(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-507035(P2021-507035A)
(43)【公表日】2021年2月22日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、及びそれにより製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 75/029 20160101AFI20210125BHJP
【FI】
C08G75/029
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2020-533155(P2020-533155)
(86)(22)【出願日】2018年7月12日
(85)【翻訳文提出日】2020年6月16日
(86)【国際出願番号】CN2018095465
(87)【国際公開番号】WO2019128189
(87)【国際公開日】20190704
(31)【優先権主張番号】201711444565.9
(32)【優先日】2017年12月27日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517223657
【氏名又は名称】浙江新和成股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】515006157
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】Zhejiang University
(71)【出願人】
【識別番号】518138206
【氏名又は名称】浙江新和成特種材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU SPECIAL MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】李 沃源
(72)【発明者】
【氏名】尹 紅
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 志▲栄▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 柏▲しゃん▼
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲貴▼▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】▲どん▼ 杭▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】▲連▼ 明
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 雄▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】李 其川
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 江
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC09
4J030BC18
4J030BD09
4J030BF01
4J030BF19
4J030BG04
4J030BG11
4J030BG26
4J030BG27
(57)【要約】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、及びそれにより製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。かかる製造方法は、硫黄含有化合物、塩基性物質及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、脂肪酸を重縮合助剤として用い、重縮合反応を行い、精製処理後にポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物を得、さらに末端基調整剤と高温下で反応させ、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂を生成する。この製造方法は収率が高く、コストが低く、得られるポリフェニレンスルフィド樹脂は反応活性が高く、融解結晶化温度が高く、耐熱性にも優れている。前記ポリフェニレンスルフィド樹脂はそのまま押出、射出に用いられ、自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業等の分野に特に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を原料とし、水酸基含有芳香族チオール化合物及び4−フェニルチオ−チオフェノールを末端基調整剤として用い、末端基調整反応を行い、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることを特徴とする、ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記水酸基含有芳香族チオール化合物の構造はHS−Ar−R−OH(式中、前記Arはアリーレン基であり、好ましくはフェニレン基であり、前記Rは炭素鎖アルキレン基又は炭素鎖アルキレンアシル基であり、直鎖状構造又は分岐構造から選択され、好ましくは直鎖状構造であり、最も好ましくはC1〜C4の直鎖状炭素鎖アルキレン基又は炭素鎖アルキレンアシル基である。)であり、ベンゼン環において、前記−R−OHは−SHに対してパラ位、メタ位又はオルト位であり、好ましくはパラ位であることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
ポリフェニレンスルフィドの一次生成物100gに対して、前記水酸基含有芳香族チオール化合物の使用量は0.01〜0.04molであり、4−フェニルチオ−チオフェノールの使用量は0.01〜0.03molであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
末端基調整反応のpHが9〜12であり、反応温度が250〜280℃であり、反応溶媒がN−メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項1又は2又は3に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記末端基調整反応の終了後に、ろ過し、ケーキをろ液のpHが6〜8になるまで洗浄し、洗浄したケーキを加熱乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂完成品を得ることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の熱安定性指数が0.96以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項7】
硫黄含有化合物及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、重縮合反応を行い、反応液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させ、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得ることを特徴とする、請求項6に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択され、好ましくは硫化水素ナトリウム又は硫化水素カリウムであり、より好ましくは硫化水素ナトリウムであることを特徴とする、請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項9】
