特表2021-503457(P2021-503457A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-503457二元的なMEKシグナル伝達の低減によるがん治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-503457(P2021-503457A)
(43)【公表日】2021年2月12日
(54)【発明の名称】二元的なMEKシグナル伝達の低減によるがん治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20210115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210115BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20210115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210115BHJP
【FI】
   A61K31/495
   A61K45/00
   A61K31/506
   A61K31/5377
   A61K31/517
   A61K31/4545
   A61K31/496
   A61K31/5025
   A61K47/26
   A61K47/38
   A61K47/40
   A61K47/20
   A61K47/10
   A61K47/22
   A61K9/127
   A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2020-526610(P2020-526610)
(86)(22)【出願日】2018年11月16日
(85)【翻訳文提出日】2020年7月14日
(86)【国際出願番号】US2018061579
(87)【国際公開番号】WO2019099873
(87)【国際公開日】20190523
(31)【優先権主張番号】62/587,707
(32)【優先日】2017年11月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500436215
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシテイ オブ イリノイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲンローザー、ポール ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ペー、ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】ボードロー、マシュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA19
4C076AA24
4C076AA36
4C076AA53
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD29
4C076DD30
4C076DD35
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD45S
4C076DD50
4C076DD55
4C076DD59
4C076DD67
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE31
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4C076EE39
4C076EE48
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
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4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086BC42
4C086BC46
4C086BC50
4C086BC73
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4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
発がんを促進する変異または融合キナーゼの発見、およびこれらの酵素に対する特異的阻害剤のその後の承認は、ある程度のがんの制御の助けとなった。しかしながら、耐性の獲得は、依然としてクリニックにおける重大な問題であり、これらの薬物の大半が長期的な有効性を制限されている。本明細書では、標的キナーゼ阻害と組み合わせた薬物誘発性MEK切断(直接的プロカスパーゼ‐3活性化を介して)によって、この耐性を克服するための戦略を示している。この組み合わせの効果は、多様な腫瘍組型(メラノーマ、肺がん、および白血病)およびドライバー変異(変異BRAFまたはEGFR、融合キナーゼEML4−ALKおよびBCR−ABL)にわたり普遍的であることが示されている。カスパーゼ‐3を介したMEKキナーゼの分解は、持続的な経路阻害およびがん細胞における耐性の実質的な遅延または排除を、MEK阻害剤との組み合わせよりも優れた方法でもたらす。これらのデータは、標的抗がん療法に対する耐性を防ぐための治療戦略として、薬物を介したMEKキナーゼ切断の一般性を示唆している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
(a)化合物PAC−1、
【化1】

(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせ、
を含む組成物。
【請求項2】
組成物が、MEKキナーゼ分解のエンハンサーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、MEK−1およびMEK−2キナーゼの両方のカスパーゼ‐3分解のメディエーターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、MEK−1およびMEK−2キナーゼリン酸化の阻害剤、ERK−1およびERK−2キナーゼリン酸化の阻害剤、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
第2活性剤が、変異EGFRキナーゼの阻害剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
第2活性剤が、オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、またはそれらの組み合わせである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
第2活性剤が融合キナーゼの阻害剤であり、融合キナーゼがEML4−ALKまたはBcr−Ablである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
融合キナーゼがEML4−ALKであり、かつ第2活性剤がセリチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、またはそれらの組み合わせである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
融合キナーゼがBcr−Ablであり、かつ第2活性剤がイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ、またはそれらの組み合わせである、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
a)担体が水、バッファー、糖、セルロース、シクロデキストリン、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、トコフェロール、リポソーム、ミセル、もしくはそれらの組み合わせを含むか、またはb)賦形剤が結合剤、潤滑剤、吸着剤、ビヒクル、崩壊剤、防腐剤、もしくはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
PAC−1の濃度が、約0.1μM〜約50μMである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
第2活性剤の濃度が、約1nM〜約100μMである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の有効量をがん細胞に接触させて、それによりがん細胞の成長または増殖を阻害することを含む、がん細胞の成長または増殖を阻害する方法。
【請求項14】
がん細胞を請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の有効量と接触させることを含む、がん細胞においてアポトーシスを誘導する方法であって、それによりアポトーシスががん細胞において誘導される上記方法。
【請求項15】
がんを治療する方法であって、治療有効量の化合物PAC−1
【化2】

および有効量の、変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である第2活性剤を、それを必要とする患者に同時にまたは順次投与することを含み、それによりがんが治療される上記方法。
【請求項16】
第2活性剤が、変異EGFRキナーゼの阻害剤、変異c−kitの阻害剤、EML4−ALK融合キナーゼの阻害剤、またはBcr−Abl融合キナーゼの阻害剤であり、変異型EGFRキナーゼが、場合によりT790M変異体を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アポトーシス促進性Bcl−2タンパク質(BIM)が、上方制御される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
MEK−1およびMEK−2キナーゼの両方を分解または消滅させ、それによって、MAPKシグナル伝達経路を効果的に阻害し、がん細胞におけるアポトーシスを誘導すること、MEK−1およびMEK−2、ERK−1およびERK−2、またはそれらの組み合わせのリン酸化を阻害することによりがんが治療される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
がんが、メラノーマ、白血病、胃がん、腎臓がん、肺がん、脳のがん、またはそれらの転移性形態である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
第2活性剤が、オシメルチニブ、セリチニブ、またはイマチニブであり、それを必要とする患者のがんの治療に対する耐性が、低減、遅延、または排除される、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
PAC−1が、生体外(in vitro)または生体内(in vivo)でオシメルチニブ、セリチニブ、またはイマチニブと相乗作用し、
a)PAC−1の濃度が約2μM〜約5μMで、第2活性剤がオシメルチニブで、かつオシメルチニブの濃度が約1nM〜約30nMであるか、
b)PAC−1の濃度が約2μM〜約5μMで、第2活性剤がセリチニブで、かつセリチニブの濃度が約5nM〜約30nMであるか、または
c)PAC−1の濃度が約5μM〜約7.5μMで、第2活性剤がイマチニブで、かつイマチニブの濃度は約60nM〜約100nMである、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
化合物PAC−1および第2活性剤が、がん患者に同時に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
化合物PAC−1および第2活性剤が、がん患者に順次投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
化合物PAC−1が、第2活性剤の前にがん患者に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
化合物PAC−1が、第2活性剤の後にがん患者に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量のMEK阻害剤、V600E変異BRAFキナーゼ阻害剤、またはそれらの組み合わせを同時にまたは順次患者に投与することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
MEK阻害剤が、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、またはそれらの組み合わせである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
変異BRAFキナーゼ阻害剤が、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、またはそれらの組み合わせである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
がんの治療用の薬剤を調製するための組成物の使用であって、組成物が、
(a)化合物PAC−1
【化3】

(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせを含み、
組成物が、MEKキナーゼ分解のエンハンサーである、上記使用。
【請求項30】
がんが、メラノーマ、白血病、胃がん、腎臓がん、肺がん、脳のがん、またはそれらの転移性形態である、請求項29に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年11月17日に提出され、その全体が参照として本明細書に組み込まれる米国特許仮出願第62/587,707号の、米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張する。
【0002】
政府支援
本発明は、国立衛生研究所から授与された認可番号R01−CA120439の下、政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する
【0003】
細胞増殖および生存経路に影響を与えるキナーゼの過剰発現、変異、または融合は、多くのがんにおいて腫瘍形成を促進する。これらの発がん性キナーゼを阻害剤で特異的に標的化することにより、進行した疾患の患者の大多数に、劇的な反応が起こった。しかしながら、キナーゼ阻害剤に対する反応は、これらの薬剤に対する耐性が急速に発現するため、多くの場合一時的である。様々な耐性機構が存在して、細胞増殖および生存経路を再活性化する。特に、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の再活性化は、変異BRAF、変異EGFR、EML4−ALK、またはBCR−ABLキナーゼを標的とするものを含む、臨床的に承認された多数の阻害剤に対する耐性獲得の原因である。
【0004】
MAPK経路の再活性化がキナーゼ阻害剤の臨床効果を低下させること、およびMEK1/2キナーゼがMAPK経路の最終的なゲートキーパーキナーゼであることを認識し、耐性を遅らせる試みで、MEK1/2阻害剤(例えば、トラメチニブまたはコビメチニブ)を用いた先行的な併用療法が、数種類のキナーゼ阻害剤で研究されてきた。臨床的には、転移性BRAFV600Eメラノーマの治療において、MEK1/2阻害剤および変異BRAF阻害剤を組み合わせることで、無増悪生存期間および全生存期間が延長される。しかしながら、この併用療法に対する耐性は、治療開始の1年後に必然的に発生する。これは、抗がん効果を無効にするMEK1およびMEK2キナーゼの二次変異が、部分的な原因である。
【0005】
したがって、MEK1およびMEK2への二次変異によって引き起こされる抗がん効果の喪失は、MEK1およびMEK2キナーゼを分解して下流のシグナル伝達を不可能にする小分子アプローチによって対処でき、その結果、がん治療における進歩をもたらす。
【発明の概要】
【0006】
標的抗がん療法の臨床的有用性は、耐性の急速な発現により制限される。薬剤耐性クローンでは、MEK1/2キナーゼを介した下流のシグナル伝達の再活性化が頻繁に確認され、したがって、MEK1/2の阻害は、耐性を遅延させるための魅力ある戦略となった。しかしながら、薬物を介したMEK1/2阻害は、下流のシグナル伝達の一時的な停止、およびささやかな延命効果をもたらすにすぎない。有望な抗がん戦略として、MEK1およびMEK2の薬物誘発性分解は、承認されたキナーゼ阻害剤の多様なセットによって媒介される細胞死を、メラノーマ、肺がん、および白血病に関するものを含み、広範に増強することが、本明細書に示される。このMEK1およびMEK2の喪失によって、下流のシグナル伝達が持続的に阻害され、がん細胞における耐性の発現が劇的に遅延または排除される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本開示は、
(a)化合物PAC−1、
【化1】

