特表2021-517508(P2021-517508A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-517508排出処理システムにおいて使用するための触媒物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-517508(P2021-517508A)
(43)【公表日】2021年7月26日
(54)【発明の名称】排出処理システムにおいて使用するための触媒物品
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20210625BHJP
   B01J 29/78 20060101ALI20210625BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20210625BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20210625BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20210625BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20210625BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20210625BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20210625BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20210625BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20210625BHJP
【FI】
   B01J35/04 301L
   B01J29/78 AZAB
   B01J29/76 A
   B01D53/86 222
   B01D53/86 228
   B01D53/94 222
   B01D53/94 228
   F01N3/035 A
   F01N3/08 B
   F01N3/10 A
   F01N3/24 C
   F01N3/24 E
   F01N3/28 301C
   F01N3/28 301P
   F01N3/28 301D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-548782(P2020-548782)
(86)(22)【出願日】2019年3月22日
(85)【翻訳文提出日】2020年9月11日
(86)【国際出願番号】GB2019050825
(87)【国際公開番号】WO2019186121
(87)【国際公開日】20191003
(31)【優先権主張番号】1805312.4
(32)【優先日】2018年3月29日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】アルルラジュ、カネシャリングハム
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラー、ガイ リチャード
(72)【発明者】
【氏名】レッペルト、レイナー
(72)【発明者】
【氏名】ニューマン、アンドリュー
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
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4G169CA13
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA18
4G169EC28
4G169EC29
4G169FA06
(57)【要約】
燃焼排ガスの流れを処理するための触媒物品は、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含む触媒活性基材であって、該チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスは流れ、1つ以上のチャネルは、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有する、触媒活性基材を含み、基材は、押出バナジウム含有SCR触媒材料で形成され、第1の層は、第1の表面の少なくとも一部分上に配置され、第1の層は、粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを含み、SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層は、1つ以上のチャネル内の表面上に配置され、第1の層が配置される第1の表面の少なくとも一部は、銅、鉄、セリウム、若しくはジルコニウムの化合物、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物、特に鉄化合物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスの流れを処理するための触媒物品であって、前記物品が、
その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含む触媒活性基材であって、前記チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスが流れ、前記1つ以上のチャネルが、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有する、触媒活性基材を含み、
前記基材が、押出バナジウム含有SCR触媒材料から形成され、
第1の層が、前記第1の表面の少なくとも一部分上に配置され、前記第1の層が、粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを含み、
SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層が、前記1つ以上のチャネルの表面上に配置され、
前記第1の層が配置される前記第1の表面の少なくとも一部が、銅、鉄、セリウム、若しくはジルコニウムの化合物、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物を含む、触媒物品。
【請求項2】
