する患者で必要とされる。
【0330】
NVAMDを有する患者において長期的利益を提供するための1つの戦略は、網膜内で抗血管新生タンパク質を連続的に発現するための眼内遺伝子移入である。このアプローチは、動物モデルにおける網膜又は網膜下NVを強く抑制する(例えば、Hondaらの文献、2000, 実験的網膜下新生血管形成はアデノウイルス媒介性可溶性VEGF.flt-1受容体遺伝子トランスフェクションによって阻害される、VEGFの役割及び加齢黄斑変性症におけるSRNの可能な治療(Experimental Subretinal Neovascularization is Inhibited by Adenovirus-Mediated Soluble VEGF.flt-1 Receptor Gene Rransfection, a Role of VEGF and Possible Treatment for SRN in Age-Related Macular Degeneration)、Gene Ther 7: 978-85; Moriらの文献、2001, 色素上皮由来因子は網膜及び脈絡膜新生血管形成を阻害する(Pigment Epithelium-Derived Factor Inhibits Retinal and Choroidal Neovascularization)、J Cell Physiol 188: 253-63; Laiらの文献、2001, アンジオスタチンを発現するアデノ随伴ウイルスベクターによる脈絡膜新生血管形成の抑制(Suppression of Choroidal Neovascularization by Adeno-Associated Virus Vector Expressing Angiostatin)、Invest Ophthalmol Vis Sci 42: 2401-7; Moriらの文献、2002, 色素上皮由来因子のAAV媒介性遺伝子移入は脈絡膜新生血管形成を阻害する(AAV-Mediated Gene Transfer of Pigment Epithelium-Derived Factor Inhibits Choroidal Neovascularization)、Invest Ophthalmol Vis Sci 43: 1994-2000; Bainbridgeらの文献、2002, 可溶性VEGF受容体sFlt-1の遺伝子移入による網膜新生血管形成の阻害(Inhibition of Retinal Neovascularization by Gene Transfer of Soluble VEGF Receptor sFlt-1)、Gene Ther 9: 320-6; Takahashiらの文献、2003, エンドスタチンの眼内発現はVEGF誘導性網膜血管透過性、新生血管形成、及び網膜剥離を低下させる(Intraocular Expression of Endostatin Reduces VEGF-Induced Retinal Vascular Permeability, Neovascularization, and Retinal Detachment)、FASEB J 17: 896-8; Gehlbachらの文献、2003, 色素上皮由来因子をコードするアデノウイルスベクターの眼球周辺注射は脈絡膜新生血管形成を阻害する(Periocular Injection of an Adenoviral Vector Encoding Pigment Epithelium-Derived Factor Inhibits Choroidal Neovascularization)、Gene Ther 10: 637-46; Rotaらの文献、2004, 可溶性flt-1遺伝子移入後のラットにおける網膜新生血管形成の顕著な阻害(Marked Inhibition of Retinal Neovascularization in Rats Following Soluble-flt-1 Gene Transfer)、J Gene Med 6: 992-1002; Laiらの文献、2005, マウス及びサルにおける眼内新生血管形成のためのAAV媒介性sFlt-1遺伝子療法の長期評価(Long-Term Evaluation of AAV-Mediated sFlt-1 Gene Therapy for Ocular Neovascularization in Mice and Monkeys)、Mol Ther 12: 659-68を参照されたく;これらは各々、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。進行性のNVAMDを有する対象では、色素上皮由来因子を発現するアデノウイルスベクターの硝子体内注射により、進行性NVAMDを有する数人の患者における網膜下出血及び流体の再吸収が引き起こされ、このアプローチの概念の証明が提供された(例えば、Campochiaroらの文献、2006, 新生血管加齢黄斑変性症のためのアデノウイルスベクターにより送達される色素上皮由来因子、第I相臨床試験の結果(Adenoviral Vector-Delivered Pigment Epithelium-Derived Factor For Neovascular Age-Related Macular Degeneration, Results of a Phase I Clinical Trial)、Hum Gene Ther 17: 167-76を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。AAVベクターは、長期間の導入遺伝子発現をもたらすので、魅力的なプラットフォームである。進行性NVAMDを有する対象における最近の第1相試験では、9-merのポリグリシンによってヒトIgG1-Fcに連結されたFlt-1(VEGFR1)のドメイン2からなるVEGF中和タンパク質(sFLT01)の発現を駆動するニワトリβアクチン(CBA)プロモーターを含むAAV2ベクターの硝子体内注射が試験された(例えば、Heierらの文献、2017, 進行性新生血管加齢黄斑変性症を有する患者におけるAAV2-sFLT01の硝子体内注射、第1相非盲検試験(Intravitreous Injection of AAV2-sFLT01 in Patients with Advanced Neovascular Age-Related Macular Degeneration, a Phase 1, Open-Label Trial)、The Lancet 389: May 17を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。導入遺伝子発現は、最大用量の2×10
10ゲノムコピー(GC)が注射された10個の眼のうち5個で検出され、<2×10
10GCが注射された眼では検出されなかった。回復可能であると判定されたベースライン時に網膜内又は網膜下液を有する19人の患者のうちの11人において、6人が大幅な流体の低下及び視力の改善を示したのに対し、5人は流体の低下を示さなかった。したがって、生物学的活性のいくつかの証拠はあったが、応答に関して患者間でかなりの不均一性があった。一般に、AAV2ベクターの硝子体内注射と比較して、網膜下注射は、実質的により高い導入遺伝子発現をもたらし、NVAMDを有する対象におけるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによって天然の可溶性VEGFR1の発現が駆動されるAAV2ベクター(AAV2-sFlt-1)の網膜下注射を試験する第1相試験は、良好な安全性を示し、1×10
10又は1×10
11GCのAAV2.sFlt-1の網膜下注射を投与された6人の対象のうちの3人は、網膜内液のある程度の低下を示した(例えば、Rakoczyらの文献、2015, 新生血管加齢黄斑変性症のための組換えアデノ随伴ベクターによる遺伝子療法、第1相無作為化臨床試験の1年間の追跡調査(Gene Therapy with Recombinant Adeno-Associated Vectors for Neovascular Age-Related Macular Degeneration, 1 year Follow-Up of a Phase 1 Randomized Clinical Trial)、Lancet 386: 2395-403を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。NVAMDを有する32人の対象の第2相試験では、21人が1×10
11GCのAAV2.sFlt-1を含む100μlの網膜下注射に無作為に割り付けられ、11人が再発性の網膜内又は網膜下液に必要とされる分だけのラニビズマブ注射に無作為に割り付けられた(例えば、Constableらの文献、2016, 第2a相無作為化臨床試験:滲出性加齢黄斑変性症のための網膜下rAAV.sFLT-1の安全性及び事後分析(Phase 2a Randomized Clinical Trial: Safety and Post Hoc Analysis of Subretinal rAAV.sFLT-1 for Wet Age-Related Macular Degeneration)、EBioMedicine 14: 168-75を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。全ての対象に、ベースライン時と4週目、それ以後は、事前に指定された基準に従って、ラニビズマブ注射が投与された。この試験は、AAV2.sFlt-1の開発を継続するのに十分な有効性を示さなかった。sFlt-1のレベルは報告されておらず、それゆえ、十分なsFlt-1発現の不足をこの試験で見られた応答の欠如の潜在的要因として排除することができない。
【0331】
既知のAAV血清型との配列相同性についてのPCRによるアカゲザル由来組織のスクリーニングにより、AAV7及びAAV8が同定された(例えば、Gaoらの文献、2002, ヒト遺伝子療法のためのベクターとしてのアカゲザル由来の新規アデノ随伴ウイルス(Novel Adeno-Associated Viruses From Rhesus Monkeys as Vectors for Human Gene Therapy)、Proc Natl Acad Sci USA 99: 11854-9を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。AAV8カプシドを有するベクターが作製され、肝臓では、導入遺伝子発現が、AAV2などの別の血清型のカプシドを有するAAVベクターよりも10〜100倍高かった。AAV8に対する中和抗体は、ヒト血清中に稀であり、他のAAV血清型に対する抗体は、AAV8ベクター媒介性発現を低下させなかった(例えば、Gaoらの文献、2002, ヒト遺伝子療法のためのベクターとしてのアカゲザル由来の新規アデノ随伴ウイルス(Novel Adeno-Associated Viruses From Rhesus Monkeys as Vectors for Human Gene Therapy)、Proc Natl Acad Sci USA 99: 11854-9を参照されたい)。AAV2とAAV8はどちらも、中用量又は低用量の網膜下注射後にRPE細胞に形質導入するが、AAV8は、視細胞に形質導入するのにより効率的であり、それゆえ、全体的により高い発現レベルをもたらす(Vandenbergheらの文献、2011, サルにおけるAAV2及びAAV8視細胞遺伝子療法のための投薬量閾値(Dosage Thresholds for AAV2 and AAV8 Photorecepotr Gene Therapy in Monkey)、Sci Trans Med 3: 1-9を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。本研究では、ヒトVEGFに結合するヒト化抗体断片用の発現カセットを含む広範な用量のAAV8ベクターの網膜下注射の効力を試験するためにヒトVEGF165を視細胞で発現させるトランスジェニックマウスモデルを使用した。
