(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-521985(P2021-521985A)
(43)【公表日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】混合神経の神経刺激
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20210802BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2020-560160(P2020-560160)
(86)(22)【出願日】2019年4月29日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月24日
(86)【国際出願番号】AU2019050384
(87)【国際公開番号】WO2019204884
(87)【国際公開日】20191031
(31)【優先権主張番号】2018901410
(32)【優先日】2018年4月27日
(33)【優先権主張国】AU
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】513144730
【氏名又は名称】サルーダ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ルイス・パーカー
(72)【発明者】
【氏名】ゲリット・エデュアルド・グメル
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ03
4C053JJ05
4C053JJ13
4C053JJ21
(57)【要約】
複数の神経線維型を含む混合神経の神経刺激。複数の電極を含む埋め込み電極アレイは、混合神経の近位に配置される。電気刺激は、刺激パラメーターのセットに従って、埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から送達される。電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録は、埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から得られる。記録は、その1つ又は複数の選択された特性を評価することによって分析され、観察され選択された特性から、電気刺激によって動員された1つ又は複数の線維型の動員のレベルが特定される。刺激パラメーターは、混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の神経線維型を含む混合神経の神経刺激の方法であって、
複数の神経線維型を含む混合神経の近位に、複数の電極を含む埋め込み電極アレイを配置するステップ、
前記埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達するステップであって、前記電気刺激が刺激パラメーターのセットに従って送達される、ステップ、
前記埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、前記電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得るステップ、
前記記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって前記電気生理学的反応の記録を分析して、観察され選択された特性から、前記電気刺激によって動員された1つ又は複数の線維型の動員のレベルを特定するステップ、及び
前記混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように前記刺激パラメーターを改善するステップを含む方法。
【請求項2】
前記刺激パラメーターが、少なくとも1つの所望の線維型の選択的動員をもたらす一方で、少なくとも1つの非選択線維型の選択的非動員又は動員の減少をさらにもたらすように改善されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所望の線維型の選択的動員をもたらすように改善された前記刺激パラメーターが、術中の電極の配置;リード、パドル、又はカフアレイの選択を含む、術中の電極アレイ型の選択;刺激周波数;刺激振幅;刺激波形;刺激パルス幅;刺激電極の選択、刺激段階;刺激の極性、刺激電極のサイズ、及び刺激電極の形状のうちの1つ又は複数を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ又は複数の線維型の電気刺激による動員のレベルが特定される記録の1つ又は複数の選択された特性が、1つ又は複数の電気生理学的反応の変曲点;1つ又は複数の電気生理学的反応のピーク位置;1つ又は複数の電気生理学的反応のピーク振幅;電気生理学的反応の伝播速度;前記電気生理学的反応の伝播又は非伝播;電気生理学的反応の持続時間;不応期;クロナキシー又は基電流を含む強度−持続時間曲線の特性;閾値と勾配を含む成長曲線の特性;刺激電流の増加に伴う電気生理学的反応ピークの数;遅発反応の存在、振幅、及び/又は待ち時間、様々な刺激周波数に対する電気生理学的反応の反応特性、電気生理学的反応のゼロ交差、電気生理学的反応のローブの幅のうちの1つ又は複数を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記選択された特性が伝導速度であり、前記動員された線維型が、有髄線維の直径と前記伝導速度との間の関係から決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記選択された特性が伝導速度であり、前記伝導速度が、刺激部位から前記刺激部位からの既知の距離の単一の測定電極までの伝播時間を決定することによって測定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記選択された特性が伝導速度であり、前記伝導速度が、第1の測定電極及び第2の測定電極で神経反応を観察し、前記第1の測定電極と前記第2の測定電極との間の伝播時間を決定することによって測定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記選択された特性が、単一の電気生理学的反応を観察する、2つ以上の離間した測定電極から得られた電気生理学的反応の記録の評価によって決定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
筋肉の活性化に関係のない線維の動員に基づいて治療を提供することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記選択された特性が、遠隔の筋肉の活性化を引き起こす運動線維の活性化から生じる、前記記録の非伝播特性を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記選択された特性が、Aα線維又はIa線維の活性化を示すために得られ、且つ刺激後1ミリ秒未満で生じる反応、及び80〜120m/sの範囲の伝導速度を有する反応のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記選択された特性が、B線維の活性化を示すために得られ、刺激後6ミリ秒未満で生じる反応、及び3〜15m/sの範囲の伝導速度を有する反応のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記選択された特性が、C線維の活性化を示すために得られ、刺激後6ミリ秒未満で生じる反応;0.5〜2m/sの範囲の伝導速度を有する反応;及び持続時間が10ミリ秒を超える反応のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記選択された特性が、Aβ線維の活性化を示すために得られ、刺激後3ミリ秒以内に生じる反応;及び30〜80m/sの範囲の伝導速度を有する反応のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記電気刺激によって動員された2つ以上の線維型のそれぞれの動員のレベルを決定するために、前記電気生理学的反応の記録の2つ以上の選択された特性が評価される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記2つ以上の線維型が、単一の状態を処置することを目的として標的化される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記2つ以上の線維型が、2つ以上の共存状態又は併発状態を処置することを目的として標的化される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
存在する線維型によって観察された神経反応を分類するために機械学習分類器が利用される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの公称記録電極、及び前記少なくとも1つの公称刺激電極が、前記混合神経の単一の枝に隣接して配置され、前記公称記録電極と前記公称刺激電極との間の神経上に神経分岐又は神経合流が存在しない前記混合神経の部分である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記公称記録電極及び前記公称刺激電極が60mm未満離れて配置されている、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記公称記録電極及び前記公称刺激電極が30mm未満離れて配置されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記公称記録電極及び前記公称刺激電極が20mm未満離れて配置されている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記混合神経が、Aα線維型、Aβ線維型、Aδ線維型、Aγ線維型、B線維型、及びC線維型の2つ以上、又は他の呼称法の線維型を含む少なくとも2つの線維型を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記混合神経が迷走神経を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ又は複数の線維型が、難治性てんかん若しくはうつ病などの脳に関連する状態の1つ若しくは複数の治療を提供するため、又は末梢若しくは内臓の治療効果を果たすために副交感神経線維を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
心臓、喉頭、気管、気管支、食道、胃、肝臓、膵臓、小腸、脾臓、大腸、又は腎臓の治療を提供する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記混合神経が仙骨神経を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
便失禁(FI)、尿閉(UR)、切迫性尿失禁(UUI)、難治性便秘、及び慢性骨盤痛のうちの1つ又は複数の治療を提供する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記混合神経が脊髄神経根を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
第1の線維型が、大腸、膀胱、及び生殖器のうちの任意の1つ又は複数の治療を提供するために副交感神経線維を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
第1の線維型が、胸髄T1〜T4の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって心臓及び/又は喉頭の治療を提供するために前記交感神経線維を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
第1の線維型が、胸髄T5〜T12の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって胃、肝臓、膵臓、副腎、脾臓、及び/又は小腸の治療を提供するために前記交感神経線維を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