全硫黄1.0molに対して、前記p−ジクロロベンゼンの使用量は1.02〜1.05molであることを特徴とする、請求項7に記載の前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記重縮合反応の反応溶媒がN−メチルピロリドンであり、全硫黄1.0molに対して、前記溶媒は合計で5.5〜6.0molであり、前記重縮合反応の系における水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満であることを特徴とする、請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記重縮合反応温度が220〜280℃であることを特徴とする、請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記洗浄は酸洗及び水洗を含み、ろ液中の塩素イオン残留量が0.01%以下となるまでケーキを洗浄することを特徴とする、請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記酸洗とは、塩酸、硫酸、リン酸、好ましくは塩酸でケーキを洗浄することを意味し、脂肪酸1.0molに対して、前記酸の使用量が1.1〜1.2molであることを特徴とする、請求項12に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項14】
前記重縮合反応は、重縮合助剤の存在下で行われ、前記重縮合助剤は塩基性物質、好ましくは塩基性物質及び脂肪酸であることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項15】
前記塩基性物質はアルカリ金属の水酸化物から選択され、好ましくはNaOH又はKOHであり、より好ましくはNaOHであり、全硫黄1.0molに対して、前記塩基性物質の使用量は1.00〜1.02molであり、前記脂肪酸は中鎖・短鎖脂肪酸から選択される1種以上であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種以上であり、前記脂肪酸と硫黄含有化合物とのモル比は0.8〜1.0:1であることを特徴とする、請求項14に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項16】
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の製造は、
工程1)溶媒に塩基性物質及び脂肪酸を加え、脱水処理し、
工程2)硫黄含有化合物を工程1)で得られた脱水溶液に加え、二次脱水し、
工程3)p−ジクロロベンゼンを加え、重縮合反応を行い、反応溶液を得、
工程4)反応溶液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させ、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得ることを含むことを特徴とする、請求項14又は15に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項17】
工程1)、工程2)における脱水、二次脱水の温度が180〜250℃であり、反応系における水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満になるまで二次脱水することを特徴とする、請求項16に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項18】
熱安定性指数が0.95以上であり、反応活性が2.5以上であり、融解結晶化温度が230〜260℃であることを特徴とする、ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項19】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は反応活性が2.5以上であり、融解結晶化温度が230〜260℃であることを特徴とする、ポリフェニレンスルフィド樹脂の使用。
【請求項20】
自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業等の分野に用いられることを特徴とする、請求項19に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の使用。
【請求項21】
改質樹脂の製造に用いられ、好ましくはカップリング剤と反応して改質樹脂を製造するために用いられることを特徴とする、請求項20に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の使用。
【請求項22】
耐高温で寸法安定性の高い耐食性エンジンカバー内部部品、ブレーキシステム及び電子/電気装置、並びに精密ギア、ピストン、耐酸性・耐アルカリ性バルブやパイプ、継手等高強度で耐温耐食材料の利用分野に用いられることを特徴とする、請求項21に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子材料分野に属し、高い反応活性、高い融解結晶化温度、高い熱安定性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂に関し、さらに前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(Polyphenylene Sulfide、PPSと略称する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気的特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PPSは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的な溶融加工法により、様々な成形品、フィルム、シート、繊維などに成形できるため、電子及び電気装置、自動車部品等の分野で幅広く利用されている。
【0003】
未改質ポリフェニレンスルフィドは中等度の強度を持つが、強化改質された後に、極めて優れた強度及び剛性を有し、総合的性能に極めて優れたエンジニアリングプラスチックになる。ポリフェニレンスルフィド樹脂の改質は、ポリフェニレンスルフィドの欠点に対してポリフェニレンスルフィドの性能を向上又は改善することができる。例えば、ポリフェニレンスルフィドの下記欠点は、改質により克服される必要がある。
(1)脆性が高く、伸びが低い。ポリフェニレンスルフィドの化学構造から分かるように、その分子鎖が剛直性を示し、最大結晶化度が70%と高いため、靭性に劣っている。また、その溶接強度も悪い。このため、耐衝撃性部品としての使用が制限されている。
(2)コストが高い。その価格は一般的なエンジニアリングプラスチックより約1〜2倍高い。
(3)塗装性及び着色性が悪い。ポリフェニレンスルフィドは耐薬品性に優れているため、塗装性及び着色性が悪い。
(4)融点が高い。溶融中に空気中の酸素との熱酸化架橋反応が生じた結果、流動性が低くなりやすい。
【0004】
