【実施例】
【0155】
実施例
方法 - インビトロ
Aβペプチドの調製
本明細書中Aβ42と呼ぶ組み換えAβ(M1-42)ペプチド(MDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVG-SNKGAIIGLMVGGVVIA[配列番号1])をE. coli BL21 Gold (DE3)株(Stratagene, CA, U.S.A.)中で発現させ、そして若干の変更を加えて以前に記載したように精製した。簡潔には、精製手順は、E. coli細胞の超音波処理、8 M尿素への封入体の溶解、およびバッチモードでのジエチルアミノエチルセルロース上でのイオン交換ならびに凍結乾燥を含んだ。凍結乾燥した画分を、Superdex 75 HR 26/60カラム(GE Healthcare, Buckinghamshire, U.K.)を用いてさらに精製し、そして溶出物を、SDS-PAGEを用いて所望のタンパク質産物の存在について分析した。組み換えタンパク質を含む画分を合わせ、液体窒素を用いて凍結し、そして再度凍結乾燥した。
【0156】
小分子の調製
GVK BIOによって特別合成したネトグリタゾンを除いて、全ての小分子を99%を超える純度で購入した。小分子を最初に100% DMSOに可溶化して5 mMの濃度にし、次いでペプチド溶液中に希釈して最大1-3%の最終DMSO濃度に達した。本発明者らは、反応混合物へのDMSOの添加がAβ42凝集に対して効果を有しないことを確認した。
【0157】
動態実験のためのサンプルの調製
モノマーペプチドの溶液を、凍結乾燥したAβ42ペプチドを6 M GuHClに溶解することによって調製した。モノマー形態を、潜在的オリゴマー種および塩からSuperdex 75 10 / 300 GLカラム(GE Healthcare)を用いて0.5 mL/分の流量で精製し、そして200 μM EDTAおよび0.02% NaN
3を添加した20 mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 8中に溶出した。ピークの中央を集め、そしてペプチド濃度をε
280 = 1490 L mol
-1 cm
-1を用いて積算ピーク面積の吸光度から決定した。得られたモノマーを緩衝液で希釈して所望の濃度にし、そして1 mMストックから20 μMチオフラビンT(ThT)を添加した。全てのサンプルを氷上で低結合エッペンドルフチューブ中で調製し、注意深いピペット操作を用いて気泡の導入を防いだ。次いで、各サンプルを96-ウェル半面積低結合透明底およびPEGコーティングプレート(Corning 3881)の複数のウェルに1ウェル当たり80 μLでピペットで入れた。Aβ42動態を、ネトグリタゾン、ミトグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、ピオグリタゾン、シグリタゾン、エングリタゾン、ダルグリタゾン、トログリタゾンおよびバラグリタゾンの不在下または存在下で行った。
【0158】
播種実験について、行った原線維を実験直前に調製した。動態実験を、200 μM EDTA、0.02% NaN
3および20 μM ThTを有する20 mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH 8中、5μM Aβ42サンプルについて上記の通り設定した。ThT蛍光を3時間モニターし、原線維の形成を確認した。次いで、サンプルをウェルから集めて低結合チューブに入れた。熟慮した条件(すなわち、5 μM Aβ42)下、モノマー濃度は平衡で無視できる。モノマー等価体における原線維の最終濃度を、モノマーの初期濃度に等しいと考えた。次いで、原線維を新たに調製したモノマーに加え、ネトグリタゾンの不在下または存在下、種の2%または50%のいずれかの最終濃度に達した。
【0159】
ヒトCSFにおけるAβ42凝集動態の実験について、3 μM Aβ42のモノマー溶液を、緩衝液が150 mM NaClで1 mM CaCl
2を加えた20 mM Hepes、pH 8であったことが唯一の例外で、上記と同様に調製した。得られたモノマーを緩衝液で希釈し、CSFの66%最終濃度に達し、ここでCSFの効果は最大に近い。Aβ42凝集動態を、1.25および5-倍過剰のネトグリタゾンの不在下または存在下で行った。
【0160】
Aβ40凝集動態をモニターする実験について、10 μMのAβ40濃度で、1.25-倍過剰のネトグリタゾンの不在下または存在下、Aβ42について上記したのと同様にして実験を行った。
【0161】
動態アッセイ
96-ウェルプレートを37℃、静止条件下、プレートリーダー(Fluostar Omega, Fluostar OptimaまたはFluostar Galaxy, BMGLabtech, Offenburg, Germany)中に配置することによってアッセイを開始した。ThT蛍光を、440 nm励起フィルターおよび480 nm発光フィルターを用いてプレートの底部を通して測定した。ThT蛍光は、各サンプルの3回の繰り返しに従った。
【0162】
理論的分析
合計の原線維質量濃度の時間発展は、Cohen et al., J Chem Phys 135, 065106, 2011に式(54)によって与えられた積分速度則によって、初期条件および系の速度定数のみの関数として記載する。
【0163】
興味深いことに、Aβ42について完全な集合プロセスを捕獲するために(Cohen et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 110(24), 9758-63, 2013)、速度定数の2つの特定の組み合わせのみが巨視的挙動の多くを定義する。これらは、一次経路
【0164】
【数1】
【0165】
を通した、および二次経路
【0166】
【数2】
【0167】
を通した新たな凝集体の形成速度に関係し、ここで、可溶性モノマーの初期濃度はm(0)で示され、n
cおよびn
2はモノマー濃度(Aβ42についてn
c = n
2 = 2)に対する一次および二次経路の依存性を記載し、そしてk
n、k
+およびk
2はそれぞれ一次核生成、伸長および二次核生成の速度定数である(Cohen et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 110(24), 9758-63, 2013)。Aβ42について、ここで考慮された条件(すなわち、Aβ42のマイクロモル濃度)下、解重合の速度は、反応の時間的経過の間中ずっと(すなわち、モノマーペプチドがほとんど完全に枯渇するまで)、原線維の伸長速度よりも顕著に遅く、それゆえこのプロセスは動態分析において無視され得る。
【0168】
阻害剤は、1つ以上の個々の微視的工程を阻害することによって、凝集プロセスを妨げ得る。本発明者らは、積分速度則(Cohen et al., J Chem Phys 135, 065106における式(54))を巨視的凝集プロファイルに適合させ、そしてネトグリタゾンの不在下および存在下、原線維形成の時間発展を記載するのに必要とされる微視的速度定数(予備形成した種の不在下のk
+k
2およびk
+k
