特表2021-520474(P2021-520474A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-520474ボールベアリング保持器及びボールベアリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-520474(P2021-520474A)
(43)【公表日】2021年8月19日
(54)【発明の名称】ボールベアリング保持器及びボールベアリング
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20210726BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20210726BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20210726BHJP
【FI】
   F16C33/41
   F16C19/06
   F16C33/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2020-554211(P2020-554211)
(86)(22)【出願日】2019年4月8日
(85)【翻訳文提出日】2020年11月19日
(86)【国際出願番号】DE2019100323
(87)【国際公開番号】WO2019196988
(87)【国際公開日】20191017
(31)【優先権主張番号】102018108523.0
(32)【優先日】2018年4月10日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】516188216
【氏名又は名称】ゲブリューダー ラインフルト ゲーエムベーハー ウント コンパニー ケーゲー
【氏名又は名称原語表記】GEBR.REINFURT GMBH & CO.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】ハーバート・ニーデルマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・アルマーニ
(72)【発明者】
【氏名】ポス・オラフ
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ・ホルガー
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA25
3J701BA44
3J701DA14
3J701DA20
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA38
3J701EA76
3J701FA01
3J701FA31
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB41
(57)【要約】
本発明は、ボールベアリング保持器及びそのようなボールベアリング保持器を有するボールベアリングに関する。ボールベアリング保持器(2)は、同径軸線周りに延在する環状体(4)を備え、この環状体(4)には、周方向(6)に実質的に均等に分散させて配置された、軸方向(14)に所定の軸方向長さ(16)で突出したウェブ(18)が配設されており、これらウェブ(18)は、軸方向(14)に一方が開いた複数のボールポケット(8)を、それに対応する個数の所定のボール径(12)を有するボール(10)を収容するように形成する。少なくとも一つのウェブ(18)には、ボールベアリングリング(42,44)の軌道溝(46,48)に係合させるためのガイド部(24)が形成されている。ウェブ(18)の軸方向長さ(16)は、少なくともボール径(12)に相当する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同径軸線周りに延在する環状体(4)を有するボールベアリング保持器(2)であって、当該環状体(4)には、周方向(6)に実質的に均等に分散させて配置された、軸方向(14)に所定の軸方向長さ(16)で突出したウェブ(18)が配設されており、これらのウェブ(18)は、軸方向(14)に一方が開いた複数のボールポケット(8)を形成し、それに対応する個数の所定のボール径(12)を有するボール(10)を収容し、少なくとも一つのウェブ(18)には、ボールベアリングリング(42,44)の軌道溝(46,48)に係合させるためのガイド部(24)が形成されているボールベアリング保持器(2)において、
ウェブ(18)の軸方向長さ(16)は、少なくともボール径(12)に相当することを特徴とするボールベアリング保持器(2)。
【請求項2】
ガイド部(24)は、ボールベアリング外輪(44)の軌道溝(48)に係合させるためにウェブ(18)の径方向外側(26)に形成されているか、又は、ガイド部(24)は、ボールベアリング内輪(42)の軌道溝(46)に係合させるためにウェブ(18)の径方向内側(32)に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項3】
ガイド部(24)は、ウェブ(18)と一体的に形成され、特に、ボールベアリング保持器(2)が軸方向にあそびのある状態でボールベアリング(40)内をガイドされ得るようなウェブ(18)の軸方向位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項4】
複数のウェブ(18)において、特に全てのウェブ(18)において、実質的に同一であるウェブ(18)の特に同じ位置にガイド部(24)がそれぞれ形成されているか、又は、四つに一つ若しくは三つに一つ若しくは二つに一つのそれぞれのウェブ(18)において、実質的に同一であるウェブ(18)の特に同じ位置にガイド部(24)がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項5】
ガイド部(24)は、隆起部として、特に、周方向(6)に延在する隆起部として、特に、周方向(6)に延在するリブ(24)として形成されており、特に、周方向(6)に延在するリブ(24)は、周方向(6)におけるウェブ(18)の幅(22)の実質的に全体にわたって、当該ウェブの径方向の外側(26)又は内側(32)に延在することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項6】
ウェブ(18)が、軸方向(14)に円筒状の径方向外面(28)を有するか、又は、軸方向(14)に円すい状の径方向外面(30)、特に略2°から略20°の間のコーヌス角(52)、特に略7°から略12°の間のコーヌス角(52)を有する円すい状の径方向外面(30)を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項7】
少なくとも部分的にプラスチックからなり、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)又はフェノール樹脂(PF)、特に綿繊維強化フェノール樹脂(PF)からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項8】
周方向(6)に隣接する二つのウェブ(18)毎の間において、同径軸線周りに延在する環状体(4)に形成されたカロット底部(54)が、平坦な面(66)又は丸みづけされた面(70)を有していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項9】
周方向(6)に隣接する二つのウェブ(18)毎の、周方向(6)におけるボールベアリング保持器(2)の径方向外周(34)側での間隔(72)は、ボールベアリング保持器(2)の径方向内周(38)側での間隔(74)よりも大きいことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項10】
切削形成加工によるか、積層造形、特に3Dプリントによるか又は射出成形(36)により製造された請求項1から9のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)を単列ラジアル深溝ボールベアリング(40)に使用する方法。
【請求項12】
ボールベアリング内輪(42)、ボールベアリング外輪(44)、所定のボール径(12)を有する複数のボール(10)及び請求項1から10のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)を有するボールベアリング(40)において、
複数のボール(10)は、ボールベアリング保持器(2)により形成されるボールポケット(8)の数に対応し(“ボール群”,50)、ボールポケット(8)の一つにボール(10)の一つがそれぞれ収容され、ガイド部(24)は、ボールベアリング内輪(42)の軌道溝(46)に、又は、ボールベアリング外輪(48)の軌道溝(44)に係合していることを特徴とするボールベアリング(40)。
【請求項13】
ボールベアリング保持器(2)は、内輪肩部(78)によりガイドされ、ガイド部(24)は、ウェブ(18)の径方向内側(32)に形成され、ボールベアリング内輪(42)の軌道溝(46)に係合していることを特徴とする請求項12に記載のボールベアリング(40)。
【請求項14】
ボール(10)は、5mm未満の所定のボール径(12)を有していることを特徴とする請求項12又は13に記載のボールベアリング(40)。
【請求項15】
