(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-505200(P2021-505200A)
(43)【公表日】2021年2月18日
(54)【発明の名称】ゲノムインプリンティングの障害を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20210122BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20210122BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20210122BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20210122BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20210122BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20210122BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20210122BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210122BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20210122BHJP
【FI】
C12N15/11 ZZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12N5/074
A61K31/7105
A61K38/46
A61K48/00
A61P43/00 105
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】72
(21)【出願番号】特願2020-550047(P2020-550047)
(86)(22)【出願日】2018年12月7日
(85)【翻訳文提出日】2020年8月5日
(86)【国際出願番号】US2018064517
(87)【国際公開番号】WO2019113472
(87)【国際公開日】20190613
(31)【優先権主張番号】62/596,397
(32)【優先日】2017年12月8日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】502139046
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ コネチカット
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】チェンバレン ストーミー
(72)【発明者】
【氏名】コットニー ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ラングエ マエヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ラランド マーク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA49Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
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4C084CA53
4C084CA56
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4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC541
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC54
(57)【要約】
本明細書では、対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための組成物、キット、及び方法が開示される。その方法は、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)結合部位を、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて低減されるように改変することを含み得る。このZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。更に、ZNF274結合部位又はZNF274タンパク質をコードする遺伝子に結合するDNAターゲッティングシステムも提供される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号13、配列番号14、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48又は配列番号48に相当するポリヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)分子。
【請求項2】
ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムであって、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、DNAターゲッティングシステム。
【請求項3】
少なくとも1つのgRNA内に、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項4】
ZNF274タンパク質をコードする遺伝子に結合するDNAターゲッティングシステムであって、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号47、配列番号48、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、DNAターゲッティングシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号13、配列番号14、配列番号47、配列番号48、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、請求項4に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項6】
Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、請求項2〜5のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項7】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はこれらの変異体を含む、請求項6に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項8】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、請求項7に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項9】
前記Casタンパク質が、NGG(配列番号2)、NGA(配列番号3)、NGAN(配列番号49)又はNGNG(配列番号50)のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9を含む、請求項6に記載のDNAターゲッティングシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のgRNA分子を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項11】
請求項2〜9のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステムをコードする、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項13】
請求項1に記載のgRNA分子及びClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質をコードするベクター。
【請求項14】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はその変異体を含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1に記載のgRNA、請求項2〜9のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、請求項10若しくは11に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は請求項12〜15のいずれか一項に記載のベクター、又はこれらの組合せを含む細胞。
【請求項17】
前記細胞がプラダー・ウィリー症候群(PWS)患者由来の誘導多能性幹細胞(iPSC)である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
前記iPSCがPWS1−7大領域欠失細胞株又はUPD1−2細胞株である、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
請求項1に記載のgRNA、請求項2〜9のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、請求項10若しくは11に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は請求項12〜15のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項16〜18のいずれか一項に記載の細胞、又はこれらの組合せを含むキット。
【請求項20】
請求項1に記載のgRNA、請求項2〜9のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、請求項10若しくは11に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は請求項12〜15のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項16〜18のいずれか一項に記載の細胞、又はこれらの組合せを含む医薬組成物。
【請求項21】
対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法であって、
前記対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)結合部位を、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて低減されるように改変すること
を含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項22】
ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて少なくとも90%低減される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が排除される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置が、ZNF274結合部位の改変前にサイレントである、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記障害がプラダー・ウィリー症候群(PWS)を含む、請求項21〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位の完全欠失、ZNF274結合部位の部分的欠失、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチドの突然変異、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチド位置での切断、又はこれらの組合せにより改変される、請求項21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムを前記対象又は前記対象の細胞に投与することにより改変され、前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、請求項21〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムをコードする単離されたポリヌクレオチドを投与することにより改変され、前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、請求項21〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、請求項27〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記DNAターゲッティングシステムがClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法であって、
前記対象に、ZNF274タンパク質と、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるZNF274結合部位との相互作用を対照に比べて低減する薬剤の薬学上有効な量を投与することを含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項33】
前記薬剤が配列特異的ヌクレアーゼ、又は配列特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
記配列特異的ヌクレアーゼがジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ、又はCRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記CRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムがZNF274結合部位に結合し、且つ、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記CRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムがClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記Casタンパク質がCas9を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はその変異体を含む、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
15q11−q13内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
15q11−q13のプラダー・ウィリー症候群責任領域(PWSCR)内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
ゲノム座標hg19 chr15:25,012,961−25,685,253又はchr15:23,695,603−25,026,558から選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
SNORD116、IPW、SNORD115、SNHG14、UBE3A−ATS、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
SNRPNエキソン2、SNRPNエキソン3、SNRPNエキソン4、UBE3A、MAGEL2、MKRN3、SNRPNエキソンU4、NDN、又はこれらの組合せのうち少なくとも1つの発現が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
SNRPN U1Aプロモーター、SNRPN U1Bプロモーター、又はこれらの組合せからの転写の開始が増強される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
H3K9me3の結合が低減される、請求項21〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための製剤であって、母性ヌクレオチド配列上のZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合を対照に比べて低減する薬剤を含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、製剤。
【請求項49】
前記障害がプラダー・ウィリー症候群(PWS)である、請求項48に記載の製剤。
【請求項50】
前記薬剤が15q11−q13内の少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化させる、請求項48に記載の製剤。
【請求項51】
前記薬剤が15q11−q13のプラダー・ウィリー症候群責任領域(PWSCR)内の少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化させる、請求項48に記載の製剤。
【請求項52】
前記薬剤がゲノム座標hg19 chr15:25,012,961−25,685,253又はchr15:23,695,603−25,026,558から選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現を活性化させる、請求項45に記載の製剤。
【請求項53】
前記薬剤がSNORD116、IPW、SNORD115、SNHG14、UBE3A−ATS、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現を活性化させる、請求項48に記載の製剤。
【請求項54】
前記薬剤がSNRPNエキソン2、SNRPNエキソン3、SNRPNエキソン4、UBE3A、MAGEL2、MKRN3、SNRPNエキソンU4、NDN、又はこれらの組合せのうち少なくとも1つの発現を活性化させる、請求項48に記載の製剤。
【請求項55】
前記薬剤がSNRPN U1Aプロモーター、SNRPN U1Bプロモーター、又はこれらの組合せからの転写の開始を活性化させる、請求項48に記載の製剤。
【請求項56】
前記薬剤がH3K9me3の結合を低減する、請求項48に記載の製剤。
【請求項57】
前記対照が改変されていないZNF274結合部位を含む、請求項21〜47のいずれか一項に記載の方法又は請求項48〜56のいずれか一項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年12月8日出願の米国仮特許出願第62/596,397号の優先権を主張するものであり、その全内容が本明細書の一部として援用される。
【0002】
分野
本開示は、ゲノムインプリンティングの障害などの遺伝病を治療するための組成物及び方法に関する。
【0003】
配列表
本願は、ASCIIフォーマットで電子提出した配列表を含み、その全内容が本明細書の一部として援用される。2018年12月7日に作成した前記ASCIIコピーの名称は「209670-9024-WO01 Sequence Listing」であり、サイズは9,816バイトである。
【0004】
緒論
プラダー・ウィリー症候群(Prader-Willi syndrome)(PWS)は、10,000〜30,000人に1人が罹患する遺伝性疾患であり、15番染色体に位置する。この疾患は、新生児低血圧、及び発達遅延、過食と結果としての肥満並びに強迫的行動及びかんしゃくを特徴とする。ゲノムインプリンティングと呼ばれる通常のプロセスを介して、父親から受け継いだ15番染色体はスイッチがオンの遺伝子セットを持つが、母親から受け継いだ15番染色体上の同じ遺伝子セットはスイッチがオフである。プラダー・ウィリー症候群(PWS)では、父性15番染色体の正常なコピーは存在せず、従って、患者は母親から受け継いだサイレントコピーだけを有する。PWSは、父親から受け継がれた15番染色体は転写的に活性な遺伝子セットを有するが、母親から受け継がれた15番染色体上の同じ遺伝子セットは転写的にサイレントとなるエピジェネティックプロセスであるゲノムインプリンティングの障害である。PWSでは、父性15番染色体の正常なコピーは存在せず、従って、患者は母親から受け継いだサイレントコピーだけを有する。
【0005】
PWS診断は、普及している、DNAのメチル化に基づく診断試験を使用することによって生後1週間以内に確定することができる。DNAのメチル化試験は、低血圧又は発達遅延を示す全ての新生児に対して指示される。その結果、PWSの新たな症例は出生前期の初期に診断される場合が多い。PWSを有するほとんどの人は成長ホルモン欠乏を示す。組換えヒト成長ホルモン(HGH)療法が2000年から使用され、身長及び筋肉量の増大及び体脂肪の減少を含むいくつかの利益が見られている。HGH療法は毎日の皮下注射を含み、いくつかの治療利益があるものの、PWS青年及び成人において食物摂取の制御に大きな障害を残す。日中の眠気などのPWSの特徴を治療するための薬物も存在し、オキシトシンを用いた過食の制御に関する臨床試験も実施されている。PWSに関連する行動異常及び精神医学的異常はなお大きな治療課題である。現在のところPWSの治癒は無く、PWS遺伝子座においてサイレントとなった母性RNA転写産物を活性化させるための現行治療戦略も無い。よって、PWS及びそのいくつかの病像に対する有効な治療のアンメットニーズがなお存在する。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示は、配列番号13、配列番号14、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48又は配列番号48に相当するポリヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)分子に関する。
【0007】
本開示は又、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムに関する。DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む。
【0008】
本開示は更に、ZNF274タンパク質をコードする遺伝子に結合するDNAターゲッティングシステムに関する。DNAターゲッティングシステムは、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号47、配列番号48、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む。
【0009】
