(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-519116(P2021-519116A)
(43)【公表日】2021年8月10日
(54)【発明の名称】血液ポンプを製作する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 60/205 20210101AFI20210712BHJP
A61M 60/122 20210101ALI20210712BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20210712BHJP
H02K 15/14 20060101ALI20210712BHJP
H02K 5/08 20060101ALI20210712BHJP
H02K 3/44 20060101ALI20210712BHJP
【FI】
A61M1/10 111
A61M1/12
H02K15/02 A
H02K15/14 Z
H02K5/08 A
H02K3/44 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-551321(P2020-551321)
(86)(22)【出願日】2019年3月22日
(85)【翻訳文提出日】2020年11月18日
(86)【国際出願番号】EP2019057272
(87)【国際公開番号】WO2019180221
(87)【国際公開日】20190926
(31)【優先権主張番号】18163758.8
(32)【優先日】2018年3月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】18163761.2
(32)【優先日】2018年3月23日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キルヒホッフ フランク
(72)【発明者】
【氏名】ペナーズ ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】カレル ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ケルクホフス ヴォルフガング
【テーマコード(参考)】
4C077
5H604
5H605
5H615
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD08
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4C077PP18
5H604AA05
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5H615SS44
(57)【要約】
血管内血液ポンプPは、インペラ6、およびインペラ6を駆動するための電気モータを含むポンピングデバイス1を備える。電気モータのロータ7が回転軸の周りに回転可能であり、インペラ6の回転を生じさせることができるようにインペラ6に結合されている。外側スリーブ13がポンピングデバイス1のケーシングを形成し、ステータ構成要素が、流し込み成形材料18を用いて外側スリーブ13の内部に固定されている。血液ポンプPを製作する方法では、外側スリーブ13を含むステータ構成要素が成形基台30上に配置され、これにより、ステータ構成要素が配置される、成形基台30と外側スリーブ13との間の隙間19を形成する。次に、成形基台を介して流し込み成形材料18を隙間19内に注入し、ステータ構成要素を外側スリーブ13の内部に固定する。外側スリーブ13は、好ましくは、電気モータのヨークを形成するための磁気伝導性材料を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内血液ポンプ(P)を製作する方法であって、前記血液ポンプが、インペラ(6)、および前記インペラ(6)を駆動するための電気モータを含む、ポンピングデバイス(1)を備え、前記電気モータがステータおよびロータ(7)を含み、前記ロータ(7)が回転軸の周りに回転可能であり、前記インペラ(6)の回転を生じさせることができるよう前記インペラ(6)に結合されており、前記方法が、
− ステータ構成要素を上に受容するようサイズ設定および形状設定された成形基台(30)を提供するステップと、
− 前記ステータ構成要素を前記成形基台(30)上に配置するステップと、
− 外側スリーブ(13)を前記成形基台(30)上に配置し、これにより、前記血液ポンプの外面の少なくとも一部分、および前記ステータ構成要素が配置される、前記成形基台(30)と前記外側スリーブ(13)との間の隙間(19)を形成するステップと、
− 前記成形基台を介して流し込み成形材料(18)を前記隙間(19)内に注入し、前記ステータ構成要素を前記外側スリーブ(13)の内部に固定するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記外側スリーブ(13)が、前記電気モータのヨークを形成するための磁気伝導性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記外側スリーブ(13)が金属または金属合金を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法であって、前記流し込み成形材料(18)を注入する前記ステップが、前記流し込み成形材料(18)を、前記成形基台(30)を通して前記隙間(19)内へ送り込むことを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法であって、前記流し込み成形材料(18)を注入する前記ステップが、前記隙間(19)が実質的に真空になる、低圧雰囲気中で実施されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法であって、前記流し込み成形材料(18)を注入する前記ステップが、過剰量の流し込み成形材料を前記隙間(19)内へ送り込み、それを通して押湯(19a)内へ導くことを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法であって、前記成形基台(30)が使い捨て部分であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記成形基台(30)が、射出成形された部分として提供されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法であって、前記成形基台(30)がポリマーを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記ポリマーが