請求項12又は13又は14に記載のボールベアリング(40)であって、歯科用装置、特に歯科用タービンに使用されるボールベアリング(40)。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載のボールベアリング保持器(2)のための射出成形ツール(80)であって、パーティングライン(88)を介して接合可能な、又は、分割可能な二つのツール部分(82,84)を有し、これら両方のツール部分(82,84)は、接合された状態でボールベアリング保持器(2)の形をかたどったボールベアリング保持器(2)のための空洞(“めす型”)(86)を形成し、ガイド部(24)はパーティングライン(88)に位置する射出成形ツール(80)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールベアリング保持器と、そのようなボールベアリング保持器を有するボールベアリングとに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、いわゆる内輪と外輪の間で回転する物体、すなわち転動体が摩擦抵抗を低減する軸受である。転がり軸受は、軸及びシャフトの位置を固定する役割を担い、構造的な形状に応じてラジアル力又はアキシアル力の少なくともいずれかを受け止めると同時にシャフトの回転を可能にしたり、又はそのようにして軸に支えられた例えば車輪といった部品の回転を可能にしたりする。
【0003】
ボールベアリング(玉軸受)は、こういった転がり軸受の下位の一群であり、転動体としての役割をボールが担う(転がり軸受の他の下位グループは、−円筒ころ、円すいころなどの然るべき転動体をそれぞれ有する−例えば円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、凸面ころ軸受又はトロイダル軸受である。)。
【0004】
ボールベアリングの個々のボール又はボールベアリングのボール群(すなわち、ボールベアリングにおいて周方向の列に配設された全てのボール)の個々のボールを配設するためのボールベアリング保持器(ケージ)も同様に周知であり、(ボールベアリング内のボール群の)ボールをボールベアリングの周方向にほぼ等間隔にその位置に保つ役割を有している。これらのボールは、このとき又はこれに加えて、ボールベアリング保持器により形成された所謂ボールポケットにそれぞれ収容されている。
【0005】
このようなボールベアリング保持器のさまざまな構成も周知である。例えばウィンドウケージ(ソリッド形ケージとも呼ばれる)や1部品式(図14)ないし2部品式のスナップ形保持器などである。
【0006】
ボールベアリングのウィンドウケージの場合、転動体、つまりボールは、ウィンドウケージにより−通常は一体的に−形成された閉じた輪郭、すなわちボールポケット内に挿入されている。
【0007】
これに対して、ボールベアリングのスナップ形保持器(図14)では、ボールは、−環状体、いわゆる保持器背部に軸方向に(アキシアルに)突出するように且つボールベアリングの周方向に実質的に均等に分散配置させて配設された−ウェブによってその位置が保たれる。この場合、ボールベアリングの周方向に隣接して配設されたどの二つのウェブも、この種のスナップ形保持器においてボールを収容するためのボールポケットを形成し、それらボールポケットの−閉じた輪郭として形成されていないが故の−スナップ開口部、つまり、ボールベアリングの周方向に隣接する二つのウェブ端部間の“開いた”間隙は、ボールポケット内に収容されるボールのそれぞれのボール径よりも通常は小さく(周方向に隣接する二つのウェブ毎の周方向の平均間隔が略ボール径に相当する)、これにより、ボールポケット又はボールベアリング保持器が−ボールベアリングを組み立てる際に−ボール上に“スナップ嵌合”する。
【0008】
2部品式スナップ形保持器は、上記の−この場合第一の−保持器部品、つまり、突出するウェブが設けられた保持器背部に加えて、この第一の保持器部品に対する相手方の部材を形成する第二の保持器部品が設けられ、この第二の保持器部品−同じく大抵は環状の部品として形成されている−が、第一の保持器部品のスナップ開口部を“閉じ/ロックし”、−それにより第一の保持器部品を補強ないし強化する。
【0009】
これに加えて、このようなボールベアリング保持器においてはさらに、リベット留め保持器及び波形保持器も知られている。
【0010】
これらリベット留め保持器及び波形保持器は、2部品式のスナップ形保持器と同様に、関連し合う二つの保持器部品、この場合には略対称的な二つの保持器部品から構成されており、それらの各保持器部品は、ボールポケットの半分をそれぞれが形成しているか、又は“担って”おり、これらが−互いにつなぎ合わされて初めて−完全なボールポケットを形成する。このようなボールベアリング保持器の両方の保持器部品を(どの二つのボールポケットの間でも保持器背部で)互いにリベット留めしたものがリベット留め保持器であり、両方の保持器部品を(そこのところで)“かしめた”ものが波形保持器である。
【0011】
ボールベアリング保持器は、鋼又はプラスチックなど様々な材料から−それぞれのボールベアリング保持器又はボールベアリングの用途及びそれに関して求められる回転数及び/又は摩擦といった要件に応じて−製造することができる。
【0012】
ボールベアリング用の鋼製のスナップ形保持器、波形保持器及びリベット留め保持器(鋼板製保持器)は、多くの場合エンジンベアリングにおいて用いられ、低速から中速にかけての回転数の場合や低摩擦モーメントに関する要件がある場合によく適している。
【0013】
高速領域、すなわち回転数のパラメータがn×dm≧1,000,000mm/分(ここでnは内輪回転数に、dmは平均軸受径に対応し、平均軸受径dmは外径と穴径との和を2で割って求められる。)の場合に利用するときにはしばしば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など高性能プラスチック製のスナップ形保持器を用いた特殊な内部形状を持つボールベアリングが使用される。
【0014】
そのような高速ボールベアリングのこれらプラスチック製(スナップ形)保持器は、精度の理由から切削形成加工により製造されるため、打ち抜き加工部品及び成形加工部品である先述の鋼製保持器と比較すると製造コストが明らかに高くなる。
【0015】
図14は、ボールベアリングの従来のデザインのプラスチック製(スナップ形)保持器を示しているが、これは−切削形成加工による高コストでの製造の代わりに−射出成形によっても製造可能である。
【0016】
しかし、そのようなプラスチック製(スナップ形)保持器を射出成形により製造すると、必然的にプラスチック製(スナップ形)保持器の精度が低くなり、高速ボールベアリングの性能が低下する結果を招く。
【0017】
その原因、すなわち精度が低くなる原因は、射出成形具(射出成形ツール)のコンセプトにある。
【0018】
軸線周りに複数形成されるプラスチック製(スナップ形)保持器のボールポケットは、プラスチック製(スナップ形)保持器の離型性の理由から、複数の可動スライドを用いて作り込まなければならないが、これらのスライドによって、射出成形物の冷却時に不均一な収縮が起こり、それがバリの形成というさらなる現象を伴う。
【0019】
特許文献1(DE102017105019A1)より、複数のボールを備えたボールベアリングであって、内輪、外輪及びボールを収容するボールベアリング保持器を有するものが知られている。
【0020】
この文献におけるボールベアリング保持器には保持器背部が設けられており、この保持器背部には、所定の軸方向長さで軸方向に突出したウェブが周方向に複数配設されており、これらウェブが、ボールを収容する片側で軸方向に開いた複数のボールポケットを形成している。ウェブの径方向内側には、ボールベアリング内輪の軌道溝と係合させるためのガイド部が形成されている。
【0021】
内輪と外輪との間の環状空間にあるグリースのせん断を可能な限り低減させることでボールベアリングの回転抵抗を低減させるために、特許文献1(DE102017105019A1)によると、ウェブの軸方向長さは、ボールの直径の30%以上かつ50%以下に相当するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】独国特許発明第102017105019号明細書
【特許文献2】独国特許発明第102014008763号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、従来技術の欠点と制限を克服することを課題とする。
【0024】
特に、本発明は、ボールベアリング保持器のための新しい保持器デザインを構想して、それにより、特に摩擦、騒音及び寿命に関して優れたボールベアリングの性能特性を確実に提供することを課題とする。また、ボールベアリング保持器のこの新しい保持器デザインにより、射出成形ツールから離型した後のボールベアリング保持器の精度が明らかに改善されるように簡潔なツールコンセプトが実現できなければならない。さらに、ボールベアリング保持器のためのこの新しい保持器デザインは、高速ベアリングにおける要件に適していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この課題は、各独立請求項に記載の特徴を有するボールベアリング保持器並びにボールベアリングによって解決される。
【0026】
