(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-517213(P2021-517213A)
(43)【公表日】2021年7月15日
(54)【発明の名称】溶媒紡糸セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20210618BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-546151(P2020-546151)
(86)(22)【出願日】2019年3月5日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月8日
(86)【国際出願番号】EP2019055441
(87)【国際公開番号】WO2019170670
(87)【国際公開日】20190912
(31)【優先権主張番号】18160308.5
(32)【優先日】2018年3月6日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】ジルバーマン,フェレーナ
(72)【発明者】
【氏名】オピートニク,マルティナ
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035EE05
4L035EE20
4L035JJ05
4L035KK10
(57)【要約】
本発明は、リヨセル類のセルロース繊維に関する。本発明による繊維は、以下の特性:a)5重量%またはそれ以上のヘミセルロース含有量を有し、b)以下のHoellerファクターF1およびF2:HoellerファクターF1≧0.7+x、かつ≦1.3+x、HoellerファクターF2≧0.75+(x×6)、かつ≦3.5+(x×6)[式中、繊維がつや消し剤を含有しない場合、xは0.5であり、繊維がつや消し剤を含有する場合、xは0であり、かつxが0.5である場合、繊維はいずれの組み込み剤も本質的に含まない]によって特徴づけられる、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヨセル類のセルロース繊維であって、以下の特性:
a)5重量%〜50重量%のヘミセルロース含有量を有し、
b)以下のHoellerファクターF1およびF2:
HoellerファクターF1≧0.7+x、かつ≦1.3+x
HoellerファクターF2≧0.75+(x×6)、かつ≦3.5+(x×6)
[式中、繊維がつや消し剤を含有しない場合、xは0.5であり、繊維がつや消し剤を含有する場合、xは0であり、かつ
xが0.5である場合、繊維はどんな組み込み剤も本質的に含まない]によって特徴づけられる
によって特徴づけられる、セルロース繊維。
【請求項2】
xが0.5であり、
HoellerファクターF1≧1.2、かつ≦1.8
HoellerファクターF2≧3.75、かつ≦6.5
である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
Xが0であり、
HoellerファクターF1≧0.7、かつ≦1.3
HoellerファクターF2≧0.75、かつ≦3.5
である、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
つや消し剤が、0.1重量%〜10重量%、好ましくは0.3重量%〜5重量%、最も好ましくは0.5重量%〜1重量%の範囲で繊維に含有される、請求項3に記載の繊維。
【請求項5】
つや消し剤が、TiO2、CaCO3、ZnO、カオリン、タルク、ヒュームドシリカ、BaSO4、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3または4に記載の繊維。
【請求項6】
70%以上、好ましくは75%〜85%の保水値(WRV)によって特徴づけられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項7】
7重量%〜50重量%、好ましくは7重量%〜25重量%のヘミセルロース含有量によって特徴づけられる、請求項1から6のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項8】
アミンオキシドプロセスによって得られたことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の複数の繊維を含有する、繊維束。
【請求項10】
