(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-520602(P2021-520602A)
(43)【公表日】2021年8月19日
(54)【発明の名称】アノード材料並びにその製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20210726BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20210726BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20210726BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/134
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-553576(P2020-553576)
(86)(22)【出願日】2019年4月12日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月1日
(86)【国際出願番号】IB2019053045
(87)【国際公開番号】WO2019198052
(87)【国際公開日】20191017
(31)【優先権主張番号】62/656,414
(32)【優先日】2018年4月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】オブロヴァック、マーク エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ユークン
(72)【発明者】
【氏名】カオ、シーモン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA09
5H050FA17
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA19
(57)【要約】
電気化学的活性材料は、一般式(I):Si
aTi
bO
cN
dM
e (I)[式中、a、b、c、d、及びeは、原子%値を表し、a+b+c+g+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素を含み、a>20、a+b+e≧c+d、c≧0、d>5、e≧0、及びa/b>0.5である]によって表される合金を含む。合金は、遷移金属ケイ化物相、窒化チタン相、又は酸窒化チタン相を含み、相は、2mm超で10mm未満のシェラー粒径を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
SiaTibOcNdMe (I)
[式中、a、b、c、d、及びeは、原子%値を表し、a+b+c+g+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素を含み、a>20、a+b+e≧c+d、c≧0、d>5、e≧0、及びa/b>0.5である]によって表される合金を含む電気化学的活性材料であって、
前記合金が、遷移金属ケイ化物相、窒化チタン相、又は酸窒化チタン相を含み、前記相は、2mm超で10mm未満のシェラー粒径を有する、電気化学的活性材料。
【請求項2】
Mが、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、又はCuを含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項3】
Mが炭素を含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項4】
前記合金が遷移金属ケイ化物相を含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項5】
前記合金が、窒化チタン相又は窒化チタン様相に特徴的なX線回折ピークを有する相を含み、前記窒化チタン相又は窒化チタン様相に関連する最大X線回折ピークが、Cukα1線を使用して測定したときに、0.9°2Θ超で4°2Θ未満の半値全幅を有する、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項6】
前記合金が、60ナノメートル以下のシェラー粒径を有する単体ケイ素相を含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項7】
前記合金の前記相の各々が1つ以上の粒を含み、前記合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが60nm超の粒径に相当する検出可能なCukα1回折ピークを含まない、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項8】
前記合金の前記相の各々が1つ以上の粒を含み、前記合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが2nm超の粒径に相当する、単体ケイ素に関連する検出可能なCukα1回折ピークを含まない、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項9】
前記合金が、0.25未満のrmax,30の値を有する、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項10】
前記合金が、0.25未満のrmax,45の値を有する、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項11】
前記合金が、フレーク形態を含む粒子の形態である、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項12】
前記合金が、10m2/g未満の表面積を有する粉末の形態である、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項13】
前記合金が、600mAh/g超の可逆重量比容量及び1000Ah/L超の可逆容積比容量を有する、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項14】
請求項1に記載の電気化学的活性材料と、
結合剤と、
を含む、電極組成物。
【請求項15】
黒鉛を更に含む、請求項14に記載の電極組成物。
【請求項16】
請求項14に記載の電極組成物と、
集電体と、
を含む、負極。
【請求項17】
請求項16に記載の負極と、
リチウムを含む正極組成物を含む正極と、
リチウムを含む電解質と、
を含む、電気化学セル。
【請求項18】
請求項16に記載の電気化学セルを備える、電子機器。
【請求項19】
電気化学セルの製造方法であって、
リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、
請求項16に記載の負極を準備することと、
リチウムを含む電解質を準備することと、
前記正極、負極、及び前記電解質を、電気化学セルに組み込むことと、
を含む、方法。
【請求項20】
合金の製造方法であって、
ケイ素及びチタンを含む粉末をボールミリングすること、を含み、
前記ボールミリングの工程が、窒素、窒素と酸素との混合物、又は空気を含む、雰囲気中で実施される、方法。
【請求項21】
前記粉末が、ケイ素及びチタンを含む金属間化合物を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ケイ素及びチタンを含む金属間化合物が、TiSi2を含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セルのアノードに有用な組成物、並びにその調製方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に使用するために、様々なアノード組成物が導入されてきた。このような組成物は、例えばIl−seok Kim,P.N.Kumta,and G.E.Blomgren,Electrochem.Solid State Lett.,3(2000)493.及びYe Zhang,Zheng−Wen Fu,Qi−Zong Qin,Electrochem.Comm.,6(2004)484に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
いくつかの実施形態では、電気化学的活性材料が提供される。
【0004】
電気化学的活性材料は、一般式(I):
Si
aTi
bO
cN
dM
e (I)
[式中、a、b、c、d、及びeは、原子%値を表し、a+b+c+g+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素を含み、a>20、a+b+e≧c+d、c≧0、d>5、e≧0、及びa/b>0.5である]によって表される合金を含む。合金は、遷移金属ケイ化物相、窒化チタン相、又は酸窒化チタン相を含み、相は、2mm超で10mm未満のシェラー(Scherrer)粒径を有する。
【0005】
