(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-521337(P2021-521337A)
(43)【公表日】2021年8月26日
(54)【発明の名称】真空アーク源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20210730BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20210730BHJP
【FI】
C23C14/32 A
C23C14/06 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-556804(P2020-556804)
(86)(22)【出願日】2019年3月13日
(85)【翻訳文提出日】2020年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2019056291
(87)【国際公開番号】WO2019201517
(87)【国際公開日】20191024
(31)【優先権主張番号】18168526.4
(32)【優先日】2018年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ポルシク,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】コロジュヴァーリ,シラード
(72)【発明者】
【氏名】ジルコフ,イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ロセン,ヨハンナ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA02
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA11
4K029BA16
4K029BA17
4K029BA33
4K029BD05
4K029CA01
4K029DB02
4K029DB05
4K029DB07
4K029DB12
4K029DB13
(57)【要約】
ホウ化物のアーク蒸発のための真空アーク源であって、少なくとも90%原子のホウ化物、とりわけ98%原子超のホウ化物で構成される陰極(1)と、好ましくはディスクの形状である陽極(5)と、前記陰極(1)と比較してアーク放電にとってあまり好ましくない材料で構成される本体(2)を含み、前記本体(2)が前記陰極(1)を取り囲み、前記真空アーク源の作動中に、前記陰極(1)のアーク表面上のアークの移動を制限するようになっており、陽極(5)の材料の少なくとも90%原子が前記陰極(1)と同じ化学組成を有することを特徴とする、前記真空アーク源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ化物のアーク蒸発のための真空アーク源であって、
少なくとも90%原子のホウ化物、とりわけ98%原子超のホウ化物で構成される陰極(1)と、
好ましくはディスクの形状である陽極(5)と、
前記陰極(1)と比較してアーク放電にとってあまり好ましくない材料で構成される本体(2)を含み、
前記本体(2)が前記陰極(1)を取り囲み、前記真空アーク源の作動中に、前記陰極(1)のアーク表面上のアークの移動を制限するようになっており、
前記陽極(5)の材料の少なくとも90%原子が陰極(1)と同じ化学組成を有することを特徴とする、前記真空アーク源。
【請求項2】
前記陰極(1)は、TiB2、ZrB2、VB2、TaB2、CrB2、NbB2、W2B5またはWB2、HfB2、AlB2、MoB2もしくはMoB、またはこれらの混合物から成る、請求項1に記載の真空アーク源。
【請求項3】
前記陰極(1)の形状がプリズム状もしくは円筒状であり、および/または前記本体(2)の形状がプリズム状もしくは円筒状であり、好ましくは、前記陰極(1)の形状および前記本体(2)の形状が少なくとも実質的に同じである、請求項1または2に記載の真空アーク源。
【請求項4】
前記陰極(1)は、前記アーク表面に向かってテーパ状である、請求項3に記載の真空アーク源。
【請求項5】
陰極(1)と本体(2)との間の最大ギャップが1ミリメートル未満、好ましくは0.5ミリメートル未満である、好ましくは、前記本体(2)が前記陰極(1)に当接する、請求項1から4のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項6】
前記本体(2)が前記陰極(1)のアーク面上に軸方向に突出するか、もしくは前記陰極(1)は前記本体(2)の端面上に軸方向に突出するか、または
前記陰極(1)のアーク面および表面本体(2)の端部が同一平面上にある、請求項1から5のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項7】
前記本体(2)の高さ(HB)が、前記陰極(1)の高さ(Hc)の少なくとも30%である、請求項1から6のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項8】
前記陰極(1)を囲む前記本体(2)が、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、もしくはこれらの合金、またはAl2O3、ZrO2、BNに基づく電気絶縁セラミックで構成される、請求項1から7のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項9】
前記陽極(5)の材料の99%原子超が、前記陰極(1)の材料と同じ化学組成を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項10】
