(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
本発明は、改変された不死化T細胞株と、薬剤としてのそれらの調整及び使用の方法、特に免疫療法のための方法に関する。本発明の改変された不死化T細胞株は、例えば、不死化T細胞を非アロ反応性にするために、TCR及びB2M遺伝子を選択的に非活性化することができるエンドヌクレアーゼを使用することによって、内因性T細胞受容体(TCR)及びβ2ミクログロブリン(B2M)の発現が阻害されることを特徴とする。加えて、免疫抑制ポリペプチドの発現は、宿主生物におけるこれらのT細胞の生存を延長するために、改変された不死化T細胞上で実施され得る。かかる改変された不死化T細胞は、特に宿主の免疫系による拒絶リスク及び移植片対宿主病の発症リスクの両方を低減するため、同種移植に特に好適である。本発明は、がん、感染症、及び自己免疫疾患を治療するための不死化T細胞を使用して、標準的かつ手頃な養子免疫療法戦略への道を開く。
工程cが、エレクトロポレーション又はウイルス系遺伝子移入システムによって前記不死化T細胞にCARをコードするポリヌクレオチドを導入することとして更に定義される、請求項19に記載の方法。
前記ウイルス系遺伝子移入システムが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、又はレンチウイルスベクターを含む、請求項4に記載の方法。
請求項1〜18のいずれか一項に記載の改変された不死化T細胞株を薬学的に許容される担体と組み合わせて前記医薬組成物を得ることを含む、医薬組成物を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
発明の背景において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用又は記載する。これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本発明のコンテキストを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいかなる発明に対しても先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0032】
別の定義がなされない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によって恰もその全体が本明細書に記載されているものと同様にして組み込まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意すべきである。
【0033】
特に断らない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全ての場合において、「約」なる語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL〜1.1mg/mLを含む。同様に、1%〜10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)〜11%(w/v)を含む。本明細書で使用する場合、数値範囲の使用は、文脈上そうでない旨が明確に示されない限り、その範囲内の整数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含む。
【0034】
細胞培養には、3つの一般的な種類、(1)初代−ヒト又は動物組織及び器官に由来(多能性幹細胞及び組織特異的前駆細胞がこのカテゴリに含まれる)、(2)不死化(又は連続性)−培養中で無期限に分裂及び増殖するように改変された初代細胞に由来(これらの細胞は、付着性線維芽細胞の場合の成長の接触阻害など、正常な初代細胞の多くの特徴を保持する)、及び(3)形質転換−がん性組織に由来又はがん誘発ウイルスによってin vitroで腫瘍形成的に形質転換(これらの細胞は、正常な初代細胞に似ておらず、腫瘍細胞のように挙動する)が存在する。形質転換細胞は、接触阻害の喪失、増殖因子非依存性、又は可溶性増殖因子及び血清に対する必要性の低減、並びに足場(ECM)非依存性増殖を示す(Flint et al,2004)。ほとんどの生物医学的及び製薬学的研究開発用途(例えば、薬理学的薬物候補のin vitroでの有効性及び毒性試験)については、正常な生理学的条件を厳密に再現する細胞の背景を使用することが一般的に望ましい。初代培養物は、正常な組織微小環境に最もよく似ているが、これらの細胞をヒト又は動物組織及び複雑な規制要件(例えば、Institutional Animal Care & Usage Committees;Human Subjects Research−Institutional Review Boards)から得ることは著しく困難であり、in vitroでの初代細胞の維持及び増殖(増殖因子依存性及び間質依存性)に関連付けられた一般的な困難により、ほとんどの用途にこれらの細胞を使用することが難しくなっている。初代細胞は、危機に陥り、老化するまでに有限の倍加能(通常は40〜60回の複製サイクル)を有する(RA Weinberg,2007)。初代培養物の使用はまた、これらの細胞が複数の実験を行うために連続的に再単離されなければならないため、有意な再現性誤差をもたらし得る。
【0035】
したがって、初代細胞由来の細胞株の細胞特性に関して、本明細書で使用するところの「不死化」又は「連続性」なる用語は、培養中で無期限に分裂及び増殖するよう、改変されたTリンパ球(又はT細胞)を指す。これらの細胞は、例えば、付着性細胞及びIL−2依存の場合の増殖の接触阻害など、正常な初代細胞の多くの特性を保持する。
【0036】
本明細書で使用するところの「T細胞」なる用語は、胸腺内で成熟するリンパ球の種類を指す。T細胞は、細胞性免疫において重要な役割を果たし、T細胞受容体が細胞表面上に存在することによって、B細胞などの他のリンパ球と区別される。T細胞は、単離されるか、又は市販の供給源から得られるかのいずれかであり得る。「T細胞」は、Tヘルパー細胞(CD4+細胞)、細胞毒性T細胞(CD8+細胞)、ナチュラルキラーT細胞、調節性T細胞(Treg)、及びγ−δT細胞を含む、CD3を発現する全ての種類の免疫細胞を含む。「細胞毒性細胞」は、CD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及び好中球を含み、細胞は、細胞毒性反応を媒介することができる。市販のT細胞株の非限定的な例としては、BCL2(AAA)Jurkat(ATCC(登録商標)CRL−2902(商標))、BCL2(S70A)Jurkat(ATCC(登録商標)CRL−2900(商標))、BCL2(S87A)Jurkat(ATCC(登録商標)CRL−2901(商標))、BCL2 Jurkat(ATCC(登録商標)CRL−2899(商標))、Neo Jurkat(ATCC(登録商標)CRL−2898(商標))、TALL−104細胞毒性ヒトT細胞株(ATCC#CRL−11386)といった株が挙げられる。更なる例としては、限定するものではないが、例えば、Deglis、EBT−8、HPB−MLp−W、HUT 78、HUT 102、Karpas 384、Ki 225、My−La、Se−Ax、SKW−3、SMZ−1、及びT34などの成熟T細胞株と、例えば、ALL−SIL、Be13、CCRF−CEM、CML−T1、DND−41、DU.528、EU−9、HD−Mar、HPB−ALL、H−SB2、HT−1、JK−T1、Jurkat、Karpas 45、KE−37、KOPT−K1、K−T1、L−KAW、Loucy、MAT、MOLT−1、MOLT 3、MOLT−4、MOLT 13、MOLT−16、MT−1、MT−ALL、P12/Ichikawa、Peer、PER0117、PER−255、PF−382、PFI−285、RPMI−8402、ST−4、SUP−T1〜T14、TALL−1、TALL−101、TALL−103/2、TALL−104、TALL−105、TALL−106、TALL−107、TALL−197、TK−6、TLBR−1、−2、−3、及び−4、CCRF−HSB−2(CCL−120.1)、J.RT3−T3.5(ATCC TIB−153)、J45.01(ATCC CRL−1990)、J.CaM1.6(ATCC CRL−2063)、RS4;11(ATCC CRL−1873)、CCRF−CEM(ATCC CRM−CCL−119)などの未成熟T細胞株と、例えば、HuT78(ATCC CRM−TIB−161)、MJ[G11](ATCC CRL−8294)、HuT102(ATCC TIB−162)などの皮膚T細胞リンパ腫株と、が挙げられる。限定するものではないが、REH、NALL−1、KM−3、L92−221を含む、ヌル白血病細胞株は、K562赤白血病、THP−1単球性白血病、U937リンパ腫、HEL赤白血病、HL60白血病、HMC−1白血病、KG−1白血病、U266骨髄腫などの他の白血病及びリンパ腫由来の細胞株であり、免疫細胞の別の市販の供給源である。このような市販の細胞株の非限定的な例示の供給源としては、American Type Culture Collection、すなわちATCC(http://www.atcc.org/)及びGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures(https://www.dsmz.de/)が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用するところの「キメラ抗原受容体(CAR)」なる用語は、例えば、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、又はキメラ免疫受容体とも称され、特定の免疫エフェクター細胞上に人工特異性を移植する改変された受容体を包含し得る。CARは、T細胞上にモノクローナル抗体の特異性を付与するために用いられてもよく、それによって、例えば養子細胞療法に使用する際に、多数の特異的T細胞が生成されることを可能にする。特定の実施形態では、CARは、例えば、細胞の特異性を腫瘍関連抗原に方向付ける。いくつかの実施形態では、CARは、細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン、及び腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含む。特定の態様では、CARは、CD3ζ膜貫通及びエンドドメインに融合した、モノクローナル抗体由来の単鎖可変フラグメント(scFv)の融合を含む。他の態様では、CARは、CD3ζ膜貫通ドメイン及びエンドドメインに融合したフィブロネクチンIII型ドメインの融合を含む。他のCAR設計の特異性は、受容体(例えば、ペプチド)のリガンドに又はDectinsに由来し得る。特定の実施形態では、B系列分子に特異的なキメラ免疫受容体(BCMA)を使用してT細胞の特異性をリダイレクトすることによって、悪性B細胞を標的にし得る。特定の場合では、CARは、CD3ζ、FcR、CD27、CD28、CD137、DAP 10、及び/又はOX40などの追加の共刺激性シグナル伝達のためのドメインを含む。いくつかの場合では、分子はCARと同時発現し得る。これらには、共刺激分子、撮像用のレポーター遺伝子(例えば、陽電子放出断層撮影用)、プロドラッグの添加時にT細胞を条件付きで除去する遺伝子産物、ホーミング受容体、サイトカイン、及びサイトカイン受容体が挙げられる。
【0038】
本明細書で使用するところの「細胞外ドメイン」なる用語は、細胞膜の外側に位置し、抗原、標的、又はリガンドに結合することができるCARの部分を指す。
【0039】
本明細書で使用するところの「膜貫通ドメイン」なる用語は、細胞膜を横切って延在し、CARを細胞膜に固定するCARの部分を指す。
【0040】
本明細書で使用するところの「細胞内シグナル伝達ドメイン」なる用語は、細胞膜の内側に位置し、エフェクター信号を伝達することができるCARの部分を指す。
【0041】
本明細書で使用するところの「発現する」なる用語は、遺伝子産物の生合成を指す。かかる用語には、遺伝子のRNAへの転写が含まれる。また、かかる用語には、RNAの1つ以上のポリペプチドへの翻訳も含まれ、全ての天然に生じる転写後及び翻訳後修飾も更に含まれる。発現したT細胞受容体及びβ2ミクログロブリン(microbulin)は、T細胞膜に固定され得る。
【0042】
本明細書で使用するところの「T細胞受容体(TCR)」なる用語は、アルファ(α)及びベータ(β)鎖のヘテロ二量体から構成されるT細胞上のタンパク質受容体を指すが、いくつかの細胞では、TCRは、ガンマ及びデルタ(γ/δ)鎖からなる。本発明の実施形態では、TCRは、例えば、ヘルパーT細胞、細胞毒性T細胞、メモリT細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、及びγδT細胞を含むTCRを含む、任意の細胞上で改変されてもよい。
【0043】
「B2M」としても知られる「β2ミクログロブリン」は、MHCクラスI分子の軽鎖であり、それ自体、主要組織適合遺伝子複合体の不可欠な部分である。ヒトにおいて、B2Mは、染色体6上の遺伝子クラスターとして位置する他のMHC遺伝子とは反対の、染色体15上に位置するb2m遺伝子によってコードされる。ヒトタンパク質は、119個のアミノ酸からなり、11.8キロダルトンの分子量を有する。β2ミクログロブリンが欠乏しているマウスモデルは、B2MがMHCクラスIの細胞表面発現及びペプチド結合溝の安定性に必要であることを示している。正常な細胞表面MHCI発現が欠乏しているマウスからの造血細胞移植は、β2ミクログロブリン遺伝子における標的突然変異により、正常なマウスにおけるNK1.1+細胞によって拒絶され、MHC I分子の不十分な発現により、骨髄細胞が宿主免疫系による拒絶を受けやすくなることを示唆することを更に示した(Bix et al.1991)。
【0044】
本明細書で使用するところの「BCMA」なる用語は、形質細胞上及び成熟B細胞上で発現される腫瘍壊死因子受容体(TNFR)ファミリーメンバーであるB細胞成熟抗原タンパク質(TNFRSF17、BCM又はCD269とも呼ばれる)のことを指す。例えば、ヒトBCMAは、ヌクレオチド994個の長さの一次mRNA転写産物によりコードされるアミノ酸184個の長さのタンパク質である(NM_001192.2)。ヒトBCMAのアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_001183.2に示される。本明細書で使用するところの「BCMA」なる用語は、例えば、完全長の野生型BCMAの点突然変異、フラグメント、挿入、欠失、及びスプライス変異体などの突然変異を有するタンパク質を含む。「BCMA」なる用語には、BCMAのアミノ酸配列の翻訳後修飾も含まれる。翻訳後修飾としては、これらに限定されるものではないが、N−及びO−結合グリコシル化が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用するところの用語「フィブロネクチンIII型ドメイン」又は「FN3ドメイン」は、フィブロネクチン、テネイシン、細胞内細胞骨格タンパク質、サイトカイン受容体、及び原核酵素を含むタンパク質(Bork and Doolittle,PNAS USA 89:8990−8994,1992;Meinke et al.,J Bacteriol 175:1910−1918,1993;Watanabe et al.,J Biol Chem 265:15659−15665,1990)、又はその誘導体において頻繁に生じるドメインを指す。例示的なFN3ドメインとしては、ヒトテネイシンC中に存在する15個の異なるFN3ドメイン、ヒトフィブロネクチン(FN)中に存在する15個の異なるFN3ドメイン、及び非天然の合成FN3ドメインがある(例えば米国特許第8278419号に記載される)。個々のFN3ドメインは、ドメイン番号及びタンパク質名によって称される(例えばテネイシンの3番目のFN3ドメイン(TN3)、又はフィブロネクチンの10番目のFN3ドメイン(FN10))。
【0046】
