【実施例】
【0279】
本発明を下記の非限定的な実施例でさらに説明し、この実施例は、例証のみを目的として提供され、本明細書全体を通して本明細書の開示の一般性を制限すると解釈すべきではない。
【0280】
実施例1:mCBS・Naの調製方法
β−O−メチルセロビオシドを、Jon K Fairweather et al.,2004,Aust.J.Chem.,57:197−205により説明されているように調製する。
【0281】
β−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)化合物及びナトリウムβ−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS.Na)化合物を、Katrin C Probst and Hans Peter Wessel,2001,J.Carbohydrate Chemistry,20(7&8):549−560(この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)により説明されているように調製した。
【0282】
β−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)を下記の概要に従って調製した。
【化3】
【0283】
ステップ1:α−D−セロビオース1(116g、338mmol)及び氷酢酸(1.6L)の混合物に、室温で臭化アセチル(300mL、500.0g、4065mmol、12.0当量)を添加した。得られたクリーム状の混合物を、この反応混合物が、反応の完了を示す透明な溶液に変わるまで、45〜55分にわたり60℃で加熱した。
【0284】
この熱い溶液を、割れた氷(4kg)が入っているビーカ(10L)に慎重に注ぐ。この混合物を、白色固体が沈殿するまで撹拌する(約10分)。冷水の別の一部(1L)を添加し、10分にわたり撹拌し続ける。
【0285】
焼結漏斗でろ別し、固体を冷水で洗浄した(700mL×3回)。得られた漏斗中の固体をDCM(1L)に溶解させ、この漏斗をDCMで洗浄した(300mL×2回)。まとめたDCM層をブライン(1.5L)で洗浄し、DCM(0.5L)で逆抽出した。最終DCM層をNa
2SO
4で乾燥させ、ろ過し、2時間以内に<35℃において減圧下で濃縮して、次のグリコシル化に直接使用する目的の臭化物2(172.5g、74.3%収率)を得た。
【0286】
ステップ2:per−O−アセチル化セロビオシルブロミド2(171g、250mmol)、無水DCM(800mL)、無水MeOH(800mL)、活性化3Aモレキュラーシーブ(70g)の混合物に炭酸銀(Ag
2CO
3、75g、275mmol、1.1当量)を添加した。得られた混合物を16時間にわたり光の非存在下で撹拌した。この混合物をシリカのプラグに通して精製し、EtOAcで溶出した。集めた画分を濃縮して褐色固体として粗生成物を得、この粗生成物を次のステップに直接使用した。化合物3のR
f=0.28(EtOAc−ヘキサン、1:1)。
【0287】
ステップ3:ステップ2で得られた粗生成物及び無水MeOH(1L)の混合物に室温でNaの小片(1.72g、0.3当量、75mmol)を添加した。その後まもなく、溶液から白色固体が沈殿し始めた。得られた混合物を一晩撹拌して、脱アセチル化を確実に完了させた。最終懸濁液をろ別し、MeOHで洗浄した(300mL×2回)。白色固体を集め、一晩にわたり真空下で乾燥させて、最終セロビオシド4(72.5g、2段階で81.4%)を得た。
【0288】
【化4】
ステップ4の合成及び精製の手順:
ステップ4 化合物4(84.0g、236mmol)、SO
3.TMA(367.4g、2.64mol、11.2当量)、無水DMF(3140mL)及び無水DCE(767mL)の混合物をAr下で3回脱気し、2時間にわたり80〜90℃で加熱した。(反応のモニタリング:10分にわたる加熱後、クリーム状の混合物が透明な溶液に変化した。30分後、この溶液は再び濁った。50分後、フラスコの表面上に、凝集した固体を観察した)。冷却後、得られた混合物を低温室(−5℃)に移し、一晩沈降させて溶媒から固体を完全に凝集させた。化合物4から5への完全な変換を1H−NMRで確認した。この溶液を排水管にデカントする。粗固体をろ別し、DCMで2〜3回洗浄した。得られた固体を脱イオン水に溶解させ、イオン交換カラム[DOWEX 50W×8のNa形態:樹脂(H
+形態)3kgをガラス製重力カラムに予め充填し、1MのNaOH(−6L)の溶出により再生し、脱イオン水(−12L)で中和した]に直接かけた。集めた画分を濃縮し、ガラス状固体として最終的な硫酸化セロビオシド6(232.1g、92.0%)を得た。
【0289】
実施例2:mCBS・Na化合物の安定性研究
安定性研究を5±3℃、25±2℃/60%RH及び40±2℃/75%RH℃条件で実行した。HPLCにより、製剤化した臨床材料(即ちリン酸緩衝液中のmCBS)中において、mCBS及びセロビオースサルフェート(CBS)の両方のレベルを追跡した。mCBS及びCBSの開始量(T=0)に対するこれらのパーセント(%)変化のグラフ化により、経時的にmCBSのレベルが非常に安定していることが分かった。対照的に、CBSのレベルは非常に急激に下がり、約3ヶ月でほぼなくなっている。実際の安定性プロファイルは促進条件(即ち25±2℃/60%RH及び40±2℃/75%RH)で類似しており、CBSの消失速度は、より速いように見える。2ロットの製剤からのmCBS対CBSの安定性の差異の一例を
図1に示す。このデータは、CBSは水溶液中で非常に不安定であるが、CBSの還元末端にメチル基を付加することにより、水溶液中で非常に安定である分子(mCBS)が得られることを示す。
【0290】
加えて、安定性試験において様々なmCBS製剤を試験した。これらの実験のデータから、mCBSの安定性は、使用する緩衝液によって差が出ないことが分かった。表1は、使用する緩衝液に関するmCBSの様々な製剤の組成を示す。
【0291】
【表1】
【0292】
表2aは、様々な製剤の緩衝能力に応じてpHが経時的に変化することを示し、且つ酢酸緩衝液による製剤のpHが、たとえ約5±3℃であっても約pH7.5に留まらないことを示すが、このデータ自体は、この期間中のmCBS安定性の差異を示す。
【0293】
【表2】
【0294】
表2bは、24ヶ月にわたり−20℃で貯蔵した場合のバルク粉末の代表的なバッチにおけるmCBSレベルとCBSレベルとを比較する。Tは、月数が単位の時間であり、T=0又はT0は、製造完了時に実行した分析結果を示す。示した後続の分析は、薬物の粉末又は製剤の最初の分析と相対的である(例えば、T1=製造日から1ヶ月)。CAD(荷電化粒子検出器)を用いる分析方法を使用して、mCBSの純度及びその不純物のレベルを測定し、CAD%で表した。
【0295】
【表3】
【0296】
表2cは、18ヶ月超にわたり2〜8℃で貯蔵した場合のリン酸緩衝化pH7.5臨床試験材料製剤の代表的なバッチにおけるmCBSレベルとCBSレベルとを比較する。
【0297】
【表4】
【0298】
上記の表2b及び2cは、18〜24ヶ月にわたる様々な条件下での貯蔵後の粉末又は溶液のいずれかにおけるmCBS及びCBSのレベルを示す。CBSは、これらの調製物中において低レベルの不純物として現れる。結果は、CBSは、レベルが経時的に顕著に変化するようには見えないことから、−20℃で貯蔵した場合には粉末中で安定しているように見えることを示す。しかしながら、水性緩衝溶液中では、CBSは非常に不安定であり、レベルは、2〜8℃での3〜6ヶ月の貯蔵以内に0.03CAD%(即ち検出限界)まで低下する。対照的に、mCBSのレベルは、経時的に顕著に変動するようには見えず、粉末中に又は溶液中に保存した場合には高い安定性を示すように見える。
【0299】
様々な緩衝製剤中におけるmCBSの28日後のHPLC分析(表3)も実行した。mCBSは、たとえ促進条件25±2℃/60%RH及び40±2℃/75%RHであっても、リン酸緩衝液中における又はクエン酸緩衝液中における28日後の変動が公称のわずか−/+約2%であるように見え、良好な安定性を示す。
【0300】
【表5】
【0301】
β−O−メチルセロビオシドサルフェート化合物の毒性及び薬物動態プロファイルの前臨床動物研究
下記の実施例3〜10は、本発明で使用されるβ−O−メチルセロビオシドサルフェート化合物の毒性及び薬物動態(PK)プロファイルの、本発明者らが行った動物における例示的な前臨床研究を概説する。
【0302】
実施例3:動物研究で用いたmCBS・Na化合物
この実施例は、後に説明する動物で行った毒性及びPK研究で用いるナトリウムβ−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS・Na)化合物の特性を示す。
【0303】
下記で説明するSTX研究を、特に本発明で使用されるmCBS・Na等のβ−O−メチルセロビオシドサルフェート化合物の毒性及びPKプロファイルの予備的な理解を提供するために実行した。この研究を、同一のロットの化合物を使用して実行し、この化合物の特性を下記の表4にまとめる。
【0304】
【表6】
【0305】
実施例4:β−O−メチルセロビオシドサルフェートの用量及び濃度
通常、本明細書で説明されている毒性及びPKの動物研究では、mCBSのナトリウム塩を使用した。しかしながら、本明細書で概説されている生物学的分析測定は、mCBSの遊離塩基形態を検出して報告したことに留意すべきである。従って、明確性のため、生物学的分析結果との関係を明確にするために、本明細書では、遊離塩基としての用量/濃度も報告している。ナトリウム含有量(塩形態に対する遊離塩基のMWの比率に基づく)及び試験物の純度を補正することにより、mCBS遊離塩基の用量を得た。しかしながら、いずれの用量(即ちナトリウム塩又は遊離塩基)も、バッチ中の化合物の効力を考慮していない。
【0306】
実施例5:β−O−メチルセロビオシドサルフェートの効力
上述したように、報告したmCBSの動物に投与した用量又は濃度は、効力(即ち含水量及び他の不純物)に関して補正しておらず、なぜなら、この研究を実行している間、使用したバッチ中のmCBSのナトリウム塩(即ちmCBS・Na)の効力分析を決定しなかったからである。これらの研究で使用したバッチのその後の分析は、それ以降、ナトリウム塩の効力が約74.5%であることを示している。これらの実施例で使用した実際の用量は、指示したものと比べて少なかった可能性が非常に高い。
【0307】
実施例6:Sprague Dawleyラットへの静脈内投与後のmCBSの毒性
この実施例は、1週間の用量範囲探索(DRF)研究におけるSprague Dawleyラットへの単回ボーラス用量の静脈内投与後のmCBSの急性毒性の評価と、7日にわたるSprague Dawleyラットへのボーラス用量の毎日の静脈内投与後のmCBSの毒性の評価とを示す。
【0308】
この研究では、mCBS・Na及び遊離塩基としてのmCBSの用量を最初に調べた。この効力評価から、最大耐量(MTD)の推定値は、mCBSのナトリウム塩の場合には約745mg/kgであり、mCBS遊離塩基の場合には約600mg/kgであった可能性が高い。
【0309】
1週間の用量範囲探索(DRF)研究におけるSprague Dawleyラットへの単回ボーラス用量の静脈内投与後のβ−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)の急性毒性の評価
この研究では、最大1000mg/kgの用量でのラットにおけるmCBSの単回IV投与からの急性毒性を調べた。
【0310】
β−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)の急性毒性を単回ボーラス用量の静脈内投与後にSprague Dawleyラットで評価した。この用量範囲探索研究では、ナトリウム塩の形態でのmCBS試験物(mCBS・Na)の10、30、100、300及び1000mg/kgの用量において、n=3の成体の雌ラットの合計5つの群を処理した。純度及びナトリウム含有量の補正により、これらの用量レベルは、mCBS遊離塩基の約8.2、24.5、81.5、244.5及び815mg/kgに相当した。次いで、このラットを、剖検することなく終了前7日にわたり観察した。mCBS試験物による処理は、1000mg/kg用量までの全ての用量レベルで良好な耐容性を示した。処理に関連すると考えられる所見はなかった。
