(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
トランスポーター阻害剤と、その他のPD-1の発現上昇を伴う疾患を治療する医薬品との併用によるPD-1の発現上昇を伴う疾患を予防又は治療するための医薬品の製造における、トランスポーター阻害剤の使用。
前記PD-1の発現上昇を伴う疾患を治療する医薬品は、請求項5に記載のその他のPD-1の発現上昇を伴う疾患を治療する試薬から選択される、請求項6に記載の使用。
予防又は治療に有効の量の請求項8〜10のいずれか一項に記載の医薬品を投与するステップを含むことを特徴とする、PD-1の発現上昇を伴う疾患の予防又は治療方法。
前記医薬品は、さらに、医薬品添加物を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用、請求項8〜10のいずれか一項に記載の医薬品、又は、請求項11又は12に記載の治療方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
請求の範囲及び/又は明細書において、「含む」という用語と併用する場合、用語「一(a)」又は「一(an)」とは、「1つ」を意味することがあるが、「1つ又は複数」、「少なくとも1つ」及び「1つ又は1つ超え」を意味することもある。
【0028】
請求の範囲及び明細書で使用される「含む」、「有する」、「包括する」又は「含有する」という用語は、包括的又はオープン的な形式であって、その他のものや引用されていない素子または方法ステップを排除しないことを意味する。
【0029】
出願書類の全体において、「約」という用語とは、係る数値が、その値を測定するために使用される装置又は方法の誤差の標準偏差を含むことを意味する。
【0030】
開示された内容において、「又は」という用語とは、代替物のみと、「及び/又は」との両方の意味に定義されるが、代替物のみ、又は、代替物がお互い排他的な関係にあると記載されていない限り、請求の範囲に記載の「又は」という用語は「及び/又は」を意味する。
【0031】
「トランスポーター」又は「輸送体」という用語は、組織の細胞膜上のキャリアタンパク質の一つを指す。本発明において、前記用語は互換的に使用でき、同じ意味を表す。
【0032】
「医薬品」という用語とは、疾患を予防又は治療できる物質と定義する。医薬品は、疾患を治療するための1つの有効成分を含んでもよく、疾患を治療するための二つ以上の有効成分を含んでもよい。必要に応じて、前記医薬品はワクチンであってもよい。前記「医薬品」には、必要に応じて、例えば医薬品の保存期間の延長、安定性に寄与する成分や、より患者に吸収しやすい成分を添加してもよい。例示的に、前記成分は医薬品添加物から選択されてもよい。
【0033】
用語「免疫調節剤」は、免疫チェックポイントモジュレーターを含み、例えば、免疫チェックポイントタンパク質受容体及びそのリガンドは、T細胞媒介性細胞毒性の阻害を媒介して、通常、腫瘍又は腫瘍微小環境における不応答性T細胞によって発現され、腫瘍を免疫攻撃から逃避させる。免疫チェックポイントタンパク質受容体及びそのリガンドの活性の阻害剤は、腫瘍に対する細胞傷害性T細胞の攻撃が可能になるように、免疫抑制性腫瘍環境を克服することができる。免疫チェックポイントタンパク質の例としては、PD-1、PD-L1、PDL2、CTLA4、LAG3、TIM3、TIGIT、及びCD103が挙げられるが、これらに限定されない。このようなタンパク質の活性の調節(阻害を含む)は、免疫チェックポイントモジュレーターによって達成でき、例えばチェックポイントタンパク質をターゲットとする抗体、アプタマー、小分子、及びチェックポイント受容体タンパク質の可溶性形態等を含み得る。PD-1を標的とした阻害剤には、承認された医薬品試薬であるペムブロリズマブ(pembrolizumab)とニボルマブ(nivolumab)が含まれ、イピリムマブ(ipilimumab)は承認されたCTLA-4阻害剤である。PD-L1、PD-L2、LAG3、TIM3、TIGIT及びCD103に特異的な抗体は既知及び/又は商品化されており、当業者で製造することもできる。
【0034】
免疫調節剤は、免疫チェックポイントモジュレーターに加えて、細胞性免疫応答を促進する抗原提示を媒介又は促進する試薬を含む。このような免疫調節剤は、例えば腫瘍抗原ワクチンを含むことができる。腫瘍抗原ワクチンには、特定の腫瘍抗原又は既知の腫瘍抗原のセットを含有する製剤を含んでもよく、被験者自身の樹状細胞又はアジュバントを有してもよい。或いは、腫瘍抗原ワクチンには、患者の腫瘍に由来する腫瘍細胞抗原の比較的粗い製剤を含んでよく、in vitroで患者の細胞から生成された樹状細胞にエクスビボで曝露されると、樹状細胞ワクチンが患者に導入されたときに、T細胞を介して腫瘍を攻撃することが可能になる。一実施形態においては、免疫調節剤は腫瘍抗原ワクチンを含む。別の実施形態においては、腫瘍抗原ワクチンは樹状細胞腫瘍抗原ワクチンを含む。
【0035】
用語「IDO」(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)とは、トリプトファンの代謝に関わるプロテアーゼの一種を指す。インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)は、免疫細胞の機能を抑制的な表現型に調節するため、腫瘍が宿主の免疫監視から逃す原因の一部となる。IDO1は、必須アミノ酸のトリプトファンをキヌレニンとその他の代謝産物に分解する。これらの代謝産物とトリプトファンの欠如は、エフェクターT細胞機能の阻害と制御性T細胞の分化の促進に繋がる。IDO阻害剤は、既知及び/又は商品化されており、当業者で製造することもできる。
【0036】
用語「キヌレニン(kynurenine,Kyn)」とは、人体におけるトリプトファンの代謝中間体を指す。
【0037】
用語「AhR(アリール炭化水素受容体)阻害剤」又は「AhRアンタゴニスト」とは、1種以上のAhRシグナル伝達と構成的AhRシグナル伝達を含む下流エフェクター経路とを阻害する薬剤または化合物を指す。したがって、用語AhR阻害剤とは、AhRポリペプチド又はAhRをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害するか、または結合して、前記AhRポリペプチド又はAhRをコードするポリヌクレオチドの刺激を部分的に又は完全に遮断するか、前述AhRポリペプチド又はポリヌクレオチドの活性化を低減、防止、遅延するか、前記AhRポリペプチド又はAhRをコードするポリヌクレオチドの活性を不活性化、脱感作又はダウンレギュレーションする、薬剤を指す。このようなAhR阻害剤は、例えばAhR翻訳、AhRの翻訳後プロセシング、AhRポリペプチドの安定、分解或いは核局在や細胞質局在、又は、AhRをコードするポリヌクレオチドの転写、転写後プロセシング、安定或いは分解といったAhR発現をブロックすることができ、または、結合して、刺激作用、DNA結合、或いはAhRの転写因子活性を、部分的或いは完全にブロックすることができる。AhR阻害剤は、直接的又は間接的に作用できる。AhR阻害剤は既知及び/又は商品化されており、当業者によって製造することもできる。
【0038】
用語「放射線治療剤」とは、DNA損傷を引き起こす薬物の使用も含まれる。放射線療法は、癌と疾患の治療に広く使用されており、通常ガンマ線、X線と呼ばれるもの、及び/又は腫瘍細胞への放射性同位元素の標的化された送達が含まれる。
【0039】
用語「化学療法剤」とは、癌の治療するに使用できる化学的化合物を指す。化学療法剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、キナーゼ阻害剤、紡錘体毒物植物アルカロイド、細胞毒性/抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、光増感剤、抗エストロゲンと選択性エストロゲン受容体モジュレーター、抗プロゲステロン、エストロゲン受容体ダウンレギュレーション剤、エストロゲン受容体拮抗剤、黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト、抗アンドロゲン類、アロマターゼ阻害剤、EGFR阻害剤、VEGF阻害剤、異常な細胞増殖または腫瘍増殖に関与する遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれるが、これらに限定されない。本発明の治療方法に使用できる化学療法剤は、細胞増殖阻害剤及び/又は細胞毒性剤が含まれる。
【0040】
用語「医薬品添加物」とは、医薬品製剤の基本的な材料と重要な組成部分を示す。医薬品添加物、薬物の特定の剤形を与えるだけでなく、薬物の効能の向上及び副作用の低減にも大きく関連する。医薬品添加物は、成形、ベクターとしての機能、安定性の向上に加えて、可溶化、溶解補助、徐放等の重要な機能を備えるものであって、薬品の品質、安全性および有効性に影響を与えられる重要な成分である。前記医薬品添加物は、溶媒、噴射剤、可溶化剤、溶解補助剤、乳化剤、着色剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、滑剤、濡れ剤、浸透圧調節剤、安定剤、流動促進剤、矯味剤、防腐剤、懸濁剤、コーティング材、芳香剤、付着防止剤、統合剤、浸透促進剤、pH調整剤、バッファー、可塑剤、界面活性剤、発泡剤、消泡剤、増粘剤、クラスレート剤、保湿剤、吸収剤、希釈剤、凝集剤、凝集防止剤、濾過助剤、リリースブロッカー等のタイプに分類できる。
