特表2021-500072(P2021-500072A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-500072血友病Aに対する遺伝子編集用組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-500072(P2021-500072A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(54)【発明の名称】血友病Aに対する遺伝子編集用組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20201204BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20201204BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20201204BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20201204BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20201204BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20201204BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20201204BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201204BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20201204BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20201204BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20201204BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20201204BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20201204BHJP
【FI】
   C12N15/09 110
   C12N15/55ZNA
   C12N15/31
   C12N15/113 Z
   C12N9/16 Z
   C12N15/12
   C12N15/864 100Z
   C12N5/10
   A61P7/04
   A61K31/7088
   A61K48/00
   A61K9/127
   A61K9/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】169
(21)【出願番号】特願2020-542542(P2020-542542)
(86)(22)【出願日】2018年10月17日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月12日
(86)【国際出願番号】US2018056390
(87)【国際公開番号】WO2019079527
(87)【国際公開日】20190425
(31)【優先権主張番号】62/573,633
(32)【優先日】2017年10月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518370079
【氏名又は名称】クリスパー セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(71)【出願人】
【識別番号】520135736
【氏名又は名称】バイエル ヘルスケア リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】アラン リチャード ブルックス
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC07
4B050DD02
4B050LL01
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BA02
4B065BA05
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA19
4C076AA31
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC14
4C076DD63
4C076FF31
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA53
(57)【要約】
提供されるものには、対象の血友病Aをエキソビボ又はインビボで治療するための材料及び方法が含まれる。また提供されるものには、ゲノムに、詳細にはアルブミン遺伝子の遺伝子座にFVIIIコード遺伝子をノックインするための材料及び方法も含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA);及び
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を含むシステム。
【請求項2】
前記gRNAが配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸が、宿主細胞での発現にコドン最適化される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、宿主細胞での発現にコドン最適化される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がリボ核酸(RNA)である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記RNAがmRNAである、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列を含むドナーカセットを含み、前記ドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記gRNA標的部位が前記システム中のgRNAにとっての標的部位である、請求項15又は16に記載のシステム。
【請求項18】
前記ドナー鋳型の前記gRNA標的部位が、前記システム中のgRNAにとってのゲノムgRNA標的部位の逆相補体である、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、請求項1〜18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記リポソーム又は脂質ナノ粒子が前記gRNAもまた含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する前記DNAエンドヌクレアーゼを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
細胞のゲノムを編集する方法であって、
前記細胞に以下:
(a)配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;
(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び
(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を提供することを含む方法。
【請求項23】
前記gRNAが配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される、請求項22〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、請求項22〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸が、前記細胞での発現にコドン最適化される、請求項22〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、前記細胞での発現にコドン最適化される、請求項22〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、請求項22〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がリボ核酸(RNA)である、請求項22〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記RNAがmRNAである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、請求項22〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列を含むドナーカセットを含み、前記ドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項22〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記gRNA標的部位が、(a)の前記gRNAにとっての標的部位である、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記ドナー鋳型の前記gRNA標的部位が、(a)の前記gRNAにとっての前記細胞ゲノム内のgRNA標的部位の逆相補体である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、請求項22〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記リポソーム又は脂質ナノ粒子が前記gRNAもまた含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する前記DNAエンドヌクレアーゼを前記細胞に提供することを含む、請求項22〜41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)の前記ドナー鋳型が前記細胞に提供された5日以上後に前記細胞に提供される、請求項22〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)が前記細胞に提供された少なくとも14日後に前記細胞に提供される、請求項22〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に前記細胞に提供される、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項46】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで前記細胞に提供される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、請求項22〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞がヘパトサイトである、請求項22〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
請求項22〜48のいずれか一項に記載の方法によって前記細胞の前記ゲノムが編集されている遺伝子修飾細胞。
【請求項50】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、前記内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、請求項49に記載の遺伝子修飾細胞。
【請求項51】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、前記細胞での発現にコドン最適化される、請求項49又は50に記載の遺伝子修飾細胞。
【請求項52】
前記細胞がヘパトサイトである、請求項49〜51のいずれか一項に記載の遺伝子修飾細胞。
【請求項53】
対象の血友病Aを治療する方法であって、
前記対象の細胞に以下:
(a)配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;
(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び
(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を提供することを含む方法。
【請求項54】
前記gRNAが配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記対象が、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である、請求項53〜58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記対象が、血友病Aのリスクがあると診断される、請求項53〜58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される、請求項53〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、請求項53〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸が、前記細胞での発現にコドン最適化される、請求項53〜62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、前記細胞での発現にコドン最適化される、請求項53〜63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、請求項53〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記核酸がリボ核酸(RNA)である、請求項53〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする前記RNAがmRNAである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
(a)の前記gRNA、(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、及び(c)の前記ドナー鋳型のうちの1つ以上がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、請求項53〜67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、請求項53〜68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列を含むドナーカセットを含み、前記ドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項53〜69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記gRNA標的部位が、(a)の前記gRNAにとっての標的部位である、請求項70又は71に記載の方法。
【請求項73】
前記ドナー鋳型の前記gRNA標的部位が、(a)の前記gRNAにとっての前記細胞ゲノム内の前記gRNA標的部位の逆相補体である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記ドナー鋳型を前記細胞に提供することが、前記ドナー鋳型を前記対象に投与することを含む、請求項53〜73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記投与が静脈内経路による、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、請求項53〜75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記リポソーム又は脂質ナノ粒子が前記gRNAもまた含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記gRNA及び前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を前記細胞に提供することが、前記リポソーム又は脂質ナノ粒子を前記対象に投与することを含む、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記投与が静脈内経路による、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する前記DNAエンドヌクレアーゼを前記細胞に提供することを含む、請求項53〜79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)の前記ドナー鋳型が前記細胞に提供された5日以上後に前記細胞に提供される、請求項53〜80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)の前記ドナー鋳型が前記細胞に提供された少なくとも14日後に前記細胞に提供される、請求項53〜81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に前記細胞に提供される、請求項81又は82に記載の方法。
【請求項84】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで前記細胞に提供される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
(a)の前記gRNA及び(b)の前記DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を前記細胞に提供することが、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸及び前記gRNAを含む脂質ナノ粒子を前記対象に投与することを含む、請求項81〜84のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
(c)の前記ドナー鋳型を前記細胞に提供することが、AAVベクターにコードされた前記ドナー鋳型を前記対象に投与することを含む、請求項81〜85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列が、前記内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、請求項53〜86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記細胞がヘパトサイトである、請求項53〜87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする前記核酸配列が前記対象の肝臓で発現する、請求項53〜88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
対象の血友病Aを治療する方法であって、
請求項49〜52のいずれか一項に記載の遺伝子修飾細胞を前記対象に投与すること
を含む方法。
【請求項91】
前記遺伝子修飾細胞が前記対象にとって自己性である、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記対象から生体試料を採取することであって、前記生体試料がヘパトサイト細胞を含み、前記遺伝子修飾細胞が前記ヘパトサイトから調製されること
を更に含む、請求項90又は91に記載の方法。
【請求項93】
請求項1〜21のいずれか一項に記載のシステムの1つ以上のエレメントを含み、且つ使用説明書を更に含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年10月17日に出願された米国仮特許出願第62/573,633号明細書に対する優先権の利益を主張するものであり、この仮特許出願の開示は全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書によって提供される開示は、エキソビボ及びインビボの両方での血友病A患者の治療用材料及び方法に関する。加えて、本開示は、細胞における第VIII因子(FVIII)などの血液凝固タンパク質の発現、機能又は活性をゲノム編集によって調節するための編集用材料及び方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
血友病A(HemA)は、第VIII因子(FVIII)遺伝子の遺伝的欠陥が原因で血中のFVIIIタンパク質レベルが低くなり又は検出不能となることによって引き起こされる。この結果、組織傷害部位での血栓形成が無効となり、治療しなければ致命的となり得る制御されない出血につながる。欠損しているFVIIIタンパク質の補充はHemA患者に有効な治療であり、現行の標準治療である。しかしながら、タンパク質補充療法は高頻度のFVIIIタンパク質静脈内注射が必要であり、これは成人には不便であり、小児には問題があり、法外な費用がかかり(>$200,000/年)、治療レジメンに厳密に従わなければ破綻出血イベントが起こり得る。
【0004】
FVIII遺伝子は、肝臓並びに体内の他の部位に存在する類洞内皮細胞に主に発現する。外因性FVIIIは肝臓のヘパトサイトに発現し、そこから分泌されて循環中にFVIIIを生じさせ、そのようにして疾患の治癒に影響を及ぼし得る。肝臓のヘパトサイトを標的とする遺伝子送達方法が開発されており、従って動物モデル及び臨床試験の患者の両方でHemAの治療としてそうした方法を用いてFVIII遺伝子が送達されている。
【0005】
血友病Aの根治は極めて望ましい。アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いる従来のウイルスベースの遺伝子療法は、前臨床動物モデル及び患者において有望である可能性はあるが、不都合な点が幾つもある。AAVベースの遺伝子療法は、AAVウイルスカプシド(典型的には、とりわけ、血清型AAV5、AAV8又はAAV9又はAAVrh10を使用する)の内部に封入された、肝臓特異的プロモーターによってドライブされるFVIII遺伝子を使用する。遺伝子療法に使用されるAAVウイルスはいずれも、パッケージングされた遺伝子カセットを形質導入細胞の核内に送達し、そこで遺伝子カセットはほぼ例外なくエピソームのまま留まり、治療用タンパク質を生じさせるのは、この治療用遺伝子のエピソームコピーである。AAVは、その封入されたDNAを宿主細胞のゲノムに組み込む機構を有さず、代わりにエピソームとして維持され、従って宿主細胞の分裂時に複製されない。エピソームDNAはまた、時間とともに分解にも曝され得る。AAVエピソームを含有する肝細胞が誘導されて分裂すると、AAVゲノムは複製されず、代わりに希釈されることが実証されている。結果として、AAVベースの遺伝子療法は、肝臓がまだ成人サイズに達していない小児に行われる場合には有効でないものと思われる。加えて、現在、成人ヒトに行われるときAAVベースの遺伝子療法がどのくらい持続するかは不明であり、しかし動物データでは、10年もの期間にわたって治療効果の喪失がごく僅かであることが実証されている。従って、HemAに対する新規の有効な且つ浸透する(permeant)治療の開発が決定的に必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本明細書には、内因性アルブミン遺伝子座内又はその近傍にあるゲノム配列と相補的な配列を有するガイドRNA(gRNA)配列が提供される。
【0007】
一部の実施形態において、gRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも85%の相同性を有するその変異体から選択されるスペーサー配列を含む。
【0008】
別の態様において、本明細書には、上述のgRNAのいずれかを有する組成物が提供される。
【0009】
一部の実施形態において、組成物のgRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも85%の相同性を有するその変異体から選択されるスペーサー配列を含む。
【0010】
一部の実施形態において、本組成物は、以下:デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を有するドナー鋳型のうちの1つ以上を更に含む。
【0011】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。
【0012】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0013】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はコドン最適化される。
【0014】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列はコドン最適化される。
【0015】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0016】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)である。
【0017】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAは、共有結合でgRNAに連結される。
【0018】
一部の実施形態において、本組成物はリポソーム又は脂質ナノ粒子を更に含む。
【0019】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0020】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0021】
一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0022】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0023】
別の態様において、本明細書には、上記に記載される組成物のいずれかを有し、且つ使用説明書を更に有するキットが提供される。
【0024】
別の態様において、本明細書には、デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸と;配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)と;第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型とを含むシステムが提供される。
【0025】
一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0026】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0027】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、宿主細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、宿主細胞はヒト細胞である。
【0028】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸は、宿主細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、宿主細胞はヒト細胞である。
【0029】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0030】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)である。一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAはmRNAである。
【0031】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0032】
一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位はシステム中のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、システム中のgRNAにとってのゲノムgRNA標的部位の逆相補体である。
【0033】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0034】
一部の実施形態において、本システムは、gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するDNAエンドヌクレアーゼを含む。
【0035】
別の態様において、本明細書には、細胞のゲノムを編集する方法が提供され、この方法は、細胞に以下:(a)上記に記載したgRNAのいずれか;(b)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を有するドナー鋳型を提供することを含む。
【0036】
一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0037】
一部の実施形態において、gRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも85%の相同性を有するその変異体から選択されるスペーサー配列を有する。
【0038】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される。
【0039】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0040】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、細胞での発現にコドン最適化される。
【0041】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、細胞での発現にコドン最適化される。
【0042】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0043】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)である。
【0044】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAはmRNAである。
【0045】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAは、共有結合でgRNAに連結される。
【0046】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0047】
一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノム内のgRNA標的部位の逆相補体である。一部の実施形態において、
【0048】
一部の実施形態において、(a)、(b)及び(c)のうちの1つ以上はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0049】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0050】
一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0051】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは細胞への提供前にgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0052】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された後に細胞に提供される。
【0053】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された約1〜14日後に細胞に提供される。
【0054】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される。
【0055】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される。
【0056】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される。
【0057】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される。
【0058】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は細胞のゲノム配列に挿入される。
【0059】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子又はアルブミン遺伝子調節エレメントにあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0060】
一部の実施形態において、挿入は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにある。
【0061】
一部の実施形態において、挿入は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端から少なくとも37bp下流且つゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端から少なくとも330bp上流である。
【0062】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0063】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0064】
別の態様において、本明細書には、上記に記載される方法のいずれかによって細胞のゲノムが編集されている遺伝子修飾細胞が提供される。
【0065】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は細胞のゲノム配列に挿入される。
【0066】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子又はアルブミン遺伝子調節エレメントにあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0067】
一部の実施形態において、挿入は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにある。
【0068】
一部の実施形態において、挿入は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端から少なくとも37bp下流且つゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端から少なくとも330bp上流である。
【0069】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0070】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列はコドン最適化される。
【0071】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0072】
別の態様において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供され、この方法は、対象の細胞に以下:(a)配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型を提供することを含む。
【0073】
一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0074】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である。
【0075】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aのリスクがあると診断される。
【0076】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される。
【0077】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0078】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、細胞での発現にコドン最適化される。
【0079】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、細胞での発現にコドン最適化される。
【0080】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0081】
一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)である。一部の実施形態において、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAはmRNAである。
【0082】
一部の実施形態において、(a)のgRNA、(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、及び(c)のドナー鋳型のうちの1つ以上はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0083】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0084】
一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノム内のgRNA標的部位の逆相補体である。
【0085】
一部の実施形態において、ドナー鋳型を細胞に提供することは、ドナー鋳型を対象に投与することを含む。一部の実施形態において、投与は静脈内経路による。
【0086】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0087】
一部の実施形態において、gRNA及びDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に提供することは、リポソーム又は脂質ナノ粒子を対象に投与することを含む。一部の実施形態において、投与は静脈内経路による。
【0088】
一部の実施形態において、本方法は、gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するDNAエンドヌクレアーゼを細胞に提供することを含む。
【0089】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される。
【0090】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される。
【0091】
一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に提供することは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を対象に投与することを含む。
【0092】
一部の実施形態において、(c)のドナー鋳型を細胞に提供することは、AAVベクターにコードされたドナー鋳型を対象に投与することを含む。
【0093】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0094】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0095】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は対象の肝臓で発現する。
【0096】
別の態様において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供される。本方法は、上述の遺伝子修飾細胞のいずれかを対象に投与することを含む。
【0097】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である。
【0098】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aのリスクがあると診断される。
【0099】
一部の実施形態において、遺伝子修飾細胞は自己性である。
【0100】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0101】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は細胞のゲノム配列に挿入される。
【0102】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子又はアルブミン遺伝子調節エレメントにあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0103】
一部の実施形態において、挿入は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにある。
【0104】
一部の実施形態において、挿入は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端から少なくとも37bp下流且つゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端から少なくとも330bp上流である。
【0105】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0106】
一部の実施形態において、本方法は、対象から生体試料を採取することであって、生体試料がヘパトサイト細胞を含むこと、及び第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を細胞のゲノム配列に挿入することによりヘパトサイト細胞のゲノムを編集することであって、それにより遺伝子修飾細胞を作製することを更に含む。
【0107】
別の態様において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供される。本方法は、対象から生体試料を採取することであって、生体試料がヘパトサイト細胞を含むこと、ヘパトサイト細胞に以下:(a)上記に記載されるgRNAのいずれか;(b)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を有するドナー鋳型を提供することであって、それにより遺伝子修飾細胞を作製すること、及び遺伝子修飾細胞を対象に投与することを含む。
【0108】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である。
【0109】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aのリスクがあると診断される。
【0110】
一部の実施形態において、遺伝子修飾細胞は自己性である。
【0111】
一部の実施形態において、gRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも85%の相同性を有するその変異体から選択される配列を含む。
【0112】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。
【0113】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0114】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はコドン最適化される。
【0115】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列はコドン最適化される。
【0116】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)配列である。
【0117】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)配列である。
【0118】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNA配列は、共有結合でgRNAに連結される。
【0119】
一部の実施形態において、(a)、(b)及び(c)のうちの1つ以上はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0120】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0121】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0122】
一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0123】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは細胞への提供前にgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0124】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された後に細胞に提供される。
【0125】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された約1〜14日後に細胞に提供される。
【0126】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は細胞のゲノム配列に挿入される。
【0127】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子又はアルブミン遺伝子調節エレメントにあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0128】
一部の実施形態において、挿入は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにある。
【0129】
一部の実施形態において、挿入は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端から少なくとも37bp下流且つゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端から少なくとも330bp上流である。
【0130】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0131】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0132】
別の態様において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供される。本方法は、対象の細胞に以下:(a)上記に記載されるgRNAのいずれか;(b)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を有するドナー鋳型を提供することを含む。
【0133】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である。
【0134】
一部の実施形態において、対象は、血友病Aのリスクがあると診断される。
【0135】
一部の実施形態において、gRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも85%の相同性を有するその変異体から選択される配列を含む。
【0136】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される。
【0137】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0138】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はコドン最適化される。
【0139】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列はコドン最適化される。
【0140】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はデオキシリボ核酸(DNA)配列である。
【0141】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリボ核酸(RNA)配列である。
【0142】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNA配列は、共有結合でgRNAに連結される。
【0143】
一部の実施形態において、(a)、(b)及び(c)のうちの1つ以上はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0144】
一部の実施形態において、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。
【0145】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。
【0146】
一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。
【0147】
一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは細胞への提供前にgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0148】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された後に細胞に提供される。
【0149】
一部の実施形態において、(a)及び(b)は、(c)が細胞に提供された約1〜14日後に細胞に提供される。
【0150】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は細胞のゲノム配列に挿入される。
【0151】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子又はアルブミン遺伝子調節エレメントにあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0152】
一部の実施形態において、挿入は、細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子の第1イントロンにある。
【0153】
一部の実施形態において、挿入は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端から少なくとも37bp下流且つゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端から少なくとも330bp上流である。
【0154】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0155】
一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0156】
一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は対象の肝臓で発現する。
【0157】
別の態様において、本明細書には、上記に記載されるシステムの1つ以上の要素を含み、且つ使用説明書を更に含むキットが提供される。
【0158】
本開示の原理が利用される例示的実施形態を示す以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することにより、本開示の特定の特徴及び利点の理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0159】
図1-1】様々にコドン最適化したFVIII−BDDコード配列の多重アラインメントを示す。成熟コード配列のみを示す(シグナルペプチド領域は欠失している)。ClustalWアルゴリズムを使用した。
図1-2】同上。
図1-3】同上。
図1-4】同上。
図1-5】同上。
図1-6】同上。
図1-7】同上。
図2】DNAドナー鋳型の非限定的な例示的設計を示す。
図3】Hepa1−6細胞におけるmAlb gRNA−T1の切断効率のTIDE分析の結果を示す。
図4】様々な用量のCas9 mRNA及びmAlb gRNA_T1を封入する脂質ナノ粒子(LNP)又はPBS対照の投与後3日におけるマウスの肝臓及び脾臓のインデル頻度の結果を示す。N=5匹のマウス/群、平均値をプロットする。
図5】実施例4に使用されるアルブミンイントロン1への標的組込み用のDNAドナー鋳型の設計を示す。SA;スプライスアクセプター配列、LHA;左相同性アーム;RHA;右相同性アーム、pA;ポリアデニル化シグナル、gRNA部位;gRNAによって標的化されるCas9ヌクレアーゼによる切断を媒介するgRNAにとっての標的部位、Δフューリン;FVIIIにおけるフューリン部位の欠失、FVIII−BDD;B−ドメインがSQ連結ペプチドに置き換わっているB−ドメイン欠失(BDD)を有するヒトFVIIIのコード配列。
図6】4人のドナーからの初代ヒトヘパトサイトにおけるヒトアルブミンイントロン1を標的とする8つの候補gRNAのインデル頻度を示す。AAVS1遺伝子座及び無関係のヒト遺伝子(C3)を標的とするgRNAを対照として含める。
図7-1】様々なアルブミンガイドRNA及びspCas9 mRNAをトランスフェクトした非ヒト霊長類(サル)初代ヘパトサイトにおけるインデル頻度を示す。
図7-2】同上。
図7-3】同上。
図8】例示的AAV−mSEAPドナーカセットの概略図を示す。
図9】AAVへのパッケージングに使用される例示的FVIIIドナーカセットの概略図を示す。
図10】AAV8−pCB056を注射し、続いてspCas9 mRNAとmAlbT1ガイドRNAとを封入するLNPを注射した後の経時的な血友病Aマウスの血中FVIIIレベルを示す。
図11】spCas9 mRNAとgRNAとを封入するLNPの注射後10日目及び17日目の血友病AマウスのFVIIIレベルを示す。LNPはAAV8−pCB056の17日後又は4日後のいずれかに投与した。
図12】ヒトFVIII遺伝子及び様々なポリアデニル化シグナル配列を含有する例示的プラスミドドナーの概略図を示す。
図13】3つの異なるポリAシグナルを有するプラスミドドナー、続いてCas9mRNAとmAlbT1 gRNAとを封入するLNPをハイドロダイナミックインジェクションした後のマウスにおけるFVIII活性及びFVIII活性/標的組込み比を示す。群2、3及び4には、それぞれpCB065、pCB076及びpCB077を投与した。表には、各個別のマウスの10日目のFVIII活性の値、標的組込み頻度及びFVIII活性/TI比(比)を載せる。