n;予備形成した種の存在下のk
+およびk
2、ここで一次核生成は迂回される)の適合させたセットを比較することによって、化学化合物によって阻害される微視的事象を同定することができる。分析は、Aβ42凝集に対する他の小分子の効果を研究するためにHabchi et al., Proc Natl Acad Sci U S A;114(2):E200-E208, 2017において行われたのと類似している。
【0169】
分子の存在下、速度定数(k
n、k
2またはk
+)を用いて、本発明者らはまた:
【0170】
【数3】
【0171】
としてオリゴマーに対する反応フラックス(r(t))を概算することができる。
【0172】
オリゴマーの発生がピークに達する時間、および経時で発生したオリゴマーの合計数r(t)の時間積分)は、続いて予測することができる。
【0173】
ドットブロットアッセイ
Aβ42原線維-特異的抗体(OC, Millipore)を用いてブロッティングを行った。5-倍過剰のネトグリタゾンの不在下および存在下の2 μM Aβ42の凝集の時間的経過の間、4μL Aβ42アリコートをOCのブロッティングのために異なる時間点で混合物から取り出した。Aβ42アリコートをニトロセルロース膜(0.2 μm, Whatman)上にスポットし、次いで膜を乾燥し、次いで免疫検出前にBlocking One(Nacalai tesque)でブロックした。製造者の指示に従ってOCを用いた。Alexa Fluor(登録商標)488-結合二次抗体(Life technologies)を続いて加え、そして蛍光検出をTyphoon Trio Imager(GE Healthcare)を用いて行った。
【0174】
オリゴマー-特異的抗体のELISA-ベースの結合
20μlのアリコートを、5-倍過剰のネトグリタゾンの不在下および存在下、5μM Aβ42の凝集反応からt
50(すなわち、半時間)で取った。次いで、サンプルを、室温で1 h振盪することなく、96-ウェルMaxisorp ELISAプレート(Nunc, Roskilde, Denmark)上に固定化した。次いで、プレートを20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaClで3回洗浄し、そして20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaCl、5% BSA中、4℃で一晩の一定の振盪下、インキュベートした。その翌日、プレートを20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaClで6回洗浄し、次いで5μMオリゴマー-特異的抗体の30 μl溶液とともに、室温で1時間または一晩のいずれかの一定の振盪下、インキュベートした。このインキュベーションの終わりに、プレートを20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaClで6回洗浄し、そして20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaCl、5% BSA中1:4000の希釈で6X His tag(登録商標)HRP結合(Abcam, Cambridge, UK)に対してポリクローナルウサギの30 μl溶液とともに、室温で1時間の一定の振盪下、インキュベートした。プレートを20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaClで3回洗浄し、次いで20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaCl、0.02% Tween-20で2回洗浄し、そして再度20 mM Tris pH 7.4、100 mM NaClで3回洗浄した。最後に、結合したオリゴマー-特異的抗体の量を、製造者の指示に従って、1-Step(登録商標)Ultra TMB-ELISA Substrate Solution(ThermoFisher Scientific, Waltham, MA, United States)を用いることによって定量し、そしてCLARIOstarプレートリーダー(BMG Labtech, Aylesbury, UK)によって450 nmで吸光度を測定した。
【0175】
Ca
2+流入アッセイ
PLL-PEGコーティングしたホウケイ酸塩ガラスカバースライド(VWR International, 22x22 mm, 製品番号63 1-0122)につないだ単一のベシクルを、倒立Olympus IX-71顕微鏡に取り付けた油浸対物レンズ上に配置した。各カバースライドをFrame-Sealインキュベーションチャンバーに取り付け、そして50 μLのpH 6.5のHEPES緩衝液とともにインキュベートした。画像化の直前に、HEPES緩衝液を50 μLのCa
2+含有緩衝溶液L-15で置き換えた。カバースライドの16(4×4)画像を3つの異なる条件(それぞれバックグランド、Aβ42の存在下、およびイオノマイシン(Cambridge Bioscience Ltd, Cambridge, UK)の添加後)下で記録した。各視野間の距離を100 μmに設定し、そして自動化(ビーンシェル(bean-shell)スクリプト、マイクロマネージャー(Micromanager))していかなる使用者の偏見も回避した。各測定後、スクリプトはステージ(Prior H117, Rockland, MA, USA)が視野を開始位置に戻すことを可能とし、その結果、同一の視野は異なる3つの条件について獲得することができた。バックグランドの画像をL15緩衝液の存在下で獲得した。各視野について、50の画像を50 msの露光時間で取った。その後、目標値の2倍の濃度に希釈した50 μLの凝集反応物を添加し、そして10分間インキュベートした。次いで、1 mg/mLのイノマイシン(Cambridge Bioscience Ltd, Cambridge, UK)を含む溶液の10 μLを加え、そして5分間インキュベートし、そして続いて同じ視野中のCa
2+飽和単一ベシクルの画像を獲得した。記録した画像をImageJを用いて分析し、ネトグリタゾンありおよびなしでインキュベートした凝集混合物の存在下、3つの異なる条件下で各スポットの蛍光強度を決定した。
【0176】
方法-インビボ(C. elegans)
培地調製
C. elegans (S. Brenner, The genetics of Caenorhabditis elegans. Genetics. 77, 71-94 (1974))の増殖のために標準条件を用いた。簡潔には、動物を次亜塩素酸塩漂白によって同期させ、M9緩衝液(3 g/l KH
2PO
4、6 g/l Na
2HPO
4、5 g/l NaCl、1 μM MgSO
4)中で一晩孵化させ、そして続いてE. coli株OP50を播種した線虫増殖培地(NGM)(CaCl
2 1 mM、MgSO
4 1 mM、コレステロール5 μg/mL、PBS緩衝液(250 μM KH
2PO
