特表2021-505203(P2021-505203A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-505203タンパク質発現量が増大した因子VIII変異体発現ベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-505203(P2021-505203A)
(43)【公表日】2021年2月18日
(54)【発明の名称】タンパク質発現量が増大した因子VIII変異体発現ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/67 20060101AFI20210122BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20210122BHJP
   A61K 38/37 20060101ALI20210122BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210122BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20210122BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20210122BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20210122BHJP
【FI】
   C12N15/67 Z
   A61P7/04
   A61K38/37
   A61K48/00
   A61K35/76
   C12P21/02 CZNA
   C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2020-550573(P2020-550573)
(86)(22)【出願日】2018年12月5日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月5日
(86)【国際出願番号】KR2018015333
(87)【国際公開番号】WO2019112322
(87)【国際公開日】20190613
(31)【優先権主張番号】10-2017-0167405
(32)【優先日】2017年12月7日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】520200609
【氏名又は名称】ジーアンドピー バイオサイエンス カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】520200610
【氏名又は名称】レヨン ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ソン−ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ス ジン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA01
4C084DC15
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZB211
4C084ZB212
4C087AA01
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZA53
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、タンパク質発現量が増大した、血液凝固因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び該発現ベクターを含む出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物に関する。本発明の因子VIII変異体は、因子VIIIのB−ドメインの一部(残基784〜1667)及びa3領域の一部(残基1668〜1671)が欠失したものであり、その結果、前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターの場合、タンパク質発現量が顕著に増大する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失した因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む因子VIII変異体発現ベクター。
【請求項2】
前記因子VIII変異体は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の因子VIII変異体発現ベクター。
【請求項3】
前記ベクターは、pCDNA3.1、pGP及びpEFからなる群から選ばれる一つのベクターであることを特徴とする、請求項1に記載の因子VIII変異体発現ベクター。
【請求項4】
配列番号1で表示される因子VIII、B−ドメインが欠失した因子VIII、又は単一鎖因子VIIIを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターに比べてタンパク質発現量が増加したことを特徴とする、請求項1に記載の因子VIII変異体発現ベクター。
【請求項5】
請求項1の発現ベクターを含む因子VIII変異体発現用の発現システム。
【請求項6】
請求項1の発現ベクターを含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物。
【請求項7】
前記出血疾患は、A型血友病、因子VIII又は因子VIIIaに対する抑制性抗体によって引き起こされたり或いは複合化された血友病又はB型血友病であることを特徴とする、請求項6に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物。
【請求項8】
前記出血疾患は、新生凝固病症、重症肝疾患、低血小板症、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏及びフォンヴィレブランド因子に対する阻害剤を持つフォンヴィレブランド病からなる群から選ばれる一つであることを特徴とする、請求項6に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物。
【請求項9】
前記出血は、高リスク外科手術過程、外傷性血液損失、骨髄移植及び脳出血と関連した血液損失に起因するものであることを特徴とする、請求項6に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物。
【請求項10】
遺伝子治療のためのものである、請求項6に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質発現量が増大した、血液凝固因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び該発現ベクターを含む出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病(Hemophilia A,HA)は深刻な遺伝疾患の一つである。血友病はX遺伝子関連疾患であり、男性の5000人に1人が発病し、血液凝固過程の重要な成分である血漿糖タンパク質因子VIII(Factor VIII,FVIII)の変異によって発生する。この因子VIII(以下、FVIII)は2351個のアミノ酸をコードし、6個のドメイン(A1−A2−B−A3−C1−C2)を有している。このうち、A1、A2及びBドメインが重鎖であり、A3、C1及びC2ドメインが軽鎖を成して異種二量体を構成する。
【0003】
1980年代以前の血友病患者達には治療のために他の人の血漿から抽出した因子VIIIが投与されたが、このような方法にはウイルス感染などの深刻な問題があった。これらの短所を補完するために、1980年代から組換えタンパク質研究によって全長因子VIII(full−length Factor VIII)をCHO細胞などで生産して治療に使用した。その後、Bドメインが除去された形態の因子VIII(F8−BDD)が、タンパク質生産量が高いながらも活性には差がないものと知られることにより、重鎖と軽鎖をそれぞれ発現させる二本鎖(two chain)F8−BDDに基づく組換えタンパク質が開発されて使用された。最近に開発された切断された一本鎖(truncated single chain)F8−BDD組換えタンパク質は、二本鎖F8−BDDに比べて生体内安定性に優れ、AUCが2倍から4倍にまで増加することが証明された。
【0004】
一方、因子VIII組換えタンパク質治療剤は治療効力に優れているが、血友病患者において自然な内部出血を防ぐためには生体内で持続的に5%以上の濃度を維持することが重要であり、そのためには毎日又は週に2〜3回の投与が必要だった。これを克服するために、2000年代初から組換えウイルスベースの遺伝子治療剤が開発された。最近の組換えウイルスベースの遺伝子治療剤は、サイズが7Kb以上である全長因子VIIIよりは、4.4kb未満であるB−ドメイン欠失の因子VIII(以下、‘F8−BDD’という。)遺伝子を使用し、特に、二本鎖F8−BDD遺伝子よりは、一本鎖F8−BDD遺伝子を用いた治療剤の開発がその殆どを占めている。
【0005】
本発明の発明者らは、より安定性の向上した因子VIII関連遺伝子治療剤を開発するために研究を重ねた結果、真核細胞から前記一本鎖F8−BDD遺伝子に比べて安定性がより向上するだけでなく、タンパク質発現量がより増大した一本鎖F8−BDD変異体及びこれを発現する発現ベクターを開発した。また、伸長因子−1α(elongation factor−1 alpha;EF−1a)などの内因性プロモーターを利用し、前記一本鎖F8−BDD変異体(mutant)をコドン最適化(codon optimization;CO)する場合、発現量及び安定性がより増加することを具体的に確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】KR10−1542752B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする第一の課題は、タンパク質発現量が増大した因子VIII変異体発現ベクターを提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする第二の課題は、前記発現ベクターを含む出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失した因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む因子VIII変異体発現ベクターを提供する。
【0010】
本発明の一実施例において、前記因子VIII変異体は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有するものであり得る。
【0011】
本発明の一実施例において、前記ベクターはpCDNA3.1、pGP及びpEFからなる群から選ばれる一つであり得る。
【0012】
本発明の一実施例において、前記発現ベクターは、配列番号1で表示される因子VIII、B−ドメインが欠失した因子VIII又は単一鎖因子VIIIを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターに比べてタンパク質発現量が増加したものであり得る。
【0013】
