(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-515353(P2021-515353A)
(43)【公表日】2021年6月17日
    (54)【発明の名称】全固体リチウム電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M  10/052       20100101AFI20210521BHJP        
   H01M  10/0562      20100101ALI20210521BHJP        
   H01M  10/0585      20100101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/139       20100101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/40        20060101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/525       20100101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/505       20100101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/58        20100101ALI20210521BHJP        
   H01M   4/62        20060101ALI20210521BHJP        
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0562
   H01M10/0585
   H01M4/139
   H01M4/40
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/58
   H01M4/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
      (21)【出願番号】特願2020-538989(P2020-538989)
(86)(22)【出願日】2020年3月13日
    (85)【翻訳文提出日】2020年7月22日
      (86)【国際出願番号】CN2020079132
    
      (87)【国際公開番号】WO2020215921
(87)【国際公開日】20201029
    
      (31)【優先権主張番号】201910332905.1
(32)【優先日】2019年4月24日
(33)【優先権主張国】CN
    (81)【指定国】
      AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
    
      
        
          (71)【出願人】
【識別番号】519211959
【氏名又は名称】上海理工大学
【氏名又は名称原語表記】University  Of  Shanghai  For  Science  And  Technology
          (74)【代理人】
【識別番号】100178434
【弁理士】
【氏名又は名称】李  じゅん
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】▲鄭▼  ▲時▼有
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】▲ほう▼  越▲鵬▼
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】石  ▲きん▼▲きん▼
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】王  曦童
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】王  玉放
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】▲聶▼  正方
              
            
        
      
    【テーマコード(参考)】
      5H029
      5H050
    【Fターム(参考)】
      5H029AJ06
      5H029AJ12
      5H029AK01
      5H029AK03
      5H029AL12
      5H029AM11
      5H029BJ12
      5H029CJ03
      5H029CJ30
      5H029HJ04
      5H029HJ15
      5H050AA12
      5H050AA15
      5H050BA16
      5H050CA01
      5H050CA07
      5H050CA08
      5H050CA09
      5H050CB12
      5H050FA02
      5H050GA03
      5H050GA29
      5H050HA04
      5H050HA15
    (57)【要約】
  本発明は、ホウ水素化物高速イオン伝導体と硫化物高速イオン伝導体に冷間プレスを行って、二層電解質を得るステップ1と、正極活物質、硫化物高速イオン伝導体及び導電剤を所定の比率で混合し、全固体リチウム電池の正極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質の硫化物高速イオン伝導体側に配置し、且つ、金属リチウムシートを全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のホウ水素化物高速イオン伝導体側に配置するステップ2と、ステップ2で得た材料を封止して、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得るステップ3とを含むことを特徴とするホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法を開示する。本発明によって、動作電圧が高く、サイクル特性に優れる全固体電池が得られ、しかも製造プロセスがシンプルで、再現性に優れているため、大規模な商業的用途向けの生産に適する。
【選択図】
図1
    
