特表2021-502981(P2021-502981A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-502981(P2021-502981A)
(43)【公表日】2021年2月4日
(54)【発明の名称】ボツリヌス治療の副作用の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20210108BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 31/14 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 45/08 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 31/4425 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20210108BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20210108BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P13/10
   A61K31/27
   A61K31/14
   A61K45/08
   A61K31/4425
   A61K31/407
   A61K31/445
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-526487(P2020-526487)
(86)(22)【出願日】2018年11月15日
(85)【翻訳文提出日】2020年7月13日
(86)【国際出願番号】US2018061337
(87)【国際公開番号】WO2019099711
(87)【国際公開日】20190523
(31)【優先権主張番号】62/586,362
(32)【優先日】2017年11月15日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518401616
【氏名又は名称】デルノバ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DelNova,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】メアリー・ガードナー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA18
4C084MA05
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA06
4C084NA12
4C084ZA81
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC21
4C086CB03
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA06
4C086NA12
4C086ZA81
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA42
4C206HA24
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206NA06
4C206NA12
4C206ZA81
(57)【要約】
本発明は、膀胱機能不全のための神経毒療法がもたらす有害な副作用の回復を加速させるための医薬製品の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする患者におけるボツリヌス毒素療法の副作用を軽減する方法であって、前記患者が過活動膀胱または尿意ひっ迫の処置のためにボツリヌス毒素を投与されており、かつ前記方法がボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉への1以上の抗コリンエステラーゼの局所投与を含む、方法。
【請求項2】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上の抗コリンエステラーゼがネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミン、ドネペジル、ガランタミンおよびその組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
(請求項3)
1以上の抗コリンエステラーゼがネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミンおよびそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
抗コリンエステラーゼがピリドスチグミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
抗コリンエステラーゼがリバスチグミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗コリンエステラーゼが式:
【化1】
〔式中、
YはCRまたはNであり、ここでXはハロゲンであり;
は水素、C−Cアルキル、−CO(OH)、−CO(C−Cアルコキシ)、−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)および−CON(C−Cアルキル)から選択され;
は水素であるか、またはRおよびRは、それらが結合する原子と一体となって、場合により置換されていてよいヘテロ環を形成し;
はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ヒドロキシC−Cアルキル、アミノC−Cアルキル、(C−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、(ジC−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、C−CアルコキシC−Cアルキル、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)、−N(C−Cアルキル)および−N(C−Cアルキル)から選択され;そして
はC−Cアルキル、ヒドロキシC−Cアルキル、またはC−CアルコキシC−Cアルキルから選択される〕
のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1以上の抗コリンエステラーゼがカルバメート、三級アンモニウム、および四級アンモニウムから選択される1以上の基を有する可逆性抗コリンエステラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
局所投与が膀胱筋肉への排尿筋内注射によるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
局所投与が膀胱または膀胱筋肉への膀胱内注入によるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
膀胱内注入が膀胱内での1以上の抗コリンエステラーゼの滞留時間を延長する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
滞留時間が医療デバイスにより延長される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1以上の抗コリンエステラーゼが膀胱壁への浸透を促進するための薬剤と製剤される、または共投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
滞留時間が薬剤との製剤または共投与により延長される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
薬剤が粘膜付着剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1以上の抗コリンエステラーゼが1以上の粘膜付着剤をさらに含む医薬組成物に製剤される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
1以上の抗コリンエステラーゼが1以上の浸透強化剤をさらに含む医薬組成物に製剤される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