ボールベアリング保持器には、同径軸線周りに延在する環状体(“保持器背部”)が設けられ、当該環状体には、−ボールベアリング保持器の周方向又は同径軸線周りに延在する環状体の周方向又は保持器背部の周方向に−実質的に均等に分散させて配置された、軸方向に所定の軸方向長さで突出したウェブが配設されており、これらのウェブは、軸方向に一方が開いた複数のボールポケットを形成し、それに対応する個数の所定のボール径を有するボールを収容する。
【0027】
このとき、ウェブの−所定の−軸方向長さは、少なくとも、ボールポケット内に収容すべき又は収容されるボールのボール径に相当する。このウェブの軸方向長さは特に、ボールポケット内に収容すべき又は収容されるボールのボール径に略相当し−場合によっては “張り出し部分”が加わる。
【0028】
ただし、特に、その−軸方向の張り出し部分のある−ウェブは、或る限度でボールを超えて軸方向に“突出”するようにウェブの−所定の−軸方向長さの寸法が決められており、それは、−ボールベアリング保持器が((ボール群を含め)ボールベアリング内輪、ボールベアリング外輪からなる)ボールベアリング内に組み込まれているときには−ボールベアリングリングの(軸方向に)“遠位の”第二肩部を径方向に臨む領域へとウェブが軸方向に突出する(ボールベアリング内輪又はボールベアリング外輪の(軸方向に)“近位の”第一肩部は、軸方向において、ボールベアリング保持器の保持器背部を径方向に臨む領域にある。)程度であるか、或いは両方のボールベアリングリングの(つまり、ボールベアリング内輪及びボールベアリング外輪の)(軸方向に)“遠位の”第二肩部同士の径方向における間の領域へとウェブが軸方向に突出する程度である。
【0029】
つまり、ウェブの−所定の−軸方向長さは、軸方向におけるウェブの自由端部が、ボールベアリング内輪及び/又はボールベアリング外輪の(軸方向に)“遠位の”第二肩部を径方向に臨む領域へと軸方向に突出するように寸法が決められている。
【0030】
簡潔に言うと、ウェブは、軸方向において、いずれかのボールベアリングリング(つまりボールベアリング内輪及び/又はボールベアリング外輪)の(軸方向に)“遠位の”第二肩部に(も)−少なくとも部分的に−覆い被さっている。
【0031】
こうして、ボールベアリング保持器がボールベアリング内で肩部によりガイドされる場合、すなわち、ボールベアリング内輪肩部によりガイドされる場合又はボールベアリング外輪肩部によりガイドされる場合、−つまりこのときには、(このように“軸方向に長い”ウェブを備えた)(組み込まれた)ボールベアリング保持器は、両方の又は二つの肩部(つまり、それぞれのボールベアリングリングの(つまりボールベアリング内輪又はボールベアリング外輪の)(軸方向に)“近位の”第一肩部と(軸方向に)“遠位の”第二肩部)の上でガイドされることになるが−それによりボールベアリング保持器が正確に、同心に且つ安定して走行することを保証することができる。
【0032】
このとき、“略”により、ウェブの−所定の−軸方向長さに製造公差が含まれ得ることを表現することができる。
【0033】
簡単に分かり易く言うと、環状体又は保持器背部には、−周方向に特に略一様に分布させた且つ特に略同じに形成された−軸方向(すなわち、ボールベアリング保持器の軸方向における延在範囲)に突出するウェブが配設され、これらウェブが、これらウェブにより形成することができるボールポケットを周方向において画成する。
【0034】
二つの隣接する((同径軸線周りに拡がる)所定の間隔をおいて離れている)軸方向に突出したウェブにより形成されたボールポケットはまた、両方のウェブの−周方向における−間において、同径軸線周りに延在する環状体上に形成されたカロット底部によりさらに画成される。
【0035】
このカロット底部は特に、ボールポケット内に収容すべき又は収容されるボールのボール表面に対応する、丸みづけされた(“凹状の”)面−又は平坦な(“まっすぐな”)面(“まっすぐな”面では、場合によっては隅Rも含まれる。)を有することができる。
【0036】
丸みづけされた又は凹状の面の直径はこのとき、ボールポケット内に収容すべき又は収容されるボールのボール径よりわずかに大きくすることもできる。
【0037】
この(軸方向に突出した)ウェブが、少なくともボール径−場合によってはさらに“張り出し部分”を加えたもの−の軸方向長さを備えている場合、−周方向に(間隔をおいて離れている)隣接するウェブにより形成されたそれぞれの−ボールポケットの軸方向の延在範囲(“ボールポケットの軸方向深さ”)は、少なくともボール径(−場合によってはさらに“張り出し部分”を加えたもの)である。
【0038】
つまり、簡単に分かりやすく言うと、(ボールベアリングのボール群の)一つ又は複数のボールは、(周方向に隣接する二つのウェブ毎の間に−環状体又はボールベアリング保持器の周方向における−然るべき間隔(“ウェブ間隔”又は“ボールポケット幅”でもある)があれば)ボールベアリング保持器のボールポケット内に−軸方向において−完全に収容することができる。
【0039】
場合によってはさらに、ウェブは、−ウェブの軸方向長さにおいて然るべき軸方向の“張り出し部分”があれば−両方の又は二つの肩部、すなわち、それぞれのボールベアリングリングの(軸方向に)“近位の”第一肩部及び(軸方向に)“遠位の”第二肩部の上で、肩部によるガイドを行うこともできる。
【0040】
このとき、周方向に隣接する二つのウェブ毎の間の−環状体又はボールベアリング保持器の周方向における−間隔又はウェブ間隔/ボールポケット幅は、ボール径に−場合によっては与えられた公差を加え、さらには特定のボールポケットすきまを場合によっては加えたものに−略相当する。
【0041】
周方向に隣接する二つのウェブ間のこの“間隔”は、次のようにして測れる。すなわち、この間隔は、特に軸方向(アキシアル)、つまり、ボールベアリング保持器の軸方向におけるボールポケットの延在範囲、のボールポケットの中心(“ボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置”)において、並びに、−略−径方向(ラジアル)、つまり、径方向にボールベアリング保持器の中心点Mに向かう又は中心点Mから遠ざかるウェブの延在範囲、のウェブの平均的な高さ位置(“ウェブの平均的な径方向の高さ位置”)において、測定することができ、そしてそれは、それら二つのウェブ間にそれらが関わってできる対応する円弧の長さ(“平均ウェブ間隔”又は“平均ボールポケット幅”、図1参照)である。
【0042】
簡潔に言うと、ボールベアリング保持器において、周方向に隣接する二つのウェブ毎の間の“平均ウェブ間隔”又は“平均ボールポケット幅”は、ボールポケット内に収容すべき又は収容されるボールの略ボール径とすることができるが−場合によっては公差及びボールポケットすきまが加わる。
【0043】
その際特に、ボールベアリング保持器の周方向に隣接する二つのウェブ端の間の“開いた”間隙(“(ウェブ端における)ボールポケット開口部”)も、ボールポケット内に収容されるボールのそれぞれのボール径と少なくとも同じ大きさにすることができる。
【0044】
簡潔に分かり易く言うと、自由なウェブ端により形成されたボールポケットの開口部若しくは(周方向に拡がる)開口幅又は“ウェブ端におけるボールポケット開口部”は特に、ボール径と少なくとも同じ大きさとすることができるが−それによりボールポケット又はボールベアリング保持器は、−ボールベアリングの組み立ての際に−ボールの上に(単に)差し込まれ、従来のスナップ形保持器(この場合には、ボールベアリングの周方向に隣接する二つのウェブ端間の“開いた”間隙又は“ウェブ端におけるボールポケット開口部”は、ボールポケット内に収容されるボールのそれぞれのボール径より通常は小さい。)におけるようなボール群とのスナップ嵌め(又はロック)は行われない。
【0045】
特に、(スナップ式ロックのない)そのようなボールベアリング保持器デザインは、ボールベアリング保持器に−従来のスナップ機構に代わる−別種の“ロック機構”を必要とし、つまり、ボールベアリング保持器が“軸方向に”ボール群から(外れるように)ずれ動き−それによりボールベアリングが自身のボールベアリング保持器を“失う”又はボールベアリング保持器が自身のボールを“失う”ことになりかねないのを防ぐ機構を必要とし、そのボールベアリング保持器デザインのために、ボールベアリング保持器においてはさらに、少なくともウェブの近く又はウェブの上にボールベアリングリングの軌道溝に係合させるためのガイド部が形成されるものとされている。
【0046】
別の表現で分かり易く言うと、このガイド部は、ボールベアリングリングの軌道溝に係合すると、それにより可能となる−ガイド部と軌道溝との間の−形状結合が、ボールベアリング保持器がボールベアリングから外れるように軸方向にずれ動く又は軌道輪から離れるように軸方向にずれ動くことでボールベアリングが自身のボールベアリング保持器を“失う”ことを防ぐ又はボールベアリング保持器が自身のボールを“失う”ことを防ぐ(“保持機能”)。
【0047】
その際ガイド部は、一方では、−ボールベアリング外輪の軌道溝と係合させるために−ウェブの径方向外側に形成することができる。すると、そのようなボールベアリング保持器は、特にボールベアリング外輪肩部によりガイドすることができる。
【0048】
しかし他方では、ガイド部は、−ボールベアリング内輪の軌道溝と係合させるために−ウェブの径方向内側に形成することもできる。この場合には、そのようなボールベアリング保持器は、特にボールベアリング内輪肩部によりガイドすることができる。
【0049】
