(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
本明細書に記載されるのは、動的血管造影画像化のためのコンピュータ実装方法であって、関心対象の血管内の造影剤の増加段階および減衰段階の両方の少なくとも一部分をキャプチャする複数の対応する画像を含む画像データを取得することと、画像データに基づいて造影剤の少なくとも1つの時間増強曲線を生成することと、時間増強曲線に基づいて、関心対象の血管内の血流特性を判定することと、を含む方法である。この方法を実装するためのシステム、およびこの方法を組み込んだコンピュータ可読媒体についても説明される。
前記造影剤の進入の前に、前記関心対象の血管をキャプチャする前記少なくとも1つの画像に基づいて、基準値を判定することと、前記基準値に基づいて、前記時間増強曲線を正規化することと、をさらに含む、請求項2に記載の方法。
前記血流特性を判定することが、前記時間増強曲線の下の面積に基づいて、FFR値を判定することと、ベルヌーイの方程式を使用することと、を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
X線ベースのスキャンまたはMRIスキャンから前記関心対象の血管のスキャンデータを取得することと、前記スキャンデータに基づいて、画像データを再構成することと、をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
前記少なくとも1つの時間増強曲線が、第1の時間増強曲線および第2の時間増強曲線を含み、前記血流特性を判定することが、前記第1および第2の時間増強曲線から計算された対応する値の比較を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
前記第1の時間増強曲線が、血流異常の疑わしい発生源の上流に位置する第1のサンプリング部位からの画像データから生成され、前記第2の時間増強曲線が、前記血流異常の前記疑わしい発生源の下流に位置する第2のサンプリング部位からの画像データから生成される、請求項14に記載の方法。
前記プロセッサが、前記造影剤の進入の前に、前記関心対象の血管をキャプチャする前記少なくとも1つの画像に基づいて、基準値を判定することと、前記基準値に基づいて、前記時間増強曲線を正規化することと、を行うように構成されている、請求項18に記載のシステム。
前記関心対象の血管のスキャンデータを取得し、前記スキャンデータに基づいて画像データを再構成するように構成されたX線スキャナまたはMRIスキャナをさらに含む、請求項17〜24のいずれか一項に記載のシステム。
前記少なくとも1つの時間増強曲線が、第1の時間増強曲線および第2の時間増強曲線を含み、前記血流特性が、前記第1および第2の時間増強曲線から計算された対応する値の比較を含む、請求項17〜28のいずれか一項に記載のシステム。
前記第1の時間増強曲線が、血流異常の疑わしい発生源の上流に位置する第1のサンプリング部位からの画像データから生成され、前記第2の時間増強曲線が、前記血流異常の前記疑わしい発生源の下流に位置する第2のサンプリング部位からの画像データから生成される、請求項29に記載のシステム。
前記プロセッサが、前記複数の対応する画像から、最大造影増強を示す画像を選択することと、前記選択された画像内で前記関心対象の血管の基準位置を判定することと、前記基準位置に基づいて、前記複数の対応する画像内で前記関心対象の血管を追跡することと、を行うように構成されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して、動的血管造影画像化(DAI)のためのシステムおよび方法が説明される。システムと方法は、現在のCCTA技術と比べて遜色ない。
【0009】
図1は、コンピュータ実装画像化システム、より具体的には、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ4を組み込んだDAIシステム2の例を示す。CTスキャナ4は、通常、放射線源、放射線検出器、およびスキャン手順の間、対象を所望の位置(例えば、腹臥位または仰臥位)に維持するための調節可能な、多くの場合電動式のサポートまたはテーブルを含む、いずれかの多列またはマルチスライスCTスキャナであってもよい。放射線源は、対象に投与された造影剤(トレーサとも呼ばれる)と同期して、対象における関心対象の血管を標的とする1つ以上の所定のサンプリング部位を通過する放射線を生成する。放射線検出器は、多くの場合、回転検出器のパネルとして構成され、所定のサンプリング部位で対象を通過する放射線を受容し、関心対象の血管を流れる造影剤の増加段階と減少段階の両方を含む時間範囲にわたって投影データ(スキャンデータとも呼ばれる)を提供する。
【0010】
画像化システム2は、CTスキャナの放射線検出器から投影データを受信、編成、および記憶するデータ取得スキームまたはデータ取得コンピュータコードを組み込んだデータ取得コンポーネント6を含む。投影データは、画像再構成コンピュータコードを組み込んだ画像再構成コンポーネント8に送信される。次に、投影データは、画像再構成コンピュータコードを使用して処理することができ、関心対象の血管を流れる造影剤の増加段階および減少段階の両方にまたがる所定のサンプリング部位(複数可)の多数の画像を含む画像データがもたらされる。画像再構成コンピュータコードは、いずれかの利用可能なCT画像化技術に対応するために容易に変更させることができる。次に、画像データは、画像データから造影信号の時間増強曲線を生成する画像分析コンピュータコードを組み込んだ画像分析コンポーネント10によって処理することができる。次に、時間増強曲線データは、血流推定コンピュータコードを組み込んだ血流推定コンポーネント12によって処理され、時間増強曲線データから関心対象の血管の血流値を判定することができる。画像化システム2は、バス14を介して通信されるデータおよび操作コマンドを有するコンピュータ16によって制御される。画像化システム2は、マルチプレクサ、デジタル/アナログ変換ボード、マイクロコントローラ、物理的コンピュータインターフェースデバイス、入力/出力デバイス、ディスプレイデバイスなどを含む、関心対象の血管のアセスメントを行うためのいずれかの追加のコンポーネントを必要に応じて含んでもよい。画像化システム2は、例示的な例としてのみCTスキャナを用いて示されており、例えば、CT以外のX線画像化、および磁気共鳴画像化(MRI)を含む他の画像化モダリティを含むように変更してもよい。
【0011】
図2は、DAIのためのコンピュータ実装方法20を示す。方法20は、プレスキャン準備30と、所望のサンプリング部位のCTスキャンのための対象の位置決めとを含む。対象が準備され、CTスキャナ内に配置されると、対象に造影剤溶液が注入され40、CTスキャン50は、サンプリング部位の血管を通る造影剤の流れを含む時間範囲の投影データ(スキャンデータともいう)を取得するために、造影剤溶液の注入と同期される。投影データは、投影データからの画像データを再構成60するために処理される。画像データを分析して、画像データから抽出された造影信号強度などの造影信号パラメータの時間増強曲線を生成する70。血流値は、時間増強曲線に基づいて計算される80。
【0012】
図3は、CTスキャンのための対象のプレスキャン準備30の例を示す。プレスキャン準備30は、対象における関心領域32を識別することを含む。例えば、関心領域は、血管内の血流のアセスメントの標的となる血管の一部分であり得る。関心領域が確立されると、CTスキャンスライスのサンプリング部位(複数可)が、関心領域において、またはその近くで識別される34。所定のサンプリング部位(複数可)に基づいて、対象は、CTスキャナの放射線源がサンプリング部位(複数可)に放射線を向けることを可能にする配置でCTスキャナ内に位置決めされる36。走査する前に、例えば、血管拡張剤を対象に投与することによって、対象に充血状態を誘発することができる38。
【0013】
図4は、造影剤の注入に同期したCTスキャン50の例を示す。同期CTスキャン50は、造影剤の注入に基づいて、所望の時間に動的CTスキャンを開始することを含む。動的CTスキャンは、サンプリング部位(複数可)における造影剤の進入54の前の投影データの取得、ならびにサンプリング部位(複数可)における造影剤の増加段階56の間の投影データの取得、およびサンプリング部位における造影剤の減衰段階58の間の投影データの取得を含む。増加段階は、造影剤がサンプリング部位に最初に進入した後、時間が進むにつれてサンプリング部位において造影剤の質量が増加することを指し、一方、減衰段階または減少段階は、サンプリング部位から造影剤が実質的に完全に除去される前に、時間が進むにつれてサンプリング部位において造影剤の質量が減少することを指す。サンプリング部位における造影剤のピーク(最大値)質量は、増加段階から減衰段階への進行中に発生する。サンプリング部位における造影剤の進入から除去までの経過時間を、造影剤の通過時間と呼ぶことがある。CTスキャンの継続時間は、増加段階および減少段階の少なくとも一部分がキャプチャされることを条件として、サンプリング部位における造影剤の完全な通過時間をキャプチャするという要件によって制限されるものではない。造影剤の進入54の前に取得された投影データは、その後の画像分析中に参照値を提供することができ、これを使用して、増加段階および減衰段階について判定された造影剤信号値を正規化することができる。
【0014】
図5は、時間増強曲線を生成する70ための画像分析の例を示す。時間増強曲線の生成は、サンプリング部位における造影剤の増加および衰退段階の両方におよぶサンプリング部位での複数の対応する画像内で関心対象の血管を識別する72ことを含むことができる。造影剤信号データは、複数の対応する画像のそれぞれからの関心対象の血管によって定義される領域から、例えば造影剤信号強度として抽出される74。時間増強曲線は、サンプリング部位における増加段階と減衰段階の両方の間の造影剤信号データに基づいて生成される74。サンプリング部位における造影剤の進入の前の画像データが利用可能な場合は、正規化された造影剤信号値に基づいて時間増強曲線を生成するための基準値を判定することができる。基準値を判定するための代替案では、造影剤の進入前のスキャンデータは、造影剤投与イベントの前または後のいずれかで取得されてもよい。さらなる代替案として、時間増強曲線を正規化するための基準値を、サンプリング部位における造影剤の除去後に取得されたスキャンデータから再構成された画像データから抽出することができる。これらの代替案のうち、投与イベントの後、および進入の前に取得されたスキャンデータから基準値を判定することは、通常、より短いスキャン継続時間で達成される。時間増強曲線は、増加段階および減衰段階の両方の間に取得されたスキャンデータに基づいて生成されるが、さらに、時間増強曲線は、任意で、例えば、サンプリング部位における造影剤の進入前、サンプリングにおける造影剤のピーク(最大値)時、サンプリング部位からの造影剤の除去の後などを含む、サンプリング部位における造影剤の通過時間に対する様々な時点中に取得されたスキャンデータに基づいてもよい。
【0015】