前記化合物が鉄化合物である、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む前記層が、前記第1の表面の少なくとも一部分上に配置された前記第1の層であり、前記第1の層が、前記SCR触媒組成物とアンモニアスリップ触媒組成物との混合物である、請求項1又は2に記載の触媒物品。
【請求項4】
前記SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む前記層が、前記第1の層の少なくとも一部分上に配置された第2の層である、請求項1又は2に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記基材がハニカムフロースルーモノリス基材である、請求項1、2、3又は4に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記粒子状金属酸化物担体材料が、アルミナ、シリカ−チタニア混合酸化物、Ce−Zr混合酸化物、セリア、チタニア、シリカ、ジルコニア、及びゼオライト、又はこれらのいずれか2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記基材が、1〜3重量%、好ましくは1.5〜2.5重量%の酸化バナジウムを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記第1の層が、0.05〜0.5重量%の前記白金族金属を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項9】
前記白金族金属が、Pt又はPtとPdとの組み合わせである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項10】
前記第1の層が、前記基材の前記軸方向長さの最大50%、好ましくは前記軸方向長さの10〜40%を被覆し、好ましくは前記物品の端部から延びている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項11】
前記第2の層が、前記基材の前記軸方向長さの少なくとも50%、好ましくは前記軸方向長さの100%を被覆する、請求項4に付随する場合の請求項10に記載の触媒物品。
【請求項12】
前記第1の層が、前記基材の前記軸方向長さの少なくとも50%、好ましくは前記軸方向長さの100%を被覆する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項13】
前記第2の層の前記SCR触媒組成物が、銅促進ゼオライト、鉄促進ゼオライト、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項14】
前記SCR触媒が、骨格型AEI、AFX、CHA、DDR、ERI、ITE、LEV、LTA、STI、又はSFWを有する、銅又は鉄促進小細孔ゼオライトである、請求項13に記載の触媒物品。
【請求項15】
前記第2の層が、200℃で測定したときに、前記第2の層1g当たり最大0.1gのアンモニア吸蔵容量を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項16】
前記第2の層が、面積で前記第1の層の100%を被覆する、請求項4、及び請求項4に従属する場合の請求項1〜15のいずれか一項に記載の触媒物品。
【請求項17】
燃焼排ガスの流れを処理するための排出処理システムであって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の触媒物品と流体連通する燃焼排ガス源と、前記物品の上流に配置された窒素系還元剤源と、を含む、排出処理システム。
【請求項18】
前記第1の層が、前記基材の前記軸方向長さの最大50%を被覆し、前記物品の下流端から延びるように設けられている、請求項17に記載の排出処理システム。
【請求項19】
前記燃焼排ガス源がディーゼルエンジンである、請求項17又は18に記載の排出処理システム。
【請求項20】
燃焼排ガスの流れを処理するための方法であって、窒素系還元剤の存在下で、燃焼排ガスの流れを、請求項1〜16のいずれか一項に記載の触媒物品と接触させることを含む、方法。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の触媒物品の製造方法であって、前記方法が、押出バナジウム含有SCR触媒材料で形成された触媒活性基材の1つ以上のチャネルの第1の表面を含浸させることであって、前記押出バナジウム含有SCR触媒材料上に、粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを含む第1の層が、銅、鉄、セリウム、マグネシウム、若しくはジルコニウム、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物の水性塩溶液と共に配置される、含浸させることと、前記含浸させた基材を乾燥させることと、前記第1の表面上の粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを適用することと、を含む、方法。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の触媒物品の製造方法であって、前記方法が、バナジウム含有SCR触媒材料と、永久結合剤と、銅、鉄、セリウム、マグネシウム若しくはジルコニウムの化合物又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物と、を含む押出可能なペーストを形成することと、前記ペーストを、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含むハニカム形態に押し出すことであって、前記チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスが流れ、前記1つ以上のチャネルが、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有する、押し出すことと、前記押し出されたハニカム形態ペーストを乾燥及び焼成することと、前記第1の表面上の粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを適用することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出処理システムにおいて使用するための改善された触媒物品に関する。特に、バナジウム被毒の耐性が改善された押出バナジウム含有SCR触媒上に提供されるアンモニアスリップ触媒配合物に関する。