4、67.5 μM KCl、3.425 mMのNaCl、pH 6)、寒天17 g/L、NaCl 3 g/l、カゼイン7.5 g/l)プレート上、20 ℃で培養した。OP50の飽和培養物を、50 mlのLB培地(トリプトン10 g/l、NaCl 10 g/l、酵母抽出物5 g/l)をOP50で接種し、そして培養物を37 ℃で16 hインキュベートすることによって増殖させた。NGMプレートに、350 μlの飽和OP50を各プレートに添加し、そしてプレートを20 ℃で2-3日 放置することによって、細菌を接種した。同期後3日目、動物を5-フルオロ-2’デオキシ-ウリジン(FUDR)(特に明記しない限り75 μM)を含むNGMプレート上に配置し、子孫の増殖を阻害した。
【0177】
株
以下の株を用いた:
GMC101 dvIs100[unc-54p::A-beta-1-42::unc-54 3’UTR + mtl-2p::GFP]。mtl-2p::GFPは、腸細胞中でGFPの構成的発現を生じる。unc-54p::A-beta-1-42は、インビボで凝集する体壁筋細胞中で全長ヒトAβ42ペプチドを発現する。20°〜24℃でのL4または若年成人動物の変化は、まひを引き起こす(G. McColl et al., Utility of an improved model of amyloid-beta (Aβ
1-42) toxicity in Caenorhabditis elegans for drug screening for Alzheimer's disease. Mol Neurodegener. 7, 57 (2012));
NL5901 (pkIs2386 [α-シヌクレイン::YFP unc-119(+)])(PD蠕虫)、ここでYFPに融合したα-シヌクレインは封入体に移転し、これは、孵化後早くも2日目に可視であり、そして動物の老化の間、後期成虫期(17日目)まで数および大きさが増加する(T. J. Van Ham et al., C. elegans model identifies genetic modifiers of α-synuclein inclusion formation during aging. PLoS Genetics. 4(2008));
CL2331; dvIs37 [myo-3p::GFP::A-Beta (3-42) + rol-6(su1006)](Aβ
3-42::GFP
Muscular蠕虫)。16Cで維持する。ローラー。体壁筋中で拡散および凝集したGFP発現。低い腹子数。より高い温度でより病的。(C. D. Link et al., The β amyloid peptide can act as a modular aggregation domain. Neurobiol. Dis. 32, 420-425 (2008));および
CL2355 [pCL45 (snb-1::Abeta 1-42::3' UTR(long) + mtl-2::GFP](Aβ
1-42Neur蠕虫)。16Cで維持する。ヒトAbetaペプチドの汎神経発現。マーカー導入遺伝子からのGFPの構成的腸発現。株は、脂質中で走化性、連想的学習およびスラッシング(thrashing)の欠損を示す。株はまた、生殖細胞系列増殖の欠陥および胚性致死性のために不完全な不妊を有する(Y. Wu et al., Amyloid-beta-induced pathological behaviors are suppressed by Ginkgo biloba extract EGb 761 and ginkgolides in transgenic Caenorhabditis elegans. J. Neurosci. 26, 13102-13113 (2006))。
【0178】
N2 C. elegansvar. Bristolをコントロールとして用いた(また「健康」と標識した)。世代時間は、約3日である。腹子数は約350であり、野生型表現型、1973年に継代培養(S. Brenner, The genetics of Caenorhabditis elegans. Genetics. 77, 71-94 (1974))。
【0179】
薬物投与
薬物を以前に示した通り投与した(M. Perni et al., Massively parallel C. elegans tracking provides multi-dimensional fingerprints for phenotypic discovery. J. Neurosci. Methods. 306, 57-67 (2018); J. Habchi et al., An anticancer drug suppresses the primary nucleation reaction that initiates the production of the toxic Aβ42 aggregates linked with Alzheimers disease. Science Advances. 2, e1501244-e1501244 (2016); J. Habchi et al., Systematic development of small molecules to inhibit specific microscopic steps of Aβ42 aggregation in Alzheimer's disease. Proc Natl Acad Sci U S A. 114, E200-E208 (2017); M. Perni et al., Multistep Inhibition of α-Synuclein Aggregation and Toxicity in Vitro and in Vivo by Trodusquemine. ACS Chem Biol, 17;13(8):2308-2319 (2018))。
【0180】
簡潔には、ネトグリタゾンストック(100% DMSO中5 mM)を適切な濃度で用い、9-cm NGMプレートに播種した。次いで、プレートを室温(22℃)で4時間までラミナーフローフード(laminar flow hood)中に配置し、乾燥した。次いで、C. elegans培養物を、後の処置のためにL4ステージとしてまたは3日目に化合物を播種した培地上に移し、そして全体の実験のために24°でインキュベートした。実験を、1% DMSO中0.05〜500 μMの範囲の異なるネトグリタゾン濃度で行った。コントロールとして、1% DMSOのみを播種したプレートを用いた。
【0181】
自動化運動性アッセイ
全てのC. elegans集団を20℃で培養し、そして4 h産卵から発生的に同期した。産卵後64-72 h(時間0)で、個々をFUDRプレートに移し、そして身体運動を示した時間にわたって評価した。異なる年齢で、動物をM9緩衝液を用いてプレートから洗い落とし、そしてOP-50未播種9 cmプレートに広げ、その後、それらの運動を20 fpsで近年開発された顕微鏡手順(M. Perni et al., Massively parallel C. elegans tracking provides multi-dimensional fingerprints for phenotypic discovery. J. Neurosci. Methods. 306, 57-67 (2018))を用いて1分記録した。600匹までの動物を、特に明記しない限り各実験において2回計数した。各一連の実験において測定した3つ以上の代表例である1つの実験を示し、そしてビデオを特注のトラッキングコード(M. Perni et al., Massively parallel C. elegans tracking provides multi-dimensional fingerprints for phenotypic discovery. J. Neurosci. Methods. 306, 57-67 (2018))を用いて分析した。
