【実施例】
【0137】
材料及び方法
GAA発現カセット及びAAVベクター
本研究で用いたGAA導入遺伝子発現カセットは、コドン最適化ヒトGAA(hGAA)コード配列を含有した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。コドン最適化を、市販のアルゴリズム(Thermo Fisher Scientific社)を用いて実行した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。用いたhGAA導入遺伝子は、2つである:1.天然のhGAAタンパク質(hGAA)をコードするhGAA;又は2.操作された高度に分泌可能なGAAをコードし、プロペプチド内に異種シグナルペプチド、及び8つのアミノ酸の欠失を有するsec-hGAA(sp7-Δ8-hGAAco、本文中でsec-hGAAと略記)[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。導入遺伝子配列を、アポリポタンパク質E(肝細胞制御領域エンハンサー)及びヒトアルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、SPc5.12プロモーター、又はCMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(GAG)プロモーターの転写制御下のAAVベクター骨格中にクローニングした。本研究に用いたDNA配列は全て、GeneCust社又はThermo Fisher Scientific社のいずれかによって合成された。
【0138】
本研究で用いるAAVベクターを、記載されるHEK293細胞のアデノウイルスフリー一過性形質移入法を用いて作製した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。AAVベクター株の力価を、定量的リアルタイムPCR(qPCR)及びSDS-PAGEに続くSYPRO Rubyタンパク質ゲル染色及びバンド濃度測定を用いて決定した。本研究で用いた全てのベクター調製物は、使用前に逐次定量化した。AAVゲノムのqPCRに用いたプライマーは、BGHポリA(Fw:tctagttgccagccatctgttgt(配列番号8);Rev:tgggagtggcaccttcca(配列番号9)、及びコドン最適化hGAA(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11)にアニールした。用いたAAV血清型は、マウスへの全身投与の直ぐ後に類似の形質導入プロファイルを示すAAV8及びAAV9である(Zincarelliら、Mol Ther.2008年6月;16(6):1073〜80頁)。
【0139】
インビトロ実験
ヒト肝癌細胞(HuH7)、マウス筋芽細胞C2細胞(C2)、及びマウスNSC34細胞に、6ウェルプレート内に播種して(5×10
5細胞/ウェル)、Lipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、メーカーの指示に従って形質移入を行った。形質移入の72時間後に、細胞及び馴化培地を収穫して、GAA活性についてウエスタンブロット分析で分析した。ヒト骨格筋筋芽細胞(CSC-C3196、Creative Bioarray社)を、コラーゲンコーティングした12ウェルプレート上に播種して、OPTIMEM培地(Thermo Fisher Scientific社)中で2時間、2×10
5vg/細胞の感染多重度(MOI)にて、AAV9-hGAAベクター又はAAV9-EGFPベクターに感染させた。感染の後、細胞を、10%胎仔ウシ血清及びヒト線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2、Miltenyi Biotec社)を補充したCreative Biorray SuperCult(登録商標)Skeletal Muscle Cell Growth Medium Kit(Creative Biorray社)内で維持した。感染を48時間毎に2回繰り返した;細胞を、第2の感染の48時間後に収穫した。
【0140】
マウス研究
野生型C57BL/6マウスを、Charles River社(Charles River、仏国)から購入した。Gaa-/-マウスを、エキソン6の標的破壊によって作出した(Raben N.ら、J Biol Chem.1998年7月24日;273(30):19086〜92頁)。C57BL/6J/129X1/SvJバックグラウンド(
図5、6、8、9、10、11、12、13、16、17、18)又はDBA/2J C57バックグラウンド(
図7、8、14、15)のGaa-/-マウスを用いた。雄同腹仔の罹患Gaa-/-マウス及び非罹患Gaa+/+マウスを用いた。AAVベクターを:1.0.2mlの容量で尾部静脈を介して、成体マウス;2.0.03ml.の容量で側頭静脈を介して、生後1〜2日目の新生仔マウスに送達した。実験群は、統計分析を可能にする大きさに設定した;全ての動物を分析に含めて、いずれの外れ値も除外しなかった。マウスを実験群にランダムに割り当てて、ベクター送達及び機能分析を実行するオペレータを、群識別に対して盲目にした。免疫化-根絶研究(immunization-eradication study)のために、14頭のマウスを、合計3投与について2週毎に20mg/kgの用量でのrhGAAの静脈内注射によって処置した。以前に記載されるように、25mg/kgの抗ヒスタミン剤(塩酸ジフェンヒドラミン)の腹腔内投与の15分後に、各rhGAA点滴を実行した。最後のrhGAA投与の2週後に、抗hGAA IgGを測定した。免疫化Gaa-/-マウス(n=8)を、3つのAAV9-処置群(2×10
12vg/kg;AAV-Ctrl n=2、AAV-hAAT n=3、AAV-LiMP n=3)に割り当てた。
【0141】
GAA活性