第1の線維型が、胸髄T12及び腰髄L1〜L3の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって腎臓、膀胱、生殖器、及び/又は下部腸の治療を提供するために前記交感神経線維を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
第1の電極から最大上刺激を加えて神経のすべての線維を動員すること、選択された円周位置で選択された電極セグメントを記録のために使用することによって、前記選択された円周位置で動員された反応を観察すること、記録された反応を分析してその位置に隣接する1つ又は複数の線維型を決定すること、及びその後にそのように特定された1つ又は複数の線維型を動員することが望ましいときに前記選択された電極セグメントから刺激を加えることによって、前記選択された線維型を空間的に標的化することを含む、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
選択された円周位置で選択された電極セグメントを使用して、刺激閾値よりも僅かに高い刺激を加えてそのセグメントの近位の線維を動員すること、第2の電極で動員された反応を観察すること、及び記録を分析して、前記選択された電極セグメントからの刺激によって動員されている線維型を決定することによって、前記選択された線維型を空間的に標的化することを含む、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
複数の神経線維型を含む混合神経の神経刺激のための非一時的コンピュータ可読媒体であって、1つ又は複数のプロセッサによって実行されると、
複数の神経線維型を含む混合神経の近位にある埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達する動作であって、前記埋め込み電極が複数の電極を含み、前記電気刺激が、刺激パラメーターのセットに従って送達される、動作、
前記埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、前記電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得る動作、
前記記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって前記電気生理学的反応の記録を分析して、観察され選択された特性から、前記電気刺激によって動員された線維型の動員のレベルを特定する動作、及び
前記混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように前記刺激パラメーターを改善する動作を実行させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項37】
複数の神経線維型を含む混合神経の近位に埋め込まれるように構成された、複数の電極を含む埋め込み電極アレイ、及び
前記埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達するように構成された制御ユニットを含み、
前記電気刺激が刺激パラメーターのセットに従って送達され、前記制御ユニットが、前記埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、前記電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得るようにさらに構成され、前記制御ユニットが、前記記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって前記記録を分析して、観察され選択された特性から、前記電気刺激によって動員された少なくとも第1の線維型の動員のレベルを特定するようにさらに構成され、且つ前記制御ユニットが、前記混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように前記刺激パラメーターを改善するようにさらに構成されている、神経刺激装置。
【請求項38】
前記制御ユニットが、試験又は術中の使用のための埋め込まれない外部装置である、請求項37に記載の神経刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2018年4月27日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2018901410号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、複数の線維型を含む混合神経線維に送達されるニューロモデュレーション、特に電気生理学的反応測定により線維型の所望のサブセットの動員を評価するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
複合活動電位(CAP)を生じさせるために、神経に電気刺激を加えることが望ましい様々な状況が存在する。ニューロモデュレーションシステムは、治療効果を得るために組織に電気パルスを加える。そのようなシステムは、典型的には、埋め込み電気パルス発生器、及び経皮的誘導伝送によって充電式であり得るバッテリなどの電源を備える。電極アレイが、パルス発生器に接続され、標的神経経路に隣接して配置される。電極によって神経経路に加えられる電気パルスは、ニューロンを脱分極させ、伝播活動電位を生成する。
【0004】
ニューロモデュレーションのほとんどすべての用途は、2種類以上の線維型を含む神経(本明細書では「混合神経」と呼ばれる)に適用される。混合神経の線維の大部分は、刺激されても、対象又は外部の観察者(外科医や臨床医など)が直接かつ即座に知覚できる効果を生成しない場合が多い。例えば、自律神経系の線維の刺激は、しばしば対象によって知覚されない。
【0005】
すべてのタイプのニューロモデュレーションシステムが直面している制御の問題は、治療効果には必要な十分なレベルであるが、最小限のエネルギー消費で神経動員を達成することである。採用されている刺激パラダイムの電力消費は、装置の物理的なサイズ及び寿命に影響を与えるバッテリ要件に直接影響を与える。充電式システムの場合、消費電力が増えると充電の頻度が高くなり、バッテリの充電サイクル数が限られているため、最終的には装置の埋め込み寿命が短くなる。
【0006】
混合神経のニューロモデュレーションの一例は、仙骨神経刺激(SNS)であり、この仙骨神経刺激では、刺激周波数が、典型的には低く(20Hz未満)、電荷は非常に高くなり得る(例えば、各刺激は、2l0μ秒のパルス幅で最大7mA又はそれ以上の電流を含み得る)。SNSは、便失禁(FI)、尿閉(UR)、切迫性尿失禁(UUI、過活動膀胱(OAB)とも呼ばれる)、難治性便秘、及び慢性骨盤痛に対して治療効果があり、別の症状にも治療効果がある可能性が高いことが示されている。
【0007】
SNSのメカニズムは、まだ十分に理解されておらず、様々な理論が提案されてきた。既存の仙骨神経の神経調節装置の場合、植え込み後、刺激の振幅及び周波数を調整するプロセスは試行錯誤の手順であり、治療効果の代わりとして使用されている骨盤底、肛門括約筋、及び/又はつま先の運動反応の形で筋肉が収縮する。この試験方法では、術中に筋肉の反応が視覚的に確認されるまで、刺激の振幅が上げられる。次いで、振幅は感覚閾値を下回るまで下げられ、進行中の操作のレベルに設定されるが、適切な治療効果を維持しながら、望ましくない運動反応又は感覚異常を回避するのにどれほどの低下が適切であるかはよく分かっていない。この方法は、SNSが遠心性運動線維の刺激又は求心性反射弓を介して括約筋制御を再確立するように作用するという理論に依存している。1つの理論は、SNSが、仙骨神経の求心性及び遠心性線維を介して膀胱の排尿筋に反射抑制効果を誘発するというものである。特に泌尿生殖器障害に対して提案されている別のメカニズムは、求心性又は中枢メカニズムを介した膀胱収縮の抑制によるものである。
【0008】
筋肉又は感覚異常の動員の閾値よりも僅かに低い振幅レベルでSNS装置を連続的に動作させることは、埋め込みバッテリのかなりの電力消費を伴う。
【0009】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、又は物品などのあらゆる議論は、本発明に関連して提供することのみを目的としている。これらの事項のいずれか又はすべてが、先行技術の基礎の一部を形成するとも、本出願の各クレームの優先日よりも前に存在した本発明に関連する分野の共通の一般知識であったと認めるとも解釈されるべきではない。
【0010】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という単語は、記載された要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程の群を含むことを意味すると理解されるが、他の要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程の群を除外するものではない。
【0011】
本明細書では、要素が選択肢のリストの「少なくとも1つ」であり得るという記述は、要素が列挙された選択肢のいずれか1つであってもよいし、又は列挙された選択肢の2つ以上の任意の組み合わせであってもよいことを理解されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2016/161484号
【特許文献2】国際公開第2012/155183号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様によると、本発明は、複数の神経線維型を含む混合神経の神経刺激の方法を提供し、この方法は:
複数の神経線維型を含む混合神経の近位に、複数の電極を含む埋め込み電極アレイを配置するステップ;
埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達するステップであって、電気刺激が刺激パラメーターのセットに従って送達される、ステップ;
埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得るステップ;
記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって電気生理学的反応の記録を分析して、観察され選択された特性から、電気刺激によって動員された1つ又は複数の線維型の動員のレベルを特定するステップ;及び
混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように刺激パラメーターを改善するステップを含む。
【0014】
第2の態様によると、本発明は、複数の神経線維型を含む混合神経の神経刺激のための非一時的なコンピュータ可読媒体を提供し、この非一時的なコンピュータ可読媒体は、1つ又は複数のプロセッサによって実行されると:
複数の神経線維型を含む混合神経の近位にある埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達する動作であって、埋め込み電極が複数の電極を含み、電気刺激が、刺激パラメーターのセットに従って送達される、動作;
埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得る動作;
記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって電気生理学的反応の記録を分析して、観察され選択された特性から、電気刺激によって動員された少なくとも第1の線維型の動員のレベルを特定する動作;及び
混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように刺激パラメーターを改善する動作を実行させる命令を含む。
【0015】
第3の態様によると、本発明は、神経刺激装置を提供し、この神経刺激装置は:
複数の神経線維型を含む混合神経の近位に埋め込まれるように構成された、複数の電極を含む埋め込み電極アレイ;及び
埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称刺激電極から電気刺激を送達するように構成された制御ユニットを含み、この電気刺激は、刺激パラメーターのセットに従って送達され;制御ユニットは、埋め込み電極アレイの少なくとも1つの公称記録電極から、電気刺激によって誘発された電気生理学的反応の記録を得るようにさらに構成され;制御ユニットは、記録の1つ又は複数の選択された特性を評価することによって電気生理学的反応の記録を分析して、観察され選択された特性から、電気刺激によって動員された1つ又は複数の線維型の動員のレベルを特定するようにさらに構成され、且つ制御ユニットは、混合神経の他の線維型に対して、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように刺激パラメーターを改善するようにさらに構成されている。
【0016】
重要なことに、本発明は、従って、神経に存在する複数の線維型から選択される選択された線維型に神経刺激を選択的に送達する手段として、刺激部位の近位の神経から得られる電気的に誘発された電気生理学的反応の1つ又は複数の記録を利用する。
【0017】
本明細書全体を通して、「電気生理学的反応」という用語は、1つ又は複数の神経反応(CAP)、筋電反応(運動単位活動電位及び複合筋活動電位(CMAP)など)、及び/又は介在ニューロン活動(感覚線維などの長い軸索突起を有してないニューロンの発火)を含むものとして理解されたい。加えられた刺激によって誘発された神経反応は、本明細書では、誘発複合活動電位(ECAP)とも呼ばれる。神経反応に加えて、刺激に対する電気生理学的反応の記録はまた、本明細書では時には遅発反応とも呼ばれる筋電活動を含み得る。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態は、追加的又は代替的に、混合神経への刺激電極の近接性を評価することを目的とした筋肉の活性化の術中の観察などによる、例えば、特定の筋肉、又は肛門括約筋などの筋肉群の活性化を目的とする過去のアプローチよりも有利であり得る。神経刺激のゴールとして、筋肉の活性化のみ又はその代理を探すことにより、そのような過去のアプローチは、筋肉の活性化が観察される限り、どの線維型が刺激によって動員されるかが分からない。そのような過去のアプローチとは対照的に、観察された電気生理学的反応の測定値に基づいて1つ又は複数の特定の線維型を標的とする本発明のアプローチは、刺激された神経反応の刺激部位から筋肉への伝播の不明瞭な影響を回避し、そのような伝播は、典型的には一連の神経枝、シナプス、終末を通過し、運動ニューロンによる筋線維の活性化をさらに伴い、そのすべてにより、筋肉の観察では、刺激部位で発生する神経動員の性質が少なくとも部分的に分からないことになる。さらに、観察された電気生理学的反応測定値に基づいて特定の線維型を標的とする本発明のアプローチは、いくつかの実施形態では、筋肉の活性化とは無関係であり、従って筋肉の観察では全く検出できない線維の動員に基づいた治療を提供する可能性をさらに開く。例えば、自律神経系の線維のニューロモデュレーションは、患者も外部の臨床観察でも知覚できない場合がある。従って、本発明のそのような実施形態は、混合神経のニューロモデュレーションを最適化するために、動員された線維の客観的指標を使用する必要があることを認識する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように改善された刺激パラメーターは:術中の電極の配置;リード、パドル、又はカフアレイの選択を含む、術中の電極アレイ型の選択;刺激周波数;刺激振幅;刺激波形;刺激パルス幅;電流操作(current steering)による電極間の刺激部位の介在を含む、刺激電極の選択;刺激の形状(二相性、三相性など);刺激の極性(単極性、双極性、三極性など)、刺激電極のサイズ、刺激電極の形状などのいずれか1つ又は複数を含み得る。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、刺激パラメーターは、1つ又は複数の所望の線維型の選択的動員をもたらす一方で、少なくとも1つの非選択線維型の選択的非動員又は動員の減少をさらにもたらすように改善される。
【0021】
電気刺激によって動員される少なくとも第1の線維型の動員のレベルが特定される記録の1つ又は複数の選択された特性は:1つ又は複数のECAP変曲点;1つ又は複数のECAPピーク位置;1つ又は複数のECAPピーク振幅;ECAP伝播速度;記録部位で観察された電気生理学的反応の伝播又は非伝播;ECAPの持続時間;不応期;クロナキシー又は基電流を含む強度−持続時間曲線の特性;閾値と勾配を含む成長曲線の特性;刺激電流の増加に伴うECAPピークの数;遅発反応の存在、振幅、及び/又は待ち時間、様々な刺激周波数での電気生理学的反応の振幅及び形状のいずれか1つ又は複数を含み得る。
【0022】
例えば、選択された特性が伝導速度である実施形態では、動員される線維型は、有髄線維の直径と伝導速度との間の線形関係の先験的知識から決定することができる。
【0023】
選択された特性が伝導速度である実施形態では、伝導速度は、刺激部位から刺激部位からの既知の距離の単一の測定電極までの伝播時間を決定することによって測定することができる。より好ましくは、伝導速度は、第1の測定電極及び第2の測定電極で神経反応を観察し、第1の測定電極と第2の測定電極との間の伝播時間を決定することによって測定することができる。2つ以上の測定電極から伝導速度を決定することにより、ECAPのピーク到達時間又はゼロ交差到達時間などのECAP波形の特定の要素の検査が可能になり、伝導速度決定の精度が向上し、ひいては動員された線維型の識別の精度が向上する。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、異なる線維分布下での神経反応の形態についての従来の知識により、モデルを使用して、混合神経を電気的に刺激することによって誘発される電気生理学的反応の1つ又は複数の得られた記録から線維分布を取り出すという逆の問題を解決することができる。例えば、線維分布モデリングに関する本出願人の国際公開第2016/161484(PCT/AU2016/050263)号(特許文献1)の教示をこの目的に適用することができる。
【0025】
選択された特性は、2つ以上の離間した測定電極から得られる記録の評価によって決定することができ、記録は、単一の電気生理学的反応事象のものである。例えば、同じ電気生理学的反応の空間的に異なる記録を得ることにより、記録電極の近くでは、記録の選択された特性は、混合神経での伝播神経反応であるか、又は電極の遠隔での筋電活動などの非伝播反応であるかの決定が可能になり、それにより線維型の決定が支援される。活性化された筋肉のごく近傍で得られる記録は、伝播CMAPを観察することに留意されたいが、本発明の本実施形態は、典型的には、影響を受けた筋肉の遠位に埋め込まれた電極アレイを利用するため、そのような実施形態では、筋電活動は、電気生理学的反応の記録の非伝播成分として観察される。
【0026】
選択された特性が記録の非伝播特性である実施形態では、刺激の4〜10ミリ秒後に発生する成分などの、記録におけるそのような非伝播成分の存在は、例えば、運動ニューロンを刺激することによる刺激によって生成される筋電活動から生じると見なすことができる。従って、筋肉の活性化は、刺激が完了する前又は刺激のアーチファクトがAα線維反応を直接観察できるのに十分に落ち着く前にAα反応が記録電極で終了し得るため、記録では直接観察できないであろう高い伝導速度を有するAα遠心性線維の活性化から生じると推定することができる。しかしながら、選択的なAαの動員は、記録における刺激の4〜10ミリ秒後に発生する非伝播成分の参照によって観察することができる(少なくともSNSの場合)。従って、そのような非伝播成分の振幅は、動員されたAα線維の数の指標と見なすことができ、Aα線維の選択的な動員が可能となる。
【0027】
本発明のさらなる実施形態は、1つ又は複数の動員された線維型の活性化のモードの区別を提供することができる。例えば、理論によって制限されることを意図するものではなく、Aα線維の活性化は、電気刺激による直接の活性化の結果、又はIa固有受容性線維(Ia proprioceptive fiber)を刺激するときに誘発されるH反射などの反射弧を介した間接の活性化の結果であり得ることに留意されたい。Ia線維はAα線維と実質的に同じ伝導速度を有するため、この測定では区別できないことから、活性化のモードを確認することは困難であり得る。しかしながら、刺激周波数が高くなると、H反射によるAα線維の活性化は、約30Hzの刺激率などの比較的低い周波数で低下するが、Aα線維の直接の活性化は、より高い刺激周波数に達するまで低下しないことにさらに留意されたい。従って、本発明のいくつかの実施形態は、様々な刺激率を加え、それを超えると活性化が低下する閾値周波数を特定し、そしてその閾値周波数から活性化のモードを決定することによって、1つ又は複数の線維型の活性化モードを特定することを提供することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、選択された特性は、刺激の1ミリ秒未満後に記録に発生し、且つ/又は80〜120m/sの範囲の伝導速度を有する、Aα線維の活性化を示すと見なされる伝播反応を含み得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、選択された特性は、刺激の6ミリ秒未満後に記録に発生し、且つ/又は3〜15m/sの範囲の伝導速度を有する、B線維の活性化を示すと見なされる伝播反応を含み得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、選択された特性は、刺激の6ミリ秒未満後に記録に発生し、且つ/又は0.5〜2m/sの範囲の伝導速度を有し、且つ/又は10ミリ秒を超える持続時間を有する、C線維の活性化を示すと見なされる伝播反応を含み得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、選択された特性は、刺激の3ミリ秒未満後に記録に発生し、且つ/又は30〜80m/sの範囲の伝導速度を有する、Aβ線維の活性化を示すと見なされる伝播反応を含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、選択された特性は、任意の適切な線維分類システムによって定義されるような、そのような線維型の既知の特性に基づく関心のある任意の線維型に一致し得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、電気刺激によって動員される1つ又は複数の線維型のそれぞれの動員のレベルを決定するために、電気生理学的反応の記録の2つ以上の選択された特性を評価することができる。例えば、運動線維の動員のレベルは、記録における遅発反応の振幅の両方の参照によって、及び遅発反応が複数の記録電極間で伝播しないかどうかの参照によっても決定することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、2つ以上の線維型を、例えば単一の状態をより効果的に処置することを目的として、及び/又は、例えば各線維型がそれぞれの状態に関連して治療的である場合、2つ以上の共存又は併発状態を同時に処置するために標的化することができる。例えば、最初に、交感神経線維型及び副交感神経線維型の一方を、選択された器官又は体組織の活動を興奮させるように標的化することができ、そして次に、交感神経線維型及び副交感神経線維型の他方を、選択された臓器又は体組織の活動を抑制するように標的化することができる。
【0035】
