特表2021-522061(P2021-522061A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-522061窒素ドープされたTiO2ナノ粒子及び光触媒におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-522061(P2021-522061A)
(43)【公表日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】窒素ドープされたTiO2ナノ粒子及び光触媒におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20210802BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20210802BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20210802BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20210802BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20210802BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20210802BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20210802BHJP
   C02F 1/30 20060101ALI20210802BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20210802BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20210802BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20210802BHJP
   A61L 9/18 20060101ALI20210802BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20210802BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J37/04 102
   B01J37/08ZAB
   B01J35/02 H
   B01J37/02 301B
   B01J27/24 A
   C01G23/053
   C02F1/72 101
   C02F1/30
   C02F1/32
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   A61L9/18
   A61L9/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2020-561747(P2020-561747)
(86)(22)【出願日】2019年5月2日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月25日
(86)【国際出願番号】IB2019053592
(87)【国際公開番号】WO2019211787
(87)【国際公開日】20191107
(31)【優先権主張番号】102018000004987
(32)【優先日】2018年5月2日
(33)【優先権主張国】IT
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519399785
【氏名又は名称】コロロッビア コンサルティング ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ジョバンニ バルディ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ ニッコライ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ビトッシ
(72)【発明者】
【氏名】バレンティーナ ダミ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア チョニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャーダ ロレンツィ
【テーマコード(参考)】
4C180
4D037
4D050
4G047
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180BB08
4C180BB09
4C180CC03
4C180CC15
4C180CC16
4C180CC17
4C180DD03
4C180DD04
4C180EA02Y
4C180EA22Y
4C180EA27Y
4C180EA28Y
4C180EA34X
4C180EB22Y
4C180EB24Y
4C180EB30Y
4C180EB32Y
4C180EB33Y
4C180EB34Y
4C180HH19
4C180MM10
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4D037AA11
4D037AB02
4D037AB03
4D037AB04
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4D037BA18
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4D050AB12
4D050AB34
4D050BC06
4D050BC09
4G047CA02
4G047CB05
4G047CC03
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4G047CD07
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4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA04C
4G169BA21C
4G169BA48A
4G169BB02C
4G169BB04C
4G169BB20C
4G169BC31C
4G169BC32C
4G169BC35C
4G169BD01C
4G169BD02C
4G169BD04C
4G169BD06A
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4G169CA13
4G169CA17
4G169DA03
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4G169EA02Y
4G169EB19
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC27
4G169FA01
4G169FA02
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4G169FB57
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4G169HD03
4G169HD10
4G169HE02
4G169HE03
4G169HE05
4G169HE07
(57)【要約】
本発明は、ブルッカイト結晶相が存在し、ドープ窒素含有量(mass%)が可視領域における光触媒活性を確実にするのに十分である、窒素ドープされたTiO2の粉末又はすぐに使用可能なナノメートルの懸濁液を含む、紫外光、可視光及び日光での照射の下で活性である光触媒に関する。光触媒は様々な性質の基材に容易に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒及び/又は水性溶媒中の窒素ドープされたTiO2(TiO2−N)ナノ粒子の懸濁液であって、TiO2−Nナノ粒子が少なくとも、ナノ粒子の質量に対して10〜99mass%の量のブルッカイト結晶相及びナノ粒子の質量に対して25〜90mass%の量のルチル結晶相を含む、ナノ粒子の懸濁液。
【請求項2】
ブルッカイト結晶相がナノ粒子の質量に対して10〜75mass%の量である、請求項1に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項3】
TiO2−Nナノ粒子がアナターゼ結晶相をさらに含む、請求項1又は2に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項4】
アナターゼ結晶相がナノ粒子の質量に対して1〜10mass%の量である、請求項3に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項5】
アナターゼ結晶相がナノ粒子の質量に対して25〜90mass%の量である、請求項3に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項6】