【0002】
ディーゼルエンジン、固定ガスタービン、及び他のシステムにおける炭化水素燃焼により、NO(一酸化窒素)及びNO(二酸化窒素)を含む窒素酸化物(NO)を除去するために処理する必要のある排気ガスが生成される(形成されるNOの大部分がNOである)。NOは、人々に多くの健康問題を引き起こすだけでなく、スモッグや酸性雨の形成などの多くの有害な環境影響を引き起こすことが知られている。排気ガス中のNOによる人と環境の両方の影響を軽減するために、好ましくは他の有害物質又は有毒物質を生成しないプロセスによって、これらの望ましくない成分を除去することが望ましい。
【0003】
リーンバーンガソリン、液体石油ガス又は天然ガス、及びディーゼルエンジンで生成される排気ガスは、概して酸化性のものである。NOを単体窒素(N)及び水に変換する選択的触媒還元(SCR)として知られるプロセスにおいて、触媒及び還元剤を用いてNOを選択的に還元する必要がある。SCRプロセスでは、ガス状還元剤、典型的には無水アンモニア、アンモニア水溶液、又は尿素を排気ガス流に添加した後、排気ガスを触媒に接触させる。還元剤は触媒上に吸収され、NOは、ガスが触媒された基材の中又は上を通過するときに還元される。
【0004】
NOの変換を最大化するためには、多くの場合、化学量論量を超えるアンモニアをガス流に加える必要がある。しかしながら、大気中へ過剰なアンモニアを放出すると、人々の健康及び環境に有害である。加えて、アンモニアは、特にその水性形態で苛性である。排気触媒下流の排気ラインの領域におけるアンモニアと水との凝縮により、排気システムに損傷を与える恐れのある腐食性混合物が生じる場合がある。したがって、排気ガス中のアンモニアの放出を無くす必要がある。従来の排気システムの多くでは、アンモニア酸化(AMOX)触媒(アンモニアスリップ触媒又は「ASC」としても知られる)が、SCR触媒の下流に設けられており、アンモニアを窒素に変換することによって排気ガスから除去する。アンモニアスリップ触媒を使用することにより、典型的なディーゼル運転サイクルにわたって90%を超える正味のNO変換を可能にすることができる。
【0005】
排気ガス中の過剰なアンモニアを酸化するための触媒が知られている。国際公開第2016/205506号では、アンモニアスリップ触媒の一例を記載している。本開示は、押出バナジウム含有触媒上に提供されたアルミナ上にPtを含む選択的ASCコーティングの例を含む。コーティングは、バナジウム被毒に対する良好な抵抗性を有すると言われている。アンモニアスリップ触媒の更なる例は、SCR触媒を用いた低アンモニア吸蔵を伴う担体上の白金のブレンドを含む触媒を記載する、出願人の国際公開第2016/205509号に開示されている。
【0006】
出願人の英国特許出願第1705158.2号(2017年3月30日出願)では、触媒活性基材を含む触媒物品を開示しており、該触媒活性基材は、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含み、該チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスは流れ、1つ以上のチャネルは、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有し;基材は、押出バナジウム含有SCR触媒材料で形成され、第1の層は、第1の表面の少なくとも一部に提供され、第1の層は、チタニア、シリカ−チタニア混合酸化物、Ce−Zr混合酸化物、又はこれらの混合物上に担持された1つ以上の白金族金属(PGM)を含むアンモニアスリップ触媒組成物を含み、第2の層は、第1の層の少なくとも一部分上に設けられ、SCR触媒組成物を含む。コーティングは、バナジウム被毒に対する良好な抵抗性を有すると言われている。
【0007】
本発明者らは、現在、非常に驚くべきことに、押出バナジウム含有SCR触媒材料から形成された触媒活性基材上に直接配置された酸化触媒層の使用中のバナジウム被毒は、酸化触媒層と接触している触媒活性基材の少なくとも一領域に鉄化合物を含むことにより、低減又は回避できることを見出した。鉄化合物は、領域を、例えば鉄塩の水溶液で含浸させることによって、又は、鉄化合物を、バナジウム含有SCR触媒材料も含有する押出ペーストに添加することによって、加えることができる。このような鉄化合物は、任意の押出鉄促進ゼオライトSCR触媒成分、例えばイオン交換ゼオライト中に存在する任意のカチオン性鉄に加えて、例えば、出願人の国際公開第2014/027207(A1)号に記載されているものなどの、押出バナジウム含有SCR触媒材料中に存在する。
【0008】
更に、非常に驚くべきことに、バナジウム含有SCR触媒材料も含有する押出ペーストに鉄化合物を添加すると、押出バナジウム含有SCR触媒材料から形成された触媒活性基材の物理的強度が改善されることも見出されている。例えば、押出バナジウム含有SCR触媒材料が鉄塩の水溶液で含浸され、得られる含浸基材が焼成されるとき、この強度の優位性における改善もまた得られると考えられる。
【0009】
第1の態様によれば、燃焼排ガスの流れを処理するための触媒物品が提供され、該物品は、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含む触媒活性基材を含み、該チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスは流れ、1つ以上のチャネルは、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有し、基材は、押出バナジウム含有SCR触媒材料で形成され、第1の層は、第1の表面の少なくとも一部分上に配置され、第1の層は、粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを含み、SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層は、1つ以上のチャネルの表面上に配置され、第1の層が配置される第1の表面の少なくとも一部は、銅、鉄、セリウム、若しくはジルコニウムの化合物、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物を含む。
【0010】
