特表2021-506897(P2021-506897A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-506897フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-506897(P2021-506897A)
(43)【公表日】2021年2月22日
(54)【発明の名称】フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20210125BHJP
   A61P 11/10 20060101ALI20210125BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20210125BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20210125BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20210125BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20210125BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20210125BHJP
   A61P 11/06 20060101ALN20210125BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61P11/10
   A61K9/12
   A61K9/72
   A61K47/04
   A61K47/18
   A61P11/14
   A61P11/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-534261(P2020-534261)
(86)(22)【出願日】2018年5月18日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月19日
(86)【国際出願番号】CN2018087524
(87)【国際公開番号】WO2019119720
(87)【国際公開日】20190627
(31)【優先権主張番号】201711373995.6
(32)【優先日】2017年12月19日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520151220
【氏名又は名称】ベイジン インクリース イノベーション ドラッグ リサーチ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】チャン バオシャン
(72)【発明者】
【氏名】フー ジエ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC15
4C076DD01
4C076DD22Z
4C076DD49
4C076FF36
4C076FF51
4C076FF61
4C076FF67
4C076FF68
4C076FF70
4C076GG43
4C076GG45
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA26
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA77
4C206NA03
4C206NA06
4C206NA10
4C206NA13
4C206ZA59
4C206ZA62
4C206ZA63
(57)【要約】
フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤及びその製造方法を提供する。当該フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、フドステイン、その塩及び/又はその水和物と、金属錯化剤と、注射用水とを含有する。当該フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の製造方法は、ディスペンサに注射用水を加え、窒素ガスを導入して保護し、ディスペンサにおける窒素を陽圧に維持し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認するステップと、金属錯化剤を秤量し、溶解するまで撹拌するステップと、フドステイン、その塩及び/又はその水和物を加え、溶解するまで撹拌するステップと、pH調整剤を加え、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認するステップと、注射用水を全量までに補充し、均一に混合するように撹拌するステップと、無菌精密ろ過を行い、アンプルに封入し、且つ窒素ガスを充填するステップと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フドステイン、その塩及び/又はその水和物と、金属錯化剤と、pH調整剤と、注射用水とを含有することを特徴とするフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤。
【請求項2】
経肺投与に適し、且つ酸化防止剤及び界面活性剤を含む1種又は複数種の医薬品添加物をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
ユニットドーズで、遊離のフドステインとして20〜120mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物と、0.1〜5mgの金属錯化剤と、適量のpH調整剤と、注射用水とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
