(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【氏名又は名称】センター フォー エクセレンス イン ブレイン サイエンス アンド インテリジェンス テクノロジー,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】CENTER FOR EXCELLENCE IN BRAIN SCIENCE AND INTELLIGENCE TECHNOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
本発明は、はじめて、非ヒト霊長類の体細胞クローン動物の製造方法であって、具体的に、(i)前記非ヒト霊長類動物由来の再構築卵を提供する工程、(ii)前記再構築卵に対して活性化処理を行うことにより、活性化された再構築卵または活性化された前記再構築卵からなる再構築胚を形成する工程、(iii) (a)活性化された再構築卵または(b)活性化された再構築胚の胚細胞に対し、リプログラミングを行うことにより、リプログラミングされた再構築卵またはリプログラミングされた再構築胚を得る工程、ならびに(iv)前記リプログラミングされた再構築卵またはリプログラミングされた再構築胚を再生させることにより、非ヒト霊長類の体細胞クローン動物を得る工程を含む方法を提供する。本発明の方法は、顕著に非ヒト霊長類動物(たとえばサル)の細胞核移植胚の発育能力を向上させることができる。
前記リプログラミング処理が、Kdm4dタンパク質をコードするmRNAを前記の再構築卵または前記再構築胚の胚細胞に注入することを含む、請求項1に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面の説明
【
図1】
図1は、カニクイザルの体細胞の核移植操作のプロセスの最適化を示す。 ここで、Aは核ドナーとして使用されるカニクイザル胎児の線維芽体細胞で、 Bは紡錘体可視化システムにおけるカニクイザル卵母細胞核(紡錘体-染色体複合体)で、 Cは紡錘体可視化システム補助下のPeizo顕微操作システムによるカニクイザル卵母細胞核の除去で、 D〜Fはレーザーによる透明帯の切開、HVJ-Eウイルスを介するドナー細胞と核除去卵母細胞の融合で、 Gは体細胞と核除去卵母細胞の融合後、細胞核が再び形成した紡錘体-染色体複合体で、 Hは核移植胚の体外における活性化後の1前核の形成で、 Iは最適化条件後TSAで処理してH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4d mRNAを注射した胚が発育した胚盤である。
【0022】
【
図2】
図2は、異なる条件においてサル胎児の線維芽細胞および成年サルの卵丘細胞を核ドナーとした効率の統計を示す。 ここで、Aは通常の活性化条件、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAによる処理、TSAとH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dの注射といった三つの条件における線維芽細胞核移植胚の胚盤の発育の統計で、 Bは通常の活性化条件、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAによる処理、TSAとH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dの注射といった三つの条件における線維芽細胞核移植胚の高品質の胚盤の発育の統計で、 Cはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAによる処理、TSAとH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dの注射といった二つの条件における卵丘細胞核移植胚の胚盤の発育の統計で、 Dはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAによる処理、TSAとH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dの注射といった二つの条件における卵丘細胞核移植胚の高品質の胚盤の発育の統計で、 EはトランスクリプトームレベルにおけるH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dによるサル体細胞核移植を向上させる効果の検証である。
【0023】
【
図3】
図3は、カニクイザル体細胞核移植胚の移植妊娠率および胎児発育の統計を示す。 ここで、A、Bは核移植の妊娠レシピエントの超音波Bモード像で、Aレシピエントは胎嚢のみで、胎児がなく、Bレシピエントは胎嚢と胎児があり、 C、Dは2種類の異なる細胞ドナーの妊娠率の統計および妊娠レシピエントの胎児を抱える比率の統計で、 Eは胎児を抱える妊娠レシピエントの最終の発育状況である。
【0024】
【
図4】
図4は、体細胞核移植クローンサルの遺伝的分析を示す。 A、Bは線維芽細胞で得られた2匹の健康なクローンサル「中中」と「華華」で、 Cは2匹のクローンサルの核ゲノムの3つのマイクロサテライト部位の分析の概略図で、 D、Eは2匹のクローンサルのミトコンドリアのSNP分析の概略図である。
【
図5】
図5は、カニクイザル胎児の線維芽細胞の核移植を示す。 ここで、Aは体細胞と核除去卵母細胞の融合後、細胞核が再び形成した紡錘体-染色体複合体で(
図1Gに相応する)、 Bは核移植胚の体外における活性化後の1前核の形成で(
図1Hに相応する)、 Cは通常の条件で活性化した後の胚の発育状況で、 Dは通常の条件で活性化し、かつTSAで処理した後の胚の発育状況である。
【0025】
【
図6】
図6は、カニクイザル卵丘細胞の体細胞核移植および再構築卵に対する活性化処理とリプログラミング処理を示す。 ここで、Aはカニクイザル卵丘細胞で、 Bは卵丘細胞と核除去卵母細胞の融合後、細胞核が再び形成した紡錘体-染色体複合体で、 C、Dは核移植胚の体外における活性化後の1前核の形成で、 Eは通常の条件で活性化し、かつTSAで処理した後の胚の発育状況で、 Fは最適化条件後TSAで処理してH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4d mRNAを注射した胚が発育した胚盤である。
【0026】
【
図7】
図7は、線維芽細胞核移植クローンサル「中中」と「華華」のさらなるミトコンドリアのSNP部位の分析を示す(
図4Dに相応する)。
【
図8】
図8は、卵丘細胞体細胞核移植クローンサル「A」と「B」の遺伝的分析を示す。 ここで、Aは2匹のクローンサルの核ゲノムの3つのマイクロサテライト部位の分析の概略図で、 BとCは2匹のクローンサルのミトコンドリアのSNP部位の分析である。
【0027】
【
図9】
図9は、BMAL1遺伝子編集サル線維芽細胞の製造を示す。 (A) 遺伝子編集カニクイザル線維芽細胞の製造の概略図である。(B) BMAL1編集サルA6である。(C) A6サル由来の皮膚線維細胞で、Bar=200μmである。(D) A6線維芽細胞は核型が正常である。(E) A6サルの耳介尖組織、血液細胞、線維芽細胞の遺伝子型の分析である。(F) A6線維芽細胞の単一細胞の遺伝子型の分析である。
【
図10】
図10は、BMAL1遺伝子編集クローンサルの構築を示す。 (A) BMAL1遺伝子編集クローンサルの構築の概略図である。(B) 異なる段階におけるサルSCNT胚で、Bar=120μmである。(C) B1〜B5はA6線維芽細胞からSCNTを行った5匹のクローンサルである。(D) 5匹のクローンサルの耳組織のBMAL1突然変異分析で、4匹のサルがヘテロ突然変異遺伝子(「-8/-8,+4,2PM」)を、1匹のサルがホモ突然変異遺伝子(「-8/-8」)を持つ。
【0028】
【
図11】