図14】初代ヒトヘパトサイトにおける標的組込みの判定に使用される例示的AAVドナーカセットの概略図を示す。
図15】spCas9 mRNA及びhALb4 gRNAのリポフェクション有り又は無しでAAV−DJ−SEAPウイルスによって形質導入した初代ヒトヘパトサイトの培地中におけるSEAP活性を示す。黒色及び白色のバーで示す2人の細胞ドナーを試験した(HJK、ONR)。左側の3対のバーは、Cas9及びgRNAのみ(1番目のバーの対)、100,000MOIのAAV−DJ−pCB0107(SEAPウイルス)単独(2番目のバーの対)又は100,000MOIのAAV−DJ−pCB0156(FVIIIウイルス)単独(3番目のバーの対)によってトランスフェクトした細胞の対照条件におけるSEAP活性を表す。右側の4対のバーは、様々なMOIのAAV−DJ−pCB0107(SEAPウイルス)によって形質導入し、且つCas9 mRNA及びhAlb T4 gRNAをトランスフェクトした細胞のウェル内でのSEAP活性を表す。
図16】spCas9 mRNA及びhALb4 gRNAのリポフェクション有り又は無しでAAV−DJ−FVIIIウイルスによって形質導入した初代ヒトヘパトサイトの培地中におけるFVIII活性を示す。黒色及び白色のバーで示す2つの細胞ドナーを試験した(HJK、ONR)。左側の2対のバーは、100,000MOIのAAV−DJ−pCB0107(SEAPウイルス)単独(1番目のバーの対)又は100,000MOIのAAV−DJ−pCB0156(FVIIIウイルス)単独(2番目のバーの対)によって形質導入した細胞の対照条件におけるFVIII活性を表す。右側の4対のバーは、様々なMOIのAAV−DJ−pCB0156(FVIIIウイルス)によって形質導入し、且つCas9 mRNA及びhAlb T4 gRNAをトランスフェクトした細胞のウェルからの培地中におけるFVIII活性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0160】
本開示は、とりわけ、細胞における第VIII因子(FVIII)などの血液凝固タンパク質の発現、機能又は活性をゲノム編集によって調節するための編集用組成物及び方法を提供する。本開示はまた、とりわけ、エキソビボ及びインビボの両方での血友病A患者の治療用組成物及び方法も提供する。
【0161】
定義
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、特許請求される主題が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。詳細な説明は例示的且つ説明的なものに過ぎず、特許請求される任意の主題を限定するものではないことが理解されるべきである。本願において、特に具体的に明記されない限り、単数形の使用は複数形を含む。本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。本願において、「又は」の使用は、特に明記しない限り「及び/又は」を意味する。更に、用語「〜を含んでいる(including)」並びに「〜を含む(include)」、「〜を含む(includes)」、及び「含まれる(included)」などの他の形の使用は限定的でない。
【0162】
本開示の様々な特徴が単一の実施形態に関連して説明され得るが、それらの特徴はまた、個別に、又は任意の好適な組み合わせで提供されてもよい。逆に、本開示は、明確にするため本明細書において個別の実施形態に関連して説明され得るが、本開示はまた、単一の実施形態で実現されてもよい。本明細書に引用される任意の公開特許出願並びに任意の他の既発表の参考文献、文書、論稿、及び科学文献は、あらゆる目的から参照により本明細書に援用される。矛盾が生じた場合、定義を含め、本明細書が優先するものとする。加えて、材料、方法、及び例は例示的なものに過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0163】
本明細書で使用されるとき、範囲及び量は、「約」特定の値又は範囲と表され得る。約にはまた、正確な量も含まれる。従って「約5μL」は、「約5μL」を意味し、且つ「5μL」もまた意味する。概して、用語「約」には、±10%など、実験誤差の範囲内であると予想され得る量が含まれる。
【0164】
本明細書において数値の範囲が提示されるとき、その範囲の下限と上限との間にある各中間値、その範囲の上限及び下限である値、及びその範囲に伴い明記されている全ての値が、本開示の範囲内に包含されることが企図される。範囲の下限及び上限の範囲内にある全ての可能な部分的範囲もまた本開示によって企図される。
【0165】
用語「ポリペプチド」、「ポリペプチド配列」、「ペプチド」、「ペプチド配列」、「タンパク質」、「タンパク質配列」及び「アミノ酸配列」は、本明細書では、アミノ酸残基がペプチド結合によって順につながった線状の連なりを指して同義的に使用され、この連なりには、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、及びその断片が含まれ得る。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸及び/又は合成の(例えば、修飾された又は天然に存在しない)アミノ酸で構成されていてもよい。従って「アミノ酸」、又は「ペプチド残基」は、本明細書で使用されるとき、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸の両方を意味する。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」には、限定はされないが、異種アミノ酸配列との融合タンパク質、異種及び同種リーダー配列との融合体であって、N末端メチオニン残基を有する又は有しないもの;免疫学的タグが付加されたタンパク質;検出可能な融合パートナーとの融合タンパク質、例えば、蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどを融合パートナーとして含む融合タンパク質を含め、融合タンパク質が含まれる。更に、アミノ酸配列の始まり又は終わりにあるダッシュ記号は、1つ以上のアミノ酸残基の更なる配列とのペプチド結合又はカルボキシル若しくはヒドロキシル末端基との共有結合のいずれかを示すことに留意しなければならない。しかしながら、ダッシュ記号がなくても、アミノ酸配列の表記においてそのように省略することは慣習的であるため、それがかかるペプチド結合又はカルボキシル若しくはヒドロキシル末端基との共有結合が存在しないことを意味すると解釈されてはならない。
【0166】
本明細書で同義的に使用される用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「オリゴヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド配列」、「オリゴマー」、「オリゴ」、「核酸配列」又は「ヌクレオチド配列」は、ポリマー形態の任意の長さのヌクレオチド、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかを指す。従って、この用語には、限定はされないが、一本鎖、二本鎖、又は多重鎖DNA又はRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA−RNAハイブリッド、又はプリン及びピリミジン塩基を有するポリマー又は他の天然の、化学的若しくは生化学的に修飾された、非天然の、又は誘導体化されたヌクレオチド塩基が含まれる。
【0167】
用語「誘導体」及び「変異体」は、限定なしに、本明細書に開示される化合物から誘導された構造又は配列を有する、且つその構造又は配列が本明細書に開示されるものと十分に類似していて、それが同じ又は類似の活性及び有用性を有するか、又はかかる類似性に基づけば、言及される化合物と同じ又は類似の活性及び有用性を呈することが当業者によって予想されるであろうような、従って同義的に「機能的に同等な」又は「機能的同等物」とも称される核酸又はタンパク質などの任意の化合物を指す。「誘導体」又は「変異体」を得るための修飾には、例えば、核酸又はアミノ酸残基の1つ以上の付加、欠失及び/又は置換が含まれ得る。
【0168】
機能的同等物又は機能的同等物の断片は、タンパク質の文脈では、1つ以上の保存的アミノ酸置換を有し得る。用語「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸からその元のアミノ酸と類似の特性を有する別のアミノ酸への置換を指す。保存的アミノ酸のグループは以下のとおりである:
【0169】
【表1】
【0170】
保存的置換は、好ましい所定のペプチド又はその断片のいずれの位置に導入されてもよい。しかしながら、非保存的置換、特に、限定はされないが、任意の1つ以上の位置に非保存的置換を導入することがまた望ましいこともある。ペプチドの機能的に同等な断片の形成につながる非保存的置換は、誘導体又は変異体断片の機能は維持しながらも、例えば、極性、電荷、及び/又は立体容積が実質的に異なり得る。
【0171】
「配列同一性パーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントされた配列を比較ウィンドウにわたって比較することにより決定され、ここで比較ウィンドウ内にあるポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の部分には、参照配列(これは付加又は欠失を有しない)と比較して2つの配列を最適にアラインメントするための付加又は欠失(即ち、ギャップ)があり得る。場合によっては、パーセンテージは、両方の配列に同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が現れる位置の数を決定してマッチした位置の数を求め、そのマッチした位置の数を比較ウィンドウ内にある位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性パーセンテージを求めることにより計算してもよい。
【0172】
用語「同一」又はパーセント「同一性」は、2つ以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈では、比較ウィンドウ又は指定の領域にわたって最大限対応するように比較及びアラインメントしたとき、以下の配列比較アルゴリズムのうちの1つを用いて又は手動でのアラインメント及び目視検査によって測定すると同じである、又は特定の割合のアミノ酸残基又はヌクレオチドが同じである(例えば、特定の領域、例えばポリペプチド配列全体又はポリペプチドの個々のドメインにわたって60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%の同一性)2つ以上の配列又は部分配列を指す。このとき、かかる配列は「実質的に同一」と言われる。この定義はまた、供試配列の相補体も指す。
【0173】
本明細書で同義的に使用される用語「相補的」又は「実質的に相補的」は、核酸(例えばDNA又はRNA)が、別の核酸と配列特異的に逆平行で非共有結合する、即ちワトソン・クリック塩基対及び/又はG/U塩基対を形成する(即ち、核酸が相補核酸と特異的に結合する)ことを可能にするヌクレオチド配列を有することを意味する。当該技術分野において公知のとおり、標準的なワトソン・クリック型塩基対合には、アデニン(A)のチミジン(T)との対合、アデニン(A)のウラシル(U)との対合、及びグアニン(G)のシトシン(C)との対合が含まれる。
【0174】
特定のRNAを「コードする」DNA配列は、RNAに転写されるDNA核酸配列である。DNAポリヌクレオチドは、タンパク質に翻訳されるRNA(mRNA)をコードしてもよく、又はDNAポリヌクレオチドは、タンパク質に翻訳されないRNA(例えばtRNA、rRNA、又はガイドRNA;別名「非コード」RNA又は「ncRNA」)をコードしてもよい。「タンパク質コード配列又は特定のタンパク質若しくはポリペプチドをコードする配列は、インビトロ又はインビボで適切な調節配列の制御下に置かれたときmRNAに転写される(DNAの場合)、及びポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸配列である。
【0175】
本明細書で使用されるとき、「コドン」は、一体となってDNA又はRNA分子中の遺伝子コード単位を形成する3つのヌクレオチドの配列を指す。本明細書で使用されるとき、用語「コドン縮重」は、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響を及ぼすことなくヌクレオチド配列の変化を許容する遺伝子コードの性質を指す。
【0176】
用語「コドン最適化された」又は「コドン最適化」は、様々な宿主の形質転換用核酸分子の遺伝子又はコード領域を指し、DNAによってコードされるポリペプチドを変更することのない、宿主生物の典型的なコドン使用を反映するような核酸分子の遺伝子又はコード領域におけるコドンの変更を指す。かかる最適化には、少なくとも1つ、又は2つ以上、又は多数のコドンを、当該生物の遺伝子でより高頻度に使用される1つ以上のコドンに置き換えることが含まれる。コドン使用表が、例えば、www.kazusa.or.jp/codon/(2008年3月20日現在アクセス可能)で利用可能な「コドン使用データベース」において容易に利用可能である。各生物のコドン使用又はコドン選択に関する知識を利用することにより、当業者は、任意の所与のポリペプチド配列にその頻度を適用し、そのポリペプチドをコードするが、所与の種に最適なコドンを使用する、コドン最適化されたコード領域の核酸断片を作製することができる。コドン最適化コード領域は、当業者に公知の様々な方法によって設計することができる。
【0177】
用語「組換えの」又は「操作された」は、例えば、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターに関して使用されるとき、その細胞、核酸、タンパク質又はベクターが実験室的方法によって修飾されている又はその結果であることを示す。従って、例えば、組換えの又は操作されたタンパク質には、実験室的方法によって作製されたタンパク質が含まれる。組換えの又は操作されたタンパク質は、天然(非組換え又は野生型)形態のタンパク質の中には見られないアミノ酸残基を含んでもよく、又は修飾されている、例えば標識されているアミノ酸残基を含んでもよい。この用語には、ペプチド、タンパク質、又は核酸配列に対する任意の修飾が含まれ得る。かかる修飾には、以下:1つ以上のアミノ酸、デオキシリボヌクレオチド、又はリボヌクレオチドを含めた、ペプチド、タンパク質又は核酸配列の任意の化学修飾;ペプチド又はタンパク質中のアミノ酸のうちの1つ以上の付加、欠失、及び/又は置換;及び核酸配列中の核酸のうちの1つ以上の付加、欠失、及び/又は置換が含まれ得る。
【0178】
用語「ゲノムDNA」又は「ゲノム配列」は、限定はされないが、細菌、真菌、古細菌、植物又は動物のゲノムのDNAを含め、生物のゲノムのDNAを指す。
【0179】
本明細書で使用されるとき、「トランス遺伝子」、「外因性遺伝子」又は「外因性配列」は、核酸の文脈では、細胞のゲノムに存在しなかったが、例えばゲノム編集によってゲノムに人工的に導入された核酸配列又は遺伝子を指す。
【0180】
本明細書で使用されるとき、「内因性遺伝子」又は「内在性配列」は、核酸の文脈では、任意の人工的手段によって導入されていない、細胞のゲノムに天然に存在する核酸配列又は遺伝子を指す。
【0181】
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、別のDNAセグメント、即ち「インサート」が取り付けられてもよい、細胞内でその取り付けられたセグメントの複製をもたらすようなプラスミド、ファージ、ウイルス、又はコスミドなどのレプリコンを意味する。
【0182】
用語「発現カセット」は、プロモーターに作動可能に連結されたDNAコード配列を有するベクターを指す。「作動可能に連結された」は、そのように記載される構成要素が、それらのその意図された形での働きを可能にする関係にあるようにして並べて置かれていることを指す。例えば、プロモーターは、そのプロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されている。用語「組換え発現ベクター」、又は「DNAコンストラクト」は、本明細書では、ベクター及び少なくとも1つのインサートを有するDNA分子を指して同義的に使用される。組換え発現ベクターは、通常、インサートを発現及び/又は増殖させる目的のため、又は他の組換えヌクレオチド配列の構築のために作成される。1つ又は複数の核酸は、プロモーター配列に作動可能に連結されても、又は連結されなくてもよく、及びDNA調節配列に作動可能に連結されても、又は連結されなくてもよい。
【0183】
用語「作動可能に連結された」は、目的のヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現を可能にする方法で1つ又は複数の調節配列に連結されていることを意味する。用語「調節配列」には、例えば、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)が含まれることが意図される。かかる調節配列は当該技術分野において周知であり、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。調節配列には、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を導くもの、及び特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を導くもの(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。当業者によれば、発現ベクターの設計が、標的細胞、所望の発現レベルなどの要因に依存し得ることが理解されるであろう。
【0184】
細胞は、外因性DNA、例えば組換え発現ベクターが細胞内部に導入されているとき、かかるDNAによって「遺伝子修飾されている」又は「形質転換されている」又は「トランスフェクトされている」。外因性DNAの存在は、永久的な又は一過性の遺伝子変化をもたらす。形質転換用DNAは、細胞のゲノムへの組込み(共有結合的連結)があっても、又はなくてもよい。治療活性、例えば血友病Aを治療する治療活性を有する遺伝子修飾された(又は形質転換若しくはトランスフェクトされた)細胞を使用することができ、これは治療用細胞と称される。
【0185】
ペプチド断片などの分子の文脈で使用される用語「濃度」は、所与の容積の溶液中に存在する分子の量、例えば分子のモル数を指す。
【0186】
用語「個体」、「対象」及び「宿主」は、本明細書では同義的に使用され、診断、治療又は療法が望ましい任意の対象を指す。一部の態様において、対象は哺乳類である。一部の態様において、対象はヒトである。一部の態様において、対象はヒト患者である。一部の態様において、対象は血友病Aを有するか、又はそれを有する疑いがあり、及び/又は血友病Aの1つ以上の症状を有し得る。一部の態様において、対象は、診断時又は後に血友病Aのリスクがあると診断されるヒトである。場合によっては、血友病Aのリスクがあるとの診断は、ゲノム中の内因性第VIII因子(FVIII)遺伝子内又は第VIII因子(FVIII)遺伝子の近傍にあるゲノム配列内の、FVIII遺伝子の発現に影響を及ぼし得る1つ以上の突然変異の存在に基づき決定することができる。
【0187】
疾患又は病態を指して使用される用語「治療」は、少なくとも個体が罹患する病態に関連する症状の改善が実現することを意味し、ここで改善は、治療下の病態(例えば、血友病A)に関連するパラメータ、例えば症状の重さの低減を少なくとも指して広義で使用される。このように、治療はまた、病的状態、又は少なくともそれに関連する症状が完全に抑制されている、例えば、起こらないように予防され、又は全て取り除かれているため、宿主がもはやその病態、又は少なくともその病態を特徴付ける症状を患っていない状況も含む。従って、治療には、(i)予防、即ち、臨床症状を発症させないことを含め、臨床症状の発症リスクを低減すること、例えば疾患進行を予防すること;(ii)抑制、即ち、臨床症状の発症又は更なる発症を止めること、例えば、活動性疾患を緩和する又は完全に抑制することが含まれる。
【0188】
用語「有効量」、「薬学的に有効な量」、又は「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、特定の病態を有する対象への投与時に所望の有用性をもたらすのに十分な量の組成物を意味する。血友病Aのエキソビボ治療の文脈では、用語「有効量」は、血友病Aの少なくとも1つ又は複数の徴候又は症状を予防又は軽減するために必要な治療用細胞又はその子孫の集団の量を指し、及び治療用細胞又はその子孫を有する組成物が所望の効果をもたらす、例えば対象の血友病Aの症状を治療するのに十分な量に関する。従って用語「治療有効量」は、血友病Aを有する又はそのリスクがある者など、治療を必要としている対象への投与時に特定の効果を促進するのに十分な治療用細胞又は治療用細胞を有する組成物の量を指す。有効量にはまた、疾患の症状の発症を予防し又は遅延させ、疾患の症状の経過を変化させ(例えば限定はされないが、疾患の症状の進行を減速させ)、又は疾患の症状を好転させるのに十分な量も含まれ得る。対象(例えば患者)の血友病Aのインビボ治療又はインビトロで培養される細胞で行われるゲノム編集の文脈では、有効量は、gRNA、ドナー鋳型及び/又は部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)など、ゲノム編集に使用される成分が対象の細胞又はインビトロで培養される細胞のゲノムを編集するのに必要な量を指す。いずれの場合にも、適切な「有効量」は当業者がルーチンの実験を用いて決定し得ることが理解される。
【0189】
用語「薬学的に許容可能な賦形剤」は、本明細書で使用されるとき、対象への1つ又は複数の目的の化合物の投与のために薬学的に許容可能な担体、添加剤又は希釈剤を提供する任意の好適な物質を指す。「薬学的に許容可能な賦形剤」は、薬学的に許容可能な希釈剤、薬学的に許容可能な添加剤、及び薬学的に許容可能な担体と称される物質を包含し得る。
【0190】
核酸
ゲノムターゲティング核酸又はガイドRNA
本開示は、関連するポリペプチド(例えば、部位特異的ポリペプチド又はDNAエンドヌクレアーゼ)の活性を標的核酸内の特定の標的配列に導くことのできるゲノムターゲティング核酸を提供する。一部の実施形態において、ゲノムターゲティング核酸はRNAである。ゲノムターゲティングRNAは、本明細書では「ガイドRNA」又は「gRNA」と称される。ガイドRNAは、少なくとも、目的の標的核酸配列にハイブリダイズするスペーサー配列と、CRISPRリピート配列とを有する。II型システムでは、gRNAはまた、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAも有する。II型ガイドRNA(gRNA)では、CRISPRリピート配列とtracrRNA配列とが互いにハイブリダイズして二重鎖を形成する。V型ガイドRNA(gRNA)では、crRNAが二重鎖を形成する。両方のシステムとも、二重鎖が部位特異的ポリペプチドに結合して、ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドとが複合体を形成することになる。ゲノムターゲティング核酸は、部位特異的ポリペプチドとのその会合のおかげでこの複合体に標的特異性を付与する。このようにしてゲノムターゲティング核酸は、部位特異的ポリペプチドの活性を導く。
【0191】
一部の実施形態において、ゲノムターゲティング核酸は二分子ガイドRNAである。一部の実施形態において、ゲノムターゲティング核酸は単一分子ガイドRNAである。二分子ガイドRNAは2本のRNA鎖を有する。第1の鎖は、5’から3’方向に、任意選択のスペーサー伸長配列、スペーサー配列及び最小CRISPRリピート配列を有する。第2の鎖は、最小tracrRNA配列(最小CRISPRリピート配列と相補的)、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA伸長配列を有する。II型システムの単一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’方向に、任意選択のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、最小CRISPRリピート配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA伸長配列を有する。任意選択のtracrRNA伸長部は、ガイドRNAに追加的な機能性(例えば安定性)を与えるエレメントを有し得る。単一分子ガイドリンカーは最小CRISPRリピート及び最小tracrRNA配列を連結してヘアピン構造を形成する。任意選択のtracrRNA伸長部は1つ以上のヘアピンを有する。V型システムの単一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’方向に、最小CRISPRリピート配列及びスペーサー配列を有する。
【0192】
例示として、CRISPR/Cas/Cpf1システムで使用されるガイドRNA、又は他の小型RNAは、以下に例示され及び当該技術分野において記載されるとおりの化学的手段によって容易に合成することができる。化学合成手順は絶えず拡大しているが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、これはPAGEなどのゲルの使用を回避する)などの手順によるかかるRNAの精製は、ポリヌクレオチド長さが増して100ヌクレオチドほどを大きく超えるようになると、一層難題となる傾向がある。長い大型RNAの作成に用いられる一つの手法は、一体にライゲートされている2つ以上の分子を作製することである。Cas9又はCpf1エンドヌクレアーゼをコードするものなど、はるかに長いRNAは、より容易には酵素的に作成される。RNAの化学合成及び/又は酵素的作成の最中又はその後に、各種のRNA修飾、例えば、安定性を亢進させ、自然免疫応答の可能性又は程度を低減し、及び/又は当該技術分野において記載されるとおりの他の属性を亢進させる修飾を導入することができる。
【0193】
スペーサー伸長配列
ゲノムターゲティング核酸の一部の実施形態において、スペーサー伸長配列は、活性を修飾し、安定性を付与し、及び/又はゲノムターゲティング核酸の修飾のための場所を提供することができる。スペーサー伸長配列は、オンターゲット若しくはオフターゲット活性又は特異性を修飾することができる。一部の実施形態では、スペーサー伸長配列は提供される。スペーサー伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、1000、2000、3000、4000、5000、6000、又は7000ヌクレオチド又はそれ以上を超える長さであり得る。スペーサー伸長配列は、約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、1000、2000、3000、4000、5000、6000、又は7000ヌクレオチド又はそれ以上の長さであり得る。スペーサー伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000ヌクレオチド又はそれ以上に満たない長さであり得る。一部の実施形態において、スペーサー伸長配列は10ヌクレオチド長未満である。一部の実施形態において、スペーサー伸長配列は10〜30ヌクレオチド長である。一部の実施形態において、スペーサー伸長配列は30〜70ヌクレオチド長である。
【0194】
一部の実施形態において、スペーサー伸長配列は、別の部分(例えば、安定性制御配列、エンドリボヌクレアーゼ結合配列、リボザイム)を有する。一部の実施形態において、部分は核酸ターゲティング核酸の安定性を低下又は増加させる。一部の実施形態において、部分は転写ターミネーターセグメント(即ち転写終結配列)である。一部の実施形態において、部分は真核細胞で機能する。一部の実施形態において、部分は原核細胞で機能する。一部の実施形態において、部分は真核細胞及び原核細胞の両方で機能する。好適な部分の非限定的な例としては、5’キャップ(例えば、7−メチルグアニレートキャップ(m7G))、リボスイッチ配列(例えば、安定性の調節及び/又はタンパク質及びタンパク質複合体による接近し易さの調節を可能にするため)、dsRNA二重鎖(即ちヘアピン)を形成する配列、RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化させる配列、追跡を提供する修飾又は配列(例えば、蛍光分子への直接的なコンジュゲーション、蛍光検出を促進する部分へのコンジュゲーション、蛍光検出を可能にする配列等)、及び/又はタンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含めた、DNAに作用するタンパク質)が結合する部位を提供する修飾又は配列が挙げられる。
【0195】
スペーサー配列
スペーサー配列は目的の標的核酸中の配列にハイブリダイズする。ゲノムターゲティング核酸のスペーサーは、ハイブリダイゼーション(即ち、塩基対合)によって標的核酸と配列特異的に相互作用する。従ってスペーサーのヌクレオチド配列は、目的の標的核酸の配列に応じて変わる。
【0196】
本明細書のCRISPR/Casシステムでは、スペーサー配列は、そのシステムに使用されるCas9酵素のPAMの5’側に位置する標的核酸にハイブリダイズするように設計される。スペーサーは標的配列と完全に一致してもよく、又はミスマッチを有してもよい。各Cas9酵素が、標的DNA内でそれが認識する特定のPAM配列を有する。例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)は、標的核酸内で、配列5’−NRG−3’(式中、RはA又はGのいずれかを有し、式中、Nは任意のヌクレオチドであり、及びNは、スペーサー配列が標的とする標的核酸配列のすぐ3’側にある)を有するPAMを認識する。
【0197】
一部の実施形態において、標的核酸配列は20ヌクレオチドである。一部の実施形態において、標的核酸は20ヌクレオチド未満である。一部の実施形態において、標的核酸は20ヌクレオチド超である。一部の実施形態において、標的核酸は少なくとも:5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、標的核酸は多くても:5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、標的核酸配列はPAMの1番目のヌクレオチドのすぐ5’側の20塩基である。例えば、
【化1】
を有する配列において、標的核酸は、Nに対応する配列を有する[式中、Nは任意のヌクレオチドであり、及び下線のNRG配列(RはG又はAである)は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9 PAMである]。一部の実施形態では、本開示の組成物及び方法においてS.p.Cas9によって認識される配列として使用されるPAM配列は、NGGである。
【0198】
一部の実施形態において、標的核酸にハイブリダイズするスペーサー配列は、少なくとも約6ヌクレオチド(nt)の長さを有する。スペーサー配列は、少なくとも約6nt、約10nt、約15nt、約18nt、約19nt、約20nt、約25nt、約30nt、約35nt又は約40nt、約6nt〜約80nt、約6nt〜約50nt、約6nt〜約45nt、約6nt〜約40nt、約6nt〜約35nt、約6nt〜約30nt、約6nt〜約25nt、約6nt〜約20nt、約6nt〜約19nt、約10nt〜約50nt、約10nt〜約45nt、約10nt〜約40nt、約10nt〜約35nt、約10nt〜約30nt、約10nt〜約25nt、約10nt〜約20nt、約10nt〜約19nt、約19nt〜約25nt、約19nt〜約30nt、約19nt〜約35nt、約19nt〜約40nt、約19nt〜約45nt、約19nt〜約50nt、約19nt〜約60nt、約20nt〜約25nt、約20nt〜約30nt、約20nt〜約35nt、約20nt〜約40nt、約20nt〜約45nt、約20nt〜約50nt、又は約20nt〜約60ntであってもよい。一部の実施形態において、スペーサー配列は20ヌクレオチドである。一部の実施形態において、スペーサーは19ヌクレオチドである。一部の実施形態において、スペーサーは18ヌクレオチドである。一部の実施形態において、スペーサーは17ヌクレオチドである。一部の実施形態において、スペーサーは16ヌクレオチドである。一部の実施形態において、スペーサーは15ヌクレオチドである。
【0199】
一部の実施形態において、スペーサー配列と標的核酸との間のパーセント相補性は、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%である。一部の実施形態において、スペーサー配列と標的核酸との間のパーセント相補性は、多くても約30%、多くても約40%、多くても約50%、多くても約60%、多くても約65%、多くても約70%、多くても約75%、多くても約80%、多くても約85%、多くても約90%、多くても約95%、多くても約97%、多くても約98%、多くても約99%、又は100%である。一部の実施形態において、スペーサー配列と標的核酸との間のパーセント相補性は、標的核酸の相補鎖の標的配列の最も5’側の6連続ヌクレオチドにわたって100%である。一部の実施形態において、スペーサー配列と標的核酸との間のパーセント相補性は、約20連続ヌクレオチドにわたって少なくとも60%である。一部の実施形態において、スペーサー配列及び標的核酸の長さは1〜6ヌクレオチドだけ異なってもよく、これは1つ又は複数のバルジと考えることができる。
【0200】
一部の実施形態において、スペーサー配列はコンピュータプログラムを用いて設計又は選択される。コンピュータプログラムは、予測融解温度、二次構造形成、予測アニーリング温度、配列同一性、ゲノムコンテクスト、クロマチンへの接近し易さ、%GC、ゲノム発生頻度(例えば、同一の配列、又は同様であるが、ミスマッチ、挿入又は欠失の結果として1つ以上のスポットが異なる配列のゲノム発生頻度)、メチル化状態、SNPの存在などの変数を用いることができる。
【0201】
最小CRISPRリピート配列
一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列は、参照CRISPRリピート配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のcrRNA)と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の配列同一性を有する配列である。
【0202】
一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列は、細胞において最小tracrRNA配列にハイブリダイズすることのできるヌクレオチドを有する。最小CRISPRリピート配列と最小tracrRNA配列とは、二重鎖、即ち塩基対合した二本鎖構造を形成する。一体となって、最小CRISPRリピート配列及び最小tracrRNA配列は部位特異的ポリペプチドに結合する。最小CRISPRリピート配列の少なくとも一部が最小tracrRNA配列にハイブリダイズする。一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列の少なくとも一部は最小tracrRNA配列と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の相補性を有する。一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列の少なくとも一部は最小tracrRNA配列と多くても約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の相補性を有する。
【0203】
最小CRISPRリピート配列は約7ヌクレオチド〜約100ヌクレオチドの長さを有することができる。例えば、最小CRISPRリピート配列の長さは、約7ヌクレオチド(nt)〜約50nt、約7nt〜約40nt、約7nt〜約30nt、約7nt〜約25nt、約7nt〜約20nt、約7nt〜約15nt、約8nt〜約40nt、約8nt〜約30nt、約8nt〜約25nt、約8nt〜約20nt、約8nt〜約15nt、約15nt〜約100nt、約15nt〜約80nt、約15nt〜約50nt、約15nt〜約40nt、約15nt〜約30nt、又は約15nt〜約25ntである。一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列は約9ヌクレオチド長である。一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列は約12ヌクレオチド長である。
【0204】
一部の実施形態において、最小CRISPRリピート配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照最小CRISPRリピート配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来の野生型crRNA)と少なくとも約60%同一である。例えば、最小CRISPRリピート配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照最小CRISPRリピート配列と少なくとも約65%同一、少なくとも約70%同一、少なくとも約75%同一、少なくとも約80%同一、少なくとも約85%同一、少なくとも約90%同一、少なくとも約95%同一、少なくとも約98%同一、少なくとも約99%同一又は100%同一である。
【0205】
最小tracrRNA配列
一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は、参照tracrRNA配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来の野生型tracrRNA)と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の配列同一性を有する配列である。
【0206】
一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は、細胞において最小CRISPRリピート配列にハイブリダイズするヌクレオチドを有する。最小tracrRNA配列と最小CRISPRリピート配列とは、二重鎖、即ち塩基対合した二本鎖構造を形成する。一体となって、最小tracrRNA配列及び最小CRISPRリピートは部位特異的ポリペプチドに結合する。最小tracrRNA配列の少なくとも一部が最小CRISPRリピート配列にハイブリダイズすることができる。一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は最小CRISPRリピート配列と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%相補的である。
【0207】
最小tracrRNA配列は約7ヌクレオチド〜約100ヌクレオチドの長さを有することができる。例えば、最小tracrRNA配列は、約7ヌクレオチド(nt)〜約50nt、約7nt〜約40nt、約7nt〜約30nt、約7nt〜約25nt、約7nt〜約20nt、約7nt〜約15nt、約8nt〜約40nt、約8nt〜約30nt、約8nt〜約25nt、約8nt〜約20nt、約8nt〜約15nt、約15nt〜約100nt、約15nt〜約80nt、約15nt〜約50nt、約15nt〜約40nt、約15nt〜約30nt又は約15nt〜約25nt長であってもよい。一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は約9ヌクレオチド長である。一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は約12ヌクレオチドである。一部の実施形態において、最小tracrRNAは、Jinek et al.Science、337(6096):816−821(2012)に記載されるtracrRNA nt23〜48からなる。
【0208】
一部の実施形態において、最小tracrRNA配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照最小tracrRNA(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来の野生型tracrRNA)配列と少なくとも約60%同一である。例えば、最小tracrRNA配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照最小tracrRNA配列と少なくとも約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、約95%同一、約98%同一、約99%同一又は100%同一である。
【0209】
一部の実施形態において、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は二重らせんを有する。一部の実施形態において、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10ヌクレオチド又はそれ以上である。
【0210】
一部の実施形態において、二重鎖はミスマッチを有する(即ち、二重鎖の2本の鎖が100%相補的でない)。一部の実施形態において、二重鎖は少なくとも約1、2、3、4、又は5又はミスマッチを有する。一部の実施形態において、二重鎖は多くても約1、2、3、4、又は5又はミスマッチを有する。一部の実施形態において、二重鎖は2個以下のミスマッチしか有しない。
【0211】
バルジ
一部の実施形態において、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖に「バルジ」がある。バルジは、二重鎖内で対合していないヌクレオチド領域である。一部の実施形態において、バルジは二重鎖による部位特異的ポリペプチドへの結合に寄与する。バルジは、二重鎖の片側に非対合5’−XXXY−3’を有し(式中、Xは任意のプリンであり、Yは、逆鎖上のヌクレオチドとゆらぎ塩基対を形成し得るヌクレオチドを有する)、二重鎖の他方の側に非対合ヌクレオチド領域を含む。二重鎖の両側にある非対合ヌクレオチドの数は異なり得る。
【0212】
一例において、バルジは、バルジの最小CRISPRリピート鎖上に非対合プリン(例えばアデニン)を有する。一部の実施形態において、バルジは、バルジの最小tracrRNA配列鎖の非対合5’−AAGY−3’を有する(式中、Yは、最小CRISPRリピート鎖上のヌクレオチドとゆらぎ対合を形成し得るヌクレオチドを有する)。
【0213】
一部の実施形態において、二重鎖の最小CRISPRリピート側のバルジは、少なくとも1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の非対合ヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、二重鎖の最小CRISPRリピート側のバルジは、多くても1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の非対合ヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、二重鎖の最小CRISPRリピート側のバルジは1個の非対合ヌクレオチドを有する。
【0214】
一部の実施形態において、二重鎖の最小tracrRNA配列側のバルジは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個又はそれ以上の非対合ヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、二重鎖の最小tracrRNA配列側のバルジは、多くても1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個又はそれ以上の非対合ヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、二重鎖の第2の側(例えば、二重鎖の最小tracrRNA配列側)のバルジは4個の非対合ヌクレオチドを有する。
【0215】
一部の実施形態において、バルジは少なくとも1つのゆらぎ対合を有する。一部の実施形態において、バルジは多くても1つのゆらぎ対合を有する。一部の実施形態において、バルジは少なくとも1個のプリンヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、バルジは少なくとも3個のプリンヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、バルジ配列は少なくとも5個のプリンヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、バルジ配列は少なくとも1個のグアニンヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、バルジ配列は少なくとも1個のアデニンヌクレオチドを有する。
【0216】
ヘアピン
様々な実施形態において、3’tracrRNA配列における最小tracrRNAの3’側に1つ以上のヘアピンが位置する。
【0217】
一部の実施形態において、ヘアピンは、最小CRISPRリピートと最小tracrRNA配列との二重鎖における最後の対合ヌクレオチドから少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、又は20ヌクレオチド又はそれ以上3’側から始まる。一部の実施形態において、ヘアピンは、最小CRISPRリピートと最小tracrRNA配列との二重鎖における最後の対合ヌクレオチドの多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10ヌクレオチド又はそれ以上3’側から始まり得る。
【0218】
一部の実施形態において、ヘアピンは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、又は20連続ヌクレオチド又はそれ以上を有する。一部の実施形態において、ヘアピンは、多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15連続ヌクレオチド、又はそれ以上を有する。
【0219】
一部の実施形態において、ヘアピンはCCジヌクレオチド(即ち2連続シトシンヌクレオチド)を有する。
【0220】
一部の実施形態において、ヘアピンは、二重鎖化したヌクレオチド(例えば、一体にハイブリダイズした、ヘアピン内のヌクレオチド)を有する。例えば、ヘアピンは、3’tracrRNA配列のヘアピン二重鎖内のGGジヌクレオチドにハイブリダイズするCCジヌクレオチドを有する。
【0221】
ヘアピンのうちの1つ以上は、部位特異的ポリペプチドのガイドRNA相互作用領域と相互作用することができる。
【0222】
一部の実施形態では、2つ以上のヘアピンがあり、一部の実施形態では3つ以上のヘアピンがある。
【0223】
3’tracrRNA配列
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は、参照tracrRNA配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のtracrRNA)と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の配列同一性を有する配列を有する。
【0224】
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は約6ヌクレオチド〜約100ヌクレオチドの長さを有する。例えば、3’tracrRNA配列は、約6ヌクレオチド(nt)〜約50nt、約6nt〜約40nt、約6nt〜約30nt、約6nt〜約25nt、約6nt〜約20nt、約6nt〜約15nt、約8nt〜約40nt、約8nt〜約30nt、約8nt〜約25nt、約8nt〜約20nt、約8nt〜約15nt、約15nt〜約100nt、約15nt〜約80nt、約15nt〜約50nt、約15nt〜約40nt、約15nt〜約30nt、又は約15nt〜約25ntの長さを有することができる。一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は約14ヌクレオチドの長さを有する。
【0225】
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照3’tracrRNA配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来の野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも約60%同一である。例えば、3’tracrRNA配列は、少なくとも6、7、又は8連続ヌクレオチドのストレッチにわたって参照3’tracrRNA配列(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来の野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも約60%同一、約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、約95%同一、約98%同一、約99%同一、又は100%同一である。
【0226】
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は2つ以上の二重鎖化した領域(例えば、ヘアピン、ハイブリダイズした領域)を有する。一部の実施形態において、3’tracrRNA配列は2つの二重鎖化した領域を有する。
【0227】
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列はステムループ構造を有する。一部の実施形態において、3’tracrRNAにおけるステムループ構造は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、3’tracrRNAにおけるステムループ構造は、多くても1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、ステムループ構造は機能性部分を有する。例えば、ステムループ構造は、アプタマー、リボザイム、タンパク質相互作用ヘアピン、CRISPRアレイ、イントロン、又はエクソンを有し得る。一部の実施形態において、ステムループ構造は、少なくとも約1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の機能性部分を有する。一部の実施形態において、ステムループ構造は、多くても約1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の機能性部分を有する。
【0228】
一部の実施形態において、3’tracrRNA配列におけるヘアピンはP−ドメインを有する。一部の実施形態において、P−ドメインはヘアピンにおける二本鎖領域を有する。
【0229】
tracrRNA伸長配列
一部の実施形態において、tracrRNAのコンテクストが単一分子ガイドか、それとも二分子ガイドかに関わらず、tracrRNA伸長配列が提供されてもよい。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は約1ヌクレオチド〜約400ヌクレオチドの長さを有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、又は400ヌクレオチド超の長さを有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は約20〜約5000ヌクレオチド又はそれ以上の長さを有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は1000ヌクレオチド超の長さを有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400ヌクレオチド又はそれ以上に満たない長さを有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は1000ヌクレオチド未満の長さを有することができる。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は10ヌクレオチド長未満を有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は10〜30ヌクレオチド長である。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は30〜70ヌクレオチド長である。
【0230】
一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は機能性部分(例えば、安定性制御配列、リボザイム、エンドリボヌクレアーゼ結合配列)を有する。一部の実施形態において、機能性部分は転写ターミネーターセグメント(即ち転写終結配列)を有する。一部の実施形態において、機能性部分は、約10ヌクレオチド(nt)〜約100ヌクレオチド、約10nt〜約20nt、約20nt〜約30nt、約30nt〜約40nt、約40nt〜約50nt、約50nt〜約60nt、約60nt〜約70nt、約70nt〜約80nt、約80nt〜約90nt、又は約90nt〜約100nt、約15nt〜約80nt、約15nt〜約50nt、約15nt〜約40nt、約15nt〜約30nt、又は約15nt〜約25ntの全長を有する。一部の実施形態において、機能性部分は真核細胞で機能する。一部の実施形態において、機能性部分は原核細胞で機能する。一部の実施形態において、機能性部分は真核細胞及び原核細胞の両方で機能する。
【0231】
好適なtracrRNA伸長機能性部分の非限定的な例としては、3’ポリアデニル化テール、リボスイッチ配列(例えば、安定性の調節及び/又はタンパク質及びタンパク質複合体による接近し易さの調節を可能にするため)、dsRNA二重鎖(即ちヘアピン)を形成する配列、RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化させる配列、追跡を提供する修飾又は配列(例えば、蛍光分子への直接的なコンジュゲーション、蛍光検出を促進する部分へのコンジュゲーション、蛍光検出を可能にする配列等)、及び/又はタンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含めた、DNAに作用するタンパク質)が結合する部位を提供する修飾又は配列が挙げられる。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列はプライマー結合部位又は分子インデックス(例えばバーコード配列)を有する。一部の実施形態において、tracrRNA伸長配列は1つ以上のアフィニティータグを有する。