ユニットドーズで、遊離のフドステインとして50〜100mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物と、0.5〜2mgの金属錯化剤と、適量のpH調整剤と、注射用水とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記pH調整剤は、塩酸又は硫酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記製剤のpH値が3〜9であり、好ましくは3.5〜5.5であり、より好ましくは3.5〜5.0であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
前記金属錯化剤は、エデト酸、無水エデト酸二ナトリウム、及びエデト酸カルシウム二ナトリウムからなる群より選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
慢性気管支炎、気管支喘息に起因する痰の粘稠度増加、痰の喀出困難、及び痰による気管閉塞疾患の治療に用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
(1)ディスペンサに水全量の50〜80%の注射用水を加え、調整が終了するまでに、水温を25±10℃に制御し、且つ注射用水に窒素ガスを導入して保護し、そして、ディスペンサにおける窒素を陽圧に維持し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(2)金属錯化剤を秤量し、上記注射用水に徐々に加え、金属錯化剤が全部溶解するまで撹拌するステップと、
(3)フドステイン、その塩及び/又はその水和物を徐々に加え、全部溶解するまで撹拌するステップと、
(4)pH調整剤を加えてpHを調整し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(5)注射用水を全量までに補充し、均一に混合するように撹拌するステップと、
(6)0.45μmのろ過膜による粗ろ過、0.22μmのろ過膜による精密ろ過という無菌ろ過を行い、アンプルに封入し、且つ窒素ガスを充填し、容量を5mLとするステップと、
を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬製剤分野に属し、具体的には、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の密集、多くの喫煙者、環境汚染などの要因により、近年、呼吸器系疾患の罹患率及び死亡率は高くなっている。米国統計年鑑のデータで死因別にみると、呼吸器関連疾患(腫瘍を除く)は1970年の10位から1991年の4位(慢性閉塞性肺疾患)、及び8位(肺炎、インフルエンザ、上気道感染症)に上がった。また、中国では、呼吸器系疾患の発生率はどの年齢層でもトップを占めている。この問題は人々からますます注目されるようになり、呼吸器系疾患治療薬(呼吸器薬ともいう。)の開発も医薬品研究の重要な研究開発分野となっている。
【0003】
咳及び喀痰は呼吸器系疾患の一般的な臨床症状である。頻繁で過度の咳は患者に痛みをもたらし、休息及び睡眠に悪影響を与え、体力の消耗をきたすのみならず、疾患の進行を促進し、肺炎、慢性咽頭炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺膿瘍及び空洞性肺結核などの他の合併症を引き起こすこともある。この場合、呼吸器系疾患に対して対症療法を取るに加えて、咳を緩和するために鎮咳去痰薬を適切に使用する必要がある。鎮咳薬の適用は症状を緩和するだけであり、根本的なのは咳の病因を究明して治療することである。咳のほとんどは、気管支炎、喘息、肺炎及び肺腫瘍などの炎症性メディエーターの過剰な放出が原因であるので、症状に応じて去痰薬を使用する必要もある。
【0004】
フドステインは新型去痰薬であり、システイン誘導体に該当する。2001年12月17日に日本で最初に発売された。その基本的な薬理作用とは、杯細胞の過形成抑制作用と、気管支分泌物におけるムチンのジスルフィド結合の開裂による呼吸器の粘液、粘膜の正常状態へ調整作用であり、高効率で低毒性の去痰薬であり、ブロムヘキシン、アセチルシステイン、カルボキシメチルシステインなどの類似薬の代替品になると期待されている。フドステインは比較的安定な化合物であり、単独で空気中に置かれる場合、湿度が高くても安定しており、且つ変色現象が生じない。ただし、例えば各種の糖類、セルロース類、糖アルコール類など固形製剤によく用いられる充填剤と併用すると、変色してサンプルの外観に影響を及ぼすだけでなく、含有量が低下する場合もある。
【0005】
