特表2021-519602(P2021-519602A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-519602PD−L1キメラ抗原受容体を発現するNK細胞によるPD−L1陽性悪性腫瘍の排除
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-519602(P2021-519602A)
(43)【公表日】2021年8月12日
(54)【発明の名称】PD−L1キメラ抗原受容体を発現するNK細胞によるPD−L1陽性悪性腫瘍の排除
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20210716BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20210716BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210716BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210716BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20210716BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210716BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20210716BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20210716BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0783
   A61P43/00 105
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61K35/17 Z
   A61K39/395 N
   A61P35/02
   C12N15/62 ZZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】48
(21)【出願番号】特願2020-556309(P2020-556309)
(86)(22)【出願日】2019年8月1日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月27日
(86)【国際出願番号】US2019044637
(87)【国際公開番号】WO2020091868
(87)【国際公開日】20200507
(31)【優先権主張番号】62/753,740
(32)【優先日】2018年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520393015
【氏名又は名称】ナントケーウエスト,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】クリンゲマン,ハンス ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ボイセル,ローラン エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ダンダパット,アビジット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085BB42
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
(57)【要約】
PD−L1 CAR、CD16及びIL2の組合せを発現するNK−92(商標)細胞の組成物、並びにそれらの細胞を使用して腫瘍細胞及び腫瘍微小環境中の細胞(例えば、MDSC又はTAM)を低減させ、癌を治療する方法が本明細書に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD−L1 CAR及びFc受容体を発現する組換えNK−92細胞。
【請求項2】
マルチシストロン性構築物を含み、前記マルチシストロン性構築物は、前記PD−L1 CAR及び前記Fc受容体をコードする、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項3】
前記Fc受容体は、CD16である、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項4】
前記Fc受容体は、配列番号2を含む、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項5】
前記マルチシストロン性導入遺伝子は、IL−2若しくはそのバリアント又はIL−15若しくはそのバリアントをコードする配列をさらに含む、請求項2に記載のNK−92細胞。
【請求項6】
前記PD−L1 CAR、前記Fc受容体、及び/又は前記IL2は、コドン最適化核酸配列によりコードされる、請求項2〜5のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項7】
前記IL−2バリアントは、erIL−2であり、又は前記IL−15バリアントは、erIL−15である、請求項5に記載のNK−92細胞。
【請求項8】
前記PD−L1 CAR、前記Fc受容体、前記erIL−15、又はerIL−2の1つ以上の前記コード配列は、ヒト系中での発現のためにコドン最適化されている、請求項7に記載のNK−92細胞。
【請求項9】
PD−L1発現細胞を殺傷し得る、請求項1〜7のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項10】
前記PD−L1発現細胞は、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、又は腫瘍細胞である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項11】
前記PD−L1 CARは、scFv抗体断片を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項12】
前記scFv抗体断片は、配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項11に記載のNK−92細胞。
【請求項13】
前記マルチシストロン性構築物は、配列番号11の配列を含み、前記配列は、前記scFv抗体断片をコードする、請求項2に記載のNK−92細胞。
【請求項14】
自己開裂ペプチドをコードする配列を含み、前記配列は、前記PD−L1 CARとCD16との間に位置し、前記配列は、前記PD−L1 CAR及び前記FcRの等モル発現を可能とする、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項15】
CD16をコードする配列と、IL−2若しくはそのバリアントをコードする配列又はIL−15若しくはそのバリアントをコードする配列との間の内部リボソームエントリー配列(IRES)を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項16】
PD−L1発現細胞に対する前記NK−92(登録商標)細胞の直接細胞毒性は、エフェクターと標的との比が10である場合、40〜100%である、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項17】
PD−L1発現細胞に対する前記NK−92(登録商標)細胞の直接細胞毒性は、aNK(登録商標)細胞のものよりも高い、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項18】
前記NK−92細胞のADCC活性は、エフェクターと標的との比が10である場合、20%〜60%である、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項19】
前記PD−L1 CARは、配列番号10と少なくとも90%の同一性を共有する配列を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載のNK−92細胞。
【請求項20】
前記PD−L1 CARは、細胞質シグナリングドメインを含む、請求項1に記載のNK−92細胞。
【請求項21】
前記細胞質シグナリングドメインは、Fcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)及び/又はCD3ゼータシグナリングドメインである、請求項20に記載のNK−92細胞。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載のNK−92細胞を含む医薬組成物を含むキット。
【請求項23】
NK−92細胞を生成する方法であって、
PD−L1 CAR及びCD16をコードするベクターを提供すること、
並びに
前記ベクターを前記NK−92細胞中に導入して前記NK−92細胞を生成すること
を含む方法。
【請求項24】
前記ベクターは、IL−2又はIL−15をコードする配列をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ベクターは、自己開裂ペプチドをコードする配列を含み、前記配列は、CARとCD16との間に位置し、前記配列は、CAR及びCD16の等モル発現を可能とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記ベクターは、CD16コード配列と、IL−2又はIL−15コード配列との間の内部リボソームエントリー配列(IRES)を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
PD−L1発現細胞を殺傷する方法であって、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ、又は腫瘍細胞を請求項1〜17のいずれか一項に記載の複数のNK−92細胞とインキュベートし、それにより前記MDSC、前記TAM、又は前記腫瘍細胞を殺傷することを含む方法。
【請求項28】
前記PD−L1発現細胞は、腫瘍細胞又は腫瘍微小環境中の細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍微小環境中の細胞は、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)又は腫瘍関連マクロファージである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記MDSC細胞は、CD14又はCD15を発現する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記TAMは、CD68及びCD206、CD204、又はCD163の1つ以上を発現する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
対象における骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ、又は腫瘍細胞を殺傷する方法であって、治療有効量の組成物を前記対象に投与することを含み、前記組成物は、請求項1〜21のいずれか一項に記載の複数のNK−92細胞を含む方法。
【請求項33】
前記対象の体表面積1m当たり約1×10〜約1×1011個の改変細胞を、前記対象に投与する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対象における癌を治療する方法であって、前記対象に、治療有効量の組成物を前記対象に投与することを含み、前記組成物は、請求項1〜21のいずれか一項に記載の複数のNK−92細胞を含む方法。
【請求項35】
前記癌は、黒色腫、乳癌、卵巣癌、胃癌、前立腺癌、扁平上皮癌、頭頸部癌、結腸癌、膵臓癌、子宮癌、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、肉腫、及び肺癌からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞を、静脈内投与する、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記複数のNK−92細胞を、腫瘍内投与する、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
対象における骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)又は腫瘍細胞を殺傷する方法であって、治療有効量の第1の組成物及び第2の組成物を前記対象に投与することを含み、前記第1の組成物は、複数のNK−92細胞を含み、前記第2の組成物は、抗PD−L1抗体を含む方法。
【請求項39】
前記NK−92細胞は、Fc受容体を発現する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記NK−92細胞は、haNK(登録商標)細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記第2の組成物は、アベルマブである、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
NK細胞を個体に投与する方法であって、PD−L1 CARを発現するNK細胞を含む第1の組成物及び初代NK細胞を含む第2の組成物を投与することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月31日に出願され、参照により本明細書に組み込まれる、本発明者らの同時係属中の米国仮特許出願第62/753,740号の優先権を主張する。
【0002】
配列表
40kbサイズの104077.0006PCT_ST25_REV006という名称の配列表のASCIIテキストファイルの内容は、2019年7月26日に作成され、本出願とともにEFS−Webを介して電子的に提出されており、参照により全体として組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
固形腫瘍中の癌細胞は、それらの周囲に腫瘍微小環境を形成して癌細胞の成長及び転移を支持し得る。腫瘍微小環境は、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、他の細胞、可溶性因子、シグナリング分子、細胞外マトリックス、並びに腫瘍性形質転換を促進し、腫瘍成長及び侵入を支持し、腫瘍を宿主免疫から保護し、治療耐性を増強し、潜伏転移の生育のためのニッチを提供し得るメカニカルキューを含む、腫瘍が存在する細胞環境である。腫瘍及びその周囲微小環境は密接に関連し、常に相互作用する。腫瘍は、細胞外シグナルを放出し、腫瘍血管新生を促進し、末梢免疫寛容を誘導することによりそれらの微小環境に影響を与え得る一方、微小環境中の免疫細胞は、癌性細胞の成長及び進化に影響し得る。Swarts et al.“Tumor Microenvironment Complexity:Emerging Roles in Cancer Therapy,”Cancer Res,vol.,72,pages 2473−2480,2012を参照されたい。
