(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-536907(P2020-536907A)
(43)【公表日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】ナノベクター、およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20201120BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20201120BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20201120BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20201120BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20201120BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20201120BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20201120BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20201120BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20201120BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/16
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/18
A61P35/00
A61K33/243
A61K31/704
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2020-520446(P2020-520446)
(86)(22)【出願日】2018年10月12日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月9日
(86)【国際出願番号】FR2018052538
(87)【国際公開番号】WO2019073182
(87)【国際公開日】20190418
(31)【優先権主張番号】1759607
(32)【優先日】2017年10月13日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519433399
【氏名又は名称】エヌアッシュ テラギ
(71)【出願人】
【識別番号】511196870
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】513015441
【氏名又は名称】サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック − セーエヌエールエス
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE − CNRS
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ティユモン,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】リュクス,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ロセッティ,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】トラン,ヴュ−ロング
(72)【発明者】
【氏名】マチュ,クレリア
(72)【発明者】
【氏名】ダアン,ミルヴァ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA31
4C076AA32
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076DD21
4C076DD49
4C076DD60
4C076EE27
4C076FF31
4C076GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、体内に活性物質を送達するためのナノベクターの分野に関し、特に、腫瘍を処置するためのナノベクターの分野に関する。特に、これらのナノベクターを使用することによって、より選択的に送達される活性物質の薬学動態の改善(例えば、腫瘍組織への薬物動態の改善)が可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物に活性物質を送達するためのナノベクターを調製する方法であって、
前記方法は、ヒトまたは動物に投与することができる以下の2つの溶液を混合する工程を含み、
a.ナノ粒子を含む第一の溶液であって、当該ナノ粒子は10nm未満、好ましくは5nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子から選択されるナノ粒子である、第一の溶液、
b.有機化合物から選択される、一種類の活性物質、または複数種類の活性物質の混合物を含む第二の溶液であって、好ましくは、当該活性物質は前記ナノ粒子の重量の2%〜40%の分子量、好ましくは前記ナノ粒子の重量の5%〜25%の分子量を有する、第二の溶液、
前記混合する工程は、前記ナノ粒子の表面における前記活性物質の物理的吸着による相互作用を許容する、濃度比、pHおよび温度の条件下で行われる、方法。
【請求項2】
[前記第二の溶液中の活性物質]:[前記第一の溶液中のナノ粒子]にて示される、重量に基づく濃度比は、0.5mg/gよりも大きく、好ましくは1mg/gよりも大きく、特に0.5mg/g〜100mg/gであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性物質は、5000g.mol−1未満のモル質量、好ましくは100〜2000g.mol−1のモル質量を有する有機低分子化合物から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性物質は、
アクチノマイシン、オールトランスレチノイン酸、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、ダルビシン、イマチニブ、イリノテカン、メクロレタミン、メカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン.レナリドミド、イブルチニブ、アビラテロン、エルロチニブ、エベロリムス、ニロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ゴセレリン、ネダプラチン、ラボプラチンおよびヘプタプラチンである抗癌物質の1つ、または、これらの混合物から選択される、
好ましくは、ドキソルビシン、TATEペプチドおよびシスプラチンである抗癌物質の1つ、または、これらの混合物から選択される、ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶液中に遊離したまま残存している活性物質を除去するために、前記溶液を混合した後で得られた前記ナノベクターを精製する工程と、
前記活性物質が物理的吸着によって表面に結合しているナノ粒子を含む前記ナノベクターを回収する工程と、を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
ヒトに活性物質を送達するためのナノベクターであって、
前記ナノベクターは、前記活性物質が物理的吸着によって表面に結合しているナノ粒子を含み、
前記ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは5nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子から選択されるナノ粒子であり、
前記活性物質は、前記ナノ粒子の全質量の2%〜40%のモル質量、好ましくは前記ナノ粒子の全質量の5%〜25%のモル質量を有する有機化合物から選択されることを特徴とする、ナノベクター。
【請求項7】
ナノベクター1グラム当たりの活性物質のミリグラム量にて表される積載量は、0.5mg/gよりも大きく、好ましくは1mg/g〜100mg/gであることを特徴とする、請求項6に記載のナノベクター。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、以下の構成を含むことを特徴とする、請求項6または7に記載のナノベクター:
a.前記ナノ粒子の全重量の少なくとも8%の重量比のケイ素、好ましくは前記ナノ粒子の全重量の8%〜50%の重量比のケイ素を含む、ポリシロキサン、
b.ナノ粒子当たり、好ましくは5〜100の割合、好ましくは5〜20の割合のキレート剤、
c.必要に応じて、例えば、ナノ粒子当たり、5〜100の割合、好ましくは5〜20の割合の金属原子であって、前記キレート剤と錯体を形成する金属原子。
【請求項9】
前記ナノ粒子は、下記の化学式(I)で表されることを特徴とする、請求項6〜8の何れか1項に記載のナノベクター:
Sin[O]m[OH]o[Ch1]a[Ch2]b[Ch3]c[My+]d[Dz+]e[Gf]f (I)
前記化学式(I)にて、
nは、20〜5000、好ましくは20〜200であり、
mは、nよりも大きく、4n未満であり、
Oは、0〜2nであり、
Ch1、Ch2、Ch3は、同じものであってもよく、異なるものであってもよいキレート剤であって、Si−C共有結合にて前記ポリシロキサンのSi原子に結合するキレート剤であり;a、b、cは、0〜nの整数であり、且つ、a+b+cは、n以下、好ましくは5〜100の、例えば5〜20の整数であり、
My+およびDz+は、お互いが同じものであってもよく、異なるものであってもよい金属カチオンであって、yおよびzが1〜6である金属カチオンであり;dおよびeは、0〜a+b+cの整数であり、且つ、d+eは、a+b+c以下であり、
Gfは、お互いが同じものであってもよく、異なるものであってもよい標的グラフトであって、各々がSi−C結合にて前記Si原子に結合し、目的の生物組織、例えば腫瘍組織への前記ナノ粒子の標的化を可能にする標的化分子を結合させる標的グラフトであり;fは、0〜nの整数である。
【請求項10】
前記キレート剤は、前記ナノ粒子上に、DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGAおよびDTPABAである錯体分子の1つ、または、これらの混合物をグラフト化させることによって得られることを特徴とする、請求項8または9に記載のナノベクター。
【請求項11】
大きな原子番号Zを有する原子から選択される金属原子、例えばガドリニウム、ビスマス、または、これらの混合物から選択される金属原子を含むことを特徴とする、請求項8〜10の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項12】
前記ナノ粒子は、1〜5nmの平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子であり、
前記ナノ粒子は、当該ナノ粒子上にDOTAGAをグラフト化することによって得られた前記キレート剤と錯体化したガドリニウムを含むことを特徴とする、請求項8〜11の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項13】
前記活性物質は、5000g.mol−1未満のモル質量、好ましくは100〜2000g.mol−1のモル質量を有する有機低分子化合物から選択されることを特徴とする、請求項6〜12の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項14】
前記ナノ粒子は、前記ポリシロキサンに共有結合にてグラフト化された標的化剤を含み、目的の生物領域のアクティブな標的化を可能にすることを特徴とする、請求項6〜13の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項15】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法によって得られることを特徴とする、請求項6〜14の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項16】
ヒトまたは動物の癌の処置に使用するための、請求項6〜14の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項17】
前記活性物質は、抗癌物質、特に細胞毒性物質から選択されることを特徴とする、請求項16に記載のナノベクター。
【請求項18】
