(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-518169(P2021-518169A)
(43)【公表日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】ホエーの脱塩化方法、及びこれにより得られたホエー
(51)【国際特許分類】
A23C 21/00 20060101AFI20210705BHJP
A23J 3/08 20060101ALI20210705BHJP
【FI】
A23C21/00
A23J3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-500359(P2021-500359)
(86)(22)【出願日】2019年3月21日
(85)【翻訳文提出日】2020年9月17日
(86)【国際出願番号】FR2019050652
(87)【国際公開番号】WO2019180389
(87)【国際公開日】20190926
(31)【優先権主張番号】1852410
(32)【優先日】2018年3月21日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520361656
【氏名又は名称】シヌトラ・フランス・アンテルナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・シャヴロン
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001BC04
4B001BC99
4B001EC99
(57)【要約】
本発明は、乳製品の分野に関し、特にホエーの脱塩化方法に関する。本発明による方法は、ホエーを準備する工程と、前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、前記ホエーを2から3.5のpHに酸性化する工程と、酸性化された前記ホエーを低温殺菌する工程と、低温殺菌され酸性化された前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、脱塩化された前記ホエーを6.7から7.2のpHに中和する工程と、を含む。本発明による方法は、電気透析方法のみを用いて、前述の方法で従来生じる問題である限られた脱塩率、膜の詰まり、及び不十分な耐用年数を引き起こすことなくホエーの脱塩化を実行することを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエーを得る工程と、
前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、
前記ホエーを2から3.5のpHに酸性化する工程と、
酸性化された前記ホエーを低温殺菌する工程と、
低温殺菌され酸性化された前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、
脱塩化された前記ホエーを6.7から7.2のpHに中和する工程と、を含むホエーの脱塩化方法。
【請求項2】
第一の工程で得た前記ホエーは、18から25%の乾燥抽出物の濃縮されたホエーである、請求項1に記載の脱塩化方法。
【請求項3】
前記ホエーを電気透析する前記工程は、4.0から5.0mS/cmの導電率の前記ホエーを得るように行われる、請求項1又は2に記載の脱塩化方法。
【請求項4】
低温殺菌され酸性化された前記ホエーを電気透析する前記工程は、2.0から3.0mS/cmの導電率の低温殺菌され酸性化された前記ホエーを得るように行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の脱塩化方法。
【請求項5】
低温殺菌され酸性化された前記ホエーを電気透析する前記工程は、1.0から1.5mS/cmの導電率の低温殺菌され酸性化された前記ホエーを得るように行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の脱塩化方法。
【請求項6】
前記低温殺菌は、1から20分間80から120℃の温度で、好ましくは1から10分間90から100℃の温度で、より好ましくは約5分間約95℃の温度で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の脱塩化方法。