少なくとも20kg、好ましくは少なくとも70kgの請求項1から8のいずれか1項に記載の繊維を、好ましくは繊維梱の形態で含有することを特徴とする、請求項9に記載の繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リヨセル類(lyocell genus)の溶媒紡糸セルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
リヨセル繊維は、優れた繊維特性(引張り強さ、伸びおよび作業能率)を備えた繊維として、文献においておよび専門家によって公知である。「リヨセル」という用語は、国際人工繊維標準化局(the Bureau of lntemational Standardization of Man−Made−Fibres)(「BISFA」)によって容認された総称である。
【0003】
リヨセル繊維の構造は、乾燥および湿潤状態での高い引張り強さならびに良好な寸法安定性に反映される、優れた機械的テキスタイル特性につながる。
【0004】
リヨセルプロセス/リヨセル技術は、極性溶媒(特にN−メチルモルホリン−N−オキシド[NMMO、NMO]またはイオン性液体)中での、セルロース木材パルプまたは他のセルロース系供給原料の直接溶解プロセスに関係する。工業的に、この技術は、テキスタイルおよび不織布工業界で広く使用されている、セルロースステープルファイバーのファミリー(Lenzing AG、Lenzing、AustriaからTENCEL(登録商標)またはTENCEL(商標)という商標下で市販)を製造するために使用される。リヨセル技術から他のセルロース成形体も、製造されてきた。
【0005】
この方法によれば、通常セルロースの溶液は、いわゆる乾湿式紡糸(dry−wet−spinning)プロセスで、フォーミングツール(forming tool)によって押し出され、押し出され成形された溶液は、押し出され成形された溶液が機械的に引っ張られる、エアギャップを介して沈殿槽へ移され、沈殿槽では、セルロースの沈殿によって成形体が得られる。成形物は、さらなる処理ステップの後に、洗浄され任意選択で乾燥される。リヨセル繊維の製造プロセスは、例えば、US4,246,221、WO93/19230、WO95/02082またはWO97/38153に記述されている。この方法は、「エアギャップ紡糸」という用語の下でも公知である。
【0006】
本明細書で用いられる「ヘミセルロース」という用語は、木材および他のセルロース原材料、例えば、一年生植物中に存在する当業者に公知の材料、すなわち、セルロースが典型的に得られる原材料を指す。ヘミセルロースは、ペントースおよび/またはヘキソース(C5および/またはC6糖単位)によって作り上げられた分枝短鎖多糖類の形態で、木材および他の植物中に存在する。主な構成要素は、マンノース、キシロース、グルコース、ラムノースおよびガラクトースである。多糖類の主鎖は、1単位(例えば、キシラン)だけ、または2つもしくはそれ以上の単位(例えば、マンナン)からなることができる。側鎖は、アラビノース基、アセチル基、ガラクトース基およびO−アセチル基、ならびに4−O−メチルグルクロン酸基からなる。正確なヘミセルロース構造は、木材種内で著しく変動する。側鎖の存在に起因して、ヘミセルロースはセルロースと比較して、はるかに低い結晶化度を示す。マンナンがセルロースと、キシランがリグニンと主に関連していることは周知である。要するに、ヘミセルロースは、セルロース−リグニン凝集体の親水性、アクセシビリティー(accessibility)および分解挙動に影響を及ぼす。木材およびパルプの処理中に、側鎖は切断され、重合度は減少する。当業者によって公知であり本明細書で用いられるヘミセルロースという用語は、その本来の状態のヘミセルロース、通常の処理によって分解したヘミセルロース、および特殊処理ステップ(例えば、誘導体化)によって化学的に変性したヘミセルロース、ならびに短鎖セルロースおよび500以下の重合度(DP)を備える他の短鎖多糖類を含む。
【0007】
繊維は、通常、繊度、引張り強さおよび破断時の伸びを測定することによって特徴づけられる。さらに、可染性、弾性率、結び目引張り強さ(knot tenacity)、ループ引張り強さならびにフィブリル化傾向およびピリング傾向が測定され得る。
【0008】
1984年に、HoellerおよびPuchegger(Melliand Textilberichte 1984,65,573〜574)は、「再生セルロース繊維を特徴づける新しい方法」を紹介した。