前記抗癌物質は、
アクチノマイシン、オールトランスレチノイン酸、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、ダルビシン、イマチニブ、イリノテカン、メクロレタミン、メカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン.レナリドミド、イブルチニブ、アビラテロン、エルロチニブ、エベロリムス、ニロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ゴセレリン、ネダプラチン、ラボプラチンおよびヘプタプラチンである物質の1つ、または、これらの混合物から選択される、
好ましくは、ドキソルビシン、TATEペプチドおよびシスプラチンである物質の1つ、または、これらの混合物から選択される、ことを特徴とする、請求項16または17に記載のナノベクター。
【請求項19】
前記ナノ粒子は、放射線増感効果を有し、原子番号が40を超える元素のキレートを含み、
前記ナノベクターの有効量の処置対象への投与は、化学療法および放射線療法の効果を組み合わせた癌の処置を可能にすることを特徴とする、請求項16〜18の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項20】
前記ナノ粒子は、金属原子のキレートを含み、
前記金属原子は、磁気共鳴画像法、スキャン、または、シンチグラフィーによるイメージングの用途のために選択されるものであり、
前記ナノベクターの有効量の処置対象への投与は、化学療法による癌の処置、および、当該処置の治癒作用のモニタリングを可能にすることを特徴とする、請求項16〜19の何れか1項に記載のナノベクター。
【請求項21】
請求項6〜15の何れか1項に記載のナノベクターと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む、注射用医薬溶液。
【請求項22】
前記ナノベクターは、40よりも大きな原子番号Zを有する原子、好ましくはビスマスまたはガドリニウムを含み、
前記大きな原子番号Zを有する原子の前記溶液内での濃度は、10〜200mMであることを特徴とする、請求項21に記載の注射用医薬溶液。
【請求項23】
前記ナノベクターの前記活性物質が、ドキソルビシン、シスプラチンおよびTATEペプチドから選択されることを特徴とする、請求項21または22に記載の注射用医薬溶液。
【請求項24】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法によって直接的に得られることを特徴とする、請求項21〜23の何れか1項に記載の注射用医薬溶液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、体内に活性物質を送達するためのナノベクター、特に腫瘍を治療するためのナノベクターに関する。特に、これらのナノベクターを使用することによって、より選択的に送達される活性物質の薬学動態の改善(例えば、腫瘍組織への薬物動態の改善)が可能になる。
【0002】
〔背景〕
最初のナノ粒子(Adagen(登録商標)、Sigma−Tau Pharmaceuticals,Inc.,MD,USA)が1990年に市販されて以来、生物医学的な目的でナノ粒子を使用するために、多数の研究が行われている(C. A. Schultz et al., Nanomedicine, 2013)。これらのナノシステムのうち、20%を超えるナノシステムが、薬物送達の効能による癌の処置のためのものである。薬物送達におけるナノ粒子の使用には、実際に、フリーな化学療法における直接的な静脈注射を上回る、以下のような利点がある:(i)薬物の溶解度の増加、(ii)薬物動態の改善、(iii)血流中での半減期の延長(フリーなドキソルビシンの10時間に対して、Doxil(登録商標)は45時間)(A. C. Anselmo et al., Journal of Controlled Release, 2015)、(iv)非標的器官への送達に関係する副作用の最小化(Q. Qu et al., Advanced Drug Delivery Reviews, 2016)。
【0003】
本発明者らの知る限り、現在、規制レベルにて認可されている抗癌剤をカプセル化するシステムの大部分は、PEG化リポソーム、または、非PEG化リポソームに基づいている(但し、アルブミンに基づくAbraxane(登録商標)を除く)(A. C. Anselmo, Bioengineering & Translational Medicine, 2016)(表1)。
【0004】
【表1】
これらの少数の成功にもかかわらず、臨床利用されるナノシステムの数は、前記ナノシステムに費やされてきた研究努力に比べて少ない。最近の研究は、リポソーム中にカプセル化されたドキソルビシンの製剤が動物において有効であることを示しているものの、ヒトに対する臨床的有用性を示すことが課題となっている(G. H. Petersen et al., Journal of Controled Release, 2016)。
【0005】
ヒトにおける有用性を示す際のこのような困難性に加えて、これらのシステムは、一般的に、化学的観点から複雑である。そのために、当該システムの合成には費用がかかり、当該システムの工業的スケールへの移行は困難である(J. Shi et al., Nature Reviews Cancer, 2017)。最新の研究から、多くのナノシステムは、大きすぎて、血管から腫瘍中へ効率的に移行できない、という考えに至っている。それ故に、約100nmの流体力学的な直径を有するリポソームであっても、腫瘍内への浸透は、血管から数えて数層の細胞層に限定される(A. A. Manzoor et al., Cancer Research, 2012)。このような制限は、ナノ粒子からの比較的遅い活性物質の放出と相まって、有効な濃度での活性物質の送達を困難にし得る。
【0006】
有機ナノ粒子に関する研究と並行して、無機ナノ粒子も開発されてきた。しかしながら、IRM用の酸化鉄(Endorem(登録商標)、GastroMARK(商標)、Resovist(登録商標)など)を除いて、潜在的な毒性の理由から、2013年にはまだ市販されていない(C. A. Schultz et al., Nanomedicine, 2013)。生物医学的用途のために無機ナノ粒子を開発する理由の1つは、ナノスケールにおいて発揮され得る特性を利用することにある。当該特性とは、例えば、酸化鉄の磁気発熱Nanotherm(登録商標))(K. Maier-Hauff et al., Journal of Neurooncology, 2011)、金ナノ粒子の光学発熱(AuroShell(登録商標))(J. M. Stern et al., International Journal of Toxicology, 2016)である。
【0007】
これらの利用と並行して、薬物送達のために、多孔質無機ナノシステムが開発されてきた。これらの多孔質システムの中で、メソポーラスシリカナノ粒子に関して多くの開発が行われてきた。メソポーラスシリカナノ粒子は、良好な生体適合性を有し、かつ、細胞毒性が低いが故に、2000年代の始めに腫瘍学への利用が提案された(M. Vallet-Regi et al., Chem. Mater., 2001)。このようなナノ粒子の孔は、200〜1000m
2・g
−1という特定の表面積において、10nm〜1ミクロンの範囲の大きさを有する対象に対して、2〜50nmの大きさで備えられ得る(Y. Yang, Nanomedicine: NBM, 2016)。しかしながら、50nm未満のサイズを有するメソポーラスシリカナノ粒子は、合成が依然として困難であることに加え、凝集する傾向がある(F. Lu et al., Small, 2009)。
【0008】
血管外への移行と、腫瘍中への浸透とを増強させるために、研究者は、次第に、ナノシステムのサイズの減少を重視するようになった(Z. Popovic et al., Angew. Chem. Int. Ed.., 2010)。しかしながら、ナノ粒子のサイズを10nmより小さいサイズに減少させると、安定的な孔構造を合成することができない。
【0009】
したがって、現時点では、活性物質を送達するための新規なナノベクターを開発する必要性が依然として存在している。当該ナノベクターは、以下の利点の1つ以上を有している:
−活性物質の高い積載量にとって好ましい、非常に高い、表面/体積の比;
−毒性の問題を抑制する、腎臓内での迅速なナノベクターの除去;
−腫瘍の処置のために活性物質を投与した後の、血管外深くへの移行、および、腫瘍内への浸透;
−in vivoにおける、活性物質の迅速かつ効率的な放出;
−in vivoにおける投与後の、イメージング(MIR、スキャン、または、シンチグラフィー)によるナノベクターのモニタリングの可能性;
−1つの同じナノ物質に結合した高Z金属キレートの放射線増感作用を用いた放射線治療による、補完的な治癒の実行の可能性。化学療法と放射線療法との併用は、多剤耐性細胞の放射線抵抗性を克服できる可能性を有する。
【0010】
これらの利点、および、他の多くは、本明細書で説明されるナノベクターを使用することによって得られる。
【0011】
〔詳細な説明〕
これに関連して、本発明者らは、実際に薬物送達のための新しいナノベクターを開発する目的で、5nm未満の流体力学的な直径を有する安定なポリシロキサンナノ粒子の合成に関する最近の戦略を使用することが可能である(例えば、F. Lux et al., Angewandte Chemistry International Edition, 2010)。当該ナノベクターは、ポリシロキサン系の超微細なナノ粒子の表面にて、活性物質の単純な物理吸着によって、積載する。これらの超微細なナノ粒子の大きな表面積/体積の比は、前記ナノベクターが、高い活性表面積載量を得ることを可能にする。
【0012】
有利な一実施形態において、ナノ粒子は、その表面に金属キレートを有し、当該金属キレートは、ナノ粒子に対して、多様な機能、特に造影剤または放射線増感剤としての機能を与える。
【0013】
したがって、本発明は、ヒトまたは動物に活性物質を送達するためのナノベクターを調製する方法であって、前記方法は、ヒトまたは動物に投与することができる以下の2つの溶液を混合する工程を含み、
ナノ粒子を含む第一の溶液であって、当該ナノ粒子は10nm未満、好ましくは5nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子から選択されるナノ粒子である、第一の溶液、
有機化合物から選択される、一種類の活性物質、または複数種類の活性物質の混合物を含む第二の溶液であって、好ましくは、当該活性物質は前記ナノ粒子の重量の2%〜40%の分子量、好ましくは前記ナノ粒子の重量の5%〜25%の分子量を有する、第二の溶液、
前記混合する工程は、前記ナノ粒子の表面における前記活性物質の物理的吸着による相互作用を許容する、濃度比、pHおよび温度の条件下で行われる方法、である。
【0014】
本発明の目的において、用語「ナノベクター」は、以下の特徴を有する粒子状の薬学的なシステムを意図する:
−(毒性反応を誘発しない)生体適合性を有する構造体;
−生体から容易に除去される;
−生物学的な標的に対して選択的に活性物質を輸送および放出するための、活性物質の積載量;
−100nm未満のサイズ。
【0015】
本明細書において、用語「ナノベクター」は、活性物質が積載されたナノベクターを意図する。
【0016】
〔ナノベクターの調製に使用することができるナノ粒子〕
ナノベクターの調製に使用することができるナノ粒子は、以下の2つの不可欠な特徴を有する:
−ポリシロキサン系である;
−非常に小さい平均直径(例えば、10nm未満、好ましくは5nm未満である流体力学的な直径)を有する。
【0017】
本発明の目的において、用語「平均直径」は、粒子の直径の調和平均を意図する。ナノ粒子のサイズ分布は、例えば、市販の粒度測定器(例えば、平均流体力学的な直径にて特徴付けられるPCS(Photon Correlation Spectroscopy)に基づく、Malvern Zeta Sizer Nano-S particle sizer)を用いて測定される。このパラメータを測定する方法は、規格ISO 13321:1996にも記載されている。
【0018】
用語「ポリシロキサン系ナノ粒子」は、ケイ素の重量比が少なくとも8%以上であることによって特徴付けられるナノ粒子を意図する。
【0019】
用語「ポリシロキサン」は、一連のシロキサンからなる、無機の架橋ポリマーを意図する。
【0020】
同一であってもよく、異なっていてもよいポリシロキサンの構造単位は、以下の化学式にて示される;
Si(OSi)
nR
4−n
当該化学式にて、Rは、Si−C共有結合によってケイ素に結合する有機分子であり、nは、1〜4の整数である。