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法であって、前記成形基台(30)が、前記成形基台(30)の中心長手方向軸に沿って配置され、前記成形基台(30)から突出したピン(36)を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記ピン(36)が金属ピンとして提供されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法であって、前記流し込み成形材料(18)がポリマー材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記ポリマー材料がエポキシ樹脂であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の方法であって、前記方法が、前記流し込み成形材料(18)を注入する前記ステップの前に、前記外側スリーブ(13)を外部に対して密閉するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の方法であって、前記外側スリーブ(13)を前記成形基台(30)上に配置する前記ステップの前に、電気線材(10)を前記ステータ構成要素のうちの少なくとも1つに接続するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の方法であって、前記ステータ構成要素を前記成形基台(30)上に配置する前記ステップが、内側スリーブ(14)を前記成形基台(30)上に配置することを含み、これにより、前記流し込み成形材料(18)を注入するための前記隙間(19)が前記内側スリーブ(14)と前記外側スリーブ(13)との間に形成され、前記内側スリーブ(14)が、前記ロータ(7)を受容するための空洞(22)を形成することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、少なくとも1つのシールリング(40a、40b)を前記外側スリーブ(13)と前記内側スリーブ(14)との間に提供し、これにより、シールをそれらの間に形成するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記少なくとも1つのシールリング(40a、40b)のうちの2つが軸方向に1列に並んで提供されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法であって、
− 前記流し込み成形材料を硬化させ、第1のケーシング区分を形成するステップと、
− 第2のケーシング区分を前記第1のケーシング区分に対して装着するステップであって、前記少なくとも1つのシールリング(40a、40b)を前記空洞(22)に対して密閉するためにさらなるシールリング(40c)が前記第1および第2のケーシング区分の間に配置される、ステップと、
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法であって、
− 前記流し込み成形材料を硬化させ、第1のケーシング区分を形成するステップと、
− 前記第1のケーシング区分を第2のケーシング区分に装着するステップであって、液体密閉材料(40)が前記内側スリーブ(14)との接合部分において前記第1のケーシング区分と前記第2のケーシング区分との間に配置される、ステップと、
− 前記液体密閉材料(40)を硬化させ、前記内側スリーブ(14)との前記接合部分において前記第1のケーシング区分を前記第2のケーシング区分に密閉接続するステップと、
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
患者の血管内への経皮挿入のための血管内血液ポンプ(P)であって、インペラ(6)、および前記インペラ(6)を駆動するための電気モータを含む、ポンピングデバイス(1)を備え、前記電気モータがステータおよびロータ(7)を含み、前記ロータ(7)が回転軸の周りに回転可能であり、前記インペラ(6)の回転を生じさせることができるよう前記インペラ(6)に結合されており、前記血液ポンプ(P)が、前記ポンピングデバイス(1)の外面の少なくとも一部分を形成する外側スリーブ(13)をさらに備え、ステータ構成要素が、流し込み成形材料(18)を用いて前記外側スリーブ(13)の内部に固定されることを特徴とする血管内血液ポンプ(P)。
【請求項23】
請求項22に記載の血管内血液ポンプであって、前記外側スリーブ(13)が、前記電気モータのヨークを形成するための磁気伝導性材料を含むことを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項24】
請求項23に記載の血管内血液ポンプであって、前記外側スリーブ(13)が金属または金属合金を含むことを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項25】
請求項22から24のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記ロータ(7)が受容される空洞(22)を形成するための内側スリーブ(14)を備え、前記内側スリーブ(14)が前記外側スリーブ(13)の内部に配置され、前記流し込み成形材料(18)によって固定された前記ステータ構成要素が配置される隙間(19)を前記内側スリーブ(14)と前記外側スリーブ(13)との間に形成することを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項26】
請求項25に記載の血管内血液ポンプであって、前記内側スリーブ(14)がセラミック材料で作製されていることを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項27】
請求項25または26に記載の血管内血液ポンプであって、前記外側スリーブ(13)と前記内側スリーブ(14)との間の、シールをそれらの間に形成する少なくとも1つのシールリング(40a、40b)を備えることを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項28】
請求項27に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも1つのシールリング(40a、40b)のうちの2つが軸方向に1列に並んで提供されることを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項29】
請求項27または28に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも1つのシールリング(40a、40b)を前記空洞(22)に対して密閉するために配置されたさらなるシールリング(40c)を備えることを特徴とする血管内血液ポンプ。
