特表2021-504963(P2021-504963A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-504963(P2021-504963A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】周波数センサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20210118BHJP
   G01R 23/06 20060101ALI20210118BHJP
【FI】
   H01L43/08 Z
   G01R23/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-529465(P2020-529465)
(86)(22)【出願日】2018年11月28日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2018082768
(87)【国際公開番号】WO2019105964
(87)【国際公開日】20190606
(31)【優先権主張番号】17204583.3
(32)【優先日】2017年11月30日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517431528
【氏名又は名称】アイエヌエル−インターナショナル、イベリアン、ナノテクノロジー、ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】INL − INTERNATIONAL IBERIAN NANOTECHNOLOGY LABORATORY
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】アレックス、ジェンキンス
(72)【発明者】
【氏名】リカルド、フェレイラ
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AA12
5F092AA20
5F092AB01
5F092AB10
5F092AC08
5F092AC12
5F092AD22
5F092BB17
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC13
5F092BC14
5F092BC42
(57)【要約】
周波数センサが提供される。周波数センサは、少なくとも磁性自由層、磁性基準層、及び、磁性自由層と磁性基準層との間に配置される非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含む磁気抵抗ナノ発振器と、入力信号を磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードに結合するための結合構成と、周波数推定器とを含んでもよい。周波数推定器は、経時的に磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行し、複数の電圧測定値に基づいて磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算し、計算された時間平均電圧に基づき、有限範囲の周波数にわたって、入力信号の周波数を推定し、推定された周波数を表わす信号を出力するように構成されてもよい。入力信号の周波数を推定する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも磁性自由層、磁性基準層、及び、前記磁性自由層と前記磁性基準層との間に配置される非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含む磁気抵抗ナノ発振器と、
入力信号を前記磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードに結合するように配置される結合構成と、
経時的に前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行し、
前記複数の電圧測定値に基づいて、前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算し、
前記計算された時間平均電圧に基づき、有限範囲の周波数にわたって、前記入力信号の周波数を推定し、
前記推定された周波数を表わす信号を出力する、
ように構成される周波数推定器と、
を備える周波数センサ。
【請求項2】
前記周波数推定器は、前記入力信号の周波数を前記計算された時間平均電圧の1対1の関数として推定するように構成される、請求項1に記載の周波数センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合MTJであり、
前記磁性自由層は、少なくとも1つの磁気渦コアを有する状態で構成可能であり、
前記少なくとも1つの磁気モードは、前記磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含み、
前記結合構成は、磁場を生成するために前記入力信号を電流として通すための前記MTJに隣接する少なくとも1つの磁力線を備え、前記磁場は、前記入力信号を使用して前記磁気渦コアの前記少なくとも1つのジャイロトロピックモードを励起させるために使用可能である、
請求項1又は2に記載の周波数センサ。
【請求項4】
前記周波数推定器は、前記少なくとも1つの磁気渦コアの幾つかの振動にまたがる時間間隔にわたって電圧測定を実行するように構成される、請求項3に記載の周波数センサ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの磁気モードが方位角スピン波モードを含み、前記磁気渦コアのジャイロトロピックモードが前記方位角スピン波モードを通じて間接的に励起される、請求項3又は4に記載の周波数センサ。
【請求項6】
前記磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合MTJであり、
前記結合構成は、前記磁性自由層における磁化を変調するために前記入力信号を電流として前記MTJに通すための少なくとも1つの導体を備える、請求項1又は2に記載の周波数センサ。
【請求項7】
前記磁性自由層の磁化が前記MTJの平面から傾けられる、請求項6に記載の周波数センサ。
【請求項8】
前記周波数推定器は、前記入力信号の幾つかの周期にまたがる時間間隔にわたって前記電圧測定を実行するように構成される、請求項6又は7に記載の周波数センサ。
【請求項9】
前記周波数推定器は、前記入力信号の決定された周波数の所望の分解能に基づいて前記時間間隔の必要な長さを決定するように構成される、請求項4又は6に従属するときの請求項1から8のいずれか一項に記載の周波数センサ。
【請求項10】
前記周波数推定器は、前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧を整流電圧として測定するように構成される、請求項1から9のいずれか一項に記載の周波数センサ。
【請求項11】
前記磁気抵抗ナノ発振器を介してバイアスDC電流を供給するためのバイアス構成を更に備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の周波数センサ。
【請求項12】
前記磁気抵抗ナノ発振器がナノピラーの形態で設けられる、請求項1から11のいずれか一項に記載の周波数センサ。
【請求項13】
入力信号の周波数を推定する方法において、前記入力信号を自由磁性層の少なくとも1つの磁気モードに結合するステップであって、前記自由磁性層が、少なくとも前記磁性自由層、磁性基準層、及び、前記磁性自由層と前記磁性基準層との間に配置される非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含む磁気抵抗ナノ発振器の一部を形成する、ステップと、経時的に前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行するステップと、前記複数の電圧測定値に基づいて、前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算するステップと、前記計算された時間平均電圧に基づき、有限範囲の周波数にわたって、前記入力信号の周波数を推定するステップと、を含む方法。
【請求項14】
