【実施例】
【0069】
以下の実施例は、本明細書にて開示する主題の種々の実施形態をさらに説明するために含まれる。しかし、当業者であれば、本開示の見地から、本明細書にて開示する主題の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態において多くの変更がなされ、依然として同様のまたは類似の結果が得られることを認識すべきである。
【0070】
実施例1
アセトアミノフェン/パラセタモール(APAP)の過量投与は、米国およびヨーロッパでの薬物誘発性急性肝不全(ALF)の主な原因である。疾患の進行は、高移動度群ボックス1(HMGB1)の放出によって誘発される無菌的炎症に起因する。HMGB1の炎症誘発性活性を中和するための、特定の効果的かつ安全なアプローチが非常に望ましい。HMGB1を標的とすることにより強力な肝保護を示すHS18糖(18量体)を、本明細書にて、いくつかの実施形態において開示する。APAPの過量投与に対応した内因性シンデカン−1の役割を調査することにより、18量体の保護機序が実証された。本明細書にて開示するデータは、18量体により、シンデカン−1によって媒介される宿主の抗炎症効果が増強することを示唆している。最後に、APAPの過量投与から6時間後に投与された18量体は、依然として保護的であり、したがって、遅発性の患者にN−アセチルシステインを上回る治療上の利点を提供することが実証されている。合成HSによって、ALFおよび他のHMGB1関与炎症性疾患の処置のための新しいアプローチが開かれる。
【0071】
一連の新規硫酸化ヘパラン硫酸オリゴ糖化合物を合成した。特に、化学酵素合成を使用して、抗凝固活性のない純粋なHS/ヘパリン様オリゴ糖を得た。18量体NS2Sと呼ばれる1つの例示的な化合物を、マウスにおける詳細なインビボ試験に使用した。18量体NS2Sにより、アセトアミノフェン(APAP)誘発性急性肝不全との関係において、損傷が大幅に低下した。特定の操作理論に拘束されることは所望されないが、18量体NS2Sの作用機序には、おそらくHMGB1/RAGEが関与している。18量体NS2S処置は、マウスにおけるAPAP過量投与の6時間後に依然として有効であるが、臨床的に使用された解毒剤NACは、この時点では有効性を失っている。これらの観察の追加の説明は、以下の実施例に見出すことができる。
【0072】
化学酵素合成を使用して、抗凝固活性のない、新規で純粋なオリゴ糖化合物を生成した。代表的な合成経路は、以下の実施例に開示されている。一連の18量体化合物および1つの12量体、および1つの6量体化合物を、インビボで使用した。1つの例示的な18量体NS2Sは、インビボで肝損傷に対して保護的であることが示された。本実施例では、18量体NS2Sにより、インビボでの生存率が大幅に増加する。18量体NS2Sにより好中球浸潤が減少する。RAGEノックアウトマウスは、18量体NS2Sの保護効果に感受性がないことが観察された。この観察は、アセトアミノフェン(APAP)の過量投与後の遅れた処置が可能であることを裏付けている。
【0073】
実施例2
材料および方法
試験設計
この試験は、HS18糖(18量体)を合成し、APAP誘発性肝不全マウスモデルにおいてその抗炎症効果を評価するために設計された。18量体NS2S(非抗凝固性化合物;18量体と呼ばれる)および18量体AXa(抗凝固性化合物)を含む2つのHS18量体の化学酵素合成を、本明細書にて実証する。2つの18量体の構造を、核磁気共鳴(NMR)と高分解能質量分析(MS)の両方を使用して確認した。HMGB1とビオチン化18量体および18量体AXaとの間の結合の実証は、アビジンアガロースカラムとそれに続くウエスタン分析を使用して達成した。HMGB1は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるナノモル範囲で18量体および18量体AXaに結合する。合成された18量体の肝保護効果を、良好に確立されたAPAP誘発性肝不全マウスモデルにおいて評価した。肝障害は、血漿ALTレベルとヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色肝切片の検査とを含む2つの方法で評価した。APAP過量投与後の炎症反応は、損傷部位への好中球遊走を測定することにより評価した。第Xa因子(FXa)活性をサロゲートとして使用して、インビトロおよびインビボの両方の実験で18量体、12量体および6量体の抗凝固活性を評価した。試験群および対照群の動物の数、ならびに統計分析を、図の凡例にて示す。匿名の患者のALF血漿サンプルを、(the National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases、Bethesda、Maryland、United States of Americaの)Acute Liver Failure Study Group(ALFSG)バイオリポジトリから入手し、切断されたシンデカン−1の血漿レベルを測定した。31の患者サンプルを分析した後、健常対照群(n=11)とAFL患者との間に明確な統計的差異が観察されたため、分析を中止した。
【0074】
HS生合成酵素の発現
NST、C
5−epi、2−OST、6−OST−1、6−OST−3、3−OST−1、3−OST−5、およびpmHS2を含む合計9つの酵素を、合成に使用した。C
5−epiおよび2−OSTを除くすべての酵素を、以前記載されているように(Renpengら、2010年;Xuら、2008年)、大腸菌(E.coli)で発現させて、適切なアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。組換えC
5−epiおよび2−OSTを、Bac−to−Bacバキュロウイルス発現アプローチ(Invitrogen製)を使用して昆虫細胞内で発現させ、高い発現レベルを得た(19)。3’−ホスホアデノシン5’−ホスホサルフェート(PAPS)、ウリジン5’−ジホスホグルクロン酸(UDP−GlcA)、ウリジン5’−ジホスホN−トリフルオロアセチルグルコサミン(UDP−GlcNTFA)を含む3つの酵素補因子すべてを、以前記載された酵素的アプローチ(Nam、2017年)を使用して、社内で合成した。
