特表2021-504349(P2021-504349A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-504349チモシンβ4またはその誘導体を有効成分として含む杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-504349(P2021-504349A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】チモシンβ4またはその誘導体を有効成分として含む杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20210118BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20210118BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20210118BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210118BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210118BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210118BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20210118BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20210118BHJP
【FI】
   A61K38/22
   A61P1/04ZNA
   A61P27/04
   A61K9/08
   A61K47/12
   A61K47/02
   C07K14/47
   C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-528252(P2020-528252)
(86)(22)【出願日】2018年11月23日
(85)【翻訳文提出日】2020年7月10日
(86)【国際出願番号】KR2018014522
(87)【国際公開番号】WO2019103523
(87)【国際公開日】20190531
(31)【優先権主張番号】62/590,444
(32)【優先日】2017年11月24日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517143274
【氏名又は名称】ジー−トゥリー・ビーエヌティ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】G−TREEBNT CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】カン・シンウク
(72)【発明者】
【氏名】キム・ギョンスン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ウォンソク
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ジヘ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB01
4C076BB24
4C076CC10
4C076CC16
4C076CC29
4C076DD22
4C076DD41
4C076DD43
4C076FF11
4C084BA01
4C084DB01
4H045AA30
4H045BA19
4H045CA40
4H045EA28
(57)【要約】
本発明は、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、そのアナログ、またはチモシンβ4の誘導体を有効成分として含む、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物に関する。本発明の、チモシンβ4、そのアイソフォーム、またはその誘導体を有効成分として含む、ムチン分泌を促進するための組成物は、杯細胞増殖を促進し、ムチン分泌量を増加させる。特に、ムチン分泌を促進するための組成物は、Muc5AC、Muc1、Muc4およびMuc16の発現を増加させる。したがって、本発明の杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物は、杯細胞またはムチンが関与する疾患に対し優れた効果を有すると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物。
【請求項2】
チモシンβ4が配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
チモシンβ4の誘導体が、変異したチモシンβ4N末端またはC末端を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
チモシンβ4またはそのアイソフォームもしくは誘導体の濃度が、0.02%(w/v)〜0.5%(w/v)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
酢酸、クエン酸、その塩、または該塩の水和物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム二水和物、および塩化マグネシウム六水和物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬組成物。
【請求項8】
チモシンβ4が配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
チモシンβ4の誘導体が、変異したチモシンβ4N末端またはC末端を有する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
チモシンβ4またはそのアイソフォームもしくは誘導体の濃度が、0.02%(w/v)〜0.5%(w/v)である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