TiO2−Nナノ粒子がナノ粒子の質量に対して1〜5mass%、好ましくは1.5〜3mass%の窒素ドープ含有量を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項7】
少なくとも1つの殺生物剤、好ましくは銀塩若しくは銀ナノ粒子、ZnOナノ粒子、銅塩若しくは銅ナノ粒子又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つの殺生物剤を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノ粒子の懸濁液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子の懸濁液の基材への堆積と、溶媒の除去とによって得ることができるTiO2−Nナノ粒子。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒素ドープされたTiO2(TiO2−N)ナノ粒子の懸濁液を調製するためのプロセスであって、
a)水中のTiO2ナノ粒子の懸濁液を調製する工程;
b)窒素含有ドープ剤を懸濁液に添加して、均質になるまで混合する工程;
c)0〜15mass%の水性残余物を有する粉末を得るまで、窒素含有ドープ剤を添加した懸濁液を乾燥する工程;
d)乾燥した粉末を400〜600℃の温度で焼成して、焼成された粉末を得る工程;
e)焼成された粉末を有機溶媒及び/又は水性溶媒中で粉砕して、溶媒中のTiO2−Nナノ粒子の懸濁液を得る工程;
f)工程e)の懸濁液を追加の溶媒で希釈する工程
を含む、プロセス。
【請求項10】
工程a)の水中のTiO2ナノ粒子の懸濁液がアナターゼ結晶形のTiO2ナノ粒子の懸濁液である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
工程b)において、窒素含有ドープ剤が、無機アンモニウム塩及び窒素含有有機化合物から選択され、好ましくはクエン酸アンモニウム又はトリエタノールアミンである、請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項12】
乾燥工程c)の温度が100〜150℃、好ましくは110〜140℃であり、乾燥が10〜24h、好ましくは15〜20hの時間で行われる、請求項9〜11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
工程d)の焼成が、好ましくは、450〜500℃の温度で及び1〜2hの時間で、好ましくは、加熱勾配が7〜14℃/minであることができる1又は2hの傾斜で行われる、請求項9〜12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
工程e)において、粉砕が1000〜2000rpmの速さで、30〜120min、好ましくは80〜100minの時間で行われる、請求項9〜13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
工程e)及びf)において用いられる溶媒がエチルアルコール、アセトン、水又はそれらの混合物から選択される、請求項9〜14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
工程f)の間に、少なくとも1つの殺生物剤、好ましくは銀塩若しくは銀ナノ粒子、ZnOナノ粒子、銅塩若しくは銅ナノ粒子又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つの殺生物剤が懸濁液に添加される、請求項9〜15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
請求項9に記載の工程a)〜d)を含む、窒素ドープされたTiO2(TiO2−N)の焼成された粉末を調製するためのプロセス。
【請求項18】
TiO2−Nが少なくとも、粉末の質量に対して10〜99mass%の量のブルッカイト結晶相及び粉末の質量に対して25〜90mass%の量のルチル結晶相を含む、請求項17に記載のプロセスを用いて得ることができる、TiO2−Nの焼成された粉末。
【請求項19】
有機汚染物、好ましくはNOX、VOCs及びVOCs、バクテリア、カビ又は臭気についての空気又は水の汚染除去のための紫外光及び/又は可視光活性の光触媒としての、請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子の懸濁液の、請求項8に記載のナノ粒子の、又は請求項18に記載の焼成された粉末の使用。
【請求項20】
プラスチック、テキスタイル、不織物、金属、ガラス又はセラミック基材をコーティングするための、好ましくはガラス、セラミック、金属、テキスタイル材料、不織物ファブリック材料、紙、ボール紙及びプラスチック材料のうちから選択され、プラスチック材料が好ましくはPMMA(ポリメチルメタクリレート)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PLA(ポリ乳酸)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PVC(塩化ポリビニル)及びPS(ポリスチレン)から選択される基材をコーティングするための、請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子の懸濁液の使用。
【請求項21】
基材が好ましくは空気又は水の浄化のためのフィルターである、請求項8に記載のTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた基材。
【請求項22】
紫外光及び/又は可視光の光源、及び任意選択で請求項8に記載のTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた基材を含む、全体的に又は部分的に請求項8に記載のTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた、空気若しくは水の汚染剤(polluting agent)の低減のための装置、又は照明システム。
【請求項23】
照明システムが、LEDパネル、プロジェクター、白熱電球又は装飾物、例えばシーリング照明器具、ランプ若しくはシャンデリアから選択され、鎖状に連続して配置されているか又は鎖状に連続して配置されていないことができる1つ又は複数の照明要素のための支持体を含み、照明要素が、内部及び/又は外部の光拡散表面、及び好ましくは換気及び/又は空気分配システムを有する、請求項22に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は空気の浄化のための汚染剤(polluting agent)の光触媒分解の分野に属する。特に、本発明は、粉末又は溶媒中のナノ粒子の懸濁液の形態の窒素ドープされたTiO2を含む生成物(およびその調製のためのプロセス)に関する。生成物は、紫外線照射を受けるときだけでなく、可視光又は日光による照射の場合においても、活性な光触媒として使用するために適している。
【背景技術】
【0002】
化学物質の光分解プロセスにおける光エネルギーの使用(例えば液相又は気相中の汚染物質の低減、水分解による水素の製造など)は、現在では科学的、技術的観点からおおいに関心を持たれている研究分野の1つであり、並びに最も工業が発展した国々によって資源の投入の対象とみなされている。この領域において、主要な役割は二酸化チタン(TiO2)をベースとした光触媒によって果たされていて、その理由は、二酸化チタン(TiO2)の使用が、低コスト、高い利用可能性、無毒性、化学的及び熱的安定性並びに高い酸化力を含む多数の利点を有するためである。しかし、二酸化チタンベースの光触媒を使用することの最大の難点は、その光触媒が、約387nmより小さい波長のみを有する光を吸収する、TiO2の比較的広いバンドギャップエネルギー(Eg=3.0〜3.2eV)のために、紫外領域の間の波長(λ=350〜400nm)を有する適した光源によって照射された場合のみ活性であることである。日光は、我々にとって、最も豊富な、利用可能な及び再生可能なフォトン源である。太陽光の照射の約50%は、赤外領域(近赤外(NIR)、近可視)で発され、一方で残りは可視領域で、5%のみが紫外領域で発される。この理由のため、可視領域に対する二酸化チタンの光触媒性能を向上する目的で、並びに太陽光のスペクトル及び室内照明のための通常のランプに由来する可視光照射による励起の下で活性である光触媒を開発する目的で、多くの努力がされてきて、それゆえに、紫外ランプの使用に結び付いた高コスト及び利用可能性の問題が克服された。
【0003】
従って、可視光照射の非吸収の問題を解決するために、様々な計画が行われ;これらの計画は、酸素欠陥を導入すること、又は遷移金属(例えばCu、Ni、Co、Mn、Fe、Cr、Mo、V及びW)、貴金属(例えばAu、Ag及びPt)、希土類元素並びにごく最近では、非金属(例えばC、N、P、S、Fなど)でドープすることによって、TiO2を改質することを含む。特に、窒素でドープすることは可視領域におけるTiO2の活性を改善するための最も効果的な手法の1つである。