【請求項7】
前記電気透析する工程は、35℃から55℃の温度で、より好ましくは40℃から50℃の温度で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記中和する工程は、低温殺菌され酸性化された前記ホエーを電気透析する前記工程と同時に行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
約70%の脱塩率を有する、請求項4に記載の方法によって得られた脱塩化されたホエー。
【請求項10】
約90%の脱塩率を有する、請求項5に記載の方法によって得られた脱塩化されたホエー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳製品の分野に関し、より詳細には、ホエーの脱塩化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエーは、牛乳の凝固により生じる液状の部分であり、前述の凝固は牛乳の中で主要なタンパク質であるカゼインの変性によって生じる。2つのタイプの凝固があり、それぞれは2つの異なる種類のホエーをもたらす。凝固が乳凝固(lactic coagulation)であるかレンネット凝固であるかに応じて、得られるホエーはそれぞれ酸ホエーまたはスイートホエーと呼ばれる。ホエーはチーズホエーとも呼ばれる。
【0003】
数十年間、ホエーの用途を見つけることは、経済上並びに環境上の問題を提起してきた。確かに、組成は興味深いが、ホエーは50g/Lから70g/Lの化学的酸素要求量(COD)を有し、環境に放出することができず輸送費用が高い有機汚染物質となる。
【0004】
したがって、特に、脱塩化されたホエーを得られる脱塩化方法を用いたリサイクル方法が徐々に現れてきている。
【0005】
現在、液状又は粉末状の脱塩化されたホエーは、幼児向け及び規定食の製品、特に、母乳の代わりに用いる乳の主要な成分である。脱塩化されたホエーは、他の用途、例えば菓子及びチョコレートの中における又は還元脱脂乳の製造におけるスキムミルクの代わりの材料としての用途も有する。
【0006】
様々な技術、特に、限外ろ過、逆浸透、電気透析、及びイオン交換が、ホエーの脱塩化として検討されている。最初の2つの技術はあまりにも特殊なので、最後の2つが現実の工業上の用途を見出している。したがって、現在、最も効果的なホエーの脱塩化方法は、電気透析とイオン交換であり、それぞれ別々に又は組み合わせて適用される。
【0007】
電気透析は、電気化学の技術であり、陽イオンおよび陰イオンを選択的に透過する膜を通じて、電場の影響下で移動することによって、溶液からイオン化塩を選択的に取り除くことを可能にする。この技術では、陽イオンおよび陰イオンを選択的に透過する膜を通じて、ホエーの溶液中のイオン化塩は電場の影響下で移動し、塩水の形で排除される。しかし、電気透析はいくつかの問題を有している。その操作は不規則なことで知られており、ホエーの脱塩率は限られており、膜は詰まりやすくその寿命は比較的限られている。加えて、特定の制限要因があり、例えば、陰イオンが遅い速度で移動すること、並びにすべての塩を解離する困難さである。
【0008】
イオン交換は、固相と液相の間に存在するイオン平衡の原理に基づく技術であり、吸収及び排除現象を含む。この技術では、固相としての樹脂と液相としての脱塩化されるホエーとの間のイオン平衡が使用され、イオンは飽和段階の間同じ性質の樹脂に吸収され、その後樹脂が再生される。この技術の欠点の1つは、非常に大量の水が必要であり、使用後の処分法をよく知らない再生試薬を多量に使用しなければならないという事実にある。加えて、工業規模において、特に、樹脂を含むカラムの高さに起因して、この技術は気が遠くなるような大きさのシステムを必要とし、数メートルに達する可能性がある場合がある。最後に、この技術の適用は連続的ではなく、約40%の時間をホエーの脱塩化に費やし、約60%の時間を樹脂の洗浄とそれらの再生に費やすという事実に別の欠点がある。
【0009】
脱塩化の生産性を高めるために、米国特許第4,803,089号では、2段階方法でのこれらの2つの技術の組み合わせを記載しており、電気透析は約50〜60%の最初の脱塩化を提供し、イオン交換、好ましくは弱い陽イオン性樹脂と強い陽イオン性樹脂が連続する多段のイオン交換は、約90〜95%の最終的な脱塩化を達成する。
