特表2021-507759(P2021-507759A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-507759(P2021-507759A)
(43)【公表日】2021年2月25日
(54)【発明の名称】炎症に関連する疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20210129BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20210129BHJP
   A61B 5/053 20210101ALI20210129BHJP
【FI】
   A61N1/36
   A61N1/05
   A61B5/05 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】76
(21)【出願番号】特願2020-534375(P2020-534375)
(86)(22)【出願日】2018年12月20日
(85)【翻訳文提出日】2020年8月18日
(86)【国際出願番号】GB2018053731
(87)【国際公開番号】WO2019122908
(87)【国際公開日】20190627
(31)【優先権主張番号】62/608,412
(32)【優先日】2017年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517155196
【氏名又は名称】ガルバニ バイオエレクトロニクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルヴォルデルドンク,マルグリート
(72)【発明者】
【氏名】アーウィン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】チュー,ダニエル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ドネガ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】クレイポール,シンディ
(72)【発明者】
【氏名】グプタ,イーシャ
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053CC10
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ13
4C053JJ21
4C127AA06
4C127DD03
(57)【要約】
脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において脾動脈に隣接する神経であって、脾臓に分布する神経における神経活動の刺激は、炎症性および抗炎症性分子のレベルを調節し、それによって、炎症を低減し、炎症と関連する障害などの障害を処置する方法を提供することができる。本発明は、オフターゲット効果、特に、外科的外傷を最小限にしながら、炎症を低減させる改善された方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脾動脈神経の神経活動を刺激するためのシステムであって、
脾動脈が膵臓と直接接触しない部位で神経とシグナル伝達的に接触するための少なくとも1つの電極;および
電気的シグナルを神経に印加するための少なくとも1つの電極の操作を制御するように構成される、少なくとも1つの電極に電気的に結合した、少なくとも1つのコントローラー
を含み、
電気的シグナルが、対象における生理学的パラメーターの改善をもたらし、生理学的パラメーターの改善が、炎症性サイトカインの減少、抗炎症性サイトカインの増加、カテコールアミンの増加、免疫細胞集団の変化、免疫細胞表面共刺激分子の変化、炎症カスケードに関与する因子の減少、免疫応答メディエータのレベルの変化および脾臓血流の減少からなる群の1つ以上である、前記システム。
【請求項2】
部位が、0.5cm〜4cmの範囲の距離で膵臓の表面から離れた脾動脈の位置である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
部位が、脾動脈ループである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電気信号が≦300Hzの周波数を有し、オン−オフパターンで印加され、好ましくは前記電気信号が、≦50Hz、より好ましくは≦10Hzの周波数を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記周期的オン−オフパターンが0.1〜10秒のオン期間及び0.5〜30秒のオフ期間を有し、好ましくは前記オン期間:前記オフ期間の比が1:5であり、さらに好ましくは前記比が1:6、1;7、1:8、1:9、1:10、1:20、又は1:30であり;任意に、前記オン期間が2秒であり、前記オフ期間が2秒であり、さらに任意に、前記オン期間が0.5秒であり、前記オフ期間が10秒である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記電気信号が≦50Hzの周波数を有し、連続的に印加され、好ましくは前記電気信号が≦10Hz、より好ましくは≦2Hz、さらにより好ましくは≦1Hzの周波数を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記電気信号がパルス列を含み、当該パルス列が複数のパルスを含む、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記パルスが方形パルスである、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記パルスが、荷電平衡、二相、対称、及び非対称、好ましくは:二相、荷電平衡、及び非対称の少なくとも一つである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記電気信号が250〜1000μs、好ましくは400〜1000μsのパルス幅を有する、請求項7〜9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムが対象者における炎症に関連する障害などの障害を治療するためのものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
各エピソードが50〜10000、好ましくは60〜3000、至適には100〜2400パルスの前記電気信号を含む、請求項5に従属する場合の、請求項7〜11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記電気信号を、前記対象者にエピソード的に、2〜3時間ごとに1回、1日最大6回印加する、又は、前記電気信号を、前記対象者に睡眠中にエピソード的に印加する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記神経周囲に好適に設置するための神経インターフェースをさらに含み、当該神経インターフェースが前記少なくとも一つの電極を含む、前記請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記神経インターフェースが脾動脈の回りに配置するのに適している、請求項3に従属する場合の請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
全身動脈血圧、脾臓における血流速度、脾動脈における血流速度、脾静脈における血流速度、脾臓体積、脾臓組織潅流、神経における神経活動、少なくとも一つの電極のインピーダンス、又は刺激要因電圧コンプライアンスの1以上を検出するよう構成されている少なくとも一つの検出器をさらに含む、前記請求項1〜15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも一つの制御部が、前記神経に電気信号を印加する前に、当該神経と信号伝達的に接触している神経インターフェースが正しく設置されていることを確認するために前記神経に電気信号を印加するよう構成されており、前記電気信号が≦300Hzの周波数を有し、≦3時間の期間にわたり連続的に印加される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記検出器が、全身動脈血圧、脾臓における血流速度、脾動脈における血流速度、及び脾静脈における血流速度の1以上を検出するように構成されており、前記少なくとも一つの制御部がさらに、検出された血流が基底線血流と異なっているか否かを確認し、異なっている場合には、前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていることをオペレータに示すよう構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記検出器が、電気インピーダンストモグラフィー、ドプラ血流、超音波、歪み測定、圧力及び電気インピーダンスの1以上を用いて血流を測定するよう構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記検出器が前記神経における神経活動を検出するよう構成されており、前記少なくとも一つの制御部がさらに、検出された神経活動が基底線神経活動より高いか否かを確認し、高い場合には、前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていることをオペレータに示すよう構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記検出器が1以上の記録電極を含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記検出器が脾臓体積を検出するように構成されており、前記少なくとも一つの制御部がさらに、検出された脾臓体積が基底線脾臓体積より小さいか否かを確認し、低い場合には、前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていることをオペレータに示すよう構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記検出器が超音波を用いて脾臓体積を測定するよう構成されている、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記検出器が前記少なくとも一つの電極のインピーダンスを検出するよう構成されており、前記少なくとも一つの制御部がさらに、検出されたインピーダンスが基底線インピーダンスと異なるか否かを確認し、異なっている場合には、前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていることをオペレータに示すよう構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項25】
前記検出器が、インピーダンス計を用いてインピーダンスを測定するよう構成されている、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記システムがさらにディスプレイを含み、前記少なくとも一つの制御部がさらに、神経インターフェースが正しく設置されていることを前記ディスプレイを介してオペレータに示すよう構成されている、請求項18〜25のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項27】
前記電気信号によって前記神経に印加される前記相当たり電荷密度が5μC〜1100μC/cm2/相、任意に5μC〜450μC/cm2/相、任意に5μC〜150μC/cm2/相、任意に50μC〜450μC/cm2/相、さらに任意に50μC〜160μC/cm2/相である、請求項1〜26のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項28】
前記システムが信号発生器を含み、当該信号発生器が、前記制御部からの制御操作に応答して前記少なくとも一つの電極に電気信号を送るよう構成されている、請求項1〜27のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項29】
前記信号発生器が少なくとも一つの電流源又は電圧源を含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記少なくとも一つの電極が第1の電極及び第2の電極を含む、請求項1〜29のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項31】
前記第1の電極が陽極であり、前記第2の電極が陰極である、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記第2の電極が前記神経と信号伝達的に接触しているように構成されており、前記第1の電極が前記神経と信号伝達的に接触しないように構成されており、任意に前記第1の電極が接地されており、任意に前記第1及び第2の電極が単極構成を形成している、請求項29又は30に記載のシステム。
【請求項33】
前記少なくとも一つの電極がさらに第3の電極を含み、前記第2の電極が前記神経の長軸方向で前記第1の電極と前記第3の電極の間に位置している、請求項30又は31に記載のシステム。
【請求項34】
前記第3の電極が陽極である、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記第1の電極及び前記第3の電極の幅が0.5〜4mm、任意に0.5〜2mm、任意に0.5〜1.5mm、さらに任意に0.7〜1mm;任意に1〜4mm、任意に1〜3mm、任意に2〜4mm、任意に2〜3mmである、請求項30〜34のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項36】
前記第1の電極と前記第2の電極の間の距離及び/又は前記第2の電極と前記第3の電極の間の距離が、請求項33、34又は35に従属する場合、5mm〜7mm、任意に5.5mm〜6.5mm、さらに任意に6.2mm〜6.4mmである、請求項30〜35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項37】
前記少なくとも一つの制御部が、プロセッサ、並びに、非一時的コンピュータ可読記憶媒体を含み、前記非一時的コンピュータ可読記憶媒体は、前記プロセッサにロードされ、動作すると、前記プロセッサを、前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも制御するようにさせるコード部分を含む実行可能コンピュータプログラムを有する、前記請求項1〜36のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項38】
脾臓に分布する神経を可逆的に刺激する方法であって、
請求項1〜37のいずれか1項のシステムを提供すること;
前記少なくとも一つの電極を、脾動脈ループに隣接している前記神経と、信号伝達的に接触するよう位置決めすること;及び
前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部で制御することにより、前記神経に電気信号を印加して神経活動を刺激すること
を含む方法。
【請求項39】
前記方法が対象者における炎症に関連する障害などの障害を治療するためのものである。請求項38に記載の方法。
【請求項40】
神経インターフェースが脾動脈神経と信号伝達的に接触して正しく設置されているか否かを確認する方法であって、
請求項13若しくは14、又は請求項13若しくは14に従属している場合に請求項15〜37のいずれか1項のシステムを提供すること;
前記神経インターフェースを脾動脈が膵臓と直接接触していない部位における神経の周囲に位置決めすること;
前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部で制御することにより、前記神経に電気信号を印加すること;
脾臓、脾動脈、脾静脈における血流速度若しくは血圧の変化、脾臓体積の低下、神経における神経活動の上昇、心拍数の変化、全身動脈血圧の変化、前記少なくとも一つの電極のインピーダンスの低下、刺激要因電圧コンプライアンスの低下の少なくとも一つを確認すること;並びに
前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていたことをオペレータに示すこと
を含む方法。
【請求項41】
前記部位が、0.5cm〜4cmの範囲の距離で膵臓の表面から脾動脈が離れている位置に存在する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記部位が、脾動脈ループにある、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
脾臓に分布する神経の神経活動を可逆的に刺激するコンピュータに実装された方法であって、前記神経は、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において脾動脈に隣接しており、
請求項36のシステムの少なくとも一つの電極の動作を制御することにより、前記神経に信号を印加して、神経活動を刺激することを含む方法。
【請求項44】
前記方法が、対象者における炎症に関連する障害などの障害を治療するためのものである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
神経インターフェースが、脾臓に分布する神経と信号伝達的に接触して正しく設置されているか否かを確認するコンピュータに実装された方法であって、前記神経が脾動脈ループに隣接しており、
請求項37のシステムの少なくとも一つの電極の動作を制御することにより、前記神経に信号を印加すること;
脾臓、脾動脈、脾静脈における血流速度若しくは血圧の変化、脾臓体積の低下、神経における神経活動の上昇、心拍数の変化、全身動脈血圧の変化、前記少なくとも一つの電極のインピーダンスの低下、又は刺激要因電圧コンプライアンスの低下の少なくとも一つを確認すること;及び
前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていたことをオペレータに示すこと
を含む方法。
【請求項46】
対象者における炎症に関連する障害などの障害の治療で使用される神経刺激電気信号であって、前記電気信号が請求項1〜10のいずれか1項の電気信号である神経刺激電気信号。
【請求項47】
脾臓に分布する改変された神経であって、当該神経に請求項1〜37のいずれか1項のシステムが信号伝達的に接触しており、前記少なくとも一つの電極が当該神経と信号伝達的に接触していることから、当該神経がそれの自然な状態で当該神経と区別することができ、当該神経が、炎症に関連する障害などの障害を患う又は炎症に関連する障害などの障害のリスクを有する対象者中に存在する、改変された神経。
【請求項48】
請求項38〜46のいずれか1項の方法により、神経の神経活動を刺激することで得ることができる、脾臓に分布する改変された神経。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脾動脈に隣接する神経の神経調節、詳細には、神経における神経活動を刺激する装置、システム及び方法、さらに詳細には、信号パラメータ及び電極設計に関するものである。本発明は、炎症に関連する疾患の治療のために神経における神経活動を刺激する装置、システム及び方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
炎症は、宿主防御及び免疫介在疾患の進行において基本的な役割を果たす([1]で総覧)。炎症応答は、化学伝達物質(例えば、サイトカイン類及びプロスタグランジン類)及び炎症細胞(例えば、白血球)による傷害及び/又は感染に応じて開始される。制御された炎症応答は、例えば、有害物の除去及び感染に対する保護を提供する損傷組織の修復の開始において有用である。しかしながら、炎症応答は、調節されない場合は有害となり、各種の炎症障害、例えば関節リウマチ、骨関節炎、喘息、アレルギー、敗血症ショック症候群、アテローム性動脈硬化、及び炎症性大腸炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、及び慢性炎症が介在する他の臨床状態に至り得る。
【0003】
脾臓は、身体の単球群の半分を含むことで、この臓器は炎症、特に内毒素ショックにおいて主要な寄与をなすものである([2])。この臓器は、異なる神経枝による支配を受けることが知られている([3]に総覧)。脾臓の副交感神経支配は、Daleによる脾臓からのアセチルコリン(ACh)単離以来、論争の的となっている[3]。Buijらが、齧歯類において脾臓の副交感神経支配を提唱しているが[4、5]、この神経へのヒトの相関は不明である。脾臓神経支配の伝統的な像は、神経解剖学的及び神経化学的証拠によって示されているように98%交感神経性であると提案されている[3]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機能的観点からすると、迷走神経刺激([6]に総覧)並びに本明細書において脾動脈神経と称される脾動脈を囲む神経叢が、マウスでのLPS誘発TNF放出を阻害する[7]。Traceyらによれば、脾動脈神経活動は、遠心性迷走神経枝を起源とするコリン作動性抗炎症経路(CAP)によって直接制御される[6]。炎症性緊張及び炎症反射の迷走神経制御がかなり注目されていたが、他の研究者らは迷走神経と脾動脈神経の間の結合に異議を唱えていた。一部の著者らは、マウスでの脾動脈神経の除神経によって、CAPの阻害が生じたことを示している[7]。しかしながら、Martelliらは、脾動脈神経が、迷走神経に直接つながっているのではなく[8]、むしろ脾動脈神経活動を制御する大内臓神経の独立の枝として生じた[9、10]ことを示すことによって、この考え方に疑問を呈している。これらの著者らは、炎症マーカーの神経センシングが体液性であって、神経性ではないという考え方に反論もしている[11]。さらに、炎症反射応答の遠心性アームが交感神経性であるか副交感神経性であるかについての議論がある。
【0005】
迷走神経の電気刺激は、臨床試験において関節リウマチの症状を緩和させることが明らかになっている[12]。しかしながら、迷走神経は心臓、肝臓及び消化管などの臓器のほとんどを神経支配するいくつかの束からなることから、迷走神経の刺激が望ましくない非特異的CNS効果を生じ得るという懸念がある。
【0006】
脾臓神経の電気刺激は、脾臓の血管応答に関連している[13]。参考文献[7、14、15、16]に、炎症障害の治療のための脾動脈神経の電気刺激が記載されている。しかしながら、これらのアプローチは理想的ではない。これは、脾動脈が膵臓に沿って伸びており、一般的に脾臓と直接接触しており、脾動脈を取り囲む神経叢が脾臓及び他の構造にも分布しており(張り巡らされている)、それにより脾動脈神経の刺激が膵臓への外科的負傷又は損傷及びオフターゲット効果と関連しうるからである。さらに、膵臓及び他の構造の脾動脈への近接性は、電気的刺激用の埋め込み可能デバイスを提供するために利用可能な空間を制限し、したがってかかる埋め込み可能デバイスの設計を制約する。
【0007】
従って、障害(疾患)、例えば炎症に関連する障害(疾患)の治療のために、脾動脈に関連する神経における神経活動を刺激するさらなる方法及び改良された方法が必要とされている。
【0008】
本発明者らは、膵臓などの臓器に対する外科的傷害または損傷を最小限にしながら、脾動脈神経を刺激する新しい方法を見出した。この新しい方法は、脾動脈が膵臓と直接接触しない部位で脾動脈神経に電気的シグナルを印加することを含む。例えば、膵臓の表面に沿って走る脾動脈は、一般的には、膵臓と直接接触するが、ある特定の位置では、ループ様構造(本明細書では脾動脈ループと呼ばれる)にあり膵臓の表面から離れる。脾動脈ループは、したがって、脾動脈神経の神経活動を調節するために電気的シグナルを印加するための特に有利な部位である。本発明者らはまた、脾動脈神経の神経活動の刺激が、内毒素血症(LPS)ショックモデルにおいて、炎症性サイトカイン(例えば、TNFα)のレベルを調節し、動物の生存を増大させることができることも見出した。かくして、本発明は、患者に対する外科的外傷のリスクの低減と共に、炎症を低減させる改善された方法を提供する。本発明は、炎症または免疫媒介性炎症疾患と関連する障害などの障害の処置にとって有用である。