前記入力信号の周波数を推定する前記ステップは、前記入力信号の周波数を前記計算された時間平均電圧の1対1の関数として推定することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合MTJであり、前記方法は、前記磁性自由層を、少なくとも1つの磁気渦コアを有する状態で、前記少なくとも1つの磁気モードが前記磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含むように構成するステップと、磁場を生成するために前記MTJに隣接する少なくとも1つの磁力線に前記入力信号を電流として通し、それにより、前記入力信号を前記少なくとも1つの磁気モードに結合するステップと、を含む請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合MTJであり、前記方法は、前記入力信号を電流として前記MTJに通すことによって前記入力信号を前記少なくとも1つの磁気モードに結合するステップを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記磁性自由層の磁化を前記MTJの平面から傾けるステップを更に含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周波数センサに関する。特に、本開示は、磁気抵抗ナノ発振器を含む周波数センサに関する。
【背景技術】
【0002】
50MHz〜1GHzの周波数範囲内の周波数を有する信号は、例えば米国の低帯域VHF(49〜108MHz)、高帯域VHF(169〜216MHz)、低帯域UHF(450〜806MHz)、及び、高帯域UHF(900〜952MHz)を含む様々な遠隔通信用途において見出される。これらの周波数帯域のうちの1つ以上で動作する装置の非網羅的なリストとしては、トランシーバー、ワイヤレスマイク、コードレス電話、ラジコン玩具、放送テレビジョン、FMラジオ、陸上移動ラジオ/ポケットベル、ラジオナビゲーション支援装置、航空交通管制、VHF全方向性範囲(VOR)ビーコン、計器着陸システム(ILS)、及び、3Gモバイルネットワークが挙げられる。これらの無線帯域は、個人によって、企業によって、及び、政府機関によっていずれも使用される。SHF帯域(3〜30GHz)において、潜在的な用途しては、WiFi、4G及び5Gモバイル通信、デジタルテレビ放送が挙げられる。
【0003】
そのような用途及び装置に関連付けられる周波数検出及び感知のため、従来の周波数センサは、ショットキーダイオード及びフィルタバンクを利用する場合があり、或いは、有限の区間にわたって周波数を測定するために互いに結合される複数の周波数検出器に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周波数感知機能、バルクサイズ、及び、製造コストのいずれに関しても増大するニーズを満たすため、周波数センサの改良の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の必要性を少なくとも部分的に満たすために、本開示は、少なくとも、改良された周波数センサ及び改良された周波数推定方法を提供しようとするものである。
【0006】
これを達成するために、独立請求項に規定される周波数センサ及び入力信号の周波数を推定する方法が提供される。周波数センサ及び方法の更なる実施形態が従属請求項で提供される。
【0007】
第1の態様によれば、周波数センサが提供される。周波数センサは磁気抵抗ナノ発振器を含んでもよい。磁気抵抗ナノ発振器は、少なくとも磁性自由層、磁性基準層、及び、磁性自由層と磁性基準層との間に配置される非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含んでもよい。
【0008】
本明細書中で使用されるように、磁気抵抗ナノ発振器は、一連の積層された磁性層を備えてもよい。これらの層のうちの少なくとも1つは、磁性基準層としての役目を果たしてもよく、一方、少なくとも1つの他の層が磁性自由層としての役目を果たしてもよい。結合が使用される場合には、複数の層が、例えば、磁性基準層(一例として、RKKY金属間結合を利用して形成される合成SAFを基準層として使用できる)としての役目を果たしてもよい。
【0009】
磁性自由層の磁化の方向は、時間に応じて(例えば、直接的な電気的DC励起又は高周波励起を介して)変化し得る。系(すなわち、積層体)の全抵抗は、磁性基準層における磁化の方向に対する磁性自由層における磁化の方向の相対的な向きの関数となり得る。これは、例えば、(例えば、スピンバルブにおける)巨大磁気抵抗(GMR)効果によって或いは(例えば、磁気トンネル接合における)トンネル磁気抵抗(TMR)効果によって達成され得る。
【0010】
一例として、電子が絶縁層を横切ってトンネルする確率は、磁性基準層における磁化の向きに対する磁性自由層における磁化の相対的な向きに依存し得る。磁化の2つの向きが平行である場合には、電子トンネリング確率が増大し得る。磁化の2つの方向が平行でなければ、電子トンネリング確率が減少され得る。磁性自由層及び磁性基準層における磁化の相対的な向きを制御することにより、磁気抵抗ナノ発振器を横切るトンネル電流(及び抵抗)を制御できる。これは、例えば、1つ以上の印加される外部磁場を使用して達成され得る。
【0011】
周波数センサは結合構成を更に含んでもよい。結合構成は、入力信号を磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードに結合するように配置されてもよい。磁気モードが、例えば、空間モード(すなわち、磁性自由層の1つ以上のエッジに及び/又は磁性自由層の中央に存在するモード)であってよい。
【0012】
結合要素は、例えば、入力信号を磁気抵抗ナノ発振器に電流として流すための手段を含んでもよく、それにより、入力信号の電流を様々な想定し得るメカニズム(スピン移動トルク又は電流と関連付けられる局所磁場など)を介して磁性自由層の磁気モードに結合する。また、結合要素は、例えば、入力信号を磁気抵抗ナノ発振器に隣接する磁力線に流すための手段を含んでもよく、それにより、磁力線を流れる電流によって生成される結果として生じる磁場が少なくとも1つの磁気モードに結合する。結合構成は、入力信号の助けを借りて磁気抵抗発振器の抵抗特性に影響を与える可能性があり、そのため、磁気抵抗ナノ発振器の挙動を研究することによって(例えば、測定することによって)入力信号の特性を決定できる。
【0013】
周波数センサは周波数推定器を含んでもよい。周波数推定器は、経時的に磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行するように構成されてもよい。周波数推定器は、複数の電圧測定値に基づいて、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算するように構成されてもよい。周波数推定器は、計算された時間平均電圧に基づき、有限の範囲の周波数にわたって、入力信号の周波数を推定するように構成されてもよい。
【0014】
時間平均電圧は、例えば、経時的な複数の電圧測定から得られた全ての値を合計した後にこの合計を電圧測定値の数で割ることによって計算されてもよい。複数の電圧測定値を連続信号として扱うことができれば、時間平均電圧は、電圧信号を特定の時間間隔にわたって積分した後にこの積分の値を特定の時間間隔の長さで割ることによって計算され得る。また、合計又は積分が値の数又は特定の時間間隔の長さで除算されず、その後に得られる時間平均電圧が「真の」平均電圧にのみ比例することも想定される。
【0015】
周波数推定器は、推定された周波数を表わす信号を出力するように構成されてもよい。信号は、例えば、電気信号又は電磁信号であってもよく、また、推定周波数に関する情報は、アナログ又はデジタルの方法を使用して信号に符号化されてもよい。信号は、推定周波数を直接に表わしてもよく、或いは、推定周波数をそこから導出するのに十分な情報を含んでもよい。
【0016】