前記陽極(5)は、前記陰極(1)の前記アーク表面の視点から、点火システムのトリガーピン(4)のためのスリット(6)を除いて、前記本体(2)の前記端表面を覆い、前記陰極(1)の前記アーク表面からの材料フラックスの輸送を可能にするアパーチャ(7)を残す、請求項1から9のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項11】
前記陰極(1)および前記陽極(5)、または前記本体(2)および前記陰極(5)の間の最小距離が、0.5ミリメートル〜10ミリメートル、好ましくは1ミリメートル〜5ミリメートルである、請求項1から10のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項12】
前記真空アーク源の点火システムは、トリガーピン(4)を備え、前記トリガーピン(4)が前記陰極(1)を取り囲む前記本体(2)に接触するように配置されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項13】
前記本体(2)は、前記トリガーピン(4)の直径よりも大きい半径方向幅を有し、これにより、確実な点火を可能にする、請求項1から12のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項14】
前記真空アーク源の作動中、前記アーク放電の運動が陰極(1)と陽極(5)との間に延在する電界線によって支配され、好ましくは、前記アーク放電を誘導するための磁石が存在しない、請求項1から13のいずれか1項に記載の真空アーク源。
【請求項15】
薄膜コーティングのPVD堆積のための、好ましくは切削工具または成形工具のための、請求項1から14のいずれか1項に記載の真空アーク源の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部の特徴を有する、ホウ化物のアーク蒸発のための真空アーク源、およびそのような真空アーク源の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
今日まで、アーク蒸着からのホウ化物、とりわけTiB
2、の再現性のある合成はなく、薄膜合成のためのTiB
2陰極の使用に関する報告されたわずかな試みから、様々な不安定性、亀裂、および陰極故障が結論付けられ得る。従来の工業用アーク源の使用において、陰極浸食は、典型的には均一ではなく、その後の陰極破壊および作動のわずか数分後の堆積プロセスの終了(すなわち、悪い陰極利用)とともに、陰極表面に局所的にアークスポットが高い確率で固着することが観察されている。
【0003】
TiB
2陰極における真空アークプロセスによるTiB
2フィルムの堆積は、文献ではよく記述されていない。これは実験室での使用に限られており、様々な不安定性、クラッキング、および陰極故障などの主に材料合成に関連する課題(非特許文献1)があるためである。
【0004】
任意磁場を印加すること、または反応性雰囲気中で作業すること(非特許文献1)、またはパルスアークを使用することなどの、プロセスの安定性を改善するための仮定的な経路が提案されてきた(非特許文献2)。
【0005】
これらの経路は、N
2中でのTiB
2陰極の使用については、改善されたアークプロセス安定性が報告されているが、「TiB
2、Ti
33 Al
67、Ti
85Si
15陰極からの陰極アーク蒸発によって成長したTi‐B‐Si‐Al‐Nシステムにおけるアモルファスコーティングの熱安定性と機械的性質」が報告されている(非特許文献3)。
【0006】
また、外部磁界の除去はアークスポットの散逸と正極領域の増加につながり、その結果、過熱の減少とやや安定したプラズマ発生をもたらすことが観察されている(非特許文献4)。
【0007】
特許文献1には、鉄、ニッケル、コバルトおよびクロムからなる群からの1種以上の金属の画分、ならびにTiB
2粒子の比平均粒径および炭素含有量を有する炭素を含有するTiB
2ターゲットが開示されている。
【0008】
アーク放電時のTiB
2陰極の破壊は、比較的大きな熱膨張率によって引き起こされると考えられる。アークスポットによるTiB
2陰極の局所的な加熱は、高ストレスをもたらし、温度勾配の際に亀裂を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011/137472号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】O. Knotek,F. Loffler,M. Bohmer、R. Breidenbach and C. Stobel,”Ceramic cathodes for arc−physical vapour deposition: development and application,”Surface and Coatings Technology, Vol.49、pp.263 - 267,1991.
【非特許文献2】J. Treglio,S.Trujillo and A. Perry, “Deposition of TiB2 at low temperature with low residual stress by a vacuum arc plasma source,”Surface and Coatings Technology, vol.61, pp.315 − 319, 1993.
【非特許文献3】H. Fager, J. Andersson, J.Jensen, J. Lu and L. Hultman, J.Vac.Sci.Technol.A.、vol.32, No.6、p.061508, 2014.
