(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-502272(P2021-502272A)
(43)【公表日】2021年1月28日
(54)【発明の名称】層間強化粒子を有する複合体及びその複合体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20201225BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20201225BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-524608(P2020-524608)
(86)(22)【出願日】2018年11月7日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月9日
(86)【国際出願番号】US2018059640
(87)【国際公開番号】WO2019203893
(87)【国際公開日】20191024
(31)【優先権主張番号】62/583,212
(32)【優先日】2017年11月8日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アーツ, ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブズ, ウィリアムズ
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン, ジェームズ マーティン
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB28
4F072AD28
4F072AD31
4F072AD46
4F072AE01
4F072AF19
4F072AF28
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH03
4F072AH04
4F072AH23
4F072AH44
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AK04
4F072AK14
4F072AL02
(57)【要約】
強化繊維の隣接層間の層間領域に位置決めされた化学活性熱硬化粒子を有する繊維強化ポリマー複合構造体及びその複合構造体を製造する方法。複合構造体の硬化の際に、熱硬化粒子の化学活性官能基は、粒子を取り囲むマトリックス樹脂と共有結合を形成する。一実施形態においては、粒子は、100%未満の硬化度を有する部分硬化した熱硬化ポリマーからなる。別の実施形態においては、粒子は、熱硬化性樹脂組成物から誘導され、化学量論比が、100%の熱硬化樹脂の成分と反応するのに必要な硬化剤の量に不足であるか又は過剰であるような比である。いくつかの実施形態においては、化学活性熱硬化粒子の組成は、複合構造体のマトリックス樹脂の組成と同一であるか又はほぼ同一である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化ポリマー複合構造体であって、
硬化性マトリックス樹脂を含浸させた又は注入した2枚以上の層の強化繊維であって、1種又は複数の熱硬化樹脂及び少なくとも1種の硬化剤を含む強化繊維;
強化繊維の隣接層間の層間領域に位置決めされた化学活性熱硬化粒子
を含み、
それぞれの化学活性熱硬化粒子が、100%未満、好ましくは50%〜99%の硬化度を有する部分硬化した熱硬化ポリマーから形成され、それぞれの粒子が、共有結合を形成できる化学活性官能基をその表面に含む、繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項2】
部分硬化した熱硬化ポリマーの硬化度が、50%〜86%である、請求項1に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項3】
化学活性熱硬化粒子が、1種又は複数のエポキシ樹脂及び硬化剤として少なくとも1種のアミン化合物を含む熱硬化性樹脂組成物から誘導される、請求項1又は2に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項4】
それぞれの化学活性熱硬化粒子が、架橋ポリエポキシド、非架橋エポキシ官能基及び未反応のアミン基を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項5】
化学活性熱硬化粒子の組成物が、硬化性マトリックス樹脂の組成と同一又はほぼ同一である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項6】
化学活性熱硬化粒子が、粒子形態の導電性材料、熱可塑性ポリマー、エラストマー、及び難燃剤から選択される1種又は複数の添加剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項7】
繊維強化ポリマー複合構造体であって、
硬化性マトリックス樹脂を含浸させた又は注入した2枚以上の層の強化繊維であって、1種又は複数の熱硬化樹脂及び少なくとも1種の硬化剤を含む強化繊維;
強化繊維の隣接層間の層間領域に位置決めされた化学活性熱硬化粒子
を含み、
それぞれの化学活性熱硬化粒子が、架橋熱硬化ポリマー及び共有結合を形成できる化学活性官能基を含む、繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項8】
それぞれの化学活性熱硬化粒子が、架橋ポリエポキシド及び非架橋エポキシ官能基又は未反応のアミン基を含む、請求項7に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項9】
化学活性熱硬化粒子が、1種又は複数のエポキシ樹脂と、硬化剤として少なくとも1種のアミン化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物から誘導され、エポキシ基のアミン基に対するモル比が、100%の全てのエポキシ基と反応するのに必要なアミンの量に不足であるか又は過剰であるような比である、請求項7又は8に記載の繊維強化ポリマー複合構造体。