【0004】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系の主成分を構成する細胞毒性リンパ球である。ナチュラルキラー(NK)細胞は、一般に、循環リンパ球の約10〜15%を占め、抗原に関して非特異的に且つ事前の免疫感作なしで標的細胞、例として、ウイルス感染細胞及び多くの悪性腫瘍細胞に結合し、それを殺傷する。Herberman et al.,Science 214:24(1981)。標的細胞の殺傷は、細胞溶解の誘導により生じる。この目的に使用されるNK細胞は、対象からの血液の末梢血リンパ球(「PBL」)画分から単離し、細胞培養物中で拡大して十分数の細胞を得、次いで対象中に再注入する。このような自己NK細胞は、エクスビボ療法及びインビボ治療の両方においていくらかの有効性を示している。しかしながら、このような治療法はオートロガスの状況に制限され、全てのNK細胞が細胞溶解性ではないという事実によりさらに複雑になる。
【0005】
現在、CAR−T療法が腫瘍微小環境中の免疫細胞を標的化する一般的な治療法になっている。しかしながら、標的抗原の多くは正常前駆体細胞上でも発現されるため、それらのCAR−T療法はインビボモデルにおいて血球減少及び骨髄前駆体の低減を引き起こすことが多く、永久的に発現される腫瘍抗原特異的CAR−T細胞が患者についての許容不可能な毒性を有することを示唆している。さらに、CAR−T技術は自己T細胞の遺伝子操作に依存し、そのことは有意な患者間変動、及びT細胞を拡大することができない多数の患者の排除をもたらす。したがって、腫瘍細胞及び腫瘍微小環境中の細胞の両方を標的化する有効な癌治療法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一部の実施形態において、本開示は、PD−L1 CAR及びFc受容体を発現する改変NK−92(登録商標)細胞を提供する。一部の実施形態において、改変NK−92(登録商標)細胞は、マルチシストロン性構築物を含み、マルチシストロン性構築物は、PD−L1 CAR及びFc受容体をコードする。一部の実施形態において、Fc受容体は、CD16である。一部の実施形態において、Fc受容体は、配列番号2を含む。一部の実施形態において、マルチシストロン性導入遺伝子は、IL−2又はそのバリアントをコードする配列をさらに含む。一部の実施形態において、PD−L1 CAR、Fc受容体、及び/又はIL2は、コドン最適化核酸配列によりコードされる。一部の実施形態において、IL−2バリアントは、erIL−2である。
【0007】
一部の実施形態において、PD−L1 CAR、Fc受容体、又はerIL−2の1つ以上のコード配列は、ヒト系中での発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、改変NK−92(登録商標)細胞は、PD−L1発現細胞を殺傷し得る。一部の実施形態において、PD−L1発現細胞は、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、又は腫瘍細胞である。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、scFv抗体断片を含む。一部の実施形態において、改変NK−92(登録商標)細胞は、自己開裂ペプチドをコードする配列を含み、その配列は、PD−L1 CARとCD16との間に位置し、その配列は、PD−L1 CAR及びFcRの等モル発現を可能とする。一部の実施形態において、改変NK−92(登録商標)細胞は、CD16をコードする配列と、IL−2又はそのバリアントをコードする配列との間の内部リボソームエントリー配列(IRES)を含む。
【0008】
一部の実施形態において、PD−L1発現細胞に対する改変NK−92(登録商標)細胞の直接細胞毒性は、エフェクターと標的との比が10である場合、40〜100%である。一部の実施形態において、PD−L1発現細胞に対する改変NK−92(登録商標)細胞の直接細胞毒性は、aNK(登録商標)細胞のものよりも高い。一部の実施形態において、改変NK−92(登録商標)細胞のADCC活性は、エフェクターと標的との比が10である場合、20%〜60%である。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、配列番号10と(特に、配列番号10内のCDR配列と)少なくとも90%の同一性を共有する配列を含む。一部の実施形態において、本開示は、上記開示の改変NK−92(登録商標)細胞を含む医薬組成物を含むキットを提供する。一部の実施形態において、本開示は、改変NK−92(登録商標)細胞を生成する方法であって、PD−L1 CAR及びCD16をコードするベクターを提供すること、並びにベクターをNK−92(登録商標)細胞中に導入して改変NK−92(登録商標)細胞を生成することを含む方法を提供する。
【0009】
一部の実施形態において、ベクターは、IL−2をコードする配列をさらに含む。一部の実施形態において、ベクターは、自己開裂ペプチドをコードする配列を含み、その配列は、CARとCD16との間に位置し、その配列は、CAR及びCD16の等モル発現を可能とする。一部の実施形態において、ベクターは、CD16コード配列と、IL−2コード配列との間の内部リボソームエントリー配列(IRES)を含む。一部の実施形態において、本開示は、PD−L1発現細胞を殺傷する方法であって、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、又は腫瘍細胞を請求項1〜17のいずれか一項に記載の複数の改変NK−92(登録商標)細胞とインキュベートし、それによりMDSC、TAM、又は腫瘍細胞を殺傷することを含む方法を提供する。
【0010】
一部の実施形態において、PD−L1発現細胞は、腫瘍細胞又は腫瘍微小環境中の細胞である。一部の実施形態において、微小環境中の細胞は、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)又は腫瘍関連マクロファージ(TAM)である。一部の実施形態において、MDSC細胞は、CD14又はCD15を発現する。一部の実施形態において、TAMは、CD68及びCD206、CD204、又はCD163の1つ以上を発現する。一部の実施形態において、本開示は、対象における骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ、又は腫瘍細胞を殺傷する方法であって、治療有効量の組成物を対象に投与することを含み、組成物は、上記の複数の改変NK−92(登録商標)細胞を含む方法を提供する。
【0011】
一部の実施形態において、対象の体表面積1m当たり約1×10〜約1×1011個の改変細胞を、対象に投与する。一部の実施形態において、本開示は、対象における癌を治療する方法であって、対象に、治療有効量の組成物を対象に投与することを含み、組成物は、上記の複数の改変NK−92(登録商標)細胞のいずれかを含む方法を提供する。一部の実施形態において、癌は、黒色腫、乳癌、卵巣癌、胃癌、前立腺癌、扁平上皮癌、頭頸部癌、結腸癌、膵臓癌、子宮癌、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、肉腫、及び肺癌からなる群から選択される。一部の実施形態において、細胞は、静脈内投与する。一部の実施形態において、細胞は、腫瘍内投与する。
【0012】
一部の実施形態において、本開示は、対象における骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)又は腫瘍細胞を殺傷する方法であって、治療有効量の第1の組成物及び第2の組成物を対象に投与することを含み、第1の組成物は、複数のNK−92(登録商標)細胞を含み、第2の組成物は、抗PD−L1抗体を含む方法を提供する。
【0013】
一部の実施形態において、NK−92(登録商標)細胞は、Fc受容体を発現する。一部の実施形態において、NK−92(登録商標)細胞は、haNK(登録商標)細胞である。一部の実施形態において、第2の組成物は、アベルマブである。
【0014】
上記の一般的な説明及び以下の詳細な説明は、例示的及び説明的なものであり、本開示のさらなる説明を提供するものとする。他の目的、利点及び新規特徴部は、当業者に容易に明らかである。
【0015】
目的、特徴部及び利点は、添付の図面とともに考慮される場合、以下の開示の参照時により容易に認識される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1、第2、及び第3世代のCARの構造ドメインの模式的表示である。
図2】CARコード配列、P2A配列、CD16コード配列、及びerIL−2コード配列を含むトリシストロン性プラスミドの構成成分を示す。
図3】改変NK−92(登録商標)細胞上のPD−L1−CARの発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
図4】MDA MB231細胞に対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性効果を示す。親aNK(商標)細胞を、対照細胞として使用した。
図5A-C】図5Aは、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)に対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性効果を示す。図5Bは、aNK(商標)耐性、PD−L1陽性MDA−MB−231細胞系に対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性効果を示す。XL−48及びXL−49は、2つの異なる抗PD−L1抗体に由来する2つの異なるscFvドメインを含むCARを発現する2つのPD−L1 t−haNK集団である。図5Cは、遺伝子操作SUP−B15細胞に対する、抗CD20抗体リツキシマブと組み合わせた場合のPD−L1 t−haNK細胞の抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)活性を示す。これらの遺伝子操作SUP−B15細胞は、CD20を発現するが、CD19を発現しない。Herceptinを対照抗体として使用した。
図6A-B】図6Aは、i.v.投与を使用してビヒクル及びPD−L1 t−haNK細胞により処理されたマウスにおけるMDA−MB−231由来腫瘍のインビボ腫瘍成長を示し;図6Bは、ビヒクル及びPD−L1 t−haNK細胞により処理されたマウスにおけるHCC827由来腫瘍のインビボ腫瘍成長を示す。
図7】i.t.投与を使用してビヒクル及びPD−L1 t−haNK細胞により処理されたマウスにおけるHCC827由来腫瘍のインビボ腫瘍成長を示す。
図8】PD−L1 t−haNK細胞と、haNK(登録商標)細胞との間の例示的な差を示す。
図9】MDA−MB−231細胞に対するPD−L1 t−haNK細胞及びhaNK(登録商標)細胞の細胞毒性を比較する例示的データを示す。
図10】種々の腫瘍細胞に対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性を比較する例示的データを示す。
図11】MDA−MB−231細胞及びPD−L1ノックアウトMDA−MB−231細胞から樹立された腫瘍へのPD−L1 t−haNK細胞の追跡を比較する例示的データを示す。
図12】PD−L1 t−haNK細胞により処理された動物におけるMDA−MB−231細胞及びPD−L1ノックアウトMDA−MB−231細胞からの腫瘍成長を比較する例示的データを示す。
図13】MDSCに対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性を実証する例示的データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
概要
本開示は、PD−L1 CAR、Fc受容体、及びIL2の組合せを発現するNK−92(商標)細胞を提供する。これらの細胞は、腫瘍細胞及び腫瘍微小環境中の細胞の両方を標的化し得、癌を有効に治療する。
【0018】
用語
別途規定のない限り、本明細書において使用される全ての技術及び科学用語は、当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0019】
本明細書において、及び以下の特許請求の範囲において、以下の意味を有することが定義される多数の用語が参照される。
【0020】
本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためのものであるにすぎず、限定的なものではない。本明細書において使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別途明示しない限り、複数形も含むものとする。したがって、例えば、「ナチュラルキラー細胞」の言及には、複数のナチュラルキラー細胞が含まれる。
【0021】
全ての数値指定、例えば、pH、温度、時間、濃度、量、及び分子量は、範囲を含め、適宜0.1又は1.0刻みだけ(+)又は(−)に変動する近似値である。常に明示されるわけではないが、全ての数値指定の前に、用語「約」が先行し得ることを理解すべきである。
【0022】
本明細書において使用される「+」は、特定の細胞マーカーの存在を示すために使用される場合、その細胞マーカーが蛍光活性化細胞選別においてアイソタイプ対照に対して検出可能に存在し;又は定量的若しくは半定量的RT−PCRにおいてバックグラウンドを超えて検出可能であることを意味する。
【0023】
本明細書において使用される「−」は、特定の細胞マーカーの存在を示すために使用される場合、その細胞マーカーが蛍光活性化細胞選別においてアイソタイプ対照に対して検出可能に存在せず;又は定量的若しくは半定量的RT−PCRにおいてバックグラウンドを超えて検出可能でないことを意味する。
【0024】
当業者により理解されるとおり、任意の及び全ての目的のため、特に書面による説明の提供に関して、本明細書に開示される全ての範囲は、任意の及び全ての考えられる下位範囲及びその下位範囲の組合せも包含する。任意の列記範囲は、同一の範囲が少なくとも等しい2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分割されることを十分に説明し、それを可能とすると容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書に開示されるそれぞれの範囲は、下位3分の1、中位3分の1及び上位3分の1などに容易に分けることができる。同様に当業者により理解されるとおり、全ての言語、例えば、「最大」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」などは、引用される数を含み、続いて上記の下位範囲に分けることができる範囲を指す。最後に、当業者により理解されるとおり、範囲は、それぞれの個々のメンバーを含む。したがって、例えば、1〜3個の細胞を有する群は、1、2、又は3個の細胞を有する群を指す。同様に、1〜5個の細胞を有する群は、1、2、3、4、又は5個の細胞を有する群を指し、以下同様である。
