特表2021-518431(P2021-518431A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-518431重度の便秘を治療するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-518431(P2021-518431A)
(43)【公表日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】重度の便秘を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20210705BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20210705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210705BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20210705BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20210705BHJP
   A61K 31/553 20060101ALN20210705BHJP
   A61K 31/5383 20060101ALN20210705BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALN20210705BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P1/10
   A61K39/395 D
   A61K39/395 P
   A61K31/444
   A61K31/4245
   A61K31/553
   A61K31/5383
   A61K31/4965
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-573085(P2020-573085)
(86)(22)【出願日】2019年3月15日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月27日
(86)【国際出願番号】US2019022499
(87)【国際公開番号】WO2019178492
(87)【国際公開日】20190919
(31)【優先権主張番号】62/644,033
(32)【優先日】2018年3月16日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520358070
【氏名又は名称】アンジ ファーマシューティカルズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハブバード,ブライアン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】セラーノ−ウー,マイケル エイチ.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA721
4C084ZC202
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB22
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC48
4C086BC71
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA72
(57)【要約】
本開示は、ジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤の使用を含む、胃腸機能障害の治療及び予防が必要な対象における胃腸機能障害の治療及び予防に関連した方法を提供する。本開示はまた、本願に記載の治療に有用な、DGAT1阻害剤またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルを含む医薬組成物も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オピオイド誘発性便秘の治療または予防における使用のためのジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤を含む薬学的組成物。
【請求項2】
前記DGAT1阻害剤は、トランス−4−(4−(5−((6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アミノ)ピリジン−2−イル)フェニル)シクロヘキサン酢酸(プラジガスタット)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルである、請求項1に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項3】
前記DGAT1阻害剤は、3−(4−(6−(5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−3,5−ジメチルフェニル)−2,2−ジメチルプロパン酸(化合物9)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルである、請求項1に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項4】
前記DGAT1阻害剤は、抗体である、請求項1に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項5】
胃腸機能障害の治療または予防における使用のためのジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤。
【請求項6】
前記胃腸機能障害は、便秘である、請求項5に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【請求項7】
前記便秘は、オピオイド誘発性便秘である、請求項6に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【請求項8】