従来の閾値周波数検出器は、特定の周波数成分が入力信号中にあるか否かについての情報しか特定の帯域幅内に提供できない。言い換えると、従来の周波数検出器は、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の単一の電圧測定値を使用して、「入力信号の周波数は周波数Xですか?」という質問に「はい」又は「いいえ」のいずれかで答える。「信号の周波数Xは何ですか?」というより広い質問に答えることができるように、複数のそのような閾値周波数検出器が構築されて一緒に動作されてもよく、この場合、各検出器jは、例えばそれぞれの検出器の磁性自由層の直径/延在及び/又は磁性自由層の厚さを変更することによって特定の周波数Xに調整される。検出器からの出力を解析することによって、すなわち、各検出器jに「信号の周波数は周波数Xjですか?」という質問を尋ねることによって、及び、その回答を調べることによって、信号の周波数が何であるかに関する少なくとも幾つかの情報を取得できる。回答の精度は、例えば、使用される閾値検出器の数によって制限される場合がある。
【0017】
しかしながら、本開示に係る周波数センサは、単一の装置を使用して有限範囲の周波数をカバーすることができる。経時的に磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行することにより、及び、時間平均電圧を計算することにより、周波数センサは、磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードに関連する特定の事象の確率的性質に依存し得る。少なくとも1つの磁気モードに関連する特定の事象の確率は、少なくとも1つの磁気モードに結合するために使用される入力信号の周波数に依存し得る。磁気抵抗ナノ発振器の両端間の測定電圧は、そのような確率に依存することができ、したがって、時間平均電圧は入力信号の周波数を示し得る。
【0018】
言い換えると、少なくとも1つの磁気モードに関連する特定の事象の確率を推定することにより、本開示の周波数センサは、単一の磁気抵抗ナノ発振器と装置とを使用して、「信号の周波数Xは何ですか?」というより幅広い質問に答えることができる。
【0019】
単一の磁気抵抗ナノ発振器及び装置のみが必要とされるため、相互接続の数、全体のサイズ、回路の複雑さ、及び、本開示に係る周波数センサの例えば電力消費は、同じ質問に答えるために必要な複数の閾値周波数検出器の従来のシステムと比較して低減され得る。また、本開示に係る周波数センサは、チャージポンプとコンデンサの充電及び放電とに基づくものなどの従来の周波数センサと比較して、より小さな寸法を有し、より高い周波数で動作するとともに、より少ない電力消費量も有し得る。
【0020】
幾つかの実施形態において、周波数推定器は、入力信号の周波数を計算された時間平均電圧の1対1の関数として推定するように構成されてもよい。本明細書中において、「1対1の関数」は、関数の範囲のそれぞれの要素ごとに、関数が該関数の領域の正確に1つの要素に対応する関数として規定され得る。
【0021】
関数は、例えば、線形関数、対数関数、指数関数、又は、同様のものであってもよい。線形の1対1の関数を想定する場合、入力信号の周波数は、例えば、計算された時間平均電圧に比例定数とゼロの場合がある定数とを掛け合わせたものとして決定されてもよい。
【0022】
磁気抵抗ナノ発振器(すなわち、「システム」)の挙動(又は状態)が、入力信号の周波数に関して1つ以上の決定論的領域と少なくとも1つの確率的領域とに分割されてもよいことが想定され得る。少なくとも1つ以上の決定論的領域のそれぞれにおいて、システムの状態(例えば、その磁化)が時間に依存しない場合があり、また、特定の時間的瞬間に、システムが特定の状態にあることが判明した場合、システムは、例えば入力信号の周波数が変更されるまでそこにとどまる。少なくとも1つの確率的領域では、システムが2つ以上の状態間で変化する可能性があり、また、いずれかの状態のシステムを見出す確率は、入力信号の周波数に依存し得る。少なくとも1つ以上の決定論的領域は、例えば、入力信号のより低い及び/又はより高い周波数に対応し得る。少なくとも1つの確率的領域は、例えば、少なくとも1つ以上の決定論的領域に対応するこれらのより低い周波数とより高い周波数との間の周波数に対応し得る。
【0023】
周波数推定器は、例えば、少なくとも1つの確率的領域内の周波数について計算された時間平均電圧の1対1の関数として入力信号の周波数を推定するように構成されてもよい。
【0024】
異なる領域に関する詳細については、1つ以上の実施形態に関連して、詳細な説明の節において本明細書中で以下に与えられる。
【0025】
幾つかの実施形態では、磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合(MTJ)であってもよい。MTJは、少なくとも1つの磁気渦コアを有する状態で構成されてもよい。少なくとも1つの磁気渦コアを含む状態は、例えば、磁性自由層及びMTJの基底状態であってもよい。
【0026】
磁気渦コアは磁気渦の一部であってもよい。磁気渦コアは、例えば、磁気渦の中心面外成分として規定されてもよく、この場合、平面は磁性自由層の主延在面によって規定される。磁気渦コアは、電流及び/又は磁場によって励起される場合、平面内で、すなわち、円形又はほぼ円形の軌道で動き回ることができ、それにより、コアの振動運動がもたらされる。そのような振動モードは、ジャイロトロピックモードと称され得る。磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードは、磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含んでもよい。磁性自由層の少なくとも1つの磁気モードは、例えば、これに加えて又は代えて、渦の面内磁化成分と関連付けられるスピン波モード、及び/又は、渦コアと関連付けられる放射状呼吸モードを含んでもよい。
【0027】
結合構成は、磁場(すなわち、流れる入力信号電流によって生成される磁場)を生成するために電流として入力信号を通すためのMTJに隣接する少なくとも1つの磁力線ンを含んでもよい。生成される磁場は、入力信号を使用して磁気渦コアの少なくとも1つのジャイロトロピックモードを励起させるために使用可能であってもよい。
【0028】
ジャイロトロピックモードでの軌跡の半径は、結合構成を介して磁気渦コアを励起させるために使用される信号の入力周波数に依存し得る。この振動は、磁気渦コアが平面内の磁性自由層の外周に近づくのに十分大きくてもよい(すなわち、十分に大きい半径を有する)。これが生じると、磁気渦コアが外周(又はエッジ)と相互作用して消滅し得る。結果として、磁気渦コアが放出され得るとともに、磁性自由層の磁化が本質的に均一な状態に戻り得る。トンネル磁気抵抗効果に起因して、MTJ全体にわたって均一状態と渦状態との間で関連する抵抗変化が存在し得る。渦コアが放出された後、新たな渦コアが再核形成し、MTJ全体にわたる抵抗が反復変動し得る。この反復変動は、MTJの両端間の測定電圧に反映され得る。
【0029】
経時的にMTJの両端間の複数の電圧測定を実行することにより、周波数推定器は、磁性自由層の外周に到達することによって少なくとも1つの磁気渦コアが放出される確率を推定することができる。確率は、計算された時間平均電圧に反映され得る。
【0030】
(例えば、磁気渦コアが磁性自由層のエッジに到達するのに十分大きい振動半径を有することにより)磁気渦コアが放出されるためには、入力信号の周波数が磁気渦コアの1つ以上の共振周波数と大きく異ならないことが必要とされ得る。先に規定されたように異なる領域にマッピングされると、第1(及び第2)の決定論的領域は、入力周波数と磁気渦コアの1つ以上の共振周波数との間の絶対差を非常に大きくし、それにより、放出が起こるのに必要な大きいジャイロトロピック軌道を妨げるのに十分低い(又は高い)入力信号の周波数に対応し得る。したがって、磁気渦コアが放出される確率が低くなり得る又はゼロとなり得るとともに、システムが高い確率で又は常に渦状態で見出され得る。そのような渦状態が振動し得る(すなわち、磁気渦コアが磁性自由層内を動き回り得る)場合でも、磁性自由層の磁化は変化しないままとなり得る。結果として、計算された時間平均電圧は、これらの決定論的領域内の入力信号の周波数とは無関係になり得る。
【0031】
第1の決定論的領域と第2の決定論的領域との間で、入力信号の周波数と磁気渦コアの1つ以上の共振周波数との間の絶対差は、磁気渦コアが少なくとも時折磁性自由層から放出されるのに十分小さくなり得る。この確率的領域内で、渦コア状態が放出される確率は、入力信号の周波数に依存することができ、また、計算された時間平均電圧は、(本明細書中で前述したように)入力信号の周波数に1対1で対応し得る。