GAA活性を、マウス血漿(1/1000〜1/2000希釈)及び組織において測定した。急速凍結した組織を、di UltraPure(商標)DNase/RNase-Free Distilled Water(Thermo Fisher Scientific社)中でホモジナイズした。50〜100mgの組織を秤量してホモジナイズしてから、10000×gにて20分間遠心分離して、上清を収集した。10μlのサンプル(血漿又は組織ホモジェネート)及び20μlの基質4MUα-D-グルコシドを96ウェルプレート内で用いて、酵素反応をセットアップした。反応混合液を37℃にて1時間インキュベートしてから、150μlの炭酸ナトリウムバッファpH10.5を加えて止めた。標準曲線(0〜2500pmol/4MUμl)を用いて、個々の反応混合液から放出された蛍光4MUを、EnSpireアルファプレートリーダー(Perkin-Elmer社)を用いて449nm(放出)及び360nm(励起)にて測定した。清澄にした上清のタンパク質濃度を、BCA(Thermo Fisher Scientific社)によって定量化した。GAA活性を算出するために、放出された4MU濃度を、サンプルタンパク質濃度で割って、活性をnmol/時/タンパク質mgとして報告した。
【0142】
ベクターゲノムコピー数分析
DNAを組織ホモジェネートから、Nucleospin 8(Macherey-Nagel社、仏国)を用いて抽出して、定量化した。ベクターゲノムコピー数を、100ngのDNA、コドン最適化hGAA上にアニールするプライマー及びプローブ(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11);プローブgtgtggtcctcttgggagc(配列番号12))を用いてqPCRによって決定した。以前に記載されるように[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]、Sybergreen系又はTaqman系のいずれかを用いた。VGCNを、qPCRに用いたDNAのマイクログラムによって標準化した。二倍体ゲノムあたりのVGCNを定量化するために、DNAを、Gentra Puregene Tissueキット(Qiagen社)を用いて組織ホモジェネートから抽出して、定量化した。
【0143】
RNA抽出及び発現分析
急速凍結した組織を秤量して、50〜100mgを、Trizol試薬(Thermo Fisher Scientific社)中でホモジナイズした。PureLink DNaseセットによるPureLink RNAミニキット(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、総RNAを組織ホモジェネートから抽出した。RNAを定量化して、2〜5μgを、dsDNaseによるRT-qPCR用のMaxima First Strand cDNA Synthesis Kit(Thermo Scientific社)を用いてcDNAにレトロ転写した;RT-マイナス反応を、陰性対照として実行した。hGAA RNA発現について、Sybergreen、及びコドン最適化hGAAにアニールするプライマー(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11)を用いて、cDNAのqPCR分析を実行した;マウスActin遺伝子にアニールするプライマーを用いて、hGAA発現を標準化した(mActin Fw:ggctgtattcccctccatcg(配列番号22);mActin Rev:ccagttggtaacaatgccatgt(配列番号23));マウスActin及びbeta-2 microglobulin(B2m;B2mフォワード:5'-ggtctttctggtgcttgtctca-3';B2mリバース:5'-gttcggcttcccattctcc-3')を用いて、
図17に示すデータについて、hGAA発現を標準化した。Rtl1発現分析について、Chandler及び共著者ら(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870〜80頁)によって以前に報告されたTaqMan法、市販のプローブ及びプライマー、並びにMaxima ROX qPCR Master Mix(Thermo Scientific社)を用いて、cDNAのqPCRを実行した。TaqMan遺伝子発現アッセイ(#4331182、Thermo Scientific社)は、以下の通りであった:Rtl1(Mm02392620_s1;Gapdh(Mm、99999915_g1)。
【0144】
ウエスタンブロット分析
1%のTriton-X100及びプロテアーゼインヒビタ(Roche Diagnosis社)を含有する10mM PBS(pH7.4)を用いて、HuH7、C2、及びNSC34の細胞溶解液を調製した。マウス血漿のウエスタンブロットを、サンプル(蒸留水中に1:4に希釈した)に実行した。マウス組織を、GAA活性について示すように調製した。BCA Protein Assay(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、タンパク質濃度を決定した。SDS-PAGE電気泳動を、4〜15%勾配のポリアクリルアミドゲルで実行した。SDS-PAGE電気泳動を、4〜15%勾配のポリアクリルアミドゲルで実行した。転写後、膜を、Odysseyバッファ(Li-Cor Biosciences社)でブロックして、抗GAA抗体(マウスモノクローナル、SantaCruz Biotechnology社、又はウサギモノクローナル、Abcam社)、抗eGFP(マウスモノクローナル、Santa Cruz社)又は抗チューブリン(マウスモノクローナル、Sigma Aldrich社);抗p62(マウスモノクローナル、Abcam社);抗Parkin(ウサギポリクローナル、Abcam社);Gapdh(ウサギポリクローナル、Thermo Fisher Scientific社)とインキュベートした。膜を洗浄して、適切な第2の抗体(Li-Cor Biosciences社)とインキュベートして、Odyssey画像化システム(Li-Cor Biosciences社)によって視覚化した。
【0145】
抗GAA抗体検出
抗GAA抗体測定を、公開されているプロトコルに従って実行した。手短に言うと、maxisorp 96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific社)を、1μg/mlのrhGAAでコーティングした。市販のマウス(Sigma Aldrich社)組換えIgGの連続1〜2希釈(ウェル上に繰り返して直接コーティングした)によって、IgG標準曲線を作成した。抗マウス(Southern biotech社)IgG二次抗体を、第2の抗体として用いた。
【0146】
機能評価
グリップ強度を、既に報告されているように測定した。グリップ強度メーター(Columbus instruments社)を用いて、4つの四肢強度の3つの独立した測定値を算出した。グリップ強度/マウスの平均値を算出した。