(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせ
を含む組成物を提供する。
【0008】
本開示はまた、がんを治療する方法であって、治療有効量の化合物PAC−1および有効量の第2活性剤を、それを必要とする患者に同時にまたは順次投与することを含み、第2活性剤が、変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤であり、それによってがんが治療される方法を提供する。
【0009】
さらに、本開示は、がんの治療のための薬剤を調製するための組成物の使用を提供し、組成物は、
(a)化合物PAC−1、
(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせ
を含み、
組成物は、MEKキナーゼ分解のエンハンサーである。
【0010】
開示された方法は、薬物療法で使用するための、本明細書に記載された組成物の使用を提供する。薬物療法は、がん、例えば、メラノーマ、白血病、乳がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、または結腸がんを治療することができる。本発明はまた、哺乳動物における疾患、例えば、ヒト、ネコ、またはイヌにおけるがんを治療する薬剤の製造のための、本明細書中に記載されるような組成物の使用を提供する。薬剤は、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、または担体を含むことができる。
【0011】
以下の図面は、明細書の一部を形成し、本発明の特定の実施形態または様々な態様をさらに実証するために含まれている。場合によっては、本発明の実施形態は、本明細書に提示されている詳細な説明と組み合わせて添付の図面を参照することによって、最もよく理解することができる。説明および添付の図面は、本発明のある特定の例、またはある態様を強調することができる。しかしながら、当業者は、例または態様の一部が、本発明の他の例または態様と組み合わせて使用され得ることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PAC−1および多様な標的キナーゼ阻害剤によるがん細胞の併用処理後のカスパーゼ‐3活性の増強。DMSO、単剤PAC−1(5μM)、またはオシメルチニブで処理された(A)H1975および(B)PC−9 GR NSCLC細胞において、カスパーゼ−3活性またはPARP−1切断の、ごくわずかな増加が確認された。PAC−1+オシメルチニブで処理された細胞では、処理後36時間という早い段階で、カスパーゼ−3活性の劇的な増加が確認された。48時間後に、有意なPARP−1切断およびプロカスパーゼ‐3レベルの低下が確認され、これは、カスパーゼ‐3活性アッセイから得られた結果と一致する。(C)H3122 NSCLC細胞をPAC−1(5μM)+セリチニブで様々な期間処理し、カスパーゼ−3活性の有意な増加が確認された。48時間の処理後、PARP−1切断の増加およびプロカスパーゼ−3レベルの低下も確認された。(D)カスパーゼ−3活性の有意な増強は、PAC−1(7.5μM)+イマチニブで処理されたK−562細胞でも、ごくわずかな単剤活性とともに確認された。48時間のPAC−1+イマチニブ処理後、PARP−1切断およびプロカスパーゼ−3活性化の増加も確認された。示されている値は少なくとも3つの実験の平均であり、エラーバーはs.e.m.であり、組み合わせが個々の薬剤の相加効果と異なるかどうかを判断するための二元配置分散分析で示されるp値は、統計的に異なる(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。図6も参照のこと。
図2】PAC−1併用療法は、カスパーゼ−3の活性化、ならびにMEK1およびMEK2キナーゼの分解をもたらす。(A)プロカスパーゼ‐3の活性化により、PAC−1(5μM)+ベムラフェニブ(10μM)で48時間処理されたA375およびSK−MEL−5細胞の、MEK1およびMEK2レベルが劇的に低下する。この低下は、トラメチニブ(30nM)+ベムラフェニブで処理された細胞では確認されなかった。(B)PAC−1(5μM)+オシメルチニブ(4nM)で48時間処理されたH1975およびPC−9 GR細胞は、プロカスパーゼ‐3の活性化ならびにMEK1およびMEK2キナーゼの対応する分解をもたらした。これは、PAC−1+ゲフィチニブ(4nM)またはトラメチニブ(30nM)+オシメルチニブで処理された細胞では、確認されなかった。(C)MEK1およびMEK2の分解は、PAC−1(5μM)+セリチニブ(30nM)で48時間処理されたH3122細胞で同様に確認されたが、トラメチニブ(30nM)+セリチニブで処理された細胞では、確認されなかった。図7および図8も参照のこと。
図3】PAC−1およびベムラフェニブまたはオシメルチニブで処理された細胞は、MAPKシグナル伝達の阻害を持続した。(A)A375およびSK−MEL−5メラノーマ細胞を、PAC−1(5μM)、ベムラフェニブ(10μM)、トラメチニブ(30nM)、または表示された組み合わせで48時間処理した。ERK1/2およびMEK1/2の両方のリン酸化の阻害は、PAC−1+ベムラフェニブで処理された細胞でのみ、確認された。(B)DMSO、ベムラフェニブ、ベムラフェニブ+PAC−1、またはベムラフェニブ+トラメチニブで6、24、または48時間処理されたA375細胞における、phospho−MEK1/2およびphospho−ERK1/2阻害の経時変化。(C)PAC−1(5μM)+オシメルチニブ(4nM)で48時間処理された後、H1975およびPC−9 GR細胞において、MEK1/2およびERK1/2両方のリン酸化の持続的な阻害が確認された。PAC−1+ゲフィチニブ(4nM)による同様の期間の処理では、同様の結果は、確認されなかった。MEK1/2リン酸化の持続的な阻害は、トラメチニブ(30nM)+オシメルチニブで処理された細胞でも確認されなかった。(D)DMSO、オシメルチニブ、オシメルチニブ+PAC−1、またはオシメルチニブ+トラメチニブで6、24、または48時間処理されたPC−9 GR細胞における、phospho−MEK1/2およびphospho−ERK1/2阻害の経時変化。図9も参照のこと。
図4】PAC−1併用療法は、耐性の獲得を大幅に遅延または排除する。(A)A375細胞を、指定された濃度のPAC−1、ベムラフェニブ、トラメチニブ、またはそれぞれの組み合わせで最大30日間処理した。細胞を固定し、画像化前にSRB色素で染色した。(B)(A)の定量化であり、報告されたデータは、3つの独立した実験の平均および標準誤差である。(C)PC−9 GR細胞を、指定された濃度のPAC−1、オシメルチニブ、トラメチニブ、またはそれぞれの組み合わせで最大35日間処理した。(B)に記載されているように、細胞を画像化した。図10も参照のこと。(D)(C)の定量化であり、報告されたデータは、2つの独立した実験の平均および標準誤差である。(E)H3122細胞を、指定された濃度のPAC−1、セリチニブ、トラメチニブ、またはそれぞれの組み合わせで最大32日間処理した。示されている画像は、2つの独立した実験を代表する。(F)PAC−1+セリチニブ、またはトラメチニブ+セリチニブで32日間処理されたH3122細胞を拡大表示する。PAC−1+セリチニブと比較して、トラメチニブ+セリチニブで処理された細胞では、目に見えてより多くの耐性コロニーが見られた。
図5】本明細書で検討した、臨床的に承認されたキナーゼ阻害剤を用いたPAC−1併用療法の提案された作用機構。示されたキナーゼ阻害剤は、主要な発がん性ドライバーキナーゼを標的とし、MEKを介したシグナル伝達の一時的な阻害をもたらす。PAC−1処理でMEKキナーゼの切断を誘発できることは、非常に重要である。このMEK切断は、上流の経路を阻害するとともに、ERKリン酸化を強力に止め、生存促進および増殖シグナル伝達を妨害する。
図6】PAC−1および臨床的に承認された標的キナーゼ阻害剤で処理された細胞における、アポトーシス細胞死の増強。図1に関連する。(A)EGFRT790M細胞および(B)H3122細胞を、指定された濃度のPAC−1+オシメルチニブまたはPAC−1+セリチニブでそれぞれ48時間処理した。(C)K−562細胞を、指定された濃度のPAC−1+イマチニブで72時間処理した。その後、細胞をアネキシンV−FITCおよびPI色素で染色し、フローサイトメトリーで分析した。示されているデータは、少なくとも3つの独立した実験の平均であり、エラーバーは、s.e.mである。棒グラフの水平破線は、化合物の相加効果から予測されるアポトーシス細胞死のレベルを表す。
図7】より低い濃度で確認されたMEK1/2の分解。図2に関連する。(A)5日間の培養後のPC−9 GRおよびH1975細胞における、PAC−1、オシメルチニブ、およびゲフィチニブのIC50値(±s.e.m)。示されているデータは、少なくとも3つの独立した実験の平均である。(B−C)より低濃度のPAC−1+オシメルチニブまたはPAC−1+セリチニブで48時間処理した細胞における、MEK1/2キナーゼの分解。(D)イマチニブとPAC−1またはトラメチニブのいずれかとの組み合わせでK−562(BCR−ABL)細胞を48時間処理すると、プロカスパーゼ−3の活性化およびMEK1/2の分解が起こった。(E)48時間後、PAC−1と組み合わせた、より低濃度のイマチニブ(80nM)もプロカスパーゼ−3をもたらし、その結果MEK1/2キナーゼの分解をもたらした。
図8】カスパーゼ阻害剤Q−VD−OPh(25μM)を使用した、PAC−1+標的キナーゼ阻害剤で48時間処理した細胞における細胞死からの防御。図2に関連する。(A)PAC−1(5μM)、ベムラフェニブ(10μM)、トラメチニブ(30nM)、Q−VD−OPh、およびそれらの組み合わせで処理したA375細胞。(B)PC−9 GR細胞をPAC−1(5μM)、オシメルチニブ(4nM)、Q−VD−OPh、およびそれらの組み合わせで処理した。(C)H3122細胞をPAC−1(5μM)、セリチニブ(30nM)、Q−VD−OPh、およびそれらの組み合わせで処理した。(D)PAC−1(7.5μM)、イマチニブ(100nM)、Q−VD−OPh、およびそれらの組み合わせで処理したK−562細胞。細胞をアネキシンV−FITCおよびPI色素で染色し、フローサイトメトリーで分析した。示されているデータは、少なくとも3つの独立した実験の平均であり、エラーバーはs.e.mである。2ウェイt検定(two−way t−test)で示すp値は、**p≦0.01、***p≦0.001である。(E−G)PAC−1+標的キナーゼ阻害剤+カスパーゼ阻害剤Q−VD−OPhで処理した細胞では、MEK1/2切断が減弱する。(E)PAC−1(5μM)、ベムラフェニブ(10μM)、Q−VD−OPh(25μM)、および組み合わせで48時間処理したA375細胞。(F)PC−9 GR細胞をPAC−1(5μM)、オシメルチニブ(4nM)、Q−VD−OPh(25μM)、および組み合わせで48時間処理した。(G)H3122細胞をPAC−1(5μM)、セリチニブ(30nM)、Q−VD−OPh(25μM)、および組み合わせで48時間処理した。
図9】MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的阻害。図3に関連する。(A)PAC−1およびより低濃度のオシメルチニブ(2.5nM)による48時間の処理後のEGFRT790M細胞における、MEK1/2およびERK1/2のリン酸化(B−D)PAC−1+セリチニブは、H3122細胞において持続的なMEK1/2リン酸化をもたらす。(B)H3122細胞をPAC−1(5μM)+セリチニブ(30nM)で48時間処理すると、MEK1/2およびERK1/2のリン酸化が持続的に阻害された。しかしながら、トラメチニブ(30nM)+セリチニブ処理では、MEK1/2のリン酸化は阻害されなかった。(C)より低濃度のセリチニブ(15nM)では、この組み合わせにより、MEK1/2およびERK1/2のリン酸化が持続的に阻害された。(D)phospho−MEK1/2およびphospho−ERK1/2阻害の時間経過。H3122細胞をDMSO、セリチニブ、セリチニブ+PAC−1またはセリチニブ+トラメチニブで6、24、または48時間処理した。トラメチニブとの併用処理では、MEK1/2リン酸化の阻害はほとんど、またはまったく確認されなかった。(E−F)K−562(BCR−ABL)細胞におけるMEK1/2およびERK1/2リン酸化の阻害。(E)K−562細胞をPAC−1+セリチニブで48時間処理すると、MEK1/2およびERK1/2のリン酸化が持続的に阻害された。BRAFV600E、EGFRT790M、およびEML4−ALK細胞とは異なり、イマチニブ+トラメチニブで処理された細胞では、プロカスパーゼ−3の活性化が確認され、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的な阻害につながった。(F)より低い濃度のイマチニブ(80nM)では、この組み合わせにより、MEK1/2およびERK1/2のリン酸化が持続的に阻害された。
図10】PAC−1+オシメルチニブは、耐性を遅延する。図4に関連する。28日間の処理後の(A)PC−9 GR細胞および(B)H1975細胞。細胞を固定し、画像化前にSRB色素で染色した。
図11】標的キナーゼ阻害剤に対する耐性の急激な発現により、進行したがんの治療におけるそれらの使用が制限される。本開示は、多様なキナーゼ阻害剤とプロカスパーゼ−3活性化化合物(PAC−1)との組み合わせがMEK1/2の分解を引き起こし、耐性の獲得を劇的に遅延させることを示す。PAC−1は、多様なキナーゼ阻害剤によって誘導されるカスパーゼ−3活性およびアポトーシスを増強し、カスパーゼ−3を介したMEK分解は、MEKリン酸化を持続的に阻害し、PAC−1併用療法は、獲得耐性を劇的に遅延または排除する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
臨床的に使用される阻害剤によるMEK1/2活性の一時的かつ差次的な阻害を考慮して、MEK1/2キナーゼの酵素分解を誘導できる小分子との併用療法は直接阻害よりも有利であり、結果的に臨床的に承認された多種のキナーゼ阻害剤と併用した場合、耐性は低いか、または生じないという仮説が立てられた。詳細なプロテオミクス実験は、MEK1/2キナーゼがアポトーシス中にカスパーゼ−3によって切断されることを示しており、プロカスパーゼ−3が、健康な組織と比較して様々ながんで過剰発現していることが、広く報告されている。様々な機構を介して、アポトーシスの回避は、がんの特徴と見なされるが、過去の研究では、プロカスパーゼ−3の過剰発現が発がんを促進し得ることが示唆された。これらの所見は、プロカスパーゼ‐3のカスパーゼ‐3への活性化およびそれに続くカスパーゼ‐3を介したMEKの分解が、健康な細胞と比較して、がん細胞において選択的に起こり得ることを示唆している。直接的なプロカスパーゼ−3活性化のさらなる利点は、がん細胞のプロカスパーゼ−3の上流に通常見られる、アポトーシス経路の欠陥を回避できることである(図11)。
【0014】
PAC−1は、BRAFV600E阻害剤であるベムラフェニブと相乗作用して、BRAFにV600E変異を有する多数のメラノーマ細胞株において獲得耐性の発現を遅らせる、選択的プロカスパーゼ−3活性化化合物であり、この戦略の実現可能性を示唆している。ここでは、MAPK経路を介して信号を送る4つの異なるキナーゼを標的とする、臨床的に承認された4つの異なる阻害剤と組み合わせて、PAC−1を評価する。これらの組み合わせにより、カスパーゼ−3活性が劇的に増強され、MEK1/2キナーゼの分解が誘導される。本明細書では、BRAFV600E(ベムラフェニブ)、EGFRT790M(オシメルチニブ)、EML4−ALK(セリチニブ)、またはBCR−ABL(イマチニブ)を標的とするキナーゼ阻害剤にPAC−1を追加すると、MEK1およびMEK2の分解が促進され、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の永続的な阻害、アポトーシス細胞死の増強、ならびに耐性獲得の大幅な遅延または排除につながることを報告する。PAC−1は現在、ヒトがん患者を対象とした臨床試験(NCT02355535、NCT03332355)で評価されているため、本明細書で提示された結果は、様々な標的キナーゼ阻害剤との組み合わせ臨床試験に迅速に変換でき、がん患者に大きな利益をもたらし得る研究である。