【請求項10】
繊維強化ポリマー複合構造体を製造する方法であって、
(a)粒子の表面に化学活性官能基を有する熱硬化粒子を形成するステップ;
(b)複数のプリプレグプライを形成するステップであって、それぞれのプリプレグプライが硬化性マトリックス樹脂を含浸させた又は注入した強化繊維を含むステップ;
(c)それぞれのプリプレグプライの少なくとも1つの表面に部分硬化した熱硬化粒子を析出させるステップ;
(d)隣接するプリプレグプライ間に位置決めされた粒子が存在し、それによりプリプレグレイアップを形成するような積層配置でその上に、粒子を有するプリプレグプライをレイアップするステップ;
(e)プリプレグレイアップを圧密化するステップ;及び
(f)プリプレグレイアップを硬化するステップ;
を備え、
(a)における熱硬化粒子が、以下の
(i)1種又は複数の熱硬化樹脂及び少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を部分硬化して、100%未満、好ましくは50%〜99%の硬化度を有する部分硬化した熱硬化樹脂を形成し、部分硬化した熱硬化樹脂を粉砕する方法
(ii)1種又は複数の熱硬化樹脂と少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を形成し、熱硬化樹脂の硬化剤に対するモル比が、100%の全てのエポキシ樹脂と反応するのに必要なアミンの量に不足であるか又は過剰であるような比であり、熱硬化性樹脂組成物を硬化して化学的に反応性のある官能基を有する架橋樹脂を形成して、架橋樹脂を粉砕する方法
のうちの1つにより形成され、並びに
(f)での硬化中に、熱硬化粒子の化学活性官能基は、粒子を取り囲むマトリックス樹脂と共有結合を形成する
方法。
【請求項11】
熱硬化粒子が、方法(i)により生成され、且つ部分硬化した樹脂の硬化度が、50%〜86%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
繊維強化ポリマー複合構造体を製造する方法であって、
(a)粒子の表面に化学活性官能基を有する熱硬化粒子を形成するステップ;
(b)1種又は複数の熱硬化樹脂、少なくとも1種の硬化剤、及び熱硬化粒子を含む硬化性マトリックス樹脂組成物を形成するステップ;
(c)複数層の強化繊維に硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグプライを形成し、それぞれのプリプレグプライが、硬化性マトリックス樹脂組成物を含浸させた又は注入した強化繊維を含み、熱硬化粒子が強化繊維層の外面に残存しているステップ;
(d)粒子を有するプリプレグプライを積層配置でその上にレイアップして、それによりプリプレグレイアップを形成するステップ;
(e)プリプレグレイアップを圧密化するステップ;及び
(f)プリプレグレイアップを硬化するステップ;
を備え、
(a)における熱硬化粒子が、以下の
(i)1種又は複数の熱硬化樹脂及び少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を部分硬化して、100%未満、好ましくは50%〜99%の硬化度を有する部分硬化した熱硬化樹脂を形成し、部分硬化した熱硬化樹脂を粉砕する方法
(ii)1種又は複数の熱硬化樹脂と少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を形成し、熱硬化樹脂の硬化剤に対するモル比が、100%の全てのエポキシ樹脂基と反応するのに必要なアミンの量に不足であるか又は過剰であるような比であり、熱硬化性樹脂組成物を硬化して化学的に反応性のある官能基を有する硬化樹脂を形成して、硬化樹脂を粉砕する方法
のうちの1つにより形成され、並びに
(f)での硬化中に、熱硬化粒子の化学活性官能基は、粒子を取り囲むマトリックス樹脂と共有結合を形成する
方法。
【請求項13】
繊維強化ポリマー複合構造体を製造する方法であって、
(a)粒子の表面に化学活性官能基を有する熱硬化粒子を形成するステップ;
(b)前記熱硬化粒子を含まない第一硬化性樹脂組成物から樹脂フィルムを形成するステップ;
(c)1種又は複数の熱硬化樹脂、少なくとも1種の硬化剤、及び前記熱硬化粒子を含む第二硬化性樹脂組成物から樹脂フィルムを形成するステップ;
(d)熱及び圧力を用いて、第一硬化性樹脂組成物から形成した少なくとも1種の樹脂フィルムを1層の強化繊維に含浸させ、それにより1層の樹脂含浸強化繊維を形成するステップ;
(e)第二硬化性樹脂組成物から形成した少なくとも1種の樹脂フィルムを樹脂含浸強化繊維の層の一表面に接触させて、それにより粒子含有のプリプレグプライを形成するステップ;
(f)ステップ(d)及び(e)に従って追加の粒子含有プリプレグプライを形成するステップ;
(g)プリプレグプライを積層配置でレイアップして、それによりプリプレグレイアップを形成するステップ;
(h)プリプレグレイアップを圧密化するステップ;及び
(i)プリプレグレイアップを硬化するステップ;
を備え、
(a)における熱硬化粒子が、以下の
(i)1種又は複数の熱硬化樹脂及び少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を部分硬化して、100%未満、好ましくは50%〜99%の硬化度を有する部分硬化した熱硬化樹脂を形成し、部分硬化した熱硬化樹脂を粉砕する方法
(ii)1種又は複数の熱硬化樹脂と少なくとも1種の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を形成し、熱硬化樹脂の硬化剤に対するモル比が、100%の全てのエポキシ樹脂と反応するのに必要なアミンの量に不足であるか又は過剰であるような比であり、熱硬化性樹脂組成物を硬化して化学的に反応性のある官能基を有する硬化樹脂を形成して、硬化樹脂を粉砕する方法
のうちの1つにより形成され、並びに
(i)での硬化中に、熱硬化粒子の化学活性官能基は、粒子を取り囲むマトリックス樹脂と共有結合を形成する
方法。
【請求項14】