【0021】
好ましい例として、用語「ポリシロキサン」は、ゾル−ゲル法によって、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)とアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とを縮合させることによって生じる、特定のポリマーを包含する。
【0022】
特定の一実施形態において、ナノベクターの調製に利用できる前記ナノ粒子は、ポリシロキサン、および、任意で金属原子と錯体を形成したキレートに基づく。
【0023】
当該好ましい一実施形態において、前記ナノ粒子は、以下の分子を含む、または、以下の成分のみから構成される:
(i)前記ナノ粒子の全重量の少なくとも8%の重量比のケイ素、好ましくは前記ナノ粒子の全重量の8%〜50%の重量比のケイ素を含む、ポリシロキサン、
(ii)ナノ粒子当たり、好ましくは5〜100の割合、好ましくは5〜20の割合のキレート剤、
(iii)必要に応じて、例えば、ナノ粒子当たり、好ましくは5〜100の割合、例えば5〜20の割合の金属原子であって、前記キレート剤と錯体を形成する金属原子。
【0024】
本明細書の目的において、用語「キレート剤」は、金属カチオンを錯体化することができる有機基を意図する。例えば、特定の一実施形態において、キレート剤は、錯形成定数であるlog(K
c1)が標的である金属カチオンに対して15よりも大きいキレート剤、好ましくは20よりも大きいキレート剤から選択される。
【0025】
従って、前記キレート剤の機能は、ナノベクターの任意の無機元素(例えば、金属カチオン)を錯体化すること、および、ナノベクターをヒトまたは動物に投与した後で、当該無機元素が放出されることを減少させること、である。
【0026】
キレート剤は、ナノ粒子上に、以下の産物(ナノ粒子上にグラフト化する前)の1つをグラフト化(共有結合)することによって得られ得る:
(i)ポリアミノポリカルボン酸およびその誘導体、さらに好ましくは、DOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、下記の化学式(I)にて示されるDO3A−ピリジン:
【0027】
【化1】
EDTA(2,2’,2’’,2’’’−(エタン−1,2−ジイルジニトリロ)四酢酸)、EGTA(エチレングリコール−ビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、BAPTA(1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)、NOTA(1,4,7−トリアザシクロノナン−1,4,7−三酢酸)、PCTA(3,6,9,15−テトラアザビシクロ[9.3.1.]ペンタデカ−1(15),11,13−トリエン−3,6,9−三酢酸)、DOTAGA(2−(4,7,10−トリス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1−イル)ペンタン二酸)、下記の化学式(II)にて示されるTMPAC:
【0028】
【化2】
および、これらの混合物、
(ii)ポルフィリン、クロリン、1,10−フェナントロリン、ビピリジン、テルピリジン、サイクラム、トリアザシクロノナン、これらの誘導体、および、これらの混合物を含む化学基の産物:
および、これらの混合物。
【0029】
好ましくは、前記キレート剤は、共有結合によって、ナノ粒子のポリシロキサンのケイ素に対して、直接的または間接的に結合する。ここで、用語「間接的」な結合は、ナノ粒子とキレート剤との間に、「リンカー」または「スペーサー」として機能する分子が存在することを意図する。当該リンカーまたはスペーサーは、ナノ粒子の構成要素の1つに共有結合する。
【0030】
好ましい一実施形態において、前記キレート剤は、ナノ粒子上にDOTAGAをグラフト化することによって得られる。
【0031】
一実施形態において、前記ナノベクターの調製に使用される前記ナノ粒子は、金属原子を含まない。
【0032】
他の実施形態において、前記ナノ粒子は、イオン状態の金属原子(例えば、カチオン)、または、非イオン状態の金属原子を含んでもよい。
【0033】
前記金属カチオンの例としては、好ましくはキレート剤によって錯体化され得る金属カチオンを選択することができ、より詳しくは、所望の用途に従って、以下から選択することができる:
−アルカリ土類金属カチオン、
−アルカリ金属カチオン、および、その放射性同位体、
−遷移金属カチオン、および、その放射性同位体、
−ポスト遷移金属カチオン、および、その放射性同位体、
−希土類カチオン、および、その放射性同位体、
−上述したものの混合物。
【0034】
他の実施形態において、前記金属原子は、アルカリ土類金属カチオン、特にマグネシウムおよび/またはカルシウムから選択される。
【0035】
特に、所望の用途に応じて、前記金属原子は、大きな原子番号Zを有する金属カチオンから選択される。
【0036】
以下において、用語「高Z原子」は、少なくとも、40よりも大きい原子番号Z、好ましくは50よりも大きい原子番号を有する原子(イオン状態または非イオン状態の原子)を意図する。
【0037】
大きな原子番号Zを有する金属原子は、特に、抗癌物質を送達するためのナノベクターと組み合わせて使用することが有用であり、走査造影剤、または、放射線療法における放射線増感剤として有用である。
【0038】
抗癌物質を送達するためのナノベクターと組み合わせての使用、および、キュリー療法またはシンチグラフィーに利用する場合、前記金属原子はまた、適切な同位体から選択されてもよい。
【0039】
抗癌物質を送達するためのナノベクターと組み合わせての使用、および、磁気共鳴画像法に利用する場合、前記金属原子はまた、適切な磁気特性を有する原子から選択されてもよい。
【0040】
前記遷移金属としては、特に、Hf、Cu、Pt、Au、Tc、Y、Mn、Ru、Fe、Zr、および、これらの混合物が挙げられる。
【0041】
前記ポスト遷移金属としては、Bi、Ga、In、および、これらの混合物が挙げられる。
【0042】
前記希土類金属としては、ランタニド(例えば、Gd、Dy、Eu、Tb、Nd、Yb、Er、HoおよびLu)、および、ランタニドの混合物が挙げられ、好ましくはGdである。
【0043】
Gd、Dy、MnおよびFeは、磁気共鳴画像法(MRI)の造影剤として、特に有用である。
【0044】
Eu、Tb、Nd、YbおよびErは、イメージングにおける蛍光剤として、特に有用である。
【0045】
Ho、Bi、YおよびLuは、キュリー療法における薬剤として、特に有用である。
【0046】
Lu、Yb、Gd、Bi、HfおよびHoは、放射線増感剤として、特に有用である。
【0047】
Cu、Ga、Tc、Y、InおよびZrは、シンチグラフィーにおけるプローブとして、特に有用である。
【0048】
特定の一実施形態において、ナノ粒子1個当たりの高Z原子(例えば、ランタニド、Gd)の割合は、ナノ粒子1個当たり、5〜100個の高Z原子、好ましくは5〜20個の高Z原子である。
【0049】
さらに好ましい実施形態において、ナノ粒子は以下の構成を備える:
−ポリシロキサン、
−前記ポリシロキサンと共有結合した、キレート剤としてのDOTAGA、
−前記キレート剤と錯体化した、Gd
3+カチオン。
【0050】
ポリシロキサンおよび金属原子キレートに基づくナノ粒子は、当業者に周知である。好ましい実施形態は、特にWO2011/135101、WO2013/153197に記載されている。
【0051】
<超微細ナノ粒子>
本明細書に開示されるナノベクターの調製のための特に好ましい実施形態は、「超微細」または「無機コアフリー」と呼ばれるナノ粒子である。当該ナノ粒子は、ポリシロキサンに基づくナノ粒子であって、10nm未満、または、5nm未満の平均直径を有する。
【0052】
これらの超微細ナノ粒子は、特にEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果によって、マルチモダリティの利点、および、腫瘍(表面に標的分子が存在しない腫瘍)のパッシブターゲティングの利点を有する。
したがって、超微細ナノ粒子は、本明細書に開示されるナノベクターの調製に適しており、特に、抗癌治療に利用される抗癌物質と組み合わせられるナノベクター、化学療法に使用されるナノベクター、化学療法と、放射線療法またはキュリー療法から選択される少なくとも一つの別の療法とを組み合わせた療法に使用されるナノベクター、の調製に適している。
【0053】
超微細ナノ粒子は、その小さいサイズに加えて、コア−シェル型の多数のナノ粒子とは対照的に、金属原子をベースとする無機のコアが存在しないことに特徴がある。超微細ナノ粒子は、以下の化学式(I)によって特徴付けられる:
Si
n[O]
m[OH]
o[Ch
1]
a[Ch
2]
b[Ch
3]
c[M
y+]
d[D
z+]
e[Gf]
f (I)
前記化学式(I)にて、
nは、20〜5000、好ましくは20〜200であり、
mは、nよりも大きく、4n未満であり、
Oは、0〜2nであり、
Ch
1、Ch
2、Ch
3は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい、潜在的なキレート有機基であって、Si−C共有結合にて前記ポリシロキサンのSi原子に結合するキレート剤であり;a、b、cは、0〜nの整数であり、且つ、a+b+cは、n以下、好ましくは5〜100(例えば、5〜20)の整数であり、
M
y+およびD
z+は、お互いが同じものであってもよく、異なるものであってもよい金属カチオンであって、yおよびzが1〜6である金属カチオンであり;dおよびeは、0〜a+b+cの整数であり、且つ、d+eは、a+b+c以下であり、
Gfは、お互いが同じものであってもよく、異なるものであってもよい標的グラフトであって、各々がSi−C結合にて前記Si原子に結合し、目的の生物組織、例えば腫瘍組織への前記ナノ粒子の標的化を可能にする標的化分子を結合させる標的グラフトであり;fは、0〜nの整数である。
【0054】
特定の一実施形態において、超微細ナノ粒子は、以下の化学式(II)にて示される:
Gd
5−20Si
20−100C
150−600N
25−150O
100−500H
x (II)。
【0055】
他の原子の数に依存するHは、原子分析などによって測定するのが困難である。そのため、数X(整数)は、化学式(II)中に示さない。
【0056】
これらのナノ粒子は、5nm未満の平均直径を有することが好ましい。
【0057】
便宜上、化学式(I)または化学式(II)で示されるナノ粒子を、以下では「超微細ナノ粒子」と呼ぶ。
【0058】
前記の一般式にて示されるナノ粒子は、以下に記載される方法の一つに従って、有利に調製される。
【0059】
<超微細ナノ粒子を調製する方法>
超微細ナノ粒子は、独自の「トップダウン」法によって調製することができ、その必須工程は、以下の通りである:
a.金属原子(M)の酸化物の無機コアを調製する工程であって、任意でドープ剤(D)をドープする工程:ここで、Mは、希土類金属および遷移金属原子から選択されることが好ましく、Dは、Mとは異なる金属原子であって、希土類金属および/または遷移原子から選択されるものである、
b.ゾル−ゲル縮合によって、前記金属原子(M)の酸化物のコアの周囲に、ポリシロキサンのシェルを合成する工程、
c.Si−C共有結合によって、前記ポリシロキサン上にキレート剤をグラフト化することによって、コア−シェルナノ粒子前駆体を調製する工程、および、
d.前記コア−シェルナノ粒子前駆体を水溶液に移す工程:ここで、前記キレート剤は、金属原子(M)の酸化物の無機コアの溶解を誘導し、かつ、金属原子(M)と錯体を形成し、必要に応じてドープ剤(D)とも錯体を形成するのに十分な量である。
【0060】
前記無機コアの溶解は、最終的なナノ粒子の直径を、ナノ粒子前駆体と比較して減少させ、その結果、超微細ナノ粒子の最終的な平均直径は、1〜5nmとなる。
【0061】
実際には、前記プロセスは、以下の方法にて実施される。
【0062】
金属原子の酸化物(例えば、希土類酸化物)のコアを有するコア−シェル型のナノ粒子前駆体は、ゾル−ゲル合成によってポリシロキサンシェルで修飾されたポリオール経路を介して調製され、この生成物は、例えば5〜10nmのサイズを有する。
【0063】
より具体的に、非常に小さいサイズの金属原子の酸化物の無機コア(調整可能、10nm未満に調整可能)は、刊行物(P. Perriat et al., J. Coll. Int. Sci, 2004, 273, 191; O. Tillement et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076 and P. Perriat et al., J. Phys. Chem. C, 2009, 113, 4038)に記載される方法のうちの1つによって、アルコール中で製造され得る。無機コアを合成する工程の後、これらの無機コアは、例えば、刊行物(C. Louis et al., Chem. Mat., 2005, 17, 1673 and O. Tillement et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076)に記載される手順に従って、ポリシロキサンの層によってコーティングされ得る。