【0311】
従って、この研究からのmCBS・Naの最大耐量(MTD)又は急性耐量は1000mg/kgと特定し、これは、mCBS遊離塩基の815mg/kgに相当する。異常な所見又は(コントロール動物と比較した)体重の変化は観察しなかった。
【0312】
7日にわたるSprague Dawleyラットへのボーラス用量の毎日の静脈内投与後のβ−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)の毒性の評価
この研究では、最大1000mg/kgの用量での7日にわたるラットにおけるmCBSの反復IV投与からの毒性を調べた。
【0313】
β−O−メチルセロビオシドサルフェートの急性耐容性及び毒性を7日の期間にわたる毎日の静脈内用量投与後のSprague Dawleyラットで評価した。この反復用量研究では、ナトリウム塩の形態のmCBS(mCBS・Na)の0、100、300及び1000mg/kgの用量において、n=3の成体の雌ラットの合計4つの群を処理した。純度及びナトリウム含有量の補正により、これらの用量レベルは、mCBS遊離塩基の約81.5、244.5及び815mg/kgに相当する。次いで、このラットを終了前7日にわたり観察し、肉眼による剖検並びに終末の血液分析及び生化学分析を行った。n=3の雄ラットの追加の群も、同一の研究デザインに従って1000mg/kgの最高用量で処理した。
【0314】
mCBSは、1000mg/kg用量までの全ての用量レベルで良好な耐容性を示した。処理に関連すると考えられる有害な所見はなかった。処理した動物における血学的パラメータ及び生化学的パラメータは目立たないものであった。肉眼による剖検及び病理で観察した影響は、処理との関連はないと考えられた。
【0315】
従って、この研究におけるMTDは1000mg/kgと特定し、これは、mCBS遊離塩基の815mg/kgに相当する。
【0316】
実施例7:Sprague Dawleyラットへの静脈内投与後のmCBSの薬物動態
この実施例は、Sprague Dawleyラットに静脈内投与したmCBSの薬物動態(PK)の評価を示す。
【0317】
下記の研究は、mCBSのナトリウム塩及び遊離塩基の両方として報告するmCBSの用量を示す。後者は、特にmCBS(遊離塩基)の測定した血漿レベルと投与した用量とを関連付ける場合且つクリアランス(Cl)及び分布容積(Vz)等の終末期PKパラメータを決定するために重要であると考えられる。STX−09研究は、約25及び50mg/kg/時間でのラットにおける5時間の連続注入にわたりmCBSの血漿中濃度を示す。
【0318】
Sprague Dawleyラットに静脈内経路で投与したβ−O−メチルセロビオシドサルフェートの薬物動態研究
この研究は、Sprague DawleyラットにおけるmCBSのボーラスIV投与(20mg/kg)PKプロファイルを調べ、化合物のほとんどが迅速に排出され、投与した用量の90%超が最初の4時間で中央コンパートメントから除去されており、投与した用量の残余のmCBSがより長い期間をかけてゆっくりと除去されることを示す。大きい分布容積は、mCBS化合物が中央コンパートメントから組織に迅速に移動していることを示す。
【0319】
β−O−メチルセロビオシドサルフェート(mCBS)の薬物動態を、ヘプタナトリウム塩の形態でのmCBSのナトリウム塩(mCBS・Na)としての20mg/kgのボーラス用量(又はナトリウム含有量及び純度に関する調整後の16.3mg/kgの遊離塩基)の静脈内投与後、Sprague Dawleyラットで評価した。
【0320】
効力を考慮して、このラットに投与した用量は、ナトリウム塩及び遊離塩基のそれぞれに関して14.9mg/kg及び12.65mg/kgである可能性が高いと推定した。補正したmCBS遊離塩基の用量は約20%低かったことから、これにより、算出したクリアランス(Cl)及び分布容積(Vz)の値は、同様の割合で効果的に減少した。
【0321】
投与前から投与後48時間までの範囲の時点で3匹のラットから合計10個の血液サンプルを採取した。得られた血液サンプルを血漿に処理し、その後、LC−MS/MSベースの方法を使用してmCBS(遊離塩基)の濃度に関して分析した。血漿中濃度対時間のデータを薬物動態パラメータの算出に使用した。
【0322】
時間ゼロ(C0)でのmCBS濃度の平均(±SEM)値は、73400(±8560)ng/mLであった。時間ゼロから最後に測定した時点(AUClast)までの及び無限大(AUCinf)までの曲線下面積の平均(±SEM)値は、それぞれ34300(±2460)ng.時間/mL及び35000(±2940)ng.時間/mLであった。見かけ上の排出半減期(T1/2)の平均(±SEM)値は77.5(±54.5)時間であったが、平均残留時間(MRT)の平均(±SEM)値は5.58(±3.99)時間と比較的短かった。分布容積(Vz)の平均(±SEM)値は46.9(±30.7)L/kgと高く、全身クリアランス(Cl)の平均(±SEM)値は0.472(±0.0377)L/時間/kgと低かった。T
1/2(122%CV)、Vz(113%CV)及びMRT(124%CV)の高い対象者間変動は、対数線形濃度対時間曲線の終末消失部分の不完全なキャラクタリゼーションに起因している可能性が最も高かった。
【0323】
Sprague Dawleyラットに静脈内経路で投与したmCBSの薬物動態研究
この研究は、Sprague DawleyラットにおけるボーラスIV投与(100mg/kg)後のmCBSのPKを調べた。
【0324】
mCBSの薬物動態を、6匹のラットの群へのナトリウム塩の形態でのボーラス100mg/kg用量のmCBS(又はナトリウム含有量及び純度に関する補正後の81.5mg/kgの遊離塩基)の静脈内投与後、Sprague Dawleyラットで評価した。
【0325】
効力を考慮して、このラットに投与した用量をナトリウム塩及び遊離塩基のそれぞれに関して74.5mg/kg及び63.25mg/kgであると推定した。補正したmCBS遊離塩基の用量は約20%低かったことから、これにより、算出したクリアランス(Cl)及び分布容積(Vz)の値は、同様の割合で効果的に減少した。
【0326】
投与前から投与後192時間までの範囲の時点で各ラットから合計9個の血液サンプルを採取した。最初の48時間にわたり尿サンプルも採取した。得られた血液サンプルを血漿に処理した。その後、尿サンプル及び血漿サンプルを、LC−MS/MSベースの方法を使用してmCBS(遊離塩基)の濃度に関して分析した。
【0327】
mCBSに関する血漿薬物動態パラメータの推定値を、プールした平均濃度対時間のデータから得た。時間ゼロ(0)での濃度は308,000ng/mLであった。時間ゼロから最後に測定した濃度(AUClast)の時間までの曲線下面積及び無限大(AUCinf)まで外挿された場合の曲線下面積は両方とも、135,000ng.時間/mLであった。1.43時間の平均残留時間(MRT)とは対照的に、見かけ上の終末排出半減期(T1/2)は56.1時間であった。この化合物は、49.0L/kgという比較的高い分布容積(Vz)を示したが、終末全身クリアランス(Cl)は0.605L/時間/kgと比較的低かった。
【0328】
mCBS遊離塩基に関する尿中薬物動態物質収支の推定値を、排泄された尿量のデータから得た。投与後0〜4時間、0〜24時間及び0〜48時間の採取間隔で排泄されたmCBSの総用量の割合の平均(±SEM)値は、それぞれ52.0(±5.0)%、65.0(±7.0)%及び69.2(±10.8)%であった。尿の排泄は、投与後最初の48時間における化合物の排出のための主要な経路として特定されている。
【0329】
この研究は、mCBSが、投与直後に中央コンパートメントから迅速に除去され、大きい分布容積により示されているように組織に吸収されることを確認した。この化合物の分布半減期(これは、排出の主要な決定因子である)は0.65時間であると推定した。終末期の多重サンプリングにより、終末排出半減期のキャラクタリゼーションが改善され、この終末排出半減期は約56時間であると算出した。
【0330】
mCBSを静脈内注入により投与したSprague Dawleyラットにおける薬物動態研究
この研究は、約25及び50mg/kg/時間でのラットにおける5時間の連続注入にわたりmCBSの血漿中濃度を調べた。
【0331】
雄Sprague Dawleyラットへの5時間にわたる注入としての静脈内投与後、mCBSの薬物動態(PK)を研究した。この研究では、静脈内注入後にmCBS化合物の薬物動態を調査した。この化合物を、ハルトマン溶液を使用して製剤化し、25.3mg/kg/時間の割合でn=3のラットの群に投与し(総用量:126.5mg/kg;群1)、且つ50.6mg/kg/時間の割合でn=3のラットの第2の群に投与した(総用量:253mg/kg;群2)。
【0332】
この研究では、5時間にわたる連続注入に使用したmCBSナトリウム塩の名目上の用量は、40及び80mg/kg/時間(又は遊離塩基としてそれぞれ34及び68mg/kg/時間)であった。
【0333】
投与前から注入の開始後5時間までの範囲の時点で各ラットから合計6個の血液PKサンプルを採取した。得られた血液サンプルを血漿に処理し、その後、LC−MS/MSベースの方法を使用してmCBSの濃度に関して分析した。Phoenix 64 WinNonlin(登録商標)ソフトウェアを使用して、0〜5時間の注入間隔をかけて濃度対時間曲線下面積(AUC)の値を推定した。定常状態の濃度(Css)及びクリアランス(Cl)の値も推定した。
【0334】
mCBSの濃度は、用量投与前に採取した血漿サンプルではアッセイの定量限界未満であり、投与後30分〜5時間に採取した全ての血漿サンプルでは濃度が定量可能であった。0〜5時間の注入間隔の平均(±SEM)AUC値は、群1及び群2それぞれに関して260,000(±30,200)ng.時間/mL及び532,000(±25,500)ng.時間/mLであった。群1のCss及びClの平均(±SEM)値は、群1に関して58,400(±6,920)ng/ml及び0.601(±0.081)l/時間/kgであったが、群2のCss及びClの平均(±SEM)値は、120,000(±5,560)ng/ml及び0.571(±0.025)であった。
【0335】
これらの結果は、mCBSが2時間の注入後に定常状態の血漿レベル(Css)に達したことを示す。50mg/kg/時間で処理したラットにおける両方のCss及びAUCは両方とも、25mg/kg/時間で処理したラットと比べて2倍高く、これは、全身曝露が、この研究で使用した用量に比例することを示す。凝固試験は、より高い用量のmCBSで処理したラットは基準範囲と比べてAPTTスコアが高いことを示し、これは、この用量でのmCBSの存在により凝固時間が長くなることを示す。
【0336】
実施例8:ヒト、イヌ及びラットにおけるmCBSの血漿タンパク質への結合及び代謝のインビトロでの調査
この実施例は、mCBSの代謝及び血漿タンパク質結合を調べるために実行したインビトロ研究を示す。具体的には、この研究で、ヒト、イヌ及びラットの肝ミクロソームにおけるmCBSの代謝を調べ、mCBSの代謝を検出しないと結論付けた。同様に、この研究で、限外ろ過技術を使用してヒト、ラット及びイヌの血漿タンパク質へのmCBSの結合を調べ、試験した全ての種において血漿タンパク質への結合が約20%であると結論付けた。
【0337】
ヒト、イヌ及びラットの肝ミクロソームにおけるβ−O−メチルセロビオシドサルフェートのインビトロでの代謝
要約すると、この研究は、ラット、イヌ及びヒトの肝ミクロソームによるmCBSの第I相及び第II相の代謝を調べるために設計されたインビトロでの調査であった。結果は、mCBSの代謝を検出しなかったことを示す。
【0338】
(i)ヒト、ラット及びイヌの肝ミクロソームにおけるβ−O−メチルセロビオシドサルフェートの第I相代謝
水中の50%メタノールに溶解させた25μMのmCBSのストック濃縮物を反応管に入れた(10μL)。反応混合物(最終体積250μL)は下記を含んだ:0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.4)、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド2’−ホスフェート(NADPH)(1mM)及びプールしたヒト、ラット又はイヌの肝ミクロソーム(0.3mg/ml)。5分間のプレインキュベーション期間後にNADPHを添加することにより反応を開始させ、振盪水浴中において37℃でインキュベートした後、氷冷アセトニトリル500μLで停止させた。次いで、サンプルをボルテックス混合し、14,000rpmで10分にわたり遠心分離した。サンプルの半分(375μl)をガラス管に移し、窒素流下で及び37℃において蒸発させた。次いで、サンプルを移動相A(250μL)中で再構成した。mCBSの最終濃度は、インキュベーション媒体中で1μMであった。