【0004】
Satoによる文献(S.Sato、Chem.Phys.Lett. 123 (1986) 126−128)で1986年に報告された、可視領域における光触媒感応性を有する窒素ドープされたTiO2の最初の例の1つから始まり、この材料の調製及び特徴づけのための方法についての多数の研究がされてきた。
【0005】
従来技術において公知であるTiO2−Nを調製する様々な「湿式化学」法の中で、例えばLivraghiによる文献(S.Livraghiら、Journal of Solid State Chemistry 182 (2009) 160−164)中にあるような、TiO2の前駆体を含有する懸濁液への窒素源の添加を通して二酸化チタンの合成と同時にドープを行うプロセス、又はTiO2の前もって形成されたコロイド溶液から開始して、第二の工程(中国特許第1736584号明細書)において窒素源が溶液に添加されるプロセスを認めることができる。この場合、最終生成物は、乾燥プロセス及び続く300〜650℃で0.5〜6hの焼成の後に、ナノ−TiO2−N粉末(アナターゼ)の形態で得られる。
【0006】
さらに、文献において、一般に、TiO2の光触媒活性は、他の因子、例えば結晶構造、粒子サイズ、表面形態及びポロシティなどの因子に影響を受ける場合があることが公知である。
【0007】
これらの因子の中で、結晶構造は、光触媒性能に最も影響を与える因子である。
【0008】
二酸化チタンは、多形(polymorphism)を示す、すなわち酸化チタンは1つ以上の結晶構造で存在する。4つの一般に公知であるTiO2の結晶相:アナターゼ(正方晶)、ルチル(正方晶)、ブルッカイト(斜方晶)及びTiO2(B)(単斜晶)が存在する。
【0009】
TiO2の最も一般的な結晶相の中で、すなわち(最も熱力学的に安定な相でもある)アナターゼ及びルチルの中で、当分野の現状において、アナターゼは最も優れた感光性を有する相であると考えられている。この理由のため、TiO2ベースの光触媒についての多くの調査は、アナターゼ、ルチル又はそれらの二相性の組成物に注力されてきた。
【0010】
対照的に、ブルッカイト相はそれほど注目を受けていなかった。この関心の欠如は、ブルッカイトの光触媒活性のためではなく(実際には光触媒の観点からは非常に活性である)、むしろブルッカイトの準安定性及び高いパーセンテージで得ることの難しさのためであるということに注意することが重要である。
【0011】
窒素ドープされたTiO2をベースとした光触媒は、欧州特許出願公開第2000208号明細書において説明されている。この文献において、結晶形、アナターゼ、ルチル若しくはブルッカイトのいずれかの、又は前述の結晶相の2つ以上を含む混合結晶形の、生成物を得る可能性について記載されている。しかし、可視領域における生成物の光触媒活性が減じるのを回避するために、最終光触媒は、ドープする窒素の含有量において0.1mass%より少なく保たれるべきであるという制限を示している。
【0012】
この状況において、本発明の基礎における技術的な務めは、現在のTiO2−Nベースの光触媒に対して同等の有効性又はより高い有効性を有する、及び必ずしも高い温度に対する(従って焼成に対する)抵抗があるわけではない種々の基材、TiO2−Nを含む多くの類似の製品の分野の現状において存在する問題をカバーするのに適合することができる、現在のTiO2−Nベースの光触媒に対する最適化された代替物を提案することである。前記の技術的な問題は本発明によって克服され、本発明は、紫外領域及び可視領域の両方において光触媒活性を有する窒素ドープされたTiO2ナノ粒子の粉末又は安定な懸濁液を有する光触媒(及びその調製のためのプロセス)を提供し、ブルッカイト結晶相が存在し、光触媒の窒素含有量が可視光の吸収を確実にするのに十分である。光触媒は、多様な異なる基材に、公知の工業的システムによって、特に高い温度に対して抵抗のない基材にもまた、容易に適用することができる。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、紫外光、可視光及び日光による照射の下で活性である、窒素ドープされたTiO2(TiO2−N)の粉末又はすぐに使用可能なナノメートルの懸濁液を含む、光触媒に関するものであり、TiO2−Nはまたブルッカイト結晶相中に存在し、光触媒の窒素含有量(mass%)は可視領域における光触媒活性を確実にするのに十分である。1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子(又はTiO2−N粉末)は、少なくとも2つの結晶相:ブルッカイト結晶相、及びルチル結晶相又はアナターゼ結晶相を含む。別の実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、3つの結晶相:ブルッカイト結晶相、アナターゼ結晶相及びルチル相を含む。
【0014】
本発明はまた、異なる性質(例えば高い温度に抵抗がある又は抵抗がないという両方の性質)の基材、例えばガラス、セラミック、金属、ファブリック並びに様々なプラスチック材料、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PLA(ポリ乳酸)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PS(ポリスチレン)及び類似のものを含むプラスチック材料へのコーティング用途のための光触媒の使用に関する。
【0015】
本発明はまた、好ましくはアナターゼ結晶形である、窒素源が添加されたTiO2ナノ粒子の水性懸濁液を前駆体として使用する、本発明の生成物の調製のためのプロセスに関する。得られた懸濁液は、乾燥プロセス及び続く焼成を受けて、窒素によるドープを得る。
【0016】
溶液中の得られた粉末を再分散するための粉砕工程、及び光触媒としてすぐに使用可能な窒素ドープされたTiO2のナノメートルの懸濁液を調製するための溶媒中のさらなる希釈の工程の前に、任意選択で焼成工程がある場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Sympatec HELOS 乾式分散レーザー(H0969)を用いて行った、実施例2の粉末サンプル(焼成前)の粒子サイズ分析である。
図2】焼成前の、噴霧乾燥技術を用いた乾燥によって得られた実施例2の粉末サンプルの示差走査熱量測定(DSC)のグラフである。
図3】せっ器(stoneware)オーブン皿中の実施例2の焼成された粉末の写真である。
図4】実施例2により焼成された粉末のディフラクトグラムである。
図5】実施例2により得られた焼成された粉末の、3000K LEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図6】実施例2により得られた焼成された粉末の、青色LEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図7】実施例3により調製されたサンプルの、3000K LEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図8】実施例4により調製されたサンプルの、25Wの電力のクールホワイトLEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図9】実施例6の焼成された粉末のディフラクトグラムである。
図10】実施例6により得られた焼成された粉末の、3000K LEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図11】実施例7による、TECNAN社によって販売されている商業用の窒素ドープされたTiO2の焼成された粉末のディフラクトグラムである。
図12】実施例7による、TECNAN社によって販売されている商業用の窒素ドープされたTiO2の焼成された粉末から得られた懸濁液を用いて調製されたサンプルの、3000K LEDを用いた照射による汚染物の低減における傾向を示すグラフである。
図13】それぞれ、実施例8による、Journal of Industrial and Engineering Chemistry 53 (2017) 253−260でP.A.K.Reddyらによって説明されているサンプルNTU−2.5のXPSスペクトル(図13a))、及び実施例2によって調製された本発明によるサンプルのXPSスペクトル(図13b))である。
【0018】
本発明の意図するところについて、定義:「ナノ粒子の懸濁液」及び「ナノ粒子懸濁液」は同意語とみなされ、細かく細分された固体ナノ粒子が溶媒中で、例えば水及び/又はアルコール中で、短時間で沈殿しないような方法で分散している混合物をいう。
【0019】
本発明は、窒素ドープされたTiO2ナノ粒子(TiO2−N)の懸濁液を調製するためのプロセスであって、
a)水中のTiO2ナノ粒子の懸濁液を調製する工程;
b)窒素含有ドープ剤を懸濁液に添加して、均質になるまで混合する工程;
c)0〜15mass%の水性残余物を有する粉末を得るまで、窒素含有ドープ剤を添加した懸濁液を乾燥する工程;