【請求項30】
請求項25または26に記載の血管内血液ポンプであって、前記隙間(19)内の前記流し込み成形材料(18)を前記空洞(22)に対して密閉するために前記内側スリーブ(14)との接合部分に配置された、乾燥させた液体密閉材料(40)を備えることを特徴とする血管内血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血管内への経皮挿入のための、特に、患者の心臓内へ前進させられるべき、血管内血液ポンプ、および特に、血管内血液ポンプを製作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿または腋窩動脈または静脈などの、患者の血管内に経皮的に挿入されるように設計された血管内血液ポンプは患者の心臓内へ前進させられ、左心補助デバイスまたは右心補助デバイスの役割を果たし得る。それゆえ、血液ポンプは、心内血液ポンプとも呼ばれ得る。血管内血液ポンプは、通例、カテーテル、およびカテーテルの遠位端部に取り付けられたポンピングデバイスを備える。カテーテルは、電気線材およびパージ管材などの供給線管材を包含し得る。本開示全体を通じて、用語「遠位(distal)」は、ユーザから遠ざかり、心臓へ向かう方向に言及し、それに対して、用語「近位(proximal)」は、ユーザへ向かう方向に言及する。
【0003】
ポンピングデバイスは、電気モータ、および回転軸の周りのインペラの回転のために電気モータのロータに結合されたインペラを備え得る。血液ポンプの動作の間に、インペラは、例えば、フローカニューレを通して、血液を血液ポンプの血流入口から血流出口へ運搬する。ポンプ速度はポンピングデバイスのサイズに依存する。特に、ポンピングデバイス内に含まれる電気モータの効率は、限られた空間に大きく依存する。しかし、血管内への挿入のための解剖学的制限のゆえに、ポンピングデバイスのサイズ、特に、その直径を低減することが望まれる。
【0004】
フローカニューレおよびカテーテルは、通常、血管の解剖学的経路をたどるために十分に可撓性を有するが、ポンピングデバイスは硬質である。それゆえ、患者の血管を通した患者の心臓内への血液ポンプのナビゲーションを容易にするために、直径だけでなく、硬質のポンピングデバイスの長さを低減することも望まれるであろう。さらに、比較的長いポンピングデバイスは、湾曲した血管を通して血液ポンプを前進させる間に、ポンピングデバイスとフローカニューレおよびカテーテルとの間の接合部分においてそれぞれ比較的強いよじれを生じさせ、これがよじれまたは断線をもたらし得る。
【0005】
血液ポンプのインペラを駆動するためのマイクロモータを有する既知の血管内血液ポンプ、例えば、国際公開第98/44619(A1)号において開示される血液ポンプでは、電気モータのステータまたは少なくともステータパーツが、ポリマー材料、例えば、エポキシなどの、流し込み成形材料内に封入されている。国際公開第98/44619(A1)号において開示されるマイクロモータを製作する方法によれば、モータのステータパーツがマンドレル上に配置され、次に、マンドレルが型穴内に挿入される。流し込み成形材料を型穴内に注入し、ステータパーツを封入し、ポンピングデバイスのハウジングを形成する。
【0006】
上述の射出成形プロセスは真空雰囲気中で実施され得、これは、流し込み成形材料が硬化させられるまでそれぞれの成形型が占有される、通例、約1時間〜約24時間を要する、長い生産サイクルを必要とする。それゆえ、生産部品数を増大させることを可能にするために、多数の成形型が提供されなければならない。しかし、成形型は高価であり、各サイクルの後に洗浄されなければならない。さらに、最終製品から除去されなければならないシリコーンなどの離型剤が通常必要である。結果として得られる電気モータは、比較的厚いプラスチックハウジングを有する。これは、所望どおり腐食保護の役割を果たすが、血液ポンプの機能の価値をさらに高めはしない。逆に、プラスチックハウジングはポンピングデバイスの直径を増大させ、断熱性があり、これは、血液ポンプの動作の間における電気モータの望ましくない加熱を生じさせ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、小さい外部寸法を有し、その一方で、同時に、ポンプ速度の増大をもたらすための効率的な電気モータを有する血管内血液ポンプ、およびこのような血管内血液ポンプを製作する高速で費用効果の高い方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明によれば、血管内血液ポンプを製作する方法、および独立請求項の特徴を有するそれぞれの血管内血液ポンプによって達成される。本発明の好ましい実施形態およびさらなる発展が、それに従属する請求項において指定されている。
【0009】
本発明の一態様によれば、血管内血液ポンプを製作する方法が提供される。具体的には、インペラ、およびインペラを駆動するための電気モータを含むポンピングデバイスを備える、以上において概説されたとおりの血管内血液ポンプが製作されることになる。電気モータはステータおよびロータを含み、ロータは回転軸の周りに回転可能であり、インペラの回転を生じさせることができるようにインペラに結合されている。血管内血液ポンプを製作するために、ステータ構成要素を上に受容するようサイズ設定および形状設定された成形基台が提供される。コイル巻線、および場合によっては、他の固定構成要素などの、ステータ構成要素が成形基台上に配置される。次に、ステータ構成要素の最も外側と考えられ得る外側スリーブが、成形基台上に、およびこれにより、成形基台上にすでに配置された他のステータ構成要素を覆って配置され、これにより、血液ポンプの外面の少なくとも一部分を形成し、ステータ構成要素が配置される成形基台と外側スリーブとの間の隙間を形成する。次に、ポリマー材料、特に、エポキシのような樹脂などの流し込み成形材料が、成形基台を介して前記隙間内に注入され、ステータ構成要素を外側スリーブの内部に、すなわち、外側スリーブに対して半径方向内方に固定する。
【0010】
本発明に係る製作方法によって、ポンピングデバイスの外面の少なくとも一部分を形成する外側スリーブを有し、コイル巻線のようなステータ構成要素が、流し込み成形材料を用いて外側スリーブの内部に固定された血管内血液ポンプを作製することができる。ステータ構成要素は流し込み成形材料によって固定されている。すなわち、それらは、互いの相対運動に抗するよう、特に、また、外側スリーブに対して固着されている。コイル巻線などの、流し込み成形材料によって完全に包囲されたステータ構成要素は流し込み成形材料によって封入されており、電気的に活性の構成要素は、あらゆる漏洩電流または電食を回避するために、血液およびパージ流体に対して両側で十分に絶縁されている。