【0009】
脾動脈が膵臓と直接接触しない部位での脾動脈神経に対する電気的シグナルの印加は、それが、脾動脈の周囲で利用可能な追加の空間のため、電気的シグナルを印加するためのシステムの少なくとも一部(例えば、神経インターフェース10、埋込み可能デバイス106)の設計においてさらなる可撓性を提供するという点でも有利である。例えば、追加の空間は、より長期間にわたって電気的シグナルを送達することができる、より大きなバッテリーの埋込みを可能にし得る。
【0010】
かくして、本発明は、脾臓脈神経の神経活動を刺激するためのシステムを提供する。システムは、脾動脈が膵臓と直接接触しない部位で神経とシグナル伝達接触する少なくとも1つの電極と、該少なくとも1つの電極に電気的に連結された少なくとも1つのコントローラーとを含む。少なくとも1つのコントローラーは、電気的シグナルを神経に印加するための少なくとも1つの電極の操作を制御するように構成される。電気的シグナルは、対象における生理学的パラメーターの改善をもたらし、生理学的パラメーターの改善は、炎症性サイトカインの減少、抗炎症性サイトカインの増加、カテコールアミンの増加、免疫細胞集団もしくは免疫細胞表面共刺激分子の変化、炎症カスケードに関与する因子の減少、および/または免疫応答メディエータの減少からなる群の1つ以上である。臨床医であれば、神経への電気的シグナルの印加に応答して変化し、次に、対象における生理学的パラメーターの改善をもたらし得る、疾患活動性スコアを測定するために、疾患活動性スコアまたは臨床スコアなどの評価を用いることができる。
【0011】
本発明は、対象者における炎症に関連する疾患の治療方法も提供する。当該方法は、本発明のシステムを提供すること、少なくとも一つの電極を、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において脾動脈神経と信号伝達的(シグナル伝達的)に接触するよう位置決めすること、及び前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部(コントローラ)で制御して、前記神経に電気信号を印加して、神経活動を刺激することを含む。
【0012】
本発明はまた、神経が、脾動脈神経における神経活動を可逆的に刺激する方法を提供する。当該方法は、本発明のシステムを提供すること、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において前記神経と信号伝達的に接触するよう少なくとも一つの電極を位置決めすること、及び前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部で制御することにより、前記神経に電気信号を印加して神経活動を刺激することを含む。
【0013】
本発明はまた、神経インターフェースが脾動脈神経と信号伝達的に接触して正しく配置されているか否かを確認する方法を提供する。当該方法は、本発明のシステムを提供すること、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において前記神経と信号伝達的に接触している神経インターフェースを位置決めすること、前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部で制御することにより、前記神経に電気信号を印加すること、脾臓、及び/又は脾動脈、及び/又は脾静脈における血流速度の変化、脾臓体積の低下、神経における神経活動の上昇、又は少なくとも一つの電極のインピーダンスの変化が検出されていることを確認すること(決定すること)、及び前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく配置されていたことをオペレータに示すことを含む。
【0014】
本発明は、対象者における炎症と関連する疾患を治療するコンピューターに実装された方法も提供する。当該方法は、本発明のシステムの少なくとも一つの電極の動作を制御することにより、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において脾動脈神経にシグナルを印加して、神経活動を刺激することを含む。
【0015】
本発明は、脾動脈神経における神経活動を可逆的に刺激するコンピュータにより実装された方法も提供する。当該方法は、本発明のシステムの少なくとも一つの電極の動作を制御することにより、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において前記神経にシグナルを印加して、神経活動を刺激することを含む。
【0016】
本発明は、神経インターフェースが脾動脈神経と信号伝達的に接触して正しく設置されているか否かを確認するコンピュータに実装された方法も提供する。当該方法は、本発明のシステムの少なくとも一つの電極の動作を制御することにより脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において前記神経に電気信号を印加すること、脾臓、脾動脈、脾静脈における血流量の変化、脾臓体積の低下、神経における神経活動上昇、又は少なくとも一つの電極のインピーダンス変化が検出されていることを確認すること、及び前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていたことをオペレータに示すことを含む。
【0017】
本発明は、対象者における障害、例えば炎症と関連する障害の治療に使用される神経刺激電気信号であって、前記電気信号が本発明によるいずれかの電気信号も提供する。
【0018】
本発明は、本発明のシステムが信号伝達的に接触している改変された脾動脈神経であって、前記少なくとも一つの電極が前記神経と信号伝達的に接触していることで、前記神経を、それの自然な状態での神経から区別することができ;前記神経が炎症障害を患う又はそのリスクを有する対象者にある改変された神経も提供する。
【0019】
本発明は、神経膜によって囲まれた改変された脾動脈神経であって、前記神経の膜電位を変えることで、正常状態において前記神経に沿って活動電位を伝播するために前記神経膜を超えて移動可能なカリウム及びナトリウムイオンの分布を含み;前記神経の少なくとも一部が、神経内のカリウム及びナトリウムイオンの濃度を変えることで、混乱状態で神経膜の脱分極を引き起こして、その部分を横断する活動電位をデノボ(de novo)で一時的に発生させる一時的外部電場の印加を受け;前記外部電場が除かれると、前記神経がそれの正常状態に戻る、改変された神経も提供する。
【0020】
本発明は、本発明の方法によって神経の神経活動を刺激することで得られ得る改変された脾動脈神経も提供する。
【0021】
本発明は、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置における、複数の脾動脈神経周囲の設置に好適な神経インターフェースであって、前記神経インターフェースが前記複数の脾動脈神経を完全に囲み、少なくとも一つの電極を含む神経インターフェースも提供する。
【0022】
本発明は、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置における、少なくとも一つの脾動脈神経及び脾動脈周囲の設置に好適な神経インターフェースであって、前記神経インターフェースが脾動脈を少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%囲み、少なくとも一つの電極を含む神経インターフェースも提供する。
【0023】
本発明は、脾動脈神経と信号伝達的に接触して設置されている本発明のシステムの制御方法であって、前記システムに制御指示を送る段階を含み、それに応じて前記システムが前記神経に信号を印加する方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
脾臓を囲む神経
脾臓の神経支配は、主として交感神経性又はノルアドレナリン作動性であり、ペプチドニューロンが残りのニューロンの大部分を代表する可能性が高い。ヒト脾臓は、脾動脈を囲む脾臓叢によって神経支配されている。脾動脈は脂肪及び結合組織に包埋されており、一般に膵臓と直接接触している。脾動脈は神経組織で覆われており、その神経組織は腹腔叢由来であり、脾動脈とともに脾臓叢として脾臓に続いている。脾臓叢は、脾門で脾臓に入り、脾動脈は末梢枝に分岐しており、脾臓叢はこれらの分岐とともに脾臓の柔組織内に続いている。
【0025】
脾臓叢はいくつかの神経束を含み、それは腹腔動脈から脾臓まで主脾動脈を囲んでおり、各神経束は神経線維の小さい束を含む。脾臓神経を囲む神経束(又は、動脈周囲神経束とも称される)は、本明細書において脾動脈神経と称される。
【0026】
脾動脈の流れは変動する。一般に、それは膵臓の表面に沿って走る傾向があり、一般的には、膵臓と直接接触する。元の部位と、門での進入ポイントとの間で、脾動脈が膵臓と直接接触しないように、脾動脈は、ある特定の位置で膵臓の表面から離れてもよい。例えば、ある特定の位置で、脾動脈は、約0.5cm〜約4cmの距離で膵臓の表面から離れていてもよく、介在する空間は、脂肪組織および/または結合組織によって満たされる。これらの位置で、脾動脈は、膵臓から突き出て、ループ様構造を形成してもよく、ループ様構造は、本明細書では脾動脈ループと呼ばれる。
【0027】
脾動脈ループは、膵臓の表面から、例えば、0.5cm以上の距離で離れていることを特徴とし、この距離は、脾動脈の内側湾曲部から、膵臓の表面まで計算される。介在空間は、脂肪組織および/または結合組織で満たされる。電気的シグナルのこの部位への印加は、それが脾動脈とより直接的に結合する神経叢を単離させるため、有利である。この印加部位はまた、膵臓に対する外科的傷害を低減する視点から、手術をより安全にすると期待される。
【0028】
いくつかの実施形態においては、脾動脈ループは、1cm以上、例えば、約1〜4cm、好ましくは、約1.5cmの距離で膵臓の表面から離れており、これは、ループ頂部の内側湾曲部と、膵臓の表面との間の距離である。この距離は、本明細書に記載されるように、ループの高さと呼んでもよい。
【0029】
脾動脈ループは、約0.5cm以上の首部を有してもよく、これに関連して、「首部」は、ループの第1の脚部の内側湾曲部(脾動脈が脾臓の表面から離れる位置)と、ループの第2の脚部の内側湾曲部(脾動脈が脾臓との直接接触に戻って来る位置)との間の直接的な距離を指す。一部の実施形態では、首部は、0.55cm以上、0.6cm以上、0.65cm以上、0.7cm以上、0.75cm以上、0.8cm以上、0.85cm以上、0.9cm以上、1cm以上、1.1cm以上、1.2cm以上、1.3cm以上、1.4cm以上、1.5cm以上、1.6cm以上、1.7cm以上、1.8cm以上、1.9cm以上、2.0cm以上である。いくつかの実施形態においては、脾動脈ループは、約1.1cm〜約3.0cmの範囲の首部を有してもよい。
【0030】
脾動脈ループの数は、ヒト対象間で変化してもよいが、一般的には、脾動脈ループの数と、対象の年齢との間には正の相関があると考えられる。典型的には、脾動脈ループは、45歳を超えるヒト対象において、より頻繁に観察される。
【0031】
動脈血管系と結合した脾神経叢は、脾臓を支配し、炎症性サイトカインの産生を調節することが示されている。かくして、脾神経叢と結合した神経における神経活動を刺激することによって、炎症性および抗炎症性分子(例えば、サイトカイン)のレベルを調節して、炎症の低減などの、治療効果を達成することができる。特に、脾神経叢と結合した1つ以上の神経の刺激は、炎症性サイトカインの産生および分泌を減少させ、抗炎症性サイトカインの産生および分泌を増加させることによって、炎症性と抗炎症性サイトカインプロファイルの不均衡と関連する状態、例えば、炎症と関連する障害の処置を補助する。
【0032】
本発明は、上記のように、脾動脈が膵臓と直接接触しない部位で脾動脈神経に電気的シグナルを印加することを含む。好ましくは、シグナル印加部位は、脾動脈ループにある。
【0033】
動脈血管系と結合した脾神経叢における神経活動の刺激は、典型的には、外科的介入によって達成される。膵臓の表面から離れている脾動脈上の部位での神経活動を調節するためのシステムまたはデバイスの埋込みは、以前に認められたものよりも外科的に近接可能な部位での脾動脈神経における望ましい神経活動の刺激を可能にする。したがって、これらの部位でのシグナル印加は、外科医が膵臓の表面から脾動脈を外科的に切除する必要がないため、外科的外傷、例えば、膵臓の外傷のリスクを有意に低減する利点を有する。
【0034】
いくつかの実施形態においては、シグナル印加部位は、1つの前記部位に隣接する1つ以上の神経にあってもよい。
【0035】
いくつかの実施形態においては、シグナル印加部位は、複数の前記部位に隣接する1つ以上の神経にあってもよい。いくつかの実施形態においては、複数の独立した部位はそれぞれ、独立した本発明のシステム、デバイスまたは方法を用いて刺激することができる。いくつかの実施形態においては、複数の前記部位はそれぞれ、単一の本発明のシステム、デバイスまたは方法によって刺激することができる。
【0036】
いくつかの実施形態においては、シグナルを、複数の部位のそれぞれにおける1つ以上の神経に、同時的、逐次的、または別々に印加することができる。
【0037】
同時的とは、複数の部位のそれぞれに、実質的に同時に、シグナルを印加することを指してもよい、すなわち、あり得る遅延の誤差の範囲内で、シグナルは、正確に同時に、複数の部位のそれぞれに印加されることが意図される。別々に、とは、互いに独立に複数の部位のそれぞれにシグナルを印加することを指してもよい、すなわち、シグナルは、協調した順序で印加されない。シグナルはそれぞれ、それぞれの部位に独立に送信される。別々のシグナルの印加の結果、複数の部位のそれぞれまたはいくつかが、実質的に同時に、シグナルを同時に受信することができることが理解されるべきである。逐次的とは、複数の部位のそれぞれに、規定の「順序」でシグナルを印加することを指してもよい。これは、実質的に同時に、複数の独立した部位のいくつかにシグナルを印加することを含んでもよい。
【0038】
さらに、本発明者らは、術前プロトコールを用いて、神経活動を刺激するために本発明のシステムまたはデバイスを埋め込むための脾動脈の最適な位置を同定することができることを見出した。最適な部位は、脾動脈が膵臓から離れ、手術によって最もアクセス可能であり、それによって、外科的外傷のリスクが最も低いことを担持する位置であってもよい。例えば、これは、脾臓の表面からの距離が最も離れている脾動脈ループであってもよい。最適な部位は、術前のCTスキャンまたは当業界で公知の他の手順を実施することによって同定することができる。
【0039】
本発明が改変された脾神経に言及する場合、その神経は、理想的には対象のin situに存在する。
【0040】
脾臓に分布する神経の刺激
本発明は、本明細書に記載されている特定の位置において、脾動脈神経に電気信号を印加して、神経活動を刺激することに関する。
【0041】
刺激は、神経の少なくとも一部において信号伝達活動が、その神経のその部分での基底線神経活動と比較して上昇していることを指し、基底線神経活動は、介入前の対象者における神経の信号伝達活動である。言い換えれば、刺激により、神経活動が作り出され、それによって神経のその部分での総神経活動が上昇する。
【0042】
神経の「神経活動」は、神経の信号伝達活動、例えばその神経における活動電位の振幅、周波数及び/又はパターンを指す。神経における活動電位の文脈で本明細書において使用される、「パターン」という用語は、神経又はそこのニューロンの下位群(例えば、神経束)における活動電位の局所電場電位、複合活動電位、集合体活動電位、さらには振幅、周波数、曲線下面積及び他のパターンの1以上を含むものである。
【0043】
刺激は代表的には、神経活動の上昇、例えば、神経の少なくとも一部における刺激点を越えた活動電位の発生を伴う。軸索に沿ったいずれかの箇所で、機能性神経は、神経膜を横断するカリウム及びナトリウムイオンの分布を有する。軸索に沿った1箇所での分布が、その箇所での軸索の膜電位を決定し、それが次に、隣接箇所でのカリウム及びナトリウムイオンの分布を決定して、それが次に、その箇所での軸索の膜電位を決定する。これは、正常な状態で動作する神経であり、活動電位は軸索に沿ってある箇所から隣接箇所に伝播し、それは従来の実験を用いて観察することができる。
【0044】
神経活動の刺激を特徴付ける一つの手法は、軸索における1以上の箇所でのカリウム及びナトリウムイオンの分布であり、それは伝播活動電位の結果としての神経の隣接する箇所若しくは複数箇所での膜電位によって生じるのではなく、一時的外部電場の印加によって生じるものである。一時的外部電場は、神経におけるある箇所内のカリウム及びナトリウムイオンの分布を人為的に変えることで、それがなければ起こらない神経膜の脱分極を引き起こす。一時的外部電場によって引き起こされる神経膜の脱分極は、その箇所を横断するデノボ活動電位を発生させる。これは、隣接箇所の膜電位によって影響も決定もされない膜電位を有する軸索におけるある箇所(刺激されていた箇所)でのカリウム及びナトリウムイオンの分布によって観察され得る、混乱状態(撹乱状態)で動作する神経である。
【0045】
従って、神経活動の刺激は、信号印加の箇所を越えて続くことで神経活動を高めていると理解される。従って、信号印加の箇所での神経は、神経膜が電場によって可逆的に脱分極するという点で改変され、それによってデノボ活動電位が発生し、その修正神経を介して伝播する。従って、信号印加の箇所での神経は、デノボ活動電位が発生するという点で改変されている。
【0046】
前記信号が電気信号である場合、刺激は、神経膜を横断するイオンの分布に対する電流の影響(例えば、神経と信号伝達的に接触している電極における1以上の電子、又は、例えば、その神経外若しくは神経内の1以上のイオンであり得る荷電粒子)に基づくものである。
【0047】
神経活動の刺激は、神経における神経活動の完全刺激を包含する、即ち、総神経活動が神経全体で上昇する実施形態を包含する。
【0048】
神経活動の刺激は、部分刺激であり得る。部分刺激は、神経全体の総信号伝達活動が部分的に上昇し得るものであり得るか、又は神経の神経線維の小集合の総信号伝達活動が完全に上昇するか(即ち、神経の線維のその小集合において神経活動が全くない。)、又はその神経の神経線維の小集合の総信号伝達が、その神経の線維の小集合における基底線神経活動と比較して部分的に上昇するようなものであり得る。例えば、≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%又は≦95%の神経活動における上昇、又は神経の神経線維の小集合における神経活動の上昇である。神経活動は、当業界で公知の方法によって、例えば、軸索を通って伝播する活動電位の数及び/又は活動電位の合計活動を反映する局所電場電位の振幅によって測定することができる。
【0049】
神経活動の刺激は、活動電位のパターンにおける変化であり得る。全体の周波数又は振幅を必ずしも変えることなく、活動電位のパターンを調節することができることは明らかであろう。例えば、神経活動の刺激は、(少なくとも部分的に)矯正的であり得る。本明細書で使用される場合、「矯正的」とは、調節された神経活動が、神経活動を、健常対象者での神経活動のパターンとなるように変えることを意味するものとされ、これは、軸索調節療法と称される。即ち、信号印加が停止されると、神経における神経活動は、信号印加前に比べて、健常対象者で認められる神経での活動電位のパターンにより似るものとなる(理想的には、実質的に完全に似ている)。そのような矯正的刺激は、本明細書で定義のいずれかの刺激であり得る。
【0050】
例えば、信号の印加により、神経活動の上昇が生じ得て、信号印加が停止すると、神経における活動電位のパターンが、健常対象者で認められる活動電位のパターンに似る。さらに例を挙げると、信号の印加によって、健常対象者で認められる活動電位のパターンに似る神経活動が生じ得て、信号を停止すると、神経における活動電位のパターンが、健常対象者で認められる活動電位のパターンに留まる。
【0051】
神経活動の刺激は、各種の他の形で神経活動を変えること、例えば基底線神経活動の特定の部分を上昇させること及び/又は新たな活動要素、例えば、特には特定のパターンによる時間間隔、特には周波数バンドなどを刺激することを含み得る。
【0052】
本発明の一つの利点は、神経活動の刺激が可逆的であるという点である。従って、神経活動の調節は永久的ではない。例えば、信号印加を停止すると、神経における神経活動は、1〜60秒以内、又は1〜60分以内、又は1〜24時間以内(例えば、1〜12時間、1〜6時間、1〜4時間、1〜2時間以内)、又は1〜7日(例えば、1〜4日、1〜2日)以内に基底線神経活動の方に実質的に戻る。可逆的刺激の一部の例において、神経活動は、実質的に完全に基底線神経活動に戻る。即ち、信号印加停止後の神経活動は、信号を印加する前の神経活動と実質的に同じである。従って、神経又は神経の一部は、活動電位を伝播するそれの正常な生理的能力を取り戻している。
【0053】
他の実施形態において、神経活動の刺激は実質的に持続的であり得る。本明細書で使用される場合、「持続的」は、神経活動が長期的効果を有することを意味するものと取られる。例えば、信号印加を停止すると、神経における神経活動は、その信号が印加されていた時と実質的に同じに留まる、即ち、信号印加時及び信号印加後の神経活動は実質的に同じである。可逆的調節が好ましい。
【0054】
治療における用途
本発明は、障害、例えば炎症に関連する障害の治療に有用である。炎症に関連する障害は典型的には、生理学的恒常状態と比較して、炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインプロファイルの不均衡を示し、すなわち正常な生理的恒常状態と比較して、炎症誘発性サイトカインレベルの増加及び/又は抗炎症性サイトカインレベルの減少を示す。これらの障害の例としては、炎症性障害、例えば、慢性または急性の炎症性疾患が挙げられる。本発明はまた、医学的状態に関連する急性炎症エピソードの治療にも有用である。本発明の目的のために、特に断らない限り、「炎症性障害」とは、医学的状態に関連する慢性炎症性障害および急性炎症性エピソードの両方を指す。
【0055】
したがって、本発明は、炎症に関連する障害、例えば、炎症性疾患を患っている、または発症するリスクがある対象を治療するのに有用である。本発明は、炎症を軽減することにより、炎症に関連する障害の影響を治療または改善しうる。これは、本明細書に記載されるように脾動脈を可逆的に電気的に刺激することにより、脾臓からの炎症誘発性サイトカインの産生および放出を減少させ、及び/又は抗炎症性サイトカインの産生および放出を増加させることにより達成され得る。特に好ましい実施形態では、適用部位は、脾動脈ループに隣接する神経にある。
【0056】
炎症性障害としては、自己免疫疾患、例えば関節炎(例えば、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎)、グレーブス病、重症筋無力症、甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、ベーチェット症候群、同種移植片拒絶、移植片対宿主性拒絶反応、強直性脊椎炎、ビュルガー病、I型糖尿病を含む糖尿病、レイティエ症候群、脊椎関節症乾癬、多発性硬化症、炎症性腸疾患、クローン病、アジソン病、自己免疫介在性脱毛症(円形脱毛症など)及び潰瘍性大腸炎が挙げられる。
【0057】
炎症性障害の特定の例としては、胃腸管および関連組織が関与する疾患、例えば虫垂炎、消化性潰瘍、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、腹膜炎、膵炎、潰瘍性、偽膜性、急性および虚血性大腸炎、炎症性腸疾患、憩室炎、胆管炎、胆嚢炎、クローン病、ホイップル病、肝炎、腹部閉塞、捻転、術後腸閉塞、腸閉塞(イレウス)、セリアック病、歯周病、悪性貧血、アメーバ症、及び腸炎が挙げられる。
【0058】
