特表2021-510332(P2021-510332A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-510332心筋梗塞の治療における左心室アンロードのためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-510332(P2021-510332A)
(43)【公表日】2021年4月22日
(54)【発明の名称】心筋梗塞の治療における左心室アンロードのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20210326BHJP
   A61M 60/122 20210101ALI20210326BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20210326BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20210326BHJP
【FI】
   A61M1/36 100
   A61M1/12
   A61L27/50
   A61L29/14
   A61L31/14
   A61L31/16
   A61L29/16
   A61L27/54
   A61L31/02
   A61L29/02
   A61L27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2020-538144(P2020-538144)
(86)(22)【出願日】2019年1月10日
(85)【翻訳文提出日】2020年8月28日
(86)【国際出願番号】US2019013025
(87)【国際公開番号】WO2019140073
(87)【国際公開日】20190718
(31)【優先権主張番号】62/758,164
(32)【優先日】2018年11月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/732,936
(32)【優先日】2018年9月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/615,462
(32)【優先日】2018年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504311419
【氏名又は名称】タフツ メディカル センター インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カプール ネイヴィン ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】カラス リチャード エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフィー ノーム
【テーマコード(参考)】
4C077
4C081
【Fターム(参考)】
4C077AA02
4C077CC03
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077JJ03
4C077JJ16
4C081AB31
4C081AB34
4C081AC08
4C081AC10
4C081CE02
4C081CG01
4C081CG08
4C081DA16
(57)【要約】
本明細書では、持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の不適応心臓リモデリングを低減することによって該患者の心不全の影響を防止または制限する方法を提供する。該方法は、ローターとカニューレとを備える経バルブ血液ポンプを該患者の血管系に経皮的に挿入して、該患者の心臓の左心室に該カニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で、該カニューレを、該心臓の大動脈弁を横切って配置する工程を含む。次に、該方法は、該心臓を再灌流する前に、配置された該ポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で少なくとも30分間から60分間未満までの補助期間にわたって該左心室をアンロードする工程を含む。次に、該方法は、該補助期間の後、該心臓に冠動脈再灌流療法を適用する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の心臓を補助する方法であって、
心筋梗塞後に該患者に機械的循環補助装置を挿入する工程;
該心臓を再灌流する前に、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超の補助期間にわたって該機械的循環補助装置を作動させる工程;および
該補助期間の後、該心臓に再灌流療法を適用する工程
を含む、該方法。
【請求項2】
前記補助期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;15分間超かつ最長約30分間;約20分間〜約45分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械的循環補助装置が、少なくとも3.5L/分の血流の心拍出量を提供する速度で作動される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
挿入された前記補助装置が血液ポンプを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記心臓が、再灌流と同時に前記機械的循環補助装置によってアンロードされる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記機械的循環補助装置が、前記心臓に挿入されるカニューレを備える、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記血液ポンプがマイクロ軸経バルブ(microaxial transvalvular)ポンプを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
大動脈内バルーンポンプまたは体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプによって前記心臓を補助する工程
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記心臓が、4超または5超または6超のSTセグメント上昇合計値(ΣSTE)を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記心臓が6超のΣSTEを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
経バルブ(transvalvular)血液ポンプを該患者に経皮的に挿入して、該患者の心臓の左心室に該ポンプの遠位端が位置する状態で、該ポンプを、該心臓の大動脈弁を横切って配置する工程;
該心臓を再灌流する前に、配置された該ポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で15分間超のポンプ運転期間にわたって該左心室をアンロードする工程;および
該ポンプ運転期間の後、再灌流療法により該心臓を治療する工程
を含む、該方法。
【請求項16】
前記補助期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;15分間超かつ最長約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポンプが、少なくとも3.5L/分の血流のポンプ流量で作動される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記心臓が、再灌流と同時に機械的循環補助装置によってアンロードされる、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記再灌流療法を適用した後に、前記患者の心臓から前記血液ポンプを取り出す工程
を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程
を含む、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程
を含む、請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
患者の心臓における心筋梗塞瘢痕のサイズを縮小させる方法であって、
経バルブマイクロ軸血液ポンプを該患者に経皮的に挿入して、該患者の心臓の左心室に該ポンプの遠位端が位置する状態で、該ポンプを、該心臓の大動脈弁を横切って配置する工程;
該心臓を再灌流する前に、配置された該ポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で15分間超のポンプ運転期間にわたって該左心室をアンロードする工程;および
該ポンプ運転期間の後、再灌流療法を該心臓に適用する工程
を含む、該方法。
【請求項25】
前記ポンプ運転期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;15分間超かつ最長約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポンプが、少なくとも3.5L/分の血流のポンプ流量で作動される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記心臓が、再灌流と同時に前記血液ポンプによってアンロードされる、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記再灌流療法を適用した後に、前記患者の心臓から前記血液ポンプを取り出す工程
を含む、請求項24〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程
を含む、請求項24〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程
を含む、請求項24〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、請求項24〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
心筋梗塞が生じた心臓を補助する方法であって、
患者の心臓の心筋梗塞の後に、機械的循環補助装置を該患者に経皮的に挿入する工程;
該心臓を再灌流する前に、該装置を作動させて、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のアンロード期間にわたって左心室をアンロードする工程;および
該アンロード期間の後、再灌流療法を該心臓に適用する工程
を含む、該方法。
【請求項34】
前記アンロード期間が少なくとも30分間である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記機械的循環補助装置が少なくとも3.5L/分の血流量で作動される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記機械的循環補助装置による前記心臓のアンロードが再灌流療法と同時に適用される、請求項33〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記機械的循環補助装置が、血液ポンプ、例えばTVポンプを備える、請求項33〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
大動脈内バルーンポンプまたは体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプによって前記心臓を補助する工程
を含む、請求項33〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または線維素溶解を含む、請求項33〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程
を含む、請求項33〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程
を含む、請求項33〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、請求項33〜41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程
を含む、該方法。
【請求項44】
前記患者に機械的循環補助を適用することによって、該患者の心臓の左心室からの血流を増加させる工程
を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
増加した前記血流が、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のアンロード期間にわたって提供される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記アンロード期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;約15分間〜約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
増加した前記血流が少なくとも3.5L/分の血流量で提供される、請求項43〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
機械的循環補助を適用した後に、心筋梗塞近くの前記患者心臓組織に再灌流療法を適用する工程
を含む、請求項43〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
再灌流と同時に機械的循環補助を前記患者に適用する工程
を含む、請求項43〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記機械的循環補助装置が、血液ポンプ、例えばTVポンプを備える、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
経バルブマイクロ軸ポンプの作動後または作動中に、大動脈内バルーンポンプおよび体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプのうちの1つまたは複数によって前記心臓を補助する工程
を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
再灌流が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;
該患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
のうちの少なくとも1つを含む、該方法。
【請求項54】
心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;ならびに
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程
を含む、該方法。
【請求項55】
心筋梗塞近くの患者心臓組織への血流を増加させる工程
を含む、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
前記患者の心臓に機械的循環補助を適用する工程
を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記機械的循環補助が、血液ポンプ、例えばTVポンプを備える装置を適用することを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
TVポンプと大動脈内バルーンポンプおよび体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプのうちの1つまたは複数とによって、前記心臓を補助する工程
を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
経血管ポンプを用いて前記患者の心臓の左心室をアンロードする工程
を含む、請求項54〜58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記左心室が、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のアンロード期間にわたってアンロードされる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記アンロード期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;約15分間〜約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記左心室が少なくとも3.5L/分の血流量でアンロードされる、請求項59〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記患者の心臓に機械的循環補助を適用した後に再灌流療法を適用する工程