熱硬化粒子を形成するための熱硬化性樹脂組成物が、1種又は複数のエポキシ樹脂と、硬化剤として少なくとも1種のアミン化合物を含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
繊維強化ポリマー複合構造体を製造する方法であって、
(a)粒子の表面に化学活性官能基を有する熱硬化粒子を形成するステップ;
(b)複数のプリプレグプライを形成するステップであって、それぞれのプリプレグプライが硬化性マトリックス樹脂を含浸させた又は注入した強化繊維を含むステップ;
(c)それぞれのプリプレグプライの少なくとも1つの表面に部分硬化した熱硬化粒子を析出させるステップ;
(d)隣接するプリプレグプライ間に位置決めされた粒子が存在し、それによりプリプレグレイアップを形成するような積層配置でその上に、粒子を有するプリプレグプライをレイアップするステップ;
(e)プリプレグレイアップを圧密化するステップ;及び
(f)プリプレグレイアップを硬化するステップ
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、強化粒子を有する繊維強化ポリマー(FRP)複合体及びそのような複合体を製造する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0002】
【
図1】一例に従って調製した、粉砕した熱硬化粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2】別個の層間領域が見られる硬化した複合積層体の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0003】
繊維強化ポリマー(FRP)複合体は、金属に代わる高強度、軽量の工業材料として、航空機の主要構造物などの航空宇宙構造物に使用されてきた。そのような複合材料の重要な特性は、高強度、剛性及び軽量である。
【0004】
プリプレグプライの多層は、通常、積層構造を有する構造複合部品を形成するために使用される。そのような複合部品の層間剥離は重大な故障モードである。層間剥離は、2つの層が互いに剥離する場合に起こる。デザインを限定する重大な因子には、層間剥離を開始するのに必要なエネルギー及び層間剥離を伝播するのに必要なエネルギーの両方が含まれる。
【0005】
層間剥離に対する耐性が改善された硬化複合体(例えば、プリプレグレイアップ)は、衝撃後圧縮強度(CAI)並びに破壊靭性(G
Ic及びG
IIc)を改善したものである。
【0006】
CAIは、複合材料が損傷に耐える能力を測定する。CAIを測定する試験においては、複合材料に所与のエネルギーの衝撃を与えた後、圧縮荷重を加える。衝撃後と圧縮試験前に損傷面積及びくぼみ深さを測定する。この試験中に、複合材料を拘束して弾性不安定性が生じないことを確実にして、複合材料の強度を記録する。
【0007】
破壊靭性は、亀裂を含む材料が破砕に耐える能力を表す特性であり、航空宇宙用途向け材料の最も重要な特性の1つである。破壊靭性は、亀裂が存在する場合に材料の脆性破壊に対する耐性を表す定量的な方法である。
【0008】
破壊靭性を歪みエネルギー解放率(G
c)として定量化することができ、これは新たに創出された破断面積単位当たりの破砕の間に消散するエネルギーである。G
cは、G
Ic(モード1−開口モード)又はG
IIc(モードII−平面剪断)を含む。下付き文字「IC」は、亀裂に対して垂直な垂直引張応力下で形成されるモードI亀裂開口部を意味し、並びに下付き文字「IIC」は、亀裂の面に対して平行に、及び亀裂前面に対して垂直に作用する剪断応力によって生じるモードII亀裂を意味する。層間剥離の開始及び成長は、モードI及びモードII破壊靭性を調べることにより決定されることが多い。
【0009】
繊維強化ポリマー複合体のCAI性能は、2つの主要技術により改善できる。一番目の技術は、破壊歪が比較的高い高強度補強繊維の使用を伴う。これらの繊維は、破壊することなく大きなエネルギーを吸収し、それにより複合積層体のより大きな面積にエネルギーを再分配するように思われる。
【0010】
層間靭性(G
IC及びG
IIC)だけでなく繊維強化ポリマー複合体のCAI性能も、特定の強化粒子を多層複合積層体の層間領域に組み入れることにより、改善できる。「層間領域」は、複合積層体における強化繊維の隣接する2つの構造層間の領域を指す。強化粒子が複合積層体に存在することにより、この層間領域に亀裂伝播を収容するのを補助する、樹脂に富む中間層をつくりだす。
【0011】
従来的には、ポリアミド(PA)などの熱可塑性粒子を複合積層体の層間領域に組み入れて、CAIを改善してきた。「層間領域」は、多層の複合積層体における強化繊維の隣接する層の間の領域を指す。しかしながら、ポリアミド系の熱可塑性粒子は、殊に脂肪族鎖が長いポリアミドでの低い融点(Tm)というような問題を招き得るか、脂肪族鎖が短いポリアミドなどのように極めて吸湿性が高くなり得るかのどちらかである。非晶のPA又はPIなどの非晶の熱可塑性粒子は、不十分な耐溶剤性というような問題を招き得る。一般的に直面する別の問題点は、粒子と周囲の樹脂マトリックス間の熱膨張係数(CTE)の不適合のために粒子が包埋される、熱可塑性粒子と熱硬化マトリックス間の不十分な界面を形成することである。そのようなCTEの不適合は、熱サイクル試験中に、剥離を引き起こし得る。これは、一般的に微小亀裂と呼ばれ、航空宇宙産業において大きな懸念事項である。
【0012】
本発明は、繊維強化ポリマー複合体の損傷許容性及び破壊靱性を向上させるための、化学活性又は「活性のある(live)」熱硬化粒子の層間強化粒子としての使用に関する。より詳細には、粒子は、熱硬化性樹脂マトリックスと反応できる化学官能基を保有しており、それらは樹脂マトリックスの硬化中に分散して共有結合を形成する。
【0013】
一実施形態においては、化学活性粒子は、「固体様」特性を達成するために、そのゲル化点を過ぎて熱硬化性樹脂組成物を部分硬化することから誘導され、その後に研磨により所望の粒径を得る。部分的な硬化が原因で、未反応又は非架橋の官能基が、粒子表面に存在する。粒子は、樹脂組成物のゲル化点を過ぎて十分に架橋されて、粒子を包埋する複合積層体の硬化の際に、粒結合性を維持して、別個の層間領域の形成を確実にする。