図11は、クローンサルのBMAL1遺伝子型分析および発現分析を示す。 (A-E) B1〜B5の一塩基多型分析で、ミトコンドリアDNAのSNPは卵母細胞ドナーのサルと同様であるが、レシピエントのサルおよびドナーの線維芽細胞と異なることが示された。(F) 5匹のクローンサル(B1〜B5)の耳組織の短鎖縦列重複配列で、その核DNAはドナーの線維芽細胞と同様であるが、卵母細胞ドナーおよびレシピエントのサルと異なることが示された。 (G) クローンサルB1の血液サンプルのBMAL1発現のRT-PCR分析で、その野生BMAL1転写物が完全に欠失したことが示された。
【0029】
具体的な実施形態
本発明者は幅広く深く研究し、大量のスクリーニングおよび試みを行ったところ、初めて意外に、非ヒト霊長類の体細胞クローン動物を構築できる方法を開発した。具体的に、本発明者は特定のリプログラミング活性化剤(たとえばKdm4dタンパク質、Kdm4dタンパク質をコードするmRNA、Kdm4dタンパク質をコードするDNA、またはこれらの組み合わせ)で再構築卵または再構築胚(遺伝子編集された再構築卵または再構築胚を含む)に対してリプログラミング処理を行い、かつ任意に合わせて特定の活性化処理剤(たとえばカルシウムイオン活性化剤(たとえばイオノマイシン)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSA)、6-DMAP、またはこれらの組み合わせ)で再構築卵を活性化させることにより、はじめて非ヒト霊長類の体細胞クローン動物(たとえばサル)の獲得に成功した。これに基づき、本発明者が本発明を完成した。
【0030】
用語
典型的に、「再構築卵」とは、体細胞(体細胞由来の細胞核)を核が除去された卵母細胞に注射して得た再構築卵である。
本明細書で用いられるように、用語「再構築胚」、「再構築卵」は、再構築卵から発育または分化してなる胚、特に2〜16細胞段階にある胚を指すが、入れ替えて使用することができる。典型的に、再構築胚とは、体細胞(体細胞由来の細胞核)を核が除去された卵母細胞に注射し、かつ前記再構築卵が分裂してなる胚およびこの胚から発育したすべての異なる細胞段階にある胚である。
【0031】
活性化処理
本明細書で用いられるように、用語「活性化処理」とは、適切な活性化処理条件で、再構築卵または再構築胚に対して活性化処理を行うことにより、再構築卵または再構築胚の細胞分裂を促進することである。
本発明において、本分野の通常の活性化処理条件で活性化処理を行うことができる。典型的に、活性化処理剤で、一定の温度(たとえば37±2℃)で一定の時間(たとえば0.1〜24時間)活性化処理することができる。
典型的な活性化処理の活性化条件は、37℃、5%CO
2で活性化処理するものである。
【0032】
本発明において、活性化処理剤の種類は特に限定されないが、代表的な例は、カルシウムイオン活性化剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、6-DMAP、シクロヘキシミド(Cycloheximide、CHX)、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
代表的なヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、TSA、Scriptaid、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
代表的なカルシウムイオン活性化剤は、イオノマイシン、カルシウムイオンキャリアA23187、エタノール、塩化ストロンチウム、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記活性化処理剤の濃度は0.1 nM〜100 mM、好ましくは1 nM〜50 mMである。
たとえば、イオノマイシンでは、その濃度は0.5 mM〜30 mM、好ましくは0.8 mM〜15 mM、より好ましくは1〜10 mMである。
もう一つの好適な例において、前記活性化処理剤のうち、前記カルシウムイオン活性化剤の濃度は、0.2〜80μM、好ましくは0.5〜50μM、より好ましくは0.8〜20μM、さらに好ましくは1〜15μMである。
もう一つの好適な例において、前記活性化処理剤のうち、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSA)の濃度は0.5〜80 nM、好ましくは1〜50 nM、より好ましくは3〜30 nMである。
もう一つの好適な例において、前記活性化処理剤のうち、前記イオノマイシンの濃度は、0.2〜80μM、好ましくは0.5〜50μM、より好ましくは0.8〜20μM、さらに好ましくは1〜15μMである。
もう一つの好適な例において、前記活性化処理剤のうち、前記シクロヘキシミド(Cycloheximide、CHX)の濃度は0.2〜80μg/ml、好ましくは0.5〜50μg/ml、より好ましくは1〜20μg/mlである。
【0034】
本発明の一つの実施例において、前記の活性化処理は、イオノマイシンで2〜6分間、6-DMAPで3〜6時間、そしてTSAで5〜15時間処理することを含む。
本発明の実験結果から、意外に、TSAを活性化剤として本発明の特定のリプログラミング処理剤とともに使用する場合、非ヒト霊長類動物の体細胞クローン動物の製造の成功率を顕著に向上させることができることが示された。
【0035】
本発明において、一つの好適な活性化処理方法は、体細胞の注射が完了した再構築胚を5μMのTH3操作液に溶解したイオノマイシンにおいて一定の時間(たとえば2〜20分間、好ましくは約5分間)(好ましくは37℃および5%CO
2の条件で)処理した後、胚をHECN-9に溶解した2 mM DMAPおよび濃度10nMのTSAの液体に移して一定の時間(たとえば3〜8時間)(好ましくは37℃および5%CO
2の条件で)処理し、その後、胚をhamster embryo culture medium 9(HECM-9)に溶解した濃度10nMのTSAの液体に移して一定の時間(たとえば3〜8時間)処理することを含む。
【0036】
リプログラミング処理
本明細書で用いられるように、用語「リプログラミング処理」とは、再構築卵または再構築胚を処理することにより、処理された再構築卵または再構築胚における特定の遺伝子の転写および/または翻訳の状態を変化させることで、受精卵の発育に関連する遺伝子を転写および翻訳させることである。
霊長類動物では、ゲノムの複雑性のため、本発明の前は、再構築卵(または再構築胚)に対して様々なリプログラミング処理および/または再活性化処理が試みられたが、いずれも成功しなかった。また、霊長類動物のゲノムの複雑性(たとえば、現在霊長類動物の受精卵の発育に関連する遺伝子についてあまり知られていない)のため、本発明の前は、霊長類動物の再構築卵(または再構築胚)に対して有効かつ正確なリプログラミング処理することにより、体細胞クローン動物を産ませるができるかについて予想することができない。
【0037】
しかし、本発明者は、意外に、一つの特定の物質(すなわち、Kdm4d、Kdm4a、もしくはKdm4bタンパク質またはそのコードmRNA、あるいはこれらの組み合わせ)のみで非常に有効かつ正確に再構築卵に対して部位特異的なリプログラミングができ、そしてこのようなリプログラミングの効果は有効で、まだ観察可能な副作用(たとえば胚畸形、流産など)の存在が見られていないことを見出した。
一つの典型的なリプログラミング処理の条件は、細胞活性が維持できる温度(たとえば室温、好ましくは25〜35℃)で倒立顕微鏡を使用してリプログラミング処理を行うものである。
【0038】
本発明において、リプログラミング処理剤の種類は特に限定されないが、代表的な例は、(a1) Kdm4dタンパク質、(a2) Kdm4dタンパク質をコードするmRNA、(a3) Kdm4dタンパク質をコードするDNA、および(a4) 上記(a1)、(a2)、(a3)の任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