【0009】
著者らは、いわゆる「Hoellerグラフ」を作り出す2つの軸上にプロットされた、2つの計算されたファクターに基づいて繊維特性を反映するグラフを提供し、異なる繊維タイプは異なる領域を要求する。
【0010】
これらの2つのファクターを生成する機械的テキスタイル繊維特性は、専門家に周知であり、BISFA「ビスコース、モダル、リヨセル、ならびにアセテートステープルファイバーおよびトウの試験方法(Testing methods viscose, modal, lyocell and acetate staple fibres and tows)」、2004年版、7章により見出され、試験され得る。
【0011】
2つのHoellerファクターは、以下に記述のように計算される。
【0012】
F1=−1.109+0.03992×引張り強さ(cond)−0.06502×伸び(cond)+0.04634×引張り強さ(湿潤)−0.04048×伸び(湿潤)+0.08936×BISFA弾性率+0.02748×ループ引張り強さ+0.02559×結び目引張り強さ。
【0013】
F2=−7,070+0.02771×引張り強さ(cond)+0.04335×伸び(cond)+0.02541×引張り強さ(湿潤)+0.03885×伸び(湿潤)−0.01542BISFA弾性率+0.2891ループ引張り強さ+0.1640結び目引張り強さ。
【0014】
Lenzinger Berichte 2013,91,07〜12によれば、Hoellerグラフにおいて、異なる製造プロセス、例えば、直接溶解対誘導体化からの繊維は、明確に互いに区別することができる。直接溶解繊維のタイプの中でも、異なる直接溶媒から製造された繊維、例えば、イオン性液体、または、他方でNMMOでの溶液から紡糸された繊維は、異なる領域を要求する。
【0015】
市販のリヨセル繊維は、2〜3の間のHoeller−F1値、および2〜8の間のHoeller−F2値を示す(WO2015/101543、およびLenzinger Berichte 2013,91,07〜12)。イオン性液体での直接溶解から回収された繊維は、3〜5.5の間のHoeller−F1値、および7〜10.5の間のHoeller−F2値からの領域をカバーする(Lenzinger Berichte 2013,91,07〜12)。WO2015/101543は、F2−4.5×F1≧3、特に≧1によって規定される、1〜6の間のより低い領域のHoeller−F2値、および−0.6〜右上部境界の間のHoeller−F1値を備える、新しいリヨセル繊維タイプを開示している。
【0016】
このように、WO2015/101543は、Hoeller図内の特定の位置を備えるリヨセル繊維を記述している。特許請求されているリヨセル繊維は、特定の分子量分布および最適化された紡糸パラメーターに到達するために、高α含有量、かつヘミセルロースなどの非セルロース含有量が少ない、高品質な木材パルプの混合物を使用して製造された。エアギャップの影響が低減され、高温でより低い延伸比を用いることによって紡糸が実施される。
【0017】
文献では現在まで、テキスタイル繊維だけがHoellerグラフを使用して検討された。
【0018】
不織布繊維タイプはTiO
2のようなつや消し剤を含有し、光沢のあるテキスタイル繊維と比較して、繊維に光沢のない外観を与える。
【0019】
EP1362935は、ヘミリッチ(hemi−rich)パルプの調製、およびこれからのリヨセル繊維の製造を記述している。実施例では、メルトブローン技術が記述されている。メルトブローン技術によって製造された繊維は、結晶化度および引張り強さによって分析されている。ステープルファイバーを実現するために、繊維束は手によって広げられる。この方法は、本発明に記述するプロセスに反映しない。
【0020】
本発明に記述するリヨセル繊維製造方法は、メルトブローン技術とは比較できない。繊維形成方法の原理は、上に記述されている。US6,440,547は、EP1362935に類似した方法での、ヘミリッチパルプの調製およびリヨセル繊維の製造を記述している。この特許では、繊維製造のためのメルトブローン技術だけでなく、リヨセルステープルファイバーの製造のためのエアギャップ技術も使用されている。
【0021】