【0182】
生存C. elegansにおける染色および顕微鏡検査
プラーク染色を以前に記載した通り行った(J. Habchi et al. (2016); M. Perni et al., A natural product inhibits the initiation of α-synuclein aggregation & suppresses its toxicity. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 114, E1009-E1017 (2017))。簡潔には、生存トランスジェニック動物を広範な濃度および時間にわたってNIAD-4とともにインキュベートし、1 μM NIAD-4 (M9緩衝液中0.1% DMSO)では室温で4時間。染色後、動物をNGMプレート上で約24時間回復させ、正常な代謝を介して脱染させた。染色した動物を、画像化のためのガラス顕微鏡スライド上、麻酔薬として40 mM NaN
3を含む2%アガロースパッド上に置いた。画像を、20×対物および49004 ET-CY3/TRITCフィルター(Chroma Technology Corp)を有するZeiss Axio Observer D1蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Microscopy GmbH)を用いてキャプチャーした。蛍光強度をImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて計算し、次いで補正合計細胞蛍光として正規化した。消化管における高いバックグランドシグナルのため、頭部のみを考慮した。全ての実験を3回行い、そして1つの代表的実験からのデータを示す。統計的有意性はt検定を用いて決定した。
【0183】
走化性アッセイ
走化性測定を以前に記載した通り(O. Margie, C. Palmer, I. Chin-Sang, C. elegans Chemotaxis Assay. J Vis Exp, e50069 (2013))および
図6Cに説明した通り行った。簡潔には、成虫の同期したトランスジェニックC. elegans CL2355蠕虫および野生型の健康な蠕虫を5 μMネトグリタゾンとともにまたはなしで24℃で5日間インキュベートした。成虫期の6日目、次いで蠕虫を集め、M9緩衝液で3回洗浄し、そしてそれぞれ誘引物質または試験条件として50 μlのOp50細菌の10X培養物または滅菌水を播種し、そして1 μlの1Mレバミゾールと組み合わせた9cmスクリーニングプレート(1.9%寒天、1 mM CaCl
2、1 mM MgSO
4、および25 mMリン酸緩衝液、pH 6.0)中でアッセイした。約200匹の蠕虫をプレートの中央の四分円に配置し、そして24℃で8 hインキュベートし、その後走化性指標(CI)を採点した。CIは以下のように定義した(O. Margie et al (2013)):
(誘引物質の位置での蠕虫の数−コントロールの位置での蠕虫の数)/プレート上の蠕虫の合計数
【0184】
中央の四分円に残った蠕虫は排除した。
【0185】
ROS産生および測定
ROS-Glo(登録商標)H
2O
2細胞キットアッセイを用い(Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)、そしてC. elegans研究に適合させた。The ROS-Glo(登録商標)H
2O
2アッセイは、反応性酸素種(ROS)であるH
2O
2のレベルを、細胞培養物または組織中あるいは定義した酵素反応中で直接測定する生物発光アッセイである。誘導体化ルシフェリン基質をサンプルとともにインキュベートし、そしてH
2O
2と直接反応してルシフェリン前駆体を発生する。1% DMSO中の5 μMネトグリタゾンまたは1% DMSOのみで処置した蠕虫を、M9緩衝液を用いてNGMプレートから洗い落とした。次いで、緩衝液を3回交換し、過剰の細菌を除去した。次いで、蠕虫ペレットを3つのウェルに分割し、そして80 μlの蠕虫ペレット(約200匹の蠕虫/ウェル)を20 μlのROS基質溶液(Promega, Fitchburg, Wisconsin, USA)とともにRTで6 hインキュベートし;300 rpmでの穏やかな振盪を用いて蠕虫の沈殿を避け;その後、蠕虫を100 μlの検出溶液とともに約20分インキュベートし;次いで、発光をClariostar(BMG Labtech, Aylesbury, UK)を用いて測定した。
【0186】
方法−インビボ有効性(マウス)
APPPS1マウス
C57BL/6遺伝的背景に対するニューロン特異的Thy-1プロモーターの制御下、スウェーデン変異K670M/N671LおよびPS1変異L166Pを共発現するAPPPS1トランスジェニックマウスを研究に用いた。研究の前にAPPPS1マウスを慣らし、ピペットからコンデンスミルク処方物を自発的に飲ませた。研究に用いたコンデンスミルクは、市販入手可能(Migros)であり、そして乳、糖、安定化剤E339を含む。研究を開始する前に体重を測定し、各マウスについてネトグリタゾンの用量を計算し、そして合計の血液量を計算した。次いで、60日齢のマウスに90日間ピペットで1日1回投薬した。ピペットは、コンデンスミルク(2ml/kg/日)のみ(プラセボコホート)またはコンデンスミルク(2ml/kg/日)およびネトグリタゾン(75 mg/kg/日)のいずれかからなる40-80μLを含んだ。血液を眼窩後サンプリングを介して集め、7日後および28日後のネトグリタゾンの濃度をモニターした。マウスの視覚モニタリングおよび体重の測定を、それぞれ毎日および隔週で行った。実験の最後(すなわち、1日1回の処置の90日後で、マウスは150日齢であった)、マウスを安楽死させ、そしてそれらの脳を以下に概説するように分析した。
【0187】
APPPS1マウスの灌流