本開示は更に、上記のgRNA分子を含む、単離されたポリヌクレオチド配列に関する。
本開示は更に、上記のDNAターゲッティングシステムをコードする、単離されたポリヌクレオチド配列に関する。
本開示は更に、上記の単離されたポリヌクレオチド配列を含むベクターに関する。
本開示は更に、上記のgRNA分子及びClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質をコードするベクターに関する。
【0010】
本開示は更に、上記のgRNA、上記のDNAターゲッティングシステム、上記の単離されたポリヌクレオチド配列、上記のベクター、又はこれらの組合せを含む細胞に関する。
本開示は更に、上記のgRNA、上記のDNAターゲッティングシステム、上記の単離されたポリヌクレオチド配列、上記のベクター、上記の細胞、又はこれらの組合せを含むキットに関する。
本開示は更に、上記のgRNA、上記のDNAターゲッティングシステム、上記の単離されたポリヌクレオチド配列、上記のベクター、上記の細胞、又はこれらの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0011】
本開示は更に、対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法に関する。この方法は、前記対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)結合部位を、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて低減されるように改変することを含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0012】
本開示は更に、対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法に関する。この方法は、前記対象に、ZNF274タンパク質と、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるZNF274結合部位との相互作用を対照に比べて低減する薬剤の薬学上有効な量を投与することを含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0013】
本開示は更に、対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための製剤に関する。この製剤は、母性ヌクレオチド配列上のZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合を対照に比べて低減する薬剤を含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0014】
本開示は他の態様及び実施形態を提供し、それらは下記の詳細な説明及び添付の図面から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A-1C】
図1A〜1Cは、PWS iPSCにおいて、CRISPR/Cas9により媒介されるZNF274のノックアウトがH3K9me3を低減し、SNORD116発現を活性化させることを示す。(
図1A)簡略化した15q11.2−q13の遺伝子及び対立遺伝子発現マップ。活性及び不活性の(抑制された)転写産物がそれぞれ白い四角及び黒い四角で表される。矢印は転写の方向を示す。黒い実線は、ほとんどの細胞種で発現された父性SNURF/SNRPN転写産物を表し、黒い破線は、SNRPN及びUBE3A−ATSの上流エキソンを含むニューロン特異的転写産物を示す。UBE3Aはニューロンにおいて母性発現されるが、他の遺伝子は全ての細胞種は父性発現のみである。PWS−ICを黒丸(メチル化)/白丸(非メチル化)で表す。SNORD116クラスターの下のオレンジのダッシュは、SNORN116内の、グループ1として分類される6つのZNF274結合部位(SNOG1−BS1〜SNOG1−BS6)を表す。(
図1B)iPSCにおけるZNF274に関するChIPアッセイ。この図及び次の図で、PWS患者株を黒で、それらの対応するZNF274 KO系統を緑で、対照(CTRL)細胞株を青で、陰性対照として用いたASを白で示す。この図及び次の図で、ChIPの定量を行い、各サンプルの投入パーセントとして計算した。従前に報告されている高レベルのH3K9mc3シグナルに関連したZNF274結合部位であるZNF180における結合を陽性対照として使用し、各系統に関して、他の全ての結合部位をこの結合部位に対して正規化した。PWS親系統を各パネルで1とし、この陽性サンプルに対して各細胞株で相対的正規化を行った。各細胞株で少なくとも2回の生物学的反復を行った。2種類の大領域欠失(large deletion)(LD)KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに二元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。この図及び次の図では、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。(
図1C)iPSCにおける抑制的ヒストン修飾H3K9me3のChIPアッセイ。AS、CTRL、PWS、及びZNF274 KO細胞株に関して
図1Bと同じカラーコードが使用されている。
【
図2A-2D】
図2A〜2Dは、iPSCにおけるSNRPN発現及びPWS−ICのメチル化に対するZNF274 KOの影響を示す。iPSCにおける(
図2A)SNRPN Uエキソン(U4/ex2)、(
図2B)SNRPN主要プロモーター(ex 1/2)、及び(
図2C)SNRPN mRNA(cx3/4)の遺伝子発現。
図1Bと同じカラーコードが使用されている。この図及び次の図で、遺伝子発現は比較CT法を用いて評価し、GAPDHを内部対照として使用した。データは各パネルについてCTRL1に対して正規化し、平均値と標準偏差(SD)としてプロットした。各細胞株で少なくとも3回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに一元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。(
図2D)iPSCにおけるPWS−ICでのDNAメチル化レベルを、5−メチルシトシン(5mC)、5−ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)、及び非修飾シトシン(C)の相対レベルを測定する定量的制限エンドヌクレアーゼアッセイ(EpiMark 5hmC及び5mC分析キット)を用いて評価した。予想されたように、CTRL iPSCはPWS−ICにおいておよそ等レベルの5mC及びCを示すが、PWS LD及びAS iPSCはそれぞれ、ほぼ完全なメチル化を示し(5mC)、ほぼ全くメチル化を示さない(C)。5mCから5hmCへの若干の移行が明らかであるが、ZNF274 KO PWS iPSCでは母性PWS−ICのほぼ完全なメチル化(5mC)が見られる。各細胞株で少なくとも2回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LDを比較するために、ダネットの事後検定とともに二元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図3A-3C】
図3A〜3Cは、in vitro神経発生中のZNF274 KOにより媒介される母性116HGGJ転写産物の活性化を示す。(
図3A)iPSC(最小n=3)、(
図3B)4週齢の神経前駆細胞(NPC)(最小n=1)、及び(
図3C)成熟した10週齢のニューロン(最小n=2)における、各細胞株における分化過程のSNORD116宿主遺伝子群I(116HGGI)の遺伝子発現。
図1Bと同じカラーコードが使用されている。データは各パネルについてCTRL1又はCTRL2に対して正規化し、平均値と標準偏差(SD)としてプロットした。2種類のLD KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに一元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図4A-4C】
図4A〜4Cは、ZNF274 KOがPWSニューロンの15番染色体q11.2−q13にわたる転写を活性化させることを示す。成熟した10週齢ニューロンにおける、15q11.2−q13領域にわたる17の転写産物の遺伝子発現。2つの正常細胞株(CTRL)と各親株:(
図4A)LD KO及び(
図4B)UPD KO由来のZNF274 KOからのqRT−PCRデータを組み合わせた。
図4Cは合わせたデータを示す。
図1Bと同じカラーコードが使用されている。合わせたLD KOとPWS LD、及び合わせたUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに二元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図5A-5E】
図5A〜5CEは、ZNF274 KOがPWS iPSC由来ニューロンにおいて、PWS−ICのDNAメチル化を低下させずにSNRPN 上流プロモーターを活性化させることを示す。ニューロンにおける(
図5A)SNRPNUエキソン(U4/cx2)、(
図5B)SNRPN主要プロモーター(ex1/2)、及び(
図5C)SNRPN転写産物体(ex3/4)の遺伝子発現。
図1Bと同じカラーコードが使用されている。データは各パネルについてCTRL1又はCTRL2に対して正規化し、平均値と標準偏差(SD)としてプロットした。各細胞株で少なくとも2回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに一元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
図5Dは、ZNF274 KOニューロンにおける5’ SNRPNエキソンの発現及びスプライシングの模式図を示す。(
図5E)
図2Bと同様に評価した成熟した10週齢のニューロンにおけるPWS−ICでのDNAメチル化レベル。予想されたように、CTRLニューロンは、PWS−ICにおいておよそ等レベルの5mC及びCを示すが、PWS(LD及びUPD)及びASニューロンはそれぞれ、ほぼ完全なメチル化を示し(5mC)、ほぼ全くメチル化を示さない(C)。ZNF274 KO PWSニューロンでは、母性PWS−ICのほぼ完全なメチル化(5mC)が見られる。各細胞株で少なくとも2回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LD、及びUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに二元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図6】
図6は、ZNF274 KOがPWS iPSCのニューロン分化中にSNRPN上流プロモーターを活性化させることを示す。iPSC、NPC、及びニューロンにおけるSNRPN Uエキソン(U4/ex2)の遺伝子発現。
図1Bと同じカラーコードが使用されている。データは各パネルについてCTRL1又はCTRL2ニューロンに対して正規化し、平均値と標準偏差(SD)としてプロットした。iPSC、NPC、及びニューロンの各細胞株で少なくとも3回、1回、及び2回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに一元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図7】
図7は、PWS遺伝子座におけるZNF274により媒介されるサイレンシングのモデルを示す。白い四角及び黒い四角はそれぞれ、iPSC及びニューロンのCTRL株及びPWS ZNF274 KO株に関して、発現した15q11.2−q13遺伝子及びサイレントの15q11.2−q13遺伝子を表す。黒丸(メチル化−5mC)/白丸(非メチル化−C)は、PWS−ICを表す。矢印は、SNRPNの転写開始部位を示し(本発明者らは図面が見やすいにように他の遺伝子には矢印を加えていない);厚みは発現の程度に比例する。遺伝子名はCTRLとPWS ZNF274 KO株の間に順次表されている。赤いロリポップは、H3K9me3シグナルを表す。ZNF274は赤紫の楕円で表す。SNORD116上のカラーのセグメントは、SNRPN上流エキソン上でシスに働く推定調節要素を表す。黄色い丸は、SNRPN上流エキソンを活性化させる可能性のある脳特異的転写因子を表す。
【
図8A-8B】
図8A〜8Bは、幹細胞モデルの作出を示す。(
図8A)ZNF274遺伝子の8つのエキソン、KRAB、SCAN、及びDBDドメインの遺伝地図。青い四角はコード領域を表す。矢印は、2つの主要なアイソフォームの開始コドンを表す。PWS LD及びPWS UPDにおけるCRISPR/Cas9により媒介されるZNF274のノックアウトは、ZNF274の2つの主要なアイソフォームを標的とするためにZNF274遺伝子(NM_133502)のエキソン2及び6内に2つの異なる単一ガイドRNA(sgRNA)を設計することにより行った(表4)。フレームシフト及び未成熟終止コドンをもたらす非相同末端結合媒介挿入/欠失(インデル)をスクリーニングした後に、5つのクローン性のiPSCクローン(clonal iPSC clones)を選択した。赤紫の線はガイドRNAの位置を表す。(
図8B)本研究における新規なリプログラミング及び操作された幹細胞株の多能性バリデーション。位相画像、DAPI、OCT4、及びSSEA4染色は、10倍オリンパスCKX41倒立顕微鏡で観察した。
【
図9A-9D】
図9A〜9Dは、ZNF274 KO時のH3K9me3蓄積の影響を示す。(
図9A)4つの19番染色体ZNF274結合部位に対するiPSCにおけるZNF274の結合のChIPアッセイ。
図1Bと同じ実験条件。(
図9B及び
図9C)4つのZNF274 19番染色体結合部位、及びSNORD116クラスター群2及び3(G2及びG3)サブ領域並びにPWS−ICにおける、iPSCの抑制的ヒストン修飾H3K9me3に関するChIPアッセイ。
図1Bと同じ実験条件。(
図9D)iPSCにおける各細胞株のSNORD116宿主遺伝子群1(116HGG1)の遺伝子発現。PWS及びZNF274 KO細胞株に関して
図1Bと同じカラーコードが使用されている。遺伝子発現は比較CT法を用いて評価し、GAPDHを内部対照として使用した。データは各パネルについてPWS親株に対して正規化し、平均値と標準偏差(SD)としてプロットした。各細胞株で少なくとも3回の生物学的反復を行った。2種類のLD KOとPWS LD、及び3種類のUPD KOとPWS UPDを比較するために、ダネットの事後検定とともに一元配置分散分析(ANOVA)試験を用いて有意性を計算した。
【
図10】
図10は、PWS iPSC由来ニューロンにおけるZNF274のCRISPR媒介ノックアウトは母性転写産物の発現を再活性化させたことを示す。PWS1−7 iPSCのZNF274ノックアウトクローン誘導体(B17−21及びZKL6)及びUPD1−2 iPSCのZNF274ノックアウトクローン誘導体(ZKU4B及びZKU21A)は、ZNF274を標的とするガイドRNAを含むLentiGuide CRISPRベクターを用いて作製した。PWS1−7、B17−21、ZKL6、UPD1−2、ZKU4B、ZKU21A、並びに正常対照株LcNL−1及びMCH2−10の10週間の分化の後にこれらのニューロンからRNAを単離した。SNORD116、IPW、及びSNORD115の定常状態RNAレベルを、Taqman(ABI)アッセイを用いるRT−qPCRにより測定した。
【
図11】
図11は、群1 SNORD116は、黄色で強調したZNF274モチーフ内の一塩基対置換以外、48ntセグメントのDNA配列同一性を共通に持つ。ZNF274は、SNORD116−3、−5、−7、−8、及び−9に高密度に存在する。
【
図12】
図12は、SNORD116遺伝子座(30−5bis1、SNOG1del #10及びSNOG1del #84)においてZNF274結合部位が変更された操作型幹細胞株に由来するニューロンにおけるSNORD116の母性SNRPN及び残りのコピーの活性化を示す。
【0016】
詳細な説明
本明細書には、プラダー・ウィリー症候群(PWS)などのゲノムインプリンティングの障害を研究又は治療するための組成物及び方法が記載される。本発明者らは、スイッチオフ機構の成分としての、複合体を母性PWS責任領域(PWS critical region)(PWSCR)に係留するZNF274(ジンクフィンガータンパク質ZNF274)と呼ばれるタンパク質を発見した。PWSCRは、30のSNORD116核小体低分子RNAのクラスターを包含する15番染色体の15q11−q13領域上の領域である。母性PWSCRへのZNF274複合体の結合は、そこにコードされている遺伝子をサイレンシングし、正常な発達に必要とされるRNA転写産物をサイレンシングする。本明細書に開示されるようなZNF274タンパク質又は遺伝子の欠失は、PWSなどのゲノムインプリンティングの障害を更に調べるためのツールとして使用することができる。
【0017】
1つの開示例では、PWS特異的誘導多能性幹細胞に由来するニューロンにおいてZNF274が破壊標的とされ、その結果、PWSCR内の母性転写産物が完全に活性化された。本発明者らは、CRISPR/Cas9技術を用いてZNF274を標的化し、ニューロン分化の過程でPWS特異的iPSCにおける母性対立遺伝子発現に対するノックアウトの影響を追跡した。
【0018】
本発明者らは又、PWSの病理に関与するZNF274に対する結合部位のヌクレオチド配列も見出した。ZNF274結合部位の修飾は、15q11−q13領域内のサイレントの母性遺伝子の発現を回復させることができ、PWSの治療として使用することができる。本明細書に開示されるように、特定のタンパク質とDNAの相互作用を遮断することによる母性PWSCR転写産物の活性化は、PWSを治療する全く新規な戦略及び方法である。このDNA配列の特徴は、薬剤が開発、調剤、及び投与されるというPWSに対する開示された治療アプローチがZNF274とPWSCRの間の相互作用を遮断することを大幅に可能とする。
【0019】
1.定義
そうではないことが定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が優先する。好ましい方法及び材料を以下に説明するが、本明細書に記載のものと類似又は等価の方法及び材料が本発明の実施又は試験に使用することができる。本明細書に述べられる全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参照文献は、それらの全内容が本明細書の一部として援用される。本明細書に開示される材料、方法、及び例は単に例示であり、限定を意図するものではない。
【0020】
本明細書で使用される用語「を含む(comprise)」、「を含む(include)」、「を有する(having)」、「を有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contain)」、及びこれらの変形は、付加的な実施又は構造の可能性を排除しないオープンエンドの移行句、用語、又は語であることが意図される。本開示は又、明示されていようがいまいが、本明細書に提供される実施形態又は要素「を含む(comprising」、「からなる(consisting of)」、及び「から本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態を企図する。
【0021】
本明細書に開示される全ての範囲は終点を含み、それらの終点は独立に互いに組合せ可能である。本明細書に開示される各範囲は、開示される範囲内にあるいずれの点又は部分範囲の開示も構成する。本明細書の数値範囲の列挙については、同程度の精度でその間の介在数値が明示的に企図される。例えば6〜9の範囲では、6及び9に加えて数値7及び8が企図され、6.0〜7.0の範囲では、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、及び7.0が明示的に企図される。
【0022】
本明細書に開示される(特に、下記の特許請求の範囲に関して)改良を説明する文脈での用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」及び同様の性質の語の使用は、本明細書でそうではないことが示されない限り又は文脈が明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈されるべきである。更に、本明細書において用語「第1」、「第2」などはいずれの順序、量、又は相対的重要性を表すものではなく、ある要素と別の要素を区別するために使用されることに留意されたい。
【0023】
量に関して使用される修飾成句「約」は示された値を包含し、文脈が指示する意味を有する(例えば、それは少なくとも特定の量の測定に関連する程度の誤差を含む)。用語「約」は、本明細書で使用する場合、対象とする1以上の値に適用される場合には、示された参照値と同等の値を指す。ある特定の態様において、用語「約」は、そうではないことが示されない限り又はそうではないことが文脈から明らかではない限り(そのような数値が可能性のある値の100%を超える場合を除き)示された参照値のいずれの方向にも(大きい場合又は小さい場合)20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ未満の範囲内の値の範囲を指す。
【0024】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書でそうではないことが示されない限り又は文脈が明らかに矛盾しない限り、ある好適な順序で実施され得る。いずれかの及び全ての例、又は例示的用語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図し、特に断りのない限り、本発明の範囲に限定を設けるものではない。
【0025】
化学化合物は標準的な命名法を用いて記載する。そうではないことが定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0026】
本明細書で互換的に使用される「アデノ随伴ウイルス」又は「AAV」は、ヒト及びいくつかの他の霊長類種に感染するパルボウイルス科(Parvoviridae)のデペンドウイルス属に属す小型のウイルスを指す。AAVは、現在のところ疾患を引き起こすことは知られておらず、そのため、このウイルスが引き起こす免疫応答は極めて弱い。
【0027】