【0042】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び具体的な実施例(本開示の具体的な実施形態として示される。)は、説明のために示されるものだけであり、係る詳細な説明を読んだ後、本開示の要旨及び範囲内で様々な変更及び修正ができることは、当業者であれば理解できる。
【0043】
本発明で使用される実験動物、試薬及び消耗品は以下の通りである。
【0044】
メスのC57BL/6マウス(6〜8週齢)、OT-Iトランスジェニックマウス、Pmel-1トランスジェニックマウス、AhR-/-マウス、MMTV-PyMTマウスは、いずれも商業機関から購入した。これらの動物は、病原体なしの条件下で出願人の対応施設に保管された。マウスに関するすべての研究は、動物管理委員会によって承認された。
【0045】
マウス腫瘍細胞株OVA-B16(メラノーマ)、H22(肝臓がん)、ID8(卵巣がん)、ヒト腫瘍細胞株A375(メラノーマ)およびHepG2(肝臓がん)は、中国典型培養物寄託センター(中国北京)から購入したものであり、H22細胞は、10%FBSを含むRPMI1640培地(Gibco、USA)で培養した以外、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco、USA)を含むDMEM(Thermo Scientific)で培養した。
【0046】
Origene(MD,USA)から、pGFP-C-shLenti-shIDO1、pGFP-C-shLenti-shSLC1A5、pGFP-V-RS-shPAT4、pGFP-V-RS-shSLC7A8、およびpCMV6-Entry-DDK-SLC1A5を購入した。キヌレニン、キヌレン酸、インドキシル硫酸、メラトニン、1-L-MT、3',4'-ジメトキシフラボン(DMF)、TCDD、イノシン酸(SAR)、2-アミノ-2-ノルボルナンカルボン酸(BCH)、L-γ-グルタミン-3-カルボキシ-4ニトロアニリド(GPNA)、および抗PAT4抗体は、Sigma-Aldrich(ST、USA)から購入した。シクロスポリンAは、SelleckChemicalsから購入した。抗IFN-γ、TNF-α、PD-1とPD-L1中和抗体、及び抗PD-1、CD3、CD8、IFN-γ、TNF-αとCD107a抗体は、BioLegendから購入した。IFN-γは、R&D Systemsから購入した。サケフィブリノーゲン、トロンビン、およびディスパーゼは、Reagent Proteins(CA、USA)から購入した。ピューロマイシンは、Invitrogen(SD、USA)から購入した。
【0047】
ヒト末梢血、切除されたヒト乳がん又は結腸直腸がん組織は、病院の患者から入手した。倫理的な許可は、対応する病院の臨床試験倫理委員会によって付与された。すべての患者は、研究に参加するための書面によるインフォームドコンセントを提供した。
【0050】
前記方法は、いずれも、バイオマーカーのタンパク質発現レベルを測定することでバイオマーカーの存在及び/又は発現レベル/量を計測した。いくつかの実施形態では、前記方法は、バイオマーカーとの結合が可能な条件下で、生体試料を本明細書で記載のバイオマーカーに特異的に結合できる抗体(例えば抗PD-1抗体)と接触させ、抗体とバイオマーカーとの間で複合体が形成されるかどうかを検出することが含まれる。このような方法はin vitroまたはIn vivoの方法であり得る。いくつかの場合において、例えば個人のバイオマーカーを選択するために、抗体を使用することで結合拮抗剤療法の使用に適格な対象を選択した。当技術分野で既知または本明細書で提供されたタンパク質発現レベルを測定する方法であれば、いずれも使用できる。例えば、いくつかの実施形態では、フローサイトメトリー(例えば蛍光活性化セルソーティング(FACSTM))、ウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫沈降、免疫組織化学(IHC)、免疫蛍光、ラジオイムノアッセイ、ドットブロット、イムノアッセイ、表面プラズモン共鳴、分光法、質量分析、及びHPLCからなる群より選択される方法を用いてバイオマーカー(例えばPD-1)のタンパク質発現レベルを測定した。
【0051】
(2)2D硬質シャーレ又は3Dフィブリンゲルで培養された腫瘍細胞
【0052】
従来の2D細胞培養について、完全培地を有する硬質シャーレで腫瘍細胞を維持した。具体的に、T7緩衝液(pH 7.4,50mM Tris、150mM NaCl)を用いてフィブリノゲン(Searun Holdings Company、Freeport、ME)を2mg/mlまで希釈した。その後、フィブリノゲンと細胞溶液の1:1(体積)混合物を作成した。250μlの細胞/フィブリノゲン混合物を24ウェルプレートに接種して、あらかじめ添加された5μlのトロンビン(0.1U/μl、Searun Holdings Company)と十分に混合した。37℃で30分間インキュベートした後、これらの細胞に1mlの完全培地を追加した。培養5日間後、ディスパーゼIIを入れて、37℃で培養したゲルを10分間消化させた。スフェロイドを採取し、さらに0.25%トリプシンで3分間消化して以下の実験用の単一細胞の懸濁液を得た。
【0054】
すべての実験は少なくとも3回行われた。結果は、平均値±SEMとして表される。分析はStudent's t検定によって行われた。P値<0.05の場合、統計的に有意であると判断される。分析はGraphpad 6.0ソフトウェアを使用して実行した。サンプルの除外は行われていなかった。
【0055】
実施例1:腫瘍特異的CD8+T細胞におけるPD-1発現は、IFN-γで刺激されたTRCによって誘導される
【0056】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0057】
(1)抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLを、単独で、又は従来の培養フラスコからのOVA-B16細胞(分化したOVA-B16)或いは3Dフィブリンマトリックスで成長したOVA-B16 TRCと共に24時間培養した。PD-1の発現は、フローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図1Aに示す。
【0058】
(2)CTLと、分化されたOVA-B16細胞又はOVA-B16 TRCとの共培養上清又は完全培地(陰性対照)を凍結乾燥により濃縮し、抗CD3/CD28ビーズで活性化されたOVA-CTLと24時間インキュベートした。PD-1の発現は、フローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図1Bに示す。
【0059】
(3)CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLを24時間インキュベートし、上清をELISAで分析した。測定の結果を
図1Cに示す。
【0060】
(4)抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLとOVA-B16 TRCとを24時間共培養した。T細胞と腫瘍細胞におけるIFN-γの生成をフローサイトメトリーにより分析した。測定の結果を
図1Dに示す。
【0061】
(5)抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLを、PBS(リン酸塩緩衝液)、又はIFN-γで刺激したCTL或いはOVA-B16 TRCの条件培地で24時間処理した。その後、OVA-CTLのPD-1の発現をフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図1Eに示す。
【0062】
(6)従来の培養フラスコからのOVA-B16細胞又は3DフィブリンゲルからのOVA-B16 TRCと、抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLとを1:30の比率で4時間共培養した。CD45-腫瘍細胞のアポトーシスは、フローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図1Fに示す。
【0063】
(7)抗PD-1中和抗体又はIgGアイソタイプコントロール(isotype control)の存在下で、OVA-B16 TRCと抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLとを1:30の比率で共培養した。4時間後、細胞生存率をフローサイトメトリーにより分析した。測定の結果を
図1Gに示す。
【0064】
実施例1の結果から分かるように、モデル腫瘍抗原卵白アルブミン(OVA)を発現するB16メラノーマTRC及びOT-1 T細胞受容体トランスジェニックマウス由来のOVA-特異的CTLを使用することで、TRCが抗-CD3/CD28ビーズ活性化(bead-activated)OT-1 T細胞を強く誘導し、共培養(co−incubation)の期間中でPD-1の発現をアップレギュレートした(