【0025】
本明細書において使用される用語「実質的に同一」は、用語「同等」、又は「実質的に類似」と互換的に使用され、NK−92(商標)細胞のある定量可能な特性、例えば、細胞毒性、生存率又は細胞倍化時間などを指す場合、それらの特性の2つの計測値が互いに15%以下異なり、10%以下、8%以下、又は5%以下異なることを指す。
【0026】
常に明示されるわけではないが、本明細書に記載の試薬は単に例示であること及びそのようなものの等価物が当該技術分野において公知であることも理解すべきである。
【0027】
本発明の目的のため、及び別途示されない限り、用語「NK−92(商標)」は、元のNK−92(商標)細胞系並びにNK−92(商標)細胞系、NK−92(商標)細胞のクローン、及び(例えば、外因性遺伝子の導入により)改変されたNK−92(商標)細胞を指すものとする。NK−92(商標)細胞並びに例示的及びその非限定的な改変は、全てが参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第7,618,817号明細書;同第8,034,332号明細書;同第8,313,943号明細書;同第9,181,322号明細書;同第9,150,636号明細書;及び米国特許出願公開第10/008,955号明細書に記載されており、それとしては、野生型NK−92(商標)、NK−92(商標)−CD16、NK−92(商標)−CD16−γ、NK−92(商標)−CD16−ζ、NK−92(商標)−CD16(F176V)、NK−92(商標)MI、及びNK−92(商標)CIが挙げられる。NK−92(商標)細胞は当業者に公知であり、そのような細胞はNantKwest,Inc.から容易に入手可能である。
【0028】
本明細書において使用される用語「NK−92(商標)細胞」は、Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))に記載の高度に強力なユニーク細胞系に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestにより保有される(以下、「NK−92(商標)細胞」)。
【0029】
本明細書において使用される用語「aNK(商標)細胞」は、Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))に記載の高度に強力なユニーク細胞系に由来する未改変ナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestにより保有される(以下、「aNK(商標)細胞」)。
【0030】
本明細書において使用される用語「haNK(登録商標)細胞」は、Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))に記載の高度に強力なユニーク細胞系に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestにより保有され、細胞表面上でCD16を発現するように改変されている(以下、「CD16+NK−92(商標)細胞」又は「haNK(登録商標)細胞」)。
【0031】
本明細書において使用される用語「taNK(登録商標)細胞」は、Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))に記載の高度に強力なユニーク細胞系に由来するナチュラルキラー細胞を指し、その権利はNantKwestにより保有され、キメラ抗原受容体を発現するように改変されている(以下、「CAR改変NK−92(商標)細胞」又は「taNK(登録商標)細胞」)。
【0032】
本明細書において使用される用語「t−haNK(商標)」細胞は、Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))に記載の高度に強力なユニーク細胞系に由来するナチュラルキラー細胞を指し、それはNantkWestにより保有され、細胞表面上でCD16を発現し、キメラ抗原受容体を発現するように改変されている(以下、「CAR改変CD16+NK−92(商標)細胞」又は「t−haNK細胞」)。一部の実施形態において、腫瘍特異的抗原は、PD−L1であり、それらのNK−92(商標)細胞は、PD−L1 t−haNK細胞と称される。
【0033】
本明細書において使用される用語「マルチシストロン性構築物」は、単一mRNA分子に転写され得る組換えDNA構築物を指し、単一mRNA分子は、2つ以上の導入遺伝子をコードする。マルチシストロン性構築物は、それが2つの導入遺伝子をコードする場合はバイシストロン性構築物と称され、それが3つの遺伝子をコードする場合はトリシストロン性構築物と称され、それが4つの遺伝子をコードする場合はクアドロシストロン性構築物と称され、以下同様である。
【0034】
本明細書において使用される用語「キメラ抗原受容体」(CAR)は、細胞内シグナリングドメインと融合している細胞外抗原結合ドメインを指す。CARは、T細胞又はNK細胞中で発現させて細胞毒性を増加させることができる。一般に、細胞外抗原結合ドメインは、目的細胞上に見出される抗原に特異的なscFvである。CAR発現NK−92(商標)細胞は、scFvドメインの特異性に基づき、ある抗原を細胞表面上で発現する細胞に標的化される。scFvドメインは、任意の抗原、例として、腫瘍特異的抗原及びウイルス特異的抗原を認識するように遺伝子操作することができる。例えば、PD−L1 CARは、一部の癌により発現される細胞表面マーカーのPD−L1を認識する。
【0035】
本明細書において使用される用語「腫瘍特異的抗原」は、癌又は新生物細胞上に存在するが、癌細胞と同一の組織又は系統に由来する正常細胞上では検出可能でない抗原を指す。本明細書において使用される腫瘍特異的抗原は、腫瘍関連抗原、すなわち、癌細胞と同一の組織又は系統に由来する正常細胞と比較して高いレベルにおいて癌細胞上で発現される抗原も指す。
【0036】
本明細書において使用される用語「標的」は、腫瘍の標的化を指す場合、腫瘍細胞(すなわち、標的細胞)を認識し、殺傷するNK−92(商標)細胞の能力を指す。この文脈における用語「標的化される」は、例えば、腫瘍により発現される細胞表面抗原を認識し、それに結合するNK−92(商標)細胞により発現されるCARの能力を指す。
【0037】
用語「抗体」は、任意のアイソタイプのインタクトな免疫グロブリン、又は標的抗原への特異的結合についてインタクト抗体と競合し得るその断片を指し、それとしては、キメラ、ヒト化、完全ヒト、及び二重特異的抗体が挙げられる。インタクト抗体は、一般に、少なくとも2つの全長重鎖及び2つの全長軽鎖を含むが、一部の例において、より少ない鎖を含み得、例えば、ラクダにおいて天然に発生する抗体は、重鎖のみを含み得る。抗体は、もっぱら単一資源に由来し得、又は抗体の異なる部分が2つの異なる抗体に由来するような「キメラ」であり得る。抗原結合タンパク質、抗体、又は結合断片は、ハイブリドーマ中で組換えDNA技術により、又はインタクト抗体の酵素的若しくは化学的開裂により産生することができる。別途示されない限り、用語「抗体」は、2つの全長重鎖及び2つの全長軽鎖を含む抗体に加え、それらの誘導体、バリアント、断片、及びムテインを含む。さらに、明示的に排除されない限り、抗体としては、モノクローナル抗体、二重特異的抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書において「抗体模倣物」と称されることがある)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合物(本明細書において「抗体コンジュゲート」と称されることがある)、及びそれらの断片がそれぞれ挙げられる。一部の実施形態において、この用語は、ペプチボディも含む。
【0038】
用語「対象」は、非ヒト動物、例として、哺乳動物、例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、及びヤギ、並びにヒトを指す。対象という用語は、本明細書に記載の疾患のための治療が必要とされる患者も指す。
【0039】
「任意選択」又は「場合により」は、続いて記載されるイベント又は状況が生じても生じなくてもよいこと、並びに記載がイベント又は状況が生じる例及び生じない例を含むことを意味する。
【0040】
用語「含む」は、組成物及び方法が記載された要素を含むが、他の要素を排除するものでないことを意味するものとする。「から本質的になる」は、組成物及び方法を定義するために使用される場合、その組合せに対して任意の本質的に重要な他の要素を排除することを意味するものとする。例えば、本明細書に定義される要素から本質的になる組成物は、特許請求の範囲の基本的且つ新規の特徴に実質的に影響を与えない他の要素を排除しない。「からなる」は、微量を上回る量の他の成分及び実質的な方法ステップを排除することを意味する。これらの移行語のそれぞれにより定義される実施態様は、本開示の範囲内である。
【0041】
本明細書において使用される用語「細胞毒性」及び「細胞溶解性」は、エフェクター細胞、例えば、NK細胞の活性を記載するために使用される場合、同義であるものとする。一般に、細胞毒性活性は、種々の生物学的、生化学的、又は生物物理学的機序のいずれかによる標的細胞の殺傷に関する。細胞溶解は、より具体的には、エフェクターが標的細胞の原形質膜を溶解し、それによりその物理的統合性を破壊する活性を指す。これは、標的細胞の殺傷をもたらす。理論による拘束を望むものではないが、NK細胞の細胞毒性効果は細胞溶解に起因すると考えられる。
【0042】
細胞/細胞集団に関する用語「殺傷する」は、その細胞/細胞集団の死滅をもたらす任意のタイプの操作を含むものとする。
【0043】
用語「サイトカイン」は、免疫系の細胞に影響を与える生物分子の一般的クラスを指す。例示的なサイトカインとしては、限定されるものではないが、FLT3リガンド、インターフェロン及びインターロイキン(IL)、特にIL−2、IL−12、IL−15、IL−18及びIL−21が挙げられる。
【0044】
用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書では互換的に用いられ、本明細書に記載の方法に適する任意の動物、又はインビトロ若しくはインサイチューにかかわらずその細胞を指す。ある非限定的な実施形態において、患者、対象、又は個体はヒトである。
【0045】
用語「治療する」又は「治療」は、対象、例えば、ヒトにおける本明細書に記載の疾患又は障害の治療を包含し、(i)疾患若しくは障害を阻害すること、すなわち、その発生を停止させること;(ii)疾患若しくは障害を緩和すること、すなわち、障害の退縮を引き起こすこと;(iii)障害の進行を減速させること;及び/又は(iv)疾患若しくは障害の1つ以上の症状を阻害し、緩和し、若しくはその進行を減速させることを含む。対象にモノクローナル抗体又はナチュラルキラー細胞を「投与する」又は対象へのそれらの「投与」という用語は、目的の機能を果たすために抗体又は細胞を導入又は送達する任意の経路を含む。投与は、細胞又はモノクローナル抗体の送達に好適な任意の経路により実施することができる。したがって、送達経路としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下送達を挙げることができる。一部の実施形態において、改変NK−92(商標)細胞は、例えば腫瘍中への注射により腫瘍に直接投与する。一部の実施形態において、本明細書に記載の改変NK−92(商標)細胞は、例えば、注射、注入又は移植(皮下、静脈内、筋肉内、小胞内、又は腹腔内)により非経口投与する。
【0046】
用語「発現」は、遺伝子産物の産生を指す。
【0047】
本明細書において使用される用語「細胞毒性」は、エフェクター細胞、例えば、NK細胞の活性を記載するために使用される場合、種々の生物学的、生化学的、又は生物物理学的機序のいずれかによる標的細胞の殺傷に関する。
【0048】
用語「減少させる」、「低減された」、「低減」及び「減少」は全て、参照レベルと比較して少なくとも10%だけの減少、例えば、少なくとも約20%、若しくは少なくとも約30%、若しくは少なくとも約40%、若しくは少なくとも約50%、若しくは少なくとも約60%、若しくは少なくとも約70%、若しくは少なくとも約80%、若しくは少なくとも約90%だけの減少若しくは100%を含む最大100%の減少(すなわち、参照サンプルと比較して不存在のレベル)、又は参照レベルと比較して10〜100%の任意の減少を指すために本明細書において使用される。
【0049】
用語「癌」は、哺乳動物中に見出される全てのタイプの癌、新生物、又は悪性腫瘍、例として、白血病、癌腫及び肉腫を指す。例示的な癌としては、脳、乳房、子宮頸部、結腸、頭頸部、肝臓、腎臓、肺、非小細胞肺、黒色腫、中皮腫、卵巣、肉腫、胃、子宮及び髄芽腫の癌が挙げられる。追加の例としては、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、卵巣癌、横紋筋肉腫、原発性血小板増加症、原発性マクログロブリン血症、原発性脳腫瘍、癌、悪性膵インスリノーマ、悪性カルチノイド、膀胱癌、前癌皮膚病変、精巣癌、リンパ腫、甲状腺癌、神経芽腫、食道癌、泌尿生殖器癌、悪性高カルシウム血症、子宮内膜癌、副腎皮質癌、膵内分泌部及び膵外分泌部の新生物、並びに前立腺癌が挙げられる。
【0050】
用語「治療有効量」又は「有効量」は、非治療患者に対して疾患の症状を改善するために要求される量を指す。疾患の治療的処置のために本開示を実施するために使用される有効量の活性化合物は、投与方式、対象の年齢、体重、及び全身健康状態に応じて変動する。最終的には、主治医又は獣医師は、適切量及び投与量レジメンを決定する。このような量は、「有効」量と称される。
【0051】
用語「腫瘍微小環境」は、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、骨髄由来炎症細胞、シグナリング分子及び細胞外マトリックスを含む、腫瘍が存在する細胞環境を指す。腫瘍微小環境中の例示的なタイプの細胞としては、限定されるものではないが、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)及び腫瘍関連マクロファージ(TAM)が挙げられる。
【0052】
用語「免疫細胞」は、抗原の特異的認識に関与する造血系由来の細胞を指す。免疫細胞としては、抗原提示細胞(APC)、例えば、樹状細胞又はマクロファージ、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、骨髄細胞、例えば、単球、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、及び顆粒球が挙げられる。
【0053】
表題又は副題は読者の簡便性のために本明細書において使用することができ、それらは本開示の範囲に影響を与えるものではない。さらに、本明細書において使用される一部の用語は以下により具体的に定義される。
【0054】