【0010】
米国特許第4,138,501号から、電気透析によって浄化されて脱脂されたホエーを脱塩化して、次に、最初はH+型の強い陽イオン交換樹脂、続いてOH−型の弱い陰イオン交換樹脂を用いるイオン交換の方法が知られている。記載された方法の変形例として、ホエーは交換樹脂によるイオン交換工程の前に、任意選択で低温殺菌されてもよい。
【0011】
これらのタイプの方法は、イオン交換工程が大量の化学試薬を必要とし、また、非常に多くの量の水を消費するという欠点を有する。加えて、特に電気エネルギーに対する需要が高いため、現時点まで電気透析は60%の脱塩率を超えて使用されていない。
【0012】
欧州特許1053685号からも、ナノろ過膜を通した移動によって塩を分離する工程を含み、この分離工程の上流と、その後、二価の陽イオンをプロトンと交換する少なくとも一つの工程と、二価の陰イオンを塩化物イオンと交換する少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする、ホエーの脱塩化を目的とするホエーの処理方法が知られている。
【0013】
米国特許3,325,389号は、電気透析によるホエーの脱塩化方法を記載しており、前記ホエーは、130°Fから145°F(54℃から63℃)で最大30時間、好ましくは最大2時間、脱塩化阻害物質を沈殿させ、電気透析による脱塩化の速度を加速するために、pHを約4から5に保ちながら、熱処理工程に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,803,089号
【特許文献2】米国特許第4,138,501号
【特許文献3】欧州特許1053685号
【特許文献4】米国特許3,325,389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、ホエーの脱塩化の解決策が提案されているが、特にホエーのリサイクルに対する増大する要求を満たすことができる、新しく、より効果的な代替案を開発する必要性がまだ存在している。
【0016】
本発明者らは、いくつかの又はすべての上述した問題を克服し、同時に生産コストと工業用設備の大きさに関して利点を提供する質的な製品を得る、ホエーの脱塩化方法を開発することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明の目的は、ホエーを得る工程と、前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、前記ホエーを2から3.5のpHに酸性化する工程と、酸性化された前記ホエーを低温殺菌する工程と、低温殺菌され酸性化された前記ホエーを30℃から60℃の温度で電気透析する工程と、脱塩化された前記ホエーを6.7から7.2のpHに中和する工程と、を含むホエーの脱塩化方法に関する。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、イオン交換工程を省き、同時に既知の電気透析の欠点を減らすことができる脱塩化方法で実行される特定の条件を見出した。実際には、本発明者らは、特に、最初の電気透析工程の後の、酸性化工程と低温殺菌工程の実施を見出し、次に、第2の電気透析工程によって、従来この方法で直面する問題、すなわち、限られた脱塩率、膜の詰まり、及び不十分な耐用年数を引き起こすことなく、脱塩化を継続することを可能にした。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本方法の最初の工程は、ホエーを得ることである。ホエーは、スイートホエー又は酸ホエーであってもよい。
【0020】
本発明の文脈において、酸ホエーは乳酸菌の代謝により引き起こされる酸化を用いた牛乳の凝固によって得られる液体であってもよい。一般的には、酸ホエーの組成は以下のとおりである。
ラクトース:4.0〜5.0%
タンパク質:0.6〜0.7%
無機塩(主にNa
+、K
+、及びCa
2+):0.7〜0.8%
脂肪:0.05〜0.1%
乾物含量(乾燥抽出物総量):5.3〜6.0%
酸性度:pH4.3〜4.6
【0021】