酢酸、クエン酸、その塩、または該塩の水和物をさらに含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム二水和物、および塩化マグネシウム六水和物をさらに含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ムチンが関与する疾患が、胃炎、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎またはドライアイである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載される医薬組成物を対象に投与することを含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を処置する方法。
【請求項15】
杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患が、胃炎、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎またはドライアイである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための、請求項1に記載される組成物の使用。
【請求項17】
杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための医薬を製造するための、請求項1に記載される組成物の使用。
【請求項18】
杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための、請求項7に記載される組成物の使用。
【請求項19】
杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬を製造するための、請求項7に記載される組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
杯細胞は、ムチン、例えばMuc5ACを分泌する円柱上皮細胞である。杯細胞は主に、上皮、例えば小腸、大腸、気管支、結膜等の上皮に分布する。杯細胞はムチンを分泌して粘膜表面を潤し、それによって組織を機械的摩擦または化学的刺激から保護する。
【0003】
一方、ムチンは、上皮組織、例えば胃腸管、肺、腎臓、卵巣、乳房、眼、鼻、膵臓等の上皮組織から分泌される糖タンパク質である。正常な生理学的条件下に、ムチンは上皮組織を保護するように働く。しかしながら、上皮組織からのムチン分泌が低下した場合には、例えば胃炎、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎、便秘等といった疾患が起こりうる。さらに、例えば眼および鼻といった器官の粘膜からのムチン分泌が低下した場合には、外的有害物質が身体に侵入し得、角膜炎、ドライアイ、鼻炎、気管支炎、肺炎等といった疾患を引き起こしうる。
【0004】
チモシンβ4は、41〜43のアミノ酸からなる、等電点が5.1のタンパク質で、1981年に胸腺において最初に発見された。チモシンβ4は、1991年にRivaらによって、動物細胞中のアクチン捕捉分子として最初に同定された。その後、チモシンβ4は、免疫調節および神経内分泌にも関与することがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明者は、ムチン分泌を効果的に促進することのできる組成物についての研究を行った。その結果、本発明者は、チモシンβ4は、効果的に杯細胞を増殖させ、ムチン分泌も促進することを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面において、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物が提供される。
【0007】
本発明の他の一側面において、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはその誘導体を有効成分として含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0008】
本発明の他の一側面において、組成物を対象に投与することを含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療する方法が提供される。
【0009】
本発明の他の一側面において、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物の使用が提供される。
【0010】
本発明の他の一側面において、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための医薬を製造するための組成物の使用が提供される。
【0011】
本発明の他の一側面において、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬組成物の使用が提供される。
【0012】
本発明の他の一側面において、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬を製造するための医薬組成物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0013】
チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、ムチン分泌を促進するための本発明の組成物は、杯細胞増殖を促進し、ムチン分泌を増加させる。特に、ムチン分泌を促進する組成物は、Muc5AC、Muc1、Muc4およびMAC16の発現を増加させる。したがって、本発明のムチン分泌を促進する組成物は、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患に対し優れた効果を示すと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、杯細胞増殖およびムチン分泌の促進に対するチモシンβ4の効果を確認するための、ドライアイ誘発マウスを用いる動物実験を示す図である。
図2図2は、杯細胞増殖促進に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、組織中の杯細胞を染色して撮影した写真である。
図3図3は、杯細胞増殖促進に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、組織中の杯細胞を染色した後、染色領域を定量化することによって得た結果を示す。
図4図4は、ムチン分泌促進に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、組織中のムチンを染色して撮影した写真である。