図6は、時間増強曲線に基づいて、関心対象の血管内の血流80を推定する例を示す。血流の推定は、時間増強曲線に基づいて、血流予備量比(FFR)値を判定することによって達成することができる。FFR値の判定は、時間増強曲線下の面積82の計算を含むことができる。流量84は、例えば、式1(DAI法の例示的な数学的基礎において以下に提供される)で表される指示薬希釈原理を使用して、時間増強曲線下の計算された面積に基づいて判定することができる。流速は、例えば、式2(後述)を使用して、流量と、サンプリング部位における血管の管腔の計算された断面積とに基づいて、判定することができる。流圧86は、例えば、式3Aまたは3B(以下を参照)で表されるように、ベルヌーイの方程式を使用して、流速から判定することができる。少なくとも2つのサンプリング部位から判定された流圧86に基づいて、圧力勾配を計算することができ、FFR値は、例えば、式11(以下を参照)を使用して、計算された圧力勾配および収縮期血圧値に基づいて判定することができる。判定されたFFR値は、いずれかの従来のコンピュータまたはディスプレイデバイスを介して、技術者/オペレータまたは他のエンドユーザに伝達または表示することができる。
【0016】
DAIシステムと方法は数学的に検証されている。次の段落で説明する数学的分析は、動的画像化から取得した心臓の造影画像から冠状動脈の血流特性を導き出す例を示す。
図8は、血流特性の判定の様々な例(例1、2、3、または4)の関係の概要と、ならびに血流特性の判定をさらに改善するための追加の補完ステップ(補完ステップ1、2、3、または4)の例を示すフロー図を提供する。血流特性の各例と各補完ステップを計算するための詳細な説明は、以下の項において提供される。以下の数学的分析は、理論に拘束されることを望まず、解説のみを目的としており、限定的な説明を意図するものではない。
【0017】
数学的分析:仮定。DAI中に冠状動脈系を循環する血液の性質についていくつか仮定することができる。第1に、血液は、せん断応力とせん断速度の間に直線関係を持つニュートン流体と考えられ、第2に、血流は、血管管腔内を血液が平行層状に移動する正常な状態では層流である。動脈壁面の層は静止している(速度=0)が、管腔の中心の層は最高速度を示す(
図9a)。実際には、冠状動脈内の関心領域において測定される血流は、中心周りの平均流量/速度にほぼ等しい。第3に、トレーサ(造影剤とも呼ばれ、例えば、CT造影剤中のヨウ素分子)は、動脈内を通過する間、冠状動脈の内皮層を越えて周囲の血管外空間に漏れることはない。第4に、CTの現在の空間分解能では、提案された方法で血流を確実に推定することができる最小の冠状動脈は、直径が1.5mmを超えるものである。これは、CT画像の2×2のピクセル領域とほぼ同等である(
図9bおよび9c)。
【0018】
数学的分析:方程式記号。数学的分析で使用される方程式記号の要約を、表1に提供する。表1に載っている単位は、必ずしもSI単位ではない。
【表1】
【0019】
数学的分析:
図8の方法例1−冠血流量の計算。冠血流量は、ボーラス注射後の血液と混合されるトレーサ分子(CT造影剤)が血液の体積流量にどの程度依存しているかを示す指示薬希釈原理を使用して測定される。数学的には、次のように表すことができる。
【数1】
式中、Fは血液の体積流量(mL/秒)、Qは冠状動脈内のトレーサの総質量(mg)、C
a(u)は時間uにおける動脈血中のトレーサ濃度(mg/mL)である。C
a(u)の積分は、動的灌流画像化から取得した動脈時間増強曲線(
図8のTEC)下の面積から判定することができるが、ただし、造影増強(ハウンズフィールド単位またはHU)から造影濃度への適切な変換が行われることとする(mg/mL、スキャン設定が100kVの管電圧の場合は
【数2】
)。Qは、2段階のプロセスから導き出すことができ、最初に、患者に注入されたヨウ素の総質量を計算するが、これは造影濃度と注入量の積に等しく、次に、公表値または動的灌流画像に表示された情報のいずれかを用いて、冠状動脈系に投入されるヨウ素の割合を推定する。
【0020】
数学的分析:
図8の方法例2−冠血流圧の計算。冠状動脈狭窄を横切る流圧の差を推定するために、冠血流が、関心対象の狭窄の前/上流および後/下流で測定される。冠状動脈の狭窄に隣接する2つのサンプリングスライス位置AおよびBを示す
図10を考慮する。各スライス位置において、冠血流量Fは式1を使用して計算することができる。F
AおよびF
Bが算出されると、体積流量Fは、以下のように流速Vに変換することができる。
【数3】
式中、Vは流速(cm/秒)、rはcm単位の血管の半径である。次に、狭窄全体にわたる流圧差は、ベルヌーイの方程式を使用して推定することができる。
【数4】
式中、P
AおよびP
BはそれぞれスライスAおよびB(パスカルまたはPa)冠血流圧、ρは、血液の密度(g/cm
3)、gは地球重力(980cm/s
2)、h
Aおよびh
BはスライスAおよびBの中心点から基準面上または下の相対的な高さ(cm)、そしてP
Lは摩擦および/または乱流による圧力(エネルギー)損失(式4を参照)である。
【0021】
ベルヌーイの原理の根底にあるのは、エネルギーの保存である。式3Aの各辺の第1項は、単位体積あたりの圧力エネルギー、第2項は単位体積あたりの運動エネルギー、第3項は単位体積あたりのポテンシャルエネルギーと考えることができる。ポテンシャルエネルギー項におけるh
Aおよびh
Bは、基準面を適切に選択して簡略化することができる。基準面が、
図11(a)に示すように、スライスAおよびBにおける管腔の中心を通る平面であるように選択される場合、式の両方のポテンシャルエネルギー項はゼロに等しくなる(すなわち、h
Aおよびh
B=0)。ただし、冠状動脈の解剖学的構造(
図11b)の場合のように、2つの中心の間に垂直勾配がある場合は、2つの中心間の高さの違いを考慮する必要がある。h
Aが常にゼロになり、かつスライスA(ρgh
A)に関連するポテンシャルエネルギー項を、簡略化のために式3から省略することができるように、中心Aを通る平面を基準面として選択することができる。中心Bが中心Aの上にある場合、h
Bは正であり、その逆も同様であることに留意されたい。
【0022】
圧力損失P
Lは、血管(P
LF)に沿った粘性血液の動きから生じる摩擦を主な原因とし、またわずかではあるが、流れが狭窄冠状動脈セグメントから正常セグメント(P
LE)に移動するときの管腔内の急激な膨張から生じる渦(旋回流)も原因である。
【数5】
P
LFの大きさは、ダルシー・ワイスバッハの式を使用して推定することができる。
【数6】
式中、LはスライスAとBの間の距離(cm)、Dは動脈の直径(cm)、式(2)で与えられるVはスライスAとBの間の平均流速である。ダルシー摩擦係数fは、無次元量であり、チャーチルの式により与えられる。
【数7】
式中、Reは流動挙動(層流対乱流)を予測するレイノルズ数、εは、流体が流れる管の表面性状を表す粗さの測定基準である。血管は滑らかな管であると想定されているため、εはゼロである。レイノルズ数は次の式で与えられる。
【数8】
式中、μはPa・sまたはkg/m・sまたはg/cm・s単位の血液粘度である。あるいは、次の方程式を使用して、ダルシー摩擦係数を推定することもできる。
【数9】
式(9)は、コールブルックの式としても知られている。式(8)または(9)の選択は、流動挙動(層流対乱流)に依存しており、これは、式(7)から得られるレイノルズ数を使用して推定することができる。一般に、血流はRe<2000の場合は完全に層流であり、Re>4000の場合は完全に乱流である。式(4)のP
LEの大きさは、次のように推定することができる。
【数10】
式中、V
1およびV
2は、それぞれ、狭窄セグメントおよび隣接する正常セグメント(出口)における流速である。小さな圧力損失に寄与する可能性のある他の要因は、大きな血管から小さな血管への流れの入口である。丸みのある(鋭くない)管の入口に関連する損失係数は非常に小さい(0.04)ため、式(10)に示すように、流れの入口による小さな圧力損失は、急激な管腔膨張による小さな圧力損失と比較して無視できると考えられ得る。
【0023】
ベルヌーイの方程式を適切に適用するには、各項の単位が他の項と一致している必要がある。式中のすべてのエネルギー項(圧力、運動およびポテンシャル)は(g・cm
2・s
‐2)/cm
3の単位を有していなければならない。圧力の単位はパスカルであり、これは最初に1Pa=1kg/m・s
2=1000g/100cm・s
2=10g/cm・s
2に変換することができる。圧力勾配ΔPをg/cm・s
2で推定した後、それを0.0075(1Pa=0.0075mmHg)の増倍係数で従来のmmHg単位に変換することができる。
【0024】
数学的分析:
図8の方法例3−血流予備量比の計算。血流予備量比(FFR)は、式(3b)のΔPから導き出すことができる。日常の臨床診療では、P
Aは平均動脈圧測定から得られる収縮期血圧(SBP)と同一であると想定される。したがって、FFRは次の式で推定することができる。
【数11】
【0025】
数学的分析:
図8の方法例4−せん断応力の計算。
図8の例1の血流測定から、壁せん断応力も推定することができる。壁せん断応力は、血流によって動脈壁面に作用するせん断力である。このパラメータは、動脈の壁面で発達したプラークの受攻性を予測するのに役立つ場合がある。血液は、その層流挙動のために血管内を平行層になって移動し、血管壁の表面では流速はゼロに等しくなる。せん断速度は、異なる血液層が互いに通過する速度を表し、壁せん断速度は、特に、速度がゼロの壁面の血液層に対して関心対象の血液層が移動する速度を指す。関心対象の血液層が血管管腔の中心を通過する場合、壁せん断速度γ(s
−1で)はおおよそ次の式で与えられる。
【数12】
式中、rは血管の半径(中心層と壁面の間の距離)、Vは壁面に対する中心血液層の流速、Fは血管の中心における血液の体積流量である。実際には、血流は、血管の中心だけよりも広く広がる領域で測定され、測定は、簡素化のために、中心での平均流量または速度として近似されることができる。血液はニュートン流体であるため、そのせん断速度はせん断応力に直線的に関連する。
τ=μ・γ (13)
式中、τはパスカル単位のせん断応力(Pa)、μは血液粘度(g/cm・s)である。粘度および密度の両方を、平均的な成人の公表値を使用する代わりに、血液検査から測定して、個々の患者に対する計算精度を向上させてもよい。
【0026】
数学的分析:
図8の方法補完ステップ1−大動脈から冠循環に入るトレーサの質量の推定。冠血流(F)は式(1)から推定されるが、これにはトレーサの質量(Q)を事前に知っておく必要がある。末梢静脈(前肘静脈)へのボーラス注入後、すべてのトレーサは心腔に送られ、そこで均一に混合されて上行大動脈に排出される。したがって、動脈血を介して各臓器に送達されるトレーサの量は、総心拍出量に対する臓器血流の比率から推定することができる。例えば、心臓の血流は心拍出量の約5%であるため、注入されたトレーサの5%が冠状動脈に送達されると推測することができる。
【0027】
この項では、動的灌流画像に存在する情報を使用して、冠状動脈系のトレーサの質量を推定することができる補完ステップを提示する。患者固有の情報を使用することで、個々の患者の冠血流量と圧力をより正確に測定することが可能になり得る。
