(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-504675(P2021-504675A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20210118BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20210118BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2020-522304(P2020-522304)
(86)(22)【出願日】2018年10月25日
(85)【翻訳文提出日】2020年4月20日
(86)【国際出願番号】DE2018000309
(87)【国際公開番号】WO2019101250
(87)【国際公開日】20190531
(31)【優先権主張番号】102017010842.0
(32)【優先日】2017年11月23日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ツァフィウ・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルボルト・ディーター
(72)【発明者】
【氏名】カス・ベッティナ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FA12
2G045FA16
2G045FB03
2G045GC23
(57)【要約】
本発明は、複合試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法に関する。装置、キットならびに上記装置および上記キットの使用が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法であって、以下のステップ:
a)基材上にタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Aを配置するステップ;
b)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む複合試料を選択するステップであって、前記凝集体が凝集体の表面に単量体のエピトープを有するステップ;
c)試料から不溶性成分を除去するステップ;
d)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含むステップc)後の試料を、基材の一つの部分で捕捉分子Aと接触させ、そこに含まれる単量体を捕捉分子Aに配置するステップ;
e)較正標準を基材の他の部分で捕捉分子Aと接触させ、そこに配置するステップであって、較正標準の表面に、検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の定義された数の単量体が配置されるステップ;
f)タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する少なくとも1つの捕捉分子Bを、試料の凝集体にも較正標準にも接触させ、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に配置するステップであって、捕捉分子Bが検出可能なシグナルを発することができるステップ;
g)試料凝集体に配置された1つまたは複数の捕捉分子Bのシグナルを、較正標準に配置された捕捉分子Bのシグナルと、試料凝集体の定量化のために比較するステップ、
を特徴とし、ステップa)〜ステップg)は順々に実施する必要はない、方法。
【請求項2】
ステップa)による捕捉分子Aおよびステップf)による捕捉分子Bとして、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体の同じ標的領域に結合する分子を選択することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
捕捉分子Aおよび捕捉分子Bとして、モノクローナル抗体を選択することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する少なくとも2つのモノクローナル抗体を含む捕捉分子Bを選択することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
ステップb)において、アルツハイマー型認知症のアミロイドβ単量体を含む複合試料を使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
ステップa)における捕捉分子Aおよびステップf)における捕捉分子Bとして、単量体の同じ標的領域としてアミロイドβ3−8を有するモノクローナル抗体を使用することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップe)において、較正標準としてタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のサイズを有する粒子を使用することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップe)において、較正標準として、検出されるべき凝集体の定義された数の単量体を粒子表面に有する粒子を使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
ステップe)において、較正標準として、約20nmのサイズおよび表面上に約30個のアミロイドβ単量体を有するシリカナノ粒子を使用することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ステップb)において、複合試料として、動物の脳ホモジネート、特にアルツハイマー型認知症を伴うトランスジェニックマウスの脳ホモジネートを選択することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
複合試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化するための装置であって、
タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための捕捉分子Aが配置されて存在する基材を備え、前記基材の一つの部分で、タンパク質ミスフォールディング疾患の定義された数の単量体を有する較正標準としての粒子が捕捉分子Aに配置されており、定義された数が、検出されるべき凝集体中の単量体エピトープの数に相当し、かつ基材の他の部分で捕捉分子Aが複合試料からのタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための結合部位を提供することを特徴とする、装置。
【請求項12】
較正標準として、検出されるべき凝集体のサイズを有する粒子が配置されることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
較正標準としてのシリカナノ粒子を特徴とする、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
基材としてのマイクロタイタープレートを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一つに記載の装置であって、マイクロタイタープレートが、捕捉分子Aに配置された較正標準が底部に配置されている少なくとも1つの反応チャンバーを有し、前記装置が、試料の検出されるべき凝集体のための捕捉分子Aが底部に配置されている少なくとも1つの更なる反応チャンバーを有する、装置。
【請求項15】
タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の定量化のためのキットであって、
− タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための捕捉分子Aが配置されて存在し、かつ固定化された捕捉分子Aの一つの部分に、タンパク質ミスフォールディング疾患の定義された数の単量体を有する較正標準が配置されている基材;
− タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための少なくとも1つの捕捉分子B、
を含み、捕捉分子Aおよび捕捉分子Bが、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体の同じ標的領域に結合する、キット。
【請求項16】
タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の濃度に対する作用物質の影響を検出するための、請求項11〜14のいずれか一つに記載の装置または請求項15に記載のキットの使用。
【請求項17】
試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を検出する方法であって、以下のステップ:
a)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む複合試料を選択するステップであって、凝集体が凝集体の表面上に単量体のエピトープを有するステップ;
b)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含むステップa)の後の試料を、基材と接触させ、そこに含まれる単量体を基材上に配置するステップ;
c)タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Bを、基材上の試料の凝集体と接触させ、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に配置するステップであって、捕捉分子Bが検出可能なシグナルを発することができるステップ、
を特徴とする、方法。
【請求項18】
ステップa)の前にタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Aを基材上に配置し、ステップb)において単量体を捕捉分子Aに配置することを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