図5図5は、ムチン分泌促進に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、組織中のムチンを染色した後、染色領域を定量化することによって得た結果を示す。
図6図6は、Muc1、Muc4、Muc16およびMuc5ACの発現増加に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、角膜において発現されたMuc1、Muc4、Muc16およびMuc5ACを免疫蛍光染色して撮影した写真である。
図7図7は、Muc1、Muc4、Muc16およびMuc5ACの発現増加に対するチモシンβ4の効果を調べるために、試験物質の点眼に付した正常マウスおよびドライアイ誘発マウスの眼球を採り、結膜において発現されたMuc1、Muc4、Muc16およびMuc5ACを免疫蛍光染色して撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を以下詳細に説明する。
本発明の一側面において、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための組成物が提供される。
【0016】
本書において、用語「チモシンβ4」は、Tβ4とも表されるタンパク質であるが、胸腺から初めて単離され、さまざまな組織において確認されている43アミノ酸からなる4.9kDaのポリペプチドをさす。チモシンβ4は、インビトロで上皮細胞の遊走および分化の間にアップレギュレートされるタンパク質である。チモシンβ4の多くのアイソフォームが同定されており、それらアイソフォームは、チモシンβ4の既知のアミノ酸配列との少なくとも約70%、約75%または約80%の同一性を有する。チモシンβ4は、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質でありうる。
【0017】
チモシンβ4誘導体は、変異したチモシンβ4N末端またはC末端を有しうる。チモシンβ4誘導体は、チモシンβ4の活性が維持される限りにおいて、チモシンβ4のN末端および/またはC末端における部分的なトランケーション、またはそれへの1またはそれ以上のアミノ酸の付加を有しうる。特に、チモシンβ4誘導体は、チモシンβ4のN末端への1または2アミノ酸の付加を有しうる。さらに、チモシンβ4誘導体は、チモシンβ4のC末端への1または2アミノ酸の付加を有しうる。
【0018】
ここで、アミノ酸は、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパルテート、システイン、グルタメート、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、セリン、チロシン、イソロイシン、ロイシン、リジン、トリプトファン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパラギンおよびスレオニンからなる群から選択される任意の1つまたは組み合わせでありうるが、それに限定されない。
【0019】
チモシンβ4誘導体は、チモシンβ4のN末端に1〜3アミノ酸のトランケーションを有しうる。さらに、チモシンβ4誘導体は、チモシンβ4のC末端に1〜3アミノ酸のトランケーションを有しうる。
【0020】
杯細胞増殖またはムチン分泌を促進する組成物におけるチモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体の濃度は、0.01%(w/v)〜1.0%(w/v)、好ましくは0.02%(w/v)〜0.5%(w/v)でありうる。
【0021】
本書において、用語「杯細胞」とは、粘膜上皮ライニングに存在する粘液分泌細胞をさす。杯細胞は、ムチン、例えばMuc5ACを分泌する円柱細胞である。さらに、杯細胞は主に、上皮、例えば小腸、大腸、気管支、結膜等の上皮に分布する。杯細胞はムチンを分泌して粘膜表面を潤し、それによって組織を機械的摩擦または化学的刺激から保護する。
【0022】
上述のように、各組織の粘膜を保護するように機能する杯細胞に機能障害が起きると、上皮組織、例えば胃腸管、肺、腎臓、卵巣、膵臓、眼および鼻の上皮組織におけるムチン分泌が減少し、それによって疾患が起こりうる。杯細胞の機能障害によって引き起こされる疾患は、胃炎、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎またはドライアイでありうるが、それに限定されない。
【0023】
組成物は、従来の方法にしたがって調製および使用されうる。適当な製剤は、硬もしくは軟カプセル、溶液、懸濁液、エマルジョン、注射剤、坐剤、眼科用製剤等を包含するが、それに限定されない。
【0024】
組成物は、有機または無機の不活性担体を使用して適当な剤形に調製されうる。すなわち、製剤が硬カプセルである場合、組成物は、ラクトース、スクロース、デンプンもしくはその誘導体、またはタルク、炭酸カルシウム、ゼラチン、ステアリン酸もしくはその塩を含みうる。さらに、製剤が軟カプセルである場合、組成物は、植物油、ワックス、脂肪、半固形または液体のポリオールを含みうる。さらに、製剤が溶液またはシロップ剤の形態である場合、組成物は、水、ポリオール、グリセロール、および/または植物油等を含みうる。
【0025】
組成物は、担体に加えて、さらに保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、甘味剤、着色剤、浸透圧調節剤、抗酸化剤等を含みうる。
【0026】
組成物の製剤が眼科用製剤である場合、組成物は、酢酸およびクエン酸、その塩、または該塩の水和物をさらに含みうる。さらに、組成物は、クエン酸ナトリウム水和物または酢酸ナトリウム水和物をさらに含みうる。
【0027】
クエン酸は、式Cを有する化合物である。さらに、クエン酸は、シトレートの形で使用されうる。シトレートは、クエン酸の誘導体であり、シトレートは例えば、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム水和物でありうる。クエン酸またはその塩は通常、pH変化を最小限にするための緩衝剤として用いられる。しかしながら、本発明において用いられるクエン酸またはその塩は、一般的に用いられるよりも多量に用いられるべきである。ここで、クエン酸またはその塩は、組成物全体中に0.01%(w/v)〜0.5%(w/v)の量で含まれうる。さらに、クエン酸またはその塩は、組成物全体中に0.05%(w/v)〜0.25%(w/v)の量、好ましくは組成物全体中に0.1%〜0.3%の量で含まれうる。
【0028】