【0332】
(6.5.3 材料及び方法)
AAV8-抗VEGFfabの構築
【0333】
AAV8-抗VEGFfabは、AAV2逆向き末端反復(ITR)に隣接した、ヒトVEGFに結合し、これを阻害するヒト化モノクローナル抗原結合断片をコードする遺伝子カセットを含む非複製型AAV8ベクターである。重鎖及び軽鎖の発現は、ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサーからなるCB7プロモーター、ニワトリβ-アクチンイントロン、並びにウサギβ-グロビンポリAシグナルによって制御される。抗VEGFfabの重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列は、自己切断性フーリン(F)/F2Aリンカーによって隔てられている。発現されるタンパク質産物は、ラニビズマブと同様であるが、同一ではない。フーリン媒介性切断という機構のために、ベクターから発現された抗VEGFfabは、通常ラニビズマブに見られる全てのアミノ酸に加えて、重鎖の最後の位置に0個、1個、又はそれより多くの追加のアミノ酸残基を含み得る。
【0334】
マウス
【0335】
マウスは全て、視覚眼科研究学会の眼科及び視覚研究における動物使用に関する声明(Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に準拠して処置され、プロトコルは、ジョンズ・ホプキンス大学の動物管理使用委員会(Johns Hopkins University Animal Care and Use Committee)により精査され、承認された。ロドプシンプロモーターによって視細胞におけるVEGF
165の発現が駆動されるトランスジェニックマウス(rho/VEGFマウス)及び視細胞においてVEGFが誘導性発現される二重トランスジェニックマウス(Tet/オプシン/VEGFマウス)が過去に記載されている。トランスジェニックマウスは全て、C57BL/6バックグラウンドであり、実験で使用する前に、ジェノタイピングして、導入遺伝子の存在を確認した。野生型C57BL/6マウスは、Charles River(Frederick, MD, USA)から購入した。
【0336】
ベクターの網膜下注射
【0337】
マウスに麻酔をかけ、眼をZeissの実体解剖顕微鏡で可視化した。インスリンシリンジの30ゲージの針を用いて、部分的に厚みのある小さな開口部を強膜に作り出し、ハミルトンシリンジの33ゲージの針を強膜の穴に挿入し、残りの強膜線維から網膜下腔へとゆっくりと前進させ、AAV8-抗VEGFfab又は空のAAV8ベクターを含む1μLのビヒクルを注射した。針を抜くときに、綿棒を注射部位に当てて、逆流を防いだ。
【0338】
網膜における抗VEGFfabタンパク質の発現
【0339】
野生型C57BL/6マウスの各々の眼に、1×10
8、3×10
8、1×10
9、3×10
9、1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfab又は1×10
10GCの空ベクターの単一の網膜下注射を投与した。注射から14日後、マウスを安楽死させ、眼を摘出し、凍結させた。Qiagen Tissue Lyserを用いて、200ulのRIPAバッファー中で、眼をホモジナイズした。標準曲線を作成するための既知濃度のラニビズマブを用いて、抗VEGFfabタンパク質の濃度をELISAにより測定した。簡潔に述べると、ELISAプレートを1μg/mLのヒトVEGF
165で4℃で一晩コーティングした。ウェルを、室温で1時間、200μLの1%BSAでブロッキングした。試料を1:80希釈し、100μLを2連のウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートし、その後、2回目のブロッキングバッファーインキュベーションを行った。洗浄後、ウェルを、どちらもビオチンで標識され、予め吸収された、1mg/mLのヤギ抗ヒトIgG重鎖及び0.5mg/mLのヤギ抗ヒトIgG軽鎖の100μLのカクテル中、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、ウェルを、ストレプトアビジン-HRPの100μLの1:30,000希釈液中、室温で1時間インキュベートし、洗浄し、0.1M NaOAcクエン酸バッファー(pH 6.0)、30%過酸化水素、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン≧99%からなる150μLのTMB検出溶液中、暗所室温で30分間インキュベートし、その後、50μLの停止溶液(2N H
2SO
4)を各々のウェルに添加し、プレートを450nm〜540nmで読み取った。
【0340】
Rho/VEGFマウスにおける3型脈絡膜NVに対する効果の評価
【0341】
出生後(P)14日で、rho/VEGFマウスの一方の眼に、3×10
6、1×10
7、3×10
7、1×10
8、3×10
8、1×10
9、3×10
9、1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfab又は1×10
10GCの空ベクター又はPBSの単一の網膜下注射を投与した。P21で、マウスを安楽死させ、眼を摘出し、網膜を無傷で解剖し、FITCコンジュゲートGSAレクチン(Vector Laboratories, Burlingame, CA)で染色し、視細胞側を上に向けてフラットマウントを作製した。蛍光画像をZeiss Axioskop蛍光顕微鏡で取得し、治療責任医師を治療群に関して遮蔽化して、網膜当たりの3型脈絡膜NVの面積をImagePro Plusソフトウェアを用いる画像解析により測定した。
【0342】
重度のVEGF誘導性血管漏出に対する効果の評価
【0343】
10週齢のTet/オプシン/VEGFマウスの一方の眼に、1×10
8、3×10
8、1×10
9、3×10
9、1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfab又は1×10
10GCの空ベクター又はPBSの単一の網膜下注射を投与した。注射から10日後、2mg/mLのドキシサイクリンを飲用水に添加し、4日後、マウスに麻酔をかけ、散瞳させ、眼底の写真をMicron III網膜イメージング顕微鏡で取得した。画像は、遮蔽化された治験責任医師により調べられ、網膜剥離の不在、部分網膜剥離、又は完全滲出性網膜剥離を示すことが決定された。治療責任医師を治療群に関して遮蔽化して、網膜全体の面積及び剥離網膜の面積をImagePro Plusソフトウェアを用いる画像解析により測定した。網膜剥離率を剥離網膜/網膜全体の面積として計算した。少数の眼では、角膜又はレンズの透明性が欠けていたため、鮮明な底画像を取得することができず、これらの場合、マウスを安楽死させ、眼を摘出し、凍結させ、10μmの連続切片を切削した。切片を4%パラホルムアルデヒドで後固定し、Hoechstで染色し、光学顕微鏡検査で調べて、滲出性網膜剥離の存在及び程度を決定した。
【0344】
長期効果を調べるために、Tet/オプシン/VEGFマウスの一方の眼に、3×10
9GCのAAV8-抗VEGFfab又は3×10
9GCの空ベクターの単一の網膜下注射を投与した。他眼は、未処置対照としての役割を果たした。注射から1カ月後、2mg/mLのドキシサイクリンを飲用水に添加し、4日後、眼底の写真を取得し、上記のように等級付けた。
【0345】
統計比較
【0346】
スチューデントのt-検定を実施して、2つの実験群間の転帰尺度を比較した。3以上の実験群間の比較のために、ボンフェローニ多重比較補正を用いて多重比較を調整する一元配置分散分析(ANOVA)を実施した。様々な用量の群と空ベクター群の間の剥離のタイプを比較するために、フィッシャーの正確検定を用いて、p値を計算した。統計検定は全て、5%統計的有意性で実施した。統計解析は、Stataバージョン14.2(College Station, Texas 77845)を用いて行った。
【0347】
(6.5.4 結果)
VEGF中和タンパク質の選択
【0348】
最初の実験において、全長抗VEGF抗体、抗VEGF抗体断片(抗VEGFfab)、及び可溶性VEGF受容体-1(sFlt-1)のcDNAを作製し、それらを、CMVプロモーターを含む発現カセットに挿入し、AAV8にパッケージングした。3×10
9GCの各々のベクターの網膜下注射から14日後、眼当たりの各々の導入遺伝子の総量をELISAにより測定した。AAV8-CMV.抗VEGFfabが注射された眼が高レベルの抗VEGFfabタンパク質を有する一方、AAV8-CMV.抗VEGF全長Abが注射された眼は、比較的低レベルの全長抗VEGF Abを有しており、AAV8-CMV.sFlt1が注射された眼は、非常に低レベル又は検出不可能なレベルのsFlt1を有していた(
図6)。それゆえ、抗VEGFfabを、後続の実験のための抗VEGF中和タンパク質として選択した。
【0349】
AAV8-抗VEGFfabの構築及びインビトロ試験
【0350】
抗VEGFfabのcDNAを、CB7プロモーターを含む発現カセットに挿入した。AAV8-抗VEGFfab(RGX-314)のゲノムの模式図は、
図7Aに示されている。CB7プロモーターは、抗VEGFfabの重鎖及び軽鎖並びにフーリン-F2Aリンカーの発現を駆動し、結果として、抗VEGFfabの翻訳後会合をもたらす。
【0351】
マウスにおけるAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射後の導入遺伝子発現
【0352】
1μlの用量の1×10
8〜1×10
10GCの範囲のAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射から1週間後、抗VEGFfabタンパク質のレベルを眼ホモジネートで測定した。ベクター用量が増加するにつれて、抗VEGFfabの増加が見られ、ピークレベルは、3×10
9及び1×10
10GCの用量で観察された(
図7B)。
【0353】
AAV8-抗VEGFfabの網膜下注射はrho/VEGFマウスにおける網膜下NVを抑制する
【0354】
ロドプシンプロモーターによってヒトVEGF