を含む、請求項59〜62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
再灌流と同時に機械的循環補助を前記患者に適用する工程
を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
機械的循環補助が、TVポンプまたは他の血液ポンプによって提供される、請求項56〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
再灌流が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項63〜65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
該患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
のうちの少なくとも1つを含む、該方法。
【請求項68】
心筋梗塞近くの前記患者心臓組織への血流を増加させる工程
を含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
アンロード期間または他の補助期間にわたって、前記患者の心臓に機械的循環補助を適用する工程
を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
増加した前記血流が、少なくとも2.5L/分の流量で15分間超のアンロード期間にわたって提供される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記アンロード期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約15分間〜約30分間まで;約20分間〜約45分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
増加した前記血流が少なくとも3.5L/分の流量で提供される、請求項68〜71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記患者の心臓に機械的循環補助を前記補助期間にわたって適用した後に、再灌流療法を適用する工程
を含む、請求項69〜72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
再灌流療法と同時に機械的循環補助を前記患者の心臓に適用する工程
を含む、請求項69〜73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記機械的循環補助が、TVポンプまたは他の血液ポンプを備える装置を適用することを含む、請求項69〜74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
大動脈内バルーンポンプまたは体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプによって前記心臓を補助する工程
を含む、請求項67〜75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
再灌流が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項73〜76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法であって、
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;
該患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、該方法。
【請求項79】
持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助するための心臓保護システムであって、
該システムが、
該患者に挿入されるように構成された機械的循環補助装置;および
再灌流療法装置
を備え、
該再灌流療法装置の作動前に該機械的循環補助装置が、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超の補助期間にわたって作動するように構成されている、
該システム。
【請求項80】
前記補助期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;15分間超かつ最長約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項79に記載のシステム。
【請求項81】
前記機械的循環補助装置が、少なくとも3.5L/分の血流量で作動するように構成されている、請求項79または80に記載のシステム。
【請求項82】
前記機械的循環補助装置が、前記再灌流療法装置と同時に作動するように構成されている、請求項79〜81のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項83】
前記機械的循環補助装置がTVポンプまたは他の血液ポンプを備える、請求項79〜82のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項84】
前記機械的循環補助装置の作動後または作動中に作動される次の装置:大動脈内バルーンポンプおよび体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプのうちの1つまたは複数を備える、請求項83に記載のシステム。
【請求項85】
持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助するための心臓保護システムであって、
該システムが、
心筋梗塞後に該患者に経皮的に挿入されるように構成されており、該患者の心臓の大動脈弁を横切って配置されるようなサイズと形状にされており、血液ポンプの遠位端が該心臓の左心室に位置するように構成されている、該血液ポンプ;および
再灌流療法装置
を備え、
該血液ポンプが、該再灌流療法装置の作動前に作動してその後少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のポンプ運転期間にわたって血液をポンピングするようにプログラムされている、
該システム。
【請求項86】
前記ポンプ運転期間が、
20分間超;25分間超;30分間超;35分間超;40分間超;45分間超;約20分間〜約45分間;15分間超かつ最長約30分間;および約30分間〜約40分間
のうちのいずれか1つである、請求項85に記載のシステム。
【請求項87】
前記機械的循環補助装置が少なくとも3.5L/分の血流量で作動される、請求項85または86に記載のシステム。
【請求項88】
前記血液ポンプが前記再灌流療法装置と同時に作動される、請求項85〜87のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項89】
持続的な心筋梗塞を有するヒト心臓を治療する方法であって、
該心筋梗塞が、ある梗塞サイズを有しかつ該心臓の一部分内に位置しており、該方法が、該梗塞サイズを縮小させる工程を含む、該方法。
【請求項90】
梗塞を含む前記心臓の一部分における心臓の心筋酸素要求量を減らし、続いて、該梗塞を含む該心臓の一部分への酸素供給量を回復させることによって、前記梗塞サイズを縮小させる工程が行われる、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3のうちの少なくとも一方のレベルを低下させる工程
を含む、請求項89または90に記載の方法。
【請求項92】
BCL-2およびBCL-XLのうちの少なくとも一方のレベルを増加させる工程
を含む、請求項89〜91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記心臓の心筋サルベージインデックス(MSI)を増加させる工程
を含む、請求項89〜92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記心臓が6超のST上昇合計値(ΣSTE)を有する、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
血液ポンプを患者の血管系に挿入する工程;
前記心臓に再灌流療法を適用する前に、該血管系内の血流を調整するために補助期間の間中該ポンプを駆動する工程;および
該補助期間の後、該心臓に再灌流療法を適用する工程
を含む、請求項89〜94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記補助期間が少なくとも15分間である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記補助期間が少なくとも20分間である、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記補助期間が少なくとも30分間である、請求項96に記載の方法。
【請求項99】
前記補助期間が、少なくとも30分間、約20分間〜約40分間、または少なくとも45分間である、請求項96に記載の方法。
【請求項100】
前記補助期間の間中、少なくとも2.5L/分のポンプ流量で前記心臓の左心室をアンロードする工程
を含む、請求項95〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記血液ポンプがマイクロ軸血液ポンプであり、かつ前記心臓の左心室をアンロードする工程が、該ポンプの遠位端を該左心室に挿入しかつ該ポンプの近位端を大動脈に挿入すること、および、該ポンプを駆動して該左心室から該大動脈に血液をポンピングすることを含む、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
バルーンポンプを前記心臓の大動脈に挿入する工程;ならびに
該大動脈内の血流を調整するためにバルーンを拡張および収縮させる工程
を含む、請求項95〜99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
体外式膜型人工肺システムを前記患者に適用する工程
を含む、請求項95〜102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
前記ポンプがカテーテルによる血管内血液ポンプである、請求項95〜103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記心臓の左心室駆出率を増加させる工程;
該心臓の微小血管閉塞を減少させる工程;
該心臓の左心室収縮末期容積を減らす工程;および
該心臓の左心室拡張末期容積を減らす工程
のうちの少なくとも1つを含む、請求項89〜104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
梗塞を含む前記心臓の一部分における心臓の心筋酸素要求量を少なくとも15分間にわたって減少させ、その後、該梗塞を含む心臓の一部分への酸素供給量を回復させる工程
を含む、請求項89〜105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
前記心臓に対して再灌流療法を行うのと同時に、機械的循環補助装置によって該心臓をアンロードする、請求項89〜106のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項89〜107のいずれか一項に記載の方法。
【請求項109】
前記患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
を含む、請求項89〜108のいずれか一項に記載の方法。
【請求項110】
前記再灌流療法を適用した後に、前記患者の心臓から前記血液ポンプを取り出す工程
を含む、請求項89〜109のいずれか一項に記載の方法。
【請求項111】
心筋梗塞近くの患者心臓組織への血流を増加させる工程
を含む、請求項89〜110のいずれか一項に記載の方法。
【請求項112】
持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の不適応心臓リモデリングを低減することによって該患者における心不全の影響を防止または制限する方法であって、
ローターとカニューレとを備える経バルブ血液ポンプを該患者の血管系に経皮的に挿入して、該患者の心臓の左心室に該カニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で、該カニューレを、該心臓の大動脈弁を横切って配置する工程;
該心臓を再灌流する前に、配置された該ポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で少なくとも30分間から60分間未満までの補助期間にわたって該左心室をアンロードする工程;および
該補助期間の後、該心臓に冠動脈再灌流療法を適用する工程
を含む、該方法。
【請求項113】
前記ポンプを30分間の補助期間にわたって作動させる、請求項112に記載の方法。
【請求項114】
前記ポンプを少なくとも3.5L/分の血流のポンプ流量で作動させる、請求項112に記載の方法。
【請求項115】
冠動脈再灌流の適用と並行して前記ポンプの運転を継続する工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項116】
少なくとも3時間の総補助期間にわたって、冠動脈再灌流の適用と並行して前記ポンプの運転を継続する工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項117】
梗塞サイズおよび左心室瘢痕サイズのうちの少なくとも一方を縮小させる工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項118】
心筋梗塞域内の細胞における遺伝子発現を変化させるために、前記心臓を十分にアンロードするように前記ポンプを作動させる工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項119】
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;
心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;
患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;
心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに
該患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程
のうちの少なくとも1つを含む、請求項118に記載の方法。
【請求項120】
前記心臓が4超のSTセグメント上昇合計値(ΣSTE)を有する、請求項112に記載の方法。
【請求項121】
前記心臓が6超のΣSTEを有する、請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記患者が心原性ショックの状態ではない、請求項112に記載の方法。
【請求項123】
大動脈内バルーンポンプまたは体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプによって前記心臓を補助する工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項124】
前記ポンプの作動と組み合わせて、前記患者に薬物療法を提供する工程
を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項125】
薬物療法が、β遮断薬、後負荷軽減作用物質、神経ホルモン作用物質、およびace阻害物質のうちの少なくとも1つを含む医薬を前記患者に提供することを含む、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
再灌流療法が、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む、請求項112に記載の方法。
【請求項127】
PCIが前記患者にステントを植え込むことを含む、請求項126に記載の方法。
【請求項128】
持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の不適応心臓リモデリングを低減することによって該患者における心不全の影響を防止または制限するための心臓保護システムであって、