【0232】
単一分子ガイドリンカー配列
一部の実施形態において、単一分子ガイド核酸のリンカー配列は約3ヌクレオチド〜約100ヌクレオチドの長さを有する。Jinek et al.、前掲では、例えば、単純な4ヌクレオチド「テトラループ」(−GAAA−)が使用された。Science,337(6096):816−821(2012)。例示的リンカーは、約3ヌクレオチド(nt)〜約90nt、約3nt〜約80nt、約3nt〜約70nt、約3nt〜約60nt、約3nt〜約50nt、約3nt〜約40nt、約3nt〜約30nt、約3nt〜約20nt、約3nt〜約10ntの長さを有する。例えば、リンカーは、約3nt〜約5nt、約5nt〜約10nt、約10nt〜約15nt、約15nt〜約20nt、約20nt〜約25nt、約25nt〜約30nt、約30nt〜約35nt、約35nt〜約40nt、約40nt〜約50nt、約50nt〜約60nt、約60nt〜約70nt、約70nt〜約80nt、約80nt〜約90nt、又は約90nt〜約100ntの長さを有することができる。一部の実施形態において、単一分子ガイド核酸のリンカーは4〜40ヌクレオチドである。一部の実施形態において、リンカーは、少なくとも約100、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、又は7000ヌクレオチド又はそれ以上である。一部の実施形態において、リンカーは、多くても約100、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、又は7000ヌクレオチド又はそれ以上である。
【0233】
リンカーは種々の配列の任意のものを有し得るが、一部の実施形態では、ガイドRNAの他の部分との相同性領域を広範囲に有する配列は、分子内結合を引き起こしてガイドの他の機能性領域に干渉し得る可能性があり、リンカーが有することはないであろう。Jineketal.、前掲では、単純な4ヌクレオチド配列−GAAA−が使用されたが、Science,337(6096):816−821(2012)、より長い配列を含め、数多くの他の配列を同様に使用することができる。
【0234】
一部の実施形態において、リンカー配列は機能性部分を有する。例えば、リンカー配列は、アプタマー、リボザイム、タンパク質相互作用ヘアピン、タンパク質結合部位、CRISPRアレイ、イントロン、又はエクソンを含め、1つ以上の特徴を有し得る。一部の実施形態において、リンカー配列は少なくとも約1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の機能性部分を有する。一部の実施形態において、リンカー配列は多くても約1、2、3、4、又は5個又はそれ以上の機能性部分を有する。
【0235】
一部の実施形態において、本開示においてgRNAが標的とするゲノム位置は、ゲノム、例えばヒトゲノムの内因性アルブミン遺伝子座にあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にあってもよい。かかる位置を標的とする例示的ガイドRNAは、表3又は表4に掲載されるスペーサー配列(例えば、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列)及び関連するCas9又はCpf1切断部位を含む。例えば、配列番号18からのスペーサー配列を含むgRNAは、スペーサー配列UAAUUUUCUUUUGCGCACUA(配列番号105)を含み得る。当業者は理解するとおり、各ガイドRNAが、そのゲノム標的配列と相補的なスペーサー配列を含むように設計される。例えば、表3又は表4に掲載されるスペーサー配列の各々が、単一のRNAキメラ又は(対応するtracrRNAと共に)crRNAに置かれてもよい。Jinek et al.,Science,337,816−821(2012)及びDeltcheva et al.,Nature,471,602−607(2011)を参照のこと。
【0236】
ドナーDNA又はドナー鋳型
DNAエンドヌクレアーゼなどの部位特異的ポリペプチドは、核酸、例えばゲノムDNAに二本鎖切断又は一本鎖切断を導入することができる。二本鎖切断は細胞の内因性DNA修復経路(例えば、相同性依存的修復又は非相同末端結合又は代替的非相同末端結合(A−NHEJ)又はマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を刺激することができる。NHEJは、相同性鋳型の必要性なく、切断された標的核酸を修復することができる。これは時に標的核酸の切断部位に小さい欠失又は挿入(インデル)を生じさせることがあり、遺伝子発現の破壊又は改変につながり得る。HDR(相同組換え(HR)としても知られる)は、相同性修復鋳型、又はドナーが利用可能な場合に起こり得る。
【0237】
相同ドナー鋳型は、標的核酸切断部位に隣接する配列に相同な配列を有する。概して姉妹染色分体が、細胞によって修復鋳型として使用される。しかしながら、ゲノム編集の目的上、修復鋳型は多くの場合に、プラスミド、二重鎖オリゴヌクレオチド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、又はウイルス核酸など、外因性核酸として供給される。外因性ドナー鋳型では、隣接相同性領域間に追加的な核酸配列(トランス遺伝子など)又は修飾(単一又は複数の塩基変化又は欠失など)を導入して、標的遺伝子座に追加的な又は改変された核酸配列もまた取り込まれるようにすることが一般的である。MMEJでは、切断部位に小さい欠失及び挿入が起こり得る点でNHEJと同様の遺伝的結果が生じる。MMEJでは、切断部位に隣接する数塩基対の相同配列を用いて有利な末端結合DNA修復結果がドライブされる。一部の例では、ヌクレアーゼ標的領域における潜在的なマイクロホモロジーの分析に基づき、起こり得る修復結果を予測することが可能であり得る。
【0238】
従って、一部の場合では、相同組換えを用いて標的核酸切断部位に外因性ポリヌクレオチド配列が挿入される。外因性ポリヌクレオチド配列は、本明細書ではドナーポリヌクレオチド(又はドナー又はドナー配列又はポリヌクレオチドドナー鋳型)と呼ばれる。一部の実施形態において、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部分、ドナーポリヌクレオチドのコピー、又はドナーポリヌクレオチドのコピーの一部分が標的核酸切断部位に挿入される。一部の実施形態において、ドナーポリヌクレオチドは外因性ポリヌクレオチド配列、即ち天然では標的核酸切断部位に存在しない配列である。
【0239】
二本鎖切断点が生じる細胞の核内に外因性DNA分子が十分な濃度で供給されると、その外因性DNAがNHEJ修復過程で二本鎖切断点に挿入され、ひいてはゲノムに永久的に加わるようになり得る。これらの外因性DNA分子は、一部の実施形態ではドナー鋳型と称される。ドナー鋳型が、FVIII遺伝子など、目的の遺伝子のコード配列を、任意選択でプロモーター、エンハンサー、ポリA配列及び/又はスプライスアクセプター配列などの関連性のある調節配列と共に含有する場合(本明細書では「ドナーカセット」とも称される)、その目的の遺伝子はゲノム中の組み込まれたコピーから発現することができ、細胞の寿命にわたって永久的に発現することになる。更に、ドナーDNA鋳型の組み込まれたコピーは細胞分裂時に娘細胞に遺伝し得る。
【0240】
二本鎖切断点の両側にあるDNA配列と相同性を有する隣接DNA配列(相同性アームと称される)を含有するドナーDNA鋳型の十分な濃度の存在下では、ドナーDNA鋳型はHDR経路によって組み込まれ得る。相同性アームがドナー鋳型と二本鎖切断点の両側の配列との間の相同組換えの基質として働く。この結果、ドナー鋳型の誤りのない挿入が起こることができ、ここでは二本鎖切断点の両側の配列は非修飾ゲノムのものと変化していない。
【0241】
HDRによる編集に供給されるドナーは著しく異なるが、概して意図された配列を、ゲノムDNAへのアニーリングを可能にする小さい又は大きい隣接相同性アームと共に含む。導入される遺伝子変化に隣接する相同性領域は、30bp以下であるか、又はプロモーター、cDNA等を含有し得る数キロベースにも上る大きいカセットであり得る。一本鎖及び二本鎖の両方のオリゴヌクレオチドドナーを使用することができる。これらのオリゴヌクレオチドはサイズが100nt未満〜数kbを上回るまでの範囲に及び、しかし更に長いssDNAもまた作成及び使用することができる。多くの場合に、PCRアンプリコン、プラスミド、及びミニサークルを含め、二本鎖ドナーが使用される。一般に、AAVベクターがドナー鋳型の極めて有効な送達手段であることが分かっているが、個々のドナーのパッケージング制限は<5kbである。ドナーの活性転写によりHDRが3倍に増加したことから、プロモーターを含めると変換が増加し得ることが指摘される。逆に、ドナーのCpGメチル化は遺伝子発現及びHDRを減少させ得る。
【0242】
一部の実施形態では、ドナーDNAは、ヌクレアーゼと共に、又は独立に、種々の異なる方法、例えばトランスフェクション、ナノ粒子、マイクロインジェクション、若しくはウイルス形質導入によって供給されてもよい。一部の実施形態ではHDRへのドナーの利用可能性を高めるため、様々なテザー係留オプションを用いることができる。例としては、ドナーをヌクレアーゼに取り付けること、近くに結合するDNA結合タンパク質に取り付けること、又はDNA末端結合若しくは修復に関与するタンパク質に取り付けることが挙げられる
【0243】
NHEJ又はHDRによるゲノム編集に加えて、NHEJ経路及びHRの両方を用いる部位特異的遺伝子挿入を行うことができる。恐らくはイントロン/エクソン境界を含むある種のセッティングにおいて、組み合わせ手法が適用可能であり得る。NHEJはイントロンにおけるライゲーションに効力を発揮し得る一方、誤りのないHDRはコード領域に一層適し得る。
【0244】
実施形態において、ゲノムへの挿入が意図される外因性配列は、第VIII因子(FVIII)遺伝子又はその機能性誘導体である。外因性遺伝子は、第VIII因子タンパク質又はその機能性誘導体をコードするヌクレオチド配列を含み得る。FVIII遺伝子の機能性誘導体は、野生型ヒトFVIIIタンパク質などの野生型FVIIIタンパク質の実質的な活性、例えば、野生型FVIIIタンパク質が呈する活性の少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%又は約100%を有するFVIIIタンパク質の機能性誘導体をコードする核酸配列を含み得る。一部の実施形態において、FVIIIタンパク質の機能性誘導体は、FVIIIタンパク質、例えば野生型FVIIIタンパク質と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%のアミノ酸配列同一性を有し得る。一部の実施形態において、当業者は、化合物、例えばペプチド又はタンパク質の機能又は活性を試験するために、当該技術分野で公知の幾つもの方法を用いることができる。FVIIIタンパク質の機能性誘導体にはまた、野生型FVIIIタンパク質の任意の断片又は完全長の野生型FVIIIタンパク質のアミノ酸残基のうちの1つ以上に保存的修飾を有する修飾FVIIIタンパク質の断片も含まれ得る。従って、一部の実施形態において、FVIII遺伝子の核酸配列の機能性誘導体は、FVIII遺伝子、例えば野生型FVIII遺伝子と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の核酸配列同一性を有し得る。
【0245】
第VIII因子(FVIII)遺伝子又はその機能性誘導体の挿入が関係する一部の実施形態において、欠陥FVIII遺伝子又はその調節配列を有する患者のゲノムに第VIII因子遺伝子又はその機能性誘導体のcDNAが挿入されてもよい。この場合、ドナーDNA又はドナー鋳型は、第VIII因子遺伝子又はその機能性誘導体をコードする配列、例えばcDNA配列を有する発現カセット又はベクターコンストラクトであってもよい。一部の実施形態において、発現ベクターが、本開示の他の部分に記載されるFVIII−BDDなどの修飾第VIII因子タンパク質をコードする配列を含有し、使用されてもよい。
【0246】
ドナーカセットを含む本明細書に記載されるドナー鋳型のいずれかに係る一部の実施形態において、ドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。例えば、かかるドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及び/又はドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含み得る。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含み、これらの2つのgRNA標的部位は同じ配列を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は少なくとも1つのgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中の少なくとも1つのgRNA標的部位は、ドナー鋳型のドナーカセットが組み込まれることになる標的遺伝子座のgRNA標的部位と同じ配列を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は少なくとも1つのgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中の少なくとも1つのgRNA標的部位は、ドナー鋳型のドナーカセットが組み込まれることになる標的遺伝子座のgRNA標的部位の逆相補体を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含み、ドナー鋳型中のこれらの2つのgRNA標的部位は、ドナー鋳型のドナーカセットが組み込まれることになる標的遺伝子座のgRNA標的部位と同じ配列を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、ドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位があるドナーカセットを含み、ドナー鋳型中のこれらの2つのgRNA標的部位は、ドナー鋳型のドナーカセットが組み込まれることになる標的遺伝子座のgRNA標的部位の逆相補体を含む。
【0247】
部位特異的ポリペプチド又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸
一部の実施形態において、従って本ゲノム編集方法及び組成物は、部位特異的ポリペプチド又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸配列(又はオリゴヌクレオチド)を使用し得る。部位特異的ポリペプチドをコードする核酸配列はDNA又はRNAであってよい。部位特異的ポリペプチドをコードする核酸配列がRNAである場合、それはgRNA配列に共有結合的に連結されてもよく、又は別個の配列として存在してもよい。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチド又はDNAエンドヌクレアーゼのペプチド配列が、その核酸配列の代わりに使用されてもよい。
【0248】
ベクター
別の態様において、本開示は、本開示のゲノムターゲティング核酸、本開示の部位特異的ポリペプチド、及び/又は本開示の方法の実施形態を実行するのに必要な任意の核酸又はタンパク質分子をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を提供する。一部の実施形態において、かかる核酸はベクター(例えば、組換え発現ベクター)である。
【0249】
企図される発現ベクターとしては、限定はされないが、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV40、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、レトロウイルス(例えば、マウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、及びレトロウイルスに由来するベクター、例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、及び乳癌ウイルスなど)をベースとするウイルスベクター及び他の組換えベクターが挙げられる。真核標的細胞に企図される他のベクターとしては、限定はされないが、ベクターpXT1、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVLSV40(Pharmacia)が挙げられる。真核標的細胞に企図される更なるベクターとしては、限定はされないが、ベクターpCTx−1、pCTx−2、及びpCTx−3が挙げられる。宿主細胞と適合性がある限り、他のベクターを使用することができる。
【0250】
一部の実施形態において、ベクターは1つ以上の転写及び/又は翻訳制御エレメントを有する。利用される宿主/ベクター系に応じて、幾つもの好適な転写及び翻訳制御エレメントの任意のものが、構成的及び誘導性プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーター等を含め、発現ベクターに用いられてもよい。一部の実施形態において、ベクターは、ウイルス配列又はCRISPR機構の成分のいずれか又は他のエレメントを不活性化する自己不活性化ベクターである。
【0251】
好適な真核生物プロモーター(即ち、真核細胞で機能性のプロモーター)の非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルス由来の長末端反復(LTR)、ヒト伸長因子−1プロモーター(EF1)、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーがニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)に融合したものを有するハイブリッドコンストラクト、マウス幹細胞ウイルスプロモーター(MSCV)、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1遺伝子座プロモーター(PGK)、及びマウスメタロチオネイン−Iからのものが挙げられる。
【0252】
Casエンドヌクレアーゼに関連して使用されるガイドRNAを含め、小さいRNAを発現させるためには、例えばU6及びH1を含め、RNAポリメラーゼIIIプロモーターなどの様々なプロモーターが有利であり得る。かかるプロモーターについての説明及びその使用を増強するためのパラメータは当該技術分野において公知であり、更なる情報及び手法が常時記載されている;例えば、Ma,H.et al.,Molecular Therapy−Nucleic Acids 3,e161(2014)doi:10.1038/mtna.2014.12を参照のこと。
【0253】
発現ベクターはまた、翻訳開始用のリボソーム結合部位及び転写ターミネーターも含むことができる。発現ベクターはまた、発現の増幅に適切な配列も含むことができる。発現ベクターはまた、部位特異的ポリペプチドに融合した非天然タグ(例えば、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニンタグ、緑色蛍光タンパク質等)をコードするヌクレオチド配列も含むことができ、ひいては融合タンパク質がもたらされ得る。
【0254】
一部の実施形態において、プロモーターは誘導性プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーター等)である。一部の実施形態において、プロモーターは構成的プロモーター(例えば、CMVプロモーター、UBCプロモーター)である。一部の実施形態において、プロモーターは空間的に制限された及び/又は時間的に制限されたプロモーター(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーター等)である。一部の実施形態において、ベクターは、宿主細胞で発現させようとする少なくとも1つの遺伝子について、その遺伝子がゲノムに組み込まれた後にゲノムに存在する内因性プロモーター下で発現することになる場合、そのためのプロモーターを有しない。
【0255】
部位特異的ポリペプチド又はDNAエンドヌクレアーゼ
NHEJ及び/又はHDRに起因する標的DNAの修飾は、例えば、突然変異、欠失、改変、組込み、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タグ付加、トランス遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、転座及び/又は遺伝子突然変異につながり得る。非天然核酸をゲノムDNAに組み込むプロセスは、ゲノム編集の一例である。
【0256】
部位特異的ポリペプチドは、ゲノム編集においてDNAの切断に使用されるヌクレアーゼである。部位特異的なもの(the site−directed)は、1つ以上のポリペプチド、又はポリペプチドをコードする1つ以上のmRNAのいずれかとして細胞又は患者に投与することができる。
【0257】
CRISPR/Cas又はCRISPR/Cpf1システムのコンテクストでは、部位特異的ポリペプチドはガイドRNAに結合することができ、次にはガイドRNAが、ポリペプチドの対象となる標的DNA中の部位を特定する。本明細書におけるCRISPR/Cas又はCRISPR/Cpf1システムの実施形態において、部位特異的ポリペプチドはDNAエンドヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼである。
【0258】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは複数の核酸切断(即ちヌクレアーゼ)ドメインを有する。2つ以上の核酸切断ドメインがリンカーによって一体に連結されてもよい。一部の実施形態において、リンカーは可動性リンカーを有する。リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40アミノ酸長又はそれ以上であってもよい。
【0259】
天然に存在する野生型Cas9酵素は2つのヌクレアーゼドメイン、HNHヌクレアーゼドメイン及びRuvCドメインを有する。本明細書では、「Cas9」は、天然に存在するCas9及び組換えCas9の両方を指す。本明細書で企図されるCas9酵素は、HNH又はHNH様ヌクレアーゼドメイン、及び/又はRuvC又はRuvC様ヌクレアーゼドメインを有する。
【0260】
HNH又はHNH様ドメインはMcrA様の折り畳みを有する。HNH又はHNH様ドメインは2つの逆平行βストランド及びαヘリックスを有する。HNH又はHNH様ドメインは金属結合部位(例えば二価カチオン結合部位)を有する。HNH又はHNH様ドメインは、標的核酸の一方の鎖(例えば、crRNAの標的となる鎖の相補鎖)を切断することができる。
【0261】
RuvC又はRuvC様ドメインはRNアーゼH又はRNアーゼH様の折り畳みを有する。RuvC/RNアーゼHドメインは、RNA及びDNAの両方への作用を含め、多様な一組の核酸ベースの機能に関与する。RNアーゼHドメインは、複数のαヘリックスに囲まれた5つのβストランドを有する。RuvC/RNアーゼH又はRuvC/RNアーゼH様ドメインは金属結合部位(例えば二価カチオン結合部位)を有する。RuvC/RNアーゼH又はRuvC/RNアーゼH様ドメインは、標的核酸の一方の鎖(例えば、二本鎖標的DNAの非相補鎖)を切断することができる。
【0262】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型例示的部位特異的ポリペプチド[例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、米国特許出願公開第2014/0068797号明細書の配列番号8又はSapranauskas et al.,Nucleic Acids Res,39(21):9275−9282(2011)]、及び様々な他の部位特異的ポリペプチドと少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する)。
【0263】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型例示的部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)のヌクレアーゼドメインと少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0264】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と10連続アミノ酸にわたって少なくとも70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と10連続アミノ酸にわたって多くても:70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と部位特異的ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメインにおける10連続アミノ酸にわたって少なくとも:70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と部位特異的ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメインにおける10連続アミノ酸にわたって多くても:70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と部位特異的ポリペプチドのRuvCヌクレアーゼドメインにおける10連続アミノ酸にわたって少なくとも:70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)と部位特異的ポリペプチドのRuvCヌクレアーゼドメインにおける10連続アミノ酸にわたって多くても:70、75、80、85、90、95、97、99、又は100%の同一性を有する。
【0265】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、修飾された形態の野生型例示的部位特異的ポリペプチドを有する。修飾された形態の野生型例示的部位特異的ポリペプチドは、部位特異的ポリペプチドの核酸切断活性を低下させる突然変異を有する。一部の実施形態において、修飾された形態の野生型例示的部位特異的ポリペプチドは、野生型例示的部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満の核酸切断活性を有する。修飾された形態の部位特異的ポリペプチドは実質的な核酸切断活性を有しなくてもよい。部位特異的ポリペプチドが、実質的な核酸切断活性を有しない修飾された形態であるとき、それは本明細書では「酵素的に不活性」と称される。
【0266】
一部の実施形態において、修飾された形態の部位特異的ポリペプチドは、それが標的核酸上に一本鎖切断(SSB)を(例えば、二本鎖標的核酸の糖−リン酸骨格の1つのみを切断することにより)誘導し得るような突然変異を有する。一部の実施形態において、突然変異により、野生型部位特異的ポリペプチド(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9、前掲)の複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上における核酸切断活性が90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満になる。一部の実施形態において、突然変異により、複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上が、標的核酸の相補鎖を切断する能力は保持しているが、標的核酸の非相補鎖を切断するその能力は低下したものになる。一部の実施形態において、突然変異により、複数の核酸切断ドメインのうちの1つ以上が、標的核酸の非相補鎖を切断する能力は保持しているが、標的核酸の相補鎖を切断するその能力は低下したものになる。例えば、Asp10、His840、Asn854及びAsn856など、野生型例示的化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9ポリペプチドにおける残基が、複数の核酸切断ドメイン(例えばヌクレアーゼドメイン)のうちの1つ以上を不活性化するように突然変異される。一部の実施形態において、突然変異させる残基は、野生型例示的化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9ポリペプチドの残基Asp10、His840、Asn854及びAsn856に対応する(例えば、配列及び/又は構造アラインメントによって決定されるとおり)。突然変異の非限定的な例としては、D10A、H840A、N854A又はN856Aが挙げられる。当業者は、アラニン置換以外の突然変異が好適であり得ることを認識するであろう。
【0267】
一部の実施形態において、DNA切断活性を実質的に欠く部位特異的ポリペプチドを生じさせるため、D10A突然変異が、H840A、N854A、又はN856A突然変異のうちの1つ以上と組み合わされる。一部の実施形態において、DNA切断活性を実質的に欠く部位特異的ポリペプチドを生じさせるため、H840A突然変異が、D10A、N854A、又はN856A突然変異のうちの1つ以上と組み合わされる。一部の実施形態において、DNA切断活性を実質的に欠く部位特異的ポリペプチドを生じさせるため、N854A突然変異が、H840A、D10A、又はN856A突然変異のうちの1つ以上と組み合わされる。一部の実施形態において、DNA切断活性を実質的に欠く部位特異的ポリペプチドを生じさせるため、N856A突然変異が、H840A、N854A、又はD10A突然変異のうちの1つ以上と組み合わされる。1つの実質的に不活性なヌクレアーゼドメインを有する部位特異的ポリペプチドは、「ニッカーゼ」と称される。
【0268】
一部の実施形態において、RNAガイド型エンドヌクレアーゼ、例えばCas9の変異体を使用して、CRISPR媒介ゲノム編集の特異性を増加させることができる。野生型Cas9は、典型的には、標的配列における特定の約20ヌクレオチド配列(内因性ゲノム遺伝子座など)とハイブリダイズするように設計された単一のガイドRNAによってガイドされる。しかしながら、ガイドRNAと標的遺伝子座との間には幾つかのミスマッチが許容され得るため、標的部位における要求される相同性長さが例えば13ntほどの短い相同性に事実上低下し、それにより標的ゲノムにおける別の場所でのCRISPR/Cas9複合体による結合及び二本鎖核酸切断−オフターゲット切断としても知られる−の可能性が高まり得る。Cas9のニッカーゼ変異体は各々が1本の鎖のみを切断するため、二本鎖切断を作り出すには、一対のニッカーゼがごく近接して標的核酸の逆鎖上に結合し、それにより二本鎖切断と同等の一対のニックを作り出す必要がある。これには、2つの別個のガイドRNA−各ニッカーゼに1つずつ−がごく近接して標的核酸の逆鎖上に結合しなければならないという要件がある。この要件のため、二本鎖切断が起こるのに必要な最小相同性長さが本質的に二倍になり、ゲノムの別の場所で2つのガイドRNA部位が−それらが存在する場合に−二本鎖切断の形成を可能にするのに十分に互いに近接している可能性は低く、従ってそこで二本鎖切断イベントが起こるであろう可能性は低下する。当該技術分野で記載されるとおり、ニッカーゼはまた、NHEJに対してHDRを促進するためにも使用することができる。HDRを用いると、所望の変化を有効に媒介する特異的ドナー配列によってゲノムの標的部位に選択の変化を導入することができる。遺伝子編集に使用される様々なCRISPR/Casシステムの説明については、例えば、国際公開第2013/176772号パンフレット、及びNature Biotechnology 32,347−355(2014)、及びそこに引用される参考文献を参照することができる。
【0269】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチド(例えば、変異体の、突然変異した、酵素的に不活性な、及び/又は条件的に酵素的に不活性な部位特異的ポリペプチド)は核酸を標的とする。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチド(例えば、変異体の、突然変異した、酵素的に不活性な、及び/又は条件的に酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ)はDNAを標的とする。一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチド(例えば、変異体の、突然変異した、酵素的に不活性な、及び/又は条件的に酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ)はRNAを標的とする。
【0270】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは1つ以上の非天然配列を有する(例えば、部位特異的ポリペプチドは融合タンパク質である)。
【0271】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、核酸結合ドメイン、及び2つの核酸切断ドメイン(即ちHNHドメイン及びRuvCドメイン)を有する。
【0272】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸切断ドメイン(即ちHNHドメイン及びRuvCドメイン)を有する。
【0273】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸切断ドメインを有し、ここで核酸切断ドメインの一方又は両方は、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9からのヌクレアーゼドメインと少なくとも50%のアミノ酸同一性を有する。
【0274】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、2つの核酸切断ドメイン(即ちHNHドメイン及びRuvCドメイン)、及び非天然配列(例えば核局在化シグナル)又は部位特異的ポリペプチドを非天然配列に連結するリンカーを有する。
【0275】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、2つの核酸切断ドメイン(即ちHNHドメイン及びRuvCドメイン)を有し、ここで部位特異的ポリペプチドは、核酸切断ドメインの一方又は両方に、ヌクレアーゼドメインの切断活性を少なくとも50%低下させる突然変異を有する。
【0276】
一部の実施形態において、部位特異的ポリペプチドは、細菌(例えば化膿レンサ球菌(S.pyogenes))由来のCas9と少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸切断ドメイン(即ちHNHドメイン及びRuvCドメイン)を有し、ここでヌクレアーゼドメインのうちの一方はアスパラギン酸10の突然変異を有し、及び/又はヌクレアーゼドメインのうちの一方はヒスチジン840の突然変異を有し、及びこの突然変異は1つ又は複数のヌクレアーゼドメインの切断活性を少なくとも50%低下させる。
【0277】
一部の実施形態において、1つ以上の部位特異的ポリペプチド、例えばDNAエンドヌクレアーゼは、一緒になってゲノムの特異的遺伝子座に1つの二本鎖切断を生じさせる2つのニッカーゼ、又は一緒になってゲノムの特異的遺伝子座に2つの二本鎖切断を生じさせる4つのニッカーゼを含む。或いは、1つの部位特異的ポリペプチド、例えばDNAエンドヌクレアーゼが、ゲノムの特異的遺伝子座における1つの二本鎖切断に影響を及ぼす。
【0278】
一部の実施形態において、ゲノムの編集に、部位特異的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。かかる実施形態の一部において、部位特異的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、目的の標的DNAを含む細胞における発現のため、当該技術分野において標準的な方法によりコドン最適化される。例えば、意図される標的核酸がヒト細胞にある場合、Cas9ポリペプチドの作製に、Cas9をコードするヒトコドン最適化ポリヌクレオチドを使用することが企図される。
【0279】
以下に、本開示の様々な実施形態で用いることのできる部位特異的ポリペプチドの一部の例を提供する。
【0280】
CRISPRエンドヌクレアーゼシステム
CRISPR(クラスター化した規則的間隔の短鎖パリンドロームリピート)ゲノム遺伝子座は、多くの原核生物(例えば、細菌及び古細菌)のゲノムに見出すことができる。原核生物では、CRISPR遺伝子座は、ある種の免疫系として働くことによりウイルス及びファージなどの外来性侵入者から原核生物を防御する助けとなる産物をコードする。CRISPR遺伝子座機能には3つの段階:CRISPR遺伝子座への新規配列の組込み、CRISPR RNA(crRNA)の発現、及び外来性侵入核酸のサイレンシングがある。5種類のCRISPRシステム(例えば、I型、II型、III型、U型、及びV型)が同定されている。
【0281】
CRISPR遺伝子座は、「リピート」と称される幾つもの短い反復配列を含む。発現時、リピートは二次ヘアピン構造(例えばヘアピン)を形成し、及び/又は構造化されていない一本鎖配列を有することができる。リピートは通常はクラスター化して存在し、種間で異なることが多い。リピートは、「スペーサー」と称されるユニークな介在配列を間に挟んで規則的な間隔を置き、そのためリピート−スペーサー−リピート遺伝子座構成となる。スペーサーは既知の外来性侵入配列と同一であるか、又は高い相同性を有する。スペーサー−リピート単位はcrisprRNA(crRNA)をコードし、これがプロセシングされて成熟型のスペーサー−リピート単位になる。crRNAは、標的核酸のターゲティングに関与する「シード」又はスペーサー配列を有する(原核生物における天然に存在する形態では、スペーサー配列が外来性侵入核酸を標的化する)。スペーサー配列は、crRNAの5’又は3’末端に位置する。
【0282】
CRISPR遺伝子座はまた、CRISPR関連(Cas)遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列も有する。Cas遺伝子は、原核生物においてバイオジェネシス及びcrRNA機能の干渉段階に関与するエンドヌクレアーゼをコードする。一部のCas遺伝子は相同性二次及び/又は三次構造を有する。
【0283】
II型CRISPRシステム
天然でのII型CRISPRシステムにおけるcrRNAバイオジェネシスには、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)が必要である。tracrRNAは内因性RNアーゼIIIによって修飾され、次にpre−crRNAアレイ中のcrRNAリピートにハイブリダイズする。内因性RNアーゼIIIが動員されてpre−crRNAが切断される。切断されたcrRNAはエキソリボヌクレアーゼのトリミングに供され、成熟crRNA形態(例えば、5’トリミング)を生じる。tracrRNAはcrRNAにハイブリダイズしたまま残り、tracrRNA及びcrRNAが部位特異的ポリペプチド(例えばCas9)と会合する。crRNA−tracrRNA−Cas9複合体のcrRNAがこの複合体を標的核酸にガイドし、この標的核酸は、それにcrRNAがハイブリダイズすることができるものである。crRNAが標的核酸にハイブリダイズすると、Cas9が標的核酸切断のため活性化される。II型CRISPRシステムにおける標的核酸は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される。天然では、PAMは、部位特異的ポリペプチド(例えばCas9)による標的核酸への結合を促進するのに不可欠である。II型システム(Nmeni又はCASS4とも称される)はII−A型(CASS4)及びII−B型(CASS4a)に更に細分される。Jinek et al.,Science,337(6096):816−821(2012)は、CRISPR/Cas9システムがRNAプログラム可能ゲノム編集に有用であることを示したとともに、国際公開第2013/176772号パンフレットは、部位特異的遺伝子編集に対するCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムの数多くの例及び応用を提供する。
【0284】
V型CRISPRシステム
V型CRISPRシステムは、II型システムと比べて幾つかの重要な違いがある。例えば、Cpf1は、II型システムとは対照的に、tracrRNAを欠く単一のRNAガイド型エンドヌクレアーゼである。実際に、Cpf1関連CRISPRアレイは追加的なトランス活性化tracrRNAの必要なく成熟crRNAにプロセシングされる。V型CRISPRアレイは42〜44ヌクレオチド長の短い成熟crRNAにプロセシングされ、各成熟crRNAが19ヌクレオチドのダイレクトリピートで始まり、その後に23〜25ヌクレオチドのスペーサー配列が続く。対照的に、II型システムの成熟crRNAは20〜24ヌクレオチドのスペーサー配列で始まり、その後に約22ヌクレオチドのダイレクトリピートが続く。また、Cpf1はTリッチプロトスペーサー隣接モチーフを利用し、Cpf1−crRNA複合体は短いTリッチPAMが前にある標的DNAを効率的に切断することになり、これはII型システムで標的DNAの後にGリッチPAMがあるのと対照的である。従って、V型システムはPAMから離れた点で切断し、一方、II型システムはPAMに隣接する点で切断する。加えて、II型システムと対照的に、Cpf1は、4又は5ヌクレオチドの5’オーバーハングを伴い付着末端型のDNA二本鎖切断によってDNAを切断する。II型システムは平滑末端二本鎖切断によって切断する。II型システムと同様に、Cpf1は予測RuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含有するが、第2のHNHエンドヌクレアーゼドメインを欠いており、これはII型システムと対照的である。
【0285】
Cas遺伝子/ポリペプチド及びプロトスペーサー隣接モチーフ
例示的CRISPR/Casポリペプチドは、Fonfara et al.,Nucleic Acids Research,42:2577−2590(2014)の図1にあるCas9ポリペプチドを含む。CRISPR/Cas遺伝子の命名方式は、Cas遺伝子が発見されて以来、大々的な書き換えを被っている。Fonfara、前掲の図5は、様々な種由来のCas9ポリペプチドについてのPAM配列を提供している。
【0286】
ゲノムターゲティング核酸と部位特異的ポリペプチドとの複合体
ゲノムターゲティング核酸は部位特異的ポリペプチド(例えば、Cas9などの核酸ガイド型ヌクレアーゼ)と相互作用し、それによって複合体を形成する。ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA)は部位特異的ポリペプチドを標的核酸に誘導する。
【0287】
これまでに述べたとおり、一部の実施形態において部位特異的ポリペプチド及びゲノムターゲティング核酸は、各々を細胞又は患者に個別に投与することができる。他方で、一部の他の実施形態において部位特異的ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNA、又はtracrRNAと一緒の1つ以上のcrRNAと予め複合体化することができる。予め複合体化された材料は、次に細胞又は患者に投与することができる。かかる予め複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として公知である。
【0288】
ゲノム編集用システム
本明細書には、ゲノム編集用システム、詳細には、第VIII因子(FVIII)遺伝子又はその機能性誘導体を細胞のゲノムに挿入するためのシステムが提供される。こうしたシステムは、本明細書に記載される方法において、細胞のゲノムの編集のため、及び対象、例えば血友病A患者の治療のためなどに使用することができる。
【0289】
一部の実施形態において、本明細書には、(a)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸と;(b)細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子座を標的とするガイドRNA(gRNA)と;(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型とを含むシステムが提供される。一部の実施形態において、gRNAはアルブミン遺伝子のイントロン1を標的とする。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。
【0290】
一部の実施形態において、本明細書には、(a)デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸と;(b)配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA)と;(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型とを含むシステムが提供される。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21、22、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0291】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0292】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、宿主細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、ヒト細胞での発現にコドン最適化される。
【0293】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、本システムは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を含む。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、宿主細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、ヒト細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAプラスミドなどのDNAである。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、mRNAなどのRNAである。
【0294】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位はシステム中のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、システム中のgRNAにとっての細胞ゲノムgRNA標的部位の逆相補体である。
【0295】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子は脂質ナノ粒子である。一部の実施形態において、本システムは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を含む。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。
【0296】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるシステムのいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼはgRNAと複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0297】
ゲノム編集方法
本明細書には、ゲノム編集方法、詳細には、第VIII因子(FVIII)遺伝子又はその機能性誘導体を細胞のゲノムに挿入する方法が提供される。この方法は、対象、例えば血友病A患者の治療に用いることができ、その場合、患者又は別個のドナーから細胞が単離され得る。次に、本明細書に記載される材料及び方法を用いて細胞の染色体DNAが編集される。
【0298】
一部の実施形態において、ノックイン戦略は、FVIIIコード配列、例えば野生型FVIII遺伝子(例えば野生型ヒトFVIII遺伝子)、FVIII cDNA、ミニ遺伝子(天然又は合成エンハンサー及びプロモーター、1つ以上のエクソン、及び天然又は合成イントロン、及び天然又は合成3’UTR及びポリアデニル化シグナルを有する)又は修飾FVIII遺伝子をゲノム配列にノックインすることを伴う。一部の実施形態において、FVIIIコード配列が挿入されるゲノム配列は、アルブミン遺伝子座にあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。
【0299】
本明細書には、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体をゲノムにノックインする方法が提供される。一態様において、本開示は、細胞のゲノムへのFVIII遺伝子の核酸配列、即ちFVIIIタンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列の挿入を提供する。実施形態において、FVIII遺伝子は野生型FVIIIタンパク質をコードすることができる。FVIIIタンパク質の機能性誘導体は、野生型FVIIIタンパク質の実質的な活性、例えば野生型FVIIIタンパク質が呈する活性の少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%又は約100%を有するペプチドを含み得る。一部の実施形態において、当業者は、化合物、例えばペプチド又はタンパク質の機能又は活性を試験するために、当該技術分野で公知の幾つもの方法を用いることができる。一部の実施形態において、FVIIIタンパク質の機能性誘導体にはまた、野生型FVIIIタンパク質の任意の断片又は完全長の野生型FVIIIタンパク質のアミノ酸残基のうちの1つ以上に保存的修飾を有する修飾FVIIIタンパク質の断片も含まれ得る。一部の実施形態において、FVIIIタンパク質の機能性誘導体はまた、野生型FVIIIタンパク質の機能に実質的に悪影響を及ぼさない1つ以上のアミノ酸の任意の1つ又は複数の修飾、例えば欠失、挿入及び/又は突然変異も含み得る。従って、一部の実施形態において、FVIII遺伝子の核酸配列の機能性誘導体は、FVIII遺伝子と少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の核酸配列同一性を有し得る。
【0300】
一部の実施形態において、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体は細胞のゲノム配列に挿入される。一部の実施形態において、挿入部位は細胞のゲノム中のアルブミン遺伝子座にあるか、又はその範囲内にある。挿入方法は、アルブミン遺伝子の第1イントロン(又はイントロン1)を標的とする1つ以上のgRNAを使用する。一部の実施形態において、ドナーDNAは、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を有する一本鎖又は二本鎖DNAである。
【0301】
一部の実施形態において、ゲノム編集方法は、CRISPR/CasシステムなどのDNAエンドヌクレアーゼを利用してFVIII遺伝子又はその機能性誘導体を遺伝的に導入(ノックイン)する。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、その相同体、天然に存在する分子の組換え、コドン最適化された、又はその修飾されたバージョン、及び前述のいずれかの組み合わせである。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0302】
一部の実施形態において、ゲノム編集に供される細胞はゲノムに1つ以上の突然変異を有し、そのため、かかる突然変異を有しない正常なものでの発現と比較したとき内因性FVIII遺伝子の発現が低下する。正常細胞は、FVIII遺伝子欠陥を有しない異なる対象に由来する(又はそれから単離された)健常又は対照細胞であり得る。一部の実施形態において、ゲノム編集に供される細胞は、FVIII遺伝子に関連する病態又は障害、例えば血友病Aの治療を必要としている対象に由来してもよい(又はそれから単離されてもよい)。従って、一部の実施形態においてかかる細胞における内因性FVIII遺伝子の発現は、正常細胞における内因性FVIII遺伝子発現の発現と比較したとき約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約100%低下している。
【0303】
一部の実施形態において、ゲノム編集方法は、ゲノムの非コード領域に、機能性FVIII遺伝子、例えばインビボでFVIIIタンパク質を安定に生成するように供給プロモーターに作動可能に連結されているFVIIIコード配列の標的組込みを行う。一部の実施形態において、FVIIIコード配列の標的組込みは、目的の細胞型、例えばヘパトサイト又は類洞内皮細胞で高度に発現するアルブミン遺伝子のイントロンに起こる。一部の実施形態において、挿入されるFVIIIコード配列は、野生型FVIIIコード配列、例えば野生型ヒトFVIIIコード配列であってもよい。一部の実施形態において、FVIIIコード配列は、野生型ヒトFVIIIコード配列などの野生型FVIIIコード配列の機能性誘導体であってもよい。
【0304】