165の発現が駆動されるトランスジェニックマウスは、出生後(P)14日頃から、深部毛細血管床から新しい血管を出芽させ、P21までに広範な網膜下NVを有する(例えば、Okamotoらの文献、1998, 視細胞で血管内皮増殖因子を過剰発現するマウスにおける新生血管形成の評価(Evolution of Neovascularization in Mice with Overexpression of Vascular Endothelial Growth Factor in Photoreceptors)、Invest Ophthalmol Vis Sci 39: 180-8; Tobeらの文献、1998, 視細胞で血管内皮増殖因子を過剰発現するマウスにおける新生血管形成の評価(Evolution of Neovascularization in Mice with Overexpression of Vascular Endothelial Growth Factor in Photoreceptors)、Invest Ophthalmol Vis Sci 39: 180-8を参照されたく;これらは各々、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。これらのマウスは、ヒトの3型脈絡膜NVとしても知られる網膜血管腫状増殖のモデルを提供する(例えば、Yannuzziらの文献、2001, 加齢黄斑変性症における網膜血管腫状増殖(Retinal Angiomatous Proliferation in Age-Related Macular Degeneration)、Retina 21: 416-34を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。P14でのPBSの網膜下注射後、血管細胞を選択的に染色するFITC標識GSAレクチンで染色し、視細胞側を上に向けてフラットマウントを作製したrho/VEGFマウスの網膜は、数多くの過剰蛍光スポットを示した(
図8A、上段、左の列)。より高い倍率では、濃黒色の網膜色素上皮細胞によって部分的に囲まれた網膜下NVの出芽の後ろの方の深部毛細血管床から伸びているフィーダー血管が見られた(
図8B、上段、真ん中の列)。P14で1×10
10GCの空のAAV8ベクターが注射されたマウスは、P21で、PBSを注射した眼で見られたのと同程度の量の網膜下NVを示した(
図8A、上段、右の列)。1×10
10、3×10
9、又は1×10
9GCのAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射を投与されたRho/VEGFマウスはP21で極めて少ない網膜下NVを示し(
図8A、真ん中の列)、一方、3×10
8又は1×10
8GCが注射されたマウス(
図8A、中段及び下段)は、やや多いが、空ベクターが注射されたマウスよりもやはりかなり少ない網膜下NVを示した。中間の量のNVは、3×10
7及び1×10
7GCが注射されたマウスで見られ、3×10
6GCが注射されたマウスは、空ベクターが注射されたマウスと同様であるように見えた(
図8A、下段)。
【0355】
ここで、
図8Bに関して、画像解析による網膜当たりのNVの平均面積の測定は、網膜フラットマウントの目視検査が示唆するものに匹敵する用量応答を示し、網膜当たりのNVの平均面積は、空ベクターが注射された眼よりも1×10
10〜1×10
7GCの用量のAAV8-抗VEGFfabが注射された眼で有意に小さかった。
【0356】
AAV8-抗VEGFfabの網膜下注射はVEGF誘導性血管漏出を阻止する
【0357】
tet-onシステム及びロドプシンプロモーターにより、rho/VEGFマウスの網膜に存在するものよりも10倍高いレベルでVEGF
165のドキシサイクリン誘導性発現がもたらされるTet/オプシン/VEGF二重トランスジェニックマウスは、飲用水中の2mg/mlのドキシサイクリンから始めて4日以内に滲出性網膜剥離を生じた(例えば、Ohno-Matsuiらの文献、2002, 成体マウスの視細胞における血管内皮増殖因子の誘導性発現は重度増殖性網膜症及び網膜剥離を引き起こす(Inducible Expression of Vascular Endothelial Growth Factor in Photoreceptors of Adult Mice Causes Severe Proliferative Retinopathy and Retinal Detachment)、Am J Pathol 160: 711-9を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。1×10
8又は3×10
8GCのAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射から10日後、75%及び50%は、飲用水中の2mg/mlのドキシサイクリンから始めて4日後に、完全な滲出性網膜剥離を発症し(
図9A、左の2つのパネル)、これは、PBS又は1×10
10GCの空ベクターの網膜下注射を投与されていたドキシサイクリン処置されたTet/オプシン/VEGFマウスで見られるもの(
図9B)と同様であった。
図9Cは、滲出性網膜剥離がないことを示す3×10
9GCのAAV8-抗VEGFfabが注射された眼及び完全網膜剥離を有する注射を受けていない他眼由来の眼切片を示している。空ベクターの網膜下注射を投与された10個の眼のうちの10個が、ドキシサイクリンを始めて4日後に、完全網膜剥離を有し、1×10
10GCの空ベクターの網膜下注射を投与された10個の眼のうちの10個が完全網膜剥離(7個の眼)又は部分網膜剥離(3個の眼)を有していた(
図9D)。空ベクターが注射されたマウスと比較して、完全網膜剥離を有する眼のパーセンテージは、3×10
8(50%低い)、1×10
9(67%低い)、3×10
9(80%低い)、又は1×10
10(78%低い)GCのAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射を投与されていたドキシサイクリン処置されたTet/オプシン/VEGFマウスで有意に低かった。剥離した網膜のパーセンテージを画像解析により測定し、空ベクターが注射された眼と比較し、平均剥離率は、3×10
9GC又は1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfabが注射された眼よりも有意に低かった(
図9E)。
【0358】
長期効果を評価するために、一方の眼への3×10
9GCのAAV8-抗VEGFfab又は空ベクターの網膜下注射から1カ月後に、Tet/オプシン/VEGFマウスを2mg/mlドキシサイクリンで処置した。代表的なマウスは、AAV8-抗VEGFfabが注射された眼における剥離の不在と他眼における完全剥離(
図10A、右側)、及び空ベクターが注射された眼と他眼の両方における完全剥離を示した(
図10A、右側)。これら2つの群由来の他のマウスにおいて、Hoecht染色した眼切片は、AAV8-抗VEGFfabが注射された眼における剥離の不在と他眼における完全剥離、及び空ベクターが注射された眼と他眼における完全剥離を示した(
図10B)。AAV8-抗VEGFfabが注射された10個の眼のうちの9個は、網膜剥離を有さず、これは、8個の眼が完全剥離を有し、2個の眼が部分剥離を有する同じマウスの注射を受けていない他眼と有意に異なっていた(
図10C)。完全剥離が7個、部分剥離が1個存在する空ベクターが注射された8個の眼と比較して、AAV8-抗VEGFfabが注射された眼は、有意により少ない剥離を示した。また、AAV8-抗VEGFfabが注射された眼における平均網膜剥離率は、同じマウスの注射を受けていない他眼又は空ベクターが注射された眼における平均網膜剥離率よりも有意に低かった(
図10D)。
【0359】
(6.5.5 考察)
VEGFの持続的抑制は、視力を最大限に改善し、かつ経時的な疾患進行及び視力喪失を予防するために、NVAMDを有するほとんど患者で必要とされる。この目標を達成するために設計されたいくつかの戦略が試験されている。VEGF中和タンパク質を眼にゆっくりと放出する再充填可能なリザーバの外科移植は、NVAMDを有する患者における第2相臨床試験(中心窩下新生血管加齢黄斑変性症を有する参加者におけるラニビズマブの持続性送達のためのラニビズマブポート送達システムの効力及び安全性の試験(Study of the Efficacy and Safety of the Ranibizumab Port Delivery System for Sustained Delivery of Ranibizumab in Participants With Subfoveal Neovascular Age-Related Macular Degeneration)、ClinicalTrials.gov identifier: NCT02510794)で評価されている。別のアプローチは、VEGFの発現を抑制するHIF-1の低分子阻害剤を生分解性ポリマーに組み入れ、この阻害剤の持続放出を可能にする微粒子を製剤化し、それを眼に注射することである(例えば、Iwaseらの文献、2013, 眼内新生血管形成に対するHIF-1アンタゴニストの持続性送達(Sustained Delivery of a HIF-1 Antagonist for Ocular Neovascularization)、J Control Release 172: 625-33を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。3つ目のアプローチは、VEGF中和タンパク質又は他の抗血管新生タンパク質を眼で発現させるための眼内遺伝子移入であり、臨床試験は、いくつかの有望なシグナルを示しているが(例えば、Campochiaroらの文献、2006, 新生血管加齢黄斑変性症のためのアデノウイルスベクターにより送達される色素上皮由来因子、第I相臨床試験の結果(Adenoviral Vector-Delivered Pigment Epithelium-Derived Factor For Neovascular Age-Related Macular Degeneration, Results of a Phase I Clinical Trial)、Hum Gene Ther 17: 167-76; Heierらの文献、2017, 進行性新生血管加齢黄斑変性症を有する患者におけるAAV2-sFLT01の硝子体内注射、第1相非盲検試験(Intravitreous Injection of AAV2-sFLT01 in Patients with Advanced Neovascular Age-Related Macular Degeneration, a Phase 1, Open-Label Trial)、The Lancet 389: May 17; Rakoczyらの文献、2015, 新生血管加齢黄斑変性症のための組換えアデノ随伴ベクターによる遺伝子療法、第1相無作為化臨床試験の1年間の追跡調査(Gene Therapy with Recombinant Adeno-Associated Vectors for Neovascular Age-Related Macular Degeneration, 1 year Follow-Up of a Phase 1 Randomized Clinical Trial)、Lancet 386: 2395-403; Constableらの文献、2016, 第2a相無作為化臨床試験:滲出性加齢黄斑変性症のための網膜下rAAV.sFLT-1の安全性及び事後分析(Phase 2a Randomized Clinical Trial: Safety and Post Hoc Analysis of Subretinal rAAV.sFLT-1 for Wet Age-Related Macular Degeneration)、EBioMedicine 14: 168-75を参照)、強い抗透過性及び抗血管新生活性を伴う一貫性のある持続的な導入遺伝子発現の証拠が欠けている。
【0360】
本試験において、1×10
9〜1×10
10GCのAAV8-抗VEGFfabの網膜下注射は、rho/VEGFマウスにおける3型脈絡膜NVを強く抑制することが分かった。空ベクターの網膜下注射と比較して網膜当たりの網膜下NVの平均面積を有意に低下させるAAV8-抗VEGFfabの最小限に有効な網膜下用量は、1×10
7GCであった。rho/VEGFマウスにおける発現と比較して少なくとも10倍高い用量のVEGF発現がドキシサイクリンにより誘導されるTet/オプシン/VEGF二重トランスジェニックマウスにおいて、わずか3×10