【0011】
本方法によれば、外側スリーブは、ポンピングデバイスの外面の少なくとも一部分を形成することによって、ポンピングデバイスのハウジング(以下においてはポンプケーシングとも表記される)を形成すると考えられ得る。ハウジング、より具体的には、外側スリーブは、少なくとも、血液ポンプが最大外径を有する区域内において、血液ポンプ、より具体的には、ポンピングデバイスの外面を規定する。それゆえ、周知の血管内血液ポンプとは対照的に、外面またはハウジングは流し込み成形材料によって形成されるのではなく、外側スリーブによって形成される。流し込み成形材料は、完全に、外側スリーブの内径によって規定される境界内に配置されている。外側スリーブは、ステータ構成要素を腐食から保護するための血液または他の流体に対する流体密封バリアを提供する。外側スリーブはまた、以下において説明されるとおりの軟鉄磁石ヨークの役割を果たし得る。
【0012】
換言すれば、流し込み成形材料を注入するための成形型は外側スリーブによって形成される。すなわち、ポンプケーシング自体が成形型を形成するか、またはより具体的には、ポンプケーシングの第1のケーシング区分が成形型によって形成される。第1のケーシング区分は、ポンプケーシングを完成するため、および、具体的には、モータのためのハウジングを完成するために、第2のケーシング区分と後で接続されることになる。それゆえ、本発明に係る製作方法は、流し込み成形材料を硬化させる間に占有される、高価な成形型を必要としない。流し込み成形材料は、ポンピングデバイスの内部に、より具体的には、外側スリーブと成形基台との間に形成された隙間内に直接注入される。エポキシのような典型的な流し込み成形材料が製品の外面上の望ましくない区域に粘着し、過剰な流し込み成形材料の除去を必要とし得る、周知の射出成形プロセスとは異なり、流し込み成形材料が外側スリーブの内部にのみあるため、最終製品の洗浄は必要とされない。これは、センサのための溝または同様のものなどの、ポンピングデバイスの外面上の繊細な構造が流し込み成形材料を含まないようにさせる場合に、特に意味があり得る。さらに、製品が型穴から取り出される必要がないため、本方法はいかなる離型剤も必要とせず、離型剤を最終製品の表面から除去する必要がない。離型剤を全く用いずに機能することができることは、また、流し込み成形材料の所望の絶縁の長期の絶縁破壊をもたらし得るであろう、任意の望ましくない汚染のリスクも低減する。同時に、血液ポンプの他の構成要素、特に、必ずしも電気モータの部分でないが、同様に外側スリーブの内部に配置された固定構成要素、例えば、パージ管材の端部を含む、固定構成要素が流し込み成形材料によって容易に固定され得る。
【0013】
射出成形プロセスのための周知の成形型とは対照的に、本発明に係る方法において用いられる成形基台は、製作が容易で安価な部品になり得、例えば、射出成形、またはラピッドプロトタイピング、旋盤加工、もしくは同様のもののような、他の技法によって生産することができる。成形基台は使い捨て部品として形成することができ、このため、別のポンピングデバイスが生産可能になる前に、流し込み成形材料が硬化するのを待つ必要がない。成形基台は、特に、射出成形によって生産される場合には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または射出成形プロセスに耐えるのに適した他のプラスチック材料のようなプラスチック材料を含み得る。PTFEは、硬化後における製品からの成形基台の著しく容易な除去を可能にする。
【0014】
ポンピングデバイスの外面を、流し込み成形材料ではなく、外側スリーブによって形成することは、ポンプケーシングを形成するためにポンピングデバイスを包囲する追加の流し込み成形材料が存在しないため、ポンピングデバイスの外径を低減することができるというさらなる利点を有する。例えば、ポンプケーシングは18F(フレンチ)以下の外部寸法(すなわち、6mm以下の外径)を有し得る。小さな寸法にもかかわらず、最大5.5リットル/分のポンプ速度が達成され得る。プラスチック材料の量を低減することによって、プラスチック絶縁の低減のおかげでポンピングデバイスからの熱伝達が改善され得る。さらに、これは、特に、それぞれ、ポンピングデバイスとカテーテルおよびフローカニューレとの間の接合部分における、血液ポンプの破損の可能性を低減し得る。なぜなら、これらの接合部分における応力ピークが低減され得るためである。
【0015】
上述の利点および効果は、外側スリーブが、電気モータのヨーク(後部鉄(back iron))を形成するための磁気伝導性材料を含む場合に、特に効果的になる。それゆえ、外側スリーブは、さらなる機能を有しないケーシングを形成するだけでなく、電気モータの磁束を閉じるためのヨークの役割を果たす。具体的には、外側スリーブは、金属、またはフェライト合金、例えば、FeCrAl合金などの、金属合金を含み得るか、またはそれで作製され得る。スリーブの外面はそれぞれの酸化物で被覆され得る。外側スリーブは任意の好適な生体適合性の磁気伝導性材料を含み得ることを理解されたい。金属材料は、プラスチック材料と比べて熱放散が増大され、構造的安定性の増大をもたらし得るというさらなる利点を有する。
【0016】
特に好ましい実施形態によれば、成形基台上に配置されるべき第1のステータパーツは内側スリーブであり得、これにより、流し込み成形材料を注入するための隙間が内側スリーブと外側スリーブとの間に形成される。このとき、内側スリーブは、電気モータのロータを受容するための空洞を形成する。好ましい一実施形態では、内側スリーブは、ジルコニア、またはより好ましくはアルミナ強化ジルコニア(alumina toughened zirconia、ATZ)などの、セラミック材料で作製されている。内側スリーブを成形基台上に配置した後に、他のステータパーツ、例えば、コイル巻線、軸受、プリント回路板、電気線材、パージ管材等が、成形基台上に、より具体的には、内側スリーブ上に配置され得る。
【0017】
セラミック材料で作製された内側スリーブを提供することによって、ロータが配置される空洞の流体密封エンクロージャを作り出すことができる。セラミック材料はパージ流体に対する拡散抵抗性を有する。それゆえ、ステータ、特に、コイル巻線のような電気ステータパーツの効果的な腐食保護を達成することができる。この好ましい実施形態では、流し込み成形材料の内面ではなく、セラミックスリーブがロータのための空洞を形成するため、腐食保護は射出成形プロセスの精度に依存せず、内側スリーブのセラミック材料がパージ流体に対する安全なバリアを形成する。
【0018】