不溶性成分が予め除去された試料を選択することを特徴とする、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
基材の一つの部分で較正標準を捕捉分子Aと接触させて配置し、較正標準の表面に、検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の定義された数の単量体が配置されることを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
試料凝集体に配置された捕捉分子Bのシグナルを、較正標準に配置された捕捉分子Bのシグナルと、試料凝集体の定量化のために比較することを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、混合物中のタンパク質を互いに分離するために、サイズ排除クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー分離法および超遠心分離法に基づく分離法が公知である。
【0003】
種々の遠心分離技術を用いて、例えば、異なる画分中に異なるアミロイドβ種が存在するように、アミロイドβを含む試料を分画することができる。引き続き、これらの画分を、例えばFunkeらから公知であるように、ELISA、ウェスタンブロット、UV−VIS、質量分析法またはSDS−PAGEによって分析することができる(S. A. Funke、T. van Groen、I. Kadish、D. Bartnik、L. Nagel−Steger、O. Brener、T. Sehl、R. Batra−Safferling、C. Moriscot、G. Schoehn、A. H. C. Horn、A. Muller−Schiffmann、C. Korth、H. Sticht、D. Willbold. Oral Treatment with the D−Enantiomeric Peptide D3 Improves the Pathology and Behavior of Alzheimer’s Disease Transgenic Mice. ACS Chem. Neurosci. (2010)、1、639〜648頁(非特許文献1))。
【0004】
Sehlinら(Dag Sehlin、Hillevi Englund、Barbro Simu、Mikael Karlsson、Martin Ingelsson、Fredrik Nikolajeff、Lars Lannfelt、Frida Ekholm Pettersson. 2012. Large Aggregates Are the Major Soluble Aβ Species in AD Brain Fractionated with Density Gradient Ultracentrifugation. Plos one、7巻、e32014(非特許文献2))から、密度勾配遠心分離により分画されたアルツハイマー型認知症脳において、大きな凝集体がアミロイドβ種の主要な起源であることが公知である。定量化のために、Elisa法が示されている。
【0005】
Wardら(Robin V. Ward、Kevin H. Jennings、Robert Jepras、William Neville、Davina E. Owen、Julie Hawkins、Gary Christie、John B. Davis、Ashley George、Eric H. KarranおよびDavid R. Howlett. 2000. Fractionation and characterization of oligomeric, protofibrillar and fibrillar forms of β−amyloid peptide. Biochem. J. 348、137〜144頁(非特許文献3))から、アミロイドβ凝集体を定量化するために、密度勾配遠心分離後にモノクローナル抗体mAb158を用いたイムノアッセイを使用したことが公知である。
【0006】
不利なことに、使用されるElisa法において開示された抗体では、複合試料および混合物からのアミロイドβの高感度の定量化は不可能である。上述の刊行物は、このために単にマイクロモル範囲までのアミロイドβの検出を挙げているにすぎない。したがって、これらの方法は感度が良くない。最も高感度のElisa法でさえも、タンパク質を約100ピコモルの濃度までしか検出することができない。現在の視点からは、アルツハイマー型認知症の治療のための潜在的な作用物質の僅かな作用をその有効性についても検査するためには十分ではないように思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. A. Funke、T. van Groen、I. Kadish、D. Bartnik、L. Nagel−Steger、O. Brener、T. Sehl、R. Batra−Safferling、C. Moriscot、G. Schoehn、A. H. C. Horn、A. Muller−Schiffmann、C. Korth、H. Sticht、D. Willbold. Oral Treatment with the D−Enantiomeric Peptide D3 Improves the Pathology and Behavior of Alzheimer’s Disease Transgenic Mice. ACS Chem. Neurosci. (2010)、1、639〜648頁
【非特許文献2】Dag Sehlin、Hillevi Englund、Barbro Simu、Mikael Karlsson、Martin Ingelsson、Fredrik Nikolajeff、Lars Lannfelt、Frida Ekholm Pettersson. 2012. Large Aggregates Are the Major Soluble Aβ Species in AD Brain Fractionated with Density Gradient Ultracentrifugation. Plos one、7巻、e32014
【非特許文献3】Robin V. Ward、Kevin H. Jennings、Robert Jepras、William Neville、Davina E. Owen、Julie Hawkins、Gary Christie、John B. Davis、Ashley George、Eric H. KarranおよびDavid R. Howlett. 2000. Fractionation and characterization of oligomeric, protofibrillar and fibrillar forms of β−amyloid peptide. Biochem. J. 348、137〜144頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、複合試料または試料混合物中の個々のタンパク質凝集体を定量化するための高感度の方法および装置を提供するとともに、該方法の更なる使用を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、主請求項および従属請求項に記載される方法により解決される。そのために有利な実施形態は、それぞれ従属する特許請求の範囲から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法であって、以下の(複数の)工程を特徴とする方法に関する。
【0011】
a)基材上にタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Aを配置する工程。
【0012】
タンパク質ミスフォールディング疾患としては、特にヒトおよび動物のタンパク質ミスフォールディング疾患が該当する。
【0014】
一実施形態では、基材の材料は、プラスチック、ケイ素および二酸化ケイ素を含むまたはそれらからなる群から選択される。好ましい代替形態では、基材としてガラスが使用される。
【0015】
基材としては、特に、しかし限定されるものではないが、多くの反応チャンバーを備えたマイクロタイタープレートが使用される。有利にはこれらの反応チャンバーは、例えば顕微鏡により読み取り可能である。反応チャンバーの表面上には、好ましくは捕捉分子Aが配置されている。
【0016】
一代替形態では、このために、親水性表面を有する基材が使用される。一代替形態ではこれは、工程a)の前に親水性層を基材へ施与することにより達成される。したがって、捕捉分子Aの分子は、基材にまたは基材に担持される親水性層に、特に共有結合で、結合する。
【0017】
親水性層は生体分子がくっつきにくい層であるため、基材への生体分子の非特異的結合は有利には最小限に抑えられる。この層上に、好ましくは捕捉分子Aの分子が、好ましくは共有結合的に、固定化される。これらの分子はタンパク質凝集体中の特徴に対して親和性がある。
【0018】
一実施形態では、親水性層はポリエチレングリコール、ポリリジン、好ましくはポリ−D−リジンおよびデキストランまたはその誘導体、好ましくはカルボキシメチルデキストラン(CMD)を含むまたはそれらからなる群から選択される。本発明の意味における誘導体は、幾つかの置換基が親化合物とは異なる化合物であって、その置換基が本発明による方法に対して不活性な化合物である。
【0019】
本発明の一実施形態では、基材の表面を、親水性層の施与前にまずヒドロキシル化し、引き続きアミノ基で活性化させる。一代替形態では、このアミノ基での活性化は、基材をAPTES(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)またはエタノールアミンと接触させることにより行われる。
【0020】
基材を被覆する準備のために、以下の工程:
・ガラス製基材またはガラス担体を超音波浴またはプラズマクリーナーにおいて洗浄するか、その代わりに5MのNaOH中で少なくとも3時間インキュベートする工程、
・水ですすぎ、引き続き窒素下で乾燥させる工程、
・比率3:1の濃硫酸と過酸化水素とからの溶液中に浸漬して、ヒドロキシル基を活性化させる工程、
・中性のpHになるまで水ですすぎ、引き続きエタノールですすぎ、窒素雰囲気下で乾燥させる工程、