さらに、EP1311717は、エアギャップ技術を使用するヘミリッチリヨセル繊維の製造も記述しており、湿潤/乾燥引張り強さおよび伸びに加えて、ループ引張り強さ、初期弾性率および湿潤弾性率も測定して、繊維をより適切に分析している。これらの特許で言及された繊維は、優れた繊維特性(引張り強さ、伸び)を示し、これらの繊維が、標準的なリヨセル繊維の領域に分類されることを示唆している。
【0022】
Wendler他(Fibres and textiles in Eastern Europe 2010,18,2(79),21〜30)は、とりわけリヨセルドープ(NMMO、イオン性液体)中への異なる多糖類(キシラン、マンナン、キシラン誘導体、・・・)の添加、ベンチスケール実験室単位(1.5kg繊維の製造)でのこれらのドープの紡糸、および続く繊維の分析を記述している。NMMO系ドープでのキシランの添加により、繊維特性(引張り強さおよび伸び)のわずかな減少だけが観察された。a)ドープ中へ多糖類の添加、またはb)ヘミリッチパルプの直接溶解によって繊維が製造された場合、繊維は異なって作用することが疑われる。繊維はベンチスケール実験室単位で製造され、工業的製造に反映しない。
【0023】
Schild他(Cellulose 2014,21,3031〜3039)は、キシラン富化ビスコース繊維を記述しており、キシランは、ビスコース製造プロセス後半のステップで添加される。著者らは、繊維特性の減少を検出した。Singh他(Cellulose,2017,24,3119〜3130)も、ビスコースプロセスにヘミセルロースを添加している。彼らは、この添加によって、繊維特性が影響されないままであると仮定している。リヨセル繊維は参照繊維として言及されているが、キシランの添加は記述されていない。ビスコース技術は、化学反応ステップを含み、セルロースは構造的に誘導体に変更され、誘導体は続いて紡糸浴中で切断されて再度セルロースを形成する。この技術は、直接溶解リヨセル技術と比較することができない。
【0024】
Zhang他(Polymer Engineering and Science 2007,47,702〜706)は、より高いヘミセルロース含有量を備えるリヨセル繊維を記述している。彼らは、引張り強度はわずかに減少するだけで、紡糸ドープ中のより高いパルプ濃度によって、繊維特性が増加し得ることを仮定している。
【0025】
Zhang他(Journal of Applied Polymer Science,2008,107,636〜641)、Zhang他(Polymer Materials Science and Engineering 2008,24,11,99〜102)は、Zhang他(Polymer Engineering and Science 2007,47,702〜706)による論文と同じ図を開示している。
【0026】
Zhang他(China Synthetic Fibre Industry,2008,31,2,24〜27)は、より高いヘミ含有量を備える粗いリヨセル繊維(2.3dtex)に対して、より良好な機械特性を記述している。同じ著者はこの同じ理論を、Journal of Applied Science 2009,113,150〜156で仮定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
強化された保水値のような特性において、ビスコース繊維に近似したリヨセル繊維を提供することが、本発明の目的である。本発明の繊維は、いくつかの用途において、ビスコース繊維を、環境にやさしい閉ループプロセスによって製造されたリヨセル繊維で、置き換えることができた。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的は、以下の特性:
a)5重量%〜50重量%のヘミセルロース含有量を有し、
b)以下のHoellerファクターF1およびF2:
HoellerファクターF1≧0.7+x、かつ≦1.3+x
HoellerファクターF2≧0.75+(x×6)、かつ≦3.5+(x×6)
[式中、
繊維がつや消し剤を含有しない場合、xは0.5であり、
繊維がつや消し剤を含有する場合、xは0であり、かつ
xが0.5である場合、繊維はどんな組み込み剤(incorporation agent)も本質的に含まない]によって特徴づけられる
によって特徴づけられるリヨセル類のセルロース繊維によって、解決される。
【0029】