これから、本開示を更に説明する。以下の節において、本開示の異なる態様/実施形態は、より詳細に定義される。そのように定義された各態様/実施形態は、別途明確に示されていない限り、任意の他の態様/実施形態又は態様/実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせることができる。製品に関して開示された特徴は、方法に関連して開示された特徴と組み合わされてもよく、逆もまた同様であることが意図される。
【0011】
更に、本明細書で使用するとき、用語「含む(comprising)」は、定義「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」と交換することができる。用語「含む(comprising)」は、指定された要素が必須であることを意味することを意図するものであるが、他の要素が追加されてもよく、それでもなお、請求項の範囲内に構成を形成してもよい。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、指定された材料又は工程、並びに、特許請求される発明の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しないものに請求項の範囲を限定する。用語「からなる(consisting of)」は、通常それに関連する不純物を除いて、列挙されたもの以外の材料を含めることに対して請求項を閉鎖する。
【0012】
使用中、窒素系還元剤の存在下での押出バナジウム含有SCR触媒材料は、排気ガス中のNOを低減するように作用する。任意の過剰な窒素系還元剤は、第1の層中のASCと接触し、窒素に変換される。(更に)SCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層が存在することにより、アンモニアの過剰酸化によって生成されるNOの問題が対処され、NOの排出により、システム全体にわたるNOの正味の変換を低減することができる。この構成の結果、NO変換レベルは高くなる。
【0013】
しかしながら、発明者らは、バナジウムが基材からASCコーティングのPGM層へと移動できることを見出した。これにより、特に、車両の耐用年数シミュレーションに対応する580℃/100時間のエンジンエージング後、不活性化がもたらされ、PGM担体がゼオライトに基づくことが観察された。驚くべきことに、押出バナジウム含有SCR触媒材料に硝酸鉄水溶液を含浸させる場合、現在、押出バナジウム含有触媒基材上にコーティングされたアンモニアスリップ触媒(ASC)に対しての、ASC機能がはるかに安定し、特にバナジウムに対して、改善された耐毒性をもたらすことが見出されている。これは、最初に硝酸鉄水溶液で含浸されていない押出バナジウム含有SCR触媒材料と比較して、特に実証されている。
【0014】
更に、発明者は研究中に、バナジウム含有SCR触媒材料を含有する押出ハニカムから切断し、次いで焼成した、硝酸鉄、硝酸セリウム、硝酸ジルコニウム、又は硝酸銅でコーティングされたコアが、コアを試験期間にわたって浸漬させた標準体積の蒸留水中のコーティングされていないコアよりも、バナジウムの浸出が少ないことを発見した。誘導結合プラズマ(ICP)を用いて溶離液を試験し、その中に存在するバナジウムの量を求めた。これは、鉄に加えて、セリウム化合物、ジルコニウム化合物及び銅化合物、又は鉄化合物、セリウム化合物、ジルコニウム化合物及び銅化合物のうちのいずれか2つ以上の混合物を使用して、第1の層におけるPGMの酸化活性のバナジウム被毒を低減又は回避できることも示唆した。セリウム及び鉄化合物を組み合わせることにより、相乗的なSCR活性を提供することができるため、セリウム及び鉄化合物の特定の組み合わせが好ましいことが知られている。
【0015】
加えて、鉄及び銅化合物は、PGMと比較して比較的低い酸化活性を有する。しかしながら、鉄及び/又は銅を使用すれば、第1の層における酸化機能を補助することができ、その結果、所望の酸化活性を得るために必要とされるPGMが少なくなる可能性がある。
【0016】
好ましくは、化合物は、鉄の化合物を含むか、又は鉄の化合物からなる。
【0017】
理論に束縛されるものではないが、バナジウム及び鉄及びPGMは、バナジウムがPGMの触媒特性に干渉しないように、担体材料中の異なる部位と会合すると考えられる。
【0018】
本発明者らはまた、鉄、銅、セリウム、又はジルコニウムの化合物は、酸化物化合物として空気中で焼成した後に存在し得、使用中には硝酸塩又は炭酸塩としても存在し得るが、遊離鉄、遊離銅、遊離セリウム、又は遊離ジルコニウムとして定義することもできると考えている。特に、これに関連する用語「遊離」は、基材中に存在し、バナジウム含有SCR触媒材料と共押出される鉄又は銅イオン交換ゼオライトを区別することを意図している(例えば、国際公開第2014/027207(A1)号を参照されたい)。ここで、イオン交換銅はカチオンとして存在するか、鉄又は銅のイオン交換のアーチファクト、すなわち、焼成中に酸化されたイオン交換後のゼオライト中に残留する任意の鉄又は銅として、比較的少量の遊離化合物で存在する。この点に関して、本発明による触媒物品中に存在する「遊離」鉄及び/又は銅化合物は、イオン交換後のゼオライト中に残留する僅少量よりも著しく多い量で存在する。特に、鉄化合物、セリウム化合物、銅化合物又はジルコニウム化合物のうちの1つ以上の合計は、>200gft−3、例えば>500gft−3、又は>750gft−3若しくは>1000gft−3の量で存在し得る。
【0019】
本発明は、触媒物品に関する。触媒物品とは、触媒特性を有する本明細書に記載の構造を意味する。触媒特性は、構造に含まれている、又はその上にコーティングされている材料に由来する。本明細書で定義される物品は、本明細書に記載されるようなコーティングされた触媒基材、並びに自動車への設置に好適な処理及び封止された(canned)SCR及び/又はASCユニットの両方を含む。触媒物品は、SCRプロセス又はSCRプロセスの下流に使用されるとき、アンモニアスリップを低減するのに効果的な不均一酸化触媒を提供する。
【0020】
触媒物品は、燃焼排ガスの流れを処理するためのものである。すなわち、触媒物品は、内燃機関(移動式又は固定式のいずれか)、固定式、船舶用、又は機関車用途のガスタービン、及び石炭又は石油を燃料とした動力プラントなどの燃焼プロセスに由来する排気ガスを処理するために使用することができる。本発明の触媒物品の好ましい用途は、自動車車両用の排気システムにおけるものである。物品はまた、精製などの工業プロセスからのガス、精製ヒーター及びボイラー、炉、化学処理産業、コークスオーブン、都市廃棄物プラント及び焼却炉などからのガスを処理するために使用されてもよい。特に好ましい実施形態では、本方法は、ガスタービン又はリーンバーンガソリン、ディーゼル、液体石油ガス、又は天然ガスエンジンからの排気ガスを処理するために使用される。
