(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-516708(P2021-516708A)
(43)【公表日】2021年7月8日
(54)【発明の名称】マイクロカプセル化修復剤を含むジンクリッチコーティング及びシステム
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20210611BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20210611BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20210611BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20210611BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20210611BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20210611BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20210611BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20210611BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20210611BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20210611BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20210611BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20210611BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20210611BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20210611BHJP
【FI】
C08L101/00
C09D5/00 D
C09D201/00
C09D163/00
C09D7/65
C09D183/02
C09D1/00
C09D5/10
C09D7/63
B01J2/00 B
C08L63/00
C08K5/5419
B05D7/24 303H
B05D7/14 Z
B05D7/24 302A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2020-544912(P2020-544912)
(86)(22)【出願日】2018年4月9日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月22日
(86)【国際出願番号】US2018026732
(87)【国際公開番号】WO2019168551
(87)【国際公開日】20190906
(31)【優先権主張番号】62/637,346
(32)【優先日】2018年3月1日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】515345436
【氏名又は名称】オートノミック マテリアルズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン, ジェラルド, オー.
(72)【発明者】
【氏名】カシソマヤジュラ, スブラマニヤム, ヴィ.
(72)【発明者】
【氏名】デイトン, クリストファー, アール. ディー.
【テーマコード(参考)】
4D075
4G004
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AE03
4D075BB04X
4D075CA13
4D075CA33
4D075DA06
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4D075EB39
4D075EC24
4D075EC45
4G004BA00
4J002AA001
4J002CD002
4J002EX066
4J002FD206
4J002GH01
4J038DB001
4J038DL021
4J038HA066
4J038KA03
4J038MA03
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA07
4J038PC02
(57)【要約】
ジンクリッチコーティング又はコーティングシステムに組み込まれた際に、下地基材を露出させる損傷後に接着性及び耐食性を維持するコーティング又はコーティングシステムの能力を改善する、マイクロカプセル化修復剤。これらのマイクロカプセル化修復剤配合物は、ジンクリッチコーティング及び/又はジンクリッチコーティングの亜鉛粒子と独自に相乗作用し、基材を露出させる損傷後に接着性維持と耐食性の両方を改善する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングシステムに使用されるマイクロカプセルであって、
ポリマーシェル壁、並びに
エポキシ樹脂、疎水性極性非プロトン性溶媒及びグリシジルアルコキシシランを含む、コア配合物
を含む、マイクロカプセル。
【請求項2】
前記ポリマーシェル壁が、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリアクリレート、ポリ尿素又はポリウレタンを含む、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記グリシジルアルコキシシランが、(3−グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランを含む、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
平均直径が25ミクロン以下である、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
複数の前記マイクロカプセルのジンクリッチコーティングへの組込みにより、前記ジンクリッチコーティングが、亜鉛粒子間及び前記亜鉛粒子と下地金属基材との間の接続性の効率を維持することが可能になる、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
複数の前記マイクロカプセルのジンクリッチコーティングへの組込みにより、下地基材を露出させる損傷部位に隣接する前記ジンクリッチコーティングの一部分のバリア特性が改善する、請求項5に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロカプセルを含むジンクリッチコーティングシステム。
【請求項8】
前記マイクロカプセルを含むジンクリッチプライマーを含む、請求項7に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項9】
前記ジンクリッチプライマーが有機バインダーを含む、請求項8に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項10】
前記有機バインダーが、アミン、ポリアミン、無水物、アミノシロキサン、イミダゾール、ポリアミド、ケタミン、ケチミン、アミンと別の化合物との反応生成物である変性アミン、メルカプタン、ポリメルカプタン、ポリスルフィド、チオール、三フッ化ホウ素−アミン錯体、有機酸ヒドラジド、光若しくは紫外線硬化剤又はそれらの組合せによって硬化するエポキシ樹脂を含む、請求項9に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項11】
前記ジンクリッチプライマーが無機バインダーを含む、請求項8に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項12】
前記無機バインダーが、湿気硬化アルキルシリケートバインダー、湿気硬化オリゴマーアルキルシリケートバインダー、又は酸若しくは塩基触媒湿気硬化オリゴマーアルキルシリケートバインダーを含む、請求項11に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項13】
前記ジンクリッチプライマーが、下地基材を露出させる損傷の後に接着性維持及び/又は耐食性の改善を示す、請求項8に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項14】
前記ジンクリッチプライマーが、ブラスト処理された鋼表面、軽く摩耗した冷延鋼表面又は他の摩耗していない、摩耗が最小限である若しくは不規則に摩耗した鋼表面において損傷後に接着性維持及び/又は耐食性の改善を示す、請求項8に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項15】
有機ジンクリッチ層を含む第1のコーティング層、及び
請求項1に記載のマイクロカプセルを含む第2のコーティング層
を含み、前記第2の層が亜鉛を含まず、第2のコーティング層が第1のコーティング層に直接接触している、請求項7に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項16】