炎症性障害のさらなる例としては、骨、関節、筋肉および結合組織の疾患、例えば様々な関節炎および関節痛、骨髄炎、痛風、歯周病、関節リウマチ、脊椎関節症、強直性脊椎炎および滑膜炎が挙げられる。
【0059】
さらなる例としては、全身または局所炎症性疾患および状態、例えば喘息、アレルギー、アナフィラキシーショック、免疫複合体疾患、敗血症(sepsis)、敗血症(septicemia)、内毒素ショック、好酸球性肉芽腫、肉芽腫症、臓器虚血、再灌流障害、臓器壊死、花粉症、悪液質、過酸素症(hyperexia)、敗血症性流産、HIV感染、ヘルペス感染、臓器移植拒絶、播種性菌血症、デング熱、マラリア、及びサルコイドーシスが挙げられる。
【0060】
他の例には、泌尿生殖器系及び関連組織が関与する疾患、例えば精巣上体炎、膣炎、精巣炎、尿路感染、腎臓結石、前立腺炎、尿道炎、骨盤内炎症性大腸炎、造影剤誘発性腎症、再潅流腎傷害、急性腎傷害、感染性腎臓結石、ヘルペス感染及びカンジダ症などの疾患などがある。
【0061】
他の例には、呼吸器系及び関連組織、例えば気管支炎、喘息、花粉症、人工呼吸器誘発肺損傷、嚢胞性線維症、成人呼吸窮迫症候群、肺炎、肺胞炎、喉頭蓋炎、鼻炎、アカラシア(achlasia)、呼吸器合胞体ウィルス、咽頭炎、副鼻腔炎、肺炎、肺胞炎、インフルエンザ、肺塞栓、包虫嚢胞及び/又は細気管支炎などがある。
【0062】
さらなる例は、皮膚疾患及び皮膚の状態(例えば、熱傷、皮膚炎、皮膚筋炎、やけど、蜂巣炎、膿瘍、接触性皮膚炎、皮膚筋炎、疣、膨疹、日焼け、蕁麻疹様疣(urticaria warts)、及び膨疹);心血管系および関連組織が関与する疾患(例えば、心筋梗塞、心臓タンポナーデ、脈管炎、大動脈解離、冠動脈疾患、末梢血管疾患、腹部大動脈瘤、血管炎、心内膜炎、動脈炎、アテローム性動脈硬化、血栓性静脈炎、心膜炎、心筋炎、心筋虚血、鬱血性心不全、結節性動脈周囲炎、及びリウマチ熱、フィラリア症、血栓性静脈炎、深部静脈血栓症);並びに各種がん、腫瘍及び増殖性障害(例えば、ホジキン病)、院内感染;及び、いずれの場合でも、原発性疾患に対する炎症若しくは免疫宿主応答である。
【0063】
炎症障害の他の例には、中枢神経系若しくは末梢神経系及び関連組織が関与する疾患、例えばアルツハイマー病、抑鬱、多発性硬化症、脳硬塞、脳塞栓、頸動脈疾患、脳しんとう、硬膜下血腫、硬膜外血腫、一過性脳虚血発作、側頭動脈炎、造影所見のない脊髄損傷(SCIWORA)、脊髄圧迫、髄膜炎、脳炎、心停止、ギラン・バレー、脊髄損傷、脳静脈血栓症及び麻痺などがある。
【0064】
眼球又は耳などの特定の臓器に関連する状態は、免疫又は炎症応答、例えば結膜炎、虹彩炎、緑内障、上強膜炎、急性網膜閉塞、眼球破裂、中耳炎、外耳炎、ブドウ膜炎及びメニエール病などもあり得る。
【0065】
炎症障害の別の例は、術後腸閉塞(POI)である。POIは、腹部手術を受ける患者の大多数が経験する。POIは、GI管に沿った消化管(GI)機能の一時的障害並びに患者の疼痛及び不快感及び入院コスト上昇を特徴とする。
【0066】
GI機能の障害は、手術部位に限定されるものではなく、例えば、開腹術を受けた患者は、結腸又は第一胃機能不全を経験し得る。POIには、少なくとも部分的に、手術部位での炎症性サイトカインレベル上昇及び白血球の浸潤が介在する。炎症に応じて活性化された神経阻害経路が、手術部位に対して遠位の二次GI臓器の麻痺に寄与する。従って、本明細書で記載の神経活動の刺激は、POIの治療若しくは予防で有効であり得る。
【0067】
本発明は、自己免疫障害(例えば、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、脊椎関節症、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、炎症性大腸炎、クローン病、及び潰瘍性大腸炎)及び敗血症を治療する上で特に有用である。
【0068】
本発明は、B細胞介在自己免疫障害(例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)及び関節リウマチ(RA))の治療において特に有用である。
【0069】
本発明は、細菌感染関連の炎症状態を治療する上で特に有用である。例えば、本発明は、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎球菌、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumonia)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、クレブシエラ菌又はエンテロバクター感染が原因の又はそれによって増悪した炎症状態を治療する上で特に有用である。
【0070】
炎症障害の治療は、各種形態で評価できるが、代表的には、対象者の1以上の生理パラメータにおける改善を測定することが関与する。
【0071】
本発明の有用な生理パラメータは、炎症性サイトカインのレベル、抗炎症サイトカインのレベル、カテコールアミンのレベル、免疫細胞群のレベル、免疫細胞表面共刺激分子のレベル、炎症カスケードに関与する因子のレベル、免疫応答メディエータのレベル、並びに脾臓血流の割合(速度)からなる群の1以上であり得る。
【0072】
本明細書で使用される場合、「測定生理パラメータにおける改善」は、所定の生理パラメータにおいて、改善が、その値についての正常値若しくは正常範囲に向かっての、即ち健常対象者での予想値に向かっての、対象者におけるそのパラメータの値における変化であることを意味するものと理解される。本明細書で使用される場合、「測定生理パラメータの悪化」は、所定の生理パラメータにおいて、悪化が、その値についての正常値若しくは正常範囲から遠のく、即ち健常対象者での予想値から遠のく、対象者におけるそのパラメータの値における変化であることを意味するものと理解される。
【0073】
本発明による測定生理パラメータにおける改善は、炎症性サイトカインの低減、抗炎症サイトカイン及び/又は収束作用を有するメディエータの増加、カテコールアミンの増加、免疫細胞群の変化、免疫細胞表面共刺激分子の変化、炎症カスケードに関与する因子の低減、免疫応答メディエータのレベルの変化及び脾臓血流の低減からなる群の1以上によって示される。本発明は、これらパラメータの全てにおいて変化を生じさせるものではない可能性がある。
【0074】
脾動脈神経を刺激することで、脾臓は、(a)基底線分泌と比較して炎症性サイトカインの分泌を減少させ;及び/又は(b)基底線分泌と比較して抗炎症サイトカイン及び/又は収束作用を有するメディエータの分泌を増加させることができる。例えば、炎症性サイトカイン分泌の減少は、≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%又は≦95%であり得る。抗炎症サイトカイン分泌の増加は、≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%、≦95%、≦100%、≦150%、又は≦200%であり得る。
【0075】
サイトカインが循環中に分泌されると、循環中でのそれの濃度は薄くなる。脾動脈神経の刺激によって、(a)血漿若しくは血清中の炎症性サイトカインレベルが≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%、又は≦95%低下し;及び/又は(b)血漿若しくは血清中の抗炎症サイトカインのレベルが≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%、≦95%、≦100%、≦150%又は≦200%上昇し得る。好ましくは、血清中のレベルを測定する。
【0076】
脾動脈神経を刺激することで、カテコールアミン(例えば、ノルエピネフリン又はエピネフリン)のレベル、例えば、脾臓又は脾静脈でのそれのレベルは、例えば、≦5%、≦10%、≦15%、≦20%、≦25%、≦30%、≦35%、≦40%、≦45%、≦50%、≦60%、≦70%、≦80%、≦90%、≦95%、≦100%、≦150%又は≦200%上昇し得る。
【0077】
例えば、本発明者らは、脾動脈神経の刺激が、血清中の炎症性サイトカイン(例えば、TNFα)のレベルを30%〜60%低下させ得ることを見出した。
【0078】
炎症性サイトカインは当業界で公知である。これらの例には、腫瘍壊死因子(TNF;TNFα又はカケクチンとも称される)、インターロイキン(IL)−1α、IL−1β、IL−2;IL−5、IL−6、IL−8、IL−15、IL−18、インターフェロンγ(IFN−γ);血小板活性化因子(PAF)、トロンボキサン;可溶性接着分子;血管作動性神経ペプチド;ホスホリパーゼA2;プラスミノゲン活性化因子阻害剤(PAI−1);フリーラジカル発生;ネオプテリン;CD14;プロスタサイクリン;好中球エラスターゼ;タンパク質キナーゼ;単球走化性タンパク質1及び2(MCP−1、MCP−2);マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、高移動度群ボックスタンパク質1(HMGB−1)、及び他の公知の因子などがある。
【0079】
抗炎症サイトカインは、当業界で公知である。これらの例には、IL−4、IL−10、IL−17、IL−13、IL−1α、及びTNFα受容体などがある。
【0080】
炎症性サイトカインの一部は、ある種の環境で抗炎症サイトカインとして作用し得るものであり、その逆も言えることは明らかであろう。そのようなサイトカイン類は、代表的には、多機能性サイトカイン類と称される。
【0081】
免疫応答に関与する因子は、本発明において有用な測定可能パラメータであることができ、例えばTGF、PDGF、VEGF、EGF、FGF、I−CAM、一酸化窒素である。
【0082】
ケモカイン類も、本発明に有用な測定可能パラメータであることができ、例えば6cKine及びMIP3β、及びケモカイン受容体、例えばCCR7受容体である。
【0083】
免疫細胞群(ランゲルハンス細胞、樹枝状細胞、リンパ球、単球、マクロファージ)、又は免疫細胞表面共刺激分子(主要組織適合性、CD80、CD86、CD28、CD40)における変化も、本発明に有用な測定可能パラメータであり得る。本発明による神経への信号の印加は、循環若しくは組織特異的(例えば、関節リウマチの場合は関節特異的)白血球(例えば、単球及びマクロファージ、リンパ球、好中球など)の総数の低下を引き起こし得る。
【0084】
炎症カスケードに関与する因子も、本発明に有用な測定可能パラメータであり得る。例えば、信号変換カスケードは、NFκ−B、Egr−1、Smads、トール様受容体及びMAPキナーゼ類などの因子を含む。
【0085】
これらの生理パラメータの評価方法は当業界で公知である。前記測定可能パラメータのいずれかの検出は、神経における神経活動の調節の前、最中及び/又は後に行うことができる。
【0086】
例えば、サイトカイン、ケモカイン、又はカテコールアミン(例えば、ノルエピネフリン又はエピネフリン)は、例えば、ELISAによって直接検出することができる。或いは、本明細書に記載のポリペプチドをコードするポリリボヌクレオチドなどの核酸の存在又は量は、ポリペプチドの存在又は量の尺度として役立ち得る。従って、ポリペプチドの存在又は量の検出は、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの存在又は量の検出を含むことは理解されよう。
【0087】
生体分子(例えば、サイトカイン及び収束促進性メディエータ)の定量的変化は、尿又は血漿などの生体検体で測定することができる。この生体分子の検出は、対象者から採取した検体で直接行うことができるか、対象者からの採取と分析の間で検体を処理することができる。例えば、血液検体は、抗凝血剤(例えば、EDTA)を加え、次に細胞及び細胞残屑を除去して、分析のための関連分子(例えば、サイトカイン)を含む血漿を残すことで処理することができる。或いは、血液検体を凝固させ、次に細胞及び各種凝固因子を除去して、分析のための関連分子(例えば、サイトカイン)を含む血清を残すことができる。
【0088】
対象者が眠っている間に信号を印加する実施形態では、本発明には、対象者の概日リズム相マーカー、例えばコルチゾール(又はそれの代謝物)のレベル、メラトニン(又はそれの代謝物)のレベル又は中核体温の測定が関与し得る。コルチゾール又はメラトニンレベルは、血液(例えば、血漿又は血清)、唾液又は尿で測定することができる。これらのマーカーのレベルを測定する方法は当業界で公知であり、例えば酵素免疫測定吸着法(ELISA)又はラジオイムノアッセイによって行う。対象者の概日リズム相マーカーの測定が、本発明のシステムを用いる信号の印加によって有効に制御可能な炎症マーカーの日周振動を示す場合、対象者の概日リズムに従って好適な周期性で夜での信号の印加が適切であり得る。
【0089】
本明細書で使用される場合、生理パラメータは、そのパラメータが、その対象者又は介入が全く行われなかった場合の対象者が示すそのパラメータのその値についての正常値又は正常範囲から変化しない(神経調節に応答して)場合、脾臓神経活動の調節(例えば、刺激)による影響を受けない、即ち、それは、そのパラメータについての基底線値から逸脱しない。そのような生理パラメータは、動脈圧、心拍数又はグルコース代謝であり得る。これらの生理パラメータにおける変化を測定する好適な方法は、当業者には明らかであると考えられる。
【0090】
対象者におけるいずれかの神経活動又は生理パラメータについての基底線は、固定値や特定値である必要はなく、むしろ、正常範囲内で変動し得るものであるか、関連する誤差及び信頼区間での平均値であり得ることは、当業者には明らかであろう。基底線値を測定する好適な方法は、当業者には公知である。
【0091】
本明細書で使用される場合、生理パラメータは、検出の時点で対象者が示すそのパラメータについての値を測定する時に、対象者で測定される。検出器(例えば、生理学的センサーサブシステム、生理データ処理モジュール、生理学的センサーなど)は、そのような測定を行うことができるあらゆる要素である。
【0092】
従って、ある種の実施形態において、本発明はさらに、対象者の1以上の生理パラメータを測定する段階を含み、測定された生理パラメータが所定の閾値を満足するか超える場合にのみ信号を印加する。対象者の複数の生理パラメータを測定するそのような実施形態において、測定された生理パラメータのいずれか一つがそれの閾値を満足又は超える場合に、或いは測定された生理パラメータの全てがそれらの閾値を満足又は超える場合にのみ、信号を印加することができる。本発明のシステムによって信号を印加するある種の実施形態において、当該システムはさらに、対象者の1以上の生理パラメータを測定するよう構成されている少なくとも一つの検出器を含む。
【0093】
ある種の実施形態において、生理パラメータは、対象者の神経での活動電位又は活動電位のパターンであり、前記活動電位又は活動電位のパターンは、治療されるべき状態に関連している。
【0094】
いずれか二つの生理パラメータを並行実施形態で測定することができ、対象者における活動電位耐性のパターンを検出するのに制御部(コントローラ)を組み合わせることは明らかであろう。
【0095】
生理パラメータについての所定の閾値は、対象者又は指定の介入が適用される前の対象者によって示されなければならないパラメータについての最小(又は最大)値である。いずれか所定のパラメータに関して、前記閾値は、病的状態又は疾患状態を示す値として定義され得る。その閾値は、病的状態又は疾患状態の発症を示す値と定義され得る。従って、所定の閾値に応じて、本発明を治療として用いることができる。或いは、当該閾値は、対象者の生理状態を示す値と定義され得る(対象者は、例えば、眠っているか、食後であるか、運動中である。)。いずれか所定の生理パラメータについての適切な値は、当業者が簡単に測定するものと考えられる(例えば、医学行為基準を参照)。
【0096】
対象者によって示された値が閾値を超えた場合、所定の生理パラメータについてのそのような閾値は超えられる。即ち、示された値は、所定の閾値と比較して、その生理パラメータについての正常値若しくは健常値からのより大きい逸脱である。
【0097】
本発明の対象者は、インプラントを有していることに加えて、その状態のための医薬投与を受けることができる。例えば、本発明によるインプラントを有する対象者は、抗炎症薬(通常は、インプラントを埋め込む前に行っている投薬を続けるであろう。)の投与を受けることができる。そのような医薬には、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、ステロイド類、5ASA類、疾患修飾性抗炎症薬(DMARD)、例えばアザチオプリン、メトトレキセート及びシクロスポリン、インフリキシマブ及びアダリムマブのような生物学的製剤、及びJak阻害剤のような新たな経口DMARDなどがある。従って、本発明は、本発明のシステムと組み合わせての、これら薬剤の使用を提供する。
【0098】
電気信号の好適な形態
本発明は、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において、脾動脈神経と信号伝達的に接触して設置された少なくとも一つの電極を介して印加される電気信号を用いる。本明細書で使用される場合、「信号伝達的接触」は、前記少なくとも一つの電極を介して印加される電気信号の少なくとも一部が神経で受け取られるということである。
【0099】
本発明によって印加される電気信号は、理想的には非破壊的である。本明細書で使用される場合、「非破壊的信号」は、印加された場合に、神経の基礎となる神経信号伝達能力を不可逆的に破壊しない信号である。即ち、非破壊的信号の印加は、伝導が、実際には、非破壊的信号の印加の結果として人工的に刺激されたものであったとしても、信号を印加される神経若しくはそれの線維又は他の神経組織が、信号印加が停止した時に活動電位を伝導する能力を維持するものである。
【0100】
本発明に従って印加される電気信号は、電圧若しくは電流波形であり得る。
【0101】
電気信号は、1以上の電気信号パラメータによって特徴付けることができる。電気信号パラメータには、波形、周波数、及び振幅などがある。
【0102】
或いは又はさらに、電気信号は、電気信号の神経への印加のパターンによって特徴付けられ得る。印加のパターンは、神経への電気信号の印加のタイミングを指す。印加のパターンは、連続印加又は周期的印加、及び/又はエピソード的印加であり得る。
【0103】
エピソード的印加は、1日を通じて離散的数のエピソードのために神経に電気信号を印加することを指す。各エピソードは、電気信号の設定期間又は設定数の反復によって定義され得る。
【0104】
連続印加は、電気信号を神経に連続的に印加することを指す。電気信号を連続的又はエピソード的に印加する場合、それは、印加の各エピソードのために信号を連続的に印加することを意味する。電気信号が一連のパルスである実施形態において、それらのパルス間のギャップ(即ち、パルス幅と位相持続時間の間)は、信号が連続的に印加されないことを意味するものではない。
【0105】
周期的印加は、電気信号が反復パターン(例えば、オン−オフパターン)で神経に印加されることを指す。電気信号を周期的及び一時的に印加する場合、それは、その信号を印加の各エピソードのために定期的に印加することを意味する。
【0106】
本発明者らは、本発明の位置に信号を印加することにより、脾動脈神経における神経活動を刺激するための好ましい電気信号パラメータ及び信号印加のパターンを見出し、それによって、前記神経における神経活動を刺激する場合に、可能な全身効果を低減しながら免疫抑制効果が高められることになる。好ましい信号パラメータ及び印加のパターンについて、下記で詳細に議論する。
【0107】
波形
脾臓に分布する神経の調節(例えば、刺激)は、神経の正常な神経活動を再現する上で役立つ電気信号を用いて達成することができる。従って、電気信号の波形は、それぞれが規定のパルス幅を有する1以上のパルス列を含む。そのパルスは、好ましくは方形パルスである。しかしながら、のこぎり波、正弦波、三角、台形、準台形又は複合波形などの他のパルス波形も本発明で用いることができる。
【0108】
パルスは荷電平衡したものであり得る。荷電平衡パルスは、パルスの期間にわたり、等量(又はほぼ等量)の正電荷及び負電荷を神経に印加するパルスを指す。
【0109】
パルスは対称又は非対称であり得る。対称パルスは、神経に正電荷を印加する時の波形が、神経に負電荷を印加する時の波形に対して対称であるパルスである。非対称パルスは、神経に正電荷を印加する時の波形が、神経に負電荷を印加する時の波形と対称ではないパルスである。
【0110】
パルスは、250〜1000μs、好ましくは400〜1000μs(これは、二相パルスの場合、パルスの正相及び負相の両方に適用可能である。)の(各相の)パルス幅を有することができる。例えば、パルス幅は、≦500μs、≦600μs、≦700μs、≦800μs、≦900μs、又は≦1000μsであり得る。さらに又は或いは、パルス幅は≧400μs、≧500μs、≧600μs、≧700μs、≧800μs、又は≧900μsであり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。パルス幅はさらに、周波数によって制限され得る。パルス幅は、波形の主要相の幅(又は時間)を指す。パルスが主要相である第1の相及び回復期である第2の相、例えば陽極相及び/又は陰極相を含む場合、パルス幅は、第1の相の幅(又は期間)を指す。
【0111】
二相パルスが非対称であるが、電荷平衡状態のままである場合、反対の相の面積は等しくなければならない。振幅(下記参照)は低下し得るが、パルス幅は曲線下面積が一致するようにするために大きくする必要があると考えられる。
【0112】
例示的実施形態において、波形は、二相、非対称、電荷平衡方形パルスを有するパルス列である。
【0113】
振幅
本発明に関して、振幅は、本明細書においては、相当たりの電荷密度に関して言及されるものである。電気信号によって神経に印加される相当たり電荷密度は、一つの相全体の(例えば、電荷平衡二相パルスの場合には二相パルスのうちの一つの相全体の)電流の積分と定義される。従って、電気信号によって神経に印加される相当たり電荷密度は、少なくとも一つの電極と神経の間の単位接触面積当たりの電荷、さらには信号波形の一つの相全体の電流密度の積分である。言い換えれば、電気信号によって神経に印加される相当たり電荷密度は、電気信号によって神経に印加される相当たり電荷を、少なくとも一つの電極(一般的に陰極)と神経の間の接触面積によって割ったものである。
【0114】
本発明によって必要とされる相当たり電荷密度は、免疫抑制効果を高めるために脾臓に分布する神経における神経活動を刺激するのに必要なエネルギー量を表す。
【0115】
本発明者らは、血管外カフを用いてブタ脾動脈神経における神経活動を刺激するのに必要な相当たり電荷密度が5μC〜150μC/cm2/相、又は場合により、5μC〜180μC/cm2/相であることを見出した(値は、電極設計によって若干影響を受け得る。)。例えば、電気信号によって印加される相当たり電荷密度は、≦10μC/cm2/相、≦15μC/cm2/相、≦20μC/cm2/相、≦25μC/cm2/相、≦30μC/cm2/相、≦40μC/cm2/相、≦50μC/cm2/相、≦75μC/cm2/相、≦100μC/cm2/相、≦125μC/cm2/相、≦150μC/cm2/相、又は≦180μC/cm2/相であり得る。さらに又は或いは、電気信号によって印加される相当たり電荷密度は、≧5μC/cm2/相、≧10μC/cm2/相、≧15μC/cm2/相、≧20μC/cm2/相、≧25μC/cm2/相、≧30μC/cm2/相、≧40μC/cm2/相、≧50μC/cm2/相、≧75μC/cm2/相、≧100μC/cm2/相、≧125μC/cm2/相、又は≧150μC/cm2/相であり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0116】