【0015】
定義
明細書および特許請求の範囲が明確に一貫して理解されるために、以下の定義を含める。本明細書で使用される場合、列挙された用語は、以下の意味を有する。本明細書で使用される他のすべての用語および句は、当業者が理解するような、それらの通常の意味を有する。このような通常の意味は、R.J.Lewis、John Wiley&Sonsによる、Hawley’s Condensed Chemical Dictionary 14th Edition New York,N.Y.,2001などの技術辞書を参照することで得られる。
【0016】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」などへの言及は、説明された実施形態が、特定の態様、形質、構造、部分、または特徴を含み得るが、すべての実施形態が、必ずしもその態様、形質、構造、部分、または特徴を含むとは限らないことを示す。さらに、そのような語句は、必ずしもそうではないが、本明細書の他の部分で言及される同じ実施形態を指す場合がある。さらに、特定の態様、形質、構造、部分、または特徴が実施形態に関連して説明される場合、他の実施形態に関連するそのような態様、形質、構造、部分、または特徴に影響を及ぼすことは、明示的な説明の有無に関わりなく、当業者の知識の範囲内である。
【0017】
単数形「a」、「an」、および「the」は、別途文脈が明確に指示しない限り、複数の言及を含む。したがって、例えば、「化合物」への言及は、複数のそのような化合物を含み、その結果、化合物Xは複数の化合物Xを含む。さらに、特許請求の範囲は、任意の要素を除外するように作成され得ることに留意されたい。そのため、この記述は、本明細書に記載される何らかの要素に関連した、「単独で」、「のみ」などの排他的な用語の使用、および/または特許請求要素の列挙または「消極的な」制限の使用ための先行詞として機能することが意図されている。
【0018】
「および/または」という用語は、この用語が関連付けられているアイテムのいずれか1つ、アイテムの任意の組み合わせ、またはアイテムのすべてを意味する。「1つ以上」および「少なくとも1つ」という語句は、特にそれが使用された文脈中で読めば、当業者には容易に理解される。例えば、この句は、1、2、3、4、5、6、10、100、または列挙された下限よりも約10倍、100倍、または1000倍大きい、任意の上限を意味する。
【0019】
当業者によって理解されるように、成分の量、特性(分子量など)、反応条件などを表すものを含む、すべての数は概算であり、すべての場合において、「約」という用語で任意に変更されるものと理解される。これらの値は、本明細書の説明の教示を利用して当業者によって得られることが求められる所望の特性に応じて、変動する可能性がある。そのような値は本質的に、それぞれのテスト測定で見出される標準偏差から必然的に生じる変動性を含むこともまた、理解される。前置詞「約」の使用によって値が近似値として表される場合、修飾語「約」なしの特定の値も、さらなる態様を形成することが理解されよう。
【0020】
「約」および「およそ」という用語は、互換的に使用される。どちらの用語も、指定された値の±5%、±10%、±20%、または±25%の変動を言及できる。例えば、「約50」パーセントは、いくつかの実施形態では、45〜55パーセント、または特定の請求項によって別に定義されるように変動し得る。整数の範囲の場合、「約」という用語は、範囲の各端に列挙された整数より大きいおよび/または小さい、1つまたは2つの整数を含むことができる。本明細書で別段の指示がない限り、「約」および「およそ」という用語は、個々の成分、組成物、または実施形態の機能に関して同等である、列挙された範囲に近い値、例えば重量パーセントを含むことが意図される。「約」および「およそ」という用語は、この段落で上述したように、列挙された範囲の終点を変更することもできる。
【0021】
当業者によって理解されるように、すべての目的のために、特に書面による説明を提供するという観点から、本明細書に記載されるすべての範囲は、あらゆる可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせ、ならびに範囲を構成する個々の値、特に整数値も含む。したがって、2つの特定の単数間の各単数も示されていることが理解される。例えば、10〜15が示されている場合、11、12、13、および14も個別に、範囲の一部として示される。列挙された範囲(例えば、重量パーセンテージまたは炭素基)は、範囲内の特定の各値、整数、小数、または同一値を含む。列挙された範囲は、少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、または10分の1に分割される同じ範囲を十分に説明し、有効にするものとして容易に認識できる。非限定的な例として、本明細書で論じられる各範囲は、下3分の1、中3分の1および上3分の1などに容易に分割することができる。また、当業者によって理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「超」、「以上」などのすべての言葉は、列挙された数を含み、そのような用語は、上で論じたような、後で部分範囲に分割できる範囲を指す。同様に、本明細書に記載されているすべての比率には、より広い比率に含まれるすべての部分比率も含まれる。したがって、ラジカル、置換基、および範囲について列挙された特定の値は、例示のみを目的としており、それらは、ラジカルおよび置換基の別の定義された値または定義された範囲内の他の値を排除しない。さらに、各範囲の終点は、他の終点との関係でも、他の終点と関係がなくても重要であることが理解されよう。
【0022】
当業者はまた、メンバーがマーカッシュグループなどの一般的な方法で一緒にグループ化されている場合、本発明は、全体として列挙されたグループ全体だけでなく、個別にグループの各メンバー、およびメイングループの可能性のあるすべてのサブグループも包含することを容易に認識するであろう。さらに、すべての目的で、本発明は、メイングループだけでなく、1つ以上のグループメンバーが存在しないメイングループも包含する。したがって、本発明は、列挙されたグループのメンバーのいずれか1つまたは複数を明示的に除外することを想定している。したがって、但し書きは、開示されたカテゴリーまたは実施形態のいずれにも適用され、それにより、列挙された要素、種、または実施形態のいずれか1つ以上が、例えば、明示的な消極的制限での使用のために、そのようなカテゴリーまたは実施形態から除外され得る。
【0023】
本明細書で使用される「実質的に」という用語は、広義の用語であり、通常の意味で使用され、必ずしも完全ではないが、ほとんど指定されたものであることを、限定せずに含む。例えば、この用語は、100%完全な数値ではない場合がある数値を指すことができる。完全な数値は、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、または約20%少なくなることがある。
【0024】
「同時に」という用語は、(1)同じ時間に、または(2)一般的な治療スケジュール過程の中の異なる時間に、という意味である。
【0025】
「順次に」という用語は、方法で使用される1つの活性剤の投与と、その後の別の活性剤の投与に適用する。1つの活性剤の投与後、次の活性剤を実質的に第1の活性剤の直後に投与するか、または次の活性剤を第1の活性剤の後の有効期間後に投与することができる。有効期間とは、第1の活性剤の投与から最大の利益を実現するために与えられた時間である。
【0026】
「接触する」という用語は、例えば、生理学的反応、化学的反応、または物理的変化を引き起こすために、例えば溶液中、反応混合物中、生体外(in vitro)、または生体内(in vivo)で、接触する、接触させる、または例えば細胞レベルもしくは分子レベルで間近に隣接させる行為を指す。
【0027】
「有効量」とは、疾患、障害、および/もしくは状態を治療するため、または列挙された効果をもたらすために有効な量を指す。例えば、有効量は、治療される状態または症状の進行または重症度を軽減するのに有効な量であり得る。治療有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。「有効量」という用語は、本明細書に記載の化合物の量、または本明細書に記載の化合物の組み合わせの量、例えば、宿主における疾患もしくは障害を治療もしくは予防するために、または疾患もしくは障害の症状を治療するために有効である量を含むことが意図される。したがって、「有効量」は一般に、所望の効果を提供する量を意味する。
【0028】
一実施形態では、有効量は、細胞または被験体、例えば患者への単回または複数回投与で、単独または医薬担体との組み合わせのいずれかで、過剰増殖細胞の成長もしくは増殖の阻害、死滅の誘導、または成長の停止に有効な、本明細書に記載の活性剤の量を指す。このような成長阻害または死滅は、そのような治療をしない場合に予想される、被験体、例えば患者の生存期間の延長、またはそのような治療をしない場合と比較した、被験体の予後の何らかの改善として反映され得る。
【0029】
「治療している」、「治療する」および「治療」という用語は、(i)疾患、病理学的または医学的状態の発生を防止すること(例えば、予防)、(ii)疾患、病理学的もしくは医学的状態を阻害すること、またはその発症を阻止すること、(iii)疾患、病理学的または医学的状態を緩和すること、および/または(iv)疾患、病理学的または医学的状態に関連する症状を軽減すること、を含む。したがって、「治療する」、「治療」、および「治療している」という用語は、予防にまで及ぶ可能性があり、治療される状態または症状の進行または重症度の防止、軽減、停止または逆行を含むことができる。したがって、「治療」という用語は、必要に応じて、医学的、治療的、および/または予防的投与を含むことができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「被験体」または「患者」は、疾患もしくは他の悪性腫瘍の症状を有するか、またはそのリスクを有する個体を意味する。患者は、ヒトまたは非ヒトであり得、例えば、本明細書に記載されるマウスモデルのような、研究目的のための「モデルシステム」として使用される動物系統または種を含み得る。同様に、患者は成人または少年(例えば、子供)のいずれかを含み得る。さらに、患者は、任意の生物、好ましくは、本明細書で企図される組成物の投与から利益を受け得る哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト)を意味し得る。哺乳動物の例は、哺乳類の任意のメンバー、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジー、他の類人猿およびサル種など、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜、ウサギ、イヌ、およびネコなどの飼育動物、ラット、マウスおよびモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物などを含むが、これらに限定されない。非哺乳動物の例には、鳥、魚などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で提供される方法の一実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0031】
本明細書で使用される場合、「提供する」、「投与する」、「導入する」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、組成物の少なくとも部分的な局在化を所望の部位にもたらす方法または経路によって、本開示の組成物を被験体へ配置することを指す。組成物は、被験体の所望の部位への送達をもたらす、任意の適切な経路によって投与することができる。
【0032】
本明細書に記載される組成物は、組成物の安定性および活性を延長するための追加の組成物とともに、または他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0033】
「阻害する」、「阻害している」、および「阻害」という用語は、疾患、感染、状態、または細胞群の増殖または進行を遅延、停止、または逆行させることを指す。阻害は、治療または接触の不在下で起こる増殖または進行と比較して、例えば、約20%、40%、60%、80%、90%、95%、または99%超強化され得る。さらに、「誘導する」、「阻害する」、「増強する」、「上昇させる」、「増加させる」、「減少させる」などの用語は、2つの状態間の量的な違いを示し、2つの状態間の、少なくとも統計的に有意な違いを指してもよい。例えば、「過剰増殖細胞の増殖を阻害するのに有効な量」は、細胞の増殖速度が、いくつかの実施形態において、未処理の細胞と少なくとも統計的に有意に異なり得ることを意味する。このような用語は、本明細書では、例えば増殖速度に適用することができる。
【0034】
過剰増殖細胞、例えば新生物細胞の「成長または増殖を阻害する」という句は、その増殖および転移の遅延、中断、阻止、または停止を指し、必ずしも新生物増殖の完全な排除を示すわけではない。
【0035】
「がん」という用語は一般に、異常な細胞の無制御な増殖によって引き起こされる、100を超える疾患の群のいずれかを指す。がんは、固形腫瘍、リンパ腫、および白血病などの非固形がんの形態であり得る。成熟まで増殖し、その後は損傷した細胞を交換する必要に応じてのみ増殖する正常細胞とは異なり、がん細胞は無限に成長、分裂し、付近の細胞を混雑させ、最終的には体の他の部分に広がる可能性がある。治療できるいくつかのがん性状態の例には、肛門がん、移行上皮膀胱がん、骨がん、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、胃がん、頭頸部がん、カポジ肉腫、白血病、気管支原性肺がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がんなどの肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、悪性リンパ腫、神経芽細胞腫、骨形成性がん(例、骨のがん)、眼がん(例、網膜芽細胞腫およびその他の眼のがん)、卵巣がん、前立腺がん、腎がん、メラノーマなどの皮膚がん、軟部組織肉腫、甲状腺がん、およびウィルムス腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。本発明の範囲内にある非悪性の過剰増殖状態(例えば、前がん状態)の他の例には、これらに限定されないが、腺腫、軟骨腫、内軟骨腫、線維腫、筋腫、粘液腫、神経鞘腫、骨芽細胞腫、骨軟骨腫、骨腫、乳頭状腫瘍などが含まれ、本明細書に記載される他のがんを含む。
【0036】
「白血病」または「白血病性がん」という用語は、造血系および免疫系(血液およびリンパ系)のすべてのがんまたは新生物を指す。これらの用語は、造血器官の進行性の悪性疾患を指し、血液および骨髄における白血球およびそれらの前駆体の歪んだ増殖および発達を特徴とする。骨髄腫は、血液および骨髄細胞の他のタイプの腫瘍を指す。リンパ腫は、リンパ組織の腫瘍を指す。白血病の例には、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および慢性骨髄性白血病(CML)が含まれる。
【0037】
本発明の実施形態
本開示は、
(a)化合物PAC−1、
【化2】