8GC程度のAAV8-抗VEGFfab用量の網膜下注射から10日後、滲出性網膜剥離の発生率及び重症度の有意な低下が見られた。漏出抑制は、平均網膜剥離率の有意な低下と検討された最長の時点の少なくとも1カ月間持続する効果とを示す3×10
9又は1×10
10GCの注射から10日後に、特に良好であった。1×10
8GC以上が注射された大半の眼は、検出可能なレベルの抗VEGFfabを有し、ピークレベルは、3×10
9又は1×10
10GCの注射後、眼当たり60〜80ngであった。
【0361】
これらのデータは、AAV8-抗VEGFfabの網膜下注射がNVAMDのための過去の遺伝子移入臨床試験で生じた問題のいくつかを克服するのに役立つ可能性があることを示している。AAV2-sFLT01試験において、房水試料をsFLT01についてアッセイし、2×10
8、2×10
9、又は6×10
9GCが注射された対象由来の試料は全て、全ての時点で検出下限未満であったが、2×10
10GCが注射された10人の対象のうちの5人は、26週目までに32.7〜112.0ng/ml(平均73.7ng/ml)のピークに達し、52週目までに53.2ng/mlの平均にまでわずかに減少する検出可能なレベルを有していた(例えば、Heierらの文献、2017, 進行性新生血管加齢黄斑変性症を有する患者におけるAAV2-sFLT01の硝子体内注射、第1相非盲検試験(Intravitreous Injection of AAV2-sFLT01 in Patients with Advanced Neovascular Age-Related Macular Degeneration, a Phase 1, Open-Label Trial)、The Lancet 389: May 17を参照)。既存の中和抗体は、非ヒト霊長類における硝子体内遺伝子療法を中和することが分かっており(例えば、Kottermanらの文献、2014, 抗体の中和は非ヒト霊長類への硝子体内アデノ随伴ウイルスベクター遺伝子送達の障壁をもたらす(Antibody Neutralization Poses a Barrier to Intravitreal Adeno-Associated Viral Vector Gene Delivery to Non-Human Primates)、Gene Ther 22: 116-26を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)、抗AAV2血清抗体によって、本試験におけるこの発現のばらつきを説明することができる。検出可能なsFLT01レベルを有する5人の対象のうちの4人は、ベースライン時に抗AAV2抗体が陰性であり、5人目は1:100の力価を有していたが、検出不可能なsFLT01レベルを有する5人の高用量対象のうちの4人は、≧1:400の力価を有していた。一般集団における抗AAV8血清抗体の発生率は、抗AAV2抗体の発生率よりもはるかに小さい(例えば、Calcedoらの文献、2009, アデノ随伴ウイルスに対する中和抗体の世界的疫学(Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses)、J Infectious Dis 199: 381-90を参照されたく;これは、引用により完全に本明細書中に組み込まれる)。さらに、AAV8の網膜下注射は、ベクター不活化からの防御層を軽減し得るさらなる因子を提供する可能性が高い。なぜなら、抗AAV2血清抗体は、硝子体内送達の場合に妨害するように、AAV2ベクターの網膜下注射後の導入遺伝子発現を妨害するようには見えないからである(例えば、Kottermanらの文献、2014, 抗体の中和は非ヒト霊長類への硝子体内アデノ随伴ウイルスベクター遺伝子送達の障壁をもたらす(Antibody Neutralization Poses a Barrier to Intravitreal Adeno-Associated Viral Vector Gene Delivery to Non-Human Primates)、Gene Ther 22: 116-26を参照)。また、導入遺伝子発現は、AAVベクターの硝子体内注射と比べて網膜下注射後に実質的により高く、同等の用量で、導入遺伝子発現は、AAV2ベクターと比べてAAV8ベクターの網膜下注射の場合により大きい(例えば、Okamotoらの文献、1998, 視細胞で血管内皮増殖因子を過剰発現するマウスにおける新生血管形成の評価(Evolution of Neovascularization in Mice with Overexpression of Vascular Endothelial Growth Factor in Photoreceptors)、Invest Ophthalmol Vis Sci 39: 180-8を参照)。
(6.6 実施例15:対照試料及び網膜細胞株試料に対するインタクト質量分析、ゲルベースのペプチドマッピング及び溶液ベースのペプチドマッピング)
(6.6.1 試料)
【表4】
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【0362】
(6.6.2 目的)
インタクト質量分析及びゲルベースのペプチドマッピングを両方の試料に対して実施した。溶液ベースのペプチドマッピングを対照に対して実施した。標的配列(配列番号38及び配列番号39)は、
図11に示されている。
【0363】
(6.6.3 実験方法)
(a)試料調製
【0364】
ペプチドマッピング−ゲル
【0365】
4×2.5μgの対照試料及び網膜細胞株試料をSDS-PAGEを用いて分離した。〜25kDのバンドを
図12に示されているように切り出した。
【0366】
以下のプロトコルで、ロボット(ProGest, DigiLab)を用いて、トリプシン消化を行った:
・25mM重炭酸アンモニウム、その後、アセトニトリルで洗浄する。
・10mMジチオスレイトールで60℃で還元させ、その後、50mMヨードアセトアミドでRTでアルキル化する。
・トリプシン(Promega)で37℃で4時間消化する。
・ギ酸でクエンチし、上清を、それ以上処理することなく、そのまま分析する。
【0367】
キモトリプシン及びエラスターゼ消化は、以下のプロトコルを用いて、手作業で実施した:
・25mM重炭酸アンモニウム、その後、アセトニトリルで洗浄する。
・10mMジチオスレイトールで60℃で還元させ、その後、50mMヨードアセトアミドでRTでアルキル化する。
・キモトリプシン/エラスターゼ(Promega)で37℃で12時間消化する。
・ギ酸でクエンチし、上清を、それ以上処理することなく、そのまま分析する。
【0368】
ペプチドマッピング−溶液
【0369】
対照の残りをTCA沈殿に供し、洗浄し、55μLの8M尿素、50mM Tris HCl、pH 8.0に再懸濁させた。TCA沈殿した試料をQubitフルオロメトリーにより定量し、それにより、以下の値が報告された:
0.78μg/μL×50μL=39μgの回収
【0370】
10μgの試料をトリプリケートで分注した。各々のトリプリケートを、11mM DTT中で、RTで1時間還元させ、12mMヨードアセトアミド中で1時間アルキル化し、トリプシン、キモトリプシン、及びエラスターゼで、37Cで一晩消化した。試料をEmpore C18 SDプレート上でのSPEに供した。
【0371】
(b)マススペクトロメトリー
【0372】
ペプチドマッピング
【0373】
ゲル消化物を、ThermoFisher Q Exactiveにインターフェース接続したWaters NanoAcquity HPLCシステムを用いるナノLC/MS/MSにより分析した。ペプチドを捕捉カラムに充填し、75μmの分析カラムにかけて350nL/分で溶出させた;両方のカラムには、Luna C18樹脂(Phenomenex)を充填した。質量分析計をデータ依存モードで操作し、MS及びMS/MSを、それぞれ、70,000 FWHM及び17,500 FWHMの分解能のOrbitrapで実施した。最も存在量の多い15個のイオンをMS/MS用に選択した。
【0374】
インタクト質量
【0375】
10pmolを、Q Exactive質量分析計にインターフェース接続したC4カラム(Waters Symmetry C4 3.5μm、2.1mm×50mm)を用いるLC/MSにより分析した。データを、スペクトル当たり3回のマイクロスキャンで、17,500 FWHM(m/z 400)の分解能で、m/z 600〜2500から獲得した。
【0376】
(c)データ処理
【0377】
ペプチドマッピング
【0378】
データを、Mascotのローカルコピーを用いて、以下のパラメーターで検索した:
酵素:半トリプシン又はなし(エラスターゼ及びキモトリプシンの場合)
データベース: Swissprot Human(共通の夾雑物及び標的配列が追加されたフォワード及びリバース)
固定の修飾:カルバミドメチル(C)
可変の修飾:酸化(M)、アセチル(タンパク質N-末端)、脱アミド化(NQ)、Pyro Glu(N-末端E)
質量値:モノアイソトピック
ペプチド質量許容差: 10ppm
フラグメント質量許容差: 0.02Da
最大の切断見逃し: 2
【0379】
バリデーション、フィルタリング、及び試料毎の非冗長リストの生成のために、Mascot DATファイルをScaffoldソフトウェアに入れてパースした。99%の最小タンパク質値、50%の最小ペプチド値(Prophetスコア)を用いて、及びタンパク質当たり少なくとも2つのユニークペプチドを要求して、データをフィルタリングした。
【0380】
インタクト質量
【0381】
MagTran v1.03ソフトウェアを用いて、インタクト質量データを処理した。
【0382】
(6.6.4 結果)
(a)対照試料
【0383】
ペプチドマッピング−ゲル
【0384】
データは、
図13に示されている両方の配列(配列番号38及び配列番号40)とマッチした。
【0385】
軽鎖(「LC」)−1430個の全スペクトル、552個のユニークペプチド、及び100%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。7個のN-アセチル化スペクトル及び40個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0386】
重鎖(「HC」)−1069個の全スペクトル、470個のユニークペプチド、及び100%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。7個のN-アセチル化スペクトル及び56個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0387】
HC C-末端Leu切断−H231 C-末端及びL232 C-末端に対応するペプチドを検出した。2つの代表的ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラムピーク面積は、相対的パーセンテージとともに、以下に示されている。2つのペプチドについての応答因子の違いに基づくこの測定の誤りの可能性があることに留意されたい:
【表5】
[この文献は図面を表示できません]
【0388】
ペプチドマッピング−溶液
【0389】
データは、
図14に示されている両方の配列(配列番号38及び配列番号40)とマッチした。
【0390】
LC−1453個の全スペクトル、489個のユニークペプチド、及び100%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。3個のN-アセチル化スペクトル及び48個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0391】