  【特許請求の範囲】
【請求項1】
  ホウ水素化物高速イオン伝導体層と硫化物高速イオン伝導体層からなる二層電解質と、電池正極と、電池負極とを含み、前記電池正極は硫化物高速イオン伝導体層側に配置され、電池負極はホウ水素化物高速イオン伝導体層側に配置されることを特徴とする、
  ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池。
【請求項2】
  前記電池正極は正極活物質、硫化物高速イオン伝導体、導電剤を所定の比率で混合して製造され、電池負極は金属リチウムシートであり、前記ホウ水素化物高速イオン伝導体は水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム−ヨウ化リチウム及びクローズドリチウム−ホウ素−水素複合高速イオン伝導体のいずれか1種であり、硫化物高速イオン伝導体は硫化リチウム−五硫化二リン系及びリチウムゲルマニウムリン硫黄系高速イオン伝導体のいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項1に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池。
【請求項3】
  ホウ水素化物高速イオン伝導体と硫化物高速イオン伝導体に冷間プレスを行って、二層電解質を得るステップ1と、
  正極活物質、硫化物高速イオン伝導体及び導電剤を所定の比率で混合し、全固体リチウム電池の正極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質の硫化物高速イオン伝導体側に配置し、且つ、金属リチウムシートを全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のホウ水素化物高速イオン伝導体側に配置するステップ2と、
  ステップ2で得た材料を封止して、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得るステップ3とを含むことを特徴とする、   
  ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項4】
  前記ステップ1でホウ水素化物高速イオン伝導体は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム−ヨウ化リチウム及びクローズドリチウム−ホウ素−水素複合高速イオン伝導体のいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項5】
  前記ステップ1とステップ2で硫化物高速イオン伝導体は、硫化リチウム−五硫化二リン系及びリチウムゲルマニウムリン硫黄系高速イオン伝導体のいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項6】
  前記ステップ1とステップ2で冷間プレス成形の加圧方式は等軸加圧であり、圧力の大きさは100〜500MPaであり、保圧時間は5〜20minであることを特徴とする、
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項7】
  前記ステップ1で二層電解質の形状はシート状であり、総厚さは0.1〜5mmであり、ホウ水素化物高速イオン伝導体層の厚さは総厚さの10〜90%であり、硫化物高速イオン伝導体層の厚さは総厚さの10〜90%であることを特徴とする、
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項8】
  前記ステップ2で正極活物質はリン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸リチウムのいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項9】
  前記ステップ2で導電剤は炭素、銅及び導電性高分子のいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【請求項10】
  前記ステップ3で前記封止はボタン型電池封止、パウチ型電池封止及び固体電池金型による封止のいずれか1種であることを特徴とする、   
  請求項3に記載のホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、新エネルギー材料の分野に関し、特にホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体(fast ion conductor ,superionic conductor,超イオン伝導体)による全固体リチウム電池及びその製造方法に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  電池は、人々の日常生活で1種のエネルギー変換装置として幅広く用いられる。しかしながら、現在市販されている電池(例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素充電池、リチウムイオン電池、フロー電池等)はポータブル電子機器、電気自動車及び大規模なエネルギー貯蔵システムに対するニーズの増加を満たしていない。これまでの電池研究では有機液体電解質系を中心としており、その化学的安定性、電気化学的安定性とイオン選択性が悪く、過充電や内部短絡等の異常が生じる時は電解液が昇温し、発火、ひいては爆発の恐れがある。金属リチウムは高エネルギー密度電池を製造するために最も理想的な負極材料とされるが(リチウムの電気化学ポテンシャルが低く、密度が小さく、理論容量が高い)、金属リチウムの化学活性が高く、金属リチウム負極界面にコントロールしにくい樹状リチウムが生じやすく、サイクル過程でこれがセパレータを突き破り、内部短絡と深刻な安全問題を起こす可能性がある。したがって、機械的強度が高い無機固体電解質を用いて全固体リチウム電池を製造することで、有機液体電解質の安全性の問題を解決できるだけでなく、リチウムデンドライトの発生を抑え、高エネルギー密度を実現することができ、これによって新型電池の開発が可能になる。
【0003】
  固体電解質は全固体電池系におけるコア成分として、国内外の研究者から大きな注目を集めている。その化学組成によって一般に無機固体電解質、ポリマー固体電解質、複合固体電解質に分けられる。そのうちリチウムランタンジルコニウム酸化物とリチウムゲルマニウムリン硫黄をはじめとする無機固体電解質はイオン伝導率が大幅に上がり、室温でそれらのイオン伝導率が10
−3〜10
−2S  cm
−1に達し[Adv.Mat.,2018,30(17):e1705702.]、この数値は液体電解質に近い又は液体電解質を上回るレベルであり、市販電池に求められる電解質導電率をほぼ満たしている。しかしながら、実用化した全固体電池を研究・開発する過程で、固体電解質と正極・負極材料との間の界面関連の問題は全固体電池の全体的な特性に深刻な影響を与えることを発見した。硫化物固体電解質と電極材料の安定性に関して多くの研究がなされている。例えば、長期化したサイクル過程で、正極/硫化物固体電解質界面でインピーダンスが増加し、電池容量の減衰を招く[ACS.Appl.Mater.Interfaces.,2018,10(26):22226−22236]。正極/硫化物固体電解質界面にバッファ層を設けると、空間電荷層と元素の相互拡散を抑えて界面インピーダンスを低減できる[Chem.Mater.,2010,22(3):946−956]。理論計算と実験結果では、いずれも硫化物固体電解質が金属リチウムに対して不安定であり、リチウムと接触するとリチウムに還元されて界面層が生成されることが示される。界面層は一般にLi
2S、Li
3P等の成分を含み、リチウムイオン伝導率が低く、電子伝導率が高く、界面反応が続くと界面劣化が生じ、電池のクーロン効率が低下する恐れがある[Chem.Mater.,2016,28(1):949−956]。したがって、硫化物を電解質として組み立てた全固体電池では主にLi−In合金を負極として使用し、Li/Li