処置を必要とする患者におけるボツリヌス毒素療法の副作用を軽減するための1以上の抗コリンエステラーゼの使用であって、患者が過活動膀胱または尿意ひっ迫の処置のためにボツリヌス毒素を投与され、かつ前記使用がボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉への局所投与によるものである、使用。
【請求項18】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
1以上の抗コリンエステラーゼがネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミン、ドネペジル、ガランタミンおよびそれらの組合せから選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
1以上の抗コリンエステラーゼがネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミンおよびそれらの組合せから成る群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項21】
抗コリンエステラーゼがピリドスチグミンである、請求項17に記載の使用。
【請求項22】
抗コリンエステラーゼがリバスチグミンである、請求項17に記載の使用。
【請求項23】
抗コリンエステラーゼが式:
【化2】
〔式中、
YはCRまたはNであり、ここでXはハロゲンであり;
は水素、C−Cアルキル、−CO(OH)、−CO(C−Cアルコキシ)、−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)および−CON(C−Cアルキル)から選択され;
は水素であるか、またはRおよびRは、それらが結合する原子と一体となって、場合により置換されていてよいヘテロ環を形成し;
はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ヒドロキシC−Cアルキル、アミノC−Cアルキル、(C−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、(ジC−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、C−CアルコキシC−Cアルキル、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)、−N(C−Cアルキル)および−N(C−Cアルキル)から選択され;そして
はC−Cアルキル、ヒドロキシC−Cアルキル、またはC−CアルコキシC−Cアルキルから選択される〕
のものである、請求項17に記載の使用。
【請求項24】
1以上の抗コリンエステラーゼがカルバメート、三級アンモニウム、および四級アンモニウムから選択される1以上の基を有する可逆性抗コリンエステラーゼである、請求項17に記載の使用。
【請求項25】
局所投与が膀胱筋肉への排尿筋内注射によるものである、請求項17〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
局所投与が膀胱または膀胱筋肉への膀胱内注入によるものである、請求項17〜24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
膀胱内注入が膀胱内での1以上の抗コリンエステラーゼの滞留時間を延長する、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
滞留時間が医療デバイスにより延長される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
1以上の抗コリンエステラーゼが膀胱壁への浸透を促進するための薬剤と製剤される、または共投与される、請求項26に記載の使用。
【請求項30】
滞留時間が薬剤との製剤または共投与により延長される、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
薬剤が粘膜付着剤である、請求項31に記載の使用。
【請求項32】
1以上の抗コリンエステラーゼが1以上の粘膜付着剤をさらに含む医薬組成物に製剤される、請求項26に記載の使用。
【請求項33】
1以上の抗コリンエステラーゼが1以上の浸透強化剤をさらに含む医薬組成物に製剤される、請求項26に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年11月15日に出願された第62/586,362号米国仮出願番号の優先権を主張するものであり、その全体を参照することにより本明細書に包含させる。
【背景技術】
【0002】
1.技術分野
本発明は、膀胱機能不全のための神経毒療法がもたらす有害な副作用からの回復を促進するための医薬製品の使用に関する。
【0003】
2.技術背景
尿意ひっ迫とも称される過活動膀胱(OAB)は、米国人口で、男性および女性両方のおよそ16%を苦しめる、処置可能な医学的状態である。症状は排尿回数、尿意切迫、夜間多尿(すなわち、夜間に排尿を要する)および突発的な排尿の必要性による偶発的な失禁(切迫尿失禁)を含む。切迫尿失禁は、通常、排尿筋過活動に関連する。
【0004】
過活動膀胱は男性より女性に多く影響を与える(2.0%〜19.0%に対して0.3%〜8.9%)。それはまた、高齢の患者、例えば、44歳以上の女性および64歳以上の男性により多く見られる。莫大なOAB費用が存在し、それらはパッド使用、薬物療法、カテーテル、医師の時間、外来患者および入院患者診察ならびに生産性の喪失に関する。ドイツにおけるある研究はOABの費用が一年あたりほぼ35億7千万ユーロであることが分かった。
【0005】
しかし、OABに関連する懸念は費用のみではない。腎石の高いリスクおよび敗血症の可能性さえ付随し得るより高い尿路感染(UTI)の発生率を含む健康への影響が、さらに存在する。OABはまた、クオリティ・オブ・ライフ、睡眠の質、生産性および患者のメンタルヘルスに有害な影響を与える。関連する併存症および合併症は、転倒、成人おむつ皮膚炎およびうつ病または不安を含む。ある疾病コストモデルは、OABの負担の年間費用は659億ドルであると予測した。
【0006】
OABは、過活動膀胱症状に多くの原因または類似症状がある困難な状態である。このような原因または類似する症状は、神経性傷害(例えば、脊髄傷害または卒中)、神経疾患(例えば、多発性硬化症、認知症、パーキンソン病、髄質病変、糖尿病性ニューロパチーなど)、感染(例えば、尿路感染または間質性膀胱炎)、心臓状態(例えば、うっ血性心不全または利尿剤の使用)およびその他多数(例えば、膀胱結石、宿便、糖尿病、膀胱癌または上皮内癌など)を含む。
【0007】
OABは困難な状態であるため、経口薬を用いた処置は容易ではない。米国食品医薬品局により承認され、BOTOX(登録商標)(Allergan、アーバイン、カリフォルニア州、米国;本明細書において「BOTOX」という)を含む多くのブランド名のもと入手可能なA型ボツリヌス毒素またはオナボツリヌストキシンAは、膀胱機能不全およびより具体的には、過活動膀胱(OAB)の状態に対して許容され、承認された。実際には、その療法は難治性過活動膀胱(ROAB)と表現される患者の一部に使用される。さらに、いくつかの臨床治験が、OABの処置においてBOTOX製剤または新規の薬物送達レジメンをさらに評価するために現在進行中である:臨床治験番号NCT00583219、膀胱内注入(ボツリヌス毒素A、DMSO)による送達についてMayo Clinicによる支援;番号NCT03052764、1週間間隔を空けて2回の注射についてAllerganによる支援;番号NCT03385460、ショックウェーブを用いた膀胱内注入についてAllerganによる支援;番号NCT03320850、RTGelTMとの混合物を用いた膀胱内注入についてAllerganによる支援;番号NCT01167257、リポトキシン(リポソーム封入BOTOX)を用いた膀胱内注入についてBuddhist Tzu Chi General Hospitalによる支援;番号NCT02735499、electromotive drug application (EMDA)を用いた膀胱内注入について、Hospital of Vestfold, Norwayによる支援;および番号NCT02674269、BotuGelTMおよび/またはRTGELTMBOTOXを用いた膀胱内注入についてUrogen Pharma社による支援。ある臨床治験により、現在、間質性膀胱炎における使用が評価されている:臨床治験番号NCT01997983、3TC-Geを用いた膀胱内注入による送達についてUrogen Pharma社による支援)。
【0008】