いくつかの実施形態では、電極組成物が提供される。電極組成物は、上記電気化学的活性材料と、結合剤と、を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、負極が提供される。負極は、集電体と、上記電極組成物と、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、電気化学セルが提供される。電気化学セルは、上記負極と、リチウムを含む正極組成物を含む正極と、リチウムを含む電解質と、を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、電気化学セルの製造方法が提供される。この方法は、リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、上記のような負極を準備することと、リチウムを含む電解質を準備することと、正極、負極、及び電解質を電気化学セルに組み込むことと、を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、合金の製造方法が提供される。この方法は、ケイ素及びチタンを含む粉末をボールミリングすること、を含む。ボールミリングの工程は、窒素、窒素及び酸素の混合物、又は空気を含む、雰囲気中で実施される。
【0010】
本開示の上記概要は、本開示の各実施形態を説明することを意図するものではない。本開示の1つ以上の実施形態の詳細はまた、以下の説明にも記載される。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示は、添付図面に関連した本開示の様々な実施形態の以下の詳細な説明を考慮して、より完全に理解することができる。
【
図1】本開示の実施例1〜3のX線回折(XRD)パターンを示す。白抜き記号は、回折パターンにおいて特定されたピークを示す。
【
図2】本開示の実施例5のXRDパターンである。白抜き記号は、回折パターンにおいて特定されたピークを示しており、特定された相の参照パターンに対する相対回折強度は、黒色線によって示され、実線記号によって標識されている。
【
図3】比較例CE2のXRDパターンである。白抜き記号は、回折パターンにおいて特定されたピークを示しており、特定された相の参照パターンに対する相対回折強度は、黒色線によって示され、実線記号によって標識されている。
【
図4】比較例CE4のXRDパターンである。白抜き記号は、回折パターンにおいて特定されたピークを示しており、特定された相の参照パターンに対する相対回折強度は、黒色線によって示され、実線記号によって標識されている。
【
図5】本開示の例示的実施形態(a)実施例1、(b)実施例2、及び(c)実施例3の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図7】30℃での50回の充電/放電サイクルにわたる電圧の関数としての、本開示、実施例1の例示的な合金を含む電気化学セルの微分容量を示す。
【
図8】30℃での50回の充電/放電サイクルにわたる、本開示、実施例7の例示的な合金を含む電気化学セルの微分容量対電圧曲線を示す。
【
図9】30℃での50回の充電/放電サイクルにわたる、比較例の合金CE1を含む電気化学セルの微分容量対電圧曲線を示す。
【
図10】30℃での50回の充電/放電サイクルにわたる、比較例の合金CE3を含む電気化学セルの微分容量対電圧曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ケイ素系材料は、そのより高いエネルギー密度に少なくとも部分的に起因して、次世代の高エネルギー密度リチウムイオン電気化学セルのためのアノード材料として、黒鉛の有望な代替物である。しかし、リチオ化中の高体積膨張及びセル内の電解質と望ましくない反応をする傾向のため、既知のケイ素系負極材料の使用により丈夫な電気化学セル寿命を得ることは困難であった。
【0013】
不活性成分を含むケイ素系合金によると、体積膨張の低下及び電解質反応性の低減によって、うまくサイクル寿命化が延びることが証明されている。しかし、これらの領域における更なる改善が、なお望ましい。
【0014】
不活性成分又は相として窒化チタン(TiN)を含むケイ素(Si)系合金(Si/TiN活性/不活性合金)は、高い電子伝導率及び低い電解質反応性の望ましい特性を有する。リチウムイオン電気化学セルのための既知のSi/TiN活性/不活性合金は、Si相及びTiN相を機械的に合金化することによって製造されている。このような機械的合金化(すなわち、Si及びTiNの直接ミリング)により、Si/TiN活性/不活性合金が形成され、TiN相のシェラー(Scherrer)粒径は、Si/TiN原子比が低い(例えば、33/66)場合に5ナノメートル以上であり、Si/TiN原子比が高い(例えば、85/15)場合に10ナノメートル以上であることが見出されている。電気化学的性能を改善するためには、粒径を小さくすることが望ましい。加えて、TiNは、典型的には気相加工から製造されるため、出発材料としてTiNを使用すると、比較的コストがかかる。
【0015】
ナノ結晶質TiNは、窒素リッチ雰囲気中でのチタン(Ti)粉末のミリングによって製造することができることが報告されている。しかし、窒素リッチ雰囲気下でのSiのボールミリングにより、窒化ケイ素(Si
3N
4)という、リチウムイオン電気化学セル内で電気化学的不活性材料の形成をもたらすことも報告されている。結果的に、本発見の前には、窒素リッチ雰囲気中のSi粉末とTi粉末との混合物の機械的合金化により、TiNとSi
3N
4との混合物の形成をもたらし、その両方がリチウムイオン電気化学セルにおいて電気化学的不活性であると考えられてきた。しかし、このような合金化により、目立った量のSi
3N
4を含まない、リチウムイオン電気化学イオンセルにおける負極材料としての使用に特に有益な固有の微細構造を有する、ケイ素−チタン−窒素合金を製造することができることが見出された。加えて、本開示の合成方法は、比較的低コストで大規模な製造に適していることが見出された。
【0016】
本明細書で使用するとき、
用語「リチオ化する」及び「リチオ化」は、リチウムを電極材料又は電気化学的活性相に添加するためのプロセスを指す。
【0017】
用語「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」は、リチウムを電極材料又は電気化学的活性相から除去するためのプロセスを指す。
【0018】
用語「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーをセルに提供するためのプロセスを指す。
【0019】
用語「放電する」及び「放電」は、例えば、所望の仕事を行うためにセルを使用するときに、電気化学エネルギーをセルから取り除くためのプロセスを指す。
【0020】
語句「充電/放電サイクル」は、電気化学セルが十分に充電され、すなわち、セルがその上限カットオフ電圧を得、カソードが約100%の充電状態になり、その後放電されてカットオフ電圧低下を達成し、カソードが約100%の放電深度になる、サイクルを指す。
【0021】
語句「半電池」は、一方の電極が作用電極であり、他方の電極がリチウム金属対/基準電極である、2電極電気化学セルを指す。
【0022】
語句「正極」は、フルセルにおける放電プロセス中に電気化学的還元及びリチオ化が起きる電極(多くの場合、カソードと呼ばれる)を指す。
【0023】
語句「負極」は、フルセルにおける放電プロセス中に電気化学的酸化及び脱リチオ化が起きる電極(多くの場合、アノードと呼ばれる)を指す。
【0024】
語句「フルセル」は、電極のいずれもリチウム金属(例えば、リチウムイオン電池)でない2電極電気化学セルを指す。
【0025】
用語「合金」は、金属、メタロイド、半金属、又は半導体のいずれか又は全ての混合物を含む、物質を指す。
【0026】
語句「電気化学的活性材料」は、リチウムイオン電池の負極において充電及び放電中に遭遇し得る条件(例えば、リチウム金属に対して0V〜2Vの電圧)下でリチウムと電気化学的に反応又は合金化することができる、単相又は複数相を含むことができる材料を指す。
【0027】
語句「電気化学的不活性材料」は、リチウムイオン電池の負極において充電及び放電中に遭遇し得る条件(例えば、リチウム金属に対して0V〜2Vの電圧)下でリチウムと電気化学的に反応しない又は合金化しない、単相又は複数相を含むことができる材料を指す。
【0028】
用語「相」は、均一な組成及び原子構造を有する材料の領域を指す。
【0029】
用語「非晶質相」は、入射CuK
α1線下での20°〜60°2Θの回折ピークのいずれか1つの半値全幅(FWHM)に対するシェラー式の適用によって決定される平均粒径が2ナノメートル未満である、相を指す。
【0030】
語句「電気化学的活性相」又は「活性相」は、リチウムイオン電池の負極において充電及び放電中に遭遇し得る条件(例えば、リチウム金属に対して0V〜2Vの電圧)下でリチウムと電気化学的に反応又は合金化することができる、電気化学的活性材料の相を指す。
【0031】
語句「電気化学的不活性相」又は「不活性相」は、リチウムイオン電池の負極において充電及び放電中に遭遇し得る条件(例えば、リチウム金属に対して0V〜2Vの電圧)下でリチウムと電気化学的に反応しない又は合金化しない、電気化学的活性材料の相を指す。
【0032】
語句相の「シェラー粒径」は、入射CuK