一態様において、本開示は、細胞のゲノムへのFVIII遺伝子又はその機能性誘導体の核酸配列の挿入を提案する。実施形態において、挿入されるFVIIIコード配列は、修飾FVIIIコード配列である。一部の実施形態において、修飾FVIIIコード配列では野生型FVIIIコード配列のB−ドメインが欠失し、「SQリンク」と呼ばれるリンカーペプチド(アミノ酸配列SFSQNPPVLKRHQR−配列番号1)に置き換えられている。このB−ドメイン欠失型FVIII(FVIII−BDD)は当該技術分野において周知であり、完全長FVIIIと同等の生物学的活性を有する。一部の実施形態において、B−ドメイン欠失型FVIIIはサイズが小さいため(4371bp対7053bp)、完全長FVIIIよりも好ましい。従って、一部の実施形態において、FVIIIシグナルペプチドを欠き、且つその5’末端(FVIIIコード配列のN末端)にスプライスアクセプター配列を含有するFVIII−BDDコード配列が、ヒトを含めた哺乳類のヘパトサイトにおけるアルブミン遺伝子のイントロン1に特異的に組み込まれる。この修飾FVIIIコード配列がアルブミンプロモーターから転写されると、アルブミンのエクソン1、イントロン1の一部及び組み込まれたFVIII−BDD遺伝子配列を含有するプレmRNAとなり得る。このプレmRNAが天然のスプライシング過程を経てイントロンが除去されると、スプライシング機構により、アルブミンエクソン1の3’側にあるスプライスドナーが、挿入されたDNAドナーのFVIII−BDDコード配列の5’末端にあるスプライスアクセプターであり得る次の利用可能なスプライスアクセプターにつなぎ合わされ得る。この結果、FVIII−BDDの成熟コード配列に融合したアルブミンエクソン1を含む成熟mRNAが生じ得る。アルブミンのエクソン1は、シグナルペプチド+2個の追加的なアミノ酸及びヒトにおいて通常アルブミンのN末端のタンパク質配列DAHをコードするコドンの1/3をコードする。従って、一部の実施形態において、細胞からの分泌時における予想されるアルブミンシグナルペプチドの切断後、N末端に3個の追加的なアミノ酸残基が付加されたFVIII−BDDタンパク質が生成されることができ、結果としてこのFVIII−BDDタンパク質のN末端はアミノ酸配列
【化2】
となる。これらの3個のアミノ酸のうちの3番目(下線)は、一部はエクソン1の末端によってコードされ、一部はFVIII−BDD DNAドナー鋳型によってコードされるため、3番目の追加的なアミノ酸残基のアイデンティティをLeu、Pro、His、Gln又はArgのいずれかとなるように選択することが可能である。一部の実施形態では、これらの選択肢の中でLeuが好ましく、なぜならLeuは分子的複雑性が最小限であり、ひいては新規T細胞エピトープを形成する可能性が最小限であるためであり、結果としてFVIII−BDDタンパク質のN末端にアミノ酸配列
【化3】
が生じる。或いは、DNAドナー鋳型は、3番目の残基が欠失してFVIII−BDDタンパク質のN末端にアミノ酸配列
【化4】
が生じるように設計されてもよい。ある場合には、天然のタンパク質の配列に追加的なアミノ酸を加えると、免疫原性リスクが増加し得る。従って、FVIII−BDDのN末端についてのこれらの2つの潜在的選択肢の潜在的免疫原性を予測するインシリコ分析により、1個の残基の欠失
【化5】
が免疫原性スコアを下げると実証される一部の実施形態では、それが少なくとも一部の実施形態において好ましい設計であり得る。
【0305】
一部の実施形態において、FVIII−BDDをコードするDNA配列は、哺乳類細胞での発現が向上するようにコドン使用が最適化されたものを使用することができる(いわゆるコドン最適化)。コドン最適化の実施には、当該技術分野において種々のコンピュータアルゴリズムも利用可能であり、それらが個別的なDNA配列を生成する。市販のコドン最適化アルゴリズムの例は、ATUM社及びGeneArt社(Thermo Fisher Scientificの一部)が採用しているものである。FVIIIコード配列のコドン最適化は、マウスへの遺伝子ベースの送達後にFVIIIの発現を有意に改善することが実証された(Nathwani AC,Gray JT,Ng CY,et al.Blood.2006;107(7):2653−2661.;Ward NJ,Buckley SM,Waddington SN,et al.Blood.2011;117(3):798−807.;Radcliffe PA,Sion CJ,Wilkes FJ,et al.Gene Ther.2008;15(4):289−297)。
【0306】
一部の実施形態において、種々のアルゴリズムによってコドン最適化されたFVIII−BDDコード配列と天然FVIII配列(ヒトゲノムに存在するとおりの)との間の配列相同性又は同一性は、約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は100%の範囲であってもよい。一部の実施形態において、コドン最適化FVIII−BDDコード配列は、天然FVIII配列と約75%〜約79%の配列相同性又は同一性を有する。一部の実施形態において、コドン最適化FVIII−BDDコード配列は、天然FVIII配列と約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%又は約80%の配列相同性又は同一性を有する。
【0307】
一部の実施形態において、ドナー鋳型又はドナーコンストラクトは、FVIII−BDDをコードするDNA配列を含有するように調製される。一部の実施形態において、DNAドナー鋳型は、コドン最適化されているヒトFVIII−BDDコード配列を含有するように設計される。一部の実施形態において、コドン最適化は、FVIIIのシグナルペプチドをコードする5’末端の配列が欠失し、スプライスアクセプター配列に置き換えられているように行われ、加えてFVIII終止コドン後の3’末端にポリアデニル化シグナルが付加される(MAB8A−配列番号87)。スプライスアクセプター配列は、公知の遺伝子からの公知のスプライスアクセプター配列の中から選択することができ、又は当該技術分野において公知の多くのスプライスアクセプター配列のアラインメントから導き出されるコンセンサススプライスアクセプター配列を使用することができる。一部の実施形態において、高発現遺伝子からのスプライスアクセプター配列は最適なスプライシング効率をもたらすと考えられるため、かかる配列が使用される。一部の実施形態において、コンセンサススプライシングアクセプター配列は、コンセンサス配列T/CNC/TT/CA/GAC/T(配列番号99)を含む枝分かれ部位の後に20bp以内に10〜12塩基のポリピリミジントラクト(C又はT)が続き、その後にAG>G/A(ここでは>がイントロン/エクソン境界の位置である)が続くように構成される。好ましい一実施形態では、合成スプライスアクセプター配列
【化6】
が使用される。別の好ましい実施形態において、ヒト
【化7】
又はマウス
【化8】
のアルブミン遺伝子イントロン1/エクソン2境界からの天然スプライスアクセプター配列が使用される。
【0308】
ポリアデニル化配列は、細胞内でのmRNAの安定性に必須のポリAテールを付加するように細胞にシグナルを送る。DNAドナー鋳型がAAV粒子にパッケージングされることになる一部の実施形態では、パッケージングされるDNAのサイズが、好ましくは約5Kb未満及び理想的には約4.7Kb以下であるAAVのパッケージング限界の範囲内に収まることが好ましい。従って、一部の実施形態では、可能な限り短い、例えば約10mer、約20mer、約30mer、約40mer、約50mer又は約60merのポリA配列又は前述の任意の中間ヌクレオチド数を使用することが望ましい。コンセンサス合成ポリAシグナル配列については、文献(Levitt N,Briggs D,Gil A,Proudfoot NJ.Genes Dev.1989;3(7):1019−1025)に配列AATAAAAGATCTTTATTTTCATTAGATCTGTGTGTTGGTTTTTTGTGTG(配列番号5)で記載され、数多くの発現ベクターで一般的に用いられている。
【0309】
一部の実施形態において、組込み頻度を改善するためDNAドナー鋳型に追加的な配列エレメントを加えることができる。1つのかかるエレメントは相同性アームであり、これは、HDRによる組込みを可能にするため組込みが標的化されるところであるゲノム中の二本鎖切断点の両側にあるDNA配列と同一の配列である。二本鎖切断点の左側からの配列(LHA)が、DNAドナー鋳型の5’側の(FVIIIコード配列に対してN端側の)末端に付加され、及び二本鎖切断点の右側からの配列(RHA)が、DNAドナー鋳型、例えばMAB8B(配列番号88)の3’側の(FVIIIコード配列のC端側の)末端に付加される。
【0310】
一部の実施形態において提供される代替的なDNAドナー鋳型設計は、ゲノム部位の切断に使用されることになるsgRNAの認識配列と相補的な配列を有する。MAB8C(配列番号89)は、この種のDNAドナー鋳型の一例に相当する。sgRNA認識部位を含めることにより、DNAドナー鋳型は、DNAドナー鋳型及びsgRNA/Cas9が送達された細胞の核内でsgRNA/Cas9複合体によって切断されることになる。ドナーDNA鋳型が線状断片に切断されると、二本鎖切断点における非相同末端結合機構又はHDR機構による組込み頻度が増加し得る。AAVゲノムは核への送達後にコンカテマー化して大型の環状二本鎖DNA分子を形成することが公知であるため、これは、AAVにパッケージングされたドナーDNA鋳型を送達する場合に特に有益であり得る(Nakai et al JOURNAL OF VIROLOGY 2001,vol75 p.6969−6976)。従って、場合によっては環状コンカテマーは、二本鎖切断点における、特にNHEJ機構による組込みに関して効率が低いドナーであり得る。以前、環状プラスミドDNAドナー鋳型を使用した標的組込み効率が、プラスミドにジンクフィンガーヌクレアーゼ切断部位を含めることによって増加可能であったことが報告された(Cristea et al Biotechnol.Bioeng.2013;110:871−880)。最近になって、この手法がまた、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼを使用して適用された(Suzuki et al 2017,Nature 540,144−149)。sgRNA認識配列は、二本鎖DNAドナー鋳型のいずれの鎖上に存在するときも活性であるが、ゲノムに存在するsgRNA認識配列の逆相補体の使用は、逆方向の組込みによってsgRNA認識配列が再び作り出され、それが再び切断され得ることにより挿入されたドナーDNA鋳型が放出されるため、安定組込みに有利に働くものと予想される。かかるドナーDNA鋳型がNHEJによってゲノムに順方向で組み込まれると、sgRNA認識配列が再び作り出されることはなく、組み込まれたドナーDNA鋳型がゲノムから切り出されることはあり得ないと予想される。相同性アーム有り又は無しでドナーにsgRNA認識配列を含めることがFVIIIドナーDNA鋳型の組込み効率に及ぼす利益は、例えばマウスにおいて、ドナーの送達にAAVを使用し、且つCRISPR−Cas9成分の送達にLNPを使用して試験及び決定することができる。
【0311】
一部の実施形態において、ドナーDNA鋳型は、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する本明細書に記載される実施形態のいずれかに係るドナーカセットにFVIII遺伝子又はその機能性誘導体を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型はドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及び/又はドナーカセットの3’側にgRNA標的部位を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は2つの隣接するgRNA標的部位を含み、これらの2つのgRNA標的部位は同じ配列を含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は少なくとも1つのgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中の少なくとも1つのgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子の第1イントロンを標的とする1つ以上のgRNAのうちの少なくとも1つにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型は少なくとも1つのgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中の少なくとも1つのgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにおける1つ以上のgRNAのうちの少なくとも1つにとっての標的部位の逆相補体である。一部の実施形態において、ドナー鋳型はドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中のこれらの2つのgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子の第1イントロンを標的とする1つ以上のgRNAによって標的とされる。一部の実施形態において、ドナー鋳型はドナーカセットの5’側にgRNA標的部位及びドナーカセットの3’側にgRNA標的部位を含み、ドナー鋳型中のこれらの2つのgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子の第1イントロンにおける1つ以上のgRNAのうちの少なくとも1つにとっての標的部位の逆相補体である。
【0312】
標的部位、即ちFVIIIコード遺伝子が挿入されるゲノム位置へのFVIIIコード遺伝子の挿入は、内因性アルブミン遺伝子座又はその隣接配列にあってもよい。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子は、挿入された遺伝子の発現がアルブミン遺伝子の内因性プロモーターによって制御されるように挿入される。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子は、アルブミン遺伝子のイントロンのうちの1つに挿入される。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子は、アルブミン遺伝子のエクソンのうちの1つに挿入される。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子は、イントロン:エクソンの(又は逆の)接合部に挿入される。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子の挿入は、アルブミン遺伝子座の第1イントロン(又はイントロン1)にある。一部の実施形態において、FVIIIコード遺伝子の挿入はアルブミン遺伝子の発現に大きい影響を及ぼさず、例えばそれを上方制御又は下方制御しない。
【0313】
実施形態において、FVIIIコード遺伝子の挿入の標的部位は、内因性アルブミン遺伝子にあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にある。一部の実施形態において、標的部位は、ゲノム中のアルブミン遺伝子座のプロモーターの上流にある遺伝子間領域にある。一部の実施形態において、標的部位はアルブミン遺伝子座の範囲内にある。一部の実施形態において、標的部位はアルブミン遺伝子座のイントロンのうちの1つにある。一部の実施形態において、標的部位はアルブミン遺伝子座のエクソンのうちの1つにある。一部の実施形態において、標的部位はアルブミン遺伝子座のイントロンとエクソンとの間の(又は逆の)接合部のうちの1つにある。一部の実施形態において、標的部位はアルブミン遺伝子座の第1イントロン(又はイントロン1)にある。特定の実施形態において、標的部位は、アルブミン遺伝子の第1エクソンの(即ち第1エクソンの最後の核酸から)少なくとも、約又は多くても0、1、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450又は500又は550又は600又は650bp下流にある。一部の実施形態において、標的部位は、アルブミン遺伝子の第1イントロンの少なくとも、約又は多くても0.1kb、約0.2kb、約0.3kb、約0.4kb、約0.5kb、約1kb、約1.5kb、約2kb、約2.5kb、約3kb、約3.5kb、約4kb、約4.5kb又は約5kb上流にある。一部の実施形態において、標的部位は、アルブミン遺伝子の第2エクソンの約0bp〜約100bp上流、約101bp〜約200bp上流、約201bp〜約300bp上流、約301bp〜約400bp上流、約401bp〜約500bp上流、約501bp〜約600bp上流、約601bp〜約700bp上流、約701bp〜約800bp上流、約801bp〜約900bp上流、約901bp〜約1000bp上流、約1001bp〜約1500bp上流、約1501bp〜約2000bp上流、約2001bp〜約2500bp上流、約2501bp〜約3000bp上流、約3001bp〜約3500bp上流、約3501bp〜約4000bp上流、約4001bp〜約4500bp上流又は約4501bp〜約5000bp上流の範囲内のいずれかにある。一部の実施形態において、標的部位はゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第1エクソンの終端(即ち3’側終端)の少なくとも37bp下流にある。一部の実施形態において、標的部位は、ゲノム中のヒトアルブミン遺伝子の第2エクソンの始端(即ち5’側始端)の少なくとも330bp上流にある。
【0314】
一部の実施形態において、本明細書には、細胞のゲノムを編集する方法が提供され、この方法は、細胞に以下を提供することを含む:(a)細胞ゲノム中のアルブミン遺伝子座を標的とするガイドRNA(gRNA);(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型。一部の実施形態において、gRNAはアルブミン遺伝子のイントロン1を標的とする。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。
【0315】
一部の実施形態において、本明細書には、細胞のゲノムを編集する方法が提供され、この方法は、細胞に以下を提供することを含む:(a)配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21、22、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞、例えばヒトヘパトサイト細胞である。
【0316】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0317】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞である。
【0318】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、本方法は、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を用いる。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞、例えばヒトヘパトサイト細胞である。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAプラスミドなどのDNAである。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、mRNAなどのRNAである。
【0319】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノムgRNA標的部位の逆相補体である。
【0320】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子は脂質ナノ粒子である。一部の実施形態において、本方法は、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を用いる。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。
【0321】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼはgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0322】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも17日後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)及び(b)は、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子として細胞に提供される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。一部の実施形態において、(c)は、ドナー鋳型をコードするAAVベクターとして細胞に提供される。
【0323】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される。
【0324】
一部の実施形態において、本明細書に記載される細胞のゲノム編集方法のいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0325】
一部の実施形態において、本明細書には、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を細胞ゲノムのアルブミン遺伝子座に挿入する方法が提供され、本方法は、(a)Cas DNAエンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)又はCas DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸と、(b)gRNA又はgRNAをコードする核酸(ここでgRNAは、アルブミン遺伝子座の標的ポリヌクレオチド配列を切断するようにCas DNAエンドヌクレアーゼを誘導する能力を有する)と、(c)FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を含む本明細書に記載される実施形態のいずれかに係るドナー鋳型とを細胞に導入することを含む。一部の実施形態において、本方法は、Cas DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAを細胞に導入することを含む。一部の実施形態において、本方法は、i)Cas DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAと、ii)gRNAとを含む本明細書に記載される実施形態のいずれかに係るLNPを細胞に導入することを含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型はAAVドナー鋳型である。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNAの標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットに隣接するgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子座におけるgRNA標的部位の逆相補体である。一部の実施形態において、Cas DNAエンドヌクレアーゼ又はCas DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸及びgRNA又はgRNAをコードする核酸は、細胞にドナー鋳型を導入した後に細胞に導入される。一部の実施形態において、Cas DNAエンドヌクレアーゼ又はCas DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸及びgRNA又はgRNAをコードする核酸は、細胞にドナー鋳型を導入した後に細胞核へのドナー鋳型の侵入を可能にするのに十分な時間が経ってから細胞に導入される。一部の実施形態において、Cas DNAエンドヌクレアーゼ又はCas DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸及びgRNA又はgRNAをコードする核酸は、細胞にドナー鋳型を導入した後に細胞核内でのドナー鋳型の一本鎖AAVゲノムから二本鎖DNA分子への変換を可能にするのに十分な時間が経ってから細胞に導入される。一部の実施形態において、Cas DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。
【0326】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるFVIII遺伝子又はその機能性誘導体を細胞ゲノムのアルブミン遺伝子座に挿入する方法のいずれかによれば、標的ポリヌクレオチド配列はアルブミン遺伝子のイントロン1にある。一部の実施形態において、gRNAは、表3又は表4に掲載されるスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21、22、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0327】
一部の実施形態において、本明細書には、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を細胞ゲノムのアルブミン遺伝子座に挿入する方法が提供され、この方法は、(a)i)Cas9 DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAとii)gRNA(gRNAは、アルブミン遺伝子座の標的ポリヌクレオチド配列を切断するようにCas9 DNAエンドヌクレアーゼを誘導する能力を有する)とを含む本明細書に記載される実施形態のいずれかに係るLNP、及び(b)FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を含む本明細書に記載される実施形態のいずれかに係るAAVドナー鋳型を細胞に導入することを含む。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、FVIII遺伝子又はその機能性誘導体を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは片側又は両側にgRNAの標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットに隣接するgRNA標的部位は、アルブミン遺伝子座におけるgRNA標的部位の逆相補体である。一部の実施形態において、LNPは、細胞にAAVドナー鋳型を導入した後に細胞に導入される。一部の実施形態において、LNPは、細胞にAAVドナー鋳型を導入した後に細胞核へのドナー鋳型の侵入を可能にするのに十分な時間が経ってから細胞に導入される。一部の実施形態において、LNPは、細胞にAAVドナー鋳型を導入した後に細胞核内でのドナー鋳型の一本鎖AAVゲノムから二本鎖DNA分子への変換を可能にするのに十分な時間が経ってから細胞に導入される。一部の実施形態において、1回目の細胞へのLNPの導入後に細胞へのLNPの1回以上(2、3、4、5回、又はそれ以上など)の追加的な導入が実施される。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21、22、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。
【0328】
標的配列選択
一部の実施形態において、特定の参照遺伝子座に対する5’境界及び/又は3’境界の位置のシフトを用いると遺伝子編集の特定の適用が促進又は増強され、適用は、一部には、本明細書に更に記載及び例示されるとおりの、編集に選択されるエンドヌクレアーゼシステムに依存する。
【0329】
かかる標的配列選択の第1の非限定的な態様では、多くのエンドヌクレアーゼシステムが、CRISPR II型又はV型エンドヌクレアーゼの場合におけるDNA切断部位に隣接する特定の位置のPAM配列モチーフ要件など、潜在的な標的切断部位の初期選択の指針となる規則又は基準を有する。
【0330】
標的配列選択又は最適化の別の非限定的な態様では、標的配列と遺伝子編集エンドヌクレアーゼとの特定の組み合わせについての「オフターゲット」活性の頻度(即ち選択の標的配列以外の部位に起こるDSBの頻度)がオンターゲット活性の頻度と比べて評価される。一部の場合において、所望の遺伝子座で正しく編集された細胞は、他の細胞と比べて選択的優位性を有し得る。選択的優位性の例示的な、しかし非限定的な例には、向上した複製率、持続性、ある種の条件に対する抵抗性、患者への導入後のインビボでの生着成功率又は持続性の向上、及びその他の、かかる細胞の数又は生存能力の維持又は増加に関連する属性など、属性の獲得が含まれる。他の場合において、所望の遺伝子座で正しく編集された細胞は、正しく編集された細胞の同定、選別又は他の選択に用いられる1つ以上のスクリーニング方法によってポジティブ選択されてもよい。選択的優位性及び定方向選択の両方の方法が、修正に関連する表現型を利用し得る。一部の実施形態において、意図した細胞集団の選択又は精製に用いられる新規表現型を作成する第2の修飾を作成するため、細胞が2回以上編集されてもよい。かかる第2の修飾は、選択可能又はスクリーニング可能マーカー用の第2のgRNAを加えることにより作成されてもよい。一部の場合では、cDNAを含み、また選択可能なマーカーも含むDNA断片を使用して、細胞を所望の遺伝子座で正しく編集することができる。
【0331】
実施形態において、具体的な場合において任意の選択的優位性を適用可能であるか、それとも任意の定方向選択を適用すべきかに関わらず、適用の有効性を高めるため、及び/又は所望の標的以外の部位で望ましくない改変が起こる可能性を減らすため、標的配列選択はまた、オフターゲット頻度の検討が指針となる。本明細書及び当該技術分野において更に記載及び例示されるとおり、オフターゲット活性の発生は、標的部位と様々なオフターゲット部位との間の類似性及び相違性、並びに用いられる詳細なエンドヌクレアーゼを含め、幾つもの要因の影響を受ける。オフターゲット活性の予測を助けるバイオインフォマティクスツールが利用可能であり、高頻度でかかるツールはまた、最もオフターゲット活性の可能性が高い部位の同定にも用いることができ、次にはそれを実験的セッティングで評価して、オンターゲット活性に対するオフターゲットの相対頻度を判定することができ、それにより相対的にオンターゲット活性が高い配列の選択が可能になる。かかる技法の例示的な例は本明細書に提供され、及び当該技術分野では他の例も公知である。
【0332】
標的配列選択の別の態様は相同組換えイベントに関する。相同性領域を共有する配列は、介在配列の欠失を生じさせる相同組換えイベントの焦点となり得る。かかる組換えイベントは、染色体及び他のDNA配列の正常な複製経過中に起こり、またある時には、二本鎖切断(DSB)の修復の場合など、DNA配列が合成されているときにも起こり、DSBは正常な細胞複製サイクルの中で常時起こるが、様々なイベント(紫外光及びその他のDNA切断誘導物質など)の発生又はある種の薬剤の存在(様々な化学的誘導物質など)によってもまた増強され得る。多くのかかる誘導物質がDSBをゲノムに無差別に発生させ、正常細胞においてはDSBは常時誘導され、修復されている。修復時、元の配列は完全な忠実度で再構成され得るが、しかしながら、一部の場合ではDSB部位に小さい挿入又は欠失(「インデル」と称される)が導入される。
【0333】
DSBはまた、本明細書に記載されるエンドヌクレアーゼシステムの場合のように、具体的な位置に特異的に誘導されてもよく、これを用いて選択の染色体位置に定方向の又は優先的な遺伝子修飾イベントを引き起こすことができる。DNA修復(並びに複製)のコンテクストで相同配列が組換えを受け易い傾向は、幾つもの状況で利用することができ、所望の染色体位置に目的の配列を、但し「ドナー」ポリヌクレオチドの使用によって挿入するために相同組換え修復が用いられるCRISPRなどの遺伝子編集システムの一つの適用の基礎である。
【0334】
特定の配列間の相同性領域は、僅か10塩基対以下を有し得る小さい「マイクロホモロジー」領域であってもよいもので、これもまた所望の欠失をもたらすために使用することができる。例えば、隣接配列とマイクロホモロジーを呈する部位に単一のDSBが導入される。かかるDSBの正常な修復経過の中で、高頻度で起こる結果は、DSB及び同時の細胞修復過程によって組換えが促進される結果としての介在配列の欠失である。
【0335】
しかしながら、状況によっては、相同性領域内の標的配列を選択すると、遺伝子融合(欠失がコード領域にあるとき)を含め、はるかに大きい欠失が生じることもまたあり、具体的な状況を所与としてこれが所望されることも、又は所望されないこともある。
【0336】
本明細書に提供される例は、FVIIIコード遺伝子を挿入するように設計されたDSBを作り出すための様々な標的領域の選択、並びにオンターゲットイベントと比べてオフターゲットイベントを最小限に抑えるように設計されるかかる領域内での特異的標的配列の選択を更に例示する。
【0337】
標的組込み
一部の実施形態において、本明細書に提供される方法は、「標的組込み」と称される、ヘパトサイトのゲノム中の特異的位置にFVIIIコード遺伝子又は機能性FVIII遺伝子を組み込むことである。一部の実施形態において、標的組込みは、配列特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムDNAに二本鎖切断を生じさせることによって可能になる。
【0338】
一部の実施形態において使用されるCRISPR−Casシステムには、多数のゲノム標的を迅速にスクリーニングして最適なCRISPR−Cas設計を同定できるという利点がある。CRISPR−Casシステムは、関連するCasヌクレアーゼ(例えばCas9ヌクレアーゼ)をDNA中の特異的配列に標的化させるシングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれるRNA分子を使用する。このターゲティングは、sgRNAの約20bpターゲティング配列内においてsgRNAとゲノムの配列との間でワトソン・クリック則に基づく対合によって起こる。標的部位に結合すると、CasヌクレアーゼはゲノムDNAの両方の鎖を切断して二本鎖切断を作り出す。特異的DNA配列を標的とするようにsgRNAを設計するために必要なことは、標的配列が、ゲノム配列と相補的なsgRNA配列の3’末端にあるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含まなければならないことだけである。Cas9ヌクレアーゼの場合、PAM配列は、NRG(式中、RはA又はGであり、及びNは任意の塩基である)、又はより制限が厳しいPAM配列NGGである。従って、インシリコで20bp配列をあらゆるPAMモチーフに隣接して置くことにより、ゲノムのいかなる領域を標的とするsgRNA分子も設計することができる。真核生物のゲノムでは、PAMモチーフは平均して15bp毎に出現する。しかしながら、インシリコ方法によって設計されたsgRNAは、細胞に二本鎖切断を異なる効率で生じさせることになり、インシリコ方法を用いて一連のsgRNA分子の切断効率を予測することは不可能である。sgRNAはインビトロで迅速に合成することができるため、これは所与のゲノム領域における全ての潜在的なsgRNA配列の高速スクリーニングによる、最も効率的な切断をもたらすsgRNAの同定を可能にする。典型的には、所与のゲノム領域内の一連のsgRNAを細胞で試験したとき、0〜90%の様々な切断効率が観察される。インシリコアルゴリズム並びに研究室実験もまた、任意の所与のsgRNAのオフターゲット可能性の決定に用いられてもよい。ほとんどの真核生物ゲノムでsgRNAの20bp認識配列との完全一致は主に1回限り起こることになるが、ゲノムには、sgRNAと1つ又は複数の塩基対ミスマッチを有する更なる部位が幾つもあり得る。これらの部位は様々な頻度で切断され得るが、多くの場合にその頻度をミスマッチの数又は位置に基づき予測することはできない。インシリコ分析によって同定されなかった更なるオフターゲット部位での切断もまた起こり得る。従って、関連性のある細胞型における幾つものsgRNAをスクリーニングして、最も有利なオフターゲットプロファイルを有するsgRNAを同定することが、治療適用に最適なsgRNAの選択の重要な要素である。有利なオフターゲットプロファイルは、実際のオフターゲット部位の数及びそれらの部位での切断頻度のみならず、それらの部位のゲノム中における位置もまた考慮することになる。例えば、機能的に重要な遺伝子、特に癌遺伝子又は抗癌遺伝子に近い又はその範囲内にあるオフターゲット部位であれば、既知の機能を有しない遺伝子間領域の部位と比べて有利でないと見なされ得る。従って、最適なsgRNAの同定は、単に生物のゲノム配列のインシリコ分析によっては予測できず、実験的試験が必要である。インシリコ分析は、試験するガイドの数を絞り込む助けになり得るが、オンターゲット切断が高率であるガイドを予測したり、又は望ましさの低いオフターゲット切断のガイドを予測したりすることはできない。実験データからは、各々が目的の領域(アルブミンイントロン1など)のゲノムと完全一致を有するsgRNAの切断効率が、切断なしから>90%切断までばらつきがあり、いかなる公知のアルゴリズムによっても予測不可能であることが指摘される。所与のsgRNAがCas酵素による切断を促進する能力は、ゲノムDNAにおける当該の特異的部位への接近し易さに関係することができ、これは当該領域のクロマチン構造によって決まり得る。ヘパトサイトのような静止した分化細胞では大多数のゲノムDNAが高度に凝縮したヘテロクロマチンとして存在する一方、能動的に転写される領域は、Casタンパク質のようなタンパク質など、巨大分子が接近し易いことが知られる一層広がったクロマチン状態で存在する。能動的に転写される遺伝子内であっても、DNAの一部の特異的領域は、結合した転写因子又は他の調節タンパク質の有無に起因して他よりも接近し易い。ゲノム中、又はイントロンなど、及びアルブミンイントロン1などの特異的ゲノム遺伝子座若しくはゲノム遺伝子座の領域内の部位を予測することは不可能であり、従って関連性のある細胞型において実験的に決定する必要があり得る。一部の部位が潜在的な挿入部位として選択されると、実験的試験を伴い又は伴わず、例えば選択された部位から数個のヌクレオチドを上流又は下流に動かすことによってかかる部位に何らかの変更を加えることが可能となり得る。
【0339】
一部の実施形態において、本明細書に開示される方法において使用することのできるgRNAは、表3に挙げられる1つ以上又は表3のものと少なくとも約85%のヌクレオチド配列同一性を有するその任意の誘導体である。
【0340】
核酸修飾
一部の実施形態において、細胞に導入されるポリヌクレオチドは、例えば活性、安定性又は特異性の増強、送達の改変、宿主細胞における自然免疫応答の低下、又は本明細書に更に記載するとおりの、及び当該技術分野において公知の他の増強のため、個々に、又は組み合わせて用いることのできる1つ以上の修飾を有する。
【0341】
特定の実施形態において、修飾されたポリヌクレオチドはCRISPR/Cas9/Cpf1システムにおいて使用され、その場合、ガイドRNA(単一分子ガイド又は二重分子ガイドのいずれか)及び/又は細胞に導入されるCas又はCpf1エンドヌクレアーゼをコードするDNA又はRNAが、以下に説明及び例示するとおり修飾されてもよい。かかる修飾されたポリヌクレオチドは、CRISPR/Cas9/Cpf1システムにおいて、任意の1つ以上ゲノム遺伝子座の編集に使用することができる。
【0342】
かかる使用の非限定的な例示を目的としてCRISPR/Cas9/Cpf1システムを用いると、ガイドRNAの修飾は、単一分子ガイドであっても、又は二重分子であってもよいガイドRNAとCas又はCpf1エンドヌクレアーゼとを有するCRISPR/Cas9/Cpf1ゲノム編集複合体の形成又は安定性を増強するために用いることができる。ガイドRNAの修飾はまた、又はそれに代えて、ゲノム編集複合体とゲノムにおける標的配列との間の相互作用の惹起、安定性又は動態を増強するために用いることもでき、それを用いて、例えばオンターゲット活性を増強することができる。ガイドRNAの修飾はまた、又はそれに代えて、特異性、例えば他の(オフターゲット)部位における効果と比較したときのオンターゲット部位における相対ゲノム編集率を増強するために用いることもできる。
【0343】
修飾はまた、又はそれに代えて、例えば、細胞に存在するリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)による分解に対するその抵抗性を増加させて、それにより細胞におけるその半減期の増加を生じさせることによりガイドRNAの安定性を増加させるために用いることができる。ガイドRNA半減期を増強する修飾は、編集しようとする細胞へのCas又はCpf1エンドヌクレアーゼの導入が、エンドヌクレアーゼを生成するため翻訳される必要があるRNAを介する実施形態において特に有用であることもあり、なぜなら、エンドヌクレアーゼをコードするRNAと同時に導入されるガイドRNAの半減期の増加を用いて、ガイドRNAとコードされるCas又はCpf1エンドヌクレアーゼとが細胞に共存する時間を増加させることができるためである。
【0344】
修飾はまた、又はそれに代えて、細胞に導入されるRNAが自然免疫応答を誘発する可能性又は程度を低下させるために用いることができる。かかる応答は、以下及び当該技術分野において記載されるとおりの低分子干渉RNA(siRNA)を含め、RNA干渉(RNAi)のコンテクストで十分に特徴付けられているものであり、RNAの半減期の低下及び/又はサイトカイン若しくは免疫応答に関連する他の因子の誘発と関連付けられる傾向がある。
【0345】
また、細胞に導入されるエンドヌクレアーゼをコードするRNAに、限定なしに、RNAの安定性を(細胞に存在するRNアーゼによるその分解の増加によるなど)増強する修飾、結果として生じる産物(即ちエンドヌクレアーゼ)の翻訳を増強する修飾、及び/又は細胞に導入されるRNAが自然免疫応答を誘発する可能性又は程度を低下させる修飾を含め、1種以上の修飾が作られてもよい。
【0346】
前述のもの及びその他など、修飾の組み合わせも同様に用いることができる。CRISPR/Cas9/Cpf1の場合、例えば、ガイドRNAに1種以上の修飾(上記に例示されるものを含む)が作られてもよく、及び/又はCasエンドヌクレアーゼをコードするRNAに1種以上の修飾(上記に例示されるものを含む)が作られてもよい。
【0347】
例示として、CRISPR/Cas9/Cpf1システムにおいて使用されるガイドRNA、又は他の小型RNAは、以下に例示され、及び当該技術分野において記載されるとおりの、幾つもの修飾の容易な取込みを可能にする化学的手段によって容易に合成することができる。化学合成手順は絶えず拡大しているが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、これはPAGEなどのゲルの使用を回避する)などの手順によるかかるRNAの精製は、ポリヌクレオチド長さが増して100ヌクレオチドほどを大きく超えるようになると、一層難題となる傾向がある。より大きい長さの化学的に修飾されたRNAの生成に用いられる一つの手法は、一体にライゲートした2つ以上の分子を作製することである。Cas9エンドヌクレアーゼをコードするものなど、はるかに長いRNAは、より容易には酵素的に生成される。酵素的に作製されるRNAで用いるのに利用可能な修飾の種類は概して少ないが、それでもなお、例えば、安定性を増強し、自然免疫応答の可能性又は程度を低下させ、及び/又は以下及び当該技術分野で更に説明されるとおりの他の属性を増強するために用いることのできる修飾があり;及び新種の修飾が常時開発されている。
【0348】
各種の修飾、特により小型の化学的に合成されるRNAで高頻度に用いられるものの例示として、修飾は、糖の2’位で修飾された1つ以上のヌクレオチド、一部の実施形態では、2’−O−アルキル、2’−O−アルキル−O−アルキル、又は2’−フルオロ−修飾ヌクレオチドを有し得る。一部の実施形態において、RNA修飾は、ピリミジンのリボース上の2’−フルオロ、2’−アミノ又は2’O−メチル修飾、脱塩基残基、又はRNAの3’末端における逆位塩基を含む。かかる修飾はオリゴヌクレオチドにルーチンで取り込まれ、これらのオリゴヌクレオチドは、2’−デオキシオリゴヌクレオチドと比べて所与の標的に対するTmがより高い(即ち、標的結合親和性がより高い)ことが示されている。
【0349】
幾つものヌクレオチド及びヌクレオシド修飾が、それを取り込むオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ消化耐性を天然オリゴヌクレオチドと比べて高めることが示されている;こうした修飾オリゴは、非修飾オリゴヌクレオチドよりも長い間インタクトに生き残る。修飾オリゴヌクレオチドの具体的な例としては、修飾骨格、例えば、ホスホロチオエート、リン酸トリエステル、メチルホスホネート、短鎖アルキル又はシクロアルキル糖間連結又は短鎖ヘテロ原子又は複素環式糖間連結を有するものが挙げられる。一部のオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート骨格を有するオリゴヌクレオチド、並びにヘテロ原子骨格、特にCH−NH−O−CH、CH,〜N(CH)〜O〜CH(メチレン(メチルイミノ)又はMMI骨格として知られる)、CH−−O−−N(CH)−CH、CH−N(CH)−N(CH)−CH及びO−N(CH)−CH−CH骨格[ここで天然リン酸ジエステル骨格はO−P−−O−CHと表される]);アミド骨格[De Mesmaeker et al.,Ace.Chem.Res.,28:366−374(1995)を参照];モルホリノ骨格構造(Summerton and Weller、米国特許第5,034,506号明細書を参照);ペプチド核酸(PNA)骨格(ここでオリゴヌクレオチドのリン酸ジエステル骨格はポリアミド骨格に置き換えられ、ヌクレオチドはポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接又は間接的に結合している、Nielsen et al.,Science 1991,254,1497を参照)を有するものである。リン含有連結としては、限定はされないが、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、リン酸トリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチル及びその他の、3’アルキレンホスホネート及びキラルホスホネートを有するアルキルホスホネート類、ホスフィネート類、3’−アミノホスホルアミデート及びアミノアルキルホスホロアミデート類を有するホスホルアミデート類、チオノホスホロアミデート類、チオノアルキルホスホネート類、チオノアルキルホスホトリエステル類、及びボラノホスフェート類であって、通常の3’−5’連結を有するもの、これらの2’−5’連結類似体、及びヌクレオシド単位の隣接対が3’−5’から5’−3’又は2’−5’から5’−2’に連結されている逆極性を有するものが挙げられる;米国特許第3,687,808号明細書;同第4,469,863号明細書;同第4,476,301号明細書;同第5,023,243号明細書;同第5,177,196号明細書;同第5,188,897号明細書;同第5,264,423号明細書;同第5,276,019号明細書;同第5,278,302号明細書;同第5,286,717号明細書;同第5,321,131号明細書;同第5,399,676号明細書;同第5,405,939号明細書;同第5,453,496号明細書;同第5,455,233号明細書;同第5,466,677号明細書;同第5,476,925号明細書;同第5,519,126号明細書;同第5,536,821号明細書;同第5,541,306号明細書;同第5,550,111号明細書;同第5,563,253号明細書;同第5,571,799号明細書;同第5,587,361号明細書;及び同第5,625,050号明細書を参照のこと。
【0350】
モルホリノベースのオリゴマー化合物について、Braasch and David Corey,Biochemistry,41(14):4503−4510(2002);Genesis,Volume 30,Issue 3,(2001);Heasman,Dev.Biol.,243:209−214(2002);Nasevicius et al.,Nat.Genet.,26:216−220(2000);Lacerra et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,97:9591−9596(2000);及び1991年6月23日に取得された米国特許第5,034,506号明細書に記載されている。
【0351】
シクロヘキセニル核酸オリゴヌクレオチド模倣体について、Wang et al.,J.Am.Chem.Soc.,122:8595−8602(2000)に記載されている。
【0352】
そこにリン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチド骨格は、短鎖アルキル又はシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子及びアルキル又はシクロアルキルヌクレオシド間結合、又は1つ以上の短鎖ヘテロ原子又は複素環式ヌクレオシド間結合によって形成される骨格を有する。これらは、モルホリノ連結(一部がヌクレオシドの糖部分で形成される);シロキサン骨格;硫化物、スルホキシド及びスルホン骨格;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファミン酸塩骨格;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格;スルホン酸塩及びスルホンアミド骨格;アミド骨格を有するもの;並びに混合N、O、S、及びCH成分部分を有する他のものを有する;米国特許第5,034,506号明細書;同第5,166,315号明細書;同第5,185,444号明細書;同第5,214,134号明細書;同第5,216,141号明細書;同第5,235,033号明細書;同第5,264,562号明細書;同第5,264,564号明細書;同第5,405,938号明細書;同第5,434,257号明細書;同第5,466,677号明細書;同第5,470,967号明細書;同第5,489,677号明細書;同第5,541,307号明細書;同第5,561,225号明細書;同第5,596,086号明細書;同第5,602,240号明細書;同第5,610,289号明細書;同第5,602,240号明細書;同第5,608,046号明細書;同第5,610,289号明細書;同第5,618,704号明細書;同第5,623,070号明細書;同第5,663,312号明細書;同第5,633,360号明細書;同第5,677,437号明細書;及び同第5,677,439号明細書(これらの各々は、本明細書において参照により援用される)を参照のこと。
【0353】
1つ以上の置換糖部分、例えば2’位における以下のうちの1つもまた含まれ得る:OH、SH、SCH、F、OCN、OCHOCH、OCHO(CHCH、O(CHNH、又はO(CHCH[式中、nは1〜約10である];C1〜C10低級アルキル、アルコキシアルコキシ、置換低級アルキル、アルカリール又はアラルキル;Cl;Br;CN;CF;OCF;O−、S−、又はN−アルキル;O−、S−、又はN−アルケニル;SOCH;SOCH;ONO;NO;N;NH;ヘテロシクロアルキル;ヘテロシクロアルカリール;アミノアルキルアミノ;ポリアルキルアミノ;置換シリル;RNA開裂基;レポーター群;インターカレーター;オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を改良する基;又はオリゴヌクレオチド及び同様の特性を有する他の置換基の薬力学的特性を改良する基。一部の実施形態において、修飾としては、2’−メトキシエトキシ(2’−O−CHCHOCH、別名2’−O−(2−メトキシエチル))(Martin et al,HeIv.Chim.Acta,1995,78,486)が挙げられる。他の修飾としては、2’−メトキシ(2’−0−CH)、2’−プロポキシ(2’−OCH CHCH)及び2’−フルオロ(2’−F)が挙げられる。同様の修飾がまた、オリゴヌクレオチド上の他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位及び5’末端ヌクレオチドの5’位に作られてもよい。オリゴヌクレオチドはまた、シクロブチル類など、ペントフラノシル基の代わりに糖模倣体を有してもよい。
【0354】
一部の実施形態において、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間結合の両方、即ち骨格が、新規の基に置き換えられる。適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのため、塩基単位は維持される。一つのかかるオリゴマー化合物である、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているオリゴヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖骨格がアミド含有骨格、例えばアミノエチルグリシン骨格に置き換えられている。核酸塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接又は間接的に結合する。PNA化合物の調製について教示する代表的な米国特許は、限定はされないが、米国特許第5,539,082号明細書;同第5,714,331号明細書;及び同第5,719,262号明細書を有する。PNA化合物の更なる教示については、Nielsen et al,Science,254:1497−1500(1991)を参照することができる。
【0355】
一部の実施形態において、ガイドRNAはまた、それに加えて又は代えて、核酸塩基(多くの場合に当該技術分野では単に「塩基」と称される)修飾又は置換も含み得る。本明細書で使用されるとき、「非修飾」又は「天然」核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、及びウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には、天然核酸ではまれにしか又は一過性にしか見られない核酸塩基、例えば、ヒポキサンチン、6−メチルアデニン、5−Meピリミジン類、特に5−メチルシトシン(5−メチル−2’デオキシシトシンとも称され、及び多くの場合に当該技術分野では5−Me−Cと称される)、5−ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMC及びゲントビオシルHMC(gentobiosyl HMC)、並びに合成核酸塩基、例えば、2−アミノアデニン、2−(メチルアミノ)アデニン、2−(イミダゾリルアルキル)アデニン、2−(アミノアルキルアミノ(aminoalklyamino))アデニン又は他のヘテロ置換アルキルアデニン、2−チオウラシル、2−チオチミン、5−ブロモウラシル、5−ヒドロキシメチルウラシル、8−アザグアニン、7−デアザグアニン、N6(6−アミノヘキシル)アデニン、及び2,6−ジアミノプリンが含まれる。Kornberg,A.,DNA Replication,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp75−77(1980);Gebeyehu et al.,Nucl.Acids Res.15:4513(1997)。当該技術分野において公知の「ユニバーサル」塩基、例えばイノシンもまた含まれ得る。5−Me−C置換は核酸二重鎖安定性を0.6〜1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,in Crooke,S.T.and Lebleu,B.,eds.,Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276−278)、塩基置換の実施形態である。