(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせ
を含む組成物の様々な実施形態を提供する。本開示の他の追加の実施形態では、第2活性剤は、変異c−kitの阻害剤である。
【0038】
本開示の様々な実施形態にでは、組成物は、MEKキナーゼ分解のエンハンサーである。様々な他の実施形態では、組成物は、MEK−1およびMEK−2キナーゼの両方のカスパーゼ−3分解のメディエーターである。さらなる実施形態では、組成物は、MEK−1およびMEK−2キナーゼリン酸化の阻害剤、ERK−1およびERK−2キナーゼリン酸化の阻害剤、またはそれらの組み合わせである。他の追加の実施形態では、第2活性剤は、変異EGFRキナーゼ、またはチロシンタンパク質キナーゼの阻害剤である。
【0039】
さらに他の実施形態では、第2活性剤は、オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、またはそれらの組み合わせである。様々な他の実施形態では、第2活性剤は、融合キナーゼの阻害剤であり、融合キナーゼは、EML4−ALKまたはBcr−Ablである。さらに他の様々な実施形態では、融合キナーゼは、EML4−ALKであり、第2活性剤は、セリチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、またはそれらの組み合わせである。様々な追加の実施形態では、融合キナーゼは、Bcr−Ablであり、第2活性剤は、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ、またはそれらの組み合わせである。
【0040】
本開示はまた、a)担体が水、バッファー、糖、セルロース、シクロデキストリン、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、トコフェロール、リポソーム、ミセル、もしくはそれらの組み合わせを含むか、またはb)賦形剤が結合剤、潤滑剤、吸着剤、ビヒクル、崩壊剤、防腐剤、もしくはそれらの組み合わせを含む、様々な実施形態も提供する。
【0041】
様々な他の実施形態では、PAC−1の濃度は、約0.1μM〜約50μMである。追加の実施形態では、PAC−1の濃度は、約0.1μM〜約5μM、約1μM〜約10μM、約2μM〜約15μM、約3μM〜約20μM、約4μM〜約25μM、約5μM〜約30μM、約10μM〜約40μM、約15μM〜約50μM、約20μM〜約75μM、約25μM〜約100μM、約50μM〜約100μM、または約0.1nM〜約5μMである。
【0042】
さらなる実施形態では、第2活性剤の濃度は、約1nM〜約100μMである。いくつかの追加の実施形態では、第2活性剤の濃度は、約0.1nM〜約100μM、約0.5nM〜約0.5μM、約0.5nM〜約1μM、約1nM〜約10μM、約1nM〜約20μM、約10nM〜約50μM、約0.1μM〜約10μM、約0.1μM〜約20μM、約1μM〜約30μM、約10μM〜約50μM、約10μM〜約75μM、または約15μM〜約100μMである。
【0043】
本開示は、開示された組成物のいずれか1つの組成物の有効量をがん細胞に接触させて、それによりがん細胞の成長または増殖を阻害することを含む、がん細胞の成長または増殖を阻害する方法の様々な実施形態を提供する。がん細胞を、開示された組成物のいずれか1つの組成物の有効量と接触させることを含む、がん細胞においてアポトーシスを誘導する方法の様々な実施形態もあり、アポトーシスは、それによりがん細胞において誘導される。
【0044】
本明細書では、治療有効量の化合物PAC−1および有効量の第2活性剤を、それを必要とする患者に、同時にまたは順次投与することを含み、第2活性剤が、変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、がんの治療方法の様々な実施形態を開示する。がんはそれによって治療される。
【0045】
様々な実施形態において、第2活性剤は、変異EGFRキナーゼの阻害剤、変異c−kitの阻害剤、EML4−ALK融合キナーゼの阻害剤、またはBcr−Abl融合キナーゼの阻害剤であり、変異EGFRキナーゼは、場合によりT790M変異体を有する。他の実施形態では、アポトーシス促進性Bcl−2タンパク質(BIM)が上方制御される。
【0046】
さらなる実施形態では、がんは、MEK−1およびMEK−2キナーゼの両方を分解または消滅させ、それによりMAPKシグナル伝達経路を効果的に阻害し、がん細胞のアポトーシスを誘導すること、MEK−1およびMEK−2、ERK−1およびERK−2、またはそれらの組み合わせのリン酸化を阻害することにより治療される。本開示の他の追加実施形態では、がんは、メラノーマ、白血病、胃がん、腎臓がん、肺がん、脳のがん、またはそれらの転移性形態である。本開示のさらなる他の実施形態では、第2活性剤は、オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、またはイマチニブであり、それを必要とする患者のがんの治療に対する耐性が低減、遅延、または排除される。
【0047】
様々な追加の実施形態では、PAC−1は、生体外(in vitro)または生体内(in vivo)でオシメルチニブ、セリチニブ、またはイマチニブと相乗作用し、
a)PAC−1の濃度は約2μM〜約5μMで、第2活性剤はオシメルチニブで、オシメルチニブの濃度は約1nM〜約30nMであるか、
b)PAC−1の濃度は約2μM〜約5μMで、第2活性剤はセリチニブで、セリチニブの濃度は約5nM〜約30nMであるか、または
c)PAC−1の濃度は約5μM〜約7.5μMで、第2活性剤はイマチニブで、イマチニブの濃度は約60nM〜約100nMである。
【0048】
様々な実施形態では、当業者によって容易に認識されるように、本開示全体にわたって列挙されたPAC−1および第2活性剤の濃度は、例えば、本明細書に記載の濃度を、PAC−1と第2活性剤との相当するモル比に変換することにより、PAC−1と第2活性剤との比率として列挙され、解釈されてもよい。
【0049】
様々な他の実施形態では、化合物PAC−1および第2活性剤は、がん患者に同時に投与される。さらに他の実施形態では、化合物PAC−1および第2活性剤は、がん患者に順次投与される。いくつかのさらなる実施形態では、化合物PAC−1は、第2活性剤の前にがん患者に投与される。さらなる実施形態では、化合物PAC−1は、第2活性剤の後にがん患者に投与される。
【0050】
様々な追加の実施形態では、方法は、治療有効量のMEK阻害剤、V600E変異型BRAFキナーゼ阻害剤、またはそれらの組み合わせを同時にまたは順次患者に投与することをさらに含む。さらに他の実施形態では、MEK阻害剤は、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、またはそれらの組み合わせである。追加の実施形態では、変異BRAFキナーゼ阻害剤は、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、またはそれらの組み合わせである。
【0051】
さらに、本開示には、がん治療用の薬剤を調製するための組成物の使用の、様々な実施形態があり、組成物は、
(a)化合物PAC−1、
(b)変異キナーゼの阻害剤または融合キナーゼの阻害剤である、少なくとも1つの第2活性剤、および
(c)場合により、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体、またはそれらの組み合わせを含み、
組成物は、MEKキナーゼ分解のエンハンサーである。
【0052】
本開示全体にわたる様々な実施形態では、がんは、メラノーマ、白血病、胃がん、腎臓がん、肺がん、脳のがん、またはそれらの転移性形態である。
【0053】
本開示は、体積、質量、パーセンテージ、比率などの変数に対する範囲、限度、および偏差を提供する。「数1」〜「数2」などの範囲は、整数および小数を含む連続した数の範囲を意味することは、当業者に理解される。例えば、1〜10は、1、2、3、4、5、…、9、10を意味する。さらに、1.0、1.1、1.2.1.3、…、9.8、9.9、10.0を意味し、1.01、1.02、1.03なども意味する。示された変数が、「数10」未満の数値である場合、上記のように、数10未満の整数および小数を含む連続範囲を意味する。同様に、示された変数が、「数10」超の数値である場合、数10を超える整数および小数を含む連続範囲を意味する。これらの範囲は、「約」という用語によって修飾することができ、その意味は上記で説明されている。
【0054】
結果
カスパーゼ−3活性は、PAC−1および多様なキナーゼ阻害剤で処理された細胞において有意に増強される。
図1Aおよび図1Bに示すように、PAC−1は、オシメルチニブ処理した非小細胞肺がん(NSCLC)細胞株H1975(EGFRL858R+T790M)およびPC−9 GR(EGFRex19del+T790M)のカスパーゼ−3活性を大幅に増加させる。組み合わせで処理すると、両方の細胞株でPARP−1切断の増加、およびプロカスパーゼ−3バンドの消滅も確認された(図1Aおよび図1B)。同様の効果は、PAC−1およびセリチニブで併用処理したH3122 NSCLC細胞(EML4−ALK融合を含む)(図1C)、ならびにPAC−1およびイマチニブで処理したK−562慢性骨髄性白血病(CML)細胞(BCR−ABL融合を含む)(図1D)でも確認された。二元配置分散分析テストを使用して、カスパーゼ−3活性の増強がより遅い時点で確認されると(図1)、相乗作用があると判定された。カスパーゼ−3活性増加の結果として、PAC−1およびオシメルチニブ/セリチニブ/イマチニブの組み合わせで処理された細胞の非常に大きな集団が、アポトーシスを介して死滅した(図6A図6C)。これらの結果をまとめると、一般的な細胞毒およびBRAFV600Eに対する阻害剤に加えて、PAC−1は、EGFRT790M、EML4−ALK、およびBCR−ABLを標的とするキナーゼ阻害剤のカスパーゼ‐3活性を、広く増強できることが証明される。
【0055】
カスパーゼ−3活性は、MEKキナーゼの分解につながる。
カスパーゼ−3などのエクセキューショナーカスパーゼ(executioner caspase)の活性化により、細胞内の何百ものタンパク質が切断される。興味深いことに、カスパーゼ−3のタンパク質基質は、タンパク質複合体、または細胞の運命および生存を支配するシグナル伝達経路で見られる傾向がある。Wells(Mahrus、et al.、Cell2008、134、866)研究所およびCravatt(Dix、et al.、Cell 2008、134、679)研究室によるカスパーゼ−3基質のプロテオームワイド同定は、MEK1およびMEK2キナーゼの両方が、カスパーゼ‐3を介したアポトーシス中に切断されることを、それぞれ示した。さらに、MEK1およびMEK2は、ERK1/2をリン酸化する唯一のキナーゼであり、ERK1/2活性の重要なゲートキーパーとして機能することも、過去に示された。PAC−1を多様なキナーゼ阻害剤に添加するとアポトーシスが増強されるという所見を踏まえ、カスパーゼ−3活性の劇的な増加がMEK1およびMEK2の分解をもたらし、下流の生存促進シグナル伝達を阻害するという仮説が立てられた。
【0056】
この仮説を調査するために、PAC−1+ベムラフェニブまたはトラメチニブ+ベムラフェニブでの処理後に、BRAFV600E細胞株におけるMEK1およびMEK2キナーゼのレベルを調べた。PAC−1+ベムラフェニブで48時間処理したA375細胞およびSK−MEL−5細胞の両方で、プロカスパーゼ‐3、MEK1、およびMEK2レベルの劇的な低下が確認され、プロカスパーゼ‐3の活性化が、MEK1およびMEK2の分解につながったことを示唆している(図2A)。対照的に、これら2つの細胞株をトラメチニブおよびベムラフェニブで処理した場合、プロカスパーゼ‐3、MEK1、およびMEK2のレベルに、確認できる変化は検出されなかった(図2A)。MEK1/2切断産物の安定は一時的であり(Dix et al.、2008)、処理の48時間後のそれらの検出を困難にすることは、注目に値する。
【0057】
これらの結果の一般性を調査するために、EGFRT790M、EML4−ALK、およびBCR−ABL細胞におけるプロカスパーゼ−3、MEK1、およびMEK2レベルの変化を、PAC−1およびこれらの変化に特異的なキナーゼ阻害剤での併用処理後に評価した。H1975およびPC−9のGR細胞の両方において、PAC−1およびオシメルチニブ(4nM)での処理により、プロカスパーゼ−3、MEK1、およびMEK2レベルが劇的に低下したが、不活性な阻害剤であるゲフィチニブ(図7A)を使用した場合は、そうはならなかった(図2B)。より低い濃度のオシメルチニブ(2.5nM)を使用しても、MEK1およびMEK2キナーゼの分解が引き起こされた(図7B)。重大なことに、トラメチニブおよびオシメルチニブでの併用処理は、BRAFV600E細胞株で確認されたのと同様に、どちらの細胞株でもMEK1およびMEK2レベルの低下につながらなかった(図2B)。MEK1およびMEK2の分解は、H3122細胞において、PAC−1+セリチニブで併用処理した場合(図2C)でも見られ、さらにセリチニブの濃度を下げた場合(図7C)でも見られた。BRAFV600EおよびEGFRT790M細胞で得られたデータと一致して、トラメチニブおよびセリチニブでの併用処理は、H3122細胞のMEK1およびMEK2レベルの低下をもたらさなかった(図2C)。PAC−1+イマチニブまたはトラメチニブ+イマチニブのいずれかで処理したK−562細胞で、プロカスパーゼ‐3活性化が広範囲で確認され、両方のサンプルで、MEK1およびMEK2キナーゼの分解も確認された(図7D)。使用するイマチニブの濃度を変化させると、MEK1およびMEK2のレベルも低下した(図7E)。
【0058】