【0032】
幾つかの実施形態において、周波数推定器は、少なくとも1つの磁気コアの幾つかの振動にまたがる時間間隔にわたって電圧測定を実行するように構成されてもよい。幾つかの振動にわたって電圧測定を実行すると、例えば、電圧(又は確率)と周波数とを推定するときの精度を向上させ得る。単一の「瞬時」電圧値は、特定の周波数に固有でない場合がある。代わりに、周波数推定器は、向上された精度で電圧(又は確率)と周波数とを推定するために時間平均値を使用してもよい。
【0033】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つの磁気モードは、磁性自由層の方位角スピン波モード及び/又は放射状呼吸モードを含んでもよい。磁気渦コアのジャイロトロピックモードは、方位角スピン波モード及び/又は放射状呼吸モードを介して間接的に励起されてもよい。ジャイロトロピックモードを直接に励起させずにより高次のモード(例えば、方位角スピン波モード及び/又は放射状呼吸モード)を介した結合によって間接的に励起させることにより、周波数センサはより高い周波数で動作し得る。周波数センサを少なくとも最大10GHz以上で動作させることが想定され得る。
【0034】
幾つかの実施形態では、磁気抵抗ナノ発振器がMTJであってもよい。結合構成は、入力信号を電流としてMTJに通すための少なくとも1つの導体を含んでもよい。入力信号を電流としてMTJに通すことにより、磁性自由層における磁化を変調できる。これは、例えば、スピン移動トルク及び/又は電流により誘導される磁場を介して達成され得る。
【0035】
有限の周波数を有する入力信号の場合、電流は、自由磁性層における磁化を振動させることができる(すなわち、入力信号電流によって変調される)。この結果、MTJの抵抗が時間に応じて変化し得る。この抵抗と入力信号電流との間の混合は、MTJの両端間に整流電圧を引き起こし得る。
【0036】
これは、スピンダイオード効果に類似し得るが、共振励起ではなく変調効果に基づいているため、より広い範囲の周波数で効果を利用できる。この整流電圧は、低周波信号に関して決定論的な方法で(つまり、前述の第1の決定論的領域に対応する高い確率又は単位確率で)飽和され得る。入力信号周波数がMTJ及び磁性自由層の振幅緩和率を超えると、周波数センサは入力信号電流にもはや応答しなくなり得る。変調を伴なわなければ整流電圧は利用できない場合があり、また、MTJの両端間で測定された電圧は、決定論的な方法で(つまり、前述の第2の決定論的領域に対応する高い確率又は単位確率で)ゼロになり得る低い値に近づくことができる。第1及び第2の決定論的領域間で、整流電圧は、周波数の増大に応じて確率的な方法で低減され得る。この領域(つまり、前述の第3の確率的領域に対応する領域)において、計算された時間平均(整流)電圧は、入力信号の周波数に応じた確率で変化し得る。
【0037】
言い換えると、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧は、システムが入力変調信号(つまり、入力信号電流)に対して「ロック」されるかどうかに依存し得る。ロックの確率は、入力信号の周波数に依存する場合があり、また、確率は、計算された時間平均電圧から取得され得る。それにより、計算された時間平均電圧は、周波数についての情報を与えることができる。この確率と周波数との間の関係は、1対1の関数に対応し、例えば対数依存性を有し得る。
【0038】
幾つかの実施形態において、磁性自由層の磁化は、MTJの平面から傾けられてもよい。面外傾斜は、例えば、非磁性中間層と磁性自由層との間の界面間の表面異方性に起因して達成され得る。面外傾斜は、例えばCoPt多層の合金に起因しても達成され得る。磁性自由層の磁化をMTJの平面から傾けることにより、所望の効果をより大きくすることができ、それにより、改良されたセンサを提供することができる。
【0039】
幾つかの実施形態において、周波数推定器は、入力信号の幾つかの周期をまたがる時間間隔にわたって電圧測定を実行するように構成されてもよい。一例として、入力信号の周波数が1MHzである場合、周波数推定器は、数マイクロ秒にまたがる時間間隔にわたって電圧測定を実行するように構成されてもよい。同様に、入力信号の周波数が100MHzである場合、電圧測定は、数十ナノ秒にまたがる時間間隔にわたって実行されてもよい。
【0040】
幾つかの実施形態において、周波数推定器は、入力信号の決定された周波数の所望の分解能に基づいて、必要な時間間隔の長さ(その間に複数の電圧測定が実行される)を決定するように構成されてもよい。例えば、決定された周波数のより高い望ましい分解能は、時間間隔の長さをより長くする必要があり得る。同様に、決定された周波数の望ましい分解能が低い場合、時間間隔の長さが短くされ得る
幾つかの実施形態において、周波数推定器は、前記磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧を整流電圧として測定するように構成されてもよい。これは、時間平均電圧を計算する前に測定された電圧の絶対値を取得することを含み得る。
【0041】
幾つかの実施形態では、周波数センサがバイアス構成を更に含んでもよい。バイアス構成は、磁気抵抗ナノ発振器を通るバイアスDC電流を供給し得る。固定バイアスDC電流の場合、磁気抵抗ナノ発振器の全体にわたる抵抗の変化は、磁気抵抗ナノ発振器の両端間で測定される電圧の変化としてその後に検出され得る。
【0042】
幾つかの実施形態では、磁気抵抗ナノ発振器がナノピラーの形態で設けられてもよい。
【0043】
本開示の第2の態様によれば、入力信号の周波数を推定する方法が提供される。
【0044】
この方法は、入力信号を自由磁性層の少なくとも1つの磁気モードに結合するステップであって、自由磁性層が、少なくとも磁性自由層、磁性基準層、及び、磁性自由層と磁性基準層との間に配置される非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含む磁気抵抗ナノ発振器の一部を形成する、ステップを含んでもよい。方法は、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を経時的に実行するステップを含んでもよい。方法は、複数の電圧測定値に基づいて、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算するステップを含んでもよい。方法は、計算された時間平均電圧に基づき、有限の範囲の周波数にわたって、入力信号の周波数を推定するステップを更に含んでもよい。方法は、推定された周波数を表わす信号を出力するステップを更に含んでもよい。
【0045】
第2の態様に係る方法の詳細及び利点は、第1の態様に係る周波数センサの詳細及び利点についての先の議論で見出され得る。
【0046】
幾つかの実施形態において、方法は、入力信号の周波数を磁気抵抗ナノ発振器の両端間の計算された時間平均電圧の1対1の関数として推定するステップを含んでもよい。
【0047】
幾つかの実施形態において、方法は、磁気抵抗ナノ発振器を磁気トンネル接合(MTJ)として設けるステップを含んでもよい。磁性自由層は、少なくとも1つの磁気渦コアを有する状態で構成されてもよい。少なくとも1つの磁気モードは、磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含んでもよい。入力信号を少なくとも1つの磁気モードに結合するステップは、入力信号を電流としてMTJに隣接する少なくとも1つの磁力線に通して磁場を生成することによって達成されてもよい。磁場は、入力信号を使用して磁気渦コアの少なくとも1つのジャイロトロピックモードを励起させるために使用可能となり得る。
【0048】
幾つかの実施形態において、複数の電圧測定は、少なくとも1つの磁気渦コアの幾つかの振動にまたがる時間間隔にわたって実行されてもよい。
【0049】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの磁気モードが方位角スピン波モードを含んでもよい。磁気渦コアのジャイロトロピックモードは、方位角スピン波モードを介して間接的に励起されてもよい。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの磁気モードは、これに加えて又は代えて、放射状呼吸モードを含んでもよい。磁気渦コアのジャイロトロピックモードは、放射状呼吸モードを介して間接的に励起されてもよい。