「アミノ酸」は、本明細書で使用する場合、天然及び非天然合成アミノ酸、並びに天然アミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸は、遺伝コードによりコードされているものである。アミノ酸は、本明細書では、それらの一般に知られている三文字記号又はIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されている一文字記号によって表すことができる。アミノ酸には側鎖部分及びポリペプチド主鎖部分が含まれる。
【0028】
本明細書で互換的に使用される「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats」及び「CRISPR」は、配列決定された細菌のおよそ40%及び配列決定された古細菌の90%のゲノムに見られる複数の短いダイレクトリピートを含有する遺伝子座を指す。
【0029】
「コード配列」又は「核酸をコードする」とは、本明細書で使用する場合、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(RNA又はDNA分子)を意味する。コード配列は、核酸が投与された個人又は哺乳動物の細胞内で発現を指示することができるプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む調節要素に機能的に連結された開始シグナル及び終結シグナルを更に含み得る。コード配列は、コドンの最適化を行ってもよい。
【0030】
「相補物」又は「相補性」とは、本明細書で使用する場合、核酸が核酸分子のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体間のワトソン−クリック型(例えば、A−T/U及びC−G)又はフーグスティーン型塩基対形成を意味することを意味する。「相補性」とは、2つの核酸配列を互いに逆平行にアラインした際に各位置のヌクレオチド塩基が相補的となるような、それらの核酸配列間で共有される特性を指す。
【0031】
「相補的」とは、本明細書で使用する場合、比較ヌクレオチド配列との100%の相補性(完全な相補性)を意味するものであり得、又は相補的とは、100%未満の相補性(例えば、実質的相補性)(例えば、約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%などの相補性)を意味し得る。相補物とは又、突然変異に対する「相補物」又は「相補する」という意味で使用することもできる。
【0032】
用語「対照」、「参照レベル」、及び「参照」は、本明細書において互換的に使用される。参照レベルは、測定結果を評価する基準として使用される所定の値又は範囲であり得る。「対照群」とは、本明細書で使用する場合、対照対象群を指す。所定のレベルは、対照群のカットオフ値であり得る。所定のレベルは、対照群の平均値であり得る。カットオフ値(又は所定のカットオフ値)は、アダプティブ・指標・モデル(Adaptive Index Model)(AIM)法によって決定され得る。カットオフ値(又は所定のカットオフ値)は、患者群の生体サンプル群の受信者動作特性曲線(receiver operating curve)(ROC)分析により決定され得る。ROC分析は、生物学分野で一般に知られているように、ある条件と別の条件を区別する試験の能力の決定である。ROC分析の説明は、P.J. Heagerty et al. (Biometrics 2000, 56, 337-44)に示され、その開示は全内容が本明細書の一部として援用される。或いは、カットオフ値は、患者群の生体サンプルの四分位数分析により決定され得る。例えば、カットオフ値は、第25〜第75百分位数範囲のいずれかの値、好ましくは、第25百分位数、第50百分位数又は第75百分位数、及びより好ましくは第75百分位数に相当する値を選択することによって決定され得る。このような統計分析は、当技術分野で公知のいずれの方法を用いて行ってもよく、いくつかの市販のソフトウエアパッケージ(例えば、Analyse−it Software Ltd.、リーズ、UK;StataCorp LP、カレッジステーション、TX;SAS Institute Inc.、ケーリー、NC.から)のいずれで実施することもできる。標的、遺伝子発現、又はタンパク質活性の健常若しくは正常レベル又は範囲は、標準的な実施に従って定義され得る。対照は、本明細書で詳説されるような薬剤又はDNAターゲッティングシステムを用いない対象又は細胞であり得る。対照は、本明細書で詳説されるような改変されたZNF274結合部位を有さない対象又は細胞であり得る。対照は、本明細書で詳説されるような欠失ZNF274を有さない対象又は細胞であり得る。対照は、病状が既知の対象、又はそれ由来のサンプルであり得る。対象、又はそれ由来のサンプルは、健常、罹患、処置前の罹患、処置中の罹患、又は処置後の罹患、又はこれらの組合せであり得る。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子」は、mRNA、tRNA、rRNA、miRNA、アンチマイクロRNA、調節RNAなどを生成するために使用され得る核酸分子を指す。遺伝子は、機能的タンパク質又は遺伝子産物を生成できてもできなくてもよい。遺伝子は、コード領域及び非コード領域(例えば、イントロン、調節要素、プロモーター、エンハンサー、終結配列並びに/又は5’及び3’非翻訳領域)の両方を含み得る。遺伝子は、「単離された」ものであり得、これはその天然状態で核酸と会合していることが通常見出されている成分を実質的に又は本質的に含まない核酸を意味する。このような成分としては、その他の細胞材料、組換え生産由来の培養培地、及び/又は核酸の化学合成に使用される種々の化学物質が含まれる。
【0034】
「遺伝子構築物」は、本明細書で使用する場合、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNA又はRNA分子を指す。コード配列は、核酸分子が投与された個体の細胞内で発現を指示することができるプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む調節要素に機能的に連結された開始及び終結シグナルを含む。本明細書で使用する場合、用語「発現可能な形態」とは、個体の細胞に存在する際にコード配列が発現されるようにタンパク質をコードするコード配列に機能的に連結された必須調節要素を含有する遺伝子構築物を指す。
【0035】
用語「ゲノム」は、本明細書で使用する場合、生物の染色体/核ゲノム並びにミトコンドリア及び/又はプラスミドゲノムを含む。
【0036】
「同一」又は「同一性」は、2つ以上の核酸又はポリペプチド配列に関して本明細書で使用する場合、配列が特定の領域にわたって同じ特定のパーセンテージの残基を有することを意味する。パーセンテージは、2つの配列を最適にアラインし、その2配列を特定の領域にわたって比較し、両配列で同一の残基が存在する位置の数を決定して一致した位置の数を求め、その一致した位置の数を特定の領域内の位置の総数で割り、その商に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算すればよい。2配列の長さが異なるか又はアラインメントで1以上の食い違いが生じて、特定の比較領域が単一の配列しか含まない場合に、単一配列の残基は計算の分母には含められるが、分子には含められない。DNAとRNAを比較する場合には、チミン(T)及びウラシル(U)を等しいと見なせばよい。同一性の決定は、手によるか又はBLAST又はBLAST2.0などのコンピューター配列アルゴリズムを使用して行うことができる。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「増強(“increase,” “increasing,” “increased,”)」、「増大(“enhance,” “enhanced,” “enhancing,” and “enhancement”)」(及びこれらの文法的変形)は、対照と比較した場合の少なくとも約25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%又はそれを超える上昇を言う。
【0038】
「単離された」ポリヌクレオチド又は「単離された」ポリペプチドは、人の手による、その天然環境から離れて存在する、従って、天然の産物ではないヌクレオチド配列又はポリペプチド配列である。いくつかの実施形態では、本開示のポリヌクレオチド及びポリペプチドは、「単離されている」。単離されたポリヌクレオチド又はポリペプチドは、天然の生物又はウイルスの他の成分、例えば、細胞若しくはウイルス構造成分、又はそのポリペプチド若しくはポリヌクレオチドと一般に会合して見られる他のポリペプチド若しくはポリヌクレオチドの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離された精製形態で存在し得る。代表的な実施形態では、単離されたポリヌクレオチド及び/又は単離されたポリペプチドは、少なくとも約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれを超える純度である。
【0039】
他の実施形態では、単離されたポリヌクレオチド又はポリペプチドは、例えば、組換え宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。よって、例えば、ヌクレオチド配列に関して、用語「単離された」とは、その配列が天然に存在する染色体及び/又は細胞から分離されていることを意味する。ポリヌクレオチドも又、そのポリヌクレオチドが天然に存在する染色体及び/又は細胞から分離されている場合に単離されており、次に、そのポリヌクレオチドが天然には存在しない遺伝的コンテキスト、染色体及び/又は細胞に(例えば、本来見られるものとは異なる宿主細胞、異なる調節配列、及び/又はゲノム内の異なる位置に)挿入される。よって、これらのポリヌクレオチド及びそれらのコードされるポリペプチドは、人の手で、それらはそれらの天然環境から離れて存在し、従って、本来の産物ではないという意味で「単離された」ものであるが、いくつかの実施形態では、それらは組換え宿主細胞中に導入され、そこに存在し得る。
【0040】
「核酸」又は「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用する場合、共有結合により相互に連結された少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。一本鎖の描写は相補鎖の配列も定義する。よって、核酸は又、描写された一本鎖の相補鎖も包含する。核酸の多くの変異体が、所与の核酸と同じ目的で使用可能である。よって、核酸は又、実質的に同一の核酸及びこれらの相補物も包含する。一本鎖は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的配列とハイブリダイズし得るプローブを提供する。よって、核酸は又、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするプローブも包含する。
【0041】
核酸は一本鎖若しくは二本鎖であり得、又は二本鎖及び一本鎖両方の配列の部分を含有してもよい。核酸は、DNA(ゲノムDNA及びcDNAの両方)、RNA、又は核酸がデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組合せ、並びにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン ヒポキサンチン、イソシトシン及びイソグアニンを含む塩基の組合せを含有し得るハイブリッドであり得る。核酸は化学合成法又は組換え法によって得ることができる。
【0042】
「機能的に連結される」とは、本明細書で使用する場合、遺伝子の発現が、空間的に接続されたプロモーターの制御下にあることを意味する。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)又は3’(下流)に配置され得る。プロモーターと遺伝子間の距離は、そのプロモーターが由来する遺伝子におけるプロモーターとそのプロモーターが制御する遺伝子間の距離とほぼ同じであり得る。当技術分野で公知のように、この距離の変更は、プロモーター機能を低下させることなく適合させることができる。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「配列同一性パーセント」又は「同一性パーセント」は、2配列を最適にアラインした際に試験(「対象」)ポリヌクレオチド分子(又はその相補鎖)と比べた場合の、参照(「クエリー」)ポリヌクレオチド分子(又はその相補鎖)の直鎖ポリヌクレオチドの同一のヌクレオチドのパーセンテージを指す。いくつかの実施形態では、「同一性パーセント」は、アミノ酸配列内の同一のアミノ酸のパーセンテージを指し得る。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドのヘテロポリマー又は核酸分子の5’末端から3’末端までのこれらのヌクレオチドの配列を指し、cDNA、DNAフラグメント又はDNA部分、ゲノムDNA、合成(例えば、化学合成)DNA、プラスミドDNA、mRNA、及びアンチセンスRNAを含むDNA又はRNA分子を含み、これらはいずれも一本鎖であっても二本鎖であってもよい。用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、及び「オリゴヌクレオチド」も又、ヌクレオチドのヘテロポリマーを指して本明細書で互換的に使用される。そうではないことが示されない限り、本明細書で提供される核酸分子及び/又はポリヌクレオチドは、本明細書では、左から右へ5’から3’方向に示され、米国配列規則37CFR§§1.821〜1.825及び世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25に示されるようなヌクレオチド文字を表すための標準コードを用いて示される。
【0045】
ポリヌクレオチドは、核酸、天然又は合成のDNA、ゲノムDNA、cDNA、RNA、又はポリヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組合せ、並びにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン ヒポキサンチン、イソシトシン及びイソグアニンを含む塩基の組合せを含有し得るハイブリッドであり得る。ポリヌクレオチドは化学合成法又は組換え法によって得ることができる。
【0046】
「ペプチド」又は「ポリペプチド」は、ペプチド結合により連結された2つ以上のアミノ酸の連結された配列である。ポリペプチドは、天然、合成、若しくは改変又は天然と合成の組合せであり得る。ペプチド及びポリペプチドとしては、結合タンパク質、受容体、及び抗体などタンパク質が含まれる。用語「ポリペプチド」、「タンパク質」、及び「ペプチド」は、本明細書では互換的に使用される。「一次構造」は、特定のペプチドのアミノ酸配列を指す。「二次構造」は、局部的に秩序を持った、ポリペプチド内の三次元構造を指す。これらの構造は、ドメインとして一般に知られ、例えば、酵素ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、ポアドメイン、及び細胞質テールドメインがある。「ドメイン」は、コンパクトなポリペプチド単位を形成し、一般にアミノ酸15〜350個の長さのポリペプチド部分である。例示的ドメインとしては、酵素活性又はリガンド結合活性を有するドメインが含まれる。典型的なドメインは、βシート及びαヘリックスのストレッチなど、組織化の低いセクションから構成される。「三次構造」は、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造を指す。「四次構造」は、独立した三次単位の非共有結合的会合によって形成される三次元構造を指す。「モチーフ」は、ポリペプチド配列の一部であり、少なくとも2個のアミノ酸を含む。モチーフは、アミノ酸2〜20個、2〜15個、又は2〜10個の長さであり得る。いくつかの実施形態では、モチーフは、3、4、5、6、又は7個の連続するアミノ酸を含む。ドメインは、一連の同じタイプのモチーフからなり得る。
【0047】
「プロモーター」は、本明細書で使用する場合、細胞において核酸の発現を付与、活性化又は増強し得る合成又は天然由来の分子を意味する。プロモーターは、核酸の発現を更に増大させるため、並びに/又は核酸の空間的発現及び/若しくは時間的発現を変更するための1以上の特定の転写調節配列を含み得る。プロモーターは又、転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置し得る遠隔のエンハンサー又はリプレッサー要素も含み得る。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、及び動物を含む供給源に由来し得る。プロモーターは、遺伝子成分の発現を構成的に、或いは発現が起こる細胞、組織、若しくは器官に関して、又は発現が起こる発達段階に関して、又は生理学的ストレス、病原体、金属イオン、若しくは誘導剤などの外的刺激に応答して差次的に調節し得る。プロモーターの代表例としては、EFSプロモーター、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレータープロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV−LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、SV40初期プロモーター又はSV40後期プロモーター、ヒトU6(hU6)プロモーター、及びCMV IEプロモーターが含まれる。
【0048】
「プロトスペーサー配列」とは、標的二本鎖DNA、及び具体的には、CRISPRアレイのスペーサー配列に完全に又は実質的に相補的な(且つハイブリダイズする)標的DNA(例えば、又はゲノム内の標的領域)の部分を指す。スペーサーは、プロトスペーサーと相補的となるように設計される。
【0049】
「プロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer adjacent motif)(PAM)」は、プロトスペーサーのすぐ3’側又は5’側に存在する2〜4塩基対の短いモチーフである。
【0050】
本明細書で使用する場合、用語「低減(“reduce,” “reduced,” “reducing,” “reduction,”)」、「消失」、「抑制」及び「低下」(及びこれらの文法的変形)は、例えば、対照に比べての少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%の低下を表す。特定の実施形態では、この低減は、検出可能な活性又は量を全く又は本質的に全く生じさせない(すなわち、有意でない量、例えば、約10%未満又は更には約5%未満である)。
【0051】
「サンプル」又は「試験サンプル」は、本明細書で使用する場合、標的の存在及び/若しくはレベルが検出若しくは決定される任意のサンプル又は本明細書で詳細に示されるような薬剤、DNAターゲッティングシステム、遺伝子、又は遺伝子産物を含む任意のサンプルを意味し得る。サンプルは液体、溶液、エマルション、又は懸濁液を含み得る。サンプルは、医学的サンプルを含み得る。サンプルは、血液、全血、血漿及び血清などの血液画分、筋肉、間質液、汗、唾液、尿、涙、滑液、骨髄、脳脊髄液、鼻腔分泌物、痰、羊水、気管支肺胞洗浄液、胃洗浄液、嘔吐物、糞便、肺組織、末梢血単核細胞、全白血球、リンパ節細胞、脾臓細胞、扁桃細胞、癌細胞、腫瘍細胞、胆汁、消化液、皮膚、若しくはこれらの組合せなどのいずれの体液又は組織も含み得る。いくつかの実施形態では、サンプルは、アリコートを含む。他の実施形態では、サンプルは、体液を含む。サンプルは当技術分野で公知のいずれの手段によって得ることもできる。サンプルは、患者から得たまま使用することもできるし、又は本明細書に述べられているような又はそうでなければ当技術分野で公知のいくつかの様式でサンプルの特徴を改質するために、濾過、蒸留、抽出、濃縮、遠心分離、干渉成分の不活性化、試薬の添加などの前処理を行うこともできる。
【0052】
本明細書で使用する場合、「配列同一性」は、最適にアラインされた2つのポリヌクレオチド配列又はペプチド配列が、成分、例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸のアラインメントウインドウにおいて不変である程度を指す。「同一性」は、限定されるものではないが、Computational Molecular Biology (Lesk, A. M.編) Oxford University Press, New York (1988); Biocomputing: Informatics and Genome Projects (Smith, D. W.編) Academic Press, New York (1993); Computer Analysis of Sequence Data, Part I (Griffin, A. M., and Griffin, H. G.編) Humana Press, New Jersey (1994); Sequence Analysis in Molecular Biology (von Heinje, G.編) Academic Press (1987); 及びSequence Analysis Primer (Gribskov, M. and Devereux, J.編) Stockton Press, New York (1991)に記載されるものを含む既知の方法によって容易に計算することができる。
【0053】
「対象」は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載の薬剤又は方法を欲する又は必要とする哺乳動物を意味し得る。対象は、二倍体であり得る。対象は、患者であり得る。対象は、ヒト又は非ヒト動物であり得る。対象は、哺乳動物であり得る。哺乳動物は、霊長類又は非霊長類であり得る。哺乳動物は、ヒトなどの霊長類;例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ラクダ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、及びモルモットなどの非霊長類;又は例えば、サル、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、及びテナガザルなどの非ヒト霊長類であり得る。対象は、例えば、成人、青年、又は幼児など、いずれの齢又は発達段階のものであってもよい。いくつかの実施形態では、対象は、特定の遺伝子マーカーを有する。
【0054】
「実質的に同一」とは、第1及び第2のアミノ酸配列が、アミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100個の領域にわたって少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であることを意味し得る。