【0021】
1つ以上のチャネル内の表面上に配置されたSCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層は、第1の表面の少なくとも一部分上に配置された第1の層を含むことができる。すなわち、第1の層は、SCR触媒組成物とアンモニアスリップ触媒組成物との混合物である。あるいは、この層は、第1の層の少なくとも一部分上に配置された第2の層である。
【0022】
触媒物品は、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含む触媒活性基材を含み、該チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスが流れる。このような構成は、当該技術分野において「ハニカム」形態と呼ばれる場合がある。使用中には、1つ以上のチャネルは、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有する。触媒活性基材は、燃焼ガス中のNOが窒素及び水に変換されるように、SCR機能を提供する。
【0023】
基材は、押出バナジウム含有SCR触媒材料から形成される。このような押出バナジウム含有基材の例は、国際公開第2011/092521、同第2009/093071号、及び同第2013/017873号に提供され、その内容は参照により本明細書に含まれる。このようなバナジウム含有基材の使用は、効果的なSCR特性をもたらすが、バナジウム被毒のリスクをもたらす。好ましくは、基材は、1〜3重量%、好ましくは1.5〜2.5重量%の酸化バナジウムを含む。このような濃度は、良好なSCR特性に好適である。
【0024】
押出SCR触媒材料は、好ましくは、遷移金属促進モレキュラーシーブを更に含む。例えば、好ましい基材は、国際公開第2014/027207(A1)号に開示されるように、バナジウム/タングステン/チタニアと、鉄促進ZSM−5ゼオライトとのブレンドから形成され、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。他の好適な遷移金属及びモレキュラーシーブは、本明細書に記載される技術分野において周知である。
【0025】
好ましくは、基材は、ハニカムフロースルーモノリス基材である。ハニカム構成は、プレート型よりもコンパクトであるが、圧力降下が増大し、塞がれ(詰まり)やすくなる。ほとんどのモバイル用途では、好ましい基材は、両端が開口し、多くは基材の入口面から出口面まで延びているため、表面積と体積との比率が高い、複数の隣接する平行チャネルを含む、いわゆるハニカム形状を有するフロースルーモノリスを含む。一部の用途では、ハニカムフロースルーモノリスは、好ましくは、高いセル密度、例えば、1平方インチ当たり約600〜800個のセル、及び/又は約0.18〜0.35mm、好ましくは約0.20〜0.25mmの平均内壁厚を有する。特定の他の用途では、ハニカムフロースルーモノリスは、好ましくは、1平方インチ当たり約150〜600個、より好ましくは1平方インチ当たり約200〜400個の低いセル密度を有する。好ましくは、ハニカムモノリスは多孔質である。あるいは、基材は、いわゆるウォールフローフィルタのチャネルであってもよい。
【0026】
第1の層は、基材チャネルの内壁の少なくとも一部、すなわち「第1の表面」上に設けられる。一実施形態によれば、第1の層は、基材の軸方向長さの最大50%まで、好ましくは軸方向長さの10〜40%を被覆し、好ましくは物品の端部から延びる。この実施形態では、残りの被覆されていない基材は、窒素系還元剤の存在下でNOを処理するためのSCR触媒として作用する。第1の層によって提供されるコーティングされた部分は、ASCとして作用する。コーティングされた部分は、ASCが任意の残留アンモニア(又は同様物)に作用した後、基材を通り過ぎるように、使用中に基材の下流端から延びていることが好ましい。
【0027】
代替的な実施形態によれば、第1の層は、基材の軸方向長さの少なくとも50%、好ましくは軸方向長さの100%を被覆する。この実施形態では、デバイスの機能は、完全にASCである場合があり、第1の層によって提供されるASC特性を有し、これは、排出処理システム内の別個のSCR触媒の下流に位置してもよい。
【0028】
第1の層は、アンモニアスリップ触媒組成物を含む。アンモニアスリップ触媒組成物は、アルミナ、シリカ−チタニア混合酸化物、Ce−Zr混合酸化物、セリア、チタニア、シリカ、ジルコニア及びゼオライト、又はこれらのいずれか2つ以上の混合物からなる群から選択される粒子状金属酸化物担体材料上に担持される1つ以上の白金族金属(PGM)を含む。PGMは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、及びこれらの2つ以上の混合物から選択される。好ましくは、PGMは、白金、パラジウム、又はその2つの組み合わせであり、最も好ましくは白金からなる。好ましくは、第1の層は、0.05〜0.5重量%、より好ましくは0.1〜0.2重量%の白金族金属を含む。このようなPGM担持量は、望ましいASC特性を提供する。下限を下回ると、加熱時にPGMが焼結するため、ASCコーティングの耐久性が低下する。上限を超えると、触媒の選択性が低下する。
【0029】
粒子状金属酸化物担体材料がゼオライトである場合、好ましくは、粒子状金属酸化物担体材料は、出願人の国際公開第2016/205506(A1)号又は同第2016/205509(A1)号の一方又は両方に記載されている、少なくとも100、例えば、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも750、又は少なくとも1000などの、シリカ対アルミナ比のうちの少なくとも1つを有するケイ質ゼオライトである。
【0030】
第1の層中に存在するチタニアは、より高い表面積を有するため、アナターゼであることが好ましい。シリカ−チタニア混合酸化物は、存在する場合、シリカとチタニアとのバランスによって特徴付けられてもよい。好ましくは、シリカ−チタニア混合酸化物は、50重量%未満のシリカ、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは7〜15重量%のシリカを含有する。Ce−Zr混合酸化物は、存在する場合、セリアとジルコニアとのバランスによって特徴付けられてもよい。好ましくは、Ce−Zr混合酸化物は、全酸化物に基づいて、60:40〜30:70のセリアとジルコニアとの比、すなわちCeO:ZrOを有する。