ローターとカニューレとを備える血液ポンプであって、該患者の心臓の左心室に該カニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で該カニューレが該心臓の大動脈弁を横切って配置されるように、該血液ポンプが該患者の血管系に経皮的に挿入されるよう構成されている、該血液ポンプ;
冠動脈再灌流療法装置;および
該冠動脈再灌流療法装置の作動前に少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で少なくとも30分間から60分間未満までの補助期間にわたって該左心室をアンロードするように該血液ポンプをプログラムする、該ポンプに連結されたコントローラ
を備える、該システム。
【請求項129】
前記ポンプを30分間の補助期間にわたって作動させる、請求項128に記載のシステム。
【請求項130】
前記ポンプが、冠動脈再灌流装置の適用と並行して作動するように構成されている、請求項128に記載のシステム。
【請求項131】
前記ポンプが、3時間の総補助期間にわたって作動するように構成されている、請求項130に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月10日出願の米国特許仮出願第62/615,462号、2018年9月18日出願の米国特許仮出願第62/732,936号、および2018年11月9日出願の米国特許仮出願第62/758,164号からの35 U.S.C. § 119(e)の下での恩典を主張し、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
冠状動脈の閉塞による急性心筋梗塞(AMI)は、ヒトでは全世界の罹患者数と死亡者数の主な原因である。AMI療法の現在のパラダイムは、心筋酸素供給を再確立するために、AMI後できる限り速やかに冠動脈血流を迅速に回復させる一次再灌流(primary reperfusion)に焦点を合わせている。しかし、タイムリーな再灌流にもかかわらず、初回のAMIを経験した患者の最大25%は、1年以内に心不全(HF)を発症する。現代のSTセグメント上昇型AMI(ST-segment elevation AMI:STEMI)の院内管理は、梗塞サイズを縮小するためにドア・ツー・バルーン(door to balloon:DTB)時間を短縮することに焦点を当てている。しかしながら、90分間以内のDTB時間を達成するための強力なリソース配分(resource allocation)にもかかわらず、AMI後の心不全の発生率は高いままである。心筋梗塞サイズが5%増大するごとに、1年間の全原因による死亡率およびHFによる入院が20%増加し、これは医療リソースに大きな負担をかける。こうした理由により、心筋損傷とそれに続く虚血性HFを制限するための新しいアプローチは、依然として、AMI患者にとって重要な満たされていない要望である。
【0003】
これらの予後不良について、一次再灌流が逆説的に、虚血再灌流障害(IRI)として知られる心筋損傷を悪化させる可能性があるという1つの説明がある。IRIを制限する以前の試みには、再灌流障害サルベージキナーゼ(RISK)経路活性を活性化するための血管コンディショニングアプローチと薬理学的アプローチが含まれるが、これらのアプローチの臨床効果は必ずしも最適ではなかった。これらの心臓保護戦略に対する決定的に重要な障壁は、迅速な冠動脈再灌流の必要条件であり、つまり、それらは心筋障害への治療的影響のための十分な時間を残さない可能性がある。したがって、IRIを軽減または排除する心臓保護メカニズムを促進することによって、心筋損傷を制限するための改善された戦略の必要性が存在する。
【0004】
過去10年間で、日常の臨床診療においては機械的補助装置への依存が高まってきている。補助装置は、経皮的に送達される経バルブ(transvalvular)軸流ポンプ(TVポンプ)、大動脈内バルーンポンプ、体内軸流カテーテル、体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプを備え、心筋障害の治療において普及するようになった。TVポンプの場合、そのような装置は、心臓の左心室から血液を機械的に送り出し、それによって、左心室(LV)の壁ストレス、1回の仕事量、心筋酸素要求量を急速に減少させると同時に、手術の必要性なしに全身の平均動脈圧を増大させて、心臓をアンロード(unload)するのに役立つ。ところが、TVポンプだけを使用しても、心原性ショックを有する患者の30日死亡率は有意に低下せず、それどころか、特定の患者では急性心筋梗塞が悪化したと報告されている(H. Thiele, “Intraaortic Balloon Support for Myocardial Infarction with Cardiogenic Shock”, New England Journal of Medicine, October 4, 2012, vol. 367, No. 14, pp. 1287-1296(非特許文献1))。
【0005】
機械的補助と一次再灌流の併用は、AMI患者の心筋損傷を制限し得ることが提案されている。冠動脈の再灌流を遅らせている間にTVポンプを使ってLVを最初にアンロードすることで(一次アンロード(Primary Unloading))、心筋梗塞のサイズが40〜50%縮小し、かつ心筋保護ケモカイン間質細胞由来因子1α(SDF-1α)の心筋レベルが増加すると報告されている(N. Kapur, “Mechanical Pre-Conditioning with Acute Circulatory Support Before Reperfusion Limits Infarct Size in Acute Myocardial Infarction,” JACC: Heart Failure, vol. 3 no. 11, November 2015(非特許文献2))。
【0006】
AMIモデルの予備的なブタモデルは、一次再灌流療法を、経皮的に送達される体外式の遠心ポンプを用いて左心房をアンロードするまで再灌流療法を遅らせる療法と比較するために研究されており、冠動脈の再灌流を遅らせること(P-アンロード)が心筋障害を軽減する可能性があるという初期の示唆を伴っていた。別の研究では、経皮的に送達される経バルブポンプを動物の左心室に直接適用して、冠動脈の再灌流を60分間遅らせた場合のアンロードの影響を観察している。ヒトにおけるMIの治療への影響はよく理解されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Thiele, “Intraaortic Balloon Support for Myocardial Infarction with Cardiogenic Shock”, New England Journal of Medicine, October 4, 2012, vol. 367, No. 14, pp. 1287-1296
【非特許文献2】N. Kapur, “Mechanical Pre-Conditioning with Acute Circulatory Support Before Reperfusion Limits Infarct Size in Acute Myocardial Infarction,” JACC: Heart Failure, vol. 3 no. 11, November 2015
【発明の概要】
【0008】
概要
本開示は、持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の心臓を補助する改善された方法に関し、再灌流の前に心臓への補助を適用する順序およびタイミングが心臓を改善して、梗塞の影響を低減できるという驚くべき結果を伴う。この技術は、ヒト患者における心不全の影響を防止または制限するためにさらに適用され得る。これは、例えば、患者における不適応心臓リモデリングを低減することによって、行うことができる。この方法(および適用のために構成されたシステム)は、梗塞のサイズを安定化または縮小し;これは、患者の心臓にとって有益である。特定の適用には、梗塞のサイズを縮小するために機械的循環補助装置を適用することが含まれ;ある適用には、遅延期間の後に再灌流療法を適用することが含まれ、ここで、心臓は機械的循環装置により補助される。一般的に、この方法は、当該分野の従来型の方式および理論とは反対のアプローチ−心臓発作を起こした患者に再灌流療法を即時適用するのではない−を取ることによって適用され、この方法(およびシステム)は、最初に、心筋酸素要求量を一定期間減少させる(例えば、心臓をアンロードする)ことによって心臓を補助し、その後、その補助期間の後に心臓の患部への酸素供給量を(例えば、再灌流によって)回復させる。したがって、この方法は、AMIと機械的循環補助開始との間の時間を短縮しようとするものであり、そのような期間は、便宜上「ドア・ツー・アンロード」(door to unload)と呼ばれる。こうしたアプローチを取ることは、ヒト心臓の心筋サルベージを増加させ、かつヒト心臓の梗塞サイズを縮小できることが分かった。さらに、そうしたアプローチは、例えば患者の不適応心臓リモデリングを低減することによりヒト患者における心不全の影響を防止または制限するという驚くべき効果を有する。
【0009】
本開示の一態様によれば、ヒト患者の心臓を補助する方法が提供される。この方法は、(i)心筋梗塞後にヒト患者に機械的循環補助装置を挿入する工程;(ii)心臓を再灌流する前に、その機械的循環補助装置を一定の補助時間(補助期間)にわたり作動させる工程;および(iii)補助期間の後に、心臓に再灌流療法を適用する(例えば、ステントを挿入するか、または、薬物療法を適用して冠血管系の狭窄部もしくは閉塞部を解放する)工程を含む。補助期間は、好ましくは15分間超である。例えば、補助期間は少なくとも30分間、かつ60分間未満であることができる。機械的循環補助装置は、少なくとも2.5L/分の血流量でポンピングするように作動する心臓支援装置である。
【0010】
本開示の別の態様によれば、持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供される。この方法は、経バルブ血液ポンプを患者に経皮的に挿入して、患者の心臓の左心室に該ポンプの遠位端が位置する状態で、該ポンプを、心臓の大動脈弁を横切って配置する工程を含む。その後、心臓を再灌流する前に、この方法は、配置されたポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で15分間超のポンプ運転期間にわたり、左心室をアンロードする工程を続行する。ポンプ運転期間の後、この方法は次に、再灌流療法により心臓を治療する工程を含む。
【0011】
本開示のさらなる態様によれば、患者の心臓における心筋梗塞瘢痕のサイズを縮小させる方法が提供される。この方法は、経バルブマイクロ軸(transvalvular microaxial)血液ポンプを患者に経皮的に挿入して、患者の心臓の左心室に該ポンプの遠位端が位置する状態で、該ポンプを、心臓の大動脈弁を横切って配置する工程を含む。この方法は次に、心臓を再灌流する前に、配置された該ポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で15分間超のポンプ運転期間にわたって左心室をアンロードする工程を含む。ポンプ運転期間の後、この方法は、再灌流療法を心臓に適用する工程を含む。
【0012】
本開示の別の態様によれば、心筋梗塞が生じた心臓を補助する方法が提供される。この方法は、患者の心臓の心筋梗塞の後で、心臓を再灌流する前に、機械的循環補助装置を患者に経皮的に挿入する工程、該装置を作動させて、少なくとも2.5L/分の血流量(例えば、3.5L/分)で15分間超のアンロード期間にわたって左心室をアンロードする工程、およびアンロード期間の後、再灌流療法を心臓に適用する工程を含む。
【0013】
本開示の別の態様によれば、心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供される。この方法は、(i)心筋梗塞領域(リスク領域)の患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;ならびに(ii)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程を含む。
【0014】
本開示の別の態様によれば、心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供され、この方法は、(i)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;(ii)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;(iii)心筋梗塞領域の患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;(iv)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;(v)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質の発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;(vi)患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;(vii)心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに(viii)患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞領域におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程のうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
本開示の別の態様によれば、心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程を含む、心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供される。この方法は、心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程を含み得る。この方法はまた、心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程を含み得る。このような方法は、経バルブポンプまたは体外式ポンプなどの、機械的循環補助装置を用いて行うことができる。
【0016】
本開示のさらなる態様によれば、患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程を含む、心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供される。この方法はまた、心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程を含む。この方法はさらに、患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程を含む。
【0017】
本開示の別の態様によれば、心筋梗塞を有する患者の心臓を補助する方法が提供され、この方法は、(i)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;(ii)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;(iii)心筋梗塞領域の患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;(iv)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;(v)心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;(vi)患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;(vii)心筋梗塞領域の患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに(viii)患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞領域の患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程を含む。
【0018】
本開示の一態様によれば、持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助するための心臓保護システムが提供される。このシステムは、患者に挿入されるように構成された機械的循環補助装置と、再灌流療法装置とを備える。再灌流療法装置の作動前に機械的循環補助装置が、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超の補助期間にわたって作動するように、このシステムは構成される。