【0050】
幾つかの実施形態では、磁気抵抗ナノ発振器が磁気トンネル接合(MTJ)であってもよい。入力信号を少なくとも1つの磁気モードに結合するステップは、入力信号を電流としてMTJに通すことによって達成されてもよい。MTJに電流を通すと、磁性自由層における磁化を変調できる。
【0051】
幾つかの実施形態において、方法は、磁性自由層の磁化をMTJの平面から傾けるステップを含んでもよい。
【0052】
幾つかの実施形態において、入力信号の周波数を推定するステップは、入力信号の幾つかの周期にまたがる時間間隔の電圧測定を実行することを含んでもよい。
【0053】
幾つかの実施形態において、方法は、入力信号の決定された周波数の所望の分解能に基づいて、時間間隔の必要な長さを決定するステップを含んでもよい。
【0054】
幾つかの実施形態において、方法は、整流電圧として磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧を測定するステップを含んでもよい。
【0055】
幾つかの実施形態において、方法は、磁気抵抗ナノ発振器を介してバイアスDC電流を供給するステップを含んでもよい。
【0056】
幾つかの実施形態において、方法は、ナノピラーの形態で磁気抵抗ナノ発振器を設けるステップを含んでもよい。
【0057】
本開示は、前述の列挙されたもの、並びに、異なる実施形態に関連して以下に記載される他の特徴を含む、本明細書中で言及される特徴の全ての想定し得る組み合わせに関する。
【0058】
ここで、第1の態様の周波数センサの実施形態に関連して説明される任意の利点及び/又は詳細は、第2の態様の方法の対応する実施形態にも当てはまり、逆ももた同様である。
【0059】
本開示の様々な実施形態の更なる目的及び利点は、例示的な実施形態によって以下に説明される。
【0060】
例示的な実施形態は、添付図面に関連して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1a】本開示に係る周波数センサの実施形態を概略的に示す。
図1b】本開示に係る周波数センサの実施形態を概略的に示す。
図1c】本開示に係る周波数センサの実施形態を概略的に示す。
図2a】本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の実施形態を概略的に示す。
図2b】本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の実施形態を概略的に示す。
図3a図2a〜図2bに示される磁気抵抗ナノ発振器に関連するデータを示す。
図3b図2a〜図2bに示される磁気抵抗ナノ発振器に関連するデータを示す。
図3c図2a〜図2bに示される磁気抵抗ナノ発振器に関連するデータを示す。
図4】本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の実施形態に関連するデータを示す。
図5a】本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の実施形態を概略的に示す。
図5b図5aに示される磁気抵抗ナノ発振器に関連するデータを示す。
図6】本開示に係る方法の一実施形態のフローチャートを概略的に示す。
図7】本開示に係る周波数センサの磁気状態の一般的な概念を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図中、別段述べられなければ、同様の参照数字が同様の要素に関して使用される。反対のことが明確に述べられなければ、図面は、実施形態の例を示すために必要なそのような要素のみを示すにすぎず、一方、他の要素は、明確にするために、省かれる場合があり或いは単に示唆されるにすぎない場合がある。図に示されるように、要素及び領域のサイズは、説明のために誇張される場合があり、したがって、実施形態の一般的な構造を例示するために与えられる。
【0063】
ここで、以下、添付図面の図を参照して、例示的な実施形態について更に十分に説明する。図面は現在好ましい実施形態を示すが、しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてよいとともに、本明細書中に記載される実施形態に限定されるように解釈されるべきでなく、むしろ、これらの実施形態は、徹底且つ完全のために提供され、本開示の範囲を当業者に完全に伝える。
【0064】
ここで、図1a〜図1cを参照して、本開示に係る周波数センサの一実施形態について更に詳しく説明する。
【0065】
図1aは、周波数センサ100を概略的に示す。周波数センサ100は磁気抵抗ナノ発振器110を含む。磁気抵抗ナノ発振器110は、磁性自由層120、磁性基準層122、及び、非磁性中間層124によって形成される。中間層124は、自由層120と基準層122との間に配置される。自由層120の磁化は、任意の特定の方向に固定されないが、例えば、印加磁場又は磁気抵抗ナノ発振器110を通過する電流によって影響される場合がある。図1aでは、自由層の磁化が両方向矢印130によって示される。基準層122の磁化は、単方向矢印132によって示されるように固定される。
【0066】
本明細書中では、単層として示されるが、本開示に係る周波数センサの実施形態では、自由層120及び/又は基準層122のうちの1つ以上が幾つかの層を互いに積み重ねることによって形成されてもよいことが想定される。例えば、基準層122が2つ以上の層を含んでもよく、また、基準層122中の各層の材料が必要に応じて異なってもよい。同じことが、自由層120にも、中間層124にも当てはまる。
【0067】
また、周波数センサ100は結合構成140も含む。結合構成140は、入力信号(電流Isとして示される)を磁性自由層120の少なくとも1つの磁気モードに結合する。これは、例えば、結合構成140により電流Isが磁気抵抗ナノ発振器を通過できるようにすることによって、或いは、例えば、電流Isによって形成される磁場が磁気抵抗ナノ発振器110及び自由層120に影響を及ぼし得るように結合構成140により電流Isが磁気抵抗ナノ発振器110に隣接する磁力線を通過できるようにすることによって行なわれてもよい。
【0068】
また、周波数センサ100は、配線152を使用して磁気抵抗ナノ発振器110の両端間に取り付けられる周波数推定器150も含む。周波数推定器150は、経時的に磁気抵抗ナノ発振器110の両端間の複数の電圧測定を実行してもよい。複数の電圧測定の値に基づいて、周波数推定器150は、時間平均電圧を計算してもよい。その後、周波数推定器150は、計算された時間平均電圧に基づいて、入力信号Isの周波数を推定してもよい。周波数推定器150は、推定された周波数を表わす信号を出力する。信号は配線154で出力される。
【0069】
周波数推定器150は、経時的に磁気抵抗ナノ発振器110の両端間の複数の電圧測定を実行するための電圧計を含んでもよい。電圧計は、好ましくは、周波数推定器150内又は周波数推定器150に対してのいずれかで利用できる何らかのメモリに時系列として測定電圧を記録する機能を含むデジタル電圧計であってもよい。必要に応じて、アナログ電圧計が使用されてもよいことが想定される。周波数推定器150は、記憶された電圧測定値に基づいて時間平均電圧を計算できるように、例えば1つ以上のプロセッサ、マイクロプロセッサ、FPGA、又は、同様のものの形態を成す1つ以上のコンピュータ装置を更に含んでもよい。このとき、入力信号の周波数を推定して配線154上の出力信号を生成するために同じ又は同様のコンピュータ装置が使用されてもよい。
【0070】
配線154は、物理的な配線として示されるが、推定された周波数又は推定された周波数を示す信号を無線で出力できるように、無線リンク又は光リンクであることが想定されてもよい。
【0071】
図1bは、結合構成140が磁力線142を含む周波数センサ100の一実施形態を示す。磁力線142は、入力信号(電流Isの形態を成す)を磁力線142に通すことができるように、磁気抵抗ナノ発振器110に隣接して配置される。電流Isを磁力線142に通す際、それによって生成される磁場は、入力信号を磁気抵抗ナノ発振器110の自由層120における少なくとも1つの磁気モードに結合してもよい。磁気抵抗ナノ発振器110によって感じられる磁場は、磁力線142と磁気抵抗ナノ発振器110との間の距離に依存し得る。したがって、磁気抵抗ナノ発振器110によって感じられる磁場は、磁力線142を磁気抵抗ナノ発振器110に近づける(又は遠ざける)ことによって必要に応じて調整され得る。
