(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-500058(P2021-500058A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(54)【発明の名称】胎児ヘモグロビンの発現レベルを増加させる方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20201204BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20201204BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20201204BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20201204BHJP
A61K 35/18 20150101ALI20201204BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20201204BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20201204BHJP
【FI】
C12N15/113 ZZNA
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N5/0789
C12N5/10
A61K35/18 Z
A61P7/06
A61P43/00 105
A61P43/00 107
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2020-523710(P2020-523710)
(86)(22)【出願日】2018年10月26日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月24日
(86)【国際出願番号】CN2018112068
(87)【国際公開番号】WO2019080920
(87)【国際公開日】20190502
(31)【優先権主張番号】201711027708.6
(32)【優先日】2017年10月27日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520042939
【氏名又は名称】博雅▲輯▼因(北京)生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲鵬▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】方 日国
(72)【発明者】
【氏名】于 玲玲
(72)【発明者】
【氏名】夏 ▲鵬▼▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】王 佳
(72)【発明者】
【氏名】梁 福才
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA03
4B065CA44
4C087AA01
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4C087AA03
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4C087CA04
4C087DA17
4C087DA32
4C087NA05
4C087ZA55
4C087ZB21
4C087ZB22
(57)【要約】
造血幹細胞BCL11Aのエンハンサー部位を遺伝子編集する方法が提供される。遺伝子編集された造血幹細胞は正常な細胞機能を有し、胎児ヘモグロビン発現を有意に改善することができ、β−サラセミアと鎌状赤血球貧血の治療に使用される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aのゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、
ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法。
【請求項2】
前記遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記BCL11Aゲノムの標的ヌクレオチド配列は、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列と相補的である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記BCL11Aゲノムの編集を実現するように、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列を含むsgRNAを前記造血幹細胞に導入することを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記エレクトロポレーション条件は、200〜600V、0.5〜2msである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列を含む、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたsgRNAを造血幹細胞に導入することを含む、CRISPR/Cas9システムを介してインビトロで造血幹細胞を効率的に編集する方法。
【請求項12】
前記sgRNAとCas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エレクトロポレーション条件は、200〜600V、0.5〜2msである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得られた造血幹細胞。
【請求項16】
胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aゲノム領域が遺伝子編集技術によって破壊された、ヒト造血幹細胞。
【請求項17】
請求項15または16に記載の造血幹細胞を分化培養することにより得られた、成熟赤血球の前の分化の異なる段階にある前駆細胞。
【請求項18】
請求項15または16に記載の造血幹細胞を分化培養することにより得られた成熟赤血球。
【請求項19】
胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加した成熟赤血球またはその前駆細胞を製造する方法であって、
(a)請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法を使用して遺伝子改変された造血幹細胞を得ることと、
(b)造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を使用して、前記遺伝子改変された造血幹細胞に対して造血幹細胞赤血球系増殖および分化を行うこととを含み、
前記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地は、基礎培地と、成長因子組成物とを含み、前記成長因子組成物は、幹細胞成長因子(SCF)、インターロイキン3(IL−3)、およびエリスロポエチン(EPO)を含む、方法。
【請求項20】
赤血球系分化脱核培地を使用して造血幹細胞の赤血球系分化および脱核を行うことをさらに含み、
前記赤血球分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、およびプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤を含む、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記赤血球系分化脱核培地における成長因子はエリスロポエチン(EPO)を含み、前記プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤は、下記化合物(I)〜(IV)から選択されるいずれか1つまたは2つ以上である、請求項20に記載の方法。
【化1】
【請求項22】
請求項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは請求項17に記載の前駆細胞、若しくは請求項18に記載の成熟赤血球を含む、組成物。
【請求項23】
請求項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは請求項17に記載の前駆細胞、若しくは請求項18に記載の成熟赤血球を含む、医療製品。
【請求項24】
請求項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは請求項17に記載の前駆細胞、若しくは請求項18に記載の成熟赤血球のそれの必要がある被験者の疾患の予防または治療における、使用。
【請求項25】
前記疾患が貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記被験者はヒトである、請求項24〜26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
被験者の疾患を予防または治療するための薬剤または医療製品の調製における、請求項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは請求項17に記載の前駆細胞、若しくは請求項18に記載の成熟赤血球の使用。
【請求項29】
前記疾患が貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患である、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記被験者はヒトである、請求項28〜30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列を含む、sgRNA構築体。
【請求項33】
2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む、請求項32に記載の構築体。
【請求項34】
前記化学修飾は、配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列の5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である、請求項33に記載の構築体。
【請求項35】
請求項32〜34のいずれか一項に記載の構築体を含むベクター、宿主細胞または製剤。
【請求項36】
造血幹細胞の遺伝子編集における、請求項32〜34のいずれか一項に記載の構築体の使用。
【請求項37】
請求項15または16に記載の造血幹細胞、請求項17に記載の前駆細胞、若しくは請求項18に記載の成熟赤血球を被験者に投与することを含む、被験者の貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患を治療または予防する方法。
【請求項38】
前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記被験者はヒトである、請求項38に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、2017年10月27日に提出された中国特許出願2017110277086の優先権を享有することを主張する。当該中国特許出願の開示内容は、その全体が引用により本出願に取り込まれる。
【0002】
本発明は、遺伝子編集技術によりヒト造血幹細胞のBCL11Aエンハンサー部位を効率よく且つ安全に遺伝子修飾し、γグロビンと胎児ヘモグロビンの発現をアップレギュレーションし、疾患を治療する目的を達成することを含む、サラセミアと鎌状赤血球貧血などの貧血疾患の治療に使用される細胞治療スキームに関する。
【背景技術】
【0003】
サラセミアは、グロビン生成障害性貧血または海洋性貧血とも呼ばれ、遺伝子欠陥などの遺伝的要因によって引き起こされる一組の溶血性貧血疾患である。遺伝的遺伝子欠陥により、ヘモグロビン内の一種または複数のグロビンペプチド鎖の合成が欠失したり不足したりして、貧血または溶血性病態が引き起こされる。ヘモグロビンを合成するグロビン鎖の減少または欠失は、異常なヘモグロビン構造を引き起こしてしまい、このような異常なヘモグロビンを含有する赤血球は、変形能が低下し、寿命が短くなり、骨髄内でin situ溶血が発生する可能性があり、末梢血循環に入った後に脾臓などの臓器によって予め破壊され、貧血、体内の鉄沈着、さらには異常な発達さえも引き起こされてしまう。異なるグロビン鎖遺伝子変異の多様性と複雑さのため、グロビン欠失のタイプ、数、および臨床症状の変動が非常に大きい。
【0004】
サラセミアは、欠失したグロビン鎖の種類および欠失程度によって命名され、分類される。グロビンペプチド鎖生成障害の種類により、α型、β型、δ型、δβ型に分けられる。サラセミアは現在、世界で最も一般的な遺伝子欠陥の遺伝的疾患の一つである。統計によると、全世界の人口の4.83%に変異したグロビン遺伝子があり、その中には、1.67%にα、βサラセミアヘテロ接合体が含まれ、それとともに、1.92%に鎌状赤血球変異したヘモグロビンが含まれ、0.95%にヘモグロビンEが含まれ、0.29%にヘモグロビンCなどが含まれる。これによって疾患の症状を伴う異常ヘモグロビンを保有する世界的な出生率は0.024%以上であり、これは一般的な遺伝子欠陥疾患である。
【0005】
β−サラセミア(以下、β−サラセミアと称する)は、サラセミアの一種であり、その発症メカニズムは、βグロビンペプチド鎖の遺伝子変異に起因し、ほとんどの患者は点突然変異であるが、少数の患者は大きいフラグメントの遺伝子欠失である。遺伝子欠失と特定の点突然変異により、βグロビンペプチド鎖の一部の合成が完全に阻害される可能性があり、このタイプはβ
0サラセミアと呼ばれる。少数の点突然変異により、β鎖の合成は部分的に阻害され、それでもペプチド鎖合成の一部が保持され、このタイプはβ
+サラセミアと呼ばれる。組み合わせによって異なる臨床症状が示される可能性がある。β−サラセミア遺伝子変異には多くの種類が有し、統計によると、世界には300種類以上の遺伝子異常が有し、100種類以上の変異点がすでに発見されており、現在中国国内臨床で28種類が報告されている。その中で、よく見られる変異は6種類あり、β41−42(−TCTT欠失)は約45%を占め、IVS−II654(CからTへの点突然変異)は約24%を占め、β17(AからTへの点突然変異)は約14%を占め、TATAボックス−28(AからTへの点突然変異)は約9%を占め、B71−72(+A挿入変異)は約2%を占め、β26(GからAへの点突然変異)は約2%を占める。
【0006】
重度のβ−サラセミアには2種類の変異遺伝子がある。一つはβホモ接合体であり、もう一つはβ
0とβ
+サラセミアのダブルヘテロ接合体である。βグロビンペプチド鎖の生成がほぼ完全に阻害されるため、体内ではβグロビン鎖を生成することができず、α鎖とβ鎖とからなる正常なヘモグロビンAの合成が減少または消失する。過剰なα鎖タンパク質は赤血球内のγ鎖と結合してヘモグロビンFを形成することができるが、出生後、γ合成はだんだん阻害される(ヘモグロビン鎖合成切り換えとも呼ばれる)ため、過剰なα鎖は赤血球に沈着して封入体を形成し、赤血球膜の表面に付着する。これによって、赤血球膜の特性が変化し、細胞が硬くなり、変形能が低下し、骨髄内で破壊されて「無効な造血」になってしまう。サラセミアの一部の赤血球は骨髄で成長して成熟し、最終的に末梢血循環に放出されることができるが、局所的な末梢微小循環(脾臓などの臓器)を通過すると、変形能が低下するため、機械的な破壊を受けやすい。上記の理由により、患児は臨床上で、出生時に無症状であるが、出生後、HbF(胎児ヘモグロビン)発現のため、且つ赤血球の寿命が120日と長いため、多くの場合は6ヵ月後、γ鎖合成が生理学的に阻害されることにより、ヘモグロビン鎖の合成がβ鎖に切り替えられると共に、遺伝子欠陥のためβ鎖が合成できず、細胞の病理学的な変化により破壊が増加し、慢性溶血性貧血を示し、さらに骨髄構成の変化を引き起こす。治療中に繰り返して輸血する必要があり、これによってヘモジデリン沈着症が引き起こされ、重要な臓器機能に影響を与える。
【0007】
β−サラセミアと同様に、鎌状赤血球貧血は、常染色体劣性遺伝病に属するが、β−サラセミアとの違いは、当該貧血症の変異部位が単一であることであり、これは、βグロビンの単一の塩基変異により、正常なβ遺伝子の6番目のコドンがGAG(グルタミン酸をコードする)からGTG(バリン)に変異したからである。変異ホモ接合体の状態では、正常なαグロビンと異常なβグロビンは、HbSと呼ばれる四量体複合体を形成し、この四量体は、酸素を持つ能力が正常なヘモグロビンの能力の半分であり、脱酸素状態で凝集してポリマーになる。形成されたポリマーの配向方向は、膜と平行で細胞膜に緊密に接触しているため、ポリマーの数がある程度になると、細胞膜は通常の凹型から鎌型に変える。鎌状赤血球は変形能に乏しく、破砕しやすくて溶血を起こし、血管の閉塞、損傷、壊死などを引き起こす。
【0008】
β−サラセミアと鎌状赤血球貧血の治療方法には、一般的な支持療法、大量輸血と定期的な除鉄療法、造血幹細胞移植、胎児ヘモグロビン誘発薬物療法、および探索的遺伝子療法が含まれる。現在、すべての治療法の中で唯一の治癒希望のある方法は同種造血幹細胞移植である。トーマスが1981年にサラセミア患者に初の造血幹細胞移植を行って成功を収めて以来、世界中の複数のサラセミア研究センターで造血幹細胞移植技術が使用され、しかも従来の輸血と除鉄治療法を成功的に置き換えた。しかし、HLAの完全に一致するドナーが非常に足りなく、且つ移植後のGVHD(graft−versus−host disease、移植片対宿主病)による死亡のため、サラセミア治療における造血幹細胞移植の広範な適用はまだ制限されている。これと同時に、研究者はサラセミアの治療のための薬剤を持続的に研究している。現在、FDAによって唯一に承認された臨床治療のための経口薬はヒドロキシウレアであり、主に胎児ヘモグロビンの発現を誘発することで疾患の臨床症状を緩和するが、この薬剤の臨床効果は一貫的ではなく、しかも大きな副作用があり、並びに用量関連の骨髄阻害があるため、β−サラセミアと鎌状赤血球貧血などの関連貧血疾患を治療するための新しい治療法の開発が緊急である。
【0009】
本明細書全文でいくつかの文献が引用されている。ここで、各文献(いずれのジャーナル文章または要約、公開済みまたは未公開の特許出願、登録した特許、メーカーの仕様書、プロトコルなどを含む)は言及により本文に取り込まれる。しかしながら、ここに引用された文献が実際に本発明の既存技術であると認めるわけではない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術などの遺伝子編集技術を利用して、新世帯の造血幹細胞を開発した。既存技術による造血幹細胞と比べて、この造血幹細胞は、BCL11Aエンハンサーの遺伝子ノックアウト効率が大幅に増加し、これにより、分化成熟後の赤血球の胎児ヘモグロビンの発現が大幅に増加し、既存技術におけるBCL11Aエンハンサーの編集効率が低く、胎児ヘモグロビンの発現が臨床適用を満たせないという問題をある程度で解決した。また、本発明は、遺伝子編集後の造血幹細胞の培養および分化の策略をさらに改善し、造血幹細胞から成熟赤血球への分化プロセスを大幅に短縮するだけでなく、採取した成熟赤血球の数をも大幅に増加させ、これによって臨床適用の要件を一部満たすことができる。
【0011】
具体的には、本発明は下記の項に係る:
1.ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aのゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、
ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法。
2.前記遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術である、項1に記載の方法。
3.前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、項2に記載の方法。
4.前記BCL11Aゲノムの標的ヌクレオチド配列は、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列と相補的である、項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