前記第2のコーティング層が、アミン硬化、ポリアミン硬化又はポリアミド硬化したエポキシ樹脂を含む有機バインダーを含む、請求項15に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項17】
ジンクリッチコーティング層が有機コーティングでミストコートされ、前記ミストコーティングが、アミン硬化、ポリアミン硬化又はポリアミド硬化したエポキシ樹脂を含むバインダーを含む、請求項15に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項18】
下地基材を露出させる損傷後に接着性維持及び/又は耐食性の改善を示す、請求項15に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項19】
ブラスト処理された鋼表面、軽く摩耗した冷延鋼表面又は他の摩耗していない、摩耗が最小限である若しくは不規則に摩耗した鋼表面において損傷後に接着性維持及び/又は耐食性の改善を示す、請求項15に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項20】
無機ジンクリッチプライマー層を含む第1のコーティング層、及び
請求項1に記載のマイクロカプセルを含む有機エポキシコーティングを含む第2のコーティング層
を含む、請求項7に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【請求項21】
前記第1のコーティング層が、前記第2のコーティング層の塗布前に、有機コーティングを含む第3のコーティング層でミストコートされ、前記第3のコーティング層が、アミン硬化、ポリアミン硬化又はポリアミド硬化したエポキシ樹脂を含むバインダーを含む、請求項20に記載のジンクリッチコーティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0001]本出願は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年3月1日出願の「IMPROVED ZINC−RICH PRIMERS VIA MICROENCAPSULATED HEALING AGENTS」と題する米国特許仮出願第62/637,346号に基づく優先権を主張する。
【0002】
[技術分野]
[0002]実施形態は、防食性を付与する自己修復コーティングなどのコーティング及びコーティングシステムに関する。
【0003】
[背景]
[0003]ジンクリッチプライマーを含むコーティングシステムは、一部の最も腐食性の高い環境で鋼基材を保護するために使用される。しかし、すべてのコーティングと同様、損傷によって下地基材が環境に露出し、腐食及び水分の浸透の影響を受けやすくなる場合がある。腐食は、一旦始まるとコーティング基材界面に伝搬し、アンダーカット及び接着性の損失を引き起こす。基材の腐食がまだ広がっていない場合、浸水によっても接着性が損失する。接着性が損失すると、下地基材を保護するコーティングの能力が著しく損なわれる。
【0004】
[0004]実施形態は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明によって容易に理解される。実施形態は、添付の図面の図において限定ではなく例として示される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、種々の実施形態によるコーティングシステムの、金属基材に対するスクライブ損傷後に接着性及び/又は耐食性を維持する能力を評価するためのシステムの構成を示す図である。
【
図2A】
図2A及び2Bは、種々の実施形態による、1コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングの比較の概略図であり、標準的な有機ジンクリッチプライマー(対照;
図2A)、及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図2B)を含む。
【
図2B】
図2A及び2Bは、種々の実施形態による、1コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングの比較の概略図であり、標準的な有機ジンクリッチプライマー(対照;
図2A)、及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図2B)を含む。
【
図3A】
図3A及び3Bは、種々の実施形態による、2コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングシステムの比較の概略図であり、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図3A)、及び、エポキシ系の第2の層を含む、マイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図3B)を含む。
【
図3B】
図3A及び3Bは、種々の実施形態による、2コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングシステムの比較の概略図であり、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図3A)、及び、エポキシ系の第2の層を含む、マイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図3B)を含む。
【
図4A】
図4A及び
図4Bは、種々の実施形態による、186ミクロンのスクライブ(
図4A)及び500ミクロンのスクライブ(
図4B)を使用した1コート試験で、複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の評点システムを使用した「ふくれ発生度」の結果の概要が提供され、スクライブ周辺の、ふくれが前もって発生した箇所で接着性が損失することが観察された。
【
図4B】
図4A及び
図4Bは、種々の実施形態による、186ミクロンのスクライブ(
図4A)及び500ミクロンのスクライブ(
図4B)を使用した1コート試験で、複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の評点システムを使用した「ふくれ発生度」の結果の概要が提供され、スクライブ周辺の、ふくれが前もって発生した箇所で接着性が損失することが観察された。
【
図5A】
図5A及び5Bは、種々の実施形態による、186ミクロンのスクライブ(
図5A)及び500ミクロンのスクライブ(
図5B)を使用した1コート試験で、複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の同じ評点システムを使用した、接着性の損失の結果の概要が提供される。
【
図5B】
図5A及び5Bは、種々の実施形態による、186ミクロンのスクライブ(
図5A)及び500ミクロンのスクライブ(
図5B)を使用した1コート試験で、複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の同じ評点システムを使用した、接着性の損失の結果の概要が提供される。
【
図6A】
図6A、6B及び6Cは、種々の実施形態による、
図3に示されるように塗布されたエポキシ系ビルドコート(build coat)を用いた2コート評価での、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物(STD)と、比較配合物V1(バージョン1;
図6A)、比較配合物V2(バージョン2、
図6B)及び比較配合物V4(バージョン4、
図6C)との比較を示す図である。
【
図6B】
図6A、6B及び6Cは、種々の実施形態による、
図3に示されるように塗布されたエポキシ系ビルドコート(build coat)を用いた2コート評価での、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物(STD)と、比較配合物V1(バージョン1;
図6A)、比較配合物V2(バージョン2、
図6B)及び比較配合物V4(バージョン4、
図6C)との比較を示す図である。
【
図6C】
図6A、6B及び6Cは、種々の実施形態による、
図3に示されるように塗布されたエポキシ系ビルドコート(build coat)を用いた2コート評価での、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物(STD)と、比較配合物V1(バージョン1;
図6A)、比較配合物V2(バージョン2、
図6B)及び比較配合物V4(バージョン4、
図6C)との比較を示す図である。
【
図7A】
図7A、7B及び7Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図7A)と、エポキシ樹脂をアルキド樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図7B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図7C)との性能の比較を示す図である。
【
図7B】
図7A、7B及び7Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図7A)と、エポキシ樹脂をアルキド樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図7B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図7C)との性能の比較を示す図である。