前記DGAT1阻害剤は、トランス−4−(4−(5−((6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アミノ)ピリジン−2−イル)フェニル)シクロヘキサン酢酸(プラジガスタット)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【請求項9】
前記DGAT1阻害剤は、3−(4−(6−(5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−3,5−ジメチルフェニル)−2,2−ジメチルプロパン酸(化合物9)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【請求項10】
前記DGAT1阻害剤は、抗体である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【請求項11】
前記使用は、ヒトの治療のためのものである、請求項5〜10のいずれか1項に記載の使用のためのDGAT1阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年3月16日に出願された米国仮出願第62/644,033号の優先権及びより早い出願日の利益を主張し、これはその全体が参照により本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
慢性疼痛の治療のためのオピオイドの使用は、過去10年間にわたって劇的に増加している。慢性疼痛は、がん及び非がん性病態と関連している。米国における診療所に疼痛症状で受診した患者のおよそ20%がオピオイドを処方された。中国のオピオイドの処方は、2013年から現在まで毎年およそ21%増加している。オピオイドを長期間摂取している患者は、オピオイド誘発性便秘(OIC)を発症するリスクがある。オピオイドを摂取している患者の40〜80%がOICを有すると推定されている。
【0003】
OICはしばしば、食物繊維、水分摂取量、または身体活動レベルの増加などの、便秘のための典型的な治療に対して非反応性である。バルク形成下剤(例えば、オオバコ、メチルセルロース)の使用及び過度の食物繊維の摂取は有害でさえあり得るが、その理由は、これらの薬剤は、腸閉塞を引き起こし、糞便詰まりを悪化させ得るからである。刺激物は、過度に乾燥した糞便物質の促進により、腸炎症を引き起こし得る。また、鉱物油は、多くの安全性の問題を有し、長期間の使用で脂溶性ビタミンA、D、E、及びKの吸収を低下させる。浸透圧剤の使用は、電解質異常につながり、OICの治療のためには直腸投与しなければならない。皮下注射によって投与されるメチルナルトレキソン(Relistor(登録商標))などの処方薬剤は、重篤な腹痛を引き起こし得る。現在、便秘の治療のために中国で使用されている伝統的中国医薬(Xiao−Cheng−Qi煎じ薬)は、非常に限られた効果を有する。有効で最小の副作用を有するOICの治療を明らかにする必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
所定の態様では、本開示は、胃腸機能障害、特に便秘(例えば、OIC)の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法であって、治療的有効量のDGAT1阻害剤を対象に投与し、これにより胃腸機能障害の症状が軽減されることを含む、方法を提供する。
【0005】
DGAT1(ジアシルグリセロールアセチルトランスフェラーゼ1)は、腸、肝臓及び脂肪組織におけるトリグリセリド生合成に関連する酵素であり、糖尿病及び心血管疾患の治療のための潜在的な標的として調査されてきた。DGAT1阻害薬を使用した試験の結果は当初は良好であったが、最も一般的な副作用は下痢であった。その後のヒト遺伝学的研究では、下痢は、ヒトにおけるDGAT1の機能損失と関連していることが示されている。
【0006】
一態様では、胃腸機能障害の治療または予防のための薬剤の製造におけるジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤の使用が開示されている。別の態様では、例えば、DGAT1阻害剤を担体または賦形剤などの少なくとも1つの物質と混合して、薬学的組成物を形成することによって、オピオイド誘発性便秘を治療または予防するための薬学的組成物を製造する方法が開示されている。別の態様では、オピオイド誘発性便秘の治療または予防における使用のためのDGAT1阻害剤を含む薬学的組成物が開示されている。さらに別の態様では、胃腸機能障害の治療または予防における使用のためのDGAT1阻害剤が開示されている。一態様では、胃腸機能障害の治療または予防を、それを必要とする非ヒト対象において行う方法であって、ジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤を対象に投与し、その後に胃腸機能障害の症状が軽減されることを含む、方法が開示されている。一態様では、胃腸機能障害の治療または予防のためのDGAT1阻害剤の使用が開示されている。いくつかの態様では、胃腸機能障害の治療または予防を、それを必要とする対象において行う方法であって、ジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)阻害剤を対象に投与し、これを介して胃腸機能障害の症状が軽減されることを含む、方法が開示されている。別の態様では、オピオイド誘発性便秘の治療または予防を、それを必要とする対象において行う方法であって、DGAT1阻害剤を含む薬学的組成物を対象に投与することを含む、方法が開示されている。
【0007】
