(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-504586(P2021-504586A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】Ti−Zr−Oの三元合金、その製造方法、および関連したその利用
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20210118BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20210118BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20210118BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20210118BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
A61C8/00 Z
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 631Z
C22F1/00 675
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 626
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-545868(P2020-545868)
(86)(22)【出願日】2018年11月22日
(85)【翻訳文提出日】2020年7月22日
(86)【国際出願番号】EP2018082167
(87)【国際公開番号】WO2019101839
(87)【国際公開日】20190531
(31)【優先権主張番号】17202971.2
(32)【優先日】2017年11月22日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518436250
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル‐カルティエ ラタン
(71)【出願人】
【識別番号】513019379
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィック
【氏名又は名称原語表記】Centre National De La Recherche Scientifique
(71)【出願人】
【識別番号】520181401
【氏名又は名称】バイオテック デンタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】プリマ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】デラノイ,ステファニー
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159AA01
(57)【要約】
本発明はチタン−ジルコニウム−酸素(Ti−Zr−O)三元合金に関連し、当該合金は、83質量%〜95.15質量%のチタン、4.5質量%〜15質量%のジルコニウム、0.35質量%〜2質量%の酸素を含み、室温において、安定かつ均一な、六方最密(HCP)構造を有するα固溶体からなる単相材料を形成しうる点に特徴がある。本発明はさらに、前記合金の製造方法並びにその好ましい応用および利用に関連している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
83質量%〜95.15質量%のチタン、4.5質量%〜15質量%のジルコニウム、0.35質量%〜2質量%の酸素を含み、室温において、安定かつ均一な、六方最密(HCP)構造を有するα固溶体からなる単相材料を形成しうることを特徴とする、チタン−ジルコニウム−酸素(Ti−Zr−O)三元合金。
【請求項2】
800MHz以上の降伏強さを有することを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
900MHzとほぼ同等かそれよりも大きい極限引張強さ(UTS)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の合金。
【請求項4】
15%とほぼ同等かそれよりも大きい全延性を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
βトランザス温度付近の温度まで単相型であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
生体適合性を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の三元合金の製造方法であって、
出発物が再結晶状態の三元合金であり、かつ、
前記再結晶状態の三元合金を室温にて低温加工してその機械的強度を増加させることを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