図1A)。このようなPD-1のアップレギュレートは、gp100-特異的CD8
+T細胞及びOVAペプチド活性化OT-1細胞にも確認された。なお、PD-1
+細胞の前記増加は、PD-1
−細胞の枯渇(depletion)又はPD-1
+細胞の増幅によらず、PD-1
−からPD-1
+T細胞への形質転換によるものである。PD-1
−からPD-1
+T細胞への形質転換は、PD-1
−OT-1細胞とOVA-B16 TRCとの共培養においてPD-1
+T細胞が産生したことや、PD-1
+細胞をTRCと共培養または共培養しない場合、PD-1
+T細胞の増殖が変化せず、PD-1の発現がアップレギュレートしたことによるものである。また、前記共培養上清は、無関係なCD8
+T細胞においてPD-1の発現をアップレギュレートすることができる(
図1B)。これは、TRC又はT細胞自体がある因子を放出してPD-1の発現を誘導することを示している。T細胞におけるPD-1発現を増強する細胞の相互作用により生成する因子を特定したところ、本発明者らは、TRC単培養からの上清はPD-1の発現をアップレギュレートすることができないことが分かった。これは、PD-1をアップレギュレートする可溶性因子を生成するためには、T細胞が必要とすることを示している。活性化されたT細胞は上清に多量の細胞因子を放出し、特にIFN-γの放出が顕著である(
図1C)。明らかなように、IFN-γ中和が前記PD-1上昇を阻害したが、TNF-α中和がPD-1上昇を阻害しない。これと一致して、IFN-γはOT-1細胞のみで発現され、TRCによって発現されないことが分かった(
図1D)。IFN-γを重要な分子として認識したので、本発明者らは、T細胞とTRCを組み換えIFN-γで別途処理し、IFN-γで処理したTRCの上清のみがT細胞のPD-1の発現をアップレギュレートできることが分かった(
図1E)。従って、これらのデータは、TRCと腫瘍浸潤性T細胞とが相互作用をする際に、T細胞によって生成されたIFN-γが直接にTRCを刺激して、PD-1の発現を促進する因子を放出することを示している。ここでは、本発明者らはさらに、当該アップレギュレートされたPD-1は機能していることも確認した。本発明者らは、OVA特異的CTLは、前記共培養でOVA-TRCを殺傷することが困難である(
図1F)が、中和された抗PD-1抗体を添加すると、CTLによるTRCの殺傷を大幅に向上することができる(
図1G)ことが分かった。抗PD-1抗体の効果は、PD-L1のアップレギュレーションによるものではない。確かに、IFN-γはPD-L1の発現をアップレギュレートしたが、共培養への抗PD-L1抗体の補充は、TRCの殺傷になんの影響も与えなかった。
【0065】
実施例2:TRCにより生成されたキヌレニンがPD-1のアップレギュレーションを媒介したことが確認され、また、IFN-γがTRCでトリプトファン輸送タンパク質SLC1A5をアップレギュレートしてTrpの取り込みとKynの生成を促進した
【0066】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0067】
(1)抗CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLと、従来の培養フラスコからのOVA-B16細胞又は3Dフィブリンマトリックスで成長したOVA-B16 TRCとを24時間共培養した。上清中のKynをELISAで測定した。測定の結果を
図2Aに示す。
【0068】
(2)抗IFN-γ中和抗体又はアイソタイプコントロールの存在下で、CD3/CD28ビーズ活性化OVA-CTLとOVA-B16 TRCとを24時間共培養した。上清中のKynのレベルをELISAで測定した。測定の結果を
図2Bに示す。
【0069】
(3)培養フラスコで培養したOVA-B16細胞又はOVA-B16 TRCをIFN-γ(10ng/ml)で24時間処理した。上清中のKynのレベルをELISAで測定した。測定の結果を
図2Cに示す。
【0070】
(4)異なる濃度のKynの存在下で、分離された膵臓CD8
+T細胞と抗CD3/CD28ビーズとをインキュベートした。PD-1の発現はフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図2Dに示す。
【0071】
(5)200μM Kynを用いて、CD8
+T細胞を示されているような異なる時間で処理した以外、(4)と同様である。測定の結果を
図2Eに示す。
【0072】
(6)抗CD3/CD28ビーズ活性化CTLを、PBS、200μM Kyn又はトリプトファン経路からのその他の代謝産物(500μM)(メラトニン、キヌレニン酸(kynurinic acid)とインドキシル硫酸塩)で処理した。24時間後、PD-1の発現をフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図2Fに示す。
【0073】
(7)対照(scramble)又はshIDO1-(Sh1又はSh2)-OVA B16 TRCと抗CD3/CD28ビーズ活性化OT-1 T細胞とを共培養した。4時間又は24時間後、TRCアポトーシス(
図2G)又はT細胞のPD-1発現(
図2H)をフローサイトメトリーにより分析した。分析の結果をそれぞれ
図2Gと
図2Hに示す。
【0074】
(8)IFN-γの存在下または非存在下で、対照とshSLC1A5-(Sh1又はSh2)-B16 TRCにおいて、ELISAにより細胞ライセートのトリプトファンレベルを24時間測定した。測定の結果を
図2Iに示す。
【0075】
(9)対照とshSLC1A5-(Sh1又はSh2)-OVA B16 TRCと抗CD3/CD28ビーズ活性化OT-1 T細胞とを共培養した。4時間又は24時間後、TRCアポトーシス(
図2J)又はPD-1の発現(
図2K)をフローサイトメトリーにより分析した。分析の結果をそれぞれ
図2Jと
図2Kに示す。
【0076】
(10)B16 TRCをベクター又はFlag-SLC1A5プラスミドで一過性にトランスフェクトした。SLC1A5の過剰発現はウエスタンブロット(western blot)(左)で確認した。上清中のトリプトファンレベルをELISAで測定し、Trp消費を算出した(右)。確認結果を
図2Lに示す。
【0077】
(11)ベクター(Vec-)又はリジッドプレート(rigid plate)で培養したSLC1A5-B16細胞をPBS又はIFN-γ(10ng/ml)で24時間処理した。上清中のKynのレベルをELISAで測定した。測定の結果を
図2Mに示す。*p<0.05、**p<0.01。データは平均値±SEMを表す。
【0078】
実施例2の結果から分かるように、分化したB16細胞-T細胞と共培養の上清と比較して、B16TRC-T細胞と共培養の上清においてより高いレベルのKynが見られ(
図2A)。そして、IFN-γ中和は、Kynの生成を阻害した(
図2B)。この結果と一致して、本発明者らは、IFN-γが、分化したB16細胞ではなくB16 TRCを直接刺激することで、より高レベルのKynを放出できることを発見した(
図2C)。また、その他の腫瘍種(マウスH22肝臓がんとヒトA375メラノーマ)から生成したTRCも、IFN-γ刺激下でかなりの量のKynを放出した。OVA-B16 TRCがKynを使用してCD8
+T細胞のPD-1発現をアップレギュレートしたことを確認するために、抗CD3/CD28ビーズの存在下でCD8
+T細胞にKynを直接添加したところ、T細胞が用量及び時間と依存するようにPD-1発現を顕著にアップレギュレートした(
図2Dと2E)。本発明者らは、さらに、Kynが増加したPD-1
+細胞は、PD-1
−からPD-1
+T細胞への形質転換によるものであり、PD-1
−の枯渇又はPD-1
+細胞の増幅によるものではないことを判明した。Kyn以外、その他のトリプトファン分解代謝産物(キヌレン酸、インドキシル硫酸とメラトニン)についても、PD-1発現をアップレギュレートする能力をテストした。しかしながら、それらの中で、T細胞上のPD-1の発現を変えられるものはないことがが分かった(
図2F)。ここで、本発明者らは、比較可能な方法として、トリプトファンを含まない培地を使用してOT-1細胞とTRCを共培養し、KynによるPD-1のアップレギュレーションをさらに調査した。その結果、トリプトファンの欠如は、IFN-γ、TNF-αとCD107a(パーフォリン/グランザイムBの脱顆粒マーカー)の発現のアップレギュレーション、及びTRCアポトーシスの増強と同時に、T細胞におけるPD-1のダウンレギュレーションをもたらすことが分かった。また、トリプトファンを含まない方式で共培養した場合の上清は、抗CD3/CD28活性化OT-1 T細胞でPD-1発現をアップレギュレートすることができなかった。このように、これらのデータは、IFN-γ刺激TRCによって放出されたKynが、T細胞でPD-1の発現をアップレギュレートできることを示している。
【0079】
これと同時に、分化した対応物と比較して、基礎IDO1の発現は全てのタイプのTRCで遥かに高く、IFN-γによってさらにアップレギュレートできる。また、活性化されたOT-1T細胞と共培養する場合、OVA-B16 TRCでIDO1の発現が増加したが、TDOが検出されなかった。一方、OVA-B16 TRCで阻害剤1-MTによってIDO1活性が遮断され又はIDO1がノックダウン(knock down)されると、共培養系でTRCアポトーシスが増加になり(