【0339】
この反応混合物を1時間にわたりインキュベートし、0、15、30、45及び60分の時点で三重にサンプリングした。研究サンプルと並行して陰性コントロール(NADPHなし)を使用した。陽性コントロール;ミダゾラム、25μM(10μL)を1時間にわたり同一条件下でインキュベートした。ミダゾラムの最終濃度は、インキュベーション媒体中で1μMであった。
【0340】
【表7】
【0341】
(ii)生物分析:mCBSの較正曲線
水中の50%メタノール中のmCBS(30μg/ml−遊離塩基として)及びミダゾラム(10μg/ml)の混合ストック溶液を、水中の50%メタノールを使用して、mCBSの場合には25、20、12.5、6.25、2.5、1.25、0.25及び0.125μg/mlに希釈し、且つ8333、6667、4167、2083、833、417、83.3、41.7ng/mlに希釈し、ワーキング標準溶液のアリコート(10μL)をプラスチック管に入れた。次に、この管にリン酸緩衝液(100mM、pH7.4)のアリコート(190μL)及びミクロソームのリン酸緩衝液(100mM、pH7.4)溶液(50μ)を入れ、続いてアセトニトリルのアリコート500μLを入れた。管をボルテックス混合し、14,000rpmで10分にわたり遠心分離した。上清のアリコート(375μL)を窒素流下で蒸発させ、移動相A(250μL)中で再構成し、LC−MS/MCシステムに直接注入した(10μL)。
【0342】
(iii)ヒト、ラット及びイヌの肝ミクロソームにおけるmCBSの第II相代謝
メタノール(50μL)に溶解させた1mg/mlのmCBSのストック濃縮物を反応管中で蒸発乾固させ、100μMの最終濃度において反応混合物に再懸濁させた。混合物(最終体積250μl)は下記を含んだ:0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.4)、MgCl
2(1mM)、ウリジン5’−ジホスホグルクロン酸(UDPGA)(5mM)、肝ミクロソーム(0.3mg/ml)及びアラメチシン(25μg/タンパク質mg)。5分間のプレインキュベーション期間後にUDPGAを添加することにより反抗混合物を開始させ、振盪水浴中において37℃でインキュベートした後、氷冷アセトニトリル(500μL)で停止させた。次いで、サンプルをボルテックス混合し、14,000rpmで5分にわたり遠心分離した。
【0343】
この反応混合物を肝ミクロソーム中で2時間にわたりインキュベートした(n=3)。この研究サンプルと一緒に陰性コントロール(UDPGAなし)及び陽性コントロール(パラセタモール100μM)をインキュベートした。
【0344】
(iv)質量分析条件
mCBS及びミダゾラムの分析に使用したLC−MS/MSパラメータを表6にまとめる。
【0345】
【表8】
【0346】
(V)結果
第I相代謝を許容する条件下でのヒト、ラット及びイヌの肝ミクロソームの存在下におけるmCBSの代謝安定性を
図2〜4に示す。これらの結果は、これらの条件下では試験化合物の有意な代謝がなかったことを示す。
図2は、第I相代謝を許容する条件下でのヒト肝ミクロソームの存在下におけるmCBSの濃度(μM)の測定値(平均±SEM)で示される、ヒト肝ミクロソームにおけるmCBSの代謝安定性を示すグラフである。
図3は、第I相代謝を許容する条件下でのラット肝ミクロソームの存在下におけるmCBSの濃度(μM)の測定値(平均±SEM)で示される、ヒトラット肝ミクロソームにおけるmCBSの代謝安定性を示すグラフである。
図4は、第I相代謝を許容する条件下でのイヌ肝ミクロソームの存在下におけるmCBSの濃度(μM)の測定値(平均±SEM)で示される、イヌ肝ミクロソームにおけるmCBSの代謝安定性を示すグラフである。
【0347】
(vi)第II相代謝
第II相代謝を許容する条件下での化合物とヒト、ラット及びイヌの肝ミクロソームとのインキュベーション後の反応サンプル中で検出したmCBSのグルクロン酸代謝産物と一致するイオンは存在しなかった。インキュベーション媒体中でのパラセタモールグルクロニドの形成をニュートラルロス(Neutral loss)及びMRMスキャンの両方で確認した。
【0348】
このインビトロでの研究では、反応媒体中での遊離塩基の形態のレベルの変化を測定することにより、mCBSの代謝を評価した。
【0349】
第I相代謝を許容する条件下では、評価した3種の肝ミクロソームとの1時間のインキュベーション後、mCBS濃度は低下しなかった。同一条件下では、陽性コントロール化合物であるミダゾラムは、3種のミクロソームの存在下でほぼ完全に代謝された。
【0350】
mCBSの濃度は、ヒト肝ミクロソームとの反応では時間ゼロで0.6μM未満であったことに留意されたい(一方、添加した濃度は1μMであった)。同様の観察が、肝ミクロソームを含むがNADPHを含まない陰性コントロールサンプルで見られたが、NADPHを含むがミクロソームを含まない陰性コントロールサンプルでは見られなかった。肝ミクロソームは、タンパク質、リン脂質及び脂肪酸の混合物を含む複雑な組織である。肝ミクロソーム組織の成分は、質量分析計のイオン化に影響を及ぼしてシグナルを抑制する可能性がある。肝ミクロソームの成分は、種間で異なることから、イオン抑制は、ヒトミクロソームではより強く、時間及びNADPHの存在に依存しない化合物濃度の見かけ上の低下をもたらす場合がある。
【0351】
要約すると、ヒト、ラット及びイヌのミクロソームを用いたミクロソーム反応において、試験物の無/最小の第I相代謝を検出した。第2のインビトロでの代謝研究(第II相)において、グルクロニド代謝産物もウリジン5’−ジホスホグルクロン酸(UDPGA)の存在下での各種の肝ミクロソームとの2時間のインキュベーション後に検出しなかった。
【0352】
いかなる理論又は特定の作用様式に拘束されることなく、本出願人らは、mCBSの広範なインビトロでの代謝の欠如が、この分子への酵素のアクセスを妨げる7種のサルフェート(S03)群の存在により説明され得ることを推測した。しかしながら、この結果は、第I相又は第II相の代謝に続くインビボでの脱硫酸化の可能性を排除し得ない。
【0353】
限外ろ過技術を使用する、ヒト、ラット及びイヌの血漿タンパク質に結合するmCBSの調査
要約すると、この研究は、ラット、イヌ及びヒトの血漿タンパク質へのmCBSの結合を調べるために設計されたインビトロでの研究であった。得られた結果は、試験した全ての種において、血漿タンパク質への約20%の結合が存在したことを示す。
【0354】
ここで説明されている研究では、既存の方法を、内部標準として重水素化mCBS(mCBS−d3)の使用を含むように改変した。この生物学的分析方法を使用して、ラット、イヌ及びヒトの血漿とのmCBSの血漿タンパク質結合を評価した。
【0355】
30000ダルトンの分子量カットオフポイントを有するCentrifree(登録商標)限外ろ過装置を使用する限外ろ過方法により、タンパク質結合を評価した。簡潔に説明すると、既知の濃度の(遊離塩基としての)mCBSをヒト、ラット及びイヌの血漿サンプルに添加し、37℃で20分にわたりインキュベートした。次いで、このサンプルを限外ろ過にかけて、タンパク質が結合した薬物と結合していない薬物を分離した。次いで、タンパク質結合の程度を薬物の全濃度と未結合の濃度との間の百分率差として定義した(リン酸緩衝液のみの存在下での限外ろ過装置への非特異的結合の減算を含む)。
【0356】
使用した試薬を下記の表7で詳述する。mCBS及びmCBS−d3の分析に使用したLC−MS/MSパラメータを表8にまとめる。
【0357】
【表9】
【0358】
(i)分析方法のパラメータ
【0359】
【表10】
【0360】
(ii)サンプル調製
mCBSストック溶液(10μL)を、最終濃度が200ng/mL及び2000ng/mLとなるように、下記の表9に列挙されている各試験マトリックス(490μL)の溶液にスパイクした。
【0361】
【表11】
【0362】
次いで、スパイクサンプルを水浴中で20分にわたり37℃でインキュベートした。各試験群からのサンプルのアリコート(500μL)を限外ろ過装置に移し(n=3)、1000gで20分にわたり遠心分離した。遠心分離後、限外ろ過液のアリコート(50μL)を、各試験群からの限外ろ過前のサンプルの二重のアリコートと共に、抽出のために別の試験管に移した。
【0363】
(iii)較正曲線の作成
200μg/mLでのmCBS標準溶液アリコートを下記に示すように希釈した。
【0364】
【表12】
【0365】
次いで、得られた標準溶液のアリコート(10μL)を関連マトリックス(ヒト、ラット及びイヌの血漿並びにリン酸緩衝液2.5mM、pH7.4)のそれぞれ490μLにスパイクし、よく混合した。
【0366】
(iv)抽出
スパイクした標準及びサンプルのアリコート(50μL)(インキュベーション及び限外ろ過後)を1μg/mLの内部標準溶液50μLと混合した。純粋なアセトニトリル(150μL)を添加し、サンプルを直ちにボルテックスした。上清溶液をガラス管に移し、空気流下で37℃において蒸発させた。次いで、乾燥したサンプルを移動相A’ 150μL中で再構成した。
【0367】
限外ろ過前のサンプルの定量のために、サンプルを、血漿において新たに作成した標準曲線に対して分析した。限外ろ過後に採取したタンパク質に乏しいサンプルを、2.5mMのリン酸緩衝液、pH7.4において新たに作成した較正曲線に対して定量した。非特異的結合の推定のために、限外ろ過の前後両方のサンプルをリン酸緩衝液での較正曲線に対して定量した。
【0368】
(v)結果:非特異的結合
限外ろ過装置への非特異的結合は、200及び2000ng/mLそれぞれで0.5%及び−1.97%と推定した(下記表10)。従って、限外ろ過装置への化合物の結合は無視できると考えられた。
【0369】
【表13】
【0370】
(vi)血漿タンパク質結合
ヒト、ラット及びイヌの血漿にスパイクしたmCBSのろ過の前後での濃度の比較により、血漿タンパク質結合を算出した。結合の程度は、16〜23%の範囲で3種全ての種に関して類似していた(下記の表11〜13を参照されたい)。mCBSの血漿タンパク質結合は、試験した両方の濃度で類似していた。
【0371】
【表14】
【0372】
【表15】
【0373】
【表16】
【0374】
この研究では、ヒト、ラット及びイヌの血漿タンパク質へのmCBS結合は約20%であった。結合の程度は200及び2000ng/mLで類似しており、限外ろ過装置への非特異的結合は無視できた。
【0375】
実施例9:ラットにおける7日連続の長期間にわたる連続IV注入後のmCBSの投与量及び毒性のインビボでの調査
この実施例は、7日連続の期間にわたる連続した(24時間/日)Sprague−DawleyラットへのIV注入により投与した場合の、mCBSの用量範囲及び毒性の調査のインビボでの研究を概説する。この実施例は、ラットにおけるmCBSのこの集中投与計画下において、ラットに投与した場合、1394mg/kg/日(遊離塩基;効力及び塩含有量の補正後)の投与量でmCBSの観察可能な副作用レベルが存在しなかったことを示す。
【0376】
この研究の目的は、Sprague−Dawleyラットへの、7日連続にわたる、外科的に留置されたカテーテルを介した連続(24時間/日)の静脈内注入により投与した場合における、試験物であるmCBSの毒性を決定することであった。
【0377】
mCBSの試験物用量製剤及びコントロール物用量製剤(ヘプタナトリウム塩mCBS・Naの形態)を、下記の表14で説明するように、7日連続にわたる連続(24時間/日)の静脈内注入により、ラットの群に投与した。
【0378】
【表17】
【0379】
この研究中にモニタリングしたパラメータとして、死亡率、臨床観察、体重及び摂食量が挙げられる。加えて、9日目に血液学的パラメータ、凝固パラメータ及び臨床化学パラメータを評価した。血漿中における試験物濃度を分析するために、注入開始に対して相対的な時点で動物から血液サンプルを採取した。終了時(9日目)、全ての動物を安楽死させ、肉眼による剖検検査にかけた。選択した臓器に対して臓器重量を測定し、肉眼的病変等の組織の選択したリストを保持し、顕微鏡による評価のために調製した。