+に対するその電位が約0.6Vであり、電池の動作電圧が低減されるため、電池のエネルギー密度が顕著に減らされる。同様に、正極/ガーネット型固体電解質界面において、元素の相互拡散、体積膨張、界面インピーダンス増加等の問題がある[J.Power  Sources,2014,260:292−298]。ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物系固体電解質のリチウムに対する還元電位が低い(約0.5V)が、金属リチウムを電解質に直接接着させると接触状態が不良であり、界面インピーダンスが非常に大きい。このような電解質は弾性変形が小さく、セラミックシートが破裂しやすく、結晶粒界が大量に存在するためガーネット型固体セラミック電解質がリチウムデンドライトの発生を完全には阻止できない。全固体電池で高エネルギー密度と長期化したサイクル後の安定性を実現するためには、固体電解質と正極・負極材料との界面関連の問題が特に重要である。
【0004】
  これまでに報道された各種の固体電解質材料では、ホウ水素化物は1種の新たな固体電解質材料として、強い還元性を有するため金属リチウムに対して安定的であり、しかもその結晶粒界のインピーダンスが小さく、機械的変形特性に優れる。東北大学のMatsuoらが水素化ホウ素リチウムが110℃前後で室温時にLi
+伝導率が低い(10
−8S  cm
−1、30℃)直方晶系から六方晶系(10
−3S  cm
−1、120℃)に変換されることを最初に報告していた。その後、Maekawaらがリチウムのハロゲン化物を加えると、室温で水素化ホウ素リチウムの高温相が安定化され、40mA  cm
−2以上の高電流密度では、金属リチウム/水素化ホウ素リチウムの界面が依然として安定していることを発見した[J.Am.Chem.Soc.,2009,131:894.]。その後、チタン酸リチウム、二硫化チタン、硫黄等の活物質が金属リチウム−水素化ホウ素リチウム系に用いられ、これらを用いて組み立てられた全固体電池は容量が高くサイクル安定性に優れている。しかしながら、これらはいずれも低電圧電極材料で、金属リチウムと組み合わせても、組み立てられた電池の電圧は2V前後にとどまる。Takahashiらが水素化ホウ素リチウムが充電状態のコバルト酸リチウムと反応してLiBO
2、Li
2O、Co
3O
4、CoO(OH)を生成して、界面インピーダンスが増加することで電池が動作しないことを発見した。彼らはパルスレーザー堆積法を利用してコバルト酸リチウムの表面に厚さが25nmのリン酸リチウム層をコーティングすることで界面反応を効果的に抑えていた[J.Power  Sources,2013,226:41−61.]。同研究グループはパルスレーザー堆積法を利用してそれぞれコバルト酸リチウムの表面に異なる厚さのリン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化アルミニウムをコーティングして界面反応を抑えることに関してさらに研究していた。研究結果から、リン酸リチウムの厚さは10〜25nmにし、酸化アルミニウムの厚さは1nm未満にする必要があることが示される。これらのコーティング層材料自体はイオン伝導率が非常に低いからである。ニオブ酸リチウムも効果的な抑制効果を果たすことができず、それが水素化ホウ素リチウムと反応して消費され、その後、水素化ホウ素リチウムがさらにコバルト酸リチウムと反応する[Solid  State  Ionics,2014,262:179−182]。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  本発明は、固体電解質が金属リチウム負極と高電圧正極に同時に適合できないため全固体電池にリチウムデンドライトと界面インピーダンス関連の問題が生じ、その大規模な商業的用途に深刻な影響が出るという技術的課題を解決しようとする。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  本発明によれば、上記の技術的課題を解決するために、ホウ水素化物(borohydride)高速イオン伝導体層と硫化物高速イオン伝導体層からなる二層電解質と、電池正極と、電池負極とを含み、前記電池正極は硫化物高速イオン伝導体層側に配置され、電池負極はホウ水素化物高速イオン伝導体層側に配置されることを特徴とするホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池が提供される。
【0007】
  好ましくは、前記電池正極は正極活物質、硫化物高速イオン伝導体、導電剤を所定の比率で混合して製造され、電池負極は金属リチウムシート(lithium metal plate)である。
【0008】
  より好ましくは、前記ホウ水素化物高速イオン伝導体は水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム−ヨウ化リチウム及びクローズドリチウム−ホウ素−水素複合高速イオン伝導体(closed lithium-boron-hydrogen composite fast ion conductor,    closo lithium-boron-hydrogen composite fast ion conductor)のいずれか1種であり、硫化物高速イオン伝導体は硫化リチウム−五硫化二リン系及びリチウムゲルマニウムリン硫黄系高速イオン伝導体(lithium germanium phosphorus sulfide fast ion conductor)のいずれか1種である。
【0009】
  本発明によれば、さらに、
ホウ水素化物高速イオン伝導体と硫化物高速イオン伝導体に冷間プレスを行って、二層電解質を得るステップ1と、
正極活物質、硫化物高速イオン伝導体及び導電剤を所定の比率で混合し、全固体リチウム電池の正極として、冷間プレス(cold-pressing)により、ステップ1で得た二層電解質の硫化物高速イオン伝導体側に配置し、且つ、金属リチウムシートを全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のホウ水素化物高速イオン伝導体側に配置するステップ2と、
ステップ2で得た材料を封止(packaging)して、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得るステップ3とを含むことを特徴とするホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法が提供される。
【0010】
  好ましくは、前記ステップ1でホウ水素化物高速イオン伝導体は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素リチウム−ヨウ化リチウム及びクローズドリチウム−ホウ素−水素複合高速イオン伝導体のいずれか1種である。
【0011】
  好ましくは、前記ステップ1とステップ2で硫化物高速イオン伝導体は、硫化リチウム−五硫化二リン系及びリチウムゲルマニウムリン硫黄系高速イオン伝導体のいずれか1種である。
【0012】
  好ましくは、前記ステップ1とステップ2で冷間プレス成形の加圧方式は等軸加圧(equiaxed pressing)であり、圧力の大きさは100〜500MPaであり、保圧時間は5〜20minである。
【0013】
  好ましくは、前記ステップ1で二層電解質の形状はシート状であり、総厚さは0.1〜5mmであり、ホウ水素化物高速イオン伝導体層の厚さは総厚さの10〜90%であり、硫化物高速イオン伝導体層の厚さは総厚さの10〜90%である。
【0014】
  好ましくは、前記ステップ2で正極活物質はリン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸リチウムのいずれか1種である。
【0015】
  好ましくは、前記ステップ2で導電剤は炭素、銅及び導電性高分子のいずれか1種である。
【0016】
  好ましくは、前記ステップ3で前記封止はボタン型電池封止、パウチ型電池(pouch cell)封止及び固体電池金型による封止のいずれか1種である。
 