【0031】
列挙された担体上のPGMに加えて、第1の層は追加の成分を含んでもよい。例えば、充填剤、結合剤、安定剤、レオロジー変性剤、及び他の添加剤などの成分である。特定の実施形態では、ウォッシュコートは、黒鉛、セルロース、デンプン、ポリアクリレート、及びポリエチレンなどの細孔形成剤を含む。これらの追加の成分は、必ずしも所望の反応を触媒するわけではなく、代わりに、例えば、その動作温度範囲を増加させること、触媒の接触表面積を増加させること、触媒の基材への付着を増加させることなどによって、触媒材料の有効性を改善する。典型的には、追加成分のみが結合剤である。典型的には、結合剤として使用される金属酸化物粒子は、粒径に基づいて担体として使用される金属酸化物粒子と区別可能であり、結合剤粒子は、担体粒子と比較して著しく大きい。好ましくは、追加成分は、残部PGM及びチタニア、シリカ−チタニア混合酸化物、Ce−Zr混合酸化物、又はこれらの混合物を有する、25重量%未満、好ましくは15重量%未満、最も好ましくは10重量%未満の第1の層を形成する。
【0032】
好ましくは、第1の層は、層を固定するための最初の焼成後にフレッシュである場合、約5重量%未満、より好ましくは約1重量%未満のバナジウムを含む。
【0033】
上記に説明したように、第2の層は、第1の層の上に設けることができ、第2の層は、SCR触媒組成物を含む。第2の層は、NHを吸蔵し、酸素の存在下でNOをNHで選択的に還元するための触媒を含有し、本明細書ではSCR触媒とも呼ばれる。好ましくは、第2の層は、チャネル内における第1の層の全体を被覆する。実際に、最も好ましくは、第2の層は、第1の層が排気ガスの流れに直接接触することができないように、第1の層を包含する。この構成により、Nに対する選択性が改善され、NO及びNO及び/又はNOの生成が最小限に抑えられる。SCR最上層の不完全な被覆又は排除により、選択性を犠牲にして全体的にNH変換を増加させることができる(ASCよりも多くのNO及びNO及び/又はNO生成)。使用可能なNH吸蔵部がほとんど又は全くない上層では、選択性が低下し、NO及びNO及び/又はNO生成が増加する可能性がある。
【0034】
好ましくは、1つ以上のチャネル内の表面上に配置されたSCR触媒組成物のウォッシュコートを含む層のSCR触媒組成物は、銅促進ゼオライト、鉄促進ゼオライト、又はこれらの組み合わせを含む。第1のSCR触媒は、好ましくはCu−SCR触媒、Fe−SCR触媒又は混合酸化物、より好ましくはCu−SCR触媒又はFe−SCR触媒、最も好ましくはCu−SCR触媒である。Cu−SCR触媒は、銅及びゼオライトを含む。Fe−SCR触媒は、鉄及びゼオライトを含む。
【0035】
ゼオライトは、国際ゼオライト協会(LZA:International Zeolite Association)によって公開されたゼオライト構造のデータベースに列挙された骨格構造のうちのいずれか1つを有する微孔性アルミノケイ酸塩である。骨格構造としては、CHA、FAU、BEA、MFI、MOR型のものが挙げられるが、これらに限定されない。これらの構造を有するゼオライトの非限定的な例としては、チャバザイト、フォージャサイトタイト、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、βゼオライト、モルデナイト、シリカライト、ゼオライトX、及びZSM−5が挙げられる。ゼオライトは、細孔径、例えばゼオライトの骨格中に存在する四面体原子の最大数によって分類することができる。本明細書に定義されるように、CHAなどの小細孔ゼオライトは、最大環サイズの8個の四面体原子を含有し、一方、中細孔ゼオライト、例えばMFIは、最大環サイズの10個の四面体原子を含有し、BEAなどの大細孔ゼオライトは、最大環サイズの12個の四面体原子を含有する。メソ細孔ゼオライトも知られているが、これらは、最大環サイズの12個を超える四面体原子を有する。本発明の層で使用するSCR触媒組成物の最も好ましいゼオライト骨格は、小細孔ゼオライトであり、特に、骨格型AEI、AFX、CHA、DDR、ERI、ITE、LEV、LTA、STI若しくはSFWを有するもの、又はCHA若しくはAEIが特に好ましい。
【0036】
アルミノケイ酸塩ゼオライトは、少なくとも約5から、好ましくは少なくとも約20から、有用な範囲が約10〜200のSiO/Alとして定義されるシリカ/アルミナモル比(SAR)を有することができる。最も好ましくは、アルミノケイ酸塩のSAR範囲は10〜30であり、これにより、活性、すなわちアルミナによって提供されるアニオン性部位へのイオン交換能と、シリカ含有量によって提供される熱耐久性との間の平衡がもたらされる。
【0037】
好ましくは、第2の層は、200℃で測定したときに、第2の層1g当たり最大0.1g、好ましくは0.01〜0.05g/g、最も好ましくは約0.025g/gの、少なくともいくらかのアンモニア吸蔵容量を有する。
【0038】
本明細書で使用するとき、用語「第1の層」及び「第2の層」は、触媒物品を通る及び/又は触媒物品の上を流れる排気ガスの通常の方向に対する触媒物品内の触媒層の相対位置を説明するために使用される。通常の排気ガス流条件下では、排気ガスは、第2の層に接触した後、第1の層に接触し、次いで第2の層と再び接触した後、触媒物品を通り過ぎる。第1及び第2の層は、それらの構造に基づいて多孔質であり、排気ガスが層材料内及び層材料を通過することを可能にすることに留意されたい。第1の層は、底層としてフロースルーハニカム基材に適用され、第2の層は、第1の層の上に適用される上層である。
【0039】
第1及び第2の層、並びに銅、鉄、セリウム又はジルコニウム化合物の含浸媒体を適用する技術は、当該技術分野において周知であり、コーティングされる表面にウォッシュコートを適用することを含む(例えば、出願人の国際公開第99/047260(A1)号を参照されたい)。層を物品上にコーティングした後、典型的には乾燥させ、次いで焼成して層を固定する。焼成は当該技術分野において周知であり、約500℃の温度にて空気中で実施されてもよい。
【0040】
本明細書に記載される触媒物品は、封止され、かつ自動車排気ガス処理システムにおいて使用する準備ができていることが好ましい。
【0041】