図2G)、PD-1発現がアップレギュレートした(
図2H)が、IFN-γ、TNF-αとCD107aの発現がアップレギュレートした。これは、IDO1-Kynが、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現を特異的に制御したことを示す。IDO1発現の誘導は急速なKyn生成の初期段階に明らかに重要であるが、TRCで高Kyn生成を維持するには、IDO1の基質として十分な細胞外トリプトファンを投入する必要があり、Kynがさらに代謝されて細胞外空間に放出されることを考慮するとなおさら必要となる。IDO1活性が高いため、TROのトリプトファン消費量が高くなるが、分化した腫瘍細胞と比較して、細胞質のトリプトファンレベルは減少しなかった。これは、TRCがアクティブなトランスポートによりトリプトファンの貯蔵を補充したことを示す。従って、本発明者らは、必須アミノ酸を細胞に輸送するための3つの一般的な中性アミノ酸トランスポーター(SLC7A5、SLC7A8、及びSLC1A5)の発現について、さらに調査を行った。その結果、TRCには、SLC1A5の発現が高いが、SLC7A5またはSLC7A8がそうではなかったことが分かった。SLC1A5の発現は、mRNAレベルとタンパク質レベルの両方でIFN-γ処理によって増強された。また、shRNAによるSLC1A5のノックダウン、または阻害剤であるL-グルタミン酸γ-(p-ニトロアニリン)塩酸塩(GPNA)によるSLC1A5活性の遮断は、TRCトリプトファンの細胞内レベルを低下させ(
図2I)、それと伴い、より多くのTRCアポトーシス、PD-1のダウンレギュレーション、及びIFN-γ、TNF-α、CD107a発現のアップレギュレーションが生じた(
図2J、2K)。逆に、SSLC1A5の過剰発現は、トリプトファンの消費を増加させ(
図2L)、分化した細胞でのKynの生成を促進した(
図2M)。このように、これらのデータは、IFN-γ-アップレギュレートされたSLC1A5がトリプトファンの取り込みを増加させることで、TRCがアクティブなトリプトファン-IDO1-Kyn代謝経路を維持できるようになることを示した。
【0080】
実施例3:Kynがアリール炭化水素受容体(AhR)を活性化することでT細胞におけるPD-1をアップレギュレートした
【0081】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0082】
(1)膵臓から分離したCD8
+T細胞を200μM Kyn又はKyn+抗CD3/CD28ビーズで48時間刺激した。CD8
+T細胞を固定し、抗AhR抗体で染色し、共焦点顕微鏡で画像化した。画像化の結果を
図3Aに示す。エラーバー(Bar)、10μM。
【0083】
(2)AhRのウエスタンブロット分析の前に細胞質タンパク質と核タンパク質を部分的に分離した以外、(1)と同様にした。静止/Kyn群に対する強度を算出した。算出結果を
図3Bに示す。
【0084】
(3)PBS又はKyn(200μM)で48時間処理した静止CD8
+T細胞と抗CD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞について、AhR発現のウエスタンブロット分析を実施した。Kyn(-)群に対するNuc/CytのAhR比率を算出した。分析の結果を
図3Cに示す。
【0085】
(4)抗CD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞をPBS、Kyn又はKyn/DMF(10μM又は20μM)で72時間処理した。PD-1の発現はフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図3Dに示す。
【0086】
(5)抗CD3/CD28ビーズ活性化野生型又はAhR
-/-OT-1マウスと、OVA-B16細胞又はOVA-B16 TRCとを共培養した。腫瘍細胞のアポトーシス(
図3E)又はT細胞におけるPD-1の発現(
図3F)をフローサイトメトリーにより分析した。分析の結果をそれぞれ
図3Eと
図3Fに示す。
【0087】
(6)PD-1プロモーターに結合したルシフェラーゼレポーター遺伝子PGL3で、HEK293T細胞を、AhRまたは空のプラスミドと共に24時間かけてコトランスフェクトし、その後、さらにKynで48時間処理した。検出の結果を
図3Gに示す。
【0088】
(7)活性化されたCD8
+T細胞をTCDDで48時間処理した後、PD-1発現をqPCR(左)とフローサイトメトリー(右)で分析した。分析の結果を
図3Hに示す。**p<0.01。データは平均値±SEMとして表す。
【0089】
実施例3の結果から、蛍光顕微鏡法及びウエスタンブロッティングにより証明されたように、Kynの添加により細胞質AhRが活性化T細胞の核に輸送されたことが分かった(
図3Aと3B)。興味深いことに、AhRの活性化以外、AhRは初期T細胞及び活性化T細胞で過少発現されているものの、Kyn刺激下の静止時T細胞ではアップレギュレーションされ、活性化T細胞でさらに増加したことが分かった(
図3C)。一方、DMFまたはCH-223191を使用してAhR活性を阻害する場合、PD-1のKyn依存性の増加が阻止された(
図3D)。PD-1のアップレギュレーションにおけるAhRの役割をさらに具体的に確認するために、本発明者らは、AhR
-/-OT-1T細胞を使用してOVA-B16 TRCと共培養した。確かに、AhR欠乏症は、より多くのTRCアポトーシスを引き起こし(
図3E)、PD-1のダウンレギュレーションも伴っていた(
図3F)。また、HEK293T細胞をPD-1ルシフェラーゼレポーター遺伝子とAhR過剰発現を促進するプラスミドで同時トランスフェクトしたとき、Kynを追加すると、固有のAhR発現を伴うHEK293T細胞(空のコントロールプラスミドでトランスフェクトした)においてルシフェラーゼ活性が4倍に増加したこと、及びAhRを過剰発現する細胞において12倍増加したこと(
図3G)が分かった。AhRはさまざまな外因性毒素を認識するため、AhRの外因性リガンドであるTCDDもテストした。その結果、仮説と一致して、TCDDもT細胞におけるPD-1発現をアップレギュレートした(
図3H)。まとめると、これらのデータは、Kynが、AhRを誘導及び活性化することによって、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現をアップレギュレートできることを示した。
【0090】
実施例4:AhRは転写レベルでCD8+T細胞トランスポーターの発現を制御して、外因性のKynを取り込んだ
【0091】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0092】
(1)静止又は抗CD3/CD28ビーズで活性化されたCD8
+T細胞(細胞1×10
4個)を溶解し、KynのレベルをELISAにより分析した。分析の結果を
図4Aに示す。
【0093】
(2)活性化されたCD8
+T細胞をPBS又はKyn(200μM)24時間処理した。PAT4とSLC7A8の発現はリアルタイムPCR(左)と免疫染色(右)で測定した。測定の結果を
図4Bに示す。エラーバー(Bar)、10μM。
【0094】
(3)対照shRNA、又はSLC7A8とPAT4に対するshRNAがレトロウイルスを介して活性化されたCD8
+T細胞に24時間送達され、その後、形質導入T細胞をKyn(200μM)で48時間処理した。上清中のKynのレベルをELISAで測定し、Kyn消費を算出した。測定の結果を
図4Cに示す。
【0095】
(4)(3)と同様にしたが、PD-1の発現をフローサイトメトリーにより分析した。分析の結果を
図4Dに示す。
【0096】
(5)活性化されたOT-1 T細胞を対照shRNA、PAT4 shRNA(Sh1とSh2)又はSLC7A8 shRNA(Sh1とSh2)で72時間トランスフェクトし、その後、OVA-B16 TRCと共培養した。TRCアポトーシスをフローサイトメトリーにより分析した。分析の結果を
図4Eに示す。
【0097】
(6)PBS、Kyn、Kyn/CH-223191(10μM)又はKyn/DMF(20μM)で48時間処理して活性化されたCD8
+T細胞において、PAT4とSLC7A8のmRNA発現を測定した。測定の結果を
図4Fに示す。
【0098】
(7)静止又は活性化されたCD8
+T細胞をPBS又はKynで48時間処理した。抗AhR抗体とSLC7A8又はPAT4プロモーターに特異的なqPCRライマーとを用いてChip-qPCR分析を行った。分析の結果を
図4Gに示す。
【0099】
(8)AhRベクターとSLC7A8またはPAT4プロモーターに結合されたルシフェラーゼレポーター遺伝子PGL3とを用いてHEK 293T細胞を一過性コトランスフェクトし、その後、Kynで48時間処理した。測定の結果を
図4Hに示す。**p<0.01。データは平均値±SEMとして表す。
【0100】
実施例4の結果から、外因性のKynがどのようにT細胞に入るのかを検討し続けた。内因性KynはCD8
+T細胞ではほとんど検出されず(
図4A)、これらのT細胞は非常に低レベルのIDO1を発現することが分かった。これは、CD8
