(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-510708(P2021-510708A)
(43)【公表日】2021年4月30日
(54)【発明の名称】新規光増感剤複合ナノ多機能材料の調製及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20210402BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210402BHJP
A61K 31/357 20060101ALI20210402BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20210402BHJP
【FI】
A61K41/00
A61P35/00
A61K31/357
A61K47/59
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-538935(P2020-538935)
(86)(22)【出願日】2018年4月11日
(85)【翻訳文提出日】2020年9月4日
(86)【国際出願番号】CN2018082674
(87)【国際公開番号】WO2019136866
(87)【国際公開日】20190718
(31)【優先権主張番号】201810033885.3
(32)【優先日】2018年1月15日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】尹健
(72)【発明者】
【氏名】胡静
(72)【発明者】
【氏名】叶舟
(72)【発明者】
【氏名】饒義剣
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA11
4C084NA13
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、新規光増感剤複合ナノ多機能材料の調製及びその使用に関し、光線力学的治療の技術分野及び生物医学分野に属している。前記光増感剤複合ナノ多機能材料は、セルコスポリンと、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料とを自己組織化して調製されたものであり、酸感受性共重合体多機能材料は、ガラクトース修飾ローダミンBを共有結合により連結したポリメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルとポリ(3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとの共重合体である。前記光増感剤複合ナノ多機能材料は、肝腫瘍細胞を特異的に認識し、ガラクトース−アシアロ糖タンパク質受容体の相互作用により細胞内に取りまれることができ、光増感剤であるセルコスポリンの放出をトリガーして光線力学的治療の効果を酸性pH条件下で発揮させることができ、腫瘍細胞に対する標的光線力学的治療において将来性が期待できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増感剤であるセルコスポリンと、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料とを自己組織化して調製された、ことを特徴とする新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項2】
前記肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料は、pH感受性を有するメタアクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルDMAEMA単量体と疎水性の3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリル酸エステルGMA−N3単量体で形成された共重合体であり、一端には蛍光トレース機能を有する蛍光分子が修飾され、他端には肝標的化機能を有する糖分子が修飾されており、
該酸感受性共重合体多機能材料は、疎水性相互作用によって光増感剤分子であるセルコスポリンがその疎水性キャビティに封入されている、ことを特徴とする請求項1に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項3】
セルコスポリンの封入量が約9質量%であり、前記新規光増感剤複合ナノ多機能材料の粒子径が約103nmである、ことを特徴とする請求項1に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項4】
前記肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料は、式1に示される構造式を有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
(Aは、ローダミンB、フルオレセインイソチオシアネート、ボディパイからなる蛍光トレース機能を有する蛍光分子から選ばれる同じ又は異なる1つ又は複数であり、;
Bは、肝癌細胞の表面に過剰発現させたアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に認識できるガラクトース又はガラクトサミン残基を有する単糖又はオリゴ糖類分子から選ばれる同じ又は異なる1つ又は複数の分子であり、
式1にはDMAEMAの単量体構造が含まれ、mはその重合度を表し、m=42であり、
式1にはGMA−N
3の単量体構造が含まれ、nはその重合度を表し、n=62である)。
【請求項5】
式1中のAは蛍光分子であるローダミンBであり、Bはガラクトース残基であり、蛍光分子であるローダミンB、DMAEMA、GMA−N3のモル比が1:42:62であり、標的とした前記糖分子とGMA−N3のモル比が1:1である、ことを特徴とする請求項4に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料の調製方法であって、
肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料とセルコスポリンをそれぞれDMSOで溶解し、2種の溶液を混合して撹拌するステップ1)と、