本発明者らはさらに、ヒト脾動脈神経において神経活動を刺激するのに必要な相当たり電荷密度の示された推算値が約70〜1300μC/cm2であることを見出した。例えば、電気信号によって印加される相当たり電荷密度は、≦80μC/cm2/相、≦140μC/cm2/相、≦170μC/cm2/相、≦230μC/cm2/相、≦250μC/cm2/相、≦300μC/cm2/相、≦350μC/cm2/相、≦400μC/cm2/相、≦450μC/cm2/相、≦500μC/cm2/相、≦1100μC/cm2/相、又は≦1300μC/cm2/相であり得る。さらに又は或いは、電気信号によって印加される相当たり電荷密度は、≧70μC/cm2/相、≧140μC/cm2/相、≧170μC/cm2/相、≧230μC/cm2/相、≧250μC/cm2/相、≧300μC/cm2/相、≧350μC/cm2/相、≧400μC/cm2/相、≧450μC/cm2/相、≧500μC/cm2/相、≧1100μC/cm2/相、又は≧1300μC/cm2/相であり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0117】
いずれか所定の期間における電気信号によって神経に印加される総電荷は、信号の周波数、信号印加のパターン及少なくとも一つの電極と神経の間の接触面積に加えて、信号の相当たり電荷密度の結果である。信号の周波数、信号印加のパターン及少なくとも一つの電極と神経の間の接触面積については、本明細書においてさらに議論する。
【0118】
神経活動の所定の刺激を達成するのに必要な印加電気信号の振幅が、電極の位置決め及び関連する電気生理学的特性(例えば、インピーダンス)によって決まることは、当業者には明らかであろう。所定の対象者における神経活動の所期の調節を達成するための適切な電流振幅を決定することは、当業者の能力の範囲内である。
【0119】
当然のことながら、神経に印加される電気信号が臨床安全域(例えば、神経信号伝達機能の維持に好適な、神経完全性を維持するのに好適な、及び対象者の安全性を維持するのに好適な)内であることは当業界では当然理解される。臨床安全域内の電気パラメータは代表的には、前臨床試験によって決定される。
【0120】
エピソード的印加
エピソード的印加は、1日を通して離散的数のエピソードに対して、電気信号を神経に印加することを指す。本発明による電気信号は、最大6エピソード/日に対して印加され得る。例えば、1日当たりの信号印加のエピソード数は、1、2、3、4、5若しくは6であり得る。
【0121】
電気信号は、エピソード的に2〜3時間ごとに印加することができる。例えば、電気信号は、エピソード的に2時間、2時間15分、2時間30分、2時間45分、3時間ごとに1回印加することができる。
【0122】
各エピソードは、電気信号の設定期間又は設定反復数によって定義され得る。一部の実施形態において、各エピソードは、50〜10000、例えば60〜3000パルスの電気信号、100〜2400パルスの電気信号、200〜1200パルスの電気信号、400〜600パルスの電気信号などを神経に印加することを含む。例えば、各エピソードは、≦400、≦800、≦1200、≦1600、≦2000、≦2400、≦3000、又は≦10000パルスの電気信号を印加することを含み得る。別の例において、各エピソードは、≦200、≦400、≦600、≦800、≦1000、又は≦1200パルスの電気信号を印加することを含み得る。さらに別の例において、各エピソードは、≦400、≦425、≦450、≦475、≦500、≦525、≦550、≦575、又は≦600パルスの電気信号を印加することを含み得る。
【0123】
他の実施形態において、各エピソードは、20〜40反復の周期的パターンを含む。例えば、各エピソードは、20、25、30、35、又は40反復の周期的パターン、又はその間のいずれかの数印加することを含む。周波数が高いほど、反復回数が低い。
【0124】
先に記述したとおり、一部の実施形態において、エピソードは、対象者の睡眠覚醒サイクルに基づくことができ、特に、エピソードは、対象者が眠っている間(睡眠中)のものであり得る。一部のそのような実施形態において、エピソードは、午後10〜午前6時に印加することができる。睡眠覚醒サイクルは、対象者の概日リズム位相マーカー(例えば、コルチゾールレベル、メラトニンレベル又は中核体温)を検出することにより公知の方法、及び/又は対象者の運動を検出するための検出器によって測定することができる。
【0125】
周期的印加
周期的印加は、電気信号を繰り返しパターンで神経に印加することを指す。好ましい繰り返しパターンは、信号を第1の期間(本明細書では「オン」期間と称される)に印加し、次に第2の期間(本明細書では「オフ」期間と称される)に停止し、次に再度第1の期間で印加し、次に再度第2の期間で停止する等のオン−オフパターンである。
【0126】
周期的オン−オフパターンは好ましくは、0.1〜10秒のオン期間及び0.5〜30秒のオフ期間を有する。例えば、オン期間(一定の周波数及び振幅のパルスが神経に送られる時間と称される)は、≦0.2秒、≦0.5秒、≦1秒、≦2秒、≦5秒、又は≦10秒であり得る。或いは又はさらに、オン期間は、≧0.1秒、≧0.2秒、≧0.5秒、≧1秒、≧2秒、又は≧5秒であり得る。オン期間についての上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。例えば、オフ期間(神経にパルスが全く送られない、オン期間の間の時間と称される)は、≦1秒、≦3秒、≦5秒、≦10秒、≦15秒、≦20秒、≦25秒、又は≦30秒であり得る。或いは又はさらに、オフ期間は、≧0.5秒、≧1秒、≧2秒、≧5秒、≧10秒、≧15秒、≧20秒、又は≦25秒であり得る。オフ期間についての上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0127】
例示的な実施形態において、周期的オン−オフパターンは、0.5秒オンのオン期間、及び4.5秒オフを有する。別の例では、周期的オン−オフパターンは、最大10Hzパルスについて0.5秒オンのオン期間、及び5秒オフを有する。10Hzより高い周波数の場合(例えば、30Hz)、例示的な周期的オン−オフパターンは、0.1秒オンのオン期間又は3秒のオフ期間を有する。即ち、オン期間:オフ期間の比は1:5であることができ、さらに好ましくは、その比は1:6、1;7、1:8、1:9、1:10、1:20又は1:30である。オン期間:オフ期間の比は、10Hz以下のパルス周波数については1:10であることができ、オン期間:オフ期間の比は10Hzより高いパルス周波数については1:30であり得る。
【0128】
電気信号を周期的及びエピソード的に印加する場合、それは、印加の各エピソードについて周期的に信号を印加することを意味する。
【0129】
周期的印加は、デューティサイクル印加と称することもできる。デューティサイクルは、周期的パターンのサイクルにおいて信号を神経に印加する時間のパーセントを表す。例えば、20%のデューティサイクルは、2秒のオン期間及び10秒のオフ期間を有する周期的パターンを表すことができる。或いは、20%のデューティサイクルは、1秒のオン期間及び5秒のオフ期間を有する周期的パターンを表すことができる。即ち、周期的印加は、オン−オフパターン刺激又は連射刺激とも称することができる。
【0130】
本発明に好適なデューティサイクルは、0.1%〜100%である。
【0131】
周波数
周波数は、電気波形の位相持続時間の逆数(即ち、1/位相)と定義される。
【0132】
本発明者らは、本発明の印加部位における脾動脈神経の刺激に好ましい周波数を見出した。特に、本発明者らは、電気信号を周期的に印加する実施形態及び電気信号を連続的に印加する実施形態に好ましい周波数を見出した。
【0133】
先述の通り、電気信号を周期的に印加する実施形態及び電気信号を連続的に印加する実施形態は、異なる刺激パラメータを用いる異なる機能を提供する。連続刺激は、実験的に(on−table)又は周術的に、良好な電極設置及び/又は振幅決定の指標として検出及び用いることができる脾臓血管系内の血流変化を誘発するのに用いることができ;周期的刺激は、好ましい治療パラダイムとして用いることができ、それによって、治療としての効力を維持しながら、そのような血流変化及び/又は他の可能な全身心臓血管効果が軽減若しくは回避される。
【0134】
電気信号を周期的に印加する実施形態では、電気信号は≦300Hz、好ましくは≦50Hz、より好ましくは≦10Hzの周波数を有する。例えば、電気信号の周波数は、≦50Hz、≦100Hz、≦150Hz、≦200Hz、≦250Hz又は≦300Hzであり得る。他の例では、電気信号の周波数は、≦10Hz、≦15Hz、≦20Hz、≦25Hz、≦30Hz、≦35Hz、≦40Hz、≦45Hz、又は≦50Hzであり得る。さらなる例では、周波数は≦1Hz、≦2Hz、≦5Hz、又は≦10Hzであり得る。さらに又は或いは、電気信号の周波数は、≧10Hz、≧15Hz、≧20Hz、≧25Hz、≧30Hz、≧35Hz≧40Hz、≧45Hz、又は≧50Hzであり得る。他の例において、電気信号の周波数は、≧0.1Hz、≧0.2Hz、≧0.5Hz、≧1Hz、≧2Hz、又は≧5Hzであり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0135】
電気信号を連続的に印加する実施形態では、電気信号は、≦50Hz、好ましくは≦10Hz、より好ましくは≦2Hz、さらにより好ましくは≦1Hzの周波数を有する。例えば、その周波数は、≦1Hz、≦2Hz、≦5Hz、又は≦10Hzであり得る。他の例において、前記周波数は、≦0.1Hz、≦0.2Hz、≦0.3Hz、≦0.4Hz≦0.5Hz、≦0.6Hz≦0.7Hz、≦0.8Hz、又は≦0.9Hzであり得る。さらに又は或いは、電気信号の周波数は、≧0.1Hz、≧0.2Hz、≧0.5Hz、≧1Hz、≧2Hz、又は≧5Hzであり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0136】
信号波形がパルス列を含む場合、そのパルスは、上記周波数に従った間隔で神経に印加される。例えば、50Hzの周波数により、神経に毎秒50パルスが印加されることになる。
【0137】
電極及び神経インターフェース設計
電気信号は、脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において、神経と信号伝達的に接触している少なくとも一つの電極を介して、脾動脈神経に印加される。その少なくとも一つの電極は、神経インターフェース10上に配置することができる。
【0138】
電極及び/又は神経インターフェース10は、上記に記載した電気信号を印加するための任意の部位に配置され得る。いくつかの実施形態では、複数の電極及び/又は神経インターフェース10が存在してもよく、複数の電極及び/又は神経インターフェースのそれぞれは、複数の部位のうちの1つに配置される。
【0139】
一部の実施形態において、電極及び/又は神経インターフェースは、少なくとも一つの脾動脈神経周囲及び/又は脾動脈周囲に配置されるように構成されている。そのような実施形態において、神経インターフェースは、カフ型インターフェースであり得るが、神経を部分的又は完全に囲む他のインターフェースを用いることができる。
【0140】
他の実施形態において、神経インターフェース10は、少なくとも一つの脾動脈神経上及び/又は脾動脈上に配置されるように構成されている。そのような実施形態において、神経インターフェース10は、パッチ型若しくはクリップ型インターフェースであり得る。
【0141】
他の実施形態において、神経インターフェース10は、脾動脈内に配置されるように構成されている。そのような実施形態において、神経インターフェースは、カテーテル又はプローブ型インターフェースであり得る。
【0142】
他の実施形態において、神経インターフェース10は、少なくとも一つの脾動脈神経内に配置されるように構成されている。そのような実施形態において、神経インターフェースはピン型インターフェースであり得る。
【0143】
神経インターフェース10は、少なくとも一つの電極を含む。電極は、高電荷容量材料、例えば白金黒、酸化イリジウム、窒化チタン、タンタル、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)及びこれらの好適な組み合わせから作られていてもよく、部分的若しくは全体にそれらでコーティングされていてもよい。
【0144】
特に、神経インターフェース10が神経上に固定された時にその神経及び/又は脾動脈を囲むようにするために、神経インターフェースが少なくとも一つの脾動脈神経及び/又は脾動脈上若しくは周囲に配置されるように構成されている実施形態において、前記少なくとも一つの電極は、可撓性であるフラットインターフェース電極であり得る。しかしながら、他の電極型も、本発明での使用に好適である。これは、脾動脈が膵臓と直接接触していない部位において脾動脈神経に電気信号を適用することは、神経インターフェース10の設計、特に脾動脈の周囲にある追加のスペースに起因して、該少なくとも1つの電極の設計に追加の柔軟性をもたらすからである。
【0145】
本発明に好適な他の電極型には、カフ電極(例えば、渦巻き形カフ、らせん形カフ又はフラットインターフェース);半カフ電極;メッシュ、線棒形リード、パドル形リード若しくはディスクコンタクト型電極(マルチディスクコンタクト型電極など);フック電極;スリング型電極;束内電極;ガラス吸引電極;パドル電極;及び経皮円筒電極などがある。
【0146】
前記少なくとも一つの電極は、第1の電極11及び第2の電極12を含むことができ、本明細書において双極電極構成と称される。図1は、電極が少なくとも一つの脾動脈神経及び/又は脾動脈と信号伝達的に接触して設置されている、例示的な双極電極構成の模式図である。本明細書の他の箇所で説明するように、好適な信号伝達接触は、神経及び/又は動脈周囲(即ち、部分的に又は完全に囲む)に、神経及び/又は動脈上に、又は脾臓神経内に、又は動脈内に電極を配置することで達成することができる。
【0147】
図1に示したように、第1の電極11及び第2の電極12は、神経の長軸に沿って配置される。第1の電極11が陽極となり、第2の電極12が陰極となるように、電気信号を電極に印加することができる。或いは、第1の電極11が陰極であり、第2の電極12が陽極であり得る。
【0148】
他の実施形態において、前記少なくとも一つの電極は、第1の電極、第2の電極及び第3の電極を含むことができ、本明細書においては三極電極構成と称される。
【0149】
双極構成と同様に、第1、第2及び第3の電極は、神経の長軸に沿って配置することができ、1例において、第2の電極は、第1の電極11と第3の電極13の間に配置することができる。
【0150】
電極は、少なくとも部分的に、非導電性生体適合性材料によって互いに絶縁されていることができる。そのためには、神経インターフェースは、装置が使用中の時に神経に沿って横方向に間隔を置いて配置された非導電性生体適合性材料を含み得る。
【0151】
本発明者らは、脾動脈が膵臓と直接接触していない部位において、少なくとも一つの脾動脈神経に電気信号を印加するのに好ましい電極の大きさを見出した。電極の総表面積は0.1〜0.3mmであり得る。好ましくは、電極の総表面積は、0.2cm未満である。
【0152】
好ましい電極構成において、第1の電極11及び第2の電極12のそれぞれの幅は、1〜4mmであり得る。例えば、その幅は、1mm〜3mm、又は2mm〜4mm、又は2mm〜3mmであり得る。
【0153】
制御部(コントローラ)
図1を参照すると、神経インターフェースを含み得る本発明のシステム50は、神経インターフェース10の少なくとも一つの電極に電気的に結合され、前記少なくとも一つの電極の動作を制御するよう構成されている少なくとも一つの制御部(コントローラ)、例えばマイクロプロセッサ60を含むこともできる。前記少なくとも一つの制御部(コントローラ)は、少なくとも一つの電極によって神経に送られる信号の開始及び/又は終わりをトリガーすることを担当することができる。任意に、前記少なくとも一つの制御部(コントローラ)は、信号パラメータを発生及び/又は制御することも担当し得る。
【0154】
前記少なくとも一つの制御部は、所定の信号(上記のもの)を、外部トリガーを用いて又は用いずに、そして制御機構やフィードバック機構なしに、所定の印加パターン(やはり、上記のもの)で神経に送る、オープンループ型で動作するよう構成されていることができる。或いは、前記少なくとも一つの制御部は、制御機構若しくはフィードバック機構に基づいて信号を印加するクローズドループ型で動作するよう構成されていることができる。
【0155】
前記少なくとも一つの制御部は好ましくは、使用時に、システム50での入力から独立である事前設定された及び/又はオペレータ選択可能な信号を発生するように構築されている。その事前設定された及び/又はオペレータ選択可能な信号は、前述の電気信号のいずれか一つであり得る。他の実施形態において、前記少なくとも一つの制御部は、外部信号、より好ましくは対象者の1以上の生理的パラメータに関するものであるがまだ前述の信号の範囲内である情報(例えば、データ)に応答する。
【0156】
前記少なくとも一つの制御部は、対象者に埋め込まれるのに好適なシステム50中のマイクロプロセッサ60であり得る。
【0157】
或いは又はさらに、前記少なくとも一つの制御部は、対象者にとって外部の制御部であり得る。
【0158】
前記少なくとも一つの制御部は、オペレータ、例えば医師又は装置106を埋め込んでいる対象者によって発生された信号を受け取ったらトリガーされ得る。そのためには、システム50はさらに、制御部101を含む外部システム80を含み得る。そのようなシステムの1例について、図2を参照して下記で説明する。
【0159】
より広いシステム100の外部システム80は、システム50に対して外部であり、対象者に対して外部であり、制御部101を含む。制御部101は、システム50を制御し、及び/又はそれに電力供給するのに用いることができる。そのためには、制御部101は、電源ユニット102及び/又はプログラミングユニット103を含み得る。外部システム80はさらに、下記でさらに説明される送電アンテナ104及びデータ送信アンテナ105を含み得る。
【0160】
マイクロプロセッサ60及び制御部101などの前記少なくとも一つの制御部は、プロセッサにロードされ、動作すると、プロセッサに、少なくとも一つの電極の動作を少なくとも制御させるコード部分を含む実行可能コンピュータプログラムを有するメモリー(即ち、非一時的コンピュータ可読記憶媒体)に接続されたプロセッサであり得る。動作を制御するとは、少なくとも一つの制御部が、少なくとも一つの電極を、信号パラメータ及び前述の印加のパターンのいずれかを用いて神経に電気信号を印加させることを意味する。
【0161】
神経刺激システム
神経インターフェース10及び少なくとも一つの制御部60に加えて、システム50は、少なくとも一つの制御部からの制御操作に応答して少なくとも一つの電極に上記の電気信号を送るように構成されている信号発生器113を含み得る。信号発生器は、少なくとも一つの電流源若しくは電圧源を含み得る。
【0162】
信号発生器113は、少なくとも一つの制御部及び少なくとも一つの電極に電気的に結合されていることができる。一部の実施形態において、少なくとも一つの電極は、導線107を介して信号発生器113に接続されていることができる。一部の実施形態において、導線は、前述のインターコネクタに接続されていることができる。或いは、信号発生器113は、導線なしで少なくとも一つの電極に直接統合されていることができる。いずれの場合も、システム50は、対象者に埋め込むことができ、任意にコンデンサ及び/又は誘導子に基づく、全ての出力チャンネル(例えば、少なくとも一つの電極又は生理学的センサー111への出力)に基づくDC直流電流ブロッキング出力回路(又はAC直流電流ブロッキング出力回路)を含み得る装置106を含むことができる。
【0163】
神経インターフェース10、少なくとも一つの電極、少なくとも一つの制御部及び信号発生器113に加えて、システム50は、次の構成要素:埋込型トランシーバ110;電源112;メモリー114(或いは、非一時的コンピュータ可読記憶装置と称される);生理学的センサー111;及び生理データ処理モジュール115のうちの1以上を含み得る。生理学的センサー111及び生理データ処理モジュール115は、本明細書において検出器と称される。
【0164】
システム50の各種構成要素は、好ましくは、図2に示したように、共通の筐体を共有しているか、導線によって接続された相互接続構成要素の物理的に分離された集合体である、単一の物理的装置の一部である。しかしながら、別形態として、本発明は、構成要素が物理的に分離しており、無線で通信するシステムを用いることができる。従って、例えば、前記少なくとも一つの電極及び前記埋込型装置(例えば、埋込型装置106)は、単位装置の一部であり得るか、一緒になって、システム(例えば、システム50)を形成することができる。両方の場合で、さらなる構成要素が存在して、より広いシステム(例えば、システム100)を形成することもできる。
【0165】
例えば、一部の実施形態において、次の構成要素:埋込型装置106:電源112;メモリー114;及び生理データ処理モジュール115のうちの1以上が含まれていることができる。
【0166】
電源112は、信号発生器113に電力を提供するための電流源及び/又は電圧源を含み得る。電源112は、埋込型装置106及び/又はシステム50の他の構成要素、例えばマイクロプロセッサ60、メモリー114、及び埋込型トランシーバ110に電力を提供することもできる。電源112はバッテリーを含むことができ、バッテリーは充電式であり得る。
【0167】
電力の利用性が埋込型装置において制限されていると理解され、本発明はこの制限に留意して考案されたものである。脾動脈が膵臓と直接接触していない部位において脾動脈神経に電気信号を印加することは、脾動脈の周辺の利用可能な追加的な空間により、埋め込み型デバイス106の設計にさらなる柔軟性を提供するという点で有利である。例えば、追加の空間は、より長期間、電気信号を送ることができる、より大きなバッテリーを埋め込むことを可能にし得る。さらに埋込型装置106及び/又はシステム50は、誘導型電源又は充電型電源によって電力供給されることができる。
【0168】
メモリー114は、電力データ及び1以上の生理パラメータに関係するデータを記憶することができる。例えば、メモリー114は、検出器によって検出される前記1以上の生理パラメータ(例えば、生理学的センサー111を介して、及び/又は生理データ処理モジュール115を介して求められた前記1以上の相当する生理パラメータ)を示す1以上の信号に関するデータを記憶することができる。さらに又は或いは、メモリー114は、電力データ及び埋込型トランシーバ110を介して外部システム80からの1以上の生理パラメータに関するデータを記憶することができる。このためには、埋込型トランシーバ110は、下記でさらに議論される、より広いシステム100の通信サブシステムの一部を形成することができる。
【0169】
生理データ処理モジュール115は、生理学的センサー111によって検出される1以上の生理パラメータを示す1以上の信号を処理して、1以上の相当する生理パラメータを求めるように構成されている。生理データ処理モジュール115は、メモリー114に記憶させ及び/又は埋込型トランシーバ110を介して外部システムに送信するために、1以上の生理パラメータに関連するデータのサイズを低下させるように構成されていることができる。埋込型トランシーバ110は、1以上のアンテナを含み得る。埋込型トランシーバ100は、例えばシステム50が一つの部分であるより広いシステム100に体外からの信号を送信するために、RF、無線、赤外線などの好適な信号伝達プロセスを用いることができる。
【0170】
或いは又はさらに、生理データ処理モジュール115は、1以上の生理パラメータを示す信号を処理し、及び/又は測定した1以上の生理パラメータを処理して対象者における疾患の進化を求めるように構成されていることができる。そのような場合、システム50、特には埋込型装置106は、対象者の前記1以上の生理パラメータ及び対象者での疾患の測定された進展に基づいて信号パラメータを計算及び調整する能力を含むことになる。
【0171】
生理データ処理モジュール115及び前記少なくとも一つの生理学的センサー111は、システム50の一部として、埋込型装置106の一部として、又はシステムに対して外部のいずれかで本明細書において検出器とも称される生理学的センサーサブシステムを形成することができる。