酢酸は、式CHCOOHを有する弱酸である。さらに、酢酸は、アセテートの形で用いられうる。例えば、アセテートは、酢酸ナトリウム水和物でありうる。ここで、酢酸またはその塩は、組成物全体中に0.01%(w/v)〜1.5%(w/v)の量で含まれうる。さらに、酢酸またはその塩は、組成物全体中に0.1%(w/v)〜0.8%(w/v)の量、好ましくは組成物全体中に0.2%〜0.5%の量で含まれうる。
【0029】
組成物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム二水和物、および塩化マグネシウム六水和物をさらに含みうる。
【0030】
さらに、塩化ナトリウムの濃度は、0.1%(w/v)〜1.2%(w/v)であることができ、0.3%(w/v)〜1.0%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化ナトリウムの濃度は、0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)であることができる。さらに、塩化カリウムの濃度は、0.01%(w/v)〜0.15%(w/v)であることができ、0.03%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化カリウムの濃度は、0.05%(w/v)〜0.09%(w/v)であることができる。さらに、塩化カルシウム二水和物の濃度は、0.01%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができ、0.03%(w/v)〜0.09%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化カルシウム二水和物の濃度は、0.03%(w/v)〜0.06%(w/v)であることができる。さらに、塩化マグネシウム六水和物の濃度は、0.01%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができ、好ましくは0.01%(w/v)〜0.05%(w/v)であることができる。
【0031】
さらに、組成物は、塩酸または水酸化ナトリウムをさらに含みうる。塩酸または水酸化ナトリウムは、組成物のpHを調節するのに適当な量で加えることができる。さらに、組成物のpHは6.5〜7.5であることができ、6.8〜7.2であることができる。好ましくは、組成物のpHは7.0であることができる。
【0032】
本発明者は、杯細胞増殖およびムチン分泌の促進、ならびにムチンが関与する疾患の処置に対するチモシンβ4の効果を確認するために、ドライアイ誘発マウスを用いる実験を行った。
【0033】
具体的には、ドライアイ誘発マウスを、チモシンβ4および他の試験薬剤それぞれによる点眼処置に10日間付した。10日後、各群のドライアイ誘発マウスを殺し、眼球を採り、組織免疫染色および分子生物学的分析を行った(図1)。その結果、チモシンβ4点眼処置に付したドライアイ誘発マウスにおいて杯細胞の数が増加したことが確認された(図2および3)。さらに、チモシンβ4点眼処置に付したドライアイ誘発マウスにおいてムチン分泌量が増加したことが確認された(図4および5)。さらに、チモシンβ4点眼処置に付したドライアイ誘発マウスにおいて、Muc1、Muc4、Muc16、およびMuc5ACの発現レベルが上昇したことが確認された(図6および7)。
【0034】
これらの結果から、チモシンβ4は杯細胞を増殖させ、ムチン分泌を促進すること、したがって、ムチンが関与する疾患の予防または治療に使用しうることが確認された。
【0035】
本発明の他の一側面において、チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体を有効成分として含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【0036】
チモシンβ4、チモシンβ4アイソフォーム、そのアナログおよび誘導体は、前記に説明したとおりである。
【0037】
本書において、用語「杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患」とは、上皮組織、例えば胃腸管、肺、腎臓、卵巣、膵臓、眼、鼻等の上皮組織からのムチン分泌の減少によって引き起こされる疾患をさす。杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患は、胃炎、胃潰瘍、腸炎、潰瘍性大腸炎、またはドライアイでありうるが、それに限定されない。
【0038】
医薬組成物は、薬学的に許容しうる担体をさらに含みうる。用語「薬学的に許容しうる」とは、担体が実質的に生体を刺激せず、投与される活性物質の生物学的活性および性質を妨害しないことを意味する。
【0039】
担体は、天然物または合成物でありうる。製剤は、それに応じたさまざまな担体、例えば希釈剤または賦形剤、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、および界面活性剤を用いて調製されうる。
【0040】
例えば、経口投与用の固形製剤は、カプセル等を包含する。そのような固形製剤は、1つまたはそれ以上の化合物を、少なくとも1つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトース、ゼラチン等と混合することによって調製されうる。さらに、単純な賦形剤のほか、例えばステアリン酸マグネシウムおよびタルクといった滑沢剤も使用されうる。経口投与用の液体製剤は、懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ剤等を包含する。液体製剤は、希釈剤としての水および流動パラフィンに加えて、さまざまな賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、香味剤および保存剤を含みうる。
【0041】
非経口投与用の製剤は、無菌の水溶液、非水性の溶液、懸濁液、エマルジョン、凍結乾燥製剤、および坐剤を包含する。非水性の溶液および懸濁液には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、注射可能なエステル、例えばオレイン酸エチル等が使用されうる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール、マクロゴール、ツイーン(Tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチン等が使用されうる。医薬組成物は、それぞれ従来の方法にしたがって調製および使用されうる。適当な製剤は、硬または軟カプセル、溶液、懸濁液、エマルジョン、注射剤、坐剤、眼科用製剤等を包含するが、それに限定されない。