5.前記BCL11Aゲノムの編集を実現するように、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列を含むsgRNAを前記造血幹細胞に導入することを含む、項3または4に記載の方法。
6.前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、項5に記載の方法。
7.前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である、項6に記載の方法。
8.前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する、項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
9.前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に前記造血幹細胞に導入する、項8に記載の方法。
10.前記エレクトロポレーションの条件は、200〜600V、0.5〜2msである、項9に記載の方法。
【0012】
11.配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列を含み、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたsgRNAを造血幹細胞に導入することを含む、CRISPR/Cas9システムを介してインビトロで造血幹細胞を効率的に編集する方法。
12.前記sgRNAとCas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する、項11に記載の方法。
13.sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に前記造血幹細胞に導入する、項12に記載の方法。
14.前記エレクトロポレーションの条件は、200〜600V、0.5〜2msである、項13に記載の方法。
15.項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得られた造血幹細胞。
16.胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aゲノム領域における一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞。
17.項15または16に記載の造血幹細胞を分化培養することにより得られた、成熟赤血球になる前の分化の異なる段階にある前駆細胞。
18.項15または16に記載の造血幹細胞を分化培養することにより得られた成熟赤血球。
19.胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加した成熟赤血球またはその前駆細胞を製造する方法であって、
(a)項1〜14のいずれか一項に記載の方法を使用して遺伝子改変された造血幹細胞を得ることと、
(b)造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を使用して、前記遺伝子改変された造血幹細胞に対して造血幹細胞の赤血球系増殖および分化を行うこととを含み、
前記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地は、基礎培地と、成長因子組成物とを含み、前記成長因子組成物は、幹細胞成長因子(SCF)、インターロイキン3(IL−3)、およびエリスロポエチン(EPO)を含む、方法。
20.赤血球系分化脱核培地を使用して造血幹細胞の赤血球分化および脱核を行うことをさらに含み、
前記赤血球分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、およびプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤を含む、
項19に記載の方法。
【0013】
21.前記赤血球系分化脱核培地における成長因子はエリスロポエチン(EPO)を含み、前記プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤は、下記化合物(I)〜(IV)から選択されるいずれか1つまたは2つ以上である、項20に記載の方法。
【0015】
22.項19〜21のいずれか一項によって得られた成熟赤血球またはその前駆細胞。
23.項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは項17または22に記載の前駆細胞、若しくは項18または22に記載の成熟赤血球を含む、組成物。
24.項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは項17または22に記載の前駆細胞、若しくは項18または22に記載の成熟赤血球を含む、医療製品。
25.項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは請求項17または22に記載の前駆細胞、若しくは項18または22に記載の成熟赤血球の、それの必要がある被験者の疾患の予防または治療における使用。
26.前記疾患が貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患である、項25に記載の使用。
27.前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、請求項26に記載の使用。
28.前記被験者はヒトである、請求項25〜27のいずれか一項に記載の使用。
29.被験者の疾患を予防または治療するための薬剤または医療製品の調製における、項15または16に記載の造血幹細胞、若しくは項17または22に記載の前駆細胞、若しくは項18または22に記載の成熟赤血球の使用。
30.前記疾患が貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患である、項29に記載の使用。
【0016】
31.前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、項30に記載の使用。
32.前記被験者はヒトである、項29〜31のいずれか一項に記載の使用。
33.配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列を含む、sgRNA構築体。
34.2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む、項33に記載の構築体。
35.前記化学修飾は、配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列の5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である、項34に記載の構築体。
36.項33〜35のいずれか一項に記載の構築体を含むベクター、宿主細胞または製剤。
37.造血幹細胞の遺伝子編集における、項33〜35のいずれか一項に記載の構築体の使用。
38.項15または16に記載の造血幹細胞、項17または22に記載の前駆細胞、若しくは項18または22に記載の成熟赤血球を被験者に投与することを含む、被験者の貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患を治療または予防する方法。
39.前記疾患はβ−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血である、項38に記載の方法。
40.前記被験者はヒトである、項39に記載の方法。
41.項33〜35のいずれか一項に記載のsgRNAの構築体、または項36に記載のベクターを含む、被験者の貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患を治療または予防するキット。
42.Cas9mRNAをさらに含む、項41に記載のキット。
【発明の効果】
【0017】
本発明はエレクトロポレーションシステムを最適化することにより、正常なドナーと貧血患者の造血幹細胞のBCL11Aのエンハンサー部位を遺伝子編集して臨床治療の要件を満たす。編集された造血幹細胞が赤血球系に分化すると、γグロビンと胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を有意に増加させることができ、動物モデルの造血系を再構築することができる。また、オフターゲット分析により、本発明の方法は安全性が高く、遺伝子編集による副作用はほとんど検出されていない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】自己造血幹細胞の遺伝子編集によりβ−サラセミアと鎌状赤血球貧血を治療するフローを示す図である。末梢血を患者から動員し、インビトロ分離によりCD34陽性の造血幹細胞を得て、インビトロで遺伝子編集して胎児ヘモグロビンの発現を増加させた後、遺伝子修飾された自己造血幹細胞を患者に再注入した。
【
図2】癌細胞株K562で複数ロットの実験により最適なエレクトロポレーション条件を検出し、GFPのエレクトロポレーションの4日後の蛍光顕微鏡の写真を示す図である。「V」はパルス電圧を表し、「ms」はパルス時間を表す。
【
図3】癌細胞株K562で複数ロットの実験により最適なエレクトロポレーション条件を検出し、GFPのエレクトロポレーションの4日後の、フローサイトメトリー解析による7−AADとGFP発現の統計分析を示す図である。7−AADは細胞生存率を表し、7−AAD(7−アミノ−アクチノマイシンD)は、正常な原形質膜を通過できない核酸色素である。アポトーシスと細胞死のプロセスにおいて、原形質膜への7−AADの通過性は徐々に増加し、適切な波長の励起光の励起下で明るい赤色の蛍光を発することができる。7−AAD陰性は正常な生細胞であり、GFPによりエレクトロポレーション効率を表す。「250−1」は250V電圧、1msのパルス時間、「250−1−1」と「250−1−2」はそれぞれ250V 1ms、2回の繰り返しを表し、「300−1−1」と「300−1−2」はそれぞれ300v 1ms、2回の繰り返しを表す。
【
図4】300V、1msのエレクトロポレーション条件下で、GFPmRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入してから4日後の蛍光顕微鏡の写真を示す図である。それぞれ、明視野、緑のチャネル、赤のチャネル、明視野と緑のチャネルのオーバーレイの四つの視野を含む。
【
図5】300V、1msのエレクトロポレーション条件下で、GFPmRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入してから4日後の、フローサイトメトリー解析によるGPFとCD34タンパク質の発現を示す図である。
【
図6】ヒトBCL11Aのエンハンサー58Kの位置に対して設計された複数のsgRNAを示す模式図である。
【
図7】ヒトBCL11Aのエンハンサー58K部位の150bp配列情報を示す図である。
【
図8】ヒトBCL11Aのエンハンサー58K部位の150bpの位置に対して設計された23個のsgRNAの具体的なDNAの配列情報を示す図である。
【
図9】CD34陽性の造血幹細胞に、Cas9 mRNAと複数のsgRNAをエレクトロポレーションにより形質転換してから4日後にゲノムを抽出し、フラグメントを増幅し、Sangerシーケンシングを行い、TIDEソフトウェア分析によるIndelsの生成効率の統計分析を示す図である。
【
図10】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2、3、4、5、及び6 sgRNA(すなわち、図中のEnhancer−2、3、4、5、及び6)をエレクトロポレーションにより3つの異なる臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞に導入してから4日後、TIDEソフトウェア分析によるIndelsの生成効率の統計分析を示す図である。
【
図11】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞に導入してから2日後、インビトロコロニー形成実験(CFU検出)を実施し、14日後に異なる血液系のコロニー数をカウントした結果を示す図である。BFU−E、CFU−M、CFU−GM、CFU−E、CFU−G、CFU−MMは、赤血球系、骨髄系、リンパ系などの血液系の異なる系統のコロニー形成を表す。その中で、Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。
【
図12】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入し、放射計で照射されたNPG免疫不全マウスモデルに、遺伝子修飾された細胞と遺伝子修飾されていない細胞を同時に移植し、6週間、8週間、10週間、12週間、16週間後、マウスの末梢血でヒトCD45陽性細胞の割合を検出し、同時に移植した16週間後のマウスの骨髄と脾臓でヒトCD45陽性細胞の割合を検出し、なお、CD45陽性細胞の割合の計算方法として、ヒトCD45陽性細胞%/(ヒトCD45陽性細胞%+マウスCD45陽性細胞%)が使用され、ヒトCD45陽性細胞%とマウスCD45陽性細胞%がそれぞれフローサイトメトリー解析実験により測定された結果である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図13】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、放射計で照射されたNPG免疫不全マウスモデルに、遺伝子修飾された細胞と遺伝子修飾されていない細胞を同時に移植してから16週間後、それぞれマウスの骨髄、脾臓、末梢血における、ヒトCD45タンパク質に対するCD3、CD4、CD8、CD33、CD56、CD19などのヒト細胞膜タンパク質の割合を検出したことを示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図14】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、放射計で照射されたNPG免疫不全マウスモデルに、遺伝子修飾された細胞を移植してから、16週間後、それぞれマウスの骨髄、脾臓、末梢血におけるマウスCD45、ヒトCD45、CD3、CD4、CD8の発現をフローサイトメトリー解析によって検出した結果を示す図である。SSC−Hチャネルは、細胞の粒度を表す横角散乱を表し、値が大きいほど、細胞の粒度が大きい。粒度とは、細胞表面のしわ、細胞内の細胞小器官や粒子の数などを指す。
【
図15】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、放射計で照射されたNPG免疫不全マウスモデルに、遺伝子修飾された細胞を移植し、16週間後、マウスの骨髄、脾臓、末梢血における、一匹のマウスのヒトCD33、CD56、CD49をフローサイトメトリー解析によって検出した結果を示す図である。SSC−Hチャネルは、細胞の粒度を表す横角散乱を表し、値が大きいほど、細胞の粒度が大きい。粒度とは、細胞表面のしわ、細胞内の細胞小器官や粒子の数などを指す。
【
図16】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、移植前の細胞と移植してから16週間後の末梢血、骨髄、脾臓のゲノムを抽出し、目標フラグメントを増幅してSangerシーケンシングを行い、TIDEソフトウェアで遺伝子編集Indels効率を分析した結果を示す図である。
【
図17】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、赤血球への分化を行って12日後に検出を行った結果を示す図である。
図Aは、分化後の赤血球の写真を示す図である。
図Bは、ヒトCD71とヒト235aとの2つの膜タンパク質の発現の検出を示し、赤血球系の分化効率を示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図18】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、赤血球への分化を行って12日後、BCL11A、HBB、HBGなどの遺伝子のmRNA発現を蛍光定量によって検出した結果を示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図19】6μgのCas9 mRNAと4μgのBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、赤血球への分化を行って12日後、細胞内の胎児ヘモグロビンHbFの発現状況を示す図である。左側はフローサイトメトリー解析チャートであり、右側は胎児ヘモグロビン発現の統計分析の図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図20】新たに単離されたβ−サラセミア患者の末梢血におけるCD45とCD34の発現を検出した結果を示す図である。左側は対照群であり、右側は実験群である。実験サンプルは、3名のβ−サラセミア患者から由来する。
【
図21】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2、3、4、5および6 sgRNA(すなわち、図の中のEnhancer−2、3、4、5、6)をエレクトロポレーションにより、3名の異なるβ−サラセミア患者の末梢血から単離されたCD34陽性造血幹細胞に導入し、4日後、TIDEソフトウェア分析によるIndelsの生成効率の統計分析を示す図である。
【
図22】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者の末梢血から単離されたCD34陽性造血幹細胞に導入してゲノムを抽出し、NGSディープシーケンス分析による14の潜在的なオフターゲット部位の統計図である。
【
図23】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2、3、4、5および6 sgRNA(すなわち、図の中のEnhancer−2、3、4、5、6)をエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者に由来の造血幹細胞に導入し、赤血球への分化を行って12日後に検出した結果を示す図である。
図Aは、分化後の赤血球の写真を示す図である。
図Bは、ヒトCD71とヒト235aとの2つの膜タンパク質の発現の検出を示し、赤血球系の分化効率を示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2、3、4、5、及び6は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図24】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2、3、4、5および6 sgRNA(すなわち、図の中のEnhancer−2、3、4、5、6)をエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者の末梢血から単離されたCD34陽性造血幹細胞に導入し、赤血球への分化を行って12日後に、BCL11Aとγ−グロビンの遺伝子発現を検出した結果を示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−2、3、4、5、及び6は遺伝子編集された細胞を表す。
【
図25】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者に由来のCD34陽性造血幹細胞に導入し、2日後にインビトロコロニー形成実験(CFU検出)を行い、14日後、異なる血液系のコロニー数をカウントした結果を示す図である。BFU−E、CFU−M、CFU−GM、CFU−E、CFU−G、CFU−MMは、赤血球系、骨髄系、リンパ系などの血液系の異なる系統のコロニー形成を表す。
【