したがって、実用時に、ポリフェニレンスルフィドを無機フィラー又は有機フィラー、強化繊維及びその他の高分子材料とブレンドして改質させることにより、一層優れた性能を有する様々なポリフェニレンスルフィド複合材料又は特殊エンジニアリングプラスチックにして使用することが必要になる。このようにして、ポリフェニレンスルフィドの性能を大幅に向上させ、その欠点を克服するのみならず、経済性をもたらすこともできる。
【0005】
樹脂改質の配合設計においては、主として材料の選択、材料の組み合わせ、使用量、ブレンドという4つのキーポイントがある。しかし、製品の成形を確保し、且つ加工設備及び使用環境に悪影響がないように、最終の改質配合に加工性を付与する必要がある。改質配合に加工性を付与するために、一番重要なのは流動性への制御である。流動性は樹脂とフィラーの混合度合いに影響を与え、さらに複合材料の均一性に影響を与える。流動性が低すぎ、又は高すぎると、得られる複合材料を射出成形又は押出成形等の溶融加工法により加工して利用することができなくなる。また、複合材料の結晶性能も利用時に注目される指標の1つであり、材料の結晶性能は通常、融解結晶化温度で表される。複合材料の融解結晶化温度が高い場合、結晶化速度が速く、金型における複合材料の冷却結晶時間が短く、単位時間あたりに製造される部品数が多く、工場の生産能力を向上させることができる。
【0006】
改質配合では、ポリマー樹脂と無機フィラー又は有機フィラーとの結合作用を高めるために、通常ポリマーに添加される無機フィラーに対して表面処理を行い、又は改質中に改質助剤を加える必要がある。そのうち、カップリング剤は最もよく用いられる表面改質剤及び改質助剤である。
【0007】
カップリング剤は重要で、且つ利用分野がますますに広くなっている処理剤であり、主に高分子複合材料の助剤として使用されている。そのうち、シランカップリング剤は最も早く、最も広く利用されているカップリング剤であり、60年以上発展してきた中、ガラス繊維強化フィラーへの利用がきっかけに一連の新規シランカップリング剤が合成された。独特の性能及び顕著な改質効果を有するため、その利用範囲が徐々に広くなってきている。シランカップリング剤はすべての無機材料及び有機材料の表面改質に用いられ、有機高分子、複合材料、自動車、航空、電子、インク、塗料及び建築等分野において不可欠な補助添加剤になっている。
【0008】
シランカップリング剤は分子中に反応性の異なる2種類の官能基を含み、その化学構造はY−R−SiX
3で表される。式中、X及びYは異なる反応特性を有し、Xは例えばアルコキシ基、アセトキシ基、ハロゲン等、加水分解反応してシラノール基(Si−OH)を生成できる基であり、ガラス、シリカ、クレー、及び一部の金属、例えばアルミニウム、鉄、亜鉛等と結合することができる。Yは例えばビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基等、ポリマーと反応してシランとポリマーの反応性及び相溶性を高める有機基であり、Rは飽和又は不飽和結合を持つ炭素鎖であり、RによりYとSi原子とを結合させる。シランカップリング剤は分子に有機基に親和性を示すものと無機基に親和性を示すものという2種の異なる官能基を含むため、無機材料と有機材料を結合する「分子橋」として、異なる性質を有する2種の材料を結び、即ち無機相−シランカップリング剤−有機相の結合層を形成し、樹脂基材と無機フィラーとの結合力を向上させることができ、溶融流動性、結晶性能、色を変化させることもできる。
【0009】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の改質配合では、ガラス繊維及び炭酸カルシウム等の鉱物粉末がよく用いられるフィラーであり、シランカップリング剤もよく用いられる改質助剤である。ただし、複合材料により優れた性能を付与するには、助剤による作用のみでは十分ではなく、ポリマーの分子修飾を同時に考慮する必要がある。ポリフェニレンスルフィドの、例えば引張強度、曲げ強度又は破断伸び等いずれか1つの性能を強化しながら、ほかの優れた性能を確保する。
【0010】
現在、ポリフェニレンスルフィド樹脂を工業的に製造する最も成熟した方法は、アルカリ金属硫化物及びハロゲン含有芳香族化合物を原料とし、高温高圧下で溶液重縮合方法により合成することである。アルカリ金属硫化物及びp−ジクロロベンゼンを原料としてポリフェニレンスルフィドを合成する際に、その末端基は主に塩素末端基及びチオール末端基である。チオール末端基を増やすと反応活性は向上するが、塩素末端基は反応活性はない。また、チオール末端基の割合を増やすには、一番効果的な方法は重縮合反応における硫化物とp−ジクロロベンゼンとのモル比を高めることであるが、この場合に窒素含有末端基が多く生成された結果、樹脂の色及び熱安定性が悪くなる。
【0011】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性を高めるために、日本DIC社による特許CN201480018386.7には、ジヨウ素化合物、固体硫黄及び硫黄含有重合禁止剤を含む混合物を溶融重合し、使用される重合禁止剤の末端基は−COOXであるポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法が提案されている。即ち当該特許では、重合禁止剤を加えることにより、末端基が−COOHであり、優れた反応活性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂が得られる。当該プロセスでは、固体硫黄を硫黄源とし、溶融重縮合によりポリフェニレンスルフィド樹脂を得、ポリマー分子の主鎖にジスルフィド結合(−S−S−)がある程度で含まれ、高温下で破断しやすいため、製品の熱安定性が低下する。また、その末端基は−COOHのみであるため、効果的に調整することができず、製品の反応活性を調整することが困難である。
【0012】
四川大学所属の余自力等(Macromolecular Chemistry and Physics,1996,197,4061〜4068)は、硫化ナトリウム及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、ヘキサメチルホスホリルトリアミンを溶媒として用い、脱水し、重縮合してポリフェニレンスルフィドを合成し、次にp−クロロ安息香酸を添加し、メルカプト基をカルボキシル基に置換し、カルボキシル基を末端基とするポリフェニレンスルフィド樹脂を形成した。しかし、その最終製品はオリゴマーであり、後の改質利用の要求を満たすことができない。
【0013】
四川大学所属の任浩浩等(Composites Science and Technology,2017,146,65−72)は、硫化ナトリウム及びジクロロベンゼンを原料とし、さらに2,5−ジクロロベンゼン安息香酸を加え、N−メチルピロリドン中で脱水して重縮合反応し、分子鎖に分岐型カルボキシル基を有するポリフェニレンスルフィドを合成した。その直鎖状分子構造が破壊されたため、改質添加剤としてのみ使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の課題を解決するために、改質配合のポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性及び結晶化温度への要求に応じて、本発明は高い反応活性、高い融解結晶化温度、高い熱安定性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を提供し、さらに、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法及び使用を提供する。本発明では、末端基調整剤を調整することにより、異なる反応活性及び融解結晶化温度を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を選択的で制御的に製造することが可能となり、且つ前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は熱安定性に優れており、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の利用範囲も広くなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