【0055】
本明細書で互換的に使用される用語「形質転換」、「トランスフェクション」及び「形質導入」は、異種核酸分子を細胞に導入することを指す。このような細胞への導入は、安定又は一過性のものであり得る。よって、いくつかの実施形態では、宿主細胞又は宿主生物を開示のポリヌクレオチドで安定に形質転換させる。他の実施形態では、宿主細胞又は宿主生物を開示のポリヌクレオチドで一過性に形質転換させる。ポリヌクレオチドに関して「一過性形質転換」とは、ポリヌクレオチドが細胞に導入され、その細胞のゲノムに組み込まれないことを意味する。細胞に導入されるポリヌクレオチドに関して「安定導入する」又は「安定導入される」とは、導入されたポリヌクレオチドがその細胞のゲノムに安定に組み込まれ、よって、その細胞はそのポリヌクレオチドで安定に形質転換されることを意図する。「安定形質転換」又は「安定に形質転換される」とは、本明細書で使用する場合、核酸分子が細胞に導入され、その細胞のゲノムに組み込まれることを意味する。従って、組み込まれた核酸分子は、その後代、より詳しくは、複数の連続する世代の後代に受け継がれ得る。「ゲノム」は又、本明細書で使用する場合、核、プラスミド、及びプラスチドゲノムを含み、よって、例えば、葉緑体又はミトコンドリアゲノムへの核酸構築物の組込みを含む。安定な形質転換とは又、本明細書で使用する場合、例えば、ミニ染色体又はプラスミドとして染色体外で維持される導入遺伝子も指し得る。いくつかの実施形態では、ヌクレオチド配列、構築物、発現カセットは一過性で発現させることもできるし、及び/又はそれらは宿主生物のゲノムに安定に組み込むこともできる。
【0056】
「治療(“Treatment” or “treating”)」は、疾患からの対象の保護に関する場合、疾患を抑止、抑制、改善、又は完全に排除することを意味する。疾患を予防することは、その疾患の発症前に対象に本発明の組成物を投与することを含む。疾患を抑止することは、その疾患の誘発後であるがその臨床的所見の前に対象に本発明の組成物を投与することを含む。疾患を抑制又は改善することは、その疾患の臨床的所見の後に対象に本発明の組成物を投与することを含む。
【0057】
「変異体」は、ポリヌクレオチドに関して本明細書で使用する場合、(i)参照ヌクレオチド配列の一部又はフラグメント;(ii)参照ヌクレオチド配列又はその一部の相補物;(iii)参照ポリヌクレオチド又はその相補物と実質的に同一のポリヌクレオチド;又は(iv)参照ポリヌクレオチド、その相補物、又はそれと実質的に同一の配列にストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを意味する。
【0058】
「変異体」は、更に、アミノ酸の挿入、欠失、又は保存的置換によりアミノ酸配列が異なるが少なくとも1つの生物活性を保持するペプチド又はポリペプチドと定義することができる。「生物活性」の代表例としては、特定の抗体若しくはポリペプチドによって結合される又は免疫応答を促進する能力が含まれる。変異体は、実質的に同一の配列を意味し得る。変異体は、その機能的フラグメントを意味し得る。変異体は又、ポリペプチドの複数のコピーのも意味し得る。複数のコピーはタンデムであっても又はリンカーによって分離されていてもよい。変異体は又、少なくとも1つの生物活性を保持するアミノ酸配列を有する、参照ポリペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドも意味し得る。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸の、類似の特性(例えば、親水性、荷電領域の程度及び分布)の異なるアミノ酸での置換は、当技術分野で一般に微細な変化を伴うと認識されている。これらの微細な変化は、一部には、アミノ酸の疎水性指標を考慮することにより同定することができる。Kyte et al., J. Mol. Biol. 1982, 157, 105-132参照。アミノ酸の疎水性指標は、その疎水性及び電荷の考慮に基づく。類似の疎水性指標のアミノ酸は置換してもなおタンパク質機能を保持し得ることが当技術分野で知られている。一態様では、±2の疎水性指標を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の疎水性は又、生物学的機能を保持するポリペプチドを生じる置換を明らかにするためにも使用することができる。ポリペプチドに関してアミノ酸の親水性を考慮することで、完全に本明細書の一部として援用される米国特許第4,554,101号に述べられているように抗原性及び免疫原性とよく相関することが報告されている有用な手段である、そのポリペプチドの最大局所平均親水性の計算が可能となる。類似の親水性値を有するアミノ酸の置換は、当技術分野で理解されているように、生物活性、例えば、免疫原性を保持する、ポリペプチドを生じ得る。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸で行うことができる。アミノ酸の疎水性指標及び親水性値は両方ともそのアミノ酸の特定の側鎖に影響を及ぼす。その所見と一致して、生物機能と適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、サイズ、及びその他の特性によって明らかにされるようなアミノ酸、特に、それらのアミノ酸の側鎖の相対的類似性に依存すると理解される。
【0059】
変異体は、全遺伝子配列の全長又はそのフラグメントにわたって実質的に同一であるポリヌクレオチド配列であり得る。このポリヌクレオチド配列は、遺伝子配列の全長又はそのフラグメントにわたって80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であり得る。変異体は、アミノ酸配列の全長又はそのフラグメントにわたって実質的に同一であるアミノ酸配列であり得る。このアミノ酸配列は、アミノ酸配列の全長又はそのフラグメントにわたって80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であり得る。
【0060】
「ベクター」は、本明細書で使用する場合、複製起点を含有する核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体、又は酵母人工染色体であり得る。ベクターは、DNA又はRNAベクターであり得る。ベクターは自己複製する染色体外ベクターであり得、好ましくは、DNAプラスミドである。
【0061】
2.ゲノムインプリンティングの障害
本明細書では、ゲノムインプリンティングの障害を治療するための組成物及び方法が提供される。ゲノムインプリンティングは、遺伝子が起源する親に基づいてその遺伝子が発現されるか又は発現されない(サイレントである)、二倍体生物におけるエピジェネティックプロセスである。二倍体生物では、体細胞は、2コピーのゲノムを有し、1つは父親から、1つは母親から受け継がれる。よって、各常染色体遺伝子は、受精時に各親から1コピーずつ受け継がれる2つのコピー、又は対立遺伝子によって表される。二倍体生物のほとんどの常染色体遺伝子では、遺伝子の発現は、両対立遺伝子から同時に起こる。しかしながら、哺乳動物では、いくつかの遺伝子はインプリンティングを受け、これは遺伝子発現が1つの対立遺伝子だけから起こることを意味する。発現される対立遺伝子はその親起源に依存する。例えば、発現される対立遺伝子が無く、しかもなお存在する対立遺伝子がサイレントである場合には、様々な障害が起こり得る。ゲノムインプリンティングの障害としては、例えば、プラダー・ウィリー症候群(PWS)、及びアンジェルマン症候群が含まれる。
【0062】
a)プラダー・ウィリー症候群(PWS)
プラダー・ウィリー症候群(PWS)は、ゲノムインプリンティングの障害である。健常対象では、父親から受け継がれた15番染色体は転写的に活性な遺伝子セットを有するが、母親から受け継がれた15番染色体上の同じ遺伝子セットは転写的にサイレントとなる。PWSでは、父性15番染色体の正常位コピーが存在せず、従って、対象は母親から受け継がれたサイレントコピーのみを有する。より具体的には、PWSは、15番染色体の15q11−q13の位置に正常な父性寄与が無いことによって生じる。いくつかの実施形態では、父性15番染色体の15q11−q13領域の不在は、およそ5,000kbのインプリンティング父性領域の大領域欠失(LD)によるものである。他の実施形態では、父性15番染色体の15q11−q13領域の不在は、15番染色体の15q11−q13領域の母性片親性ダイソミー(maternal uniparental disomy)(mUPD)によるものである。UPDは、対象が片親からの2コピーの染色体又はその一部を有し、他の親からの染色体コピー又はその一部は存在しない場合である。
【0063】
PWSは、新生児低血圧、幼児期に成長できない、発達遅延、過食、肥満、認知障害、行動異常、又はこれらの組合せを特徴とし得る。
【0064】
アンジェルマン症候群は、母性15番染色体の15q11−q13領域の受け継がれた欠失、又は15番染色体の15q11−q13領域の父性UPDによって生じる。アンジェルマン症候群は、発作、運動困難、認知障害、話せない、又はこれらの組合せを特徴とする。
【0065】
b)遺伝子
PWS責任領域(PWSCR)は、15番染色体の15q11−q13の位置内の領域である。15番染色体の15q11−q13領域の生殖細胞系インプリントは、PWS−ICと呼ばれる差次的メチル化CGリッチセグメントであり、核内低分子リボ核タンパク質ポリペプチドN(small nuclear ribonucleoprotein polypeptide)(SNRPN)をコードする遺伝子の第1エキソン内に存在する。SNRPNは、SNURF(SNRPNとも呼ばれる)もコードするバイシストロン性転写産物である。脳において、長鎖非コードRNA(lnc RNA)はSNRPNの上流(U)エキソンで始まり(
図1A)、UBE3Aとオーバーラップするように>600kb遠位に及び、アンチセンス媒介機構を介して父性UBE3A対立遺伝子をサイレンシングする。
【0066】
PWSCRは、SNORD116クラスター及びIPW(Imprinted In Prader-Willi Syndrome)転写産物を包含する91kbのセグメントに狭められている。SNORD116クラスターは、30のSNORD116核小体低分子RNAをコードするポリヌクレオチドである。核小体低分子RNA(small nucleolar RNA)(snoRNA)は、主としてリボソームRNA、トランスファーRNA、及び核内低分子RNAなどの他のRNAの化学修飾のガイドとなる小型のRNA分子種である。2つの主要なsnoRNA種は、メチル化に関連するC/Dボックス snoRNAと、偽ウリジン化に関連するH/ACAボックスsnoRNAである。長鎖非コードアンチセンスRNA(lncRNA)は、SNORD116クラスター及びSNORD115クラスターを含むいくつかのC/Dボックス種核小体低分子RNAに対して宿主遺伝子(HG)として働く。
【0067】
PWSCR内の30コピーのSNORD116のクラスターは、DNAの配列類似性に基づいて3つのグループに分類される。グループ1(SNOG1)は、SNORD116 1〜9を含む。グループ2(SNOG2)は、SNORD116 10〜24を含む。グループ3(SNOG3)は、SNORD116 25〜30を含む。ヒトiPSC欠失モデルとマウスPWSモデルの両方におけるSNORD116の欠失は、PWSにおける神経内分泌不全に関連する可能性のあるプロホルモンコンベルターゼPC1の欠乏を示すが、このことは、SNORD116の欠失とPWSの間の関連を示し得る。
【0068】
c)ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)
ジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)は、母性15番染色体の15q11−q13の位置のサイレンシング機構の成分である。ZNF274は、複合体を母性15番染色体の15q11−q13の位置に係留して、正常な発達に必要とされるRNA転写産物をサイレンシングする。この複合体は、SET domain bifurcated 1(SETDB1)ヒストンH3リシン9(H3K9)メチルトランスフェラーゼを含み得る。ZNF274とメチルトランスフェラーゼの複合体は、母性対立遺伝子上に抑制的H3K9me3クロマチンマークの沈着を媒介し得る。
【0069】
i.ZNF274結合部位
ZNF274タンパク質は、15番染色体の15q11−q13の位置内のポリヌクレオチド配列を含むZNF274結合部位に結合する。ZNF274コンセンサス結合配列は、SNORD116−3、−5、−7、−8及び−9の48−ヌクレオチドの配列内に含まれる。SNORD116における推定ZNF274結合部位の機能性は、ゲノム編集技術によって確認されている。PWSCR内のこの48−ヌクレオチドのZNF274コンセンサス配列は非ヒト霊長類では保存されており、従って、開示されている戦略及び方法は動物モデルにおいて適用可能である。PWSの治療のための薬剤を開発する一態様では、化合物は、ZNF274へのPWSCRの結合に干渉し、それにより、母性PWSCR RNA転写産物を活性化させるそれらの能力に基づいて選択又は設計される。
【0070】
本明細書で詳細に示されるように、ヒトゲノム中のDNAに結合するためにZNF274により認識される14−ヌクレオチドのコンセンサス結合部位配列を同定するために計算論的アプローチが使用された。この14−ヌクレオチドのコンセンサス結合部位配列は、15番染色体の15q11−q13の位置の正確なZNF274結合部位を見つけるために使用された。15番染色体の15q11−q13の位置のZNF274結合部位は、グループ1 SNORD116(SNORD116−1、2、3、4、5、6、7、8、又は9)のそれぞれの48−ヌクレオチド配列内に含まれる18−ヌクレオチド配列(配列番号1、TGAGTGAGAACTCATACC)である。SNORD116−1、2、3、4、5、6、7、8、及び9の48−ヌクレオチド配列は、SNORD116−1、2、4及び6の1ヌクレオチド変化を除いて同一である。この1ヌクレオチドの違いは、ZNF274結合部位内にある(表1;
図11)。ZNF274は、ChIP−Seq分析により確認したところ、SNORD116クラスターの母性コピーのSNORD116−3、5、7、8及び9に結合することができる(Crunivel et al. Hum. Mol. Genet. 2014, 23, 4674-85)。SNORD116−2、4、及び6はそれぞれ、ZNF274結合部位の8番にGからAへの置換を示し、ChIP−SeqデータによればZNF274によっても結合され得る。SNORD116−1は、コンセンサスZNF274結合部位から異なる1ヌクレオチド変化を含む。PWSCR内のグループ1 SNORD116の48−ヌクレオチドの保存された配列は、ZNF274結合部位内の置換を除いて非ヒト霊長類で保存されている。ZNF274結合部位は、配列番号1と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、配列番号1に相当するポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、配列番号1に相当するポリヌクレオチからなる。
【表1】
【0071】
3.ZNF274タンパク質とZNF274結合部位の相互作用を低減する薬剤
本明細書では、ZNF274タンパク質とZNF274結合部位の相互作用を低減する薬剤が提供される。いくつかの実施形態では、薬剤は、ZNF274タンパク質を欠損させる。他の実施形態では、ZNF274結合部位が改変される。いくつかの実施形態では、薬剤は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ、又はDNAターゲッティングシステム、例えば、CRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムである。
【0072】
a)ZNF274タンパク質の欠損
本明細書では又、エピジェネティック調節及びPWS疾病機序の側面を研究するために、PWS特異的iPSC(誘導多能性幹細胞)の作出及びそれらのニューロン分化のための技術も開示される。ZNF274/SETDB1含有エピジェネティック複合体は、母性PWSCRと結合して、PWSCRにおけるH3K9me3の蓄積によりエピジェネティックサイレンシングを果たすことが発見された。いくつかの実施形態では、ZNF274を標的とし、PWS iPSC株であるPWS1−7大領域欠失のZNF274ノックアウトクローン誘導体(B17−21及びZKL6)、及びUPD1−2のZNF274ノックアウトクローン誘導体(ZKU4B及びZKU21A)を作出するためにCRISPRレンチウイルスベクターを使用することができる。いくつかの実施形態では、2つの親PWS iPSC株及びそれらの2つのZNF274 KOクローン誘導体のそれぞれ並びに2つの正常クローン(LcNL−1及びMCH2−10)をニューロンに分化させることができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、この薬剤は、対象からZNF274タンパク質を欠損させる。この薬剤は、対象のゲノムからZNF274遺伝子を欠損させる。ZNF274遺伝子又はタンパク質が存在しなければ、母性15番染色体の15q11−q13の位置からの遺伝子は発現でき、もはやサイレントでない。ZNF274の欠損は、PWSCRからの母性転写産物の発現を活性化させ得る。ZNF274の欠損は、PWSCRからのサイレントの母性転写産物の発現を再活性化させ得る。ZNF274の欠損は、PWSCR内のH3K9me3結合の低減をもたらし得る。いくつかの実施形態では、ZNF274の欠損は、母性15番染色体の15q11−q13の位置からの転写産物の発現を、発現レベルが対照(この対照は例えば、非PWS対照又は健常対象由来の細胞である)と同じとなるように誘導する。ZNF274欠損時の発現の活性化は、PWSCR内だけでなく、15番染色体のq11−q13インプリンティング領域にも及び得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、ZNF274ノックアウト時に、例えば、SNORD116、IPW、及びSNORD115などのPWS領域からのRNA転写産物に関して、ニューロン転写産物の完全な再活性化が達成される。いくつかの実施形態では、ZNF274の欠損は、MAGEL2及びMKRN3の両方の発現を増強する又は活性化させる。いくつかの実施形態では、ZNF274の欠損は、PWS LDニューロン及びUPDニューロンにおいてMAGEL2及びMKRN3の両方の発現を増強する又は活性化させる。
【0075】
ZNF274タンパク質のノックアウトは、PWSインプリンティングセンター(PWS−IC)におけるDNAのメチル化に影響を及ぼさずにサイレントの母性対立遺伝子の発現を救済し得る。ZNF274複合体は、ニューロンにおいて母性PWS遺伝子発現を抑制する独立したインプリンティングマークであり得る。
【0076】
本明細書で詳細に示されるようなZNF274タンパク質のノックアウトは、研究ツールとして、又はPWSなどの障害に対する様々な潜在的療法をスクリーニングするために使用可能である。ZNF274タンパク質のゲノムワイドなノックアウトは、PWSを治療するための実現可能なアプローチではない。ZNF274は、15番染色体の15q11−q13の位置以外のゲノムの場所に結合し得るので、PWSを有する対象におけるZNF274タンパク質のゲノムワイドなノックアウトは、更なる不利な合併症を持つ可能性がある。
【0077】
b)ZNF274結合部位の改変
いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合は、ZNF274結合部位に対する改変により阻害される。いくつかの実施形態では、15番染色体の15q11−q13の位置のZNF274結合部位は改変されるが、ゲノム内の他の場所にある他のZNF274結合部位は改変されない。改変は、ZNF274結合部位の完全欠損、ZNF274結合部位の部分的欠損、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチドの突然変異、1以上のヌクレオチド位置におけるZNF274結合部位の切断、又はこれらの組合せを含み得る。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合は、対照に比べて少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は約100%低減される。
【0078】
4.DNAターゲッティングシステム
いくつかの実施形態では、薬剤は、DNAターゲッティングシステムを含む。DNAターゲッティングシステムは、少なくとも1つのgRNAを含み得る。DNAターゲッティングシステムは、Casタンパク質を更に含み得る。
【0079】
a)ガイドRNA(gRNA)
DNAターゲッティングシステムは、ポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含み得る。ZNF274結合が改変される実施形態では、gRNAは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、これらの相補物、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、これらの相補物のポリヌクレオチド配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の同一性を有するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、これらの相補物、又はこれらの変異体のポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの相補物のポリヌクレオチド配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0080】
ZNF274タンパク質が欠損している実施形態では、gRNAは、ZNF274タンパク質をコードする遺伝子に結合する。gRNAは、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号47、配列番号48、これらの相補物、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とし得る。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号47、配列番号48、又はこれらの相補物に相当するポリヌクレオチド配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の同一性を有するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号13、配列番号14、配列番号47、配列番号48、これらの相補物、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、配列番号13、配列番号14、配列番号47、配列番号48、又はこれらの相補物に相当するポリヌクレオチド配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0081】