臨床診療において、処置は一般に、行動的または物理的介入により開始し、これらが好ましくないと分かったならば、その後薬理学的処置(抗コリン作用性剤およびより新しいβ−3 アゴニスト)が処方される。これはOAB患者の約20%の小集団を占める。これらの薬物はしばしば、効果的ではなく、2年後、服薬を継続している患者のわずか6〜12%との著しい割合の不履行がある。口渇および便秘のような望まない副作用もまた、存在する。第一選択の薬理学的療法に応答しない患者は、「難治性過活動膀胱」を有すると考えられる。第二選択の処置は、埋め込み型デバイスによる仙骨神経刺激、経皮的後脛骨神経刺激(複数回の毎週の来院)およびオンコボツリヌスA(膀胱へのBOTOX注射など)が含まれる。BOTOXを用いたROABの処置に推奨される用量は、100単位のBOTOXである。推奨される希釈は、防腐剤を含まない0.9% 塩化ナトリウム注射、USPで100単位/10mLである。BOTOX処置はまた、時間と共に減退し、患者は再注射を検討できる。二重盲検、プラセボ−対照臨床試験での再処置に適格である中央期間は、200単位のBOTOXについては295〜337日(例えば、42〜48週間)であるが、前回の膀胱注射から12週間より早くなかった。
【0009】
難治性OABの処置において、再構成されたBOTOX(100単位/10mL)を柔軟なまたは剛直な膀胱鏡を介して、膀胱の頂部を通して20〜30部位で、膀胱管腔内から排尿筋に注射する(排尿筋内注射、図1を参照)。しかし、処置前に、医師は麻酔を投与して膀胱を麻痺させ、注射のために十分な視覚化を達成するために膀胱に食塩水を注入する。神経性OAB(原因が脳、脊髄または神経状態に由来するもの)に対する推奨用量は200単位である。
【0010】
BOTOXは、麻痺性運動麻痺を引き起こし、これはコリン作動性運動神経末端からのアセチルコリンが、筋肉を興奮させるために放出されないためである。アセチルコリンは、排尿筋収縮を担うと考えられている。排尿筋に注射されたとき、BOTOXはエンドサイトーシスを経て前シナプス神経末端により取り込まれ、SNAREタンパク質複合体に結合し、アセチルコリンの結合およびその後の前シナプス神経末端からの放出を妨害する。これは膀胱排尿筋中のムスカリン受容体の刺激を妨害する。このようにBOTOXを用いた処置には有害作用が伴う。
【0011】
BOTOXは、2016年に発表された対面臨床試験のインプラントよりも有効性が高いことがわかったが、BOTOXは尿路感染症のリスクが極めて高かった。インプラントを有する女性の11%と比較して、BOTOXを投与された女性の尿路感染の発生率は35%であった。
【0012】
さらに、Allerganの臨床治験は、BOTOXで処置した552名の患者の中で、6%の尿閉発生率を示した。これらの患者は一時的に、自力で自身の膀胱を完全に空にすることができず、膀胱を自力で空にすることができるまで、膀胱を空にするために自己カテーテル法を必要とした。神経学的状態により影響を受けた患者において、自己カテーテル法の割合は、プラセボで処置した患者の6.7%(7/104)と比較して、BOTOX 200単位で処置した患者の30.6%と高かった。排尿困難が約10%の患者で経験されることを示唆する他の報告も存在する。
【0013】
尿閉の開始は、典型的に、注射後5〜10日に有効性の開始と一致する。尿閉の期間は様々であり、一部患者は数日間のカテーテル法しか必要とせず、その他の患者は、BOTOXの作用持続期間の間、その状態が持続する。100単位のBOTOXを投与された女性の群について兵尿をモニタリングし、5%の女性は2か月間保持が持続し、3%の女性は4か月間保持が持続し、1%の女性は6か月間保持が持続した。
【0014】
尿閉は、カテーテルを用いて、例えば、清潔間欠的自己カテーテル(CISC)を用いて物理的な膀胱ドレナージにより管理される。CISCは現在、尿閉管理のための至適基準であると考えられている。膀胱を空にできないと、患者は重大な合併症、例えば、尿意ひっ迫、頻尿、夜間多尿、失禁、尿路感染(UTI)再発のような合併症に曝されることがある、膀胱結石、上部尿路変化および腎機能障害にもさらされることがある。それにもかかわらず、CISCを開始するための患者による著しい抵抗が存在する。内部障壁は、身体的および心理学的因子から、重要性の理解、患者の処置の認知およびその影響に及ぶ。固守に影響を与え得る外的因子は、説明の質、監督、安心および経過観察を含む。結果として、BOTOX注射を受ける予定であるならば、患者はCISCを実施することまたはCISCの可能性を許容することができなければならず、かつ自ら進んでそうしなければならない。
【0015】
一般に、BOTOX注射の12週間以内に生じるOABについて最も頻繁に報告される有害反応は、尿路感染(プラセボで6%に対して18%)、排尿障害(プラセボで7%に対して9%)、尿閉(プラセボで0%に対して6%)、細菌尿(プラセボで2%に対して4%)および残尿量(プラセボで0%に対して3%)を含む。神経学的状態に関連するOABについて、BOTOX注射の12週間以内に最も頻繁に報告される有害反応は、尿路感染(プラセボ17%に対して24%)、尿閉(プラセボ3%に対して17%)、および血尿(プラセボ3%に対して4%)を含む。
【0016】
ウェブのレビューによれば、BOTOX処置に関連する副作用のため、患者満足度はせいぜい最低限であり、10名の患者のうち満足したのは6名未満であった。最も多い患者の不満は、時には単回処置後数年間、排尿できないことおよびカテーテルへの依存を終了できないことに集中している。結果として、OABに対するBOTOX療法を受けるとき、副作用を最小限にし、かつ患者満足度を高める必要性が存在する。
【発明の概要】
【0017】
本発明者らは、救援剤の局所投与が副作用からの回復を加速するために使用され得ることを見出した。さらに、末梢に作用する神経毒は血液−脳障壁を通過せず、それ自体患者に対して本質的に与えるリスクは少ない。抗コリンエステラーゼの局所投与はさらに、救援剤による副作用についての可能性を制限する。具体的には、本発明者らは、抗コリンエステラーゼ逆転剤の局所送達が、過活動膀胱の症状を管理するためのボツリヌス毒素を用いた処置後の尿閉を軽減するために有効であることを見出した。
【0018】
このように、ある態様において、本発明は処置を必要とする患者におけるボツリヌス毒素療法の副作用を軽減する方法を提供する。一般に、患者は過活動膀胱または尿意ひっ迫を処置するためにボツリヌス毒素を投与されている。このような方法は、ボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉への1以上の抗コリンエステラーゼの局所投与を含む。
【0019】
本明細書に記載される発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼ、限定されないが、ネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミンおよびそれらの組合せを含む。本明細書に記載される発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼはピリドスチグミンである。本明細書に記載される発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼはリバスチグミンである。
【0020】
別の態様において、本発明は、患者における本明細書に記載の発明ボツリヌス毒素療法の副作用を軽減するための1以上の抗コリンエステラーゼの使用を提供する。1以上の抗コリンエステラーゼはボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉へ局所投与される。
【0021】
本明細書に記載される発明の使用のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは、限定されないが、ネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミンおよびそれらの組合せを含む。本明細書に記載される発明の使用のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼはピリドスチグミンである。本明細書に記載される発明の使用方法のある実施態様において、以上の抗コリンエステラーゼはリバスチグミンである。
【0022】
添付の図面は本発明の方法および組成物をさらに理解するために包含され、本明細書に包含され、そして本明細書の一部を構成する。図面は本発明の1以上の実施態様を示し、記載とともに本発明の原理および操作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】過活動膀胱の治療のための排尿筋内注射の注射パターンと、注射用BOTOXの添付文書(Allergan、アーバイン、カリフォルニア州、米国)で提供される神経学的状態に関連する排尿筋過活動を示す。