【0042】
医薬組成物は、担体に加えて、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、甘味剤、着色剤、浸透圧調節剤、抗酸化剤等をさらに含みうる。
【0043】
医薬組成物におけるチモシンβ、チモシンβ4アイソフォーム、またはそのアナログもしくは誘導体の濃度は、0.01%(w/v)〜1.0%(w/v)、好ましくは、0.02%(w/v)〜0.5%(w/v)でありうる。
【0044】
医薬組成物が眼科用製剤の形態である場合、組成物は、酢酸およびクエン酸、その塩、または該塩の水和物をさらに含みうる。さらに、組成物は、クエン酸ナトリウム水和物または酢酸ナトリウム水和物をさらに含みうる。
【0045】
クエン酸は、式Cを有する化合物である。さらに、クエン酸は、シトレートの形で使用されうる。シトレートは、クエン酸の誘導体であり、シトレートは例えば、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム水和物でありうる。クエン酸またはその塩は通常、pH変化を最小限にするための緩衝剤として用いられる。しかしながら、本発明において用いられるクエン酸またはその塩は、一般的に用いられるよりも多量に用いられるべきである。ここで、クエン酸またはその塩は、組成物全体中に0.01%(w/v)〜0.5%(w/v)の量で含まれうる。さらに、クエン酸またはその塩は、組成物全体中に0.05%(w/v)〜0.25%(w/v)の量、好ましくは組成物全体中に0.1%〜0.3%の量で含まれうる。
【0046】
酢酸は、式CHCOOHを有する弱酸である。さらに、酢酸は、アセテートの形で用いられうる。例えば、アセテートは、酢酸ナトリウム水和物でありうる。ここで、酢酸またはその塩は、組成物全体中に0.01%(w/v)〜1.5%(w/v)の量で含まれうる。さらに、酢酸またはその塩は、組成物全体中に0.1%(w/v)〜0.8%(w/v)の量、好ましくは組成物全体中に0.2%〜0.5%の量で含まれうる。
【0047】
医薬組成物の製剤が眼科用製剤である場合、組成物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム二水和物、および塩化マグネシウム六水和物をさらに含みうる。
【0048】
さらに、塩化ナトリウムの濃度は、0.1%(w/v)〜1.2%(w/v)であることができ、0.3%(w/v)〜1.0%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化ナトリウムの濃度は、0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)であることができる。さらに、塩化カリウムの濃度は、0.01%(w/v)〜0.15%(w/v)であることができ、0.03%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化カリウムの濃度は、0.05%(w/v)〜0.09%(w/v)であることができる。さらに、塩化カルシウム二水和物の濃度は、0.01%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができ、0.03%(w/v)〜0.09%(w/v)であることができる。好ましくは、塩化カルシウム二水和物の濃度は、0.03%(w/v)〜0.06%(w/v)であることができる。さらに、塩化マグネシウム六水和物の濃度は、0.01%(w/v)〜0.12%(w/v)であることができ、好ましくは0.01%(w/v)〜0.05%(w/v)であることができる。
【0049】
さらに、医薬組成物は、塩酸または水酸化ナトリウムをさらに含みうる。塩酸または水酸化ナトリウムは、組成物のpHを調節するのに適当な量で加えることができる。さらに、組成物のpHは6.5〜7.5であることができ、6.8〜7.2であることができる。好ましくは、組成物のpHは7.0であることができる。
【0050】
さらに、医薬組成物が眼科用製剤の形態である場合、組成物は、眼科学的に許容しうる非毒性の賦形剤または担体との混合によって調製されうる。例えば、後述のもの、特に、担体、安定剤、可溶化剤、緩衝剤、保存剤、浸透圧調節剤、増粘剤、および他の賦形剤が用いられうる。さらに、溶液は所望のpHに調節され使用されうる。
【0051】
本発明にしたがって用いられうる担体は、典型的には、局所的または全身的投与に適するものであり、その例としては以下のものが挙げられる:水、水と水混和性溶媒、例えばC−Cアルカノールとの混合物、植物油または鉱油、例えば0.5〜5重量%のヒドロキシエチルセルロース、オレイン酸エチル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、および他の眼科用の非毒性水溶性ポリマー、例えばセルロース誘導体、例えばメチルセルロース、アルカリ金属塩の形態のカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロース、アクリレートまたはメタクリレート、例えばポリアクリル酸またはアクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、天然物、例えばゼラチン、アルギネート、ペクチン、トラガカント、カラヤガム、キサンタンガム、カラギーナン、寒天、アラビアガム、デンプン誘導体、例えば酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプン、ならびに他の合成物、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、好ましくは架橋ポリアクリル酸、例えば中性のカーボポール、またはそのようなポリマーの混合物。担体の好ましい例としては、水、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、アルカリ金属塩の形態のカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース、中性カーボポール、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0052】
安定剤の例は、チロキサポール、脂肪酸グリセロールポリ低級アルキレングリコールエーテル、脂肪酸ポリ低級アルキレングリコールエーテル、ポリエチレングリコール、グリセロールエーテル、またはそれら化合物の混合物を包含する。安定剤は典型的には、活性成分を溶解するのに十分な量で加えられる。