本明細書で使用するところの「担体」なる用語は、あらゆる賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、バッファー、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入体、又は医薬製剤で使用するための当該技術分野では公知の他の材料を指す。担体、賦形剤又は希釈剤の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう。本明細書で使用するところの「医薬的に許容される担体」なる用語は、本発明による組成物の効果又は本発明による組成物の生物活性を妨げない無毒性材料を指す。
【0047】
本明細書で使用するところの「対象」なる用語は、動物、好ましくは哺乳動物を指す。特定の実施形態によれば、対象は、非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、ウサギ、モルモット又はマウス)、又は霊長類(例えば、サル、チンパンジー、又はヒト)を含む哺乳動物である。特定の実施形態では、対象はヒトである。
【0048】
本明細書で使用するところの「がん」なる用語は、当該技術分野において既知であるように、未調節の細胞成長又は複製によって特徴付けられる任意の疾患、状態、形質、遺伝子型、又は表現型を意味する。「がん細胞」は、未制御の成長で異常に分裂及び複製する細胞である。この細胞は、転移と称されるプロセスにおいて、その起源の部位(例えば、腫瘍)から離脱し、身体の他の部分に移動し、別の部位(例えば、別の腫瘍)を生じさせ得る。「腫瘍」は、未制御かつ進行性の過剰な細胞分裂から生じる異常な組織塊であり、新生物とも称される。腫瘍は、良性(がん性ではない)又は悪性のいずれかであり得る。本明細書に記載される組成物及び方法は、がん及び腫瘍細胞、すなわち悪性腫瘍及び良性腫瘍の両方の治療に有用である。このように、本明細書に記載される方法及び組成物の様々な実施形態では、がんとしては、限定するものではないが、ヘムがん、リンパ腫、乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸直腸がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、膵臓がん、腎臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、卵巣がん、及び精巣がんが挙げられ得る。
【0049】
本明細書で使用するところの「治療的有効量」なる用語は、対象に所望の生物学的又は薬理的応答を誘導する活性成分又は構成成分の量を指す。治療有効量は、記載される目的に対して経験的かつ一般的な方法で決定することができる。
【0050】
本明細書で使用するところの「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」なる用語はいずれも、がん又は自己免疫に関連した少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善又は逆転を指すものであり、これは対象において必ずしも認識されるとは限らないが、対象において認識可能な場合もある。「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」なる用語はまた、疾患、障害、又は病態の退縮を生じる、その進行を防止する、又は少なくともその進行を遅らせることを指す場合もある。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」は、腫瘍若しくはより好ましくはがんなどの疾患、障害、若しくは病態に関連する1つ以上の症状の緩和、進展若しくは発症の予防、又はその期間の短縮を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療する」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態の再発の防止を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療する」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態を有する対象の生存率の向上を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療する」、及び「治療」は、対象における疾患、障害、又は病態の消失を指す。
【0051】
発明の一般的な実施形態
キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外抗原結合ドメインを膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続することによって、養子免疫療法用に設計される。腫瘍細胞に提示された特異的抗原を認識し、T細胞を活性化してこれらの腫瘍細胞を特異的に溶解させるために、キメラ抗原受容体を発現するT細胞の養子移入によって腫瘍細胞を根絶することは、有用な抗腫瘍アプローチである。このCAR戦略の重要な態様は、腫瘍上で特異的又は選択的に発現し、全ての腫瘍細胞上に存在し、細胞表面から落としにくい又は調節しにくい膜エピトープである、標的エピトープの選択である。しかしながら、CAR−T細胞は、任意の哺乳類(ヒトなど)レシピエントに好適な普遍的試薬又は薬物として使用可能になることが理想的である。このような方法で細胞を用いるために、CAR依存性エフェクター機能を損なうことなく、移植片対宿主反応におけるそれらの拒絶を防止する必要がある。
【0052】
本発明の実施形態では、「普遍的」T細胞に基づく免疫療法を確立するための、キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞(CAR−T細胞)からのT細胞受容体(TCR)α破壊が提供される。T細胞特異性を所望の抗原にリダイレクトすることは、CARを通して達成され得る。しかしながら、患者からのCAR−T細胞のex vivo生成は、時間及び費用によって制限される。更に、患者に由来するT細胞は、リンパ球毒性(リンパ球除去)化学療法の繰り返しのために機能的に欠陥がある場合がある。この目的を達成するため、本発明の実施形態は、「既製の試薬」として機能し得る不死化T細胞からのCAR−T細胞の生成に関する。換言すれば、改変された不死化T細胞を予め調製し、次いで複数のレシピエントに注入することができる。これにより、普遍的T細胞の「一元化」製造、及び必要に応じて注入するための地域施設でのT細胞の後続的な事前配置が促進され、効力を発揮する臨床試験の実行が可能になり、普遍的T細胞が投与され得る、他の生物学及び治療学との併用療法が促進されることになる。これを達成するために、同種免疫反応を引き起こす内因性TCR及びB2M発現を排除し得る。かかる工程は、例えば、TCR α定常領域又はβ定常領域を標的にするなど、Cas9/CRISPR複合体を導入することを含む、任意の好適な方法によって行われ得る。本発明の実施形態は、(i)CARを導入することによって不死化T細胞の特異性をリダイレクトすることと、(ii)内因性TCR及びB2Mの発現を排除して、所望のT細胞産物を生成することと、を組み合わせるという固有なものである。特定の実施形態では、CARの導入及びTCR/B2Mの排除は、CARを安定的に発現させるためのエレクトロポレーション及びin vitroで転写されたmRNAの所望の一過性トランスフェクションによって達成される。本発明の実施形態では、特定の改変された不死化CAR−T細胞は、既製の試薬として必要に応じて注入されるように、予め調製され、解凍される。
【0053】
本発明者らは、T細胞中の内因性TCR又はB2Mのいずれかを標的にするCas9/CRISPR複合体が、TCR発現の所望の喪失をもたらしたことを実証している。予期されるように、これらの改変T細胞は、混合リンパ球反応アッセイにおいてTCR刺激に反応しなかったが、例示の抗原、BCMAに対するそれらのCARを媒介としてリダイレクトされた特異性を維持した。
【0054】
本発明の特定の実施形態では、不死化T細胞は、キメラ光源受容体(CAR)を発現して腫瘍関連抗原(TAA)に特異性をリダイクレクトするように、ex vivoで遺伝子改変され、それによってin vivoの抗腫瘍活性を与える。BCMA特異的CARを発現するT細胞は、特異性ドメインが抗BCMA FN3ドメインからクローン化されるため、MHCとは無関係の複数のレシピエントにおいてB細胞悪性疾患を認識する。本発明は、複数のレシピエントに投与され得る「普遍的」な改変された不死化TAA特異的T細胞を生成することによって、患者別のT細胞を生成する必要性を排除することへの大きな一歩を包含する。これは、内因性TCR及びB2Mの発現を排除して、CAR依存性エフェクター機能を損なうことなく移植片対宿主反応を防止するよう、特異的なCAR T細胞を遺伝子的に編集することによって達成された。遺伝子改変T細胞は、デザイナーCas9/CRISPR複合体を用いてTCR及びB2Mを恒久的に欠失させた後、所望の特異的なCARを安定的に導入することによって生成された。本発明者らは、これらの改変されたT細胞が、TCR刺激に反応することなく、BCMAのリダイレクトされた特異性を有するという予期された特性を示すことを示している。これらの改変された不死化CAR−T細胞は、多くの種類のがんの治験的治療のための既製の療法として使用されてもよい。
【0055】
具体的には、改変された不死化CAR
−T細胞を使用することの実現可能性を試験するために、本発明者らは、TCR及びB2Mの発現を不可逆的に排除するため、不死化T細胞のゲノムの編集を含むように、CAR−T細胞を生成する培養プロセスを改変した。TCR及びB2M遺伝子座をノックアウトするために、本発明者らは、内因性TCR及びB2Mの定常領域内のゲノム配列を標的にした、Cas9エンドヌクレアーゼからDNA開裂ドメインに融合されたDNA結合ドメインからなるCas9/CRISPR複合体を開発した。Cas9/CRISPRは、ゲノム中のDNA二重鎖切断(DSB)の形成を触媒することによってゲノム編集を媒介する。遺伝子のコード配列内の所定の部位に対するDSBを標的にすることは、誤差の発生しやすい細胞修復経路である非相同末端結合(NHEJ)による修復を介した機能的標的遺伝子発現の恒久的な喪失につながり、開裂部位におけるヌクレオチドの挿入又は欠失をもたらすことは、以前より示されてきた(Santiago et al.,2008;Perez et al.,2008)。
【0056】
キメラ抗原受容体
本明細書で使用するところの「抗原」なる用語は、抗体又はT細胞受容体によって結合することができる分子である。加えて、抗原は、Bリンパ球及び/又はTリンパ球の産生につながる体液性免疫反応及び/又は細胞性免疫反応を誘導することが可能である。
【0057】
本発明は、免疫原性を低減するためにヒト化されたCAR(hCAR)、細胞内シグナル伝達ドメインを含むポリペプチド、膜貫通ドメイン、及び1つ以上のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含む核酸を伴う。特定の実施形態では、CARは、1つ以上の抗原間の共有空間からなるエピトープを認識し得る。特定の実施形態では、結合領域は、モノクローナル抗体の相補的決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、及び/又はその抗原結合フラグメントを含み得る。相補的決定領域(CDR)は、抗原を相補し、それにより、該特定の抗原に対するその特異性を受容体に提供する、抗原受容体(例えば、免疫グロブリン及びT細胞受容体)タンパク質の可変ドメインに見出される短いアミノ酸配列である。抗原受容体のそれぞれのポリペプチド鎖は、3つのCDR(CDR1、CDR2、及びCDR3)を含有する。抗原受容体は、典型的には、2つのポリペプチド鎖からなるため、抗原に接触し得る抗原受容体ごとに6つのCDRが存在する。すなわち、それぞれの重鎖及び軽鎖は3つのCDRを含有する。免疫グロブリン及びT細胞受容体に関連付けられたほとんどの配列変動がCDRに見出されるため、これらの領域は、高頻度可変性ドメインと称されることもある。中でも、CDR3は、VJ(重鎖及びTCR αβ鎖の場合はVDJ)領域の組み換えによってコードされるときの最大の変動性を示す。ヒトCAR核酸は、ヒト患者の細胞免疫療法を強化するためのヒト遺伝子であることが想到される。
【0058】
他の実施形態では、該特異性は、Tenconとして知られるヒトテネイシンCの15個のFN3ドメインのコンセンサス配列から設計された、天然には存在しないFN3ドメインに由来する(Jacobs et al.,Protein Engineering,Design,and Selection,25:107−117,2012;米国特許出願公開第2010/0216708号)。Tenconの結晶構造は、FN3ドメインの特徴である、7個のβストランドをつなぐ6個の表面露出ループを示し、βストランドは、A、B、C、D、E、F、及びGと称され、ループは、AB、BC、CD、DE、EF、及びFGループと称されている(Bork and Doolittle,PNAS USA 89:8990−8992,1992;米国特許第6673901号)。これらのループ又はそれぞれのループ内の選択された残基をランダム化することでFN3ドメインのライブラリを構築することができ、このライブラリを用いて、所望の抗原に結合する新規分子を選択することができる。したがって、Tencon配列(配列番号1)に基づいて設計されたライブラリは、ループ又はストランドのうちの1つ以上にランダム化された配列を有することができる。例えば、テンコンに基づくライブラリは、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、EFループ、及びFGループのうちの1つ以上にランダム化配列を有することができる。例えば、テンコンのBCループはアミノ酸7個の長さを有しており、したがって、1、2、3、4、5、6、又は7個のアミノ酸をテンコン配列に基づいたライブラリでランダム化し、BCループで多様化させたライブラリとすることができる。テンコンのCDループはアミノ酸6個の長さを有しており、したがって、1、2、3、4、5、又は6個のアミノ酸をテンコン配列に基づいたライブラリでランダム化し、CDループで多様化させたライブラリとすることができる。テンコンのEFループはアミノ酸5個の長さを有しており、したがって、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸をテンコン配列に基づいたライブラリでランダム化し、EFループで多様化させたライブラリとすることができる。テンコンのFGループはアミノ酸7個の長さを有しており、したがって、1、2、3、4、5、6、又は7個のアミノ酸をテンコン配列に基づいたライブラリでランダム化し、FGループで多様化させたライブラリとすることができる。テンコンライブラリのループにおける更なる多様性を、ループでの残基の挿入及び/又は欠失によって得ることができる。例えば、BC、CD、EF及び/又はFGループをアミノ酸1〜22個だけ伸長することができ、又はアミノ酸1〜3個だけ減少させることができる。TenconにおけるFGループは、長さがアミノ酸7個であり、抗体重鎖における対応するループは、残基4〜28個の範囲である。最大の多様性を得るためには、残基4〜28個の範囲の抗体CDR3の長さに対応するように、FGループの配列及び長さを多様化させることができる。例えば、更に1、2、3、4、又は5個のアミノ酸によってループを伸長することにより、FGループの長さを更に多様化させることができる。テンコン配列に基づいて設計されたライブラリはまた、FN3ドメインの側面を形成する、2個以上のβ鎖と少なくとも1つのループを含む、ランダム化された別の表面を有してもよい。そのような1つの代替表面は、C及びFのβ鎖、並びにCD及びFGループのアミノ酸によって形成される(C−CD−F−FG表面)。テンコンの別のC−CD−F−FG表面に基づいたライブラリの設計については、米国特許出願公開第2013/0226834号に記載されている。Tencon配列に基づいて設計されたライブラリには、11、17、46、及び/又は86位の残基の置換を有し、その変異体が改善された熱安定性を示すTencon変異体などのTencon変異体に基づいて設計されたライブラリが含まれる。例示のTencon変異体は、米国特許出願公開第2011/0274623号に記載されており、Tenconと比較してE11R、L17A、N46V、及びE86Iの置換を有するTencon27(配列番号2)を含む。テンコンライブラリ及び他のFN3配列に基づくライブラリは、ランダムな又は既定のアミノ酸の組を用いて、選択された残基の位置でランダム化することができる。例えば、ライブラリにおいて無作為置換を有する変種を、天然に存在する20個全てのアミノ酸をコードするNNKコドンを用いて作製することができる。他の多様化スキームにおいて、アミノ酸Ala、Trp、Tyr、Lys、Thr、Asn、Lys、Ser、Arg、Asp、Glu、Gly、及びCysをコードするために、DVKコドンを使用することができる。あるいは、NNSコドンを用いて20種全てのアミノ酸残基を生じさせると同時に終止コドンの頻度を低減することもできる。多様化させる位置で偏りのあるアミノ酸分布を有するFN3ドメインのライブラリは、例えばSlonomics(登録商標)技術(http:_//www_sloning_com)を用いて合成することができる。この技術は、何千もの遺伝子合成プロセスにおいて充分な普遍的構成単位として機能する、既製の二本鎖トリプレットのライブラリを用いたものである。トリプレットのライブラリは、あらゆる所望のDNA分子を構築するために必要な、全ての考えられる配列組み合わせを示す。コドン指定は、周知のIUBコードによる。