図2】膀胱壁の解剖学的構造を示す
図3図3Aはピリドスチグミンによる膀胱条片における力生成のBOTOX阻害からの回復を示す。データは100分の時点で生成された力に対して正規化された経時的な平均±SEMを示す。齧歯類から切り取られた条片を100分の時点で4つの単位のBOTOXに暴露し、2時間インキュベートした。別の一組の条片はBOTOXに曝露させなかった。記録を再開し、力の低下をさらに90分間測定し、ここで条片を0.5mMのピリドスチグミン(Pyr、n=4)またはビークル(Vehicle、n=3)に暴露させた。図3Bは、t=100(ベースライン)、t=315分(段階I、BOTOX後)およびt=425分(段階II、Pyr後、回復)の各々の時点で生成された力の平均±SEMを表す。図3Cは、膀胱条片からの力の追跡の代表例である。追跡は5秒間の電気フィールド刺激(EFS)で開始し、3分間記録する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
開示された方法および材料を記載する前に、本明細書に記載の態様は特定の実施態様、装置または構成に限定されず、当然、変化し得ると理解される。本明細書で使用される用語は、特に本明細書で定義されない限り、特定の態様のみを記載することを目的とするものであり、限定することを意図しないこともまた、理解される。
【0025】
本明細書により、文脈から他の解釈が必要でない限り、「含む(comprise)」および「含む(include)」およびその変型(例えば、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」および「含む(including)」)は、記載された成分、特徴、要素もしくは段階または成分、特徴、要素もしくは段階の群を含むことを示すが、いずれかの他の整数もしくは段階または整数または段階の群を排除することを示さないこともまた、理解される。
【0026】
明細書および添付の特許請求の範囲に記載されるように、単数形「ある(a)」「ある(an)」および「その(the)」は、文脈で特に明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0027】
本明細書において、範囲は「約」一方の特定の値から、および/または「約」もう一方の特定の値として表現され得る。このような範囲が表現されるとき、別の態様は一方の特定の値からおよび/または他方の特定の値までを含む。同様に、先行の「約」の使用により値が近似値として表現されるとき、その特定の値は別の態様を形成すると理解される。範囲の各々の終点は、他方の終点と関係して、および他方の終点と独立して両方において意味がある。
【0028】
「有効量」とは、対象に投与したとき、本明細書に記載の状態の処置を達成するために十分な化合物の量をいう。「有効量」を構成する化合物の量は、化合物、障害およびその重症度および処置される対象の年齢により変化するが、当業者により規定通りに決定され得る。
【0029】
本明細書で使用される用語「除神経」、「化学的除神経」または「化学除神経」は、薬剤(例えば、化学化合物)により引き起こされる神経分布の喪失(すなわち、神経伝達の遮断)を意味する。
【0030】
用語「非侵襲的」とは、組織または膀胱壁の破壊(例えば、注射または切開しない)または組織の除去を必要としない医学的方法をいう。一般に、非侵襲的方法は組織に対して傷害を全くもたらさない。対照的に針注射は穿刺するデバイスであるため、侵襲的な医学的方法である。
【0031】
用語「膀胱内注入」とは、注射により膀胱筋肉を穿刺することなく、カテーテルにより医薬を含む所望の溶液に膀胱を曝露させ、膀胱を満たす方法をいう。
【0032】
本発明について、本明細書に記載の方法および活性物質は、必要な要望を満たすために当業者により構成され得る。一般に、開示された方法および物質は、ボツリヌス毒素療法の副作用を軽減するための、影響を受けた患者への抗コリンエステラーゼの標的化された、局所的な非経腸または膀胱内投与を提供し、ここで患者は過活動膀胱または尿意ひっ迫を処置するためにボツリヌス毒素を投与されている。
【0033】
例えば、いくつかの実施態様において、本発明の方法はBOTOXの使用に関連する望ましくない副作用、例えば、筋肉ブロッカーへの過剰応答による副作用をもたらす。一般に、現在、BOTOXの意図しない有害作用を安全に軽減する療法は存在しない−唯一の選択肢は、薬物の効果が収まるまで、時には数週間から数か月待つことである。本発明者らは、抗コリンエステラーゼはそれら自体の副作用のため、一般的に、生命にかかわらない状況での使用は推奨されないが、BOTOXの有害作用の軽減に有用であることを見出した。従って、本発明は抗コリンエステラーゼの標的投与に関する。具体的には、本発明者らは、抗コリンエステラーゼは標的投与により、および/または罹患した組織のみに最小限の用量で投与することにより使用され得ることを見出した。
【0034】
ある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼの局所注射(例えば、膀胱壁への注射)は、本発明の方法において有用である。
【0035】
ある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼの製剤は、膀胱内注入による投与である。例えば、ある実施態様において、膀胱内注入に適切な製剤は、1以上の抗コリンエステラーゼおよび1以上の粘膜付着剤および/または1以上の浸透強化剤を含む。他の実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは、膀胱内注入に適切な持続放出製剤に処方され得る。他の実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは医療デバイスによる送達に適切な製剤に処方され得る。
【0036】
神経毒ボツリヌスは、美容的および医学的方法の広い範囲で使用される。OABの処置において、多くの望ましくない副作用が存在する。神経毒は神経筋結合部でのAChの放出を遮断するために作用する。抗コリンエステラーゼは、内因性AChEを分解することにより間接的にAChを増加させるために作用する。ACh受容体部位へのAChの結合は、筋肉伝達を維持することが必要である。遮断の深さは自然回復を加速する抗コリンエステラーゼの有効性を左右する重要な因子である。回復または筋肉の再活性化を生じさせるために、AChが存在する必要がある。本明細書で使用される用語「遮断の深さ」とは、後シナプス受容体の占有レベルをいう。商業的使用におけるボツリヌス毒素により誘発される麻痺および拡散の性質により、部分的化学的除神経および/または自然回復が生じる。従って、ブロックの状態または深度は回復速度を決定する。本発明者は、末梢作用性抗コリンエステラーゼが回復時間を加速させる神経毒救援剤として使用され得ることを見出した。本発明者は、抗コリンエステラーゼの投与のタイミング、抗コリンエステラーゼの濃度および投与期間が救援処置の有効性における重要な要素であることを見出した。
【0037】
従って、ある態様において、本発明は処置を必要とする患者におけるボツリヌス毒素療法の副作用を軽減する方法であって、ここで前記患者が過活動膀胱または尿意ひっ迫の処置のためにボツリヌス毒素を投与されていたものである、方法を提供する。このような方法は、ボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉への1以上の抗コリンエステラーゼの局所投与を含む。
【0038】
ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)および関連する種により産生される神経毒タンパク質である。ボツリヌス菌株はA〜G型として命名される7種の異なる神経毒素を産生する。7つの型全ては同様の構造および分子量を有し、ジスルフィド結合により結合した重(H)鎖および軽(L)鎖から成り、それらは全て、アセチルコリンの放出のブロックにより神経伝達を妨げる。従って、ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型、B型、E型およびF型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型およびB型の1以上を含む。ある実施態様において、本発明のボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素(オナボツリヌストキシンA、インコボツリヌストキシンA、アボボツリヌストキシンA、BOTOX(登録商標)またはDYSPORT(登録商標)としても知られる)である。A型ボツリヌス毒素製品の作用機序は類似するため、当業者は他の同程度のボツリヌス神経毒素が使用され得ることを認識する。