・好ましくは乾燥トルエン中の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)(1%〜7%)を含む溶液またはエタノールアミンの溶液中に浸漬する工程、
・アセトンまたはDMSOおよび水ですすぎ、窒素雰囲気下で乾燥させる工程
の1つまたは複数が実施され得る。
【0021】
一代替形態では、基材とAPTESとの接触は気相中で行われ、したがって、任意選択で前処理された基材がAPTESで蒸気処理される。
【0022】
デキストラン、好ましくはカルボキシメチルデキストラン(CMD)で被覆するために、基材を10mg/mlまたは20mg/mlの濃度のCMDの水溶液ならびに任意選択でN−エチル−N−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(200mM)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(50mM)と一緒にインキュベートし、引き続き洗浄する。
【0023】
一変形形態では、カルボキシメチルデキストランは、まずヒドロキシル化された後にアミノ基で官能化されたガラス表面に共有結合的に結合される。
【0024】
基材として、好ましくはガラス底を有する、マイクロタイタープレートが使用され得る。ポリスチレンフレームが使用される場合には濃硫酸を使用することができないので、ガラス表面の活性化は、本発明の実施形態変形例において同様に行われる。
【0025】
本発明の更なる実施形態では、捕捉分子Aは基材に共有結合で結合される。
【0026】
例えば親水性層上に、検出されるべきタンパク質凝集体の特徴に対して親和性である捕捉分子Aが、好ましくは共有結合で、固定化される。この特徴は、タンパク質凝集体のエピトープまたは部分配列であり得る。
【0027】
1種類のみの捕捉分子Aが使用される。それにより有利には、唯一のタンパク質ミスフォールディング疾患の1種類の凝集体を感度よく定量的に検出することができることとなる。
【0028】
本発明の一実施形態では、捕捉分子A、好ましくは抗体は、任意選択でCMDで被覆された担体のEDC/NHS(200mMまたは50mM)の混合物による活性化後に、基材上に固定化される。
【0029】
捕捉分子Aの分子が結合していない残りのカルボキシレート末端基は、不活性化され得る。CMDスペーサー上のこのカルボキシレート末端基の不活性化のために、エタノールアミンが使用される。試料を施与する前に、基材または担体を、任意選択でバッファーによりすすぐ。
【0030】
捕捉分子Aとしては、特に、しかし限定されるものではないが、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対するモノクローナル抗体が使用される。アルツハイマー型認知症の場合に、例えばモノクローナル抗体Nab228が使用され、基材上に配置され得る。
【0031】
捕捉分子Aは、以下に記載される捕捉分子Bとは異なり、本発明による方法では検出のために適した検出分子または分子部分を有しない。
【0032】
主請求項における「配置」という用語には、特に、しかし限定されるものではないが、共有結合が含まれている。抗体の場合には、これらの結合は特異的である。
【0034】
b)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む複合試料を準備する工程であって、凝集体が凝集体表面に単量体のエピトープを有する工程。
【0035】
複合試料の準備とは、特に、タンパク質ミスフォールディング疾患を有するまたは対応する凝集体の存在の有無が検査されるべきである罹患した動物および/または罹患したヒトに由来する既に準備された試料を選択することを意味する。
【0036】
このために、例えば動物、特にアルツハイマー型認知症に罹患したトランスジェニックマウスからの試料が選択される。試料は、動物の死後に少なくとも一方の脳の半分を処理することにより得ることができる。処理とは、特に脳組織の均質化を意味する。
【0037】
このように、試料は罹患した動物から得られ、選択され、タンパク質ミスフォールディング疾患の存在について調査される。
【0038】
しかしながら、試料は細胞培養物であってもよく、または動物もしくはヒトから採取した器官であってもよく、または生検からの試料であってもよい。試料は、タンパク質ミスフォールディング疾患の内因的に形成されたペプチド凝集体もしくはタンパク質凝集体を含有し、またはそれに対して調査される。
【0039】
上記方法は、特に、そして特に有利には、そして驚くべきことに、同じ試料中のタンパク質および/またはタンパク質断片の混合物からのタンパク質ミスフォールディング疾患の特定の凝集体の高選択的な検出に関する。選択された試料において、有利には、1種より多くのタンパク質またはタンパク質断片を有する混合物から、タンパク質ミスフォールディング疾患の特異的に検出されるべき凝集体を高感度で検出することができる。
【0040】
特に、試料は、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種より多くの、またはそれどころか10種、20種、30種、40種、50種、60種、70種、80種、90種より多くの、またはそれどころか100種、200種、300種、400種、500種、600種、700種、800種、900種より多くの、またはそれどころか1000種より多くの異なるタンパク質またはタンパク質断片を含有してよい。試料は、何千種ものタンパク質および/またはタンパク質断片を含有してよい。この意味において、試料は複合試料と呼ばれる。
【0041】
「複合試料」という用語には、特に死亡した動物またはヒトの脳の、完全な可溶性タンパク質分を有する完全なホモジネートが含まれている。
【0042】
工程b)において、複合試料として、特に、動物、特にアルツハイマー型認知症に罹っているトランスジェニックマウスの脳ホモジネートが準備される。このホモジネートは、同様に何千種もの異なるタンパク質および/またはタンパク質断片を含む。
【0043】
したがって、工程b)において、アルツハイマー型認知症のアミロイドβ凝集体を含有する複合試料が選択され得る。
【0044】
特に、小さな可溶性Aβ凝集体(Aβオリゴマー)は、数年来アルツハイマー型認知症の発症および進行に関する主な原因としての役割を担っているので、これによって、候補作用物質を、毒性の凝集体を減らす効率について高感度でフェムトモル範囲に至るまでも検出する、またはそれどころか完全な排除を検出するという課題が解決される。作用物質が凝集体を排除する能力について作用物質が調査される場合に、この凝集体をフェムトモル範囲まで検出することが可能である。オリゴマー凝集体がもはや検出されない場合に、該方法によりアルツハイマー型認知症の治癒または少なくとも疾患の経過の改善が立証される。
【0045】
凝集体として、例えばアルツハイマー型認知症に際して生ずるフィブリル等のより高分子の構造物も検出可能である。
【0046】
他のタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を検出するべきである場合にも、同じことが当てはまる。
【0047】
最も簡単な場合には、請求項1における「定量化可能」という用語は、タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体をあり/なしの答えで検出することにより、定性的に解釈することもできる。
【0048】
c)工程c)は、選択された試料から不溶性成分を除去することを意図している。
【0049】
したがって、工程c)は、可溶性成分を試料から除去するために、例えば濾過または超遠心分離を必要とする。当業者がその既存の専門知識に従って同様に使用可能である他の方法も考えられる。
【0050】
このために、特に密度勾配遠心分離が好ましい。それにより、有利には試料が工程c)により分画されることとなる。
【0051】
有利には、密度勾配遠心分離が実施され、それにより試料は最大3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、より適切には最大10個、特に有利には11個、12個、13個、14個、更に特に有利には最大15個の画分に分画される。
【0052】
これにより、有利にはそのs値が他の画分の他の成分とは明らかに異なる特定の画分が準備され、更に使用され得る。したがって、例えばプロトフィブリルまたは他の前駆体、例えばオリゴマー等の特定の画分の選択を選択可能であり、更に調査することができる。
【0053】
したがって、アミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質から形成されている粒子が互いに分離される。
【0054】
このように、有利には、試料から多数の画分が得られることとなる。画分中にはそれぞれ特定の凝集体サイズおよび−形状を有するアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の粒子が含まれている。この粒子の分離は、有利にはs値によって密度勾配遠心分離により行うことができる。
【0055】
特に有利には、試料溶液中に存在するアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の分画は、例えばOptiprep、Percoll、ショ糖または類似の密度勾配材料を使用した密度勾配遠心分離によって行われる。この場合に、凝集体は、サイズおよび任意選択で形状(沈降係数)に従って互いに分離される。この方法は、特に凝集性のAβ(1−42)凝集体およびタウ凝集体の場合に有利である。
【0056】
代替的には、流体力学半径に従って分離されるサイズ排除クロマトグラフィーを使用することもできる。代替的には、分画は、非対称フローフィールドフロー分画またはキャピラリー電気泳動によって行われる。これらの方法はまた、有利には較正のために適している。
【0057】
凝集体の他の物理的パラメーター、例えば粒子の流体力学半径も同様に、実施される分画の基礎として考慮することができる。画分は、例えばピペットで取り出すことによって空間的に互いに分離される。
【0058】