α1線下での20°〜60°2Θの回折ピークのいずれか1つのFWHMに対するシェラー式の適用によって決定される相の平均粒径を指す。
【0033】
語句「実質的に均質」は、材料の一方の部分の物理的特性が、材料の任意の他の部分の物理的特性と100ナノメートル以上の長さ尺度で同じになるように、材料の成分又はドメインが互いに十分に混合されている材料を指す。
【0034】
本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容が明らかにそうでないことを記述していない限り、複数の指示対象を含む。本明細書及び付加的実施形態で使用するとき、用語「又は」は、概ね、内容が明らかにそうでないことを記述してしない限り、「及び/又は」を含む意味で使用される。
【0035】
本明細書で使用するとき、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5を含む)。
【0036】
別途記載のない限り、本明細書及び実施形態で使用される量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、それと対照的に示されない限り、前述の明細書に記載された数値パラメータ及び実施形態の付加的列挙は、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変更し得る。少なくとも、及び特許請求される実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではないが、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁の数に照らして、通常の四捨五入法を適用することによって解釈されるべきである。
【0037】
いくつかの実施形態では、本開示は、電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池)に使用するための電気化学的活性材料に関する。例えば、電気化学的活性材料は、リチウムイオン電池用の負極に組み込まれてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、本開示の電気化学的活性材料は、ケイ素/窒化チタン合金を含む、又はその形態をとることができる。いくつかの実施形態では、追加の元素が、例えば、加工の補助又は電気化学的性能の増進のために、ケイ素/窒化チタン合金に組み込まれてもよい。好適な追加の元素としては、炭素又は遷移金属を挙げることができる。いくつかの実施形態では、好適な遷移金属としては、第一列遷移金属を挙げることができる。いくつかの実施形態では、好適な第一列遷移金属元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、又はマンガンを挙げることができる。いくつかの実施形態では、酸素が、ケイ素/窒化チタン合金に組み込まれてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、本開示の電気化学的活性材料は、以下の一般式を有する、ケイ素/窒化チタン合金を含む、又はその形態をとることができる:
Si
aTi
bO
cN
dM
e (I)
[式中、a、b、c、d、及びeは原子%値を表し、a+b+c+d+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素のうちのいずれか1つ又は組み合わせを含む、又はそれからなる]。いくつかの実施形態では、aは、10超、20超、40超、若しくは70超であり、aは、10〜75、20〜75、30〜75、若しくは50〜75であり、bは(c+d)よりも大きく、若しくは(a+b+e)は(c+d)以上であり、cは、0以上、5超、若しくは10超であり、cは、1〜10、10〜15、若しくは15〜20であり、dは、5超、20超、若しくは40超であり、dは、5〜20、20〜35、若しくは35〜45であり、eは、0以上、5超、若しくは10超であり、又は、eは、1〜5、5〜10、若しくは10〜20である。いくつかの実施形態では、a/bは、0.5超、1超、2超、3超、又は5超である。いくつかの実施形態では、Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、又はCuのうちのいずれか1つ又は組み合わせを含む、又はそれらからなる。いくつかの実施形態では、Mは、チタン以外の1つ以上の遷移金属元素及び炭素の組み合わせを含む、又はそれらからなる。いくつかでは、MはFeを含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、遷移金属ケイ化物相を含んでもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、10ナノメートル未満、8ナノメートル未満、若しくは6ナノメートル未満、又は2〜10ナノメートル、2〜8ナノメートル、2〜6ナノメートルのシェラー粒径を有する相(例えば、窒化チタン相又は酸窒化チタン相)を含んでもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、窒化チタン相又は窒化チタン様相に特徴的なX線回折(XRD)ピークを有する相を含んでもよく、この相に関連する最大XRDピークは、Cuk
α1線を使用して測定したときに、0.9°2Θ超で4°2Θ未満、又は0.9°2Θ超で2°2Θ未満の半値全幅(FWHM)を有する。
【0043】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、60ナノメートル以下、20ナノメートル未満、若しくは5ナノメートル未満、又は2〜10ナノメートル、10〜20ナノメートル、若しくは20〜60ナノメートルのシェラー粒径を有する単体ケイ素相を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、シェラー式に従って、2nm超の粒径に相当する検出可能なCuk
α1X線粉末回折ピークを有さない非晶質単体ケイ素相を、代替的に又は追加的に含んでもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、電気化学的活性材料の相の各々(例えば、活性相、不活性相、又は活性材料の任意の他の相)は、1つ以上の粒を含む、又はこれらの形態であってもよい。いくつかの実施形態では、電気化学的活性材料のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが10nm超、20nm超、又は60nm超の粒径に相当する、検出可能なCuk
α1X線粉末回折ピークを含まない。
【0045】
本開示の合金の総脱リチオ化容量は、0.38V〜0.48Vの半電池で測定することができ、5mV〜0.9mVでの合金の総脱リチオ化容量で割って、サイクリング中に形成されるLi
15Si
4の分率を活性ケイ素の総量と比較して決定することができる。この分率は、本出願において「r」と称される。サイクリング中に到達するrの最大値は、r
maxと呼ばれる。r
maxを、サイクリング中の合金構造安定性の尺度として使用した。より小さいr
max値は、改善された合金構造安定性及び改善されたサイクル性能を示す。r
max,30は、30℃で半電池内にて実施される第1の50サイクルの充電/放電中に測定されるr
maxの値であり、最初の2サイクルについてはC/10のサイクルレート、以降のサイクルについてはC/5のレートを使用し、より低いカットオフ電圧でのC/20トリクル放電(リチオ化)工程を伴う。r
max,45は、45℃で半電池内にて実施される第1の20サイクルの充電/放電中に測定されるr
maxの値であり、最初の2サイクルについてはC/10のサイクルレート、以降のサイクルについてはC/5のレートを使用し、より低いカットオフ電圧でのC/20トリクル放電(リチオ化)工程を伴う。いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、0.25未満、0.23未満、又は0.21未満のr
max,30を示し得る。いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、0.25未満、0.23未満、又は0.21未満のr
max,45を示し得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金の活性相は、活性材料の総体積に基づいて、活性材料の少なくとも30体積%若しくは少なくとも40体積%、又は活性材料の総体積に基づいて、30体積%〜70体積%、40体積%〜60体積%、40体積%〜55体積%、40体積%〜42体積%、若しくは50体積%〜52体積%を占め得る。いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金の不活性相は、活性材料の総体積に基づいて、活性材料の30体積%〜70体積%、40体積%〜60体積%、又は40体積%〜55体積%を占め得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、以下の式、Si
74Ti
13N
13、Si
74Ti
13O
7N
6、Si
54Ti
23N
23、Si
54Ti
23O
7N
16、Si
42Ti
29N
29、Si
42Ti
29O
7N