現在、中国では錠剤、顆粒剤、カプセル剤のみ販売されており、ほとんどは経口製剤であり、流動性が悪く、水分を吸収しやすいため、製剤の長期的安定性に影響を与え、且つ服用時に胃腸管の粘膜に一定の損傷を引き起こすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことに鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、慢性気管支炎、気管支喘息などに起因する痰の粘稠度増加、痰の喀出困難及び痰による気管閉塞疾患の治療に用いられるフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を提供することである。本発明のカルボステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、口や鼻から直接吸入され、肝臓の初回通過効果及び胃腸管での破壊と分解を回避でき、肝臓や腎臓での薬剤の代謝が大幅に低減され、患者の臓器への損傷を大幅に低減した。本発明のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤によれば、従来の中国市場で空白だった部分を埋めるフドステインの新規、安全且つ効果的な投与製剤及び投与方法を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フドステイン、その塩及び/又はその水和物と、金属錯化剤と、pH調整剤と、注射用水とを含有することを特徴とするフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を提供する。
【0008】
好ましい実施の形態においては、前記溶剤は、経肺投与に適し、且つ酸化防止剤及び界面活性剤を含む1種又は複数種の医薬品添加物をさらに含有する。
【0009】
好ましい実施の形態においては、前記製剤は、ユニットドーズで、遊離のフドステインとして20〜120mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物と、0.1〜5mgの金属錯化剤と、適量のpH調整剤と、注射用水とを含む。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記製剤は、ユニットドーズで、遊離のフドステインとして50〜100mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物と、0.5〜2mgの金属錯化剤と、適量のpH調整剤と、注射用水とを含む。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記pH調整剤は、塩酸又は硫酸である。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記製剤のpH値が3〜9であり、好ましくは3.5〜5.5であり、より好ましくは3.5〜5.0である。
【0013】
好ましい実施の形態においては、前記金属錯化剤は、エデト酸、無水エデト酸二ナトリウム及びエデト酸カルシウム二ナトリウムからなる群より選択された少なくとも1種を含む。
【0014】
好ましい実施の形態においては、前記製剤は、慢性気管支炎、気管支喘息に起因する痰の粘稠度増加、痰の喀出困難及び痰による気管閉塞疾患の治療に用いられる。
【0015】
本発明はさらに、
(1)ディスペンサに水全量の50〜80%の注射用水を加え、調整が終了するまでに、水温を25±10℃に制御し、且つ、注射用水に窒素ガスを導入して保護し、そして、ディスペンサにおける窒素を陽圧に維持し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(2)金属錯化剤を秤量し、上記注射用水に徐々に加え、金属錯化剤が全部溶解するまで撹拌するステップと、
(3)フドステイン、その塩及び/又はその水和物を徐々に加え、全部溶解するまで撹拌するステップと、
(4)pH調整剤を加えてpHを調整し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(5)注射用水を全量までに補充し、均一に混合するように撹拌するステップと、
(6)0.45μmのろ過膜による粗ろ過、0.22μmのろ過膜による精密ろ過という無菌ろ過を行い、アンプルに封入し、且つ窒素ガスを充填し、容量を5mLとするステップと、
を含む上記製剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
従来の技術に比べ、本発明は以下のような有利な効果を有する。
【0017】
(1)ほかの剤形に比べ、薬剤が目的臓器に直接的に到達するため、肝臓の初回通過効果及び胃腸管での破壊と分解を回避でき、全身の臓器、特に肝臓や腎臓への損傷を低減し、より安全な投薬を可能にする。
【0018】
(2)本発明のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、吸入型であるため、呼吸器系疾患に対して経口剤よりも効果が早く効き、薬剤が消化管で吸収されてから血液循環により全身において作用を発揮するので、効くのが遅いという欠点を解消する。
【0019】
(3)フドステインの安定性を向上させ、長期間の放置後にも各指標に明らかな変化がなく、有効期限内での製品品質を保証できる。
【0020】
(4)添加される医薬品添加物の種類が少なく、薬剤の使用安全性が高く、且つ生産プロセスが簡単で、コストが低く、工業スケールでの生産が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の様々な例示的実施例、構成及び方面を詳細に説明する。
【0022】
さらに、本発明をより詳しく説明するために、下記の発明を実施するための形態において、多くの特定の細部を説明した。当業者であれば、本発明は、これら特定の細部がなくても実施できることが理解されよう。以下の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲はこれらに制限されることがない。本発明の内容に基づく当業界の任意の均等物でも本発明の範囲に含まれるものとする。
【0023】
本発明のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、フドステイン、その塩及び/又はその水和物と、金属錯化剤と、pH調整剤と、注射用水とを含有する。
【0024】