PAC−1/薬物の組み合わせで確認された相乗作用による細胞死の媒介における、カスパーゼ−3活性の重要性に関するさらなる機構的理解を提供するために、一般的なカスパーゼ阻害剤であるQ−VD−OPhを使用した。これらの実験で、PAC−1/薬物の組み合わせで処理した細胞にQ−VD−OPhを同時に添加すると、アポトーシス細胞死の防止(図8A図8D)、およびMEK1/2切断の減衰(図8E図8G)の両方が確認された。これらの結果は、カスパーゼ‐3活性の阻害、特にMEK1およびMEK2キナーゼの切断におけるその活性の阻害が、PAC−1/薬物の組み合わせで処理された細胞で確認された劇的な相乗作用を、無効にするのに十分であることを示唆している。まとめると、開示された結果は、相乗作用によるアポトーシス細胞死の媒介におけるカスパーゼ‐3誘導MEK1/2切断の重要性、および様々な種類のがんにおける、この所見の一般性を示す。
【0059】
MEK1およびMEK2キナーゼの分解は、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的阻害につながる。
ERK1/2リン酸化の大幅な阻害(>80%)は、ベムラフェニブなどの標的キナーゼ阻害剤の臨床効果に必要である。ERK1/2リン酸化の再活性化が耐性腫瘍で一般的に確認されるため、持続的なERK1/2阻害を達成するために、MEK1/2阻害剤を治療計画に追加した。臨床的に承認されたMEK1/2阻害剤は、ERK1/2リン酸化の防止に効果的である一方、ERK1/2活性の阻害は、RAFの負のフィードバックを妨害し、RAFの過剰活性化およびMEK1/2の過剰リン酸化を引き起こす。MEK1/2リン酸化のリバウンドは、その後、経路の再活性化につながる。トラメチニブなどの「フィードバックバスター」MEK1/2阻害剤の開発は、リバウンドを緩和することを目的としているが、その効果は一時的である。したがって、MEK1/2およびERK1/2の両方を持続的に阻害することは、多数のMEK1/2阻害剤が利用可能であるにもかかわらず、困難なままである。
【0060】
カスパーゼ‐3活性の増強がMEK1/2キナーゼの分解につながったことを踏まえ、PAC−1併用療法が、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的な阻害につながるという仮説が立てられた。PAC−1をベムラフェニブに添加すると、A375(図3Aおよび図3B)およびSK−MEL−5細胞(図3A)の両方でERK1/2リン酸化が阻害され、以前の研究と一致する。細胞がベムラフェニブ+PAC−1で処理された場合、MEK1およびMEK2キナーゼの分解によるMEK1/2リン酸化の持続的な阻害が確認されたが、MEK1/2リン酸化における劇的なリバウンドが、トラメチニブ+ベムラフェニブ処理細胞で早急に見つかった(図3B)。この所見は、変異BRAFメラノーマ細胞でのMEK1/2リン酸化阻害における、トラメチニブの一時的な(6時間)効果を詳述する過去の報告と一致する。これらの結果は、MEK1/2およびERK1/2の両方の活性を阻害する効果的な戦略として、MEK1およびMEK2キナーゼの薬物誘発性分解の明確な利点を示唆している。
【0061】
この効果の一般性を調査するために、H1975およびPC−9 GR細胞をPAC−1およびオシメルチニブで処理し、ERK1/2およびMEK1/2リン酸化の変化を調べた。図3Cおよび図3Dに見られるように、PAC−1およびオシメルチニブで処理されたEGFRT790M細胞は、MEK1およびMEK2分解の結果として、ERK1/2およびMEK1/2のリン酸化が持続的に抑制された。PAC−1およびゲフィチニブの使用では、ERK1/2またはMEK1/2リン酸化の対応する低減は確認されず(図3C)、オシメルチニブによる効果が、EGFRT790M標的に特異的であることを示している。より低い濃度のオシメルチニブでも、MEK1およびMEK2キナーゼの分解に対応する、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的な阻害(図9A)が確認された(図7B)。MEK1/2リン酸化の急速なリバウンドは、オシメルチニブおよびトラメチニブでの処理から24時間以内に同様に発生するが、オシメルチニブおよびPAC−1で処理された細胞では発生せず(図3D)、BRAFV600E細胞で見られる効果を反映している。
【0062】
同様に、H3122細胞(EML4−ALK)をPAC−1+セリチニブまたはトラメチニブ+セリチニブで処理し、ERK1/2およびMEK1/2リン酸化の変化を調べた。この場合、PAC−1+セリチニブで48時間併用処理されたH3122細胞でも、ERK1/2およびMEK1/2リン酸化が持続的に低減され(図9Bおよび図9D)、これはカスパーゼ−3を介したMEK1およびMEK2キナーゼの分解に起因する可能性がある。PAC−1と組み合わせて使用すると、より低い濃度のセリチニブでも、MEK1およびMEK2キナーゼの分解によって(図7C)、MEK1/2およびERK1/2リン酸化の持続的な阻害をもたらす(図9C)。同様に、MEK1/2リン酸化の一時的な阻害は、トラメチニブおよびセリチニブで処理されたH3122細胞でも確認され(図9D)、BRAFV600EおよびEGFRT790M細胞で見られた結果と一致している。
【0063】
最後に、BCR−ABLを発現するK−562細胞では、PAC−1およびイマチニブでの併用処理が、MEK1およびMEK2キナーゼの広範な分解による(図7D)、ERK1/2およびMEK1/2リン酸化の持続的な阻害をもたらす(図9E)。トラメチニブ+イマチニブで48時間処理した細胞では、MEK1/2リン酸化のリバウンドは確認されなかったことに留意されたい(図9E)。MEK1およびMEK2キナーゼの分解も、この細胞株で確認されたからである(図7D)。同様に、使用するイマチニブの濃度を変化させると、MEK1およびMEK2の分解(図7E)により、phospho−MEK1/2およびphospho−ERK1/2レベルが低下した(図9F)。まとめると、示された結果は、多様なキナーゼ阻害剤と組み合わせると、ERK1/2およびMEK1/2のリン酸化を持続的に阻害するPAC−1の能力を証明し、これらの標的キナーゼ阻害剤とMEK1/2阻害剤トラメチニブとの組み合わせでは、通常確認されない結果である。
【0064】
PAC−1+ベムラフェニブは、耐性獲得の排除において、トラメチニブ+ベムラフェニブよりも効果的である。
MEKキナーゼの二次活性化変異が、BRAFi+MEKiに耐性のあるメラノーマで一般的に見られることを踏まえ、PAC−1+ベムラフェニブが、A375細胞での耐性遅延において、トラメチニブ+ベムラフェニブよりも効果的であるという仮説が立てられた。仮説の背後にある理論的根拠は、PAC−1+ベムラフェニブが、MEKキナーゼの分解をもたらすアポトーシス細胞死を大幅に増強して、ERK1/2リン酸化をさらに阻害するというものである。この仮説を試験するために、A375細胞をPAC−1、ベムラフェニブ、トラメチニブ、およびそれぞれの組み合わせで最大30日間処理した。以前の研究と一致して、耐性コロニーは、単剤のベムラフェニブで処理されたA375細胞に、処理後20日程で目に見えて存在した(図4Aおよび図4B)。トラメチニブ+ベムラフェニブで処理された細胞では、25日間の連続処理後に、耐性コロニーが初めて認められた。30日間の処理後、トラメチニブおよびベムラフェニブで処理したA375細胞でより多くの耐性コロニーが見られ、BRAFi+MEKi耐性の存在が示された(図4Aおよび4B)。しかしながら、耐性コロニーの出現は、PAC−1およびベムラフェニブで処理されたA375細胞では、トラメチニブが存在してもしなくても、30日間の処理後に確認されず(図4Aおよび図4B)、臨床的に使用されているBRAFi+MEKiの組み合わせと比較して、PAC−1の二重または三重の組み合わせが、ベムラフェニブ耐性の発現の排除に著しく効果的であることを示している。
【0065】
PAC−1とオシメルチニブ/セリチニブとの組み合わせは、EGFRT790M細胞およびEML4−ALK細胞における耐性を排除するのに効果的である。
PAC−1とオシメルチニブとの組み合わせの、EGFRT790M細胞における耐性の獲得を遅延させる能力を調査した。この場合、H1975およびPC−9 GR細胞は、指定された濃度のPAC−1および/またはオシメルチニブで最大28日間処理した。両方の細胞株では、単剤PAC−1(2μM)による8日間の処理で、DMSO処理サンプルと比較して、最低の細胞毒性効果を示した。一方、単剤オシメルチニブ(30nM)、およびPAC−1とオシメルチニブとの組み合わせは、細胞増殖の阻害に非常に効果的であった(図10)。28日間の薬剤処理後、PAC−1およびオシメルチニブの両方で処理された細胞とは対照的に、オシメルチニブのみで処理されたPC−9 GRおよびH1975細胞では、耐性クローンがはっきりと見られた(図10)。これらの結果は、PAC−1とオシメルチニブとの組み合わせが、EGFRT790M細胞株におけるオシメルチニブ耐性の発現を、劇的に遅延または排除するのに有効であることを示唆している。次に、PC−9 GR細胞における耐性の遅延について、PAC−1+オシメルチニブの組み合わせと、トラメチニブ+オシメルチニブの組み合わせとを比較する実験が実施された。この場合、単剤としてのPAC−1またはトラメチニブ(5nM)は、8日間の処理後、DMSO処理細胞と比較して、最低の細胞毒性効果を示した。予想通り、オシメルチニブ、PAC−1+オシメルチニブ、またはトラメチニブ+オシメルチニブによる8日間の処理は、細胞増殖の阻害に効果的であった。図10Aと一致して、耐性クローンは、単剤オシメルチニブでの28日間の処理後にPC−9 GR細胞で見られたが、PAC−1およびオシメルチニブで処理された細胞では見られなかった(図4Cおよび図4D)。トラメチニブおよびオシメルチニブで処理された細胞でも、28日後に耐性クローンは見られなかった。35日間の処理後、単剤オシメルチニブで処理した細胞に存在する耐性クローンの数が、劇的に増加したが、PAC−1+オシメルチニブまたはトラメチニブ+オシメルチニブで処理した細胞では、耐性クローンは確認されなかった(図4Cおよび図4D)。この所見は、PAC−1+オシメルチニブの組み合わせは、トラメチニブ+オシメルチニブの組み合わせと効力は同等であるが、耐性の遅延では、有効性が劣ることを示唆している。
【0066】
最後に、PAC−1+セリチニブの、EML4−ALK細胞での耐性獲得を遅延させる能力を調査した。ここでは、H3122細胞を、指定された濃度のPAC−1、トラメチニブ、セリチニブ、またはそれぞれの組み合わせで最大32日間処理した。単剤PAC−1(2μM)またはトラメチニブ(5nM)処理では、8日間の処理後、DMSO処理サンプルと比較して最低の細胞毒性効果を示した。セリチニブ、PAC−1+セリチニブ、またはトラメチニブ+セリチニブによる8日間の処理は、細胞増殖の阻害に効果的であった。(図4E)耐性クローンは、単剤セリチニブでの20日間の処理後にH3122細胞で見られたが、PAC−1およびオシメルチニブ、またはトラメチニブおよびセリチニブのいずれかで処理された細胞では見られなかった(図4E)。32日間の処理後、単剤セリチニブで処理した細胞に存在する耐性クローンの数が、劇的に増加したが、PAC−1+セリチニブで処理した細胞では、耐性クローンはほとんど確認されなかった(図4E)。トラメチニブ+セリチニブで処理した細胞では、いくつかの耐性クローンがはっきりと見られ、ALKi+MEKi耐性H3122細胞の存在を示している(図4Eおよび図4F)。
【0067】
要約すると、BRAFV600E、EGFRT790M、EML4−ALK、およびBCR−ABLを標的とするキナーゼ阻害剤とPAC−1との組み合わせにより、プロカスパーゼ‐3活性化ならびにMEK1およびMEK2キナーゼの分解が促進される(図5)。次に、MEKキナーゼの分解により、MEK1/2およびERK1/2シグナル伝達が持続的に阻害される。PAC−1併用療法で確認される、アポトーシス細胞死の増加とMAPK経路の持続的な阻害との組み合わせ効果は、耐性を劇的に遅延または排除するために連動して作用する。
【0068】
討論
標的キナーゼ阻害剤に対する耐性獲得の機構を理解する上で、重要な進歩が見られた。この理解は、BRAFV600Eメラノーマの併用療法ならびに、変異型EGFRおよび融合EML4−ALKおよびBCR−ABLキナーゼの次世代阻害剤に転換されている。残念ながら、がん細胞は、代替耐性機構を介してこれらの次世代阻害剤による阻害を迅速に回避し、耐性腫瘍と闘うためのより新しい薬物の開発が必要とされている。さらに、薬物誘発性耐性の大部分は説明されないままであり、これは、分子的に定義された耐性機構を有する少数の患者しか、より新しい薬物の利益を受けられないことを意味する。
【0069】
開示された結果は、プロカスパーゼ‐3活性化剤であるPAC−1と、臨床的に適切な濃度の多様な標的キナーゼ阻害剤(MEK1/2リン酸化およびカスパーゼ活性に対する各キナーゼ阻害剤の予測効果については表2を参照)との併用処理が、カスパーゼ−3活性およびアポトーシス細胞死を多様な腫瘍組織型およびドライバー変異にわたって広範に効果的に増強していることを示す。結果として得られるカスパーゼ‐3活性は、MEK1およびMEK2キナーゼの両方の酵素分解、ならびにMEK1/2およびERK1/2の両方のリン酸化の持続的な阻害につながる。持続的なERK1/2阻害は、MEK1/2阻害剤で達成できるが、これは、RAFキナーゼの負のフィードバックを妨害し、MEK1/2の逆説的な過剰リン酸化につながる。トラメチニブは、MEK1/2の過剰リン酸化を最小限に抑えるための「フィードバックバスター」として開発されたが、阻害効果は、以前に示したように比較的一過性であり、開示された結果と一致する(図3)。対照的に、本開示は、カスパーゼ‐3を介したMEK1およびMEK2キナーゼの分解が、対応するMEK1/2リン酸化のリバウンドなしに、ERK1/2を不活性化する優れた戦略であることを示す。開示された結果は、MEK1およびMEK2の両方のゲノムノックダウンで確認された、ERK1/2リン酸化の無効によって裏付けられている。MAPK経路の制御におけるMEK1/2キナーゼの重要な役割により、その持続的な阻害は、獲得耐性の発現を大幅に遅延させるのに有利であり得る。