HC−985個の全スペクトル、423個のユニークペプチド、及び100%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。7個のN-アセチル化スペクトル及び76個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0392】
HC C-末端Leu切断−C-末端Leu切断に対応するペプチドは検出されなかった。
【0393】
インタクト質量
【0394】
図15に関して、観測されたクロマトグラム中の主要なピークをまとめて、デコンボリューション処理用のスペクトルを取得した(
図15A)。このスペクトルを、24,432.0Da及び24,956.0Daの平均質量の2つの成分にデコンボリューション処理した。デコンボリューション処理されたスペクトル及びアノテーションされた生データは、
図15Bに示されている。
【0395】
(b)網膜細胞株試料
【0396】
ペプチドマッピング−ゲル
【0397】
データは、
図16に示されている両方の配列(配列番号38及び配列番号39)とマッチした。
【0398】
LC−1107の全スペクトル、442個のユニークペプチド、及び100%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。6個のN-アセチル化スペクトル及び27個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0399】
HC−843の全スペクトル、409個のユニークペプチド、及び98%の配列カバレッジ。N-末端Metの証拠がなかったことに留意されたい。N-末端は、遊離アミンとN-アセチル化されたものの両方として存在する。1個のN-アセチル化スペクトル及び35個の非アセチル化スペクトルが存在した。
【0400】
HC C-末端切断−L232、R233、及びR235 C-末端に対応するペプチドを検出した。R236の証拠はなかった。3つの代表的ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラムピーク面積は、相対的パーセンテージとともに、以下に示されている。3つのペプチドについての応答因子の違いに基づくこの測定の誤りの可能性があることに留意されたい。
【表6】
[この文献は図面を表示できません]
*キモトリプシン消化物中にのみ存在するペプチド、他のペプチドはトリプシンから採取された
^他のペプチドと異なる電荷状態
【0401】
インタクト質量
【0402】
図17に関して、観測されたクロマトグラム中の主要なピークをまとめて、デコンボリューション処理用のスペクトルを取得した(
図17A)。このスペクトルを、24,428.0Da及び24,952.0Daの平均質量の2つの成分にデコンボリューション処理した。デコンボリューション処理されたスペクトル及びアノテーションされた生データは、
図17Bに示されている。
【0403】
(6.7 実施例16:ラットモデルにおけるAAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射)
(6.7.1 試験の簡単な概要)
以下の試験は、AAV8の上脈絡膜注射後の発現のレベル及び眼に形質導入された細胞型を決定するために実施された。結果は、AAV8.CB7.GFPの上脈絡膜注射の1週間後から2週間後の眼の周囲全体にわたる広範な導入遺伝子発現を示した。緑色蛍光タンパク質(GFP)発現は、網膜色素上皮(RPE)/脈絡膜細胞と神経節細胞を含む全ての網膜の層とで検出された。
【0404】
(6.7.2 方法)
ノルウェー・ブラウンラット(N=40)の各々の眼に、7.2×10
8又は2.85×10
10のいずれかのゲノムコピー(GC)のAAV8.CB7.GFPを含む3μlの上脈絡膜又は網膜下注射を投与した。注射は2工程で行った:まず、鋭い針を用いて、強膜の3/4に至るまで穴を開け(鋭端部分層強膜切開)、次に、同じ強膜切開部位に尖っていない針で注射して、上脈絡膜腔にだけ注射した。
【0405】
5匹の動物を注射後1、2、4、及び8週の各々で安楽死させた。一方の眼を、ホモジネート中のGFP発現について、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により解析し、もう一方の眼を、免疫蛍光により解析される眼凍結切片に使用した。
【0406】
(6.7.3 結果)
凍結切片の免疫蛍光解析は、上脈絡膜注射から1週間後の広範なGFP発現を示した。赤道での10μmの水平凍結切片は、眼の周囲の半分以上に広がる網膜及びRPE/脈絡膜におけるGFP発現を示した。より高い倍率では、GFPは、脈絡膜及び眼のいくつかの領域の外顆粒層、並びに大部分は、神経節細胞層の内顆粒層で検出された。RPE/脈絡膜フラットマウントは、毛様体から後方にほぼ視神経まで広がる眼杯の約1/4に至るまでのGFP発現を示した。網膜フラットマウントは、赤道後部の網膜の前縁から網膜領域の約1/5に至るまでのGFPを示した。
【0407】
GFPの発現領域及び蛍光強度は、上脈絡膜発現後1週間から2週間の間に増加した。眼切片の免疫蛍光解析により、2週目までに、GFP発現がRPE/脈絡膜細胞と神経節細胞を含む網膜の全ての細胞とで検出されることが明らかになった。2週間で、赤道での10μmの水平凍結切片は、眼の周囲全体に広がる網膜及びRPE/脈絡膜におけるGFPを示した。より高い倍率では、脈絡膜、外節、外顆粒層、内顆粒層、及び神経節細胞層におけるGFPが示された。RPE/脈絡膜フラットマウントは、毛様体から後方にほぼ視神経まで広がる眼杯の約1/3に至るまでのGFPを示した。より高い倍率のこの領域は、GFP低発現RPE細胞よりもはるかに多くのGFP高発現RPE細胞を示した。網膜フラットマウントは、前縁から後方に視神経付近まで網膜の約1/4でGFPを示した。
【0408】
4及び8週間で、蛍光強度は減少し、この減少は、産生される高レベルのタンパク質に応答した炎症反応によるものであると考えられる。
【0409】
GFPの平均発現レベルは、上脈絡膜注射から1及び2週間後の網膜及びRPE/脈絡膜のホモジネートで高かった(
図19)。
【0410】
(6.8 実施例17:ラットモデルにおけるAAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射と網膜下注射の比較)
(6.8.1 試験の簡単な概要)
以下の試験は、AAV8.抗VEGFの上脈絡膜注射と網膜下注射によって達成される発現を比較するために、並びにAAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射が眼のVEGF誘導性漏出及び新生血管形成を低下させ、かつ同様のレベルの抗VEGFを産生するかどうかを決定するために実施された。結果は、同等に高いレベルの抗VEGFfabが上脈絡膜又は網膜下AAV8.抗VEGFfabが注射された眼で検出され、抗VEGFタンパク質の分布が網膜と脈絡膜で同様であること、並びに上脈絡膜注射が網膜下送達と同等に中和VEGF誘導性漏出及び新生血管形成に有効であることを示した。
【0411】
(6.8.2 方法)
ノルウェー・ブラウンラットの一方の眼に、眼当たり2.85×10
10GC(4×10
10GC/mlの濃度)のAAV8.CB7.抗VEGFfabを含む3μlの上脈絡膜又は網膜下注射、及び他方の眼に7.2×10
8GCのAAV8.CB7.GFPを含む3μlの上脈絡膜又は網膜下注射を投与した。2週間後、200ngのVEGFを硝子体に注射した。2週間で評価されるラットのサブセットにおいて、100ngのVEGFを注射した。
【0412】
(6.8.3 結果)
2週間で、VEGF注射から24時間後に撮影された眼底写真は、AAV8.抗VEGFfabが注射された眼で正常な網膜及び網膜血管径を示したのに対し、AAV8.GFPが注射された眼は、拡張血管、浮腫の兆候、不鮮明な視神経乳頭縁、及び乳白色の網膜を示した。
【0413】
血管漏出をELISAによる硝子体試料中のアルブミンの測定によって評価し、上脈絡膜AAV8.GFPが投与された他眼と比べてAAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射が投与された眼における有意な低下を示した。しかしながら、網膜下AAV8.抗VEGFfabが投与された眼と網膜下AAV8.GFPが投与された他眼の間に硝子体アルブミンの有意な差はなかった(
図20A)。
同等に高いレベルの抗VEGFfabが上脈絡膜又は網膜下AAV8.抗VEGFfabが注射された眼で検出され(
図20B)、網膜と脈絡膜における分布は同様であった。
【0414】
(6.8.4 実施例18:上脈絡膜AAV8ベクターによる遺伝子移入はRPE及び網膜における広範な導入遺伝子発現をもたらす)
【0415】
(6.8.5 試験の簡単な概要)
遺伝性網膜変性症のための遺伝子置換及び新生血管加齢黄斑変性症(NVAMD)のためのVEGF-中和タンパク質の遺伝子送達が非常に進展している;しかしながら、網膜色素上皮(RPE)及び網膜へのウイルスベクターの送達には、依然として問題があり得る。AAVベクターの硝子体内注射が視細胞及びRPEでの発現がないことに限定されているので、導入遺伝子発現は限定されており、そのため、網膜下注射が大部分の適用のための好ましい送達経路である。しかしながら、網膜下注射は、視細胞をRPEから分離し、中心窩が含まれる場合、錐体視細胞の損傷が生じ、視覚的能力を制限し得る。また、網膜下注射は、手術室での硝子体切除の後に行われ、高リスクの処置関連事象、白内障形成、及び1〜2%の網膜剥離のリスクを保有する。本試験は、眼内遺伝子移入についての重大な利点を有する新規のアプローチである、AAV8ベクターの上脈絡膜注射を報告している。ラットへの2.85×10
10遺伝子コピー(GC)のAAV8.GFPを含む3μlの上脈絡膜注射から2週間後、鋸状縁から後方に視神経に隣接する領域まで伸びるRPE/脈絡膜フラットマウントの23%に及ぶ強いGFP蛍光が見られた。眼切片は、脈絡膜、RPE、及び網膜の全ての層に至るまでの眼の赤道の周囲全体にわたるGFP蛍光を示した。2.85×1010遺伝子コピー(GC)のAAV8.GFPを含む3μlの2回の上脈絡膜注射により、RPE/脈絡膜フラットマウントの面積の42%に及ぶGFP蛍光が生じた。2.85×10
10遺伝子コピー(GC)のAAV8.抗VEGFfabを含む3μlの上脈絡膜注射から2週間後の網膜及びRPE/脈絡膜における抗VEGFfabの平均レベルは、それぞれ、8.68及び3.72ng/mgタンパク質であり、これは、同じ量のベクターの網膜下注射後に見られるレベルと有意差がなかった。AAV8.抗VEGFの上脈絡膜注射と網膜下注射は同等に有効であり、ベクター注射から2及び7週間後にVEGF誘導性の網膜出血、網膜血管の拡張、及び血管漏出を予防した。これらのデータは、上脈絡膜注射が効力及び安全性を最大化し得る眼内遺伝子移入の好ましい経路を提供し得ることを示している。
【0416】
(6.8.6 試験の背景)