本発明のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を使用することで、慢性気管支炎、気管支喘息などに起因する痰の粘稠度増加、痰の喀出困難及び痰による気管閉塞疾患を治療することができる。また、本発明のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、口や鼻から直接吸入され、肝臓の初回通過効果及び胃腸管での破壊と分解を回避でき、肝臓や腎臓での薬剤の代謝が大幅に低減され、患者の臓器への損傷を大幅に低減した。さらに、呼吸器系疾患に対して経口剤よりも効果が早く効き、薬剤が消化管で吸収されてから血液循環により全身において作用を発揮するので効果が遅いという欠点を解消した。
【0025】
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、ユニットドーズ包装である。ユニットドーズとは、1回の吸入で使用される医薬有効成分の用量を指す。本明細書では、ユニットドーズは5mLを意味する。
【0026】
本発明で提供されるフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、ユニットドーズであり、使用が簡便で、希釈や調製を必要とせず、使用時の微生物による汚染及び浪費を大幅に低減することができ、且つマルチドーズでは秤量、希釈及び調製を繰り返して微生物を繁殖しやすいという欠点を回避できる。
【0027】
本発明は、従来の技術にはない、薬剤投与量が正確であり、薬剤の品質が高くて安定し、臨床応用が安全で簡便な新規製剤及びその製造方法を提供する。
【0028】
以下、本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を構成する各成分について説明する。
【0029】
[フドステイン、その塩及び/又はその水和物]
本実施の形態では、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、ユニットドーズで、遊離のフドステインとして20〜120mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物を含むことが好ましく、50〜100mgのフドステイン、その塩及び/又はその水和物を含むことがより好ましい。
【0030】
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、ユニットドーズで、フドステイン、その塩及び/又はその水和物の含有量が上記の範囲内であることにより、痰の粘稠度を低減でき、慢性気管支炎、気管支喘息などに起因する痰の粘稠度増加、痰の喀出困難及び痰による気管閉塞疾患の治療に好適に使用することができる。
【0031】
[金属錯化剤]
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤に含まれる金属錯化剤は、錯形成能を有し、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の安定性を向上できる。
【0032】
金属錯化剤の実例として、例えば、エデト酸、無水エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウムなどのエデト酸塩等が挙げられる。中でも、好ましくはエデト酸塩であり、より好ましくは無水エデト酸二ナトリウムである。これらの金属錯化剤は金属イオンに対して高い錯形成能を有し、且つ複数のイオンと配位できる。特にエデト酸塩は、調製時に導入された金属イオンによる薬液品質への影響を回避することができる。これら金属錯化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、ユニットドーズで、金属錯化剤を0.1〜5mg含むことが好ましく、0.5〜2mg含むことがより好ましい。上記の範囲で金属錯化剤を含むことで、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の薬効をより一層発揮させ、フドステインの安定性を向上し、長期間の放置後にも各評価指標に明らかな変化がなく、有効期限内での製品品質を保証することができる。
【0034】
金属錯化剤の含有量が0.1mg未満であると、フドステインの安定性が悪くなり、長期間の放置後に各評価指標の変化が顕著であり、製品品質が低下する。金属錯化剤の含有量が5mgより大きくなると、摂取される無水エデト酸二ナトリウム等の金属錯化剤がヒトの体内のカルシウムイオンと水溶性キレートを形成し、体外に排出される。摂取量が多過ぎると、低カルシウム血症や骨カルシウムの流失を引き起こす可能性があるため、製品における無水エデト酸二ナトリウム等の金属錯化剤の含有量は、酸化防止を効果的に確保する範囲内で、できる限り少なくする必要がある。
【0035】
[pH調整剤]
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、pH値を調整するために、pH調整剤を含む。
【0036】
pH調整剤として、上記フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の効果を損なわない限り、特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、乳酸、リンゴ酸、酢酸、リン酸、クエン酸等が挙げられる。これらpH調整剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、塩酸又は硫酸がより好ましい。
【0037】