複数の選択された特性、又はいくつかの実施形態では上記の選択された特性のすべてを、電気生理学的反応の記録で監視することができる。いくつかの実施形態では、存在する線維型によって観察された電気生理学的反応を分類するために機械学習分類器を利用することができる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、電極アレイは、単一の埋め込みリードを含む。本発明のいくつかの実施形態では、電極アレイは、単一の埋め込みパルス発生器(IPG)に接続された複数の電極リードを含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの公称記録電極、及び少なくとも1つの公称刺激電極は、混合神経の単一の枝に隣接して配置され、公称記録電極と公称刺激電極との間の神経に神経分岐も神経合流も存在しない混合神経の一部である。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、公称記録電極及び公称刺激電極は、60mm未満離れて配置される。本発明のいくつかの実施形態では、公称記録電極及び公称刺激電極は、30mm未満離れて配置される。本発明のいくつかの実施形態では、公称記録電極及び公称刺激電極は、20mm未満離れて配置される。記録電極を刺激部位の近くに配置することは、例えば、神経反応が別の脊椎分節を通過する前、又はシナプス若しくは神経節を通過する前に、刺激から生じる1つ又は複数の線維型の動員の理解を深めるのに有利である。
【0039】
混合神経は、本明細書では、少なくとも2つの線維型を含む神経を含むとして定義される。線維型は、本明細書では、異なる直径、伝導速度、髄鞘形成、遠心性又は求心性、神経副系統(nervous sub‐system)(例えば、交感神経、副交感神経)又は、他のそのような識別可能な特徴を有する線維として定義される。例えば、線維型は、Aα線維型、Aβ線維型、Aδ線維型、Aγ線維型、B線維型、及びC線維型、又はIa線維型、Ib線維型、II線維型、III線維型、及びIV線維型の2つ以上を含むことに基づいて区別することができる。混合神経は、中枢神経系の一部、又は末梢神経系の一部を含み得る。混合神経は、体性神経系の一部、又は自律神経系の一部、又はその両方を含み得る。混合神経は、完全に求心性若しくは完全に遠心性であってもよいし、又は求心性線維及び遠心性線維の両方を含んでもよい。混合神経は、感覚情報、運動情報、又はその両方を伝送する線維を含み得る。混合神経は、交感神経系、副交感神経系、及び腸神経系のうちの1つ又は複数の一部である線維を含み得る。
【0040】
本明細書では、混合神経は、複数の神経線維型を含む複数の隣接する神経など、2つ以上の神経を含み得ることをさらに理解されたい。従って、本発明のいくつかの実施形態は、複数の隣接する神経内のどの神経が、所与のニューロモデュレーションの適用が刺激することを目的とする線維を含むかを決定することを含み得る。複数の隣接する神経は、仙骨神経叢又は腕神経叢などの神経叢を含み得る。次に、電極の配置及び刺激パラメーターは、そのような実施形態では、不所望の線維型の動員を最小限に抑えながら、所望の線維型を最適に動員するように適合させることができる。例えば、全体的には一貫しているが、ヒトの解剖学的構造は個人間で異なり得、神経支配のいくつかの違いは一般的である。過去のアプローチは、例えば、S3孔などの所与の部位がニューロモデュレーションに最も適切な部位であるという解剖学的前提で機能し得るが、本発明は、代わりに、どの刺激部位が目的の1つ又は複数の線維型を最も効果的に動員しているかの客観的決定を提供するため、刺激部位を適切に改善することができる。従って、本発明のそのような実施形態は、対象の解剖学的構造を考慮に入れた個別化された治療法を開発することを可能にする。
【0041】
混合神経は、迷走神経を含み得る。そのような実施形態では、優先的に動員される第1の線維型は、難治性てんかん又はうつ病などの脳に関連する状態の治療を提供するために、B線維などの副交感神経線維を含み得る。追加的又は代替的に、迷走神経刺激は、抗炎症効果などの末梢又は内臓に治療効果をもたらすため、例えば脾臓に影響を与えて免疫反応を変更するため、例えばクローン病又は関節リウマチ、又は肝臓の状態を処置するためにB線維を優先的に動員するように構成することができる。
【0042】
追加的又は代替的に、迷走神経を標的とする実施形態では、刺激は、喉のうずきの副作用を回避するためのAβ線維;嗄声や声の変化(発声困難、発声障害など)の副作用を回避するためのAα線維;痛みの副作用を回避するためのC線維、及び痛みの副作用を回避するためのAδ線維のいずれか1つ又は複数の動員を軽減又は回避するように構成することができる。好ましい実施形態は、副作用を回避又は最小限に抑えながら治療効果がある程度までしか、迷走神経のこれらの複数の線維型のそれぞれを選択的に動員しない。
【0043】
いくつかの実施形態では、肥満、てんかん、胃のペーシング(paced stomach)(胃逆流症)、膵炎、糖尿病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、クローン病、線維筋痛症、その他の炎症性疾患、うつ病、敗血症、又は痛み(線維筋痛症、片頭痛)のうちの1つ又は複数を処置するために迷走神経の1つ又は複数の線維型を標的化することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の痙縮、パーキンソン病、又は他の運動制御障害を処置するために後根及び/又は後柱の1つ又は複数の固有受容性線維型又は運動線維型を標的化することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、膀胱、消化器系、心臓、又は血管の調節異常などの自律神経系の障害を処置するために1つ又は複数の線維型を標的化することができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、呼吸障害を処置して横隔膜収縮のペーシング(paced diaphragm contraction)を誘発するために横隔神経の1つ又は複数の線維型を標的化することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、膀胱制御障害を処置するために脛骨神経の1つ又は複数の線維型を標的化することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、運動制御機能不全を処置するため、又はリハビリテーションを行うために、1つ又は複数の運動線維型を機能的電気刺激によって標的化することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、神経因性疼痛を処置するために、シナプス後後柱経路及び一次感覚求心性神経の相対的活性化を最適化することができる。
【0050】
混合神経は、いくつかの実施形態では、仙骨神経を含み得る。そのような実施形態では、優先的に動員される第1の線維型は、副交感神経線維又は他の線維型を含み得る。仙骨神経刺激を選択された線維型に加えて、便失禁(FI)、尿閉(UR)、切迫性尿失禁(UUI、過活動膀胱(OAB)とも呼ばれる)、難治性便秘、及び慢性骨盤痛の1つ又は複数の治療を提供することができる。
【0051】
混合神経は、いくつかの実施形態において、迷走神経、前根、又は仙骨神経などの節前混合神経を含み得る。そのような実施形態は、目的の線維のみを選択的に動員しながら、比較的アクセスしやすく、比較的低い刺激強度が必要とされる部位で刺激を発生させるのに有利である。これは、アクセスが難しく、高い刺激強度を必要とする節後C神経を標的とする過去のアプローチとは対照的である。
【0052】
いくつかの実施形態では、混合神経は、前根などの脊髄神経根を含み得る。前根は、運動線維及び副交感神経線維を含み得る。いくつかの実施形態では、刺激は、目的の運動ニューロン線維を直接活性化するために、前根の運動線維を優先的に動員するように構成することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、刺激は、節前混合神経の副交感神経及び/又は交感神経線維を優先的に動員するように構成することができる。副交感神経刺激は、すべて迷走神経とも呼ばれる第10脳神経に由来する心臓、喉頭、気管、気管支、食道、胃、肝臓、膵臓、小腸、脾臓、大腸、又は腎臓のいずれか1つ又は複数を標的とすることができる。副交感神経刺激は、すべて脊髄の仙髄に由来する大腸、膀胱、及び生殖器のいずれか1つ又は複数を標的化することができる。交感神経刺激は、胸髄T1〜T4の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって心臓及び/又は喉頭を標的化することができる。交感神経刺激は、胸髄T5〜T12の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって胃、肝臓、膵臓、副腎、脾臓、及び/又は小腸を標的化することができる。交感神経刺激は、胸髄T11〜T12及び腰髄L1〜L3の前根の1つ又は複数における交感神経線維を刺激することによって腎臓、膀胱、生殖器、及び/又は下部腸を標的化することができる。例えば、いくつかの実施形態は、胸髄T5〜T12の前根の交感神経線維及び迷走神経に由来する副交感神経線維を刺激することによって肝臓の交感神経及び副交感神経の刺激を提供することができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、刺激パラメーターを改善することは、臨床医の試行錯誤などによる刺激パラメーターの臨床的適合プロセスを含む。刺激パラメーターを改善することは、いくつかの実施形態では、術中の電極の再配置を含み得る。
【0055】
他の実施形態における刺激パラメーターの改善は、埋め込み装置のプロセッサによって管理される自動フィードバックプロセスを含み得る。
【0056】
いくつかの実施形態は、第1の電極から最大上刺激を加えて神経のすべての線維を動員すること、選択された円周位置で選択された電極セグメントを記録のために使用することによって、選択された円周位置で動員された反応を観察すること、記録された反応を分析してその位置に隣接する1つ又は複数の線維型を決定すること、及びその後にそのように特定された1つ又は複数の線維型を動員することが望ましいときに選択された電極セグメントから刺激を加えることによって、選択された線維型を空間的に標的化することができる。他の実施形態は、選択された円周位置で選択された電極セグメントを使用して、刺激閾値よりも僅かに高い刺激を加えて、そのセグメントの近位の線維を動員すること、第2の電極で動員された反応を観察すること、及び記録を分析して、選択された電極セグメントからの刺激によって動員されている線維型を決定することによって、選択された線維型を空間的に標的化することができる。そのような実施形態は、このようにして複数の電極セグメントを調べて、そのようなすべての電極セグメントに隣接する線維型を決定することができる。他の実施形態は、グリッドパターン又は異なる電極が異なる線維のサブグループを動員することを可能にする任意の他の形態の空間電極バリエーションなど、円周方向以外で空間的に異なる電極を使用することによって同等の空間標的化を適用することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、装置は完全に植え込み可能であり、且つ刺激電極を介して刺激を送達し、誘発された電気生理学的反応の記録を捕捉及び分析して線維型の標的化を行うように構成された埋め込みパルス発生器を含む。代替の実施形態では、電極アレイのみが一時的に植え込み可能であり得、外部制御装置が線維型の標的化を行う。
【0058】
記録における電気生理学的反応の発生時間は、本明細書では、一般に刺激後の経過時間を参照することによって示されることを理解されたい。しかしながら、この経過時間は、観察される線維の伝導速度と、それぞれの記録電極の刺激部位からの距離との両方によって決まる。本明細書に示される期間は、刺激電極から約6mm、約12mm、及び約18mm離間した記録電極を有する単一の埋め込みリードに特に適用できることを理解されたい。しかしながら、代替の電極アレイの形状と構成では、刺激部位から他の距離に電極が設けられることもあり、伝導速度に基づく単純な計算は、所与の各線維型の反応の代替の予想到着時間を決定することを可能にし、そのような代替は、本発明の範囲内である。同様に、筋肉の遠隔の活性化から生じる遅発反応が目的の選択された特性である場合、遅発反応の発生時間は、刺激部位から筋肉までの距離と、そのような遅発反応の発生時間の変動とによって決まり、従って、そのような遅発反応はまた、刺激部位と関連する解剖学的構造とから単純に決定され、遅発反応の発生時間におけるそのような変動は本発明の範囲内である。