d)乾燥した粉末を400〜600℃の温度で焼成して、焼成された粉末を得る工程;
e)焼成された粉末を溶媒中で粉砕して、溶媒中のTiO2−Nナノ粒子の懸濁液を得る工程;
f)工程e)の懸濁液を追加の溶媒で希釈する工程
を含むプロセスに関する。
【0020】
工程a)の水中のTiO2ナノ粒子の懸濁液は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる同一の出願人の国際公開第200788151号において説明されるプロセスによって調製される安定な懸濁液である。
【0021】
特に、工程a)の水中のTiO2ナノ粒子の懸濁液はアナターゼ結晶形のTiO2ナノ粒子の懸濁液である。
【0022】
懸濁液中のTiO2ナノ粒子は、当分野において公知の方法を用いて、例えばFEG−SEM(走査電子顕微鏡)、TEM(透過電子顕微鏡)及びDLS(動的光散乱法)などの方法を用いて測定して、30〜50nmのサイズを有する。前記ナノ粒子の多分散指数は0.3より小さく、好ましくは0.21〜0.29であり、より好ましくは0.216〜0.286である。
【0023】
水中に懸濁されたTiO2ナノ粒子の濃度は、1〜10mass%、好ましくは2〜8mass%である。
【0024】
ナノ粒子の懸濁液は、コアギュレーション(coagulation)又はコングロメレーション(conglomeration)の現象を示すことなく、長期間の間安定である。従って、このような懸濁液は、国際公開第200788151号のプロセスによって調製することができ、本発明によるプロセスのための出発生成物として使用される前に、次いで、長い時間貯蔵することもまたできる。
【0025】
水中のTiO2ナノ粒子の、好ましくはアナターゼ結晶形のナノ粒子の懸濁液を得るためのプロセスは、水中のチタンアルコキシドが、15〜95℃の温度での及び12h〜72hの時間の、非イオン性界面活性剤、特にTriton X−100の存在の下での酸加水分解を受ける第一の工程を含む。
【0026】
チタンアルコキシドは、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンn−ブトキシド及びチタンイソブトキシドのうちから選択される。
【0027】
チタンアルコキシドの酸加水分解のために使用される鉱酸は、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素のうちから選択される。
【0028】
工程b)において、無機アンモニウム塩及び窒素有機化合物から選択される窒素含有ドープ剤が、水中のTiO2ナノ粒子の、好ましくはアナターゼ結晶形のナノ粒子の懸濁液に添加される。窒素含有ドープ剤は、好ましくはクエン酸アンモニウム及びトリエタノールアミンから選択される。クエン酸アンモニウムは、懸濁液の乾燥のプロセス及び容易さの観点でトリエタノールアミンより良好な結果を提供し、従って本発明の目的のための好ましい窒素含有ドープ剤である。窒素含有ドープ剤は、TiO2ナノ粒子の水性懸濁液に、2〜6mass%、好ましくは3〜5mass%の量で添加される。
【0029】
TiO2ナノ粒子の水性懸濁液への窒素含有ドープ剤の添加は撹拌の下で行われ、白色のゲルの形成が観察される。
【0030】
次いで、懸濁液は、撹拌の下で4〜24hの時間、すなわち均質な白色の懸濁液を得るまで、保持される。
【0031】
得られた懸濁液は、TiO2の質量に対して、4〜8mass%のTiO2及び6〜30mass%の窒素を含む。懸濁液は、TiO2の質量に対して、好ましくは5〜7mass%のTiO2及び8〜25mass%の窒素を含む。
【0032】
得られた懸濁液は、DLS(動的光散乱法、Malvern装置)でZ平均として測定するとき、48〜150nmのサイズを有するTiO2ナノ粒子を含む。48〜150nmの範囲は、0.3より小さい、好ましくは0.21〜0.29、より好ましくは0.216〜0.286の多分散指数で、ナノ粒子が48〜150nmの整数又は少数に等しいZ平均を有することを意味する。このような多分酸性の値は、懸濁液のナノ粒子の優れたサイズ均一性を示唆する。従って、例えばナノ粒子のZ平均値が、0.221の多分散指数で49.9に等しい場合、このことは、懸濁液が非常に均一なナノ粒子を含むことを意味し、ほぼ全てのナノ粒子は約49.9nmの直径を有する。
【0033】
このようにして得られたTiO2ナノ粒子の懸濁液は、工程c)において、噴霧乾燥技術、ガス若しくは電気オーブンを用いて、又はマイクロ波による加熱によって乾燥を受ける。後者のプロセスは、従来の噴霧乾燥技術の使用と比較して、より効率的かつ速いため、後者の処理が好ましく;さらに、マイクロ波を用いた処理は、小規模のアグリゲーション(aggregation)/アグロメレーション(agglomeration)を有する粉末を得ることを可能とし、続く粉砕工程(工程e))をより効率的にする。
【0034】
乾燥温度は100〜150℃、好ましくは110〜140℃である。乾燥は、10〜24h、好ましくは15〜20h続けることができる。
【0035】
乾燥の終わりには、0〜15mass%の水残余物及び良好な流動性を有する非常に細かい粉末が得られる。
【0036】
粉末の粒子サイズは、SympatecモデルHELOSレーザー(H0969)を使用するレーザー回折によって計算するとき、20μmより小さい、好ましくは15μmより小さい。好ましくは、粉末粒子の99%は15μmより小さい粒子サイズを有し、粉末粒子の90%は11μmより小さい粒子サイズを有する。より好ましくは、粉末粒子の50%は5.5μmより小さい粒子サイズを有し、粉末粒子の10%は2μmより小さい粒子サイズを有する。
【0037】
工程d)の焼成は、好ましくは450〜500℃の温度で行う。
【0038】
加熱は、マッフル炉中で乾燥された粉末を処理することによってか、又はマイクロ波によって行われる。マイクロ波によるプロセスは、マッフル炉中での従来の加熱が使用されるときより効率的かつ速いため、マイクロ波による処理が好ましく;さらに、マイクロ波処理は、小規模のアグリゲーション/アグロメレーションを有する粉末を得ることを可能とし、続く粉砕工程(工程e))をより効率的にする。
【0039】
焼成は、1〜2hの時間、好ましくは焼成温度に到達するような1又は2hの傾斜で行われる。加熱勾配は7〜14℃/minであってよい。
【0040】
焼成工程の間、TiO2が窒素でドープされ、窒素はTiO2ナノ粒子中に入り込み、窒素は、TiO2の結晶格子中の置換型位置に、及び/又は侵入型位置に、すなわちTiO2の結晶面中に位置する。
【0041】
焼成された粉末は、窒素ドープされたTiO2(TiO2−N)のアグリゲート粉末と考えられ、X線回折分析によって明らかにされるとき、焼成された粉末の質量に対して10〜99mass%の量でブルッカイト結晶相を少なくとも有する。
【0042】
1つの実施態様において、焼成された粉末はルチル結晶相をさらに含む。1つの実施態様において、少なくともブルッカイト結晶相及びルチル結晶相を含む焼成された粉末は、アナターゼ結晶相もまたさらに含む。
【0043】
1つの実施態様において、焼成された粉末は、焼成された粉末の質量に対して90〜99mass%のTiO2のブルッカイト結晶相を含み、100%に対する残りの量はルチル及び/又はアナターゼ結晶相である。
【0044】
1つの実施態様において、TiO2−Nの焼成された粉末は、TiO2の少なくとも2つの結晶相:焼成された粉末の質量に対して10〜99mass%の量のブルッカイト結晶相及び焼成された粉末の質量に対して25〜90mass%の量のルチル結晶相(さもなければアナターゼ結晶相)を含む。
【0045】
1つの実施態様において、TiO2−Nの焼成された粉末は、TiO2の少なくとも2つの結晶相:焼成された粉末の質量に対して10〜75mass%の量のブルッカイト結晶相及び焼成された粉末の質量に対して25〜90mass%の量のルチル結晶相(さもなければアナターゼ結晶相)を含む。
【0046】
1つの実施態様において、焼成された粉末は、ルチル結晶相(さもなければアナターゼ結晶相)及びブルッカイト結晶相を含み、それぞれは、好ましくは、焼成された粉末の質量に対して約50mass%に等しい量で存在する。
【0047】
1つの実施態様において、焼成された粉末は、TiO2の3つの結晶相:焼成された粉末の質量に対して20〜75mass%の量のブルッカイト結晶相、35〜80mass%の量のアナターゼ結晶相及び焼成された粉末の質量に対して35〜40mass%の量のルチル結晶相を含む。
【0048】
回折分析は上で説明されたTiO2の結晶相以外の層の存在を示さないため、焼成された粉末は95mass%より高い、好ましくは99mass%以上の純度の程度を有する。
【0049】
特定の理論に結び付けられるものではないが、出願人は、少なくともブルッカイト結晶相を含むドープされたTiO2の焼成された粉末の形成は、主に国際公開第200788151号のプロセスによって得られたTiO2の懸濁液の使用に寄与するが、しかしおそらく、この出発生成物の使用と、今説明した乾燥及び焼成工程との組み合わせにもまた寄与すると考えている。
【0050】