【0147】
安静呼吸中の呼吸機能を、既に報告されているように評価した[DeRuisseauら、PNAS、2009年]。手短に言うと、フロースルー(0.5L/分)プレチスモグラフ(EMKA technologies社)を用いて、処置したGaa-/-マウス及び対照における呼吸パターンを測定した。機器を、知られている空気流シグナル及び圧力シグナルで較正してから、データを収集した。シグナルを、IOX2ソフトウェア(EMKA technologies社)を用いて分析した。動物を、試験の前に、プレチスモグラフチャンバ中に順化させた。順化及びデータ獲得の双方の間、マウスは、標準酸素空気(21%O
2、79%N
2)を呼吸していた。
【0148】
結果
1.AAVプラスミド内の多組織プロモーターのクローニング
発明者らは、文献から、基本的な単組織転写調節要素を選択して、多組織プロモーターを生成する可能性を評価した。
【0149】
肝臓について、発明者らは、肝細胞制限アポリポタンパク質(ApoE)エンハンサー(配列番号4)を、ヒトアルファ-1アンチトリプシン(hAAT)プロモーター(配列番号2)と共に選択した。
筋肉について、発明者らは、合成spC5.12筋肉選択的プロモーター(配列番号1)を選択した。
ニューロンについて、発明者らは、パン-ニューロンヒトシナプシン(hSYN)プロモーター(配列番号3)を選択した。
【0150】
これらの転写調節要素に基づいて、発明者らは、3つの異なる多組織プロモーターを生成した(
図1)。
【0151】
肝臓増強- 筋肉プロモーター(Enh.C5.12と呼ぶ)、配列番号5
このプロモーターは、合成spC.12筋肉選択的プロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域/エンハンサーをクローニングすることによって生成した。
【0152】
肝臓- 筋肉プロモーター(LiMP)、配列番号6
このプロモーターは、合成spC5.12筋肉選択的プロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域及びhAATプロモーターをクローニングすることによって生成した。
【0153】
肝臓- ニューロンプロモーター(LiNeuP)、配列番号7
このプロモーターは、hSYNプロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域及びhAATプロモーターをクローニングすることによって生成した。
【0154】
コドン最適化ヒトGAA導入遺伝子(hGAA)を、全ての発現カセット内にクローニングした(
図1及びTable 1(表1))。hGAAの2つのバージョンを用いた:天然のもの、及び異種シグナルペプチドを有する操作された高度に分泌可能なもの(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ;Table 1(表1))[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。向上させた合成ヒトベータグロビン(HBB2.1)由来イントロンを、プロモーターとGAA導入遺伝子との間に挿入して、導入遺伝子mRNAを安定化させた(Ronzittiら、Molecular therapy Methods & clinical development.2016;3:16049頁)。HBB2イントロンを、LiMP-及びLiNeuP-発現カセット内で、短いSV40イントロン(Trapaniら、EMBO molecular medicine.2014;6(2):194〜211頁)と交換して、AAV DNAパッケージング限界にフィットさせた(Table 1(表1))。
【0155】
【表1】
【0156】
2.細胞株内での多組織プロモーターの評価
最初に、発明者らは、基本的な単組織プロモーターと比較して、細胞株内の多組織プロモーターをインビトロで試験した(
図2〜
図3)。GAA導入遺伝子の高度に分泌可能なバージョンを、モデル治療遺伝子として用いた[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。
【0157】
発明者らは、肝細胞株及び筋細胞株の双方においてsec-hGAA発現を駆動するEnh.C5.12及びLiMPハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターの能力を評価した(
図2A)。この目的のために、発明者らは、HuH7ヒト肝細胞株(
図2A)及びC2マウス筋芽細胞株(
図2B)に一過性に形質移入を行った。次に、発明者らは、ウエスタンブロット分析によって、細胞培地中のGAA酵素活性及び細胞溶解液中のタンパク質発現を評価した(
図2)。肝細胞において、完全な肝臓-筋肉プロモーターLiMP(hAAT+C5.12)が、C5.12と比較して、有意に高い活性を示した(Enh.C512はそうではなかった)(
図2A)。Enh.C512(ApoE+C5.12)は実際、C5.12と比較して、酵素活性の、小さく有意でない増大をもたらした(
図2A)。筋細胞において、LiMP及びEnh.C5.12は双方とも、C5.12及びhAATの双方と比較して、有意に高い活性を示した(
図2A)。これらの特徴により、LiMPは、強い肝臓-筋肉導入遺伝子発現の良好な候補とされる。特に、筋細胞にEnh.C5.12及びLiMPを用いて発明者らが見出した転写活性の増大は、筋肉選択的プロモーター(spC5.12)の、肝細胞選択的調節要素(ApoE/hAAT)との組合せに基づくと予想外であった(
図2A)。次に、発明者らは、肝細胞株及びニューロン細胞株の双方においてsec-hGAA発現を駆動する肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーター(hAAT+hSYN)の能力を評価した(
図1E〜
図1H;
図S2C〜
図2D)。この目的のために、発明者らは、HuH7肝細胞及びNSC34マウス神経細胞株(脊髄ニューロン×神経芽細胞腫ハイブリッド細胞株)に一過性に形質移入を行った(
図3)。肝細胞において、発明者らは、LiNeuPが、培地中の有意な酵素活性、及び溶解液中の有意なタンパク質の量を引き出すことを見出した(
図3A)。ニューロン細胞内で、LiNeuPは、培地中の有意な酵素活性を引き出し(
図3B)、そして細胞溶解液中のはっきりしたGAAタンパク質発現を引き出す(