図26】Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐3(Enhancer−3)、Enhancer−4、またはEnhancer−5 sgRNAをエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者に由来のCD34陽性造血幹細胞に導入し、遺伝子編集効率、BCL11A遺伝子発現、及びγ−グロビンの遺伝子発現を評価した結果を示す図である。A)エレクトロポレーションの4日後、TIDEソフトウェア分析による異なるsgRNAsのIndels生成効率の統計分析を示す図である。B)造血幹細胞のエレクトロポレーション後、赤血球への分化を行い、12日後にBCL11A遺伝子発現を検出した結果を示す図である。C)造血幹細胞のエレクトロポレーション後、赤血球への分化を行い、12日後にγ−グロビン遺伝子発現を検出した結果を示す図である。Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5は、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5 sgRNAの導入後に遺伝子編集された細胞を表す。
【
図27】遺伝子編集されていない細胞(Mock)と遺伝子編集された細胞(エンハンサー2sgRNAで編集された)を代表するクロマトグラフィーの結果を示し、HbFとHbAの発現量を示す図である。
【
図28】遺伝子編集されていない細胞(Mock)と遺伝子編集された細胞(エンハンサー3、4、5、及び6 sgRNAで編集された)を代表するクロマトグラフィーの結果を示し、HbFとHbAの発現量を示す図である。
【
図29】
図27および
図28のクロマトグラフィー結果に基づいて算出したHbFとHbA発現量の比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本出願は、CD34陽性造血幹細胞のBCL11Aエンハンサー部位を遺伝子編集し、sgRNAや形質転換条件などのCRISPR/Casシステムの各条件を最適化することによって、BCL11Aエンハンサーが効率的に編集された造血幹細胞を取得することに係る。実験の結果、本発明で得られた造血幹細胞のインビトロでの赤血球系分化および動物モデルのインビボでの造血系の再構築の機能が正常であることは証明され、安全性を有し、臨床治療の標準を満たすことはオフターゲット分析により証明された。
【0020】
本発明は、貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または予防または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患(例えば、β−サラセミアと鎌状赤血球貧血)の治療または予防に使用される、臨床治療レベルを満たす遺伝子編集された造血幹細胞、赤血球前駆体、または成熟赤血球を提供する。
【0021】
本発明はさらに、配列番号3〜25から選択されるいずれか一つのヌクレオチド配列を含む、造血幹細胞の遺伝子編集に使用されるsgRNA(例えば、化学修飾されたsgRNA)を提供する。
【0022】
本発明はさらに、β−サラセミアと鎌状赤血球貧血患者のための造血幹細胞を編集する方法を提供する。
【0023】
本発明の目的の一つは、CRISPR/Cas遺伝子編集技術に基づいてCD34
+造血幹細胞を効率的に修飾することである。例えば、臍帯血または骨髄からCD34陽性の造血幹細胞を得て、Cas9と所定のsgRNAとを、最適化されたエレクトロポレーション条件によって造血幹細胞に導入し、造血幹細胞を遺伝子編集して、遺伝子編集された造血幹細胞を実験動物に移植して当該造血幹細胞が造血系を再構築する能力を評価してもよい。前記sgRNAは、「CRISPR RGEN TOOLS」ソフトウェアなど、複数の設計ソフトウェアを用いて、BCL11A(+58)部位などのBCL11Aのエンハンサーに対して設計することができる。一部の実施形態では、設計されたsgRNAは、例えば、前記sgRNAの5’および3’末端の3つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾、及びヌクレオチド間の3’チオ修飾など、化学修飾される。Cas9mRNAと、異なるsgRNAとの組み合わせをテストすることで高効率のsgRNAを得ることができる。一部の実施形態では、前記造血幹細胞は、臨床レベルの磁気カラム選別によって得られ、遺伝子編集に使用されるCas9タンパク質をコードするヌクレオチドおよび化学修飾されたsgRNAは、インビトロ転写実験を通じて得られる。遺伝子編集された造血幹細胞を赤血球系へ分化させ、赤血球生成の割合を検出する。例えば、遺伝子編集された造血幹細胞を、放射計で照射されたNPGマウスに移植して造血系を再構築する能力を評価してもよいし、患者のCD34陽性の造血幹細胞を分離して遺伝子編集効率、赤血球計分化能、γグロビンおよび胎児ヘモグロビンの発現を評価してもよい。
【0024】
まず、本発明は、CRISPR/Cas9編集技術により造血幹細胞BCL11Aのエンハンサー部位を遺伝子編集することを含む、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。編集プロセスは、造血幹細胞BCL11Aのエンハンサー部位の標的配列に対してsgRNAを設計する。BCL11Aのエンハンサーには、その転写開始点からの距離(kilо−base数)に応じて+62、+58、+55と命名された部位がある。BCL11A遺伝子の赤血球系エンハンサーは、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を負に調節することができ、転写開始点から55kb(kbは、1000の塩基を表す)、58kb、62kb離れた位置は重要な調節領域であることが報告されている。+55、+58、+62部位について研究した研究者もいるが、上記三つの部位の前後の遺伝子配列は何れも1000bp以上であり、合計で約6000bpであるため、具体的にはどの領域を編集すると理想の編集効果を実現できるか、当業者は分からず、+58という一つの部位にとっても、遺伝子編集効率にも大きな差がある(Bauer,D.E.et al. An erythroid enhancer of BCL11A subject to genetic variation determines fetal hemoglobin level. Science. 342,253−257(2013)、及びCanver MC, et al. BCL11Aのエンハンサーdissection by Cas9−mediated in situ saturating mutagenesis. Nature. 2015 Nov 12;527(7577):192−7参照)。そのため、編集効率にとって極めて重要な具体的な領域を見つけることは、当業者が最初に直面する問題である。
【0025】
本願の発明者は深く研究した結果、+58位置における150bpの塩基配列(例えば、配列番号2に示される)は遺伝子編集の効率に大きな影響を与え、本発明のsgRNAが標的とする領域は、効率よく且つ臨床応用を達成できる編集可能な領域である。この150bpのゲノム配列は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域に位置する(本明細書ではchr2:60495197−60495346と略記する)。
【0026】
本発明のsgRNAはいずれも、正常ドナーおよび貧血患者からの造血幹細胞の遺伝子編集を効率的に実現することができ、その中で、比較的に効率的な候補sgRNAは何れも、胎児ヘモグロビンの発現を有意に増加させることができる。ある文献報告によると、+55、+58、+62部位に対してsgRNAsライブラリーを設計し、CRISPR/Cas9を利用して細胞モデルによるスクリーニングをした結果、標的される+58の「GATAA」部位が重要な調節制御の配列であり、すなわち、「GATAA」配列を含むsgRNAによる胎児ヘモグロビンの発現の増加効果が最も顕著であることが分かった。しかしながら、本発明で見出されたsgRNAによってアンカーされた+58近傍の領域は、既存技術に開示された重要な「GATAA」塩基部位とは異なることに注意すべきである。本発明のsgRNAにより導入される遺伝子編集は、胎児ヘモグロビンの発現を大幅に増加させ、臨床的治療に十分適用できる。
【0027】
効率的な遺伝子編集領域を知った後、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術、およびCRISPR/Cas(例えば、CRISPR/Cas9)遺伝子編集技術、および将来発見される他の遺伝子編集方法など、任意の遺伝子編集方法を用いて前記知った効率的な遺伝子編集領域を編集し、遺伝子編集条件を最適化し、効率的な編集の目的を実現することができると、当業者は理解できる。よって、本発明は、任意の利用可能な遺伝子編集方法によって本発明で同定された配列3〜25から選択されるBCL11A遺伝子の標的配列の技術構成をカバーする。一部の好ましい実施形態では、本発明は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術によって効率的な遺伝子編集を実現する技術構成に係る。
【0028】
本出願で使用されたように、「CRISPR/Cas」は遺伝子編集技術であり、例えば、CRISPR/Cas9システムのような、自然に存在するまたは人工的に設計された様々なCRISPR/Casシステムを含むが、これらに限られていない。自然に存在するCRISPR/Casシステム(Naturally occurring CRISPR/Cas system)は、細菌と古細菌が長期的な進化中に形成した適応性免疫防御であり、侵入するウイルスおよび外因性DNAと対抗することができる。例えば、CRISPR/Cas9の作動原理は、crRNA(CRISPR−derived RNA)が塩基対を通してtracrRNA(trans−activating RNA)と結合してtracrRNA/crRNA複合体を形成し、この複合体は、ヌクレアーゼCas9タンパク質をガイドしてcrRNAとペアになっている配列標的部位で二本鎖DNAを切断する。tracrRNAとcrRNAを人工的に設計することにより、ガイド作用を有するsgRNA(single guide RNA)を改変形成し、Cas9がDNAを部位特異的に切断することをガイドするようにすることができる。RNA指向性dsDNA結合タンパク質として、Cas9エフェクターヌクレアーゼは、RNA、DNA、およびタンパク質に共局在化することができるため、巨大な改変可能性を有する。CRISPR/Casシステムには、クラス1、クラス2、またはクラス3のCasタンパク質が使用可能である。本発明の一部の実施形態では、前記方法にはCas9が使用される。その他の適用されるCRISPR/Casシステムは、WO2013176772、WO2014065596、WO2014018423、US8,697,359に記載されているシステムと方法を含むが、これらに限られていない。
【0029】
本発明のもう一態様は、効率的な遺伝子編集を実現できる本発明の一連のsgRNA分子に係る。
【0030】
本発明において、「sgRNA(single guide RNA」と「gRNA(guide RNA)」、または、「シングルガイドRNA」、「合成されたガイドRNA」または「ガイドRNA」は、置き換えて使用できる。本発明のsgRNAは、目標配列を標的とするガイド配列を含む。好ましい実施形態では、本発明のsgRNAはさらにtracr配列とtracrシャペロン配列とを含む。
【0031】
本発明の「ガイド配列」(guide sequence)は、標的部位を特定する約17〜20bpの配列であってもよく、しかも「指導配列」または「スペーサー」と置き換えて使用することができる。CRISPR複合体を形成する背景において、「標的配列」は例えば、ガイド配列がそれに相補的になるように設計された配列であり、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。前記ハイブリダイゼーションは、「標的配列」と「ガイド配列」または「指導配列」とが、ハイブリダイゼーションを引き起こしてCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性を持っていればよいが、完全な相補は必要ではない。
【0032】
「相補」とは、「ガイド配列」または「指導配列」と標的ヌクレオチド配列(本発明では、造血幹細胞におけるBCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列)とが、ワトソンアンドクリークにより発見されたヌクレオチドペアリング原則によってハイブリダイズすることができることを指す。当業者が理解できるように、十分な相補性がある限り、「ガイド配列」は標的ヌクレオチド配列とハイブリダイズすることができ、それらの間に100%の完全な相補の必要はない。一部の実施形態では、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適なアラインメントを行う場合、ガイド配列およびそれに対応する標的配列間の相補程度は約75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上またはそれ以上であってもよい。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定でき、Smith−Watermanアルゴリズム、Needleman−Wimschアルゴリズム、Burrows−Wheeler Transformに基づいたアルゴリズムなどを含む。
【0033】
通常は、内因性CRISPRシステムの背景において、CRISPR複合体の形成(ガイド配列と標的配列がハイブリダイズして1つ以上のCasタンパク質と複合することを含む)により、標的配列中または標的配列の近く(例えば、標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50またはそれ以上の塩基対の範囲内)の1つの鎖または2つの鎖の切断が引き起こされる。理論に拘束されるつもりはなく、tracr配列は、野生型tracr配列の全部または一部を含むことができ、例えば、野生型tracr配列の約20以上、23以上、26以上、29以上、32以上、35以上、38以上、41以上、44以上、47以上、50以上、53以上、56以上、59以上、62以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、またはそれ以上のヌクレオチドまたは上記からなるtracr配列はさらにCRISPR複合体の一部を形成することができ、例えば、tracr配列の少なくとも一部に沿って、ガイド配列に操作可能に連結されたtracrシャペロン配列の全部または一部とハイブリダイズする。
【0034】
一部の実施形態では、tracr配列とtracrシャペロン配列は、ハイブリダイズしてCRISPR複合体の形成に寄与するのに十分な相補性を有する。「標的配列」と「ガイド配列」または「指導配列」とのハイブリダイゼーションと同様に、その機能を発揮するのに十分である限り、完全な相補は必要ではない。一部の実施形態では、最適なアラインメントの場合、tracr配列はtracrシャペロン配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の相補性を有する。
【0035】
本願でいう造血幹細胞における2番染色体上の、60495219番目から60495336番目までのBCL11Aゲノム領域は、GRCh38標準によるヒト遺伝子配列における位置によって定義される。この位置付けが標準の異なるヒトゲノム配列を参照すると、それらの位置が異なる場合があることを、当業者は理解するはずである。しかしながら、当業者は、標準の異なるヒト遺伝子配列を参照する時の当該領域の対応する位置を分かることができる。一部の実施形態では、造血幹細胞における2番染色体上の、60495219番目から60495336番目までのBCL11Aゲノム領域を破壊することは、この領域に、ヌクレオチド配列の「付加および/または削除(indel)」を導入することを含み、例えば、任意のタイプ(例えば、A、T、C、Gから選択される)および/または数量(例えば、1〜20、1〜15、1〜10、1〜9、1〜8、1〜7、1〜6、1〜5、1〜4、1〜3、1〜2個)のヌクレオチドのindelを導入することを含む。一部の実施形態では、前記破壊は、元のヌクレオチド配列を新しいヌクレオチド配列で置き換えることを含む。一部の実施形態では、前記破壊は、前記領域にヌクレオチド配列をノックイン(knоck−in)またはノックアウト(knock−out)することを含む。
【0036】
本願において、造血幹細胞のBCL11A部位の標的配列は配列番号2に示される。本願は配列番号2に示される150bp塩基領域に対してsgRNAを設計し、sgRNA配列は、配列番号2の配列の少なくとも17、好ましくは18、好ましくは19、または好ましくは20の連続したヌクレオチドの配列に相補的である必要がある。
【0037】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495203番目から60495222番目まで、特に60495219番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号9を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号9の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495203番目から60495222番目まで、特に60495219番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0038】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495208番目から60495227番目まで、特に60495224番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号10を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号10の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495208番目から60495227番目まで、特に60495224番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0039】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495217番目から60495236番目まで、特に60495233番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号11を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号11の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495217番目から60495236番目まで、特に60495233番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0040】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495218番目から60495237番目まで、特に60495234番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号12を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号12の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495218番目から60495237番目まで、特に60495234番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0041】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495238番目まで、特に60495235番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号13を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号13の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495238番目まで、特に60495235番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0042】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495221番目から60495240番目まで、特に60495223番