【0053】
緩衝剤の例は、ボレート、水素カーボネート/カーボネート、グルコネート、ホスフェート、プロピオネート、およびトロメタミン(TRIS)緩衝剤を包含する。トロメタミンおよびボレート緩衝剤が好ましい。緩衝剤は、例えば、生理学的に許容しうるpH範囲を確実にし維持する量で加えられる。pH範囲は典型的には、pH5〜9、好ましくはpH6〜8.2、より好ましくはpH6.8〜8.1である。
【0054】
保存剤の例は、第四級アンモニウム塩、例えばセトリミド、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゾキソニウム;チオサリチル酸のアルキル水銀塩、例えばチメロサール、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、またはホウ酸フェニル水銀、パラベン、例えばフェニルパラベンまたはプロピルパラベン、アルコール、例えばクロロブタノール、ベンジルアルコール、またはフェニルエタノール、グアニジン誘導体、例えばクロルヘキシジンまたはポリヘキサメチレンビグアニド、またはソルビン酸を包含する。好ましい保存剤の例は、セトリミド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゾキソニウム、およびパラベンを包含する。保存剤は、細菌および真菌による使用中の二次的汚染を防止するのに十分な量で加えられうる。
【0055】
本書に記載されるもののなかで、浸透圧調節剤は、対象生成物の浸透圧を生理学的等張(例えば0.9%食塩液)に調節するために用いられる。例えば、本発明のチモシンβ4を含む組成物に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、デキストロースおよび/またはマンニトールが加えられうる。浸透圧調節剤の量は、加えられる特定の物質の種類に応じてさまざまである。本発明の特定の組成物において、浸透圧調節剤は通常、最終的な組成物が眼科学的に許容しうる浸透圧、好ましくは150mOsm〜450mOsm、より好ましくは250mOsm〜350mOsmを有するように加えられうる。好ましい浸透圧調節剤の例は、ナトリウム塩およびカリウム塩、特に塩化ナトリウムおよび塩化カリウムを包含する。最も好ましい浸透圧調節剤は塩化ナトリウムである。
【0056】
さらに、眼科用製剤において適正な粘度を維持するために、下記物質が使用されうるが、本発明はそれに限定されない:(a)単量体ポリオール、例えばチロキサポール、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール;(b)重合体ポリオール、例えばポリエチレングリコール(例えばPEG300、PEG400);(c)セルロース誘導体(セルロースをベースとするポリマー)、例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース;(d)デキストラン、例えばデキストラン70;(e)水溶性タンパク質、例えばゼラチン;(f)ビニルポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン;(g)他のポリマー、例えばポリソルベート80、ポビドン;(h)カルボマー、例えばカルボマー934P、カルボマー941、カルボマー940およびカルボマー974P;ならびに(i)多糖/グリコサミノグリカン、例えばヒアルロナン(ヒアルロン酸/ヒアルロネート)、コンドロイチン硫酸。さらに、担体(ビヒクル)の粘度を高めるように、本発明の組成物に少なくとも1つの増粘剤が加えられうる。
【0057】
加えられる賦形剤の量および種類は、特定の必要性に応じて異なりうる。賦形剤は通常、約0.0001重量%〜約90重量%の範囲で用いられ得、眼科学的分野で当業者に一般に用いられる範囲の中で用いられうる。さらに、眼科用製剤は、3.5〜9、好ましくは4.5〜8、より好ましくは5.5〜7.8の範囲のpHを有しうる。
【0058】
本発明の他の一側面において、医薬組成物を個体に投与することを含む、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を処置する方法が提供される。
【0059】
特に、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を処理する方法は、チモシンβ4またはその誘導体を有効成分として含む医薬組成物の有効量を組織と接触させることを含む処置方法でありうる。直接投与の例として、本書に開示されるペプチド剤を含む、溶液、ローション、膏薬、ゲル、クリーム、ペースト、スプレー、懸濁液、分散液、ヒドロゲル、軟膏、油またはフォームを、組織と接触させるように直接適用することが挙げられる。
【0060】
杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患は、前記に説明したとおりである。
【0061】
さらに、組成物は、クエン酸またはその塩をさらに含みうる。さらに、組成物は、クエン酸および酢酸、またはその塩をさらに含みうる。ここで、チモシンβ4とクエン酸またはその塩は、前後して、または組み合わせて投与され得、1日当たり複数回に分割した適当な量で投与されうる。チモシンβ4とクエン酸またはその塩を組み合わせて同時に投与することが最も好ましい。
【0062】
組成物のチモシンβ4含有量は、組成物全体の量に対して0.01%(w/v)〜1.0%(w/v)、または0.02%(w/v)〜0.5%(w/v)であり得、ここで、チモシンβ4の1日当たりの総用量は0.08ml〜2.0mlでありうる。チモシンβ4は、1日に1回または複数回、好ましくは1日当たり2〜5回投与されうる。さらに、クエン酸またはその塩の含有量は、組成物全体の量に対して0.01%(w/v)〜0.5%(w/v)でありうるか、または組成物全体の量に対して0.05%(w/v)〜0.25%(w/v)、好ましくは0.1%(w/v)〜0.3%(w/v)でありうる。あるいは、クエン酸またはその塩は、1日当たりの総用量0.1ml〜4.0mlで投与されうる。クエン酸またはその塩は、1日に1回または複数回、好ましくは1日当たり2〜5回投与されうる。
【0063】