【0039】
本発明の方法は、抗コリンエステラーゼを含む組成物を必要とする。抗コリンエステラーゼ(すなわち、コリンエステラーゼ阻害剤)は、非可逆性である有機リン化合物および可逆性であるカルバメートの2つに分類される。前者は一般的により高い毒性、より長い作用時間を有し、しばしば中枢神経系(CNS)毒性と関連する。可逆性抗コリンエステラーゼは広範な適応症について医薬における適用が見出された。例えば、いくつかの可逆性抗コリンエステラーゼは血液脳関門を通過してCNSに到達できるため、アルツハイマー病の処置に使用される。
【0040】
いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼは可逆性抗コリンエステラーゼである。いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼはカルバメート、三級アンモニウムおよび四級アンモニウムから選択される1以上の基を有する可逆性抗コリンエステラーゼである。
【0041】
抗コリンエステラーゼの選択はまた、投与方法(例えば、標的投与)および特定の抗コリンエステラーゼの特性に依存する。標的投与は、下記の詳細に含まれる。
【0042】
いくつかの実施態様において、フィゾスチグミン、ネオスチグミン、アムベノニウム、ピリドスチグミン、アムベノニウム、デメカリウム、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、7−メトキシタクリン、エドロホニウム、ヒューペルジンA、ラドスチギルおよびそのいずれかの誘導体および組合せの1以上から選択される。
【0043】
いくつかの実施態様において、本発明の抗コリンエステラーゼは:
【0044】
【化1】
およびそれらの組合せの1以上から選択される。
【0045】
本発明のある実施態様において、抗コリンエステラーゼはネオスチグミン、エドロホニウム、ピリドスチグミン、フィゾスチグミン、リバスチグミンおよびそれらの組合せである。本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼはピリドスチグミン、ネオスチグミン、エドロホニウム、リバスチグミンまたはその組合せである。
【0046】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼはピリドスチグミンである。ピリドスチグミンは脂質可溶性ではなく、それ自体は末梢作用性である。この性質は筋肉に関連する状態における使用を望ましくする。ピリドスチグミンはまた、徐脈および不整脈の発生がより少ないため、ネオスチグミンと比較してより安定である。
【0047】
本明細書に記載される発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼはリバスチグミンである。リバスチグミンは脂溶性であり、皮膚または膀胱壁のようなタンパク質障壁を通過する高い親和性を有する。
【0048】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは式(I):
【化2】
〔式中、
YはCRまたはNであり、ここでXはハロゲンであり;
は水素、C−Cアルキル、−CO(OH)、−CO(C−Cアルコキシ)、−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)および−CON(C−Cアルキル)から選択され;
は水素であるか、またはRおよびRは、一体となって場合により置換されていてよいヘテロ環を形成する原子であり;
はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ヒドロキシC−Cアルキル、アミノC−Cアルキル、(C−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、(ジC−Cアルキルアミノ)C−Cアルキル、C−CアルコキシC−Cアルキル、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)、−N(C−Cアルキル)および−N(C−Cアルキル)から選択され;そして
はC−Cアルキル、ヒドロキシC−Cアルキル、またはC−CアルコキシC−Cアルキルから選択される〕
の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0049】
いくつかの実施態様において、式(I)の化合物はYがCのものである。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物はYがNのものであるか、またはYがNBrまたはNClのものであるか、またはYがNBrのものである。
【0050】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、Rが水素、C−Cアルキル、−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)および−CON(C−Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが水素、−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)、および−CON(C−Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが水素である。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが−CO(NH)、−CONH(C−Cアルキル)、または−CON(C−Cアルキル)である。いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、Rが−CON(C−Cアルキル)である。
【0051】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、Rが水素である。いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、RとRが一体となり、結合して場合により置換されていてよいヘテロ環を形成する。いくつかの実施態様において、ヘテロ環は、場合によりハロゲン、C−Cアルキル、C−Cハロアルキル、C−Cアルコキシ、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)、または−N(C−Cアルキル)の1以上で置換されていてよい。いくつかの実施態様において、ヘテロ環はオクタヒドロピロロ[2,3−b]ピロールまたはピロリジンであり、それぞれ場合によりハロゲン、C−Cアルキル、C−Cハロアルキル、C−Cアルコキシ、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)または−N(C−Cアルキル)の1以上で置換されていてよい。いくつかの実施態様において、ヘテロ環は、場合によりハロゲン、C−Cアルキル、C−Cハロアルキル、C−Cアルコキシ、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)または−N(C−Cアルキル)の1以上で置換されていてよいオクタヒドロピロロ[2,3−b]ピロールである。
【0052】
いくつかの実施態様において、前記実施態様のいずれかに記載の式(I)の化合物は、RがC−Cアルコキシ、−OH、−NH、−NH(C−Cアルキル)、−N(C−Cアルキル)および−N(C−Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、RはC−Cアルコキシおよび−OHから選択される。いくつかの実施態様において、Rは−NH、−NH(C−Cアルキル)、−N(C−Cアルキル)および−N(C−Cアルキル)から選択される。いくつかの実施態様において、Rは−N(C−Cアルキル)である。いくつかの実施態様において、Rは−N(C−Cアルキル)Brまたは−N(C−Cアルキル)Clである。
【0053】