【0014】
別の実施形態においては、硬化性樹脂組成物中の熱硬化樹脂と硬化剤との比率を調整して、組成物が熱硬化樹脂と硬化剤を非化学量論の比率で含有するように、つまり、100%の熱硬化樹脂と反応するのに必要である硬化剤の量に不足又は過剰の量で、熱硬化性樹脂組成物は配合され、結果として、この不足又は過剰が起因して、完全な硬化サイクルの終わりに熱硬化樹脂又は硬化剤からの未反応又は非架橋官能基が存在することとなる。完全な硬化後、硬化樹脂は、粉砕されて、粒子表面に化学活性官能基を有する粒子が得られる。この実施形態においては、得られる化学活性熱硬化粒子は、架橋熱硬化樹脂又は熱硬化ポリマー及び共有結合を形成できる化学活性官能基からなる。粒子が、エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物から形成される場合、得られる化学活性熱硬化粒子は、架橋ポリエポキシド及び非架橋官能基からなる。
【0015】
部分硬化粒子は、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂、例えばプリプレグを形成するのに使用する硬化性樹脂組成物と同じもの又はほぼ同一のものから形成できる。用語「ほぼ同一」は、組成の50%超が、同一であることを意味する。一実施形態においては、複合材料を形成するのに使用されるマトリックス樹脂のうち、部分硬化しそして粉砕して化学活性粒子を形成するために取っておくものもある。部分硬化粒子は、次に複合積層体の層間領域に組み入れられる。この方法においては、粒子のCTEは、周囲の樹脂マトリックスのCTEと完全に一致することとなるので、硬化した複合積層体における応力及び微小亀裂を除去する。さらに、粒子は、マトリックス樹脂と同じ又は同様な材料からなるので、粒子と周囲のマトリックス樹脂間の界面結合は、硬化後に強くなる。
【0016】
「活性のある」(化学活性)熱硬化粒子と周囲の樹脂マトリックスの間のCTEの不適合が殆ど又は全く起こらず、その結果として、硬化した複合積層体は、剥離及び微小亀裂に対する改善された耐性を示すことが判明されてきた。本明細書に開示される「活性のある」熱硬化粒子の使用は、航空宇宙産業で使用される従来の方法からの逸脱であり、周囲のマトリックス樹脂からの異種の化学物質を有する熱可塑性又は架橋した熱可塑性強化粒子を層間強化粒子として使用する。
【0017】
本明細書に開示する「活性のある」熱硬化粒子は、米国特許第8,846,818号明細書及び米国特許第9,567,426号明細書に開示される架橋熱可塑性粒子の場合におけるように、硬化中に膨潤しない。それらの特許文献で開示される膨潤性の架橋熱可塑性粒子は、架橋されており、主として熱可塑性ポリマーからなる組成物から誘導され、通常は、粒子の表面に残存している反応性官能基を伴わない。そのようなものとして、膨潤性粒子は、粒子が分散した複合体の周囲エポキシ系マトリックスとの反応性が低い。
【0018】
化学活性熱硬化粒子
本明細書で使用する用語「硬化(cure)」及び「硬化する(curing)」は、主成分を混ぜ合わせ、高温加熱し、紫外線及び放射線に曝すことによりもたらされる、樹脂前駆体又はポリマーの架橋を包含する。本明細書で使用する「完全な硬化」は、100%の硬化度を指す。本明細書中で使用する「部分硬化された」は、100%未満の硬化度を指す。
【0019】
部分硬化粒子は、硬化性樹脂組成物から形成され、それは、100%未満の硬化度まで、例えば、55%〜95%、50%〜86%、50%〜87%、50%〜88%、50%〜89%、55%−86%、60%〜86%を含む完全な硬化の50%〜99%の範囲内まで硬化される。硬化性樹脂組成物は、1種又は複数種の熱硬化樹脂、少なくとも1種の硬化剤、場合により熱可塑性ポリマー、エラストマー材料、導電性微粒子、無機充填材などの添加剤を含む。硬化度50%以上で、材料の熱機械的特性は、かなり改変し、材料は、「固体様」の特性を有する。
【0020】
部分硬化粒子を形成するために、樹脂組成物のゲル化点を過ぎて熱硬化を実施する。そのようなゲル化点は、硬化サイクル中にレオロジー分析から導かれたG’曲線とG”曲線の交叉点として定めることができる。G’は、弾性率を表し、G”は、粘性係数を表す。
【0021】
熱硬化樹脂系の硬化度は、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。熱硬化樹脂系は、硬化中に不可逆化学反応を受ける。樹脂系中の成分が硬化するので、樹脂により熱が発生するが、それは、DSC装置によりモニターされる。硬化熱を用いて、樹脂材料の硬化パーセントを求めてもよい。例として、以下の単純計算は、この情報を提供できる:
硬化%=[Δ H
uncured−ΔH
cured]/[ΔH
uncured]X100%
【0022】
例として、粒子が、エポキシ樹脂と、硬化剤としてアミン化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物から形成される場合、得られる化学活性熱硬化粒子は、架橋ポリエポキシド、非架橋エポキシ官能基及び未反応のアミン基からなる。
【0023】
代替的な実施形態においては、硬化性樹脂組成物中の熱硬化樹脂と硬化剤との比率が、組成物が、100%の熱硬化樹脂と反応するのに必要である硬化剤の量に不足する量又は過剰の量のどちらかで含有するように調整され、結果として、この不足又は過剰が起因して、所定の硬化サイクルの終わりに熱硬化樹脂材料からの未反応又は非架橋官能基が存在することとなる。例えば、X量の硬化剤が、所定の硬化サイクルにおいて100%の硬化度を達成するのに必要であるならば、樹脂組成物中でX未満の量、例えば、Xの50%〜80%又は60%〜70%を含むXの90%までを使用して、化学活性粒子を実現してもよい。或いは、X量の硬化剤が、所定の硬化サイクルにおいて100%の硬化度を達成するのに必要であるならば、樹脂組成物中でXを超える量、例えば、Xの120%〜150%又は130%〜140%を含む少なくともXの110%を使用して、化学活性粒子を実現してもよい。
【0024】