【0075】
非ビオチン化18量体AXaの合成
18量体AXaの合成は、18量体から開始した。6−O−スルホトランスフェラーゼ(6−OST)修飾と3−O−スルホトランスフェラーゼアイソフォーム1(3−OST−1)修飾を含む2つの酵素修飾を追加した。6−O−硫酸化工程では、18量体(0.5mM)を、MES(50mM、pH7.0)、6−OST−1(50μgml
−1)、6−OST−3(50μgml
−1)およびPAPS(6ヒドロキシル基量1.5当量)を含有する緩衝液中で、60mlで37℃にて一晩でインキュベートした。次に、生成物を、次の3−O−硫酸化工程のためにQ−セファロースカラムにより精製した。
【0076】
3−O−硫酸化工程を、3−OST−1酵素によって完了させた。6−O−硫酸化18量体(0.5mM)を、MES(50mM)緩衝液(pH7.0)、3−OST−1(20μgml
−1)およびPAPS(0.675mM)を含有する溶液中で、20mlで37℃にて2時間インキュベートした。生成物を、Q−セファロースカラムにより精製した。合成中、生成物を、DEAE−NPRカラム(4.6mm×75mm、Tosoh製)を使用してHPLCにより監視した。
【0077】
非ビオチン化6量体および非ビオチン化12量体の合成を、酵素的方法を使用して完了させ、この合成は、以前報告されていた(Xu、2017年)。
【0078】
非ビオチン化オリゴ糖のビオチン化オリゴ糖への変換
4種類の非ビオチン化オリゴ糖、6量体、12量体、18量体、および18量体AXaを、ビオチン化対応物に変換させた。pNPタグ付き6量体、12量体、18量体、および18量体AXa(5〜10mg)とPd/C 0.5mgを、20mMのNaOAc、pH5.0中に合計体積4mlで溶解させた。反応混合物を3回真空引きして、H
2を再充填した。次に反応物を室温で4時間インキュベートした。その後、ろ過して炭を除去した。ろ過した溶液を、500mMのNa
2HPO
4を使用してpH8.5に調整した。スクシンイミジル6−アジドヘキサノエート(出発オリゴ糖の20モル当量)を加え、37℃で一晩インキュベートした。反応物をDEAE−HPLCカラムで精製して、アジドタグ付きオリゴ糖を生成した。PBS(pH7.4)緩衝液にN
2を5分間バブリングして、0.1M CuSO
4、0.1M トリス(3−ヒドロキシプロピル−トリアゾリルメチル)アミン(THPTA)(Sigma、Burlington、Massachusetts、United States of America)、0.15M アスコルビン酸ナトリウム、0.01M アジドタグ付きオリゴ糖、および0.02M ビオチン−PEG
4−アルキン(Sigma)のサンプル溶液を調製した。THPTA 400μlとCuSO
4 80μlとの混合物をボルテックスし、次にアスコルビン酸ナトリウム 160μl、アジドタグ付きオリゴマー 200μl、およびビオチン−PEG4−アルキン 200μlを加え、N
2で2分間バブリングし、次に37℃で一晩インキュベートした。反応物をDEAE−HPLCカラムで精製して、ビオチン化産物を生成した。反応物を、HPLCおよびMSを使用して監視した。
【0079】
HPLC分析
DEAE−NPR HPLCとポリアミン系アニオン交換(PAMN)−HPLCの両方を使用して、生成物の純度を分析した。HPLC分析の溶出条件は他所に記載されていた(Renpengら、2010)。要約すると、DEAE−HPLC法の場合、カラムTSKゲルDNA−NPR(4.6×75mm、Tosoh Bioscience製)を、20mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に0〜1M NaClの直線勾配をかけながら、0.4mlmin
−1の流速で60分間溶出した。PAMN−HPLCの場合、カラム(Polyamine II−HPLC、4.6×250mm、YMC製)を、0〜1M KH
2PO
4の直線勾配をかけながら、40分間溶出し、次に1Mで0.5mlmin
−1の流速で30分間保持した。
【0080】
オリゴ糖のMS分析
低分解能分析を、Thermo LCQ−Decaで実施した。オリゴ糖は、200:lのMeOH/H
2O混合物(9:1、体積/体積)で直接希釈した。シリンジポンプ(Harvard Apparatus)を使用して、サンプルを直接注入(50μlmin
−1)で導入した。実験は、陰イオン化モードで行った。エレクトロスプレー源を5kVおよび275℃に設定し、合成非硫酸化オリゴ糖をH
2O 200μlで希釈した。エレクトロスプレー源を3kVおよび150℃に設定し、硫酸化オリゴ糖を10mM 重炭酸アンモニウム 200μlで希釈した。フルスキャンMSの場合、自動ゲイン制御を1×10
7に設定した。MSデータを取得し、Xcalibur 1.3を使用して処理した。
【0081】
高分解能ESI−MS分析を、以下の条件下においてThermo LTQ XL Orbitrap(Breman、Germany)で実行した。Luna親水性液体相互作用クロマトグラフィー(HILIC)カラム(2.0×50mm
2、200Å、Phenomenex、Torrance、California、United States of America)を使用して、オリゴ糖混合物を分離した。移動相Aは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)グレードの水で調製した5mM 酢酸アンモニウムであった。移動相Bは、98%のHPLCグレードのアセトニトリルおよび2%のHPLCグレードの水で調製した5mM 酢酸アンモニウムであった。Agilent 1200オートサンプラーを介して5.0μlの12量体混合物(1.0μgμl
−1)を注入した後、HPLCバイナリポンプを使用して、250μlmin