もう一つの好適な例において、10
2〜10
8(好ましくは10
4〜10
6)コピー/細胞のKdm4dタンパク質をコードするmRNAを前記再構築卵または前記の胚細胞に注入することを含む。
もう一つの好適な例において、前記Kdm4dタンパク質をコードするmRNAは溶液に存在し、前記mRNAの濃度は10〜6000 ng/μL(好ましくは50〜4000 ng/μL、より好ましくは80〜3000 ng/μL)である。
【0039】
一つの好適な実施形態において、本発明の実験結果から、意外に、Kdm4dタンパク質またはKdm4dタンパク質をコードするmRNATSAをリプログラミング処理剤として、そして任意に本発明の活性化処理剤とともに使用する場合、非ヒト霊長類動物の体細胞クローン動物の製造の成功率を顕著に向上させることができることが示された。
本発明の一つの好適な例において、本発明の方法は、胚を6-DMAPおよびTSAにおいて活性化させた後、TSAのみを含有するHECM-9に移し、1〜2時間後Kdm4d mRNAの注射を行い、胚を5μg/mlのサイトカラシンCBを含有するTH3操作液に移し、Piezo顕微操作システムを使用してKdm4d mRNAを活性化された胚に注射することを含む。
【0040】
応用
本方法によれば、まず、体外で培養された細胞に対して遺伝子操作を行った後、トランスジーン陽性の細胞をスクリーニングし、さらにこの細胞を体細胞核移植のドナー細胞として使用し、トランスジーン陽性のクローン動物を得ることができる。体細胞核移植技術によってトランスジェニック後代を得る場合、これらのクローン動物は遺伝子型が一致するのみならず、オフターゲットやキメラ体などの問題も解決でき、同時に個体を構築すると後続の研究に使用できるため、構築時間も基本的にサルの妊娠期間(約5.5か月)に短縮する。
本発明の方法に基づき、有効に様々な霊長類動物の体細胞クローン動物を製造することができる。これらのクローンの非ヒト霊長類動物はモデル動物として、科学研究、薬物スクリーニングなどの研究に使用することができる。
【0041】
また、本発明において、前記の再構築卵または再構築胚は遺伝子工学操作されていないものでも遺伝子工学操作されたものでもよい。代表的な遺伝子工学操作は、遺伝子編集(たとえばCRISPR/Cas9に基づいた遺伝子編集)、遺伝子組み換え、レンチウイルストランスジーン、Bacterial Artificial Chromsomes(BAC)トランスジーン、TALENに基づいたトランスジーンを含むが、これらに限定されない。
本発明において、前記の遺伝子操作は、再構築卵の製造前、製造中および/または製造後で行うことができる。また、本発明において、前記の遺伝子操作は、再構築胚の製造前、製造中および/または製造後でも行うことができる。
もう一つの好適な例において、本発明の再構築卵、再構築胚または体細胞クローン動物は突然変異の遺伝子(ノックインまたはノックアウトの遺伝子を含む)を有する。
【0042】
代表的な突然変異の場合は、以下のものを含むが、これらに限定されない。
遺伝子ノックイン:
(1)AAVS1部位への緑色蛍光タンパク質のノックイン:AAVS1-GFP Knock In、
(2)AAVS1部位へのcre配列のノックイン:AAVS1-Cre Knock In、
(3)AAVS1部位へのLSL-CHR2配列のノックイン:AAVS1-LSL-CHR2 Knock In、
(4)CamkIIa部位への光感受性オンチャネルロドプシンCHR2のノックイン:CamkIIa-CHR2-EYFP Knock In、
(5)CamkIIa部位へのカルシウムイメージングタンパク質Gcamp6sのノックイン:CamkIIa-Gcamp6s Knock In、
(6)CamkIIa部位へのcre配列のノックイン:CamkIIa-Cre Knock In、
(7)Vgat部位への光感受性オンチャネルロドプシンCHR2のノックイン:Vgat-CHR2-EYFP Knock In、
(8)Vgat部位へのカルシウムイメージングタンパク質Gcamp6sのノックイン:Vgat-Gcamp6s Knock In、
(9)Vgat部位へのcre配列のノックイン:Vgat-Cre Knock In、
(10)Chat(コリンアセチルトランスフェラーゼ、Choline acetyltransferase)部位へのcre配列のノックイン:Chat-Cre Knock in、
(11)Chat部位へのChr2配列のノックイン:Chat-CHR2-EFYP Knock in、
(12)Chat部位へのGcamp6s配列のノックイン:Chat-gcamp6s Knock in、
(13)Drd1(ドーパミン受容体D1、Dopamine receptor D1)へのcre配列のノックイン:Drd1-Cre Knock In、
(14)Drd1へのChr2配列のノックイン:Drd1-Chr2-EYFP Knock In、
(15)Drd2(ドーパミン受容体D1、Dopamine receptor D2)へのcre配列のノックイン:Drd2-Cre Knock In、
(16)Drd2へのChr2配列のノックイン:Drd2-Chr2-EYFP Knock In、
(17)GFAP部位へのChr2配列のノックイン:GFAP-CHR2-EFYP Knock in、
(18)GFAP部位へのcre配列のノックイン:GFAP-Cre Knock In、
(19)GFAP部位へのgcamp6s配列のノックイン:GFAP-gcamp6s Knock In、
(20)TH(ヒドロキシトリプタミン、hydroxytryptamine)部位へのcre配列のノックイン:TH-Cre Knock In、
(21)TH部位へのChr2配列のノックイン:TH-Chr2-EYFP Knock In、
(22)Nestin部位へのcre配列のノックイン:Nestin-Cre Knock In、
(23)ほかの組織または細胞特異的な遺伝子ノックイン。
【0043】
点突然変異:
(1)SOD1 A4V点突然変異、
(2)SOD1 H46R点突然変異、
(3)SOD1 G93A点突然変異、
(4)Foxp2 T327N+N349S点突然変異。
【0044】
遺伝子ノックアウト:
(1)クローンの遺伝背景が一致するPRRT2遺伝子ノックアウト、
(2)クローンの遺伝背景が一致するFMR1遺伝子ノックアウト、
(3)クローンの遺伝背景が一致するASPM遺伝子ノックアウト、
(4)クローンの遺伝背景が一致するDISC1遺伝子ノックアウト、
(5)クローンの遺伝背景が一致するMKRN3遺伝子ノックアウト、
(6)クローンの遺伝背景が一致するSNCA遺伝子ノックアウト、
(7)クローンの遺伝背景が一致するLRRK2遺伝子ノックアウト、
(8)クローンの遺伝背景が一致するGBA遺伝子ノックアウト、
(9)クローンの遺伝背景が一致するPRKN遺伝子ノックアウト、
(10)クローンの遺伝背景が一致するPINK1遺伝子ノックアウト、
(11)クローンの遺伝背景が一致するPARK7遺伝子ノックアウト、
(12)クローンの遺伝背景が一致するVPS35遺伝子ノックアウト、
(13)クローンの遺伝背景が一致するEIF4G1遺伝子ノックアウト、
(14)クローンの遺伝背景が一致するBmal1遺伝子ノックアウト、
(15)クローンの遺伝背景が一致するLRRK2+PINK1+PARK7遺伝子ノックアウト。
【0045】
体細胞核移植
本明細書で用いられるように、用語「体細胞核移植」は、体細胞クローニングとも呼ばれ、体細胞核を核が除去された卵母細胞に注入し、体細胞核を卵母細胞の中でリプログラミングさせて新たな胚として再構築させ、さらに動物個体を得る方法を指す。
本発明において、体外で培養された体細胞を遺伝子修飾した後、遺伝子修飾された体細胞を核ドナーとして使用してクローン動物を得ることにより、特定の遺伝子修飾を持つ動物モデルを得ることができる。この方法によれば、複雑な遺伝子修飾を持つ動物モデルを得ることができ、かつ得られるF0世代の動物モデルにキメラ現象がなく、継代せずに使用可能で、また同一株の細胞で得られる動物モデルは一致する遺伝背景を有する。そのため、本発明は体細胞核移植技術によって遺伝子修飾非ヒト霊長類モデルを構築する。