AAV2.CMV-RPE65の網膜下注射は、RPE65遺伝子の突然変異に起因するレーバー先天黒内障(LCA)を有する患者の運動性の改善をもたらしている(Maguireらの文献、2008, N. Eng. J. Med. 358 :2240-2248; Bainbridgeらの文献、2008, N. Eng. J. Med. 358: 2231-2239; Hauswirthらの文献、2008, Hum. Gen. Ther. 19:979-990)。米食品医薬品局によるこの治療の承認は、眼内遺伝子置換の現在及び将来の可能性の重要な妥当性確認を表す。しかしながら、LCA試験集団にとっての全体的な利益にもかかわらず、眼内炎、黄斑円孔、及び視力低下を含む、中心窩下への注射による重篤な合併症が一部の試験患者において見られた(Jacobsonらの文献、2015, N. Eng. J. Med. 372 :1920-1926; Bennettらの文献、2016, Lancet 388:661-672)。眼内注射又は処置はいずれも、眼内炎を生じ得るが、処置がより長くかつより多くに及ぶほど、眼内炎のリスクがより大きくなる。網膜下注射は、視細胞を網膜色素上皮(RPE)から分離し、これは、正常な眼の視細胞を傷付けることがあるが、遺伝性網膜変性症のために損傷を受けた視細胞を有する眼で特に危険であり得る(Hauswirthらの文献、2008, Hum. Gen. Ther. 19:979-990)。そのような眼は、網膜下ブレブを生成するより大きな圧力を必然的に伴う網膜-RPE密着を増大させる網膜下線維症を有し、中心窩は、黄斑の最も薄い部分であるので、圧力を受けた網膜下液は、中心窩から漏れて、黄斑円孔を生成し、網膜下腔内のベクターを減少させる。網膜下ベクター注射の後、感染は、ブレブ内の細胞(視細胞とRPEがベクターを含む流体によって隔てられる領域)に限定され、したがって、ブレブのサイズ及び位置が非常に重要であるが、ブレブが広がる方向を決定する最も容易な方法を外科手術の時点での網膜の検査から予測することができないので、制御は必ずしも容易ではない。ブレブが網膜下注射部位から対称的に外に広がった結果として、円ができることもあるし、それが網膜周辺に一方向に非対称的に広がって、標的とされた後部網膜の領域に及ばないこともある。ブレブがx軸又はy軸よりもz軸に沿って大きく広がった結果として、網膜及びRPEの比較的小さい領域を含む大きいブレブができることもある。こうした予測不可能性は、導入遺伝子発現の位置及び量のばらつきの源であり、転帰のばらつき及び一部の患者における潜在的により悪い予後をもたらし得る。複数回の網膜下注射は、標的とされる網膜及びRPEの領域をベクターに曝露させるのを助ける可能性があるが、合併症のリスクが増大することになる。
【0417】
上脈絡膜注射は、眼内薬物送達のための新しい経路を提供することが最近示されている。上脈絡膜腔は、強膜の内側のみへの流体の注射によって拡大することができる強膜の内表面沿いの潜在空隙である。強膜の厚さに近い長さを有する微小針の開発により、上脈絡膜注射が容易になったが(Patelらの文献、2011, Pharm. Res. 28:166-176)、これは、標準的な針を用いて行うこともできる。角膜縁の近くに注射された蛍光標識粒子は、眼の周囲に円周方向に流出し、広範囲の曝露をもたらす(Patelらの文献、2012, Invest. Opthalmol. Vis. Sci. 53: 4433-4441)。ほとんどの低分子は、上脈絡膜腔内で数時間の半減期を有するが、トリアムシノロンアセトニドなどの親油性分子は、ゆっくりと溶解して、網膜への持続性送達をもたらす沈殿を形成する(Patelらの文献、2012, Invest. Opthalmol. Vis. Sci. 53: 4433-4441; Chenらの文献、2015, J. Control. Release 203:109-117)。臨床試験により、トリアムシノロンアセトニドの上脈絡膜注射後の複数の疾患過程において黄斑浮腫の長期にわたる改善が示されている(Yehらの文献、2018 August 15, Retina epub: doi:10.1097/IAE.0000000000002279)。本試験では、AAV8ベクターの上脈絡膜注射の潜在的価値を眼内遺伝子移入について調べた。
【0418】
(6.8.7 材料及び方法)
(a)AAV8ベクター
【0419】
AAV8ベクターは、REGENXBIO社(Rockville, MD)により提供された。AAV8.GFPは、GFPをコードする遺伝子カセットを含み、CB7プロモーターを利用する、非複製型AAV8ベクターである。AAV8.抗VEGFfabは、ヒトVEGFを中和するヒト化モノクローナル抗原結合断片をコードする遺伝子カセットを含み、ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサーからなるCB7プロモーター、ニワトリβ-アクチンイントロン、並びにウサギβ-グロビンポリAシグナルを利用する、非複製型AAV8ベクターである。
【0420】
(b)動物
【0421】
動物は全て、視覚眼科研究学会の眼科及び視覚研究における動物使用に関する声明(Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に準拠して処置され、プロトコルは、ジョンズ・ホプキンス大学の動物管理使用委員会(Johns Hopkins University Animal Care and Use Committee)により精査され、承認された。8週齢のノルウェー・ブラウンラットは、Charles River(Frederick, MD, USA)から購入した。成体ダッチ・ベルテッドウサギは、Robinson Services社(Mocksville, NC, USA)から購入した。通常視力の成体アカゲザル(Rhesus macaques)は、ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)の動物施設で飼育及び管理した。
【0422】
(c)ラット、ウサギ、及びサルにおけるベクターの上脈絡膜注射
【0423】
ラットにケタミン/キシラジンで麻酔をかけ、眼を倍率10倍のZeissの実体解剖顕微鏡(Zeiss, Oberkochen, Germany)で可視化した。1mlシリンジの30ゲージの針を用いて、角膜縁と平行になった強膜に部分層開口部を作り出し、ハミルトンシリンジ(Hamilton Company, Reno, NV)の33ゲージの45度の針を強膜の穴に挿入し、残りの強膜線維から上脈絡膜腔へとゆっくりと前進させ、2.85×10
10GCのベクターを含む3μLを注射した。30秒後、綿棒を注射部位に当てながら、針を引き抜き、抗生物質の軟膏(Moore Medical LLC, Farmington, CT)を眼の表面に投与した。
【0424】
ウサギへの注射のために、ダッチ・ベルテッドウサギにケタミン/キシラジンで麻酔をかけ、眼をZeissの手術用顕微鏡下で露出させた。27ゲージの針が付いたインスリンシリンジを角膜縁の6mm後ろに強膜から接線方向に挿入した。指先に手応えがなくなったとき、針を強膜の内側に約4〜5mm押し込み、50μlのベクターを上脈絡膜腔にゆっくりと注射した。30秒後、綿棒を注射部位に当てながら、針を引き抜き、抗生物質の軟膏を眼の表面に投与した。
【0425】
サルへの注射のために、AAV8中和抗体(-)の3頭の成体マカクをケタミン塩酸塩(15〜20mg/kg)で鎮静させ、その後、0.5%プロパラカイン(Akorn, IL, USA)を用いて、両眼に局所麻酔をかけた。5%ヨウ化ポビドンを投与して、処置前に眼の表面を滅菌した。処置は、ウサギの場合と同じであった。
【0426】
(d)ラットにおけるベクターの網膜下注射
【0427】
ラットに麻酔をかけ、眼をZeissの手術用顕微鏡(Zeiss, Oberkochen, Germany)及び20D眼底レーザーレンズ(Ocular Instruments Inc, WA, USA)で可視化した。まず、インスリンシリンジの30ゲージの針を接線方向に挿入して、強膜に穴を開けた。その後、5μlシリンジの33ゲージのハミルトン針(Hamilton Company, Reno, NV)を強膜の穴に挿入し、眼球層、硝子体眼房を通して、反対側の網膜下腔にゆっくりと押し込み、2.85×10
10GCのベクターを含む3μlを注射した。処置後、抗生物質の軟膏を眼の表面に投与した。
【0428】
(e)組織採取及び組織学的検査
血液試料を、鎮静させた後のサルにおいて、ベクター注射前及び安楽死の3週間前という2つの異なる時点で回収した。視神経及び肝臓試料を取得した。ラット血液試料も安楽死の前に回収した。肝臓試料を死後に取得した。
【0429】
安楽死させた後、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。一方の眼から前眼部及び硝子体を摘出し、その後、網膜及びRPE/脈絡膜を単離し、別々にフラットマウントを作製した。もう一方の眼を最適切削温度媒体(Fisher Scientific Co.)中で凍結させ、凍結切片を作製した(10μm)。Hoechst染色(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を行って、網膜層及びRPEを可視化した。フラットマウントと眼切片の両方を蛍光顕微鏡検査によって調べた。
【0430】
眼を摘出した後、腹壁を切開して、腹腔内の臓器を露出させた。肝臓を回収し、凍結させた。
【0431】
(f)RPE/脈絡膜及び網膜ホモジネートの調製
【0432】
ラットの網膜及び眼杯試料を解剖顕微鏡下で単離し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche, 68298 Mannheim, Germany)が添加されたRIPAバッファー(Sigma Aldrich, Arlington, MA)中に入れた。試料を4〜5秒間超音波処理し(Sonic Dismembrator Model 300, Fisher Scientific, Walkersville, MD)、氷浴上に約5分間置き、その後、14,000rpmで10分間遠心分離した(Eppendorf, Germany)。上清を単離し、-80℃で保存した。
【0433】
(g)網膜及びRPE/脈絡膜におけるGFPの測定
【0434】
ラットの網膜及び脈絡膜試料のGFP濃度を、GFP SimpleStep ELISAキット(ab171581, Abcam, Cambridge, MA)を用いて測定した。簡潔に述べると、GFP標準及び試料を、GFP捕捉抗体とともに、各々のウェルに充填した。プレートを室温で1時間インキュベートした。5回の洗浄の後、100ulのTMB基質溶液を各々のウェルに添加し、プレートを暗所で10分間インキュベートし、その後、100ulの停止溶液を各々のウェルに添加した。450nmの吸光度をSpectra Max Plus 384マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, San Jose, California)によって測定した。GFP濃度を各々の試料の総タンパク質濃度によって正規化した。
【0435】
(h)網膜及びRPE/脈絡膜における抗VEGFfabの測定
【0436】
眼を摘出した後、網膜及びRPE/脈絡膜を分離し、上記のようにホモジナイズした。製造元の指示を用いて、ルセンティス(ラニビズマブ)抗VEGF ELISAキット(#200-880-LUG; Alpha Diagnostic Intl, San Antonio, TX)を網膜及びRPE/脈絡膜試料中の活性のあるルセンティスの定量に用いた。プレートを、Spectra Max Plus 384マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, San Jose, California)により、450nmの波長で読み取った。
【0437】
(i)硝子体試料におけるアルブミンの測定
【0438】