出発生成物がアナターゼ相のTiO2から実質的になることを考えると、ブルッカイト相の存在は驚くべき結果であり予期しない結果である。ブルッカイト相は、プロセスの終わりに得られる最終懸濁液の光触媒特性に関して大きな利点をもたらす。
【0051】
従って、本発明のプロセスは、相当な量のブルッカイト結晶相の形成のおかげで、当分野において公知のTiO2−Nベースの光触媒の光触媒特性と同等の又はそれ以上の光触媒特性を示すナノ粒子のTiO2−Nを得ることを可能とする。
【0052】
別の驚くべき結果は、この明細書中のさらに下でよりよく説明されるように、文献において公知であるようにTiO2の最も安定でない結晶相であるブルッカイト結晶相の相当な量の存在にも関わらず、プロセスの終わりに得られたTiO2−Nの懸濁液が6か月にわたって安定であることを示す観察に結びついている。
【0053】
さらに、TiO2中に存在するドープ窒素の量は、1〜5mass%、好ましくは1.5〜3mass%である。この量は、ブルッカイトとアナターゼ相との混合物を含むTiO2−Nを得る可能性を記載している−しかし、趣旨によれば、触媒の観点からは、アナターゼ相についてはよりよく作用するとみなされている−欧州特許出願公開第2000208号明細書によって予想されている量(ドープ窒素の量は0.1mass%より少なくあるべきとしている)よりかなり多い。
【0054】
焼成された粉末は、焼成された粉末を光触媒としてさらに使用するためには、次いで購入者によって処理されなければならない準最終生成物として、それ自体を市場に出すことができる。
【0055】
従って、本発明のさらなる主題は、今説明された工程a)〜d)を含む、焼成された粉末を得るためのプロセスである。プロセスは、準最終の焼成された粉末を得るためのプロセスと定義することもまたできる。
【0056】
あるいは、本発明のプロセスによって、アグリゲート化した焼成された粉末は、非アグリゲート化する及び再懸濁する(プロセスの工程e)及びf))ために、溶媒中で、好ましくは有機溶媒又は水中で粉砕を受けることができる。
【0057】
本発明のプロセスの工程e)において、焼成された粉末は、高エネルギーボールミル中で、溶媒の下で、例えば水、アセトン、エチルアルコール又はそれらの混合物の下で粉砕を受ける。
【0058】
粉砕は、1000〜2000rpmの速さで、30〜120min、好ましくは80〜100minの時間行う。
【0059】
粉砕の終わりに、例えば15〜30mass%のTiO2−Nナノ粒子の濃度値を有する、溶媒中の非常に濃縮された懸濁液が得られる。特に、粉砕の後に得られる懸濁液は、有機溶媒中の、例えばエチルアルコール若しくはアセトン又はその混合物中の、そうでなければ水中の、あるいは水と有機溶媒との混合物中のTiO2−Nナノ粒子の懸濁液である。
【0060】
ナノ粒子のサイズは、DLS(動的光散乱法、Malvern装置)でZ平均として測定するとき、48〜150nmである。48〜150nmの範囲は、0.3より小さい、好ましくは0.21〜0.29、より好ましくは0.216〜0.286の多分散指数で、ナノ粒子が48〜150nmの整数又は少数に等しいZ平均を有することを意味する。このような多分酸性の値は、懸濁液のナノ粒子の優れたサイズ均一性を示唆する。従って、例えばナノ粒子のZ平均値が、0.221の多分散指数で49.9に等しい場合、このことは、懸濁液が非常に均一なナノ粒子を含むことを意味し、ほぼ全てのナノ粒子は約49.9nmの直径を有する。
【0061】
工程e)の終わりに得られた懸濁液は、過剰に濃縮されている場合があり、幾つかの産業上の適用のために、とりわけ基材への適用のために適さないレオロジーを有する場合がある。
【0062】
この理由のために、本発明のプロセスはまた、懸濁液を同一の溶媒で、好ましくは有機溶媒若しくは水又はそれらの混合物で、例えばエチルアルコール、アセトン、水又はそれらの混合物で希釈する、続く工程f)を含む。従って、溶媒中のTiO2−N粉末の最終濃度は、0.1〜20mass%、好ましくは1〜10mass%にされる。
【0063】
基材への適用のために、特に懸濁液のレオロジーは、25℃で測定するとき、好ましくは0.6〜1g/cm3、より好ましくは0.7〜0.9g/cm3の密度、及び0.8〜1.3mPa・s、好ましくは0.9〜1.1mPa・sの粘度を特徴とするべきである。
【0064】
粉砕及び続く希釈から、これらのレオロジー特性を有する懸濁液が得られない場合、密度及び粘度を調整する役割のために当分野において公知である適した添加剤、例えばカルボキシメチルセルロース及びグリコールを添加することによって、密度及び粘度を調整することができる。
【0065】
工業レベルで懸濁液を使用することを可能とするために、特にスプレーコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、ダイコーティング又は膜転写コーティング技術を使用して異なる性質の基材に懸濁液を適用することを可能とするために、懸濁液のレオロジーが重要である。
【0066】
本発明の1つの実施態様において、懸濁液を希釈する工程f)の間、TiO2−Nナノ粒子の懸濁液に、1つ又は複数の殺生物剤、例えば銀を供給するもの(銀塩の形態で、例えば硝酸銀若しくは硫酸銀、又は銀ナノ粒子)、亜鉛酸化物ナノ粒子、銅を供給するもの(銅塩の形態で、例えば硝酸銅若しくは硫酸銅、又は銅ナノ粒子)又はそれらの混合物などを添加することが可能である。このようにして、銀及び/又は亜鉛酸化物及び/又は銅の存在のために、紫外光、可視光又は日光によって照射されていないときであっても抗菌活性を有する、溶媒中の懸濁液を得る。この実施態様において、最終懸濁液中に存在する銀及び/又はZnO及び/又はCuの量は20ppmより多い。
【0067】
本発明のプロセスの最後に得られるTiO2−Nナノ粒子の懸濁液は、焼成された粉末において観察されるのと同じ結晶相を有するナノ粒子を含む。
【0068】
以下で記載される質量%は、ナノ粒子の質量に対する結晶相の質量%として理解される。
【0069】
本発明のさらなる主題は、ナノ粒子が少なくともナノ粒子の質量に対して10〜99mass%の量のブルッカイト結晶相を含む、有機及び/又は水性溶媒中のTiO2−Nの懸濁液である。
【0070】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、ルチル結晶相をさらに含む。
【0071】
1つの実施態様において、少なくともブルッカイト結晶相とルチル結晶相とを含む懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、アナターゼ結晶相をさらに含む。
【0072】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、ナノ粒子の質量に対して90〜99mass%のTiO2ブルッカイト結晶相を含み、100%に対する残りの量はルチル及び/又はアナターゼ結晶相である。
【0073】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、TiO2の少なくとも2つの結晶相:ナノ粒子の質量に対して20〜99mass%の量のブルッカイト結晶相、及びナノ粒子の質量に対して25〜90mass%の量のルチル又はアナターゼ結晶相を含む。
【0074】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、TiO2の少なくとも2つの結晶相:ナノ粒子の質量に対して10〜75mass%の量のブルッカイト結晶相、及びナノ粒子の質量に対して25〜90mass%の量のルチル又はアナターゼ結晶相を含む。
【0075】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、ルチル結晶相(又はアナターゼ結晶相)及びブルッカイト結晶相を含み、好ましくは、それぞれはナノ粒子の質量に対して約50mass%に等しい量で存在する。
【0076】
1つの実施態様において、懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、TiO2の3つの結晶相:ナノ粒子の質量に対して20〜75mass%の量のブルッカイト結晶相、ナノ粒子の質量に対して35〜80mass%の量のアナターゼ結晶相及びナノ粒子の質量に対して35〜40mass%の量のルチル結晶相を含む。
【0077】
TiO2−Nナノ粒子の懸濁液は、溶媒中の、好ましくはエチルアルコール、アセトン、水又はそれらの混合物中の懸濁液である。
【0078】
ナノ粒子は、0.1〜20mass%で、好ましくは1〜10mass%で、好ましくは有機アルコール溶媒、水又はそれらの混合物中に、例えばエチルアルコール又は後者と水との混合物中に存在する。従って、溶媒は80〜99.9mass%の量で存在する。
【0079】
懸濁液中のTiO2−Nナノ粒子は、ナノ粒子の質量に対して1〜5mass%、好ましくは1.5〜3mass%のドープ窒素含有量を有する。
【0080】
懸濁液は、25℃で測定するとき、0.6〜1g/cm3、より好ましくは0.7〜0.9g/cm3の密度、及び0.8〜1.3mPa・s、より好ましくは0.9〜1.1mPa・sの粘度を有する。