【0356】
一部の実施形態において、修飾核酸塩基は、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニン及びグアニンの6−メチル及び他のアルキル誘導体、アデニン及びグアニンの2−プロピル及び他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミン及び2−チオシトシン、5−ハロウラシル及びシトシン、5−プロピニルウラシル及びシトシン、6−アゾウラシル、シトシン及びチミン、5−ウラシル(プソイドウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシル及び他の8−置換アデニン及びグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチル及び他の5−置換ウラシル及びシトシン、7−メチルグアニン(methylquanine)及び7−メチルアデニン、8−アザグアニン及び8−アザアデニン、7−デアザグアニン及び7−デアザアデニン、並びに3−デアザグアニン及び3−デアザアデニンなど、他の合成及び天然核酸塩基を含む。
【0357】
更に、核酸塩基は、米国特許第3,687,808号明細書に開示されるもの、‘The Concise Encyclopedia of Polymer Science And Engineering’,pages 858−859,Kroschwitz,J.I.,ed.John Wiley & Sons,1990に開示されるもの、Englisch et al.,Angewandle Chemie,International Edition’,1991,30,page 613によって開示されるもの、及びSanghvi,Y.S.,Chapter 15,Antisense Research and Applications’,pages 289−302,Crooke,S.T.and Lebleu,B.ea.,CRC Press,1993によって開示されるものを含む。これらの核酸塩基の特定のものは、本開示のオリゴマー化合物の結合親和性を増加させるのに特に有用である。それらとしては、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン並びに2−アミノプロピルアデニンを有するN−2、N−6及び0−6置換プリン、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシンが挙げられる。5−メチルシトシン置換は核酸二重鎖安定性を0.6〜1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,Crooke,S.T.and Lebleu,B.,eds,‘Antisense Research and Applications’,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276−278)、塩基置換の実施形態、更により詳細には、2’−O−メトキシエチル糖修飾と組み合わせたときの態様である。修飾核酸塩基については、米国特許第3,687,808号明細書、並びに同第4,845,205号明細書;同第5,130,302号明細書;同第5,134,066号明細書;同第5,175,273号明細書;同第5,367,066号明細書;同第5,432,272号明細書;同第5,457,187号明細書;同第5,459,255号明細書;同第5,484,908号明細書;同第5,502,177号明細書;同第5,525,711号明細書;同第5,552,540号明細書;同第5,587,469号明細書;同第5,596,091号明細書;同第5,614,617号明細書;同第5,681,941号明細書;同第5,750,692号明細書;同第5,763,588号明細書;同第5,830,653号明細書;同第6,005,096号明細書;及び米国特許出願公開第2003/0158403号明細書に記載されている。
【0358】
一部の実施形態において、ガイドRNA及び/又はエンドヌクレアーゼをコードするmRNA(又はDNA)は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、又は細胞取込みを増強する1つ以上の部分又はコンジュゲートに化学的に連結される。かかる部分は、限定はされないが、コレステロール部分などの脂質部分[Letsinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:6553−6556(1989)];コール酸[Manoharan et al.,Bioorg.Med.Chem.Let.,4:1053−1060(1994)];チオエーテル、例えばヘキシル−S−トリチルチオール[Manoharan et al,Ann.N.Y.Acad.Sci.,660:306−309(1992)及びManoharan et al.,Bioorg.Med.Chem.Let.,3:2765−2770(1993)];チオコレステロール[Oberhauser et al.,Nucl.Acids Res.,20:533−538(1992)];脂肪族鎖、例えばドデカンジオール又はウンデシル残基[Kabanov et al.,FEBS Lett.,259:327−330(1990)及びSvinarchuk et al.,Biochimie,75:49−54(1993)];リン脂質、例えばジ−ヘキサデシル−rac−グリセロール又はトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート[Manoharan et al.,Tetrahedron Lett.,36:3651−3654(1995)及びShea et al.,Nucl.Acids Res.,18:3777−3783(1990)];ポリアミン又はポリエチレングリコール鎖[Mancharan et al.,Nucleosides & Nucleotides,14:969−973(1995)];アダマンタン酢酸[Manoharan et al.,Tetrahedron Lett.,36:3651−3654(1995)];パルミチル部分[(Mishra et al.,Biochim.Biophys.Acta,1264:229−237(1995)];又はオクタデシルアミン又はヘキシルアミノ−カルボニル−tオキシコレステロール部分[Crooke et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,277:923−937(1996)]を含む。米国特許第4,828,979号明細書;同第4,948,882号明細書;同第5,218,105号明細書;同第5,525,465号明細書;同第5,541,313号明細書;同第5,545,730号明細書;同第5,552,538号明細書;同第5,578,717号明細書、同第5,580,731号明細書;同第5,580,731号明細書;同第5,591,584号明細書;同第5,109,124号明細書;同第5,118,802号明細書;同第5,138,045号明細書;同第5,414,077号明細書;同第5,486,603号明細書;同第5,512,439号明細書;同第5,578,718号明細書;同第5,608,046号明細書;同第4,587,044号明細書;同第4,605,735号明細書;同第4,667,025号明細書;同第4,762,779号明細書;同第4,789,737号明細書;同第4,824,941号明細書;同第4,835,263号明細書;同第4,876,335号明細書;同第4,904,582号明細書;同第4,958,013号明細書;同第5,082,830号明細書;同第5,112,963号明細書;同第5,214,136号明細書;同第5,082,830号明細書;同第5,112,963号明細書;同第5,214,136号明細書;同第5,245,022号明細書;同第5,254,469号明細書;同第5,258,506号明細書;同第5,262,536号明細書;同第5,272,250号明細書;同第5,292,873号明細書;同第5,317,098号明細書;同第5,371,241号明細書、同第5,391,723号明細書;同第5,416,203号明細書、同第5,451,463号明細書;同第5,510,475号明細書;同第5,512,667号明細書;同第5,514,785号明細書;同第5,565,552号明細書;同第5,567,810号明細書;同第5,574,142号明細書;同第5,585,481号明細書;同第5,587,371号明細書;同第5,595,726号明細書;同第5,597,696号明細書;同第5,599,923号明細書;同第5,599,928号明細書及び同第5,688,941号明細書もまた参照のこと。
【0359】
一部の実施形態において、糖及び他の部分を使用して、カチオン性ポリソーム及びリポソームなど、ヌクレオチドを有するタンパク質及び複合体を特定の部位に標的化することができる。例えば、肝細胞特異的トランスファーがアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)によって媒介されてもよい;例えば、Hu,et al.,Protein Pept Lett.21(10):1025−30(2014)を参照のこと。当該技術分野において公知の、及び常時開発される他のシステムを使用して、この場合に有用な生体分子及び/又はその複合体を目的の特定の標的細胞に標的化することができる。
【0360】
一部の実施形態において、これらのターゲティング部分又はコンジュゲートは、第一級又は第二級ヒドロキシル基など、官能基に共有結合的に結合するコンジュゲート基を含み得る。本開示のコンジュゲート基には、インターカレーター、レポーター分子、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、オリゴマーの薬力学的特性を増強する基、及びオリゴマーの薬物動態特性を増強する基が含まれる。典型的なコンジュゲート基としては、コレステロール、脂質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸塩、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及び色素が挙げられる。薬力学的特性を増強する基としては、本開示の文脈では、取込みを改良する基、分解に対する抵抗性を増強する基、及び/又は標的核酸との配列特異的ハイブリダイゼーションを強化する基が挙げられる。薬物動態特性を増強する基としては、本開示の文脈では、本開示の化合物の取込み、分布、代謝又は排出を改良する基が挙げられる。代表的なコンジュゲート基は、1992年10月23日に出願されたPCT/US92/09196号明細書、及び米国特許第6,287,860号明細書(これらは参照により本明細書に援用される)に開示されている。コンジュゲート部分としては、限定はされないが、脂質部分、例えば、コレステロール部分、コール酸、チオエーテル、例えば、ヘキシル−5−トリチルチオール、チオコレステロール、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオール又はウンデシル残基、リン脂質、例えば、ジ−ヘキサデシル−rac−グリセロール又はトリエチルアンモニウムl,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート、ポリアミン又はポリエチレングリコール鎖、又はアダマンタン酢酸、パルミチル部分、又はオクタデシルアミン又はヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分が挙げられる。例えば、米国特許第4,828,979号明細書;同第4,948,882号明細書;同第5,218,105号明細書;同第5,525,465号明細書;同第5,541,313号明細書;同第5,545,730号明細書;同第5,552,538号明細書;同第5,578,717号明細書、同第5,580,731号明細書;同第5,580,731号明細書;同第5,591,584号明細書;同第5,109,124号明細書;同第5,118,802号明細書;同第5,138,045号明細書;同第5,414,077号明細書;同第5,486,603号明細書;同第5,512,439号明細書;同第5,578,718号明細書;同第5,608,046号明細書;同第4,587,044号明細書;同第4,605,735号明細書;同第4,667,025号明細書;同第4,762,779号明細書;同第4,789,737号明細書;同第4,824,941号明細書;同第4,835,263号明細書;同第4,876,335号明細書;同第4,904,582号明細書;同第4,958,013号明細書;同第5,082,830号明細書;同第5,112,963号明細書;同第5,214,136号明細書;同第5,082,830号明細書;同第5,112,963号明細書;同第5,214,136号明細書;同第5,245,022号明細書;同第5,254,469号明細書;同第5,258,506号明細書;同第5,262,536号明細書;同第5,272,250号明細書;同第5,292,873号明細書;同第5,317,098号明細書;同第5,371,241号明細書、同第5,391,723号明細書;同第5,416,203号明細書、同第5,451,463号明細書;同第5,510,475号明細書;同第5,512,667号明細書;同第5,514,785号明細書;同第5,565,552号明細書;同第5,567,810号明細書;同第5,574,142号明細書;同第5,585,481号明細書;同第5,587,371号明細書;同第5,595,726号明細書;同第5,597,696号明細書;同第5,599,923号明細書;同第5,599,928号明細書及び同第5,688,941号明細書を参照のこと。
【0361】
それほど化学合成に適していない、且つ典型的には酵素合成によって作製される、より長いポリヌクレオチドもまた、様々な手段によって修飾することができる。かかる修飾には、例えば、ある種のヌクレオチド類似体の導入、分子の5’又は3’末端における特定の配列又は他の部分の取込み、及び他の修飾が含まれ得る。例示として、Cas9をコードするmRNAは約4kb長であり、インビトロ転写によって合成することができる。このmRNAに修飾を適用することにより、例えば、その翻訳又は安定性を増加させることができ(細胞による分解に対するその抵抗性を増加させることによるなど)、又は外因性RNA、特にCas9をコードするものなどのより長いRNAの導入後に細胞で観察されることの多い自然免疫応答を誘発するRNAの傾向を低下させることができる。
【0362】
数多くのかかる修飾が、ポリAテール、5’キャップ類似体(例えば、アンチリバースキャップ類似体(ARCA)又はm7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))、修飾5’又は3’非翻訳領域(UTR)、修飾塩基の使用(プソイドUTP、2−チオ−UTP、5−メチルシチジン−5’−三リン酸(5−メチル−CTP)又はN6−メチル−ATPなど)、又はホスファターゼ処理による5’末端リン酸の除去など、当該技術分野において記載されている。これら及び他の修飾は当該技術分野において公知であり、RNAの新規修飾が常時開発されている。
【0363】
修飾RNAの商業的供給業者は、例えば、TriLink Biotech、AxoLabs、Bio−Synthesis Inc.、Dharmacon及び他多数を含め、数多くある。TriLinkによって記載されるとおり、例えば、5−メチル−CTPを使用して、ヌクレアーゼ安定性の増加、翻訳の増加又は自然免疫受容体とインビトロ転写RNAとの相互作用の低下など、望ましい特徴を付与することができる。5−メチルシチジン−5’−三リン酸(5−メチル−CTP)、N6−メチル−ATP、並びにプソイドUTP及び2−チオ−UTPもまた、以下で参照するKormann et al.及びWarren et al.による発表に示されるとおり、翻訳を増強しつつ、培養下及びインビボで自然免疫刺激を低下させることが示されている。
【0364】
インビボで送達される化学修飾mRNAを使用して治療効果の向上を実現できることが示されている;例えば、Kormann et al.,Nature Biotechnology 29,154−157(2011)を参照のこと。かかる修飾は、例えば、RNA分子の安定性の増加及び/又はその免疫原性の低下のために使用することができる。プソイドU、N6−メチル−A、2−チオ−U及び5−メチル−Cなどの化学修飾を使用すると、ウリジン及びシチジン残基の僅か4分の1をそれぞれ2−チオ−U及び5−メチル−Cに置換するだけで、マウスにおいてToll様受容体(TLR)媒介性のmRNA認識の大幅な減少が生じたことが分かった。自然免疫系の活性化の低下により、こうした修飾を用いてインビボでのmRNAの安定性及び寿命を有効に増加させることができる;例えば、Kormann et al.、前掲を参照のこと。
【0365】
また、自然抗ウイルス応答を回避するように設計された修飾を取り込んだ合成メッセンジャーRNAを反復投与することにより、分化したヒト細胞を多能性に再プログラム化できることも示されている。例えば、Warren,et al.,Cell Stem Cell,7(5):618−30(2010)を参照のこと。一次再プログラム化タンパク質として働くかかる修飾mRNAは、複数のヒト細胞型を再プログラム化するのに効率的な手段であり得る。かかる細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)と称され、5−メチル−CTP、プソイドUTP及びアンチリバースキャップ類似体(ARCA)を取り込んだ酵素的に合成されたRNAを使用して細胞の抗ウイルス応答を有効に逃れ得ることが分かった;例えば、Warren et al.、前掲を参照のこと。
【0366】
当該技術分野において記載されるポリヌクレオチドの他の修飾としては、例えば、ポリAテールの使用、5’キャップ類似体(m7G(5’)ppp(5’)G(mCAP)など)の付加、5’又は3’非翻訳領域(UTR)の修飾、又はホスファターゼ処理による5’末端リン酸の除去が挙げられ−、新規手法が常時開発されている。
【0367】
本明細書で使用される修飾RNAの生成に適用可能な幾つもの組成物及び技法が、低分子干渉RNA(siRNA)を含め、RNA干渉(RNAi)の修飾に関連して開発されている。siRNAは、それがmRNA干渉によって遺伝子サイレンシングに及ぼす効果が概して一過性であり、それにより反復投与が必要になり得るため、インビボで特定の課題を提示する。加えて、siRNAは二本鎖RNA(dsRNA)であり、哺乳類細胞は、多くの場合にウイルス感染の副産物であるdsRNAを検出して中和するように進化した免疫応答を有する。従って、dsRNAに対する細胞応答を媒介することのできる哺乳類酵素、例えば、PKR(dsRNA応答性キナーゼ)、及び潜在的にレチノイン酸誘導性の遺伝子I(RIG−I)、並びにかかる分子に応答してサイトカインの誘導を惹起することのできるToll様受容体(TLR3、TLR7及びTLR8など)がある;例えば、Angart et al.,Pharmaceuticals(Basel)6(4):440−468(2013);Kanasty et al.,Molecular Therapy 20(3):513−524(2012);Burnett et al.,Biotechnol J.6(9):1130−46(2011);Judge and MacLachlan,Hum Gene Ther 19(2):111−24(2008)によるレビュー;及びそこに引用される文献を参照のこと。
【0368】
多種多様な修飾が、RNA安定性の増強、自然免疫応答の低下、及び/又は本明細書に記載されるとおりの、ヒト細胞へのポリヌクレオチドの導入に関連して有用であり得る他の利益の実現のため開発され、適用されている;例えば、Whitehead KA et al.,Annual Review of Chemical and Biomolecular Engineering,2:77−96(2011);Gaglione and Messere,Mini Rev Med Chem,10(7):578−95(2010);Chernolovskaya et al,Curr Opin Mol Ther.,12(2):158−67(2010);Deleavey et al.,Curr Protoc Nucleic Acid Chem Chapter 16:Unit 16.3(2009);Behlke,Oligonucleotides 18(4):305−19(2008);Fucini et al.,Nucleic Acid Ther 22(3):205−210(2012);Bremsen et al.,Front Genet 3:154(2012)によるレビューを参照のこと。
【0369】
上述のとおり、修飾RNAの商業的供給業者は幾つもあり、その多くはsiRNAの有効性を改善するように設計された修飾に特化している。文献に報告される様々な知見に基づき種々の手法が提供される。例えば、Dharmaconは、Kole,Nature Reviews Drug Discovery 11:125−140(2012)によって報告されるとおり、siRNAのヌクレアーゼ耐性を改善するため非架橋酸素から硫黄(ホスホロチオエート、PS)への置換が広範に用いられていることを注記している。リボースの2’位の修飾は、二重鎖安定性(Tm)を増加させつつインターヌクレオチドリン酸結合のヌクレアーゼ耐性を改善することが報告されており、これはまた免疫活性化からの保護を提供することも示されている。中程度のPS骨格修飾と小さい十分に許容される2’置換(2’−O−メチル、2’−フルオロ、2’−ヒドロ)との組み合わせは、Soutschek et al.Nature 432:173−178(2004)によって報告されるとおり、インビボでの適用に極めて安定性の高いsiRNAと関連付けられており;及び2’−O−メチル修飾は、Volkov,Oligonucleotides 19:191−202(2009)によって報告されるとおり、安定性の改善に有効であることが報告されている。自然免疫応答の誘導の減少に関連して、2’−O−メチル、2’−フルオロ、2’−ヒドロによる特定の配列の修飾が、概してサイレンシング活性は維持しつつ、TLR7/TLR8相互作用を低下させることが報告されている;例えば、Judge et al.,Mol.Ther.13:494−505(2006);及びCekaite et al.,J.Mol.Biol.365:90−108(2007).を参照のこと。2−チオウラシル、プソイドウラシル、5−メチルシトシン、5−メチルウラシル、及びN6−メチルアデノシンなどの追加的な修飾もまた、TLR3、TLR7、及びTLR8によって媒介される免疫効果を最小限に抑えることが示されている;例えば、Kariko,K.et al.,Immunity 23:165−175(2005)を参照のこと。
【0370】
同様に当該技術分野において公知であり、且つ市販されているとおり、本明細書で使用するRNAなどのポリヌクレオチドに対し、例えば、コレステロール、トコフェロール及び葉酸、脂質、ペプチド、ポリマー、リンカー及びアプタマーを含め、その送達及び/又は細胞による取込みを増強することのできる幾つものコンジュゲートを適用することができる;例えば、Winkler,Ther.Deliv.4:791−809(2013)によるレビュー、及びそこに引用される文献を参照のこと。
【0371】
送達
一部の実施形態において、本明細書に提供される方法で使用される任意の核酸分子、例えば本開示のゲノムターゲティング核酸及び/又は部位特異的ポリペプチドをコードする核酸は、細胞への送達用の送達媒体の中又はその表面上にパッケージングされる。企図される送達媒体としては、限定はされないが、ナノスフェア、リポソーム、量子ドット、ナノ粒子、ポリエチレングリコール粒子、ヒドロゲル、及びミセルが挙げられる。当該技術分野で記載されるとおり、種々のターゲティング部分を用いてかかる媒体と所望の細胞型又は位置との優先的相互作用を増強することができる。
【0372】
細胞への本開示の複合体、ポリペプチド、及び核酸の導入は、ウイルス又はバクテリオファージ感染、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、リポフェクション、電気穿孔、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性トランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、リポソーム媒介性トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接のマイクロインジェクション、ナノ粒子媒介性核酸送達などによって行うことができる。
【0373】
実施形態において、ガイドRNAポリヌクレオチド(RNA又はDNA)及び/又は1つ又は複数のエンドヌクレアーゼポリヌクレオチド(RNA又はDNA)は、当該技術分野において公知のウイルス又は非ウイルス送達媒体によって送達することができる。或いは、1つ又は複数のエンドヌクレアーゼポリペプチドは、電気穿孔又は脂質ナノ粒子など、当該技術分野において公知のウイルス又は非ウイルス送達媒体によって送達されてもよい。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、単独か、又は1つ以上のガイドRNA、又はtracrRNAと併せた1つ以上のcrRNAと予め複合体化されるかのいずれかで、1つ以上のポリペプチドとして送達されてもよい。
【0374】
実施形態において、ポリヌクレオチドは、限定はされないが、ナノ粒子、リポソーム、リボ核タンパク質、正電荷ペプチド、小分子RNAコンジュゲート、アプタマー−RNAキメラ、及びRNA融合タンパク質複合体を含めた非ウイルス送達媒体によって送達されてもよい。一部の例示的非ウイルス送達媒体について、Peer and Lieberman,Gene Therapy,18:1127−1133(2011)に記載されている(これはsiRNA用の非ウイルス送達媒体に焦点を置いているが、これは他のポリヌクレオチドの送達にもまた有用である)。
【0375】
実施形態において、ガイドRNA、sgRNA、及びエンドヌクレアーゼをコードするmRNAなど、ポリヌクレオチドは、脂質ナノ粒子(LNP)によって細胞又は患者に送達されてもよい。
【0376】
動物モデル及びヒトの両方で核酸の非ウイルス送達方法が幾つか試験されているが、最も十分に開発されているシステムは、脂質ナノ粒子である。脂質ナノ粒子(LNP)は、概して、イオン化可能なカチオン性脂質と、3つ以上の追加成分、典型的にはコレステロール、DOPE及びポリエチレングリコール(PEG)含有脂質とで構成され、例えば実施例2を参照のこと。カチオン性脂質は、正電荷核酸に結合して、核酸の分解を防ぐ高密度複合体を形成することができる。マイクロ流体システムを通過する間に、それらの成分が自己組織化して50〜150nMのサイズ範囲の粒子を形成し、ここではカチオン性脂質と複合体化して脂質二重層様の構造に取り囲まれたコアに核酸が封入されている。対象の循環への注入後、この粒子はアポリポタンパク質E(apoE)に結合することができる。ApoEはLDL受容体のリガンドであり、受容体媒介性エンドサイトーシスによる肝臓のヘパトサイトへの取込みを媒介する。この種のLNPは、mRNA及びsiRNAをげっ歯類、霊長類及びヒトの肝臓のヘパトサイトに効率的に送達することが示されている。エンドサイトーシス後、LNPはエンドソームに存在する。封入された核酸は、カチオン性脂質のイオン化可能な性質によって媒介されるエンドソームエスケープの過程を経る。これにより核酸が細胞質に送達され、そこでmRNAがコードタンパク質へと翻訳されることができる。従って、一部の実施形態において、gRNA及びCas9をコードするmRNAをLNPに封入することを用いて、静脈注射後にヘパトサイトに両方の成分が効率的に送達される。エンドソームエスケープ後、Cas9 mRNAはCas9タンパク質に翻訳され、gRNAと複合体を形成することができる。一部の実施形態において、Cas9タンパク質配列に核局在化シグナルが含まれると、Cas9タンパク質/gRNA複合体の核移行が促進される。或いは、小さいgRNAは核膜孔複合体を横断し、核内でCas9タンパク質と複合体を形成する。核に入ると、gRNA/Cas9複合体は相同標的部位に関してゲノムをスキャンし、ゲノム中の所望の標的部位に優先的に二本鎖切断を生じさせる。RNA分子のインビボ半減期は数時間〜数日程度と短い。同様に、タンパク質の半減期も短い傾向があり、数時間〜数日程度である。従って、一部の実施形態においてLNPを使用したgRNA及びCas9 mRNAの送達は、gRNA/Cas9複合体の一過性の発現及び活性をもたらし得るに過ぎない。これによってオフターゲット切断頻度が低下するという利点が付与され、ひいては一部の実施形態では遺伝毒性のリスクが最小限となり得る。LNPは、概してウイルス粒子よりも免疫原性が低い。多くのヒトがAAVに対する免疫を既に持っているが、LNPに対する既存免疫はない。LNPに対して追加及び適応免疫応答が起こる可能性は低く、これによりLNPの反復投与が可能となる。
【0377】
LNPでの使用のため、幾つかの異なるイオン化可能なカチオン性脂質が開発されている。それらとしては、とりわけ、C12−200(Love et al(2010),PNAS vol.107,1864−1869)、MC3、LN16、MD1が挙げられる。ある種のLNPでは、LNPの外側にGalNac部分が取り付けられ、これがアシアロ糖タンパク質(asialyloglycoprotein)受容体を介した肝臓への取込みのリガンドとして働く。これらのカチオン性脂質の任意のものを使用して、肝臓へのgRNA及びCas9 mRNAの送達用LNPが製剤化される。
【0378】
一部の実施形態において、LNPは、1000nm、500nm、250nm、200nm、150nm、100nm、75nm、50nm、又は25nm未満の直径を有する任意の粒子を指す。或いは、ナノ粒子は、1〜1000nm、1〜500nm、1〜250nm、25〜200nm、25〜100nm、35〜75nm、又は25〜60nmのサイズの範囲であってもよい。
【0379】
LNPは、カチオン性、アニオン性、又は中性脂質でできていてもよい。融合性リン脂質DOPE又は膜成分コレステロールなどの中性脂質が、「ヘルパー脂質」としてトランスフェクション活性及びナノ粒子安定性を増強するためLNPに含まれてもよい。カチオン性脂質の制限としては、低い安定性及び急速なクリアランスに起因する低い有効性、並びに炎症反応又は抗炎症反応の発生が挙げられる。LNPはまた、疎水性脂質、親水性脂質、又は疎水性脂質及び親水性脂質の両方を有してもよい。
【0380】
当該技術分野において公知の任意の脂質又は脂質の組み合わせを使用してLNPを作製し得る。LNPの作製に使用される脂質の例は、DOTMA、DOSPA、DOTAP、DMRIE、DC−コレステロール、DOTAP−コレステロール、GAP−DMORIE−DPyPE、及びGL67A−DOPE−DMPE−ポリエチレングリコール(PEG)である。カチオン性脂質の例は、98N12−5、C12−200、DLin−KC2−DMA(KC2)、DLin−MC3−DMA(MC3)、XTC、MD1、及び7C1である。中性脂質の例は、DPSC、DPPC、POPC、DOPE、及びSMである。PEG修飾脂質の例は、PEG−DMG、PEG−CerC14、及びPEG−CerC20である。
【0381】
実施形態において、LNPを作製するために、脂質はいかなるモル比で組み合わされてもよい。加えて、LNPを作製するために、1つ又は複数のポリヌクレオチドが1つ又は複数の脂質と幅広いモル比で組み合わされてもよい。
【0382】
実施形態において、部位特異的ポリペプチド及びゲノムターゲティング核酸は、各々が別個に細胞又は患者に投与されてもよい。他方で、部位特異的ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNA、又はtracrRNAと併せた1つ以上のcrRNAと予め複合体化されてもよい。予め複合体化された材料が、次には細胞又は患者に投与されてもよい。かかる予め複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として知られる。
【0383】
RNAはRNA又はDNAと特異的相互作用を形成する能力を有する。この特性は多くの生物学的過程で利用されているが、これはまた、核酸リッチな細胞環境において無差別な相互作用となるリスクも伴う。この問題の一つの解決法はリボ核タンパク質粒子(RNP)の形成であり、ここではRNAがエンドヌクレアーゼと予め複合体化される。RNPの別の利益は分解からのRNAの保護である。
【0384】
一部の実施形態において、RNPにおけるエンドヌクレアーゼは修飾されていても、又は非修飾であってもよい。同様に、gRNA、crRNA、tracrRNA、又はsgRNAは修飾されていても、又は非修飾であってもよい。数多くの修飾が当該技術分野において公知であり、使用することができる。
【0385】
エンドヌクレアーゼとsgRNAとは、概して1:1のモル比で組み合わされてもよい。或いは、エンドヌクレアーゼ、crRNA及びtracrRNAは、概して1:1:1のモル比で組み合わされてもよい。しかしながら、RNPの作製には幅広いモル比を用いることができる。
【0386】
一部の実施形態において、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが送達に用いられてもよい。送達しようとするポリヌクレオチドを含むパッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子の作製技法は、当該技術分野において標準的である。rAAVの作製には、単一細胞(本明細書ではパッケージング細胞と称される)の中に以下の成分:rAAVゲノム、rAAVゲノムと別個の(即ちその中にない)AAV rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が存在する必要がある。AAV rep及びcap遺伝子は、限定はされないが、AAV血清型AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8、AAV−9、AAV−10、AAV−11、AAV−12、AAV−13及びAAV rh.74を含め、組換えウイルスが由来することのできる任意のAAV血清型からのものであってもよく、rAAVゲノムITRと異なるAAV血清型からのものであってもよい。シュードタイプrAAVの作製が、例えば、国際公開第01/83692号パンフレットに開示されている。表1を参照のこと。
【0387】
【表2】
【0388】
一部の実施形態において、パッケージング細胞の作成方法は、AAV粒子作製に必要な全ての成分を安定に発現する細胞株を作成することを含む。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムと別個のAAV rep及びcap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能マーカーを有するプラスミド(又は複数のプラスミド)が細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077−2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65−73)などの手順によるか、又は直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661−4666)によって細菌プラスミドに導入されている。パッケージング細胞株は次に、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、且つrAAVの大規模作製に好適であることである。好適な方法の他の例では、プラスミドよりむしろアデノウイルス又はバキュロウイルスを利用してrAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子がパッケージング細胞に導入される。
【0389】
rAAV作製の一般的原理については、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533−539;及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97−129)にレビューされている。様々な手法が、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822−3828);米国特許第5,173,414号明細書;国際公開第95/13365号パンフレット及び対応する米国特許第5,658,776号明細書;国際公開第95/13392号パンフレット;国際公開第96/17947号パンフレット;PCT/US98/18600号明細書;国際公開第97/09441号パンフレット(PCT/US96/14423号明細書);国際公開第97/08298号パンフレット(PCT/US96/13872号明細書);国際公開第97/21825号パンフレット(PCT/US96/20777号明細書);国際公開第97/06243号パンフレット(PCT/FR96/01064号明細書);国際公開第99/11764号パンフレット;Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244−1250;Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609−615;Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124−1132;米国特許第5,786,211号明細書;米国特許第5,871,982号明細書;及び米国特許第6,258,595号明細書に記載されている。
【0390】
AAVベクター血清型は標的細胞型に合致させることができる。例えば、以下の例示的細胞型は、数ある中でも特に、指示されるAAV血清型によって形質導入されてもよい。例えば、肝組織/細胞型に好適なAAVベクターの血清型としては、限定はされないが、AAV3、AAV5、AAV8及びAAV9が挙げられる。
【0391】
アデノ随伴ウイルスベクターに加えて、他のウイルスベクターを使用することができる。かかるウイルスベクターとしては、限定はされないが、レンチウイルス、アルファウイルス、エンテロウイルス、ペスチウイルス、バキュロウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、パポーバウイルス(papovavirusr)、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、及び単純ヘルペスウイルスが挙げられる。
【0392】
一部の実施形態では、Cas9 mRNA、アルブミン遺伝子の1つ又は2つの遺伝子座を標的とするsgRNA、及びドナーDNAは、各々が脂質ナノ粒子に別個に製剤化されるか、又は全てが1つの脂質ナノ粒子に共製剤化され、又は2つ以上の脂質ナノ粒子に共製剤化される。
【0393】
一部の実施形態では、Cas9 mRNAは脂質ナノ粒子に製剤化され、一方でsgRNA及びドナーDNAはAAVベクターで送達される。一部の実施形態では、Cas9 mRNAとsgRNAとは脂質ナノ粒子に共製剤化され、一方でドナーDNAはAAVベクターで送達される。
【0394】
Cas9ヌクレアーゼをDNAプラスミドとして、mRNAとして又はタンパク質として送達する選択肢が利用可能である。ガイドRNAは同じDNAから発現させることができ、又はRNAとして送達することもできる。RNAは、その半減期が改変され若しくは向上するように、又は免疫応答の可能性若しくは程度が低下するように化学的に修飾することができる。エンドヌクレアーゼタンパク質は送達前にgRNAと複合体化することができる。ウイルスベクターは効率的な送達を可能にし;分割バージョンのCas9及びCas9のより小さいオルソログを、HDR用のドナーについてできるのと同じく、AAVにパッケージングすることができる。これらの成分の各々を送達することのできる様々な非ウイルス送達方法もまた存在し、又は非ウイルス方法及びウイルス方法をタンデムで利用することができる。例えば、ナノ粒子を使用してタンパク質及びガイドRNAを送達することができ、一方でAAVを使用してドナーDNAを送達することができる。
【0395】
治療処置用のゲノム編集成分を送達することが関係する一部の実施形態では、形質転換しようとする細胞、例えばヘパトサイトの核に少なくとも2つの成分;配列特異的ヌクレアーゼ及びDNAドナー鋳型が送達される。一部の実施形態において、ドナーDNA鋳型は、向肝性のあるアデノ随伴ウイルス(AAV)にパッケージングされる。一部の実施形態において、AAVは、血清型AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV5、AAV6又はAAV−DJから選択される。一部の実施形態において、AAVにパッケージングされたDNAドナー鋳型が初めに末梢静脈内注射によって対象、例えば患者に投与され、続いて配列特異的ヌクレアーゼが投与される。AAVにパッケージングされたドナーDNA鋳型を最初に送達する利点は、送達されたドナーDNA鋳型が、形質導入されたヘパトサイトの核に安定に維持されるであろうことであり、それにより続く配列特異的ヌクレアーゼの投与が可能となり、それがゲノムに二本鎖切断を作り出し、続いてHDR又はNHEJによってDNAドナーが組み込まれる。一部の実施形態では、配列特異的ヌクレアーゼは、トランス遺伝子の標的組込みを促進するために必要となったときにのみ所望の治療効果に十分なレベルで標的細胞に活性のまま残っていることが望ましい。配列特異的ヌクレアーゼが細胞に長期間活性のまま残る場合、それによってオフターゲット部位での二本鎖切断の頻度が増加することになる。具体的には、オフターゲット切断頻度は、オフターゲット切断効率にヌクレアーゼが活性である時間を乗じたものの関数である。mRNAの形態の配列特異的ヌクレアーゼを送達すると、mRNA及び翻訳されたタンパク質が細胞において短命であるため、ヌクレアーゼ活性の持続時間は数時間〜数日の範囲の短いものとなる。従って、ドナー鋳型を既に含有する細胞に配列特異的ヌクレアーゼを送達すると、オフターゲット組込みに対する標的組込みの比率が最も高くなるものと予想される。加えて、末梢静脈内注射後のヘパトサイトの核へのAAVの媒介によるドナーDNA鋳型送達は、ウイルスが細胞を感染させて、エンドソームから逃れ、次に核に移行して、宿主成分によって一本鎖AAVゲノムを二本鎖DNA分子に変換する必要があるため、典型的には1〜14日程度と時間がかかる。従って、少なくとも一部の実施形態において、CRISPR−Cas9成分は約1〜3日しか活性でないであろうため、これらのヌクレアーゼ成分の供給前にドナーDNA鋳型を核に送達する過程を完了させることが好ましい。
【0396】
一部の実施形態において、配列特異的ヌクレアーゼは、アルブミン遺伝子のイントロン1内のDNA配列をCas9ヌクレアーゼと一緒になって指向するsgRNAで構成されるCRISPR−Cas9である。一部の実施形態において、Cas9ヌクレアーゼは、1つ以上の核局在化シグナル(NLS)に作動可能に融合した、Cas9タンパク質をコードするmRNAとして送達される。一部の実施形態において、sgRNA及びCas9 mRNAは、脂質ナノ粒子にパッケージングすることによりヘパトサイトに送達される。一部の実施形態において、脂質ナノ粒子は脂質C12−200を含有する(Love et al 2010,PNAS vol 107 1864−1869)。一部の実施形態において、LNPにパッケージングされるsgRNAとCas9 mRNAとの比は1:1(質量比)であり、その結果、マウスにおけるインビボDNA切断が最大となる。代替的実施形態において、LNPにパッケージングされるsgRNAとCas9 mRNAとの別の質量比、例えば、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1又は2:1又は逆の比が用いられてもよい。一部の実施形態では、Cas9 mRNAとsgRNAとは別個のLNP製剤にパッケージングされ、sgRNAを含有するLNPの約1〜約8時間前にCas9 mRNA含有LNPを患者に送達することにより、sgRNAの送達前にCas9 mRNAが翻訳されるのに最適な時間が与えられる。
【0397】
一部の実施形態において、gRNAとCas9 mRNAとを封入するLNP製剤(「LNP−ヌクレアーゼ製剤」)が、AAVにパッケージングされたDNAドナー鋳型を予め投与された対象、例えば患者に投与される。一部の実施形態において、LNP−ヌクレアーゼ製剤は、AAV−ドナーDNA鋳型の投与後1日〜28日以内又は7日〜28日以内又は7日〜14日以内に対象に投与される。AAV−ドナーDNA鋳型に対してLNP−ヌクレアーゼ製剤を送達する最適なタイミングは、当該技術分野において公知の技法、例えばマウス及びサルを含めた動物モデルで行われる試験を用いて決定することができる。
【0398】
一部の実施形態において、DNAドナー鋳型は、非ウイルス送達方法を用いて対象、例えば患者のヘパトサイトに送達される。一部の患者(典型的には30%)は、最も一般的に用いられるAAV血清型に対する既存の中和抗体を有し、それが前記AAVによる効果的な遺伝子送達を妨げるが、非ウイルス送達方法では全ての患者が治療可能となる。幾つかの非ウイルス送達方法論が当該技術分野において公知となっている。詳細には脂質ナノ粒子(LNP)が、動物及びヒトにおいて静脈内注射後にその封入されたカーゴをヘパトサイトの細胞質に効率的に送達することが公知である。このようなLNPは、受容体媒介性エンドサイトーシスの過程を通じて肝臓によって能動的に取り込まれ、肝臓への優先的な取込みをもたらす。
【0399】
一部の実施形態において、ドナー鋳型の核局在化を促進するため、プラスミドの核局在化を促進することのできるDNA配列、例えばシミアンウイルス40(SV40)複製起点及び初期プロモーターの366bp領域をドナー鋳型に加えることができる。細胞タンパク質に結合する他のDNA配列もまた、DNAの核移行の向上に使用することができる。
【0400】
一部の実施形態において、導入されたFVIII遺伝子の発現又は活性レベルが、例えばgRNAとCas9ヌクレアーゼ又はCas9ヌクレアーゼをコードするmRNAとを含有するLNP−ヌクレアーゼ製剤をAAV−ドナーDNA鋳型の後に初回投与した後、対象、例えば患者の血中で測定される。FVIIIレベルが、例えば正常レベルの少なくとも5〜50%、詳細には5〜20%のFVIIIレベルと定義されるとおり、疾患の治癒に十分でない場合、LNP−ヌクレアーゼ製剤の2回目又は3回目の投与が与えられ、アルブミンイントロン1部位への更なる標的組込みが促進される。複数回用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤を用いてFVIIIの所望の治療レベルを達成することの実現可能性は、当該技術分野において公知の技法、例えばマウス及びサルを含めた動物モデルを用いた試験を用いて試験し、最適化することができる。
【0401】
一部の実施形態において、対象へのi)ドナーカセットを含むAAV−ドナーDNA鋳型及びii)LNP−ヌクレアーゼ製剤の投与を含む本明細書に記載される任意の方法によれば、対象へのAAV−ドナーDNA鋳型の投与後1日〜28日以内に対象に初回用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤が投与される。一部の実施形態において、初回用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤は、標的細胞の核へのドナーDNA鋳型の送達を可能にするのに十分な時間が経った後に対象に投与される。一部の実施形態において、初回用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤は、標的細胞の核内での一本鎖AAVゲノムから二本鎖DNA分子への変換を可能にするのに十分な時間が経った後に対象に投与される。一部の実施形態において、初回用量の投与に続き、1つ以上(2、3、4、5つ、又はそれ以上など)の追加用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤が対象に投与される。一部の実施形態において、ドナーカセットの目標の標的組込みレベル及び/又はドナーカセットの目標の発現レベルが実現するまで1つ以上の用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤が対象に投与される。一部の実施形態において、本方法は、LNP−ヌクレアーゼ製剤の各投与後にドナーカセットの標的組込みレベル及び/又はドナーカセットの発現レベルを測定すること、及びドナーカセットの目標の標的組込みレベル及び/又はドナーカセットの目標の発現レベルが実現されない場合に追加用量のLNP−ヌクレアーゼ製剤を投与することを更に含む。一部の実施形態において、LNP−ヌクレアーゼ製剤の1つ以上の追加用量のうちの少なくとも1つの量は、初回用量と同じである。一部の実施形態において、LNP−ヌクレアーゼ製剤の1つ以上の追加用量のうちの少なくとも1つの量は、初回用量未満である。一部の実施形態において、LNP−ヌクレアーゼ製剤の1つ以上の追加用量のうちの少なくとも1つの量は、初回用量より多い。
【0402】
遺伝子修飾細胞及び細胞集団
一態様において、本開示は本明細書によって、細胞のゲノムを編集し、それにより遺伝子修飾細胞を作り出す方法を提供する。一部の態様において、遺伝子修飾細胞集団が提供される。従って遺伝子修飾細胞とは、ゲノム編集によって(例えば、CRISPR/Cas9/Cpf1システムを使用して)導入された少なくとも1つの遺伝子修飾を有する細胞を指す。一部の実施形態において、遺伝子修飾細胞は、遺伝子修飾されたヘパトサイト細胞である。本明細書では、外因性ゲノムターゲティング核酸及び/又はゲノムターゲティング核酸をコードする外因性核酸を有する遺伝子修飾細胞が企図される。
【0403】
一部の実施形態において、細胞のゲノムは、細胞のゲノム配列にFVIII遺伝子又はその機能性誘導体の核酸配列を挿入することによって編集し得る。一部の実施形態において、ゲノム編集に供される細胞はゲノムに1つ以上の突然変異を有し、そのため、かかる突然変異を有しない正常なものでの発現と比較したとき、内因性FVIII遺伝子の発現が低下する。正常細胞は、FVIII遺伝子欠陥を有しない異なる対象に由来する(又はそれから単離された)健常又は対照細胞であり得る。一部の実施形態において、ゲノム編集に供される細胞は、FVIII遺伝子に関連する病態又は障害の治療を必要としている対象に由来してもよい(又はそれから単離されてもよい)。従って、一部の実施形態においてかかる細胞における内因性FVIII遺伝子の発現は、正常細胞における内因性FVIII遺伝子発現の発現と比較したとき約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約100%低下している。
【0404】
トランス遺伝子、例えばFVIII遺伝子又はその機能断片をコードする核酸の挿入の成功後、細胞における導入されたFVIII遺伝子又はその機能性誘導体の発現は、細胞の内因性FVIII遺伝子の発現と比較したとき少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約200%、約300%、約400%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%、約1,000%、約2,000%、約3,000%、約5,000%、約10,000%又はそれ以上であり得る。一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞におけるFVIIIの機能性断片を含めた導入されたFVIII遺伝子産物の活性は、細胞の内因性FVIII遺伝子の発現と比較したとき少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約200%、約300%、約400%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%、約1,000%、約2,000%、約3,000%、約5,000%、約10,000%又はそれ以上であり得る。一部の実施形態において、細胞における導入されたFVIII遺伝子又はその機能性誘導体の発現は、細胞の内因性FVIII遺伝子の発現の少なくとも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約50倍、約100倍、約1000倍又はそれ以上である。また、一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞におけるFVIIIの機能性断片を含めた導入されたFVIII遺伝子産物の活性は、正常な健常細胞におけるFVIII遺伝子産物の活性と比べて同等又はそれ以上であり得る。
【0405】
血友病Aを治療又は改善することが関係する実施形態において、遺伝子編集の主要な標的はヒト細胞である。例えば、エキソビボ方法及びインビボ方法において、ヒト細胞はヘパトサイトである。一部の実施形態において、必要としている患者に由来する、従ってその患者と既に完全に一致している自己細胞で遺伝子編集を実施することにより、患者に安全に再導入することができる細胞を作成し、且つ患者の疾患に関連する1つ以上の臨床状態の改善に有効となるであろう細胞の集団を有効に生じさせることが可能である。かかる治療についての一部の実施形態において、ヘパトサイト細胞は、当該技術分野において公知の任意の方法により単離し、遺伝子修飾された治療上有効な細胞を作り出すために使用することができる。一つの実施形態(embodiement)において、肝幹細胞がエキソビボで遺伝子修飾され、次に患者に再導入され、そこで挿入されたFVIII遺伝子を発現する遺伝子修飾されたヘパトサイト又は類洞内皮細胞が生じることになる。
【0406】
治療手法
一態様において、本明細書には、患者のゲノムを編集することにより患者の血友病Aを治療するための遺伝子療法手法が提供される。一部の実施形態において、この遺伝子療法手法は、患者の関連性のある細胞型のゲノムに機能性FVIII遺伝子を組み込むもので、これが血友病Aの根治を提供することができる。一部の実施形態において、FVIII遺伝子を組み込むことになる遺伝子療法手法に供される細胞型はヘパトサイトであり、なぜならこうした細胞は多くのタンパク質を効率的に発現し、血中に分泌するためである。加えて、ヘパトサイトを使用したこの組込み手法は、組み込まれた遺伝子がヘパトサイトの分裂時に娘細胞に受け継がれ得るため、肝臓が十分には成長していない小児患者に対して検討することができる。
【0407】