図3B)。ゆえに、LiNeuPは、肝細胞及びニューロン細胞の双方において発現を誘導することができる一方、この新規のハイブリッドプロモーターに含まれる個々のプロモーターはそれぞれ、肝細胞(hAATについて)又はニューロン細胞(hSYNについて)内でしか発現を駆動することができなかった。要約すれば、肝細胞及びニューロン細胞の双方において効力のある導入遺伝子発現を駆動するLiNeuPの能力により、ハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーターは、見込みがあるとされる。
【0158】
3.動物モデル内での多組織プロモーターの評価
Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターの組織選択性及び免疫寛容原性特性をインビボで評価するために、発明者らは、AAVベクターを作製して、C57Bl/6マウスモデル内で、そしてポンペ病のマウスモデル内で、遺伝子移入を実行した。
【0159】
I.全身性AAV遺伝子移入後の野生型B6マウス内でのプロモーター活性の評価。
設計通りに異なる組織において発現を駆動する、新たに生成したEnh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターの能力を評価するために、発明者らは、動物モデルへの静脈内投与の直ぐ後に肝臓、筋肉、及びニューロンに感染することができる血清型9のAAVベクターを生成した。発明者らは、導入遺伝子として、最適化された完全長GAAコドンである天然ヒトGAA(hGAA)を用いた。本研究において、発明者らは、遍在性CAGプロモーターである単組織プロモーター(hAAT、C5.12、及びhSYN)、及び発明者らの多組織プロモーター(Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuP、Table 2(表2))の双方を比較した。本研究は、循環系にhGAAを、そして所望の組織(肝臓、心臓、四頭筋、脊髄、及び脳)内での全プロモーターの活性を提供するこれらのプロモーターの能力についてのデータを提供する。
【0160】
天然GAAをコードするAAV9ベクターの静脈内注射の1ヶ月後、循環GAAタンパク質は、C5.12及びhSYNプロモーターを用いると、非常に低いかほとんど検出可能でなかった一方、多組織プロモーター、Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターを用いると、はっきり検出された(
図4A)。LiMP及びLiNeuPは、治療的交差補正(therapeutic cross-correction)用に循環系にhGAAタンパク質を提供するために、作製されたものの中で最良の実行ハイブリッドプロモーターとなった(
図4A)。
【0161】
処置したマウス由来のマウス組織を、RNA発現分析のために、処置の6週後に収集した(
図4B)。hGAA RNAの発現を、肝臓、心筋(心臓)、骨格筋(四頭筋)、及びCNS(脊髄及び脳)において評価した。hGAA発現を、参照マウス遺伝子(Actin)の発現によって標準化した。
図4Bは、分析した全ての組織内でのhGAA mRNAの相対的な発現を示す。インビトロで観察されたように(
図2A〜
図2B)、hAATプロモーターは、肝臓内で活性であるが筋肉(心臓及び四頭筋)内ではそうでない一方、C5.12プロモーターは、筋肉内で活性であるが肝臓内ではそうでない。特に、発明者らは、多組織プロモーターLiMPが、肝臓及び筋肉の双方において効率的な導入遺伝子発現を駆動することができることを見出し、このことは、これがハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターであることを示している(
図4B)。一方、Enh.C5.12プロモーターは、筋肉内で高い発現を駆動することができるが、肝臓内での発現は低い。実際、肝臓内で、Enh.C5.12は、hAATと比較して、有意に低い導入遺伝子発現をもたらし、そしてC5.12プロモーターと比較して、僅かに高いが有意でない発現をもたらした(
図4B)。したがって、筋肉内で強い発現及び肝臓内で弱い発現が必要とされる場合、Enh.C5.12を用いることができる。発明者らがインビトロで観察したように(
図3)、肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPは、肝臓及びCNSの双方において高いGAA発現を駆動することができる(
図4B)。重要なことに、発明者らは、基本的なhAATプロモーター及びhSYNプロモーターが、CNS及び肝臓内でそれぞれ活性でないことを確認した(
図4B)。特に、LiMP及びLiNeuPの組織選択性は、ニューロン及び筋肉内でそれぞれ活性でないままであったので、保存されていた(
図4B)。全体として、hGAA導入遺伝子発現データは、明らかに、多組織選択的導入遺伝子発現を駆動することができるハイブリッドプロモーターの生成を示している。予想されるように、分析した組織におけるベクターゲノムコピー数(VGCN)分析は、ほとんどのAAVベクターが、マウス内への静脈内注射の直ぐ後に肝臓に形質導入することを示した(Zincarelliら、Mol Ther.2008年6月;16(6):1073〜80頁)。VGCNの有意差は、異なるベクター間で観察されなかった(
図4B)。
【0162】
【表2】
【0163】
II.全身性AAV遺伝子移入後のポンペ病のマウスモデル(Gaa-/-)における肝臓/筋肉プロモーターの活性及び免疫寛容原性特性の評価。
本研究において、発明者らは、肝臓及び筋肉の単組織プロモーター(hAAT及びC5.12)を、天然の(hGAA)、そして高度に分泌可能な(sec-hGAA)GAAタンパク質の双方の発現を駆動する発明者らの多組織肝臓+筋肉プロモーター(Enh.C5.12、LiMP)と比較した(Table 3(表3))。Gaa-/-マウスを用いて、ポンペ病態生理学をモデル化する。発明者ら及び他者らは以前に、Gaa-/-筋肉内の天然のGAAの発現が、当該タンパク質に対する強い体液性免疫応答を誘導することを報告した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]、Zhang.ら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):460〜72頁)。次に、発明者らは最近、高度に分泌可能なGAAタンパク質が、天然のものよりも免疫原性でないことを示した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。したがって、本研究は、天然の形態、及び高度に分泌可能なGAA形態を用いてそれぞれ提供される高い免疫原性及び低い免疫原性の文脈での、新たに開発したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーター(Enh.C5.12及びLiMP)の免疫寛容原性特性についてのデータを提供する。また、治療的な目的のために循環系内にGAAを提供するプロモーターの能力を評価した。発明者らが、天然の免疫原性GAAタンパク質(hGAA)を発現するAAVをGaa-/-マウスに送達した場合、発明者らは、筋肉において大部分発現されることとなる、研究Iにおいて示すプロモーター、C5.12及びEnh.C5.12(