【発明の効果】
【0017】
  従来の技術と比べ、本発明は次の有益な効果がある。
  (1)本発明では、金属リチウム負極に対するホウ水素化物高速イオン伝導体の安定性と高電圧正極に対する硫化物高速イオン伝導体の安定性を充分に組み合わせて、固体電解質の正極と負極への適合性の問題が解決され、動作電圧が高く、サイクル特性に優れる全固体電池が得られる。
【0018】
  (2)本発明の製造プロセスはシンプルで、再現性に優れているため、大規模な商業的用途向けの生産に適する。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の構造模式図である。1は負極、2はホウ水素化物高速イオン伝導体、3は硫化物高速イオン伝導体、4は正極である。
 
【
図2】
図2は、実施例1でコバルト酸リチウムを正極、LiBH
4−LiI/Li
10GeP
2S
12を電解質、金属リチウムを負極とする全固体リチウム電池の充放電曲線である。
 
【
図3】
図3は、実施例2でリン酸鉄リチウムを正極、LiBH
4−LiI/70Li
2S−30P
2S
5を電解質、金属リチウムを負極とする全固体リチウム電池の充放電曲線である。
 
【
図4】
図4は、実施例3でニッケルマンガン酸リチウムを正極、Li
2B
12H
12/Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4を電解質、金属リチウムを負極とする全固体リチウム電池の充放電曲線である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0020】
  次に、特定の実施例を用いて、本発明をさらに説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのもので、本発明の範囲が限定されるものではない。また、当業者が本発明に記載の内容を読み終えた後、本発明に様々な変更又は修正を行うことができ、これらの同等な形態も本願の特許請求の範囲によって限定される範囲に含まれる。
 
【0021】
(実施例1)
  本実施例において、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法が提供される。製造ステップは具体的に以下のとおりである。
  ステップ1:50mgのLiBH
4−LiIと50mgのLi
10GeP
2S
12に対して100MPa冷間プレスを行って二層電解質を得て、5min保圧する。総厚さは1.2mmとし、各層の厚さは0.6mmとする。
  ステップ2:冷間プレスにより、5mgのコバルト酸リチウム正極(60wt%LiCoO
2、30wt%Li
10GeP
2S
12、10wt%ケッチェンブラック(Ketjen black)を混合、研磨したもの)をステップ1で得た二層電解質のLi
10GeP
2S
12側に配置し、金属リチウムシート(99.9%、中能リ業提供(かねへんに里))を全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のLiBH
4−LiI側に配置する。上記の冷間プレスで圧力は100MPaとし、5min保圧する。
  ステップ3:ステップ2で得た材料を封止して2025ボタン型電池を得て、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得る。
 