22、Si
77Ti
9N
9C
5、Si
77Ti
9O
7N
2C
5、Si
77Ti
9N
9Fe
5、Si
77Ti
9O
7N
2Fe
5、Si
77Ti
9N
9C
3Fe
2、Si
77Ti
9O
7N
2C
3Fe
2、Si
74Ti
16N
10、Si
74Ti
16O
7N
3、Si
42Ti
8N
33O
16、又はこれらの組み合わせのうちの1つ以上によって表されてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、粒子の形態をとることができる。粒子は、60μm以下、40μm以下、20μm以下、10μm以下、7μm以下、若しくは更によりは小さく、少なくとも0.5μm、少なくとも1μm、少なくとも2μm、少なくとも5μm、若しくは少なくとも10μm、若しくは更により大きい、又は、0.5〜10μm、1〜10μm、2〜10μm、40〜60μm、1〜40μm、2〜40μm、10〜40μm、5〜20μm、10〜20μm、1〜30μm、1〜20μm、1〜10μm、0.5〜30μm、0.5〜20μm、若しくは0.5〜10μmの直径(又は最長寸法の長さ)を有してもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、低表面積を有する粒子の形態をとることができる。粒子は、20m
2/g未満、12m
2/g未満、10m
2/g未満、5m
2/g未満、4m
2/g未満、又は更に2m
2/g未満の表面積を有してもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金は、フレーク形態を有する粒子の形態をとることができる。本明細書で使用するとき、用語「フレーク形態」は、他の二次元のサイズの少なくとも半分である3次元目のサイズを有する、平坦な薄い粒子を指す。
【0051】
いくつかの実施形態では、電気化学的活性材料の粒子は、粉末の形態をとることができる。本明細書で使用するとき、用語「粉末」は、各粒子が任意の範囲で100μm未満である、粒子の集合を指す。
【0052】
いくつかの実施形態では、ケイ素/窒化チタン合金の相は、合金材料の表面及び塊を含む合金材料全体にわたって、実質的に均質に分布させることができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、活性材料(例えば、合金粒子の形態のもの)は、その外面上に、活性材料を少なくとも部分的に取り囲むコーティングを有してもよい。「少なくとも部分的に取り囲む」とは、コーティングと活性材料の外部との間に共通の境界が存在することを意味する。コーティングは、化学的保護層として機能することができ、活性材料の成分を物理的及び/又は化学的に安定化させることができる。コーティングに有用な例示的な材料としては、炭素、例えば、非晶質炭素又は黒鉛性炭素、LiPONガラス、リン酸リチウム(Li
2PO
3)などのリン酸塩、メタリン酸リチウム(LiPO
3)、リチウムジチオネート(LiS
2O
4)、フッ化リチウム(LiF)、メタケイ酸リチウム(LiSiO
3)、及びオルトケイ酸リチウム(Li
2SiO
4)が挙げられる。コーティングは、ミリング、溶液堆積、気相プロセス、熱分解、又は当業者に既知の他のプロセスによって適用することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本開示の電気化学的活性材料又は合金は、600mAh/g超、1000mAh/g超、又は2000mAh/g超の可逆重量比容量、及び、1000mAh/L超、1500mAh/L超、又は2000mAh/L超の可逆容積比容量を示し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電池に使用するための負極組成物に関する。負極組成物は、上記の電気化学的活性材料を含んでもよい。加えて、負極組成物は、結合剤、伝導性希釈剤、充填剤、接着促進剤、コーティング粘度改質用増粘剤などの1つ以上の添加剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸リチウム、カーボンブラック、又は当業者に既知の他の添加剤を含んでもよい。
【0056】
例示的な実施形態では、負極組成物は、組成物から集電体への電子移動を促進する電気伝導性希釈剤を含んでもよい。電気伝導性希釈剤としては、例えば、炭素、粉末化金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物、及び金属ホウ化物、又はこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な電気伝導性炭素希釈剤としては、カーボンブラック、例えばSuper C65カーボンブラック(Imerys Graphite and Carbon Ltd.(Switzerland))、Ketjenblack (AkzoNobel(Netherlands))、Shawinigan Black(Chevron Chemical Co.(Houston,Tex.))、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、電極組成物中の伝導性希釈剤の量は、電極コーティングの総重量に基づいて、少なくとも2重量%、少なくとも6重量%、若しくは少なくとも8重量%、若しくは少なくとも20重量%、又は、電極組成物の総重量に基づいて、5重量%未満、2重量%未満、若しくは1重量%未満、又は、電極組成物の総重量に基づいて、0.2重量%〜80重量%、0.5重量%〜50重量%、0.5重量%〜20重量%、若しくは1重量%〜10重量%であり得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、負極組成物は、参照によりその全容が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0206641号(Christensenら)に記載されているように、特にカレンダーコーティングにおける密度及びサイクル性能を改善するため黒煙を含んでもよい。黒鉛は、負極組成物の総重量に基づいて、10重量%超、20重量%超、50重量%超、70重量%超、若しくは更にそれ以上、又は、電極組成物の総重量に基づいて、20重量%〜90重量%、30重量%〜80重量%、40重量%〜60重量%、45重量%〜55重量%、80重量%〜90重量%、若しくは85重量%〜90重量%の量で負極組成物中に存在してもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、負極組成物はまた、結合剤を含んでもよい。好適な結合剤としては、オキソ酸及びその塩、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸メチル/アクリル酸コポリマー、リチウムメチルアクリレート/アクリレートコポリマー、並びに任意選択的に他のリチウム若しくはナトリウムで中和されたポリアクリル酸コポリマーが挙げられる。他の好適な結合剤としては、ポリオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、若しくはブチレンモノマーから調製されるもの;フッ素化ポリオレフィン、例えば、フッ化ビニリデンモノマーから調製されるもの;ペルフッ素化ポリオレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製されるもの;ペルフッ素化ポリ(アルキルビニルエーテル);ペルフッ素化ポリ(アルコキシビニルエーテル);又はこれらの組み合わせが挙げられる。他の好適な結合剤としては、ポリイミド、例えば、芳香族、脂肪族、又は脂環式ポリイミド及びポリアクリレートが挙げられる。他の好適な結合剤としては、フェノール樹脂が挙げられる。結合剤は架橋されてもよい。いくつかの実施形態では、電極組成物中の結合剤の量は、電極コーティングの総重量に基づいて、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、若しくは少なくとも20重量%、又は、電極組成物の総重量に基づいて、30重量%未満、20重量%未満、若しくは10重量%未満、又は、電極組成物の総重量に基づいて、3重量%〜30重量%、3重量%〜20重量%、若しくは3重量%〜10重量%であり得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルで使用するための負極に関する。負極は、上記負極組成物が上に配置された集電体を含んでもよい。集電体は、伝導性材料、例えば、金属(例えば、銅、アルミニウム、ニッケル)、又は炭素複合体で形成されてもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルに関する。上記負極に加えて、電気化学セルは、正極、電解質、及びセパレータを含んでもよい。セルにおいて、電解質は、正極及び負極の両方と接触していてもよく、正極と負極とは互いに物理的に接触しておらず、典型的には、電極間に挟まれたポリマーセパレータフィルムによって分離されている。
【0061】
いくつかの実施形態では、正極は、リチウム遷移金属酸化物インターカレーション化合物、例えば、LiCoO
2、LiCO
0.2Ni