【0072】
図1cは、電極146を使用して磁気抵抗ナノ発振器110に接続される配線144を結合構成140が含む周波数センサ100の一実施形態を示す。配線144を使用して、入力信号は、電流Isとして磁気抵抗ナノ発振器110に通され得る。電流Isを磁気抵抗ナノ発振器110に通す際、電流は、入力信号を磁気抵抗ナノ発振器の自由層120における少なくとも1つの磁気モードに結合してもよい。
【0073】
図2a及び図2bを参照して、本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の1つの実施形態について更に詳しく説明する。
【0074】
図2aは、周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器210を示す。磁気抵抗ナノ発振器210は、図1a及び図1bにおける例に関して示される磁気抵抗ナノ発振器110として使用されてもよい。磁気抵抗ナノ発振器210は、磁気トンネル接合(MTJ)であり、ナノピラーとして形成される。MTJ210は、磁性自由層220、磁性基準層222、及び、自由層220と基準層224との間に配置される非磁性中間層224を含む。前述したように、自由層220の磁化(両方向矢印230によって示される)は、任意の特定の方向に固定されない。しかしながら、基準層222の磁化は、例えば単方向矢印232によって示されるように、特定の方向に固定(又はピン止め)される。
【0075】
自由層220は、例えば、強磁性であってもよく、例えば、NiFe、CoFe、又は、CoFeBを含んでもよい。自由層220の厚さは例えば5nm〜10nmであってもよい。MTJ210の直径は例えば100nm〜2pmであってもよい。
【0076】
基準層222は、例えば、合成反強磁性体(SAF)を含んでもよい。SAFの例としては、例えば、PtMn(又はIrMn)/CoFe/Ru/CoFeBの多層構造を挙げることができる。CoFeBは、例えば、他の強磁性体(例えば、Ni、Fe、Co、又は、それらの合金など)によって置き換えられてもよい。Ruは、例えば、Cu又は様々な他の遷移金属で置き換えられてもよい。基準層222の厚さは、例えば、2.0nmのCoFeSo/0.7nmのRu/2.6nmのCoFeoB2oであってよい。代案として、基準層222が、例えば、強磁性材料と反強磁性材料との積層形態を含んでもよいことが想定され、この場合、強磁性材料の磁化は、例えば交換結合及び/又は交換バイアスに起因して反強磁性材料によってピン止めされる。前述のSAF形態に加え、磁性基準層222をピン止めして、層がピン止めされる磁場範囲を改善するために、反強磁性体が使用されてもよい。SAF形態を含めることにより、磁性基準層222の安定性を向上させることができる。
【0077】
中間層224は例えばMgO又はAlを含んでもよい。中間層224は、電子が自由層220と基準層222との間を移動するようにトンネルするトンネルバリアとしての機能を果たしてもよい。そのようなトンネリングの発生確率は、磁化230,232の相対的な整列に依存し得る。
【0078】
また、磁気トンネル接合を形成できるとともに、本明細書で後述するように、自由層220を少なくとも1つの磁気渦コアを有する状態で構成できる限りにおいて、自由層220、中間層224、及び、基準層222が、例えば本明細書中で挙げられるものに加えて又は代えて、他の材料を含んでもよいことも想定される。
【0079】
自由層220は、少なくとも1つの磁気渦(コア)を有する状態で構成されてもよい。例えば、NiFe自由層220がその基底状態として磁気渦260を有してもよい。
【0080】
自由層220の少なくとも1つの磁気モードは、そのような磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含んでもよい。例えば図1a又は図1bに関連して本明細書中に記載された結合構成を使用して、入力信号が例えば磁場を介してジャイロトロピックモードに結合されてもよく、また、それにより、入力信号が磁気渦コアのジャイロトロピックモードを励起してもよい。磁気渦260は、例えば入力信号(波状矢印248によって示される)によって励起されると、自由層220内を動き回って、特定の軌道経路262をたどることができる。
【0081】
図2aは、磁気抵抗ナノ発振器(MTJ)210を上側から概略的に示す。磁性自由層220は外周221を有し、自由層220における磁気モーメントの面内配向が小さい塗りつぶされた矢印によって示される。MTJ210における自由層220の磁気状態は、その中央の面外成分が磁気渦コア261を規定する磁気渦を含む。渦コア261は、例えば生成された磁場を介して入力信号により励起されれば、振動して例えば軌道262に沿って動き回ることができる。そのような軌道262の半径は、入力信号の周波数に依存し得る。
【0082】
入力信号の周波数と自由層220における1つ以上の磁気モードの共振周波数との間の絶対差が十分に大きければ、軌道262の半径は、渦コア261が自由層220の外周221に達することができないように十分小さくなり得る。この状況において、渦コア261は、矢印S1によって指し示されるMTJ210における自由層220の状態により示されるように、自由層220内にとどまることができる。この状態において、磁化は、自由層220の異なる領域内でのy方向の平均磁化を表わす矢印264yにより示されるように、例えば自由層220の平面のy方向において不均一となり得る。この状態は基準層222の磁化と部分的に整合でき、また、電子がMTJ210を通じてトンネルする確率が中程度となることができ、それにより、中程度のMTJ抵抗が生じ得る。
【0083】
入力信号の周波数と自由層220における1つ以上の磁気モードの共振周波数との間の絶対差が十分に小さければ、軌道262の半径は、渦コア261が自由層220の外周221に達することができるように十分大きくなり得る。この状況において、渦コア261は、矢印S2によって指し示されるMTJ210’における自由層220の状態により示されるように、外周221で消滅して自由層220から放出され得る。この状態において、磁化は、均一(又は少なくとも準均一)となることができ、また、それに応じて基準層222の磁化232が構成される場合には、基準層222の磁化232と平行(整列)となり得る或いは基準層222の磁化232と逆平行(反整列)となり得る。整列が平行であれば、電子がMTJ210’を横切ってトンネルする確率が高くなり得る。整列が逆平行であれば、電子がMTJ210’を横切ってトンネルする確率は低くなり得る。いずれの場合にも、トンネル磁気抵抗効果は、(準)均一な状態と未だ渦を有する状態との間でMTJの全体にわたって関連する抵抗の変化を引き起こし得る。本明細書中で前述したように、この抵抗の変化は、閾値周波数検出器の基礎を形成し得る。
【0084】
磁気モードの共振周波数は、それに応じてMTJ210の材料及び寸法を選択することによって制御されてもよい。そのような寸法は、例えば、厚さ及び直径などを含んでもよい。
【0085】
そのような閾値周波数検出器にわたる改良をもたらし得る周波数センサを提供するために、本開示に係る周波数センサ(図1a〜図1cに関連して説明されて図2a及び図2bに関連して説明されたMTJ210を含む周波数センサ100など)は、磁気抵抗ナノ発振器110,210の両端間の複数の電圧測定を経時的に実行することによって、及び、計算された時間平均電圧に基づいて入力信号の周波数を決定することによって、渦コア261のそのような消滅又は残存の確率的性質も考慮に入れる。
【0086】
入力信号の周波数と自由層220における1つ以上の磁気モードとの間の絶対差が十分に大きい場合、磁気渦コア261は、軌道262の半径が渦コア261の放出にとって十分大きくなくても振動する。結果として、自由層220の磁化状態は同じままである。言い換えると、渦コア261が振動しても、磁化は同じままである。したがって、自由層220は決定論的態様で振る舞うことになり、磁化の状態が経時的に変化する可能性は殆どない又は全くない。
【0087】