用いたA4B4P4ヒドロゲル処方物(Chung, K. et al. 2013)は、4%アクリルアミド(wt/vol)、0.05%ビス-アクリルアミド(wt/vol)、4%パラホルムアルデヒド(wt/vol)、および0.25% VA-044開始剤(wt/vol)のPBS水溶液からなった。動物を深く麻酔し、そしてリン酸緩衝化生理食塩水溶液(PBS, Thermo-Fisher, pH 7.4)で経心的に灌流し、続いて等体積の冷A4B4P4の灌流を行った。結果として、組織は十分に架橋して構造的安定性を維持する。組織をヒドロゲルに埋め込むために、以前に記載した窒素フラッシュ(nitrogen-flush)または真空チャンバー脱気プロトコル(Chung, K. et al. 2013)の後に組織を重合した。全てのサンプルを37℃振盪インキュベーター中で2.5時間のインキュベーションによって重合し、続いて過剰のヒドロゲルを除去した。固体ゲルは、フームフード下でサンプルから剥がされ得、そして固体廃棄物として処分され得る。マウスをインビボでヒドロゲル溶液で灌流することにより、全ての核酸およびタンパク質は所定の位置に固定される。次いで、サンプルを37℃でホウ酸ナトリウム緩衝液(200 mM、pH 8.5)中の8%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の清浄溶液中に配置し、そして以下に記載の方法で積極的に清浄した。
【0188】
清浄
組織清浄方法を用い、それによって組織ブロックまたは器官全体は透明にされ、そしてそれゆえ全脳画像化に適している。光透過性が達成されるまで、130mA、60Vおよび15Wの電気泳動場を37℃で数時間印加し、脂質の清浄を改善した。さらなる処理の前に、清浄溶液を1日かけてPBST(PBS中0.1% TritonX-100 (wt/vol))の2〜3回の洗浄でサンプルからすすいだ。
【0189】
全脳の組織化学
清浄した全脳をPBS中で1hで3回および一晩で1回洗浄した。次いで、脳を1 X TTB(1M Tris、1Mトリシン、pH 8.5)中で1hインキュベートした。脳を発光結合ポリチオフェン(LCPs)で染色し、Aβ堆積物を室温で2h検出した。LCPsを1%低融点アガロース(LMA)中で1:100に希釈した。LMAを、それが固化相に達するまで脳に適用した。20V、20mAの電場を印加し、LCPsを陰極から陽極まで組織を通って移動させた。サンプルを、染色前にPBS中、室温で数回洗浄した。
【0190】
サンプルの画像化
画像化のためのサンプルを調製するため、サンプルを屈折率適合溶液(Histodenz)中で2日間インキュベートした。サンプルをUQ-753 40x40キュベット(Portman Instruments)中に取り付けた。サンプルを、特注のmeso-SPIM顕微鏡を用い、2x対物レンズを用い、3 μm z-ステップ分解能で画像化した。TeraStitcherソフトウェアで32のz-スタックタイル画像(stacks tile images)を縫い合わせることによってサンプル全体を得、そしてImageJおよびImaris 8(Bitplane)において見た。
【0191】
マウス脳データ分析
画像ファイルをカスタムコードしたソフトウェアを用いて分析した。各ファイルは、脳半球に対応し、そして複数の2Dスライス(半球あたり約2500スライス)からなり、スライスは焦点面であった。ファイルを一度に1平面読み込み、各平面を別個に分析した。プラークの検出をガウス法のラプラシアンを用いてコンピューター計算し:離散化したガウス核に適用したラプラシアン演算子と元の形式(16-ビット)における画像との間の畳み込み(コンボリューション)を行った。プラークの全体の球形を考えると、ガウスのパラメーターσは、分析の速度を促進するために、普遍性を喪失することなく、xおよびy方向の両方において一定に保たれた。アルゴリズムは、2つの値の間の2工程で、このパラメーターを最小の1σから最大の4σ(プラークの最大サイズを考慮すると)まで自由に変化させた。その面積が閾値よりもより大きな重複を示すプラークを融合するため、および過大な計数を避けるため、0.5の重複する閾値を設定した。プラークの中心に相当する極小値を同定すると、次いでプラークを計数した。合計面積はまた、平面の関数のゼロ交差点内に含まれる領域を積分することによってコンピューター計算され得る。半球あたりのプラークの合計数(面積)は、各平面上で検出されたプラーク(面積)の合計であった。
【0192】
マウス脳データ分析コードの詳細
言語 - Python 3.6.8
ライブラリー - Numpy, Scipy, Opencv, Scikit-image, Matplotlib, Tifffile, Seaborn
カスタムモジュール: my_imaging (パッケージに含まれる)
【0193】
マウス脳データ分析コードの実行
【0194】
【数4】
【0195】
【数5】
【0196】
【数6】
【0197】
【数7】
【0198】
試験例
試験の抗糖尿病薬ネトグリタゾンは、チアゾリジンジオン群に属するペルオキシソーム増殖剤-活性化受容体(PPAR)アゴニストである。本発明者らは、ヒト脳脊髄液(CSF)における測定を含む広範な生化学、生物物理学ツールを用いて、およびAβ-媒介毒性メカニズムに基づくADのインビボモデルであるシノラブディス・エレガンス(C. elegans)を用いて、ネトグリタゾンおよび他のグリタゾンの効果を確認した。その単純な生体構造、短い寿命および確立された遺伝学によって特徴付けられた、線形動物の蠕虫シノラブディス・エレガンスは、生物医学研究における、特に遺伝子研究および薬物スクリーニングのための強力なモデル有機体になった。これらの蠕虫は、小さく(長さが約1 mm)、透明であり、操作しやすく、卵から成虫まで25℃で3日の短い成熟期ならびに2および3週間の寿命を有し、それらの生物学の複数の局面の迅速な研究を容易にする特徴を有する。それにもかかわらず、それらは、細胞の複雑性およびより高度な有機体のそれに匹敵する組織特異的タンパク質発現プロファイルを有する。結果として、C. elegansは、神経変性、特にタンパク質凝集の原因となる分子メカニズムの特性評価のためのモデル有機体として一般に用いられる。
【0199】
C. elegansの健康および適応度は、1分あたりの身体の屈曲の数(BPM)を計数することによって、または蠕虫の運動の速度を測定することによって、液体培地中で通常定量化されている。このような研究における他の鍵となる読み出しは、寿命およびまひであり、これらは、例えば、最近、特定の遺伝子および寿命を調節する化合物の同定、酸化的ストレスとミトコンドリア機能との間の関連性、および神経変性疾患についての要因を含む老化の分野における主要な発見へと至った。
【0200】
最も確固たる方法で治療法の効果をスクリーニングするために、広い視野線虫追跡プラットフォーム(WF-NTP)を用い、これは大きな蠕虫集団に対する複数の表現型読み出しの同時調査を可能とする。WF-NTPは、5000匹までの動物を並行してモニターし、そして表現型の読み出しは複数の平行パラメーターを含む。
【0201】
特にネトグリタゾンを含むいくつかのグリタゾンが、適応度およびROS産生に関して健康なコントロール蠕虫の表現型を復元することができるが、同種のα-シヌクレイン-媒介毒性PDモデルを復元することができず、従ってAβペプチドの凝集に対するそれらの特異性を示唆していることが示されている。最後に、AD蠕虫の適応度において観察された改善が、それらのライフサイクルの間に蠕虫において形成される凝集体の量の減少に極めてよく相関することが示されている。
【0202】
以下の非限定の実施例は、本発明を説明する。
【0203】
実施例1 - ネトグリタゾンは濃度-依存様式でAβ凝集を阻害する。