本発明の文脈において、「スイートホエー」という用語は、チーズの生産中、レンネットを用いてカゼインを凝固した後に得られる液体を表す。前述したとおり、スイートホエーは公知のチーズ産業の副産物である。一般的には、スイートホエーの組成は以下のとおりである。
ラクトース:4.0〜5.0%
タンパク質:0.6〜0.8%
無機塩(主にNa
+、K
+、及びCa
2+):0.4〜0.6%
脂肪:0.2〜0.4%
乾物含量(乾燥抽出物総量):5.3〜6.6%
酸性度:pH5.9〜6.5
【0022】
好ましい実施形態において、提供されるホエーはスイートホエーである。本実施形態によると、スイートホエーは未加工型又は濃縮型であってもよい。同様に、それはホエー粉末から戻されたホエーでもあってもよい。
【0023】
この好ましい実施形態の変形例によると、スートホエーは濃縮されたスイートホエーであり、有利には18から25%の乾燥抽出物が得られるまで穏やかな加熱条件下で熱濃縮されている。好ましくは、スイートホエーは18から23%の乾燥抽出物、より詳細には、約20%の乾燥抽出物を有する。ホエーは、その導電特性及び灰分によっても定義され得る。本実施形態によると、提供される濃縮されたホエーは、20℃で13.5から14.5mS/cmの導電率Ωと7.8から8.4の灰分を有する。
【0024】
有利には、提供されるホエーは、電気透析工程の前に脱脂されて浄化されてもよい。
【0025】
本発明による方法の第2の工程は、ホエーの電気透析からなる。この最初の電気透析は、30℃から60℃の温度、好ましくは35℃から55℃、より好ましくは40℃から50℃の温度で実行される。例えば、この電気透析工程は、約45℃の温度で実行されてもよい。
【0026】
電気透析工程は、所望の脱塩率、すなわち、この段階に対する少なくとも30%、少なくとも40%の脱塩率、より好ましくは約50%の脱塩率に達するまで実行される。
【0027】
「脱塩率」という語句は、最初のホエー中の無機塩の量に対するホエーから除去された無機塩の量の割合(言い換えると、最初のホエー中の無機塩の量と脱塩化されたホエー中の残りの量との間の差)を同じ乾燥物質割合で表す。
【0028】
当業者は、ホエーの導電率からホエーの脱塩率を評価できる。加えて、脱塩化されたホエーの灰分は、達成された脱塩率の指標となり得る。本発明の目的のために、「灰」とい用語は、ホエーの乾燥物質の焼却によって生じる生成物を意味すると理解される。本発明において、灰分はNF04−208規格によって測定される。
【0029】
本発明による方法のこの第2の工程において、電気透析は4.0から5.0mS/cmのホエーの導電率、及び/又は、3.3から3.9の灰分が得られるように実行され、これは約50%の脱塩率に相当する。
【0030】
本方法の第3の工程は、pHを2から3.5とするホエーの酸性化からなる。本発明者らは、実際、ホエーの酸性化及び低pHでの操作は、いくつかの利点、特に電気透析の効率に対する利点を有することを見出した。一方では、低pHがホエー中に存在する二価の塩及び三価の塩のイオン化を促進するため効率が向上し、この結果として、例えばカルシウム又はマグネシウムの利用率が向上する。その一方で、これが、ホエーの粘度を低下させ、電気透析の膜を通り抜けるイオンのより良好な流れにつながる。結果として、膜の詰まりが減り、これらの耐用年数が増加する。
【0031】
加えて、ホエーを2から3.5のpHで維持することは、低温殺菌の間の血清タンパク質の凝集及び変性を防ぐことによって、血清タンパク質の熱安定性を確保する。この点は、脱塩化されたホエーの栄養価の維持に特に関係する。有利には、酸性のpHにより脱塩化操作の間のあらゆる細菌の増殖も防ぐ。
【0032】
最後に、脱塩化方法における本発明による酸性条件の維持は、水及び化学薬品の消費を減らすことができるという点においても有利である。
【0033】
酸性化は、ホエーのpHを2.0から3.5の値に低下させ、維持する方法で実行される。好ましくは、ホエーのpHは2.5から3.2の値に、より好ましくは、3にほぼ等しい値に下げられて維持される。pHの低下は、当業者に公知の手段、例えば、塩酸(HCl)溶液の使用などによって実行され得る。
【0034】
本発明による方法の第4の工程は、酸化されたホエーの低温殺菌の工程からなる。この低温殺菌は、タンパク質を変えることなく、ホエー中に存在する微生物の数を著しく減少させ、特に芽胞形成細菌及び耐熱性細菌などのほとんどの耐性細菌を取り除くことを可能にする。この工程は、従来使用していた温度より高い温度で電気透析工程を実行できるという利点も有する。