【0019】
本開示の別の態様によれば、持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助するための心臓保護システムが提供される。このシステムは、心筋梗塞後に患者に経皮的に挿入されるように構成された血液ポンプを備え、該ポンプは、患者の心臓の大動脈弁を横切って配置されるようなサイズと形状にされており、該ポンプの遠位端は心臓の左心室に位置するように構成される。このシステムはまた、再灌流療法装置も備える。このシステムは、血液ポンプが、再灌流療法装置の作動前に作動してその後少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のポンプ運転期間にわたって血液をポンピングするようプログラムされるように、構成される。
【0020】
本開示のさらなる態様によれば、持続的な心筋梗塞を有するヒト心臓を治療する方法が提供され、該心筋梗塞は、ある梗塞サイズを有しかつ心臓の一部分内に位置しており、該方法は該梗塞サイズを縮小させる工程を含む。
【0021】
本開示の別の態様によれば、持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の不適応心臓リモデリングを低減することによって患者における心不全の影響を防止または制限する方法が提供される。この方法の適応形態は、ローターとカニューレとを備える経バルブ血液ポンプを患者の血管系に経皮的に挿入して、患者の心臓の左心室に該カニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で、該カニューレを、心臓の大動脈弁を横切って配置する工程を含む。心臓の再灌流に先立って、この方法は次に、配置されたポンプを作動させて、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で少なくとも30分間から60分間未満までの補助期間にわたって左心室をアンロードする工程を含む。補助期間の後、この方法は、心臓に冠動脈再灌流療法を適用する工程を含む。不適応心臓リモデリングには、限定するものではないが、心臓のサイズ、形状、構造、および機能の変化のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0022】
本開示のさらなる態様によれば、持続的な心筋梗塞を有するヒト患者の不適応心臓リモデリングを低減することによって患者における心不全の影響を防止または制限するためのシステムが提供される。このシステムはローターとカニューレとを備える血液ポンプを備え、患者の心臓の左心室にカニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で該カニューレが心臓の大動脈弁を横切って配置されるように、該血液ポンプが患者の血管系に経皮的に挿入されるよう構成されている。このシステムは、ポンプの運転を制御するようにポンプに連結されたコントローラをさらに備え得る。このシステムはまた、冠動脈再灌流療法装置を備える。この態様では、コントローラは、冠動脈再灌流療法装置の作動前に、少なくとも2.5L/分の血流のポンプ流量で少なくとも30分間から60分間未満までの補助期間にわたって左心室をアンロードするように血液ポンプをプログラムする。
【0023】
特定の実施形態では、補助期間は約30分間であるか、または15〜30分間であり得る。ある実施形態では、補助期間は30分間超であるか、または45分間超である。ある実施形態では、機械的循環補助装置は、少なくとも3.5L/分の血流量でポンピングする。特定の実施形態では、この装置は、患者の心臓内に留置されるカニューレを提供し、該カニューレを通して血液をポンピングする。ある実施形態では、この装置は、心臓から血液をポンピングするように機械的に作動する、モーターおよび搭載ローター・ステーターを備えるマイクロ軸血液ポンプであり;ある実施形態では、この装置は外部モーターによって作動し、ポンプモーターを患者の外側に配備することができ、かつ患者の血管系を通って心臓まで延びる長いカニューレに依拠している。適切な機械的循環補助装置の例は、経バルブマイクロ軸ポンプ(例えば、Impella CPなどのImpella(登録商標)血液ポンプ、または類似の装置)であり;このポンプは経皮的または外科的に大動脈に、大動脈弁を横切って挿入され、該ポンプが左心室から血液を送り出し、それによって、左心室を「アンロード」することを可能にする。ある適応形態では、この方法は、ローターとカニューレとを備える経バルブマイクロ軸血液ポンプ(TVポンプ)を患者の血管系に経皮的に挿入して、患者の心臓の左心室に該カニューレの遠位端が位置しかつ大動脈内に該ポンプの近位端が位置する状態で、該カニューレを、心臓の大動脈弁を横切って配置する工程を含む。また、本明細書に開示される方法に従って心腔(例えば、心房または心室)をアンロードするために、体外式ポンプを使用することもできる(例えば、Tandem Heart)。左心房または右心房のアンロードが可能であり、右心室も同様である。
【0024】
特定の実施形態では、心臓は、再灌流と同時に(例えば、心臓をアンロードした後で)機械的循環補助装置によってアンロードされる。このアンロードの期間は、少なくとも30分間、少なくとも3時間、またはそれ以上であることができる。本開示の方法では、様々な機械的循環補助装置が単独でまたは組み合わせて使用され得る。例えば、大動脈内バルーンポンプを使用して、遅延期間の後に心臓への補助を提供することができる。ある実施形態では、装置の組み合わせが使用される。例えば、左心室をアンロードするためにTVポンプを使用し、同時に体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプ、大動脈内バルーンポンプ、または他の機械的循環補助システムを組み合わせて使用してもよい。ある実施形態では、本開示の方法における再灌流療法は、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、(i)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3抗体のレベルを低下させる工程;(ii)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルを増加させる工程;(iii)心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルを増加させる工程;(iv)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルを維持する工程;(v)心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質発現および活性のアップレギュレーションを制限する工程;(vi)患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;(vii)心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに(viii)患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程のうちの1つまたは複数を含む。これらの方法は、前述の工程の任意の組み合わせ(または全て)が実施されるように適用され得る。前述の態様の方法のいずれかにおける工程(i)〜(viii)のうちの1つまたは複数の実施は、ヒト患者における心不全の影響を防止または制限するという驚くべき結果をもたらす。これは、例えば、患者における不適応心臓リモデリングを低減することによって、行うことができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、ΣSTEレベルが上昇している患者における梗塞サイズを縮小するために適用され得る。例えば、この方法は、MIおよび少なくとも4(例えば、5、または6、または6超)のΣSTEレベルを有する患者の左心室をアンロードして、その患者の梗塞サイズを縮小することによって適用され得る。特定の実施形態では、この方法は、梗塞サイズおよび左心室瘢痕サイズを縮小させるために適用され得る。ある実施形態では、この方法はまた、患者に機械的循環補助を適用することによって、患者の心臓の左心室からの血流を増加させる工程を含む。特定の実施形態では、血流の増加は、少なくとも2.5L/分の血流量で15分間超のアンロード期間にわたり提供される。特定の実施形態では、この方法はまた、機械的循環補助を適用した後に、心筋梗塞近くの患者心臓組織に再灌流療法を適用する工程を含む。さらなる実施形態では、このシステムは、機械的循環補助装置の作動後または作動中に作動される以下の装置のうちの1つまたは複数を備える:大動脈内バルーンポンプ、および体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプ。
【0027】
いくつかの実施形態では、梗塞を含む心臓の一部分における心臓の心筋酸素要求量を減らし、続いて、梗塞を含む心臓の該部分への酸素供給量を回復させることによって、梗塞サイズを縮小することは行われる。特定の実施形態では、この方法は、心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ3のうちの少なくとも一方のレベルを低下させる工程を含む。他の実施形態では、この方法は、BCL-2およびBCL-XLのうちの少なくとも一方のレベルを増加させる工程を含む。さらなる実施形態では、この方法は、心臓の心筋サルベージインデックス(myocardial salvage index:MSI)を増加させる工程を含む。
【0028】
特定の実施形態では、この方法はまた、(i)血液ポンプを患者の血管系に挿入する工程;(ii)心臓に再灌流療法を適用する前に、血管系内の血流を調整するために補助期間の間中該ポンプを駆動する工程;および(iii)補助期間の後、心臓に再灌流療法を適用する工程を含む。ある実施形態において、補助期間は少なくとも15分間である。他の実施形態では、補助期間は少なくとも30分間、約20分〜約40分間、または少なくとも45分間である。
【0029】
さらなる実施形態では、この方法はまた、補助期間の間中、少なくとも2.5L/分のポンプ流量で心臓の左心室をアンロードする工程を含む。ある実施形態では、血液ポンプはマイクロ軸血液ポンプであり、左心室をアンロードする工程は、該ポンプの遠位端を左心室に挿入しかつ該ポンプの近位端を大動脈に挿入すること、および、該ポンプを駆動して左心室から大動脈に血液をポンピングすることを含む。特定の実施形態では、この方法は、(i)バルーンポンプを心臓の大動脈に挿入する工程、ならびに(ii)大動脈内の血流を調整するために該バルーンを拡張および収縮させる工程を含む。他の実施形態では、該ポンプはカテーテルに基づいた血管内血液ポンプである。
【0030】
いくつかの実施形態では、この方法は、(i)心臓の左心室駆出率を増加させる工程;(ii)心臓の微小血管閉塞を減少させる工程;(iii)心臓の左心室収縮末期容積を減らす工程;および(iv)心臓の左心室拡張末期容積を減らす工程のうちの少なくとも1つを含む。他の実施形態では、この方法は、梗塞を含む心臓の一部分における心臓の心筋酸素要求量を少なくとも15分間にわたって減少させ、その後、梗塞を含む心臓の一部分への酸素供給量を回復させる工程を含む。特定の実施形態では、心臓に対して再灌流療法を行うのと同時に、機械的循環補助装置によって心臓をアンロードする。いくつかの実施形態では、再灌流療法は直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および線維素溶解のうちの少なくとも一方を含む。
【0031】
さらなる実施形態では、この方法はまた、(i)患者の血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルを低下させる工程;(ii)心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルを増加させる工程;ならびに(iii)患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下させる工程を含む。ある実施形態では、この方法はまた、再灌流療法を適用した後に、患者の心臓から血液ポンプを取り出す工程を含む。他の実施形態では、この方法はまた、心筋梗塞近くの患者心臓組織への血流を増加させる工程を含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、前述の態様のいずれかに従うこれらの方法は、冠動脈再灌流の適用と並行してポンプの運転を継続する工程を含み得る。特定の実施形態では、少なくとも3時間の総補助期間にわたって、冠動脈再灌流の適用と並行してポンプを作動させる。他の実施形態では、これらの方法は、心筋梗塞域内の細胞における遺伝子発現を変化させるために、心臓を十分にアンロードするようにポンプを作動させる工程を含み得る。心臓をアンロードするとは、ヒト患者において心不全の影響を防止または制限するという利点があるような方法である。これは、例えば、患者における不適応心臓リモデリングを低減することによって、行うことができる。さらなる実施形態では、これらの方法は、ポンプの作動と組み合わせて、患者に薬物療法を提供する工程を含み得る。特定の実施形態では、薬物療法は、β遮断薬、後負荷軽減作用物質、神経ホルモン作用物質、およびace阻害物質のうちの少なくとも1つを含む医薬を患者に提供することを含み得る。
【0033】
本開示のさらに有利な実施形態は、以下に記載される実施例およびクレームの態様において提供される。
【0034】
本開示をレビューした後では、当業者は、様々な変形および修正を考え付くであろう。開示された特徴は、本明細書に記載の1つまたは複数の他の特徴との任意の組み合わせおよび部分組み合わせ(複数の依存的な組み合わせおよび部分組み合わせを含む)で実施され得る。その任意の構成要素を含む、記載または例示された様々な特徴は、他のシステムに合体または統合することができる。さらに、ある種の特徴は省略されることまたは実施されないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
上記のおよび他の目的と利点は、同様の参照文字が全体を通じて同様の部分を指す添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を考慮することで明らかになるであろう。
図1】本開示の実施形態による例示的な心臓保護システムを示す。
図2】持続的な心筋梗塞を有する患者の心臓を補助するための例示的な方法を示す。
図3図2の方法を用いた実施例1の試験の方法論を概説するフローチャートを示す。
図4図2の方法を用いた実施例1の試験についてのアンロード・ツー・バルーン(unload to balloon)時間の散布図を示す。
図5図5A〜5Cは、図2の方法を用いた実施例1の試験の結果についてのST上昇合計値によって階層化されたCMR箱ひげ図を示す。
図6図6Aは、図2の方法を用いた実施例2の試験における、再灌流のみ(グループ1)、再灌流前の15分間(グループ2)または30分間(グループ3)の左心室アンロード、または再灌流後の左心室アンロード(グループ4)の効果を説明するフローチャートを示す。図6Bは、実施例2の試験による各グループについてのリスク領域に対するパーセンテージとしての梗塞領域を示す(一元配置分散分析=全4グループで0.017)。
図7図7Aは、再灌流のみ(グループ1)、および再灌流前の30分間の左心室(LV)アンロード(グループ3)を使用して(n=3/グループ)、偽手術対照との間の遺伝子発現の変化を説明するゲノムヒートマップを示す。図7Bは、図3で言及された試験のさらなる結果を説明するグラフを示し、図7Aのグループ1(青)またはグループ3(オレンジ)の梗塞域内からの電子伝達鎖の主要成分からの代表的な遺伝子の相対的メッセンジャーリボ核酸レベルを示している;*偽対照に対してp<0.05;#一次再灌流に対してp<0.05。図7Cは、図7Aの偽対照からの、ならびにグループ1およびグループ3の梗塞域内からの、心筋細胞ミトコンドリアの代表的な透過型電子顕微鏡写真を示す。