セラミック材料の密閉特性以外に、セラミック内側スリーブは、それを、非常に小さい製作公差をもって製作することができるという利点をもたらす。それゆえ、例えば、射出成形の前にコイル巻線をセラミックスリーブ上に配置することによって、コイル巻線の寸法、特に、内径、およびそれゆえ、外径を非常に精密に規定および調整することができる。セラミックスリーブは実質的に硬質であり、取り扱い性に優れており、コイル巻線がスリーブ上に配置された時のコイル巻線の取り扱いを改善し得る。例えば、コイル巻線は内側スリーブと共に成形基台上に配置され得る。セラミック材料は内側スリーブの非常に小さい壁厚を可能にする。これは、ポンピングデバイスの全径を増大させないため、および高いモータ効率および低いコア温度を確実にするべく固定コイルと回転磁石との間の小さい空隙を維持するために重要である。
【0019】
流し込み成形材料は、好ましくは、成形基台を通して成形基台と外側スリーブとの間の前記隙間内へ送り込まれる。これは、成形基台が射出成形プロセスのためのソケットとして提供され得、成形基台が、流し込み成形材料を外側スリーブ内へ、より具体的には、成形基台と外側スリーブとの間の隙間内へ、または好ましくは、内側スリーブと外側スリーブとの間の隙間内へ供給するように構成された、ポートおよび1つ以上の供給管路を有し得ることを意味する。具体的には、流し込み成形材料は外側スリーブの外部へ供給されることはない。
【0020】
流し込み成形材料を注入することは、隙間が実質的に真空になる、低圧雰囲気、特に、真空中で実施され得る。これは、流し込み成形材料を隙間内に吸い込み、流し込み成形材料を隙間内全体にわたって分散させ、ステータ構成要素を隙間内に、および外側スリーブに対して固定または封入することを支援し得る。
【0021】
硬化プロセスの間における流し込み成形材料の収縮を補償するために、過剰量の流し込み成形材料が隙間内へ送り込まれ、それを通して湯だまり内へ導かれ得る。換言すれば、流し込み成形材料の硬化の間における収縮に起因する気泡または空洞を防止するための押湯が設けられ得る。湯だまりは、好ましくは、外側スリーブの外部に配置され、隙間に接続される。この接続は、硬化が完了した後に湯だまりと共に除去されることになる。これが、流し込み成形材料が外側スリーブの外部に送られるための唯一の例外であることを理解されたい。それにもかかわらず、いずれにせよ、流し込み成形材料が外側スリーブの外面と接触することはない。
【0022】
一実施形態では、成形基台は、成形基台の中心長手方向軸に沿って配置され、成形基台から突出する、ピン、好ましくは、金属ピンを含み得る。ピンは、例えば、ポンピングデバイスから延びる、パージ管材を受容するようにサイズ設定および形状設定され得る。ピンは、最小直径を有する成形基台の部分を形成し得る。それゆえ、金属ピンは成形基台の安定性を改善し得る。ピンは、例えば、成形基台の残りの部分のために用いられるプラスチック材料でコーティングされ得る。換言すれば、ピンは成形基台の中心コアを形成し得る。
【0023】
外側スリーブが成形基台上に配置される前に、電気線材がステータ構成要素のうちの少なくとも1つ、好ましくは、コイル巻線に接続され得、例えば、はんだ付けされ得る。次に、確立された電気接続部が、同様に流し込み成形材料によって固定されることになり、特に、封入されることになる。電気接続部は、上述されたセラミック内側スリーブ上に配置されてもよい。
【0024】
概して、本発明に係る血液ポンプを製作する方法における成形基台は成形インレー(molding inlay)と表され得る。成形基台はマンドレルとして形成され得る。マンドレルは、ステータ構成要素および外側スリーブをその上に受容するように構成されており、その上に配置された全てのパーツを中央にそろえる役割を果たし得る。成形基台は実質的に円筒形の本体を有し得る。より一般的には、成形基台は、特に、凹状の型穴とは対照的に、凸状の本体を有する。
【0025】
成形基台は、好ましくは、肩部を有し、第1の外径を有する成形基台の部分は電気モータのロータのための空洞に対応し得、第1の外径よりも小さい、第2の外径を有する成形基台の部分は、ロータの中心シャフト、または軸受、特に、ジャーナル軸受の中心孔に実質的に対応し得る。
【0026】
上述の方法では、流し込み成形材料は、隙間内に注入された後に硬化させられ、成形基台は、好ましくは、流し込み成形材料を硬化させる前に流し込み成形材料供給源から分離される。それゆえ、流し込み成形材料、およびポンピングデバイスのパーツを伴う成形基台を、注入ステーションから除去し、硬化のために保管することができる。特に、成形基台が使い捨て部品である場合には、成形型は占有されない。複数の成形基台が射出成形プロセス後に支持物上に置かれ、硬化のために保管されてもよく、その一方で、注入プロセスがさらなる製品のために継続されてもよい。それゆえ、本発明の方法は、費用効果の高い大量生産のために適している。
【0027】
流し込み成形材料が硬化させられた後に、成形基台は除去される。流し込み成形材料が隙間内にのみ配置され、ステータ構成要素を固定し、それらを外側スリーブ内に、およびそれに固着させるため、洗浄は必要とされない。射出成形の精度を改善するために、流し込み成形材料が外側スリーブの外へ漏れることを防止するべく、外側スリーブは、例えば、流し込み成形材料を隙間内に注入する前に接着剤または糊を可能な漏洩において適用することによって、成形基台に対して密閉され得る。接着剤はまた、流し込み成形材料が、軸受などの、特定のステータコンパウンド(compound)内に流入することを防止するために、外側スリーブの内部の部位においても適用され得る。
【0028】
外側スリーブは、その内部に固定されたステータ構成要素と共に、第1のケーシング区分を形成する。製作プロセスの間に成形基台が配置される外側スリーブの内部の空洞は、空洞内に挿入されることになる電気モータのロータ、具体的には、磁石のための空洞を形成することになる。さらに、第2のケーシング区分が、モータのためのハウジングを完成するために第1のケーシング区分に対して装着されることになり、インペラが、ロータに接続され、モータハウジングから延出するシャフトに結合され得る。最後に、血流入口および血流出口を形成するフローカニューレ、カテーテル、ならびに他の部分が、血管内血液ポンプを完成するために付加され得る。
【0029】
使用時には、パージ流体がロータ空洞を通して近位から遠位へ誘導され、ロータシャフトがモータハウジングから延出する場所でモータハウジングを出ることになる。加えて、パージ流体は、第1および第2のケーシング区分の間の接合部分において、存在する場合には、漏洩を通じて患者の血液内へ染み込み得る。これは重大にはならないであろうが、パージ流体は、硬化の最中における流し込み成形材料の収縮の結果生じた流し込み成形材料内の微小亀裂を通ってさらに漏洩し得、ステータのコイル巻線に達し得る恐れがあり、これは回避されなければならない。したがって、好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのシールリングがステータ構成要素の外側スリーブと内側スリーブとの間に提供され、これにより、それらの間にシールを形成し、したがって、外側および内側スリーブの間の隙間内に包含されたコイル巻線をパージ流体の侵入に対して保護する。