【非特許文献4】I. Zhirkov, A. Petruhins, L. A. Naslund, S. Kolozsvari, P. Polcik,and J. Rosen “Vacuum arc plasma generation and thin film deposition from a TiB2 cathode”,Applied Physics Letters 107,184103 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術による真空アーク源よりも、連続的にまたは長期間使用することができるホウ化物のアーク蒸発のための真空アーク源を提供することである。
【0012】
これは、請求項1の特徴を有する真空アーク源と、そのような真空アーク源の使用とによって達成される。本発明の実施形態は、従属請求項に定義される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下のものが提供される。
少なくとも90%原子のホウ化物、とりわけ98%原子超のホウ化物で、構成される陰極、
陰極と比較してアーク放電にとってあまり好ましくない材料で構成される本体であって、本体が、真空アーク源の作動中、陰極のアーク表面上のアークの移動を制限するように陰極を取り囲み、
好ましくはディスクの形状であり、陽極の材料の少なくとも90%原子が陰極と同じ化学組成を有する陽極。
【0014】
本発明の真空アーク源では、消散アーク放電(磁石を使用する必要がないため)が存在し、電流密度がより少なく、したがって、熱衝撃がより少なくなり、陰極のクラックが発生するリスクが減少する。本発明の真空アーク源を用いて製造されたコーティングは、少なくとも実質的に不純物を含まないことが達成される。
【0015】
陽極を陰極の近くに配置すると、陽極の加熱が激しくなる。陽極の材料が陰極と同じ化学組成の少なくとも90%原子(好ましくは99%原子以上)である陽極を選択すること、陽極材料の陰極汚染、および材料合成中の結果として生じる意図しない不純物混入が防止される。
【0016】
好ましくは、陰極は、TiB
2、ZrB
2、VB
2、TaB
2、CrB
2、NbB
2、W
2B
5またはWB
2、HfB
2、AlB
2、MoB
2もしくはMoB、あるいはこれらの混合物から作られる。
【0017】
電力の最低コストのための任意の物理的プロセスの努力によって、明確に異なる元素組成の2つ以上の領域からなる陰極上でのアーク点火は、たとえ初期アークがより高い電位の材料上で点火されたとしても、最低のグローイング陰極電位を提供することができる材料上で優先的なアークグローイングをもたらす。したがって、本発明は、アークスポットのホウ化陰極へのその後の移動を伴う、別の材料での放電の点火を提供する。この目的のために、陰極は、陰極と比較してアーク放電にとってあまり好ましくない材料で構成される本体によって取り囲まれる。
【0018】
本発明では、作動陰極表面の破壊は、アークスポットの活性領域の増加によって防止され、それによって熱分布が改善される。本発明は、アークの点火及び/又は作動中に生じる電気的及び/又は機械的効果による陰極の破壊を排除することによって、ホウ化物のアーク蒸発のための真空アーク源を使用することができる時間を増加させる。
【0019】
アーク放電によってあまり好ましくない材料で構成される本体によって陰極を取り囲むことによって、陰極端部にアークスポットが存在することを防止することができ、かくしてプロセスの安定性を高めることができる。従来技術では、作動陰極表面にアークを保つために磁石が使用される。磁石がなく、かつ本体がない場合、アークスポットは陰極の側面に向かい始め、そこで発生した金属フラックスはソース絶縁体を破壊する場合があるか、またはスポットが消滅する場合がある。これらの両方の効果は、プロセスの安定性に影響を及ぼす。本発明は、磁石の使用を必要とせず、言い換えれば、真空アーク源の作動中、アーク放電の運動は、陰極と陽極との間に延在する電界線によって支配され、好ましくはアーク放電を導く磁石が存在しない。
【0020】