【0064】
次に、標的である金属原子に特異的なキレート剤を、前記ポリシロキサンの表面にグラフト化させる。当該キレート剤の一部は、当該層の内部に挿入され得るが、ポリシロキサンの構造の制御は複雑であって、非常に小さなサイズにおける、単純な外部のグラフト化は、十分なグラフト化率を提供する。
【0065】
次に、前記ナノ粒子は、適切な大きさの細孔を備える膜を用いた、透析法またはタンジェンシャルフィルトレーションによって、合成残留物から分離され得る。
【0066】
続く工程にて、前記無機コアは、水性溶媒中に移された後、溶解することによって(例えば、pHを変更することによって、または、溶液中にキレート剤を導入することによって)、破壊される。次に、無機コアが破壊されることにより、(遅い浸食または崩壊のメカニズムに従って)、ポリシロキサン層の散乱が可能になる。これによって、最終的に、超微細ナノ粒子(換言すれば、複雑な形態のポリシロキサン物)が得られる。当該超微細ナノ粒子の特徴的な寸法は、最初のポリシロキサン層の厚さによって決まる。
【0067】
超微細ナノ粒子は、多量のキレート剤、および、金属原子を有している。その理由は、超微細ナノ粒子は、ポリシロキサンの表面にて、非常に小さなサイズにて、最初にグラフト化され、当該表面は、粒子の中の非常に多くの割合を占め、体積に対する表面の比率は、1/r(半径)の関数として変化するからである。この構造が崩壊する間、新しく形成される「新鮮な」表面に対して、飽和状態以下の状態にまで、他の錯体が結合してもよい。このようにして得られる錯体化剤の含有量は、微細なケイ素粒子の表面を従来の方法によって機能化させることによって得られる錯体化剤の含有量よりも、このような粒子の利用可能性の条件の下で、はるかに高い。特に、ナノ粒子に対するキレート剤の割合は、5〜100であり得、好ましくは5〜20分子であり得る。
【0068】
このようにコアを除去することによって、略5nm以上である平均粒子径を、5nm未満に低下させることができる。更に、この操作によって、表面にのみ金属原子M(例えば、ガドリニウム)を含む、同じサイズの理論上のポリシロキサンナノ粒子と比較して、1nm
3あたりのM(例えば、ガドリニウム)の数を増やすことができる。
【0069】
ナノ粒子のサイズに対する金属原子Mの数は、EDXまたは元素分析によって測定される、M/Si原子比によって評価され得る。ナノ粒子のサイズに対する金属原子Mの数は、一般的に、ナノ粒子当たりのキレート剤の数と実質的に同じであり、例えば5〜100、好ましくは5〜20である。
【0070】
これらの超微細ナノ粒子に関するさらなる詳細、それらを合成するための方法、および、それらの利用は、参照として組み込まれる、特許出願WO2011/13510、および、「Mignot et al., 2013, Chem. Eur. J. 2013, 19, 6122-6136」に記載されている。
【0071】
<“ワン・ポット”によるナノ粒子の合成>
別の実施形態によれば、10nm未満の直径の孔を有し、かつ、ポリシロキサンを含む、無機コアを含まない超微細ナノ粒子(適切な場合、金属原子キレート剤を含む)を、以下の方法によって調製することができる。
【0072】
“ワン・ポット”合成法では、(i)生理的なpHにて負に帯電した少なくとも一つのシランと、(ii)生理的なpHにて中性である少なくとも一つのシラン、および/または、生理的なpHにて正に帯電した少なくとも一つのシランとが混合され、
ここで、
−負に帯電したシランの数に対する中性のシランの数のモル比Aは、0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2であり;
−負に帯電したシランの数に対する正に帯電したシランの数のモル比Bは、0.25≦B≦3、好ましくは0.5≦B≦2であり;
−負に帯電したシランの数に対する、正に帯電したシランの数、または、中性のシランの数のモル比Cは、0≦C≦8、好ましくは1≦C≦4である。
【0073】
前記ナノ粒子は、追加の分子(例えば、キレート剤、または、標的化グラフト)を含み得る。
【0074】
用語「生理的なpH」は、pH7.4を意図する。
【0075】
用語「シラン」は、4つの置換基によって囲まれたケイ素原子を含む化合物を意図する。
【0076】
好ましい実施形態において、前記シランは、アルコキシシラン、ヒドロキシシラン、および、これらの混合物から選択される。以下の例は、この実施形態で使用することができるシランの例である:テトラエチルオルトシリケート(Si(OC
2H
5)
4、TEOSとしても知られる)、テトラメチルオルトシリケート(Si(OCH
3)
4、TMOSとしても知られる)、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(H
2N(CH
2)
3−Si(OC
2H
5)
3、APTESとしても知られる)、APTES−DOTAGA、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン酢酸三ナトリウム塩((CH
3O)
3Si−(CH
2)
3N(CH
2COONa)(CH
2)
2N(CH
2COONa)
2、TANEDとしても知られる)、および、カルボキシエチルシラネトリオールナトリウム塩、((HO)
3Si−(CH
2)
2COONa、CESTとしても知られる)。
【0077】
本明細書において、用語「シラン」は、キレートされた金属カチオンを含むシラン化合物をも包含する。また、本明細書において、用語「シラン」は、後述する任意の標的化剤をシラン前駆体に対して共有結合にてグラフト化した化合物をも包含する。
【0078】
本明細書において、用語「アルコキシシラン」は、化学式(III)にて示される化合物を意図する:
R
nSi(OR
i)
4−n (III)
化学式(III)中で、
−Rは、有機基であり、
−R
iは、1〜12個の炭素、好ましくは1〜6個の炭素を含むアルキル基であり、
−nは、0、1、2または3に等しい。
【0079】
特定の一実施形態において、nは、0または1に等しい。
【0080】
本明細書において、用語「ヒドロキシシラン」は、化学式(IV)にて示される化合物を意図する:
R
nSi(OH)
4−n (IV)
化学式(IV)中で、
−Rは、有機基であり、
−nは、0、1、2または3に等しい。
【0081】
特定の一実施形態において、nは、0または1に等しい。
【0082】
本明細書において、用語「有機基」は、Si−C結合によってケイ素原子に結合している官能基に限定されず、任意の有機基を意図する。有機基としては、例えばアルキルアミンが挙げられるが、これに限定されない。
【0083】
本明細書において、用語「アルキル基」は、直鎖アルキル基、または、架橋アルキル基を意図する。アルキル基としては、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチルおよびその異性体(すなわち、n−ペンチルおよびイソペンチル)、および、ヘキシルおよびその異性体(すなわち、n−ヘキシルおよびイソヘキシル)が挙げられる。
【0084】
好ましい一実施形態によれば、調製される前記ナノ粒子は、0.5〜15nm、好ましくは0.5〜10nmの平均直径を有する。
【0085】
特定のいくつかの実施形態において、前記シラン(アルコキシシラン、ヒドロキシシラン、および、これらの混合物から選択される)は、試薬の合計重量の少なくとも80%、少なくとも85%、または、少なくとも90%の割合で含まれてもよい。当該試薬とは、ナノ粒子の合成に使用される、初発の化合物を意図する。
【0086】
前記反応は、プロトン性の溶媒(例えば、アルコール、または、水性の溶液など)中で実施され得る。特定の一実施形態において、唯一の溶媒として、水を使用する。他の実施形態において、反応は、アルコール中、または、アルコールの混合物中で行われる。この実施形態に使用され得るアルコールとしては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、エチレングリコール、および、ジエチレングリコールを挙げることができる。
【0087】
前記反応は、好ましくは、コロイド溶液中で実施される。当該コロイド溶液は、ナノ粒子のサイズのより良い制御を可能とする。したがって、前記反応は、架橋ゲルの形成を避けるための、従来のゾル−ゲル法によって行われることはない。
【0088】
この方法の利点の一つは、「ワン・ポット」反応によって実施され得ることであり、中間生成物を精製および単離する工程を回避できことである。
【0089】
利点の一つは、特定の比A、BおよびCを選択することによって、ケイ素粒子の表面電荷およびサイズの制御を可能にすることであり、特に0.5〜15nmの流体力学的な直径を有するナノ粒子の調製を可能にすることである。特に、ナノ粒子のサイズを10nmより小さく低減するためには、例えば2より小さい比、より好ましくは1.5より小さい比であることが好ましい。
【0090】
特定の一実施形態において、混合する工程は、少なくとも一つの正に帯電したシランを含む。当該正に帯電したシランは、少なくとも一つの正に帯電したアミン官能基を含む。APTESは、正に帯電したアミン官能基を含むシランの例である。
【0091】
一実施形態において、前記反応は、(i)生理的なpHにて負に帯電し、かつ、少なくとも一つのキレート剤を含む、少なくとも一つのヒドロキシシランまたはアルコキシシランの混合物と、(ii)以下の構成と、を含み:
−生理的なpHにて中性である、少なくとも一つのヒドロキシシランまたはアルコキシシラン、および/または、
−生理的なpHにて正に帯電し、かつ、アミン官能基を含む、少なくとも一つのヒドロキシシランまたはアルコキシシラン、
ここで、
−負に帯電したシランの数に対する中性のシランの数のモル比Aは、0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2であり;
−負に帯電したシランの数に対する正に帯電したシランの数のモル比Bは、0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦4であり;
−負に帯電したシランの数に対する、正に帯電したシランの数、または、中性のシランの数のモル比Cは、0≦C≦8、好ましくは1≦C≦4である。
【0092】
特定の一実施形態において、前記合成は、(i)生理的なpHで負に帯電した少なくとも一つのアルコキシシランの混合物であって、当該アルコキシシランは、APTES−DOTAGA、TANED、CEST、および、これらの混合物から選択される、混合物と、(ii)以下の構成と、を含み:
−生理的なpHにて中性である少なくとも一つのアルコキシシランであって、TMOS、TEOS、および、これらの混合物から選択されるアルコキシシラン、および/または、
−生理的なpHにて正に帯電するAPTES、
ここで、
−負に帯電したシランの数に対する中性のシランの数のモル比Aは、0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2であり;
−負に帯電したシランの数に対する正に帯電したシランの数のモル比Bは、0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦4であり;
−負に帯電したシランの数に対する、正に帯電したシランの数、または、中性のシランの数のモル比Cは、0≦C≦8、好ましくは1≦C≦4である。
【0093】
特定の一実施形態において、前記合成は、(i)生理的なpHで負に帯電したAPTES−DOTAGAの混合物と、(ii)以下の構成と、を含み:
−生理的なpHにて中性である少なくとも一つのアルコキシシランであって、TMOS、TEOS、および、これらの混合物から選択されるアルコキシシラン、および/または、
−生理的なpHにて正に帯電するAPTES、
ここで、
−負に帯電したシランの数に対する中性のシランの数のモル比Aは、0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2であり;
−負に帯電したシランの数に対する正に帯電したシランの数のモル比Bは、0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦4であり;
−負に帯電したシランの数に対する、正に帯電したシランの数、または、中性のシランの数のモル比Cは、0≦C≦8、好ましくは1≦C≦4である。
【0094】
<標的化分子>