Aβ42原線維形成を、ネトグリタゾンの不在下および存在下、2 μM Aβ42サンプルを用いてインビトロでモニターした。Aβ42のみについて、凝集の半時間は、用いた緩衝液条件下、おおよそ2 hであった。Aβ42凝集の実質的な遅延は、濃度-依存様式で観察した。これは、
図1aおよび1bにおいて分かり得る。
【0204】
これらの効果をさらに調査するため、および化合物のAβ42原線維に結合するThTおよび蛍光測定への可能な妨害を排除するために、Aβ42原線維の量を、5-倍過剰のネトグリタゾンの不在下および存在下、原線維-感受性OC一次抗体でのドットブロットアッセイを用いて、凝集反応の間の8つの時間点で精査した。これらの結果は、
図1cにおいて分かり得る。ドットブロットアッセイにおいてネトグリタゾンによって誘起された遅延は、実験誤差内で、ThT-ベースのアッセイにおいて観察されたのと同一であることが見い出された。
【0205】
実施例2 - ネトグリタゾンは一次および二次経路を阻害する。
試験の凝集プロファイルを、原線維形成の時間発展を異なる微視的事象の速度定数に関連付けるマスター方程式から導かれた速度則を用いて計算した速度曲線に適合させることによって、分子の効果について定量分析を行った。このアプローチにおいて、阻害剤の存在下での凝集プロファイルは、阻害剤の不在下で評価した各微視的速度定数に対する適切な摂動を速度則に導入することによって記載される。次いで、異なる濃度の阻害剤の存在下での凝集プロファイルを記載するために要求される速度定数の修正は、ネトグリタゾンの存在によって影響を受ける特定のプロセスを示す。
【0206】
小分子の存在下、データは、一次(k
nk
+)および二次(k
2k
+)経路の両方の速度定数が減少する場合、極めてよく記載され、ここで、k
nは一次核生成の速度定数であり、k
2は表面触媒二次核生成の速度定数であり、およびk
+は伸長の速度定数である。全ての速度曲線を、一次および二次経路の両方が同時に減少し、かつ両方の経路の速度定数が小分子の濃度に対してプロットされたシミュレーションと比較した。これらの結果は、
図1dおよび1eにおいて分かり得る。この分析は、ネトグリタゾンがAβ42凝集における両方の核生成経路に異なる程度で影響を与え得ることを明らかにする。反応の終わりでのThT蛍光の増加を試験し、そして全ての場合において同様の値が見い出された。これらの結果は、ドットブロットアッセイに一致して、同様の原線維質量濃度が、小分子が存在するかしないかどうかに関わらず形成することを示唆する。ペプチドの濃度がインビボでずっと低いと仮定すると、ずっと低い濃度の薬物がAβ42凝集の速度定数に同程度影響を与えるために必要であることが予想される。
【0207】
実施例3 - ネトグリタゾンはAβ凝集の触媒サイクルをブロックする。
凝集反応の異なる工程、特に表面触媒二次核生成および伸長工程に対するネトグリタゾンの効果をさらに探索するために、追加の一連の動態測定を、ネトグリタゾンおよび2%または50%のいずれかの予備形成した原線維種の存在下で行った。ネトグリタゾンの不在下、これらの条件下での正規化した動態プロファイルは、
図1fにおいて分かり得る。50%の予備形成した原線維について、一次および二次核生成工程は、迂回され、そして成熟原線維の形成は、原線維種によって促進される伸長反応によって大きく加速される。これらの条件下、ネトグリタゾンは、ペプチドに対して20-倍過剰の濃度でさえ、2 μM Aβ42の凝集動態に影響を与えなかった。これは、
図1gにおいて分かり得、そしてネトグリタゾンが伸長に対して効果を有しないことを強く示す。
【0208】
Aβ42凝集の二次経路に対するネトグリタゾンの効果についてより完全な評価を得るために、2%原線維種の存在下、2 μM Aβ42サンプルの凝集動態を測定した。これらの結果は
図1hにおいて分かり得る。実験速度曲線に基づくシミュレーションは、最小比(1%)の予備形成した種が溶液中に導入された場合でさえ、一次核生成が完全に迂回されることを示す。対照的に、表面触媒二次核生成および伸長は、異なる方法で全体の動態に寄与し、伸長の寄与は種濃度が増加するにつれてより重大になる。従って、異なる種濃度を用いたAβ42の凝集動態に従うことによって、反応経路の表面触媒二次核生成および伸長工程への分離が可能となる。これは、そうでなければ予備形成した種の不在下での凝集動態から直接検出できないかもしれない単一の微視的工程レベルでの小分子の効果を特徴付けるために極めて重要である。2%種でのデータは、ネトグリタゾンの存在下でのAβ42凝集の二次経路の濃度依存的阻害(すなわち、k
2k
+の減少)を示した。これは、
図1hにおいて分かり得る。この場合において、減少は、20倍過剰で原線維の伸長、すなわちk
+に対する効果が観察されなかったので、表面触媒二次核生成の速度定数、すなわちk
2の減少にのみ起因し得た。これは、
図1gにおいて分かり得る。速度定数は、速度曲線から定量的に導かれ得、そして
図1iに示すように、20-倍過剰のネトグリタゾンの存在下で約80%減少したことが見い出された。
【0209】
実施例4 - ネトグリタゾンは、Aβ42凝集を生体外で遅らせ、そしてAβ、Aβ40の40-残基アイソフォームの凝集を阻害する。
ネトグリタゾンがより生理学的に関連する条件下でAβ42凝集を遅らせるかどうかを探索した。従って、ヒト脳脊髄液(CSF)中のAβ42の凝集動態に対するネトグリタゾンの効果をモニターした。CSFはAβ42凝集の濃度依存的遅延を引き起こし、Aβ42凝集が、以前の結果と一致して、この液中でより遅いことを示唆する。次いで、本発明者らは、CSFの効果が最大、すなわち66%に近い条件下でネトグリタゾンの効果を調査した。
図1jにおいて分かり得るように、これらの条件下、ネトグリタゾンは、緩衝液中で観察されたのと同様の濃度依存様式で凝集動態を顕著に遅らせた。Aβペプチドの凝集に対するネトグリタゾンの効果をさらに調査するために、同様の動態実験を40-残基アイソフォームであるAβ40に対して行った。興味深いことに、
図1kに示すように、ネトグリタゾンが42-残基アイソフォームと同様にAβ40凝集を阻害することができることが見い出された。
【0210】
実施例5 - ネトグリタゾンは、細胞毒性オリゴマーの形成を阻害し、そして脂質膜の破壊におけるそれらの効果を防ぐ。これらの知見をAβ42オリゴマーの毒性形態の発生に対する可能な効果に置き換えるために、シミュレーションおよび実験ツールの組み合わせを用いてAβ42オリゴマーの形成に対するネトグリタゾンの効果を評価した。実際、
図1lに示すように、5-倍過剰のネトグリタゾンの不在下または存在下でのAβ42の2 μMサンプルの凝集速度曲線から、一次および二次プロセスの両方からのオリゴマーの形成の総速度をシミュレーションした。一次および二次核生成の両方の速度の減少は、凝集反応の間に発生する毒性オリゴマーの全負荷を著しく減少させると予想される。この予想に一致して、シミュレーションは、ネトグリタゾンによるAβ42凝集における一次および二次核生成工程の阻害が、オリゴマーの形成の著しい遅延およびそれらの数の減少を伴うことを示す。これらの結果は、