図4B)によって駆動されるGAA発現が、タンパク質に対する体液性免疫応答をもたらすことを観察した(
図5A)。特に、ハイブリッド肝臓-筋肉LiMPプロモーターの使用は、抗hGAA免疫応答の誘導を有意に妨げた(
図5A)。これらのデータは、LiMPによって提供される強いGAA肝臓発現(研究Iにおいて報告した、
図4B)が、hGAAに対する免疫寛容を誘導したことを証明している(
図5A)。マウス血漿におけるGAA酵素活性は、ハイブリッドEnh.C5.12及びLiMPプロモーターが、C5.12と比較して、治療的な目的のために循環系により高いGAAタンパク質レベルをもたらすことを確認した(
図5B)。
【0164】
次に、筋肉が高度に免疫原性組織である場合に、発明者らは、LiMPプロモーターを用いたAAV遺伝子移入が、既存の抗導入遺伝子体液性免疫応答を根絶することができるかを試験した。この目的のために、発明者らは、Gaa-/-マウスを、20mg/kgの用量での組換えヒトGAA(rhGAA)の3回の静脈内注射によって免疫化した(
図6A)。次に、2週後に、発明者らは、血漿中の抗GAA IgGを測定して、免疫化されたマウスを、AAV9-LiMP-hGAAベクターで、静脈内送達によって処置した(
図6B)。AAV9-hAAT-hGAAベクターを、免疫寛容原性対照として用いた。AAV処置(2×10
12vg/kgの用量)の6週後、IgG抗hGAAは、LiMP及びhAATベクターで処置したマウスにおいて有意に減少したが、ルシフェラーゼを発現する対照AAVベクターではそうではなかった(
図6B)。
【0165】
全体として、これらの結果は、強い肝臓発現構成要素が与えられる、デュアルプロモーターによるAAV遺伝子移入が、支配的な導入遺伝子免疫寛容をもたらすことを示している。
【0166】
【表3】
【0167】
III.全身性AAV遺伝子移入による成体Gaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉及び肝臓/ニューロンプロモーターの免疫寛容原性特性及び治療効力の評価。
発明者らの以前のデータ(
図2〜
図5)に基づいて、本研究において、発明者らは、Gaa-/-マウスの全身疾患表現型をレスキューするための最良の実行免疫寛容原性多組織プロモーター(LiMP及びLiNeuP)を用いる利点を試験した。特に、発明者らは、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)を、肝臓選択的hAATプロモーター、肝臓-筋肉LiMPプロモーター、及び肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーターの制御下で発現するAAVベクターの治療効力を評価した(Table 4(表4))。遍在性CAGプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVベクターを対照として用いた。ポンペ病の文脈では、肝臓から循環系中に分泌可能なGAAの発現により、タンパク質吸収による他の組織の標的化が可能となろう。しかしながら、GAA吸収が、骨格筋及びニューロン内で:1.細胞表面上のGAA受容体の低いレベル、及び2.リソソームへのGAA標的化を弱める自食作用ブロックによって制限され;その後、血液-脳関門によって課されるサイズ制限が、CNSへのGAAバイオ分配を大きく制限する。
【0168】
先で報告した発明者らの結果を鑑みて、発明者らは、肝臓及び他の罹患組織内でGAAを共発現することによって、肝臓のみを標的化することによるよりも高い治療効力を達成することとなると予想した。重要なことに、研究IIIにおいて、発明者らは、発明者らの新しい多組織プロモーターによる肝臓標的化が、発現されるGAA導入遺伝子に対する免疫寛容を提供することを示した(
図5A参照)。研究IIIにおける循環系中のsec-hGAAタンパク質レベル、及びGAAに対する体液性免疫応答の分析は、LiMP及びLiNeuPプロモーターが、体液性免疫応答の非存在下で、hAATと比較した場合に(
図7、上部のパネル)、類似のGAAレベルをもたらすことを確認した(
図7、ウエスタンブロット写真の下に示す抗GAA IgGレベル)。特に、遍在性CAGプロモーターを用いた場合、GAAに対する強い免疫応答が観察される(
図7、上部のパネル)。また、CAGプロモーターは、hAAT、LiMP、及びLiNeuPと比較して、有意に低い量の循環GAAをもたらした(
図7、下部のパネル)。これらのデータは、本発明に従うハイブリッド肝臓ベースの多組織プロモーターが、遍在性プロモーターに勝る利点を有することを実証している。特に、CAGプロモーターによって駆動される遍在性GAA発現は、肝臓における発現にも至るが、導入遺伝子生成物に対する免疫寛容を必ずしももたらすわけではない一方、LiMP及びLiNeuP駆動GAAベクターを受けた全てのマウスの血漿は、検出可能な抗GAA IgGを含有しなかった。驚くべきことに、上述の結果は、多組織選択的プロモーターの注意深い選択が、筋肉選択的プロモーター又は遍在性プロモーターのいずれかにより達成され得るものと対照的に、注目するいくつかの組織における導入遺伝子発現及び免疫寛容に至ることを示している。
【0169】
これらの見込みがある結果に基づいて、発明者らは次に、Gaa-/-マウスにおいてLiMP及びLiNeuPプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVベクターの治療効力を評価した。循環系中のGAA酵素活性は、試験した全てのAAVからのGAA発現を確認した(
図8A)。筋力は、非罹患Gaa+/+マウス(Ctrl、
図8B)と比較して、非処置のGaa-/-マウスにおいて有意に減少している(Ctrl、