また、本発明は、前記発現ベクターを含む因子VIII変異体発現用の発現システムを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記発現ベクターを含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供する。
【0015】
本発明の一実施例において、前記出血疾患は、A型血友病、因子VIII又は因子VIIIaに対する抑制性抗体によって引き起こされたり或いは複合化された血友病又はB型血友病であり得る。
【0016】
本発明の一実施例において、前記出血疾患は、新生凝固病症、重症肝疾患、低血小板症、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏及びフォンヴィレブランド因子に対する阻害剤を持つフォンヴィレブランド病からなる群から選ばれる一つであり得る。
【0017】
本発明の一実施例において、前記出血は、高リスク外科手術過程、外傷性血液損失、骨髄移植及び脳出血に関連した血液損失に起因するものであり得る。
【0018】
本発明の一実施例において、前記薬学的組成物は遺伝子治療のためのものであり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の因子VIII変異体は、因子VIIIのB−ドメインの一部(残基784〜1667)及びa3領域の一部(残基1668〜1671)が欠失したものであり、前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターの場合、タンパク質発現量が顕著に増大する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例に係る因子VIII変異体をデザインする過程を示す模式図である。
図2】pCDNA3.1ベクターの開裂地図である。
図3】pGPベクターの開裂地図である。
図4】pEFベクターの開裂地図である。
図5】製造例1によるそれぞれのpCDNA3.1プラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
図6】製造例1によるそれぞれのpCDNA3.1プラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定した血液凝固活性を示すグラフである。
図7】製造例2によるそれぞれのpGPプラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
図8】製造例3によるそれぞれのpEPプラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の一側面によれば、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失した因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む因子VIII変異体発現ベクターを提供する。
【0023】
因子VIII変異体
本明細書において、用語“血液凝固因子VIII”、“因子VIII”、“FVIII”及び“F8”は同じ意味で使われる。成熟したヒト因子VIIIは2351個(シングルペプチドを含む。)のアミノ酸が次のドメイン構造で配列されて構成される:
【0024】
【化1】
【0025】
シングルペプチド:残基1〜19、
A1:残基20〜355、
A2:残基392〜729、
B:残基760〜1667、
A3:残基1709〜2038、
C1:残基2039〜2191、及び
C2:残基2192〜2351。
【0026】
その他に、3個の酸性領域a1(356〜391)、a2(730〜759)及びa3(1668〜1708)がある。酸性領域a3は、血液凝固に重要な役割を果たすフォンヴィレブランド因子(vWF)への因子VIII分子の結合に関与するものと知られている。分泌される過程で因子VIIIはB−ドメインとa3酸性領域との間が切断され、その結果、ヘテロ二量体ポリペプチドが生成される。因子VIIIヘテロ二量体は、軽鎖(A3、C1及びC2を含む。)と可変的なサイズを有する重鎖(A1、A2とBを含む)とからなる。重鎖は、B−ドメイン内における制限的なタンパク質分解によって異質性である。ヘテロ二量体B−ドメイン欠失の因子VIIIの場合、“重鎖”はA1及びA2を含むが、B−ドメインが一部又は全部欠失する。
【0027】
ヒト血液凝固因子VIIIの成熟野生型タイプのアミノ酸配列を配列番号1に示した。特定配列のアミノ酸位置に対する参照番号はVIII野生型タンパク質内における該当のアミノ酸位置を意味し、言及される配列内の他の位置において突然変異(例えば、欠失、挿入及び/又は置換)の存在を排除しない。前記配列番号1の暗号化DNA配列は、配列番号2に該当する。
【0028】
“血液凝固因子VIII”は、野生型血液凝固因子VIIIだけでなく、野生型血液凝固因子VIIIの凝固促進活性を有する野生型血液凝固因子VIIIの誘導体を含む。前記誘導体は、野生型因子VIIIのアミノ酸配列と比較して欠失、挿入及び/又は付加された配列を有することができる。好ましい誘導体は、B−ドメインの全部又は一部が欠失したFVIII分子である。本明細書全般に表記されたアミノ酸の位置は、常に、全長成熟(シグナルペプチドを含む。)野生型因子VIIIにおける個々のアミノ酸の位置を指す。
【0029】
本明細書で“変異体”との用語は、アミノ酸配列又は核酸配列などの保存的又は非保存的な置換、挿入又は欠失を含み、このような変化は、それぞれのFVIIIの生物学的活性を付与する活性部位又は活性ドメインを実質的に変更させない。
【0030】
本発明に係る因子VIII変異体は、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失したものを意味する。前記変異体は単一鎖の因子VIII変異体である。前記因子VIII変異体は、B−ドメインの一部(残基784〜1667)及びa3領域の一部(残基1668〜1671)が欠失したものであり、該変異体は因子VIII、B−ドメイン欠失の因子VIII、及び単一鎖の因子VIIIに比べてタンパク質発現量が増大し、血液凝固活性及び安定性が向上する。前記因子VIII変異体は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
前記“単一鎖因子VIII”は、該因子VIII分子を発現する細胞から分泌される間にタンパク質分解によって2つの鎖(例えば、重鎖と軽鎖)に切断されず、単一ポリペプチド鎖として存在する因子VIII分子を意味する。
【0032】
ポリヌクレオチド
また、本発明は、前記配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有する因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドに関する。
【0033】
本明細書で“ポリヌクレオチド”という用語は、非変形RNA又はDNA若しくは変形RNA又はDNAであり得る任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味する。本発明のポリヌクレオチドは単一鎖のDNA又はRNAであり得る。本明細書に使われた“ポリヌクレオチド”との用語は、変形塩基及び/又は独特の塩基、例えばイノシンを含むDNA又はRNAを含む。前記DNA又はRNAの場合、公知の有用な目的を提供する様々な変形がなされ得ることは明らかである。本明細書に使われた“ポリヌクレオチド”との用語は、このような化学的、酵素的又は代謝的に変形されたポリヌクレオチドを含む。
【0034】
当業者には、遺伝子暗号の縮退性によって前記の因子VIII変異体が様々なポリヌクレオチドによって暗号化され得ることが分かるだろう。すなわち、本発明で利用可能な因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチド配列は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列と実質的な同一性を示すヌクレオチド配列も含むものと解釈される。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、分離されたポリヌクレオチドが好ましい。“分離された”ポリヌクレオチドという用語は、他の染色体及び染色体外のDNA及びRNAのような、これに限定されない他の核酸配列がほとんどないポリヌクレオチドを意味する。分離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製され得る。分離されたポリヌクレオチドを得るために、当業者に公知の通常の核酸精製方法を用いることができる。また、この用語は、組換えポリヌクレオチド及び化学的に合成されたポリヌクレオチドも含む。
【0036】
因子VIII変異体発現用の発現システム
発現ベクター
本発明の他の側面は、前記因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む発現ベクター(以下、‘因子VIII変異体発現ベクター’という。)を提供する。
【0037】
本明細書で用語“発現(expression)”とは、細胞から因子VIII変異体の生成を意味する。
【0038】
本明細書で用語“発現ベクター”とは、適切な宿主細胞から前記因子VIII変異体を発現させ得るベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物のことを指す。
【0039】
本明細書で用語“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般の機能を行うように核酸発現調節配列と前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドが機能的に連結(functional linkage)されていることを意味する。例えば、プロモーターと前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドとが作動可能に連結され、前記ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼすことができる。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野によく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位−特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野に通常知られた酵素などを使用する。
【0040】
本発明の発現ベクターはプラスミド、ベクター又はウイルスベクターを用いて作製されるが、これに限定されるものではない。好適な発現ベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーのような発現調節エレメントなどを含むことができ、目的に応じて様々に製造されてもよく、ベクターのプロモーターは構成的又は誘導性であり得る。
【0041】
前記発現ベクターは、pCDNA3.1、pGP及びpEFからなる群から選ばれる一つのベクターを用いて製造されることが効果面で好ましい。具体的に、前記因子VIII変異体発現ベクターは、配列番号1で表示される因子VIII、B−ドメインが欠失した因子VIII又は単一鎖因子VIIIを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターに比べて、タンパク質発現量が顕著に増大する。特に、EF1aプロモーターなどの内因性プロモーターを利用し、一本鎖F8−BDD変異体をコドン最適化(CO)する場合には、タンパク質発現量及び安定性がより向上し得ることを具体的な事例から確認した。