【0380】
Sprague−Dawleyラットへの、7日連続にわたる、外科的に留置されたカテーテルを介した連続(24時間/日)の静脈内注入によるmCBS・Naの投与により、効力及び塩レベルに関する補正後の5575mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で1匹の雌が死亡した。
【0381】
血漿中濃度対時間のデータは、mCBSの定常状態の濃度が5時間〜96時間(又は168時間)の注入間隔にわたり維持されたことを示す。AUC5〜96時間及びCssの平均(±SEM)値は、用量と共に直線的に増加した。
【0382】
5575mg/kg/日においてmCBS(遊離塩基)で処理した両方の性別の動物では、摂食量の減少と相関して、体重増加の減少が認められた。用量≧3484mg/kg/日での両方の性別の動物において、白血球系統の増加が認められ、5575mg/kg/日での雄では、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、平均赤血球容積及び平均赤血球ヘモグロビン濃度の低下と、網状赤血球の増加とが認められた。用量≧2178mg/kg日での雄において及び用量≧3484mg/kg/日での雌において、活性化部分トロンボプラスチン時間の増加が認められた。5575mg/kg/日で投与した雄では、肝酵素、アラニンアミノトランスフェラーゼ及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ並びにコレステロール及びトリグリセリドが増加した。加えて、5575mg/kg/日での両方の性別の動物において、尿素が増加し、且つ総タンパク質及びアルブミンが減少した。
【0383】
腎臓では、≧2178mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で処理した動物において、近位尿細管の空胞化/粗鬆化を両側で観察した。この所見(単純な尿細管の空胞化/粗鬆化)は、いかなる他の病理学的変化とも関連していなかった。腎臓の顕微鏡的所見は、腎臓重量の増加と相関していた。
【0384】
脾臓では、≧1394mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で処理した動物において、赤色髄でのアポトーシス細胞の増加と関連する泡沫状マクロファージの蓄積を観察した。これらの脾臓の変化は、間質細胞の過形成、白色髄(胚中心)の細胞充実性/サイズの増加、莢膜線維化及び造血の増加をときに伴った。脾臓の顕微鏡的所見は、脾臓重量の増加と相関していた。
【0385】
肝臓では、≧1394mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で処理した動物では、(≧1394mg/kg/日での)類洞並列細胞の増加、(5575mg/kg/日での)髄外造血と関連することが多い泡沫状Kupffer細胞の蓄積が認められた。加えて、≧2178mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で処理した動物では単細胞壊死が見られ、2178及び5575mg/kg/日で処理した動物では、限局性又は多発性の巣状壊死が認められた。5575mg/kg/日群では、雌と比べて雄で肝変化が顕著であり及び/又は頻発しており、mCBSに十分に曝露された両方の雄の動物は、最小〜中程度の肝変化を示した。
【0386】
様々なリンパ節(気管支、下顎、縦隔、腸間膜、膵臓、肝臓及び/又は耳介)では、≧1394mg/kg/日のmCBS(遊離塩基)で処理した多くの動物において、泡沫状マクロファージの蓄積を観察した。
【0387】
(脾臓及びリンパ節での)泡沫状マクロファージの蓄積、(肝臓での)泡沫状Kupffer細胞の蓄積及び(腎臓での)近位尿細管の空胞化/粗鬆化の所見は、試験物mCBS及び/又はその分解生成物が、(脾臓、肝臓及びリンパ節での)単核貪食細胞系に捕捉され且つ腎尿細管上皮に取り込まれる可能性が最も高かったことを示唆する。従って、いかなる特定の理論又は特定の作用様式に拘束されることなく、本出願人らは、これらの所見が、試験物及び/又はその分解生成物の食作用及び排除の結果として、単核貪食細胞系及び腎臓の適応変化を表している可能性が最も高いと推論した。加えて、脾臓での他の所見[アポトーシス細胞の増加、間質細胞の過形成、白色髄(胚中心)の細胞充実性/サイズの増加、造血の増加及び莢膜線維化]並びに肝臓での他の所見(類洞並列細胞の増加及び髄外造血)も、活性化された貪食細胞系への適応反応であると本出願人らは推論した。
【0388】
しかしながら、2178、3484及び5575mg/kg/日(遊離塩基)で認められた肝臓の単細胞壊死は、潜在的に有害であると考えられた。加えて、2178及び5575mg/kg/日では、肝臓の限局性又は多発性の巣状壊死が認められた。巣状壊死は、3484mg/kg/日で処理した動物では見られず、自然に生じる可能性があるが、この所見をmCBSで処理した動物のみで観察したという事実を考慮すると、試験物との関連性を排除できない。
【0389】
結果として、≧2178mg/kg/日(遊離塩基)で肝臓において観察した病理組織学的変化に起因して、この研究では、mCBSの無有害作用量(NOAEL)は1394mg/kg/日(遊離塩基)であると決定した。
【0390】
実施例10:イヌにおける最大14日連続の長期間にわたる連続IV注入後のmCBSの投与量及び毒性のインビボでの調査
この実施例は、14日の期間にわたるビーグル犬への連続IV注入により投与した場合の、mCBSの用量範囲及び毒性の調査のインビボでの研究を概説する。この実施例は、イヌにおけるmCBSのこの集中投与レジーム下において、14日にわたる2788mg/kg/日でのmCBSの連続静脈内注入(48時間にわたる24時間/日)は良好な耐容性を示しており、死亡率、臨床観察、体重、摂食量、臨床病理(血液、凝固及び臨床化学)、臓器重量又は巨視的評価への影響がなかったことを示す。
【0391】
イヌにおけるmCBSの連続注入
要約すると、この研究は、14日連続の注入イヌ研究で使用するためにmCBSの最大用量を選択することを目的として、連続注入によるイヌにおけるmCBSの用量範囲を調べた。同様に、選択した用量は、MTD又は少なくとも300ug/mlのmCBS(遊離塩基)血漿レベル(即ち目標ヒト血漿レベルの約3倍)をもたらすものであった。
【0392】
特に、ビーグル犬に最大4回の用量レベルにわたり1回の用量レベル当たり48時間で、外科的に留置されたカテーテルを介した連続(24時間/日)静脈内注入により投与した場合における試験物mCBSの最大耐量(MTD)を決定するためにもこの研究を行った。
【0393】
フェーズ1:用量の段階的増大
mCBS用量製剤を、下記の表15で説明しているように、最大4回の用量レベルにわたり1回の用量レベル当たり48時間での連続(24時間/日)静脈内注入により、ビーグル犬に投与した。
【0394】
【表18】
【0395】
この研究のこのフェーズ中にモニタリングしたパラメータには、死亡率、臨床観察、体重及び摂食量が含まれた。下記の時点でmCBS血漿レベルを確認するために、各動物から一連の血液サンプルを採取した:各用量レベルの注入の開始後24及び48時間。同様に、1日目に、3日目、5日目及び7日目の新たな用量レベルの投与前且つ9日目に、臨床病理評価(血液、凝固及び臨床化学)のために各動物から血液サンプルを採取した。
【0396】
最高用量レベルまでの段階的投与後、用量制限毒性(有害臨床症状)は認められず、従って、最大耐量(MTD)は、48時間にわたる連続(24時間/日)の静脈内注入により投与した2788mg/kg/日のmCBSであると見なした。定常状態の血漿中濃度(Css)が、ヒトでの目標血漿中濃度と比べて3倍高い300μg/mLよりも高かったことから、この用量をさらに段階的に増大させなかった。
【0397】
各時点で全ての動物から採取した血漿サンプル中において、定量可能なレベルのmCBSが検出され、これは、動物にmCBSが適切に投与されることを示した。定常状態の血漿中平均濃度(C
ss)は53.8〜358μg/mLの範囲であり、mCBSは222〜450mL/時間/kgの速度で除去された(Cl)。
【0398】
イヌにおけるmCBSの連続注入
要約すると、この研究は、上記のSTX−102研究で特定した最大耐量(MTD)を使用して、イヌにおけるmCBSの連続注入を調べた。
【0399】
MTD(2788mg/kg/日)の確認後、イヌをこの研究のフェーズ2に移し、下記の表16に示すように、さらなる6日の連続注入にわたり、投与をMTDで再開した。
【0400】
【表19】
【0401】
この研究のこのフェーズ中にモニタリングしたパラメータには、死亡率、臨床観察、体重、摂食量、臨床病理(血液、凝固及び臨床化学)並びに臓器重量の変化が含まれた。下記の時点で各動物から毒物動態学的分析のための一連の血液サンプルを採取した:注入の開始後24及び48時間、注入の終了直前、注入の終了後15、30分及び1、1.5、2、3、4、6、24時間。
【0402】
さらなる6日の連続注入の完了及び最後の毒物動態学的血液サンプルの採取後、8日目に全ての動物を安楽死させて剖検検査にかけた。全ての動物の肝臓及び腎臓に対して組織学的検査を実施した。
【0403】
6日(144時間にわたる)2788mg/kg/日でのmCBSの連続静脈内注入(48時間にわたる24時間/日)は良好な耐容性を示し、死亡率、臨床観察、体重、摂食量、臨床病理(血液、凝固及び臨床化学)、臓器重量又は巨視的評価に影響はなかった。
【0404】
顕微鏡的所見として、腎臓の腎近位尿細管の空胞化/粗鬆化及び肝臓の泡沫状Kupffer細胞の蓄積が挙げられたが、非有害性又は適応性と考えられた。
【0405】
毒物動態学的分析は、定常状態の血漿中濃度(C
ss)が223〜246μg/mLの範囲であり、AUC
0〜144(AUC
0〜168)が43800(44100)〜48300(48800)時間
*μg/mLの範囲であることを示した。注入終了後、mCBS血漿中濃度は、両方の動物に関して約1時間の推定t
1/2値で急速に低下した。mCBSは、472〜522mL/時間/kgの速度で除去された(Cl)。分布容積(Vz)は740〜741mL/kgの範囲であり、これは、mCBSが組織間に広く分布していることを示唆する。性別に関する特筆すべき差異はなかった。
【0406】
実施例11〜22:セロビオースサルフェート及びmCBSの比較
下記の研究では、セロビオースサルフェート(CBS)及びmCBSを比較する。mCBSはCBSと比べてはるかに化学的に安定であり、その結果、より優れた薬物候補を示す。実施例11〜22で使用される方法論を下記に記載する。
【0407】
下記の実施例(11〜22)に関する方法及び材料
ヒト対象。全てのヒト関連の研究は、ANU Health Human Research Ethics Committeeの承認を受けた。インビトロでの研究のための赤血球及び血小板の供給源として、健康な成人ドナーを使用した。
【0408】
動物。全ての動物実験は、Australian National University Animal Experimentation Ethics Committeeの承認を受けた。病原体フリーの雄及び雌のC57BL/6マウス(6〜8週齢)、雌のBALB/cマウス(5〜6週齢)並びに雄のWistarラット(体重250〜350g)を、Australian National UniversityのAustralian Phenomics Facilityから得た。
【0409】
細胞系統及び細胞培養条件。ヒト微小血管内皮細胞−1(HMEC−1)(血液型Oであり、そのためヒト血清中の抗血液型抗体と反応しない)を、ATCCから供給され、10%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、100IUml
−1のペニシリン及び100μgml