【0172】
炎症障害の治療に関係する1以上の生理パラメータを検出するよう構成された少なくとも一つの検出器があっても良い。例えば、下記でさらに議論する、炎症性サイトカイン及びケモカインの減少、抗炎症サイトカイン(例えば、IL−10)及び/又は収束作用を有するメディエータ(例えば、レゾルビン類、リポキシン類、エイコサノイド類、マレシン類及びプロテクチン類)の増加、カテコールアミン類及びアセチルコリンの増加、血液学及び細胞数の変化;例えば、免疫細胞群又は免疫細胞表面共刺激分子における変化、炎症カスケードに関与する因子の減少、及び/又は免疫応答メディエータの減少である。例えば、検出器は、電気的、RF若しくは光学的(可視、赤外)生化学センサーを用いて生体分子濃度を検出するよう構成されていても良い。
【0173】
他の生理パラメータ、例えば脾臓での血流速度、脾動脈での血流速度、脾静脈での血流速度、脾臓体積、少なくとも一つの脾動脈神経での神経活動、又は少なくとも一つの電極のインピーダンスを検出するよう構成されている少なくとも一つの検出器があっても良い。
【0174】
例えば、検出器は、動脈又は静脈内若しくは周囲の血管内若しくは血管周囲流管を用いて血流を検出するよう構成されていることができる。或いは、検出器は、電気インピーダンストモグラフィー、電気インピーダンス、刺激要因電圧コンプライアンス、ドプラ血流、脾臓組織潅流、超音波、歪み測定又は圧力を用いて、脾動脈収縮及び血流変化を検出することができる。
【0175】
他の例において、検出器は、電気センサーを用いて少なくとも一つの脾動脈神経の神経活動を検出するよう構成されていることができる。検出器が単一の脾動脈神経の神経活動を検出するよう構成されている場合、その検出器は活動電位を検出することができる。検出器が複数の脾動脈神経の神経活動を検出するよう構成されている場合、その検出器は、化合物活動電位を検出することができる。
【0176】
さらなる例において、検出器は、超音波を用いて脾臓体積を検出するよう構成されていることができる。
【0177】
他の例において、検出器は、インピーダンス計、好ましくは低電流AC(例えば、1kHz)インピーダンス計を用いて前記少なくとも一つの電極のインピーダンスを検出するよう構成されていることができる。特に、その検出器は、前記少なくとも一つの電極と地面との間の、及び/又は前記少なくとも一つの電極の電極対(複数の電極がある場合)間のインピーダンスを検出することができる。そのような例において、前記少なくとも一つの電極は、神経上又は神経周囲に設置するのに好適である。
【0178】
他の例において、検出器は、加速度計を用いて対象者の動きを検出するよう構成されていることができる。加速度計は、その対象者が横たわっているか否か、即ち、その対象者が実質的に横たわった姿勢を維持している長期間(例えば、>70分)があったか否かを決定することで、対象者がいつ眠っているかを確認するものである。その測定は、加速度計が経験及び測定した方向及び加速度に基づくものである。検出器が測定した生理パラメータは、マイクロプロセッサ60とトリガーして、少なくとも一つの電極を用いて上記の種類の信号を神経に送らせるのに用いることができる。生理学的センサー111から受け取った生理パラメータを示す信号を受信したら、生理学的データプロセッサ115が、当業界で公知の技術に従って計算することで、対象者の生理パラメータ及び疾患の進展を確認することができる。例えば、循環における過剰のサイトカイン(例えば、TNF)濃度を示す信号が検出された場合、プロセッサは、本明細書の他の箇所で説明したように、個々の信号伝達分子の分泌を減らす信号の送信をトリガーすることができる。
【0179】
メモリー114は、1以上の生理パラメータの正常レベルに関係する生理学的データを記憶することができる。そのデータは、システム50を埋め込む対象者に特異的であり、当業界で公知の各種試験から収集することができる。生理学的センサー111から受信される生理パラメータを示す信号を受けたら、或いは定期的に、又は生理学的センサー111からの要求に応じて、生理学的データプロセッサ115は、生理学的センサー111から受信される信号から決定される生理パラメータをメモリー114に記憶された生理パラメータの正常レベルに関係するデータと比較し、受信された信号が不十分若しくは過剰な特定の生理パラメータを示すことから、対象者における疾患の進展を示すか否かを決定することができる。
【0180】
システム50及び/又は埋込型装置106は、不十分若しくは過剰なレベルの生理パラメータが生理学的データプロセッサ115によって測定される場合及びその時に、生理学的データプロセッサ115が本明細書の別の箇所で記載の方法で、少なくとも一つの電極による神経への信号の送信をトリガーするように構成されていることができる。例えば、生理パラメータ及び/又は疾患のいずれかの悪化を示す生理パラメータが測定される場合、生理学的データプロセッサ115が、本明細書の別の箇所で記載のように、個々の生化学物質の分泌を減少させる信号の送信をトリガーすることができる。本発明に関係する特定の生理パラメータについては上記で記載されている。生理学的データプロセッサ115がこれらの生理パラメータの1以上を示す1以上の信号を受信すると、前記少なくとも一つの電極を介して神経に信号を印加することができる。
【0181】
一部の実施形態において、制御部101は、システム50の操作に対して調整を行うように構成されていることができる。例えば、それは、通信サブシステム(下記でさらに議論)を介して、脾臓から分泌される信号伝達分子の正常レベルに関係する生理パラメータデータを送信することができる。そのデータは、装置を埋め込む対象者に特異的であり得る。制御部101は、電源112、信号発生器113及び処理要素60、115及び/又は電極の動作に調節を行うことで、神経インターフェース10によって神経に送られる信号を調整するように構成されていることもできる。
【0182】
システム50及び/又は埋込型装置106が対象者の生理パラメータに応答する能力に代わるものとして、又はそれに加えて、オペレータ(例えば、医師又はシステム50が埋め込まれた対象者)によって発生する信号の受信時に、マイクロプロセッサ60をトリガーすることができる。そのために、システム50は、下記でさらに議論される、外部システム80及び制御部101を含む、より広いシステム100の一部であり得る。
【0183】
神経刺激システムを超えて
神経刺激システム50は、多くのサブシステム、例えば外部システム80を含むより広いシステム100の一部であり得る(図2参照)。外部システム80は、ヒトの皮膚及び下層組織から神経刺激システム50に電力供給し、プログラムするために用いることができる。
【0184】
外部サブシステム80は、制御部101に加えて、埋込型装置106に電力供給するのに使用される電源112のバッテリーを無線で再充電するための電源ユニット102;及び埋込型トランシーバ110と通信するよう構成されたプログラミングユニット103の1以上を含み得る。プログラミングユニット103及び埋込型トランシーバ110は、通信サブシステムを形成することができる。一部の実施形態において、電源ユニット102は、プログラミングユニット103とともに収容されている。他の実施形態において、それらは別の装置に収容されていることができる。
【0185】
外部サブシステム80は、送電アンテナ104;及びデータ送信アンテナ105の1以上を含むこともできる。送電アンテナ104は、低周波数(例えば、30kHz〜10MHz)で電磁場を送るよう構成されていることができる。データ送信アンテナ105は、埋込型装置106をプログラミング又は再プログラミングするためのデータを送信するよう構成されていることができ、高周波数(例えば、1MHz〜10GHz)で電磁場を送るために、送電アンテナ104に加えて使用することができる。送電アンテナ104の動作時に、皮膚温度は、周囲組織より2℃を超えて高くなることはない。埋込型トランシーバ110の前記少なくとも一つのアンテナは、送電アンテナ104によって発生した外部電磁場から電力を受け取るように構成されていることができ、それは電源112の充電式バッテリーに充電するのに用いることができる。
【0186】
送電アンテナ104、データ送信アンテナ105、及び埋込型トランシーバ110の前記少なくとも一つのアンテナは、共振周波数及び品質係数(Q)などのある種の特性を有する。アンテナの一つの具体例は、規定のインダクタンスを有する誘導子を形成するフェライト磁心を有する又は有さない電線コイルである。この誘導子は、共振コンデンサ及び抵抗損失と一体となって共振回路を形成していることができる。周波数は、送電アンテナ105によって発生する電磁場の周波数と一致するように設定される。埋込型トランシーバ110の少なくとも一つのアンテナの第2のアンテナを、外部システム80から/へのデータ受信及び送信のためにシステム50で用いることができる。システム50で複数のアンテナを用いる場合、これらのアンテナを互いに30゜回転させることで、送電アンテナ104によるわずかなミスアラインメント時に、より良好な程度の電力伝達効率が達成される。
【0187】
外部システム80は、1以上の生理パラメータを示す信号を検出するために1以上の外部装着式生理学的センサー121(不図示)を含み得る。信号は、埋込型トランシーバ110の少なくとも一つのアンテナを介してシステム50に送ることができる。或いは又はさらに、信号は、外部システム50に送られ、次に埋込型トランシーバ110の少なくとも一つのアンテナを介してシステム50に送られ得る。埋込生理学的センサー111によって検出された1以上の生理パラメータを示す信号と同様に、外部センサー121によって検出された1以上の生理パラメータを示す信号を生理データ処理モジュール115によって処理して1以上の生理パラメータを求め、及び/又はメモリー114に記憶させて、閉ループ的にシステム50を操作することができる。外部センサー121から受信した信号を介して求めた対象者の生理パラメータを、埋込生理学的センサー111から受信した信号を介して求めた生理パラメータに加えて又はそれに代えて用いることができる。
【0188】
例えば、特定の実施形態において、埋込型装置に対して外部の検出器には、非侵襲性血流モニター、例えば超音波流量計及び/又は非侵襲性血圧モニター、及び生理パラメータ、特には上記の生理パラメータにおける変化の測定などがあり得る。上記で説明したように、これら生理パラメータの1以上の測定に応答して、検出器は、少なくとも一つの電極による脾動脈神経への信号の送信をトリガーすることができるか、送られる信号又は将来的に少なくとも一つの電極によって神経に送られるべき信号のパラメータを変えることができる。
【0189】
システム100は、次の例示的事象:システム50の異常動作(例えば、過大電圧);埋込生理学的センサー111からの異常読み出し(例えば、2℃を超える温度上昇又は電極−組織インターフェースでの過度に高い若しくは低い電気インピーダンス);外部装着式生理学的センサー121(不図示)からの異常読み出し;又はオペレータ(例えば、医師又は対象者)によって検出される刺激に対する異常応答での神経の電気刺激を中止する安全保護機能を含み得る。その安全保護機能は、制御部101を介して実行され、システム50に、又は内部的にシステム50内で伝えられ得る。
【0190】
外部システム80は、オペレータ(例えば、医師又は対象者)が押すと、制御部101及び個々の通信サブシステムを介して信号を送って、システム50のマイクロプロセッサ60をトリガーして、少なくとも一つの電極によって神経に信号を送らせるアクチュエータ120(不図示)を含み得る。
【0191】
外部システム80は、オペレータ(例えば、医師又は対象者)に対して、システム又は対象者の状態についての警告を行うための、マイクロコントローラ60又は制御部101用ディスプレイ109を含み得る。ディスプレイ109は、LEDモニターなどのモニターであり得るか、LEDなどの可視的表示器であり得る。
【0192】
外部システム80を含むが特にはシステム50を含まない本発明のシステム100は、好ましくは、生体安定性及び生体適合性材料から作られているか、それでコーティングされている。これは、そのシステムが、身体の組織への曝露が原因の損傷から保護され、しかも同時に、システムが宿主による望ましくない反応(最終的には拒絶に至る可能性があるもの)を引き起こすリスクを軽減することを意味する。システムを構成するかコーティングするのに用いられる材料は、理想的には、バイオフィルムの形成に抵抗性であるべきである。好適な材料には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):p-トルエンスルホネート(PEDOT:PTS又はPEDT)、ポリ(p−キシリレン)ポリマー(パリレン類と称される)及びポリテトラフルオロエチレンなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0193】
本発明の埋込型装置106は通常、50g未満の重量であろう。
【0194】
神経インターフェースの正しい設置の決定
本発明は、神経インターフェース10が脾動脈神経と信号伝達的に接触して正しく設置されているか否かを決定する方法も提供する。その方法は、次の段階:
A.本発明のシステムを提供すること;
B.脾動脈が膵臓と直接接触していない位置において、電極及び/又は神経インターフェースを神経と信号伝達的に接触する状態で位置決めする(配置する)こと;
C.前記少なくとも一つの電極の動作を少なくとも一つの制御部で制御することにより、前記神経に電気信号を印加すること;
D.脾臓、脾動脈、脾静脈における血流速度変化、脾臓体積の減少、脾臓潅流の減少、全身動脈血圧及び心拍数の変化、電気インピーダンス又は電圧コンプライアンスの低下、神経での神経活動の上昇、又は少なくとも一つの電極のインピーダンスの変化が検出されていることを決定すること;
E.前記神経インターフェースが前記神経と信号伝達的に接触して正しく設置されたことを、オペレータに示すこと
を含む。
【0195】
当該方法の段階Aについて説明すると、提供される本発明のシステムは、少なくとも一つの電極を有する神経インターフェース、少なくとも一つの制御部、及び少なくとも一つの検出器を含み得る。本明細書に記載のシステムのいずれの他の特徴も提供され得る。
【0196】
段階Bにおいて、電極及び/又は神経インターフェースは好ましくは、神経と信号伝達的に接触して設置される。当該方法の一部の実施形態において、段階Bは省略することができる。例えば、段階Bは、以前に埋め込んだ電極及び/又は神経インターフェースが時間経過により移動したか否かを確認した場合には省略することができる。
【0197】
段階Cにおいて、前記少なくとも一つの制御部は、少なくとも一つの電極の動作を制御することにより、神経に電気信号を印加する。その電気信号は、同じ波形を有して、やはり神経に対して同じ相当たり電荷密度を印加し得るという点で、上記の神経活動を刺激するのに用いられる電気信号と同様であり得る。しかしながら、神経に印加される全体の電荷は、好ましくはそれより高い。これは、周期的信号印加に代えて連続信号印加を用いることで、及び/又は上記の連続信号印加について記載の周波数より高い周波数を用いることで達成することができる。
【0198】
特に、信号は、周期的信号印加について以前に記載した割合(rate)の周波数で連続的に印加することができる。従って、その電気信号は、≦300Hz、好ましくは≦50Hz、より好ましくは≦10Hzの周波数を有することができる。例えば、連続刺激≦10Hzを、効力及び/又は治療に用いることができ;及び/又は連続刺激≦30Hz及び≧5Hzを、脾動脈血流変化検出に用いることができ;及び/又は周期的刺激≧10Hz(又は任意に≧5Hz)を、効力及び/又は治療に用いることができる。例えば、電気信号の周波数は、≦50Hz、≦100Hz、≦150Hz、≦200Hz、≦250Hz又は≦300Hzであり得る。他の例において、電気信号の周波数は、≦10Hz、≦15Hz、≦20Hz、≦25Hz、≦30Hz、≦35Hz、≦40Hz、≦45Hz、又は≦50Hzであり得る。さらなる実施例において、周波数は、≦1Hz、≦2Hz、≦5Hz、又は≦10Hzであり得る。さらに又は或いは、電気信号の周波数は、≧10Hz、≧15Hz、≧20Hz、≧25Hz、≧30Hz、≧35Hz≧40Hz、≧45Hz、又は≧50Hzであり得る。他の例において、電気信号の周波数は、≧0.1Hz、≧0.2Hz、≧0.5Hz、≧1Hz、≧2Hz、又は≧5Hzであり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0199】
前記電気信号は、前述の印加エピソードの一つ(例えば、400〜600パルス)において連続的に印加することができる。或いは、電気信号は、設定期間によって定義されるエピソードにおいて連続的に印加することができる。好ましくは、電気信号印加の前記設定期間は≦3時間である。例えば、その設定期間は、≦1分、≦2分、≦5分、≦10分、≦20分、≦30分、≦1時間、≦2時間、又は≦3時間であり得る。さらに又は或いは、その設定期間は、≧1分、≧2分、≧5分、≧10分、≧20分、≧30分、≧1時間、又は≧2時間であり得る。上記の上限及び下限のいずれの組み合わせも可能である。
【0200】
段階Dにおいて、前記少なくとも一つの検出器は、脾臓における血流速度、脾動脈における血流速度、脾静脈における血流速度、脾臓体積、神経での神経活動、又は前記少なくとも一つの電極のインピーダンスの1以上を検出することができる。これらの生理パラメータを検出するのに好適な検出器については、上記で説明されている。
【0201】
検出器が脾臓における血流速度、脾動脈における血流速度、及び/又は脾静脈における血流速度を検出するよう構成されている場合、電極及び/又は神経インターフェースは、検出される血流が基底線血流と異なっている場合に、神経と信号伝達的に接触して正しく設置されるように決定することができる。
【0202】
検出器が神経での神経活動を検出するように構成されている場合、電極及び/又は神経インターフェースは、検出される神経活動が基底線神経活動より高い場合に、神経と信号伝達的に接触して、正しく設置されるように決定することができる。
【0203】
検出器が脾臓体積を検出するように構成されている場合、電極及び/又は神経インターフェースは、検出される脾臓体積が基底線脾臓体積より小さい場合に、神経と信号伝達的に接触して、正しく設置されるように決定することができる。言い換えれば、脾臓が収縮している場合である。
【0204】
検出器が少なくとも一つの電極のインピーダンスを検出するように構成されている場合、電極及び/又は神経インターフェースは、検出されるインピーダンスが基底線インピーダンスと異なる場合に、神経と信号伝達的に接触して、正しく設置されるように決定することができる。検出されるインピーダンスは、神経に信号を印加しながら測定される少なくとも一つの電極の第1の電極と第2の電極の間のインピーダンスである。「基底線インピーダンス」は、信号を神経に印加する前の第1の電極と第2の電極の間のインピーダンスである。
【0205】
段階Eによれば、電極及び/又は神経インターフェースが神経上に正しく設置されていることを、少なくとも一つの制御部が確定したら、前記少なくとも一つの制御部は、それをオペレータに指示する。オペレータへの指示は、そのシステムのディスプレイ109、点滅LEDなどでの通知の形態を取ることができる。
【0206】
電極及び/又は神経インターフェースが神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていないことを検出器が確認した場合、前記少なくとも一つの制御部は、神経インターフェースが神経と信号伝達的に接触して正しく設置されていないことを、ディスプレイ109を介してオペレータに指示することができる。
【0207】
神経インターフェースが正しく設置されていなかった場合、神経インターフェースが神経と信号伝達的に接触して正しく設置されるまで、段階B〜Eを繰り返すことができる。
【0208】
当該方法の段階C、D及びEは、少なくとも一つの制御部によって実行可能である。前記少なくとも一つの制御部は、プロセッサにロードされ、動作すると、プロセッサに段階C、D及びEを実行させるようにするコード部分を含む実行可能コンピュータプログラムを有するメモリー(即ち、非一時的コンピュータ可読記憶媒体)に接続されたプロセッサを含む。
【0209】
前記の神経インターフェースの設置を確認する方法は、患者の生涯を通じて術後に本発明のシステム(即ち、対象者に埋め込まれているもの)が奏功していることを追跡する(例えば、外部経皮的脾臓血流測定又は良好な神経−電極相互作用(intercation)のマーカーとしての全身動脈血圧を使用)のに用いることもできる。従って、正しい設置を確保する方途に加えて、当該方法は、好適な効力(サイトカイン読み出しができないであろう場合)を決定する方途を提供する。
【0210】
全般
本明細書に記載の方法は、有形の記憶媒体上の機械可読形態での、例えば、プログラムがコンピュータ上で動作している時に本明細書に記載の方法のいずれかの全ての段階を実施するよう調整されたコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム(そのコンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体上で具現され得る。)の形態でのソフトウェアによって実施され得る。有形の(又は非一時的)記憶媒体の例には、ディスク、サムドライブ、メモリーカードなどがあり、伝播信号は含まれない。そのソフトウェアは、パラレルプロセッサ又はシリアルプロセッサ上で動作するのに好適であることができ、それによって、前記方法段階は、いずれか好適な順序で、又は同時に実行することができる。それは、ファームウェア及びソフトウェアが貴重な別個に交換可能な商品であり得ることを証明するものである。それは、「ダム」又は標準ハードウェア上で動作するかそれを制御することで、所望の機能を実行するソフトウェアを包含するものである。それは、シリコンチップを設計し、又は汎用プログラマブルチップを構成して所望の機能を実施するために使用される、ハードウェアの構成を「記述」又は定義するソフトウェア、例えばHDL(ハードウェア記述言語)ソフトウェアを包含するものでもある。
【0211】
プログラム命令を記憶するのに使用される記憶装置をネットワークを経由して分配することが可能であることは、当業者は理解するであろう。例えば、リモートコンピュータが、ソフトウェアとして記載されたプロセスの1例を記憶することができる。ローカルコンピュータ若しくは端末コンピュータは、リモートコンピュータにアクセスし、プログラムを動作させるためのソフトウェアの一部又は全てをダウンロードすることができる。或いは、ローカルコンピュータは、必要に応じて複数のソフトウェアをダウンロードするか、ローカル端末コンピュータで一部のソフトウェア命令を実行し、リモートコンピュータ(又はコンピュータネットワーク)で一部を実行することができる。当業者はやはり、当業者に公知の従来の技術を利用することで、ソフトウェア命令の全て又は一部を専用の回路、例えばDSP、プログラマブル論理アレイなどによって実行可能であることを理解するであろう。
【0212】
別段の断りがない限り、本明細書に記載の各実施形態を、本明細書に記載の別の実施形態と組み合わせることが可能である。「含む(comprising)という用語は「含む(including)」並びに「からなる(consisting)」を包含する。例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、専らXからなるものであり得るか、何か別のものを含むことができ、例えば、X+Yであり得る。
【0213】
上記の利益及び利点が、一つの実施形態に関係するものであり得るか、いくつかの実施形態に関係するものであり得ることは明らかであろう。その実施形態は、前述の課題のいずれか若しくは全てを解決するものや、前述の利益及び利点のいずれか若しくは全てを有するものに限定されるものではない。
【0214】