アークスポットの散逸、安定したプラズマ発生、及び結果的に均一な陰極浸食のための条件を提供するように設計された本発明の真空アーク源では、磁石(従来の源で典型的に使用される)を使用する必要はない。磁石がないことは、陰極のエッジに向かうアークスポットをもたらし、そこでそれらが消滅し、堆積プロセスを中断する可能性がある。より高い陰極電位の材料のここで提案された本体は、円筒エッジによって制限される陰極表面の作動領域内のアークを含む。ソース磁石が存在しない場合、ホウ化物−陰極表面上の鋭い結晶粒上の電場の強度の増加は、低いスポット電流の同時に作動するアークスポットの点火を支持する。これは作動陰極表面での温度勾配を減少させ、それに伴う応力と陰極破壊の確率を減少させる。
【0021】
いかなる物理的プロセスも電力の最低コストを追求しており、実行された実験が、アーク放電が陰極−陽極電位が25Vより低い陰極でグローすることを示すように、材料は著しく高い電位を提供すべきである。そのような材料の1つは、例えば、TiB
2に使用されるのと同じ条件下で約30Vの電位を有するモリブデン(Mo)である。得られた電力(アーク電流で増倍された電位)を比較すると、本発明では、Moまたはその合金が、好ましくは、陰極を取り囲む本体のための材料として使用される。他の考えられる材料は、タングステン、タンタル、ニオブ、もしくは、それらの合金、またはAl
2O
3、ZrO
2、BNをベースとする電気絶縁セラミックである。
【0022】
好ましくは、陰極の形状は、プリズム状または円筒状であり、および/または本体の形状は、プリズム状または円筒状(陰極のための開口部を有する)であり、陰極の形状および本体の形状は、少なくとも実質的に同じであることが好ましい。しかしながら、陰極の前述の形状は、陰極がアーク表面に向かって先細りを示すように修正することができることが理解されるべきである。陰極の円筒形と本体の中空円筒形は陰極の回転を可能にする。
【0023】
陰極に対する本体の半径方向配置に関して、陰極と本体との間の最大ギャップは、1ミリメートル未満、好ましくは0.5ミリメートル未満であることが好ましい。このような小さな寸法のギャップは許容可能であるが、本体が陰極に当接することが好ましい。
【0024】
陰極に対する本体の軸方向配置に関しては、異なる別の可能性がある。
本体は、陰極のアーク表面上に軸方向に突出するように配置されていてもよい。
陰極は、本体の端部表面上に軸方向に突出するように配置されていてもよい。
陰極のアーク表面と端表面本体とが同一平表面上に配置されていてもよい。
【0025】
陰極の高さに対する本体の高さに関して、それらが同じであることは、(可能ではあるが)必要ではない。本体の高さが陰極の高さの少なくとも30%であれば十分である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3a-3i】陰極、本体および陽極の異なる可能な構成を示す。
【0027】
TiB
2で構成される陰極1を有するTiB
2のアーク蒸着のための陰極アセンブリを示し、陰極1は、TiB
2陰極1と比較してアーク放電にとってあまり好ましくない材料(ここでは、Mo)で構成される本体2によって囲まれている。トリガーピン4を備える点火システム3が示されている。
【0028】
図2は、
図1の陰極アセンブリを用いてTiB
2をアーク蒸着するための真空アーク源を示している。Moシリンダーの形態の本体2は、アーク点火に伴う望ましくない影響から陰極1を保護し、同時に、作動陰極表面にアークスポットを維持する。
【0029】
陽極5は、生成された材料フラックスを基板に輸送するための開口部7を有するディスクの形状を有する。また、実施された実験は、陽極5の下方で点火したアークスポットが、陽極開口部の下方の陰極領域に向かう傾向があることを示したことを言及しておく。
【0030】
ディスクには、トリガーピン4がディスクの平面を通過して本体2に触れることができるようにアーク放電点火を提供するトリガーピン4用のスリット6が設けられている。
【0031】
図3a−3iは、陰極1、本体2および陽極5の異なる可能な構成を示す。すべての図において、陰極1、本体2および陽極5は回転体の形態である。
図3a−3fでは、陰極1が中空円筒の形状である本体2のための溝を有する円筒の形状である。
図3g及び3hにおいて、陰極1は(切頭)円錐形であり、本体2は中空(切頭)円錐形である。
図3iにおいて、陰極1はアーク表面に向かって先細りになっている円筒の形状をしている。