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号16を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号16の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495221番目から60495240番目まで、特に60495223番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0043】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495222番目から60495241番目まで、特に60495238番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号14を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号14の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495222番目から60495241番目まで、特に60495238番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0044】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495223番目から60495242番目まで、特に60495239番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号15を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号15の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495223番目から60495242番目まで、特に60495239番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0045】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495228番目から60495247番目まで、特に60495244番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号17を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号17の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495228番目から60495247番目まで、特に60495244番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0046】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495229番目から60495248番目まで、特に60495245番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号18を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号18の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495229番目から60495248番目まで、特に60495245番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0047】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495230番目から60495249番目まで、特に60495246番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号19を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号19の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495230番目から60495249番目まで、特に60495246番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0048】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495231番目から60495250番目まで、特に60495247番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号20を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号20の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495231番目から60495250番目まで、特に60495247番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0049】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495234番目から60495253番目まで、特に60495250番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号21を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号21の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495234番目から60495253番目まで、特に60495250番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0050】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495235番目から60495254番目まで、特に60495251番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号22を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号22の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495235番目から60495254番目まで、特に60495251番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0051】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495236番目から60495255番目まで、特に60495238番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号4を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495236番目から60495255番目まで、特に60495238番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0052】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495247番目から60495266番目まで、特に60495263番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号3を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号3の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495247番目から60495266番目まで、特に60495263番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0053】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495252番目から60495271番目まで、特に60495268番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号8を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号8の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495252番目から60495271番目まで、特に60495268番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0054】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495253番目から60495272番目まで、特に60495269番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号7を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号7の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495253番目から60495272番目まで、特に60495269番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0055】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495257番目から60495276番目まで、特に60495273番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号6を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号6の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495257番目から60495276番目まで、特に60495273番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0056】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495264番目から60495283番目まで、特に60495280番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号5を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号5の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495264番目から60495283番目まで、特に60495280番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0057】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495299番目から60495318番目まで、特に60495301番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号24を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号24の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495299番目から60495318番目まで、特に60495301番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0058】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495319番目から60495338番目まで、特に60495335番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号25を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号25の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495319番目から60495338番目まで、特に60495335番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0059】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495320番目から60495339番目まで、特に60495336番目のBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法を提供する。この遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術であり、好ましくは、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列と、配列番号23を含むsgRNAのガイド配列とが相補的である。本発明の方法は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号23の配列を含むsgRNAを造血幹細胞に導入することに係り、好ましくは、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)とを一緒に前記造血幹細胞に導入し、好ましくは、200〜600V、0.5〜2msのエレクトロポレーション条件で前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものであり、例えば、化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である。一部の実施形態では、本発明はさらに、造血幹細胞の2番染色体の60495320番目から60495339番目まで、特に60495336番目のBCL11Aゲノム領域標的配列の一つ以上の部位が遺伝子編集技術によって破壊された造血幹細胞に係る。さらに、該造血幹細胞をインビトロで分化培養して得られた赤血球、及びこの赤血球を含む医療製品に係る。
【0060】
さらに、発明者が本発明において設計した23のsgRNAのいずれもIndelsを効果的に生成することができ、すなわち、効率的に遺伝子編集することができる。本発明の好ましいsgRNAは、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つであり、前記sgRNAが対応する標的配列の切断部位の配列は、chr2:60495219〜chr2:60495336の間(すなわち、2番染色体上の60495219番目と60495336番目との間)に位置する。
【0061】
具体的には、次の表は、本発明に係る23のsgRNAに標的されるヒト2番染色体上のゲノム配列の位置、及び各sgRNAによって引き起こされるCas9切断部位を示している。
【0063】
上記23のsgRNAの切断部位を分析すると、これらのsgRNAによって引き起こされたCas9切断部位は、BCL11A遺伝子の60495219番目から60495336番目のゲノム領域に集中していることが明らかになった。
【0064】
本発明の一つの具体的な実施形態は、本発明に係る上記23のsgRNAまたはそのベクターを含むsgRNAの組成物をさらに含む。
【0065】
一般に、sgRNAの中のガイド配列は、標的ポリヌクレオチド配列と十分な相補性を有し、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体と標的配列との配列特異的結合をガイドする任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態では、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適なアラインメントを行う場合、ガイド配列およびそれに対応する標的配列間の相補程度は約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、99%以上またはそれ以上である。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定でき、その非限定的な例には、Smith−Watermanアルゴリズム、Needleman−Wimschアルゴリズム、Burrows−Wheeler Transformに基づいたアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustai X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies,ELAND(Illumina,San Diego,CA))、SOAP(sоap.genоmics.оrg.cnで入手可能)およびMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上、25以上、26以上、27以上、28以上、29以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、またはそれ以上のヌクレオチドであってもよい。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約75未満、70未満、65未満、60未満、55未満、50未満、45未満、40未満、35未満、30未満、25未満、20未満、15未満、12未満、またはそれより少ないヌクレオチドであってもよい。CRISPR複合体と標的配列の配列特異的結合をガイドするガイド配列の能力は、任意の適切な測定方法により評価することができる。例えば、対応する標的配列を有する宿主細胞に、CRISPR複合体を形成するには十分なCRISPRシステムのコンポーネント(テストされるガイド配列を含む)を提供してもよく、例えば、CRISPR配列コンポーネントをコードするベクターを使用してトランスフェクションし、そして標的配列内の優先的な切断(例えば、本明細書に記載のSurveyorにより測定する)を評価することで行うことができる。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の切断は、試験管内で、標的配列、CRISPR複合体(テストされるガイド配列と、ガイド配列と異なる対照ガイド配列とを含む)のコンポーネントを提供し、標的配列へのテストと対照ガイド配列の結合または切断率を比較して評価することができる。また、当業者に既知の他の測定方法を使用して上記測定と評価を行うことができる。
【0066】
本発明では、遺伝子編集過程において使用されるsgRNAは、好ましくは化学修飾されたものである。「化学修飾されたsgRNA」とは、sgRNAについて行った特定の化学修飾であり、例えば、その5’末端および3’末端の3つの塩基に対する2’−O−メチル類縁体による修飾および/またはヌクレオチド間の3’チオによる修飾である。
【0067】
本発明者らが使用した化学修飾されたsgRNAは、以下の2つの利点を有すると考えられる。第一に、sgRNAは一本鎖RNAであり、半減期が非常に短いため、細胞に入ると急速に分解する(最長12時間)が、Cas9タンパク質とsgRNAとが結合して遺伝子編集の役割を発揮するには少なくとも48時間がかかる。そのため、化学修飾されたsgRNAは細胞に入った後、安定して発現し、Cas9タンパク質に結合した後、効率的にゲノムを遺伝子編集してIndelsを生成することができる。第二に、未修飾のsgRNAは細胞膜を透過する能力が低く、細胞または組織に効果的に入って対応する機能を発揮することができない。化学修飾されたsgRNAは細胞膜を透過する能力が一般的に強化されている。本発明において、本分野で常用の化学修飾方法を使用することができ、sgRNAの安定性(半減期を延長する)と細胞膜への侵入能力を向上させることができる限り、いずれも使用できる。実施例に使用されている具体的な化学修飾の他に、例えば、Deleavey GF1,Damha MJ. Designing chemically modified oligonucleotides for targeted gene silencing. Chem Biol.2012 Aug 24;19(8):937−54、およびHendel et al. Chemically modified guide RNAs enhance CRISPR−Cas genome editing in human primary cells. Nat Biotechnol. 2015 Sep;33(9):985−989の文献に報告された化学修飾方法など、その他の修飾方法を含む。