【0046】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(1) 本発明では、はじめて、体細胞由来の非ヒト霊長類のクローン動物を構築する方法であって、リプログラミング活性化剤(たとえばKdm4dタンパク質、Kdm4dタンパク質をコードするmRNA、Kdm4dタンパク質をコードするDNA、またはこれらの組み合わせ)および活性化処理剤(たとえばカルシウムイオン活性化剤(たとえばイオノマイシン)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSA)、6-DMAP、またはこれらの組み合わせ)で再構築卵(遺伝子編集されたものまたは遺伝子編集されていないものを含む)に対して活性化およびリプログラミング処理を行うことにより、非ヒト霊長類の体細胞クローン動物(たとえばサル)を得る方法が提供される。
【0047】
(2) 本発明では、はじめて、リプログラミング活性化剤(たとえばH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4d)が非ヒト霊長類動物(たとえばサル)の核移植胚において顕著に体細胞核移植胚の発育能力を向上させることができることが見出された。
(3) 本発明では、はじめて、1細胞期の活性化処理剤で活性化された再構築胚に投与量10〜6000 ng/μl(好ましくは50〜4000 ng/μl、より好ましくは80〜3000 ng/μl)のH3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dを注射すると、顕著に体細胞核移植胚の発育能力を向上させることができ、50%以上の胚が胚盤段階まで発育し、3%の胚盤が成熟した個体まで発育したことが見出された。
(4) 本発明では、はじめて、Crispr/Cas9で編集された細胞を核ドナーとして使用する核移植は効率が高く、そして得られる遺伝子編集された非ヒト霊長類動物(たとえばサル)にオフターゲット現象がないことが見出された。
【0048】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常、通常の条件、あるいはメーカーの薦めの条件で行われた。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
特に断らない限り、実施例における材料または試薬はいずれも市販品である。
【0049】
共通の方法
1.サル胎児線維芽細胞の分離・培養
流産のサル胎児を取って内臓、頭部、四肢および尻尾などの組織を除き、残りの躯幹部を鋏でなるべく小さい塊に切った後、1mg/ml DNA酵素および0.5mg/ml IV型コラゲナーゼを含有する細胞培養液(DMEM+10%FBS+抗生物質+非必須アミノ酸+グルタミン)において4時間消化する(37℃、5%CO
2)。消化して分離した細胞を10センチのシャーレに移し、そしてシャーレいっぱいまで培養した後、分離した初代細胞を消化した後、10%DMSOを含有する細胞培養液に再懸濁させ、凍結保存して使用に備える。体細胞核移植の前、凍結保存した初代細胞を回復させて6ウェルプレートで培養し、細胞がいっぱいになってから続いて3日培養した後、体細胞核移植実験に使用する。
【0050】
2.雌成年サルの卵丘細胞の分離・用意
カニクイザル/アカゲザルの卵採取時の卵胞液を取り、遠心してTH3で2回洗浄し、最後に少量のTH3で再懸濁させ、4℃冷蔵庫で保存して使用に備える。
3.サルの過剰排卵および卵母細胞の収集
6〜12歳の健康で月経が規則的な雌カニクイザルを選んで卵母細胞ドナーとする。月経の3日目からFSHを注射し、毎回25IUで、毎日2回、連続して8日注射する。月経の11日目に1000IUのHCGを注射し、HCGの注射から36時間後、腹腔鏡卵採取手術を開始する。腹腔鏡手術によって、負圧吸引器で直径2〜8mmの卵胞液を吸い取り、立体鏡においてガラス管で卵母細胞を卵胞液から選び出してCMRL-1066成熟培養液に移して使用に備える。
【0051】
4.カニクイザルの体細胞核移植の操作プロセス
卵母細胞の核除去:15〜20個のMII期卵母細胞をガラス底でオイルシールの5μg/ml CBを含有するTH3操作液に移し、紡錘体可視化システム補助の倒立顕微鏡において、卵母細胞核の位置を観察し、ホールディング針で卵母細胞を固定して卵母細胞核を3時の方向にする。Piezo顕微操作システムによって直径10μmの平口針で透明帯を破り、卵母細胞核を吸い出す。一組の卵母細胞の核除去が終了した後、核が除去された卵母細胞をHECM-9培養液に移す。
核除去卵母細胞への線維芽体細胞の注入:15〜20個の核除去卵母細胞をオイルシールの5μg/ml CBを含有するTH3操作液に移し、ホールディング針で卵母細胞を固定し、極体を12時または6時の方向にする。レーザー透明帯切開システムによって透明帯を破って一つのスリットを形成し、直径15〜18μmの斜口針で線維芽細胞を吸い取り、細胞をHVJ-Eに移して10秒浸漬した後、細胞を吸い出し、透明帯のスリットを通って核除去卵細胞の囲卵腔に注入し、当該体細胞が10分間程度で卵母細胞に融合する。
【0052】
核除去卵母細胞への卵丘細胞の注入:15〜20個の核除去卵母細胞をオイルシールの5μg/ml CBを含有するTH3操作液に移し、ホールディング針で卵母細胞を固定し、極体を12時または6時の方向にする。レーザー透明帯切開システムによって透明帯を破って一つのスリットを形成し、直径10μmの斜口針で卵丘細胞を吸い取り、細胞をHVJ-Eに移して10秒浸漬した後、細胞を吸い出し、透明帯のスリットを通って核除去卵細胞の9時方向に注入し、当該体細胞が10分間程度で卵母細胞に融合する。
核移植胚の体外における活性化:体細胞と核除去卵母細胞が融合してから1〜1.5時間で胚の活性化を行うことができる。胚を5μMのイオノマイシンを含有するTH3に移して5分間置いた後、2mM 6-DMAPおよび10nM TSAを含有するHECM-9培養液に移して5時間置いた後、10nM TSAを含有するHECM-9に移して5時間培養し、最後にHECM-9培養液に移して培養する。
Kdm4d mRNAの注射:胚を5〜6時間活性化させた後、活性化された胚をオイルシールの5μg/ml CBを含有するTH3操作液に移し、ホールディング針で胚を固定し、Piezo顕微操作システムによって直径2〜3μmの平口注射針で透明帯を破って胚の奥まで入り、胚の細胞膜を破って1000ng/μlのKdm4d mRNAを胚に注射し、各胚に約10plずつ注射する。注射終了後、胚をHECM-9培養液に移して37℃、5%CO
2で培養する。
【0053】
5.クローン胚の培養および胚移植
胚の培養:クローン胚を最初にHECM-9培養液において培養し、8細胞期になったら、5%FBSを含有するHECM-9培養液に移し、7〜8日目に胚盤が現れるまで1日おきに液交換する。
胚移植:大卵胞期または排卵期にある健康な成年雌サルを選んで胚移植に使用する。微創手術によって3〜7個の2細胞〜胚盤期の胚を雌サルの輸卵管内に移植する。
【0054】
6.Kdm4d mRNAの体外における転写
T7プロモーターを含むプライマー
(F: TTAATACGACTCACTATAGGGATGGAAACTATGAAGTCTAAGGCCAACT(配列番号1)、R: ATATAAAGACAGCCCGTGGACTTAGG(配列番号2))でヒトKdm4d遺伝子CDS領域をKdm4d遺伝子配列を担持するプラスミドから増幅させ、増幅した断片を精製して回収し、そしてmMESSAGE mMACHINE T7 ULTRA kit (Life Technologies, AM1345)キットによって体外において転写させた後、転写物をMEGA clear kit (Life Technologies, AM1908)キットによって精製した後、RNAseフリーの水に溶解させた。