MDSC
骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は、腫瘍微小環境中の主な免疫抑制細胞の1つである。腫瘍の微小環境は、免疫活性細胞、例えば、NK細胞が腫瘍細胞と相互作用し、それらを攻撃及び殺傷するのを妨害する。これらの負の麻痺効果は、腫瘍微小環境中に存在する免疫抑制細胞の代謝産物及び分泌産物により媒介され得る。
【0055】
MDSCは、癌及び他の病理学的状態、例えば、骨髄異形成症候群(MDS)における免疫応答の調節因子である(例えば、Bronte et al.,Nature Communications,6 Jul 2016,7:12150,DOI:10.1038/ncomms12150;Eksioglu et al.,“Novel Therapeutic Approach to Improve Hematopoiesis in low risk MDS by Targeting myeloid−derived suppressor cells with The Fc−engineered CD33 Antibody BI 836858,”Leukemia.2017 October;31(10):2172−2180.doi:10.1038/leu.2017.21を参照されたい)。骨髄由来免疫抑制細胞は、骨髄系統からの免疫細胞の不均一グループ、例えば、異なる分化の段階における早期骨髄前駆体、未成熟顆粒球、マクロファージ及び樹状細胞である。骨髄由来免疫抑制細胞は、病理学的状況、例えば、慢性感染及び癌において、変更された造血の結果として強力に拡大する(例えば、Eksioglu et al.,“Novel Therapeutic Approach to Improve Hematopoiesis in low risk MDS by Targeting myeloid−derived suppressor cells with The Fc−engineered CD33 Antibody BI 836858,”Leukemia.2017 October;31(10):2172−2180.doi:10.1038/leu.2017.21を参照されたい)。
【0056】
骨髄由来免疫抑制細胞は、免疫賦活特性ではなく強力な免疫抑制活性を保有する点で他の骨髄細胞タイプから区別される。他の骨髄細胞と同様に、骨髄由来免疫抑制細胞は、他の免疫細胞タイプ、例として、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、及びナチュラルキラー細胞と相互作用してそれらの機能を調節する。骨髄由来免疫抑制細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞及びNKT細胞の細胞毒性活性、並びにCD4+及びCD8+T細胞により媒介される適応免疫応答の両方を抑制し得る。これらの作用機序は十分理解されているわけではないが、臨床及び実験証拠は、骨髄由来免疫抑制細胞の高い浸潤性を有する癌組織が不良の患者予後及び治療法に対する耐性と関連することを示している。
【0057】
末梢循環中のMDSCの蓄積は病期と関連しており、ステージと相関する。MDSCは、主に、抗腫瘍免疫の抑制による腫瘍成長の促進に関与している。MDSCが血管新生及び転移拡散にも関与する説得力のある証拠も存在する。
【0058】
MDSCの2つの主なサブセットが癌患者において同定されている:CD14の発現により特徴付けられる単球サブセット、及びCD15の発現により特徴付けられる顆粒球サブセット。MDSCの両方のサブセットは、種々の機序、例えば、反応性酸素種及びアルギナーゼの産生を介して宿主免疫を活性的に抑制する。ヒトと同様、単球及び顆粒球MDSCの蓄積は、腫瘍担持マウスの骨髄、脾臓、末梢循環、及び腫瘍中に指摘されてきた。マウスにおけるMDSCの良好な標的化は、免疫応答の改善、腫瘍成長の遅延、生存率の改善、及びワクチン療法の効力の増加と関連する。腫瘍において単球由来MDSCは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)に急速に分化する。
【0059】
腫瘍関連マクロファージ
腫瘍は、マクロファージが濃縮される反応性間質の一部として免疫浸潤と関連することが多い。典型的には、マクロファージは、腫瘍成長に対して逆の効果を有するM1及びM2マクロファージに分類される:M1マクロファージは腫瘍細胞成長を阻害する一方、M2マクロファージは腫瘍発生を促進する。腫瘍細胞は、ケモカイン及び極性化サイトカインを介してマクロファージをM2様表現型に導き、破壊からのそれらの回避を補助し、それらの発生を促進する。これらのM2マクロファージは、一般に、腫瘍関連マクロファージ(TAM)と称される。TAMは、腫瘍微小環境中で滞留し、新血管形成及びマトリックス分解の促進による腫瘍成長の容易化における重要な役割を担う。結果的に、多数のTAMの有する多くの腫瘍は、増加した腫瘍成長速度、局所増殖及び遠位転移を有する。
【0060】
TAMは、CD68並びに他のマーカーを発現し、例えば、一部のTAMは、以下のマーカーCD206、CD204、又はCD163の1つ以上を発現する。
【0061】
NK−92(商標)細胞
NK−92(商標)は、非ホジキンリンパ腫を罹患する対象の血液中で発見され、次いでインビトロで不死化された細胞溶解癌細胞系である。NK−92(商標)細胞はNK細胞に由来するが、正常NK細胞によりディスプレイされる主要な阻害受容体を欠く一方、活性化受容体の大多数を保持する。しかしながら、NK−92(商標)細胞は正常細胞を攻撃することもなく、それらはヒトにおいて許容不可能な免疫拒絶応答を誘発することもない。NK−92(商標)細胞系の特徴付けは、国際公開第1998/049268号パンフレット及び米国特許出願公開第2002−0068044号明細書に開示されている。NK−92(商標)細胞は、ある癌の治療における治療剤として評価されている。
【0062】
ベクター
本明細書に記載の改変細胞を産生するために細胞を形質移入するためのベクターが、本明細書に記載される。一実施形態において、本明細書に記載のベクターは、一過的発現ベクターである。このようなベクターを使用して導入される外因性導入遺伝子は細胞の核ゲノム中にインテグレートされず;したがって、ベクター複製の不存在下で外来導入遺伝子は分解され、又は経時的に希釈される。
【0063】
一実施形態において、本明細書に記載のベクターは、細胞の安定的形質移入を可能とする。一実施形態において、ベクターは、細胞のゲノム中への導入遺伝子の取り込みを可能とする。一実施形態において、ベクターは、陽性選択マーカーを有する。陽性選択マーカーとしては、任意の遺伝子を発現しない細胞を殺傷する条件下で細胞が成長するのを可能とする任意の遺伝子が挙げられる。非限定的な例としては、抗生物質耐性、例えば、ジェネティシン(Tn5からのNeo遺伝子)が挙げられる。
【0064】
一実施形態において、ベクターは、プラスミドベクターである。一実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。当業者により理解されるとおり、任意の好適なベクターを使用することができる。好適なベクターは、当該技術分野において周知である。
【0065】
一部の実施形態において、細胞は、目的タンパク質(例えば、CAR)をコードするmRNAにより形質移入される。mRNAの形質移入は、タンパク質の一過的発現をもたらす。一実施形態において、NK−92(商標)細胞中へのmRNAの形質移入は、細胞の投与直前に実施される。一実施形態において、細胞の投与「直前」は、投与の約15分〜約48時間前を指す。好ましくは、mRNA形質移入は、投与の約5時間〜約24時間前に実施される。
【0066】
PD−L1
プログラム化細胞死リガンド(PD−L1)は、PD−1に結合してT細胞活性化を抑制する阻害リガンドである。PD−L1は、腫瘍細胞中で構成的に発現され、誘導される。PD−L1は、MDSC中でも発現される。無腫瘍マウスと比較して腫瘍担持マウスにおいてPD−L1発現MDSCの数が有意に増加したこと、及びリンパ器官と比較して腫瘍浸潤MDSC中でPD−L1発現が有意に高いことが報告されている。Lu et al.,J.Immunol.,May 1,2017,198 (1 Supplement)124.9を参照されたい。PD−L1は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)中でも発現され、PD−L1のそのTAM発現はその受容体結合後にT細胞アポトーシスを直接誘導し得る。Kuang et al.,J.Exp.Med.2009;206:1327−1337。
【0067】
CAR
腫瘍細胞をその同一組織に由来する正常細胞から区別する表現型変化は、特異的遺伝子産物の発現の1つ以上の変化、例として、正常細胞表面構成成分の損失又は他の細胞表面構成成分(すなわち、対応する正常、非癌性組織中で検出可能でない抗原)の獲得と関連することが多い。新生物若しくは腫瘍細胞中で発現されるが、正常細胞中では発現されない抗原、又は正常細胞中で見出されるレベルを実質的に上回るレベルにおいて新生物細胞中で発現される抗原は、「腫瘍特異的抗原」又は「腫瘍関連抗原」と称されている。腫瘍特異的抗原は、癌免疫療法のための標的として使用されている。1つのこのような治療法は、免疫細胞、例として、T細胞及びNK細胞の表面上で発現されるキメラ抗原受容体(CAR)を利用して癌細胞に対する細胞毒性を改善する。CARは、少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインに結合している単鎖可変断片(scFv)を含む。scFvは、標的細胞(例えば、癌細胞)上の抗原を認識し、それに結合し、エフェクター細胞活性化をトリガーする。シグナリングドメインは、受容体による細胞内シグナリングに重要である免疫受容体チロシンベース活性化ドメイン(ITAM)を含有する。
【0068】
本開示は、細胞表面上で少なくともキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作されたNK−92(商標)細胞を提供する。CARは、細胞外抗原認識部分(通常、特異的抗体の可変ドメインに由来する、と、特異的抗原が認識されると細胞溶解応答をトリガーし得る細胞内シグナリングドメイン(単一又は追加の共刺激エレメントを有する)とを組み合わせる。複数のタイプのCARが存在し、それら全てを本出願において使用することができる。第1世代のCARは、1つの細胞質シグナリングドメインを含有する。シグナリングドメインは、例えば、1つのITAMを含有するFcイプシロン受容体ガンマ(FcεRIγ)に、又は3つのITAMを含有するCD3ζに由来し得る。CD3ζ CARは、腫瘍根絶においてFcεRIγ CARよりも効率的であることが考えられる。例えば、Haynes,et al.2001,J.Immunology 166:182−187;Cartellieri,et al.2010,J.Biomed and Biotech,Vol.2010,Article ID 956304を参照されたい。第2及び第3世代CARは、複数のシグナリングドメイン、例えば、CD3ζの細胞質シグナリングドメイン及び共刺激シグナリングドメイン、例えば、CD28/CD134/CD137/ICOS及びCD28/CD134と、単一CARとを組み合わせてNK−92(商標)細胞の活性化及び増殖を促進する。したがって、一部の実施形態において、PD−L1 t−haNK細胞により発現されるPD−L1 CARは、CD8からのヒンジ領域、及び/又はCD28の膜貫通ドメインを含む。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、FcεRIγの細胞質シグナリングドメインを含む。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、CD3ζの細胞質シグナリングドメインを含む。ヒンジ領域、CD28の膜貫通ドメイン及びFcεRIγ又はCD3ζの細胞質シグナリングドメインの例は、内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/674,936号明細書に開示されている。従来の刊行物、例えば、Haynes,et al.2001,J.Immunology 166:182−187及びCartellieri,et al.2010,J.Biomed and Biotech,Vol.2010,Article ID 956304は、CD3ζ CARが腫瘍根絶においてFcεRIγ CARよりも有効であり得ることを開示している一方、本件で、本発明者らは、驚くべきことに、且つ予想外に、そのようなものは、本明細書に開示の細胞、組成物、及び方法について当てはまらないことを見出した。実際、本発明者らは、1つのみのITAMドメインを有するFcεRIγからの細胞内ドメインを含む第1世代CARを含有するNK−92細胞が、3つのITAMドメインを他のシグナリングドメインと組み合わせた場合(すなわち、第2又は第3世代CAR;ここではデータ示さず)でも、3つのITAMドメインを有するCD3ζシグナリングドメインを有するCARを発現するNK−92細胞と、CARにより認識される抗原を発現する癌細胞に対する同等以上の細胞毒性活性を有することを見出した。例示的なCARを図1に模式的に説明する。特に、IgE受容体(FcεRI)は、その天然状況において、ジスルフィド結合を介して互いに結合している2つのガンマ鎖を含み、通常、好酸球、好塩基球、及び上皮ランゲルハンス細胞中でのみ発現される。本発明者らはまた、FcεRIγからの細胞内ドメインを含むCARが他のCAR、特に、CD3ζシグナリングドメインを含むものよりも高いレベルにおいてNK−92細胞の表面上で発現されるという予想外の発見をした。
【0069】
場合により、CARはPD−L1に特異的である。一部の実施形態において、PD−L1は、ヒトPD−L1である。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、PD−L1 CARは、配列番号14のアミノ酸配列を有する。
【0070】
一部の実施形態において、PD−L1 CARポリペプチドは、配列番号10又は配列番号10内のCDR配列部分と少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%の同一性を共有する配列を含む。一部の実施形態において、エピトープタグペプチド、例えば、FLAG、myc、ポリヒスチジン、又はV5をポリペプチドのアミノ末端ドメインに付加して抗エピトープタグペプチドモノクローナル又はポリクローナル抗体の使用による細胞表面検出を支援することができる。
【0071】
例において、当該技術分野において公知の方法、例えば、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャニング、及びPCR突然変異誘発を使用してバリアントポリペプチドを作製する。部位特異的突然変異誘発(Carter,1986;Zoller and Smith,1987)、カセット突然変異誘発、制限選択突然変異誘発(Wells et al.,1985)又は他の公知の技術をクローニングされたDNAに対して実施してCD16バリアントを産生する(Ausubel,2002;Sambrook and Russell,2001)。