【0042】
宿主細胞から前記因子VIII変異体を高いレベルに生産するためには、効果的な転写単位に前述の変形cDNAのアセンブリーとともに、当業者に公知の方法によって様々な発現システムで増殖可能な組換え発現ベクター中の適切な調節要素を必要とする。効果的な転写調節要素は、自然宿主が動物細胞であるウイルスに由来したり、又は動物細胞の染色体DNAから由来し得る。好ましくは、シミアンウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス又はラウス肉腫ウイルスの長末端反復体由来のプロモーター−エンハンサー組合せ、又はベータ−アクチン又はGRP78のような動物細胞中の強い構成的転写遺伝子を含むプロモーター−エンハンサー組合せを用いることができる。cDNAから転写されたmRNAを安定した高いレベルに達成するために、転写単位はその3’−隣接部分に、転写終結−ポリアデニル化配列を暗号化するDNA領域を含む必要がある。この配列は、シミアンウイルス40早期転写領域、ウサギベータ−グロビン遺伝子又はヒト組織プラスミノゲン活性因子遺伝子に由来することが好ましい。
【0043】
因子VIII変異体の発現
前記発現ベクターは適当な宿主細胞に形質感染され、その結果、本発明の因子VIII変異体の発現と機能性タンパク質の形成につながり得る。
【0044】
本発明のさらに他の観点は、上記のポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞である。
【0045】
本発明の宿主細胞は、本発明の因子VIII変異体を生産する方法に使用可能である。前記方法は、(a)前記宿主細胞を、前記因子VIII変異体を発現させる条件下で培養する段階;及び(b)前記因子VIII変異体を前記宿主細胞又は培養培地から回収する段階;を含むことができる。
【0046】
具体的に、cDNAなどのヌクレオチドは、因子VIII変異体の発現のために、適切な宿主細胞のゲノムに統合される。このような細胞株は、好ましくは正確なフォールディング、二硫化結合形成、アスパラギン結合したグリコシル化及び他の解読後変形を保障し、且つ培養培地への分泌を確実にするために、脊椎動物起源の動物細胞株でなければならない。他の解読後変形の例には、チロシンO−硫酸化及び新生ポリペプチド鎖のタンパク質分解プロセシングがある。使用可能な細胞株の例は、サルCOS−細胞、マウスL−細胞、マウスC127−細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胚性腎293細胞、ハムスターCHO−細胞である。
【0047】
対応するcDNAを暗号化する組換え発現ベクターは、様々な異なる方式で動物細胞株に導入され得る。例えば、組換え発現ベクターは、異なる動物ウイルスに基づくベクターで生成され得る。その例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス及び好ましくはウシ乳頭腫ウイルスに基づくベクターである。
【0048】
また、対応するDNAを暗号化する転写単位は、ゲノムに組換えDNAが統合された特定細胞クローンの分離を容易にさせるために、前記細胞に優性選別マーカーとして作用できる他の組換え遺伝子と共に動物細胞内に導入され得る。このような種類の優性選別マーカー遺伝子の例は、ゲネチシン(G418)に対する耐性を付与するTn5アミノグリコシドフォスフォトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ、及びピューロマイシンに対する耐性を付与するピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼである。このような選別マーカーを暗号化する組換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAを暗号化するベクターと同じベクターに存在し得るか、或いは宿主細胞のゲノムに同時に導入されて統合される分離されたベクターで暗号化され、しばしば異なる転写単位間に強い物理的結合がなされることもある。
【0049】
所望のタンパク質のcDNAと共に使用され得る選別マーカー遺伝子の他の種類は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)を暗号化する様々な転写単位に基づく。このような種類の遺伝子を、内因性dhfr活性が欠如した細胞、主にCHO細胞(DUKX−B11、DG−44)に導入させた後、これらの細胞をヌクレオシドが欠如した培地で増殖させ得るだろう。このような培地の例には、ヒポキサンチン、チミジン及びグリシンを含まないハム(Ham’s)F12がある。これらのdhfr−遺伝子は、因子VIII cDNA転写単位と共に、同一のベクターに結合したり又は異なるベクターに結合して前述の種類のCHO細胞に導入され得る。その結果、組換えタンパク質を生産するdhfr陽性細胞株が生成される。
【0050】
前記細胞株が細胞毒性dhfr−抑制剤メトトレキサートの存在下に増殖すると、メトトレキサート耐性である新規細胞株が出現するだろう。このような細胞株は、結合したdhfrと所望のタンパク質の転写単位の増幅した数によって増加した速度で組換えタンパク質を生産することができる。メトトレキサートの濃度(1〜10000nM)を増加させながら前記細胞株を増殖させると、所望のタンパク質を生産する新規細胞株が非常に高い割合で得られる。
【0051】
所望のタンパク質を生産する前記細胞株は、懸濁培養又は様々な固体支持体上で大量に増殖し得る。前記支持体の例は、デキストラン又はコラーゲンマトリックスに基づくマイクロキャリア、又は中空ファイバー形態又は様々なセラミック材料形態の固体支持体である。細胞懸濁培養で増殖したり或いはマイクロキャリアで増殖するとき、前記細胞株の培養は水槽(bath)培養又は長時間にわたって条件培地が連続生産される貫流培養として行うことができる。したがって、本発明によれば、前記細胞株は、所望の組換え突然変異タンパク質を生産するための産業用工程の開発に非常に適している。
【0052】
薬学的組成物
また、本発明は、前記の発現ベクターを含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供する。
【0053】
前記出血疾患は、A型血友病、因子VIII又は因子VIIIaに対する抑制性抗体によって引き起こされたり或いは複合化された血友病又はB型血友病であり得る。また、前記出血疾患は、新生凝固病症、重症肝疾患、低血小板症、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏及びフォンヴィレブランド因子に対する阻害剤を持つフォンヴィレブランド病からなる群から選ばれる一つであり得る。
【0054】
そして、前記出血は、高リスク外科手術過程、外傷性血液損失、骨髄移植及び脳出血に関連した血液損失に起因するものであり得る。
【0055】
前記本発明の薬学的組成物は、遺伝子治療のためのものであり得る。
【0056】
因子VIII変異体の精製
前述した種類の分泌細胞の培地で蓄積される因子VIII変異体は、様々な生化学及びクロマトグラフィー方法、例えば所望のタンパク質と細胞培養培地中の他の物質とのサイズ、電荷、疎水性、溶解性、特異的な親和性などの差を利用する方法などで濃縮及び精製することができる。
【0057】
本発明の因子VIII変異体は、純度80%以上、より好ましくは95%以上に精製することが好ましく、特に、汚染性巨大分子、特に他のタンパク質及び核酸に対して純度99.9%を超え、感染源及び発熱源のない薬剤学的に純粋な状態が好ましい。本発明の分離又は精製された変異体は、他の非関連ポリペプチドが実質的にないことが好ましい。
【0058】
このような精製の一例として、固体支持体に因子VIII変異体を吸着させ、洗浄及び脱着処理した後、前記タンパク質は前述した性質に基づく様々なクロマトグラフィー技術を用いてさらに精製することができる。精製段階の順序は、例えば各段階の能力又は選択性、支持体の安定性又は他の観点によって選択する。好ましい精製段階は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー段階、免疫親和性クロマトグラフィー段階、親和性クロマトグラフィー段階、疎水性相互作用クロマトグラフィー段階、染料クロマトグラフィー段階及びサイズ排除クロマトグラフィー段階であるが、これに限定されるものではない。
【0059】
ウイルス汚染の理論的危険を最小化するために、ウイルスを効果的に不活性化又は除去する段階を本方法にさらに含めることができる。このような段階は、例えば、液体又は固体状態での熱処理、溶媒及び/又は界面活性剤の処理、可視光線又はUVスペクトルでの光照射、ガンマ照射又はナノ濾過である。
【0060】
本発明の変形ポリヌクレオチド(例えば、DNA)はまた、ヒトの遺伝子治療方法に用いられる伝達ベクターに統合させてもよい。
【0061】
本明細書に記述された様々な態様は互いに組合せ可能である。以下、本発明は実施例を用いてより詳細に説明されるだろう。それらの本発明の特定態様に関する説明は、添付の図面と関連付けて述べるだろう。
【0062】
剤形
本発明に記述された挿入タンパク質は、治療用薬剤学的製剤に剤形化され得る。精製されたタンパク質は通常の生理学的に適切な水性緩衝溶液に溶解され、ここに薬剤学的賦形剤が選択的に添加されて薬剤学的製剤が提供され得る。
【0063】
このような薬剤学的担体及び賦形剤の他、適切な薬剤学的剤形が当業界に公知されている(例えば、“Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins”、Frokjaer et al.,Taylor & Francis(2000)又は“Handbook of Pharmaceutical Excipients”、3rd edition,Kibbe et al.,Pharmaceutical Press(2000))。特に、本発明の変異体を含有する薬学的組成物は、凍結乾燥形態又は安定した液体形態に剤形化され得る。本発明の変異体は当業界に公知の様々な手順によって凍結乾燥し得る。凍結乾燥した剤形は、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水のような一つ以上の薬剤学的に許容される希釈剤を添加し、使用前に再構成させる。
【0064】
組成物の剤形は、任意の薬剤学的に適切な投与手段によって個体に伝達される。様々な伝達システムが公知されており、組成物を任意の便利な経路で投与するのに使用することができる。主に、本発明の組成物は全身投与される。全身投与用の場合、本発明の挿入タンパク質は、通常の方法によって非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内又は経皮)伝達又は腸(例えば、経口、膣又は直腸)伝達用に剤形化される。最も優先的な投与経路は、静脈内及び皮下投与である。これらの剤形は、注入又は一時注射によって連続して投与され得る。一部の剤形は徐放型システムを含む。
【0065】
本発明の挿入タンパク質は、許容できない副作用を引き起こす容量に達することなく、治療する病態又は徴候の重症度又は拡散を予防又は縮小させながら所望の効果を生産するのに十分な容量を意味する治療学的有効量を患者に投与する。正確な容量は、徴候、剤形、投与方式などの様々な要因によって変わるところ、それぞれの徴候ごとに臨床前に及び臨床試験によって決定される必要がある。