【0068】
一部の実施形態では、前記sgRNA、及び/またはCas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)をエレクトロポレーションによって造血幹細胞に導入する。例えば、250〜360V、0.5〜1ms;250〜300V、0.5〜1ms;250V、1ms;250V、2ms;300V、0.5ms;300V、1ms;360V、0.5ms;または360V、1msのエレクトロポレーション条件で造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAをエレクトロポレーションによってCasを発現する造血幹細胞に導入する。
【0069】
一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドはmRNAであり、例えば、ARCAキャップを含むmRNAである。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターにある。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドは、例えば、配列番号26の配列を含む。一部の実施形態では、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとは同一のベクターにある。
【0070】
本発明は、本発明に係る遺伝子改変方法によって得られた造血幹細胞、前記遺伝子改変された造血幹細胞を分化培養することにより得られた、成熟赤血球の前の分化の異なる段階にある前駆細胞、及び前記遺伝子改変された造血幹細胞を分化培養することにより得られた成熟赤血球に係る。
【0071】
本発明は、本発明に係る遺伝子改変方法によって得られた造血幹細胞、または前記遺伝子改変された造血幹細胞を分化培養することにより得られた、成熟赤血球の前の分化の異なる段階にある前駆細胞、または前記遺伝子改変された造血幹細胞を分化培養することにより得られた成熟赤血球を含む、本発明の方法により得られた医薬組成物に係る。
【0072】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内注入経路など、細胞成分を含む医薬品の投与に通常用いられる経路を介して、それを必要とする被験者に投与することができる。投与量は、被験者の病状および一般的な健康状況に基づいて具体的に決めることができる。
【0073】
一部の態様では、本発明は、本発明に記載のsgRNAおよび/またはCas9をコードするヌクレオチドを造血幹細胞に送達する方法を提供する。一部の実施形態では、前記送達として、通常のウイルスおよびウイルスに基づかない遺伝子移転方法によって前記構築体を造血幹細胞またはその他の宿主細胞に導入することができる。非ウイルス送達系は、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載されているベクター転写物)、裸の核酸、及びリポソームを含む。ウイルスベクター送達系は、DNAとRNAウイルスを含み、細胞への送達のための遊離または組み込まれたゲノムを有する。一部の実施形態では、発明者は、エレクトロポレーションを利用してCas9とsgRNAのコード遺伝子を造血幹細胞に導入して造血幹細胞BCL11A遺伝子の具体的な配列を遺伝子編集する。実験を繰り返した後、発明者は、200〜600v、0.5ms〜2msのエレクトロポレーション条件下でCas9をコードするヌクレオチドおよびsgRNAを一緒に造血幹細胞に導入する場合の遺伝子編集効率は、他のエレクトロポレーション条件下での遺伝子編集効率より有意に高いことを発見した。
【0074】
一部の実施形態では、化学修飾されたsgRNAおよびCas9をコードする遺伝子を共にエレクトロポレーションによってCD34+造血幹細胞に導入し、効率的な遺伝子編集効率(Indels%で表される)を生成する。実施例のデータによって、Cas9 mRNAと一緒にエレクトロポレーションを行ったのは化学修飾されていないsgRNAである場合、そのIndels効率は2.7%しかなく、化学修飾されたsgRNAのエレクトロポレーションを行った時に得られたIndels効率(効率は少なくとも10%以上)よりはるかに低いことは示されている。
【0075】
本出願で使用されるように、「Indel」は、挿入/欠失、すなわち、挿入と欠失変異と呼ばれる。
【0076】
本明細書で使用されるように、「造血幹細胞(hematopoietic stem and progenitor cells,HSPCs)」は、さまざまな血球を発生させる最も原始的な造血細胞であり、その主な特徴は、強力な増殖能、多方向分化能、及び自己再生能を有することである。そのため、さまざまな血球を分化・補充するだけではなく、幹細胞の特性と数量を自己再生により維持することもできる。造血幹細胞は分化および増殖能力が異なり、不均一性がある。多能性造血幹細胞は最も原始的であり、最初に定方向多能性造血幹細胞、例えば、顆粒球系、赤血球系、単核系、及び巨核球‐血小板系を生成できる骨髄系造血幹細胞、及びBリンパ球とTリンパ球を生成できるリンパ系幹細胞など、に分化する。この二種の幹細胞は、造血幹細胞の基本的な特徴を持っていながらわずかに分化し、それぞれ「骨髄成分」とリンパ球の発生に関与するので、定方向多能性造血幹細胞と呼ばれる。これらはさらに造血前駆細胞に分化する。この細胞は原始的な血球でもあるが、造血幹細胞の多くの基本的な特徴を失っている。例えば、多方向分化能力を失って、1系統または密接に関連する2系統の細胞にしか分化できなくなったり、繰り返し再生する能力を失い、数量を補うために造血幹細胞の増殖分化に依存するしかなくなったり、増殖の可能性が限られており、数回しか分裂することができなくなったりする。造血前駆細胞が分化して生成できる血液細胞株の数に応じて、また単能性造血前駆細胞(1つの血液細胞株のみに分化する)とオリゴ能性造血前駆細胞(2〜3つの血液細胞株に分化できる)に分けられる。本発明の「造血幹細胞」という用語は、多能性造血幹細胞、定方向多能性造血幹細胞、及び造血前駆細胞を含み、不均一性の異なる造血幹細胞の総称である。
【0077】
本発明の具体的な実施形態では、本発明で使用される遺伝子編集される造血幹細胞(HSPCs)は、骨髄、臍帯血、または末梢血単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell,PBMC)に由来し得る。
【0078】
本願で使用されるように、「CRISPR RGEN」は、韓国の科学者Jin−Soo Kimの研究チームによって開発されたsgRNAの設計のための専用のウェブサイト名であり、そのウェブサイトアドレスはwww.rgenome.net/about/である。
【0079】
本明細書で使用されるように、「TIDE」とは、Indelsの効率を分析するための専用のツールウェブサイト名であり、そのウェブサイトアドレスはtide−calculator.nki.nlである。
【0080】
本明細書で使用されるように、「CD34、CD45RA、CD3、CD4、CD8、CD33、CD19、CD56、CD71、CD235a」は血液系細胞の膜タンパク質マーカーである。
【0081】
本明細書で使用されるように、「BCL11A」は転写因子であり、レトロウイルスの結合部位としてマウスで最初に発見され、Evi9と名付けられた。その後、この遺伝子はヒトゲノムでも発見され、2番染色体の短腕2p13部位に位置付けられ、主にBリンパ球の胚中心に発現する。
【0082】
本明細書で使用されるように、「HBB/HBG」はヘモグロビンの異なるサブタイプである。ヘモグロビンは、高等生物の体内で酸素運搬に関与するタンパク質である。ヘモグロビンは4つの鎖、すなわち、2つのα鎖と2つのβ鎖とからなり、各鎖には1つの鉄原子を含む環状ヘムがある。酸素は鉄原子に結合し、生体での使用のために赤血球によって輸送される。
【0083】
さらに、本発明は、上記の本発明の方法を使用して、CRISPR/Cas9編集技術によって造血幹細胞BCL11Aの具体的な配列を遺伝子編集した後に得られる造血幹細胞に係る。また、この造血幹細胞を含む製品も本発明の範囲内である。
【0084】
本発明に係る造血幹細胞または製品は、貧血疾患、出血性疾患、腫瘍、または治療のために大量の輸血を必要とする他の疾患から選択される疾患の治療に使用できる。特に、β−サラセミアまたは鎌状赤血球貧血の治療に使用できる。
【0085】
また、本発明は、本発明により得られた遺伝子編集された造血幹細胞を下記のようにインビトロで分化培養することによって得られた赤血球に係る。
【0086】
また、本発明は、本発明により得られた遺伝子編集された造血幹細胞を下記の造血幹細胞の赤血球系の増殖および分化工程により処理することによって得られた、造血幹細胞から成熟赤血球への各分化段階の前駆細胞に係る。
【0087】
上記のインビトロで分化培養することは、造血幹細胞の赤血球系の増殖および分化の工程、及び造血幹細胞の赤血球系の分化脱核の工程を含む。
【0088】
前記赤血球系の増殖および分化の工程では、造血幹細胞の赤血球系増殖および分化培地を使用して造血幹細胞を培養する。
【0089】
前記赤血球系の分化脱核工程では、赤血球系分化脱核培地を使用する。
【0090】
一部の実施形態では、前記造血幹細胞の赤血球系増殖および分化培地は、基礎培地と、成長因子組成物とを含み、前記成長因子組成物は、幹細胞成長因子、すなわちSCF、インターロイキン3、すなわち、IL−3、およびエリスロポエチン、すなわちEPOを含む。
【0091】
一部の実施形態では、前記赤血球系分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、およびプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤を含む。
【0092】
上記の方法を使用して、遺伝子編集された造血幹細胞を培養すると、当該造血幹細胞を2つのステップで成熟赤血球に分化させることができる。既存技術と比較して、本発明のインビトロでの分化培養を使用する場合、所要時間がわずか14日であり、時間的に短くなり、21日以上が必要である既存技術と比べて、サイクルは大幅に短縮されている。
【0093】
一部の実施形態では、前記成長因子はエリスロポエチン、すなわちEPOを含み、前記プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤は、下記化合物(I)〜(IV)から選択されるいずれか1つまたは2つ以上である。
【0095】
一部の実施形態では、前記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地は、STEMSPAN
TM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、X−VIVO 15、alpha−MEM、RPMI 1640、DF12などの基礎培地を含む。前記成長因子について、例えば、基礎培地としてSTEMSPAN
TM SFEM IIが選択された場合、追加する必要がある成長因子は、50〜200ng/ml SCF、10〜100ng/ml IL−3、1〜10U/ml EPOを含み、なお、Uの単位の定義として、特定の条件下で、1分で1μmоlの基質を変換できるタンパク質の量、すなわち、1 IU=1μmоl/分である。現在、国内外のほとんどの臨床実験室は、「I」(国際)という文字を省略し、すなわち、IUをUに省略している。EPO、すなわちエリスロポエチンは、主に低酸素症または貧血に対応して腎臓から分泌される糖タンパク質であり、本実施形態では、造血幹細胞の分化を促進することができる。通常は作用を発揮する時間は7日くらいである。
【0096】
基礎培地としてSTEMSPAN
TM SFEM II以外の基礎培地が選択された場合、100X ITS(insuin−transferrin−selenium)(培地中のITSの各物質の最終濃度として、インスリンの濃度は0.1mg/ml、ヒトトランスフェリンは0.0055mg/ml、セレン元素は6.7*10
−6mg/mlである)(すなわち、主にインスリン、ヒトトランスフェリンおよびセレン元素を含む)、10〜50μg/mlビタミンC、0.5〜5%BSA(Bovine serum albuin、ウシ血清アルブイン)、成長因子、例えば、50〜200ng/ml SCF、10〜100ng/ml IL−3、1〜10U/ml EPOを添加する必要がある。
【0097】
また、当業者が理解できるように、一般的に使用される任意の基礎培地はいずれも使用できる。例えば、STEMSPAN
TM SFEM II((STEM CELLS TECHNOLOGIESから購入)や、Thermo Fisherから購入したIMDM、DF12、Knockout DMEM、RPMI 1640、Alpha MEM、DMEMなど、本分野で一般的に使用される基礎培地が挙げられる。
【0098】
また、上記の培地には、必要に応じて、ITS(主にインスリン、ヒトトランスフェリン、及びセレン元素を含む)、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンなど他の成分をさらに添加することができる。例えば、IMDM培地に、ITS、2mM L−グルタミン、10〜50μg/mlのビタミンC、及び0.5〜5質量%のBSA(ウシ血清アルブミン)を添加することができる。また、上記DF12には、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。Knockout DMEMには、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、RPMI 1640には、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、Alpha MEMには、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、DMEMにも同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。ここで、各基礎培地に添加されるITSの濃度として、インスリン濃度が0.1mg/ml、ヒトトランスフェリンが0.0055mg/ml、セレン元素が6.7×10
−6mg/mlであってもよい。また、添加されるITSの各成分の濃度も、実際のニーズに合わせて調整できる。ITSはThermofisherから購入でき、必要に応じて適切な最終使用濃度に調整できる。
【0099】
一つの実施形態では、前記赤血球系分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、およびプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬を含む。
【0100】
一つの実施形態では、前記造血幹細胞赤血球系分化脱核培地は、STEMSPAN
TM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、X−VIVO 15、alpha−MEM、RPMI 1640、DF12などの基礎培地を含む。さらに成長因子を含み、例えば、基礎培地としてSTEMSPAN
TM SFEM IIが選択された場合、追加する必要がある成長因子は、1〜10U/ml EPO、100〜1000μg/ml human transferrin(ヒトトランスフェリン)、0.5〜10μmоl/.mlのミフェプリストン(Mifepristone)などの化学的小分子を含む。
【0101】
基礎培地としてSTEMSPAN
TM SFEM II以外の基礎培地が選択された場合、例えばITS(insuin−transferrin−selenium)(培地中のITSの各物質の最終濃度として、インスリンの濃度は0.1mg/ml、ヒトトランスフェリンは0.0055mg/ml、セレン元素は6.7×10
−6mg/mlである)(すなわち、主にインスリン、ヒトトランスフェリンおよびセレン元素を含む)、10〜50μg/mlビタミンC、0.5〜5%BSA(Bovine serum albuin、ウシ血清アルブイン)、成長因子、例えば、1〜10U/ml EPO、100〜1000μg/mlヒトトランスフェリン、0.5〜10μmоl/.mlのミフェプリストン(Mifepristone)などの化学的小分子を添加する必要がある。
【0102】
また、当業者が理解できるように、一般的に使用される任意の基礎培地はいずれも使用できる。例えば、STEMSPAN
TM SFEM II((STEM CELLS TECHNOLOGIESから購入)や、Thermo Fisherから購入したIMDM、DF12、Knockout DMEM、RPMI 1640、Alpha MEM、DMEMなど、本分野で一般的に使用される基礎培地が挙げられる。
【0103】
また、上記の培地には、必要に応じて、例えばITS(主にインスリン、ヒトトランスフェリン、及びセレン元素を含む)、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンなど他の成分をさらに添加することができる。例えば、IMDM培地に、ITS、2mM L−グルタミン、10〜50μg/mlのビタミンC、及び0.5〜5質量%のBSA(ウシ血清アルブミン)を添加することができる。また、上記DF12には、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。Knockout DMEMには、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、RPMI 1640には、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、Alpha MEMには、同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、DMEMにも同じ濃度のITS、L−グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。ここで、各基礎培地に添加されるITSの濃度として、インスリン濃度が0.1mg/ml、ヒトトランスフェリンが0.0055mg/ml、セレン元素が6.7×10
−6mg/mlであってもよい。また、添加されるITSの各成分の濃度も、実際のニーズに合わせて調整できる。ITSはThermofisherから購入でき、必要に応じて適切な最終使用濃度に調整できる。
【0104】
本明細書で使用されているミフェプリストン(Mifepristone)は、化学的に合成された小分子であり、この小分子は、プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬であり、構造式は次の通りである。
【0106】
Cyproterone Acetate、Geldanamycin、CORT108297などを含む、その他のプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および阻害剤も本発明で使用することができる。化学構造式は次の通りである。
【0108】
一部の実施形態では、本発明の成熟赤血球は、以下のステップa)〜c)を含む方法によって生成することができる:a)本発明に記載のいずれかの方法を使用して、ヒト臍帯血からCD34陽性HSPCsを分離して遺伝子改変すること;b)遺伝子改変されたHSPCsを、5〜10日、例えば、5日、6日、7日、8日、9日、10日、増殖および分化させて、例えば、赤芽球(erythroblast)、有核赤血球、未成熟赤血球および網赤血球などのような赤血球前駆細胞を得ること、c)赤血球前駆細胞をさらに7日間分化処理して成熟赤血球を得ること。
【0109】
一部の実施形態では、本発明の成熟赤血球は、以下のステップa)〜d)を含む方法によって生成することができる:
a)磁気ビーズ選別により、ヒト臍帯血からCD34陽性HSPCsを分離すること;
b)本発明に記載のいずれかの方法を使用して前記CD34陽性HSPCsを遺伝子改変すること;