好ましい実施形態は、従属請求項で開示される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】Hoellerグラフであり、本発明のリヨセル繊維の前記グラフでの位置を、他のリヨセル繊維タイプと比較して図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
驚くべきことに、本発明の目的は、請求項1のように、Hoellerファクターのある特定の範囲を示すリヨセル繊維によって解決された。
【0032】
図1は、新規リヨセル繊維のHoellerグラフにおける位置を示す。
【0033】
要求されている第1の領域は、1.2〜1.8の間のHoellerファクターF1、および3.75〜6.5の間のHoellerファクターF2によって規定される。この領域内の本発明による繊維は、1dtexから6.7dtex以下、特に1.3dtexから6.7dtex以下、好ましくは3.3dtexまたはそれ未満、好ましくは2.2dtexまたはそれ未満、さらにより好ましくは1.7dtexまたはそれ未満の繊度を備える、テキスタイル用途用のリヨセル繊維である。特に好ましい繊度範囲は、1dtex〜3.3dtex、より好ましくは1.3dtex〜2.2dtexである。1.7dtex〜2.2dtexの繊度範囲も好ましい。
【0034】
要求されている第2の領域は、0.7〜1.3の間のHoellerファクターF1、および0.75〜3.5の間のHoellerファクターF2によって規定される。この領域内の繊維は、1.3dtex〜2.2dtex、特に1.3dtex〜1.7dtex、さらに1.7dtex〜2.2dtexの標準的な繊度を備え、つや消し剤(例えば、TiO
2)を含有する、不織布用途用のリヨセル繊維である。
【0035】
両方の選択肢に関して、Hoellerグラフにおける領域は、本発明による繊維を、
a)NMMOでのセルロース溶液から製造された、標準的なリヨセル繊維(テキスタイルおよび不織布の用途)
b)イオン性液体での溶液から製造されたリヨセル繊維
c)WO2015/101543によるリヨセル繊維
と区別することがわかる。
【0036】
そのうえ、2つの繊維選択肢(テキスタイルおよび不織布用途用の繊維)は、上述の2つの領域で互いに識別される。
【0037】
繊維がつや消し剤を含有しない場合(X=0.5)、繊維はどんな組み込み剤も本質的に含まない。「どんな組み込み剤も本質的に含まない」という用語は、繊維を紡糸するために使用される紡糸ドープに含有され得る任意の不純物は別として、紡糸ドープに組み込み剤は添加されていないことを意味する。「組み込み剤」という用語は、繊維を紡糸するために使用されるそれぞれのプロセスの条件下で、特にアミンオキシドプロセスの条件下で、セルロースが紡糸溶液から沈殿した後、繊維のセルロースマトリックス内に分散し続ける薬剤を意味する。
【0038】
「本質的に含まない」という用語は、セルロースに対して0.05重量%未満の組み込み剤の含有量を意味する。
【0039】
本発明による繊維がつや消し剤を含有する場合、つや消し剤は、0.1重量%〜10重量%、好ましくは0.3重量%〜5重量%、最も好ましくは0.5重量%〜1重量%の範囲で繊維に含有される。
【0040】
つや消し剤は、TiO
2、CaCO
3、ZnO、カオリン、タルク、ヒュームドシリカ、BaSO
4、およびこれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0041】
さらなる好ましい実施形態では、本発明による繊維は、70%以上、好ましくは75%〜85%の保水値(WRV)を示す。
【0042】
これは標準的なリヨセル繊維より高いWRVであり、ビスコース繊維の吸収能力に接近する。
【0043】
本発明による好ましい繊維は、7重量%〜50重量%、好ましくは7重量%〜25重量%のヘミセルロース含有量によって特徴づけられる。
【0044】
好ましくは、本発明による繊維は、アミンオキシドプロセスによって、すなわち、水性の第三級アミンオキシド、例えば、N−メチルモルホリン−N−オキシドでのセルロースの溶液から得られた。
【0045】
標準的なリヨセル繊維は、現在、高α含有量、かつヘミセルロースなどの非セルロース含有量が少ない、高品質な木材パルプから製造されている。
【0046】
それとは対照的に、記述されたリヨセル繊維は、ヘミリッチパルプ(≧7重量%ヘミセルロース含有量)から製造される。
【0047】
本発明の2つの例示的な実施形態では、これらの繊維を製造するために、異なる木材供給源からの異なる2つのクラフトパルプを選択した。
【0048】