ステップ1)で混合して得られた溶液を再蒸留水にて透析して、断続的に水を交換し、光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液を調製するステップ2)と、
光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液をろ過することで未担持のセルコスポリンを除去し、凍結乾燥させて、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを調製するステップ3)と、を含む、ことを特徴とする調製方法。
【請求項7】
前記ステップ1)では、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料の濃度が10〜50mg/mL−1であり、
前記ステップ1)では、セルコスポリンの濃度が10〜50mg/mL−1であり、
前記ステップ1)では、DMSOの使用量が0.5〜1mLである、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料を含む肝がん治療のための医薬品。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料を含有することを特徴とする肝がん治療薬。
【請求項10】
肝がん治療薬の開発における請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規光増感剤複合ナノ多機能材料の調製及びその使用に関し、具体的には、セルコスポリンを、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体に封入して調製した新規光増感剤複合ナノ多機能材料、その調製方法及び用途に関し、光線力学的治療の技術分野及び生物医学分野に属している。
【背景技術】
【0002】
光線力学的療法は、腫瘍疾患を治療するための非侵襲的な新技術であり、光増感剤をインキュベートし、特定の光照射と組み合わせると、酸化性の高い一重項酸素を生成することで、腫瘍組織や細胞を殺滅する目的を達成できる。光線力学的治療は、長年に亘って発展した結果、より広く使用されており、その作用機序もますます明らかになってきた。悪性腫瘍を治療するための光線力学的治療には、光増感剤、特定の波長の光照射、及び酸素の3つの要素が必要とされる。この治療戦略は、具体的には、低毒性の光増感剤を人体に入れて、次に腫瘍領域へ光を照射することでこのような光増感剤を励起し、光活性化後の三重項励起状態の光増感剤は、励起状態のエネルギーを周囲の腫瘍組織及び細胞内の酸素に伝達し、酸化力の高い一重項酸素を生成することで、リポソーム、タンパク質やその他の細胞内小器官を酸化的に損傷し、腫瘍細胞のアポトーシスと壊死を引き起こす。したがって、光増感剤の一重項酸素を生成する性能は、光線力学的治療の効果にとって非常に重要である。しかしながら、通常使用される光増感剤は、水溶性が低く、腫瘍に対する標的性を持たないため、その臨床応用が厳しく制限されてしまう。したがって、多くの科学的研究では、生物医学分野での光線力学的治療技術の応用に対応するように、化学修飾又はナノデリバリーシステムを利用して、さまざまな光増感剤の水溶性と標的性を高める。
【0003】
数十年間に亘り発展させた結果、光増感剤は、種類と性能がともに十分に開発されており、第3世代まで発展しており、第1世代と第2世代の光増感剤は、主にポルフィリン誘導体、メソ位に置換アリールを有するポルフィン類、フタロシアニン類、クロロフィルa分解生成物誘導体やヘマトポルフィリンモノメチルエーテルなどであり、第3世代の光増感剤は、主にアミノ酸結合光増感剤、重合体結合光増感剤、タンパク質又は糖結合光増感剤などの分子認識機能を備えた光増感剤を含む第2世代の光増感剤の機能的誘導体を指す。各世代の光増感剤の開発には、光線療法の性能、特に親水性と標的性の改善が伴う。現在、光線力学的治療の医学的応用において、より成熟した光増感剤には、ポルフィリン、ポルフィン、フタロシアニンなどが含まれる。さらに、新規光増感材料であるセルコスポリン(Cercosporin)は、セルコスポラから単離されたペリレンキノン類光増感化合物であり、一重項酸素量子収率(0.81)が高くなっている。しかし、他の光増感剤と同様に、セルコスポリンは水溶性が低く、標的性が不十分であり、光線力学的治療の機能がまだ開発されておらず、現在、光線力学的治療の光増感剤として使用することについての報告はなかった。
【0004】
高分子ミセルはナノデリバリーシステムの一種であり、優れた生体適合性を有する両親媒性高分子が自己組織化して水中でミセルを形成することができる。疎水性光増感剤に対しては、薬物として担持するか、又は親水性修飾を行うことで、光線力学的治療の要件を満たすことができる光増感剤担持ミセルを作製することができる。また、腫瘍組織又は細胞の特別な成長特性により、細胞膜表面でさまざまな標的受容体が過剰発現し、抗体、ポリペプチド、糖類物質などの一部の機能的標的分子はこれらの受容体を特異的に認識できるため、これらの標的分子を使って、高分子ミセルの表面を修飾し、受容体を介した認識を通じて腫瘍細胞に大量に取り込むことができることによって、光増感剤を標的に送達することで光線力学的治療を行い、正常細胞に対する光線力学的治療の毒性を低減できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光線力学的治療において光増感剤の水溶性が低く、標的性が不十分であるという欠点を解決し、光線力学的治療用のセルコスポリンの潜在力を開発し、初めてセルコスポリンを複合ナノ多機能材料に用いることで、その毒性や副作用を低減させ、光線力学的治療としての潜在力を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記新規の光増感剤複合ナノ多機能材料は、セルコスポリンと、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能送達システムとを自己組織化して調製されたものであり、安定したナノ構造を形成し、酸性条件下でセルコスポリンのバースト放出をトリガーすることができる。セルコスポリンを標的に送達することで光線力学的治療を行い、それにより、肝癌細胞に対する毒性を向上させ、正常細胞に対する毒性を低減させる。該酸感受性共重合体多機能送達システムは、ガラクトース修飾ローダミンBを共有結合により連結したポリメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルとポリ(3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとの共重合体であってもよい。