−1の流速で10分にわたって、3%A〜80%Aの勾配を供給した。LCカラムを、LTQ−Orbitrap XLフーリエ変換(FT)質量分析計(MS)(Thermo Fisher Scientific、San−Jose、California、United States of America)の標準エレクトロスプレーイオン化源にオンラインで直接接続した。インソースフラグメンテーションを防止するために使用される最適化パラメーターには、スプレー電圧4.2kV、キャピラリー電圧−40V、チューブレンズ電圧−50V、キャピラリー温度275℃、シース流速40、および補助ガス流速20が含まれた。質量スペクトルの外部校正では、通常、質量精度は3ppm未満であった。すべてのFT質量スペクトルを、200〜2000Daの質量範囲で60,000の分解能にて取得した。
【0082】
ヒト血漿サンプルのLC/MS二糖分析
健常対照対象およびAPAP−ALF患者のプールされた個々の血漿サンプルを、300μlの消化用緩衝液(pH7.0に調整された2mM 塩化カルシウムを含む50mM 酢酸アンモニウム)中で消化させた。組換えヘパリンリアーゼI、II、III(最適pH7.0〜7.5)および組換えコンドロイチンリアーゼABC(各10mU、最適pH7.4)を各サンプルに加え、よく混合した。サンプルをすべて37℃の水浴に12時間置き、その後、遠心分離により酵素を除去することにより酵素消化を終了させた。フィルターユニットを250μlの蒸留水で2回洗浄し、二糖生成物を含む濾液を真空遠心分離機により乾燥させた。乾燥サンプルは、DMSO/酢酸(17/3、体積/体積)中で0.1M 2−アミノアクリドン(AMAC)10μlを加えることによってAMAC標識して、室温で10分間インキュベートし、続いて1M シアノ水素化ホウ素ナトリウム水溶液10μlを加え、45℃で1時間インキュベートした。0.5ngμl
−1で調製されたIduron(英国)から購入したすべての17−二糖標準を含む混合物を同様にAMAC標識し、外部標準として各実行に使用した。AMAC標識反応後、サンプルを遠心分離にかけ、各上清を回収した。LCは、Agilent Poroshell 120 ECC18(2.7μm、3.0×50mm)カラムを使用して、45℃にてAgilent 1200 LCシステムで実施した。移動相Aは50mM 酢酸アンモニウム水溶液であり、移動相Bはメタノールであった。移動相は、300μlmin
−1の流速でカラムを通過した。勾配は0〜10分、5〜45%B;10〜10.2分、45〜100%B;10.2〜14分、100%B;14〜22分、100〜5%Bであった。注入量は、5μlである。検出器には、ESI源(Thermo Fisher Scientific)を備えたトリプル四重極型質量分析システムを使用した。オンラインMS分析は、多重反応モニタリング(MRM)モードで行った。MSパラメーター:スプレー電圧3000V、気化器温度300℃、およびキャピラリー温度270℃の陰イオン化モード。
【0083】
NMR分析
18量体および18量体AXaのNMRスペクトルは、TopSpin 2.1.6ソフトウェア(Bruker、Billerica、Massachusetts、United States of America)を搭載したBruker 800MHz標準ボアNMR分光計で取得した。サンプル(3.0〜6.0mg)をそれぞれ、99.9%D
2O 0.4ml中に溶解させ、5000xgで1分間遠心分離にかけ、凍結乾燥させた。このプロセスを2回繰り返し、最終サンプルを99.99%D
2O 0.45mL中に溶解させた。1H分光法、
1H−
1H相関分光法(COSY)、
1H−
13C異種核1量子コヒーレンス分光法(HSQC)、
1H−
1H全相関分光法(TOCSY)および
1H−
1H核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)の実験はすべて、298Kで行った。
【0084】
HMGB1の発現
ヒトHMGB1の完全なオープンリーディングフレームを、pcDNA3.1(+)−C−6His(GenScript、Piscataway、New Jersey、United States of America)にクローニングした。トランスフェクションは、FectoPROトランスフェクション試薬(Polyplus transfection)を使用して実施した。組換えHMGB1−hisを、31℃にて浮遊293細胞(Thermo Fisher Scientific)中で産生した。細胞ライセートからのHMGB1−hisの精製は、Ni Sepharose(商標)6 Fast Flowゲル(GE Healthcare、Little Chalfont、England)を使用し、続いてSuperdex200ゲルろ過クロマトグラフィーを使用して行った。精製後、HMGB1−hisは、SDS−PAGEとその後に続く銀染色で測定すると、>99%純度であった。エンドトキシンの除去は、Detoxi−Gel(Thermo Fisher Scientific)を使用して実施し、最終エンドトキシンレベルは、発色性LALエンドトキシンアッセイ(GenScript、Piscataway、New Jersey、United States of America)により、<0.1EU/μgタンパク質であった。組換えHMGB1−hisは、それぞれ細胞シグナル伝達アッセイおよび空気嚢(air pouch)アッセイ(以下で詳細に記載)によって評価された、サイトカイン活性とケモカイン活性の両方を有していた。
【0085】
HSオリゴ糖からのエンドトキシンの除去
50ml遠心フィルターユニット(Amicon Ultra−15、Ultracel−100k;Merck Millipore、Darmstadt、Germany)を4,000rpmで30分間使用して、HSオリゴ糖からエンドトキシンを除去した。フィルターインサートに毎回1mlのエンドトキシンフリー水を再充填して、このプロセスを3回繰り返した。ろ過した溶液を収集した。エンドトキシンのレベルは、リムルスアメボサイトライセート(Limulus Amebocyte Lysate)(LAL)キット(Associated of Cape Cod Inc.)を使用して測定した。LAL試験は、再構成パイロテル(Pyrotell)(感度0.03エンドトキシン単位ml
−1)100μlを、動物の注射に使用される濃度である滅菌生理食塩水中の0.1mgml