【0070】
PAC−1を使用した直接的なプロカスパーゼ‐3活性化とは対照的に、ドキソルビシンなどの一般的な細胞毒素を使用したアポトーシスの非特異的誘導は、これらの薬剤によって誘発される細胞ストレスにより、ERK1/2の過剰活性化を引き起こし得る。この所見は、ERK1/2リン酸化の逆説的な再活性化を回避するために、一般的な細胞毒素の代わりに、直接的なプロカスパーゼ‐3活性化剤を標的キナーゼ阻害剤と組み合わせて使用することの重要性を強調している。
【0071】
開示された結果は、1〜2μMのPAC−1(ヒト患者で容易に達成される濃度)を添加すると、BRAFV600Eメラノーマ、EGFRT790M、およびEML4−ALK NSCLCそれぞれの、ベムラフェニブ、オシメルチニブ、およびセリチニブに対する耐性獲得の遅延に効果的があることも示す。さらに、PAC−1と標的キナーゼ阻害剤との組み合わせは、標的キナーゼ阻害剤と組み合わせたMEK1/2阻害(トラメチニブによる)と比較して、耐性の劇的な遅延または排除における顕著な利点がある。この所見を説明するための、2つの機構が働いている可能性がある。第一に、PAC−1併用療法で処理された細胞で確認されたアポトーシスの増強は、がん細胞の大部分が死滅するため、耐性クローンの出現を妨げる可能性がある。第二に、MEK1/2およびERK1/2の持続的な阻害は、増殖して耐性コロニーを形成する細胞の能力を著しく低下させる。
【0072】
標的キナーゼ阻害剤は、がん治療に劇的な影響を与えたが、耐性は、この効果の持続性を深刻に制限している。各耐性機構用の新薬を開発する代わりに、本明細書に開示された研究では、標的抗がん療法に対する耐性を排除または大幅に遅延させる可能性のある一般化可能な戦略が特定され、BRAFV600E、EGFRT790M、およびEML4−ALKキナーゼによって引き起こされるがんにおける、その有効性を証明することに成功した。PAC−1は現在臨床試験(NCT02355535、NCT03332355)で評価されており、この研究で使用されるキナーゼ阻害剤は、すでにFDAによって承認されているため、本明細書に示す前臨床データの結果は、耐性の遅延または排除をもたらし得るPAC−1併用療法を調査するための、今後の試験の計画についての情報を提供できる。
【0073】
医薬品製剤
本明細書に記載の化合物を使用して、例えば、化合物を薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、または担体と組み合わせることにより、治療用医薬組成物を調製することができる。化合物は、塩または溶媒和物の形態で担体に添加することができる。例えば、化合物が、安定した非毒性の酸性または塩基性の塩を形成するのに十分に塩基性または酸性である場合、塩としての化合物の投与が適切であり得る。薬学的に許容される塩の例は、生理学的に許容されるアニオンを形成する酸で形成された有機酸付加塩、例えば、トシラート、メタンスルホナート、アセタート、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、およびβ−グリセロリン酸塩である。塩酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩を含む好適な無機塩も形成され得る。
【0074】
薬学的に許容される塩は、当技術分野で周知の標準手順を使用して、例えば、アミンなど十分に塩基性である化合物を好適な酸と反応させて、生理学的に許容されるイオン性化合物をもたらすことによって得ることができる。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)の塩も、類似の方法で調製することができる。
【0075】
本明細書に記載されている式の化合物は、医薬組成物として調製され、ヒト患者などの哺乳動物宿主に様々な形態で投与され得る。形態は、選択された投与経路、例えば、経口または静脈内、筋肉内、局所もしくは皮下経路による非経口投与に特に適合させることができる。
【0076】
本明細書に記載の化合物は、不活性希釈剤または同化可能な食用担体など、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせて全身投与することができる。経口投与の場合、化合物は、硬質または軟質シェルゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮するか、または患者の治療食の食物中に直接組み込むことができる。化合物はまた、1つ以上の賦形剤と組み合わされ得、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、オブラートなどの形態で使用され得る。そのような組成物および調製物は、典型的には少なくとも0.1%の活性化合物を含む。組成物および調製物のパーセンテージは変動してもよく、好都合には、所与の単位剤形の重量の約0.5%〜約60%、約1%〜約25%、または約2%〜約10%である得る。このような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、有効な投与量レベルが得られるようなものであり得る。
【0077】
錠剤、トローチ、丸薬、カプセルなどは、トラガカントガム、アラビアガム、トウモロコシデンプンまたはゼラチンなどの結合剤、リン酸二カルシウムなどの賦形剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤の、1つ以上を含むこともできる。スクロース、果糖、乳糖もしくはアスパルテームなどの甘味料、またはペパーミント、ウィンターグリーン油もしくはチェリーフレーバーなどの香味料を加えてもよい。単位剤形がカプセルである場合、上記の種類の材料に加えて、植物油またはポリエチレングリコールなどの液体担体を含むことができる。コーティングとして、またはそれとは別に固体単位剤形の物理的形態を変更するために、様々な他の材料が存在してもよい。例えば、錠剤、丸薬、またはカプセルは、ゼラチン、ワックス、シェラック、または糖などでコーティングすることができる。シロップまたはエリキシルは、活性化合物、甘味料としてのスクロースまたは果糖、防腐剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、染料ならびにチェリーまたはオレンジフレーバーなどの香味料を含み得る。任意の単位剤形の調製に使用される任意の材料は、薬学的に許容され、使用される量で実質的に無毒でなければならない。さらに、活性化合物は、徐放性調製物およびデバイスに組み込まれ得る。
【0078】
活性化合物は、注入または注射によって静脈内または腹腔内に投与することができる。活性化合物またはその塩の溶液は、水中で調製することができ、場合により非毒性の界面活性剤と混合することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、またはそれらの混合物、または薬学的に許容される油中で調製することができる。通常の保管および使用条件下では、調製物は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含んでもよい。
【0079】
注射または注入に適した医薬剤形には、注射または注入可能な無菌の溶液または分散液の即時調製に適合した、場合によりリポソームに封入された活性成分を含む無菌水溶液、分散液、または無菌粉末が含まれ得る。最終的な剤形は、製造および保管の条件下で、無菌で流動性があり、安定していなければならない。液体担体またはビヒクルは、溶媒または分散液媒体であり得、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、非毒性グリセリルエステル、およびそれらの好適な混合物を含む。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、または界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌剤および/または抗真菌剤によってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、バッファー、または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよび/またはゼラチンによってもたらされ得る。
【0080】
無菌注射液は、必要量の活性化合物を、上記に列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒に組み込み、必要に応じて、その後任意で濾過滅菌することにより調製することができる。無菌注射溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、溶液中に存在する有効成分と任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥技術を含み得る。
【0081】
局所投与の場合、化合物は、例えばそれらが液体である場合、純粋な形態で適用され得る。しかしながら、例えば、固体、液体、ゲルなどであってよい皮膚科学的に許容される担体と組み合わせて、組成物または製剤として活性剤を皮膚に投与することが一般に望ましい。
【0082】
有用な固体担体には、タルク、クレイ、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナなどの微粉固体が含まれる。有用な液体担体には、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール、グリコール、または水−アルコール/グリコールブレンドが含まれ、化合物を有効なレベルで、場合により非毒性の界面活性剤を用いて溶解または分散させることができる。芳香剤または追加の抗菌剤などのアジュバントを追加して、所与の用途のための特性を最適化できる。得られた液体組成物は、吸収性パッドから適用するか、包帯および他のドレッシング材に含浸させるために使用するか、またはポンプタイプもしくはエアロゾル噴霧器を使用して患部に噴霧することができる。
【0083】
合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩およびエステル、脂肪アルコール、変性セルロース、または変性ミネラル物質などの増粘剤を液体担体とともに使用して、患者の皮膚に直接塗布できるペースト、ゲル、軟膏、石鹸などを形成することもできる。
【0084】
活性剤を皮膚に送達するための皮膚科用組成物の例は、当技術分野で知られている。例えば、米国特許第4,992,478号(Geria)、4,820,508号(Wortzman)、4,608,392号(Jacquet et al.)、および4,559,157号(Smith et al.)を参照されたい。そのような皮膚科用組成物は、本明細書に記載の化合物と組み合わせて使用でき、その場合そのような組成物の成分を本明細書に記載の化合物で任意に置き換えても、または本明細書に記載の化合物を組成物に添加してもよい。
【0085】
本明細書に記載される組成物の有用な投与量は、それらの生体外(in vitro)活性、および動物モデルにおける生体内(in vivo)活性を比較することにより決定され得る。マウスおよび他の動物における有効用量をヒトに外挿する方法は、当技術分野で知られている。例えば、米国特許第4,938,949号(Borch et al.)を参照されたい。治療での使用に必要な化合物、またはその活性塩もしくは誘導体の量は、選択した特定の化合物または塩だけでなく、投与経路、治療する状態の性質、ならびに患者の年齢および状態に応じて変動し、最終的には主治医または臨床医の裁量によるであろう。
【0086】
しかしながら、一般に、好適な用量は、約0.5〜約100mg/kg、例えば、1日当たり約10〜約75mg/kg体重、例えば、1日当たり受容体の体重1kg当たり3〜約50mg、好ましくは6〜90mg/kg/日、最も好ましくは15〜60mg/kg/日である。
【0087】
化合物は、好都合には単位剤形処方される。例えば、単位剤形あたり5〜1000mg、好都合には10〜750mg、最も好都合には50〜500mgの有効成分を含む。一実施形態では、本発明は、そのような単位剤形で製剤化された本発明の化合物を含む組成物を提供する。
【0088】
化合物は、例えば、単位剤形あたり5〜1000mg/m、好都合には10〜750mg/m、最も好都合には50〜500mg/mの活性成分を含む単位剤形で便利に投与することができる。所望の用量は、好都合には単回用量で、または適切な間隔で投与される分割用量として、例えば、1日当たり2、3、4回またはそれ以上の分割用量として提示され得る。分割投与量自体は、例えば、大雑把な間隔を空けた離散的な数量に、さらに分割されてもよい。
【0089】
本発明は、哺乳動物のがんを治療するための、本明細書に記載の治療方法であって、本明細書に記載の化合物または組成物の有効量をがんを有する哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。哺乳動物には、霊長類、ヒト、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウシなどが含まれる。がんとは、例えば、肺がん、乳がん、メラノーマ、白血病などの様々な種類の悪性新生物を指し、一般に、望ましくない細胞増殖、例えば無秩序な増殖、分化の欠如、局所組織浸潤、および転移を特徴とする。
【0090】
本発明の化合物ががんを治療する能力は、当技術分野で周知のアッセイを使用して判定され得る。例えば、治療プロトコルの設計、毒性評価、データ分析、腫瘍細胞死滅の定量化、および移植可能腫瘍スクリーニングの使用の生物学的重要性が知られている。
【0091】
以下の例は、上記の発明を例示することを意図しており、その範囲を狭めると解釈されるべきではない。当業者は、例が本発明を実施することができる多くの他の方法を示唆していることを容易に認識するであろう。本発明の範囲内に留まりながら、多くの変形および修正を行うことができることを理解されたい。
【0092】