【0066】
本発明の薬学的組成物は単独投与してもよく、他の治療剤と併用投与してもよい。このような製剤は同一薬剤の一部として含まれ得る。このような製剤の一例は、フォンヴィレブランド因子である。
【0067】
治療方法
また、本発明は、A型血友病、B型血友病又は後天的血友病のような出血疾患をもつ個体を治療する方法に関する。前記治療方法は、本発明の発現ベクターを含む薬学的組成物を有効量で個体に投与する段階を含むことができる。或いは、本発明の宿主細胞の有効量を前記個体に投与する段階を含むことができる。
【0068】
本発明の一具現例によれば、本発明の因子VIII変異体はそれぞれ10ng〜100mgの投与量で投与され、前記タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドはそれぞれ1μg〜100mgの投与量で投与され得る。前記H因子VIII変異体又はこれを暗号化するポリヌクレオチドの投与が1回を超えて反復されるとき、投与量は毎回同一でもよく異なってもよい。
【0069】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれによって制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0070】
実施例
実施例1.因子VIII変異体(F8M)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び2を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号5で表示される切片1を製造した。PCRは、鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(pfu enzyme mix)(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び3を用いて上の方法と同じPCRによって配列番号6で表示される切片2を製造した。その後、前記切片1及び2をプライマー9及び10を用いて重複PCR(overlapping PCR)を行うことによって単一鎖因子VIII変異体を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0071】
実施例2.因子VIII変異体CO(F8M CO)の作製
前記実施例1で製造された因子VIII変異体の塩基配列に基づいてOptimumGeneTMアルゴリズムを用いてコドン最適化(codon optimization)させた塩基配列を確定した後、前記塩基配列をGenscript社に依頼及び合成して、配列番号4で表示される因子VIII変異体COを作製した。
【0072】
比較例1.因子VIII(F8)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(F8)の遺伝子(NM_000132.3)をOrigeneテクノロジー社(MD,USA)から購買して作製した。
【0073】
比較例2.B−ドメイン欠失の因子VIII(F8BDD)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び4を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号7で表示される切片3を製造した。PCRは、鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び5を用いて上の方法と同じPCRによって配列番号8で表示される切片4を製造した。その後、前記切片3及び4をプライマー9及び10を用いて重複PCRを行うことによってB−ドメイン欠失の因子VIII(F8BDD)を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0074】
比較例3.単一鎖因子VIII(sc F8)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び6を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号9で表示される切片5を製造した。PCRは鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び7を用いて上の方法と同じPCRによって、配列番号10で表示される切片6を製造した。その後、前記切片5及び6をプライマー9及び10を用いて重複PCRを行うことによって、配列番号11で表示される単一鎖因子VIII変異体(sc F8)を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0075】
前記実施例及び比較例で用いられたプライマーを整理して下表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
製造例
製造例1.発現ベクターの作製(pCDNA3.1)
Genscript社から購買したpCDNA3.1(配列番号12で表示)と前記実施例及び比較例で製造されたタンパク質のそれぞれをNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離された切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後、ミニプレップ(mini−prep)してDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0078】
製造例2.発現ベクターの作製(pGP)
李等(Lee Y,et al.Improved expression of vascular endothelial growth factor by naked DNA in mouse skeletal muscles:implication for gene therapy of ischemic diseases.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002;272(1):230−235)の論文及び特許を参照してpCKベクターを合成した後、前記表1のプライマー11及び12を用いて上述の方法と同じ方法でPCRをして切片を得、EcoRI酵素で37℃で1時間反応した後、Expin Gel SV(GeneAll,Korea)キットを用いてDNAを精製した。その後、T4リガーゼを用いて30分間ライゲーションした後、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、配列番号13で表示されるpGPベクターを作製した。
【0079】
前記製造したpGPベクターと実施例及び比較例で製造した切片をそれぞれNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離した切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0080】
製造例3.発現ベクターの作製(pEF)
ThermoFisherサイエンティフィック社から購買したpEFベクター(配列番号14で表示)と実施例及び比較例で製造したDNA切片をそれぞれNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離された切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0081】
前記発現ベクターを下表2に整理して示す。
【0082】
【表2】
【0083】
実験例
試料の製造
前記製造例で製造した後、標準プロトコル(Qiagen)によって精製した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、大腸菌に各プラスミドDNAを形質転換(transformation)した後、一晩37℃で培養した。培養した大腸菌を遠心分離機を用いて収集し、P1、P2、P3を用いて大腸菌細胞を溶解(lysis)した後、遠心分離によって上澄液を得た。上澄液をマキシプレップカラム(maxi−prep column)で重力を用いて通過させた後、溶出バッファー(elution buffer)を用いてプラスミドDNAが含まれた上澄液を得た。0.7体積のisoprophanolを加えた後、高速遠心分離機を用いて12,000rpmで30分間遠心分離して発現ベクターを得た。それぞれの発現ベクターをJetPEI(Polyplus,USA)を用いてメーカーの指示通りに5×10個の293T細胞(ATCC CRL1573)にそれぞれトランスフェクションした。トランスフェクションして6時間後に無血清培地(serum free media)に培養液を変えた。その後、37℃で培養して2日目と5日目にそれぞれの上澄液を収集し、遠心分離機を用いて12,000rpmで5分間遠心分離した後、上澄液を−80℃に保管した。
【0084】
実験例1.発現ベクター(pCDNA3.1)を含む細胞のタンパク質発現量及び活性
製造例1によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量及び生物学的活性を測定した。
【0085】
タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り器を用いて450nmで測定した。その測定結果を図5及び下表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図5及び表3から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpCDNA3.1−F8変異体(実施例1−1)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pCDNA3.1vehicle(対照群1)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0088】
また、生物学的活性分析は、血液凝固活性分析キット(Stago,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、標準品を1IU/mLからOwren−Koller液で段階希釈(serial dilution)して0.51、0.25、0.13IU/mLの濃度に製造した。その後、サンプルと標準品の溶液に0.025M CaCl、APTT試薬の活性化剤、因子VIII欠乏プラズマ(deficient plasma)を入れて37℃で反応した後、血液凝固分析機(Stago compact,France)を用いて測定した。その測定結果を標準品と比較して活性に換算して図6及び下表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
図6及び表4から、CDNA3.1−F8変異体(実施例1−1)が顕著に高い血液凝固活性を示すことを確認した。
【0091】
実験例2.発現ベクター(pGP)を含む細胞のタンパク質発現量
製造例2によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量を測定した。
【0092】
タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り機を用いて450nmで測定した。その測定結果を図7及び下表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