これらの態様の各々は、様々な実施形態を有する。例えば、胃腸機能障害は、慢性特発性便秘、便秘を伴う過敏性腸症候群、オピオイド誘発性便秘、または妊娠、投薬、もしくは神経障害による便秘などの便秘であり得る。所定の好ましい実施形態では、便秘は、オピオイド誘発性便秘である。これらの態様のいくつかの実施形態は、オピオイドとの共同投与(例えば、薬剤とオピオイド、DGAT1阻害剤とオピオイド)を含む。対象は、いくつかの実施形態では、オピオイドでの治療を受けている。DGAT1阻害剤は、小分子、例えば、トランス−4−(4−(5−((6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アミノ)ピリジン−2−イル)フェニル)シクロヘキサン酢酸(プラジガスタット)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステル)、あるいは3−(4−(6−(5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−3,5−ジメチルフェニル)−2,2−ジメチルプロパン酸(化合物9)またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルであり得る。他の実施形態では、DGAT1阻害剤は、抗体である。様々な実施形態では、本出願に開示される組成物及び方法は、ヒトの治療のためのものである(例えば、対象はヒトである)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ロペラミド誘発性便秘のモデルにおける糞便ペレット数排出量(FPCO)を示している。動物には、試験を通して10mg/kgのロペラミドが投薬された。試験の4日目から7日目までの間に製品1が投与された。試験最終日(7日目)に、マウスにビヒクル、製品1(30mg/kg)、またはナロキソン(1mg/kg)を投薬し、FPCOを24時間測定した。この図では、製品1を指すために「実施例1」という表示を使用しており、左から右まで次の順序での各時点のバーを示している:ビヒクル/ビヒクル→ロペラミド/ビヒクル→ロペラミド/製品1→ロペラミド/ナロキソン。ロペラミド/ビヒクル群と比較した***P<0.001;*P<0.05;n=10/群。ポストホックフィッシャーのLSD検定を用いた2元配置ANOVA。
図2】ロペラミド誘発性便秘のモデルにおける糞便ペレット湿潤重量(FPWW)を示している。動物には試験を通して10mg/kgのロペラミドを投薬した。製品1を試験の4日目から7日目までの間で投与した。試験最終日(7日目)に、マウスにビヒクル、製品1(30mg/kg)、またはナロキソン(1mg/kg)を投薬し、FPWWを24時間測定した。この図では、製品1を指すために「実施例1」という表示を使用しており、左から右まで次の順序での各時点のバーを示している:ビヒクル/ビヒクル→ロペラミド/ビヒクル→ロペラミド/製品1→ロペラミド/ナロキソン。ロペラミド/ビヒクル群と比較した*P<0.05;n=10/群。ポストホックフィッシャーのLSD検定を用いた2元配置ANOVA。
図3】ロペラミド誘発性便秘のモデルにおける糞便ペレット乾燥重量(FPDW)を示している。動物には試験を通して10mg/kgのロペラミドを投薬した。製品1を試験の4日目から7日目までの間で投与した。試験最終日(7日目)に、マウスにビヒクル、製品1(30mg/kg)、またはナロキソン(1mg/kg)を投薬し、FPDWを24時間測定した。この図では、製品1を指すために「実施例1」という表示を使用しており、左から右まで次の順序での各時点のバーを示している:ビヒクル/ビヒクル→ロペラミド/ビヒクル→ロペラミド/製品1→ロペラミド/ナロキソン。ロペラミド/ビヒクル群と比較した*P<0.05;n=10/群。ポストホックフィッシャーのLSD検定を用いた2元配置ANOVA。
【発明を実施するための形態】
【0009】
所定の態様では、本開示は、胃腸機能障害の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法であって、治療的有効量のDGAT1阻害剤を対象に投与することを含み、胃腸機能障害の症状が軽減される、方法を提供する。好ましい実施形態では、胃腸機能障害は、便秘である。便秘は、慢性特発性便秘、便秘を伴う過敏性腸症候群、オピオイド誘発性便秘(OIC)、または妊娠、投薬、もしくは神経障害(例えば、自律神経ニューロパシー、糖尿病関連ニューロパシー、多発性硬化症、脊髄損傷、または脳卒中)による便秘であり得る。特に好ましい実施形態では、便秘は、オピオイド誘発性便秘である。所定の実施形態では、対象は、慢性的にオピオイドでの治療を受ける対象である。
【0010】
いくつかの実施形態では、DGAT1阻害剤は、小分子である。いくつかの実施形態では、DGAT1阻害剤は、2−(4−(4−(5−((6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アミノ)ピリジン−2−イル)フェニル)シクロヘキシル)酢酸(例えば、トランス−4−(4−(5−((6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アミノ)ピリジン−2−イル)フェニル)シクロヘキサン酢酸(プラジガスタット)、またはその任意の混合物(例えば、シス及びトランス異性体の混合物))である。さらに他の実施形態では、DGAT1阻害剤は、3−(4−(6−(5−(4−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−3,5−ジメチルフェニル)−2,2−ジメチルプロパン酸(化合物9)である。さらに他の実施形態では、DGAT1阻害剤は、抗体、抗体の一部、抗体の模倣体、またはそのバリアント/組み合わせ(例えば、mAb、F(ab’)、Fab、scFv、タンデムジ−scFv、タンデムトリ−scFv、ダイアボディ、トリボディ、sdAb(例えば、VHH、VNAR)、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、モノボディ、ナノCLAMP)である。
【0011】
所定の好ましい実施形態では、対象は、ヒトである。
【0012】
所定の態様では、本開示はまた、本出願に記載の方法に有用なDGAT1阻害剤、またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルを含む薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、経口送達のために製剤化される。他の実施形態では、組成物は、直腸送達のために製剤化される。組成物はまた、静脈内送達のために製剤化され得る。
【0013】
所定の好ましい実施形態では、オピオイド誘発性便秘の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法であって、治療的有効量の本出願に開示される薬学的組成物を対象に投与することを含む、方法が本出願で提供される。