【0007】
本発明の一態様は、下記式1に示す化合物である、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能送達システムに関する。
(式1中、
Aは、ローダミンB、フルオレセインイソチオシアネート、ボディパイ(BODIPY:boron-dipyrromethene(ホウ素―ジピロメテン))などの蛍光トレース機能を有する蛍光分子から選ばれる同じ又は異なる1つ又は複数である。
Bは、1つ又は複数の、ガラクトース又はガラクトサミン残基を有する単糖又はオリゴ糖類分子であって、肝癌細胞の表面に過剰発現させたアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に認識できる分子であり、
式1には、メタアクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)の単量体構造が含まれ、mはその重合度を表わし、m=42であり、
式1には、3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリル酸エステル(GMA−N
3)の単量体構造が含まれ、nはその重合度を表し、n=62である。の分子である。)
【0008】
本発明の一実施形態では、前記肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能送達システムにおいて、式1に示すように、蛍光分子ローダミンB、DMAEMA及びGMA−N
3のモル比が1:42:62であり、前記標的糖分子とGMA−N
3の比が1:1である。
【0009】
本発明は、蛍光イメージング機能を有する蛍光分子を修飾して大分子開始剤とし、3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリル酸エステル(GMA−N
3)単量体とメタアクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)とのラジカル重合反応を開始させることで、蛍光分子に共有結合により連結した重合体を得るステップを含む、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能送達システムの調製方法も提供している。該重合体では、PGMA−N
3は親水性・疎水性相互作用によって疎水性薬物を担持する機能を有し、PDMAEMAの部分は、大量のアミノ基を含有するため、核酸類物質を被覆し、酸性条件下でプロトン化して、スポンジ効果をトリガーして封入体脱出を引き起こすことができ、肝に対する標的化機能を有するガラクトースの末端基の部位は、修飾によりアルキニル基を含有することで、共重合体中のPGMA−N
3の部分のアジド基とclick反応することにより共有結合を介して共重合体に連結し、担体へ安定した標的化機能を提供できる。
【0010】
本発明に関する酸感受性共重合体多機能送達システムの調製方法は、さらに、以下のステップを含む。
開始剤であるブロモローダミンB、DMAEMA単量体及びGMA−N
3単量体を25 mL丸底フラスコに1:25:50のモル比で添加し、テトラヒドロフラン2mLで溶解し、アルゴンガスを30分間通気してフラスコ内の酸素を除去する。DMAEMA単量体に対しては、その中の安定剤を予め除去し、すなわち、DMAEMA粗製品を塩基性アルミナカラムに迅速に通する必要がある。窒素ガスの保護下で、臭化第一銅とペンタメチルジエチレントリアミンを順次加え、フラスコを密閉し、窒素ガスの保護下、室温で8時間反応させる。反応終了後、テトラヒドロフラン(10mL)を反応液に加え、十分に撹拌してフラスコ内の反応液を溶解し、中性アルミナカラムに通して混合溶液中の銅配位子を除去し、収集した液体から回転蒸発により溶媒を除去した後、フラスコ内の粘稠な液体を石油エーテル(500mL)にゆっくり滴下し、沈殿させ、沈殿を3回繰り返し、真空乾燥して、ローダミンB修飾共重合体を沈殿物として得る。
プロパルギル修飾デアセチルガラクトースとローダミンB修飾共重合体をDMF 5mLに溶解した後、硫酸銅とアスコルビン酸ナトリウムを水5mLに溶解し、上記反応液に滴下し、室温で反応液を48時間撹拌する。反応液をろ過し、水溶液中で透析して(透析バッグの分画分子量:8〜10kDa)、目的共重合体Gal−polymerを得る。
【0011】
セルコスポリンを封入した複合ナノ多機能材料の調製方法であって、
目的共重合体Gal−polymerとセルコスポリンをそれぞれDMSOで溶解し、2種の溶液を混合して6時間撹拌するステップ1)と、
混合した溶液を再蒸留水にて48時間透析し、12時間おきに水を1回交換し、光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液を調製するステップ2)と、
光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液から0.45μmの精密ろ過膜でろ過して未担持のセルコスポリンを除去し、凍結乾燥機で凍結乾燥させ、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを調製するステップ3)と、を含む。
【0012】
本発明に係る肝臓腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性ナノ重合体多機能送達システムにおいて、GMA単量体は、疎水性部分を提供するものであり、一方では、疎水性のセルコスポリンと相互作用してそれを疎水性コアに封入し、他方では、その−N