図8B)。特に、LiMP及びLiNeuPを用いたAAV-sec-hGAA遺伝子治療で処置したGaa-/-マウスは、非罹患Gaa+/+と比較して、筋力の有意な差異を示さなかった(
図8B)。また、特に有意なレスキューが、非処置のGaa-/-マウスと比較して、AAV-LiNeuPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて観察された(Ctrl、
図8B)。LiMP及びLiNeuPプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVによって処置したGaa-/-における呼吸機能は、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)と比較して、Gaa-/-マウスにおいて有意に向上し、Gaa+/+動物に匹敵した(
図8C、
図8D)。
【0170】
【表4】
【0171】
IV.全身性AAV遺伝子移入による新生仔Gaa-/-マウスにおける肝臓/筋肉プロモーターLiMPの治療効力の評価。
本研究において、発明者らは、肝臓-筋肉免疫寛容原性多組織プロモーターLiMPを用いて、肝臓からのAAVゲノム及び治療効力の希釈に至り得る肝細胞増殖の条件において、持続性のGAA発現及び治療効力が達成され得るかを判定する利点を試験した[Wangら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):533〜9頁]。この目的のために、発明者らは、Gaa-/-マウスにAAVベクターを注射して、初期の出生後のステージ中のポンペ対象の処置を模倣した。出生後1ヶ月における治療介入が、重要なことに、疾患の乳児形態を示すPD対象[乳児型PD(IOPD)]では医学的に必要とされる[Chienら、Pediatr Neonatol.2013年8月;54(4):219〜27頁]。特に、PDについての新生児スクリーニングは、多く国々で承認されており、適時の治療介入を促進し得る。特に、ここでは、発明者らは、肝臓及び筋肉の双方においてGAA発現を提供し(研究Iにおいて観察される、
図4B)、且つ循環系に治療酵素を提供する(研究I、
図4A)LiMPプロモーター(Table 5(表5))と比較して、単組織プロモーター[筋肉(C5.12)及び肝臓(hAAT)]から高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)を発現する利点を評価した。
【0172】
AAV-sec-hGAAベクターを有する新生仔Gaa-/-マウスの処置の3ヶ月後の循環系内でのGAAタンパク質の分析は、類似のタンパク質の量が、hAAT及びLiMPプロモーターで達成され、これは、双方のAAVゲノムに及ぼす肝臓増殖の効果と一致していることを示した(
図9)。特に、筋肉プロモーターC5.12によって提供される循環GAAは、hAAT及びLiMPプロモーターによって提供されるものよりも有意に低かった(
図9A〜
図9B)。また、心筋及び骨格筋におけるGAA活性は、AAV-C5.12又はAAV-hAATベクターと比較して、AAV-LiMPで処置したGaa-/-マウスの心臓、横隔膜、三頭筋、及び四頭筋内で、有意に高かった(
図9C〜
図9F)。特に、治療的なGAAタンパク質の量は、C5.12及びhAATベクター(
図10A〜
図10B)と比較して、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスの筋肉(例えば三頭筋)及びCNS(脊髄)内で有意に高かった。脳において(
図10C)、有意に高いGAAタンパク質が、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、C5.12ベクターで処置したものと比較して観察された。この結果は、LiMPプロモーターのハイブリッド転写活性を反映しており、これは、交差補正のための、肝臓からの導入遺伝子発現(
図10D)を、筋肉内での内因性導入遺伝子発現(
図10E)と一緒に可能にする。特に、hAAT及びLiMPベクターは、類似の量の酵素を循環系に提供したので(
図9A〜
図9B)、筋肉(
図10A)及び脊髄(
図10B)内でLiMPにより達成されるより高い発現は、筋肉内での内因性導入遺伝子発現に由来する(
図10E)。重要なことに、Gaa-/-マウスにおける筋力は、LiMPプロモーターの制御下でsec-hGAAをコードするAAVによる処置によってのみ、有意に保存された(
図11)。これは、循環系内でのGAA分泌(
図9A〜
図9B)、及びハイブリッドLiMPプロモーターを用いてのみ達成されるが、単組織C5.12及びhAATプロモーターでは達成されない筋肉内での高いGAA発現(
図9C〜
図9D、
図9F、及び
図10A)の結果である。
【0173】
新生仔マウスへの全身性AAV遺伝子移入は、肝臓ゲノムDNA中へのベクターゲノムの一部の組込みをもたらすことが以前に報告された(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870〜80頁)。ほとんどの組込みは、hAATプロモーターではなくCAG及びTBGプロモーターを用いる場合にのみ、肝臓遺伝子毒性、及び肝細胞癌(HCC)の進行を促進するマウス特異的ゲノムホットスポット(Rian遺伝子座)内で起こる(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870〜80頁)。これは、Rianに近いHCC関連Rtl1遺伝子のアップレギュレーションを誘導するCAG及びTBGプロモーターの強いトランス活性化活性に起因する(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870〜80頁)。特に、発明者らは、Rian RNAが、非処置のGaa-/-マウス及びAAV-hAAT処置したGaa-/-マウスの双方と比較して、AAV-LiMPベクターで新生仔のときに処置したGaa-/-マウスにおいて、アップレギュレートされないことを見出した(
図12)。また、非処置Gaa-/-マウスと比較して、AAV-C5.12ベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、有意なRtl1トランス活性化は観察されなかった(
図12)。したがって、発明者らのハイブリッドLiMP及びLiNeuPプロモーターでのhAATプロモーターの、そしてLiMPでのC5.12プロモーターの使用は、インビボ遺伝子治療用の発明者らのハイブリッド調節要素に更なる有利な特徴を提供する。