【0014】
DGAT及びDGAT1阻害剤
ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)は、細胞内のグリセロ脂質の代謝において中心的な役割を果たすミクロソーム酵素である。DGATは、ジアシルグリセロール及び脂肪アシル−補酵素Aをトリアシルグリセロールに変換することによってトリアシルグリセロール(TAG)生合成における最終工程を触媒する。DGATは、細胞内ジアシルグリセロールの代謝において基本的な役割を果たしており、高等真核生物において、腸管吸収、リポタンパク質集合、脂肪組織形成、及び泌乳などのトリアシルグリセロール代謝を含む生理学的プロセスにとって重要である。
【0015】
DGAT1及びDGAT2という遺伝子によってコードされるDGATの2つのアイソザイムが存在する。両アイソザイムは同様の反応を触媒するが、それらは互いに配列相同性を有さない。DGAT1は主に、腸及び十二指腸を並べる吸収性腸細胞に存在し、そこでそれは、腸吸収のプロセスで脂肪分解により分解されたトリグリセリドを再構築する。DGAT1は関与段階でトリグリセリドを再構築し、その後、それらはコレステロール及びタンパク質と一緒に封入されてカイロミクロンを形成する。DGAT2は主に、脂肪、肝臓及び皮膚細胞に存在する。
【0016】
プラジガスタット(LCQ−908)は、DGAT1の代表的な阻害剤であり、その構造は以下に示されている:
【化1】
【0017】
別の選択的DGAT1阻害剤であるPF−04620110は、“Discovery of PF−04620110,a Potent,Selective,and Orally Bioavailable Inhibitor of DGAT−1,”ACS Med.Chem.Lett.2011,2,407−412に開示されており、その構造は以下に示されている:
【化2】
【0018】
別のDGAT1阻害剤は、JTT−553であり、その構造は以下に表されている:
【化3】
【0019】
別のDGAT1阻害剤は、AZD−7687であり、その構造は以下に表されている:
【化4】
【0020】
別のDGAT1阻害剤は、化合物9であり、その構造は以下に表されている:
【化5】
【0021】
他の好適なDGAT1阻害剤には、WO04047755、WO0204682、WO9745439、US20030154504、US20030167483、WO9967403、WO9967268、WO05013907、WO05044250、WO06064189、WO06004200、WO06019020、US20040209838、US20040185559、WO04047755、US20040224997、WO05072740、JP2006045209、WO06044775、JP2004067635、JP2005206492、米国特許第6,100,077号、WO04100881、WO06113919、WO072740、WO09126624、WO022551、及びWO07141545に記載されているDGAT1阻害剤、それらの塩またはエステルが含まれる。これらの特許及び刊行物は、それらの全体が、特にDGAT1阻害剤のそれらの開示について、参照により本出願に組み込まれる。
【0022】
本開示の方法及び組成物は、DGAT1阻害剤、またはその薬学的に許容可能な塩もしくはエステルの使用に関する。本出願に開示される組成物において有用なDGAT1阻害剤は、任意の好適なDGAT1阻害剤であり得る。DGAT1阻害剤は、事実上、ペプチド状または非ペプチド状であり得るが、非ペプチド状DGAT1阻害剤の使用は、例えば、投与の利便性のために好ましい。
【0023】
定義
本出願で本明細書において使用されるとき、「a」または「an」は、1つ以上を意味し得る。本出願で請求項(複数可)において使用されるとき、「含む」という単語と併せて使用される場合、「a」または「an」という単語は、1つまたは複数を意味し得る。本出願で使用されるとき、「別の」は、少なくとも2つ目またはそれ以上を意味し得る。
【0024】
「投与」及び/または「投与する」という用語は、治療を必要とする対象に化合物または化合物のプロドラッグを提供することを意味すると理解されるべきである。
【0025】
本出願で使用される「薬学的に許容可能な担体」という語句は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、またはカプセル化材料などの、薬学的に許容可能な材料、組成物またはビヒクルを意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、かつ対象に対して有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体として機能し得る材料のいくつかの例には、(1)ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)ピロゲン非含有水;(17)等張性生理食塩水;(18)リンゲル溶液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;ならびに(21)薬学的製剤に採用される他の非毒性適合性物質が含まれる。
【0026】
「対象」という用語は、ヒト、またはウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、またはネコなどの非ヒト哺乳動物を含むがこれらに限定されない哺乳動物を指す。
【0027】
「物質」という用語には、薬学的組成物に含まれ得るすべての成分(例えば、水、他の溶媒、担体、賦形剤)が含まれる。
【0028】
化合物または組成物を投与する文脈において、「共同」及び「共同で」という用語は、2つの異なる化合物または組成物が、それらの投与レジメンを互いに分離することも、他方の投与を開始する前に一方の投与を中止することもなく、投与され得ることを示す(例えば、それらは、両方を含む薬剤を介して投与され得、そうでなければそれらは、同時に投与され得、それらは、それらの投与間に大幅な時間遅延(例えば、1時間、6時間、12時間、1日、2日)を伴わずに別々に投与され得る)。