pH調整剤の含有量は、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤のpH値が目標値となるように、ほかの成分の含有量に応じて適宜決定することができる。pH調整剤を含むことで、フドステイン溶液の安定性を高めることができる。
【0038】
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤のpH値は、3〜9であることが好ましく、3.5〜5.5であることがより好ましく、3.5〜5.0であることがさらに好ましい。フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤のpH値の範囲を上記の範囲とすることにより、フドステインの溶解性を高めることができる。pH値が3未満であると、吸入された後、ヒトの体内での刺激が大き過ぎるという不利な結果となる。一方、pH値が9を超えると、溶液の安定性が悪くなり、不純物の量が増える傾向にあるため、好ましくない。
【0039】
[医薬品添加物]
本発明に記載のフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は必要に応じて、経肺投与に適する1種又は複数種の医薬品添加物を含有することができる。
【0040】
医薬品添加物は特に制限されないが、その実例として、酸化防止剤、界面活性剤、矯味剤、安定剤等が挙げられる。医薬品添加物は、酸化防止剤及び界面活性剤を含むことが好ましい。酸化防止剤として、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン等が好ましく挙げられる。界面活性剤として、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が好ましく挙げられる。
【0041】
<フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の製造方法>
本発明において、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤の製造工程について特に制限されないが、原則上、フドステイン、その塩及び/又はその水和物と、金属錯化剤と、pH調整剤と、注射用水とを混合して製剤を製造する方法であれば、すべて本発明に適用することができる。本発明の製剤の製造方法は、好ましくは、
(1)ディスペンサに水全量の50〜80%の注射用水を加え、調整が終了するまでに、水温を25±10℃に制御し、且つ、注射用水に窒素ガスを導入して保護し、そして、ディスペンサにおける窒素を陽圧に維持し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(2)金属錯化剤を秤量し、上記注射用水に徐々に加え、金属錯化剤が全部溶解するまで撹拌するステップと、
(3)フドステイン、その塩及び/又はその水和物を徐々に加え、全部溶解するまで撹拌するステップと、
(4)pH調整剤を加えてpHを調整し、酸素残留量が2mg/L未満になったことを測定で確認した後、次のステップへ進むステップと、
(5)注射用水を全量までに補充し、均一に混合するように撹拌するステップと、
(6)0.45μmのろ過膜による粗ろ過、0.22μmのろ過膜による精密ろ過という無菌ろ過を行い、アンプルに封入し、且つ窒素ガスを充填し、容量を5mLとするステップと、
を含むものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を参酌して本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに制限されない。
【0043】
配合1:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 4g
無水エデト酸二ナトリウム 20mg
塩酸 適量、pHを3.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0044】
配合2:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 8g
無水エデト酸二ナトリウム 100mg
塩酸 適量、pHを3.5に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0045】
配合3:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 10g
無水エデト酸二ナトリウム 200mg
塩酸 適量、pHを4.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0046】
配合4:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 16g
無水エデト酸二ナトリウム 1g
塩酸 適量、pHを4.5に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0047】
配合5:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 20g
無水エデト酸二ナトリウム 250mg
硫酸 適量、pHを5.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0048】
配合6:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 24g
無水エデト酸二ナトリウム 800mg
硫酸 適量、pHを5.5に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0049】