3基がプロパルギル基を含むガラクトースと化学的に反応して、標的性を有するガラクトース分子を共有結合によって重合体に導入でき、DMAEMA単量体は、親水性部分を提供するものであるとともに、アミノ基を大量に含んでいるため、酸性条件下でプロトン化してミセルを解離させて、封入された光増感剤を放出させ、スポンジ効果をトリガーして細胞の小胞体から脱出させることができ、それによって、封入された光増感剤を細胞質又は細胞核にさえ放出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る新規光増感剤複合ナノ多機能材料は以下の有益な効果を有する。
(1)本発明の光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerは、送達プロセス(pH7.4)中に安定して存在でき、光増感剤の漏れを効果的に低減でき、光照射の条件下で一重項酸素を生成する効率を大幅に低下させ、一方、酸性pH環境では、光増感剤の放出を促進し、光増感剤の放出量を増加させ、大量の一重項酸素を生成して細胞毒性を発生させる。
(2)本発明の光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerは、共有結合により連結したローダミンB分子を含むため、生体内及び生体外でのリアルタイムイメージングを促進することができる。
(3)本発明の光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerは、共有結合により連結したガラクトース分子を含むので、肝臓癌細胞の表面で過剰発現させたアシアロ糖タンパク質受容体を標的とし、標的化送達の目的を達成することができる。
(4)本発明の光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerは、ガラクトースアシアロ糖タンパク質受容体によって特異的に認識されて細胞に取り込まれた後、酸性オルガネラから細胞質又は細胞核にさえ侵入して、光増感剤としての機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerの動的光散乱粒子径分布図である。
【
図2】光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerの透過型電子顕微鏡像である。
【
図3】光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを10%胎児ウシ血清を含有する高糖培地にて5日間インキュベートしたときの粒子径の変化図である。
【
図4】光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerのpH 7.4及び5.0のPBSにおけるセルコスポリン放出率である。
【
図5】各処理による1,3−ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)の吸収スペクトル(350〜550 nm)である。a)セルコスポリンをDMSOに溶解した。b)亜鉛フタロシアニンをDMSOに溶解した。c)光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerをDMSOに溶解した。d)上記3種類の溶液の418nmでの吸収光強度の変化。
【
図6】各処理による9,10−アントラセンジイル−ビス(メチレン)ジマロン酸(ABDA)の蛍光スペクトル(400〜550 nm)である。a)光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerをPBS pH 5.0に溶解した。b)光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerをPBS pH 7.4に溶解した。
【
図7】ヒト肝癌細胞HepG2と正常HEK293細胞のフローサイトメトリー結果である。a)HepG2細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。b)HEK293細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。c)ガラクトース競合がある条件下、HepG2細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。
【
図8】ヒト肝癌細胞HepG2と正常HEK293細胞の共焦点レーザー顕微鏡による実験結果である。a)HepG2細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。b)HEK293細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。c)ガラクトース競合がある条件下、HepG2細胞と光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを8時間インキュベートした実験の結果。
【
図9】a)ヒト肝癌細胞HepG2とb)正常HEK293細胞のそれぞれを光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerと3、6、12及び24時間共培養した後、463nmの灯光で15分間、照射した後の細胞生存率である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例にて本発明の実施形態を詳細に説明するが、当業者が理解できるように、以下の実施例は本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではない。実施例では、特定の条件が示されていない場合、通常の条件又は製造元が推奨する条件に従って行う。使用される試薬又は機器は、メーカーが明記されていない場合、すべて市販品として入手する一般的な製品である。
【0016】
実施例1:開始剤としてのブロモローダミンBの調製
エチレングリコール15.52g(25.00mmol)とトリエチルアミン1.01g(10.00mmol)を100mLの三角フラスコに入れて撹拌し、氷水浴で0℃に冷却し、窒素ガスの雰囲気下、臭化2−ブロモイソブチリルを1.20mL(10.00mmol)滴下して溶解し、次にゆっくりと室温まで昇温し、3時間磁気撹拌した。反応後の溶液に脱イオン水100mLを加えてクエンチした後、ジクロロメタン(100mL×3)で抽出した。収集した有機相を脱イオン水(100mL×3)で抽出した。抽出により得られた有機相に適量の無水硫酸マグネシウムを加え、12時間乾燥させた。ろ過後、回転蒸発(ロータリーエバポレータ)により油状の粗製生成物を得て、減圧下(85℃、30mTorr)で蒸留して、無色の粘稠生成物として2−ブロモイソ酪酸2−ヒドロキシエチルを得た。