【0174】
次に、遍在性プロモーターとは異なって、本発明は、注目する治療導入遺伝子を生理的に発現しない組織内における、又は注目する導入遺伝子の発現が所望されない場所での異所性導入遺伝子発現を妨げる。したがって、本発明はまた、高用量にて注射されるAAVベクターの全身性送達によって処置され、且つ遍在性ニワトリベータアクチンプロモーターを含有する非ヒト霊長類における前臨床研究において最近報告された起こり得る毒性を、予防し得る(Hindererら、Hum Gene Ther.2018年2月12日)。
【0175】
【表5】
【0176】
V.低ベクター用量にて新生Gaa-/-マウスにおいて治療効力を持続する肝臓/筋肉プロモーターLiMP能力の評価。
次に、発明者らは、新生Gaa-/-マウスにおけるLiMP-sec-hGAAベクターによるAAV遺伝子治療が、低ベクター用量にて[1.2×10
10vg/pup(6×10
12vg/kg);
図13]治療効力をもたらすことができるかを判断した。研究の終わり(処置の4ヶ月後)に、血流中の酵素量は、LiMP及びhAATベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、異ならなかった(
図13A〜
図13B)。また、肝臓内でのhGAA RNA発現の分析は、LiMP及びhAATプロモーター間で、有意な差異を示さなかった。その代わりに、GAA活性は、hAATと比較して、LiMPで処置したGaa-/-マウスの心臓(
図13C)、横隔膜(
図13D)、四頭筋(データ示さず)、及び三頭筋(
図13E)において、有意に高かった。また、LiMPプロモーターの使用は、AAV処置Gaa-/-マウスの三頭筋(代表的な筋肉として)及び脊髄(
図13F)内で、より高い量のhGAAタンパク質をもたらした。LiMP及びhAATプロモーターを用いた場合、脳hGAA量の差異は見出されなかった(
図13G)。
【0177】
グリコーゲンは、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)及びhAAT処置Gaa-/-マウスの双方と比較して、Gaa-/-マウスの心臓(
図13H)、横隔膜(
図13I)、四頭筋(データ示さず)、及び三頭筋(
図13J)において、LiMPベクターによる処置の直ぐ後に、有意に低減された。脊髄及び脳において、非罹患Gaa+/+とはかなり異なるレベルであるにも拘わらず、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)と比較して、有意なグリコーゲン低下が、全てのAAV処置Gaa-/-マウスにおいて観察された(
図13K)。特に、非処置Gaa-/-マウスと比較して、心臓肥大(
図13L)及び筋力(
図13M)の有意なレスキューが、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいてのみ観察された。肝臓及び四頭筋内のVGCNは、類似のレベルの組織形質導入を示した(データ示さず)。
【0178】
hGAAに対するIgGは、ELISAアッセイによって毎月分析したAAV処置Gaa-/-マウスの血漿内で検出されなかった(Table 6(表6))。
【0179】
【表6】
【0180】
AAV8ベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて観察されたように(
図12)、非処置Gaa-/-マウスと比較した、Rtl1オンコジーンに及ぶ有意なトランス活性化活性は、hAAT又はLiMPプロモーターのいずれかを含有するAAV9ベクターで処置したGaa-/-マウスの肝臓内で、観察されなかった。
【0181】
これらの全体的な結果は、デュアル肝臓-筋肉プロモーターLiMPにより、低いベクター用量での全身性AAV肝臓遺伝子治療後の新生動物におけるhAATプロモーターと比較して、優れた治療効力を達成することができることを示す。
【0182】
VI.肝臓/筋肉プロモーターLiMPは、新生仔Gaa-/-マウス内への全身性AAV遺伝子移入の後に、強い遍在性プロモーターと異ならない筋肉へのGAAのレベルを実現する。
本研究において、発明者らは、新生仔Gaa-/-マウス内での全身性AAV遺伝子移入後の強い遍在性プロモーターとの比較において、肝臓-筋肉LiMP及び肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーターを用いた場合の、筋肉に提供されるGAAの量を評価した。この状況において、先で示したように、肝細胞増殖は、肝臓からのAAVゲノム及び治療効力の希釈の原因となる[Wangら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):533〜9頁]。発明者らは、LiMP及びLiNeuPプロモーター(Table 7(表7))と比較して、遍在性プロモーターCAG[CMVエンハンサー/ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CAG)プロモーター]から高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)をコードするAAVベクターを、Gaa-/-マウスに注射した;単肝臓プロモーターhAATを対照として用いた(Table 7(表7))。
【0183】
AAV-sec-hGAAベクターによる新生仔Gaa-/-マウスの処置の4ヶ月後の骨格筋(三頭筋、
図14)におけるGAAタンパク質の分析は、類似のタンパク質の量が、CAG及びLiMPプロモーターで達成され、hAAT及びLiNeuPで達成されるものよりも高いことを示した。これは、マウスの成長にわたって大きく損なわれる、AAVゲノムに及ぼす肝臓増殖の影響、並びに筋肉内でのhAAT及びLiNeuPの転写活性の欠如と一致する(
図14)。
【0184】
【表7】
【0185】
VII.肝臓/筋肉プロモーターLiMPは、ネオナタルAAV遺伝子移入後のGaa-/-マウスの筋肉内での自食作用及びマイトファジーを標準化する。
本研究において、発明者らは、全身性AAV遺伝子移入によって新生時に処置したGaa-/-マウスの筋肉において、p62(自食作用ブロックのマーカー)及びParkin(マイトファジーのマーカー)の標準化を評価した。この目的のために、発明者らは、単肝臓プロモーターhAATと比較して、肝臓-筋肉プロモーターLiMPから高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)をコードするAAVベクターを、Gaa-/-マウスに注射した。先で報告したデータから予想されるように、新生仔Gaa-/-マウスの処置の4ヶ月後に、GAAタンパク質は、hAATと比較して、LiMPで処置したマウスの三頭筋におけるよりも高かった(