−1のストレプトマイシンが補充されたMCDB 131培地中で培養した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、既に説明されているように(Jaffe,E.A.Biology of endothelial cells.(Martinus Nijhoff Publishers; Distributors for the United States and Canada,Kluwer Boston,1984)、初代培養物から確立し、20%のFCS、2mMのL−グルタミン、100IUml
−1のペニシリン、100μgml
−1のストレプトマイシン、130μgml
−1のヘパリン及び1.2mgml
−1の内皮細胞増殖用サプリメント(Sigma−Aldrich)が補充されたMedium 199中で培養した。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)−K1細胞並びにHS及びGAGが欠損しているキシロトランスフェラーゼ(xylotransferase)−1−欠損CHO−K1細胞(pgsA−745細胞)を、ATCCから供給され、5%のFCS及び抗生物質が補充されたRPMI−1640培地中で増殖させた。全ての細胞系統を37℃で5%CO
2及び周囲O
2下でインキュベートし、MycoAlert Assayキット(Lonza)を使用して、マイコプラズマに関して繰り返し試験した。
【0410】
ヒストンによって媒介される細胞毒性のアッセイ。子牛胸腺ヒストン(Sigma−Aldrich)の細胞毒性を決定するために、様々な濃度のヒストン(100〜800μgml
−1)を、96ウェルプレート中のHMEC−1又はHUVEC(1×10
6ml
−1)の懸濁液に添加し、37℃で1時間にわたりインキュベートした。次いで、細胞を、死滅細胞を検出するためにヨウ化プロピジウム(PI;2.5μgml
−1)(ThermoFisher Scientific)と共に、且つ生存細胞を検出するためにCalcein−AM(0.04μM)(ThermoFisher Scientific)と共に37℃で5分にわたりインキュベートし、氷上に置き、拡張データ
図1に描かれているゲーティング戦略を使用するフローサイトメトリーにより、死滅細胞及び生存細胞の割合を決定した。阻害アッセイでは、HMEC−1を、様々な濃度の化合物(12.5〜400μgml
−1)の存在下で37℃において1時間にわたりヒストン(400μgml
−1)と共にインキュベートした後、PI及びカルセイン−AMを添加した。次いで、各化合物濃度でのHMEC−1細胞毒性を、式:
【数1】
に基づいて決定し、次いで各ポリアニオンのIC50値を、最良適合線(line of best fit)に基づいて決定した。いくつかの実験では、96ウェルプレート中のHMEC−1のコンフルエントな単層を、希釈剤のみ(生理食塩水)、ヒストンのみ(400μgml
−1)又はmCBSの存在下でのヒストン(100μgml
−1)と共に、1時間にわたり血清フリーMCDB131培地中でインキュベートし、次いでLeica SP5共焦点顕微鏡を使用して、カルセイン−AM又はPIの取り込みにより、生存細胞及び死滅細胞それぞれを検出した。HMEC−1の懸濁液も、他(Khanna,M.,Ranasinghe,C.,Jackson,R.&Parish,C.R.Heparan sulfate as a receptor for poxvirus infections and as a target for antiviral agents.J Gen Virol,doi:10.1099/jgv.0.000921(2017))で報告されているように、フラボバクテリウム(Flavobacterium)ヘパリナーゼ(HPNSE)I、II及びIII(Sigma−Aldrich)又はヒト血小板ヘパラナーゼ(HPSE)(Freeman,C.&Parish,C.R.Human platelet heparanase:purification,characterization and catalytic activity.Biochem J 330(Pt 3),1341−1350(1998))による消化により、細胞表面HSを枯渇させ、次いでHMEC−1に関して上記で説明したように、ヒストンによって媒介される細胞毒性への感受性を調べた。同様に、野生型CHO−K1の懸濁液及びHS/GAG欠損pgsA−745 CHO−K1細胞の懸濁液を、ヒストンによって媒介される細胞毒性への感受性に関して比較した。
【0411】
脂質二重層アッセイ。既に説明されているように(Rebbeck,R.T.et al.The beta(1a)subunit of the skeletal DHPR binds to skeletal RyR1 and activates the channel via its 35−residue C−terminal tail.Biophys J 100,922−930,doi:10.1016/j.bpj.2011.01.022(2011).)調製し、150mM又は250mMのKCl(pH約5.5)溶液に対称的に分離した人工脂質二重層である。二重層にヒストン(1μM、15.2μgml
−1)を単独で添加したか、又は約20℃での10μMのCBS(3.5μgml
−1)又は10μMのMTS(5.1μgml
−1)と一緒の0.5〜3時間のインキュベーション後に添加した。ヒストンの添加後、この二重層が破れるか又は実験が終了するまで、電流を連続的に記録した。
【0412】
内皮細胞におけるカルシウム流動研究。RPMI−1640培地中のHMEC−1(2×10
7ml
−1)を60分にわたり37℃でIndo−1 AM(5μM)(ThermoFisher)と共にインキュベートした。(Tellam,R.L.&Parish,C.R.The effect of sulfated polysaccharides on the free intracellular calcium ion concentration of lymphocytes.Biochim Biophys Acta 930,55−64(1987)&Weston,S.A.,Tellam,R.L.&Parish,C.R.Dextran sulfate induces changes in the free intracellular calcium ion concentration of a subpopulation of immature thymocytes.Immunol Cell Biol 69(Pt 6),369−376,doi:10.1038/icb.1991.53(1991))。5%のFCSが補充されたRPMI−1640培地による3回の洗浄後、細胞を、10mMのHEPESが補充された氷冷HEPES緩衝生理食塩水(NaCl 8gl
−1、KCl 0.4gl
−1、CaCl
2 0.2gl
−1、MgCl
2.6H
2O 0.2gl
−1、D−グルコース 1.8gl
−1、pH7.4)に4×10
6ml
−1で再懸濁させた。この細胞懸濁液を氷上で保持し、3時間以内に使用した。フローサイトメトリーを使用して、細胞内Ca
2+流動をモニタリングした。細胞を予め平衡化し、加熱水浴に接続された外部シース(external sheath)を使用して、分析中に37℃で維持した。(FSC/SSC光散乱に基づく)細胞残屑及び塊状の細胞の排除後、新規の化合物の存在下/非存在下でのヒストン添加前2分にわたり、基底Ca
2+レベルをモニタリングした。一定の流速(約300事象/秒)でヒストン添加の1、4及び10分後にCa
2+レベルを測定した。Ca
2+流動をCa
2+非結合Indo−1に対するCa
2+結合Indo−1の幾何平均蛍光強度(GMFI)の比率の増加として決定した。
【0413】
インビトロでの赤血球の顕微鏡観察、凝集、脆弱性及び変形能のアッセイ。ヒト赤血球のヒストンによって媒介される凝集及び様々な化合物によるこの凝集の阻害を、本発明者らの一部により既に報告されているように(Kordbacheh,F.,O’Meara,C.H.,Coupland,L.A.,Lelliott,P.M.&Parish,C.R.Extracellular histones induce erythrocyte fragility and anemia.Blood 130,2884−2888,doi:10.1182/blood−2017−06−790519(2017)を参照されたい)、前方及び側方散乱パラメータ又は赤血球自己蛍光のいずれかに基づくフローサイトメトリーと、以前に説明されているような(Yabas,M.et al.Mice deficient in the putative phospholipid flippase ATP11C exhibit altered erythrocyte shape,anemia,and reduced erythrocyte life span.J Biol Chem 289,19531−19537,doi:10.1074/jbc.C114.570267(2014))走査型電子顕微鏡とにより検出した。同様に、阻害剤の存在下又は非存在下でヒストンによって誘発される赤血球の脆弱性を、本発明者らの一部により既に報告されているような(Kordbacheh,F.,O’Meara,C.H.,Coupland,L.A.,Lelliott,P.M.&Parish,C.R.Extracellular histones induce erythrocyte fragility and anemia.Blood 130,2884−2888,doi:10.1182/blood−2017−06−790519(2017)を参照されたい)せん断ストレスアッセイを使用して定量した。最後に、ヒストンの存在下での赤血球の変形能の低下及びこのプロセスへの阻害剤の効果を、人工ヒト脾臓を通る赤血球の通過を測定することにより評価した(Deplaine,G.et al.The sensing of poorly deformable red blood cells by the human spleen can be mimicked in vitro.Blood 117,e88−95,doi:10.1182/blood−2010−10−312801(2011)を参照されたい)。
【0414】
インビトロでの血小板の凝集及び脱顆粒のアッセイ。凝集研究のために、室温での2段階遠心分離(20分にわたる200×g、次いで15分にわたる血小板リッチの血漿800×g)により、クエン酸Naバキュテナ中に採取したヒト全血から血小板を単離し、血小板ペレットを、カルシウム及びマグネシウムを含むハンクス平衡塩類溶液に再懸濁させ、ヒストンを添加し、示したそれぞれの濃度において化合物の存在下/非存在下でインキュベートした。血小板の特徴的なlog FSC対log SSC識別を使用するフローサイトメトリーにより、ヒストンへの15分間の曝露後の血小板凝集の程度に関してサンプルを評価し、log FSCの幾何平均の増加は血小板凝集を示す。
【0415】
血小板活性化アッセイのために、クエン酸Naバキュテナ中に採取した全血を、Chrono−Lume試薬(Chrono−Log Corp)を用いたChrono−Log Model 700の発光モードを使用して、血小板の脱顆粒をモニタリングした。インサイチュでスターラーバーにより、予め温めた血液(420μl)に生理食塩水(300μl)を添加した。次いで、Chromo−Lume試薬(100μl)を添加し、2分にわたりインキュベートした後、水で希釈したヒストン±化合物を、示した濃度において180μlの総量で添加した。結果を、ヒストン+生理食塩水コントロールの割合として算出したATP放出として表した。
【0416】
インビボでのヒストン毒性アッセイ。BALB/c雌マウス(5〜6週齢)(C57BL/6マウスと比べて、この若い年齢で、ヒストンによって誘発される貧血を起こし易く且つIV注射し易い)に、示した濃度での試験化合物のi.p.注射の10分後にリン酸緩衝生理食塩水中のヒストン(50mgkg
−1)をi.v.注射した。ヒストン注射の10分後に眼窩後出血(retro−orbital bleed)を実施し、採取した血液を酸性クエン酸デキストロース(ACD)に添加し、この10分血液サンプルを、ADVIA 2120i Hematology Analyzerを使用して血小板及び赤血球の含有量に関する血液分析にかけた。ヒストン注射の10分後に脾臓も摘出し、ヘモグロビンアッセイキット(Sigma−Aldrich)を使用して脾臓ヘモグロビン含有量を定量した。4時間血液サンプルの場合、雄C57/BL/6マウス(6〜8週齢)に、上記のように試験化合物及びヒストンを注射し、その後の生化学的試験のために血漿を単離して凍結保存し、肝臓損傷のマーカー(アラニンアミノトランスフェラーゼ、ALT)、腎臓損傷のマーカー(クレアチニン、Crea)及び一般組織損傷のマーカー(乳酸デヒドロゲナーゼ、LDH)を、Department of Pathology,The Canberra Hospitalにより測定した。