前記低温加工が冷間圧延であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
低温加工された合金に対して熱処理を施すことを含み、前記熱処理は500℃〜650℃の温度で1分間〜10分間、前記合金を加熱することからなり、これによって高い機械的強度を保ちつつ、前記合金の延性を回復させることを特徴とする、請求項7に記載の三元合金の製造方法。
【請求項10】
前記低温加工により加工率が40%〜90%の範囲となることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
医療分野、輸送分野、またはエネルギー分野における請求項1〜6のいずれか1項に記載の合金の応用および利用。
【請求項12】
歯科用インプラントの製造への/のための請求項11に記載の合金の応用および利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン基合金の分野、より具体的にはこのタイプの三元合金に関連する。チタン−ジルコニウム−酸素合金に加えて、その製造方法およびその熱機械的処理も本発明に関連している。
【背景技術】
【0002】
チタンおよびその合金は、その機械的性質および生体力学的性質、具体的にはその高い機械的強度、腐食抵抗、および生体適合性を理由に、特に注目されている。
【0003】
雑誌「Materials Science and Engineering C」p.354−359、2013年9月28日、に掲載された論文<<The effect of the solute on the structure, selected mechanical properties, and biocompatibility of Ti−Zr system alloys for dental applications>>はTi−Zr合金の性質に与える、ジルコニウムにおける濃度の影響を明らかにし、前記元素を用いるときに認識される細胞毒性がないことを強調している。
【0004】
また、雑誌「Journal of Biomedical Materials Research」vol.29、p.943−950、1995年、に掲載された論文<<Mechanical properties of the binary titaniumu−zirconium alloys and their potential for biomedical materials>>は、当時の、チタン−ジルコニウム合金の機械的性質および生体医用材料としてのその可能な利用に関する研究の状態についての着想を示している。
【0005】
また、文献(FR3037945)が公知であり、当該文献にはチタン−ジルコニウム複合材料の製造方法が開示されており、より詳細には、ナノメータースケールのジルコニア粉から出発する付加製造によるものであり、前記過程によれば、配列、多孔性、および相互接続性の正確な制御が可能であって、このことがこの手法が選ばれてきた理由である。得られた生成物は、実際には金属マトリックスおよびセラミック強化剤(酸化物粒子)を含んだ複合材料である。それは歯科および/または外科のインプラントとして好ましく用いられている。しかしながら、前記合金はこの分野の用途の要求の全てを満たしているわけではない。以下で詳細に説明するように、用いられている原料、開示される方法、および最終的に得られる材料は、本発明のものとは異なっている。
【0006】
歯科インプラント学において最も頻繁に用いられている合金はTA6V(実際に、質量%においてTi−6Al−4V)であり、その組成はアルミニウムおよびバナジウムを含み、その長期毒性は学術団体や公衆衛生検査局でますます疑われつつある。従来、前記合金は機械的性質の興味深い組み合わせを理由に選択されていた。後になって振り返り、長い期間をかけた実際の経験から、前記合金はインプラント製造業者への不信を増幅させており、現在では、インプラント製造業者はそれを改善しようとしている。
【0007】
欧州特許0988067B1もまた公知であり、ハフニウムがジルコニウムに含まれる不純物として存在している状態で、チタンおよびジルコニウムの双方の合金成分、および0.5%以下の重量のハフニウムを含むチタン−ジルコニウム二元合金を保護している。前記合金は約15重量%のジルコニウムを含んでおり、酸素の比率は0.25質量%〜0.35質量%の範囲である。前記合金から製造されたインプラントは、良好な機械的性質を有しているが、TA6V合金を上回るものではない。
【0008】
また、0.35%まで酸素が富化された、グレード3またはグレード4の商用純チタンが用いられている。前記材料は完全に生体適合性を有するが、その機械的性質はいまだ不十分である。より具体的には、前記のタイプのチタンの機械的強度はTA6Vより少なくとも300MPa低いとされる。さらに最近では、純チタンの機械的耐性はさらに改善されてきており、低温加工を施すことでさらに強化される結果となる。前記のタイプの材料の機械的強度は商用の焼きなましをしたチタンに関しては高められている。しかしながら、これは延性を犠牲にして達成される。