−1 HSオリゴ糖 100μlに加えることによって実施した。パイロテルおよびHSオリゴ糖を、10mm×75mmの非発熱処理した(depyrogenated)ガラス反応管(Associates of Cape Cod Inc.)に加え、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート時間の終了時に、チューブを逆さにした。ゲル塊が形成されている場合、サンプルはエンドトキシン陽性である。サンプルが溶液中に残っている場合、陰性結果は、サンプル中のエンドトキシンがパイロテルの感度を下回っていることを意味する。試験されたHSオリゴ糖溶液はすべて陰性であった。
【0086】
組織学/免疫組織化学
肝臓組織を室温で24時間、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、薄片化した。肝臓切片(4μm)をヘマトキシリン−エオジン(H&E)で染色するか、または抗好中球モノクローナル抗体(Abcam、Ab2557、NIMP−R14)(Abcam、Cambridge、United Kingdom)もしくは抗シンデカン−1(StemCell Technologies、60035、クローン281.2)(StemCell Technologies、Vancouver、Canada)およびヤギ抗ラットビオチン化二次抗体(Abcam)で免疫染色した。フィブリン(フィブリノゲン)染色には、ポリクローナル抗フィブリン(フィブリノゲン)(Dako of Agilent、Santa Clara、California、United States of America)を使用し、それに続いてヤギ抗ウサギビオチン化二次抗体(Sigma)を使用した。包埋、薄片化、およびH&E染色は、UNC Chapel HillのAnimal Histopathology and Laboratory Medicine Core施設で実施した。H&E分析は、UNC Chapel HillのTranslational Pathology Laboratory Core施設で、Aperio ImageScopeソフトウェア(Leica Biosystems、Concord、Canada)を使用して実施した。IHC画像を、明視野顕微鏡(Leica DM 1000 LED、Leica Microsystems Inc.、IL、USA)に取り付けられたHDカメラを使用してキャプチャし、ImageJを使用して処理した。好中球の定量化では、サンプルごとに5つの100倍画像をランダムに選択し、平均好中球/視野を報告した。
【0087】
炎症のマウスモデル:腹膜炎および空気嚢
2つのモデル、すなわち腹膜炎および空気嚢炎症モデルを使用して、インビボでの好中球遊走を試験した。腹膜炎モデルでは、20μgの18量体の非存在下または存在下で、30mgの肝臓ライセートをマウスの腹腔内に注入した。20時間後、イソフルランの吸入によりマウスを安楽死させ、腹腔を氷冷PBS 10mlで洗浄した。腹膜洗浄物を使用して、フローサイトメトリーを用いて好中球遊走を測定した。
【0088】
空気嚢技法では、マウスの背中の皮下に3mlの滅菌空気を注入する。3日後、嚢に滅菌空気を再充填する。6日目に、22.3μgの18量体の非存在下または存在下で、5μgの組換えHMGB1を空気嚢内に注入した。対照マウスには、PBS中2mgml
−1 BSAを注入した。4時間後、マウスをイソフルラン吸入により安楽死させ、空気嚢をPBSのみで洗浄した。洗浄物を使用して、フローサイトメトリーを用いて好中球遊走を測定した。
【0089】
フローサイトメトリー
腹膜洗浄物および空気嚢洗浄物を、Ly−6G/Ly−6C(モノクローナル抗マウスRB6−8C5、PE−Cy7、eBioscience)およびCd11b(モノクローナル抗マウスM1/70、FITC、eBioscience)に対する蛍光標識抗体で染色した。サンプルを、Stratedigm S1000Exiフローサイトメーターにて測定した。
【0090】
イムノブロット
肝臓ライセートは、屠殺時に組織を液体窒素で瞬間凍結することにより調製した。組織を、200mM MES、500mM ホスフェート、および1mM EDTAを含む、pH6の緩衝液中で機械的に均質化し、その後3回の凍結融解を行った。溶解したサンプルを、4℃にて10000×gで15分間遠心分離にかけた。ビオチン化HSオリゴ糖(最終濃度15μM)を、100μlの未処理肝臓ライセート(約12.5mg)と混合し、4℃にて一晩インキュベートした。Pierce高結合能ストレプトアビジンアガロース(Thermo Fisher Scientific)を使用して、ビオチン化HSオリゴ糖結合複合体を単離した。50mM MES、50mM NaCl pH6で洗浄した後、サンプルをLDS緩衝液で溶出した。溶出したサンプルを、NuPAGE 4〜12%Bis−trisタンパク質ゲルを使用して分離し、抗HMGB1抗体(Abcam、ウサギモノクローナルEPR3507)およびヤギ抗ウサギHRP(Abcam)を使用してアッセイした。
【0091】
35S標識HSの調製および組換えHMGB1への結合試験
[
35S]HSを、[
35S]PAPS(4×10
7cpm)およびN−スルホトランスフェラーゼ(NST)(100μgml
−1)、ならびにウシ腎臓由来のHSを使用して、合計体積2mlの50mM MES中で調製した。[
35S]HS(1.35x10
5cpm)を、pH6の50mM MES、70mM NaCl、10mM イミダゾール中の1μgの組換えHMGB1でインキュベートし、室温にて30分間インキュベートした。5μgのクロマチン免疫沈降グレードの抗HMGB1(Abcam)を加え、4℃で1時間インキュベートした。Dynabeads Protein A(Thermo)を使用して反応混合物を精製し、25mM トリス、150mM NaClを含むpH7.5の緩衝液で溶出した。溶出したサンプルを、液体シンチレーション分析器(Packard; GMI、Ramsey、Minnesota、United States of America)を使用して[
35S]計数について測定した。[
35S]HSは、組換えHMGB1の非存在下で陰性対照として機能する。