図7及び表5から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpGP−F8変異体(実施例1−2)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pGPビークル(対照群2)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0095】
実験例3.発現ベクター(pEF)を含む細胞のタンパク質発現量
製造例3によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量を測定した。
【0096】
このとき、タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り機を用いて450nmで測定した。その測定結果を図8及び下表6に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
図8及び表6から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpEF−F8変異体(実施例1−3)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pEFビークル(対照群3)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0099】
以上の結果から、因子VIII変異体(F8M)が因子VIII(F8)に比べて高いタンパク質発現量を示し得ることを確認し、特に、2日目に比べて5日目にタンパク質発現量が高くなることから、因子VIII変異体(F8M)タンパク質が因子VIII(F8)に比べて安定性が高いものと判断される。また、5日目の血液凝固活性を比較した結果、因子VIII変異体(F8M)が因子VIII(F8)に比べて高い活性(約2.5倍)を示した。このことから、本発明の因子VIII変異体(F8M)遺伝子治療剤が、血液凝固活性の高いタンパク質をより高いレベルに発現するということが分かる。さらに、EF1aプロモーターを持つpEFベクターでは、因子VIII変異体(F8M)をコドン最適化した場合、5日目にタンパク質の発現及び安定性がより増加することが観察できた(図8)。
【0100】
たとえ本発明が上述の好ましい実施例として説明されたが、発明の要旨と範囲から逸脱することなく様々な修正や変形をしてもよい。また、添付する特許請求の範囲は、本発明の要旨に属する上記の修正や変形を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2021505203000001.app
【手続補正書】
【提出日】2020年6月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質発現量が増大した、血液凝固因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び該発現ベクターを含む出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病(Hemophilia A,HA)は深刻な遺伝疾患の一つである。血友病はX遺伝子関連疾患であり、男性の5000人に1人が発病し、血液凝固過程の重要な成分である血漿糖タンパク質因子VIII(Factor VIII,FVIII)の変異によって発生する。この因子VIII(以下、FVIII)は2351個のアミノ酸をコードし、6個のドメイン(A1−A2−B−A3−C1−C2)を有している。このうち、A1、A2及びBドメインが重鎖であり、A3、C1及びC2ドメインが軽鎖を成して異種二量体を構成する。
【0003】
1980年代以前の血友病患者達には治療のために他の人の血漿から抽出した因子VIIIが投与されたが、このような方法にはウイルス感染などの深刻な問題があった。これらの短所を補完するために、1980年代から組換えタンパク質研究によって全長因子VIII(full−length Factor VIII)をCHO細胞などで生産して治療に使用した。その後、Bドメインが除去された形態の因子VIII(F8−BDD)が、タンパク質生産量が高いながらも活性には差がないものと知られることにより、重鎖と軽鎖をそれぞれ発現させる二本鎖(two chain)F8−BDDに基づく組換えタンパク質が開発されて使用された。最近に開発された切断された一本鎖(truncated single chain)F8−BDD組換えタンパク質は、二本鎖F8−BDDに比べて生体内安定性に優れ、AUCが2倍から4倍にまで増加することが証明された。
【0004】
一方、因子VIII組換えタンパク質治療剤は治療効力に優れているが、血友病患者において自然な内部出血を防ぐためには生体内で持続的に5%以上の濃度を維持することが重要であり、そのためには毎日又は週に2〜3回の投与が必要だった。これを克服するために、2000年代初から組換えウイルスベースの遺伝子治療剤が開発された。最近の組換えウイルスベースの遺伝子治療剤は、サイズが7Kb以上である全長因子VIIIよりは、4.4kb未満であるB−ドメイン欠失の因子VIII(以下、‘F8−BDD’という。)遺伝子を使用し、特に、二本鎖F8−BDD遺伝子よりは、一本鎖F8−BDD遺伝子を用いた治療剤の開発がその殆どを占めている。
【0005】
本発明の発明者らは、より安定性の向上した因子VIII関連遺伝子治療剤を開発するために研究を重ねた結果、真核細胞から前記一本鎖F8−BDD遺伝子に比べて安定性がより向上するだけでなく、タンパク質発現量がより増大した一本鎖F8−BDD変異体及びこれを発現する発現ベクターを開発した。また、伸長因子−1α(elongation factor−1 alpha;EF−1a)などの内因性プロモーターを利用し、前記一本鎖F8−BDD変異体(mutant)をコドン最適化(codon optimization;CO)する場合、発現量及び安定性がより増加することを具体的に確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】KR10−1542752B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする第一の課題は、タンパク質発現量が増大した因子VIII変異体発現ベクターを提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする第二の課題は、前記発現ベクターを含む出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失した因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む因子VIII変異体発現ベクターを提供する。
【0010】
本発明の一実施例において、前記因子VIII変異体は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有するものであり得る。
【0011】
本発明の一実施例において、前記ベクターはpCDNA3.1、pGP及びpEFからなる群から選ばれる一つであり得る。
【0012】
本発明の一実施例において、前記発現ベクターは、配列番号1で表示される因子VIII、B−ドメインが欠失した因子VIII又は単一鎖因子VIIIを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターに比べてタンパク質発現量が増加したものであり得る。
【0013】
また、本発明は、前記発現ベクターを含む因子VIII変異体発現用の発現システムを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記発現ベクターを含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供する。
【0015】
本発明の一実施例において、前記出血疾患は、A型血友病、因子VIII又は因子VIIIaに対する抑制性抗体によって引き起こされたり或いは複合化された血友病又はB型血友病であり得る。
【0016】
本発明の一実施例において、前記出血疾患は、新生凝固病症、重症肝疾患、低血小板症、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏及びフォンヴィレブランド因子に対する阻害剤を持つフォンヴィレブランド病からなる群から選ばれる一つであり得る。
【0017】
本発明の一実施例において、前記出血は、高リスク外科手術過程、外傷性血液損失、骨髄移植及び脳出血に関連した血液損失に起因するものであり得る。
【0018】
本発明の一実施例において、前記薬学的組成物は遺伝子治療のためのものであり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の因子VIII変異体は、因子VIIIのB−ドメインの一部(残基784〜1667)及びa3領域の一部(残基1668〜1671)が欠失したものであり、前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターの場合、タンパク質発現量が顕著に増大する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例に係る因子VIII変異体をデザインする過程を示す模式図である。
図2】pCDNA3.1ベクターの開裂地図である。
図3】pGPベクターの開裂地図である。
図4】pEFベクターの開裂地図である。
図5】製造例1によるそれぞれのpCDNA3.1プラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
図6】製造例1によるそれぞれのpCDNA3.1プラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定した血液凝固活性を示すグラフである。
図7】製造例2によるそれぞれのpGPプラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
図8】製造例3によるそれぞれのpEPプラスミドをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いて測定したタンパク質発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の一側面によれば、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失した因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む因子VIII変異体発現ベクターを提供する。
【0023】
因子VIII変異体
本明細書において、用語“血液凝固因子VIII”、“因子VIII”、“FVIII”及び“F8”は同じ意味で使われる。成熟したヒト因子VIIIは2351個(シングルペプチドを含む。)のアミノ酸が次のドメイン構造で配列されて構成される:
【0024】
【化1】
【0025】
シングルペプチド:残基1〜19、
A1:残基20〜355、
A2:残基392〜729、
B:残基760〜1667、
A3:残基1709〜2038、
C1:残基2039〜2191、及び
C2:残基2192〜2351。
【0026】