【0059】
特定の実施形態では、本発明は、完全長のCAR cDNA又はコード化領域を含む。抗原結合領域又はドメインは、特定のヒトモノクローナル抗体に由来する単鎖可変フラグメント(scFv)のVH鎖及びVL鎖のフラグメントを含み得る。抗原結合領域又はドメインはまた、FN3ドメインを含み得る。
【0060】
本発明のキメラ受容体の細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ受容体が配置された免疫細胞の正常なエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化に関与する。「エフェクター機能」なる用語は、分化細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性又はヘルパー活性であってもよい。メモリ又はメモリ型T細胞におけるエフェクター機能は、抗原依存性増殖を含む。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」なる用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に対して特殊機能を実行するように指示するタンパク質の部分を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が採用されるが、多くの場合、細胞内ポリペプチド全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分が使用され得る範囲内で、かかる切断部分は、依然としてエフェクター機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに使用されてもよい。このように、細胞内シグナル伝達ドメインなる用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の切断部分を含むことを意味する。例としては、T細胞受容体のζ鎖、又はそのホモログのいずれか(例えば、η、δ、γ、又はε)、MB1鎖、B29、FcyRUT、FcyR、並びにO’O3ζ及びCD2.8、4−1BB、OX40、及びこれらの組み合わせなどのシグナル伝達分子の組み合わせと、他の類似の分子及びフラグメントと、が挙げられる。FcyRIII及びFcsRLなど、活性化タンパク質ファミリーの他のメンバーの細胞内シグナル伝達部分が使用され得る。これらの代替膜貫通及び細胞内ドメインを使用するcTCRの開示について、Gross el al.(1992)、Stancovski el al.(1993)、Moritz et al.(1994)、Hwu et al.(1995)、Weijtens et al.(1996)、及びHekele et al.(1996)を参照されたい。好ましい実施形態では、ヒトCD3ζ細胞内ドメインを活性化のために採取した。
【0061】
抗原特異的細胞外ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトIgG
4Fcヒンジ及びFc領域、ヒトCD4膜貫通ドメイン、ヒトCD28膜貫通ドメイン、膜貫通ヒトCD3ドメイン、若しくはシステイン変異ヒト∈O3ζドメイン、又はCD16及びCD8並びにエリスロポエチン受容体などの他のヒト膜貫通シグナル伝達タンパク質からの他のヒト膜貫通ドメインといった膜貫通ドメインによって連結され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、CAR核酸は、膜貫通ドメイン及び改変CD28細胞内シグナル伝達ドメインなどの他の共刺激受容体をコードする配列を含む。他の共刺激受容体としては、限定するものではないが、CD28、OX−40(CD134)、DAP10、及び4−IBB(CD137)のうちの1つ以上が挙げられる。CD3によって開始される一次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激性受容体によって提供される追加のシグナルは、T細胞の完全な活性化に重要であり、in vivoでの持続性及び養子免疫療法の治療的成功の改善を助け得る。特定の実施形態では、本発明は、CARをコードするDNA配列を組み込む、単離された核酸セグメント及び発現カセットに関する。本発明のベクターは、主に、調節された真核生物プロモータ、例えば、MNDU3プロモータ若しくはEFlaphaプロモータ、又はUbiquitinプロモータの制御下で、免疫細胞、好ましくはT細胞に所望の遺伝子を送達するように設計される。また、ベクターは、in vitroでの操作を促進するために、他に理由がなくとも選択可能マーカーを含有してもよい。
【0063】
キメラ抗原受容体分子は組み換えであり、それらの細胞質尾部に存在する免疫受容体活性化モチーフ(ITAM)を介して、抗原に結合し、活性化シグナルを伝達する両方の能力によって区別される。抗原結合部分(例えば、単鎖抗体(scFv)から生成される)を利用する受容体コンストラクトは、HLA非依存様式で標的細胞表面上の天然抗原に結合するという点で「普遍的」であるという付加的な利点をもたらす。例えば、いくつかの実験室は、CD3複合体のゼータ鎖(ζ)、Fc受容体のγ鎖、及びスカイチロシンキナーゼの細胞内部分をコードする配列に融合したscFvコンストラクトについて報告している(Eshhar et al.,1993;Fitzer−Attas et al.,1998)。腫瘍認識及びCTLによる溶解を含むリダイレクトされたT細胞エフェクター機構は、いくつかのマウス及びヒト抗原scFv:ζ系の中で文書化されている(Eshhar,1997;Altenschmidt et al.,1997)。
【0064】
現在の非ヒト抗原結合領域は、典型的には、キメラ抗原受容体を構築するのに使用される。マウスモノクローナル抗体などの非ヒト抗原結合領域を使用する潜在的な問題は、ヒトエフェクター機能の欠如、及び腫瘍塊に浸透する能力がないことである。換言すれば、かかる抗体は、CARを発現する細胞を破壊するために、抗体依存性細胞毒性又はFc受容体媒介性貪食作用を介して、補体依存性溶解を媒介すること又はヒト標的細胞を溶解することができない場合がある。更に、非ヒトモノクローナル抗体は、外来タンパク質としてヒト宿主によって認識され得、したがって、かかる外来抗体の繰り返し注入は、有害な過敏症反応につながる免疫反応の誘発をもたらし得る。マウスベースのモノクローナル抗体については、これは多くの場合、ヒト抗マウス抗体(HAMA)反応と称される。したがって、ヒト抗体の使用は、マウス抗体ほど強くHAMA反応を惹起しないため、より好ましい。同様に、CARにおけるヒト配列の使用は、レシピエント内に存在し、HLAとの関連において処理された抗原を認識する内因性T細胞による免疫媒介性の認識、延いては排除を回避し得る。いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、(a)抗原結合領域を含む細胞外ドメインと、(b)膜貫通ドメインと、(c)細胞内シグナル伝達ドメインと、を含む。
【0065】
特定の実施形態では、CAR内の細胞内受容体シグナル伝達ドメインとしては、T細胞抗原受容体複合体のもの、例えばCD3のζ鎖、また、単独の又はCD3ζとの連続のFcγRIII共刺激シグナル伝達ドメイン、CD28、DAP10、CD2が挙げられる。特定の実施形態では、細胞内ドメイン(細胞質ドメインと称される場合がある)は、TCRζ鎖、CD28、OX40/CD134、4−1BB/CD137、FcsRTy、ICOS/CD278、ILRB/CD122、IL−2RG/CD132、DAP分子、CD27、DAP10、DAP12、及びCD40のうちの1つ以上の一部又は全てを含む。いくつかの実施形態では、細胞内ドメイン内の内因性T細胞受容体複合体の任意の部分を用いる。1つ又は複数の細胞質ドメインが用いられてもよく、いわゆる第3世代CARは、例えば、相加効果又は相乗効果のために一緒に融合された少なくとも2つ又は3つのシグナル伝達ドメインを有する。キメラ抗原受容体の特定の実施形態では、受容体の抗原特異的部分(抗原結合領域を含む細胞外ドメインと称される場合がある)は、腫瘍関連抗原又は病原体特異的抗原を含む。
【0066】
腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面上で発現される限り、任意の種類であってもよい。腫瘍関連抗原の例示の実施形態としては、BCMA、CD19、CD20、がん胎児性抗原、αフェトプロテイン、CA−125、MUC−1、上皮腫瘍抗原、黒色腫関連抗原、変異p53、変異rasなどが挙げられる。
【0067】
特定の実施形態では、HA−1、WT1、又はp53など、細胞内腫瘍関連抗原が標的にされてもよい。これは、HLAとの関連において細胞内腫瘍関連抗原から記載される、処理されたペプチドを認識する、普遍的T細胞上に発現したCARによって達成され得る。更に、普遍的T細胞は、HLAとの関連において処理された細胞内腫瘍関連抗原を認識するT細胞受容体対形成を発現するように遺伝子改変されてもよい。
【0068】
病原体は、任意の種類であってもよいが、特定の実施形態では、病原体は、例えば、真菌、細菌、又はウイルスである。例示のウイルス病原体としては、アデノウイルス科、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、JCウイルス、BKウイルス、HSV、HHVファミリーのウイルス、ピコルナウィルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、レトロウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミキソウイルス科(Parainyxoviridae)、パポーバウイルス科、ポリオーマウイルス科、ラブドウイルス科、及びトガウイルス科(Togavkidae)のファミリーのものが挙げられる。例示の病原性ウイルスは、天然痘、インフルエンザ、流行性耳下腺炎、麻疹、水痘、エボラ出血熱、及び風疹を引き起こす。例示の病原真菌としては、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ヒストプラズマ、ニューモシスチス、及びスタキボトリスが挙げられる。例示の病原菌としては、ストレプトコッカス、シュードモナス、赤痢菌、カンピロバクター、ブドウ球菌、ヘリコバクター、大腸菌、リケッチア、桿菌、ボルデテラ、クラミジア、スピロヘータ、及びサルモネラが挙げられる。一実施形態では、病原体受容体デクチン−1を使用して、真菌の細胞壁上の炭水化物構造を認識するCARが生成され得る。デクチン−1の特異性に基づいてCARを発現するように遺伝子改変されたT細胞は、アスペルギルス及び標的菌糸成長を認識し得る。別の実施形態では、CARは、ウイルス感染及び病理を妨害するために、ウイルス決定子(例えば、CMV及びエボラからの糖タンパク質)を認識する抗体に基づいて作製され得る。いくつかの実施形態では、病原性抗原は、CAR内の細胞外ドメインが真菌細胞壁の炭水化物のパターンを認識するアスペルギルス炭水化物抗原である。
【0069】
本発明によるキメラ免疫受容体は、当該技術分野において既知の任意の手段によって産生することができるが、好ましくは、組み換えDMA技術を用いて産生される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸配列は、分子クローニングの標準技術(ゲノムライブラリスクリーニング、PCR、プライマ支援ライゲーション、酵母及び細菌由来のscFvライブラリ、部位特異的突然変異誘発など)によって、完全なコード配列に調製され、組み立てられ得る。得られたコード領域は、発現ベクターに挿入され、好適な発現宿主不死化T細胞株を形質転換するために使用され得る。本明細書で使用するところの「核酸コンストラクト」又は「核酸配列」又は「ポリヌクレオチド」は、T細胞に形質転換又は導入され、産物(例えば、キメラ受容体)を産生するように転写及び翻訳され得るDNA分子を意味することを意図する。
【0070】
本発明で用いられる例示の核酸コンストラクト(ポリヌクレオチド)では、プロモータは、本発明のキメラ受容体をコードする核酸配列に操作可能に(operablv)連結される。すなわち、プロモータは、キメラ受容体をコードするDNAからのメッセンジャRNAの転写を促進するように位置付けられる。プロモータは、ゲノム起源のものであるか、又は合成的に生成され得る。T細胞で使用するための様々なプロモータは、当該技術分野において周知である(例えば、Marodon et al.(2003)によって開示されたCD4プロモータ)。プロモータは、構成型又は誘導型であってよく、誘導型は、例えば、特定の細胞型又は特定の成熟レベルに関連付けられる。あるいは、多くの周知のウイルスプロモータも好適である。所望のプロモータとしては、βアクチンプロモータ、SV40初期及び後期プロモータ、免疫グロブリンプロモータ、ヒトサイトメガロウイルスプロモータ、レトロウイルスプロモータ、及びフレンド脾フォーカス形成ウイルスプロモータが挙げられる。プロモータは、エンハンサと関連付けられても又は関連付けられなくてもよく、エンハンサは、自然に特定のプロモータと関連付けられても又は異なるプロモータと関連付けられてもよい。キメラ受容体をコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA源、cDNA源から得られ得るか、又は、(例えば、PCRを介して)合成され得るか、又はそれらの組み合わせであり得る。イントロンがmRNAを安定化させるか、又はT細胞特異的発現を提供することが見出されていることから(Bartiel and Goldfeki,2003)、ゲノムDNAのサイズ及びイントロンの数に応じて、cDNA又はそれらの組み合わせを使用することが望ましい場合がある。また、mRNAを安定化させるために内因性又は外因性の非コード領域を使用することが更に有利であり得る。
【0071】
本発明のキメラ受容体の発現のために、キメラ受容体のN末端構成成分をコードする核酸配列の自然発生又は内因性転写開始領域を使用して、標的宿主内にキメラ受容体が生成され得る。あるいは、構成型又は誘導型発現を可能にする外因性転写開始領域が使用され得、発現は、標的宿主、所望の発現レベル、標的宿主の性質などに応じて制御され得る。
【0072】