【0081】
懸濁液は、上で画定されるように、48〜150nmのサイズを有するTiO2−Nナノ粒子を含む。
【0082】
1つの実施態様において、上で説明されるように、溶媒中に分散されて、TiO2−Nナノ粒子はまた、1つ又は複数の殺生物剤、例えば銀を供給するもの(銀塩又は銀ナノ粒子)、亜鉛酸化物ナノ粒子、銅を供給するもの(銅塩又は銅ナノ粒子)又はそれらの混合物を含む。
【0083】
従って、上で説明される本発明のプロセスはまた、上で画定される結晶相の組成物の特性を有するTiO2−Nナノ粒子の懸濁液を得るためのプロセスとして画定することができる。さらに、プロセスは、上に記載される物理化学的特性を有するTiO2−Nナノ粒子の懸濁液を得るためのプロセスとして画定することができる(個別に又は組み合わせて考えられる)。
【0084】
TiO2−Nナノ粒子の懸濁液は、さらなる処理なしに上で記載されるコーティング技術によって基材をコーティングするために使用することを可能とする物理化学的特性、例えばそのレオロジーを有するために、すぐに使用することができる懸濁液として画定することができる。さらに、従って得られた懸濁液は、沈殿又は相分離を形成することなく、6か月にわたり安定である。
【0085】
懸濁液は、紫外光、可視光又は日光で照射されるとき、正確にはTiO2−Nの光触媒ポテンシャルを増加させるブルッカイト結晶相の存在のために、当分野において公知であるTiO2−Nナノ粒子の光触媒特性に対して同等の又はより優れた光触媒特性を示す。
【0086】
特定の理論に結び付けられることを望むものではないが、ブルッカイト相の、他の2つの結晶相と比較したときにより良好な光触媒特性は、表面光触媒活性は単位格子当たりのTiO2分子の数に依存するために、より大きい格子体積を有するブルッカイト相はまた、より多い光触媒作用のために利用することができる表面酸素の量を有する、という事実に結び付けることができる。
【0087】
紫外光、可視光又は日光の照射の下で、ドープされたナノ粒子は、空気中又は水中に存在する多くの有機物質、例えばNOX、VOCs(揮発性有機化合物)及びVOSs(揮発性有機溶媒)、バクテリア、カビ又は臭気−これらは有機物質及びバクテリアから構成される−の有効な酸化体となり、従ってそれらの低減に寄与し、並びに空気又は水の浄化の結果となるために、本発明のTiO2−Nナノ粒子の懸濁液の光触媒活性は酸化性光触媒活性である。
【0088】
本発明の懸濁液の優秀な光触媒特性を考えるにあたって、本特許の主題はまた、本発明によるTiO2−Nナノ粒子の懸濁液の、紫外光、可視光又は日光で照射されるときに活性な光触媒としての、特に酸化有機汚染物のための、例えば空気中又は水中に存在するNOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気のための酸化性光触媒としての使用である。
【0089】
特に、本発明は、紫外光、可視光又は日光で照射されるときの、光触媒としての、上に記載される結晶相特性及び他の特性を有するTiO2−Nナノ粒子の使用に関する。
【0090】
先に記載されるように、工程d)の後に得られる焼成された粉末はまた、優秀な光触媒特性を有していて、懸濁液の用途と類似した用途のための、すなわち光触媒として、特に酸化有機汚染物のための、例えば空気中又は水中に存在するNOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気のための酸化性光触媒として使用するための、準最終生成物として市場に出すことができる。
【0091】
準最終の焼成された粉末は、光触媒としてさらに使用するために、購入者によって前もって処理される必要がある、例えば粉末は、本明細書において説明されるプロセスの工程e)及びf)による湿式粉砕を受けて、次いで溶媒中で再分散される必要がある。あるいは、焼成された粉末は、工程e)及びf)による粉砕の及び希釈の前処理によってか又はそれらの処理によらずに、床、壁又は建築物の外表面を光触媒性にして、従って有機汚染物の、例えばNOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気の環境を汚染除去することを可能として、優れた空気の質を保持するのに協働するための、床、壁又は建築物の外表面をコーティングするのに使用される染料及び塗料中で細かく分散することができる。この適用は、職場の及び/又は住居環境の壁及び床をコーティングするために特に推奨され、壁及び/床は、例えば家具への塗料に由来するバクテリア、カビ、臭気、揮発性有機溶媒及び揮発性有機化合物(VOCs/VOSs)によってか、及び/又は家具及びクラッドパネルのための最終処理によって同様に放出される物質であるホルムアルデヒドによって、しばしば汚染される。この適用は、屋内及び屋外環境の両方において存在するバクテリア汚染物の低減について、さらに作用することができる。
【0092】
あるいは、焼成された粉末は、それ自体を、多くの工業用途において、例えば臭気吸収体としての使用のための工業用途において、水処理キットにおいて及び呼吸マスクにおいて使用することができる。
【0093】
本発明はまた、空気又は水を浄化して、光触媒作用によって、すなわち紫外光、可視光又は日光による懸濁液の照射によって酸化することができる有機汚染物を取り除くための、TiO2−Nナノ粒子の懸濁液若しくは焼成された粉末の、又はTiO2−Nナノ粒子の使用に関する。
【0094】
特に、本発明は、当分野において公知である技術、例えばスプレーコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、ダイコーティング又は膜転写を使用する、様々な化学的性質の基材をコーティングするためのTiO2−Nナノ粒子の懸濁液の使用に関する。
【0095】
このような基材は、好ましくはプラスチック、ファブリック、不織物、金属、ガラス又はセラミック基材である。
【0096】
本発明の懸濁液でコーティングすることができる基材は、ガラス、セラミック(例えばコーディエライト、ムライト、アルミナ)、金属、ファブリック材料、不織物ファブリック材料、紙、ボール紙及びプラスチック材料のうちから選択される。プラスチック材料は、好ましくは、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PLA(ポリ乳酸)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PVC(塩化ポリビニル)及びPS(ポリスチレン)のうちから選択される。
【0097】
今記載された技術を使用する基材への適用は室温で行われ、それゆえにその適用は、高い温度に対して感受性の高い基材、例えばプラスチック、ファブリック又は不織物ファブリック材料から作られる基材へのコーティングにもまた適用することが可能である。
【0098】
本発明のさらなる主題は、本発明のTiO2−N粉末及び/又は懸濁液を含む染料又は塗料、並びに室内又は室外表面を光触媒性することと、従って有機汚染物の、例えばNOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気の環境を汚染除去することを可能とすることを目的とした室内又は室外表面をコーティングするための前記染料又は塗料の使用である。本発明はさらに、前記染料又は塗料でコーティングされた表面に関する。
【0099】
本発明のさらなる主題は、基材が上に記載される材料のいずれか1つからなる、ナノ粒子の懸濁液でコーティングされた基材である。本発明の懸濁液の適用の後、基材は本発明において示される特性を有するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされる。基材は、好ましくは、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PLA(ポリ乳酸)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PVC(塩化ポリビニル)及びPS(ポリスチレン)のうちから選択されるプラスチック材料から作られる。
【0100】
基材は、例えば、本発明の懸濁液でコーティングすることができ、可視光及び/又は紫外光を供給するものをまた含む装置中に挿入することができる。装置は、空気若しくは水の汚染剤を排除するための装置、又は照明システムであってよい。本発明の懸濁液でコーティングされたフィルターは、装置の電源が入れられたときの可視光又は紫外光での照射によって活性化される。可視光又は紫外光での照射は、本発明のTiO2−Nナノ粒子の光触媒特性の活性化を起こし、従って空気の(NOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気)又は水の有機汚染物の酸化を引き起こして、実際に環境の汚染除去に寄与する。
【0101】
1つの実施態様において、TiO2−Nの懸濁液はまた、好ましくは銀(塩又はナノ粒子の形態で)、ZnO及び/又は銅(塩又はナノ粒子の形態で)のうちから選択される1つ若しくは複数の殺生物剤を含有し、光源の電源が切られてもなお、装置は抗菌の(及び従って空気又は水を浄化する)特性のままである。