ローダミンB 4.81g(10.00mmol)、1−エチル−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩2.90g(15.00mmol)、2−ブロモイソ酪酸2−ヒドロキシエチル化合物3.22g(15.00mmol)を無水ジクロロメタン40mLに溶解して撹拌し、氷水浴で0℃に冷却した後、4−ジメチルアミノピリジン1.82g(15μmol)を加え、ゆっくりと室温まで昇温して12時間反応させた。反応液を0.1 M HCl(50mL×3)で抽出した後、飽和重炭酸ナトリウムと飽和食塩水で3回洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させてろ過し、回転蒸発により溶媒を除去し、シリカカラム(ジクロロメタン/メタノール=10:1)で分離して開始剤としてのブロモローダミンBを得た。具体的な方法については、文献(Marcromolecules,2011,44,2050−2057)を参照されたい。
【0017】
実施例2:3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートGMA−N
3の調製
アジ化ナトリウム3.71g(57.00mmol)、重炭酸ナトリウム3.81g(45.20mmol)をテトラヒドロフラン/水(5:1v v
−1)60mLに溶解して撹拌し、メタアクリル酸グリシジル5.42g(37.80mmol)をゆっくりと加え、室温で48時間反応させた。ろ過して不溶性塩物質を除去した後、回転蒸発により溶媒を除去し、得られた濃縮物をジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させてろ過し、回転蒸発により溶媒を除去し、シリカカラム(ノルマルヘキサン/酢酸エチル=9:1)で分離して、3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを得た。具体的な方法については、文献(Polymer Chemistry,2015,6,3875−3884; Soft Matter,2009,5,4788−4796)を参照されたい。
【0018】
実施例3:ローダミンBを共有結合により連結したポリメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルとポリ(3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートの共重合体(RhB−PDMAEMA42−c−PGMA62−N
3)の調製
開始剤としてのブロモローダミンB 70.0mg(0.10mmol)、DMAEMA単量体484.0mg(2.75mmol)及び3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート化合物1.01g(5.50mmol)を正確に秤量し、25mL丸底フラスコに加え、テトラヒドロフラン2mLで溶解し、アルゴンガスを30分間通気してフラスコ内の酸素を除去した。DMAEMA単量体に対しては、その中の安定剤を予め除去し、すなわち、DMAEMA粗製品をアルカリ性アルミナカラムに迅速に通した。窒素ガスの保護下で、CuBr18.9mg(0.10mmol)とPMDETA(28μL、0.10mmol)を順次加え、フラスコを密閉させ、窒素ガスの保護下、室温で8時間反応させた。反応終了後、反応液にテトラヒドロフラン(10mL)を加え、充分に撹拌してフラスコ内の反応液を溶解し、中性アルミナカラムに通して混合液中の銅配位体を除去し、収集した液体から回転蒸発により溶媒を除去した後、フラスコ内の粘稠な液体を石油エーテル(500mL)にゆっくりと滴下し、沈殿させ、沈殿を3回繰り返し、得られた沈殿物を真空乾燥させ、ローダミンB修飾共重合体RhB−PDMAEMA42−c−PGMA62−N3を得た。
【0019】
実施例4:プロパルギル修飾デアセチルガラクトースの調製
ペルアセチルガラクトース6.21g(15.90mmol)を無水ジクロロメタン75mLに溶解し、プロパルギルアルコール1.0mL(18.00mmol)を加え、0℃に冷却して5分間撹拌し、15分以内に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル3.0mL(24.30mmol)を滴下した。0℃で10分間撹拌しつづけた後、室温で10時間反応させた。飽和炭酸カリウム溶液で反応を停止し、有機相をジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で3回洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させてろ過し、溶媒を回転蒸発により除去し、プロパルギル修飾ペルアセチルガラクトースを得た。
プロパルギル修飾ペルアセチルガラクトース2.01g(5.20mmol)を0.30 mol L
−1ナトリウムメトキシドメタノール溶液50mLに溶解し、室温で反応させた。TLC(薄層クロマトグラフィー)プレートにスポットして検出して原料が消えたら、H
+交換樹脂を加えて反応溶液を中性に調整し、ろ過し、回転蒸発により溶媒を除去し、シリカゲルカラム(ジクロロメタン/メタノール=10:1)で分離して、プロパルギル修飾デアセチルガラクトースを得た。具体的な方法については、文献(Bioconjugate Chemistry,2012,23,1166−1173)を参照されたい。
【0020】
実施例5:ガラクトース修飾ローダミンBを共有結合により連結したポリメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルとポリ(3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとの共重合体(Gal−polymer)の調製
実施例4のプロパルギル修飾デアセチルガラクトース350.0mgと実施例3のローダミンB修飾共重合体RhB−PDMAEMA25−c−PGMA50−N