有用な範囲で硬化剤(つまり、ハードナー)の可能な限り最低量を求めるために、Introduction to Polymers,Third Edition,by Robert J.Young,Peter A.Lovell,pp.46−47(CRC Press,Jun 27,2011)に記載される、簡略化されたカローザスの方程式(Carothers equation)を適用できる。簡素化されたカローザスの方程式は、所与の官能価、例えば2、3、4等を有する硬化剤と反応する場合に、例えば2、3、4などの官能価を有する所与のエポキシ又は他の熱硬化樹脂がゲル化点に到達するのに必要な変換量(反応進行度)を予測する方法である。架橋に利用可能な官能価に対するゲル化点は、n=2/2−pf(式中、n=数平均重合度、p=小数の(decimal)反応進行度(ここで、1は、100%反応したことを表す)、f=架橋反応を受ける官能基の総数)として定められる。通常は、n=無限である場合としてゲル化点が定められる。三官能性エポキシと二官能性のハードナーに対して、総官能価は5であり、それ故に、p=0.4、又は40%変換の場合、n=無限である。四官能性エポキシと四官能性のハードナー(例えば、ジ−1級アミン)に対して、f=8であり、ゲル化は、25%変換などと予測される。
【0025】
樹脂組成物の完全な硬化に際して、硬化材料は、共有結合を形成することが可能である化学活性官能基の源である未反応/非架橋官能基を含む。例えば、エポキシ樹脂及びアミン硬化剤を用い、アミン化合物が不足する場合、得られる硬化粒子は、未反応/非架橋エポキシ官能基を含む。逆に、アミン化合物が過剰である場合、得られる硬化粒子は、未反応のアミン基を含む。
【0026】
例として、粒子が、エポキシ樹脂と、硬化剤としてのアミン化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物から形成され、アミン化合物が不足する場合、得られる化学活性熱硬化粒子は、過剰量のエポキシ樹脂が起因して、架橋ポリエポキシド、及び非架橋エポキシ官能基からなる。
【0027】
化学活性粒子は、約100μm未満、例えば10〜70μm、15〜50μm、又は15〜30μm、又は20〜25μmの平均粒径(d50)を有してよい。本明細書に開示される平均粒径は、レーザー回折技術により、例えば0.002ナノメートル〜2000ミクロンの範囲で稼働するMalvern Mastersizer2000を用いて、測定できる。「d50」は、粒度分布の中央値を表し、又は代替として、粒子の50%がこの値以下の粒径を有するような分布の値である。
【0028】
粒子を形成するのに好適な熱硬化樹脂としては、エポキシ、フェノール類、フェノール、シアン酸エステル、ビスマレイミド、ベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサゾン、それらの組み合わせ及びそれらの前駆体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0029】
分子当たり複数のエポキシド官能基を有する多官能性エポキシ樹脂(又はポリエポキシド)が特に好適である。ポリエポキシドは、飽和、不飽和、環式、若しくは非環式、脂肪族、芳香族、又は複素環式ポリエポキシド化合物であってよい。好適なポリエポキシドの例としては、アルカリの存在下でエピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンとポリフェノールとの反応によって調製される、ポリグリシジルエーテルが挙げられる。したがって、好適なポリフェノールは、例えば、レゾルシノール、ピロカテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA(ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、フッ素4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールZ(4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール)及び1,5−ヒロキシナフタレンである。ポリグリシジルエーテルのベースとして他の好適なポリフェノールは、フェノールとホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドとのノボラック樹脂タイプの既知の縮合生成物である。
【0030】
好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA又はビスフェノールFのジグリシジルエーテル、例えば、Dow Chemical Co.から入手可能なEPON(商標)828(液体エポキシ樹脂)、D.E.R331,D.E.R.661(固体エポキシ樹脂);アミノフェノールのトリグリシジルエーテル、例えば、Huntsman Corp.製のARALDITE(登録商標)MY 0510、MY 0500、MY 0600、MY 0610が挙げられる。追加の例としては、DEN428、DEN431、DEN438、DEN439、及びDEN485としてDow Chemical Coから市販されているフェノール系ノボラックエポキシ樹脂;ECN1235、ECN1273、及びECN1299としてCiba−Geigy Corp.から市販されているクレゾール系ノボラックエポキシ樹脂;TACTIX(登録商標)71756、TACTIX(登録商標)556、及びTACTIX(登録商標)756としてHuntsman Corp.から市販されている炭化水素ノボラックエポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