塩基性条件下で、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を原料とし、水酸基含有芳香族チオール化合物及び4−フェニルチオ−チオフェノールを末端基調整剤として用い、末端基調整反応を行い、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得るポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【0016】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、前記水酸基含有芳香族チオール化合物の構造はHS−Ar−R−OHである(式中、前記Arはアリーレン基であり、好ましくはフェニレン基であり、Rは炭素鎖アルキレン基又は炭素鎖アルキレンアシル基であり、直鎖状構造又は分岐構造から選択され、好ましくは直鎖状構造であり、最も好ましくはC1〜C4の直鎖状炭素鎖アルキレン基又は炭素鎖アルキレンアシル基である。)。べんぜん環において、前記−R−OHは−HSに対してパラ位、メタ位又はオルト位であり、好ましくはパラ位である。
【0017】
前記4−フェニルチオ−チオフェノールの構造式は、
【化1】
である。
【0018】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、ポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物100gに対して、前記水酸基含有芳香族チオール化合物の使用量は0.01〜0.04molであり、4−フェニルチオ−チオフェノールの使用量は0.01〜0.03molである。
【0019】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、前記末端基調整反応のpHが9〜12であり、反応溶媒がN−メチルピロリドンである。前記末端基調整反応のpHは塩基性物質を加えることにより調整され、前記塩基性物質は、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。反応溶媒であるN−メチルピロリドンの使用量は特に限定されることはないが、通常、ポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物の質量の3〜6倍である。
【0020】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、前記末端基調整反応の反応温度が250〜280℃であり、好ましくは、供給時にまずポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物及び水酸基含有芳香族チオール化合物を一部の反応溶媒に溶解し、次に反応温度まで徐々に昇温させ、一定の期間に保持し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノールを加えて保持し、反応を続ける。
【0021】
昇温速度が1.0〜3.0℃/minであることが好ましい。
【0022】
2段階の保温時間がそれぞれ1〜3時間であることが好ましい。
【0023】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、前記末端基調整反応の終了後に、ろ過し、ケーキをろ液のpHが6〜8になるまで洗浄し、洗浄したケーキを加熱乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂完成品を得る。
【0024】
上記ポリフェニレンスルフィドの製造方法では、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の熱安定性指数が0.96以上である。好ましくは、硫黄含有化合物及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、重縮合反応を行い、反応液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させ、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る。
【0025】
前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択され、好ましくは硫化水素ナトリウム又は硫化水素カリウムである。全硫黄1.0molに対して、前記p−ジクロロベンゼンの使用量は1.02〜1.05molである。
【0026】
前記重縮合反応の系における水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満である。
【0027】
前記重縮合反応の反応溶媒がN−メチルピロリドンであり、全硫黄1.0molに対して、前記溶媒は合計で5.5〜6.0molである。
【0028】
前記重縮合反応温度が220〜280℃である。
【0029】
前記洗浄は酸洗及び水洗を含み、ろ液中の塩素イオン残留量が0.01%以下となるまでケーキを洗浄する。前記酸洗とは、塩酸、硫酸、リン酸、好ましくは塩酸でケーキを洗浄することを意味する。脂肪酸1.0molに対して、前記酸の使用量が1.1〜1.2molである。
【0030】
上記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の製造では、前記重縮合反応は重縮合助剤の存在下で行われることが好ましい。前記重縮合助剤は塩基性物質である。より好ましくは、前記重縮合助剤は塩基性物質及び脂肪酸である。
【0031】
前記塩基性物質はアルカリ金属の水酸化物から選択され、好ましくはNaOH又はKOHであり、より好ましくはNaOHである。全硫黄1.0molに対して、前記塩基性物質の使用量は1.00〜1.02molである。
【0032】
前記脂肪酸は中鎖・短鎖脂肪酸から選択される1種以上であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種以上である。全硫黄1.0molに対して、前記脂肪酸と硫黄含有化合物とのモル比は0.8〜1.0:1である。
【0033】
上記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の製造は、
工程1)溶媒に塩基性物質及び脂肪酸を加え、脱水処理し、
工程2)硫黄含有化合物を工程1)で得られた脱水溶液に加え、二次脱水し、
工程3)p−ジクロロベンゼンを加え、重縮合反応を行い、反応溶液を得、
工程4)反応溶液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物を得ることを含むことがより好ましい。
【0034】