3 200.1mgをDMF 5mLに溶解し、次に硫酸銅98.0mg(0.61mmol)、アスコルビン酸ナトリウム242.0mg(1.2mmol)を水5mLに溶解した後、上記反応液に滴下し、反応液を室温で48時間撹拌した。反応液をろ過し、水溶液中で透析して(透析バッグの分画分子量:8〜10kDa)、目的共重合体Gal−polymerを得た。
【0021】
実施例6:新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)の調製
実施例5の共重合体Gal−polymerとセルコスポリンをそれぞれDMSOに溶解し、2種類の溶液を混合して6時間撹拌した。混合した溶液を再蒸留水にて48時間透析し、12時間おきに水を1回交換して、セルコスポリンを担持した、光増感剤複合ナノ多機能材料溶液を調製した。その後、光増感剤複合ナノ多機能材料溶液を0.45μmの精密ろ過膜でろ過し、未担持のセルコスポリンを除去して、凍結乾燥機で凍結乾燥させ、セルコスポリンを封入した、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを調製した。
調製した光増感剤複合ナノ多機能材料をDMSOに充分に溶解し、マイクロプレートリーダーにより463nmでの溶液の吸光度を測定し、セルコスポリンのDMSO溶液で作成した検量線より、対応する複合ナノ材料におけるセルコスポリンの濃度を得た。得られた光増感剤複合ナノ多機能材料中のセルコスポリンの担持量は、複合材料中のセルコスポリンの質量/共重合体の質量として9.0%であり、封入率は、複合材料中のセルコスポリンの質量/出発材料におけるセルコスポリンの質量として、35.6%であった。
【0022】
実施例7:新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)のキャラクタリゼーション
実施例6で調製したCer(a)Gal−polymerの粒子径分布を動的光散乱技術により測定し、その形態学的特徴を透過型電子顕微鏡により観察した。
図1に示すように、動的光散乱粒子径検出を行ったところ、Cer(a)Gal−polymerは粒子径が約103±9.9nmのミセルを形成できた。
図2に示すように、透過型電子顕微鏡により観察したところ、円形の構造を有し、その粒子径分布が均一であった。
安定性は、光増感剤複合ナノ多機能材料の最も重要な特性の1つであり、生物医学の分野で使用されるナノ粒子は、培地に安定して分散できる必要がある。本実験で調製した光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを10%ウシ胎児血清を含有する培地に分散させて、その粒子径の変化を測定したところ、
図3に示すように、5日以内に明らかな粒子径の変化はなく、それは、この光増感剤複合ナノ多機能材料が良好な安定性を持っていることを示した。
【0023】
実施例8:新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)の酸感受性放出特性
実施例6で調製したCer(a)Gal−polymer 12mgをpH 5.0又はpH 7.4のPBS 1mLに溶解し、透析バッグ(MWCO 2000 Da)に入れて、密閉させた透析バッグのそれぞれを、pH 5.0又はpH 7.4のPBSバッファー(それぞれ1%Tween 20を含む)35mLを含有するビーカーに投入した。ビーカーを恒温(37℃)のマグネチックスターラーに置き、サンプリング時間を設定し、ピペットを使用してビーカーから200μLの放出液を取り出し、対応するpH値の新しいバッファー溶液200μLを追加した。マイクロプレートリーダーを使用して、取り出した放出液中のセルコスポリンの吸収強度を検出し、累積放出量を計算した。
図4に示した結果から、中性媒体では、セルコスポリンはゆっくりと放出され、48時間後の放出率はわずか15%であり、酸性媒体では、セルコスポリンは「バースト放出」の現象を示し、24時間以内の累積放出量が78%に達し、48時間後の累積放出量が93%に達した。そのような放出結果は、新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)が中性の生理学的条件下で安定して存在し、正常組織への毒性と副作用を低減でき腫瘍細胞・組織の酸性環境では、セルコスポリンをすばやく放出して、後続の光線力学的治療を行うことができることを示している。
【0024】
実施例9:光増感剤セルコスポリンの一重項酸素生成能の測定
光増感剤の一重項酸素生成能は、光線力学的治療におけるその適用の重要な指標であり、光増感剤であるセルコスポリンの一重項酸素生成能を評価するために、一重項酸素捕捉剤である1,3−ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)の特徴的な吸収ピークの強度変化により一重項酸素の生成を特徴付けた。
図5に示すように、DMSO中の亜鉛フタロシアニンZnPcの一重項酸素収率は0.67であり、これを対照とした。セルコスポリン、Cer(a)Gal−polymer、又はZnPcのDMSO溶液(1.5μL、0.1mM)をDPBF溶液3mLに加え、463nmの光を0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0分間照射後の吸収スペクトル(350〜550nm)を測定した。式Φ
Δ(cercosporin)=Φ
Δ(ZnPc)×[S
(cercosporin)/S
(ZnPc)]×[1−10
−OD(ZnPc)]/[1−10
−OD(cercosporin)]により計算したところ、セルコスポリンの一重項酸素収率は0.83であった。Φ
Δは一重項酸素量子収量を表し、S
(cercosporin)はセルコスポリンのDPBF消費速度を表し、S
(ZnPc)は参照溶液でのDPBF消費速度を表し、OD
(ZnPc)は463nmでのZnPcの吸光度を表し、OD
(cercosporin)は、463nmでのセルコスポリンの吸光度を表した。測定されたCer(a)Gal−polymer中のセルコスポリンの一重項酸素量子収率は0.87であり、セルコスポリン単独の場合よりわずかに高く、その理由は、重合体材料中のローダミンBも光強度を吸収した後、発光波長のエネルギーをセルコスポリンに移して、再び一重項酸素の発生をトリガーすることであった。