【0055】
7.動物倫理の声明
カニクイザル(Macaca fascicularis)の使用と看護は、中国科学院上海生命科学研究院動物委員会によって許可された「遺伝子改変のサルモデルの体細胞核移植(ION-2018002)」という審査書類に準じる。当該実験において、使用されるサルは空調の環境(温度:22±1℃、湿度:50%±5% RH)に置かれ、12時間明期/12時間暗期のサイクル(07:00〜19:00)である。すべての飼料は蘇州AMUFI社から購入され、毎日2回で、サイレージ飼料は主に果物と野菜で、毎日1回補充する。
【0056】
8.線維芽細胞の培養、遺伝子分析および核型の同定
太ももの外側から麻酔されたBMAL1編集の構築初代サルA6の皮膚から、一欠片の皮膚を切り出す。組織をペニシリンとストレプトマイシンを含有するPBSで3回洗浄した後、小さく切り(1〜2mm
2)、6cmのシャーレで培養する。10日後、組織外植片から生長した線維芽細胞を10cmシャーレに継代し、その後3日ごとに1:3の比率で継代する。
A6サルの耳組織、血液細胞および培養された線維芽細胞を取って遺伝子型の分析に使用する。BMAL1検出部位のフォワードプライマーはACCATCGGCTGCGTACACCTCTATで、リバースプライマーはATTTCAGGTGTGAGCCACTCCACCで、PCR産物をTAクローニングした後、配列決定分析を行った。
核型分析:100 ng/mlのデメコルシンで10cmシャーレで生長したA6線維芽細胞を4〜6時間処理した後、0.25%トリプシン-EDTAで消化し、さらに0.075M塩化カリウムで37℃で30分間処理する。低浸透処理された細胞をメタノールと酢酸(3:1)において30分間固定した後、スライドに滴下し、最後にGiemsa染色および染色体の計数を行う。
【0057】
9.過剰排卵と胚の収集
カニクイザルの過剰排卵および卵母細胞の収集方法は前記の通りである。健康な雌サルの筋肉に25IUの組み換えヒト卵巣刺激ホルモンを、月経の3日目から11日目まで毎日2回注射する。
月経の11日目の夜に1000IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を筋肉内注射し、翌日に腹腔鏡卵および負圧吸引システムで、卵母細胞の収集を行う。収集した卵母細胞を平衡化したHECM-9培養液で培養する。第二減数分裂中期の卵母細胞をSCNTとする。
【0058】
10.体細胞核移植、胚の培養、胚移植
紡錘体-染色体複合体はOosightシステムにおいてピエゾ駆動の核除去針で快速に除去される。レーザーで核が除去された卵母細胞の透明帯に穴を開けた後、斜口針でHVJ-Eが付いた線維芽細胞を囲卵腔に注入してその融合を誘導する。再構築核移植胚はTH3(HEPES緩衝TALP培地、0.3%ウシ血清アルブミン含有)において活性化させ、まず、5mMのイオンキャリアを含有するTH3において5分間処理した後、2mM 6-ジメチルアミンを含有するTH3において5 h処理する。核移植胚は10 nMのトリコスタチン(Trichostatin、TSA)で10 h処理し、活性化から6 hで10plの1000 ng/ml Kdm4d mRNAを注射する。
胚の培養はHECM-9培養液において行われ、インキュベーターの条件は37℃、5%二酸化炭素である。胚が8細胞期になったら、5%牛胎児血清を入れたHECM-9培地に移し、その後、胚盤段階になるまで、1日おきに培地を1回交換する。発育が良好な2〜8細胞期の胚を月経周期が同調する雌サル(排卵点または黄体がある)の輸卵管に移植する。
【0059】
11.クローンサルの遺伝子分析
クローンサルの耳組織からゲノムDNAを抽出し、短鎖縦列重複配列(STR)分析に使用する。蛍光色素(FAM/HEX/TMR)を含有する部位特異的なプライマーはPCR増幅に使用される。蛍光色素で標識されたSTR増幅体はROX500および脱イオンのホルムアミド混合物で希釈された後、ABI PRISM 3730遺伝子分析装置においてキャピラリー電気泳動を行い、原始データを得る。原始データをはGene Marker 2.2.0でExcelファイルにし、大きさおよび遺伝子型の情報、DNAサンプルおよびグラフが含まれる。
一塩基多型(SNP)分析は、mtDNAもサルの耳組織サンプルから抽出される。特定のプライマー(F:CCACTTCACATCAAACCATCACTT R:CAAGCAGCGAATACCAGCAAAA)でmtDNAを増幅させ、PCR産物を配列決定とSNP分析に使用する。
【0060】
12.RT-PCR
A6、B1および2匹の野生型サルから血液を0.5mLずつ採取し、全RNA TRIzolR Reagent(Invitrogen)キットによってmRNAを抽出する。その後、全RNAをPrimeScript(商標) RT reagent Kit with gDNA Eraser (Perfect Real Time, Takara, Japan)キットによってcDNAに逆転写した。BMAL1プライマー(フォワードプライマー:5'-TAACCTCAGCTGCCTCGTTG-3'、リバースプラ今ー5'-TATTCATAACACGACGTGCC-3')で野生BMAL1の目的断片201 bpを増幅させた後、電気泳動分析を行う。
【0061】
実施例1 サルの核移植技術の操作プロセスの確立と最適化
ラット・マウスの卵母細胞の細胞核は通常の倒立顕微鏡においてはっきり認識可能で、顕微操作針で簡単に吸い出して除去することができる。一方、霊長類の卵母細胞の細胞核は通常の倒立顕微鏡においてはっきり認識することができず、従来のサル卵母細胞核を除去する方法はヘキスト染色後の蛍光局在化法および吸引法がある。この二つの方法は胚の損失がいずれも非常に大きく、胚の後続の発育効率に影響しやすい。本研究において、偏光に基づいた紡錘体可視化システム(Oosigt Imaging System)を使用し、当該システムでは、サル卵母細胞核がはっきり認識可能で卵母細胞の品質に影響しない。大量の訓練の後、紡錘体可視化システムではっきりサル卵母細胞核の位置を認識した後、ピエゾ駆動の10μmの顕微操作針で透明体を破ってサル卵母細胞核を吸い出した。体細胞を核が除去された卵母細胞に注入するために、レーザー透明帯切開システムで体細胞の注射を補助し、不活性化されたセンダイウイルスでサル胎児の体細胞と核除去卵母細胞の融合を誘導した。融合後の体細胞核は再び卵母細胞核の形態に集合する。(
図1A〜H、
図5A、B)
【0062】
実施例2 ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のサルクローン胚の発育効率に対する影響の研究
現在、体細胞核移植の効率が低い理由の一つは、体細胞DNAに卵母細胞のリプログラミング過程において異常が生じてDNAのメチル化が異常に増えることとされている。また、ヒストンのアセチル化レベルを向上させると、DNAのメチル化レベルを低下させることができる。本発明の実験において、通常の活性化(イオノマイシン(ionomycin)およびジメチルアミノピリジン(6-DMAP))後のカニクイザルの体細胞核移植胚を体外で培養したところ、4/30の胚は胚盤段階まで発育したが、4個の胚盤はいずれも品質が劣り、顕著な内部細胞塊がなかった。一方、胚の活性化中および活性化後にヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSA(10nM、10h)を入れると、TSAを入れて処理された胚のうち5/31が胚盤まで発育したことがわかった。胚盤率がI/Dによる活性化に近かったが、TSA添加群では、胚盤の品質が少し上がり、5個の胚盤のうち2個に内部細胞塊があった。(
図2A、B、
図5C、D)
【0063】
実施例3 胚活性化条件の最適化のサルクローン胚の発育効率に対する影響の研究