【0102】
特に好ましい実施態様において、基材又はフィルターは、気体状の混合物(空気)の通過を可能とするために両端が開いている多数のパラレルコンジットを画定するセラミック壁のマトリックスを含むTiO2−Nナノ粒子の懸濁液の適用のための、適用表面を含む。
【0103】
換言すれば、適用表面は多数のコンジットを含むハニカム構造を有し、そのそれぞれはTiO2−Nナノ粒子でコーティングされていて、それによって、入射フォトンによるTiO2−Nナノ粒子の光触媒特性の活性化によって環境汚染物を吸着及び変質する酸化サイトの多くを画定していて、結果として、適用表面のコンジットを通過する気体状の混合物、特に空気(又は水)の浄化をもたらす。
【0104】
例えば、窒素酸化物は硝酸塩への変質を受け、一方で他の有機性の空気汚染物(例えばバクテリア、カビ、臭気、VOCs及びVOSs)は酸化され、従って炭素残余物及び/又は二酸化炭素を形成する。
【0105】
空気ろ過からもたらされる副生成物は、洗浄して容易に適用表面から除くことができ、従ってその機能を復元することができる。
【0106】
さらなる態様において、本発明はまた、可視光源及び/又は紫外光源、並びに本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた基材又はフィルターを含む装置に関する。装置は、空気又は水の汚染剤を排除するための装置であるか、又は照明システムであってよい。
【0107】
1つの実施態様において、装置それ自体を、スプレーコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、ダイコーティング又は膜転写適用技術を使用して、本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子で全体的に又は部分的にコーティングすることができる。
【0108】
「全体的にコーティングされた」は、装置が、本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた、装置の全体の内部及び外部表面を有することを意味する。換言すれば、装置の内部及び外部表面は、全体でみて、95%より多い、好ましくは98%より多いコーティング割合を有する。
【0109】
「部分的にコーティングされた」は、装置の内部及び外部表面が、全体でみて、99%より少ない、好ましくは95%より少ないコーティング割合を有することを意味する。この場合、例えば、装置の様々な構成要素の表面の幾らかのみが、本発明のTiO2−Nナノ粒子でコーティングされている場合がある。
【0110】
装置は、好ましくは、全体的に又は部分的に(すなわち装置の構成要素の幾らかのみ)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PLA(ポリ乳酸)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PVC(塩化ポリビニル)及びPS(ポリスチレン)のうちから選択されるプラスチック材料で作られている。
【0111】
1つの実施態様において、装置は、全体的に又は部分的に本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされ、本発明によってコーティングされた基材又は空気若しくは水フィルターもまた含む。
【0112】
1つの実施態様において、部分的に又は全体的に本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた、並びに紫外光源若しくは可視光源及び/又はコーティングされた基材若しくはフィルターを含む装置は、照明システムである。
【0113】
照明システムは、部分的に又は全体的に本発明のナノ粒子の懸濁液でコーティングされていることを特徴とする内部及び/又は外部の光拡散表面を有する1つ又は複数の照明要素のための支持体を含む。
【0114】
照明システムはまた、汚染剤の分配を補助する、及び光触媒の活性表面との汚染剤の接触を補助する、換気及び/又は空気分配システムと一体であってよい。
【0115】
1つの実施態様において、照明システムは、光拡散表面が同様に部分的に又は全体的に前述のナノ粒子によってコーティングされた、部分的に若しくは全体的に本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされたスクリーンを含むLEDパネル又はプロジェクター、白熱電球若しくは装飾物、例えばシーリング照明器具、又は(固定された若しくは可動の)ランプ若しくはシャンデリアである。
【0116】
1つの実施態様において、照明システムは、鎖状に連続して配置された多数の照明要素(例えばLED)を含み、照明要素は、部分的に若しくは全体的に本発明の懸濁液に由来するTiO2−Nナノ粒子でコーティングされた内部及び/又は外部光拡散表面を有する。
【0117】
1つの実施態様において、光拡散スクリーンは、前述の照明要素の鎖の下又は上の位置に存在し;スクリーンは、部分的に又は全体的に本発明の懸濁液でコーティングされている。
【0118】
部分的に又は全体的に本発明の懸濁液でコーティングされた照明装置は、装置の電源が入れられたときに可視光又は紫外光の照射によって活性化される。可視光又は紫外光での照射は、本発明のTiO2−Nナノ粒子の光触媒特性の活性化を起こし、従って空気の有機汚染物(NOX、VOCs、及びVOSs、バクテリア、カビ又は臭気)の酸化を引き起こして、具体的には環境の汚染除去に寄与する。
【0119】
1つの実施態様において、TiO2−N懸濁液はまた、好ましくは、銀、ZnO及び/又はCuのうちから選択される1つ又は複数の殺生物剤もまた含有し、光源の電源が切られてもなお、装置は抗菌の(及び従って空気又は水を浄化する)特性のままである。
【実施例】
【0120】
実施例1
806.0gの二塩基のクエン酸アンモニウムを、国際公開第2007088151号の文献において説明される合成によって得られる6%の二酸化チタンを含有する19194.00gの水性懸濁液に、20L反応器中で、撹拌の下で、及び室温で添加する。24hの混合の後、0.498%の窒素及び5.76%のTiO2(TiO2に対して8.6mass%の窒素に対応する)を含有する白色の懸濁液の形成が観察される。得た懸濁液中のナノ粒子のサイズを、DLS(動的光散乱法、Malvern装置)測定によって評価して、0.221の多分散指数(PDI)で、49.9nmの(流体力学的直径Dzに、それゆえに粒子サイズに対応する)Zaverage値を得た。
【0121】
実施例2
実施例1に従って得た懸濁液を、次いで、噴霧乾燥技術(Buchi Mini Spray Dryer B−290)を使用して、130℃の入口温度Tinletで乾燥する。
【0122】
このようにして乾燥粉末を得て;その粒子サイズを乾燥分散レーザー回折測定(Sympatec乾燥分散レーザー、モデルHELOS(H0969))によって決定した。分析結果を図1に示す。得た粉末は、x99=14.21μm(値は粉末粒子の99%が14.21μmより小さいサイズを有することを示している)で非常に細かく、良好な流動性を有する。
【0123】
DSC熱質量分析(図2)もまた実施して;DSCは、粉末中の残余水の損失による、低い温度における質量の損失(100℃で−5.02%)を示した。分析はまた、続く工程のための乾燥した粉末の正確な焼成温度を特定することを可能とし、その温度は450〜500℃である。
【0124】
400gの乾燥した粉末を、41×26×6cmの耐火性容器中に配置した(図3)。焼成を、プログラマを備え付けた電気マッフル炉(Nabertherm モデルLH60/14)によって行った。熱サイクルは以下:7℃/minの勾配で2hの室温から450℃への加熱傾斜からなる第一のステップ、次いで、450℃で1hのドウェル時間を有する第二のステップ、である。記録された質量損失は45mass%であった。図4に示すように、回折分析を、焼成の後に得た粉末(焼成した粉末を指す)について、X線回折装置(X−pert pro Panalytical)を使用して行った。行った回折分析は、リートベルト改良法(Rietveld refinement method)を使用する、結晶相割合及び結晶サイズの決定についての定量分析であった。サンプルは以下のTiO2の回折濃度を示す。
【0125】
【表1】
【0126】
光反応器分析もまた、前記粉末サンプルについて行って、その光触媒効率を評価した。水中の5mass%の粉末の分散体を分析のために調製し;次いで、分散体を10×10cmのガラス基材に堆積した(0.15gの乾燥生成物を堆積することに対応する)。3000K LED(色温度)及び青色LEDを光源として使用した。次いで、汚染物(NO、NOX及びNO2)の低減における傾向を、3000K LEDでの、及び青色LEDでの照射の後に、時間の関数としての濃度(ppbvで表す)を測定することによって評価した。
【0127】
結果を、図5及び図6にそれぞれ示す。
【0128】
最後に、焼成した粉末を、高エネルギーボールミル(E−Max Retzsch)で、99%エタノール中で、1400rpmの速さで、80minの間粉砕した。得た最終生成物は、約90nmのサイズ、0.2より小さい多分散指数及び約20mass%に等しいTiO2−N濃度を有する単分散ナノ粒子の懸濁液である。