好ましい実施形態についての上記の説明は、例示のみを目的として提供されたものであり、当業者が各種の変更を行い得ることは理解されよう。ある程度詳細に、又は1以上の個々の実施形態を参照しながら、各種実施形態について上記で説明してきたが、当業者は、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、開示の実施形態に対して多くの改変を行うことができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0215】
以下、例として、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1図1は、神経刺激システムを示す。
図2図2は、神経刺激システムを含むより広いシステムを示す。
図3-1】図3は、ブタ脾臓神経の組織学的及び電気生理学的特徴を示す。図3Aは、トルイジンブルーで染色したSpA(脾動脈)/SpN(脾動脈神経)の半薄切片(厚さ0.5μm)の顕微鏡写真である。画像では、有髄軸索は全く観察できない。
図3-2】図3Bは、動脈周囲カフ(全SpN叢周囲の)又はSpN束のわずかな束周囲の小さいカフで1Hzで刺激した場合の、動脈から切開した動脈周囲脾臓神経の束から記録された誘発化合物活動電位(eCAP)の代表的なトレースである。そのトレースは、10の応答の平均である。図3Cは、eCAPの異なる構成要素の伝導速度の範囲を示す。
図3-3】図3D及び3Eは、全叢(図3D)又はいくつかの切開束(図3E)を刺激することで得られるSpNの強度−期間曲線を示す。これらのグラフは、異なる刺激振幅で閾値eCAPを得るための相対電荷密度も示している。いずれの刺激も1Hzで行って、神経での刺激誘発活動電位伝導減速を制限した。
図4-1】図4は、SpN刺激によって引き起こされる刺激強度依存性であるmSpA BF、mSpV BF、sMABP及びHRにおける一時的変化を示す。図4Aは、異なる電流振幅(3.5〜20mA)でのSpN叢の1分間刺激(対称方形二相パルス、10Hzで400μsPW)中のmSpA BF(−30〜+180秒、刺激開始に対して)における平均(n=8)変化を示す。
図4-2】図4Bは、異なる電流振幅でのSpN叢の1分間刺激(対称方形二相パルス、10Hzで400μsPW)中に達したmSpA BFにおける最大低下を示す。各線は、被験動物を表す。図4Cは、異なる電流振幅で及び二つの異なるPW:400(黒丸)及び200(黒四角)μsでのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、10Hzで400μs又は200μsPW)中に達したmSpA BFにおける平均(n≧3)最大低下を示す。
図4-3】図4Dは、異なる電流振幅(3.5〜12mA)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、10Hzで400μsPW)中のmSpV BF(−30〜+180秒、刺激開始に対して)における変化を示す
図4-4】。図4Eは、異なる電流振幅(3.5〜20mA)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、10Hzで400μsPW)中のsMABP及びHR(−30〜+180秒、刺激開始に対して)における平均(n=3)変化を示す。
図4-5】図4F及び4Gは、異なる電流振幅でのSpN叢(図4F)又はいくつかの切開SpN束(図4G)の1分間刺激(対称二相パルス、10Hzで400μsPW)中のmSpA BF、sMABP、HR及びRRにおける平均(n=3)最大変化をまとめている。両方のグラフとも、記録されたeCAPの振幅(応答の曲線下の面積として測定)を示す(最大応答に対する%として表される)。SpA BF変化は、%での基底線からの最大低下として表され、HR変化は、回/分(bpm)として表され、sMABP変化は、mmHgとして表され、RR変化は、呼吸/分(bpm)として表される。その二つのグラフも、使用される刺激振幅に対する相当たり電荷密度を報告している。
図4-6】図4F及び4Gは、異なる電流振幅でのSpN叢(図4F)又はいくつかの切開SpN束(図4G)の1分間刺激(対称二相パルス、10Hzで400μsPW)中のmSpA BF、sMABP、HR及びRRにおける平均(n=3)最大変化をまとめている。両方のグラフとも、記録されたeCAPの振幅(応答の曲線下の面積として測定)を示す(最大応答に対する%として表される)。SpA BF変化は、%での基底線からの最大低下として表され、HR変化は、回/分(bpm)として表され、sMABP変化は、mmHgとして表され、RR変化は、呼吸/分(bpm)として表される。その二つのグラフも、使用される刺激振幅に対する相当たり電荷密度を報告している。
図5a図5は、SpN刺激中のmSpA BF、mSpV BF、sMABP及びHRにおける変化が周波数依存性であったことを示す。図5Aは、異なる周波数(0.25〜100Hz)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、約36.9μC/cm2/相で400μsPW)中のmSpA BF(−30〜+180秒、刺激に対して)における平均(n=3)変化を示す。
図5b図5Bは、異なる周波数(0.25〜100Hz)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、約36.9μC/cm2/相で400μsPW)中に観察されたmSpA BFにおける平均(n=3)最大低下を示す。
図5c図5C〜5Dにおいて、それらのグラフは、異なる周波数(0.25〜100Hz)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、約36.9μC/cm2/相で400μsPW)中のmSpV BF、sMABP、HR(刺激前基底線に対する%として表される)における変化を示す。図5Aにおけるデータは、平均±標準偏差として表される。図5A及び5C〜5Dにおいて、囲みは、刺激時間ウィンドウを表す。
図5d図5C〜5Dにおいて、それらのグラフは、異なる周波数(0.25〜100Hz)でのSpN叢の1分間刺激(対称二相パルス、約36.9μC/cm2/相で400μsPW)中のmSpV BF、sMABP、HR(刺激前基底線に対する%として表される)における変化を示す。図5Aにおけるデータは、平均±標準偏差として表される。図5A及び5C〜5Dにおいて、囲みは、刺激時間ウィンドウを表す。
図6図6は、異なる周波数でのいくつかの切開SpN束の局所及び全身効果を示す。特に、図6は、動脈から切開したいくつかのSpN束の異なる周波数による刺激に関連する局所及び全身変化の代表的な実験記録を示す。HR、sMABP、刺激入力、eCAP、SpA BF生及びmSpA BFデータは、周波数が3〜300Hzの範囲である代表的実験からのものを示している。
図7図7は、手術中脾臓超音波検査を介してモニタリングしたSpA血流変化を示す。図7の画像は、SpN刺激中の二頭の異なる動物から得られたものである。刺激中のドプラトレース低下(中央パネル)と刺激前及び刺激後(それぞれ、上及び下のパネル)に留意する。
図8-1】図8は、SpN eCAP振幅及び伝導速度の活性依存的変動を示す。図8Aは、異なる周波数(1、10及び30Hz、左から右)での1分間刺激中にSpNから記録されたeCAPを示す。各画像は、全ての誘発応答の重ね合わせを示している。1Hz刺激の場合、60の応答を重ね合わせた。10及び30Hzについては、各トレースは、5連続応答の平均を表す。留意すべき点として、10及び30Hzでの応答が経時的に右方向にシフトしており、振幅は経時的に小さくなっている。
図8-2】図8Bは、5若しくは10秒のオフ期によって隔てられた5若しくは10パルスの連射で10Hzで送られる1分間刺激中にSpNから記録されたeCAPを示す。各画像は、経時的に右へのシフトを示し、振幅は小さくなっている。
図8-3】図8Bは、5若しくは10秒のオフ期によって隔てられた5若しくは10パルスの連射で10Hzで送られる1分間刺激中にSpNから記録されたeCAPを示す。各画像は、経時的に右へのシフトを示し、振幅は小さくなっている。
図8-4】図8Cは、異なる刺激パラダイムの各記録されたeCAPの曲線下面積(AUC)の定量化を示す。特に、図8Cは、異なるパラダイムで送られた1パルスと60パルスの間の値の比較を示す。
図8-5】図8Dは、図8A〜Cに示した刺激の異なるパターンでの600連続パルスにおけるeCAP潜時(第1の応答の潜時に対する%として表される)を示す。データは平均として示されている(N≧3)。点線は、95%信頼区間を表す。図8Eは、図8A〜Cに示した刺激の異なるパターンでの600連続パルスにおけるeCAP振幅(第1の応答の振幅に対する%として表す)を示す。データは平均として示されている(N≧3)。最小二乗回帰曲線を、潜時データ(図8Dに示したもの)及び振幅データ(図8Eに示したもの)に対して適合させた。点線は、95%信頼区間を表す。
図8-6】図8Fは、10Hz(黒)、1Hz(ライトグレー)又は連射刺激(10Hz、10秒ごとに5パルス、グレー)で送られた400μsPW及び12mA(対称、二相方形パルス)を用いるブタ脾臓神経血管束(NVB)の60秒刺激中のSpA mBF(円形)及びsMABP(三角形)における変化を示す。データは、同一動物内での代表的な刺激からのものである。図8Gは、図8Fに示した異なる刺激パターンで送られた60秒刺激中に記録されたSpA mBF及びsMABP最大変化を示す。値は、10Hzで得られた最大変化に対する%として表している。データは、平均(N=4)±標準偏差として示している。図8Cにおける統計解析は、一元配置ANOVA及び複数比較についてのテューキー事後補正を用いて行った。*、P≦0.05;**、P≦0.005;***、P≦0.001;****、P≦0.0001。
図9図9は、連射及び1Hz刺激が、mSpA BFにおいて最小変化を生じさせたことを示す。特に、図9は、10Hzで送られた二相対称パルスによる60秒刺激中に得られた変化に対する%として表されるmSpA BFにおける最大変化を示す(黒色)。同じ電流振幅で送られた異なる刺激パラダイムを比較している:対称又は非対称二相パルスによる連続10Hz、連続1Hz及び連射刺激(5秒ごとに10Hzで5パルス)。
図10-1】図10は、SpN刺激が生存を促進したことを示す。図10Aは、in vivoでのLPS注射の2時間後での、所定の終点までの生存時間の差異を示すKaplan-Meierプロットである。図10Bは、LPS注射の30分後の、最も低く記録された平均動脈血圧(MABP;ベースラインの%として算出される)を示す箱ひげ図である。SpN-Tと、疑似群との有意差が示される; P=0.0296。
図10-2】図10Cおよび図10Dは、in vivoでのLPS注射の0.5時間後でのTNFα(図10C)およびIL-6(図10D)濃度を示す箱ひげ図である。SpN-Tと、SpN-P群との有意差が示される; P=0.0117。SpN-Tと、疑似群との有意差も示される; P=0.0043。
図11-1】図11は、SpN刺激が、図10と同様の様式で生存を促進したことを示すが、追加のデータと共に示す。図11Aは、LPS注射の2時間後での、所定の終点までの生存時間の差異を示すKaplan-Meierプロットである。図11Bは、LPS注射の30分後の、最も低く記録された平均動脈血圧(MABP;ベースラインの%として算出される)を示す箱ひげ図である。SpN2Sと疑似群との有意差が示される。
図11-2】図11Cおよび図11Dは、LPS注射の0.5時間後でのTNFα(図11C)およびIL-6(図11D)濃度を示す箱ひげ図である。
図12-1】図12は、ブタにおけるSpNの刺激が、in vivoでLPSにより誘導されるサイトカイン産生の減少を引き起こすことを示す。図12Aおよび図12Bは、0.25μgの大腸菌LPSを投与した、終末麻酔されたブタによって収集された血漿から直接測定されたTNFαおよびIL-6の動的変化を示す。
図12-2】図12Cおよび図12Eは、異なる群におけるLPS投与後の血漿中で測定されたTNFαおよびIL-6のピーク値を示す。図12Dおよび図12Fは、TNFαとIL-6の両方の曲線下面積(AUC)の定量化を示す。データは、平均(疑似:N=6、デキサメタゾン: N=2、LVNS: N=5、eLVNS: N=5、SpNS: N=6)+/-SDとして表される。
図13a図13は、死体IIIに由来する脾動脈の解剖学的分析を示す。図13aは、腹腔動脈(Origin SA)から仮想矢状面までの解剖学的距離およびOrigin SAから様々な分岐膵動脈(PA)までの距離を示す。囲みは、切除された組織の部位を示す。脾動脈ループの長さも示される。脾動脈と関連する膵臓、脾臓および胃の部位も描かれる。
図13b図13bは、それぞれの切除された組織試料から測定された脾動脈の直径を示す。
図13c図13cは、死体IVの脾臓、膵臓、脾動脈(SA)、ならびに周囲の脂肪および結合組織を示す概観を示す。SAは3つのループを提示し、ループの内側湾曲部から膵臓までの最小の高さは1.0cmである。この特徴を、表5に見出すことができる。
図14-1】図14は、疾患開始前の脾動脈神経刺激が、コラーゲン誘導性関節炎を有するマウスにおける疾患活動性を低下させることを示す。動物を、3群に分けた;疑似N=8、Sim 24H N=7、Stim 4H N=7。臨床スコアを左パネルに示し、発生率を右パネルに示す。CIAを、CII/CFAを用いて0日目に誘導し、11日目に、カフを埋め込み、21日目に、動物はCII/IFAの追加接種を受けた。刺激を、1日1回(STIM 24H)、または1日6回(STIM 4H)実施した。45日目の後、刺激を停止し、動物を80日目まで追跡した。
図14-2】図14は、疾患開始前の脾動脈神経刺激が、コラーゲン誘導性関節炎を有するマウスにおける疾患活動性を低下させることを示す。動物を、3群に分けた;疑似N=8、Sim 24H N=7、Stim 4H N=7。臨床スコアを左パネルに示し、発生率を右パネルに示す。CIAを、CII/CFAを用いて0日目に誘導し、11日目に、カフを埋め込み、21日目に、動物はCII/IFAの追加接種を受けた。刺激を、1日1回(STIM 24H)、または1日6回(STIM 4H)実施した。45日目の後、刺激を停止し、動物を80日目まで追跡した。
図15図15は、疾患開始後の脾神経刺激が、コラーゲン誘導性関節炎を有するマウスにおける臨床スコアを減少させることを示す。CIAを、CII/CFAを用いて0日目に誘導し、11日目に、カフを埋め込み、28日目に、刺激を開始した。動物を2群に分けた;疑似N=5、Stim 4h N=5。21日目に、動物はCII/IFAの追加接種を受けた。動物を、刺激の開始後、55日目(CIAの誘導後、80日目)まで追跡した。1匹の動物は、ワイヤの破壊のため44日目に除外された。
図16-1】図16は、ヒト脾臓神経が伝導速度の遅い軸索を含む動脈周囲束の叢であることを示す。図16は、次の小区分を含む:A)ドナーから摘出したばかりのSpA、SpN、結合組織、膵臓及びリンパ節を含むヒト脾臓神経血管束(NVB)。二つの小カフ電極(直径650μm)を特定のいくつかの切開束上に設置した。標本の模式図は、刺激カフ及び記録カフの位置(a及びb)を示している。点線は、B及びCで示した切片を取った領域を示している。
図16-2】(B)ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色したヒトNVBの切片。SpN束は丸く囲んである。;(C)電気生理学的試験に摘出した刺激束の切片。その切片はH&Eで染色されており、神経束(丸く囲んでいる)及び脂肪/結合組織を示している。
図16-3】(D)刺激カフと記録カフの間の神経を圧壊する前(上パネル)及び後(下パネル)に1Hz及び400μsPWでヒトSpNの単極単相刺激を印加した時に記録されたeCAP。左のボックスは刺激アーチファクトを示し、右のそれより大きいボックスは、eCAPが観察されるべき領域を示し、矢印はeCAPを示している。;(E)eCAP振幅(最大応答の%として表される)対刺激振幅を定量化するヒトSpNの動員曲線。各点は、1Hz及び400μsPWで送られた8連続単極単相パルスの平均振幅を表す。
図16-4】(F)ヒト、ブタ(豚)及びラットSpNから記録された全てのeCAP構成要素の伝導速度;(G)切開された束を刺激することで得られたヒトSpNの強度−期間関係(黒丸)。そのデータは、調べた異なるPWでの検出可能なeCAPをトリガーするのに必要な最小電流を表す。グラフは、異なる刺激の相当する電荷密度(黒三角)(右Y軸と称される)も示している。最小二乗回帰曲線を、強度−期間及び電荷密度データに対してプロットした。
図16-5】(H)異なるPWでの3種類の異なる生物種のSpNを刺激するのにひつような電荷密度。データは線形回帰と適合させた。スケールバー:B=2mm;C=100μm。
図17-1】図17は、A)腹腔に近い近位端を示す縫合があるヒト脾臓検体の例、(B)組織学のためのブロックにおける組織の切片の概念的表示、(C)ブロックの一つからのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色スライドグラス、及び(D)組織形態計測的推算方法を示す。
図17-2】図17は、A)腹腔に近い近位端を示す縫合があるヒト脾臓検体の例、(B)組織学のためのブロックにおける組織の切片の概念的表示、(C)ブロックの一つからのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色スライドグラス、及び(D)組織形態計測的推算方法を示す。
図17-3】図17は、A)腹腔に近い近位端を示す縫合があるヒト脾臓検体の例、(B)組織学のためのブロックにおける組織の切片の概念的表示、(C)ブロックの一つからのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色スライドグラス、及び(D)組織形態計測的推算方法を示す。
図18図18は、(左)束直径、(中央)脾臓神経血管束(NVB)の近位、中央及び遠位部分についての外膜(外側脾動脈壁)周囲に広がる束、及び(右)束−外膜からの距離のパーセントを示す。
図19-1】図19は、ブタ脾臓神経血管束刺激からのイン・ビボデータ;(A)群動員曲線、(B)強度−期間曲線を示す。
図19-2】図19は、ブタ脾臓神経血管束刺激からのイン・ビボデータ;(A)群動員曲線、(B)強度−期間曲線を示す。
図20-1】図20は、(A)X軸が400μsパルスでの電荷注入推算値を表す、ブタでのイン・シリコモデリングからの動員曲線、(B)X軸が刺激振幅を反映する、同じ動員曲線、(C)X軸が400μs(青)及び1msパルス(赤)での電荷注入推算値を表す、ヒトでのイン・シリコモデリングからの動員曲線、(D)X軸が刺激振幅(mA)を反映している同じ動員曲線を示す。
図20-2】図20は、(A)X軸が400μsパルスでの電荷注入推算値を表す、ブタでのイン・シリコモデリングからの動員曲線、(B)X軸が刺激振幅を反映する、同じ動員曲線、(C)X軸が400μs(青)及び1msパルス(赤)での電荷注入推算値を表す、ヒトでのイン・シリコモデリングからの動員曲線、(D)X軸が刺激振幅(mA)を反映している同じ動員曲線を示す。
【0216】
ブタにおける脾動脈神経の電気刺激(試験1)
材料及び方法
ブタ合計8頭(体重:40〜50kg)を、脾臓神経の組織学的及び電気生理学的特性決定に用いた。
【0217】
実験当日、筋肉注射によって投与されるケタミン(1.5mg/kg)及びミダゾラム(0.5mg/kg)で、動物を鎮静させた。静脈カテーテルを片方の耳介静脈に設置し、静脈注射したプロポフォール(2mg/kg)によって麻酔を施した。気管内チューブを設置し、フェンタニルの連続速度注入(CRI)(0.2μg/kg/分)と組み合わせたセボフルランで麻酔を維持した。
【0218】
全身麻酔を施した後、超音波ガイダンス下で両側留置尾静脈カテーテル及び大腿動脈カテーテル1本を設置するために、動物を背殿位とした。次に、SpNカフ埋込を行う動物を、右横向きに寝る姿勢を取らせた。
【0219】
SpNカフ埋込の外科的アプローチは次の通りであった。胸腰椎移行部を支え、砂袋を用いて若干高くした。適切な手術準備(クリッピング及びグルコン酸クロルヘキシジン及びアルコールによる無菌的手洗い)後、左脇腹にドレープをかけ、最後から2番目の肋骨を中心とする20×25cm領域を露出させた。モノポーラ電気メスを用いて最後から2番目の肋間腔で、15cm皮膚切開を行った。皮下組織及び肋間筋系を通過して腹膜が露出されるまで、切開を続けた。肋骨を係合するように注意を払いながら、2個のフィノチエットリブリトラクターを腹膜後方に設置した。その後数分かけて、リトラクターを徐々に開いて、約10×8cmの大きさで左脇腹を露出させた。リトラクターのブレードを、カルボキシメチルセルロース(CMC)に浸したガーゼスポンジで覆った。腹膜を縦方向に切開し、皮膚に縫合して(バイクリル2−0;フォードインターロッキング縫合パターン)リトラクターのブレードを覆って、扱っている際の脾臓裂傷のリスクを低下させる。注意深い指操作を使って、脾臓を体外に出し、脾動脈(SpA)を、それの内臓表面に沿って確認した。左胃大網動脈に分岐するSpAに近位の脾臓中央部分で、1mm超音波フロープローブ(Transonic)を設置するために、SpAの短い部分を、周囲の軟組織がないように注意深く切開した。プローブを設置した後、脾臓を腹部に戻した。
【0220】
脾臓内臓底をオペレータに対して若干回転させ、脾臓に緩い腹部牽引をかけることで、脾門の胃脾間膜を、メッツェンバウム剪刀を用いて切開して、SpAを露出させた。その動脈を背方向にたどって、それの基点(即ち、左胃動脈(LGA)とSpAへの腹腔動脈の分岐点)に至った。この分岐点に対して直接遠位の、無傷の動脈周囲SpN回路網を有するSpAの約1cm断片を、メッツェンバウム剪刀を用いる鈍的剥離によって円周状に摘出した。ストレート形状顕微解剖鉗子を用いて手術野に導入した2.5mm直径CorTecカフの片方のフラップを把持しながら、湾曲ミクスター動脈鉗子を、尾から頭蓋にかけての当該動脈下に挿入した。適切に設置された時にカフの二つのフラップを並置するように注意しながら、ミクスター鉗子の動きを逆にすることで、カフをSpA及び無傷の動脈周囲SpN回路網周囲に設置した。次に、脾臓及び動脈上の緊張を緩めた。SpA血流読み取り値を調べ、最後に、肋骨リトラクターを一部閉じ、露出切開部を生理食塩水に浸したガーゼスポンジで覆った。
【0221】
電気生理学的実験では通常、全SpN叢又はいくつかの束の刺激時の誘発化合物活動電位(eCAP)記録を可能とするために、刺激カフに対して数センチメートル遠位(脾臓にはより近い)の一つ若しくはいくつかの別個のSpN束の切開及びカフィング(500μm直径双極又は三極CorTecカフを使用)を行った(図3参照)。さらに、刺激部位の上流若しくは下流での神経信号伝達遮断の異なる組み合わせ(例えば、局所麻酔剤の局所投与、又はSpN束の切断を用いて)を行った。
【0222】
記録されたeCAPを、1800 2−チャンネル微小電極AC増幅器(A−Mシステム)を用いて増幅及びフィルター処理した(100〜1000Hz)。神経活動を、オシロスコープを用いて連続的にモニタリングし、16チャンネルPowerLab(AD Instruments)取得システム及び20kHzのサンプリング速度を用いるLabChart 8ソフトウェアを用いてコンピュータに記録した。eCAPの平均を求め(8〜10パルス)、平均応答のピーク間若しくは曲線下面積(AUC)を定量化した。SpNのeCAP構成要素の伝導速度を、刺激部位と記録部位の間の距離及びeCAP信号の潜時から計算した。
【0223】
手術の期間を通じて、心電図(ECG)、心拍数(HR)、動脈血圧、呼吸数(RR)、パルス酸素濃度、カプノグラフィー、肺活量をモニタリングした。鼻腔内プローブによって体温を連続的に記録した。実験を通して、動脈血ガスを分析して、pH、グルコース、pO2及びpCO2、K+レベルをモニタリングした。全ての生理パラメータ並びに使用したセボフルランのレベルを、記録シートに記録した(5〜10分ごと)。生理学的データも、Powerlab取得システム及びLabChartソフトウェアを用いてデジタル化した。全てのパラメータは、0.1〜2kHzの周波数でサンプリングした。
【0224】
麻酔の深さを、眼瞼反射、角膜反射、中前(medioventral)眼球位置及び顎の緊張(jaw tone)によって評価した。
【0225】
さらに、生理パラメータ並びにバイスペクトラルインデックスモニタリングシステム(30〜60のレベル)を用いて、麻酔レベルを調節した。場合により、プロポフォールのボラス投与を用いた。