硬化性樹脂組成物用の硬化剤は、既知の硬化剤、例えば、芳香族又は脂肪族アミン、又はグアニジン誘導体から選択してよい。芳香族アミン硬化剤が好ましく、好ましくは、1分子当たり少なくとも2つのアミノ基を有する芳香族アミンであり、例えばアミノ基がスルホン基に対してメタ位又はパラ位にある、ジアミノジフェニルスルホンが特に好ましい。特定の例は、3,3’−及び4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS);メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;4,4’メチレンビス−(2,6−ジエチル)−アニリン(Lonza製のMDEA);4,4’メチレンビス−(3−クロロ,2,6−ジエチル)−アニリン(Lonza製のMCDEA);4,4’メチレンビス−(2,6−ジイソプロピル)−アニリン(Lonza製のM−DIPA);3,5−ジエチルトルエン−2,4/2,6−ジアミン(Lonza製のD−ETDA 80);4,4’メチレンビス−(2−イソプロピル−6−メチル)−アニリン(Lonza製のM−MIPA);4−クロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばMonuron);3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばDiuron TM)及びジシアノジアミド(例えばPacific Anchor Chemical製のAmicure TM CG 1200)である。
【0032】
好適な硬化剤には又、酸無水物、特にポリカルボン酸無水物、例えばナド酸無水物、メチルナド酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、及びトリメリット酸無水物などが含まれる。
【0033】
部分硬化粒子を形成するには、硬化剤は、熱硬化樹脂の反応基と反応するのに十分な量の硬化剤からの反応基が存在するような化学量論比で、例えばエポキシ樹脂1モル当たり1モルのアミン硬化剤のような比で存在できる。完全に硬化しているが化学的に反応性がある粒子を形成するには、化学量比は、熱硬化樹脂の反応基と反応するのに不十分な量の硬化剤からの反応基が存在するような比、例えばエポキシ樹脂1モル当たり0.5〜0.9モルのアミン硬化剤のような比である。或いは、完全に硬化しているが化学的に反応性がある粒子を形成するには、化学量論比が、熱硬化樹脂の反応基と反応するのに過剰量の硬化剤からの反応基が存在するような比、例えばエポキシ樹脂1モル当たり1.1〜1.5モルのアミン硬化剤のような比である。
【0034】
硬化性樹脂組成物に場合により組み入れることができる添加剤としては、熱可塑性ポリマー、エラストマー、及びそれらの組み合わせが挙げられる。熱可塑性ポリマーは、ポリアミド;ポリエーテルイミド(PEI);ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)をはじめとするポリスルホン;ポリフェニレンオキシド(PPO);ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、フェノキシ(ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの熱可塑性コポリマー)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリスルホン(Psu)コポリマー及びそれらの組み合わせから選択してよい。エラストマーは、アミン末端のブタジエンアクリロニトリル(ATBN)、カルボキシル末端ブタジエンアクリロニトリル(CTBN)、カルボキシル末端ブタジエン(CTB)などのゴム;フルオロカーボンエラストマー、スチレンブタジエンポリマーから選択してよい。熱可塑性ポリマー及び/又はエラストマーの量は、存在する場合、樹脂組成物の総重量を基準として、40重量%未満、例えば5%〜35%%の熱可塑性ポリマーであるので、粒子は、その熱硬化の性質を保持する。
【0035】
粒子形態、例えば粒子又はフレークの導電性材料を硬化性樹脂組成物に加えて、Z−導電率としても知られている厚さ方向の導電率を最終の複合積層体に付与してもよい。好適な導電性材料の例としては、フレーク又は粒子の形態での金属、例えば銀、金、ニッケル、銅、アルミニウム、及びそれらの合金、炭素粉末、炭素系ナノ材料、例えばカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ)、カーボンナノ繊維が挙げられる。本明細書中で用いられるとき用語「ナノ材料」は、約0.1マイクロメートルより小さい(<100ナノメートル)寸法を少なくとも1つ有する材料を指す。カーボンナノチューブ(CNT)は、約0.4nm〜約100nmの範囲の外径を有する管状のストランド状構造であり、例えば、外径は、約50nm未満又は約25nm未満で、及びアスペクト比は、100:1から5000:1までであってよい。ナノ繊維は、70nm〜200nmの範囲の直径、及び50〜200ミクロンの範囲の長さを有してよい。導電性材料の量は、存在する場合、樹脂組成物の総重量を基準として10重量%未満、例えば、1%〜4%である。
【0036】
難燃剤を硬化性樹脂組成物に加えて、最終の複合積層体に増加した難燃性を付与してもよい。例えば、Schill+Seilacherにより製品化されたStrujtol Polydis取扱製品。他の市販されている難燃剤は、当業者には明らかであろう。
【0037】
一実施形態においては、粒子は、(a)1種又は複数種の多官能性エポキシ樹脂、(b)少なくとも1種のアミン硬化剤、及び(c)熱可塑性又はエラストマー強化剤を含有する硬化性樹脂組成物から形成される。成分(a)〜(c)の量は、以下の(a)100部、(b)5〜70部、(c)5〜50部であってよい。
【0038】
別の実施形態においては、樹脂組成物は、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素粉末、金属粒子、及びそれらの組み合わせなどの導電性粒子をさらに含む。導電性粒子の量は、存在する場合、樹脂組成物の総重量を基準として、10重量%まで、例えば、1%〜10%、2%〜5%である。
【0039】
部分硬化した後に粉砕する代わりに、本開示の化学活性の熱硬化粒子は、このような粒子を生産できる他のプロセスにより、形成できることを当業者は理解されたい。
【0040】
複合材料及び積層体
本開示の化学活性粒子は、複合積層体の強化繊維の層間で層間粒子として使用できる、つまり、粒子が、複合積層体の層間領域に位置している。「層間領域」は、多層の複合積層体における強化繊維の隣接する層の間の領域を指す。