ヒト体細胞核移植クローン胚の研究では、通常のイオノマイシン(ionomycin)およびジメチルアミノピリジン(6-DMAP)による胚の活性化以外、電気刺激およびピューロマイシンもヒトクローン胚の発育効率を顕著に向上させることができることが報告された。本発明の活性化条件を最適化する実験において、電気刺激、イオノマイシン、ジメチルアミノピリジン、ピューロマイシンおよびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAを総合的に使用し、54個のカニクイザルの体細胞クローン胚のうち18(33.3/%)個が胚盤まで発育し、そのうち8個の胚盤に顕著な内部細胞塊があった。
単純なイオノマイシンおよびジメチルアミノピリジンによる胚の活性化ならびに実験的なイオノマイシン、ジメチルアミノピリジンおよびTSAによる胚の処理と比べ、最適化後の胚の活性化条件は顕著にサル体細胞核移植胚の発育能力を向上させることができた。この方法によって構築された胚を雌サルレシピエントの輸卵管に移植し、いくつかのドナーを移植したが、サル体細胞核移植で妊娠したドナーが得られなかった。
【0064】
実施例4 胚集合法の非ヒト霊長類体細胞核移植の効率に対する影響
体細胞核移植胚の遺伝子発現異常はその効率低下の要因で、Oct4遺伝子の内部細胞塊(ICM)における発現はクローン胚の内部細胞塊の品質の優劣の指標の一つとして有用である。本発明の研究では、マウスクローン胚の胚盤期の細胞数は正常のIVF胚の細胞数の半分で、同様に、マウスクローン胚の胚盤におけるICMの数もIVF胚のICM数の約半分であることが見出された。クローン胚におけるICM数の多さはOct4遺伝子のICMにおける発現と密接に関連する。本発明のサル体細胞核移植胚集合実験において、まず、1個の単精子注射で得られた正常のカニクイザル胚および3個の体細胞核移植胚を集合させてともに発育させ、移植された10個のドナーのうち、3個の妊娠レシピエント、そして2匹の出産した生存個体が得られたが、遺伝的分析により、2匹の生存サルはいずれも単精子注射で得られた正常のサル胚からのもので、体細胞核移植胚は個体の発生に関与しなかった。そして、3〜4個のすべて体細胞核移植の胚を集合させてともに発育させた。いくつかの妊娠レシピエントが得られたが、いずれも早期流産し、生存個体が得られなかった。
【0065】
実施例5 H3K9me3脱メチル化酵素のサル体細胞核移植の効率に対する影響
体細胞核移植の過程において、卵母細胞の体細胞核リプログラミング過程における異常がその効率の低下につながる。リプログラミング異常の理由を分析して相応的にこれらの異常を解決すると、体細胞核移植の効率を向上させることができる。
本実施例において、カニクイザル胎児の線維芽細胞を利用して38個の核移植胚を構築でき、Kdm4d mRNA注射を経た後、17個が胚盤段階まで発育し、そのうち11個の胚盤に顕著な内部細胞塊があった(
図1I、
図2A、B)。Kdm4dのほかのドナーの体細胞核移植胚における効果を測定するため、また成年サルの卵丘細胞を体細胞ドナーとして利用して33個の核移植胚を構築でき、Kdm4d mRNA注射を経た後、24個が胚盤段階まで発育し、そのうち15個の胚盤に顕著な内部細胞塊があった(
図6、
図2C、D)。
【0066】
さらにKdm4d mRNAのサル核移植胚の発育能力の向上における機序を知るため、正常サルの単精子注射(ICSI)で得られた4細胞期と8細胞期の胚およびKdm4d注射とKdm4d未注射のサル核移植の8細胞期の胚に対してトランスクリプトームの配列決定を行った。正常のICSIの4細胞期と8細胞期の胚のトランスクリプトームを比較し、8細胞期の発現レベルが4細胞期よりも5倍以上高かった領域を選び出すことにより、3997個の転写活性化領域を得た。次に、Kdm4d未注射の8細胞期の核移植胚のトランスクリプトームのこの3997個の領域を分析したところ、2465個の領域が活性化されなかったことが見出され、この2465個の領域をリプログラミング抵抗領域と呼ぶ。Kdm4d注射の8細胞期の核移植胚のトランスクリプトームにおけるリプログラミング抵抗領域を比較・分析したところ、2178個の領域の発現レベルが顕著に向上したことが見出された。
これらの結果から、H3K9me3脱メチル化酵素Kdm4dはサル核移植胚において顕著に体細胞核移植胚の発育能力を向上させることができることが示された。(
図2E)
【0067】
実施例6 H3K4me3脱メチル化酵素のサル体細胞核移植の効率に対する影響
本実施例において、カニクイザル体細胞核移植胚のレベルで検証した。
計20個のサル体細胞核移植胚を注射し、2個の胚盤が得られ、胚盤率がわずか10%で、H3K4me3脱メチル化酵素Kdm5bがサル体細胞核移植胚の効率の向上に顕著な効果がないことが示された。
【0068】
実施例7 カニクイザル胎児の線維芽細胞を使用した体細胞核移植クローンサルの獲得
本実施例において、雌カニクイザル胎児の初代線維芽細胞をドナー細胞として使用して体細胞核移植クローンサルの構築を行った。
共通の方法におけるプロセスによって、計127個のMII期の卵母細胞を操作し、卵母細胞の核除去、体細胞の注射および胚の活性化などのプロセスを経た後、109個の1前核の胚を得た(
図6)。この109個の胚にKdm4d mRNA注射を行い、そしておのうちの79個の2細胞期、2-4細胞期、8細胞期、8-16細胞期、または胚盤期の胚を21匹のレシピエントの雌サルに移植し、超音波Bモードによって検証したところ、6匹の妊娠雌サルを得ることができた。そのうち、4匹の妊娠雌サルの子宮に胎嚢と胎児があったが、ほかの2匹の妊娠雌サルは胎嚢のみで、胎児がなかった。4匹の胎児を持った雌サルのうち、2匹が早期流産した。ほかの2匹は、それぞれ155日(注:8-16細胞期で代理母体に移植した)および141日で帝王切開で2匹の仔サルを得た。この2匹の仔サルを「中中」、「華華」(注:2-4細胞期で代理母体に移植した)と名付けた。2匹の仔サルは、生まれて28日と18日現在、健康状況が良好である。(
図3A-E、
図4A、B)
【0069】
実施例8 成年カニクイザルの卵丘細胞を使用した体細胞核移植クローンサルの獲得
本実施例において、成年雌カニクイザルの卵丘細胞を細胞核ドナーとして使用してクローンサルの構築を行った。
実施例7と同様のプロセスによって、計290個のMII期の卵母細胞を操作し、卵母細胞の核除去、体細胞の注射および胚の活性化などのプロセスを経た後、192個の1前核の胚を得た。この192個の胚にKdm4d mRNA注射を行い、そしておのうちの181個の2細胞期〜胚盤期の胚を42匹のレシピエントの雌サルに移植し、超音波Bモードによって検証したところ、22匹の妊娠雌サルを得ることができた。そのうち、12匹の妊娠雌サルの子宮に胎嚢と胎児があったが、ほかの10匹の妊娠雌サルは胎嚢のみで、胎児がなかった。12匹の胎児を持った雌サルのうち、8匹が早期流産し、2匹がそれぞれ84日および94日で流産した。残りの2匹が130日以上発育でき、137および135日で帝王切開で生きて生まれた仔サルを2匹得た。この2匹の仔サルを「A」、「B」と名付けた。仔サルAは身体発育が停滞し、生まれてから3時間しか生存せずに呼吸不全で死亡したが、仔サルBは体型が正常で、生まれた後、正常の水とミルクの摂取行為があった。(
図3C、D、E)
【0070】
実施例9 成年アカゲザルの卵丘細胞を使用した体細胞核移植クローンサルの獲得
現在、科学研究で最も使用されている2種類の非ヒト霊長類はカニクイザルとアカゲザルを含む。本発明の上記実施例の研究では、本発明の上記特定の処理方法によって哺乳動物の核移植の効率が顕著に向上することがすでに示唆された。
本実施例において、さらにH3K9me3脱メチル化酵素の非ヒト霊長類の体細胞核移植における効率を検証するために、前記共通の方法をアカゲザルの体細胞核移植胚に応用した。
結果