0.8O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiNiO
2、又は任意の割合のマンガン、ニッケル、及びコバルトのリチウム混合金属酸化物を含む、正極組成物が上に配置された集電体を含んでもよい。これらの材料のブレンドもまた、正極組成物に使用することができる。他の例示的なカソード材料は、米国特許第6,680,145号(Obrovacら)に開示されており、それには、リチウム含有粒と組み合わせた遷移金属粒が挙げられる。好適な遷移金属粒としては、例えば、鉄、コバルト、クロム、ニッケル、バナジウム、マンガン、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ、又はこれらの組み合わせであって、粒径が約50ナノメートル以下のものが挙げられる。
【0062】
様々な実施形態では、有用な電解質組成物は、液体、固体、又はゲルの形態であってもよい。電解質組成物は、塩及び溶媒(又は電荷担持媒体)を含んでもよい。固体電解質溶媒の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、及びこれらの組み合わせなどのポリマーが挙げられる。液体電解質溶媒の例としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、電解質溶媒は、モノグリム、ジグリム、及びより高度のグリム、例えばテトラグリムを含むグリム含んでもよい。好適なリチウム電解質塩の例としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiAsF
6、LiC(CF
3SO
2)
3、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電気化学セルは、微多孔性セパレータ、例えば、Celgard LLC(Charlotte,N.C.)から入手可能な微多孔性材料を更に含んでもよい。セパレータは、セルに組み込まれて使用され、正極と負極との直接接触を防止することができる。
【0064】
本開示のリチウムイオン電気化学セルは、携帯型コンピュータ、タブレットディスプレイ、携帯情報端末、携帯電話、電動機器(例えば、個人用又は家庭用電化製品及び車両)、装置、照明機器(例えば、懐中電灯)、及び加熱機器をはじめとするがこれらに限定されない、様々な機器に使用することができる。本開示の1つ以上のリチウムイオン電気化学セルを組み合わせて、電池パックを提供することができる。
【0065】
製造方法
本開示は更に、上記電気化学的活性材料の製造方法に関する。いくつかの実施形態では、材料は、冷間圧延、アーク溶融、抵抗加熱、ボールミリング、スパッタリング、化学蒸着、熱蒸発、微粒化、誘導加熱、又は溶融紡糸をはじめとする、金属若しくは合金のフィルム、リボン又は粒子を製造するための既知の方法によって製造することができる。上記活性材料はまた、金属酸化物又は硫化物の還元によって製造することもできる。
【0066】
いくつかの実施形態では、上記電気化学的活性材料の製造方法は、窒素リッチ雰囲気中での、ケイ素及びチタン粉末、ケイ素−チタン合金、金属間ケイ素−チタン化合物(例えば、TiSi
2)、又はこれらの組み合わせのミリング(例えば、ボールミリング)混合物を含んでもよい。本明細書で使用するとき、「窒素リッチ」雰囲気は、少なくとも99原子%の窒素を含む雰囲気を指す。あるいは、粉末は、空気、又は窒素と酸素ガスとの混合物の雰囲気中でミリングすることができる。上述のように、このような方法では、驚くべきことに、ナノ結晶質形態を有するケイ素−チタン−窒素合金(目立ったSi
3N
4相なし)が生成する。いくつかの実施形態では、方法は、追加の元素を合金に組み込むこと、例えばミリングプロセス中に追加の元素を粉末として添加することによって合金に組み込むこと、を含む。いくつかの実施形態では、方法は、酸素を合金に組み込むこと、を更に含んでもよく、窒素ガスに加えて酸素ガスをミルに入れること(例えば、窒素リッチ雰囲気の代わりに空気の雰囲気中でミリングすることによって)が可能になる。
【0067】
本開示は更に、上記負極組成物を含む負極電極の製造方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、上記電気化学的活性材料を、結合剤、伝導性希釈剤、充填剤、接着促進剤、コーティング粘度改質用の増粘剤、及び当業者に既知の他の添加剤などの任意の添加剤とともに、水又はN−メチルピロリジノンなどの好適なコーティング溶媒中で混合し、コーティング分散物又はコーティング混合物を形成すること、を含んでもよい。分散物を徹底的に混合し、次いで、ナイフコーティング、ノッチ付きバーコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、エレクトロスプレーコーティング、又はグラビアコーティングなどの任意の適切なコーティング技術によって箔集電体に適用することができる。集電体は、例えば、銅、ステンレス鋼、又はニッケル箔などの伝導性金属の薄い箔であってもよい。スラリーを集電箔上にコーティングし、次いで空気又は真空中で自然乾燥させ、任意選択的に、加熱されたオーブン内にて、典型的には約80℃〜300℃で約1時間乾燥させることにより、溶媒を除去することができる。
【0068】
本開示は更に、リチウムイオン電気化学セルの製造方法に関する。様々な実施形態では、方法は、上記のように負極を提供することと、リチウムを含む正極を提供することと、負極及び正極を、リチウム含有電解質を含む電気化学セルに組み込むことと、を含んでもよい。
【0069】
実施形態の一覧
1. 一般式(I):
Si
aTi
bO
cN
dM
e (I)
[式中、a、b、c、d、及びeは、原子%値を表し、a+b+c+g+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素を含み、a>20、a+b+e≧c+d、c≧0、d>5、e≧0、及びa/b>0.5である]によって表される合金を含む電気化学的活性材料であって、
当該合金が、遷移金属ケイ化物相、窒化チタン相、又は酸窒化チタン相を含み、当該相は、2mm超で10mm未満のシェラー粒径を有する、電気化学的活性材料。
【0070】
2. Mが、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、又はCuを含む、実施形態1に記載の電気化学的活性材料。
【0071】
3. Mが炭素を含む、実施形態1又は2に記載の電気化学的活性材料。
【0072】
4. 当該合金が遷移金属ケイ化物相を含む、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0073】
5. 当該合金が、窒化チタン相又は窒化チタン様相に特徴的なX線回折ピークを有する相を含み、当該窒化チタン相又は窒化チタン様相に関連する最大X線回折ピークが、Cuk
α1線を使用して測定したときに、0.9°2Θ超で4°2Θ未満の半値全幅を有する、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0074】
6. 当該合金が、60ナノメートル以下のシェラー粒径を有する単体ケイ素相を含む、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0075】
7. 当該合金の当該相の各々が1つ以上の粒を含み、当該合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが60nm超の粒径に相当する検出可能なCuk
α1回折ピークを含まない、実施形態1〜6のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0076】
8. 当該合金の当該相の各々が1つ以上の粒を含み、当該合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが2nm超の粒径に相当する、単体ケイ素に関連する検出可能なCuk
α1回折ピークを含まない、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0077】
9. 当該合金が、0.25未満のr
max,30の値を有する、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0078】
10. 当該合金が、0.25未満のr
max,45の値を有する、実施形態1〜9のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0079】
11. 当該合金が、フレーク形態を含む粒子の形態である、実施形態1〜10のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0080】
12. 当該合金が、10m
2/g未満の表面積を有する粉末の形態である、実施形態1〜11のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0081】
13. 当該合金が、600mAh/g超の可逆重量比容量及び1000Ah/L超の可逆容積比容量を有する、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料。
【0082】
14.