【0028】
体内のほとんどの血管床とは異なり、冠状動脈の血流は、収縮期ではなく拡張期に最大でなる。拡張期の間、左心室は弛緩し続け、大動脈圧の実質的な低下と大動脈の逆流をもたらす。同時に、心筋の冠微小循環の圧迫の緩和がある。その結果、逆流(例えば、逆方向伝播吸引)が生成され、冠状動脈の充填を容易にする。したがって、冠抵抗の減少を伴う大動脈内の逆流は、拡張期での最大の冠血流につながる。動的心筋灌流画像化では、心臓の動きを最小限に抑えるために、造影心臓画像が連続拡張期に取得されるため、これらの動的画像で観察される大動脈流は、順行性(順方向)の流れではなく逆行性(逆方向)の流れになる。流れの方向を
図12に示す。
【0029】
図12に示す上行大動脈の2つの断層撮影スライスについて考察する。スライス1(S1)は、開口部と大動脈弁のすぐ上にあり、スライス2(S2)は、S1の数センチ上で、大動脈弓の下にある(
図12には図示せず)。各スライスの血流は、式(1)に示すように、指示薬希釈原理を使用して推定することができる。
【数13】
式中、F
1およびF
2は、それぞれスライス1および2における体積流量(mL/秒)、Q
1およびQ
2は、それぞれ、スライス1および2におけるトレーサの質量(mg)、およびC
a1(u)およびC
a2(u)は、それぞれ、時間0〜tまでのスライス1と2において測定された時間増強曲線下の面積である。大動脈血流が非常に高速であり、2つのスライスが互いに比較的近接しているという事実を考えると、血流が両方のスライスにおいて同一、すなわち、F
1=F
2であると推測することができる。式(1a)と式(1b)を組み合わせると、次のようになる。
【数14】
【0030】
式(14)は、スライス2のトレーサに対するスライス1のトレーサの割合を示す。スライス2を通過したいくつかのトレーサは、スライス1に到達する前に冠状動脈に入るので、Q
1はQ
2よりも小さくなければならない。心臓の血流は心拍出量の約5%であるため、心臓を離れるトレーサの約5%が最終的に冠循環に入るはずである。心臓から排出されたトレーサが大動脈に沿って均一に分布している場合、Q
1/Q
2は0.95にほぼ等しくなければならない(Q
1はQ
2の約95%である。実験的な試験例を参照)。
【0031】
数学的分析:
図8の方法補完ステップ2−個々の冠状動脈におけるトレーサの質量の推定。
図8の補完ステップ1の数学的処理と同様に、この項では、動的灌流画像に存在する情報に基づいて、各心外膜冠状動脈内のトレーサの質量を推定する方法について説明する。冠状動脈系のグラフ表示は、補完ステップ2の説明を容易にすることができる。心臓における冠状動脈系など、いかなる臓器の血管系も、
図13に示すように、多数の縁部と頂点を持つグラフで表すことができる。
【0032】
頂点(v)は、2つ(またはそれ超)の血管を接続する交差点と見なすことができるのに対して、縁部(E)は、2つの頂点を接続する血管と見なすことができる。数学的には、
図12に示すグラフは次のように表すことができる。
v={v
1,...,v
n}式中、n=10、
E={{v
1,v
2}、{v
2,v
3}、{v
3,v
4}、{v
5,v
6}、{v
6,v
7}、{v
7,v
8}、{V
6,V9
}、{V9,V10}}。
【0033】
このグラフは、各縁部の純流動が一方向のみ(双方向ではない)である有向グラフである。流れは通常、ソース(グラフの濃い灰色の円柱で表される大動脈)から離れる方向に移動する。各縁部には、冠状動脈のAmerican Heart Associationモデルに従って、(表2で指定するように)番号が割り当てられる。
【表2】
【0034】
各冠状動脈内のトレーサの分布がどのように推定されるかを解説するために、LMと、近位LADおよびLCxとをそれぞれ表す3つの縁部5、6、および11について考察する。縁部5は、縁部6と11の「親」血管であり、縁部6と11は、縁部5の「娘」血管である。これらの血管は頂点6(v
6)で接続されている。
図14に、3つの縁部とそれらの交差の概略図を示す。
【0035】
各血管内の流れの方向は、
図14の白い矢印で示される。各血管では、入口に近い部分が濃い灰色で強調表示される。各切片の半径(r)と長さ(l)には、血管の縁部番号に等しい下付き文字(n)が付けられている。各切片の体積(v
n)は次の式で与えられる。
【数15】
【0036】
混乱を避けるために、「V」は流速(cm/秒)を表し、「v」は頂点(交差)を表し、「v」は、血管切片の体積を表す。各切片の体積は、cm
3の単位を有し、mLに変換することができる。
【0037】
縁部5と6における2つの強調表示された切片について考察する。
図15に示すように、すべてのトレーサ(血管において灰色で表される)は、その切片で測定された時間増強曲線のピークに対応する時間において、切片に残っている(T=t
3、
図15)。時間増強曲線の最大値(ピーク値)は、HU(ハウンズフィールド単位)の単位を有しており、(mg/mL)に変換することができる。
【0038】
このように、血管の特定の切片内のトレーサの総質量(Q、mgで)は、切片において測定された時間増強曲線の最大値(ピーク値)(x、mg/mLで)を、切片の体積で乗算することによって推定することができる。
Q
n=v
n・x
n (16)
式中、nは縁部番号である。縁部5(LM)から縁部6(LAD)へ向かうトレーサの割合は、Q
6およびQ
5の比を取ることで計算することができる。
【数16】
【0039】
各切片の長さが同じである場合、つまりl
5=l
6の場合、式(17)はさらに簡略化して次のようになる。
【数17】
【0040】
式(18)は、LMに対するLADのトレーサ分布の割合に等しくなる。同様に、LMに関するLCxのトレーサ分布の割合は次の式で与えられる。
【数18】
【0041】
LM を出たすべてのトレーサは、LADまたはLCx(中間分岐がない場合)のいずれかに送達されなければならない。したがって、血管系内のトレーサの質量保存の結果として、次の方程式が成り立つ。
【数19】
式(18)と(19)を(20)に代入すると、次のようになる。
【数20】
【0042】
数学的分析:
図8の方法補完ステップ3−時間増強曲線の動き補正。時間増強曲線(TEC)の測定は、冠状動脈の残留運動の影響を受ける可能性がある。この項では、TECの動きに起因する変動を最小限に抑えて、TECの精度を向上させ、正確な冠血流量と圧力のアセスメントを容易にするのに使用することができる一連の基準について説明する。
1.近位冠状動脈セグメントのTECは、曲線の信号対雑音比を最大化するために、より大きなピクセル領域で測定することができる。この高品質のTECは、同じ動脈の遠位セグメントにおいて測定されたTECの形状を制約するための基準曲線として使用することができる(以下の基準#2および#3を参照)。
【0043】
2.各心外膜冠状動脈は入口が1つしかないため、遠位(下流)TECの造影剤到着時間は、同じ冠状動脈内で測定された近位(上流)TECの造影剤到着時間よりも短くすることはできない。造影剤到達時間とは、t=0(ボーラス注射時またはその近くで調整された第1の動的画像)からトレーサ(造影剤)が動脈に到達する(造影増強が始まる)瞬間までの時間間隔を指す。
【0044】
3.各心外膜冠状動脈には単一の入口があるという事由により、冠状動脈セグメントの曲線下面積(AUC)がそのセグメントを通過するトレーサの総質量に関連しているため、遠位(下流)TECの下の面積を近位(上流)TECの下の面積よりも大きくすることはできない。
【0045】
4.冠状動脈内の最大造影増強に対応する時点が、最初に識別される。これは、他のすべての時点で同じ動脈の位置を追跡するための基準時点として使用される。
【0046】
5.各スライスにおいて、基準時点(基準#4)で関心対象の動脈に広がるように、小さなピクセル領域(例えば、2×2ピクセル)を使用する。次に、このピクセル領域を使用して、同じスライス内のより大きな検索領域(例えば、20×20ピクセル)内の他の時点における動脈の同じ切片を探索する。
【0047】
6.また、動きのために関心対象の動脈がスライスにおいて明らかでない時間点については、基準#5の検索領域は、対応する時間点において、上(上流側)の1つの隣接スライスと下(下流側)の1つの隣接スライスにまで及ぶ(スキャンにより、血管の全部または一部の3D画像データをキャプチャすることができ、3D画像データを多数のスライスに分割するので、上(上流側)の隣接スライスと下(下流側)の隣接スライスは、時間点において欠落している関心対象の動脈を補うために容易に利用可能である)。激しい動きの結果として動脈が欠落したままであるか、実質的にぼやけている場合、線形補間を適用して、時間増強曲線のその時点での動脈のその切片における欠落している造影増強値を推定する。基準#1からの基準曲線を使用して、補間されたピクセル値が基準#2および3の違反につながらないことを確認することができる。
【0048】
数学的分析:
図8の方法補完ステップ4−トレーサのボーラス注入の有効性のアセスメント。末梢静脈に注入されたすべてのトレーサは心臓に送達されなければならないが、技術的な問題(例えば、注入ポンプの機能不全、注入針の不適切な位置決め、または血管収縮)のために静脈内ボーラス注入が最適ではなく、その結果、冠状動脈系におけるトレーサの質量を過大評価することになる可能性がある。この項では、動的造影画像に存在する情報からトレーサ注入の有効性を評価するために使用することができる方法について説明する。
【0049】
上大静脈(SVC)での時間増強曲線(TEC)は、最初に動的画像から測定される。SVCは、トレーサが心臓に進入する第1の経路であり、静脈注射部位で終わる。したがって、SVCに表示されるトレーサは、最小限に希釈または分散されなければならない。TECがSVCから測定されると、指示薬希釈原理(式(1))が適用されてSVC内の血流が推定される前に、曲線下面積が計算される。成人のSVCの平均血流量は、約1800〜2000mL/分である。SVC血流の計算が公表値に匹敵する場合、すべてのトレーサが末梢静脈に適切に注入されていると判定される場合がある。対照的に、トレーサのかなりの部分が静脈に適切に注入されていない場合、SVCにおいて測定されたTECの曲線下面積ははるかに小さくなり、その結果、SVC血流が大幅に過大評価される。
【0050】
DAIのシステムと方法は、実験的試験によって検証される。実験的試験の結果は、いくつかの血流特性のうちの1つ以上を判定するためのDAIシステムおよび方法の能力を示す。以下の実験例は、解説のみを目的としており、限定的な説明を目的としたものではない。
【0051】
実験の例示:実験例1.実験例1の結果は、
図8の例1で説明された数学的方法の使用に関連する。
【0052】
(a)患者およびスキャンの情報。患者#1は、体重51kgの62歳の女性であった。彼女の安静時とストレス時の両方のCT心筋灌流画像化が行われた。充血状態は、ジピリダモールの静脈内注入によって誘発された。各画像診断では、36mLのヨウ素化造影剤(投与量:体重kgの0.7mL)を、350mgl/mLの造影剤濃度で注入した。心臓の120mmの動的画像化は、256列/160mmの臨床用CTスキャナを使用して、100kVの管電圧、100mAの管電流、280msのガントリー回転速度で、息を止めた状態で30の拡張中期にわたって行われた。