【0092】
表面プラズモン共鳴
ビオチン化HS18量体(18量体および18量体AXa)を、製造元のプロトコルに基づいてストレプトアビジン(SA)センサーチップ(BIAcore、GE Healthcare、Uppsala、Sweden)に固定化した。手短に言えば、20μlのビオチン化HSオリゴ糖を、SAチップのフローセル2、3、および4(FC2、FC3、およびFC4)に10μlmin
−1の流速で注入した。ビオチン化オリゴ糖の固定化が成功したことを、SAチップ上で563、823、505、553および176レゾナンスユニット(RU)の増加がそれぞれ観察されたことにより確認した。対照フローセル(FC1)は、飽和ビオチンを1分間注入して調製した。
【0093】
組換えHMGB1を、pH7.4の0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、および0.005%界面活性剤P20中で希釈した。1000、500、250、125、および63nMの濃度の組換えHMGB1を、30μlmin
−1の流速で注入した。組換えHMGB1注入の最後に、同じ緩衝液をSA表面上に流して、解離を促進させた。3分の解離時間後、2M NaCl 30μlを注入して、SA表面を再生させた。応答を、25℃で時間の関数(センソグラム(sensogram))として監視した。種々の組換えHMGB1濃度のセンソグラムを、1:1ラングミュアモデルに全体的に適合させた。SPR測定を、BIAcore 3000 controlおよびBIAevaluationソフトウェア(バージョン4.0.1)を使用して操作されたBIAcore 3000で実施した。
【0094】
APAP−ALF患者血漿
1.8mgml
−1 EDTAを含むAPAP−ALF患者の血漿を、(the National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases、Bethesda、Maryland、United States of Americaの)Acute Liver Failure Study Group(ALFSG)バイオリポジトリから入手した。試験設計および収集方法の詳細については、以前記載されている(35)。要約すると、選択基準および除外基準を満たす成人患者がALFSGレジストリに登録され、これは1998年に開始された。レジストリへの加入時に血漿サンプルを入手した。この試験では、APAP過量投与患者の血漿のみを分析した。摂取されたAPAPの推定量、摂取から入院までの推定時間、過量投与の意図性、および患者の個体群統計(年齢、性別、人種、併存症など)を含む臨床データは、この試験では明らかにされていなかった。ELISAキット(ヒトシンデカン−1 ELISA、CellSciences、Newburyport Massachusetts、United States of America)を使用して、製造元のプロトコルに従って、血漿シンデカン−1レベルを測定した。血漿HMGB1レベルを、製造元のプロトコルに従ってHMGB1 ELISAを使用して測定した。血漿ALTレベルは、ALT Infinity試薬を使用して測定した。
【0095】
インビトロおよびエクスビボ抗FXa活性の測定
アッセイは以前に公開された方法に基づいていた(19)。要約すると、ヒトFXa(Enzyme Research Laboratories、South Bend、Indiana、United States of America)を、PBSで50Uml
−1に希釈した。発色基質S−2765(Diapharma、West Chester、Ohio、United States of America)を、水で1mgml
−1に希釈した。インビトロ試験では、フォンダパリヌクスおよびHSオリゴ糖(18量体、12量体、6量体、および18量体AXa)をPBS中に種々の濃度(11〜131nM)で溶解させた。16μlのサンプルを、60μlの35μlml
−1アンチトロンビン(Cutter Biologics)で室温にて2分間インキュベートした。次に、100μlのFXaを加え、室温で4分間インキュベートした。30μlのS−2765基質を加え、反応混合物の吸光度を、405nmで5分間連続して測定した。PBSは、対照サンプルとして機能する。各サンプルの最大勾配を、対照サンプルの最大勾配で割ることによりFXa活性パーセントに変換した。
【0096】
エクスビボでの試験では、APAPのみで処置されたマウスにおけるAPAP過量投与の24時間後に収集されたマウス血漿、18量体、および18量体AXaを使用して、同じプロトコルに従った。
【0097】
統計分析
すべてのデータは、平均±SEMとして表される。GraphPad Prism software(バージョン7.03;GraphPad Software,Inc.、LaJolla、California、United States of America)を使用して、実験群と対照群との間の統計的有意性を、対応のない両側スチューデントt検定によって、複数群間については一元配置ANOVA続いてダネットまたはテューキーの多重比較検定によって、およびログランク検定によるカプランマイヤー生存曲線により分析した。
【0098】
実施例3
HS18量体の合成
18量体の合成は、以前に公開された化学酵素的方法(17、31)に従って完了させた。要約すると、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)由来のヘパロサンシンターゼ2(PmHS2)を使用して、単糖GlcA−pNPを適切なサイズの骨格鎖に伸長させた。次に、骨格鎖を、N−スルホトランスフェラーゼ(NST)、C
5−エピメラーゼ(C
5−epi)、および2−O−スルホトランスフェラーゼ(2−OST)の修飾に供した。合成全体に関与する5つの主要な工程が存在し、工程a(GlcNTFAを付加する伸長工程)、工程b(GlcAを付加する伸長工程)、工程c(LiOHを使用した脱トリフルオロアセチル化)、工程d(N−硫酸化工程)、工程e(2−O−硫酸化/エピマー化)(
図1A〜1G)が含まれていた。
【0099】