【
図7C】
図7A、7B及び7Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図7A)と、エポキシ樹脂をアルキド樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図7B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図7C)との性能の比較を示す図である。
【
図8A】
図8A、8B及び8Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図8A)と、エポキシ樹脂をポリジメチルシロキサン(PDMS)系樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図8B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図8C)との性能の比較を示す図である。
【
図8B】
図8A、8B及び8Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図8A)と、エポキシ樹脂をポリジメチルシロキサン(PDMS)系樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図8B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図8C)との性能の比較を示す図である。
【
図8C】
図8A、8B及び8Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図8A)と、エポキシ樹脂をポリジメチルシロキサン(PDMS)系樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図8B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図8C)との性能の比較を示す図である。
【
図9A】
図9A及び9Bは、種々の実施形態による、標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図9A)、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート、並びにマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート(
図9B)を含む、完全システム(3コート)試験で評価したシステムの比較を示す図である。
【
図9B】
図9A及び9Bは、種々の実施形態による、標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図9A)、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート、並びにマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート(
図9B)を含む、完全システム(3コート)試験で評価したシステムの比較を示す図である。
【
図10A】
図10A及び10Bは、種々の実施形態による、エアレススプレーガン(
図10A)及び重力供給式の従来のスプレーガン(
図10B)で塗布した、標準的なジンクリッチプライマー(対照)と、開示されるマイクロカプセル化修復剤を2.5wt.%含有する同じプライマーとの比較を示す図である。試料は、撮像前に、186ミクロン及び500ミクロンのスクライブツールを使用してスクライブし、塩霧に500時間曝露した。
【
図10B】
図10A及び10Bは、種々の実施形態による、エアレススプレーガン(
図10A)及び重力供給式の従来のスプレーガン(
図10B)で塗布した、標準的なジンクリッチプライマー(対照)と、開示されるマイクロカプセル化修復剤を2.5wt.%含有する同じプライマーとの比較を示す図である。試料は、撮像前に、186ミクロン及び500ミクロンのスクライブツールを使用してスクライブし、塩霧に500時間曝露した。
【
図11】
図11は、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマーの性能改善によって3コートシステムから2コートシステムへの簡素化が容易になる、簡素化されたコーティングシステムを示す図である。
【
図12A】
図12A及び12Bは、種々の実施形態による、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図12A)及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだエポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図12B)を含む、2コート試験で評価したシステムの比較を示す図である。
【
図12B】
図12A及び12Bは、種々の実施形態による、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図12A)及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだエポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図12B)を含む、2コート試験で評価したシステムの比較を示す図である。
【0006】
[開示される実施形態の詳細な説明]
[0017]以下の詳細な説明では、本明細書の一部を形成し、実施可能な実施形態を例示として示す、添付の図面を参照する。他の実施形態が利用されてもよく、範囲から逸脱することなく、構造的又は論理的な変更がなされてもよいことが理解されるべきである。したがって、以下の詳細な説明は限定的な意味で解釈されるべきではなく、実施形態の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される。
【0007】
[0018]種々の動作が、実施形態の理解に役立ち得る態様で順番に複数の別個の動作として記載される場合があるが、記載の順序はこれらの動作が順序に依存することを示すものと解釈されるべきではない。
【0008】
[0019]説明では、上/下、後ろ/前、及び上部/下部などの見方に基づいた描写を使用する場合がある。そのような描写は、単に考察を容易にするために使用され、開示される実施形態の適用を制限することを意図しない。
【0009】
[0020]「連結された」及び「接続された」という用語が、それらの派生語とともに使用される場合がある。これらの用語は、互いの同義語を意図するものではないことが理解されるべきである。むしろ、特定の実施形態では、「接続された」は、2つ以上の要素が互いに直接物理的に又は電気的に接触していることを示すために使用される場合がある。「連結された」は、2つ以上の要素が直接物理的に又は電気的に接触していることを意味する場合がある。しかし、「連結された」は、2つ以上の要素が互いに直接接触していないが、依然として互いに協同する又は相互作用することを意味する場合もある。
【0010】
[0021]説明では、「A/B」の形態又は「A及び/又はB」の形態の語句は、(A)、(B)又は(A及びB)を意味する。説明では、「A、B及びCのうちの少なくとも1つ」の形態の語句は、(A)、(B)、(C)、(A及びB)、(A及びC)、(B及びC)又は(A、B及びC)を意味する。説明では、「(A)B」の形態の語句は、(B)又は(AB)、つまり、Aは任意選択の要素であることを意味する。
【0011】
[0022]説明では、それぞれ同じ又は異なる実施形態のうちの1つ又は複数を指すことがある「実施形態(embodiment)」又は「実施形態(embodiments)」という用語を使用する場合がある。さらに、実施形態に関して使用される「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」などの用語は同義的である。
【0012】
[0023]本明細書で使用する場合、「湿気硬化アルキルシリケートバインダー」という用語は、アルキルシリケートである重合性モノマー又はオリゴマーを組み込んだ配合物を指す。本明細書で定義されるように、アルキルシリケートの一般的構造は、
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、アルキル基又は官能化アルキル基である)
である。1つの特定の非限定的例では、アルキルシリケートは、R
1、R
2、R
3及びR
4がエチル基である、オルトケイ酸テトラエチルであってもよい。
【化2】
湿気硬化アルキルシリケートバインダーはまた、オリゴマーアルキルシリケートを含んでもよい。オリゴマーアルキルシリケートの一般構造を以下に示す:
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、アルキル基又は官能化アルキル基である)。
【0013】
[0024]本明細書で使用する場合、「アミン」という用語は、R−NH
2(第一級アミン)、R−NH−R(第二級アミン)又はR
2−N−R(第三級アミン)を含む任意の有機化合物を指し、「R」は有機(炭素原子を含有する)部分である。
【0014】
[0025]本明細書で使用する場合、「アミノシロキサン」という用語は、R−NH