【0030】
このようなシールリングが、成形材料を隙間内に注入して硬化させる前に提供される場合には、成形材料がシールリングと接触し、これにより、シールリングの密閉特性に悪影響を及ぼし得る。この場合には、第2のシールリングを第1のシールリングと一列に軸方向に提供し、これにより、第2のシールリングが第1のシールリングを成形材料に対して保護するようにすることが有利である。
【0031】
第1のシールリングが、パージ流体とのその接触のゆえに経時的に劣化し得るため、第2のケーシング区分を第1のケーシング区分に装着する際に、第1のシールリングをロータ空洞に対して、およびそれゆえ、パージ流体に対して密閉するために、シールリングを第1および第2のケーシング区分の間にも配置することがさらに好ましい。
【0032】
代替的に、上述の、1つ、または2つ、またはさらに、3つのシールリングを提供する代わりに、第1のケーシング区分は、内側スリーブとの接合部分において第1および第2のケーシング区分の間の液体密閉材料を用いて第2のケーシング区分に装着されてもよい。液体密閉材料は全ての空間を完全に充填し、好ましくは、このような空間内の全ての表面を濡らし、それらに付着する。液体密閉材料が乾燥すると、第1のケーシング区分は内側スリーブとの接合部分において第2のケーシング区分に密閉接続され、これにより、任意のパージ流体が、コイル巻線を包囲する流し込み成形材料に達することを防止する。好ましくは、乾燥した液体密閉材料は弾性を有する。例えば、適切な密閉機能をもたらし、また、硬化の最中における密閉材料の収縮も補償するために、(硬化し、乾燥すると)弾性特性をもたらすエラストマー材料が液体密閉材料として用いられ得る。
【0033】
上述の概要、および好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより深く理解されるであろう。本開示を例示する目的のために、図面を参照する。しかし、本開示の範囲は、図面において開示される特定の実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】患者の心臓内に挿入された血管内血液ポンプを概略的に示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプを通した断面図を示す図である。
【
図3a】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図3b】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図3c】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図3d】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図3e】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図3f】第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図4】ステータ構成要素が上に配置された状態の、第1の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法において用いられる成形基台を通した断面図を示す図である。
【
図5a】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図5b】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図5c】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図5d】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図5e】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図5f】第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法のステップを概略的に示す図である。
【
図6】ステータ構成要素が上に配置された状態の、第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作する方法において用いられる成形基台を通した断面図を示す図である。
【
図7】
図6に示される第1のケーシング区分を備える第2の実施形態に係る血管内血液ポンプを通した断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に、患者の心臓H内に挿入された血管内血液ポンプPが示されている。より具体的には、血液ポンプPは、カテーテル5に取り付けられたポンピングデバイス1を備える。ポンピングデバイス1は、カテーテル5を用いて患者の心臓Hの左心室LV内に挿入され、血液を左心室LVから大動脈AO内へポンピングする。図示の適用は単なる例示的な適用にすぎず、本発明の血液ポンプPはこの適用に限定されない。例えば、右心室RVのための逆の適用が想定され得る。血液ポンプPは、例えば、大腿アクセスまたは腋窩アクセスを介して経皮的に挿入され、大動脈AOを通して心臓H内へ前進させられる。血液ポンプPは、血流出口2が大動脈AO内において患者の心臓Hの外部に配置され、その一方で、フローカニューレ4と流体連通する血流入口3が左心室LVの内部に配置されるように配置されている。血流入口3から血流出口2への血流を生じさせるためのインペラがポンピングデバイス1内に設けられており、インペラの回転が、以下においてより詳細に説明されるように、ポンピングデバイス1内に配置された電気モータによって生じる。
【0036】
図2は、ロータ7およびインペラ6の回転軸と一致する、中心長手方向軸Lに沿った第1の実施形態に係るポンピングデバイス1を通した断面図を示す。より具体的には、ロータ7およびインペラ6は、回転軸に沿って延びる共通シャフト8上に配置されている。電気モータのロータ7は永久磁石として形成され、ポンプケーシングの空洞22の内部に配置されている。ロータ7の回転を生じさせるために、電気モータのステータの部分としてのコイル巻線9がロータ7を包囲しており、ロータ7の回転を生じさせるように制御可能である。インペラ6はシャフト8を介してロータ7に結合されており、これにより、ロータ7の回転がインペラ6の回転を生じさせ、これにより、