【0059】
本発明の第3の態様の装置のいくつかの実施形態では、制御ユニットは、混合神経の他の線維型に対して1つ又は複数の線維型の選択的動員をもたらすように刺激パラメーターを改善するようにさらに構成される。本発明の第3の態様の装置のいくつかの実施形態では、装置は埋め込み装置であり、他の実施形態では、装置は、試験又は術中の使用のための外部装置であり得る。
【0060】
ここで、本発明の一例を、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】埋め込み仙骨神経刺激装置を概略的に例示する。
【
図3】埋め込み刺激装置と神経との相互作用を例示する概略図である。
【
図4】健康な対象の電気的に誘発された複合活動電位(ECAP)の典型的な形を例示する。
【
図5】断面におけるヒトS2神経の前細根の線維の機能的分離の概略図である。
【
図7】様々な刺激振幅で、記録カフ電極によりブタの頸部迷走神経から記録された神経反応を示す。
【
図8a】リードに沿った異なる記録電極により、SNS療法を受けている2人のヒト患者のS3仙骨神経から得られた電気生理学的反応を示す。
【
図8b】リードに沿った異なる記録電極により、SNS療法を受けている2人のヒト患者のS3仙骨神経から得られた電気生理学的反応を示す。
【
図9】本発明のアプローチを適用できる混合神経の神経経路の一部を形成する交感神経及び副交感神経の経路を例示する。
【
図10a】Aβ反応の振幅の経時的な変化を例示する。
【
図10b】遅発反応の振幅の経時的な変化を例示する。
【
図11a】
図10と同じヒトSNS患者の神経Aβ反応の成長曲線の測定値を例示する。
【
図11b】遅発反応の成長曲線の測定値を例示する。
【
図11e】1人の患者のB線維反応の成長曲線を示しており、矢印は刺激知覚の電流の閾値を示している。
【
図12】ヒトSNS患者で観察された筋電反応の振幅の経時的な変化を例示する。
【
図13】線維型の標的化のために複数の電極リードを使用する本発明の実施形態を例示する。
【
図14】線維型の標的化のために単一の電極リードを使用する本発明の実施形態を例示する。
【
図15】線維型の標的化のために複数の電極リードを使用する本発明の別の実施形態を例示する。
【
図16】線維型の標的化のためにカフ電極を使用する本発明の実施形態を例示する。
【
図17】線維型の標的化のフローチャートを例示する。
【
図18】線維型の標的化のフローチャートを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1は、埋め込み仙骨神経刺激装置100を概略的に例示する。刺激装置100は、患者の下腹部又は後部上臀部の適切な部位に埋め込まれた電子モジュール110と、仙骨内に埋め込まれて、適切なリードによってモジュール110に接続された電極アセンブリ150とを備える。埋め込み神経装置100の動作の多くの態様は、外部制御装置192によって再構成可能である。さらに、埋め込み神経装置100は、データ収集の役割を果たし、収集されたデータは外部装置192に通信される。
【0063】
図2は、埋め込み神経刺激装置100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112及び遠隔測定モジュール114を備える。本発明の実施形態では、赤外線(IR)伝送、電磁伝送、容量性伝送、及び誘導性伝送などの任意の適切なタイプの経皮通信190が、テレメトリーモジュール114によって使用されて、外部装置192と電子モジュール110との間で電力及び/又はデータを伝送することができる。
【0064】
モジュール制御装置116は、患者設定120及び制御プログラム122などを格納する関連メモリ118を有する。制御装置116は、パルス発生器124を制御して、患者設定120及び制御プログラム122に従って、電流パルスの形態で刺激を生成する。電極選択モジュール126は、選択された電極の周囲の組織への電流パルスの送達のために、生成されたパルスを電極アレイ150の適切な電極に切り替える。他の電極アレイも設けることができ、例えば、以下でさらに説明する
図5及び
図6の場合には、電極選択モジュール126によって同様に対処することができる。従って、たとえ物理的に同じであり得、他の時間に異なる役割を果たし得るとしても、アレイ150の1つ又は複数の電極は、所与の時間に公称刺激電極として機能するように選択することもできるし、所与の時間に公称感知電極として機能するように選択することもできる。測定回路128は、電極選択モジュール126によって選択された電極アレイの感知電極で感知された神経反応の測定値を捕捉するように構成されている。そのような測定値は、アレイ150上の2つの感知電極間の差測定値を含む場合が多い。しかしながら、測定値は、これに加えて又はこれとは別に、例えば、モジュール110の場合の基準電極を電気的に基準とする、又は制御装置116のシステム接地を基準とするアレイ150の単一の感知電極から得ることができる。センス電極は、本明細書では記録電極とも呼ばれる。
【0065】
図3は、埋め込み刺激装置100と神経180との相互作用を示す概略図であり、この場合は仙骨神経であるが、代替の実施形態は、末梢神経、内臓神経、脊髄神経、又は脳構造を含む任意の所望の神経組織に隣接して配置してもよい。電極選択モジュール126は、神経180を含む周囲組織に電流パルスを送達するために電極アレイ150の刺激電極2を選択し、また刺激電流回復のためにアレイ150の戻り電極4を選択してゼロ正味電荷移動を維持する。
【0066】
仙骨神経刺激装置の場合には排尿筋の所望の筋線維の運動機能を刺激する可能性がある治療目的のための神経180への適切な刺激の送達は、例示されているように神経180に沿って伝播する複合活動電位を含む神経反応を誘発する。このために、20Hz未満で刺激を送達するために刺激電極が使用される。
【0067】
装置100は、神経180に沿って伝播する複合活動電位(CAP)が電極2及び4からの刺激によって誘発されるか、又は他の方法で誘発されるかにかかわらず、そのようなCAPの存在及び強度を感知するようにさらに構成されている。このために、アレイ150の任意の電極を、測定電極6及び測定参照電極8として機能するように電極選択モジュール126によって選択することができる。測定電極6及び8によって感知された信号は、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、本出願人による特許文献2の教示に従って動作し得る測定回路128に送られる。
【0068】
図4は、同様の特性を有する動員された線維の活動電位の寄与から構成されるときの、電気的に誘発された複合活動電位(ECAP)の典型的な形を例示する。
図4に示されている複合活動電位の形状及び持続時間は、刺激に反応して活動電位を生成する軸索の集団によって生成されるイオン電流の結果であるため、予測可能である。多数の線維間で生成された活動電位がまとまって複合活動電位(CAP)を形成する。CAPは、多数の単一の線維活動電位からの応答の総和である。記録されたCAPは、多数の異なる線維の脱分極の結果である。各線維の活動電位の伝播速度は、主にその線維の直径によって決まる。同様の線維群の発火から生成されたCAPは、正のピーク電位P1、次に負のピークN1、続いて第2の正のピークP2として測定される。これは、活動電位が個々の線維に沿って伝播するときに、記録電極を通過する活性化領域によって引き起こされる。観測されたAβ線維から電気的に誘発されたCAP信号は、典型的には、マイクロボルトの範囲の最大振幅及び2〜3ミリ秒の持続時間を有する。
【0069】
CAPプロファイルは、典型的な形を取り、そのいくつかが
図4に示されている任意の適切なパラメーターによって特徴付けることができる。記録の極性に応じて、通常の記録されたプロファイルは、
図4に示されるものと逆の形をとることができる、即ち、2つの負のピークN1とN2、及び1つの正のピークP1を有する。
【0070】
ほとんどすべてのニューロモデュレーション用途では、単一のクラスの線維反応が望ましいが、刺激は、不所望の副作用を引き起こす他のクラスの線維に活動電位を動員し得る。さらに、誘発された神経反応を記録することの難しさは、実際の線維型の動員の知識がなくても、筋収縮の観察などの代理指標を使用する従来の解決策につながっている。
【0071】
本実施形態によると、所与の刺激によって誘発されるCAPは、例えば、
図4、
図8a、又は
図8bの曲線における変曲点のパラメーターによって特徴付けることができる。ピークの位置及び振幅は、単独で、又は組み合わせて使用して、これらとCNS障害の状態及び重症度との相関関係を生じさせることができる。他の電気生理学的データを使用して、ECAPデータを補足することができる。例えば、マスカー−プローブ試験を使用して、不応期及び相対不応期を決定することができる。不応期の測定は、刺激されている線維の周波数応答の推定を可能にする。特に、より短い不応期はより高い伝導速度と相関し、従って、観察されたECAPを生じさせるためにどの線維型が動員されたかの決定を可能にし、従って、刺激周波数パラメーターを設定するためのガイドを提供することができる。これらすべての神経生理学的特性を使用して、刺激された神経を識別することができ、且つ線維型の標的化及び刺激パラメーターの選択を案内するために使用することができる。
【0072】
末梢のほとんどすべての主要な神経は、混合された性質であり、これは、神経が一緒に走っている様々な型及び機能の線維を含むことを意味する。末梢神経は、様々な段階で1つに束ねられ、脊髄神経(SNSの主な標的であるS3神経など)を形成する。脊髄に接合する前に、脊髄神経は前根と後根に分かれる。簡単に言えば、前根には主に様々な遠心性線維が含まれ、後根には主に様々な求心性線維が含まれる。従って、混合神経は、求心性軸索及び遠心性軸索の両方を含み得る。混合神経の別の例は、運動線維、交感神経線維、副交感神経線維、及び感覚線維を含む迷走神経(VN)である。
【0073】
混合神経は、筋束の不均一な集合体であり、線維束は、同様の機能を果たし、且つ共通の生理学的特性を共有する神経線維を束ねることが示されている。この機能の分離は、各脊髄神経の後根と前根を形成する細根から観察することができる。
図5は、断面におけるヒトS2神経の前細根の線維の機能的分離の概略図である。根は2つの細根で構成されている。3つの異なる神経分布パターンが生じる:大きくて太い有髄線維が優勢であり、副交感神経線維が存在しない体性型(S);副交感神経線維が豊富な栄養型(V);及び混合型(M)。栄養型と体性型の線維束の組織分布的な集合に留意されたい。副交感神経線維が優勢な線維束は、どちらかの根の右の細根に集中している。対照的に、純粋に体性の線維束は左の細根に見られる。神経線維は、単にランダムな分布に従うのではなく、ある種の機能的組織に従うようである。
【0074】
従って、例えば、刺激電極の近位の線維束内の線維のみを動員する振幅で神経の片側からのみ刺激を加えることによる、混合神経の任意の所与の小区分の刺激は、異なる機能を果たす線維の特定の部分を活性化する。本発明は、混合神経の適切な線維を標的化することが、多くのニューロモデュレーション用途にとって非常に重要であることを理解している。
【0075】
しかしながら、そのような標的化は、混合神経における各線維束の経路が神経に沿って変化するため、純粋に解剖学的アプローチからは本質的に不可能である。線維束は、交差、合流、及び分岐し得る。正中神経束の3次元(3D)再構成である正中神経からのこの例を
図6に示す。
図6aは、任意の位置にある正中神経の3Dモデルであり、様々な機能的線維束のいくつかの変化するパターンを示している。緑色は運動神経線維束を表し、黄色は感覚神経線維束を表し、紫色は混合(感覚及び運動)神経線維束を表す。
図6bは
図6aの拡大部分図であり、
図6cは1つの横断面画像を示す。
【0076】
図6は、所望の線維型が神経内の神経の異なる部分で著しく変化する位置をとるため、線維型の標的化が、解剖学的構造のみに基づいて対処するのが困難であることを示している。さらに、神経内の線維束の内容及び配置の変動が患者間に存在する。これらの変化は、典型的な埋め込み電極アレイが、長さが3mmで、互いに4mm離れている、即ち、7mmピッチに配置されている電極を利用するため、典型的な神経刺激電極間隔よりも大幅に小さい規模で生じる。しかしながら、