ナノ粒子は、また、ナノ粒子のケイ素に対して直接的または間接的に共有結合する標的化剤を含んでいてもよい。標的化剤の例については後述する。標的化剤は、ナノ粒子の表面上にグラフト化され、ナノ粒子当たり、1〜20個の標的化剤、好ましくは1〜5個の標的化剤の割合で存在する。
【0095】
標的化分子を表面にグラフト化するために、存在する官能基との従来のカップリングを使用することができ、任意で、活性化工程が先に行われ得る。カップリング反応は当業者に公知であり、ナノ粒子の表層の構造、および、標的化分子の官能基にしたがって、カップリング反応が選択される。例えば、「“Bioconjugate Techniques”, G.T Hermanson, Academic Press, 1996, in “Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity”, Second Edition, W.T. Mason, ed. Academic Press, 1999」を参照。好ましいカップリング法については後述する。これらの標的化分子は、前節で説明した「コアフリー」超微細ナノ粒子バリアントによるナノ粒子のキレート剤に対してグラフト化されることが好ましい。
【0096】
前記標的化分子は、想定する用途に従って、選択される。
【0097】
特定の一実施形態において、腫瘍のアクティブな標的化に適した分子が選択される。ナノ粒子上にグラフト化され得る標的化分子の例として、αvβ3インテグリンを認識することができるRGDトリペプチドを含有する分子を挙げることができる。このようなペプチドおよびその誘導体(特に、環状ペンタペプチド)は、特に、WO2004/026894に記載されている。
【0098】
腫瘍組織の標的化に適した標的化分子は、例えば国際公開WO01/00621に記載されており、当該標的化分子として、4級アンモニウム誘導体、アプタマー、ポリペプチド、抗体などが挙げられる。
【0099】
〔ナノベクターの調製に使用できる活性物質〕
本発明の目的において、用語「活性物質」は、以下を意図する:
(i)ヒトまたは動物の疾患に関して、治癒的特性または予防的特性を有する、あらゆる物質、
(ii)薬理学的作用、免疫学的作用または代謝作用によって、生理機能を回復、修正または変えることを目的として、ヒトまたは動物に使用し得る、または、ヒトまたは動物に投与し得る、あらゆる物質。
【0100】
本明細書に開示されたナノベクターの調製に使用され得る活性物質は、有機分子であることが好ましい。
【0101】
本明細書において、用語「有機分子」は、本質的に以下の元素:C、H、O、N、P、Sから構成される分子を意図する。前記有機分子は、生物由来のものであっても、合成由来のものであってもよい。用語「有機分子」はまた、本発明の目的のために、金属(特に、Pt、Ti、Ru、AuおよびRhから選択される金属)をキレートする有機化合物を包含する。
【0102】
特に、ナノベクターの調製に使用され得る活性物質は、ナノ粒子の重量の2%〜40%の分子量を、好ましくはナノ粒子の重量の5%〜25%の分子量を有する有機分子から選択される。
【0103】
特定の一実施形態において、ナノベクターの調製に使用され得る活性物質は、最大5000g・mol
−1の分子量、好ましくは、100〜2000g・mol
−1の分子量(以下では小分子と呼ぶ)を有する有機分子である。
【0104】
他の実施形態において、前記活性物質は、核酸であり、特に、オリゴヌクレオチド、リボ核酸(RNA)、マイクロRNA、siRNA(short interfering RNA)、または、iRNA(interfering RNA)である。
【0105】
他の実施形態において、前記活性物質は、最大で50アミノ酸のペプチドであり、例えば5〜30アミノ酸のペプチドである。
【0106】
特定の一実施形態において、前記活性物質は、抗癌物質から選択される。
【0107】
抗癌物質の例としては、アクチノマイシン、オールトランスレチノイン酸、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、ダルビシン、イマチニブ、イリノテカン、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン.レナリドミド、イブルチニブ、アビラテロン、エルロチニブ、エベロリムス、ニロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ゴセレリン、ネダプラチン、ラボプラチンおよびヘプタプラチン、または、これらの混合物が挙げられる。
【0108】
特定の一実施形態において、前記活性物質は、ドキソルビシン、TATEペプチドおよびシスプラチン、または、これらの混合物から選択される。
【0109】
〔本発明に係るナノベクターの調製〕
本発明に係るナノベクターを調製する方法は、ヒトまたは動物に投与することができる以下の2つの溶液を混合する工程を含み、
10nm未満、好ましくは5nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子を含む第一の溶液、および、
活性物質または活性物質の混合物を含む第二の溶液、
前記混合する工程は、前記ナノ粒子の表面における前記活性物質の物理的吸着による相互作用を許容する、濃度比、pHおよび温度の条件下で行われる、方法である。
【0110】
本開示の目的において、用語「物理的吸着による相互作用」は、リガンド/レセプター型の特異的なタンパク質/タンパク質の相互作用、抗原/抗体の相互作用、および、他の分子に特異的な分子の相互作用などを除く、ファンデルワールス力による相互作用を意図する。
【0111】
ナノベクターの調製に使用され得るナノ粒子および活性物質、および、その好ましい実施形態は、前節に記載されている。
【0112】
本開示の目的おいて、積載量は、ナノ粒子1グラム当たりのmg量で表される、ナノベクターに連結された活性物質の量に相当する。
【0113】
特定の一実施形態において、[前記第二の溶液中の活性物質]:[前記第一の溶液中のナノ粒子]にて示される、重量に基づく濃度比は、ナノ粒子における活性物質の積載量が、0.5mg/gよりも大きく、好ましくは1mg/gよりも大きくなるように決定される。前記積載量は、例えば、1mg/g〜100mg/gである。
【0114】
当業者は、ナノ粒子の構造および選択された活性物質に応じて、特に活性物質の積載量を最適化するために、最適な濃度比、pHおよび温度を容易に決定することができる。
【0115】
特定の一実施形態において、第一の溶液は、ナノ粒子(例えば、超微細ナノ粒子)の濃度が5〜500g・L
−1であり、pHが6〜8である、コロイド水溶液である。
【0116】
上述した実施形態と優先的に組み合わせられ得る特定の一実施形態において、第二の溶液は、活性物質の濃度が1mg・L
−1〜10g・L
−1であり、pHが6〜8である、水溶液である。
【0117】
発明者らは、二つの溶液の単純な混合によって、活性物質が、物理的吸着によってポリシロキサン系ナノ粒子の表面に連結され得ることを実証した。
【0118】
したがって、対象へ投与する前に、混合する工程後に得られたナノベクターを精製する必要がない、という利点がある。
【0119】
しかしながら、必要であれば、溶液を混合する工程後に得られたナノベクターを精製する工程を行ってもよい。精製する工程を行えば、溶液中に遊離したまま残存している可能性がある活性物質を除去し、表面に物理的吸着によって活性物質が結合したナノ粒子を含むナノベクターを回収することができる。
【0120】
〔ヒトに活性物質を送達するためのナノベクター〕
したがって、本発明は、ヒトに活性物質を送達するためのナノベクターに関する。当該ナノベクターは、物理的吸着によって活性物質が表面に結合したナノ粒子を含み、当該ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは5nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子から選択され、前記活性物質は、前記ナノ粒子の重量の2%〜40%の分子量、好ましくは前記ナノ粒子の重量の5%〜25%の分子量を有する有機分子から選択される。
【0121】
このようなナノベクターは、上述した2つの溶液を混合する単純な手法によって、直接的または間接的に調製され得る。
【0122】
特定の一実施形態において、前記ナノベクターは、以下の構成を含む:
(i)本質的に以下のa〜cの要素からなるナノ粒子:および、
a.ケイ素の重量比が8%〜50%であるポリシロキサン、
b.ナノ粒子当たり、好ましくは5〜100の割合、より好ましくは5〜20の割合のキレート剤、
c.必要に応じて、好ましくは5〜100の割合、より好ましくは5〜20の割合の金属原子(例えば、GdまたはBi)であって、前記キレート剤と錯体を形成する金属原子、
(ii)物理的吸着によって前記ナノ粒子の表面に結合した活性物質。
【0123】
上述した実施形態のより好ましい一実施形態において、ナノ粒子は、上述した超微細ナノ粒子である。超微細ナノ粒子を使用する更に具体的な一実施形態において、超微細ナノ粒子は、(a)当該超微細ナノ粒子の表面にグラフト化された、キレート剤としてのDOTAGA、および、(b)当該DOTAGAと錯体を形成する金属原子である、GdまたはBi、を含む。
【0124】
〔ナノベクターを含む薬学的組成物〕
上述したナノベクターは、有利には、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と共にヒトへ投与するために処方される。
【0125】
したがって、本発明は、本発明に係るナノベクター、および、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物に関する。
【0126】
特に、前記薬学的組成物は、前記ナノベクター、および、有効量の活性物質を含む少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む、注射用医薬溶液である。
【0127】
薬学的に許容される賦形剤は、ヒトまたは動物に投与することができる任意の成分であって、生体内で活性物質の生物学的活性を実質的に改変しない任意の成分、を含んでいてもよい。そのような成分は、特に、参照する「Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company」に記載されている。
【0128】
特定の一実施形態において、注射用医薬溶液は、ナノベクターが金属原子(好ましくは、ビスマス、または、ガドリニウム)を含み、当該金属原子の濃度が5〜200mMであること、によって特徴付けられる。
【0129】
上述した実施形態と組み合わされ得る一実施形態において、注射用医薬溶液は、ナノベクターが抗癌活性物質を含むこと、によって特徴付けられる。
【0130】
上述した実施形態と組み合わされ得る特定の一実施形態において、ナノベクターの活性物質は、ドキソルビシン、シスプラチンおよびTATEペプチドから選択される。
【0131】
有利なことに、注射用医薬溶液は、上述したように、後続する精製工程を行うこと無く、ナノベクターを調製するための2つの溶液を混合する工程によって直接調製される。注射用医薬溶液は、前もって調製されて、患者へ投与するまで保存しておくことが可能であり、または、投与の直前(例えば、患者へ投与する前の、4時間未満の時、3時間未満の時、1時間未満の時、30分未満の時、または、15分未満の時)に2つの溶液を混合して調製することもできる。
【0132】
したがって、本発明は、前記ナノベクターまたは前記注射用医薬溶液を調製するためのキットに関する。当該キットは、少なくとも二つの分離された容器を備えている。一方の容器は、ナノ粒子を含む第一の溶液を含み、当該第一の溶液は、すぐに混合可能な形態、または、濃縮された形態になっている。他方の容器は、活性物質(複数の活性物質)を含む第二の溶液を含んでいる。適切な場合には、前記溶液の一方または両方を、混合に適した水溶液を得るために希釈溶液中に希釈されるように準備された凍結乾燥物に置き換えてもよい。また、キットに任意に備えられる前記希釈溶液は、ヒトへの投与の観点から、緩衝剤、または、他の薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。
【0133】
〔本発明のナノベクターおよび注射用医薬溶液の使用〕
前記ナノ粒子の、特に腫瘍に対する、パッシブターゲティングの特性によって、上述したナノベクターおよび注射用溶液は、ヒトまたは動物の癌の処置に特に有用である。前記活性物質は、抗癌物質、特に細胞毒性物質から選択される。
【0134】
ポリシロキサン系ナノ粒子(特に、超微細ナノ粒子)による腫瘍のパッシブターゲティングは、Detappe et al., Nano Letters 2017;C. Verry et al., Nanomedicine, 2016;Dufort et al., Small 2015 Bianchi et al., PNAS, 2014に記載されている。
