(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-500469(P2021-500469A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(54)【発明の名称】変態誘起塑性高エントロピー合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20201204BHJP
C22F 1/16 20060101ALI20201204BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20201204BHJP
【FI】
C22C30/00
C22F1/16 Z
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630B
C22F1/00 682
C22F1/00 685
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 650B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-566357(P2018-566357)
(86)(22)【出願日】2018年3月30日
(85)【翻訳文提出日】2018年12月18日
(86)【国際出願番号】KR2018003772
(87)【国際公開番号】WO2019083103
(87)【国際公開日】20190502
(31)【優先権主張番号】10-2017-0139052
(32)【優先日】2017年10月25日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0006851
(32)【優先日】2018年1月19日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】516008903
【氏名又は名称】ポステク アカデミー−インダストリー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イ,ビョン−ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン−ハク
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ソク−ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン−ソップ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン−グン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ヨン−ヒ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウォン−ミ
(57)【要約】
本発明は、極低温における変形の際に相変態が発生し、従来に比べて向上された機械的特性が得られる変態誘起塑性高エントロピー合金に関するものである。
本発明による高エントロピー合金は、Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含み、常温において主にFCC相からなり、極低温(−196℃)においてFCC相の少なくとも一部がBCC相に変わる塑性誘起変態が発生することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含み、
常温において主にFCC相からなり、
極低温(−196℃)においてFCC相の少なくとも一部がBCC相に変わる塑性誘起変態が発生する変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項2】
前記Co含量は15〜30at%である請求項1に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項3】
前記Cr含量は5〜10at%である請求項1に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項4】
前記V含量は5〜10at%である請求項1に記載の変態誘起塑性高エントリピー合金。
【請求項5】
前記Ni含量は2.5〜20at%である請求項1に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項6】
前記Fe含量は40〜45at%である請求項1に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項7】
前記高エントロピー合金は、常温(25℃)における引張強度が650MPa以上であって、
延伸率が50%以上である請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項8】
前記高エントロピー合金は、極低温(−196℃)における引張強度が1100MPa以上であって、
延伸率が65%以上である請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項9】
前記高エントロピー合金は、常温(25℃)における衝撃エネルギーと極低温(−196℃)における衝撃エネルギーの差が10%以下である請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金。
【請求項10】
Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含む高エントロピー合金の組織を均質化するための加熱及び冷却を含む均質化処理ステップと、