2(第一級アミノシロキサン)、R−NH−R(第二級アミノシロキサン)又はR
2−N−R(第三級アミノシロキサン)を組み込んだ化合物を指し、「R」は、少なくとも1つのSi−O−Si結合を有しまた化合物の構造に存在する有機ケイ素部分である。本明細書で使用する場合、「グリシジルアルコキシシラン」という用語は、以下に示す一般構造を有する有機ケイ素化合物を指し、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立的に少なくとも1つのグリシジル基を含有することができる有機部分である。
【化4】
R
1、R
2、R
3及びR
4は有機部分であり、R
1、R
2、R
3及びR
4のうちの少なくとも1つはグリシジル官能基を含有する。グリシジル官能基の構造を以下に示す:
【化5】
「(3−グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン」という用語は、以下に示す構造を有する化合物を指す。
【化6】
【0015】
[0026]本明細書で使用する場合、「無水物」という用語は、水と一体化したとき、それぞれ酸又は塩基を形成する非金属(酸無水物)又は金属(塩基性無水物)の酸化物などの、より複雑な化合物から水を除去することによって形成される化合物を指す。
【0016】
[0027]本明細書で使用する場合、「バインダー」という用語は、すべての他の顔料及び添加剤が組み込まれ、且つ基材へのコーティングの接着性の大部分だけでなく、バリア特性にも寄与する媒体として典型的に使用される、重合性、固化性又は硬化性の配合物を指す。「無機バインダー」という用語は、重合性、固化性又は硬化性の配合物が主として炭素系材料からなるものではないバインダーを指す。例えば、上記で言及したシリケートは無機と考慮される。「有機バインダー」という用語は、重合性、固化性又は硬化性の配合物が主として炭素系材料からなるバインダーを指す。
【0017】
[0028]本明細書で使用する場合、「三フッ化ホウ素−アミン錯体」という用語は、一般構造:BF
3.NR
3を有する錯体を指し、Rは、アミンの官能性に応じて有機部分であっても水素であってもよい(第一級アミン−水素2つ、第二級アミン−水素1つ、第三級アミン−水素なし)。
【0018】
[0029]本明細書で使用する場合、(例えば、亜鉛粒子間又は亜鉛粒子と下地金属基材との間の)「接続性の効率」という用語は、コーティングの亜鉛粒子間、及び亜鉛粒子と下地基材との間の電気的接続性を指す。接続性の効率が高いほど、コーティングの金属亜鉛粒子の酸化による下地基材の保護が良好になる。ジンクリッチプライマーの開回路電位は、金属亜鉛粒子間及び粒子と下地鋼基材との間の接続性の効率の指標である。表2に示されるように、標準的なジンクリッチコーティングは、標準的な銀/塩化銀電極に対して、冷延鋼基材では−0.946V、ブラスト処理された鋼基材では−0.954Vの開回路電位を示す。参考として、同じ電極に対する金属亜鉛の腐食電位は−0.98V〜−1.03Vと測定されたのに対し、鋼の腐食電位は−0.6V〜−0.71Vと測定された。ジンクリッチコーティングの開回路電位が金属亜鉛の腐食電位に近いほど、金属亜鉛粒子間、及び粒子と下地鋼基材との間の接続性の効率が高いことに留意されたい。
【0019】
[0030]本明細書で使用する場合、「エポキシ樹脂」という用語は、エポキシド基を含有する反応性プレポリマー及びポリマーのクラスのメンバーを指す。ポリエポキシドとしても公知のエポキシ樹脂は、触媒による単独重合によってそれら自身と反応(架橋)してもよく、多官能性アミン、酸(及び酸無水物)、フェノール、アルコール及びチオールを含む、広範な共反応物と反応(架橋)してもよい。これらの共反応物は、固化剤又は硬化剤と称されることが多く、架橋反応は一般的に硬化と称される。ポリエポキシドのそれら自身との、又は多官能性固化剤との反応により、多くの場合機械的特性が良好であり、耐熱性及び耐薬品性が高い熱硬化性ポリマーが形成される。エポキシ樹脂は、金属コーティング、電子部品及び電気部品、高電圧電気絶縁体、繊維強化プラスチック材料及び構造用接着剤を含む、広範な用途を有する。
【0020】
[0031]本明細書で使用する場合、「イミダゾール」という用語は、式C
3N
2H
4を有する有機化合物を指す。イミダゾールは、ジアゾールに分類され、隣接していない窒素原子を有する芳香族ヘテロ環である。
【0021】
[0032]本明細書で使用する場合、「バリア特性の改善」という用語は、水、イオン及び酸素などの腐食種の、コーティング及び基材への浸透に抵抗するコーティングの能力の改善を指す。「接着性維持の改善」という用語は、水、イオン及び酸素の、コーティング及びコーティングと基材の界面への浸透にもかかわらず、基材に接着し続けるコーティングの能力を指し、これらの種に起因する腐食及び関連するプロセスの結果として、コーティングの接着性が損なわれる場合がある。「耐食性の改善」という用語は、コーティングと基材の界面で典型的に腐食をもたらすプロセスに対するコーティングの不透過性を指す。耐食性は、バリア特性の改善及び接着性維持の改善をもたらすことが多い。
【0022】
[0033]本明細書で使用する場合、「ケタミン」という用語は、構造:
【化7】
を有するアリールシクロヘキシルアミン誘導体を指す。
【0023】
[0034]本明細書で使用する場合、「ケチミン」という用語は、炭素−窒素二重結合を含有する有機化合物を指し、炭素は、構造:
【化8】
[式中、R
1及びR
2は有機置換基であり、R
3は水素(第一級ケチミン)又は有機置換基(第二級ケチミン)である]
を有する。
【0024】
[0035]本明細書で使用する場合、「メラミンホルムアルデヒド」という用語は、重合によってメラミン及びホルムアルデヒドから作製される、硬質の熱硬化性プラスチック材料を指す。硬化が非常に遅いものから非常に速いものまで様々な多くの種類が存在する。メラミン−ホルムアルデヒド樹脂は、NCH
2OCH
2Nの繰り返し単位を特徴とする。
【0025】
[0036]本明細書で使用する場合、「メルカプタン」という用語は、炭素結合スルフヒドリル(R−SH)基(Rはアルキル又は他の有機置換基を表す)を含有する有機硫黄化合物を指す。メルカプタンはチオールとも称され、アルコールの硫黄類似体である(つまり、硫黄はアルコールのヒドロキシル基の酸素に取って代わる)。
【0026】
[0037]本明細書で使用する場合、「有機酸ヒドラジド」という用語は、それらのうちの少なくとも1つがアシル基である4つの置換基を有する窒素−窒素共有結合を特徴とする、有機化合物のクラスのメンバーを指す。
【0027】
[0038]本明細書で使用する場合、「光又は紫外線硬化剤」という用語は、フォトポリマー若しくは光重合型レジン又は光開始剤を指す。フォトポリマーは、多くの場合電磁スペクトルの紫外領域又は可視領域の光に曝露されたときにその特性が変化するポリマーである。これらの変化は多くの場合構造的に現れ、例えば、露光時の架橋の結果として材料の固化が生じる。光開始剤は、光又は放射線に曝露されたときに、オリゴマーの特定の官能基の重合を活性化させる反応種に分解する化合物である。
【0028】
[0039]本明細書で使用する場合、「ポリアクリレート」という用語は、アクリレートモノマーの重合によって形成されるポリマーの群のいずれかを指す。アクリレートモノマーは、ビニル基及びカルボン酸末端を含むアクリル酸の構造に基づく。他の典型的なアクリレートモノマーは、1つのビニル水素及びカルボン酸水素がいずれもメチル基で置き換えられたメチルメタクリレート、並びにカルボン酸基が関連するニトリル基で置き換えられたアクリロニトリルなどの、アクリル酸の誘導体である。アクリレートモノマーの他の特定の非限定的例としては、メタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、2−クロロエチルビニルエーテル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチルが挙げられる。
【0029】
[0040]本明細書で使用する場合、「ポリアミド」という用語は、アミド結合によって連結された繰り返し単位を有する巨体分子を指す。ポリアミドは、天然と人工の両方で生じる。天然に生じるポリアミドの例は、タンパク質である。合成ポリアミドは、ナイロン、アラミド及びポリ(アスパラギン酸)ナトリウムなどの材料をもたらす段階成長重合又は固相合成によって作製することができる。本明細書で使用する場合、「ポリアミド」という用語は、ポリマーの繰り返し単位で表される官能基にかかわらず、アミド末端基を含有する任意の巨大分子又はポリマーも指す。
【0030】
[0041]本明細書で使用する場合、「ポリアミン」という用語は、2つ以上の第一級アミノ基を有する有機化合物を指す。低分子量直鎖ポリアミンとしては、プトレシン、カダベリン、スペルミジン及びスペルミンが挙げられる。このクラスの化合物は、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン及びヘキサメチレンジアミンなどの、複数の合成物質も含む。ある特定のポリアミンは、エポキシ樹脂との共反応物(固化剤)として用いられる。ピペラジンは、環状ポリアミンの例である。シクレン及びシクラムは、大環状ポリアミンの例である。ポリエチレンアミンは、アジリジンモノマーに基づくポリマーである。本明細書で使用する場合、「ポリアミン」という用語は、ポリマーの繰り返し単位で表される官能基にかかわらず、アミン末端基を含有する任意の巨大分子又はポリマーも指す。
【0031】