【0135】
したがって、本開示は、患者の癌を治療するための方法についても、目的とする。当該方法は、患者へナノベクターを投与することを含み、当該ナノベクターは、癌を処置するための活性物質として、有効量の抗癌物質を含んでいる。
【0136】
抗癌物質の例は、前項に記載されている。
【0137】
本開示のナノベクターは、固形癌(特に、中枢神経系、肺、前立腺、子宮、結腸、膵臓、肝臓、腎臓、胸部、頭部、および頚部における癌、または、他の大腸癌)の化学療法による処置において、特に有用である。もちろん、標的は、このリストに限定されるものではない。
【0138】
ナノベクターは、大きな積載量の活性物質に加えて、金属カチオンのキレートの形態にて、大きな積載量の放射線増感剤も含むことができる。したがって、特定の一実施形態において、癌の処置に使用されるナノベクターは、放射線増感効果を有し、原子番号が40を超える元素のキレートを含むナノ粒子(好ましくは、上述した超微細ナノ粒子)を含む。さらに、前記ナノベクターは、当該ナノベクターの有効量の処置対象への投与が、化学療法および放射線治療の効果を組み合わせた癌の処置を可能にする。
【0139】
多くの臨床前モデルのポリシロキサン系超微細ナノ粒子について言及され、かつ、文献(Detappe et al., Nano Letters 2017;C. Verry et al., Nanomedicine, 2016;Dufort et al., Small 2015; Bianchi et al., PNAS, 2014)に記載されるように、ナノ粒子上への活性物質の物理的吸着により、当該活性物質は、EPR効果によって、薬物動態の改善、および、特に良好な腫瘍の標的化を有利に示す。
【0140】
本開示に係るナノベクター(または、注射用溶液)は、好ましくは、静脈内、腫瘍内、腹腔内、動脈内、または、気道(例えば、鼻腔内または気管内)を介して投与することができる。より詳しくは、国際公開第2013/153197号に記載されているように、投与することができる。
【0141】
ナノベクターはまた、金属原子のキレート(造影剤(特に、MRI、スキャン又はシンチグラフィーにおける造影剤)として使用される)を含むナノ粒子を選択することによって、放射線治療による処置を可能にする。
【0142】
したがって、磁気共鳴画像法、スキャンまたはシンチグラフィーによるイメージングのための造影剤を含むナノ粒子を含むナノベクターを用いる特定の一実施形態であって、処置対象へ当該ナノベクターの有効量を投与する特定の一実施形態では、処置の治癒作用のモニタリングが可能になる。
【0143】
本発明はまた、ヒトまたは動物における治療的な処置の治療効果をモニターする方法に関し、当該方法は、下記の工程を含む:
(i)処置の開始時に、前記に定義したナノベクターであって、有効量の造影剤、および、有効量の活性物質を含むナノベクターを患者に投与する工程、
(ii)前記造影剤によって病変を可視化するための適切なイメージング技術によって、イメージを取得する工程、
(iii)患者を処置する間に、必要に応じて必要な回数だけ、工程(i)および工程(ii)を繰り返す工程、
(iv)処置する間に、病変の進行を比較することによって、処置の治療効果を推定する工程。
【0144】
この方法の具体的な利用は、ヒトまたは動物における処置(例えば、腫瘍に対する処置、例えば、化学療法、放射線療法、キュリー療法、光線療法、または、温熱療法を用いた固形癌に対する処置)の治療効果のモニタリングに関する。
【0145】
好ましい一実施形態において、本発明は、ヒトまたは動物における腫瘍に対する処置(特に、固形癌に対する化学療法を用いた処置であって、適切な場合には、放射線療法、キュリー療法、光線療法、または、温熱療法と組み合わされる処置)の治療効果をモニタリングする方法を目的としており、当該方法は、以下の工程を含む:
(i)処置の開始時に、前記に定義したナノベクター(好ましくは、超微細ナノ粒子に基づくナノベクター)であって、有効量の造影剤、および、有効量の抗癌物質を含むナノベクターを、固形癌を伴う癌を患う患者に投与する工程、
(ii)腫瘍を検出するための適切なイメージング技術によって、イメージを取得する工程、
(iii)患者を処置する間に、適切に、工程(i)および工程(ii)を繰り返す工程、
(iv)処置する間に得られた腫瘍のイメージを比較することによって、抗癌物質の治療効果をモニターする工程。
【0146】
従って、前記方法によれば、腫瘍の進展(特に、腫瘍の大きさの経時的変化、腫瘍の数、および、腫瘍の分布)を、患者の処置前、処置中および処置後にモニターすることが可能である。
【0147】
有利には、上述した方法において、ナノベクターは、(i)有効量の腫瘍に対する活性物質、適切な場合には、(ii)腫瘍を処置するための、有効量の放射線増感剤、光増感剤または放射性薬剤、および/または、(iii)有効量の造影剤を、同時に含むことができる。
【0148】
したがって、上述した方法における特定の一実施形態において、造影剤として使用されるナノ粒子は、放射線増感剤として使用されるものと同様である。
【0149】
他の使用および実施形態もまた、後述する実施例にて説明される。
【0150】
〔図面の説明〕
図1:ナノベクター上での物理的吸着の一般的な原理を示す。ナノ粒子に対して、活性物質が添加される。ステップ1:活性物質は、ナノ粒子の表面にて物理的吸着によって相互作用する。ステップ2:活性物質は、ナノ粒子の相互作用領域を飽和させる。ステップ3:活性物質は、もはやナノ粒子の表面と相互作用することができず、溶液中に遊離したまま残る。
【0151】
図2:ポリシロキサン系ナノ粒子の存在下に配置された薬物の濃度の関数である、浮上分離液中の活性種の濃度の変化を表す曲線である。
【0152】
図3:実施例1および2の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0153】
図4:実施例3および4の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0154】
図5:100mMのAGuIX存在下におけるドキソルビシン溶液の浮上分離液に関する、導入されたドキソルビシンの量の関数としての、波長497nmにおける吸光度を示す。
【0155】
図6:20倍に希釈された実施例6および7の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0156】
図7:20倍に希釈された実施例9および10の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0157】
図8:20倍に希釈された実施例8の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0158】
図9:20倍に希釈された実施例6および7の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【0159】
図10:20倍に希釈された実施例9および10の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【0160】
図11:20倍に希釈された実施例8の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【0161】
図12:100mMのAGuIX存在下におけるTATEペプチド溶液(20倍希釈)の浮上分離液に関する、導入されたTATEペプチドの量の関数としての、波長280nmにおける吸光度を示す。
【0162】
図13:実施例に記載した処理後における、実施例12、13および14の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0163】
図14:実施例に記載した処理後における、実施例15および16の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0164】
図15:実施例に記載した処理後における、実施例17および18の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0165】
図16:100mMのAGuIX(登録商標)存在下におけるシスプラチン溶液の浮上分離液に関する、導入されたシスプラチンの量の関数としての、波長706nmにおける吸光度を示す。光吸収によるシスプラチンの検出を可能にするために、予め、実施例に記載した処理を浮上分離液に対して施した。
【0166】
図17:前記の実施例に記載した処理後における、実施例18および19の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0167】
図18:実施例に記載した処理後における、実施例18および20の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【0168】
〔実施例〕
以下の実施例は、本発明を説明することを可能にするが、本発明を限定するものではない。
【0169】
以下に示す種々の実施例は、化学療法に使用される分子の輸送体として機能するポリシロキサン系ナノ粒子の可能性を説明することを目的とする。
図1に示されたメカニズムに従って、意図する分子が、ナノ粒子の表面に吸着する。後述する例では、ナノ粒子の表面にこれ以上分子が保持されなくなる薬物の限界濃度を決定することも可能である。
【0170】
様々な実施例にて、問題とするナノ粒子を臨床試験するときに採用される濃度に当該ナノ粒子の濃度を設定したときにおける、ポリシロキサン系ナノ粒子の薬物の最大積載量を決定した。活性物質の濃度を増加させながら、当該活性物質をナノ粒子と接触させた。溶液を、タンジェンシャルフィルトレーションによって精製した。ナノ粒子の表面に吸着することができなかった分子は、膜を通過し、浮上分離液中に見いだされた。ここで、UV/可視吸収または蛍光分光法などの分光技術によって、ナノ粒子の表面に吸着することができなかった分子を検出できる(
図2)。
【0171】
〔ポリシロキサン系超微細ナノ粒子溶液の調製〕
刊行物「G. Le Duc et al., Cancer Nanotechnology, 2014」に記載の方法に従って、ポリシロキサン系超微細ナノ粒子(AGuIX(登録商標))の溶液を調製した。
【0172】
10mMの濃度のガドリニウムを含むAGuIX(登録商標)の溶液を、633nmのレーザーを用いたDLSによって分析した。数平均流体力学的直径は、3.2nmであった。
【0173】
〔ドキソルビシンを送達するためのナノベクター〕
<実施例1>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)ナノ粒子を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。2.85mgのドキソルビシンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.1mlの超純水を加え、ドキソルビシンが完全に溶解するまで攪拌した。2.6g/lにてドキソルビシンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該ドキソルビシンの溶液215μlと、超純水160μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、112mg/lのドキソルビシンを含む溶液を調製した。
【0174】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、200μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。前記上清を50倍に希釈して、紫外線−可視光分析による分析を行った。
【0175】
<実施例2(比較)>
112mg/lのドキソルビシンの溶液を実施例1に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0176】
<実施例3>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)ナノ粒子を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。2.85mgのドキソルビシンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.1mlの超純水を加え、ドキソルビシンが完全に溶解するまで攪拌した。2.6g/lにてドキソルビシンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該ドキソルビシンの溶液327μlと、超純水48μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、170mg/lのドキソルビシンを含む溶液を調製した。