ある実施態様において、本発明の方法は組成物の標的投与を含む。作用部位への標的投与は、抗コリンエステラーゼの有効性を強化し得る。影響を受けた組織に局所活性抗コリンエステラーゼ濃度を増加させることにより、身体の他の領域への曝露を最小限にしながら、あらゆる抗コリンエステラーゼの毒性が低減され得る。局所投与は肝臓初回通過代謝およびいくつかの抗コリンエステラーゼが関連する消化管副作用を回避する。さらに、総抗コリンエステラーゼ用量を著しく低下させ、それにより患者曝露および標的外全身副作用が低減され得る。ある実施態様において、本発明の方法は、抗コリンエステラーゼ類の薬物(例えば、生命にかかわる状態における使用についてのみ示された抗コリンエステラーゼ)の使用を可能にする。本発明のある実施態様において、組成物は影響を受けた筋肉に直接投与される。
【0054】
現在、最も一般的な膀胱への投与方法は、経口投与である。他の方法は、局所投与を含む。活性剤の膀胱への局所投与は、例えば、排尿筋内注射または膀胱内注入を用いて達成され得る。排尿筋内注射は膀胱壁または膀胱筋肉への注射である。
【0055】
膀胱内注入は、膀胱への溶液の送達、例えば、注射することなく膀胱へ活性剤を局所送達する方法である。注入のためのこのような溶液または製剤は、経粘膜送達を促進させる薬剤を用いて最適化され得る。膀胱内注入は、排尿筋内注射と比較して非侵襲的である。近年、注射することなく膀胱へ活性剤を直接的に投与することに対して、注目が大きくなっている。このような投与は疼痛、血尿、排尿後の多くの残尿または尿路感染を回避し得る。
【0056】
本発明の方法のある実施態様において、投与は膀胱内注入によるものである。このような投与は、ある実施態様において、膀胱内での1以上の抗コリンエステラーゼの滞留時間を延長する。ある実施態様において、滞留時間は医療デバイスにより延長される。ある実施態様において、滞留時間は1以上の抗コリンエステラーゼを薬剤と製剤または共投与することにより延長される。このように、いくつかの実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは膀胱壁への浸透を促進するための薬剤と製剤される。いくつかの実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは膀胱壁への浸透を促進するための薬剤と共投与される。いくつかの実施態様において、前記薬剤は粘膜付着剤であり得る。理論に縛られることを望まないが、滞留時間を延長するため、または抗コリンエステラーゼと膀胱壁を接触させるために働くと考えられる。
【0057】
膀胱は、その機能が尿の貯留および排出である凹窩平滑筋骨盤器官である。膀胱壁の解剖図を図2に示す。膀胱壁は、粘膜と称される最も奥の部分、中間の直腸固有筋層(排尿筋)および外側の外膜/漿膜層からなる所定の層を有する。不透過性は、上皮または尿管上皮、ならびにグリコサミノグリカン(GAG)に関連する。結果として、膀胱への投与は、膀胱壁に適した物理的特徴、ならびに膀胱の拡張および収縮により試みられる。この弾性の器官は尿で満たされている(例えば、500mLの通常の容量)。従って、活性剤は尿と共に内部混合、希釈および排出されるため、ウォッシュアウトされ得る。
【0058】
活性剤の投与への多様なアプローチは膀胱透過障壁を克服するために使用され得る。障壁課題を克服するための戦略は、薬物自体の修飾を含む。例えば、抗コリンエステラーゼ、リバスチグミンは親油性であり、膜障壁をより良好に通過すると考えられる。抗コリンエステラーゼの基本的構造は、分子電荷を変化させるように、または浸透強化製剤を含むように、または浸透強化分子へ結合するように修飾され得る。いくつかのアプローチは、例えば粘膜付着剤を含む製剤に限定されないが、膀胱内での滞留時間を延長させる。
【0059】
粘膜付着剤のある例は、ペクチンである。ペクチンは粘膜結合ゲル(すなわち、粘膜付着剤)を形成するように作用する。ペクチンは天然の、非毒性かつ非刺激成分であり、鼻腔内フェンタニルの投与に使用されている。
【0060】
RTgelTMのような逆温度感受性ヒドロゲルが、臨床開発中である。それらの目的は、体温でゲルに凝固させることにより、膀胱内薬物の滞留時間を延長することである。同様に、粘膜付着性の担体は、膀胱上皮に付着することにより、滞留時間を延長する。例えば、キトサンは、現在調査がされている主な薬剤であり、この目的について評価されている。キトサンは非毒性であり、生分解性であり、天然に存在するポリサッカライドである。正に荷電したキトサンは、負に荷電した上皮膜に結合し、そのため細胞結合を再配列し、浸透性を向上させると考えられる。ポリマー性ヒドロゲル、例えば、PEG−PLGA−PEG温度感受性ポリマーは、インサイチュのゲル化系として使用され得る。
【0061】
浸透強化剤は、尿路上皮の密接な充填を一時的に崩壊させる;浸透強化剤の例は、キトサン、ヒアルロナン−ホスファチジルエタノールアミン(HA−PE)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロタミン硫酸塩、アルコール、塩化ベンザルコニウム、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、Tween 80(登録商標)など)を含む。リポソームのようなナノ担体、ゼラチンナノ粒子、ポリマー性ナノ粒子、磁性粒子もまた、輸送を強化するために使用され得る。
【0062】
本発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは、界面活性剤、例えば、ポロキサマー407を含む1以上の浸透強化剤と製剤される。商標Pluronic(登録商標) F127としても知られるポロキサマー407は、ポリオキシプロピレン(POP)の疎水性残基とポリオキシエチレン(POE)の2つの親水性単位から成る水溶性の、非イオン性三元ブロックコポリマーである。
【0063】
膀胱内薬物の滞留時間を延長するために、膀胱に埋め込み、長時間その場に設置される膀胱内抗コリンエステラーゼ送達デバイスが使用され得る。これは膀胱粘膜が抗コリンエステラーゼに曝露される時間を延長する。Taris BioMedicalにより開発途中のあるこのようなデバイスは、既知量の薬物を経時的に放出することができる埋め込み型マイクロ輸液ポンプである。このデバイスは尿道留置カテーテルにより尿道を通じて膀胱に挿入され、院内での治療後に膀胱鏡検査により摘出される。
【0064】
当業者は、膀胱への送達のために製剤された1以上の抗コリンエステラーゼの濃度または用量は、直接的な注射の実施ための製剤または用量より多い必要があることを認識する。高い方から低い方への濃度勾配により薬物流動が一部制御される、平衡状態への駆動力により拡散が制御される。ある実施態様において、膀胱内注入の抗コリンエステラーゼの絶対用量/濃度は、排尿筋内注射についての抗コリンエステラーゼ用量/濃度より10〜100倍高くてよい。ある実施態様において、注入体積は、約10mL〜約60mLの範囲である。ある実施態様において、滞留時間は2秒〜20分の範囲である。
【0065】
作用機序
ボツリヌス毒素には7種の血清型(A−G)が存在し、下部尿路症状を処置するためにFDAに承認された製品は、A型ボツリヌス毒素のみである。数種類の神経毒ボツリヌス毒素Aの専売薬が存在する。最も試験がされた2つの製品は、オナボツリヌストキシンA(BOTOX(登録商標)、Allergan社、アーバイン、カリフォルニア州、米国)およびアボボツリヌストキシンA(DYSPORT(登録商標)、Ipsen Biopharm社、Slough、英国)である。
【0066】
BOTOXはアセチルコリン放出阻害剤であり、かつ神経筋遮断剤である。BOTOXは重鎖および軽鎖から成る。重鎖は毒素を前シナプスコリン作動性神経末端に選択的に結合させ、一方で軽鎖はアセチルコリン小胞の放出を妨害する。時間とともに、新たな神経末端の出芽が起こり、結果的に元の終板は機能を回復する。従って、筋収縮の阻害は一時的なものである。BOTOXは運動または自律神経末端上の受容体部分に結合し、神経末端に移行し、そしてアセチルコリンの放出を阻害することにより神経筋伝達を遮断する。この阻害は、良好なドッキングおよび神経終末内に位置する小胞からのアセチルコリンの放出に不可欠なタンパク質であるSNAP−25を神経毒が開裂させたときに生じる。治療用量で筋肉内注射したとき、BOTOXは、筋肉活動における局所的な減退をもたらす筋肉の部分的な化学的除神経をもたらす。さらに、筋肉は委縮し得て、軸索新芽形成が生じ得て、そして接合部外のアセチルコリン受容体が発達し得る。筋肉の神経再支配が生じ得て、そのため、BOTOXにより生じた筋肉除神経がゆっくりと回復するという証拠が存在する。排尿筋内注射後、BOTOX(登録商標)はアセチルコリン放出阻害により排尿筋活動の遠心性経路に影響を与える。
【0067】