前記均質化処理された高エントロピー合金を所定厚さの板材に圧延するステップと、
前記圧延された高エントロピー合金をFCC単相領域まで加熱した後、FCC相が維持される冷却速度で冷却させるアニーリング処理ステップと、を含む変態誘起塑性高エントロピー合金の製造方法。
【請求項11】
前記均質化処理ステップは1000〜1200℃において6〜24時間行われる請求項10に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金の製造方法。
【請求項12】
前記アニーリング処理ステップは800〜1000℃において3分〜1時間行われる請求項10に記載の変態誘起塑性高エントロピー合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温における変形の際に相変態が発生し、従来より向上した機械的特性が得られる変態誘起塑性高エントロピー合金とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高エントロピー合金(high−entropy alloy,HEA)は、一般的な合金である鉄鋼、アルミニウム合金、チタン合金などのように合金を構成する主元素なしに5つ以上の構成元素を類似した割合で合金化して得られる多元素合金であって、合金内の混合エントロピーが高くて金属間化合物または中間相が形成されず、面心立方格子(face−centered cubic,FCC)または体心立方格子(body−centered cubic,BCC)のような単相(Single phase)組織を有する金属素材である。
【0003】
特に、Co−Cr−Fe−Mn−Ni系列の高エントロピー合金の場合、優れた極低温物性、高い破壊靭性と耐食性を有するため極限環境に適用できる素材として脚光を浴びている。
【0004】
このような高エントロピー合金を設計することに当たって重要な要素は合金を構成する元素の組成比である。
【0005】
前記高エントロピー合金の組成比として、典型的な高エントロピー合金は少なくとも5つ以上の主要合金元素で構成されるべきであって、それぞれの合金構成元素の組成比は5〜35at%として定義され、主要合金構成元素の他に他の元素を添加する場合、その添加量は5at%未満でなければならない。
【0006】
しかし、最近Fe
50Mn
50Co
10Cr
10の高エントロピー合金が紹介されるなど、高エントロピー合金の定義も広くなりつつある。
【0007】
一方、従来のCo−Cr−Fe−Mn−Ni系列の高エントロピー合金の場合、極低温における多量の変形双晶の発生を介して優秀な極低温物性を有すると知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、主にFCC相で構成され、従来報告されたFCC単相の高エントロピー合金より極低温(−196℃)でさらに向上された機械的特性を具現できる変態誘起塑性高エントロピー合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための本発明の一側面は、Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含み、常温にて主にFCC相で構成され、極低温(−196℃)にてFCC相の少なくとも一部がBCC相に変わる塑性誘起変態が発生する変態誘起塑性高エントロピー合金を提供することである。
【0010】
本発明の他の側面は、Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含む高エントロフィー合金の組織を均質化するための加熱及び冷却を含む均質化処理ステップと、前記均質化処理された高エントロピー合金を所定の厚さの板材で圧延するステップと、前記圧延された高エントロピー合金をFCC単相領域まで加熱した後、FCC相が維持される冷却速度で冷却させるアニーリング処理ステップと、を含む、変態誘起塑性高エントロピー合金の製造方法を提供することである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による高エントロピー合金は、従来の5元系高エントロピー合金と同様に、Co、Cr、Fe及びVを必須的に含んで選択的にNiを含む4元系乃至5元系の組成で単相のFCC組織を得ることができる。
【0012】
また、本発明による高エントロピー合金は、Co−Cr−Fe−Mn−Ni系列の高エントロピー合金と異なって、極低温(−196℃)にて変態誘起塑性を起こして従来の単相の高エントロピー合金より極低温(−196℃)にて優れた引張強度、延性及び破壊特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】45at%の鉄(Fe)と10at%のクロム(Cr)及び10at%のバナジウム(V)を固定し、Xat%のコバルト(Co)と35−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、コバルト(Co)の含量変化の際の合金のモル分率による相平衡情報を示す図である。
【
図2】45at%の鉄(Fe)と10at%のクロム(Cr)及び10at%のバナジウム(V)を固定し、Xat%のコバルト(Co)と35−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、298Kにてコバルト(Co)の含量変化の際、熱力学的計算を介してBCC相に対するFCC相の安定性を示す図である。
【
図3】10at%のクロム(Cr)と10at%のバナジウム(V)及び30at%のコバルト(Co)を固定し、Xat%の鉄(Fe)と50−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、鉄(Fe)の含量変化の際、合金のモル分率による相平衡情報を示す図である。