【0035】
この低温殺菌工程は、90℃から125℃の温度で5秒間から30分間の持続時間、好ましくは5秒間から15分間の持続時間、より好ましくは10秒間から5分間の持続時間、例えば、約5分間などで実行される。
【0036】
特定の実施形態によると、低温殺菌は、3から7分間の持続時間及び90℃から100℃の温度で、好ましくは約95℃温度及び約5分間の持続時間で実行される。
【0037】
別の特定の実施形態によると、低温殺菌は、5から20秒間の持続時間及び105℃から125℃の温度で、好ましくは110℃から120℃の温度及び10から15秒間の持続時間で実行される。
【0038】
別の特定の実施形態によると、低温殺菌は、1から20分間及び80から120℃の温度で、好ましくは1から10分間及び90から100℃の温度で、より好ましくは約5分間及び約95℃の温度で実行される。
【0039】
従来、ホエーの脱塩化方法において、低温殺菌は、穏やかな条件下、すなわち70℃から80℃の温度及び10から15秒間の持続時間で、チーズ及び酵母を作るために使用される細菌培養を、血清タンパク質を有意に変えることなく排除するために、実行される。しかし、これらの穏やかな条件は、耐熱性細菌を取り除くことができないという欠点を有する。
【0040】
上述したとおり、本発明による低温殺菌の間、2から3.5の酸性のpHでホエーを維持するため、血清タンパク質は凝集せず、変性しない。この点は、脱塩化されたホエーの栄養価の維持に特に関係する。
【0041】
本発明による方法の第5の工程は、酸性化され低温殺菌されたホエーを電気透析する工程からなる。上述したとおり、この工程において、ホエー中の溶液中のイオン化塩は、電場の影響下で陽イオン及び陰イオンを選択的に透過する膜を通じて移動し、塩水の形で排除される。電気透析工程は、30℃から60℃の温度で、好ましくは35℃から55℃の温度で、より好ましくは40℃から50℃の温度で実行される。例えば、電気透析工程は、約45℃の温度で実行されてもよい。
【0042】
有利には、これらの温度は、ホエーの粘度の低下及び無機塩の優れた解離に貢献することができる。加えて、電気透析で使用される温度は従来使用していた温度よりも高いが、あらかじめ酸性化され低温殺菌されたホエーは高い微生物安定性を保持し、どんな有害な微生物叢も発育させない。
【0043】
電気透析工程は、酸性化されたホエーの所望の脱塩率、すなわち、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又はさらには少なくとも90%の脱塩率に達するまで実行される。
【0044】
好ましくは、この工程によって、酸化されたホエーは約70%の脱塩率、より好ましくは約90%の脱塩率を示す。
【0045】
したがって、この第2の電気透析工程は、従来この技術で直面していた問題を防ぎながら、ホエーに対する優れた脱塩率を得ることを可能にする。
【0046】
したがって、本発明による方法は、電気透析の手段のみによって脱塩化されたホエーを得ることを可能にする。したがって、先行技術から公知のものと違い、脱塩化方法は、例えば二価の陽イオンをプロトンと交換する工程及び二価の陰イオンを塩化物イオンと交換する工程等のあらゆるイオン交換工程を含まない。
【0047】
上述したとおり、当業者は酸化されたホエーの脱塩率を、脱塩化されたホエーの導電率及び灰分によって評価することができる。
【0048】
特定の実施形態によると、第2の電気透析工程は、2.0から3.0mS/cmのホエーの導電率、及び/又は、0.8から1.5の灰分が得られるように実行され、これは約70%の脱塩率に相当する。
【0049】
別の特定の実施形態によると、第2の電気透析工程は、1.0から1.5mS/cmのホエーの導電率、及び/又は、0.8から1.5の灰分が得られるように実行され、これは約90%の脱塩率に相当する。
【0050】
電気透析工程が目標の脱塩率を示すホエーを得ることになる場合、本発明による方法は中和工程を含む。有利には、中和は第2の電気透析工程と同時に実行される。
【0051】
中和は、当業者に公知の技術であり、溶液のpH又は流出物のpHを必要条件による固定値とすることからなる。本発明において、pHを6.5から7.4、好ましくは6.7から7.2の値に上げるために、脱塩化されたホエーについて中和を実行する。