繊維は、十分な延伸比、製造速度および徹底的で工業同等の繊維の後処理を備えて、半工業的パイロットプラント(約1kt/a)で製造した。この製造単位から工業的単位(>30kt/a)への単純なスケールアップは、実現可能で信頼できる。
【0049】
US6,440,547、US6,706,237、EP1362935およびEP1311717は、ヘミリッチパルプの調製、およびステープルファイバー製造用のエアギャップ技術を使用するリヨセル繊維の製造を記述している。これらの文献で提供される情報によれば、実験、およびこの技術を用いて製造された繊維の優れた繊維特性(引張り強さ、伸び)に関して、徹底的な後処理を伴わないで、ベンチスケール実験室単位で繊維が製造されたと、当業者は結論付けることができる。こうした徹底的な後処理としては、例えば、さまざまな温度およびpH値で繊維束に実施される、連続的洗浄ステップが挙げられ、繊維束を洗浄して平衡状態にし、したがって、引張り繊維特性に影響を及ぼすことができる。
【0050】
高い引張り強さおよび伸び値が、Hoellerファクターに含まれる他の測定された値(例えば、ループ強度および伸び)にも外挿することは、専門家に周知である。したがって、繊維の引張り強さおよび伸びが優れている場合、ループ強度および伸びが同様に優れていると予想される。
【0051】
このため、上記引用文献によってこのベンチスケール単位で製造された繊維は、工業的製造を反映しないが、最新式の工業的リヨセル繊維の領域に配置されるであろう。
【0052】
工業的製造に関しては、1年当たり少なくとも1トンの繊維(半工業的製造)、特に1年当たり少なくとも1,000トンから30,000トンまでの繊維、およびそれ以上の製造能力が必要である。
【0053】
したがって、本発明は、前の特許請求のいずれかによる複数の繊維を含有する繊維束も提供する。「繊維束」は、複数の繊維、例えば、数百キログラムまでの繊維を含有し得る、複数のステープルファイバー、連続フィラメントのストランドまたはひと梱(bale)の繊維であると理解される。
【0054】
特に本発明による繊維束は、少なくとも20kg、好ましくは少なくとも70kgの本発明による繊維を、好ましくは繊維梱の形態で含有し得る。
【0055】
WO2007/128026は、ある特定のパルプからのリヨセル繊維の製造を開示している。リヨセル繊維を製造するために使用したパルプの1つは、比較的高含有量のヘミセルロース(7.8重量%のキシランおよび5.3重量%のマンナン)を有すると、この文献に開示されている。このパルプの粘度は、451ml/gであると開示されている。
【0056】
本発明の繊維を製造するために、用いられるパルプは、300〜440ml/g、特に320〜420ml/gの粘度を有するべきである。
【0057】
したがって、本発明の1つの好ましい実施形態では、本明細書に記述する、リヨセル繊維を調製するために用いられるパルプは、300〜440ml/g、特に320〜420ml/g、より好ましくは320〜400ml/gの範囲のスキャン粘度(scan viscosity)を有する。
【0058】
スキャン粘度は、当業者に公知であり、psl−rheotekから入手可能な、Auto PulpIVA PSLRheotek装置などの市販の装置で実行することができる手法である、カプリエチレンジアミン(cupriethylenediamine)溶液中でのSCAN−CM 15:99によって決定される。スキャン粘度は、特に紡糸溶液を調製するためのパルプの処理に影響を及ぼす、重要なパラメーターである。2つのパルプが、リヨセルプロセス用原材料として非常に類似しているように見えたとしても、異なるスキャン粘度は、処理中の完全に異なる挙動につながるであろう。リヨセルプロセスのような直接溶媒紡糸プロセスでは、パルプはNMMOにそのまま溶解する。プロセスのニーズにセルロースの重合度を調節するビスコースプロセスと同等の、熟成(ripening)ステップは存在しない。このため原材料パルプの粘度の規格は、典型的には狭い範囲内にある。そうでなければ、製造中に問題が生じるおそれがある。本発明によれば、パルプ粘度が上に規定された通りであると有利であることが見出された。より低い粘度は、リヨセル製品の機械特性を損なう。特により高い粘度は、紡糸ドープのより高い粘度につながる可能性があり、したがって、紡糸はより遅くなるであろう。より遅い紡糸速度により、より低い延伸比が達成され、これは繊維構造およびその特性を著しく変える(Carbohydrate Polymers 2018,181,893〜901;Structural analysis of Ioncell−F fibres from birch wood,Shirin Asaadia;Michael Hummel;Patrik Ahvenainen;Marta Gubitosic;Ulf Olsson,Herbert Sixta)。これはプロセス改変を必要とし、粉砕器容量の減少につながるであろう。本明細書で規定される粘度を備えるパルプを用いることによって、円滑な処理および高品質な製品の製造が可能になる。