【0029】
本出願で使用されるとき、「治療する」または「治療」という用語は、対象の病態を改善または安定化するための手法で病態の症状、臨床徴候、及び基礎となる病状を覆すこと、軽減すること、または停止させることを含む。
【0030】
「療法的治療」という用語は、当該技術分野で認識されており、OICなどの望ましくない病状の発症後に組成物を対象に投与することを含む。
【0031】
治療方法
本出願では、治療的有効量のDGAT1阻害剤を対象に投与することによって、対象における胃腸機能障害を治療または予防する方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法は、対象における便秘を治療することに関する。所定の実施形態では、便秘は、オピオイド誘発性便秘である。また、オピオイド誘発性便秘の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、治療的有効量の本出願に開示される薬学的組成物を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0032】
組成物
いくつかの態様では、本発明は、DGAT1阻害剤を含む薬学的組成物に関する。組成物は、薬学的に許容可能な担体を含み得る。本出願に開示される薬学的組成物は、粉末、軟膏、点滴、液体、ゲル、錠剤、カプセル、丸剤、またはクリームによって、経口、頬側、舌下、非経口、及び直腸を含む任意の好適な投与経路によって送達され得る。所定の実施形態では、薬学的組成物は、一般的に(例えば、経口投与を介して)送達される。所定の他の実施形態では、本出願に開示される組成物は、直腸から送達される。いくつかの実施形態では、本出願に開示される組成物は、静脈内から送達される。
【0033】
薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、対象に対して毒性を伴わずに、対象、組成物、及び投与様式について所望の治療反応を達成するのに有効な活性成分の量を得るために変えられ得る。
【0034】
例えば、プラジガスタットは、約5mg〜約40mgの用量、例えば、約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、または約40mgの用量で投与され得る。同様に、化合物9は、約50mg〜約600mgの用量、例えば、約50mg、約150mg、約300mg、約450mg、または約600mgの用量で投与され得る。
【0035】
選択される投薬量レベルは、採用される特定の薬剤の活性、投与経路、投与時間、採用される特定の化合物の排泄または代謝の速度、治療の継続時間、採用される特定の化合物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物及び/または物質、治療される対象の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態及び以前の病歴、ならびに医学分野でよく知られているような要因を含む様々な要因に依存する。
【0036】
当該技術分野における通常の技術を有する医師または獣医師は、必要とされる薬学的組成物の有効量を容易に決定し、処方し得る。例えば、医師または獣医師は、薬学的組成物に採用される化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるものよりも低いレベルで処方及び/または投与し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させ得る。
【実施例】
【0037】
材料
製品1(CAS番号:956136−95−1)、ロペラミド、及びナロキソンをそれぞれ、商業的なベンダーから購入し、さらなる精製をせずに直接使用した。
【0038】
ロペラミド誘発性便秘のマウスモデル
雄のC57BLマウス(6〜8週齢、25〜30グラム)を高脂肪食(45%脂肪)に供し、6日間順応させた(12時間の明/暗サイクルで一匹で飼育した)。ロペラミドを試験開始前に3日間連続して10mg/kg(10%のDMSO/90%の生理食塩水中20%のSBE−β−CD)で経口摂取によって投与した。
【0039】
方法
毎日のロペラミド投薬を試験全体を通して継続した。ロペラミド投与の4日目に、製品1(10%のDMSO/90%の生理食塩水中20%のSBE−β−CD中に30mg/kg)を30分後に経口摂取によって投与した。ロペラミド及び製品1(ロペラミド投薬から30分後)の順次処置をさらにさらに2日間継続した。試験の最終日に、第4群の動物に陽性対照としてナロキソン(1mg/kg)の単回皮下投与を受けさせた。
【0040】
最終試験日に、各動物の糞便ペレット数及びペレット重量を投薬後6時間、1時間毎に記録した。次いで糞便ペレットの排出量を投薬後6〜12時間の期間、1時間おきに記録した。また、12〜24時間の期間の総糞便ペレット数を測定した。糞便ペレットを24時間乾燥させ、乾燥重量を記録した。
【0041】
Prismソフトウェア(GraphPad Prism,San Diego,CA)をグラフ及び曲線の適合に採用した。データは、ポストホックのLSD検定を用いた2元配置ANOVAを使用して分析した。
【0042】
結果
試験の結果は、製品1の30mg/kgでの投与により、化合物投与後最初の1〜4時間(FPCO、図1)または1〜4時間(湿潤及び乾燥重量、図2及び図3)において、糞便ペレット排出量、糞便ペレットの湿潤及び乾燥重量の有意な増加がもたらされたことを実証している。図では、製品1を指すために「実施例1」という表示を使用している。
【0043】
参考による組み込み
本出願で挙げられた各刊行物及び特許は、その全体が参照により本出願に組み込まれる。矛盾する場合は、本明細書の任意の定義を含む本出願が優先する。
【0044】
均等物
本発明の特定の実施形態が論述されてきたが、上記の明細書は例示的であり、限定的ではない。本発明の多くの類型は、本明細書及び以下の特許請求の範囲を検討すると、当業者に明らかになる。本発明の完全な範囲は、特許請求の範囲と、その均等物の完全な範囲、及び明細書と、そのような類型を参照することによって決定されるべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】