ボールベアリング保持器が肩部によりガイドされる場合、すなわち、ボールベアリング内輪肩部によりガイドされるか又はボールベアリング外輪肩部によりガイドされる場合、それによりボールベアリング保持器を正確且つ同心に走行させることが保証できる。
【0050】
ここで、−ボールベアリングリングの軌道溝と係合させることを可能にする−ガイド部とは、−特にその(空間的な)形状及び/又は外形から−別の構成要素と形状結合させるのに適しているあらゆる構成要素、つまりこの場合は(ボールベアリングリングの又はボールベアリング内輪/ボールベアリング外輪の)軌道溝と形状結合させるのに適しているあらゆる構成要素のことであると解せる。
【0051】
そのようなガイド部は例えば、−特に−ウェブと一体的に又はウェブ上に形成される部分、特にリブとすることができ、このリブは特に、周方向におけるウェブの幅の略全体にわたってウェブの径方向の外側又は内側に延在している。
【0052】
ウェブの“幅”とは特に、ボールベアリング保持器の周方向におけるウェブの(同径軸線周りの)延在範囲、分かり易い見方をすれば(円弧の)長さを意味し(図1参照)−そしてそれは、ボールベアリング保持器の径方向外周において測ることができ、ウェブの平均的な径方向の高さ位置において測ることができ、さらにボールベアリング保持器の径方向内周において測ることができる。
【0053】
そのようなリブ又はガイド部はこのとき、略ボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置のところでウェブに配設又は形成することができる。
【0054】
特にそのようなリブ又はガイド部は、−“通常の”スナップ形保持器における場合と同程度の−軸方向のあそびが−ウェブ又はリブ/ガイド部のボールベアリングリングの軌道溝との係合状態で−形成されるような軸方向の位置においてウェブに配設又は形成することができる。
【0055】
簡単に別の言い方をすると、ガイド部又はリブは、軸方向において−ガイド部又はリブが軌道溝に(ボールベアリング組み立ての際に)“スナップ嵌合した”ときに、ガイド部の/リブと、軌道溝又はそこでのカロット底部との間に“少しの”(軸方向の)隙間((わずかな)軸方向のあそび)が形成されるように/形成されるような場所において−ウェブに配設又は形成することができる。
【0056】
つまり、ボールベアリング保持器は、軸方向にあそびのある状態でボールベアリング内をガイドされることができる。
【0057】
形状結合による保持機能を改善することができるのは、複数のウェブにおいて又は複数のウェブに対して、特に全てのウェブにおいて、実質的に同一のウェブの特に同じ位置にガイド部がそれぞれ形成されている場合か、又は、四つに一つ若しくは三つに一つ若しくは二つに一つのそれぞれのウェブにおいて、実質的に同一のウェブの特に同じ位置にガイド部がそれぞれ形成されている場合である。
【0058】
この−ガイド部と軌道溝との間の−形状結合は、ボールベアリング保持器が軸方向にボールベアリングから外れるようにずれ動く又は軸方向に軌道輪から離れるようにずれ動くせいでボールベアリングが自身のボールベアリング保持器を“失う”ことになるのを防ぐ又はボールベアリング保持器が自身のボールを“失う”ことになるのを防ぐものであり(“保持機能”)、この形状結合は、−ボールベアリングが組み立てられた状態で−持続的にずっと保たれ続けるようにすることもできるし、いきなり生じる又はボールベアリング保持器が軸方向にボールベアリングから外れるようにずれ動く恐れがあるときにだけ生じるようにすることもできる。
【0059】
ガイド部によるこの“正味の”保持機能(そのガイド部又はその保持機能によりボールベアリング保持器が軸方向にボールベアリングから外れるようにずれ動く又は軸方向に軌道輪から離れるようにずれ動くことが防止される。)に加えて、ガイド部は−ガイド部が適切に(ウェブに)位置決めされ及び/又は寸法決めされ及び/又は形状付与されていれば−追加的にガイド機能(つまりこの場合、ボールベアリングリングの軌道溝内のボールベアリング保持器のガイドは、ガイド部により行われる−持続的な形状結合も参照)及び/又は位置決め機能(つまりこの場合、ボールベアリング保持器の軸方向及び/又は径方向の位置決めは、ガイド部を介して行われる−持続的な形状結合も参照)を担うこともできる。
【0060】
ウェブは、特に両凹形状を備えることができ、その(“内”向きの)丸み/湾曲は、ボールの形状(“円/円弧”)に合わされている。
【0061】
ボールベアリング保持器の大きな長所の一つはその製造プロセスにある。
【0062】
ボールベアリング保持器が射出成形により製造される場合、−ボールベアリング保持器の保持器デザイン、ここでは特にスナップ機能のない然るべきボールポケット構造(つまり、“ウェブ端におけるボールポケット開口部”がボールポケット内に収容されるボールのそれぞれのボール径と少なくとも同じ大きさである。)にする保持器デザインのおかげで−射出成形ツール、この場合は上型と、パーティングラインを介して上型に接合される又は接合可能な下型とを有する2部品式の射出成形ツールは、非常に簡易に構成することができる(図13)。
【0063】
このときガイド部は、2部品式射出成形ツールのパーティングラインに位置するため、ツール上型を開けることにより、射出成形物を完全に形状結合的に離型することができる。
【0064】
径方向に配設された(低精度につながり、また、バリの形成を引き起こす)−従来のプラスチック製(スナップ形)保持器においてこれまで必要であった−スライドは、ボールの個数に応じて周方向に均等に角度を分割する点で配慮が求められるが、このスライドをなくすことにより、高精度のボールベアリング保持器を製造することができる。
【0065】
さらに、(射出成形)ツールが非常に簡易に構成されているという事実により、ツールのコストも明らかに低減させることができる。
【0066】
また、このボールベアリング保持器は、その設計上、典型的には例えば歯科タービン内の歯科用途のためのボールベアリングといった、ミニチュア・ボールベアリング及び/又は高速ボールベアリングにこのボールベアリング保持器を使用できるようになるという点で有利であることが判明している。
【0067】
ボールベアリングは、−ボールベアリング保持器の他に−ボールベアリング内輪、ボールベアリング外輪及び所定ボール径の複数のボールを備えるが、複数のボールは、ボールベアリング保持器により−ボールベアリング保持器が組み立てられた状態で−形成されるボールポケットの数に対応し(“ボール群”)、ボールポケットの一つに(ボール群の)ボールの一つがそれぞれ収容されている。ガイド部−場合によっては複数のガイド部であって、そのそれぞれがボールベアリング保持器の一つ一つのウェブに配設されているガイド部−は、ボールベアリング内輪又はボールベアリング外輪の軌道溝に係合している。
【0068】
このような−ボールベアリング保持器を有した−ボールベアリングは、特に、ラジアル深溝ボールベアリング、アンギュラコンタクトベアリング、スラスト深溝ボールベアリング、スラストアンギュラボールベアリング、4点接触ボールベアリング又はマグネトボールベアリング(ショルダーボールベアリング)であってもよい。
【0069】
ボールベアリング保持器は、少なくとも部分的に、特には完全にプラスチックからなり、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)又はフェノール樹脂(PF)、特に綿繊維強化フェノール樹脂(PF)からなるようにしてもよい。
【0070】
また、ボールベアリングにおけるボールベアリング保持器が、内輪案内保持器として又は外輪案内保持器として、とりわけ内輪案内保持器として構成されているようにしてもよい。この場合、ボールベアリング保持器の外周が外側軌道輪の内周上を滑走するか又はボールベアリング保持器の内周が内側軌道輪の外周上を滑走する。
【0071】
ボールベアリング外輪(外側軌道輪でもある)及び/又はボールベアリング内輪(内側軌道輪でもある)は、例えば、100Cr6(DIN(ドイツ工業規格)材料番号(Werkstoff−Nr.)1.3505)であるおよそ炭素1%とクロム1.5%を含有する鋼等のクロム鋼から製造されているのでもよい。他の−外側軌道輪及び/又は内側軌道輪のための−鋼として考えられるのは、例えば、100CrMn6及び100CrMo6であり、これらの合金元素のマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)は、この場合、焼入れ性を向上させるのに役立つ。
【0072】
腐食性環境下でのボールベアリングの用途のために、高合金鋼X65Cr13(DIN材料番号1.4037)及びX105CrMo17(DIN材料番号1.4125)又はX30CrMoN15−1(DIN材料番号1.4108)を−内側軌道輪及び/又は外側軌道輪において−用いることができる。後者の鋼は、人体臓器内にも少なくとも数日間使用することができる。
【0073】
特殊な動作仕様に対しては、ボールベアリングは、例えば工作機械のスピンドル軸受の場合、軸受リングないし走行リムが鋼からなり、ボールがセラミックからなる(二材料の)ハイブリッド軸受として設けられていてもよいし、走行リムもボールもいずれもセラミックからなるセラミック軸受として設けられていてもよいし、或いはまた、化学産業及び食品産業における腐食性の酸やアルカリに耐えるガラスないしセラミックからなるボールを有したプラスチック軸受として設けられていてもよい。
【0074】
本発明の好ましい発展形態は、従属請求項からももたらされる。発展形態は、ボールベアリング保持器とボールベアリングのいずれにも関係する。