[0042]本明細書で使用する場合、「ポリスルフィド」という用語は、硫黄原子の鎖を含有する化学化合物のクラスのメンバーを指す。ポリスルフィドには2つの主なクラス:アニオン及び有機ポリスルフィドが存在する。アニオンは、一般式S
2−nを有する。これらのアニオンは、水素ポリスルフィドH
2S
nの共役塩基である。有機ポリスルフィドは、一般に式R−(RS)
n−Rを有し、R=アルキル又はアリールである。チオール(−SH)末端基を有する有機ポリスルフィドはエポキシ樹脂の硬化剤として使用され、式HS−(RS)
n−R−SHを有し、R=アルキル又はアリールである。
【0032】
[0043]本明細書で使用する場合、「ポリ尿素」という用語は、イソシアネート成分と第一級アミン成分の反応生成物から誘導されるポリマーの種類を指す。イソシアネートは、本質的に芳香族又は脂肪族であってもよく、イソシアネートのモノマー、ポリマー若しくは任意の変形反応物、準プレポリマー又はプレポリマーであってもよい。アミンは小さい多官能性アミン、アミン官能化プレポリマー、偽プレポリマー、又はアミン末端ポリマー樹脂であってもよい。アミン成分は、アミン末端ポリマー樹脂及び/又はアミン末端鎖伸長剤からなる樹脂ブレンドであってもよい。アミン末端ポリマー樹脂は典型的に、意図的なヒドロキシル部分を有さない。樹脂ブレンドは、添加剤又は非主要成分を含有することもできる。これらの添加剤は、ポリオール担体に予め分散した顔料などのヒドロキシルを含有してもよい。通常、樹脂ブレンドは触媒を含有しない。
【0033】
[0044]本明細書で使用する場合、「ポリウレタン」という用語は、カルバメート(ウレタン)結合によって連結した有機単位からなるポリマーを指す。ほとんどのポリウレタンは、加熱時に溶融しない熱硬化性ポリマーであるが、熱可塑性ポリウレタンも利用可能である。ポリウレタンポリマーは、最も一般的には、ジ又はポリイソシアネートとポリオールを反応させることによって形成される。ポリウレタンを作製するために使用されるイソシアネート及びポリオールはいずれも、分子1つ当たり平均で2つ以上の官能基を含有する。
【0034】
[0045]本明細書で使用する場合、「尿素−ホルムアルデヒド」という用語は、熱硬化性樹脂又はポリマーを指し、尿素−メタナールとも称される。尿素−ホルムアルデヒドは、尿素及びホルムアルデヒドから生成される。尿素−ホルムアルデヒドポリマーの化学構造は、[(O)CNCH
2]
n繰り返し単位を含む。重合条件により、いくつか分岐が生じる場合がある。
【0035】
[0046]本明細書で使用する場合、「ジンクリッチコーティング」という用語は、コーティング全体に均一に分散した金属亜鉛粒子を含有し、下地鋼基材に存在する鉄の代わりに、より電気化学的に活性な金属亜鉛粒子が酸化することによって下地基材にカソード防食又は犠牲防食をもたらすコーティングを指す。コーティングは、臨界顔料容積濃度(CPVC)を超えて顔料容積濃度(PVC)を増加させる、コーティングへの亜鉛の添加量のために「ジンクリッチ」と称される。コーティングが基材に塗布される第1の層である場合は、ジンクリッチプライマーと称される。「ジンクリッチコーティングシステム」という用語は、少なくとも1つのジンクリッチコーティング層を組み込んだコーティング層のシステムを指す。典型的に、ジンクリッチコーティングを組み込んだシステムでは、ジンクリッチコーティングが金属基材に塗布される第1の層であり(ジンクリッチプライマー)、それに続いて(典型的に金属亜鉛粒子を含まない)他の種類のコーティングであってもよい追加の層が塗布され、種々の多層コーティングシステムが形成される。
【0036】
[0047]本明細書の実施形態は、ジンクリッチコーティング又はコーティングシステムに組み込まれた際に、下地基材を露出させる損傷後に接着性及び耐食性を維持するコーティング又はコーティングシステムの能力を改善する、マイクロカプセル化修復剤を提供する。種々の実施形態では、これらのマイクロカプセル化修復剤配合物は、ジンクリッチコーティング及び/又はジンクリッチコーティングの亜鉛粒子と独自に相乗作用し、基材を露出させる損傷後に接着性維持と耐食性の両方を改善する。
【0037】
[0048]本明細書では、得られるマイクロカプセルがジンクリッチコーティング層に組み込まれるか、ジンクリッチコーティング層に隣接する層に組み込まれるように(例えば、マイクロカプセルはジンクリッチコーティング層に直接塗布されるコーティング層に組み込まれてもよい)、上述のマイクロカプセル化修復剤配合物を組み込んだジンクリッチコーティング層を含むコーティング及びコーティングシステムがさらに開示される。種々の実施形態では、マイクロカプセルは、(1)尿素−ホルムアルデヒド、メラミンホルムアルデヒド、ポリアクリレート、ポリ尿素又はポリウレタンを含むシェル壁などのポリマーシェル壁、並びに(2)エポキシ樹脂、疎水性極性非プロトン性溶媒、及びグリシジルアルコキシシランなどのアルコキシシランを含むコア配合物を含んでもよい。一部の実施形態では、グリシジルアルコキシシランは、3−(グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランであってもよい。
【0038】
[0049]上述のマイクロカプセルを含むジンクリッチコーティングであって、コーティングバインダーが、有機であり、より詳細には、以下の硬化剤又はその組合せ:アミン、ポリアミン、無水物、アミノシロキサン、イミダゾール、ポリアミド、ケタミン、ケチミン、アミンと別の化合物との反応生成物である変性アミン、メルカプタン、ポリメルカプタン、ポリスルフィド、チオール、三フッ化ホウ素−アミン錯体、有機酸ヒドラジド、又は光若しくは紫外線硬化剤のいずれかによって硬化するエポキシ樹脂であってもよいジンクリッチコーティングがさらに開示される。
【0039】
[0050]さらなる実施形態は、コーティングバインダーが無機であり、例えば、アルキルシリケートバインダーであってもよい、上述のマイクロカプセルを含むジンクリッチコーティングである。一部の実施形態では、シリケートバインダーを含むジンクリッチコーティング層は有機コーティングでミストコートされてもよく、一部の実施形態では、ミストコーティングは、以下の硬化剤又はその組合せ:アミン、ポリアミン、無水物、アミノシロキサン、イミダゾール、ポリアミド、ケタミン、ケチミン、アミンと別の化合物との反応生成物である変性アミン、メルカプタン、ポリメルカプタン、ポリスルフィド、チオール、三フッ化ホウ素−アミン錯体、有機酸ヒドラジド、又は光若しくは紫外線硬化剤のうちの1種又は複数種によって硬化するエポキシ樹脂であってもよいバインダーを含む。
さらに他の実施形態は、鋼基材であってもよい金属基材の最も近くに塗布されるプライマー層として、上述のコーティングのうちの少なくとも1つを含むコーティングシステムである。上述のマイクロカプセルが組み込まれるが亜鉛を含まないコーティング層を含む、複数のコーティング層を有するコーティングシステムであって、コーティング層が有機ジンクリッチコーティングの上に直接塗布され、コーティングバインダーが本質的に有機であり、より詳細には、(これらに限定されないが)アミン、ポリアミン若しくはポリアミド硬化したエポキシ樹脂であってもよく、又はアルキルシリケートバインダーを含むジンクリッチコーティング層が有機コーティングでミストコートされ、ミストコーティングが、アミン、ポリアミン若しくはポリアミド硬化したエポキシ樹脂であってもよいバインダーからなる、コーティングシステムがさらに開示される。一部の実施形態では、ミストコートは、第2のコーティング層の塗布前にプライマー層に塗布されてもよい。一部の実施形態では、ミストコートは、第2のコーティング層を含む配合物と比べて粘度が実質的に低いことを除き、第2のコーティング層と組成及び化学的性質が同一又は実質的に同様であってもよい。
【0040】
[0051]ジンクリッチコーティングには高容積濃度の亜鉛粒子が配合され、基材に直接塗布される。基材に犠牲カソード防食を有効にもたらす、ジンクリッチコーティングの能力における重要な要因は、亜鉛顔料の顔料容積濃度(PVC)が、臨界顔料容積濃度(CPVC)以上でなければならないということである。これにより、コーティングのすべての亜鉛粒子が互いに、さらに鋼基材に、確実に電気的に接続するようになる。しかし、この犠牲カソード防食は、互いに接触してコーティング全体に伝導性ネットワークを形成する亜鉛粒子の数に依存する。亜鉛粒子間の接続性の効率が高いほど、コーティングがもたらす保護の有効性が高くなる。
【0041】
[0052]亜鉛は鉄より電気化学的に活性であるため、腐食条件で優先的に酸化し、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛を形成する。得られる亜鉛の腐食生成物は水に不溶性であるため、プライマーがCPVCよりも高い顔料容積濃度を示すように設計される亜鉛系のシステムに固有の多孔性を低減させることによって、コーティングのバリア特性を改善する。しかし、亜鉛の酸化の結果として、生じる酸化亜鉛及び水酸化亜鉛が非導電性であるため、亜鉛粒子間の接続性の効率が低下する。したがって、亜鉛の酸化を制御し、それにより犠牲カソード防食の寿命を改善させるために、ジンクリッチコーティングは、様々な化学作用を用いる非亜鉛ビルドコート、タイコート(tie coat)及びトップコートで典型的にトップコートされる。
【0042】