図15A〜
図15B)。次に、p62が、非処置Gaa-/-マウスの三頭筋内で、非罹患Gaa+/+と比較して増大しており、自食作用ブロックを反映している(
図15C)。特に、p62含有量を、hAATベクターではなくLiMPで処置したGaa-/-マウスの三頭筋内で標準化した(
図15A、
図15B)。その代わりに、Parkin量は、非罹患Gaa+/+と比較して、非処置Gaa-/-マウスの三頭筋内で有意に低下し(
図15A、
図15C)、障害のあるマイトファジーを反映している。特に、通常のParkin含有量は、hAATベクターではなくLiMPベクターによる処置の直ぐ後に、Gaa-/-マウスの三頭筋内で回復した(
図15A、
図15C)。
図15及び
図16に示すマウスの肝臓及び三頭筋内のベクターゲノムコピー数(VGCN)の分析は、有意に高いVCGNが肝臓内で見出されたCAGベクターを除いて、有意な差異を示さなかった(
図16A〜
図16B)。
【0186】
VIII.マウスにおける全身性AAV遺伝子治療に対するLiMP及びLiNeuPプロモーターの特異性。
肝臓-筋肉プロモーターLiMP及び肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPの特異性を、非標的組織、例えば、腎臓、肺、及び脾臓において観察される低い活性又は活性の不在によって確認した(
図17A〜
図17B)。肺において、LiMPプロモーターを用いて観察した一部の検出可能なhGAA mRNA発現が、おそらく、平滑筋細胞内でプロモーター活性に由来し得た(
図17B)。予想されるように、VGCNは、他の組織と比較して、肝臓内でより高かった(
図17C〜
図17D)。全体として、hGAA mRNA発現データは、ハイブリッドプロモーターLiMP及びLiNeuPが、標的組織内で効率的且つ特異的な導入遺伝子発現を駆動することを示している(
図17)。
【0187】
IX.肝臓活性が強いハイブリッドプロモーターが、Gaa-/-マウス内でhGAAに対する免疫応答の発達を妨げる。
遍在性プロモーター又は筋肉特異的プロモーターによって駆動されるGaa-/-マウスへの天然のhGAAの遺伝子移入が、hGAAタンパク質に対する不所望の体液性免疫応答を誘導することが報告された[Falkら、Mol Ther Methods Clin Dev.2015年3月25日;2:15007頁;Francoら、Mol Ther.2005年11月;12(5):876〜84頁]。逆に、発明者ら[Puzzoら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]及び他者ら[Francoら、Mol Ther.2005年11月;12(5):876〜84頁]は、肝細胞に対する天然のhGAA導入遺伝子発現の制限が、抗hGAA免疫の発達を妨げて、安定した免疫寛容を導入遺伝子生成物に提供することを示した。本発明のハイブリッド肝臓-筋肉及び肝臓-ニューロンプロモーターの免疫学的特性を評価するために、発明者らは、天然のhGAAをコードするAAV9ベクターを全身的に成体免疫応答性Gaa-/-マウスに送達し(ベクター用量:2×10
12vg/kg)、そして抗hGAA体液性免疫応答を評価した(
図18)。成体Gaa-/-マウスをこれらの実験に特に用いた。というのも、新生動物が、免疫寛容原性促進性応答をより発達させる傾向があることが報告されてきたからである。処置後の初期の時点にて、高い抗hGAA IgGが、対照CAG及びC5.12ベクターに加えて、Enh.C5.12ベクターで処置したマウスにおいて誘導された(
図18A)。逆に、LiMP、LiNeuP、及び対照hAATベクターで処置したマウスにおいて初期の時点にて測定した抗hGAA IgG(
図18A)は、低いか不在であり、CAGコホートにおいて測定したものと有意に異なった(
図18A)。ハイブリッドプロモーターLiMP及びLiNeuPの使用は、抗hGAA IgGの誘導を長期に妨げた(
図18B)。逆に、抗hGAA IgGは、C5.12コホートにおいて、時間と共にピークに達し、他のコホートにおいて測定されるものよりも有意に高いレベルに至った(
図18B)。C5.12と比較して、Enh.C5.12で観察される体液性免疫応答の低下は、ApoEエンハンサーを用いて達成される肝臓内の導入遺伝子発現の増大(
図4B、肝臓)により、抗GAA免疫を長期に低減することができることを示唆している(
図5A、
図18)。興味深いことに、これらのデータは、CAG及びEnh.C5.12プロモーターによって決定した肝臓導入遺伝子発現が、抗hGAA体液性免疫応答を妨げないが低減し得ることを示唆している(
図18A〜
図18B)。VGCNは、肝臓形質導入に及ぼすベクターゲノムの大きな影響を示さなかった(
図18C)。
【0188】
X.ヒト筋芽細胞内での肝臓/筋肉LiMPプロモーターのインビトロでの転写活性。
肝臓/筋肉プロモーターLiMPの転写活性が更に、ヒト筋芽細胞内でインビトロで確認された(
図19)。
【0189】
VI.結論:
本研究において、発明者らは、ハイブリッド調節要素により、AAV遺伝子移入によって媒介される導入遺伝子発現の持続性の制限を克服することができることを示した。特に、発明者らは、LiMPプロモーターによる全身性AAV遺伝子治療が、新生時に処置したGaa-/-マウスにおいて、単組織プロモーター(肝臓特異的、hAAT、又は筋肉特異的、C5.12)と比較して、優れた治療効力をもたらすことを実証した。このモデルにおいて、発明者らは、全身の病理グリコーゲン蓄積のクリアランス、並びに心肥大及び筋力の有意なレスキューを含む疾患表現型の長期の完全なレスキューを観察した。これらの結果は、新生仔動物における他の研究に、そして他の致死的神経筋疾患についての継続中の臨床治験に現在用いられているものよりも10〜50倍低いAAVベクター用量を用いて達成された。これらの発見は、このAAV遺伝子治療アプローチの、乳児型ポンペ病への今後の利用を支持する。その有望な安全性及び効力プロファイルに基づいて、デュアルプロモーターは、全身性の多臓器に関与し、且つ初期の致死を伴ういくつかの他の疾患の処置用の遺伝子ベースの治療の開発において、重大な利点を提供し得る。