b)CRISPRに基づくヌクレアーゼ
DNAターゲッティングシステムは、CRISPRに基づくヌクレアーゼ又はCRISPRに基づくヌクレアーゼをコードする核酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、CRISPRに基づくヌクレアーゼをコードする核酸配列はDNAである。いくつかの実施形態では、CRISPRに基づくヌクレアーゼをコードする核酸配列はRNAである。CRISPRシステムは、ファージ及びプラスミドへの侵入に対する防御に関与する微生物のヌクレアーゼシステムであり、獲得免疫の一形態を提供する。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子の組合せとCRISPR介在核酸切断の特異性を担う非コードRNA要素を含有する。
【0082】
CRISPRシステムは、2種類に組織化され、それぞれ3つのシステムタイプから構成され、更に19の異なるサブタイプに分かれる。クラス1システムは、複数のCasタンパク質の複合体を使用して外来核酸の切断を補助する。クラス2は、同じ目的で単一の大きなCasタンパク質を使用する。クラス2は単一のCasタンパク質のみを必要とするので、クラス2 Casタンパク質は、真核生物システムで利用され、その使用に適合されている。各タイプ及びほとんどのサブタイプは、このカテゴリーにほぼ例外なく見られる「シグネチャー遺伝子」により特徴付けられる。CRISPR/Cas9は、ゲノム工学に使用される最もよく知られているクラス2タンパク質である。
【0083】
CRISPRに基づくヌクレアーゼは、gRNAの3’末端と複合体を形成する。CRISPRに基づくシステムの特異性は、標的配列とプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の2つの因子に依存する。標的配列は、gRNAの5’末端に位置し、プロトスペーサーとして知られる正確なDNA配列で宿主DNA上の塩基対と結合するように設計されている。gRNAの認識配列を交換するだけで、CRISPRに基づくヌクレアーゼは新たなゲノム標的に向けることができる。PAM配列は切断されるDNA上に位置し、CRISPRに基づくヌクレアーゼにより認識される。CRISPRに基づくヌクレアーゼのPAM認識配列は、種特異的であり得る。いくつかの実施形態では、CRISPRに基づくヌクレアーゼは、Cas9タンパク質若しくは分子又はCpf1タンパク質若しくは分子、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼ又はCpf1エンドヌクレアーゼであり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、CRISPRに基づくヌクレアーゼは、連鎖球菌属(Streptococcus)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ブレビバチルス属(Brevibacillus)、コリネバクテリア属(Corynebacter)、ステレラ属(Sutterella)、レジオネラ属(Legionella)、フランシセラ属(Francisella)、トレポネーマ属(Treponema)、シルファクター属(Filifactor)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、バクテロイデス属(Bacteroides)、フラビイボラ属(Flaviivola)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、スフェロケタ属(Sphaerochaeta)、アゾスピリルム(Azospirillum)、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、ナイセリア属(Neisseria)、ロゼブリア属(Roseburia)、パービバキュラム(Parvibaculum)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ニトラティフラクター属(Nitratifractor)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、又はカンピロバクター属(Campylobacter)の細菌に由来するCas9エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9タンパク質は、限定されるものではないが、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)、トレポネーマ・デンチコラ(Treponema denticola)、ブレビバチルス・ラテロスポルス(Brevibacillus laterosporus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)、ユーバクテリウム・ヴェントリオスム(Eubacterium ventriosum)、ストレプトコッカス・パステウリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ラクトバチルス・ファーシミニス(Lactobacillus farciminis)、スフェロケタ・グロブス(Sphaerochaeta globus)、アゾスピリルム属(Azospirillum)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ロゼブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、パルビバクルム・ラバメンティボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、ニトラティフラクター・サルスギニス(Nitratifractor salsuginis)、及びカンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)を含む群から選択される。
【0085】
いくつかの実施形態では、Cas9タンパク質又は分子は、限定されるものではないが、化膿連鎖球菌Cas9(SpCas9)エンドヌクレアーゼ、フランシセラ・ノビシダCas9(FnCas9)エンドヌクレアーゼ、黄色ブドウ球菌Cas9(SaCas9)エンドヌクレアーゼ、髄膜炎菌Cas9(NmCas9)エンドヌクレアーゼ、ストレプトコッカス・サーモフィルスCas9(StCas9)エンドヌクレアーゼ、トレポネーマ・デンチコラCas9(TdCas9)エンドヌクレアーゼ、ブレビバチルス・ラテロスポルスCas9(BlatCas9)エンドヌクレアーゼ、カンピロバクター・ジェジュニCas9(CjCas9)エンドヌクレアーゼ、これらの変異体エンドヌクレアーゼ、又はこれらのキメラエンドヌクレアーゼを含む群から選択される。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、SpCas9変異体エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、SpCas9変異体は、SpCas9 VQR変異体エンドヌクレアーゼ、SpCas9 Cas9 VRER変異体エンドヌクレアーゼ、SpCas9 Cas9 EQR変異体エンドヌクレアーゼ、SpCas9−HF1変異体エンドヌクレアーゼ、又はeSpCas9(1.1)変異体エンドヌクレアーゼである。
【0086】
i.PAM配列認識
CRISPRヌクレアーゼ複合体はDNA二重鎖を解き、gRNA及び正確なPAMと相補的な配列を探す。両方の条件が満たされれば、ヌクレアーゼは初めて標的DNAの切断を媒介する。CRISPRに基づくヌクレアーゼのタイプと1以上のgRNA分子の配列を指定することにより、DNA切断部位を特定の標的ドメインに限局することができる。PAM配列が変異体及び種に特異的であることを考えれば、標的配列は、ある特定のCRISPRに基づくヌクレアーゼのみにより認識されるように操作することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、PAM配列NGG(配列番号2)又はNGA(配列番号3)を認識することができる。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼはSpCas9エンドヌクレアーゼであり、NGG(配列番号2)のPAM配列を認識する。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼはSpCas9 VQR変異体エンドヌクレアーゼであり、NGA(配列番号3)、NGAN(配列番号49)又はNGNG(配列番号50)のPAM配列を認識する。
【0088】
5.ポリヌクレオチド
本明細書では更に、gRNAを含む単離されたポリヌクレオチド配列が提供される。本明細書では又、DNAターゲッティングシステムをコードする単離されたポリヌクレオチド配列も提供される。ポリヌクレオチド配列は、ベクター内に含まれてもよい。ベクターは、gRNA分子及びCasタンパク質をコードし得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、Sambrook et al., Molecular Cloning and Laboratory Manual, Second編, Cold Spring Harbor (1989)を含む通常の技術及び容易に入手可能な出発材料によりタンパク質を生産するための発現ベクター又は発現システムであり得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、gRNA及び/又はCasタンパク質又は分子をコードする核酸配列を含み得る。
【0089】
a)構築物及びプラスミド
プラスミド、発現カセット又はベクターなどの遺伝子構築物は、本明細書に開示されるようにgRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードする核酸を含み得る。遺伝子構築物は、機能性の染色体外分子として細胞内に存在し得る。遺伝子構築物は、セントロメア、テロメア又はプラスミド又はコスミドを含む線状ミニ染色体であり得る。いくつかの実施形態では、遺伝子構築物は、配列番号13、14、43〜48、及び/又はこれらの組合せの少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含み得る。
【0090】
遺伝子構築物は又、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、組換えアデノ随伴ウイルス(adenovirus associated virus)、及び組換え単純ヘルペスウイルス(HSV)を含む組換えウイルスベクターのゲノムの一部であってもよい。遺伝子構築物は、減弱された生微生物又は細胞内で生きている組換え微生物ベクター内の遺伝物質の一部であってもよい。組成物は、上記の通り、本明細書に開示されるように、改変レンチウイルスベクターをコードする遺伝子構築体並びにgRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードする核酸配列を含み得る。
【0091】
これらの核酸配列は、ベクターであり得る遺伝子構築物を構成し得る。ベクターは、哺乳動物の細胞でgRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムを発現する能力を持ち得る。ベクターは、組換えベクターであり得る。ベクターは、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードする異種核酸を含み得る。ベクターは、プラスミドであり得る。ベクターは、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードする核酸で細胞をトランスフェクトするために有用であり得、形質転換された宿主細胞をgRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムの発現が起こる条件下で培養及び維持する。
【0092】
本開示の更なる実施形態では、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子構築体及びポリヌクレオチドは、様々な生物又は細胞で発現させるための様々なプロモーター、ターミネーター及び他の調節要素に機能的に連結することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子構築体は、核酸のコード配列の遺伝子発現のための調節要素を含み得る。いくつかの実施形態では、この調節要素は、プロモーター、エンハンサー、開始コドン、終止コドン、又はポリアデニル化シグナルであり得る。
【0093】
代表的な実施形態では、少なくとも1つのプロモーター及び/又はターミネーターを本開示のポリヌクレオチドに機能的に連結することができる。本開示で有用ないずれのプロモーターも使用可能であり、例えば、本明細書に記載されるように、限定されるものではないが、構成的、誘導型、発生調節型などを含む、対照生物で機能的なプロモーターが含まれる。本明細書で使用される調節要素は、内在性のものでも異種のものでもよい。いくつかの実施形態では、対象生物に由来する内在性調節要素は、それが本来存在しない遺伝的コンテキストに(例えば、本来見られるものとは異なるゲノム位置に)挿入され、それにより、組換え又は非天然核酸を産生することができる。
【0094】
発現カセットは又、任意選択により、選択された宿主細胞内で機能的な転写及び/又は翻訳終結領域(すなわち、終結領域)を含んでもよい。発現カセットで使用するために様々な転写ターミネーターが利用可能であり、対象とする異種ヌクレオチド配列を超える転写の終結を担い得る。終結領域は、転写開始領域に対して天然であってもよいし、機能的に連結された対象ヌクレオチド配列に対して天然であってもよいし、宿主細胞に対して天然であってもよいし、又は別の供給源に由来してもよい(すなわち、対象ヌクレオチド配列、宿主、又はこれらのいずれかの組合せに対して外来又は異種)。本開示のいくつかの実施形態では、ターミネーターは、DNAターゲッティングシステムをコードする組換えポリヌクレオチドに機能的に連結することができる。
【0095】
発現カセットに加え、本明細書に記載の組換えポリヌクレオチド(例えば、CRISPRに基づくヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド)は、ベクターとともに使用することができる。用語「ベクター」は、ある核酸(又たは複数の核酸)を細胞に移入、送達又は導入するための組成物を指す。ベクターは、移入、送達又は導入されるヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む。本明細書に定義されるようなベクターは、細胞ゲノムに組み込むか又は染色体外要素(例えば、ミニ染色体)として存在するかのいずれかによって真核生物宿主を形質転換することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組換えポリヌクレオチドは、リボヌクレオタンパク質複合体として送達することができる。
【0096】
ベクターは、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムをコードする異種核酸を含むことができ、更に、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムの上流にあり得る開始コドンと、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムの下流にあり得る終止コドンを含むことができる。開始コドン及び終結コドンは、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムとインフレームにあり得る。ベクターは又、gRNA及び/又はDNAターゲッティングシステムに機能的に連結されたプロモーターも含み得る。
【0097】
b)ウイルスのパッケージング
いくつかの実施形態では、gRNA又はDNAターゲッティングシステムは、ウイルスベクターにパッケージングされ得る。いくつかの実施形態では、gRNA及びCasタンパク質又は分子をコードする核酸配列は、同じウイルスベクターにパッケージングされる。いくつかの実施形態では、gRNA及びCasタンパク質又は分子をコードする核酸配列は、異なるウイルスベクターにパッケージングされる。いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスベクターであり得る。
【0098】
i.改変レンチウイルスベクター
レンチウイルスベクターは、ヒト及び他の哺乳動物種に感染可能なレンチウイルス科のレトロウイルスに属すベクターである。遺伝子編集のための組成物は、改変レンチウイルスベクターを含み得る。改変レンチウイルスベクターは、gRNA及び/又はCasタンパク質又は分子をコードする核酸配列をコードする1以上のポリヌクレオチド配列を含み得る。改変レンチウイルスベクターは、gRNAをコードする第1のポリヌクレオチド配列とCasタンパク質又は分子をコードする第2のポリヌクレオチド配列を含み得る。1以上のポリヌクレオチド配列は、真核生物のプロモーターに機能的に連結することができる。プロモーターは、構成プロモーター、誘導プロモーター、抑制プロモーター、又は調節プロモーターであり得る。
【0099】
ii.アデノ随伴ウイルスベクター
AAVベクターは、ヒト及びいくつかの他の霊長類種に感染するパルボウイルス(Parvoviridae)科のデペンドウイルス(Dependovirus)属に属す小型のウイルスである。AAVは、種々の構築物構成を用いて細胞に組成物を送達するために使用することができる。例えば、AAVは、別個のベクター上にあるCRISPRに基づくヌクレアーゼをコードする遺伝子構築体、挿入配列、及び/又はgRNA発現カセットを送達することができる。上記のような組成物は、改変アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。改変AAVベクターは、哺乳動物の細胞にCRISPRに基づくヌクレアーゼを送達し発現させる能力を持ち得る。例えば、改変AAVベクターは、AAV−SASTGベクターであり得る(Piacentino et al. (2012) Human Gene Therapy 23:635-646)。改変AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、及びAAV−PHP.eBを含むいくつかのキャプシドタイプのうち1以上に基づき得る。
【0100】
6.送達の方法
本発明で開示されるようなgRNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、ベクター、又はこれらの組合せは、非ウイルス法及びウイルス法を含む、細胞へのDNA送達法のいずれを用いて送達してもよい。一般的な非ウイルス送達法としては、形質転換及びトランスフェクションが含まれる。非ウイルス遺伝子送達は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、粒子媒介遺伝子導入(「遺伝子銃」)、インペイルフェクション、静水圧、持続的注入、音波処理、化学トランスフェクション、リポフェクション、又はin vivoエレクトロポレーションを伴う及び伴わないDNA注入(DNAワクチン接種)などの物理的方法によって媒介され得る。ウイルス媒介遺伝子送達、又はウイルス形質導入は、宿主細胞内にそのDNAを注入するウイルスの能力を利用する。送達を意図する遺伝子構築体は、複製欠損ウイルス粒子にパッケージングされる。使用される一般的なウイルスとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルスが含まれる。本発明のいくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルスが遺伝子構築体の送達に使用される。
【0101】
7.細胞
本明細書では更に、細胞が提供される。いずれの送達法も、限定されるものではないが、マウス、ラット、ハムスター、非ヒト霊長類、ブタ、又はヒト細胞などの動物細胞のような真核細胞を含む数知れない細胞種とともに利用可能である。いくつかの実施形態では、細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はヒト細胞である。これらの細胞は、エピジェネティック調節、ゲノムインプリンティング、PWS疾病機序、又はこれらの組合せの側面を研究するために使用可能である。細胞は、gRNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、ベクター、又はこれらの組合せを含み得る。いくつかの実施形態では、細胞は誘導多能性幹細胞(iPSC)である。iPSCは、プラダー・ウィリー症候群(PWS)患者由来のものであり得る。iPSCは、ニューロンに分化させてもよい。iPSCは、PWS1−7大領域欠失細胞株又はUPD1−2細胞株に由来し得る。いくつかの実施形態では、細胞は神経細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はニューロン前駆細胞(NPC)である。
【0102】
8.医薬組成物
本明細書では更に、医薬組成物が提供される。本明細書で詳細に示されるような薬剤及びシステムは、製薬分野における当業者に周知の標準技術に従って医薬組成物として調剤することができる。組成物は、薬剤及び薬学上許容される担体を含み得る。用語「薬学上許容される担体」とは、本明細書で使用する場合、非毒性、不活性の固体、半固体又は液体増量剤、希釈剤、封入剤又はいずれのタイプの配合助剤も意味する。医薬組成物は、gRNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、ベクター、細胞、又はこれらの組合せを含み得る。
【0103】
医薬組成物は、約1ng〜約10mgのgRNAコードDNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、又はベクターを含み得る。本発明による医薬組成物は、使用する投与様式に応じて調剤される。医薬組成物が注射医薬組成物である場合、それらは無菌、発熱物質不含、及び無粒子である。好ましくは、等張性製剤が使用される。一般に、等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、及びラクトースを含み得る。いくつかの場合、リン酸緩衝生理食塩水などの等張性溶液が好ましい。安定剤としては、ゼラチン及びアルブミンが含まれる。いくつかの実施形態では、血管収縮剤が製剤に添加される。