【0072】
一部の実施形態において、PD−L1 CARをコードするポリヌクレオチドを突然変異させてCARの機能を変更せずにCARをコードするアミノ酸配列を変更する。例えば、「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換をもたらすポリヌクレオチド置換を、PD−L1 CARのscFv部分をコードするコドン最適化配列である配列番号9中で作製することができる。
【0073】
1つのクラスのアミノ酸を同一クラスの別のアミノ酸により置き換える配列番号9中の保存的置換は、その置換がポリペプチドの活性を実質的に変更しない限り、開示されるバリアントの範囲内に収まる。保存的置換は、当業者に周知である。(1)ポリペプチド骨格の構造、例えば、β−シート又はα−ヘリカル立体構造、(2)電荷、(3)疎水性、又は(4)標的部位の側鎖のかさ高さに影響を与える非保存的置換は、ポリペプチド機能又は免疫学的アイデンティティを改変し得る。非保存的置換は、それらのクラスの1つのメンバーと、別のクラスとの交換を伴う。置換は、保存的置換部位又はより好ましくは、非保存部位中に導入することができる。
【0074】
例において、当該技術分野において公知の方法、例えば、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異、アラニンスキャニング、及びPCR突然変異誘発を使用してバリアントポリペプチドを産生する。部位特異的突然変異誘発(Carter,1986;Zoller and Smith,1987)、カセット突然変異誘発、制限選択突然変異誘発(Wells et al.,1985)又は他の公知の技術をクローニングされたDNAに対して実施してバリアントを産生することができる(Ausubel,2002;Sambrook and Russell,2001)。
【0075】
場合により、PD−L1 t−haNK細胞を使用して癌、特に、PD−L1を発現する癌を治療することができる。場合により、癌は、白血病(例として、急性白血病(例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(例として、骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、及び赤白血病))及び慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ性白血病)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、固形腫瘍、例として、限定されるものではないが、肉腫及び癌腫、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝臓癌、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、黒色腫、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫からなる群から選択される。
【0076】
Fc受容体
一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、少なくとも1つのFc受容体を発現するように改変されており、その結果、少なくとも1つのFc受容体は、NK−92(商標)細胞の細胞表面上でディスプレイされる。Fc受容体は、抗体のFc部分に結合する。いくつかのFc受容体は公知であり、それらの好ましいリガンド、親和性、発現、及び抗体への結合後の効果により異なる。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、細胞表面上でFc受容体タンパク質を発現するように改変されている。
【0080】
一部の実施形態において、Fc受容体は、CD16である。本開示の目的のため、CD16の特異的アミノ酸残基は、配列番号2、又は配列番号2に対して1つの位置において異なる配列番号1を参照して指定される。したがって、CD16ポリペプチドの「158位における」アミノ酸残基は、CD16ポリペプチド及び配列番号2が最大でアラインされる場合、配列番号2(又は配列番号1)の158位に対応するアミノ酸残基である。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、タンパク質の成熟形態、例えば、配列番号1の158位におけるフェニルアラニンを有するヒトCD16を発現するように改変されている。典型的な実施形態において、NK−92(商標)細胞は、タンパク質の成熟形態、例えば、配列番号2の158位におけるバリンを有するヒトCD16の高親和性形態を発現するように改変されている。成熟タンパク質の158位は、天然シグナルペプチドを含むCD16配列の176位に対応する。一部の実施形態において、CD16ポリペプチドは、配列番号3又は配列番号4の前駆体(すなわち、天然シグナルペプチドを有する)ポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドによりコードされる。したがって、一実施形態において、Fc受容体は、FcγRIII−A(CD16)を含む。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、配列番号1(FcγRIII−A又は158位におけるフェニルアラニン(F−158)を有するCD16と少なくとも90%の配列同一性;又は配列番号2(158位におけるバリン(F158V)を有するCD16、より高親和性の形態)と少なくとも90%の同一性を有するFc受容体コードポリペプチドを発現するように遺伝子改変されている。
【0081】
一部の実施形態において、CD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、全長CD16の176位(成熟CD16タンパク質の158位に対応する)におけるフェニルアラニンを有するシグナルペプチドを含む全長天然発生CD16をコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性を有する。一部の実施形態において、CD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、176位(成熟タンパク質の158位に対応する)におけるバリンを有するシグナルペプチドを含む全長天然発生CD16をコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性を有する。一部の実施形態において、CD16をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5と少なくとも70%、80%、90%、又は95%の同一性を有し、シグナルペプチドを含む全長CD16ポリペプチドの176位をコードするポリヌクレオチドの位置におけるバリンをコードするコドンを含む。一部の実施形態において、CD16をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5を含むが、全長CD16の176位におけるバリンをコードするコドンを有する。
【0082】
一部の実施形態において、CD16ポリヌクレオチドは、配列番号1又は配列番号2と少なくとも70%、80%、90%、又は95%の同一性を有するポリペプチドをコードする。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号2と少なくとも70%、80%、90%、又は95%の同一性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2を参照して決定される158位におけるバリンを含む。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号2をコードする。一部の実施形態において、CD16ポリヌクレオチドは、シグナル配列を有し若しくは有さないCD16の細胞外ドメイン、又は全長CD16の任意の他の断片、又は別のタンパク質のアミノ酸配列に融合しているCD16の少なくとも部分配列を包含するキメラ受容体をコードする。他の実施形態において、エピトープタグペプチド、例えば、FLAG、myc、ポリヒスチジン、又はV5を成熟ポリペプチドのアミノ末端ドメインに付加して抗エピトープタグペプチドモノクローナル又はポリクローナル抗体の使用による細胞表面検出を支援することができる。
【0083】
一部の実施形態において、相同性CD16ポリヌクレオチドは、約150〜約700、約750、又は約800個のポリヌクレオチド長さであり得るが、700〜800個超のポリヌクレオチドを有するCD16バリアントは本開示の範囲内である。
【0084】
相同性ポリヌクレオチド配列としては、CD16のバリアントをコードするポリペプチド配列をコードするものが挙げられる。相同性ポリヌクレオチド配列としては、配列番号1に関する天然発生アレルバリエーションも挙げられる。配列番号1若しくは配列番号2のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、その天然発生バリアント、又は配列番号1若しくは配列番号2と少なくとも70%同一、若しくは少なくとも80%、90%、若しくは95%同一である配列をコードする任意のポリヌクレオチドによるNK−92(商標)細胞の形質移入は、本開示の範囲内である。一部の実施形態において、相同性ポリヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号2中の保存的アミノ酸置換をコードする。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、天然ポリヌクレオチド配列と異なるが、同一のポリペプチドをコードする縮重相同性CD16ポリヌクレオチド配列を使用して形質移入される。
【0085】
他の例において、CD16アミノ酸配列を変化させる多型を有するcDNA配列、例えば、CD16遺伝子中の遺伝子多型を示す個体間のアレルバリエーションなどを使用して、NK−92(商標)細胞を改変する。他の例において、配列番号1の配列と異なるポリヌクレオチド配列を有する他の種からのCD16遺伝子を使用してNK−92(商標)細胞を改変する。
【0086】
バリアントポリペプチドは、当該技術分野において公知の方法、例えば、オリゴヌクレオチド媒介(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャニング、及びPCR突然変異誘発を使用して作製することができる。部位特異的突然変異誘発(Carter,1986;Zoller and Smith,1987)、カセット突然変異誘発、制限選択突然変異誘発(Wells et al.,1985)又は他の公知の技術をクローニングされたDNAに対して実施してCD16バリアントを産生することができる(Ausubel,2002;Sambrook and Russell,2001)。
【0087】
一部の実施形態において、CD16をコードするポリヌクレオチドを突然変異させてCD16の機能を変更せずにCD16をコードするアミノ酸配列を変更する。例えば、例えば、「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換をもたらすポリヌクレオチド置換を、配列番号1又は配列番号2中で作製することができる。
【0088】
1つのクラスのアミノ酸を同一クラスの別のアミノ酸により置き換える配列番号1又は配列番号2中の保存的置換は、その置換がポリペプチドの活性を実質的に変更しない限り、開示されるCD16バリアントの範囲内に収まる。保存的置換は、当業者に周知である。(1)ポリペプチド骨格の構造、例えば、β−シート又はα−ヘリカル立体構造、(2)電荷、(3)疎水性、又は(4)標的部位の側鎖のかさ高さに影響を与える非保存的置換は、CD16ポリペプチド機能又は免疫学的アイデンティティを改変し得る。非保存的置換は、それらのクラスの1つのメンバーと、別のクラスとの交換を伴う。置換は、保存的置換部位又はより好ましくは、非保存部位中に導入することができる。
【0089】
一部の実施形態において、CD16ポリペプチドバリアントは、少なくとも200個のアミノ酸長さであり、配列番号1又は配列番号2と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の同一性を有する。一部の実施形態において、CD16ポリペプチドバリアントは、少なくとも225個のアミノ酸長さであり、配列番号1又は配列番号2と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の同一性を有する。一部の実施形態において、CD16ポリペプチドバリアントは、配列番号2を参照して決定される158位におけるバリンを有する。
【0090】
一部の実施形態において、CD16ポリペプチドをコードする核酸は、CD16融合タンパク質をコードし得る。CD16融合ポリペプチドとしては、非CD16ポリペプチドと融合しているCD16の任意の部分又はCD16全体が挙げられる。融合ポリペプチドは、組換え方法を使用して簡便に作出される。例えば、CD16ポリペプチド、例えば、配列番号1又は配列番号2をコードするポリヌクレオチドは、非CD16コードポリヌクレオチド(例えば、異種タンパク質のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列)とインフレームで融合される。一部の実施形態において、異種ポリペプチド配列がCD16のC末端に融合しており、又はCD16中に内部的に位置する融合ポリペプチドを作出することができる。典型的には、CD16細胞質ドメインの最大約30%を置き換えることができる。このような改変は、発現を向上させ、又は細胞毒性(例えば、ADCC応答性)を向上させ得る。他の例において、キメラタンパク質、例えば、他のリンパ球活性化受容体、例として、限定されるものではないが、Ig−a、Ig−B、CD3−e、CD3−d、DAP−12及びDAP−10からのドメインが、CD16細胞質ドメインの一部と置き換わる。
【0091】
融合遺伝子は、慣用の技術、例として、自動化DNA合成装置及び2つの連続する遺伝子断片(続いてこれをアニールし、再増幅させてキメラ遺伝子配列を生成することができる)間の相補的オーバーハングを生じさせるアンカープライマーを使用するPCR増幅により合成することができる(Ausubel,2002)。融合部分へのインフレームでのCD16のサブクローニングを容易にする多くのベクターが市販されている。
【0092】
サイトカイン
NK−92細胞の細胞毒性は、サイトカイン(例えば、インターロイキン−2(IL−2))の存在に依存的である。市販スケール培養でNK−92細胞を維持し、拡大するために必要とされる外因的に添加されるIL−2を使用するコストは、かなりのものである。NK92細胞の活性化を継続するために十分な量のIL−2のヒト対象への投与は、有害副作用を引き起こす。
【0093】