【0052】
中和工程のために、当業者に公知の塩基性溶液、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、又はこれらの混合物の溶液を使用してもよい。中和は、電気透析によって脱塩化されたホエーの導電率の増加につながり、前述のホエーの電気透析による穏やかな最後の脱塩工程は、ホエーを70%脱塩化するために2.0から3.0mS/cmの導電率、又は、ホエーを90%脱塩化するために0.8から1.5mS/cmの導電率を得ることを可能にする。
【0053】
したがって、中和の後、本発明による脱塩化されたホエーは、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又はさらには少なくとも90%の脱塩率を有する。
【0054】
特定の実施形態によると、中和は第2の電気透析工程の前に実行されてもよい。本実施形態において、pHを6.0から6.5、好ましくは6.1から6.3の値に上げるために、脱塩化されたホエーについて中和を実行する。この特定の実施形態は、有利には、本発明による方法の第1の工程で提供されるホエーの無機物の性質の変動性をより考慮に入れることができる。
【0055】
本発明の脱塩化されたホエーは、4%未満、好ましくは2.7%未満の灰分、より詳細には1.1%未満の灰分を有する。
【0056】
本発明の脱塩化されたホエーは、栄養学及び食品学の分野、特に子供の栄養向きの乳の調製において特定の用途を見出す。有利には、本発明の方法による脱塩化されたホエーは、授乳中の幼児向けの乳の製造において用途を見出す。
【0057】
本発明の第2の目的は、上述の方法によって得ることが可能な脱塩化されたホエーに関する。
【0058】
本発明の方法によって得られる脱塩化されたホエーは、イオンの特定の組成を有し、したがって、Na
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cl
−、及びPの非常に特別な量によって特徴づけられ得る。
【0059】
したがって、本発明による70%脱塩化されたホエーは、例えば以下の量のイオンを有してもよく、前述の量は100gの脱塩化されたホエーの乾燥抽出物あたりのmgで表される。
Na
+:400から750、好ましくは450から650
K
+:75から200、好ましくは85から180、より詳細には90から175
Ca
2+:100から300、好ましくは115から275、より詳細には130から250
Mg
2+:45から95、好ましくは55から85、より詳細には65から80
Cl
−:10から130、好ましくは20から120、より詳細には25から115
P:100から270、好ましくは120から250、より詳細には135から235
【0060】
本発明によるによる90%脱塩化されたホエーは、例えば以下の量のイオンを有してもよく、前述の量は100gの脱塩化されたホエーの乾燥抽出物あたりのmgで表される。
Na
+:81から105、好ましくは86から100、より詳細には90から96
K
+:156から186、好ましくは161から181、より詳細には166から176
Ca
2+:125から153、好ましくは128から148、より詳細には133から143
Mg
2+:58から76、好ましくは62から72、より詳細には65から69
Cl
−:17から35、好ましくは21から31、より詳細には24から28
P:124から152、好ましくは127から147、より詳細には132から142
【0061】
本発明は、以下の実施例を用いてより理解されることができ、これらは単に例示的なものであり、決して保護範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0062】
灰分はNF04−208規格によって測定される。
【0063】
<実施例1:本発明による脱塩化されたホエーの調製>
(試験1):試験のために、3つの溶液を調製しタンクに入れた。溶液の内容物を以下に記載する。
タンク1:19.63%の乾燥抽出物の濃縮されたスイートホエーの20L溶液。溶液は30.8℃の温度及び13.71mS/cmの導電率を有する。溶液を95℃で5分間低温殺菌した。