【
図4】10at%のクロム(Cr)と10at%のバナジウム(V)及び30at%のコバルト(Co)を固定し、Xat%の鉄(Fe)と50−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、鉄(Fe)の含量変化の際、298Kにて熱力学的計算を介してBCC相に対するFCC相の安定性を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金の製造工程図である。
【
図6】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金のXRD分析結果を示す図である。
【
図7】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金の常温(RT)及び極低温(LN2)における引張試験過程にFCC相からBCC相への変態分率の測定結果を示す図である。
【
図8】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金の常温(25℃)における引張試験の結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金の極低温(−196℃)における引張試験の結果を示す図である。
【
図10】本発明の実施例1〜3と比較例による高エントロピー合金と、従来の極低温材料及び従来の高エントロピー合金の極低温における機械的物性を比較する図である。
【
図11】本発明の実施例2による高エントロピー合金の衝撃特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付された図面を参照して本発明の好ましい実施例による高エントロピーの合金とその製造方法に対して詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されない。したがって、当該分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で本発明を多様に変更できることは自明である。
【0015】
図1は、45at%の鉄(Fe)と10at%のクロム(Cr)及び10at%のバナジウム(V)を固定し、Xat%のコバルト(Co)と35−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、コバルト(Co)の含量変化の際の合金のモル分率による相平衡情報を示す図である。
【0016】
図1に示すように、45Fe−10Cr−10V(数値はat%である)にコバルト(Co)とニッケル(Ni)を代替する際、コバルト(Co)が減少することによってFCC単相領域が拡張することが確認できる。これは、45at%のFeと10at%のクロム(Cr)と10at%のバナジウム(V)、そしてコバルト(Co)とニッケル(Ni)の代替によって35at%以下のコバルト(Co)を添加する際、900℃以上において安定的に主にFCC相からなる微細組織を有する高エントロピー合金が得られることを意味する。
【0017】
図2は、45at%の鉄(Fe)と10at%のクロム(Cr)及び10at%のバナジウム(V)を固定し、Xat%のコバルト(Co)と35−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、298Kにてコバルト(Co)の含量変化の際、熱力学的計算を介してBCC相に対するFCC相の安定性を示す図である。
【0018】
図2で確認されるように、45Fe−10Cr−10V(数値はat%である)にニッケル(Ni)をコバルト(Co)に代替すると、コバルト(Co)のモル比が増加することによってBCC相とFCC相間のギブスの自由エネルギーの差が大きくなり、BCC相の安定性が増大するが、これは変形が加えられた際、FCC相からBCC相への変態が発生するようにする駆動力として作用して変態が起こるようにすることを意味する。
【0019】
図3は、10at%のクロム(Cr)と10at%のバナジウム(V)及び30at%のコバルト(Co)を固定し、Xat%の鉄(Fe)と50−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、鉄(Fe)の含量変化の際、合金のモル分率による相平衡情報を示す図である。
【0020】
図3に示すように、10Cr−10V−30Co(数値はat%である)に鉄(Fe)と(Ni)を代替する際、鉄(Fe)が減少することによってFCC単相領域が広くなることが確認され、鉄(Fe)の含量は48at%以下であることがFCC単相を維持するのに好ましいことがわかる。
【0021】
図4は、10at%のクロム(Cr)と10at%のバナジウム(V)及び30at%のコバルト(Co)を固定し、Xat%の鉄(Fe)と50−Xat%のニッケル(Ni)の組成において、鉄(Fe)の含量変化の際、298Kにて熱力学的計算を介してBCC相に対するFCC相の安定性を示す図である。
【0022】
図4で予測されるように、FCC相からBCC相への変態に必要な駆動力を考慮すると、鉄(Fe)の含量は35at%以上になることが好ましい。
【0023】
本発明者は、
図1〜4に示した結果に介して、前記成分と組成範囲を有する合金を熱処理することによって、主にFCC相で構成され、体心立方構造(BCC)のギブスの自由エネルギーが面心立方構造(FCC)のギブスの自由エネルギーより小さい高エントロピー合金を得ることができ、このような合金は極低温(−196℃)環境で変形される際、少なくとも一部のFCC相がBCC相に変態して極低温における機械的特性を著しく向上させることを確認して本発明に至った。