実施形態1〜13のいずれか1つに記載の電気化学的活性材料と、
結合剤と、
を含む、電極組成物。
【0083】
15. 黒鉛を更に含む、実施形態14に記載の電極組成物。
【0084】
16.
実施形態14又は15に記載の電極組成物と、
集電体と、
を含む、負極。
【0085】
17.
実施形態16に記載の負極と、
リチウムを含む正極組成物を含む正極と、
リチウムを含む電解質と、
を含む、電気化学セル。
【0086】
18. 実施形態16に記載の電気化学セルを備える、電子機器。
【0087】
19. 電気化学セルの製造方法であって、
リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、
実施形態16に記載の負極を準備することと、
リチウムを含む電解質を準備することと、
当該正極、負極、及び当該電解質を、電気化学セルに組み込むことと、
を含む、方法。
【0088】
20. 合金の製造方法であって、
ケイ素及びチタンを含む粉末をボールミリングすること、を含み、
当該ボールミリングの工程が、窒素、窒素と酸素との混合物、又は空気を含む、雰囲気中で実施される、方法。
【0089】
21. 当該粉末がケイ素及びチタンを含む、金属間化合物を含む、実施形態20に記載の方法。
【0090】
22. 当該ケイ素及びチタンを含む金属間化合物が、TiSi
2を含む、実施形態21に記載の方法。
【0091】
本開示の操作は、以下の詳細な実施例に関して更に説明される。これらの実施例は、様々な特定の実施形態及び技術を更に例示するために提示される。しかし、多くの変形及び修正が、本開示の範囲内に留まりつつなされ得ることを理解されたい。
【実施例】
【0092】
本開示の目的及び利点は、以下の比較例及び例示的実施例によって更に例示される。特に断りがない限り、実施例及び明細書の残りにおける、全ての部、百分率、比は重量基準であり、実施例に使用される全ての試薬は、例えば、Sigma−Aldrich(Saint Louis,MO,US)、又はAlfa Aesar(Haverhill,MA,US)などの総合的化学供給元から入手した、又は入手可能である。以下の略語を本明細書で使用する:mL=ミリリットル、min=分、hr=時間、g=グラム、mm=ミリメートル、℃=摂氏度、at%=原子百分率、kV=キロボルト。
【0093】
試料調製及び試験方法
ボールミリング
実施例1〜9及び比較例CE1〜CE4でのSi−Ti−N合金粉末については、表1に示される原子比及び条件でSi及びTi粉末をボールミリングすることによって調製した。合金については、SPEX8000D二重高エネルギーボールミキサー/ミル(SPEX Sample Prep(Metuchen,NJ,US)から入手可能なModel8000−D)にて、65mLの硬質化鋼容器内でボールミリングすることによって調製した。ミリング中に使用した粉末前駆体は、チタン粉末(約325メッシュ、99%、Alfa Aesar製)、ケイ素粉末(約325メッシュ、99%、Sigma−Aldrich製)、鉄粉末(約325メッシュ、99%、Sigma−Aldrich製)、黒鉛粉末(SFG6L、Imerys Graphite and Carbon(Quebec,Canada))、TiN粉末(99.7%、Alfa Aesar)、及びTiSi
2粉末(99.5%、Alfa Aesar)であった。各実施例及び比較例で使用した粉末前駆体の量を表1に示す。0.5mLの総体積の反応物質粉末(総嵩密度に基づく)を、180gの1/16インチ(1.6mm)ステンレス鋼ボールとともに、ボールミル容器に入れた。アルゴン下でミリングする合金を、充填し、アルゴン充填したグローブボックス内に密封した後、ミリングした。Ar以外の雰囲気下でミリングする試料を、Oリングシールが取り外されたミリング容器に充填した。これにより、ミリングプロセス中に、ガスは、ミルに入ること又はミルから出ることが可能になった。このような容器を、「密封されていない容器」と呼ぶ。N
2雰囲気中でミリングする試料を、密封されていない容器に入れ、N
2充填したグローブボックスに移した。グローブボックス内に配置されたSPEXミルを使用して、ミリングを進めた。空気中でミリングする試料を、密封されていない容器に入れ、開放空気中で動作するSPEXミルを使用してミリングした。
【表1】
*HTT=ミリング後の熱処理温度
【0094】
窒素及び酸素含有量分析
窒素及び酸素含有量については、LECO TC436DR Oxygen/Nitrogen/Hydrogen Elemental Analyzer(LECO Corporation(Saint Joseph,MI,US))を使用して、無酸素スズカプセルにて正確に秤量した約50mgの試料のLECO燃焼分析によって決定した。
【0095】
X線回折
X線回折(XRD)パターンについては、CuK
αX線源、回折ビームモノクロメータ、及びシンチレーション検出器を備えた、ULTIMA IV回折計(Rigaku Americas Corporation(The Woodlands,TX,US.)から入手可能)を使用して収集した。XRDパターンについては、管電圧及び管電流それぞれ45V及び40mAを使用して測定した。測定結果を、0.05°のステップで、ステップ当たり3秒のカウント時間で取得した。
【0096】
個々の相の粒径については、シェラー式をXRDパターンにおけるその相の最強ピークのFWHMに適用することによって決定した。
【0097】
走査型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡(SEM)画像については、Phenom G2−pro SEM(Nanoscience Instruments(Phoenix,Arizona,US))を使用して収集した。フレーク含有量については、少なくとも200の試料粒子の画像が存在する、カーボンテープ上に取り付けた粉末化試料の倍率5000倍でのSEM画像から決定した。フレーク含有量を、全ての試料粒子によって占有された画像内の総面積と比較した、フレークによって占有されたSEM画像の面積%とした。平均のフレークの大きさについては、SEM画像における全てのフレークにわたって平均した最大フレーク寸法として決定した。
【0098】
試料密度測定
試料の真密度については、ACCUPYC II 1340ガス置換ヘリウム比重びん(Micromeritics(Norcross,GA,US))を使用して測定した。
【0099】
表面積測定
比表面積については、FlowSorb II 2300表面積分析器(Micromeritics(Norcross,GA,US))を使用して、単点Brunauer−Emmett−Teller(BET)窒素吸収法により測定した。BET表面積測定の前に、粉末をガラスホルダに入れ、160℃で少なくとも半時間、真空下にて脱気した。
【0100】
電極調製
電極スラリーについては、合金粉末と、カーボンブラック(Super C65(Imerys Graphite & Carbon(Quebec,Canada)))と、10重量%のポリアクリル酸リチウム(LiPAA)水溶液とを混合することによって作製した。LiPPAについては、ポリアクリル酸溶液(Sigma−Aldrich、平均分子量約250,000g/モル、H
2O中35重量%)を、LiOH・H