[0053]マイクロカプセル系の自己修復コーティングは、コーティングへの損傷のその場の自律修繕によって、コーティングシステム及びそれらが保護する下地基材の寿命を改善する、新規のクラスのスマートコーティング技術に属する。そのような自己修復システムは、損傷後の基材へのコーティングの接着性を維持するように設計される。エポキシ、ポリウレタン、アクリル及びシリコン系のコーティングを含む、保護コーティング産業で一般的な化学作用に基づく公知のコーティング技術とは異なり、本開示は、マイクロカプセル化修復剤配合物を種々のジンクリッチコーティングに組み込むことによって実現する自己修復機能をもたらす。本明細書で開示されるように、種々の実施形態では、ジンクリッチプライマー又は多層コーティングシステムに自己修復機能を付加することにより、亜鉛の犠牲酸化プロセスが制御され、損傷部位でのコーティングシステムの接着性の維持が促進される。
【0043】
[0054]したがって、種々の実施形態では、エポキシ樹脂、極性非プロトン性溶媒及びグリシジルアルコキシシランを含む、マイクロカプセル化修復剤配合物が開示される。本明細書で開示されるように、対照に比べて驚くべき有効性を示した最適な配合が決定された。評価された複数の配合物の代表例を表1に示す。
【表1】
【0044】
[0055]開示される配合物は、実施例1において以下に概説される手順を使用して、尿素−ホルムアルデヒドシェル壁を用いてマイクロカプセル化した。得られたカプセルを、実施例2に記載されるようにジンクリッチコーティングシステムに組み込んだ。
【0045】
[0056]
図1は、種々の実施形態による、金属基材に対するスクライブ損傷後に接着性及び耐食性を維持するコーティングシステムの能力を評価するためのシステムの構成を示す図であり、幅3インチ及び長さ5インチの例示的パネルを示す。このシステムを以下に記載するように種々の実験条件で使用し、スクライブによって生じた損傷部位での腐食の阻害及び/又は接着性の維持における、記載される配合物の有効性を評価した。1コート試験では、配合物を従来の重力供給式スプレーガンを用いて、軽く摩耗した冷延鋼基材に塗布した。試料を最低3日間硬化させ、その後186ミクロンのスクライブツール及び500ミクロンのスクライブツールを使用してスクライブした。
図2A及び2Bは、種々の実施形態による、1コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングの比較の概略図であり、標準的な有機ジンクリッチプライマー(対照;
図2A)、及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図2B)を含む。
【0046】
[0057]
図3A及び3Bは、種々の実施形態による、2コート試験で比較した2つのジンクリッチコーティングシステムの比較の概略図であり、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクリッチプライマー(対照;
図3A)、及び、エポキシ系の第2の層を含む、マイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図3B)を含む。2コート試験では、エポキシ−ポリアミドコーティングの第2のコートを塗布し、得られたシステムをさらに3日間硬化させ、その後186ミクロン及び500ミクロンのスクライブツールを用いてスクライブした。スクライブ後、試料を最低24時間修復させ、その後塩霧に曝露した。1コート試験のために調製した、カプセルを含まない標準的な亜鉛対照と、カプセルを含有する試験試料(標準S2、バージョン1〜4)との比較を示す概略図を
図2に示し、2コート試験のために調製したコートされた基材の同様の比較を示す概略図を
図3に示す。500時間の塩霧への曝露後に試料を評価し、スクライブ周辺のコートされた基材の表面に観察されるふくれの発生度を、ASTM D714に概説されるプロトコールを使用して評点付けした。
【0047】
[0058]
図4A及び4Bは、186ミクロンのスクライブ(
図4A)及び500ミクロンのスクライブ(
図4B)を使用して、1コート試験で複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の評点システムを使用した「ふくれ発生度」の結果の概要が提供され、スクライブ周辺にふくれが前もって発生した箇所で接着性の損失が観察された。試験領域に張り付けた感圧接着テープを使用し、基材に対して90度の角度で素早く剥がすことにより、スクライブ周辺の基材への接着性を維持するコーティングの能力も評価した。スクライブ周辺で観察された接着性損失の程度は、ふくれの発生が観察された領域と一致した。
【0048】
[0059]
図5A及び5Bは、186ミクロンのスクライブ(
図5A)及び500ミクロンのスクライブ(
図5B)を使用して、1コート試験で複数のマイクロカプセル化修復剤配合物を試験した結果を示す2つのグラフである。ASTM D714の同じ評点システムを使用した、接着性の損失の結果の概要が提供される。カプセル化配合物の種々の成分の影響を切り離して考えるために、開示される又は標準配合物(STDと表記する)の性能を、1コートシステム、及び第2のコートとして塗布されるエポキシ/アミンコーティングを含む2コートシステムで塗布されるジンクリッチプライマー中の添加量が1wt.%、2.5wt.%及び4wt.%の、比較例1(バージョン1又はV1と表記する)、比較例1(バージョン1又はV1と表記する)、比較例2(バージョン2又はV2と表記する)、比較例3(バージョン3又はV3と表記する)、比較例4(バージョン4又はV4と表記する)と比較した。1コート及び2コート試験で、コーティングは冷延鋼(CRS)基材に塗布した。
【0049】
[0060]
図4は、186ミクロンのスクライブでは、開示されるマイクロカプセル化修復剤添加剤をジンクリッチコーティングに組み込むと、ふくれ発生性(
図4A)、及びふくれ発生性を密接に反映するスクライブ周辺のコーティングの接着性(
図4B)が、V1〜V3と比べて改善されたことを示す図である。500ミクロンのスクライブでも同様の傾向が観察されたが、スクライブのサイズを考慮すると驚くべきことではないが、ふくれ発生性(
図5A)及び対応する接着性の損失(
図5B)はより大きかった。
【0050】
[0061]
図6A、6B及び6Cは、種々の実施形態による、
図3に示されるように塗布されたエポキシ系ビルドコートを用いた2コート評価での、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物(STD)と、比較配合物V1(バージョン1;
図6A)、比較配合物V2(バージョン2、
図6B)及び比較配合物V4(バージョン4、
図6C)との比較を示す図である。表1に示されるマイクロカプセル化修復剤配合物を組み込んだ2コートシステムの評価は、1コート試験でなされた観察と同様の傾向を示した。開示される実施例のV1(
図6A)及びV2(
図6B)との比較では、配合物のグリシジルアルコキシシランの影響を切り離して考えた。
図6A及び6Bに示されるように、3種の配合物すべて(STD、V1及びV2)が、カプセル化修復剤添加剤を全く含まなかった対照に比べて接着性の損失の顕著な減少を示した。しかし、概して、開示される実施例(STD)は、接着性の損失がV1(
図6A)に比べて50〜75%、V2(
図6B)に比べて20〜75%小さく抑えられた。したがって、1コート試験と2コート試験の両方で、開示されるマイクロカプセル化修復剤添加剤の性能に対するグリシジルアルコキシシランの重要性が確認された。
【0051】
[0062]開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物(STD)のV4との比較では、開示される配合物のグリシジルアルコキシシランの濃度の影響を切り離して考えた。1コート試験では、STDとV1マイクロカプセル化修復剤配合物の性能の比較により、3つの濃度すべて(1wt.%、2.5wt.%及び4wt.%)を考慮すると、186ミクロンのスクライブ付近のふくれ発生性(
図4A)及び対応する接着性の損失の評点(
図4B)が、V4配合物に比べてSTD配合物で改善することが示された。500ミクロンのスクライブで同様の観察がなされた(
図5A及び5B)。2コート試験では、STD及びV4配合物は、評価した5種の配合物すべての接着性維持で最も良い性能を発揮した。しかし、186ミクロンのスクライブと500ミクロンのスクライブの両方で観察された接着性の損失についてより厳密に分析すると、開示されるカプセル化修復剤配合物(STD)では、比較配合物V4(
図6C)に比べて接着性の損失が減少することが明らかになった。したがって、グリシジルアルコキシシラン成分の増加だけでは改善がもたらされず、さらにV1〜V3に対する上記で考察された観察と合わせて考えると、観察された性能は、グリシジルアルコキシシラン又は任意の他の成分単独によるものではなく、すべての成分の独特な組合せの結果であった。
【0052】
[0063]開示されるカプセル化修復剤配合物の独特な性能
[0064]マイクロカプセル化修復剤添加剤を組み込んだコーティング又はコーティングシステムに損傷が生じると、マイクロカプセルが破裂し、修復剤配合物が損傷部位に放出される。損傷部位でエポキシ樹脂がマトリックスの残存硬化剤によって架橋されると、グリシジルアルコキシシランが重合された修復剤の基材への接着性を増進する。さらに、修復剤配合物は、亜鉛粒子のいくつかをコートし、それによりそれらの酸化速度を制御し、基材の犠牲防食を長時間促進する。したがって、エポキシ系修復剤の化学作用の利用は、上記で考察された接着性維持及び耐食性に不可欠である。
【0053】