【0104】
gRNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、又はベクターを含有する医薬組成物は更に、薬学上許容される賦形剤を含み得る。薬学上許容される賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、又は希釈剤としての機能的分子であり得る。投与方法が使用する担体の種類を規定する。所望の投与方法に好適ないずれの薬学上許容される賦形剤も使用可能である。薬学上許容される賦形剤は、トランスフェクション促進剤であり得る。トランスフェクション促進剤としては、免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイントの不完全アジュバント、モノホスホリル脂質Aを含むLPS類似体、ムラミルペプチド、キノン類似体、スクアレン及びスクアレンなどの小胞、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、多価陰イオン、多価陽イオン、若しくはナノ粒子、又はその他の既知のトランスフェクション促進剤といった界面活性剤を含み得る。トランスフェクション促進剤は、多価陰イオン、多価陽イオン(ポリ−L−グルタミン酸(LGS)を含む)、又は脂質であり得る。トランスフェクション促進剤は、ポリ−L−グルタミン酸であり得る。ポリ−L−グルタミン酸は、医薬組成物中に6mg/mL未満の濃度で存在してよい。医薬組成物は、脂質、リポソーム(レシチンリポソーム又はDNA−リポソーム混合物(例えば、W09324640参照)として当技術分野で公知の他のリポソームを含む)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、多価陰イオン、多価陽イオン、若しくはナノ粒子などのトランスフェクション促進剤、又はその他の既知のトランスフェクション促進剤を含み得る。好ましくは、トランスフェクション促進剤は、多価陰イオン、多価陽イオン(ポリ−L−グルタミン酸(LGS)を含む)、又は脂質である。
【0105】
開示される薬剤が投与される経路及び組成物の形態は、使用する担体の種類を規定する。医薬組成物は、例えば、全身投与(例えば、経口、直腸、舌下、口内、インプラント、鼻腔、腟内、経皮、静脈内、動脈内、腫瘍内、腹腔内、又は非経口)又は局所投与(例えば、皮内、肺、鼻腔、口腔、眼内、リポソーム送達システム、又はイオン泳動)に好適な様々な形態であり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、対象の中枢神経系への投与のためのものである。技術及び製剤は一般に“Remington's Pharmaceutical Sciences,” (Meade Publishing Co., Easton, Pa.)に見出すことができる。医薬組成物は一般に無菌且つ製造及び保存の条件下で安定でなければならない。全ての担体はそれらの組成物において任意選択である。
【0106】
本明細書で開示される薬剤のその他の実施形態としては、本明細書に開示される薬剤を含む製剤及び組成物が含まれ、これらの製剤及び組成物は又、薬学上許容される賦形剤及び活性又は不活性であり得る他の成分も含み得る。経口投与の場合、医薬製剤は例えば、溶液、シロップ又は懸濁液などの液体形態であってもよいし、又は使用前に水又は他の好適なビヒクルで再構成するための医薬品として提供することもできる。経口投与用製剤は、有効化合物の制御放出をもたらすように適宜調剤することができる。
【0107】
9.投与
本明細書で詳細に示されるような薬剤、又はそれを含む医薬組成物は、対象に投与することができる。薬剤を含むこのような組成物は、特定の対象の齢、性、体重、及び病態、並びに投与経路などの因子を考慮して、医学分野における当業者に周知の用量及び技術で投与することができる。
【0108】
特定の患者にとっての本明細書に開示される薬剤、組成物又は製剤の具体的な治療上有効な量は、使用する特定の化合物の活性、齢、体重、健康状態、性、食餌、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物組合せ、及び治療下の特定の疾患の重篤度を含む様々な因子に依存する。治療組成物中に見られる本明細書に記載の薬剤の濃度は、投与する薬物の用量、使用する化合物の化学的特徴(例えば、疎水性)、及び投与経路を含むいくつかの因子によって異なる。
【0109】
薬剤は予防的又は治療的に投与することができる。予防的投与では、薬剤は、応答の誘導に十分な量で投与することができる。治療的適用では、薬剤は、必要とする対象に治療効果の惹起に十分な量で投与される。これを達成するために十分な量は、「治療上有効な量」と定義される。この使用のために有効な量は、例えば、投与する化合物計画の特定の組成物、投与様式、疾患の病期及び重篤度、患者の健康状態、及び処方医の判断によって異なる。治療上有効な量は又、薬剤の毒性作用又は有害作用を治療上有益な効果が上回るものでもある。「予防上有効な量」は、所望の予防結果を達成するために必要な用量及び期間で有効な量を指す。一般に、予防用量は、疾患の前又は疾患の初期段階で対象に使用されるので、予防上有効な量は治療上有効な量より少ない。
【0110】
例えば、薬剤の治療上有効な量は、約1mg/kg〜約1000mg/kg、約5mg/kg〜約950mg/kg、約10mg/kg〜約900mg/kg、約15mg/kg〜約850mg/kg、約20mg/kg〜約800mg/kg、約25mg/kg〜約750mg/kg、約30mg/kg〜約700mg/kg、約35mg/kg〜約650mg/kg、約40mg/kg〜約600mg/kg、約45mg/kg〜約550mg/kg、約50mg/kg〜約500mg/kg、約55mg/kg〜約450mg/kg、約60mg/kg〜約400mg/kg、約65mg/kg〜約350mg/kg、約70mg/kg〜約300mg/kg、約75mg/kg〜約250mg/kg、約80mg/kg〜約200mg/kg、約85mg/kg〜約150mg/kg、及び約90mg/kg〜約100mg/kgであり得る。
【0111】
薬剤は、Donnelly et al. (Ann. Rev. Immunol. 1997, 15, 617-648);Felgner et al. (1996年12月3日発行の米国特許第5,580,859号);Felgner (1997年12月30日発行の米国特許第5,703,055号);及びCarson et al. (1997年10月21日発行の米国特許第5,679,647号)(これらの全ての内容を本明細書の一部として援用する)に記載されているような当技術分野で周知の方法によって投与することができる。薬剤は、例えばワクチンガンを用いて個体に投与することができる粒子又はビーズと複合体を形成させることができる。当業者は、生理学的に許容される化合物を含む薬学上許容される担体の選択は例えば投与経路に依存することを知っている。
【0112】
薬剤は、様々な経路によって送達することができる。典型的な送達経路には、非経口投与、例えば、皮内、筋肉内又は皮下送達が含まれる。他の経路としては、経口投与、鼻腔内、腟内、経皮、静脈内、動脈内、腫瘍内、腹腔内、及び表皮経路が含まれる。いくつかの実施形態では、薬剤は、対象に静脈内、動脈内、又は腹膜内投与される。いくつかの実施形態では、薬剤は、対象の中枢神経系に投与される。いくつかの実施形態では、薬剤は、対象に経口投与される。
【0113】
他の実施形態では、組成物は、注射による非経口投与向けに調剤することができ、このような製剤は、保存剤を添加して又は添加せずに、単位剤形で提供することができる。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルションなどの形態をとってもよく、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤などの配合剤を含有し得る。
【0114】
10.キット
本明細書では更に、キットが提供される。キットは、gRNA、DNAターゲッティングシステム、単離されたポリヌクレオチド配列、ベクター、細胞、又はこれらの組合せを含み得る。キットは更に使用説明書も含み得る。キットに含まれる説明書は、包装材料に添付されていてもよいし、又は添付文書として含まれてもよい。説明書は一般に書類又は印刷物であるが、これらに限定されない。このような説明書を保管してそれらを末端使用者に伝達し得るいずれの媒体も本開示より企図される。このような媒体としては、限定されるものではないが、電子保存媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光媒体(例えば、CD ROM)などが含まれる。本明細書で使用する場合、用語「説明書」は、それらの説明書を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【0115】
11.薬剤を使用する方法
a)対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法
本明細書では、対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法が提供される。方法は、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるZNF274結合部位を、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて低減されるように改変することを含み得る。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの相補物と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。
【0116】
いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合は、対照に比べて少なくとも90%低減される。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合は排除される。いくつかの実施形態では、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置は、ZNF274結合部位の改変前にサイレントである。いくつかの実施形態では、障害は、プラダー・ウィリー症候群(PWS)を含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、ZNF274結合部位の完全欠失、ZNF274結合部位の部分的欠失、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチドの突然変異、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチド位置での切断、又はこれらの組合せにより改変される。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、対象又は対象の細胞に、ZNF274結合部位に結合する、本明細書に記載されるようなDNAターゲッティングシステムを投与することにより改変され、このDNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、これらの相補物、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む。いくつかの実施形態では、ZNF274結合部位は、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムをコードする単離されたポリヌクレオチドを投与することにより改変され、このDNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、これらの相補物、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む。
【0118】
他の実施形態では、この方法は、ZNF274タンパク質と、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるZNF274結合部位との相互作用を対照に比べて低減する薬剤の薬学上有効な量を対象に投与することを含んでよく、このZNF274結合部位は、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの相補物と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、配列特異的ヌクレアーゼ、又は配列特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、配列特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ、又はCRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムを含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、15q11−q13内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増大される。いくつかの実施形態では、15q11−q13のプラダー・ウィリー症候群(Prader-Will syndrome)責任領域(PWSCR)内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される。いくつかの実施形態では、ゲノム座標hg19 chr15:25,012,961−25,685,253又はchr15:23,695,603−25,026,558から選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される。いくつかの実施形態では、SNORD116、IPW、SNORD115、SNHG14、UBE3A−ATS、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される。いくつかの実施形態では、SNRPNエキソン2、SNRPNエキソン3、SNRPNエキソン4、UBE3A、MAGEL2、MKRN3、SNRPNエキソンU4、NDN、又はこれらの組合せのうち少なくとも1つの発現が増強される。いくつかの実施形態では、SNRPN U1Aプロモーター、SNRPN U1Bプロモーター、又はこれらの組合せからの転写の開始が増強される。いくつかの実施形態では、H3K9me3の結合が低減される。
【0120】
b)スクリーニングのための方法
本明細書では更に、ゲノムインプリンティングの障害を治療するための化合物をスクリーニングする方法が提供される。薬剤は、ZNF274結合部位へのZNF274の結合に干渉し、それにより、母性PWSCR RNA転写産物を活性化させるそれらの能力に基づいて選択又は設計され得る。
【実施例】
【0121】
12.実施例
実施例1
材料及び方法
iPSC及びニューロン分化の培養条件。 iPSCは、照射したマウス胚線維芽細胞上で増殖させ、ノックアウト血清代替物、非必須アミノ酸、L−グルタミン、β−メルカプトエタノール、及び塩基性FGFを添加したDMEM−Fl2から構成される従来のhESC培地を毎日供給した。iPSCは、加湿インキュベーターにて37℃、5%CO
2で培養し、週1回手で植え継いだ。
【0122】
iPSCのニューロン分化は、一部改変した単層分化プロトコールを用いて行った。簡単に述べれば、iPSCコロニーをhESC培地で24時間培養した後にN2B27培地に切り替えた。細胞に1日おきに、Neurobasal Medium、2%B−27サプリメント、2mM L−グルタミン、1%インスリン−トランスフェリン−セレン、1%N2サプリメント、0.5%Pen−strepを含有するN2B27培地を供給し、500ng/mLの新鮮なノギンを添加した。3週間の神経分化の後、ポリオルニチン/ラミニンでコーティングした組織培養プレートで神経前駆細胞を平板培養した。神経分化培地はNeurobasal Medium、B−27サプリメント、非必須アミノ酸、及びL−グルタミンからなり、1μMアスコルビン酸、200μMサイクリックアデノシン一リン酸、10ng/mL脳由来神経栄養因子、及び10ng/mLグリア由来神経栄養因子を添加した。特に断りのない限り、神経培養物が少なくとも10週齢に達したところで細胞を採取した。
【0123】
レンチウイルスの生産、形質導入、及びクローンスクリーニング。 sgRNAは、ウェブに基づくCRISPR設計ツールを用いて設計し、lentiCRISPR(Addgene Plasmid 49535及び52961;Addgene、ウォータータウン、MA)及びlentiGuidePuro(Addgene Plasmid 52963、Addgene、ウォータータウン、MA)にクローニングした。293FT細胞を、リポフェクタミン2000を用いた第二世代パッケージングシステム(Life Technologies、カールズバット、CA)でトランスフェクトすることにより、レンチウイルス粒子を作製した。形質導入前に、iPSCを10μM ROCK阻害剤Y−27632で一晩処理した。翌日、Accutase(Millipore、バーリントン、MA)を用いてiPSCを単体とし、低結合ディッシュ中、8μg/mLポリブレンの存在下、懸濁液としてのレンチウイルスで2時間、形質導入を行った。次に、iPSC/レンチウイルス混合物をhESC培地で1:1希釈し、10μM ROCK阻害剤Y−27632を添加したピューロマイシン耐性(DR4)MEFフィーダー上で、低密度で一晩、平板培養した。接着細胞をhESC培地で更に72時間培養した後、1週目は0.5μg/mL、2週目は1μg/mLのピューロマイシンを用いて薬物選択を開始した。ピューロマイシン耐性iPSCコロニーを個々に新たなフィーダーウェルに取り、ゲノムDNAでのPCR及びシーケンシングを行うことによりインデルに関してスクリーニングした。遺伝子編集iPSCの多能性は、従前に記載されているように(Chen, et al. Sci. Rep. 2016, 6, 25368)、マウス抗ヒトステージ特異的胚抗原4(stage specific embryonic antigen 4)(SSEA4)及びウサギ抗ヒトOCT3/4(両方ともMolecular Probes(ユージーン、OR)から)を用いた免疫細胞化学によってバリデートした。核型分析及びAffymetrix HD 6.0アレイは、UCONN Stem Cell Coreのジェネティクス・ゲノミクス部門により実施された。各iPSC株からの20のG分染中期細胞を調べて各株の核型を作成した。
【0124】
CRISPRは、PWS様の欠失(父性SNORD116の欠失又は父性SNRPN〜SNORD116の欠失)を有するように操作したhESC又はPWS iPSCをCas9、ZNF274又はZNF274結合部位を標的とするgRNA、及びピューロマイシン耐性カセットを有する2つの構築物でヌクレオフェクションを行うことにより一時的に導入した。hESC/iPSCをピューロマイシンで48時間選択し、得られたクローンを、欠失切断点にわたるPCRを用いて特定の欠失に関してスクリーニングした。
【0125】
RNA単離及びRT反応。 RNA−Bee(Tel Test,Inc.、フレンズウッド、TX)を用いて細胞からRNAを単離した。サンプルを必要に応じてAmplification Grade DNasel(Invitrogen、カールズバット、CA)を用い、37℃で45分間、DNアーゼで処理し、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Life Technologies、カールズバット、CA)を製造者の説明書に従って用い、cDNAを合成した。
【0126】
RT−qPCR及び発現アレイ。 単一遺伝子発現アッセイでは、Step One Plus(ThermoFisher Scientific、ウォルサム、MA)又はBioRAD CFX96 Real Time PCRシステム(Bio−Rad Laboratories、ハーキュリーズ、CA)にて、TaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems、フォスターシティ、CA)を用い、標的遺伝子の発現レベルを調べた。各反応につき20ulの容量で、30ngのRNAに相当する量のRT反応を使用した。反応は2回又は3回の技術的反復で実施し、内部対照としてGAPDH Endogenous Control TaqMan Assayを製造者のプロトコールに従って使用した。キャリブレーターサンプルとして正常細胞株CTRL1又はCTRL2を用い、相対量(RQ)の値を2
-ΔΔCtとして計算した。
【0127】
本発明者らの10週齢ニューロンにおいて15q11.2−q13領域全体の遺伝子発現レベルを検討するためにTaqman Low Density Array(TLDA)技術を使用した。2つのハウスキーピング遺伝子を含む48の標的遺伝子を用いて、カスタム形式のTaqman低密度アレイ(TLDA)を設計し、これは各カード8サンプル(CTRL2を含む)を見込んでいる。全てのプライマー/プローブセットを表8に示す。遺伝子発現アッセイはApplied Biosystems(フォスターシティ、CA)により供給された。TLDA分析では、製造者の指示に従い、各RT反応で400ngのDNAsc処理RNAを使用した。150ngの有効RNAに相当するcDNAサンプル、リボヌクレアーゼ不含水、及びPCRマスターミックスを各TLDAカードフィルポートにロードした。これらのサンプルを遠心分離によりプレート上に分布させた。リアルタイムPCRは7900HT又はViiA7リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、フォスターシティ、CA)にて行った。同じCTRL2サンプルを本発明者らのキャリブレーター又は内部陽性対照(IPC)として各カードに系統的にロードし、Thermo Fisher Cloudインターフェースを用いて、異なるプレート間のCq値を正規化するためにIPC設定でデータを分析した。
【0128】
クロマチン免疫沈降。 ChIPアッセイを記載の通りに行った(Cruvinel, et al. Hum. Mol. Genet. 2014, 23, 4674-4685; Cotney, et al. Cold Spring Harb. Protoc. 2015, 191-199; Martins-Taylor, et al. Epigenetics 2012, 7, 71-82)。抗ZNF274抗体(Abnova、カタログ番号H00010782−M01;Abnova、台湾)及び抗トリメチルヒストンH3(Lys9)抗体(H3K9mc3;Millipore、カタログ番号07−442;Millipore、バーリントン、MA)を使用した。ChIPの定量は、SYBR Green定量的PCRを用いて行った。精製されたDNAを増幅するために使用したPCRプライマーは表2に見出すことができる。DNAの富化は、従前に記載されているように(Martins-Taylor, et al. Epigenetics 2012, 7, 71-82)、インプットパーセントとして計算した。正常ウサギIgGをアイソタイプ対照として用いたところ、富化は示さなかった。データは平均とSDとして示し、独立した培養物から少なくとも2回の生物学的反復の平均を表す。