例1 方法および材料(表1)
実験モデルおよび被験体の詳細
A375、K−562、およびSK−MEL−5は、ATCCより入手した。PC−9 GR、H1975、およびH3122は、Prof.Eric Haura(Moffitt Cancer Center)から提供された。PC−9 GR、H1975、およびH3122は、10%FBS(Gemini)を添加したRPMI 1640で培養した。A375およびSK−MEL−5は、DMEM+10%FBSで培養した。K−562はIMDM+10%FBSで培養した。すべての細胞を37℃、5%COで培養した。ヒト細胞株の性別:A375(女性、54歳)、K−562(女性、53歳)、SK−MEL−5(女性、24歳)、H3122(女性、年齢不明)、H1975(女性、年齢不明)、PC−9 GR(女性、年齢不明)
【表1-1】

【表1-2】
【0093】
細胞株の認証
この研究で使用されたすべてのヒト細胞株(PC−9 GR、H1975、SK−MEL−5、A375、K−562、およびH3122)は、以前に記述されているように(Peh、et al.、Mol.Cancer Ther.、2016、15、1859)、PowerPlex16HSアッセイ(Promega)を使用して認証され、15常染色体遺伝子座、X/Yは、University of Arizona Genetics Core(UAGC)にて認証された。100万個を超える細胞を回収し、細胞溶解バッファー(50mMトリス、50mM EDTA、25mMスクロース、100mM NaCl、1%SDS、pH8)を使用して溶解した。各細胞株のDNA抽出およびショートタンデムリピート(STR)プロファイリングは、UAGCで実施した。得られた常染色体STRプロファイルは、ATCC、DSMZ、JCRBなどの参照データベースと比較した。
【0094】
細胞生存率アッセイ
オシメルチニブ、ゲフィチニブ、またはPAC−1のDMSO溶液を各ウェルに添加する前に、96ウェルプレートのウェルあたり1000個の細胞を播種し、接着させた。各ウェルのDMSOの最終濃度は、0.5%である。5日間の終了時、スルホローダミンB(SRB)アッセイスルホローダミンB(SRB)アッセイによって生存率を評価した。短く言うと、100μLの10%トリクロロ酢酸(TCA)を各ウェルに添加し、プレートを4℃で少なくとも1時間培養した。4℃での培養後、プレートを水で洗浄し、室温で少なくとも1時間乾燥させた。100μLのSRB色素(1%w/v)を各ウェルに添加し、室温で30分間培養した。30分の培養の終わりに、プレートを1%酢酸溶液で洗浄し、室温で乾燥させた。最後に、200μLのトリス溶液(pH>10)を各ウェルに添加して、SRB色素を溶解した。各ウェルの吸光度を、SpectraMax M3プレートリーダー(Molecular Devices)で510nmで読み取った。
カスパーゼ−3/−7活性アッセイ
【0095】
EGFRT790M細胞株では、96ウェルプレートの各ウェルに4,000細胞を播種し、一晩接着させた。翌日、PAC−1またはオシメルチニブの指定濃度を上げて、0、2、4、24、30、35、44、および48時間処理した。K−562細胞をウェルあたり3,000細胞で播種し、指定された濃度のPAC−1またはイマチニブで0、2、4、24、48、68、および72時間処理した。H3122細胞をウェルあたり4,000細胞で播種し、一晩付着させた。次に、細胞を指定された濃度のPAC−1またはセリチニブで0、2、4、24、44、および48時間処理した。実験全体を通して、10μMラプティナルを陽性対照として使用した。指示された培養時間の後、細胞を溶解し、溶解および活性の二機能性緩衝液(200mM HEPES、400mM NaCl、40mM DTT、0.4mM EDTA、1%Triton−X、pH7.4)の添加によって、50μMの蛍光発生性Ac−DEVD−AFC基質(λex=405nm、λem=505nm)を用いてカスパーゼ−3/−7活性を評価した。プレートをSpectraMax M3(Molecular Devices)プレートリーダーで37℃で30分間予備培養し、その後3分間隔で30分間読み取った。各ウェルの勾配を計算し、6回の技術的な反復試験にわたる平均を求めた。活性は、アッセイ内で確認された最大および最小の活性に正規化する。
【0096】
イムノブロッティング
ホスファターゼ(BioVision)およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem)を含むRIPAバッファーを使用して、細胞を溶解した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Pierce)を使用して測定した。8−20μgのタンパク質を含む細胞溶解物を4−20%勾配ゲル(BioRad)の各レーンに充填し、SDS−PAGEにかけた。タンパク質をPDVFメンブレン(Millipore)に転写し、ウエスタンブロット分析を行った。ブロットをBSAで1時間ブロックした後、一次抗体とともに一晩培養した(メーカー推奨の希釈)。二次抗体を1時間培養した。次に、SuperSignal West Pico Solutionで培養した後、製造元のプロトコルに従ってChemiDoc Touchでブロットを画像化した。
【0097】
フローサイトメトリーによるアポトーシスの評価
EGFRT790M細胞株では、40,000細胞を12ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。翌日、指定された濃度のPAC−1またはオシメルチニブを加え、37℃で48時間培養した。K−562細胞を30,000細胞で播種し、PAC−1またはイマチニブとともに72時間培養した。12ウェルプレートに40,000個のH3122細胞を播種し、一晩接着させた。翌日、PAC−1またはセリチニブとともに48時間培養した。指示された培養期間の後、細胞を回収し、アネキシンV−FITCおよびPI色素とあらかじめ混合した450μLの冷バッファー(10mM HEPES、140mM NaCl、2.5mM CaCl、pH7.4)に再懸濁した。サンプルはBD Biosciences LSRIIフローサイトメーターで分析し、データ分析はFSC Express Version5を使用して実施した。
【0098】
フローサイトメトリーによるQ−VD−OPh保護
A375(BRAFV600E)細胞をウェル当たり70,000細胞で12ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。翌日、指定された濃度のPAC−1、ベムラフェニブ、トラメチニブ、および/またはQ−VD−OPhを添加し、細胞を37℃で48時間培養した。EGFRT790M細胞株、PC−9 GRの場合、40,000細胞を12ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。翌日、指定された濃度のPAC−1、オシメルチニブ、およびQ−VD−OPhを添加し、37℃で48時間培養した。12ウェルプレートに40,000個のH3122細胞を播種し、一晩接着させた。翌日、それらをPAC−1、セリチニブ、および/またはQ−VD−OPhとともに、48時間培養した。K−562細胞は、12ウェルプレートにウェル当たり35,000細胞で播種した。翌日、指定された濃度のPAC−1、イマチニブ、および/またはQ−VD−OPhを添加し、細胞を37°Cで48時間培養した。指示された培養期間の後、細胞を回収し、アネキシンV−FITCおよびPI色素とあらかじめ混合した450μLの冷バッファー(10mM HEPES、140mM NaCl、2.5mM CaCl、pH7.4)に再懸濁した。サンプルはBD Biosciences LSRIIフローサイトメーターで分析し、データ分析はFSC Express Version5を使用して実施した。
【0099】
BRAFV600E細胞株での長期実験
このアッセイは、前に記載されたように実施した。手短に言えば、100〜250個の細胞を播種し、一晩付着させた。翌日、細胞を指定濃度のPAC−1、ベムラフェニブ、またはトラメチニブで10、20、25、または30日間処理した。3〜4日ごとに新しい化合物を追加して、培地を更新した。培養期間の終了時に、細胞を10%トリクロロ酢酸で固定し、SRBで染色し、GelDoc XR(BioRad)を使用して画像化し、SpectraMax M3(Molecular Devices)プレートリーダーを使用して510nmでの吸光度を読み取った。
【0100】
EGFRT790M細胞株での長期実験
12ウェルプレートに、PC−9 GRまたはH1975細胞をウェルあたり2,000細胞で播種し、一晩接着させた。翌日、細胞を指定された濃度のPAC−1またはオシメルチニブで8または28日間処理した。培地は、3〜4日ごとに新しい化合物で更新した。PAC−1の組み合わせおよびトラメチニブの組み合わせの効果を比較する実験では、PC−9 GR細胞を6ウェルプレートにウェルあたり10,000細胞で播種し、一晩接着させた。翌日、細胞を指定濃度のPAC−1、オシメルチニブ、または5nMトラメチニブで8、28、または35日間処理した。培地は、3〜4日ごとに新しい化合物で更新した。培養期間の終了時に、細胞を10%トリクロロ酢酸で固定し、SRBで染色し、GelDoc XRを使用して画像化し、SpectraMax M3(Molecular Devices)プレートリーダーを使用して510nmでの吸光度を読み取った。
【0101】
EML4−ALK細胞株での長期実験
H3122細胞を6ウェルプレートにウェルあたり10,000細胞で播種し、一晩付着させた。翌日、細胞を指定濃度のPAC−1、オシメルチニブ、または5nMトラメチニブで8、20、または32日間処理した。培地は、3〜4日ごとに新しい化合物で更新した。培養期間の終了時に、細胞を10%トリクロロ酢酸で固定し、SRBで染色し、GelDoc XRを使用して画像化し、SpectraMax M3(Molecular Devices)プレートリーダーを使用して510nmでの吸光度を読み取った。
表2 カスパーゼをリン酸化するキナーゼの分析、ならびにこれらのカスパーゼ、キナーゼ、およびMEK1/2リン酸化に対する指定されたキナーゼ阻害剤の予測される効果図1および図2に関連する。
【表2】
【0102】
定量化および統計分析
データは、平均値±平均の標準誤差(s.e.m.)として提示する。有意水準は、Microsoft Excelを使用した、対照群対実験群の2ウェイt検定(two−way t−test)によって判定した。カスパーゼ−3活性の増加が相乗的であるかどうかを判断するために、OriginPro(Version10、Origin Lab)を使用して、DMSO処理サンプル、単剤処理サンプルの、組み合わせ処理のサンプルに対する二元配置分散分析を実施した。データがこの統計的アプローチの仮定を満たしているかどうか判断するための分析は、実施しなかった。独立した反復数および統計的有意性を含む統計値は、図の凡例で報告される。
【0103】
例2 医薬品剤形
以下の製剤は、本明細書に記載の組み合わせ化合物(例えば、PAC−1および第2活性剤)、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の、治療的または予防的投与に使用できる代表的な医薬剤形を示す(以後、1つの活性剤または2つの活性剤の組み合わせであり得る、「組成物X」と呼ぶ)。
(i)錠剤1 mg/錠
「組成物X」 100.0
乳糖 77.5
ポビドン 15.0
クロスカルメロースナトリウム 12.0
微結晶性セルロース 92.5
ステアリン酸マグネシウム 3.0
300.0