H3K9me3脱メチル化酵素を注射した10個のアカゲザルの体細胞核移植胚のうち、7個が胚盤段階まで発育した。また、現在、この胚移植によってアカゲザルの体細胞核移植胚の妊娠レシピエントを得、そして130日まで発育したアカゲザルのクローンサル「C」を得た。この結果から、本発明の方法は、ほかの非ヒト霊長類、特にサルにも適用できることが示された。
【0071】
実施例10 体細胞核移植由来のクローンサルの遺伝的分析
5匹の生まれた仔サルの核ゲノムDNAおよびミトコンドリアDNAの遺伝源を検証するために、この4匹の仔サルに対して一塩基多型(SNP)およびマイクロサテライト配列(STR)の分析を行った。仔サル「中中」および「華華」、ドナー細胞、それぞれの代理母の雌サルおよびそれぞれの卵ドナーの雌サルの27個のマイクロサテライト部位を分析したところ、「中中」および「華華」のゲノムとドナー細胞のゲノムは一致したが、代理母の雌サルおよび卵ドナーの雌サルのゲノムと一致しなかった。仔サル「中中」および「華華」、ドナー細胞、それぞれの代理母の雌サルおよびそれぞれの卵ドナーの雌サルのミトコンドリアDNAにおけるND3遺伝子を配列決定してSNP分析を行ったところ、「中中」および「華華」のミトコンドリアゲノムとドナー細胞のサルのミトコンドリアゲノムは一致したが、代理母の雌サルおよび卵ドナーの雌サルのミトコンドリアゲノムと一致しなかった。同様の方法によって、生まれて死亡した「A」および「B」に対してSNPおよびSTRの分析を行ったところ、仔サル「A」、「B」および「C」の核ゲノムおよびミトコンドリアゲノムは卵細胞および卵丘細胞のドナーのサルからのもので、代理妊娠のレシピエントと異なった。これらの遺伝的分析により、この5匹の仔サルは確かにクローニング技術によるクローンサルであることが証明された。(
図4C、D、E、
図7および
図8)
4匹の体細胞クローンサル、ならびにその卵母細胞ドナー、体細胞ドナーおよび妊娠レシピエントの27個のSTR部位を分析したところ、この4匹の体細胞クローンサルの核DNAは確かにドナー体細胞からのものであることが確認された。
【0072】
実施例11 体細胞核移植技術による非ヒト霊長類の遺伝子修飾動物モデルの構築(カニクイザル/アカゲザルを例とする)
本発明では、力を入れて体細胞核移植技術によるクローンサルを実現させる理由は、それ自体の科学的意義のほか、当該技術の遺伝子修飾動物モデルの構築における優勢を重んじている。本発明では、体外で培養された体細胞を遺伝子修飾した後、遺伝子修飾された体細胞を核ドナーとして使用してクローン動物を得ることにより、特定の遺伝子修飾を持つ動物モデルを得ることができる。この方法によれば、複雑な遺伝子修飾を持つ動物モデルを得ることができ、かつ得られるF0世代の動物モデルにキメラ現象がなく、継代せずに使用可能で、また同一株の細胞で得られる動物モデルは一致する遺伝背景を有する。そのため、体細胞核移植技術によって遺伝子修飾非ヒト霊長類モデルを構築すると、上記のすべての問題を解決することができる。現在、本発明では、この技術によって行われている遺伝子修飾非ヒト霊長類モデルは以下の通りである。
【0073】
1.体細胞核移植技術によって構築されたカニクイザル/アカゲザルの精確遺伝子ノックインモデル:
(1)AAVS1部位への緑色蛍光タンパク質のノックイン:AAVS1-GFP Knock In、
(2)AAVS1部位へのcre配列のノックイン:AAVS1-Cre Knock In、
(3)AAVS1部位へのLSL-CHR2配列のノックイン:AAVS1-LSL-CHR2 Knock In、
(4)CamkIIa部位への光感受性オンチャネルロドプシンCHR2のノックイン:CamkIIa-CHR2-EYFP Knock In、
(5)CamkIIa部位へのカルシウムイメージングタンパク質Gcamp6sのノックイン:CamkIIa-Gcamp6s Knock In、
(6)CamkIIa部位へのcre配列のノックイン:CamkIIa-Cre Knock In、
(7)Vgat部位への光感受性オンチャネルロドプシンCHR2のノックイン:Vgat-CHR2-EYFP Knock In、
(8)Vgat部位へのカルシウムイメージングタンパク質Gcamp6sのノックイン:Vgat-Gcamp6s Knock In、
(9)Vgat部位へのcre配列のノックイン:Vgat-Cre Knock In、
(10)Chat(コリンアセチルトランスフェラーゼ、Choline acetyltransferase)部位へのcre配列のノックイン:Chat-Cre Knock in、
(11)Chat部位へのChr2配列のノックイン:Chat-CHR2-EFYP Knock in、
(12)Chat部位へのGcamp6s配列のノックイン:Chat-gcamp6s Knock in、
(13)Drd1(ドーパミン受容体D1、Dopamine receptor D1)へのcre配列のノックイン:Drd1-Cre Knock In、
(14)Drd1へのChr2配列のノックイン:Drd1-Chr2-EYFP Knock In、
(15)Drd2(ドーパミン受容体D1、Dopamine receptor D2)へのcre配列のノックイン:Drd2-Cre Knock In、
(16)Drd2へのChr2配列のノックイン:Drd2-Chr2-EYFP Knock In、
(17)GFAP部位へのChr2配列のノックイン:GFAP-CHR2-EFYP Knock in、
(18)GFAP部位へのcre配列のノックイン:GFAP-Cre Knock In、
(19)GFAP部位へのgcamp6s配列のノックイン:GFAP-gcamp6s Knock In、
(20)TH(ヒドロキシトリプタミン、hydroxytryptamine)部位へのcre配列のノックイン:TH-Cre Knock In、
(21)TH部位へのChr2配列のノックイン:TH-Chr2-EYFP Knock In、
(22)Nestin部位へのcre配列のノックイン:Nestin-Cre Knock In、
(23)ほかの組織または細胞特異的な遺伝子ノックインサモデル。
【0074】
2.体細胞核移植技術によって構築されたカニクイザル/アカゲザルの点突然変異モデル:
(1)SOD1 A4V点突然変異、
(2)SOD1 H46R点突然変異、
(3)SOD1 G93A点突然変異、
(4)Foxp2 T327N+N349S点突然変異。
【0075】
3.体細胞核移植技術によってクローニングされた複数匹の遺伝背景が一致するカニクイザル/アカゲザルの遺伝子ノックアウトの疾患または発育障害モデル:
(1)クローンの遺伝背景が一致するPRRT2遺伝子ノックアウトサルモデル、
(2)クローンの遺伝背景が一致するFMR1遺伝子ノックアウトサルモデル、
(3)クローンの遺伝背景が一致するASPM遺伝子ノックアウトサルモデル、
(4)クローンの遺伝背景が一致するDISC1遺伝子ノックアウトサルモデル、
(5)クローンの遺伝背景が一致するMKRN3遺伝子ノックアウトサルモデル、
(6)クローンの遺伝背景が一致するSNCA遺伝子ノックアウトサルモデル、
(7)クローンの遺伝背景が一致するLRRK2遺伝子ノックアウトサルモデル、
(8)クローンの遺伝背景が一致するGBA遺伝子ノックアウトサルモデル、
(9)クローンの遺伝背景が一致するPRKN遺伝子ノックアウトサルモデル、
(10)クローンの遺伝背景が一致するPINK1遺伝子ノックアウトサルモデル、
(11)クローンの遺伝背景が一致するPARK7遺伝子ノックアウトサルモデル、
(12)クローンの遺伝背景が一致するVPS35遺伝子ノックアウトサルモデル、
(13)クローンの遺伝背景が一致するEIF4G1遺伝子ノックアウトサルモデル、
(14)クローンの遺伝背景が一致するBmal1遺伝子ノックアウトサルモデル、
(15)クローンの遺伝背景が一致するLRRK2+PINK1+PARK7遺伝子ノックアウトサルモデル。
【0076】
4.体細胞核移植技術によってクローニングされた複数匹の遺伝背景が一致する、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、自閉症、うつ病、ハンチントン病などの疾患を研究するためのトランスジーンおよび遺伝子ノックアウトのカニクイザル/アカゲザルモデル。