逆に、入力信号の周波数と自由層220における1つ以上の磁気モードとの間の絶対差が十分に小さい場合、軌道262の半径は、渦コア261が経時的に放出されて再核形成されるのに十分大きくなり得る。渦コア261が放出/再核形成されると、自由層220の磁化状態が変化し、これが経時的にMTJの両端間の測定電圧に反映し得る。したがって、言い換えると、自由層220が確率的態様で振る舞い、また、渦状態又は(準)均一状態の自由層220を見つける確率は、入力信号の周波数に依存する。
【0088】
ここで、図3a〜図3cを参照して、MTJ210の動作に関する更なる詳細を与える。
【0089】
図3aは、経時的な自由層220におけるy方向の変動磁化に関するシミュレーションされたデータを示す。図3aは、入力信号の3つの異なる周波数に関して、すなわち、入力信号の周波数がそれぞれ195MFIz(上側のプロット)、260MFIz(中央のプロット)、及び、330MFIz(下側のプロット)であるときのそのようなデータを時間の関数として示す。各プロットでは、渦コアが自由層220の外周221に十分に近づくことによって放出される大きな確率を有する領域Aが画定されてもよい。
【0090】
上側のプロットでは、入力信号の周波数が195MFIzであることに対応して、曲線が領域Aを頻繁に訪れることが分かる。また、(中央及び下側のプロットでは)周波数が高くなるに伴って、領域A内の対応する曲線により費やされる時間が周波数の増加に伴って減少するのが更に分かる。
【0091】
図3bは、周波数の関数としてy方向の(時間)平均磁化を示す。図3bにおけるプロットの各ポイントは、対応する周波数における変動磁化データの時系列にわたって計算された時間平均に対応する。言い換えると、図3bにおける周波数195MFIzでの(経時的な)平均磁化の値は、図3aにおける上側のプロットに示される時系列にわたって時間平均を実行することによって計算されてしまっている。図3bにおける周波数260MFIzでの(経時的な)平均磁化の値は、図3aにおける中央のプロットに示される時系列にわたって時間平均を実行することにより計算されてしまっており、以下、図3bでカバーされるそれぞれの周波数ごとに同様である。この図から分かるように、少なくとも195MFIzから少なくとも330MFIzまでの間、y方向の平均磁化は、周波数の増大に伴って直線的に減少する。約195MFIzの周波数の場合には、磁気渦コアが非常に頻繁に放出され、それにより、かなり(準)均一な平均磁化が自由層に生じるのが分かる。約330MFIzの周波数に関しては、磁気渦コアが殆ど放出されず、それにより、かなり不均一な平均磁化が自由層に生じるのが分かる。260MFIzなどの中間の周波数の場合には、周波数の減少に伴って渦コアが頻繁に放出され、周波数の増大に伴って殆ど放出されないのが分かる。したがって、y方向に沿う磁気抵抗ナノ発振器の平均磁化は、周波数に対して線形態様で変化する。結果として、磁気抵抗ナノ発振器の抵抗も、周波数に対して線形態様で変化する。この線形の挙動の「勾配」の方向、つまり、周波数の増大に伴って抵抗が増大又は減少するかどうかは、基準層の磁化の方向に依存し得る。
【0092】
図3cは、基準層の磁化の方向が自由層の(準)均一な磁化と平行に整列するMTJに関して、図3a及び図3bに示されるデータから得られる時間平均電圧におけるデータを示す。正のDCバイアス電流がMTJにわたって供給された。また、周波数推定器によって計算される時間平均電圧が周波数に応じて正の(例えば、勾配の増大に伴って)線形態様で変化するのが分かる。本明細書中で前述した異なる領域は、図3cでは領域R、R、R3として特定されてもよい。領域R,Rは、第1及び第2の決定論的領域に対応する。領域R3は確率的領域に対応し、この場合、本開示の周波数センサは、時間平均電圧の1対1の関数として入力信号の周波数を推定し得る。図3a〜図3cに示される例では、1対1の関数が領域R3における線形関数に似ており、また、周波数センサは、例えば、この領域内の入力信号の周波数を時間平均電圧に正比例すると推定し得る。比例定数及びオフセット定数(必要に応じて)が例えば図3cから決定されてもよい。
【0093】
図4を参照すると、本開示に係る周波数センサにおける磁気抵抗ナノ発振器の更なる実施形態に関するデータが与えられる。
【0094】
入力信号は、磁気渦コアのジャイロスコピックモードに直接結合する代わりに、それら自体がジャイロスコピックモードに結合される1つ以上のより高次の(方位角スピン波)モードから抜け出ることによってジャイロトロピックモードに間接的に結合し得る。ジャイロトロピックモードのこの間接的な励起は例えば上限周波数を許容でき、この上限周波数を超えると、周波数センサが増大されるべく殆ど使用できない。図4は、そのような結合に関する時間平均電圧対周波数のデータを示し、このとき確率的領域Rが約2GHzから最大で3.5GHzにまで及ぶのが分かる。(ジャイロトロピックモードに間接的に結合する)更に一層高いモードを励起することにより、例えば10GHz以上を超える周波数など、更に高い周波数が周波数センサによって感知され得ることが想定される。図4は、約200nmの直径、約7mAの印加DCバイアス電流、約400mTの印加磁場、及び、約10dBmに対応する磁力線を有するMTJに対応する。
【0095】
ここで、図5a及び図5bを参照して、本開示に係る周波数センサの磁気抵抗ナノ発振器の1つの実施形態及びそれに関連するデータについて更に詳しく説明する。
【0096】
図5aは、例えば、図1a及び図1cに関連して説明された周波数センサ100の磁気抵抗ナノ発振器110として使用されてもよい磁気抵抗ナノ発振器510を示す。磁気抵抗ナノ発振器510は、磁気トンネル接合(MTJ)であり、磁性自由層520、磁性基準層522、及び、非磁性中間層524を含む。中間層524は、自由層520と基準層522との間に配置される。
【0097】
自由層520の磁化は、均一であるが、中間層524と自由層520との間の界面の間の表面異方性に起因してMTJの平面から傾けられる。自由層520の磁化(両方向矢印530によって示される)は、任意の特定の方向にピン止め又は固定されず、例えば基準層522の平面に沿う磁化の相対的比率及び配向が変更されるように磁気抵抗ナノ発振器を通る電流によって影響され得る。基準層522の磁化は、本明細書中で前述したように、特定の方向に固定(又はピン止め)される。基準層522の磁化は、単方向矢印532によって示される。
【0098】
自由層520は例えばCoFeBを含んでもよい。中間524層は例えばMgOを含んでもよい。基準層522は例えば合成反強磁性体(SAF)であってもよい。SAFの例としては、例えば、PtMn(又はIrMn)/CoFe/Ru/CoFeBの多層構造を挙げることができる。
【0099】
磁気抵抗ナノ発振器510は、ナノピラーの形態で設けられてもよい。そのようなピラーの直径は、例えば、50nm〜200nmであってもよい。磁性自由層524の厚さは例えば約1nmであってよい。
【0100】
入力信号は、電流として磁気抵抗ナノ発振器510に通されてもよく、それにより、入力信号が磁気抵抗ナノ発振器510及び自由層520の少なくとも1つの磁気モードに結合される。信号は、例えば、図1a及び図1cに関連して説明されるような結合構成140を使用して結合されてもよい。
【0101】
本明細書中で前述したように、自由層520の磁化は、入力信号の電流によって変調されてもよい。変調された/振動する磁化は、磁気抵抗ナノ発振器510にわたって振動抵抗を生じさせ得る。入力信号からの振動電流と組み合わされて、整流電圧が磁気抵抗ナノ発振器510の両端間に引き起こされ得る。周波数推定器(例えば、図1aに関連して説明される周波数推定器150など)は、この整流電圧の複数の測定を経時的に実行して、時間平均電圧を計算し、この計算された時間平均電圧に基づいて入力信号の周波数を推定してもよい。この実施形態において、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧は、DCバイアス電流を伴うことなく測定されてもよい。磁気抵抗ナノ発振器の両端間の電圧は、磁気抵抗ナノ発振器が入力(変調)信号にロックされるか否かに依存し得る。時間平均電圧を通じて抽出され得るロックの確率は、入力信号の周波数に依存し得る。したがって、周波数推定器は、時間平均(整流)電圧を計算することによって入力信号の周波数を推定することができる。
【0102】