2O(Sigma−Aldrich、蒸留水中98%)で、蒸留水中70/5/25の体積比にて中和することによって作製しておいた。混合を、遊星型ボールミル(RETSCH PM200)内にて、3WCボール(15:1のボール/試料重量比)を使用し100rpmで1時間にわたって実施した。スラリーを、電解Cu箔(古河電気工業)上に、0.004インチ(0.10mm)ギャップコーティングバーを使用してコーティングし、空気中、120℃で1時間乾燥させた。典型的な活性材料担持量は、約3.0mAh/cm
2であった。
【0101】
セル調製
電極については、リチウム箔(99.9%、Sigma−Aldrich)対極/参照電極による2325型コインセル内で組み立てた。2層のCELGARD2300セパレータ(Celgard(Charlotte,NC,US))を、各コインセルに使用した。エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びモノフルオロエチレンカーボネート(体積比3:6:1、全てBASF(Independence,OH,US)製)の溶液にての1MのLiPF
6を、電解質として使用した。セル組み立てを、Ar充填グローブボックス内で実施した。
【0102】
サイクル性能特性
セルに対しSERIES4000自動試験システム(Maccor Inc.(Tulsa,OK,US))を使用して、最初の2サイクルについてC/10のレート、及び以降のサイクルについてC/5のレートで、30.0±0.1℃で定電流にて、0.005V〜0.9Vで、C/20のトリクル放電(リチオ化)を伴ってサイクリングした。初期クーロン効率(ICE)については、以下のように定義した。
第1のリチオ化合金の容量/第1のリチオ化合金容量×100%
【0103】
フェードレートについて、以下のように定義した。
[(10回目のサイクル容量)−(50回目のサイクル容量)]/(10回目のサイクル容量)×100%
【0104】
電気化学的合金安定性試験
電気化学的サイクリング中の合金構造の安定性について評価するため、試験を実施した。理論に束縛されるものではないが、概して、構造不安定性により、サイクリング中にLi
15Si
4の形成がもたらされ、これにより、容量のフェードがもたらされると考えられる。半電池における電気化学的サイクル測定では、Li
15Si
4の形成により、脱リチオ化中に約0.4Vの微分容量でピークが生じる。0.38V〜0.48Vでの合金の総脱リチウム化容量を、セルに対し5mV〜0.9Vでサイクリングするときの総脱リチオ化容量で割ったものを、サイクリング中に形成したLi
15Si
4の、活性Siの総量と比較した分率の尺度として本明細書で使用した。この分率を、本明細書で記号「r」と称する。サイクリング中に到達したrの最大値(r
maxと呼ぶ)を、サイクリング中の合金構造安定性の尺度として使用した。r
max値が小さくなることは、合金構造不安定性の改善及びサイクル性能の改善を示す。ここで、r
maxについては、30℃で実施した、最初の2サイクルについてC/10のサイクルレート、及び以降のサイクルについてC/5のサイクルレートによる50回の、より低いカットアフ電圧でのC/20のトリクル放電(リチオ化)を伴う充電/放電サイクル中に測定したrの最大値として、測定した。この方法に従って測定したr
maxの値を、r
max,30と呼ぶ。より高温でのサイクリングにより、構造不安定性が促進される。したがって、45℃で実施した、最初の2サイクルについてC/10のサイクルレート、及び以降のサイクルについてC/5のサイクルレートによる20回の、より低いカットアフ電圧でのC/20のトリクル放電(リチオ化)を伴う充電/放電サイクル中に到達したrの最大値についてもまた、いくつかの場合において構造安定性の極限試験として測定した。この方法に従って測定したr
maxの値を、r
max,45と呼ぶ。
【0105】
結果
合金のX線回折パターンXを、以下のように図に示す。
図1は実施例1〜3、
図2は実施例5、
図3はCE2、
図4はCE4である。回折パターンにおけるピークは白抜き記号によって特定され、特定された相の参照パターンに対する相対回折強度は、黒色線によって示され、実線記号に従って標識されている。実施例1〜4、6〜9、及び比較例CE1〜CE4の全ては、XRCによって決定されるTiN構造を有する相を含んでいた。この相は、一般式TiN
1−xO
x[式中、0≦x<1]を有する窒化チタン又は酸窒化チタンであり得た。この相を、本明細書でX又はX相と称する。
【0106】
表2に、XRDによって観察された相、並びにLECO試験によって決定された実施例1〜9及び比較例CE1〜CE4における窒素及び酸素の重量%を列挙する。このデータから、最終的な試料の化学量論比を決定し、また表2にも示す。
【0107】
LECO試験では、実施例1及び2がチタンとほぼ同量の窒素を含有することが示されており、試料中のTiの十分な反応によりTiNを形成することが実証された。いくらかのTiSi
2(C49)相(但し、C49は、形成されたTiSi
2相のStrukturbericht記号である)を、実施例3においてXRDにより検出した(
図1)。したがって、チタンの一部はこの試料においてケイ化物の形態であり、チタンの残りの部分はTiNを形成していた。いくらかの酸素(6〜8原子%)は、おそらく前駆体中の酸素不純物に起因して、試験した全ての試料中に存在する。これらの結果により、実施例1及び2はSi相及びTiN相を含み、実施例3はSi相及びTiN相に加えてTiSi
2相を含むことが示唆される。実施例4及び5は、両方とも相当量の窒素を含有しており、明らかに、炭素又は鉄の添加が窒素取り込みを増進している。窒素の原子%が実施例4及び5においてチタンの原子%を超えているので、過剰なNはSi
3N
4の形態である可能性が高い。実施例4では、Si
3N
4のXRDピークが示されなかったため、Si
3N
4は非晶質である可能性が高い。XRD分析により、実施例5(
図2)は、非晶質Si相、7nmの粒径を有するTiSi
2(C49)相、及び3nmの粒径を有するFeSi
2相を含むこと、したがって、存在する任意の窒素含有相は非晶質になっていることが示された。実施例6のXRDパターンにより、試料は、非晶質Si相、TiSi
2(C49)相、及びX相を含むことが示された。XRD分析により、実施例7及び8は両方とも、非晶質Si相及びX相を含むことが示された。これにより、LECOの結果と組み合わせると、実施例7において試料中でTiがほぼ完全に反応し、TiNを形成することが実証されている。したがって、ケイ化チタンを、ボールミリングによって窒素と反応させ、TiN相及びSi相を形成することができる。比較例CE1〜CE4のXRDパターン全てにより、これらの試料はSi相及びX相を含むことが示された。
【表2】
【0108】
合金のSEM画像を、以下のように図に示す。
図5(a)は実施例1、
図5(b)は実施例2、
図5(c)は実施例3、及び
図6はCE1である。Ti含有量が増加するにつれて、フレーク含有量及び平均のフレークの大きさも著しく増すことは、
図5(a)〜(c)において、明らかに見ることができる。更に、フレーク含有量が増加するにつれて、BET表面積は減少する。このことは、電気化学的活性合金中の表面積が低いことにより、電池動作中の粒子表面での電解質分解をより少なくすることができるため、望ましい場合がある。フレークの特徴は合金組成に著しく依存したが、それは、合金を、N
2ガス中でSi+Tiをボールミリングすることによって合成する、又はArガス中でのボールミリングから合成するかのいずれであるかには、あまり依存しなかった。したがって、実施例1のフレーク含有量及び平均のフレークの大きさは、CE1についてのものとほぼ同じである。しかし、N