図3a−3iにおいて、陽極5はリングの形態である。
【0032】
すべての図において、ボディ2の高さH
Bは陰極1の高さH
cの少なくとも30%である。
【0033】
すべての図において、本体2は陰極1のマントル表面に当接している。しかしながら、本体2と陰極1との間の1ミリメートル未満、好ましくは0.5ミリメートル未満の小さなギャップが許容される。
【0034】
図3a−3cにおいて、本体2の上面または端面は、陰極1のアーク表面と同一平面上にある。
【0035】
図3dにおいて、本体2は、陰極1のアーク表面上に突出する。
【0036】
図3eと3gにおいて、陰極1は本体2の上に突出している。
【0037】
図3fにおいて、本体2は、陰極1のアーク表面の外側リムと同一平表面上にある。中心に向かう半径方向において、陰極1のアーク表面の内側中央領域は、陰極1のアーク表面の外側リムの下に存在する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
好ましい実施形態では、陽極は、陰極のアーク表面の視点から、本体の端面(点火システムのトリガーピンのためのスリットの可能性を除く)を覆い、陰極のアーク表面からの材料フラックスの輸送を可能にする開口部を残す。
【0039】
陰極および陽極、または本体および陽極の間の最小距離は、0.5ミリメートル〜10ミリメートル、1ミリメートル〜5ミリメートルであることが好ましい。
【0040】
陰極を囲む本体は、陰極境界におけるアークのグローイングを防止するだけでなく、アーク点火を伴う電気的及び機械的損傷効果から作動陰極表面を保護する。多くの従来の工業用DCアーク源では、アーク放電は、トリガーピンによる陰極表面の短時間の接触に基づく空気圧システムによって点火される。トリガを流れる点火電流は、典型的には数十アンペアの範囲であり、接触面積は比較的小さい。その結果、従来技術による陰極へのアーク点火は、トリガ―ピンの周囲の表面の部分的破壊につながる傾向があり、最終的に、ピンが陰極に接触することを妨げ、アーク点火を不可能にする。
【0041】
好ましい実施形態では、トリガーピンは、陰極自体の代わりに陰極を取り囲む本体に触れるように配置することができる(例えば、トリガーピンの長さを調節することができる)。この場合、本体の半径方向幅は、トリガーピンの直径よりも大きくなければならず、したがって、確実な点火を保証する。次いで、本体の端部は、アーク点火処理のための場所として機能し(本体の材料が導電性である場合のみ、これは、例えば、前述のセラミックのような電気絶縁材料では機能しないであろう)、その後の放電の陰極への移動と共に、アークが優先的に光る。出願人による試験は、本体の浸食が陰極と比較して有意でないことを示した。モリブデン製の本体を使用した場合、アセンブリおよび得られたフィルムから生成されたプラズマの診断は、微量のモリブデンを示さなかった。
【0042】
最近の刊行物(I. Zhirkov、A. Petruhins、L.−A. Naslund、S. Kolozsvari、P. Polcik、and J. Rosen、“Vacuum arc plasma generation and thin film deposition from a TiB
2 cathode”、Applied Physics Letters 107、184103 (2015))において、TiB
2陰極の関連する表面特徴を有する結晶組織は、TiB
2結晶粒における電場の強度の増大を通して、アークスポットの消散を誘導し(例えば、磁場による操縦によって妨げられない限り)、これはアークプラズマ発生の安定性を改善する。同様の電界強度の増加は、陰極−陽極距離の減少によって達成することができる。それは、系の陽極を可能な限り陰極表面に近づけて配置することである。陰極表面からの材料フラックスは、このような構成のために、陽極開口部を通過することが提案される。しかし、陰極−陽極間距離が短いと、陽極の蒸発が生じる。これは、陰極表面上への陽極材料の堆積、および材料合成中の汚染の意図しないことが生じる場合がある。これを回避するために、陽極のための冷却システムを利用することができるが、本発明では、陽極の材料の少なくとも90%原子が陰極と同じ化学組成であるため、これは必要ではない。
【0043】