+T細胞が外因性Kynに依存してAhRを活性化し、さらにPD-1発現をアップレギュレートしたことを示した。細胞におけるSLC1A5、SLC7A5、SLC7A8、及びPAT4を含むいくつかのトランスポーターに、Kynが輸送される。これらの4つのトランスポーターはCD8
+T細胞において発現することが判明したが、驚くべきことに、Kynの追加により、SLC7A8及びPAT4の発現がアップレギュレーションされた(
図4B)。特筆すべきことに、静止CD8
+T細胞と比較して、SLC7A8及びPAT4の発現は抗CD3/CD28ビーズによって活性化されたCD8
+T細胞においてアップレギュレーションされ、Kyn処理によってさらに増強された。また、IFN-γ処理がCD8
+T細胞におけるPAT4及びSLC7A8の発現に影響を及ぼさないことが分かった。これらの結果から、これらの2つのトランスポーターがCD8
+T細胞における主たるKynインポートであると推測した。従って、レトロウイルスを使用して、SLC7A8及びPAT4 shRNAを初代T細胞、またはSLC7A8に対する阻害剤である2-アミノ-2-ノルボルナンカルボン酸(BCH)もしくはPAT4に対するサルコシンで処理されたT細胞に送達する。結果、SLC7A8及びPAT4を阻害またはノックダウンすると、KynがT細胞に入ることを遮断し(
図4C)、AhR活性を阻害し、PD-1アップレギュレーションを排除した(
図4D)。また、OVA-B16 TRCに対するOT-1T細胞毒性を増加した(
図4E)。これと同時に、AhR阻害剤DMFまたはCH-223191がKyn誘導によるSLC7A8及びPAT4アップレギュレーションを効果的に阻害できることが分かった(
図4F)。チップPCR分析により、AhRが実際にSLC7A8及びPAT4遺伝子のプロモーターに結合することがさらに確認された(
図4G)。また、ルシフェラーゼ分析は、AhRが結合するとSLC7A8及びPAT4の発現が増強されることを示した(
図4H)。多くの輸送システムにおける逆輸送機能に関して、SLC7A8とPAT4の他の必須アミノ酸の輸送への影響も分析した。Kynありまたはなしの48時間処理後、抗CD3/CD28ビーズで活性化されたCD8
+T細胞が、LC-QE-MSによるサイトゾル中の必須アミノ酸の分析に使用された。結果は、スレオニン強度の若干低減以外、Kyn処理はほとんどの必須アミノ酸に影響を及ぼさないことを示した。まとめると、これらのデータは、AhRが転写によってKynトランスポーターを活性化し、外因性KynのT細胞への取り込みを促進することを示した。
【0101】
実施例5:Kyn-AhRによって制御されるPD-1経路はTCRシグナル伝達に依存しないが、TCRシグナル伝達によって促進された
【0102】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0103】
(1)CD8
+T細胞をKyn(200μM)で所定の時間処理した。PD-1の発現はフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図5Aに示す。
【0104】
(2)PD-1発現は、野生型またはAhR
-/-マウスから分離された、静止または抗CD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞において、フローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図5Bに示す。
【0105】
(3)静止及びCD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞におけるPD-1発現は、フローサイトメトリーにより所定の時点で測定した。測定の結果を
図5Cに示す。
【0106】
(4)CD8
+T細胞を抗CD3/CD28ビーズで4時間前処理し、その後、PBS又はKynで24時間処理した。PD-1発現はフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図5Dに示す。
【0107】
(5)静止又は抗CD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞におけるSLC7A8又はPAT4のmRNAレベルを測定した。測定の結果を
図5Eに示す。
【0108】
(6)抗CD3/CD28ビーズ活性化CD8
+T細胞をCsA(1μM)で48時間処理した。PAT4とSLC7A8のmRNA発現はリアルタイムPCRで測定した。測定の結果を
図5Fに示す。
【0109】
(7)CsA(1μM)の存在又は非存在下で、活性化されたCD8
+T細胞をKyn(200μM)で48時間処理した。細胞を溶解し、KynのレベルをELISAにより測定した。測定の結果を
図5Gに示す。
【0110】
(8)静止又は活性化されたCD8
+T細胞をPBS、Kyn(200μM)、CsA(1μM)、Kyn/CsAで48時間処理した。PD-1レベルはフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図5Hに示す。
【0111】
(9)抗NFATc1抗体と、PAT4またはSLC7A8プロモーターに特異的なqPCRライマーとを用いて静止又は活性化されたCD8
+T細胞においてChip-qPCR分析を行った。分析の結果を
図5Iに示す。
【0112】
(10)IgG又は抗PD-1中和抗体(10μg/ml)の存在下で、パルスで放出された(pulsed with)OVA 257-264(2μg/ml)の膵臓のAPCとOT-1 CD8
+T細胞とを72時間共培養した。IFN-γ発現はフローサイトメトリーにより測定した(左)。又は、OT-1マウスからのCD8
+T細胞をKyn(200μM)で72時間処理した後、OVA-ペプチドが搭載されたAPCと共培養し、抗PD-1中和抗体の存在又は非存在下で72時間処理した(右)。測定の結果を
図Jに示す。**p<0.01。データは平均値±SEMとして表す。
【0113】
実施例5の結果から、Kyn-AhR経路とTCRシグナル伝達が互いに独立してPD-1発現を誘導できることが分かった。T細胞活性化シグナルの存在下での前記KynによるPD-1アップレギュレーションにもかかわらず(
図2D及び2E)、静止CD8
+T細胞におけるPD-1をアップレギュレートするには、実際にKynだけで十分であった(
図5A)。しかしながら、このような誘導は、緩やかなプロセスであり、48時間の時点で増加が始まった。一方、AhR欠損を有するCD8
+T細胞は、T細胞活性化シグナル伝達中にPD-1発現もアップレギュレートした(
図5B)。特筆すべきことは、TCRシグナル伝達によって誘導されるPD-1の発現は急速なプロセスであり、最初の時点で増加し始めることが分かった(
図5C)。CD8
+T細胞を抗CD3/CD8マイクロビーズと4時間インキュベートした。ビーズが取り除かれた後、これらの細胞をKynで処理した。この短いTCRの活性化により、PD-1の発現が高くなり(
図5D)、TCRシグナル伝達がKyn-AhRでPD-1の誘導を促進することを示した。KynインポートはKyn-AhR依存経路の制限ステップであるため、TCRシグナル伝達がKyn-トランスポーターに影響するかどうか、及びどのように影響するかを調査した。ナイーブT細胞は低レベルのSLC7A8及びPAT4を発現するが、活性化T細胞は2つのトランスポーターの有意に高い発現を示すことがわかった(
図5E)。CD8
+T細胞の活性化中に、TCRシグナル伝達によって引き起こされる転写因子が多く活性化され、PD-1の発現増強に関与する可能性がある。その中で、T細胞c1(NFATc1)を活性化する核因子は重要であるようである。NFATc1は通常、リン酸化不活性形としてサイトゾルに局在するが、脱リン酸化の時に細胞核へ移行する。阻害剤であるシクロスポリンA(CsA)はNFATc1の核移行を遮断し、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現を阻害する。CsAを使用してNFATc1を遮断すると、活性化されたCD8
+T細胞におけるSLC7A8及びPAT4のアップレギュレーションも遮断される(
図5F)。これに伴い、Kynの取り込みが弱くなることも観察された(
図5G)。TCRシグナル伝達によるKyn/AhR誘導のPD-1発現の促進効果もCsAにより阻害された(
図5H)。Jaspar及びGenomatrixソフトウェアを使用した分析により、NFATc1がSLC7A8及びPAT4のプロモーターに結合するための複数の共有シスエレメントの存在が明らかにした。これは、ChIPアッセイによって確認され、NFATc1が確実にかかるプロモーターに結合したことを示した(
図5I)。CD8
+T細胞と抗原提示細胞(APC)を共培養することにより、PD-1遮断がIFN-γの産生を抑制するのに対して、PD-1遮断時に、Kyn処理がIFN-γの産生をアップレギュレーションすることが分かった(
図5J)。まとめると、これらのデータは、Kyn-AhRによって制御されるPD-1経路がTCRシグナル伝達に依存しないが、TCRシグナル伝達によって促進されることを示した。
【0114】
実施例6:Kyn/AhRは担癌マウスのCD8+T細胞のPD-1発現を制御した