工程aは、GlcNTFA残基の付加を含む、オリゴ糖骨格鎖を所望のサイズに伸長することであった。要約すると、GlcA−pNP(3.2mM)を、トリス(25mM、pH7.2)、MnCl
2(5mM)、pmHS2(60μgml
−1)およびUDP−GlcNTFA(4.5mM)を含む緩衝液中に溶解させて、次に30℃で一晩インキュベートした。合計反応体積は4Lであった。C
18カラム(3×15cm、または120g、Biotage)を、勾配溶出法(H
2O中0〜100%メタノール、0.1%トリフルオロ酢酸、5mlmin
−1)による精製に使用した。
【0100】
工程bは、GlcA残基により伸長することであった。二糖(3.2mM)を、トリス(25mM、pH7.2)、MnCl
2(5mM)、pmHS2(30μgml
−1)およびUDP−GlcA(1.5mM)を含む緩衝液中に溶解させて、次に30℃で一晩インキュベートした。合計反応体積は3lであった。C
18カラム(3×15cm、または120g、Biotage)を、上記のような精製に使用した。
【0101】
工程cは、アルカリ条件下でGlcNTFA残基をGlcNH
2残基に変換することであった。オリゴ糖(13mM)の脱トリフルオロアセチル化を、氷浴下の0.1M LiOH中で0.5時間実行した。生成物を、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)により監視した。反応が完了した後、直ちに塩酸(1M)を用いてpHを7.0に調整した。
【0102】
工程dは、NST酵素を使用してGlcNH
2残基をGlcNS残基に変換することであった。一例では、脱トリフルオロアセチル化四糖(1.3mM、GlcNH
2−GlcA−GlcNH
2−GlcA−pNP)を、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES、50mM)pH7.0を含む溶液中で、37℃にて、N−スルホトランスフェラーゼ(32μgml
−1)およびPAPS(1.5当量の遊離アミノ基量)で一晩インキュベートさせ、反応体積は5.6Lであった。
【0103】
工程eは、内部GlcA残基をIdoA2S残基に変換することであり、C
5−エピメラーゼと2−O−スルホトランスフェラーゼ(2−OST)の両方を含む。例えば、オリゴ糖GlcNTFA−GlcA−GlcNS−GlcA−GlcNS−GlcA−pNP(1.2mM)を、トリス(25mM)緩衝液(pH7.5)ならびに半精製C
5−エピメラーゼ(3μgml
−1)、2−OST(6.5μgml
−1)およびPAPS(1.8mM)を含む溶液中で、37℃にて、一晩インキュベートさせ、反応体積は4.9Lであった。
【0104】
硫酸化生成物を、Q−セファロース高速フローカラム(GE Healthcare Life Science製)を使用して精製し、20mM NaOAc−HOAc、pH5.0に2M NaClの0〜100%直線勾配をかけながら、3時間溶出した。生成物の結合親和性および反応スケールに基づいて、さまざまなサイズのQ−セファロースカラムおよび塩勾配を選択した。
【0105】
すべての伸長合成工程で、ポリアミンIIカラム(4.6mm×250mm、YMC製)を備えたShimadzu HPLCにより、生成物を監視した。各工程の中間体の構造を、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)によって特徴付けた。
【0106】
実施例4
APAP肝損傷のマウスモデル
すべての動物実験は、University of North Carolina at Chapel Hill(Chapel Hill、North Carolina、United States of America)のInstitutional Animal Care and Use CommitteeおよびUniversity at Buffalo(Buffalo、New York、United States of America)のIACUCによって承認された。Ager
−/−マウスは、元々Angelika Bierhaus博士(University of Heidelberg、Heidelberg、Germany)から寄贈された(32)。C57BL/6JまたはAger
−/−マウスを一晩(12〜15時間)絶食させ、グルタチオンの貯蔵を枯渇させた後、APAP(Sigma)を投与した。未処理APAPを温かい(約50℃)滅菌0.9%塩化ナトリウム溶液(滅菌生理食塩水)中に溶解し、37℃に冷却して、400または600mgkg
−1で腹腔内注入した。いくつかの実験では、APAPの30分後に、約200μlの滅菌生理食塩水中の9.5μM HSオリゴ糖をマウスに皮下注入し、再びAPAPの12時間後に約100μlまたは当量体積の滅菌生理食塩水中の4.75μM HSオリゴ糖を皮下注入した。
【0107】
18量体の有効性をN−アセチルシステイン(NAC)と比較するために、APAPの30分後に、滅菌生理食塩水中pH7.5で300mgkg
−1 NACを腹腔内注入した。別個の実験では、18量体処置群に、300mgkg
−1 NACまたは0.34mg/kg 18量体を、APAPの6時間後に投与し、次にAPAPの18時間後に0.17mgkg
−1 18量体を投与した。APAPの24時間後に、マウスを安楽死させ、血液および肝臓組織を収集した。
【0108】
生存試験(600mgkg
−1 APAP)では、APAPの30分後に、マウスに0.4mgkg
−1 18量体を注入し、その後、96時間12時間ごとに繰り返し注入するか、または当量体積の滅菌生理食塩水を注入した。
【0109】
実施例5
APAP誘発性肝損傷の評価
血漿ALTは、製造元の指示に従ってALT Infinity試薬(Thermo Fisher Scientific)を使用して測定した。血漿TNF−αは、製造元の指示に従って、マウスTNF−α DuoSetキット(R&D Systems、Minnesota、United States of America)を使用して測定した。血漿HMGB1レベルは、製造元の指示に従って、HMGB1 ELISAキット(Tecan US、Tecan Trading AG、Mannedorf、Switzerland)を使用して測定した。血漿シンデカン−1レベルは、製造元の指示に従って、マウスシンデカン−1 ELISA(CellSciences)を使用して測定した。肝臓のGSHレベルは、製造元の指示に従って、グルタチオンアッセイキット(Cayman Chemicals、Ann Arbor、Michigan、United States of America)を使用して測定した。