【0226】
場合により、SpN刺激時のSpA血流変化のリアルタイムモニタリングのために、脾臓の手術中超音波検査を用いた。その手法のために、手術中プローブ(i12L−RS線形手術中変換器4−10MHz、29×10mmフットプリント、25mm視野;GE Vivid−i)を用いた。
【0227】
SpA血流変化を、カラードプラ及び連続波スペクトルトレースによって評価した。脾門に対して2〜3cm遠位の脾臓柔組織内のSpAのカラードプラ確認後、ウィンドウカーソルをSpA管腔の中心に向けることで、SpA流の連続波スペクトルトレースを得た。代表的な信号を得た後、超音波検査プローブ及びカーソルウィンドウを適切な位置に置いた状態で、SpN刺激を開始した。
【0228】
統計解析はいずれも、市販の統計ソフトウェア(JMP Pro 13.0.0又はGraphPad Prism 5.0)を用いて行った。
【0229】
結果
動脈周囲カフを取り付けた全SpN叢、又はより小さいカフを取り付けた少数束の刺激のSpN刺激時に生じたeCAPの記録によって、刺激部位と記録部位の間の距離に応じた特定の潜時のあるeCAPが生じた(図3B)。eCAPの異なる構成要素の伝導速度の範囲を図3Cに示している。全叢又は少数束のいずれかの刺激によって、1m/s以下の平均速度でeCAPが生じた(図3C)。この伝導速度は、SpNが無髄神経であることを示す下記の特性決定データにおける組織学所見と一致している。全叢又は少数束を刺激するeCAPを誘発するのに必要な電流振幅とパルス期間の間の関係を、図3D及び3Eに示している(それぞれ)。全叢を動脈周囲カフで刺激する場合、神経応答の閾値は、7.692〜15.58μC/cm/相であることが認められた。少数の切開束をより小さいカフで刺激する場合、閾値は、5.796〜11.594μC/cm/相であることが認められた。両方の場合とも、eCAP記録についての電流密度の閾値は、パルス幅(PW)が短いほど低かった。
【0230】
特定の電流閾値より上の10Hz及び400μsPWでの1分間のSpN二相刺激は、血管周囲流プローブを介して測定された遠位SpA内での一時的血流低下を常に引き起こした。送られた電流と血流低下の間に明瞭な用量−応答関係があった。即ち、振幅が大きいほど、観察される血流低下が大きかった(図4A)。刺激前基底線と比較して平均SpA血流(mSpA BF)での5%変化と定義される血流変化閾値が、およそ4.5mA(400μsPWで)及びおよそ12mA(200μsパルス幅で)で認められた(図10B及び10C)。血流変化を引き起こすための閾値の相当たり電荷密度を計算すると、その値は非常に類似しており、400μsで約13.8μC/cm2/相及び200μsで18.46μC/cm2/相であった。12mA及び400μsPW(36.9μC/cm2/相)による刺激は、基底線値から約40%のSpAにおける平均最大BF低下を引き起こした。
【0231】
並行して、脾静脈(SpV)内の血流を、その静脈が脾門を出る脾臓底に設置されたドプラ血流プローブを用いることで記録した。興味深いことに、刺激(対称二相パルス、400、10Hz、1分間)によって、電流振幅依存性である平均SpV血流(mSpVBF)の増加が生じた。12mA及び400μsPW(36.9μC/cm2/相)による刺激によって、基底線mSpV BFと比較した場合に約200%の最大増加が生じた。mSpA BFの一時的低下には、全身平均動脈血圧(sMABP)の一時的上昇も伴った。基底線からのこの上昇(平均で1〜6mmHg)もやはり、刺激強度と相関していた(図4E)。刺激によって一貫したsMABP変化が認められ、SpA血流に20〜30%低下が生じた。対照的に、HRはごくわずかに影響されたが(<3bpm変化、上昇又は低下)、高刺激振幅によってのみ一貫性が高くなった(>45μC/cm2/相、3〜10bpm変化が生じた)(図4G)。SpN刺激は、調べた条件では呼吸数(RR)に影響しなかった。
【0232】
異なる電流振幅(1〜50mA、3.076〜153.8μC/cm2/相に相当)での1分間刺激(対称二相パルス、10Hz、400μsPW)中にmSpA BF、sMABP、HR、RRで観察された変化を図4Fにまとめてある。図4Fにおいて、これらの変化の大きさがSpNからのeCAP(黒線又は丸)の記録とどの程度相関していたかを観察することができる。動員された線維の数(最大記録応答に対するeCAP%として測定)の数が大きいほど、mSpA BF及び他の関連する変化における低下が大きかった。
【0233】
SpA(500μm直径カフを用いて)から切開した個別のSpN束の直接刺激によって、mSpA BF、sMABP及びHRにおいて同様の変化が誘発された。1分間(対称二相パルス、1Hz、400μsPW)及び異なる電流振幅(0.1〜2.5mA、3.86〜96.61μC/cm/相に相当)で起こるこれらの変化を、図4Gにまとめてある。この場合であっても、関連する変化は、刺激によって動員された線維の割合(黒で示したeCAP)に依存していた。最大eCAP(従って、最大変化)は、全叢を刺激した場合に約153μC/cm/相で、そして約70μC/cm/相で得られた。少数束を刺激した場合の変化の大きさは、全叢を刺激した場合に得られたものより低く、これは、刺激された線維の総数がより低く、周波数がより低かったことから予想されたものである。
【0234】
mSpAにおける血流変化も、刺激の異なる周波数によって影響を受けた。異なる周波数(0.25〜100Hz)で刺激した場合(対称二相パルス、約36.9μC/cm2/相での1分間の400μsPW)、30〜50HzがSpAにおいて最も強い血流低下を確実に引き起こした(図5A)。50Hz(70〜100Hz)より高いと、BF低下は実際には小さくなり、10Hz刺激で得られた低下の範囲であった(図5B)。mSpV BF、sMABP及びHRにおける変化も、印加した刺激の周波数に依存していることが認められた。最も強い効果はやはり、30〜50Hzで観察された(図5C〜5E)。
【0235】
これもやはり、動脈を切開した少数束のみを最大に(ほぼ70μC/cm2/相)刺激した場合に観察された。周波数分析時に全叢について使用した刺激振幅と比較して高い神経線維動員があったため、mSpA BFにおけるより強い低下が、相対的に低い周波数(1Hz及びそれ以下)で既に生じていた。しかしながら、一貫して、最低低下は、30〜50Hzで観察された(図6D)。
【0236】
SpABFでの観察された変化が直接神経細胞活性化(平滑筋の刺激ではなく)によるものであったことをさらに確認するため、リドカイン(2%リドカイン塩酸塩溶液)を、埋め込まれたSpNカフ(動脈周囲カフ又は切開束用のカフ)周囲に局所的に適用した。リドカインは、高速電圧依存性Na+チャンネルの特異的ブロッカーである。リドカインは、SpA BFにおける変化を遮断することができた。さらに、BFを最高80%低下させることができるSpAの機械的閉塞は、sMABPやHRにおいて全く変化を生じさせなかった。さらに、SpNの中心端(カフに対して近位)の離断は、SpA血流、sMABP及びHRに対する刺激効果を無効化しなかった。さらに、GEP及びSG断片内のSpNの離断は、これらの変化を防止しなかった。興味深いことに、これらの効果は全て、SpNの末梢端(カフに対して遠位)を切った場合にのみ無効となった。これらのデータは全て、SpA BF及びSpV BFにおける変化がニューロン駆動であり、SpAの狭窄並びに脾嚢の収縮に関係したものであったことを示唆している。他方、sMABP及びHRにおける変化は、恐らくは、脳に向かうニューロン経路の活性化によるものではなく、心臓に向かう脾臓からの血液流出増加によるものであった。
【0237】
少数の動物において、刺激時のSpA血流変化も、脾門での手術中超音波検査を用いてモニタリングした。カラードプラによってSpAを確認した後、BFにおける変化を、図7に示したようにドプラ信号としてモニタリングした。10Hzでの刺激の際、BFにおける低下は、変化した振幅及び血流トレースの形状によって示されるように容易に観察することができると考えられる。
【0238】
考察
脾臓神経刺激は、mSpA BF及びmSpV BF並びに脾臓収縮における一時的局所変化に関連していた。これらの変化は、SpAの平滑筋の直接刺激ではなく、SpNの直接活性化によるものであった。SpN刺激時の脾臓収縮は、他の動物種でも既報である[17]。mSpA BFにおける観察された変化は、動物間で非常に一貫していた。変動は恐らく、主として、異なる動物におけるSpN叢周囲のカフの異なる取り付け具に起因するものであった。SpA BFにおける変化は、非侵襲性の超音波によって容易にモニタリングすることができると考えられることから、臨床状況でもSpNの有効な刺激を評価するためのマーカーとして用いることができると考えられる。
【0239】
SpN刺激時に観察された一時的変化は、振幅及び周波数依存的であることが明らかになった。異なる電流振幅での1分間の刺激の際、最も強いmSpA BF低下は、記録されたeCAPのピークに相当する調べた最高の電流振幅で観察された。全SpN叢を刺激した場合(動脈周囲カフで)又はより小さいカフ内の少数束のみを刺激した場合に、これは当てはまった。SpN叢から及びSpN束から最大eCAPを得るのに必要な総電荷密度における差は、使用した2.5mmカフによる叢の部分的被覆によって説明できると考えられる。実際、ほとんどのブタで、このカフによって、270〜300度の円周被覆しかなされなかった。動脈から切開したSpNの少数束のみでのカフ取り付け時は、被覆はほぼ全体であった。従って、SpN束の至適動員を得るのに必要な電荷密度を制限するためには、動脈の至適な円周被覆が必要であろう。
【0240】
最も強い変化(mSpA BF及びsMABPにおける)は、30〜50Hzの周波数で観察された。送られたパルスの総数が、この変化の大きさを求める上で重要な要素であり得るが、確かに、異なる周波数で送られた同じ数のパルスで生じた変化を比較した場合、30〜50Hzの範囲がやはり、最も強い変化を生じさせた。これは、ネコ脾臓からのNAの最大放出が30Hzで観察されたことを示す既報のデータで説明できるものと考えられる[18、19]。NAの放出が相対的に大きいことで、この刺激範囲で観察される変化の大きさが相対的に大きいことを説明できるものと考えられる。
【0241】
信号パラメータの至適化(試験2)
材料及び方法
至適化された刺激パラダイムを開発するために、本発明者らは、上記の材料及び方法を用いて上記のブタにおけるいくつかの信号パラメータ設定を調べた。
【0242】
パラメータの至適化は、標的効果の低下及びSpN応答の効力上昇に焦点を当てた。特に、SpN刺激によって生じる全身変化がSpAの局所狭窄及び脾臓の収縮に関係していたことから、これらの変化を最小化させることができるパラメータは、全身効果(例えば、sMABP及びHRにおける変化)が望ましくない慢性試験及び臨床試験に移されるべき至適なパラダイムを代表するものであると考えられる。
【0243】
結果
SpNの繰り返し刺激が、ある種の周波数で神経線維において疲労を引き起こすことが認められた。この効果は、i)SpN eCAP振幅の低下及びii)SpN伝導速度の低下という二つの特性からなるものであった。これらの特性の両方とも、1Hzより高い周波数で観察され、周波数が大きくなると疲労効果が大きくなった。実際、1分間の連続で10HzでのSpNの刺激によって、記録された応答に順応が生じ、経時的にeCAPの振幅が低下し(図8A)、記録されるeCAPピークのそれぞれの伝導速度が低下した。この効果は、周波数が高いほど強く(大きさで)、急速であった。例えば、1分間の連続で30HzでのSpNの刺激によって、eCAP振幅(図8A、8B)並びに伝導速度の両方でより急速且つより強い低下が生じた。60秒間の刺激後、10Hz(合計600パルス)パルスによって、eCAP最大振幅の約60%の低下が生じ、30Hzパルス(合計1800パルス)では約80%の低下となった(図8C、8E)。代わりに、1Hzで1分間SpNを刺激した場合、経時的なeCAPの低下(図8A及び8C)は非常に小さく、伝導速度における有意な低下は観察されなかった。同数のパルスでのeCAP振幅の低下を比較すると、10Hz及び30Hzがやはり、より急速且つより強い低下を生じた(図8C)。SpNの繰り返し刺激でのこの疲労効果は、刺激のオフ及びオンを定期的に切り換えることで軽減できるものと考えられる。SpNを連射パラダイムで刺激して、例えば5秒ごとに10Hzで送られる5パルスを提供した場合、eCAP及び伝導速度の低下は無くなった(図8C〜8F)。
【0244】
さらに、10及び30Hzで連続的に刺激した場合、eCAP振幅における急速な増加が第1の5〜20パルス以内で観察された。この相は、振幅及び速度における連続的低下に先行するものであった(図8C及び8E)。
【0245】
前述のように、刺激の周波数は、神経の応答に影響しただけでなく、生理学に異なった形でも影響した。30〜50Hzの周波数によって、sMABPにおける変化を促進するmSpA BFにおける最も強い変化が生じた。それに比べて、≦1Hzの周波数によっては、mSpA BFにおいてほとんど変化は生じなかった。1〜30Hzの周波数によっては、mSpA BFが大きくなる変化が生じた。高い電流振幅を選択することで(ほとんどのSpN線維を動員するため)、10Hz、二相、対称60秒刺激が、少なくとも、mSpA BFにおける50%最大低下を生じさせるのに十分である。同じ二相対称パルス及び電流振幅であるが1Hz周波数によるSpNの刺激によって、10Hz刺激で生じたもの(図9図8F及び8G)より約40%低い(ほぼ70%〜ほぼ50%の低下)mSpA BFにおける低下が生じた。
【0246】
同じことが、二相パルス及び同じ電流振幅を用いて連射刺激(5秒ごとに10Hzで5パルス)を印加した場合に観察された(図9)。重要な点として、刺激を二相、非対称パルス(及び同じ電流振幅)として印加した場合、刺激パラダイムのそれぞれによって、それらの個々の二相、対称パラダイムと比較して低いmSpA BF低下を生じた(図9).この場合であっても、1Hz及び連射刺激によって、mSpA BFにおいて最小変化が生じた。
【0247】
本明細書においては、治療法の標的プロファイルに応じて、生理的変化を有効に刺激する(高周波数)、又はそれらを回避する(低周波数又は連射周波数)ための選択肢を提供しながら、「神経疲労」無しに至適な神経活性化を提供する機会発見についての記述がある。手術中、血流変化を用いて、容易に視覚化された標的エンゲージメントプロファイルを誘発し、装置及び療法が適切に配置され、好適な振幅のものとなるようにすることが非常に有効であり得る。次に、連射又は低周波数刺激への切り換えによって、脾臓エンゲージメントでの効力のために理想的な神経エンゲージメントが確保され、それと同時に、覚醒患者での血流の臨床的に継続的な効果が回避される。
【0248】
考察
至適刺激(従って,効力)のためのパラメータは基本的に、i)非常に一貫し維持された神経の振幅応答を発生させ、ii)可能な最も短い時間ウィンドウで(治療効果を得るために)必要なだけの数のパルスを送って、エネルギー要件及び患者への不快感を低減させ、及びiii)最低スペクトラムのオフターゲット効果を有するべきである。1Hzより高い周波数でのSpNの刺激は、応答(eCAP)振幅及び伝導速度における明瞭な活性依存性変動を示した。この効果は、齧歯類及びヒトの両方で他の無随神経において以前に観察されている[20、21、22、23]。刺激間の間隔を変動させながら間欠的に挿入された0.25Hzコンディショニングパルスでの通常の刺激中、無髄線維は、挿入刺激の数に依存した伝導速度の漸減を示した[20]。同じ効果がSpNの刺激で観察され、その場合、繰り返し刺激によって、伝導速度の低下並びにeCPA振幅の低減が引き起こされた。この効果は、活動電位伝導の「準正常」と称されていた。
【0249】
SpNを10Hzで連続刺激した場合、短期間の応答上昇が観察されており、次に応答相の遅延及び低下があった。この他の期間は以前にも報告されており、「超正常」と称された。活動電位伝導の超正常及び準正常は、恐らく、短時間ウィンドウ(互いから1000ms以下)以内に送った時の膜の脱分極後期間及びその後の過分極の期間のためである[20,21,22]。eCAPを記録した時、電流活性化閾値の上昇を引き起こす軸索でのこの膜変化によって、記録される信号の振幅が小さくなった。これは単に、伝導速度の低下の効果ではなかった。即ち、記録されたeCAPが、より長い潜時にシフトし、全幅の広がり無しに振幅が低下した。実際、測定されたAUCは、経時的に小さくなった。しかしながら、eCAP振幅で観察された低下が活動電位の脱同期化のためであり、その後、化合物応答を記録した時にそれが相殺される可能性がまだある。SpNが実際にこの活性依存性変化を受けることを示すには、単一ユニット記録が理想的であると考えられる。
【0250】
ここで、低周波数刺激(1Hz以下)又は連射刺激(10Hz、5秒ごとで5パルス)によって生じたSpNでの疲労は限定的であったか皆無であり、生じたオフターゲット効果は最も低いものであったことが示された。現在までのところ、二相非対称パルスで送られるこれら二つのパラダイムは、免疫が介在する状態(例えば、炎症障害)の治療のためのSpNの至適刺激パターンを代表するものである。1Hzより高い周波数は血流及び血圧に変化を誘発し、電極位置決め時に神経−標的エンゲージメントを確認する上で有用であり得ると考えられる。
【0251】
in vivoでのLPS動物モデルにおける電気刺激の効果(試験3)
材料および方法
動物
合計18頭のブタ(初期は38頭を超える)(年齢/体重)を、このセクションの試験のために使用した。これらの18頭のブタはいずれも、分析から除外されなかった。
【0252】
一般的設計
別の試験の目的の一部として実施した初期刺激の3時間後、18頭の動物は、5分間にわたって投与される、2.5μg/kgの内毒素(大腸菌O111:B4の細胞膜に由来する精製リポ多糖;Sigma Aldrich)の静脈内注射を受けた。この用量は、利用可能な文献の徹底的な審査および個人的な経験によって選択した。この用量は、敗血性ショック型のモデルを引き起こすために選択した。LPS注射の3時間前にSpN刺激を受けた動物を、2群に分けた:SpNSは、さらなる刺激を受けなかったが、SpN2SはLPS注射の間に2回目のSpN刺激を受けた。
【0253】
刺激パラメーターは、1分間の、10Hzの方形、二相、電荷平衡対称パルス、400μsのパルス持続時間および30〜90μC/Cm2/相の相あたりの電荷密度に対応する電流振幅を含む。刺激を1回印加した後、LPSをin vivoで注射した時間で3時間後に2回目を繰り返した。
【0254】
末梢静脈血を、LPS注射の直前(ベースライン)に収集した後、注射後、30分毎に、2時間まで収集した。この時間枠の終わりに、ブタを安楽死させたか、またはさらなる最後の電気生理学的試験のために用いた。これらの時点の全てについて、サイトカイン分析(TNFαおよびIL-6)、ならびに日常的な血液分析および生化学分析を実施した。血清を、サイトカイン分析のために1:10に希釈した。
【0255】
LPS注射が全身血圧および/または心機能の臨床的変化を引き起こした動物においては、バソプレシン(i.v.投与され、必要に応じて繰り返される2.5IUのボーラス注射)および抗不整脈薬(リドカイン;2mg/kg i.v.および/またはアトロピン;40μg/kg; i.v.)などの標準的な臨床療法を、麻酔医の裁量で与えた。40mmHgを超える平均全身動脈圧を維持できない場合、または動物が所定の終点を完了した場合、動物を安楽死させた。
【0256】
統計分析
全ての分析を、市販の統計ソフトウェア(JMP Pro 13.0.0)を用いて実施した。連続変数を、正規性および外れ値について視覚的に精査した。外れ値が同定された場合、結果のセクションに記述されるようにこれらの動物を含む、および除く統計検定を実施した。
【0257】
サイトカインおよび白血球レベルの変化を、LPS注射の直前に収集されたベースライン試料のパーセンテージとして算出した。続いて、サイトカインおよび白血球レベルを、固定効果としての刺激群、時間および刺激群*時間を含む混合モデル、ならびに無作為効果としての動物を用いて分析した。対応のあるStudentのt検定を、ポストホック分析のために用いた。刺激群間の生存時間の差異を、ログランク検定を用いて分析し、Kaplan Meierプロットでプロットした。サイトカインレベル、白血球および電解質を、ポストホック全対Student t検定分析と共に二元配置分散分析を用いて、LPS注射の30分後に異なる処置群間で比較した;また、この検定を用いて、群間で平均動脈血圧の最大低下を比較した。統計的有意性を、P<0.05と定義した。
【0258】
結果
生存
高用量のLPSの投与は、LPS投与後、5〜10分以内に全身動脈血圧の急速な変化を引き起こした。疑似(非刺激)動物においては、これらの変化はより強力かつより急速であった。多くの動物は、安全なレベルの血圧(平均ABP>40mmHg)を維持するために介入(例えば、バソプレシンの注射)を必要とした。しかしながら、多くの動物において、介入は安全なレベルのABPを回復するのに十分なものではなく、動物には安楽死が必要であった。さらに、ほとんどの動物は、頻脈性不整脈および重症頻脈を示さなかった。刺激された動物(特に、2回の脾神経刺激を受けている動物)は、より小さい規模の変化およびより安定な心血管応答を示した。刺激および疑似動物におけるLPS投与後に記録された事象を、表2にまとめる。
【0259】
表2は、LPS投与後の心血管変化を記載する。この表は、LPS投与後の動物において観察された平均動脈血圧(MABP)の変化、および個々のブタに投与された処置を示す。時間は、LPS注射後の時間を表す。MASS = 体外胸部(心)マッサージ; VAS = バソプレシンの投与(2.5μg/kg i.v.); ATR = アトロピンの投与; LID = リドカインの投与; Time Euth = LPSの投与から安楽死までの時間(分); 所定の終点は120分であった。
注射の2時間後、生存率を図10Aおよび図11Aに報告する。SpN-Tと疑似(シャム)との間に生存率の統計的有意差があった(P=0.0194)。簡単に述べると、LPS注射は、疑似動物の5/6において10〜20分以内に重篤な心血管合併症を誘発し、所定の終点に達する前に安楽死が必要であった(処置にも拘わらずMAP<40mmHg)。逆に、SpN-T刺激動物の5/6、およびSpN-P刺激動物の4/6において、平均動脈血圧を含むバイタルパラメーターは、実験期間を通じて安定なままであった; これらの群について、注射の2時間後のMAPは、それぞれ、ベースライン値の95.3±13.5、85.9±7.5および86.8±9.7%であった。同様に、SpN-Tと疑似との間でMAPの最大低下には統計的有意差があった(P=0.0296、図10Bおよび図11B);安楽死の時点での平均MAPは、SpN-T群においてはベースラインの87.1±23.5%であった(注射後の平均生存時間1.8±0.5時間);SpN-P群においてはベースラインの62.7±33.0%であった(注射後の平均生存時間1.4±0.8時間);および疑似群においてはベースラインの48.6±37.9%であった(注射後の平均生存時間0.9±0.7時間)。
【0260】
サイトカインの定量: 全ての群について、LPS注射は、ベースラインと比較して全ての注射後試料においてTNFαレベルの有意な増加をもたらし(P<0.001; 図10C図10Dおよび図11C図11D)、注射の1時間後にピーク応答が観察された。IL-6は、全ての群にわたって、ベースラインと比較して注射の2時間後に有意に高かった(P<0.0001)。
【0261】
注射の0.5時間後でのサイトカインレベルを比較する場合、TNFαレベルならびにIL-6レベルは、疑似群と刺激群との間で有意差は見られなかった(図10D図11Cおよび図11D)。
【0262】
考察