【0075】
こうして好ましくは、ガイド部をウェブの径方向外側に形成してボールベアリング外輪の軌道溝と係合させるようにしてもよいし、又は、ガイド部をウェブの径方向内側に形成してボールベアリング内輪の軌道溝と係合させるようにしてもよい。
【0076】
また、ガイド部がウェブと一体的に形成されているようにしてもよく、特に、ボールベアリング保持器が軸方向にあそびのある状態でボールベアリング内をガイドされ得るようなウェブの軸方向位置に形成されているようにしてもよい。
【0077】
別の好ましい発展形態によると、複数のウェブにおいて又は複数のウェブに対して、特に全てのウェブにおいて、実質的に同一であるウェブの特に同じ位置にガイド部がそれぞれ形成されているか、又は、四つに一つ若しくは三つに一つ若しくは二つに一つのそれぞれのウェブにおいて、実質的に同一であるウェブの特に同じ位置にガイド部がそれぞれ形成されているものとされている。
【0078】
ガイド部は、隆起部として、特に、周方向に延在する隆起部として、特に、周方向に延在するリブとして形成することができる。
【0079】
特に、周方向に延在するそのようなリブは、周方向におけるウェブの幅の略全体にわたってウェブの径方向の外側又は内側に延在することができる。
【0080】
発展的には、周方向に隣接する二つのウェブ毎の間において、同径軸線周りに延在する環状体に形成されたカロット底部が、平坦な面又は丸みづけされた面を有するようにしてもよい。
【0081】
好ましくはウェブが、軸方向に円筒状の径方向外面を有するようにしてもよい。この形態又はこの保持器デザインは、好ましくは、回転数に起因してボールベアリングに発生する遠心力によってカロット・ノーズ部(Kalotten−Nase)が外側に曲がらない深溝ボール軸受に使用することができる。
【0082】
これに代えて、ウェブが、軸方向に円すい状の径方向外面、特に略2°から略20°の間のコーヌス角、特に略7°から略12°の間のコーヌス角を有する円すい状の径方向外面を有するようにしてもよい。これにより、回転数に起因してボールベアリングに発生する遠心力によってカロット・ノーズ部が外側に曲がることができ、このとき外側に湾曲したカロット・ノーズ部が、外側軌道輪の肩部又は走行軌道に接触することを防ぐことができる。
【0083】
さらに発展的には、ボールベアリング保持器は、少なくとも部分的に、特には完全にプラスチックからなり、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)又はフェノール樹脂(PF)、特に綿繊維強化フェノール樹脂(PF)からなるか又は製造されている/されるようにしてもよい。
【0084】
一つの発展形では、ボールベアリング保持器は、耐磨耗性の材料ないし滑りを調整された材料からなるようにしてもよい。
【0085】
さらに発展的には、周方向に隣接する二つのウェブ毎の、周方向におけるボールベアリング保持器の外周側での間隔(ウェブ間隔又はボールポケット幅)は、それら二つのウェブの、ボールベアリング保持器の内周側での間隔よりも大きく設けてもよい。
【0086】
このように内周側又は外周側において(ボールポケット幅の)間隔寸法が異なる結果、特に、ボールベアリング保持器に形成されるボールポケットがボールベアリング保持器の外周側又は内周側においてそれぞれ(周方向に)異なるボールポケット幅を有することになる(“漏斗形”のボールポケット)。
【0087】
この種の−ボールベアリング保持器の外周側又は内周側で異なるボールポケット幅(又はウェブ間隔)を有する−保持器のデザイン(及びその製造)は、特許文献2(DE102014008763B4)(Gebrueder Reinfurt GmbH&Co.KG),2015年12月17日(公開日),段落[0018]以下に−同文献の特に1部品式の内輪案内スナップ形保持器又は外輪案内スナップ形保持器についての図5から図7及び図10又は図15から図17及び図20とともに述べられており、これに関連したその内容は、かくして目下の実施例の一部になっている(特許文献2には、“ボールベアリング保持器の外周側のボールポケットの長さが、ボールベアリング保持器の内周側のボールポケットの長さよりも大きい”との記載(特許文献2の段落[0028]参照)がある。)。
【0088】
さらに、周方向に隣接する二つのウェブ毎の間の−環状体又はボールベアリング保持器の周方向における−(ウェブ)間隔又は平均ウェブ間隔は、ボール径に−場合によっては与えられた公差を加え、さらには特定のボールポケットすきまを場合によっては加えたものに−略相当するようにしてもよい。
【0089】
ここではさらに、ボールベアリング保持器の周方向に隣接する二つのウェブ端の間の“開いた”間隙(“(ウェブ端における)ボールポケット開口部”)も、ボールポケット内に収容されるボールのそれぞれのボール径と−場合によっては与えられた公差を加え、さらには特定のボールポケットすきまを場合によっては加えたものと−同じ大きさとしてもよい。
【0090】
簡潔に分かり易く言うと、自由なウェブ端により形成されたボールポケットの開口部若しくは(周方向に拡がる)開口幅又はウェブ端におけるボールポケット開口部は、ボール径と(略)同じ大きさとすることができる。
【0091】
場合によってはウェブ端におけるボールポケット開口部の開口幅は、ボール径より大きくすることもでき、それによりボール群の上へのボールベアリング保持器の差し込みが容易になる。
【0092】
好ましくは、ボールベアリング保持器は、切削形成加工によるか、積層造形、特に3Dプリントによるか又は射出成形により製造される又は製造されているものでもよい。特に射出成形により製造すると、簡易でコスト安なツール、公差及び/又は寸法許容差がわずかな高精度ボールベアリング保持器といった利点が得られる。
【0093】
好ましくは、ボールベアリング保持器は、単列ラジアル深溝ボールベアリングに使用又は利用されるようにしてもよい。
【0094】
また、好ましくは、ボールベアリング保持器は、高速用途のために/において利用又は使用され、回転数のパラメータがおよそn×dm≧1000000mm/分(ここで、nは内側軌道輪の回転数に対応し、dmは平均軸受径に対応する。)の範囲にある歯科タービンの場合の例のように、例えば歯科技術に応用又は使用されるようにしてもよい。この平均軸受径dmは、ボールベアリングの外径と穴径との間の平均値として算出される。
【0095】
一発展形では、(ボールベアリング保持器を有した)ボールベアリングのボールは、5mm未満の所定ボール径を有するようにしてもよい。
【0096】
好ましくは、ボールベアリング(及び/又はボールベアリング保持器)は、歯科用装置、特に歯科タービンに使用される又は使用されているようにしてもよい。
【0097】
ボールベアリング保持器を−射出成形により−製造するための射出成形ツールは、好ましくはパーティングラインを介して接合可能な、又は、分割可能な二つのツール部分を有しており、これら両方のツール部分は、接合された状態でボールベアリング保持器の形をかたどったボールベアリング保持器のための空洞(“めす型”)を形成し、このときガイド部はパーティングラインに位置する。
【0098】
本発明の有利な形態のこれまでに与えられた説明は、多くの特徴を含み、そのいくつかは、個々の従属請求項に要約されている。しかしながら、当業者であれば、これらの特徴を目的に合せて個別に着目もし、有用なさらなる別の組み合わせに集約するであろう。
【0099】
本発明の上記の特性、特徴及び長所並びにそれらがどのようにして実現されるかについての態様は、図面に関連させて詳細に説明される一つ又は複数の実施例についての以下の記載との関係でよりはっきり明確に理解できるようになる。
【0100】
しかしながら、本発明は、機能的な特徴に関してであっても、一つ又は複数の実施例において示される特徴の組み合わせには限定されない。そのため、組み合わせに適したどの実施例の特徴も、明確に分離して着目することもでき、一つの実施例から切り離されて、他の実施例にその実施例を補足するために導入することができる。
【0101】
同じ部材、構成要素等は、図において同一の符号により示されている。一点鎖線は断面を明示し、一続きの線(実線)はエッジを示している。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1】第一の実施例によるボールベアリング保持器を示す図である(斜視図、円筒状外面、凹状のカロット底部)。
図2】第一の実施例によるボールベアリング保持器、ボール及び内輪を示す図である(斜視図、円筒状外面、凹状のカロット底部)。
図3】第一の実施例による内輪案内ボールベアリング保持器を有するラジアル深溝ボールベアリングを示す図である(断面図、円筒状外面、凹状のカロット底部)。
図4】第二の実施例によるボールベアリング保持器を示す図である(斜視図、円筒状外面、まっすぐなカロット底部)。
図5】第二の実施例によるボールベアリング保持器、ボール及び内輪を示す図である(斜視図、円筒状外面、まっすぐなカロット底部)。
図6】第二の実施例による内輪案内ボールベアリング保持器を有するラジアル深溝ボールベアリングを示す図である(断面図、円筒状外面、まっすぐなカロット底部)。
図7】第三の実施例によるボールベアリング保持器を示す図である(斜視図、円すい状外面、凹状のカロット底部)。
図8】第三の実施例によるボールベアリング保持器、ボール及び内輪を示す図である(斜視図、円すい状外面、凹状のカロット底部)。