図5bは、磁気抵抗ナノ発振器510に関するデータを示す。図5bでは、整流電圧が入力信号の周波数の関数としてプロットされる。周波数は対数目盛を使用してプロットされる。図から分かるように、3つの領域(第1及び第2の決定論的領域R,R及び確率的領域R3)が依然として存在するが、このとき、時間平均(整流)電圧は、確率的領域R3内の周波数に対数的に依存する。対数依存性は、依然として、本開示の周波数センサが入力信号の周波数を時間平均電圧の1対1の関数として推定できるようにする。
【0103】
ここで、図6を参照して、本開示に係る入力信号の周波数を推定する方法について説明する。
【0104】
図6は、方法600のフローチャートを概略的に示す。ステップS610において、入力信号は、自由磁性層の少なくとも1つの磁気モードに結合される。自由磁性層は、少なくとも磁性自由層、磁性基準層、及び、非磁性中間層の磁気ヘテロ構造を含む磁気抵抗ナノ発振器の一部を形成する。非磁性中間層は、磁性自由層と磁性基準層との間に配置される。磁気抵抗ナノ発振器は、例えば、図2aに関連して説明されたMTJ210又は図5aに関連して説明されたMTJ510に対応してもよい。
【0105】
ステップS620では、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定が経時的に実行される。
【0106】
ステップS630では、ステップS620で得られた複数の電圧測定値に基づいて、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧が計算される。
【0107】
ステップS640では、入力信号の周波数が、ステップS530で得られた計算された時間平均電圧に基づいて推定される。周波数は有限の周波数範囲にわたって推定され、すなわち、同じ磁気抵抗ナノ発振器/装置を使用して複数の周波数が推定されてもよい。
【0108】
方法600は、本開示に係る周波数センサの実施形態に関連して本明細書中で既に説明されてしまったものにしたがって、他のステップ、又は、ステップS610〜S640の改変を含んでもよい。
【0109】
磁気抵抗ナノ発振器を使用することにより、及び、磁気抵抗ナノ発振器の両端間の複数の電圧測定を実行して磁気抵抗ナノ発振器の両端間の時間平均電圧を計算することにより、発明者らは、改良された周波数センサを提供した。改良された周波数センサは、単一の磁気抵抗ナノ発振器/装置を使用して、より広い間隔にわたって入力信号の周波数を感知できる。複雑で嵩張るフィルタバンク又は複数の装置/検出器を一緒に接続して動作させる必要なく、数十MHzから数GHzにまで至る周波数を検出できる。これにより、感知機能、バルクサイズ、及び、製造コストがいずれも改善される。
【0110】
本発明者らが認識したように、例えば磁気モードが磁気渦コアのジャイロトロピックモードを含む実施形態において本明細書中で説明されたような周波数センサは、より一般的なメカニズムを使用して構築/説明されてもよい。以下、図7を参照して、それらの例について説明する。
【0111】
MTJの磁性自由層は、異なる想定し得る状態を有してもよい。これらの状態は、ジオメトリ、インタフェース効果、又は、例えばMTJを構築するときに使用される材料に依存してもよい。これらの状態としては、例えば、磁気渦、磁気スキルミオン、磁気バブル、及び、準均一磁気状態(この磁化方向が接合部の面内又は接合部の面外にあってもよい)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0112】
したがって、自由層の状態は、複数の磁気状態間で切り換えられてもよい。複数の磁気状態は、エネルギー障壁によって分離されてもよい。本開示に係る周波数センサが、例えば、およそ/ほぼ同等のエネルギーレベルを有する2つの利用可能な磁気状態を必要とし得る、及び、これらの磁気状態が比較的小さいエネルギー障壁によって分離され得ることが理解され得る。図7は、エネルギー障壁710によって分離される2つのそのような磁気状態A,Bのエネルギー700を概略的に示す。
【0113】
本開示に係る周波数センサのための他の要件は、本明細書中で前述したような周波数依存結合メカニズムであってもよく、該メカニズムは、磁気状態A,B間を移動するためにエネルギー障壁710を克服するべく必要とされる励起メカニズムに対応し得る。言い換えると、周波数依存結合は磁気状態間の移行を含んでもよく、すなわち、障壁を越える移行を可能にする励起が存在してもよい。
【0114】
例えば状態Aから状態Bへの切り換えを可能にする単純な切り換えメカニズムが知られており、これらのメカニズムは、例えば、スピントランスファートルクを使用する磁気メモリ(例えば、STT MRAM)において又は本明細書中で前述したような周波数検出器において使用される(例えば、Jenkins S et alの“Spin torque resonant vortex core expulsion for an efficient radio−frequency detection scheme”,DOI:10.1038/NNANO.2015.295参照)。逆に、本開示に係る周波数センサにおいて、切り換えメカニズムは、疑似静的磁気状態Aと疑似磁気状態Bとの間の単一の移行よりも多くの移行を伴う。代わりに、本開示に係る周波数センサは、磁気状態Aと磁気状態Bとの間の継続的な動的移行をもたらして該移行に依存する。磁気状態A又は磁気状態Bのいずれかで費やされる相対時間は、与えられた結合メカニズムを介して周波数に依存する。
【0115】
本明細書中で一例として前述したジャイロトロピックモードを使用する実施形態の1つを使用すると、磁気状態Aが例えば磁気渦に対応し、磁気状態Bが例えば準均一状態に対応し得る。結合メカニズムは、一体型アンテナを通過する高周波電流によって生成される局所磁場(つまり、磁場を生成するために入力信号を電流として通すためのMTJに隣接する少なくとも1つの磁力線)を介したジャイロトロピックの励起(及びスピン波モード)であってもよい。
【0116】
例えばスキルミオンの共鳴モード(例えば、ジャイロトロピック/呼吸モード)の励起時の磁気スキルミオンの連続的な核形成及び消滅を含む他の実施形態も想定される。そのような構成において、スキルミオンが安定している時間の長さは、周波数がスキルミオンの共振モードに近づくにつれて周波数に依存する。そのようなスキルミオン形態を使用する実施形態は、例えば本開示の周波数センサの第1の態様に従って説明されたように、例えば本明細書中で前述したものと同じ材料構造を使用してもよい。スキルミオンの形成を改善するために重元素(例えば、Pd又はTaなど)を備える付加的なキャッピング層を含めることによって、そのようなスキルミオンベースの周波数センサの機能を更に改善することも想定され得る。
【0117】
更に想定される実施形態は、例えば、基準層に平行又は逆平行のいずれかにそれぞれ対応する自由層における2つの準均一磁気状態間の移行を含んでもよい。そのような2つの状態間のエネルギー障壁は通常は(例えば、MRAM用途で使用されるように)大きくなる場合があるが、それらは、例えばスーパーパラメータを使用することによって及び/又はジオメトリを減らすことによって小さいエネルギー障壁を有するように設計され得る。このとき、そのような小さな障壁は、本開示の周波数依存結合メカニズムの適用によって克服され得る。
【0118】
言い換えると、低い十分なエネルギー障壁がシステム設計によって達成され得ることが想定される。
【0119】
以上、特徴及び要素が特定の組み合わせで説明されるが、それぞれの特徴又は要素は、他の特徴及び要素を伴うことなく単独で、或いは、他の特徴及び要素を伴って又は伴うことなく様々な組み合わせで使用され得る。
【0120】
加えて、開示された実施形態に対する変形は、図面、開示内容、及び、添付の特許請求の範囲の検討により、特許請求の範囲に記載される発明を実施する際に当業者によって理解されて達成され得る。特許請求の範囲において、「備える」という用語は他の要素を除外せず、また、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。特定の特徴が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの特徴の組み合わせを有利に使用できないことを示唆するものではない。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5b
図6
図7
【国際調査報告】