【0177】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、200μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。前記上清を50倍に希釈して、紫外線−可視光分析による分析を行った。
【0178】
<実施例4(比較)>
170mg/lのドキソルビシンの溶液を実施例3に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0179】
<実施例1/2および実施例3/4の比較結果>
図3および
図4は、それぞれ、実施例1および2の溶液の浮上分離液の吸収スペクトル、および、実施例3および4の溶液の浮上分離液の吸収スペクトルである。これらのデータは、ドキソルビシンがAGuIX(登録商標)のナノ粒子と相互作用していることを示している。実際に、100mM([Gd
3+])のAGuIX(登録商標)および112mg/lのドキソルビシンを含む溶液では、ドキソルビシンは、ナノ粒子の表面に吸着されて、ドキソルビシンのみを含む溶液とは対照的に、タンジェンシャルフィルトレーション後の浮上分離液中に検出されない。100mM([Gd
3+])のAGuIX(登録商標)および170mg/lのドキソルビシンを含む溶液では、紫外線−可視光分光分析によって、非常に弱いシグナルが検出された。このことは、ドキソルビシンの大部分がナノ粒子の表面に吸着されたこと、および、ドキソルビシンの少量が膜を通過したこと、を示している。
【0180】
実施例3で得られた溶液(100mM[Gd
3+]のAGuIX(登録商標)および170mg/lのドキソルビシン)を50倍に希釈し、633nmのレーザーを用いたDLSによって分析した。数平均流体力学的直径は、3.7nmであった。当該数平均流体力学的直径は、AGuIX(登録商標)のナノ粒子にて得られる3.2nmの直径よりも大きく、このことは、ナノ粒子とドキソルビシンとの表面相互作用を示している。
【0181】
100g/lのナノ粒子に相当する100mM([Gd
3+])のAGuIX(登録商標)のナノ粒子の溶液に関して、ドキソルビシンの保持は、最低濃度112mg/lに至るまで観察される。このことは、重量に基づくナノ粒子の積載量が、112mg/gよりも大きいことに相当する(
図5)。
【0182】
〔TATEペプチドを送達するためのナノベクター〕
<実施例6>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。14.94mgのtyr3−オクトレオテート(TATE)ペプチドを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに498μlの超純水を加え、ペプチドが完全に溶解するまで攪拌した。30g/lにてペプチドを含む溶液を得た。当該ペプチドの溶液48μlと、超純水328μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、2.90g/lのペプチドを含む溶液を調製した。
【0183】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、200μlの上清を得た。当該上清を20倍に希釈した後、紫外線−可視光分析、および、蛍光分析によって、浮上分離液を分析した。
【0184】
<実施例7(比較)>
2.90g/lのTATEペプチドの溶液を実施例6に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0185】
<実施例8>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)のナノ粒子を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。6.1mgのtyr3−オクトレオテート(TATE)ペプチドを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに203.3μlの超純水を加え、ペプチドが完全に溶解するまで攪拌した。30g/lにてペプチドを含む溶液を得た。当該ペプチドの溶液97μlと、超純水279μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、5.80g/lのペプチドを含む溶液を調製した。
【0186】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、320μlの上清を得た。紫外線−可視光分析(20倍希釈)、および、蛍光分析(40倍希釈)によって、浮上分離液を分析した。
【0187】
<実施例9>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)のナノ粒子を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。14.94mgのtyr3−オクトレオテート(TATE)ペプチドを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに498μlの超純水を加え、ペプチドが完全に溶解するまで攪拌した。30g/lにてペプチドを含む溶液を得た。当該ペプチドの溶液193μlと、超純水182μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、11.60g/lのペプチドを含む溶液を調製した。
【0188】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、200μlの上清を得た。当該上清を20倍に希釈した後、紫外線−可視光分析、および、蛍光分析によって、浮上分離液を分析した。
【0189】
<実施例10(比較)>
11.60g/lのTATEペプチドの溶液を実施例5に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0190】
<実施例11>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)のナノ粒子を250μlの超純水中に再分散して、200mM([Gd
3+])の溶液を調製した。0.6mgのtyr3−オクトレオテート(TATE)ペプチドを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに20μlの超純水を加え、ペプチドが完全に溶解するまで攪拌した。30g/lにてペプチドを含む溶液を得た。当該ペプチドの溶液20μlと、超純水230μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、1.20g/lのペプチドを含む溶液を調製した。
【0191】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、320μlの上清を得た。紫外線−可視光分析(20倍希釈)、または、蛍光分析(40倍希釈)によって、浮上分離液を分析した。
【0192】
<実施例6〜10の結果>
図6、7および8は、それぞれ、実施例6および7の溶液の20倍に希釈された浮上分離液、実施例9および10の溶液の20倍に希釈された浮上分離液、ならびに、実施例8の溶液の20倍に希釈された浮上分離液の、吸収スペクトルを示す。これらのデータは、TATEペプチドが、最大で約2g・L
−1の濃度まで、ナノ粒子の表面に吸着することを示している(
図12)。実際、この限界濃度の前には、タンジェンシャルフィルトレーションによって精製された溶液の浮上分離液中、紫外線−可視光分光分析によって、TATEペプチドは検出されない。
【0193】
図9、10および11は、それぞれ、実施例6および7の20倍に希釈された浮上分離液、実施例9および10の20倍に希釈された浮上分離液、ならびに、実施例8の20倍に希釈された浮上分離液の、蛍光スペクトルを示す。紫外線−可視光分光分析による検出と同様に、これらのデータは、TATEペプチドがAGuIX(登録商標)のナノ粒子と相互作用することを示している。
【0194】
実施例8によって得られた溶液(2.90g/lのTATE)を10倍に希釈し、633nmのレーザーを用いたDLSによって分析した。
【0195】
数平均流体力学的直径は、3.4nmであった。当該数平均流体力学的直径は、AGuIX(登録商標)のナノ粒子にて得られる3.2nmの直径よりも大きく、このことは、ナノ粒子とTATEペプチドとの表面相互作用を示している。
【0196】
100g/lのナノ粒子に相当する100mM([Gd
3+])のAGuIX(登録商標)のナノ粒子の溶液に関して、TATEペプチドの保持は、最低濃度2g/lに至るまで観察される。このことは、重量に基づくナノ粒子の積載量が、20mg/gよりも大きいことに相当する(
図12)。
【0197】
〔シスプラチンを送達するためのナノベクター〕
<実施例12>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。3.1mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.2mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液24μlと、超純水351μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、120mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0198】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、160μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。得られた溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0199】
<実施例13>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。3.1mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.2mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液36μlと、超純水339μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、180mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0200】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、160μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。得られた溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分光分析によって分析した。
【0201】
<実施例14>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。3.1mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.2mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液72μlと、超純水303μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、360mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0202】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、160μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。得られた溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0203】
<実施例15>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。2.8mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.1mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液142μlと、超純水233μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、720mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0204】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、140μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。得られた溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0205】