図8図8Aおよび8Bは、図2の方法に従って行われた2回目の試験の結果を示し、偽対照と、定量化された急性心筋梗塞を有する各グループについてのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に正規化された間質細胞由来因子-1α(SDF1α)およびCXCR4の左心室(LV)タンパク質レベルのウエスタンブロットと定量化グラフを示している(グループ1:再灌流のみ;グループ2:再灌流前の15分間のLVアンロード;グループ3:再灌流前の30分間のLVアンロード;およびグループ4:再灌流30分後のLVアンロード;n=4/グループ)。図8Cおよび8Dは、図8Aの偽対照から、ならびにグループ1およびグループ3(n=4/グループ)の梗塞域内の組織から、採取されたSDF1およびCXCR4のmRNAレベルの定量化を示す。図8Eおよび8Fは、図8Aの偽対照から、ならびにグループ1およびグループ3(n=4/グループ)の梗塞域内の組織から、採取されたSDF1およびCXCR4のmRNAレベルの定量化を示す。図8Gおよび8Hは、図8Aの偽対照ならびにグループ1およびグループ3(n=4/グループ)の梗塞域から採取されたサンプルからのジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)タンパク質のレベルおよび活性の定量化を示す;*偽対照に対してp<0.05;#グループ1に対してp<0.05。図8Iは、図2の方法を使用して、ビヒクルまたはCXCR4阻害物質AMD3100のいずれかの冠動脈内送達を伴う30分間のLVアンロードとその後の再灌流を受けたグループ(n=4/グループ)間の、リスク領域に対するパーセンテージとしての梗塞サイズの定量化を示す。図8Jは、図2の方法を使用した後の梗塞域におけるリン酸化型および総Akt、リン酸化型および総細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、ならびにリン酸化型および総グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3b)(n=4/グループ)の定量化を示す;*LVアンロード+ビヒクルに対してp<0.05。
図9図9A〜9Cは、偽対照ならびに図8Aで定義したグループ1および3(n=3/グループ)の梗塞域からの、β-アクチンレベルに正規化されたアポトーシス促進(Bax、カスパーゼ-3)および抗アポトーシス(B細胞リンパ腫-2[BCL-2]および巨大B細胞性リンパ腫[BCL-XL])の左心室(LV)タンパク質レベルのウエスタンブロットおよび対応する定量を示す;*偽対照に対してp<0.05;#グループ1に対してp<0.05。図9Dおよび9Eは、図9Aの偽対照からの、ならびにグループ1およびグループ3(n=3/グループ)の梗塞域内からの、LV組織由来のデオキシリボ核酸断片化についてのTUNEL陽性染色を示す。
図10図10Aは、図2の方法を使用した後の梗塞域における、心臓磁気共鳴画像法(CMR)による遅延ガドリニウム造影(late gadolinium enhancement:LGE)を使用した、または解剖病理学による(n=6/グループ)、一次再灌流または一次アンロード後28日のLV瘢痕サイズの定量化を示す。図10Bは、LV瘢痕サイズのLGE-CMR定量化と解剖病理学的定量化との間の相関を示す回帰プロットを示す。図10Cおよび10Dは、青色または赤色の円内のLV瘢痕を示す代表的なCMR画像を示す。図10Eは、P-再灌流(PR)またはP-アンロード(PU)(n=4/グループ)後の28日間にわたるSDF-1αの循環レベルを示す。図10Fは、偽手術、P-再灌流、またはP-アンロード(n=6/グループ)後28日の梗塞域内のSDF-1aのタンパク質レベルを示す。図10Gは、心筋梗塞後28日の血漿SDF-1aレベルと総左心室に対するパーセンテージとしてのLV瘢痕サイズとの間の相関を示す回帰プロットを示す。*偽対照に対してp<0.05;†P-再灌流に対してp<0.05。
図11図11A〜11Cは、図2の方法を使用した一次再灌流または一次アンロード後28日のLV組織(非梗塞域)からのB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベル、mRNAレベル、およびタンパク質レベルを示す。図11D〜11Gは、図2の方法を使用した一次再灌流または一次アンロード後28日のLV組織(非梗塞域)からの筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)、カルシニューリン、I型コラーゲン(COL1)、およびβ-ミオシン重鎖(b-MHC)のメッセンジャーリボ核酸(mRNA)レベルを示す。
図12】再灌流前に最低30分間、左心室を機械的にアンロードすることの効果を概略的に示しており、これは、間質細胞由来因子-1α(SDF1a)を分解するタンパク質分解酵素の発現を制限し、それにより心臓保護シグナル伝達を増大させて細胞生存を改善し、かつ急性梗塞サイズとそれに続く急性心筋梗塞後28日の心筋瘢痕サイズの両方を縮小させる。DPP-4=ジペプチジルペプチダーゼ-4;LV=左心室;MMP=マトリックスメタロプロテイナーゼ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
前記システムおよび方法の全体的な理解を提供するために、いくつかの例示的な実施形態を説明することにする。本明細書に記載の実施形態および特徴は、循環および再灌流療法のシステムに関連して使用するために具体的に説明されるが、以下に概説する構成要素および他の特徴は、適切な方法で互いに組み合わせることができ、また、他のタイプの循環療法および再灌流療法装置に適合させて応用することができることが理解されよう。さらに、特定の実施形態は循環および再灌流療法の特定の装置に関して本明細書で説明されるが、これらの様々な実施形態は、治療効果を高めると共にAMI後の患者の命を維持するために、様々な組み合わせで使用され得ることに留意すべきである。
【0037】
図1は、本開示の実施形態による機械的補助と一次再灌流との組み合わせを提供するためのシステム100を示す。システム100は、心臓120にAMIを経験したヒト患者110において心筋損傷を制限することに狙いを定めている。このシステム100は、循環ユニット130と、再灌流療法を提供するための装置140(または他の供給源)とを備える。循環ユニット130は制御ユニット150と連通している。制御ユニット150は、循環ユニット130によって発せられた信号を監視し、それに応じて、循環ユニット130を備える装置(または他の供給源)の作動を制御することができる。これらの信号は、次のうちのいずれか1つを示すことができる:循環ユニット130の作動状態、再灌流療法のための装置140の位置および状態、ならびに患者の心臓の状態。AMI患者からのサンプル、例えば血液または心臓組織は、特性評価およびさらなる試験のために、循環ユニット130もしくは再灌流療法のための装置140のいずれかから、または生検もしく他の供給源から得ることができる。これは、これらのサンプルから様々な徴候を抽出して、それらを臨床医が監視できるようにするために、テストキットまたは検査室を介して行うことができる。そのような徴候には、例えば、心筋梗塞瘢痕サイズ、および以下のセクションで詳述される関連パラメータが含まれる。
【0038】
循環ユニット130は、例えば患者の心臓の左心室に挿入することができる、機械的循環補助装置を備える。このような機械的循環補助装置は、心臓の実際の心拍出量をはるかに超えて血流を変化させることができる。例えば、機械的循環補助装置は、AMI患者の心臓の左心室に挿入され、該心室から血液を送り出すことによって心臓をアンロードするために駆動される。これはいくつかの可能な方法で心臓を支援することができる。例えば、心筋壁のストレスが軽減される。これは、アンロードの機構が心筋のサルベージと修復に役立つため、有益である。本開示の一実施形態によれば、機械的循環補助装置は、経バルブマイクロ軸血液ポンプを備え得る。そのような血液ポンプの例には、Abiomed, Inc., Danvers, MAによるImpella 2.5(商標)およびImpella CP(登録商標)が含まれるが、これらに限定されない。体外式ポンプなどの、他のタイプの機械的循環補助装置を使用して、心臓を補助することもできる。例えば、体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプまたは大動脈内バルーンポンプが使用可能である。ある適応形態では、経バルブポンプは別のそのような装置と組み合わせて使用される。
【0039】
機械的循環補助装置に加えて、循環ユニット130はまた、心臓のアンロードを支援する追加のポンプ装置を備えてもよい。そのようなポンプ支援装置の例には、大動脈内バルーンポンプおよび体外式膜型人工肺(ECMO)ポンプのいずれか1つが含まれるが、これらに限定されない。例えば、経バルブポンプが心臓をアンロードしている間に、患者をさらに支援するためにバルーンポンプまたはECMO装置が適用される。さらに、循環装置はポンプと流体連通しているカニューレ部分を備えることができ、該カニューレの遠位端は患者の心臓内に位置してもよく、かつ該ポンプは、(a)該カニューレと共に心臓内、(b)心臓の外側であるが患者の内部、および(c)患者の外部のいずれか1つに位置してもよい。
【0040】
本開示の一実施形態では、AMIを起こしている患者に再灌流療法を施すために装置140が使用される。このような再灌流療法には、例えば、直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が含まれる。こうした処置は、遠位の左前下行枝(left anterior descending artery:LAD)に送達される冠動脈ステントの使用を含むことができる。そのような冠動脈ステントの例には、限定するものではないが、Promus PREMIER(商標)およびREBEL(商標)ベアメタルプラチナ・クロム冠動脈ステント、およびSYNERGY(商標)生体吸収性ポリマーステントが含まれ、これらの全てはBoston Scientific社(Marlborough, MA)によるものである。特定の態様では、再灌流療法140は、線維素溶解を支援することができる薬物または医薬を含んでもよく、それにより、ステントまたは他の装置との組み合わせで、またはそれに代わるものとして再灌流療法を提供する。
【0041】
キットまたは検査室は、心筋梗塞に関連する以下の臨床徴候をもたらすことができる:心筋梗塞部位近くのまたはその領域の患者心臓組織におけるBAX、BCL-2、BCL-XL、DPP-4および間質細胞由来因子1α(SDF-1α)のタンパク質レベル、活性型カスパーゼ-3抗体レベル、MMP-2およびMMP-9酵素レベル;心筋梗塞域近くのまたはその領域の患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベル;心筋梗塞域近くまたはその領域におけるカルシニューリン活性およびI型コラーゲンのレベル;患者の左心室から採取された血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベル;心筋サルベージインデックス;および心電図マップからのST上昇の合計値。
【0042】
図2は、AMI患者の心臓の左心室をアンロードするための例示的な方法200のフローチャートを示す。この方法は工程S210で開始し、ここでは、循環装置、例えば図1の循環ユニット130の機械的循環装置が心筋梗塞後に患者に挿入される。そのような挿入は、患者の右内頸静脈に、左頸動脈に、ならびに1つまたは複数の大腿動脈および静脈に配備された血管アクセスシースを用いることで達成され得る。そのような挿入処置のさらなる臨床的詳細、および方法200の関連する代表的な支持データは、以下のセクションの実施例1および2に詳述される。
【0043】
次に、方法200は工程S220に続き、ここでは循環装置を工程S230で作動させて、例えば心筋梗塞後に患者の心臓をアンロードすることによって、心臓を補助する。ここで、循環装置は、心臓の左心室からの血流の少なくとも2.5L/分のポンプ流量を達成するように作動される。特定の実施形態では、循環装置は、心拍出量あたり少なくとも3.5L/分の心臓の左心室からの血流量を達成するように作動される。アンロードは、梗塞サイズの縮小を促進するように十分長い期間(補助期間t_sp)にわたって行われる。ある実施形態では、補助期間t_spが経過した後に循環装置の運転を終了する。他の実施形態では、補助期間は、循環装置が運転を開始してから時間t_spが経過したことを示すマーカーとして単に使用され、t_spが経過した後に循環装置の運転を止める必要はない。以下のセクションで詳述される実施例1は、本開示の方法200を使用して、心筋梗塞後に患者の心臓をアンロードする工程についての支持データを提供する。ある実施形態によると、補助期間t_spは15分間超である。他の実施形態によると、補助期間t_spは30分間超である。
【0044】
心臓が工程S230で補助期間にわたってアンロードされた後、この方法は工程S240に進み、ここでは、再灌流療法が患者の心臓に適用される。再灌流療法は再灌流装置、薬物、または他の技術を用いて施され、図1では再灌流装置140が適用される。そのような再灌流療法処置の臨床的詳細、および方法200の関連する代表的な支持データは、以下の実施例1および2に提供される。本開示のある実施形態によれば、再灌流療法は、心臓の左心室をアンロードした後で、患者の心臓に適用され得る。他の実施形態では、左心室が循環ユニットによってまだアンロードされている間に、再灌流療法を患者の心臓に適用してもよい。この実施形態では、心臓が補助期間t_spの長さにわたって循環装置でアンロードされた後にだけ、再灌流装置と循環装置の並行使用が実施される。
【0045】
現在、再灌流療法を適用する前に機械的循環補助によりMI後の心臓を補助することは、患者の心臓に有益な効果を及ぼすと考えられている。1つまたは複数の利点が患者から採取された組織または血液サンプルで検出され得る。そのような利点には、次の結果のうちの1つまたは複数が含まれる:心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBAXタンパク質および活性型カスパーゼ-3抗体のレベルの低下;心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルの増加;心筋梗塞近くの患者心臓組織における間質細胞由来因子1α(SDF-1α)タンパク質レベルの増加;心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるMMP-2およびMMP-9酵素の活性レベルの維持;心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるDPP-4タンパク質発現および活性のアップレギュレーションの制限;患者の左心室から採取された血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルの低下;心筋梗塞近くの患者心臓細胞におけるSERCA発現のmRNAレベルの増加;患者の心臓の非梗塞領域におけるb-MHCのレベルを維持しながら、心筋梗塞近くの患者心臓組織におけるカルシニューリン活性のレベルおよびI型コラーゲンのレベルを低下;梗塞サイズの縮小;心臓の心筋サルベージインデックスの増加;および6を超える心臓ST上昇合計値。これらの結果は、本開示で特定されたシステムおよび方法を用いて達成することができる。
【0046】
以下に詳述される実施例1および2は、心臓発作を起こした患者に本発明の方法を適用することによって行われた試験の結果を示す。これらの試験は、患者がAMIを起こした後であるが心臓に再灌流療法を適用する前に患者の血管系に血液ポンプを挿入し、該ポンプを補助期間の間中駆動して血管系内の血流を調整し、その後、補助期間の後に再灌流療法を心臓に適用することによって、行われた。その結果は、梗塞の直後に(またはできる限り速やかに)再灌流療法を適用する従来の方法と比較して、梗塞サイズが縮小し、かつ心筋サルベージインデックスが増加したことを示す。さらなる結果は、この方法が心臓の左心室駆出率を増加させ、心臓の微小血管閉塞を減少させ、心臓の左心室収縮末期容積を減らし、かつ心臓の左心室拡張末期容積を減らすことを示す。
【実施例】
【0047】
実施例1:DTU-STEMIパイロット試験
アンロードの状況下で、再灌流を遅らせることがヒト患者での心筋サルベージを改善するかどうかの検討を開始するために、冠動脈再灌流を遅らせてまたは遅らせずに、アンロード装置を作動させることの安全性と実行可能性を試験した。STEMIにおけるドア・ツー・アンロード(Door-To-Unload in STEMI)パイロット試験は、心原性ショックを伴わないSTEMIにおいて再灌流前の左心室(LV)アンロードの実行可能性と安全性をテストする最初の探索的試験である。
【0048】
A. 方法
このDTU-STEMI試験は、前壁STEMIを呈する患者における冠動脈再灌流前の機械的アンロードの実行可能性、安全性、および潜在的利益を検討するために、米国内の14の施設を対象とした前向き多施設無作為化パイロット試験であった。全ての患者はImpella CPシステム(Abiomed Inc., Danvers, MA)による急性機械的アンロードを受け、2つのアーム:LVアンロードとそれに続く即時再灌流(U-IR)またはLVアンロードと30分遅れの再灌流(U-DR)のいずれか一方に無作為に割り付けた。U-IRおよびU-DR方法論のプロセスの流れは図3に示される。この比較は、再灌流前に心筋を30分間プレコンディショニングするように特別に設計され、U-DRアームとU-IRアームの梗塞サイズを比較することによって行った。胸痛の発症から1〜6時間の間に来院し、2つまたはそれ以上の連続する前壁誘導でSTセグメント上昇が2mm以上、または前壁誘導の全STセグメント偏位の合計が4mm以上の、21〜80歳の患者が登録の対象となった。