同様に、キメラ受容体を表面膜に方向付けるシグナル配列は、キメラ受容体のN末端構成成分の内因性シグナル配列であり得る。任意選択的に、いくつかの事例では、この配列を異なるシグナル配列に交換することが望ましい場合がある。しかしながら、選択されるシグナル配列は、キメラ受容体がT細胞の表面上に提示されるように、T細胞の分泌経路と適合すべきである。同様に、終結領域は、キメラ受容体のC末端構成成分をコードする核酸配列の自然発生又は内因性転写終結領域によって提供されてもよい。あるいは、終結領域は、異なる供給源に由来してもよい。ほとんどの場合、終結領域の供給源は、一般に、組み換えタンパク質の発現にとって重要であるとは見なされず、発現に悪影響を及ぼすことなく、多種多様な終結領域が用いられ得る。当業者には理解されるように、いくつかの事例において、例えば、CAR内の抗原結合ドメインの末端部にある数個のアミノ酸、通常は10個以下、より通常は5個以下の残基が欠失され得る。また、境界に少数のアミノ酸、通常は10個以下、より通常は5個以下の残基を導入することが望ましい場合がある。アミノ酸の欠失又は挿入は、構成の必要性の結果であり、制限部位の便宜、操作の容易さ、発現レベルの改善などをもたらし得る。加えて、同様の理由から、異なるアミノ酸との1つ以上のアミノ酸の置換が行われ得、置換するアミノ酸は、いずれのドメインにおいても通常は約5個を超えない。
【0073】
本発明によるキメラ受容体をコードするキメラコンストラクトは、従来の方法で調製され得る。ほとんどの場合、天然配列が用いられ得るため、天然遺伝子は、様々な構成成分の適切な結合を可能にするように、適宜、単離され、操作され得る。このように、キメラ受容体のN末端及びC末端タンパク質をコードする核酸配列は、遺伝子の望ましくない部分の欠失をもたらす適切なプライマを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いることによって単離され得る。あるいは、クローン化遺伝子の制限消化物を使用して、キメラコンストラクトが生成され得る。いずれの場合でも、平滑末端化される制限部位を提供するか、又は相補的な重なりを有する配列が選択され得る。
【0074】
キメラコンストラクトを調製するための様々な操作は、in vitroで行うことができ、特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、標準的な形質転換又はトランスフェクション法を使用した適切な宿主内でのクローン化及び発現のために、ベクターに導入される。このように、それぞれの操作後、DNA配列の結合から得られたコンストラクトがクローン化され、ベクターが単離され、配列がスクリーニングされて、配列が所望のキメラ受容体をコードすることが確実になる。配列は、制限分析、配列決定などによってスクリーニングされ得る。本発明のキメラコンストラクトは、腫瘍のサイズを減少させることによって、又は対象における腫瘍の成長若しくは再成長を予防することによって、がんを有する又はがんを有することが疑われるこれらの対象に応用される。したがって、本発明は更に、改変された不死化T細胞に本発明のキメラコンストラクトを導入し、改変された不死化CAR−T細胞を対象に導入することによって、対象における腫瘍成長を軽減するか又は腫瘍形成を防止し、それにより、対象において腫瘍を減少させる又は排除する抗腫瘍反応をもたらす方法に関する。使用され得る好適な不死化T細胞としては、細胞毒性リンパ球(CTL)又は破壊を必要とするT細胞受容体を有する任意の不死化細胞が挙げられる。
【0075】
キメラコンストラクトは、ネイキッドDNAとしての不死化T細胞又は好適なベクター内の不死化T細胞に導入され得る。ネイキッドDNAを用いたエレクトロポレーションによりT細胞を安定的にトランスフェクションする方法は、当該技術分野において既知である。例えば米国特許番号第6,410,319号を参照されたい。ネイキッドDNAは、一般に、発現のために適切な配向でプラスミド発現ベクターに含有される、本発明のキメラ受容体をコードするDNAを指す。有利には、ネイキッドDNAの使用は、本発明のキメラ受容体を発現する不死化T細胞を産生するのに必要な時間を短縮する。
【0076】
あるいは、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、又はレンチウイルスベクター)を使用して、キメラコンストラクトが不死化T細胞に導入され得る。本発明の方法に従って使用するのに好適なベクターは、不死化T細胞において非複製的である。ウイルスに基づく多数のベクターが知られており、細胞内に維持されるウイルスのコピー数は、細胞の生存性を維持するのに十分に少ない。例証的なベクターとしては、pFB−neoベクター(STRATAGENE(登録商標))、並びにHIV、SV40、EBV、HSV、AAV、又はBPVに基づくベクターが挙げられる。
【0077】
トランスフェクション又は形質転換された不死化T細胞が、所望の調節により、所望のレベルで表面膜タンパク質としてキメラ受容体を発現できることが確立された後は、キメラ受容体は、所望のシグナル誘導を提供するように宿主細胞内で機能するか否かが決定され得る。続いて、形質転換された不死化T細胞は、対象における抗腫瘍反応を活性化するために、対象に再導入又は投与される。投与を容易にするために、本発明による形質転換されたT細胞は、適切な担体又は希釈剤を用いて医薬組成物に作製され得るか、又はin vivoの投与に適切な留置剤に作製され得、更に製薬的に許容され得る。このような組成物又は留置剤を作製する手段は、当該技術分野において記載されている(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mack,ed.(1980)を参照されたい)。適切な場合、形質転換された不死化T細胞は、カプセル、溶液、注射剤、吸入剤、又はエアロゾルなどの半固体又は液体形態で、それらの対応の投与経路に対応する通常の方法で、調製物に配合され得る。組成物が標的組織若しくは器官に到達するまで組成物の遊離及び吸収を防止する若しくは最小限に抑えるため、又は組成物の時効性を確実にするために、当該技術分野において既知の手段が利用され得る。しかしながら、キメラ受容体を発現する細胞を無効にする、製薬的に許容される形態を用いることが望ましい。したがって、形質転換された不死化T細胞は、平衡塩類溶液、好ましくはハンクス平衡塩類溶液、又は正常な生理食塩水を含有する医薬組成物に作製され得ることが望ましい。
【0078】
例示のBCMA特異的キメラT細胞受容体(又はキメラ抗原受容体、CAR)
MM治療の潜在的標的は、成熟B細胞で主に発現される腫瘍壊死因子受容体ファミリーのメンバーである、B細胞成熟抗原(BCMA)である(Coquery and Erickson,Crit Rev Immunol.2012;32(4):287−305)。BCMAは、そのリガンドであるTNFファミリーのB細胞活性化因子(BAFF)及び増殖誘導リガンド(APRIL)に結合すると、細胞生存促進性(Pro−survival)のシグナルを与える。BCMAは、NF−κB及びJNKシグナル伝達に依存するB細胞の抗原提示を誘発する。健康な個体では、BCMAは、長期の体液性免疫を維持する形質細胞の生存を媒介する役割を果たしているが、その発現は、多くのがん、自己免疫疾患、及び感染症にも関連している。例えば、BCMA RNAは、MM細胞中及び他のリンパ腫中に普遍的に検出されており、BCMAタンパク質は、MM患者からの形質細胞の表面上で検出されている(Novak et al.,Blood.2004 Jan 15;103(2):689−94;Neri et al.,Clin Cancer Res.2007 Oct 1;13(19):5903−9;Bellucci et al.,Blood.2005 May 15;105(10):3945−50;Moreaux et al.,Blood.2004 Apr 15;103(8):3148−57)。
【0079】
一態様では、本発明の組成物は、BCMA特異的FN3ドメインを含むBCMA標的化CARを含む。
【0080】
一態様では、本発明は、
a.BCMAに特異的に結合するFN3ドメインを有する細胞外ドメインと、
b.膜貫通ドメインと、
c.細胞内シグナル伝達ドメインとを含む、CARに関する。
【0081】
いくつかの実施形態では、新生CARでは、細胞外ドメインの先にはN末端にシグナルペプチドが付いている。任意の適当なシグナルペプチドを本発明で使用することができる。シグナルペプチドは、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。一実施形態によれば、シグナルペプチドは、ヒトCD8シグナルペプチド、ヒトCD3δシグナルペプチド、ヒトCD3εシグナルペプチド、ヒトGMCSFRシグナルペプチド、ヒト4−1BBシグナルペプチド、又はこれらの誘導体である。特定の実施形態によれば、シグナルペプチドは、配列番号3と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号3のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態によれば、シグナルペプチドは、配列番号46〜49のうちの1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号50〜53のうちの1つのアミノ酸配列を有する。シグナルペプチドは、移行中又は移行の完了後にシグナルペプチダーゼによって切断されることで、シグナルペプチドを含まない成熟CARを生成することができる。
【0082】
本発明の実施形態によれば、CARの細胞外ドメインはBCMA特異的FN3ドメインを含む。配列番号8〜44によるアミノ酸配列を含むがそれらに限定されない、本発明の実施形態による任意のBCMA特異的FN3ドメインを、CARの細胞外ドメインに用いることができる。
【0083】
本発明の実施形態によれば、CARは、細胞外ドメインと膜貫通ドメインとを連結するヒンジ領域を更に含むことができる。ヒンジ領域は、改変された免疫細胞の表面から離れるように細胞外ドメインを動かして、適切な細胞/細胞間の接触、標的又は抗原との結合、及び活性化を可能とする機能を有する(Patel et al.,Gene Therapy,1999;6:412−419)。任意の適当なヒンジ領域を本発明のCARに使用することができる。ヒンジ領域は、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。いくつかの実施形態によれば、CARのヒンジ領域は、6xGSペプチド(配列番号66)、若しくはそのフラグメント、若しくはCD8タンパク質に由来するヒンジ領域、又はこれらの誘導体である。特定の実施形態では、ヒンジ領域は、配列番号4と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を有する。
【0084】
任意の適当な膜貫通ドメインを本発明のCARに使用することができる。膜貫通ドメインは、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。いくつかの実施形態によれば、膜貫通ドメインは、CD8、CD28、CD4、CD2、GMCSFRなどの分子の膜貫通ドメインである。特定の実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号5と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号5のアミノ酸配列を有する。他の実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号50〜53のうちの1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号50〜53のうちの1つのアミノ酸配列を有する。
【0085】
任意の適当な細胞内シグナル伝達ドメインを本発明のCARに使用することができる。特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が用いられる。他の特定の実施形態では、エフェクターシグナルを伝達するシグナル伝達ドメインの切頭部分が用いられる。本発明の実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、これらに限定されるものではないが、増殖、活性化、及び/又は分化を含む、CAR保有細胞、例えばCAR−T細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。特定の実施形態では、シグナルは、CAR−T細胞の細胞溶解活性、ヘルパー活性、及び/又はサイトカイン分泌を促進する。
【0086】
いくつかの実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD16、CD22、CD27、CD28、CD30、CD79a、CD79b、CD134(TNFRSF4又はOX−40としても知られる)、4−1BB(CD137)、CD278(ICOSとしても知られる)、FcεRI、DAP10、DAP12、ITAMドメイン、又はCD66dなどに由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む。
【0087】
特定の実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン及び1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0088】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ζ由来の機能性シグナル伝達ドメインを有する一次細胞内シグナル伝達ドメインを含む。特定の実施形態では、一次細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号7と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号7のアミノ酸配列を有する。
【0089】
いくつかの実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒト4−1BBに由来する共刺激細胞内シグナル伝達ドメインを更に含む。特定の実施形態では、共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号6と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0090】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号45と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号45のアミノ酸配列を有する。
【0091】
特定の実施形態では、CARは、N末端からC末端にかけて、BCMA特異的FN3ドメイン(センチリン)、ヒトCD8ヒンジ領域、ヒトCD8膜貫通領域、ヒト4−1BB細胞内ドメイン、及びヒトCD3ζ細胞内ドメインを含む構造を有する。新生CARはヒトCD8シグナルペプチドを更に含み、このペプチドはその後、成熟したCARでは切断される。
【0092】
一実施形態では、本発明のCARは、CARを発現する宿主細胞に付随する。
【0093】
別の実施形態では、本発明のCARは、改変された不死化T細胞中に存在する。
【0094】
更に別の実施形態では、本発明のCARは、CARを発現する宿主細胞の他の構成成分から精製又は単離される。
【0095】
例示的なFN3ドメイン標的化キメラT細胞受容体(又はキメラ抗原受容体、CAR)
他の一般的な態様では、本発明は、FN3ドメイン特異的scFvを含むFN3ドメイン標的化CARに関する。
【0096】
一態様では、本発明は、
a.FN3ドメインの非ランダム化領域に特異的に結合するscFvを有する細胞外ドメインと、
b.膜貫通ドメインと、
c.細胞内シグナル伝達ドメインとを含む、CARに関する。
【0097】
FN3ドメイン特異的scFvを含むCARは、毒性を防ぐために改変された細胞に予め充填されるか、又は投与及び制御され得る標的FN3ドメインを使用して、T細胞媒介殺傷を制御するのに使用され得る。また、非標的化FN3ドメインは、リガンドと共役して、リガンド/受容体特異的様式で他の細胞型と係合するか、又は複数のリガンドと同時に係合する選択性を達成し得る。
【0098】