【0009】
現在、既知の材料と比べ、より最適化された生体適合性および機械的性質の組み合わせの両方を有する代替の合金を提供することが重要であると考えられる。また、簡潔な製造法が望まれている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、先行技術の欠点を改善すること、具体的には、優れた生体適合性と、高い機械的強度および高い延性からなる、対になった性質とを兼ね備える合金を提供することを目的とする。
【0011】
この目的のため、および本発明の最初の態様によると、チタン−ジルコニウム−酸素(Ti−Zr−O)三元合金が提供され、前記合金は、83質量%〜95.15質量%のチタン、4.5質量%〜15質量%のジルコニウム、および0.35質量%〜2質量%の酸素を含み、前記合金は、室温において、安定かつ均一な、六方最密(HCP)構造を有するα固溶体からなる単相材料を形成しうる。
【0012】
言い換えると、本発明は、新しい種類の三元合金に関連し、ここで、酸素は完全な合金元素としてみなし、すなわち、制御された方法で添加され、このような高い酸素含有量(0.35質量%以上)を有するTi−Zr−O型の前記チタン基合金は、優れた生体適合性と、高い機械的強度および高い延性からなる、対になった性質とを兼ね備えている。ここで、室温で安定かつ均一なα固溶体を形成する、Ti−Zr−O三元合金を形成することを目的として、酸素は制御された方法で意図的に添加される。この合金において、酸素は完全な合金元素であり、先行技術における場合ならそうあり得たように、不純物としてはみなさない。本発明によると、酸素は、固体状態の過程で、すなわち、酸化物であるTiO
2またはZrO
2の粉末粒子の制御された量を用いて、合金融解による製造方法の途中で添加される。
【0013】
より具体的には、0.60%の酸素および4.5%のジルコニウムを有する合金の場合では、本発明による合金は、再結晶状態において、30%を超える延性を伴いつつ、約900MPaの機械的強度を有し得る;これは既知のTA6V合金の性質より優れている。
【0014】
有利であることに、Ti−Zr−O群の三元合金は、いかなる温度(βトランザス温度に近い温度まで)においても単相材料である。結果として、本発明による材料は微視構造の不均一性という点ではあまり繊細ではない。従って、最終生成物の性質に関しては、分散が減少していることが期待され、さらに、生体適合性を有することが好ましい。
【0015】
本発明はさらに、Ti−Zr−O三元合金を製造するための、熱機械的加工経路を提供する。本発明はTi−Zr−O三元合金を製造する方法を提案し、ここで、出発物は再結晶された状態の前記合金であり、それはその後、その機械的強度を増加させる目的で、第一段階の間、室温にて低温加工される。延性の減少を伴い、約30%の強度の増加が予測される。「室温」は約25℃の温度を意味する。
【0016】
低温加工は冷間圧延であることが好ましい。
【0017】
さらに、低温加工(例えば冷間圧延)の段階の間は、40%〜90%の範囲の加工率が用いられることが好ましい。
【0018】
また、前記方法は、第二段階、すなわち、熱処理を実行することを意図しており、当該熱処理は、500℃〜650℃の温度で1分間〜10分間、低温加工された合金を加熱することからなり、これによって高い機械的強度を保ちつつ、前記合金の延性を回復させる。前記目的は高い水準の機械的強度を保持することである。
【0019】
第二段階の前記熱処理は、この本文中で<<フラッシュ処理>>とも呼ばれる。
【0020】
より具体的には、本発明による合金は、適切な熱機械的処理の後、800MPa以上の降伏強さを示す。
【0021】
加えて、本発明による合金は、適切な熱機械的処理の後、900MPaとほぼ同等かそれよりも大きい極限引張強さ(UTS)を示す。
【0022】
本発明による合金は、適切な熱機械的処理の後、15%とほぼ同等かそれよりも大きい全延性を示す。
【0023】
また、本発明は、前記合金の、医療分野、輸送分野、またはエネルギー分野における応用および利用に関連する。本発明は、歯科インプラントの製造のために使用されることが好ましい。整形外科;顎顔面外科の分野における他の応用は、可能であり有望であり、様々な異なる医療機器の製造は、輸送産業、より詳細には航空宇宙産業、と同様に本発明を活用し得て、かつ、エネルギー、具体的には、ただしそれに限定しないが、最も広い意味での核分野または化学に本発明の用途が見出される。
【0024】
本発明による合金は、微視構造および化学の観点から、単相であり、かつ均一であるため、頻繁に観測される微視構造の不均一性は提示されないため、本発明によれば、合金の付加製造がさらに意図されている。
【0025】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下に示す添付の図面を参照し、以下の説明を読むことで明らかとされよう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態によるTi−Zr−O三元合金の基本構造を図式化して示している。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態による三元合金の性質を改善するために使用される熱機械的処理経路を示している。