【0077】
実施例12 BMAL1遺伝子ノックアウトカニクイザルの体細胞の製造
ARNT様1(BMAL1)は昼夜リズムを調節する転写因子である。本発明において、CRISPR/Cas9法によって5匹のBMAL1遺伝子編集カニクイザルの個体を得た。その中から、サルA6をドナー細胞提供サルとして選択してクローニングしたが、それはこのサルはBMAL1タンパク質の発現が検出されず、そして血液ホルモンの生理的循環の抑制、夜間の頻繁な活動、急速眼球運動(REM)の減少と非急速眼球運動睡眠期間、および精神疾患の関連行為を含む、顕著な生理疾患を示したからである。そのため、A6サルの皮膚線維芽細胞を取り、培養後、SCNTに使用した(
図9A〜C)。
培養後の線維芽細胞の核型は正常の二倍体を示し、42本の染色体がある(
図9D)。A6サルの耳介尖組織、血液細胞および線維芽細胞に対して遺伝子型の分析を行い、PCR産物の単一クローンの配列決定によって、いずれも「-8bp」および「-8bp,+ 4bp,2bpPM」という2種類のBMAL1突然変異が見つかった(
図9E)。その後、さらに単一の線維芽細胞に対する遺伝子型の分析から、BMAL1遺伝子に「-8bp/-8bp」というホモ遺伝子突然変異または「-8bp/-8bp,+ 4bp,2bpPM」というヘテロ遺伝子突然変異が存在することが示された(
図9F)。
【0078】
1.BMAL1編集サルの線維芽細胞を使用したSCNT
BMAL1遺伝子編集サルA6由来の線維芽細胞を使用してSCNTを行った。雌サルを過剰排卵させ、成熟卵母細胞を得た。その後、センダイウイルスの補助下で単一の線維芽細胞と核除去卵母細胞を融合させてSCNT卵母細胞を獲得し、そしてカルシウムイオンキャリアおよび6-ジメチルアミンとともにインキュベートした。核移植後のエピゲノムのリプログラミングを促進するために、SCNT胚をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤トリコスタチン(Trichostatin、TSA)とインキュベートし、そして同時にH3K9me3脱メチル化因子Kdm4dのmRNAを注射した(
図10A、B)。BMAL1遺伝子編集サルA6の線維芽細胞でSCNTを行ったら、高い比率の胚盤の形成が得られた(10/17、58.8%)。これらの胚盤のうち、80%(8/10)では顕著な内部細胞塊(ICM)が形成したが、これは胚の正常発育のサインである。胚盤形成およびICM形成の効率が高いため、325個のSCNT胚を発育の初期(2-8細胞)に65匹の代理母の雌サルに移し、そのうち16匹の雌サルが妊娠した。最終的に、5匹の生きて生まれたクローンサルの個体(B1-B5)が得られ、現在いずれも人工飼育で生存している(現在51〜141日天)(
図10C、表1)。また、SCNTにおける線維芽細胞の培養の継代の世代数とクローニング効率の関係を研究したところ、表1に示すように、4回継代された線維芽細胞はSCNTを行った後のレシピエントサルの妊娠率およびサルの生児出生率が最も良かったが、クローン成功率がドナー細胞の培養の継代の世代数に関係する可能性があることが示された。
【0079】
【0080】
2.クローンサルの遺伝子型の分析
まず、5匹のクローンサルの耳介尖組織を取ってBMAL1遺伝子型の分析を行った。4匹のクローンサル(B1, B3, B4, B5)はBMAL1遺伝子のホモ突然変異(「-8bp/-8bp,+4bp,2bpPM」)を、1匹のサル(B2)はBMAL1遺伝子のヘテロホモ突然変異(「-8bp/-8bp」)を持っていることがわかった(
図10D)。これは前に検出されたドナー線維芽細胞の突然変異遺伝子型およびサルA6の突然変異遺伝子型と同様である。
クローンサルの遺伝源を確認するために、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の一塩基多型(SNP)および核DNAの短鎖縦列重複を分析した。クローンサルのミトコンドリアDNAのND3遺伝子はいずれもそれぞれの卵母細胞のドナーサルと同様であるが、レシピエントサルおよびドナー線維芽細胞と異なることがわかった(
図11A-E)。29個の部位に対してSTR分析を行った結果、5匹のクローンサルのドナー線維芽細胞とサルA6の細胞核DNAは同様であるが、レシピエントサルおよび卵母細胞ドナーサルの細胞核DNAと異なることが示された(
図11F)。
全ゲノム配列決定およびPCR分析によってBMAL1遺伝子編集サルA6はオフターゲット現象がなかったことが実証されたが、5匹のクローンサルの耳組織のゲノムDNAに対してオフターゲット分析を行った。予想される潜在的なターゲット以外の部位では、突然変異がみつからなった。また、B1クローンサルの血液には、野生型BMAL1転写物が検出されなかった(残りの4匹のクローンはまだ採血できる年齢に達していない)。(
図11G)。
【0081】
検討
本発明では、CRISPR/Cas9システムによってカニクイザルゲノムにおけるリズムに関連する重要な遺伝子BMAL1をノックアウトし、そして5匹の遺伝子編集サルを得た。本研究において、そのうちの所見が顕著な1匹のサルの皮膚から分離した線維芽細胞を体細胞核ドナーとし、5匹のBMAL1遺伝子編集クローンサルを得ることができた。構築初代サルとクローンサルに対する配列アライメントとマイクロサテライト分析およびミトコンドリアDNAの比較により、これらのクローンサルは構築初代サルと同様の遺伝子背景を持っていることが示された。これらの結果から、CRISPR/Cas9によって編集されたカニクイザル疾患モデルは核移植のドナーとして有用で、遺伝背景が一致するクローンサルを得ることができることが示されたため、関連疾患の研究およびモデルの構築に有利な将来性を提供した。
【0082】
出願者は、以前の研究では、1匹の流産の雌サル胎児の線維芽細胞を核ドナーとして使用し、クローニングして「中中」および「華華」が得られた。これと異なるのは、この実験では、1匹の16か月の未成年サルの皮膚から分離した線維芽細胞を使用したことで、そしてはじめてオスの細胞を核ドナーとする可能性が証明された。現在のクローニングの効率はまだ低いが、さらに線維芽細胞の培養条件を最適化し、たとえば、線維芽細胞は数回の継代後のクローニングの効率が初代細胞のクローニングの効率よりも高いことが見出された。また、Kdm4dはH3K9me3の脱メチル化酵素として、核移植胚におけるリプログラミングメチル化領域を除去することにより、マウスおよびサルのリプログラミング効率を顕著に向上させることができる。Xistを介するX染色体サイレンシングは、マウス、ブタおよび霊長類動物においても保存的である可能性が高い。そのはか、DNAの再メチル化およびH3K27me3の欠失もクローニングの効率に影響する要因かもしれない。
【0083】
理論上、体外における遺伝子編集およびスクリーニングを経た陽性細胞は、核ドナーとして最も理想的な選択である。出願者は、この実験において成年編集サルから分離した細胞を使用したが、それはこの構築初代サルのBMAL1遺伝子が完全にノックアウトされ、そして人間に似たリズム失調の表現型を示したため、それを核ドナーに選んだ。検出によって構築初代サルに主に2種類の遺伝子型、すなわち、8bpノックアウトのホモ体(「-8bp/-8bp」)と8bpノックアウト、4bpノックアウトおよび2bp点突然変異のヘテロ体(「-8bp/-8bp, +4bp, 2bpPM」)があることが見出された。この5匹のクローンサルはそれぞれ1種類の遺伝子型を有することは、このキメラ現象がこの5匹のクローンサルにないことを示したため、本発明では、現在のクローニング方法が成熟しており、これらのクローンサルの表現型もさらに分析される。
【0084】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。