末梢神経と筋肉細胞間の伝達のために初期に重要である神経伝達物質は、アセチルコリン(ACh)である。この過程は、筋収縮を可能にする。神経筋遮断剤はまた、AChと競合する。ACh結合が阻害されるとき、筋収縮は遮断される。BOTOXが神経ペプチド放出を阻害することにより、および発生頻度を低下させることにより求心性感作を低減し得るという、初期の実証もまた、存在する。これは尿意ひっ迫におけるその有効性に寄与し得る(Youko et al. (2012) European Neurology 62:1157-1164)。
【0068】
神経筋ブロッカーは、制御された、一時的な麻痺状態を発生するために手術で使用されてきた。一般に、これらの薬物は経口吸収が乏しく、脂溶性が乏しく、非経腸的に投与される。麻酔で使用されるとき、これらは「高度に注意が必要な」薬であると考えられる。手術中、遮断を回復する薬物は、緊急な使用のために直ぐに利用可能でなければならない。抗コリンエステラーゼはこの場面において、拮抗薬として使用される;しかしながら、拮抗薬はしばしば、副作用を制御するために別の薬剤(抗ムスカリン)とともに使用される。抗コリンエステラーゼはアセチルコリンエステラーゼ酵素がアセチルコリンを崩壊させることを阻害し、そのため、AChの蓄積に寄与する。
【0069】
局所処置のための抗コリンエステラーゼ投与
標的投与(例えば、注射によるもの)の局所的な性質を考慮すると、有効用量は経口または静脈内投与のいずれかより少なくとも一桁低い。例えば、0.1〜2mgの送達用量が、十分であり得る。
【0070】
経口用量のIV用量への変換のための一般的な指針は、経口用量の1/30を患者に与えることである。IV投与と比較して、標的投与は組織へ直接的に注射するため、投与は0.1mg程度と低い、あるいは筋弛緩の回復に必要な用量の最大1/10であり得る。
【0071】
特定の実施態様において、低用量は前記抗コリンエステラーゼの経口または静脈内使用について投与するとき(他の治療指標についての通常投与)の臨床的用量の抗コリンエステラーゼの約4/5〜約1/50である。いくつかの実施態様において、低用量は経口または静脈内臨床用量の約1/5〜約1/50、または経口もしくは静脈内臨床用量の約1/5〜約1/20、または約1/5〜約1/10、または約1/10〜約1/50、または約1/20〜約1/50、または約1/10である。
【0072】
膀胱筋肉に直接的に注射しない、局所アプローチにおける投与は、高用量の医薬を必要とする。バイオアベイラビリティは、膀胱へ送達される有効用量を低減する。例えば、0.1mgの所望の量に対して、生物学的に利用可能であるのはわずか20%であり、従って、実際に送達される用量は0.5mgである。残りの0.4mgの活性剤は、ウォッシュアウトにより失われる可能性がある。
【0073】
注入の用量および体積は変化し得る。例えば、20mL 体積の注入において、100〜150mg/20mLの用量の臭化ピリドスチグミンが使用され得る。用量は下記のとおり製剤の詳細により、変化し得る。
【0074】
ある実施態様において、臨床用量の抗コリンエステラーゼの経口または静脈内使用(他の治療適応症に対して通常投与される量)について投与されるとき、より高用量は、前記抗コリンエステラーゼの約5/4〜約50/1である。いくつかの実施態様において、高用量は、経口または静脈内臨床用量の約5/1〜約50/1の、または経口または静脈内臨床用量の約5/1〜約20/1、または約5/1〜約10/1、または約10/1〜約50/1、または約20/1〜約50/1、または約5/1である。
【0075】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは約0.05〜0.5mg/kgの用量で、または約0.15〜0.25mg/kgの用量で、または約0.2mg/kgの用量で投与される。抗コリンエステラーゼの具体的な用量は、膀胱の表面積または体積(例えば、処置される膀胱の相対的な面積を間接的に測定して使用する)、または当分野で知られるボツリヌス毒素注射について提供される何らかの投与指針に基づいて個体に適合させて良い。具体的な投与量はまた、応答の指標として針筋電図ガイダンスまたは神経刺激のような方法を用いて、体格に基づいて適合させて良い。当業者は、他の因子の中でもとりわけ、抗コリンエステラーゼの活性、抗コリンエステラーゼのバイオアベイラビリティ、その代謝動態および他の薬物動態特性、投与様式ならびに様々な他の因子に応じて、投与量がより高くなる、または低くなることを認識する。当業者はまた、抗コリンエステラーゼが望まない副作用を引き起こすような体循環への浸潤または拡散ではない方法で投与されるべきであることを認識する。
【0076】
本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは神経毒(例えば、ボツリヌス毒素)の直後に投与され得る。例えば、抗コリンエステラーゼは、神経毒の少なくとも1分後、または少なくとも2分後、または少なくとも5分後、または少なくとも10分後、または少なくとも30分後に投与され得る。本発明のいくつかの実施態様において、抗コリンエステラーゼは、神経毒(例えば、ボツリヌス毒素)のしばらく後に投与され得る。例えば、抗コリンエステラーゼは、神経毒の少なくとも1時間後、または少なくとも6時間後、または少なくとも24時間後、または少なくとも2日後、または少なくとも3日後、または少なくとも4日後、または少なくとも5日後、または少なくとも6日後、または少なくとも7日後に投与され得る。
【0077】
当分野において知られるように、膀胱への活性剤の投与は、膀胱表面を通過する拡散速度、拡散濃度および温度、さらに、膀胱壁の表面領域と接触する活性剤の曝露時間により影響を受ける。
【0078】
臨床的使用の考察
ボツリヌス毒素療法後の患者における尿閉の観察は、典型的に、療法後一週間まで診断されない。臨床報告によると、治療の完全な開始は、しばしば主観的であり、7〜30日の間で変化し得る。35名の患者の評価によれば、最大の改善は平均8.3日(2〜20日の範囲)まで証明されない((Rapp et al. (2007) International Braz J Urol 33(2):132-141)。通常の慣行において、患者は尿閉の有害な影響に気付くおよび/または泌尿器科医が診断する何れかの後、救援療法を推奨する。
【0079】
本明細書に記載される本発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは注射(例えば、膀胱壁または排尿筋への注射)により投与される。
【0080】
本明細書に記載される本発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼは膀胱内送達により投与される。例えば、1以上の抗コリンエステラーゼはBOTOXの膀胱内送達のために現在使用される方法と類似の方法で製剤される。適切な例は、限定されないが、製剤臨床治験で使用される製剤を含む。
【0081】
ある実施態様において、本明細書に記載される本発明の方法はさらに、投与された1以上の抗コリンエステラーゼの浸透を強化することを含む。障壁膜を崩壊させることにより薬物浸透を強化するために使用され得る医療デバイスまたは技術の例は、限定されないが、ショックウェーブまたは起電力を含む。
【0082】
標的投与
上記のように、本明細書に記載される本発明の方法は、1以上の抗コリンエステラーゼをボツリヌス毒素により除神経された膀胱筋肉に投与することを含む。従って、このような投与は作用部位に対して標的化され、1以上の抗コリンエステラーゼの有効性を強化し得る。ある実施態様において、影響を受けた組織への1以上の抗コリンエステラーゼの局所濃度を増加させることにより、身体の他の領域への曝露を最小限にし、それにより毒性を低減する。ある実施態様において、標的投与は、一般に抗コリンエステラーゼに関連する肝臓初回通過代謝および消化管副作用を回避する。ある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼの用量は、顕著に低いものであり得る。低投与量は一般に、望まない全身副作用を低減する。従って、ある実施態様において、本発明の方法は重篤なまたは望まない副作用を有しても有さなくてもよい多様な抗コリンエステラーゼの使用を可能にする。
【0083】
本明細書に記載される本発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼの標的投与は、従来の技術、例えば、BOTOXの排尿筋内注射で使用されるものと類似の技術を用いて、非経腸注射の方法により達成され得る。
【0084】
本明細書に記載される本発明の方法のある実施態様において、1以上の抗コリンエステラーゼの標的投与は、注入(例えば、カテーテル)による局所投与の方法により達成され得る。
【0085】
ある実施態様において、このようなアプローチは、本明細書に記載の1以上の経粘膜または粘膜付着剤を含むように付加され得る。いくつかの経粘膜および粘膜付着剤の例は、限定されないが、ペクチンを含む。