【0041】
いくつかの実施形態においては、化学活性粒子は、強化繊維の隣接層間に形成される層間領域に、複合積層体に含有されるマトリックス樹脂の総重量を基準として、約5%〜約15%、及び約8%〜約12%を含む約2%〜約20重量%の含有量で分散する。
【0042】
層間粒子を含有する複合積層体は、異なるプロセスを用いて製造することがある。一実施形態においては、多数枚のプリプレグプライを一緒に積層してスタック又は「プリプレグレイアップ」を形成する前に、プリプレグプライの表面に粒子を析出させる。レイアップ内のプリプレグプライは、互いに対して、例えば0°、±45°、90°などの選択された配向に位置決めされてよい。プリプレグプライが一緒に積み重ねられて積層体を形成する場合、粒子は、積層体の層間領域に残る。一旦、適切に配置されると、プリプレグレイアップは圧密化され、熱及び圧力下で硬化されて、最小の空隙を伴う所望な繊維体積率を実現する。
【0043】
散布、静電析出、散乱コーティング、噴霧分布及び当業者に公知の任意の他の手法などの任意の従来技術により、プリプレグ上に粒子を析出できる。分布した複合粒子は、マトリックス樹脂の粘着性のためプリプレグの表面に接合する。
【0044】
別の実施形態においては、プリプレグの製造前に、特定の量の粒子を硬化性樹脂組成物と混合する。そのような実施形態においては、樹脂フィルムは、最初に、粒子含有の樹脂混合物を剥離紙上にコーティングすることにより、製造される。次に、熱及び圧力の助力で1層の繊維、例えば一方向性繊維上に、得られた樹脂フィルムをラミネート加工して、繊維に含浸させて、それにより、特定の単位面積当たりの繊維重量及び樹脂含有量を有するプリプレグプライを形成する。含浸プロセス中に、粒子のサイズが繊維間の間隔よりも大きいという事実のために、粒子は濾去され、繊維層の外側にとどまる。続いて、粒子を含む2層のプリプレグを順に重ねてレイアップする際に、粒子をプリプレグレイアップの層間領域に位置決めする。
【0045】
代替的な実施形態においては、粒子を含まない硬化性樹脂組成物を剥離紙上に被覆して樹脂フィルムを形成し、次にそのフィルムを未含浸繊維層の対向する面の1つの面又は両面と接触させる。樹脂は、繊維に含浸し、繊維層の外面に少し樹脂が残るか又は全く残らない。続いて、粒子含有の硬化性樹脂の二番目のフィルムを樹脂含浸の繊維層の外面と接触させる。粒子含有の硬化性樹脂の追加のフィルムを樹脂含浸繊維層の対向する外面と接触させて、サンドイッチ構造を形成する。結果として、粒子に富む樹脂層は、含浸繊維層の外側にとどまり、繊維にさらに含浸しない。複数のこのような構造体を一緒にラミネート加工して、層間領域に粒子を有する複合構造体を形成する。
【0046】
別の実施形態においては、粒子無含有の硬化性樹脂組成物の2枚のフィルムを未含浸繊維層の2つの対向する面と接触させる。樹脂は、繊維に含浸し、繊維層の外面に僅かに樹脂が残るか又は全く残らない。続いて、粒子含有の硬化性樹脂の2枚のフィルムを予め樹脂を含浸した繊維層の対向する面と接触させる。複数のこのような構造体を一緒にラミネート加工して、層間領域に粒子を有する複合構造体を形成する。このような手法は、繊維の配置を妨げない粒子によって生じる規則正しい積層体を提供する傾向があるので、好ましい。
【0047】
本明細書に開示される実施形態においては、用語「プリプレグ」は、硬化性マトリックス樹脂を含浸させた又は注入した繊維材料の層(その形態において、一方向性繊維、不織マット、又は布帛プライ)を指す。本開示において用いる用語「含浸させる」は、繊維をマトリックス樹脂で部分的に又は完全に封入するための、硬化性樹脂の強化繊維への導入を指す。
【0048】
プリプレグのマトリックス樹脂は、化学活性粒子の組成と同一の組成又は同様の組成を有してもよい。そのようなものとして、粒子に関連して既に開示した熱硬化樹脂、硬化剤及び添加物は同様に、プリプレグのマトリックス樹脂に適用される。
【0049】
繊維強化材料は、織布プライ若しくは不織布プライ、又は一方向性繊維からなる一方向性テープの形態であってもよい。「一方向性繊維」は、強化繊維の1枚の層を指し、それらは、同じ方向に整列している。レイアップ内のプリプレグプライは、互いに対して、例えば0°、±45°、90°などの選択された配向に位置決めされてよい。
【0050】
複合積層体及びプリプレグの強化繊維は、チョップドファイバー、連続繊維、フィラメント、トウ、バンドル、シート、プライ、及びそれらの組み合わせの形態をとることができる。連続繊維は、スワールマット、フェルトマット、及びチョップトマット構造体だけでなく、任意の一方向構成(一方向に整列)、多方向構成(異なる方向に整列)、不織構成、織構成、編構成、縫構成、巻構成、及び組構成をさらに採用してよい。織繊維構造体は、複数の織成トウを含んでもよく、各トウは、複数のフィラメント、例えば数千のフィラメントからなる。さらなる実施形態では、トウは、クロス−トウスチッチ、横糸挿入編みスチッチ、又は熱可塑性樹脂などの、少量の樹脂結合材によって適所に保持され得る。
【0051】
繊維材料としては、ガラス(電気つまりE−ガラスを含む)、炭素、グラファイト、アラミド、ポリアミド、高弾性率ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ−p−フェニレン−ベンゾオキサゾール(PBO)、ホウ素、石英、玄武岩、セラミック、及びこれらの組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。
【0052】
航空宇宙及び自動車用途の材料などの高強度の複合材料の製作に関しては、強化繊維が、3500MPa超((ASTM D4018試験法に従って)の引張り強さを有するのが好ましい。
【実施例】
【0053】
実施例1
強化粒子を含有しない樹脂系U(「樹脂U」)を表1に示す配合に基づいて調製した。
【0054】
【0055】