いくつかの実施形態では、新生CARでは、細胞外ドメインの先にはN末端にシグナルペプチドが付いている。任意の適当なシグナルペプチドを本発明で使用することができる。シグナルペプチドは、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。
【0099】
本発明の実施形態によると、CARの細胞外ドメインは、FN3ドメインの非ランダム化領域に特異的に結合するscFvを含む。配列番号54及び55によるアミノ酸配列を含むがそれらに限定されない、本発明の実施形態によるFN3ドメインに特異的に結合する任意のscFvを、CARの細胞外ドメインに用いることができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、新生CARでは、細胞外ドメインの先にはN末端にシグナルペプチドが付いている。任意の適当なシグナルペプチドを本発明で使用することができる。シグナルペプチドは、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。一実施形態によれば、シグナルペプチドは、ヒトCD8シグナルペプチド、ヒトCD3δシグナルペプチド、ヒトCD3εシグナルペプチド、ヒトGMCSFRシグナルペプチド、ヒト4−1BBシグナルペプチド、又はこれらの誘導体である。特定の実施形態によれば、シグナルペプチドは、配列番号3と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号3のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態によれば、シグナルペプチドは、配列番号46〜49のうちの1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号50〜53のうちの1つのアミノ酸配列を有する。シグナルペプチドは、移行中又は移行の完了後にシグナルペプチダーゼによって切断されることで、シグナルペプチドを含まない成熟CARを生成することができる。
【0101】
任意の適当な膜貫通ドメインを本発明のCARに使用することができる。膜貫通ドメインは、天然、合成、半合成、又は組み換えられた供給源に由来するものとすることができる。いくつかの実施形態によれば、膜貫通ドメインは、CD8、CD28、CD4、CD2、GMCSFRなどの分子の膜貫通ドメインである。特定の実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号5と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号5のアミノ酸配列を有する。他の実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号50〜53のうちの1つと少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号50〜53のうちの1つのアミノ酸配列を有する。
【0102】
任意の適当な細胞内シグナル伝達ドメインを本発明のCARに使用することができる。特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が用いられる。他の特定の実施形態では、エフェクターシグナルを伝達するシグナル伝達ドメインの切頭部分が用いられる。本発明の実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、これらに限定されるものではないが、増殖、活性化、及び/又は分化を含む、CAR保有細胞、例えばCAR−T細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。特定の実施形態では、シグナルは、CAR−T細胞の細胞溶解活性、ヘルパー活性、及び/又はサイトカイン分泌を促進する。他の実施形態では、本発明のCARにおいて細胞内シグナル伝達ドメインは使用されず、本発明のFN3ドメインに特異的に結合するscFvを含むCARは、エフェクター細胞を標的細胞に標的化するためのFN3ドメインと共に使用される。
【0103】
いくつかの実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD16、CD22、CD27、CD28、CD30、CD79a、CD79b、CD134(TNFRSF4又はOX−40としても知られる)、4−1BB(CD137)、CD278(ICOSとしても知られる)、FcεRI、DAP10、DAP12、ITAMドメイン、又はCD66dなどに由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む。
【0104】
特定の実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン及び1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0105】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ζ由来の機能性シグナル伝達ドメインを有する一次細胞内シグナル伝達ドメインを含む。特定の実施形態では、一次細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号7と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号7のアミノ酸配列を有する。
【0106】
いくつかの実施形態によれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒト4−1BBに由来する共刺激細胞内シグナル伝達ドメインを更に含む。特定の実施形態では、共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号6と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0107】
一実施形態では、本発明のCARは、CARを発現する宿主細胞に付随する。
【0108】
別の実施形態では、本発明のCARは、CARを発現する宿主細胞の単離細胞膜中に存在する。
【0109】
更に別の実施形態では、本発明のCARは、CARを発現する宿主細胞の他の構成成分から精製又は単離される。
【0110】
TCR及びB2Mを破壊するための例示のエンドヌクレアーゼ
本発明の結果として、改善された特徴を有する、改変された不死化T細胞を得ることができる。具体的には、本発明は、TCR及びB2Mの発現が阻害されることを特徴とする、改変されたT細胞、好ましくは不死化T細胞を提供する。
【0111】
特定の実施形態によると、改変された不死化T細胞は、TCR又はB2Mをコードする遺伝子などの所望の遺伝子をDNA切断により選択的に非活性化することができるエンドヌクレアーゼを発現する。「エンドヌクレアーゼ」なる用語は、DNA分子又はRNA分子、好ましくはDNA分子内の核酸間の結合の加水分解(開裂)を触媒することができる野生型又は変異酵素を指す。特に、該エンドヌクレアーゼは、非常に特異的であり、長さが10〜45塩基対(bp)の範囲、通常は長さが10〜35塩基対の範囲、より通常は12〜20塩基対の範囲の核酸標的部位を認識する。本発明によるエンドヌクレアーゼは、更に「標的配列」と称される特定のポリヌクレオチド配列において認識し、該エンドヌクレアーゼの分子構造に応じて、これらの標的配列の内部で又はそれに隣接する配列へと核酸を切断する。エンドヌクレアーゼは、特定のポリヌクレオチド配列で単一又は二重鎖切断を認識し、生成し得る。
【0112】
特定の実施形態では、該エンドヌクレアーゼは、Cas9/CRISPR複合体である。Cas9/CRISPRエンドヌクレアーゼは、Cas9がRNA分子と関連するゲノム工学ツールの新たな世代をなす。この系では、RNA分子ヌクレオチド配列は、標的特異性を決定し、エンドヌクレアーゼを活性化する(Gasiunas,Barrangou et al.2012;Jinek,Chylinski et al.2012;Cong,Ran et al.2013;Mali,Yang et al.2013)。Csn1とも称されるCas9は、crRNAの生合成及び侵入性DNAの破壊の両方に関与する大きなタンパク質である。Cas9は、S.thermophiles,Listeria innocua(Gasiunas,Barrangou et al.2012;Jinek,Chylinski et al.2012)及びS.Pyogenes(Deltcheva,Chylinski et al.2011)などの異なる細菌種において記載されている。大きなCas9タンパク質(>1200アミノ酸)は、予測される2つのヌクレアーゼドメイン、すなわちタンパク質の中央に位置するHNH(McrA様)ヌクレアーゼドメイン、及び分断されたRuvC様ヌクレアーゼドメイン(RNase H fold)を含有する。Cas9変異体は、自然界に自然には存在せず、タンパク質工学又はランダム突然変異誘発によって得られる、Cas9エンドヌクレアーゼであり得る。本発明によるCas9変異体は、例えば、突然変異、すなわちSi pyogenes Cas9エンドヌクレアーゼ(COG3513)のアミノ酸配列中の少なくとも1つの残基からの欠失、又はその挿入若しくは置換によって得られ得る。
【0113】
他の実施形態では、該エンドヌクレアーゼはまた、メガヌクレアーゼの名称でも知られるホーミングエンドヌクレアーゼであり得る。このようなホーミングエンドヌクレアーゼは、当該技術分野において周知である(Stoddard 2005)。ホーミングエンドヌクレアーゼは、非常に特異的であり、長さが12〜45塩基対(bp)の範囲、通常は長さが14〜40bpの範囲のDNA標的部位を認識する。本発明によるホーミングエンドヌクレアーゼは、例えば、LAGLIDADG(配列番号67)エンドヌクレアーゼに、HNHエンドヌクレアーゼ、又はGIY−YIGエンドヌクレアーゼに対応し得る。本発明による好ましいホーミングエンドヌクレアーゼは、I−Crel変異体であり得る。「変異体」エンドヌクレアーゼ、すなわち、自然界に自然には存在せず、遺伝子工学又はランダム突然変異誘発によって得られるエンドヌクレアーゼは、野生型エンドヌクレアーゼによって認識されるものとは異なるDNA配列に結合し得る(国際出願公開第2006/097854号を参照されたい)。
【0114】
他の実施形態では、該レアカットエンドヌクレアーゼは、「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」(ZFN)であってもよく、一般に、IIS型制限酵素の開裂ドメイン、Foklと、3つ以上のC2H2ジンクフィンガーモチーフを含有するDNA認識ドメインとの間の融合である。正確な配向及び間隔での2つの個々のZFNのDNA中の特定の位置におけるヘテロ二量体化は、DNA中の二重鎖切断(DSB)につながる。このようなキメラエンドヌクレアーゼの使用は、Urnov et al.により検討されているように、当該技術分野において広範に報告されている(Genome editing with engineered zinc finger nucleases(2010)Nature reviews Genetics 11:636−646)。標準ZFNは、開裂ドメインをそれぞれのジンクフィンガードメインのC末端に融合させる。2つの開裂ドメインがDNAを二量体化及び切断することを可能にするために、2つの個々のZFNは、C末端が一定の距離離れた状態でDNAの反対側のストランドを結合する。ジンクフィンガードメインと開裂ドメインとの間の最も一般的に使用されるリンカー配列は、それぞれの結合部位の5’エッジが5〜7bp分断されることを必要とする。新しいジンクフィンガーアレイを生成するための最も単純な方法は、既知の特異性のより小さいジンフィンガー「モジュール」を組み合わせることである。最も一般的なモジュラーアセンブリプロセスは、それぞれ3塩基対のDNA配列を認識し得る3つの別個のジンクフィンガーを組み合わせて、9塩基対標的部位を認識し得る3フィンガーアレイを生成することを伴う。所望の配列を標的にすることができるジンフィンガーアレイを生成するために、多数の選択方法が使用されてきた。初期選択の取り組みでは、部分的にランダム化されたジンクフィンガーアレイの大きなプールから所与のDNA標的を結合したタンパク質を選択するために、ファージディスプレイを利用した。より最近の取り組みでは、酵母ワンハイブリッド系、細菌型ワンハイブリッド及びツーハイブリッド系、並びに哺乳類細胞を利用してきた。
【0115】
他の実施形態では、該エンドヌクレアーゼは、典型的に転写活性化因子様エフェクタータンパク質(TALE)又はモジュラー塩基対塩基結合性ドメイン(MBBBD)に由来するDNA結合ドメインの、エンドヌクレアーゼ活性を有する触媒ドメインとの融合から得られる、「TALEヌクレアーゼ」又は「MBBBDヌクレアーゼ」である。このような触媒ドメインは、通常、例えば、I−Tevl、CoIE7、NucA、及びFok−Iなどの酵素に由来する。TALEヌクレアーゼは、選択された触媒ドメインに応じて、単量体又は二量体形態で形成され得る(国際公開第2012138927号)。このような改変されたTALE−ヌクレアーゼは、商標名TALEN(商標)(Cellectis,8 rue de la Croix Jarry,75013 Paris,France)で市販されている。一般に、DNA結合ドメインは、転写活性化因子様エフェクター(TALE)に由来し、配列特異性は、非限定的な例としてキサントモナス又はラルストニア細菌タンパク質AvrBs3、PthXo1、AvrHah1、PthA、Tal1cに起源を持つ一連の33〜35個のアミノ酸反復によって駆動される。これらの反復は、塩基対との相互作用を指定する2つのアミノ酸位置によって、本質的に異なる(Boch,Scholze et al.2009;Moscou及びBogdanove 2009)。DNA標的中のそれぞれの塩基対は単一反復によって接触され、特異性は、2つの変異アミノ酸の反復からもたらされる(いわゆる反復可変ジペプチド、RVD)。TALE結合ドメインは、標的配列の第1のチミン塩基(TO)の必要性を担うN末端転座ドメインと、核局在シグナル(NLS)を含有するC末端ドメインと、を更に含み得る。TALE核酸結合ドメインは、一般に、複数のTALE反復配列を含む改変されたコアTALEスカフォールドに相当し、それぞれの反復は、TALE認識部位のそれぞれのヌクレオチド塩基に特異的なRVDを含む。本発明では、該コアスカフォールドのそれぞれのTALE反復配列は、30〜42個、より好ましくは33又は34個のアミノ酸から作製され、12位及び13位に位置する2つの重要なアミノ酸(いわゆる反復可変ジペプチド、RVD)は、該TALE結合部位配列の1つのヌクレオチドの認識を媒介し、等価な2つの重要なアミノ酸は、特に33又は34個のアミノ酸長よりも高いTALE反復配列において、12位及び13位以外に位置し得る。好ましくは、異なるヌクレオチドの認識に関連付けられたRVDは、Cを認識するためのHD、Tを認識するためのNG、Aを認識するためのNI、G又はAを認識するためのNNである。別の実施形態では、重要なアミノ酸12及び13は、ヌクレオチドA、T、C、及びGに向かうそれらの特異性を調節するため、特にこの特異性を強化するために、他のアミノ酸残基に向かって変異され得る。TALE核酸結合ドメインは、通常、8〜30個のTALE反復配列を含む。より好ましくは、本発明の該コアスカフォールドは、8〜20個のTALE反復配列を含み、更により好ましくは、15個のTALE反復配列を含む。これはまた、TALE反復配列の該セットのC末端に位置する20個のアミノ酸で作製された、追加の単一の切断TALE反復配列、すなわち追加のC末端半TALE反復配列を含み得る。他のモジュラー塩基対塩基特異性核酸結合ドメイン(MBBBD)は、国際公開第2014/018601号に記載されている。該MBBBDは、例えば、内部共生菌Burkholderia Rhizoxinicaの最近配列されたゲノムから新たに同定されたプロテイン、すなわちEAV36_BURRH、E5AW43_BURRH、E5AW45_BURRH、及びE5AW46_BURRHタンパク質から改変され得る。これらの核酸結合ポリペプチドは、塩基特異的である約31〜33個のアミノ酸のモジュールを含む。これらのモジュールは、キサントモナスTALE共通の反復と40%未満の配列同一性を示し、より多くのポリペプチド配列の変異性を提示する。バークホルデリア及びキサントモナス由来の上記タンパク質(モジュール、N末端及びC末端)とは異なるドメインは、特定の核酸配列に対する結合特性を有する新しいタンパク質又はスカフォールドを改変するのに有用であり、キメラTALE−MBBBDタンパク質を形成するために組み合わせることもできる。