その他に、3個の酸性領域a1(356〜391)、a2(730〜759)及びa3(1668〜1708)がある。酸性領域a3は、血液凝固に重要な役割を果たすフォンヴィレブランド因子(vWF)への因子VIII分子の結合に関与するものと知られている。分泌される過程で因子VIIIはB−ドメインとa3酸性領域との間が切断され、その結果、ヘテロ二量体ポリペプチドが生成される。因子VIIIヘテロ二量体は、軽鎖(A3、C1及びC2を含む。)と可変的なサイズを有する重鎖(A1、A2とBを含む)とからなる。重鎖は、B−ドメイン内における制限的なタンパク質分解によって異質性である。ヘテロ二量体B−ドメイン欠失の因子VIIIの場合、“重鎖”はA1及びA2を含むが、B−ドメインが一部又は全部欠失する。
【0027】
ヒト血液凝固因子VIIIの成熟野生型タイプのアミノ酸配列を配列番号1に示した。特定配列のアミノ酸位置に対する参照番号はVIII野生型タンパク質内における該当のアミノ酸位置を意味し、言及される配列内の他の位置において突然変異(例えば、欠失、挿入及び/又は置換)の存在を排除しない。前記配列番号1の暗号化DNA配列は、配列番号2に該当する。
【0028】
“血液凝固因子VIII”は、野生型血液凝固因子VIIIだけでなく、野生型血液凝固因子VIIIの凝固促進活性を有する野生型血液凝固因子VIIIの誘導体を含む。前記誘導体は、野生型因子VIIIのアミノ酸配列と比較して欠失、挿入及び/又は付加された配列を有することができる。好ましい誘導体は、B−ドメインの全部又は一部が欠失したFVIII分子である。本明細書全般に表記されたアミノ酸の位置は、常に、全長成熟(シグナルペプチドを含む。)野生型因子VIIIにおける個々のアミノ酸の位置を指す。
【0029】
本明細書で“変異体”との用語は、アミノ酸配列又は核酸配列などの保存的又は非保存的な置換、挿入又は欠失を含み、このような変化は、それぞれのFVIIIの生物学的活性を付与する活性部位又は活性ドメインを実質的に変更させない。
【0030】
本発明に係る因子VIII変異体は、配列番号1で表示される因子VIIIからAsp784〜Arg1671のアミノ酸が欠失したものを意味する。前記変異体は単一鎖の因子VIII変異体である。前記因子VIII変異体は、B−ドメインの一部(残基784〜1667)及びa3領域の一部(残基1668〜1671)が欠失したものであり、該変異体は因子VIII、B−ドメイン欠失の因子VIII、及び単一鎖の因子VIIIに比べてタンパク質発現量が増大し、血液凝固活性及び安定性が向上する。前記因子VIII変異体は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
前記“単一鎖因子VIII”は、該因子VIII分子を発現する細胞から分泌される間にタンパク質分解によって2つの鎖(例えば、重鎖と軽鎖)に切断されず、単一ポリペプチド鎖として存在する因子VIII分子を意味する。
【0032】
ポリヌクレオチド
また、本発明は、前記配列番号3で表示されるアミノ酸配列を有する因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドに関する。
【0033】
本明細書で“ポリヌクレオチド”という用語は、非変形RNA又はDNA若しくは変形RNA又はDNAであり得る任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味する。本発明のポリヌクレオチドは単一鎖のDNA又はRNAであり得る。本明細書に使われた“ポリヌクレオチド”との用語は、変形塩基及び/又は独特の塩基、例えばイノシンを含むDNA又はRNAを含む。前記DNA又はRNAの場合、公知の有用な目的を提供する様々な変形がなされ得ることは明らかである。本明細書に使われた“ポリヌクレオチド”との用語は、このような化学的、酵素的又は代謝的に変形されたポリヌクレオチドを含む。
【0034】
当業者には、遺伝子暗号の縮退性によって前記の因子VIII変異体が様々なポリヌクレオチドによって暗号化され得ることが分かるだろう。すなわち、本発明で利用可能な因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチド配列は、配列番号3で表示されるアミノ酸配列と実質的な同一性を示すヌクレオチド配列も含むものと解釈される。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、分離されたポリヌクレオチドが好ましい。“分離された”ポリヌクレオチドという用語は、他の染色体及び染色体外のDNA及びRNAのような、これに限定されない他の核酸配列がほとんどないポリヌクレオチドを意味する。分離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製され得る。分離されたポリヌクレオチドを得るために、当業者に公知の通常の核酸精製方法を用いることができる。また、この用語は、組換えポリヌクレオチド及び化学的に合成されたポリヌクレオチドも含む。
【0036】
因子VIII変異体発現用の発現システム
発現ベクター
本発明の他の側面は、前記因子VIII変異体を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む発現ベクター(以下、‘因子VIII変異体発現ベクター’という。)を提供する。
【0037】
本明細書で用語“発現(expression)”とは、細胞から因子VIII変異体の生成を意味する。
【0038】
本明細書で用語“発現ベクター”とは、適切な宿主細胞から前記因子VIII変異体を発現させ得るベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物のことを指す。
【0039】
本明細書で用語“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般の機能を行うように核酸発現調節配列と前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドが機能的に連結(functional linkage)されていることを意味する。例えば、プロモーターと前記因子VIII変異体を暗号化するポリヌクレオチドとが作動可能に連結され、前記ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼすことができる。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野によく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位−特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野に通常知られた酵素などを使用する。
【0040】
本発明の発現ベクターはプラスミド、ベクター又はウイルスベクターを用いて作製されるが、これに限定されるものではない。好適な発現ベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーのような発現調節エレメントなどを含むことができ、目的に応じて様々に製造されてもよく、ベクターのプロモーターは構成的又は誘導性であり得る。
【0041】
前記発現ベクターは、pCDNA3.1、pGP及びpEFからなる群から選ばれる一つのベクターを用いて製造されることが効果面で好ましい。具体的に、前記因子VIII変異体発現ベクターは、配列番号1で表示される因子VIII、B−ドメインが欠失した因子VIII又は単一鎖因子VIIIを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターに比べて、タンパク質発現量が顕著に増大する。特に、EF1aプロモーターなどの内因性プロモーターを利用し、一本鎖F8−BDD変異体をコドン最適化(CO)する場合には、タンパク質発現量及び安定性がより向上し得ることを具体的な事例から確認した。
【0042】
宿主細胞から前記因子VIII変異体を高いレベルに生産するためには、効果的な転写単位に前述の変形cDNAのアセンブリーとともに、当業者に公知の方法によって様々な発現システムで増殖可能な組換え発現ベクター中の適切な調節要素を必要とする。効果的な転写調節要素は、自然宿主が動物細胞であるウイルスに由来したり、又は動物細胞の染色体DNAから由来し得る。好ましくは、シミアンウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス又はラウス肉腫ウイルスの長末端反復体由来のプロモーター−エンハンサー組合せ、又はベータ−アクチン又はGRP78のような動物細胞中の強い構成的転写遺伝子を含むプロモーター−エンハンサー組合せを用いることができる。cDNAから転写されたmRNAを安定した高いレベルに達成するために、転写単位はその3’−隣接部分に、転写終結−ポリアデニル化配列を暗号化するDNA領域を含む必要がある。この配列は、シミアンウイルス40早期転写領域、ウサギベータ−グロビン遺伝子又はヒト組織プラスミノゲン活性因子遺伝子に由来することが好ましい。
【0043】
因子VIII変異体の発現
前記発現ベクターは適当な宿主細胞に形質感染され、その結果、本発明の因子VIII変異体の発現と機能性タンパク質の形成につながり得る。
【0044】
本発明のさらに他の観点は、上記のポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞である。
【0045】
本発明の宿主細胞は、本発明の因子VIII変異体を生産する方法に使用可能である。前記方法は、(a)前記宿主細胞を、前記因子VIII変異体を発現させる条件下で培養する段階;及び(b)前記因子VIII変異体を前記宿主細胞又は培養培地から回収する段階;を含むことができる。
【0046】
具体的に、cDNAなどのヌクレオチドは、因子VIII変異体の発現のために、適切な宿主細胞のゲノムに統合される。このような細胞株は、好ましくは正確なフォールディング、二硫化結合形成、アスパラギン結合したグリコシル化及び他の解読後変形を保障し、且つ培養培地への分泌を確実にするために、脊椎動物起源の動物細胞株でなければならない。他の解読後変形の例には、チロシンO−硫酸化及び新生ポリペプチド鎖のタンパク質分解プロセシングがある。使用可能な細胞株の例は、サルCOS−細胞、マウスL−細胞、マウスC127−細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胚性腎293細胞、ハムスターCHO−細胞である。
【0047】
対応するcDNAを暗号化する組換え発現ベクターは、様々な異なる方式で動物細胞株に導入され得る。例えば、組換え発現ベクターは、異なる動物ウイルスに基づくベクターで生成され得る。その例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス及び好ましくはウシ乳頭腫ウイルスに基づくベクターである。
【0048】
また、対応するDNAを暗号化する転写単位は、ゲノムに組換えDNAが統合された特定細胞クローンの分離を容易にさせるために、前記細胞に優性選別マーカーとして作用できる他の組換え遺伝子と共に動物細胞内に導入され得る。このような種類の優性選別マーカー遺伝子の例は、ゲネチシン(G418)に対する耐性を付与するTn5アミノグリコシドフォスフォトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ、及びピューロマイシンに対する耐性を付与するピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼである。このような選別マーカーを暗号化する組換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAを暗号化するベクターと同じベクターに存在し得るか、或いは宿主細胞のゲノムに同時に導入されて統合される分離されたベクターで暗号化され、しばしば異なる転写単位間に強い物理的結合がなされることもある。