図9】第三の実施例による内輪案内ボールベアリング保持器を有するラジアル深溝ボールベアリングを示す図である(断面図、円すい状外面、凹状のカロット底部)。
図10】第四の実施例によるボールベアリング保持器を示す図である(斜視図、円すい状外面、まっすぐなカロット底部)。
図11】第四の実施例によるボールベアリング保持器、ボール及び内輪を示す図である(斜視図、円すい状外面、まっすぐなカロット底部)。
図12】第四の実施例による内輪案内ボールベアリング保持器を有するラジアル深溝ボールベアリングを示す図である(断面図、円すい状外面、まっすぐなカロット底部)。
図13】ボールベアリング保持器を製造するための2部品式射出成形ツール(上型/下型)を(ここでは例えば第四の実施例により、斜視図で)示す図である。
図14】ボールベアリングの(1部品式)プラスチック製(スナップ形)保持器の従来デザインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0103】
円筒状外面又は円すい状外面26,28,30及び凹状の又はまっすぐなカロット底部54,66,70を有するボールベアリング保持器2(図1から図3図4から図6図7から図9図10から図12
【0104】
図1から図3には(ボールベアリング保持器2単体、内輪42を合わせたボールベアリング保持器2及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40内に組み込まれたボールベアリング保持器2という異なる構成群で)ボールベアリング保持器2の第一の実施例(“円筒状外面28及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2”)が示されている。
【0105】
図4から図6には(同様に、ボールベアリング保持器2単体、内輪42を合わせたボールベアリング保持器2及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40内に組み込まれたボールベアリング保持器2という異なる構成群で)ボールベアリング保持器2の第二の実施例(“円筒状外面28及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2”)が示されている。
【0106】
図7から図9には(同様に、ボールベアリング保持器2単体、内輪42を合わせたボールベアリング保持器2及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40内に組み込まれたボールベアリング保持器2という異なる構成群で)ボールベアリング保持器2の第三の実施例(“円すい状外面30及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2”)が示されている。
【0107】
図10から図12には(同様に、ボールベアリング保持器2単体、内輪42を合わせたボールベアリング保持器2及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40内に組み込まれたボールベアリング保持器2という異なる構成群で)ボールベアリング保持器2の第四の実施例(“円すい状外面30及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2”)が示されている。
【0108】
−この場合には−単列ラジアル深溝ボールベアリング40(簡潔に以下“ボールベアリング”と呼ぶ。)の(上述の四つ全ての実施例による)これらボールベアリング保持器2(簡潔に“ボールベアリング保持器”又は“複数の/全てのボールベアリング保持器”)は、図1から図12に示されているように、同径軸線周りに延在する環状体4、つまり保持器背部4を有しており、当該保持器背部には、−ボールベアリング保持器2又は保持器背部4の周方向6に(簡潔に単に“周方向6に”)−実質的に均等に分散させて配置された、互いに同じに形成された、所定の軸方向長さ16で軸方向14に突出したウェブ18が配設されており、これらウェブ18は、軸方向14に一方に開いた複数のボールポケット8を形成し、それらに対応する個数の所定のボール径12を有するボール10を収容する。
【0109】
ウェブ18は、図1から図12が示し又は明らかにしているように、−断面では−両凹状であり、その両側の(“内”向きの)丸み/湾曲は、ボール10の形(“円/円弧”)に合わされている。
【0110】
この場合、ボールベアリング保持器2の、形成されたボールポケット8のそれぞれが、一つのボール10を収容する。ボールベアリング保持器2の、形成されたボールポケット8に収容される全てのボール10は、それら全体では(ボールベアリング又は単列ラジアル深溝ボールベアリング40の)ボール群50とも呼ばれる。
【0111】
このとき、ボールベアリング保持器2におけるウェブ18の−所定の−軸方向長さ16は、ボールポケット8(図1,4,7及び10参照)に収容すべき又は収容されるボール10のボール径12に張り出し部分98(図2,5,8及び11並びに図3,6,9及び12参照)を加えたものに略相当する。
【0112】
ボールベアリング保持器2におけるウェブ18の軸方向長さ16又は張り出し部分98は、図3,6,9及び12にも示されているように、ウェブ18がそれぞれ、ボールベアリング内輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96を径方向に臨む領域へと軸方向に突出する(ボールベアリング内輪94の(軸方向に)“近位の”第一肩部94は、軸方向において、ボールベアリング保持器2の保持器背部4を径方向に臨む領域に位置する。)(又はボールベアリング内輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96と、ボールベアリング外輪44の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96との径方向における間の領域へと軸方向に突出する)ように寸法が決められている。
【0113】
つまり、ウェブ18の−所定の−軸方向長さ16は、軸方向におけるウェブ18の自由端部92が、ボールベアリング内輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96を径方向に臨む領域へと突出するように(又は軸方向において、ボールベアリング内輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96と、ボールベアリング外輪44の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96との径方向における間の領域に位置するように)寸法が決められている。
【0114】
簡潔に言うと、ウェブ18はそれぞれ、軸方向において、ボールベアリング内輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96に(も)−少なくとも部分的に−覆い被さっている。
【0115】
つまり、ボールベアリング保持器2が−この場合のように−ボールベアリング内輪肩部によりガイドされる場合、(組み込まれた)ボールベアリング保持器2は、両方の又は二つの肩部94,94の上で(つまり、ボールベアリング内輪92の(軸方向に)“近位の”第一肩部94及び(軸方向に)“遠位の”第二肩部96の上で)ガイドされる。
【0116】
簡潔に分かり易く言うと、ボールベアリング保持器2の保持器背部4には、−周方向6に略一様に分布させた且つ同じに形成された−軸方向14に突出するウェブ18が配設され、これらウェブが、これらウェブにより形成することができるボールポケット8を周方向6において画成する。
【0117】
図1から図12に示されているように、二つの隣接する((同径軸線周りに拡がる)所定の間隔20をおいて離れている)軸方向14に突出したウェブ18毎にそれぞれ形成されるボールポケット8は、両方のウェブ18の−周方向6における−間において保持器背部4上に形成されたカロット底部54によりさらに画成される。
【0118】
このカロット底部54は、ボールポケット8に収容すべき又は収容されるボール10のボール表面に対応する、丸みづけされた(“凹状”)面70(図1から図3及び図7から図9参照)−又は平坦な(“まっすぐな”)面66(隅Rを含む)(図4から図6及び図10から図10参照)を有することができる。
【0119】
図1から図12に示されているように、この(軸方向14に突出した)ウェブ18が、略ボール径12に張り出し部分98を加えた軸方向長さ16を備えている場合、−周方向6に(間隔20をおいて離れている)隣接するウェブ18により形成されたそれぞれの−ボールポケット8の軸方向の延在範囲64(“ボールポケットの軸方向深さ”,64)も略、ボール径12に張り出し部分98を加えたものである。
【0120】
このとき、ボールベアリング保持器2は、ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされており(図3,6,9及び12参照)、すなわち、ボールベアリング保持器2の内周38がボールベアリング40の内側の軌道輪42の外周76上、すなわち、内側軌道輪42の(軸方向に)“近位の”第一の肩部94及び内側軌道輪42の(軸方向に)“遠位の”第二の肩部96上を滑走するため、ボールベアリング保持器2が(ボールベアリング40内で)正確に、同心に且つ安定して走行することを保証することができる。
【0121】