【
図3】
図3は、本発明による再結晶された合金の機械的性質に与える酸素の影響を図示する曲線を示している。
【
図4】
図4は、本発明による再結晶された合金の機械的性質に与える、ジルコニウムの影響を図示する曲線を示している。
【
図5】
図5は、本発明による合金の機械的性質に与える熱機械的処理(85%の厚さの減少など)の影響を図示している。
【
図6】
図6は、本発明による合金の機械的性質に与える熱機械的処理(40%の厚さの減少など)の影響を図示している。
【
図7】
図7は、本発明により得られたTi−Zr−O三元合金の機械的性質を、参照合金の性質と比較している。
【0027】
より明瞭にするため、すべての図において、同一の、または類似の特徴は同一の参照記号により同一に扱っている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、固溶体硬化により得られる、本発明による三元合金の基本構造を図式化して示している。再結晶状態における本発明による合金の硬化は、置換型(Zr)および侵入型(O)の固溶体硬化に起因する。占有サイトに関しては、このような固溶体において、ジルコニウム原子がTiの格子位置(置換位置)を占有し、酸素原子が侵入位置(六方格子の原子の間)を占有することが理解され得る。この図式によると、酸素は侵入型の性質を有する硬化元素であり、ジルコニウムは置換型の性質を有する硬化元素である。
【0029】
本発明は、高い固溶強化能を有し、完全に生体適合性を有する合金元素の、望ましくかつ制限された添加に依拠している。ジルコニウムを選択することは、チタンといかなる温度でも均一な固溶体を形成するその能力に起因する。その組成範囲(4.5質量%〜15質量%のジルコニウム)は、合金のコストを最適化する目的で、チタンリッチな合金を保つために選択されている。酸素を完全な合金元素として選択することは、材料を硬化する、その非常に高い能力に基づいている。それは通常、市販の材料には0.35質量%を超過しない量でのみ存在している。
【0030】
先入観とは異なりこれに反して、本発明による合金群では、融解の完了時に、組成において均一で、酸素リッチな固溶体を得る目的で、酸素は多量に(0.35%〜2%)、かつ所定量のTiO
2またはZrO
2の固相添加として、制御された方法で添加される。得られる材料は、いかなる温度(βトランザス温度に近い温度まで)においても、α相の状態で単相である。
【0031】
また、
図2に示したように、熱機械的処理は、最適な微視構造状態に到達するために用いられ得る。より有意に優れた強さを得る目的で、本発明による合金の、革新的な一連のまたは連続的な熱機械的処理が提供される。前記方法は数段階を含み、その一つは、回復した状態で、かつ再結晶されていない状態を得る目的で、短い時間(1分間から10分間)でなくてはならない熱処理である。前記処理に従うと、原料は再結晶された状態である(ステップ1)、さらに、室温で低温加工(例えば冷間圧延)を実行する(ステップ2)。加工率は、検討された合金に応じて、40%〜90%の範囲に及び得る;前記方法のこの段階は、材料の機械的強度を増加させることを可能にする。さらに、500℃〜650℃の範囲に及ぶ温度へ、1分間〜10分間の範囲に及ぶ時間加熱することからなる、短時間の、いわゆるフラッシュ(3)熱処理を実行することが好ましい。前記のいわゆる「フラッシュ」熱処理は、機械的強度を最初の再結晶状態の強度よりも大きい状態に保ちつつ、延性を部分的に回復することを可能にする。従って前記材料は、高い機械的強度を保ち、金属が低温加工されるときに低下した延性を回復している。
【0032】
従って本発明は、α相の状態の単相のみを含む、三元合金を伴う溶体、および完全に均一な、すなわち他の追加の相からの沈殿物のない固溶体を提供する。
【0033】
ジルコニウム量および酸素量のそれぞれを変化させることにより、様々な強化様式が、全ての前記特性に達するように検討されている。
【0034】
図3および
図4にそれぞれ示すように、固溶強化の、すなわち固溶体を用いることの影響は、再結晶状態における、前記新規合金の機械的引張試験を実行することにより認識され得る。前記合金の機械的強度の増大は、酸素添加後(
図3)およびジルコニウム添加後(
図4)の両方で認識され得る。
【0035】
検討される前記合金の、応力に対する相対的な伸長(またはひずみ)を示す、
図3の4つの曲線は、ジルコニウムを4.5%、酸素の割合に関しては、それぞれ曲線Aにおいては0.35%、曲線Bにおいては0.40%、曲線Cにおいては0.60%、および曲線Dにおいては0.80%を有する合金について得られる。
【0036】
検討される前記合金の応力に対する相対的な伸長(またはひずみ)を示す、
図4の3つの曲線は、酸素を0.40%、ジルコニウム含有量に関しては、それぞれ曲線Bにおいては4.5%、および曲線Cにおいては9%有する合金について得られる。曲線Aに相当する合金はジルコニウムを含まない。