【0049】
所望のタンパク質のcDNAと共に使用され得る選別マーカー遺伝子の他の種類は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)を暗号化する様々な転写単位に基づく。このような種類の遺伝子を、内因性dhfr活性が欠如した細胞、主にCHO細胞(DUKX−B11、DG−44)に導入させた後、これらの細胞をヌクレオシドが欠如した培地で増殖させ得るだろう。このような培地の例には、ヒポキサンチン、チミジン及びグリシンを含まないハム(Ham’s)F12がある。これらのdhfr−遺伝子は、因子VIII cDNA転写単位と共に、同一のベクターに結合したり又は異なるベクターに結合して前述の種類のCHO細胞に導入され得る。その結果、組換えタンパク質を生産するdhfr陽性細胞株が生成される。
【0050】
前記細胞株が細胞毒性dhfr−抑制剤メトトレキサートの存在下に増殖すると、メトトレキサート耐性である新規細胞株が出現するだろう。このような細胞株は、結合したdhfrと所望のタンパク質の転写単位の増幅した数によって増加した速度で組換えタンパク質を生産することができる。メトトレキサートの濃度(1〜10000nM)を増加させながら前記細胞株を増殖させると、所望のタンパク質を生産する新規細胞株が非常に高い割合で得られる。
【0051】
所望のタンパク質を生産する前記細胞株は、懸濁培養又は様々な固体支持体上で大量に増殖し得る。前記支持体の例は、デキストラン又はコラーゲンマトリックスに基づくマイクロキャリア、又は中空ファイバー形態又は様々なセラミック材料形態の固体支持体である。細胞懸濁培養で増殖したり或いはマイクロキャリアで増殖するとき、前記細胞株の培養は水槽(bath)培養又は長時間にわたって条件培地が連続生産される貫流培養として行うことができる。したがって、本発明によれば、前記細胞株は、所望の組換え突然変異タンパク質を生産するための産業用工程の開発に非常に適している。
【0052】
薬学的組成物
また、本発明は、前記の発現ベクターを含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用の薬学的組成物を提供する。
【0053】
前記出血疾患は、A型血友病、因子VIII又は因子VIIIaに対する抑制性抗体によって引き起こされたり或いは複合化された血友病又はB型血友病であり得る。また、前記出血疾患は、新生凝固病症、重症肝疾患、低血小板症、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏及びフォンヴィレブランド因子に対する阻害剤を持つフォンヴィレブランド病からなる群から選ばれる一つであり得る。
【0054】
そして、前記出血は、高リスク外科手術過程、外傷性血液損失、骨髄移植及び脳出血に関連した血液損失に起因するものであり得る。
【0055】
前記本発明の薬学的組成物は、遺伝子治療のためのものであり得る。
【0056】
因子VIII変異体の精製
前述した種類の分泌細胞の培地で蓄積される因子VIII変異体は、様々な生化学及びクロマトグラフィー方法、例えば所望のタンパク質と細胞培養培地中の他の物質とのサイズ、電荷、疎水性、溶解性、特異的な親和性などの差を利用する方法などで濃縮及び精製することができる。
【0057】
本発明の因子VIII変異体は、純度80%以上、より好ましくは95%以上に精製することが好ましく、特に、汚染性巨大分子、特に他のタンパク質及び核酸に対して純度99.9%を超え、感染源及び発熱源のない薬剤学的に純粋な状態が好ましい。本発明の分離又は精製された変異体は、他の非関連ポリペプチドが実質的にないことが好ましい。
【0058】
このような精製の一例として、固体支持体に因子VIII変異体を吸着させ、洗浄及び脱着処理した後、前記タンパク質は前述した性質に基づく様々なクロマトグラフィー技術を用いてさらに精製することができる。精製段階の順序は、例えば各段階の能力又は選択性、支持体の安定性又は他の観点によって選択する。好ましい精製段階は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー段階、免疫親和性クロマトグラフィー段階、親和性クロマトグラフィー段階、疎水性相互作用クロマトグラフィー段階、染料クロマトグラフィー段階及びサイズ排除クロマトグラフィー段階であるが、これに限定されるものではない。
【0059】
ウイルス汚染の理論的危険を最小化するために、ウイルスを効果的に不活性化又は除去する段階を本方法にさらに含めることができる。このような段階は、例えば、液体又は固体状態での熱処理、溶媒及び/又は界面活性剤の処理、可視光線又はUVスペクトルでの光照射、ガンマ照射又はナノ濾過である。
【0060】
本発明の変形ポリヌクレオチド(例えば、DNA)はまた、ヒトの遺伝子治療方法に用いられる伝達ベクターに統合させてもよい。
【0061】
本明細書に記述された様々な態様は互いに組合せ可能である。以下、本発明は実施例を用いてより詳細に説明されるだろう。それらの本発明の特定態様に関する説明は、添付の図面と関連付けて述べるだろう。
【0062】
剤形
本発明に記述された挿入タンパク質は、治療用薬剤学的製剤に剤形化され得る。精製されたタンパク質は通常の生理学的に適切な水性緩衝溶液に溶解され、ここに薬剤学的賦形剤が選択的に添加されて薬剤学的製剤が提供され得る。
【0063】
このような薬剤学的担体及び賦形剤の他、適切な薬剤学的剤形が当業界に公知されている(例えば、“Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins”、Frokjaer et al.,Taylor & Francis(2000)又は“Handbook of Pharmaceutical Excipients”、3rd edition,Kibbe et al.,Pharmaceutical Press(2000))。特に、本発明の変異体を含有する薬学的組成物は、凍結乾燥形態又は安定した液体形態に剤形化され得る。本発明の変異体は当業界に公知の様々な手順によって凍結乾燥し得る。凍結乾燥した剤形は、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水のような一つ以上の薬剤学的に許容される希釈剤を添加し、使用前に再構成させる。
【0064】
組成物の剤形は、任意の薬剤学的に適切な投与手段によって個体に伝達される。様々な伝達システムが公知されており、組成物を任意の便利な経路で投与するのに使用することができる。主に、本発明の組成物は全身投与される。全身投与用の場合、本発明の挿入タンパク質は、通常の方法によって非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内又は経皮)伝達又は腸(例えば、経口、膣又は直腸)伝達用に剤形化される。最も優先的な投与経路は、静脈内及び皮下投与である。これらの剤形は、注入又は一時注射によって連続して投与され得る。一部の剤形は徐放型システムを含む。
【0065】
本発明の挿入タンパク質は、許容できない副作用を引き起こす容量に達することなく、治療する病態又は徴候の重症度又は拡散を予防又は縮小させながら所望の効果を生産するのに十分な容量を意味する治療学的有効量を患者に投与する。正確な容量は、徴候、剤形、投与方式などの様々な要因によって変わるところ、それぞれの徴候ごとに臨床前に及び臨床試験によって決定される必要がある。
【0066】
本発明の薬学的組成物は単独投与してもよく、他の治療剤と併用投与してもよい。このような製剤は同一薬剤の一部として含まれ得る。このような製剤の一例は、フォンヴィレブランド因子である。
【0067】
治療方法
また、本発明は、A型血友病、B型血友病又は後天的血友病のような出血疾患をもつ個体を治療する方法に関する。前記治療方法は、本発明の発現ベクターを含む薬学的組成物を有効量で個体に投与する段階を含むことができる。或いは、本発明の宿主細胞の有効量を前記個体に投与する段階を含むことができる。
【0068】
本発明の一具現例によれば、本発明の因子VIII変異体はそれぞれ10ng〜100mgの投与量で投与され、前記タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドはそれぞれ1μg〜100mgの投与量で投与され得る。前記H因子VIII変異体又はこれを暗号化するポリヌクレオチドの投与が1回を超えて反復されるとき、投与量は毎回同一でもよく異なってもよい。
【0069】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれによって制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0070】
実施例
実施例1.因子VIII変異体(F8M)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び2を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号5で表示される切片1を製造した。PCRは、鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(pfu enzyme mix)(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び3を用いて上の方法と同じPCRによって配列番号6で表示される切片2を製造した。その後、前記切片1及び2をプライマー9及び10を用いて重複PCR(overlapping PCR)を行うことによって単一鎖因子VIII変異体を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0071】
実施例2.因子VIII変異体CO(F8M CO)の作製
前記実施例1で製造された因子VIII変異体の塩基配列に基づいてOptimumGeneTMアルゴリズムを用いてコドン最適化(codon optimization)させた塩基配列を確定した後、前記塩基配列をGenscript社に依頼及び合成して、配列番号4で表示される因子VIII変異体COを作製した。
【0072】
比較例1.因子VIII(F8)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(F8)の遺伝子(NM_000132.3)をOrigeneテクノロジー社(MD,USA)から購買して作製した。
【0073】
比較例2.B−ドメイン欠失の因子VIII(F8BDD)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び4を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号7で表示される切片3を製造した。PCRは、鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び5を用いて上の方法と同じPCRによって配列番号8で表示される切片4を製造した。その後、前記切片3及び4をプライマー9及び10を用いて重複PCRを行うことによってB−ドメイン欠失の因子VIII(F8BDD)を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0074】