更なる態様によれば、燃焼排ガスの流れを処理するための排出処理システムが提供され、該システムは、本明細書に記載される触媒物品と流体連通する燃焼排ガス源と、上記物品の上流に配置された窒素系還元剤源と、を含む。好ましくは、燃焼排ガス源はディーゼルエンジンである。
【0042】
すなわち、本発明の触媒物品は、排気ガス処理システムの一部であってもよく、該触媒物品は、窒素系還元剤源の下流に配置される。一実施形態によれば、物品は、下流ASC触媒部分を含むSCR触媒である。例えば、アンモニアスリップ触媒は、フロースルー基材の下流端上に配置され、SCR触媒は、フロースルー基材の上流端上に配置される。別の実施形態によれば、物品は、別個の選択的触媒還元(SCR)触媒の下流に提供されるASC触媒である。すなわち、アンモニアスリップ触媒及びSCR触媒は、排気システム内の別個のブリック上に配置される。これらの別個のブリックは、それらが互いに流体連通している場合、及びSCR触媒ブリックがアンモニアスリップ触媒ブリックの上流に配置されている場合、互いに隣接し接触する、又は特定の距離だけ離れることができる。これらの実施形態の両方において、アンモニアスリップ触媒は、選択的触媒還元プロセスによって消費されない任意の窒素系還元剤の少なくとも一部を酸化する。
【0043】
窒素系還元剤は、アンモニアそのもの、ヒドラジン、又は尿素((NHCO)、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、及びギ酸アンモニウムからなる群から選択されるアンモニア前駆体であってもよい。アンモニアは最も好ましい。
【0044】
好ましくは、第1の層は、基材の軸方向長さの最大50%を被覆し、使用中に物品の下流端から延びるように設けられる。
【0045】
更なる態様によれば、燃焼排ガスの流れを処理するための方法が提供され、該方法は、窒素系還元剤の存在下で燃焼排ガスの流れを、本明細書に記載の触媒物品と接触させることを含む。
【0046】
更なる態様によれば、本発明の触媒物品による触媒物品の製造方法が提供され、該方法は、押出バナジウム含有SCR触媒材料で形成された触媒活性基材の1つ以上のチャネルの第1の表面を含浸させることであって、該押出バナジウム含有SCR触媒材料上に、粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを含む第1の層は、銅、鉄、セリウム、マグネシウム、若しくはジルコニウム、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物の水性塩溶液と共に配置される、含浸させることと、含浸させた基材を乾燥させることと、第1の表面上の粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを適用することと、を含む。
【0047】
更なる態様によれば、本発明の触媒物品による触媒物品の製造方法が提供され、該方法は、バナジウム含有SCR触媒材料と、永久結合剤と、銅、鉄、セリウム、マグネシウム若しくはジルコニウムの化合物、又はこれらのうちのいずれか2つ以上の混合物と、を含む押出可能なペーストを形成することと、ペーストを、その軸方向長さに沿って延びる1つ以上のチャネルを含むハニカム形態に押し出すことであって、該チャネルを通って、使用中に燃焼排ガスは流れ、1つ以上のチャネルは、燃焼排ガスの流れに接触するための第1の表面を有する、押し出すことと、押し出されたハニカム形態ペーストを乾燥及び焼成することと、第1の表面上の粒子状金属酸化物担体材料上に担持された1つ以上の白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒組成物のウォッシュコートを適用することと、を含む
【0048】
本開示は第1及び第2の層について記載しているが、第1及び第2の層は、第1及び第2の層について本明細書に記載されるそれらの成分の全てを含む単一の混合層として提供されてもよいことも想到される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
これから、以下の非限定的な図に関連して本開示を説明する。
図1】Cu/AEI SCR触媒組成物と混合されたゼオライト上に担持されたPtを含む単層ASCでそれぞれコーティングされた3つの試験試料配置の概略断面図を示す。第1の配置は、コーディエライト基材(比較例)のものである。第2の配置は、国際公開第2014/027207(A1)号に記載されているV/WO/TiO及びFe−ZSM5(MFI)ゼオライトの押出混合物を含有する混合物から形成された押出フロースルー触媒活性ハニカム基材である。図示された第3の配置は、基材のゾーンに硝酸鉄を含浸させ、次いで、PtZ/CuAEIコーティングが適用される前に乾燥及び焼成されたことを除いて、第2の配置と同じである。
図2】フレッシュ押出触媒及びエージング押出触媒(参照例及び本発明)について、1インチ×1インチのコアのNH酸化活性を比較したグラフを示す。
図3】フレッシュ押出触媒及びエージング押出触媒(本発明及びコーディエライト比較例)について、1インチ×1インチのコアのNH酸化活性を比較したグラフを示す。
図4】押出触媒の全6インチのコアについて、NO変換活性、すなわちSCR反応を比較したグラフを示す。
図5】押出触媒の全6インチのコアについて、一酸化炭素(CO)を酸化するための触媒全体の活性を比較したグラフを示す。
【0050】
図1を参照すると、使用中、排気ガスは、アンモニアの存在下で基材内のSCR材料と接触し、左側から基材のチャネルに入り、右側に流れる。これにより、排気ガス中のNOが窒素及び水に変換される。
【0051】
次いで、排気ガス中の過剰なアンモニアは、第1の層内のASCと接触し、窒素に変換される。また、この変換により、追加のNOが生成されることがあり、このNOは、第1の層内のSCRに接触し、窒素に変換される。
【0052】
好ましい実施形態では、フロースルー基材は、バナジウム/タングステン/チタニアと鉄促進ZSM−5ゼオライトとの押出ブレンドである。これには、約0.15重量%のPtと、鉄促進ゼオライトと、10重量%未満のシリカゾル結合剤とを含有するウォッシュコートとして適用される第1の層が設けられている。結合剤は、層を基材に付着させるのに役立つが、背圧の増加を避けるために最小量で存在することが好ましい。第1の層は、適用後に乾燥させ、次いで、約500℃にて空気中で焼成して、固定することができる。
【0053】
次いで、完成した物品は、排気システム内に設置するために封止される。
【0054】
これから、以下の非限定的な実施例に関連して、本開示を説明する。
【実施例】
【0055】
実施例1:押出ハニカム基材の調製