さらに、酢酸またはその塩が、チモシンβ4およびクエン酸またはその塩と前後して、または組み合わせて投与されうる。好ましくは、酢酸またはその塩は、チモシンβ4およびクエン酸またはその塩と同時に投与されうる。ここで、酢酸またはその塩の含有量は、組成物全体の量に対して0.01%(w/v)〜1.5%(w/v)でありうるか、または組成物全体の量に対して0.1%(w/v)〜0.8%(w/v)、好ましくは0.2%(w/v)〜0.5%(w/v)でありうる。あるいは、酢酸またはその塩は、1日当たりの総用量0.15ml〜6.0mlで投与されうる。酢酸またはその塩は、1日に1回または複数回、好ましくは1日当たり2〜5回投与されうる。
【0064】
組成物の投与経路の例は、経口投与および非経口投与、例えば静脈内、皮内、皮下、鼻内(例えば吸入)、経皮(例えば局所適用)、粘膜および直腸投与を包含するが、それに限定されない。
【0065】
本発明の他の一側面において、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進するための本発明の組成物の使用が提供される。
【0066】
本発明の他の一側面において、杯細胞増殖またはムチン分泌を促進する医薬を製造するための本発明の組成物の使用が提供される。
【0067】
本発明の他の一側面において、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬組成物の使用が提供される。
【0068】
本発明の他の一側面において、杯細胞が関与する、またはムチンが関与する疾患を予防または治療するための医薬を製造するための医薬組成物の使用が提供される。
【実施例】
【0069】
本発明の理解を助けるために、以下、実施例等によって本発明を詳細に説明する。しかしながら、実施例は、本発明にしたがって他のさまざまな形態に改変することができ、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものと解釈すべきではない。
【0070】
実施例1.チモシンβ4を含む組成物(GBT−201)の調製
計量した各試薬を下記表1に示す量となるように無菌注射用水に入れ、各試薬が完全に溶解するまで混合した。次いで、混合溶液にチモシンβ4(Bachem, USA, 配列番号1)を1mg/mlの濃度となるように加え、完全に溶解するまで混合した。上記混合プロセスの後に得られた溶液において、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて酸性度を7.0に調節した。その後、上記調節プロセスに付した溶液を、0.2μmのフィルターで濾過した。次いで、上記濾過プロセスに付した混合溶液を、低密度ポリエチレン容器に充填し、封止した。
【0071】
【表1】
【0072】
試験例1.ドライアイ誘発マウスの調製、および薬物の点眼
12週齢またはそれ以上のNOD.B10−H2bマウスを、湿度が40%またはそれ以下の室内に10日間維持した。マウスを室内に維持しながら、0.5mg/0.2mlの濃度のスコポラミンヒドロブロミド(Sigma-Aldrich, SLBR8568V)を、1日4回(午前9時、午後12時、午後3時および午後6時)、大腿に皮下注射した。10日後、涙液分泌の体積、および角膜の滑らかさのスコアを測定し、涙液分泌体積が0.06μlまたはそれ以下、かつ、角膜の滑らかさのスコアが2またはそれ以下であるマウスだけを選択した。選択したマウスを、下記の表2に示すようにグループ分けした。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すようにグループ分けした後、各群のマウスを各試験薬剤による10日間の点眼処置に付した。各試験薬剤による点眼処置は、次のように行った:賦形剤:1日4回;ジクアス(Diquas)(Santen Pharmaceutical Co., Ltd., Japan):1日6回;シードラ(Xiidra)(Shire plc, USA):1日2回;およびGBT−201:1日2回または4回。10日後に各群のマウスを殺し、眼球を採り、組織の免疫染色および分子生物学的分析を行った(図1)。
【0075】
試験例2.杯細胞増殖促進に対するチモシンβ4の効果の確認
結膜におけるムチン分泌細胞である杯細胞の増殖をチモシンβ4が促進するかを調べるために、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色によって評価した。各群の切片において、角膜または下結膜円蓋の0.1mmの領域を調べた。
【0076】
具体的には、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、ホルマリン中で3日間固定されている眼および付属器を、ミクロトームで6μmの切片に切断した。6μmの厚さに切断した眼および付属器の切片を、PASキット(Merck Chemicals International, USA)を用いて染色した。要すれば、各切片をパラフィン除去し、蒸留水で水和させた。水和した切片を蒸留水で洗い、その後、過ヨウ素酸で処理した。次いで、得られた切片をアルデヒドで処理することによって酸化し、シッフ試薬と10分間反応させることによって赤紫色に染色した。切片をヘマトキシリンで対比染色し、その後、脱水および清浄化プロセスに付した。切片をマウント剤を用いてマウントした。マウントしたスライドにおいて、バーチャル顕微鏡(NanoZoomer 2.0 RS, Hamamatsu Photonics K.K., Japan)を用いて写真撮影および組織分析を行った。
【0077】
その結果、正常対照群とDS D10対照群の比較において、正常対照群と比較してDS D10対照群において杯細胞の数が少ないことが視覚的に確認された。一方、GBT−201、ジクアスまたはシードラの点眼処置に付した群では、DS D10対照群と比較して杯細胞の数が増加したことが視覚的に確認された(図2)。
【0078】
特に、染色領域の定量化によって、次の結果が得られた。DS D10対照群における杯細胞の数は、正常対照群における杯細胞の数と比較して約65.9%少なかった(16.476±1.722/0.1mmに対して5.619±0.918細胞/0.1mm)。一方、GBT−201群における杯細胞の数は、DS D10対照群における杯細胞の数と比較して約2倍〜2.4倍多かった(11.143±0.495細胞/0.1mm、13.619±0.918細胞/0.1mmに対して5.619±0.918細胞/0.1mm)。さらに、ジクアスまたはシードラの点眼処置に付した群における杯細胞の数は、DS D10対照群と比較して約1.1倍多かった(11.238±0.436細胞/0.1mm、6.095±1.082細胞/0.1mmに対して5.905±1.190細胞/0.1mm)。特に、4回のGBT−201点眼処置に付した群における杯細胞の数は、正常対照群における杯細胞のレベルに回復した(図3)。