【0049】
患者は、大腿血管アクセスが得られた直後に、U-IRアームまたはU-DRアームのいずれかに無作為に割り付けた。診断用の冠動脈造影の前にImpella CPを配置し、第2世代薬物溶出性ステントを用いて経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行うように、かつガイドラインによるポストAMIケアに従うように担当医に指示した。U-DRグループでは、臨床的に必要と判断した場合、アンロードと再灌流の間の時間を短縮することを担当医に許可した。PCI後、最低3時間のLV補助の後でImpella CPを取り出した。
【0050】
主要安全性評価項目(primary safety outcome)は、30日間の心血管死亡率、再梗塞、脳卒中、または主な血管イベントを含む、主要有害心血管・脳血管イベント(major adverse cardiovascular and cerebrovascular event:MACCE)の混成であった。表1は、MACCEの各要素を判定するために使用された定義を含む。追加の安全性パラメータには、全死因死亡率、溶血、急性腎機能障害、心不全による入院、心室性不整脈、LV血栓、出血および軽度の血管イベントが含まれていた。主要有効性評価項目は、CMRを使用した30日の時点での全LV重量に対するパーセントとしての梗塞サイズの評価であった。副次的有効性評価項目には、3〜5日および30日の時点でのCMRによる梗塞サイズが含まれていた。探索的評価項目には、3〜5日の時点でのリスク領域の面積に正規化された梗塞サイズの、グループ間の比較が含まれていた。この試験で使用されたCMRプロトコールは以前に記載されている。適格な12誘導心電図を評価して、STEMIのリスク領域の十分に確立された臨床マーカーであるSTセグメント上昇合計値(ΣSTE)を定量化した。具体的には、ΣSTEは、試験グループの割り当てについて盲検下の独立したコアラボで等電点セグメントと比較して、前胸部誘導におけるJ点から0.08秒間後のSTセグメント上昇の大きさを測定することによって定量化した。
【0051】
(表1)ベースライン特性
【0052】
ベースラインの人口動態変数および臨床変数を、2つの治療グループについてまとめた。この試験は、小規模なSTEMI試験で予想され得る大きな標準偏差を仮定して、梗塞サイズの大きな差を検出する検出力があった。具体的には、10%の標準偏差を仮定して、10%の梗塞サイズの絶対差を検出するために、0.88の検出力(power)と0.05のαを使用した。全ての連続変数は、標準偏差を伴う平均値ならびに中央値および四分位範囲としてまとめて、適切なパラメトリックまたはノンパラメトリック検定を用いて治療グループ間で比較した。カテゴリー変数は、頻度とパーセンテージとしてまとめて、適宜に、分割表(contingency table)のピアソンのχ2乗検定またはフィッシャーの正確確率検定を用いて、治療グループ間で比較した。全ての統計的検定および/または信頼区間は、必要に応じて、α=0.05(両側)で行った。0.01より大きいと報告された全てのp値は小数第2位で端数を丸め、0.01〜0.001のp値は小数第3位で端数を丸めた。治療グループ間の比較可能性は、全ての臨床的に意義のある人口動態変数およびベースライン特性変数に関して評価された。
【0053】
B. 結果
2017年4月から2018年5月までに、前壁STEMIを有する患者合計50名が登録され、かつU-IRアームまたはU-DRアーム(n=25/グループ)のいずれかに無作為に割り付けられた。表1に示すように、ベースライン特性はグループ間で統計的に差がなかった。治験参加者の平均年齢は59.7歳で、38名の患者(76%)が男性であった。これらの患者は診察時に高血圧の症状があり、胸痛の発症からLVアンロードまでの時間はグループ間で統計的に差がなかった(176.2±73.4分対200.2±151.8分、U-DR対U-IR、p=0.48)。ΣSTEは、患者の90%(n=45/50)において>4であった。Impella CPの配置前に、LV拡張末期圧は両グループで上昇した(25.0±9.6および24.0±8.1mmHg、U-DR対U-IR、p=0.73)。ベースラインLVEFは、必要なPCI動脈血管アクセス(担当医の裁量により大腿動脈アクセスまたは橈骨動脈アクセスのいずれか)を使用して、90%(n=45/50)の患者で無作為化前に左心室造影法により得られた。ベースラインLVEFは、全集団で37.4%(13.2)であり、U-DRグループではより低かった(41.9%(12.3)対32.7%(12.7)、U-IR対U-DR、p=0.02)。Impella CPは50名の患者全員への植え込みに成功し、この試験プロトコールにより必要とされる3時間の補助期間の間中の平均パワー(Pレベル)は7.6±1.0、平均デバイス流量は2.8±0.4L/分で、LVのアンロードが成功したことを示している。この処置の開始からImpella CPの植え込みおよび始動までの平均時間は、全集団で15.4(8.4)分間であった。全てのタイミング要素は表2に示される。患者の60%(n=30/50)にはPCIに橈骨動脈アクセスを使用した。血管閉塞デバイスの使用は担当医の裁量に任された。患者50人中29人には大腿動脈閉塞デバイスを使用した(14/25、56% 対 15/25、60%、U-DR対U-IR、p=0.99)。表2に示すように、左前下行枝が責任冠動脈であると確認され、患者の98%(n=49/50)がステント留置術により処置された。U-DRアームに無作為に割り付けられた患者1名には、PCIを必要とする冠動脈病変がなかった。PCIを受ける全ての患者は、PCIの前にP2Y12阻害物質を投与された。患者の8%はビバリルジンを投与され、94%は未分画ヘパリンの投与を受けた。これらの患者のうち、1名はビバリルジンと未分画ヘパリンの両方を投与された。患者の8%は、PCIの前に抗血小板薬二剤併用療法(dual antiplatelet therapy)に加えて、糖タンパク質2b/3a受容体阻害物質を投与された。LVアンロードが開始された後で冠動脈造影を行った。
【0054】
(表2)タイミング要素
Tソースドキュメントに基づく。Y U-DRアームの患者1名はPCIを受けなかった。
【0055】
心筋梗塞における血栓溶解(TIMI) 0〜1 血流は、PCIの前に患者の52%(n=26/50)で観察された。PCIの後には、TIMI 3 血流がPCIを受けた患者の100%(n=49/49)で観察された。
【0056】
U-DRアームに割り当てられた全ての患者は、図4に示すように、どの患者も緊急支援のPCIを必要とせずに、再灌流前に30分間のLVアンロードを完了した。装置の植え込みからバルーン再灌流までを含むタイミング要素は、表2に示される。U-DRグループにおける延長されたアンロード・ツー・バルーン時間によって引き延ばされたU-DRアーム(34.1±3分間対10.5±7分間、U-DR対U-IR、p<0.001)では、平均DTB時間がより長かった(96.7±26分間対72.6±24分間、U-DR対U-IR、p=0.002)。
【0057】
組み合わせた50名の患者コホートについての複合30日MACCEイベント発生率は、表3に示すように、10%(n=5/50)であった。U-DRグループでのDTB時間の延長は、30日MACCEを増加させなかった(12%[3イベント]対8%[2イベント]、U-DR対U-IR、p=1.00)。全体的な心血管死亡率は、グループあたり1人が死亡して、4%(n=2/50)であった。非心血管死亡率は観察されなかった。1人の患者は登録1日後に脳卒中を起こし(2%;n=1/50)、2人の患者は装置の取り出し時に大腿動脈の血流制限解離に関わる主要血管イベントを示した(4%;n=2/50)。
【0058】
(表3)30日の時点でのMACCE率
【0059】
出血性学術研究コンソーシアム(Bleeding in Academic Research Consortium:BARC)ε2の出血は、患者の14%(n=7/50)で観察された。BARC 3C(頭蓋内)、4(CABG関連)、または5(致命的)のイベントは観察されなかった。患者の6%(n=3/50)に輸血を施し、各患者は赤血球濃厚液の単一ユニットのみを必要とした。表3および4は、全ての追加の臨床イベントの詳細を提供する。
【0060】
(表4)心臓磁気共鳴試験、全患者
Δ U-DRアーム中の1名の患者は造影剤なしの検査を受けて、コアラボはLVEFのみを読み取ることができた。
T MVO:微小血管閉塞。
Y 心筋サルベージインデックス(MSI) = 1 - 梗塞サイズ/リスク領域(AAR)。
【0061】
CMRは、3〜5日目に患者の82%(n=41/50)で、30日の時点での経過観察では患者の80%(n=40/50)で実施された。30日の時点での総LV重量に正規化された梗塞サイズの主要有効性評価項目は、グループ全体で14.1%(n=40/50)であった。グループ間に違いは観察されなかった(13.1±11.3%対15.3±11.5%、U-DR対U-IR、p=0.53)。3〜5日の時点での、副次的および探索的評価項目の中で、総LV重量に正規化された平均梗塞サイズ17.9±13.5%およびリスク領域に正規化された梗塞サイズ47.9±21.4%が、グループ全体で観察された(n=40;表4)。リスク領域に正規化された梗塞サイズは、グループ間で統計的に差がなかった(44.2±18.9対51.6±23.6、U-DR対U-IR、p=0.28)。平均微小血管閉塞は、U-DRおよびU-IRグループで、それぞれ1.3%対2.7%であった(p=0.22)。LV駆出率およびLV容積は、3〜5日および30日の時点でグループ間に統計的な差はなかった。TIMI血流は、U-IRおよびU-DRグループで梗塞サイズと相関していなかった。
【0062】
CMRデータが3〜5日の時点で入手可能な患者では、ΣSTE>4、ΣSTE>5、およびΣSTE>6が、それぞれ、患者の88%(n=35/40)、83%(n=33/40)、および75%(n=30/40)で観察された。U-IRグループと比較して、リスク領域に正規化された梗塞サイズは、ΣSTE>6を有するU-DRグループで大幅に減少した(図5に示すように、44.1%対59.9%、U-DR対U-IR、p=0.04)。
【0063】
C. 結果の分析
DTU-STEMI安全性および実行可能性パイロット試験は、本開示の方法200を使用して、前壁STEMIにおいてLVを機械的にアンロードし、冠動脈再灌流(一次アンロード)を意図的に遅らせるという最初のヒト体験を表している。これらの知見は、最初に心筋酸素消費量の低減(アンロード)に焦点を当て、次に冠動脈再灌流を回復させることによってSTEMI療法を変更することが実行可能であることを初めて示唆する。
【0064】
梗塞サイズを制限する複数の試みがテストされてきたが、以前の臨床治験は、心臓保護治療戦略を開始した後に、再灌流までの遅延を意図的に引き延ばしたことはない。最初にLVをアンロードして、再灌流を遅らせるという破壊的な概念を踏まえて、DTU-STEMI戦略に関連するあらゆる潜在的なリスクの厳密で高感度の分析を提供するために、主要安全性評価項目として30日MACCEが選択された。U-IRアームとU-DRアームの両方で、全体的なMACCE発生率は比較的低く、再梗塞の発生も、禁止するほどの安全性シグナルもなかった。個々のMACCE要素の中で、CV死亡率はこの試験の各アームにつき1人の患者で観察され、30日STEMI死亡率の全国ベンチマークに匹敵する。1人の患者は術後3日目に肺線維症の急性増悪と診断され、呼吸不全から10日後に息を引き取った。2番目の死亡は、登録後にのみ検出された心原性ショックを呈した患者であった。DTU-STEMI試験での主要血管イベント発生率は、ショックを伴わない急性前壁心筋梗塞患者における大動脈内バルーンカウンターパルセイションおよび梗塞サイズ(Intra-aortic Balloon Counterpulsation and Infarct Size in Patients with Acute Anterior Myocardial Infarction Without Shock:CRISP-AMI)試験のポンプアームに匹敵した。DTU-STEMIにおける全体的BARC出血>2は、経皮的心室補助装置を必要とする出血イベントの最近の分析で報告されたものよりも低く、そして、予想通り、薬物療法またはより低いフレンチサイズ(French size)の装置を含む他のSTEMI試験で報告されたものよりも高かった。実行可能性という概念をテストすることの重要な側面は、PCIの前にLVアンロードを確立するために必要な時間と、ドア・ツー・バルーンおよび全体的な虚血時間へのその影響をよりよく理解することであった。表2に示すように、処置の開始からImpella CPの挿入および始動までに、合計50人の患者の試験で平均15.4分間を要した。この時間には、準備、ドレーピング、血管アクセス、左心室造影、およびImpella装置の挿入が含まれる。この観察は、このパイロット試験から得られた、以下を含む重要な洞察を浮き彫りにする。1)前壁STEMIの間にこのアンロード装置をタイムリーに植え込みかつ始動させることが実行可能である。2)この固有の遅延にもかかわらず、担当医は50名の全患者で平均84.4(27.6)分間のドア・ツー・バルーン時間を達成することができた。かつ、3)この固有の遅延にもかかわらず、梗塞全体のサイズはCRISP-AMIを含む最近のレポートと比較して低く、DTB時間と相関していなかった。これらの知見は、DTU-STEMI戦略がより大規模なピボタル試験(pivotal trial)で安全にテストされ得ることを支持している。
【0065】
再灌流前に30分間のLVアンロードを提供することにより、本発明者らは、心筋シグナル伝達と冠動脈灌流の心臓保護的シフトが心筋損傷を制限すると仮定した。この理由から、リスクのある心筋領域がより広い患者は、再灌流前の機械的プレコンディショニングにより、より多くの利益を得る可能性がある。これは、アンロードおよび即時再灌流のみに比べて、再灌流前に30分間のアンロードを行うと、STEMIでのリスクのある心筋領域の十分に確立されたマーカーのΣSTEが高い患者ほど、梗塞サイズが小さくなり、かつ心筋サルベージのインデックスが高くなる、という観察結果と一致する。複数の研究により、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)またはCMRで定量化された梗塞サイズおよび心筋サルベージは、STEMIの6ヶ月後にMACEを含む臨床アウトカムと直接相関することが確認されている。DTU-STEMI試験の両アームでのリスク領域に正規化された梗塞サイズは、IABPまたはβ遮断薬療法を含む最近のSTEMI試験で報告された値よりも低くなっている。U-DRグループの患者はより低いEFおよび6以上のST上昇の高い発生率を示し、これは、患者の無作為化にもかかわらず、少数の患者に見られたが、これが30日の時点でより大きな梗塞またはより低いEFにつながることはなかった。これらの知見は、DTU-STEMI戦略が梗塞サイズを増大させないことを示唆しており、さらに、ST上昇が高い患者では、再灌流までの遅延を引き延ばすと、心筋サルベージが改善される可能性があることを示唆している。
【0066】
このDTU-STEMIパイロット試験は、冠動脈再灌流を遅らせることが可能であり、それによって、LVアンロードが心筋をプレコンディショニングしてAMIでの虚血再灌流障害と全体的な心筋損傷を軽減するのに十分な時間を与えることを初めて示唆することにより、心臓保護と心筋回復の分野における進歩への重大な障壁を克服している。
【0067】
実施例2
心筋虚血再灌流障害の状況では、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2およびMMP-9、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)などのプロテアーゼ類の発現増加は、間質細胞由来因子(SDF)-1αのN末端を切断し、それによりサイトカインを不活性にする。残りのSDF-1αはCXCR4に結合でき、CXCR4は、細胞外シグナル調節キナーゼ(Erk)、プロテインキナーゼb(Akt)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3b(GSK3b)などのRISK経路のリン酸化を促進する。RISKの活性化は、心筋細胞のアポトーシスを制限することによって細胞の生存を促進し、かつミトコンドリア膜透過性遷移孔の開口を防ぐことによってミトコンドリアの完全性を維持する。P-アンロードの心臓保護効果の根底にあるメカニズム、および梗塞サイズの急激な縮小が、左心室(LV)瘢痕の永続的な減少と心機能の改善をもたらすかどうかについて、ここでさらに説明する。この試験では、心筋再灌流の遅延の重要性をテストし、心臓保護メカニズムを検討し、P-アンロードに関連した心筋機能に対する後期影響を調べた。