[0065]エポキシ樹脂、極性非プロトン性溶媒及びグリシジルアルコキシシラン(並びに修復剤配合物におけるそれらの相対的濃度)の重要性は明らかである。エポキシ樹脂は、マトリックスの残存硬化剤による修復剤の架橋を促進するために必要とされる。グリシジルアルコキシシランは基材への接着性を増進し、且つ重合されたエポキシ樹脂とともに亜鉛の酸化を制御する。しかし、グリシジルアルコキシシランの量が多すぎると、接着性維持及び耐食性が濃度の増大とともに低下することが観察されたことから、おそらく膜の可塑化及び重合の連鎖停止により、重合された修復剤の特性が損なわれる。極性非プロトン性溶媒のエポキシ樹脂に対する比は、修復剤の粘度を最適なレベルに維持することによって、損傷部位に流入する修復剤の能力の平衡を保つとともに、コーティングマトリックスから残存硬化剤を溶出させるのに十分な量の溶媒が利用可能となることを確実にし、修復が行われている間に損傷部位に送達されるエポキシ樹脂との架橋反応を促進する。
【0054】
[0066]修復剤の各成分の機能に加え、シェル壁にある程度反映される修復剤の化学作用と、ジンクリッチコーティングマトリックスの化学作用との適合性が必要である。言い換えると、開示される実施例では、エポキシ樹脂系の化学作用は、ジンクリッチプライマーのエポキシ系の化学作用と高度に適合性であると考慮される。
【0055】
[0067]
図7A、7B及び7Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図7A)と、エポキシ樹脂をアルキド樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図7B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図7C)との性能の比較を示す図である。適合性の重要性を実証するために、開示されるマイクロカプセル化修復剤を、異なる化学作用に基づく、同様にカプセル化された修復剤配合物と比較した。アルキド系配合物に対して最初の比較を行った(
図7)。結果に示されるように、500時間の塩霧への曝露後、アルキド系の比較例を組み込んだジンクリッチプライマーでは対照に比べて最小限の改善が観察された一方で、開示される配合物を組み込むと、対照に比べて顕著な改善がもたらされた。
【0056】
[0068]
図8A、8B及び8Cは、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマー(
図8A)と、エポキシ樹脂をポリジメチルシロキサン(PDMS)系樹脂で置き換えた、開示される実施例に類似した配合物を含有する同じコーティング配合物(
図8B)、及び開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ同じコーティング(
図8C)との性能の比較を示す図である。ポリジメチルシロキサン(PDMS)系配合物に対して第2の比較を行った(
図8)。先行する実施例の場合のように、カプセル化PDMS系配合物をジンクリッチプライマーに組み込むと対照に比べて有意義な性能改善はもたらされなかったが、開示される実施例において500時間の塩霧への曝露後における186ミクロン又は500ミクロンのスクライブでの接着性の損失又は腐食のクリープは実質的に全く示されなかった。これらの結果により、開示される修復剤配合物を含むエポキシの化学作用の重要性がさらに確認されている。
【0057】
[0069]亜鉛の接続性の維持
[0070]既に考察したように、ジンクリッチプライマーの性能は、コーティングの亜鉛粒子間、及び亜鉛粒子と電気化学的活性が低い鋼基材との間の接続性に大きく依存する。開示されるマイクロカプセル化修復剤のジンクリッチコーティングへの組込みの、亜鉛犠牲腐食システムの接続性に対する影響を決定するために、開示されるマイクロカプセル化修復剤を含まないジンクリッチコーティング(対照)の開回路電位を、一実施例では10ミクロンのカプセルサイズ、第2の実施例では25ミクロンのマイクロカプセルサイズの開示されるマイクロカプセル化修復剤を、評価される最大の添加量(4wt.%)で含有する同じコーティングと比較した。両方の開示される実施例について、組み込まれたマイクロカプセルの平均サイズにかかわらず、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物を含有する配合物のいずれでも開回路電位に実質的な差は観察されなかった(表2)。
【0058】
[0071]開回路電位測定は、電気化学的装置を使用して行った。詳細には、VMP3マルチチャンネルポテンショスタット(VMP3、Biologic、米国)を使用して、3wt.%のNaCl溶液で電気化学的特徴付けを実施した。ガラスシリンダーを、基材に締め付けられたゴムOリングによって評価されるコーティング金属表面に固定し、電解質を充填した(3wt.%のNaCl溶液)。次に、参照電極(標準的な銀/塩化銀電極)及び対極(白金線)を電解質溶液に挿入した。作用極を、試験する試料(コーティング金属基材)に接続した。合計試験領域は7cm
2であった。開回路電位を15分間測定し、システムが安定し平衡状態にあることを確認した。
【0059】
[0072]
【表2】
【0060】
[0073]基材処理の影響及び再現性
[0074]
図9A及び9Bは、種々の実施形態による、標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図9A)、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート、並びにマイクロカプセル化修復剤を組み込んだ標準的な有機ジンクリッチプライマー、エポキシビルドコート及びポリウレタントップコート(
図9B)を含む、完全システム(3コート)試験で評価したシステムの比較を示す図である。1コート(
図2)、2コート(
図3)及び3コート(
図9、完全システム構成)システムの一連の評価を、広範な表面処理手法を包含するよう設計された基材の組合せに対して実施した。結果を表3、4及び5に要約する。概して、開示されるマイクロカプセル化修復剤配合物をジンクリッチプライマーに組み込むと、コーティング又はコーティングシステムの基材への接着性を維持する能力、並びに不十分に処理された基材(SSPC−SP3)と十分に処理された基材(SSPC−SP10)の腐食クリープを同様に最小化する能力が顕著に改善された。不十分に処理された基材に対する観察は、開示されるマイクロカプセル化修復剤添加剤を使用すると、理想的に処理されなかった基材に対する有機ジンクリッチプライマーの実用性が拡張される可能性を表す。表3、4及び5は実施した試験の範囲も示し、現在市販されている幅広い製品及びシステムで観察される性能改善の再現性を実証する。
【0061】
[0075]
【表3】
【0062】
[0076]
【表4】
【0063】
[0077]
【表5】
【0064】
[0078]コーティングの塗布
[0079]
図10A及び10Bは、種々の実施形態による、エアレススプレーガン(
図10A)及び重力供給式の従来のスプレーガン(
図10B)で塗布した、標準的なジンクリッチプライマー(対照)と、開示されるマイクロカプセル化修復剤を2.5wt.%含有する同じプライマーとの比較を示す図である。試料は、撮像前に、186ミクロン及び500ミクロンのスクライブツールを使用してスクライブし、塩霧に500時間曝露した。開示されるマイクロカプセル化修復剤を含むジンクリッチコーティング配合物の性能を、従来の重力供給式塗布プロセスによって、及びエアレス塗布プロセスによって塗布した配合物について対応する対照と比較し、より高圧のエアレス塗布プロセスのマイクロカプセルに対する影響、及びマイクロカプセルが組み込まれる配合物の関連する性能を評価した。
図10に示されるように、塗布プロセスは、塗布されたコーティングの性能に影響を及ぼさないことが明らかである。さらに、硬化前の塗布されたペイントの分析では、カプセルが時期尚早に破裂した又は破壊された形跡は示されなかった。
【0065】
[0080]コーティングシステムの簡素化
[0081]
図11は、種々の実施形態による、ジンクリッチプライマーの性能改善によって3コートシステムから2コートシステムへの簡素化が容易になる、簡素化コーティングシステムを示す図である。開示されるマイクロカプセル化修復剤を組み込むことによってもたらされたジンクリッチプライマーの性能改善は、現在使用されているコーティングシステムを簡素化する機会を提供する。言い換えると、プライマーの性能改善によって追加のコートが除去可能になり、それにより4コートシステムが3コートシステムへ、さらに3コートシステムが2コートシステムへ容易に変換できるようになる可能性がある。
【0066】
[0082]
図11は、第1のコートと第2のコートの間にミストコート(典型的には全面コートと見なされない)を含む3コートシステムが2コートシステムに変換される、本明細書で報告されるシステムの簡素化を示す図である。システムの積層の層を除去することによるコーティングシステムの簡素化は、除去される層の塗布に関連する材料の量及び労務費を著しく節減する可能性を有する。表6は、ミストコートの塗布に続き、ウレタントップコートをジンクリッチプライマーの上に直接塗布したコーティングシステム(2コートシステム)を、標準的な3コートシステムと比較することによって得られた結果の比較である。塩霧に1000時間曝露した後に得られた結果は、この手法の実行可能性を立証する。より適合性のあるトップコートを使用することによっても、トップコートの塗布前にミストコートを使用する必要性が低減する可能性がある。