【0129】
5hmcレベルの検出。 DNAにおける5−メチルシトシン(5-methyleytosine)(5mC)、5−ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)及び非修飾シトシン(C)のパーセンテージを、EpiMark 5−hmC and 5−mC Analysis Kit(New England Biolabs、イプスウィッチ、MA;カタログ番号E33l 7S)を用いて評価した。これらのアッセイに使用したqPCRプライマーを表2に示す。表2は、使用したSYBRプライマー配列を一覧化したものである。報告された値は、それぞれ定量的PCRにより3反復で分析した少なくとも2回の独立した実験の平均を表す。データは独立した実験の平均及びSDとして表した。
【0130】
統計検定。 統計分析は、Prismソフトウエア(GraphPad)を用いて行った。示された各条件について、独立した培養物から少なくとも2回の生物学的反復からの平均値を計算し、得られた標準偏差(SD)をエラーバーで報告した。特に断りのない限り、各実験で、各サンプルの平均値を同じ遺伝子型の親PWS細胞株(PWS LD又はPWS UPD)と比較し、各非操作とKOペアの有意性を、一元又は二元配置分散分析(ANOVA)をダネット事後検定とともに用いて計算した。
【表2】
【0131】
実施例2
ZNF274 KO株の作出及び特性決定
従前に特性決定されたPWS LD iPSC(Chamberlain, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2010, 107, 17668-17673)に加え、iPSC株をPWS UPD患者から作出した(
図8B及び表3)。
【表3】
【0132】
SNORD116遺伝子座におけるH3K9me3蓄積に対するZNF274枯渇の影響を決定するために、PWS特異的iPSCにおいてCRISPR/Cas9により媒介されるZNF274のノックアウトを行った。PWS LD及びPWS UPDにおけるCRISPR/Cas9により媒介されるZNF274のノックアウトは、ZNF274の2つの主要なアイソフォームを標的とするために、ZNF274遺伝子(NM_133502)のエキソン2及び6内に2つの異なる単一のガイドRNA(sgRNA)を設計することにより行った(
図8A;表4)。フレームシフト及び未成熟終止コドンをもたらす非相同末端結合媒介挿入/欠失(インデル)をスクリーニングした後に、5つのクローン性のiPSCクローン(clonal iPSC clones)を選択した(Shalem et al., Science, 342:84-87 (2014))。PWS LD株におけるレンチウイルス形質導入及びCRISPR/Cas9組込み及び発現の更なる対照として、ヒトゲノムにおいて一致のない従前にバリデートされたスクランブルsgRNAを使用した(表4及び5)。クローン性誘導体PWS LD sc1を、CRISPR構築物の導入が親PWS LD株において遺伝子発現に影響を及ぼさなかったことを確認するために選択した。
【表4】
【表5】
【0133】
ZNF274ノックアウト(ZNF274 KO)によって誘導された遺伝子変化をPWS LD ZNF274 KO株(LD KO1及びLD KO2)及びUPD ZNF274 KO株(UPD KO1、UPD KO2、及びUPD KO3)に関して表6にまとめる。
【表6】
【0134】
操作されたiPSC株の核型分析は、検出可能な異常がないことを示した(表3)。多能性に関する慣例の試験を行ったところ(
図8B)、上位の潜在的標的外遺伝子座内に配列変化は見られなかった(表7)。
【表7】
【0135】
実施例3
CRISPR/Cas9により媒介されるZNF274のノックアウトはPWS特異的iPSCにおいてSNORD116遺伝子座(Iocus)でH3K9me3を枯渇させる
PWS LD及びUPD iPSC及びそれらの誘導体ZNF274 KOクローン並びに対照個体(CTR1及びCTRL2)及び母性染色体15q11−q13の大領域欠失を有するアンジェルマン症候群(AS)患者由来のiPSCでクロマチン免疫沈降(ChIP)を行い、全てのPWS LD及びUPD ZNF274 KOクローンの12全ての既知のZNF274結合部位においてZNF274の結合が全く存在しないことが認められ、有効なZNF274 KOを示す(
図1B及び
図9A)。このZNF274結合の不在は、全てのPWS LD及びUPD ZNF274 KOクローンで、6つのZNF274結合部位(BS)(SNOG1−BS1〜SNOG1−BS6)におけるH3K9me3の顕著な低減に関連しており、KO iPSC株におけるSNORD116遺伝子座でのZNF274機能の有効な破壊を示す。供試した既知のZNF274 BSの全てでZNF274タンパク質が全く存在しないことが認められたが、参照として用いたZNF180 3’UTRのZNF274 BSにおいてはH3K9me3のレベルは、低減されなかった。
【0136】
もっともらしい説明は、ZNF274 BSはほとんどの場合、第2のジンクフィンガータンパク質(ZNF75D)と共有されているということである。実際に、KRABドメインを含有するジンクフィンガータンパク質遺伝子内のZNF274結合部位の89.1%がZNF75Dと共有されている。例えば、ZNF180及びZNF554の3’ UTRは、ZNF274及びZNF75Dの両方によって結合される2つの標的領域であり、これらの部位においてH3K9me3レベルに対する効果はほとんど又は全く見られなかった(
図9B)。他方、ZNF781及びZNF90の3’末端は、ZNF274のみが結合した希少な部位のうちの2つであり、この所見と一致して、それら2つのBSに関してより顕著なH3K9me3の低減が検出された(
図9B)。H3K9me3のレベルは、PWS LD及びUPD ZNF274 KOクローンにおいてSNOG2及びSNOG3で、すなわち、SNOG1−BS1〜SNOG1−BS6の下流に位置するSNORD116クラスグループ2及び3遺伝子座でも低減されていた(
図9C)。母性特異的SNOG1 ZNF274 BSにおけるH3K9me3の沈着の広がりは、従前の所見と一致していた(Cruvinel, et al. Hum. Mol. Genet. 2014, 23, 4674-4685)。同時に、SNORD116宿主遺伝子グループ1(116HGG1)転写産物の発現の活性化がZNF274 KO PWS LD及びUPD iPSCで見られた(
図9D)。
【0137】
これらの結果は、PWS iPSCにおけるZNF274 KOはH3K9me3を低減し、クロマチンの脱凝集及びPWS遺伝子座内の116HGG1の部分的な転写活性化をもたらすことを示唆した。
【0138】
実施例4
PWS特異的iPSCにおけるSNRPN活性化に対するZNF274 KOの影響
PWS lncRNAの調節要素を調べることにより、ZNF274 KOが116HGG1発現を活性化させる機構も検討した。このために、エキソン1内の主要プロモーター及び主に脳でPWS lncRNAを駆動するその択一的上流エキソンプロモーターU1B及びU1Aによって駆動されるSNRPN転写産物を分析した。U1B及びU1Aにより駆動されるSNRPN転写産物は、エキソン1をスキップし、エキソン2へスプライシングする。U4内部エキソンはほとんどのSNRPN U1B及びU1A転写産物に含まれているので、本発明者らは、エキソンU4からエキソン2へスプライシングするRNAに関してアッセイした。ZNF274 KOにより媒介されるU4/エキソン2の活性化(
図2A)が検出されたが、エキソン1/エキソン2 SNRPN転写産物の活性化は検出されず(
図2B)、ZNF274複合体は、主要SNRPNエキソン1プロモーターではなくむしろU1B及びU1Aプロモーターに対するその作用を介して母性PWS転写産物を抑制するという所見が示唆された。この示唆に一致して、SNRPN主要エキソン1プロモーターを使用しなければ(
図2B)、SNRPNエキソン3−4コード転写産物の部分的な活性化が検出されるに過ぎなかった。SNRPN及びPWの調節に対するZNF274 KOの影響を更に理解するために、SNRPNエキソン1内に含まれる(
図2D)PWS−ICのDNAのメチル化(
図2C)を調べた。PWS LD iPSC及びそれらのZNF274 KO誘導体では、母性PWS−ICにおいてほとんど同一のレベルのCpGのメチル化(
図2D)が見られた。これらの知見は、母性SNRPNエキソン1プロモーターがZNF274 KOによっては活性化されなかったという所見に一致しただけでなく、重要なことには、ZNF274は、PWS−ICとは独立に働く、15番染色体のq11−q13インプリンティングのエピジェネティックレギュレーターであることが示唆された。
【0139】
実施例5
ZNF274 KOはPWSニューロンにおいて母性遺伝子発現を回復させる
SNRPNエキソンU1B及びU1Aは主として脳で活性があることから、ZNF274 KOによる母性PWS転写産物の救済の機構を更に理解するために、iPSC株から神経前駆細胞(NPC)及びニューロンを誘導した(
図3)。ZNF274 KOはPWS iPSCにおいて母性116HGG1の発現を100倍以上増強したが(
図9D)、達成されたレベルは、CTRL iPSC株における116HGG1に関するレベルより遙かに低かった(
図3A)。しかしながら、神経分化時には、よりロバストな活性化が見られ、116HGG1の発現は、ZNF274 KO NPCではほぼ対照レベルに達し、救済されたニューロンでは、これらに達したか又は超えた(
図3B及び
図3C)。PWS LD株及びUPD株のZNF274 KOは、4週間の分化の後にCTRL株に比べて116HGG1発現の顕著な増強をもたらし(
図3B)、10週間の分化の後には、ニューロンにおける正常な発現レベルを回復させた(
図3C)。
【0140】
染色体15q11−q13にわたる転写産物の発現を、PWS LD及びUPD、それらのZNF274 KO誘導体、CTRL及びAS LDからのiPSC由来ニューロンにおいて調べた。上手くいかなかったデータ点を除外した後に、全ての株を各単一アレイで実施された同じサンプル:CTRL2に対して正規化した。ニューロン遺伝子の発現をバリデートするために、PAX6、FOXG1、RBFOX1、RBFOX3、及びSOX2を本発明者らのサンプルでアッセイした(オレンジの列)。
図4A、4B、及び4Cは、ZNF274 KOがPWSニューロンにおいて染色体15q11.2−q13にわたる転写を活性化させることを示す。
図4A及び
図4Bは、大領域欠失及びUPD PWSのデータを別に示すが、
図4Cは合わせたデータを示す。
図4A、4B、及び4Cでは、白のAS及び青のCTRLは、父性対立遺伝子由来の予想される発現を示し、黒のPWS及び緑のKOは、母性対立遺伝子由来の予想される発現を示した。緑のKOでは、15q11−q13領域の大部分の発現が見られ、これは母性対立遺伝子からの15q11−q13領域の全般的な再活性化を示した。2つの転写産物を除いて、15q11−q13領域の転写産物のほとんどがZNF274 KO PWSニューロンにおいて再発現された。それらのうち1つはSNRPNエキソン1/2転写産物であった(緑の発現がない=ZNF2754 KO時にこの転写産物の救済がない)。表8は、Taqmanアッセイリスト及びカラーコードを示す。表9は、Ct値リストを示す。表10は、RQ値リストを示す。表11は、RQ平均値リストを示す。表12は、統計値を示す。
【0141】
116HGG1と同様に、PWS遺伝子座内の他の転写産物(SNORD116−1及びIPW)も、ZNF274 KOニューロンにおいてCTRLニューロンと同レベルで発現された(
図4及び表8〜12)。又、PWS遺伝子座の下流(SNORD115−1、その115HG宿主遺伝子及びUBE3AにオーバーラップするアンチセンスUBE3A−ATS)でも、同等レベルの、ZNF274 KOにより媒介される母性ニューロン転写産物の再活性化が検出された(
図4及び表8〜12)。ZNF274 KOはニューロンのUBE3A−ATSを正常レベルにまで活性化したが、同時に、UBE3A発現を、少なくとも正常対照UBE3A mRNAレベルに比べて低下させることはなかった(
図4及び表8〜12)。
【0142】
SNRPN U4/エキソン2転写産物は、ニューロンではZNF274 KOによって完全に救済されたが、エキソン1を利用するSNRPN転写産物はサイレントのままであり、エキソン3/4転写産物は部分的に活性化された(
図4、
図5A〜5C及び表8〜12)。これらの結果は、ZNF274複合体がSNRPN上流プロモーターを介してPWS転写産物を調節するという仮説と一致した。これらの上流エキソンはニューロン及びNPCで優先的に使用される。これを支持して、ZNF274 KO時のニューロン及びNPCではiPSCよりも高レベルのSNRPN U4/エキソン2発現が得られ(
図5A及び
図5B)、これはU1B及びU1Aプロモーターが脳で活性が高いという報告と一致している(
図6)。PWS LD及びUPDニューロンにおけるZNF274 KOは、ほとんどの母性PWS転写産物のロバストな発現を活性化し(
図4、
図5A〜5C、
図6及び表8〜12)、PWS−ICにおける5mCレベルに変化は見られず(
図2D及び
図5E)、この知見は、ZNF274 KOはSNRPNエキソン1転写を活性化させなかったという所見(
図4、
図5B及び表8〜12)と一致し、母性PWS遺伝子座へのZNF274の結合がPWS−ICとは独立した機構によってサイレンシングを媒介したという主張とも一致する。この仮説は、PWS−ICの欠失は脳においてインプリンティングされた発現の欠如をもたらさないという報告と一致する。
【0143】
インプリンティングされたPWS領域の更に上流では、PWS LD及びUPDニューロンでのMAGEL2及びMKRN3の発現、並びにZNF274 KO時の両者の上方調節が検出された(
図4及び表8〜12)。NDNは、PWS LD及びUPDニューロンでは検出されず、ZNF274 KOによって活性化されなかった(
図4及び表8〜12)。後者の結果は、SNRPNエキソン1と同様に(他のPWS転写産物はそうではない)、NDNインプリンティングはPWS−TCによって調節されたことを示唆し、母性PWS−TCの欠失がNdnの発現を活性化させたマウスモデルと一致する。15q11−q13インプリンティング領域の外側の遺伝子であるCYFIP1及びCHRNA7は、全てのiPSC株から誘導されたニューロンで発現された。両遺伝子のmRNAレベルは、PWS LD及びUPDにおいて同じであり、それらのZNF274 KO誘導体では影響がなかった(
図4及び表8〜12)。これらの結果は、インプリンティングされた染色体15q11−q13領域の外側ではなく内側のほとんどのニューロン転写産物のZNF274媒介抑制の役割を示唆した。
【表8-1】
【表8-2】
【表9-1】
【表9-2】
【表10-1】
【表10-2】
【表11-1】
【表11-2】
【表12-1】
【表12-2】
【0144】
実施例6
考察
母性遺伝性のサイレントPWS転写産物は、CRISPRにより媒介されるZNF274のノックアウトにより活性化された。ZNF274の欠如は、PWS遺伝子座内のH3K9mc3の低減をもたらし(
図1B、
図1C、及び
図9)、PWS iPSC、NPC、及びニューロンにおいて母性転写産物の発現を活性化させた(
図1〜6及び表8〜12)。PWSニューロンにおいてZNF274 KOによって誘導される母性転写産物の発現は正常レベルに達し、PWS遺伝子座内だけでなく染色体15q11−q13インプリンティング領域全域にロバストな活性化が見られた(
図3〜6及び表8〜12)。ZNF274 KOによって救済されなかった2つのPWS母性mRNAは、エキソン1プロモーターにより駆動されるSNRPN転写産物及びNDNであった(
図2B、
図4、
図5B及び表8〜12)。SNRPNについては、ZNF274 KOは母性PWS−ICのCpGのメチル化を変更しなかった可能性があり(
図2D及び
図5E)、ゆえに主要SNRPNエキソン1プロモーターを活性化させなかった。NDNの発現はZNF274 KOによって救済されなかった。MAGEL2及びMKRN3の両方の発現は、PWS LD及びUPDニューロンにおいてZNF274 KOにより上方調節され(
図4及び表8〜12)、このことはSNORD116クラスターへのZNF274の結合が母性対立遺伝子のサイレンシングに寄与していたことを示唆する(
図7)。
【0145】
UBE3A−ATSのロバストな活性化にもかかわらず、UBE3Aレベルの低下は検出されなかった(
図4及び表8〜12)。UBE3AATSにより媒介されるUBE3Aのサイレンシングは、iPSCから分化させたニューロンが比較的未熟なために、又は母性UBE3A mRNAの発現レベルが父性対立遺伝子よりも本質的に高かく、従って、アンチセンスにより媒介されるサイレンシングに対しより耐性があったことから、検出できなかった可能がある。これに関して、PWS LD由来ニューロン及びUPD iPSC由来ニューロンの両方でのUBE3Aの発現はCTRLよりも高かった(
図4及び表8〜12)。
【0146】
ヒトPWS線維芽細胞及びPWSのマウスモデルにおける母性転写産物の活性化は、ヒストンメチルトランスフェラーゼG9aを標的とする新規な化合物を使用することによって実証された。G9a阻害を介した母性PWS RNAの活性化は、SNORD116遺伝子座におけるH3K9me3及びH3K9me2のレベルの低下、並びにPWS−ICにおけるH3K9mc2のレベルの低下(PWS−ICにおけるDNAメチル化レベルに影響を及ぼさない)に関連していた。少なくともヒトでは、ZNF274/SETDB1複合体も又、H3K9me3により媒介される、母性染色体15q11−q13転写産物のサイレンシングに必要とされた。G9a−ヒストンメチル化及びZNF274/SETDB 1−ヒストンメチル化が互いに独立であるか又は相補的であるかはまだ決定されていないが、機構的な違いであると思われる。例えば、NDN及びSNRPNエキソン1は、G9a阻害により活性化されたが、ZNF274 KOによっては活性化されなかった(
図2B、
図4、
図5B、及び表8〜12)。この違いは、ZNF274/SETDB1複合体は脳特異的PWS lncRNAプロモーターを特異的に調節したが、新規な化合物の使用に関しては、PWS−ICにおけるH3K9me2の低減が細胞種に依存せずにNDN及びSNRPNエキソン1の発現を担ったというものであり得る。
【0147】
ZNF274複合体は、SNRPN U1B及びU1Aプロモーターから転写を開始させるために必要なシス作用調節要素を抑制し得る(
図7)。ZNF274複合体により抑制される調節要素は、SNRPN U1B/U1Aプロモーターを活性化させるエンハンサーであり得る。或いは、この要素は、他の遺伝子の転写を調節する働きをする116HG lncRNAであり得る。本発明者らのモデル(
図7)では、ZNF274 KO iPSCにおけるSNRPN上流プロモーターにより駆動される転写産物の低レベルの発現が脳特異的転写因子によるニューロン分化時に上方調節された。幹細胞ノックアウトモデルにおける通常はサイレントの母性PWSニューロン転写産物の活性化は、ZNF274がPWSの今後の治療適用の潜在的標的となり得ることを示す。これらのデータ(
図1B、
図9A、及び
図9B)は、ZNF274が他のZNFタンパク質と協調してゲノム標的部位にH3K9me3を沈着させる働きをするという所見と一致した。ZNF274 KOは、その標的部位の約10%にH3K9me3の完全な欠如をもたらし得るにすぎない。
【0148】
実施例7
本明細書では又、エピジェネティック調節及びPWSの疾病機序の側面を研究するために、PWS特異的iPSC(誘導多能性幹細胞)の作出及びそれらのニューロン分化のための技術が開示される。PWSCRにおけるH3K9me3の蓄積を介してエピジェネティックサイレンシングを果たすために、母性PWSCRに結合するZNF274/SETDB1含有エピジェネティック複合体が発見された。ZNF274を標的とするためにCRISPRレンチウイルスベクターを使用し、PWS iPSC株であるPWS1−7大領域欠失のZNF274ノックアウトクローン誘導体(B17−21及びZKL6)、及びUPD 1−2のZNF274ノックアウトクローン誘導体(ZKU4B及びZKU21A)を作出した。2つの親PWS iPSC株及びそれらの2つのZNF274 KOクローン誘導体のそれぞれ、並びに2つの正常対照(LcNL−1及びMCH2−10)をニューロンに分化させた。RT−qPCR分析(
図10)は、ZNF274ノックアウト時に、PWS領域からの3つのRNA転写産物SNORD116、IPW、及びSNORD115で、ニューロン転写産物の完全な再活性化が達成されたことを示す。これらの知見は、CRISPRにより媒介されるZNF274のKOは、PWS iPSCから誘導されたニューロンにおいてサイレントの母性PWSCR転写産物(SNORD116及びIPW)を有効に再活性化したことを示す。
【0149】
PWSの誘導多能性幹細胞(iPSC)モデルを用い、エピジェネティック複合体が、ジンクフィンガータンパク質ZNF274及びSET domain bifurcated 1(SETDB1)ヒストンH3リシン9(H3K9)メチルトランスフェラーゼからなること、及びPWS遺伝子座において母性対立遺伝子をサイレンシングすることが発見された。ZNF274は、PWS iPSC株から誘導されたニューロンにおいて、PWSインプリンティングセンター(PWS−IC)のDNAのメチル化に影響を及ぼさずにノックアウトされ、サイレントの母性対立遺伝子の発現を救済した。ZNF274複合体は、ニューロンにおいて母性PWS遺伝子発現を抑制する独立したインプリンティングマークであり得、PWS表現型を救済するための治療適用の標的となり得る。
【0150】
実施例8
ZNF274結合部位の欠失はPWS iPSCから誘導されたニューロンにおいて母性SNRPN及びSNORD116の発現を回復させる