別の態様において、本明細書には、ゲノムエンジニアリングツールを使用して、FVIIIコード遺伝子又はその機能性誘導体をゲノム中の遺伝子座にノックインしてFVIIIタンパク質活性を回復させることによりゲノムに永久的変化を作り出す細胞性エキソビボ及びインビボ方法が提供される。かかる方法は、CRISPR関連(CRISPR/Cas9、Cpf1など)ヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼを使用して、ゲノムから任意の配列を永久的に欠失させ、挿入し、編集し、修正し、又は置き換え、又は外因性配列、例えばFVIIIコード遺伝子をゲノム遺伝子座に挿入する。このようにして、本開示に示される例は、単回治療で(可能性のある療法を患者の生涯にわたって送達するのでなく)FVIII遺伝子の活性を回復させる。
【0408】
一部の実施形態において、エキソビボ細胞ベース療法は、患者から単離されるヘパトサイトを使用して行われる。次に、それらの細胞の染色体DNAが、本明細書に記載される材料及び方法を用いて編集される。最後に、編集された細胞が患者に移植される。
【0409】
エキソビボ細胞療法手法の一つの利点は、投与前にその治療法の総合的分析を行うことが可能なことである。いずれのヌクレアーゼベース治療法にも、ある程度のオフターゲット効果がある。エキソビボで遺伝子修正を実施すると、修正された細胞集団を移植前に十分に特徴付けることが可能になる。本開示の態様は、修正された細胞のゲノム全体をシーケンシングして、存在する場合にオフターゲット切断が、患者にとって最小限のリスクに関連するゲノム位置にあるよう確実にすることを含む。更に、クローン集団を含めた特定の細胞集団を移植前に単離することができる。
【0410】
かかる方法の別の実施形態は、インビボベース療法である。この方法では、本明細書に記載される材料及び方法を用いて患者の細胞の染色体DNAが修正される。一部の実施形態において、細胞はヘパトサイトである。
【0411】
インビボ遺伝子療法の利点は、治療薬の作製及び投与の容易さである。同じ治療手法及び療法を用いて2人以上の患者、例えば同じ又は類似した遺伝子型又は対立遺伝子を共有する複数人の患者を治療することができる。対照的に、エキソビボ細胞療法は、典型的には患者自身の細胞を使用し、それが単離され、操作され、同じ患者に戻される。
【0412】
一部の実施形態において、本開示に係る治療方法を必要としている対象は、血友病Aの症状を有する患者である。一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する疑いがあるヒトであってもよい。或いは、対象は、血友病Aのリスクがあると診断されたヒトであってもよい。一部の実施形態において、治療を必要としている対象は、内因性FVIII遺伝子又はその調節配列に1つ以上の遺伝的欠陥(例えば欠失、挿入及び/又は突然変異)を有してもよく、FVIIIタンパク質の発現レベル又は機能を含めた活性が、正常な健常対象と比較して実質的に低下している。
【0413】
一部の実施形態において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供され、この方法は、対象の細胞に以下を提供することを含む:(a)細胞ゲノム中のアルブミン遺伝子座を標的とするガイドRNA(gRNA);(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型。一部の実施形態において、gRNAはアルブミン遺伝子のイントロン1を標的とする。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。
【0414】
一部の実施形態において、本明細書には、対象の血友病Aを治療する方法が提供され、この方法は、対象の細胞に以下を提供することを含む:(a)配列番号18〜44及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21、22、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号21からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号22からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号28からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、gRNAは、配列番号30からのスペーサー配列を含む。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞、例えばヒトヘパトサイト細胞である。一部の実施形態において、対象は、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である。一部の実施形態において、対象は、血友病Aのリスクがあると診断される。
【0415】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、Cas9は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来(spCas9)である。一部の実施形態において、Cas9はスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)由来(SluCas9)である。
【0416】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列は、細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞である。
【0417】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、本方法は、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を使用する。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、細胞での発現にコドン最適化される。一部の実施形態において、細胞はヒト細胞、例えばヒトヘパトサイト細胞である。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAプラスミドなどのDNAである。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、mRNAなどのRNAである。
【0418】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、ドナー鋳型はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる。一部の実施形態において、ドナー鋳型は、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットは、片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、ドナーカセットは両側にgRNA標的部位が隣接する。一部の実施形態において、gRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての標的部位である。一部の実施形態において、ドナー鋳型のgRNA標的部位は、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノムgRNA標的部位の逆相補体である。一部の実施形態において、ドナー鋳型を細胞に提供することは、ドナー鋳型を対象に投与することを含む。一部の実施形態において、投与は静脈内経路による。
【0419】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子はgRNAもまた含む。一部の実施形態において、gRNA及びDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に提供することは、リポソーム又は脂質ナノ粒子を対象に投与することを含む。一部の実施形態において、投与は静脈内経路による。一部の実施形態において、リポソーム又は脂質ナノ粒子は脂質ナノ粒子である。一部の実施形態において、本方法は、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を用いる。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。
【0420】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、DNAエンドヌクレアーゼはgRNAと予め複合体化され、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する。
【0421】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも17日後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)及び(b)を細胞に提供することは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を対象に(静脈内経路によるなどして)投与することを含む。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。一部の実施形態において、(c)を細胞に提供することは、AAVベクターにコードされたドナー鋳型を対象に(静脈内経路によるなどして)投与することを含む。
【0422】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される。一部の実施形態において、(a)及び(b)を細胞に提供することは、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を対象に(静脈内経路によるなどして)投与することを含む。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAエンドヌクレアーゼをコードするmRNAである。
【0423】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する。
【0424】
一部の実施形態において、本明細書に記載される血友病Aの治療方法のいずれかによれば、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列は対象の肝臓で発現する。
【0425】
対象への細胞の移植
一部の実施形態において、本開示のエキソビボ方法は、かかる方法を必要としている対象にゲノム編集された細胞を移植することを含む。この移植ステップは、当該技術分野において公知の任意の移植方法を用いて達成されてもよい。例えば、遺伝子修飾細胞は対象の血中に直接注射されてもよく、又は他の方法で対象に投与されてもよい。
【0426】
一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、所望の1つ又は複数の効果が生じるように所望の部位への導入細胞の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法又は経路により、遺伝子修飾された治療用細胞を対象に投与すること(これは「導入すること」及び「移植すること」と同義的に用いられ得る)を含む。治療用細胞又はその分化した子孫は、移植された細胞又は細胞の成分の少なくとも一部分が生き残るような対象における所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間ほどの短さ、例えば24時間から、数日、数年もの長さ、又は更には患者の生涯、即ち長期生着であってもよい。
【0427】
予防的に提供されるとき、本明細書に記載される治療用細胞は、血友病Aの任意の症状に先立って対象に投与され得る。従って、一部の実施形態において、遺伝子修飾されたヘパトサイト細胞集団の予防的投与は、血友病A症状の発生を防ぐ働きをする。
【0428】
一部の実施形態において治療的に提供されるとき、遺伝子修飾されたヘパトサイト細胞は血友病Aの症状又は徴候の発生時に(又は発生後に)、例えば疾患の発生を受けて提供される。
【0429】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法により投与される治療用ヘパトサイト細胞集団は、1個体以上のドナーから採取された同種異系ヘパトサイト細胞を有する。「同種異系」は、同じ種の1個体以上の異なるドナーから採取されたヘパトサイト細胞又はヘパトサイト細胞を有する生体試料を指し、ここでは1つ以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない。例えば、対象に投与されるヘパトサイト細胞集団は、もう1個体の無関係のドナー対象に由来するか、又は1個体以上の同一でない同胞に由来することができる。一部の実施形態において、遺伝学的に同一の動物、又は一卵性双生児から採取されたものなど、同系ヘパトサイト細胞集団が使用されてもよい。他の実施形態において、ヘパトサイト細胞は自己細胞である;つまり、ヘパトサイト細胞は対象から採取又は単離され、且つ同じ対象に投与され、即ち、ドナーとレシピエントとが同じである。
【0430】
一実施形態において、有効量とは、血友病Aの少なくとも1つ又はそれ以上の徴候又は症状を予防又は軽減するために必要な治療用細胞集団の量を指し、所望の効果の提供、例えば血友病Aを有する対象の治療に十分な量の組成物に関係する。実施形態において、従って治療有効量とは、血友病Aを有する又はそのリスクがある対象など、典型的な対象への投与時に特定の効果を促進するのに十分な治療用細胞又は治療用細胞を有する組成物の量を指す。有効量にはまた、疾患の症状の発症を予防し又は遅延させ、疾患の症状の経過を変化させ(例えば限定はされないが、疾患の症状の進行を減速させ)、又は疾患の症状を好転させるのに十分な量も含まれ得る。いずれの場合にも、適切な有効量は当業者によってルーチンの実験を用いて決定され得ることが理解される。
【0431】
本明細書に記載される様々な実施形態における使用について、治療用細胞、例えばゲノム編集されたヘパトサイト細胞の有効量は、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも2×10細胞、少なくとも3×10細胞、少なくとも4×10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも6×10細胞、少なくとも7×10細胞、少なくとも8×10細胞、少なくとも9×10細胞、少なくとも1×10細胞、少なくとも2×10細胞、少なくとも3×10細胞、少なくとも4×10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも6×10細胞、少なくとも7×10細胞、少なくとも8×10細胞、少なくとも9×10細胞、又はその倍数であってもよい。治療用細胞は1個体以上のドナーに由来してもよく、又は自己供給源から採取される。本明細書に記載される一部の実施形態において、治療用細胞は、それを必要としている対象への投与前に拡大培養される。
【0432】
一部の実施形態において、血友病Aを有する患者の細胞で機能性FVIIIの発現レベルが少しずつ漸進的に増加することが、この疾患の1つ以上の症状の改善、長期生存の増進、及び/又は他の治療に伴う副作用の低減に有益であり得る。かかる細胞をヒト患者に投与すると、機能性FVIIIレベルの増加を生じさせる治療用細胞の存在が有益となる。一部の実施形態において、対象の有効な治療は、治療下の対象の全FVIIIに対して少なくとも約1%、3%、5%又は7%の機能性FVIIIを生じさせる。一部の実施形態において、機能性FVIIIは全FVIIIの少なくとも約10%である。一部の実施形態において、機能性FVIIIは全FVIIIの少なくとも、約又は多くても20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%である。同様に、機能性FVIIIレベルが大幅に上昇した細胞の部分集団が比較的限られていても、場合によっては正常化した細胞が罹患細胞と比べて選択的優位性を有することになるため、その導入は様々な患者で有益であり得る。しかしながら、機能性FVIIIレベルが上昇した治療用細胞は、僅かなレベルであっても、患者における血友病Aの1つ以上の側面の改善に有益となり得る。一部の実施形態では、かかる細胞が投与される患者において治療薬の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又はそれ以上が、機能性FVIIIレベルの増加を生じさせるものである。
【0433】
実施形態において、ある方法又は経路によって治療用細胞組成物を対象に送達すると、細胞組成物が所望の部位に少なくとも部分的に局在化する。細胞組成物は、対象に有効な治療をもたらす任意の適切な経路によって投与することができ、即ち投与によって対象の所望の位置への送達が生じ、ここでは送達される組成物の少なくとも一部分、即ち少なくとも1×10細胞が、ある期間にわたって所望の部位に送達される。投与方法としては、注射、注入、点滴注入、又は経口摂取が挙げられる。「注射」としては、限定なしに、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、脳室内 脊髄、及び胸骨内注射及び注入が挙げられる。一部の実施形態において、経路は静脈内である。細胞の送達には、注射又は注入による投与が行われ得る。
【0434】
一実施形態において、細胞は全身投与され、換言すれば、治療用細胞集団は、標的部位、組織、又は器官への直接投与以外で、それよりむしろそれが対象の循環系に入り、従って代謝及び他の同様の過程に曝されるように投与される。
【0435】
血友病Aの治療用組成物を有する治療の有効性は、当業者である臨床医が判断することができる。しかしながら、一例に過ぎないが、機能性FVIIIレベルの徴候又は症状のうちのいずれか1つ又は全てが有益な形で変化する(例えば、少なくとも10%増加する)場合、又は疾患の他の臨床的に認められている症状又はマーカーが向上し又は改善される場合、治療は有効な治療と見なされる。有効性はまた、入院期間又は医学的介入の必要性によって評価したときに個体が悪化しないこと(例えば、疾患の進行が止まるか、又は少なくとも減速する)によっても測定することができる。これらの指標の測定方法は当業者に公知であり、及び/又は本明細書に記載される。治療には、個体又は動物(一部の非限定的な例としては、ヒト、又は哺乳類が挙げられる)における疾患の任意の治療が含まれ、(1)疾患を抑制すること、例えば、症状の進行を抑止する、又は減速させること;又は(2)疾患を軽減すること、例えば、症状の退行を生じさせること;及び(3)症状の発症可能性を予防又は低減することが含まれる。
【0436】
組成物
一態様において、本開示は、本明細書に開示される方法を実行するための組成物を提供する。組成物は、以下:ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA);部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)又は部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;及び本明細書に開示される方法の所望の遺伝子修飾を生じさせるため挿入されることになるポリヌクレオチド(例えばドナー鋳型)のうちの1つ以上を含み得る。
【0437】
一部の実施形態において、組成物は、ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA)をコードするヌクレオチド配列を有する。
【0438】
一部の実施形態において、組成物は、部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)を有する。一部の実施形態において、組成物は、部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する。
【0439】
一部の実施形態において、組成物は、ゲノムに挿入されることになるポリヌクレオチド(例えばドナー鋳型)を有する。
【0440】
一部の実施形態において、組成物は、(i)ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA)をコードするヌクレオチド配列と、(ii)部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)又は部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを有する。
【0441】
一部の実施形態において、組成物は、(i)ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA)をコードするヌクレオチド配列と、(ii)ゲノムに挿入されることになるポリヌクレオチド(例えばドナー鋳型)とを有する。
【0442】
一部の実施形態において、組成物は、(i)部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)又は部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、(ii)ゲノムに挿入されることになるポリヌクレオチド(例えばドナー鋳型)とを有する。
【0443】
一部の実施形態において、組成物は、(i)ゲノムターゲティング核酸(例えばgRNA)をコードするヌクレオチド配列と、(ii)部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)又は部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、(iii)ゲノムに挿入されることになるポリヌクレオチド(例えばドナー鋳型)とを有する。
【0444】
上記の組成物のいずれかの一部の実施形態において、組成物は単一分子ガイドゲノムターゲティング核酸を有する。上記の組成物のいずれかの一部の実施形態において、組成物は二分子ゲノムターゲティング核酸を有する。上記の組成物のいずれかの一部の実施形態において、組成物は2つ以上の二分子ガイド又は単一分子ガイドを有する。一部の実施形態において、組成物は、核酸ターゲティング核酸をコードするベクターを有する。一部の実施形態において、ゲノムターゲティング核酸はDNAエンドヌクレアーゼ、詳細にはCas9である。
【0445】
一部の実施形態において、組成物は、ゲノム編集、詳細には細胞のゲノムへのFVIII遺伝子又はその誘導体の挿入に使用することのできる1つ以上のgRNAを含む組成物を含有し得る。この組成物のgRNAは、内因性アルブミン遺伝子にあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にあるゲノム部位を標的とすることができる。従って、一部の実施形態において、gRNAは、アルブミン遺伝子にあるか、その範囲内にあるか、又はその近傍にあるゲノム配列と相補的なスペーサー配列を有し得る。
【0446】
一部の実施形態において、組成物のgRNAは、表3に掲載されるもの及び表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%又は約95%の同一性又は相同性を有するその変異体から選択される配列である。一部の実施形態において、本キットのgRNAの変異体は、表3に掲載されるもののいずれかと少なくとも約85%の相同性を有する。
【0447】
一部の実施形態において、組成物のgRNAは、ゲノム中の標的部位と相補的なスペーサー配列を有する。一部の実施形態において、スペーサー配列は15塩基〜20塩基長である。一部の実施形態において、スペーサー配列とゲノム配列との間の相補性は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は少なくとも100%である。
【0448】
一部の実施形態において、組成物は、DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、及び/又はFVIII遺伝子又はその機能性誘導体の核酸配列を有するドナー鋳型を有することができる。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼはCas9である。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸はDNA又はRNAである。
【0449】
一部の実施形態において、本キットの任意のオリゴヌクレオチド又は核酸配列のうちの1つ以上が、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされてもよい。従って、一部の実施形態において、gRNAがAAVベクターにコードされてもよい。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がAAVベクターにコードされてもよい。一部の実施形態において、ドナー鋳型がAAVベクターにコードされてもよい。一部の実施形態において、2つ以上のオリゴヌクレオチド又は核酸配列が単一のAAVベクターにコードされてもよい。従って、一部の実施形態において、gRNA配列及びDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、単一のAAVベクターにコードされてもよい。
【0450】
一部の実施形態において、組成物はリポソーム又は脂質ナノ粒子を有してもよい。従って、一部の実施形態において、組成物の任意の化合物(例えばDNAエンドヌクレアーゼ又はそれをコードする核酸、gRNA及びドナー鋳型)がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化されてもよい。一部の実施形態では、1つ以上のかかる化合物が共有結合又は非共有結合によってリポソーム又は脂質ナノ粒子に会合される。一部の実施形態では、化合物の任意のものが個別に又は一緒にリポソーム又は脂質ナノ粒子に含められてもよい。従って、一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼ又はそれをコードする核酸、gRNA及びドナー鋳型の各々がリポソーム又は脂質ナノ粒子に個別に製剤化される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼがgRNAと共にリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される。一部の実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼ又はそれをコードする核酸、gRNA及びドナー鋳型がリポソーム又は脂質ナノ粒子に一緒に製剤化される。
【0451】
一部の実施形態において、上記に記載される組成物は1つ以上の追加的な試薬を更に有し、ここで追加的な試薬は、緩衝液、細胞へのポリペプチド又はポリヌクレオチドの導入用緩衝液、洗浄緩衝液、対照試薬、対照ベクター、対照RNAポリヌクレオチド、DNAからのポリペプチドのインビトロ作製用試薬、シーケンシング用のアダプターなどから選択される。緩衝液は、安定化緩衝液、再構成緩衝液、希釈緩衝液などであり得る。一部の実施形態において、組成物はまた、オンターゲット結合若しくはエンドヌクレアーゼによるDNA切断の促進若しくは増強、又はターゲティングの特異性の向上に用いることのできる1つ以上の成分も含み得る。
【0452】
一部の実施形態において、組成物の任意の成分は、詳細な投与方法及び剤形に応じて、担体、溶媒、安定剤、補助剤、希釈剤など、薬学的に許容可能な賦形剤と共に製剤化される。実施形態において、ガイドRNA組成物は、概して、生理的に適合性のあるpHを実現するように製剤化され、製剤及び投与経路に応じてpH約3〜pH約11、約pH3〜約pH7の範囲である。一部の実施形態において、pHは、約pH5.0〜約pH8の範囲となるように調整される。一部の実施形態において、本組成物は、本明細書に記載されるとおりの少なくとも1つの化合物の治療有効量を1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と共に有する。任意選択で、本組成物は、本明細書に記載される化合物の組み合わせを有してもよく、又は細菌増殖の処置又は予防に有用な第2の活性成分を含んでもよく(例として、及び限定なしに、抗細菌剤又は抗微生物剤)、又は本開示の試薬の組み合わせを含んでもよい。一部の実施形態において、gRNAは、他の1つ以上のオリゴヌクレオチド、例えばDNAエンドヌクレアーゼ及び/又はドナー鋳型をコードする核酸と共に製剤化される。或いは、DNAエンドヌクレアーゼ及びドナー鋳型をコードする核酸は、個別に、又は他のオリゴヌクレオチドとの組み合わせで、上記にgRNA製剤に関して記載される方法で製剤化される。
【0453】
好適な賦形剤には、例えば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸共重合体、及び不活性ウイルス粒子など、大型の緩徐に代謝される巨大分子を含む担体分子が含まれ得る。他の例示的賦形剤としては、抗酸化剤(例として、及び限定なしに、アスコルビン酸)、キレート剤(例として、及び限定なしに、EDTA)、炭水化物(例として、及び限定なしに、デキストリン、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルメチルセルロース)、ステアリン酸、液体(例として、及び限定なしに、油、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノール)、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などが挙げられる。
【0454】
一部の実施形態において、組成物の任意の化合物(例えばDNAエンドヌクレアーゼ又はそれをコードする核酸、gRNA及びドナー鋳型)は、電気穿孔などのトランスフェクションによって送達されてもよい。一部の例示的実施形態では、細胞への提供前にDNAエンドヌクレアーゼをgRNAと予め複合体化してリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成してもよく、このRNP複合体が電気穿孔されてもよい。かかる実施形態において、ドナー鋳型は電気穿孔によって送達されてもよい。
【0455】
一部の実施形態において、組成物とは、エキソビボ治療方法に使用される治療用細胞を有する治療組成物を指す。
【0456】
実施形態において、治療組成物は、細胞組成物と共に生理学的に許容可能な担体、及び任意選択で、その中に活性成分として溶解又は分散させた、本明細書に記載されるとおりの少なくとも1つの追加的な生物活性剤を含有する。一部の実施形態において、治療組成物は、そのように所望されない限り、哺乳類又はヒト患者に治療目的で投与されたときに実質的に免疫原性でない。
【0457】
一般に、本明細書に記載される遺伝子修飾された治療細胞は、薬学的に許容可能な担体と共に懸濁液として投与される。当業者は、細胞組成物に使用されるべき薬学的に許容可能な担体が、対象に送達しようとする細胞の生存能を実質的に妨げる量の緩衝剤、化合物、凍結保存剤、保存剤、又は他の薬剤を含まないであろうことを認識するであろう。細胞を有する製剤は、例えば、細胞膜完全性の維持を可能にする浸透圧緩衝液、及び任意選択で、細胞生存能を維持し又は投与時の生着を増強するための栄養素を含み得る。かかる製剤及び懸濁液は当業者に公知であり、及び/又は本明細書に記載されるとおりの前駆細胞との使用向けにルーチンの実験を用いて適合させることができる。
【0458】
一部の実施形態において細胞組成物はまた、乳化させるか、又はリポソーム組成物として提供することもでき、但し乳化手順が細胞生存能に悪影響を与えないものとする。細胞及び任意の他の活性成分は、薬学的に許容可能で活性成分と適合性のある、且つ本明細書に記載される治療的方法における使用に好適な量の賦形剤と共に混合することができる。
【0459】
細胞組成物に含まれる追加的な薬剤には、その中の成分の薬学的に許容可能な塩が含まれ得る。薬学的に許容可能な塩としては、例えば塩酸又はリン酸などの無機酸、又は酢酸、酒石酸、マンデル酸のような有機酸などと形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基と形成される)が挙げられる。遊離カルボキシル基と形成される塩もまた、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインのような有機塩基などから誘導することができる。
【0460】
生理学的に許容可能な担体は当該技術分野において周知である。例示的液体担体は、活性成分及び水の他にいかなる材料も含有しないか、又は生理的pH値のリン酸ナトリウムなどの緩衝液、生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水などの両方を含有する滅菌水溶液である。なおも更に、水性担体は、2つ以上の緩衝塩、並びに塩化ナトリウム及びカリウムなどの塩、デキストロース、ポリエチレングリコール及び他の溶質などを含有することができる。液体組成物はまた、水に加えて、及び水の他に、液相も含有することができる。かかる追加的な液相の例はグリセリン、綿実油などの植物油、及び水−油エマルションである。特定の障害又は病態の治療において有効な細胞組成物中に使用される活性化合物の量は、障害又は病態の性質に依存することになり、標準的な臨床技法により決定することができる。
【0461】
キット
一部の実施形態は、上述の組成物のいずれか、例えばゲノム編集用組成物又は治療用細胞組成物と1つ以上の追加成分とを含有するキットを提供する。
【0462】
一部の実施形態において、キットは、所望の目的のための、例えばゲノム編集又は細胞療法用の組成物と同時投与又は順次投与することのできる1つ以上の追加的な治療剤を有してもよい。
【0463】
一部の実施形態において、キットは、本方法を実施するためのキットの成分の使用説明書を更に含んでもよい。方法の実施説明書は、概して好適な記録媒体に記録される。例えば、説明書は、紙又はプラスチックなどの基材に印刷されてもよい。説明書は、キットにおいて添付文書として存在する、キットの、若しくはその成分の容器のラベル表示に存在する(即ち、包装又は部分的包装に関連付けられる)等であってもよい。説明書は、好適なコンピュータ可読記憶媒体、例えば、CD−ROM、ディスケット、フラッシュドライブ等に存在する電子記憶データファイルとして存在することができる。一部の例では、実際の説明書はキットに存在するのではなく、説明書を遠隔配布源から(例えばインターネット経由で)入手する手段を提供することができる。この実施形態の一例は、そこで説明書を閲覧することのできる、及び/又はそこから説明書をダウンロードすることのできるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、このような説明書を入手する手段も好適な基材に記録することができる。
【0464】
他の可能な治療手法
遺伝子編集は、特異的配列を標的とするように操作されたヌクレアーゼを使用して行うことができる。現在までのところ、4つの主要なタイプのヌクレアーゼ:メガヌクレアーゼ及びその誘導体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びCRISPR−Cas9ヌクレアーゼシステムがある。これらのヌクレアーゼプラットフォームは、特にZFN及びTALENの特異性がタンパク質−DNA相互作用を通じたものである一方、RNA−DNA相互作用が主としてCas9をガイドするとおり、設計の難しさ、ターゲティング密度及び作用様式が異なる。Cas9切断はまた、隣接モチーフ、PAMも必要とし、PAMはCRISPRシステム毎に異なる。化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9はNRG PAMを用いて切断し、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のCRISPRは、NNNNGATT(配列番号101)、NNNNNGTTT(配列番号102)及びNNNNGCTT(配列番号103)を含むPAMを有する部位で切断することができる。幾つもの他のCas9オルソログが、別のPAMに隣接するプロトスペーサーを標的とする。
【0465】
本開示の方法の様々な実施形態においては、Cas9などのCRISPRエンドヌクレアーゼを使用することができる。しかしながら、治療標的部位など、本明細書に記載される教示は、ZFN、TALEN、HE、又はMegaTALなど、他の形態のエンドヌクレアーゼに対して、又はヌクレアーゼの組み合わせを用いて適用することが可能である。しかしながら、本開示の教示をかかるエンドヌクレアーゼに適用するためには、とりわけ、特異的標的部位に向けられるタンパク質を操作することが必要となり得る。
【0466】
追加的な結合ドメインをCas9タンパク質に融合して特異性を高めてもよい。こうしたコンストラクトの標的部位は、同定されたgRNAによって指定される部位に位置付け得るが、ジンクフィンガードメインの場合のように、追加的な結合モチーフが必要であり得る。Mega−TALの場合、メガヌクレアーゼをTALE DNA結合ドメインに融合することができる。メガヌクレアーゼドメインは特異性を増加させ、切断をもたらすことができる。同様に、不活性化又はデッドCas9(dCas9)を切断ドメインに融合することができ、融合したDNA結合ドメインにsgRNA/Cas9標的部位及び隣接する結合部位が必要であり得る。これには恐らくは、触媒不活性化に加えて、追加的な結合部位のない結合を減少させるためのdCas9の何らかのプロテインエンジニアリングが必要になり得る。
【0467】
一部の実施形態において、本開示に係るゲノムを編集する(例えばFVIIIコード配列をアルブミン遺伝子座に挿入する)組成物及び方法は、以下の手法のいずれかを利用することができ、又はそれを用いて行うことができる。
【0468】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインがII型エンドヌクレアーゼFokIの触媒ドメインに連結したものを有するモジュラータンパク質である。FokIは二量体としてのみ機能するため、一対のZFNが対向するDNA鎖上のコグネイト標的「ハーフ部位(half−site)」配列に、それらの間に正確な間隔を置いて結合して触媒活性FokI二量体の形成を可能にするように操作されなければならない。それ自体は本質的に配列特異性を有しないFokIドメインが二量化すると、ゲノム編集における開始ステップとしてZFNハーフ部位間にDNA二本鎖切断が生成される。
【0469】
各ZFNのDNA結合ドメインは、典型的には豊富なCys2−His2構成の3〜6個のジンクフィンガーを有する、各フィンガーが標的DNA配列の一方の鎖上にあるヌクレオチドのトリプレットを主に認識するが、4番目のヌクレオチドとの交差鎖相互作用もまた重要であり得る。DNAとの主要な接触をなす位置にあるフィンガーのアミノ酸が変わると、所与のフィンガーの配列特異性が変わる。従って、4フィンガージンクフィンガータンパク質は12bp標的配列を選択的に認識することになり、ここで標的配列は、各フィンガーが寄与するトリプレット優先性の混合体であるが、トリプレット優先性は隣接フィンガーによって様々な程度に影響を受け得る。ZFNの重要な側面は、単に個々のフィンガーを修飾することによってZFNをほぼいかなるゲノムアドレスにも容易に再標的化できる点であり、しかしながらこれを上手く行うには相当の熟練が要求される。ZFNのほとんどの適用で4〜6個のフィンガーのタンパク質が使用され、これはそれぞれ12〜18bpを認識する。従って、一対のZFNが、ハーフ部位間の5〜7bpスペーサーを含まずに、典型的には24〜36bpの組み合わされた標的配列を認識することになる。結合部位は、15〜17bpを含め、より大きいスペーサーで更に分離することができる。設計過程で反復配列又は遺伝子ホモログが除外されると仮定すれば、この長さの標的配列はヒトゲノムにおいてユニークである可能性が高い。それにも関わらず、ZFNタンパク質−DNA相互作用はその特異性に関して絶対ではないため、実にオフターゲット結合及び切断イベントが、2つのZFN間のヘテロ二量体、又はZFNのいずれか一方のホモ二量体のいずれかとして起こる。後者の可能性は、FokIドメインの二量化界面を操作して、互いとのみ二量化することのできる、自己二量化はしない、絶対ヘテロ二量体変異体としても知られる「プラス」及び「マイナス」変異体を作成することにより有効に取り除かれている。絶対ヘテロ二量体を強制することにより、ホモ二量体の形成が妨げられる。これにより、ZFN並びにこうしたFokI変異体を採用する任意の他のヌクレアーゼの特異性は大いに高まった。
【0470】
種々のZFNベースのシステムが当該技術分野において記載されており、その修飾は常時報告され、数多くの参考文献が、ZFNの設計の指針とするため用いられる規則及びパラメータについて記載している;例えば、Segal et al.,Proc Natl Acad Sci USA 96(6):2758−63(1999);Dreier B et al.,J Mol Biol.303(4):489−502(2000);Liu Q et al.,J Biol Chem.277(6):3850−6(2002);Dreier et al.,J Biol Chem 280(42):35588−97(2005);及びDreier et al.,J Biol Chem.276(31):29466−78(2001)を参照のこと。
【0471】
転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)
TALENは、モジュラーヌクレアーゼのもう一つのフォーマットに相当し、これによれば、ZFNと同様に、操作されたDNA結合ドメインがFokIヌクレアーゼドメインに連結され、且つ一対のTALENがタンデムで働いて標的化したDNA切断を実現する。ZFNとの主な違いは、DNA結合ドメインの性質及び関連する標的DNA配列認識特性である。TALEN DNA結合ドメインは、当初植物細菌病原体キサントモナス属種(Xanthomonas sp.)TALEにおいて記載されたものであるTALEタンパク質に由来し、33〜35アミノ酸リピートのタンデムアレイを有し、各リピートが、典型的に最大20bp長であって、最大40bpの合計標的配列長さとなる標的DNA配列中の単一の塩基対を認識する。各リピートのヌクレオチド特異性は、12位及び13位に2アミノ酸だけを含む反復可変二残基(RVD)によって決まる。塩基グアニン、アデニン、シトシン及びチミンは、主に4つのRVD:それぞれAsn−Asn、Asn−Ile、His−Asp及びAsn−Glyによって認識される。これはジンクフィンガーと比べてはるかに単純な認識コードを成し、従ってヌクレアーゼ設計上、後者に優る利点を呈する。それにも関わらず、ZFNと同様に、TALENのタンパク質−DNA相互作用はその特異性の点で絶対でなく、TALENもまた、オフターゲット活性を低下させるため、FokIドメインの絶対ヘテロ二量体変異体の使用から利益が得られている。
【0472】
その触媒機能が不活性化されるFokIドメインの更なる変異体が作成されている。TALEN対又はZFN対のいずれかの片方が不活性FokIドメインを含む場合、標的部位においてはDSBでなく、むしろ一本鎖DNA切断(ニッキング)のみが起こることになる。この結果は、Cas9切断ドメインの一方が不活性化されているCRISPR/Cas9/Cpf1「ニッカーゼ」突然変異体を使用するのと同等である。DNAニックを用いてHDRによるゲノム編集をドライブすることができ、しかしDSBと比べて効率が低い。主な利益は、NHEJ媒介性の修復誤りを受け易いDSBと異なり、オフターゲットニックが迅速且つ正確に修復される点である。
【0473】
種々のTALENベースのシステムが当該技術分野において記載されており、その修飾が常時報告されている;例えば、Boch,Science 326(5959):1509−12(2009);Mak et al.,Science 335(6069):716−9(2012);及びMoscou et al.,Science 326(5959):1501(2009)を参照のこと。「ゴールデンゲート」プラットフォームをベースとするTALENの使用、又はクローニングスキームが複数のグループによって記載されている;例えば、Cermak et al.,Nucleic Acids Res.39(12):e82(2011);Li et al.,Nucleic Acids Res.39(14):6315−25(2011);Weber et al.,PLoS One.6(2):e16765(2011);Wang et al.,J Genet Genomics 41(6):339−47,Epub 2014 Can 17(2014);及びCermak T et al.,Methods Mol Biol.1239:133−59(2015)を参照のこと。
【0474】
ホーミングエンドヌクレアーゼ
ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)は、長い認識配列(14〜44塩基対)を有し、且つDNAを高い特異性で−多くの場合にゲノム中のユニークな部位で−切断する配列特異的エンドヌクレアーゼである。HEには、その構造によって分類されるとおりの、LAGLIDADG(配列番号6)、GIY−YIG、His−Cisボックス、H−N−H、PD−(D/E)xK、及びVsr様を含む少なくとも6つの公知のファミリーがあり、これらは、真核生物、原生生物、細菌、古細菌、シアノバクテリア及びファージを含めた広範囲の宿主に由来する。ZFN及びTALENと同様に、HEは、ゲノム編集の初めのステップとして標的遺伝子座にDSBを作成するために用いることができる。加えて、一部の天然の及び操作されたHEはDNAの単一の鎖のみを切断し、それにより部位特異的ニッカーゼとして機能する。HEの大きい標的配列及びそれがもたらす特異性により、HEは部位特異的DSBを作成するのに魅力的な候補となっている。
【0475】
種々のHEベースのシステムが当該技術分野において記載されており、その修飾が常時報告されている;例えば、Steentoft et al.,Glycobiology 24(8):663−80(2014);Belfort and Bonocora,Methods Mol Biol.1123:1−26(2014);Hafez and Hausner,Genome 55(8):553−69(2012)によるレビュー;及びそこに引用される文献を参照のこと。
【0476】
MegaTAL/Tev−mTALEN/MegaTev
ハイブリッドヌクレアーゼの更なる例として、MegaTALプラットフォーム及びTev−mTALENプラットフォームは、TALE DNA結合ドメインと触媒活性HEとの融合体を用いるものであり、TALEの調節可能なDNA結合及び特異性、並びにHEの切断配列特異性の両方を利用する;例えば、Boissel et al.,NAR 42:2591−2601(2014);Kleinstiver et al.,G3 4:1155−65(2014);及びBoissel and Scharenberg,Methods Mol.Biol.1239:171−96(2015)を参照のこと。
【0477】
更なる変形例では、MegaTev構成は、メガヌクレアーゼ(Mega)とGIY−YIGホーミングエンドヌクレアーゼI−TevIに由来するヌクレアーゼドメイン(Tev)との融合体である。2つの活性部位はDNA基質上で約30bp離れて位置し、適合性のない付着末端を有する2つのDSBを生成する;例えば、Wolfs et al.,NAR 42,8816−29(2014)を参照のこと。既存のヌクレアーゼベース手法の他の組み合わせが進化し、本明細書に記載される標的化したゲノム修飾の実現において有用となるであろうことが予想される。
【0478】
dCas9−FokI又はdCpf1−Fok1及び他のヌクレアーゼ
上記に記載されるヌクレアーゼプラットフォームの構造的特性と機能的特性とを組み合わせると、固有の欠陥の一部を潜在的に解消し得る更なるゲノム編集手法がもたらされる。例として、CRISPRゲノム編集システムは、典型的には単一のCas9エンドヌクレアーゼを使用してDSBを作成する。ターゲティングの特異性は、標的DNAとワトソン・クリック型塩基対合を起こすガイドRNA中の20又は22ヌクレオチド配列(加えて、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9の場合には隣接するNAG又はNGG PAM配列中の追加的な2塩基)によって左右される。かかる配列は、ヒトゲノム中でユニークであるのに十分に長く、しかしながら、RNA/DNA相互作用の特異性は絶対でなく、時に著しい無差別さが、特に標的配列の5’側の半分において許容され、特異性を左右する塩基の数が事実上減少する。これに対する一つの解決法は、Cas9又はCpf1触媒機能を完全に不活性化し−RNAガイド型DNA結合機能のみを保持して−、代わりにFokIドメインを不活性化Cas9に融合することとされている;例えば、Tsai et al.,Nature Biotech 32:569−76(2014);及びGuilinger et al.,Nature Biotech.32:577−82(2014)を参照のこと。FokIは触媒活性になるためには二量化しなければならないため、2つのFokI融合体が二量体を形成してDNAを切断するようにそれらを近接して係留するには、2つのガイドRNAが必要である。本質的にこれによって組み合わされる標的部位の塩基の数が二倍になり、従ってCRISPRベースのシステムによるターゲティングのストリンジェンシーは増加する。
【0479】
更なる例として、TALE DNA結合ドメインと、I−TevIなど、触媒活性HEとの融合体は、オフターゲット切断が更に低減され得ることを見込んで、TALEの調節可能なDNA結合及び特異性、並びにI−TevIの切断配列特異性の両方を利用するものである。
【0480】
以下の付属の記載に本開示の1つ以上の実施形態の詳細が示される。本開示の実施又は試験においては、本明細書に記載されるものと同様の又は等価な任意の材料及び方法を用いてもよいが、ここでは好ましい材料及び方法を記載する。本開示の他の特徴、目的及び利点は、この記載から明らかになるであろう。この記載中、文脈上特に明確に指示されない限り単数形には複数形も含まれる。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。矛盾が生じた場合、本記載が優先するものとする。
【0481】
本明細書に記載される例及び実施形態は例示目的に過ぎないこと、及びそれらを踏まえた様々な修正又は変更が当業者に提案されてもよく、それらは本願の趣旨及び範囲内並びに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、本明細書によってあらゆる目的から全体として参照により援用される。
【0482】
本明細書によって提供される開示の一部の実施形態は、以下の非限定的な例によって更に例示される。
【0483】
例示的実施形態
実施形態1.システムであって、
デオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;
配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むガイドRNA(gRNA);及び
第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を含むシステム。
【0484】
実施形態2.gRNAが配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、実施形態1のシステム。
【0485】
実施形態3.gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、実施形態2のシステム。
【0486】
実施形態4.gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、実施形態2のシステム。
【0487】
実施形態5.gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、実施形態2のシステム。
【0488】
実施形態6.gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、実施形態2のシステム。
【0489】
実施形態7.前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ、又はその機能性誘導体からなる群から選択される、実施形態1〜6のいずれか1つのシステム。
【0490】
実施形態8.前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、実施形態1〜7のいずれか1つのシステム。
【0491】
実施形態9.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、宿主細胞での発現にコドン最適化される、実施形態1〜8のいずれか1つのシステム。
【0492】
実施形態10.第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列が、宿主細胞での発現にコドン最適化される、実施形態1〜9のいずれか1つのシステム。
【0493】
実施形態11.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、実施形態1〜10のいずれか1つのシステム。
【0494】
実施形態12.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリボ核酸(RNA)である、実施形態1〜10のいずれか1つのシステム。
【0495】
実施形態13.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAがmRNAである、実施形態12のシステム。
【0496】
実施形態14.ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、実施形態1〜13のいずれか1つのシステム。
【0497】
実施形態15.ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態14のシステム。
【0498】
実施形態16.ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態15のシステム。
【0499】
実施形態17.gRNA標的部位がシステム中のgRNAにとっての標的部位である、実施形態15又は16のシステム。
【0500】
実施形態18.ドナー鋳型のgRNA標的部位が、システム中のgRNAにとってのゲノムgRNA標的部位の逆相補体である、実施形態17のシステム。
【0501】
実施形態19.前記DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、実施形態1〜18のいずれか1つのシステム。
【0502】
実施形態20.前記リポソーム又は脂質ナノ粒子がgRNAもまた含む、実施形態19のシステム。
【0503】
実施形態21.gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するDNAエンドヌクレアーゼを含む、実施形態1〜20のいずれか1つのシステム。
【0504】