エポキシ前駆体Araldite(登録商標)MY0510とAraldite(登録商標)PY306を60℃〜90℃の範囲の温度で混合することにより、樹脂Uを調製した。Araldite(登録商標)MY0510は、トリグリシジルp−アミノフェノールであり、Araldite(登録商標)PY306は、ビスフェノール−Fのジグリシジルエーテルであり、両方ともHuntsman Advanced Materials Inc.製である。Sumikaexcel 5003P、ポリエーテルスルホン(住友化学(Sumitomo Chemical)製)をエポキシ混合物に加えた後、110℃〜130℃の範囲の温度で溶解させた。次に、芳香族アミン硬化剤Aradur(登録商標)9664−1、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)(Huntsman Advanced Materials Inc.製)を加え、60℃〜90℃の範囲の温度で混合した。
【0056】
次に、そのように生成した樹脂Uを剥離紙上に23.4gsm(グラム/平方メートル)の公称気中重量(nominal aerial weight)まで薄膜化した。中程度の弾性率の炭素繊維を従来のプリプレグ装置で広げて、190gsmの公称気中重量を有する一方向性層繊維の繊維ウエブを形成した。次に、形成した繊維ウエブを樹脂Uの2枚のフィルム間に挟んで、190gsmの公称繊維目付(FAW)及び19.8重量%の公称樹脂含有量を有するプリプレグUを得た。
【0057】
1種は粒子無含有で、3種は異なる活性のある熱硬化の強化粒子を含有する、4種の樹脂組成物P.1〜P.4を表2に示す配合に基づいて調製した。全ての量は、重量%である。
【0058】
【0059】
エポキシ前駆体Araldite(登録商標)MY0510とAraldite(登録商標)PY306を60℃〜90℃の範囲の温度で混合して、表2のそれぞれの樹脂組成物を調製した。Sumikaexcel 5003P(ポリエーテルスルホン)を加えた後、110℃〜130℃の範囲の温度で溶解させた。次に、Aradur(登録商標)9664−1(4,4’−DDS)及び活性のある熱硬化樹脂粒子(LRTP)を加え、60℃〜90℃の範囲の温度で混合した。
【0060】
そのように生成したそれぞれの樹脂組成物Pを剥離紙上に23.4gsmの公称目付まで薄膜化した。従来のプリプレグ装置を用いて、上述のように形成したプリプレグUを粒子含有の樹脂組成物Pから形成した2枚の樹脂フィルムに挟んで、190gsmの公称繊維目付(FAW)及び33重量%の公称全樹脂含有量を有するプリプレグPを得た。
【0061】
使用した異なる強化粒子に、表2においてVP−0X0、PK−0X0、NT−0X0と標識した。表3に示す樹脂配合を用いて、これらの3種の強化粒子を調製した。
【0062】
【0063】
エポキシ前駆体Tactix123とAraldite(登録商標)PY306を60℃〜90℃の範囲の温度で混合して、樹脂VP−0X0、PK−0X0、NT−0X0を調製した。Tactix123は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(Huntsman Advanced Materials Inc.製)である。
【0064】
VP−0X0 Resin:次に、VP3619及びAradur(登録商標)9664−1を加えて、70℃〜90℃の範囲の温度で混合した。Struktol VP3619は、ビスフェノール−Aのジグリシジルエーテルをベースとするニトリルゴム変性エポキシプレポリマー(Schill+Seilacher製)である。
【0065】
PK−0X0 Resin:InChemからのPKHB100、ポリヒドロキシエーテル(つまり、フェノキシ樹脂)をエポキシ混合物に加えた後、110℃〜130℃の範囲の温度で溶解させた。次に、芳香族アミン硬化剤Aradur 9664−1(4,4’−DDS)を加えて、60℃〜90℃の温度で混合した。
【0066】
NT−0X0 Resin:多層カーボンナノチューブをTactix123/PY306ブレンド中に事前分散した。次に、芳香族アミン硬化剤Aradur 9664−1(4,4’−DDS)を加えて、60℃〜90℃の温度で混合した。
【0067】
3種の樹脂VP−0X0、PK−0X0、NT−0X0を2℃/分で180Cまで加熱して、180℃に達した後それらを直ちに冷却することにより部分硬化して、3種の異なる粒子(VP−0X0、PK−0X0、NT−0X0)を調製した。得られた部分硬化樹脂を、ACM分類粉砕機(Hosokawa製)で粉砕する前に粒状にした。上述のように製造した3種の粒子VP−0X0、PK−0X0、NT−0X0においてだけでなく初めの3種の樹脂VP−0X0、PK−0X0、NT−0X0においても、示差走査熱量測定(DSC)試験を実施して、以下の方程式を用いてこれらの3種の粒子のそれぞれの変換パーセントを求めた:
硬化%=[Δ H
uncured−ΔH
cured]/[ΔH
uncured]X100%
【0068】
これらの3種の粒子のガラス転移温度(T
g)も同様にこれらのDSC試験から得た。最後に、Mastersizer 3000(Malvern製)を用いてレーザー回析により、これらの粒子の粒度分布を測定した。結果を表4に要約する。
【0069】
【0070】
図1は、表4に開示した粉砕粒子PK−0X0の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0071】
複数のプリプレグPをレイアップして複合積層体を形成した。積層体を従来のゼロブリード(zero−bleed)の密封真空バックに封入し、硬化サイクル全体にわたって真空を維持しながら、オートクレーブで180℃、85psi(586kPa又はキロパスカル)の圧力下で2時間、硬化した。
【0072】
次に、硬化したパネルを耐損傷性試験(CSAI)、及び微小亀裂に関して試験した。結果を表5に報告する。
【0073】
【0074】
表5に示す結果は、いかなる粒子微小亀裂の問題を生じることなく、衝撃性能を50%まで増大させるこれらの活性のある熱硬化の強化粒子を導入する利益を例証する。
【0075】
図2は、別個の層間領域が見られる硬化した複合積層体の断面を示す。
【0076】
−55℃〜70℃での1,200熱サイクル後に、熱による微小剥離に対する耐性を顕微鏡で評価した。この試験後にいかなる微小亀裂も見つからなかった。
【国際調査報告】