ZNF274の結合を遮断することによりPWSCR RNA転写産物を活性化させるアプローチを開発するために、ZNF274に関するコンセンサスDNA結合部位を検索するための計算論的アプローチを開発した。ENCODE Consortiumにより実施された8つの異なる培養細胞株から21のZNF274 ChIP−Seqデータベースを分析し、ヒトゲノムで1572の再現性のある結合部位を同定した。これらの部位のそれぞれの配列を参照ヒトゲノムから抽出し、このセットをMultiple Em for Motif Elicitation(MEME)スーツで分析した。これらの推定結合領域が著しく多いZNF274の単一結合モチーフを同定した。このコンセンサス結合部位を用い、MEMEスーツのFind Individual Motif Occurences(FIMO)ルーチンを用い、ゲノムワイド全体で全てのZNF274結合部位を推定した。ZNF274モチーフ(TGAGTGAGAACTCATACC)は、SNORD116のうち5つで同定された。PWSCR内には30のSNORD116からなるクラスターが存在し、これはDNA配列類似性に基づいて3つのグループに分類された。グループ1はSNORD116 1〜9からなり(
図11)、ZNF274モチーフはSNORD116−3、−5、−7、−8、及び−9に同定された。ZNF274は、ChIP−Seqにより示されるように、これらの5つのSNORD116領域に結合する(Crunivel et al., Hum Mol Genet. 23: 4674-85, 2014)。SNORD116−2、−4、及び−6はそれぞれこのモチーフの8番の位置にGからAへの置換を示し(
図11)、ChIP−SeqデータではZNF274により結合されることは確認されなかった。SNORD116−1は、ZNF274コンセンサス結合部位から異なる一ヌクレオチド変化を含み(
図11)、ZNF274により結合されるその能力は現在のところ決定されていない。グループ1 SNORD116間には、ZNF274モチーフ内の置換を除いて48ntの配列同一性が存在し(
図11)、従って、及び他のゲノムZNF274結合部位ではなくSNORD116を特異的に標的とする分子を遮断する設計が可能である。
【0151】
PWS遺伝子座におけるZNF274の結合を特異的に遮断又は枯渇させて母性転写産物を再活性化されるために、SNORD116上のZNF274結合部位を決定した。動物モデルに適当であるという観点では、アカゲザルの9つ全てのグループ1 SNORD116を含む、本発明者らが分析した全ての非ヒト霊長類種のSNORD116 グループ1でZNF274モチーフが保存されている。開示される他の態様では、PWSCR SNORD116に対するZNF274結合モチーフが、細胞において、CRISPR/Cas9を標的として結合部位を切断しZNF274の結合を低減するためのガイドRNAを用いてバリデートされた。
【0152】
CRISPRを用い、CTTGGAAAAGCTGAACAAAATGAGTGAGAACTCATACCGTCGTTCTCATCAGAACTGAG(配列番号42)の異なる部分を標的とし、ZNF274結合コンセンサスとそのいずれかの末端にSNORD116内のZNF274結合部位に対する特異性を付与する20のヌクレオチドを含むgRNAを用い、種々の細胞から15番染色体上の、ZNF274結合コンセンサスモチーフTGAGTGAGAACTCATACC(配列番号1)を含むZNF274結合部位を欠失させた。使用した細胞株は、上記のLcNL1、MCH2−10、PWS1−7、B17−21、及びZDL17を含んだ。LcNL1及びMCH2−10は、2つの異なる神経学的定型個体由来のiPSCである。PWS1−7は、15q11−q13の大領域欠失により引き起こされるPWSを有する個体から誘導されたiPSCである。B17−21は、2種類の異なるCRISPR(CCTCCAGGCTTCCGACGGCC(配列番号13)及びCCTGCAGGACAACCTGCCGA(配列番号14))を連続的に使用してZNF274を突然変異誘発(フレームシフト)することによってZNF274をノックアウトしたPWS1−7の誘導体である。ZDL17は、2種類のCRISPR(配列番号13及び配列番号14)を同時に用いてZNF274を欠失させたPWS1−7の誘導体である。別のgRNA対(CTGCGGTTCCACCATCACGC(配列番号47)及びAGCAGCCTTAGGTCCGGTGA(配列番号48))もZNF274を欠失させるために同時に用いた。
【0153】
30−5 bis1は、6つのZNF274結合部位のうち5つを欠失させるためにレンチウイルスベクターにおいてSpCas9のVQR変異体(NGAN(配列番号49)又はNGNG(配列番号50)PAM配列)をgRNA(GAAAAGCTGAACAAAATGAG、配列番号43)とともに使用した、PWS1−7の誘導体であった。この細胞株では、結合部位6も又部分的に突然変異させた。又、gRNA(CTCAGTTCCGATGAGAACGA、配列番号44)をカノニカルspCas9とともに使用した。SNOG1del#10及びSNOG1del#84は、2種類のCRISPR(カノニカルSpCas9、NGG PAM配列)とGCCACTCTCATTCAGCACGT(配列番号45)及びGCAGATTTCATATGTACCAC(配列番号46)のgRNAを同時に用いて6つのZNF274結合部位の全クラスター(介在配列も)が欠失されたPWS1−7の誘導体であった。
【0154】
全ての細胞を、10週前脳グルタミン酸作動性ニューロンに分化させた。これらのニューロンからRNAを単離し、SNORD116HGG2(SNORD116のグループ2、SNOG2)、SNRPNエキソン1及び2(SNRPNの第1及び第2カノニカルエキソン)、SNRPNエキソン3及び4(SNRPNの遺伝子本体)、及びSNRPNエキソンU4/エキソン2(SNRPNの上流エキソンに起源する転写産物)を検出するために市販のTaqManプローブプライマーセットを用い、定量的RT−PCRを行った。使用したプローブプライマーは上記した。
【0155】
図12に示されるように、ZNF274結合部位の欠失は、PWS iPSCから誘導されたニューロンにおいて母性SNRPN及びSNORD116の発現を回復させた。ZNF274 KOを用いたB17−21及びZDL17からの結果は上記されている。PWS iPSCにおいて母性SNORD116から6つのZNF274結合部位のうち5つが欠失された場合又はPWS iPSCにおいて母性SNORD116から6つのZNF274結合部位の全クラスター(介在配列を含む)が欠失された場合、母性SNRPN及びSNORD116の残りの断片の発現の完全な活性化が得られた。この活性化は、PWSインプリンティングセンターとしても知られるカノニカルSNRPNプロモーターの活性化ではなく、SNRPNの上流エキソンの活性化により生じた。上記のZNF274 KOを用いて得られた同じ発現結果も、母性SNORD116内のZNF274結合部位を変異させることによって達成された。
【0156】
以上の特定の態様の説明は本発明の全般的性質を十分に明らかにするので、他者は当技術分野の技術の範囲内の知識を適用することにより、本開示の一般概念から逸脱することなく、過度な実験を行わずに、このような特定の態様を種々の適用のために容易に改変及び/又は適合させることができる。よって、このような適合及び改変は、本明細書に示される教示及び指針に基づき、開示される態様の等価物の意味及び範囲内にあることが意図される。本発明の表現法又は技術用語は限定ではなく説明を目的とするものであり、従って、本明細書の技術用語又は表現法は教示及び指針を鑑みて当業者により解釈されるべきであると理解される。
【0157】
本開示の幅及び範囲は、上記の例示的態様のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びそれらの等価物によってのみ定義されるべきある。
【0158】
本明細書に引用されている全ての刊行物、特許、特許出願、及び/又はその他の文献は、各個の刊行物、特許、特許出願、及び/又はその他の文献があらゆる目的で本明細書の一部として援用されることが個々に示される場合と同程度に、それらの全内容があらゆる目的で本明細書の一部として援用される。
【0159】
網羅のために、本発明の種々の態様を下記の符番した項目に示す。
第1項 配列番号13、配列番号14、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48又は配列番号48に相当するポリヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)分子。
第2項 ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムであって、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、DNAターゲッティングシステム。
第3項 少なくとも1つのgRNA内に、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、第2項に記載のDNAターゲッティングシステム。
【0160】
第4項 ZNF274タンパク質をコードする遺伝子に結合するDNAターゲッティングシステムであって、配列番号13、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号47、配列番号48、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、DNAターゲッティングシステム。
第5項 前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号13、配列番号14、配列番号47、配列番号48、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、第4項に記載のDNAターゲッティングシステム。
第6項 Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、第2項〜第5項のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム。
【0161】
第7項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はこれらの変異体を含む、第6項に記載のDNAターゲッティングシステム。
第8項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、第7項に記載のDNAターゲッティングシステム。
第9項 前記Casタンパク質が、NGG(配列番号2)、NGA(配列番号3)、NGAN(配列番号49)又はNGNG(配列番号50)のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9を含む、第6項に記載のDNAターゲッティングシステム。
【0162】
第10項 第1項に記載のgRNA分子を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
第11項 第2項〜第9項のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステムをコードする、単離されたポリヌクレオチド配列。
第12項 第10項又は第11項に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【0163】
第13項 第1項に記載のgRNA分子及びClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質をコードするベクター。
第14項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はその変異体を含む、第13項に記載のベクター。
第15項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、第14項に記載のベクター。
【0164】
第16項 第1項に記載のgRNA、第2項〜第9項のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、第10項若しくは第11項に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は第12項〜第15項のいずれか一項に記載のベクター、又はこれらの組合せを含む細胞。
第17項 前記細胞がプラダー・ウィリー症候群(PWS)患者由来の誘導多能性幹細胞(iPSC)である、第16項に記載の細胞。
第18項 前記iPSCがPWS1−7大領域欠失細胞株又はUPD1−2細胞株である、第17項に記載の細胞。
【0165】
第19項 第1項に記載のgRNA、第2項〜第9項のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、第10項若しくは第11項に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は第12項〜第15項のいずれか一項に記載のベクター、又は第16項〜第18項のいずれか一項に記載の細胞、又はこれらの組合せを含むキット。
第20項 第1項に記載のgRNA、第2項〜第9項のいずれか一項に記載のDNAターゲッティングシステム、第10項若しくは第11項に記載の単離されたポリヌクレオチド配列、又は第12項〜第15項のいずれか一項に記載のベクター、又は第16項〜第18項のいずれか一項に記載の細胞、又はこれらの組合せを含む医薬組成物。
第21項 対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法であって、
前記対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるジンクフィンガータンパク質274(ZNF274)結合部位を、ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて低減されるように改変すること
を含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、方法。
【0166】
第22項 ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が対照に比べて少なくとも90%低減される、第21項に記載の方法。
第23項 ZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合が排除される、第21項に記載の方法。
第24項 前記対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置が、ZNF274結合部位の改変前にサイレントである、第21項〜第23項のいずれか一項に記載の方法。
【0167】
第25項 前記障害がプラダー・ウィリー症候群(PWS)を含む、第21項〜第24項のいずれか一項に記載の方法。
第26項 前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位の完全欠失、ZNF274結合部位の部分的欠失、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチドの突然変異、ZNF274結合部位の1以上のヌクレオチド位置での切断、又はこれらの組合せにより改変される、第21項〜第25項のいずれか一項に記載の方法。
第27項 前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムを前記対象又は前記対象の細胞に投与することにより改変され、前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、第21項〜第26項のいずれか一項に記載の方法。
【0168】
第28項 前記ZNF274結合部位が、ZNF274結合部位に結合するDNAターゲッティングシステムをコードする単離されたポリヌクレオチドを投与することにより改変され、前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、又はこれらの変異体に相当するポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、第21項〜第26項のいずれか一項に記載の方法。
第29項 前記DNAターゲッティングシステムは、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、第27項又は第28項に記載の方法。
第30項 前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、第27項〜第29項のいずれか一項に記載の方法。
【0169】
第31項 前記DNAターゲッティングシステムがClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、第27項〜第30項のいずれか一項に記載の方法。
第32項 対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための方法であって、
前記対象に、ZNF274タンパク質と、対象の母性15番染色体の15q11−q13の位置にあるZNF274結合部位との相互作用を対照に比べて低減する薬剤の薬学上有効な量を投与することを含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、方法。
第33項 前記薬剤が配列特異的ヌクレアーゼ、又は配列特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド配列を含む、第32項に記載の方法。
【0170】
第34項 記配列特異的ヌクレアーゼがジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ、又はCRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムを含む、第33項に記載の方法。
第35項 前記CRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムがZNF274結合部位に結合し、且つ、配列番号1、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列に結合し、それを標的とする少なくとも1つのgRNAを含む、第34項に記載の方法。
第36項 前記少なくとも1つのgRNAが、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、又はこれらの変異体のうち少なくとも1つに相当するポリヌクレオチド配列を含む、第34項又は第35項に記載の方法。
【0171】
第37項 前記CRISPR/Cas9 DNAターゲッティングシステムがClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats関連(Cas)タンパク質を更に含む、第34項〜第36項のいずれか一項に記載の方法。
第38項 前記Casタンパク質がCas9を含む、第37項に記載の方法。
第39項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子、又はその変異体を含む、第37項又は第38項に記載の方法。
【0172】
第40項 前記Casタンパク質が化膿連鎖球菌Cas9分子のVQR変異体を含む、第39項に記載の方法。
第41項 15q11−q13内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
第42項 15q11−q13のプラダー・ウィリー症候群責任領域(PWSCR)内の少なくとも1つの遺伝子の発現が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
【0173】
第43項 ゲノム座標hg19 chr15:25,012,961−25,685,253又はchr15:23,695,603−25,026,558から選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
第44項 SNORD116、IPW、SNORD115、SNHG14、UBE3A−ATS、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
第45項 SNRPNエキソン2、SNRPNエキソン3、SNRPNエキソン4、UBE3A、MAGEL2、MKRN3、SNRPNエキソンU4、NDN、又はこれらの組合せのうち少なくとも1つの発現が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
【0174】
第46項 SNRPN U1Aプロモーター、SNRPN U1Bプロモーター、又はこれらの組合せからの転写の開始が増強される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
第47項 H3K9me3の結合が低減される、第21項〜第40項のいずれか一項に記載の方法。
第48項 対象においてゲノムインプリンティングの障害を治療するための製剤であって、母性ヌクレオチド配列上のZNF274結合部位へのZNF274タンパク質の結合を対照に比べて低減する薬剤を含み、前記ZNF274結合部位は、配列番号1又は配列番号42と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、製剤。
【0175】
第49項 前記障害がプラダー・ウィリー症候群(PWS)である、第48項に記載の製剤。
第50項 前記薬剤が15q11−q13内の少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化させる、第48項に記載の製剤。
第51項 前記薬剤が15q11−q13のプラダー・ウィリー症候群責任領域(PWSCR)内の少なくとも1つの遺伝子の発現を活性化させる、第48項に記載の製剤。
【0176】
第52項 前記薬剤がゲノム座標hg19 chr15:25,012,961−25,685,253又はchr15:23,695,603−25,026,558から選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現を活性化させる、第45項に記載の製剤。
第53項 前記薬剤がSNORD116、IPW、SNORD115、SNHG14、UBE3A−ATS、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つのRNA転写産物の発現を活性化させる、第48項に記載の製剤。
第54項 前記薬剤がSNRPNエキソン2、SNRPNエキソン3、SNRPNエキソン4、UBE3A、MAGEL2、MKRN3、SNRPNエキソンU4、NDN、又はこれらの組合せのうち少なくとも1つの発現を活性化させる、第48項に記載の製剤。
【0177】
第55項 前記薬剤がSNRPN U1Aプロモーター、SNRPN U1Bプロモーター、又はこれらの組合せからの転写の開始を活性化させる、第48項に記載の製剤。
第56項 前記薬剤がH3K9me3の結合を低減する、第48項に記載の製剤。
第57項 前記対照が改変されていないZNF274結合部位を含む、第21項〜第47項のいずれか一項に記載の方法又は第48項〜第56項のいずれか一項に記載の製剤。
【国際調査報告】