<実施例16(比較)>
720mg/lのシスプラチンの溶液を実施例15に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0206】
<実施例17>
50μmol(Gd
3+)のAGuIX(登録商標)を125μlの超純水中に再分散して、400mM([Gd
3+])の溶液を調製した。2.8mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.1mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液229μlと、超純水146μlとを、前記のAGuIX(登録商標)の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのガドリニウム、および、1160mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0207】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、160μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。得られた溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0208】
<結果(実施例12、13、14、15および17)>
実施例12、13、14、15および17(120−180−360−720−1160mg/lのシスプラチン)を、633nmのレーザーを用いたDLS(試料を10倍に希釈)によって分析した。各々の数平均流体力学的直径は、3.8nm、3.7nm、3.8nm、3.4nm、3.7nmであった。これらの数平均流体力学的直径は、AGuIX(登録商標)のナノ粒子にて得られる3.2nmの直径よりも大きく、このことは、ナノ粒子とシスプラチンとの表面相互作用を示している。
【0209】
<実施例18(比較)>
1160mg/lのシスプラチンの溶液を実施例15に記載の工程に従って調製し、このとき、調製に用いるAGuIX(登録商標)の溶液を超純水に置き換えた。
【0210】
<実施例15/16および実施例17/18の結果>
図13は、実施例に記載した処理後における、実施例12、13および14の浮上分離液の吸光度を表す。
【0211】
図14および15は、それぞれ、実施例15および16の溶液の浮上分離液の吸収スペクトル、および、実施例17および18の溶液の浮上分離液の吸収スペクトルである。これらのデータは、シスプラチンが、最大で約240mg・L
−1の濃度まで、ナノ粒子の表面に吸着することを示している(
図16)。実際、この限界濃度の前には、ODPA処理された浮上分離液中、706nmにおける紫外線−可視光分光分析によって、シグナルに変化はない。
【0212】
100g/lのナノ粒子に相当する100mM([Gd
3+])のAGuIX(登録商標)のナノ粒子の溶液に関して、シスプラチンの保持は、最低濃度240mg/lに至るまで観察される。このことは、重量に基づくナノ粒子の積載量が、2.4mg/gよりも大きいことに相当する(
図16)。
【0213】
<実施例19>シスプラチンを送達するための、ポリシロキサンおよび遊離キレート(free chelates)に基づくナノ粒子
これらのナノ粒子を合成するために、6.187ml(26.17mmol)のAPTESを、90mlのジエチレングリコールに加えた。当該溶液を、室温にて1時間攪拌した後、10g(17.45mmol)のDOTAGA無水物を加えた。水溶液を、5日間攪拌した。5日間の攪拌の後、当該溶液に7.952ml(34.90mmol)のTEOSを添加し、1時間攪拌した。当該溶液に超純水900mlを加え、撹拌しながら、50℃にて18時間加熱した。当該溶液を、5kDaのカットオフ閾値を有する膜を備えるVivaflowカセットを使用して、200mlに濃縮した。塩酸を加えることによって、pHを2に調整した。当該溶液を、Vivaflowを使用して係数50にて精製し、1Mの水酸化ナトリウムを制御しながら加えることによって、pHを7.4に中和した。当該溶液を、濾過し、その後、凍結乾燥した。当該凍結乾燥物を水中に再分散させると、ナノ粒子は、5.2nmの流体力学的直径を有していた。
【0214】
50μmol(DOTAGA)のケイ素のナノ粒子(62.5mg)を、141μlの超純水に再分散させることによって、DOTAGAの濃度が354mMであり、かつ、443mg/lである溶液を調製した。3mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.2mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液229μlと、超純水130μlとを、前記のケイ素のナノ粒子の溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMの遊離キレート(125g/lのナノ粒子)、および、1160mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0215】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、200μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。当該新たな溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0216】
図17は、実施例18および19の溶液の浮上分離液の吸収スペクトルを示す。ケイ素のナノ粒子の溶液にシスプラチンを添加すると、不溶分離液において、より弱いシグナルが観察された。2つのUVスペクトルの波長706nmにおけるシグナルから、125g/lのナノ粒子の溶液に関して、260mg/lのシスプラチン濃度における保持が推定できる。このことは、重量に基づくナノ粒子の積載量が、2.1mg/gであることに相当する。
【0217】
<実施例20>ビスマスイオンのキレート化によるナノ粒子の表面の改変が、積載量を変化させる可能性
実施例19に記載のナノ粒子を水(283mg、227μmolのDOTAGA)中に再分散させることによって、DOTAGAの濃度を約200mMに調整した。当該溶液のpHを、NaOHを加えることによって、5.5に調整した。250mMのBiCl
3を含む6MのHCl溶液の817μlを、70℃の温度にて、攪拌しながら、3回に分けてゆっくりと添加することによって、錯体化を促進した。各添加の間、10mMの水酸化ナトリウム溶液をゆっくりと加えることによって、pHを5.5に再調整した。最後の添加の後、溶液を、80℃にて1時間加熱した。加熱した後、超純水を加えることによって、pH5.5におけるキレート濃度が100mMに達した。当該溶液を、80℃にて18時間加熱した。過剰なBi
3+を、タンジェンシャルフィルトレーションによって除去した。当該溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHが7になるように中和した後、当該溶液を、0.2μmの膜にて濾過し、かつ、凍結乾燥した。当該凍結乾燥物を水中に再分散させると、ナノ粒子は、6.0nmの流体力学的直径を有していた。
【0218】
30μmolのAGuIX(単価記号・アットマーク)DOTA(単価記号・アットマーク)Bi(Bi
3+)(67.8mg)を75μlの超純水中に再分散して、400mMの溶液(904g/Lのナノ粒子)を調製した。3mgのシスプラチンを、2.5mlのフラスコ内に入れた。当該フラスコに1.2mlの超純水を加え、攪拌した。室温にてシスプラチンは全く溶解しないので、シスプラチンが完全に溶解するまで、40℃に加熱する必要がある。2.5g/lにてシスプラチンを含む溶液を得、アルミニウムを用いて、当該溶液を光から保護した。当該シスプラチンの溶液118μlと、超純水107μlとを、前記のAGuIX(単価記号・アットマーク)DOTA(単価記号・アットマーク)Biの溶液に加えた。フラスコを、暗所で30分間攪拌した。これによって、100mMのビスマス(226g/lのナノ粒子)、および、1000mg/lのシスプラチンを含む溶液を調製した。
【0219】
当該溶液を3kDa Vivaspin(登録商標)に入れ、タンジェンシャルフィルトレーションサイクルを行うことによって、80μlの上清を得た。紫外線−可視光分析によって、浮上分離液を分析した。シスプラチンは、ODPAと反応させた後、706nmの波長での紫外線−可視光の吸収によって検出される。シスプラチンとの反応のために、1.4mg/mlにてODPAを含む溶液、および、リン酸緩衝液(pH6.8)を準備した。浮上分離液を、5倍に希釈した。140μlの当該溶液を、200μlの緩衝液および100μlのODPAに加えた。当該新たな溶液を、100℃にて15分間加熱した。反応が終了し、温度が室温にまで戻ると直ぐに、560μlのDMFを加えた。最終的な溶液を濾過した後、当該溶液を、紫外線−可視光分析によって分析した。
【0220】
<実施例18および20の結果>
図18は、実施例18および20の溶液の浮上分離液の吸収スペクトルを表す。
【0221】
図18に示すように、ナノ粒子の表面でのビスマスのキレート化は、ナノ粒子の表面におけるシスプラチンの非保持を誘導する。これにより、ナノ粒子の表面にてキレート化された金属原子の数の変化が、ナノ粒子の積載量を変化させ得ることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【
図1】ナノベクター上での物理的吸着の一般的な原理を示す。
【
図2】ポリシロキサン系ナノ粒子の存在下に配置された薬物の濃度の関数である、浮上分離液中の活性種の濃度の変化を表す曲線である。
【
図3】実施例1および2の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図4】実施例3および4の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図5】100mMのAGuIX存在下におけるドキソルビシン溶液の浮上分離液に関する、導入されたドキソルビシンの量の関数としての、波長497nmにおける吸光度を示す。
【
図6】20倍に希釈された実施例6および7の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図7】20倍に希釈された実施例9および10の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図8】20倍に希釈された実施例8の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図9】20倍に希釈された実施例6および7の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【
図10】20倍に希釈された実施例9および10の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【
図11】20倍に希釈された実施例8の浮上分離液の蛍光スペクトルである。
【
図12】100mMのAGuIX存在下におけるTATEペプチド溶液(20倍希釈)の浮上分離液に関する、導入されたTATEペプチドの量の関数としての、波長280nmにおける吸光度を示す。
【
図13】実施例に記載した処理後における、実施例12、13および14の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図14】実施例に記載した処理後における、実施例15および16の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図15】実施例に記載した処理後における、実施例17および18の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図16】100mMのAGuIX(登録商標)存在下におけるシスプラチン溶液の浮上分離液に関する、導入されたシスプラチンの量の関数としての、波長706nmにおける吸光度を示す。
【
図17】前記の実施例に記載した処理後における、実施例18および19の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【
図18】実施例に記載した処理後における、実施例18および20の浮上分離液の吸収スペクトルである。
【国際調査報告】