【0116】
本発明の実施形態に関連する方法及び組成物
特定の態様では、本発明は、TCR/B2Mが欠損している不死化T細胞を、CARをコードするDNAコンストラクトを含有する発現ベクターを用いてトランスフェクトすることを含む、抗原特異的にリダイレクトされた改変された不死化CAR−T細胞を作製及び/又は拡大する方法を含む。
【0117】
別の態様では、本発明は、エレクトロポレーションにより、改変された不死化T細胞を安定的にトランスフェクトし、リダイレクトする方法、又はネイキッドDNAを使用した他の非ウイルス遺伝子移入(限定するものではないが例えば、ソノポレーション)の方法である。ほとんどの研究者は、異種遺伝子をT細胞に運ぶためにウイルスベクターを使用してきた。ネイキッドDNAを使用することにより、リダイレクトされたT細胞を産生するのに必要な時間を短縮することができる。「ネイキッドDNA」は、発現に適切な配向で発現カセット又はベクターに含有されるキメラT細胞受容体(cTCR)をコードするDNAを意味する。本発明のエレクトロポレーション方法は、キメラTCR(cTCR)をその表面上に発現させ、担持する安定発現株を産生する。
【0118】
「キメラTCR」は、T細胞によって発現され、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞外ドメインを含む受容体を意味し、細胞外ドメインは、MHC非制限的な様式で、その様式ではT細胞受容体によって正常に結合されない抗原に特異的に結合することができる。適切な条件下での抗原によるT細胞の刺激は、細胞の増殖(拡大)をもたらす。本発明の例示のBCMA及びFN3ドメイン特異的キメラ受容体は、キメラTCRの例である。しかしながら、この方法は、HER2/Neu、ERBB2、葉酸結合タンパク質、腎細胞がん、並びにHIV−1エンベロープ糖タンパク質gp20及びgp41に特異的なキメラTCRなど、他の標的抗原に特異的なキメラTCRとのトランスフェクションに適用可能である。他の細胞表面標的抗原としては、限定するものではないが、CD20、がん胎児性抗原、メソセリン、c−Met、CD56、HERV−K、GD2、GD3、アルファフェトプロテイン(aiphafetoprotein)、CD23、CD30、CD123、IL−llRalpha、カッパ鎖、ラムダ鎖、CD70、CA−125、MUC−1、EGFR及び変異体、上皮腫瘍抗原などが挙げられる。
【0119】
特定の態様では、T細胞は不死化ヒトT細胞である。条件としては、mRNA及びDNAの使用、並びにエレクトロポレーションが挙げられる。トランスフェクションに続き、細胞は直ちに注入されてもよく、又は保存されてもよい。特定の態様では、トランスフェクションに続き、細胞は、細胞への遺伝子移入後、約1、2、3、4、5日又はそれ以上の内に、混合集団としてex vivoで数日間、数週間、又は数ヶ月にわたって伝搬され得る。更なる態様では、トランスフェクションに続き、トランスフェクタントがクローン化され、単一の統合された又はエピソーム的に維持された発現カセット又はプラスミドの存在とキメラ受容体の発現とを実証するクローンが、ex vivoで拡大される。拡大のために選択されたクローンは、BCMA発現標的細胞を特異的に認識し、溶解する能力を実証する。組み換え不死化T細胞は、IL−2、又は共通のγ鎖(例えば、IL−7、IL−15、IL−21、及び他のもの)に結合する他のサイトカインによる刺激によって拡大され得る。更なる態様では、遺伝子改変された細胞は凍結保存されてもよい。
【0120】
注入後のT細胞伝播(生存)は、(i)CARに特異的なプライマを使用するq−PCR、及び/又は(ii)CARに特異的な抗体を使用するフローサイトメトリーによって評価され得る。
【0121】
本発明はまた、TCR及びB2M発現を欠いているリダイレクトされた不死化T細胞を使用する、細胞表面エピトープがBCMA特異的である、がん、より具体的には多発性骨髄腫の標的化を表す。B細胞は、T細胞の免疫活性化抗原提示細胞として機能し得ることから、悪性B細胞は、リダイレクトされたT細胞の優れた標的である。本発明の特定の実施形態では、本発明の改変された不死化T細胞は、がん又は感染を有する個体など、それを必要とする個体に送達される。次いで、細胞は、個体の免疫系を強化して、対応のがん又は病原性細胞を攻撃する。場合によっては、個体には、抗原特異的な改変された不死化T細胞の1回以上の投与が提供される。個体に抗原特異的な改変された不死化T細胞の2回以上の投与を提供する場合、投与間の時間は、個体における伝搬時間を考慮に入れるのに十分であるべきであり、特定の実施形態では、投与間の時間は1、2、3、4、5、6、7日又はそれ以上である。
【0122】
キメラ抗原受容体を含むように改変され、かつ機能的TCR及びB2Mを欠いている不死化T細胞の供給源は、任意の種類であってもよいが、特定の実施形態では、細胞は、臍帯血、末梢血、ヒト胚性幹細胞、又は誘導多能性幹細胞のバンクから得られる。異なるバンクは同じHLAを共有しないため、複数のバンクが用いられてもよい。
【0123】
治療効果に好適な投与量は、例えば、好ましくは一連の投与サイクルで、投与1回当たり少なくとも10
5、又は約10
5〜約10
10細胞となる。例示の投与レジメンは、0日目に少なくとも約105個の細胞で開始し、例えば、患者内投与量漸増法を開始する数週間以内に約10
10細胞の目標投与量まで徐々に増加させる、1週間の投与サイクルで4回の漸増投与で構成される。好適な投与形態としては、静脈内、皮下、心臓内(例えば、リザーバアクセスデバイスによる)、腹腔内、及び腫瘍塊への直接注射が挙げられる。
【0124】
本発明の医薬組成物は、単独で、又はがんの治療に有用な他の十分に確立された薬剤と組み合わせて使用することができる。単独で送達されるか又は他の薬剤と組み合わせて送達されるかにかかわらず、本発明の医薬組成物は、特定の効果を達成するために、様々な経路で、哺乳類、特にヒトの体内の様々な部位に送達され得る。当業者であれば、2つ以上の経路を投与に使用することができるが、特定の経路は、別の経路よりも即効性のある反応を提供し得ることを認識するであろう。例えば、皮内送達は、黒色腫の治療のために吸入よりも有利に使用され得る。局所送達又は全身送達は、製剤の身体空洞への塗布若しくは滴下、エアロゾルの吸入若しくは送気を含む投与によって、又は筋肉内、静脈内、門脈内、肝内、腹膜、皮下、又は皮内投与を含む非経口導入によって達成され得る。
【0125】
本発明の組成物は、単位剤形で提供することができ、それぞれの投与単位、例えば注射は、単独で又は他の活性剤との適切な組み合わせで所定量の組成物を含有する。本明細書で使用するところの「単位剤形」なる用語は、ヒト及び動物対象の単一投与量として好適な物理的に分離した単位を指し、それぞれの単位は、本発明の所定量の組成物を、単独で、又は適宜、薬学的に許容される希釈剤、担体、又は賦形剤と関連して、所望の効果をもたらすのに十分な量で計算された他の活性剤との組み合わせで含有する。本発明の新規単位剤形の仕様は、特定の対象における医薬組成物に関連付けられた特定の薬力学に依存する。
【0126】
望ましくは、改変された不死化T細胞の有効量又は十分な数が組成物中に存在し、対象に導入され、それにより、長期的に特異的な抗腫瘍反応が確立されて、そのような治療がない場合よりも、腫瘍のサイズが低減されるか又は腫瘍成長若しくは再成長が排除される。望ましくは、対象に再導入された改変された不死化T細胞の量は、改変された不死化T細胞が存在しない他の同じ条件と比較して、腫瘍サイズの10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は100%の減少を引き起こす。
【0127】
したがって、投与される改変された不死化T細胞の量は、投与経路を考慮すべきであり、所望の治療反応を達成するために、十分な数の改変された不死化T細胞が導入されるようなものであるべきである。更に、本明細書に記載される組成物中に含まれるそれぞれの活性剤の量(例えば、接触されるそれぞれの細胞当たりの量又は特定の体重当たりの量)は、用途によって異なり得る。一般に、改変された不死化T細胞の濃度は、望ましくは、治療される対象に少なくとも約1×10
6〜約1×10
9個の改変された不死化T細胞を提供するのに十分であるべきであり、更により望ましくは、約1×10
7〜約5×10
8個の改変された不死化T細胞であるが、上記のいずれか、例えば、5×10
8個を超える細胞、又は例えば1×10
7個未満の細胞など、任意の好適な量を利用することができる。投与スケジュールは、十分に確立された細胞系療法に基づき得るか(例えば、Topalian and Rosenberg,1987;米国特許番号第4,690,915号を参照されたい)、又は代替的な連続注入戦略が用いられ得る。
【0128】
これらの値は、本発明の実施のために本発明の方法を最適化する際に、施術者によって利用される改変された不死化T細胞の範囲の一般的な指針を提供する。本明細書におけるこのような範囲の記載は、特定の用途において保証され得るように、より多い又はより少ない量の構成成分の使用を妨げるものではない。例えば、実際の投与量及びスケジュールは、組成物が他の医薬組成物と組み合わせて投与されるかどうかによって、又は薬物動態、薬物消長、及び代謝における個体差によって変化し得る。当業者は、特定の状況の緊急性に応じて、任意の必要な調整を容易に行うことができる。
【0129】
免疫系及び免疫療法
いくつかの実施形態では、医学的障害は、特定の免疫反応を引き出す、リダイレクトされた不死化T細胞の移入によって治療される。本発明の一実施形態では、がん又は医学的障害は、特異的免疫反応を引き出す、リダイレクトされたT不死化T細胞の移入によって治療される。ゆえに、免疫学的反応の基本的な理解が必要である。
【0130】
適応免疫系の細胞は、リンパ球と呼ばれる白血球の一種である。B細胞及びT細胞は、主な種類のリンパ球である。B細胞及びT細胞は、同じ多能性造血幹細胞に由来し、活性化された後まで区別がつかない。B細胞は、体液性免疫反応において大きな役割を果たすが、T細胞は、細胞性免疫反応に密接に関与する。T細胞は、T細胞受容体(TCR)と呼ばれる特別な受容体がそれらの細胞表面上に存在することにより、B細胞及びNK細胞などの他のリンパ球型と区別することができる。ほぼ全ての他の脊椎動物において、B細胞及びT細胞は、骨髄中の幹細胞によって産生される。T細胞は、胸腺へと移動し、胸腺内で発達するものであり、名前はそれに由来している。ヒトにおいて、リンパ球プールの約1%〜2%は、毎時再循環して、抗原特異的リンパ球がそれらの特異的抗原を二次リンパ組織内に見出す機会を最適化する。
【0131】
Tリンパ球は、骨髄内の造血幹細胞から生じ、胸腺に遊走して成熟する。T細胞は、その膜上に固有の抗原結合受容体を発現し(T細胞受容体)、これは、他の細胞の表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子との関連においてのみ抗原を認識し得る。ヘルパーT細胞及び細胞毒性T細胞として知られる、T細胞の少なくとも2つの集団が存在する。ヘルパーT細胞及び細胞毒性T細胞は、それぞれ、膜結合糖タンパク質CD4及びCD8のそれらのディスプレイによって主に区別される。ヘルパーT細胞は、B細胞、細胞毒性T細胞、マクロファージ、及び免疫系の他の細胞の活性化に重要な様々なリンホカインを分泌する(secret)。対照的に、抗原−MHC複合体を認識する細胞毒性T細胞は、増殖し、細胞毒性Tリンパ球(CTL)と呼ばれるエフェクター細胞(effector ceil)に分化され、CLTは、細胞溶解をもたらす物質を産生することによって、ウイルス感染細胞及び腫瘍細胞などの本体を示している抗原(body displaying antigen)の細胞を排除する。ナチュラルキラー細胞(又はNK細胞)は、自然免疫系の主要構成成分を構成する細胞毒性リンパ球の一種である。NK細胞は、ウイルスに感染した腫瘍及び細胞の拒絶において大きな役割を果たす。この細胞は、アポトーシスによって標的細胞を死滅させる、パーフォリン及びグランザイムと呼ばれるタンパク質の小細胞質顆粒を放出することによって死滅させる。
【0132】
B細胞は、その表面上の抗体が特定の外来抗原に結合するときに、病原体を同定する。この抗原/抗体複合体は、B細胞によって取り入れられ、ペプチドへのタンパク質分解によって処理される。次いで、B細胞は、これらの抗原ペプチドを、その表面のMHCクラスII分子上に表示する。MHCと抗原とのこの組み合わせは、一致するヘルパーT細胞を誘引し、これによりリンホカインが放出され、B細胞が活性化される。次いで、活性化B細胞が分裂し始めると、その子孫(形質細胞)は、この抗原を認識する抗体の何百万ものコピーを分泌する。これらの抗体は、血漿及びリンパ液中で循環し、抗原を発現する病原体に結合し、それらに((hem)補体活性化による破壊のため、又は食細胞による取り込み及び破壊のためのマークを付ける。抗体はまた、細菌毒素に結合することによって、又はウイルス及び細菌が細胞を感染させるために使用する受容体に干渉することによって、負荷を直接中和し得る。
【0133】
NK細胞、すなわちナチュラルキラー細胞は、T細胞抗原受容体(TCR)又はPan TマーカーCDS又は表面免疫グロブリン(Ig)B細胞受容体を発現しないが、通常、ヒトにおいて表面マーカーCD16(FcyRIII)及びCD56を発現し、特定のマウス系統においてNK1.1/NK1.2を発現する、大型顆粒リンパ球として定義されている。
【0134】
マクロファージ、Bリンパ球、及び樹状細胞を含む抗原提示細胞は、特定のMHC分子の発現によって区別される。APCは、その外側細胞膜上のMHC分子と共に、抗原を内部移行し、その抗原の一部を再発現する。主要組織適合遺伝子複合体(MHC)は、複数の遺伝子座を有する大きな遺伝的複合体である。MHC病巣は、クラスI及びクラスII MHCと称される、MHC膜分子の2つの主要クラスをコードする。Tヘルパーリンパ球は、一般に、MHCクラスII分子に関連付けられた抗原を認識し、T細胞毒性リンパ球は、MHCクラスI分子に関連付けられた抗原を認識する。ヒトにおいて、MHCは、HLA複合体と称され、マウスにおいてはH−2複合体と称される。
【0135】
T細胞受容体、すなわちTCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に概ね関与する、Tリンパ球(又はT細胞)の表面上に見出される分子である。これは、T細胞の95%中のα鎖及びβ鎖からなるヘテロ二量体であり、5%のT細胞は、γ鎖及びδ鎖からなるTCRを有する。抗原及びMHCとのTCRの係合は、関連する酵素、共受容体、及び特殊なアクセサリ分子によって媒介される一連の生化学的事象を介して、そのTリンパ球の活性化をもたらす。免疫学において、CDS抗原(CDは分化のクラスタを表す)は、T細胞受容体(TCR)及びζ鎖として知られる分子と会合してTリンパ球中で活性化シグナルを生成する、哺乳類における4つの異なる鎖(CDSv、CD35、及び2xCDSe)からなるタンパク質複合体である。TCR、ζ鎖、及びCDS分子は共に、TCR複合体を含む。CD3y鎖、CD38鎖、及びCD3s鎖は、単一細胞外免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの関連性の高い細胞表面タンパク質である。CDS鎖の膜貫通領域は負に帯電し、これらの鎖が正に帯電したTCR鎖(TCRα及びTCRfi)と会合することを可能にすることが特徴である。CDS分子の細胞内末端は、‘T’CRのシグナル伝達能力に必須である、免疫受容体チロシナーゼ系活性化モチーフ、略してIT AMとして知られる単一の保存モチーフを含有する。
【0136】