硝子体液をインスリンシリンジを用いて回収した。製造元の指示を用いて、ラットアルブミンELISAキット(ab108790; Abcam, Cambridge, MA)を用いて、1μLの希釈硝子体液及び標準曲線作成用のアルブミン試料中のアルブミンレベルを測定した。プレートを、Spectra Max Plus 384マイクロプレートリーダー(Molecular Devices, San Jose, California)により、450nm及び570nmで読み取った。
【0439】
(6.8.8 結果)
(a)AAV8.GFPの上脈絡膜注射は網膜、RPE、及び脈絡膜の全体にわたるGFP発現をもたらす
【0440】
ブラウン・ノルウェーラットの角膜縁の1mm後方への2.85×10
10遺伝子コピー(GC)のAAV8.GFPを含む3μlの上脈絡膜注射から1週間後、眼球の赤道を通る10μmの水平凍結切片は、眼の周囲のほぼ半分に広がる脈絡膜、RPE、網膜外層での緑色蛍光を示した。より高倍率の図は、注射の四分区間内の脈絡膜、RPE、及び網膜の外顆粒層(ONL)における強い蛍光を示し、注射部位からより遠く離れると、網膜における蛍光は、主として、視細胞内節にあった。網膜の摘出後、強膜、脈絡膜、及びRPEを含む眼杯のフラットマウントは、毛様体との境界から後方に視神経に隣接する領域まで広がるRPEの約25%での緑色蛍光シグナルを示した。高倍率の図は、二核性RPE細胞でばらつきのあるGFP発現を示し、Hoechst染色された核を見えなくする強い蛍光を示すものもあれば、検出可能な蛍光を示さないものもあった。網膜フラットマウントは、赤道の後方の網膜の前縁から網膜の約1/5の領域全体に至るまでの蛍光を示し、RPEで見られた蛍光よりもやや小さかった。高倍率の図は、網膜内に複数の細胞層があるため、蛍光細胞の低い解像度を示した。
【0441】
ブラウン・ノルウェーラットの角膜縁の1mm後方への2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlの上脈絡膜注射から2週間後、眼球の赤道を通る10μmの水平凍結切片は、眼の周囲全体に広がる脈絡膜、RPE、及び網膜外層での緑色蛍光を示した。高倍率の図は、脈絡膜、RPE、外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL)、及び神経節細胞層(GCL)における緑色蛍光を示した。眼杯のフラットマウントは、毛様体に隣接する前縁から後方に視神経付近にまで広がるRPEの領域の約1/3に及ぶ緑色蛍光を示した。より高倍率の図は、GFP発現におけるかなりの不均一性を示したが、低発現のRPE細胞よりも高発現のRPE細胞のパーセンテージが多かった。網膜フラットマウントは、網膜の約1/4に至るまでの強い緑色蛍光を示した。
図19に示されているように、2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlの上脈絡膜注射から1及び2週間後、RPE/脈絡膜又は網膜のホモジネート中のGFPタンパク質の発現レベルは、非常に高く、20〜40ng/mgタンパク質の範囲であった。
【0442】
(b)AAV8.GFPの2回の上脈絡膜注射によるGFP発現の増強
RPE/脈絡膜及び網膜のより大きい領域を複数回の上脈絡膜注射によって感染させることができるかどうかを明らかにするために、ラットに、2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlの単一の上脈絡膜注射又は3日間間隔を空けた2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlの2回の注射を投与した。1回目の注射から2週間後、単一の注射から2週間後の眼由来のRPE/脈絡膜フラットマウントの22.9%と比較して、2回の注射を受けた眼由来のRPE/脈絡膜フラットマウントの42.2%が緑色蛍光を示した。GFPタンパク質レベルは、1回の上脈絡膜注射を受けた眼由来のRPE/脈絡膜ホモジネートと比較して、2回の上脈絡膜注射を受けた眼由来のRPE/脈絡膜ホモジネートで有意に大きかった(
図21)。
【0443】
(c)AAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射はVEGF誘導性の血管拡張及び血管漏出を抑制する
【0444】
AAV8.GFPを用いる上記の実験により、AAV8ベクターの上脈絡膜注射は、RPE/脈絡膜及び網膜における広範な導入遺伝子発現をもたらすが、潜在的な生物学的効果に関する情報をもたらさないことが示されている。それゆえ、VEGFの過剰発現が過剰な血管漏出及び新生血管形成の主な駆動因子である網膜/脈絡膜血管疾患において治療効果の可能性を有するVEGF中和タンパク質を発現するAAV8.抗VEGFfabを用いて、実験を行った(Liuらの文献、2018, Mol. Ther. 26:542-549)。ラットの一方の眼に、2.85×10
10GCのAAV8.抗VEGFfabを含む3μlの上脈絡膜又は網膜下注射を投与し、他眼に、2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlを投与した。2週間後、これらの各々の眼に、200ngの組換えVEGF
165(VEGF)の硝子体内注射を投与し、比較のために、処置を受けていないラットに、同様に、200ngの組換えVEGF
165の注射を投与した。24時間後、いかなる前治療も受けていないVEGFが注射された眼は、拡張血管及び出血を示した。対照的に、AAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射を以前に投与された眼は、正常な網膜血管及び網膜を有していたが、AAV8.GFPの上脈絡膜注射を受けた他眼は、拡張血管及び出血を示した。これは、VEGFによって誘導される典型的な表現型である。同様に、AAV8.抗VEGFfabの網膜下注射を以前に投与された眼は、正常に見える眼底を有するが、AAV8.GFPの網膜下注射を投与された眼は、拡張し、蛇行した血管を有していた。より長期の効果を評価するために、上脈絡膜又は網膜下ベクター注射の7週間後に、100ngのVEGFの硝子体内注射を行った。過去に処置を受けたことがないラットにおけるVEGF注射から24時間後、眼に拡張血管及び出血が見られた。より早い時点と同様、AAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜又は網膜下注射を投与された眼は、正常な眼底を有し、AAV8.GFPの上脈絡膜又は網膜下注射を投与された眼は、拡張血管及び出血を有していた。硝子体内に漏れる血清アルブミンの測定は、網膜血管漏出を定量するための貴重な技法を提供する(Fortmannらの文献、2018, Sci. Rep. 8:6371)。未処置ラットの硝子体における平均アルブミンレベルは0.6(±0.49)であった。これは、以前の報告と一致している。200ngのVEGFの硝子体内注射から24時間後の硝子体アルブミンの平均増加は1.04(±0.12)であり、硝子体アルブミンは、AAV8.GFPの上脈絡膜又は網膜下注射から2又は7週間後にVEGF注射を受けた眼でも同様に増加したが、2又は7週間前にAAV8.抗VEGFの上脈絡膜又は網膜下注射を受けた眼では、アルブミンの増加が有意にかつ同程度に低下した(
図22)。網膜及びRPE/脈絡膜における抗VEGFfabタンパク質の平均レベルは、AAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜又は網膜下注射後、両方の時点で同様であった(
図23)。
【0445】
(d)ウサギにおける上脈絡膜注射
【0446】
ウサギに、4.75×10
11GCのAAV8.GFPを含む50μlを注射した。1又は2週間後、RPE/脈絡膜及び網膜フラットマウントを実施した。高いGFP発現を一部のRPE細胞で観察し、低いGFP発現を他の細胞で観察した。不均一な発現レベルのパターンは、ラットで観察されたものと同様であったが、より顕著であった。高発現の領域は、側方周辺から中間周辺にかけて広がり、ラットで見られるほど後方ではなかった。網膜フラットマウントは、グリア細胞からなる視神経を取り囲む有髄線条で最も強いGFP発現を示し、グリア細胞の形質導入が特に効率的であり得ることを示唆した。最も高い発現は有髄線条で観察されたが、切片は、中間周辺の網膜の全層にまたがる神経網膜細胞で発現があることを示した。
【0447】
(e)サルにおける上脈絡膜注射
【0448】
アカゲザルの各々の眼に、4.75×10
11GCのAAV8.GFPを含む50μlの上脈絡膜注射を投与し、3週間後、一方の眼由来のフラットマウント及び他眼由来の凍結眼切片を蛍光顕微鏡観察によって調べた。上脈絡膜注射から3週間後のRPE/脈絡膜フラットマウントの蛍光顕微鏡観察により、中間周辺のおよそ1/3に至るまでのGFPの強い発現が示された。
【0449】
フラットマウントに使用した3つの眼は、非常によく似た結果を示した。上脈絡膜注射から3週間後、GFP発現は、注射の四分区間内のRPE/脈絡膜フラットマウントの高倍率の図で、視神経のはるか後方まで見られた。発現のレベルは不均一であり(一部のRPE細胞では非常に高く、他の細胞では低い)、ラットで見られるものと同様であった。注射の四分区間内の中間周辺由来のRPE/脈絡膜フラットマウントは、不均一なGFP発現を示し、一部の細胞では強い蛍光が見られ、他の細胞ではほとんど見られなかった(これは、六角形のRPE細胞も示すより高い倍率でよく見られた)。注射の四分区間内の後部網膜由来のRPE/脈絡膜フラットマウントは、蛍光によって輪郭が描かれている視神経(ON)のほぼ境界にまで広がる、強度は低いが、より均一なGFP蛍光を示した。網膜フラットマウントは、網膜が視神経から視神経のずっと後方まで切り離されている網膜の切断端まで後方に広がるGFP発現も示し、より高い倍率では、蛍光が多層網膜の様々な細胞内に見られた。強膜フラットマウントの中間周辺は、強膜線維芽細胞内で強い蛍光を示し、毛様体のフラットマウントは、紡錘状細胞内で強い蛍光を示した。毛様体を貫く切片は、毛様体突起を含む全体にわたって強い蛍光を示した。網膜切片は、脈絡膜から神経節細胞及び神経線維層までの網膜の全層にまたがる全ての細胞で強いGFP発現を示した。中間周辺及び後部網膜由来の眼切片は、網膜の外境界から内境界までの全ての細胞で強い蛍光を示し、内部網膜の網膜血管壁に強い蛍光を伴っていた。視神経の切片は、神経の境界付近の鞘及び神経束を分離する中隔におけるGFP発現を示している。
【0450】
(6.8.9 考察)