【0025】
実施例10:新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)の各pH条件での一重項酸素生成能の測定
9,10−アントラセンジイル−ビス(メチレン)ジマロン酸(ABDA)は、水溶液中の一重項酸素発生を測定するための試薬として使用でき、新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)に特定の波長の光が照射すると、ABDAは生成された一重項酸素によって酸化され、その蛍光強度が低下し、これにより、Cer(a)Gal−polymerの一重項酸素の生成が間接的に特徴付けられた。Cer(a)Gal−polymer(pH 5.0のPBSでは、1mg mL
−1)150μL及びCer(a)Gal−polymer(pH 7.4 PBSでは、1mg mL
−1)150μLを2mL ABDA(pH 5.0のPBS又はpH 7.4のPBSでは、13 mM)に加え、463nmの光を10、20、30、40、50秒照射した後の蛍光スペクトル(400〜550nm)を測定した。
図6に示した結果から、系のpHが7.4の場合、ABDAの蛍光強度はほとんど変化しておらず、つまり、一重項酸素の生成は基本的に検出されなかったのに対して、系のpHが5.0の場合、ABDAの蛍光強度は光照射時間が経るに伴い弱まり、それは、大量の一重項酸素が生成されたことを示した。この結果から明らかなように、酸性条件下では、セルコスポリンはナノ複合物から放出されて光線力学的治療の効果を発揮でき、正常な体液環境下では、ナノ複合物に封入されたままで、その光線力学性能を発揮しなかった。
【0026】
実施例11:フローサイトメーター検出による、肝癌細胞HepG2細胞の表面におけるアシアロ糖タンパク質受容体に対する、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerの特異的で標的な認識の証明
フローサイトメーターによる検出実験では、HepG2細胞とHEK293細胞を、10%新生仔ウシ血清を含むDMEM培地(100U/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシンを含む)で培養し、37℃、5%CO
2のインキュベーターに入れて成長させた。対数増殖期にある細胞を取り、0.02%EDTAと0.25%トリプシンを含有する消化液で消化し、次に、6ウェルプレートに1ウェルあたり5×10
4細胞を接種し、各ウェルに完全培養液2mLを加え、培養プレートをインキュベータに入れて24時間培養した。1群のHepG2細胞に最終濃度10mmol L
−1のガラクトースを添加して24時間培養し続け、各群の細胞密度が70%に達すると、Cer(a)Gal−polymerを加えて8時間培養し続けた。細胞をトリプシンで消化し、1000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、凝集した細胞をPBSに再懸濁してピペッティングした。この遠心分離プロセスを3回繰り返して、蛍光検出への干渉を減らすように、残った培地とミセル溶液を除去した。最後に、細胞をPBSで分散させ、フローサイトメトリーチューブに入れ、各群の細胞の蛍光強度をフローサイトメーターで検出した。
実験では、2つの方法を使用してHepG2細胞を培養し、それぞれ、ガラクトースを含有する培地(表面受容体はガラクトースで事前に飽和されている)とガラクトースを含まない培地(表面のアシアロ糖タンパク質受容体は影響を受けない)で培養した。
図7に示すように、結果から明らかなように、HEK293細胞内へのCer(a)Gal−polymerの量がHepG2細胞内へのCer(a)Gal−polymerの量よりも大幅に少ないことを示した。これは、HEK293細胞の表面では低発現させたアシアロタンパク質受容体しかないので、Cer(a)Gal−polymerは、表面のガラクトース−アシアロ糖タンパク質受容体により標的に媒介されるエンドサイトーシスを介してすばやく細胞に入ることができないためである。表面のアシアロ糖タンパク質受容体が事前に飽和している場合、Cer(a)Gal−polymerは表面に結合されたガラクトースを介してHepG2細胞を認識できず、非標的エンドサイトーシスのみを介して腫瘍細胞に入ることができるため、ローダミンBとセルコスポリンの蛍光強度はHEK293細胞の蛍光強度に相当している。表面受容体を過剰に発現させたHepG2細胞の場合、Cer(a)Gal−polymerは、表面に結合されたガラクトースを介して腫瘍細胞の表面のアシアロ糖タンパク質受容体にすばやく結合し、受容体を介したエンドサイトーシスを介して腫瘍細胞に入ることができ、したがって、HepG細胞におけるローダミンBとセルコスポリンの蛍光強度はいずれも最も強かった。
この実験は、Cer(a)Gal−polymerがHepG2細胞の表面の受容体を特異的に標的に認識し、細胞にうまく取り込まれることを証明した。
【0027】
実施例12:共焦点レーザー顕微鏡による実験による、肝癌細胞HepG2表面のアシアロ糖タンパク質受容体に対する、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerの特異的で標的な認識の証明
実施例6で得られた光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを培養液に加えて、HepG2及びHEK293細胞とともに細胞培養実験を行い、次に4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールで細胞核を染色した。レーザー共焦点顕微鏡実験の結果を
図8に示し、HepG2細胞では、複合材料におけるローダミンB由来の蛍光とセルコスポリン由来の蛍光がはっきりと確認でき、一方、HEK293細胞では、この蛍光はほとんど観察できず、そして、ガラクトース競合がある環境でも、HepG2細胞ではローダミンBとセルコスポリンの蛍光は観察されなかった。
この実験は、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerがガラクトース−アシアロ糖タンパク質受容体によって認識され、HepG2細胞に入り、セルコスポリンを細胞核に放出できることを証明した。