すなわち、密度勾配遠心分離に限定されるものではない。しかしながら、密度勾配遠心分離は、試料中に当初存在していた全てのアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の凝集体が、更なる定量的分析のために提供されるという利点を有する。
【0059】
密度勾配遠心分離自体は較正されるので、画分はそのs値に関して正確に決定される。したがって、「正確に決定」という用語は、公知の種類および挙動の分子の分画による較正工程を含む。分画後には、各々の画分に1つだけの特定の(すなわち公知の)種類の配座異性体、例えばタンパク質ミスフォールディング疾患の場合に生ずるオリゴマーまたはフィブリル等が存在する。
【0060】
さらに、試料は、工程c)において当業者に公知の種々の処理工程を経ることができる。
【0061】
本発明の変形形態では、試料が捕捉分子Aに配置される前に、以下の方法工程:
・水またはバッファーによる希釈、
・酵素、例えばプロテアーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼによる処理、
・遠心分離、
・沈殿、
・プローブとの競合による、存在し得る抗体の排除、
の1つまたは複数に従って試料の前処理が行われる。
【0063】
d)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む工程c)後の試料を、基材の一つの部分で工程a)による捕捉分子Aと接触させ、そこに含まれるタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体および/または凝集体を捕捉分子Aに配置する工程。
【0064】
配置は捕捉分子Aに特異的に行われる。
【0065】
配置は、好ましくは上記の捕捉分子Aとしてのモノクローナル抗体に特異的に行われる。これによって、有利には、試料の凝集体および単量体から形成される凝集体の表面上のそのエピトープと捕捉分子Aとの間で、非常に特異的な結合に至ることとなる。こうして、有利には、例えば他のタンパク質、特に同等のs値を有する他のタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体が除外されることとなる。すなわち、1つだけの特異的な凝集体が捕捉分子Aによって検出される。
【0066】
すなわち、測定されるべき試料を、こうして調製された基材と接触させ、任意選択的にインキュベートする。調査されるべき試料として、他方で内因性流体または組織が使用され得る。本発明の一実施形態では、試料は、脳ホモジネート、脳脊髄液(CSF)、血液、血漿および尿から選択される。しかしながら、器官の生検試料(生検)または器官全体、例えば脳のホモジネートであってもよい。
【0067】
本発明の一実施形態では、試料または凝集体の配置は、捕捉分子Aに直接的に行われる。
【0068】
非特異的に結合された物質は、少なくとも1回の洗浄工程によって除去され得る。
【0069】
上記方法は、工程e)を伴って継続される。
【0070】
e)較正標準を、基材の他の部分で工程a)による捕捉分子Aに接触させて配置する工程であって、較正標準の表面に、定義された数の検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体が配置されている工程。
【0071】
較正標準としては、有利にはほぼタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のサイズを有する粒子が使用される。そのサイズは、当業者にとっては負担なく文献から導き出すことができる。
【0072】
工程e)において、較正標準として、検出されるべき凝集体の単量体エピトープの数に相当する定義された数の単量体を表面に有する粒子が使用される。
【0073】
それにより、有利には
1.較正標準のサイズが凝集体と同じであるため、基材上の較正標準によるタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のシミュレーションの改善がもたらされ、かつ
2.凝集体の表面上の実際に凝集体中に存在する単量体エピトープに関する凝集体の後の正確な定量化に対して較正が可能となり、というのも較正標準は、凝集体とほぼ同じ数のエピトープを有するからである。
【0074】
アルツハイマー型認知症のアミロイドβ凝集体の検出のためには、較正標準として約20nmの直径を有する粒子が配置されるべきであるとみなされ、というのも、アミロイドβ凝集体はこのサイズをとり得るからである。その際、較正標準の表面に、約20個〜30個のアミロイドβ単量体が配置されて存在すること、例えば共有結合的に配置されていることが望まれる。
【0075】
工程e)においては、較正標準として、好ましくは約20nmのサイズおよび約30個のアミロイドβ単量体を表面上に有するシリカナノ粒子が使用される。それは、アミロイドβ凝集体のサイズおよびオリゴマーまたは凝集体中のアクセス可能な単量体エピトープの数に相当する。
【0076】
較正標準は、示された目的のために以下のように合成され得るが、これらの方法に限定されるものではない。
【0077】
方法1:
A)ほぼタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のサイズを有する無機ナノ粒子を準備する工程、
B)ナノ粒子の表面に遊離のアミノ基を形成させてナノ粒子表面を官能化することで、アミン官能化されたナノ粒子を得る工程、
C1)工程B)からの遊離のアミノ基に遊離のカルボキシル基を形成させて、ナノ粒子の表面に遊離のカルボキシル基を形成させる工程、
D1)例えばカルボキシル基にNHSエステルを形成させることによって、工程C1)からの遊離のカルボキシル基を活性化させる工程、および
E1)単量体または単量体の部分の遊離のアミンを、工程D1)からのNHSエステルに結合させる工程。
【0078】
代替法2:
A)ほぼタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のサイズを有する無機ナノ粒子を準備する工程、
B)ナノ粒子の表面に遊離のアミノ基を形成させてナノ粒子表面を官能化することで、アミン官能化されたナノ粒子を得る工程、
C2)マレインイミド−スペーサー−カルボン酸を、工程B)の遊離のアミノ基に結合させる工程、
D2)タンパク質凝集体の単量体を、単量体の遊離末端のスルフヒドリル基を介して工程C2)からのマレインイミド−スペーサー−カルボン酸に結合させる工程。
【0080】
さらに、本発明による方法の工程f)が実施される。
【0081】
f)タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Bを、基材上の試料の凝集体だけでなく較正標準とも接触させ、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に配置する工程であって、捕捉分子Bが検出可能なシグナルを発することができる工程。
【0082】
したがって、捕捉分子Bはプローブを表す。「捕捉分子B」および「プローブ」という用語は同義に使用される。
【0083】
他方で、試料からの検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体は、既に捕捉分子Aに配置されており、それにより基材上に固定化されている。
【0084】
本発明の一実施形態では、捕捉分子Aおよび1つまたは複数の捕捉分子Bは、同じ親和性の分子または分子部分を有し得る。更なる代替形態では、異なる親和性の分子または分子部分と異なる検出分子または部分とが組み合わされていてよく、または代替的には、異なる親和性の分子または部分と同じ検出分子または部分とが組み合わされていてよい。
【0085】
異なる捕捉分子Bの混合物を使用することもできる。
【0086】
異なる検出分子または分子部分に結合する複数の異なる捕捉分子Bを使用することで、一方ではシグナル(相関シグナル)の特異性が高められ、他方ではそれにより1つまたは複数の特徴が異なるタンパク質凝集体の特定が可能となる。それにより、タンパク質凝集体の選択的な定量化および特性決定が可能となる。捕捉分子Aおよび1つまたは複数の捕捉分子Bは、単量体の同じエピトープまたは同じ重複するエピトープの部分へと結合する。
【0087】
更なる工程において、捕捉分子Aに固定化されたタンパク質凝集体は、更なる検出のために役立つ1つまたは複数のプローブ、つまり捕捉分子Bで標識される。上記のように、個々の工程は、本発明によれば他の順序で実施することもできる。
【0088】
有利には、タンパク質凝集体の単量体に結合する1つまたは複数の捕捉分子Bが選択され得、捕捉分子Bはまた、凝集体へと結合した後にはじめて特異的なシグナルを放出することができる。
【0089】
本発明の意味においては、「定量的測定」は、まずはタンパク質凝集体の濃度の測定を意味するため、つまりは、その存在および/または非存在の測定も意味する。
【0090】
適切な洗浄工程によって、タンパク質凝集体に結合していない過剰の捕捉分子Bが除去される。それにより、バックグラウンドシグナルの減少によって感度を更に高めることができる。
【0091】
上記方法の代替形態では、これらの過剰の捕捉分子Bは除去されない。それにより、洗浄工程は省略され、また平衡シフトはタンパク質凝集体−プローブ−複合体または−化合物が解離する方向では起こらない。空間分解検出によって、評価に際して過剰のプローブは把握されない。
【0092】
一実施形態では、タンパク質凝集体の結合部位はエピトープであり、捕捉分子は抗体および/または抗体部分および/またはそのフラグメントである。
【0093】
本発明の一実施形態では、捕捉分子Aおよび1つまたは複数の捕捉分子Bは異なっている。
【0094】
そうして、例えば異なる抗体および/または抗体部分および/またはフラグメントが捕捉分子Bとして使用され得る。本発明の更なる実施形態では、捕捉分子Aおよび場合による(色素)標識を除いて互いに同一である1つまたは複数の捕捉分子Bが使用される。
【0095】
本発明の更なる代替形態では、例えば異なる抗体を含み、また任意選択で異なる色素標識を有する、少なくとも2つの捕捉分子Bが使用される。
【0096】
上記の全ての場合において、1種類だけの捕捉分子Aが使用される。
【0097】