タンク2:40℃の水道水20Lで調製し、数滴の37%HClで酸性化した塩水溶液。溶液のpHは2.89である。
タンク3:30℃の水道水18L、及び導電率を15から18mS/cm(20℃において)に調節するための数滴の95%H
2SO
4で調製した電解質溶液。溶液は16.37mS/cm(20℃において)の導電率、1.43に相当するpH、及び27.6℃の温度を有する。
【0064】
電気透析を開始し、pHと導電率をあらかじめ較正したプローブによって連続的に確認する。
【0065】
ホエーの導電率が4.52mS/cmに達する時、電気透析を停止する。次に、15Lの塩水を取り除き、HClを加えることでpHを2.79に調節した水道水と交換し、電気透析を再開する。
【0066】
最後に、酸性化され脱塩化されたホエーの溶液が2.56mS/cmの導電率を有する時、電気透析を再び停止する。
【0067】
中和を実行するために、75mLの40%NaOHをタンク1に加えて、pHを6.6に調節し;導電率を3.88mS/cmにする。15Lの塩水を取り除き、pHを2.86に調節した40℃の水道水と交換する。電気透析を、脱塩化されたホエーの溶液が2.74mS/cmの導電率を有するまで約30分間の持続時間で再開する。
【0068】
得られた脱塩化されたホエーの特性の分析を行うために、第1の電気透析を停止した後(試料1)、及び本方法の最後に第2の電気透析を停止した後(試料2)、試料を収集する。結果を以下の表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
膜を通り抜けたイオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び塩素)の移動を検証するために、物質収支を評価した。この評価は、ホエーから消失したイオンの量が、15%未満の量の間の相対的差異で塩水溶液中に見いだされることを裏付ける。
【0071】
本発明の方法によって脱塩化されたホエーは73%の脱塩率を有し、無機物の組成は仕様と一致する。
【0072】
(試験2):この試験は、試験1と同じ操作条件下で再現されるが、最初の溶液がわずかに異なる。したがって、3つの新しい溶液を調製しタンクに入れた。溶液の内容物を以下に記載する。
タンク1:19.58%の乾燥抽出物の濃縮されたスイートホエーの20L溶液。溶液は29.9℃の温度及び13.85mS/cmの導電率を有する。溶液を95℃で5分間低温殺菌した。
タンク2:29.5℃の水道水20Lで調製し、数滴の37%HClで酸性化した塩水溶液。溶液のpHは3.09である。
タンク3:30℃の水道水18L、及び数滴の95%H
2SO
4で調製した電解質溶液。溶液は18.49mS/cm(20℃において)の導電率、1.24に相当するpH、及び30.7℃の温度を有する。
【0073】
各タンクを、試験1と同じ特徴を有する電気透析装置に接続する。
【0074】
電気透析を開始し、pHと導電率をあらかじめ較正したプローブによって連続的に確認する。
【0075】
ホエーの導電率が4.49mS/cmに達する時、電気透析を停止する。次に、20Lの塩水を取り除き、HClを加えることでpHを2.88に調節した水道水と交換し、電気透析を再開する。
【0076】
最後に、脱塩化され酸性化されたホエーの溶液が2.77mS/cmの導電率を有する時、電気透析を再び停止する。
【0077】
中和を実行するために、86mLの40%NaOHをタンク1に加えて、血清のpHを6.65にし;次に血清の導電率を4.33mS/cmにする。
【0078】
20Lの塩水を取り除き、pHを2.87に調節した40℃の水道水と交換する。電気透析を、脱塩化されたホエーの溶液が3.02mS/cmの導電率及び6.50のpHを有するまで約30分間の持続時間で再開する。
【0079】
得られた脱塩化されたホエーの特性の分析を行うために、第1の電気透析を停止した後(試料1)、及び本方法の最後に第2の電気透析を停止した後(試料2)、試料を収集する。結果を以下の表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
膜を通り抜けたイオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び塩素)の移動を検証するために、物質収支を評価した。この評価は、ホエーから消失したイオンの量が、15%未満の量の間の相対的差異で塩水溶液中に見いだされることを裏付ける。