【0028】
実施例13:新規光増感剤複合ナノ多機能材料(Cer(a)Gal−polymer)の細胞レベルでの光線力学的治療の効率
ヒト肝癌細胞HepG2細胞と正常細胞HEK293細胞を96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO
2インキュベーターに入れて24時間培養した。細胞が付着成長した後、異なる濃度のCer(a)Gal−polymerを含む新鮮な培養液を加えて、3、6、12、又は24時間培養した。培養液を捨て、pH 7.4のPBSで3回洗浄し、新鮮な培地を加えた。培養皿に光(463nm、20mW/cm
2)を15分間照射した後、12時間培養しつづけた。次に、培養液を取り除き、PBSバッファー溶液で2回洗浄し、各ウェルにCCK−8試薬100μLを加え、インキュベーターで2時間インキュベートし続けた。多機能マイクロプレートリーダーで450nmでの各ウェルの吸光度(OD)を測定し、細胞生存率を計算した。
図9に示した結果から、インキュベーション時間が長くなるにつれて、Cer(a)Gal−polymerの細胞に対する毒性は増加する傾向を示し、Cer(a)Gal−polymerのHepG2に対する毒性はHEK293細胞に対する毒性よりもはるかに高かった。ヒト肝癌細胞HepG2細胞及び正常細胞HEK293細胞に対するCer(a)Gal−polymerの光線力学的治療の毒性実験を通じて、Cer(a)Gal−polymerがガラクトース−アシアロ糖タンパク質受容体によって媒介されるエンドサイトーシスを介して光増感剤であるセルコスポリンをHepG2がん細胞へ送達し、特定の波長463nmの光により照射されると、がん細胞に対して強力な光線療法の効果を有し、Cer(a)Gal−polymerは、優れた光線力学的治療の性能を示した。
【手続補正書】
【提出日】2020年10月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増感剤であるセルコスポリンと、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料とを自己組織化して調製された、ことを特徴とする新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項2】
前記肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料は、pH感受性を有するメタアクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルDMAEMA単量体と疎水性の3−アジド−2−ヒドロキシプロピルメタクリル酸エステルGMA−N3単量体で形成された共重合体であり、一端には蛍光トレース機能を有する蛍光分子が修飾され、他端には肝標的化機能を有する糖分子が修飾されており、
該酸感受性共重合体多機能材料は、疎水性相互作用によって光増感剤分子であるセルコスポリンがその疎水性キャビティに封入されている、ことを特徴とする請求項1に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項3】
セルコスポリンの封入量が約9質量%であり、前記新規光増感剤複合ナノ多機能材料の粒子径が約103nmである、ことを特徴とする請求項1に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項4】
前記肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料は、式1に示される構造式を有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
(Aは、ローダミンB、フルオレセインイソチオシアネート、ボディパイからなる蛍光トレース機能を有する蛍光分子から選ばれる同じ又は異なる1つ又は複数であり、;
Bは、肝癌細胞の表面に過剰発現させたアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に認識できるガラクトース又はガラクトサミン残基を有する単糖又はオリゴ糖類分子から選ばれる同じ又は異なる1つ又は複数の分子であり、
式1にはDMAEMAの単量体構造が含まれ、mはその重合度を表し、m=42であり、
式1にはGMA−N3の単量体構造が含まれ、nはその重合度を表し、n=62である)。
【請求項5】
式1中のAは蛍光分子であるローダミンBであり、Bはガラクトース残基であり、蛍光分子であるローダミンB、DMAEMA、GMA−N3のモル比が1:42:62であり、標的とした前記糖分子とGMA−N3のモル比が1:1である、ことを特徴とする請求項4に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料の調製方法であって、
肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料とセルコスポリンをそれぞれDMSOで溶解し、2種の溶液を混合して撹拌するステップ1)と、
ステップ1)で混合して得られた溶液を再蒸留水にて透析して、断続的に水を交換し、光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液を調製するステップ2)と、
光増感剤複合ナノ多機能材料の溶液をろ過することで未担持のセルコスポリンを除去し、凍結乾燥させて、光増感剤複合ナノ多機能材料Cer(a)Gal−polymerを調製するステップ3)と、を含む、ことを特徴とする調製方法。
【請求項7】
前記ステップ1)では、肝腫瘍細胞に対する標的性、トレーサビリティを有する酸感受性共重合体多機能材料の濃度が10〜50mg/mL−1であり、
前記ステップ1)では、セルコスポリンの濃度が10〜50mg/mL−1であり、
前記ステップ1)では、DMSOの使用量が0.5〜1mLである、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料を含む肝がん治療のための医薬品。
【請求項9】
肝がん治療薬の開発における請求項1〜5のいずれか1項に記載の新規光増感剤複合ナノ多機能材料の使用。
【国際調査報告】