炎症応答を模倣するためのin vivoでのLPSの投与は、SpNの効能を試験するための良好なモデルを提供した。45〜50kgのブタにおけるLPS(2.5μg/Kg体重)の投与は、試験した全動物の血液中でサイトカイン(TNFαおよびIL-6)の上方調節を引き起こした。特に、TNFαは、注射の1時間後に約12ng/mlのピーク値に達したが、IL-6は、LPSの2時間後に約15ng/mlのピークに達した。LPSは、循環リンパ球および好中球の減少と共に、末梢血組成の有意な変化も引き起こした(結果は示されず)。実際、白血球はおそらく、LPSによって模倣される全身感染の間に、循環から離れ、組織および臓器に浸潤する。経時的な血中尿素、クレアチニンおよび総ビリルビンの有意な増加ならびにCKおよびALPの増加も、LPS後に観察された(結果は示されず)。これらの変化は全て、モデルが有効であり、動物間で再現性があることを示していた。
【0263】
際だって、疑似動物は、LPS投与の約10〜15分後に、全身MABPの非常に急速かつ強力な減少を示した。全身MABPの減少は、急速に生命を脅かすレベルに達し、バソプレシンの投与が必要であった。しかしながら、多くの対照において、これは正常なsMABPを安定に回復するには十分なものではなかった。バソプレシンのさらなる注射を実施した場合であっても、4/6の疑似対照は、そのsMABPを40mmHgより上に保持できなかったため、LPS注射の30分後に安楽死させる必要があった。1匹の疑似動物は、代わりに、同じ理由から、LPS注射の110分後に安楽死させた。いくつかの事例では、不整脈も観察された。
【0264】
反対に、刺激した多くの動物(LPSに対して、-3時間または-3時間および0時間で)は、sMABPのそのような強力な変化を示さなかった。それらの多くは、薬学的介入(すなわち、バソプレシン)を必要としなかった。しかしながら、SpN刺激のこの生存促進効果は、LPSにより誘導されるサイトカインの濃度の低下によっては説明することができなかった。実際、LPS注射の30分後に測定されたTNFαおよびIL-6は、疑似動物と比較した場合、刺激動物において減少しなかった。したがって、このモデルが、SpN刺激が炎症刺激に対する応答を調節することができることの証拠を提供したとしても、これを炎症応答の低下によって単に説明することはできなかった。
【0265】
まとめ
まとめると、本発明者らは、脾臓に分布する神経、特に、脾動脈神経の神経刺激が、in vivoのLPS動物モデルにおいて生存促進効果を示すことを見出した。本発明者らはまた、脾動脈神経の電気的刺激が、LPS処置動物において劇的に低下する血圧を安定化させ、血圧の最大低下を低減することも見出した。したがって、脾神経の神経活動の刺激は、ショック、失血、および心血管機能障害(例えば、外傷、出血性および敗血性ショック)と関連する生理学的変化を有する生命を脅かす状態などの、急性の医学的状態を処置するのに特に有用であり得る。
【0266】
in vivoでのLPS動物モデルにおける連続的電気刺激の効果(試験4)
材料および方法
動物
合計23頭のブタ(体重65〜70Kg)を、このセクションの試験のために用いた。
【0267】
一般的設計
ブタを、終末麻酔し、以下の5群に分けた:疑似群(電極を埋め込むが刺激しない)、デキサメタゾン群(SpNにアクセスした後、-2および0時間で動物にデキサメタゾンを注射した)、LVNS群(ブタの頸部LVNに埋め込んだ)、eLVNS群(ブタの頸部LVNに埋め込み、これを結紮し、カフ電極に対して遠位で切断し、遠心性断端のみを刺激した)、およびSpNS群(ブタの動脈周囲SpNに埋め込んだ)。
【0268】
LVNS、eLVNSおよびSpNSブタの埋め込まれたデバイスを、1Hzで-2時間から+1時間まで(LPSの注射に対して)連続的に刺激した。大腸菌由来LPSを、0時間で全ての群に0.25μg/Kgの用量で投与した。デキサメタゾンを、陽性対照として用いた。
【0269】
末梢静脈血を、LPS注射の2時間前(ベースライン)に収集した後、注射後、30分毎に、4時間まで収集した。これらの時点の全てについて、サイトカイン分析(TNFαおよびIL-6)を、市販のELISAによって実施した。
【0270】
結果
サイトカインの定量。全ての群について、LPS注射は、ベースライン(LPS注射前)と比較して、全ての注射後試料においてTNFαレベルの有意な増加をもたらし、注射の約1時間後にピーク応答が観察された(図12A)。同様の結果が、IL-6について観察された。IL-6応答は、注射の約2.5時間後にピークに達した。
【0271】
注射後、-2時間から+4時間までの曲線下面積(AUC)を算出することにより、群間でサイトカインレベルを比較した。TNFαレベルは、疑似群と比較した場合、SpNならびにLVNSおよびeLVNS群においてほんのわずかに低下した。IL-6については、SpNS群において、ピーク応答値(図12E)とAUC(図12F)との両方において低下があった。疑似対照と比較して、LVNSおよびeVLNS群についても同様の低下が観察された。
【0272】
考察
炎症応答を模倣するためのin vivoでのLPSの投与は、SpN刺激の効能を試験するための良好なモデルを提供した。65〜70 kgのブタにおけるLPS(0.25μg/Kg)の投与は、試験した全動物の血液中でサイトカイン(TNFαおよびIL-6)の上方調節を引き起こした。特に、TNFαは、注射の1時間後に約5ng/mlのピーク値に達したが、IL-6は、LPS注射の2.5時間後に約0.5ng/mlのピークに達した。
【0273】
したがって、このモデルは、SpN刺激が炎症刺激に対する応答を調節することができることの証拠を提供し、SpNの長期的刺激が、特に、IL-6の減少によって見られるように、炎症性サイトカインのレベルを低下させることを示す。これは、特に、迷走神経刺激が自己免疫障害の処置において有益であることを示す最近の証拠を考慮すると、対象における炎症応答を低減させるのに有益であり得る。
【0274】
まとめ
まとめると、本発明者らは、脾臓に分布する神経、特に、脾動脈神経の神経刺激が、in vivoのLPS動物モデルにおいて生存促進効果を示すことを見出した。したがって、脾神経の神経活動の刺激は、炎症障害の処置にとって特に有用であり得る。
【0275】
脾動脈ループの特性評価(試験5)
材料および方法
脾臓への異なる神経経路を精査するために、6人のホルムアルデヒド保存されたヒト死体を試験した。脾臓、胃、膵臓、大網、胃脾間膜、および存在する場合、横隔膜脾間膜の組織ブロックを取り出した。
【0276】
脾動脈一般(例えば、長さ、断面直径など)、脾動脈ループおよび脾動脈分岐のの解剖パラメーター、ならびに脾動脈と周囲の組織との関係に関するパラメーターなどの、脾神経叢と関連する複数の特徴を分析した。
【0277】
脾動脈の組織試料も、免疫組織化学染色(IHC)によって分析した。IHCを用いて、結合した神経組織を検出し、定量した。一般に、交感神経組織および求心性神経組織を、それぞれ、抗タンパク質遺伝子産物0.5(PGP9.5)、抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)および抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体を用いることによって、組織切片中で免疫組織化学的に検出した。免疫組織化学染色および可視化を、日常的な手順を用いて実施した。全ての脾神経叢試料について、自動的に縫い合わせた概観画像(タイルスキャン)を、複合明視野および蛍光顕微鏡画像から生成し、FIJI Image J(追加のプラグインも含む)を用いてさらなる画像分析の対象とした。
【0278】
結果
全ての事例において、脾動脈は腹腔動脈を起源としていた。そのコースの多くは膵上方であったが、いくつかの死体では、脾動脈の一部は膵後方、膵内または膵前方であった。
【0279】
脾動脈の平均絶対長(脾動脈に沿ってコードを置くことによって測定)は18.02cmであり、腹腔動脈での起点から脾臓の仮想矢状面までの平均直線距離は11.67cmであった。仮想矢状面は、脾臓の上極と下極とを接続する線を記載する。脾動脈のその起点での平均直径は、0.52cmであった。脾動脈の終末分岐前のその平均直径は、0.40cmであった。終末分岐の平均数は、5.5(2〜9)であり、終末分岐の平均直径は、0.22cm(0.05〜0.5)であった。表1は、分析されたそれぞれの死体の脾動脈のパラメーターならびにそれぞれのパラメーターの平均値を示す。
【表1】
【0280】
図13は、死体IIIの脾動脈の概観およびその分岐を示す。それぞれの分岐から、SAの起点まで、および脾臓の仮想矢状面までの距離を示す。さらに、ループの位置および寸法を見ることができる。囲みは、顕微鏡観察のために除去した試料の位置を示す。図13bには、脾動脈およびその分岐に沿ったある特定のポイントの直径が描かれる。
【0281】
脾動脈ループ
本実施例の文脈において、脾動脈ループは、少なくとも1.0cmの距離で膵臓の表面から離れた脾動脈の部分と定義される。この距離は、脾動脈の内側湾曲部から、膵臓の表面まで計算される。
【0282】
分析した試料プールにわたって観察される「ループ」の平均数は、1.34であった。1人の死体はいかなるループも呈さず、3人の死体は1つのループを呈し、1人の死体は2つのループを呈し、1人の死体は3つのループを呈した。平均ループ首部(ループの両脚の内側湾曲部間の距離)は、1.99cmであった。ループの第1の脚の外側から、脾動脈起点までの平均距離は、6.48cmであった。ループの第2の脚の外側から、脾臓の仮想矢状面までの平均距離は、4.34cmであった。これらの距離は両方とも、以上に可変性であった。平均ループ高(ループの頂部の内側湾曲部と、膵臓の表面との間の距離)は、1.29cmであった。ループの第1の脚の前およびループの第2の脚の後の脾動脈の平均直径は、それぞれ、0.46cmおよび0.41cmであった。それぞれの死体の個々の、および平均の脾動脈ループパラメーターを、表2に示す。
【表2】
【0283】
免疫組織化学染色
脾動脈ループの周囲の神経束の免疫組織化学分析の結果を、表3に示す。脾動脈周囲の神経束の平均数は、25であった。神経束の平均直径は、119μmであった。交感(TH-IR)神経組織の平均総面積は、総組織面積の平均0.54%(0.10〜1.50)である、196986μm2(12645〜815135)であった。神経血管束(脾動脈とその周囲の組織)の直径は、平均8553μm(5177〜12447)であった。神経束のカフの位置(組織の外膜)までの距離は、平均628μm(32〜2678)であった。
【表3】
【0284】
一般に、総PGP-IR(一般の神経組織)およびTH-IR(交感神経組織)染色は、脾臓脈ループの周囲の神経束において同等であった。CGRP-IR(求心性神経組織)の染色は最小限であった。別の死体から得られた3つの試料について算出されたPGP-IR、TH-IR、およびCGRP-IR神経組織の総面積の試料を、表5に示す。
【表4】
【0285】
考察
本明細書で実施された分析は、脾動脈ループが脾動脈の一般的に観察される特徴であることを示す。ループは、一般的には、脾臓の表面から、脾動脈の内側湾曲部までの距離が約1cm離れていることを特徴とする。この離れている距離は、これらの部位を、脾動脈神経の神経調節のための神経刺激システムの外科的埋め込みのための有用な標的にする。脾動脈ループは、よりアクセスしやすく、膵臓の表面から脾動脈を切除する必要性をなくすことによって、手術により誘導される外傷と関連するリスクが低い。
【0286】
コラーゲン誘導性関節炎を有するマウスにおける疾患の開始の前後での脾動脈神経刺激の効果
材料および方法
埋め込みおよび刺激
脾神経埋め込みのために、1mmの長さの100μmスリング双極性マイクロカフ電極(CorTec)を、脾動脈神経上に埋め込んだ。マウスを麻酔し、Cortec電極を脾動脈神経上に埋め込んだ。手術の5日後、予防処置群においては、1日1回または6回、および28日目に、活動性疾患に関する処置群においては、1日6回、10Hzの周波数で2分間、刺激を開始した(650μAのパルス振幅、2msのパルス幅(正および負)を用いる長方形の荷電平衡二相パルス)。
【0287】
コラーゲン誘導性関節炎の誘導および臨床スコア
ウシII型コラーゲン(0.05M酢酸中の2mg/ml; Chondrex、Redmond、WA)を、等量のFreund完全アジュバント(2mg/mlのマイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacterium tuberculosis); Chondrex)中で混合した。マウスを、0日目に100μlのエマルジョン(100μgのコラーゲン)を用いて尾の基部で皮内的に免疫した。21日目に、マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgのII型コラーゲンのIP追加注射を受けた。11日目で、マウスをイソフルランで麻酔し、脾臓領域を露出させた。1mmの長さの100μmスリングマイクロカフ電極(CorTec)を、脾神経先端部上に埋め込んだ。16日目で、マウスを個々のケージに入れ、PlexStim V2.3(Plexon)刺激装置に接続し、示された日に刺激を開始した。関節炎の重症度を、0〜4の確立された半定量的スコアリングシステム(例えば、臨床スコア)を用いて評価した(ここで、0=正常、1=1つの関節における腫れ、2=1つを超える関節における腫れ、3=足全体での腫れ、および4=変形および/または強直である)。それぞれのマウスの全部で4つの足に関する累積スコア(最大可能スコア16)を用いて、全体的な疾患重症度および進行を表した。発生率の評価について、マウスは、臨床関節スコアが3日連続で少なくとも1ポイントであった場合、関節炎を有すると考えられた。
【0288】
考察
脾動脈神経(SpN)刺激を、マウスにおいて、より慢性の設定、すなわち、コラーゲン誘導性関節炎モデル(CIA)において精査した。マウスを、16日目に開始して、1日6回(4時間毎)、または1日1回、電気的に刺激し、45日まで臨床症状について追跡した(図14左)。全ての疑似マウスは40日以内に関節炎を発症したが、1日6回刺激したマウスは、1匹の動物を除いて、刺激期間(最大45日間)を通して完全に保護された(図14右)。6回の刺激は、1日1回だけの刺激よりも有効であったが、1日1回は、疑似群と比較して疾患重症度を低減させた。疾患の開始後、1日6回の刺激を開始するパイロット実験において(28日目)、臨床スコアの増大(図15)が防止された。
【0289】
予防的処置群(16日目に刺激を開始)においては、刺激を45日目の後に停止させた。30日間の刺激が、疾患発症の長期減少をもたらすことができるかどうか、またはさらには関節炎の臨床兆候をまだ示していない動物における疾患の開始を防止することができるかどうかを評価した。1匹を除く全ての動物が、関節炎を発症したが、臨床スコアは、疑似埋込み動物と比較して平均して低い。
【0290】
ヒト脾臓神経の電気生理学的特性決定:
材料及び方法
ヒトSpN検体
脾臓神経血管束NVBを含むドナー患者からの一つの回収したばかりの組織を、輸送のために氷上の臓器移植に好適な溶液中で保存した。到着したら、検体を解剖顕微鏡下で氷冷クレブス液に入れ、サンプル当たり最小限の1個の個別のSpN束をSpAから注意深く分離し、次に2個の双極円周カフ電極(直径0.65mm、長さ5.5mm;CorTec GmbH)を約10mm離して取り付けて、CAPを誘発及び記録した。束電極被覆率は、全ての移植で100%であると推算された。
【0291】
記録
神経活動をオシロスコープを用いて連続的にモニタリングし、サンプリング速度を20kHzに設定して1401デジタル取得システム及びSpike2ソフトウェア(Cambridge Electronic Design Ltd)を介してデジタル記録した。誘発CAPを平均し(8パルス)、平均応答のピーク間振幅を定量した。eCAP構成要素の伝導速度を、刺激部位と記録部位間の測定距離及びeCAP信号の潜時(刺激アーチファクトのピークからeCAPのピークまで測定)から計算した。
【0292】
結果
ブタサンプルと比較して、ヒトSpAは、既報のようなより回旋状のコースを示した(Michels 1942)。さらに、脾臓NVBをかなりの量の結合組織及び脂肪に埋め込み(図16A)、構造の全周からの記録ができるようにした。しかしながら、解剖顕微鏡を用いて、いくつかの神経束を肉眼で見えるようにし、その後、検体の組織切片によってそのまま確認した(図16B)。これらの束の一部に刺激及び記録カフ電極を取り付けた後(図16A、上下画像)、刺激によって明瞭なeCAPが得られた(図16D、上側トレース)。実験終了後に記録の妥当性を確認するため、刺激電極と記録電極の間で束を押しつぶし、再記録を試みた(図16D、下側トレース)。代表的な動員曲線が、特定のパルス幅で刺激を印加し(例えば、100、200、400、800及び1000μs;PW)、振幅を大きくした時に得られた(図16E)。
【0293】
計算された伝導速度は、無髄線維に代表的な値を示し、伝導速度の範囲及び平均は0.49m/sであり、それに対してブタ(0.7m/s)及びラット(0.72m/s)SpNであった(図16F)。さらに、ヒトSpNのeCAP記録は、神経動員のための電流振幅とパルス幅の間の代表的な強度−期間関係を示した(図16G)。eCAP閾値記録についての計算電荷密度値の線形回帰は、ゼロとは有意に異なる勾配(P=0.0084)を示し、最低PW(100μs)は13.44μC/cm2を必要とし、最長PW(2000μs)は14.7μC/cm2を必要とした。重要な点として、ヒトSpN束についての電荷密度における勾配は、ブタ束についての電荷密度の勾配と同様であることが認められた(図16H)。さらに、切開したヒト束の神経活性化のための電荷密度要件は、あらゆるPWでのブタSpN束の活性化に必要な電荷密度の約1.5〜2倍であった(図16H)。
【0294】
考察
ヒトSpNは、他の哺乳動物と類似の解剖学的、形態学的及び電気生理学的特徴を有する(ブタ及び齧歯類)。ヒトSpNは、伝導速度によって確認されたように無髄軸索で構成されている。従って、ブタで至適化された刺激パラメータ(周波数及び波形)がヒト脾臓神経にも好適であると仮定することが適切である。しかしながら、電荷についての要件は、NVB全体から計算する必要がある。
【0295】
ヒト脾臓解剖学の組織形態計測的特性決定
本試験の目的は、ヒト脾臓解剖学についての理解を深め、組織学を用いて脾臓神経血管束(NVB)の大体の値を推算することにあった(表2参照)。当該試験を、移植患者から得た脾臓組織について実施した。管腔径、動脈壁、束径(平均フェレット径)及び各束の外膜からの大体の距離(脾動脈外壁)についての組織形態計測的推算値を計算した。
【0296】
材料及び方法:
Addenbrooke′s hospital, Cambridge, UKでの移植患者から、五つのヒト脾臓NVBの提供を受けた。切除後できるだけ速やかに、その組織を10%中性緩衝ホルマリン(NBF)に浸漬した。組織の写真を撮り、肉眼測定用に定規を置いた(図17A参照)。組織学検査のため、サンプルを0.5cm〜1.5cmの連続ブロックに切り分けた(図17B参照)。動脈周囲の組織は、ブロックに含めるために保持した。切片を包埋し、各回で、各ブロックの同じ面(即ち、脾臓に対して近位又は遠位)をサンプリングするように切り分けた。その切片は通常厚さ4〜5μmであり、ヘマトキシリン及びエオシン染色剤(H&E)で染色した(図17C参照)。最後に、病理学者が組織の品質チェックを行い、それらのスライドガラスを×20でスキャンした。留意すべき点として、文献のように、10%の組織収縮を計算に入れる。しかしながら、その動脈径は、圧力ゼロを代表するものである。移植患者から提供を受けた全てのサンプルで高い脂肪組織量が認められ、束が脂肪組織の厚い層に埋もれていることが認められた。
【0297】
【0298】
定量化のため、脾臓組織を三つの部分:近位、中央及び遠位に分けた。これらの各部分は、いくつかのセクションからなるものであった。近位端は、図17Aで縫合糸で示した腹腔に近く、遠位は脾臓に近い。これらは両方とも、神経インターフェース設置のための介入部位には適さないであろう。ループのある中央部分が可能な介入部位であると考えられる。
【0299】
要約すると、図18に示したように、束径は20〜400μmの範囲である。束の広がりに関しては、神経線維の約半分が0〜1mmの領域で、30%が1〜2mmで、15%が2〜3mmで、残りが約3〜4mmの領域で認められた。
【0300】
ブタからヒト脾臓神経血管束への変換電荷要件
材料及び方法:
ブタ及びヒト脾臓組織学検査からの組織学データを用いて、3D Finite Element Modelコンピュータシミュレーションを作った。これは、本質的に脾動脈(管腔+動脈壁)及び血管外組織からなる。「血管外組織」は、組織に神経が埋め込まれている「脂肪組織」及び「結合組織」からなる。ブタについては、Cortecカフ(イン・ビボカフを代表する)にスプリットを有するモデルを用いた。ヒトモデルの場合、3アーム構造を有するカフを用いた。使用したカフの直径は9mmであった。
【0301】
ブタ組織学とヒト組織学の間の差の検討:ブタにおける束は動脈周囲に均一に分布しており、非常に近接しているが、ヒトでの束はより分散しているように見え、b)ブタにおける組織学は、血管外ではごくわずかな脂肪組織を示しており、それに対してヒトではかなりの量である。
【0302】
ブタからヒトへ刺激パラメータの推算値を変換するため、下記の二相でモデリングを行った。
相(a):Sim4Lifeシミュレーションツールでの3D Finite Element Model(FEM)の開発
Sim4Lifeを用いて、代表的な神経及び動脈モデル(組織学及び画像定量化に基づく)、カフ及び電極(CADによって規定された規格)及び3D電圧場を開発した。
相(b):同じツールでのFEM解の解析。Sim4Lifeを用いて、Sundt神経モデルを用いて軸索に沿って電圧を内挿し[24]、軸索シミュレーションによって強度−期間曲線及び群動員曲線を推算した。
【0303】
結果
図19Aは、動物5頭からのブタ脾臓神経血管束からのイン・ビボ急性データを表す。電荷要件についての動物5頭からの範囲は、<50mA、400μs及び10Hzで約20〜160μC/cm2と推算される。グレーで表される第3の動物の場合、電荷要件は30mA、400μs及び10Hzで約100μC/cm2であり、それはイン・シリコシミュレーションデータと良好に相関している(図20A参照)。ブタでの計算モデルについてのバリデーションとしてイン・シリコ対イン・ビボの相関を用いて、電荷要件を、二つのパルス幅について組織学セクションを用いてヒト脾臓神経血管束に翻訳した。データを、図20C〜D及び表3に提供している。
【0304】
【0305】
100%の動員についてのヒト急性モデルにおける電荷要件は、約80〜1300μC/cm(400μSパルス幅、12mm2表面積を使用)及び70〜1100μC/cm(1msパルス幅を使用)で変動し得ると推定される。当該要件の約70%が、350μC/cm下で示される。追加の30%動員は、埋込型装置によって適応可能なものを超える電荷要件の指数関数的上昇を必要とする。例えば、100%の要件は70〜1300μC/cmで変動する可能性があり、80%動員の場合は70〜450μC/cm、50%動員の場合は70〜250μC/cm、30%動員の場合は70〜170μC/cmであることがわかる。
【0306】
考察
ヒトにおける神経線維は、ブタと比較して分散性が高い。組織学プロファイリングによって示された脾動脈周囲に広がった束の範囲は、約1〜3mmの範囲であり得る。組織形態計測データをさらに用いて、刺激パラメータを至適化し、計算モデルツールを用いて電荷要件をブタからヒトに翻訳した。Sundt C線維モデルを用いて、ヒトにおける電荷要件は、100%動員のためには約70〜1000μC/cmの範囲であることが示されている。
【0307】
参考文献
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図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図8-6】
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13a
図13b
図13c
図14-1】
図14-2】
図15
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図16-4】
図16-5】
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図18
図19-1】
図19-2】
図20-1】
図20-2】
【国際調査報告】