上記工程1)、工程2)における脱水、二次脱水の温度が180〜250℃である。反応系における水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満になるまで二次脱水する。
【0035】
本発明はさらに、熱安定性指数が0.95以上であり、反応活性が2.5以上であり、融解結晶化温度が230〜260℃であるポリフェニレンスルフィド樹脂に関する。前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性指数が0.96以上であることが好ましい。
【0036】
本発明はさらに、熱安定性指数が0.95以上であり、反応活性が2.5以上であり、融解結晶化温度が230〜260℃であるポリフェニレンスルフィド樹脂の使用に関する。
【0037】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業等の分野に用いられる。
【0038】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂はさらに改質樹脂の製造に用いられ、好ましくはカップリング剤と反応して改質樹脂を製造するために用いられる。前記カップリング剤は特に限定されることはないが、好ましくはシランカップリング剤である。前記改質樹脂は、耐高温で寸法安定性の高い耐食性エンジンカバー内部部品、ブレーキシステム及び電子/電気装置、並びに精密ギア、ピストン、耐酸性・耐アルカリ性バルブやパイプ、継手等高強度で耐温耐食材料の利用分野に用いられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、及びそれにより製造されたポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記の優れた効果を有する。
1)本発明では、水酸基含有芳香族チオール化合物を末端基調整剤の1つとして用い、その水酸基でポリフェニレンスルフィドの一次生成物の塩素末端基を置換し、−R−OH系末端基を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を製造する。前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は反応活性が2.5以上となり、様々な改質樹脂の製造に、特にカップリング剤と反応してかかる改質樹脂を製造することに有用である。
2)本発明で提供されるポリフェニレンスルフィド樹脂は、融解結晶化温度が230〜260℃となることが可能であり、その利用温度において急速で結晶化し、後の加工や使用時に結晶化時間及び生産周期がより短くなる。
3)本発明で提供されるポリフェニレンスルフィド樹脂は高い反応活性、高い融解結晶化温度を有するとともに、熱安定性指数が0.95以上であり、そのまま押出、射出に用いられてもよく、幅広く利用されることができる。
4)本発明で提供されるポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性及び融解結晶化温度は制御可能なものである。製造時に、この2種の末端基調整剤の使用量を調整することにより、その後の利用時の関連パラメータ要求を満たすように、ポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性及び融解結晶化温度に対する制御を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0041】
<実施形態1>
本発明の実施形態において、アルカリ性条件下で、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を原料とし、水酸基含有芳香族チオール化合物及び4−フェニルチオ−チオフェノールを末端基調整剤として用い、末端基調整反応を行い、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得るポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する。
【0042】
末端基調整剤
本発明の実施形態では、水酸基含有芳香族チオール化合物及び4−フェニルチオ−チオフェノールをポリフェニレンスルフィドの末端基調整剤として使用し、ポリフェニレンスルフィド樹脂の一次生成物と反応させた後、−R−OH及びフェニル基により末端封止してなる分子末端基構造を形成する。そのうち、−R−OH末端基はポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性を、フェニル基はポリフェニレンスルフィド樹脂の融解結晶化温度を向上させることができる。さらに、−R−OH及びフェニル基はいずれもポリフェニレンスルフィド樹脂の塩素含有量を低減する作用を発揮する。
【0043】
本発明の実施形態では、ポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性、融解結晶化温度に対する異なる要求に応じて、水酸基含有芳香族チオール化合物及び4−フェニルチオ−チオフェノールの添加割合の調整により制御することができる。本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法は制御しやすく、制御性が高い。
【0044】
上記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は、硫黄含有化合物及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、重縮合反応を行い、反応液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させて得られるものである。
【0045】
硫黄含有化合物
本発明の実施形態では、使用する硫黄含有化合物は、原則として特に限定されることはないが、例えば、当業界で一般的に使われている硫黄単体、アルカリ金属の硫化物、アルカリ金属の水硫化物等が挙げられる。さらに、本発明の発明者は、熱安定性を併せ持つ観点から、例えば、ポリフェニレンスルフィド構造中の−S−S−の存在により熱安定性が低下する恐れを減少させるために、本発明の実施形態において、硫黄含有化合物として、アルカリ金属の水硫化物が好ましいことを見出した。また、前記アルカリ金属も原則として特に限定されることはないが、後処理が便利である点から、ナトリウムが好ましい。つまり、前記硫黄含有化合物がNaHSであることが好ましい。
【0046】
重縮合反応
本発明の実施形態では、ポリフェニレンスルフィドの主な構造は、重縮合反応によって実現される。重縮合反応の手段や条件は特に限定されることはないが、例えば、重縮合反応において、当業界通常の反応条件下で、硫黄含有化合物及びp−ジクロロベンゼンを用いて縮合重合反応を行う。
【0047】
上記重縮合反応は、重縮合助剤として塩基性物質を用いることが好ましい。塩基性物質は特に限定されることはないが、前記塩基性物質は好ましくはNaOH又はKOHであり、より好ましくはNaOHである。前記塩基性物質の添加方法は特に制限されることはないが、直接添加されることができ、水溶液の形態で添加されることもできる。
【0048】