【0417】
マウス深部静脈血栓症(DVT)モデル。使用する手順は大部分が既に説明されている通りである(Brill,A.et al.Neutrophil extracellular traps promote deep vein thrombosis in mice.J Thromb Haemost 10,136−144,doi:10.1111/j.1538−7836.2011.04544.x(2012)を参照されたい)。簡潔に説明すると、8週齢の雄C57BL/6マウスに麻酔して開腹切開を行い、腸を体外から出し、次いで腹部大動脈からの緩やかな分離後、腎静脈直下の下大静脈(IVC)を約10%の開存性まで結紮し、全ての関連するIVC支流を結紮した。腹膜及び皮膚を閉じ、その後、全てのマウスに尾静脈を介してヒストン(10mgkg
−1)又は等量の生理食塩水をi.v.注射し、続いて5分後に試験化合物(50mgkg
−1)又は生理食塩水をi.v.注射した。マウスを48時間にわたりモニタリングし、その後、再び麻酔して再び開き、IVC狭窄の遠位で発症していた任意の血栓を、分析のために取り出した。偽手術するコントロール動物を開腹手術し、IVCを90%結紮したが、この結紮をIVCの閉塞直後に除去した。
【0418】
敗血症に関するラット盲腸結紮及び穿刺(CLP)アッセイ。CLPアッセイを、既に説明されているように(Hubbard,W.J.et al.Cecal ligation and puncture.Shock 24 Suppl 1,52−57(2005)を参照されたい)雄のWistarラットで実施した。生理食塩水に溶解させた試験化合物(50mgkg
−1)又は等量の生理食塩水のみ(コントロールコホート)を、CLPの5分前且つ20時間での実験停止まで術後5、10及び15時間にi.p.投与した。偽CLPラットに同一の手順を行ったが、盲腸を結紮していないか又は穿刺しておらず、このラットに、上記と同じ時間に生理食塩水を投与した。実験期間の終了時(20時間)又は病的状態が倫理上安楽死を必要とした場合、ラットを麻酔し、後のDepartment of Pathology,The Canberra Hospitalによる肝臓(ALT)及び腎臓(クレアチニン)の機能の分析のために、心臓穿刺によりEDTA中に採血した。生理食塩水で処理したコントロールCLP動物の血液サンプル内では(EDTAの存在にもかかわらず)血餅が形成される傾向があるため、全ての動物からの血漿サンプルの分析は成功しなかった。
【0419】
ラット心臓IRIモデル。使用する方法は、既に公開されている手順の組み合わせに基づく(Takada,Y.,Hashimoto,M.,Kasahara,J.,Aihara,K.&Fukunaga,K.Cytoprotective effect of sodium orthovanadate on ischemia/reperfusion−induced injury in the rat heart involves Akt activation and inhibition of fodrin breakdown and apoptosis.J Pharmacol Exp Ther 311,1249−1255,doi:10.1124/jpet.104.070839(2004)&Hale,S.L.,Dae,M.W.&Kloner,R.A.Hypothermia during reperfusion limits ’no−reflow’ injury in a rabbit model of acute myocardial infarction.Cardiovasc Res 59,715−722(2003)を参照されたい)。雄のWistarラットをイソフルレンで麻酔し、気管切開術により挿管し、1ml 150g
−1の一回換気量及び65回の呼吸 分
−1の呼吸数で人工呼吸した。酸素補給を約30%のFiO
2で供給した。左心室を可視化し得るように、左半開胸術を実施した。左冠動脈叢(LCA)を、30分にわたる再灌流前に30分にわたり非侵襲的スネアを使用して閉塞させた。虚血を心筋充血により確認した。試験化合物(30mgkg
−1)又は等量(200μl)の生理食塩水を、再潅流フェーズのためのスネアの開放の5分前に、左心室の内腔(吸引で確認)に注射した。
【0420】
再潅流(30分)の終了時、左心室の内腔にチオフラビンS(体重の1ml 200g
−1)を緩やかに注射して、虚血ゾーン(IZ)内の微小血管閉塞(MVO)の領域を定義した。このIZ領域を、非侵襲的スネアの再閉塞と、CD−6800(Unisonics)超音波処理器を使用する超音波処理による、溶液内に分散された左心室への青色微粒子(Unisperse Blue,BASF)の注入とにより決定した。次いで、心臓を胸部から切除し、等張生理食塩水ですすぎ、心室間線に対して直角において非侵襲的スネアの遠位で2mm切片を切り取った。この方法は、秤量し且つ紫外線(MVOの領域)下及び明るい光(IZ領域)下で撮影した(Sony Handycam
(登録商標),Zeiss 60倍光学ズーム)4枚の心筋切片を作製した後、塩化テトラゾリウム(TTC)中でインキュベートして、壊死心筋の領域を決定した。Planimetry(Image J,Freeware)を使用して、IZ、MVO及び壊死の領域を定量した。
【0421】
ラット虚血再灌流組織弁モデル。用いる手順は大部分が既に説明されている方法に基づく(Askar,I.,Oktay,M.F.,Gurlek,A.&Bac,B.Protective effects of some antineoplastic agents on ischemia−reperfusion injury in epigastric island skin flaps.Microsurgery 26,193−199,doi:10.1002/micr.20193(2006))。簡潔に説明すると、雄のWistarラットに麻酔し、局所的に脱毛し、3cm×6cmの筋膜弁を、血管茎を無傷のままにして摘出した。下腹壁動脈をクランプし、下の組織からの酸素拡散を防ぐために、この弁の下に細かいゴムシートを置き、この弁を所定の位置に再縫合した。この弁に血流が戻ることを可能にするために、適用の10時間後にクランプを除去した。試験化合物(50mgkg
−1)又は生理食塩水を、クランプ適用の5分前及びこのクランプの除去の5分後にi.p.投与した。ラットを、術後24時間及び48時間でこのラットに追加の化合物又は生理食塩水をi.p.投与している72時間の合計実験期間にわたりモニタリングした。「コントロールクランプなし」ラットは、摘出して再縫合前にゴムを下に置いた組織弁を有したが、血管はクランプされておらず、他のラットと同じ時点で生理食塩水を投与した。実験期間の終了時、この弁の生存率を黒色の壊死領域又は発赤領域対ピンク色の生存領域の割合で決定した。エリザベスカラーの適用及び沈降剤としての鎮痛の使用にもかかわらず、少数のラットを、その弁の自己共食いを繰り返す際に早期に安楽死させなければならなかった。
【0422】
多発性硬化症のEAEモデル。1日目に、完全フロイントアジュバント(Sigma)中の115μg/マウスのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG35−55 genscript)による皮下免疫化により、8〜12週齢のC57Bl/6マウスにおいてEAEを誘発した。0日目及び2日目に、PBS中の300ng/マウスの百日咳毒素(List Biological Laboratories)を腹腔内(i.p.)注射した。PBS中の50mg/kgのmCBS又はPBSのみ(ビヒクル)を、0〜9日目に毎日i.p.投与した。マウスを疾患の徴候に関して毎日モニタリングし、疾患の身体的症状に基づいて0〜5のスケールでスコア化した。マウスを下記のようにスコア化した:0、臨床的に正常;1、尾の弛緩及び/又は運動失調;2、後肢脱力;3、後肢麻痺;4、後肢及び前肢の麻痺;並びに5、瀕死。
【0423】
統計解析。Prismソフトウェア(Graphpad Software)を使用して統計試験を実施してグラフを作成し、使用した試験の詳細は図の凡例に含まれている。
【0424】
mCBSの生物学的効果のインビトロでの証拠
下記の実施例11〜14は、遊離細胞外ヒストンの中和におけるmCBSの生物学的効果のインビトロでの証拠を提供する。
【0425】
実施例11:mCBSは内皮細胞をヒストン毒性から保護する
この実施例は、mCBSがヒト内皮細胞をヒストン損傷から保護すること及び内皮細胞へのヒストンによって誘発される損傷に対するこのmCBSの保護効果が濃度依存的であることを示す。この実施例は、mCBSが、ヒストンに曝露された内皮細胞の一部で損傷を反転させ得ることも示す。
【0426】
内皮細胞は血管の内腔に並んでおり、且つ血管系の完全性に必須であり、血液細胞を通過させるために基礎組織間に多くのシグナルを生じ、血液が流れる抗凝固表面として作用する。ヒストンは内皮細胞の細胞膜を損傷してこの内皮細胞の死滅を誘発し、そのため、微小血管系の完全性及び内皮の抗凝固特性が失われている。これにより血餅が広範に形成され、重要な臓器への酸素及び栄養素を含む液体の送達が損なわれ、次にこの臓器が損傷を受けて不全になる。
【0427】
mCBSがヒト微小血管内皮細胞(HMEC)をヒストン損傷から保護するかどうかを評価するために、2種の蛍光色素カルセイン−AM及びヨウ化プロピジウム(PI)を使用して、内皮細胞の健康状態をインビトロで決定した。健康な生存細胞はカルセインAMを取り込み且つPIを排除したが、損傷しているか又は死滅した細胞では逆が真であった。
図5に示すように、これらの色素の取り込み/排除を、フローサイトメトリーを使用して測定し、且つ共焦点顕微鏡を使用して可視化した。
【0428】
図5に関して、培養したHMECを、水体積等量で(
図5のパネルA及びE)、ヒストン400μg/mLで(
図5のパネルB及びF)、mCBS 100μg/mL及びヒストン400μg/mLで(
図5のパネルC及びG)又はmCBS 25μg/mL及びヒストン400μg/mLで(
図5のパネルD)、60分にわたり処理し、次いで色素カルセイン−AM及びPIで標識し、フローサイトメトリー(パネルA、B、C及びD)又は共焦点顕微鏡(パネルE、F及びG)を使用して、色素取り込みの程度に関して分析した。
図5に示すように、培養して未処理のヒト微小血管内皮細胞(HMEC)は大部分が生存しており、76%がカルセイン−AMを含み、19%がPIを含んでいた(
図5A)。しかしながら、ヒストン(400μg/mL)に曝露した場合、37%が生存可能なままであったが、56%がPIを取り込んだ(
図5B)。ヒストンへの曝露前にHMECにmCBS(100μg/mL)を添加した場合、74%が生存可能なままであり、PI取り込みに基づいて20%が死滅しており、そのため、mCBSは、ヒストンによって媒介される傷害からHMECを保護し得る(
図5C)。この保護効果は濃度依存的であり、より低い量のmCBS(25μg/mL)では保護のレベルが低下している(
図5D)。HMECへのヒストン及びmCBSの効果を、健康な未処理内皮細胞(
図5E)及びヒストンに曝露したmCBS処理内皮細胞が、緑色の蛍光カルセイン−AM色素を蓄積するが(
図5G)、未処理のヒストン曝露内皮細胞は赤色の蛍光色素PIを取り込む(
図5F)共焦点顕微鏡を使用しても見ることができる。
【0429】
培養したHMECを、上昇する濃度のmCBSの添加後に400μg/mLのヒストンに曝露し、次いでフローサイトメトリーを使用してカルセイン−AM(生存)又はPI(死滅)の取り込みに関して分析した。HMECに関するヒストンの損傷効果に対するmCBSの用量依存的な保護効果を
図6に示し、
図6は、mCBS濃度の上昇により、生存細胞(カルセイン−AMの取り込み)が増加し且つ死滅細胞(PI取り込み)が減少したことを示す。従って、これらの結果は、ヒストンによって誘発されるHMECへの損傷に対するmCBSの保護効果が濃度依存的であることを示す。
【0430】