図6に示されている神経に沿った7mmの空間では、任意の所与の神経線維束が束内のいずれか又はすべての位置を占める可能性があり、周囲の解剖学的方向に基づいてその線維束を選択的に標的化することは不可能である。単純により小さい電極の使用では、これらの不確実性は解決しないであろう。
【0077】
それにもかかわらず、本発明は、神経線維が、髄鞘形成状態及び直径などのそれらの生理学的特性に基づいて分類できることを認識している。これらの特性は、とりわけ、生成された活動電位の伝導速度、それらの不応期、及びそれらの強度−持続時間曲線の測定を通じて刺激された神経線維の分類を可能にする電気生理学的特性の違いをもたらす。例えば、有髄線維の直径と伝導速度との間には線形の関係が存在する。本明細書を通じて使用されている命名法や分類に関係なく、様々な神経線維型の分類システムが存在するが、命名法に関係なく、本発明による線維型の区別を可能にするのは、電気生理学的特性の差の指標であることを理解されたい。
【0078】
図7は、様々な電流での、同じ神経の周りの刺激カフ電極から約25mm離れて配置された記録カフ電極からのブタの頸部迷走神経から記録された神経反応を示す。
【0079】
図8a及び
図8bは、SNS療法を受けている2人のヒト患者のS3仙骨神経から得られた電気生理学的反応を示す。電極は、各ヒト患者に対して同じ外科的手法を使用して配置されたが、観察された反応は、
図8aと
図8bの間で著しく異なっていた。
図8a及び
図8bの仙骨反応は、標準的な円筒形電極から刺激することによって得られたため、電極に最も近い神経側の線維を優先的に活性化する。
図8a及び
図8bでは、CHnで示される記録された3つのチャネルは、同じリード上の刺激電極からの距離が増加している、リードに沿った連続した電極(それぞれ刺激から6mm、12mm、18mm)から得られたため、神経に沿った活動電位として伝播する神経反応が、より遠位の記録電極からのチャネルで後に発生するが、非伝播信号は、それぞれのチャネルにわたって時間的に離れていないため、本発明は、神経反応を他の電気生理学的活動から区別できることに留意されたい。また、
図8aでは、電極4が刺激に使用されたため、CH3が刺激部位に最も近く、CH1が刺激部位から最も遠かったのに対し、
図8bでは、電極1が刺激に使用されたため、CH2が刺激部位に最も近く、CH4が刺激部位から最も遠かったことにも留意されたい。
図8bの反応振幅は、僅かに小さい刺激にもかかわらず、
図8aの反応振幅の数十倍であることが分かる。このような変動は、実際には一般的であり、神経に対する各個別の電極アレイの位置の違いに十分起因し得る。
図8bの大きな振幅反応は、所望の治療効果が達成される最小レベルまで可能な限り刺激を低減するために、本発明を適用することによってどれだけの電力の節約が達成され得るかを例示し、これはまた、痛みを伴い、有害であり得、又は望ましくない副作用を引き起こし得る不適切に高い動員レベルを回避するというさらなる利点を有し得る。
【0080】
対照的に、
図7の迷走神経反応は、神経を取り囲むカフ電極から刺激することによって得られたため、すべての線維型が、神経の周囲のそれらの位置とは無関係に、それらの閾値に基づいて動員された。神経束の位置に基づく動員のこの違いは、一方の
図7を他方の
図8a及び
図8bと比較したときに分かるように迷走神経と仙骨神経から得られる反応の違いを説明している。
【0081】
特に、
図7では、低電流では、より大きな線維型のみが動員され、観察されたECAPは、ほとんどピークを示さない。電流が増加すると、より小さな線維が動員され、結果として得られるECAPが、予想されるピーク振幅の増加に加えて、追加のピークを示し始める。
【0082】
他方、
図8aでは、本発明者らは、約1〜2ミリ秒の時間枠でのAβ ECAP、及び筋電反応を観察する。約1〜2ミリ秒の時間枠でのECAPは、伝導速度と刺激部位からの各個別の記録電極の距離のために、Aβ ECAPとして明確に識別することができる。さらに、約4〜10ミリ秒の時間枠で観察される信号成分は、Aα反応に特に関連付けることができる(直接活性化からか、又は、例えばIa線維活性化による反射弓を介するかのいずれか)。Aα反応の速い伝導速度は、この神経反応自体が記録の非常に早い部分(例えば、1ミリ秒未満の期間)で不明瞭になることを意味するが、Aα反応の存在を、約4〜10ミリ秒の時間枠で観察される非伝播信号成分の存在から知ることができ、この非伝播信号成分は、筋肉の活性化に起因する電界であり、従って、これがAα線維の役割であるため、Aαの活性化によって生じる必要がある。
図8bでは、本発明者らは、反応を支配するB線維(おそらく節前副交感神経遠心性)を観察し、また、使用されている3つの間隔を置いた記録電極を通過する反応の伝導速度が観察されるため、この記録の観察された成分は、B線維反応として明確に識別することができる。従って、B線維である可能性が高いが、反応は、Aδ線維に起因することもあり、使用される命名法が、本発明によって可能になる線維型の区別に限定されるとは見なされないことに再度留意されたい。
【0083】
交感神経系と副交感神経系は、内臓機能の調節において補完的な役割を果たす。大体の目安として、副交感神経線維は「休息又は消化」反応に関与し、交感神経線維は「闘争又は逃走」反応に関与する。例えば、排尿の場合、副交感神経は、膀胱を刺激して尿道を弛緩させるが、交感神経線維は、膀胱体を抑制し、膀胱底と尿道を刺激する。膀胱神経支配の場合、節前交感神経線維は、吻側腰髄の前根の脊髄を出、節前副交感神経線維は、仙骨神経の前根を通って脊髄を出る。従って、いくつかの実施形態において、本発明は、治療の代わりとして遠隔筋肉反応を標的化する以前のアプローチとは対照的に、これらの線維型を選択的に標的化することが失禁の治療において有用であり得ることを認識している。従って、本発明のそのような実施形態は、仙骨神経からの誘発複合活動電位(ECAP)を測定して、適切な神経をよりよく標的化すること、及びECAP観察に基づいて長期インプラントに閉ループ刺激を加えることの両方によってSNSを改善するための技術を提供することができる。
【0084】
より一般的には、本発明の他の実施形態は、任意のそのような神経に関連する機能不全のための治療を提供するために、身体の任意の混合神経に対するニューロモデュレーションに同様の標的化アプローチを適用することができる。
図9は、本発明のアプローチが適用できる混合神経の一部を形成する、そのような交感神経(赤)及び副交感神経(青)の遠心性経路の多様性を示している。中断された赤い線は、脳神経及び脊髄神経への節後枝(postganglionic ramus)を示している。
【0085】
心臓、喉頭、食道、胃、肝臓、膵臓、腸、及び腎臓の副交感神経支配はすべて、迷走神経とも呼ばれる第10脳神経に由来することに留意されたい。腸、膀胱、及び生殖器の副交感神経支配は、脊髄の仙骨部分から生じる。大腸の上部と下部は異なる部分から神経支配され、上部は迷走神経から支配され、下部は仙骨神経から支配されることに留意されたい。
【0086】
仙骨神経は、線維の型及び機能の全スペクトルを含む混合神経である。混合神経は、C線維と、B(副交感神経)からAα運動ニューロンまでの有髄線維を含み、且つ求心性神経信号及び遠心性神経信号の両方を伝達する。仙骨神経は均質ではなく、細根で構成され、さらに線維束に細分され、線維束は、線維型のある程度の機能的分離を維持する。
【0087】
神経線維は、それらの機能と、それらの物理的特性(主に髄鞘形成状態及び線維径)によって分類される。この物理的特性と機能の区別は絶対的なものではなく、様々な機能の神経信号が同様の特性の線維を介して伝達されることに留意することが重要である(線維のクラスよりも多くの機能が存在する)。大体の目安として、有髄線維の直径(μm単位)は伝導速度(m/s)の約6倍に相関する。この特性により、SNS電極から測定されたECAPを使用して、伝導速度を決定し、次いで刺激パラダイムによってどの線維が動員されているかを決定することが可能である。これにより、2つのレベルで治療を改善することができる:適切な神経の病因固有の標的化と、安定した治療を維持して有効性を向上させるための閉ループフィードバック制御。
【0088】
仙骨神経は不均一な混合神経であるため、神経線維に対するリードの位置は、どの線維型がSNSによって活性化されるかを決定する上で大きな役割を果たす。理論によって制限されることを意図することなく、SNS電極から作成された電気生理学的反応の記録は、筋遠心性線維、感覚求心性線維、体性求心性線維及び遠心性線維、副交感神経線維、又はC線維が活性化されているかどうかを区別することができる。ECAP特性と遅発反応特性の両方を使用して、どの線維が刺激によって活性化されるかを決定することができる。
【0089】
例えば、
図8aでは、伝播しない遅発反応の存在は、Aα遠心性線維の活性化を(直接的又は間接的に)示し、Aβ反応の存在は、感覚線維が活性化されていることを示す。
図8bでは、B線維反応の存在は、副交感神経線維の活性化を示し得る。仙骨神経の分割された性質(同様の機能を有する線維束のクラスター化される線維束への分離)のため、SNSから観察された反応は均一ではない(
図8を参照)。さらに、仙骨神経叢の患者間の変動は、各仙骨神経に存在する線維型の変動をもたらし得る。
【0090】
SNSで観察される反応の種類とは無関係に、患者の姿勢の変化、並びに神経に対する電極の動きを引き起こす内部メカニズムは、神経反応の振幅の変化に反映される。
図10aは、Aβ反応の振幅の変化を例示し(
図8aの例では、約1〜2ミリ秒)、
図10aではFASTで示されている。
図10bは、筋電反応の振幅の変化を例示し(
図8aの例では、約4〜10ミリ秒)、
図10bにLRで示されている。このデータは、S3仙骨神経根でSNS試験を受けている患者で得られた。患者は、
図10の実験の開始時に座っていて、約300秒で立ち上がり、約360秒で腰を下ろした。座っている状態から立っている状態で約2倍になる神経反応の振幅の増加は、患者による知覚異常感覚の増加として感じられた。振幅の同様の増加が筋電反応でも観察された。
【0091】
図11aは、
図10と同じヒトSNS患者の神経Aβ反応の成長曲線の測定値を例示する。
図11bは、筋電反応成長曲線の測定値を例示する。本明細書の成長曲線は、刺激強度の増加に反応する電気生理学的反応振幅の測定値を指す。電気生理学的反応の記録が、ECAPと筋電反応の両方を含むなど、複数の成分を含む場合、そのような各成分の個別の成長曲線を得ることができる。
図11aのAβ反応と
図11bの筋電反応の両方が、特定の閾値未満の電流レベルで刺激を加えた場合、反応が起きないという点で、閾値挙動を例示する。
図11aの検査による閾値は約1.5mAに見えるが、
図11bの検査による閾値は約2mAに見える。それぞれの閾値を超えると、各成長曲線は、線形部分を示し、この線形部分では、刺激電流が線形に増加すると、神経Aβ反応と筋電反応の両方がほぼ線形に増加する。最大動員が達成されると、両方の曲線はより高い刺激振幅でプラトーになると予想されるが、これらのより高い刺激値は、患者に苦痛を与えることになるため、この実験では加えられなかった。従って、
図11は、筋電反応及びAβ反応がそれぞれ線形部分を有し、
図11に示されているそれぞれの線形範囲内で動作するフィードバックループによって個別に又は一緒に利用できることを示している。
【0092】
図11cは、S3仙骨神経刺激で尿失禁の処置を受けたヒト患者からの記録を例示する。0.7mAの刺激と1.3mAの刺激の両方で、約3〜10ミリ秒の期間中に、すべての記録チャネルCH1、CH2、及びCH4で明確な遅発反応が見られる。刺激パルス幅がECAPを覆い隠すため、これらの記録では高速反応(ECAP)は見えない。
図11dは、各個別の記録電極で測定された、刺激振幅の増加に応じた遅発反応振幅の成長曲線を示す。
図11dに見られるように、これは、プラトーの筋電反応の一例である。そのような記録により、閾値を下回る治療効果が生じることも、成長曲線のプラトーを超えて追加の線維が動員されることもないため、有用な範囲の刺激を確認することができる。
図11eは、B線維反応と考えられる遅発反応のプラトーの成長曲線のプロットである。曲線上に示されているのは、患者が刺激を感じ始めた成長曲線の一部である。特に、この患者の閾値は、このB線維反応のプラトーにあった、即ち、