【0110】
実施例6
18量体はAPAP過量投与の36時間後に肝損傷を大幅に低下させる
上記の例と同様に、約10週齢で体重約25グラムのC57Bl/6J雄型マウスに、0時間に腹腔内注入によりアセトアミノフェン(APAP;400mg/kg)を過量投与した。
【0111】
APAPの30分後、12時間後、および24時間後に、マウスは18量体の皮下注入を繰り返して受けた。頸椎脱臼によりマウスを屠殺し、大静脈から採血し、組織学のために肝臓組織を採取した。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を、肝損傷のバイオマーカーとして使用した。腫瘍壊死因子−α(TNF−α)を炎症のマーカーとして使用した。ヘマトキシリンおよびエオジン染色(H&E)を、組織壊死の領域を定量化するための組織学的染色技法として使用した。
【0112】
得られたデータは、すべての18量体化合物(表1)が血漿ALTレベルを低下させたことを示した。試験した18量体はすべて効果的であったが、NS2S硫酸化パターンはALTの最も均一な低下をもたらし(APAP対照と比較して平均の最大差)、その結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例7
結果および考察
自然供給源から単離されたHSは、異なる多糖鎖長および硫酸化パターンを有する非常に複雑な混合物である。構造的に均質なHSオリゴ糖の欠如、特に全長HSと同様の機能を示す長いHSオリゴ糖の欠如により、治療剤としてのHSの利益を活用する取り組みが妨げられる(Liu、2014年)。我々は最近、優れた効率でHSオリゴ糖を合成する化学酵素法を開発した(Xu、2011年、Xu、2014年、Xu、2017年)。ここでは、HS18糖(18量体)323mgを含むHSオリゴ糖を合成した(
図1A〜1Gおよび
図2)。これは、これまでに合成された最長のHSオリゴ糖の1つに相当する。18量体の構造は、高分解能質量分析およびNMRによって確認された。純度は、高分解能アニオン交換高速液体クロマトグラフィーによって>98%であると判定された。
【0115】
18量体の肝保護効果を、APAP誘発性ALFマウスモデルで調べた。APAPの過量投与後に18量体で処置したマウスは、正常肝細胞数が多い(
図3A)こと、および肝障害のバイオマーカーであるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血漿レベルが低い(
図3C)ことが示すように、APAP対照マウスよりも有意に健康な肝臓を有していた。18量体による処置により、肝臓への好中球浸潤の減少および組織壊死因子α(tissue necrosis factor α)(TNF−α)の血漿レベルの低下が示され(
図3Bおよび6A)、局所および全身性炎症の減弱を示唆している。18量体によってまた、致死的なAPAPの過量投与(600mgkg
−1)後の死亡率が低下し、対照群における42%の生存率と比較して、96時間で90%の生存率がもたらされた(
図3D)。APAP対照および18量体処置マウスの肝グルタチオン(GSH)レベルは、試験の過程で本質的に同じであった(
図6B)。GSHレベルは、NAPQIが形成されるにつれて低下し(Tacke、2015年;Nam、2017年)、したがってデータは、18量体が、APAPから細胞毒性中間体であるNAPQIへの代謝変換に影響を与えないことを示唆している。これらの結果は、18量体がAPAP代謝に影響を与えるのではなく、炎症反応を軽減することにより肝損傷を改善することを実証している。
【0116】
2連の証拠は、18量体がAPAP過量投与後の炎症を軽減するためにHMGB1を標的にすることを示唆している。まず、我々は、18量体が、2つのインビボモデルにおいてHMGB1媒介好中球浸潤を減少させることを発見した。空気嚢モデルでは、組換えHMGB1の注入により、広範囲の好中球浸潤が誘発され(
図4A)、18量体の共投与により影響が大幅に低下した。18量体によって、HMGB1により媒介されることが知られているプロセス(4)であるが、肝臓ライセートにより誘発された腹膜炎モデルにおける好中球浸潤も減少した(
図6C)。次に、RAGEノックアウトマウスまたはAger
−/−マウスを使用して、18量体がHMGB1/RAGE軸を標的とすることを実証した。HMGB1とRAGEとの相互作用は、APAPの過量投与における炎症誘発性反応に不可欠であるため(Huebener、2015年)、18量体の肝保護効果はRAGEの存在に依存すると予想される。APAP過量投与後肝好中球浸潤が増加し、この増加は、Ager
−/−マウスよりも野生型(WT)の方が有意に大きかった(
図4B)。18量体処置Ager
−/−マウスは好中球浸潤の減少を示さなかったが、WTマウスは18量体処置に応答した(
図4B)。さらに、Ager
−/−マウスにおける18量体処置では、ALTレベルを低下させることができなかった(
図6D)。このデータは、18量体は、RAGEの非存在化では保護効果を失ったことを示唆している。
【0117】
構造−活性相関試験を実行して、さまざまな形態のHSを使用したHMGB1への結合、およびAPAPモデルにおける保護を調べた。6量体、12量体、および2つの18量体を含む4つのビオチン化オリゴ糖を合成した(
図4E)(構造および特徴については、
図7を参照のこと)。これらの中で、6量体、12量体、18量体は鎖長のみが異なっており、硫酸化パターンは異なっていなかった。これらのオリゴ糖は、抗第Xa因子活性を欠いているため、非抗凝固性である。18量体AXaは、強力な抗第Xa因子活性を有する高度に硫酸化された抗凝固性18糖である(