【0129】
実施例3
実施例2に従って得た生成物を、96%エタノールで希釈して1mass%に等しいTiO2−Nの最終濃度を得た。次いで、希釈したものを、スプレーガンによって、PMMAの10×10cmのポリマーの基材に適用した。図7に示すように、汚染物(NOX)低減試験を、このように調製したサンプルを用いて、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用して、光源として3000K LEDを使用して行った。
【0130】
実施例4
実施例2に従って得た生成物を、96%エタノールで希釈して、10mass%に等しいTiO2−Nの最終濃度を得た。次いで、希釈したものを、8×8×2cmのボール紙基材への浸漬によって適用した。図8に示すように、汚染物(NOx、NOX、NO2)低減試験を、このように調製したサンプルを用いて、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用して、光源として25Wの電力のクールホワイトLEDを使用して行った。
【0131】
実施例5
160.0gのトリエタノールアミンを、国際公開第200788151号の文献において説明される合成によって得られる6%の二酸化チタンを含有する1000.00gの水性懸濁液に、5Lビーカー中で、撹拌の下で、室温で添加した。4hの混合の後、1.29%の窒素及び5.17%のTiO2(TiO2に対して24.95mass%の窒素に対応する)を含有する白色の懸濁液の形成が観察された。
【0132】
実施例6
実施例5に従って得た懸濁液を沈殿させ、一度沈殿物から上澄みを分離して、沈殿物を乾燥トレーに移して、50℃で2hの間乾燥する。乾燥工程から得た生成物に、プログラマを備え付けた電気マッフル炉(Nabertherm モデルLH60/14)中で焼成サイクルを受けさせる。熱サイクルは以下:5℃/minの勾配で2hの室温から500℃への加熱傾斜からなる第一のステップ、次いで、500℃で1hのドウェル時間を有する第二の工程、であった。記録された質量損失は52mass%であった。
【0133】
図9に示すように、回折分析を、焼成の後に得た粉末(焼成した粉末を指す)について、X線回折装置(X−pert pro Panalytical)を使用して行った。行った回折分析は、リートベルト改良法を使用する、結晶相割合及び結晶サイズの決定についての定量分析であった。サンプルは以下のTiO2の回折濃度を示す。
【0134】
【表2】
【0135】
前記の粉末サンプルについて、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用する分析もまた行って、粉末サンプルの光触媒効率を評価した。水中の5mass%の焼成した粉末の分散体を分析のために調製し;次いで、分散体を10×10cmの繊維セメント基材に堆積した(0.15gの乾燥生成物を堆積することに対応する)。3000K LEDを光源として使用した。次いで、汚染物(NO、NOX及びNO2)の低減における傾向を、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用して、3000K LEDでの照射の後に、時間の関数としての濃度(ppbvで表す)を測定することによって評価した。
【0136】
結果を図10にそれぞれ示す。
【0137】
実施例7
比較の回折分析を、TECNAN社によって販売されている窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末のサンプルについて行った。X線回折装置(X−pert pro Panalytical)で行った回折分析を図11に示す。行った回折分析は、リートベルト改良法を使用する、結晶相割合及び結晶サイズの決定についての定量分析であった。サンプルは以下のTiO2の回折濃度を示す。
【0138】
【表3】
【0139】
本発明の窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末のサンプルの場合とは異なり、TECNANの市販の窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末のサンプルの場合にはブルッカイト結晶相が存在しないことを観察することができる。分析をまた、前記粉末サンプルについて、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用して行い、その粉末の光触媒効率を評価して、実施例6による本発明のサンプルの光触媒効率と比較した。
【0140】
水中の、5mass%のTECNANの市販の窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末の分散体を、分析のために調製し;次いで、分散体を10×10cmの繊維セメント基材に載せた(0.15gの乾燥生成物を載せることに対応する)。3000K(色温度)LEDを光源として使用した。次いで、実施例6と同じ条件の下で、汚染物(NO、NOX及びNO2)の低減における傾向を、組み込みのケミルミネッセンスを有する光反応器を利用して、3000K LEDでの照射の後に、時間の関数としての濃度(ppbvで表す)を測定することによって評価した。分析の結果を図12に示す。図10は、本発明のTiO2−Nの焼成した粉末の懸濁液でコーティングされた基材の、3000K LEDでの照射による、汚染物の低減における傾向を示す。次いで、図10のグラフと図12の分析とを比較することによって、TECNANの窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末の懸濁液で作ったコーティングの有効性と比較して、本発明のTiO2−Nの焼成した粉末の懸濁液(TiO2−Nナノ粒子の懸濁液)で作ったコーティングの確かに優れた有効性を認めることができる。実際に、TECNANの窒素ドープしたTiO2の焼成した粉末の懸濁液でコーティングした基材についての分析の場合、60minの照射の後、NOの濃度は約510から約290ppmに、NOXの濃度は約520から約390ppbvに及びNO2の濃度は約10から約80ppbvになり、一方で本発明のTiO2−Nナノ粒子の懸濁液でコーティングした基材についての分析の場合、60minの照射の後、NOの濃度は約500から約90ppbvに、NOXの濃度は約510から約110ppbvになり、及びNO2の濃度は20ppbvより少ない値で実質的に変化しないままである。従って、同じ分析条件で、TECNANの窒素ドープしたTiO2の有効性と比較して、本発明のTiO2−Nナノ粒子は、汚染物の低減において明らかにより良好な有効性(NOの低減の場合には約2倍、NOXの低減の場合には約3倍の高さ)を示す。
【0141】
実施例8
XPS(X線光電子分光)分析を、実施例2に従って得たサンプルについて行って、TiO2格子中の、可視領域における光活性触媒中心の実際の存在量を決定した。このようにして得たスペクトルを、P.A.K.Reddyらによる文献、Journal of Industrial and Engineering Chemistry、53(2017)253−260において記載されるように得られるTiO2−Nのサンプルについて、以下の結晶相の割合を特徴とするサンプル(NTU−2.5)について行ったXPSスペクトル分析と比較した。
【0142】
【表4】
【0143】
2つのスペクトルの比較(図13)から、使用する分光方法の高い選択性を考慮すると、2つの間には無視できない違いが存在することが分かる。図13a)に示されるP.A.K.Reddyらのサンプルについて得たXPSスペクトルの場合、可視領域の光活性と関係のない、及び少なくともある程度は表面のアンモニア部分による、高い結合エネルギー系(401eVにおけるシグナルN1s)の広がりが存在することを観察することができる。図13b)に示される本発明のサンプルについて行ったスペクトル分析の場合、対照的に、低い結合エネルギー中心(すなわち可視領域の光活性中心)のより広い存在、特に398.3eV付近の結合エネルギーを有する中心の51%及び400.2eV付近の49%、があることが分かる。
【0144】
特定の理論に結び付けられることを望むものではないが、異なる可視領域の光活性中心の存在は、窒素ドープの性質に、すなわち窒素含有ドープ剤に由来する窒素がTiO2の結晶格子と相互作用する仕方(侵入型又は置換型)に、及びその格子中で形成することができる結合の種類(例えばO−Ti−N又はTi−O−N結合)に帰する場合があると論ずることができる。ドープにおけるこれらの違いは、様々な因子に帰するものであり;特にそれらのうちで際立っているものは、TiO2格子の結晶構成要素の割合であり、2つのXPSスペクトルの間の比較によって正確に示されるとき、その割合は実質的に、可視領域において光活性であるドープに由来する中心の実際の存在に寄与する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】