【0115】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0116】
(1)WT C57BL/6マウスにPBSまたはKyn(1日1回、50μg)を5日間腹腔内注射し、FACSによりCD8
+T細胞を膵臓及び腸間膜リンパ節からソーティングした。PD-1発現はフローサイトメトリーにより測定した(
図6A)。膵臓からの一部のCD8
+T細胞をAhR及びDAPIで免疫染色し(
図6B)、PAT4及びSLC7A8のmRNA発現をリアルタイムPCRで測定した(
図6C)。前記実験の結果をそれぞれ
図6A、
図6B、
図6Cに示す。エラーバー(Bar)、10μM。
【0117】
(2)AhR
-/-マウスを使用した以外、(1)と同様にした。実験の結果を
図6Dに示す。
【0118】
(3)PBSまたはKynを5日間注射したAhR
-/-C57BL/6マウスから分離した、静止または抗CD3/CD28ビーズで活性化された膵臓のCD8
+T細胞におけるPD-1発現を測定した。測定の結果を
図6Eに示す。
【0119】
(4)様々なタイミングで、WTまたはAhR
-/-C57BL/6マウスに抗CD3抗体(5μg、i.p.)を注射または注射せずにして、フローサイトメトリーによりPD-1発現を測定した。測定の結果を
図6Fに示す。
【0120】
(5)C57BL/6マウスに抗CD3抗体を72時間注射した後、これらのマウスにKyn(50μg)を投与した。膵臓CD8
+T細胞におけるPD-1発現は、48時間後にフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図6Gに示す。
【0121】
(6)5×5mm OVA-B16メラノーマを有するC57BL/6マウスに、CFSE標識OT-1 CD8
+T細胞(4×10
6個/マウス、3日ごとに1回)を3回養子移植した。同時に、一部のマウスにはKyn(2日ごとに1回、50μg/マウス)を3回腹腔内注射した。移植後7日目に、CFSE
+CD8
+T細胞を腫瘍から分離して、PD-1発現のフローサイトメトリー分析に供した。分析の結果を
図6Hに示す。
【0122】
(7)スクランブル、shPAT4-またはshSLC7A8-レトロウイルスでトランスフェクトされたCD45.2 OT-1 T細胞4x10
6個を、5×5mm OVA-B16メラノーマを有するCD45.1マウスに3回養子移植した(3日ごとに1回)。腫瘍成長を測定し(左)、長期生存率を分析した(右)。測定の結果を
図6Iに示す。
【0123】
(8)C57BL/6マウスをKyn、DMF(5μg/マウス、o.t.、1日2回)、またはKyn+DMFで6日間処理した以外、(7)と同様にした。腫瘍由来のCFSE
+CD8
+T細胞を単離して、PD-1発現のフローサイトメトリー分析に供した。分析の結果を
図6Jに示す。
【0124】
(9)5×5mm B16メラノーマを有するC57BL/6マウスをPBS、Kyn(50μg/マウス、i.p.、2日ごとに1回)、DMF(5μg/マウス、o.t.、1日1回)またはKyn+DMFで6日間処理した。腫瘍から分離されたCD8
+T細胞におけるPD-1発現は、フローサイトメトリーにより測定した(n=5)。測定の結果を
図6Kに示す。
【0125】
(10)C57BL/6マウスに1×10
6個のID8卵巣がん細胞を腹腔内注射した。10日後、マウスにPBS、Kyn、DMFまたはKyn+DMFを6日間腹腔内投与した。腹水由来のCD8
+T細胞を分離し、PD-1発現をフローサイトメトリーで測定した(n=5)。測定の結果を
図6Lに示す。
【0126】
(11)MMTV-PyMTマウスで自発的に形成した乳腺腫瘍からCD45
-ALDH
+及びCD45
-ALDH
-腫瘍細胞を選別した。細胞をそれぞれ、90Paソフト3Dフィブリンゲルに播種した。4日後、コロニーの数をカウントした。カウント結果を
図6Mに示す。
【0127】
(12)CD45
+、CD45
-ALDH
+及びCD45
-ALDH
-細胞を溶解し、ELISAによりKynレベルを測定した。測定の結果を
図6Nに示す。
【0128】
(13)5×5mm OVA-B16メラノーマを有するC57BL/6マウスに、OT-1 CD8
+T細胞(4×10
6個細胞/マウス)を使用または使用せずに、3日ごとに3回養子移植した。同時に、これらのマウスをPBS、DMF(5μg/マウス、o.t.、1日2回)または抗PD-1中和抗体(250μg/日、2日ごとに1回、2回)で20日間処理した。腫瘍成長を測定し(左)、長期生存率を分析した(右)。測定の結果を
図6Oに示す。
【0129】
(14)(9)と同様にしたが、腫瘍の重さを計った。計量結果を
図6Pに示す。*p<0.05、**p<0.01;CTL群に対して、#p<0.05、##p<0.01。データは平均値±SEMとして表す。
【0130】
実施例6の結果から、膵臓及びリンパ節の分析により、CD8
+T細胞は5日目に増殖しなかったが、PD-1発現がアップレギュレートされたことが示された(
図6A)。同時に、これらのCD8
+T細胞におけるAhRが細胞核に移行し(
図6B)、KynトランスポーターSLC7A8及びPAT4はアップレギュレートされたことが観察された(
図6C)。上記のin vitroデータと一致するように、この外因性KynはAhR
-/-マウスにおけるPD-1発現を誘導できなかった(
図6Dと6E)。一方、WTまたはAhR
-/-マウスに刺激性抗CD3抗体を注射してから、6時間の時点で膵臓CD8
+T細胞のPD-1を急速にアップレギュレートすることが観察されたが、72時間後に低下し始めた(
図6F)。この72時間の時点で、Kynをマウスに注射した。Kyn誘導のPD-1発現が第一TCRシグナル伝達によって増強されることを発見し(
図6G)、TCRシグナル伝達がKyn-AhRによるPD-1誘導を促進することをさらに示した。in vivo腫瘍モデルにおけるPD-1のアップレギュレーションを研究するために、OVA-B16 TRC(5×10
5/マウス)を皮下注射した3日後のCD45.1マウスに、CD45.2 OT-1 T細胞を養子移植し、さまざまなタイミングで、PD-1の発現を分析し、腫瘍部位のKyn濃度を測定した。Kynのレベルが徐々に増加し、9日目にプラトーに達したことが分かった。偶然にも、CD45.2 OT-1 T細胞におけるPD-1の発現も徐々に増加し、9日目にプラトーに達した。これは、KynとPD-1発現との固有相関が示唆された。次に、CFSE標識OT-1 T細胞を養子移植した後、KynでOVA-B16メラノーマ(5×5mm)を有するマウスを処理した。上記のデータと一致するように、腫瘍浸潤CFSE
+T細胞においてより高いレベルのPD-1発現が観察された(
図6H)。
【0131】
次に、対照のshPAT4またはshSLC7A8 OT-1 T細胞を、3×3mm OVA-B16メラノーマを有するCD45.1マウスに養子移植した。PAT4またはSLC7A8のノックダウンにより、PD-1の発現は大幅に減少したが、OT-1 T細胞におけるIFN-γ及びTNF-αの発現が増加し、これに伴い、腫瘍の成長遅延及びマウスの生存延長が見られ(
図6I)、Kynが腫瘍微小環境でのPD-1発現を誘導することを示した。また、腫瘍塊、膵臓、またはリンパ節から分離されたCFSE
+T細胞で観察されるように、AhR阻害剤DMFの存在下で、このKynによる腫瘍特異的なCD8
+T細胞でのPD-1発現のアップレギュレーションが抑制された(
図6J)。それと一致するように、T細胞におけるIFN-γ及びTNF-α発現のアップレギュレーションが観察された。また、B16メラノーマ腫瘍を有するマウスは、Kyn、Kyn+DMFまたはDMFによる処理も受け入れた。それと一致するように、Kynは腫瘍、膵臓、またはリンパ節から分離されたCD8
+T細胞におけるPD-1発現をアップレギュレートできるが、DMFによって遮断されることが分かった(
図6K)。卵巣癌を含む腹膜腫瘍は、通常PD-1発現がアップレギュレートされたCD8
+T細胞に浸潤する。ここでは、ID8卵巣癌とH22肝癌腹水の2種類のマウス腹膜腫瘍モデルをさらに使用して、上記のPD-1発現の結果を検証した。同様に、Kynは、腹膜、膵臓、またはリンパ節のCD8
+T細胞におけるPD-1発現を促進し、IFN-γ及びTNF-αの発現を阻害したが(
図6L)、PD-1、IFN-γ及びTNF-αの発現パターンはDMFによって逆転された。
【0132】
自発的に形成された乳がんMMTV-PyMTマウスでは、CD45
-ALDH
+腫瘍細胞が発がん性細胞として同定された。90Pa 3Dフレキシブルフィブリンゲルでは、CD45
-ALDH
-腫瘍細胞ではなく、CD45
-ALDH
+細胞のみがコロニーに成長するため、これらをさらにTRCとして同定した(
図6M)。予想通りに、CD45
-ALDH
-腫瘍細胞とCD45
+免疫細胞でのIDO1発現とKynレベルは非常に低かったが、CD45
-ALDH
+TRCでは著しく高かった(
図6N)。それと一致するように、CD45
-ALDH
-細胞でなく、IFN-γ処理されたCD45
-ALDH
+細胞からの上清はCD8