つまり、簡単に分かり易く言うと、(単列ラジアル深溝ボールベアリング40のボール群50の)一つの又は複数のボール10は、(周方向6に隣接する二つのウェブ18毎の間に−保持器背部4又はボールベアリング保持器2の周方向6における−然るべき間隔20(“ウェブ間隔又はボールポケット幅”,20)があれば)ボールベアリング保持器2のボールポケット8内に−軸方向14において−完全に(さらに張り出し部分98も用いて)収容することができる。周方向6に隣接する二つのウェブ18毎の間の−保持器背部4又はボールベアリング保持器2の周方向6における−間隔20又はボールポケット幅20は、図1から図12に示されているように、ボール径12に−場合によっては与えられた公差を加え、さらには特定のボールポケットすきまを場合によっては加えたものに−略形成されている。
【0122】
周方向に隣接する二つのウェブ間のこの“間隔”は、次のようにして測れる。すなわち、この間隔は、特に軸方向14、つまり、ボールベアリング保持器2の軸方向14におけるボールポケット8の延在範囲、のボールポケット58の中心(“ボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置”,58)において、並びに、−略−径方向56、つまり、径方向56にボールベアリング保持器2の中心点M62に向かう又は中心点M62から遠ざかるウェブ18の延在範囲、のウェブ18の平均的な高さ位置60(“ウェブの平均的な径方向の高さ位置”,60)において、測定することができ、そしてそれは、それら二つのウェブ間にそれらが関わってできる対応する円弧の長さである(“平均ウェブ間隔”又は“平均ボールポケット幅”,20、図1参照)。
【0123】
簡潔に言うと、ボールベアリング保持器2において、“平均ウェブ間隔”20又は“平均ボールポケット幅”20は、ボールポケット8に収容すべき又は収容されるボール10の略ボール径12であるが−場合によっては公差及びボールポケットすきまが加わる。
【0124】
図1から図12に示されているように、二つのボールベアリング保持器2の周方向6に隣接する二つのウェブ端92の間の“開いた”間隙90(“(ウェブ端にある)ボールポケット開口部”,90)は、ボールポケット8内に収容されるボール10のそれぞれのボール径12と略同じ大きさである。
【0125】
簡潔に分かり易く言うと、“ウェブ端92におけるボールポケット開口部90”は、ボール径12と略同じ大きさである−それによりボールポケット8又はボールベアリング保持器2は、−ボールベアリング40の組み立ての際に−ボール10の上に(単に)差し込まれ、従来のスナップ形保持器(この場合には、“ウェブ端92におけるボールポケット開口部90”は、ボールポケット8内に収容されるボール10のそれぞれのボール径12より通常は小さい。)におけるようなボール群50とのスナップ嵌め(又はロック)は行われない。
【0126】
ボールベアリング保持器2における(スナップ式ロックのない)そのようなボールベアリング保持器デザインは、ボールベアリング保持器2に−従来のスナップ機構に代わる−別種の“ロック機構”を必要とし、つまり、ボールベアリング保持器2が“軸方向”14にボール群50から(外れるように)ずれ動き−それによりボールベアリング2が自身のボールベアリング保持器2を“失う”又はボールベアリング保持器2が自身のボール10を“失う”ことになりかねないのを防ぐ機構を必要とし、図1から図12に示されているように、そのボールベアリング保持器デザインのために、ボールベアリング保持器2においては、ボールベアリング保持器2のウェブ18の上に、つまり、ウェブ18の径方向内側32において、そこのボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置58の略領域に、ボールベアリングリング42,44の軌道溝46,48に係合させるための、つまりこの場合はボールベアリング内輪42の軌道溝46に係合させるための−ウェブ18の幅22にわたって延在する、ウェブ18又はボールベアリング保持器2と一体的に形成されたリブ24(図1,4,7及び10参照)の形態の−ガイド部24が形成されるようになっている(図2,5,8及び11並びに図3,6,9及び12参照)。
【0127】
そのため、−ボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置58の略領域の−ウェブ18の径方向内側32におけるリブ24のこの軸方向の位置は、−“通常の”スナップ形保持器の場合と同程度の−軸方向のあそびが−ウェブ18又はリブ24がボールベアリング内輪42の軌道溝46に係合した状態で−形成されるように決められている。
【0128】
このガイド部24又はリブ24が、(ボールベアリング40の組み立ての際に)ボールベアリング内輪42の軌道溝46に係合すると(図2,5,8及び11、並びに図3,6,9及び12参照)、それにより可能となる−ガイド部24又はリブ24と軌道溝46との間の−形状結合が、ボールベアリング保持器2が軸方向14にボールベアリング40から外れるようにずれ動く又は軸方向14に軌道輪/ボールベアリング内輪42から離れるようにずれ動くことでボールベアリング40が自身のボールベアリング保持器2を“失う”ことを防ぐ又はボールベアリング保持器2が自身のボール10を“失う”ことを防ぐ(“保持機能”)。
【0129】
このとき、ボールベアリング保持器2は、ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされており(図3,6,9及び12参照)、すなわち、ボールベアリング保持器2の内周38がボールベアリング40の内側の軌道輪42の外周76上、すなわち、内側軌道輪42の(軸方向に)“近位の”第一肩部94及び内側軌道輪42の(軸方向に)“遠位の”第二肩部96上を滑走するため、ボールベアリング保持器2が(ボールベアリング40内で)正確に、同心に且つ安定して走行することを保証することができる。
【0130】
ボールベアリング保持器2は、−射出成形36により(図13参照)−例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアミドイミド(PAI)又はポリイミド(PI)といった高性能プラスチックから製造されている。
【0131】
単列ラジアル深溝ボールベアリング40の外側軌道輪44及び内側軌道輪42は、例えば、100Cr6(DIN(ドイツ工業規格)材料番号(Werkstoff−Nr.)1.3505)であるおよそ炭素1%とクロム1.5%を含有する鋼等のクロム鋼から製造されているのでもよい。
【0132】
ボールベアリング保持器2又はボールベアリング40において使用されているボール群50のボール10は、およそ1mmという所定のボール径12を有している。単列ラジアル深溝ボールベアリング40は歯科用途、すなわち歯科用タービンに用いられる。
【0133】
ボールベアリング保持器2−これまで述べてきたもの−は、ボールベアリング保持器のこれまでの形態、特に、張り出し部分98を加えた略ボール径12の軸方向の延在範囲14を有し且つガイド部24又はリブ24を有するそのウェブの形態(図1から図12参照)に加えてさらに、外面26,28,30及びカロット底部54,66,70に関して様々に異なる形態を有していてよい。
【0134】
[実施例1]
−“円筒状外面28及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2”(図1から図3
【0135】
図1から図3には(ボールベアリング保持器2単体(図1)、内輪42を有するボールベアリング保持器2(図2)及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40に組み込まれたボールベアリング保持器2(図3)という様々な構成群で)、円筒状外面28及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2の第一の実施例が示されている。
【0136】
図1から図3に示されているように、この第一の実施例によるボールベアリング保持器2又はそのウェブ18は、軸方向14において円筒状の径方向外面28を有している。
【0137】
この形態又はこの保持器デザインは、好ましくは、回転数に起因してボールベアリングに発生する遠心力によってカロット・ノーズ部が外側に曲がらないような単列ラジアル深溝ボールベアリングに使用することができる。
【0138】
図1から図3に示されているように、この第一の実施例によるボールベアリング保持器2はさらに、カロット底部54を有しており、このカロット底部54は、ボールポケット8に収容すべき又は収容されるボール10のボール表面に合せて丸みづけされた(“凹状”)面70を有している。
【0139】
図2には−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−この第一の実施例によるボールベアリング保持器2が、対応して設けられるボールベアリング内輪42及びボールポケット8内に収容されたボール10と共に示されている。
【0140】
図3には、ボールベアリング内輪42、ボールベアリング外輪44及び−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−(第一の実施例による)ボールベアリング保持器2並びにボールポケット8内に収容されたボール10を有する−完全な又は完全に組み立てられた−ボールベアリング40が示されている。
【0141】
[実施例2]
−“円筒状外面28及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2”(図4から図6