【表6】
【0067】
[0083]ジンクリッチプライマー層に隣接するコーティング層の性能
[0084]
図12A及び12Bは、種々の実施形態による、エポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクプライマー(対照;
図12A)及びマイクロカプセル化修復剤を組み込んだエポキシ系の第2の層を含む標準的な有機ジンクリッチプライマー(
図12B)を含む、2コート試験で評価したシステムの比較を示す図である。開示されるマイクロカプセル化修復剤は、ジンクリッチプライマー層の真上の層に組み込まれると、ジンクリッチプライマーと相乗作用的に機能することも実証されている。
【0068】
[0085]開示されるマイクロカプセル化修復剤の機能を組み込んだ、この構成の2コートの選択肢が
図12に示される。3コートシステムは、単純にポリウレタントップコートを組み込むものである。こうした構成を組み込んだコーティングシステムへの損傷により、開示される修復剤配合物を含有するカプセルが破裂し、損傷部位に配合物が放出される。損傷部位では、硬化する開示される修復剤配合物が、下方の層のジンクリッチプライマーと、マイクロカプセル化修復剤がジンクリッチプライマーに直接組み込まれる構成に関して上述した相互作用と同じ相互作用を示す。修復剤は、修復剤が組み込まれる層及び下方の層で遭遇する残存硬化剤によって架橋できるとともに、上記で考察されたように酸化速度を制御する。開示されるマイクロカプセル化修復剤をこの構成で組み込んだ代表的な試料についての腐食性能の試験結果を表7に要約する。
【0069】
[0086]
【表7】
【0070】
[0087]評価されたコーティングシステムの損傷後に接着性を維持する能力の著しい改善が、エポキシ−ポリアミドジンクリッチプライマー又はアルキルシリケートバインダーを含む無機ジンクリッチプライマーのいずれかでプライミングされたシステムで観察された。後者には、固有の多孔性を除去するために、第2のコートの塗布前に有機エポキシ−アミドミストコートが塗布されたことに留意されたい。したがって、ジンクリッチプライマーは、より正確には、開示される修復剤配合物に含まれるエポキシ樹脂を架橋するために利用可能な残存硬化剤を含む有機−無機ハイブリッドと記載される可能性がある。
【0071】
[0088]実施例
[0089]実施例1.開示される修復剤配合物及び比較修復剤配合物のマイクロカプセル化
[0090]清潔な1000mL容器に200mLの脱イオンH2Oを測り入れた。5wt%のポリ(エチレン−co−無水マレイン酸)(E400EMAコポリマー)の予め調製した溶液50mLを容器に添加した。次に、尿素5g、NH4Cl0.5g及びレゾルシノール0.5g(予め粉砕した)を容器に添加し、すべての材料が完全に溶解するまで溶液を混合した。溶液のpHを測定したところ2.3〜2.4であり、これを5wt%のNaOH溶液を滴下添加することによって3.5に調整した。次いで、容器をプログラム可能なホットプレート上の水浴に設置した。ミキサーブレード又はホモジナイザーを容器に入れて始動させ、所定速度(25ミクロンのカプセルに対して2000RPM、10ミクロンのカプセルに対して6000RPM)で溶液にせん断を加えた。顕微鏡を使用してエマルジョンの粒径を測定し、所望の範囲にあることが確認された。10〜15分の破砕後、37wt%のホルムアルデヒド水溶液12.77gを容器に添加した。発泡を防ぐため、10〜15滴のオクタノールを一定の間隔で添加した。ホットプレートを始動させ、反応混合物の温度を1℃/分(60℃/時)の速度で55℃まで上昇させた。次に、タイマーを4時間にセットした。反応完了後、反応混合物を室温に冷却し、その後カプセルの単離プロセスを開始した。反応混合物を徹底的に洗浄し、余分な界面活性剤及びあらゆる未反応材料を除去した。洗浄したカプセルを脱イオン水で再スラリー化し、噴霧乾燥して乾燥粉末形態のマイクロカプセルを得た。
【0072】
[0091]実施例2.噴霧乾燥したカプセル(4wt.%)の、既に亜鉛を含有するコーティングへの組込み
[0092]4wt%の乾燥マイクロカプセル(マイクロカプセル化された開示される修復剤又は比較修復剤)をジンクリッチプライマーに組み込むために、最初に所定量のマイクロカプセル(4g)を、既に亜鉛粉末を含有する2液型エポキシジンクリッチプライマーのエポキシ主剤成分の半分(44.5g)に添加した。混合物を、パドルキミサーで中速(約800〜1000RPM)で60秒間穏やかにブレンドした。次いで、主剤成分のもう半分(44.5g)を添加し、上述のように混合した。最後に、7gの硬化剤成分を、カプセルを含有する主剤ブレンドに添加して60秒間混合した後、目標の基材に塗布した。
【0073】
[0093]実施例3.噴霧乾燥したカプセル(4wt.%)の、既に亜鉛を含有するコーティングへの組込み
[0094]4wt%の乾燥マイクロカプセルを第2のジンクリッチプライマーコーティングに組み込むために、最初に所定量のマイクロカプセル(4g)を、既に亜鉛粉末を含有するエポキシ主剤成分の半分に添加した。混合物を、パドルキミサーで中速(約800〜1000RPM)で60秒間穏やかにブレンドした。次いで、主剤成分のもう半分(45.6g)を添加し、上述のように混合した。最後に、4.8gの硬化剤成分を、カプセルを含有する主剤ブレンドに添加して60秒間混合した後、目標の基材に塗布した。
【0074】
[0095]実施例4.噴霧乾燥したカプセル(4wt.%)及び亜鉛粉末のコーティングへの組込み
[0096]エポキシ亜鉛配合物をいくつか得るために、亜鉛粉末を、残りの2液型コーティングとは別に配合用に包装した。この実施例のために、コーティングの主剤成分の総量のうちの半分を最初に容器に添加し、その後必要量のマイクロカプセルを添加した。得られた組合せ物を、パドルキミサーを使用して60秒間徹底的にブレンドした。次に、濃密であるが均質な混合物が得られるまで混合しながら、亜鉛粉末をおよそ10%の分量で定期的に添加した。主剤成分のもう半分を添加し、ブレンドをさらに60秒間混合した。残りの亜鉛粉末を、亜鉛がすべて組み込まれるまで前述と同じ速度で添加した。一部の場合では、すべての亜鉛粉末を完全に含浸させるために、希釈剤(1wt.%)が必要とされた。得られた主剤配合物を60〜120秒間ブレンドした後、硬化剤成分の最初の半分を添加した。次いで、混合物をさらに60〜120秒間ブレンドした後、硬化剤成分のもう半分を添加した。得られた配合物をさらに60〜120秒間ブレンドした後、目標の基材に塗布した。
【0075】
[0097]実施例5.基材の処理。
[0098]粒度80のベルトサンダーを使用して4方向に摩耗することによって、SSPC−SP3鋼基材を処理した。リントフリー布を使用し、アセトンで基材を洗浄した。次に、基材に圧縮空気を印加し、残存する粉塵粒子を除去した。SSPC−SP6及びSSPC−SP10基材は、既にブラスト処理して入手した。これらの基材を、アセトン及びリントフリー布を使用して簡潔に洗浄した。次いで、基材に圧縮空気を印加し、残存する粉塵粒子を除去した。
【0076】
[0099]実施例6.コーティングの塗布、スクライブ及び試験。
[00100]ノズル1.8mm、空気圧60psiの従来の重力供給式のスプレーガンを用いてジンクリッチプライマーを塗布した。追加のコートを塗布した場合、エポキシビルドコートではノズル2.2mm、空気圧60psiの従来の圧力ポットスプレーガンを用いて、ポリウレタントップコートでは従来の重力供給式のスプレーガンを用いて塗布した。1コート、2コート、又は3コートのいずれであっても、試験されたコーティングシステムは損傷前に概して7日間硬化させた。コーティングへの損傷は、
図2に示されるように186ミクロン及び500ミクロンのスクライブツールを使用してスクライブすることによって達成した。スクライブ後、塩霧への曝露前に試料を室温で24時間平衡化させた。
【0077】
[00101]カプセルは、平均直径が25ミクロン以下であってもよい。カプセルがジンクリッチコーティングに組み込まれる場合、ジンクリッチコーティングは、亜鉛粒子間及び亜鉛粒子と下地金属基材との間の接続性の効率を維持する。カプセルのジンクリッチコーティングへの組込みにより、コーティングのバリア特性が改善する。上記「a」に記載のカプセルの組込みは、平均サイズが25ミクロン以下、添加量が4wt.%以下のカプセルでは、亜鉛粒子の接続性に対してほとんど影響を及ぼさない。上記「a」に記載のカプセルを組み込んだコーティング又はコーティングシステムは、下地基材を露出させる損傷後に、接着性維持及び耐食性の改善を示す。上記「a」に記載のカプセルを組み込んだコーティング又はコーティングシステムは、ブラスト処理された鋼表面並びに軽く摩耗した冷延鋼及び他の不十分に処理された金属基材に対する損傷後に、接着性維持及び耐食性の改善を示す。
【0078】
[00102]特定の実施形態を本明細書で示し記載したが、同じ目的を達成するよう計画された多種多様の代替形態及び/又は等価な実施形態若しくは実装形態が、範囲から逸脱することなく、示され記載された実施形態の代替となり得ることを当業者であれば認識するであろう。実施形態は非常に多種多様の態様で実装されてもよいことを当業者であれば容易に認識するであろう。本出願は、本明細書で考察された実施形態の任意の改変及び変形を包含することを意図する。したがって、実施形態は、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ制限されることが明白に意図される。
【国際調査報告】