検出のために、捕捉分子Bは、好ましくは、蛍光−、生物発光−および化学発光−放出ならびに吸収からなる群から選択される光学的に検出可能なシグナルを発するように特徴付けられている。
【0098】
したがって、一代替形態では、プローブとしての捕捉分子Bは、蛍光色素で標識されている。蛍光色素としては、当業者に公知の色素が使用され得る。代替的には、GFP(緑色蛍光タンパク質)、そのコンジュゲートおよび/または融合タンパク質ならびに量子ドットが使用され得る。
【0099】
捕捉分子Aは、捕捉分子Bのようなプローブ機能を有しない。単に表面の品質管理のためだけに、例えば捕捉分子Aによる被覆の均一性の検出のために、蛍光色素を有する捕捉分子Aを使用することもできる。このために、好ましくはタンパク質凝集体上のプローブの蛍光色素の検出と干渉しない色素が使用される。それにより、後続の基材の構成の制御だけでなく、測定結果の標準化も可能である。
【0100】
1つまたは複数の捕捉分子Bは、個々のタンパク質凝集体の特徴の存在が測定結果に影響を及ぼさないように選択され、使用され得る。
【0101】
特に、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Bとしての蛍光性モノクローナル抗体を、結合された凝集体および較正標準と接触させて、そこに配置することができる。
【0102】
したがって、捕捉分子Aおよび1つまたは複数の捕捉分子Bとして、特にモノクローナル抗体が選択され得る。それにより、有利には、凝集体および/または較正標準への配置の十分な感度および強度が定められることとなる。
【0103】
捕捉分子Bとしては、例えばCF−633で標識されたmAb IC16およびCF−488で標識されたNab228等のモノクローナル抗体からの混合物が使用され得る。
【0104】
工程a)による捕捉分子Aおよび工程f)による1つまたは複数の捕捉分子Bとしては、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体の同じ標的領域に結合する分子が選択されるべきである。それにより、特に有利には、試料中の単量体はもはや1つまたは複数の捕捉分子Bによって結合され得ないこととなり、というのも、標的領域は既に捕捉分子Aによって占有されているからである。
【0105】
例えば、アミロイドβの場合に、工程a)による捕捉分子Aおよび工程f)による捕捉分子B/抗体は、両者ともアミノ酸3〜8(N’末端から見て)に結合し得る。例えば、アミロイドβ1−42凝集体を含む試料が基材の捕捉分子Aに存在する場合に、工程f)の後に、更なるエピトープが存在する場合にのみ、すなわち更なる表面エピトープを有する凝集体が結合される場合にのみ、捕捉分子Bのアミロイドβへの結合が行われ得る。
【0106】
これらの実施形態は、単に例示的な性質を有するにすぎず、限定されるべきでないと解釈される。
【0107】
上記方法により、有利には自発的に、もはや検出されない単量体が区別される。
【0108】
上記方法の工程g)は、以下のように実施することができる。
【0109】
g)試料凝集体上の捕捉分子Bのシグナルを較正標準に配置された捕捉分子Bのシグナルと比較することで、試料凝集体を定量化する工程。
【0110】
その際、工程g)はシグナル、特に、例えば捕捉分子Bとしての蛍光性モノクローナル抗体から発される蛍光シグナルの検出を必要とする。このために、例えばTIRF(英語で、Total Internal Reflection Fluorescence(全反射蛍光))システムが使用され得る。
【0111】
一実施形態では、プローブシグナルの空間分解測定、つまりプローブから放出されるシグナルの空間分解検出が行われる。したがって、本発明のこの実施形態では、非空間分解シグナルに基づく方法、例えばELISAまたはサンドイッチELISAは除外されている。
【0112】
検出に際して、高い空間分解能が非常に有利である。本発明による方法の一実施形態では、この場合に、例えば装置特異的なノイズ、他の非特異的なシグナルまたは非特異的に結合するプローブによって引き起こされるバックグラウンドシグナルに対してタンパク質凝集体の検出を可能にするほどの数のデータ点が収集される。このように、空間分解イベント(ピクセル)と同じ数の値が読み出される(読み出し値)。空間分解能によって、どのイベントもその都度のバックグラウンドに対して測定されるため、こうして空間分解シグナルのないELISA法と比較して有利である。
【0113】
一実施形態では、プローブシグナルの空間分解測定は、全反射照明蛍光顕微鏡法(tirfm)および数フェムトリットルから1フェムトリットル未満までの範囲の試料の体積と比較した小さい体積要素、または500nm、好ましくは300nm、特に好ましくは250nm、特に200nmの高さを有する捕捉分子の接触表面上の体積範囲の調査に基づく。
【0114】
固定化されて標識されたタンパク質凝集体の検出は、例えばレーザー走査型顕微鏡による、表面の結像によって行われる。空間分解能ができる限り高いことにより、多数の画素が測定され、それにより上記方法の感度および選択性を更に高めることができ、というのも、構造的特徴が一緒に結像および分析され得るからである。したがって、特異的シグナルが、例えば非特異的に結合したプローブのバックグラウンドシグナルに対して高められる。
【0115】
検出は、例えば好ましくは、TIRF顕微鏡による空間分解蛍光顕微鏡法およびその対応する超分解能の変形例、例えばSTORMおよび/またはdSTORM等を用いて行われる。
【0116】
本発明の一実施形態では、例えばレーザー走査型顕微鏡法で使用されるようなレーザー収束またはFCS(蛍光相関分光法システム)がそのために使用されるだけでなく、例えばSTED、PALMまたはSIM等の対応する超分解能の変形例も使用される。
【0117】
またしてもELISAとは異なって、この方法により、存在する空間分解イベント(例えば、ピクセル)と同じ数の読み出し値が生ずる。異なるプローブの数に依存して、この情報は有利には何倍にも増大する。この増大は全ての検出イベントに当てはまり、情報ゲインをもたらす。それというのも、その情報は更なる特性、例えばタンパク質凝集体に関する第2の特徴を明らかにするからである。このような構成により、シグナルの特異性をイベントごとに高めることができる。
【0118】
評価のために、空間分解性の情報、例えば全ての使用および検出されるプローブの蛍光強度を取り出すことで、例えばタンパク質凝集体の数、そのサイズおよびその特徴が決定される。
【0119】
この場合に、更なる評価およびパターン認識のために、例えばバックグラウンドの最小化のアルゴリズムおよび/または強度閾値を使用することもできる。
【0120】
更なる画像分析の選択肢には、例えば、画像情報から検出されたタンパク質凝集体の数を取得し、また粒子サイズを決定し得るための局所強度最大値の捜索が含まれる。
【0121】
洗浄工程は、工程a)、工程d)、工程e)および工程f)の後に実施され得る。
【0122】
請求項1における工程順序a)〜g)は、上記のように単に明瞭化のために用いられているにすぎず、工程の時間的に連続した順序を表すものではないと解釈される。工程b)および工程c)は、例えば工程a)の前に容易に行うことができる。
【0123】
したがって、例えば、上記方法の他の変形形態では、タンパク質凝集体を捕捉分子Bと接触させて配置した後に、凝集体を捕捉分子Aと接触させることにより、したがってプローブで標識されたタンパク質凝集体の基材上での固定化が行われる。
【0124】
その際、上記方法は、例えば以下のように実施されるべきである。
【0125】
複合試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する方法であって、
a)基材上にタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Aを配置する工程と、
b)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む複合試料を選択する工程であって、その凝集体が凝集体表面に単量体のエピトープを有する工程と、
c)試料から不溶性成分を除去する工程と、
d)較正標準を、基材の一つの部分で工程a)による捕捉分子Aと接触させて配置する工程であって、較正標準の表面に、定義された数の検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のエピトープを有する単量体または単量体の部分が存在する工程と、
e)タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する少なくとも1つの捕捉分子Bを、試料の凝集体と接触させ、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に配置する工程であって、1つまたは複数の捕捉分子Bが検出可能なシグナルを発することができる工程と
f)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体上の1つまたは複数の捕捉分子Bを、基材の一つの部分の捕捉分子Aおよび基材の他の部分の較正標準と接触させ、凝集体を捕捉分子Aおよび較正標準に配置する工程と、
g)試料凝集体上の捕捉分子Bのシグナルを、較正標準に配置される捕捉分子Bのシグナルと比較することで、試料凝集体を定量化する工程と
を特徴とする、方法。
【0126】
したがって、1つまたは複数の捕捉分子Bを凝集体に結合させた後に、これを捕捉分子Aと接触させ、基材へと固定化させることができる。
【0127】
ここでも、任意の順序が可能であり、例えば工程b)、工程c)および工程e)を全ての他の工程の前に行うことができる。
【0128】
上記方法の更なる変形形態では、試料は、タンパク質凝集体と捕捉分子Bとの接触後に、例えばホルムアルデヒドによって、化学的に固定される。
【0129】
驚くべきことに、本発明の範囲において、上記方法は、マウス脳ホモジネート等の複合試料における凝集体の検出に際して非常に高い感度を示し、内因的に存在する単量体に対して完全に非感受性であることがわかった。
【0130】
試料が複雑であるにもかかわらず、野生型マウスからの試料に対する干渉シグナルが測定されなかったことも特に驚くべきことである。それは、干渉バックグラウンドシグナルが存在しないことを示している。野生型動物にはヒトAβ1−42が存在しないので、そこでは抗体は反応しない。