【0079】
試験例3.チモシンβ4点眼処置後のムチン分泌量の増加の確認
チモシンβ4が結膜においてムチン分泌量の増加をもたらすかを調べるために、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、アルシアンブルー染色によって評価した。
【0080】
具体的には、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、ホルマリン中で3日間固定されている眼および付属器を、ミクロトームで6μmの切片に切断した。6μmの厚さに切断した眼および付属器の切片を、Alcian Blue pH 2.5 Stain Kit(Abcam Inc, Cambridge, MA)を用いて染色した。要すれば、各切片をパラフィン除去し、蒸留水で水和させた。水和した切片を蒸留水で洗い、酢酸溶液と3分間反応させることによって酸化し、その後、蒸留水で洗った。酸化した切片を、ムチンが青色に染色されるようにアルシアンブルー液中で15分間反応させた。
【0081】
次いで、対比染色のために、アルシアンブルーで染色した切片を蒸留水で2回洗い、その後、サフラニンO液を用いて対比染色した。次いで、切片を脱水および清浄化プロセスに付した。切片をマウント剤を用いてマウントした。マウントしたスライドにおいて、バーチャル顕微鏡(NanoZoomer 2.0 RS, Hamamatsu Photonics K.K., Japan)を用いて写真撮影および組織分析を行った。
【0082】
その結果、正常対照群とDS D10対照群の比較において、正常対照群と比較してDS D10対照群においてムチン分泌量が少ないことが視覚的に確認された。一方、GBT−201、ジクアスまたはシードラの点眼処置に付した群では、DS D10対照群と比較してムチン分泌量が増加したことが視覚的に確認された(図4)。
【0083】
特に、染色領域の定量化によって、次の結果が得られた。DS D10対照群におけるムチン分泌量は、正常対照群におけるムチン分泌量と比較して約65.6%少なかった(14.952±2.463細胞/0.1mmに対して5.143±0.857細胞/0.1mm)。一方、GBT−201群におけるムチン分泌量は、DS D10対照群におけるムチン分泌量と比較して約2.6倍多かった(12.095±1.438細胞/0.1mm、13.143±1.030細胞/0.1mmに対して5.143±0.857細胞/0.1mm)。さらに、ジクアスまたはシードラの点眼処置に付した群におけるムチン分泌量は、DS D10対照群と比較して、それぞれ約1.3倍または約1.5倍多かった(6.571±0.857細胞/0.1mm、7.714±1.714細胞/0.1mmに対して5.143±0.857細胞/0.1mm)。特に、GBT−201の点眼処置に付した2つの群におけるムチン分泌量は、正常対照群におけるムチン分泌量のレベルに回復した(図5)。
【0084】
試験例4.チモシンβ4点眼処置後のMuc5AC、Muc1、Muc4およびMuc16の発現レベル増加の確認
【0085】
チモシンβ4が結膜におけるMuc5AC、Muc1、Muc4およびMuc16の発現レベル増加をもたらすかを調べるために、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、免疫蛍光染色した。
【0086】
具体的には、試験例1で犠牲にしたマウスから眼球を採り、ホルマリン中で3日間固定されている眼および付属器を、ミクロトームで6μmの切片に切断した。6μmの厚さに切断した角膜および結膜部分の眼の各切片を、PBSで再水和させ、次いで0.3%Triton X-100溶液に20分間浸漬した。その後、切片をPBSで3回洗い、次いで、非特異的染色を防ぐために3%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液に1時間浸漬した。その後、抗Muc1抗体(1:250, Abcam Inc, Cambridge, MA)、抗Muc4抗体(1:250, Bioss Inc, Woburn, MA)、抗Muc5AC抗体(1:250, Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham, MA)、抗Muc16抗体(1:250, Abbiotec Inc, San Diego, CA)による処理を行い、4℃の温度で一晩反応させた。翌日、切片をPBSで3回洗った。Alexa Fluor(商標)488 ロバ抗マウスIgG抗体(1:500; Thermo Fisher Scientific Inc, Waltham, MA)、またはAlexa Fluor(商標)555 ロバ抗ウサギIgG抗体(1:500; Thermo Fisher Scientific Inc, Waltham, MA)による処理を行い、室温で1時間反応させた。その後、切片をPBSで3回洗い、DAPIを含むマウント剤を用いてマウントした。マウントしたスライドにおいて、蛍光顕微鏡(Leica DM2500, Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, Germany))を用いて写真撮影を行った。
【0087】
その結果、図6および7に示されるように、角膜および結膜上皮の表面層において、Muc1、Muc4およびMuc16が赤色に染色された。正常対照群とDS D10対照群の比較において、正常対照群と比較してDS D10対照群においてMuc1、Muc4およびMuc16発現レベルが低いことが視覚的に確認された。一方、GBT−201の点眼処置に付した群では、DS D10対照群と比較してMuc1、Muc4およびMuc16発現レベルが顕著に高いことが視覚的に確認された。
【0088】
さらに、図6および7に示されるように、角膜および結膜においてMuc5ACが緑色に染色された。正常対照群とDS D10対照群の比較において、正常対照群と比較してDS D10対照群においてMuc5AC発現レベルが低いことが視覚的に確認された。一方、GBT−201またはジクアスの点眼処置に付した群では、DS D10対照群と比較してMuc5AC発現レベルが高いことが視覚的に確認された。特に、GBT−201の点眼処置に付した群においてGBT−201発現レベルが顕著に高められた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2021504349000001.app
【国際調査報告】