図1mおよび1nにおいて分かり得る。これは、ネトグリタゾンの存在下での凝集反応の間に形成されるAβ種の低下した毒性に至ると予想される。しかし、Aβの凝集プロセスの間に形成される毒性中間種の特性評価および定量は、これらの種の一時的性質のために非常に難易度が高い。この問題に実験的に対処するために、タンパク質凝集体によって破壊される脂質ベシクル中へのCa
2+流入の測定を可能とする最近開発された超高感度アッセイ(Flagmeier, P., De, S., Wirthensohn, D., Lee, S. F., Vincke, C., Muyldermans, S., Knowles, T. P., et al. (2017). Ultrasensitive Measurement of Ca(2+) Influx into Lipid Vesicles Induced by Protein Aggregates.. Angewandte Chemie - International Edition, 56 (27), 7750-7754. https://doi.org/10.1002/anie.201700966)を用いた。実際、広範囲の実験的証拠は、凝集体-誘起細胞傷害の鍵となるメカニズムが、ニューロン細胞において観察されるプロセスである非特異的細胞膜破壊であることを示唆する。興味深いことに、これらの実験に基づいて、速度曲線からのシミュレーションは、脂質破壊アッセイを用いた測定と一致することが見い出された。実際、
図1lにおける動態から導かれた
図1mおよび1nに示すシミュレーションは、5-モル当量でネトグリタゾンの存在によって誘起されるAβ42の凝集における遅延が、オリゴマーの数を減少させると予想されることを示唆する。興味深いことに、時間0hで5-倍過剰のネトグリタゾンを2 μM Aβ42溶液に加えた場合の脂質破壊アッセイから得られた実験データは、シミュレーションと一致して、ネトグリタゾンが細胞毒性種-誘起ベシクル破壊を防いだことを示した。実際、0hおよび2h(ネトグリタゾンの不在下で凝集完了に対する半時間)でのAβ42の凝集反応から取り出したサンプルは、
図1oに示すように、脂質膜の破壊に対する形成した種の効果において著しい差異を示した。これは、オリゴマー種の大部分が凝集反応の半時間付近で形成され、これらの種の形成がネトグリタゾンの添加によって遅らされることを示した核形成速度のシミュレーションと一致する。
【0211】
次に、オリゴマー-特異的抗体を用いてELISAを行い、ネトグリタゾンの不在下および存在下での凝集反応によって形成されるAβ42オリゴマーの濃度の直接測定を可能とした。
図1pに示す結果は、ネトグリタゾンの存在下でのAβ42オリゴマー濃度の著しい減少を実証する。動態研究によって予測されるように、これはさらに、ネトグリタゾンがAβ42の凝集を効果的に抑制することができることを確認する。
【0212】
実施例6 - ネトグリタゾンは、ADのC. elegansモデル(GMC101)において、Aβペプチドの凝集によって誘起される毒性を救援し、そしてプラーク負荷を減少させる。
インビトロで観察されるAβ凝集の阻害をさらに確認するために、ネトグリタゾンの効果をADの周知のモデル(GMC101)を用いて試験した。このモデルにおいて、ヒトAβペプチドの42-残基アイソフォームをC. elegans蠕虫の大きな筋肉細胞において過剰発現させ、そしてこれは年齢依存タンパク質凝集および結果として生じる筋まひに至る。
【0213】
治療計画は、最初、
図2aに示すように最終幼生期L4(すなわち、まひの発症前)でのネトグリタゾンの投与によって定義され、次いで、AD蠕虫の運動性をWF-NTPプラットフォームを用いて成虫期の異なる年齢でスクリーニングした。最良の保護効果は、
図2bおよび2cに示すように0.5-5 μMの間の濃度範囲について成虫期のD3で観察されることが見い出された。インビボで観察された効果の特異性をさらに確認するために、同じ濃度範囲のネトグリタゾンをPDおよび健康な蠕虫に投与し、そして両方の場合において、効果は、AD蠕虫において観察された効果と比較して無視できることが見い出された。これは、
図2bおよび2cにおいて分かり得る。
【0214】
次の工程として、蠕虫におけるAβペプチドの凝集プロファイルに対するネトグリタゾンの効果を調査した。アミロイド特異的染料NIAD-4を用いることによって、生存AD蠕虫におけるプラーク負荷を染色することが可能であった。
図2dおよび2eに示すように、0.5 μMのネトグリタゾンの投与がAD蠕虫におけるプラーク負荷を著しく減少させることができたことが観察された。
【0215】
蠕虫代謝活性に対するネトグリタゾンの効果を調査した。具体的には、AD動物において上方制御されるROS産生のレベルを、健康なコントロールと比較して測定し、そして
図2fに示すようにネトグリタゾンが酸化性種のレベルを著しく減少させたことが観察された。AD蠕虫におけるネトグリタゾンの最大許容用量は、
図2gに示すように50 μM未満であると決定されたことに留意する。
【0216】
L4でのネトグリタゾンの投与は、理論的には、幼生期ではタンパク質凝集体は形成されていないので、予防的治療に相当する。これは、ネトグリタゾンが一次経路を著しく阻害することができたインビトロ研究と極めてよく相関する。ネトグリタゾンがまた表面触媒二次核生成の速度を減少させ、そしてそれゆえ凝集体増殖の触媒サイクルをブロックすることができたと仮定して、インビボでのこの効果の評価を探求した。ネトグリタゾンを、タンパク質凝集体が既に形成され、かつAD動物における表現型の機能不全がすでに観察され得る状況である成虫期のD3で投与した。その結果として、薬物の任意の可能な効果は、蠕虫内部の凝集の触媒サイクルをブロックすることによる治療的介入に帰する。興味深いことに、インビトロ研究と一致して、この投与計画はまた、D6でのプラーク負荷の著しい減少ならびに蠕虫の運動性および生存率の増加をもたらし、従ってネトグリタゾンがインビボならびにインビトロでの二次核生成プロセスに影響を与えることを示唆することが見い出された。これらの結果を
図2h、2iおよび2jに示す。
【0217】
実施例7 - Aβ凝集の阻害における他のグリタゾン化合物。
Aβ42原線維形成を、実施例1と同じ方法で、それぞれシグリタゾン、エングリタゾン、ダルグリタゾン、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、バラグリタゾンおよびミトグリタゾンの存在下、2 μM Aβ42サンプルを用い、インビトロで蛍光強度をモニターした。
【0218】
シグリタゾン、エングリタゾン、ダルグリタゾンおよびトログリタゾンを、Aβ42凝集を遅らせるために観察した。特に、シグリタゾンおよびエングリタゾンは凝集を著しく遅らせた。これは、
図3および5において分かり得る。
図4および5に示すように、5x薬物:タンパク質濃度でのピオグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、バラグリタゾンおよびミトグリタゾンの存在下、Aβ42凝集の遅延はほとんどまたは全く観察されなかった。
【0219】
実施例8 - Aβ
1-42Neur蠕虫の走化性指標および運動性ならびにAβ
3-42::GFP
Muscular蠕虫の運動性に対するネトグリタゾンの効果。