【0068】
A. 方法
試験は、ヨークシャー種の成体雄ブタで行った。タフツ医療センター(Tufts Medical Center)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)は、この試験プロトコールを承認した。全ての実験は委員会のガイドラインに従って行った。動物にテラゾール(0.8ml/kg、筋肉内;Zoetis Services LLC, Parsippany, ニュージャージー州)を前投与した。イソフルラン(1%〜2%)で全身麻酔を誘発し、維持した。全ての動物に挿管し、室内空気で機械的に換気し(Harvard Apparatus社, Holliston, マサチューセッツ州)、酸素を補給して生理的pHと酸素飽和度を維持した。表面心電図リード、経口胃管、末梢18G静脈カテーテル、直腸サーミスタを全ての動物に配置した。必要に応じて加熱パッドを使用して、中核体温>99°Fを維持した。次に、血管アクセスシースを右内頸静脈(10-F)、左頸動脈(7-F)、および大腿動脈(7-F)と大腿静脈(10-F)の両方に展開した。目標活性化凝固時間を300〜400秒間とする未分画ヘパリンのボーラス、連続的リドカイン注入(1mg/kg)、およびノルアドレナリン(0.16mg/分)を全ての動物で開始した。
【0069】
6-F Judkins右冠動脈カテーテル(Boston Scientific社, Marlborough, マサチューセッツ州)を右大腿動脈から左冠動脈に係合し、ベースラインの血管造影図を記録した。0.014インチのガイドワイヤーを遠位左前下行枝(LAD)に送達し、急性試験用の3.0×8mmベアメタルステント(Boston Scientific社)または慢性試験用の3.0×8mm血管形成用バルーン(Boston Scientific社)を、LAD閉塞を血管造影で確認した第1対角枝の後、LADの中央(mid-LAD)に配置した。また、冠動脈造影を再灌流の直後に行い、LADの開存性が確認された試験プロトコールの終了後にも再度行った。LADステントを急性動物実験で使用して、エバンスブルー対比染色中に反復バルーン閉塞の正確な位置をマークした。120分間の再灌流後、動物をペントバルビタールとフェニトインで安楽死させた。
【0070】
図6Aに示すように、ブタを4つのグループ(n=4/グループ)に分けた。全てのグループは90分間のLAD閉塞を受けた。グループ1では、LAD閉塞とその後の120分間の再灌流が対照グループとしての役割を果たした。グループ2および3では、LAD閉塞の後に、TVポンプ(Impella CP, Abiomed社, Danvers, マサチューセッツ州)を左大腿動脈に14-Fシースにより挿入して作動させ、最大補助(44,000回転/分、3.5l/分を達成)で維持した。この活動の後に、それぞれ追加の15分間(グループ2)または30分間(グループ3)の閉塞と、その後にLVアンロードを伴う120分間の再灌流が続いた。グループ4では、LAD閉塞の後に再灌流が続き、30分間の再灌流後、TVポンプを挿入し、残りの90分間の再灌流の間作動させた。
【0071】
各試験の終わりに、心筋梗塞サイズを測定するために動物を安楽死させた。3匹の偽手術動物に挿管し、麻酔をかけ、心筋梗塞または機械的アンロードなしに機械的に換気した。偽対照から得られたLV組織サンプルを組織分析に使用した。
【0072】
SDF-1α/CXCR4シグナル伝達の機能的役割またはLVアンロードの心臓保護効果を評価するために、オーバーザワイヤー(over-the-wire)タイプの冠動脈形成用バルーンを使用して、AMIの閉胸動物モデルでLADの閉塞を維持しながら、SDF-1α受容体であるCXCR4の薬理学的阻害物質(AMD3100としても知られる)をリスク領域に送達した。ビヒクルまたはAMD3100のいずれかの冠動脈内注入(3mg/kg/分、10分間にわたる冠動脈内;n=4/グループ)を再灌流前の30分間のLVアンロード開始時に開始して、成体の雄ブタを治療した。AMD3100の用量は以前のレポートに基づいて選択した(Hu X, Dai S, Wu WJ, et al. Stromal cell derived factor-1 alpha confers protection against myocardial ischemia/reperfusion injury: role of the cardiac stromal cell derived factor-1 alpha CXCR4 axis. Circ 2007;116:654-63)。
【0073】
梗塞サイズに対するLVアンロードの長期的な影響を研究するために、19匹のヨークシャー種の成体雄ブタに、90分間のmid-LAD閉塞と、これに続く即時再灌流(P-再灌流)または再灌流前の30分間のアンロード(P-アンロード)のいずれかを行った。5匹の動物は、無作為化またはポンプ植え込み前のLAD閉塞中に心室性不整脈で死亡した。このプロトコールの完了に成功した残りの14匹の動物のうち、P-再灌流グループでは2匹の動物が難治性の心室細動により再灌流後6時間以内に死亡した。P-アンロードグループで死亡した動物はいなかった。合計で、19匹の動物のうち7匹(37%)が試験プロトコール中に死亡した。生存している12匹の動物は、図6Aに示すように、P-再灌流グループ(n=6)またはP-アンロードグループ(n=6)のいずれかで、慢性試験での分析に使用した。動物の体重は、P-アンロードグループで76.7±6.9kg、P-再灌流グループで76.2±2.4kgであった(p=0.84)。再灌流後、全ての動物を回復させて、28日間モニタリングした。28日後、動物を再度麻酔し、心臓の磁気共鳴画像法(MRI)とLV血行動態に従って梗塞サイズを評価するために繰り返しカテーテル検査を受けさせた。
【0074】
LVの圧力と容積の変化は、左頸動脈から左心室に展開された5-Fコンダクタンスカテーテルシステム(Sigma M, CD Leycom社, Hengelo, オランダ)を用いて評価した。心室の圧力と容積は、以前に記載されたように、それぞれ、ソリッドステート圧力トランスデューサとデュアルフィールド励起モードを使用することにより、慢性期試験で初回の梗塞後28日の時点で測定した。時変(time-varying)電気コンダクタンスを、選択されたカテーテル電極によって描かれた5〜7つの心室血液セグメントにわたって測定した。左心室の長軸に沿ったコンダクタンスカテーテルの正しい位置決めを蛍光透視法により確認した。並列コンダクタンスを、20mlの高張(6%)生理食塩水を右内頸静脈に注入することによって評価した。絶対LV容積は、総コンダクタンス量から並列コンダクタンスを差し引くことによって測定された。1回拍出量は、+dP/dtmaxと−P/dtminでのコンダクタンス量の差として算出される。LVの1回仕事量は、ピークLVピーク収縮期血圧と1回拍出量の積として計算した。
【0075】
A-1. 心筋梗塞サイズの測定
急性試験プロトコールの完了時に、mid-LADステント内でバルーン閉塞を行い、両方の冠状血管にエバンスブルーを注入して、リスク領域の輪郭を描き、続いて左心室を切除して切片にした。ステント展開部位より遠位の前尖(antero-apical)左心室(梗塞域)から、および分子解析用に後基底壁(postero-basal wall)(非梗塞域)から、生検標本を取得した;次に、以前に記載されたように、LVスライスを1%塩化トリフェニルテトラゾリウム中でインキュベートした。MI後28日のLV瘢痕サイズを定量化するために、左心室を5個の1cmスライスに分け、エバンスブルーを含まない塩化トリフェニルテトラゾリウム中でインキュベートした。その後、LVスライスを写真に撮り、3人の盲検レビュー者がデジタル化プラニメトリ法(planimetry)を使用して、総心筋面積、リスク領域、および梗塞域を定量化した。
【0076】
慢性期試験の動物は、Philips Achieva 1.5-Tスキャナー(Philips Healthcare社, Best, オランダ)を使用して、初回の梗塞後28日に、遅延ガドリニウム造影(late-gadolinium enhancement:LGE)による心臓MRIを受けた。定常状態自由歳差運動(steady-state free precession)による息止めシネ画像(breathhold cine image)は、3つの長軸面および房室リングから心尖部までの連続した短軸スライスで取得した。LVおよび右心室の容積、重量、および駆出率は、標準的な体積測定法を使用して測定され、心臓磁気共鳴(CMR)の解析に経験のある盲検観察者によって市販のソフトウェア(QMASSバージョン7.4, Medis Medical Imaging Systems社, Leiden, オランダ)で解析された。LGE画像は、0.2mmol/kgのガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸の静脈内投与の10〜15分間後に、シネ画像と同じ場所で息止め2次元の位相感応性反転回復(phase-sensitive inversion recovery)シーケンスにより取得された。LGE領域は、必要に応じて手動で調整しながら、半値全幅(最大心筋信号強度の50%超)を用いて定義された。LGEのある領域は、LGEの総容積を得るために合計され、総LV心筋の割合(LGE%)として表される。
【0077】
全トランスクリプトーム発現解析は、Porcine 1.0 STマイクロアレイを用いて、急性期プロトコール後に梗塞域から分離されたリボ核酸(RNA)に対して行った。(そのオンライン付録(Online Appendix)が詳細を説明する。)このマイクロアレイ分析の全ての生データと処理データには、Gene Expression Omnibusのアクセッション番号GSE108644でアクセスできる。定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とウエスタンブロット分析により、有意に制御された遺伝子の発現と、変更された経路でのそれらの活性化が確認された。
【0078】
LV組織サンプルを梗塞域の中心から取得し、リン酸緩衝液中の3%グルタルアルデヒドで洗浄および固定し、エポキシ樹脂に埋め込んだ。電子顕微鏡写真を取得して、ミトコンドリアの膨潤と完全性などの、心筋細胞の損傷について分析した。
【0079】
A-2. SDF-1αおよびCXCR4のレベルの定量化
全タンパク質を、以前に記載されたように(22-24)、組織ホモジネートから抽出し、分離した。SDF-1αタンパク質レベルは、ウエスタンブロット分析と酵素結合免疫吸着アッセイを用いて、偽手術動物と梗塞域から分離されたLV組織において定量した。SDF-1αの循環血清レベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(R&D Systems社, Minneapolis, ミネソタ州)を用いることによって定量した。偽手術動物と梗塞域から分離されたLV組織のCXCR4レベルは、ウエスタンブロット分析(Abcam社, Cambridge, イギリス)によって定量した。その後、イムノブロット分析を以前に記載されたように行った。
【0080】
A-3. MMP-2、MMP-9、およびDPP-4のレベルおよび活性の定量化
心臓組織のホモジネートにおけるMMP-2およびMMP-9の活性は、以前に記載されたようにザイモグラフィーで定量した。簡単に言えば、1mg/mlのブタゼラチンを含むドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲルを用いて、ゼラチンザイモグラフィーを実施した。サンプルを非還元条件下で調製した。ゲル電気泳動を150Vで1時間行った。電気泳動後、ゲルを2.5%Triton X-100溶液で穏やかに撹拌しながら室温で6時間洗浄し、次いで、50mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.2M NaCl、5mM CaCl2および0.2%Brij-35を含有する展開バッファーに交換した。そのゲルを室温で30分間撹拌し、新鮮な展開バッファーに入れて、37℃で一晩インキュベートした。翌朝、ゲルを40%メタノールと10%酢酸中の0.5%クマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)R-250で2〜4時間染色し、40%メタノールおよび10%酢酸中にて室温で脱染した。ゼラチン分解バンドを、ImageJソフトウェア(National Institutes of Health, Bethesda, メリーランド州)を用いて走査デンシトメトリーにより定量した。DPP-4タンパク質レベルはイムノアッセイにより定量し、市販の活性アッセイキット(MilliporeSigma社, Burlington, マサチューセッツ州)を用いて活性レベルを測定した。
【0081】
A-4. アポトーシスシグナル伝達経路の定量化
イムノブロット分析は、ブタB細胞性リンパ腫(BCL)-2(Cell Signaling Technology社, Danvers, マサチューセッツ州)、BAX(Cell Signaling Technology社)、巨大B細胞性リンパ腫(B-cell lymphoma-extra-large:BCL-XL)(Cell Signaling Technology社)、カスパーゼ-3(Cell Signaling Technology社)、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼに対する抗体を用いて実施した。アポトーシス調節タンパク質レベルの発現は、総タンパク質レベルとグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの両方に正規化された。TUNEL染色は、4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝生理食塩水で20分間固定した梗塞域周囲から得られた厚さ10mmの切片を用いて行った。スライドを0.1%クエン酸ナトリウム中の0.1%Triton X-100で氷上にて透過処理し、切片を暗所で37℃にて60分間標識した。スライドをリン酸緩衝生理食塩水ですすぎ、DAPI含有ProLong Gold褪色防止剤(Life Technologies社, Grand Island, ニューヨーク州)で標識した。画像は、Eclipse E800蛍光顕微鏡(Nikon Corporation, 東京, 日本)とOpenlabバージョン5ソフトウェア(Perkin Elmer社, Waltham, マサチューセッツ州)を使用して取得した。TUNEL陽性細胞は、10倍の倍率で、実験グループについて盲検下の専門家によりカウントされ、全ての核に対するパーセンテージとして表される。
【0082】
A-5. その他
全ての細胞ベースのリアルタイムPCR実験では、トータルRNAをTrizol(Thermo Fisher Scientific社, Waltham, マサチューセッツ州)で直接抽出し、大容量cDNA逆転写キット(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit)(Thermo Fisher Scientific社)で相補的デオキシリボ核酸に変換した。全てのリアルタイムPCR実験では、サンプルを3つ組で、適切なプライマーを用いるABI Prism 7900配列検出システム(Thermo Fisher Scientific社)により、94℃で30秒間、60℃で45秒間、および72℃で45秒間の40サイクルを使用して、定量した。
【0083】
結果は平均±SDとして示される。対応のないスチューデントのt検定または一元配置分散分析を使用して、グループ間の連続型変数を比較した。経時的なグループ内の全てのデータは、ノンパラメトリックの二元配置反復測定分散分析を用いて分析した。単純な線形回帰分析を使用して、2つのパラメータ間の相関を評価した。全ての統計分析はGraphPad Prism(GraphPad Software社, La Jolla, カリフォルニア州)を使用して行った。P<0.05のαレベルを、有意な効果またはグループ間の差異を示すとみなした。
【0084】
B. 結果
B-1. 再灌流前の30分間のLVアンロードは再灌流のみと比較して急性梗塞サイズを縮小させる
再灌流前の30分間のLVアンロードは、再灌流のみと比較して心筋梗塞サイズを縮小させた(33.3±5%対62.2±1.7% 梗塞/リスク領域、それぞれグループ3対グループ1;p<0.01)(図6B参照)。LVアンロードに続いて15分間以内の急速な再灌流(グループ2)または再灌流後のLVアンロード(グループ4)は、P-再灌流のみと比較して心筋梗塞サイズを縮小させなかった。