図2における矢印によって指示されるように、血液を血流入口3内へ吸い込み、フローカニューレ4を通して血流出口2から出す。
【0037】
シャフト8は、双方とも
図2に示されるとおりのジャーナル軸受として形成され得る、遠位軸受12および近位軸受11によって回転可能に支持されている。軸受11、12およびシャフト8はセラミック材料で形成され得る。しかし、玉軸受などの他の種類の軸受も、シャフト8を回転可能に支持するために用いられ得る。軸受は、アキシャル軸受またはラジアル軸受、あるいは複合的アキシャルおよびラジアル軸受であり得る。パージ流体が、パージ管材15を用いて、軸受11、12、およびロータ7が配置された空洞22を通して供給される。パージ管材15はカテーテル5を貫いて延び、流体密封の様態で近位軸受11に接続されている。このように、パージ流体はポンピングデバイス1の電気構成要素と接触せず、近位軸受11を通り、空洞22内へ入り、遠位軸受12を通るように流れるのみである。
【0038】
電気構成要素、特に、コイル巻線9を、パージ流体によって生じる腐食および短絡から保護するための安全なバリアを提供するために、ロータ7のための空洞22は、セラミック材料で作製された内側スリーブ14によって形成され得る。セラミック内側スリーブ14は近位軸受11に流体密封の様態で取り付けられており、パージ流体の拡散に対して抵抗性を有する。セラミック内側スリーブ14は、同様に、滑らかな内面でもって非常に明確に規定されるため、血液ポンプの別の構成では、いくらかの血液が、凝固または血液破壊を生じることなくパージ流体の代わりにポンプに入ることを可能にされ得る。ポンピングデバイス1のステータ構成要素を固定し、内側スリーブ14と外側スリーブ13との間の隙間19を充填する流し込み成形材料18によって、さらなる腐食保護が確立される。具体的には、コイル巻線9が流し込み成形材料18内に封入される。流し込み成形材料18はまた、モータケーブル10およびパージ管材15との電気接続部16(すなわち、プリント回路板PCB)のための追加的固定ももたらす。流し込み成形材料18は、樹脂、好ましくは、二液型エポキシ、およびより好ましくは、熱伝導性および電気絶縁性充填材を有する二液型エポキシのようなポリマー材料であり得る。
【0039】
外側スリーブ13は、ポンピングデバイス1の部分の外面および外部寸法を規定する。それゆえ、上述の構成要素、特に、流し込み成形材料18によって固定されたステータ構成要素を取り囲む外側スリーブ13によって、ポンピングデバイス1のケーシングの第1の区分が規定される。外側スリーブ13はまた、磁気的に活性である、ステータ構成要素も形成することを理解されたい。外側スリーブ13は、好適な金属合金などの、生体適合性の磁気伝導性材料で作製されており、電気モータの磁束のためのヨークの役割を果たす。金属外側スリーブ13はまた、電気モータの動作によって生じる熱の良好な放散も可能にする。外側スリーブ13の外面は、センサ20を有する線材を受容するための溝21を含み得る。ハブ17が外側スリーブ13の遠位端部に取り付けられており、フローカニューレ4のための取り付け区域を形成する。ハブ17は、好ましくは、外側スリーブ13と同じ材料で作製されており、遠位軸受12およびインペラ6を収容する。血流出口2がハブ17内に形成され、これにより、遠位軸受12からの熱伝達が可能である。
【0040】
外側スリーブ13は、約7mm〜約30mm、好ましくは、約10mm〜約20mm、より好ましくは、約10mm〜約15mmの長さを有し得る。外側スリーブ13は、18F(フレンチ)以下の外部寸法(6mm以下の外径)を有し得る。小さな寸法にもかかわらず、最大5.5リットル/分のポンプ速度が達成され得る。
【0041】
次に、
図3a〜
図3fを参照して、
図2に示されるとおりの血管内血液ポンプの上述の第1のケーシング区分を製作する方法のステップが説明される。まず、
図3aに示されるように、セラミック内側スリーブ14が提供され、以上において説明されたとおりの近位軸受を含むセラミック端部部品11に取り付けられ得る。セラミック内側スリーブ14をセラミック端部部品11に取り付けることは、例えば、接着によって、または1つ、もしくは好ましくは、2つ、もしくはより好ましくは、3つの連続したシールリング(図示せず)を用いて実現され得る。すなわち、主シールリングを、血液ポンプの使用中にパージ流体と接触しないよう保護するために、1つのシールリングが主シールリングの空洞側に提供されてもよく、それに対して、以下においてさらに説明されるように、主シールリングを、第1のケーシング区分の製作プロセスの間にセラミック内側スリーブ14とセラミック端部部品11との間の接合部分を通って侵入し得るであろう流し込み成形材料に対して保護するために、別のシールリングが主シールリングの反対側に提供されてもよい。
【0042】
次に、
図3bに示されるように、あらかじめ巻回されたコイル巻線9がスリーブ14上に配置される。ポンピングデバイス1のステータ構成要素を受容するようサイズ設定および形状設定されたマンドレルとして形成された成形基台30が提供される(
図3c)。
図3dに示されるように、セラミックスリーブ14を伴うコイル巻線9が成形基台30上に配置される。代替的に、コイル巻線9は、内側スリーブ14が成形基台30上に配置された後に内側スリーブ14上に配置されてもよい。代替的に、内側スリーブ14(すなわち、
図3aおよび
図3bに示されるステップ)は省略されてもよく、コイル巻線9は内側スリーブ14を伴わずに成形基台30上に直接配置されてもよいことを理解されたい。近位軸受を保護するため、すなわち、流し込み成形材料が軸受に侵入し、軸受表面を汚染することを回避するために、近位軸受は、
図4に関連してさらに説明されるように、密閉され得る。
図3eに示されるように、モータケーブル10がコイル巻線9に電気接続され、特に、はんだ付けされる。さらに、パージ管材15が端部部品11に取り付けられる(ここでは図示せず)。
【0043】
次に、外側スリーブ13が成形基台30の上に配置され、ポンピングデバイス1の外面を形成する。次に、エポキシなどの流し込み成形材料が、外側スリーブ13内、より具体的には、コイル巻線9を包含する、内側スリーブ14と外側スリーブ13との間に形成された隙間19内に注入され、コイル巻線9を封入する。硬化の間の収縮を補償するために、湯だまり(図示せず)を有する押湯19a(
図4参照)が流し込み成形材料のために提供されてもよい。真空中で実施され得る、射出成形ステップを終了した後に、注入された流し込み成形材料を伴う成形基台30は、硬化のために保管され得る。
【0044】