さらに、上記重縮合反応は、重縮合助剤として塩基性物質及び脂肪酸を用いることが好ましい。脂肪酸を縮合反応助剤の1つとして使用する場合、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物中の窒素含有末端基の形成を効果的に抑制できる。前記脂肪酸は、当業界でよく使用されている脂肪酸であればよい。前記脂肪酸は好ましくは中鎖・短鎖脂肪酸であり、より好ましくはC5〜C6の脂肪酸である。特にC5〜C6の脂肪酸を縮合反応助剤として使用する場合、窒素含有末端基の形成を効果的に制御できる。関連研究によれば、窒素含有末端基は反応系における極性溶媒(例えばNMP等の高沸点溶媒)が関与する副反応に由来するものである。末端基の窒素含有量を低減することによって、ポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性を効果的に向上させることができる。さらに、前記C5〜C6の脂肪酸は、ヘキサン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、2−エチルブタン酸及びこれらの任意配合比での混合物であることが好ましい。
【0049】
前記重縮合反応では、反応系における水含有量を制御することが必要であり、通常、硫黄含有化合物に対して脱水処理を行うことにより、反応系における水含有量を0.5mol/mol全硫黄未満に制御する。塩基性物質、又は塩基性物質及び脂肪酸を重縮合助剤として用いる場合、まず塩基性物質、又は塩基性物質及び脂肪酸を脱水処理し、次に硫黄含有化合物を加えて二次脱水することが好ましい。このようにして、硫黄含有化合物の長時間の脱水条件下での分解及び副反応による硫黄元素のロスを低減することができる。
【0050】
本発明の実施形態では、重縮合反応後に、反応系を155〜180℃まで降温させ、この温度下で後続の分離処理を行う。このような温度は従来の温度より高い理由は、分子量が低いPPSに比較的多くの窒素元素が含まれ、本発明者は上記温度下で処理すると、高分子量PPSをできる限り析出させ、反応が不十分で分子量が低いPPSをそのまま反応溶液中に残し、最終生成物における窒素の含有量を低減できることを見出したからである。
【0051】
<実施形態2>
本発明は、熱安定性指数が0.95以上であり、反応活性が2.5以上であり、融解結晶化温度が230〜260℃であるポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は熱安定性指数が0.96以上であることが好ましい。
【0052】
熱安定性
本発明の熱安定性は、熱安定性指数で示される。
【0053】
ポリフェニレンスルフィド樹脂では、末端基の窒素含有量は樹脂の熱安定性に重要な影響を与える。末端基の窒素含有量は、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を製造するための重縮合反応における反応溶媒の副反応によるものである。重縮合反応では、脂肪酸を重縮合助剤とし、特にC5〜C6の脂肪酸を重縮合助剤とすることによって、末端基の窒素含有量を効果的に低減し、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物及びポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性を顕著に向上させることができる。
【0054】
本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性をより正確に示すために、前記熱安定性指数を下記の測定方法により測定する。
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。測定時に、まずポリマー試料を装置に導入し、温度を310℃に設定し、一定の時間保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定する。
【0055】
ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定し、MV
1とする。ポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定し、MV
2とする。MV
2/MV
1は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
【0056】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性指数が0.95以上であり、好ましくは0.96以上である。
【0057】
結晶性能
本発明の結晶性能は、融解結晶化温度で示される。
【0058】
本発明の実施形態では、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は末端基がフェニル基及び−R−OH末端基で置換された後に、末端基の立体障害が小さくなり、分子鎖の規則性が高くなるため、ポリフェニレンスルフィドの融解結晶化温度及び結晶化速度を向上させ、本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂に高い融解結晶化温度及び速い結晶化速度を付与する。
【0059】
従来の技術では、たくさんの融解結晶化温度の測定方法が知られている。本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶性能をより正確に示すために、前記融解結晶化温度を下記の測定方法により測定することが好ましい。
米国TA Co.,Ltd.製DSC装置を用い、試料量を約5mgとし、窒素環境下で、20℃/minで0℃から340℃まで昇温させ、5min保持し、さらに10℃/minで0℃まで降温させ、降温中に生じた結晶ピーク温度を融解結晶化温度とする。
【0060】
反応活性
本発明に記載の反応活性は、活性指数で示される。
【0061】
本発明の実施形態では、ポリフェニレンスルフィド樹脂中の−R−OH末端基はポリフェニレンスルフィド樹脂に非常に高い反応活性を持たせ、また、末端基調整反応時の水酸基含有芳香族チオール化合物に応じて前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性を制御することができる。前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は樹脂改質に非常に有用である。シランカップリング剤を用いてポリフェニレンスルフィド樹脂を改質させる場合、改質中にポリフェニレンスルフィド樹脂の−R−OH末端基はシランカップリング剤のエポキシ基、アミノ基等と反応するため、シランカップリング剤によりポリマーと無機相を緊密に結合させ、改質されたものにより優れた性能を持たせることができる。
【0062】
本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の反応活性をより正確に示すために、前記活性指数を下記の測定方法により測定する。
PPS樹脂100質量部を用意し、3−(2,3−グリシドキシ)プロピルトリメトキシシラン0.8質量部を配合し、均一に混合した後に、溶融粘度を測定する。カップリング剤添加後の溶融粘度/カップリング剤添加前の溶融粘度から粘度上昇度を算出し、粘度上昇度が大きいほど、反応活性が高い。
【0063】
また、本実施形態で使用される設備について、原則として、上記反応又は処理工程を実施できれば、特に限定されることはない。
【実施例】
【0064】
以下、実例を挙げて本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実例に限定されるものではない。
本発明における物性及び特性の測定方法は以下のとおりである。
【0065】
(1)溶融粘度の測定方法