【0059】
本明細書で概説される、本発明で用いられるパルプは、ヘミセルロースの高い含有量を示す。標準的なリヨセル繊維の調製に用いられる、標準的な低いヘミセルロース含有量のパルプと比較して、本発明により用いられるパルプは、他の違いも示す:標準的なパルプと比較して、本明細書で用いられるパルプは、よりふわふわした外観を表示し、これは、(リヨセルプロセス用の紡糸溶液を形成するための、出発物質の調製中の)粉砕の後に、高い割合のより大きな粒子の存在をもたらす。その結果、低いヘミセルロース含有量を有する標準的なパルプと比較して、かさ密度ははるかに低い。加えて、本発明により用いられるパルプは、NMMOを浸透させることがより困難である。すべてのこれらの異なる特性は、紡糸溶液調製中のある特定の改変、例えば、溶解時間の増加(例えば、WO94/28214およびWO96/33934に説明されている)ならびに/または溶解中の剪断の増加(例えば、WO96/33221、WO98/05702およびWO94/28217)を必要とする。これによって、本明細書で記述するパルプを、標準的なリヨセル紡糸プロセスで使用できるようにする、紡糸溶液の調製が確実になる。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
異なるパルプからのリヨセル繊維製造
表1に規定するパルプを紡糸ドープに変換し、WO93/19230により、1.3〜2.2dtexの間で異なる繊度を備える、リヨセル繊維に処理した。
【0061】
繊維1は、ヘミリッチパルプ1を使用し、繊維の徹底的な後処理を含んで、半工業的スケール(1kt/a)で、連続的に製造した。繊維2は、ヘミリッチパルプ2を使用し、不連続製造単位で製造した。そのうえ、繊維1および繊維2の両方は、光沢あり/テキスタイルバージョン、およびつや消し剤(TiO
2)を添加した光沢なし/不織布バージョンで製造した。
【0062】
リヨセルの標準的な繊維(CLY標準)は、標準的なリヨセルパルプから、つや消し剤を備えて(NW、光沢なし)またはつや消し剤を備えないで(TX、光沢あり)製造される。
【0063】
【表1】
【0064】
このように製造された繊維の引張り特性、ならびに得られたHoellerファクター1および2を、以下の表2に集める。
【0065】
【表2】
【0066】
表2から、本発明による繊維、すなわち「繊維1」および「繊維2」は、上で規定した特定の区域へ繊維を配置し、それらを標準的なリヨセル繊維と区別する、HoellerファクターF1およびF2を示すことがわかる。
【0067】
以下の表3では、以下に記述するDIN53814(1974)によって測定した、本発明の繊維の保水値(WRV)を、標準的なリヨセル繊維およびビスコース繊維の保水値と比較している。
【0068】
保水値を決定するために、乾燥繊維の規定された量を、DIN53814による(水の出口を備える)特殊な遠心分離管へ導入する。脱イオン水中で、繊維を5分間膨潤させる。次に、それらを3000rpmで15分間遠心分離機にかけ、その後、湿潤セルロースをすぐに秤量する。湿潤セルロースを105℃で4時間乾燥し、その後、乾燥重量を決定する。WRVは、以下の式を使用して計算される。
【0069】
【数1】
【0070】
保水値(WRV)は、試料に浸透した湿気のどれだけ多くの水が、遠心分離機にかけた後に保持されるかを示す測定値である。保水値は、試料の乾燥重量に対する割合として表現される。
【0071】
表3では、参照繊維と比較した本発明の繊維(繊維1および2)の保水値が列挙され、標準的なCLY繊維と比較して、それぞれ19%および26%のWRVの増加が、観察され得る。
【0072】
【表3】
【0073】
本発明による繊維(「繊維1」および「繊維2」)は、それらのWRVの観点から、標準的なリヨセル繊維を上回り、したがって、それらをビスコース繊維により類似させることを、明確に見ることができる。
【国際調査報告】