Aβペプチドの汎ニューロン発現を示すAβ
1-42Neur蠕虫を用いて追加のC. elegansモデルでのさらなる実験を行った。ネトグリタゾンを1% DMSO中0.05〜500 μMの範囲の濃度で投与した。コントロールとして、1% DMSOのみを播種したプレートを用いた。
【0220】
自動化運動性アッセイを行い、そして動物の運動を記録した。
図6Bに示すように、結果は、ネトグリタゾンが未処置蠕虫と比較してAβ
1-42Neur蠕虫の運動性を著しく改善することを実証する。
【0221】
また、走化性アッセイを、
図6Cに示すように、5 μMネトグリタゾンとともにまたはなしでインキュベートしたAβ
1-42Neur蠕虫および野生型の健康な蠕虫を用いて行った。
図6Aに示すように、走化性指標は、未処置蠕虫と比較してネトグリタゾンで処置したAβ
1-42Neur蠕虫において著しく改善された。
【0222】
また、運動性実験をAβ
3-42::GFP
Muscular蠕虫で行った。
図6Dに示すように、結果は、ネトグリタゾンがまた、未処置蠕虫と比較してこの株の運動性を著しく改善することを実証する。
【0223】
実施例9 - マウスモデルにおける薬物動態研究。
薬物動態プロファイルを、10% NMP/90% Solutol(PBS中20% v/v溶液として)中の溶液として処方された経口用量のネトグリタゾンあたり単回(11.5 mg/kg、30 μモル/kg)を用いて、雄Swiss Albinoマウスにおいて個別の研究において評価した。投薬濃度は、5.0 mL/kgの投薬容積を有する2.3 mg/mLであった。データを時間点あたり3匹の動物の平均から得た(ターミナルサンプリング(terminal sampling))。血漿サンプルを、アセトニトリルを用いたタンパク質沈殿法によって0.25、0.50、1.0、2.0、4.0、6.0、8.0および24時間で集めた。脳サンプルを、脳均質化およびアセトニトリルを用いたタンパク質沈殿法によって6.0および24時間で集めた。脳脊髄液(CSF)サンプルを、アセトニトリルを用いたタンパク質沈殿法によって6.0および24時間で集めた。サンプルを、エレクトロスプレーイオン化を用いるTOF質量分析でUHPLCを用いて分析した。
【0224】
この薬物動態研究は、
図7aに示すように、約19時間の概算半減期を有する、(T
max) 6時間でピークに達する良好な血漿レベル(C
max 14,393 ng/mL)を示した。6時間での総脳レベルは、8542 ng/gであり、従ってネトグリタゾンが血液脳関門を越える良好な脳透過性を有することを確認した。薬物はまた、CSF中、6時間で50 ng/mLのレベルで検出された。CSFは、CNSのコンパートメントであり、低レベルの循環タンパク質および低い存在量の脂質脳組織のため、CNS遊離薬物レベルの代理としてしばしば用いられる。CSFに接近するために、薬物は、典型的には、血液脳関門を越える必要がある。CSFは、CNS間質液(ISF)と平衡にあり、上皮層によって分離されている。このデータは、ネトグリタゾンの経口投薬がCNSにおける薬理学的に関連する遊離薬物レベルを生じ得ることを示唆する。
【0225】
ネトグリタゾンの投薬後のCNSにおける遊離薬物曝露をさらに評価するために、インビボ外科的微小透析時間的経過研究を行った。微小透析は、事実上任意の組織の細胞外液(例えば、脳におけるISF)における遊離の未結合の被分析物濃度の連続測定のために用いられる最小限の侵襲性のサンプリング技術である。微小透析技術は、小さい微小透析カテーテル(微小透析プローブともいう)の目的の組織への挿入を必要とする。微小透析プローブは、血液キャピラリーを模倣するよう設計されており、そしてその先端に半透過性中空繊維膜を有するシャフトからなり、入口管および出口管に接続されている。プローブは、約0.1-5μL/分の低流量で、周囲の組織液の(イオン性)組成物によく類似する水溶液(灌流液)で連続して灌流される。目的の組織または(体)液に挿入されると、小さな溶質は受動拡散によって半透過性膜を越え得る。被分析物流の方向は、それぞれの濃度勾配によって決定され、そしてサンプリングならびに送達ツールとして微小透析プローブの使用を可能とする。プローブを出る溶液(透析液)は、分析のためにある時間間隔で集められる。それは、CNSにおける遊離薬物レベルを測定するための「絶対的基準」技術として広く認識されている。
【0226】
簡潔には、3匹のC57BL/6マウス(18週齢)を、線条体からの微小透析サンプリングを可能とする脳中の1本のカニューレを用いて外科的に調製した。動物を1日回復させ、次いで微小透析ケージに一晩慣れさせた。研究の日、移植したカニューレを通して微小透析プローブを挿入した。1時間の安定化後、投与前サンプルを集め、動物に10% NMP/90% Solutol(PBS中20% v/v溶液として)中の溶液として処方したネトグリタゾン(po、15 mg/kg)を投薬し、そしてサンプルを表1および
図7bに詳述したように6時間集めた。実験の最後に、動物を麻酔し、そして末端血液および脳サンプルを集めた。
【0227】
表1は、マウス線条体からの微小透析液におけるネトグリタゾンのレベルを、ng/mlおよび15 mg/kg投薬後の回収(0.11)について補正したng/mlとして示す。
【0228】
【表1】
【0229】
末端血漿および脳サンプルを集め、そしてネトグリタゾンのレベルについて分析し、6時間(おおよそT
max)直後の末梢曝露および総脳曝露を確認した。このデータは、以前のPKデータと同等であり、そして表2に要約する。表2は、研究後に集めた微小透析研究マウスからのネトグリタゾンの末端血漿および全脳レベルを示す。
【0230】
【表2】
【0231】
これらのデータは、ネトグリタゾンが経口投与(15 mg/kg)後に血液脳関門を容易に越え、そして投与後30-60分で画分からの微小透析液中で検出され得たことを示す。ISFのレベルは、投与後330-360分の画分で、32.7 ng/mlの概算濃度(化合物回収について補正された)まで着実に増加した。時間的プロファイルは、T
maxが収集時間の間に達成され得ないこと、およびこのデータが遊離薬物の控えめな概算C
maxを表すことを示唆する。脳および血漿レベルは、それぞれ10278 ng/gおよび13266 ng/mlであり、これらは以前の研究と一致する。
【0232】
実施例10 - ネトグリタゾンはマウスモデルにおいて有効性を示す。
ネトグリタゾンのインビボでの有効性を、コンデンスミルクおよびネトグリタゾン、あるいはプラセボ群についてはコンデンスミルクのみのいずれかを1日1回投薬したAPPPS1トランスジェニックマウスを用いて調査した。150日齢では、投薬の90日後、マウスを安楽死させ、ヒドロゲル溶液で灌流し、そしてそれらの脳を上記で議論した清浄および画像化方法ならびにカスタムコードしたソフトウェアを用いて分析した。脳半球あたりおおよそ2500の二次元スライスの画像を作成し、そして各スライスを
図8Aおよび8Bに示すようにデジタル分析し、脳全体にわたるAβプラークの総数および面積を定量した。結果を
図8Cに示し、これは、プラセボマウスと比較した場合の、ネトグリタゾンを投薬したマウスにおけるAβプラークの相対数の減少を示す。