【0131】
上記方法は、その都度のタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体をフェムトモル範囲で、特に1000fM〜500fM、特に有利には100fM〜500fM、特に50fM〜100fMおよび5fM〜10fMの範囲まで検出する。これはElisaに拘束された方法ではないので、この方法と比較して最大10000倍検出が改善されている。
【0132】
較正標準上の定義された数のエピトープについての比較により、有利にはタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体中のエピトープの正確な定量化が可能となる。
【0133】
工程a)における捕捉分子Aおよび工程f)における1つまたは複数の捕捉分子Bとして、例えばアミロイドβ3−8を単量体の同じ標的領域として有するモノクローナル抗体を使用することができる。それにより、試料の単量体をもはや結合しないという上述の目的が満たされる。
【0134】
したがって、上記方法は、タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の検出のために特に良く適しているが、それというのも、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体が検出され得ないからである。
【0135】
本発明は、驚くべきことに、何千種もの異なるタンパク質およびタンパク質断片を有する脳ホモジネート等の複雑なマトリックスにおいても上記課題を解決する。この場合に、上記方法により、非常に少量のタンパク質凝集体でさえその単量体の存在下であっても検出されるが、それというのも、この単量体は1つまたは複数の捕捉分子Bにより結合され得ないからである。
【0136】
解決される更なる課題は、1種より多くのタンパク質からなる異種タンパク質凝集体も、凝集体として一義的に同定され得ることである。
【0138】
複合試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を定量化する装置も提供される。この装置は、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための捕捉分子Aが配置されて存在する基材を備える。基材上の捕捉分子Aの一つの部分で、較正標準として、検出されるべき凝集体中のエピトープの数に相当する定義された数のタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体を有する粒子が配置されている。基材の他の部分の捕捉分子Aの他の部分は、複合試料からのタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の単量体のための結合部位を提供する。
【0139】
上記装置は、有利にはフェムトモル範囲までの凝集体の定量化を可能にする較正標準を含む。
【0140】
上記装置は、好ましくは、較正標準として、検出されるべき凝集体のサイズを有する粒子が配置されていることを特徴とする。
【0141】
上記装置は、特に、較正標準としてのシリカナノ粒子を特徴とする。
【0142】
上記装置は、特に有利には、基材の部分として少なくとも1つの反応チャンバーを有し、その底部に捕捉分子Aに配置された較正標準が配置されており、かつ基材の部分として少なくとも1つの更なる反応チャンバーを有し、その底部に検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体のための捕捉分子Aが配置されているマイクロタイタープレートである。
【0143】
さらに、上記課題は、タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の定量化のためのキットであって、
− タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための捕捉分子Aが配置されて存在し、かつ捕捉分子Aの一つの部分に定義された数のタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体を有する較正標準が配置されている基材、
− それとは別個に、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体のための基材上の捕捉分子B、
を含み、上記捕捉分子Aおよび上記捕捉分子Bが、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体の同じ標的領域に結合する、キットによって解決される。
【0144】
捕捉分子Bのための混合皿およびバッファーが任意に存在する。
【0145】
さらにまた、本発明の主題は、以下の構成要素:
− 任意に親水性表面を有する基材、
− 少なくとも1つの捕捉分子A、
− 代替的に、捕捉分子Aおよび/または較正標準を有する基材、
− 1つまたは複数の捕捉分子B、
− 溶液、
− 較正標準、
− バッファー、
の1つまたは複数を含むキットである。
【0146】
本発明のキットの化合物および/または構成要素は、任意選択でバッファーおよび/または溶液と一緒に/その中で容器内に包装されていてよい。
【0147】
代替的に、幾つかの構成要素は同じ容器内に包装されていてよい。それに加えてまたはその代わりに、構成要素の1つまたは複数が、例えばガラスプレート、チップもしくはナイロン膜等の固体担体としての基材上またはマイクロタイタープレートの凹部に既に吸収されていてもよい。その際、基材はそのようなマイクロタイタープレートを含む。
【0148】
さらに、キットは、任意の実施形態のためのキットの使用説明書を含み得る。
【0149】
キットの更なる変形形態では、基材上に上記の捕捉分子が既に固定化されている。さらに、キットは溶液および/またはバッファーを含み得る。被覆および/またはその上に固定化された捕捉分子の保護のために、これらは溶液またはバッファーで覆われて存在し得る。
【0150】
本発明の更なる主題は、任意の試料中のタンパク質凝集体を検出することで、タンパク質凝集体を定量化し、それにより力価測定する方法である。
【0151】
タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体の濃度の定量的検出のために、装置またはキットの使用ならびに方法の拡張が示されている。
【0152】
このように、装置またはキットを使用することで、(動物)試験の最後に、例えば均質化された脳等の複合試料においてタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を検出し得るために十分に感度の良い方法を実施することが可能となる。
【0153】
例えば、密度勾配遠心分離によって、全ての所望の画分を作用物質を添加してもまたは添加しなくても濃度変化について調査することができる。上記方法は、密度勾配遠心分離からの1個より多くの画分を濃度変化または凝集体のサイズもしくは他のパラメーターの変化について調査することができる方法工程を提供する。
【0154】
密度勾配遠心分離によって、好ましくは、3個より多くの、4個より多くのまたは5個より多くの画分が得られ、これらは濃度変化に関してだけでなく、定量的にも定性的にも調査され得る。上記方法の意味において「所望の画分」という用語は、特に、しかし限定されるものではないが、分離の前に凝集するまたは凝集したペプチドおよび/またはタンパク質構成単位、特に毒性のオリゴマーも含んでいた画分を含む。
【0155】
上記方法は、因果関係上それに向けられていないが、当然ながら作用物質を、種々の凝集体サイズおよび形状を有するアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質を含む試料に添加することができる。あるいはそれは、試料として用いられる動物研究の最後に採取された器官(例えば、脳)である。この場合に、プラセボで処理された動物の試料を、作用物質で処理された動物の試料と比較することができる。
【0156】
作用物質または作用物質による処理により、サイズ分布が変化し、それにより器官内の、したがって均質化された試料中の特定の凝集体の濃度が変化する。その際、この濃度変化は定量的に確認される。その変化は、検出可能な凝集体サイズまたは粒子サイズを有する特定の毒性種の減少またはそれどころか完全な排除のための尺度である。すなわち、上記方法では、特定のアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の濃度の増加または減少は、試料中の凝集体サイズ分布の変化を介して検出される。
【0157】
したがって、種々の凝集体サイズおよび形状を有するアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の組成は、処理の間に作用物質の影響下で変化する。他の粒子サイズは、作用物質の影響下で増加するか、または一定のままである。
【0158】
それにより、有利には、それぞれ特定のサイズを有するアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の濃度変化は、作用物質の影響を伴ってもまたはさらにその影響なしで定量的に認識可能となる。作用物質を含まない対照との比較によって、それぞれの画分におけるアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の凝集体の分布に対する作用物質の影響を定量的に測定することができる。これにより、とりわけ、作用物質が特定の種、例えば毒性オリゴマーを処理相の間に排除する能力に関する作用物質の有効性に関する尺度が得られる。
【0159】
1つだけの単独の画分をこのように調査することも可能である。その際、本発明による方法により、作用物質が画分からの特定の配座異性体を定量的に変化させる能力、例えば動物モデルにおいて毒性オリゴマーを排除する能力に関する尺度が得られる。
【0160】
本発明の一実施形態では、作用物質の影響下でのペプチドおよび/またはタンパク質の形状分布の変化も、好ましくは蛍光顕微鏡法によって調査される。
【0161】