+T細胞におけるPD-1発現をアップレギュレートした。一方、同じ量のOVA-B16 TRCまたはOVA-B16細胞をメラノーマを有するCD45.1 C57BL/6マウスに腫瘍内投与するとともにCD45.2 OT-1細胞を養子移植した。OVA-B16 TRC群のOT-1 T細胞は、3日後にOVA-B16群よりも高いPD-1発現を示した。同時に、B16 TRCによって形成されたメラノーマにおけるIDO1ノックダウンは、養子移植されたgp-100特異的なCD8
+T細胞におけるPD-1発現の有意な減少、及びこれらのT細胞におけるIFN-γ及びTNF-α発現の増加をもたらした。
【0133】
OVA-B16TRC、B16TRC、OVA-B16細胞またはB16細胞を、OVA特異的なCD45.2 OT-1T細胞とOVA非特異的なCD45.1 CD8
+T細胞とともに24時間共培養した。非特異的なCD45.1 CD8
+T細胞におけるPD-1アップレギュレーションは、上記の腫瘍細胞タイプによって誘導されるものではない一方、OVA-B16細胞は、抗原特異的なOT-1 T細胞におけるPD-1アップレギュレーションをわずかに誘導した。しかしながら、OT-1 T細胞におけるPD-1アップレギュレーションは明らかにOVA-B16 TRCによって誘導され、PD-1の発現は抗原のみによって制限されでなく、局所的なKyn濃度によっても制御されることを示している。OVA特異的なCD8
+T細胞の養子移植は、マウスOVA-B16のメラノーマに対する治療効果を生み出し、PD-1抗体の投与により増強された(
図6O)。PD-1抗体に比較して、DMFの場合にも同様な処理効果を示した(
図6O)。また、Kyn処理で加速された腫瘍成長が、DMF処理により逆転された(
図6P)。まとめると、これらのデータは、担癌マウスにおけるCD8
+T細胞のPD-1発現がKyn-AhR経路によって調節されていることを示している。
【0134】
実施例7:がん患者のCD8+T細胞におけるPD-1発現は、Kyn-AhR経路によりアップレギュレートされた
【0135】
本実施例で使用される形態のステップ及びその結果は以下の通りである。
【0136】
(1)健康な被験者(n=50)、あるいは乳がん患者(n=84)、結腸がん患者(n=28)又は肺がん患者(n=15)の末梢血からCD8
+T細胞を分離した。或いは、乳がん(n=9)又は結腸がん(n=17)の腫瘍組織からCD8
+T細胞を分離した。PD-1発現は、フローサイトメトリーにより分析した。分析の結果を
図7に示す。
【0137】
(2)健康な被験者(n=31)と、乳がん患者(n=73)、肺がん患者(n=10)又は結腸がん患者(n=26)の血清におけるKynのレベルを測定した。或いは、新鮮なヒト乳腺(n=11)又は結腸(n=8)の腫瘍組織及び隣接する正常組織由来のライセートを調製し、Kynのレベルを測定した。測定の結果を
図7Bに示す。
【0138】
(3)健常者(左、n=37)と乳がん患者(右、n=62)におけるPD-1発現とKynレベルの相関を分析した。分析の結果を
図7Cに示す。
【0139】
(4)乳がんまたは肺がん患者のPBMCから分離されたCD8
+T細胞は、抗CD3/CD28ビーズによって活性化され、PBS、Kyn(200μM)またはKyn/DMF(20μM)で48時間処理された。PD-1の発現はフローサイトメトリーにより測定した。測定の結果を
図7Dに示す。
【0140】
(5)乳がんまたは肺がん患者から分離されたCD8
+T細胞をDMF(20μM)で48時間処理した。PD-1発現はフローサイトメトリーにより測定した(n=6)。測定の結果を
図7Eに示す。
【0141】
(6)健常なドナー、または乳がんもしくは肺がん患者のPBMCから、PD-1
高CD8
+またはPD-1
低CD8
+T細胞をソートした。リアルタイムPCRでAhR mRNA発現を分析した(n=8、
図7F)。これらの細胞集団は、抗AhR抗体とDAPIで免疫染色され、共焦点顕微鏡でイメージした(
図7G)。実験の結果をそれぞれ
図7Fと
図7Gに示す。エラーバー(Bar)、10μM。
【0142】
(7)PD-1プロモーターへのAhR結合のチップ-qPCR分析を行った。分析の結果を
図7Hに示す。
【0143】
(8)乳がん患者からのCD8
+T細胞をPBS、Kyn(200μM)、Kyn/DMF(20μM)又はKyn/CH(50μM)で48時間処理した。PAT4とSLC7A8の発現はリアルタイムPCRで測定した。測定の結果を
図7Iに示す。
【0144】
(9)乳がんと肺がん患者からのPD-1
高CD8
+T細胞又はPD-1
低CD8
+T細胞におけるPAT4又はSLC7A8のmRNA発現を測定した。発現の結果を
図7Jに示す。
【0145】
(10)乳がん患者のPBMCから分離されたPD-1
高CD8
+T細胞またはPD-1
低CD8
+T細胞において、抗AhR抗体と、SLC7A8またはPAT4のプロモーターに特異的なqPCRプライマーとを使用してチップ-qPCR分析を行った。分析の結果を
図7Kに示す。データは平均値±SEMとして表す。
【0146】
(11)CD8
+T細胞においてPD-1がどのようにアップレギュレートされるかを概略図で示す。結果を
図7Lに示す。**p<0.01、***p<0.001。データは平均値±SEMとして表す。
【0147】
実施例7の結果から、フローサイトメトリー分析は、健常なドナーの対照群よりも、乳がん、結腸がん、及び肺がん患者からの末梢血CD8
+T細胞が高いPD-1発現を示した(
図7A)。また、乳がん及び結腸がん患者の腫瘍浸潤CD8
+T細胞で非常に高いPD-1発現が見られた(
図7A)。この結果と一致するように、これらの癌患者の血漿及び腫瘍組織におけるKynレベルは有意に上昇した(
図7B)。特筆すべきことは、Kynレベルは、乳がん及び結腸がん患者のPD-1発現と強く相関しているが、健常者においては相関していない(
図7C)。Kyn産生の細胞源を明らかにするために、患者の乳腺(n=10)及び結腸(n=14)の腫瘍組織から分離されたCD45
+免疫細胞及びCD45
-腫瘍細胞を分析した。IDO1発現及びKynレベルは、CD45
+細胞中でなく、CD45
-細胞中において支配的であった。次に、1-MTの存在下または非存在下で、CD45
-腫瘍細胞をIFN-γによりin vitroで24時間処理した。上清は患者の末梢血T細胞に用いて24時間処理した。フローサイトメトリー分析は、PD-1発現がCD8
+T細胞でアップレギュレートされたことを示し、このプロセスは、1-MTの添加により遮断された。これは、Kynがヒト腫瘍組織において、主に腫瘍細胞によって産生され、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現を促進することを示した。KynレベルがTrpトランスポーターで制御されることを考慮して、SLC1A5が患者の乳腺及び結腸腫瘍組織で高レベルで発現していることをさらに発見した。
【0148】
Kynを使用し、抗CD3/CD28マイクロビーズの刺激がある又はなしにして、in vitroで、上記ヒトサンプル由来のCD8
+T細胞を処理した。Kynは、健常なドナーと、乳がん及び肺がんの患者とからの静止及び活性化されたCD8
+T細胞におけるPD-1発現をアップレギュレートした。また、Kyn処理は、乳がん及び肺がん患者からの静止及び活性化された末梢CD8
+T細胞において、細胞質ゾルから核へのAhRの移行を促進する。それと一致するように、AhR核移行は乳がん及び結腸がん患者の腫瘍浸潤T細胞においても見られた。AhR活性を遮断するためにDMFまたはCH-223191を使用した。DMFまたはCH-223191の添加は、ヒトCD8
+T細胞におけるKynによるPD-1アップレギュレーションを阻害することが分かった(
図7D)。さらに重要なことに、DMFを単独で添加すると、患者のCD8
+T細胞におけるPD-1発現を直接にダウンレギュレートでき(
図7E)、AhRが癌患者のCD8
+T細胞におけるPD-1発現を促進する重要なシグナル伝達分子である可能性があることを示している。
【0149】
がん患者のPD-1
高とPD-1
低CD8
+T細胞のAhR活性を比較した。健常な対照ではなく、肺がん及び乳がん患者から選別されたPD-1
高CD8
+T細胞は、対応して設定されたPD-1
低CD8
+T細胞よりもはるかに高いAhR mRNAレベルを発現した(
図7F)。さらなる免疫染色分析により、核移行によって実証されたように、患者由来のPD-1
高T細胞は確かにAhR活性がより高いことが確認された(
図7G)。健常な対照と比較して、このような核AhRは乳がん患者由来のCD8
+T細胞におけるPD-1のプロモーターに強く結合した(
図7H)。SLC7A8及びPAT4は、外因性Kynの輸送によりPD-1の発現に関与し、マウスCD8
+T細胞においてAhRによって制御された(
図4Dと4E)。
【0150】
Kynを入れると、SLC7A8及びPAT4がヒトCD8
+T細胞にアップレギュレートされた(
図7I)。免疫組織の化学染色は、乳がんと結腸がん患者の腫瘍浸潤T細胞においてPAT4が高度に発現された。しかしながら、このようなアップレギュレーションは、AhR阻害剤DMFまたはCH-223191によって遮断される可能性がある(
図7I)。それと一致するように、がん患者から選別されたPD-1
低CD8
+T細胞でなく、PD-1
高CD1
+T細胞のみがSLC7A5及びPAT4の高発現を有した(
図7J)。また、ヒトCD8
+T細胞において、SLC7A8及びPAT4のプロモーターへのAhRの結合及びそれらの発現の調節は確認された(