図11eで観察された遅いB線維反応は感覚に関連せず、且つ第1の線維型が、他の線維型が動員されることなく動員された。
【0093】
いくつかの実施形態は、段階的な線維標的化をさらに提供することができ、それにより、動作の第1段階では、所望の線維型の動員のレベルが監視され、
図11a、
図11b、又は
図11eの曲線の所望の範囲内に維持され、所望の線維型の動員又は観察が喪失した場合(姿勢の変化又はリードの動きで一般的であり得る)、動作の第2の段階が行われ、代わりに、第2の線維型の動員が監視され、特に選択された線維型の動員が追跡不能になった場合でも、一般に継続的な神経動員が保証されるように所望の範囲に維持される。所望の線維型の動員又は観察の喪失に対する別の反応は、その他の適切な事象、例えば警告信号又は自動再プログラミング手順を誘発することであり得る。加えて、直線性試験は、所望の線維型の動員又は観察の喪失に応じて行うことができ、それにより、刺激振幅を変化させて、動員が線形に反応するかどうかを調べる;そのような刺激振幅の変動に対する動員の線形反応の欠如は、再プログラミング又は警告信号などをトリガーするために使用できる治療効果の喪失を示し得る。
【0094】
図8bに関連して述べたように、自律神経系のB線維の動員を特定し、その動員を選択的に標的化することも可能である。筋電反応も同様に標的とすることができる。
図12は、開ループモードと閉ループモードの両方をカバーする期間にわたる、関連する制御変数(下のトレース)と共に時間経過に伴うヒトのSNS患者で観察された筋電反応の振幅の変化(上のトレース)を示している。従って、
図12は、筋電反応に基づく成功した閉ループ制御を示している。
【0095】
従って、これらの洞察を踏まえて、本発明の実施形態は、混合神経における病因特異的線維の標的化を提供することができる。例えば、SNSの場合には、動員された線維型の知識なしに筋肉反応を利用する過去のアプローチに依存するのではなく、本発明を使用して標的化及びプログラミングを行うことができる。混合神経における病因特異的線維の標的化は、混合神経を刺激する際には、ほとんどの場合、線維のサブセットのみが、刺激によって処置される状態に適切であることを認識している。混合神経のすべての線維を刺激することは、必然的に、望ましくない副作用又は非効率的な刺激につながる。
【0096】
最も広い意味で、これらの特定の実施形態は、電気生理学的測定を使用して混合神経の線維型のサブセットを選択的に標的化することにより、混合神経に対するニューロモデュレーション療法を最適化する。これは、望ましくない線維型の反応を最小限に抑えながら、所望の線維型の反応が得られるように刺激パラメーターを最適化することからなる。理想的な場合、所望の線維のみが装置によって活性化されるが、多くの実施形態では、単に所望の線維型の優先的標的化を達成すること、及び/又は他の線維型の動員を優先的に最小化することであるにもかかわらず、本発明の利点を提供することができる。
【0097】
一実施形態では、本発明は、混合神経の近くに配置された電極から得られた電気生理学的信号を刺激及び記録することができる装置を提案する。次に、神経反応を分析して、刺激された線維の性質を示すことができる。一例では、電気生理学的反応は、特定の神経線維の存在又は非存在を示すことができる。所望の治療結果に基づいて、治療を最適化するためにこの情報が使用される。治療を行うための様々なパラメーター、例えば、限定されるものではないが刺激波形及びリード位置などを調整して、所望の線維型を動員することができる。場合によっては、それぞれが異なる線維のサブセット(両方とも仙骨神経にある失禁用のB線維及び骨盤痛用の感覚線維など)の刺激を必要とするいくつかの原因を同時に処置することができる。この場合、方法及び装置は、不要な線維からの反応を最小限に抑えながら所望の線維の反応を誘発するために、電気生理学的測定を使用して、提供される刺激療法を連続的に最適化する。
【0098】
図14に示されている一実施形態では、本発明者らは、線維のサブセットのみが所望の刺激標的である標的混合神経の近くに埋め込まれた2つ以上の電極と、刺激に対する電気生理学的反応を記録することができる埋め込み制御ユニット装置からなる方法を提案する。刺激された線維集団が、記録された反応によって評価され、電極の配置、電極の選択、並びに刺激パラメーター(限定されるものではないが、パルス幅、刺激周波数、刺激波形、刺激振幅を含む)は、所望の線維型が優先的に標的化にされるように最適化される。加えて、記録された反応を使用して、消費電力を最小限に抑えるために刺激パラメーターを最適化することができる。所望の反応が観察される限り、これを達成するために最小の電力で済むパラメーターを使用するべきである。あるSNS試験では、B線維は、筋活性化閾値の過去のアプローチを参照して定義された、使用されている振幅の僅か約4分の1である刺激振幅で完全に動員されることが観察された。この観察結果は、B線維の動員によって提供される治療上の利点が、線維型に対してブラインドで動作する最先端のSNS技術の現状の電力の数分の1で達成できることを示している。
【0099】
神経反応の特性(誘発複合活動電位、又はECAP)は、どの線維型が刺激パラダイムによって活性化されるかを評価するために使用される。理論に制限されることなく、刺激された線維型を評価するために使用できるECAP特性には、伝導速度(待ち時間を含む)、強度−持続時間特性、及び不応期が含まれる。加えて、筋電反応(遅発反応(LR))は、その存在及び待ち時間に基づいて、Aα遠心性活性化(直接的又は間接的)の代用手段として使用することができる。
【0100】
例えば、副交感神経線維(軽度に有髄のB型線維)を標的とする仙骨神経刺激の場合、電極は、
図14に示されているようにS3仙骨神経の近くに配置される。第1の電極は刺激のために使用され、神経記録は、標的神経に近い、同じアレイの1つ以上の電極から得られる。刺激された線維の伝導速度は神経記録から得られ、電極は、B線維の反応が最大になり、他のすべての反応が最小になるように配置される。さらに、刺激パラメーターは、B線維反応が最大化され、他のすべての反応が最小化されるように変更される。
【0101】
図13及び
図15の実施形態などの他の実施形態では、異なる特性を有する複数の電極を使用して混合神経を刺激するためのリードの位置決め及び刺激パラメーターの選択を最適化するための装置が提供される。これは、標的神経の近くに配置された2つ以上のリードを使用する。次に、刺激パラメーターの選択が、複数のリードについて行われる。過活動膀胱(OAB)及び骨盤痛などの多数の状態の場合、電極の選択は、1つ又は複数のリード上の1つ又は複数の電極がB線維活性化(OAB緩和のため)及びAβ線維活性化(痛みを緩和するため)を最大化するように行われる。繰り返しになるが、本発明は、理論化された作用機序に関係なく、治療上の利益を達成する任意の適切な線維に関して線維型の標的化を行うことができるため、メカニズムの理論によって制限されないことに留意されたい。
【0102】
他の実施形態では、神経叢の神経を刺激して、誘発された電気生理学的反応の記録を使用して、神経叢のどの枝が所望の線維を含むかを決定することができる。次に、治療が、神経叢の最良の候補枝に対して最適化される。
【0103】
さらに、所与の刺激電極のECAPの記録は、同じリードで行う必要はない。記録部位を最適化(信号振幅を最大化)することができ、標的神経に近い任意の電極を選択することができる。これは、混合神経の線維束が神経内で平行に走っていない(
図13〜
図15では単純な例示のために単純に示されているが、
図6に示されているように交差、合流、及び分岐している)ため有用である。
【0104】
この装置の別の実施形態は、
図16に示されているように、硬膜外リードの代わりにカフ電極を埋め込むことからなる。カフ電極はそれぞれ、いくつかの異なる接点からなり(カフ全体に沿って延在する1つの連続電極を有するいくつかのカフ電極とは対照的に)、個別の刺激と別々の線維束の記録を最適化する位置を見つけるために、2つ以上のカフ電極を回転させ、混合神経に沿って上下に動かすことができる。一実施形態では、
図16の構成を、選択された線維型の空間的標的化に使用することができる。これには、神経のすべての線維を動員するために、実質的に神経の全周の周りに最大上刺激を加えるカフ電極1610が関与する。電極1610は、確実にすべての線維が動員されるように、神経の周りに連続的に延びる非セグメント化電極であってもよいし、又は電極1610のすべてのセグメントによって刺激が同時に加えられるセグメント化電極であってもよい。次に、刺激から生じる動員された反応を、選択されたセグメント(例えば、セグメント化されたカフ電極1620のセグメント1622(明確にするために他のセグメントは示されていない))を使用することによって選択された円周位置で観察することができる。次に、特にセグメント1622で観察された反応を分析して、そのセグメント1622に隣接する優勢な線維型を決定することができる。次に、この知識を使用して、どの線維型が各セグメント化カフ電極のすべてのセグメントに隣接しているかを特定することができる。次に、この知識を使用して、セグメント1622などの所与のセグメントを優先的に使用して、そのセグメントに隣接していることが分かっている線維型を優先的に動員する刺激を送達することができる。他の実施形態は、代わりにセグメント1622を使用して、刺激閾値よりも僅かに高い、従ってセグメント1622の近位の線維のみを動員する刺激を加えることによって同じ知識を得ることができる。次に、反応をカフ電極1610で観察し、分析してセグメント1622によって動員される線維型、従って1622に隣接する線維型を決定することができる。複数のセグメントを検査し、それにより、そのようなすべての電極セグメントに隣接する線維型を決定することができ、次に、ルックアップテーブルなどの知識を使用することによって線維型の空間標的化を行うことができる。
【0105】
加えて、電力消費を最小限にするために、反応を使用して刺激パラメーターを最適化することができる。所望の反応が観察される限り、これを達成するために最小の電力で済むパラメーターを使用するべきである。
【0106】
より一般的には、本発明に従って線維型の標的化を実施しながら、異なるリード形状、パドルリード、経皮リード、カフ電極を使用することができる。
【0107】
いくつかの実施形態では、装置は電極の外部に接続され、他の実施形態では、装置は完全に埋め込み可能である。いくつかの実施形態では、電極は、刺激標的の近くに配置された単一のリード又は複数のリード上にあり得、各リードは、多数の電極を含み得る。他の実施形態では、いくつかの電極は、測定用の参照電極又は刺激用の戻り電極として機能するように標的神経の遠位に配置することができる。装置が完全に埋め込み可能なシステムである場合、インプラントの本体を1つの電極として使用することができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、リードは、仙骨神経刺激又は脊髄刺激で使用されるものと同様に硬膜外とすることができる。他の実施形態では、リードは、パドルリード又はカフ電極であり得る。いくつかの実施形態では、電極はさらにセグメント化することができる。一例では、カフ電極は、場合によっては神経を取り囲むリング電極であり得、場合によっては、セグメント化リングであり得、それにより、カフ電極の電気的に異なる部分が神経の周囲の異なる位置を取り、神経の周りの異なる円周位置を、選択されたセグメントから刺激することによって選択的に標的とする、又は選択されたセグメントから記録することによって選択的に観察することができる。一例では、硬膜外リードは円形電極接点を有することができ、他の例では、接点をセグメント化することができる。
【0109】
いくつかの実施形態では、刺激と記録は、同じ電極で行われ、他の実施形態では、刺激と記録は、同じ電極リード若しくは電極アレイ、又は異なる電極リード若しくはアレイ上であるかどうかにかかわらず、別の電極で行われる。いくつかの実施形態では、標的の近くに埋め込まれたいくつかの電極は、神経内の線維路の合流又は分岐を回避できるほど小さい領域にまたがる。例えば、いくつかの実施形態では、仙骨神経の近くに埋め込まれた電極は、5センチメートル未満、好ましくは2センチメートル未満の距離にまたがり得る。