【0053】
(b)図。
図16aおよび16bは、左主幹動脈が見られるスライス位置において、それぞれ安静時および最大血管拡張ストレス中に取得された心臓の造影画像を示す。分岐前の左主幹動脈から測定された時間増強曲線(
図16a/bの矢印)を
図16cに示す。
【0054】
(c)結果。CT冠動脈造影(CCTA)により、左主幹動脈を含むすべての冠状動脈に狭窄がないことが明らかになった。SPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)およびCTを使用した対応する心筋灌流測定では、心筋に虚血は見られなかった。安静時およびストレス時の左側の主要TEC(曲線下面積)のAUCは、それぞれ3104.87および1350.35HU・sであった。安静時およびストレス時の対応する冠血流量は、それぞれ100.61および231.33mL/分であった。安静時の冠血流(すなわち、冠血流予備能)に対するストレスの比率は2.31であった。
【0055】
(d)解釈。非虚血性心筋における最大の冠血管拡張中に、冠血流がベースラインから2〜4倍に増加する可能性のあることが十分に立証される。我々のデータは、我々の方法で測定されたベースラインからの冠血流の増加が、正常な冠状動脈領域の予想範囲と一致することを示した。したがって、この診断からの調査結果は、我々の方法が安静時および充血時の冠血流を確実に測定することができたことを示唆した。
【0056】
実験の例示:実験例2.実験例2の結果は、
図8の例1〜3で説明した数学的方法の使用に関連する。
【0057】
(a)患者およびスキャンの情報。患者#2は、体重60kgの62歳の女性であった。彼女は、140μg・kg
−1・分
−1の速度でのアデノシン(血管拡張剤)の静脈内注入を行ってから3分後にストレスCT心筋灌流画像化を受けた。画像診断中に、43mLのヨウ素化造影剤(投与量:体重kgの0.7mL)を、320mgl/mLの造影剤濃度で注入した。心臓の120mmの動的画像化は、256列/160mmの臨床用CTスキャナを用いて、100kVの管電圧、100mAの管電流、280msのガントリー回転速度で、22の拡張中期にわたって行われた。患者は画像診断の間ずっと息を止めていた。アデノシン注入の3分後に記録された平均動脈圧は132/78mmHgであった。
【0058】
(b)図。
図17aおよび17bは、左主幹(LM、ROI1)、ならびに近位(ROI2)および遠位(ROI3)LADのどこでTECが測定されたかを説明するための、2つの軸方向スライスにおける造影心臓画像を示す。スライスの位置は60mm間隔であった。
図17c、17dおよび17eは、
図17aおよび17bに示される各ROIの位置を説明するための、LADの再フォーマットされた管腔図を示す。各位置の管腔の直径にもラベル付けが行われた。
図17fは、各ROIのおおよその位置を示す、心臓の3次元レンダリング画像を示す。
図18は、動き補正を行った場合と行わなかった場合のLADの遠位セグメントにおいて測定されたTECを示す(
図8の補完ステップ3)。
【0059】
(c)結果。CCTAでは、LMおよびLAD動脈に狭窄は見られなかった。LADの近位および遠位セグメントのFFRはそれぞれ0.99および0.92であった。調査結果は表3にまとめられる。
【表3】
【0060】
(d)解釈。CCTAの感度が高く、予測値が負であることを考えると、LMおよびLAD動脈は正常であった(狭窄がない)ことを確認することができる。我々の方法によるFFR測定は、LAD動脈に沿った流圧の大幅な減少がないことを示唆し、CCTAの解剖学的アセスメントと一致した。さらに、最大血管拡張中の冠血流(>330mL/分)は、正常な対象における報告された安静時冠血流(約200mL/分)よりもはるかに高く、LADの近位および遠位セグメントの間で比較的一貫していた。この診断は、我々の方法によるFFRアセスメントが、CCTAによる解剖学的アセスメントとよく一致していることを示した。さらに、この診断は、TECに適切な動き補正が適用されれば、直径がわずか2mmの遠位冠状動脈でのFFR測定が実行可能であることも示唆した。動き補正前では、遠位LADのAUCは4302.5HU・sであり、近位LADのAUC(2512.9HU・s)よりもはるかに高かった。AUCはトレーサの量と密接に関連しており、遠位セグメントが同じ動脈の近位セグメントよりも多くのトレーサを有している場合は、意味を成さない。適切な動き補正後、遠位LADのAUCは近位LADと比較してわずかに低くなり、これはより妥当であると思われる。遠位LADのAUCがわずかに低いのは、近位および遠位LADの間の小さな動脈枝を介していくつかのトレーサが失われたためである。
【0061】
実験の例示:実験例3.実験例3の結果は、
図8の例1〜4で説明した数学的方法の使用に関連する。
【0062】
(a)患者およびスキャンの情報。患者#3は、体重102kgの59歳の男性であった。彼は、140μg・kg
−1・分
−1の速度でのアデノシン(血管拡張剤)の静脈内注入を行って3分後にストレスCT心筋灌流画像化を受けた。画像診断中に、70mLのヨウ素化造影剤(投与量:体重kgの0.7mL)を、320mgl/mLの造影剤濃度で注入した。心臓の120mmの動的画像化は、256列/160mmの臨床用CTスキャナを用いて、100kVの管電圧、100mAの管電流、280msのガントリー回転速度で、25の拡張中期にわたって行われた。患者は画像診断の間ずっと息を止めていた。アデノシン注入の3分後に記録された平均動脈圧は124/60mmHgであった。
【0063】
(b)図。
図19aおよび19bは、1つの軸方向スライス位置における造影心臓画像を示す。大動脈およびLADTECが測定されたROIが示される。2つの軸方向スライスは10mm間隔であった。
図19cおよび19dは、近位および遠位RCATECが測定された軸方向スライスを示す。同様に、
図19eおよび19fは、近位および遠位LCxTECが測定されたスライスを示す。
図20a〜20cは、LAD、RCAおよびLCxからそれぞれ測定されたTECを示す。比較のために、大動脈TECも各グラフに示される。
図21は、各冠状動脈のFFR−CTマップを示す。各マップの点線の円は、我々の動的血管造影法でFFR測定が行われたおおよその位置を示す。
図22aは、LADの曲線を再フォーマットした図を示す。
図22bは、CT番号ベースのセグメント化を使用するLAD内のプラークの物質分解を示す。
図22cは、プラークが
図22bのように異なる物質に分解されたLADの断面図を示す。
図22dおよび22eは、狭窄前、狭窄中および狭窄後のセグメントの直径がラベル付けされたLADの再フォーマットされた管腔図を示す。近位セグメントの管腔狭窄が50%を超えていることは明らかであった。
【0064】
(c)結果。血流速度、血流圧、およびFFR計算に関する患者#3の調査結果は、表4にまとめられる。
【表4】
【0065】
(i)RCA。CCTAでは、RCAにおける狭窄が見られなかった。
図19cおよび19dに示されるRCAの近位および遠位セグメントは、6.0cm間隔であった。近位および遠位RCAの冠血流は、それぞれ、463.9mL/分および509.3mL/分であった。2つのセグメント間の圧力差は−9.0mmHgであった。我々の方法から得られたFFRは0.93であり、これは、FFR−CTで推定されたFFR値(0.96)に非常に近かった。
【0066】
(ii)LCx。CCTAは、LCxに狭窄がないことを示した。
図19eおよび19fに示されているLCxの近位および遠位セグメントは、5.35cm間隔であった。近位および遠位LCxセグメントの冠血流は、それぞれ337.0mL/分および435.9mL/分であった。2つのセグメント間の流圧差は−19.26mmHgであった。我々の方法から得られた対応するFFRは0.84であり、これはFFR−CTで推定されたFFR値(0.83)とほぼ同じであった。
【0067】
(iii)LAD。CCTAは、LADの近位セグメントに長い石灰化した脂肪性のプラークを示し、50%を超える管腔狭窄が生じていた(
図22)。狭窄中および狭窄後のセグメントにおけるAUCは、狭窄前のセグメントにおけるAUCと比較してかなり低く(
図20a)、これは、近位および遠位の冠状動脈セグメントの間のAUCの差が最小であった他の2つの非狭窄動脈とは対照的であった(
図20b/c)。狭窄前、狭窄中、および狭窄後のLADセグメントにおける冠血流は、それぞれ、396.6mL/分、483.1mL/分、および600.8mL/分であった。摩擦と乱流による狭窄全体の総圧力損失は、−44.5mmHgであった(式4、5、および10から推定)。アデノシンストレス中の患者の収縮期血圧が124mmHg(P
A)であったことを考えると、P
Bは79.5mmHgに等しく、したがって、FFRは0.64に等しかった。我々の動的血管造影画像法によるFFR測定は、狭窄したLADが正常なFFR値(約0.91)を有すると結論づけたFFR−CTの調査結果とは一致していなかった。SPECTとCTの両方の心筋灌流測定により、心筋の虚血が明らかになった。具体的には、CT灌流測定は、LAD領域の平均充血心筋灌流が166.1ml/分/100gであり、21名のCAD患者の非虚血性心筋における平均充血心筋灌流(215.1ml/分/100g、2017年11月のRSNAの学会で発表された我々の最近の単施設研究の結果)よりもはるかに低い値であったことを示した。
【0068】
血流と圧力に加えて、他の流れ特性も導き出された。例えば、
図8の例4で説明した数学的方法を使用することにより、LADの狭窄前、狭窄中、および狭窄後のセグメントのせん断応力は、それぞれ、0.047、19.68、および0.33kPaと推定された。さらに、LADの狭窄前、狭窄中、および狭窄後のセグメントの曲線下面積(AUC)は、それぞれ、2592.79、2128.44、および1711.38HU・sであった。同じセグメントにおける対応するピーク造影増強は、それぞれ、254.1、146.1、および193.2HUであった。ウォッシュイン段階のこれらのセグメントにおけるAUCの対応する変化率は、それぞれ20.2、8.7、および8.3HU・sであった。
【0069】
(d)解釈。Cookら(2017;JAMA Cardiology、Vol 2(7):803−810)による最近の系統的レビューに示されているように、狭窄の程度が最小または欠如している場合、CTベースのFFR測定は、カテーテルベースのFFR測定とよく一致する。患者#3は非狭窄RCAと非狭窄LCxを有していたので、これらの正常な動脈でのFFR−CTアセスメントを参照として使用し、我々の方法によるFFR測定と比較することができる。我々の結果は、我々の方法がこれらの正常な(狭窄していない)動脈におけるFFR−CTと非常によく一致することを示した。しかしながら、狭窄したLADでは、我々の方法とFFR−CTの間に顕著な違いがあった。FFR−CTでは、狭窄が機能的に重大ではないこが示唆されたが(FFR>0.80)、我々の方法によるアセスメントでは、この病変が確かに閉塞性であることが示唆された(FFR<0.80)。我々の調査結果は、SPECTおよびCT心筋灌流測定と一致しており、どちらも心筋の虚血を示した。さらに、狭窄中および狭窄後のセグメントにおけるAUCは、狭窄前のセグメントにおけるAUCと比較して大幅に小さく、狭窄全体に大きな圧力降下が存在することをさらに示唆する。この診断の調査結果は、本明細書で提供される動的血管造影画像化が、中程度に狭窄した冠状動脈のアセスメントに対して、FFR−CTと比較してより信頼できる可能性があることを示唆する。