mCBSが、ヒストンへの曝露後の内皮細胞における損傷を反転させ得るかどうかを評価するために、培養したHMECを60分にわたり400μg/mlのヒストンに曝露し、次いで10分にわたりmCBS(100μg/ml)で処理し、次いで最後の5分にわたりカルセイン−AM及びPIを添加した。次いで、細胞を、フローサイトメトリーを使用してPI取り込みに関して分析し、結果を
図7に示す。結果は、重要なことに、特に臨床状況では、mCBSは、HMECの亜集団におけるヒストンの損傷効果を反転させ得たことも示す。この状況(培養したHMECにヒストンを添加し、次いで60分後に10分にわたりmCBSを添加し、最後の5分にわたりカルセイン−AM及びPIを添加した)では、HMECの約30%が、PI取り込みから、mCBSの処理後にPI排除及びカルセイン−AM取り込みに反転した。
【0431】
実施例12:mCBS及びCBSは、ヒストンによって誘発される赤血球の凝集及び溶解を予防し、減少させ、さらに反転させる
この実施例は、mCBSが、ヒストンによって誘発されるRBC凝集を予防し、ヒストンによって誘発されるRBC凝集を用量依存的に阻害することを示す。さらに、この実施例は、mCBSが、より高いせん断流速及びせん断曝露の持続時間により悪化する効果であるヒストンによって誘発されるRBC脆弱性を阻害することを示す。これ以外にも、この実施例は、mCBSが、溶解及び凝集に対する、ヒストンによって誘発されるRBC感受性を、ほぼ完全に反転させ得ることを示す。
【0432】
赤血球(RBC)は組織への酸素輸送に関与しており、血栓形成の足場として作用する膜タンパク質を提供することにより血餅形成の一因となる。RBCの円盤状の形状及び柔軟な構造は、RBCが狭い毛細血管を通って圧迫して、急速に流れる血流内で経験するせん断力に抵抗することを可能にする。RBCは核を欠いていることから、RBCは、修復又はアポトーシスを介して損傷に応答することができず、代わりに、RBCが変形した場合、脾臓内のマクロファージにより除去される。しかしながら、損傷したRBCは、脾臓に達する前に、RBCの円盤状の形状を失い、従って柔軟性を失う場合があり、そのため、せん断力曝露に起因する血管内溶解を起こし易くなる。敗血症等のヒストンレベルが上昇する疾患では、貧血を観察することが多い。
【0433】
RBCへのヒストンの損傷効果を、この効果を無効にするmCBSの能力と一緒に研究した。ヒストンと共にインキュベートした単離ヒトRBCの初期研究では、フローサイトメトリー及び電子顕微鏡を使用して、有意な凝集を証明した。
図8に示すように、このヒストンのRBC凝集効果は、mCBSによる処理によって予防され得た(CBSにより同様のデータが見られる)。この場合、単離ヒトRBCを、処理なし後(パネルA及びD)、60分にわたるヒストン(400μg/mL)とのインキュベーション後(パネルB及びE)及びmCBS(200μg/mL)の添加、次いで60分にわたるヒストン(400μg/mL)への曝露の直後(パネルC及びF)の凝集の程度に関してlog FSC対log自己蛍光(FL−1チャネル)パラメータを使用するフローサイトメトリーを使用して分析し(
図8、パネルA〜C)、走査型電子顕微鏡を使用して可視化した(
図8、パネルD〜F)。
図8の結果から明確に観察され得るように、ヒストンによって誘発されるRBC凝集は、mCBSにより予防される。
【0434】
図9に示すように、ヒストンが用量依存的にRBCの凝集を誘発すること、さらにmCBS及びCBSが用量依存的に再びこの凝集を有意に減少させ得ることをさらに確認する後続の実験を行った。具体的には、この場合、単離ヒトRBCを、60分にわたり様々な濃度のヒストン(0、1.25、25、50、100、200、400及び800μg/mL)に曝露し、
図9Aに示すように、自己蛍光(FL−1)のレベルによりRBC凝集の程度を測定した。次いで、400μg/mLのヒストンの添加前に様々な濃度のmCBS及びCBS(0、12.5、25、50、100及び200μg/mL)をRBCに添加したことを除いて、これを繰り返した。再び、
図9Bに示すように、自己蛍光(FL−1)のレベルによりRBC凝集の程度を測定した。結果は、mCBS及びCBSの両方が、ヒストンによって誘発されるRBC凝集を用量依存的に阻害することを示す。
【0435】
加えて、上昇する濃度のヒストンと共に60分にわたりインキュベートした場合の、増加するせん断力(ピペッティングの速度)及びせん断曝露(ピペッティングの反復)下での溶解に対するRBCの感受性を、ロボットピペッティングシステムを使用して決定した。結果を
図10に示す。具体的には、60%の生理食塩水(6:4の比率での通常の生理食塩水:水)で希釈した単離ヒトRBCを、60分にわたり、上昇する濃度のヒストン(0、1.25、25、50、100、200、400及び800μg/mL)と共にインキュベートし、次いでロボットシステム内において、40回反復で次第に早い流速(mm/秒)に曝露する(
図10A)か、100mm/秒の流速で様々な反復のピペッティングに曝露する(パネルB)か、又は様々な濃度(0、12.5、25、50、100及び200μg/mL)のmCBSで処理し(
図10C)、次いで60分にわたり且つ100mm/秒のせん断流速及び40回ピペッティング反復で400μg/mLのヒストンに曝露した。次いで、各サンプルからの上清を、RBC溶解の程度の指標としてのA540nmでのヘモグロビン含有量に関して測定した。
【0436】
これらの実験を、RBCにベースラインストレスを誘発するために、60%張度の生理食塩水で実施した。540nmで上清中のヘモグロビンレベルを測定することにより、溶解を測定した。これらの結果は、ヒストン濃度の上昇により、増加するせん断力及びせん断曝露下でRBCの溶解に対する感受性が劇的に増加することを示す(
図10A及びB)。ヒストン曝露前のmCBS(及びCBS、図示せず)によるRBCの処理は、せん断下において、ヒストンによって誘発される溶解を用量依存的に阻害し得る(
図10C)。従って、結果は、ヒストン効果が、より高いせん断流速及びせん断曝露の持続時間により悪化した場合でも、mCBS(及びCBS)が、ヒストンによって誘発されるRBC脆弱性を阻害したことを示す。
【0437】
臨床シナリオをより密接に再現するために、55分にわたるヒストンへの曝露後のmCBSによる5分にわたるRBCの処理により、せん断力下での溶解及び凝集への感受性のほぼ完全な阻害がもたらされることを実証した(
図11)。具体的には、単離ヒトRBCを、55分にわたり400μg/mLのヒストンに曝露し、次いで5分にわたり様々な濃度のmCBSに曝露した後(
図11A)、せん断力(100mm/秒の流速及び40回ピペッティング反復)を適用し、A540nmにより上清中のヘモグロビンを測定し、フローサイトメトリーを使用するFL1での自己蛍光のレベルにより測定してRBC凝集の程度を分析した(
図11B)。結果は、mCBSが、ヒストンによって誘発されるRBCの溶解及び凝集に対する感受性を反転させ得たことを示す。
【0438】
実施例13:mCBSの硫酸化
上述したように、mCBSはCBSと比べて化学的にはるかに安定しており、その結果、より優れた薬物候補を示す。従って、本発明者らは、活性に関して、CBSに必要な硫酸化を試験した。HMEC−1細胞毒性アッセイ(
図12b)及びRBC脆弱性アッセイ(
図12c)を使用して、CBS化合物のこれらの様々な硫酸化状態(
図12a)を試験した際、本発明者らは、抗ヒストン活性には高硫酸化CBSが必要であると決定しており、なぜなら、たとえ7個のO−硫酸化部位の5個が占有された場合でも、低硫酸化mCBSはヒストン阻害活性が最低限であったからである。
【0439】
実施例14:mCBS及びCBSは、ヒストンによって誘発される血小板の凝集及び脱顆粒を減少させる
この実施例は、mCBS及びCBSが、ヒストンによって誘発される血小板の凝集及び脱顆粒を阻害することを示す。
【0440】
血小板は、血餅形成において重要な役割を果たし、血管傷害後に血漿凝固タンパク質と相互作用して効果的な栓を形成する。また、血小板は免疫細胞とも相互作用し、免疫細胞の活性化及び感染領域への遊走を支援する。
【0441】
従って、本発明者らは、血小板へのヒストンの効果及びこれらの効果を阻害するmCBS及びCBSの能力を研究した。具体的には、単離して洗浄したヒト血小板を、1時間にわたり様々な濃度のヒストン(例えば0〜1000μg/mL)と共にインキュベートした後、単一の血小板と凝集した血小板とを識別するためにFSC及びSSCを使用するフローサイトメトリーにより凝集を分析した(この結果を
図13Aに示す)。次いで、(150μg/mLでの)ヒストンの添加前に、ある範囲の濃度のmCBS及びCBSを添加したことを除いて、これを繰り返した(
図13B)。全血中のヒト血小板を、ATP放出を検出するためにケミルミノメトリを使用して、上昇する濃度のヒストンの添加後の脱顆粒に関して分析し、陽性コントロールとしてトロンビンを含めた(
図13C)。ヒストン(400μg/mL)の添加前に、上昇する濃度のmCBS及びCBSを添加したことを除いて、この最後のステップを繰り返した(
図13Dに示す)。
【0442】
得られた結果は、単離血小板は、上昇する濃度のヒストンに曝露された際、フローサイトメトリーにより測定した場合には(
図13A)凝集する傾向の上昇を示し、血小板ルミノメトリーによるATP放出を使用して測定した場合には(
図13C)脱顆粒する傾向の上昇を示したことを示す。しかしながら、血小板調製物をmCBS及びCBSで予め処理した場合、凝集(
図13B)及び脱顆粒(
図13D)が有意に減少した。対照的に、非硫酸化セロビオース(CB)は阻害活性を有さなかった。
【0443】
従って、この結果は、ヒストンが血小板の凝集及び脱顆粒を誘発すること並びにこれらの効果はmCBS及びCBSにより阻害されることを裏付ける。
【0444】
実施例15:mCBSは、ヒストンによる脂質二重層破壊を予防する
次に、本発明者らは、どのようにしてヒストンがその細胞毒性を媒介し、その結果として、CBS及びmCBSが、ヒストンによって媒介される損傷から細胞を保護するかを調べた。ヒストンは、細胞表面上で一様に発現されるGAG(特にHS)に結合することから、ヒストンは、細胞表面HSへの結合により、このヒストンの細胞傷害性エフェクター機能を開始させる可能性があると思われた。
【0445】
この考えを試すために、3種の細菌ヘパリナーゼの混合物又はヒト血小板ヘパラナーゼのいずれかとのインキュベーション後のヒストンへの曝露により、HMEC−1細胞の細胞表面HSを枯渇させ、HS除去は、フローサイトメトリーによりモニタリングした場合、これら2種の酵素処理に関してそれぞれ86%及び97%であった。
【0446】
本発明者らは、細菌HS分解酵素又はヒトHS分解酵素のいずれかによるHMEC−1細胞の前処理は、ヒストンによって媒介される細胞毒性への細胞の感受性に影響を及ぼさず、これら2種の酵素による前処理は、HMECの生存率にも影響を及ぼさない(
図14a)ことを発見した。この発見を確認するために、本発明者らは、GAG鎖生合成を開始するキシロトランスフェラーゼの変異に起因して細胞表面GAGを欠くCHO細胞系統(pgsA−745)を使用した。親CHO−K1細胞系統と比較して、細胞表面GAGの欠失はヒストンの細胞毒性にほとんど影響を及ぼさず、試験した最高ヒストン濃度では、細胞毒性がごくわずかではあるが有意に減少した(
図14b)。そのため、細胞表面GAGは、ヒストンによって媒介される細胞毒性に必須ではない。
【0447】
ヒストンは、脂質二重層と相互作用して損傷を与えることが既に分かっており、細胞透過性タンパク質として作用することも既に分かっている。そのため、本発明者らは、ヒストンが脂質二重層を直接破壊することにより細胞毒性を媒介するかどうかを調べた。
【0448】
この可能性を調べるために、人工脂質二重層を調製し、この二重層を横切る電流の変化により、ヒストン破断に対するこの人工脂質二重層の感受性を検出した。
【0449】
脂質二重層は寿命が有限であり、通常、30〜120分のオーダーである。本発明者らの実験では、リアノジン受容体1(RyR1)イオンチャネルタンパク質を含むコントロール脂質二重層は、平均寿命が46±4分であり、ヒストン(1μM)の添加により、この寿命が5.7±1.2分まで顕著に縮まった(
図15a)。実際には、47個の二重層の13個(28%)がヒストン添加の0.3〜0.5分以内に壊れたのに対して、125個のコントロール二重層の2個のみ(1.6%)が同じ期間で破裂し、より高いヒストン濃度(≧50μM)により、ほとんどの二重層が急速に破裂した(図示しない)。二重層は、CBSが存在する場合にはヒストンにより破裂し難く、平均二重層寿命は、CBSの場合には18±4分及び36±5分まで有意に増加した(