c)追加の成長因子を無血清培地(Serum−free medium(SFME))に添加し、5〜10日、例えば、5日、6日、7日、8日、9日、10日、増殖および分化した後、HSPCsを赤血球前駆細胞に分化させること(この段階の培地を、造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地(HSPCs erythroid expansion and differentiatiоn medium;HEEDMと略記する)となづける);
d)追加の成長因子を無血清培地(Serum−free medium(SFME))に添加し、7日間分化した後、成熟した赤血球を得ること(この段階の培地を、造血幹細胞赤血球系分化脱核培地(HSPCs erythroid differentiatiоn enucleatiоn medium;HEDEMと略記する)となづける)。
【0110】
すなわち、編集されたCD34陽性造血幹細胞について、本発明の上記方法を用いて2つのステップで成熟赤血球を得ることができ、全工程時間は10〜18日、11〜17日、12〜16日、13〜15日、10〜17日、10〜16日、10〜15日、または10〜14日であってもよく、この時間は、3つのステップまたは4つのステップの方法を使用する既存技術の少なくとも21日のサイクルを大幅に短縮した。
【0111】
上述のように、本発明は、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加した成熟赤血球またはその前駆細胞を製造する方法に係り、この方法は、(a)本発明に係る遺伝子改変方法を使用して造血幹細胞を得ることと、(b)上記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を使用して、遺伝子改変された造血幹細胞に対して造血幹細胞赤血球系増殖および分化を行うこととを含む。
【0112】
さらに、本発明は、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加した成熟赤血球またはその前駆細胞を製造する方法に係り、この方法は、(a)本発明に係る遺伝子改変方法を使用して造血幹細胞を得ることと、(b)上記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を使用して、遺伝子改変された造血幹細胞に対して造血幹細胞赤血球系増殖および分化を行うことと、(c)赤血球系分化脱核培地を使用して造血幹細胞赤血球系の分化および脱核を行うこととを含む。本発明はまた、造血幹細胞または成熟赤血球の前駆細胞の増殖および/分化における、上記方法で使用される造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地および/または赤血球系分化脱核培地の使用に係る。
【0113】
本願で使用されているように、「分化」とは、細胞の構造または機能がその分裂、増殖および成長の過程で特殊化される現象を指し、すなわち、生体の細胞または組織の特徴及び機能が変化して細胞または組織に与えられた機能を実行する現象を指す。一般に、その中の比較的に単純な系が性質の異なる2つ以上の部分系に分かれる現象を指す。
【0114】
本願で使用されているように、「Ficoll液体密度勾配遠心分離法」の基本的な原理として、血液中の異なる成分の比重に差があり、低速密度勾配遠心分離の場合、異なる細胞成分を分離することができる。赤血球と顆粒球の密度は成層液体の密度より高く、ficоll液体に会ったら、赤血球はすぐにひも状に凝縮してチューブの底に蓄積する。成層液体の密度に相当する単核細胞のみが血漿層と成層液体、すなわち、造血幹細胞が存在する白い膜層との間に濃縮され、後続の磁気ビーズ選別によって取得することができる。本発明において、単核細胞は、市販のリンパ球分離チューブを用いて得られる。
【0115】
本願で使用されているように、「成熟赤血球」とは、血液中の含有量が最も多い一種の細胞を指し、酸素、アミノ酸、二酸化炭素などの栄養素を運ぶ機能を持っている。成熟した赤血球にはミトコンドリアと細胞核はない。
【0116】
本願で使用されているように、「インターロイキン3、IL−3」とは、活性化されたCD4とCD8陽性Tリンパ球によって生成するサイトカインを指し、その主な生物学的機能は、骨髄における造血幹細胞の増殖と分化の調節に寄与することである。
【0117】
本願で使用されているように、「エリスロポエチン、Erythroid、EPO)」とは、erythroblasts、すなわち、赤血球前駆細胞によって分泌される成長因子を指す。成体では、腎皮質と腎尿細管の周りの間質細胞及び肝臓によって分泌される糖タンパク質がある。EPOは、造血幹細胞を刺激して赤血球に分化させることができる。
【0118】
一部の実施形態では、幹細胞因子、stem cell factоr(SCF)は、マスト細胞成長因子(MGF)、キットリガンド(KL)、及びスチール因子(SLF)を含む。
【0119】
本願で使用されているように、「造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地」とは、HSPCs細胞が大量に増殖し、赤血球系前駆細胞に分化するのを助ける培養システムを指す。本発明において、この培地は、基礎培地と成長因子添加剤との2つの主要成分を含む。基礎培地は無血清システムであり、STEMSPAN
TM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)であってもよく、または、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)に、さらにITS(Thermofisher)と、L−gulutamin(Thermofisher)と、ビタミンCと、ウシ血清アルブミンとを追加してもよい。成長因子添加剤は、IL−3、SCF、EPOの異なる濃度の組み合わせである。
【0120】
本願で使用されているように、「造血幹細胞赤血球系分化脱核培地」とは、赤血球系前駆細胞がさらに脱核した赤血球に増殖分化することを助ける培地を指す。本発明において、この培地は、基礎培地と、成長因子および化学的小分子添加剤との2つの主要成分を含む。基礎培地は無血清システムであり、STEMSPAN
TM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)であってもよく、または、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)に、さらにITS(Thermofisher)と、L−gulutamin(Thermofisher)と、ビタミンCと、ウシ血清アルブミンとを追加してもよい。成長因子および化学的小分子添加剤は、EPOとヒトトランスフェリン、及び化学的小分子ミフェプリストンを含む。
【0121】
一部の実施形態では、造血幹細胞は磁気ビーズによって選別され、例えば、超常磁性MACS MicroBeads(MACSマイクロ磁気ビーズ)を用いて細胞を特異的に標識し、磁気標識後、これらの細胞を強力で安定した磁場に配置された選別カラムに通す。選別カラムのマトリックスは、高勾配磁場を築く。
【0122】
磁気標識された細胞はカラムに残り、標識されていない細胞は流出する。選別カラムを磁場から外すと、カラム内に残った磁気標識された細胞は溶出でき、これによって、標識された細胞画分と標識されていない細胞画分の両方を取得することができる。
【0123】
本発明の一部の具体的な実施形態では、本発明に記載のsgRNAを使用し、本発明に記載の遺伝子改変方法により、3つの異なる臍帯血に由来する造血幹細胞を改変し、効率的な遺伝子編集を実現することができ、効率は少なくとも40%以上、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上に達する。例えば、好ましいsgRNAに対しても、平均的な遺伝子編集効率は80%に達する。
【0124】
本発明の一部の具体的な実施形態では、本発明の遺伝子編集方法によって得られた造血幹細胞をマウスに移植し、遺伝子編集されていない造血幹細胞を移植したマウスと比べて、遺伝子編集された造血幹細胞を移植した後、マウスのヒトhCD45発現率は増加し続け、末梢血サンプルでは、6週目の20%から16週目の60%に増加し、16週目の骨髄での割合は90%にも達しており、脾臓では70%に達している。これは、遺伝子編集された造血幹細胞は、マウスモデルの造血系に迅速かつ効率的に移植でき、細胞の体内分化機能は正常であることを示している。
【0125】
本発明の一部の具体的な実施形態では、本発明の遺伝子編集方法を使用して臍帯血由来の造血幹細胞を改変してから、本発明の「二段階方法」という分化方法を用いて分化し、すなわち、造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を用いて増殖および分化をし、そして造血幹細胞赤血球系分化脱核培地を用いてさらに分化する。テストした結果、分化した赤血球のヘモグロビン(hemoglobin、HBG)の発現が、元の赤血球のHBG発現と比べて20%〜90%増加し、さらに100%増加し、すなわち、約1倍(元の2倍)と増加し、胎児のヘモグロビンの発現も、元の赤血球の胎児ヘモグロビンの発現と比べて20%〜90%、さらに100%も増加し、すなわち、約1倍(元の2倍)と増加し、さらに200%、すなわち、約2倍(元の3倍)と増加し、さらに300%、すなわち、約3倍(元の4倍)と増加し、さらに400%、すなわち、約4倍(元の5倍)と増加し、さらに500%、すなわち、約5倍以上(元の6倍以上)と増加したことは示された。
【実施例】
【0126】
次は実施例により本発明をさらに説明する。これらの実施例は、説明するための例示のみを目的としており、本発明の保護範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことは、当業者にとって自明である。したがって、本発明の実質的な保護範囲は、添付の請求の範囲およびその均等物によって限定される。
【0127】
実施例1:臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞の効率的な遺伝子編集
1−1:K562細胞を使用してエレクトロポレーション条件を調べる
造血幹細胞の供給源が少なく、一回単離するコストが高いため、本実施例では、エレクトロポレーション条件を調べるためのモデル細胞株として、癌細胞株K562(ATCC社から購入、ウェブサイト:https://www.atcc.оrg)を選択した。
【0128】
具体的には、実施手順は下記通りである。
実験ロット一:5×10
5のK562細胞をエレクトロポレーションにより形質転換し、GFPmRNA(配列番号1に示す配列)の量は5μgであり、BTX830エレクトロポレーターを使用し、それぞれ250V 1ms、360V 1ms、400V 1ms、500V 1msの条件下で、4日後にGFP発現及び7−AAD発現をフローサイトメトリー解析実験により検出した。GFPはエレクトロポレーションの効率を表し、7−AADはエレクトロポレーション後の細胞の成長状態、すなわち生存能力(viability)を表す。
【0129】
配列番号1:GFPmRNAの配列情報:
atgagtaaaggagaagaacttttcactggagttgtcccaattcttgttgaattagatggtgatgttaatgggcacaaattttctgtcagtggagagggtgaaggtgatgcaacatacggaaaacttacccttaaatttatttgcactactggaaaactacctgttccatggccaacacttgtcactactttctcttatggtgttcaatgcttttcaagatacccagatcatatgaaacggcatgactttttcaagagtgccatgcccgaaggttatgtacaggaaagaactatatttttcaaagatgacgggaactacaagacacgtgctgaagtcaagtttgaaggtgatacccttgttaatagaatcgagttaaaaggtattgattttaaagaagatggaaacattcttggacacaaattggaatacaactataactcacacaatgtatacatcatggcagacaaacaaaagaatggaatcaaagttaacttcaaaattagacacaacattgaagatggaagcgttcaactagcagaccattatcaacaaaatactccaattggcgatggccctgtccttttaccagacaaccattacctgtccacacaatctgccctttcgaaagatcccaacgaaaagagagaccacatggtccttcttgagtttgtaacagctgctgggattacacatggcatggatgaactatacaaatag
【0130】
実験ロット二:5×10
5のK562細胞をエレクトロポレーションにより形質転換し、上記GFPmRNAの量は5μgであり、BTX830エレクトロポレーターを使用し、それぞれ250V 1ms、250V 2ms、300V 0.5ms、300V 1ms、360V 0.5ms、360V 1msの条件下で、4日後にGFP発現及び7−AAD発現をフローサイトメトリー解析実験により検出した。GFPはエレクトロポレーションの効率を表し、7−AADはエレクトロポレーション後の細胞の成長状態、すなわち生存能力(viability)を表す。
【0131】
実験ロット三:5×10
5のK562細胞をエレクトロポレーションにより形質転換し、上記GFPmRNAの量は5μgであり、BTX830エレクトロポレーターを使用し、それぞれ250V 1ms、250V 1ms、300V 1ms、300V 1msの条件下で、4日後にGFP発現及び7−AAD発現をフローサイトメトリー解析実験により検出した。GFPはエレクトロポレーションの効率を表し、7−AADはエレクトロポレーション後の細胞の成長状態、すなわち生存能力(viability)を表す。その結果は
図2と
図3に示す。
【0132】
その中で、
図2は、癌細胞株K562で複数ロットの実験により検出した最適なエレクトロポレーション条件下で、GFPのエレクトロポレーションの4日後の蛍光顕微鏡の写真を示す図である。「V」はパルス電圧を表し、「ms」はパルス時間を表す。
【0133】
図3は、癌細胞株K562で複数ロットの実験により検出した最適なエレクトロポレーション条件下で、GFPのエレクトロポレーションの4日後の、フローサイトメトリー解析による7−AADとGFP発現の統計分析を示す図である。フローサイトメトリー解析での7−AAD陰性は細胞生存率を表し、7−AAD(7−アミノ−アクチノマイシンD)は、正常な原形質膜を通過できない核酸色素である。アポトーシスと細胞死のプロセスにおいて、原形質膜への7−AADの通過性は徐々に増加し、適切な波長の励起光の励起下で明るい赤色の蛍光を発することができる。7−AAD陰性は正常な生細胞であり、GFP効率はエレクトロポレーション効率を表す。「250−1」を例にして、250V電圧、1msのパルス時間を表す。
【0134】
本実験のデータは、癌細胞株K562に関して、「300V 1ms」のエレクトロポレーション条件下で、エレクトロポレーション効率と細胞生存率の総合的指標が最も高いことを示し、それからの実験で後続実験のエレクトロポレーション条件として使用される。
【0135】
1−2.300v 1msでGFPmRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入する
前のステップで効率および生存率が最も高い条件、すなわち、300V 1msを選択し、5×10
5の造血幹細胞(ALLCELLS(上海)社から購入、www.allcells.c)に上記GFPmRNAをエレクトロポレーションにより形質転換し、4日後にGFPとCD34の発現状況を検出した。結果を
図4と
図5に示す。
【0136】
その中で、
図4は、300V、1msのエレクトロポレーション条件下で、上記GFPmRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入して4日後の蛍光顕微鏡の写真を示す図である。それぞれ、明視野、緑のチャネル、赤のチャネル、明視野と緑のチャネルのオーバーレイの四つの視野を含む。
【0137】
図5は、300V、1msのエレクトロポレーション条件下で、GFPmRNAをエレクトロポレーションにより造血幹細胞に導入して4日後の、GPFとCD34タンパク質の発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す図である。
図5の中の対照群は造血幹細胞であるが、GFPmRNAが導入されておらず、CD34抗体が染色されない状況をフローサイトメトリーで解析したものである。
【0138】
図4と
図5の結果から分かるように、本実験のデータは、「300V 1ms」のエレクトロポレーション条件下で、臍帯血由来の造血幹細胞におけるGFPの発現の比率が高いことを示している。
【0139】
1−3:CRISPR/Cas9による臍帯血由来の造血幹細胞へのエレクトロポレーションによりBCL11A部位を編集する
A、BCL11Aのエンハンサー58K部位(この標的58K部位の配列は配列番号2に示される)について、「CRISPR RGEN TOOLS」ソフトウェアを使用してBCL11A(+58)部位に対して複数のsgRNAを設計し、化学修飾されたsgRNAを合成した。情報は
図6、7、8に示す。
【0140】
配列番号2:CL11Aエンハンサー58K部位150bp配列:
ctgccagtcctcttctaccccacccacgcccccaccctaatcagaggccaaacccttcctggagcctgtgataaaagcaactgttagcttgcactagactagcttcaaagttgtattgaccctggtgtgttatgtctaagagtagatgcc
【0141】
配列番号3:BCL11Aのエンハンサー‐1と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−1と呼ばれることもある):
cacaggctccaggaagggtt
【0142】
配列番号4:BCL11Aのエンハンサー‐2と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−2と呼ばれることもある):
atcagaggccaaacccttcc
【0143】
配列番号5:BCL11Aのエンハンサー‐3と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−3と呼ばれることもある):
ctaacagttgcttttatcac
【0144】
配列番号6:BCL11Aのエンハンサー‐4と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−4と呼ばれることもある):
ttgcttttatcacaggctcc
【0145】
配列番号7:BCL11Aのエンハンサー‐5と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−5と呼ばれることもある):
ttttatcacaggctccagga
【0146】
配列番号8:BCL11Aのエンハンサー‐6と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−6と呼ばれることもある):
tttatcacaggctccaggaa
【0147】
配列番号9:BCL11Aのエンハンサー‐7と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−7と呼ばれることもある):
tgggtggggtagaagaggac
【0148】
配列番号10:BCL11Aのエンハンサー‐8と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−8と呼ばれることもある):
gggcgtgggtggggtagaag
【0149】
配列番号11:BCL11Aのエンハンサー‐9と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−9と呼ばれることもある):
ttagggtgggggcgtgggtg
【0150】
配列番号12:BCL11Aのエンハンサー‐10と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−10と呼ばれることもある):
attagggtgggggcgtgggt
【0151】
配列番号13:BCL11Aのエンハンサー‐11と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−11と呼ばれることもある):
gattagggtgggggcgtggg
【0152】