一実施形態において、NK−92(商標)細胞は、少なくとも1つのサイトカインを発現するように改変されている。特に、少なくとも1つのサイトカインは、IL−2(配列番号6)、IL−12、IL−15、IL−18、IL−21、又はそのバリアントである。一部の実施形態において、サイトカインは、IL−2又はそのバリアントである。ある実施形態において、IL−2は、小胞体に標的化されるバリアントである。一部の実施形態において、サイトカインは、IL−15又はそのバリアントである。ある実施形態において、IL−15は、小胞体に標的化されるバリアントである。
【0094】
一実施形態において、IL−2は、IL−2を小胞体に指向するシグナル配列とともにクローニング及び発現される(erIL−2)(配列番号7)。これは、IL−2を細胞外に放出させずにオートクリン活性化に十分なレベルにおけるIL−2の発現を可能とする。Konstantinidis et al“Targeting IL−2 to the endoplasmic reticulum confines autocrine growth stimulation to NK−92TMcells”Exp Hematol.2005 Feb;33(2):159−64を参照されたい。FcR発現NK−92細胞の継続的活性化は、例えば、自殺遺伝子の存在により防止することができる。
【0095】
自殺遺伝子
用語「自殺遺伝子」は、自殺遺伝子を発現する細胞の陰性選択を可能とする導入遺伝子を指す。自殺遺伝子は、その遺伝子を発現する細胞を選択剤の導入により殺傷することができる安全系として使用される。これは、組換え遺伝子が制御不能な細胞成長をもたらす突然変異を引き起こす場合、又は細胞自体がそのような成長をし得る場合に望ましい。多数の自殺遺伝子系、例として、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子、及び大腸菌(E.coli)Deo遺伝子が同定されている。典型的には、自殺遺伝子は、細胞に対する悪影響を有さないが、規定の化合物の存在下でその細胞を殺傷するタンパク質をコードする。したがって、自殺遺伝子は、典型的には、系の一部である。
【0096】
一実施形態において、自殺遺伝子は、NK−92(商標)細胞中で活性である。一実施形態において、自殺遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である。TK遺伝子は、野生型又は突然変異TK遺伝子(例えば、tk30、tk75、sr39tk)であり得る。TKタンパク質を発現する細胞は、ガンシクロビルを使用して殺傷することができる。
【0097】
別の実施形態において、自殺遺伝子は、5−フルオロシトシンの存在下で細胞に毒性であるシトシンデアミナーゼである。Garcia−Sanchez et al.“Cytosine deaminase adenoviral vector and 5−fluorocytosine selectively reduce breast cancer cells 1 million−fold when they contaminate hematopoietic cells:a potential purging method for autologous transplantation.”Blood.1998 Jul 15;92(2):672−82。
【0098】
別の実施形態において、自殺遺伝子は、イホスファミド又はシクロホスファミドの存在下で毒性であるシトクロムP450である。例えば、Touati et al.“A suicide gene therapy combining the improvement of cyclophosphamide tumor cytotoxicity and the development of an anti−tumor immune response.”Curr Gene Ther.2014;14(3):236−46を参照されたい。
【0099】
別の実施形態において、自殺遺伝子は、iCasp9である。Di Stasi,(2011)“Inducible apoptosis as a safety switch for adoptive cell therapy.”N Engl J Med 365:1673−1683。Morgan,“Live and Let Die:A New Suicide Gene Therapy Moves to the Clinic”Molecular Therapy(2012);20:11−13も参照されたい。iCasp9は、低分子AP1903の存在下でアポトーシスを誘導する。AP1903は生物学的に不活性な低分子であり、臨床試験において良好に忍容性であることが示されており、養子細胞療法の状況において使用されている。
【0100】
コドン最適化
一部の実施形態において、aNK細胞を形質転換するために使用される構築物の配列は、ヒト系中でのPD−L1 CAR、CD16、及び/又はerIL−2の発現効率を最大化するようにコドン最適化されている。コドン最適化は、典型的には、天然配列のコドンの少なくとも1つ、2つ以上、又はかなりの数を、発現系の遺伝子においてより高頻度に又は最も高頻度に使用されるコドンにより置き換えることにより核酸配列を改変することにより実施される。コドン最適化を翻訳速度に使用し、又はそれを使用して所望の特性、例えば、非最適化配列を使用して産生される転写産物と比較して長い半減期を有する組換えRNA転写産物を産生することができる。コドン最適化の方法は容易に利用可能であり、例えば、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)からのGeneArt(商標);http://genomes.urv.es/OPTIMIZERにおいて無料でアクセス可能なOptimizer、及びDNA 2.0(Newark,California)からのGeneGPS(登録商標)Expression Optimization Technologyである。特定の実施形態において、PD−L1 CARのコード配列はコドン最適化されており、配列番号10のタンパク質配列をコードする配列番号9に記載の配列(scFv部分)を含む。一部の実施形態において、コドン最適化PD−L1 CARコード配列は、配列番号15のタンパク質配列をコードする配列番号14に記載の配列である。
【0101】
導入遺伝子発現
導入遺伝子は、当業者に公知の任意の機序により発現ベクター中に遺伝子操作することができる。複数の導入遺伝子を細胞中に挿入すべき場合、導入遺伝子は、同一の発現ベクター又は異なる発現ベクター中に遺伝子操作することができる。
【0102】
一部の実施形態において、細胞は、発現させるべきトランスジェニックタンパク質をコードするmRNAにより形質移入される。
【0103】
導入遺伝子及びmRNAは、当該技術分野において公知の任意の形質移入法、例として、非限定的な例として、感染、エレクトロポレーション、リポフェクション、ヌクレオフェクション、又は「遺伝子銃」を使用してNK−92(商標)細胞中に導入することができる。
【0104】
PD−L1 CARを発現するNK−92(商標)細胞
本開示は、PD−L1 CAR及びFcRを発現する改変NK−92(商標)細胞を提供する。場合により、改変NK−92(商標)細胞は、IL−2をさらに発現する。
【0105】
一部の実施形態において、改変NK−92(商標)細胞は、マルチシストロン性導入遺伝子を含み、マルチシストロン性導入遺伝子は、キメラ抗原受容体及びFc受容体、並びに場合によりIL−2をコードする。
【0106】
一部の実施形態において、FcRは、CD16である。一部の実施形態において、CD16は、配列番号2を含み、又はそれからなる高親和性CD16である。一部の実施形態において、IL−2は、配列番号7を含み、又はそれからなるerIL−2である。
【0107】
一部の実施形態において、CARコード配列及びCD16コード配列は、P2A配列(配列番号8ggaagcggagctactaacttcagcctgctgaagcaggctggagacgtggaggagaaccctggacct)により離隔している。この構成は、単一mRNAからのCAR及びCD16の等モル発現を可能とする。
【0108】
一部の実施形態において、CD16コード配列及びerIL−2コード配列は、内部翻訳開始を可能とする内部リボソームエントリー配列(IRES)により離隔している。
【0109】
一部の実施形態において、改変NK−92(商標)細胞は、単一mRNAからCAR、高親和性CD16、及びerIL−2を発現するトリシストロン性構築物を含む。一部の実施形態において、トリシストロン性構築物は、配列番号11に記載の配列を含む。CARのインテグレーションは、エフェクター細胞が、CARにより認識される標的を発現する標的細胞に特異的にエンゲージし、それを殺傷するのを可能とし;CD16のインテグレーションは、治療モノクローナル抗体と組み合わせた場合にADCCを可能とし;erIL2は外因性IL−2の不存在下で細胞拡大を可能とし、導入遺伝子発現についての選択圧を維持する。1つの実例的なトリシストロン性構築物を図2に示し、PD−L1 CAR及びCD16融合タンパク質についての例示的タンパク質配列を配列番号12に示す。
【0110】
CAR及びCD16(例えば、高親和性CD16)、並びにerIL−2を発現する改変NK−92(商標)細胞を産生するため、マルチシストロン性プラスミドを、例えば、エレクトロポレーションによりaNK(商標)細胞中に導入する。形質転換NK−92(商標)細胞は、IL−2を有さない培地中で成長させ、個々のクローンを形質転換NK−92(商標)細胞から、限定希釈クローニングにより選択し、基準、例として、例えば、高レベルのCAR及びCD16発現、細胞毒性、ADCC、成長速度、及び/又はIL−2分泌に基づき特徴付けすることができる。好適なクローンは、表面マーカー、例えば、CD3、CD16、CD54、CD56、NKG2D、及び/又はNKp30も、aNK(商標)細胞のものと実質的に類似するレベルにおいて発現し得る。場合により、全ゲノムシーケンシング(WGS)を実施して導入遺伝子インテグレーション部位を決定する。これらの基準の1つ以上を満たすクローンをさらなる開発のために選択し、それを使用して診療所において患者を治療することができる。
【0111】
発現
IL−2の発現は、IL−2不含条件における改変NK−92(商標)細胞の能力により確認することができる。CAR及びCD16の発現は、フローサイトメトリーにより計測することができる。CAR、CD16、及びIL−2(例えば、erIL−2、配列番号13)のコード配列を含むトリシストロン性構築物により形質転換されたNK−92(商標)細胞について、典型的には、IL−2不含条件で成長し得る形質転換細胞の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%が、CAR及びCD16の両方の高い発現レベルも示す。
【0112】
場合により、形質転換NK−92(商標)細胞のIL−2分泌レベルは、種々の時点において当該技術分野において周知の方法を使用して、例えば、ELISAにより計測することができる。
【0113】
一部の実施形態において、培養上清中のIL−2レベルを計測して細胞培養培地に放出されるIL−2のレベルを決定する。一部の実施形態において、細胞ペレット中のIL−2レベルを計測してIL−2の総細胞内レベルを評価する。一部の実施形態において、上清中のIL−2量及び細胞ペレット中のIL−2量の両方を計測して形質転換NK−92(商標)細胞により産生されるIL−2の総量を決定する。
【0114】
場合により、形質転換NK−92(商標)細胞の他の表面マーカーは、フローサイトメトリーにより計測することができる。これらのマーカーとしては、限定されるものではないが、CD54、CD56、NKG2D、NKp30、及びCD3が挙げられる。好適なクローンは、同一の成長条件下でaNK(商標)細胞とそれらのマーカーの実質的に類似する発現レベルを実証したものである。
【0115】
細胞毒性
場合により、トリシストロン性プラスミドにより形質転換されたNK−92(商標)細胞の細胞毒性も、当該技術分野において周知の方法を使用して試験することができる。NK−92(商標)細胞の細胞毒性は、それらの直接細胞毒性又はADCC活性により反映することができる。産生されたNK−92(商標)細胞の直接細胞毒性、異常細胞、例えば、腫瘍細胞を標的化し、殺傷する能力は、当該技術分野において周知の方法、例えば、Klingemann et al.(Cancer Immunol.Immunother.33:395−397(1991))により記載された手順を使用する51Cr放出アッセイ(Gong et al.(Leukemia,Apr;8(4):652−8(1994))により評価することができる。一部の実施形態において、標的細胞は、t−haNK細胞の表面上で発現されるCARにより認識され得る抗原を発現する。簡潔に述べると、51Cr標識標的細胞をNK−92(商標)細胞と混合し、溶解させる。特異的細胞毒性の割合は、放出される51Crの量に基づき計算することができる。米国特許出願公開第20020068044号明細書を参照されたい。
【0116】
場合により、トリシストロン性プラスミドにより形質転換されたNK−92(登録商標)細胞の細胞毒性は、フローベース細胞毒性アッセイにおいて使用して評価することができる。エフェクター細胞(NK−92(登録商標)細胞)及びフルオロフォア標識標的細胞、例えば、腫瘍細胞を異なるエフェクターと標的との比において混合する。ヨウ化プロピジウム(PI)を細胞に添加することができ、試料をフローサイトメーターにより分析することができる。好ましくは、標的細胞を標識するために使用されるフルオロフォアは、フローサイトメーター中でPIと区別することができる。一部の実施形態において、フルオロフォアは、CFSEである。一部の実施形態において、フルオロフォアは、PKHGL67である。細胞毒性は、フルオロフォア陽性標的集団内のPI陽性細胞の%により決定することができる。
【0117】
或いは、産生されるNK−92(商標)細胞の直接細胞毒性は、カルセイン放出アッセイを使用して評価することもできる。例えば、NK−92(商標)細胞(アッセイにおいてエフェクターと称される)をカルセイン負荷標的細胞(アッセイにおいて標的と称される)と、ある比において混合することができる。一定時間のインキュベーション後、標的細胞から放出されたカルセインを、例えば、蛍光プレートリーダーにより評価することができる。アッセイにおいて使用されるエフェクターと標的との比は変動し得、場合により、エフェクター:標的比は、20:1、15:1、10:1、8:1、又は5:1であり得;好ましくは、エフェクター:標的比は、10:1である。標的細胞は、NK−92(商標)細胞(t−haNK細胞)上のCARにより認識され得る抗原分子を発現する任意の細胞であり得る。例えば、MDA MB231細胞はPD−L1 CARにより認識され得、PD−L1 t−haNK細胞についての標的細胞である。NK−92(商標)細胞の細胞毒性の値は、使用される標的細胞のタイプ及びエフェクター:標的比に応じて変動し得る。一般に、本明細書に記載の方法を使用して産生されるNK−92(商標)細胞は、60〜100%、例えば、70〜100%又は80〜100%の細胞毒性を有し得る。一部の場合、NK−92(商標)細胞は、カルセイン放出アッセイにより1:10のエフェクター:標的比を使用した場合、80〜100%、例えば、82〜100%、85〜100%、87〜100%、88〜100%、又は89〜100%の細胞毒性を有し得る。