【0070】
我々の調査結果により、LADの狭窄中のセグメントが、狭窄の少ない隣接するセグメントと比較して最大の剪断応力を示すことも明らかになった。剪断応力のアセスメントを行うための我々の方法の能力により、プラークの形態、組成、およびプラークに作用する剪断力の大きさに依存する、プラーク破裂(血栓症)のリスクのより正確なアセスメントの機会という新たな境地が開かれる。我々の結果はまた、AUCの変化率やピーク造影増強などの他のフロー特性が、狭窄している動脈と狭窄していない動脈を区別するのに有用であり得る同じ画像セットから導き出せることを示した。
【0071】
実験の例示:実験例4.実験例4の結果は、
図8の補完ステップ1で説明した数学的方法の使用に関連する。
【0072】
図23aおよび23bは、患者#1(実験例1と同じ患者)について大動脈時間増強曲線が測定された造影増強心臓画像の2つのスライスを示す。2つのスライス間の距離は、約3.5cmであった(
図23c)。スライス1は、上行大動脈の開口部のすぐ上にあった。左右の冠状動脈の開口部は、スライス1と2の間に位置していた(この再フォーマットされた心臓図には図示せず)。
図23dは、スライス1と2で測定された時間増強曲線を示す。
図23eは、これらの曲線のピーク値周辺を表示する拡大スケールを提供する。スライス1と2における曲線下面積(AUC)は、それぞれ、4316.75と4573.37HUであった。スライス1におけるAUCは、スライス2におけるAUCより5.6%小さかった。結果は、上記の補完ステップ1の数学的分析で説明した期待値(約5%)に匹敵し、これは、補完ステップ1を使用して、大動脈から冠状動脈系に向かうトレーサの割合を推定できることを示す。
【0073】
実験の例示:実験例5.実験例5の結果は、
図8の補完ステップ2で説明した数学的方法の使用に関連する。
【0074】
図24aおよび24bは、患者#2(実験例2と同じ患者)の左冠状動脈を示す。通常、LMはLCxとLADにのみ分岐するが、この患者のLMは、LCxとLADに加えて、中間分岐(枝)に三分岐する。各血管の半径と対応する最大造影増強を、表5に提供する。式(20)および(21)によると、親血管(LM)の半径の2乗と最大造影増強(表5の最後から2番目の列の値)の積は、各娘血管(LCx、LAD、および枝)の積の合計に等しくなければならない。我々の調査結果では、これが、これらの値の間には2.85%の差しかないという事例であることが示された(4890.73対5032.29)。これらの値の微妙な差は、画像ノイズと冠状動脈の残留運動に起因する可能性があった。親血管(LM)から各娘血管(LCx、LAD、および枝)に分配されたトレーサの割合は、それぞれ、54.2%、36.5%、および12.2%と推定された。調査結果により、式(20)および(21)の有効性が確認され、各冠状動脈内のトレーサの質量を推定するための信頼できる方式が提供される。
【表5】
【0075】
実験の例示:実験例6.実験例6の結果は、
図8の例1〜4で説明した数学的方法を必要とせずに、血流のアセスメントを行うための時間増強曲線の使用を示し、スキャン取得中の非充血ストレスと充血ストレスを比較し、血流の機能アセスメントのための時間増強曲線から導き出された追加の測定基準(すなわち、
図8に示されたものに加えて)を示す。
【0076】
患者情報。患者#4は、三枝管冠状動脈疾患(CAD)を患った78歳の男性であった。各冠状動脈の生理学的状態は、画像診断の時点で異なっていた。この診断は、以下の側面でDAIの利点を実証するのに役立つ。
1.冠状動脈管腔の石灰化プラークおよび金属ステントから生じる極度のアーチファクトの存在下でのCADの機能アセスメント。
2.多血管病変が存在する場合のCADの機能アセスメント。
3.冠血流、せん断応力、および血流予備量比(FFR)に加えて、冠状動脈狭窄の機能アセスメントに有用と思われる1つ以上の測定基準を冠状動脈時間増強曲線から導き出すことができる。これらの測定基準には、時間増強曲線のピーク増強(PE)、曲線下面積(AUC)、上り勾配と下り勾配、歪度と尖度が含まれる。
4.安静時に測定された(3)で説明されている測定基準は、機能CADアセスメントに十分であり得、薬剤を用いる患者の充血ストレスは必要とされなくてもよいことを示唆する。
【0077】
図25は、近位セグメントにおいて2つの石灰化プラークが互いに近接している右冠状動脈(RCA)を示す((a)および(b)の白い矢印)。管腔内の各側のカルシウムは、管腔直径の測定に影響を与え、これは、計算流体力学に基づく現在のFFR−CT法に必要な情報である。(a)と(b)の点線の薄い灰色の矢印と濃い灰色の実線の矢印は、プラーク前(上流)とプラーク後(下流)の時間増強曲線がサンプリングされた場所を示す。(c)および(d)に示されているグラフでは、円はそれぞれ、安静時および最大血管拡張ストレス時のプラーク前の位置での様々な時点において測定された増強を表す。これらのグラフの点線の薄い灰色の曲線は、対応する近似時間増強曲線を表す。同様に、(c)と(d)の四角は、それぞれ安静時とストレス時のプラーク後の位置で様々な時点において測定された増強である。対応する近似時間増強曲線は、これらのグラフにおいて濃い灰色の実線の曲線として示す。
【0078】
我々の結果は、石灰化プラークの上流と下流の時間増強曲線が、静止状態とストレス状態の両方において互いにほぼ同一であることを示す。これは、各状態において2つの曲線間のPE(ピーク強調)とAUC(曲線の下の領域)とが無関係であることからも明らかである。さらに、ストレス時のプラーク前後のAUCは、安静時と比較して大幅に減少した。AUCは、冠血流に反比例する。これは、ベースライン(安静時)からのストレス時にRCAの冠血流がプラーク前とプラーク後の位置で大きく増加し、血流増加の大きさがプラーク前とプラーク後の位置で一貫していたことを意味する。したがって、調査結果は、プラークが機能的に重大ではなかったことを示唆する。
【0079】
図26に示す左回旋(LCx)動脈の鈍縁(OM)枝には、近位セグメントにステントが留置された。ステントまでの上流側(((a)〜(c)の点線の薄い灰色の矢印)と下流側((a)〜(c)の実線の濃い灰色の矢印)で測定した時間増強曲線を(d)および(e)のグラフに示す。OM動脈の再フォーマットされた図(c)は、管腔の視覚化が極度のアーチファクトの影響を著しく受けており、ステントの中央部分が完全に閉塞しているように見えることを示す。ただし、安静時のステント(下流)後に取得された時間増強曲線((d)の正方形のマーカを有する濃い灰色のプロット)は、そのサンプリング部位において造影剤の通過があったので、ステント管腔は狭くなったが、完全には閉塞していないことを示す。安静時、ステント後のAUCはステント前のAUCに比べてかなり小さく、ベルヌーイの方程式で示されるように、ステント管腔が狭いために、ステント後の冠血流がステント前よりも速かったことを示す。
【0080】
ストレス時のステント前のAUC((e)の円形マーカを有する点線の薄い灰色のプロット)は、安静時のステント前のAUC((d)の点線の薄い灰色のプロット)に比べてはるかに小さく、ストレス時のステント後のAUC((e)の正方形マーカを有する実線の濃い灰色のプロット)は、安静時((d)の実線の濃い灰色のプロット)から最小限に減少した。この調査結果は、この所見は、ストレス時のステント前のセグメントでは、最大血管拡張により冠血流の大きな増加があったが、ステント後の血流量の増加は、血管拡張がないか、あるいは最小限であったために、最小限であったことを示す。したがって、ステント内の狭窄が機能的に重大であった可能性がある。
【0081】
図27に示す左前下行枝(LAD)には、多数の病変があった。近位セグメントには複雑な石灰化および非石灰化プラークがあり((a)〜(c)の白い矢印)、中央セグメントにはステントが留置された。(a)〜(c)の点線の薄い灰色と濃い灰色の矢印は、プラーク前とプラーク後の時間増強曲線が測定された場所を示す。静止時およびストレス時に測定されたプラーク前(円形マーカ)およびプラーク後(正方形マーカ)の時間増強曲線を、それぞれ(d)および(e)に示す。
【0082】
結果は、安静状態とストレス状態の両方において、プラーク前曲線と比較して、プラーク後曲線のAUCが中程度に減少することを示す。機能的に重大ではなかったRCAのプラーク(
図25)と比較して、近位LADのプラークは、安静時のプラーク全体のAUCのより大きな減少によって反映されるように、より大きな管腔狭窄をもたらした。ただし、安静時とストレス時のLADプラーク後曲線を比較したところ、ストレス時の冠血流がかなり増加していることが確認されたため、近位LADのプラークがLCxの狭窄ステントほど機能的に重大ではない可能性が示唆され、これは、ステント下のセグメントにおいてストレス時の血流増加が最小限であったことを示す(
図26)。
【0083】
血流、流圧、FFR、およびせん断応力の測定基準は、実験例1〜3に例示される。時間増強曲線から導き出された追加の測定基準は、冠状動脈狭窄の機能アセスメントに使用することができる。
図25および26に示される時間増強曲線を使用して、追加の測定基準を解説することができる。最初に、プラーク前後に取得されたRCAの時間増強曲線を検討する(
図25)。上述したように、これらの2つの曲線は互いに非常によく似ており、2つの部位間の管腔狭窄が最小であったことを示す。時間増強曲線の外観は、追加の測定基準の以下の例、すなわち、曲線下面積(AUC)、ピーク増強(PE)、上り勾配、下り勾配、歪度、尖度を使用して、定量的に説明することができる。歪度は、曲線の非対称性を表し、その値の範囲は−1〜+1である。ゼロの歪度は、曲線が両側で完全に対称であることを意味する(下り勾配側と比較して上り勾配側)。負の歪度は、左(上り勾配)側の方が右(下り勾配)側よりも裾が長いことを意味し、正の歪度は、右(下り勾配)側の方が左(上り勾配)側よりも裾が長いことを意味する。対照的に、尖度は曲線の鋭さを表す。尖度の正常値は、3である。尖度が3未満の場合、曲線は通常よりも平坦であるが、尖度が3を超える場合は、曲線のピークが通常よりも高いことを意味する。表6には、安静時のRCAプラーク前後の曲線の測定基準がまとめられている。プラーク前とプラーク後の曲線間の各測定基準の差は、2つの測定基準の減算(後−前)と2つの測定基準の比(後を前で除算)によって与えられる。
【表6】
【0084】
ストレス時のRCAプラーク前およびプラーク後曲線の同じ測定基準が、表7にまとめられる。
【表7】
【0085】
安静時のLCx動脈のOM分岐におけるステント前後の曲線の同じ測定基準を、表8に示す。
【表8】
【0086】