(ii)錠剤2 mg/錠
「組成物X」 20.0
微結晶性セルロース 410.0
デンプン 50.0
デンプングリコール酸ナトリウム 15.0
ステアリン酸マグネシウム 5.0
500.0

(iii)カプセル mg/カプセル
「組成物X」 10.0
コロイド状二酸化ケイ素 1.5
乳糖 465.5
アルファ化デンプン 120.0
ステアリン酸マグネシウム 3.0
600.0

(iv)注射1(1mg/mL) mg/mL
「組成物X」(遊離酸形態) 1.0
リン酸二ナトリウム 12.0
一塩基性リン酸ナトリウム 0.7
塩化ナトリウム 4.5
1.0N水酸化ナトリウム溶液 q.s.
(pH7.0−7.5に調整)
注射用水 q.s.ad 1mL

(v)注射2(10mg/mL) mg/mL
「組成物X」(遊離酸形態) 10.0
一塩基性リン酸ナトリウム 0.3
リン酸二ナトリウム 1.1
ポリエチレングリコール400 200.0
0.1N水酸化ナトリウム溶液 q.s.
(pH7.0−7.5に調整)
注射用水 q.s.ad 1mL

(vi)エアロゾル mg/can
「組成物X」 20
オレイン酸 10
トリクロロモノフルオロメタン 5,000
ジクロロジフルオロメタン 10,000
ジクロロテトラフルオロエタン 5,000

(vii)局所用ジェル1 重量%
「組成物X」 5%
カルボマー934 1.25%
トリエタノールアミン q.s.
(pH5〜7に調整)
メチルパラベン 0.2%
精製水 q.s〜100g

(viii)局所用ジェル2 重量%
「組成物X」 5%
メチルセルロース 2%
メチルパラベン 0.2%
プロピルパラベン 0.02%
精製水 q.s〜100g

(ix)局所用軟膏 重量%
「組成物X」 5%
プロピレングリコール 1%
無水軟膏基剤 40%
ポリソルベート80 2%
メチルパラベン 0.2%
精製水 q.s〜100g

(x)局所用クリーム1 重量%
「組成物X」 5%
白蜜蝋 10%
流動パラフィン 30%
ベンジルアルコール 5%
精製水 q.s〜100g

(xi)局所用クリーム2 重量%
「組成物X」 5%
ステアリン酸 10%
モノステアリン酸グリセリル 3%
ポリオキシエチレンステアリルエーテル 3%
ソルビトール 5%
パルミチン酸イソプロピル 2%
メチルパラベン 0.2%
精製水 q.s〜100g
【0104】
例3 錠剤形態
以下の製剤は、本明細書に記載される組み合わせ化合物(例えば、PAC−1および第2活性剤)、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の、治療的または予防的投与に使用できる代表的な医薬剤形を示す。
(i)錠剤A mg/錠
PAC−1 250.0
微結晶性セルロース 127.5
マンニトール 50.0
デンプングリコール酸ナトリウム 50.0
ヒュームドシリカ 2.5
ヒドロキシプロピルセルロース 15.0
フマル酸ステアリルナトリウム 5.0
500.0

(ii)錠剤B mg/錠
第2薬剤 250.0
微結晶性セルロース 127.5
マンニトール 50.0
デンプングリコール酸ナトリウム 50.0
ヒュームドシリカ 2.5
ヒドロキシプロピルセルロース 15.0
フマル酸ステアリルナトリウム 5.0
500.0
【0105】
これらの製剤は、製薬業界でよく知られている従来の手順によって調製することができる。上記の医薬組成物は、周知の医薬技術に従って変化させて、異なる量およびタイプの活性成分「化合物X」に適応させ得ることは理解されよう。エアロゾル製剤(vi)は、標準の定量エアロゾルディスペンサーと組み合わせて使用できる。加えて、特定の成分および比率は、説明のためのものである。目的の剤形の所望の特性に応じて、成分を好適な同等物と交換しても、または比率を変えてもよい。
【0106】
特定の実施形態が、開示された実施形態および例を参照して上記で説明されたが、そのような実施形態は、単なる例示であり、本発明の範囲を限定しない。以下の特許請求の範囲で定義されるより広範な態様において、本発明から逸脱することなく、当業者によって変更および修正を行うことができる。
【0107】
すべての刊行物、特許、および特許文書は、あたかも個々に参照により組み込まれるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。本開示と矛盾する制限は、そこから認識されるべきではない。本発明は、様々な特定の好ましい実施形態および技術を参照して説明されてきた。しかしながら、本発明の精神および範囲内に留まりながら、多くの変更および修正がなされ得ることが理解されるべきである。
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【国際調査報告】