眼は、わずかな量のベクターしか必要とされず、体の残りの部分への曝露が限定されるので、遺伝子移入に有利である比較的狭い空間である。眼内遺伝子移入の2つの主要な用途は、網膜変性症を引き起こす突然変異体遺伝子の置換と治療タンパク質の持続性発現であり、これらの分野の各々においてかなり進展している(Maguireらの文献、2008, N. Eng. J. Med. 358 :2240-2248; Bainbridgeらの文献、2008, N. Eng. J. Med. 358: 2231-2239; Hauswirthらの文献、2008, Hum. Gen. Ther. 19:979-990; MacLarenらの文献、2014, Lancet 383:1129-1137; Campochiaroらの文献、2006, Hum. Gen. Ther. 17:167-176; Campochiaroらの文献、2016, Hum. Gen. Ther. 28:99-111; Heierらの文献、2017, The Lancet 389: 50-61)。AAVベクターは、眼内遺伝子移入のための最も広く使用されるベクターとして浮上し、硝子体内注射及び網膜下注射という2つの送達経路が検討されている。硝子体内注射は、外来診療所で行うことができ、硝子体腔の内側を覆う全ての細胞をベクターに曝露させるが、網膜での発現は、中心窩を取り囲む神経節細胞及び毛様体扁平部の移行上皮という小集団に限定される。これにより、視細胞における遺伝子置換のための硝子体内送達が不可能になり、治療タンパク質の長期発現のためのその使用が著しく損なわれる。AAVベクターの網膜下注射は、注射によって引き起こされる網膜剥離の内側のRPE及び視細胞における強い導入遺伝子発現をもたらす。これにより、剥離の領域における視細胞もしくはRPEの突然変異体遺伝子を置換するか、又は網膜全体にアクセスすることができる可溶性治療タンパク質を強く発現する能力が提供される。ベクターの網膜下注射の欠点は: 1)それが、手術室に行って、大多数の患者で白内障を誘導し、かつわずかな比率で網膜剥離を合併する硝子体切除の実施を必要とすること、2)遺伝子送達が網膜剥離と隣接する網膜及びRPEの比較的小さい領域に限定され、遺伝子置換のために標的とされるべき最も重要な領域の優先順位付けを必要とし、かつ網膜及びRPEの残りの部分を犠牲にすること、3)中心窩は視覚的能力が最も高いので、遺伝子置換にとって最優先のものであるが、ベクターの網膜下注射による網膜剥離による既に損なわれている視細胞及びRPEの分離が視力を低下させる永久的な損傷を引き起こし、ジレンマをもたらし得ることである(Hauswirthらの文献、2008, Hum. Gen. Ther. 19:979-990)。
【0451】
本試験では、他の送達経路に優る重要な利点を有するAAV8ベクター-上脈絡膜注射のための新たな送達経路が示された。これは、硝子体内注射のように外来の状況で行われ、それにより、手術室に行く不便さを回避することができるが、より重要なことは、硝子体切除に伴う白内障及び網膜剥離のリスクを回避することができることである。これは、中心網膜を標的とする遺伝子置換のための網膜下注射の重大な懸念である、中心窩で視細胞をRPEから分離するリスクも排除する。網膜下腔におけるベクターの拡散と比較して、上脈絡膜腔でははるかに多く拡散し、RPE/脈絡膜及び網膜の非常に大きい領域全体にわたる発現を可能にする。GFPを可視化する最も感度の高い方法である網膜切片の蛍光顕微鏡観察により、2.85×10
10GCのAAV8.GFPを含む3μlの単一の上脈絡膜注射から2週間後に、赤道で眼の周囲全体に広がる発現が示された。高レベルのGFPだけをRPE/脈絡膜又は網膜フラットマウントの蛍光顕微鏡観察によって可視化することができ、各々の約25〜30%が高い発現を示した。高GFP発現の領域は、1回目から3日後の2回目の注射によって増加した。これは、AAV8ベクターの複数回の上脈絡膜注射を使用すれば、RPE/脈絡膜及び網膜の大部分又は全てにわたる高レベルの発現を達成することが可能であることを示唆している。これは、眼の四分区間の各々で上脈絡膜注射を行い、各々の注射の後に眼圧が正常化するのを待つか、又はその正常化を前房穿刺によって速めることにより、単一の外来受診の間に達成することができる。
【0452】
遺伝子置換は、比較的稀な遺伝性網膜変性の潜在的な治癒的治療であり、それゆえ、その珍しい疾病を有する患者にとって途方もない可能性を有する。治療タンパク質の遺伝子送達は、一般的な網膜及び脈絡膜血管疾患を有する何百万人もの患者の管理に大改革をもたらす可能性を有する。血管内皮増殖因子は、新生血管加齢黄斑変性症(NVAMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、及び網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫の極めて重要な刺激である(Campochiaroらの文献、2016, Ophthalmology 123:S78-S88)。これらの疾病の各々における現在のアプローチは、血管漏出を低下させ、かつ視力を改善するVEGF中和タンパク質の硝子体内注射を行うことであるが、これらの疾患は慢性的であり、VEGFの持続的な過剰発現はほとんどの患者で頻回の反復注射を必要とする。患者及び医師が長年にわたって最適な注射頻度を維持するのは難しく、そのため、臨床試験以外で治療を受けたNVAMDを有する患者では、長期的な視覚転帰が臨床試験で報告されているものよりも大幅に悪い(HORIZON, SEVEN-UP, CATT 5 Year、Holzらの文献、2015, Br. J. Ophthalmol. 99:220-226; Cohenらの文献、2013, Retina 33:474-481; Fingerらの文献、2013, Acta Ophthalmol)。VEGF中和タンパク質をコードする発現コンストラクトの遺伝子移入は、慢性的に過剰発現されるVEGFの信頼できる長期抑制をもたらす優れた戦略を提供する。AAV2.sFLT01の硝子体内注射の効果を検討する臨床試験は、最大用量が投与されたAAV抗体を有さないNVAMD患者における検出可能な発現及び一部の患者における抗VEGF注射の必要性を低下させる漏出の抑制を示したが、大多数の患者における安定性を提供するには不十分であった(Heierらの文献、2017, The Lancet 389: 50-61)。前臨床試験は、NVAMDに関連するモデルにおいて印象的な効力をもたらすAAV8.抗VEGFfabの網膜下注射の後に、VEGFに結合する抗体断片(抗VEGFfab)の信頼できる高レベル発現を示しており(Liuらの文献、2018, Mol. Ther. 26:542-549)、これは、現在、臨床試験で検討中である(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03066258)。本試験において、2.85×10
10GCのAAV8.抗VEGFfabを含む3μlの網膜下注射と比較して、同じ量のAAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射は、同様の抗VEGFfabの発現及び同様のVEGF誘導性血管漏出の抑制をもたらすことがラットで示された。既に存在する抗AAV抗体は、硝子体内送達でそうするようには、AAVベクターの網膜下注射の効力を損なわない。これらの抗体の効果は、上脈絡膜では不明である。AAV8.抗VEGFfabの上脈絡膜注射は、抗AAV8抗体を欠く患者の中の網膜又は脈絡膜血管疾患を有する患者におけるより侵襲性の低いアプローチとみなすことができる。
【0453】
硝子体内注射は、上脈絡膜注射と同様、比較的侵襲性が低く、外来の状況で行うことができる。感染及び発現は、それについて試験されているAAV2、AAV8、又は他の野生型AAVベクターの硝子体内注射後に限定されるが、それは、内境界膜(ILM)が物理的障壁を提供し、また、AAVベクターに結合するためである。無傷のILMの場合、中心窩内の細胞しかこの経路で形質導入されることができないが、新規のベクターは、ILM障害を回避することができる可能性がある。ILMは、齧歯類では網膜全体にわたって薄く、AAV2の硝子体内注射後、網膜深くに広がる網膜細胞の広範な領域の感染が可能になる。しかしながら、ILMは、霊長類でははるかにより頑丈であり、AAV2.GFPの硝子体内注射後、GFP発現は、中心窩を取り囲む、時に血管に沿った、神経節細胞に限定される(Pechanらの文献、2009, Gen. Ther. 16:10-16)。ユビキチン化に関与する表面チロシン残基がフェニルアラニンと置換されている突然変異体AAVベクターでは、ベクター分解が低下し、より低いベクター用量での導入遺伝子発現が増大し、ILMを透過する少量のベクターの有効性が増大する(Zhongらの文献、2008, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105:7827-7832; Mowatらの文献、2014, Gen. Ther. 21:96-105)。多様な突然変異体AAVベクターライブラリー及びインビボ選択プロトコルの作製により、将来有用となり得る霊長類での硝子体内注射の後に網膜細胞のより広範な感染をもたらし得るベクターが同定されている(Santiago-ORtizらの文献、2011, Gene Ther. 22:934-946)。ベクターの硝子体内注射の適用を拡大するためにベクターを改善し続ける一方で、同時に、様々な眼疾患における遺伝子移入の新たな利益を利用するためにベクターの上脈絡膜注射を研究することが重要である。
【0454】
(6.9 実施例18:上脈絡膜注射)
患者は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を呈している。可溶性抗VEGF Fabタンパク質のコード配列を保有する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)(実施例7に記載)を上脈絡膜薬物送達装置(
図24に図示)を介して患者の眼の上脈絡膜腔に投与する。患者を、OCT上での網膜の厚さ、視力、及びさらなる注射の必要性などの臨床評価により、応答について、投与前、投与時、及び投与後にモニタリングする。
【0455】
(6.10 実施例19:上脈絡膜腔経由の網膜下投与)
患者は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を呈している。可溶性抗VEGF Fabタンパク質のコード配列を保有する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)(実施例7に記載)を、後極に向けて上脈絡膜腔に挿入し、これを貫通させ、後極で細い針により網膜下腔に注射することができるカテーテルを含む網膜下薬物送達装置(
図25に図示)の使用により、患者の眼の上脈絡膜腔を経由して、患者の眼の網膜下腔に投与する。患者を、OCT上での網膜の厚さ、視力、及びさらなる注射の必要性などの臨床評価により、応答について、投与前、投与時、及び投与後にモニタリングする。
【0456】
(6.11 実施例20:後強膜近傍デポー処置による注射)
患者は、新生血管(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を呈している。可溶性抗VEGF Fabタンパク質のコード配列を保有する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)(実施例7に記載)を、後強膜近傍デポー処置(
図26に図示)により、患者の眼の強膜の外表面に投与する。患者を、OCT上での網膜の厚さ、視力、及びさらなる注射の必要性などの臨床評価により、応答について、投与前、投与時、及び投与後にモニタリングする。
【0457】
(等価物)
本発明は、その具体的な実施態様に関して詳細に記載されているが、機能的に等価であるバリエーションが本発明の範囲内にあることが理解されるであろう。実際、本明細書に示され、かつ記載されたものに加え、本発明の様々な改変が、前述の説明及び付随する図面から当業者には明らかとなろう。そのような改変は、添付される特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。当業者は、本明細書に記載される本発明の具体的な実施態様の多くの等価物を認識し、又は通常の実験のみを用いて確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【0458】
本明細書で言及された全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々の個々の刊行物、特許、又は特許出願が引用により完全に本明細書中に組み込まれることが具体的かつ個別的に示されるのと同程度に、引用により本明細書中に本明細書に組み込まれている。