CD28は、T細胞活性化に必要とされる共刺激シグナルを提供する、T細胞上で発現される分子のうちの1つである。CD28は、B7.1(CD80)及びB7.2(CD86)の受容体である。Toil様受容体リガンドによって活性化されると、B7.1発現は、抗原提示細胞(antigen presenting ceils)(APC)中で上方調節される。抗原提示細胞上のB7.2発現は構成型である。CD28は、ナイーブT細胞上で恒常的に発現される唯一のB7受容体である。TCRに加えてCD28を介した刺激は、様々なインターロイキン(特に、IL−2及びIL−6)の産生のために、強力な共刺激シグナルをT細胞に提供し得る。
【0137】
ヒト疾患の治療的介入として抗原特異的T細胞を単離及び拡大する戦略は、臨床治験において検証されている(Riddell et al.,1992;Walter et al.,1995;Heslop et al,1996)。
【0138】
B細胞は、T細胞の免疫活性化抗原提示細胞として機能し得ることから、悪性B細胞は、リダイレクトされたT細胞の優れた標的と見なされる(Glimcher et al,1982)。リンパ腫は、そのリンパ節向性によって、T細胞性認識及び排除のために解剖学的に理想的な位置に定められる。多数のリンパ節に注入されたT細胞の局在性は、HIV特異的CD8
+CTLクローンの注入を受けたHIV患者において記録されている。これらの患者において、リンパ節生検材料の評価により、注入されたクローンは、リンパ節の約2%〜8%のCD8+細胞を構成することが明らかになった。この接着分子は、循環T細胞をリンパ節に向かわせ、in vitroの拡大によって下方調節されるため(Chao et al.,1997)、リンパ節ホーミングは、構成型プロモータ下でL選択分子をコードするcDNAコンストラクトとT細胞を同時トランスフェクトすることによって更に改善され得る。本発明は、上記のように、治療的有効量の組み換えヒトBCMA特異的CAR発現細胞を患者に注入することを含む、内因性BCMAを発現する細胞に関連付けられたヒト疾患状態を治療する方法を提供し得る。内因性BCMAを発現する細胞に関連付けられたヒト疾患状態は、多発性骨髄腫、リンパ腫、白血病、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、及びB細胞関連の自己免疫疾患からなる群から選択され得る。
【0139】
多発性骨髄腫(MM)は、クローン性形質細胞の蓄積を特徴とするがんである。MMは、2番目に多い血液悪性疾患であり、全てのがんによる死亡の2%をも占める。MMは異質性疾患であり、広範な侵攻性及び治療抵抗性を特徴とする。診断後10年以上生存する患者がいる一方で、2年以内に急速な治療抵抗性が進行し、死亡する患者もいる。新たな治療法の開発における進歩にもかかわらず、現在のところ、MMに対する治療は存在していない。現在の治療法はしばしばMMの寛解につながるが、疾患は、いずれはほぼ全ての患者において再発し、最終的に致死的である(Naymagon and Abdul−Hay,J Hematol Oncol.2016 Jun 30;9(1):52)。更に、化学療法及び放射線治療を含む従来の治療方法は、有害な副作用のためにその有用性は限定的である。
【0140】
白血病は、血液又は骨髄のがんであり、血液細胞、通常は白血細胞(白血球)の異常増殖(増殖による産生)によって特徴付けられる。これは、血液腫瘍と呼ばれる広範な疾患群の一部である。白血病は、疾患のスペクトルを網羅する広義の用語である。白血病は、その急性及び慢性形態へと臨床的及び病理学的に分割される。
【0141】
急性白血病は、未熟血液細胞の急速な増殖を特徴とする。このクラウディングは、骨髄が健康な血液細胞を産生できないようにする。急性形態の白血病は、小児及び若年成人において発生し得る。実際に、これは、任意の他の種類の悪性疾患よりも、米国の小児のより一般的な死因である。悪性細胞が迅速に進行して蓄積され、次いで血流に乗って身体の他の器官に広がるため、急性白血病においては即時治療が必要である。中枢神経系(CNS)の関与は一般的ではないが、この疾患は時々、脳神経麻痺を引き起こし得る。慢性白血病は、比較的成熟しているが異常な血液細胞の過剰な蓄積によって区別される。典型的には、数ヶ月〜数年を経て、細胞は正常細胞よりもはるかに高い速度で産生され、血液中に多くの異常な白血球をもたらす。慢性白血病は、大部分が高齢者において生じるが、理論的にはいずれの年齢群でも発生し得る。急性白血病は直ちに治療されなければならないが、慢性形態は、治療の最大有効性を確保するために治療前にしばらくの間監視される場合がある。
【0142】
更に、この疾患は、リンパ球を形成するために正常に進行する骨髄細胞の一種においてがん化が起こったことを示すリンパ球性又はリンパ芽球性と、赤血球、一部の種類の白血球、及び血小板を形成するために正常に進行する骨髄細胞(marrow ceil)の一種においてがん化が起こったことを示す骨髄性(myelogenous又はmyeloid)と、に分類される(リンパ系細胞対骨髄系細胞を参照されたい)。
【0143】
急性リンパ性白血病(急性リンパ球性白血病、又はALLとしても知られる)は、若年小児における白血病の最も一般的な種類である。この疾患は、成人、特に65歳以上でも発症する。慢性リンパ性白血病(CLL)は、55歳を超える成人で発症することが多い。これは、より若い成人において生じることがあるが、小児ではほとんど発症しない。急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)(急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)、すなわちAMLとしても知られる)は、小児よりも成人でより一般的に生じる。この種の白血病は、以前は「急性非リンパ性白血病」と呼ばれた。慢性骨髄性白血病(CML)は主に成人で生じるが、非常に少数の小児もこの疾患にかかる。
【0144】
リンパ腫は、リンパ球(脊椎動物免疫系内の白血球の種類)に起こるがんの種類である。多くの種類のリンパ腫が存在する。米国国立衛生研究所によれば、リンパ腫は、米国におけるがんの全ての症例の約5パーセントを占め、ホジキンリンパ腫は特に、米国におけるがんの全ての症例の1パーセント未満を占める。リンパ系は、身体の免疫系の一部(pari)であるため、HIV感染又は特定の阻害要因若しくは薬物適用などから免疫力が低下した患者も、より高いリンパ腫の発生率を有する。
【0145】
19世紀及び20世紀には、この症状は、1832年にThomas Hodgkinによって発見されたことから、ホジキン病と呼ばれた。口語的に、リンパ腫は、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫(全ての他の種類のリンパ腫)として広く分類されている。リンパ腫の種類の科学的分類は、より詳細である。以前の分類は、組織球性リンパ腫を指したが、これらは、新しい分類においてB細胞系統、T細胞系統、又はNK細胞系統として認識される。
【0146】
自己免疫疾患又は自己免疫は、「自己」として自身の構成部分(サブ分子レベルまで)を認識するための生物の欠如であり、それ自体の細胞及び組織に対する免疫反応をもたらす。かかる異常免疫反応から生じる任意の疾患は、自己免疫疾患と称される。顕著な例としては、セリアック病、真性糖尿病1型(IDDM)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、多発性硬化症(MS)、橋本甲状腺炎、グレーブス病、特発性血小板減少性紫病、及び関節リウマチ(EA)が挙げられる。
【0147】
自己免疫疾患を含む炎症性疾患は、B細胞障害に関連付けられた疾患のクラスでもある。自己免疫疾患の例としては、限定するものではないが、急性特発性血小板減少性紫斑病、慢性特発性血小板減少性紫斑病、皮膚筋炎、シドナム舞踏病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、リウマチ熱、多腺性症候群、水疱性類天疱瘡、真性糖尿病、へノッホ・シェーンライン紫斑病、ポストストレプトコッカス腎炎、結節性紅斑、脈なし病、アジソン病、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、類肉腫症、潰瘍性大腸炎、多形性紅斑、IgA腎症、結節性多発性動脈炎、強直性脊椎炎、グッドパスチャー症候群、スロンボアンジチビテランス、シェーグレン症候群、原発性胆汁性硬変、橋本甲状腺炎、甲状腺中毒症、強皮症、慢性活動性肝炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、多発性軟骨炎、尋常性天疱瘡、ウェゲナー肉芽腫症、膜性腎症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄癆、巨細胞性動脈炎/多発性筋痛、悪性貧血、急速進行性糸球体腎炎、乾癬、及び線維性肺胞炎が挙げられる。最も一般的な治療は、コルチコステロイド及び細胞毒性薬物であり、これらは非常に有毒であり得る。これらの薬物はまた、免疫系全体を抑制し、重篤な感染をもたらして、骨髄、肝臓、及び腎臓に悪影響を及ぼし得る。現在までクラスIII自己免疫疾患を治療するために使用されてきた他の治療学は、T細胞及びマクロファージに対して指向されている。自己免疫疾患、特にクラスIII自己免疫疾患を治療する、より効果的な方法が必要とされている。
【0148】
本発明のキットの実施形態
本明細書に記載される任意の組成物がキットに含まれてもよく、いくつかの実施形態では、改変された不死化CAR−T細胞がキットで提供され、このキットはまた、培地など、細胞を拡大するのに好適な試薬を含んでもよい。
【0149】
非限定的な例では、キメラ受容体発現コンストラクト、キメラ受容体発現コンストラクトを生成するための1つ以上の試薬、発現コンストラクトのトランスフェクションのための細胞、及び/又は、発現コンストラクトのトランスフェクションのために不死化T細胞を得るための1つ以上の器具(かかる器具は、注射器、ピペット、ピンセット、及び/又はこのような医学的に承認された任意の装置であってもよい)である。
【0150】
いくつかの実施形態では、内因性TCR発現及びB2Mを排除するための発現コンストラクト、コンストラクトを生成するための1つ以上の試薬、及び/又はCAR+T細胞がキットで提供される。
【0151】
いくつかの実施形態では、そこにCas9エンドヌクレアーゼをコードする発現コンストラクトが含まれる。
【0152】
いくつかの態様では、キットは、細胞のエレクトロポレーションのための試薬又は装置を含む。
【0153】
いくつかの実施形態では、キットは、人工抗原提示細胞を含む。
【0154】
キットは、本発明の1つ以上の好適に等分された組成物又は本発明の組成物を生成するための試薬を含んでもよい。キットの構成成分は、水性培地又は凍結乾燥形態のいずれかでパッケージ化されてもよい。キットの容器手段は、少なくとも1つのバイアル瓶、試験管、フラスコ、ボトル、注射器、又は他の容器手段を含んでもよく、その中に構成成分が入れられてもよく、好ましくは、好適に等分されてもよい。キット内に2つ以上の構成成分が存在する場合、キットはまた一般に、追加の構成成分を別々に入れることができる第2、第3、又は他の追加の容器を含むことになる。しかしながら、構成成分の様々な組み合わせがバイアル瓶に含まれてもよい。本発明のキットは、典型的には、キメラ受容体コンストラクトを収容するための手段と、商用販売のために密閉された任意の他の試薬容器とを含むことになる。このような容器としては、例えば、所望のバイアルが保持される射出成形又は吹込成形プラスチック容器が挙げられ得る。
【0155】
実施形態
本発明は、以下の非限定的な実施形態も提供する。
1.キメラ抗原受容体(CAR)を発現する改変された不死化T細胞株であって、
(a)抗原結合領域を含む細胞外ドメインと、
(b)膜貫通ドメインと、
(c)細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、
不死化T細胞株は、少なくとも1つの内因性T細胞受容体を発現せず、β2ミクログロブリン(B2M)を発現しない、不死化T細胞株。
2.抗原結合領域が腫瘍関連抗原に結合する、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
3.腫瘍関連抗原がBCMAである、実施形態2に記載の不死化T細胞株。
4.抗原結合領域がフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインに結合する、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
5.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がノックアウトされる、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
6.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がTCRαである、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
7.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がKIR3DL2である、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
8.B2Mがノックアウトされる、実施形態1に記載の不死化T細胞株。
9.CARを発現する改変されたTALL−104細胞株であって、
(a)抗原結合領域を含む細胞外ドメインと、
(b)膜貫通ドメインと、
(c)細胞内シグナル伝達ドメインとを含み、
TALL−104細胞株は、少なくとも1つの内因性T細胞受容体を発現せず、β2ミクログロブリン(B2M)を発現しない、TALL−104細胞株。
10.抗原結合領域が腫瘍関連抗原に結合する、実施形態9に記載の細胞株。
11.腫瘍関連抗原がBCMAである、実施形態10に記載の細胞株。
12.抗原結合領域がフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインに結合する、実施形態9に記載の細胞株。
13.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がノックアウトされる、実施形態9に記載の細胞株。
14.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がTCRαである、実施形態9に記載の細胞株。
15.少なくとも1つの内因性T細胞受容体がKIR3DL2である、実施形態9に記載の細胞株。
16.B2Mがノックアウトされる、実施形態9に記載の細胞株。
17.CARを発現する改変されたTALL−104細胞株であって、
(a)配列番号3のアミノ酸配列を有するシグナルペプチドと、
(b)配列番号8〜44のいずれか1つのアミノ酸配列を有するFN3ドメインを含む細胞外ドメインと、
(c)配列番号4のアミノ酸配列を有するヒンジ領域と、
(d)配列番号5のアミノ酸配列を有する膜貫通ドメインと、
(e)配列番号6のアミノ酸配列を有する共刺激ドメイン及び配列番号7のアミノ酸配列を有する一次シグナル伝達ドメインを含む、細胞内シグナル伝達ドメインと、を含み、
細胞株は、TRCA、KIR3DL2、及びB2Mを発現しない、TALL−104細胞株。
18.CARを発現する改変されたTALL−104細胞株であって、
(a)配列番号54及び55のいずれか1つのアミノ酸配列を有するscFvを含む細胞外ドメインと、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有するヒンジ領域と、
(c)配列番号5のアミノ酸配列を有する膜貫通ドメインと、
(d)配列番号6のアミノ酸配列を有する共刺激ドメイン及び配列番号7のアミノ酸配列を有する一次シグナル伝達ドメインを含む、細胞内シグナル伝達ドメインと、を含み、
TALL−104細胞株は、TRCA、KIR3DL2、及びB2Mを発現しない、TALL−104細胞株。
19.CARを発現する改変された不死化T細胞株を生成するin vitro方法であって、