配列番号14:BCL11Aのエンハンサー‐12と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−12と呼ばれることもある):
tctgattagggtgggggcgt
【0153】
配列番号15:BCL11Aのエンハンサー‐13と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−13と呼ばれることもある):
ctctgattagggtgggggcg
【0154】
配列番号16:BCL11Aのエンハンサー‐14と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−14と呼ばれることもある):
cacgcccccaccctaatcag
【0155】
配列番号17:BCL11Aのエンハンサー‐15と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−15と呼ばれることもある):
ttggcctctgattagggtgg
【0156】
配列番号18:BCL11Aのエンハンサー‐16と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−16と呼ばれることもある):
tttggcctctgattagggtg
【0157】
配列番号19:BCL11Aのエンハンサー‐17と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−17と呼ばれることもある):
gtttggcctctgattagggt
【0158】
配列番号20:BCL11Aのエンハンサー‐18と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−18と呼ばれることもある):
ggtttggcctctgattaggg
【0159】
配列番号21:BCL11Aのエンハンサー‐19と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−19と呼ばれることもある):
aagggtttggcctctgatta
【0160】
配列番号22:BCL11Aのエンハンサー‐20と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−20と呼ばれることもある):
gaagggtttggcctctgatt
【0161】
配列番号23:BCL11Aのエンハンサー‐21と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−21と呼ばれることもある):
actcttagacataacacacc
【0162】
配列番号24:BCL11Aのエンハンサー‐22と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−22と呼ばれることもある):
cttcaaagttgtattgaccc
【0163】
配列番号25:BCL11Aのエンハンサー‐23と呼ばれるsgRNA(単にenhancer−23と呼ばれることもある):
ctcttagacataacacacca
【0164】
上記のように、BCL11Aのエンハンサー58K部位の150bp配列に対して上記23のsgRNAを設計した。
【0165】
B、300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、発明者はCas9mRNA(配列番号26に示す配列)および上記の設計された化学修飾された23のsgRNAを合成した。その中で、23のsgRNAに対する化学修飾は、sgRNAの5’末端の最初の3つの塩基及び3’末端の最後の3つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾およびヌクレオチド間の3’チオ修飾である。下記の化学式に示すように、左側は化学修飾されたsgRNAであり、右側は修飾されていないsgRNAである。
【0166】
【化5】
【0167】
上記決めたエレクトロポレーション条件下で、臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞(ALLCELLS(上海)社から購入、www.allcells.cоm)に上記23の化学修飾されたsgRNAをエレクトロポレーションにより形質転換し、4日後にTIDEでIndels効率を分析した。その結果は
図9に示す。同様に、本実施例では、比較として、化学修飾されていないsgRNAについても同じ方法でエレクトロポレーションにより形質転換したが、化学修飾されていないsgRNAのIndels効率は2.7%しかなく、それからの実施例で使用されたのはいずれも化学修飾されたsgRNAである。
【0168】
図9は、CD34陽性の造血幹細胞に、Cas9 mRNAと23のsgRNAをエレクトロポレーションにより形質転換してから4日後に当該CD34陽性の造血幹細胞のゲノムを抽出し、sgRNAの切断部位の左と右それぞれ約450bp、全長903bpのフラグメントを選択して増幅した。増幅に使用したプライマー配列を以下に示す
【0169】
フォワードプライマー:cacctcagcagaaacaaagttatc(配列番号29)
リバースプライマー:gggaagctccaaactctcaa(配列番号30)
【0170】
切断部位の選択:Enhancer−2を例にして、5‘-ctaacagttg cttttatcac-3’で、切断部位は3’末端の右側にある(Cong L,et al.Science.2013)。
【0171】
上記増幅したフラグメントに対してSangerシーケンシングを行い、シーケンシング時に使用した上流および下流プライマーの配列は、配列番号27と配列番号28に示される。シーケンシングの結果についてTIDEソフトウェアでIndelsの生成効率を統計分析した。TIDEソフトウェアは、Indels効率をオンラインで分析するソフトウェアであり、Sangerシーケンシングの結果を基に、Indelsにより引き起こされたダブルピーク変異の効率を分析した。tide.deskgen.cоmを参照できる。
【0172】
その結果、当該エレクトロポレーション条件下で、本実施例で合成された23のsgRNAがいずれも造血幹細胞の遺伝子編集に成功し、効果的にIndelsを生成でき、効率が少なくとも10%であることは示された。その中で、最も効率的なのはEnhancer−2である。
【0173】
配列番号26:Cas9mRNA配列
gacaagaagtacagcatcggcctggacatcggcaccaactctgtgggctgggccgtgatcaccgacgagtacaaggtgcccagcaagaaattcaaggtgctgggcaacaccgaccggcacagcatcaagaagaacctgatcggagccctgctgttcgacagcggcgaaacagccgaggccacccggctgaagagaaccgccagaagaagatacaccagacggaagaaccggatctgctatctgcaagagatcttcagcaacgagatggccaaggtggacgacagcttcttccacagactggaagagtccttcctggtggaagaggataagaagcacgagcggcaccccatcttcggcaacatcgtggacgaggtggcctaccacgagaagtaccccaccatctaccacctgagaaagaaactggtggacagcaccgacaaggccgacctgcggctgatctatctggccctggcccacatgatcaagttccggggccacttcctgatcgagggcgacctgaaccccgacaacagcgacgtggacaagctgttcatccagctggtgcagacctacaaccagctgttcgaggaaaaccccatcaacgccagcggcgtggacgccaaggccatcctgtctgccagactgagcaagagcagacggctggaaaatctgatcgcccagctgcccggcgagaagaagaatggcctgttcggcaacctgattgccctgagcctgggcctgacccccaacttcaagagcaacttcgacctggccgaggatgccaaactgcagctgagcaaggacacctacgacgacgacctggacaacctgctggcccagatcggcgaccagtacgccgacctgtttctggccgccaagaacctgtccgacgccatcctgctgagcgacatcctgagagtgaacaccgagatcaccaaggcccccctgagcgcctctatgatcaagagatacgacgagcaccaccaggacctgaccctgctgaaagctctcgtgcggcagcagctgcctgagaagtacaaagagattttcttcgaccagagcaagaacggctacgccggctacattgacggcggagccagccaggaagagttctacaagttcatcaagcccatcctggaaaagatggacggcaccgaggaactgctcgtgaagctgaacagagaggacctgctgcggaagcagcggaccttcgacaacggcagcatcccccaccagatccacctgggagagctgcacgccattctgcggcggcaggaagatttttacccattcctgaaggacaaccgggaaaagatcgagaagatcctgaccttccgcatcccctactacgtgggccctctggccaggggaaacagcagattcgcctggatgaccagaaagagcgaggaaaccatcaccccctggaacttcgaggaagtggtggacaagggcgcttccgcccagagcttcatcgagcggatgaccaacttcgataagaacctgcccaacgagaaggtgctgcccaagcacagcctgctgtacgagtacttcaccgtgtataacgagctgaccaaagtgaaatacgtgaccgagggaatgagaaagcccgccttcctgagcggcgagcagaaaaaggccatcgtggacctgctgttcaagaccaaccggaaagtgaccgtgaagcagctgaaagaggactacttcaagaaaatcgagtgcttcgactccgtggaaatctccggcgtggaagatcggttcaacgcctccctgggcacataccacgatctgctgaaaattatcaaggacaaggacttcctggacaatgaggaaaacgaggacattctggaagatatcgtgctgaccctgacactgtttgaggacagagagatgatcgaggaacggctgaaaacctatgcccacctgttcgacgacaaagtgatgaagcagctgaagcggcggagatacaccggctggggcaggctgagccggaagctgatcaacggcatccgggacaagcagtccggcaagacaatcctggatttcctgaagtccgacggcttcgccaacagaaacttcatgcagctgatccacgacgacagcctgacctttaaagaggacatccagaaagcccaggtgtccggccagggcgatagcctgcacgagcacattgccaatctggccggcagccccgccattaagaagggcatcctgcagacagtgaaggtggtggacgagctcgtgaaagtgatgggccggcacaagcccgagaacatcgtgatcgaaatggccagagagaaccagaccacccagaagggacagaagaacagccgcgagagaatgaagcggatcgaagagggcatcaaagagctgggcagccagatcctgaaagaacaccccgtggaaaacacccagctgcagaacgagaagctgtacctgtactacctgcagaatgggcgggatatgtacgtggaccaggaactggacatcaaccggctgtccgactacgatgtggaccatatcgtgcctcagagctttctgaaggacgactccatcgacaacaaggtgctgaccagaagcgacaagaaccggggcaagagcgacaacgtgccctccgaagaggtcgtgaagaagatgaagaactactggcggcagctgctgaacgccaagctgattacccagagaaagttcgacaatctgaccaaggccgagagaggcggcctgagcgaactggataaggccggcttcatcaagagacagctggtggaaacccggcagatcacaaagcacgtggcacagatcctggactcccggatgaacactaagtacgacgagaatgacaagctgatccgggaagtgaaagtgatcaccctgaagtccaagctggtgtccgatttccggaaggatttccagttttacaaagtgcgcgagatcaacaactaccaccacgcccacgacgcctacctgaacgccgtcgtgggaaccgccctgatcaaaaagtaccctaagctggaaagcgagttcgtgtacggcgactacaaggtgtacgacgtgcggaagatgatcgccaagagcgagcaggaaatcggcaaggctaccgccaagtacttcttctacagcaacatcatgaactttttcaagaccgagattaccctggccaacggcgagatccggaagcggcctctgatcgagacaaacggcgaaaccggggagatcgtgtgggataagggccgggattttgccaccgtgcggaaagtgctgagcatgccccaagtgaatatcgtgaaaaagaccgaggtgcagacaggcggcttcagcaaagagtctatcctgcccaagaggaacagcgataagctgatcgccagaaagaaggactgggaccctaagaagtacggcggcttcgacagccccaccgtggcctattctgtgctggtggtggccaaagtggaaaagggcaagtccaagaaactgaagagtgtgaaagagctgctggggatcaccatcatggaaagaagcagcttcgagaagaatcccatcgactttctggaagccaagggctacaaagaagtgaaaaaggacctgatcatcaagctgcctaagtactccctgttcgagctggaaaacggccggaagagaatgctggcctctgccggcgaactgcagaagggaaacgaactggccctgccctccaaatatgtgaacttcctgtacctggccagccactatgagaagctgaagggctcccccgaggataatgagcagaaacagctgtttgtggaacagcacaagcactacctggacgagatcatcgagcagatcagcgagttctccaagagagtgatcctggccgacgctaatctggacaaagtgctgtccgcctacaacaagcaccgggataagcccatcagagagcaggccgagaatatcatccacctgtttaccctgaccaatctgggagcccctgccgccttcaagtactttgacaccaccatcgaccggaagaggtacaccagcaccaaagaggtgctggacgccaccctgatccaccagagcatcaccggcctgtacgagacacggatcgacctgtctcagctgggaggcgac
【0174】
配列番号27シーケンスプライマー
cacctcagcagaaacaaagttatc
【0175】
配列番号28シーケンスプライマー
gggaagctccaaactctcaa
【0176】
C、上記の実験結果に基づいて、遺伝子編集効率が比較的に高いEnhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5およびEnhancer−6を選択し、300V 1msのエレクトロポレーション条件下で、Cas9mRNAと、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5およびEnhancer−6をエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入してから4日後にIndels効率を検出した。その結果は
図10に示す。
図10は、Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNA、Enhancer−3 sgRNA、Enhancer−4 sgRNA、Enhancer−5 sgRNAおよびEnhancer−6 sgRNAをエレクトロポレーションにより3つの異なる臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞に導入してから4日後、上記と同じ方法を使用してTIDEソフトウェア分析によるIndelsの生成効率の統計分析を示す図である。
【0177】
図10の結果、3つの異なる臍帯血由来の造血幹細胞では、5つのsgRNAはいずれも効率的な遺伝子編集を実現し、効率は少なくとも40%以上であり、その中で、最も効率が高いのは、Enhancer−2 sgRNAであり、平均的な遺伝子編集効率は80%にも達しており、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5およびEnhancer−6より有意に高いと共に、既存の文献で報告されている造血幹細胞での遺伝子編集効率よりも高いことは示された(Xu,et al.Molecular Therapy.2017;DeWitt,et al.Sci Transl Med.2016)。
【0178】
これに基づいて、Enhancer−2 sgRNAを標的ターゲットとして後続実験が行われた。
【0179】
実施例2:遺伝子編集された臍帯血由来の造血幹細胞のインビトロコロニー形成
本実験は、遺伝子編集された臍帯血由来の造血幹細胞のコロニー形成単位(CFU、colony−formation units)の検出に係る。
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9mRNAおよびEnhancer−2をエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、800〜1000の細胞を1ml H4434(カナダSTEM CELLS TECHNOLOGIESから購入)とIMDM(Thermo Fisherから購入)およびFBS(Thermo Fisherから購入)の混合液に再懸濁し、14日後にCFU−M、BFU−E、CFU−E、CFU−G、CFU−GM、GEMMなど形成された異なる形のコロニー数を顕微鏡で観察し、その結果を
図11に示す。
図11は、Cas9 mRNAとBCL11Aのエンハンサー‐2 sgRNAをエレクトロポレーションにより臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞に導入してから2日後、インビトロコロニー形成実験(CFU検出)を実施し、14日後に異なる血液系のコロニー数をカウントした結果を示す図である。BFU−E、CFU−M、CFU−GM、CFU−E、CFU−G、CFU−MMは、赤血球系、骨髄系、リンパ系などの血液系の異なる系統のコロニー形成を表す。その中で、Mockは遺伝子編集されていない細胞を表す。
【0180】
実施例2のデータによって、遺伝子編集されていない造血幹細胞と比べて、遺伝子編集された細胞のインビトロ分化機能が正常であり、血液系の異なる系統のコロニー(クローン)に分化することができることは示されている。
【0181】
実施例3:遺伝子編集された臍帯血由来の造血幹細胞によるマウスモデルの造血系の再構築
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9mRNAおよびEnhancer−2をエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、放射計で照射されたNPG免疫不全マウスモデル(北京維通達生物技術有限公司(Beijing Vitalstar Biotechnology,Inc.)から購入)に移植した。移植して6週間、8週間、10週間、12週間、16週間後、末梢血でヒトCD45陽性細胞とマウスCD45の発現を検出すると共に、移植して16週間後の骨髄と脾臓でヒトCD45とマウスCD45の発現を検出し、その結果は