【0024】
本発明による高エントロピー合金は、上述のような合金設計の原理に応じて開発されたものであって、Co、Cr、Fe、Vを必須的に含み、Niを選択的に含んで主にFCC相からなり、極低温(−196℃)にて塑性変形が加わると、FCC相からBCC相への変態誘起塑性を起こすことを特徴とする。
【0025】
本発明による高エントロピー合金は、好ましくは、Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満と、残りの不可避な不純物を含む。
【0026】
前記合金を構成する合金元素の助成範囲を上述のように定めた理由は以下の通りである。
【0027】
前記Coは、10at%未満であるか35at%超過であれば、変態誘起塑性が起きないか、FCC相が主となる相を得られない可能性があるため、10〜35at%が好ましく、より好ましいCoの含量は15〜30at%である。
【0028】
前記Crは、3at%未満であれば耐食性が減少し、15at%を超過すれば価格が増加するため、3〜15at%であることが好ましく、5〜10at%であることがより好ましい。
【0029】
前記Niは25at%以上であれば変態誘起塑性が起こらない可能性があるため、25at%未満であることが好ましく、0at%であれば、900℃における熱処理で完全なFCC単相が得られない可能性があるため、900℃における熱処理でFCC単相組織を具現しようとする場合、2.5〜20at%未満がより好ましい。
【0030】
前記Feは、35at%未満であるか48at%超過であれば、変態誘起塑性が起こらないかFCC相が主となる相を得られない可能性があるので、35〜48at%が好ましく、より好ましいFeの含量は40〜45at%である。
【0031】
前記Vは3at%未満であれば、固溶強化効果が減少し、15at%を超過すれば価格が上昇するため、3〜15at%であることが好ましく、5〜10at%であることがより好ましい。
【0032】
前記不可避な不純物は、前記合金元素以外の成分で、原料又は製造過程に不可避に混入される成分であって、1at%以下、好ましくは0.1at%以下、より好ましくは0.01at%以下になるようにする。
【0033】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピー合金は、常温にて主にFCC相からなることを特徴とし、FCC相の分率は95%以上であることが好ましく、FCC単相からなってもよい。
【0034】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピー合金は、極低温(−196℃)における変形過程において、変形前のFCC相の少なくとも一部がBCC相に変わる相変態が発生することを特徴とする。この際、FCC相は全てBCC相に変わってもよい。
【0035】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピー合金は、好ましくは常温(25℃)における引張強度が650MPa以上であり、延伸率が50%以上であってもよい。
【0036】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピー合金は、好ましくは極低温(−196℃)における引張強度が1100MPa以上であり、延伸率が65%以上であってもよい。
【0037】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピー合金は、常温(25℃)における衝撃エネルギーと極低温(−196℃)における衝撃エネルギーの差が10%以下であってもよい。
【0038】
また、本発明による変態誘起塑性高エントロピーの合金は、好ましくは以下のような(a)〜(c)のステップを介して製造することができる。
【0039】
(a)Co:10〜35at%、Cr:3〜15at%、V:3〜15at%、Fe:35〜48at%、Ni:0〜25at%未満を含む高エントロピー合金の組織を均質化するための加熱及び冷却を含む均質化処理ステップと、
(b)前記均質化処理された高エントロピー合金を所定厚さの板材に圧延するステップと、
(c)前記圧延された高エントロピー合金をFCC単相領域まで加熱した後、FCC相が維持される冷却速度で冷却させるアニーリング処理ステップ
前記均質化処理ステップにおいて、均質化処理温度は、1000℃未満では均質化効果が不足し、1200℃超過では熱処理費用が過大になるため、1000〜1200℃の範囲が好ましく、均質化処理時間は6時間未満であれば均質化効果が不足し、24時間超過であれば熱処理費用が過大になるため、6〜24時間の範囲が好ましい。
【0040】
前記アニーリング処理ステップにおいて、アニーリング処理温度は、800℃未満では完全再結晶を達成できず、1000℃超過では結晶粒の粗大化が激しくなるため、800〜1000℃の範囲が好ましく、アニーリング処理時間は、3分未満であれば完全再結晶を達成できず、1時間超過であれば熱処理費用が過大になるため、3分〜1時間の範囲が好ましい。
【0041】
前記のステップ(a)とステップ(c)における冷却は、好ましく水冷(water quenching)によって行えるが、各冷却処理後に要求される組織状態を具現できるものであれば特に制限されない。
【実施例】
【0042】
〔高エントロピー合金の製造〕
まず、純度99.9%以上のCo、Cr、Fe、Ni、V金属を用意した。このように用意した金属を、下記の表1のような混合比になるように秤量した。
【0043】
【表1】
【0044】