【0085】
B-2. LVアンロードはAMI後の梗塞域内の損傷の減少に関連する遺伝子発現の包括的な変化を誘発する
再灌流前のLVアンロードに関連する心臓保護メカニズムの検討を開始するために、本発明者らは、偽対照のグループ1とグループ3との間の梗塞域内からの全トランスクリプトームを分析して、治療グループ間で異なって発現された遺伝子を同定した。全ての異なって制御された遺伝子のヒートマップは、偽対照と比較して、再灌流前の30分間のLVアンロードが再灌流のみに関連する遺伝子発現の変化を弱めることを示した(図7A参照)。
【0086】
再灌流のみと比較して、再灌流前の30分間のLVアンロードは、ミトコンドリア機能および細胞呼吸に関連する遺伝子のダウンレギュレーションを制限した(以下の表5参照)。これらの観察結果と一致して、梗塞域からのLV組織サンプルのリアルタイムPCRからは、グループ1と比較して、グループ3が、図7Bに示すように、細胞呼吸に関連する主要遺伝子のメッセンジャーリボ核酸(mRNA)レベルの増加を示したことが確認された。電子顕微鏡検査からは、図7Cに示すように、(グループ3ではなく)グループ1からの梗塞域内のミトコンドリア完全性の喪失がさらに示された。これらの知見から、再灌流のみと比較して、再灌流前の30分間のLVアンロードは、ミトコンドリア機能に関連する遺伝子の有意な保護とともに、梗塞域内の遺伝子発現の広範な変化を引き起こすことが明らかである。
【0087】
B-3. LVアンロードはAMIでのSDF-1α分解を制限する
虚血再灌流障害時の心臓保護におけるSDF-1α/CXCR4シグナル伝達の重要性を考慮して、SDF-1αおよびCXCR4タンパク質レベルを梗塞域内で定量化した。本発明者らは、偽対照と比較して、再灌流のみ(グループ1)、15分間のLVアンロード(グループ2)、または再灌流後のLVアンロード(グループ4)は、梗塞域内のSDF-1αのタンパク質レベルの低下と関連していたことを観察した(図8Aおよび8B参照)。その一方で、偽対照と比較して、再灌流前の30分間のLVアンロード(グループ3)だけは、梗塞域内のSDF-1αタンパク質レベルを維持した。CXCR4レベルは、偽対照と比較して、4つ全ての試験グループで変化しないままである。
【0088】
SDF-1αレベルの増加が転写的に制御されるのかどうか判定するために、グループ間でリアルタイムPCRを用いてmRNA発現を定量したところ、SDF-1αまたはCXCR4遺伝子発現に差異は観察されなかった(図8Cおよび8D参照)。SDF-1αはタンパク質分解によって高度に制御されるため、次に、SDF-1αを分解することが知られている主要なプロテアーゼ類の発現を調べた。偽対照と比較して、再灌流のみではMMP-2およびMMP-9の活性レベルが増加したが、再灌流前の30分間のLVアンロードでは増加しなかった(図8Eおよび8F参照)。再灌流のみでは、偽対照と比較して、梗塞域内のDPP-4の発現および活性レベルが増加した(図8Gおよび8H参照)。再灌流前の30分間のLVアンロードでは、DPP-4の発現と活性のアップレギュレーションが制限された。これらのデータは、再灌流前の30分間のLVアンロードが、SDF-1αを分解することが知られているプロテアーゼ類の活性を制限することによって、SDF-1αタンパク質レベルを維持できる、ことを示唆している。
【0089】
B-4. SDF-1α/CXCR4活性の喪失はLVアンロードの心臓保護効果を弱める
SDF-1α/CXCR4シグナル伝達がLVアンロードの心臓保護効果に必要かどうかを別の動物グループで調べるために、AMD3100の冠動脈内送達を用いてCXCR4活性をブロックした。再灌流前の30分間のLVアンロードを受けたビヒクル処置対照と比較して、CXCR4活性の喪失は、梗塞サイズを増大させ、かつAkt、細胞外シグナル調節キナーゼ、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3bを含む、RISK経路を介した心臓保護シグナル伝達を減少させた(図8Iおよび8J参照)。これらの知見は、SDF-1α/CXCR4シグナル伝達が再灌流前のLVアンロードの心臓保護効果に必要であることを示唆している。
【0090】
B-5. LVアンロードはアポトーシス促進性シグナル伝達を制限する
30分間のLVアンロードが梗塞域内のアポトーシス関連タンパク質のレベルを低下させるかどうかをさらに調べるために、本発明者らは、偽対照と比較して、再灌流のみ(グループ1)が、BAXおよび活性型カスパーゼ-3などのアポトーシス促進タンパク質のレベルを増加させ、BCL-2およびBCLXLなどの抗アポトーシスタンパク質のレベルをさらに低下させた、ことを観察した(図9A〜9C参照)。グループ1と比較して、グループ3は、BAXおよび活性型カスパーゼ-3のレベルの低下と、抗アポトーシスBCL-2およびBCL-XLタンパク質のレベルの増加を示した。P-再灌流と比較して、Pアンロードは、梗塞域内のTUNEL陽性細胞の数を減少させた(図9Dおよび9E参照)。
【0091】
B-6. 一次再灌流と比較して、一次アンロードはAMI後28日に心筋梗塞サイズを縮小させかつ心機能を維持する
臨床的に意義のある心臓保護を与えるためには、梗塞サイズの縮小に対して観察されたP-アンロードの効果は、急性治療期を越えて維持されねばならない。この理論を検証するために、成体の雄ブタをP-再灌流またはP-アンロードのいずれかで処置し、LV瘢痕サイズ、LV機能、および心不全に関連する分子的変化をMI後28日に定量化した。14匹の動物がこのプロトコールの虚血再灌流期を完了した。P-再灌流グループの2匹の動物は再灌流後6時間以内に死亡し、12匹の動物が28日まで生き残った(グループあたり6匹)。
【0092】
P-再灌流と比較して、P-アンロードは、LGEを用いて定量化されたLV瘢痕サイズを縮小させ(3.9±3.2%対9±3.7%;p=0.03)、かつ解剖学的病理を減少させた(7.2±4.9%対14.9±4.1%;p=0.02)(図5A)。梗塞サイズの組織学的プラニメトリは、CMRからのLGEの割合と直接相関した(R2=0.85)(図10B〜10D参照)。CMR由来の容積を使用すると、拡張末期容積と収縮末期容積はグループ間で類似していた(拡張末期容積:152±29ml対142±14ml;P再灌流対P-アンロード[p=NS];収縮末期容積:86±26ml対74±6ml;P-再灌流対P-アンロード[p=NS])。CMR由来のLV重量はグループ間で差がなかった(90.4±10.6g対84.4±8.6g;P-再灌流対P-アンロード[p=NS])。P-再灌流と比較して、LVコンダクタンスカテーテルを使用した血行動態分析は、P-アンロードがより高い1回拍出量(54±7ml対40±6ml;p=0.02)、心拍出量(3.9±0.6 l/分対2.5±0.2 l/分;p=0.006)、および1回仕事量(3,075±339ml×mmHg対2,195±307ml×mmHg;p=0.008)と関連していることを示した(以下の表5参照)。
【0093】
(表5)急性心筋梗塞後28日の血行動態変数
値は平均±SDである。
EDV=拡張末期容積;ESV=収縮末期容積;LV=左心室;NS=有意ではない。
【0094】
B-7. 一次アンロードはSDF-1αレベルの循環レベルおよび組織レベルを急性期とAMI後28日間増加させる
P-再灌流と比較して、P-アンロードは、循環SDF-1αレベルをAMI後28日間増加させ、AMIの1週間後にピークSDF-1αレベルを示した(図10E参照)。対照的に、P-再灌流は、AMI後のいずれの時点でも循環SDF-1αレベルを増加させることができなかった。偽対照と比較して、P-再灌流は左心室の梗塞域内のSDF-1αタンパク質レベルを減少させたが、P-アンロードは減少させなかった。AMI後28日目の循環SDF-1αレベルは、LV瘢痕サイズと逆相関した(図10Fおよび10G参照)。
【0095】
B-8. 一次アンロードは不適応心臓リモデリングを制限する
P-再灌流と比較して、P-アンロードは、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の循環レベルをAMI後28日に低下させた(図11A参照)。偽対照と比較して、P-再灌流は、非梗塞域内のBNPのmRNAおよびタンパク質レベルを増加させた(図11Bおよび11C参照)。対照的に、P-アンロードは、左心室の非梗塞域内のBNPの組織レベルの増加を弱めた。P-再灌流と比較して、P-アンロードは、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼのmRNAレベルを増加させ、かつカルシニューリンとI型コラーゲンのレベルを減少させたが、左心室の非梗塞領域からのレベルに影響を与えることはなかった(図11D〜11F参照)。
【0096】
C. 考察
この実施例の中心的な知見は、再灌流前の30分間のP-アンロードが、図12に示すように、細胞呼吸およびSDF-1αレベルの翻訳後調節を含めて、いくつかの重要な生物学的経路を変化させ、それによって急性梗塞サイズを縮小させる、ということである。さらに、P-アンロードはAMI後28日にLV瘢痕サイズを縮小させ、心機能を改善した。具体的には、本発明者らは、次のことを報告する。1)30分間のP-アンロードは、梗塞サイズを制限させるのに再灌流前に必要であってかつ十分である。2)P-アンロードは、梗塞域内のミトコンドリア完全性の保護に関連する遺伝子発現の包括的な変化を誘発する。3)P-再灌流と比較して、30分間のP-アンロードは、梗塞域内のSDF-1α mRNAレベルを変更せずにSDF-1αタンパク質レベルを維持し、かつ梗塞域内の抗アポトーシスシグナル伝達へのシフトをさらに促進する。4)P-アンロードは、SDF-1αを分解することが知られているプロテアーゼ類の活性レベルを低下させる。かつ、5)P-アンロードは、AMI後28日にLV瘢痕サイズを縮小させ、心拍出量を維持し、BNP発現を減少させ、非梗塞域内の不適応リモデリングに関連する遺伝子およびタンパク質の発現を制限する。これらのデータから、P-アンロードは、AMI後に心機能を維持できる心臓保護メカニズムを増強するための新規アプローチとして確認される。
【0097】
再灌流後ではなく、再灌流前のTVポンプによる30分間の機械的LVアンロードは急性梗塞サイズを制限することが確認された。この観察結果は、機能障害のある左心室の単なる補助的支援アプローチとは対照的に、LVアンロード自体が治療法であり得ることを初めて示唆している。再灌流前の30分間の機械的LVアンロードの有益な効果について、LVアンロードが再灌流に向けて心筋を生物学的にプライミングするという1つの潜在的な説明がある。LVをアンロードすることの影響について、それが梗塞サイズを縮小させ、かつ梗塞域内のSDF-1αのタンパク質レベルを増加できるという潜在的な説明がある。
【0098】
ゲノミクスアプローチを使用して、30分間のP-アンロードは、P-再灌流と比較して、梗塞域内の600超の遺伝子の発現を異なって変化させることが確認された。経路分析により、P-アンロードは、細胞呼吸とミトコンドリア完全性に関連する遺伝子の発現を維持することが分かった。これらの観察は、細胞呼吸に関与する電子伝達鎖の各成分からの選択遺伝子の直接定量化により確認された。この試験の知見は、再灌流前のLVアンロードの開始がミトコンドリア完全性に対する虚血再灌流障害の影響を制限し、それによって心筋細胞の生存を促進する可能性があることを示している。
【0099】
この試験では、P-再灌流と比較して、P-アンロードは梗塞域内のSDF-1α mRNAレベルを増加させないことが観察された。しかしながら、偽対照と比較して、P-再灌流は梗塞域内のSDF-1αタンパク質レベルを低下させることが観察された。対照的に、再灌流前の30分間のLVアンロードは、SDF-1αタンパク質レベルを維持した。
【0100】
SDF-1αレベルは炎症に関連するプロテアーゼ類によって高度に調節されているため、本発明者らは次に、MMP-2、MMP-9、DPP-4などの主要な調節プロテアーゼのタンパク質および活性レベルがP-再灌流およびP-アンロードによって変化したかどうかを調べた。偽対照と比較して、P-再灌流はこれらのプロテアーゼの活性を増加させるが、P-アンロードは弱めることが観察された。P-アンロードの下流効果をさらに確立するために、本発明者らは梗塞域内のアポトーシス関連タンパク質の発現低下も観察した。これらの知見は、30分間のP-アンロードが梗塞域内のプロテアーゼ活性を制限し、これによりAMIの状態でSDF-1α分解が制限されることを初めて示唆している。
【0101】
前臨床試験がデザインされ、この試験では、動物をP-再灌流またはP-アンロードに割り当てて、28日後に心臓MRIを用いてLV瘢痕を定量化した。P-アンロードはLGE-CMRによって盲検的に定量化された梗塞瘢痕サイズを縮小させ、これは心筋瘢痕サイズの解剖学的測定と高度に相関することが初めて観察された。その後、非梗塞域における不適応リモデリングの十分に確立された分子マーカーが定量化された;非梗塞域では広範囲の前壁MIに応答して代償性リモデリングの大半が起こるであろう。P-再灌流と比較して、P-アンロードは、AMI後28日に、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼレベルを維持しながら、カルシニューリン、βミオシン重鎖、およびBNPレベルを減少させることが観察された。さらに、心不全の臨床的に意義のあるバイオマーカーであるBNPの循環およびLV組織レベルは、P-アンロード後に減少したが、P-再灌流後には減少しなかった。これらの知見は、AMI時に経バルブポンプを使用することが、28日後にLV瘢痕サイズと不適応リモデリングのマーカーの両方に対して永続的な影響を与えることを明らかにした最初のものである。何十年もの間、AMIでは即時再灌流が主な焦点であったが;しかし、これらのデータは、「再灌流前の期間」(pre-reperfusion time period)は、後期心臓リモデリングに永続的な効果を及ぼすために、LVアンロードおよび遅延再灌流などの介入を可能にし得る重大な局面である、ことを初めて示唆している。
【0102】
最後に、AMI後にSDF-1αレベルを定量化したところ、P-再灌流後ではなく、P-アンロード後28日にSDF-1αの循環およびLV組織レベルの増加が観察された。循環SDF-1αレベルはLV瘢痕サイズと逆相関した。これらの知見は、MI後に梗塞サイズの急激な縮小をもたらすことに加えて、P-アンロードがLV瘢痕サイズのより永続的な縮小を促進し、心機能を改善し、AMI後の不適応リモデリングを制限することを示している。CMRおよび循環BNPレベルなどの心筋障害の臨床的に意義のあるバイオマーカーを使用することにより、この試験の結果は、AMI後の虚血性心不全を制限するためのアプローチとしてのP-アンロードの強力なトランスレーショナルな可能性を示唆している。
【0103】
D. 知見
この試験の知見は、上述した図2の方法200におけるような、再灌流前の30分間の経バルブマイクロ軸流ポンプの作動が、P-再灌流のみと比較して、急性梗塞サイズとその後の瘢痕サイズの両方を制限する、ことを示している。この試験の結果は、心筋アンロードの生物学的影響および梗塞域内の心臓保護経路の活性化への新しい機構的洞察を提供する。
【0104】
前述は本開示の原理の単なる説明に役立ち、前記装置は記載された実施形態以外の方法で実施することができ、これらの実施形態は限定ではなく例示の目的で提示されている。
【0105】
本開示をレビューした後では、当業者は、様々な変形および修正を考え付くであろう。開示された特徴は、本明細書に記載の1つまたは複数の他の特徴との任意の組み合わせおよび部分組み合わせ(複数の依存的な組み合わせおよび部分組み合わせを含む)で実施され得る。それらの任意の構成要素を含む、上記のまたは上記に例示された様々な特徴は、他のシステムに合体または統合することができる。さらに、ある種の特徴は省略されることまたは実施されないことがある。
【0106】
変更、置換、および改変の例は、当業者によって確認可能であり、本明細書で開示される情報の範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられて、本出願の一部を構成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図8J
図9-1】
図9-2】
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12
【手続補正書】
【提出日】2020年9月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
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図9-1】
図9-2】
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【国際調査報告】