本発明の陰極アセンブリのテストは、従来技術のソーススキーマと比較して、はるかに改善された安定性を実証した。さらなる開発は、陰極表面結晶粒における電場の強度の増加を通して改善されたアーク放散に基づいている。アーク放電を考慮すると、放電と同様に、少なくとも2つの電極(陰極と陽極)の間でグローする(そのうちの1つは仮想である可能性がある)。工業用アーク源は、典型的には、別個の陽極を有さず、その代わりに、チャンバー壁が陽極の役割を果たし、その結果、典型的な大きい陰極−陽極距離を有する。なお、電界の強さは陽極−陰極間距離によって決まることが知られている。一方、プラズマは放電電極を互いに遮蔽し、ほとんどすべての電位降下が陰極近傍で起こることも知られている。本発明の実施形態において、陰極−陽極間距離の減少は、陰極−陽極間隙内のプラズマの密度を増加させ、その結果、アークスポットの点火を容易にし、スポット散逸を強化することが提案される。
【0044】
本発明による真空アーク源は、薄膜コーティングのPVD堆積、好ましくは切削および形成ツールに使用することができる。
【実施例】
【0045】
試験結果:
提案した真空アーク源は、TiB
2陰極の試験に成功した。全てのアセンブリ部品は、別々に及び一緒に試験された。実施されたすべての実験について、100アンペアに等しいアーク電流が、10
−5Torrの動作圧を有するチャンバー内で使用された。
【0046】
Moシリンダーの形態の本体を使用し、アーク源から生じる材料フラックス中に存在する可能性のあるMoを検査することによるアーク点火を試験するために、内径約59mm、外径約63mmのMoシリンダーで囲まれた直径59mmのTiB
2陰極から35cmに、Hiden LTDのプラズマ分析器EQPを配置した。点火は、毎分10回以上、約1時間行った。Mo上でのアーク点火と、それに続くTiB
2陰極への運動は、少なくとも90%の試みで保証されることが見出された。得られた材料フラックスのプラズマ診断は、有意でない量のMoを示した。また、TiB
2陰極を取り囲む本体では、トリガーピンによる陰極表面の破壊がないことを示した。しかしながら、時々、アークスポットは、依然として局所的に固着することができた。
【0047】
陽極としてTiB
2ディスクを使用し、35cmの距離で分析器を用いてプラズマ分析を行って、別々に試験した。陽極ディスクの厚さは5mm、直径は150mmであった。陽極内の開口部は、ここで用いた63mm陰極では55mmであった。本実験における陰極と陽極の距離は2mmとした。トリガーピンには、トリガーピンによるアーク点火を可能にするスリットが陽極にあった。実施した実験では、アーク放電の安定性に対して陽極の存在が良い影響を示した。プラズマ診断では、陽極なしで生成されたプラズマと比較して、生成されたフラックスのプラズマ特性および/または組成の変化を示さなかった。しかしながら、実験は、Moシリンダーが存在しない場合には、アークが陰極の端部で頻繁に消滅することを示した。
【0048】
TiB
2陰極、Moシリンダー、およびアーク着火のためのスリットを有するTiB
2ディスク陽極からなる真空アーク源も試験した。完全アセンブリは安定なアーク点火過程と滑らかで安定なアークプラズマ発生を示した。操作陰極表面の浸食は平滑で均一であることが分かった。アークスポットの固着とそれに伴う陰極の破壊は、実験の全時間、約2時間にわたって検出されなかった。生成された材料フラックスの実行されたプラズマ診断は、実験中の異なる時点で、または同じ条件下で実行された異なる実験間で再現することができた。
【0049】
本発明による陰極アセンブリおよび/または本発明による真空アーク源は、切断および形成ツールのためのコーティングのPVD堆積に使用することができる。
【0050】
陰極の所定の形状に対して、本体の中空形状が、例えば、中空円筒の形状である円筒状陰極に対して、円錐状陰極に対して、本体が中空円錐の形状であること、プリズム状陰極に対して、本体が中空プリズム等の形状であることが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1:陰極
2:陰極を取り囲む本体
3:点火システム
4:トリガーピン
5:陽極
6:陽極のスリット
7:陽極の開口部
H
B:本体の高さ
H
C:陰極の高さ
【国際調査報告】