配合7:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 24g
エデト酸 600mg
硫酸 適量、pHを4.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0050】
配合8:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 20g
無水エデト酸二ナトリウム 250mg
塩酸 適量、pHを5.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0051】
配合9:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 20g
無水エデト酸二ナトリウム 250mg
酢酸及び酢酸ナトリウム 適量、pHを5.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0052】
配合10:フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤1000mL
フドステイン 20g
無水エデト酸二ナトリウム 250mg
リン酸及びリン酸二水素ナトリウム 適量、pHを5.0に調整した
注射用水 1000mlまでに加えた
【0053】
実施例1:配合1に従い、フドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を調製した。
【0054】
ディスペンサに水全量の70%の注射用水を700mL加え、調整が終了するまで、水温を30℃に制御し、且つ注射用水に窒素ガスを導入して保護し、そして、ディスペンサにおける窒素を陽圧に維持し、酸素残留量が1.6mg/Lになったことを測定で確認した後、次のステップへ進んだ。
【0055】
次に、無水エデト酸二ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限責任公司製)20mgを秤量し、上記注射用水に徐々に加え、無水エデト酸二ナトリウムが全部溶解するまで撹拌した。
【0056】
次いで、フドステイン(威海迪素製薬有限公司製)4gを徐々に加え、全部溶解するまで撹拌した。
【0057】
次に、適量な塩酸を加えてpHを3.0に調整し、且つ酸素残留量が1.5mg/Lになったことを測定で確認した後、次のステップへ進んだ。
【0058】
次いで、注射用水を全量1000mLまでに補充し、均一に混合するように5分間撹拌した。
【0059】
次に、0.45μmのろ過膜による粗ろ過、0.22μmのろ過膜による精密ろ過という無菌ろ過を行い、アンプルに封入し、且つ窒素ガスを充填し、容量を5mLとした。
【0060】
実施例2〜10
実施例2〜10では、配合1の代わりに、配合2〜10を使用した以外、実施例1と同様にフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を製造した。
【0061】
本発明の効果をさらに説明するために、以下の具体的な実験例を提供する。
【0062】
実験例1
実施例5、8〜10(配合5、8〜10に従いフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤を製造した。)で得られたフドステインのエアロゾル吸入用溶液ユニットドーズ製剤を一年間放置した。下記のフドステイン含有量の測定方法により、一年後の実施例5、8〜10で得られたフドステインのエアロゾル吸入用溶液ユニットドーズ製剤におけるフドステインの含有量を測定し、且つ目視で製剤の色及び明澄度の変化を観察した。結果を表1に示す。
【0063】
フドステインの含有量の測定
(1)オクタデシル基結合シランシリカゲルを充填剤(4.6×150mm、5μm)として、5mmol/Lの1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム溶液を含む1‰リン酸溶液を流動相として用い、検出波長を210nmとし、カラム温度を50℃とし、流速を1.3mL/minとした。
【0064】
(2)適量の上記サンプルを正確に秤量し、流動相でlmLあたりフドステインを0.5mg含む溶液に定量的に希釈し、被験サンプル溶液とした。また、適量のフドステインコントロールを正確に秤量し、流動相を加えて溶解させ、且つlmLあたりフドステインを0.5mg含む溶液に定量的に希釈し、コントロール溶液とした。それぞれ10μLの被験サンプル溶液及びコントロール溶液を正確に秤量し、液体クロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録した。外部標準法によりピーク面積として計算し、フドステイン含有量を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から分かるように、塩酸又は硫酸をpH調整剤として使用したフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、一年間放置されても、フドステインの含有量が高く且つ安定性に優れ、製剤の色及び明澄度に変化が小さかった。一方、酢酸及び酢酸ナトリウムやリン酸及びリン酸二水素ナトリウムをpH調整剤として使用したフドステインのエアロゾル吸入用溶液製剤は、一年間放置された後、フドステインの含有量が低減し、製剤の色及び明澄度は大きく変化した。
【0067】
実験例2
鎮咳実験(濃アンモニア水噴霧法)
【0068】