2雰囲気中でボールミリングしたときにのみ、フレーク粉末形態を含有し、また10nm未満のX相粒径を有する、試料を得ることが可能であったことが見出された。
【0109】
表3に、実施例1〜9及び比較例CE1〜CE4の、Si粒径、X相粒径、平均のフレークの大きさ、フレーク含有量%、BET表面積、及び密度を列挙する。実施例1〜8におけるSi相の粒径は、<2mmであった。実施例1〜9におけるX相の粒径は10nm未満であり、実施例2、3、6、8、及び9は、5nm未満の粒径を有するX相を含んでいた。実施例3、5、及び8は、10m
2/g未満のBET表面積を有していた。実施例8では、TiをTiSi
2に添加すると、比較的低い表面積を有する合金が得られる。電気化学セルでは、低い表面積は、電解質との表面反応性の低下及び可逆容量の低下をもたらし得るので望ましい場合がある。したがって、TiをTiSi
2に添加することは、表面積及び容量を制御する手段である。
【表3】
【0110】
30℃でサイクリングした電気化学セルについての微分容量対電圧のプロットを、以下の図に示す。
図7は実施例1、
図8は実施例7、
図9はCE1、及び
図10はCE3である。実施例1〜9については、試験した50サイクル中、Li
15Si
4の形成によるピークは微分容量曲線において観察されなかった。比較例CE1〜CE4については、試験した50サイクル中、Li
15Si
4の形成による大きなピークが、微分容量曲線において約0.43Vで観察された。
【0111】
表4に、実施例1〜9及びCE1〜CE4の電気化学サイクリング性能特性をまとめる。表4に、50回の充電/放電サイクルにわたる構造安定性パラメータの最大値rとして30℃でのもの(r
max,30)及び45℃でのもの(r
max,45)を挙げる。実施例1〜9についてのrの全ての値は、サイクリング中0.25未満であり、合金の構造的安定性及びLi
15Si
4の形成のないことを反映していた。45℃の高温でのサイクリング中であっても、実施例1及び2についての構造安定性パラメータrは、なお0.25未満に留まっていた。対照的に、比較例CE1〜CE4は全て、30℃及び45℃の両方でサイクリング中に少なくとも0.27のr値に達し、具体的には、CE1、CE3、及びCE4は、0.6に近い、又はそれより大きいr
max値を示した。
【表4】
【0112】
本開示に対する様々な修正及び変更は、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者に明らかになる。本開示は、本明細書に記載される例示的な実施形態及び実施例によって過度に限定されることを意図するものではなく、そのような実施例及び実施形態は、以下のようにここに記載される特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図するものであることを理解されたい。本開示で引用される全ての参考文献は、その全容が参照により本明細書に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2020年10月13日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
SiaTibOcNdMe (I)
[式中、a、b、c、d、及びeは、原子%値を表し、a+b+c+g+e=100であり、Mは、炭素、又はチタン以外の遷移金属元素を含み、a>20、a+b+e≧c+d、c≧0、d>5、e≧0、及びa/b>0.5である]によって表される合金を含む電気化学的活性材料であって、
前記合金が、遷移金属ケイ化物相、窒化チタン相、又は酸窒化チタン相を含み、前記相は、2mm超で10mm未満のシェラー粒径を有する、電気化学的活性材料。
【請求項2】
Mが、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、又はCuを含み、並びに/又は、Mが炭素を含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項3】
a>40である、請求項1又は請求項2に記載の電気化学的活性材料。
【請求項4】
前記合金が遷移金属ケイ化物相を含む、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項5】
前記合金が、窒化チタン相又は窒化チタン様相に特徴的なX線回折ピークを有する相を含み、前記窒化チタン相又は窒化チタン様相に関連する最大X線回折ピークが、Cukα1線を使用して測定したときに、0.9°2Θ超で4°2Θ未満の半値全幅を有する、
並びに/又は、
前記合金が、60ナノメートル以下のシェラー粒径を有する単体ケイ素相を含む、
並びに/又は、
前記合金の前記相の各々が1つ以上の粒を含み、前記合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが60nm超の粒径に相当する検出可能なCukα1回折ピークを含まない、
並びに/又は、
前記合金の前記相の各々が1つ以上の粒を含み、前記合金のX線回折パターンは、シェラー式に従って、FWHMが2nm超の粒径に相当する、単体ケイ素に関連する検出可能なCukα1回折ピークを含まない、
請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項6】
前記合金が、0.25未満のrmax,30の値を有する、並びに/又は、前記合金が、10m2/g未満の表面積を有する粉末の形態である、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項7】
前記合金が、フレーク形態を含む粒子の形態である、並びに/又は、前記合金が、10m2/g未満の表面積を有する粉末の形態である、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項8】
前記合金が、600mAh/g超の可逆重量比容量及び1000Ah/L超の可逆容積比容量を有する、請求項1に記載の電気化学的活性材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気化学的活性材料と、
結合剤と、
を含み、
任意選択的に、前記電極組成物が黒鉛を更に含む、
電極組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の電極組成物と、
集電体と、
を含む、負極。
【請求項11】
請求項10に記載の負極と、
リチウムを含む正極組成物を含む正極と、
リチウムを含む電解質と、
を含む、電気化学セル。
【請求項12】
請求項11に記載の電気化学セルを備える、電子機器。
【請求項13】
電気化学セルの製造方法であって、
リチウムを含む正極組成物を含む正極を準備することと、
請求項10に記載の負極を準備することと、
リチウムを含む電解質を準備することと、
前記正極、負極、及び前記電解質を、電気化学セルに組み込むことと、
を含む、方法。
【請求項14】
合金の製造方法であって、
ケイ素及びチタンを含む粉末をボールミリングすること、を含み、
前記ボールミリングの工程が、窒素、窒素と酸素との混合物、又は空気を含む、雰囲気中で実施される、方法。
【請求項15】
前記粉末が、ケイ素及びチタンを含む金属間化合物を含み、任意選択的に、前記ケイ素及びチタンを含む金属間化合物が、TiSi2を含む、請求項14に記載の方法。
【国際調査報告】