ストレス時のLCx動脈のOM分岐におけるステント前後の曲線の同じ測定基準を、表9に示す。
【表9】
【0087】
RCAプラーク前とプラーク後の曲線は、安静状態とストレス状態の両方において、その同等なAUC、PE、勾配、歪度、尖度によって反映されるように、互いに実質的な差がなかったことは明らかである(安静状態とストレス状態の両方において、それぞれの測定基準に関連する比率はほぼ同じであった)。さらに、ストレス時のRCA曲線は、安静時のRCA曲線と比較して、AUC/PE/勾配は低いが、歪度/尖度は類似しており、ストレス時の近位RCAにおけるプラーク全体の冠状動脈の時間増強曲線の変化は、複雑な管腔狭窄により曲線が大きく歪むことがなく、最大血管拡張時の流量の増加が主な原因であることが示唆される。対照的に、LCxステント前後の曲線は、測定基準の大きな差によって反映されるように、互いに大きく異なっており、対応する比率は同一からは非常に異なっていた。結果は、冠状動脈の時間増強曲線が、ステント内の管腔狭窄によって実質的に歪められたことを示す。
【0088】
要約すると、
図25(RCAプラーク)および
図26(LCxステント)に示された例は、冠血流、FFRおよびせん断応力の測定基準に加えて、冠動脈時間増強曲線から測定基準を導き出すことができることを示唆する。安静時およびストレスの生理学的状態で取得されたこれらの追加の測定基準は、冠状動脈病変の機能評価のために個別にまたは組み合わせて使用することができる。
【0089】
実験の例示:実験例7.実験例7の結果は、DAI法およびシステムにおけるCT以外の画像化モダリティの適応を示す。より具体的には、例7は、画像化技術として侵襲性冠状動脈造影法を組み込んだDAI法およびシステムを示す。
【0090】
造影CTと比較して、侵襲性冠動脈造影の1つの違いとしては、X線色素(ヨウ素化造影剤)のボーラスが、静脈内注射ではなく、カテーテル(選択的血管造影)を介して開口部の左または右冠状動脈に直接注入されることが挙げられる。動脈内の造影剤の通過は、血管内の信号強度の低下につながる(X線色素は、CT血管造影またはCT灌流ソース画像では明るい色ではなく暗い色で表示される)。
図28では、LAD動脈での造影剤の初回通過が、(a)〜(f)に示される。他の前の例と同様の冠状動脈時間増強曲線を取得するために、最初に、造影剤のウォッシュイン前から造影剤のウォッシュアウト後までの期間にわたる様々な画像フレームにおいて、動き補正が施された冠状動脈のピクセル強度を測定する。(a)〜(f)の白い矢印で示されたサンプリング部位において測定されたピクセル強度値を、(g)に示す。次に、動脈内に造影剤がない最初の時点に対するピクセル強度の絶対変化を計算し、冠動脈造影で適用される画像取得率を使用して画像フレーム数を時間に変換する。この診断において、画像は毎秒30フレームで取得された。これで、(g)のプロットを(h)のプロットに変換することができ、y軸はピクセル強度の絶対変化(造影増強)、x軸は時間である。(h)の破線は、測定データに適合した曲線を表す。
【0091】
また、前述のように、動脈に注入されたトレーサの総質量を知っておく必要がある。この診断において、270mgl/mLの濃度において10mLの造影剤が開口に注入され、約3mLの造影剤が上行大動脈に進入し、左冠状動脈には進入しなかった(つまり、左冠状動脈には約7mLの造影剤)。また、ピクセル強度の単位増加と冠動脈造影における造影濃度との換算係数を知る必要があり、これはファントム実験から判定することができる。すべての情報を使用して、以前の実験例で示した冠血流、FFR、およびその他の測定基準を導き出すことができる。
【0092】
図29は、
図28に示したのと同じブタから取得した別の例を示しており、提案された方法を選択的冠動脈造影のいずれかの関心対象の動脈に適用することができることを示す。この診断では、造影剤を開口部の右冠状動脈(RCA)に直接注入した。(a)〜(f)の画像は、短期間のRCAでの造影剤の初回通過循環を示す。(g)のデータは、(a)〜(f)の白い矢印で示されたサンプリング部位で動き補正されたRCAから測定されたピクセル強度を示し、対応する冠状動脈時間増強曲線は(h)の点線で示される。
【0093】
実験の例示:実験例8.実験例8の結果は、DAI法およびシステムにおけるCT以外の画像化モダリティの適応を示す。より具体的には、例8は、画像化技術としてMRIを組み込んだDAI法およびシステムを示す。ガドリニウムベースのT1強調MR心筋灌流画像化。
【0094】
図30は、
図28と29の同じブタのMRI診断から取得した画像を示す。
図30(a)および(b)に示す画像は、臨床CTおよびMRI解析のスキャン位置と同様の仰臥位スキャン位置において取得された。これらの画像は、RCAやLADなどの冠状動脈が、経軸像の異なる断層撮影スライス位置で見られることを集合的に示す。比較のために、上行大動脈も各スライスで見ることができる。
【0095】
図30(c)〜(n)に表示される画像は、ガドリニウムベースの造影剤のボーラス注入後に、(a)と同じスライス位置で取得されたT1強調画像である。肺血管の造影剤の循環が最初に見られ、直後に上行大動脈と冠状動脈(RCA)の造影剤の循環が見られることは明らかである。造影剤のウォッシュアウトは、一連の画像の最後に見られる。信号の飽和を回避するために、2.5mL/秒の注入速度で低用量の造影剤を使用し(体重20kgあたり約1ミリモル)、その後生理食塩水洗浄を行った。撮像はECGをトリガし、心拍ごとに1つのフレームを取得した。造影の到着により動脈内のボクセルの信号強度が変化するため、CTや侵襲的冠動脈造影と同様の方法で冠状動脈の時間増強曲線を取得することができ、以前の実験例と同様に機能アセスメントを提供することができる。
【0096】
動的血管造影画像化(DAI)のための方法またはシステムのいくつかの例示的な変形が、上記に記載される。さらなる変形および変更を、以下に説明する。さらに、変形と変更を構成する際に指針となる関係についても、以下で説明する。さらに、さらなる変形と変更が企図されており、当業者によって認識されるであろう。当業者の理解を高めることを目的として、指針となる関係および例示的な変形または修正が提供されており、限定的な記述を意図するものではないことを理解されたい。
【0097】
例えば、
図2に示すDAI法20は単なる例示であり、
図2に示す1つ以上のステップは、特定の実装のために必要に応じて置換または除去することができるので、DAI法を限定するものと考えるべきではない。例えば、特定の実装において、対象のCTスキャンは、画像再構成から地理的または時間的に置き換えられ得る。
図7は、変形DAI法20aの一例を示しており、この方法では、CTスキャンからの投影データと画像再構成の両方が前段階で発生し、再構成された画像が、後日または第三者による解析のために記憶される。変形DAI法20aは、記憶された画像データを取得60aすることによって開始することができる。次に、造影剤信号データは、任意選択で、画像データ内の標的血管を明示的に識別することなく、記憶された画像データから抽出することができる74a。時間増強曲線は、造影剤信号データに基づいて生成され76、時間増強曲線は、造影剤信号データの増加段階中に得られたデータ点からプロットされた上り勾配、および造影剤信号データの減衰段階中に得られたデータ点からプロットされた下り勾配を有する。次に、FFR値は、
図6に示されるのと同じ方法ステップによって判定される。
【0098】
別の例として、DAI法およびシステムは、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンに限定されず、血管を画像化するのに十分な空間分解能を有する他の画像化モダリティ、例えば蛍光透視法を含むMRIおよび他のX線画像化技術(すなわち、CT画像化以外のX線画像化技術)に容易に適合させることができる。X線ベースのスキャンは、高周波の電磁信号の送信を含む医用画像化の一形式であり、この信号は対象の体を通過する際に減衰し、残りの信号はその後の分析のために検出器によってキャプチャされる。X線ベースのスキャンに代わるものとして、磁気共鳴画像法(MRI)があり、これには、例えば、脳、肺、肝臓、筋肉、心臓などの軟部組織の疾患を診断するための画像化など、広く認知されている医用画像アプリケーションがある。MRIスキャンでは、患者へ磁場を印加し、無線周波数パルスを送信する。共鳴エネルギーは患者によって放出され、その後の分析のためにスキャンデータをキャプチャする受信機/検出器によってピックアップされる。画像の鮮明度を向上させるために、X線スキャンとMRIスキャンの両方で、患者への造影剤の経口投与または静脈内投与が行われる。X線画像化技術のための造影剤には、例えば、ヨウ素ベースの造影剤が含まれる。MRI画像技術のための造影剤には、例えば、ガロジニウムベースの造影剤が含まれる。X線ベースのスキャナデバイス/システムから取得されたスキャンデータは、スキャンデータまたは投影データと同じ意味で参照されることがよくあるが、MRIスキャナデバイス/システムから取得されたスキャンデータは通常、スキャンデータとして参照される。したがって、スキャンデータという用語は、投影データという用語を包含すると理解される。
【0099】
様々な画像化モダリティのための造影剤(トレーサとも呼ばれる)は、現在の文献で確立されており、新しい代替法開発の活発な分野であり続けている。DAI方法およびシステムは、画像化モダリティが、関心対象の血管または関心対象の血管の一部分を画像化するのに十分な空間分解能を提供するという条件で、造影剤および画像化モダリティのいずれかの好適な組み合わせに対応することができる。
【0100】
スキャンデータの取得時間分に相当する画像化スキャン手順の経過時間は、時間増強曲線の形状を推定するのに十分なデータを得るために、画像化スキャンがサンプリング部位における造影剤の増加段階および減衰段階の両方の少なくとも一部分をキャプチャすることを条件として、必要に応じて変化させることができる。一般に、増加および減衰段階の両方をキャプチャするには、5秒を超える画像化スキャンが必要である。特定の例では、画像化スキャンは、6秒を超える、7秒を超える、8秒を超える、9秒を超える、または10秒を超えるスキャンデータをキャプチャするように構成することができる。上限時間による制約や造影剤の通過時間による制約はないが、ほとんどの場合、画像化スキャンはサンプリング部位における造影剤の予想通過時間を大幅に超えることはない。
【0101】
時間増強曲線を生成するために分析された画像(フレームまたは個々のスキャンとも呼ばれる)の数は、時間増強曲線の形状を推定するのに十分なデータを得るために、サンプリング部位における造影剤の増加段階および減衰段階の両方の少なくとも一部分を累積的にキャプチャすることを条件として、必要に応じて変化させることができる。一般に、増加および減衰段階の両方をキャプチャするには、5画像を超える画像化スキャンが必要である。特定の例では、画像化スキャンは、6画像を超える、8画像を超える、10画像を超える、12画像を超える、14画像を超える、16画像を超える、18画像を超える、または20画像を超えるスキャンデータをキャプチャするように構成することができる。さらに、少なくとも10画像をキャプチャするように構成された画像化スキャンは、ピーク値の判定と曲線形状の一貫性に利益をもたらすことが観察され、信号強度値は、少なくとも10画像のすべてから抽出される必要はないが、少なくとも10画像は、曲線形状の推定の一貫性につながる適切な時間分散画像のサブセット(通常は、5つ以上の画像)を選択するのに十分な大きさの画像のセットを提供することが多い。