それにより、任意に動物モデルにおける分子作用物質活性の検出も可能である。非常に有利なのは、作用物質による処理に依存する凝集したAβ(A−ベータ)の減少を定量的にフェムトモル範囲まで検出する動物研究の最後の迅速かつ確実な調査である。
【0162】
したがって、密度勾配遠心分離に基づく分画と、蛍光顕微鏡法、特にレーザー走査型顕微鏡法およびTIRF顕微鏡法を用いた濃度測定との特に有利な組合せにより、Aβ(1−42)ペプチドまたは他のペプチドおよび/またはタンパク質の毒性のオリゴマー種の割合に対する潜在的な作用物質の影響を、単量体形状を測定しないため特に感度よく定量化する方法が開発された。
【0163】
任意に、動物研究において作用物質が使用され、対照に対して、試料の粒子サイズ分布に対するその用量に依存する影響に関してin vivoで試験される。更に特に有利には、上記方法は、作用物質の影響下での毒性アミロイドβ(Aβ)オリゴマーの調節に基づくアルツハイマー型認知症(AD)に対する潜在的な作用物質のスクリーニングのために適している。この研究が動物の行動調査を伴う場合に特に有利である。
【0164】
さらに、本発明による方法は、作用物質の影響下でのアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の粒子サイズ分布または凝集体サイズ分布の変化に関する包括的な定量的な結果をもたらす。それにより、例えばAβオリゴマー等の可溶性の毒性成分の濃度を減少させるべきアルツハイマー型認知症の治療のための有望な作用物質が、動物モデルにおけるその作用について調査される。
【0165】
上記方法はそれには限定されない。方法を制限するものではないが、この方法は、さらにまた、作用物質が動物モデルにおいて他の潜在的に毒性の種または所望の種の増加をもたらすかどうかの確認も可能にする。好ましくは、上記方法は、現在の知識水準によれば他の毒性成分の増加がもたらされない作用物質の測定に際して使用される。このためには、特に有利には得られた複数の画分が、構成単位の濃度変化に関して本発明により調査される。
【0166】
対照と作用物質または天然のリガンドを含む試料との比較により、例えばオリゴマー等の特定の種の排除および減少に対する作用物質有効性の再現可能で迅速な測定が可能となり、したがって動物モデルにおける、そして後に臨床試験段階におけるその作用の推定が可能となる。
【0167】
本発明による方法により、多数の潜在的な作用物質が、試料中のアミロイド性および/または凝集性のペプチドおよび/またはタンパク質の粒子サイズ分布に対するその影響に関して迅速かつ再現可能に定量化されると考えられる。この場合に試料は合成的な種類であってよい。しかしながらまた、天然の作用物質または採取された試料をこのようにして調査することもできる。
【0168】
本発明は、これまでの実施形態に限定されるものではない。むしろ、上記方法を簡略化された変形形態で、以下のように実施することもできる。
【0169】
試料中のタンパク質ミスフォールディング疾患のタンパク質凝集体を検出する方法であって、
a)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む複合試料を選択する工程であって、その凝集体が凝集体表面に単量体のエピトープまたはその検出可能な部分を有する工程と、
b)タンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を含む工程a)の後の試料を、基材と接触させ、そこに含まれる単量体を基材上に配置する工程と、
c)少なくとも1つの捕捉分子Bを、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する検出のためのプローブとして試料の凝集体と接触させ、タンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に配置する工程であって、捕捉分子Bが検出可能なシグナルを発することができる工程と
を含む、方法。
【0170】
この方法の一実施形態では、工程a)の前にタンパク質ミスフォールディング疾患の単量体に対する捕捉分子Aが基材上に配置され、工程b)において凝集体の単量体が捕捉分子Aに配置される。
【0171】
本発明の更なる実施形態では、このために、不溶性成分が予め除去された試料が選択される。
【0172】
本発明の更なる有利な実施形態では、較正標準は、基材の他の部分または捕捉分子Aの他の部分に配置され、ここで、較正標準の表面上に検出されるべきタンパク質ミスフォールディング疾患の正確に定義された数の単量体が配置されている。
【0173】
本発明の特に有利な実施形態では、試料凝集体に配置された捕捉分子Bのシグナルを較正標準に配置された捕捉分子Bのシグナルと比較することで、試料凝集体を定量化する。
【0174】
工程a)〜工程g)を有する特別な方法の上述の特徴が工程a)〜工程c)による簡略化された方法に適用されれば、更なる有利な実施形態または効果が現れることがわかる。
【0175】
したがって、本発明は、最も単純な場合には、対応するプローブである捕捉分子Bを用いて、基材上のタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を検出することである。
【0176】
例
さらに、本発明を、例および添付の図面に基づきより詳細に説明するが、これにより本発明の限定がもたらされるべきではない。
【0177】
較正標準を、詳細には以下の通りに準備する。
【0178】
工程A:無機ナノ粒子の調製
丸底フラスコにおいて、200mlのエタノール、3.8mlの30%水酸化アンモニウム、3.5mlの脱イオン水および4.4mlのテトラエトキシシランを2日間にわたり持続的に撹拌する。反応生成物は、約20nmの直径を有するシリカナノ粒子である。サイズを透過型電子顕微鏡法により測定したところ、アミロイドβ凝集体のサイズに相当する。溶剤の蒸発および秤量により収率を測定する。
【0179】
工程B:第一級アミンでの表面修飾による遊離のアミノ基の形成
45mlの工程Aからの反応溶液を、10μlの氷酢酸および165μlの3−アミノプロピルトリエトキシシランと混合し、4時間にわたり撹拌する。引き続き、何回か遠心分離して再びエタノール中に取ることによって、粒子を精製する。溶剤の蒸発および秤量により収率を測定する。
【0180】
工程C1:カルボキシル官能基での表面修飾
50mlの工程Bからの精製された粒子を遠心分離し、50mlのジメチルホルムアミド中に取り、丸底フラスコへと移す。その溶液に5mmolの無水コハク酸を加えた後に、溶液をアルゴン雰囲気下で1時間にわたり90℃に撹拌および加熱する。時間の経過後にその溶液を24時間にわたり更に撹拌する。遠心分離して再び脱イオン水中に取ることによって、カルボキシル化された粒子を精製し、溶剤の蒸発および秤量によって収率を測定する。
【0181】
工程C2:マレインイミド官能基での表面修飾
200pmolの工程Bからの粒子を、10容量%のジメチルホルムアミドを含む1mlの100mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸バッファー(pH6)中に取り、40μmolの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、10μmolのN−ヒドロキシスクシンイミド、40μMの6−マレイミドヘキサン酸を加え、1時間にわたり混合する。何回か遠心分離して再び上述のバッファー中に取ることによって、粒子を精製する。
【0182】
D1:アミロイドβ(1−42)のカルボキシシリカナノ粒子への生体共役反応
100pmolのカルボキシル化された粒子を、1mlの脱イオン水中に取り、20μmolの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、5μmolのN−ヒドロキシスクシンイミドを加え、1時間にわたり混合する。何回か遠心分離して再び脱イオン水中に取ることによって、活性化された粒子を精製する。最後に、粒子ペレットをリン酸バッファー中に取り、0.3mgの組み換えアミロイドβ1−42ペプチドに加え、一晩振盪させる。遠心分離して再びヘキサフルオロプロパノール中に取り、そして1時間インキュベートすることによって、生体共役化粒子を精製する。引き続き、何回か遠心分離して再び脱イオン水中に取ることによって、溶剤を精製する。遠心分離して再び脱イオン水中に取ることによって、アミロイドβ(1−42)粒子を精製し、溶剤の蒸発および秤量によって収率を測定する。市販のビシンコニン酸試験により、エピトープ数を測定し、粒子濃度と関連付ける。
【0183】
D2:アミロイドβ(ここでは1−15)ペプチドとC末端スルフヒドリル修飾との生体共役反応
1mlの工程C2からの粒子を遠心分離し、10容量%のジメチルホルムアミドおよび5mMのエチレンジアミン四酢酸を含む1mlの100mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸バッファー(pH6)中に取り、15nmolのペプチド(配列:DAEFRHDSGYEVHHQC、追加のシステイン修飾を有するアミロイドβ1−15)を加え、10分間にわたり振盪させる。時間の経過後に、その溶液に50μmolのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンを加え、溶液を一晩振盪させる。翌日に、遠心分離して再び脱イオン水中に取ることによって、粒子を精製し、溶剤の蒸発および秤量によって収率を測定する。市販のビシンコニン酸試験により、エピトープ数を測定し、粒子濃度と関連付ける。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【
図1】密度勾配遠心分離(DGZ)によって分画され、均質化された2つのマウス脳試料の凝集体アッセイの結果
【
図2】APP
swe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスの脳ホモジネートの個々の画分中のタンパク質の銀染色
【
図3】APP
swe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスの脳ホモジネートの個々の画分中のアミロイドβタンパク質のウェスタンブロット
【0185】