図15a)。ヒストン単独(28%)と比較して、CBSの場合、急速な二重層破裂の発生が52個の二重層の3個(5.8%)まで減少した。
【0450】
以前の研究により、ヒストンが、細胞中で非選択的なCa
2+チャネル及び形質膜の脱分極を誘発し得ることも実証されている。この発見は、ヒストンが細胞表面のリン脂質と直接相互作用して膜の完全性を乱すという概念をさらに支持する。
【0451】
mCBSが、ヒストンによって誘発されるCa
2+流動に対して細胞を保護するかどうかを調べるために、HMEC−1をCa
2+感受性色素Indo−1で負荷し、mCBSの存在下又は非存在下においてヒストンでチャレンジし、フローサイトメトリーによりCa
2+取り込みを測定した(
図15b)。ヒストンは、高い細胞内Ca
2+レベルを示す細胞の集団において約6倍の増加を誘発し、この反応は、ヒストン添加の4〜10分後に定常に達する。mCBSの存在により、この反応が実質的に阻害された(
図15c)。本発明者らの発見は、ヒストンが細胞の脂質二重層を直接破壊することにより細胞膜に損傷を与え、mCBSは、ヒストンのこの望ましくない性質を中和することを示す。
【0452】
実施例16:mCBSは、最低限の固有の抗凝固活性を有し、ヒストンによって誘発される血漿凝固混乱を減少させる
この実施例は、ヒストンが血液凝固を減少させること及びmCBSが最低限の抗凝固効果を有し、ヒストンによって誘発される血漿凝固混乱を減少させ得ることを示す。
【0453】
ヒストンが血小板の凝固及び脱顆粒を促進し得ることが分かったにもかからわず、本発明者らは、ヒストンが、内因性経路に関与する因子を介して血漿凝固を特異的に阻害することにより全血凝固のレベルを低下させることも発見した。
【0454】
これを、回転トロンボエラストメトリ(ROTEM)(
図16A)及び伝統的な血漿ベースの活性化部分トロンビン時間(APTT)アッセイ(
図16B)を使用して実証した。
【0455】
具体的には、ROTEM(
図16A)を使用して、全血への増加するヒストン濃度(0〜1000μg/mL)の添加により、全てのアッセイで凝固時間(単位秒で測定)が長くなったが、特にNATEMアッセイ及びINTEMアッセイで長くなった。凝固へのヒストンの同一の抗凝固効果を、血漿ベースの凝固アッセイAPTTを使用して実証した(
図16B)。
【0456】
mCBSは硫酸化二糖であることから、本発明者らは、mCBSは、非分画で低分子量の抗凝固ヘパリンのはるかに小さい同類であると考えられ得ると推論した。従って、ROTEMを使用して、mCBS(200μg/mL)の凝固特性を研究した。比較対象として、2種の硫酸化三糖類メレチトース及びマルトトリオースを含めた(
図17)。具体的には、NATEM(非活性化)アッセイ、EXTEM(外因性経路活性化)アッセイ、INTEM(内因性経路活性化)アッセイ及びFIBTEM(中和した血小板による外因性経路活性化)アッセイを実施する直前に、全血に、mCBS、マルトトリオース又はメレチトース(200μg/mL)を補充した。データは、水コントロールの倍数増加として表される凝固時間を示し、
図17Aに示す。様々な濃度(0〜100μg/mL)のmCBS、メレチトース又はマルトトリオースを補充した全血を、凝固時間に関してNATEMアッセイを使用して分析し、結果を
図17Bに示す。次いで、データが20分での血餅振幅を示すことを除いて(パネルBと)同じことを繰り返した。この結果を
図17Cに示す。50及び100μg/mLでは2種の三糖類により血餅が検出されないことに気付いた。
【0457】
図17に示す結果から、mCBSが、全血凝固への影響が最低限か又は全くないが、2種の硫酸化三糖化合物は、NATEM(非活性化トロンボエラストメトリ(TEM))アッセイ及びINTEM(内因性経路活性化TEM)アッセイで検出された有意な抗凝固活性を有することが実証された。NATEMアッセイは、これらの化合物によって誘発される変化に最も敏感であったことから、より低濃度の3種の硫酸化化合物を全血に添加して、抗凝固剤としてのこれらの効力をより明確にした。この分析は、硫酸化三糖類は25μg/mLでコントロールの凝固時間を2倍にしたが、同一の結果を達成するために100μg/mLのmCBSが必要であったことを示す(
図17B)。
【0458】
さらに、mCBSの抗凝固効果とヘパリン及び低分子量ヘパリンであるエノキサパリンとの比較を行った。具体的には、NATEMアッセイを使用して、(1μg/mL若しくは10μg/mLの濃度での)ヘパリンの添加、(1μg/mL若しくは10μg/mLの濃度での)エノキサパリンの添加、(25μg/mLの濃度での)三糖マルトトリオースサルフェートの添加又は(25μg/mLの濃度での)mCBSの添加後、全血凝固を測定した。結果を
図18に示す。mCBSと、非分画ヘパリン及び低分子量ヘパリン(LMWH)との比較は、LMWH(エノキサパリン)と比較してmCBSの抗凝固活性の110倍の低下を示し、且つ非分画ヘパリンと比較して>750倍の低下を示した。
【0459】
EXTEMアッセイではヒストンが凝固時間を増加させることが分かったが、mCBSは同一のパラメータに影響を及ぼさなかったことから、NATEMアッセイを使用して、ヒストンに誘発される凝固の混乱を阻害するmCBSの能力も試験した。この結果を
図19に示す。実証されているように、200μg/mLのmCBSの添加により、400及び800μg/mLのヒストンの両方の抗凝固効果を阻害し得た。比較すると、同量の水は効果がなかった(
図19)。従って、この結果は、mCBSが、ヒストンによって誘発される全血凝固の混乱を阻害することを示す。
【0460】
mCBS及びCBSの生物学的効果のインビボでの証拠
実施例17:mCBS及びCBSは、ヒストンによって媒介される傷害から臓器を保護する
この実施例は、mCBS及びCBSが、ヒストンによって誘発される臓器損傷からマウスを保護し得ることを示す。
【0461】
ヒストンのマウスへの静脈内注射により、臓器中に微小血栓が形成されて細胞傷害及び臓器機能障害が引き起こされることが実証されている(Xu et al.,Extracellular histones are major mediators of death in sepsis.Nat Med.2009 Nov;15(11):1318−21.2009)。Xu et al.,2009と同一の敗血症のマウスモデルを使用して、本発明者らは、mCBS及びCBSが、ヒストンによって誘発される臓器障害からマウスを保護し得るかどうかを調べた。マウスに、50mg/kgのヒストン(又は等量のPBS)の静脈注射の10分前に、6.25、25及び100mg/kgの濃度のmCBS若しくはCBS又は等量のPBSを腹腔内注射した。先に述べたように、4時間後、細胞傷害のマーカー(乳酸デヒドロゲナーゼ、LDH)、肝臓機能障害のマーカー(アラニンアミノトランスフェラーゼ、ALT)及び腎臓機能障害のマーカー(クレアチニン、Creat)の分析のために、眼窩後から血液を採取した。結果を
図20に示す。具体的には、これらの結果を使用して、本発明者らは、mCBS及びCBSが、ヒストンによって媒介される傷害から動物を用量依存的に保護し、肝機能及び腎機能の有意な保存が実証された(
図20)が、非硫酸化CBは不活性であることを示すことができた。
【0462】
実施例18:mCBSは、ヒストンによって媒介される傷害から血流内の細胞を保護する
この実施例は、mCBSが、マウス中で循環している白血球、血小板及び赤血球のヒストンによって媒介される減少を弱める及び/又は予防することを示す。
【0463】
マウスへのヒストンの注射は、重度の血小板減少症を誘発することも分かっている。従って、本発明者らは、この実施例において、ヒストンの静脈内注射後の血流内の細胞へのmCBSの保護効果を調べた。先の実施例と同一のマウスモデルを使用して、マウスに、50mg/kgのヒストン(又は等量のPBS)の静脈内注射の10分前に100mg/kgのmCBS(又は等量のPBS)を腹腔内注射し、次いで10分後に後眼窩出血させた。ADVIA 2120血液システムを使用して、全血を、白血球数、血小板数及び赤血球数並びにヘモグロビン濃度に関して分析した。結果を
図21に示す。この結果は、循環している血小板数がヒストン注射の数分以内に有意に減少するだけでなく、白血球、赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))及び血漿中ヘモグロビンレベルも有意に減少することを示した。さらに、ヒストンの前にmCBSを注射した場合、これらのヒストンによって媒介される効果は、完全には消失しないにしても有意に阻害された(
図21)。
【0464】
従って、これらの結果は、mCBSが、ヒストンによって媒介される傷害から血流内の細胞を保護することを示す。
【0465】
実施例19:CBS及びmCBSは敗血症を阻害する
本発明らは、次に、中程度及び重度の敗血症のラット盲腸結紮穿刺(CLP)モデルにおけるmCBS及びCBSの有効性を調べた。死亡したのはわずかであった(
図22A)がSIRS反応が誘発されている中程度の敗血症の例では、mCBS処理により、コントロールCLP群と比較して循環LDHレベルが有意に低下することが実証された(0.6±0.1及び1.1±0.2U/L×10
3、p=0.03;
図22B)。群間にALTレベル又はクレアチニンレベルの差異は認められず、軽症型の敗血症の誘発が裏付けられた(データは示さない)。
【0466】
病的状態がはるかに明白であった重度の敗血症の例では、齧歯類の死亡率は、PBSコントロールと比較して、CBSを投与した動物では有意に低く、実際には、CBS処理群では死亡率はゼロであった(
図23A)。重要なことに、広範囲に及ぶ肝臓及び腎臓の損傷を示す、未処理群で検出された高いALTレベル及びクレアチニンレベルは、CBSで処理された動物では見られなかった(
図23B)。
【0467】
まとめると、これらの結果は、CBS及びより安定なmCBSは、敗血症及びSIRSのヒストンによって媒介される効果を制限し得、そのため、組織損傷が制限されて末端臓器の機能が保存されることを示す。
【0468】
実施例20:CBS及びmCBSはIRIを阻害する
IRIを阻害するCBS及びmCBSの能力を調べるために、ラット心臓IRI(cIRI)モデルを用いた。虚血域は群間で等しかった(
図24A)。CBS処理は、微小血管閉塞の領域(
図24B)及び虚血域における心筋壊死(
図24C)を有意に50%減少させた。さらに、ラットの皮膚弁IRIモデルでは、mCBSは、皮膚弁の生存領域を一貫して且つ有意に増加させた(
図25)。
【0469】
実施例21:CBSは静脈血栓症を阻害する
CBSがヒストンの局所的な血管効果を制御するかどうかを調べるために、ヒストンによって媒介される深部静脈血栓症(DVT)のモデルを確立し、CBSによりほぼ完全に阻害されることを示した(
図26)。
【0470】
このデータは、遊離ヒストンによって媒介される全身及び局所の両方の血管病理がCBS/mCBSによる阻害に適していることと一致する。
【0471】
実施例22:mCBSは自己免疫を阻害する
本発明者らは、次に、ヒトでの多発性硬化症に類似する実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)と呼ばれる自己免疫の動物モデルを阻害するmCBSの能力を評価した。データを
図27に示し、このデータから、mCBSは、毎日投与された場合、35日間のウインドウにわたりEAE発症からマウスを実質的に保護することが明らかになった。
【0472】
上記実施例では、本発明者らは、遊離ヒストンによって媒介される多くの病理プロセス(例えば、細胞毒性、赤血球の脆弱性/変形能及び血小板活性化)の非常に有効なインビトロ阻害剤としての小さいポリアニオン性分子の開発を説明する。
【0473】
これらのデータは、CBS/mCBSが、ヒストンによって媒介される病気(例えば、敗血症、IRI、血栓症及び自己免疫)を阻害し得る主要データの証明も提供する。
【0474】
ヒト及び動物では、mCBSは非常に安定しており、且つ高用量で良好な耐容性を示し、唯一の用量制限特性は抗凝固活性であるが、この活性は、LMW−ヘパリンと比べて110倍低く、非分画ヘパリンと比べて750倍低い。そのため、mCBSは、相当な臨床的可能性を有する新しいクラスの治療法を示す。