【0118】
場合により、評価されるNK−92(商標)細胞、例えば、t−haNK細胞の細胞毒性は、抗体依存性細胞毒性(ADCC)である。NK−92(商標)細胞のADCC活性を計測する方法は、標的細胞を認識し得る抗体も添加することを除き上記の直接細胞毒性を計測する方法と類似する。NK細胞のFc受容体は細胞結合抗体を認識し、細胞溶解反応をトリガーし、標的細胞を殺傷する。1つの実例的な例において、t−haNK細胞は、Herceptin(抗Her2抗体)及びSKBr3(標的細胞)とインキュベートすることができ、SKBr3細胞の殺傷は、上記の標的細胞の内部構成成分、例えば、51Cr又はカルセインの放出により計測することができる。
【0119】
倍化時間
NK−92(商標)細胞、例えば、t−haNK細胞の成長速度は、細胞倍化時間、すなわち、細胞が初期の細胞数の2倍に到達するまで増殖するのに要する時間を使用して評価することができる。倍化時間は、NK−92(商標)細胞の成長速度と反比例し;倍化時間が長いほど、成長速度は遅い。
【0120】
WGS
場合により、改変NK−92(商標)細胞の全ゲノムシーケンシング(WGS)を実施してマルチシストロン性構築物の挿入部位を同定する。
【0121】
治療用途
本開示はまた、疾患の任意の病期における対象における任意のタイプの癌を治療する方法を提供する。好適な癌の非限定的な例としては、癌腫、黒色腫、又は肉腫が挙げられる。一部の実施形態において、本発明を使用して造血系由来の癌、例えば、白血病又はリンパ腫を治療する。一部の実施形態において、癌は、固形腫瘍である。
【0122】
一部の実施形態において、対象における任意のタイプの癌を治療する方法は、患者に治療有効量の上記のNK−92(商標)細胞を投与し、それにより癌を治療することを含む。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、Fc受容体、例えば、配列番号2に記載の配列を有する高親和性Fc受容体を発現する。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、PD−L1 CAR、Fc受容体及びIL−2を発現する。一部の実施形態において、改変NK−92(商標)細胞は、マルチシストロン性構築物を含み、マルチシストロン性構築物は、キメラ抗原受容体及びFc受容体をコードする。
【0123】
治療が必要とされる対象を、本明細書に記載の改変NK−92(商標)細胞により治療する方法も提供される。一部の実施形態において、対象又は患者は、癌又は感染性疾患、例えば、ウイルス感染を罹患する。
【0124】
改変NK−92(商標)細胞は、個体に絶対数の細胞だけ投与することができ、例えば、前記個体に、約1000個の細胞/注射〜最大約100億個の細胞/注射、例えば、1注射当たり約、少なくとも約、又は多くとも約1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10個(など)のNK−92(商標)細胞、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与することができる。したがって、本開示はまた、複数のNK−92(商標)細胞を含む組成物であって、細胞の数は、1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、又は5×10個(など)である組成物を提供する。
【0125】
他の実施形態において、前記個体に、約1000個の細胞/注射/m〜最大約100億個の細胞/注射/m、例えば、1注射当たり約、少なくとも約、又は多くとも約1×10個/m、1×10個/m、5×10個/m、1×10個/m、5×10個/m、1×10個/m、5×10個/m、1×10個/m、5×10個/m、1×10個/m、5×10個/m(など)のNK−92(商標)細胞、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与することができる。
【0126】
他の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、そのような個体に相対数の細胞だけ投与することができ、例えば、前記個体に、個体1キログラム当たり約1000個の細胞〜最大約100億個の細胞、例えば、個体1キログラム当たり約、少なくとも約、又は多くても約1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、又は5×10個(など)のNK−92細胞、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与することができる。
【0127】
他の実施形態において、総用量は体表面積のmにより算出することができ、それとしては、1m当たり約1×1011、1×1010、1×10、1×10、1×10個、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)が挙げられる。平均的な人間は、約1.6m〜約1.8mである。好ましい実施形態において、約10億〜約30億個のNK−92(商標)細胞が患者に投与される。他の実施形態において、1用量当たり注射されるNK−92(商標)細胞の量は体表面積のmにより算出することができ、それとしては、1m当たり1×1011、1×1010、1×10、1×10、1×10個が挙げられる。人間についての平均体表面積は1.6〜1.8mである。
【0128】
他の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、そのような個体に相対数の細胞だけ投与することができ、例えば、前記個体に、個体1キログラム当たり約1000個の細胞〜最大約100億個の細胞、例えば、約、少なくとも約、又は多くとも約1×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、又は5×10個(など)のNK−92(商標)細胞、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与することができる。
【0129】
NK−92(商標)細胞は、癌を有する患者に1回投与することができ、又はそれらは複数回、例えば、治療の間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22若しくは23時間ごとに1回、又は1、2、3、4、5、6若しくは7日ごとに1回、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週若しくはそれを超える週ごとに1回、又はいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)ごとに1回、投与することができる。
【0130】
一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、NK−92(商標)細胞及び媒体、例えばヒト血清又はその同等物を含む組成物中で投与される。一部の実施形態において、媒体はヒト血清アルブミンを含む。一部の実施形態において、媒体はヒト血漿を含む。一部の実施形態において、媒体は、約1%〜約15%のヒト血清又はヒト血清同等物を含む。一部の実施形態において、媒体は、約1%〜約10%のヒト血清又はヒト血清同等物を含む。一部の実施形態において、媒体は、約1%〜約5%のヒト血清又はヒト血清同等物を含む。好ましい実施態様において、媒体は、約2.5%のヒト血清又はヒト血清同等物を含む。一部の実施形態において、血清は、ヒトAB血清である。一部の実施形態において、ヒト治療における使用に許容可能な血清代用物がヒト血清の代わりに使用される。このような血清代用物は、当該技術分野において公知であり、又は今後開発され得る。15%を超える濃度のヒト血清を使用することができるが、約5%を上回る濃度は費用が高すぎることが企図される。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、NK−92(商標)細胞と細胞生存を支持する等張液とを含む組成物中で投与される。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、凍結保存試料から再構成させた組成物中で投与される。
【0131】
NK−92(商標)細胞を含む薬学的に許容可能な組成物は、種々の担体及び賦形剤を含み得る。種々の水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などを使用することができる。これらの溶液は無菌であり、一般に不所望な物質を有さない。好適な担体及び賦形剤並びにそれらの配合物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,David B.Troy,ed.,Lippicott Williams & Wilkins(2005)に記載されている。薬学的に許容可能な担体は、生物学的にもその他でも不所望でない材料を意味し、すなわち、その材料は、不所望な生物学的効果を引き起こすこともなく、それが含有される医薬組成物の他の構成成分と有害な形で相互作用することもなく、対象に投与される。対象に投与される場合、担体は、場合により、活性成分の分解を最小化するように、及び対象における有害副作用を最小化するように選択される。本明細書において使用される、薬学的に許容可能という用語は、生理学的に許容可能及び薬理学的に許容可能と同義的に使用される。医薬組成物は一般に、緩衝及び貯蔵時の保存性のための薬剤を含み、投与経路に応じた適切な送達のための緩衝剤及び担体を含み得る。
【0132】
インビボ又はインビトロでの使用のためのこれらの組成物は、細胞に用いられる滅菌技術により滅菌することができる。組成物は、適切な生理学的状態に要求される許容可能な補助物質、例えば、pH調整剤及び緩衝剤、並びに毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び乳酸ナトリウムなどを含有し得る。これらの配合物中の細胞及び/又は他の薬剤の濃度は変動し得、主に、選択される特定の投与方式及び対象の要求に従って液体量、粘性、及び体重など基づき選択される。
【0133】
一実施形態において、NK−92(商標)細胞は、治療される癌のための1つ以上の他の治療又は薬剤と併用して患者に投与される。一部の実施形態において、治療される癌のための1つ以上の他の治療としては、例えば、抗体、放射線照射、化学療法、幹細胞移植、又はホルモン療法が挙げられる。
【0134】
一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞及び他の癌薬剤/治療は、同時に又はほぼ同時に(例えば、互いに約1、5、10、15、20、又は30分以内)投与される。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞及び他の癌薬剤/治療は、連続的に投与される。一部の実施形態において、他の癌治療/薬剤は、NK−92(商標)細胞の投与の1、2、又は3日後に投与される。
【0135】
一実施形態において、他の癌薬剤は、抗体である。一実施形態において、NK−92(商標)細胞は、疾患細胞を標的化する抗体と併用して投与される。一実施形態において、NK−92(商標)細胞及び抗体は、患者に一緒に投与され、例えば、同一の配合物中で;別個に、例えば、別個の配合物中で、併用して;又は別個に、例えば、異なる投与スケジュールで若しくはその日の異なる時間に投与することができる。別個に投与される場合、抗体は、任意の好適な経路、例えば、静脈内又は腫瘍内注射を介して投与することができる。
【0136】
一部の実施形態において、本開示のNK−92(商標)細胞は、治療抗体及び/又は他の抗癌剤との組合せで使用される。治療抗体を使用して癌関連又は腫瘍関連マーカーを発現する細胞を標的化することができる。癌治療モノクローナル抗体の例を、表4に示す。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、Fc受容体、例えば、配列番号2に記載の配列を有する高親和性Fc受容体を発現する。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、haNK(登録商標)細胞である。一実施形態において、治療抗体は、アベルマブである。
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
このようなNK−92(商標)細胞の投与は、モノクローナル抗体の投与と同時に、又は連続様式で実施することができる。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、対象がモノクローナル抗体により治療された後に対象に投与される。或いは、NK−92(商標)細胞は、同時に、例えば、モノクローナル抗体の24時間以内に投与することができる。
【0140】
一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、静脈内投与される。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、骨髄中に直接注入される。
【0141】
したがって、本開示は、癌又はウイルス感染の治療が必要とされる患者における癌又はウイルス感染を治療する方法であって、患者に治療有効量の本明細書に開示のNK−92(商標)細胞を投与し、それにより癌を治療することを含む方法を提供する。
【0142】
キット
本明細書に記載の複数のNK−92(商標)細胞を含む組成物を使用する癌又は感染性疾患の治療のためのキットも開示される。一部の実施形態において、本開示のキットは、少なくとも1つのモノクローナル抗体も含み得る。キット中に含まれるNK−92(商標)細胞は、CAR及びFc受容体を発現する。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、IL−2、例えば、erIL−2、又はIL−15、例えば、erIL−15をさらに発現する。一部の実施形態において、NK−92(商標)細胞は、マルチシストロン性構築物を含み、マルチシストロン性構築物は、キメラ抗原受容体、Fc受容体、及び場合によりIL−2又はIL−15をコードする。
【0143】
ある実施形態において、キットは、NK−92(商標)細胞の投与前、投与と同時、又は投与後に投与すべき追加の化合物、例えば、治療有効化合物又は薬物を含有し得る。このような化合物の例としては、抗体、ビタミン、ミネラル、フルドロコルチゾン、イブプロフェン、リドカイン、キニジン、化学療法薬などが挙げられる。
【0144】
種々の実施形態において、キットの使用説明書は、癌又は感染性疾患の治療においてキット構成成分を使用するための指示を含む。説明書は、NK−92(商標)細胞の取扱方法に関する情報(例えば、解凍及び/又は培養)をさらに含有し得る。説明書は、投与量及び投与頻度に関する指針をさらに含み得る。
【0145】