図1は、密度勾配遠心分離(DGZ)によって分画された均質化された2つのマウス脳試料(全半球)の凝集体アッセイの結果を示す。両方のマウスは、器官採取の時点で24ヶ月齢であった。トランスジェニック動物と呼ばれるマウスは、ヒトアミロイドβを強く発現するAPP
swe/PS1ΔE9二重突然変異であった。野生型動物は、ヒトアミロイドβを発現しないため、ヒトアミロイドβに対する抗体の使用によるアッセイにおいて認識されない。
【0186】
画分の区別が可能であり、ウェスタンブロット(
図3)と同じ分布を示す。これは、
図1に示される濃度がウェスタンブロット(
図3)におけるパターンとほぼ対応することを意味するが、本発明による方法によれば正確な定量的表現という利点がある。
【0187】
図2で無数のバンドによって弱く示されるような複合試料による強力なバックグラウンドにもかかわらず、測定に成功した。ウェスタンブロットとは対照的に、本発明による方法により(ゲル上で)更に分離することなく特異的なアミロイドβ凝集体を直接検出することが可能となり、これらは有利には較正標準を用いて絶対定量化も可能である。
【0188】
試料準備、均質化および密度遠心分離
均質化のために、それぞれ右半球を使用し、6500rpmで2×20秒間にわたり(Precellys(登録商標)24、Bertin Instruments社、モンティニー=ル=ブルトンヌー、フランス)、トリスバッファー(pH8.3、20mMのトリス、250mMのNaClならびにプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤(両者ともRoche社、バーゼル、スイス)で処理した。
【0189】
150μlのホモジネートをもう一度1200gで10分間遠心分離し、100μlの上清を密度勾配にかけた。密度勾配は、5%(重量/容量)〜50%(重量/容量)のイオジキサノールからなっていた(OptiPrep、Axis−Shield社、ノルウェー)。遠心分離(3時間、259000×g、4℃)(Optima TL−100、Beckman Coulter社、米国)の後に、14個の画分(各140μl)を上から下に向かって取り出し、液体窒素中で凍結させ、分析まで−80℃で保管した。
【0190】
プレートの準備および測定
アッセイのために、まず170μmの厚さのガラス底を有する384ウェルマイクロタイタープレート(Sensoplate Plus、Greiner Bio−One GmbH社、フリッケンハウゼン、ドイツ)を準備した。
【0191】
プレートのガラス底を、APTES(99%;(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン;Sigma−Aldrich社、ドイツ)で蒸気処理によりシラン化した。このために、プレートをデシケーター内でトルエン(99% Sigma−Aldrich社、ドイツ)中の5%APTESからなる5mlの溶液上にアルゴン雰囲気中で1時間置いた。その後にAPTES溶液を除去し、プレートを真空下で2時間乾燥させた。プレートの反応チャンバー(RK)内に、二回蒸留H
2O中の2mMのスクシンイミジルカーボネート−ポリ−(エチレングリコール)−カルボキシメチル(MW3400、Laysan Bio社、アラブ、米国)を満たし、4時間インキュベートした。時間の経過後に、反応チャンバーを水で3回洗浄した。引き続き、その被覆を200mMのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸(98%;Sigma−Aldrich社、ドイツ)および50mMのN−ヒドロキシスクシンイミド(98%;Sigma−Aldrich社、ドイツ)で活性化させ、30分間インキュベートした。二回蒸留H
2Oで3回洗浄した後に、PBS中のアミロイドβのN末端に対する10μg/mlの捕捉抗体(捕捉分子A)(Nab228モノクローナル抗体、Sigma−Aldrich社、セントルイス、米国)を反応チャンバーに加え、1時間インキュベートした。TBS+0.2%Tween(TBST)およびTBSで3回洗浄した後に、RKをSmartblock溶液で一晩ブロッキングした(Candor Bioscience社、ドイツ)。翌日に、プレートをTBSで3回洗浄し、試料および標準をトリプレットとしてプレート上に施与し、1時間インキュベートした。
【0192】
脳ホモジネート試料をTBS中で10倍希釈した後に、それらをプレートに塗布した。アミロイドβオリゴマーのための較正標準として、上記のように合成された20nmの直径および約30個のエピトープ(Aβ1−42)を有するAβ1−42−SiNaP(シリカナノ粒子)を用いた。
【0193】
TBSで3回洗浄した後に、捕捉分子Bとしての2つの異なるプローブ抗体(各1.25μg/ml)、すなわちCF−633で標識されたmAb IC16(Sigma−Aldrich社、ドイツ)およびCF−488で標識されたNab228(エピトープAβ1−10)(両者ともSigma−Aldrich社、ドイツ)を使用した。プローブは、プレートへの添加前に混合し、遠心分離(100000g、1時間、4℃)し、1時間インキュベートした。
【0194】
インキュベート後に、反応チャンバーをTBSで3回洗浄し、プレートを密封した。測定は、Leica multi−colour TIRF(全反射照明蛍光)システム(AM TIRF MC、Leica Microsystems社、ヴェツラー、ドイツ)において行った。TIRFシステムは、自動式xyzステージと100倍の油浸対物レンズ(1.47 oil CORR TIRF、Leica社)を備えていた。画像は、Ex/Em=633nm/705nmおよび488nm/525nmにおいて、両方のチャンネルについて500ミリ秒の露光時間および800の濃さで連続して記録した。TIRF浸透深さは200nmに設定した。顕微鏡は、各チャンネルにおいてRKにつき5×5の画像を撮影した。各画像は、116nmの横方向分解能および14ビットの強度分解能で1000×1000ピクセルからなる。
【0195】
強度限界値を、各チャンネルにおける陰性対照に基づいて評価した。次に、この限界値を全ての画像に適用し、両方のチャンネルの同じ位置(共局在)で強度限界値を上回る画素のみをカウントした。Aβ1−42−SiNaP標準を評価することにより、閾値を上回る共局在した画素の数をオリゴマー濃度に変換することができる。
【0196】
図2は、APP
swe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスの脳ホモジネートの個々の画分中の全タンパク質の銀染色を示す。
【0197】
銀染色のために、DGZの12μlの各画分(1〜14)を、16.5%のトリス−トリシンゲルにおけるゲル当たり45mAの一定の電流強度での110分間にわたるSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)においてMini−PROTEAN Tetra Cell(Bio−Rad社、カリフォルニア州、米国)で分離した。ポリアクリルアミドゲルを50%エタノール/10%酢酸中で一晩固定した後に、ゲルを10%エタノール/5%酢酸中で2回5分間の長さでインキュベートした。次に、ゲルを4.7mMのNa
2CO
3、4.6mMのK
3Fe(CN)
6および19mMのチオ硫酸ナトリウムNa
2S
2O
3中で60秒間インキュベートし、二回蒸留H
2Oで20秒間3回洗浄した。引き続き、ゲルを12mMのAgNO
3中で20分間処理し、再び二回蒸留H
2Oで20秒間3回洗浄した。染色を0.05%のホルマリン(37%のホルムアルデヒド溶液)を含む280mMのNa
2CO
3中で所望の強度に至るまで現像した。1%の酢酸での5分間の処理によって、ゲルの更なる現像を停止させた。ChemiDoc MPシステム(Bio−Rad社、カリフォルニア州、米国)を用いて撮影を行った。
【0198】
図3は、これに加えてAPP
swe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスの脳ホモジネートの個々の画分中のアミロイドβタンパク質のウェスタンブロットを示す。
【0199】
銀染色のために、密度勾配遠心分離の12μlの各画分(1〜14)を、16.5%のトリス−トリシンゲルにおけるゲル当たり45mAの一定の電流強度での110分間にわたるSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)においてMini−PROTEAN Tetra Cell(Bio−Rad社、カリフォルニア州、米国)で分離した。
【0200】
タンパク質を、0.2μmの細孔サイズを有するPVDFメンブレン(Roti−PVDF 0.2、Carl Roth社、ドイツ)に25Vおよび1Aで30分間転写した。そのために、Trans−Blot Turbo Transferシステム(Bio−Rad社、カリフォルニア州、米国)を使用した。メンブレンを、転写後5分間にわたりPBS中で煮沸した。冷却後に、メンブレンをPBSおよびTBS+Tween20(TBST)中で5分間インキュベートした。メンブレンを10%の脱脂粉乳/TBST(1時間、室温)でブロッキングし、抗Aβ抗体mAb IC16(TBST中1:1000、4℃で一晩)インキュベートした。引き続き、メンブレンをTBSTで10分間3回洗浄し、HRPがコンジュゲートされたヤギ抗マウスIgG(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、米国)(TBST中1:10000)と一緒にインキュベートした。TBSTで各10分間3回洗浄した後に、タンパク質バンドを、ChemiDoc MPシステム(Bio−Rad社、カリフォルニア州、米国)においてECL Prime基質(Amersham社、リトル・チャルフォント、英国)を使用することによって可視化した。
【0201】
請求項17〜21に観念的に示されているように、タンパク質ミスフォールディング疾患の検出のための例から個々の工程を省略することにより簡略化された方法が得られることがわかる。
【0202】
したがって、本発明は、最も簡単な場合には、対応する定量化工程なしに、対応するプローブである捕捉分子Bを用いて基材上でのタンパク質ミスフォールディング疾患の凝集体を検出する。
【国際調査報告】