【0086】
さらに、注入による局所投与に適切な製剤は、本明細書に記載の1以上の浸透強化剤を含む。ある実施態様において、浸透強化剤はポロキサマー407である。
【0087】
経粘膜投与は、抗コリンエステラーゼが膀胱壁表面領域を経てその下の組織へ移行することを可能にする。注射と比較して、注射を伴わない膀胱内注入投与は、浸潤が少なく、血尿が生じることが少なく、時間的により効率的である。それはまた、痛みも少ないため、患者により好まれるべきである。
【0088】
性能(すなわち、膀胱壁を通じた抗コリンエステラーゼの取り込み/移動)またはバイオアベイラビリティは、主に、分子サイズ、親油性、極性および溶解度のような抗コリンエステラーゼ特性に依存する。抗コリンエステラーゼの移動は、より長時間の曝露、および/または界面活性剤および/または浸透強化剤の使用によりさらに改善され得る。
【0089】
本発明の方法は、次の実施例によりさらに説明されるが、これらは本発明の範囲または概念を実施例に記載の特定の方法に限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0090】
実施例1:BOTOX(登録商標)への曝露後の排尿筋ラット筋肉の筋力に対する臭化ピリドスチグミンの効果
先に記載されたラット膀胱筋肉条片におけるA型ボツリヌス神経毒の生物活性を測定するためのインビトロモデルを使用した(van Uhm et al. (2014) BMC Urology, 14(37):1471-2490)。目的は、BOTOXおよびピリドスチグミン(Pyr)に曝露されたときの筋パフォーマンスをインビトロで測定するためのアッセイを開発することであった。BOTOX投与後、麻痺した排尿筋の筋力低下が予想された。Pyrへの曝露後、力の増加は筋肉の回復を示す。0.2mmマイクロニードルローラー(Skinmedix, Naples, フランス)を介して膀胱壁表面を破壊することによりBOTOXを投与する、改良型膀胱平滑筋ストリップ収縮性アッセイを使用した。
【0091】
膀胱条片の調製:麻酔したラットから膀胱を摘出し、95% O/5% COでバブリングした温かいクレブス・ヘンゼライト緩衝液に入れた。膀胱を頂部と底部で、ピンで留めた。外側の臓側腹膜を注意深く剥離した。次に、底部から頂部まで切開を行い、平らにして四角をピンで留めた。その後、尿路上皮を筋肉層から注意深く持ち上げ、閉じたはさみを2つの層の間に挿入した。その後はさみの刃を開いて、小さなポケットを作った。時々最低限の切断をしながら、尿路上皮が分離するまでこの工程を繰り返した。尿路上皮を除去した後、膀胱の頂部および底部を縦に切断した。約1mm×8mmの条片を切り取った。最後に、組織条片をブルドッグ組織クリップに取り付けた。
【0092】
ベースライン収縮:横型灌流浴槽を取り付けた300B Aurora Scientifich muscle lever systemを用いて、インビトロで筋パフォーマンスを測定した。膀胱条片を灌流浴槽に移し、95% O/5% COで酸素化して25℃に維持した生理緩衝液を浸透させた。その後、組織クリップを一方の固定支柱に取り付け、もう一方のレバーアームにフックを取り付けた。その後、10mNのベースライン張力に達するまで、各々の条片を引き延ばした。条片を平衡状態においた。定期的に、20Hz、0.5秒の短い刺激トレインを与え、最大張力を記録した。最適な長さに達するまで、ベースライン張力を調整した。その後、調製物を1時間、またはベースライン張力が安定になり、かつ自発活動が規則的になるまで平衡状態においた。その後、電気フィールド刺激(EFS)を開始し(20Hz、パルス幅0.2ミリ秒、5秒トレイン、5分間隔)、力を100分間記録した。平衡化および条片生存試験の後、灌流浴槽を空にして、条片をフックから取り外した。
【0093】
BOTOXを用いた処置:その後、80μLの食塩水中に4単位のBOTOXを適用し、条片の完全な被覆を確実にするために0.2mmマイクロニードルローラーを条片上で数回通過させた。その後条片をBOTOX中で2時間インキュベートした。尿路上皮層を取り除いて膀胱障壁表面を崩壊させ、マイクロ針を通すことにより、BOTOXの浸透を強化した(図2を参照)。皮膚表面の崩壊は、ボツリヌス毒素(約150kDa)のような大きな分子の送達を可能にすることが知られている。膀胱壁表面の前処置は動物モデルにおいて可能であるが、インビボでの膀胱へのマイクロ針前処置またはマイクロ針パッチ系を考慮することは実践的ではない。膀胱への臨床薬物送達について、標的投与においては、(1)排尿筋内注射または(2)先に記載されたカテーテルによる注入を介した膀胱内送達が好ましい。
【0094】
BOTOXを希釈せずに乾燥させることを防ぐために、最小限の量の緩衝液のみで条片を浸すように注意した。インキュベート後、浴槽を生理緩衝液で満たし、条片を力変換器に再び取り付け、電気フィールド刺激を再開し、90分間かけて力阻害を測定した。対照条片をBOTOXを含まない食塩水でインキュベートし、アッセイを通して条片の生存を確保した。
【0095】
ビークル対Pyrを用いた処置:90分間の測定後、電気フィールド刺激を停止し、ビークルまたは0.5mM ピリドスチグミンを浴槽に添加した。条片をおよそ30分間インキュベートした。30分後、刺激を再開し、90分間力を測定した。ある条片において、陽性対照として、測定後、80mM KClを添加した。
【0096】
結果
図3Aに示すように、未処理の膀胱条片とは対照的に、BOTOX処理した条片は力がおよそ30%低下した。力の低下はビークルおよびPyr群の両方で同程度であった(Pyrとビークルについて28±14%低下と32±20%低下)。ビークル群において、力の低下は実験の終了まで安定であった(425分後に37±16%低下)。ピリドスチグミンへの曝露は力の低下の約50%の回復をもたらした(ベースラインから13±6%低下)。試験およびビークル群は体重150〜175gの若い雌性Sprague Dawley雌性ラット由来の4つまたは3つの筋肉条片から成った。OABと類似の自発的な膀胱収縮(Artim et al. (2011) Neurourol Urodyn, 30(8):1666-74)を示すため、若いラットを選択した。
【0097】
実施例2:BOTOX(登録商標)への曝露後の排尿筋ラット筋肉の筋力に対するリバスチグミンの効果
先に記載されたラット膀胱筋肉条片におけるA型ボツリヌス神経毒の生物活性を測定するためのインビトロモデルを使用した(van Uhm et al. (2014) BMC Urology, 14(37):1471-2490)。目的は、BOTOXおよびリバスチグミン(Riv)に曝露されたときの筋パフォーマンスをインビトロで測定するためのアッセイを開発することである。BOTOX投与後、麻痺した排尿筋の筋力低下が予想された。RIvへの曝露後、力の増加は筋肉の回復を示す。実施例1に記載のとおり、改良型膀胱平滑筋ストリップ収縮性アッセイを使用した。
【0098】
実施例1に提供されたとおり、膀胱条片を調製し、筋パフォーマンスを測定した。
【0099】
BOTOXを用いた処置:BOTOXを用いた処置を実施例1で提供されるように実施する。つまり、80μLの食塩水中に4単位のBOTOXを適用し、条片の完全な被覆を確実にするために0.2mmマイクロニードルローラーを条片上で数回通過させた。その後条片をBOTOX中で2時間インキュベートした。インキュベート後、浴槽を生理緩衝液で満たし、条片を力変換器に再び取り付け、電気フィールド刺激を再開し、90分間かけて力阻害を測定した。対照条片をBOTOXを含まない食塩水でインキュベートした。
【0100】
ビークル対Rivを用いた処置:90分間の測定後、電気フィールド刺激を停止し、ビークルまたは、0.2nM リバスチグミン、0.5mM リバスチグミンまたは1mM リバスチグミンを浴槽に添加した。条片をおよそ30分間インキュベートした。30分後、刺激を再開し、90分間力を測定した。ある条片において、陽性対照として、測定後、80mM KClを添加して最大力を決定した。
【0101】
本明細書に記載の実施例および実施態様は説明する目的のみに係るものであり、その多様な修飾または変更は当業者に提示され、本願の概念および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に包含されると理解される。本明細書において引用される全ての公開、特許、特許出願は、すべての目的のために参照により本明細書に包含させる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
【国際調査報告】