実験マウスを特別に作られたガラス製ベルジャーに入れ、超音波噴霧器で25%の濃アンモニア水の定量噴霧を行い、5s後に直ちに取り出し、マウスが噴霧されてから咳が出るまでの潜伏期間、及び2min以内の咳の回数を記録した。噴霧後2min以内で咳が出なかったマウスを除いた。合格したマウスを、2日間後にモデル群、経口投与群、注射剤投与群、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群にランダムに分けた。
【0069】
モデル群に塩化ナトリウム注射液をエアロゾル吸入投与させ、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、及びエアロゾル吸入高投与量群に使用された製剤はそれぞれ実施例1、実施例3、実施例5で得られたものであり、投与量をそれぞれ20、40、100mg/kgとし、経口投与群及び注射剤投与群に使用された製剤は実施例5で得られたものであり、投与量を100mg/kgとした。1日に1回で5日間連続投与した。最終回投与の1時間後に、25%の濃アンモニア水の定量噴霧を行い、5s後に直ちに取り出した。マウスが噴霧されてから咳が出るまでの潜伏期間、及び2min以内の咳の回数を記録した。詳細な結果は表2に示すように、モデル群、フドステイン製剤の経口投与群、注射剤投与群及びエアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群の鎮咳作用が記載されている。
【0070】
【表2】
モデル群との比較 **P<0.01
【0071】
その結果、モデル群に比べ、フドステイン製剤が経口投与、注射剤投与及びエアロゾル吸入投与された群はすべて動物の咳の潜伏期間を顕著に短くし、且つ2min以内の咳の回数を低減することができ、非常に顕著な差が見られた(P<0.01)。また、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群は、咳の潜伏期間の延長及び2min以内の咳の回数の低減のいずれにおいても、経口投与群及び注射剤投与群より優れた鎮咳効果を示した。
【0072】
実験例3
マウス気道杯細胞の過形成抑制実験
【0073】
3.1喘息モデルの構築
60匹のマウスを、乱数表に基づく方法でモデル群、経口投与群、注射剤投与群、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群にランダムに分け、各群に10匹ずつで合計6群とした。モデル群に塩化ナトリウム注射液をエアロゾル吸入投与させ、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群に使用された製剤はそれぞれ実施例1、実施例3、実施例5で得られたものであり、投与量をそれぞれ12.25、24.50、61.25mg/kgとし、経口投与群及び注射剤投与群に使用された製剤は実施例5で得られたものであり、投与量を100mg/kgとした。
【0074】
1日目及び14日目に、各群にそれぞれ0.2mL感作液(OVA10μg+水酸化アルミニウム20μg)を腹腔内投与して感作をさせ、21日目からマウスを約0.5m×0.5m×0.5mのエアロゾル吸入器で刺激し、超音波噴霧器で2.5%OVA溶液5mLを毎回30min、週に3回、6週間連続エアロゾル吸入した。生理食塩水群には、投与の代わりに生理食塩水を強制経口投与し、残りの5群には、毎回噴霧により喘息を誘発する10分間前にそれぞれ0.1mLの量で強制経口投与、注射投与及びエアロゾル投与をした(適宜希釈後の投与も可)。
【0075】
3.2標本の収集
最終回エアロゾル吸入の24時間後に、10g/Lペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)を腹腔内投与して麻酔をかけ、右肺の主気管支を結紮した。1mLのシリンジを左主気管支に刺し、20cm HO(1cm HO=0.098kPa)の圧力で40g/Lのパラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液を左肺に注入し、左肺を切り取って40g/Lのパラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液に24時間浸漬した。
【0076】
3.3気道上皮杯細胞数の計算
肺組織を40g/Lのパラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で固定した後、一般的に脱水して包埋し、過ヨウ素酸シッフ(PAS)で染色した。各マウスから5枚の肺組織スライスをランダムに選択し、一重盲検法で各スライスから、断面がより丸くて直径100μmの気管支を5本ランダムに選択して観察し、image−proplus6.0画像解析ソフトで各スライスの気管支上皮において赤紫色に染色された杯細胞の面積を測定し、気管支上皮の総細胞面積に占めるパーセント比で示し、且つ杯細胞数を計算した。詳細は表3に群別による気道上皮杯細胞数の計算結果を示した。
【0077】
【表3】
モデル群との比較 **P<0.01
【0078】
モデル群に比べ、フドステイン製剤が経口投与、注射剤エアロゾル投与された群はすべて杯細胞数を大幅に低減でき、非常に顕著な差が見られた(P<0.01)。また、エアロゾル吸入低投与量群、エアロゾル吸入中投与量群、エアロゾル吸入高投与量群は、杯細胞の過形成抑制実験において、経口投与群及び注射剤投与群よりも優れた効果を示した。
【0079】
以上は本発明を実施するための形態に過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業界に詳しい技術者が本発明に開示された範囲内で容易に想到しえる変更又は代替はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲を基準とすべきである。
【国際調査報告】