【0102】
単一の画像を評価する静的な手法とは異なり、複数の画像を分析するため、DAI法およびシステムは動的であると考えられる。商用のCT血管造影技術は、ほとんどが静的である。さらに、わずかに動的(2〜3画像を評価)である商用のCT血管造影技術は、造影剤通過の増加段階と減衰段階の両方からスキャンデータを取得すること、または上り勾配、ピーク、および下り勾配を有する時間増強曲線を生成することの利点を認識しないか、または考慮しない。
【0103】
時間増強曲線を生成するための複数の画像、例えば少なくとも5つの画像は、同一のサンプリング部位またはスライス内、または隣接するサンプリング部位またはスライスのグループ内に位置する多数の画像の時間順列を参照する画像の対応を伴う複数の対応する画像であると考えられる(例えば、隣接するサンプリング部位の考慮は、
図8の補完ステップ3について上述したように、動き補正において発生し得る)。したがって、画像の対応は、単一のサンプリング部位または隣接するサンプリング部位のグループに空間的に制限され、画像の対応には、血流異常の発生源の上流対下流になるように空間的に分離されたサンプリング部位は含まれない。例えば、血流特性を判定することが、第1および第2の時間増強曲線から計算された対応する値の比較を含む場合、第1の時間増強曲線は、血流異常の疑いのある発生源の上流に位置する第1のサンプリング部位からの第1の複数(またはセット)の対応する画像から生成されてもよく、第2の時間増強曲線は、血流異常の疑いのある発生源の下流に位置する第2のサンプリング部位からの第2の複数(またはセット)の対応する画像から生成されてもよい。この例では、第1および第2のサンプリング部位は、血流異常の疑いのある発生源が介在することによって空間的に分離されているので、第1のセットの対応する画像は、第2のセットの対応する画像と混ざり合うことはない。しかしながら、動き補正処理のために起こり得るような対比の例として、第1のサンプリング部位からの第1のセットの対応する画像は、第1のサンプリング部位と第2のサンプリング部位との間の血流の差を最小にするように、第1のサンプリング部位および第2のサンプリング部位(スライス)が隣接しているか、または隣接に近い場合に、第2のサンプリング部位からの第2のセットの対応する画像と、時間的に特異的な方法で(結果として混ざり合ったセットの対応する画像において時間順列を維持するように)混ざり合ってもよい。
【0104】
各セットまたは複数の対応する画像は、時間順または時間分解されて、時間増強曲線を生成する。時間増強曲線は、上り勾配、ピーク、および下り勾配を有している。時間増強曲線の上り勾配が造影剤通過の増加段階中に取得された時間別の造影剤信号データ点から補間され、時間増強曲線の下り勾配が造影剤通過の減衰段階中に取得された時間別の造影剤信号データ点から補間されるように、時間増強曲線を生成するためには、時間の順序付けが必要である。したがって、スキャンデータの取得および画像データの再構成は、画像データから取得された各セットの対応する画像が時間順列で配置され得るように、時間順序スキームを参照して行われる。時間順序スキームは、リアルタイム識別子、ボーラス注入からの経過時間などの相対時間識別子、または各画像の絶対または相対時間を識別し、セットの対応する画像の時間分解順序付けを行うために使用され得るいずれかのカスタマイズされた時間識別子を有するタイムスタンプを含むいずれかの便利なスキームであり得る。造影剤投与と画像取得との間の時間間隔のための確立されたプロトコルは、時間順序スキームを考案する際に採用されてもよい。さらに、確立されたタイミング技術、例えばボーラス追跡を採用して、スキャン取得のタイミングおよび画像データの時間順序付けを最適化することができる。
【0105】
時間増強曲線は、(例えば、動き補正のために)単一のサンプリング部位または隣接するサンプリング部位のグループにおける造影剤通過のスキャンデータから得られた時間に対する造影剤信号強度のプロットである。時間増強曲線は、他の変形の中でもとりわけ、時間密度曲線、信号強度時間曲線、時間依存信号強度、時間強度曲線と呼ばれることもある。時間増強曲線という用語の中の増強という用語は、ベースラインまたは基準値に対する測定された造影剤の信号強度の増加、例えば、造影剤の最小レベルで測定、または造影剤の残留レベルで測定、または造影剤の非存在下で測定された信号強度を指す。造影剤通過を説明する性質を表す用語、例えば、進入前、進入、ウォッシュイン、増加段階、減衰段階、ウォッシュアウト、除去、および除去後は、ボーラス注入イベント、またはより一般的には造影剤投与イベントに対して参照され、そのため、これらの用語のそれぞれは、進入前を除き、関連する注入または投与イベントに続いて起こる造影剤通過の一部分を説明する。進入前の用語は、注入または投与イベントよりも早く始まる可能性がある時間範囲に対応し得る。
【0106】
多くの例では、DAI法およびシステムには、少なくとも1つの時間増強曲線の生成が含まれる。しかしながら、時間増強曲線のアセスメントを必要としない特定の例、例えばピーク増強値に基づく血流特性では、時間増強曲線の生成は必要ない場合があり、したがって、これらの例では、セットの対応する画像の時間分解順序付けも任意になり、より具体的には、時間増強曲線を確立することなく、ピーク信号強度を有する画像を識別して選択し、ピーク増強値を抽出するために、セットの対応する画像のセットを照会することができる。時間増強曲線なしでピーク増強値を抽出するリスクは、選択されたピーク信号強度の画像が、時間増強曲線と比較しないと明らかにならない可能性のある外れ値であり得ることであるが、このリスクは、血流異常を識別するための積極的なスクリーニングツールとして使用される単一のスキャンセッションから取得されたデータにおける臓器内の多数の血管の多数のサンプリング部位のアセスメントなどの、一般化されたスクリーニングアセスメントのために許容され得る。時間増強曲線の生成の選択性および時間分解順序付けの選択性に関係なく、DAI法およびシステムでは、関心対象の血管を通過する造影剤の増加段階と減衰段階の両方の少なくとも一部分をキャプチャした複数の対応する画像を含む画像データが必要となる。
【0107】
本明細書に記載のDAI法およびシステムは、血流特性の判定を可能にする。血流特性は、対象の関心領域での血流のアセスメントを行ういずれかの測定基準であり得る。血流特性には、例えば、流量、流速、および流圧が含まれる。量、速度、および圧力は、血流の測定基準である。FFRは、別の測定基準である。せん断応力は、別の測定基準である。曲線下面積、曲線下面積の変化率、曲線のピーク(最大値)、および血液量は、血流特性のさらなる例として考えられ得る。流量、流速、流圧、FFR、およびせん断応力を判定するための計算例は、数学的分析の項に記載される。曲線下面積(AUC)、曲線下面積の変化率、および曲線のピークを判定することの利点は、
図20から明らかである。
図20はさらに、時間増強曲線自体がサンプリング部位における血流を表していることを示しており、したがって、時間増強曲線自体は血流特性と見なすことができる。曲線下面積(AUC)、ピーク強調(PE)、上り勾配、下り勾配、歪度、および尖度の追加測定基準のさらなる例と比較を、時間増強曲線から導き出し、表6〜9に示す。
【0108】
血流のアセスメントと血流特性の判定により、診断結果が提供される。例えば、第1および第2のサンプリング部位において時間増強曲線を判定すると、第1の時間増強曲線および第2の時間増強曲線が得られ、血流特性の推定は、第1および第2の時間増強曲線から計算された対応する値を含む判定を含む。血流特性値は、それ自体で診断結果を提供することがある。さらなる例では、第1および第2の時間増強曲線から計算された対応する値が比較され、所定の閾値を超える対応する値の差は、診断結果を示す。閾値と対応する診断結果は、関連する文献と医療ガイドラインから採用することができる。例えば、FFR診断分析の現在の文献に基づくと、約0.8が正常と見なされ、0.8未満は狭窄が機能的に重大であり得ることを示す。さらに、DAI法とシステムを繰り返し使用することで、測定基準、閾値、および診断結果の様々な相関関係が発展し得る。
【0109】
関心領域(ROI)は、デジタル画像上で、例えば、関心対象の血管や関心対象の血管の一部分など、解剖学的に所望の位置を取り囲む、または包含する領域のことである。画像処理システムは、例えば、ROI内のすべてのピクセルに対して計算された平均パラメトリック値を含む、画像上のROIからのデータの抽出を可能にする。サンプリング部位は、関心対象の血管などの所望の解剖学的位置のアセスメントを行うために選択された1つ以上の画像スライスの位置である。サンプリング部位がROIまたはその近くにある場合、ROIはサンプリング部位と互換的に使用することができる。いくつかの例では、単一のサンプリング部位からの時間増強曲線の分析は、血流特性または測定基準を判定するのに十分であり得る。他の例では、複数のサンプリング部位、または複数の画像化スライスを分析して、複数の対応する画像セットを得て、複数の対応する時間増強曲線を生成してもよく、いずれかの数の複数の対応する時間増強曲線を比較して、血流特性または血流測定基準を判定してもよい。従来のスキャナは、関心対象の血管の全部または一部、場合によっては複数の関心対象の血管の全部または一部の3D画像データをキャプチャすることができる。さらに、スキャンは必要に応じて複数のスライスに細分することができるため、ROIにおいて、ROIの近くで、ROIの上流で、いずれかのROIの下流で、またはそれらのいずれかの組み合わせで、多数の部位またはスライスの問い合わせを実行することができ、便利である。マルチスライスまたはマルチ部位画像化モダリティでは、同時断層撮影スライスまたはサンプリング部位がスキャンごとに抽出される場合がある。したがって、DAI法は、血管対象における造影剤の通過(進入から除去まで)のスキャンのための1つまたは2つの時間増強曲線の分析に限定される必要はなく、造影剤の単一ボーラス注入を伴う単一のスキャン手順は、スキャンデータから分割された複数のスライスまたはサンプリング部位を必要に応じてサポートすることができる。
【0110】
関心対象の血管は、造影増強画像化技術によって画像化することができるいずれかの血管であり得る。関心対象の血管は、通常、少なくとも約0.1mmの直径、例えば、0.2mmを超える直径または0.3mmを超える直径を有するであろう。関心対象の血管または関心対象の血管の指定された部分は、血管疾患の診断を判定するために、または血管疾患の素因を判定するために、造影増強された動的血管造影画像化のために識別され、標的化されてもよい。関心対象の血管は、動物の体(例えば、人体)のいずれかの解剖学的領域またはいずれかの臓器(例えば、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓など)内に存在し得る。