図8Aおよび8B)。18量体および18量体AXaでは、マウスの肝臓ライセート由来のHMGB1に結合することが観察されたが、6量体でも12量体でも観察されず、このことは、結合に最低限必要な鎖長が存在することを示唆している(
図4C)。HMGB1結合定数(K
D)は、表面プラズモン共鳴により186nM(18量体の場合)および65nM(18量体AXa)であると測定されたが、ALT(
図4D)および好中球浸潤(
図8C)により測定すると、18量体のみが肝保護効果を示した。6量体および12量体による肝保護の欠如が、HMGB1に結合できないことと相関していることは明らかである。しかし、18量体AXaは、HMGB1に結合することができるが、これも肝保護を欠いていた。抗凝固性未分画ヘパリンも、APAPの過量投与後の肝保護を欠いていたため、肝保護の欠如はその抗凝固活性によるものである可能性がある(
図8D)。Kopecおよび同僚は、APAPの過量投与後に肝臓の修復を活性化するためにフィブリンが必要であると報告している(20)。18量体AXaを投与すると、フィブリン形成が減少し、したがって、肝保護が失われる。
【0118】
18量体の保護的役割をさらに理解するために、肝細胞に存在する主要なHSプロテオグリカンであるシンデカン−1の役割を、APAPの過量投与に対応して調査した。シンデカン−1は、HS鎖が結合したコアタンパク質を含み、病的状態ではマトリックスメタロプロテアーゼによって細胞表面から切断される(Park、2000年)。血漿シンデカン−1のより高いが変動するレベルが、APAPの過量投与後24時間にわたってマウスにおいて観察された(
図5A)。同時に、HMGB1(
図5A)、ALT、および肝好中球浸潤の血漿レベルは、時間の経過とともに増加した(
図9Aおよび9B)。細胞表面シンデカン−1の喪失を、肝臓切片の免疫染色によって確認した。切断されたシンデカン−1上のHS鎖のサロゲート分子としてウシ腎臓由来の
35S標識HSを使用して、我々は、HMGB1がHSに結合することを実証し(
図5B)、これは、異なる供給源由来のHSを使用した以前の報告と一致している(9)。これらの結果は、切断されたシンデカン−1がそのHS鎖を介してHMGB1に結合することを示唆している。血漿シンデカン−1レベルの有意な増加はまた、APAP誘発性ALFを有する患者から観察された(
図5C)。特に、APAP−ALF患者における切断されたシンデカン−1レベルは、コアタンパク質分析により測定されたたAPAP過量投与マウスにおけるレベルよりも約200倍高かった。HS鎖分析により、ALF患者における切断されたシンデカン−1のレベル上昇が確認された(
図10A)。APAP−ALF患者におけるHMGB1およびALTも、健常対照群よりも高く(
図10Bおよび10C)、これは以前の報告と一致している(22)。
【0119】
APAP過量投与後のヒトおよびマウスにおけるシンデカン−1切断とHMGB1放出との間の関係では、内因性保護経路が強調されている。シンデカン−1は、最初の発作後に切断され、HMGB1の炎症誘発性活性を中和し、それによって無菌的炎症を制限する。実際、シンデカン−1
−/−マウスは、WT動物よりもAPAP誘発性ALFの影響を受けやすい(Nam、2017年)。広範なAPAP障害のとき、おそらく切断されたシンデカン−1はすべてのHMGB1を中和するには不適切であると考えられ、シンデカン−1にHSの擬態型である18量体を付加することにより、さらになる保護を与える。
【0120】
NAPQI誘発性細胞障害の後に無菌的炎症が発生するため、我々は、APAPの過量投与後のさらに遅れた18量体による処置の可能性を検討した。N−アセチル−システイン(NAC)は、APAP過量投与の標準的処置法であるNAPQI中和抗酸化剤である。しかし、NAC処置はAPAP摂取から8時間以内に与えられた場合にのみ有効である(Bailey、2016年)。マウスにおいてAPAPの6時間後に投与した場合、NACはその保護効果を失うが、18量体はなおもALTを低下させることができる(
図5D)。これらのデータは、18量体による処置には、より広い治療ウィンドウを提供することにより、遅発性のAPAP過量投与患者にとって潜在的利点があることを示唆している。
【0121】
実施例8
結論
HMGB1媒介無菌的炎症を標的とすることによりAPAP誘発性ALFを処置するための合成HSの使用が、本明細書に開示されている。均質なオリゴ糖の利用能により、この効果の根底にある候補の標的および化合物を同定することができるようになった。HMGB1を中和させることに加えて、シンデカン−1のHSは、肝臓の修復を活性化し、ケモカインの活性を調節することもできる。18量体も、これらの機能に寄与することができる。HSは患者の忍容性が良好であり(Shriver、2004年)、HSの高度に硫酸化された形態である未分画ヘパリンは、ほぼ1世紀にわたって抗凝固剤として使用されてきた(Szajek、2016年)。ここで、HSオリゴ糖の合成を大規模かつ費用対効果の高い方法で実現することができる。HMGB1を中和する合成オリゴ糖は、ALFに有望な治療法を提供するはずである。HMGB1は、癌、脳卒中、および関節炎を含むさまざまな病態に関与しているため(Venereau、2016年)、新規なHS系治療薬により、HMGB1の阻害剤としての有望な機会が提供される。
【0122】
参考文献
すべての特許、特許出願およびその出版物、科学雑誌記事、ならびにデータベースエントリ(例えば、GENBANK(登録商標)データベースエントリおよびその中で利用可能なすべての注釈)を含むが、これらに限定されない、本明細書に記載されているすべての参考文献は、本明細書で使用される方法論、技法、および/または組成物の補足、説明、背景の提供、または教示を行う限りにおいて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
【表2-1】
【0124】
【表2-2】
【0125】
【表2-3】
【0126】
【表2-4】
【0127】
本明細書にて開示する主題の種々の詳細は、本明細書にて開示する主題の範囲から逸脱することなく変更され得ることが理解されるであろう。さらに、前述の説明は、例示のみを目的としたものであり、限定を目的としたものではない。