ある実施形態において、キットは、本明細書に記載の1つ以上の組成物、例えば、本明細書に記載のNK−92(商標)細胞を含む組成物が充填された1つ以上の容器をさらに含む。場合により、キットが癌、例えば、本明細書に記載のものを治療するためのものであることを示すラベルが、このような容器に伴うことがある。場合により、ラベルは、医薬又は生物製品の製造、使用又は販売を規制する当局により処方される形態の通知も含み、その通知は、ヒト投与についての製造、使用又は販売の当局による承認を反映する。
【0146】
本開示の方法及び組成物に使用することができ、それらと併用して使用することができ、それらの調製において使用することができ、又はそれらの産物である材料、組成物、及び構成成分が開示される。これら及び他の材料は本明細書において開示され、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、グループなどが記載される場合、これらの化合物のそれぞれの種々の個々の及び集合的な組合せ及び順列の具体的な言及が明示されていないことがあるが、それぞれが本明細書において具体的に企図及び記載されることが理解される。例えば、方法が開示及び考察され、その方法を含む多数の分子に対して行うことができる多数の改変が考察される場合、方法のそれぞれの及びあらゆる組合せ及び順列、並びに考えられる改変は、そうでないことが具体的に示されない限り、具体的に企図される。同様に、これらの任意のサブセット又は組合せも具体的に企図及び開示される。この概念は、本開示の全ての態様、例として、限定されるものではないが、開示の組成物を使用する方法におけるステップに適用される。したがって、実施することができる種々の追加のステップが存在する場合、それらの追加のステップのそれぞれを、任意の規定の方法ステップ又は開示の方法の方法ステップの組合せにより実施することができること、及びそれぞれのそのような組合せ又は組合せのサブセットが具体的に企図され、開示されているとみなすべきことが理解される。
【実施例】
【0147】
以下の実施例は、実例的な目的のためのものにすぎず、限定として解釈すべきではない。以下の実施例を良好に実施することを同様に可能とする、当業者が利用可能な種々の代替技術及び手順が存在する。
【0148】
実施例1:PD−1 CAR改変NK−92(商標)細胞の産生
PD−L1 CARを、CD16及びerIL−2導入遺伝子も含有するバイシストロン性プラスミドpNEUKv1 FcR_IL−2ベクター中にクローニングした。トリシストロン性プラスミドを、aNK(商標)細胞中にエレクトロポレーションした。IL−2依存的である未形質転換aNK(商標)細胞はIL−2枯渇培地中で生存し得なかったため、PD−L1 CAR発現NK−92(商標)細胞をIL−2枯渇培地により選択した。
【0149】
限定希釈クローニング
ポリクローナルPD−L1 t−haNKプール培養物のアリコートを、IL−2補給なしの成長培地中で1.5個の細胞/mlの密度に希釈した。この細胞懸濁液を96ウェルプレート中でウェル当たり200μlの容量においてアリコート化し、それはウェル当たり平均0.3個の細胞に対応した。プレートを37℃において10日間インキュベートし、次いで細胞成長について目視により確認した。目下、クローンと命名される成長培養物をピックし、さらなる拡大及び特徴付けのために大型容器に移した。
【0150】
実施例2:改変NK−92(商標)細胞の表現型
PD−L1 t−haNK細胞中でのPD−L1 CARの発現をフローサイトメトリーにより計測し、結果は、PD−L1 t−haNK系からの細胞の86.4%超が安定的CAR発現を有することを示した。図3
【0151】
実施例3:標的細胞系に対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性
t−haNK細胞の細胞毒性を、それぞれの標的細胞とインキュベートすることにより分析した。PD−L1を発現するMDA−MB−231細胞を、PD−L1 t−haNK細胞についての標的細胞として使用した。結果は、PD−L1 t−haNK細胞がそれらのそれぞれの標的細胞を有効に殺傷したことを示す。図4を参照されたい。
【0152】
MDSCに対するPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性も、MDSCに対して試験した。この実験において使用されるMDSCは、血液から得られ、Ficoll勾配上で分離された末梢血単核細胞(PBMC)から生成した。MDSCをCD11bについての陽性磁気選択によりさらに濃縮し、組換えGM−CSF及びIL−6が補給された培養培地中で数を拡大させた(Goedegebuure et al,2011,Current Cancer Drug Targets,Vol.11,issue 6,2011)。次いで、MDSCをPD−L1 t−haNK細胞に種々のエフェクターと標的との比(E:T比)において曝露させた。
【0153】
図5Aに示されるとおり、PD−L1 t−haNK細胞はMDSCを有効に溶解させ(殺傷し)た。PD−L1−t−haNK細胞の細胞毒性は、親aNK(商標)細胞のものよりも少なくとも50%高く;有意に高い割合(少なくとも50%高い)の標的細胞が、いずれのt−haNK細胞系によっても殺傷された。MDSCは腫瘍微小環境中の主な免疫抑制細胞の1つであるため、この結果は、それらのPD−L1 t−haNK細胞を使用して固形腫瘍を有効に治療することができることを示す。これらの結果は、PD−L1 t−haNK細胞が、最初にCAR媒介細胞毒性を介して腫瘍微小環境からMDSCを排除し、次いでt−haNK細胞自体により、又は他の免疫細胞若しくは特異的腫瘍標的療法により腫瘍細胞を殺傷することにより機能することも示唆する。
【0154】
図5Bは、PD−L1 t−haNK細胞がaNK(商標)耐性、PD−L1陽性MDA−MB−231細胞系の特異的殺傷を向上させたことを示す。XL−48及びXL−49は、2つの異なる抗PD−L1抗体に由来する2つの異なるscFvドメインを含むCARを発現する2つのPD−L1 t−haNK集団である。図5Cは、PD−L1 t−haNK細胞が、抗CD20抗体リツキシマブと組み合わせた場合、遺伝子操作SUP−B15細胞(CD19、CD20)に対する抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)活性を有し、そのADCC活性は、CD16(158V)受容体のみを発現するhaNK(登録商標)細胞のものと同等であったことを示す。抗Her2抗体Herceptinをこの実験において対照抗体として使用した。
【0155】
本発明者らは、いくつかのインビボ実験においてPD−L1 t−haNK細胞の活性をさらに調査した。さらに特定すると、雌、9〜10週齢のNSGマウス(JAX)を、MDA−MB−231モデル(新鮮細胞を使用する24匹の動物)及びHCC827モデル(新鮮細胞を使用する24匹の動物及び凍結保存細胞を使用する6匹の動物)に使用した。MDA−MB−231モデルはヒト乳房腺癌モデルであった一方、HCC827はヒト肺腺癌モデルであった。マウスに両脇腹上で皮下接種し、処理開始時の平均腫瘍負荷は100mm(MDA−MB−231)及び75〜80mm(HCC827)であった。新鮮調製され、放射線照射された抗PDL1 t−haNKを、5E7個の細胞/mLの濃度において与えた一方、凍結保存され、放射線照射された抗PDL1 t−haNKを、2E7個の細胞/mLの濃度において与えた。ビヒクル対照は、成長培地単独であった。投与は、i.v.であり、腫瘍内であった。IVについての投与量:新鮮調製された細胞:200μL中の1E7個の細胞/用量、及び凍結保存細胞:200μL中の4E6個の細胞/用量。腫瘍内投与は、50μL中で2.5E6個の細胞/腫瘍/用量であった。投与頻度は、4週間連続にわたり週2回であった。投与の初日を1日目と定めた。
【0156】
特に、図6A及び図6Bに示されるとおり、新鮮調製されたPD−L1 t−haNK細胞(1E7個の細胞/用量)は、静脈内投与した場合、MDA−MB−231及びHCC827モデルの両方で顕著且つ長期持続の腫瘍成長阻害をもたらした。ここで、MDA−MB−231については腫瘍停滞が観察され、16日目のTGIは84%(ピーク)であり、26日目のTGIは79%(最終計測)であった。HCC827については腫瘍退縮が観察され、16日目のTGIは120%(ピーク)であり、29日目のTGIは84%(試験終了)であった。凍結保存PD−L1 t−haNK細胞(4E6個の細胞/用量)も、ビヒクル対照と比較して腫瘍成長の抑制における統計的に有意な効力を示した。ここで、26日目のTGIは60%(ピーク)であり、29日目のTGIは40%(試験終了)であった。
【0157】
さらに、新鮮調製されたPD−L1 t−haNK細胞(1E7個の細胞/用量)は、ビヒクルと比較してMDA−MB−231モデルにおいて転移性疾患負荷の有意な低減ももたらした。対照の全ての動物の100%が転移性疾患を発症した一方、PD−L1 t−haNK細胞により処理された動物の50%のみが転移を発症した(全て単一器官の所見)。以下の表を参照されたい。
【0158】
【表5】
【0159】
腫瘍内投与した場合、有意な腫瘍成長阻害はHCC827モデルにおいても観察されたが、MDA−MB−231モデルにおいては観察されなかった。ここで、図7に示されるとおり、HCC827についてのTGIは20日目で70%(ピーク)であり、29日目で49%(試験終了)であった。
【0160】
したがって、PDL1 t−haNK細胞が2つの皮下腫瘍モデルにおいて顕著な効力を実証したことに留意すべきである。具体的には、4週間にわたる週2回の1E7個の細胞/用量の投与レベルにおける新鮮調製されたPD−L1 t−haNK細胞のIV投与は、試験された皮下ゼノグラフトモデルの両方で顕著な抗腫瘍効力を示した。処理は、MDA−MB−231腫瘍担持マウスにおいて腫瘍停滞をもたらし、ピークTGIは16日目で84%であり、試験終了時TGIは79%であり(2元ANOVAとその後のテューキー検定による多重比較による両方の時点についてP<0.0001)、HCC827モデルにおいては腫瘍退縮をもたらし、ピークTGIは16日目で120%であり、試験終了時TGIは84%であった(P<0.0001)。4週間にわたる週2回の4E6個の細胞/用量の投与レベルにおける凍結保存PD−L1 t−haNK細胞のIV投与もHCC827腫瘍モデルにおいて有意な治療効力を示し、60%(P<0.0001)のピークTGI、及び40%(P<0.01)の試験終了時TGIに達した。
【0161】
4週間にわたる週2回の2.5E6個の細胞/用量/腫瘍の投与レベルにおける新鮮調製されたPD−L1 t−haNK細胞のIT投与は、HCC827腫瘍の成長を有効に抑制し、20日目に70%のピークTGI及び49%の試験終了時TGIをもたらした(P<0.001)。しかしながら、MDA−MB−231腫瘍は、腫瘍内投与されたPD−L1 t−haNK細胞に感受性でなかった。
【0162】
いっそうさらなる実施形態において、本発明者らは、PD−L1 t−haNK細胞対haNK細胞における種々のマーカーの発現を比較し、選択結果を図8に示す。容易に明らかなとおり、PD−L1 t−haNK細胞は、極めて多量のPD−L1 CARを発現した一方、かなりの量のCD16も発現した。さらに特定すると、PD−L1 t−haNK細胞は、パーフォリン及びグランザイムBの増加した発現を有し、そのことは図9に示されるとおりPD−L1 t−haNK細胞の細胞毒性の向上に寄与する可能性が高い。ここで、高PD−L1細胞系(MDA−MB−231)において、PD−L1 t−haNKはhaNKよりも優れており、PD−L1 t−haNKによる抗PD−L1 CAR媒介殺傷は、haNKを用いる抗PD−L1 Ab媒介ADCCよりも優れていた。さらに、殺傷はパーフォリン/グランザイムに依存的であり(殺傷活性は、コンカナマイシン−a(パーフォリン/グランザイム不活性化物質)により有意に停止した)、殺傷は抗CD16により影響を受けないことが観察された。
【0163】
本発明者らは、PD−L1 t−haNK細胞がインビトロの種々の腫瘍細胞に対しても細胞毒性であるか否かをいっそうさらに調査した。図10は、放射線照射されたPD−L1 t−haNKを様々な腫瘍、例として、乳房(n=4)、肺(n=3)、結腸(n=2)、泌尿生殖器(n=2)、脊索腫及び卵巣細胞系と同時培養した例示的な結果を示す。殺傷度の変動がそれぞれの細胞系について観察され、E:T比が減少するにつれて殺傷能力の縮小が観察された。特に、13個/13個の細胞系がPD−L1 t−haNKにより殺傷された。
【0164】
いっそうさらなる実験において、本発明者らは、PD−L1 t−haNK細胞がインビボ腫瘍中に輸送されるか否かを調査した。図11の結果から把握することができるとおり、PD−L1 t−haNK細胞は、PD−L1発現MDA−MB−231 TNBC腫瘍を追跡した(PD−L1ヌルに対して有意)。さらに、PD−L1 t−haNK細胞のIP投与経路は、IV投与細胞よりも有意に大きいレベルのPD−L1 t−haNK細胞蓄積を媒介した。ここで、マウスにMDA−MB−231細胞及びPD−L1ノックアウトMDA−MB−231細胞を接種した。PD−L1 t−haNK細胞のフローを両方の細胞系について24及び72時間後にモニタリングした。明らかに、PD−L1 t−haNK細胞は、PD−L1発現を有する腫瘍を追跡した。さらなる結果はエクスビボで21日後に示され、再びPD−L1 t−haNK細胞はPD−L1発現を有する腫瘍を追跡した。
【0165】
同一モデルを使用して腫瘍成長曲線をインビボで計測し、例示的な結果を図12に示す。特に、PD−L1 t−haNK細胞は1回のみの注射後の有意な抗腫瘍活性を媒介し、それは維持された。PD−L1 t−haNK細胞は、MDA−MB−231PD−L1 KO細胞に対する有意な抗腫瘍活性も媒介した(36日目)。
【0166】
ヒトMDSCも、細胞毒性PD−L1 t−haNK細胞に対する感受性について試験した。この目的のため、PBMCをIL−1b、IL−6、PGE2、TGFb1、TNFa、VEGF、及びGM−CSFの存在下で7日間培養し、拡大させた細胞をCD33選択を使用して選択した。MDSC表現型(CD11b+、HLA−DR陰性、CD33)の確認後、機能的細胞毒性アッセイを実施し、例示的な結果を図13に示す。図から把握することができるとおり、MDSCも、PD−L1 t−haNK細胞により有効に殺傷される。この状況において、M2マクロファージも、PD−L1 t−haNK細胞媒介細胞殺傷についての好適な標的と考えられることに留意すべきである。それというのも、M2マクロファージもPD−L1を発現するためである(例えば、BMC Cancer(2015)15:577 DOI 10.1186/s12885−015−1546−9を参照されたい)。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B-5C】
図6A-6B】
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2020年12月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】