【0110】
いくつかの実施形態では、外部装置を使用して、リード挿入中の神経反応を分析することができる。外部装置を使用して、患者の標的神経に刺激パルスを送達することができる。外部装置は、制御ユニット、表示モジュール、及び刺激モジュールを備えることができる。刺激ユニットは、刺激パルスを所望の神経に送達し、生成された神経反応を分析するように構成されている。その後、制御ユニットは、神経反応を分析し、1つ又は複数のパラメーターに基づいて動員された神経を識別するように適合されている。制御ユニットは、情報を送信して、1つ又は複数のモードで神経動員を表示するように構成されている。第1のモードでは、神経動員は、ECAP波形と筋電波形の集合体の形で表示される。第2のモードでは、神経動員は、対応する線維型が付された波形として表示される。第3のモードでは、神経動員は、動員された線維型を示すタイミング区分を有する波形として表示される。第4のモードでは、神経動員は、伝導速度などの線維の特性と共に表示される。
【0111】
いくつかの実施形態では、外部装置は、1つ又は複数の電極を操作するように適合されている。外部装置は、パドルリード、円筒形リード、及びカフ電極を介してパルスを送達するように適合されている。さらに、外部装置は、前述の電極の任意の組み合わせで動作するように構成されている。
【0112】
埋め込み装置:いくつかの実施形態では、埋め込み装置は、患者の体内に埋め込まれることを除いて、外部装置としてのすべての機能を果たすように構成されている。
【0113】
いくつかの実施形態では、刺激によって誘発される電気生理学的反応をリアルタイムで表示することができる。いくつかの実施形態では、これらの反応をさらに処理して、SN比を高めることができる。例えば、平均化を使用して、各個別の反応で検出されるランダムノイズを減らすことができ、適合及び除外アルゴリズム(fit−and−remove algorithm)を使用して、信号のアーチファクト成分を減らすことができる。これらの信号を使用して、特定の線維型の活性化又は特定の線維型を認識することができる。次に、刺激パラメーターを、表示された反応によって示されるように線維の所望のサブセットの線維活性化を最適化するように、試行錯誤、ブルートフォース探索(brute force exploration)、又は刺激パラメーター空間の任意の適切な検索技術のいずれでも変更することができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、電気生理学的反応グラフの軸は、反応の解釈を容易にするために表示を付すことができる。例えば、刺激電極と記録電極の構成に基づいて、反応グラフの軸に表示を付して、所与の線維型の反応が存在する場合にそれを記録するべき時間を示すことができる。
【0115】
いくつかの実施形態では、神経反応は、刺激によって動員された線維型を特定するのを容易にするためにマーク及び/又は表示を付すことができる。例えば、反応のピークには、時間と振幅のパラメーターで表示を付すことができる。
【0116】
いくつかの実施形態では、様々な刺激パラメーターを用いる反応の形態の変化を使用して、ピークが十分に定義されていないECAPにおける線維型の寄与を特定することができる。一例では、電流がゆっくりと増加し、ECAP形状が観察されるか、又は自動的に処理された。初めに、最大の線維が外部刺激に最初に反応し、より高い振幅でのECAP形態の変化は、第2のより遅い線維型の動員を示すことができる。別の例では、刺激の頻度を適切なレベルに上げることができ、反応を経時的に観察した。小さい線維が最初に疲労し、より大きい線維が最後に疲労する。形態の経時的な変化を使用して、ECAPのどの部分がどの線維型に関連しているかを決定することができる。さらに、刺激周波数の増加時の筋電反応の振幅の減少は、筋肉の疲労、又はH反射の抑制が原因であり得る。これらの特性及びその他の特性を使用して、刺激される線維型を決定することができる。
【0117】
いくつかの実施形態では、記録された神経反応に対して処理を行って、電気生理学的反応の記録の異なる要素の伝導速度の推定値を表示することができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、電気生理学的反応の記録は、動員されている各型の線維数の推定値が表示されるように処理することができる。場合によっては、推定値から、線維型の割合又は活性化されている線維数の絶対推定値を得ることができる。
【0119】
いくつかの実施形態では、標的の電気生理学的反応に近づけるために、刺激パラメーターをフィードバック構成に自動的に適合させることによって一定の神経動員に近づくように刺激を行うことができる。一例では、B線維は、混合神経で優先的に標的化される。B線維の動員を最適化する刺激電極及びパラメーターを選択した後、電流(又は別のパラメーター)を自動的に調整して、一定の反応振幅を維持することができる。別の例では、遅発反応を運動線維活性化の代用手段として使用することができ、次に、刺激を自動的に調整して、一定の遅発反応振幅を維持することができる。
【0120】
電気生理学的反応又はその一部の振幅は、ピーク振幅、ピークピーク振幅、曲線下面積、フィルターによるコンボリューション、又は他の任意の方法を評価することによって実現することができる。
【0121】
いくつかの実施形態では、埋め込み装置は、標的化された線維型に対して閉ループ刺激を確立するように構成することができる。例えば、フィードバックループは、混合神経におけるB線維の神経反応に対して確立することができる。本明細書に開示される方法は、埋め込み装置が、特定の線維型の神経反応に対してフィードバックループを確立することを可能にする。埋め込み装置は、神経反応に基づいて線維型を決定するように構成されているため、埋め込み装置は、標的の線維型の反応に基づいて閉ループ刺激を維持することができる。埋め込み装置は、限定されるものではないが、Aα線維、Aβ線維、Aδ線維、B線維、及びC線維を含む線維型の少なくとも1つ又は複数に対して閉ループ刺激を維持することができる。いくつかの場合には、閉ループ刺激は、刺激によって誘発された筋電反応に対して維持することができる。所望の反応が観察できない場合は、別の反応を、閉ループ刺激を確立及び維持するための代用手段として使用することができる。
【0122】
いくつかの実施形態では、神経動員は、例えば、リードの動きを示し得る大きな変動を自動的に監視することができる。一例では、有効性の喪失につながる電極位置の変化を、電流振幅を僅かに変化させて反応プロファイルを監視することによって装置で試験することができる。刺激振幅の変動で変化が観察されない場合、警告信号が使用者に送信されるか、刺激が停止されるか、又は他の適切な動作が行われる。
【0123】
いくつかのさらなる実施形態では、埋め込み装置は、刺激パルスによって動員される線維型をチェックするように構成することができる。この機能を使用して、刺激期間の大部分で所望の線維型が確実に動員されるようにすることができる。場合によっては、埋め込み装置が閾値を超える期間に線維型の反応を検出できないと、埋め込み装置は、所望の線維型がもはや動員されていないという警告を患者に発することがある。そのような場合、医師は考えられる原因を検討し、改善策を講じることができる。他の実施形態では、そのような事象では、刺激パラダイムの自動再構成などの別の動作を行うことができる。或いは、そのような機能は、臨床医のプログラマー装置などの外部装置によって行うことができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、連続的な監視を用いて、ほぼ一定の神経動員を維持すること、及びリードの配置又は神経特性の実質的な変化を警告することができる。さらなる実施形態は、次の修正刺激パルスを加える前に、フィードバックループの完全性の試験を提供することができる。これは、電流が増加すると反応も確実に増加するようにして行うことができる。これにより、信号が消失したときに(姿勢を変えて信号が消失したとき、又は充電器若しくは別の干渉源が作動されたときに発生し得る)、ループが発散するのを防止することになる。
【0125】
いくつかの実施形態では、方法及び装置は、迷走神経刺激、後根刺激、仙骨神経刺激、又は前根刺激に適用することができる。いくつかの実施形態では、方法及び装置は、同時に又はタンデムで複数の部位で使用することができる。例えば、この装置は、仙骨神経と、膀胱及び腸を神経支配する胸下部又は腰上部の前根で使用することができる。理論によって制限されることなく、そのような装置は、膀胱及び腸の制御に特異的な部位で交感神経系及び副交感神経系の両方を刺激できることが提案されている。脊髄及び/若しくは迷走神経の前根、並びに/又は仙骨神経を刺激することにより、標的が、膀胱及び腸ではなく、心臓、喉頭、気管、気管支、食道、胃、肝臓、膵臓、小腸、脾臓、大腸、腎臓、又は生殖器のいずれか1つ又は複数などである同様の実施形態が可能になり得る。例えば、肝臓の交感神経及び副交感神経刺激は、胸髄T5〜T12の交感神経線維及び迷走神経に由来する副交感神経線維を刺激することによって達成することができる。迷走神経刺激は、過去の解決策では喉、嚥下筋、及び声帯などの疲労を引き起こし、過去の解決策では不必要に動員される線維型の刺激を選択的に回避することによって本発明のいくつかの実施形態により改善することができる。また、脊髄の部分的な病変は、特定の線維を標的化することによって最もよく治癒する可能性があることにも留意されたい。
【0126】
他の実施形態では、プログラミング及び表示モジュールは、埋め込み装置の一部である必要はない。そのような実施形態では、埋め込み刺激装置自体は、制御モジュールによって設定されたプログラムのみを実行し、反応が、埋め込み装置ではなく外部プログラマーでのみリアルタイムで又は後に観察される。
【0127】
従って、前述は、線維型の動員における患者間の大きな変動、及び動員された線維の数に対する著しい姿勢に関連する影響を明らかにしている。さらに、動員された線維型と試験結果との間には明確な違いがあった。これらのヒトでの最初の結果は、電気生理学的反応の記録を使用して、SNS療法によって動員された線維型を特定できること、及び線維型が治療効果と相関し得ることを示している。これらの結果は、改善された標的化、及び治療を大幅に改善する可能性のある閉ループSNSへの道を開く。
【0128】
特に、本発明の線維標的化により、一部の対象は、刺激レベルを設定するために従来使用されていたはずである筋肉反応閾値又は感覚反応閾値よりも桁違いに低い刺激レベルで効果的な治療を達成することが可能になった。これにより、バッテリの寿命が何倍も長くなることになる。
【0129】
フィードバックプロセスを制御するために継続的に線維型の標的化を行う実施形態は、姿勢の変化、咳、及びくしゃみなどで生じる神経に対するリードの動きに反応するというさらなる利点を有する。刺激を単一の高レベルに固定する従来のアプローチとは対照的に、電気生理学的測定に基づくフィードバックの使用により、所望の線維型が継続的に刺激パラメーターを適切に調整することによって確実に連続で動員されるように、刺激を絶えず修正することが可能になる。同様の利点は、所望の線維型の動員の消失を単に検出し、例えば臨床支援を求めるように使用者に警告を発するより単純な実施形態でも得ることができる。或いは、刺激パラダイムの自動修正は、決定された刺激パラダイムが所望の線維型を動員することに失敗した場合に、いくつかの実施形態で行うことができる。
【0130】
実施例で挙げられた線維型は、現在の理解に基づいており、本発明の適用を限定すると見なされるべきではないことを理解されたい。
【0131】
記載された電子機能は、プリント回路基板に取り付けられた個別の構成要素によって、及び/又は集積回路の組み合わせによって、及び/又は特定用途向け集積回路(ASIC)によって実施することができる。
【0132】
当業者であれば、広く記載されている本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように、多数の変形及び/又は修正を本発明に対して行うことができることを理解されよう。従って、本実施形態は、すべての点で例示的であり、限定も制限もするものではないと見なされるべきである。
【国際調査報告】