実施形態22.細胞のゲノムを編集する方法であって、細胞に以下:
(a)配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;
(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び
(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を提供することを含む方法。
【0505】
実施形態23.gRNAが配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、実施形態22の方法。
【0506】
実施形態24.gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、実施形態23の方法。
【0507】
実施形態25.gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、実施形態23の方法。
【0508】
実施形態26.gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、実施形態23の方法。
【0509】
実施形態27.gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、実施形態23の方法。
【0510】
実施形態28.前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される、実施形態22〜27のいずれか1つの方法。
【0511】
実施形態29.前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、実施形態22〜28のいずれか1つの方法。
【0512】
実施形態30.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、細胞での発現にコドン最適化される、実施形態22〜29のいずれか1つの方法。
【0513】
実施形態31.第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列が、細胞での発現にコドン最適化される、実施形態22〜30のいずれか1つの方法。
【0514】
実施形態32.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、実施形態22〜31のいずれか1つの方法。
【0515】
実施形態33.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリボ核酸(RNA)である、実施形態22〜31のいずれか1つの方法。
【0516】
実施形態34.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAがmRNAである、実施形態33の方法。
【0517】
実施形態35.ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、実施形態22〜34のいずれか1つの方法。
【0518】
実施形態36.ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態22〜35のいずれか1つの方法。
【0519】
実施形態37.ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態36の方法。
【0520】
実施形態38.gRNA標的部位が、(a)のgRNAにとっての標的部位である、実施形態36又は37の方法。
【0521】
実施形態39.ドナー鋳型のgRNA標的部位が、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノム内のgRNA標的部位の逆相補体である、実施形態38の方法。
【0522】
実施形態40.前記DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、実施形態22〜39のいずれか1つの方法。
【0523】
実施形態41.前記リポソーム又は脂質ナノ粒子がgRNAもまた含む、実施形態40の方法。
【0524】
実施形態42.gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するDNAエンドヌクレアーゼを細胞に提供することを含む、実施形態22〜41のいずれか1つの方法。
【0525】
実施形態43.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される、実施形態22〜42のいずれか1つの方法。
【0526】
実施形態44.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される、実施形態22〜43のいずれか1つの方法。
【0527】
実施形態45.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される、実施形態43又は44の方法。
【0528】
実施形態46.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される、実施形態45の方法。
【0529】
実施形態47.第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列が、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、実施形態22〜46のいずれか1つの方法。
【0530】
実施形態48.前記細胞がヘパトサイトである、実施形態22〜47のいずれか1つの方法。
【0531】
実施形態49.実施形態22〜48のいずれか1つの方法によって細胞のゲノムが編集されている遺伝子修飾細胞。
【0532】
実施形態50.第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列が、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、実施形態49の遺伝子修飾細胞。
【0533】
実施形態51.第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列が、細胞での発現にコドン最適化される、実施形態49又は50の遺伝子修飾細胞。
【0534】
実施形態52.前記細胞がヘパトサイトである、実施形態49〜51のいずれか1つの遺伝子修飾細胞。
【0535】
実施形態53.対象の血友病Aを治療する方法であって、対象の細胞に以下:
(a)配列番号22、21、28、30、18〜20、23〜27、29、31〜44、及び104のいずれか1つからのスペーサー配列を含むgRNA;
(b)DNAエンドヌクレアーゼ又は前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸;及び
(c)第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナー鋳型
を提供することを含む方法。
【0536】
実施形態54.gRNAが、配列番号22、21、28、及び30のいずれか1つからのスペーサー配列を含む、実施形態53の方法。
【0537】
実施形態55.gRNAが配列番号22からのスペーサー配列を含む、実施形態54の方法。
【0538】
実施形態56.gRNAが配列番号21からのスペーサー配列を含む、実施形態54の方法。
【0539】
実施形態57.gRNAが配列番号28からのスペーサー配列を含む、実施形態54の方法。
【0540】
実施形態58.gRNAが配列番号30からのスペーサー配列を含む、実施形態54の方法。
【0541】
実施形態59.前記対象が、血友病Aを有する又はそれを有する疑いがある患者である、実施形態53〜58のいずれか1つの方法。
【0542】
実施形態60.前記対象が、血友病Aのリスクがあると診断される、実施形態53〜58のいずれか1つの方法。
【0543】
実施形態61.前記DNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(別名Csn1及びCsx12)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、又はCpf1エンドヌクレアーゼ;又はその機能性誘導体からなる群から選択される、実施形態53〜60のいずれか1つの方法。
【0544】
実施形態62.前記DNAエンドヌクレアーゼがCas9である、実施形態53〜61のいずれか1つの方法。
【0545】
実施形態63.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、細胞での発現にコドン最適化される、実施形態53〜62のいずれか1つの方法。
【0546】
実施形態64.第VIII因子(FVIII)タンパク質又はその機能性誘導体をコードする核酸配列が、細胞での発現にコドン最適化される、実施形態53〜63のいずれか1つの方法。
【0547】
実施形態65.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がデオキシリボ核酸(DNA)である、実施形態53〜64のいずれか1つの方法。
【0548】
実施形態66.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリボ核酸(RNA)である、実施形態53〜64のいずれか1つの方法。
【0549】
実施形態67.前記DNAエンドヌクレアーゼをコードするRNAがmRNAである、実施形態66の方法。
【0550】
実施形態68.(a)のgRNA、(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸、及び(c)のドナー鋳型のうちの1つ以上がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、実施形態53〜67のいずれか1つの方法。
【0551】
実施形態69.ドナー鋳型がアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにコードされる、実施形態53〜68のいずれか1つの方法。
【0552】
実施形態70.ドナー鋳型が、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列を含むドナーカセットを含み、このドナーカセットの片側又は両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態53〜69のいずれか1つの方法。
【0553】
実施形態71.ドナーカセットの両側にgRNA標的部位が隣接する、実施形態70の方法。
【0554】
実施形態72.gRNA標的部位が、(a)のgRNAにとっての標的部位である、実施形態70又は71の方法。
【0555】
実施形態73.ドナー鋳型のgRNA標的部位が、(a)のgRNAにとっての細胞ゲノム内のgRNA標的部位の逆相補体である、実施形態72の方法。
【0556】
実施形態74.ドナー鋳型を細胞に提供することが、ドナー鋳型を対象に投与することを含む、実施形態53〜73のいずれか1つの方法。
【0557】
実施形態75.投与が静脈内経路による、実施形態74の方法。
【0558】
実施形態76.前記DNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸がリポソーム又は脂質ナノ粒子に製剤化される、実施形態53〜75のいずれか1つの方法。
【0559】
実施形態77.前記リポソーム又は脂質ナノ粒子がgRNAもまた含む、実施形態76の方法。
【0560】
実施形態78.gRNA及びDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に提供することが、リポソーム又は脂質ナノ粒子を対象に投与することを含む、実施形態77の方法。
【0561】
実施形態79.投与が静脈内経路による、実施形態78の方法。
【0562】
実施形態80.gRNAと予め複合体化されてリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するDNAエンドヌクレアーゼを細胞に提供することを含む、実施形態53〜79のいずれか1つの方法。
【0563】
実施形態81.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された5日以上後に細胞に提供される、実施形態53〜80のいずれか1つの方法。
【0564】
実施形態82.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸が、(c)のドナー鋳型が細胞に提供された少なくとも14日後に細胞に提供される、実施形態53〜81のいずれか1つの方法。
【0565】
実施形態83.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に細胞に提供される、実施形態81又は82の方法。
【0566】
実施形態84.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の1つ以上の追加用量が、(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸の初回用量の後に、第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の標的組込みレベル及び/又は第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列の目標の発現レベルが実現するまで細胞に提供される、実施形態83の方法。
【0567】
実施形態85.(a)のgRNA及び(b)のDNAエンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸を細胞に提供することが、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸とgRNAとを含む脂質ナノ粒子を対象に投与することを含む、実施形態81〜84のいずれか1つの方法。
【0568】
実施形態86.(c)のドナー鋳型を細胞に提供することが、AAVベクターにコードされたドナー鋳型を対象に投与することを含む、実施形態81〜85のいずれか1つの方法。
【0569】
実施形態87.第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列が、内因性アルブミンプロモーターの制御下で発現する、実施形態53〜86のいずれか1つの方法。
【0570】
実施形態88.前記細胞がヘパトサイトである、実施形態53〜87のいずれか1つの方法。
【0571】
実施形態89.第VIII因子(FVIII)タンパク質又は機能性誘導体をコードする核酸配列が対象の肝臓で発現する、実施形態53〜88のいずれか1つの方法。
【0572】
実施形態90.対象の血友病Aを治療する方法であって、
実施形態49〜52のいずれか1つの遺伝子修飾細胞を対象に投与すること
を含む方法。
【0573】
実施形態91.前記遺伝子修飾細胞が対象にとって自己性である、実施形態90の方法。
【0574】
実施形態92.対象から生体試料を採取すること
を更に含む、実施形態90又は91の方法であって、生体試料がヘパトサイト細胞を含み、遺伝子修飾細胞がヘパトサイトから調製される、方法。
【0575】
実施形態93.実施形態1〜21のいずれか1つのシステムの1つ以上の要素を含み、且つ使用説明書を更に含むキット。
【実施例】
【0576】
実施例1:インビトロでHepa1−6細胞においてマウスアルブミン遺伝子のイントロン1におけるCas9ヌクレアーゼによる切断を導くgRNAの同定
関連性のある前臨床動物モデルで判定することを目的として、関連性のある前臨床動物種由来のアルブミンのイントロン1におけるCas9ヌクレアーゼによる効率的な切断を導くgRNA分子を試験した。血友病Aのマウスモデルは十分に確立されており(Bi L,Lawler AM,Antonarakis SE,High KA,Gearhart JD,Kazazian HH.,Jr「マウス第VIII因子遺伝子の標的化した破壊により血友病Aモデルが生じる(Targeted disruption of the mouse factor VIII gene produces a model of hemophilia A)」.(Nat Genet.1995;10:119−21.doi:10.1038/ng0595−119)、この疾患に対する新規治療手法を試験するのに有用なモデルシステムに相当する。マウスアルブミンのイントロン1において切断する可能性のあるgRNAを同定するため、目的の配列中で化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)による切断の潜在的な標的となり得るNGG PAM配列を利用する可能な全てのgRNA標的配列、及びマウスゲノム中の全ての関連配列を同定するアルゴリズム(例えばCCTOP;https://crispr.cos.uni−heidelberg.de/)を用いてイントロンの配列を分析した。次にマウスゲノム中における正確にその配列又は関連配列の頻度に基づき各gRNAを順位付けして、理論上のオフターゲット切断リスクが最小のgRNAを同定した。この種の分析に基づき、mALbgRNA_T1と呼ばれるgRNAが試験に選択された。
【0577】
mAlbgRNA_T1がマウスゲノム中で相同性を呈した他の部位は、各々が以下の表2に示されるとおりの4ヌクレオチドのミスマッチを呈する4部位のみであった。
【0578】
【表3】
【0579】
mALbgRNA_T1がマウス細胞においてCas9による切断を促進する効率を判定するため、マウス肝細胞由来細胞株Hepa1−6を使用した。Hepa1−6細胞を5%COインキュベーターにおいてDMEM+10%FBS中で培養した。化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)タンパク質に結合したgRNAで構成されるリボ核タンパク質複合体(RNP)を、2.4μlのspCas9(0.8μg/μl)及び3μlの合成gRNA(20μM)及び7μlのPBS(1:5のspCas9:gRNA比)を混合することによって予め形成し、室温で10分間インキュベートした。ヌクレオフェクションのため、SF添加試薬(Lonza)のバイアル全部をSF Nucleofector試薬(Lonza)に加えて完全ヌクレオフェクション試薬を調製した。各ヌクレオフェクションにつき、1×10個のHepa1−6細胞を20μlの完全ヌクレオフェクション試薬に再懸濁し、RNPに加え、次に4Dヌクレオフェクション装置(4D nuclefection device)(Lonza)に置いたヌクレオフェクションキュベット(16ウェルストリップ)に移し、プログラムEH−100を用いてヌクレオフェクトした。細胞を10分間静置させた後、新鮮完全培地が入った適切なサイズのプレートに移した。ヌクレオフェクションの48時間後、細胞を回収し、ゲノムDNAを抽出し、Qiagen DNeasyキット(カタログ番号69506)を使用して精製した。
【0580】
アルブミンイントロン1の標的部位におけるCas9/gRNA媒介性切断頻度を判定するため、52℃のアニーリング温度を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で標的部位に隣接する一対のプライマー(MALBF3;5’TTATTACGGTCTCATAGGGC3’(配列番号11)及びMALBR5:AGTCTTTCTGTCAATGCACAC3’(配列番号12))を使用してゲノムDNAから609bp領域を増幅した。Qiagen PCR精製キット(カタログ番号28106)を使用してPCR産物を精製し、PCR反応に使用した同じプライマーでサンガーシーケンシングを用いて直接シーケンシングした。分解によるインデルトラッキング(Tracking of Indels by Decomposition:TIDES)と呼ばれるアルゴリズムによって配列データを分析し、gRNA/Cas9複合体についての予測切断部位に存在する挿入及び欠失(インデル)の頻度を決定した(Brinkman et al(2104);Nucleic Acids Research,2014,1)。mAlbgRNA_T1の総合的インデル発生頻度は、3つの独立した実験で試験したとき85〜95%であったことから、これらの細胞のゲノムにおけるgRNA/Cas9による効率的な切断が指摘される。mAlb gRNA−T1をヌクレオフェクトしたHepa1−6細胞におけるTIDES分析の例を図3に示す。ほとんどの挿入及び欠失が1bpの挿入及び1bpの欠失からなり、最大6bpの欠失が少数ある。
【0581】
実施例2:マウスにおけるmAlbgRNA−T1のインビボ切断効率の判定
Cas9及びmAlbgRNA−T1をマウスのヘパトサイトに送達するため、脂質ナノ粒子(LNP)送達媒体を使用した。化学的に修飾されたヌクレオチドを取り入れることによりヌクレアーゼ耐性を向上させたsgRNAを化学的に合成した。一例ではgRNAは、以下の構造でできている:
【化9】
式中、「A、G、U、C」は天然RNAヌクレオチドであり、「a、g、u、c」は2’−O−メチルヌクレオチドであり、及び「s」はホスホロチオエート骨格を表す。gRNAのマウスアルブミンターゲティング配列には下線を付し、残りのgRNA配列は共通の足場配列である。spCas9 mRNAは、ゲノムDNAの切断が起こり得るところである核コンパートメント内にspCas9タンパク質を輸送するために必要な核局在化ドメイン(NLS)に融合したspCas9タンパク質をコードするように設計した。Cas9 mRNAの追加的な成分は、リボソーム結合を促進するための第1コドンの前の5’末端にあるコザック配列、及び一連のA残基で構成される3’末端にあるポリAテールである。NLS配列を有するspCas9 mRNAの配列の例を配列番号81に示す。このmRNAは、当該技術分野において周知の種々の方法によって作製することができる。本明細書において用いられるかかる方法の一つは、T7ポリメラーゼを使用したインビトロ転写であり、ここではmRNAの配列が、T7ポリメラーゼプロモーターを含有するプラスミドにコードされる。簡潔に言えば、T7ポリメラーゼ及びリボヌクレオチドを含有する適切な緩衝液中でこのプラスミドをインキュベートすると、所望のタンパク質のアミノ酸配列をコードするRNA分子が作製された。反応混合物中の天然リボヌクレオチド又は化学的に修飾されたリボヌクレオチドのいずれも使用されることにより、天然化学構造又は修飾化学構造のいずれも備えるmRNA分子が生じ、これは発現、安定性又は免疫原性の点で有利であり得る。加えて、spCas9コード配列の配列は、各アミノ酸について最も高頻度で使用されるコドンを利用することにより、コドン使用を最適化した。加えて、コード配列は、mRNAからspCas9タンパク質への最も効率的な翻訳を促進するため、潜在リボソーム結合部位及び上流オープンリーディングフレームを取り除くように最適化した。
【0582】
本試験に使用されるLNPの主成分は、脂質C12−200である(Love et al(2010),PNAS vol.107,1864−1869)。C12−200脂質は高電荷RNA分子と複合体を形成する。C12−200を1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、DMPE−mPEG2000及びコレステロールと組み合わせた。例えばNanoAssemblr装置(Precision NanoSystems)における制御された条件下でgRNA及びmRNAなどの核酸と混合すると、LNPの自己組織化が起こり、核酸がLNPの内部に封入された。gRNA及びCas9 mRNAをLNPにアセンブルするため、エタノール及び脂質ストックをガラスバイアルに適宜ピペッティングした。C12−200とDOPE、DMPE−mPEG2000及びコレステロールとの比を調整して製剤化を最適化した。典型的な比は、50:10:38.5:1.5のモル比のC12−200、DOPE、コレステロール及びmPEG2000−DMGで構成された。gRNA及びmRNAをRNアーゼフリーチューブ内の100mMクエン酸Na、pH3.0及び300mM NaClに希釈した。NanoAssemblrカートリッジ(Precision NanoSystems)の脂質側をエタノールで洗浄し、RNA側を水で洗浄した。この脂質ワーキングストックをシリンジに引き込み、シリンジから空気を除去し、カートリッジに挿入した。同じ手順を用いてシリンジにgRNA及びCas9 mRNAの混合物をロードした。次に標準条件下でNanoassemblrランを実施した。次にLNP懸濁液を20Kdカットオフ透析カートリッジを使用して4リットルのPBS中で4時間透析し、次に20Kdカットオフスピンカートリッジ(Amicon)による遠心を用いて(遠心中にPBSでの3回の洗浄を含んだ)濃縮した。最後に、LNP懸濁液を0.2μMシリンジフィルタで滅菌ろ過した。市販のエンドトキシンキット(LALアッセイ)を使用してエンドトキシンレベルを確認し、動的光散乱によって粒径分布を決定した。ribogreenアッセイ(Thermo Fisher)を用いて、封入されたRNAの濃度を決定した。或いは、gRNA及びCas9 mRNAは個別にLNPに製剤化し、次に培養下の細胞の処理前又は動物への注射前に併せて混合した。個別に製剤化したgRNA及びCas9 mRNAを使用することにより、特定の比率のgRNA及びCas9 mRNAを試験することが可能であった。
【0583】
gRNA及びCas9 mRNAのインビボ送達には、代替的なカチオン性脂質分子を利用した代替的なLNP製剤もまた使用した。mALB gRNA T1及びCas9 mRNAを封入する新鮮に調製したLNPを1:1のRNA質量比で混合し、血友病Aマウスの尾静脈に注射(TV注射)した。或いは、LNPは後眼窩(RO)注射によって投与した。マウスに与えたLNPの用量は、体重1kg当たり0.5〜2mgのRNAの範囲であった。LNPの注射の3日後、マウスを犠牲にし、左右肝葉の小片及び脾臓の小片を採取し、各々からゲノムDNAを精製した。次にゲノムDNAをTIDES分析に供してアルブミンイントロン1の標的部位における切断頻度及び切断プロファイルを測定した。結果の一例を図4に示し、ここでは2mg/kgの用量で平均して25%の対立遺伝子が切断された。用量反応が見られ、0.5mg/kg用量では約5%の切断となり、1mg/kgでは約10%の切断となった。PBS緩衝液のみを注射したマウスはTIDESアッセイにおいて、TIDESアッセイそれ自体のバックグラウンドの尺度である約1〜2%の低いシグナルを示した。
【0584】
実施例3:ヒトアルブミンのイントロン1に標的化されるsgRNAのインデル頻度の判定
ヒトアルブミン遺伝子のイントロン1の範囲内で化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)による切断の標的となり得るNGG PAM配列を利用する全ての潜在的gRNA配列を、「CCTop」(例えばhttps://crispr.cos.uni−heidelberg.de/を参照のこと)と呼ばれる公開されているアルゴリズムに基づく「Guido」と呼ばれる所有アルゴリズムを用いて同定した。このアルゴリズムは、ヒトゲノム中の潜在的なオフターゲット部位を同定し、予測されるオフターゲット切断可能性に基づき各gRNAを順位付けする。同定されたgRNA配列を以下の表に提供する。
【0585】
【表4】
【0586】
5μg/μlのCas9ヌクレアーゼタンパク質(Platinum(商標)、GeneArt(商標))をThermo Fisher Scientificから購入し(カタログ番号A27865、Carlsbad,CA)、次に1:6希釈して0.83μg/μl又は5.2μMのワーキング濃度とした。化学的に修飾された合成シングルガイドRNA(sgRNA)(Synthego Corp、Menlo Park,CA)をTE緩衝液により100μMで再懸濁してストック溶液とした。或いは、使用するgRNAはインビトロ転写(IVT)によって作製してもよい。この溶液をヌクレアーゼフリー水で希釈して20μMのワーキング濃度とした。
【0587】
リボ核タンパク質複合体を作るため、Cas9タンパク質(12.5pmol)及びsgRNA(60pmol)を室温で10〜20分間インキュベートした。このインキュベーション中、HepG2細胞(American Type Culture Collection、Manassas,Virginia)又はHuH7細胞(American Type Tissue Culture Collection、Manassas,Virginia)を0.25%のトリプシン−EDTA(Thermo Fisher Scientific)を使用して37℃で5分間解離した。各トランスフェクション反応物には1×10細胞が含まれ、1実験当たりの適切な数の細胞を350×Gで3分間遠心し、次にトランスフェクション反応毎に20μlのLonza SFヌクレオフェクションプラス添加溶液(カタログ番号V4XC−2032、Basel,Switzerland)に再懸濁した。20μlのヌクレオフェクション溶液中の再懸濁細胞を各RNPチューブに加え、全容積を16ウェルヌクレオフェクションストリップの1つのウェルに移した。Amaxa 4D−Nucleofectorシステム(Lonza)のEH−100プログラムを用いてHepG2又はHuH7細胞をトランスフェクトした。HepG2及びHuH7はヒトヘパトサイト細胞株であり、従って肝臓の遺伝子の切断に使用されるgRNAの判定に関連性がある。トランスフェクション後、細胞をヌクレオフェクションストリップにおいて10分間インキュベートし、10%ウシ胎仔血清(カタログ番号10438026、Thermo Fisher Scientific)を補足したイーグル最小必須培地(カタログ番号10−009−CV、Corning、Corning,NY)からなる温培地が入った48ウェルプレートに移した。翌日、細胞に新鮮培地を再フィードした。
【0588】
トランスフェクション後48時間で、HepG2又はHuH7細胞を解離し、Qiagen DNeasyキット(カタログ番号69506、Hilden,Germany)を使用してゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAをPlatinum SuperFi Green PCRマスターミックス(Thermo Fisher Scientific)及び0.2μMの以下のプライマー:アルブミンフォワード:5’−CCCTCCGTTTGTCCTAGCTT−3’(配列番号14);アルブミンリバース:5’−TCTACGAGGCAGCACTGTT−3’(配列番号15);AAVS1フォワード:5’−AACTGCTTCTCCTCTTGGGAAGT−3’(配列番号16);AAVS1リバース:5’−CCTCTCCATCCTCTTGCTTTCTTTG−3’(配列番号17)と共に使用してPCRを実施した。PCR条件は、98℃で2分(1回)、続いて98℃で30秒、62.5℃で30秒及び72℃で1分(35回)であった。1.2%E−ゲル(Thermo Fisher Scientific)を使用してPCR産物が正しいことを確認し、Qiagen PCR精製キット(カタログ番号28106)を使用して精製した。対応するPCR産物に対するフォワード又はリバースのいずれかのプライマーを使用して、精製したPCR産物をサンガーシーケンシングに供した。Brinkman,et al.(Brinkman,E.K.,Chen,T.,Amendola,M,and van Steensel,B.「配列トレース分解によるゲノム編集の容易な定量評価(Easy quantitative assessment of genome editing by sequence trace decomposition)」.Nucleic Acids Research,2014,Vol.42,No.22 e168)により記載されるとおりのTIDE分析アルゴリズムを用いて、gRNA/Cas9についての予測切断部位における挿入又は欠失頻度を決定した。簡潔に言えば、クロマトグラムシーケンシングファイルを未処理細胞から得られた対照クロマトグラムと比較して、異常なヌクレオチドの相対存在量を決定した。この結果は表4に要約する。また、非ヒト霊長類など、関連性のある前臨床種で相同のヒトのgRNA配列を同定することも興味深い。ヒトアルブミンイントロン1に同定された潜在的gRNA配列を霊長類カニクイザル(Macaca fascicularis)及びアカゲザル(Macaca mulatta)のアルブミンイントロン1配列とアラインメントすると、表4に示されるとおり、完全一致又は1〜2ヌクレオチドのミスマッチを有する幾つかのgRNA分子が同定された。HuH7細胞では、IVTガイドを使用して生じるインデル頻度を測定し、HepG2細胞では、合成ガイドで生じるインデル頻度を測定した。HuH7細胞で異なるガイドによって生じるインデル頻度は0.3%〜64%の範囲であり、アルブミンのイントロン1において効率的に切断するgRNAは、単に配列ベースのインシリコアルゴリズムに基づくだけでは選択できないことが実証された。HuH7におけるIVT gRNA及びHepG2細胞における合成gRNAのインデル頻度に基づき、切断頻度が40%より高い幾つかのgRNAを同定した。合成ガイドとして46%及び43%の切断を呈し、且つヒト及び霊長類で100%同一であるgRNA T5及びT12が特に興味深い。
【0589】
【表5】
【0590】
実施例4:マウスアルブミンイントロン1における目的の治療用遺伝子の標的組込み
疾患の治療に必要な治療用タンパク質を発現させるための手法は、当該のタンパク質をコードする遺伝子のcDNA又はコード配列をインビボで肝臓のアルブミン遺伝子座に標的化して組み込むことである。標的組込みは、ドナーDNA鋳型が生物のゲノムに二本鎖切断部位で組み込まれる過程であり、かかる組込みはHDR又はNHEJのいずれかによって起こる。この手法は、生物の細胞への配列特異的DNAヌクレアーゼ及び治療用遺伝子をコードするドナーDNA鋳型の導入を用いる。本発明者らは、アルブミンイントロン1に標的化されるCRISPR−Cas9ヌクレアーゼがドナーDNA鋳型の標的組込みを促進する能力を有するかどうかを判定した。ドナーDNA鋳型は、静脈内注射後に肝臓のヘパトサイトを優先的に形質導入するAAVウイルス、好ましくはマウスの場合にはAAV8ウイルスで送達される。配列特異的gRNA mAlb_T1及びCas9 mRNAは、gRNAとCas9 mRNAとを封入するLNP製剤の静脈内又はRO注射によって同じマウスの肝臓のヘパトサイトに送達される。AAVによるヘパトサイトの形質導入は数時間〜数日かかり、送達されたドナーDNAはヘパトサイトの核に数週間〜数ヵ月にわたって安定に維持されることが公知であるため、ある場合には、AAV8−ドナー鋳型はLNPよりも前にマウスに注射される。対照的に、LNPによって送達されるgRNA及びmRNAは、RNA分子の固有の不安定性に起因して、ヘパトサイトで僅か1〜4日しか生き残らないであろう。別の場合には、LNPはAAV−ドナー鋳型の1日〜7日後にマウスに注射される。ドナーDNA鋳型は、(i)組込みの最大化、及び(ii)コードされた治療用タンパク質の発現の最大化を目標として幾つかの設計特徴を取り入れる。
【0591】
HDRによる組込みが起こるためには、治療用遺伝子カセットの両側に相同性アームが含まれる必要がある。これらの相同性アームは、マウスアルブミンイントロン1におけるgRNA切断部位の両側の配列で構成される。相同性アームが長いほど、概して効率の高いHDRが促進されるが、相同性アームの長さは、AAVウイルスの約4.7〜5.0Kbのパッケージング限界によって制限を受け得る。従って、相同性アームの最適な長さを同定するには、試験が必要である。組込みはまたNHEJ機構によっても起こり、ここでは二本鎖DNAドナーの遊離末端が二本鎖切断の末端につなぎ合わされる。この場合、相同性アームは必要ない。しかしながら、遺伝子カセットの両側にgRNA切断部位を取り入れると、線状二本鎖断片が生じることにより組込み効率が向上し得る。gRNA切断部位を逆向きで使用することにより、所望の順方向での組込みに有利に働き得る。FVIIIのフューリン切断部位に突然変異を導入すると、タンパク質の発現中にフューリンによって切断されることができないFVIIIタンパク質が生じ、完全な機能を維持しつつ血漿中での安定性が向上していることが示されている1本の鎖のFVIIIポリペプチドとなり得る。
【0592】
アルブミンイントロン1にFVIII遺伝子を組み込むように設計された例示的DNAドナーを図5に示す。特異的ドナー設計の配列は、順に配列番号87〜92である。
【0593】
FVIIIドナーDNAがパッケージングされたAAV8又は他のAAV血清型ウイルスの作製は、十分に確立されたウイルスパッケージング方法を用いて達成される。一つのかかる方法では、HEK293細胞に3つのプラスミドがトランスフェクトされ、1つはAAVパッケージングタンパク質をコードし、2つ目はアデノウイルスヘルパータンパク質をコードし、3つ目はAAV ITR配列が隣接したFVIIIドナーDNA配列を含む。トランスフェクト細胞は、1つ目のプラスミドにコードされるAAVカプシドタンパク質の組成によって指定される血清型のAAV粒子を生じる。これらのAAV粒子は、細胞上清又は上清及び溶解細胞から回収され、CsCl勾配若しくはイオジキサノール勾配で、又は必要に応じて他の方法により精製される。精製されたウイルス粒子は、定量的PCR(Q−PCR)によってドナーDNAのゲノムコピー数を測定することにより定量化される。
【0594】
gRNA及びCas9 mRNAのインビボ送達は、様々な方法によって達成される。第1の例では、AAVウイルスベクターからgRNA及びCas9タンパク質を発現させる。この場合、gRNAの転写はU6プロモーターによってドライブされ、Cas9 mRNA転写はEF1−αのような遍在性プロモーター又は好ましくはトランスサイレチンプロモーター/エンハンサーなどの肝臓特異的プロモーター及びエンハンサーのいずれかからドライブされる。spCas9遺伝子のサイズ(4.4Kb)が妨げとなって単一のAAVにspCas9及びgRNAカセットを含めることはできないため、gRNA及びspCas9の送達に別個のAAVが必要である。第2の例では、ウイルスゲノムの自己不活性化を促進する配列エレメントを有するAAVベクターが使用される。この場合、ベクターDNAにgRNAの切断部位を含めるため、インビボでベクターDNAの切断が起こる。切断時にCas9の発現を遮断する位置に切断部位を含めることにより、Cas9発現が短時間に限られる。インビボでgRNA及びCas9を細胞に送達する第3の代替的な手法では、非ウイルス送達方法が用いられる。一例では、非ウイルス送達方法として脂質ナノ粒子(LNP)が使用される。幾つかの異なるイオン化可能なカチオン性脂質が、LNPでの使用に利用可能である。それらとしては、とりわけ、C12−200(Love et al(2010),PNAS vol.107,1864−1869)、MC3、LN16、MD1が挙げられる。ある種のLNPでは、LNPの外側にGalNac部分が取り付けられ、これがアシアロ糖タンパク質(asialyloglycoprotein)受容体を介した肝臓への取込みのリガンドとして働く。これらのカチオン性脂質の任意のものを使用して、肝臓へのgRNA及びCas9 mRNAの送達用LNPが製剤化される。
【0595】
FVIIIの標的組込み及び発現を判定するため、初めに、FVIIIドナーDNA鋳型を封入するAAVウイルス、好ましくはAAV8ウイルスを血友病Aマウスに静脈内注射する。AAVの用量は、各マウスにつき4×1011〜4×1013VG/kg当量の1010〜1012ベクターゲノム(VG)の範囲である。AAV−ドナーの注射の1時間〜7日後、同じマウスに、gRNAとCas9 mRNAとを封入するLNPの静脈内注射を与える。Cas9 mRNA及びgRNAは別個のLNPに封入され、次に注射前に1:1のRNA質量比で混合される。与えられるLNPの用量は、体重1kg当たり0.25〜2mgのRNAの範囲である。LNPは尾静脈注射によるか、又は後眼窩注射によって投与される。AAV注射に対するLNP注射のタイミングが標的組込み及びFVIIIタンパク質発現の効率に及ぼす影響が、AAV投与後1時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間及び168時間の時点を試験することによって判定される。
【0596】
別の例において、ドナーDNA鋳型は、LNPである非ウイルス送達システムを使用してインビボで送達される。DNA分子が上記に記載されるものと同様のLNP粒子に封入され、静脈注射後に肝臓のヘパトサイトに送達される。エンドソームから細胞質へのDNAのエスケープは比較的効率的に起こるが、大型の荷電DNA分子の核内移行は効率的でない。ある場合には、核へのDNAの送達を向上させる方法は、ドナーDNA鋳型にAAV ITRを取り込むことによるAAVゲノムの模倣である。この場合、ITR配列がDNAを安定化させ、又は他の方法で核移行を向上させる。ドナーDNA鋳型配列からのCGジヌクレオチド(CpG配列)の除去もまた、核送達を向上させる。CGジヌクレオチドを含有するDNAは、自然免疫系によって認識され、排除される。人工DNA配列に存在するCpG配列を除去すると、非ウイルス及びウイルスベクターによって送達されるDNAの持続性が向上する。コドン最適化過程では典型的にはCGジヌクレオチドの含有量が増加し、なぜなら最も高頻度のコドンが多くの場合に3番目の位置にC残基を有し、それにより次のコドンがGで始まる場合にCGが作り出される可能性が高くなるためである。ドナーDNA鋳型のLNP送達と、続いて1時間〜5日後にgRNA及びCas9 mRNAを含有するLNPとの組み合わせが、血友病Aマウスで判定される。
【0597】
gRNA/Cas9及びドナーDNA鋳型のインビボ送達の有効性を判定するため、注射した血友病マウスについて、2つ目の成分の投与後約7日から開始して種々の時点で血中のFVIIIレベルを判定する。血液試料をRO採血によって採取し、血漿を分離し、発色アッセイ(Diapharma)を用いてFVIII活性に関してアッセイする。FVIIIタンパク質標準を使用してアッセイをキャリブレーションし、血中のFVIII活性の単位/mlを計算する。
【0598】
FVIII mRNAの発現もまた、試験終了時にマウスの肝臓で測定する。マウスの肝臓から抽出した全RNAについて、Q−PCRを用いてアルブミンmRNA及びFVIII mRNAのレベルをアッセイする。未治療マウスと比較したときのアルブミンmRNAに対するFVIII mRNAの比が、ハイブリッドアルブミン−FVIII mRNAの作製に利用されたアルブミン転写物の%の指標である。
【0599】
治療したマウスの肝臓からのゲノムDNAについて、特にアルブミンイントロン1でのgRNAにとっての標的部位における標的組込みイベントを判定する。PCRプライマー対は、予測標的組込みの両側の接合部断片を増幅するように設計する。これらのプライマーは、順方向及び逆方向の両方の組込みを検出するように設計される。PCR産物をシーケンシングすることにより、予想された組込みイベントが起こったかどうかを確認する。標的組込みを受けたアルブミン対立遺伝子の割合を定量化するため、予想される接合部断片に対応する標準を合成する。未治療マウスからのゲノムDNAに種々の濃度でスパイクし、次に同じPCR反応に供すると、検量線が作成され、これを使用して、治療したマウスからの試料における組込みイベントを有する対立遺伝子のコピー数を計算する。
【0600】
実施例5:霊長類アルブミンイントロン1への標的組込み
実施例4にマウスについて記載される同じ方法論を、霊長類のアルブミンイントロン1を標的とするgRNAを使用して霊長類種に適用する。AAV8又はLNPのいずれかを使用して、初めにドナーDNA鋳型を静脈注射によって送達する。使用する用量は、マウスで成功が認められたものに基づく。続いて同じ霊長類に、gRNAとCas9 mRNAとを封入するLNPの静脈注射を与える。マウスで有効と認められた同じLNP製剤及び用量を使用する。霊長類の血友病モデルは存在しないため、FVIIIタンパク質はヒトFVIII特異的ELISAアッセイを用いて測定する必要がある。実施例4に記載される同じ標的組込み及びFVIII mRNAレベルの分子解析を霊長類で実施する。霊長類は、トランスレーショナルから臨床までの評価を可能にする良好な前臨床モデルである。
【0601】
実施例6:ヒト初代ヘパトサイトにおけるgRNA/Cas9によるオンターゲット及びオフターゲット切断並びに標的組込みの判定
初代ヒトヘパトサイトは、患者の肝臓に送達されることになるgRNA/Cas9の効力及びオフターゲット切断の判定に最も関連性の高い細胞型である。これらの細胞を限られた期間にわたって接着単層培養下で成長させる。mRNAによる接着細胞のトランスフェクションについては、例えばMessage Max(Thermo Fisher)など、方法が確立されている。Cas9 mRNAとgRNAとの混合物によるトランスフェクション後、TIDES分析を用いてオンターゲット切断効率を測定する。同じゲノムDNA試料をオフターゲット分析に供して、gRNA/Cas9複合体によって切断されたゲノム中の更なる部位を同定する。一つのかかる方法は、「GuideSeq」(Tsai et al Nat Biotechnol.2015 Feb;33(2):187−197)である。他の方法としては、ディープシーケンシング、全ゲノムシーケンシング、ChIP−seq(Nature Biotechnology 32,677−683 2014)、BLESS(2013 Crosetto et al.doi:10.1038/nmeth.2408)、2015 Frock et al.doi:10.1038/nbt.3101に記載されるとおりのハイスループットゲノムワイドトランスロケーションシーケンシング(HTGTS)、Digenome−seq(2015 Kim et al.doi:10.1038/nmeth.3284)、及びIDLV(2014 Wang et al.doi:10.1038/nbt.3127)が挙げられる。
【0602】
初代ヒトヘパトサイトはまた、ドナーDNA鋳型を含有するAAVウイルスによって形質導入される。詳細には、AAV6又はAAVDJ血清型が、培養下の細胞の形質導入に特に効率的である。AAV−DNAドナーによる形質導入の1〜48時間後、次に細胞にgRNA及びCas9 mRNAをトランスフェクトして標的組込みを誘導する。標的組込みイベントは、実施例4に記載される同じPCRベースの手法を用いて測定する。
【0603】
実施例7:培養下の初代ヒトヘパトサイトにおいてヒトアルブミンイントロン1で効率的に切断するガイドRNAの同定及び選択
初代ヒトヘパトサイトにおける切断効率を判定するため、非ヒト霊長類と完全な相同性を有すること、並びにHuH7及びHepG2細胞における切断効率に関するスクリーニング(表4)に基づき、4つのgRNA(T4、T5、T11、T13)を選択した。初代ヒトヘパトサイト(BioIVTから入手した)を解凍し、凍結保存ヘパトサイト回復培地(CHRM)(Gibco)に移し、低速でペレット化し、次にIV型コラーゲンを予めコートした24ウェルプレート(Corning)内のInVitroGRO(商標)CP培地(BioIVT)+Torpedo(商標)抗生物質ミックス(BioIVT)中に0.7×10細胞/mlの密度でプレーティングした。プレートを5%CO2、37℃でインキュベートした。細胞が接着した後(プレーティングの3〜4時間後)、プレートに接着しなかった死細胞を新鮮な温完全培地を加えて洗い流し、次に細胞を5%CO2、37℃でインキュベートした。細胞のトランスフェクションのため、Cas9 mRNA(Trilink)及びガイドRNA(Synthego Corp、Menlo Park,CA)を氷上で解凍し、次にウェル当たり0.6ug mRNA及び0.2ugガイドで30ul OptiMem培地(Gibco)に加えた。OptiMem中30ulに全核酸重量に対して2:1体積で希釈したMessengerMax(ThermoFisher)をCas9 mRNA/gRNA OptiMem溶液と共に室温で20分間インキュベートした。この混合物を24ウェルプレート内の培養ヘパトサイトのウェル当たり500ulのヘパトサイトプレーティング用培地に滴下して加え、細胞を5%CO2、37℃でインキュベートした。翌朝、細胞を洗浄して再フィードし、トランスフェクションの48時間後に細胞を回収し、各ウェルに200ulの温0.25%トリプシン−EDTA(Gibco)を加えて37℃で5〜10分間インキュベートすることによりゲノムDNAを抽出した。細胞を取り除けた後、200ul FBS(Gibco)を加えてトリプシンを不活性化した。1ml PBS(Gibco)に加えた後、細胞を1200rpmで3分間ペレット化し、次に50ul PBS中に再懸濁した。MagMAX DNA Multi−Sample Ultra 2.0キット(Applied Biosytems)を使用して、キットの説明書に従いゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNA品質及び濃度を分光光度計を用いて分析した。TIDE分析のため、予測されるオンターゲット切断部位に隣接するプライマー(AlbF:CCCTCCGTTTGTCCTAGCTTTTC、配列番号178、及びAlbR:CCAGATACAGAATATCTTCCTCAACGCAGA、配列番号179)及びPlatinum PCR SuperMix High Fidelity(Invitrogen)を用いて35サイクルのPCR及び55℃のアニーリング温度を用いてゲノムDNAをPCR増幅した。初めにPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、正しいサイズの産物(1053bp)が生成されたことを確認し、次に精製し、及びプライマー(フォワード:CCTTTGGCACAATGAAGTGG、配列番号180、リバース:GAATCTGAACCCTGATGACAAG、配列番号181)を使用してシーケンシングした。次にTsunamiと呼ばれる改良版のTIDESアルゴリズム(Brinkman et al(2104);Nucleic Acids Research,2014,1)を用いて配列データを分析した。これにより、gRNA/Cas9複合体についての予測切断部位に存在する挿入及び欠失(インデル)の頻度が決定される。
【0604】
T4、T5、T11、及びT13ガイドの標準的な20ヌクレオチド標的配列又は19ヌクレオチド標的配列(5’末端が1bp短い)のいずれかを含有するガイドRNA(AxoLabs、Kulmbach Germany、又はSynthego Corp、Menlo Park,CAにおいて化学的に合成された)を試験した。19ヌクレオチドgRNAの方が配列特異性は高くなり得るが、短いガイドほど効力が低くなり得る。ドナー間での比較のため、ヒトAAVS1遺伝子座及びヒト補体因子を標的とする対照ガイドを含めた。トランスフェクションから48時間後にTIDES法を用いてアルブミンイントロン1の標的部位におけるインデル頻度を測定した。図6は、4人の異なるヒトドナーからの初代ヘパトサイトのトランスフェクションの結果を要約する。これらの結果は、切断効率が種々のガイドについて20%〜80%の範囲であることを実証している。20ヌクレオチドバージョンの各アルブミンgRNAは、一貫して19ヌクレオチド変異体よりも効力が高かった。20ヌクレオチドgRNAの優れた効力は、オフターゲット切断の点で19ヌクレオチドgRNAが有し得る任意の潜在的な利益を相殺し得る。4つの細胞ドナー間ではガイドRNA T4が最も一貫性のある切断を呈し、約60%のインデル頻度であった。gRNA T4、T5、T11及びT13をオフターゲット分析に選択した。
【0605】
実施例8:ヒトアルブミンガイドRNAのオフターゲット部位の同定
CRISPR/Cas9のオフターゲット部位を同定する2つの手法は、アブイニシオ予測及び経験的検出である。ガイドRNAによるCas9切断部位の特定は、Cas9切断がガイドRNA配列とゲノムとの間のミスマッチを許容するため不完全な過程である。種々のガイドの安全性リスクを理解し、及び最も有利なオフターゲットプロファイルを有するガイドを選択するには、Cas9切断部位のスペクトルが既知であることが重要である。予測的方法は、オフターゲット予測のCCTopアルゴリズムを改良したソフトウェアツールであるGuidoに基づく(Stemmer et al.,2015)。Guidoは、Bowtie 1アルゴリズムを使用してガイドRNAとヒトゲノムのGRCh38/hg38ビルド全体との間の相同性を検索することにより潜在的なオフターゲット切断部位を同定する(Langmead et al.,2009)。Guidoは、PAM近位の相同性及び正しく位置するNGG PAMを優先して、ガイドRNAとのミスマッチが最大5個の配列を検出する。部位がそのミスマッチの数及び位置によって順位付けされた。ラン毎にガイド配列並びにゲノムPAMがコンカテネートされ、デフォルトパラメータでランされる。アルブミンガイドT4、T5、T11及びT13について、ミスマッチが3個以下の上位ヒットを以下の表5〜表8に示す。各表の第1行がヒトゲノムにおけるオンターゲット部位を示し、その下の行が予測されるオフターゲット部位を示す。
【0606】
【表6】
【0607】
【表7】
【0608】
【表8】
【0609】
【表9】
【0610】
加えて、ヒト肝細胞におけるヒトアルブミンgRNA T4、T5、T11、T13のオフターゲット部位を、GUIDE−seqと呼ばれる方法を用いて同定した。GUIDE−seq(Tsai et al.2015)は、オフターゲット切断部位を見付け出す経験的方法である。GUIDE−seqは、染色体DNAの二本鎖切断部位におけるオリゴヌクレオチドの自然発生的捕捉に頼る。端的には、関連性のある細胞にgRNA/Cas9複合体をトランスフェクトした後、細胞から二本鎖オリゴヌクレオチドゲノムDNAが精製され、超音波処理され、一連のアダプターライゲーションが実施されてライブラリが作成される。このオリゴヌクレオチド含有ライブラリがハイスループットDNAシーケンシングに供され、デフォルトのGUIDE−seqソフトウェアで出力が処理されると、オリゴヌクレオチド捕捉部位が同定される。
【0611】