【0022】
  製造された全固体リチウム電池に対して55℃で、0.05Cで定電流充放電させ、測定結果を
図2に示す。
図2の定電流充放電曲線から明らかなように、電池の初回放電比容量は105mAh  g
−1であり、100回サイクル後に放電比容量は90mAh  g
−1に維持され(初期放電比容量の85.7%)、充電維持電圧は3.9Vと高く、放電維持電圧は3.85V前後である。上記の結果から、LiBH
4−LiI/Li
10GeP
2S
12を電解質とする全固体リチウム電池ではサイクル長寿命化が実現され、しかも容量維持率が高いことが示される。
 
【0023】
(実施例2)
  本実施例において、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法が提供される。製造ステップは具体的に以下のとおりである。
  ステップ1:60mgのLiBH
4−LiIと40mgの70Li
2S−30P
2S
5に対して200MPa冷間プレスを行って二層電解質を得て、20min保圧する。総厚さは1.0mmとし、LiBH
4−LiI層の厚さは0.6mmとし、70Li
2S−30P
2S
5層の厚さは0.4mmとする。
  ステップ2:冷間プレスにより、5mgのリン酸鉄リチウム正極(50wt%LiFePO
4、40wt%70Li
2S−30P
2S
5、10wt%ケッチェンブラックを混合、研磨したもの)をステップ1で得た二層電解質の70Li
2S−30P
2S
5側に配置し、金属リチウムシート(99.9%、中能リ業提供)を全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のLiBH
4−LiI側に配置する。上記の冷間プレスで圧力は200MPaとし、20min保圧する。
  ステップ3:ステップ2で得た材料を封止して2032ボタン型電池を得て、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得る。
 
【0024】
  製造された全固体リチウム電池に対して55℃で、0.05Cで定電流充放電させ、測定結果を
図3に示す。
図3の定電流充放電曲線から明らかなように、電池の初回放電比容量は150mAh  g
−1で、理論容量の88%である。出力電圧は3.2V前後であり、液体電解質系の3.4Vよりやや低い。上記の結果から、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体電解質はリン酸鉄リチウム正極にも適用され、しかもその放電比容量は液体電解質系に近いことが示される。
 
【0025】
(実施例3)
  本実施例において、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池の製造方法が提供される。製造ステップは具体的に以下のとおりである。
  ステップ1:40mgのLi
2B
12H
12と60mgLi
3.25Ge
0.25P
0.75S
4に対して300MPa冷間プレスを行って二層電解質を得て、100min保圧する。総厚さは1.0mmとし、Li
2B
12H
12層の厚さは0.4mmとし、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4層の厚さは0.6mmとする。
  ステップ2:冷間プレスにより、10mgのニッケルマンガン酸リチウム正極(60wt%LiNi
0.5Mn
1.5O
4、30wt%60Li
2S−40P
2S
5、10wt%ケッチェンブラックを混合、研磨したもの)をステップ1で得た二層電解質のLi
3.25Ge
0.25P
0.75S
4側に配置し、金属リチウムシート(99.9%、中能リ業提供)を全固体リチウム電池の負極として、冷間プレスにより、ステップ1で得た二層電解質のLi
2B
12H
12側に配置する。上記の冷間プレスで圧力は300MPaとし、10min保圧する。
  ステップ3:ステップ2で得た材料を封止して2032ボタン型電池を得て、ホウ水素化物/硫化物二層高速イオン伝導体による全固体リチウム電池を得る。
 
【0026】
  製造された全固体リチウム電池に対して75℃で、0.05Cで定電流充放電させ、測定結果を
図4に示す。
図4の定電流充放電曲線から明らかなように、構造がニッケルマンガン酸リチウム|Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4/Li
2B
12H
12|Liになる電池は初回放電比容量が69mAh  g
−1である。当該測定結果から、ホウ水素化物と硫化物二層高速イオン伝導体電解質は電圧が約4.7Vに達するニッケルマンガン酸リチウム正極系に適用できることが示される。
 
 
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Adv.Mat.,2018,30(17):e1705702.
【非特許文献2】ACS.Appl.Mater.Interfaces.,2018,10(26):22226−22236.
【非特許文献3】Chem.Mater.,2010,22(3):946−956.
【非特許文献4】Chem.Mater.,2016,28(1):949−956.
【非特許文献5】J.Power  Sources,2014,260:292−298.
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,2009,131:894.
【非特許文献7】J.Power  Sources,2013,226:41−61.
【非特許文献8】Solid  StateIonics,2014,262:179−182.
 
 
【国際調査報告】