図12と
図14に示す。マウスへの移植方法は次の通りである。細胞移植の24時間前に、1.0Gyの照射を行ってマウスモデルの骨髄を除去した。そして、20μL 0.9%生理食塩水で再懸濁した1.0×10
6の細胞をマウスの尾静脈に注射し、クリーングレードの動物舎に飼育した。
【0182】
図12と
図14に示す結果によれば、遺伝子編集されていない造血幹細胞と比べて、遺伝子編集された造血幹細胞をマウスモデルに移植した後、遺伝子編集された細胞は時間が経つにつれて、ヒト由来hCD45の発現率が増加し続け、末梢血サンプルでは、6週目の20%から16週目の60%に増加し、16週目の骨髄での割合は90%にも達しており、脾臓では70%に達している。これは、遺伝子編集された造血幹細胞は、マウスモデルの造血系に迅速かつ効率的に移植でき、細胞の体内分化機能は正常であることを示している。既存の文献報告から明らかに、6週間後の末梢血におけるCD45の発現率は1〜10%であり、16週間後のCD45の発現率は20〜40%であり、骨髄におけるCD45の発現率は50%くらいである。よって、本発明の動物実験結果は、既存の分野で報告されている移植実験結果よりも明らかに優れている(Xu,et al.Molecular Therapy.2017;DeWitt,et al.Sci Transl Med.2016;Mettananda,et al. Nature Communications.2017)。
【0183】
同時に、遺伝子編集された細胞を移植されたマウスにおいて、16週間後にCD3、CD4、CD8、CD33、CD56、CD19などのヒト細胞膜タンパク質の発現を検出し、その結果は
図13、14、15に示す。その結果、遺伝子編集された細胞はこれらのタンパク質を正常に発現でき、T細胞、B細胞、マクロファージなどの血液系の細胞に分化でき、マウスモデルの造血系を効率的に再構築できることを示している。既存の文献で報告されている結果と比較して、まずCD3、CD4、CD8、CD33、CD19、hCD56など6つの細胞膜表面タンパク質を検出してマウスの血液におけるT細胞、骨髄細胞、B細胞及びNK細胞などの発現状況を判断し、移植されたヒト造血幹細胞がマウスの造血系を再構築する能力をより正確に評価した。これに対して、既存の文献では、CD3、CD19、CD56、CD33などのタンパク質の発現のみをテストしている。次に、末梢血、骨髄、及び脾臓など3つの重要な血液系関連組織における上記の6つのタンパク質の発現プロファイルを検出し、マウスの造血系を再構築する能力をより全面的に評価した。これに対して、既存の文献では、骨髄のみが検出の組織とされている(Chang,et al.Methods & Clinical Development.2017;DeWitt,et al.Sci Transl Med.2016;Mettananda,et al.Nature Communications.2017)。
【0184】
また、遺伝子編集された細胞は、マウスモデルの造血系を迅速かつ効率的に再構築することができる。再構築マウスモデルの細胞で遺伝子編集が行われたか否かについての判定結果を
図16に示す。移植前の細胞と移植して16週間後の末梢血、骨髄、脾臓のゲノムを抽出し、目標フラグメントを増幅してSangerシーケンシングを行い、TIDEソフトウェアでIndels効率を分析した。その結果、移植して16週間後の末梢血、骨髄、脾臓のヒト細胞がいずれも遺伝子編集され、効率は50〜70%の範囲で移植前の細胞に似ていることは示されている。
【0185】
実施例4:遺伝子編集された臍帯血由来造血幹細胞の赤血球系分化によるγグロビンおよび胎児ヘモグロビンの発現の検出
4−1.赤血球の分化
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9mRNAおよびEnhancer−2をエレクトロポレーションにより臍帯血由来の造血幹細胞に導入し、次の「二段階法」分化スキームを使用して分化させた。
【0186】
二段階法による分化は、造血幹細胞の赤血球系増殖および分化培地を使用して分化させ、そして造血幹細胞の赤血球系分化脱核培地を使用して分化させることである。
【0187】
造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地としては、基礎培地はStemSpan
TM SFEM IIであり、成長因子は、50〜200ng/ml SCF、10〜100ng/ml IL−3、1〜10U EPO/mlであり、培養条件は、造血幹細胞の赤血球系増殖および分化培地を使用して造血幹細胞1.0×10
5cells/mlを培養し、7日間増殖した。
【0188】
造血幹細胞赤血球系分化脱核培地としては、基礎培地はSTEMSPAN
TM SFEM IIであり、成長因子は、1〜10U EPO、100〜1000μg/mlヒトトランスフェリンであり、化学的小分子は0.5〜10μmのミフェプリストン(Mifepristone)であり、前のステップで培養した1.0×10
6cells/mlの細胞を造血幹細胞赤血球系分化脱核培地で5日間分化させた。
【0189】
そして、
図17に示すように、CD71とDC235aの発現を検出した。実験群と対照群は何れも効率的に赤血球に分化でき、CD71とCD235aの発現率は何れも90%以上である。
【0190】
4−2.γグロビンと胎児ヘモグロビンの発現の検出
上記の赤血球が分化した細胞のmRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、BCL11A、HBB、HBGなどの遺伝子の発現を蛍光定量PCRによって検出し、その結果を
図18に示す。その結果、BCL11Aのエンハンサー部位の遺伝子がノックアウトされた細胞のBCL11A遺伝子発現が1倍ダウンレギュレーションされ、HBG発現が1倍と増加した。
【0191】
赤血球系分化後の細胞の胎児ヘモグロビンの発現を検出し、
図19に示すように、フローサイトメトリー解析の結果、BCL11Aのエンハンサー部位の遺伝子がノックアウトされた細胞は、胎児ヘモグロビンの発現が約1倍と増加したことは示されている。
【0192】
実施例5:β−サラセミア患者由来の造血幹細胞のBCL11Aのエンハンサー部位の遺伝子編集
5−1.β−サラセミア患者の末梢血からの造血幹細胞の単離
従来の磁気ビーズ選別によってCD34陽性の造血幹細胞を得た。結果を
図20に示す。
【0193】
5−2.β−サラセミア患者の末梢血からの造血幹細胞のエレクトロポレーション
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9 mRNAとEnhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5およびEnhancer−6をエレクトロポレーションにより、β−サラセミア患者の末梢血からの造血幹細胞に導入し、4日後、Indels効率を検出し、その結果を
図21に示す。3名の異なる患者の末梢血からの造血幹細胞において、5つのsgRNAは何れも効率的な遺伝子編集を実現でき、その中で、Enhancer−2の効率が最も高く、70%以上にも達していることは示されている。
【0194】
実施例6:遺伝子編集された貧血患者の末梢血に由来する造血幹細胞の赤血球系分化によるγグロビンおよび胎児ヘモグロビンの発現の検出
実施例5で遺伝子編集された造血幹細胞をインビトロで赤血球系分化させ、その方法は実施例4−1を参照できる。分化の結果を
図22に示す。実験の結果、対照群、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5およびEnhancer−6の赤血球系分化効率が互いに近く、いずれもCD71とCD235a細胞膜タンパク質を高く発現したことは示されている。
【0195】
12日後、赤血球分化後の細胞のmRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、BCL11A、HBB、HBG、HBAなどの遺伝子の発現を蛍光定量PCRによって検出し、その結果を
図23に示す。その結果、Enhancer−6を除き、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、およびEnhancer−5は何れも細胞におけるBCL11Aの遺伝子発現をダウンレギュレーションでき、その中で、Enhancer−2の効果が最も顕著であり、約1倍とダウンレギュレーションし、また、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5、及びEnhancer−6がいずれもγグロビン発現を増加させることができ、その中で、Enhancer−2の効果が最も顕著であり、γグロビンの発現が9倍と増加し、臨床治療の標準に合致することは示されている。既存の文献の結果と比較して、まず、重症のサラセミア患者に由来する造血幹細胞を最初の評価細胞ソースとして使用し、本発明の方法が臨床治療の要件を満たすことを正確に検証した。これに対して、既存の文献は正常のヒト骨髄または末梢血のサンプルしか使用していない。次に、既存の文献で報告されている胎児ヘモグロビンの増加倍率は4〜7倍しかなく、本発明の胎児ヘモグロビンの発現増加倍率より低い。これは、本発明の実験結果が既存の文献報告よりもはるかに優れていることを示している(Chang et al.Methods & Clinical Development.2017;Mattew C et al. Nature.2015)。
【0196】
また、
図27、28および29に示すように、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5、及びEnhancer−6がBCL11Aのエンハンサー部位を遺伝子編集することによる胎児ヘモグロビン(HbF)と正常ヘモグロビン(HbA)のタンパク質発現量への影響をより正確に評価するために、本発明では、造血幹細胞を12日間分化させた後に得られた赤血球のタンパク質を抽出し、HPLC試験(High Performance Liquid Chromatography、高速液体クロマトグラフィー)を行った。その結果、1)保持時間が約5.4分と10分でのクロマトグラフィーピークはそれぞれHbFとHbAを表す。2)遺伝子編集されていない細胞と比べて、Enhancer−2、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5、及びEnhancer−6により遺伝子編集された細胞のHbF発現量はより高く(ピークがより高く、ピーク面積がより大きい)、HbAの発現量はより低く(ピークがより低く、ピーク面積がより小さい)、これは、BCL11Aのエンハンサー部位の遺伝子編集はHbFの発現を増加させ、HbAの発現をダウンレギュレーションしたことを示している。3)その中で、Enhancer−2のHbF/HbAの比率は約5.28であり、mоckのHbF/HbAの比率は約0.79であり、6.68倍と増加しており、Enhancer−3、Enhancer−4、Enhancer−5、及びEnhancer−6がHbF/HbAに対する比率倍数より有意に高い。臨床上では、本発明の背景技術に記載されているように、重度のβ−サラセミア患者はβグロビンが欠失するため、血液中のヘモグロビンは少量のHbAと大多数のHbFとからなり、通常は重度のβ−サラセミア患者のヘモグロビンは20g/Lくらいであり、そのうちHbFは90%以上を占めている。90%の比率を占めていることとして計算すると、遺伝子編集された細胞のHbF発現量は6.68倍増加したので、最終のヘモグロビン量は20*0.9*6.68+20*0.1=122.24g/Lであり、正常なヒトヘモグロビン発現量の範囲は115〜150g/Lであり、この結果は臨床治療の標準に完全に合致している(Antonio Cao,et al.Genes in Medicine.2010;2010年『重度のβ−サラセミアの診断と治療のガイドライン』)。既存の文献と比較して、本発明は、β−サラセミア患者の造血幹細胞において、胎児ヘモグロビンを改善するためのBCL11Aのエンハンサーの遺伝子編集の有効性をHPLC実験によって正確に評価した唯一の発明研究であり、しかもその結果、胎児ヘモグロビンの発現が有意に増加し、重度のβ−サラセミア患者を治療する臨床要件を満たしていることを示している(Chang et al.Methods & Clinical Development.2017;Mattew C et al. Nature.2015;Lin Ye,et al.PNAS.2016;Matthew H. Proteus,Advances in Experimental Medicine and Biology.2013)
【0197】
実施例7:遺伝子編集された貧血患者の末梢血由来の造血幹細胞のインビトロコロニー形成
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9mRNAおよびEnhancer−2をエレクトロポレーションにより貧血患者の末梢血由来の造血幹細胞に導入し、500〜800の細胞を1ml H4434(カナダSTEM CELLS TECHNOLOGIESから購入)とIMDM(Thermo Fisherから購入)およびFBS(Thermo Fisherから購入)の混合液に再懸濁し、14日後にCFU−M、BFU−E、CFU−E、CFU−G、CFU−GM、GEMMなど形成された異なる形のコロニー数を顕微鏡で観察し、その結果を
図25に示す。
【0198】
本実験データによって、遺伝子編集されていない造血幹細胞と比べて、遺伝子編集された細胞のインビトロでの分化機能が正常であり、血液系の異なる系統のコロニーに分化することができることは示されている。
【0199】
実施例8:遺伝子編集された貧血患者の末梢血由来の造血幹細胞のオフターゲット効果
本実験は遺伝子シーケンシング法に係り、具体的には、遺伝子編集された貧血患者の末梢血由来の造血幹細胞のオフターゲット効果(оff−target effect)を次世代シーケンシング技術(Next generation sequencing,NGS)によって分析する。
【0200】
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9mRNAおよびEnhancer−2をエレクトロポレーションにより貧血患者の末梢血由来の造血幹細胞に導入し、4日間増殖した後、ゲノムを抽出して次世代シーケンス分析をした。14の潜在的なオフターゲット部位を、ソフトウェアを介して予測し、その結果を
図22に示す。
【0201】
本実験データによって、遺伝子編集のオンターゲット(оn−target)効率は76%であり、14の潜在的なオフターゲット部位の比率はいずれも0.3%未満であり、次世代シーケンシング自体のエラーに相当することは示されている。これより明らかに、シーケンシングエラー範囲内で、遺伝子編集によるオフターゲット現象は検出されていないため、この遺伝子編集スキームは安全である。
【0202】
上記実施例のデータから分かるように、由来の異なる細胞のいずれに対して、Enhancer−2は最良の効果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明によれば、本発明の方法は以下のいくつかの利点を有する。まず、本方法は、サラセミア患者由来の造血幹細胞を遺伝子編集することができ、サラセミアおよび鎌状赤血球貧血の臨床治療の要件を完全に満たすことができる。そして、化学修飾されたsgRNAを使用することにより、遺伝子編集効率が高く、胎児ヘモグロビンの発現が大幅に増加し、細胞はモデルマウスの造血系を再構築することができる。最後に、オフターゲット分析によって高い安全性を示している。これに基づいて、本発明により開発された方法は、従来の造血幹細胞移植治療技術に取って代わって、重度のサラセミアおよび鎌状赤血球貧血の患者を治癒することができる。
【0204】
具体的な特徴を参照して本発明を詳しく説明してきたが、この説明は好ましい実施形態についてのみであり、本発明の範囲を限定するものではないことは、当業者にとって自明である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求の範囲およびその均等物によって限定される。
【手続補正書】
【提出日】2020年6月29日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aのゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊することを含む、
ヒト造血幹細胞における胎児ヘモグロビン(HbF)の発現を増加させる方法。
【請求項2】
前記遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas遺伝子編集技術である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子編集技術がCRISPR/Cas9遺伝子編集技術である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記BCL11Aゲノムの標的ヌクレオチド配列は、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列と相補的である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記BCL11Aゲノムの編集を実現するように、配列番号3〜配列番号25から選択されるいずれか一つの配列を含むsgRNAを前記造血幹細胞に導入することを含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記sgRNAは、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に前記造血幹細胞に導入する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記エレクトロポレーション条件は、200〜600V、0.5〜2msである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目のBCL11Aゲノム領域が遺伝子編集技術によって破壊された、ヒト造血幹細胞。
【請求項12】
胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が遺伝子改変によって増加した成熟赤血球またはその前駆細胞を製造する方法であって、
(a)請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を使用して遺伝子改変された造血幹細胞を得ることと、
(b)造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地を使用して、前記遺伝子改変された造血幹細胞に対して造血幹細胞赤血球系増殖および分化を行うこととを含み、
前記造血幹細胞赤血球系増殖および分化培地は、基礎培地と、成長因子組成物とを含み、前記成長因子組成物は、幹細胞成長因子(SCF)、インターロイキン3(IL−3)、およびエリスロポエチン(EPO)を含む、方法。
【請求項13】
赤血球系分化脱核培地を使用して造血幹細胞の赤血球系分化および脱核を行うことをさらに含み、
前記赤血球分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、およびプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤を含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記赤血球系分化脱核培地における成長因子はエリスロポエチン(EPO)を含み、前記プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤は、下記化合物(I)〜(IV)から選択されるいずれか1つまたは2つ以上である、請求項
13に記載の方法。
【化1】
【請求項15】
配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列を含む、
特に、2’−O−メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオ修飾を含む、
特に、前記化学修飾は、配列番号3〜配列番号25から選択される一つのヌクレオチド配列の5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’−O−メチル類縁体による修飾である;sgRNA構築体。
【国際調査報告】