【0037】
検討した組成範囲において、例えば商用純チタンの延性と比べたときに、再結晶状態の延性は非常に高い状態で残存している(約20%)。
【0038】
図5は、0.4%O−4.5%Zr合金の、一連の熱機械的処理における様々なステップの追加の影響を示している。より正確には、最初の状態は、曲線Aで示すように、再結晶された合金である。さらに、この合金は25%を超える高い延性を有するが、約700MPaの比較的低い機械的強度を有する。低温加工(例えば冷間圧延)の実行は、例えば室温で厚さ減少(TR)を85%伴うと、機械的強度を優位に増加させることが可能となるが、見返りとして優位に延性が低下する。曲線Bはこのような特性の状態を示している。曲線Cは、このような変形の状態の後に続けてフラッシュ熱処理を適用した後の合金の状態を示している。前記熱処理は、高い機械的強度を保持した状態で、延性を部分的に回復することを可能にする。冷間圧延および1分30秒間500℃でのフラッシュ熱処理の後の、0.4%O−4.5%Zr(質量%)合金において得られる統合された最終的な特性は、既知のTA6V合金より高い。曲線Cに対応する結果に関して、本発明によると、約1100MPaの機械的強度、および約15%の延性が認識され得る。従来知られていたように、TA6V合金の機械的強度は約900MPaであり、その関連の延性は約10%である。
【0039】
図6は、0.4%O−9%Zr合金における、数種類の熱機械的処理の影響を説明している。曲線Aは、750℃で10分間操作した熱処理の後得られた、再結晶された合金の機械的性質を示している。さらに前記合金に対し、40%の厚さ減少(TR)を実行した。曲線Bはこの冷間圧延の過程に対応している。この低温加工された状態に、「フラッシュ」熱処理を適用した。曲線Cは、500℃で150秒間熱処理された材料に対応しており、曲線Dは550℃で60秒間熱処理された材料を示しており、かつ曲線Eは600℃で90秒間熱処理された材料に関連している。再結晶された合金および熱処理された合金の両方が、既知のTA6V合金の性質と匹敵する、またはより高い、興味深い機械的性質を示した。
【0040】
図7は、二つの既知の合金:TA6VおよびTA6V ELIに対し、本発明による数種類の合金の優位性を示している。TA6V ELIは現在、医療分野で用いられている。ELIはExtra Low Interstitialを意味する。TA6Vの特性は上の長方形により示し、一方TA6V ELIの特性は下の長方形に対応している。各長方形において、上辺が典型的な機械的強度であり、下辺が典型的な降伏強さである。各長方形の幅は約10%に等しく、関連合金の延性に対応する。
図7の4つの曲線は、本発明による合金に対応している。それらはTA6V−Tiグレード5およびTA6V ELI−Tiグレード23の両方より高い特性を示している。
図7のキャプションを確認すると、曲線Aは、85%の厚さ減少(TR)の後、500℃で90秒間の熱処理を適用した4.5%のジルコニウムおよび0.4%の酸素を有する三元合金に対応している。曲線Bは、酸素を0.4%およびジルコニウムを9%含み、40%の厚さ減少の後、500℃で150秒間熱処理された合金の性質に対応しており、曲線Cは、酸素を0.4%およびジルコニウムを9%含み、40%の厚さ減少の後、550℃で60秒間熱処理された合金の性質を示している。曲線Dは、酸素を0.4%およびジルコニウムを9%含み、再結晶された合金により得られ、この再結晶状態は、40%の厚さ減少(TR)の後、750℃で10分間の熱処理により得られた。従って、
図7の曲線Aは
図5においてCと示されているものである。さらに、
図7の曲線B、C、およびDはそれぞれ
図6においてC、D、およびAと示されているものである。
【0041】
本発明の好ましい方法に関しては、40%またはそれ以上の加工率(または厚さ減少TR)を伴う低温加工の段階が、三元合金において上述のように実行され、500℃〜650℃の範囲の温度で1分〜10分の範囲の時間の熱処理の段階が後に続く。
【0042】
前記合金における、制御された量でかつ多量な酸素の、望ましくかつ任意の存在が、前記合金を新規にした。また、今までのところ、主に原料中に存在していた不純物を理由として、酸素の存在は限定されているかまたは制御されていなかったため、これは先入観に反している。言い換えると、既知のチタン合金中の酸素存在量は、一般的に0.35質量%未満の含有量に限定されており、一般的には、用いられる原料に関連した不純物に起因している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
また、本発明による合金は塊状または粉末状となり得る。塊状では、本発明による合金は広範囲の製品、インゴット、バー、ワイヤー、チューブ、薄板、およびプレート等となり得る。
【0044】
さらに、本発明による合金は容易に低温加工され得る:例えば、チューブは前記合金を用いて容易に形成され得る。これは本発明による合金の延性レベルに起因する。
【国際調査報告】