比較例3.単一鎖因子VIII(sc F8)の作製
配列番号1で表示される全長因子VIII(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及び6を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)によって配列番号9で表示される切片5を製造した。PCRは鋳型DNA 2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5mM dNTP 2.5μl、pfu酵素混合液(Enzynomics,Korea)1μl、10xバッファー2.5μl、及び滅菌した3次蒸留水を50μlまで満たして混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回反復して行った。プライマー8及び7を用いて上の方法と同じPCRによって、配列番号10で表示される切片6を製造した。その後、前記切片5及び6をプライマー9及び10を用いて重複PCRを行うことによって、配列番号11で表示される単一鎖因子VIII変異体(sc F8)を製造した。重複PCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素と緩衝剤、プライマーなどと反応時間及び方法はPCRと同一にした。
【0075】
前記実施例及び比較例で用いられたプライマーを整理して下表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
製造例
製造例1.発現ベクターの作製(pCDNA3.1)
Genscript社から購買したpCDNA3.1(配列番号12で表示)と前記実施例及び比較例で製造されたタンパク質のそれぞれをNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離された切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後、ミニプレップ(mini−prep)してDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0078】
製造例2.発現ベクターの作製(pGP)
李等(Lee Y,et al.Improved expression of vascular endothelial growth factor by naked DNA in mouse skeletal muscles:implication for gene therapy of ischemic diseases.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002;272(1):230−235)の論文及び特許を参照してpCKベクターを合成した後、前記表1のプライマー11及び12を用いて上述の方法と同じ方法でPCRをして切片を得、EcoRI酵素で37℃で1時間反応した後、Expin Gel SV(GeneAll,Korea)キットを用いてDNAを精製した。その後、T4リガーゼを用いて30分間ライゲーションした後、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、配列番号13で表示されるpGPベクターを作製した。
【0079】
前記製造したpGPベクターと実施例及び比較例で製造した切片をそれぞれNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離した切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0080】
製造例3.発現ベクターの作製(pEF)
ThermoFisherサイエンティフィック社から購買したpEFベクター(配列番号14で表示)と実施例及び比較例で製造したDNA切片をそれぞれNheIとNotI酵素で1時間切断し、アガロースゲルに電気泳動して切片を分離した。分離された切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.coliに一晩培養した。翌日、コロニーを培養した後にミニプレップしてDNAを分離し、NheIとNotIで確認した。
【0081】
前記発現ベクターを下表2に整理して示す。
【0082】
【表2】
【0083】
実験例
試料の製造
前記製造例で製造した後、標準プロトコル(Qiagen)によって精製した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、大腸菌に各プラスミドDNAを形質転換(transformation)した後、一晩37℃で培養した。培養した大腸菌を遠心分離機を用いて収集し、P1、P2、P3を用いて大腸菌細胞を溶解(lysis)した後、遠心分離によって上澄液を得た。上澄液をマキシプレップカラム(maxi−prep column)で重力を用いて通過させた後、溶出バッファー(elution buffer)を用いてプラスミドDNAが含まれた上澄液を得た。0.7体積のisoprophanolを加えた後、高速遠心分離機を用いて12,000rpmで30分間遠心分離して発現ベクターを得た。それぞれの発現ベクターをJetPEI(Polyplus,USA)を用いてメーカーの指示通りに5×10個の293T細胞(ATCC CRL1573)にそれぞれトランスフェクションした。トランスフェクションして6時間後に無血清培地(serum free media)に培養液を変えた。その後、37℃で培養して2日目と5日目にそれぞれの上澄液を収集し、遠心分離機を用いて12,000rpmで5分間遠心分離した後、上澄液を−80℃に保管した。
【0084】
実験例1.発現ベクター(pCDNA3.1)を含む細胞のタンパク質発現量及び活性
製造例1によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量及び生物学的活性を測定した。
【0085】
タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り器を用いて450nmで測定した。その測定結果を図5及び下表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図5及び表3から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpCDNA3.1−F8変異体(実施例1−1及び2−1)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pCDNA3.1vehicle(対照群1)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0088】
また、生物学的活性分析は、血液凝固活性分析キット(Stago,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、標準品を1IU/mLからOwren−Koller液で段階希釈(serial dilution)して0.51、0.25、0.13IU/mLの濃度に製造した。その後、サンプルと標準品の溶液に0.025M CaCl、APTT試薬の活性化剤、因子VIII欠乏プラズマ(deficient plasma)を入れて37℃で反応した後、血液凝固分析機(Stago compact,France)を用いて測定した。その測定結果を標準品と比較して活性に換算して図6及び下表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
図6及び表4から、CDNA3.1−F8変異体(実施例1−1及び2−1)が顕著に高い血液凝固活性を示すことを確認した。
【0091】
実験例2.発現ベクター(pGP)を含む細胞のタンパク質発現量
製造例2によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量を測定した。
【0092】
タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り機を用いて450nmで測定した。その測定結果を図7及び下表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
図7及び表5から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpGP−F8変異体(実施例1−2及び2−2)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pGPビークル(対照群2)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0095】
実験例3.発現ベクター(pEF)を含む細胞のタンパク質発現量
製造例3によるそれぞれの発現ベクターをトランスフェクションさせた細胞から得たそれぞれの試料を用いてタンパク質発現量を測定した。
【0096】
このとき、タンパク質発現量はELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag,France)を用いて測定した。試験方法を簡単に述べると、次の通りである。まず、2日目のサンプルは1/5に、5日目のサンプルは1/50に希釈した。その後、標準品とサンプル200μlを96孔プレートに入れて18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、2次抗体を18〜25℃で2時間反応した。5回洗浄後、TMB溶液で5分間反応した後、1M硫酸液で反応を停止し、ELISA読み取り機を用いて450nmで測定した。その測定結果を図8及び下表6に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
図8及び表6から、2日目及び5日目ともに統計的に有意にpEF−F8変異体(実施例1−3及び2−3)で高いタンパク質発現量を示すことが分かる。特に、2日目に比べて5日目においてより著しい発現量の差を示した。これに対し、pEFビークル(対照群3)は、タンパク質発現が観察されなかった。
【0099】
以上の結果から、因子VIII変異体(F8M)が因子VIII(F8)に比べて高いタンパク質発現量を示し得ることを確認し、特に、2日目に比べて5日目にタンパク質発現量が高くなることから、因子VIII変異体(F8M)タンパク質が因子VIII(F8)に比べて安定性が高いものと判断される。また、5日目の血液凝固活性を比較した結果、因子VIII変異体(F8M)が因子VIII(F8)に比べて高い活性(約2.5倍)を示した。このことから、本発明の因子VIII変異体(F8M)遺伝子治療剤が、血液凝固活性の高いタンパク質をより高いレベルに発現するということが分かる。さらに、EF1aプロモーターを持つpEFベクターでは、因子VIII変異体(F8M)をコドン最適化した場合、5日目にタンパク質の発現及び安定性がより増加することが観察できた(図8)。
【0100】
たとえ本発明が上述の好ましい実施例として説明されたが、発明の要旨と範囲から逸脱することなく様々な修正や変形をしてもよい。また、添付する特許請求の範囲は、本発明の要旨に属する上記の修正や変形を含む。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図7
【補正方法】変更
【補正の内容】
図7
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8
【国際調査報告】