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。測定時に、まずポリマー試料を装置に導入し、温度を310℃に設定し、5min保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定する。
【0066】
(2)熱安定性の測定方法
ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定し、MV
1とする。同じポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec
−1で溶融粘度を測定し、MV
2とする。MV
2/MV
1は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
【0067】
(3)窒素含有量の測定方法
微量硫黄・窒素分析装置により、PPSの窒素含有量を測定する。
【0068】
(4)結晶化温度の測定方法
米国TA Co.,Ltd.製DSC装置を用い、試料量を約5mgとし、窒素環境下で、20℃/minで0℃から340℃まで昇温させ、5min保持し、さらに10℃/minで0℃まで降温させ、降温中に生じた結晶ピーク温度を結晶化温度Tc
2とする。
【0069】
(5)反応活性の測定方法
PPS樹脂100質量部を用意し、3−(2,3−グリシドキシ)プロピルトリメトキシシラン0.8質量部を配合し、均一に混合した後に、上述した溶融粘度測定法により溶融粘度を測定する。カップリング剤添加後の溶融粘度/カップリング剤添加前の溶融粘度から粘度上昇度を算出し、粘度上昇度が大きいほど、反応活性が高い。
【0070】
(6)全硫黄量
実施例では、脱水前の全硫黄量は供給されたNaHSにおける硫黄含有量であり、脱水後の全硫黄量は供給されたNaHSにおける硫黄含有量から脱水によって低減された硫黄含有量を引いた量である。つまり、
[脱水前の全硫黄量]=[供給されたNaHS硫黄含有量]
[脱水後の全硫黄量]=[供給されたNaHS硫黄含有量]−[脱水によって低減された硫黄含有量]
【0071】
(7)全塩基性物質の量
実施例では、好ましくはNaOHを塩基性物質として使用する。したがって、全塩基性物質の量は全NaOH量である。
全NaOH量は、供給されたNaOHから、助剤の反応に必要なNaOHを引いた後、脱水によって生成されたNaOHを足した和である。つまり、
[全NaOH量]=[供給されたNaOH]−[助剤の反応に必要なNaOH]+[脱水によって生成されたNaOH]
【0072】
本発明のポリフェニレンスルフィドの一次生成物(以下、PPS−1、PPS−2、PPS−3と略称する)の製造過程は下記のとおりである。
【0073】
a.PPS−1の製造
150Lの反応釜に、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略称する)34.91Kg(350.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液14.34Kg(179.2mol)及びイソペンタン酸8.19Kg(80.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、8.89Kgの水溶液(水分含有量96.84%)を除去し、110℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 9.98Kg(100.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.5℃/minの速度で180℃まで昇温させ、5.69Kgの水溶液(水分含有量89.46%)を除去し、脱水後、150℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は99.0molであり、水分含有量は49.0molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.01であった。
上記反応釜に、p−ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.70Kg(101.0mol)、NMP 10.89Kg(110.0mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.02であった。約1時間かけて220℃まで昇温させ、3時間保温した。さらに1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、約1時間かけて155℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを155℃のNMP 30.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに塩酸溶液30Kg(96mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりイソペンタン酸8.11Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP84.2Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂PPS−1を得、質量収率は93.5%であり、溶融粘度は95Pa・sであり、窒素含有量は450ppmであり、熱安定性は0.967であり、反応活性は1.59であり、結晶化温度は202℃であった。
【0074】
b.PPS−2の製造
150Lの反応釜に、NMP 39.90Kg(400.0mol)、40%水酸化ナトリウム水溶液18.78Kg(187.8mol)及びヘキサン酸10.44Kg(90.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で、90℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、1.0℃/minの速度で180℃まで昇温させ、13.14Kgの水溶液(水分含有量98.10%)を除去し、130℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 4.99Kg(50.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、0.7℃/minの速度で200℃まで昇温させ、5.76Kgの水溶液(水分含有量91.79%)を除去し、脱水後、140℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は98.9molであり、水分含有量は27.8molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.00であった。
上記反応釜に、PDCB 14.99Kg(102.0mol)、NMP 12.96Kg(130.0mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.03であった。約1.5時間かけて240℃まで昇温させ、0.5時間保温し、さらに1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、4時間保温した。保温後、約2時間かけて180℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを180℃のNMP30.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに塩酸溶液で30.0Kg(100mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりヘキサン酸10.38Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP 86.8Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂PPS−2を得、質量収率は93.6%であり、溶融粘度は64Pa・sであり、窒素含有量は430ppmであり、熱安定性は0.973であり、反応活性は1.53であり、結晶化温度は207℃であった。