最初に、イオン交換されたMFIアルミノケイ酸塩ゼオライトを、>1重量%の鉄と、2重量%のV−WO/TiO残部成分と、無機助剤で混合し、押出成形のためのレオロジーを改善し、押出物の機械的強度を向上させることにより、国際公開第2014/027207(A1)号による押出ハニカム基材触媒を調製した。押出潤滑剤及び可塑剤などの好適な有機助剤を添加して、混合を促進して、均質な押出可能な塊を形成することができる。有機助剤は、セルロース、ポリエチレングリコールなどの水溶性樹脂を含んでもよく、焼成中に最終基材から燃え尽きる。有機助剤の除去後、基材が16重量%のFe/ゼオライト成分、72重量%のV−WO/TiO成分、12重量%の無機助剤を含むように、適切な割合のゼオライト、V−WO/TiO、無機助剤を選択した。押出可能な塊を押し出して、直径10.5インチ×長さ6.0インチ、及び厚さ11000インチ(mil)のハニカムセル壁を有する、フロースルー構成(つまり、両端でセルが開口)におけるハニカム体1平方インチ当たり400個のセルを形成した。次いで、押し出されたハニカム基材を乾燥させ、焼成して、最終製品を形成する。
【0056】
実施例2:イオン交換銅AEIゼオライトSCR触媒ウォッシュコートの調製
市販の合成アルミノケイ酸塩ゼオライトCHAを、NHNOの溶液中でNHイオン交換し、その後濾過した。得られた材料を、撹拌しながらCu(NOの水溶液に添加した。スラリーを濾過し、次いで洗浄して乾燥させた。この手順を繰り返して、3重量%の金属担持量を得ることができる。最終製品を焼成した。
【0057】
実施例3:Ptゼオライトアンモニアスリップ触媒ウォッシュコート成分の調製
硝酸白金の溶液を市販のゼオライトに含浸させて、ゼオライトの目標Pt含有量が0.2重量%であり、Pt公称担持量が3g/ftであるスラリーを形成した。
【0058】
実施例4:Ptゼオライト/CuAEIアンモニアスリップ触媒ウォッシュコートの調製
実施例2のCuAEI SCR触媒と、実施例3のPtゼオライトASCウォッシュコート成分との50:50(重量比)ブレンドを含むウォッシュコートスラリーを、アルミナゾル結合剤を用いて水中で調製した。
【0059】
実施例5:第1の層触媒組成物を用いた基材のコーティング
国際公開第99/47260(A1)号に記載されているプロセスを用いて、実施例4(比較例)のウォッシュコートでハニカム基材の一端から1インチの深さまで、実施例1に従って調製した単一のハニカム基材をコーティングした。すなわち、方法は、(a)基材の上に収容手段を配置する工程と、(b)所定量の液体成分を、(a)次に(b)又は(b)次に(a)のいずれかの順で、上記収容手段に投入する工程と、(c)真空を適用することにより、上記の量の液体成分の全体を、基材の少なくとも一部に引き込み、リサイクルすることなく、担体内における上記の量の実質的に全てを保持する工程と、を含む。次いで、コーティングされた基材を乾燥させ、焼成した。
【0060】
別個に、実施例1に従って調製したハニカム基材を、ハニカム基材の一端から深さ約1.5インチまでを目標とし、硝酸鉄溶液で含浸させ、担持量は1000gft−3までを目標とした。次いで、この部分を乾燥させ、空気中で焼成した。次いで、得られた硝酸鉄含浸部分を、上文の本実施例5に記載したものと同じ方法で、硝酸鉄含浸が適用された端部から、実施例4のアンモニアスリップ触媒ウォッシュコートでコーティングした。このようにコーティングされた部分を再び乾燥させ、焼成して、本発明によるコーティングされた製品を得た。
【0061】
コーディエライトハニカム基材(比較例)を使用して、比較製品を同様の方法で調製した。
【0062】
実施例6:エージング条件
実施例5から得られた押出触媒ハニカム基材の試料を、オーブン内において580℃超で2時間加熱すること(本明細書では「フレッシュ」と称される)、又は580℃で50時間加熱すること(本明細書では「エージング」と称される)により、10,000kgガス/時の流量で、加速エージング工程において熱エージングし(水は存在しない)、欧州排出基準法(European emission standard legislation)による車両耐用年数にわたって、自動車車両排気ガスへのハニカム基材の予期される曝露をシミュレートした。
【0063】
実施例7:試験条件
直径1インチのコアを、実施例6のフレッシュ基材及びエージング基材から切断し、それぞれを合成触媒活性試験(SCAT)実験装置にロードして、500ppmのNH、4.5重量%のCO、5重量%のHO、200ppmのCO、12重量%のO、及び残部Nを含有する、シミュレートした排ガス中のNHを酸化するための各試料の能力を試験した。試験を、排気ガス空間速度150,000hr−1で実施した。NH変換率(%)対温度の結果を図2に示す。次いで、各コアのコーティングされたアンモニアスリップ触媒切片を、コアの残りの部分から切断して、1インチ×1インチのコアを得た。1インチ×1インチのコアを、アンモニア変換のためのSCAT装置で試験した。
【0064】
図2に示されるように、硝酸鉄で押出触媒を前処理することにより、同等の配置だが硝酸鉄の含浸なし(図中「参照」)と比較して、フレッシュ及びエージングNH酸化性能は改善されている。図3は、本発明による触媒のアンモニア酸化活性が、フレッシュの場合、コーディエライト比較例よりも良好であり、エージングの場合、ほぼ同じであることを示している。これは、本発明によるエージング試料のアンモニア酸化活性が、押出基材に由来するバナジウム被毒による影響を受けないことを示す。
【0065】
図4は、エージング参照例のSCR層が、バナジウム被毒、又はおそらくタンタングステン被毒、若しくは両方の影響を受けていることを示す。同様に、全6インチのコアのCO酸化活性は、本発明によるコアのCO酸化活性よりもエージング参照例が劣っており、これは、Ptゼオライトの活性が、基材中の押出SCR触媒からのバナジウム及び/又はタングステンによって影響を受けたことを示す。
【0066】
前述の詳細な説明は、説明及び例示の目的で提供されており、添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に示される現時点で好ましい実施形態の多くの変形例は、当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内に留まる。
【0067】
疑義を回避するために、本明細書に確認された全ての文書の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】