【0111】
DAI法は、対象が充血状態(充血ストレスまたは血管拡張ストレスともいう)にある間に取得されたスキャンデータに限定されず、対象が非充血状態(安静状態ともいう)にある間に取得されたスキャンデータから生成された時間増強曲線は、有用な結果を生成することができる。安静状態の対象から取得したスキャンデータから生成された有用な時間増強曲線の例を、
図25〜27に示す。充血状態の誘発は、血流アセスメントにおいてよく知られている医療プロトコルであり、多くの場合、アデノシン、ニトロプルシドナトリウム、ジピリダモール、リガデノソン、またはニトログリセリンなどの血管拡張薬の投与が含まれる。血管拡張剤の投与方式は、画像化プロトコルに応じて異なり、静脈内注射または冠状動脈内注射を含むことができる。
【0112】
関心対象の血管における血管疾患の存在を判定するために、血流特性は、例えば、単一のサンプリング部位のスキャンから生成された単一の時間増強曲線、または別の例として、対応する複数のサンプリング部位からそれぞれ生成された複数の時間増強曲線を含む、少なくとも1つの時間増強曲線に基づいて分析される。狭窄の場合には、狭窄の上流のサンプリング部位において判定された血流特性と、狭窄の下流のサンプリング部位において判定された血流特性を比較するためには、2つのサンプリング部位の比較が有益である。例えば、定義によるFFR(式9を参照)は、狭窄の下流で判定された流圧を分子とし、狭窄の上流で判定された流圧を分母とする流圧比と見なすことができる。より一般的には、関心対象の血管が識別されると、関心対象の血管またはその近傍における複数のサンプリング部位が指定されてもよく、複数のサンプリング部位のそれぞれについて時間増強曲線が生成され、複数のサンプリング部位のそれぞれについて、それぞれの時間増強曲線に基づく所望の血流特性が判定され、複数のサンプリング部位のそれぞれの血流特性を比較して血管疾患を判定する。簡略化されているが効果的な形態では、
図20aは、関心対象の血管またはその近傍の複数のサンプリング部位で生成された時間増強曲線の比較が、血管疾患の有無を判定するために効果的であることを示す。特定の実装形態によっては、1つ以上のサンプリング部位における血流特性の判定、または複数のサンプリング部位における血流特性の比較に基づいて血管疾患の有無を判定することにより、診断結果を提供することができる。
【0113】
本明細書に記載された方法またはシステムによって評価される血管疾患(血管障害とも呼ばれ得る)は、対象の健康を危険にさらし得る心臓または非心臓血管における機能的に重大な血流制限または血流閉塞などのいずれかの不健康な血流異常であり得、例えば、アテローム性動脈硬化の症状を示す不健康な血流異常(例えば、プラーク形成)、頸動脈疾患、腎動脈疾患を含む末梢動脈疾患、動脈瘤、レイノー現象(レイノー病またはレイノー症候群)、バージャー病、末梢静脈疾患と静脈瘤、血栓症と塞栓症(例えば、静脈内の血栓)、血液凝固障害、虚血、狭心症、熱中症、脳卒中、リンパ浮腫が含まれる。
【0114】
DAI法およびシステムは、例えば、不健康な血流異常の可能性のある発生源として、以前の健康診断で識別された関心対象の血管における血流特性の判定を提供することによって、疑われる血流障害のアセスメントを行うために使用することができる。さらに、一部には、多数の血管をキャプチャするスキャンデータとスキャンデータの処理時間の短縮により、DAI法およびシステムは、特定の血管または特定の血管群の血流を積極的にアセスメントする(例えば、冠動脈血流アセスメント)ために最初に使用され、機能的に重大な狭窄のような不健康な血流異常の発生源を識別するための初期指標となるスクリーニングツールとして実装されてもよい。
【0115】
DAI法では、スキャンされる対象または患者は、スキャン手順中に息を止める必要はない。息止めは、いくつかの例では任意である。他の例では、画像データの動き補正または動き補償処理を、対象または患者の息を止めずに取得されたスキャンデータに使用することができる。
【0116】
本明細書に開示された実施形態またはその一部分は、非一時的なコンピュータ可読媒体に具現化されたコンピュータ実行可能命令を用いて、1つ以上のコンピュータシステムまたはデバイスをプログラミングすることによって実装することができる。プロセッサによって実行されると、これらの命令は、これらのコンピュータシステムおよびデバイスに、本明細書に開示される実施形態に特有の1つ以上の機能を実行させるように動作する。これを達成するために必要なプログラミング技術、コンピュータ言語、デバイス、およびコンピュータ可読媒体は、当技術分野で知られている。
【0117】
一例では、動的血管造影画像化のためのコンピュータプログラムを具体化する非一時的なコンピュータ可読媒体は、関心対象の血管内の造影剤の増加段階および減衰段階の両方の少なくとも一部分をキャプチャする複数の対応する画像を含む画像データを取得するコンピュータプログラムコードと、画像データに基づいて造影剤の少なくとも1つの時間増強曲線を生成するためのコンピュータプログラムコードであって、時間増強曲線が上り勾配と下り勾配を有する、コンピュータプログラムコードと、時間増強曲線に基づいて、関心対象の血管内の血流特性を判定するためのコンピュータプログラムコードと、を含んでもよい。別の関連する例では、画像データが、造影剤の進入の前に関心対象の血管をキャプチャする少なくとも1つの画像を含む。さらに別の関連する例では、コンピュータ可読媒体は、造影剤の進入の前に関心対象の血管をキャプチャする少なくとも1つの画像に基づいて基準値を判定し、基準値に基づいて時間増強曲線を正規化するためのコンピュータプログラムコードをさらに含む。さらに別の関連する例では、コンピュータ可読媒体は、X線ベースのスキャンまたはMRIスキャンから関心対象の血管のスキャンデータを取得し、スキャンデータに基づいて画像データを再構成するためのコンピュータプログラムコードをさらに含む。
【0118】
コンピュータ可読媒体は、データを記憶することができるデータ記憶デバイスであり、したがって、コンピュータシステムによってデータを読み取ることができる。コンピュータ可読媒体の例には、読み取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、CD−ROM、磁気テープ、光データ記憶デバイスなどが含まれる。コンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読コードが分散して記憶され、実行されるように、地理的に局所化されてもよく、またはネットワーク結合されたコンピュータシステム上に分散されてもよい。
【0119】
システムまたは方法のコンピュータ実装は、通常、メモリ、インターフェース、およびプロセッサを含む。メモリ、インターフェース、およびプロセッサのタイプと配置は、実装に応じて変えることができる。例えば、インターフェースは、インターネット接続を介してエンドユーザコンピューティングデバイスと通信するソフトウェアインターフェースを含み得る。インターフェースはまた、デジタルおよび/またはアナログ情報を送信するデバイスからの要求またはクエリを受信するように構成された物理的な電子デバイスを含み得る。他の例では、インターフェースは、例えば、画像化スキャナまたは画像処理デバイスから、DAI法およびシステムに関連する信号および/またはデータを受信するように構成された物理的電子デバイスを含むことができる。
【0120】
例えば、マイクロプロセッサ、プログラマブルロジックコントローラ、またはフィールドプログラマブルロジックアレイを含む、特定の実装に応じて、いずれかの好適なプロセッサタイプを使用することができる。さらに、例えば、一般にデータ処理装置のシステムバスに接続されたメモリ、大容量記憶デバイス、プロセッサ(CPU)、読み取り専用メモリ(ROM)、およびランダムアクセスメモリ(RAM)を含む、いずれかの従来のコンピュータアーキテクチャをシステムまたは方法のコンピュータ実装に使用することができる。メモリは、ROM、RAM、それらの組み合わせ、または単に一般的なメモリユニットとして実装することができる。システムまたは方法の特性を実行するためのルーチンおよび/またはサブルーチンの形式のソフトウェアモジュールをメモリ内に記憶し、プロセッサを介して検索および処理して、特定のタスクまたは機能を実行することができる。同様に、1つ以上の方法ステップは、プログラムコンポーネントとして符号化され、メモリ内に実行可能命令として記憶され、次いで、プロセッサを介して検索および処理され得る。キーボード、マウス、または別のポインティングデバイスなどのユーザ入力デバイスを、PCI(周辺コンポーネント相互接続)バスに接続することができる。必要に応じて、ソフトウェアは、コンピュータのモニタ画面にグラフィックに表示されるアイコン、メニュー、およびダイアログボックスを使用して、プログラム、ファイル、オプションなどを表す環境を提供することができる。例えば、時間増強曲線を含む、いずれかの数の血流画像および血流特性を表示することができる。
【0121】
システムまたは方法のコンピュータ実装は、ネットワーク化された接続を介して通信するコンピューティングデバイスを含む、あらゆるタイプのエンドユーザコンピューティングデバイスに対応することができる。コンピューティングデバイスは、例えば、関心対象の血管について判定された血流特性の表示を含む、システムまたは方法の様々な機能を実行するためのグラフィカルインターフェース要素を表示することができる。例えば、コンピューティングデバイスは、サーバ、デスクトップ、ラップトップ、ノートブック、タブレット、携帯情報端末(PDA)、PDA電話またはスマートフォンなどであり得る。コンピューティングデバイスは、有線および/または無線通信用に構成されたハードウェアおよび/またはソフトウェアのいずれかの適切な組み合わせを使用して実装することができる。通信は、例えば、システムのリモート制御が必要なネットワークを介して行うことができる。
【0122】
ネットワーク化された接続が望ましい場合、システムまたは方法はいずれかのタイプのネットワークに対応することができる。ネットワークは、単一のネットワーク、または多数のネットワークの組み合わせであり得る。例えば、ネットワークは、インターネットおよび/または1つ以上のイントラネット、固定電話ネットワーク、無線ネットワーク、および/または他の適切なタイプの通信ネットワークを含み得る。別の例では、ネットワークは、インターネットなどの他の通信ネットワークと通信するように適合された無線通信ネットワーク(例えば、携帯電話ネットワーク)を含み得る。例えば、ネットワークは、TCP/IPプロトコル(HTTP、HTTPS、FTPなどのTCP/IPプロトコルに基づくプロトコルを含む)を利用する、コンピュータネットワークを含んでもよい。
【0123】
本明細書に記載の実施形態は、一般性を意図的に失うことなく、例示を目的とすることを意図する。さらに別の変形、修正、およびそれらの組み合わせが企図され、当業者によって認識されるであろう。したがって、前述の詳細な説明は、特許請求された主題の範囲、適用可能性、または構成を制限することを意図するものではない。