【0075】
c.PPS−3の製造
150Lの反応釜に、NMP 44.89Kg(450.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液15.15Kg(189.4mol)及びペンタン酸10.20Kg(100.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、2.0℃/minの速度で、120℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、2.0℃/minの速度で200℃まで昇温させ、9.76Kgの水溶液(水分含有量96.07%)を除去し、120℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 4.99Kg(50.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.0℃/minの速度で250℃まで昇温させ、5.56Kgの水溶液(水分含有量92.57%)を除去し、脱水後、160℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は98.7molであり、水分含有量は25.5molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.02であった。
上記反応釜に、PDCB 15.23Kg(103.6mol)、NMP 10.77Kg(108.0mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.05であった。約1時間かけて230℃まで昇温させ、2時間保温した。さらに1.2℃/minの速度で270℃まで昇温させ、3時間保温し続けた。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを160℃のNMP 30.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに10%塩酸溶液30.0Kg(110mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりペンタン酸10.12Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP 90.3Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂PPS−3を得、質量収率は94.3%であり、溶融粘度は31Pa・sであり、窒素含有量は410ppmであり、熱安定性は0.983であり、反応活性は1.51であり、結晶化温度は210℃であった。
ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造
【0076】
実施例1
10Lの反応釜に、PPS−1 1000g、p−メチロールチオフェノール0.1mol、NaOH 16g及びNMP 3000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、1時間保温し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノール0.3mol及びNMP 200gを加え、3時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.7%であり、溶融粘度は99Pa・sであり、窒素含有量は440ppmであり、熱安定性は0.965であり、反応活性は2.6であり、結晶化温度は242℃であった。
【0077】
実施例2
10Lの反応釜に、PPS−1 1000g、p−ヒドロキシメチルチオフェノール0.4mol、NaOH 40g及びNMP 5000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、3時間保温し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノール0.2mol及びNMP 200gを加え、2時間保温した。保温後、約2時間かけて140℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.3%であり、溶融粘度は100Pa・sであり、窒素含有量は430ppmであり、熱安定性は0.961であり、反応活性は3.1であり、結晶化温度は236℃であった。
【0078】
実施例3
10Lの反応釜に、PPS−1 1000g、p−ヒドロキシプロピルチオフェノール0.3mol、NaOH 28g及びNMP 4000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で270℃まで昇温させ、2時間保温し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノール0.1mol及びNMP 200gを加え、1時間保温した。保温後、約1.5時間かけて150℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.5%であり、溶融粘度は97Pa・sであり、窒素含有量は440ppmであり、熱安定性は0.963であり、反応活性は2.8であり、結晶化温度は232℃であった。
【0079】
実施例4
10Lの反応釜に、PPS−2 1000g、p−ヒドロキシエチルチオフェノール0.1mol、NaOH 16g及びNMP 3000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、1時間保温し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノール0.3mol及びNMP 200gを加え、3時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.7%であり、溶融粘度は62Pa・sであり、窒素含有量は420ppmであり、熱安定性は0.969であり、反応活性は2.7であり、結晶化温度は240℃であった。
【0080】
実施例5
10Lの反応釜に、PPS−3 1000g、p−ヒドロキシプロピルチオフェノール0.4mol、NaOH 24g及びNMP 5000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、3時間保温し、さらに4−フェニルチオ−チオフェノール0.2mol及びNMP 200gを加え、2時間保温した。保温後、約2時間かけて140℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.3%であり、溶融粘度は36Pa・sであり、窒素含有量は390ppmであり、熱安定性は0.971であり、反応活性は3.3であり、結晶化温度は235℃であった。
【国際調査報告】