図7K)。まとめると、これらのデータは、がん患者のCD8
+T細胞におけるPD-1の発現上昇は、主にKyn-AhR経路による可能性があることが示唆された。
【0151】
実施例8:GPNA(L-γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリン)は、腫瘍細胞へのトリプトファンの取り込みを大幅に阻害でき、特異的なOT-1 CD8+T細胞のPD-1発現を低減した
【0152】
1、腫瘍細胞へのトリプトファンの取り込みに対するGPNAの影響を検出する実験
【0154】
マウスOVA-B16細胞をRPMI-1640培地でin vitroで培養し、以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0156】
対照群2(GPNA):培地+GPNA 10μM
【0157】
実験群3(IFN-γ):培地+IFN-γ 50ng/mL
【0158】
実験群4(IFN-γ+GPNA):培地+IFN-γ50ng/mL+GPNA 10μM
【0159】
24時間後、各グループの細胞を収集して超音波処理し、ライセートを使用してELISAでトリプトファン濃度を測定したとともに、BCAタンパク質アッセイを実施した。
【0161】
図8Aからわかるように、IFN-γは腫瘍細胞へのトリプトファンの取り込みを大幅に向上させることができ、GPNAを使用してトリプトファン輸送体SLC1A5を阻害した後、腫瘍細胞へのトリプトファンの取り込みが大幅に減少した。
【0162】
2、特異的なCD8
+T細胞におけるPD-1発現に対するGPNAの影響を検出する実験
【0164】
3D培養されたOVA-B16細胞は、以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0166】
実験群2(GPNA):培地+GPNA 10μM
【0167】
12時間処理後、48時間活性化されたOT-1 CD8
+T細胞と1:10で共培養し、4時間後にフローサイトメトリーによりCD8
+T細胞のPD-1発現を測定した。
【0169】
図8Bから分かるように、GPNAは腫瘍細胞へのトリプトファンの取り込みを阻害し、腫瘍細胞と共培養された特異的なOT-1 CD8
+T細胞のPD-1発現を有意に阻害することができる。
【0170】
実施例9:SAR(サルコシン)とBCH(2-アミノ-2-ノルボルナンカルボン酸)は、CD8+T細胞のPD-1発現を有意に阻害することができる
【0171】
1、CD8
+T細胞におけるPAT4及びSLC7A8の発現に対するKynの影響を検出する実験
【0173】
磁気ビーズソーティングにてOT-1マウスの膵臓のCD8
+T細胞を取得し、24ウェルプレートに播種した(100万/ウェル)とともに抗CD3/CD28磁気ビーズを入れて、T細胞を活性化した。培地はRPMI-1640にマウスIL-2を10ng/mL添加したものとβ-メルカプトエタノール50nMである。以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0175】
実験群2(Kyn):培地+Kyn 200μM
【0176】
48時間後、各グループの細胞からRNAを収集し、蛍光定量PCRによってPAT4及びSLC7A8の発現を測定した。
【0178】
図9Aからわかるように、KynはマウスCD8
+T細胞におけるPAT4及びSLC7A8を大幅にアップレギュレートでき、トランスポーターPAT4とSLC7A8がKyn輸送プロセスで重要な役割を果たす。
【0179】
2、CD8
+T細胞におけるPD-1発現に対するSAR(サルコシン)とBCHの影響を検出する実験
【0181】
磁気ビーズソーティングにてマウス膵臓CD8
+T細胞を取得し、U底96ウェルプレートに播種(10万/ウェル)したとともに抗CD3/CD28磁気ビーズを入れて、T細胞を活性化した。培地はRPMI-1640にマウスIL-2を10ng/mL添加したものとβ-メルカプトエタノール50nMである。以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0183】
実験群2(Kyn):培地+Kyn 200μM
【0184】
実験群3(Kyn+SAR):培地+Kyn 200μM+SAR 10mM
【0185】
実験群4(Kyn+BCH):培地+Kyn 200μM+BCH 100μM
【0186】
48時間後、各グループのCD8
+T細胞におけるPD-1発現レベルをフローサイトメトリーにより測定した。
【0188】
図9Bから分かるように、KynはCD8
+T細胞におけるPD-1発現を有意に向上させた上で、SAR及びBCHを使用して、KynトランスポーターPAT4及びSLC7A8をそれぞれ阻害し、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現を大幅に低減させることができる。
【0189】
3、特異的なCD8
+T細胞の機能に対するSAR及びBCHの影響を検出する実験
【0191】
磁気ビーズソーティングにてOT-1マウスの膵臓のCD8
+T細胞を取得し、U底96ウェルプレートに播種した(10万/ウェル)。以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0193】
実験群2(SAR):培地+SAR 10mM
【0194】
実験群3(BCH):培地+BCH 100μM
【0195】
T細胞を24時間前処理した後、3D培養OVA-B16及びOT-1 CD8
+T細胞を1:10で共培養し、4時間後、フローサイトメトリーにてOVA-B16細胞のアポトーシスを測定した。
【0197】
図9Cから分かるように、SAR及びBCHで前処理されたT細胞と共培養されたOVA-B16腫瘍細胞は、アポトーシス割合が大幅に増加した。これは、SAR及びBCHがT細胞へのKynの取り込みを大幅に抑制し、PD-1発現をダウンレギュレートし、CD8
+T細胞の殺傷機能を増強できる。
【0198】
実施例10:SAR及びBCHは、ヒト末梢血CD8+T細胞におけるPD-1発現を有意に阻害できる
【0199】
1、ヒト末梢血CD8
+T細胞におけるPAT4及びSLC7A8の発現に対するKynの影響を検出する実験
【0201】
Ficollを使用して乳がん患者の末梢血を分離し、単核細胞を取得した。磁気ビーズにてCD8
+T細胞をソーティングし、U底96ウェルプレートに播種した(10万/ウェル)とともに抗CD3/CD28ビーズを入れて、T細胞を活性化した。培地はRPMI-1640にヒトIL-2を10ng/mL添加したものである。以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0203】
実験群2(Kyn):培地+Kyn 200μM
【0204】
48時間後、細胞の各グループからRNAを収集し、蛍光定量PCRによってPAT4及びSLC7A8の発現を測定した。
【0206】
図10Aからわかるように、Kynは乳がん患者の末梢血CD8
+T細胞におけるPAT4及びSLC7A8を大幅にアップレギュレートでき、トランスポーターPAT4とSLC7A8がKyn輸送プロセスで重要な役割を果たす。
【0207】
2、ヒト末梢血CD8
+T細胞におけるPD-1の発現に対するSAR及びBCHの影響を検出する実験
【0209】
Ficollを使用して乳がん患者の末梢血を分離し、単核細胞を取得した。磁気ビーズにてCD8
+T細胞をソーティングし、U底96ウェルプレートに播種した(10万/ウェル)とともに抗CD3/CD28ビーズを入れて、T細胞を活性化した。培地はRPMI-1640にヒトIL-2を10ng/mL添加したものである。以下のようにグループを分けて薬物処理した。
【0211】
実験群2(Kyn):培地+Kyn 200μM
【0212】
実験群3(Kyn+SAR):培地+Kyn 200μM+SAR 10mM
【0213】
実験群4(Kyn+BCH):培地+Kyn 200μM+BCH 100μM
【0214】
48時間後、各グループのCD8
+T細胞におけるPD-1発現レベルをフローサイトメトリーにより測定した。
【0216】
図10Bからわかるように、Kynは乳がん患者の末梢血CD8
+T細胞におけるPD-1発現を有意に増加させた上で、SAR及びBCHを使用して、KynトランスポーターPAT4及びSLC7A8をそれぞれ阻害し、CD8
+T細胞におけるPD-1の発現を大幅に低減させることができる。
【0217】
本開示の実施例8〜10の結果によれば、阻害剤GPNAを使用して腫瘍細胞のトリプトファン輸送体を阻害することにより、或いは阻害剤SAR及びBCHを使用してCD8
+T細胞kynトランスポーターPAT4及びSLC7A8をそれぞれ阻害することにより、特異的なCD8
+T細胞におけるPD-1の発現を効果的に低減させ、特異的なCD8
+T細胞の腫瘍細胞への殺傷を増強することができる。
【0218】
本開示の上記実施例は、本開示を明確に説明するための例示にすぎず、本開示の実施形態を限定することを意図するものではない。当業者であれば、上記の説明に基づいて、他の異なる形態の変更または変動を行うこともできる。ここですべての実施形態を挙げることができず、その必要もない。本開示の要旨及び原理の範囲内で行われた修正、同等の変更及び改善は、本開示の請求の範囲に含まれるものとする。