【0082】
本発明の方法によって脱塩化されたホエーは70%の脱塩率を有し、無機物の組成は仕様と一致する。
【0083】
このホエーの脱塩率を増加させるために。
【0084】
(試験3):この試験は、試験1及び試験2と同じ操作条件下で再現されるが、最初の溶液がわずかに異なる。したがって、3つの新しい溶液を調製しタンクに入れた。溶液の内容物を以下に記載する。
タンク1:19.7%の乾燥抽出物の濃縮されたスイートホエーの20L溶液。溶液は29.9℃の温度及び13.85mS/cmの導電率を有する。溶液を95℃で5分間低温殺菌した。
タンク2:33.5℃の水道水20Lで調製し、数滴の37%HClで酸性化した塩水溶液。溶液のpHは3.01である。
タンク3:30℃の水道水18L、及び導電率を15から18mS/cm(20℃において)に調節するための数滴の95%H
2SO
4で調製した電解質溶液。溶液は17.28mS/cm(20℃において)の導電率、1.23に相当するpH、及び36.1℃の温度を有する。
【0085】
各タンクを、試験1と同じ特徴を有する電気透析装置に接続する。
【0086】
第1の電気透析を開始し、pHと導電率をあらかじめ較正したプローブによって連続的に確認する。
【0087】
ホエーの導電率が4.51mS/cmに達する時、電気透析を停止する。
【0088】
次に、20Lの塩水を取り除き、HClを加えることでpHを2.92に調節した水道水と交換し、電気透析を再開する。
【0089】
最後に、脱塩化されたホエーの溶液が2.26mS/cmの導電率を有する時、電気透析を再び停止する。
【0090】
中和を実行するために、84mLの40%NaOHをタンク1に加えて、pHを6.8にし、導電率を3.8mS/cmにする。20Lの塩水を取り除き、pHを2.87に調節した40℃の水道水と交換する。電気透析を、脱塩化されたホエーの溶液が2.78mS/cmの導電率及び6.7のpHを有するまで約30分間の持続時間で再開する。
【0091】
得られた脱塩化されたホエーの特性の分析を行うために、第1の電気透析を停止した後(試料1)、及び本方法の最後に第2の電気透析を停止した後(試料2)、試料を収集する。結果を以下の表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
膜を通り抜けたイオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び塩素)の移動を検証するために、物質収支を評価した。この評価は、ホエーから消失したイオンの量が、15%未満の量の間の相対的差異で塩水溶液中に見いだされることを裏付ける。
【0094】
本発明の方法によって脱塩化されたホエーは69%の脱塩率を有し、無機物の組成は仕様と一致する。
【0095】
<実施例2:本発明によって約90%に脱塩化されたホエーの調製>
【0096】
実施例1の試験1と同じ操作条件及び同じタンク内の溶液を用いて、酸化されたホエーの導電率が3.02mS/cmに達するまで電気透析を開始する。
【0097】
水酸化ナトリウム:水酸化カリウム(1:3)の混合物を用いて中和を実行し、6.7のpH及び5.37mS/cmの導電率を得る。5Lの塩水を取り除き、40℃の水道水溶液と交換する。電気透析を約2時間再開し、次に脱塩化されたホエーの溶液が1.04mS/cmの導電率及び6.5のpHを有する時に再び停止する。
【0098】
得られた脱塩化されたホエーの特性の分析を行うために、第1の電気透析を停止した後(試料1)、及び本方法の最後に第2の電気透析を停止した後(試料2)、試料を収集する。結果を以下の表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
膜を通り抜けたイオン(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び塩素)の移動を検証するために、物質収支を評価した。この評価は、ホエーから消失したイオンの量が、20%未満の量の間の相対的差異で塩水溶液中に見いだされることを裏付ける。
【0101】
本発明の方法によって脱塩化されたホエーは89%の脱塩率を有し、無機物の組成は仕様と一致する。
【国際調査報告】