【0142】
図4から図6には、(同様に、ボールベアリング保持器2単体(図4)、内輪42を有するボールベアリング保持器2(図5)及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40に組み込まれたボールベアリング保持器2(図6)という様々な構成群で)円筒状外面28及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2の第二の実施例が示されている。
【0143】
図4から図6に示されているように、この第二の実施例によるボールベアリング保持器2又はそのウェブ18も、軸方向14において円筒状の径方向外面28を有している。
【0144】
図4から図6に示されているように、この第二の実施例によるボールベアリング保持器2はまた、平坦な(“まっすぐな”)面66を持つカロット底部54も有している。
【0145】
図5には、−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−この第二の実施例によるボールベアリング保持器2が、対応して設けられるボールベアリング内輪42及びボールポケット8内に収容されたボール10と共に示されている。
【0146】
図6には、ボールベアリング内輪42、ボールベアリング外輪44及び−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−(第二の実施例による)ボールベアリング保持器2並びにボールポケット8内に収容されたボール10を有する−完全な又は完全に組み立てられた−ボールベアリング40が示されている。
【0147】
[実施例3]
−“円すい状外面30及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2”(図7から図9
【0148】
図7から図9には、(同様に、ボールベアリング保持器2単体(図7)、内輪42を有するボールベアリング保持器2(図8)及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40に組み込まれたボールベアリング保持器2(図9)という様々な構成群で)円すい状外面30及び凹状カロット底部70を有するボールベアリング保持器2の第三の実施例が示されている。
【0149】
図7から図9に示されているように、この第三の実施例によるボールベアリング保持器2又はそのウェブ18は、例えばここでは略10°のコーヌス角52を有する、軸方向14において円すい状の径方向外面30を有している。
【0150】
これにより、回転数に起因してボールベアリングに発生する遠心力によってカロット・ノーズ部が外側に曲がることができ、このとき外側に湾曲したカロット・ノーズ部が、外側軌道輪の肩部又は走行軌道に接触することを防ぐことができる。
【0151】
図7から図9に示されているように、この第三の実施例によるボールベアリング保持器2はさらに、ボールポケット8に収容すべき又は収容されるボール10のボール表面に合せて丸みづけされた(“凹状”)面70を有するカロット底部54を有している。
【0152】
図8には、−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−この第三の実施例によるボールベアリング保持器2が、対応して設けられるボールベアリング内輪42及びボールポケット8内に収容されたボール10と共に示されている。
【0153】
図9には、ボールベアリング内輪42、ボールベアリング外輪44及び−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−(第三の実施例による)ボールベアリング保持器2並びにボールポケット8内に収容されたボール10を有する−完全な又は完全に組み立てられた−ボールベアリング40が示されている。
【0154】
[実施例4]
−“円すい状外面30及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2”(図10から図12
【0155】
図10から図12には、(同様に、ボールベアリング保持器2単体(図10)、内輪42を有するボールベアリング保持器2(図11)及び単列ラジアル深溝ボールベアリング40に組み込まれたボールベアリング保持器2(図12)という様々な構成群で)円すい状外面30及びまっすぐなカロット底部66を有するボールベアリング保持器2の第四の実施例が示されている。
【0156】
図10から図12に示されているように、この第四の実施例によるボールベアリング保持器2又はそのウェブ18は、例えばここでも略10°のコーヌス角52を有する、軸方向14において円すい状の径方向外面30を有している。
【0157】
図10から図12に示されているように、第四の実施例によるボールベアリング保持器2はさらに、平坦な(“まっすぐな”)面66を有するカロット底部54を有している。
【0158】
図11には、−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−この第四の実施例によるボールベアリング保持器2が、対応して設けられるボールベアリング内輪42及びボールポケット8内に収容されたボール10と共に示されている。
【0159】
図12には、ボールベアリング内輪42、ボールベアリング外輪44及び−ボールベアリング内輪肩部78によりガイドされる−(この第四の実施例による)ボールベアリング保持器2並びにボールポケット8内に収容されたボール10を有する−完全な又は完全に組み立てられた−ボールベアリング40が示されている。
【0160】
[実施例5]
射出成形36によるボールベアリング保持器2の製造
【0161】
これら全てのボールベアリング保持器2の大きな利点は特に、その製造プロセスにある。
【0162】
ボールベアリング保持器2が射出成形36により製造される場合、−ボールベアリング保持器2の保持器デザインのおかげで−図13に示されているように、射出成形ツール80、この場合は上型82と、パーティングライン88を介して上型82に接続された又は接続可能な下型84とを有する2部品式射出成形ツール80は、非常に簡易に構成することができる。
【0163】
図13から明らかなように、パーティングライン88を介して接合された上型及び下型はこのとき、ボールベアリング保持器2のめす型86を形成する。
【0164】
図13からまた明らかなように、このときガイド部24は、2部品式射出成形ツール80のパーティングライン88に位置するため、ツール上型82を開けることにより、射出成形物を完全に形状結合的に離型することができる。
【0165】
本発明を好ましい例示的な実施例によってより詳細に例示及び説明したが、本発明は、そのことによって開示された例に限定されているわけではないし、当業者がそこから本発明の範囲を逸脱することなく他の変形例を導き出すことが可能である。
【符号の説明】
【0166】
2 ボールベアリング保持器
4 環状体/保持器背部
6 ボールベアリング保持器2又はボールベアリング40の周方向
8 ボールポケット
10 ボール

12 ボール径
14 軸方向、軸方向に
16 ウェブ18の軸方向長さ
18 ウェブ
20 間隔、(隣接する二つのウェブ18の間の)円弧長、(平均)ウェブ間隔、(平均)ボールポケット幅

22 周方向6における円弧に沿ったウェブ18の延在範囲、ウェブ18の幅(円弧長)
24 ガイド部、リブ
26 ウェブ18の径方向外側/径方向外面
28 円筒状の径方向外面
30 円すい状の径方向外面

32 ウェブ18の径方向内側/径方向内面
34 ボールベアリング保持器2又はボールベアリング40の外周
36 射出成形
38 ボールベアリング保持器2又はボールベアリング40の内周
40 ボールベアリング、(単列)ラジアル深溝ボールベアリング

42 ボールベアリング内輪、内側軌道輪
44 ボールベアリング外輪、外側軌道輪
46 ボールベアリング内輪、内側軌道輪42の軌道溝
48 ボールベアリング外輪、外側軌道輪44の軌道溝
50 ボール群

52 コーヌス角
54 カロット底部
56 径方向
58 ボールポケット8の軸方向中心、ボールポケットの平均的な軸方向の深さ位置
60 ウェブ18の平均的な径方向の高さ位置

62 ボールベアリング保持器2又はボールベアリング40の中心点M
64 ボールポケット8の(軸方向14における)深さ、ボールポケット8の軸方向14の延在範囲
66 カロット底部54の平坦な/まっすぐな面
68 半径R
70 カロット底部54の丸みづけされた/凹状の面

72 (ボールベアリング保持器2の隣接する二つのウェブ18の間の、ボールベアリング保持器2の外周上における)間隔、円弧長
74 (ボールベアリング保持器2の隣接する二つのウェブ18の間の、ボールベアリング保持器2の内周上における)間隔、円弧長
76 内側軌道輪42の外周
78 ボールベアリング内輪/内側軌道輪42の内輪肩部、(ボールベアリング)内輪肩部によるガイド
80 (2部品式)射出成形ツール

82 第一ツール部分、上型
84 第二ツール部分、下型
86 空洞、めす型
88 パーティングライン
90 (ウェブ端92における)ボールポケット開口部、ウェブ端92における“開いた”間隙

92 (自由)ウェブ端
94 (軸方向に)“近位の”第一肩部
96 (軸方向に)“遠位の”第二肩部
98 張り出し部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】