詳細には、二本鎖GUIDEseqオリゴは、2つの相補的な一本鎖オリゴヌクレオチドを89℃に加温し、次に室温にゆっくりと冷却することによってアニーリングすることにより作成した。4.8uLの最終容積中、240pmolのガイドRNA(Synthego Corp、Menlo Park,CA)及び48pmolの20uM Cas9 TruCut(ThermoFisher Scientific)を混合することにより、リボ核タンパク質複合体(RNP)を調製した。別個のチューブに4ulの10uM GUIDeseq二本鎖オリゴヌクレオチドを1.2ulのRNPミックスと混合し、次にヌクレオフェクションカセット(Lonza)に加えた。これに、16.4ulのNucleofector SF溶液(Lonza)及び3.6ulの添加剤(Lonza)を加えた。接着培養物として成長させたHepG2細胞をトリプシン処理によりプレートから遊離させて、次にトリプシンの失活後、ペレット化し、Nucleofector溶液に12.5e6細胞/mlで再懸濁し、各ヌクレオフェクションキュベットに20ul(2.5e5細胞)を加えた。4−D Nucleofectorユニット(Lonza)においてEH−100細胞プログラムでヌクレオフェクションを実施した。室温で10分間インキュベートした後、80ulの完全HepG2培地を加え、24ウェルプレートのウェルに細胞懸濁液を入れ、37℃、5%COで48時間インキュベートした。細胞をトリプシンで遊離させて、遠心(300g 10分間)によってペレット化し、次にDNAeasy血液及び組織キット(Qiagen)を使用してゲノムDNAを抽出した。ヒトアルブミンイントロン1領域をプライマーAlbF(CCCTCCGTTTGTCCTAGCTTTTC、配列番号178)及びAlbR(CCAGATACAGAATATCTTCCTCAACGCAGA、配列番号179)及びPlatinum PCR SuperMix High Fidelity(Invitrogen)を使用して35サイクルのPC及び55℃のアニーリング温度を用いてPCR増幅した。PCR産物は、初めにアガロースゲル電気泳動によって分析して、正しいサイズの産物(1053bp)が生成されたことを確認し、次にプライマー(フォワード:CCTTTGGCACAATGAAGTGG、配列番号180、リバース:GAATCTGAACCCTGATGACAAG、配列番号181)を使用して直接シーケンシングした。次にTsunamiと呼ばれる改良版のTIDESアルゴリズム(Brinkman et al(2104);Nucleic Acids Research,2014,1)を用いて配列データを分析した。これにより、gRNA/Cas9複合体についての予測切断部位に存在する挿入及び欠失(インデル)の頻度が決定される。Tsai et al.によって記載されるプロトコルと比較して、本発明者らは、GUIDE−seqを40pmol(約1.67μM)の捕捉オリゴヌクレオチドで実施して、オフターゲット切断部位同定の感度を増加させた。約0.01%の感度を実現するため、本発明者らは、最低50%のオンターゲット切断でトランスフェクション1回につき最低10,000個のユニークなオンターゲット配列リードを定義した。並行してRNPをトランスフェクトしない試料を処理した。RNP含有試料及びRNPナイーブ試料の両方で見出された部位(±1kb)は、更なる分析から除外する。
【0612】
ヒト肝細胞癌細胞株HepG2でGUIDE−seqを実施した。HepG2では、オンターゲット部位におけるGUIDE−seqオリゴヌクレオチドの捕捉はNHEJ頻度の70%〜200%の範囲であり、効率的なオリゴ捕捉が実証された。
【0613】
8mer分子インデックスを含有する試料バーコードアダプター(A01〜A16)の各々に共通アダプターをアニーリングすることにより、Y−アダプターを調製した。RNP及びGUIDEDseqオリゴをヌクレオフェクトしたHepG2細胞から抽出したゲノムDNAをQubitを使用して定量化し、全ての試料を120uL容積のTE緩衝液中400ngに標準化した。Covaris S220ソニケーターの標準的な操作手順によりゲノムDNAを200bpの平均長さに剪断した。平均断片長を確認するため、TapeStationで製造者のプロトコルに従い1uLの試料を分析した。剪断されたDNAの試料をAMPure XP SPRIビーズを使用して製造者のプロトコルに従いクリーンアップし、17uLのTE緩衝液に溶出させた。1.2ulのdNTPミックス(各5mMのdNTP)、3ulの10×T4 DNAリガーゼ緩衝液、2.4ulの末端修復ミックス、2.4ulの10×Platinum Taq緩衝液(Mg2+不含)、及び0.6ulのTaqポリメラーゼ(非ホットスタート)及び14uLの剪断DNA試料(前のステップから)をチューブ1本につき22.5uLの容積として混合することによりゲノムDNAに対して末端修復反応を実施し、サーモサイクラーでインキュベートした(12℃15分;37℃15分;72℃15分;4℃保持)。これに1ulのアニールしたYアダプター(10uM)、2ulのT4 DNAリガーゼを加え、混合物をサーモサイクラーでインキュベートした(16℃、30分;22℃、30分;4℃保持)。試料をAMPure XP SPRIビーズを使用して製造者のプロトコルに従いクリーンアップし、23uLのTE緩衝液に溶出させた。1uLの試料を製造者のプロトコルに従いTapeStationにかけて、断片へのアダプターのライゲーションを確認した。GUIDEseqライブラリを調製するため、14ulヌクレアーゼフリーHO、3.6ul 10×Platinum Taq緩衝液、0.7ul dNTPミックス(各10mM)、1.4ul MgCl、50mM、0.36ul Platinum Taqポリメラーゼ、1.2ulセンス又はアンチセンス遺伝子特異的プライマー(10uM)、1.8ul TMAC(0.5M)、0.6ul P5_1(10uM)及び前のステップからの10ulの試料を含有する反応物を調製した。この混合物をサーモサイクラーでインキュベートした(95℃で5分、次に95℃で30秒、70℃(サイクル毎に1℃降温)で2分、72℃で30秒を15サイクル、続いて95℃で30秒、55℃で1分、72℃で30秒を10サイクル、続いて72℃で5分)。このPCR反応物をAMPure XP SPRIビーズを使用して製造者のプロトコルに従いクリーンアップし、15uLのTE緩衝液に溶出させた。TapeStationで製造者のプロトコルに従い1uLの試料を確認し、試料の経過を追った。6.5ulヌクレアーゼフリーHO、3.6ul 10×Platinum Taq緩衝液(Mg2+不含)、0.7ul dNTPミックス(各10mM)、1.4ul MgCl(50mM)、0.4ul Platinum Taqポリメラーゼ、1.2ulの遺伝子特異的プライマー(GSP)2(センス;+又はアンチセンス;−)、1.8ul TMAC(0.5M)、0.6ul P5_2(10uM)及び前のステップからの15ulのPCR産物を混合することにより、2回目のPCRを実施した。1回目のPCRにGSP1+が使用された場合、PCR2ではGSP2+を使用した。1回目のPCR反応にGSP1−プライマーが使用された場合、この2回目のPCR反応ではGSP2−プライマーを使用した。1.5ulのP7(10uM)を加えた後、反応物をサーモサイクラーで以下のプログラムによりインキュベートした:95℃で5分、次に95℃で30秒、70℃(サイクル毎に1℃降温)で2分、72℃で30秒を15サイクル、続いて95℃で30秒、55℃で1分、72℃で30秒を10サイクル、続いて72℃で5分。このPCR反応物をAMPure XP SPRIビーズを使用して製造者のプロトコルに従いクリーンアップし、30uLのTE緩衝液に溶出させて、製造者のプロトコルに従いTapeStationで1uLを分析して増幅を確認した。Illuminaライブラリ定量化用のKapa Biosystemsキットを使用して、製造者が供給するプロトコルに従いPCR産物のライブラリを定量化し、Illuminaシステムで次世代シーケンシングに供してオリゴヌクレオチドが組み込まれた部位を決定した。
【0614】
GUIDE−seqの結果を表9〜表12に掲載する。GUIDE−seqによって同定される予測標的配列を考慮に入れることが重要である。予測標的配列がPAMを欠いている、又はgRNAとの有意な相同性を欠いている、例えば5個より多いミスマッチ(mm)の場合、それらのゲノム部位は真のオフターゲット部位ではなく、アッセイからのバックグラウンドシグナルと見なされる。GUIDE−seq手法はHepG2細胞において高いオリゴ捕捉頻度をもたらしたことから、この方法がこの細胞型に適切であることが指摘される。オンターゲットリードカウントは、4個中3個のガイドについて最低10,000個のオンターゲットリードという予め設定した基準を満たした。4個のリードgRNA候補について少数のオフターゲット部位が同定された。真のオフターゲット部位の数(つまり、PAMを含有し、且つgRNAとの有意な相同性を有する)は、これらの4個のgRNAについて0〜6の範囲であった。T4ガイドは、本物のように見える2つのオフターゲット部位を呈した。シーケンシングリードカウントによって判断したときのGUIDE−seqにおけるこれらのイベントの頻度は、オンターゲット切断頻度の2%及び0.6%であった。T13及びT5ガイドは両方とも、GUIDE−seqによっては、gRNAとの相同性を有し、且つPAMを含有するオフターゲット部位を呈しなかったため、従って試験した4個のガイドの中では最も望ましいオフターゲットプロファイルを有するように見える。gRNA T11は、オンターゲットリードカウントの23%である比較的高いリードカウントの1つのオフターゲット部位を呈したことから、このガイドが治療用途にはあまり魅力的でないことが示唆される。
【0615】
【表10】
【0616】
【表11】
【0617】
【表12】
【0618】
【表13】
【0619】
治療薬候補は、ヒトでの使用についてのその効力及び安全性を予測するため、非ヒト霊長類で判定されることが多い。CRISPR−Cas9システムを使用した遺伝子編集の場合、ヒトで使用されることになる可能性のあるガイドを試験するためにヒト及び非ヒト霊長類の両方に同じ標的配列が存在すべきかは、ガイドRNAの配列特異性に左右される。ヒトアルブミンイントロン1を標的とするガイドをインシリコでスクリーニングして、カニクイザル(cynomologus macaque)における対応するゲノム配列に一致するものを同定した(表4を参照のこと)。しかしながら、これらのガイドが非ヒト霊長類のゲノムを切断する能力及びそれらが予測されるオンターゲット部位で切断する相対効率が、関連性のある細胞システムで決定される必要がある。カニクイザル由来の初代ヘパトサイト(BioIVT、Westbury,NYから入手した)に、上記に初代ヒトヘパトサイトに関して記載される同じ実験プロトコルを用いてアルブミンガイドRNA T4、T5、T11又はT13及びspCas9 mRNAをトランスフェクトした。次に上記に記載される同じTIDESプロトコルを用いて、但しカニクイザル(cynomologus)アルブミンイントロン1に特異的なPCRプライマーを使用してインデル頻度を決定した。結果は図7に要約する。比較のため、ヒト初代ヘパトサイトにおけるガイドRNA T4の対応するデータを同じ図中に示す。4つのガイド全てが、2匹の異なる動物ドナー由来のカニクイザル(cynomologus)ヘパトサイトのアルブミンイントロン1における予想される部位での切断を10%〜25%の範囲の頻度で促進した。切断効率の順位はT5>T4>T11=T13であった。これらの4個のガイド中ではT5ガイドRNAが最も効力が高く、2匹のドナーにおける標的対立遺伝子の20%及び25%を切断した。切断効率はヒト細胞における対応するガイドよりも低かったが、これはトランスフェクション効率の差に起因し得る。或いは、これらのガイド及び/又はspCas9酵素は霊長類細胞において固有に効力が低い可能性もある。それにも関わらず、これらの4個のガイドの中でT5が最も効力が高かったという知見は、GUIDEseqによるその有利なオフターゲットプロファイルと併せると、T5をNHP並びにヒトにおける試験に魅力的とするものである。
【0620】
実施例9:CRISPR/Cas9によって媒介されるマウスアルブミンイントロン1へのSEAPレポーター遺伝子ドナーの標的組込みは、SEAPの発現及び血中への分泌をもたらす
CRISPR/Cas9による配列特異的切断を用いて、Cas9/gRNA複合体によって作り出される二本鎖切断点への目的の遺伝子をコードするドナー鋳型配列の組込みを媒介する可能性を判定するため、本発明者らは、レポーター遺伝子マウス分泌型アルカリホスファターゼ(mSEAP)をコードするドナー鋳型を設計し、構築した。mSEAP遺伝子はマウスにおいて非免疫原性であり、タンパク質に対する免疫応答による妨げなしに、コードされるmSEAPタンパク質の発現のモニタリングが可能である。加えて、mSEAPは、コード配列の5’末端に適切なシグナルペプチドが含まれるとき血中に容易に分泌され、そのタンパク質は、タンパク質の活性を測定するアッセイを用いて容易に検出可能である。spCas9及びガイドRNA mALbT1(tgccagttcccgatcgttacagg、配列番号80)による切断を介したマウスアルブミンのイントロン1への標的組込みのため、アデノ随伴ウイルス(AAV)へのパッケージング用のmSEAPコンストラクトを図8に示されるとおり設計した。シグナルペプチドが取り除かれたmSEAPコード配列をマウスにコドン最適化し、その前に、内因性マウスアルブミンエクソン1までのスプライシング後に正しいリーディングフレームを維持するのに必要な2つの塩基対(TG)を置いた。コンセンサススプライスアクセプター配列及びポリピリミジントラクトからなるスプライスアクセプター(CTGACCTCTTCTCTTCCTCCCACAG、配列番号2)をコード配列の5’末端に付加し、ポリアデニル化シグナル(sPA)をコード配列の3’末端に付加した(AATAAAAGATCTTTATTTTCATTAGATCTGTGTGTTGGTTTTTTGTGTG、配列番号5)。ゲノム中に存在するmAlbT1ガイドRNA(TGCCAGTTCCCGATCGTTACAGG、配列番号80)にとっての標的部位の逆相補体をこのカセットの両側に含めた。本発明者らは、ガイドRNAの切断部位を加えることにより、AAVゲノムがインビボでその送達先の細胞の核内で切断され、それにより二本鎖切断点における非相同末端結合(NHEJ)経路による組込みに最適な鋳型である線状DNA断片が生じるはずであると仮定した。AAVカプシドへの効率的なパッケージングを可能にするため、ヒトマイクロサテライト配列に由来するスタッファー断片を加え、ITRを含めて4596bpの総サイズを実現した。このドナーカセットが、Cas9/mALbT1ガイドRNA複合体によって作り出されたアルブミンイントロン1の二本鎖切断点に順方向で組み込まれた場合、アルブミンプロモーターからの転写により、アルブミンエクソン1のスプライスドナーからコンセンサススプライスアクセプターまでのスプライシングを受け得る一次転写物が生じ、及びアルブミンエクソン1がインフレームでmSEAPコード配列と融合している成熟mRNAが生じるものと予測される。このmRNAの翻訳により、マウスアルブミンのシグナルペプチド(これはアルブミンエクソン1にコードされる)が前に付いたmSEAPタンパク質が産生されることになる。シグナルペプチドは循環中へのmSEAPの分泌を導き、分泌の過程で切断されて取り除かれ、成熟mSEAPタンパク質が残ることになる。マウスアルブミンエクソン1は、シグナルペプチド及びプロペプチドと、それに続く成熟アルブミンタンパク質のN末端をコードする7bp(Glu−Ala+1bp(C)をコードする)をコードするため、プロペプチドの切断後、SEAPタンパク質はN末端に3つの追加的なアミノ酸、即ちGlu−Ala−Leu(Leuは、組み込まれたSEAP遺伝子カセットからのTGまでスプライシングされるアルブミンエクソン1の最後のC塩基によって生じる)を含むものと予測される。ロイシンは無電荷且つ非極性であり、従ってSEAPタンパク質の機能を妨げる可能性が低いため、本発明者らは、N末端に加えられる3つの追加的なアミノ酸の3番目としてロイシン(Leu)をコードするように選択した。pCB0047と称されるこのSEAPドナーカセットを、HEK293ベースのトランスフェクションシステム及び標準的なウイルス精製方法(Vector Biolabs Inc)を用いてAAV8血清型カプシドにパッケージングした。mSEAPコード配列内に位置するプライマー及びプローブによる定量的PCRを用いてウイルスの力価を決定した。
【0621】
0日目、pCB0047ウイルスを2e12vg/kgの用量でマウスの尾静脈に注射し、続いて4日後、mALbT1ガイドRNA(ガイドRNA配列
【化10】
、PAMに下線を付す、配列番号80)とspCas9 mRNAとを封入する脂質ナノ粒子(LNP)を注射した。シングルガイドRNAは化学的に合成し、これは本質的に記載されるとおり(Hendel et al,Nat Biotechnol.2015 33(9):985−989)化学修飾塩基を取り入れ、及び標準的なtracrRNA配列を使用した。spCas9 mRNAは標準技法を用いて合成し、タンパク質のN末端及びC末端の両方に核局在化シグナルを付加するヌクレオチド配列を含めた。核局在化シグナルは、mRNAがLNPによって目的の細胞の細胞質に送達され、次にspCas9タンパク質へと翻訳された後にspCas9タンパク質を核へと導くために必要である。NLS配列を使用した核へのCas9タンパク質の誘導は、当該技術分野において周知であり、例えば、Jinek et al(eLife 2013;2:e00471.DOI:10.7554/eLife.00471)を参照のこと。spCas9 mRNAはまたポリAテールも含み、これは安定性及び翻訳効率を向上させるため5’末端でキャッピングした。gRNA及びCas9 mRNAをLNPにパッケージングするため、本発明者らは、本質的にKaufmann et al(Nano Lett.15(11):7300−6)により記載されるとおりのプロトコルを用いて、イオン化可能な脂質C12−200(AxoLabsから購入)をベースとしてLNPをアセンブルした。LNPの他の成分は、cis−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸(DHA、Sigmaから購入)、1,2−ジリノレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DLPC、Avantiから購入)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](DMPE−mPEG200、Avantiから購入)及びコレステロール(cholestrol)(Avantiから購入)である。LNPは、マイクロ流体チャンバ内で制御された条件下に脂質及び核酸成分が混合されるとLNPが自己組織化するNanoassembler Benchtop機器(Precision NanoSystems)を使用して作製した。spCas9 mRNAとガイドRNAとは別個のLNPに封入した。LNPをリン酸緩衝生理食塩水への透析によって濃縮し、使用時まで最長で1週間、4℃で貯蔵した。LNPを動的光散乱を用いて特徴付け、典型的には50〜60nMの範囲のサイズであった。Ribogreenアッセイキット(Thermofisher Scientific)を使用してLNP中のRNA濃度を測定し、それを用いてマウスに与える用量を決定した。マウスへの投与のため、注射直前にspCas9及びガイドRNA LNPを1:1のRNA質量比で混合した。これらのLNPがspCas9 mRNA及びガイドRNAをマウスの肝臓に送達する能力は、ある範囲のLNP用量をマウスにIV注射し、肝臓内のアルブミンイントロン1のオンターゲット部位におけるマウスゲノムの切断をTIDES手順(Brinkman et al,Nucleic Acids Res.2014 Dec 16;42(22):e168)を用いて測定することにより実証された。典型的な結果に関しては実施例2(図4)を参照されたく、ここでは最大25%の対立遺伝子がオンターゲット部位で切断された。
【0622】
5匹のマウスの2つのコホートに2e12vg/kgのAAV8−CB0047ウイルスを尾静脈注射した。3日後、コホートのうちの一方に、spCas9 mRNAとmAlbT1ガイドRNAとを封入するLNPを2mg/kgの全RNA用量(1:1比のspCas9及びgRNA)で注射した。血液試料を毎週採取し、血漿を市販のキット(InvivoGen)を使用してSEAP活性に関してアッセイした。結果(表13を参照)は、AAV8−pCB0047ウイルスのみの投与を受けたマウスではSEAP活性は検出不能であったことを実証している。AAV8−pCB0047ウイルスと、続いてLNPの投与を受けたマウスは血漿中にSEAP活性を有し、これは投与後4週間の最後の時点まで安定したままであった。マウスがAAV8ドナーSEAP遺伝子及びCRISPR−Cas9遺伝子編集成分の両方の投与を受けたときに限りSEAPが発現したという知見は、SEAPタンパク質が、アルブミンイントロン1の標的部位に組み込まれたSEAP遺伝子のコピーから発現していたことを示唆している。pCB047のSEAP遺伝子はシグナルペプチド又はプロモーターを欠いているため、SEAPコード配列とインフレームであるプロモーター及びシグナルペプチドに作動可能に連結されない限り、その発現及び分泌はあり得ない。pCB047遺伝子カセットがゲノムのランダムな部位に組み込まれたならば、これが起こったであろう可能性は低い。
【0623】
pCB0047からのSEAP遺伝子カセットがアルブミンのイントロン1に組み込まれたことを確認するため、本発明者らは試験終了時にマウスの肝臓から抽出したゲノムDNAにおいてドロップレットデジタルPCR(DD−PCR)を用いて組込み頻度を測定した。DD−PCRは、複雑な混合物中の核酸配列のコピー数を正確に定量化する方法である。一方がマウスアルブミンゲノム配列中のmAlbT1ガイドにとっての標的部位(予測される標的組込み部位)の5’側に位置し、他方のプライマーがpCB0047においてSEAP遺伝子の5’末端に位置する一対のPCRプライマーを設計した。この「インアウト」PCRは、SEAPカセットが所望の順方向で組み込まれると、マウスアルブミンゲノム配列と組み込まれたSEAPカセットとの間の接合部を増幅することになる。これらの2つのプライマーによって増幅されたDNA配列にハイブリダイズする蛍光プローブを設計した。DD−PCRアッセイの内部対照として、マウスアルブミン遺伝子を検出するプライマープローブセットを使用した。このDD−PCRアッセイを使用して本発明者らが標的組込み頻度を測定したところ0.24±0.07%(100コピーのアルブミン遺伝子当たり0.24コピー)となり、それによりSEAPカセットがアルブミンイントロン1に組み込まれたことが確認された。
【0624】
【表14】
【0625】
実施例10:CRISPR/Cas9によって媒介されるマウスアルブミンイントロン1へのヒトFVIII遺伝子ドナーの標的組込みは、血中でのFVIIIの発現をもたらす
血友病Aは、広く研究されている疾患であり(Coppola et al,J Blood Med.2010;1:183−195)、患者が第VIII因子遺伝子に突然変異を有するため、その血中の機能性第VIII因子タンパク質レベルが低くなるものである。第VIII因子は凝固カスケードの決定的に重要な成分であり、十分な量のFVIIIがないと、血液は傷害部位で安定した凝血塊を形成することができず、過度の出血が生じることになる。有効に治療されていない血友病A患者は関節に出血を起こし、関節が破壊されることになる。頭蓋内出血が起こることもあり、時に致命的であり得る。
【0626】
この遺伝子編集戦略を血友病Aの治療に用いることができるかどうかを判定するため、本発明者らは、マウスFVIII遺伝子が不活性化されているマウスモデルを使用した。こうした血友病Aマウスはその血中のFVIIIが検出不能であり、そのため外因的に供給されたFVIIIをFVIII活性アッセイ(Diapharma、Chromogenix Coatest SP Factor FVIII、カタログ番号K824086kit)を用いて測定することが可能である。このアッセイの標準として、本発明者らは、血友病患者の治療に用いられる組換えヒトFVIIIであるコージネイト(Kogenate)(Bayer)を使用した。アッセイの結果は、1IU/mlとして定義される正常ヒトFVIII活性に対する割合として報告する。強力な肝臓特異的プロモーターの制御下でAAVベクターによってマウスに送達したとき機能することが示されているB−ドメイン欠失型FVIIIコード配列をベースとしてヒトFVIIIドナー鋳型を構築した(McIntosh et al,2013;Blood;121(17):3335−3344)。天然シグナルペプチドをコードするDNA配列をこのFVIIIコード配列から除去し、マウスアルブミンエクソン1までのスプライシング後に正しいリーディングフレームを維持するために必要な2塩基対(TG)に置き換えた。このFVIIIコード配列の直ちに5’側に、マウスアルブミンイントロン1に由来するスプライスアクセプター配列を挿入した。FVIIIコード配列の3’側に、ヒトグロビン遺伝子からの3’非翻訳配列と、続く合成ポリアデニル化シグナル配列を挿入した。合成ポリアデニル化シグナルは、ポリアデニル化を有効に導くことが示されている短い49bp配列である(Levitt et al,1989;GENES & DEVELOPMENT 3:1019−1025)。3’UTR配列はB−グロビン遺伝子から取ったもので、これはポリアデニル化効率を更に向上させる働きをし得る。このFVIII遺伝子カセットの両側(either site)にmAlbT1ガイドRNAにとっての標的部位の逆相補体を置いて、図9に示されるとおりのAAV2のITR配列を含有するpCB056と呼ばれるベクターを作成した。このプラスミドをAAV8カプシドにパッケージングしてAAV8−pCB056ウイルスを作成した。
【0627】
5匹の血友病Aマウスのコホート(群2;G2)にAAV8−pCB056ウイルスを1e13vg/kgの用量で尾静脈注射し、19日後、同じマウスに、各々1mg RNA/kgの用量の、spCas9 mRNAとmAlbT1ガイドRNAとを封入する2つのC12−200ベースのLNPの混合物を尾静脈注射した。LNPは、上記の実施例2に記載されるとおり製剤化した。5匹の血友病Aマウスの別のコホート(群6;G6)にAAV8−pCB056ウイルスを1e13vg/kgの用量で尾静脈注射し、続く4週間にわたってFVIII活性をモニタした。AAVのみを注射したとき、マウスの血中のFVIII活性は測定不能であった(図9のG6)。AAV8−pCB056ウイルスと、続いてLNP中のCRISPR/Cas9遺伝子編集成分の投与を受けたマウスは、その血中に正常ヒトFVIII活性レベルの25%〜60%の範囲のFVIII活性を有した。重症血友病患者はFVIII活性レベルが正常値の1%未満であり、中等症血友病A患者はFVIIIレベルが正常値の1〜5%であり、軽症患者はレベルが正常値の6%〜30%である。FVIII補充タンパク質療法を受けている血友病A患者の分析では、3%、5%、10%、15%及び20%の予想FVIIIトラフ濃度で、出血が起こらなかった頻度がそれぞれ71%、79%、91%、97%、及び100%であったことが報告されており(Spotts et al Blood 2014 124:689)、15〜20%の最低レベルを上回るFVIIIレベルが維持されると、出血イベント率がゼロ近くまで低下したことが示唆される。血友病Aの治癒に必要な正確なFVIIIレベルは定義されておらず、恐らく患者毎に異なるが、5%〜30%のレベルが、出血イベントの有意な減少をもたらすものと見込まれる。従って、上記に記載される血友病Aマウスモデルでは、実現したFVIIIレベル(25〜60%)は、治癒的であると予想される治療上意味のある範囲である。
【0628】
図10の5匹中4匹のマウスが、36日目の試験終了時まで安定したFVIIIレベル(アッセイの通常のばらつき及びマウス生理学の変動の範囲内)を呈した。マウスのうちの1匹(2−3)のFVIII活性は、36日目に検出不能レベルに下がったが、これは恐らくは、マウスにおいて外来性タンパク質と認識され得るヒトFVIIIタンパク質に対する免疫応答に起因した(Meeks et al,2012 Blood 120(12):2512−2520)。AAV−FVIIIドナー鋳型のみが注射されたときにはマウスにおいてFVIIIタンパク質が発現しなかったという観察は、FVIIIの発現にCRISPR/Cas9遺伝子編集成分の提供が必要であったことを実証している。FVIIIドナーカセットはプロモーター又はシグナルペプチドを有しないため、ゲノムのランダムな部位へのカセットの組込み又は他の何らかの定義されていない機構によってFVIIIが作られた可能性は低い。FVIIIドナーカセットがアルブミンのイントロン1に組み込まれたことを確認するため、本発明者らはDD−PCRフォーマットでインアウトPCRを用いた。群2のマウスの全肝をホモジナイズし、ゲノムDNAを抽出し、マウスアルブミン遺伝子においてオンターゲット組込みが起こったと予測されるmAlbT1 gRNAにとっての切断部位の5’側の位置に置いた1つのプライマーを使用するDD−PCRによりアッセイした。第2のPCRプライマーは、pCB056カセット内でFVIIIコード配列の5’末端に置いた。検出に使用した蛍光プローブは、2つのPCRプライマー間の配列にハイブリダイズするように設計した。これらの2つのプライマーを使用したPCRは、FVIIIカセットがmAlbT1 gRNA切断部位に順方向で組み込まれてFVIIIタンパク質の発現能を得るであろう組込みイベントの5’側接合部を増幅することになる。マウスアルブミン遺伝子内の領域に対するDD−PCRアッセイを対照として用いて、アッセイにおけるマウスゲノムのコピー数を測定した。このアッセイは、100個のハプロイドマウスゲノム当たり0.46〜1.28(平均1.0)の標的組込みイベントを検出した。標的組込み頻度とピークFVIIIレベルとの間には相関があり、組み込まれたFVIII遺伝子カセットからFVIIIが産生されることと整合した。マウス肝の細胞の約70%がヘパトサイトであり、AAV8及びLNPの両方が主にヘパトサイトによって取り込まれると仮定すると、1.4%(1.0×(1/0.7))のヘパトサイトアルブミン対立遺伝子が、順方向で組み込まれたFVIIIカセットを含んだと推定することができる。これらの結果は、CRSIPR/Cas9を使用して、適切に設計されたFVIII遺伝子カセットをマウスのアルブミンイントロン1に組み込み、治療レベルの機能性FVIIIタンパク質の発現及び分泌を血中にもたらし得ることを実証している。この試験に用いた送達モダリティ、即ち、FVIIIドナー鋳型を送達するAAVウイルス及びCRISPR/Cas9成分を送達するLNPは、潜在的に患者へのインビボ送達に適している。Cas9は、インビボで短命(1〜3日の範囲)のmRNAとして送達されたため、CRISPR/Cas9遺伝子編集複合体は短期間しか活性でないことになり、これによりオフターゲット切断イベントが起こる時間が制限され、従って予測される安全上の利益が付与される。これらのデータは、CRISPR/Cas9が活性であったのは短期間に過ぎなかったが、それがマウスにおいて治療的に意味のあるレベルのFVIII活性を生じさせるのに十分な頻度で標的組込みを誘導するのに十分であったことを実証している。
【0629】
【表15】
【0630】
実施例11:AAVドナーに対するLNPでのガイドRNA及びCas9 mRNAの投与タイミングは遺伝子発現レベルに影響を与える
AAVドナー鋳型の注射とCas9 mRNA及びガイドRNAを封入するLNPの投与との間の時間が、ドナー鋳型にコードされた遺伝子の発現レベルに影響を及ぼしたかどうかを判定するため、本発明者らは各5匹のマウスの2つのコホートに、mSEAPをコードするAAV8−pCB0047を注射した。AAVを注射した4日後、一方のマウスコホート(群3)に、spCas9 mRNA及びmAlbT1 gRNA(各1mg/kg)を封入するC12−200ベースのLNPを注射し、血漿中のSEAP活性を次の4週間にわたって毎週測定した。第2のマウスコホートにおいてSEAP活性を4週間モニタし、その間、SEAPは検出されなかった。AAVを注射した後28日の時点で群4のマウスに、spCas9 mRNA及びmAlbT1 gRNA(各1mg/kg)を封入するC12−200ベースのLNPを投与し、血漿中のSEAP活性を次の3週間にわたって毎週測定した。SEAPデータを表15に要約する。LNPに封入されたspCas9/gRNAをAAVの4日後に投与された群3では、SEAP活性は平均して3306μU/mlであった。LNPに封入されたspCas9/gRNAをAAVの28日後に投与された群4では、SEAP活性は平均して、群3の4倍の高さである13389μU/mlであった。これらのデータから、LNPに封入されたspCas9/gRNAをLNPの28日後に投与すると、LNPに封入されたspCas9/gRNAがAAV−ドナー鋳型の僅か4日後に投与される場合と比べてゲノムに組み込まれた遺伝子からの発現が4倍に高くなることが実証された。この発現の向上は、完全長ドナーがコードされる遺伝子カセットがアルブミンイントロン1に組み込まれる頻度がより高いことに起因する可能性が高い。
【0631】
【表16】
【0632】
また、治療的に意味のある遺伝子の例として第VIII因子遺伝子を使用して、AAV−ドナー及びLNPに封入されたCas9/gRNAの投与タイミングの影響を判定した。0日目、血友病Aマウスの2つのコホートに、ヒトFVIIIドナーカセットをコードするAAV8−pCB056を2e12vg/kgの用量で注射した。4日後、一方のコホートに、spCas9 mRNA及びmAlbT1 gRNA(各1mg/kg)を封入するC12−200ベースのLNPを注射し、一方、第2のコホートには17日後にspCas9 mRNA及びmAlbT1 gRNA(各1mg/kg)を封入するC12−200ベースのLNPを注射した。AAV8−pCB056の投与の時間をずらすことにより、spCas9 mRNA及びガイドRNAを封入するLNPについて両群とも同じバッチが同じ日に用いられるようにした。LNPを投与した後10日目及び17日目にマウスの血中のFVIII活性を測定した。結果は図11に示す。AAVの4日後にLNPの投与を受けたマウスは、その血中のFVIIIが検出不能であった一方、AAVの17日後にLNPを注射した群では、4匹全てのマウスが検出可能なFVIII活性を有し、17日目に正常値の2%〜30%の範囲であった。これらの結果は、FVIIIをコードするAAVドナーについて、CRISPR/Cas9成分をAAVドナーの少なくとも17日後に投与すると、治療的に意味のあるレベルのFVIIIが生じる一方、AAVの4日後に投与してもFVIII発現には至らなかったことを実証している。
【0633】
肝臓の細胞を含め、細胞にAAVが感染する過程には、エンドソームからのエスケープ、ウイルスの脱外被及びAAVゲノムの核内輸送が関わる。一本鎖ゲノムがウイルスにパッケージングされているこれらの試験で使用されるAAVの場合、一本鎖ゲノムは第2鎖DNA合成のプロセスを受けて二本鎖DNAゲノムを形成する。一本鎖ゲノムから二本鎖ゲノムへの完全な変換に必要な時間については十分に確立されていないが、それは律速段階であると考えられている(Ferrari et al 1996;J Virol.70:3227−3234)。二本鎖線状ゲノムは次にはコンカテマー化して、単量体が頭−尾結合及び尾−頭結合でつなぎ合わされて構成される多量体環状形態になる(Sun et al 2010;Human Gene Therapy 21:750−762)。本発明者らの試験で使用されるAAVドナー鋳型は相同性アームを含まないため、HDRの鋳型にはならず、従ってNEHJ経路による組込みのみが可能である。二本鎖切断点におけるNHEJ媒介性組込みの鋳型となるのは、二本鎖線状DNA断片のみである。従って、本発明者らは、AAVドナー後すぐにCRISPR−Cas9成分を肝細胞に送達すると、大多数のAAVゲノムが一本鎖形態であり、そうした状況下ではゲノム中の二本鎖切断点のほとんどが、ドナー鋳型の組込みのない、少数の挿入及び欠失で修復されることになるため、低い組込み頻度につながる可能性があると仮定する。AAV−ドナー鋳型の後、時間が経ってからCRISPR/Cas9遺伝子編集成分を送達することにより、NHEJ媒介性標的組込みの鋳型である二本鎖AAVゲノムが形成できる時間が与えられる。しかしながら、AAVドナーが送達された後に長く待ち過ぎると、二本鎖線状形態から、NHEJ媒介性標的組込みの鋳型とはならない環状(コンカテマー状)形態への変換が起こり得る。ドナー鋳型にガイドRNA/Cas9の切断部位を含めると、環状形態が切断されて線状形態が生じることになる。任意の残りの線状形態もまた、切断されて、AAV ITR配列を含む短い断片を放出することになる。AAVドナー鋳型に1又は2つのいずれかのガイドRNA切断部位を含めると、コンカテマー形態のAAVゲノムから種々の線状断片が生じることになる。線状断片のタイプは、AAVゲノム中の切断部位の数及び各コンカテマー中の多量体の数並びにその相対的な向きに応じて異なることになり、従って予測することは困難である。AAV中のカセットの5’末端に置かれた単一のgRNA部位は、単量体環及び頭−尾結合型コンカテマー(頭−尾結合型とは、一つのAAVゲノムの5’末端が次のAAVゲノムの3’末端につなぎ合わされていることを意味する)の両方から単量体二本鎖鋳型を遊離させるであろう。しかしながら、5’末端の単一のgRNA部位は、頭−頭結合型コンカテマー(頭−頭結合型コンカテマーは、一つのAAVゲノムの5’末端が次のAAVゲノムの5’末端につなぎ合わされたものからなる)からは単量体二本鎖線状鋳型を遊離させないであろう。5’末端に単一のgRNA部位を使用することの可能な利点は、それが頭−尾結合型コンカテマーからではなく、頭−頭結合型コンカテマーからは短いITR含有二本鎖断片を遊離させるのみであることである。AAVゲノムの5’末端に単一のgRNA切断部位があるとき、ITRは線状単量体遺伝子カセットの3’末端に残ることになり、従ってゲノムに組み込まれることになる。AAV中のドナーカセットが2つのgRNA部位(カセットに隣接する)を含むとき、これによってあらゆる形態の二本鎖DNAから単量体二本鎖鋳型が遊離することになり、従って、特に頭−尾結合型及び尾−頭結合型コンカテマーの混合物が存在する場合、標的組込みのためにより多くの鋳型が放たれ得る。カセットに隣接する2つのgRNA標的部位を含むことの可能性のある欠点は、それによりAAV ITR配列を含む小さい(約150塩基対)二本鎖線状断片が遊離するであろうことである。目的の治療用遺伝子を含む遺伝子カセットの各コピーにつき、これらの小さい(約150塩基対)断片の2つが生じることになる。この短いITR含有断片もまた、ゲノム中の二本鎖切断点におけるNHEJ媒介性標的組込みの鋳型になると思われ、従ってゲノム中の二本鎖切断点における組込みに関して、遺伝子カセットを含有する断片と競合し、それにより宿主細胞のゲノムへの治療用遺伝子カセットの所望の組込みイベントが起こる頻度が低下することになる。コンカテマー形成の動態及びコンカテマーの分子組成(頭−尾結合型及び尾−頭結合型コンカテマーの含有量並びにコンカテマー中の単量体単位の数)などの多くのパラメータが不明であるこの生体システムの複雑さを所与とすれば、ドナーカセット中の0、1又は2個のうちいずれのガイド切断部位が、治療用遺伝子を含有する所望のドナーカセットの最も高率の標的組込みを実現するか、又はCRISPR/Cas9遺伝子編集成分の送達タイミングによってこれがどのように達成されるかについて、何らかの確実性をもって予測することは不可能である。本発明者らのデータは、AAV−ドナーカセットの4日後にLNPが投与されたときではなく、AAV−ドナーカセットが投与された少なくとも17日後に投与されるspCas9 mRNAとガイドRNAとを封入するLNPによってCRISPR/Cas9遺伝子編集成分が送達されるセッティングで、2個のガイドRNA切断部位を含めると測定可能な標的組込みにつながることを裏付けている。
【0634】
実施例12:異なるポリアデニル化シグナルがFVIII発現に及ぼす影響
異なるポリアデニル化シグナル配列がマウスアルブミンイントロン1への標的組込み後のFVIII遺伝子の発現に及ぼす影響を判定するため、本発明者らは、図12に示す一連のプラスミドを構築した。これらのプラスミドは、mALbT1 gRNAにとっての単一の標的部位を5’末端に有し、それがハイドロダイナミックインジェクション(HDI)を用いたマウスへの送達後にインビボで環状プラスミドDNAの線状化をもたらすことになるものとして設計した。HDIは、マウスの肝臓にプラスミドDNAを送達するための確立された技法であり(Budker et al,1996;Gene Ther.,3,593−598)、生理食塩水中のネイキッドプラスミドDNAがマウスの尾静脈に急速注入される(2〜3ml容積を5〜7秒)。
【0635】
6匹の血友病Aマウスのコホートにマウス1匹当たり25μgのpCB065、pCB076又はpCB077をハイドロダイナミックインジェクションした。24時間後、マウスにspCas9 mRNAとmAlbT1 gRNAとを封入するC12−200 LNPを1mg/kgの各RNA用量で後眼窩注射によって投与した。LNP投与後10日目にマウスの血中のFVIII活性を測定した。10日目、マウスを犠牲にし、全肝をホモジナイズし、ホモジネートからゲノムDNAを抽出した。アルブミンイントロン1への順方向でのFVIIIドナーカセットの標的組込み頻度を定量的リアルタイムPCRを用いて定量化した。このリアルタイムPCRアッセイでは、1つのプライマーが、マウスアルブミン遺伝子のゲノム配列中における予想組込み部位(mAlbT1 gRNAにとっての切断部位)の5’側に置かれ、第2のPCRプライマーが、ドナープラスミドのFVIIIコード配列の5’末端に置かれた。これらの2つのプライマー間に蛍光プローブが置かれた。このアッセイは、組込みが順方向で起こったとき(ここではFVIII遺伝子がゲノムマウスアルブミン遺伝子と同じ向きである)、マウスゲノムとドナーカセットとの間の接合部を特異的に検出することになる。ナイーブマウス肝臓ゲノムDNAにスパイクされた接合部断片予想配列で構成される合成DNA断片をコピー数標準として使用して、肝臓ゲノムDNAにおける組込みイベントの絶対コピーを計算した。群2(pCB065を注射)、群3(pCB076を注射)及び群4(pCB077を注射)のマウスにおけるFVIII活性は、それぞれ、5.5%、4.2%及び11.4%であった。pCB077を注射した群4が最も高いFVIII活性を有した。ハイドロダイナミックインジェクションによる肝臓へのDNAの送達はマウス間で高度にばらつきがあるため、本発明者らは、図13に示されるとおり各個別のマウスについてFVIII活性を標的組込み頻度で除したものを計算した。この比は、組み込まれたFVIII遺伝子コピー当たりのFVIII発現に相当し、pCB065及びpCB076と比較してpCB077(群4)からの優れた発現が実証された。本発明者らが、いかなるFVIIIも発現しなかったマウスを除外したとき、平均FVIII/TI比は、pCB065、pCB076及びpCB077についてそれぞれ42、8及び57であった。これらのデータは、pCB077のaPA+ポリアデニル化シグナルが、pCB076のsPAポリアデニル化シグナルと比較したとき優れたFVIII発現を可能にすることを示している。sPA+ポリアデニル化シグナルを使用したFVIIIの発現は、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを使用した発現と同様であった。sPA(49bp)又はsPA+(54bp)などの短いポリアデニル化シグナル配列の使用には、bGHポリA(225bp)と比較したとき、特に4.3KbサイズでAAVのパッケージング限界(ITRを除いて4.4Kb)に近いFVIII遺伝子の場合、AAVウイルスを使用したドナーの送達時に利点がある。sPA+ポリアデニル化シグナルはsPAポリアデニル化シグナルと比べて、FVIII遺伝子の終止コドンと合成ポリアデニル化シグナル配列(aataaaagatctttattttcattagatctgtgtgttggttttttgtgtg、配列番号5)との間に5bpスペーサー(tcgcg、配列番号212)が存在することだけが異なる。この合成ポリアデニル化シグナル配列については以前記載されており(Levitt et al,1989;Genes Dev.(7):1019−25)、他の研究者らによってAAVベースの遺伝子療法ベクターに使用されているが(McIntosh et al,2013;Blood 121:3335−3344)、スペーサー配列を含める利益が明示的に実証されたことはない。本発明者らのデータは、5bpの短いスペーサーを含めることにより、アルブミンイントロン1に組み込まれたFVIII遺伝子の発現が向上したことを実証しており、ここで転写はゲノム中の強力なアルブミンプロモーターからドライブされた。このスペーサーの利点は、ゲノム中の高発現遺伝子座への標的組込みセッティングにユニークである可能性がある。
【0636】
実施例13:LNPを用いてCRISPR/Cas9成分を反復投与すると、マウスアルブミンイントロン1を標的とするAAV送達ドナーカセットの発現が漸進的に増加する
治療用遺伝子がアルブミンのイントロン1に組み込まれる遺伝子編集ベースの遺伝子療法を患者に投与するセッティングでは、患者に最適な治療利益をもたらす遺伝子発現レベルを実現することが有利であり得る。例えば、血友病Aでは、血中の最も望ましいFVIIIタンパク質レベルは20%〜100%又は30%〜100%又は40%〜100%又は最も好ましくは50%〜100%の範囲であり得る。100%を超えるFVIIIレベルは血栓イベントリスクが増加し(Jenkins et al,2012;Br J Haematol.157:653−63)、従って望ましくない。強力なプロモーターを使用してAAVゲノムのエピソームコピーからの治療用遺伝子の発現をドライブする標準的なAAVベースの遺伝子療法は、AAVウイルスを1回しか投与できず、実現する発現レベルが患者間で大きく異なるため(Rangarajan et al,2017;N Engl J Med 377:2519−2530)、実現する発現レベルのいかなる制御も不可能である。患者にAAVウイルスが投与された後、患者はウイルスカプシドタンパク質に対する高力価抗体を産生し、前臨床モデルに基づけば、これはウイルスの有効な再投与の妨げとなることが予想される(Petry et al,2008; Gene Ther.15:54−60)。AAVウイルスによって送達される治療用遺伝子が、アルブミンイントロン1など、セーフハーバー遺伝子座のゲノムに組み込まれ、及びこの標的組込みがゲノムにおける二本鎖切断の作成を介して起こる手法は、標的組込みレベル、ひいては治療用遺伝子産物レベルを制御する機会を提供する。目的の治療用遺伝子をコードするドナーDNAカセットを含有するAAVゲノムを封入するAAVによって肝臓が形質導入された後、AAVゲノムは形質導入細胞の核内にエピソームとして維持されることになる。このようなエピソーム性AAVゲノムは、時間が経っても比較的安定しており、従ってCRISPR/Cas9によって作り出される二本鎖切断点における標的組込み用のドナー鋳型のプールを提供する。非免疫原性LNPで送達される反復用量のCRISPR/Cas9成分を用いて、AAV送達ドナー鋳型にコードされたタンパク質の発現の段階的増加を誘導する可能性について、AAV8−pCB0047並びにC12−200LNPに封入されたspCas9 mRNA及びmALbT1 gRNAを使用して判定した。5匹のマウスのコホートにAAV8−pCB0047を2e12vg/kgで尾静脈注射し、4日後、1mg/kgのspCas9 mRNAと1mg/kgのmAlbT1 gRNAとを封入するC12−200ベースのLNPを静脈内注射した。血中のSEAPレベルを次の4週間にわたって毎週測定し、平均すると3306μU/mlとなった(表16)。4週目の最後のSEAP測定後、同じマウスに、各1mg/kgのspCas9 mRNAとmALbT1 gRNAとを封入するC12−200 LNPを再投与した。血中のSEAPレベルを次の3週間にわたって毎週測定し、平均すると6900μU/mlとなり、これは初回LNP用量後の週平均レベルの2倍の高さであった。次に同じ5匹のマウスに、各1mg/kgのspCas9 mRNAとmALbT1 gRNAとを封入したC12−200 LNPの3回目の注射を与えた。血中のSEAPレベルを次の4週間にわたって毎週測定し、平均すると13117μU/mlとなり、これは2回目のLNP用量後の週平均レベルの2倍の高さであった。これらのデータは、LNPに封入されたspCas9 mRNA及びgRNAを含むCRISPR/Cas9遺伝子編集成分の反復投与により、AAV送達ドナー鋳型からの遺伝子発現の段階的な増加が生じ得ることを実証している。ドナー鋳型にコードされるSEAP遺伝子が発現に関してプロモーター及びシグナルペプチド配列との共有結合に依存するという事実は、発現の増加がアルブミンイントロン1への標的組込みの増加に起因することを強力に示唆している。12週目、マウスを犠牲にし、全肝をホモジナイズし、ゲノムDNAを抽出し、順方向の(この向きが機能性SEAPタンパク質の産生に必要である)予測される5’接合部に隣接するプライマーによるDD−PCRを用いてアルブミンイントロン1における標的組込みに関してアッセイした。組込み頻度は平均して0.3%(100個のアルブミン対立遺伝子当たり0.3コピー)であった。
【0637】
【表17】
【0638】
実施例14:CRISPR/Cas9によって媒介される初代ヒトヘパトサイトのアルブミンイントロン1へのFVIII又はSEAPドナーの標的組込みは、FVIII又はSEAPの発現をもたらす
CRISPR/Cas9切断によって媒介されるアルブミンイントロン1への遺伝子カセットの標的組込みという概念が、ヒトゲノムに特異的なガイドRNAを使用してヒト細胞においてもまた機能することを実証するため、本発明者らは初代ヒトヘパトサイトで実験を実施した。初代ヒトヘパトサイトは、その正常表現型を維持するため最小限のインビトロ操作しか受けていないヒトドナーの肝臓から採取されたヒトヘパトサイトである。図14に示されるとおり2つのドナー鋳型を構築し、インビトロでのヘパトサイトの形質導入に特に有効なAAV−DJ血清型(Grimm et al,2008;J Virol.82:5887−5911)にパッケージングした。関連性のある遺伝子(FVIII又はmSEAP)のコード配列内に位置するプライマー及びプローブを使用した定量的PCRによってAAV−DJウイルスを力価測定し、ゲノムコピー(GC)/mlとして表される力価が得られた。
【0639】
初代ヒトヘパトサイト(BioIVT、Westbury,NYから入手した)を解凍し、ヘパトサイト回収培地(CHRM)(Gibco)に移し、低速でペレット化し、次にIV型コラーゲンを予めコートした24ウェルプレート(Corning)内のInVitroGRO(商標)CP培地(BioIVT)+Torpedo(商標)抗生物質ミックス(BioIVT)中に0.7×10細胞/mlの密度でプレーティングした。プレートを5%CO2、37℃でインキュベートした。細胞が接着した後(プレーティングの3〜4時間後)、プレートに接着しなかった死細胞を洗い流し、細胞に新鮮な温完全培地を加えた。spCas9 mRNA(Trilinkで作製された)とhAlb T4ガイドRNA(Synthego Corp、Menlo Park,CAで作製された)との脂質ベースのトランスフェクション混合物を、これらのRNAをOptiMem培地(Gibco)に0.02ug/ul mRNA及び0.2uMガイドの最終濃度で加えることにより調製した。これに、Optimemに30倍希釈した等容積のリポフェクタミンを加え、室温で20分間インキュベートした。AAV−DJ−pCB0107又はAAV−DJ−pCB0156のいずれかを関連性のあるウェルに1細胞当たり1,000GC〜1細胞当たり100,000GCの範囲の様々な感染多重度で加え、続いて直ちに(5分以内に)spCas9 mRNA/gRNA脂質トランスフェクション混合物を加えた。次にプレートを5%CO、37℃で72時間インキュベートし、その後、培地を回収し、発色アッセイ(Diapharma、Chromogenix Coatest SP Factor FVIII、カタログ番号K824086kit)を用いたFVIII活性のアッセイ又は市販のキット(InvivoGen)を用いたSEAP活性のアッセイのいずれかを行った。結果は図15及び図16に要約する。細胞にspCas9 mRNA及びgRNA単独又はSEAPウイルス単独又はFVIIIウイルス単独をトランスフェクトした対照は、細胞におけるバックグラウンド活性に相当する低いレベルのSEAP活性であった。AAV−DJ−pCB0107ウイルス及びCas9 mRNA/hAlbT4 gRNAの両方をトランスフェクトしたとき、より高い50,000及び100,000のMOIでSEAP活性はバックグラウンドレベルを有意に上回った。これらのデータは、CRISPR/Cas9遺伝子編集成分と、同じgRNAにとっての切断部位を含有するAAV送達ドナーとの組み合わせが、ドナーにコードされるトランス遺伝子の発現をもたらし得ることを示している。AAVドナーにコードされるSEAP遺伝子はプロモーター又はシグナルペプチドを欠いているため、及びSEAP発現には遺伝子編集成分が必要であったため、SEAPは、ヒトアルブミンイントロン1に組み込まれたドナーのコピーから発現した可能性が高い。インアウトPCRは、ヒトアルブミンのイントロン1へのSEAPドナーの組込みの確認に用いることのできる方法である。
【0640】
細胞に100,000MOIのAAV−DJ−pCB0107又はAAV−DJ−pCB0156ウイルス単独のいずれか(Cas9 mRNA又はgRNAなし)をトランスフェクトした対照は、72時間の時点で培地中において低い又は検出不能なレベルのFVIII活性を呈した(図16)。様々なMOIのAAV−DJ−pCB0156ウイルスをspCas9 mRNA及びhAlbT4 gRNAと共にトランスフェクトした細胞は、72時間の時点で培地中において測定可能なレベルのFVIII活性を有し、0.2〜0.6mIU/mlの範囲であった。これらのデータは、CRISPR/Cas9遺伝子編集成分と、同じgRNAにとっての切断部位を含有するAAV送達ドナーとの組み合わせが、ドナーにコードされたFVIIIトランス遺伝子の発現をもたらし得ることを示している。AAVドナーにコードされるFVIII遺伝子はプロモーター又はシグナルペプチドを欠いているため、及びFVIII発現には遺伝子編集成分が必要であったため、FVIIIは、ヒトアルブミンイントロン1に組み込まれたドナーのコピーから発現した可能性が高い。インアウトPCRは、ヒトアルブミンのイントロン1へのFVIIIドナーの組込みの確認に用いることのできる方法である。
【0641】
本開示は、幾つかの記載される実施形態に関連してかなり長く且つかなり詳しく記載されているが、それが任意のかかる詳細又は実施形態又は任意の詳細な実施形態に限定されなければならないとの意図はなく、添付の特許請求の範囲を参照して、先行技術に鑑みてかかる特許請求の範囲の最も広義の可能な解釈を提供し、従って、本開示の意図される範囲を有効に包含するものと受け取られるべきである。
【0642】
配列表
本開示の他の部分に開示される配列に加え、例示を目的として提供される本開示の様々な例示的実施形態においてそれらが言及又は使用されるとおり以下の配列が提供される。
【0643】
【表18】
【0644】
【表19】
【0645】
【表20】
【0646】
【表21】
【0647】
【表22】
【0648】
【表23】
【0649】
【表24】
【0650】
【表25】
【0651】
【表26】
【0652】
【表27】
【0653】
【表28】
【0654】
【表29】
【0655】
【表30】
【0656】
【表31】
【0657】
【表32】
【0658】
【表33】
【0659】
【表34】
【0660】
【表35】
【0661】
【表36】
【0662】
【表37】
【0663】
【表38】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図1-7】
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2021500072000001.app
【国際調査報告】