a.不死化T細胞株を提供する工程と、
b.少なくとも1つの内因性T細胞受容体及びB2Mの発現を阻害する工程と、
c.前記不死化T細胞にCARをコードするポリヌクレオチドを導入する工程と、を含む、方法。
20.工程bが工程cの前に行われる、実施形態19に記載の方法。
21.工程cが工程bの前に行われる、実施形態19に記載の方法。
22.工程bがエンドヌクレアーゼを使用することによって実施される、実施形態19に記載の方法。
23.エンドヌクレアーゼが、TALヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又はCas9である、実施形態22に記載の方法。
24.工程cが、エレクトロポレーション又はウイルス系遺伝子移入システムによって不死化T細胞にCARをコードするポリヌクレオチドを導入することとして更に定義される、実施形態19に記載の方法。
25.ウイルス系遺伝子移入システムが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、又はレンチウイルスベクターを含む、実施形態4に記載の方法。
26.実施形態1〜18のいずれか1つの改変された免疫細胞と薬学的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
27.治療有効量の実施形態26の医薬組成物を対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象における、がんを治療する方法。
28.がんが多発性骨髄腫である、実施形態27に記載の方法。
29.実施形態1〜18のいずれか1つの改変された不死化T細胞株を薬学的に許容される担体と組み合わせて医薬組成物を得ることを含む、医薬組成物を製造する方法。
【実施例】
【0156】
以下の本発明の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって定められる点を理解されたい。
【0157】
実施例1:エレクトロポレーション用のTALL−104細胞の調製
指数関数的に成長しているTALL−104細胞を、0.7×10
6細胞/mLの密度で、Complete TALL−104細胞培地[Myelocult H5100 Media(StemCell Technologies 05150);1%ピルビン酸ナトリウム(Invitrogen 11360−070);1%非必須アミノ酸(Invitrogen 11140−050);4uMヒドロコルチゾン(StemCell Technologies 07904);100 IU/mlの組み換えヒトIL−2(R&D Systems 202−IL、2.1E4 IU/ug)]にて播種し、37℃でインキュベートした。翌日、所望の数の細胞(1×10
6/エレクトロポレーション)を、100×gで10分間の遠心分離によって収集した。細胞を10mLの冷Opti−MEM(ThermoFisher Scientific、31985062)で2回洗浄し、100xgで10分間遠心分離し、予め室温に均衡化した0.1mL×(エレクトロポレーション実験の総数+1)のOPTI−MEMに再懸濁させた。
【0158】
実施例2:リボ核タンパク質複合体の調製
ガイドRNA
TCRα遺伝子の定常鎖(TRAC)の第1のエクソンを標的とするgRNAを設計した。TCRαの膜貫通ドメインの上流に位置する、標的にされた配列は、TCRα及びβアセンブリ、及び細胞表面へのアドレス指定に必要である。Cas9エンドヌクレアーゼ媒介DNA開裂の際、非相同末端結合(NHEJ)又は相同組み換え修復(HDR)によるCARの組み込みのいずれかが、TRAC遺伝子の破壊をもたらすことになる。B2M遺伝子座の破壊のために、第1のエクソンを標的にするgRNAを設計した。ナチュラルキラー細胞及びT細胞のサブセット上に膜貫通糖タンパク質を産生することに関与する遺伝子、KIR3DL2については、第3のエクソンを標的にするgRNAを設計した。
【0159】
【表1】
【0160】
gRNAの形成:tracrRNA二重
標的特異的なAlt−R(商標)CRISPR−Cas9ガイドRNA(gRNA)を、Integrated DNA Technologiesによってカスタム合成した。gRNAにハイブリダイズさせる普遍的な67mer Alt−R(商標)CRISPR−Cas9 tracrRNA(1072534)をIntegrated DNA Technologiesから得た。Alt−R(商標)CRISPR−Cas9 gRNA及びAlt−R(商標)CRISPR−Cas9 tracrRNAをIDTEバッファー(Integrated DNA Technologies,11−01−03−01)中に最終濃度の200μMまで再懸濁させた。2つのRNAオリゴを無菌マイクロ遠心管中にて等モル濃度で最終二重濃度の100μMまで混合した。gRNA:tracrRNA混合物を95℃で5分間加熱した後、ベンチトップ上で室温まで冷却して二重形成を促進した。
【0161】
リボ核タンパク質(RNP)複合体の形成
滅菌PCRチューブにおいて、2.1μLのPBS、1.2uL(120pmol)のgRNA:tracrRNA二重、及び1.7ul(104pmol)のAlt−R S.pyogenes Cas9酵素(Integrated DNA Technologies,1078728)混合物を添加し、室温で20分間インキュベートしてRNP形成を可能にする。
【0162】
実施例3:RNP複合体を用いたTALL−104細胞のエレクトロポレーション
5μLのRNP複合体及び0.1μL(1×10^6細胞)の調製されたTALL−104細胞を2mmギャップサイズBTXエレクトロポレーションキュベット(BTX、45−0135)に添加した。製造業者のプロトコルに従ってECM 830 Square Wave Electropolation System(BTX)を使用して、細胞に対して200Vで10ミリ秒間、単一パルスでエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションした細胞を、37℃で以前に平衡化したTALL−104細胞培地を含有する1つの12ウェルプレートに即座に移入した。エレクトロポレーションから24時間後に培地を交換した。
【0163】
CRISPR−Cas9媒介遺伝子編集の効率を、FACS Calibur又はLSRFortessa(BD Biosciences)のいずれかでフローサイトメトリーによって分析した。100,000細胞を、100×gで10分間遠心分離することにより、RNP複合体のエレクトロポレーションから5日後に回収した。細胞を200μLの染色バッファー(BD Biosciences,554657)で2回洗浄し、100μLの染色バッファーに再懸濁させた。製造業者の指示に従って、関連抗体(PE標識マウス抗ヒトβ2ミクログロブリン(B2M)抗体(BD Pharmingen,551337)又はアイソタイプ対照抗体(Biolegend,400214)、APC標識マウス抗ヒトCD3抗体(Biolegend,300439)、又はアイソタイプ対照(Biolegend,400120)を暗所にて4℃で45分間インキュベートした。細胞を100×gで遠心分離し、染色バッファーで2回洗浄し、200μLの染色バッファーに再懸濁させた。フローサイトメトリーによってデータを収集し、FloJoソフトウェアを使用して分析した。
図1は、関連するRNP複合体を用いたエレクトロポレーション後の、B2M及びTCRノックアウト亜集団のレベルを示す。
【0164】
実施例4:CRISPR Cas9媒介編集後の遺伝子編集されたTALL−104亜集団の単離
抗フィリコエリトリンモノクローナル抗体(mAb)でコーティングされた磁気ビーズを使用して、磁気細胞分離(MACS)技術によって、非編集の野生型細胞から遺伝子編集されたTALL−104細胞を単離した。簡潔に述べると、TALL−104細胞を計数し、4℃で10分間、100×gで遠心分離し、5mLの冷脱ガスバッファーX(0.5%BSA及び2mM EDTAを含有するPBS)で2回洗浄した。細胞を1mLのバッファーXに再懸濁させ、製造業者の指示に従って所望のタンパク質を標的にするPEコンジュゲート抗体(PE抗CD3又はPE抗B2M)を用いて4℃で45〜60分間インキュベートした。細胞を4℃で10分間、100xgで遠心分離し、抗PEマイクロビーズ(Miltenyi Biotec,カタログ番号130−105−639)を含有する0.5mLの冷バッファーX中に再懸濁させた。混合物を4℃で暗所にて30分間インキュベートし、遠心分離し、500μLのバッファーX中に再懸濁させた。細胞を、3mLのバッファーXで以前に平衡化したQuadroMACSセパレータ(Miltenyi Biotec,130−090−976)に置いたLSカラム(Miltenyi Biotec 130−042−401)に充填した。カラムを1mLのバッファーXで2回洗浄した。遺伝子編集されたノックアウトTALL−104細胞を単離させ、素通り画分に収集し、37℃及び5%のCO
2で、TALL−104 Complete細胞培地(0.7×10
6細胞/mL)にて培養した。
図2は、MACS磁気ビーズ標識技術を使用した遺伝子編集されたノックアウト細胞の単離を示す。
【0165】
実施例5:BCMA又はフィブロネクチンIII型ドメインを標的にするCARを発現する改変されたTALL−104細胞の生成及び分析
2つの異なるCAR配列のアミノ酸配列を逆翻訳し、シグナルペプチド、ヒンジ配列、TMドメイン、及びシグナル伝達ドメインを用いて改変した。市販のmMESSAGE mMACHINE(登録商標)T7 ULTRA Transcription Kitを使用して、完成したコンストラクトをT7in vitro転写ベクターにクローン化してmRNAを生成した。
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
ECM 830 Square Wave Electropolation System(BTX)を使用して、mRNAをTALL−104細胞にエレクトロポレーションした。Complete TALL−104培地中で3週間成長していた3.5x10
6個のTALL−104細胞は、製造業者のプロトコルに従って、10μgのCAR mRNAを用いるか又は用いないかのいずれかで単一電気パルス(400V、750us)を受信した。AS7B91抗FN3ドメイン抗体を使用して、D08 CARの表面発現を24時間後に評価した。同様に、コンジュゲートされたFN3ドメインを使用して、AS7B91 CARの表面発現を24時間後に評価した。
図3に示す結果は、TALL−104がBCMA及び抗FN3ドメインCARを発現することを実証している。
【0169】
実施例6:エフェクター細胞としてTALL−104改変細胞を使用した細胞毒性アッセイ
BCMA標的化(D08)及びFN3ドメイン標的化(AS7B91)CAR−TALL−104細胞殺傷を、BCMAを発現し、CellTracker(商標)Greenで染色されたRPMI−8226細胞(ATCC:CCL−155)、Daudi細胞(ATCC:CCL−213)、及びK562細胞(ATCC:CCL−243)(これらは全て、様々なレベルでBCMAを発現する)を標的細胞として使用して評価した。AS7B91−CAR−TALL−104細胞、D08−CAR−TALL−104細胞、及びmock TALL−104細胞(mRNAでエレクトロポレーションされていない)を、ウェル当たり〜0.2のE:T比で20時間、BCMA標的細胞と共インキュベートした。AS7B91−CAR−TALL−104細胞については、BCMA特異的又は非標的対照(NT)FN3ドメインを該細胞と共インキュベートした。実験の終わりに、細胞を、HOECHST 33342(核)染色及びヨウ化プロピジウム(死細胞染色)で15分間染色した。
【0170】
細胞を、20XのPerkinElmer Opera共焦点顕微鏡でウェル当たり5枚の画像に撮像して、HOECHST 33342(全ての細胞の核を検出するUVランプ)、CellTracker(商標)Green(標的細胞のみを検出する488nmレーザー)、及びヨウ化プロピジウム(全ての死細胞を検出する561nmレーザー)を検出した。PerkinElmer Columbusソフトウェアを使用して画像を分析して、標的細胞を識別し(CellTracker(商標)Green強度を使用)、それらを核中のヨウ化プロピジウム染色の強度に基づいて生又は死として定義した。ウェル当たりの死標的細胞のパーセントを、GraphPad PRISMソフトウェアにプロットした。BCMA特異的FN3ドメインを添加してから40時間後に、元の殺傷アッセイ反応混合物から細胞のアリコートを収集し、再度染色し、死標的細胞パーセントについて評価した。
図4は、標的特異的な方法でのTALL−104 CAR発現細胞による標的細胞の殺傷を示す。細胞の共インキュベーションから20時間後のAS7B91−CAR−TALL−104細胞の場合(
図4A)、RPMI−8226細胞の殺傷は、10nMの非標的化対照(NT)FN3ドメイン(27%)と比較して、共インキュベートされた0.32nM BCMA特異的FN3ドメイン(40%殺傷)の存在下で増加した。Daudi細胞の殺傷は、共インキュベートされた0.32nM BCMA特異的FN3ドメインの存在下で、17%(NT)から58%に増加した。K562細胞の殺傷は、共インキュベートされた0.32nM BCMA特異的FN3ドメインの存在下では増加しなかった。40時間(
図4B)では、Daudi細胞のAS7B91−CAR−TALL−104細胞殺傷は、10nM NT FN3ドメインの場合の15%から、0.32nM BCMA特異的FN3ドメインの存在下で70%に増加した。RPMI−8226細胞のAS7B91−CAR−TALL−104細胞殺傷は、NT対照の場合の45%と比較して、共インキュベートされた0.32nM BCMA特異的FN3ドメインの存在下で59%であった。40時間では、BCMA特異的殺傷は、K562細胞において観察されなかった。細胞の共インキュベーションから20時間後のD08−CAR−TALL−104細胞については(
図4C)、RPMI−8226細胞の殺傷は、共インキュベートされた0.32nM BCMA特異的FN3ドメイン(23%)の存在下でMock TALL−104細胞と比較して増加した(37%殺傷)。Daudi細胞の殺傷は、共インキュベートされたD08−CAR−TALL−104細胞の存在下で、11%(Mock TALL−104)から42%に増加した。K562細胞の殺傷は、共インキュベートされたD08−CAR−TALL−104細胞の存在下で、11%(Mock TALL−104)から20%に増加した。
【0171】
実施例7:増殖能力の高まったhTERT改変されたTALL−104細胞
TALL−104細胞に、ヒトTERT遺伝子及びEGFPレポーター遺伝子をコードするレンチウイルスベクターを用いて形質転換した。正常に形質転換され、導入遺伝子と安定的に統合された緑色蛍光細胞は、FACSによってEGFP陽性細胞に選択され、標準的な培養手順に従ってヒトIL−2が補充されたTALL−104培地中で拡大することができる。細胞は経時的に拡大することが可能になり、非形質転換細胞が増殖を停止している間も拡大し続けた(
図5)。
【0172】
実施例8:IL−2非依存性成長のためのTALL−104細胞の改変
hTERT形質転換細胞を、細胞の小胞体にコードされたタンパク質を保持する、C末端修飾、KDEL(配列番号68)を有するヒトIL−2導入遺伝子を持つ第2のレンチウイルスベクターを用いて更に形質転換した。外因性IL−2の非存在下でのこれらの形質転換細胞の培養は、正常に形質転換された細胞の拡大をもたらしたが、非形質転換細胞は拡大を停止して死滅した(
図6)。
【0173】
次いで、p102細胞にF11 BCMA標的化CAR mRNAを過渡的にエレクトロポレーションすることによって、それらの細胞の標的殺傷を試験した。
図7に見られるように、外因性IL−2の非存在下で成長するが、ER保持のIL−2を安定的に発現するp102細胞は、外因性IL−2と共に成長し、同じF11 BCMA標的化CARを発現する野生型TALL−104細胞と同程度に効果的にMM1s細胞を殺傷する。