その間に、さらなるポンピングデバイスが同じ様態で生産され、硬化のために保管され得る。長い生産サイクルを必要とする、硬化プロセスの間に占有される高価な成形型は必要とされない。成形基台30は安価な使い捨てプラスチック部品として形成され、最終製品から容易に除去することができる。離型剤は必要とされない。流し込み成形材料はポンピングデバイスの繊細なパーツと接触しない。それゆえ、繊細な表面構造、例えば、上述の溝21の洗浄が必要とされない。
【0045】
図4は、流し込み成形材料18を注入する前の、外側スリーブ13を含む全ての所望のステータ構成要素が上に配置された、成形基台30を通した断面を示す。具体的には、近位軸受11に接続され、コイル巻線9を担持するセラミック内側スリーブ14が成形基台30上に配置されている。しかし、内側スリーブ14は省略されてもよく、コイル巻線9は成形基台30上に直接配置されてもよいことを理解されたい。モータケーブル10がコイル巻線9の電気接続部16、すなわち、PCBに接続されており、特に、はんだ付けされている。パージ管材15が、ロータ7のための空洞22(
図2参照)と流体連通するよう端部部品11に固着されている。金属外側スリーブ13は全ての構成要素を覆い、流し込み成形材料が注入されることになる隙間19を取り囲んでいる。端部部品11の近位端部の内面およびパージ管材15の遠位端部の外面は、注入プロセスの間における隙間19から外側スリーブ内への流し込み成形材料18の漏洩を防止するために、接着剤23によって互いに対して密閉され得る。
図2において見ることができるように、パージ管材15およびモータケーブル10は、カテーテル5の遠位端部に取り付けられることになる、外側スリーブ13の近位端部を貫いて延びる。したがって、外側スリーブ13の近位端部の内面ならびにパージ管材15およびモータケーブル10の外面は、注入プロセスの間における隙間19から環境への流し込み成形材料18の漏洩を防止するために、接着剤23によって互いに対して密閉され得る。
【0046】
成形基台30は、射出成形された使い捨てプラスチック部品として生産され、実質的に円筒形の本体部分31を有し、マンドレルを形成する。具体的には、本体部分31は、セラミック内側スリーブ14をその上に受容するように、または換言すれば、最終製品においてロータ7を受容するための空洞22に対応するようにサイズ設定および形状設定される。ソケット部分32が、流し込み成形材料18を内側スリーブ14と外側スリーブ13との間の隙間19内へ送り込むための注入ポート33および供給管路34を含む。ソケット部分32と反対の成形基台30の端部において、縮小直径部分35が、軸受11を受容するために主本体部分32から延びる。さらに、ピン部分36が、パージ管材15を上に受容するために部分35から延びる。一体部分として示されているが、ピン部分36は安定性の向上のために金属ピンとして形成されてもよい。成形基台30は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレンで作製され得る。
【0047】
流し込み成形材料18は、矢印によって指示されるように注入ポート33内へ注入される。硬化の間における流し込み成形材料18の収縮を補償するために、過剰量の流し込み成形材料18が隙間19内へ注入され、それを通して、押湯19aを介して湯だまり(図示せず)内へ導かれ得る。湯だまりは外側スリーブ13の近位面37において押湯19aに取り付けられ得る。流し込み成形材料18が硬化した後に、湯だまりを除去した後に適用可能である場合には、成形基台30は除去され、第1のケーシング区分が完成する。流し込み成形材料18が外面と接触しないため、外側スリーブ13の外面の洗浄は必要ない。
【0048】
その後、
図2を再び参照すると、ロータ7、すなわち、磁石がハブ17および遠位軸受12と共にポンプケーシング1の空洞22内に装着され、インペラ6がロータ7に結合される。ハブ17は第2のケーシング区分を構成し、第1のケーシング区分と共にロータ7のためのハウジングを形成する。パージ流体が、血液ポンプの使用中に、硬化した流し込み成形材料に達し、場合によっては、流し込み成形材料内の微小亀裂を通ってコイル巻線9に向かって移動し得ることを防止するために、液体密閉材料40が第1および第2のケーシング区分の間、より具体的には、内側スリーブ14とハブ17との間に提供され、乾燥させられる。その際には、ハブ17が、その近位端部が起立した状態で鉛直に配置され、液体密閉材料40が、溝を部分的にのみ充填するようハブ17の内周溝17a内に充填され、第1のケーシング区分が、内側スリーブ14の遠位端部が液体密閉材料40内へ達するよう、ハブ17上に配置される。その後、液体密閉材料は硬化させられ、シールを形成する。好ましくは、シールが弾性特性を有するよう、液体密閉材料40はエラストマー材料である。最後に、カニューレ4およびカテーテル5がポンプケーシング1に取り付けられる。上述の方法ステップの全てが本発明の方法に含まれなくてもよく、または必要である場合には、当業者によって理解されるであろうように、他のステップが実施されてもよいことを理解されたい。同様に、必要である場合には、上述の方法ステップのうちのいくつかの順序は変更され得る。
【0049】
図5〜
図7は、(乾燥させた)液体密閉材料40が省略され、多数のシールリング40a〜40cが代わりに用いられるという点においてのみ第1の実施形態と異なる、第2の実施形態に関連する。したがって、第2の実施形態に係る血管内血液ポンプのための第1のケーシング区分を製作するステップを概略的に示す、
図5a〜
図5fは、
図5bに関して説明されるステップにおいて、第1のポリマーシールリング40aおよび第2のポリマーシールリング40bがコイル巻線9の底部または遠位端部において連続的に提供されるという点においてのみ、
図3a〜
図3fと異なる。それゆえ、流し込み成形材料18を隙間19内に注入する前の、全てのステータ構成要素が上に配置された状態の成形基台30を通した断面を示す
図6において見ることができるように、2つのシールリング40a、40bが成形基台30の底部におけるシールを形成する。この第2の実施形態では、流し込み成形材料は、隙間19が真空にされた後に、矢印によって指示されるように、押湯19aを通して空洞19へ供給される。それゆえ、流し込み成形材料は第1のシールリング40aに達するが、第2のシールリング40bには達しないことになる。
【0050】
次に、ハブ17が第1のケーシング区分に装着される際に、第3のシールリング40cがハブ17内に配置され得、これにより、それが内側スリーブ14と接触し、これにより、ハブ17と第1のケーシング区分との間のシールを形成する。このように、血液ポンプの使用中に空洞22を通って流れるパージ流体が、第2のシールリング40bに達することを防止される。それゆえ、第2のシールリング40bは両側から完全に保護され、長期間にわたって適切な密閉機能をもたらすことができる。
【国際調査報告】