上記のような割合で用意された原料金属をるつぼに装入した後、真空誘導溶解装備を使用して溶解し、鋳型を使用して厚さ8mm、幅35mm、長さ100mmの直六面体状の合金インゴット(ingot)を鋳造した。鋳造された厚さ8mmのインゴットを、
図5に示したように、1100℃の温度にて6時間均質化熱処理を行った後、水冷(quenching)した。
【0045】
均質化された合金の表面に生成された酸化物を除去するために、表面研磨(grinding)を行っており、研磨されたインゴットの厚さは7mmとなり、厚さ7mmから1.5mmmまで冷間圧延を行った。
【0046】
また、冷間圧延の各合金板材については、900℃にて10分間加熱してFCC相が維持されるようにした後、水冷して常温にてFCC相が維持されるようにするアニーリング(annealing)処理を実施した。
【0047】
〔XRD及び微細組織の分析結果〕
図6は、上述の工程を介して製造した実施例1〜3と比較例による合金の常温におけるXRD測定結果を示す図である。
【0048】
XRD測定は、試験片の研磨の際の変形による相変態を最小化するために、紙やすりで600回、800回、1200回、2000回の順に研磨した後、8%過塩素酸(Perchloric acid)で電解エッチングを行った後に行った。
【0049】
図6において、「0Ni」は実施例1、「5Ni」は実施例2、「15Ni」は実施例3、「25Ni」は比較例による合金を各々指示するが、
図6以後の図面においても同じである。
【0050】
図6において確認されるように、実施例2、実施例3及び比較例による合金の場合、XRD分析上、いずれもFCC単相からなっていることが確認された。
【0051】
これに対し、実施例1による合金の場合、殆どはFCC相からなっており、少量のBCC相が含まれていると示されている。これは、
図1の状態図において予測されるものと一致するが、アニーリング温度を900℃よりさらに上げる場合、実施例2〜3による合金と同様にFCC単相に製造できる。
【0052】
〔変態誘起塑性〕
図7は、常温及び極低温(−196℃)における引張試験後の微細組織からBCC相が占める分率を、実施例1〜3と比較例によって製造した高エントロフィー合金のNi含量によって示す図である。
【0053】
図7に示すように、実施例1の場合、常温における引張試験でも約24%程度の相変態が行われているが、実施例2では0.8%、実施例で3は0.3%とごく低く示されており、比較例では0%と示された。
【0054】
これに対し、極低温(−196℃)における引張試験の場合、実施例1では99%、実施例2では95%、実施例3では13%、比較例では0%とそれぞれ示されており、Niの含量が少ないほどFCC相からBCC相への相変態が活発に起こることが確認された。
【0055】
〔引張試験の結果〕
図8及び
図9と下期の表2は、本発明の実施例1〜3と比較例の合金の常温(25℃)及び極低温(−196℃)における引張試験の結果を示す図である。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、本発明の実施例1〜3による高エントロピー合金の常温降伏強度は339〜427MPa、引張強度は679〜745MPa、延伸率は51.1〜70.1%と示されており、比較例では、降伏強度は339MPa、引張強度は684MPa、延伸率は47.0%で、実施例1〜3と大差はなかった。
【0058】
一方、実施例1〜3による高エントロピー合金の極低温(−196℃)における降伏強度は569〜653MPa、引張強度は1142〜1623MPa、延伸率は65.0〜82.3%で示されていることに対し、比較例では、降伏強度は468MPa、引張強度は996MPa、延伸率は69.4%で、実施例1〜3に比べて機械的特性が低く示されている。このような結果は、常温にて類似した特性を表す実施例3と比較すると著しい差を示しているが、このような差は変態誘起塑性によるものであると推定される。
【0059】
また、実施例1による高エントロピー合金は極低温における引張強度が1623MPaと高く、延伸率も65.0%と良好で高い強度と良好な延伸率を示しており、実施例2及び3の場合、極低温における引張強度が1142〜129MPaと相当高く、延伸率も81.7〜82.3%と非常に高い値を示しており、各々引張強度と延伸率の側面から非常に高い数値を示している。
【0060】
図10は、本発明の実施例1〜3による高エントロピー合金(図面上の星印で表示されている値)と従来に報告された他の合金の極低温における引張強度及び延伸率を比較する図である。
【0061】
図10に示すように、本発明の実施例1〜3による高エントロピー合金の引張強度と延伸率が極めて高く、従来に報告されたいかなる従来合金や高エントロピー合金に比べても優秀な特性を示している。
【0062】
〔衝撃試験の結果〕
図11は、本発明の実施例2による高エントロピー合金を常温から極低温までの環境においてシャルピー衝撃試験を行った結果を示す図である。シャルピー衝撃試験では、厚さ5mmのサブサイズの試験片を使用した。
【0063】
図11に示すように、本発明の実施例2による高エントロピー合金は、常温における衝撃エネルギー値と極低温における衝撃エネルギー値にほぼ差のない一定の値を示しており、一般に温度が減少することによって衝撃エネルギー値が減少し、極低温においてBCC相が存在すれば急激な衝撃エネルギーの下落を表す従来の材料からでは見られない特異の特性を示している。
【0064】
本発明は未来創造科学部が支援し財団法人韓国研究財団が主管した未来素材ディスカバリー事業(課題番号:40013581、課題名:MULTI−PHYSICS FULL−SCALE統合型モデリング基盤の極限環境)から支援を受けて行われた研究結果である。
【国際調査報告】